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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品はオリジナルキャラクターを含みます。

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東方双赤星 Episode5―滅びの前兆―

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  1. 1 : : 2017/02/23(木) 15:10:26
    注意
    このSSには以下の成分が含まれます。
    ・異常な数のオリキャラ
    ・独自設定
    ・原作キャラ死亡
    ・原作と若干違う世界観
    ・不定期投稿
    ・パロディ(主にガンダム類)
    ・趣味全開
    それでも良いならゆっくりしていってね!
  2. 2 : : 2017/02/23(木) 15:11:29


    「・・・遠い昔に、我々に近い知能を持つ生物として猿から作られたのが人間、そして彼等は当初の目的通り、
     我々を崇め、特別な存在として現在も信仰の対象としているのは皆様が知っての通りです。しかし・・・」



    キラキラとした、透明だが不透明のようにも見える眩しい空間の中、声を張り上げて演説をする者がいた。


    顔面には、縦に二分するように亀裂が走っており、左半分は美しい少女のような肌と瞳をしている。


    束ねられていない美しい黒髪はどこからともなく吹く風によってなびく。



    「人間は不完全だったッ! 人間の遺伝子は、他の生物に比べて明らかに変化しやすかったッ!
     ふとしたことですぐに変異し、我々が嫌う妖怪という下等生物へと化してしまうのですッ!!」



    周りには、地球に棲みついていたはずの神々が集まっていた。


    円形の綱が背中にくっ付いていたり、二つの目玉が付いた帽子を被っていたりと容姿は様々だが、一つだけ共通している事がある。



    「妖怪は己の本能や欲望を満たすために、特定の行動ばかりを繰り返す単純な思考しか持たないものがほとんどです!
     人間の発展とともに、その癌とも呼ぶべき存在は今から千年前をピークに、爆発的に増殖したッ!」




    「そして、何時しか驚異的な戦闘力、ならびに知能を持つようになり、互いを保護する動きが強まったため、
     ますます根絶が困難になってしまったのですッ!!」



    彼らの行動は、自身の意思によるものではなく、また、そのことに彼らは気付いていなかった。



    「改めて、輪廻に必要な世界を除く全ての異世界を壊滅させることを提案します!
     通常世界に比べて、妖怪と人間の比率は約二万倍、しかも人間のうち九割以上が六親等以内に妖怪が存在するというこの現状ッ!!
     壊滅的な遺伝子汚染を解決するには、際限なく乱立する異世界を全て滅ぼすしかないのですッ!!」

  3. 3 : : 2017/02/23(木) 15:13:17
    そう言い終わった瞬間、一斉に拍手、歓声があがる。


    彼らは「心の底から」彼女に大きな拍手を贈った。




    「皆様、熱い応援に深く感謝いたします。 神である以上、あなた方も私と同じ意見を持つのはごく自然なこと。 しかし・・・」



    ごつごつとした太い右手の人さし指が観衆の後ろを指し、一斉に振り返る。


    その先には、大きな十字架が硬い床に突き刺さっている。


    暗い茶色の胴には、ひとりの少女が張り付けられていた。



    「私達と反対の意見を神が持つことは、ネイチャーではないのですッ!
     そのような、妖怪以上に汚らわしい存在は存在に値し・・・」



    「アンタは狂ってる!!」




    ヘカーティア・ラピスラズリは、顔の右半分が怪物のように変化した少女を睨みながら叫ぶ。


    ひどく衰弱しているのか、楔で十字架に打ち付けられた四肢には全く力が入っておらず、今の一言でもかなり体力を消耗したようだ。


    腰まで伸びた赤い髪と「Welcome♡Hell」と書かれた派手なTシャツが強い印象を与える。



    「狂っているのは貴女の方です。 西洋の神の分際で東洋に干渉するのはタブー。
     訳のわからない口実をつけて私達を嗅ぎまわるのは西洋神による東洋神への冒涜ッ!!
     どうみても狂っているのは、貴女でしょう。 間違ったことをしてしまうのなら・・・」



