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密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの溜飲』

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  1. 1 : : 2014/03/11(火) 11:24:46
    密めき隠れる恋の翼たち~『エルヴィン・スミス暗殺計画』  
    (http://www.ssnote.net/archives/2247)  

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスとの1週間』  
    (http://www.ssnote.net/archives/4960)  

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの苦悩』  
    (http://www.ssnote.net/archives/6022)  

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの審判』 
    http://www.ssnote.net/archives/7972) 

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの否応』
    (http://www.ssnote.net/archives/10210

    巨人に右腕を喰われたエルヴィンと  
    最愛のミケを失うが、  
    エルヴィンに仕えることになった  
    隠密のイブキの新たなる関係の続編。  
    『進撃の巨人』の最新話に私の想像(妄想)を書き足した  
    オリジナルストーリー(短編)です。

    オリジナル・キャラクター  

    *イブキ  
    かつてイヴと名乗っていた  
    エルヴィンの命を狙っていた隠密の調査兵  
    生前のミケ・ザカリアスと深く愛し合っていた。  
    ミカサ・アッカーマンの年の近い叔母。  

    *ミランダ・シーファー 
    エルヴィンの同期であり、 
    かつての壁外調査で命を失った 
    最愛の女性調査兵 
    若き自由な翼たち(http://www.ssnote.net/archives/414)の主役
  2. 2 : : 2014/03/11(火) 11:25:22
     調査兵団に所属するアルミン・アルレルトは自身の尊敬する上官、
    エルヴィン・スミスの元へいち早く届けるべく情報を手のひらに収め、
    自分の所属兵団ではない、駐屯兵団施設の廊下を忙しく駆けていた。

    「この部屋だ…」

     駐屯兵団のトップであるドット・ピクシス司令の執務室のドアを見つけると、
    息を切らしながらノックをした。礼儀を重んじるアルミンはそこが友人宅なら
    相手の反応を待ってドアを開けるはずだが、それを構ってられないほど慌てていた。
     エルヴィンを見据えても安心することなく手中の小さく重大なメモを差し出す――

    「…団長、これを」

     エルヴィンはアルミンの顔を見た途端、待ち構えていた情報の為、
    ご苦労、と労いの言葉を掛けたと同時にそのメモを開く。
     目を見開き、小さな文字を一つずつ目線で追った。
  3. 3 : : 2014/03/11(火) 11:25:48
    「やはり…そうだったか――」

     エルヴィンがメモを見据えながら声を上げると、
    ピクシスは怪訝な表情を浮かべる。

    「――ピクシス司令、人を殺さないと申し上げましたが…多少は血が流れます」 

     ピクシスはエルヴィンとの対話で自分の部下たちをこれ以上、
    死に追いやってはならないと決意していた。
     これまでの部下たちが命を落とす場面が逆巻くようだが、
    しかしながら、改めて覚悟をしなければならないと感じると、息を飲む。
     イブキの名前を出したときに力ない眼差しをしていたはずが、
    それが消えうせ、エルヴィンの調査兵団団長としての
    使命感の炎がその左胸に灯っていることをピクシスは気づいていた。
     左手に力が入るエルヴィンは目の前のメモを調査兵団団長として
    すぐに溜飲が下がるわけではないが、
    探し求めていた一縷の光をつむいだように感じていた。
     新たな血を流す覚悟をしながら――
  4. 4 : : 2014/03/11(火) 11:26:24
     駐屯兵団の施設から調査兵団の執務室に戻ったエルヴィンは
    彼が信用する精鋭と共にピクシスとの対話を
    改めて吟味して報告書を作成していた。
     本来、右利きであるエルヴィンの変わりに精鋭が報告書の清書を
    代筆することになる。

