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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品は執筆を終了しています。

クリスタ OMENS OF LOVE ―恋の予感―

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  1. 1 : : 2014/06/04(水) 13:58:02
    OMENS OF LOVE (オーメンズ・オブ・ラブ)

    主人公 クリスタ

    調査兵団の誰かに恋をします

    ネタバレは基本単行本です
    よろしくお願いいたします


    題名はT-SQUAREの曲から取りました
    イメージ曲です
    爽やかなかっこいい曲ですので、みなさん一度聞いてみてください♪
  2. 2 : : 2014/06/04(水) 13:58:30
    パタパタパタパタ・・・

    足早に廊下を駆ける

    廊下は走ってはいけないの、だから早歩き

    でも、私の歩幅ではその速度に限界があるの

    だから、いつも急いでいる様に見えないって言われる・・・本当に心外

    でも、どれだけ傷ついても、私はあまりそれを顔には出さない

    物心ついた時から、いいえ、つく前から・・・

    私はそうやって生きてきたから

    そして今日も、そうやって仮面を被って一日を過ごす

    クリスタ・レンズとして
  3. 3 : : 2014/06/04(水) 13:58:58
    パタパタパタ

    こんな足音、ギャグみたいでしょう?

    でも実際私が駆けるとこんな音がするの

    足を、床に付きすぎているのかもしれない

    良くわからない・・・けど、そうやって音を立てて、私は廊下を急ぐ

    手にした書類・・・これを早く班長の所へ持っていかなければならないから

    新兵なんて、こうした雑用が殆ど

    私はまだまし・・・書類だけだから

    他の子は、重たい荷物を背中にまで背負って、兵団施設内を右往左往しているの

    私はいつも重たい物を運ぼうとすると、どこからともなく現れた同期達が、こぞって代わりに持ってくれるの・・・
  4. 4 : : 2014/06/04(水) 13:59:32
    クリスタはかわいいから得だよね、とよく言われる

    それって嫌味なほどに胸に突き刺さる言葉

    影で、男に媚びていると言われているのも知ってる

    そんなつもりなんてさらさらないのに・・・

    でも実際、天使の様なふりをして、男の子たちに荷物を持たせている私がいる

    媚びているつもりなどなくても、利用できるものは利用する

    私はそうやって生きてきたから
  5. 5 : : 2014/06/04(水) 13:59:48
    世の中って結局打算と計算ができなきゃ、渡っていけないと思うの

    渡っていけたとしても、損ばかりすると思う

    私はたくさん回り道をしてきた

    今も、回り道をしてる

    いい子を演じながら、自分の本質になるべく他人が気づかない様にふるまっている

    そうして自分の居心地のいい、自分が必要とされるような場所を構築するの

    うそをつくのには慣れているの

    自分の心にも、大切な仲間にも、いつもうそをついているから

    正直な気持ちなど、一生さらけ出すつもりはないの

    そうしなければ、私は生きてはいけないから

    生きていては、いけないから
  6. 6 : : 2014/06/04(水) 15:50:09
    そんな事を考えながら歩いていると、突然横合いから衝撃を感じる

    ドンッ!

    受け身を取る暇もなく、身体は床へ打ち付けられる

    何が起こったかわからない・・・

    目を開けて周囲を確認しようとしたが、目が回って視点が定まらない

    「だ、大丈夫ぅ?!」

    素っ頓狂な声が耳に入ってくる

    その声の主に抱き起される

    そしてようやくその声の主が誰なのかわかった

    「ハンジ・・・分隊長」
    私はようやくめまいから解放された目で、身体を抱き起している人物にそう言った

    「ごめんね、私が前をみて走っていなかったから」

    ハンジ分隊長はおろおろしながら私の身体のあちこちを触る

    「あ・・・」

    私は眉をひそめて思わず声を出した

    身体を障られるという事に、あまりいい思い出がないから

    ハンジ分隊長はその声にぴたっと手を止めた

    「ごめん、どこか怪我をしていないか、気になって」
    そう言ってはにかんだような笑みをうかべた
  7. 7 : : 2014/06/04(水) 16:18:29
    師匠!!!!さっそくですね!!期待ですよ!!
  8. 8 : : 2014/06/04(水) 17:40:34
    私はこの人を知っていた

    もちろん、調査兵団の幹部だから知っていて当たり前なんだけど、私にとって、ハンジ分隊長は命の恩人なの


    遡ること数ヶ月前

    まだ訓練兵だった私は、トロスト区奪還作戦に参加していた

    囮となって巨人を引き寄せる役割を担っていたの

    作戦は成功して、壁を塞ぐことに成功したんだけど、私は逃げ遅れて、未だに巨人がたむろしている場所に取り残された

    立体機動装置は壊れて役に立たない…そんな私を、巨人が見つけるのに、さして時間はかからなかった


  9. 9 : : 2014/06/04(水) 17:51:48
    巨人は私と目が合うなり、ゆっくり口を開けて寄って来た

    蛇に睨まれた蛙の様に、私は身動き一つ取れなかった

    私の身体に、巨人の手が伸びる
    私はじっとその巨人の動きを見た

    もう、助からない…
    そう思い、目を閉じようとした、その時

    「いやっふぅ~!!こんなところにもいたねえーかわいい巨人さん!!」

    場違いなまでに明るい、素っ頓狂な声が辺りに響き渡る

    その声の主は、立体機動でまさに空を跳んでいた

    そして、今まさに私の身体を掴もうとしていた巨人に、アンカーを繰り出す

    次の瞬間

    「痛くしないから、大丈夫だよっと!!」

    そう叫びながら、華麗ともいえる動きで、巨人のうなじを削いだ

    私はその様子を、ただ呆然と見ていた
  10. 10 : : 2014/06/04(水) 18:03:17
    「大丈夫ぅ?!怪我はないかい?」

    華麗に巨人のうなじを削いだその人は、着けていたゴーグルを額の上に押し上げながら、私に歩み寄ってきた

    私はしりもちをついたまま動けなかったけど、辛うじて言葉を発する

    「だ、大丈夫です…」

    私のその言葉に、命の恩人はにかっと笑みを浮かべ、そして私の立体機動装置を指で小突く

    「なら良かったよ!!もしかして、立体機動装置壊れてるの?」

    「はい…」

    「なら、壁の上まで送ろう」
    そう言うなり、その人は私を軽々抱き上げた

    「あ…」

    私はびっくりして、変な声を出してしまった

    「大丈夫?私にしっかりしがみついていて?行くよ!!」

    そうして、私は無事、壁の上の安全な場所に戻ることが出来たのだった
  11. 11 : : 2014/06/04(水) 21:04:17
    「じゃ、私はまだ巨人さん達が待ってるから行くね!?」

    私の身体を壁の上に下ろしたゴーグルの人は、そう言うと身を翻した

    「あ、あの!」

    私は慌てて呼び止めた

    ゴーグルの人はくるっと体ごと私に向き直った

    「なあに!?お姫様!!」

    そう言って、にかっと笑った

    私はその笑顔に、胸がドキッと高鳴った気がした
  12. 12 : : 2014/06/04(水) 22:40:18
    「あの、あなたは…」

    「へ?私?ハンジ・ゾエだよ。よろしくね、お姫様!!」

    その人…ハンジ・ゾエさんはそう言うと、再び踵を返して壁を降りていった

    残された私の心に残る、なんだか苦しい胸の痛み

    私は胸を押さえながら、ハンジさんの去った方向をじっと見つめていた


  13. 13 : : 2014/06/04(水) 22:43:51
    私と、ハンジ分隊長との出会いはそんな感じだった

    今考えれば、あの人の背中にあった自由の翼に惹かれて、調査兵団を選んだのかもしれない

    それくらい、私の中で深く印象に残った出来事だったの

    調査兵団に入り、たまに見かけるようになった憧れの人

    今私はそんな人に、身体を抱き起こされていた

  14. 14 : : 2014/06/04(水) 22:49:04
    「大丈夫?怪我はない?ほんとごめんね」
    ハンジ分隊長はそう言って、私の頭をそっと撫でた

    私はその仕草にドキッとした

    身体を触られるのは好きではないけど、頭を撫でられるのが好きだったから

    幼い頃から、あまり頭を撫でてもらった記憶がなかったからかもしれない

    身体に触れられるのだって、この人にならと思うけど…

    やっぱりまだ怖かった



  15. 15 : : 2014/06/04(水) 23:29:58
    その時だった

    「分隊長!!何をなさってるんですか!?団長がお待ちですよ!!」
    低くて少し鼻にかかるような声

    ハンジ分隊長のいつもそばにいる、モブリット副長

    副長はつかつかと歩み寄ってきた

    「いやあ、クリスタとぶつかっちゃって…」

    ハンジ分隊長はぽりぽりと鼻の頭をかいた

    「な、な!!だからいつも前を見て歩けと…どうせ余所見しながら走ってたんでしょう!?分隊長!!」

    「当たり~!てへへ」

    「てへへじゃありませんよ、全く…あなたはさっさと団長室へ行って下さい!!クリスタは私が医務室へ連れていきますから!!」

    モブリット副長は、ハンジ分隊長の手を引っ張り立たせ、その背中を押した

    「わ、わかったよ…クリスタ、ごめんね!?この埋め合わせはまた後日!!」
    ハンジ分隊長は私にペコリと頭を下げて、立ち去って行った


  16. 16 : : 2014/06/05(木) 07:26:45
    「大丈夫?怪我はなかったかい?」
    そう言って、私に手をさしのべるモブリットさん