    大きく書かれたハートマークの中央が歪み、十字架を貫通して穴が空く。


    その際一切音は無く、空間自体が渦を巻くように消滅する。


    「ぐ、がぁ・・・ 助け・・・ れ・・・」


    穴は徐々に広がり、無抵抗のヘカーティアに対し「存在しなければよかった」と思わすほどの痛みを与える。


    そもそも、今まで彼女は痛みを味わうことすら無い程強かった。


    その強さ故にこのような悲劇を受けてしまったのだ。


    あまりの力の強さ故に、“存在の抹消”という選択肢しか与えられなかった。



    「浄化するまでです。」



    怪物のような右手で指を鳴らすと、この空間に乾いた音が響く。


    その瞬間、渦が一気に広がり、十字架は完全に消滅してしまった。



    体の右半分が怪物で左半分が少女の姿の女神、天 聖名(アマツ ミナ)は、両方の口をゆがめて大きく高笑いをした。


    その横に立つスーツ姿の男、聖名の弟・義名(ギナ)もニヤリと笑みを浮かべた。

  4. 4 : : 2017/02/23(木) 15:25:19
    幻想卿のとある古い屋敷の中、老婆が一人、ベッドに横たわっていた。

    うなされているのか、しわしわの額から大量の汗が出ている。


    しばらくすると、汗は止まり、ゆっくりと目が開く。


    ゆっくりと体を起こす最中、全身のしわが消え、みるみる若返ってゆく。


    やがて、十歳くらいの少女のような姿になると、ゆっくりと頭に手を当てた。




    「侵攻・・・ 外部・・・」



    言われた事を繰り返すように言葉を発した後、少し間を置き、眼を大きく見開いて再び呟いた。


    「ゲノムの特異点・・・」



    少女はベッドから降り、大きな窓を見上げた。

    闇夜を照らし続ける大きな満月が浮かんでいる。


    やがて彼女の後ろから、金属がぶつかるような音と足音がゆっくり近付いてくる。

    その鎧が月明かりに照らされ、赤と黒のボディが輝く。


    「善は急げ、じゃろうか・・・」


    鎧は少女の前で止まり、武者の甲冑のような胴体が跪く。


    「私は、何をすればよろしいでしょうか。」


    男女の声が混じったような不気味な声が発せられる。

    塞がれたマスクの隙間から、一瞬、白い光が漏れた。



    「儂のそばに居ればいい。 全て、これから生まれるお主の弟達がなんとかしてくれるはずじゃ。“ゲノムの特異点”があるからのう・・・
     それに、儂を狙う者は絶対にいるはずじゃ。 だから、お主が儂を護ればいいんじゃよ。」