    「団長…これでよろしいでしょうか?」

     精鋭がエルヴィンのデスクに座り、彼は後ろから筆を走らせる様子を見つめている。
    仕上がった報告書を精鋭の背中から見下げると、問題ないと判を押した――

    「あぁ…これでいい、君もご苦労だった――」

     精鋭はエルヴィンに心臓を捧げる敬礼をして、
    新しい作戦にまた踏み切るのかと考えると、右腕を失ってもなお、
    変わらない冷静さに尊敬すると同時に、
    改めて団長についていこうと誓っていた。
  5. 5 : : 2014/03/11(火) 11:26:37
     とはいえ、強張る顔を隠せずに、執務室を後にする。
     エルヴィンは自分の席に座り、
    精鋭の背中の翼を遠くを見つめるように見送った。
     無血が前提とはいえ、王に歯向かう作戦遂行となると、
    必ず誰かが血を流す――考えるだけで頭を抱え、胸が痛んだ。
     清書された報告書を食い入るように黙読すると、この胸の痛みは
    さらに落とすであろう命、そしてイブキへの気持ちだと気づく――
  6. 6 : : 2014/03/11(火) 11:28:53
     イブキは自分の部屋の窓から大空を仰いでいた。
     空は濃い藍色に染まり、そして遠くの雲も茜色に変わりゆく様子を見ていた。
     色とりどりの大空が目に映っても心はうつろで、
    自然の美しさを目前にしても、心が彩ることはなかった――
     イブキの鋭い耳が廊下から自分の部屋へ歩む足音をとらえる。
    それがエルヴィンだとすぐに気づくと、慣れた手つきでランプに灯りをともすと
    テーブルの上に置いた。
     格子のドアを自ら開けて見せるエルヴィンの表情は端整な顔とは
    不似合いのうつろで、イブキは今の自分の心のようだと感じていた。

    「イブキ…」

     エルヴィンは目の前のイブキを抱きしめずにはいられなかった。
    そして彼女も抱きしめられると、あたりまえのように温もりを感じていた。

    「…イブキ、君は王のことを…どこまで知っている…?」

     まるで問いただすように王のことを質問すると、
    抱きしめる左手には力が入った。
     イブキの耳元でささやく口調は問いとは正反対に柔らかい。

    「私は…これまで、王には会った事がないの…
    ずっと育ての親が暗殺の指示をするだけだったから――」

     イブキはエルヴィンの胸の中で、
    かつて『隠密のイヴ』としての自分自身が置かれた立場を正直に答えた。
     その手は彼の背中に強く絡まる。

    「そうか…」

    「うん…たぶん、育ての親は会っているのかも。それ以外は…ホントにわからない」

     エルヴィンはイブキが正直に話していると感じると、
    左手でイブキの身体を感じながら、離さなかった。
     そして力なく耳元でつぶやく。

    「本当だな…?」

    「本当よ…」

     イブキは勘の鋭いエルヴィンに心を傾け真っ直ぐに答える。
    また彼には嘘をつけないと思いながら、胸の温もりを感じていた。

    「――もし、王の下へ忍び込めと」

     遠くを見つめるような眼差しのエルヴィンはイブキへの言葉の
    二の句が継げない。抱きしめる力は強いままだった。
     二人はベッドに座ると、伏目がちのエルヴィンの顔を覗きこむように
    イブキが言葉を掛けた。

    「――王の下へ忍び込んで、情報を集めろと言いたいんでしょ…?」

     エルヴィンはゆっくりイブキに視線を合わせるが、セルリアンブルーの瞳は
    イブキを真っ直ぐ見つめるだけで、何も答えなかった。

    「私は…かまわない、調査兵団に…あなたに拾ってもらったこの命、
    あなたの命令に従おう、それで命が全うしてもそれまで――」

     エルヴィンはこれ以上言うな、と言いたげに
    改めて左手を彼女の背中に伸ばし強く抱きしめた。
  7. 7 : : 2014/03/11(火) 11:29:57
    「これ以上…この世界の謎のために、どれだけ大事な人を犠牲にすれば
    いいのか…」

     一本調子の力ない口調が悲しみを包んだ一本の矢のようで、
    互いの心を重ねるように貫いた。

    「確かにそうね…あなたはミランダさんを」

    「君だってミケを」

     互いの愛おしい名前、ミランダ・シーファーとミケ・ザカリアスの名前を出して
    やっと目を合わせられたものの、イブキが先に目を逸らした。
     強く抱きしめていたエルヴィンの左手の力が和らいでいくと、
    少しずつ彼の口も開いていく――

    「俺が幼い頃…教師だった父が、この世界の秘密の仮説を立てたんだ――」

     エルヴィンは上の空で幼い頃、父親から聞いたこの世界の
    『形見のような仮説』をゆっくりと丁寧に話し出した。
     そして自分が父への配慮なく友達にそれを話してしまったことで、
    憲兵にも伝わり、直後に事故死したことまで話すと、
    イブキの部屋の何もない空間を見上げていた。

    「…父は…中央憲兵団によって死に追いやられた可能性が高い――」

     エルヴィンの弱々しい声が話を締めると反射的にイブキは彼の腰に手を回す。
     その指先はかすかに震えているようだった。

    「…ごめんなさい、私は詳しいことは知らされてないけど、中央憲兵団も
    私の育ての親が少なからず、関わっている。
    もしかして、私の育ての親があなたのお父様を――」

