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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品はオリジナルキャラクターを含みます。

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黒衣の剣士と黒髪の女魔導士〜王政篇〜

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  1. 1 : : 2022/07/24(日) 01:31:38
    エレンが憲兵との交戦を終える数刻前、アルミンら104期生達はサシャの言葉によって戦乱に招かれた。


    サシャ「─!!銃声です!!!ほら、今も!!」


    アルミン「え…!?」


    ジャン「何かあったのか?」


    ミカサ「多分あった。……兵士長からの伝言はこう」


    ──エレンのやろうとしてる事が起こった場合、人と戦う事になる。


    ミカサの口から告げられるリヴァイの伝言に一同は驚きを隠せなかった。


    ジャン「人と戦うだと…!?」


    ミカサ「それが本当かどうかは、私にはわからない…けど、これだけは言える。光が強ければ闇も濃くなり強くなる様に、この国にも私達が知らないだけで、数え切れない程の闇がある。エレンはそれを消し去ろうとしているという事」


    アルミン「と、とにかく、行こう!立ち止まっては居られないよ!」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    リヴァイ「やっぱり端から受け渡しに応じる気は無かったみてぇだな。馬車が逃げる様に走ってやがる……ん?」


    アルミン「兵長…!」


    リヴァイ「馬車を追うぞ!!」


    ミカサ「……はい!」



    リヴァイに援軍が来たと察知した馬車を操る憲兵は速度を上げる。


    リヴァイ「良いか、奴らは対人の戦闘に慣れてる。もう3人殺られた」


    リヴァイからいとも簡単に告げられる人の死、それについて一同は少なからず恐怖を抱いてしまう。

    リヴァイの伝言は本当の事だったのだ。


    リヴァイ「王政は元よりヒストリアを強引に連れてくつもりだった。俺達が応じようが応じなかろうが結果は同じだったわけだ。こうなりゃ話が変わってくる」


    リヴァイの口から次々と語られる事実、そしてそんな彼の口からは想像もつかない言葉が発せられた。


    リヴァイ「ヒストリアを救い出す為にも躊躇するな、殺せる時は殺せ。分かったか…!!」


    ミカサ「……了解」


    1人返事をするミカサに一同は驚きを見せるが今はそうするしかないと、迷いながらも馬車を追う為に交戦を開始する。
  2. 2 : : 2022/07/24(日) 03:23:45
    リヴァイに少数の104期生が加わり、逃げる馬車の中で麻酔により眠っているヒストリアを助け出す為、中央憲兵と戦闘を開始。


    しかし、思わぬ人物との邂逅によって、彼らは馬車を逃がしてしまう。


    アルミン「……え、エレン」


    エレン「…………」


    アルミン「ど、どうして君がこんな所に…」


    エレン「その様子だと…まだ覚悟が無いって事か。それもそうか…人を相手に戦った事が無いんだ。そもそも状況が違うか」


    ジャン「おいエレン、何か俺達に説明すべきなんじゃねぇのか?」


    エレン「………」


    ジャン「っ、てめぇ…!」


    エレン「昔…男は1人の従者を傍らに、各地を放浪していた。そこで出会った未だ幼い女の子…。彼女は恐れずに、放浪をしていた男に声を掛けた」


    静かに語るエレンを前に、一同は押し黙る。


    エレン「彼女は男の本質を見抜いた後、自らの家に招待した。男はこんな自分達にこのような事を受ける資格はないと言ったが、彼女の両親は彼女同様、男達を迎え入れた」


    リヴァイ「…………」


    エレン「ある日の事だ。偶然男を見掛けた母親は、娘が帰って来ない。娘が何処に居るか知っているかと聞いた。男は当然、彼女は見ていない。いつも行っているという場所にも姿は無かったと言った」


    エレン「思い悩む母親に、男は彼女を探して家に送ると言って、地を蹴った。何処を探しても見つからず、ふと足元を見た時…赤いバラの花弁のようなモノが落ちていた。それは道標のように、その先に居るのだと答えていた」


    エレン「男はようやく、彼女を見つけ出したと安堵した………筈だった」



    ミカサ「…………」


    エレン「何故なら、探し求めていた彼女は裸体を晒し、既に身体を蹂躙された後だった」


    アルミン「っ……」


    エレン「ここで一つ問題だ。その後、男はどんな行動に出た?」


    リヴァイ「溢れ出る怒りの感情のまま、その手で犯行者を斬った。お前はそう言っていたな」


    エレンの問いに答えたリヴァイの言葉にアルミンは息を飲んだ。



    エレン「そうです。あの雨の日、俺は初めて人を斬った。人の肉を断つってのは、初めて感じた恐怖だった」


    エレンが語るエピソードに驚愕と同時に、エレンでさえも恐怖を感じるという事に意外性を感じていたのもまた事実だった。


    エレン「人の肉に弾丸を撃ち込むのと、人の肉を斬るのとでは結果は同じでも感覚は違うもんだ」


    アルミン「それで…その子は、どうなったの…」


    エレン「精神を患った」


    間髪入れずに告げられるアルミンは言葉に詰まってしまう。


    エレン「好いた人に捧げる筈だった身体を気絶するまで醜い人間に蹂躙されたんだ。精神が壊れないわけが無い」


    エレン「たまに見舞い行く時に…毎度同じ事を言われるんだ。男を見るだけで身体が震え、汗が吹き出し、発狂しそうな程精神を壊されたってのに…」


    エレン「それでも手を伸ばすんだ」


    ──この国には沢山の女の子が居る。だから、その子達の尊厳を、未来を…守ってください…


    エレン「だから俺は…必ず成し遂げてやる。彼女の想いは無駄にはしない。そして何より…素知らぬ顔して平然と生きてる醜い豚共はこの世界には必要ない」


    リヴァイ「何も考え無しにやろうってわけじゃねぇのは分かった。だが、あくまで“本命”は別にあるんだろ?」


    エレン「そこまで見抜いてくるのはやめて欲しいですね…」


    リヴァイ「なら、必ず助け出してやれ。いつまでも待たせてんじゃねぇぞ」


    エレン「分かってますよ、師匠」


    リヴァイ「…ならいい」


    すると、踵を返すリヴァイはアルミン達に指示を出す。


    リヴァイ「お前ら、一度引くぞ。帰ってひとまずエルヴィンに報告だ」
  3. 3 : : 2022/11/13(日) 15:59:55
    彼らの背を見送ってから数分、何かが真っ直ぐ此方へ向かって突貫して来る存在を、ようやくエレン認識した。


    エレン「──!!!」


    ???「やぁ、逢いたかったよ。何も言わずにボクの前から去っていったあの日から、ずっとキミを探してたよ。これまでの日々、君への感情が溢れておかしくなりそうだった。気を紛らわす為に自分を慰めてみたりしたけど、収まらなかったんだ。でも、漸く…!」


    エレン「なんで、てめぇが…ッ!」


    ???「どうして僕が此処に居るのかなんて、どうでもいいじゃないか。今は、この一時を愉しもうよ…♡」


    刹那─。声の主が消えた。


    エレン「……マリエル」


    マリエル「久しぶりで緊張してるの?あの日みたいにマリーって呼んでよ」


    エレン「っ!」


    刹那の間に距離を詰められ、劣勢を強いられてしまうエレン。そんな彼に声の主は落胆する。


    マリエル「ほら、後手に回れば死ぬよ?もっと本気で来てよ。ボクにキミという存在を刻み込んでよ…!!!」


    小柄な体格、ハリのある白い柔肌、控えめではあるが存在を主張する胸、スラッとした手足、ストレートに伸びた赤色を帯びた黒い髪。

    どう考えても女であるのだが、彼女から繰り出される一撃は、重く鋭い。


    マリエル「昔のキミは、この程度で後手に回るほど弱くなかった。今のボクなら、こうして!!」


    エレン「ぐっ…!」


    マリエル「キミを力で押し倒す事だって出来る。ボクみたいな小柄な女の子に押し倒されて、悔しくないの?悔しかったら反撃の一つでも見せてみなよ!」


    左手で両手を拘束し、右手で首を絞めるその力は小柄な体格から出されるものでは無かった。


    エレン「かハッ……あ、ぁ!」


    マリエル「あっははははっ!!苦痛に喘ぎ苦しむその声、その表情…!最高だよ、もっと見せて?」


    エレン「は、ぁぁ…っ、あ………っ!!」


    視界が霞む、呼吸もままならない、力も入らない…。

    父さん、母さん……おれ…約束、果たせそうにねぇや


    マリエル「はぁ、はぁ……。これで…これで、キミは正真正銘ボクのものだ。誰にも渡さない…さぁ、帰ろう?」


    ”あの頃の私達に“

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    リヴァイ「……!」


    イザベル「?」


    ファーラン「どうした、リヴァイ?」


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    フリーダ「───え?」


    ロッド「彼の魔力が感知出来なくなったな、死んでしまったか?」


    フリーダ「そん、な……」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    あれから数日後。



    リヴァイ「クソが…ッ!」




    イザベル「アニキ……」


    ファーラン「無理もないだろ…リヴァイからしてみれば、アイツは弟みたいなもんだからな」


    イザベル「でも、探しても見つからねぇって…おかしくないか?」


    ファーラン「それが引っ掛かってるんだ。生きてるなら、目撃情報の一つや二つあったっておかしくない…でも、それが無い割には微かに魔力は感知出来る」


    イザベル「で、でもよ…今まで感じた事のある魔力じゃなくねぇか?なんか…よく分かんねぇのが混ざってるっつーかさ」


    ファーラン「ただ、アイツは今もちゃんと生きてる事だけは確かだ。諦めなきゃ必ず見つかるさ」


    マリエルによってエレンが無力化されてから数日が経過した。

    未だにエレンの行方は不明。捜索隊を派遣して毎日のようにあちこちを駆け回っているが、未だに目撃情報は無し。

    リヴァイは今までに無い程の荒れ様を見せた。
    付き合いの長いイザベルやファーランが少し距離を置く程に……。



    そんな日々を過ごす彼らの元に、とある噂が耳に入る。
  4. 4 : : 2022/11/22(火) 03:15:41
    ー???ー


    「ありがとうございます…!これで、妻も報われると思いますっ…!」


    「気にしなくていいよ。それじゃ、約束通り報酬は受け取らせてもらうね」


    「…………」


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    「あのおじさん、あんなに怯えちゃって。そんなにボク達が怖いのかな?ねぇ、どう思う?」


    振り返り様に身体を折りたたみ、壁に寄り掛かるように座っている男へ声を投げる。


    「………さぁな。ただ、殆どの人間は“死”を恐れるもんだろ」


    淡々とした声に「ふーん」と声を漏らす中性的な顔立ちの少女は、ある話を持ち掛ける。


    「そういえば知ってる?あれから数日が経ってから、どうやらボクらの事が噂になってるみたいだよ。『紅い刀身を携えた男とそれに付き従う女が返り血を浴びて夜道を歩いてる』って」


    「それがどうした。俺は成すべき事をしてるだけだ」


    「その特徴的な色味の刀はすぐにキミのモノだって勘付かれるかもしれないんだよ。そうすれば、キミのお仲間が探しに回るだろうね」


    「……………」


    そうして少女は、蛇のように男に絡み付く。
    そして耳元で囁くのだ…。


    「でも、絶対に渡さない。キミはボクのモノだ、誰がなんと言おうと……ボク達は一緒だよ。ボクがキミの身体に刻み込んだ、この刻印がある限り」


    有無を言わさず服をはだけさせると、胸元から薄紫色の光が淡く溢れ出している。

    次第にその全容が露になり、男の左胸には何を模しているのか定かでは無いが、何かを示す刻印が刻まれていたのだった。


    それを撫でると少女は妖艶に笑った。


    「誰にもキミは渡さない。もちろん、フリーダ・レイス。彼女にもね……あははっ♡」


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    ミカサ「この記事……」


    アルミン「こ、これって…!」


    エルヴィン「あぁ。恐らくだが、エレンは行動を開始した。それも、謎の人物を連れ添ってだ」


    リヴァイ「エルヴィン、今回俺達を集めたのには理由があるはずだ」


    エルヴィン「そうだな。では、早速本題に入ろう。この記事に描かれているのはエレンで間違いないだろう。それは、彼が携えているこの刀身が物語っている」


    ファーラン「霊刀・桜吹雪。元々、妖刀だったらしいんだが、主従の契約して以降はお前達の知ってる通り、人の身体を持ってる」


    エルヴィン「以前、突然としてエレンの魔力を感知する事が出来なくなった。その原因が、恐らくだが…」


    アルミン「記事に写ってる…エレンの横に居る人って事ですか?」


    エルヴィン「その通りだ。彼女は何らかの方法でエレンを無力化した後、手を加えたのだろう。それでなければ、魔力感知を阻害するなど出来はしない」


    ミカサ「ですが…エレンを倒す程の実力者。相手取るには少し戦力が」


    リヴァイ「そこは俺がやる。エルヴィン、それでいいな?」


    エルヴィン「あぁ、元よりそのつもりだ。リヴァイが足止めをしている隙に君達でエレンを正気に戻す。自我や行動は縛られていないとは思うが、実質今のエレンを支配してるのはこの人物だ。気を抜くな」


    アルミン・ミカサ「はい…!」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    こうして、エルヴィンの指揮のもと、エレンを取り戻す作戦を決行するべく、準備を開始した。


    しかし、当然彼女には筒抜けであった。


    「へぇ…。危険を冒してでもボクらに挑むんだ…。キミのお仲間はそんなにも無鉄砲なわけ?」


    「少なくとも、あの人は…師匠はそんな人じゃない。いくらお前でも劣勢を強いられるくらいに…あの人は強い」


    「ふーん…。随分と信頼してるんだね…まぁ、別にどうでもいいけど…」


    「邪魔をするなら斬るだけだ。それはお前も同じだってのを忘れるな、マリエル」


    マリエル「ボクがいつキミの邪魔をしたって?ボクはこれからもキミの味方だよ、エレン」
  5. 5 : : 2022/11/22(火) 21:41:47
    いよいよ、作戦の決行日。
    アルミン達の眼前には、2人の人物がこれからどこかへ向かわんと、歩を進めていた。


    「……ん?あーあ、分かってはいたけど…よりによって今日なんだねぇ」


    「……リヴァイ、さん」


    リヴァイ「エレン、今なら遅くはねぇ。戻って来い」


    ミカサ「以前と…雰囲気が、違う?」


    アルミン「隣に居るのって…」


    「お仲間さんはキミを連れ戻しに来たって言ってるけど?」


    エレン「今更戻ったところで軟禁されるのは分かってる。リヴァイさん…悪いけど、ここは退いちゃくれませんか」


    リヴァイ「……気が変わった。お前らはそこの女を相手しろ、これは命令だ」


    すると、バチッと弾けるような音と共にリヴァイはエレンへ突貫する。


    エレン「チッ…!」


    刹那──。


    マリエル「あーあ、どっか行っちゃった。………さて」


    先程までの空気感から一変、辺りに重苦しい空気が漂い始める。


    マリエル「アンタ達は私がエレンに何かしたと思ってるみたいだけど…何を根拠にそう思ったわけ?」


    ミカサ「エレンの魔力が感知出来なくなった。それに、明らかに第三者の手によって感知の阻害を受けている。理由はこの2つ」


    マリエル「ある日を境に突然魔力を感知出来なくなったのは、確かに私がやった事だけど…魔力感知の阻害に関しては私がやった事じゃない。“アレ”はあいつの意思によるもの」


    アルミン「そ、そんなはずは…!」


    マリエル「私はそのうち必要になるって提案しただけ、それを受けたのはあいつ自身。こっちに責任を押し付けるのは間違ってんじゃない?」


    ミカサ「…………」


    マリエル「これを機にその幼稚過ぎる考えを改めることね」


    ミカサ「……ッ!」


    マリエルの言葉に怒りを覚えたミカサは、風の刃を振り下ろす。


    マリエル「っと、今のはあんたに言ったつもりは無いんだけど?まぁ、聞くだけ野暮ね…」


    ミカサ「アルミンを貶す事は私が許さない…!」


    マリエル「素敵な感情ね。私からしてみればくだらないものだけど。エレン以外に本気を出すのも癪だけど…特別に相手してあげるわ。最も、私の速さに着いて来れたらの話だけどね」


    すると、黒いショートヘアの髪は薄赤く染まったポニーテールへと変化し、服装もゴスロリ風のモノに変わっていた。

    これが本来あるべき彼女の姿なのだろうか。


    マリー「この姿を見せるのはあんた達で2回目よ。光栄に思いなさい?」


    彼女の名は“マリー・エレノアール”
    エレン・イェーガーの唯一の理解者であり、彼女曰く、「あいつの生涯の伴侶はこの私よ!」
    フリーダ・レイスという恋敵に対して強い嫌悪感を持つ者である。


    マリー「精々、私を愉しませてよね…ッ!」
  6. 6 : : 2022/11/27(日) 00:58:21
    リヴァイ「……俺にはお前の考えてる事がまるで分からねぇな」


    エレン「………」



    ここは…かつて、一人彷徨っていたエレンをリヴァイ、ファーラン、イザベルの三人が初めて相対した場所。


    何の意図があるのか…エレンはこの場へ連れてこられた。



    リヴァイ「お前がどんな想いを背負って動いてるのかなんてのは、俺が関与すべき事じゃねぇが…。何を考えてあの女と行動してる…?」


    エレン「……ただの、利害関係です。それだけの理由じゃ足りませんか?」


    リヴァイ「そうだな。とてもじゃねぇが俺にはそうは見えねぇ。お前の目的を成す為に協力してる…それは事実だろうな」


    エレン「なら…!」


    リヴァイ「──ただ、お前…あの女に何を“された”?」


    エレン「………!」



    ……見抜かれている、かどうかはまだ分からない。
    今、目の前の師はあの女…つまりは自分がマリエルと呼ぶ女に、何を“された”と聞いてきたのだ。

    リヴァイの洞察力を侮ってはいけないという事をエレンはよく理解っている。

    しかし、その可能性が高い事は何となくだが予測している。



    エレン「何を、根拠に…」


    リヴァイ「ここまで来てようやく分かった。違和感の正体がな」



    すると、上空からエレンの反応速度を上回る速さで接近する何かが直撃する──



    リヴァイ「──死ぬんじゃねぇぞ」



    一筋の稲光が…エレンの全身を包み込みながら貫いた。


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    マリー「──ッ!?」



    とてつもない轟音と稲光に気を取られたマリーの背後を捉える。



    ミカサ「──捉えたっ!」


    マリー「ッ!!!」


    間一髪で刃を交わし、弾き返す。
    体勢を崩したその隙に、墜ちた稲光の元へ消え去った。


    アルミン「ミカサ、怪我は無い?!」


    ミカサ「大丈夫…。ごめんなさい、時間を稼ぐのが私達の仕事だったのに…」


    アルミン「そんな事ないよ。それに、今の雷…きっとリヴァイさんのモノだと思うから…きっと」


    ミカサ「……行こう」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    リヴァイ「………“やっぱり”な」


    エレン「っ……」


    リヴァイ「その刻印…お前の眼を見た時、そこには憎悪の炎しか感じ取れなかった。その原因を作ったのは、ソレか」



    焼け焦げた服装は黒く煤れ、所々から肌が見えている。
    そして……左胸に刻まれた禍々しい紋様。


    リヴァイ「お前はあの女に利用されてるだけだ。何か…“忘れ掛けてる女”が、居るんじゃねぇのか?」


    エレン「───!!!!!」


    ドクンッ!!


    同時にこの場へ落ちるようにやって来た人物が一人


    マリー「何、押されてるのよ……」


    リヴァイ「エレンよ……思い出せ。昔、お前が誰とどんな約束を交わしたのか…」


    マリー「うるっさいっ!!こいつは…エレンは、私と同じ時間を過ごして、これからもずっと一緒に居るって誓ったのよ…ッ!!今も昔も、エレンを理解してあげられるのは私しか居ないんだから…」


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    ???「あのね、その……わたし、大人になったら…エレンの、お、お嫁さんになりたいのっ!」


    エレン「な、なんだよ急に…まぁ、覚えてたら…迎えに行ってやるから、待ってろ」


    ???「うん!!!」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    エレン「………ふりーだ…?」


    マリー「違う…ちがうちがうちがうちがうちがうちがうちがうっ!!!!!」


    リヴァイ「そうだ…そいつは今も、王都の近くで囚われながらも、お前の迎えを待ってる。だから…!」


    マリー「わたさない……エレンは誰にも、渡さないッ!!!!!!」


    突如、マリーの身体から黒く禍々しい魔力が溢れ出す。
    すると、一歩、また一歩確実にエレンの元へ歩んでいくのが分かる。


    リヴァイ「チッ…!!」


    行かせまいと間に入ろうとするも、溢れ出す魔力がその介入を許さない。


    マリー「エレンは誰にも渡さない…そう、誰にも」


    溢れ出す魔力がエレンを包み込む時、発狂する様に叫び出した。


    マリー「一つに……心も、身体も…一つに…これからも、私は…ボクらはずっと一緒だ」


    リヴァイ「エレンッ!!!!!!」
  7. 7 : : 2022/11/27(日) 03:22:12
    禍々しい魔力は2人を乱気流の様に包み込み、徐々に小さく、そして確実に2人を圧縮せんと蠢いている。

    激しい魔力の蠢き、それが起こす渦は、次第にエレンの叫びに掻き消していく。


    やがて…それが鎮まったかと思うと、禍々しいソレは辺りの空気を濁ませた。



    エレンを包み込む魔力は少しずつ霧散。
    やがて、その姿が明らかになる。



    僅かに赤みがあった黒い髪は白銀の色に染まっており、身を包む服装も黒紫色の和装に変わっており、開かれた目蓋からは、血族の証となる紅い瞳が覗く。

    そして………切っ先までもが赤く染まった鍔が無い直刀型のソレは、“妖刀”と名乗るに相応しい。


    エレン?「……………」


    妖刀と呼ぶに相応しい刀、黒い装束、無表情な眼を写し出す紅い瞳……。


    マリーという少女が抱える負の感情が暴走し、禍々しい魔力として溢れ出し、ソレに包まれたエレンは、彼女の願望…。

    エレン・イェーガーという男は本来こう在るべき、という彼女の願望が今の姿を形作っているのだった。


    そこにエレン本人の意識は存在しない。眼前のリヴァイの事など敵として認識する。故に、斬るのだ。



    リヴァイ「チッ!」



    流石のリヴァイも、素手で相手取るのは無理があると判断し、避ける事しか出来ない。


    無表情で振り下ろされる刃を避けながら、リヴァイはふと思い出す。

    かつて、初めてエレンと邂逅した日の事を…。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    イザベル「ん?」


    ファーラン「どうした、イザベル?」


    イザベル「いや、あそこの」


    リヴァイ「………」


    エレン「……………」


    初めてその眼を見た時、奥底には憎悪が宿ってた事は今でも覚えている。

    “こいつは…何かに対して憎悪を抱きながら今を生きてる”

    こんな小さなガキが、そんな感情を持ってるのを見れば…どんだけこの国が腐ってるのかが理解出来た。

    剥き出しの刃はいずれ他人を傷付ける。
    だから、まずはそれを鞘に納める為に声を掛けた。



    リヴァイ「おい、ガキ。こんな所で何をしてる」


    エレン「……別に、アンタ達魔導士には関係無いだろ。それとも、“まだ俺から何か奪うってのかよ”」


    そいつの言葉に引っ掛かりを覚える。
    俺はこいつに会ったのは今回が最初だったが、こいつの口振りは…まるで全ての魔導士に向けられたように感じた。


    リヴァイ「……過去に、何かあったのか」


    エレン「俺に声を掛けた魔導士は全員そう聞いた。まるで『俺達は何もしてない』って白けてやがる」


    リヴァイ「俺達は今日、初めて出会ったはずだ」


    エレン「ハンネスさんが言ってたよ。“風の元素力を使う魔導士が”俺の親父達を殺したってな」


    驚き以外の感情が無かったとは言えない。
    ただ、俺の知ってる限り…思い当たるのは一人しか居なかった。


    “ケニー”…恐らく、奴がこいつの親を殺した。だが、“切り裂きケニー”の話は俺が地下街を出る頃には既になりを潜めてた。

    今更、奴が理由も無しに殺しをやるのは考え付かなかった。

    そうだと言うなら、誰が仕向けたか。考えるまでも無い。

    国を治める王政──。

    それしか無い。それ同時に…

    これは好機だとも思った。だから俺は、目の前に在る剥き出しの刃を鞘に納めてやった。


    リヴァイ「そいつについて、思い当たる奴が居る」


    それから後は早かった。

    エレン・イェーガーというこの子供に、掃除の仕方や強者との戦い方、その全てを叩き込んだ。

    特にイザベルとは流されたとも言えるが、打ち解けるのが早かった。

    ファーランはよくエレンの悩みやら何やらを聞いていた。

    そして気が付けば、エレンは俺達の弟分のような存在になっていた。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    エレン?「…………」