    穏和で真面目な人となりで、顔もいかにも優しそうな人

    ハンジさんの奇行を食い止める事を生業にしている…様に見える…大変そう

    さしのべられた手を握ると、少し力を込めて立たせてくれた

    「大丈夫です…少し、目が回りましたけど…」

    「頭を打ったか…念のため、医務室へ行こう」

    モブリットさんは心配そうな表情を私に向けてそう言った



  17. 17 : : 2014/06/05(木) 09:49:23
    「めまいは収まりましたし、大丈夫です」
    私はそう言ってにっこり微笑んだ

    ほんとはまだ少し、フラフラするけど・・・

    すると、モブリットさんがじっと私の顔を見てくる

    「まだ、顔色が良くない、真っ青だ。念のため医務室に行っておこう。書類は預かっておくよ」

    そう言って、私が持っていた少し形の崩れた書類の束を取り上げた

    「あ、でも・・・」

    「大丈夫、ちゃんと渡すよ。さ、行こうか」

    有無言わさず、私は医務室へ連れて行かれた
  18. 18 : : 2014/06/05(木) 09:56:48
    「軽い脳震盪ですね。かなりの衝撃だったと思われます」
    医務室にいた医師が眉をひそめてそう言った

    「脳震盪・・・はぁ」
    モブリットさんはこめかみに指を当てて、ため息をついた

    「あ、あの、私大丈夫ですよ・・・?」
    私があわててそう言うと、モブリットさんは首を振った

    「いや、ごめん。うちの分隊長のせいで怪我をさせてしまって・・・。あとで叱って、ちゃんと謝らせにいくからね」

    そう言うとまたため息をついた

    「あ、謝るなんて、結構ですから・・・」
    私はぶんぶんと首を振った

    受け身をとれなかった私が悪いのに
    ぼーっと歩いていたし・・・走ってはいなかったけど

    「いや、そういうわけには行かないよ。君はもう少し医務室で休ませてもらっておくといい。書類、きっちり渡しておくから気にしない様にね。・・・先生よろしくお願いします」

    モブリットさんは頭を下げると、踵を返して医務室を出て行った
  19. 19 : : 2014/06/05(木) 10:06:50
    私は医務室のベッドでしばらく横になる事にした

    ハンジさんは私の命の恩人
    そして、心の中でこっそり想う、憧れの人

    ぶつかってすぐに抱き起してくれた、力強い腕

    すごく、華奢に見えるのに、とても頼もしく思えるその姿

    少し・・・いいえかなりあわてんぼな人だけど、やっぱりとっても素敵

    後で謝りに行かせるっていってたよね

    そんなの必要ないんだけど、少しでもハンジさんとお話ができるなら、嬉しいな

    私はそう思いながら、目を閉じた
  20. 20 : : 2014/06/05(木) 10:16:31
    師匠!!めっさ期待してますよ!!
    続きが気になりますね~!!!期待期待です!!
  21. 21 : : 2014/06/05(木) 10:16:43
    結局目が覚めたのは夕方で、ちょうど夕食の時間だった

    「クリスタ大丈夫だったか?お前ぼーっとしてるからなあ」
    私はユミルと一緒に、医務室から食堂へと足を運んだ

    「そうなの、私がぼーっとしちゃって、だめだよね」
    私はえへへ、と笑った

    ユミルは私の頭をわしゃわしゃと撫でる
    「まあ、お前はかわいいから何やっても許されるさ!」

    そういってにかっと笑うその笑顔は、どことなくハンジさんに似ている気がした

    私はこの口の悪い友人が、とっても好き

    いじめられてるんじゃないかとか言われるんだけど、そんな事ない

    ユミルは見た目よりずっと繊細で、ずっと優しい

    私なんかよりずっと、他の人の事を考えているの

    ただ、それを回りに悟らせていないだけ

    わからない様にふるまっているだけ

    ユミルは私とは正反対なんだ

    だからこそ惹かれるのかもしれない、そう思っているの

    ハンジさんも・・・私とは正反対そんな気がした
  22. 22 : : 2014/06/05(木) 10:18:39
    >EreAni師匠☆
    ありがとおおお!がんばるよおおおおお!!
  23. 23 : : 2014/06/05(木) 10:34:23
    ユミルと一緒に夕食を取り、部屋に戻ると、部屋の扉の前に人影が見えた

    あれは・・・

    「ハンジさんじゃん」
    ユミルがそう言った

    私たちが歩み寄ると、ハンジさんがこちらに気が付き、にかっと笑った

    「やあ、クリスタ、それにユミル」

    「なんか御用っすか?」
    ユミルが怪訝そうな顔をハンジさんに向けてそう言った

    「ああ、クリスタに用があるんだけど、少しいいかな?」

    ハンジさんの問いに、私は顔を赤くする

    それを見たユミルが、目に見えて不機嫌な顔になる

    「・・・何でクリスタ、顔赤くしてんだよ・・・」

    「あ、ごめんユミル・・・少し行ってくるね」

    「ああ、気を付けてな?」
    ユミルは何か言いたそうな表情をしていたが、やがて部屋に入って行った

    私は、ハンジさんに連れられてその場を後にした


  24. 24 : : 2014/06/05(木) 10:42:21
    連れてこられたのはハンジさんの部屋だった

    ドキドキする

    こんな気持ちは生まれて初めて

    そんな私の心の動きを知ってか知らずか、ハンジさんはからっとした声で私に語りかける

    「部屋、少々暴れてるけどびっくりしないでね?」

    そう言うと、部屋の扉を開けた

    そして、その部屋に足を踏み入れた瞬間・・・絶句した

    こ、こ、これは・・・

    部屋なの、物置なの?

    辛うじてベッドらしきものは確認できたけれど、ぬぎちらかした服やら、書類の束やら書物やらがあたりに散乱して、まさに足の踏み場もなかった

    「ごめんね、暴れてるでしょ?さ、その辺に座って!」

    そ、その辺って・・・椅子すらどこにあるかわからないのに・・・って、あった

    そこに行くまでにかなりの服やら書類をふんずけなきゃいけないけど・・・

    私は極力ゆっくり椅子に向かって移動し、腰を下ろした

  25. 25 : : 2014/06/05(木) 10:52:28
    「しばらく待っててね?もうすぐ来ると思うから」

    もうすぐ来る?誰かが来るのかな

    私は疑問に思いながらもにっこり笑った

    「はい」

    「ああーーー、部屋片付けとかなきゃ怒られる・・・よいしょよいしょ・・・ああ、めんどくさいなぁ」

    ハンジさんはそう言いながら、書類の束やら服やらを部屋の隅っこに押しやりだした

    それって片付けと言えるのかな・・・

    そう思っていたけれど、顔にはださずににこにこしていた

    そう思っていると、こんこんと扉がノックされて、人がはいってきた

    「ハンジさんお待たせしました・・・って!きったない部屋!なんですかこれは!って、クリスタをこんな部屋に呼ぶなんてあなたね・・・!」

    部屋に入るなりハンジさんに掴み掛るような勢いで捲し立てるモブリットさん

    「いやあ時間がなくってwてへへw」

    「てへへじゃありませんよ!・・・っとクリスタこんばんは。すまないね、こんな部屋に連れてこられて・・・綺麗にしておくように言ったんだけどね・・・」

    「こんばんは、モブリット副長」
    私はにこりとわらってそう言った

    「だってさぁ・・・」

    「だってじゃありません!こんな埃っぽい部屋で何も食べる気しませんよ!病気になりますよ病気に!移動です移動、私の部屋の方がまだましですから!・・・クリスタ、行こう」

    モブリットさんがそう言うので、私は椅子から立ち上がり、扉の方に向かった

    「わ、私も行っていいよね?!モブリット!」

    「・・・あとから部屋の整理をしてくださいよね?あと、私の部屋は散らかさないでください」

    とりあえず、何が始まるのかはわからないけれど、私はハンジさんと共にモブリットさんの部屋に行く事になった
  26. 26 : : 2014/06/05(木) 11:09:52
    私たちはモブリットさんの部屋に移動した

    その部屋はとてもきれいだった

    先ほどのハンジさんの部屋とは全く違った…間取りは同じはずなのに、広く感じたし、第一床に余計なもの一つ落ちていなかったの

    それが当たり前・・・なんだけど

    「ふうーーモブリットの部屋は空気がおいしいね!」
    素っ頓狂な声でそう言いながら、ベッドにダイブするハンジさん

    「ちょっと、汚い身体でベッドに寝転ばないでください。埃も立ちますし」

    モブリットさんは眉を顰めながら、机の上に紙袋をポンと置いた

    「おおお、買ってきてくれたんだね?やったーー!」

    ハンジさんがベッドから飛び降りて、その紙袋をおいた机の上をぐるぐると回った

    まるで子犬みたいで可愛い

    「とりあえず座っていて下さい。お茶をお入れしてきますから」

    「あ、モブリットさん私が・・・」

    そういう私をモブリットさんが制する

    「いや、君は座っていて、クリスタ」
    モブリットさんはそう言うと、炊事場に消えた
  27. 27 : : 2014/06/05(木) 11:19:52
    「では、クリスタごめんなさいの、かんぱーい!」

