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密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの天命』

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  1. 1 : : 2014/09/15(月) 12:44:09
    密めき隠れる恋の翼たち~『エルヴィン・スミス暗殺計画』   
    (http://www.ssnote.net/archives/2247)   

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスとの1週間』   
    (http://www.ssnote.net/archives/4960)   

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの苦悩』   
    (http://www.ssnote.net/archives/6022)   

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの審判』  
    http://www.ssnote.net/archives/7972) 

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの否応』 
    (http://www.ssnote.net/archives/10210) 

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの溜飲』 
    (http://www.ssnote.net/archives/11948) 

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの流転』
    http://www.ssnote.net/archives/14678) 

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの渇望』   
    http://www.ssnote.net/archives/16657

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの血涙』 
    http://www.ssnote.net/archives/18334

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの証明』
    http://www.ssnote.net/archives/19889

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの慕情』
    http://www.ssnote.net/archives/21842

    ★巨人に右腕を喰われたエルヴィンと   
    最愛のミケを失うが、   
    エルヴィンに仕えることになった   
    隠密のイブキとの新たなる関係の続編。   
    『進撃の巨人』の最新話に私の想像(妄想)を書き足した   
    オリジナルストーリー(短編)です。 

    ★オリジナル・キャラクター   

    *イブキ   

    かつてイヴと名乗りエルヴィンの命を狙っていた隠密の調査兵 。
    生前のミケ・ザカリアスと深く愛し合っていた。   
    ミカサ・アッカーマンの年の近い叔母。   

    ※SSnoteのルールに則り感想等を書いていただくグループコミュニティを作りました。
    お手数ですが、コメントがございましたららまで
    お願いします⇒http://www.ssnote.net/groups/542/archives/2
  2. 2 : : 2014/09/15(月) 12:46:14
     どこまでも高く、手を伸ばしても届かないような青空が広がるその日の早朝――。
     小高い丘に聳えるその壁内でも揺ぎ無い中枢といえる城へ向かう、いくつもの馬車は
    道幅広い通りを駆けていた。蹄鉄が石作りの車道を蹴り、単調な轟音を街中で響かせては
    消えゆくことを繰り返す。
     その馬車にはこの狭い世界の守護を役目とする全兵団の幹部たちが乗せられていた。
     目的はすべて同じで王への謁見である。

     通りを行き交う人々は不思議そうな眼差しで馬車を見送る。早朝の珍しい光景を目の前にし、
    ある者は訝しげに視線を注ぎ、またある者はその理由に心当たりがなく、首を傾げていた。
     それは多くの幹部たちが一同に同じ目的地である城に向かうことが未だかつてないからだ。
     多くの人々の視線を浴び、憲兵団が属する馬車に身を預ける同兵団師団長のナイル・ドークは
    腕を組んで正面を見据える。人々の視線を感じたのか、窓の外に一瞥をくれ、通り過ぎるいくつもの不思議そうな色を滲ませる顔を眺めていた。

    「まさかと……思っていたが――」

     各兵団の長や幹部たちが城に向かう謁見の主な理由は調査兵団とエルヴィン・スミスの処分が
    決まったとの報告を受けたからである――。
     ナイルはエルヴィンが右腕を巨人に喰われてもなお、その信念を曲げない彼の姿勢を思い浮かべ、
    再び正面を見据える。腕を組む力は強く、手のひらは少し汗ばんでいた。

    「…昔から何を考えているのか…よくわからないやつだったが……これが最期になるのか、
    おまえに会うのは……エルヴィンよ……」

     窓の外を眺めてもナイルの視線は定まらない。清々しい青空が眼差しに飛び込んでも、彼は
    何も感ずることなく、馬車は目的地の城へ到着しようとしていた。 

     御者がドアを開け、ナイルは城の中に足を踏み入れる。昔から馴染み深いエルヴィンが
    命を落とすであろう理由は巨人に喰われること、とナイルは彼が調査兵団に属した頃から覚悟していた。
     それが王への敵対で命が危ぶまれるとは、もちろん想像さえしたことはない。

     ナイルが玉座の間に通されたとき、すでにエルヴィンは到着していて、左手と両足は鉄製の枷で
    固定され、彼の胴体に巻かれた鎖の手綱は腰から伸び、それを中央憲兵の一人が握っていた。

