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密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの慕情』

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  1. 1 : : 2014/08/16(土) 10:56:25
    密めき隠れる恋の翼たち~『エルヴィン・スミス暗殺計画』   
    (http://www.ssnote.net/archives/2247)   

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスとの1週間』   
    (http://www.ssnote.net/archives/4960)   

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの苦悩』  
    (http://www.ssnote.net/archives/6022)   

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの審判』  
    http://www.ssnote.net/archives/7972)  

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの否応』 
    (http://www.ssnote.net/archives/10210) 

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの溜飲』 
    (http://www.ssnote.net/archives/11948) 

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの流転』
    http://www.ssnote.net/archives/14678) 

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの渇望』   
    http://www.ssnote.net/archives/16657

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの血涙』   
    http://www.ssnote.net/archives/18334

    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの証明』
    http://www.ssnote.net/archives/19889

    巨人に右腕を喰われたエルヴィンと   
    最愛のミケを失うが、   
    エルヴィンに仕えることになった   
    隠密のイブキとの新たなる関係の続編。   
    『進撃の巨人』の最新話に私の想像(妄想)を書き足した   
    オリジナルストーリー(短編)です。 

    オリジナル・キャラクター   
    *イブキ   
    かつてイヴと名乗りエルヴィンの命を狙っていた隠密の調査兵 。
    生前のミケ・ザカリアスと深く愛し合っていた。   
    ミカサ・アッカーマンの年の近い叔母。   

    ※SSnoteのルールに則り感想等を書いていただくグループコミュニティを作りました。
    お手数ですが、コメントがございましたららまで
    お願いします⇒http://www.ssnote.net/groups/542/archives/2
  2. 2 : : 2014/08/16(土) 10:57:50
     調査兵団兵士長のリヴァイを始め、イブキを含むリヴァイ班の面々は中央憲兵団の根城近くに
    辿り着いた。
     根城の背部から攻める、というリヴァイの指示の元、皆は草むらの中でイブキの見よう見まねで
    足音を立てることもなく移動し、リヴァイがいう根城の背部が見渡せるポイントで身を潜めていた。
     皆が潜む草むらから根城まで少し間があり、雑草は見事なまでキレイに刈られ赤茶色の土色を
    晒す。この数日、雨も振っておらず湿気もない乾いた土色が一面に広がっている――

     手前から数十メートルの合間に敵が忍び込んでも、その空間が敵の姿をいち早く晒すことを手助けする。それが中央憲兵の仕掛けであろうとリヴァイは踏んだ。
     皆は身を屈め草むら顔を出さず、その合間から根城を睨む。リヴァイの隣にいる隠密の調査兵、
    イブキは声を押し殺しながらリヴァイに話しかける。

    「リヴァイ、根城までの草むらがキレイに刈られているのは――」

    「あぁ、わかっている……敵の動きを察知するため、まぁ…『ネズミ捕り』みたいなもんだろう」

    「さすがだね、私が先に忍び込む……それで皆が来られるタイミングを計る」

    「……イブキ、行け」

     リヴァイはイブキに命令する。互いに何をすべきか、ということを2人は持って生まれた勘を
    働かせては、置かれた状況に身を任せているようだった。
     イブキは草むらから顔を出し、根城までの距離感をその経験から推し量る。さらには罠がないか、
    彼女が踏み入れる道筋を睨み付けた。何もないとイブキが判断し、推し量った距離感で
    自分の歩幅を決めて、根城まで気配を消し忍び寄る。立体起動装置の音も立てず、柵を超え
    城壁に隙間なくその背を密着させた。
     ある部屋の窓をイブキは影の如く覗き見る。根城の敵は寝静まっていてると一目で気づいた。
     美しい月明かりの下、酒をたしなむ者や、読み物に夜中の時間を費やす者もいない。

     イブキは手をゆっくりと挙げ、皆に問題ないと手招きをして合図を送る。その姿にリヴァイは
    眉根を寄せ、立体起動装置のグリップの手元で指先を何度か動かし閃かす。それはこれから
    起きることの慣らしのようにも意気込みにも見えた。リヴァイは隣でしゃがみこむ
    ジャン・キルシュタインをはじめ、皆に作戦を命ずる――

