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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

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この作品は執筆を終了しています。

黒衣の剣士と黒髪の女魔導士〜魔術学園篇〜

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  1. 1 : : 2021/04/07(水) 06:30:15
    エルディア王国……マリア、ローゼ、シーナの三大都市からなる大きな王国だ。

    そこに、魔導士を忌み嫌うエレン・イェーガーの姿があった。
    幼き頃より父のような魔導士に憧憬を抱き、両親からの教育によって魔導士になる事を夢見ていた少年だ。

    しかし……そんな彼の夢は粉々に打ち砕かれてしまう。


    ある日の事。


    母から夕飯の食材が不足していると聞き、金銭を預かり買い出しに外出したあの日。“それ”は起こった。
  2. 2 : : 2021/04/07(水) 07:25:21
    「ん?あの人集りは…?」



    母から頼まれた買い出しより家に帰宅していた時の事。

    道中、異様なまでの人集りを見つけたエレンは、人混みの中から見慣れた顔の男を見つけ、話を聞こうと近寄った。



    エレン「ハンネスさん?何があ───」



    エレンは見た。いや、見てしまった。
    その瞳に映るそれは、愛する家族そのものだった。



    エレン「父さん!!母さん!!」



    手に持っていた小さな袋を手放し、横たわる両親の身体を揺らす。



    ハンネス「エレン…残念だが、お前の両親は……」



    エレン「助かるんだろ?ハンネスさん達魔導士だったら、父さん達は助かるんだろ!?魔導士にも居るんだろ!?医療班ってのが!」



    ハンネス「落ち着けエレン!最後まで話を──」



    エレン「落ち着いてられるかよ!!父さんが、家族が倒れてんだぞ!?この状況で落ち着いてられるわけねぇだろ!?」



    それはそうだ。愛する家族が倒れているこの状況下で冷静でいられる筈がない。ましてやエレンはまだ10年も生きていない子供だ。現実を受け入れられないのも当たり前なのだ。

    赤子の頃からエレンを知っているハンネスは、事実を述べてしまっていいのか迷っていた。相手は純粋な子供。そして、物心ついた頃には度々遊んでやっていた子供でもある。だからこそ、事実を述べるべきかどうか、悩んでいた。


    エレン「なぁ、応えてくれよ!ハンネスさん!!」



    ハンネス「………」


    長考の末、ハンネスは心を鬼にして事実を述べた。


    ハンネス「エレン、よく聞いてくれ。お前の両親は…グリシャさんとカルラは…死んだ。何かの間違いだと思って医療班も呼んだ。けど、ダメだった」



    エレン「 」



    ハンネス「死因は…魔力を纏ったナイフで左胸を突き刺された事による刺殺だ」



    エレン「ま、りょく……?」



    ハンネス「そうだ…ちょうどうちの班に、触れた対象の記憶を覗けるという力を持った部下が居た。そして、実際に見た事を話してもらった」



    ハンネスの部下曰く、「通りすがりの黒い服装の男が、すれ違いざまにナイフに魔力を纏わせて胸に突き刺した」との事。



    エレン「じゃあ、父さん達を刺したのは……」



    ハンネス「察しのいいお前なら、分かるだろ?そう、“魔導士”だ」



    エレン「──!!!!」



    “魔導士”

    国民を、国を守るという使命を持ち、魔導士育成機関、通称“魔術学園”にて3年間通った末の卒業試験に合格した者だけがその肩書きを手にする事が出来る。

    父のグリシャ・イェーガーもまた魔導士だった。

    そんな父の背中を見るエレンも、父のような魔導士になりたいと憧憬を抱いてたものだ。


    許容し難い事実を受け入れられないエレンは、瞳から光が消えると同時に脱力する。


    覚束無い足取りで両親の手を取り、今までの事を思い出す。


    初めて褒めてもらった時の事や、家族3人で旅行に行った時の事……。


    そんな中、冷たい雨が降り注ぐ。


    愛する家族を失った絶望感、追っていた父の背中を負えなくなった虚無感に包まれる。


    両親の手を取り涙を流すエレンを、ハンネスは見ている事しか出来なかった。


    これより始まるは、エレン・イェーガーの物語。

    魔導士を忌み嫌い、孤独の道を歩み続ける彼の物語はこの時より始まった。
  3. 3 : : 2021/04/07(水) 08:25:48
    あれから数ヶ月。


    両親を失ったという事実を漸く受け入れられたエレンは、暗い表情で洗面台の鏡を見る。


    エレン「この眼の色…父さんの眼と同じ…。確か母さんの部屋に…」



    エレンは母・カルラの書斎に向かい、目的の書物を手に取った。



    エレン「………」


    その書物には、エレンが知るべき事柄がずらりと書き記されていた。


    先ずは、赤眼についての文献を見た。


    深い愛情を失った時や自分自身の失意にもがき苦しんだ時、脳内に特殊な魔力が吹き出し、それが視神経に影響を与え、瞳が赤くなるという事だ。

    その名を心を写す瞳……“写輪眼”という。


    エレン「……“写輪眼”」


    更にその上位互換でもある“万華鏡写輪眼”についても記されていた。

    その開眼条件には諸説ある。
    一つは、最も親しい友を殺す事。
    そして、最も深い愛情を失う事。

    確認されている条件はこの2つ。

    最愛の家族という最も深い愛情を失っているエレンはそれを開眼してもおかしくは無いのだが、現に開眼出来ていない事から、他にも何かのトリガーが必要なのかもしれないとエレンは考えた。


    他にも色々、イェーガーという名前について知らない物等がその書物に記されていた。


    数時間後。全て読み終えたエレンは、両親を殺害した魔導士が誰なのか分からない以上何も出来ないと考え、先ず最初にその魔導士の存在に少しでも近付く為に、魔導士育成機関通称“魔術学園”に行く為の準備を進めた。
  4. 4 : : 2021/04/07(水) 09:24:17
    魔術学園に行く為の準備として、先ずは最低限の知識と技量、そして体力。


    今から1年間、エレンはそれらを身に付ける為に修行を始めるのだった。


    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

    一年後。


    「私は今日からの3年間、お前たちの面倒を見る事になったキース・シャーディスだ。やる気のある者、やる気のない者関係無く厳しく指導していくから覚悟をしておけ。まず初めに、お前達の力量が如何程のものかを確かめる為の入学試験を行う!!」



    エレン「………?」



    入学試験?父さんから聞いた時はそんなの無かったって聞いたはずだけど…。

    でも、関係無い。少しでも力を付ける為にはこの入学試験だって利用してやる。



    キース「入学試験の内容は3つ!先ずは筆記試験、そして実技試験、最後に1体1の戦闘試験だ。全員、この学園に入学したいと本気で思っているのなら、死に物狂いで取り組むが良い。入学試験に合格した者が魔導士になるのに相応しい資質を持っている者だ。入学試験の開催時期は後程説明する、以上!解散!」



    キースの言葉を境に、エレンはすぐさま立ち上がり、教室を出る。

    向かった先は………屋上だ。



    エレン「………」


    筆記試験も大事ではあるが、問題は実技試験と戦闘試験だ。己の技量を確かめるには最適の場面。


    エレン「……っ!」


    左手に蓄積させた魔力を、千鳥の様な鳴き声を思わせる音を出しながら放出させる。


    エレン「父さんから受け継いだこの技を、完璧に仕上げる事が出来た…直線的なこの技は、相手のカウンターを受けやすい。でも、俺にはこの眼がある。その動きを見切る事が出来れば…敵のカウンターを受ける前に攻撃を与えられる」


    エレン「あとは……」



    それから休み時間終了の鐘がなるまで、エレンは技の研鑽に励んでいたのだった。
  5. 5 : : 2021/04/07(水) 09:59:45
    やがて昼飯時に。


    再び屋上へ訪れたエレンは先客が居る事に気付く。


    「悪いね、場所取って。私はああいう騒がしいのが苦手だからここに来ただけ。昼飯食べるなら好きにしな」



    エレン「………」



    先客の言葉に反応する事もなく、エレンは静かに握り飯を頬張る。



    「そういえば、同期の女子は皆アンタを見るなりキャーキャー言ってるみたいだけど、なんかしたの?」



    エレン「さぁな…」



    「素っ気ない男は嫌われるよ、もう少し愛想よくした方がいいんじゃない?」



    エレン「お前には関係無い。恋愛ごっこに付き合ってられる程暇じゃない」



    最後の一口を飲み込んだエレンは邪魔したな。と一言言ってその場を去った。そして先客、アニ・レオンハートはエレンの背中に描かれていた家紋を見て眼を大きく開いた。



    アニ「あの家紋……全滅したと噂されたイェーガー一族…!生き残りが居たとはね」


    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

    数日後


    いよいよ入学試験が開催された。


    キース「これより入学試験、第一次試験・筆記試験を行う!カンニングが勿論、己が能力を使っての回答は禁止、使用した者はその時点で失格とする。自身の知識を全てぶつけ、見事筆記試験を突破して見せよ!!!」



    キース「では、第一次試験……開始ッ!!!!!」
  6. 6 : : 2021/05/25(火) 07:21:27
    いくら博識であった母から多くの事を学んだとはいえ、油断は出来ない。

    一つ一つ、慌てず落ち着いて筆記試験に臨んだエレン・イェーガー。


    キース「そこまで!!皆筆を置き、解答用紙を裏返して待っているように」


    エレン「………(分からない問題は無かった。見落としも無い、あとは実技と戦闘。自分の実力を確かめるにはもってこいの舞台だ)」



    唯ならぬ雰囲気を漂わせるエレンの横をキースが通過する。


    キース「……(グリシャの息子か。カルラのおかげもあってか筆記試験は余裕をもっていたようだな。あとは2つの試験だが、既にこやつの実力はここに居る者を遥かに上回っている。問題無かろう)」



    ・・・・・・・・・・・・・・・・・

    キース「これより実技試験を開始する。詳細については事前に伝えていた通り、呼ばれた者から順に、この装置に向かって攻撃をするだけ。この装置は、技の威力を数値化出来る技術班考案の代物だ。数値が高ければ高いほど、合格への道が近くなる。自分の自慢の技がどれ程のものか、これを通して実感するといい。説明は以上だ」



    キース「アルミン・アルレルト!!まずは貴様からだ!!」



    アルミン「は、はいっ!!」



    最初に名を呼ばれたのはアルミン・アルレルト。
    彼の持つ魔力は風の力。五大元素の中でも特に殺傷能力に優れた部類であり、岩や鉄を斬り裂く事も出来れば、極めれば一定範囲の空間を真空状態にする事も可能だ。

    アルミンは自身の周囲に風を起こし、狙いを定めて複数の風の刃を装置にぶつける。


    キース「……(アルミン・アルレルト、数値2315。体力面では他に劣るものの、持ち前の頭脳を活かし風の刃を増やす事で威力を上げたわけか。エルヴィン程ではないが、何かトリガーさえ訪れれば指揮官として十二分の力を発揮するだろう)」



    キース「次、ライナー・ブラウン!」



    ライナー「はいっ!」



    ライナー・ブラウン。
    五大元素のうち、守りに扱われる事の多い岩の力を持つ少年。


    彼は自身の前方に多数の岩石を浮かばせ、それを殴り付けるように右拳を突き付ける。


    ライナー「ぬんっ!!!」


    キース「…(ライナー・ブラウン、数値3570。屈強な体格と強靭な精神を併せ持つ。右腕に魔力を集中させて殴り付けるように放出する事で、岩石は弾丸となって対象を穿くモノか。守護系の多い岩の力で、非常に攻撃的な使い方をするのは珍しい)」
  7. 7 : : 2021/06/21(月) 00:47:09
    名を呼ばれる者達が自慢の魔術を繰り出していく中、それを無表情で眺めるエレンがそこにはいた。

    エレン「……」


    ──“あの日”覚えた魔力を持ってる奴はここには居ない。

    当たり前か…父さん達を不意討ちでやるような魔導士だ、そう簡単に見つかるわけないか。

    此処での生活が終わってからが本番だ、だからこそ、此処に居る3年間はひたすらに力を付ける!──


    キース「エレン・イェーガー!貴様で最後だ」



    名を呼ばれ、呼応するように静かに立ち上がり軽快な足取りで場の中心へと移動する。



    エレン「最初の質問です、父さんの友人であったキース教官」


    キース「………何が聞きたい」


    エレン「父さん…父は、俺について何か言ってましたか」


    キース「言わずとも分かるだろう……『誇り』だ」


    エレン「ありがとうございます…それが聞けて、良かったです」



    憑き物が落ちたような表情をする少年は目を閉じる。


    (いかずち)が宿る。青白く光るそれはこの場にいる全ての者の目を集めるに相応しいものだった。

    それもそうだ。雷とは本来自然によって発生するもの。雷の力を扱う者は全て予め下準備を行っていた。

    だからこそ、驚愕する。下準備もせず、自然の力にも頼らず、ただ自分の魔力だけで、あまつさえ自分の左手に宿らせるなど誰が想像出来ようか。

    あれは最早、雷とは形容し難い。雷電と呼んだ方がまだしっくりくる。

    そんな事を平気な顔してやってのけているこの少年は、小さな声で言った。


    「……千鳥」


    ──刹那、その名の如く…千鳥の囀りが鳴り響いた。



    キース「……羨望、嫉妬、尊敬、あらゆる感情を一身に背負う事になるだろうな。やれやれ……力を余すことなくぶつけるとは」



    宿っていた雷が霧散し、衝撃による砂埃が晴れると、そこには6000を超える数値が空中に浮いていた。


    キース「……(エレン・イェーガー、数値6590。己が魔力のみで雷の力を引き出した天賦の才を持つ逸材。ミカサ・アッカーマンとエレン・イェーガー、この2人が今期の注目株と言うことか)」
  8. 8 : : 2021/07/16(金) 02:27:32
    第二次試験を終了した後、エレン・イェーガーは休憩時間の合間、外の空気を吸っていた。