    荷物を整理し終えた少女は、大きな扉を開け、杖を突きながら丑三つ時の大地へ足を踏み出す。


    鎧が数秒遅れて重い足で大地に足跡を付け、ゆっくりと扉を閉めた。


    「出発じゃ、五重複合付喪神、ペンタゴン・プレーツよ・・・。」























    Episode 5

    滅びの前兆

    ~外来戦争篇その1~
  5. 5 : : 2017/02/26(日) 21:47:51

    「3、2、1・・・ 投入!」




    遡ること約18時間。

    妖怪の山では、ある実験が行われていた。



    「おお、めっちゃ赤いぜ! 成功だぜ!」



    「この赤い泡がエネルギー源ってことね・・・。」



    工場の中で、直径2メートル程の丸いガラスの水槽の周りから歓声が上がった。

    球の中央には丸い液体の塊が浮かんでおり、川城にとりが天井に空いた小さな穴からスポイトで黒い薬品を注入し蓋をした刹那、中の空気が赤く染まった。

    八方から気泡が無色の液体に食い込み、中心近くでゆっくりと静止した。



    「ふッ・・・ フハハハハハッ!! 河童の科学力は世界一ィィィィィィィィ!!」




    瘴気から人工魔力を精製する際に発生する液体の副産物にガスが触れると、異常な気泡が発生する。

    この事が霧雨魔理沙によって発見されたのは、つい3か月前の事だった。

    すぐに、周囲のエネルギーの位置によって気泡が発生することが解明され、妖怪の山に持ち込まれた。

    より正確に位置を示せるように改良が何度も加えられた。


    こうして、“気泡式ビス検知器壱型”が完成し、設計及び製作の殆どを担当したにとりは、初稼働の時に知人を呼んだ。



    皆の歓声が、少しのランタンだけに照らされた暗い工場の中をこだまするが、霊夢だけは口を開かなかった。

    目の下にくまが出来ており、ボーっとしながらガラス球を眺めていた。
  6. 6 : : 2017/03/11(土) 21:25:55

    そこそこ大きなエネルギーを検知する事しかできないため、すべて気泡となったガスはどれも同じ大きさで浮いている。




    「でもよ、こんなの何に使うのぜ?」



    魔理沙がふと頭に浮かんだ疑問を口に出す。

    しかし、その答えは誰も知らなかった。



    「え・・・ で、でもまあ、いつか必要になるんじゃない?ゴミ扱いされてたプラチナみたいに。」



    「自分でゴミって言ったし・・・。」



    この機材は、現在では全く需要が無かった。

    ビス検知器が重宝される時代がすぐそこに迫っている事も、そもそも話の内容すらも知らないまま、霊夢は半開きの目でそれを見続けた。



    ふと、脚ががたつき、霊夢はふにゃりと倒れそうになる。


    辛うじて体制を立て直し、同年齢の女性の中では高身長である体を支える。

    その姿が魔理沙の目に映り、急いで駆けつけた。



    「大丈夫か・・・? 三日前よりもひどくなってるんだぜ。」



    魔理沙が最後に霊夢と会ったのは三日前で、その時からよく眠れないと愚痴を漏らしていた。

    それがここまで悪化しているなどとは、魔理沙は微塵も思っていなかった。



    「え・・・ うん大丈夫・・・。」



    「とりあえず永遠亭へ連れてくからな。」



    霊夢を抱えた魔理沙が倉庫の扉を開け、冷たい風と共に雪が舞い込む。


    ガラス球に一筋の光が差し込み、光の線がガスによって反射する。



    倉庫の更に奥にある巨大な機械の塊も一瞬だけ光を浴び、扉が閉じるのと同時に再び姿を消した。


  7. 7 : : 2017/03/16(木) 22:45:41

    霊夢の不眠症の原因が分かったのは、永遠亭に着いてから一時間後の事だった。

    八意永琳の薬を服用した霊夢はすぐにはっきりとした意識が戻り、彼女の目からはくまが消えた。


    ベッドに横たわる霊夢に向かって、永琳はゆっくりと症状の原因を教えた。



    「恐らく、“記憶を反映させる程度の能力”でしょうね。」



    霊夢と魔理沙にとって、この言葉を聞いてから大柄で残虐なピエロの姿を思い出すのは容易であった。

    第二次侵食異変未遂の時に立ち塞がった敵である事は最も大きい要因だが、理由は他にもあった。


    診察室の奥の机に置いてある一週間前の新聞は、“凶悪犯ヴァレンタイン 死罪確定”という大きな文字から始まっていた。

    彼は、西洋から幻想入りした直後から様々な犯罪に手を染め、処刑の直前に脱走、以来100年近く行方が分からなくなっていた。



    「処刑されたために、干渉された事のあるあなたの記憶が強い負荷を受けてしまったのでしょうね。カルテには“ウトウトしたら小さい頃の夢を見て意識が戻る”と書いてあるしね。」



    ちょうど三日前に、ヴァレンタイン・ドラウンジョーカーの死刑が執行された。

    永琳の推測通りの形で発症したのが明らかになった。




    「でもよ、何で霊夢だけなんだ? 攻撃をくらったのはオレもだぜ?」



    魔理沙も鹵獲された時に精神攻撃を受けており、彼女も発症しうる。

    しかし、目に見えない能力の仕組みを把握するのは非常に難しい。

    まして能力者が協力的でない場合、他の誰かが仕組みを理解するのは、ほぼ不可能であった。




    「んー・・・ そこが分かれば良いんだけど、あの能力自体の謎が多すぎるし、あるいは・・・。」



    「夢想天生」



    ただ一言を霊夢が放つ。

    その言葉が図星だったかのように、永琳はゆっくりと振り返った。



    「でもそう判断するには確証が少な過ぎるんじゃない?
     私自身もあまりよく分かっていないし、それに・・・」



    ふと、霊夢の頭に、千條遥斗の言葉が浮かんだ。

    半年前の、外の世界へ帰る際の彼の警告だ。


    『夢想天生・・・いや、“OVERSPEC”は謎が多すぎる。
     それは、普通の能力とは明らかに何かが違う。
     お前自身を傷付ける事も十分に考えられる、俺の様にな。
     とにかく、その能力はむやみやたらに使うんじゃぁない。 分かったな?』