    「え、え?」

    なんかよくわからない掛け声で、夜のティーパーティーがはじまった

    「は、早く食べたい!」

    「駄目ですよ、まずはクリスタからです。あなたのために買ったんじゃないんですからね」

    モブリットさんはそう言いながら、私に紙袋から取り出した何かを手渡した

    小さなそれは・・・

    「チョコレート!」

    「と、キャンディーだよ」

    もう一つ、ポンと手にわたされたのは綺麗な色のキャンディーだった

    「ど、どうクリスタ?チョコレート美味しい?!」

    ハンジさんが鼻息荒く私に話しかけてきた

    モブリットさんがそれを見て、肩をすくめる
    「クリスタはまだ食べてないじゃないですか、さ、遠慮せずどうぞ」

    私はその言葉に、チョコレートを口に入れた

    口の中に広がる甘ーい味

    少しほろ苦い、くせになる味

    「おいしい・・・」
    私は頬に手をあてて、心からそう言った

    そして、自然と笑顔になった


  28. 28 : : 2014/06/05(木) 16:42:32
    「か、か、可愛いよお~!!」
    ハンジさんが、まるで抱きつかんばかりに私に身体を寄せてくる

    恥ずかしくて思わず赤面してしまった

    「可愛いのは分かりますが、あまり近寄らないで下さい、セクハラですよ」
    苦言を呈するモブリットさん

    「いやあでもさあ、こんなに可愛い仕草を見せられたらたまんないよ!!」
    ハンジさんはそう言って唇をとがらせた

    「か、可愛いなんて…」

    「確かに可愛いですよ、だからと言って、取って食う勢いで近寄らないで下さい、分隊長」

    「と、取って食う…?」
    私はキョトンとした

    「やだなあ、いくら私でもいきなり取って食うなんかしないよお!!ちゃんと順を追ってだね…」

    「順を追って、何をしようとなさってるんですか…」
    モブリットさんは、にやにや笑うハンジさんに呆れたのか、ふうとため息をついた

    「とりあえず、チョコレート食べよ♪話はそれからそれから♪」

    三人でしばらくチョコレートに舌鼓を打つことにした
  29. 29 : : 2014/06/05(木) 17:45:24
    チョコレート食べよ!(笑)
    珍しい取り合わせに、展開がわくわくです!頑張ってください。
  30. 30 : : 2014/06/05(木) 21:39:27
    >Artさん☆
    ありがとう!!頑張ります♪チョコレート♪(*´-`)
  31. 31 : : 2014/06/05(木) 21:46:22
    チョコレートと、モブリットさんが淹れてくれた紅茶はとっても美味しくて…

    私はひさしぶりに、ほんとに笑顔になれた気がした

    それに、この二人のやり取りがなんだか楽しくって

    気心の知れた仲間同士って、何気ない事でもこうして笑ったり、怒ったりするんだなあって

    今の私にはないな…そういうやり取り

    それはそうだよ
    私は私を隠しているから…
    気心の知れた仲間なんて、出来るはずが無いよね

    私はこの二人が羨ましくて、そして自分がなんだか惨めに思えてきてしまった
  32. 32 : : 2014/06/05(木) 21:57:28
    私が俯いているのに気がついたのか、突然ハンジさんがすっとんきょうな声をだした

    「クリスタ!!あのさあ、君って好きな人とかいるのぉ?」

    え…
    私の好きな人
    目の前にいるあなたなんですけど

    なんて言えるはずもなく、私はしどろもどろに答えた

    「い、いませんよ…」

    「あれえ、顔が赤くなった!!やっぱりいるんだ!!ねえ、誰か教えてよ!!クリスタなら誰でもオッケーしてくれるよ、きっと!」

    「い、いえ、そんなこと…」

    「お願いだから教えて!?ねえねえ!!」

    ハンジさんが私に顔を寄せてくる
    私の心臓がどきどきと大きな音をたて始める

    ハンジさんが私の手を握った、その瞬間、私の中で何かがぷつんと切れた

    「…わ、わ、私は…ハンジ分隊長が好きですっ!!」

    ついに言ってしまった

    本人を目の前に…チョコレートの勢いというか…

    すると、ハンジさんもモブリットさんも、石像の様に固まってしまった

    「…あ、あの…」
    私はツンツンとハンジさんの肩をつついた

    「あ、ごめんね、いきなりだからびっくりしちゃった!!クリスタが好きな人って私なの?本気?」

    ハンジさんは真摯な眼差しを私にむけた

  33. 33 : : 2014/06/05(木) 22:07:01
    「…はい、一目惚れ…です」
    私は俯いて呟くように言った

    「あ、あのさ、クリスタ、念のために聞くけど…その、君って…女の子が好きなの?」

    ハンジさんの問いに、私は首を傾げた

    「え…嫌いではないです…友達はいますし…何故ですか?」

    「あのね、クリスタ…私さあ…」
    ハンジさんはそう言うと、いきなり私の手を自らの胸に押し付けた

    そこには固い胸板が…あると思っていたのに、なぜかふんわり柔らかい感触を手に感じた

    「あ…」
    私はハンジさんの顔を見た

    「うん、私は一応女だよ。女らしくないから、よく間違えられるんだよね…ははは」
    ハンジさんはそう言って笑った

    私の初恋は、こうしてチョコレートのほろ苦い味と共に終わりを告げた
  34. 34 : : 2014/06/05(木) 22:15:15
    失恋した私は、そのショックを顔に出すことなく、その場は楽しく振る舞った

    チョコレートを口に運びながら…

    チョコレートを食べ終え、キャンディーをお土産に貰って笑顔で部屋を出た私は、とぼとぼと廊下を歩いた

    部屋に戻ろうかと思ったけれど…殊のほか先程の、ハンジさんが女だというショックが大きくて、そんな気になれなかった

    足は自然に兵舎の外の運動場へ向かっていた

    外は少し風がひんやりとしていた
    月明かりの中、運動場の端に座り込んで、キャンディーを一つ口にいれた

    ピンクのキャンディーはとても甘かった

    私はいつしか、ぽたぽたと両目から涙をこぼしていた
  35. 35 : : 2014/06/05(木) 22:20:13
    その時

    「クリスタ、大丈夫かな?」
    そんな声が背後から掛けられた

    低くて少し鼻にかかったような、優しい声

    その声の主は、先程たくさんお世話になった、モブリットさんだった

    私は慌てて目をこすり、振り返った

    モブリットさんは心配そうな顔を、私に向けていた

  36. 36 : : 2014/06/05(木) 22:27:38
    私は立ち上がろうとしたけど、モブリットさんがそれを制して、私の隣に腰を下ろした

    「モブリットさん…らいじょうぶ…れす」

    私は上手く話そうとしたけど、キャンディーが大きくて、舌足らずになってしまった

    モブリットさんは一瞬顔を歪めたけど(多分笑いそうになったんだと思う)、笑わずに頷いた

    「それならいいんだけど…キャンディー美味しいかい?」

    「おいひい…です」

    私の言葉に、モブリットさんはまた顔を歪めた

    そして

    「…ぷ、ぷぷ…ごめん、笑ってしまった…はは」

    両手で顔を覆って、必死に笑いをこらえているようだった

  37. 37 : : 2014/06/05(木) 22:41:31
    「ハンジさんが男だと勘違いする子は結構いるんだ…男よりも女にもてる人だと思うよ」
    モブリットさんは肩をすくめた

    勘違いしたのは過去に私だけではないと言うことかあ

    「モ…モブリットさんは男…ですよね?」
    私は疑いの目でモブリットさんをみた

    「お、俺が女に見えるかな?」

    「…ハンジさんよりもずっと女らしいと思います、お部屋とか…」

    「ハンジさんは特別製だよ…」
    モブリットさんははぁとため息をついた

    「モブリットさんは男…なんですね」

    「ああ…何なら確認…しなくてもいいよね?」

    私はおもむろに、モブリットさんの胸に手を当てた

    思ったとおり、固い胸板があった

    「男…でした」
    私は神妙な顔つきで頷いた

    「あ、ああ、確認ご苦労様…ぷぷ」

    なんだか笑われてしまった…

    「もう騙されたくないです」
    私は頬を膨らませた

    「ああ、大丈夫…クリスタって…面白いね」
    モブリットさんはそう言って、にっこりと微笑んだ

    優しい笑顔に、私は心が救われた気がした

  38. 38 : : 2014/06/05(木) 22:57:32
    「何故…あとを追ってきてくれたんですか」
    私は疑問だった

    あの後もずっと、何事も無かったかのように、楽しく振る舞っていたのに

    どうして大丈夫と聞かれたのか、わからなかった

    「…なんだか無理をしているように見えたから…かな?」
    モブリットさんは顎に手をやってそう言った

    「無理を…しているように…見えましたか?」

    「ああ…でも、なんと無くそう感じただけだよ」
    モブリットさんは鼻の頭をぽりっとかいた

    「…そう、ですか」
    私は俯いた

    まさかモブリットさんにばれているとは思わなかった…



  39. 39 : : 2014/06/07(土) 03:22:01
    わわ、まさかの展開Σ('ω'ノ)ノ!
    クリスタの勘違いが可愛らしいです。
    ここから彼女の気持ちがどう動いて行くのか、楽しみに読ませていただきますね!
  40. 40 : : 2014/06/07(土) 08:47:23
    >submarineさん☆
    コメントありがとうございます♪
    クリスタは書くのが初めてで、試行錯誤しています(*´-`)
    頑張ります♪
  41. 41 : : 2014/06/07(土) 22:38:46
    「クリスタは、ハンジさんに助けてもらった事があるらしいね。ハンジさんから聞いた事があるんだよ、お姫様みたいな訓練兵を助けたってね」