    エレン「………何か用ですか。キースさん」


    キース「魔力探知もお手の物か。やはり、お前は今期の中でも抜きん出ているようだ」


    徐ろに姿を見せるキースはエレンの横に立つ。


    エレン「魔力探知は魔導士として出来て当たり前の事。父はそう言ってましたけど」


    キース「それが出来る程、お前の精神は落ち着いているという事。息災で何よりだ」


    エレン「そんな事を言うために、わざわざここまで来た訳では無いようですけど」


    キース「……眼の調子はどうだ?」


    暫しの間、沈黙が訪れる。


    エレン「……そうですね。あと1~2年程は問題は無いです。それ以降は、父の眼を移植する他無さそうです」


    キース「そうか…。私の考えは杞憂だったようだ」


    エレン「父の眼は今もしっかり保管しています。何も抜かりはありませんよ」


    キース「その用意周到さは、カルラのおかげか?」


    エレン「さぁ、どっちでしょうね。ところで、第三次試験はどうするおつもりで?」


    キース「何も生徒同士で戦わせようというわけではない」


    エレン「つまり、キース教官が全て相手すると?」


    キース「たとえ現役から身を引こうとも、お前達に負かされる程、力が落ちているわけでは無い」


    エレン「岩元素を扱う魔導士の中で最も守りにおいては右に出る者はいないと言われた“岩のキース”。確かに一筋縄ではいかないようだ」


    キース「まったく…もう勝った気で居るのか。少し私を侮りすぎだぞ?」


    エレン「………」


    キースの放つこの覇気を受けてもなお平静を保っているエレンは、確かに感じ取っていた。

    “岩のキース”…その名は伊達ではないという事を…。


    同時にキースも感じている。

    父にグリシャ、母にカルラを持つこの少年には天賦の才が備わっている。頭脳も、技量も、その全てが2人から愛情と共に注がれている。

    親しき友であったグリシャですら、キースの守りを突破する事は難しかった。しかし、この少年であれば…自身を負かす事が出来るかもしれないという期待感に満ち溢れていた。



    キース「ふっ…。そろそろ第三次試験の時間だ。無いとは思うが、遅れるなよ」


    軽く笑いながら、キースはその場を離れた。


    エレン「……遅れるわけないですよ。何故なら──」




    ───一番楽しみにしている試験なのだから。
  9. 9 : : 2021/08/16(月) 00:59:57
    第三次試験…。

    内容は簡単、キース・シャーディスとの一騎打ち。キースの観察眼を通して合格に値すると判断させる事が出来ればその名の通り第三次試験合格。


    やる気に満ちている者も居れば、自信の無いような者も居る。
    そんな中、キースの想定通り前もって目を付けていた者達は全て合格した。


    そして今、今期最大の注目株とも言えるエレン・イェーガーがキースと相対していた。


    エレン「この時、この瞬間を待ってました。自分の実力を図るこの機会を…」


    キース「全身全霊を持って挑んで来るがいい。最も、貴様にそんな事を言う必要は無いと思うがな」


    エレン「こんな衆目の中で出すのは億劫なんですがね…そう言われたら隠し通すのも難しそうだ」


    キース「……?」



    そう言って、少年は天に向けて手を翳し目を閉じる。


    エレン「……時は来た。今こそ汝の力を示す時だ…その剣、その命、今此処に契約者たる我の為に遣う事を赦す。最たるその力を存分に奮った暁には、我が生涯の一部を捧げよう。此処に現界せよ、我が剣…!!」


    詠唱が完了されると同時に強烈な光がこの場を包み込む。


    「我が契約者の意志、心に刻みました。我が剣は貴方様の為に振るう事を此処に誓いましょう。ところでマスター?今の“我が生涯の一部を捧げよう”ってやつ、嘘じゃないですよね?」


    強烈な光が消えると、そこには見たことも無い少女の姿があった。

    腰には刀を携えており、銀色に輝く髪を後ろで纏めている紅色の瞳をした少女の姿。


    エレン「……最後の最後で台無しじゃないか…。どうしてお前はそうなったんだ……“吹雪”」


    キース「イェーガー…その者は誰だ?」


    吹雪「従者の吹雪と申します。普段は霊刀としてマスターと一緒に居るんですけど、今回だけは断られてしまいまして」


    エレン「簡単に言うと俺の愛刀ですよ。その辺の刀と違うのは、こうして人の体が存在する事。まぁ、見た目と言動はこんなだけど、頼れる俺の愛刀ですよ」


    吹雪「やだなぁ…“俺の”愛刀だなんてぇ〜。っと、お巫山戯はこの辺にしておかないと、それでマスター?此度はどのように?」


    エレン「好きに動け。今から始める事はお前も知ってるはずだ」


    吹雪「ふふっ!久々の戦闘ですね!この吹雪、昂って来ましたよーっ!」


    エレン「さて、そろそろ始めましょうか。時間もあれですし、岩のキースの真髄…直ぐにでも引き出してみせましょう」



    キース「やれやれ…そこまで来ると此方も本気で行かねばな、本当に負かされてしまうやもな」



    今此処に、第三次試験…エレン・イェーガーの試験が始まった。
  10. 10 : : 2021/08/16(月) 01:29:47
    「アルミン?どうかした?」


    アルミン「あの女の子の魔力を感知して見たんだけど、殆ど彼のモノとそっくりなんだよ。ミカサも感じない?」


    ミカサ「私は貴方のように繊細な事は苦手…だから、違いがよく分からない」


    アルミン「不思議に思うんだ。ついさっき、契約者と従者だって言ってたんだけど、それにしては魔力の質が凄く似てるんだよ」


    ライナー「確かに、少し似てるな。アイツ自身の魔力で形成した何かなのかと勝手に思っていたが、あの様子は恐らく違うんだろうな」


    ジャン「どうせ見せびらかしたかっただけだろ。アイツ自身の実力はそこまでじゃねぇだろ」


    アニ「第二次試験のあの数字を見てもそれが言えるのかい?」


    ジャン「ありゃただのまぐれだろ」


    マルコ「エレンが仕掛けるみたいだよ!」







    吹雪「何やら外野が五月蝿いですね。黙らせましょうか?」


    エレン「外野は放っておけ。気が散るのは同感だが、今はこっちに集中しろ。お前は右からだ」


    吹雪「お任せを…!」



    キース「……(来るっ!)」



    キースが構えを取ると、2人は瞬間的に姿を消し、左右から一太刀入れ込んだ。


    キース「殺気がダダ漏れだぞ?そんなものでこの私をやれるものか」


    エレン「これでも割と速い方なんですがね…岩のキースは伊達じゃないってわけか」


    左右から一太刀入れられると同時にキースは地を隆起させて岩の盾を創造し攻撃を防いだ。
    その間約1.5秒。それを目に捉えられたものはこの場には恐らく居ないだろう。


    挟撃を失敗する2人は一つ身を引いた。


    吹雪「どうしますか?この速さに対応されると、流石の私も落ち込んでしまいますぅ…」


    エレン「既にこの戦いの意味は無いだろうな。あの人の観察眼は本物だ。けど、判定が下されないって事は、そういう事だ」


    吹雪「じゃあ……」


    エレン「さっき言った通り、好きに動け。その剣技、頼りにしてるぞ…吹雪」


    吹雪「──!!ええ!この剣はマスターに捧げると誓いましたもの、その信頼に精一杯応えますとも!」


    既に言葉は要らず。この戦いに最早本来の目的など無い、ただこの戦いを愉しむ為に彼らはキースへと挑む。


    キース「ふっ…最初から貴様は合格だ、たわけめ」


    ボソリと口に出したキースもまた、抑えられない闘争心のままに、応戦を始める。
  11. 11 : : 2021/08/16(月) 02:18:37
    結果として、エレン・イェーガーは合格。

    晴れてようやくこの学園の生徒になったエレンは己が目的の為に静かに歩を進めた。

    しかし、現実は非情だ。隠し通すつもりでいた愛刀の存在を明らかにしてしまった彼は、同期の者達による注目をより集める事になった。


    「……何奴も此奴も執拗い…どんだけ追いかけ回してるつもりだ」


    「本当は卒業まで隠すつもりだったんでしょう?それなのにこんな時期に明かしてしまったんですから、しょうがないですねー」


    「人の気も知らねぇで呑気に三色団子食いやがって…」


    ここなら誰も見ないだろうと、樹木の枝木に腰掛ける2つの影。

    1人は現在起きている騒動に愚痴を零すエレン・イェーガー。もう1人はその従者、そして愛刀でもある吹雪だ。


    エレン「こんな事してる場合じゃねぇってのに」


    吹雪「はむっ。ん〜っ!今日もお団子が美味しいです」


    エレン「そろそろ降りても平気…か?」


    静かに着地するエレンは周囲を警戒しつつ自作の弁当の箱を開く。


    吹雪「よいしょっと!そんなに周りが気になるなら部屋で食べません?」


    エレン「彼処は同室の奴が待ち構えてるからダメだ」


    吹雪「ふぅーん。まぁでも、私的には悪い気はしませんね。マスターに愛されている事の証明ですからねぇ〜」


    ご満悦といった表情の口にお手製の玉子焼きを突っ込むエレンは呆れたような表情をしていた。


    エレン「お前、出会った頃はそんなじゃなかっただろ…何がお前をそんなふうにさせたんだ」


    玉子焼きの美味さに感涙する吹雪は頬に手を添えて破顔させる。


    エレン「まったく…」


    いくら愛刀、従者と言えど彼女は女の子だ。自分の作る料理を満面の笑みで食すその顔を見てエレン自身満更でも無い様子だ。


    そう、こんな静かな時間が続けばいいと願っているのに……。



    エレン「なのに…!なんでまだ追っ掛けてくるんだ…暇人なのかてめぇらは…!」



    ジャン「ちったァツラ貸せや!美少女侍らせやがって羨ましいっ!!」


    アルミン「待ってよ!聞きたい事が沢山あるんだ!長くは掛からないから!小一時間時間貰うだけなんだ!」


    エレン「その行動事態が無駄な事だって何時になったら気付くんだ…コイツら」


    ドドドドドドッ!!!!と凄まじい音を立てながら追ってくる同期を尻目にエレンは携える刀を抜いて前方に一太刀入れて空間転移を試みるが、しかし……。



    (マスターッ!もっと強く握ってください!柄が折れるんじゃないかというくらい強く!さぁ!!)


    ───俺の愛刀がこんなド変態なのは間違ってる。
  12. 12 : : 2021/08/28(土) 01:55:26
    エレンについての騒動も鳴りを潜め、学園での生活も半年が経過した。

    そんなある日の事だ。


    エレン「失礼します」


    キース「来たか、イェーガー。突然の呼び出し、すまないな」


    エレン「いえ、構いませんが。何かありました?」


    キース「とある団体がお前をスカウトしたいそうだ。今回呼び出したのはその件だ」


    エレン「スカウト…ですか?ミカサ・アッカーマンではなく?」


    キース「あぁそうだ。アッカーマンではなく、お前だイェーガー」


    エレン「いくら何でも急過ぎると思いますが…?まだ1年も経ってない3流以下の人間を勧誘するって…」


    キース「私もそう思ったさ。注目株とはいえ、イェーガーはまだ私の生徒だ。早すぎるとな」


    エレン「少し時間貰えますか?そうですね、1週間もあれば決断出来ると思います」


    キース「分かった。向こうにはそう伝えておこう」


    エレン「お願いします。では」


    一礼の後に教官室を退室するエレンを横目に、キースはスカウト先の書類を見る。


    キース「エルヴィン…何を考えている」


    「最初にその案を出したのはエルヴィンじゃなくて、“破刧の皇女”だよ。シャーディス教官」


    キース「ハンジ?それは本当なのか?」


    入れ違うように入ってきた眼鏡を掛けた人物を見ては疑問を投げつける。


    ハンジ「私も詳しくは知らないんですがねぇ〜。エルヴィンから聞いた話じゃ、あの彼女は彼の事を知っていたようで。名前を見た途端血相を変えていたそうですよ」


    キース「破刧の皇女…フリーダ・レイス。イェーガーと何の繋がりがあるというのだ…グリシャやカルラは何も…」


    ハンジ「何はどうあれ、彼女の意見は変わらないそうですよ。その気になればこの場に来る」


    「ハンジさん!仕事放ったらかして何してるんですか!?早く戻りますよ!」


    ハンジ「げぇっ!モブリット!?ちょ、服を引っ張らないでくれぇー!」


    モブリット「リヴァイさんに殺されますよアンタ!!」


    キース「………やれやれ」


    時間は巻戻り、舞台は“破刧の皇女”の元へ。

    “破刧の皇女”…史上最年少で精鋭の中の精鋭、自由の翼という団体に所属した魔導士なら誰もが知っている王家レイスの娘である。

    そんな彼女はとある書類を目にする。


    「エ…レン、イェーガー…?」


    「今年学園に入った生徒の一人だそうだが、彼がどうかしたのかい?」


    「エルヴィンさん、私は彼をこの団体にスカウトします」


    エルヴィン「スカウト…か。しかし、まだ彼は学園に入ってまだ半年だ。些か急過ぎるのでは?」


    「私はこの名前を知っています。というより、彼の事を知っています」


    エルヴィン「ふむ。一先ず書類をシャーディス教官に送ってみようか。それで構わないか?」


    「はい、お願いします。絶対に彼を此処に」


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    「エレン・イェーガー…そうだよね、それもそうだよ。彼は凄く物事の優先順位がハッキリとしているんだもの。あの日の出来事がどうして起きたのか、両親の命を奪った魔導士を探してあの学園に…」


    「覚えていてくれてる…のかな。幼少の頃に初めて出会った時の事を…」


    フリーダ「私の事を……」
  13. 13 : : 2021/08/28(土) 03:25:32
    私は覚えてる…初めて出会った日の事を。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
    ?年前

    フリーダ「はぁはぁはぁはぁ……ッ!」


    ─おい!見つけたぞ!こっちだ!


    フリーダ「ッ!?もう見つかった!」


    私は、全力であの大人達から逃げていた。
    お父様が言っていた。『この顔の男達に遭遇したら真っ先に逃げるんだ』と。

    噂を聞いた。怪しい集団が大人の女性や子供を拉致監禁して人身売買しているという事を。

    今、この瞬間、私が逃げているのはその集団からだった。

    呼吸器系が悲鳴を上げる、心臓の鼓動が加速する。自分の体すら追い付けない速度で一心不乱に逃げる。時に躓いたり、脚が縺れて転んだりもした。それでも私は逃げるのを諦めなかった。


    気が付けば、私は知らない街の中を走っていた。
    街の中心にある噴水広場付近に並んでいるベンチに腰掛けて、荒い息を整えながら周囲を見渡す


    そんな時だ。彼に出会った。


    「この辺じゃ見ない顔だけど、誰?凄く疲れてるみたいだけど、水でも飲んで落ち着きなよ。あと、汗も凄いから身体を拭いた方が…って、泣いてんのか?」


    お父様以外の男の人の優しさに触れたのはこの時が初めてだった。だから、私は涙を流して上擦った声で彼に縋ったんだ。


    ──お願いします。私を、助けて下さい…!