     王の前で跪くエルヴィンは調査兵団の必要性と、食料をめぐり壁の中で内乱が起こり得る可能性が
    あるとの主張を繰り返す。中央憲兵団の尋問で耐えて腫れた顔をエルヴィンが気にすることなく、静かに落ち着いた口調が玉座の間に広がっていた。
  3. 3 : : 2014/09/15(月) 12:48:14
     この謁見の前夜、実を言えばナイルは内密にエルヴィンと会っていた――。
     憲兵団師団長としてエルヴィンに下される処分の情報をいち早くつかんでいたナイルは彼と面会していた。
     エルヴィンの右腕が通っていない袖を睨みながら、彼が相変わらず先が読めないことを口走っていた牢屋での会話をナイルは思い出す。

     エルヴィンは王への謁見を控えてなのか、顔はあまり殴られず、中央憲兵から体を中心に暴行を受けながら尋問されていた。
     持ち続ける頑なな信念が彼を支え、さらには痛み耐え、エルヴィンが己の主張を曲げることはない。
     エルヴィンが入っていた牢屋は、かつて彼の父親が中央憲兵に捕まり、投獄された同じその場所だった。
     それに気づくはずのないエルヴィンだが、なんとなく父親に守られている気がしていた。

    (……父さん、僕は……ここまできた――)

     幼い頃の父親に思い出に馳せている最中、鉄格子の扉が錆付いた金属音と共にゆっくりと開かれた。
     エルヴィンは尋問が再開されるのかと想像し、近づいてくる足音に耳を傾けていた。

    「…なんてザマだ…。 この間…俺に偉そうに説教たれといて――」

     エルヴィンはナイルの声と気づいても、うな垂れたまま視線を上げるだけだった。それでも
    眼差しに力が漲ることに変わりは無い。ナイルはエルヴィンに王への謁見が決まったこと
    だけでなく、調査兵団の解体と彼の処分について話す。傷を負う彼を見ながら、話しているうちに
    ナイルの唇は強張っていく。エルヴィンはナイルに腫れ上がった眼差しを向け、自分への処分とは
    無関係な問いを投げかけた。

    「ナイル……おまえの家はどこだ? ストヘス区だったか?」

    「はっ!?」

    「答えろよ…マリーは…おまえの家族は元気に暮らしているのか?」

     直ちに理解しがたい相変わらずのエルヴィンの問いにナイルは息を呑む。だがいつも先を
    見据え、壁外へ出てからが勝負の調査兵として長年活動してきた彼に、この期に及んでもさらなる
    目論見があるのかと推測し、ナイルは正直に答えることにした。

    「元気に暮らしている…マリーも子供たちも…最近は帰れていないが、ウォール・ローゼ東区…ストヘス区から離れている――」

    「……そうか」

     質問に答えても、エルヴィンはうな垂れたままで、ナイルはあっけにとられ戸惑う色を浮かべた。
     左目は腫れて力強さは感じられなくても、辛うじて開いている右目に絶えることのない強さが宿る。        
     ナイルは鉄格子の外に立つ中央憲兵に会話を聞かれないように身を屈め、彼の話に耳を傾けた。

    「今の質問は…何なんだ…? だが、おまえがマリーや…家族のことを言うのなら……」

     ナイルはゴクリとつばを呑み込み、気持ちを落ち着かせながらゆったりとした口調で話し出した。
  4. 4 : : 2014/09/15(月) 12:50:24
    「おまえも……守るべき人がいるはずだろう……調べはついた。右腕を失った直後、
    おまえの世話をしていたあの黒髪の調査兵は…この壁の中で王政が誕生したほぼ同時期の
    今から107年前、東洋という国から壁に逃げ込んで……現在に至るまで代々続く暗殺集団の
    殺し屋、イヴだったんだな……だが、どうしてその殺し屋が調査兵団に――」

    「……いや…違う!」

     ナイルが話し出した当初は落ち着いていたはずなのに、次第に心外そうな口ぶりになっていた。
     そのナイルの声に気づいたエルヴィンはうな垂れながらもナイルを睨む。
     低くて熱のこもったエルヴィンの返事に鉄格子を隔て、彼らに背を向ける中央憲兵が肩越しに鋭い視線を送る。ナイルが彼を見上げ、何でもないと言いたげに頷いた。
     憲兵団師団長の仕草に見張りの中央憲兵は正面を見据え彼らから視線をそらす。