    そう言えば、あの時お姫様って呼ばれていた…

    「お姫様だなんて…あり得ない」
    私は思わずぼそっと呟いた

    私ほどお姫様からほど遠い生活をおくっていた人はいないと思う

    ハンジさんは私の見た目でそう言ったんだろうけれど、本当の私を知ったら、きっと誰も私をお姫様だなんて言わない

    きっと誰も私を好きになってはくれないだろうな…

    私がそんな事を考えて俯いていると、モブリットさんが顔を覗いて言葉を発した

    「…そうだね、お姫様と言うのは、少し違うかもしれないね」

    モブリットさんはそう言って、頷いた



  42. 42 : : 2014/06/07(土) 23:12:39
    「そうですよね…」
    私はふうっとため息をついた

    「いや…なんて言うかな。お姫様って世間知らずというか、呑気なイメージがあるだろう?そんなイメージとは違うからね、君は」

    モブリットさんはそう言って、微笑んだ

    何だか優しいな…そう感じた

    同期の男の子たちとはやっぱり違う…フォローの仕方なんかも
    大人だからかな…

    これが包容力なのかな

    私はこの空間を、何だかとても心地よく感じていた
  43. 43 : : 2014/06/25(水) 16:16:19
    この空間で、自然と私は素直になれる気がした
    だから、ずっと聞いてみたかった事を口にする

    「あの、質問なんですが・・・」
    私はモブリットさんの方を見ながら、恐る恐る言葉を発した

    人に物を頼むとき、人に物を聞く時、なんでもだけど、拒絶されないか心配でなかなか素直に言えない
    幼い頃のトラウマから・・・かもしれない

    実の母親にすら拒絶され続けた、幼き日の思い出
    それがつらい事だという事すら知らなかった・・・訓練兵に、なるまでは

    母親は優しくて当たり前・・・そんな事は知らなかった
    私には優しい母親など、両親などいなかったから

    そんな私の心を解きほぐしてくれたのが、訓練兵時代の友人たちだった

    そして今となりにいるこの人も、何故か不思議と私を素直にさせてくれた

    「質問?なんだい?俺にわかる事ならいいけど」
    モブリットさんは首を傾げながらそう言った
  44. 44 : : 2014/06/25(水) 16:28:59
    「今度の、遠征の事・・・なんですが」
    私は静かに口火を切った

    「今度の遠征・・・ああ、君たちの初めての壁外調査だね。それがどうかしたかい?」

    「今度の遠征って、あるポイントまで行って、帰ってくるだけなんですよね」
    私はそう言った

    「ああ、そうだよ」
    モブリットさんは頷いた

    「陣形図を見たんですが・・・どうして荷馬車が沢山あるのかなって・・・拠点を設営するわけでも、ないのに」
    私はちらりとモブリットさんの顔を確認した・・・けど、モブリットさんは表情一つ変えない

    「ああ、荷馬車も、荷馬車護衛班も結構な人数を割いているよね。今回は新兵を全員連れているからね、怪我人が続出するだろう。それを見越しての判断だと思うよ」

    「そう・・・ですか」
    私はそこで質問を止めた

    実は、ずっと新兵の間で話題になっていた
    ううん、新兵の間だけではなくて、熟練の兵士達の間でも・・・

    何故こんなに早く経験の浅い新兵を遠征に連れ出すのか

    ・・・ふつうならもっと時間をかけていろいろな技術を叩き込んでから、壁外に送り出すみたい
    今回の一月で遠征というのは、異例中の異例だという話

    何か、裏があるのかもしれない・・・というのは同期のアルミンの言葉

    でも、裏をかくのは団長の仕事みたいなものだからと、皆一様に笑っていた

    私はなんとなく、初めての遠征が怖くて、なんだかまともな遠征じゃない気がして・・・

    それでつい質問してしまった

  45. 45 : : 2014/06/25(水) 16:35:48
    「心配だと思うけど・・・団長を信じて欲しい。君たちを悪い様には、決してしないから」
    モブリットさんは真摯な眼差しでそう言うと、すっと立ち上がった

    「はい、わかりました」
    私も、立ち上がってお尻をはたいた

    「そういえば、頭は大丈夫かい?もうふらついたりはしないかな?」
    モブリットさんは思い出したかの様に、私の顔を覗きこんでそう言った

    私はこくんと頷く
    「大丈夫です、モブリットさん」

    そう言って、少しだけ笑った

    「遠征までもう日が無い。さらに忙しくなるだろうけれど、体には十分気を付けて、しっかり食べるんだよ?」
    モブリットさんはそう言って、私の肩をぽんと叩き、兵舎に戻って行った

    「・・・ふう、しっかり食べなきゃかあ・・・お母さんが言う言葉みたいだよね。私はそういうお母さんを知らないけど・・・」
    小さな声で呟いた
  46. 46 : : 2014/06/25(水) 16:43:53
    部屋に戻ると、ユミルが私に抱きついてきた

    「わっ!ユミル?!」

    「クリスタお前・・・誰といちゃついてたんだよー!外で!」
    ユミルは私を抱きしめながら、そう言った

    「え、いちゃついてなんかいないよ?お話していただけだよ」
    私はユミルの身体をはがしながらそう言った

    「分隊長に呼ばれたかと思ったら、いつの間にか男といやがるしさあ・・・誰だよあれ!」
    ユミルはふてくされた様に口を尖らせた

    「ユミルって・・・ハンジ分隊長が女って・・・知ってた?」
    私は胸がずきんと痛むのを少し気にしながら、ユミルに尋ねた

    「あ?ああ、だってよく見たらしっかり胸のふくらみがありやがるぜ?兵服の下によ!」

    「・・・よく、見てるんだね、ユミル」
    私はため息をついた

    「お、なんだなんだ、クリスタ分隊長にやきもちか?大丈夫、私はクリスタの胸にしか興味ないよ!」
    そう言って私の胸をわしづかみにしてきた

    「や、やだよ、ユミル・・・くすぐったい」
    私は身じろぎをした

    「クリスタ・・・!また胸が大きくなってる気がするぞ?まさか、さっきの男にもまれたとかないだろうな?!」

    「ちょっと!あるわけないでしょう?!大きくなってもいないってば!」
    私は顔を真っ赤にして反論した

    「お前は私の物なんだから、誰にも触らせるなよ?!」
    ユミルはそう言うと、私の胸に顔をうずめた

    私は複雑だったけど、ユミルが嫌いじゃない・・だから、頭をよしよしと優しく撫でてあげた
  47. 47 : : 2014/06/25(水) 16:53:37

    「で、さっきの男、あれはいつもハンジさんの側にいる人だよな」
    ユミルがベッドに横になって消灯してから、そう言った

    「うん、そう、モブリット副長だよ」
    わたしは頷いた

    「何、話してたんだ?」

    「ん・・・いろいろ、あのね、噂の事、聞いてみたんだ」
    私はユミルの方を見ながら言った

    暗闇の中、月明かりのおかげで辛うじて、ユミルがこちらを向いているのがわかった

    「噂・・・あれか、作戦の事・・・か」

    「うん・・・でも、モブリットさんも知らないのか、知ってても教えなかったのか・・・結局わからなかったよ」

    「そうか・・・まあ、お偉方にも事情ってもんがあるだろうしな・・・しがない下級一般兵は、ついていくしかねえんだよな。文句なんか言える立場にないしな」
    ユミルはふうとため息をついた

    「うん、そうだよね。団長を信じるしか、ないよね」
    私は誰も、信じないけど・・・内心そう思いながら、呟くように言った

    「クリスタ・・・絶対死ぬなよ?私が見てない間に、無茶はすんな。わかったな」

    ユミルの言葉は、まっすぐ私に届いた
    私は頷く
    「うん、無茶はしないよ。できる事をやる・・・つもり」

    「お前どんくさいし、人に妙に親切にするからな、心配なんだよ」

    ユミル、それは違う、私は親切なんかじゃない・・・
    本当の私は・・・

    でも、それは私の心の奥に、名前と一緒に隠した人格だから・・・
    声にも態度にも、絶対に出さない

    私は唇を噛んだ
  48. 48 : : 2014/06/25(水) 17:00:22
    私の偽り?ともいえる毎日は、怒涛のように過ぎ去って行った

    そしてついに、初めての壁外遠征の日を迎えた

    慌ただしく駆け回る先輩兵たちをよそに、私はじっと定位置で待っていた
    馬は落ち着いていた・・・
    私はこんなに心の中で焦っているのに、馬は、そんな私を落ち着かせるかのように、凛と佇んでいた