    理由を何一つ聞かずに、ただ「わかった」と、一言だけ返事をする彼は直ぐに私をおぶって歩き出した。


    フリーダ「あ、あの…わたし普通に歩け─」


    エレン「その震えじゃ直ぐに脚が縺れて転ぶ。だからこうした方が速い」


    正論をぶつけられてしまった私は言葉を失うだけだった。ただ、私とほぼ同じ年齢であろう彼の背中は広く、逞しく…そして、何より安心感があった。

    彼の両親は本当に見知らぬ私に尽くしてくれた。
    お風呂やご飯、寝具だって貸し与えてくれた。

    次の日、お父様が迎えに来てくれた。


    ロッド「娘を預かってくれて助かった、グリシャ」


    グリシャ「私は何もしてないさ。エレンが彼女を見つけてくれだからこそ、出来たことだ」


    グリシャさんは右手でわしゃわしゃと彼の頭を撫でる。そんな彼は素っ気ない表情をしていたけれど、どこか嬉しそうだった。


    ロッド「本当にありがとう。君のおかげで娘は無事に済んだ、感謝するよ」


    エレン「帰ったら慰めてやって欲しい。寝てる時、軽く魘されてたから」


    ロッド「あぁ、分かった。では私達はこれで失礼するよ。さぁ、帰ろうかフリーダ」


    フリーダ「あ、あの…いつか、また会える?」


    エレン「約束はできないけど、見つけたら声掛けて欲しい」


    フリーダ「う、うん!!またね!!」


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    あの時、私には彼しかいないと思った。
    私と人生を歩む相手…生涯を誓い合う夫婦、旦那様、絶対に彼にしか出来ない。本能がそう訴えている。


    フリーダ「ようやく、ようやく逢える。未来の旦那様(エレン)に…!」


    パキッ


    またこの音だ…彼に対する想いを再確認する度に聞こえてくる謎の音。

    何かにヒビが入るような、そんな音。


    フリーダ「そんな事はどうでもいい。早く、逢いたい。あの人に」


    次の日、エルヴィンさんから1週間考える時間が欲しいと本人が言っていたという事を聞いた。

    それでもいい。再び彼に出会えるなら…。


    そして、今日も私は…“破刧の皇女”という殻を身に着けて部屋を出る。


    フリーダ「おはようございます。今日も一日、よろしくお願いします」
  14. 14 : : 2021/08/28(土) 04:13:30
    教官室を出るエレンは悩みに悩んでいた。

    もちろん話にあったスカウトについてだ。
    何故よりによって、自分なのか。それが分からないでいた。


    「あ、エレン…」


    エレン「ん?あぁ、ヒストリアか」


    クリスタ「ここではクリスタって呼んでよね。何処に誰がいるか分からないんだから」


    エレン「それはそれとして、なんか用か?」


    クリスタ「ん?あぁ、そろそろお昼ご飯の時間だよ。今日のお昼はなんだろうね」


    エレン「昼飯なら他を当たればいいだろう。仲いいヤツ居るだろ」


    クリスタ「今日の私は貴方と一緒に食べたいの。それとも、エレンは私とご飯一緒に食べるのは嫌?」


    エレン「お前は周りからどんな目で見られてるのか知った方がいいぞ」


    クリスタ「私、周りの人に興味は無いの。だから、皆がどう思っていようがお好きにどうぞって」


    エレン「学園内ではクリスタじゃなかったのか?博愛主義、皆に愛されたい死にたがりなクリスタ・レンズ」


    クリスタ「2人きりの時くらいはいいでしょ?本音を語っても」


    エレン「ふーん。そういうもんか」


    クリスタ「そういうもんなの。ほら、分かったら早く行くよ!早くしないとエレンの分も私が食べちゃうからね!」


    エレン「…ヒストリア・レイス。家庭内の環境は最悪。けど、最終的には独りになった女。俺と似てるようで、全く違うよく分かんないやつ。ただ、アイツと似たような顔を何処かで見た事があるけど、果たして誰だったかな」


    パキッ…

    ーーーーーーーーーーーーーーーーー

    時間の進みはあっという間だ。悩みに悩んでいれば時間など無いようなものだ。

    あっという間に1週間が過ぎ去ったのだ。
    悩み事も今日で最後だ。


    キース「件の事だが、どうする?」


    エレン「そうですね。本来なら断っておくべきだけど、これも経験の一つ。受けます」


    キース「本当に、受けるんだな?」


    エレン「はい、ただし条件が一つだけ。正式な魔導士になるまではその団体への所属は仮のものとして欲しいです」


    キース「ふむ、なるほど」


    エレン「仮にもまだ俺は生徒であって魔導士では無い。魔導士でもない人間を招き入れるのはかなりのリスクがあると判断します」


    キース「ごもっともだな」


    エレン「その条件を受け入れてくれるのなら、そのスカウトは受けます」


    キース「分かった。直ちに連絡を入れよう」


    エレン「お願いします」
  15. 15 : : 2021/09/20(月) 04:35:30
    例の団体からのスカウトを仮の形で受けると決断したあの日から数日後。

    エレン・イェーガーは珍しく学園内に設営された演習場の中心で瞑想を行っていた。


    エレン「…………」


    クリスタ「珍しいね、エレンが此処を使ってるなんて」


    エレン「……用がないなら出直してくれ。何をしてるかどうか、見れば分かるだろ」


    クリスタ「用ならあるよ、“私じゃないけど”」


    エレン「……?」


    クリスタ「良かったねお姉ちゃん。感動の再会だよ」


    「久しぶり…で、いいのかな。私の事、覚えてる?」


    エレン「吹雪…何をそんなに殺気立ててるんだ」


    吹雪「……いえ。少し、見たくないものが見えてしまったので」


    エレン「………まぁ、ならいいが。それで、久しぶり…っていうのは“俺に対して”って解釈で?」


    クリスタ「………」


    横目で姉を見ると、信じられないと言った表情をした姉がいた。


    フリーダ「覚えて、ないの?」


    エレン「………っ」


    吹雪「マスター?」


    エレン「っ。………」


    視界がブレる、耳元にノイズが走る、息は苦しく浅くなる。

    目の前にいるその人は自分の事を知っている。
    しかし、自分の記憶に彼女のような存在は居ない

    必死に過去を遡って記憶を辿ろうとするが、過去の情景はブラックアウトし、耳障りな不快音が鳴り響く。


    その苦痛に耐えかねたのか、頭を抱えて過呼吸気味になる自分に駆け寄る従者は、目の前で唖然とする女性に視線を向ける。


    吹雪「何をしたんですか?」


    フリーダ「な、何もしてない…!」


    吹雪「それなら、どうしてこんなに藻掻き苦しんでいるんですか…」


    エレン「関係…ないっ。その人は、関係ない…だから、ソレ仕舞え…!」


    吹雪「マスター、一先ず自室に戻りましょう。安静に眠ることをオススメします」


    そう言って、従者は空間に裂け目を作り、自身の身体を支えながらゆっくりと裂け目に向かった。


    クリスタ「………行っちゃったね」


    フリーダ「どうして……」


    クリスタ「無意識に自分の過去を塞ぎ込んでいたのか、もしかしたら知らない間に誰かしらに何かされたかのどちらかだと思うよ。どちらにせよ、今エレンに会うのはやめておいた方が身の為だよ。自分の主が急に苦しみ始めた。それもお姉ちゃんに会ってから、吹雪ちゃんはお姉ちゃんを警戒してるだろうからね」


    フリーダ「…………」


    事実を述べる妹の言葉に、彼女は涙を流す他に選択肢は無かった。
  16. 16 : : 2021/10/11(月) 05:54:40
    あれから数分が経過したけれど、マスターはずっと苦しみながら魘されている。

    私は、幼少のマスターを知っている。
    そして、先程訪れた彼女の事も…。


    吹雪「あの時…私はどうすれば良かったのでしょうか」


    分からなかった。数年前、まだマスターのご両親が御存命だった時の事。

    マスターは見ず知らずの少女を背負って家に戻ってきた。
    肩を上下に揺らしながら疲弊しきっていた彼女を見ると、すぐさまカルラ様達は動き出した。

    お腹が空いているだろうと暖かいご飯を用意し、汗を流す為にとお風呂を沸かし、不安感を煽らないようにとここまで彼女を連れて来たマスターの部屋で一泊させたりという対応を行った。

    後日、彼女の父親と思しき男性が家に訪れた。
    朝餉の片付けをしながらその様子を窺っていた私は、ソレを見た。いや、見てしまった。

    でも、私は見てしまったソレをマスターやカルラ様達に伝える事は無かった。

    もし、包み隠さずその情景を伝えていたら…今頃マスターは魔導士に敬愛を抱きながらその人生を歩んでいたのだろうか…。分からなかった。

    もし仮に伝えたとして、未来は変わるのか。
    相手は王家レイス…いくら一個師団相当の実力を持つグリシャ様やそれを補佐するカルラ様でも太刀打ち出来たのだろうか…。

    けど、そんな悩みも今日で終わりだ。

    私はマスターの剣として全てを捧げよう。そしてこの身がどうなろうとマスターを護るんだ。
    カルラ様と交わした契約を遂行する為に…。


    吹雪「マスター…私は貴方の従者として、剣として…あらゆる事象を悉く斬り伏せましょう。だから、私の全部…マスターにあげちゃいますね…?」


    そうして私は部屋の電気を消した後、マスターの眠りをより深く、より心地好くさせる催眠を掛け、これから起こる甘美なる時間を忘れないように、深く眠るマスターと肌を重ねた。
  17. 17 : : 2021/10/11(月) 23:32:41
    時を同じくして、クリスタと名を騙るヒストリアは隣に座り、終始俯いている姉フリーダを見ていた。


    クリスタ「ここまで沈む情けないお姉ちゃんを見たのは人生で初めてかもしれないね。さっきも言ったけど、無意識に記憶を封じ込んだか、もしくは誰かにそうされたかのどっちかだって言ったでしょ?」


    フリーダ「覚えていてくれてると思ったのに…」


    クリスタ「……はぁ。破劫の皇女が聞いて呆れるね…まさか幼少期に出会った想い人に忘れられてるだけでこんなになるなんて…お姉ちゃん私悲しいよ」


    フリーダ「きっと何かあったんだ…あんなにも優しかった彼が私の事忘れるなんて事…」


    クリスタ「……。まったくもう…落ち着いたら早く自分の部屋戻ってよね?」


    ブツブツとボヤき始める姉を尻目に、ヒストリアは先程の事を振り返る。


    クリスタ「………」


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    吹雪「見たくないものを見てしまったので…」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    吹雪ちゃんのあんな表情初めて見た気がする。
    まるで、お姉ちゃんを敵視するような眼…。

    そういえば、吹雪ちゃんは小さい頃のエレンと一緒に住んでたって言ってたけど、お姉ちゃんと会った時何かあったのかな。

    少し前、と言っても吹雪ちゃんと仲良くなった時だから最近の事だけど、吹雪ちゃんは自分が見た人物が過去に見た情景そのものを見る事が出来るらしい。

    だから、お姉ちゃんと出会った時にお姉ちゃんを通して何か良くないモノを見てしまったに違いない。
    そうじゃないなら、吹雪ちゃんがお姉ちゃんにあんな表情をするはずが無い。


    クリスタ「……まさか、ね」


    彼、エレンの両親の事はよく耳にした事がある。
    『風元素を操る魔導士があの夫妻を殺したらしい』
    耳にした殆どが、というよりこれ以外の事を聞いた事がない。

    風元素を操る魔導士…私が知りうる中でも最も可能性が高いのは、王族護衛の中でも最強と言われても過言ではない“ケニー・アッカーマン”その人だけなんだけど、まだ確証がない以上あの人がやったという断言は出来ない。

    でも、もし…吹雪ちゃんがお姉ちゃんを通してあの事件に関する事を見てしまっていたのなら…。

    催眠術系統の魔術に長けているエレンという主想いの吹雪ちゃんなら、お姉ちゃんと関わった時の記憶を封じ込める事だって出来たかもしれない。

    この憶測の上で成り立っている仮説が正しいのなら、レイスの名を持つ私達は…エレンの唯一無二で大切な両親を奪ったという事になる。


    クリスタ「本当にエレンを想う心があるなら、エレンの為にも…真実を話さなきゃね…お姉ちゃん」


    フリーダ「……え?何か言った?」


    クリスタ「いや?何でもないよ。それよりも、いつまで私の部屋に居座ってるの?そろそろ消灯時間なんだから早く自分の部屋に戻ってよね?」
  18. 18 : : 2021/10/12(火) 00:51:25
    現在公開可能な情報


    エレン・イェーガー

    本作の主人公、後の黒衣の剣士。
    紅い色が混ざった黒い髪と夜を照らす月の様な金色の瞳をしている。
    今では忘れ去られたイェーガー一族の生き残り最後の1人。
    過去に両親を喪い一族特有の赤眼を開眼し、両親の命を奪った魔導士を探す事を目的として魔術学園に入った。
    使用出来る元素力は父の氷と母の炎を受け継ぎ、更には自身が発現した雷の3つ。
    父グリシャからは剣術と魔術を、母カルラからは智慧と魔力コントロールを愛情と共に注がれた天賦の才を持つ青年。


    フリーダ・レイス

    本作のヒロイン。
    王家レイスの娘、そして“破劫の皇女”として魔導士界隈に知れ渡っている黒髪の女魔導士。
    過去に人身売買を行う集団に追われて逃げていたところにエレン・イェーガーと邂逅。
    理由を聞かず見ず知らずの自分を助けてくれた事に感謝しており、それと同時にエレンに恋心を抱いている。
    使用する元素力は氷。
    また、エレンの両親が殺されたあの事件の真相を知っている人物であり、それに対して止める事が出来なかった自分を悔やみ、せめてもの償いとしてエレンの隣を歩きその先を見守る義務があると考えている。



    吹雪

    エレン・イェーガーをマスターとして契約した霊刀。
    人型時は紅い色が混ざった銀髪と翠色の瞳が特徴で、常に着物を来ている和風な出で立ちをしている。
    刀剣時は薄紅色の直刀に近い太刀として主たるエレンと戦場を共にしている。
    昔は物静かな性格だったのだが、ある日を境に人が変わったように明るい性格になった。
    感情の起伏が激しい天真爛漫なマスターLOVE。
    マスターを護る為なら全てを捧げてもいいと思っており、ある日の夜には文字通り自分の全て(貞操)を捧げた。


    クリスタ・レンズ/ヒストリア・レイス

    クリスタ・レンズと名を騙って魔術学園に入った王家レイスの娘、“破劫の皇女”として知られるフリーダの腹違いの妹。
    使用する元素力は水。
    入学初日から自分と同じ境遇であるエレンを気に掛けており、学園内で一番エレンと関わりがある女性であると思っている(事実)。
    エレンの従者として同世代に知られている吹雪とはすぐに意気投合して仲良くなった。
    学園内では博愛主義で皆に笑顔を見せて良い子のクリスタを演じている。
    しかし、実際は自分が他人にどう思われていようが無関心であり、自分が娶った妻では無く他の女を抱いて自分を産ませた父ロッドに対して毒を吐きまくっている。
    唯一本当の自分で居られる場所がエレンとフリーダそれぞれがいる空間のみ。
  19. 19 : : 2021/10/12(火) 01:39:40
    翌朝

    いち早く目が覚めた吹雪はエレンの着替えを用意した後、エプロンを身につけ朝食の準備を始める。


    吹雪「今日の朝餉はベーコンエッグにしましょう。よし、気持ちのいい朝を迎える為にも、5分で用意するとしましょうか」


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    5分後。


    吹雪「よし、時間ピッタリ!さて、マスターを起こしに行くとしましょうか!」


    手際良く朝食をテーブルに並べる吹雪はエプロンを椅子にかけて主の部屋へ直行。


    エレン「…………」


    吹雪「マスター、マスター?朝ですよ」


    優しく肩を叩きながら声を掛けると、金色の瞳がこちらを覗き込んだ。


    エレン「んっ……ふぶき?」


    吹雪「っ…おはようございますマスター、朝食は出来てますから、顔を洗って来て下さいね」


    エレン「わかった…」


    吹雪「……(寝起きのマスター…かわいい)」


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    エレン・吹雪「いただきます」


    ベーコンエッグを1口サイズに切り取って口に入れるエレンを見ながら吹雪は様子を伺う。


    吹雪「どう…ですか?」


    エレン「…うん、美味い。たまには吹雪が作ったのを食うのも悪くない。また、頼めるか?」


    吹雪「はい!」


    食事を作った者として、それを美味しいと言って貰える事はとても嬉しい事である。
    吹雪はゆっくりと、味を楽しみながら食事をするエレンを見て微笑みながらベーコンエッグを1口サイズに切り取った。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    エレン「ごちそうさま」


    吹雪「はい、お粗末さまでした!」


    エレン「片付けは俺がやるからゆっくりしててくれ」


    吹雪「そうですか?じゃあ、お任せしますね」


    吹雪がソファに座ったのを見たエレンはすぐさま食器を洗い始める。


    エレン「………」


    昨日は珍しく悪夢を見る事は無かった…。
    吹雪が何かやったのか?それに、魔力のパスが以前より深く濃く繋がってる気がする…。

    まぁ、経緯はどうあれパスがより深くなったのはいい事だけど、昨日何があったんだ?