    「…違う、彼女は、我々調査兵団の諜報部に属するイブキだ――」

     と、エルヴィンは言下に否定する。日常的に冷静過ぎるはずなのに、エルヴィンの返事が
    かすかに感情的になっているとナイルは感じる。二人は付き合いの長いであるが、
    かつてエルヴィンが珍しく感情的な姿を露にした光景をナイルは思い出す。

     マリーに気持ちを寄せても、他に思惑があってか、何も行動は起こさない。唇をかみ締め彼女に熱い視線を注ぐエルヴィンの若かりし姿だった。
     ナイルは懐かしいエルヴィンの口ぶりを目前に彼がイブキに気持ちを寄せていると改めて思い知る。
     エルヴィンはナイルに自分の気持ちを覚られぬよう、再び強い口調で言い放つ。

    「ピクシス司令に…あることを委ねた…もしそのときが来れば…そのときは俺はただ見ている…
    選ぶのはおまえだ……そして彼らだ――」

     エルヴィンが再び何かを選ばそうとする物言いにナイルはただうな垂れる彼を見つめるしかない。
     痛々しく晴れ上がるエルヴィンの左目にナイルは口をつぐみ、ただ背筋に流れる汗を感じていた。


     その同じ夜が明ける前――。リヴァイ班の面々は攻め入った根城から離れ、聳える木々のふもとで
    武器を構えていた。
     彼らの真正面に広がる草むらから怪しい人影を感じ、サシャ・ブラウスは弓矢を、隠密の調査兵の
    イブキはナイフを構える。武器を握る皆の力は影が近づいてくる毎に強くなるようだった。
     そんな最中、イブキが突如、鼻を鳴らして笑う。その音に気づいたリヴァイの眼差しは険しくなった。

    「……イブキ、どうした…? エルヴィンのことでも考えてやがるのか?」

    「いや…違う…! あの草むらから近づいてくる3人…私たちの仲間だ…」

    「ホントです、あの3人は――」

     イブキの言うことにサシャの瞳が輝きだし、力を入れ構えていた弓が緩まっていく。
     リヴァイに体を押さえつけられている中央憲兵の男は二人の言うことが信じられず、地面に
    顔を這わせながら反論を投げかけた。

    「――何を言う…? ここがおまえたちの最期の場所だ…何度も言わせ…るな……」

     男が口走る度、リヴァイが圧し掛かる力は増していく。イブキが銃をおろすよう皆に合図したとき、
    月明かりに照らされ草むらから顔を出したのは調査兵団の分隊長のハンジ・ゾエ、憲兵団に
    所属するマルロ・サンドとヒッチ・ドリスだった。

    「さすが、イブキ…! 私たちの正体にあっという間に気づくなんて!」

    「もちろん…! 私だって調査兵だし、仲間でしょ!」

     ハンジはフードで隠していた顔を皆に晒す。彼女の笑みにリヴァイ班の面々も自然に頬が緩んでいった。
     
    「今から皆に報告したいことがある――」

     ハンジは皆にベルク社の号外を見せ、リヴァイが中心となり、その記事の文字を食い入るように見入った。
     現在、反乱も起こっておらず、調査兵団の免罪は晴れ自由の身だと、ハンジがさらに付け加えた。
  5. 5 : : 2014/09/15(月) 12:53:13
     リヴァイ班の面々はハンジの声に全身で喜びをかみ締めていた。その姿にイブキは安堵で胸を撫で下ろす。

    「フレーゲルも大活躍じゃない…! あいつは逃げてばかりだと思っていたけど、彼なりに新たな
    人生を選択したんだろうね…」

     安堵で口角が上がるイブキにハンジも応じるように柔らかく微笑んだ。

    「でもね、あなたのことを心配していたのよ、フレーゲルは」

    「へーっ…! そうなんだ、あいつがね…。私はこうして無事に皆と一緒に行動しているし…
    まぁ、彼も商会を継いで大変だろうけど、ハンジ、次に会うときは二人でガツンと発破をかけようか…?」