    「お前は・・・えらいよね、本当に」
    私はこのおとなしくも力強い心を持つ馬のたてがみを、そっと撫でた

    「ひひん・・・」
    馬は小さくいなないたが、またおとなしくなった

    「大丈夫・・・って言ってくれたんだね」
    私は顔をほころばせた

    動物たちだけは、幼いころから私の友達だ
    彼らは私を裏切らない、彼らは私にさみしい思いをさせない

    だから・・・私は彼らが好き

    彼らは・・・私を必要としてくれていたのだろうか、この子は、私を必要としてくれているのだろうか
    それは、わからない

    私など、誰にも必要とされていない気にしかなれなかった

    そうしている間に、けたたましい鐘の音が鳴り響く

    門の開閉の合図

    ついに、初めての壁外遠征に出立する事になった
  49. 49 : : 2014/06/25(水) 17:15:29
    旧市街地を抜け、大平原に到達した
    ここからは完全に巨人の領域になっている

    私は、どきどきしながら馬に必死につかまっていた
    ほんとうに、それだけしか出来そうになかった

    いつ背後から巨人が襲ってくるかわからない

    こんな平原で巨人に襲われれば・・・立体機動など物の役に立たないかもしれない

    熟練の兵士なら、家の壁や木がなくても、立体機動で巨人を倒せるかもしれないけれど、私みたいな新兵では・・・

    怖い

    漠然とそう思った

    何度か信煙弾を確認し、その指示通りに伝達、移動する

    赤の信煙弾も数回確認した

    初列索敵班の人たちは、すでに巨人と遭遇し、戦っているのかもしれない

    もしそれを突き破ってきたら・・・?
    私の所にだってくるかもしれない

    私は、身を震わせた

    その時だった

    2頭の馬が、後方からこちらに向けて駆けてきた

    「あれは・・・ジャンと、アルミンの馬?」
    私は馬を止め、あわてて口笛を吹いた

    すると、二頭の馬は心細そうに私の方に歩み寄り、鼻を当ててきた

    「よしよし、もう大丈夫だよ・・・さっきあっちから緊急の煙弾が上がったよね・・・ジャンたちがいるのかな」

    私はその二頭の馬をつれて、煙弾が上がった方向へ馬を走らせた

    怖かったはずなのに・・・この子たちがいたら、自然とその怖さがまぎれた
  50. 50 : : 2014/06/25(水) 17:20:01
    私が馬を走らせていると、前方に人影が見えた

    その人影は大きく手を振っていた

    「おーいクリスタ―!!!」
    ジャンの声
    私は急いで馬を走らせた

    「ジャン!アルミン!ライナー!よかった、無事だったのね」

    「クリスタ・・・本当に助かった。お前よくここに来れたな」
    ジャンは半分泣きそうになりながら言った

    「この子たちがね、心細そうに走ってきたから・・・。ジャンと、アルミンの馬だって気が付いて」
    私は主人にあえて喜ぶ馬たちに目を細めながら、そう言った

    「本当に命の恩人だよ、クリスタ。ありがとう」
    アルミンは頭に包帯を巻いていた

    巨人と交戦したのかな?と思ったけど、ここでじっとしている時間がない
    皆をせかして馬でその場を後にした

  51. 51 : : 2014/06/25(水) 17:34:34
    そのまま陣形に戻り、指示通り進んでいると、いつの間にか巨大樹の森にたどり着いた

    森の中はせまく、長距離索敵陣形は展開できないよね・・・
    どうしてこんな地形にわざわざ隊列を突っ込ませたんだろう
    私は疑問に思ったけど、口には出さなかった


    木の上で巨人を森の中に入るのを食い止める、そんな生産性のない命令を受けて・・・
    私は巨大樹の森の入口にある、大きな木の枝の上で、じっと立っていた

    私の隣には、先輩兵がいた
    ふわっとした髪を短くして、とても美しい顔立ちの・・・女性
    「あの、ナナバさん・・・」
    私はその女性に話しかけた

    黙っていた方がよいのだろうけれど、足元に初めて見る巨人が数体、こちらを見ながら、木によじ登ろうとしているのを見ると、不安になって・・・

    何か話さずにはいられなかった

    「どうしたの?クリスタ」
    ナナバさんは鈴のなる様な凛とした声で答えた

    「これって・・・もしかしてよじ登ってきたりは、しませんか・・・?」
    私は下を指さしながらそう言った

    「そうだね・・・ここまで登ってこれたら私がどいてあげようかな?」
    ナナバさんはそう言って、下をちらりと見た
  52. 52 : : 2014/06/25(水) 17:34:47
    「退いてあげるって・・・」
    どういう意味ですか、そう言葉を発した瞬間

    どおおおおおおおん!
    けたたましい音が周囲に鳴り響いた

    「きゃっ」
    私はその音と木の揺れに、身体のバランスを崩した

    「あっと、危ない。大丈夫?」
    ナナバさんが手をつかんで、助けてくれた

    「あ、ありがとうございます・・・」
    この人も相当かっこいい、と思う・・・んだけど、胸があった

    私はこんな状況で何を考えているんだろうと、首をぶんぶん振った

    「だ、大丈夫?クリスタ」
    ナナバさんは私の行動に面食らった

    「大丈夫です・・・すみません」
    私は、顔を赤く染めた・・・恥ずかしい・・・

  53. 53 : : 2014/06/25(水) 17:44:46
    またしばらくそのまま、木の上で待機していた

    何時までこうしていればいいのか・・・さっきの音はなんだったのか
    全てが疑問だったけれど、私には答えを出すことはできなかった

    「ナナバさん・・・どうなるんですか・・・?」

    「うーん、もうすぐ帰還命令がでると、思うんだけどね」
    ナナバさんは何か考えるように遠くを見つめながら、そう言った

    森の中では、きっとなにか作戦が行われているんだろうな
    だから、こうして巨人を森の中に入れない様に、私たちを配置している・・・んだとおもう

    いろいろ考えても仕方がない、私は木から落ちない様に注意しながら、そのまままたじっとしていた

    その時だった

    きええええええええええ
    金切声の様な、まさに空気をつんざくような音が鳴り響いた

    森の、中からだ

    その瞬間・・・

    「え?」
    私たちを食おうと木をよじのぼっては落ちていた巨人たちが、一斉に森の中に入って行った

    「な、これはどうして?!」
    ナナバさんもあわてたそぶりを見せた

    「ど、どうしたら・・・」
    私はうろたえた

    だが、ナナバさんはふうと息を吐いて静かに口を開いた
    「いや、何もしなくていいよ、ここにいるというのが、命令だからね、従おう」
    私はナナバさんの言葉に頷いて、その場にまたじっとしていた

  54. 54 : : 2014/06/25(水) 18:02:55
    そして、しばらくするとまたどおおおおん、どおおんんと2回ほど大きな音がして・・・・

    そのたびに私は身を震わせた
    一体森の中で何が起こっているのか・・・まったくわからなかった

    そして、また煙弾が放たれた

    それをみたナナバさんが、ふうと息をつく

    「撤退だ。総員撤退。馬に乗って帰れってさ」

    今回のよくわからない作戦が終わったのか・・・
    私はほっと溜息をついた

    そういえば・・・モブリットさんとハンジさんはどこにいるんだろう

    一度も見かけずに終わった

    もしかして、この森の中の大きな音に関わっているのかな

    そうだよね、だってあの人たちは幹部の中の幹部だもん

    無事だと、いいんだけど・・・
    モブリットさんは優しそうな人だから、なんだか心配

    私はふと、そう思って、頭をぶんぶん振った
    自分だってまだ無事に帰れているわけじゃないのに・・・

    帰りだって、巨人がいるところを通るのに

    少し、顔が赤くなっている様な気がしたけど、それは気のせいにしようと思った
  55. 55 : : 2014/06/25(水) 18:10:37
    帰路の途中で、少しだけ休憩があった
    遺体の回収作業のためだ