    昔、知識として母さんに教わった記憶がある…。
    幼かった俺にはあまり深く理解は出来なかったことだからぼんやりとしか覚えていない。

    確か、契約を交わしたモノが男女だった場合、お互いの粘膜の接触をさせる事で魔力のパスがより強固になって魔力の供給がしやすくなって、身体性能も向上するとか何とか…。


    エレン「……まさかな」


    いくら忠誠心が強いからと言って吹雪がそんな事をする奴じゃない筈なんだけどな…。


    エレン「気にしたら負けか…」


    食器を洗い終える頃には、時刻は朝の7時を迎えようとしていた。
  20. 20 : : 2021/10/12(火) 02:04:49
    身支度を手早く済ませたエレンは吹雪に部屋の留守を任せて教室を目指して歩き出した。


    エレン・クリスタ「あ」


    エレン「随分と遅いな、いつもはもっと早いと思ってたけど」


    クリスタ「考え事してたら中々寝付けなくて、起きたら6時半過ぎてた…」


    エレン「そうか」


    クリスタ「今日吹雪ちゃんは部屋に置いてきたの?」


    エレン「あぁ。本人は駄々こねてたけどな…あいつが居ると男共が煩くてな」


    クリスタ「ああ…。でも吹雪ちゃん、エレン以外の男の子に興味無いと思うけど?」


    エレン「日頃の行い見てれば分かるけど、流石にこれ以上騒がれると集中出来なくてな」


    クリスタ「そっか。あ、そうだ今日の訓練私と組んでよ」


    エレン「…体格差を考えろ体格差を」


    クリスタ「いつもユミルと組んでるんだけどね、流石に毎回同じ人だと飽きちゃうでしょ?だから、エレンくらいの大きさの人相手でも戦えるようにしたいの。それに、エレン以外の男の子とは組もうと思えなくて」


    エレン「……果たしてユミルがそれを許してくれるかどうかだろ」


    クリスタ「大丈夫だよ。エレンは私の事邪な目で見てないでしょ?ユミルもそれを分かってるから許してくれるよ」


    エレン「そうかよ…泣いても知らねぇぞ」


    クリスタ「エレンに負かされて泣く程女の子してないよ私」


    今隣を歩く彼女は本当に女なのか疑う程どうかしてるヒストリアを横目にエレンはバッグの中から一冊の本を取り出した。


    クリスタ「エレン…本なんて読むんだ?流石賢者と言われたカルラさんの息子だね」


    エレン「まぁ、伊達に母さんの授業受けてねぇからな。正直学園の授業は基礎的なモノが多過ぎて退屈なんだよ」


    クリスタ「エレンこそ、この学園の生徒としてどうかしてると思うよ…」


    ジト目でこちらを見つめるヒストリアの事など気にも止めずに本に目を通す。

    2人並んで、それも同じ時間帯に教室に入った2人を見た同世代の間で間違った噂が流れ始めたのはまた別の話。
  21. 21 : : 2021/10/12(火) 02:57:44
    教官室にて、とある人物が訪れていた。


    キース「何の用かと思っていたら、イェーガーの観察か?エルヴィン」


    エルヴィン「えぇ。彼は私が今まで見た中でも類希な逸材です。元素力を3つも操れる魔導士など、この先現れないかもしれない」


    キース「そうだな…確かにイェーガーが注目株と言われる理由がよく分かる」


    エルヴィン「彼女の想いもあっての勧誘ですが、彼の資料を見させて貰った時には既に勧誘については考えていましたから」


    キース「相変わらず用意がいいな」


    エルヴィン「貴方ほどではありませんよ、キース教官」


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    2時間の座学を終えたエレン達はキースの監督の下で訓練が開始される。


    キース「まずはこのフィールド10周だ!」

    ※1周辺り500m

    「はいっ!!」




    ライナー「相変わらずエレンとミカサはすげぇな。最初からペースが崩れてない」


    アルミン「僕はそんな2人の後ろを走ってるクリスタに驚きを隠せないよ…」





    クリスタ「2人とも速くない?」


    ミカサ「クリスタ…それは私のセリフ」


    エレン「まぁ、昔から身体は作っとけって父さんに言われてたからな。速いのは仕方ねぇだろ」


    クリスタ「私もエレンに追いつく為に体力付けたけど、並んでは走れないみたい」


    ミカサ「クリスタ…私は勝手ながら貴女はあまり体力がないと思ってた。ごめんなさい」


    クリスタ「あ、謝らないで?私、小さいし、そう思っちゃうのも仕方ないよ」


    ミカサ「私も、その努力を見習わないと…」


    クリスタ「立派な魔導士になる為だもんね!頑張ろ、ミカサ!」


    ミカサ「エレン。申し訳ないけど、先に行く」


    エレン「おう」


    そうしてミカサはぐんぐん速度を上げて自分達の前を走っていった。


    エレン「あんな余力残してたのか…」


    クリスタ「息も乱さずに喋ってるエレンは人の事言えないと思うんだけど…」


    エレン「んー?吐息交じってて聞き取れなかった。もう1回言えるか?」


    クリスタ「………」


    エレン「まずい…」


    無表情で真後ろの位置をキープするヒストリアに萎縮したエレンは少しばかり速度を上げると、ヒストリアもそれに対応して速度を上げた。



    ジャン「アイツら人間じゃねぇだろ…」


    ライナー「アニもあの3人についていけるんじゃねぇか?」


    アニ「遠回しにアタシが人間じゃないって言いたいの?」


    ライナー「そんな事言ってねぇだろ…」


    アルミン「ミカサとエレンが凄いのは前からだけど、クリスタがあんな体力あったなんて僕知らなかったよ。人は見かけによらないね」


    ベルトルト「僕らも見習わないと」


    アルミン「だね」


    そうして、最初のランニングから筋トレ、そして対人格闘と、スムーズに訓練が行われた。
  22. 22 : : 2021/10/12(火) 04:13:19
    キース「ウォーミングアップはこれにて終了だ。今回はとある人物の要望により、二人一組でイェーガーを相手にしてもらう!」


    エレン「つまり、2対1って事ですか?」


    キース「あぁそうだ」


    エレン「いいですね、腕がなります」


    キース「本人の承諾も受けた事で、早速イェーガーに挑戦してみたいという者は前へ!」


    ミカサ・ジャン「私が/俺が!」


    エレン「模擬戦とはいえ、これは実践だ。油断してると直ぐに仕留めるからな」


    ジャン「上等だ!」


    ミカサ「元々あなたと戦ってみたいと思っていた」


    キース「準備はいいな?」


    エレン・ミカサ・ジャン「はい/お願いします」


    キース「では、はじめっ!!!」
    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    ミカサ「先手必勝、ジャンは私のサポートをお願い」


    ジャン「おう、任せな!」


    ミカサは手元に風の刃を、ジャンは地に手を置いて仕掛けた。


    エレン「………」


    ミカサはとてつもないスピードでこちらへ飛んで来ている。更には、ジャンの岩元素による足止めを食らっていて動けそうにない。



    ライナー「エレンのやつ、何をしてるんだ?あのままじゃミカサの攻撃を受けちまうぞ」


    アルミン「何か考えがある筈だよ、あのキース教官相手に互角にやりあったんだから」



    ミカサ「……っ!!!」


    エレン「………」


    ミカサが風の刃を振るうと同時にエレンも右腕を上げた。

    誰もがミカサの攻撃が直撃したと思ったが、エレンは無傷であった。


    ミカサ「!?見えない、壁?」


    エレン「戦いとは常に相手の考えを見抜くもの。俺はそう教わった。お前が真っ先に仕掛けてくるのは分かってたよ」


    ミカサ「──!!」


    見えない壁と思っていたソレはヒビが入り、そしてパリンと大きな音を立てて砕け散った。


    エレン「超極薄でありながらその硬度は凄まじい氷壁だ。気付かなかったか?」


    最初からミカサが仕掛けてくる事を予想していたエレンは予め風の刃でも斬る事が難しい硬度を持つ超極薄の氷壁を張っていた。

    母カルラから伝授された魔力コントロールの技術は並の魔導士では到底たどり着けない領域にある。


    エレン「もっとも、ミカサの力は絶大だ。氷壁が砕ける程の一撃だ。油断してると負けちまいそうだな」


    ミカサ「気付かなかった…けど、次こそは」


    ジャン「チッ!」





    キース「戦闘時におけるイェーガーの冴えは学年随一だ。さて、奴相手にどう動く?」





    エレン「地面を隆起させて足止めする。確かに確実に攻撃を当てるなら一番正しい選択。でも、“魔力反応”を熟知してる俺には無意味だったな」


    炎と雷の“魔力反応”『過負荷』による爆発でいとも簡単に堅められていた筈のソレはなくなっていた。



    アルミン「“魔力反応”…?」


    キース「魔術の応用だ。草を燃やすと燃焼するように、世界には色々な現象が存在する。イェーガーは100人に1人の3元素持ち、母方から受け継いだ炎と自分自身の雷を合わせて魔力反応を起こし、小規模の爆発を起こしたのだ」


    ライナー「3元素持ち!?ただでさえ2元素持ちでも珍しいってのにか…!?」


    キース「本来魔力反応とは2元素持ちでは無ければ学ばないモノ。しかし、イェーガーは炎、氷、雷の3つの元素を操る。その気になれば蒸発、感電、爆破、砕氷、溶解の5種類の魔力反応を起こせるぞ」


    アルミン「じゃあ、ミカサ達に勝機は…」


    キース「アッカーマンやアルレルトの操る風の力は炎、水、氷、雷の4種類の力を拡散させる特性を持つ。やり方次第では相手に魔力反応を押し付けることも出来る。その事に気付けば、アッカーマン達に勝機はあるやもしれぬな」
  23. 23 : : 2021/10/12(火) 04:36:43
    ミカサ「そういえばエレンは座学1位だった…生半可な動きだとこちらの考えを読み取られて対策を立てられてしまう」


    ジャン「じゃあ、どうするってんだ」


    ミカサ「正直のところ、分からない。けど、勝機は必ずどこかにあるはず。それに、今日は彼女(吹雪)がこの場に居ない。つまり、私達の連携力が試される」


    ジャン「連携力…か。確かに、同じ魔導士でも連携が出来なければ倒せるもんも倒せねぇからな」


    ミカサ「恐らく、風と岩の力の相性は最悪と言ってもいい。だからエレンの言う魔力反応というのは出来ない…だったらお互いに足りていない所を補っていくしかない。と思う」


    ジャン「なるほどな…」


    エレン「………話は終わったみたいだな。お前らの本気を見せてくれ…!退屈なんて、させてくれるなよ?」


    ミカサ「私は右から行く、ジャンは左から行って」


    ジャン「おう!」




    キース「そうだ。魔導士とは協力し合ってこそ本領を発揮するもの。この模擬戦の本質を見抜くとは、アッカーマンも中々に鋭い」



    ミカサ「はっ!!!」
    ジャン「オラァァッ!!」


    エレン「踏み込みが甘い…!情けは捨てろ!情は時として足枷になるぞッ…!」




    クリスタ「エレン、楽しそう…」


    「まぁ、マスターはグリシャ様とのお稽古以来、誰かと戦うなんて事は殆どしてきませんでしたからね」


    クリスタ「吹雪ちゃん?部屋の留守を頼まれたんじゃないの?」


    吹雪「退屈で抜け出しちゃいました」


    吹雪「…マスターがカルラ様から授かった数多の智慧は戦闘時において本領を発揮します。それに、並大抵の人じゃマスターを相手に出来ません。だからこそ、ミカサさんという自分と同等以上の実力者がいる事に喜びを感じてるんですよ。過去にマスターに勝負を仕掛けた人は沢山いましたけど、殆どの人が腰抜けでしたからね」


    クリスタ「そうなんだ…」
  24. 24 : : 2021/10/12(火) 05:35:32
    模擬戦が白熱し、3人共に呼吸が乱れている時、キースは声を上げる。


    キース「そこまで!!」


    ミカサ「?勝負はまだ…」


    エレン「いや、お前らの勝ちだよ。この模擬戦の本質は連携力。それを見抜いた時から勝負は終わってたんだよ」


    ジャン「なっ、てめぇまだそんな余裕残ってたのか!!」


    エレン「小さい時から鍛えてるからな」


    キース「アッカーマン、キルシュタイン、見事だ。イェーガーの相手はどうだった?」


    ミカサ「はぁ、はぁはぁ…っ。正直、こんなにも強い人と戦うのは初めてだったので…よく分かりません。でも、学べた事は多かったと、思います」


    ジャン「右に同じく」


    キース「そうか。皆もよく覚えておけ!何事も相性というものは存在する。しかし魔導士とは協力し合ってこそ力を発揮するものだ。互いをよく理解し、互いに不足している部分を補い合っていくのが仲間というものだ。今日の訓練はここまでとする!!解散!!」
    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    訓練を終えてから小時間が経過した。


    キース「羽目を外しすぎたな」


    エレン「そうですね、けどあれが無かったら学べるものも学べなかったはず」


    椅子に座ってこちらを見つめるキースにエレンは喜びを見せる。


    エレン「やっぱりあの模擬戦を考えてよかった。それに、時間と共にあの二人が強くなってたのがよく分かる」


    キース「ふん…実力の全てを出していないお前が言うと皮肉に聞こえてしまうぞ?」


    エレン「結構全力だったんですけどね…キースさんにはそう見えていたって事ですかね?」


    2人が笑っていたところにヒョコりと扉から顔を覗き込ませる吹雪が声をかけた。


    吹雪「マスター、そろそろ時間ですよ?」


    エレン「ん?あぁ、もうそんな時間なのか。では、俺はこれで失礼します」


    キース「うむ」


    キースの元を離れたエレンは吹雪と談笑しながら目的の場所へと訪れた。



    エレン「さてと…周りに人は…居ないな」


    吹雪「予め人払いは済ませてありますよ。どうぞごゆっくり」


    エレン「そっか、じゃあ遠慮なく」


    そうしてエレンは坐禅を組んで瞑想を始める。
  25. 25 : : 2021/10/16(土) 02:01:33
    数分後。


    エレン「…………ん?」


    吹雪「誰か…こちらへ向かって来ていますね」


    エレン「人払いの結界は張ってあるんだろう?」


    吹雪「その筈なんですけど…おかしいですね」


    エレン「………」


    「最近、同じ時間帯に此処を利用していると話を聞いて来てみたのだが…正解だったようだな」


    エレン「……そのシンボルは、“自由の翼”」


    「その名を知っているとはね。先ずは自己紹介をしよう、私の名はエルヴィン。“自由の翼”という組織のリーダーを務めている者だ」


    エレン「という事は、例の件で会いに来たって解釈でいいんですね?」


    エルヴィン「キースさんから聞いてはいたが、察しが早くて助かる」


    エレン「本題に入る前に、一つ質問が…。少し前から人払いの結界を張っていたのに、どうやって中へ?」


    エルヴィン「結界?そのようなものが張られていた様には感じなかったが?」


    ───吹雪?