    リヴァイ「だからな、エレン。俺はお前の行く末を見届けてやりてぇと思ってる」


    エレン?「………」


    リヴァイ「お前が自分自身の意思で選択をしたなら、最後まで貫け。そんな奴に縛られて…支配されてんじゃねぇぞ」


    リヴァイ「そろそろ、起きる時間だ。クソガキ」
  8. 8 : : 2022/11/27(日) 06:01:01
    エレン?「ぅああああぁああぁぁあ!!!!」


    リヴァイ「さっさと起きろ。テメェの迎えを待ってる奴が居る事を忘れるんじゃねぇ…!」


    思いを込めた拳の一撃を、左胸に刻まれた刻印目掛けて打ち込んだ。

    その余波が起きたのか…再び、一筋の稲光が墜ちた。


    エレン?「あ"あ"あ"あ"ぁあ"あ"ぁぁあ"!!!!」





    エレン?「ぁああぁぁあ───」


    突如として、胸部の中心を貫く刃があった。
    今に至るまで、共に歩んできた“桜吹雪”である


    吹雪「マスター…やはり、私はマスターの傍に居る事を諦めません。これから先、マスターの“剣”として…貴方を御守りします。だから…」


    すると、辺り一面に強烈な光が放たれる。
    蝕んだエレンの身体を浄化するような優しくも強い光だ。


    リヴァイ「…………」


    その様子を、リヴァイはただ見ていた。
    弟の帰りを待つ兄ように…。

    やがて光が収まると、地に横たわる黒装束の少女と少年、そして剣を納めた彼女の姿があった。


    吹雪「リヴァイさん…ありがとうございました。貴方が居なければ、マスターは今も闇の中だったと思います」


    リヴァイ「礼はいい。エレンは無事か?」


    吹雪「なんとか…ただ、回復には時間を要するかと」


    リヴァイ「………なら良い。後はお前たちの問題だ。ちゃんと護ってやれ、お前の大切なマスターだろ」


    吹雪「──。はい」




    アルミン「リヴァイさん!無事でしたk──」


    リヴァイ「黙れキノコ頭、さっさと戻るぞ。仕事は終わった、帰ってエルヴィンに報告だ」


    ミカサ「アルミンはキノコ頭じゃない…!」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    吹雪「……起きてるんでしょう、“マリエル”?」


    マリー「っ……その名で呼ばないで。姉貴ぶるのもいい加減にしなさいよね…」


    吹雪「あーはいはい…今は“マリー”って名乗ってるんでしたねー」


    「………んっ」


    吹雪「…マスター」


    エレン「……ふぶ、き……めいわく、かけた…」


    吹雪「こうして五体満足で戻って来てくれただけで、私は十分ですよ」


    エレン「そう……か」


    吹雪「はい、そうです」


    マリー「なによ……人前でイチャイチャしちゃって…」


    ホントは…同じ境遇、同じ感情を持つ者として、傍に居て支えてあげたい。最初はそう思ってた。

    でも、久々に見たこいつの瞳には、私と同じだけの憎悪が無かった。

    それが…ただそれだけの事が、何故か納得出来なかった。

    大好きなパパとママを…なりたいと思ってた魔導士に殺されたという同じ境遇…。

    そんな魔導士に対して自分でも吃驚するくらいに同じ感情を持つ…そんな人。

    だから、この人の事を理解してあげられる…支えてあげられるのは私しか居ない。そう確信した。

    だから、こうするしかなかった。

    …こんな醜い私の事なんて忘れて欲しいとさえ願った。


    マリー「…っ、なによ。あんたには、約束を交わした子が居るんでしょ…」


    そうやって…後ろから優しく抱きしめてきて、勘違いしそうになる…。


    マリー「離して…おねがい。もうこれ以上わたしに──んっ…!?」


    強引に唇を塞がれた。
    逃げようと抵抗しようとするけど、この満身創痍な身体では、頭と腰を抑え付けるようにして逃がしてくれない男の力の前では何も出来なかった。

    なんで…こんな事が平気で出来るのか理解できない
    本来、こういう事は恋人と…するべき事なのに…。

    頭では今すぐにでも突き飛ばして逃げるべきだと分かってても…そんな考えを簡単に消し飛ばすように、口内を蹂躙しようとする好きな人の舌を迎える本能がそれを許しはしなかった。

    「やめて」と抗議をしても、聞く耳を持たないのか、絶対に逃がさないという意思でまた唇を重ねてくる。

    ()というのは、好いた()相手には抗えない。そう本能が訴えているようだった。

    知らなかった。

    相手の想い人が違う人だと分かってるのに、キスをされるだけで悦んじゃうどうしようもない雌だったのか…私は。

    それもそうか…。突き飛ばす為に使う予定だった両手は彼の肩を優しく掴み、果てにはこの状況を受け入れている自分が居る。


    どうか…今だけは、私だけを見ていて欲しい
    (どうかこれ以上、惨めになっていく私を見ないで…)
  9. 9 : : 2022/11/28(月) 02:38:40
    短いようで長いようなキスが終わった。

    目蓋を開けば、必然と視線がぶつかる。
    こいつのファーストキスを貰った罪悪感と、この期に及んで羞恥心が生まれ、静かに視線を逸らした。

    まだ私が逃げると思い込んでるのか、未だに腰に回している手は退けてくれない。

    このままだと、ホントに勘違いするから無理矢理にでも手を退けて後退る。

    一歩、また一歩、更に一歩、私が同じだけ距離を取ろうとすると、その分だけ私を追い詰めるように歩み寄ってくる。

    さっきから一言も声を発しないのも相まって、少しずつ身体が震えてくる。


    マリー「いや、こないで…。ホントにこれ以上は…」


    そうしていると、背後にあった木にぶつかって、いよいよ追い込まれてしまう。


    マリー「な、なによ……怒ってるなら、謝るから…もう、二度と、会わないから…っ!」


    刹那──。


    マリー「────え…?」


    とてつもない音と共に、目に映ったのは……。


    「あっ……ぁぁっ……」


    巨大な炎の矢に体を貫かれたエレン・イェーガーだった。


    「出力、精密性…共に文句無しだ。“ベルトルト・フーバー”、君の力がこの世界を平和への第一歩を歩ませた」


    ベルトルト「約束通り、エレンの身柄は僕らに渡して貰います」


    「あぁ、構わない。此方としては、すぐにでも殺処分してもいいのだがね…。生憎と、目撃者が生じてしまったようだ」



    マリー「いや──」




    「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあッ!!!!!!!」



    「なっ、何だ!?」


    闇のように…深く、昏く、黒い渦。

    その全ては狂い叫ぶマリーという少女から生じている。

    全てを闇に飲み込まんとするソレは、みるみると巨大化し、この区域に存在する自然や生命を悉く無に帰さんとしている。


    「ま、待て!ベルトルト・フーバー!私を置いて何処へ行く!?たすけてくれぇぇぇえ──」


    比較的上の立場であろう憲兵は、逃げる事叶わず。その身体ごと消滅した。

    その様子を、ただ静観していた。


    ベルトルト「ごめんよ……。でも、こうするしかなかったんだ」


    「ベルトルトッ!速くしねぇと飲み込まれちまうぞッ!」


    ベルトルト「“ライナー”!エレンの回収は無理だ!」


    ライナー「見りゃ分かる!……しかし、何なんだありゃ」


    ベルトルト「分からない…。でも、今後の動きに支障が出るのは確実だと思う…」


    ライナー、そしてベルトルト…この2人が何故こんな場所に居たのか。
    どうして、ベルトルトがエレンへと矢を放ったのか。

    それはまだ、誰にも分からない。

    そして、件の区域一帯は、立ち入り禁止区域として指定されたものの、それが更地と化してしまった原因は……判明していない。
  10. 10 : : 2022/11/28(月) 04:01:23
    ・・・・・・・・・・。


    あれから1ヶ月、エルヴィン・スミスを中心とした“自由の翼”をシンボルとして日々活動する一団。

    その中でも、特に戦闘能力に優れた魔導士達で構成されているリヴァイをリーダーとしている事から、“リヴァイ班”の名で知られる彼らは…。


    イザベル「ホントに更地になっちまってんだな…」


    例の区域一帯を訪れていた。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    イザベル「嘘、だろ……。こ、これって」


    ファーラン「………なんで、この場所だけ…」


    リヴァイ「…………」


    記事の中では、件の区域一帯全てが更地になったと記載されていた。それは確かなのだ、しかし…彼らの目には、彼ら3人と…1人の少年が初めて出会った場所だけが、不可解にも綺麗に存在していた。


    リヴァイ「………おい、これはどういう事だ」


    イザベル「あ、あにき?」


    近くの木の根元に違和感を感じたリヴァイは、静かにしゃがみ手をかざす。


    リヴァイ「チッ……お前ら、今すぐハンジを連れて来い!確認したい事がある」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    ハンジ「一つは、エレンの魔力…それは間違い無い。もう一つは、リヴァイが実際に感じた特徴と一致してる。それも間違いない…でも、これって…」


    リヴァイ「……どうした?」


    ハンジ「エルヴィンが危惧していた事が、既に起きているかもしれない」


    リヴァイ「──!」


    エルヴィン・スミスが危惧していた事。

    それは──。


    エルヴィン「私達人類の敵が、内側に潜んでいる可能性が…ハンジが報告してくれたデータから大いに高まった」


    ミケ/リヴァイ「………」


    イザベル「ま、マジで言ってんのかよ…」


    ファーラン「いったい誰が……」


    緊迫した雰囲気の中、ハンジが静かに口を開く。


    ハンジ「まず、あの場所に残された魔力を調べてみた結果、3つの存在があの場所に居た事が分かったんだ」


    ハンジ「一つは、一ヶ月前からまた行方が分からなくなったエレンのモノ。もう一つは、多分だけど…あの付近一帯を更地にさせた人物のモノだ。そして、3つ目の魔力……私もデータを見た時は目を疑ったけど、何回も再照合しても同じ結果だった」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    「……………」


    「私のせい…よね。私があんな事言ったから、あんたは傷付いちゃったのよね…」


    マリー「ごめんなさい…ごめっ、なさいっ!」


    マリー「………反省もしてる。もう、二度と暴走しないように頑張る…。だから、もう少し休んでて?」


    ──あんたの代わりに私がフリーダ・レイスを助けるから。


    エレン「…………………………」


    マリー「必ず…絶対あんたの力になってみせるから」


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    「なりを潜めたと思ったらまた…始まったのか?」


    「お偉い貴族共も大変だな…たかが女一人にやられちまうなんて」


    リヴァイ「………」


    信じたくはねぇが、どうやら最近の騒動はあの女が絡んでるみてぇだな。

    なら、エレンはまだ生きてる……そう信じるしかねぇか


    「ねぇ……あんた、ちょっといい?話があるんだけど」


    どうやら、その考えも変わるみてぇだな。



    黒いローブに身を包んだ人物は、人気の無い裏路地にリヴァイを伴って入ると、深く被ったフードを脱いだ。


    マリー「こうして会うのは2度目かしらね。まぁ、あの時は敵同士だったけど……」


    リヴァイ「どういう意味だ?」


    マリー「アイツは生きてる。今は少し傷が深くて意識が無いけど…そこは信じてちょうだい」


    リヴァイ「……そうか」


    今のリヴァイにとって、エレンの安否が最重要だった。故に、ほんの少しだけ…心に余裕が出来た。


    マリー「あの後何があったのか…あんたが知りたいなら教えてあげる」


    リヴァイ「…頼む」


    あの後…つまりはリヴァイがあの場を離れた後、何が起きたのかを事細やかに語った。


    リヴァイ「……そうか。とにかく、エレンが無事ならそれでいい」


    マリー「責めないのね…」


    リヴァイ「もう過ぎた過去だ。掘り返した所で意味はねぇよ」


    マリー「そう……」


    リヴァイ「んな事はもういい。それより、さっきお前はエレンが炎の矢にやられたと言ったな。ソイツの名前と顔も覚えると……」


    マリー「むしろ今日はその事であんたと取り引きをしようと思ってたのよ」


    リヴァイ「……取り引き?」


    マリー「そ。私じゃアイツの傷を治せないから、あんた達に任せる。それと一緒に私が知ってる情報を渡すわ」


    リヴァイ「……見返りは」


    ──アイツの…エレンの成すべき事に協力してちょうだい。
  11. 11 : : 2022/11/28(月) 04:47:09
    リヴァイ「そういうわけだ。エレンがやろうとしてた事に協力する事を条件に、エレンの回復と…こいつが持ってる情報を俺達に渡すそうだ」


    マリエル「マリエルって言います、よろしくお願いしますねっ!」


    猫を被っている…その一言に尽きる。


    ・・・・・・・・。



    エルヴィン「ハンジ、エレンの様子はどうだ?」


    ハンジ「一応傷は塞がったし、傷跡も綺麗に無くなったけど……この様子だと、暫くは意識は無いだろうね」


    エルヴィン「そうか……」


    ハンジ「彼女に聞いたよ。エレンが持ってた御守りが、あの場所を護ったって」


    エルヴィン「………」


    ハンジ「憎しみの感情に囚われ過ぎて、塞ぎ込んで…あまり感情が表に出ないだけで、ホントは…人思いの良い子なんだろうね…。そうじゃなきゃ…」


    エルヴィン「そうだな。願ってもみなかった協力者として…彼女には感謝しないといけないな」


    白い清潔感のあるベッドで静かに眠る、一人の少年。
    彼が今まで抱えてきた思いは…決して他人が推し量っていいものではないだろう。


    エルヴィン「エレンは大人びているとはいえ、その精神はまだ子供だ。これ以上負担をかけないように、我々がしっかりしなければならない」



    ・・・・・・。


    リヴァイ「それで……あの中に記憶にある奴は居るか?」


    マリー「……あの中には居ないわね。どっかに隠れでもしてるのかしら」


    リヴァイ「エルヴィンの見立てじゃ、俺達が知る範囲に居るかどうかすら判断は出来ねぇらしい。お前の記憶が今は頼りだ」


    マリー「そんなの分かってるわよ…。時間が無いってのもね」


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    人気も無く、今でも使用されてしない倉庫に…3人の影があった。



    ライナー「何?あの時の目撃者が居ただと?この学園内にか?」


    ベルトルト「今は、黒いローブを着てて深くフードを被ってるから顔までは分からないけど…多分そうだと思う」


    アニ「アンタ…なんで見られてそのまま放置してるわけ?」


    ライナー「アニ、言い合ってる場合じゃねぇだろ。今はバレないように動かねぇといけねぇんだ。今どんな状況なのか分からねぇお前じゃねぇだろ?」


    アニ「………ふん」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    マリー「失礼します……って、あんただけか」


    吹雪「マスターなら、まだ寝てますよ」


    マリー「……そう。あんたには気を遣わせた挙句、迷惑掛けたわね」


    吹雪「過ぎたことだから何も言えないけど、あの出来事があったから、貴女は今こうしてここに居る。違いますか…?」


    マリー「そうね。こいつはどうせ『気にしなくていい』って言うんでしょうけどね。こればっかりは私が招いた結果。償いとまでは言わないけど…こいつの事は死んでも護ってやるって決めたのよ」


    吹雪「唯一の理解者が死んだら…誰がマスターの過去や感情を理解してあげるんですか?」


    マリー「なっ…!あんた何言って……はぁ。あんたも私を逃がしてくれないのね」


    吹雪「何の事でしょうねぇ」


    ニコニコと笑って誤魔化そうするその姿にイラッと来て拳をお見舞いしてやった。

    桜の花びらが盾になって防がれたけど…。
    何なのよこいつっ!!
  12. 12 : : 2022/11/28(月) 23:49:00

    数日後。

    いつものように治療室にあるベッドの上で眠るエレンの元で静かに座る吹雪は、ふと出入口の方を見やる。


    エルヴィン「失礼する。エレンの意識は…?」


    吹雪「まだ…戻りそうにありません。それより、如何様で?」


    エルヴィン「本部の前に、“彼の弟子”を名乗る子が立ち尽くしていたのでね。ここまで連れてきたんだ」


    すると、勢いよく吹雪の懐へ飛び込む少女の姿があった。


    エリナ「吹雪、さんっ!よかったですっ!」


    吹雪「エリナちゃん………。無事だったんだね」


    エリナ「はい!って、それより師匠は…!?」


    吹雪「落ち着いて…マスターはそこで寝てるから」


    エリナ「でも、ここって……」


    幼い少女に事実を述べるべきか、迷っていた吹雪はゆっくりと状況を説明した。


    エリナ「そんなっ…!じゃあ、まだ起きないんですか?」


    不安そうに涙を浮かべる彼女の頭を撫でながら「大丈夫だ」と、吹雪は言った。


    吹雪「マスターはきっと、目を覚ます。私が保証するから。ね?」


    エリナ「はい……すいません」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    「っ……こ、ここは?」


    何も無い暗闇の中、彼はそう呟いた。
    何気無く辺りを見回す彼に、声を掛ける何かがあった。



    「あっ……お兄さん…。起きた?」



    ありえない……。何故彼女がここに居る?
    彼女は今も、自分の家で静養してるはずなのだが…



    「あ、あのね……わたし、お兄さんの事──」


    暗転──。


    「…………は?」


    視界が開けたと思えば、今度は見覚えのある部屋。
    眼に映った光景とは……。


    「や、やだっ……やめてっ!だ、だれかっ!!たすけっ──」


    「ハッハッハッ!やはり生娘の身体は実に良い!」


    「やだ、やだやだやだっ!!!おにいさん…たすけてっ!!!!!」



    「─────────。」



    アアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!



    もっと…俺が早くに気付いていれば……


    もッと……はヤくたすけられてイれば……


    モット…………オレにチカラがアれバッ!!!


    あああああぁあああぁあああああああッ!!!!


    ──ホントにそう思ってるわけ?


    ──私から言わせれば、あんたは全く悪くない。その子の言う通り、あんたが謝る必要は無い。


    ──全部、何から何まで……全てアイツらが悪いのよ


    ちがう……ぜんぶ、おれが……おれがアイツと関わったから…っ!


    ──忘れたの?誰があんたの親を殺すよう仕向けたのか



    ………………………。


    ──誰が、あんたの同胞を皆殺しにさせたのか


    ……………よげん、きぞく………おうけ


    ──そうよ。あんたも、私も…アイツらに大好きな人を奪われた。


    ──だから、私が…あんたの事を1番に理解してあげられる。その苦しみ、悲しみ、怒り、憎しみ…全部私は受け入れてあげられる、理解してあげられる。


    ──だから、私の手をとって?あの女には到底出来っこない。深い所まで、導いてあげる。


    ──ほら、何処までも……闇の中に堕ちていきましょう?
  13. 13 : : 2022/11/29(火) 00:08:38
    「っは!!!!!!ハァッ、ハァッ、ハァッ!」


    吹雪「マスター…ッ!」


    エリナ「師匠!しっかりしてくださいっ!私達のこと、見えてますか!?」


    ・・・・・・・・・。


    マリー「少しは落ち着いた?酷く魘されてたらしいけど」


    エレン「…………だいぶ、落ち着いて来た。悪い、心配掛けた」


    マリー「そう………汗だくで気持ち悪いでしょ?拭いてあげるから服脱ぎなさい」


    言われるがままに、服を脱ぎ、肌を晒す。
    微温湯で濡らされたタオルが触れると、エレンは静かに口を開く。


    エレン「夢を見た……。頭が焼き切れそうなくらい、狂っちまうほどの、悪夢だった」


    マリー「………そう」


    エレン「こんな俺に…怯えもしねぇで、自分が食うはずだったパンを寄越したあの女の子が……」


    マリー「………前にあんたが話してくれたあの子の事ね」


    エレン「もし……俺が関わらなけりゃ、今頃は……」


    マリー「私、言ったわよね?あんたは何も悪くない。謝る必要も無い。全部、それを引き起こすアイツらが悪いって」


    エレン「………あぁ、夢の中のお前もそう言ってた」


    マリー「だから、あの子みたいなのがこれ以上生まれないように…この国の根本から変える。そう言ったのは他ならぬあんたでしょ?」


    マリー「だったら、そんな弱気な事言ってないで…あの子の為にも、成すべき事だけを考えなさい。いいわね?」


    エレン「お前がそんな前向きな事を言うなんてな…初めて会った時は“一緒に堕ちていこう”なんて告白紛いの事を言ってきたってのに」


    マリー「なっ……!!昔の事なんてどうでもいいでしょ!?ほら、どうせ下も汗まみれなんでしょ?さっさと脱ぎなさいっ!」


    エレン「下は自分で拭くから出てけよ。襲うぞてめぇ」


    マリー「はぁーッ!?あの女裏切って私のファーストキス奪っといて何言ってるわけ!?どうせなら今ここであんたのハジメテ奪ってやってもいいのよ!?」


    エレン「それは…困るな。というより、俺“童貞”じゃねぇし」


    マリー「あの女もざまーないわね!好きな男のファーストキスも童貞も貰えないなんて!年柄も無く涙を流す憐れな姿が目に浮かぶわ!」


    エレン「俺が迫った時に泣いてた奴が何言ってんだか……」


    マリー「うっさいわねっ!!!あの時は罪悪感と怖さで抵抗の1つも出来なかったんだから!」


    エレン「んな事言っても…お前下ぬれ──」


    マリー「──ッ!!!!死になさいッ!!!!」


    そんな2人の声を、扉の外で聞いていた吹雪を含めた数名は「聞かなければよかった」と後悔をしたそうだ。
  14. 14 : : 2022/11/29(火) 01:35:49
    息を荒げながら肩を揺らす彼女は、頬を赤く染めながらも睨むようにして昼食を摂る男を見つめていた。


    マリー「はぁ……なんでこんな奴好きになったのかしら」


    ぼそりと愚痴めいた事を言う。
    しかし、男にはそれが聞こえていたようで……。


    エレン「……まぁ、もしフリーダが居なかったら、お前を選んでただろうな」


    マリー「………………へ?」


    間抜けな声が出てしまった。
    なぜなら、この男はそのような素振りを見せた事がなかったのだ。

    ただ、その言葉だけでも…嬉しかった。


    マリー「ふ、ふーん?ま、まぁ?あんたの事を1番に理解ってあげられるのはこの私だけだし?あ、あんたがどうしてもって言うなら?一生傍に居てあげない事も無いわよ?」


    エレン「ンな事しなくても、たまにこうやって駄弁ってくれるなら…それだけでいい」


    ふいっと、そっぽを向いてそう言ってきた様子は…まるで。


    マリー「もしかして…照れて「ない」……」


    一瞬…静寂な空間に包まれた。



    マリー「いや、絶対照れて─」
    エレン「はっ倒すぞ」


    マリー「いやーん♡もしかしてぇ、約束した子が居るのにマリーの事襲っちゃうんですかぁー?♡」
    エレン「死ね…っ!」


    かつては爛れたような関係だった彼ら2人が、あの出来事を経て……。


    マリー「やれるものならやってみなさい!その時は私があんたの事搾り取るんだから!」


    エレン「下らねぇ事言ってねぇで身体を退けろ…!飯が食えねぇだろうがっ!」


    こうして何も着飾らずに、本音で語り合えるような関係になった。
    ただ、それだけで私は嬉しいのです。

    しかし…マスターのハジメテを貰ってしまったのですが、謝れば許して貰えますかね?