    私は馬を下りて、その足元に座って水を飲んでいた

    もうすぐ帰れる、生きて帰れるかもしれない、そんな期待が頭をよぎる

    でも・・・

    荷馬車に積まれた、たくさんの遺体・・・
    私は目を伏せた

    何時か私もあの中の一人になるかもしれない

    むしろ、その確率が高いと思う・・・だって私は本当にどんくさいから

    訓練兵10位に入れたのだって、ユミルのおかげ
    私の力じゃない

    何時か私が死んだら、その時は

    誰か悲しんでくれるのかな・・・何となくそう思った
    親もいない、親せきもいない、そんな私がいなくなっても、きっとだれも気が付かないかもしれない

    私はふうとため息をついた
  56. 57 : : 2014/06/25(水) 18:22:22
    その時、横合いから声がした

    「クリスタ」
    声の方を振り向くと、頬に傷を負った、モブリットさんが立っていた

    顔だけじゃない、緑のマントも無残にところどころ破けていて、無事なところが見当たらないくらい、ぼろぼろだった

    「モブリットさん!」
    私は立ち上がった・・・よかった、無事だったんだ

    無事な姿・・・とは言い切れないけど、でも、生きていた
    布にくるまれた、遺体とはちがって、生きていた

    「無事だったんだね、良かった」
    そう言って微笑むモブリットさん
    だけどその笑みはどことなく、哀しげだった

    「モブリットさんは・・・お怪我は?顔が・・・」
    私は歩み寄り、頬の傷に手を伸ばした

    「ああ、大丈夫だよこれくらいは。ただのかすり傷だから」
    そう言って、はにかむように笑うモブリットさん

    「でも・・・結構深いです、痕が残ってしまいます」
    私はそう言いながら、持っていた軟膏を取り出し、頬の傷に塗った

    「・・・ありがとう」
    モブリットさんは、今度は温かい微笑みを、顔に浮かべていた

    私は少し、ほっとした
  57. 58 : : 2014/06/25(水) 18:22:40

    「おーい、モブリットー!!」

    そう言いながら駆け寄ってきたのは、ハンジ分隊長だった
    相変わらず、颯爽としている
    でも、やっぱり傷だらけだった・・・

    「ハンジさん」
    私はぺこりと頭を下げた

    「クリスタ!よかった、君無事だったんだね・・・本当によかったよ」
    ハンジさんはそう言って、私をぎゅっと抱きしめた

    「こら、ハンジさん!セクハラですっ!」
    モブリットさんがそれをとがめる

    「セクハラじゃないもんね、私は女、クリスタも女、女同士だから問題ない!」

    「そう言う問題じゃないですよ、分隊長!」

    「お、さては、モブリットはやきもちをやいているな!私にやきもちなのか、クリスタにやきもちなのか、さあてどっちだ?!」
    にやりと笑うハンジさんに、モブリットさんは青筋を立てる

    「うるさいです!今は壁外ですよ?!バカな事ばかり言ったりやったりしないでいただきたいです!」

    「あー話を逸らした―!」

    「ああ言えば、こういう!」

    モブリットさんとハンジさんて仲がいいと思う

    見ていていいコンビだと思った
    でもなぜか、心がチクリと痛んだ

  58. 59 : : 2014/06/26(木) 11:06:35
    ウォールローゼの門をくぐり、見物客の野次にさらされながら、私はそれでも前を向いて帰還した

    兵舎につくなり、私は部屋のベッドに飛び込んだ
    やっと、人心地がついた
    生きて、帰ってこれたと実感して、ふうと息が漏れる

    初めての壁外遠征は、どうやら作戦自体が失敗に終わった様で・・・
    でも、私たちにはどんな作戦がどういう風に失敗したのかも知らされなかった

    新兵たちは皆休息を与えられていた
    上官たちは、その立場に応じた責任を取るべく、奔走しているらしい

    ハンジさんも、モブリットさんも、ゆっくりする暇などないだろうな

    そんなことを考えながら、いつの間にか眠りについていた


    「おーい、クリスタ、クリスタ」
    行き馴染みのある声で、私は目を開いた

    目の前にはユミルが私の顔を覗きこんでいた
    「あ、ユミル・・・おはよ」

    私は目をこすった

    「おはよ、じゃない。もう夜だぞ?飯食いに行こう」
    ユミルはそう言うと、私の手を取って身体を引っ張り上げた

    「あ、うん。お腹がすいたかもしれない」

    お腹を押さえながらそういう私を、ユミルは笑顔で見つめた

    「お前、本当に生きて帰ってきてくれて良かったよ。心配したんだからな」
    そういって、私の肩をガシッとつかむユミルの暖かさに、心が落ち着いた



  59. 60 : : 2014/06/26(木) 11:13:07
    夕食を食べている兵士たちは、皆一様に暗く沈んでいる表情の様に見えた

    作戦が失敗したからなのか、ほかに理由があるからかわからない・・・けど

    今回の作戦での戦死者は、普段の遠征の倍近くに上ったという話を聞いた
    ほとんどの兵士たちが、仲間や友人を失っているのかもしれない

    私の同期達は悪運が強かったのか、生存率が低い初遠征において、一人の犠牲者も出さずに済んだ

    私たちの代わりに、先輩方が身を挺して前を守ってくれていたからに他ならないのだけれど・・・

    私はそれを、ありがたい、とも感謝したい、とも、実は思っていなかった
    もちろんそんな事は顔にも口にも出さない・・・けれど

    私はただ、自分ひとりが生きていればそれでいいと、思っているのかもしれんなかった

    見た目をいくら取り繕っていても、心の中でこんなことを考えている様では、そのうち私の居場所はどこにもなくなるだろうな

    そうなったら、どうしよう

    でも、どうしようもない

    私は生きていくために、自分を偽らなければならないんだから

    差し障りなく、人の同情をかいながら、善者を装って、私は生きていくしかないのだから
  60. 61 : : 2014/06/26(木) 11:39:02
    翌日も、その翌日もずっと、いつも通り平穏に過ぎていく、と思っていた
    ところが、そんな矢先

    何故か、非武装で兵服着用も認められず、新兵たちは集められた
    良くわからないけど、エルヴィン団長の命令らしい

    馬で全員西に向かわされ、ある家に押し込められた・・・いわゆる軟禁状態

    「どういうことなんでしょうか?私たちが何かしたというんですかね?」
    同期のサシャが、つくえに突っ伏して同じことを何度も繰り返していた

    全員が同じ気持ちだった

    壁外から帰ってきたばかりなのに、わけもわからぬままこうして軟禁されていた

    ただ、104期全員ではなかった
    エレン、ミカサ、アルミン、ジャンは、いなかった

    「おい、誰か何かやらかしたんじゃないだろうな?不純異性交遊とかよ!」
    ユミルがにやりと笑いながらそう言った

    ライナーは、何かを考えるように俯いていた

    エレンたち以外と、私たち
    この人選に何か意味があるのか・・・

    私にはまったくわからなかった

    「非武装でこんなところに軟禁されて…もし何かがあったらどうするんだろう」
    ベルトルトが不安そうに口をすべらせる

    「そんな事、起こるはずないだろ?ははは」
    そうやって能天気に笑うのはコニーだった
    だが、さすがのコニーの表情にも、不安が表れていた

    そんな時だった

    「・・・・!!!何?皆さん大変です!」
    サシャが突然机から顔をあげて、叫んだ

    皆が一様にサシャを見る

    「足音みたいな、地鳴りが聞こえます!!!」

    「あ?」

    「何言ってんだ、サシャ?」
    コニーとライナーが首を傾げた

    サシャの危機察知は、結局ぴったり当たる事になる

  61. 62 : : 2014/06/26(木) 12:32:43
    ウォールローゼが突破された

    ナナバさんはそう言った
    南方から巨人が北上しているらしい

    そう、サシャが感じた地鳴りは、巨人の足音だったの

    私たちは非武装のまま数班にわかれて、付近の住民に避難指示を出しながら、自分たちも逃げていた

    西の方に馬を走らせているのは、ナナバさんと私とユミルと、先輩兵士

    巨人に遭遇することもなく、その任務を終えようとしていた

    「よし、このまま南下しよう」
    そう言うナナバさんの言葉に、ユミルが反論した

    「私とクリスタを、前線から一旦ひかせてください」

    でも、ナナバさんは首を振った
    「だめだ、何が起こるかわからない今、連絡要員は一人でも確保したいんだ。兵士を選んだからには・・・覚悟してほしい」

    ナナバさんの言う通りだと思う
    でもユミルの言葉もわかるきがする

    何が起こるかわからない状況で、非武装であんなところに押し込めていたのがそもそもの間違いだと思うから

    でも・・・この事態は誰も、予想ができなかった
    だとすれば、やる事は一つ

    指示に、従うだけ

    「ユミル、あなたは逃げて」

    私はユミルにはそう言ったけど、ユミルは首を振った

    そうだ、ユミルはいつもそうだった
    私に必要以上に、親切だった

    私の成績をどうやってか水増しさせて、憲兵団に入れようとしたり、今もこうやって、私を安全な場所へ置こうとしたり・・

    「ユミルは、なんでわたしにそこまでするの?」

    それが、なぜだか、私には何となくわかっていた

    わかっていても、今までは一度も口にはださなかった
    それは、言ってはならない事に、つながるから

    でも、どうしても確かめたくて、私は言葉に出した
    「私の、生まれた家と関係があるの?」

    「ああ、ある」
    ユミルは頷いた

    やっぱり・・・私の記憶から消し去りたい、あの家の事

    この世界の重要な事実を握る役目を果たすあの家の事

    知っていたんだ

    「クリスタ、安心してくれよ」
    突然ユミルは微笑んだ

    「私がここにいるのは、すべて自分のためなんだ」
    そう言うユミルに、私はほっと安堵の笑みをこぼした

    「そっか・・・よかった」

    私のために、誰も犠牲になんかしたくない
    私は私のためにしか生きていないのに

    誰かが私のために生きるだなんて、そんな事は、もったいないもの

    ユミルはしばらく私の顔を見つめていたが、やがてまた視線を前に向けた
  62. 63 : : 2014/06/26(木) 12:40:11
    そして、夜のとばりが下りた
    松明を片手に、南の壁を西側から回り込んで哨戒する

    休憩を一度もとっていない私たちの身体も、馬も限界に近かったけど、いつ巨人にでくわすかわからない恐怖心が、その疲れを麻痺させていた

    いつになれば、夜が明けるだろう
    真っ暗で、視界がほとんどない夜に、もし巨人がでてきたら・・・

    そう思うと、背筋がふるえた

    その時だった

    前方から何か物音が近付いてきた

    私たちが身構えたその時

    前方からの物音が仲間の物だとわかり、ほっと安堵の息をついた


    西側から回り込んできた私たちと、東側から壁を調査したゲルガーさんたち
    ベルトルトとライナー、そしてコニーが一緒だった

    どちらの班も、壁の破壊箇所を見つける事ができなかった

    だとすれば、ウォールローゼ内地に出没している巨人たちは一体どこからきているの?