    「――違う」

     エルヴィンは力強い声でさえぎる。否定を声で表していた。

    「例え…そうだとしても、今の俺たちには関係ない…
    俺は父が立てた仮説が証明できたら、それでいい」

    「私が知っていることは王に仕えるであろう、育ての親は手ごわい…
    もしかして、私が生きていることも知っているかもしれない。
    だから、忍び込めば裏切り者の制裁として、死が待っているかもしれない…」

     イブキは話すごとにエルヴィンを抱きしめる指先が震えるが
    それを諭されないように強く抱きしめている。

    「…それでも、人類の為なら、命を落とす覚悟で、
    育ての親やかつての仲間たちへ歯向かおう――」

     イブキは淡々と話していたはずが、最後は語尾に力が入った。
    決意の表れた声をエルヴィンに聞いて欲しいからだ。
  8. 8 : : 2014/03/11(火) 11:30:37
    「いや…必ず…生きて帰ってくるんだ――」

     エルヴィンはピクシスの前で見せていてた強い眼差しは消え、
    ただイブキを失いたくない、その気持ちが膨らんで抱えきれなかった。
     イブキの艶めく唇を見つめると、そのまま自分の唇を重ねていた。
    エルヴィンはイブキをゆっくりと押し倒すと、左腕だけで組み敷いた。
    イブキは彼の治ったばかりの失った右腕の傷跡を気にしながら、
    安易に想像できるこれから起きる出来事を覚悟した――
     エルヴィンのセルリアンブルーの瞳が改めて近づいてくると、
    ミケへの罪悪感で顔を背けたくなる。それでも身を任せてしまう自分に
    イブキはエルヴィンに気持ちが傾いていると感じていた。

    「…いいんだよな、イブキ…?」

     エルヴィンと交わした口付けにより艶っぽく輝き閉じていた唇がゆっくりと開く。

    ・・・ミケ…やっぱり…ごめん――  

     イブキはミケに謝りながらも、心と身体が火照り全身でエルヴィンを求めていると
    気づく――
    罪悪感よりも彼を求める気持ちが勝っていると感じ『最低な女』と思いながらも
    エルヴィンに身を任せることには変わらなかった。
     イブキの身につけているシャツをエルヴィンが脱がそうとしても、左手だけでは
    扱いにくく戸惑う表情をイブキは見上げていた。

  9. 9 : : 2014/03/11(火) 11:31:10
    「…エルヴィン…逆になろう…」

     イブキはエルヴィンを抱きしめるとゆっくりと、彼を見下ろすような体勢になり、
     自らシャツのボタンを外し終えると、エルヴィンがゆるりとそれを脱がせた。

    「あなたの身の回りの世話をしているとき…
    まさか、こういうことでまたシャツを…」

     イブキはエルヴィンのループタイを外しシャツのボタンを外していると
    彼は妖しげな眼差しを注ぐ。

    「俺は望んでいたが――」

     イブキの悩ましい色香を目の前にすると、エルヴィンは彼女の柔らかい肌に触れ、
    左手で身体を手前に引き寄せた。

    「やはり、君が下へ――」

     エルヴィンはイブキを左手で抱えると、その薄く熱くなった唇を少し開きながら、
    彼女の火照った柔らかさを求めた。
    二人だけの森閑の空間に淫靡な口付けの音が奏で始める。
     イブキはエルヴィンの右腕を気にしながら、ぎこちない動きの左手が自分の
    胸に触れるたび、身体が痙攣するように、くすぐったさを感じる。
     もどかしさが心地いいと感じるのはエルヴィンへの気持ちがそうさせるのかと
    想像した。
  10. 10 : : 2014/03/11(火) 11:31:33
    「…エルヴィン、ん」

     イブキが甘く苦しい叫びを濡れた唇から発してもエルヴィンが自分の欲を
    彼女に捧げる行為は止められないでいた。
     互いの服はイブキが脱がせると、恥ずかしさでイブキは自分の顔が
    火照っていることに気づく。そして、視界の隅にランプが目に入ると、
    イブキが突然、エルヴィンから離れその炎をそっと吹き消す。
     ひと時も離したくないエルヴィンは灯りが消えたと同時に左手を伸ばし
    再びイブキを引きよせた。
     二人は今宵の月も照らさない暗がりに溶け込むベッドの上で
    互いに求め合い、一つになったとき、
    イブキの罪悪感は煙のように立ち消えていった。
     消えた気持ちの方が空しくイブキの心にのしかかる――
     分厚い雲に隠れていた月が輝きを取り戻すと彼女の部屋に人知れず光を射す。
    その光にエルヴィンが先に目を覚ました。これからの作戦を考えると、
    この関係は今夜だけにするべきかと、物憂げに考えると胸が締め付けられる。
     自分の心の赴くままにイブキの肩を抱き寄せ互いの胸が重なったときだった。
  11. 11 : : 2014/03/11(火) 11:32:31
    ・・・エルヴィン、イブキと生きろ…