    「全員……ここからは立体起動で行くぞ」

    「えっ……兵長、それではガスの音で敵に気づかれますよ!」

    「わざとだ、ここにいる奴等を起こして、エレンとヒストリアの居場所を吐かせてやる……」

     リヴァイの言うことにジャンはゴクリと唾を呑み込み喉元で音を立てた。イブキに気配なく
    忍び込ませ、次に敵を叩き起こす。根城にいるリーダーらしき人物を特定しては即拘束する
    という短期決戦の作戦をリヴァイは立てた。
     皆が一斉に立体起動で飛び立つ様子をイブキは一瞬だけ目を見張ったがすぐにリヴァイが
    この根城の敵を手っ取り早くおびき寄せ、わざと音を立て気づかせ攻めるという思惑だろうと睨んだ。

     イブキも皆に倣いそのまま立体起動に移り根城の屋根に降り立った。
     コの字型の根城の屋根に降り立つリヴァイ班の面々はその目下に位置する真ん中の
    長方形の広々とした噴水広場を睨む。その目には警戒の色を浮べていた。
     ジャンだけは右頬を苦々しく引きつらせる。
  3. 3 : : 2014/08/16(土) 10:59:57
    「何なんだ、この豪華な根城は……裏で生きてる奴等のはずなのに、ずいぶんとご立派な
    暮らしをしてるってことか……」

    「そろそろ……そいつらが現れるだろう……気を抜くな、殺さなくていい……ただ死なない程度に
    痛みつけろ――」

     リヴァイが皆に命令を出したと同時に根城の各部屋から噴水広場に目掛け敵が駆け出し、
    その手には銃を抱えていた。

    「何の音だ……!?」

    「あれは立体起動装置のガスか!? まさかリヴァイがここまで?」

     今宵の満月の光が噴水の水しぶきにさらなる輝きを与え、宝石が散らばるようにも見える。
     その周りには銃やライフルを手にした敵が続々とあふれ出す。

    「――リヴァイなら容赦せず、殺せ!!」

     敵は叫び声を上げながら、仲間に命ずる。その光景にリヴァイは舌打ちするが苛立ちも
    響いているようだった。

    「俺たちは死なない程度に、と言っているのに、ずいぶん物騒だな……」

     先陣を切るリヴァイが噴水傍の敵の足首や太もも目掛け、次々と刃を入れた。血しぶきが
    噴水の水しぶきに飛び散り、月明かりの下で歓迎しがたい真新しい真紅の光をいくつも放っていた。

     イブキもリヴァイに続こうと飛び立とうとしたとき、
    敵の中で調査兵に挑むことなく逃げ惑う人影を見つけた。
     立体起動で空(くう)を移動しながら、その人物に狙いを定めイブキは追いかけることにした。
     暗がりの廊下に着地した直後、イブキは目を凝らし、
    石造りの床をその足で叩きながら追いかけ続ける。
     敵はイブキに追い詰められ、突き当たりの部屋のドアを勢いよく開け逃げ込んだ。
     イブキが部屋に入った途端、敵は彼女に全身を使い襲い掛かるがいとも簡単に投げ飛ばされた。
     地面に顔を力強く叩きつけられた男の左頬は次第に赤黒く腫れ出した。

    「……あんた、大した腕はないようだね」

     銃も持っておらず、その敵はよろけながら立ち上がり、その場にある本や食器などをイブキに
    投げつけながら抵抗する。それでもイブキは投げつけられたモノを簡単に避け、敵の足掻きも
    虚しく、わずかの間に窓際まで追い詰めた。
     追い詰めた敵のシャツの襟首を掴み、身体を壁に押さえつけイブキは敵の喉元を絞める。
     苦しさでうめき声を上げる長身でガウンを着たヒゲ面の男に、金とヒマを持て余し、
    いかにも女好きの雰囲気の面持ちにイブキはニヤリと笑う。妖しくゆっくりと唇の端を上げ、
    細めた目元は艶っぽい色を浮べた。そこにはイブキが封印していたはずの妖艶な隠密が
    佇んでいた。
     