    そんな疑問を皆頭に浮かべながら、疲れた身体を癒すために、近くにあった古城に身を寄せた

  63. 64 : : 2014/06/26(木) 12:47:22
    古城内部は閑散としていたけれど、少し食糧があったり、酒があったり、どうやら最近まで人がいたような形跡があった

    私たちはその中で身体を休めていた

    コニーの村が破壊されていた話、住人がごっそり消えた話

    壁に穴があいていなかったのに、巨人がどうして現れたのか・・・

    そんな話を取り留めもなく、時折話しながら過ごした

    少し睡魔が襲ってきた

    私が目を閉じると、ユミルが私の頭を撫でた
    「お前疲れてるだろ、ゆっくり休んだらいい」

    「うん、ユミル、そうするね」

    「私はちょっと何か食い物ないか漁ってくるよ」
    ユミルはそう言うと、その場を立ち去った

    うつうつと睡魔に身をまかせようとした、その時だった

    「全員おきろ!!」

    突然の叫び声

    屋上で見張っていた、リーネさんの声

    私たちは目を開け、立ち上がった

    「全員屋上にきてくれ!今すぐにだ!」

    私たちはその言葉に従い、屋上にあがった

    その眼下に見た光景は・・・身の毛もよだつものだった
  64. 65 : : 2014/06/26(木) 13:08:20
    巨人たちの群れが・・・
    私たちの匂いをかぎ取ったのか、城にたむろしていた

    数えきれないほどの、数・・・

    ナナバさんたちは、屋上から立体機動で、交戦状態に入った

    私たちはただなすすべなく、その戦う姿を見つめる事しかできなかった

    その時、2体ほどの巨人が、城の扉を壊して侵入しているのを発見した

    「中に入ってきやがる!こりゃあぶないぞ!」

    ライナーがすぐさま降りて行った
    続いて、ベルトルトも・・・

    この状況で、戦おうという意志を持てるのがすごいとおもう

    私たちも同じように、下に向った。

    ライナーたちのおかげで、塔に侵入してきた巨人は何とか撃退できた・・・けど

    いつまた扉を破って巨人が入ってくるかわからない

    私は、死を覚悟していた

    皆が生きようと必死にあがいているさなかに、一人だけ・・・
    そう、私は死に場所を探していたのかもしれない

    死にたくない、そう言いながらも

    母親に「あなたさえ生まなければ」
    そう言われた瞬間から

    私は常に、死に場所を探していたのかもしれない

    その時、屋上でどおおおおんという大きな音がした

    破壊音のような音

    私たちは急いで屋上に上がった

  65. 70 : : 2014/06/26(木) 14:50:47
    屋上が大きく崩れて・・・
    リーネさんとヘニングさんが、倒れていた

    壁の方向から、大きな岩が投げられたらしい

    そして、それと同時にまた多数の巨人が城に押し寄せてきた

    それは、エサに群がるハイエナの様な、そんな有様だった

    私たちはなすすべなく、ただ先輩たちが食われるのを、見ている事しかできなかった

    ナナバさんも、ゲルガーさんも

    私たちの身代わりになって・・・

    そう思うと、何故かあまり感じた事のない衝動が、体の奥底から湧き出てきた

    ふつふつと、燃え上がるような、何か

    私は、ぐっと唇を噛んだ

    そして、今にもくずれそうな塔から身を乗り出して、手近にあった石を、先輩たちを食らう巨人に向かってなげつけた

    絶望と、そして、怒り・・・それが、私の心の中に湧き出てきた
  66. 71 : : 2014/06/26(木) 14:51:03
    「私も戦いたい。何か武器があればいいのに・・・そしたら、闘って一緒に死ねるのに」
    私はそういいながら、目を皿にして、周囲をみわたした・・・武器になりそうなものは何一つなかった

    その時、ユミルがガシッと私の肩をつかんだ
    「彼らの死を利用するな。あの上官方は、お前の自殺の口実になるために死んだんじゃねえよ」

    私はびくっと身体を震わせた

    自殺・・・そうだ
    私は自殺したかった、そうなんだ

    私は生きていてはいけない存在だから
    でも、こうしていままでのうのうと生きていて、自殺するような勇気もなくて

    だから、どうやって死ねばいいのか、どうやって死ねば、皆の役に立つのか、迷惑にならないのか
    ずっとそんなことばかり考えていた

    本当の自分を捨ててから、もう自分は死んだと思っていた
    だから、身体なんかいつ死んでもいい、むしろ死んだ方が楽だとずっと思っていたから

    ユミルは私との思い出話をしながら、ずっと私の肩を抱き続けていた

    その肩に置かれた手は、とても暖かかった

    そして、長い夜が明けた時

    ユミルは、ナイフを片手に、塔から飛び降りた
  67. 73 : : 2014/06/26(木) 14:52:57
    ユミルは、異形と化した
    私たちは呆然と、その様子を目の当たりにした

    おそろしい、巨人になったユミル

    でも、その巨人になったユミルは・・・
    私たちをまるで気遣うかのように、今にも崩れそうな城に気を使いながら、一人、巨人の群れと戦っていた

    最初はユミルすら敵じゃないかと言っていたコニー達も、やがてその戦いぶりから、あの巨人がユミル自身で、自分たちを守るために戦っているという事を理解してくれた

    私は、ただただ・・・むなくそが悪かった

    自分だけ犠牲になりに行くような、ユミルに対しても
    何もできない、自分の本当の名前すらいえない自分に対しても

    ユミルは劣勢だった
    あたりまえだ、自分よりも身体の大きな巨人を多数相手に戦っているのだから

    私たちの、ために

    城がくずれたら、私たちが死ぬ
    だから、ユミルはそれにすら気遣って、いい人ぶってる
    らしくないじゃない!!


    そう思った私は、いてもたってもいられず、塔から身を乗り出して上からさけんだ
  68. 74 : : 2014/06/26(木) 14:53:15
    「死ぬなユミル!!こんなところで死ぬな!」
    今にも巨人に押しつぶされそうになっているユミルに聞こえるように大きな声で

    「何いい人ぶってんだよ!そんなにかっこよく死にたいのかばか!性根が腐りきってるのに、いまさら天国へ行けるとでも思ってるのか、このあほが!」
    今まで口に出したことのない口調で、そう捲し立てた

    ユミルが、ちらりとこちらを見た…様な気がした

    「自分のために生きろよ!!こんな塔守って死ぬくらいなら・・・もうこんなもん、ぶっこわせ!!」

    そう言った瞬間・・・

    ユミルは雄叫びをあげて、塔に体当たりした

    「いいぞー!!ユミル!!」
    私は崩れる塔の上でガッツポーズをした

    すると、ひょっこりとユミルが顔をだした

    「イキタカ・・ツカアレ」
    そう言って、じっとしている

    私たちはその意味を瞬時に理解して

    ユミルの髪の毛に必死にしがみついたのだった
  69. 75 : : 2014/06/26(木) 14:54:17
    多数の巨人を塔の下敷きにして倒し、今なお戦い続けるユミル

    だけど、まだたくさんの巨人が残っていて、ユミルは今にも食い尽くされようとしていた

    私は・・・

    「ユミル・・待ってよ。まだ、私の本当の名前、教えてないでしょ・・・」
    私は食い尽くされそうなユミルに、歩み寄った

    そんな私に巨人が気が付いたのもわかっていたけど

    私は、一匹でも多く、ユミルから巨人をひきはがしたかった

    ここで死んだら、誰かのためになるのかな、ふとそんなことを思いながら・・・

    その時だった

    ざしゅっ!!