    エレンは横に座る吹雪をジトりと見やる。


    吹雪「あ、あれ?私…もしや、結界張るの忘れてた?」


    エレン「自問自答をするな。まぁ、忘れてたものはしょうがない。……さて、早速本題に入りましょうか、エルヴィンさん」


    エルヴィン「そうだな、その為に私はここへ来たのだからな。君は我々の組織からの勧誘を仮のものとして受けたようだが」


    エレン「1つ、まだ俺はここへ入ったばかりの生徒。正式に魔導士として認められるその時までは公にすべきではない」


    エルヴィン「ふむ。確かに理にかなっている」


    エレン「2つ、貴方が率いる組織には完全に信用出来た訳じゃない事」


    エルヴィン「………」


    エレン「3つ、“自由の翼”という組織は何の為、何を目的に作られたのかが分からない。以上3つの事から正式にでは無く、仮のものとして受けた」


    エルヴィン「なるほどな。確かに、入学して間もない生徒にいきなり組織からの勧誘だ。君の懸念は理解出来る」


    エレン「それに、俺には俺の“目的”があってここに来た。その障害になられると困るってもんです」


    エルヴィン「……目的?」


    エレン「依頼を受けて金を稼ぐとか、人々を守りたいとか、そういうモノじゃない。これだけは、誰にも話すわけにはいかない」


    エルヴィン「………“風元素を操る魔導士”の事かな?」


    エレン「………」


    吹雪「ッ!!」


    エレン「下がれ吹雪…」


    吹雪「マスター…でも!」


    魔導士の中でも精鋭中の精鋭によって形成されている“自由の翼”を率いるこの男…エルヴィン・スミス。

    初めから只者じゃないと感じてはいたけど、ここまでとはな…。

    誰にも知られていないここへ来た目的。
    それが何故知られている?

    冷静に熟考するエレンは殺気立つ吹雪を宥める。


    エレン「止めとけ。無駄な争いは損害しか残らない。それに、この国じゃ知らない人は居ないだろうからな…あの事件の事は」


    吹雪「………」


    エレン「それで?あの日の事を知っていて、尚且つ俺の目的までも知っている。ここへ来た本当の目的を教えて貰いましょうか?」


    エルヴィン「ふぅ。君の洞察力には驚かされる…。確かに例の件について聞きに来たのは事実だが、この先の未来…我々には君の能力(チカラ)が必要になる。その事について話す為に、私はここへ来た」


    エレン「見返りは…?」


    エルヴィン「君が探し求めている人物の情報を提供しよう」


    エレン「………」


    条件としては受け入れられる。しかし、エレンはこの場付近の魔力反応に違和感を覚える。

    ──やけに多いな、感じるだけでも4~5人は居る。

    罠の可能性を考えたが、眼前の男がこのような配置のさせ方をする様には見えない。それに、発する言葉に偽りも無い。エレンは警戒は解かず、この条件を飲んだ。


    エレン「受け入れましょう」


    エルヴィン「交渉成立…という事でいいのかな?」


    エレン「そうですね」


    エルヴィン「そうか。では、場所を変えよう。この事については極秘になっているのでね」


    エレン「分かりました。吹雪、あとは大丈夫だからゆっくりしててくれ」


    吹雪「……分かりました。マスターに免じてここは身を引きましょう。ですが、マスターの身に異変を感じたその時は…容赦無くその首を斬ります」


    そう言い残した吹雪は現界を解き、霊体化する。正式にはエレンの精神世界に帰ったという方が正しいか。


    エルヴィン「用心深いのだな、彼女は」


    エレン「昔から一緒だったし、母さんからとの契約があるみたいですからね。まったく…心配性な愛刀だこと」


    エルヴィン「さて、早速向かうとしよう」


    エレン「何処に?」


    エルヴィン「もちろん。我々“自由の翼”の本拠地だ」
  26. 26 : : 2021/10/16(土) 03:04:15
    馬車で移動するのかと思いきや、エルヴィン本人の転移魔術で移動すると知ったエレンは魔力の無駄遣いだと呆れていた。


    エルヴィン「馬車を用意するにも時間がかかるのでね。こっちの方が時間の短縮になるんだ」


    エレン「まぁ、魔力は時間が経てば自ずと回復するもの。呆れこそはしますけど、使う事に否定感は無いですよ」


    エルヴィン「さて、無駄話はこの辺にして、早速本題に入るとしようか。先程も言ったがこの先の未来、必ず君の能力が必要になる。と言ったね」


    エレン「……」


    エルヴィン「最近、魔獣の動きが活発になっていてね。何故かと思って私独自に調べてみたんだ」


    エレン「それで、結果の方は?」


    エルヴィン「驚かずに聞いて欲しい。君があの魔術学園に入学してから数ヶ月経ったが、その間に“魔族が復活”した」


    エレン「─!!」


    “魔族”……このエルディア王国に平和が訪れてから約数百年もの歳月が流れたが、数十年前に予言とも言える言い伝えがあったそうだ。

    『数年後、新たに魔の王が誕生し…世界を支配する。一族最強にして最後の赤眼を求め、魔は復活を果たし、人類を支配するべく動き出す』

    つまり、エルヴィン・スミスの言葉はその予言の事を意味していた。


    エルヴィン「数十年前、まだこの組織が作られて間もない時だ。ある予言者が言葉を残した。“一族最強にして最後の赤眼を求め、魔は復活を果たし、人類を支配するべく動き出す”…とね」


    エレン「………」


    エルヴィン「私はその予言の事について色々と調べた。“一族最強にして最後の赤眼”についてね」


    エレン「………」


    話を続けるエルヴィンと、暗い表情になるエレン。


    エルヴィン「そして、昨年…漸く突き止めることが出来た。予言に残された一族とは何なのか…それは」


    エレン「一夜にして絶滅の危機に陥ったエルディア王国最強と謳われた…今は忘れられし“イェーガー一族”…そして俺はその最後の生き残り」


    エルヴィン「……!」


    暗い表情のまま、エレンは淡々とした口調で話を続けた。
  27. 27 : : 2021/10/16(土) 04:22:10
    数十年前。まだ俺が産まれる前、いや…まだ父さんが母さんと出会う前の事だ…。
    予言に恐れた旧貴族は、即座にそれを決行させた。
    三日月に照らされた夜の中、一族が暮らす地域一帯に火を放ち、たった一夜で一族を絶滅寸前にまで追いやったそうだ

    抵抗すれば女子供を人質に執り、無抵抗の者は等しく皆殺し。中には“高値で売れる”からという下衆な考えで人身売買に飛ばされた者もいたそうだ…。

    そうして次々と命を散らされていく同胞達に「すまない」と謝罪を繰り返し、当時一族の長だった父さんは涙を流しながら、逃げ出した。


    エレン「これが…忘れ去られた一族全滅の真相。その後の後の話は、あんたの方が詳しい筈だ」


    エルヴィン「当時…魔導軍師として、賢者として名を馳せていたカルラさんを妻として向かい入れ、自身は医者として、そして…何より予言に対抗する為に必要な事を準備した」


    エレン「……」


    エルヴィン「そして…ある日、“一族最強にして最後の赤眼”を持つ君がこの世に生を受けた。つまり、君こそが…我々が必要としていた“予言の子”という訳だ」


    エレン「………」


    エルヴィン「…君はグリシャさんやカルラさん2人から…その全てを受け継いだ。君なら…いや君が居なければ、人類は敗北する。だから─」



    ──人類の為にも、君に全てを託した両親の為にも…私達に力を貸してくれ…!



    エレン「………昔、俺もそこいらの子供と同じように魔導士という存在に憧れてたんだ。俺も父さんみたいな強くて、カッコよくて…誰にでも頼られるような…そんな魔導士になりたいって夢を見てた」


    エルヴィン「………」


    エレン「毎日父さんと稽古して、母さんの授業受けて…夢に向かって走ってた。それなのに…!!」


    エルヴィン「……!」


    つうっと、涙が流れ落ちていた。
    どれだけの想いが彼にあったのかは、エルヴィンには知る由もない。しかし、目の前にいる少年は無意識的に涙を流し、何処にもぶつける事が出来ない怒りを露わにしていた。

    その瞳は真紅に染まり、巴模様に写っていたソレは形を変え、新たな赤眼として生まれ変わった。


    エレン「……………。約束通りあんた達に協力する。けど、それは亡き父の想いを死なせない為だ。それを履き違えないでくれ」


    去り際にそう言い残し、落ち着いた様子のエレンはそのまま斬り裂いた空間の裂け目に向かって歩いていった。


    エルヴィン「………色々とあったが、これで人類は1歩確実に前へ進める。先ずは、この3年間…君の学園卒業を待つとしよう」


    「随分と嬉しそうだな…エルヴィン」


    エルヴィン「嬉しい…か。確かに、そう言えるな…。難しいと思っていた彼の協力を得られた。これ程嬉しいものは無い」


    「そうか…。とはいえ、正式加入まであと3年だ。そろそろ本格的に下のヤツらを鍛えねぇとな。ハッキリ言っちまえば、今のアイツらじゃあのガキの足でまといだ。うちの班員共なら、辛うじてフォローは出来るだろうが、それ以外のヤツらは今よりも鍛える必要がある」


    エルヴィン「そうだな。彼がこの3年で力を付けるように、我々もそれに応えられるようにならねばな。早速明日から始めよう。“リヴァイ”、頼めるか?」


    リヴァイ「お前の指示ならそうしよう。下のヤツらは俺が見てやる」


    エルヴィン「程々にな」


    二つ返事で頼みを聞き入れて退出する彼に微笑するエルヴィンは、魔術学園の方を窓から見やる。


    エルヴィン「……エレン・イェーガー。彼の能力の源は亡き両親の想いか…それとも…。いや、彼には優秀な従者が居る。一見して闇に身を委ねているように見えて、その実遠回りになるだろうが、真っ当な道を進む筈だ。ふっ、3年後が待ちきれないな」
  28. 28 : : 2021/10/16(土) 05:00:02
    エルヴィンの元を離れて、部屋に戻ったエレンは目の前に佇む金髪の存在に驚愕していた。


    クリスタ「………ん?あ、おかえりエレン」


    エレン「………」


    きっと部屋を間違えたんだ。ゆっくり扉を閉めて確認する。

    扉の上部を見るとしっかりと“イェーガー”と記されている。ではなぜ、奴がいる?

    いや、瞑想時間が不足していた事による疲労が原因で幻覚を見たのかもしれない。それに、先程感情が爆発してうっかり赤眼を顕にしてしまったのだ。
    視神経の疲れもあるのだと思った。

    深呼吸をして、もう一度扉を開ける。


    クリスタ「おかえりエレン。ご飯にする?お風呂にする?それとも、マッサージしてあげよっか?」


    エレン「………」


    幻覚じゃなかった。見間違いでも無かった。視神経の疲れでもなかった。
    確実に自分の部屋に奴がいる。ありえない…。

    ここは自分自らキース教官に嘆願して用意して貰った自分専用の部屋だ。他言無用であったはずのこの部屋がなぜバレている?


    エレン「……何で居る」


    クリスタ「んー。何でだろうね?」


    エレン「……帰れ」


    クリスタ「やだ」


    即答…。この女、見た目に反して強すぎる。
    1周回って面倒くさくなったエレンは溜息をつきながら部屋に入る。


    エレン「で?何してたんだ」


    クリスタ「ん?分からない課題があったからエレンに教えて貰おうと思ってさ、分かんないなりに勉強してたの」


    エレン「ありそうな建前を使うな」


    クリスタ「そんなに怒らないでよ。ちょっと、話をしたくてね」


    エレン「話?」


    緩かった空気が一変して緊縛したものに変わり、エレンはソファに座り込む。


    クリスタ「要点だけ言うと、週一でいいからお姉ちゃんと会って欲しいの」


    エレン「週一で、ね」


    クリスタ「腹違いでもお姉ちゃんだし、何とかしてあげたいからさ」


    エレン「それを吹雪が許すかどうかだぞ」


    クリスタ「エレンからも言ってあげて欲しいの」


    エレン「………」


    ここまで口数が多い彼女を見るのは今までに無かったかもしれない。そんな感覚を覚えるエレンはふと吹雪の様子を思い出す。

    彼女を見るやいなや、殺気を立たせ、見るからに敵視していた。

    そんな吹雪に「週一で彼女と会う事になった」と言ってみろ。間違いなく監視の目が付くことになる。


    エレン「十中八九無理だろうけど、一応話はしてみる。吹雪が無理だと言うならこの話は無しでいいか?」


    クリスタ「うん、ありがとね」


    エレン「話ってのはそれだけか?」


    クリスタ「え?まだ私の愚痴聞いて貰ってないけど」


    まだも何も彼女の愚痴なんてものは今に至るまで1度たりとも聞いた事がない。なんて事は言えず、流されるままにエレンは彼女の愚痴を聞く事になった。
  29. 29 : : 2021/10/16(土) 06:05:21
    その日の夜、早速エレンは吹雪に話を持ち掛けた。



    吹雪「ダメです。またいつ頭痛が起きるのか分からない状況で会うのはいけませんよ?」


    エレン「……言うと思ったよ。何でお前があの人を敵視してるのかは聞かないでおくけど、3年後以降は嫌でも会う事になるぞ?」


    吹雪「それは…そう、ですけど…でも!」


    エレン「……はぁ、吹雪」


    吹雪「へ?あ、マスター…わ、私を押し倒すなんて…どうしたんですか?」


    同じソファ、それも隣に座っていたので逃げ場を失ってしまいました…。

    あっ、そんな眼で私を見ないでください…。


    エレン「あの日、お前俺に何したんだ?嘘は言うなよ?」


    も、もももももしや…あの夜の事、バレてしまっている!?
    あ、あんな事、話せるわけ無いじゃないですかぁー!!


    吹雪「あ、あの日は──」


    エレン「嘘は…言うなよ?」


    吹雪「ま、まだ何も…言って」


    弁解の余地をくれる訳でもなく、ただコチラをじーっと金色の瞳で見つめてくるマスター。


    エレン「………」


    吹雪「うっ…」


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    エレン「………ふぅ」


    吹雪「………///」


    正直に話したらマスターに呆れた顔をされながら抱かれました…4時間も、ベッドの上で。
    …マスターが絶倫さんだったなんて知りたくなかったです。

    だ、だって十数年同じ家で暮らして来たんですよ!?
    いくら愛刀の私でもマスターに対して愛情くらいありますよ!それが爆発しちゃってあの日あんな事しちゃったってだけなんです!


    エレン「通りで魔力のパスが深くなってるわけだ…何してんだお前」


    吹雪「返す言葉もございません…///」


    そんな冷たい表情で私を見ないでぇ…。
    あっ…今、下腹部がキュンってなった…もしかしなくても、私ってばM気質?