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    エレンが意識を取り戻してから間もない頃。
    エルヴィンはある事について、彼に問うてみた。


    エレン「俺達の“敵”…ですか」


    エルヴィン「そうだ。君なら、何か知っているのではないかと思ってね」


    エレン「……俺にとっての王政とか…人類にとっての魔族の連中とか…“そういうモノ”じゃないって事ですよね?」


    エルヴィン「そうだ」


    エレン「……まぁ、今までは確証があるわけじゃ無いですけど。1ヶ月くらい前に起きたあの消失事件。あの時、薄れてく意識の中で……“ベルトルト”。あいつの姿を見た」


    エルヴィン「やはりそうか…。こちらの方でも少し調べていてね。あの場から、彼のモノと一致した魔力の残滓が残されていたんだ。ただ、私達はそれに確証が持てなくてね」


    エレン「……“失われた魔法(ロストマジック)”。聞いた事はありますか…?」


    エルヴィン「……!」


    驚いた表情のエルヴィン見ると、静かに過去の記憶をそのままに語る。


    エレン「数百年…いや、もしかしたらもっと前に消滅したとされる“失われた魔法”。今では魔術として聞き馴染みのある言葉として世間に広がってるコレは、元々“魔法”と呼ばれていたそうです」


    エレン「今俺たちが主に使用する元素力、炎、水、風、雷、氷、岩…この元素力を元に、俺達の身体を巡る魔力を媒体に放出する。それが、所謂“魔術”と呼ばれるもの」


    エレン「ただ、“失われた魔法”はそれに囚われない」


    エルヴィン「……囚われない?」


    ここで記憶が脳内に映像として蘇る。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    アニ「これを見せるのはアンタで4人目だね」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    エレン「本来、こうやって指先から炎を出したり…こうして何も無い空間に氷を造り出したりするのが魔術というもの。俺やリヴァイさんがやる様な雷を身に宿すコレは、長い月日の研鑽によってようやく初めて出来る事。それは、昔からリヴァイさんの事を知ってる貴方ならよく分かるはずです」


    口で説明しながら、実際にそれをやってのけるエレンはエルヴィンを一瞥する。


    エルヴィン「あぁ、アレは常人が簡単にこなせるモノではない」


    エレン「自分の元素力…例えば氷を操る奴が居たとして…。自分の意思で身に纏う事が出来る。それは魔術でも同じ事。ただ、“失われた魔法”はその元素力の質を意のままに変える事が出来る」


    エルヴィン「なんだと…?」


    エレン「例えば、氷をクリスタルの様に硬質化させたり…蒸発した水分を熱して地獄のような熱風に変えたり…全身に纏った岩を鉄のように硬くする事だって出来る。“失われた魔法”というのは、本来では有り得ないような事を簡単にやってのけるモノです」
  15. 15 : : 2022/11/29(火) 02:49:45
    エレン「俺も、本当にそんな物が存在していたのかと疑ってはいました。けど、実際にソレを使ってる奴を俺は見た事があります」



    ライナー「ここんとこずっと訓練漬けだが…クリスタ…いや、ヒストリアは助けなくていいのか?」


    ──ライナー・ブラウン


    ベルトルト「きっと先輩達に考えがあると思うんだ。それまでは、訓練を頑張ろう」


    ──ベルトルト・フーバー


    アニ「………シッ!」


    ──アニ・レオンハート



    エレン「……あの3人、いや。奴らが内側に潜むもう一つの悪意。貴方が知りたかった答えです」


    エルヴィン「そうか。君がソレを知ったのはいつか…聞いてもいいか?」


    エレン「昔、実戦演習の時に…」


    エルヴィン「分かった。この事は幹部間でのみ共有しよう。君の信頼と、彼女との取り引きを裏切るわけにはいかないからな」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    この本部にて宛てがわれた部屋へ戻ると、脚を組んで椅子に座りながらドーナツを食べるマリーと、正座で瞑想をする愛刀の姿。


    そして──。


    「あっ……お、お兄さんっ!お、おかえりなさいっ!」


    エレン「………な、なんで…ここに」


    マリー「あんたが夢でその子を見たっていうから、親御さんにお願いして連れて来たのよ。感謝してよね、あむっ」


    さも当然の様に言ってのけたマリーに言葉を失うエレンに、少女は…。


    「あ、あのねっ!わたし、前にお兄さんから沢山暖かいモノを貰ったから…そのお返しがしたくて…」


    まるで誤解を生みそうな言い方に強く言えるわけもなく、純粋な気持ちに何も言えなくなってしまう。


    マリー「は?あんたこんな小さな女の子にまで手を出したの?」


    ほら、こうやって真に受ける阿呆が突っかかるから…。


    「こ、今度は…わたしがお兄さんに…暖かいモノをあげたくて…その…」


    エレン「いや……えっと…」


    マリー「あんたこの子にナニしたのよ」


    お前は少し黙っててくれ……。


    純粋な気持ちを持つ子供というのは、恐ろしい程の無自覚さで相手を攻めるのだ。


    「こ、ここじゃ…はずかしいから、あっちのお部屋で…ね?」


    頬を赤く染めながら、弱い力でグイグイと引っ張る少女の前に…為す術なく連行されてしまった。



    マリー「お、恐ろしい子…」


    ポロりと手に持っていたドーナツが皿に落ちた音がやけに響いて聞こえた。
  16. 16 : : 2022/11/29(火) 03:20:48
    エレン「……………」


    「え、えへへ……お兄さんの体、暖かいね…」


    見る人が見ればあらぬ誤解をしてしまうこの体勢…


    「すん…すん、すん……。やっぱり、お兄さんの匂い…おちつく」


    顔を胸に埋めて小さな両腕で抱き締められて…果てには膝の上に乗られている。


    「わたしね、昔お兄さんがくれた大きくて黒いお洋服?貰ったでしょ?」


    ……ローブの事だろうか。確か、彼女は自分の匂いを「胸がポカポカして落ち着けるの」と言っていたものだから、彼女を思って差し上げた記憶がある。


    「たまに怖い夢を見る時にね、アレを被るとね…お兄さんに包まれてるみたいで、安心して眠れるの」


    エレン「……そ、そうか」


    「それからね?安心して眠れるようになったんだけど…たまに寂しくなって不安になる時はね?アレを被ってね、その…えっと……………」


    先程より増して顔が赤くなる彼女を見て…それとなく察してしまった自分を殺したくなった。


    「あの………えっと、お──」


    エレン「い、言わなくていい…っ!」


    「ふぇ…?で、でもね?お兄さんの事を考えながら、するとね…いつもより胸がポカポカしてきてね、不安じゃなくなるの。えへへ……は、恥ずかしいけど、お兄さんにして貰ったら、もっとポカポカするのかな?」


    ──どんな羞恥プレイだよ…。

    そう言いかけた口を無理矢理閉じて、彼女の恐ろしさを知る。

    これで無自覚…それでいて純粋に報告してくる辺り、人たらしの才能があると思ってしまう。


    エレン「そ、それより…ここ最近はどうなんだ?まだ、怖いとかあるのか?」


    「少しずつ、頑張ってるんだけどね…それでも、やっぱり怖い、かな」


    エレン「なのに、こんな所に来て…大丈夫なのか?」


    「ほ、ホントはね…?マリーさんと手を繋いで歩いてたんだけどね、わたしの事をじぃーって見てくる人達が怖くて苦しくなったの……」


    よし、後でソイツらシバく…。


    「でもね、マリーさんと…吹雪お姉ちゃんが大丈夫だよって言ってくれたから…」


    エレン「………」


    「そ、それにね?今からお兄さんに会えるって思ったら…安心出来たの。えへへ…」


    まだ精神が不安定だってのに……。


    「あっ………お兄さんに撫でられるの、好き」


    そうだ…。忘れるな。二度と、尊厳を壊されたこの子のような人達を生まないために、俺は国を根本から変える義務がある。

    この叛逆はその為だ…。
    必ず、この子が心から笑えるようになるその日まで、俺が守ってやる。


    「あっ……あの、お兄さん…」


    エレン「ん?」


    「あのね、わたしね…お兄さんみたいな、やさしい人になりたい」


    エレン「───!!!」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    グリシャ「ん?どうしたエレン?」


    エレン「あのさ!オレ、父さんみたいな強くてカッコいい魔導士になりたいんだ!だから!修行つけてくれ!」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    過去の自分が…重ねて見えたのは偶然なのか否か…。


    「あぅ……お、お兄さん、泣かないで?」


    エレン「…………ッ!」


    「あぇ?お兄さん?………ふふっ、苦しいよ…もう」


    エレン「必ずだ……必ず、君が笑って暮らせる平和を実現してみせる…!」


    「うん……頑張ってね、お兄さん!」





    マリー「連れてきて良かったわね、あの子」


    吹雪「うぅ…なんていい子なの…」


    マリー「なんであんたが泣いてるのよ……ったく。あんな子まで心を奪われるなんて…あんたのマスター、ちょっと人たらしがすぎるんじゃない?」


    吹雪「何を言ってるんですか!マスターは人たらしなんかじゃありませんっ!ちょっと不器用だけど優しくて、辛い時は話を聞いてくれたり寄り添ってくれる人思いのカッコいい人です!」


    マリー「そーゆーのを世間じゃ人たらしって言うのよ…」
  17. 17 : : 2022/11/29(火) 04:35:21
    あの後、彼女をおぶった事以外には何事もなく家に送り届けて「またな」と言って帰った。

    まぁ、寂しそうな顔をしてたのは言うまでもなかった。
    それと、彼女の純粋な気持ちのお返しと一緒に名前も教えて貰った。

    そういえば、あの子の名前を今に至るまで聞いた事がなかったのを思い出したからだ。


    「わたし、”サリア“って言います!」


    名を、サリアというらしい。
    俺も名を教えようかと聞いてみたんだが…。


    サリア「お兄さんの事は、その…少しずつ知っていきたいの。だから、わたしが教えて欲しいと思ったときがいいな…。だめ?」


    そういう事で、彼女の意思という事で教える事は無かった。
    帰った後は散々だった。


    「な、なぁ!アンタあの子とはどういう関係なんだ?良かったらあの子について──」


    エレン「…………黙れ、くたばれ。お前らみたいな変態にあの子は渡さねぇ」


    と、父性じみた事を言ってしまい、彼女の父親に申し訳なくなった。

    マリーは汚物を見るような目でソイツらを見ていたし、吹雪は殺意を持った眼差しで今にも斬り掛かりそうな勢いだったので刀の姿に戻してやった。

    キャンキャンと頭の中で騒いでくれやがったおかげで、こっちがくたばるところだった。


    マリー「それにしても、あの子想像より大胆なのね」


    エレン「………何の話だ」


    マリー「だって、あの体勢は完全に対面ざ──」


    エレン「てめぇいつまでココに居座る気だ。さっさと帰れ」


    マリー「帰れって……私の事抱いてくれるんじゃないの?」


    エレン「………何言ってんだ」


    コイツ…こんなキャラだったか?
    いや、色々吹っ切れてこうなったのか?


    マリー「まぁ、いいじゃない別に。ほらほら、あんたの刀は寝てるんだし。同じベッドで、ギシギシと音を出しながらハメるわよ」


    エレン「……………(イラッ)」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    翌日…。


    イザベル「ん?お!おはよ……ってお前その顔どうしたんだ!?」


    エレン「少し、色々あって寝不足気味で…」


    ファーラン「なら、まだ休んだ方がいいぞ」


    エレン「でも……」


    リヴァイ「しっかり休め。今のお前には休息が必要だ。いいか、これは命令だ」


    エレン「………はい」


    呆気なく寮部屋に戻されたエレンは、キッチンに立つ愛刀を素通りし、寝室へと入る。



    エレン「………まだ寝てやがんのか、淫乱娘」


    マリー「………うっさいわね。あんたのせいで腰は痛いわ眠いわで動けないのよ」


    エレン「煽ってきたのはお前だろ」


    マリー「だからってねぇ…。限度ってもんがあるでしょ……」


    先日のように口撃をする余裕は無さそうで、昨夜の反動で気だるげに布団に包まる彼女はジトーっと、覇気の無い男を見やる。


    エレン「………無自覚ってやつか」
    マリー「聞こえてるわよ」


    ハッキリと包み隠さずに言ってしまえば、昨夜、彼女の煽りにイラついた彼は一晩中抱き潰したのだ。

    故に、布団を剥ぎ取ってやればそこには何も身に着けていない彼女の裸体があるのは必然だった。


    マリー「まぁ、でも………あんなの知っちゃったら、他の男じゃ満足出来ないわね。どうしてくれるわけ?」


    エレン「”あの時“お前がどんな事を思ってたかなんてお見通しだバカヤロウ。お前の事なんて絶対に逃がさねぇし忘れもさせねぇ」


    マリー「そ、そう………。でもあんた、そういう事はあの女に言ってやった方がいいんじゃないの?」


    エレン「何度も言わせるな。お前は俺の唯一無二の理解者だ。そんな奴を他の男にくれてやるくらいなら、何をするにしても俺がチラつくようにしてやる。お前が俺にしでかした事を忘れさせない為にもな」


    それは呪いにも似た言葉だ。
    この先、彼女が彼以外の人と歩く事になったとしても、必ず彼女は彼の事を脳裏に描いてしまう。

    これは彼なりの…。
    彼女の抱える罪悪感を利用した、彼女へ与えた罰である。
  18. 18 : : 2022/11/29(火) 05:58:26
    エレン「分かったらさっさと詰めろ。寝れねぇ」


    マリー「あんたに貸す布団は無いわよ」


    エレン「うるせぇ。良いから寝かせてくれ」


    マリー「ひゃっ…!ちょっと、いきなり抱き着くのは…って、気絶したように寝ちゃって…」



    本当に狡い男だ…。
    突き放すように刺々しい言葉を吐いておきながら、私の心を見透かして…どうやっても離れられないように仕向けている。

    まるで奴隷を調教する主人ね…。
    でも、そんな悪いところに…どうしようもなくドキドキして…惚れてしまったのだから。


    マリー「あーあ…ホンットに…」


    ───フリーダ・レイス。あんたの事が羨ましい。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    比較的平和な日常であっても、終わりを迎えてしまう。

    エルヴィンを筆頭にして、リヴァイ、ハンジ、ミケ、そしてイザベルとファーラン。

    更には、エレン、マリーといった面子が1つの部屋に集まっていた。


    エルヴィン「ようやく、準備が整った。我々は、明日を以て王政に反撃を開始する。よって、本日はその為の最終確認だ」


    エルヴィン「まず、このクーデターにおいて最も注視すべき事。”ケニー・アッカーマン“の存在だ」


    リヴァイ「……チッ」


    エレン「……………」


    見るからにイラついた様子のリヴァイと、殺気立っているのか、エレンの身体の節々にはバチバチと雷が弾けていた。


    エルヴィン「彼については、リヴァイ。お前に任せる」


    リヴァイ「あぁ……。アイツには聞かなきゃならねぇ事が山ほどある」


    イザベル「ソイツの取り巻きは俺達に任せてくれ!アニキ!」


    ファーラン「ガキの頃の因縁、ケリつけて来いよ」


    エルヴィン「そして、王家を護衛を主に動いている中央憲兵だが。ミケ、ハンジ、お前達を中心に迎撃を行ってくれ」


    ミケ「あぁ、分かった」
    ハンジ「了解!」


    エルヴィン「そして、今回の最終目標であ。フリーダ・レイスとヒストリア・レイスの救出には、君達2人で隠密に行ってくれ。いいな?」


    エレン「はい……アイツらを助け出した後は」


    エルヴィン「ロッド・レイス。本来彼女達姉妹に任せるのが通りだが……エレンの判断に任せよう。ただし、フリーダ・レイス。特に彼女の意見はなるべくは尊重して欲しい」


    エレン「分かり……ました」


    その震えた握り拳を見れば分かる。
    あんたが今どんな思いでそれを聞いたのか。
    でも、その炎はその時まで取っておきなさい。
    その思いは、私が無駄にはしないから。
  19. 19 : : 2022/11/29(火) 06:24:15
    エルヴィン「皆、これまでに至るまでよく厳しい日々を耐え抜いてくれた。だが、ようやく準備が整った。我々はこれより、王政に…いや、国王ロッド・レイスにクーデターを仕掛ける!」



    アルミン「……本当に、始まってしまうんだね」


    ミカサ「………アルミン」



    エルヴィン「その前に、彼を紹介しよう。皆も知っているだろう。エレン・イェーガーだ」


    エレン「……………」



    突然のエレンの登場は、彼の同期全員を誘うものだった。


    アルミン「どうして、エレンがここに…」




    エレン「よう、あの時以来だな。まぁ、ンな事はどうでもいい」


    彼は静かに目蓋を閉じる。
    やがて、声を張り上げると同じくして、その瞳は紅く染められていた。


    エレン「この王政に対する叛乱は、あくまでも俺一人が掲げるモノだ。別にアンタ達に協力を申し出るわけじゃない。ただ、アンタ達も知ってるはずだ」


    エレン「俺達が今こうしてる現在、何の罪も無い国民達は“国の病”に蝕まれている。俺はあの時、過去の記憶を口にした事を忘れちゃいない。この眼に腐るような…吐き気がする程の国の病。この国が孕む闇を何度も焼き付けてきた」


    エレン「家族の為に苦し紛れに働く者、子供の世話をしながら帰ってくる人の為に家を守る者、俺達魔導士を憧れて護りたい人の為に強くなろうとしてる子供、そして……血に塗れ、穢れたこの俺を、純粋に想ってくれる子供でさえもが、闇に蝕まれた」



    アルミン「…………」



    エレン「アンタ達の中にも必ず居るはずだ。そういう人が、子供が…。けど、この国を蝕む病を根本から消し去らないうちは、必ずお前らの護りたい奴らは…」


    ──王政と、それに付き従う醜い豚共に必ず蝕まれる。



    「そ、それだけは…ダメだ…」


    「俺は決めたんだ、必ずあいつを幸せにするって…」


    彼の言葉を受けた一人一人が、呟くように闘志を抱いていく。


    エレン「アンタ達一人一人、必ずそういう奴は居るんだ。だったら、そういう人達を、護ってやるのが俺達魔導士の仕事だ。だが、アイツらはどうだ!」


    平気で人の尊厳を弄び、その上何事も無かったかのように上から俺達を見下してやがる。


    エレン「アイツらが存在する限り、アイツらの悪意が存在する限り、この国に平和は訪れない。だったら、何をすべきか……。もう何も言わなくても分かるだろ」


    そうしてエレンはその場を去る。
    彼らの燻る闘志の炎に油を注ぐように…。


    ウオオオオオオオオオオオーッ!!!!!


    マリー「似合ってたわよ。鼻で笑えるくらいにはね」


    茶化すように彼を出迎える彼女は妖しげに嗤う。


    エレン「うるせぇ。さっさと行くぞ…俺達の悲願は間も無く成就する」


    所々に焼け焦げたような痕があるボロボロのロングコートを翻し、彼は理解ある戦友を侍らせて歩を進める。

    全ては己と彼女の悲願の為。そして………。



    フリーダ「………っ?エレン?」


    幼い頃より、自身を待ち続ける他ならぬ彼女の為に。
  20. 20 : : 2022/11/29(火) 07:28:47
    戦いの火蓋は切って落とされた。

    これより始まるは…命の奪い合い。

    ある時誰かがこう言った。


    「戦争なんて……始めた時点で、どっちも悪だよ」


    この世は弱肉強食、残酷な世界。
    戦わなければ勝てないし、綺麗事を並べたところで何の意味も無い。
    そんな世界…。

    誰かを助ける事は、誰かの命を奪う事。
    この世界の仕組みを理解した時、人は誰よりも強くなれる。

    そう教授してくれたのは親父だったか、それとも母さんだったか…。

    だから俺は、そんな物なのかと…。
    何もかもを失ったあの日、世界のシステムを理解した。

    もしかしたら、そう遠くないうちに死ぬ事が分かってたから、そんな事を言っていたのかもしれない。

    ・・・・・・・・・・。

    最初は、その感覚に恐怖を感じた。
    人を斬るってのが、如何に簡単なものなのか。

    闇に蝕まれた人を助ける為に、初めて幾つもの悪意を斬ったあの日。

    日に日に、その感覚に慣れていくような自分自身。

    そして………。


    「や、やめてくれっ!ま、まだしにたく──」


    人を斬る事にさえ……躊躇いがなくなった、あの日。


    エレン「…………」


    「ひ、ひぃぃいッ──」


    一人、もう一人、また一人、更に一人。

    頭のてっぺんから、足の先まで人を斬った事による血飛沫を浴び続け、醜い人間の血に塗れ、穢れきったその身体に、もう自分の意識は介在していなかった。


    ただ……悪意に蝕まれてしまった、未だ幼い少女。
    彼女を助ける為に動き続けるただの殺戮人形。

    あの日の俺はそうだった…。


    「お、にぃ…さん……?」


    消え入るような…それでも透き通る様に綺麗な声を聞くまでは……。

    ・・・・・・・・・・。

    ガタガタと震える小さな身体、何か(血塗れの俺)に怯えている様な蒼白の表情。
    それでも、目の前の穢れきったこの身体を…震える両腕で縋り付き………。


    「こ、わ……かったよ…っ!」


    恐怖と安堵が入り交じった表情で涙を流す少女を前に、頭を撫でて「もう大丈夫だ」と慰める事も、空いた左手で抱き留める事も出来なかった……。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    「むっ?おい、そこは立ち入りき──」


    エレン「…………赦せ。だが、平和の為に死んでくれ」


    マリー「さっきから、簡単に惨い事やってのけるわね。何か昔の事思い出しでもしたのかしら?」


    エレン「……別に。少し、肩に力が入ってるかもしんねぇ」


    マリー「ふーん。ま、そういう事にしといてあげる。ほら、さっさと行くわよ。あんたの“彼女”、迎えに行くんでしょ」


    エレン「……そうだな。無駄な事してる時間はねぇ」


    次会った時は、精一杯抱き留めて…「もう大丈夫だ」って慰められる様になれればいいな。
  21. 21 : : 2022/11/29(火) 08:55:04
    最初の印象は、“ちょっぴりイケナイ雰囲気のカッコいい男の人”

    黒いフードの奥からわたしを見るお月様みたいなキレイな眼に、思わずほうっ…と魅入ってしまったのは今でもハッキリと思い出せる。


    “あの人”は少し特別なお家の人らしい。
    隣に居た、白い雪みたいにキレイな女の人は“あの人”のメイドさんみたいな人だと聞いた時は、どうしてか分からないけど、安心?したような気持ちになった。


    そうして、ちょっとずつ“あの人”の事を知っていくと…。
    “不器用でやさしいけど、でもやっぱりイケナイ雰囲気がある。一緒に居るとドキドキする人”
    そんな印象を持ち始めた。


    この“ドキドキ”がどういう事なのか、お母さんに聞いてみたら。


    「そうね。私がお父さんに感じてたのと同じモノ。あなたはその人に“恋”をしてるのよ」


    って、教えてくれた。
    えっと…お母さんが、お父さんにドキドキした時と同じってこと、なのかな?