    「ごめんなさいね…怪我させちゃってさ……あんたも大変だね、中央憲兵なんて裏社会で
    生きてて…今までいいことなんてあったの…?」

     色気を含むささやく声が男の耳元にまとわりつき、男はイブキの妖艶さに目を剥いて、息を乱す。

    「あ…あるわけねーだろ……」

     その部屋に射し込む月明かりに照らされたイブキの色香にその男は心なしか怪我をした
    頬を赤く染める。イブキは頬の赤みに気づきながらも妖しく男を見つめ続けた。

    「頼む……逃がしてくれ……そ、そうしたらおまえを…俺の愛人にしてやる――」

     敵の嘆願にイブキは鼻で笑い左手で敵の喉元を押さえながら、右手でナイフを取り出して
    頂を男の目元にチラつかせた。

    「ずいぶんと……私も低く見られたもんだね、愛人なんてさ……」

    「かわいがって……やるから」

     男はナイフを凝視しながらそれでも手のひらでイブキの身体に触れようとしたとき、
    イブキは男に息をさせないように、首元を押さえつけた。

    「かわいがるね……まぁ、あんたをかわいがってやるのは……私ではないんだけどね…」

     苛立ちを表しながらイブキは瞬く間に男の背後に回りナイフを首元に突きつけた。

    「この……ナイフの扱い方、ケニーの――」

    「おや、あんたもケニーを知っているんだ……」

     かつての育ての親で隠密としての術を彼女に教え込んだ育ての親の頭(かしら)で、
    もう一つの顔を持つケニーをイブキは思い返す。今は敵となったかつての育ての親が
    イブキの脳裏に浮かぶと瞬く間に妖艶の姿は消え、イブキは心臓を捧げた調査兵の姿に
    戻っていった。
     隠密としての素早い動きで手際よく男を後ろ手にしては指先を絡ませ、それを左手で掴み、
    右手で男の喉元にナイフを突きつける。

    「さっさと歩け!」

     凄みのある声が男の背後でささややかれる。男はイブキの言うことに素直に応じ、噴水広場まで
    移動する運びとなった。
  4. 4 : : 2014/08/16(土) 11:02:05
     イブキと男が広場に到着して目の前に飛び込んできたのは、命を落としてないものの、
    直ちに身動き取れず状態ではなく、手足から血を流してうずくまっている多くの敵の姿であった。
     イブキが敵にナイフを突きつけている姿に気づいたリヴァイが二人の元へゆっくりと歩み出す。

    「リヴァイ、こいつ……仲間は戦っているのにいきなり逃げやがった、かわいがってあげて」

     男の背中をイブキが足蹴にし、リヴァイの前に跪かせると彼の歩みをも止まる。次に月夜に
    照らされたブレードが男の首元で妖しく光った。男が顔を上げ、その視線の先には刃先のように
    鋭く睨みつけるリヴァイがいる。

    「俺にはかわいがる趣味はない、ただ痛めつけるだけだ――」

     男の髪根っこを掴み、リヴァイを先頭に皆は根城から離れ再び草むらの中に戻っていく。
     痛めつけられた敵は仲間同士で傷の手当てを優先して、リヴァイを中心とした調査兵たちを
    深追いすることはなかった。
     イブキはその身に染み付いたかのような妖艶な姿に一瞬でも戻ったことに苛立っていた。
     リヴァイにシャツの首根っこを握られた男はイブキの前で引きずられるように歩いている。

    (なんで……敵とはいえ、こんなときにあの姿に)

     イブキは苛立ちから自分に呆れて大きくため息を付いた。男が抵抗しないか見張っているが
    怪しい様子もない。ただイブキの息遣いに背後を歩いていることに男は気づいて、顔を横に
    動かし彼女を自分の視界に招き入れた。

    「こんなにいい女がリヴァイのグループにいるとは聞いていない……!
    なぁ、あんた、ホントに俺の女になれば、命だけは助けてやる――」

     その男の声にリヴァイがすぐさま反応して、掴んでいるシャツに力が入った。

    「この期に及んでうるせーな……てめーは……すでにこの女は団長の女なんだよ…!」

     腰を低くして敵の様子を伺いながら草むらを歩くリヴァイ班の面々からイブキへ一斉に
    視線が集まる。声には出さないが驚きの表情は隠せなかった。

    「リヴァイ、こんなときに何を……!」

     月明かりに照らされたイブキの頬は強張り少しだけ紅潮していた。
     荷馬車を一人で護衛していたアルミン・アルレルトは全員無事だ、というリヴァイの一声に
    安堵感から胸を撫で下ろす。アルミンが最も待っていたであろう言葉を投げかけられた直後、
    彼が頷いて安堵するのは一瞬で、エレン・イェーガーやヒストリア・レイスの居場所を
    知っているであろう男が連れてこられたことに息を呑んだ。