    分からないとは言っても、実際に能力を使わないと本当に何も分からない。



    「まあ、とにかく神社に帰った後も安静にしなさい。 考えるのはその次よ。」



    ベッドの横にかけられたバスケットには、幾つかの錠剤の入ったパッケージが入っていた。

    それは、睡眠不足などによる眠気と疲労を驚異的に緩和するかわりにしばらくの間眠ることが出来なくなる薬だった。
  8. 8 : : 2017/03/21(火) 22:58:58

    <補足>
    この作品は、「Episode4」から約一年半経過してます。
    分かり辛かったと思いますがご容赦下さい。
  9. 9 : : 2017/03/21(火) 22:59:16



    ~約一時間後の博麗神社~





    「そう言えばよー、」


    「ん?」



    神社の社の中、霊夢と魔理沙は炬燵に足を突っ込んでいた。

    炬燵から伸びるプラグは、コンセントの代わりに手のひらに乗るくらいのサイズの陰陽玉に刺さっている。


    魔理沙が、みかんの皮をむきながら話しを続ける。


    雪をおろしたばかりの社の屋根が、またうっすらと白に染まり始める。



    「お前って遥斗と連絡とってるのか?」


    「私っていうよりは紫とたまに電話してるらしいけど、どうして?」


    「霖之助とかにとりたちと妖怪の山でやってる研究にさ、あいつが必要なんだぜ。」



    彼等が行っている“技術開発”は、途中で立ち止まっていた。

    遥斗の能力、そして人外並みの知能は今後の研究にとって欠かせない。



    「たしか来週くらいに来るって紫が言ってた。」



    そう言うと、霊夢は湯呑の中の緑茶を口にふくんだ。



    「それとは関係無いんだけどさ、お前遥斗と付き合ってるんだっけ?」



    その瞬間、霊夢は茶を吹き出した。

    顔を真っ赤にして、炬燵を両手で叩き起き上がる。




    「バッ・・・そんなわけないでしょ! なんでそうなるのよ!」


    「いやあ、すまん。 ただからかいたかっただけだぜ。」



    予想外のオーバーリアクションに魔理沙は驚いた。




    「目つき悪いニイちゃんの話しかぁー?」



    隣の部屋で寝ていた萃香が襖を開ける。



    「酒飲めない男はきらいだなー」



    酔っぱらっているのか、顔が赤く発音がしっかりとしていない。

    鎖でひょうたんの水筒を手繰り寄せると、中の液体を喉に流した。


    足りなかったのか、立ち上がりふらふらと台所へと向かって行った。


    アルコールの臭いが部屋の中に流れ込むので、霊夢は襖を閉めた。

    再び炬燵に腰を下ろし、淹れ直した緑茶を飲み干した。



    「とにかく、私そんなんじゃないから。 からかいにも限度ってもんがあるでしょ。」



    少々怒り気味の口調で注意するも、霊夢は内心で「嫌ではないかな」と思っていた。


  10. 10 : : 2017/03/26(日) 22:04:40

    時は丑三つ時、霊夢は畳の上で直立不動、目を閉じて精神を集中していた。

    萃香のいびき以外に、音が耳に入る。



    (気の数は六。 足音は二つ、うち片方は重い。 残り四つは飛んでいるのか・・・?)



    昼間でさえ珍しいのに、夜遅くに誰かが神社の石壇を昇ってくるのは明らかな異常だ。


    足音の数と霊力の数の違いから、うち四体は飛んでいると予測する。

    飛んでいないうちの片方は地に足を付ける度に鈍く大きな音が鳴る。



    (まずは地上の二つから動きを止める・・・!)