    エレン「はぁ…主想いなのは嬉しいけど、その主は“男”だって事を理解しろ。でなきゃこうなるぞ、分かったか?」


    吹雪「はい、わからされました…以後気を付けます…」


    エレン「コレが一番効率良いとか誰が広めたんだ…」


    呆れてモノも言えないマスターを横に、私は真っ赤になって戻らない顔を両手で覆いながら産まれたままの姿で寝てしまいました。
  30. 30 : : 2021/10/17(日) 01:45:05
    それからというもの、半年という時間はあっという間に過ぎ去っていく。

    この学園に来てから1年と少しが経過したエレン達は、今日も勉学に励んでいた。


    クリスタ「やっぱり頭良いよねエレン」


    エレン「なんだよ急に」


    クリスタ「そのままの意味だけど…?」


    エレン「魔導士を目指す上じゃ当たり前の知識だろ?」


    吹雪「マスター…他の人はそれを知る為にここに来てるんですよー?」


    抑揚の無い口調で指摘を入れられる。普通に考えればその通りとしか言えないのだが…。


    クリスタ「誰もがエレンみたいに英才教育受けてるわけじゃないんだよ?そんな当たり前だろって顔されても困るのはこっちなの」


    エレン「そ、そうか…」


    今彼らが何をしているのかと言うと、1年の振り返りとして、これまでに受けた授業の中から一部を課題として出されたのだ。

    それを勉強会と言ってヒストリアは我が物顔で単身、エレンの部屋に乗り込んだ。


    クリスタ「やっぱり来て良かった。おかげで直ぐに課題終わりそう」


    エレン「まぁ、役に立つならそれでいい」


    吹雪「(ズズッ)……はぁ、我ながら美味しく出来たお茶です」


    教えを乞うヒストリア、それに応えるエレン。
    そんな2人を側にお茶を飲みながらぽわぽわしている吹雪というこの光景は1週間前から続いていたので、もう慣れていたようだ。


    クリスタ「ここは、何だっけ」


    エレン「ん?あぁ、そこは──」


    吹雪「あ、茶柱」


    今日もエレン達は良い一日を送れそうです。
  31. 31 : : 2021/10/17(日) 03:07:05
    滞りなく課題を終わらせたヒストリアは一言感謝を述べて部屋を出ていった。


    エレン「まるで台風だな…」


    吹雪「急に来てバビューンって帰りましたね」


    エレン「今日は休日。これといってやるべき事もなし。さて、どうするかな」


    吹雪「そうですねぇ」


    急に襲い来る脱力感に堪えきれずソファに座り込む2人はただひたすらに無駄な時間を消費していた。

    まぁ、そんな平和な時間もすぐなくなってしまうのだが…。

    脱力してリラックスしていると、部屋の外から喧騒音が何やら此方へ向かっているような感覚を覚えたエレンは、あからさまに嫌そうな顔をして吹雪の膝に頭を乗せるようにして倒れ込んだ。


    エレン「休日くらい休ませてくれ…面倒事は嫌いなんだ」


    吹雪「マスター…まだこちらへ来ると決まったわけじゃ──」



    アルミン「大変だエレン!食堂に来てくれ!今すぐ!さぁ!倦怠感のある身体にムチを打って動き出すんだ!」



    吹雪「………今日はもう一緒に寝ましょうか。日頃の疲れを癒しましょう」


    エレン「うん…」


    猛牛に突進されたような痛みを頭に感じた2人は現実から目を逸らし、部屋の扉を開けて声を張る友人の声を聞かなかったことにした。

    しかし、そんなことはお構い無しに金髪ボブカットのアルミンは容赦無くエレンの腕を引っ張って連れて行こうと動き出した。


    アルミン「そんな事言わずに来てくれ!食堂が大変なんだ!これを解決するには君の力が必要なんだ!」


    エレン「面倒事は嫌なんだ…だから腕を引っ張らないでくれ…」


    アルミン「いいから早く行くよ!」


    吹雪「ま"ぁす"ぅた"ぁぁぁぁあ!!!!」


    抵抗虚しく、エレンは食堂へ引き摺られながら非力なアルミンに強制連行されてしまった。

    救いの手を精一杯伸ばして主を助けようと頑張った吹雪の悲痛な声は部屋中に響いたそうな。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    流石に引き摺られるのも嫌になったエレンはアルミンの後をついて食堂へ赴いた。

    すると──。


    アニ「アンタは半年前にアイツとやり合った。だから次の対人戦でアイツとやるのはあたしだよ」


    ミカサ「この半年で私も強くなった。だから、次の対人戦でそれを証明する。だからアニの要望は断る」


    アニとミカサが揉めている現場に遭遇した。


    エレン「何してんだアイツら…」


    アルミン「それが僕にもサッパリなんだよ。食堂に来たら既にこの状態で…」


    エレン「呼び出したのはお前だろ…それにこれ解決すんのはどうたらこうたら言ってたじゃねぇか」


    アルミン「それは、あはは…」


    まるでそれは「口実です」とばかりに笑って誤魔化したアルミンにやけに大きな溜息をついた。


    アニ「アンタはどうなの?次の対人戦…あたしとコイツ、どっちを相手にしたい?」


    エレン「……帰っていいか?」


    ミカサ「帰さない、今ここで決めて。私とアニ、どちらと戦いたい?」
  32. 32 : : 2021/10/17(日) 04:33:38
    アニ「ほら、面倒くさがってないで答えな」


    ミカサ「答えない限り、帰さない」


    エレン「他にもっといるだろ。何で俺なんだ」


    率直な疑問をぶつけるエレンだったが、2人の意思は堅いようで…。


    アニ「理由なんて必要?」


    ミカサ「半年前、あなたは言った。“戦いに理由は要らない”と」


    確かに、その言葉は口にしたけれどそれは半年前のあの日、まだ迷いがあったように見えたから言っただけであって、こういう事で使えとは言っていない。


    エレン「確かに、“本能の示す道筋に従え”とは言ったけどよ…」


    アニ「アンタに拒否権は無いんだ。早く答えな」


    エレン「…………ふぅ、分かったよ」


    ミカサ「!じゃあ…」



    『お前ら2人で来い』


    騒がしかった空間は一瞬で沈黙する。


    エレン「とはいえ、お前らが協力する事が難しいのは分かってる。だからこういうのはどうだ?」
    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    アニ「三つ巴…」


    ミカサ「………」


    エレン「お互いと協力するのは極端な話出来ない、かと言ってお互いが俺とやり合ってる所を見てるのはつまらない。だったらこれしかねぇだろ?」


    アニ「まぁ、理にかなってはいるね」


    ミカサ「確かに…これなら半年前のリベンジと一緒に、アニと私とでどちらが強いのか決着をつけられる…」


    アニ「もう勝った気でいるなんて、随分余裕だね」


    エレン「おうおう、2人仲良く争っててくれ。こういうのは漁夫の利が美味いって知ってるか?」


    エレンの申し出によって静かだった空間はざわめきを始めた。それは、その様子を見ていたライナー達も例外では無い。


    ライナー「マジかよ…」


    アルミン「つまり、今期三強の頂上決戦って事?」


    ジャン「俺はミカサに賭けるぜ」


    「へぇー?なら、あたしとクリスタはエレンに賭けるさ」


    クリスタ「ユミル?私は何も言ってないよ?」


    ユミル「アイツがミカサ達に負けると思うか?」


    クリスタ「それは……」


    その話を聞いてた他の同期たちも次々と3人のうち1人に賭けると騒ぎ始め、エレンは心做しか愉しそうな表情をしていた。


    エレン「って事になったけど、演習場の使用許可…貰えます?」


    ミカサ「─!キース教官!いつからそこに…」


    キース「いまさっきだ。さて、演習場の使用許可だが、問題無い。存分に励むといい」


    エレン「よし、教官の許可も貰ったし早速始めるか。それとも、身体動かしてからな方が良さそうか?」


    アニ「アンタは人を煽る天才だね。舐めてもらっちゃ困るよ」


    ミカサ「必要無い。準備は何時でも出来てる」



    今ここに、エレン、ミカサ、アニの3名による頂上決戦が始まろうとしていた。勝負の行方は如何に?
  33. 33 : : 2021/10/17(日) 06:45:56
    エレン「ルールは簡単だ。最後まで立ってられた奴の勝ち」


    アニ「シンプルでいいね」


    ミカサ「早く始めよう」


    エレン・ミカサ・アニ「……………」


    キース「(良い気迫だ)……はじめッ!!!!」


    戦いの火蓋は切って落とされた。
    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    エレン「さて、どうするかな」


    風を剣のように創造して剣術と拳を主体とした体術を得意とするミカサ。
    対してアニの方は氷を操る足技を主体とする体術を得意とする事しかまだ分かってない。

    長考故に動きを見せないエレンに痺れを切らしたアニはすぐさま行動に移る。


    アニ「シッ!!!」


    アニは自らの力を下半身に纏わせ、身体を捻りながら力の入った鋭い蹴りを繰り出すが、同じく雷電を身体に走らせるその腕に受け止められてしまう。


    エレン「速いな、あと一つ遅れてたら直撃だった」


    アニ「あっさり受け止められると皮肉に聞こえるんだけど」


    エレン「そうか?事実なんだけどな、そう聞こえるなら─」


    アニ「!!」


    エレン「それでいいけどよッ!!」


    受け止めた足を掴んでは気配を潜めていたそこに投げ付ける。
    しかし、その存在に気付いていた様子のアニはそのままの勢いで空中で蹴りを一閃──。

    氷の刃をもう1人にぶつける。


    ミカサ「ッ!」


    迫り来るソレを躱し、風の勢いを乗せた拳で吹っ飛んでくる者を殴り飛ばす。


    アニ「っ……」


    予想外の動きに遅れをとったアニは吹き飛ばされる中で体勢を立て直し、ズサァァと音を立てながら着地する。


    ミカサ「先ずは、一撃」


    エレン「後手に回ればやられるぞ?」


    ミカサ「──!!!」


    アニに一撃を入れ、油断していたのを見逃す筈の無いエレンは雷霆の如く、すぐ様ミカサの懐に入っては下から腹に一発膝蹴りを食らわせ、体勢が崩れた所に間髪入れず、ミカサを中心に小さな氷の柱を建造する。




    ライナー「今の動き…見えたか?」


    アルミン「見えなかった。エレンがミカサに膝蹴りを入れた所までは見えたけど…あの柱の事は何も分かんなかったよ」


    キース「あれも魔力反応の一つだ。目に見えないだけで大気中には少量の水分がある。それを利用し、得意の魔力コントロールで瞬間的にアッカーマンを中心に凍結反応を起こした」


    ユミル「半年前の事もそうだが、戦ってる時のアイツはまるで人が変わってるみてぇに見えるな」


    キース「イェーガーの持つ智慧の殆どは戦闘において真価を発揮する。常に冷静であれと己を律し続けたイェーガーの冴えは最早並の魔導士の常軌を逸している」


    ライナー「エレンの奴、マジで強いんだな」




    エレン「油断大敵。敵が複数時、常に魔力探査をすべし…」


    アニ「そういえば、アンタはあたしと同じ氷の力を持ってたね。一瞬で柱作るとか…バケモンだね」


    エレン「鍛練の賜物だ」


    そうこうしているうちに、建造された氷柱は粉々に砕け、身体の所々に氷が付着したミカサが風の刃を持った状態でそこに立っていた。


    エレン「もう出てきやがった」


    ミカサ「あの程度の堅さで私の動きを止められると思わないで欲しい」


    エレン「おもしれぇ…」


    アニ「ふん…」


    まだまだ戦いは序章に過ぎない。
    これより更に、戦いは激しさを増していく。
  34. 34 : : 2021/10/17(日) 07:22:36
    ミカサ「はぁッ!!!」


    エレン「流石に氷壁じゃ受け止められねぇか…!」


    氷壁に限界を感じ、すぐさま霊刀を具現化させてミカサの刃を交わすと、背後に回り込んだアニに冷気を纏った蹴りが襲い掛かる。


    アニ「これで、一撃ッ!」


    今度こそ蹴りが入ったと思われたが、直撃した部分から徐々に亀裂が入り、一撃の重さに耐えきれなかったエレンの身体は粉々に砕け散ってしまった。



    サシャ「あばばばばっ!!エレンが砕けちゃいました!!!」


    コニー「どうすんだよ!エレンは死んじまったのか!?」


    キース「そう簡単に死ぬわけがなかろうバカ者めが」




    ミカサ「これは…氷?」


    エレン「ご名答」


    アニ「……!」


    全く関係ない所から歩いて来るエレンに、アニは驚きを隠せていない様子。


    エレン「よく出来てたろ?“氷人形”」


    ミカサ「人形?」


    アニ「あんた、こんな事まで出来んのかい…」


    同じ氷を操る身だからこそ分かるのだ。
    氷元素という物質で自分の分身を作るなど、魔導士でも難しい芸当なのだ。


    エレン「魔術の応用の一つ。時には相手を欺く術も用意しないとな」


    アニ「つくづく、アンタという人間に興味が湧いてきたよ。出し惜しみは無しだ、ここからは本気で行く」





    ライナー「アニの奴…“アレ”をするつもりか?」


    ベルトルト「そこまで…」




    アニ「これを見せるのはアンタらで4人目だね」


    纏っていた冷気は綺麗に無くなったが、代わりに彼女のうでと膝から下に変化が起きていた。

    クリスタルのような輝きを放つソレは氷とは違う何か別の物質のようだった。

    “部分硬質化”

    これがアニの持つ能力だ。


    エレン「………」


    ミカサ「…………」


    雰囲気が変わったアニに気を引き締める2人のうち、エレンはただひたすらに部分的に覆われたソレを観察していた。


    エレン「………」


    あれは……昔、見た事がある。と言っても過去の文献を通してだから断言は出来ないけど、間違い無い。


    エレン「……“失われた魔法(ロストマジック)”」


    誰にも聞こえない声量ではあるが、そう口にしていた。
  35. 35 : : 2021/10/18(月) 02:57:59
    アニ「さて、来ないならこっちから行かせてもらうよ」


    その瞬発力…エレンでさえ、反応がやや遅れる程の速さであった。


    エレン「はや──ッ!!!!」


    アニ「遅いっ!!」


    躱す間も無くその一撃は横っ腹に直撃、その衝撃で吹き飛ばされるエレンを見るミカサは隙を伺う為にアニの観察を始める。


    エレン「チッ!」


    食らってみて分かった…断言出来る。
    “失われた魔法”の一つを自分の能力として使ってやがる、アレは数百年前に失くなった筈。何でコイツが……?


    アニ「アンタの力はこんなもんじゃないだろ?自分の“本当の能力”見せな」


    エレン「……」


    “失われた魔法”…それから、どうやら俺の事についても知ってるみたいだな。少し探りを入れる必要がありそうだな。


    エレン「悪いな。そう易々とコレを見せる訳にはいかないんだ」


    アニ「そうかい。じゃあ、無理矢理にでも見させてもらうとするよ!」


    エレン「さっきと速さがまるで違う…」


    ミカサはまだ動きそうにねぇな。見たとこアニの観察ってとこか、暫くはコイツとタイマンか。


    エレン「けど、そろそろその速さにも慣れられそうだ」


    アニ「なら、アンタのその息…あたしが乱してやる」


    エレン「やってみろ、女豹が…」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    ミカサ「だいたい分かってきた。速さも動きも…次は──!?」


    ミカサが動き出そうとしたのと同じくして、上から凄まじい速度で落下してきたそれに視線を向ける。


    エレン「……ってぇ。あの女、問答無用で叩き落としやがて…!」


    砂埃が舞い上がり、身体のあちこちに着いた氷の破片を叩き落としながら悪態をつくエレンが居た。

    あれだけ滅多打ちにされた上に叩き落とされてたというのに、ピンピンしているエレン・イェーガーという男。少ししぶとすぎないだろうか?