    だから…私は、あの日。
    これがお母さんが言ってた“恋”なんだって理解出来た。

    ・・・・・・・・・・。

    いきなり知らない人に襲われて、怖くて思うように声が出なくて、“あの人”に「助けて」って言えなかった。

    ガラガラとどこに向かってるかも分からない馬車に揺られながら、必死に“あの人”が助けてくれるように、怖いおじさんにバレないように、“あの人”に渡すはずだったキレイな赤いバラの花びらを落としていった。

    音が止まったと同時に、また怖いおじさんにわたしの体を乱暴に抱えられて、誰のかも分からない大きなお家に連れていかれた。


    不安と怖さでいっぱいの中、ドサッと固い床に投げられた。

    床にぶつかったひざが痛くて声をあげて泣いていた時、遠くのドアが開いた音がした。


    もしかしたら、“あの人”が助けに来てくれたのかもしれない。そう思って、音が鳴ったところを見たら……。


    「ご苦労だったな。お前達は早々に出ていきたまえ」


    「………さて。さぁお嬢ちゃん、怖がらなくていいんだよ。これからこの私が、たくさん気持ちイイ事をしてあげるからね」


    ・・・・・・・・。

    それからというもの、何時間も…体をイジメられた。


    “あの人”が似合ってるって褒めてくれたお洋服をぐちゃぐちゃにされて、大声を上げながら泣くわたしの脚を掴まれて、誰にも見せたことがない大事なところを見られて……。


    「やはり生娘の身体は良い!」


    おじさんの汚いアレに…わたしの心はぐちゃぐちゃに壊された。


    自分勝手で、相手の事なんて考えない、そんなただ痛いだけの動き。

    何回も、臭くて汚い白いモノを中に出されたり、身体にかけられた……。

    もう、“あの人”は来てくれない。
    あの時のわたしはそう思い込んでた。


    「…………………」


    「お、にい……さん…?」


    見た事も無い色の“お兄さん”をみるまでは。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    サリア「んっ…おにぃさんっ、そこ……っ!」


    昔お兄さんがくれた大事なもののはずだった、この黒い羽織もの。

    これには今でも大好きな人の匂いが残ってる。
    お兄さんに会えなくて寂しい時は、いつもこの匂いに包まれて、こうやって、自分の手で大事なところに触れる。


    「あっ、おにいさんっ…も、っと…さわってぇっ」


    そうすれば…お兄さんがしてくれてるように感じて、あんなのよりも全然気持ちよくなれる。


    「クるっ、またっ…なんかキちゃっ!──ッ!!」


    「はぁっ、はぁっ、はぁっ………。今度はいつ、会えるかな…」


    あの人の印象は
    “不器用でやさしくて、ちょっと怖いけど…たまに見せるあのイケナイ雰囲気がわたしをドキドキさせる。そんなカッコいいわたしの王子様”


    「あっ……またっ汚しちゃった…キレイにしなきゃ」


    今度会えた時は、たくさんぎゅーってしたいな。
  22. 22 : : 2022/11/29(火) 10:09:55
    マリー「私ね、あんたのそういう表情が好きよ」


    エレン「そういう……?」


    マリー「そ。躊躇いもなく人を斬った後の、無感情なその表情がね。私にとってはかなりの麻薬なの。あんたが見せる表情一つで、私はこいつに服従せざるを得ないんだって思えるの」


    エレン「それだけ聞くと、ただのドMな変態だな」


    マリー「なんとでも言いなさい。って、誰がドMよ、誰が…!」


    「おい!お前たち!なにをして──」


    最後まで聞かずに、そうやって躊躇いなく人を斬る時の………。


    エレン「…………」


    雲に隠された金色の月のような濁ったその瞳が……どうしようも無く私を狂わせる。
    私にはあんたしか居ないって、そう支配される。

    あんたには、あんたのその月を模したその瞳は…。

    ──人を無自覚に、無意識に支配するカリスマ性が潜んでいる。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    強烈な乱気流のような風、無規則に暴れるそれを起こせるのは、目の前にいる奴しか居ない。


    ケニー「よぉ、リヴァイ。まさかおめぇら魔導士が総出で攻めてくるとはな」


    リヴァイ「ケニー。余計な世間話は要らねぇ。アンタには聞きたい事が山ほどある」


    ケニー「ほぉ?おめぇがどうしてもってんなら教えてやるぜ?俺に勝ったらの話だがよ」


    俺がリヴァイに会ったのは、妹のクシェルの見舞いに行った時だ。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    時々、たまに、クシェルの様子を見に行く為に…地下街なんてゴミ溜めに足を運んで、扉を開けりゃ、死んだように眠る妹の痩せこけた姿と、死にかけのガキがいた。


    ケニー「おい、クシェル?」


    「…死んでる」


    ケニー「あん…?」


    一目見て、このガキがクシェルの忘れ形見だと気付いた。


    ケニー「おいおい…勘弁してくれよ」


    俺は項垂れるようにへたり込み、正面のガキに名前を聞いた。


    ケニー「おい、名前は」


    「リヴァイ……ただの、リヴァイ」


    ケニー「そうか。俺はケニー、ただのケニーだ。クシェルとは知り合いだった」


    そして、まずは死にかけのガキに腹一杯飯を食わせた。
    ガキとはいえ、クシェルの忘れ形見だ。
    目の前で死なれちゃ目覚めが悪いからな。

    それから、この世界で生き残る為の処世術を教えてやった。

    近所付き合い…力の付け方、そして……。


    リヴァイ「………」


    ナイフの振り方。


    どうやらコイツは飲み込みが早いらしく、教えた事は直ぐに出来るようになった。


    リヴァイ「分かったかこの豚野郎ッ!二度と俺に触るんじゃねぇぞっ!」


    だから、ここが潮時。そう思った俺は、何も言わずに地下街から去った。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    ケニー「吹き飛べっ!」


    リヴァイ「ぐっ…!!」


    俺は人の親になれるほど出来た人間じゃねぇ。
    それに、コイツにはコイツなりのやりたい事が見つかったんだ。


    ケニー「ごほっ!!?」


    リヴァイ「ハァァァアッ!!」


    もう、俺が居なくたって、やっていける。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    エレン「お前が……」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    グリシャ、アンタのガキはアンタの予想以上に成長してやがった。

    方向性こそ間違っちゃいたが…愉しみ甲斐のあるガキだぜありゃ。

    俺はアンタを師事しちゃいたが、どうやら俺は真っ当な弟子にも慣れやしなかったらしい。


    ケニー「はぁっはぁっはあっ……。いてて…容赦ねぇな…おめぇは」


    いつものお巫山戯のように聞こえたのか、リヴァイはケニーの肩を掴んで問い詰めた。


    リヴァイ「応えろケニー!何故王政は予言を恐れる!王家の本当の目的は何だ!?」


    ケニー「ハッ…知らねぇよっ…」


    とても、嘘を言っているようには見えなかった。
    僅かな静寂の中、リヴァイは聞きたかった事をケニーに問い掛けた。


    リヴァイ「俺の性も…“アッカーマン”らしいな。アンタいったい………母さんの何だ」


    ケニー「ごほっ!ハァッハァッ…ハハッ、“ただの、兄貴だ”」


    リヴァイ「─────」


    瀕死のケニーから語られた、母との関係。
    それは、本人にとって知られざる衝撃の真実だった。
  23. 23 : : 2022/11/29(火) 11:08:26
    その日。

    大きな生命の光が、潰えた。


    リヴァイ「…………」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    ケニー「コイツは、ロッドの懐から一つくすねてきた……。どうやら、コイツを使えば“失われた魔法”とやらを使えるらしい…」


    リヴァイ「何で……」


    ケニー「俺にはもう…必要ねぇからな…ごほっ!はぁっ、はぁっ」


    リヴァイ「何で…………あの時、俺から去って行った…?」


    それは、どのような感情を以ての事なのか。図り知る事は出来ない。
    ただ、ケニーはそれに対して、嘲笑の如く嗤ってみせた。


    ケニー「おれぁ……ひとのおやには、なれねぇよ…」


    リヴァイ「…………………ケニー…?」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    最後の最後に、ケニーは手にしていた一つの巻物をリヴァイに明け渡し、息絶えた。


    リヴァイ「そうか…。アンタはずっと、探してたんだな」


    ──アッカーマンを、アンタの妹を地下に追いやった奴らに復讐してくれる誰かを……。


    リヴァイ「アンタが…アイツの親を殺したのも…」


    全ては大事な妹の無念を晴らす為…。


    リヴァイ「アンタの願いはアイツが背負う。なら、俺はアイツを…エレンを」


    ケニーが遺した力を見事に自分の力にしたリヴァイ、身体を…黒い雷が走っている。


    巻物に描かれていた“失われた魔法”、それは。


    “魔、それに連なる神を滅する力”


    誰が言ったか、その名を“滅神魔法”という。


    ケニーの意思は、“神をも殺す力”としてリヴァイに受け継がれた。


    リヴァイ「…………」


    後に、リヴァイは人類最強の“雷の滅神魔導士”として…その名を轟かせる事となる。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    エルヴィン「……リヴァイが成し遂げた。しかし、まだ王手には一手足りない…か」


    エルヴィン「しかし…何だ。この妙な悪寒は」


    キレイにコマが並べたれた盤上を見ながら、エルヴィンは険しい表情をしていた。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    ミケ「む?兵達が…退いている?」


    ハンジ「いったいどうして……。みんな!深追いはダメだ!敵の罠かもしれない!」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    リヴァイ「……おい、これは何の騒ぎだ」


    イザベル「アイツら、急に退いてったんだ…。何なんだよ」


    リヴァイ「チッ!」


    ファーラン「あっ、おいリヴァイ!どこ行くんだ!」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    マリー「どういう事よ…どこにも居ないじゃない」


    エレン「あまり俺達は遅くは無かったはずだ。だとしても…何が起きてやがる」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    ロッド「今頃、奴らは地下牢にて疑問を抱いている頃合いだろう。お前が居なくなっていることにな」


    フリーダ「お父さん!ヒストリアを解放して!傷付くのは私だけでいいッ!!」


    ヒストリア「お姉ちゃん………」


    ロッド「何ということは無い。少し私の余興に付き合って貰うだけだ」
  24. 24 : : 2022/11/29(火) 22:49:34

    ー王都ミットラス 王宮ー


    ロッド「……自ら来たか」


    エレン「……ロッド・レイス」


    ロッド「何故ここが分かった…とは、聞くだけ無駄か?」


    エレン「そうだな。地下牢にアイツが居なかったのも、俺がココに居るのも…。全てはアンタの思うがままだ」


    ロッド「そう殺気を立てるな。娘が泣いてしまうだろう?」


    エレン「…………」




    フリーダ「ンーッ!!!ンー!」


    口元を封じられ、両手を重苦しい鎖で繋がれ、これから処刑してもされるのかといった様子の拘束された彼女の姿が、そこにはあった。



    ロッド「どうだ、一つ取り引きをしないかね?」


    涙を流し、こちらへ何かを訴える様に声を荒らげている彼女を見上げ、嗤うように持ち掛けた。


    ロッド「お前の望み通り、フリーダとヒストリアを解放しよう。その代わり、その眼を渡すんだ」


    エレン「…………断ると言ったら?」


    ただ、静かに答えた。
    相手がどんな言葉を紡ぐのかを、分かっていながら


    ロッド「そうだな。代わりに……“サリア”と言ったか?彼の娘を贄としよう」


    エレン「───ッ!?」


    ロッド「ハハハハハッ!!!良い表情だ!予想を裏切られ、憎しみの焔を滾らせている!」


    畳み掛けるようにロッドは精神的攻撃を仕掛ける。


    ロッド「さぁどうする!フリーダの命か小娘の命か!選べぬだろうな!私は知っているぞ!」


    ロッド「“誰かを助ける事は、誰かの命を奪う事”だと理解しておきながらも、心の奥底ではその剣が届く範囲を助けたいと思っているのだろう?」


    エレン「…………れ」


    ロッド「下らぬ心情だな。現に、お前は…あの娘を助ける事は出来たか?」


    エレン「………だまれ」


    ロッド「さぁ、思い出してみろ。あの時、あの娘はどうなっていた?」


    エレン「──ッ!!黙れッ!!」


    甲高い金属音と共に火花が散った。
    やはり、目視する事が出来ない謎の壁に阻まれ、刃は通らない。


    ロッド「怒りと憎悪に蝕まれ、思考が正常では無いようだな?だが、本来の姿はそれそのモノであろう?」


    エレン「うるせぇッ!」


    何度も、何度も…その刃を振り翳すが…届かない。
    余裕綽々と嘲笑する憎きこの男には、その刃で斬る事が叶わない。


    ロッド「この国を病で蝕んでいるのは私ではない。お前だ、エレン・イェーガー」


    エレン「違うっ!!!俺はっ──」


    ロッド「ならば、何故あの娘の心は崩壊した?」


    エレン「───────。」


    動きが止まる…。
    動け、こんな見え透いた挑発に乗るな。

    だが……。


    ロッド「どうして、彼女はあの様な不幸に見舞われた?」


    エレン「………………」


    ロッド「全ては、貴様が彼女に“関わったから”…では無いのか?」


    その時──。

    ロッド・レイスの腕が…彼の身体を貫いた。


    フリーダ「ンンンーーーーーーッ!!!!!」
  25. 25 : : 2022/11/29(火) 23:41:18
    目が覚めると、そこには見覚えのある部屋の天井があった。


    エレン「………ここは、誰の部屋だ?」


    ──誰?覚えてるはずだ。ここは彼女の、____の部屋だろう?


    「あ、お兄さん!起きた?急に倒れちゃうから、心配したんだよ?」


    エレン「え…どうして、ここに…」


    「どうしてって……ここは私とお兄さんのお家だよ?忘れちゃったの?…そんなになっちゃうまでお疲れだったんだね」


    ──俺と彼女の家?そんな筈は無い、俺は今の今まで戦っていたじゃないか。


    エレン「そう…かもしれない。ごめんな、変な事言って」


    「もう…ホントに心配したんだよ?一緒にお買い物してたら、いきなり倒れちゃって…。わたし、すごく不安だったんだよ?」


    ──買い物…?今の彼女はそんな事が出来るほどの精神が回復してないはず。記憶違い…か?


    エレン「お詫びになんだが…今日はしたい事があったらなんでも言ってくれ」


    「なん、でも?その……あの、え…えっちなこと、でも?」


    エレン「なんでも良いって言ったろ?お前が望むならそれでもいいぞ」


    ──何言ってるんだ。俺とこの子はそういう事をしていい関係じゃないだろう?


    「ほ、ほんと?じ…じゃあ……ちゅー、したいな」


    エレン「うん。ほら、おいで」


    ──あぁ…。彼女が笑っていて、幸せなら…それで。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    「あっ…おにい、さんのが……おくっ、あたってぇっ!」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    「んぅっ!おく、ずんずんって…しちゃ、だめらよ…」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    「おにいさんのっ、ふくらんでるの…わかるよっ?んっ、あ……いいよ、このまま…いっしょにきもちよく、なろ?」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    「ちゅー、しながらがいいな。んっ…!んっ、ずっと!ずっと…いっひょにいようねっ。あっ…い、くぅ!」


    「────ッ!!!あついのっ、でてるっ!」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    「はぁっ、はぁっ、はぁっ……んっ、えへへ…」


    「おにいさんの…おっきくて、かたくて…おく、いっぱいツンツンされて……すごくきもちよかったっ。えへへ」


    「……あっ。おにいさんの、まだかたいね。……えへへ、うん。もっと、もっと…なにもかんがえられないくらい、いっしょにきもちよくなろ?」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    そうだ……。

    この子が普通に笑って幸せになれるように頑張るって約束したんだから。

    もう、頑張らなくてもいいよな?

    だって………。


    「えへへっ!お兄さん、大好きだよっ!これからもずーっと!一緒だよっ!!」


    こんなにも、笑って、幸せそうにしてるじゃないか。
  26. 26 : : 2022/11/30(水) 00:26:52
    リヴァイ「はぁ、はぁはぁ、エレ──!?」


    マリー「なっ…!!」



    ロッド「ん?」


    腹に腕一本分の風穴を空けられ、力無く横たわりドクドクと血を流すエレン・イェーガー。

    ソレを引き抜いて投げ捨てるように振り払われると、瞳から光を失い、目を開いたまま動かない彼の無惨な姿がそこにはあった。


    マリー「エレンッ!!!ちょっとっ!!しっかりしなさいよあんたっ!!!」


    リヴァイ「テメェ…これが一国の王がやる事かよ」


    ロッド「少し遅かったようだな。愚か者共よ」


    ロッド「もう、ソレは生きてはいまい。“死”あるのみだ」


    マリー「ふざけんじゃないわよっ!!何勝手にやられてんのよ!!あんたにはやらなきゃいけない事がまだまだ残ってるじゃないっ!!」


    エレン「───────」



    大きく身体を揺さぶられ、怒鳴りつけられようが、返事は返ってこない。
    彼は、本当に帰らぬ人となってしまったのだろうか。


    ロッド「そろそろ喋らせても良いか。どうしたフリーダ、彼は命を賭してお前を守ったんだぞ。感謝の1つくらいは無いのか?」


    フリーダ「………………………」


    ロッド「ふん。あの様な小僧に縋るなどするからこうなるのだ。少しは王家としての自覚を持ちなさい。お前は由緒正しき血統のある者と添い遂げる義務があるのだ。あの様な血塗れた過去を持つ者に嫁ぐ事はこの私が認めない」


    「………ホント、どうしようも無く最低最悪のクソ野郎だね。お父さん」


    ロッド「ん?」


    初めて、この親を前に毒を吐き捨てた。


    ヒストリア「……そうやって何でも自分の思い通りになると思ったら間違いだよ。叔父さんに言われなかったの?」


    ロッド「ヒストリア、今私に何と言った?この私を侮辱したか?」


    ヒストリア「何度でも言ってあげる。“最低最悪のクソ野郎”だってね」


    ウンディーネ「アナタのお兄さんが見たら酷く怒るでしょうね」


    “水の妖精、ウンディーネ”
    かつてはロッドの兄と契約を結んでいたが、「いずれロッドの危険性が垣間見える時があるかもしれない」
    そう言って、姪であるヒストリアへその契約を譲渡した。


    ロッド「な、何故貴様が!」


    ウンディーネ「まぁ、そんな事はどうでもいいじゃない。そうだ、ねぇ」


    ──全身を水に浸らせるのはお好き?


    ロッド「な、何だっ!?やめっ──」


    ウンディーネ「暫くそこで大人しくしてなさい」


    ウンディーネの力は穏やかな川水から荒れ狂う海の波まで、水であればどんな規模であれいとも容易く操る力を持っている。


    今、ロッドの身体を包み込む球体のように対象を荒波の渦に閉じ込める事だって可能なのだ。


    ウンディーネ「……それで?アナタのいう“エレン”ってのはどれ?まさか、そこで倒れてるのがそうなの?」


    ヒストリア「言わないと分からないの?ほら、早く始めるよ。急がないと本当に死んじゃうから」


    マリー「何をするつもり?というかあんた誰?」


    ヒストリア「私はヒストリア・レイス。貴女と同じ類の人間だよ」
  27. 27 : : 2022/11/30(水) 00:58:39
    ウンディーネ「人間の身体と魔力っていうのは関係が直結してるの。身体に傷が付けばその分魔力にも傷が付く。例え傷が塞がったとしても、魔力は摩耗していくの」


    ウンディーネ「だからっ──よいしょっ!」


    ドボンッ!!!という音と共に、彼の身体は水で形成された筐体に投げられた。


    ん?投げられた?


    マリー「ちょっと!追い討ちかけてどうすんのよ!」


    ウンディーネ「だぁかぁら、これが必要な事なの。さっきも言ったでしょ?人間の身体が傷付けば傷付くだけ、魔力もそれだけ傷んじゃうの。だから、この水で1回全ての魔力を全部抜き取ってるの」


    マリー「あんたさっき“人間の身体は魔力と直結してる”って言わなかった!?魔力全部抜き取ったら今度こそ死んじゃうわよっ!?」


    ウンディーネ「そして、全部抜き取ったら、今度はこっちに放り投げる」


    マリー「さては人の話聞いてないわね!?もうこの際いいわよ!今度は何してるわけ?」


    ウンディーネ「さっき傷んだ魔力を全部抜き取ったでしょ?だから、それと逆の事。真新しい魔力を注ぎ込んでるのよ。オーケー?」


    本当にそんなんで治るわけ?イマイチ信じられないんだけど……。


    ・・・・・・・・。

    マリー「なんで傷が塞がってるのよ……ただ水に投げただけじゃない」


    綺麗さっぱり腹に空けられた風穴が無くなっていたし、何なら傷痕も全て消えてた。

    やっぱり人外の力は伊達じゃないわね…。


    ヒストリア「よし、これならお姉ちゃんもきっと。元気に……」



    フリーダ「…………えれんはしんでない、だって…絶対にむかえにくるってゆびきりしたんだから…」



    マリー「……なによあれ」


    ヒストリア「目の前でお腹を貫かれたところを見ちゃったから本当に死んじゃったと思い込んでるみたい。ちょっと殴って元気にさせてくるね」


    マリー「さっきまでシリアスな空気だったのにこんなギャグ出すんじゃないわよ…風邪引きそう」


    リヴァイ「寒いならアイツが起きたら暖を取ればいい。コイツの炎は熱いぞ」


    マリー「火が熱いなんて事誰でも知ってるわよっ!あんたそんなキャラじゃ無いでしょ!?」
  28. 28 : : 2022/11/30(水) 01:43:30
    ゆっくり、姉を拘束する金具を外していく妹。


    ヒストリア「ねぇ、お姉ちゃん。いい加減自分の事を下に見るのをやめた方がいいと思うの」


    落ち着いているようで、少し怒っているようにも感じ取れるその表情にフリーダは呆けてしまう。


    フリーダ「そ、そんな事言ったって……全部、ホントの事……」


    ヒストリア「いつまでも、自分の気持ちを殺して…ただお父さんの言う事を聞いて、楽しくもない人生を送るの?そんなの間違ってると思う」


    フリーダ「………」


    ヒストリアは静かに姉の手を握ると、これまでの記憶を辿る。


    ヒストリア「私、お姉ちゃんみたいに綺麗じゃないし、あの絵本の女の子みたいな優しいわけじゃない。でもね……」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    エレン「別に変に取り繕う必要は無いんじゃねぇのか?そういうの疲れるだろ?」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    ヒストリア「エレンは、こんな私でも、何も無い私でも、それでいいって…。人の顔色窺って自分を殺すよりも、ありのままの私を認めてくれたの」


    ヒストリア「だからお姉ちゃん。そろそろ、自分の大事な気持ちを殺すのは…もうやめよ?せっかくエレンが来てくれたのに、そうやってウジウジしてたら他の子に取られちゃうよ?」


    フリーダ「……ヒス、トリアッ……!」


    ヒストリア「泣くのは全てが終わってからにしようよ。ほら、早く立って。あの寝坊助なエレンを殴ってでも叩き起すの」


    フリーダ「そうねっ……いつまでも私を待たせて、それでいて忘れてたなんて…酷いよね」


    そろそろ、この戦いも終わると思ったその時。


    「お、のれぇっ!許さんっ!許さんぞッ!」


    自身を包む水球を破裂させ、息を切らし、憤怒するのは彼女たち姉妹の父親であるロッド・レイスだ。


    ロッド「フリィーダァ!!何故私の言う事が理解出来ないっ!?」


    フリーダ「お父さん……」


    ロッド「私はお前の父親だ!お前を正しい未来へと導く義務があるのだ!なのに…どうして私の言葉を跳ね除ける!?」


    フリーダ「確かに…私だって、昔はそう思ってた。お父さんの言う通りにしてればいいと思ってた。でも、それは違ってた」


    ──お前の人生はお前のもんだろ。親父だろうが誰だろうが、他の誰かが決め付けていいもんじゃねぇんだ。全部、自分で決めるもんなんだよ。


    フリーダ「私の人生は私のモノ!いくらお父さんでも、勝手に決め付けないで!これから私が、私がこの国を光ある未来へと導く!!」


    ロッド「ふざけるなっ!!お前のような小娘に何が出来るというのだ!!いいか!?全ては力だ!力こそが人を、国を導くに相応しいモノなのだ!私にはそれだけの力がある!」


    フリーダ「なら、私はお父さん。いや、ロッド・レイス……貴方を斃す!例え“親殺し”のレッテルを貼られたとしても、私なりのやり方で生きていく!」


    ロッド「無駄な足掻きを…ッ!」



    リヴァイ「お前だけの力じゃ、アイツはやれねぇだろう。じきにエレンも目覚めるはずだ。それまでは俺が力を貸す。いいな?“破劫の皇女”」


    フリーダ「お願いしますっ!」


    ロッド「愚か者共め…!この私自らが貴様らを支配してくれるわッ!!!」
  29. 29 : : 2022/11/30(水) 02:40:07
    ・・・・・・・・。


    エレン「ん?」


    「お兄さん?どうしたの?変なところ見て…」


    ──今の音は…?いや、気のせいか。


    エレン「いや、何でもない。ところで、何かあったのか?」


    「あ、うん。この前、お兄さんの好きなハンバーグ作ってあげるって約束したでしょ?それで、その…ちょっと失敗して、焦がしちゃったの……」


    エレン「何だ、少し焦げてるだけじゃないか。せっかく作ってくれたんだから、食うよ」


    「だ、ダメだよ!お腹こわしちゃうよ!また作り直すから、ね?」


    エレン「そんな事言うな…。全部俺の為に作ったんだろ?」


    「そ、それは……そう、だよ?でもっ、でもでも!お兄さんには完璧な食べ物を作ってあげたいの!」


    エレン「まったく…」


    「あっ!だ、ダメって言ったのにぃ!」


    エレン「………。丹精込めて作ってくれたんだ、捨てるなんて勿体ないだろ。それに、美味いぞ?」


    「うっ、ほんと?ウソついてない?」


    エレン「ホントだよ、嘘なんてつくわけないだろうに…」


    「………お兄さんのばか」


    エレン「可愛いこと言いやがって」


    「か、可愛いなんて言っても許してあげないんだから!」


    エレン「そうか…。なら、もう言えないな」


    「んぅー!」


    エレン「はいはい。また後でな」


    ・・・・・・・・・・・。

    本当にこんな所に居ていいんだろうか?何か、大切なモノを忘れている…そんな気がする。


    それに、さっきから聞こえるこの声は…何だ?


    ──あんたいつまで寝てんのよ!早く起きて“彼女”の事迎えに行ってやんなさい!


    ……彼女?彼女は居るじゃないか、ここに。


    「ん?どうしたの?今日は女の子の日だから、めっ!だよ?」


    ──あんたがそうして寝てる今も!あんたの迎えを待ちながら戦ってんの!分かったらさっさと起きなさいってば!


    戦ってる?こんな平和な世界なのに戦う必要なんであるのか?


    ──あんたは今“夢”の中でしょうけどね!彼女は今、ここで!あんたを待って戦ってるの!


    ………夢?嘘言わないでくれよ。


    「あっ、だ、だから今日はだめだよ…。今日しちゃったら赤ちゃんできちゃうよ?」


    ──いい加減にしなさいよねっ!!“フリーダ”が死んでもいいわけ!?


    エレン「……ふりーだ?」


    「えっ?お兄さん、その人だれ?おんなのひと?」


    ──いつまでも待たせてるんじゃないわよ!そんなんじゃ、他の男に“フリーダ”取られちゃわよ!