     イブキは安堵感から少しずつ自分の気持ちに余裕が出だしたとき、目を見開いて今度はにエルヴィンのことを問う。

    「ねぇ、ハンジ…エルヴィンはやっぱり中央憲兵団に捕らえられたの…? 生きている…よね?」

     切羽詰った口調でハンジに問うイブキの眼差しは狼狽の影を落とす。

    「私はまだ会ってないけど…どうやら、中央憲兵から尋問されてるとかで――」

     ハンジのその声にイブキは彼女の両肩を掴む。肩を握る力は強くなり、目元は険しくなっていく。

    「そこはどこなの!? 私がそこに忍び込んで、エルヴィンを助けなきゃ…!」

    「イブキ、大丈夫だよ! あいつらの尋問だから確かに傷を負っているだろうけど…こうして私が
    皆に知らせにきたってことは、無事なんだよ、エルヴィンは!」

     ハンジがイブキを宥め、自分の肩に添える彼女の手を握った。

     そのとき突如、イブキの胸に温かくて懐かしい声が響く。

    (…イブキ、エルヴィンは問題ない)

     彼女の胸に届いたその声の主はもちろんイブキが愛したミケ・ザカリアスからであった。
     ハンジが宥める優しくて力強い口調と胸に響いたミケの声に、イブキははっとして目を大きく見開いた。
     安堵感もつかの間、ミケの声を聞いたイブキの心は切なさが支配し始める。

    「よかった…エルヴィン……」

     伏目がちに頬を引きつらせた笑みを浮かべ、イブキは声が聞こえた胸元を両手で宛がった。

    (ミケ…私はあなたを裏切ったのに、どうして…エルヴィンの安否を知らせるの……)

     空ろなイブキは胸元のシャツをぎゅっと握った。イブキがミケに心で問いかけても、
    答えは何も返ってこない。
     彼の優しさと愛情がイブキを苦しめても、ミケが彼女の心に存在することに変わりはない。
     
    「イブキ…おばさん…?」

     イブキの姪であるミカサ・アッカーマンは恐る恐る彼女に問いかける。ミカサの声に顔を上げるが
    空ろな色は変わらないままだった。

    「この争いが終われば、私はイブキおばさんと一緒に暮らせると思っていたのに……団長と
    イブキおばさんの関係って……その――」

     ミカサは自分で投げかけた質問で頬を紅潮させ、はにかんでいた。大人の男女間の関係を
    ミカサはどう伺っていいかわからず、うつむいてしまった。

    「ミカサ…! 私もあなたとなら、一緒に暮らしたいな…!」

    「イブキおばさん…!」

     ミカサはうつむいていた顔を上げ、イブキを見つめる。そこには切なく瞳を潤わせるイブキが佇んでいた。

    「それに…私とエルヴィンの関係は…ただ、一緒に今を生きる…それだけ…なの」

     ため息をついてまぶたを落とすイブキに今度はハンジが彼女の肩に優しく手を添えた。

    「イブキったら、そんなにがっかりしない! エルヴィンはとにかく、あなたを大切に感じている
    はずだよ! 気がつけばあなたを見ていたんだから…でも…気づけなかったのなら…仕方ないか」

     ミケが生きていた頃、イブキと彼が寄り添う光景を悲壮感漂う眼差しでエルヴィンは眺めていた。
     ハンジはその姿を覚えているが、イブキはミケを見つめるだけで、エルヴィンが二人の関係に入る込む余地はなかった。

     ハンジが言うことにイブキは頬を少し紅潮させ再びうつむいた。

    (ミケ…例え困難だらけなこの世界でも私は…あなたと一緒にいたかったのに…でも私とエルヴィンはもう……)

     イブキはエルヴィンとの築いた新たな関係と、彼に想いを寄せることで唇をかみ締め、目じりに涙が浮かび始めた。
  6. 6 : : 2014/09/15(月) 12:55:29
     その佇まいを眺める中央憲兵団に属する男は毒々しい口調を彼女に突きつける。

    「あんたの男…もう少し早く捕まえて、さっさと処刑台に送れば調査兵団を手っ取り早く終わりに
    できたのにな……!」

     木の幹にもたれる男めがけ、イブキは表情を変えることなくナイフを投げつけようとするが、
     リヴァイが体を張って彼を征した。

    「うるせーな…この減らず口は…エルヴィンだけじゃねー…俺たちはまだ終わっちゃいない――」

     男のシャツを締め上げ、次にリヴァイは彼を地面に叩きつけた。すでに折れているであろう腕を
    再び強打した影響で、痛みに堪えられず、体を丸めながら地面をのたうちまわっていた。