    そうこうしていると、追い打ちをかけるように上から猛スピードでこちらへ突貫しているアニがエレン目掛けて拳を振り下ろす。


    エレン「ッ!!!!」


    ガァァンッ!という鈍い音を出しながら霊刀でそれを交わす。


    アニ「さっきからソレといいアンタ自身といい、しぶとすぎないかい?いい加減落ちて(死んで)くんない?」


    エレン「さっきからこっちを狙いすぎなんだよてめぇ。敵は二人居るって聞こえなかったか?耳掃除しとけよ」


    アニ「あ?」


    エレン「キレんなよ、ちょっと煽っただけだろ?」


    豪速に横っ面目掛けて繰り出される硬質化された足を再び交わすと、アニを囲うように炎の柱が生成される。


    エレン「頼むから死ぬなよー?」


    ミカサ「──!!!!」


    いち早く気付いたミカサは後退。
    その直後、上空から一筋の雷が炎柱を目掛けて落とされた。
    大量の炎元素に雷が落とされる事で強力な魔力反応が発生し、その場に巨大な爆発が起きた。
  36. 36 : : 2021/10/18(月) 23:11:17
    ベルトルト「いくらアニが強いからって…!」


    ライナー「落ち着け。お前があそこに行っても無駄だ」


    キース「…………」





    ミカサ「いくらなんでも、やりすぎでは?」


    エレン「この程度じゃ死にゃしねぇだろ?」


    ──あんなんで死ぬわけないでしょ。


    エレン「ほらな?」


    ヘラりと笑ったエレンは外野を見やる。


    ベルトルト「──!」





    エレン「ったく…。めんどくせぇ男だな…」


    視線を戻すと、爆破によって生じた煙の中から服の所々に焦げた跡を着けたアニが五体満足で出てきた。


    アニ「毎度毎度、あたしの事で騒ぎ過ぎだっての…。めんどくさい」


    エレン「アイツ、お前の馴染みだろ?」


    アニ「まぁね。けど、あんな風に女だからって下に見られる気がしてイライラすんの」


    ミカサ「気持ちはよく分かる。私も昔はこれ程強くなかったから、よく下に見られてた」


    エレン「そうかい。確かに、俺も同じ立場ならイラついてたかもな。場合によっちゃ、ぶっ飛ばしてたかもしんねぇな」


    静かに笑うエレンは眼を細める。
    その威圧にベルトルト萎縮する。


    ライナー「ベルトルト、心配なのは分かるがいい加減アイツを信じてやれ。もうアニは自分で自分を守れる程に強くなった、分かるだろ?」


    ベルトルト「…………」




    エレン「さて、暗い雰囲気はここで終わりにして続きを始めよう」


    アニ「絶対に勝つ。それから、勝ったらアンタに一つ言う事聞いてもらう」


    ミカサ「私は半年前のリベンジが出来ればそれで良い。けど、勝つのは私」


    エレン「威勢がいい事で。そんじゃまぁ、ラストバトルだ…!」



    キース「気合が入ってるところ悪いが、そこまでだ」


    エレン「…え?」
    アニ「は?」
    ミカサ「なぜ…?」


    キース「流石に、これ以上お前達がやり合うと地形が変わってしまうかもしれぬのでな。特にイェーガー、お前がな」


    エレン「まさか、そんな事しませんって」


    アニ「………はぁ、何だかシラケちまったよ。アンタ達との決着はまた今度にしとくよ」


    ミカサ「という事は、引き分け?」


    エレン「まぁ…そういう事だな。ミカサは不完全燃焼みたいだが…教官に止められちゃ仕方ないか」


    キース「許せ。流石にここの地形を変えさせるわけにはいかないからな」


    こうして…エレン、アニ、ミカサの三強による頂上決戦は思いもよらぬ事で引き分けとして幕を閉じた。
    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    その後、キースより身体が休まるまでは救護室にて安静にしろと支持を受けた3人は大人しく身を休めることにした。


    クリスタ「お疲れ様みんな。お水持ってきたよ」


    ミカサ「ありがとう」


    エレン「色々と収まんねぇな…お互い」


    アニ「地形がどうこうってのは口実でしょ」


    エレン「大方、教官がアイツの気持ち汲んだんだろ」


    椅子に座るミカサ、立ったまま壁に寄りかかるアニ、大きく開いた窓辺に座りながら涼むエレン。
    雰囲気は悪くは無いのだが、何処か暗い様子を感じるクリスタ。

    そこに、ライナーとそれについてきたベルトルトがやってきた。
  37. 37 : : 2021/10/19(火) 00:19:36
    ライナー「邪魔するぞ」


    ベルトルト「………」


    アニ「……アンタね、何やったか分かってる?」


    イラついた様子で胸ぐらを掴むアニにクリスタは制止の声をかける。


    ベルトルト「ごめん…」


    エレン「…………」


    クリスタ「アニ、ベルトルトが苦しそうだよ…」


    ベルトルト「いいんだ、僕はそれだけの事をしたんだ…」


    アニ「アンタがあそこで声を挙げなかったら教官は止めなかった。この意味、分かるよね?」


    ミカサ「気持ちは分かるけど、一度落ち着くべき」


    アニ「外野は黙ってな…!」


    相当頭にキているのか、イラつきを全面に醸し出すアニに流石のミカサも押し黙るしか無かった。

    しかし、エレンだけは我関せずといった表情で窓辺から空を見ていた。


    ベルトルト「確かに、僕はアニの気持ちを蔑ろにした。その事は謝るよ、でも…。エレン、君はやり過ぎだ」


    鋭い視線を向けられるも、エレンはたいした反応も見せず、空を見る。


    アニ「はぁ?アイツは関係無いでしょ…!?」


    無関係のエレンを巻き込むベルトルトにアニは不快感を覚えたのか声を張り上げるアニをそのままにベルトルトはエレンへと視線を向け続ける。


    ベルトルト「君は…女性に、それも仲間に容赦無く攻撃をして何も思ってないのかい?」


    アニ「ッ!アンタいい加減に──「無いな」…!」


    ベルトルト「なっ──」


    エレン「ミカサとクリスタは外してくれるか?少しコイツらと話したい事がある」


    無言でその場を去るミカサを追うようにしてクリスタもまたその場を歩き去った。
    それを感じたエレンは初めてベルトルトに視線を向けた。


    ベルトルト「……っ」


    エレン「お前、人を守るの向いてねぇよ。人を信じられない、相手の性によってモノを考える。そんな奴が国民を守れるとでも?」


    ベルトルト「僕は僕のやり方で人を守る」


    エレン「それは別に勝手にしてくれていいが、全部いいように進むと思うなよ?その気になれば同期全員を手に掛けることだって出来る。そんな奴を相手に、お前……“全員”守れんのか?」




    エレン「甘ったれんのもいい加減にしろ!!」



    初めて声を張り上げる彼を見た。普段から感情が表に出る事が少ないエレン・イェーガーという存在。
    そんな人が感情を露わにして声を張り上げている、そんな事実にアニは驚きを隠せなかった。



    エレン「いいか?お前がここで呑気に生活している今も、知らねぇ場所で死んでる国民が居る。ソイツら含めて全員守れるかって聞いてんだ!!」


    ベルトルト「………」


    エレン「大切な人を守る為に、全力で力を付ける奴だってここには居るだろうよ。けど、そんな奴でさえそれが出来ないほど世界は残酷なんだよ…!!」


    アニ「………」

    ……コイツ、自分の事を…。


    エレン「女が相手だから傷は付けられない?甘ったれた事言ってんじゃねぇぞ。その甘さが、お前が強くなれないただ一つの理由だ」


    ベルトルト「…………」


    エレン「お前が本当にアニを“思う”気持ちがあんなら、何も言わずに信じるのが幼馴染ってもんだろうが。子供扱いすんのも大概にしろ」


    ベルトルト「………例え君の言ってる事が正しくても、僕は僕の考えを貫き通す」


    エレン「そうかよ…」


    吐き捨てる様にしてエレンは救護室をあとにする。


    ライナー「初めて見たな…あんな表情」


    アニ「アイツ…今まで、どれだけの…」
  38. 38 : : 2021/10/19(火) 01:22:13
    エレン「………」


    吹雪「マスターは何も悪くありませんよ。寧ろよく我慢出来たと褒められるべきです」


    朧気に夕陽を屋上より眺めるマスターの背中は普段よりも少し小さく感じた。


    エレン「もし…もし“あの時”、俺が家に残ってたら…どうなってたんだろうな」


    “あの時”……。
    それは今のマスターを作ったきっかけとも言えるあの日の事。

    マスターは後悔しているのだ。
    あの日、母からの買い出しを頼まれたあの日…反抗して家に残っていたら…家族みんなで今も過ごせたのでは無いのかと。


    吹雪「それは、私には分かりません。でも、グリシャ様やカルラ様がご存命であったとしても、マスターは今のような道を進んでいたでしょうね」


    いくら同じ家で時間を共にしていた私でも、分からないものは分からない。何故なら過去は変えられないんだから。


    エレン「そうか……。俺にも、“幼馴染”ってのが居たら…もう少し変わってたのかな」


    吹雪「“幼馴染”、ですか」


    エレン「笑って、喧嘩して、たまには同じ部屋で寝て…そういう奴が、俺にも居たら…」


    昔から同じ時間を過ごしていたから分かる。
    普段の姿は誰にも悟られまいと取り繕っている仮の側面。
    こっちが“本当の”エレン・イェーガーという人なのだ。


    吹雪「確かに、そのような人達がいればマスターの性格も少しは変わっていたと思います。でも、そういう人達が居なかったからこそ、今のマスターがあると考えています」


    エレン「………」


    吹雪「だから、たまには…その“鎧”を脱ぐのも大切な事ですよ?泣きたい時は、泣いていいんです…」


    エレン「………っ」


    吹雪「ほら、今此処には私達しか居ないんですから。溜まっているモノを吐き出してしまいましょう」


    気付かぬうちに両親を何者かに奪われ、無力感に苛まれていた幼き日のマスター。

    思えば、あの時から…マスターは今のように感情をあまり表に出す事は無くなった。

    何をしても砕ける事を許さない堅く閉ざされた心も、一度溶かし解してしまえばこの通り。

    声を押し殺して涙を流すマスターのように…。


    ─俺、頑張ってるよな?


    はい。マスターが頑張ってるところはいつもお傍で見ていますよ。


    ─父さんみたいな人に、なれるよな?


    もちろんです。マスターはきっと、あの人のような強くてカッコいい人になれます。この吹雪が保証しますとも。


    吹雪「……マスターはいつまでも、2人から愛されています。きっと、楽園(向こう)から見守ってくれていますよ」


    いくら強固に見える外側でも、内側は酷く脆いもの。私の胸元に顔を預け、子供のように涙を流すマスターの頭を微笑みながら撫でるのです。
    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    吹雪「隠れるくらいなら潔く出てきた方がいいですよ。アニ・レオンハートさん」


    アニ「…気付かれてたんだ」


    吹雪「あれで隠れていると思ってるならダメダメですよ。気配がダダ漏れです」


    アニ「そう…」


    吹雪「マスターは疲れて眠っています。声量はなるべく小さくお願いします」


    アニ「………」


    吹雪「明日どんな顔して合えばいいか分からない。そんな感じですか?」


    アニ「まぁね。元はと言えば、あたしらのあのバカがソイツを巻き込んだだけだし…気にしなくていいと言われればそれまでだけど、どうしてもね」


    吹雪「そうですか」


    アニ「起きたら伝えといてくれる?“巻き込んで悪かった”って」


    吹雪「自分の口で言った方がいいと思いますけど?」


    アニ「その方がいいんだろうけど、今の状態…蟠りがある状態で押し掛けても迷惑だろうしさ」


    吹雪「貴女はマスターと少し似ていますね。言葉には棘がある。しかし、その根底には相手を想う優しさがある」


    アニ「そうかい…褒め言葉として受け取っとくよ。それじゃ、あたしはこれでずらかるよ」


    吹雪「………。マスター、実は起きているんでしょう?」


    そう言いつつ頭を撫でる手は止まることを知らないが、表情は柔らかく、緩やかであった。


    エレン「うるせぇな…アイツと似てるなんて、死んでもゴメンだ。俺は俺だ、それ以上でもそれ以下でも無い」


    吹雪「それでこそマスターです。さっ、そろそろ部屋に戻ってご飯を食べましょう。今日はクリスタさん(ヒーちゃん)もご一緒してくれるそうですよ?」


    エレン「何であいつが…まぁ、いいけど」


    吹雪「ふふっ。何だか少し昔のマスターに戻りましたね?」


    揶揄う様に笑みを見せながら頭を撫でる愛刀の手を払いながら起き上がるツンツンした様子の照れ隠しをするマスターがいたそうな。
  39. 39 : : 2021/10/19(火) 03:42:24
    あれから数日後、エレンの元へある誘いが入る。


    エレン「は?」


    クリスタ「だから、お姉ちゃんと会ってよ」


    吹雪「ですが、またマスターの身に何かあったら…」


    クリスタ「吹雪ちゃんの言いたい事は分かるんだけど…最近お姉ちゃんが会わせてって煩くて」


    エレン「………はぁ、腹括るしかねぇか」


    吹雪「マスター…!!」


    エレン「大丈夫だって、何かあったらすぐ帰る」


    吹雪「絶対ですよ?」


    エレン「分かってるって」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    クリスタ「はい、お姉ちゃん。後は1人で頑張ってね」


    フリーダ「え!?仲を持ってくれるんじゃないの!?」


    クリスタ「はいはい、それじゃ…仲良く出掛けるなりお話しなりしてね」


    手をヒラヒラとさせながらヒストリアはその場を去っていった。


    フリーダ「じ、じゃあ…その、行こっか」


    エレン「何処へ?」


    フリーダ「へ?えっと、行きつけのお店があるんだけど…い、一緒にどう、かな?」


    緊張からなのかぎこちない笑みを見せながらフリーダにエレンは二つ返事で返す。


    フリーダ「ほ、ホント?よかった…」


    エレン「まぁ、そっちの誘いだから俺はただついてくだけだし」


    何処か喜んでいる様子のフリーダの後ろをエレンは追従する。



    フリーダ「それで、その…やっぱり、私の事…覚えてないの?小さい頃に一度会った事があるんだけど…」


    エレン「残念ながら、これっぽっちも」


    首を振るエレンに酷く落ち込みながら注文したサンドイッチを頬張る。


    エレン「ただ、あんたの言葉から嘘は感じないから…ホントなんだろうなとは思う」


    フリーダ「…!」


    緩くなった雰囲気を感じ取り、そのまま談笑と洒落込むのだった。


    フリーダ行きつけの店で昼食を済ませた2人は並ぶようにして街中を歩き続ける。


    フリーダ「それでね、あの子ってば──きゃっ!」


    エレン「大丈夫か?」


    段差で躓き、体勢が崩れた所にさり気なく腰に手を回され、手首を掴まれて倒れる事は無かったが、数センチという距離の近さにある顔に羞恥心を隠しきれなくなった途端に足元が覚束無くなってしまい、エレンに支えられながら近くの広場にあるベンチまで歩く事になった。


    フリーダ「あぅ…」


    手首を掴まれるのまでは良かったけど、腰に手を回されるなんて…は、恥ずかしい…!

    ま、周りに誤解とかされてない…よね?