     移動するぞ、というリヴァイの一言に従い、皆は根城から近い草むらから離れることになった。
     アルミンが手綱を引いて荷馬車を移動させ、木々がまばらに聳え立ち、
    月明かりでその男の顔が拝める場所へ辿り着いていた。

    「いいヒゲだな、あんた、エレンとヒストリアはどこだ?」

     片膝をついてリヴァイは中央憲兵の男にエレン・イェーガーとヒストリア・レイスの居場所を問う。
     冷や汗がその男の背中に続々と流れ、息も次第に乱れだし、ただリヴァイを弱々しく眺めていた。

    「部下は殺したのか?」

    「……残念だがあんたの部下は助けに来ない、殺すのも困りものだからな、しばらくまともに
    歩けないようにしておいた」

     氷のような冷たさ、熱は感じないその声でリヴァイは刻々と男を問い詰める。
     敵の根城に攻め入ったとき、ミカサ・アッカーマンとコニー・スプリンガーはリヴァイに続いて
    立体起動で敵陣で飛び回り、敵の足を痛めつけていた。サシャ・ブラウスは弓矢を、また
    ジャンはライフルで敵の太ももを的中させていた。
  5. 5 : : 2014/08/16(土) 11:04:45
    「――これで中央憲兵はしばらく使い物にならねぇよ」

     アルミンはリヴァイの氷のような声を聞きながらジャンが胸元にあてがう拳がかすかに
    震えていることに気づく。アルミンのそばに立つイブキが彼の視線の先のジャンの手を見つけ、
    自然に彼の元へ移動していた。ジャンの隣に静かに立ち、イブキは彼の横顔に柔らかい視線を送る。

    「ジャン、あなたはよくやった、大丈夫よ……」

     イブキはジャンの震える手の甲にそっと自分の手を添えた。ジャンはイブキの心遣いを感じ
    視線を力なく落とす。

    「イブキさん、ありがとう……もう平気だから」

     強張る頬をそのままにジャンは礼を言い、イブキの手を優しく振りほどいた。ジャンは
    震えが治まらない自分の手のひらを強く握って腰元にだらりと下ろした。
     リヴァイは再び敵の男の目の前に立ちはだかり、鋭い眼差しで見下ろし厳しく問い続ける。
     男は俯いたまま怯える口調で話し出した。

    「言っておくが、あの屋敷には何も知らない使用人も含まれていた…おまえ等が見境なく切った
    中にも確実にな」

    「あぁ、そうか、それは気の毒なことをしたな」

     リヴァイは自分の言葉を言い切った途端、その男の口元目掛け足蹴りした。男はリヴァイの
    思いも寄らない行動に突っ込まれた足先を唸りながら押さえつけるほかなかった。

    「俺だってかわいそうだと思っているんだ、特にあんたの口は気の毒でしょうがない。
    まともにしゃべれるうちに口を使った方がいいぞ、エレンとヒストリアはどこだ?」

     気の毒と言いながらリヴァイは同情することなく、男の口に靴を突っ込む力は増していく。
     リヴァイは壁外で巨人を目の当たりにしたときのような、鋭い眼差しをそのままに
    2人の居場所を聞き出そうとしていた。 

     質問に答えろ、と言わんばかりにリヴァイが男の口元から足先を引っこ抜いた。苦しそうに何度も
    咳き込みながら血も吐き出すがその中には足蹴にされ折れてしまった上下の前歯も含まれていた。
     青ざめたリヴァイの顔を見上げた男は足掻き続ける。憎しみをこめた眼差しでリヴァイを睨み
    語気が強い口調で言い放った。

    「無駄だ、無駄なんだよ、おまえ等が何をやったって、調査兵のおまえ等に出来ることは
    この壁の中を逃げ回って、せいぜいドロクソにまみれてセコセコと生き延びるだけだ……!」

     男は血だらけの歯茎を晒し叫び出す。さらにはリヴァイ班に属する調査兵たち出頭しなければ
    先に囚われた調査兵たちが処刑され、それは当然の報いであり世間も納得するだろうと、
    鮮血溢れる口元が次々と叫んでいた。