     ハンジはこの壁の一人ひとりの小さな革命がこの世界を変えていく、と冷静にそれでも力強く
    リヴァイ班の面々の面々に伝える。それでもリヴァイだけは3人の兵士を失っただけに少しばかり
    落胆を隠せないでいた。ハンジはリヴァイの気持ちを察する。気にするな、とは言わないが
    彼女なりの慰めで気遣った口調と共に柔らかい視線を送った。

    「――でも、敵の鉄砲共はさっき、君らで無力化したんだろ…?」

    「いや…全部じゃねぇ…その親玉辺りとエレン、ヒストリアはまた別の場所にいる…
    早いとこ見つけねぇと、この革命も頓挫しちまう……」

     リヴァイのブレードの刃先のような視線を感じた中央憲兵の男は口をつぐむ。
     彼はリヴァイの犠牲を厭わず突き進む姿勢に背筋が凍る感覚がして、ただ血で滲む唇を震わせるほかなかった。

     エレン・イェーガーとヒストリア・レイスが囚われているであろう居場所を聞いたリヴァイ班の面々は
    少し前まで喜びが全身から溢れていたはずなのに、再び兵士としての覚悟を取り戻す。 
     ハンジが心当たりがある場所を知らせても、イブキは聞いたことがなかった。

     この戦いをここで終わりにしよう――。ハンジの淡々としても力強い口調に皆の視線は鋭くなり、
    特にミカサとアルミン・アルレルトは幼馴染であるエレンの救出に命を賭すことを誰よりも力強く誓っているようだった。

    (イブキ……気をつけろ)

     再びイブキの胸にミケの声が響いて、その胸は少しずつ熱が帯びていく気がしていた。

    (…ミケ、私は行くよ…この世界の困難を打破するために――)

     イブキは胸元のシャツをぎゅっと握り、ミケに対し自分の決意を表す。彼を想い、わずかばかりに
    影を落とすような眼差しが宙を彷徨う。イブキが視界に招き入れた満月は根城に攻め入った
    当初に比べ位置が移動していて、またなんとなく色も薄くなっている気がしていた。

    (エルヴィン、あなたは……この同じ月をどこから見ているの? 私たちは生きてまた会える…?
    ミケみたいに…あなたを失うの……?)

     自嘲気味にイブキは笑みを浮かべ月を眺めていた。夜明け前の微かな月明かりに照らされる
    イブキの笑みは妖しく美しい。イブキの周囲の男たちは彼女の微笑みに魅了され、釘付けとなった。
     言うまでもなく、リヴァイを除いて――。彼は腑抜けた皆に対して久しぶりに舌打ちを響かせた。

    「おい、行くぞ…おまえら、気を引き締めろ…!」

     ハンジに中央憲兵の男を預けるが、シャツの首根っこを掴むリヴァイの拳に思いのほか力が入る。
     リヴァイに再び殴られるかと想像する男はすっかり怖気ついて、素直にハンジの元へ歩き出した。

    (俺には…この女の魅力はまったくわからねーな…――)

     肩越しに皆がついてくる様子を伺うもイブキを冷めた眼差しで睨み付けた。
     リヴァイ班の面々はハンジから託されたその場所に向かうが、正面だけを見据え歩き出した。
  7. 7 : : 2014/09/15(月) 12:57:09
     玉座の間で王政府の要人たちが通常の憲兵団の兵士たちに制圧される様子をエルヴィンは
    腫れ上がった眼差しでただ見ていた。駐屯兵団に属するドット・ピクシス司令は水面下でエルヴィンと
    共に戦っていた。その戦果をエルヴィンは眺めていた。
     表向きでは駐屯兵団と調査兵団は決別したことにしていた。それは王政が実際に人類の命を
    どう選ぶのか、どう扱うのか――。その選択と本音をあぶりだすためである。
     その日のその瞬間のため、ピクシスを始め、一部の兵士たちは自分の命を捧げる覚悟をしていた。
     