    六つの気が賽銭箱から五、六メートル程に迫ったところで、霊夢は目を開いた。

    同時に障子が淡いオレンジ色に染まり、暖かな光を受ける。


    霊夢は、修理してもらった長いお祓い棒を担ぎ、障子を開けた。


    「こんな夜遅くに、一体何の用?」



    地面にくっ付いた何個ものお札からオレンジ色の細い御幣が伸び、侵入者に巻き付き拘束している。


    ―博麗式陰陽術「簡易八方絞束陣」―


    博麗一族伝統の博麗式結界に霊夢が独自のアレンジを加えたスペル。

    殺傷能力は極めて低いものの、大型生物でさえ数分で脱力しきる程の高いエネルギー吸収力と捕縛力を誇るトラップだ。


    片方は華奢な少女、その右隣の腕が四本もある中世の武者鎧みたいな物体が全身の自由を奪われているのがはっきりと視認できる。

    しかし、それは異常だった。



    (二人だけ・・・!?)



    確かに霊夢が感じ取った生命は六つなのだが、四体足りない。



    「これこれ、何をするのじゃ。 悪気の無い客を攻撃するとは、近頃の若者は気性が荒いのう。
     老人にはもっと親切にするのじゃ、博麗霊夢。」
  11. 11 : : 2017/03/27(月) 22:26:21
    霊夢より一回り年下に見える少女は、年寄りのような話し方で喋る。

    幻想卿の中ではこのような口調で話す人は珍しくないので全く気にはならないが、妙に落ち着いた表情が不気味さを感じさせる。


    霊夢に向いていた顔を鎧に向け、御幣に捕まっていない右手人さし指を振り上げて指示を出す。



    「妙な動きをしないで。 さっさと要件を伝えなさい。」



    霊夢の周りに、以前より一回り小さくなった赤と白の陰陽玉が何個か発生する。

    手のひらに乗るくらいの大きさの一つ一つの玉に、縄文土器を彷彿とさせる小さい半透明の針が付いており、全て侵入者の方向を向いている。



    「儂は、これから儂が行うことについて誤解を生まないよう、先回りをしに来たのじゃ。」


    「先回り・・・?」



    鎧の左腕が変形し、滑らかな形の幾つもの刃物に変わる。

    何本もの大きな刃物が一斉に動き回り、二人を拘束していた御幣を切り離す。

    バラバラになった結界の断片が紙吹雪のように厨を舞った。



    「儂は、これから異変を起こす。」


    「・・・は?」


    その言葉に、霊夢は違和感を覚えた。

    異変を起こすのなら、予告をするメリットが全く無いからだ。

    帰り際に倒される危険性もあるため、挑発、としか思えない。


    落ち着いた雰囲気とは反したこの奇抜な行動に、それ以上に、心の奥で何を考えているか分からないので一層警戒を強める。



    「夜明けとほぼ同時に、幻想卿のありとあらゆる所に、大量の付喪神が現れる。
     詳しいことは言えぬが、これは致し方ないのじゃ。 幻想卿を大事に思うのは、おぬしも同じじゃろう?」