     リヴァイの背後に見えるイブキに男は一瞥をくれ右頬を上げる。その口元は男の意地悪さが
    宿っているようだった。

    「――最初の処刑者は…調査兵団最高責任者である、エルヴィン・スミスからだろう」

     その男がエルヴィン・スミスの名前を出した途端、イブキは胸元のナイフを取り出し、
    男に目掛け投げ放った。ただ髪の毛を数本切る程度で、傷は負っていない。男の顔を
    掠めたナイフは木の幹に刺さっていた。男は唇を小刻みに震わせながら、突き刺さったナイフを
    横目に見ていた。

     リヴァイの背後からイブキはナイフを投げつけていた。
     彼は動じることなく、男と共に突き刺さったナイフを睨んでいた。
     すぐに視線を男に移しリヴァイは振り返ることなく背後のイブキに話しかける。

    「イブキ、あぶねーじゃねーか……まぁ、おまえが的を外すことはしないだろうが……
    狙ったのは髪の毛だったのか?」

    「えぇ、まぁね……今はこの減らず口をちょっとかわいがっただけ――」

     強くて固い口調のイブキの眼差しは氷の如く冷たい。エルヴィンを処刑台に送ると言いたげの男に
    イブキは無意識にナイフを投げていた。
     『あなたをまだ逝かせないから』とエルヴィンと約束していたイブキは彼に対して軽口を叩く
    その男が許せなかった。
     男は自分にナイフが突き刺さらなかったことに安心したのか、減らず口は健在だった。

    「おまえらがやらかしたことを……おまえらが独断でやったことを条件にその首を差し出すなら
    他の団員の命は何とか助かるだろうがな――」

     足腰の痛みに耐えながら男は立ち上がり、リヴァイの肩を軽くポンと叩いた。
     リヴァイ頭一つ分背の高い男は自分に命乞いをしろと言いたげに他の仲間の命を
    助けたければ、自分たちの命を差し出せと強要した。見下されたリヴァイは強い眼差しをそのままに
    エレンとヒストリアの居場所を聞き出すことを繰り返す。
  6. 6 : : 2014/08/16(土) 11:06:20
     無表情のまま突然、リヴァイは男の手首を掴み、彼の身体を再び木の幹に打ち付けた。後ろ手に
    させた右手を本来、動かない方向へリヴァイが動かしては男の腕をへし折った。
     リヴァイは自分の質問に答える意思を示さない男を罰するように腕を折っていた。
     またリヴァイ班の命と引き換えに王政が調査兵団を根絶やしにする機会を逃すとは信じられなかった。
     男は骨が折れたと同時に痛みとリヴァイへの恐怖で泣き叫び、彼の元へ振り向いた。

    「しっ知らない!! 本当にほとんどのことは教えられていないんだ…!
    ケニー・アッカーマンはとても用心深い!!」

    「アッカーマン…?」

     ケニーの姓を初めて聞いたリヴァイは眉根を寄せても、眼差し鋭く男を見下ろしていた。
     ミカサはアッカーマンという姓を自分の家族以外で聞いたことは初めてで、目を見開き無言となった。
     イブキは自分の育ての親である頭(かしら)が外で名乗っていた名前はケニーとだけしか
    聞いておらず、『アッカーマン隊長』呼ばれていたこと、そしてリーブスが死の直前、
    『リヴァイ・アッカーマンを知っているか?』とケニーから問われていたことを思い浮べる。

     今はまだ誰にも話さないほうがいいと頭の中で渦巻いても、ミカサの不安な表情を見ながら
    イブキは見守るしかなかった。イブキは幼い頃、頭と一緒に暮らしていたが、成長するにつれ、
    仕事以外に会うことはなかった。

     そのために、リヴァイが言うとおり、大事なことは教えず、特に秘密裏の情報が漏れぬよう
    徹底的に守り続け、余計なことを口にするこはなかった。
     リヴァイは男に執拗にエレンたちの居場所を問う。再び骨を折ろうとする姿を男は
    まるで見てはいけない化け物と遭遇したように、恐怖で戦き全身を震わす。
     触れると焼けどしそうで、冷え切った氷の眼差しのリヴァイを涙ながらに見つめていた。

     突如、サシャが何の気配もない空(くう)目掛け弓矢を引く。

    「あっちから来ます!!」

    「サシャ、何人いる!?」

    「複数います!!」

     サシャの野生的な勘が敵を捕らえ、その方向に的を絞った。サシャの声に反応したイブキも
    咄嗟にナイフを手に取り傍の木の幹に隠れ、向ってくるであろう敵に対し、警戒しては構える。
     サシャとイブキの動きは素早く、アルミンたちは2人に続いて二人が的とする空間に銃口を向けた。