     結果、人類の尊い命よりも王政は自分たちの財産を選ぶ。王に歯向かい命を落とすことを
    覚悟していたはずなのに、王政の選択が予想通りとはいえピクシスの落胆の色は隠せなかった。
     ナイルは王政の要人たちが巨人襲来の誤報にうろたえる姿を目前にしたとき、前夜にエルヴィンと
    話したことを思い起こし、彼の意図に合点がいく。
     エルヴィンは手錠を外されても、顔が腫れている影響もあり、彼の顔色を伺えないが、そばに立つナイルは声を掛けずにはいられなかった。

    「エルヴィン…選べということは、こういうことか……うれしくないのか? お前が勝ったんだぞ」

     勝利に酔いしれる様子もなく、淡々たる彼の佇まいにナイルは首をかしげた。

    「ナイル……人類はより険しい道を歩まざるをえなくなったぞ」

     尋問に耐えてなお、たどり着いたその場所さえ、エルヴィンにとっては通過点なのか、という
    考えがナイルの脳裏に過ぎる。
     殴られることを免れたエルヴィンの冷めた右目の眼差しにナイルは眉根を寄せ、息を呑んだ。
     エルヴィンとナイルはピクシスとダリス・ザックレイ総統が各々の部下に命じ、王政を制圧する
    背中を引き続き眺めていた。

    (イブキ…君は…険しくなっていく道を俺と歩いてくれるか――)

     エルヴィンは久しぶりにイブキを想い、心で彼女に問う。表情は硬く、右目はうつろになる。
     手足の枷が外され、重みのなくなった体には開放感を感じない。ただ、これから壁の中で
    起こりうるであろう出来事を想像し、エルヴィンは気を引き締め左手を力強く握りこんだ。
     そのとき、エルヴィンは自分よりも背の高い誰かが耳元で、音を立てながら鼻をすすっていることに気づく。
     微かに首を左右に動かし、周囲を見渡しても、傍らにいるのはナイルだけだった。

    (ミケか…俺も見守ってくれるのか、すまない……)

     エルヴィンはミケを始めとし、自分の命で失わせた多くの命に思いを馳せる。この壁の中に
    自由を風を吹き込むには、あとどれだけの犠牲が必要なのか。その全人類を救う手立てや
    責任は今、どこにあるのか――。いくつもの考えが頭に浮かんでは駆け抜けていく。
     玉座の間の壁際や天井の無駄に豪華な装飾をエルヴィンは強い眼差しを向けてても、なぜか
    気持ちは乾いたままだった。

    (天命を…待つ…それだけではないだろう――)

     神々しい黄金色の玉座から誰もいなくなった。主がいなくなった玉座は誰が座るのか、または
    誰かが座る必要があるのか――。という考えが再び脳裏をめぐる。
     エルヴィンの腫れた左目のセルリアンブルーの瞳にその黄金が映りこんだ。
     新たな策略を彼の頭脳に注ごうとしたとき、殴られた顔の傷にようやく痛みを感じ始める。

    (君がそばにいれば、傷の手当や俺の世話をもう一度頼むのだが、イブキ――)

     痛みが走る左目にエルヴィンは左手をそっとかざす。指の合間から覗く眼差しは遠い未来を
    見ているようでも、少しばかり落ち着きがない。
     その憂いの瞳は、駆け抜けた痛みを引き金に、彼を甲斐甲斐しく世話をしていたイブキの姿を思い出す。
     再びイブキに会いたくて切ない誰にも明かせない本音をエルヴィンは胸の内に秘めていた。
  8. 8 : : 2014/09/15(月) 12:57:31
    ★あとがき★

    みなさまいつもありがとうございます!
    今回はエルヴィンが無事だったことで、安堵感に浸りネタを考えてましたが
    それでも、エルヴィンらしい策略が表に出てきたことで、頭をかなり抱えてました…。
    何度も原作を読み返してやっぱり、イブキがどこかにいる気がして、私の妄想を
    どうにかこうにか組み込ませ、今回は仕上げました。
    この密めき~もだんだんと困難な内容になっていくかもしれませんが、
    私もめげずに駆逐していこうと思います!
    また来月もよろしくお願いいたします!

    お手数ですが、コメントがございましたららまで
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    special thanks to 泪飴ちゃん((*゚▽゚人゚▽゚*))

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著者情報
lamaku_pele

女上アサヒ

@lamaku_pele

この作品はシリーズ作品です

密めき隠れる恋の翼たち~2 シリーズ

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