    「ねぇ、お兄さん……あの時言ってくれた言葉はウソだったの?ずっと一緒にいようねってやくそくしたのに」


    「どうしてウソついたの?ねぇ、こたえてよ!」


    エレン「………そうか、そうだったな。これは夢だ」


    「ゆめ?夢じゃないよ。これはわたしとお兄さんが作った未来。現実だよ?」


    エレン「あの子は俺と同じ家には住んでない、精神もまだ癒えてない。それに……あの子はそんな醜い声じゃない」


    「ひ、酷いよ…どうしてそんなこというの?あの時わたしのこと可愛いって、大好きだって…愛してるって言ってくれたじゃんっ!!」


    エレン「その顔で喋るな…。穢れちまうだろうが」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    フリーダ/リヴァイ「───!」


    ロッド「死ねぇぇぇぇえっ!!」


    眼前に割って入る影…鈍い金属音は鎖から火花を散らせる。


    ロッド「な、にっ…?がっ!!」


    ようやく…届いた。
    もう…彼に迷いは無さそうだ。


    リヴァイ「遅いぞ……“エレン”」


    エレン「すいません。アイツの、マリーの声が無かったら…今頃夢の中に呑み込まれてました」


    フリーダ「───っ!」


    エレン「よう。何泣いてんだ?またあの時みたいに助けて欲しいのか?フリーダ」


    フリーダ「おそいよっ!バカっ!」


    ようやく……迎えに来れた。助けに来れた。
    俺の──大切な人。
  30. 30 : : 2022/11/30(水) 03:40:46
    ロッド「な、ぜだ……なぜっ、生きているっ!?」


    エレン「アンタには随分世話になったよ。少し癪だけどな」


    ロッド「質問に答えろ!何故貴様は生きているっ!」


    エレン「……どうでもいいだろ?そんな事」


    鋭い眼から覗く赤い瞳。
    それは、彼がその“名”を背負う為の証。

    何より…先程とは何もかもが違う無感情な表情。
    その表情によるたったの一睨み、それだけでロッドを気圧すには充分すぎる材料だった。


    ロッド「この私が…気圧される、だとっ?」


    エレン「さっきまでの威勢はどうしたんだよ?こうしてあんたが殺したくてしょうがない奴がここに居るんだぜ?」


    半歩。後ろへ身を退いた事を、彼は見逃さなかった。


    エレン「かかって来いよクソジジイ!俺達とお前の格の違いってのを──」


    ───見せてやる。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    ロッド「くっ!何なのだ、貴様はッ!」


    認めるしか無い。彼は以前と比べ物にならない程の人物となっている事に。

    殺意が感じられない…敵意も感じない。
    この短時間で彼の身に何があったというのだろうか

    だが、コチラには最大の切り札が残っている事をロッドは思い出す。


    ロッド「しかた、あるまいッ!」


    懐に隠し持っていた注射器。ソレを腕に刺すと、強烈な音と共に衝撃が訪れた。


    フリーダ「な、なにっ!?」


    エレン「…………ッ!?」


    突如、巨大な拳に全身を殴られ、あらぬ方向へと吹き飛んだ。


    フリーダ「──エレンッ!!」




    リヴァイ「おい…なんだありゃ」


    マリー「ちょっと……でかすぎでしょ。こんなの相手にどうしろって」


    5m…いや10m以上はあるだろうか。
    やがて衝撃による煙が晴れると、機械のような鎧に覆われた全身、その巨体を支える足は4つに増殖し、巨大な豪腕には二振りの魔力の刃を携えており、兜のようなものを頭に被っている。

    異形と言えば異形だが、東洋地方の文献によれば、“武士”という戦乱の世を駆け巡り、国同士の戦争が頻繁に行われていたという。


    彼らを見下ろすソレはまさに“武士”をモチーフとした異形の巨人だった。


    フリーダ「エレン、大丈夫ッ!?」


    エレン「ってぇなあの野郎…ッ!こりゃ、肋の2本はイカれちまったか?」


    フリーダ「良かった…」


    怪我の症状は兎も角として、彼が生きていた。
    ただそれだけで、彼女は安堵した。

    だが、そんな呑気にしている時間など存在し得なかった。



    フリーダ「ひゃっ!エレン、何をっ!」


    エレン「いいからッ!離すんじゃねぇぞッ!」


    「逃がさぬ」


    重力そのものであるようなその声は、巨人から放たれていた。


    エレン「クソッ!」


    リヴァイ「あの野郎ッ、あんなのを隠し持ってやがったのかっ!」


    マリー「どうすんのよ!あんなの勝てっこないわよっ!!」


    ヒストリア「ッ!方法が無いわけじゃないけど…私だけの力じゃ足止めにも…ッ!」


    エレン「──ッ!!オイッ!!アルミンっ!!!あるんだろッ!?作戦!何か考えがあるんだよなっ!?」


    意を決したエレンは声を張り上げ、ある人物の名を叫ぶ。


    アルミン「ど、どうして僕なんかに……」


    エレン「クラス委員決める時っ!お前、二票だったろッ!!」


    過去、未だ入学したての頃の話だ。
    クラスの委員会、つまりは委員長を決める際、アルミンに二票の数字が提示されていたのだ。
    ほとんどの票が当時のクリスタ、今で言うならヒストリアに集まっていたという。

    だから、アルミンはあの時
    「誰が僕に……」
    と疑問を感じていたのだ。


    エレン「“一票は俺が入れたっ!!”お前がそういう事に長けた奴だと思ったからだっ!!」


    アルミン「そ、そんな…僕にこんな大役…」


    エレン「お前には“正解へと導く力”があるっ!!そう言ったのは、他ならぬミカサだろッ!!!!」



    アルミン「────!!!!」
  31. 31 : : 2022/11/30(水) 04:09:01
    “アルミンには正解を導く力がある”

    最初にそう言ってくれたのは、大切な家族であるミカサだった。


    アルミン「そ、そんな事ないよ。僕なんか、頭の良さしか取り柄が無いのに…それに。僕なんかよりも、エレンの方がそういう力があると思うよ」


    ミカサ「アルミン、自信を持って。私は貴方の言葉を信じてる」


    だから、僕はクラス委員長を決める時、エレンに票を入れたんだ。でも、僕の名前の横には二票という数字があった。

    一票はミカサが入れてくれたと、本人から聞いた。でも、残りの一票はいったい誰が入れたんだろうかと、たまに考える時があった。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    エレン「だから、何でもいいッ!今ある考えを全部教えてくれッ!!」


    その“一票”をエレンが入れてくれてたなんて、知らなかった。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    キース「イェーガーには“人の本質を見抜く”思慮深さがある。だから、イェーガーはお前に班のリーダーを任せたのだと私は思う」


    キース教官のあの言葉は…遠回しに僕に票を入れたと伝えてくれていた事に、僕はたった今知った。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    エルヴィン「人類には、君のような力無き者が必要だ」


    あれはそういう意味だったんだ。
    ミカサも、キース教官も、エルヴィンさんも

    そして………。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    エレン「今の俺達には、お前の考えが必要だッ!」


    アルミン「──ッ!分かった!」


    全長10m以上もの巨体を動かすには相当の質量が必要なはず。
    だから、さっきから下半身は動こうとする気配が無い。

    でも、大振りな腕が鈍重な見た目以上に速い。
    氷漬けにしたところで、その質量が足りなければ簡単に壊されてしまう。

    いや、そもそも……この巨体は何を原動力に動いているのか…。

    よく見るんだ。何処かに…ヒントが。


    「愚かな人間共め…消えよ…!」


    そうかっ!この仮説が正しければ…勝算はある!


    アルミン「作戦を考えた…!」
  32. 32 : : 2022/11/30(水) 05:01:37
    まずは、大量の水を逃がさない為の結界が必要だ。

    何重もの結界を張った後は、ギリギリ、いや…巨人の下半身を全て飲み込むほどの水を氷漬けにして足場を作るんだ。


    ヒストリア「やるよ、ウンディーネ」


    ウンディーネ「…………」


    背中合わせに祈る様に手を合わせ、魔力を増長させる。

    淡い碧色の光に包まれる2人が荒れ狂う波を呼び出す。荒波の体積が巨人の下半身を全て覆い尽くし、やがて折り曲がった腕の肘に水面がぶつかった頃。


    ヒストリア「あとは、よろしく……もう限界」


    エレン「………ふぅ。凍りつけッ…!」


    荒れ狂う水の波は、一瞬にして静けさの増す氷塊に成り果てる。


    リヴァイ「久方振りの共同作業だな」


    エレン「しくじらないで下さいよ」


    リヴァイ「フッ。ぬかしやがれ」


    あの巨人は恐らく電気を原動力にしてるはず。
    なら、エレンとリヴァイさんの雷で許容量を狂わせる。


    エレン「ハァァァアッ!!」
    リヴァイ「ウオォォオッ!!!」


    エレンの右手、リヴァイの左手に極限にまで蓄積された電撃を巨人の胸部に殴り付け、同時に頭上より落雷を発生させる。

    アルミンの予測通り、原動力の電気の許容量を完全に上回った巨人はオーバーフローを引き起こし、完全に動きを止める。


    エレン「吹雪ッ!分かってるな!」


    吹雪「誰にモノを言ってるんですかっ!マスターに合わせるなんて朝飯前ですよッ!」


    すかさずエレンは巨大な腕を伝ってある場所へ。


    過去の文献によれば、巨人というモノの弱点は全てにおいて“項”部分にあると言う。

    なら、巨人と呼ぶに相応しいこの異形も、項部分が弱点であるはずだ。


    エレン「捉えた…ッ!」
    吹雪「執った…!」


    幼い頃より共に過した主従の動きは洗練されており、一瞬の乱れも無く、同じ剣でもそれが成す技は異なっている。

    研ぎ澄まされた精神による斬撃は次元を刻む刃となり、鉄の鎧を刻み込む。

    一方では、4つの方向、同じタイミング、一度に防ぐこと能わず。彼女本来の力である吹き荒れる吹雪のような桜の刃は隠されたソレを剥き出しにする。


    エレン「後は任せたぞ、父娘喧嘩にケリつけてこい」



    フリーダ「やぁぁぁぁぁぁぁあっ!!!!」


    その色は最も美しく、何者にも染ることの無い純白の刃。

    ソレが貫いた時、巨躯は崩壊し、それに呼応するように足場の役割だった氷塊は雪のように砕け散る。


    エレン「………。さよならだ、ロッド・レイス」
  33. 33 : : 2022/11/30(水) 06:23:52
    着地と共にカチンと音を鳴らして刃を納める。


    エレン「………無事か?」


    フリーダ「うん……」


    瓦礫の山、雪のようにしんしんと降る氷塊の破片、その中で佇む彼女はさながら勝利の女神といったところか。


    エレン「………これから先、まだまだやらなきゃいけない事が残ってる。それは、俺達自身の力でやらなきゃならない」


    フリーダ「うん、分かってる。自分で決めたんだもの。私は私なりのやり方でこの国を導くって」


    エレン「そうか……。さぁ、行こうぜ。皇女様」


    ──新しい時代の幕開けが、この国を待ってる。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    こうして、大規模な被害を損出した…王政へのクーデターは終わりを迎えた。

    街の修復作業、王政を与する残党の処理、新たな王の誕生、それに伴った国民への情報開示。

    忙しない日々、暫くの間続く事となった。


    ガラガラと地を走る馬車に揺られ、とある場所へと向かうエレン・イェーガー。

    向かう先は──。


    サリア「お兄さん!」


    エレン「っと…。どうしたいきなり?」


    サリア「約束、守ってくれて…ありがとう」


    “必ず笑って暮らせる平和を作る”

    彼女と交わした大切な約束。


    エレン「………もう、大丈夫だからな」


    サリア「うんっ、うん!」


    ・・・・・・・・・・。


    エレン「旅行…?」


    「えぇ。近いうちに主人と2人で行こうかなって。ですので、私達が不在の間…サリアの事、お願いできませんか?」


    エレン「あ、頭を上げてくれ…!俺は頭を下げられる程の奴じゃ──」


    「いえ、あなたは娘の…サリアの恩人です。ですから、お願いしますっ!」


    エレン「…………。そこまで言うなら、任せてくれ」


    「ほ、本当ですかっ?」


    エレン「まぁ、俺もあいつに…サリアに救われたからな」


    「ありがとうございます!」


    エレン「お、おい!だから頭を上げてくれ!」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    エレン「そういうわけで、暫くの間うちで預かる事になった。お前ら、間違っても手ぇ出すなよ」


    サリア「よ、よろしくお願いします」


    無造作に殺気をばら撒くエレンとは対称に、服の裾を掴んでオドオドしながらエレンを盾に隠れる少女に、「いったいどういう関係なんだ」という好奇心が爆発した。


    マリー「しっかし。あんたよく受けたわね。はい、あーん」


    サリア「じ、自分で食べられますよっ……うぅ。あ、あーん……」


    対面に座る少女にフォークで刺したドーナツの一切れを食べさせ、どこか甘やかしている様子のマリーは呆れるようにそう言った。



    エレン「まぁ、昔救われた恩返しもあるんだけどな。そう言えば言ったで」


    サリア「あ、あの時の事は気にしないで…ね?」


    エレン「こうなるだろ?」


    マリー「ふーん。ま、あんたがいいならいいんだろうけど。私からしたら、お似合いだと思うけど……あっちはどうかは知らないけどね」


    彼女の視線の先、そこには………。


    フリーダ「うぅ、あんな可愛い女の子相手じゃ、勝てっこないよぉ……」


    少女の純粋な眩しさに気を削がれる新たな国の王であるフリーダ皇女殿下の姿が…。


    マリー「あんたねぇ、あんな子に日和ってるようじゃホントに取られちゃうわよ?」


    フリーダ「だ、だってぇ……あんな…」




    サリア「あっ…お、お兄さん」


    エレン「ん?」


    サリア「え、えへへ……呼んでみた、だけ」




    フリーダ「あんな清くて尊い雰囲気私壊せないよぉ…!」


    テーブルに突っ伏してしまう彼女は完全に少女の放つ純粋な輝きにやられていた。


    マリー「これが一国の皇女様ねぇ〜?ホントに大丈夫かしら…?」


    ヒストリア「やっぱりお姉ちゃんは恋愛弱者…」


    フリーダ「うぐっ!」


    吹雪「ま、まぁまぁ…今は」




    サリア「は、はいっ。お兄さん、お口開けて?」


    エレン「な、何だよ。自分で──」


    サリア「──だめ?」


    エレン「うぐっ……」




    吹雪「あ、あんな感じだけど、もっと積極的に頑張ろっ!フーちゃんっ!」


    フリーダ「うわぁぁぁぁんっ!もうだめだぁぁぁ!」


    ヒストリア「お姉ちゃんはもっとメンタルを鍛えるべき。そんなメンタルじゃ、ハジメテを貰った時思い出にならないよ」


    マリー/吹雪「……………」


    何の感情か…言葉を失い、グラスを一気に傾ける2人、項垂れる姉に追い打ちをかけるように言葉にムチで叩く妹。

    そんな妹を見るやいなや「昔はこんな子じゃ…」と過去の記憶を辿る哀愁漂う皇女殿下…。


    エレン「何だ…あのカオス」


    サリア「あっ…今のお兄さん、イケナイ顔してる。カッコいい」
  34. 34 : : 2022/11/30(水) 07:34:36
    エレンがサリアを預かってからという日常の中、それは突然始まった。


    ジャン「なぁ、アルミン。世の中…理不尽で不公平だと思わねぇか?」


    アルミン「へっ?な、何が?」


    ジャン「アレ見てみろよ……」


    アルミン「アレ?」



    ジャンが指し示すその先には……。


    サリア「お、お兄さんっ。き、今日もお疲れ様っ!あ、あのっ……ご、ご飯作ってみたの!」


    マリー「私の保証付きよ、ちゃんと味わって食べなさい?」


    ヒストリア「お姉ちゃんにはあの子みたいなメンタルと積極性が皆無過ぎる。このままじゃ本当に取られちゃう」


    フリーダ「わ、私だって…!でも、でも美味しくないって言われたらっ!」


    吹雪「はぁぁ……。今日も平和ですねぇ、お茶とお団子が美味しいです」


    色んなタイプの少女、女性が居た。
    ソレを見るアルミンは、疑問を持つ。


    アルミン「ソレで、何がどうして理不尽とか不公平だって?」


    ジャン「見りゃ分かんだろーっ!何でアイツの周りにゃ美少女美女が集まるんだ!?」


    ただの男の嫉妬であった…。


    アルミン「そ、それだけエレンに魅力があるって事…じゃないかな?」


    これには流石のアルミンも笑顔を引き攣るばかりである…。


    ジャン「納得いかねぇーっ!」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    エレン「で?何で俺は椅子に縛られてるんだ」


    アルミン「ごめんねエレン。ジャンのわがままに少しだけ付き合ってあげて?」


    ジャン「今からアルミンが女子の名前を言うからどう思ってるか答えてみろ!いいか、嘘つくんじゃねぇぞ!」


    エレン「なんだよ急に…」


    アルミン「あ、僕が言うんだ?じゃあ最初は、吹雪さんかな?」


    エレン「アイツは大事な剣だ。それ以上でもそれ以下でもない。ただまぁ…見境無く団子を強請るのはどうかと思うがな」


    吹雪「そ、そんな…。私の身体を心配してくれるんですか?大丈夫です!私は元より霊体ですから!太らないのです!」


    アルミン「じゃあ、次はヒストリア」


    エレン「包み隠さず本音を言ってくれる良い奴だ。お前らも指摘して貰うといい。何がダメで何を伸ばすべきか、ちゃんと教えてくれるぞ」


    ヒストリア「別に私は良い奴じゃないよ。自分の思った事を言ってるだけ」


    アルミン「次は僕もはじめましてなマリーさん」


    エレン「世界中…どこを探してもあいつ以上に俺を理解してくれる奴は居ないだろうな。ホント、いい女だよ」


    マリー「そんなに褒めたって何も出ないわよ。でも、あんたの事は死んでも護ってやるわ」


    アルミン「サリアちゃん」


    エレン「俺が生涯を以て守ってやるべき存在だな。…血で穢れちまった俺に、あそこまで慕ってくれてるんだ。ちゃんと応えてやらねぇとな」


    サリア「わ、わたしは…お兄さんといっしょに居れるだけで…。で、でもっ…そんなお兄さんも、す、す…。──ッ!」


    アルミン「最後だね、フリーダ皇女」


    エレン「俺にとって大切な人だ。あいつには随分と長い間待たせちまったからな…。これからは、ちゃんと向き合っていくさ」


    フリーダ「そんな事ない。私はずっとエレンの事信じて待ってるよ。きっと、あなたは約束を守ってくれるから」


    エレン「………それで?もう帰っていいか?」


    ジャン「ふざっけんなよてめーっ!こんだけの女に囲まれて平然としてんじゃねぇよ羨ましいっ!!」


    エレン「やめろよ…服が伸びる」


    サリア「あっ…お兄さんのおなか………」


    マリー「服の上からじゃ分かんないもんよねぇ。細そうに見えてちゃんと鍛えられてるんだから」


    吹雪「マスター、もっとこうっ!情欲を誘うような視線でフーちゃんを見てあげてください!きっと喜びますよ!」


    フリーダ「キャァアアアアッ!?何言ってるの!?」


    ヒストリア「でも、それくらいのものに慣れておかないと…この先絶対気絶する羽目になるよ」


    エレン「女3人寄れば姦しいとはよく言うが、これじゃ騒がしいだけだな…」


    ジャン「だからその平然とした顔をするんじゃねぇっ!」


    アルミン「あ、あはは…(結局ジャンは何がしたかったんだろう?)」
  35. 35 : : 2022/12/01(木) 03:53:16
    その日の夜…。

    エレンが現状の保護者であるのは間違い無いが、サリアという幼い少女をどこで寝させるかで一部の人間が言い争っていた。


    マリー「いったい“なに”を躍起になってるんだか…」


    サリア「あぅ…ごめんなさい」


    マリー「謝んなくてもいいわよ。そろそろ、あいつも風呂から上がる頃だし」


    なんでも、小さい女の子とはいえ男と同じ部屋では何か間違いが起きるかもしれないと“勝手に”判断した一部の男達が、女子寮で寝させるべきだと言い出したのが事の発端だ。


    「こうなったら、あの子に直接聞いて決めてもらおうぜ」


    その一言に、続々と彼女の元へ問い詰めるように歩み寄る。


    サリア「ひっ………!」


    マリー「ちょっと、離れなさいよ。怖がってるじゃない…。こんなとこ“アイツ”に見られでもしたら─」


    「──何の騒ぎだ…」


    風呂上がりなのか、濡れる髪をタオルで乱雑に拭きながら扉を開けて、眠そうな目で様子を伺うエレンがやってきた。


    サリア「───ッ」


    大勢の人に詰め寄られ、ガタガタと身を震わせながら怯えた様子の少女の姿を“捉えてしまった”。


    エレン「………何してる」


    「「「「─────ッ!!!!」」」」


    静かに睨みながらその瞳を紅く染めるエレンの殺気を背後から浴びる事に……。


    マリー「ほら言わんこっちゃない…」


    呆れるように溜息混じりにボソリと…。
    やけに背筋を伸ばす哀れなもの達へ向けてそう言った。


    アルミン「あぁ……ご愁傷さま」


    ミカサ「あれ程、彼女は“エレンの部屋で寝させるべき”と言ったのに…」


    エレン「…………は?」


    ミカサ「彼らは、貴方があの子に変な気を起こすんじゃないかと躍起になって、“貴方の部屋で寝させるべきではない”と言っていた。きっと、“自分達の方が安心させれる”と勘違いをしてしまっている」


    エレン「そうか。教えてくれてありがとな、ミカサ」


    ミカサ「礼には及ばない。明日手合わせをしてくれるならそれでいい。私はアルミンと一緒に寝るから、おやすみなさい」


    アルミン「……………えっ?」


    エレン「あぁ、おやすみ」


    アルミン「ちょっ、いったいどういうっ──」


    混乱したアルミンは為す術なくミカサに抱き抱えられて連れていかれた。

    その状況を、これ見よがしにこっそり抜け出そうとしている連中に気付いてないわけも無く。


    エレン「おい、どこ行くんだよ?」


    ──夜はまだ始まったばかりだろ?
  36. 36 : : 2022/12/01(木) 05:32:29
    …….翌日。


    サリア「お、お兄さん……どこ、かな?」


    昨夜、エレンの代わりにマリーと一緒に寝たサリアは、周囲を見渡しながらエレンを探す。

    正面の、談笑しながら歩く彼らに気付かずに……。


    サリア「わぷっ──。ご、ごめんなさいっ!ぶ、ぶつかっちゃって」


    リヴァイ「ん?」


    サリア「あ……あぅ、ご、ごめんなさい。その、お兄さんを、探してて…」


    ファーラン「お兄さん?」


    イザベル「アニキ、誰か分かるか?」


    リヴァイ「………アイツならこの先の場所で特訓中だ」


    サリア「──!あ、ありがとう…ございますっ」


    深くお辞儀をしてから足早に駆けていく小さな後ろ姿を見送る。


    リヴァイ「あれが…エレンの言ってた子供か」


    イザベル「ん?んー?………あぁっ!!!」


    ファーラン「リヴァイを前に怖がらなかった子供は初めてじゃないか?」


    リヴァイ「さぁ、どうだろうな」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    サリア「こ、ここに…お兄さんが」


    少し控えめに覗くと──。


    エレン「───ッ!!!!」

    吹雪「──ッ!!!!」


    その場に剣戟の音が鳴り響いていた。


    サリア「す、すごい………」


    本来、“剣術”というのは「型」という剣を扱う上で必要な基本中の基本の技術が存在している。

    そこから、各々が持つ信念や流儀によって枝分かれするように派生されていき、「○○流」という唯一無二の剣術が誕生する。


    しかし、彼…エレン・イェーガーにはそれが“存在しない”。

    亡き父から教わったのは“人を絶つ剣”と“人を生かす剣”の違いのみ。

    刀の握り方、振り方、扱い方、その全てが彼個人によって形作られている。

    彼を相手取る愛刀であれば


    吹雪「そこっ!はあっ!せいっ!」


    振り下ろし、横に払う、突く、そして、薙ぐ。
    この様に一連の動きには、彼女なりの法則性が存在する。

    しかし──エレン・イェーガーにはそれがない。


    エレン「」


    「型」あってこその剣舞と言ったりもするが、「型」の無いはずの彼の動きはそれを簡単にやってのける。

    「型」の存在など彼には関係が無いのだ。
    刀を地に突き刺し身体を宙へ浮かしながら上体を逆さにするのも、
    蹴り上げるようにアクロバティックに身体を回転させて空中へ斬り上げたりするのも、
    本来在ってはならない、ある種人間離れした動きなのだが…洗練されたその鮮やかな身のこなしによって、あたかも剣舞であると錯覚させる様に魅せている。