    異変を起こす動機が“幻想卿を守るため”という事は今までに無かった。

    話し終えた少女は背中を向け、鳥居をくぐろうとする。



    「待ちなさい、話はまだ半分だッ!!・・・」



    乱立する御幣の柱が一斉に巻き付こうとする。

    しかし、鎧の右腕が淡い光を発した瞬間、それらは一斉に進路を変え、賽銭箱と霊夢の体を巻き込みながら神社に突っ込んだ。



    「ッ・・・? 結界が言う事を聞かない・・・!?」



    博麗結界の応用であるその御幣、は博麗の巫女である霊夢のみが思い通りに操る事が出来るはずなのだが、何故か指示が通用しない。

    霊夢が作った通りに、力を込める程に押さえつける力が大きくなる。



    「心配せんでもよい。 特に迷惑がかかるわけではないからのう、ほっほほ・・・」



    その声、足音はだんだんと小さくなってゆく。

    結局霊夢が拘束から放たれたのは夜明けの数分前で、既に地平線が赤紫色に染まっていた。
  12. 12 : : 2017/03/29(水) 17:01:56


    山の黒い縁が眩しい、優しい光に覆われ、認識できるほど速く火の玉が空へ昇ってゆく。

    何日も眠っていないのに、快晴の空、そして風に包まれる霊夢は不思議な清々しさを体感した。


    異変が始まる。

    その言葉が真っ赤な嘘であるとしか思えないような光景を前に、ただぼーっとしている。


    ちょうど背中の方は影だったので、一般人は後ろから何かが来るのを察知できないだろう。



    霊夢は人並み外れた俊敏さで体を左に飛ばし、後ろから飛ぶ刃のようなものをかわした。

    彼女の左を猛スピードで通過した通過したもの、それは・・・。



    「水の塊!?」



    それは勢い余って鳥居を抜け、石壇に向かって落ちていった。

    数秒遅れてビシャッ、という音が鳴った。


    地面に両足をくっつけ、体の前にお祓い棒をかざす。

    空いている左手を右手に近付け、人さし指と中指を伸ばす。


    直後、鳥居の向こうから水の塊が猛スピードで戻って来る。

    先端は刃物のように尖っており、あと数十センチ程まで迫った。


    しかし、霊夢の体が傷つくことは無かった。



    「捕まえ・・・」



    刃の先端から、壁に当たったかのように砕け、水となり混ざりあう。

    飛沫が飛び散ることは無く、立方体の見えない器の中に収まり、動かなくなった。



    「たッ!!!」



    気が緩むのを狙ったのか、水の塊が突然暴れ出し、何とか外に出ようともがく。

    360度どの向きにも逃げ場が無いので、今度は霊夢の方向を向き何度も体当たりを繰り返す。


    その体の中に、霊夢はある物を見つけた。



    (あれっ、これ私の湯呑だ。 しかも割れてる。)



    密閉されて減衰しているが、結界の中から狂ったような叫び声があがった。

    液体のの形がヒトの顔面のような模様をつくり大きく口を開いているその姿に、霊夢は不気味さを感じた。
  13. 13 : : 2017/03/29(水) 22:13:43