    「言っただろう、兵長、無駄なんだよ、何もかもが……
    おまえたちがやってきたことを償うときがきた…調査兵団はここで最期だ――」

     リヴァイはサシャの声と同時に男を地面に這わせ、向ってくる敵からその姿を隠した。
     ――これが最期ではない。リヴァイ班の面々は自分にそう言い聞かせ、迫り来る敵に
    闘志を燃やす炎を自ら消すようなことはなかった。 
  7. 7 : : 2014/08/16(土) 11:08:59
     一日前――。
     調査兵団分隊長、ハンジ・ゾエと副官のモブリット・バーナーはストヘス区内のベルク新聞社に
    忍び込み、2人の新聞記者に調査兵である自分たちを一日取材するよう願った。
     彼等には彼等が守りたい大切な人たちがいる、と記者たちが置かれた立場を理解しつつ、
    死んでいった部下たちの無念だけでなく、この状況下では誰も守れないとハンジは判断していた。
     ハンジが提案した取材は、フレーゲル・リーブスを使い、彼が生きていることを
    疎ましく思うであろう、中央憲兵団をおびき寄せ真実は吐かせることだった。
     リーブスが一体誰に、何の為に殺されたのか――。フレーゲルは見事、本当のことを彼らに
    吐かせ、新聞記者に聞かせるだけでなく、多くのストヘス区の住人たちがその証人となってくれた。

     中央憲兵団がリーブスを殺しただけでなく、調査兵団がリーブス商会を守ろうとした、その真実が
    ストヘス区で生き残る多くの住人たちに知れ渡った。
     フレーゲルは亡き父をバカにした中央憲兵の一人を尻に敷いては自らリーブス商会の会長に
    就任すると宣言した。その姿にハンジは笑みを向けそっと頭を撫でた。その手は中央憲兵団を
    素手で成敗したとは思えないような柔らかさだった。

    「おめでとう、フレーゲル……あとは頼んだよ」

    「おう、あっ……ハンジさん」

     ハンジとモブリットが新聞記者の2人に会いに行こうとフレーゲルに背を向けたとき、彼は
    ハンジを呼び止めた。

    「イブキやリヴァイ班の奴等はどうなった……? 確か、あの新聞に殺された調査兵もいた、って
    書かれていたが……それは本当なのか? もしそうなら、イブキなのか?」

     フレーゲルは肩の荷が下りた影響からか、ハンジにイブキの安否を問う。その口調は焦りから
    少しばかり早口になっていた。

    「えっ……あれね……調査兵が死んでしまったのは……残念ながら、事実だけど…。
    その中にはイブキは含まれてないよ」

    「そうだったのか……」

     フレーゲルはイブキの無事か心配する気持ちが胸に広がっていたが、ハンジの返事でようやく
    安堵のため息をついていた。

    「どうしたの…? イブキが気になるの?」

    「いや……その、イブキだって、親父が殺された瞬間の目撃者だ……もしここにいたら、
    俺と一緒に一芝居打てただろうし」

     フレーゲルは再び慌てふためき、視線をハンジから逸らした。ほのかにその頬は紅潮しているようだった。

    「もう……みんな、イブキに夢中ね……」

     ハンジは半ば呆れ鼻を鳴らして苦笑いで頬を引きつらせた。ミケ・ザカリアスとイブキが
    寄り添う姿にエルヴィンが寂しそうな眼差しを2人に注いでいたことをハンジは思い返す。
     
    (まぁ……時々見せる、イブキの妖しい雰囲気に……男だったら放っておけない…ってことか――)

    「だけど……イブキはあんたたちのボスの女なんだろ?」

    「まぁ、そうね!」

     ハンジがフレーゲルの問いに当たり前のように答える姿にモブリットは首を傾げる。

    「あの、分隊長……イブキさんは誰の女なんですか?」

    「あれ? 知らなかった? エルヴィンの女よ――」

    「分隊長! それって本当なんですか!?」

     モブリットは声を上げて驚いて目を見開いた。次にハンジを見つめる眼差しは疑問の色が
    交ざっているようだった。

    「だって、イブキさんと……ミケ分隊長とあんなに仲がよかったのに……」

    「男と女ってのは……一筋縄じゃいかないのよ、複雑なの……まぁ、この壁の中の方が
    もっと複雑でこんがらがって面倒かもしれないね……とにかく、2人のところに行くよ――」