    それを一目見た少女はふと口に出す。


    サリア「きれい……」

    ・・・・・・・・・・・・。

    吹雪「ふぅ。相変わらず無茶苦茶な動きをしますね、いい加減私も慣れてきちゃいましたよ」


    エレン「──ふぅ。そんなに変か?」


    吹雪「さぁ?私はマスター以外に剣を使ってる人を見た事がないので──って、あれ?」


    エレン「ん?」


    どうやら少女の存在に気が付いたようだ。
    その視線に身体が跳ねそうになる彼女は、大きな声で挨拶をする。


    サリア「あっ、お…おはようございましゅっ!──あぅ、かんじゃった」
  37. 37 : : 2022/12/02(金) 21:21:56
    エレン「どうしたんだ?」


    サリア「えっと、ここでお兄さんがとっくん?してるって聞いて…その、少しだけ…見てたの。お邪魔…しちゃった?」


    モジモジと自分の指先を後ろで絡めながら、控えめにこちらを見る目は好奇心を表していた。


    エレン「ちょうど休憩入れるとこだったんだ。邪魔だなんて思っちゃいねぇよ」


    サリア「そ、そっか…!」


    吹雪「あ、そう言えば私。フーちゃんにお買い物の付き合う約束がありましたっ!行ってきます!」


    エレン「気を付けろよ。………それで?さっきの見てたって言ってたけど」


    バタバタと走り去っていく背中を見送ると、サリアの傍に座って先程の言葉について聞いてみる。


    サリア「すごく、キレイだった」


    エレン「キレイ?」


    サリア「うんっ。さっきのお兄さん、なんていうか……踊ってるみたいっていうか。なんて言うか、その……と、とにかくっ。すごくキレイだったっ」


    エレン「周りからは“無茶苦茶”だとか、“動きに規則性がない”だとか言って、よく指摘されるんだけどな」


    サリア「そ、そんな事…ないっ!」


    彼の言葉に不満を感じたのか、両手を握り締めて前傾姿勢で「むっ!」とした表情で大きく否定する。

    そのやけに凄みのある勢いに珍しく圧倒されてしまったエレンは「お、おう…?」と生返事をする。

    そんなやり取りを見ていたのか、薄赤色の髪色の人物がこちらへやってきた。


    マリー「なーにしてんのよ。私も混ぜなさい」


    エレン「別に言うほど何かしてるわけじゃねぇぞ。ただ、休憩入れようとしてたらこいつが見てたらしくてな。それについて少し話してただけだ」


    マリー「ふーん。あ、そうだ。それなら、本部にある施設周り見せてあげたら?この子も、あんたが何処にいるのか、聞いただけでも分かるように。ね、いい案だと思わない?」


    エレン「俺は別に構わないけど…」


    チラリと、隣の少女を見やると…。


    サリア「──いいの?じ、じゃあ、お願いしますっ」


    と、肯定的な言葉を返す彼女を見るやいなや、マリーは彼女を抱き抱え始める。


    マリー「そうと決まれば、早速見て周るわよ!」

    サリア「お、おー!」


    エレン「お、おい…!………はぁ、ったく」


    軽快な足取りでサリアを抱え歩くマリーを見て、呆れながらも静かに笑みを零し、下ろしていた腰を上げて彼女達に追い付かんと、やや急ぐように歩き始める。
  38. 38 : : 2022/12/02(金) 22:21:28
    マリー「ここは、新米魔導士達の訓練場。みたいなものかしらね」


    サリア「ひ、人がいっぱい…」


    エレン「まぁ、ここは本部に身を置く連中の中でも特に新米魔導士が使う場所だからな。かくいう俺も新米と言われちゃ新米だが、ここの勝手はイマイチ分からん」


    マリー「あんたじゃここの殆どのモノは使った所で意味が無いのよ。だから勝手が分からないのも当然って話。そこんとこ、わかってる?」


    サリア「そ、それだけ、お兄さんが強いってこと、なんだねっ」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    マリー「次はここね。対魔獣戦闘を本格的にシミュレーションする為の場所よ。色んなパターンで攻撃を仕掛けてくるから、魔獣討伐専門の任務を引き受けたいなら、絶対に来なきゃいけない場所ね」


    サリア「い、色んな“魔獣さん”が居るんだね。お兄さんはここに来る事は、あるの?」


    エレン「……(魔獣さん?)どうだろうな。色んなタイプの魔獣が設定出来るとは言うけど、今俺たちが見てる奴らみたいに特定のタイプの魔獣を相手にするよりも、対複数戦闘を目的にしたいからな。そう考えれば、あまりここには来ないかもな」


    マリー「あんたはその辺の魔導士よりも格が違うのよ。だから、シミュレーション内の難易度設定が出来る場所じゃないと話にならないって事」


    サリア「お兄さんは強くて、賢いもんねっ。でも、自分の苦手な魔獣さんを相手にしみゅれーしょん?して克服しようと頑張ってる魔導士さんもすごいって思う」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    マリー「ここは対人戦闘を目的としたシミュレーションルームね。さっきの場所が魔獣を相手にしたものなら、ここは人を相手にしたものよ。敵は魔獣だけじゃないのよ。よく覚えておきなさい」


    サリア「一番怖いのは魔獣さんじゃなくて、人間さんだってよくお兄さんにお見舞いに来て貰った時は聞いてたよ。ここで頑張れば、悪い人間さんも、やっつけられるって事、だもんね」


    エレン「そうだ。サリアの親御達もよく言ってただろ?『知らない人に着いていくな』、『知らない人に話し掛けられても、反応するな』って」


    サリア「でも、お母さんやお父さんの言う事を聞いてたら、お兄さんと会えなかったって思うと…。あの時、勇気を出して良かったって…思うよ」


    マリー「………(それが今や立派な恋する女の子だものねぇ。いったい何人の女の子を夢中にさせれば気が済むんだか…。かくいう私もその1人だけどね)」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    マリー「ここは研究所ね。私、ここに立ち寄るのは嫌なのよね…」


    エレン「まぁ、気持ちは分からんでも無い」


    サリア「お、お兄さんっ。誰か来るよっ」


    ハンジ「あれぇ?珍しいね、2人揃ってここに寄るなんて…って、その子誰?もしかして、2人の子供?」


    エレン「違います」
    マリー「違うわよっ!」
    サリア「はわわわっ!お、お兄さんのこ、こここどもっ!」


    ハンジ「ありゃ、そうなの?──こんにちは、私の名前はハンジ。気軽にハンジさんと呼んでくれ。君の名前は?」


    サリア「さ、サリア…です。あ、あの……。ここでは、どんな事、してるんですか?」


    ハンジ「やっぱり君も気になるんだねっ!?むふふっ。それでは、きちんと説明を──」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    マリー「さっきは災難な目に遭ったわね…。まぁ、それは置いとくとして。って、何?ここ」


    エレン「初めて来たな」


    サリア「?……お兄さん達も、来たことが無いの?」


    マリー「そうね。割とあれから時間は経ってるからある程度本部内の構造とかは分かるようになって来たけど、こんな場所は初めてね」


    エレン「………特に変な仕掛けがあるわけでは無さそうだな。何かここに増築するのか?やけにだだっ広い空間だな」


    サリア「ね、ねぇ……おにいさん。なんか、からだがポカポカしてきた…きがする」


    マリー「……っ。そう、ね。何か、やけにっ……身体が火照ってきてるような……。ね、ねぇ…早く出た方がいいわよこんな場所…はぁはぁっ」


    エレン「俺には何も感じないが…。まぁ、確かに早く出るか。長居するのは危険過ぎる…そんな気がする」
  39. 39 : : 2022/12/02(金) 23:04:02
    身体が火照り、呼吸も荒くなって来るという謎の空間を出ようと扉を開けようと、そこに手を掛けてみるが…。


    エレン「……ん?開かねぇ。どうなってんだ?鍵が閉まってる訳じゃなさそうだし……。おい!誰か居るか!聞こえてたらこの扉開けてくれ!」


    ・・・・・・・・・・。


    エレン「……誰も居ねぇのか?さっさとここから出たいんだが……。いっそ扉壊すか?いや…それで怪我させるわけにはいかねぇし……。チッ…どうしろって」


    マリー「はぁはぁはぁはぁ……っ。ねぇ、明らかにおかしいわよここ…」


    サリア「おにいさん……からだ、あついよ。はぁっ、はぁっ」


    エレン「取り敢えず……これで」


    少しだけでも涼めればと、100cm大の氷塊を生成する。
    何の影響もないエレンには少し冷えるだけだが、2人に何かあっては元も子もない。故に、サリア含めマリーの異常が何なのかを考えなければならない。


    マリー「そういえば、今…気付いたんだけど、っ。何か、変に甘い匂い…しない?」


    エレン「…………。確かに、言われてみれば」


    仄かに香る甘ったるい匂い。とてもじゃないが、この状況において明らかに害する匂いだという事だけは、割と冷えた頭では理解出来た。


    マリー「っ。はぁ、はぁ……。からだっ、あつ……。ねぇ、一枚脱いでいい?いいわよね、別にそれで恥ずかしがる間柄じゃないし」


    サリア「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……。おにいさん…わたしのからだ、へんだよ…。どうしちゃったのかな……?」


    エレン「俺とコイツらとで、なんでこうも影響の出方が違うんだ…?この“匂い”のせいかなのか、或いはこの空間そのものが狂わせてるのか?」


    考えれば考えるほど、思考は沼にハマっていき、傍らの彼女達の呼吸も荒くなっていく。

    やけに“甘い香り”と“身体が火照る”程の影響があるモノ……。

    一番この状況において考えたくなかった最悪の答えが浮かんで来るのはきっと、有り得ざるこの空間のせいだと自分に言い聞かせる。

    と言うより、マリーは何となく察している様子だった。しかし、サリアという少女もいる手前、とてもじゃないが触れられるわけが無いといった感じなのだろう。


    エレン「勘弁しろよ……。扉も開かないこの状況でどう切り抜けろって…。やっぱり扉ごと破壊するしか───」


    「あ、あれ?こんなところで、何してるの?」


    聞き覚えのある声だった。いや、明らかに知っている声だった。
    どうして彼女がこんなに危険な場所に居るのか。


    エレン「な、何でお前がここに居るんだ。“フリーダ”」


    フリーダ「え、えっと……。その…えへへ?」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    マリー「ふ、ふざけんじゃっ……ないわよっ。おかげで、子供の前でおっぱじめるとこだったじゃないっ!」


    フリーダ「ご、ごめんなさいっ!す、少しはエレンと2人きりで過ごしたくて……アイテムを調合してたら失敗しちゃって…」


    エレン「ようは……。媚薬効果のある香料を作ってたら、配分間違えてあそこに捨てようと思ったら液体ぶちまけて、そこに不幸にもやってきた俺たちはまんまと影響を受けたって事だな?」


    迷惑もいいとこである。
    「言ってくれりゃ時間作ったのに」と恨めしくボヤいたエレンに言い知れぬ罪悪感を覚えてしまった。


    マリー「あの子、どうすんのよ。免疫無いのは当たり前だから、連れてきちゃったっ、私達が悪いけど……まだ子供なのよ?」


    エレン「時間経過で……収まるのを待つしか、ないか?」


    フリーダ「あ、あの子の責任は私が持つから…私のせいで、ああなっちゃったわけだし」


    エレン「あぁ?逃がさねぇぞ……。俺達はどうすんだ。まさかとは思うが、このまま放置って言い出すんじゃねぇだろうな?─っ。はぁ、はぁ…」


    マリー「そう、よねっ。元はと言えば……あんたが変なの作ったせいで、こうなったわけだし……。私達のことも、責任持つのがセオリー…よね?」


    フリーダ「……ふぇ?」
  40. 40 : : 2022/12/03(土) 00:23:36
    割と大きめのベッド。それも人3人程が寝れる程の大きなベッドに、媚薬効果のある香料の影響を受け、息を荒くする2人の男女に挟まれるようにして、渦中の女は押し倒されていた。


    「はぁ、はぁはぁっ……。お前のせいでこうなったんだ。最初がこれで悪いとは思うけど…責任、取ってもらうぞ…」


    「もう……邪魔なモノは取っ払うからっ。はぁっ、はぁっ…っ。はぁ…」


    「へ?ま、まって…!は、ハジメテが3人は…ちょっとレベルが──」


    「──うるさい」


    依然状況が把握出来ておらず、アワアワと慌てふためく女の唇を塞ぐ男は、容赦無く閉ざされた口内に舌を侵入させ、逃げるように動き回る彼女の舌を捕え、絡めるように蹂躙する。

    その快感にくぐもった声を漏らす女を眺める、もう一人の女は小さく笑い、左手で渦中の女の服を脱がしながら、耳からのアプローチを始める。


    「ふふっ。ファーストキスが3Pだなんて、ちょっと可哀想ね。でも、この状況を作ったのは、あんたなんだから……大人しく受け入れなさいよねっ…。はぁむっ…んっ、じゅる……」


    「んっ?!みみっ、らめっ!んっ…!」


    「耳ばっか気にしてないで、少しはこっち見ろよ」


    「んぅ!り、りょうほうからっ…だめっ、そんなっ…んっ。おとっ、たてて…なめちゃっ!」


    「あんふぁ、みみ…よふぁいのね。んふっ、ひゃあ、もっろ、へめてあげりゅ……。はむっ、れろ…」


    「こっちと…そっち、どっちがいい?当然、こっちだよな?……っ」


    容赦無く左右から襲い掛かるタイプの違う快感に抗う術もなく、最早彼女の頭にはどっちの快感が好いかどうかなど、考える余裕などあるわけがない。

    チロチロと舌先で啄いたり、耳全体を舐めるように這い回る女の舌が左耳から来る快感なら、

    口の中に耳を覆われ、耳の骨格に舌を這わせたり、耳の穴の奥に捩じ込んでグリグリしてくる男の舌は右耳から来る快感。

    男の口から発せられた、
    「どっちがいい?」と、問われた所で次々と波のように襲い来る快感に艶めかしくも甲高い声を上げ続ける彼女には答えられる程の余裕が無い。

    ようはこの男、“分かってて聞いている”のだ。


    「んっ……。っはぁ……ん?何?あんた、耳舐められただけでこんなにしちゃったの?」


    「まだ何もしてないのに、下着濡れてるぞ?」


    「変態さんね?/やらしいな?」


    「───ッ!!」


    「顔赤くしちゃって…良かったわね。こんな良い男に捕まって…他の男じゃ何されるか分かったもんじゃないわね……正直言って、唆られるわ。ほら、耳だけじゃなくて、胸もイジメてあげる♡」


    「可愛い奴……。上から下まで、全部イジメてやるからな」


    「ま、まって…!これ以上されたら、こわれちゃっ──あんっ!」


    左耳からは容赦無い耳責め、女の滑らかな柔肌の手で揉みくちゃにされつつ、その指先で先端を弾かれたり、カリカリと弄られたり、

    強引なキスで口内を蹂躙されながら、その男の右手で下着の上から割れ目に指を這わされたり、

    最早正常な判断を下せるような思考回路など消し去り、ビリビリと頭の中で痺れる波は大きく揺れたり、小さく揺れたり、サディスティックな2人の男女によって上から下まで、文字通り彼女の身に数多の快楽が襲い掛かっている。


    「んっ、もう絶頂()っちゃう?んふっ、いいわよ。私の舌で、私の手で…ビクビクって腰跳ねさせて、足の指先伸ばしてっ…ちゅっ。初めての絶頂、キメちゃいなさい?ほら、我慢しなくていいから、女はそう言う生き物なの。快楽には抗えないメスなんだから、恥ずかしがらなくてもいいのよ?」


    「まだ我慢出来るだろ?こんなんでイったら、本当に壊れちまうぞ?頭ん中空っぽで、何も考えられない廃人みたいに、ただ快楽を求め続ける淫乱娘になっちまうぞ?今コレを我慢すれば、この先もっとスゴい事出来るぞ?愉しみだよな?だから我慢だ。初めての絶頂は腟内(ナカ)がイイだろ?ほら、どうすればいいか。分かるよな?」


    「そんなっ、こと…いわれてもっ!あっ、んぅ…っ。ま、まって…ゆびっ、とめて…!あんっ、い、きそうっ!だめっ!もうっ、がまん……できっ───」


    「イっちゃえ/イけ」


    両者の囁きで限界を迎え、頭の中で痺れる電気はバチバチと弾け、声を抑えながらも、今一番の嬌声をあげる。


    「あっ……ぁあ、んっ…イっちゃ、た…」
  41. 41 : : 2022/12/03(土) 01:35:25
    彼女本人としては最愛の人である彼の言うとおり我慢しようと頑張っていたのだろう。現にその意思が言葉として零れてしまった。

    しかし、「我慢をすれば─」と囁いておきながら、男には最初から彼女を絶頂に導く事にしか興味は無く、隣の女の言葉通り「女は快楽には抗えない」という事実をその身体に教え込ませている。

    なんとイジワルな男なのだろうか。しかし、男に非が無ければ快楽に耐えかねて絶頂してしまった彼女本人にも非は無い。

    ただ、単純に…
    奥底に眠る雌の本能が目の前の雄に屈服した
    だけなのである。


    「んっ……あの、すこしやすませ──んっ?!」


    「言ったろ?逃がさないって…」


    「責任取りなさいって言ったわよね。せめて昂りが収まるまで──」


    ──寝かせないから。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    「あぁっ、んっ、らめっ!まら、イったばかりっ…!」


    それからというもの、彼らの昂りは収まる事を知らず、最早媚薬の効果が抜けているのか否かですら判別が付かない。

    最愛の男のモノで膣奥(おく)を突かれ、男の下で喘ぎ続けるその姿はメスそのもの。


    「あっ、ぁあっ、んぅ……も、もっとぉっ、パンッ♡パンッ♡って、えっちなおとだして、おくっ…ついてぇっ!」


    この様に雄を煽るように懇願しながら男の首に腕を絡め、快楽に喘ぐ彼女が一つの国を治める皇女であると、誰が予想出来ようか。

    しかし、男もただでは応えない。
    突き続ける腰の動きを止めることは無いものの、口角をつり上げ、妖しく嗤う。


    「ならっ、どうしたらいいか、言えるよなっ?」


    「んぅ、あなたっせんようの…あなただけのっ、あんっ。……っ、えっちなおうじょおまんこっ、いっぱい、きもちよくしてっ!」


    「はっ、そんな姿…他の男には見せられねぇなっ。もう絶対、離してやらねぇからな?」


    「うんっ!わたしもっ、はなれないし、はなさないっ!あんっ、んっ…恋人えっちで、きもちよくなろ?あっ、んっ…ちゅっ、じゅるっ……はぁ。あぁっ、イきそうっ…!あ、あなたのっ、おちんちん……ナカでふくらんでるっ。……いいよ。このまま中できもちよくなろ?いちゃラブ恋人えっちで、腟内射精(ナカダシ)、しちゃおっ!」



    その言葉を皮切りに、濃厚なキスで舌を絡め合い、お互いの首に両腕を絡めると、逃がすまいと彼の腰を両脚で抱き締める。
    現代社会で言うところの“だいしゅきホールド”というやつだ。

    「逃がさないのはこっちのセリフだ…」

    とは誰が言ったか。より激しさを増す抽挿はラストスパートへ。
    2人で高め合うように快楽を分かち合い、愛を捧げ合うソレは初めての共同作業と言える。

    やがて限界に達した彼女の膣壁は、迎え入れたモノを逃がさぬ様にキュウッと、力強く締め付ける。

    それに連られて、彼もまた限界に達する。
    あの日約束した日から、例え彼女を忘れてしまっていたとしても…その根底には“愛”が潜んでいた。
    たった今、潜み続けたソレは大量の子種として彼女の膣奥へと注がれた。

    彼に忘れられていたという絶望、彼が死んでしまったかもしれないという恐怖に黒く塗り潰されはしたが、誰にも染まること無く、汚されることなく、守られ続けた“漆黒の()”は

    待ち焦がれていた最愛の人から注がれた愛情…。
    “純白の液体”に染められた。


    「んっ、あなたのせーえき…いっぱい、なかに……」


    「はぁ、はぁ、はぁ……。全部飲み込んでくれよ?」


    「あんっ…んっ、ふふっ。愛してるよ、今までも、これからもっ!」


    「……可愛いやつ」


    とまぁ、色々ありはしたが、お互いの愛情を確認し、このまま一件落着──。


    ──というわけにはいかなかった。
  42. 42 : : 2022/12/03(土) 02:50:47
    「いちゃいちゃしてるとこ悪いけど、こっちの疼きも何とかするまで帰さないわよ。何の為に利用時間未指定でこの宿借りたと思ってるの?」


    「はぁ……。ごめんな、少しだけ待っててくれるか?」


    「うん…。元はと言えば…私のせいだから。んっ…あっ、垂れちゃう。んっ、ちゅるっ……」


    先程まで蓋をするように挿入れられていたソレが、ゆっくり抜かれると、彼の形を覚えてしまった締まり切った膣穴から、白濁が零れそうになるのを見る彼女はそれを指で絡め取り、そのまま口許に持っていっては舐めしゃぶる。

    まぁ、そんな愛おしい彼女の事は今は置いておく。今は目の前で臀を突き上げ、ふりふりと誘惑するような動きで嗤うメスの対処をしないといけない。


    「ほらほらぁ、あんたらの見てたらこんなトロトロになっちゃったのよ。はやくそのかたくてぶっといちんぽ挿入れなさいよぉ」


    「その余裕も今のうちだけだぞ」


    「ふんっ。あんたの極太ちんぽになんて負けてやんないんだからねっ!逆に私が搾り取ってやるわっ!」


    「……………」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    「ああっ、んっ…わ、わらひは、つよつよちんぽにまけちゃうえっちなメスですぅっ!んぁっ!あっ、あんっ、あっ──」


    なんと言う意思の弱さ…。
    はっきり言って哀れである。

    あれだけ大口叩いておきながら、彼の前には屈服してしまう可哀想なメスである。


    「あ、あんな…はげしく…。…おっ、胸もあんなに揺れて…」


    「な、にっ…みてんのよぉっ!見せもんじゃ──んぅっ!?」


    「ほら、どうしようもない負けヒロインの牝犬なんだろ。気にするべきはそっちじゃなくてこっちだ」


    「わ、わかったっ!わかったからっ!おくっ、突きながら、ちくびっ…コリコリしないでっ」


    先程のSっ気は何処へ…。
    これではMの変態ではないか。

    ガッチリと両手で腰を掴んで、的確に彼女の弱点を突いて、強制的にこちらに集中させる。

    乱暴で好き勝手に動いている風に見えるが、見せていないだけでちゃんと彼女をメスでは無く女として扱っているのだ。

    たが彼女にとっての快楽とは何か。
    知り尽くされているように、当たり前のように腟内の弱点を突いてくる。それも確かに快楽の一つだろう。

    眼だ。


    「……………」


    あの何の慈悲も無さそうな無感情の瞳。
    ソレこそが彼女を掴んで逃がさない快楽の大半を占めている。

    「お前の扱いなんてこれで充分だろ?」

    とでも言いたげなあの瞳をしておきながら、しっかりと下で喘ぎ続ける彼女を女として丁重に扱っている。

    その矛盾にも満ちた行為が、彼女の快感へと繋がっている。


    「キツい締め付けだな。ちゃんと受け止めろよっ」


    切羽詰まった彼の表情から察するに、限界が近いのだろう。


    「んっ、んっ……あはっ♡もう、射精()るの?んふっ、あんっ!遠慮なくだして?あんたのせーえきっ、びゅるびゅるーって射精()しなさい?私が許可して、あ・げ・る♡」



    そんな背徳えっちを楽しむ2人を横で見る彼女は、羨ましそうに眺めながら静かに呟いた。


    「2人とも、イっちゃうんだ…。いちゃラブ背徳えっちで、イっちゃうんだ……」


    「んっ、んっ…あんっ。いいわよ、だしてっ。だしてっ!わたしのナカ、あんたのザーメンでいっぱいにしてっ!───イ、くっ…!!」


    「────ッ!!!!」


    「──ぁああっ!」


    絶頂の頂点に達した時、身体を弓のようにしならせ、嬌声を大きくあげた。

    腟内にドクドクとあつい子種を注がれ、無意識に手を下腹部に当てていた。


    「あぁ…。あんたの気持ちよすぎ…。あんたが娼婦館なんか行った日には、キャスト全員メロメロになっちゃうわよ…んっ、はぁはぁ…」
  43. 43 : : 2022/12/03(土) 03:30:51
    何が原因か、未だ媚薬効果が抜けていないのか、それとも単純にお互いの行為、自分の下で快楽に喘ぐ彼女らの姿を見て興奮が抑えられないのか…。