     ミケの声がイブキの身体を通して
    エルヴィンの心に湧くように響くと、驚きで全身が少し弾んだ。
    震えるような身体を感じるとイブキが目を覚ます――
     
    「…今、ミケの声がした」

     声を聞いたというイブキのささやきは、
    エルヴィンから与えられた心地よさで気だるく響く。

    「ミケが…何か言っていたのか…?」

    「声がしただけで…何を言っていたのかわからないよ」

    「そうか…」

     エルヴィンはミケのイブキと生きろという言葉を彼女に聞かせたくなかった。
    もし、聞かれてしまうとミケに取られてしまう気がしていた。

    「ただ…優しい声だった…こうしてあなたと抱き合っているのに…
    何のお咎めもないのかな…」

     エルヴィンは罪悪感を感じなかった。
    ただイブキと同じ空間、同じ時間に溶け込みたかった――

    「…俺は君といると、誰でもない。一人の小さい人間に戻れる。
    だが俺は君に――」

     エルヴィンは言葉に詰まる。すでに手放せなくなった存在のイブキに
    過酷さを与えたくなかった。

    「…私は構わない、王政府に忍び込むのは…それはいつ?」

     エルヴィンの胸に手をあてがうと、甘く低い声がイブキの耳元に響く。

    「いや…君にやってもらうのは…それだけじゃない。
    その前にすべきことは…ヒストリア・レイスの警護を頼む――」

    「…えっ?」

     イブキは目を見開くと、エルヴィンを見上げていた。
    王の下に忍び込み、命を落とす覚悟は出来ていたが、
    また別の仕事に戸惑っていた。
     ヒストリアは顔を数回見たことがある程度で、イブキは一度も会話を
    交わしたことがない。ただ大人しく何か思いつめた表情をする女の子、
    そういう印象のほかはなかった。
  12. 12 : : 2014/03/11(火) 11:33:32
    「――次期、この壁の中の女王となる。ただ、我々の作戦が成功すれば、
    ということだが」

     エルヴィンがイブキがすべきことに付け加えると、
    彼女はわかったと一言つぶやき、納得した様子で起き上がろうとしたとき――

    「…まだ、それは早い…」

    「それじゃ、いつ…ヒストリアのそばに?」

    「夜が明けて…それからだ。それまで俺のそばにいて欲しい」

     背中を見せていたイブキが振り向くとエルヴィンと目が合うが、
    彼から逸らしていた。
    すぐにエルヴィンを覆いかぶさるように両手をつくと二人は視線を合わせた。

    「…そんな…悲しい顔をしないで――」

     イブキがエルヴィンに顔を近づけると、これが最後かもしれない――
    その気持ちを胸にむさぼるように二人は唇を求めていた。
     互いに唇を重ねていると、白々とした光が尻目に射すことに気づく。
    歓迎しない朝の光を浴びると、覆いかぶさるイブキをエルヴィンは
    左腕で力強く抱き寄せいていた。
     その瞳には調査兵団団長の力強さは宿らず、
    悲しげな表情を浮かべるただの男である――
     エルヴィンは一つになった二人の心を
    まるで、引き裂くような気持ちでイブキを送り出すことにする。

    「壁の中に残された人類のために…イブキ、頼む」

    「わかった…そしてあなたのお父様の無念を晴らすためにも――」

    「――あぁ…父はこれがきっかけであの世で溜飲を下げることができればいいが」

    「それに…まだあなたを逝かせないから」

     イブキが呼応して忍装束をまとい白い肌を隠した。
     隠密の姿になりつつある後姿をエルヴィンが見つめるとさらに
    苦しみと恋しさを与えるが、拳を強く握り堪えていた。
     エルヴィンが着替えると、制服のジャケットからメモを出し
    ヒストリアの隠れ家を教えた。そのメモを見たイブキはランプの炎で
    それを灯すと明るくなったのは一瞬で、またたくまに跡形もなく
    消えていた。
  13. 13 : : 2014/03/11(火) 11:34:04
    「誰にも見つからないように…もちろん、君も気をつけるんだ」

    「わかった…ありがとう――」

     イブキは忍装束をまとい隠密の姿をさらしても、
    顔は隠さずにエルヴィンに笑みを向けようと努めていた。
    それでも顔が強張っていることに気づかれると、
    その表情にエルヴィンは堪えられず、抱きしめる。