    太陽が南中する間も無く、半壊した博麗神社に魔理沙が飛んで来た。

    余程急いで来たのか、トレードマークの帽子が無い。

    その表情は、何故かやる気と自信、そして楽しさが溢れ出ていた。



    「霊夢、異変だぜッ!!」



    どうしても霊夢に見せたいものがあるらしく、霧雨魔法店へ来るよう催促する。

    地面にかかとを擦らせ着地した魔理沙の左手には箒が、右手には八卦炉が握られていた。



    「そんなのとっくにわかってる。でも・・・」



    「ん、何だ?」



    ある程度瓦礫を片付け終わった霊夢が社の裏の倉庫から出てくる。

    全身のあらゆる所に晒し木綿が見られ、これは彼女が臨戦態勢である事を意味した。



    「今回の異変は、かなり厄介な代物みたいね・・・。」
  14. 14 : : 2017/04/06(木) 22:54:27


    「しかし身長142.21cm、の割には体重が一キロも無いとはな・・・。」



    「それに抵抗しないどころかピクリとも動かないなんてね・・・。」



    魔法の森にひっそりと佇む霧雨魔法店には、厳戒態勢が敷かれていた。

    早朝に謎の生命体が大量発生したというニュースはすぐに皆に知れ渡った。

    というより、幻想卿の人間と人型妖怪を圧倒的に上回る数のそれが現れたので、むしろ知らずに過ごすことの方が至難の業だった。


    その殆どが四肢と胴体と頭を持つ人型で、全く同じ顔の形をしていた。

    それが何なのかしらべようとして接近すると、すぐに逃げてしまう。

    何でも、追い詰めたと思ったらそこに居ないこともあるという。


    そんな中、霧雨魔法店で初めて捕獲に成功したのだ。

    ガラクタや試作の魔法道具で散らかった店内をアリスと霖之助が、屋外を多数の上海人形が監視していた。



    人形を広範囲に展開しているため、周囲360度のどの方向も見渡すことができる。

    そのうちの一つが二つの動く物体を捉え、感覚がアリスへと伝わる。




    「魔理沙と霊夢がきたわ。」




    捕獲された生命体は魔導ワイヤーで縛られ、壁に打ち付けられている。

    逃げることは完全に不可能なためか、霖之助とアリスが監視している間は全く動かなかった。




    魔理沙がドアを開け、後ろに霊夢が続いて入って来る。

    きしむドアの音に反応したわけでは無いが、それが近付く霊夢の方を向いた。




    「うおーい、連れて来たぜ。 どうだ、何か変化は無かったか?」



    「いえ、驚くほど変化が無いわ。 ただ、胸部の中に金属片みたいなのが入ってるみたいで・・・」




    その会話は、唸り声のような小さな音にかき消された。




    「何だ? 様子が変だ・・・。」




    霖之助がそれに近付き、様子を調べようとする。


    拘束されている脚部が形を変え、刃物のように変形するのが霊夢の目に映った。




    「下がって! 攻撃が来るッ!」 
  15. 15 : : 2017/04/07(金) 18:15:24



    両脚が、人間の関節ではあり得ない方向へと曲がった。

    二つの刃が空を切り、自身の体に突き刺さりながらもワイヤーを切断した。


    霖之助はすぐに飛び跳ねて回避し、動きを止めたそれの頭に肘打ちを食らわせる。



    「チェストォォォッ!!」



    木製のフローリングにそれが背を天井に向けて倒れ、霖之助は3メートル程下がる。

    彼は人間と妖怪のハーフということもあり、非常に身体能力が秀でている。

    弾幕を撃つことは出来なかったが、中級妖怪とも互角に渡り合えるという。


    倒れたそれの両腕も黒光りする刃物に変化し、背中の方向へ肘を曲げた。




    「キイイイイイイイイイイイイェェェェェェアァァァァァァッ!!!」




    奇声をあげたそれが、四本の刃を振り回し霊夢へと一直線に飛びかかる。

    フローリングをめちゃくちゃに掻き乱しながら急速に距離を縮め、明褐色の壁に衝突した。



    「二重結界!!」



    斬撃を無効化するものの、霊夢は慣性で真後ろに飛ばされた。

    ドアを背中で突き破りつつも、両手のひらの間に陰陽玉を形成する。




    「痛ったい・・・なァァッ!」



    高速で回転する陰陽玉が怪物の腹に直撃し、岩がドリルに削られるような音がする。

    反対方向へ吹き飛ばされる間に、既に何体もの上海人形がそれの方向に向いていた。


    八方からエネルギー弾に身体を焼かれ、黒焦げになった残骸が屋根に落ちた。
  16. 16 : : 2017/04/08(土) 14:20:49


    蒸気をあげながら少しずつ小さくなってゆく残骸の中に、金属の異物が入っていた。

    それは錆びついてなまくらになった包丁だった。


    ちょうど、魔理沙の包丁が見つからなくなっていたので魔理沙の物で間違いなかった。



    「でもよ、何で腹から包丁が出て来るんだぜ?」



    その答えを、ここに来る前から霊夢は知っていた。

    襲い掛かって来るそれは、顔も行動パターンも、液体の塊と同じだった。




    「この異変で大量に発生した奴らは、みんな付喪神よ。
     しかも、私だけを襲う、元からいるのとは根本的に違う付喪神・・・。」





  17. 17 : : 2017/04/08(土) 14:28:24
    大きな部屋は、ランプの灯のように暖かく、明るくも暗くもない白い明かりに照らされていた。

    月の機械は、地球の機械と同じような角ばった造りだが、透き通るような白に、部分的に赤があしらわれている。

    何かが回転するような音と、甲高くも短い音が鳴り続けるが、それはそこにいる者達の集中力を妨げる程のものではなかった。


    大きな機械に乗せられた巻物には絶えず青白いレーザーが照射され、紙に当たる光がずれるごとに、畳を三枚重ねたほどの大きさのモニターに文字や写真があらわれる。

    そのラボにいる月人達の視線は、紙に吸い取られるレーザーのように、画面へと吸い取られてゆくばかりだ。



    “三浦屋八兵衛 1721年2月30日 II型発現 同刻 射殺”