    当初の目的を忘れて、3人仲良く満足するまでしっぽりと愉しむのだった。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    エレン「はぁぁっ…!流石にもう無理だ…」


    フリーダ「あれだけ頑張ってくれたもんね。お疲れ様」


    マリー「絶対これ腰とか顎とか痛くなるやつ…」


    エレン「よく言うぜ…」


    フリーダ「女の子はえっち中は基本動かない事が多いから…。イってもまだ続けられる…けど。男の子はそうもいかないからね」


    右にフリーダ、左にマリーという両手に花という状態でベッドの上で倒れ込むエレン。

    他の男子が万が一、億が一見てしまった場合どうなってしまうのだろうか…。

    汗だくで、全身の肌を晒しベッドに仰向けで倒れ込むエレンを挟んで、下半身の間からトロリと垂れる白濁の液体を垂らしながら彼に寄り添う2人の女。

    まぁ、何かしらのアクシデントが生じ、否が応でも目に入ってしまったのなら、口止めも兼ねた契約をした上で見逃すのかもしれないが…。

    もし仮に、故意に見ようとしていたのなら、話は別かもしれない。

    ───それはさておき。


    エレン「ひでぇ有様だな…」


    改めて状況を鑑みると、確かに酷い有様だ。


    マリー「部屋中に雄と雌と臭いが充満して、それでいてベッドの上には全裸の男1人と、腟内から精液垂らしながらピロートークを楽しむ女2人。誰がどう見てもハーレムものね。好きなんじゃないの?可愛くてエロい女に囲まれるのって」


    エレン「俺は別に好きじゃない…。というか夢見すぎなんじゃないのか?」


    マリー「今ここで可愛くてえっちな女の子2人を裸で侍らせてる男が何を言ってるんだか…」


    フリーダ「初めてエレンの身体を見て触ったけど、鍛えてるんだね」


    マリー「服の上からじゃ、細そうに見えるけど…。剥いちゃえばこれだものねぇ」


    エレン「悪い気分はしない。自分の努力が伝わってる証拠だからな」


    フリーダ「私も鍛えてみようかな?」


    エレン「全力で辞めさせてやる。お前は今の身体が一番良いんだ。無駄に筋肉を付けないでくれ」


    マリー「光栄に思いなさい?私も男だったら、あんたの事すぐ襲っちゃうくらいには良い身体してるんだから」


    フリーダ「あ、ありがとう?」


    そうこうしているうちに、窓の外から見える空は夕焼け色に染まっていた。


    エレン「そろそろ風呂入って洗い流して帰らねぇとな。ヒストリアに預けたサリアが心配だ」


    マリー「とか言って、ホントはお風呂でシたいとかー?なんてね」


    フリーダ「じ、じゃあ…みんなでお風呂入ろうよ。洗いっこしよ?」


    案の定、挑発に乗ったエレンがマリーとおっぱじめ、その様子を見て興奮してしまったフリーダが混ざりに行ったというのは別の話だ。
  44. 44 : : 2022/12/04(日) 00:52:25
    破壊された王宮の修復作業の完遂が近くなってから二週間。

    彼、エレン・イェーガーは──。


    「動くなっ!両手を後ろで組んで跪け、反抗の意思が取れた場合、命は無いと思え」


    “とある事件の罪”に問われ、憲兵に拘束された。


    フリーダ「──どういう事ですかっ!?」


    ハンジ「ま、まぁまぁ落ち着いてよフリーダ皇女。拘束されただけで、刑が決まったわけじゃないんだし」


    フリーダ「エレンに何の罪があるって言うんですか!?エレンは…エレンはっ!」


    エルヴィン「一先ず落ち着こう。説明はそれからだ」


    ・・・・・・・。


    フリーダ「“虐殺事件の犯人の疑い”?ありえません…。あの人がそんな、こと…」


    エルヴィン「彼には、王政への叛乱と合わせてその罪に問われ、今は地下牢に投獄されている。近いうちに彼の処遇を決める為の裁判が行われる」


    フリーダ「そんなっ…!」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    エレン「………(何も見えない。“瞳術”を封じる為?)」



    地下牢のベッドの上で四肢を頑丈な鎖で拘束されたエレンは、付近を探る。

    やがて時間が経つと、足音と共に感じ慣れた魔力が2つ、こちらへ向かっているのが分かる。


    エレン「あの…ここは何処です?」


    エルヴィン「地下牢だ。すまないな、こうなると予想していれば…結果が変わったのかもしれないが」


    リヴァイ「エルヴィン、無駄話は終わりだ。さっさと本題に入れ」


    エルヴィン「そうだな。……エレン、今の君は…王政による叛乱と、君が過去に起こしたとされる“虐殺事件”の殺人者としての罪に問われている」


    エレン「そうですか」


    エルヴィン「……驚かないんだな」


    エレン「まぁ…。憲兵達が捕らえに来たのも、大方そっちがメインでしょうから」


    リヴァイ「エレン、俺は昔にその話をざっくりとしか聞いてない。何があったのか事細かく話せ」


    エレン「良いですよ。どうせ、時間が来れば隠す必要も無くなりますからね……」


    ・・・・・・・・・。


    エレンは隠すこと無く、あの日の記憶を語る。
    あの日以前から少女と出会っていた事、少女を助ける為に怒りのままに人を斬った事、少し前に少女と約束を交わした事、その全てを語った。


    エレン「つまりはそういう事です。俺がやけにあの子を気に掛けているのも、俺が不在の時はいつもアイツらに任せてるのも…全部そういう事です。人を斬る事に躊躇いが無くなったのも……全て」


    エルヴィン「そうか。君達2人には何か踏み込んではいけない過去があると予想していたが……。ここまでとはな」


    リヴァイ「まぁいい。少し狭くて汚ぇかもしれねぇがもう少しだけそこで待ってろ。皇女がうるせぇからな」


    エレン「これはあとが大変そうだ…」


    エルヴィン「それと、裁判の事について…頼まれて欲しい事が──」
  45. 45 : : 2022/12/04(日) 04:30:16
    エレン「………随分とまぁ警戒されてるもんだ。ここまで拘束されてんのに、何か出来るわけじゃねぇだろ」


    ダリス「エレン・イェーガー君だな。なるべくだが、無駄な挑発は慎んでくれると助かる。話が進まないのでな」


    フリーダ「………(エレン…)」


    視界を塞がれ、両手を後ろで拘束されている状況で、余裕を見せるエレン。
    その姿に、どこか不気味さを感じる。



    ダリス「早速だが、ナイル。君達の意見を聞かせてもらおう」


    ナイル「はい。我々憲兵は、彼の力、その本質を調べる為に解剖した後、早急に処分すべきだと考えています。現に彼は王政へと叛乱を起こし、逝去されたロッド・レイスを殺害したという報告も上がっています」


    フリーダ「──!?」


    「なんだって?」

    「じ、じゃああの時言ってた“クーデター”って」

    「彼の言うとおり、アイツを始末すべきだ!」


    あまりにも驚愕の隠蔽工作。
    真実を隠蔽し、多くの味方を付けることで声を大きくする。

    これが現在の憲兵の姿だとでも言うのだろうか?


    ダリス「静粛に。……次にエルヴィン、君の意見を聞こう」


    エルヴィン「はい。彼の力は強大ですが、今後迫り来る脅威に対抗する為には必要不可欠です。国を、そして民を守る為には、彼の力を利用する必要があります」


    ダリス「……エルヴィン、君の発言は…“既に魔族は復活している”と、言っているように聞こえるが?」


    エルヴィン「そうです。魔獣…奴らは魔族の眷属です。奴らが活発化している事を知っているのなら、ご理解頂ける筈です」


    いとも簡単に述べられた事実。
    その事についてなんの躊躇いも無く発するエルヴィンの表情は平静を保っている。

    しかし、何故かその場へ参加していた貴族が反発する。


    「な、なら、さっさと始末すべきだ!」

    「そうだ!奴らの目的が居ないと分かれば」

    「もうこれ以上、我々はお前達の英雄ごっこに付き合ってられないんだよ!」


    数々の批判が飛び交う中、それを掻き消すように静かに言葉を発した。


    ───よく喋るな、豚野郎。


    「──!」


    リヴァイ「そいつを殺して“眼”を処分した所で、魔族が許してくれる保証が何処にある?てめぇらの言う我々ってのは、てめぇらが肥える為に守ってる国民(ともだち)の話だろ?」


    リヴァイ「それに…てめぇらがエレンをどうしようと勝手だが、抵抗された先に殺されても文句はねぇんだな?……“人を殺す”ってのは…“自分も殺される”。そういう覚悟があるからそうするんだろ?」


    リヴァイの正論に貴族達は押し黙る。

    彼らのような者達は、“人を殺す”という感情はあったとしても、それ伴う“自分が殺される”という可能性の考慮、その覚悟が頭の中に存在しない。

    「貴族」という立場を利用し、上からモノをいう、醜く肥太った豚なのだ。
  46. 46 : : 2022/12/04(日) 06:54:35
    ダリス「エレン・イェーガー。次は君に尋ねたい。数年前に起こったとされる……“虐殺事件”。アレは君の犯行によるものか?」


    エレン「……………」


    エレンは答えない。何の考えあってのそれなのかは、隠された瞳からは読み取る事が出来ない。

    しかし、物事とは…そう簡単に上手くいくものでは無い。それは、エレン本人が一番よく理解していた。


    ナイル「総統。それについては調べが着いています」


    ダリス「ほぉ?」


    ナイル「数年前に起きたあの事件、彼の犯行によるもので間違いありません」


    フリーダ「─────。」


    ダリス「事実か?」


    ナイル「はい。当時、調査を行っていた際、偶然にも事件について知っている住民から聞いたものですので間違いありません」


    ダリス「……ふむ。イェーガー君、これについて何か弁明はあるか?」


    エレン「………そうです。あの惨たらしい斬殺は確かに俺がやったモノ。ただ、どうして被害者である子供を助けたってのに、罪に問われる必要があるのか…納得出来ませんね」



    フリーダ「──子供を、助けた?」


    エレン「何だよ、お前も居たのか。なら、隠すのも意味は無いか。フリーダに免じて教えてやるさ。あの日何が起きたのか……」


    「いや、その必要は無い。今すぐに殺すべきだっ!あんな人を殺す事に躊躇いも無い小僧など生かしておく必要は無いっ!」


    エレン「あ?」


    「そ、そうだ!こんな議論に意味は無い!」

    「早くやつを殺せ!」

    「そうだ、殺せ!殺せ!」


    エレン・イェーガーに対する批難が大きくなり、そのボルテージが最大にまで達した時、それよりも声を張り上げてエレンは叫んだ。


    ──うるせぇんだよッ!!!!!!!!


    束の間の沈黙……次に聞こえた音は─。

    リヴァイがエレンの横っ面を蹴り飛ばした音だった…。


    フリーダ「────ッ!!!!」


    ハンジ「大丈夫…」


    フリーダ「エレンがっ…」


    暫く続いたリヴァイの暴行は、ナイルの声が聞こえるまで止まることは無かった。


    ナイル「り、リヴァイ……」


    リヴァイ「……何だ」


    ナイル「危険だ……。そいつが恨みを買って暴れたらどうする」


    リヴァイ「何言ってる…?」


    リヴァイは顔を腫らせ、息を荒らげるエレンの髪を掴んでナイル側へ見せ付ける。


    リヴァイ「お前ら、こいつを解剖するんだろ?何怖がってんだ」


    エレン「はぁはぁ、はぁっ………っ!」


    リヴァイ「こいつはクーデター開始直後から王宮に着くまで、凡そ50人の護衛兵を殺したらしい。それも一瞬で首を斬り落としてな」


    リヴァイ「こいつが敵だったとすれば、お前が仕向けた憲兵なんざ全員死んでる。それが無かったって事はそういう事だ。まぁ、もし仮にこいつが裏切ったりしても俺の敵じゃないがな」


    エルヴィン「総統、提案があります」


    ダリス「何だ…?」


    エルヴィン「この様に、エレンは並の魔道士や兵士では相手にならない程の殺戮能力があります。もし、我々を裏切った際にはリヴァイにその管理を任せ、その上でこちらのフリーダ・レイス、皇女陛下の専属の護衛に就かせます」


    ダリス「エレン・イェーガーの管理か…。出来るのか?リヴァイ…」


    リヴァイ「俺にはコイツを殺す事は出来ねぇ。何せ、エレンは俺の大切な弟子だ。それに、もし本当にコイツが裏切った時は、何者かに皇女が殺された時だ」


    フリーダ「………」


    ダリス「ふっ…。結論は出た」



    ─エレン・イェーガーは皇女陛下に託す…!
  47. 47 : : 2022/12/04(日) 07:54:02
    無事、とまではいかなかったが、結果としてエレンの処遇はエルヴィン達に託され、刑に処される事は無かった。


    フリーダ「エレンッ!!大丈夫!?急いで顔を治さないとっ!」


    エレン「いってぇ……」


    フリーダ「ちょっとリヴァイさんっ!?どういう事なのか説明して下さいっ!!納得出来る理由を言うまで絶対に許しません!」


    エレン「あれは、必要な演出だったんだよ。最初言われた時は俺もどうかと思ったけどな…」


    エルヴィン「ようは周囲にエレンはリヴァイの敵では無い事、そして君が誰かに殺害されるまでは裏切る事は無いと示す必要があったんだ」


    簡潔に説明するエルヴィンだが、そんな事で彼女の憤りが収まる事はなく……。
    むしろあれ程に一方的な暴行は有り得ないと、爆発した。


    リヴァイ「なぁエレン、俺を憎んでいるか?」


    エレン「まさか。憎んで斬りかかっても返り打ちだろうし、さっきも言ったけど必要な演出だったから」


    リヴァイ「なら良かった」


    フリーダ「どうしてそう簡単に許しちゃうのっ!?私ホントに暴れそうになったんだからねっ!?」


    エレン「そんな事より、もうすぐ王宮の修復作業は終わるんだろ?戴冠式とかやんねぇといけないんじゃねぇのか?」


    フリーダ「そんな事っ!?戴冠式の方がそんな事だよ!だいたいエレンはそうやって──」


    エレン「長ったらしく説教するんじゃねぇ!お前は俺の母親か!?」


    フリーダ「母親じゃなくて大切な彼女でしょ!?」




    エルヴィン「いい関係だな」


    ハンジ「お似合いだねぇ」


    リヴァイ「バカップルの間違いだろ…」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    エレン・イェーガーの処遇を決める審議が終わり、やがて数日。


    サリア「お兄さん、起きて。起きてくれないと、わたしも起きれないよ…」


    エレン「………んっ」


    サリア「あぅ……。起きない…」


    あすなろ抱きでエレンの腕の中に居るサリアは、小声で起こそうとするのだが、眠りが深いのか、起きようとしない。

    起きるどころか、腕の中のサリアを抱き締めるようにしている。


    サリア「お、お兄さんっ。早く起きないと朝ご飯食べられないよっ」


    起こし方に彼女の優しさが滲み出ており、何なら彼女の口から発せられる綺麗な声が逆に彼の眠りを深くしているようにも見える。


    エレン「んっ……さり、あ…。ぜったい、おれがまもっ、て……」


    サリア「寝言……。そんなに、疲れてる、のかな…?」


    実際、彼女が知らないだけで、この数日間で彼は疲弊しきっているのだ。

    それに、彼女はエレンが「明日は休みだから、ゆっくり出来る」と言っていた手前、サリアは起こさずに寝かせておくべきか、朝食を摂る為に起こすべきかを迷っている。


    サリア「こんなに疲れてるなら、起こしちゃ……で、でも、ちゃんと朝ご飯は食べないと、だし…」


    とまぁ、この様に…。子供ゆえか早起きをしてしまったが為、こうして腕を小さく叩いて起こそうとしているのだが…中々起きないというのが何分か続いていたのだった。

    そんな時、彼女の元に白羽の矢がたった。


    「入るわよー?……って、まだ寝てんの?」


    サリア「あっ、マリーさん…。お兄さん、さっきから起きてってしても、起きないの」


    マリー「まったく…。大事そうに抱き締められちゃってまぁ……。ちょっと、さっさと起きなさいって。朝飯冷えるわよ」


    エレン「ん、んぅ………」


    マリー「……(妙に色っぽいわね)」


    サリア「お、お兄さん…起きて。お、起きないと…イタズラ、しちゃうよ?」


    本当に彼女は子供なのだろうか…?
    発言が、付き合って間もない彼女のソレなのだが…。


    エレン「んっ……んぁ?さびしいのか?だったらほら、おいで?」


    サリア「お、おおおにいさんっ。そうじゃなくてっ、起きてっ。起きないと朝ご飯が──」


    エレン「いいから……」


    サリア「あぅ……マリーさん、わたし動けないよ」


    マリー「………(な、なんなのよコイツ…)」


    ──カワイイじゃないのぉーっ!!!


    マリー「朝食は後でいいわ。今はたっぷり堪能するべきね…こんな姿、滅多に見れないんだし」


    サリア「ふぇ?で、でも…朝は毎日ご飯を食べるって、吹雪さんが……」


    とまぁ、エレンの知られざる一面を知ってしまったマリーがメロメロになり、それに巻き込まれてしまったサリアは大人しくするしか出来なかった。

    その後、エレンを起こしに来た吹雪にしっかりと叱られたのは言うまでもない。
  48. 48 : : 2022/12/04(日) 08:40:02
    エレン/マリー「いただきます……」


    サリア「い、いただきますっ」


    吹雪「まったく…。遅いと思ったら…」


    マリー「わ、悪かったわね…。あむっ」


    エレン「俺は完全なとばっちりだろ…。起きたら急に正座させられて…」


    サリア「で、でもっ…お兄さんに起きてってしても、起きてくれなかった」


    エレン「……………」


    サリア「あ、あぅ…。げ、元気出して?わたし別に、怒ってるわけじゃ……」


    エレン「……ありがとな」


    サリア「あっ……えへへ」


    マリー「何この和やかな空間……。この子は天使か何か?」


    吹雪「暗い雰囲気が一気に吹っ飛びましたね…」

    ・・・・・・・・・。

    朝食を摂り、のんびりと朝の時間を過ごす。

    そんな彼らの元に、来客が…。


    アルミン「エレンいるかい?この前借りてた本を返しきたんだけど……」


    マリー「あいつならそこで、天使と戯れてるわよ」


    アルミン「てんし?」


    視線の先に、サリアを脚の間に座らせて、あすなろ抱きでゆらゆらと朝の陽の光を浴びるエレンの姿が…。


    サリア「お日様ぽかぽかしてて気持ちいいね」


    エレン「あぁ……」



    アルミン「あぁ……なるほど。今日は休みだったっけ」


    マリー「そ。だから、今日一日面倒事は──」



    ジャン「──おいエレンっ!昨日の話はまだ終わってねぇぞっ!」



    マリー「アイツなんで空気読めないのよ……」


    アルミン「あっははは……」

    ・・・・・・・・・・・・。


    サリア「お、お兄さん…呼ばれてるよ?」


    エレン「気のせいだ。今日は誰も俺の部屋には来ない事になってる。だから気のせいだ」


    サリア「で、でも……あそこに──」


    エレン「気のせいだ。ほら、今日は一日中一緒なんだ。何かやりたい事とか無いのか?」


    サリア「ほ、ほんと?えっと、じゃあ…」


    その姿はまるで兄妹のようで…微笑ましく、和やかな空間を作り出す。

    “邪魔する事勿れ”……。
    誰が言ったか、彼ら2人の邪魔をしようものなら…。

    “氷の刃が降り注ぐだろう”。


    サリア「お兄さん、最近すごく疲れてるでしょ?だから、今日はのんびり日向ぼっこしたいな…」


    エレン「気を遣わなくていいんだぞ?」


    サリア「うん。いつも、お兄さんはわたしにぎゅーってしたり、膝枕してくれたりするでしょ?だから、今度はわたしがしてあげたいなって。……だめ、かな?」


    エレン「そういう事なら、まぁいいか」


    そんな感じで、この2人のやり取りは基本ふわふわと緩いのである。何なら、密かに彼ら2人を『見守り隊』などという訳の分からないグループが出来上がってしまっているのだ。


    エレン「ん?おお、アルミン。またなんか見たい本あったら勝手に借りてっていいからな」


    アルミン「ほ、ホントかい?ありがとう!君の本は凄く学べる事が多くて、他のも読んでみたいと思ってたんだ!えっと、今度はどれに──」


    エレン「……何だ、居たのか」


    ジャン「アルミンと態度が違いすぎじゃねぇのか?」


    サリア「ねぇ、お兄さん…。あの人だれ?お馬さんみたいな顔してるね」


    ジャン「…………」


    人知れず純粋な子供の言葉だけでノックアウトされた者が居たとか居ないとか…。
  49. 49 : : 2022/12/04(日) 22:38:18
    マリー「ねぇ、何あれ」


    フリーダ「わ、私には…何とも」


    本部には大きな寮があるのだが、その共有スペースでもある食堂とでも言うべきか。
    そんな場所のカウンター席にて、一人癇癪を起こす可哀想な人物が…。


    ジャン「羨ましくなんかっ…羨ましくなんかねぇ……わけねぇだろーっ!!」


    その辺の一般男性と比べれば、わりと整った顔立ちをしているという、恋愛において一つのアドバンテージが備わっているのだが…。

    どういうわけか、ジャン・キルシュタインというこの男、自覚していないのか…先程からエレンの方を度々見てはこうして癇癪を起こしている。


    マリー「男の嫉妬は見苦しいわね…。その辺にいる男と比べれば如何に自分の顔が良いか理解出来てないわね…」


    フリーダ「エレン以外に褒める事ってあるんだ…?」


    マリー「私を何だと思ってるわけ?ちゃんと人並みの感性は持ってるわよ」


    意外といった表情のフリーダに、じとーっと睨みながら組んだ腕の片肘でど突く。

    ・・・・・・・・・・。


    ジャン「アルミンっ!おまえもそう思わねぇか!?」


    アルミン「僕は別にエレンに嫉妬した事は無いよ」


    ジャン「あ、あれを見て何も思わねぇのか?」


    アルミン「このやり取り前もした気がするんだけど……アレってなに?」


    ジャンが指し示す先には……。


    サリア「えへへ…。お兄さん、あったかいね」


    エレン「今日はとびきりの快晴だからな。たまにはのんびりするのも悪くない……」


    窓際の長椅子に横並びで座り、日光浴をする2人。

    あれだけの距離感で血の繋がった兄妹でも、義理の兄妹でもないのだから驚かされる。


    アルミン「あれを見たって和むだけじゃないか。日向ぼっこしながらお茶を飲んで団子を食べてるだけだろう?」


    ジャン「なんで俺には誰も……」


    アルミン「ところで、どうしてジャンはそんなに嫉妬してるの?一般男性と比べたらわりと、整ってると思うんだけど…」


    ジャン「あいつの顔見ながら、同じ事が言えるか?」


    アルミン「言えるけど…」


    いつの間にか恋愛相談に発展していた…。
    もはやジャンのこれについては、エレンと出会った時からの日常的に見られる光景だった為、もう誰もツッコむ事は無かった。

    そんな様子を見てられなかったのか、呆れたような口調で話を割って入るマリーとフリーダ。


    フリーダ「多分、貴方はまだ女の子の事が“理解らない”んだと思う」


    ジャン「ま、まぁ…そりゃ、俺は男だしな」


    マリー「そういう事を言ってんじゃないの。いい?女の子ってのはね、ただ単純に相手を好きになるわけじゃないのよ」


    ジャン「………どういうことだ?」


    マリー「まぁ…それだけだと分かんないのも当然ね。何せ、“一目惚れ”なんて言葉が存在するんだから」


    フリーダ「女の子にとって、“相手を好きになる”。って事はとても軽く考えていい事じゃない」


    落ち着いた様子で、それでどこか楽しげに…フリーダは遠くの彼を見据える。


    フリーダ「もちろん。相手の顔、スタイル、経歴、どれも一つのきっかけだけど。私はそうは思わない」


    フリーダ「相手の心、性格…人間性。どんな過去があって今の相手が創られたのかをちゃんと考える。どんなに闇が深くても、どれだけ血に塗れていようと…それをちゃんと頭の中で考えるの」