    ブレードが風を切る音と共に、私をつかもうとした巨人が地に倒れた

    「ミカサ!!」
    私は援軍が来たことを知った

    「ミカサ…お前、なんで」
    コニーが震えるような声でそう言った

    「皆下がって・・・あとは私たちに任せて」

    調査兵団の、別動隊・・・救援が来たのだった
  70. 76 : : 2014/06/26(木) 14:54:30
    ハンジ分隊長率いる別動隊のおかげで、辺りの巨人はすべて駆逐された

    そして、ユミルは・・・巨人化をやめて

    私にひざまくらをされていた

    生きていた、間に合った

    本当によかった

    ハンジさんがユミルの身体をいろいろ調べながら、首を傾げたり驚いたり顔をまっかにしたりしている

    ユミルは満身創痍だった

    普通なら、生きていられるはずがないほど、ひどい状態だった

    私は穏やかな表情のユミルの頬をそっと撫でた
    「ねえユミル・・・私の本当の名前はね、ヒストリアっていうの」

    ユミルはそれを聞いたのかわからないけど、安心しきったように、瞳を閉じた
  71. 77 : : 2014/06/26(木) 14:55:01
    「分隊長、担架の用意が整いました、ユミルを壁の上にあげましょう」
    そう言ったのは、モブリットさんだった

    部下らしい二人が、担架を持って待機していた

    「ハンジさん、ユミルは!!」
    私は指示を出そうとするハンジさんに、思わず詰め寄った

    「・・・クリスタ、いやヒストリアか。大丈夫だよ、悪いようにはしない。怪我がひどすぎるからね、トロスト区の病院へ運ぼうと思う」

    ハンジさんはぽんぽんと私の肩を叩いた

    「ユミルは・・・敵ではありません」
    その言葉にも、ハンジさんはうんうんと頷いた

    ユミルは、そっと担架に横たえられ、壁の上にあげられて運ばれていった

    「さあて、我々も上がるかな」

    ハンジさんはそう言うと、壁に向かってアンカーを出して、素早く上に登って行った
  72. 79 : : 2014/06/26(木) 15:03:22
    自分のために生きるという事

    私が今まで諦めて、放棄してきた事

    そうする事が出来なかった勇気を、ユミルがくれた気がした

    私は自殺する場所を探さずに、生きる目的を探そう、そう決めた

    本当の自分、自由奔放で、わがままな自分

    汚い口の利き方をする自分

    全てさらけ出そう、そう決めた

    それで周りが離れていくならそこまでの関係なだけ

    私は私で生きていけばいい

    いつか私を理解してくれる人が現れるかもしれないから、ユミルが私を理解してくれたように
  73. 80 : : 2014/06/26(木) 15:19:34
    目の前の壁・・・私の苗字・・・
    密接に関係しているという事だけは知っている、他の事は何も知らない

    でも、もうそれらもどうでもいい

    私は私のために、生きる、それだけだ

    私が壁に鋭い目線を送っていると、後ろから声がかかる

    私を気遣うような、優しい声だ

    「クリスタ、いや、ヒストリアだったね。大丈夫かな?」
    壁から背後に視線を移すと、そこには心配そうな表情のモブリットさんがいた

    「私の名前は、ヒストリア・レイスです」
    私がそうはっきり言うと、一瞬モブリットさんの表情が固まった

    知ってるんだ、レイス家の事を

    「レイス・・・レイス家の一族だったんだね、君は」
    モブリットさんは頷いた

    「ご存じだったんですね、レイス家の事を」

    「・・・詳しくは知らないよ。名門貴族の名前というだけしかね」
    モブリットさんは困った様に、首を振った

    「疎まれて生まれてきたんで、名乗らせてすら、もらえませんでしたが」
    私は仏頂面でそう言った

    「疎まれて・・・っと、とりあえず先に壁の上にあがろうか、何時巨人が襲ってくるかしれない。さ、おいで」

    モブリットさんはそう言うと、私の身体を背に背負おうとした

    「いえ、私あのロープで登りますから」
    さっきライナーやベルトルト達が、壁の上から降ろされたロープで、するすると上っているのを見ていたから

    私だけ楽をするのはなんだかしゃくにさわった
    今までの私ならきっと喜んで上にあげてもらったんだろうけど

    「そんなに睨み付けなくても・・・何もしやしないよ。君は疲れているんだから。さあ時間がもったいない」
    モブリットさんはそう言うと、半分無理やり私を担ぐように抱き上げた

    「わ、頼んでないのに!」
    私は非難の言葉を浴びせた

    だけどモブリットさんは、聞こえていなかったのか、小さな声でつかまって・・・というと、立体機動で素早く上に上った

  74. 81 : : 2014/06/26(木) 15:29:36
    「モブリットさん、頼んでません。だからお礼は言いません」
    私は恩人に向かって、ぷいっと顔をそむけてそう言った

    「ああ、お礼なんかいらないよ。それより、思ったより元気そうで安心したよ」
    モブリットさんはなんだかおもしろい物を見る様な、そんな笑みを浮かべながら言った

    「元気なわけない。死ぬかと思いましたよ・・・いいえ、一回死にました。2回かな・・・」
    私はふんと鼻を鳴らしながら言った

    「2回も死んだんだね・・・それは大変だっただろう」
    モブリットさんは笑みを浮かべながら、よしよしと私の頭を撫でた

    「ユミルのおかげで死にそびれたんですけどね」

    「彼女が命の恩人なんだね」

    モブリットさんは、壁の上で応急処置を受けているユミルの方に視線をやってそう言った

    「はい、ユミルが男だったら、本当に好きになってました。女でもいいかもしれない」
    私は真顔でそう言った

    「好きになるのに、性別なんてあまり関係ない様に思うよ」

    「へえ、じゃあモブリットさんて男を愛する事も平気なんですか?」
    私はもぶりっとさんにずいっと顔を近づけて言葉を発した

    「え、いや・・・、ほら。好き、と愛する、というのはまた次元が違うというか」

    モブリットさんはそう言いながら、頬をぽりぽりとかいた
  75. 82 : : 2014/06/26(木) 15:46:39

    「私、女性の中ではユミルが一番好きで大事で、二番目がハンジさんです」
    私はモブリットさんにいきなりそんなことを言った

    「へえ、ユミルはともかく、分隊長の事はまだ好きなんだね」

    「男性の中では、モブリットさんが一番好きですね。今の所ですけど」
    さらっと爆弾発言をしたと思うんだけど、モブリットさんは表情を変えずに微笑んだままだった

    「へえ、それは光栄だね。君みたいなかわいい子に言われるとは」

    「まあ、確かに見た目はかわいい・・・かもしれませんけど、中身が伴っていないです」

    私は何か吹っ切れたのか、素直になれた

    私の今の発言は、すべて偽りない本心だ

    「中身も、十分魅力的だと思うけどね」
    モブリットさんはお世辞がうまいのか下手なのか。こんないじわるのどこが魅力的だというの?

    「どこがですか?魅力的な部分なんてないです、わがままですし」

    「どこがって、素直なところじゃないのかな?君のわがままなんてかわいいもんだよ、本当に」

    そう言ってにっこり微笑むモブリットさんに、私はなんとなく恥ずかしくなって、頬を染めた

    「わがままがかわいいなんて、言っていられるのは今のうち」
    ぼそっと呟いた言葉が聞こえたのかはわからないけど

    「かわいいかわいい」

    といって頭を撫でてくれるその手はとても暖かくて、家族のぬくもりを知らない私にそれを教えてくれているように感じた


  76. 83 : : 2014/06/26(木) 15:53:15
    束の間に芽生えた恋心

    それもすべて、親友であるユミルが勇気をくれたおかげで、一歩踏み出せた

    うそ偽りのない自分を他人にさらけ出すことがどれほど怖かったか

    それをすべて払拭してくれた、ユミルの勇気

    そして、完全に子ども扱いだけれど、本当の私を受け入れてくれたモブリットさん

    こうして一人一人、本当の私を受け入れてくれる人が増えるといいな

    レイス家、という名前も含めて、受け入れてくれる人が何人いるかわからないけど・・・

    私は私のできる事をしよう

    きっと辛い現実が待っているとおもう

    この名前を名乗った時から、それは覚悟を決めている

    でも、こうして今頭を撫でてくれている人がいれば、私は現実から目をそらさずに、前を向いて歩める

    必死に、生きよう

    自分の居場所を守るために

    ―完―



  77. 84 : : 2014/06/26(木) 16:24:01
    自分のために、自分らしく生きるのはこの物語の中だと凄く難しいことだから、ユミルとクリスタの会話が本当に大事な事なんだと感じます!
    そして、クリスタとモブリットの会話が可愛いし!本当に付き合ってくれ!って思いました!
    素敵な作品をありがとうございました!!次も期待です!!
  78. 85 : : 2014/06/26(木) 17:57:50
    凄く良かった!続きが見たい!!

  79. 86 : : 2014/06/26(木) 17:59:54
    >EreAni師匠☆
    コメントありがとうございます♪
    クリスタもユミルも、疎まれる様な存在だと言われながら、お互い助け合って、前を向けるようになったんですよね
    ユミクリでありながら、モブクリにしてしまう辺りは私は病気かもしれませんねww
    読んで下さってありがとうございます♪
  80. 87 : : 2014/06/26(木) 18:03:34
    >クリスタ大好きさん☆
    読んで頂き、ありがとうございます♪
    クリスタ好きな方にそう言って貰えて嬉しいです♪
    ありがとうございます(*´∀`)
    またクリスタが出る話を 書きますので、よろしくお願いいたします♪

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fransowa

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