    その文字とともに、中年の男性の顔が画面に描かれている。



    「やはり、記録上ではこの人間が最初みたいね。II型ってことは、妖怪化したって事か。」


    綿月依姫は、そう呟きながら空に指をかざし、下ろした。

    画面が切り替わり、今度はまだ男か女かも区別がつかない幼児が映しだされた。


    “喜助 1721年 3月未明 I型発現 3月24日 病死”


    病死。 その文字を見て、何人かが顔を歪めた。

    月人は技術と生命力のおかげで病知らずで、彼らにとって、それは理解しづらいものだった。



    次々と画面が移り変わるが、あるところで手が止まった。


    “ユーリイ・ガガーリン 1961年4月12日 I型発現 1968年3月27日 事故死”


    「ユーリイ・ガガーリン・・・」



    依姫は、彼を知っていた。

    会った事は無いが、初めて宇宙に飛び立った地球人だという事は知っていた。



    「ユーリイ・ガガーリンね・・・。 足りない技術を能力者の生命力で補ったのかしら。」


    綿月豊姫は扇子で口元を隠しながら一度俯き、再びモニターに目を向けた。


    照射を受け続ける巻物は、文字とは思えないような記号で埋め尽くされている。

    しかし、月の技術にとって、その程度の暗号を解読するのは容易い事だった。



    再び、何回か画面が切り替わる。

    その殆どがアメリカやソ連の宇宙飛行士だった。

    宇宙での友人調査を始めた当時はまだ技術が追い付いておらず、通常の人間に比べて圧倒的な生命力を誇る能力者が何人も大気圏の外へ、そして月へと送り出された。

    放射線を防ぐ技術も完成していなかったため、彼らは“それ”を発現してしまったのだ。



    宇宙飛行士らが表示されなくなってしばらくした後、再び手が止まった。


    “千條晃弘 200×年12月31日 I型発現 同刻 暴走により死亡”


    無気力に見えるその年老いた顔面を見て、何故か怒りがこみ上げそうな気持になる者が何人もいた。



    二、三回画面を換えたところで、依姫は声を漏らした。


    「えっ、何で・・・」



    そこには、依姫も豊姫も見たことがある顔が映っていた。

    長い黒髪と赤いリボンは、もう二年近く経っているが、二人はハッキリ覚えていた。



    「霊・・・夢・・・?」



    “博麗霊夢 201○年7月2日 I型発現 健在”


    「まさか、あの子も“OVERSPEC”を・・・!?」



    長時間画面を止めると巻物が焼けてしまうので、ひとしきり驚いてから再び画面を切り替えた。

    誰も、“暴走のリスクあり”という備考欄に気付かなかった。



    ”千條遥斗 201○年 7月2日 I型発現 健在 ”  


    まったく同じ日に発現したと思われる少年が映った。

    男にしては少し長い黒髪、そして左側から反り立つアホ毛。そして、その怖い目つきは画面を見る月人を睨んでいるかのようだった。



    “被検体壱式八番 2009年7月14日 II型発現 健在”


    その“名前とは思えない名前”を持つ少年が画面に映ったとき、まるで機械のような名前だと、稀神サグメは黙って首をかしげた。



    “被検体参式零番 2016年1月24日 I型発現 健在”


    「こっちもか・・・」


    この少女も人とは思えない名前だった。

    依姫が再び指を下ろすが、新しい顔が映される事はなく、レーザーの照射が止まり、画面に“保存完了”という文字が映るだけだった。



    「バックアップ、終わりました!」


    新しく部隊に配属された青年の声を聞くと、依姫は巻物を縮退炉に放り込むよう命令した。
  18. 18 : : 2017/04/08(土) 14:35:50


    次回予告



    付喪神に見つからないように身を隠す霊夢の前に現れたのは、緑髪の少年だった。

    その無数の刃が、八雲紫に向く。

    求めるものはただ一つ、それは弟の下半身を奪ったことへの報復。



    次回、東方双赤星
    「鋼のタスク」

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通りすがりの御大将

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この作品はシリーズ作品です

東方双赤星  ~A Story Of Eclipse~ シリーズ

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