    ・・・あと、どれだけ二人で生きられるのか、ミケよ――

     エルヴィンは心の中で答えが返ってこないと理解しながらも
    ミケには問わずにはいられなかった。
     覚悟を決めたイブキの後ろ姿を見送り、しばらくすると、冷めた眼差しで
    彼女がいなくなった空間を見つめていた。

    「俺のような『博打打ち』には…やはり、女は必要なのか――」

     本来の堅物で調査兵団団長の氷のような冷静な心を
    取り戻そうとした、ちょうどそのとき――
     エルヴィンの失った右腕に痛みが走り抜ける。

    「ミケか…すまない、彼女を想うのはおまえも同じだろう…」

     ミケが与えたかもしれない、右腕の痛みに優しく左手を添えると、
    少しずつ痛みが和らいでいくのをエルヴィンは感じていた。
     痛みが去っても自嘲の笑みを浮かべたまま、イブキの部屋を後にする。
     振り返ってしまえば、彼女への気持ちが抑えられないと感じ
    足早に足取り重く離れ、エルヴィンは自分の執務室に戻ることにした。
  14. 14 : : 2014/03/11(火) 11:34:57
     イブキがヒストリアの隠れ家に到着すると、ひらりと彼女の後ろに降り立つ。
    屋根裏部屋でヒストリアは膝を抱え、心はそこに存在しないように窓の外を
    見つめていた。

    「何を見ているの…?」

     ヒストリアは自分しか入れないはずの部屋で突然声が響いたことで
    振り向くと、目を見開くがすぐに視線を落とし肩を落とした。
     それはまるで誰かを待ち焦がれているが、期待が外れ、
    待ち人が来なかったようにも見える。

    ・・・ユミルが来てくれたかと思ったのに――

     ヒストリアは氷のような冷ややかな眼差しでイブキを見つめる。

    「何も見てない…ただ、空が外にあるだけだよ。ミカサの叔母さん、何しにここにきたの…?」

    「ミカサの叔母さん…だけど、私はイブキよ、よろしくね――」

     イブキは顔を晒すと、ヒストリアの隣に座り、彼女と同じように膝を抱え
    窓の外を見つめながら、話し出す。
     警護することを話すとヒストリアは始めは戸惑いの表情を見せた。
     だが、ミカサ・アッカーマンの面影があるだけでなく、
    数回しか会ったことのないイブキに対して突如、疑問が沸いてくると、
    顔を覗きこみ、まじまじと見つめる。
  15. 15 : : 2014/03/11(火) 11:35:34
    「私の顔に何かついている…?」

    「ううん、イブキさん…あのね、私が小さい頃…私に本を読んでくれたり、
    文字を教えてくれた…あのお姉ちゃんじゃないよね…?」

    「えっ…私があなたと初めて会ったのは調査兵になってからよ――」

    「そう…」

     ヒストリアはイブキから視線を逸らし窓の外を再び見上げると、
    肩をすぼめ両膝を抱えた。
     彼女は自分の心の中で引っ掛かる、幼き頃に唯一自分を可愛がってくれた
    女性にイブキを見出そうとしていた。
     誰だかわからないが懐かして温かい存在がイブキにも重なる気がしていた。
     イブキはこのまだまだ幼い横顔が壁の中の女王になるのかと想像すると、身震いする。
     彼女を守ることに徹すると、これ以上、誰も無駄に命を落とさないで
    済むのなら、この命を捧げると誓おう――
     イブキはそっと自分の左胸を押さえ、右手に伝わる心臓の鼓動を感じていた。
  16. 16 : : 2014/03/11(火) 11:36:51
    ★あとがき★

    今回の最新話はエルヴィン大好きな私には、
    たまらないストーリーでした。
    話の内容よりも色んな表情を見せる団長に
    釘付けになったのではないでしょうか。
    また今回は私の好きなエルヴィンが中心にも関わらず、
    妄想が降りてくるのに時間がかかりました。
    しかし、降りてきたらあっという間でしたが、
    これからのエルヴィンとイブキはどうなっていくのでしょうか…。
    UPする前に何度もチェックしていますが、
    誤字脱字、わかりにくい表現がありましたら申し訳ありません。
    また、今回は私が娘と思っている方から協力を得て
    仕上げたと言っても過言ではありません。
    心より感謝します(エルヴィンの声で)
    ご覧頂きありがとうございました。また来月も今から楽しみです。
    これからもどうぞよろしくお願い致します。

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著者情報
lamaku_pele

女上アサヒ

@lamaku_pele

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