    「分隊長、わかりました…!」

     ハンジは新聞記者のロイとピュレが隠れる場所に向う。モブリットは『僕はあなたとなら、
    どこまでもご一緒します』と心で誓う。その胸にそっと右手の拳をあてがい、ひたすら
    ハンジの立体起動装置の背中のベルトを見つめていた。
  8. 8 : : 2014/08/16(土) 11:09:20
     一方のエルヴィンは中央憲兵団から呼び出され、向った先は王政の施設だった。馬車から
    下ろされるとエルヴィンはすぐさま中央憲兵団の牢屋に監禁された。
     その数日後、牢に改めてやってきた兵士に仲間を奪われた腹いせの如く、顔を数発殴られていた。
     エルヴィンは抗うことを許されなかった。

    「エルヴィン……すまないな、端整な顔が腫れちまって……見る影もないくらい、
    殴ってやりたいのは山々だが……我々の王の前で、汚い顔を晒すわけもいかない。
    この程度で勘弁してやるよ…」

     エルヴィンの目元と口元は殴られたことで腫れ上がり、いつもキレイに整えている前髪を
    乱してしまうが、それでも歯を食いしばり痛みに耐えていた。
     腰縄に左手を強く結ばれ、エルヴィンが向った先は玉座の間だった。
     王が見下ろせるその場所に無理やり跪かされ、エルヴィンには多くの王政府の関係者から、
    冷たい眼差しが注がれていた。
     
    「エルヴィン、最期に言い残したことはあるか?」

     その発せられた低くて尖ったような声が玉座の間で響き渡る。どこまでも広がるような声は
    玉座の間が広々とした空間だと容易く知られる。だた閉鎖的な広場だとエルヴィンは感じていた。
     その乾いた問いにもエルヴィンは王を鋭く睨み返す。
     同時に父を失った幼い頃から調査兵に志願して多くの人と出会い、それと同じくらい失っていった
    今に至る人生の記憶が逆巻いた。

     もちろん、その失った出会いには愛する女性も含まれた。エルヴィンにとって心が潤うような
    最後の出会いはイブキだった。最初は自分の命を狙っていたはずなのに、仲間に迎え入れた後、
    巨人に右腕を喰われた自分自身を世話してくれた。その時の甲斐甲斐しい態度だけでなく、
    本音でぶつかってきては、感情を露にする姿に次第に惹かれ、気がつけば手放せない存在になっていた。
     エルヴィンは自身の命の灯火が弱々しく輝いていると感じた瞬間、イブキに対して慕情を抱いて
    いたことを改めて感じ、その気持ちを認めた。

    (2人で明るい未来を見る……だけではない…。
    壁外の自由の風を2人で感じたかった…それさえ、叶えられそうにない…すまない、イブキ)

     エルヴィンは最期の言い残したことを口にせず、ただ父親の無念や調査兵団が窮地に
    追い込まれたことを念頭に王を睨みつけることしか出来なかった。
     終始、無言を貫くが、口にしなくてもただリヴァイやハンジ、若きリヴァイ班、そしてイブキが
    未来へ繋がる道しるべとなり玉座に向って身を削りながらでも進んでいると信じるだけだった――
  9. 9 : : 2014/08/16(土) 11:09:51
    ★あとがき★

    皆様、いつもありがとうございます。
    今回の最新話のエルヴィンが処刑台に立たされる姿にエルヴィン大好きな私には
    震えるほど驚かされました。敵の男の想像がそのまま絵になった、それだけなんですが
    可能性としてあり得る展開なので、気が気じゃありません…。
    またイブキもリヴァイ班に迎え入れられ、私のSSの中では活躍していくでしょう…。
    来月号まで、またエルヴィンの無事を祈るしかないですね…。
    来月もよろしくお願い致します!

    *お手数ですが、作品にコメントがございましたららまで
    お願いします!⇒http://www.ssnote.net/groups/542/archives/2

    Spcecial thanks to 泪飴ちゃん☆⌒(*^-゚)v Thanks!!

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著者情報
lamaku_pele

女上アサヒ

@lamaku_pele

この作品はシリーズ作品です

密めき隠れる恋の翼たち~2 シリーズ

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