    フリーダ「ちゃんと考えて、相手の事を理解しても尚、相手の人と一緒に居たい。傍に居てあげたい。そう思えた時……初めて“恋”に落ちるの」


    ジャン「…………」


    フリーダ「私だって、マリーちゃんだってそう。もしかしたら、サリアちゃんだってそうかもしれない」


    フリーダ「エレン・イェーガーという男の人を創った、過去や経験…その言葉の意味。それが“理解ってる”からこそ、あの人と一緒に生きたいと、あの人に尽くしたいって思うの。そうでしょ?」


    マリー「わ、私は別に……」


    フリーダ「ふふっ。……だから、焦る必要は無いの。まだ貴方の前にそういう人が現れてないだけで、必ず、この先の未来……。きっと貴方の事を“理解ってくれる”人が現れる」


    フリーダ「………単純そうに見えるかもしれないけど。実は“恋愛”って、結構奥が深いんだよ?」


    ニコりと笑うその表情は、とてもじゃないが彼らと同年代には見えなかった。

    魔導士でも、国を治める皇女でもなく……。


    ただひたすらに…“恋”を楽しむ、ただ一人の女の子。

    誰よりも彼を愛し、何年も想い続け、過去に交わした約束を頼りにずっと待ち続けた少女に過ぎないのだ。
  50. 50 : : 2022/12/05(月) 00:12:18
    フリーダ「なんてね。講釈垂れちゃったけど、これはあくまで私の恋愛に対する考え方。参考程度にしてくれると助かるかな」


    「えへへ…」と恥じらう姿は実に可愛らしい女の子のそれだった。


    その一連の話に聞き耳を立てていたのか、彼女の元へ歩み寄るエレン。


    エレン「何も恥じらう事はねぇさ。それも立派な考え方の一つ、誇っていいと思うぞ」


    フリーダ「き、聞いてたの?」


    エレン「やけに周りが静かになれば自然と聞こえるだろ」


    仏頂面ではあるが、どこか“嗤っている”。


    エレン「ただまぁ……それについて思う事がないと言えば嘘にはなるがな」


    フリーダ「……?」


    エレン「例えそれが自分にとって変えようの無い大切なモノだったとしても……」


    フリーダ「エレン…?」


    彼女の頭に手を置いて、表情を暗くする彼は…どこか弱そうに見えた。


    エレン「───いや、忘れてくれ。少し“用事”を思い出した。サリア寝ちまったから、少しの間だけ見ててくれ」


    マリー「………そう。ちゃんと“帰ってきなさい”よね」


    2人の意味深なやり取りに妙な不安を感じ取るフリーダは、頭に置かれた彼の手の感覚が…不気味なくらいに残っている事に僅かに疑問を抱いた。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    エレン「よくもまあ、平然とした顔で居られたもんだな。“あの時”は世話になったぜ──」


    エレン「──ベルトルト」


    ベルトルト「………いつから気付いてたんだい?」


    エレン「時間が惜しい。無駄話に付き合ってられる程暇じゃないんだ」


    ・・・・・・・・・・。


    人気の無い草原…とは名ばかりで、辺り一面には彼岸花が咲き誇る。

    その中心には……。


    ベルトルト「はぁっ、はぁっ、はぁっ……っ!」


    エレン「……………」


    片膝をつき、所々には斬り傷だろうか…血を流し、大きく肩を揺らして息を切らすベルトルト

    それに対し、目下の彼に刃を向けて無表情に見下ろすエレン。


    エレン「そういえば、お前は色々なやり方で“同胞の眷属”達を殺していたが…アレは楽しかったりするのか?」


    ベルトルト「な、なにをっ…いって…!」


    エレン「俺は今、愉しいぞ。なぁ、お前もそうだろ?お前なら、俺を理解してくれるだろ?」


    ──そうだ。一つ聞きたい事があった。


    エレン「お前の手足を切断しても大丈夫か?どうせまた、蜥蜴みたいに生えてくるんだろ?」


    ベルトルト「くっ……ら、ライナーッ!!!」


    その叫びは作戦か…それとも恐怖心から来る助けを呼ぶ為か…。

    しかし、エレンにとってそんなモノはどうでもいい。ただ、眼前の“敵”を斬るだけだ。


    エレン「じゃあな、精々あの世で後悔しな」


    「後悔するのは、お前の方だっ!!!」


    エレン「───ッ!?」


    間一髪、鉄のように硬い拳を刀で受け止め、その衝撃のまま後退する。


    ライナー「大丈夫かベルトルト。一人で殺ろうなんて無茶だ」


    ベルトルト「あ、ありがとう…ライナー。ごめん」


    アニ「コイツはあたしの獲物だ。手ぇ出すんじゃないよ」



    エレン「………はっ。まさか自分から“正体明かしに”来るなんてよ…。探す手間が省けたぜ」


    アニ「ようやく見せたね。御託はいいから、アンタの眼を寄越しな」


    エレン「素直に従うわけねぇだろ…?かかって来いよ」


    アニ「ようやく。あんたとの決着(ケリ)を着けられる」


    エレン「もう勝った気でいやがる…。少しは愉しませてくれよ、退屈なのは嫌いなんだ」
  51. 51 : : 2022/12/05(月) 01:14:39
    ライナー、ベルトルト、アニ。

    3名によるエレンへの襲撃。
    そこから発展する戦闘。

    束の間の平和の中で起こった闘争。

    彼ら3人はエレンを殺しに来たというのに、対するエレンは本気の3人に攻撃をされて…“嗤っていた”。

    イェーガーの象徴を表す紅い瞳、いつか古い記録の中で見た時は“写輪眼”と呼ばれていたそうだが、そんな名称など今の彼には関係無い。

    相手の僅かな動きを捉え先を読み、右手に剣を、左手には雷を…。

    かつて師・リヴァイから叩き込まれた“強者との戦い方”、その全てを今この場で発揮する。

    彼の戦闘力…それはもう、殺戮能力と言って差し支えないだろうか。

    彼が持つソレは、この3人を相手に圧倒する。

    劣勢を強いられ、焦りを抱いてしまった事による連携の乱れを見逃す筈も無く、そこを隙と捉えられ、彼らは敗北を喫した。


    エレン「……はぁ、はぁ、はぁ……はぁっ。………お前らには自分の意思がまるで無い。ただ誰かに指示されて動く人形だ。死にかけの頭でよく考えろ。“自分はどうしたいのか”どうかをな……」


    そうして彼は去っていく。
    何を考えて、彼らにトドメを刺さなかったのかは誰にも分からない。

    ……ただ一人を除いては…。


    「あーあ。こりゃあ酷くやられたもんだな。我が“異母弟”ながら容赦が無いなぁ」


    ジーク「“魔王様”とやらは、何を考えておいでなのやら。………お前達にはまだ残された道がある。それをよく考えろ。何の為に……“お前達を送り込んだのか”」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    マリー「………遅かったわね。あんたの皇女様は酷く心配していらしてよ?」


    エレン「何だそのキャラは…。早いとこ傷を何とかしねぇとな。何言われるか分かったもんじゃねぇ」


    マリー「───“殺した”の?」


    エレン「──“殺しは”してない。俺の言いたい事が伝わってればの話だがな」


    マリー「……ふーん、そ。なら、さっさと傷を癒しなさい」


    何事も無く、このまま一日が終われば…。
    なんて言うことはなく──。


    フリーダ「──説明して。今まで、何処で、何を、してたの?」


    エレン「な、何でお前がここに……」


    フリーダ「心配…したんだからっ!」


    エレン「あー………なんか、ごめん」


    フリーダ「今日は私と一緒に寝てもらうから。いーい?これはお願いじゃなくて、命令だからね」


    マリー「……これは先を思いやられるわねぇ」


    フリーダ「ばかっ、ばかばかばかばかっ!私がどれだけ心配したと──」


    エレン「分かったからっ、取り敢えず治療が──」


    マリー「イチャイチャすんのもその辺にしなさいよね。だいたいあんたはいつもいつも──」


    少しだけ、騒がしい夜だった。
  52. 52 : : 2022/12/05(月) 22:15:23
    そして、今日……。


    エレン「工作班の仕事は凄いもんですね。あれだけ破壊された王宮が物の見事に綺麗になってる」


    リヴァイ「行くぞエレン。“戴冠式”まで時間が無い」


    エレン「分かりました」


    ──戴冠式。

    先代国王、ロッド・レイスによる支配が彼の娘…。

    フリーダ・レイスの手によって終わりを迎え、彼女を新たな国の王として迎える為の式典。

    激しい戦闘の際、破壊された王宮の修復作業が完遂された翌日、それは始まろうとしていた。


    リヴァイ「エレンよ…。“例の奴ら”は今どうしてる」


    エレン「一応、気付かれない程度に監視は付けてますけど。今んとこ目立った動きは無さそうですね」


    リヴァイ「そうか。だが、お前は甘すぎる。どうして奴らを殺さなかった」


    馬車の送迎の中、正面に居合わせる師は突然としてそう聞いてきた。

    何か思う所でもあるのだろう。


    エレン「例えアイツらを殺した所で何も変わらない。どの道、自責の念に駆られでもすれば…勝手に自滅する。だったら、無理矢理にでも生かして俺達人間の為に罪を償わせ続ける」


    リヴァイ「…………」


    エレン「下手に弄り回してうっかり殺してしまうよりも、そっちの方が余っ程の拷問だ…。だから、死にかけのまま放置しました。どうせ、アイツらには“再生能力”が別で備わってる。滅多な事じゃ死にませんからね」


    リヴァイ「お前…。昔と比べて変わったな」


    エレン「そうですかね。案外変わってないかもですよ、結果は誰にも分かりませんから」


    リヴァイ「……ふっ。それもそうだな」

    ・・・・・・・・・・。


    戴冠式を行うにあたって、本日の主役とも言える彼女は、ある一室で準備を行っていた。


    フリーダ「こういう衣装着るの…何年ぶりだろ」


    ヒストリア「でも、凄く似合ってるよ。お姉ちゃん」


    フリーダ「ありがとう、ヒストリア」


    束の間の沈黙。
    先にそれを破ったのはヒストリアだった。


    ヒストリア「ねぇ、お姉ちゃん」


    フリーダ「………ん?」


    ヒストリア「私ね、お父さんの事が嫌いだった」


    突然の告白…。


    ヒストリア「自分の事しか考えてなくて、私達子供の事なんて眼中に無い。こんな人、父親だなんて認めたくなかった」


    フリーダ「………」


    ヒストリア「お母さんを……唯一の心の救いだったお姉ちゃんも、私から何もかもを奪ったあの人が大嫌いだった」


    ヒストリア「けど、エレンに会えた」


    フリーダ「──!」


    ヒストリア「何もかもを失って空っぽになったヒストリア・レイス。それをエレンは受け入れてくれた。だから、エレンに出会わせてくれた事は感謝してるよ」


    フリーダ「そっか……」


    ヒストリア「もうお父さんは居ないから“ありがとう”なんて言えないし、今更言いたくもない。だからさ──」


    ヒストリア「──昔お姉ちゃんが読んでくれたあの絵本の女の子みたいに近付く為に頑張るよ。それまで、私の事……見守っててよね!」


    フリーダ「ヒストリア…。ふふっ、私はあなたのお姉ちゃんですから!ずっと見守ってるよ!」


    初めて自分に見せてくれた“心”からの笑顔。
    ただ、それだけで…それが見れるなら…。

    フリーダにとっては、最高の報酬だ。
  53. 53 : : 2022/12/05(月) 23:02:27
    エレン「話は済んだのか?ヒストリア」


    ヒストリア「うん。お姉ちゃん、凄く綺麗だった」


    エレン「そりゃ……楽しみだな」


    ・・・・・・・・。


    フリーダ「私が……このエルディア王国の王です」


    フリーダ「私の名は、“フリーダ・レイス”。先日まで国王として生きていた父、ロッド・レイスの娘です」


    フリーダ「まずはじめに、あなた方国民の皆さんに謝罪させて下さい」


    一国の主が国民に対して謝罪を申し上げるなど、本来有り得ない話。

    しかし、現に王を名乗る彼女は至って真剣に頭を下げている。

    当然国民は、「どうして?」、「なぜ王が頭を下げるんだ?」と、疑問を抱えるのは考えるまでもない。


    フリーダ「今に至るまで隠された陰謀の数々、その全てを今この場をもって、私から開示致します」


    数十年前に起きたある一族の壊滅、その一端を握っていた悪しき貴族達の陰謀、その全てを…。

    この戴冠式という場で開示された。


    フリーダ「当時の私は、未だ幼く…父や貴族の力を恐れ、何も出来ない皆さんと同じ弱者に過ぎませんでした。ですが、今は違います」


    フリーダ「一国の主として…許されざる陰謀を隠し続けてきた王家の者として、その罪を背負う義務が私にありますっ!」


    フリーダ「国を在るべき姿へ、皆が望む平和へ、光ある未来へと導く義務が私にはあります。これまで国民に強いてきた不満、怒り、要望、全てとはいきませんが…。私が責任を持ってお応えします!」


    そして彼女は震える声で膝をつき、頭を地に伏せ…許しを乞うように民に呼び掛ける。


    フリーダ「どうか!この国が為、あなた方国民の為にっ!どうかこの私に、未熟者の一人の人間として、皆さんに協力をさせてください!」


    今まで国民に対し、不満や怒りを虐げてきた王家からの許しなど受け入れる事など到底出来はしない。

    だが、涙を流し声を震わせ、王家の名を持つ者としての責任を持ち、彼ら国民に寄り添わんとするその優しい心…。

    そんな彼女であればと…人は希望を見出した。


    「王様が謝るなよ!」

    「子供は大人に迷惑をかけるもんだろ!」

    「フリーダ皇女万歳!!」



    エレン「忌まわしき王家の歴史も…陰謀の数々も、結局はただの過去だ。だとしても、あいつはそれらを背負って生きていく事を“自分の意思”で決めた」


    ヒストリア「うん。そんなお姉ちゃんを否定なんて出来ないよね」


    エレン「………ようやく、“病”は消えそうだ。これで良かったんだよな、親父」


    ───あぁ、そうだ。


    エレン「──!!………父さん?」


    ヒストリア「どうしたの?」


    エレン「……いや、何でもねぇ」


    国を蝕む“病”は打ち払われ、国は少しずつ…一歩ずつではあるが、在るべき姿へと動き続ける。

    これからは、人と人が助け合う時代。

    物語は……未だ始まったばかりだ…。
  54. 54 : : 2022/12/06(火) 00:17:32
    無事、戴冠式は滞りなく進行した。

    フリーダ・レイスは正式にエルディア王国を統べる皇女陛下として、国民に認められたのだった。

    そして現在──。


    エレン「…………ん?」


    エリナ「ししょー!大変です!」


    エレン「何があった…?」


    エリナ「お、皇女様が──」


    ・・・・・・・・・・・・。


    エレン「………“部屋から出てこない”?」


    エリナ「そうなんです。メイドさん達も困っててどうしようって悩んでるんです」


    エレン「…………まだ片付けねぇといけない仕事が山程あるはずだが」


    エリナ「その……んっん!『こんなの楽しくないよっ!私休むからエレンに投げてっ!』って」


    エレン「………(イラッ)」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    フリーダの戴冠式が終わると共に、それに続く形でエレン、マリーの2人は皇女陛下直属の護衛として王宮に身を置く事になったのだが…。


    エレン「おい、あ─「やだっ」……………」


    マリー「さっきからこんな調子なのよ」


    扉の向こうに居るであろう皇女陛下に声を掛けようと、「いや」の一言で一蹴され、出てこないとの事らしい。


    エレン「……はぁ、入るぞ…」


    そのまま扉を開け、中を覗くと……。

    15cm大の氷塊が飛んできた。


    エレン「………………おい、なにして──」


    フリーダ「あっ、み、みないでっ……あ、またっ…イ、クっ!」


    エレン/マリー「………………」


    認めたくなかった…。
    先日あれだけの大口を叩いて皇女陛下として相応しい一歩を踏み出した彼女が……。

    片付けるべき仕事を放置して、自室で自慰行為に耽っているなど……認めたくなかった。


    エレン「放っておくか…。俺達疲れてんだよ…」


    マリー「そ、そうね……。少し休みましょうか…」


    静かに扉を閉める。
    “俺/私は何も見なかった”。そう自分に言い聞かせるように……。


    エレン「そんなわけねぇんだよ。まだ戴冠式終わって一日だぞ!何やってんだ!」


    フリーダ「ひゃあっ!?」


    マリー「いい?!あんたはもう一国の主なの!そんな事してる暇があったら仕事片付けなさいよねっ!!」


    フリーダ「で、でも─」


    マリー「でももだっても無いわよっ!分かったらさっさと着替えて仕事しなさいっ!」

  55. 55 : : 2022/12/07(水) 01:44:14
    王宮の修復に伴って、内装も大いに改築。
    どのように改築されたかは、フリーダとその指示の下、作業を行った工作班にしか分からない。

    ここは皇女陛下、フリーダの執務室に当たる場所である。

    彼女にとって書類関連の仕事は、とても退屈であり、戴冠式から1日しか経っていないのに、何か理由をつけてはサボっている。

    王家に仕えるメイドの多くがその奔放さに頭を抱えていたところ、エレンの弟子を自称するエリナが話を聞いたという事だ。


    そして、そんな皇女陛下は2人の友人の監視の下、書類とにらめっこをしている。


    フリーダ「うぅ……手と腰が痛くなってきた」


    エレン「…(ズズッ)………自業自得だ。あれだけ国民の前で啖呵切っといてこのザマじゃ、何言われるか分からんぞ」


    珈琲を飲みながら、手元の書類を見やる。

    今現在、彼らの元に押し寄せる書類は、国民からの要望やそれに伴う資金の提供要求が殆どである。


    マリー「今のうちにやれる事しておかないと、“奴ら”が来れば色々と後回しになるのよ」


    フリーダ「分かってるよ…。自分で決めた事だから、ちゃんと責任は持つよ?でも、こんなに大変なんて思わないよ……」


    エレン「それだけ、期待されてるってことだ。………そういや、サリアは今どうしてる?」


    マリー「あの子の事で思い出したんだけど、御両親が『是非このまま面倒を見て欲しい』って鳩が飛ばしてきたわよ」


    エレン「…大丈夫なのか?かなり不安があるんだけど…」


    マリー「あんただからよ。あんただから安心して任せられるってことよ」


    お互いの顔を見ず、それでもどこか通じ合っているように見えるこの2人。

    フリーダにとってはそれが少し羨ましかったりする。


    フリーダ「むぅ。2人ってば私の事放ったらかしで話しちゃんだから……」


    マリー「これくらい我慢しなさいよねぇ?私だってホントは両手両足拘束して私しか見えないようにしたいって思ってるんだから…。これでも譲歩してるのよ」


    エレン「今、サラッとヤバい事言ったなお前……(ズズッ)」


    フリーダ「ツンデレというか……ちょいヤンデレ?」


    マリー「うるさいわね…。口より手を動かしなさい、終わらないわよ!」

    ・・・・・・・・・・。

    それから作業を行う事、数十分。

    静かな空間は、一人の魔導士によって終わりを迎えた。


    「報告します。監視中の“彼ら”が動きを見せ始めました」
  56. 56 : : 2022/12/07(水) 02:39:54
    フリーダ「……“彼ら”?」


    マリー「……………」


    エレン「常に警戒心を緩めるなよ。妙な動きがあれば逐一報告しろ。状況次第じゃ俺が出る」


    「了解」


    その後、一瞬でその場から消えた魔導士に対してフリーダはエレンに問い掛ける。


    フリーダ「今のは?」


    マリー「現状の憲兵の内部状況は分かってるでしょ?だから、それを良しとしなかったエレンが直々に“隠密機動”って組織を創設したのよ」


    フリーダ「おんみつきどう?」


    エレン「罪人の処刑、街の警備、監獄の監視、早馬も要らない程の迅速な報告。簡単に言っちまえば、憲兵の完全上位互換と言ったところか」


    フリーダ「じ、じゃあ今のエレンって…」


    エレン「“王族護衛隊隊長及び、隠密機動総司令官”。俺はさっきの奴を含めたそれらのトップって訳だ」


    フリーダ「い、いつの間にそんなのを!?私聞いてないよ!」


    エレン「だろうな、知らねぇのもしょうがねぇよ。そもそも、元はと言えばうちの一族が憲兵の役だったんだよ」


    口をあんぐりと開けたまま硬直するフリーダをよそに、マリーは先程の報告についてを問う。


    マリー「そういえばさっき、“彼ら”って言ってたけど」


    エレン「あぁ、その彼らだ。今度は何をしてくるんだろうな」


    そう言って呑気に珈琲を飲みながら、手元の書類を見続ける。

    まるで先程の報告など気にも留めてないように見える。


    フリーダ「え?何が起きてるの?知らないの私だけ?あれ?」


    あたふたと、2人を交互に見ては冷や汗をかいているフリーダ。
    そんなフリーダに2人は今の状況を、分かりやすく説明した。


    フリーダ「──えぇっ!?国内に敵な潜んでたの?!」


    マリー「満点のリアクションありがとう。簡単に言えばそういうこと」


    フリーダ「こ、この事は皆知ってるの?」


    エレン「リヴァイさん含めた幹部の人達は知ってる。ただ、それ以外の奴らは知らない。情報開示したとこで混乱が生じるのは目に見えてる」


    フリーダ「そ、そうなんだ」


    一応、自分しか知らないと思っていた為、どこか安堵した様子だったが、それも束の間、この状況で呑気に珈琲を啜るエレンに驚愕しか無かった。


    フリーダ「そんな状況なのにこうやって呑気にしてていいの?」


    マリー「こいつは“あくまで”、王族護衛の隊長。簡単に王宮からは離れられないのよ」


    フリーダ「う、うん。それは分かってるんだけど」


    エレン「まだ本格的な動きが無い。迂闊にこっちから仕掛けて、いつ俺達の情報が“向こう”に言われでもすれば……」


    マリー「だから、あんたは気にしなくていい。分かった?」


    自分の知らない間に、そのような事が起きているとは思っておらず…。

    やっと光が見えてきた事に実感を覚えた事がそうしたのか、その光ごと、国が影に覆われていくような悪寒がした。
  57. 57 : : 2022/12/13(火) 20:19:11
    “隠密機動”


    それを知る者は皆等しく、

    「憲兵の完全上位互換」

    と評価したそうだ。


    知らない者達は、口を揃えて「初めて聞いた」と言うが、本来エレンの一族がこの国の秩序を保っていたのだ。
    しかし、“あの一夜”以降…国の秩序を保つ組織がないということで、代わりとして生まれたのが憲兵だ。

    そんな憲兵の内部事情を良しとしなかったエレンが、改めて創設したのが“隠密機動”だ。


    “隠密機動”は、大きく分けて4つの分隊によって構成されている。

    処刑や拷問、有事の際の戦闘を専門とする
    “隠密機動第一分隊・刑軍”

    エルディア王国内の警備や罪人の摘発、捕縛を表向きの仕事とする諜報部隊
    “隠密機動第二分隊・警邏隊”

    監獄の監視や監獄内で暴れる罪人の制圧を行う
    “隠密機動第三分隊・檻理隊”

    国内間での情報伝達を専門とし、空間と空間の移動を得意とする
    “隠密機動第四分隊・裏廷隊”


    それらを統括、指揮するのが
    “王族護衛隊隊長兼、隠密機動総司令官”

    エレン・イェーガー。

    そして、同等の権力や立場を持つ
    “王族護衛隊副隊長及び、第一分隊「刑軍」統括軍団長”

    マリー・エレノアール。


    エレン曰く、「東方の国と隣接する別次元の世界にあるらしい組織をそのまま起用させて貰った」

    マリー曰く、「命を捨てる覚悟がある奴しか居ない。一部エレンに罵られたいという変態が居る…正直そんな奴は組織から追放したい気分」


    そんな2人の仕事は“あくまで”、王族を護衛する事にある。

    よって、余程の状況でない限り戦線に入るべきでは無いというエレンの判断の下、先程の様に逐一「報告」が入るようになっている。
  58. 58 : : 2022/12/17(土) 20:32:05
    黒紫色の禍々しい魔力が充満する空間。

    いや……最早世界と言っても差支えが無いだろう。

    魔獣が至る所を闊歩しており、その奥深い場所には一つの玉座があった。


    「………戻ったか、“キュクロ”、“シャルル”」


    キュクロ「“陛下”、準備が整いました」


    シャルル「後は“陛下”の指示を待つのみです」


    「そうか……。“大罪”達に伝えよ」


    ──これより、我ら“魔”は……王国へ侵攻する。


    平和を取り戻しつつあったエルディア王国。
    それは、魔族を統べる王……“アンヘル”の野望が為、戦争に巻き込まれんとしていた。

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著者情報
utiha_sasuke

セシル

@utiha_sasuke

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黒衣の剣士と黒髪の女魔導士 シリーズ

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