    エレン「“破劫の皇女”なんて呼ばれてるからどんな奴かと思ったけど、案外年相応なんだな」


    フリーダ「え、私周りからそんなふうに呼ばれてるの?!知らなかった…」


    エレン「アンタはもう少し周りに目を配った方がいいと思うぞ」


    フリーダ「そ、そうね…。善処します…」


    私、昔から貴方のことしか考えてなかったから…なんて言えるわけもなく。

    だって、彼は私のことを覚えていないのだから…。

    そう。この秘めた想いは明かしてはいけないんだ。
    ずっと片想いのままでいい…。
    間接的とはいえ、彼の大切な家族を奪ったんだ。
    そんな私は、彼の隣にいるべきではない。
    あれから考え続けて辿り着いたこれが、私の答え。

    でも、心のどこかで…彼の隣に居たいと想ってしまう私が居るのもまた事実。

    どうすれば良いんだろうか…。彼に伝えることなく、この想いを消し去る方法はあるのだろうか…?
  40. 40 : : 2021/10/20(水) 02:58:40
    クリスタ「それで?特に何も進展が無いまま帰ってきたの?」


    フリーダ「うっ、そうです」


    クリスタ「まぁ…過去の記憶がハッキリとしてないんだから後ろ向きになるのも分かるけど、ホントにこのままでもいいの?」


    フリーダ「事実だもの…。私は間接的に、あの人の家族を奪ったんだから…」


    クリスタ「確かにそうだけど、だからって未練があるままじゃモヤモヤするでしょ?」


    フリーダ「…………」


    クリスタ「ちゃんと話せば分かってくれると思うよ、エレンなら。あぁ見えてちゃんと“現実(いま)”を見てる。不安なら私もついてくよ」


    フリーダ「でも…またあの時みたいに苦しみだしたら…今度こそ二度と会えなくなっちゃうかもしれない…」


    クリスタ「吹雪ちゃんの事?あの子はエレンと契約を結んだ霊刀。主の事が自分よりも大事なんだからああなっちゃったのは仕方ない事だよ」


    フリーダ「…………」


    クリスタ「私達が学園生活を終えるまで後1年半は残ってる。ちゃんと、自分の心に正直になってもう1回考えてみるのもいいんじゃない?」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    エレン「……レイス家、か」


    夜の食事中にふと零れたのがそれだった。


    吹雪「?」


    エレン「本当に…俺はあの人と会ったのか?」


    吹雪「………」


    エレン「そもそも、何でその時の出来事だけが頭から抜けてるんだ…」


    吹雪「マスター、今は食事中ですよ?」


    エレン「………あぁ、そうだったな。悪い…」


    申し訳なさそうにして再び箸を動かすマスター。

    まだ、明かすべきじゃない…。

    マスターはまだ真実に辿り着いていない。
    数十年前の一族全滅のきっかけを作ったのが何者なのか。
    何故、旧貴族が襲撃にやってきたのか。
    それをマスター自らが辿り着くまで、この事は決して伝えるべきではない。

    ………でも。


    吹雪「………マスター」


    エレン「…ん?」


    吹雪「もし…私が、あの日の“真実”を知っていると言ったら、マスターはどうしますか?」


    エレン「………お前の言葉を疑った事は一度も無い。だから、お前がそう言うんなら…知っているんだろうな。けど、だからといって子供のように教えて欲しいと頼む事は出来ない…」


    吹雪「………」


    エレン「それは、俺が自分で導き出さなきゃならない事だ。真実に辿り着いたその時…もし、道を違えるような事になったら…お前は何も言わず止めてくれるだろ?」


    吹雪「……はい。いつ如何なる時も、この身はマスターに捧げると誓っています。そのような時は、消滅する事になろうとも、マスターを止めてみせますよ。何故なら──」


    “それが、従者たる愛刀の役目ですから…!”


    エレン「それでいい。ごちそうさま…今日も美味かったよ」


    吹雪「お粗末さまでした。そう言ってくれると、作った甲斐がありました!」


    そう、これでいい。いずれ封じた記憶が解き放たれたとしても…私はマスターを信じてお傍に仕えるだけだ。

    それが、私が私に課した使命。元主のカルラ様と交わした“契約”なのだから。
  41. 41 : : 2021/10/20(水) 03:57:05
    2年目に突入した学園生活も半年が経過した。

    今日も今日とて勉学に励み、修練に身を削る彼らの元へある事が知らされる。



    エレン「“魔導演武”?」


    キース「うむ。貴様らの学園生活も2年半が経過している。そこでだ、国王主催の元に行われる魔導士を目指す生徒達全員が集まる大会が2ヶ月後に行われる」


    アルミン「こ、国王主催!?」


    キース「国王を含め各組織のトップが観戦するお前達の実力を知らせるのに絶好の機会だと思わないか?」


    エレン「確かに…。それに、ごく稀に各組織のトップの印象に残った者はその人直々に勧誘があるという話を何処かで聞いた覚えがある」


    ジャン「マジかよ。じ、じゃあその大会で活躍したら…!」


    ライナー「もしかしたら、あるかもな」


    キース「そこでだ。実は、ある人物の提案で強化合宿を2ヶ月間行う事になった」


    エレン「ある人物…ね(まぁ、十中八九あの人だろうな)」


    キース「この2ヶ月間、お前達の合宿を監督する者達に今日この場へ来てもらった。後は頼んだぞ、エルヴィン」


    エルヴィン「明日から行われる合宿を監督するエルヴィン・スミスだ。見ての通り“自由の翼”という組織のリーダーをしている者だ」


    エレン「………やっぱりな」


    “自由の翼”…。主に魔獣の討伐依頼等を行い、名を挙げて来た魔導士の中でも優秀な人材が集まる組織。

    そのトップたる人物の登場によって、ザワザワと動きを見せ始める。

    ただ一人、無言で気を張り巡らせているものを除いて。


    エレン「………!」


    上空より雷の速さで襲い来るそれは、二本のブレードを振り翳す。

    負けじとエレンも霊刀を具現化させて襲撃に備えた。


    「ほう…あの時より随分と腕をあげたようだな」


    エレン「突然上からの奇襲…何の真似ですか。“リヴァイ”さん」


    リヴァイ「ただの確認だ。あの頃弱かったガキがどうなってるのかの確認をな」


    エレン「だからって公衆の面前でやる事ですか…」




    アルミン「じ、“人類最強”と謳われるリヴァイさん!?エレン!君この人と知り合いなのかい!?」


    エレン「ガキの頃、少しな」


    リヴァイ「確認はもういいだろう。これ以上はエルヴィンの野郎に咎められちまうからな」


    気が済んだのか、そのまま歩き出すリヴァイとすれ違うようが活発な赤髪の少女が此方へ走って来ていた。


    「やっぱりエレンじゃねぇか!!デカくなったなぁ!元気だったか!?アタシは元気だったぞ!」


    エレン「ど、どうも…。“イザベル”、さん」


    イザベル「前に会った時はあんな小さかったのに、男らしく育ったなぁ!」


    エレン「ちょ、何してっ。んぐっ!」


    イザベル「昔みたいに甘えてきてもいいんだぞ?オレはいつでも歓迎するぜ!」


    エレン「相変わらず一人称定まってないし、騒がしい人ですね貴女は…。俺が変わったんじゃなくてこの人が変わってないだけなんじゃ…」


    イザベル「なっ、お前まで“ファーラン”と同じ言うのかよー!」


    エレン「だって、ホントの事じゃないですか」


    ファーラン「イザベル、今日来た目的を忘れてないだろうな。早く定位置に戻るぞ」


    エレン「早く連れてって下さい、無駄に疲れるだけなので」


    ファーラン「それじゃ、また後でな」


    エレン「はい」


    エルヴィン「さて…ひと騒ぎあったが、来たる大会までの2ヶ月間、我々が君達の監督をする事になった。本来はここに数名来る予定だったのだが、生憎と彼は依頼をこなして不在でね。私達がここに来たという事だ」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    アルミン「エレン!どうして教えてくれなかったんだい!?あのリヴァイさんと知り合いだったなんて!」


    エレン「聞かれなかったからな。それに、言ったところで何も変わらないだろ。ただ、昔に師事して貰ってただけだ」


    リヴァイら3人との関係性が知られたエレンは同期達による質問攻めを受けていた。

    怒涛の攻めをのらりくらりと躱して何とかその場を切り抜けたエレンの元へリヴァイら3人がやって来た。
  42. 42 : : 2021/10/24(日) 02:51:03
    俊敏性の高い動きでデータで構築されたbotを相手に汗を流すエレンがそこにはいた。


    ファーラン「Lv10…最高難度か」


    イザベル「アイツ、見ない間にあんな動き出来るようになってたのか…!」


    リヴァイ「………」


    事ある毎に形態変化するbotに即座に対応しながら、刀を振り翳す鮮やかな身のこなし。

    魔弾を斬り、矢の雨を潜り抜け、自身の赤眼を利用した相手の動きの予測、リヴァイ程の実力者で無ければ挑戦する事が出来ないと言われる難易度10のデータbot、これが…彼が今期最強と言われる所以なのかもしれない。


    エレン「はぁっ、はぁっ……ッ!」


    視神経に影響のある赤眼、“写輪眼”と呼ばれるソレは酷使する程視力が低下していく。
    動きの予測や模倣、身体能力の向上がその眼の能力。コレにはまだ一つ上の段階があるのだが、彼は未だにそれを使用した事が無かった。

    それ故に、使用した時の反動は凄まじく…視神経に激痛が走る。


    イザベル「アイツ…夜な夜なこんな過酷な自主練してるのか」


    ファーラン「止めなくていいのか、リヴァイ?」


    リヴァイ「これはアイツ自身が課したモノだ。それを止める権利は俺達には無い」




    エレン「ッ…!ぐぁぁぁぁあッ!!!」




    リヴァイ「何がアイツをあそこまでしてんのかは知らねぇが…。少なくとも憎悪は感じ取れる。“アイツ”が今のエレンを作ったと言ってもいいだろう」


    ファーラン「王族護衛最強と名高い…“切り裂きケニー”か」


    リヴァイ「アイツは俺が必ず仕留めてやる…。ガキの頃、俺にゴミの吐き溜めで生きる術を教えてくれた奴でもある。きっちりとケジメをつけてやる」


    そこへ、肩を上下に揺らし汗を垂らすエレンがやって来た。


    エレン「はぁっ、はぁっ。誰か居ると思って来てみれば…やっぱり」


    イザベル「エレン、その…眼は大丈夫なのか?」


    エレン「大丈夫ですよ。今日はいつもより長い時間だったらその反動が怖いですけど…」


    イザベル「だ、大丈夫じゃねぇだろ!ちょっと見せてみろ!」


    顔色が変わったイザベルの両手で顔を挟まれて固定されながら瞳孔を覗かれるエレンは、大丈夫だと言うのだが、今のイザベルにその声は届かないらしい。


    ファーラン「お前、いつもこんなハードな事してるのか?」


    エレン「父さん達を殺った魔導士は強い。会った事は無いけど、今のままじゃ絶対に勝てない…。だから、その為にはもっと強くならなきゃ」


    ファーラン「張り切るのもいいけど、無理だけはするなよ。合宿前に倒れて不参加なんてダメだからな」


    エレン「自分の限界は自分がよく知ってます。そんな事しませんよ」


    イザベル「まだ光はあるけど…このままじゃ見えなくなるぞ?」


    エレン「父さんの眼は今も部屋に保管してる。だから、移植の準備は出来てるので大丈夫です」


    イザベル「なら、いいけど」


    ふぅ、と息を漏らすイザベルは両手をエレンの顔から離し、目薬を渡す。


    エレン「それより、3人揃ってなんの用で?」


    リヴァイ「お前、レイス家の令嬢と街を歩いたそうだが…何かあったか?」


    エレン「………は?」


    ファーラン「別に見掛けたわけじゃないぞ?」


    イザベル「そうそう!いつになく上機嫌だったから聞いてみたらお前と街を歩くとか言ってたからよ」


    何故知られているのか分からないといった様子のエレンに、すかさず言葉の足りないリヴァイのフォローをするイザベルとファーラン。


    エレン「あぁ…別に、何も無かったですけど」


    リヴァイ「まだ、あの女について思い出してはいないんだな?」


    エレン「そう、ですね。それだけが頭から全部抜けてて…」


    リヴァイ「そうか。ならいい…変な事を聞いたな」


    イザベル「ふぅ」
    ファーラン「………」


    エレン「?」
  43. 43 : : 2021/11/09(火) 04:50:29
    魔導士界隈の猛者が集まる組織 “自由の翼”

    エルヴィン・スミスをリーダーとして、“人類最強”と名高いリヴァイ、“破劫の皇女”として知らない者は居ないと言われているフリーダ・レイスといった、魔導士として完成された人物が加入しているエルディア国最強と言っても過言では無い組織だ。

    そんな人物達の監督の元、エレン達学園の生徒達は今までよりもハードな訓練を受けていた。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    エルヴィン「彼らには少し過酷なモノだろうが、順調に進んでいるようだな」


    リヴァイ「この程度でへばる様じゃ魔導演武には出せねぇ。嫌でもやってもらう」


    エルヴィン「やはり、エレン・イェーガーとミカサ・アッカーマン…。この2人は既に魔導士としての身体は完成されているようだな」


    ハンジ「注目株の2人だもんね〜。直で見ると驚かされるよ」


    魔導士として大切な事は幾つかあるが、その中で最も重要なのは身体。

    強力な魔術である程、身体に掛かる負荷が大きく、それに耐えられる身体で無ければ、いくら魔力コントロールが優れていてもその膨大な魔力量に耐えられず、身体の内側から崩壊が起きてしまう。

    だからこそ、こうして基礎体力を鍛え上げる事が大切なのだ。


    ハンジ「さてと…ここに居ても退屈だし、私は研究室に戻るとするよ」


    リヴァイ「何しに来たんだテメェは」


    ハンジ「何って、そりゃあ…“あの子”を見に来たに決まってるじゃないか!炎、氷、雷の3つの元素力を持つ魔導士なんて初めて見たんだ!観察したいじゃないか!」


    リヴァイ「観察するのはいいが、くだらねぇ理由で実験に巻き込むんじゃねぇぞ」


    ハンジ「あっははは!そんな事しないって!それじゃあねー」


    エルヴィン「釘を刺すだけとは…珍しいな」


    リヴァイ「言ったところでアイツは聞かねぇからな…」


    呆れた様子のリヴァイの元へ、1人の女性魔導士が駆け寄っていった。


    「班長!」


    リヴァイ「“ペトラ”か。お前がここに来たって事は、そういう事か?」


    ペトラ「はい、たった今準備が完了しました!」


    リヴァイ「分かった。あとはこっちで進めてやるからお前らは次の準備をしておけ。特にオルオ…アイツには真面目に取り組めと伝えておけ。エレン相手に潰されるようじゃ名が廃るからな」


    ペトラ「はい、失礼します!」


    そうして、ペトラと呼ばれる女性魔導士は再び走り去っていく。
    その様子を眺めていたエルヴィンはふと言葉を零す。


    エルヴィン「相変わらず準備がいいな。お前の部下は」


    リヴァイ「迅速さを徹底させてるからな。そろそろ全員終わった頃だろう。次に移るぞ」


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    エレン「“擬似魔獣討伐訓練”ねぇ…俺からしてみると、少し物足りない気がするんだけどなぁ」


    少し気が滅入っているのか、珍しくやる気の無い様子で森の中を1人歩くエレン。

    先程リヴァイから提示されたモノは、“擬似魔獣討伐訓練”。
    数々の依頼をこなしていく中で、魔獣の討伐も例外無く行われる。その為、如何なる状況においても冷静に対応し、討伐を行えるかどうかの訓練との事。

    本来、こうしてやる気の無いエレンのような雰囲気をしている者からやられていくのだが……。


    “ギャァァァァァオ!!!!”


    エレン「早速お出ましか」


    すかさず刀を手に取るエレンは魔獣の出方を伺うが、今の所威嚇をするだけの様子。

    静かに居合の構えをするエレンに猛スピードで突進を仕掛ける魔獣。

    突進の勢いに乗って飛んで襲い掛かる魔獣だが、刹那の間に四肢を斬り離され、血飛沫をあげながらその横を通過する。

    カチン、と納刀の合図と共に擬似魔獣は絶命する。


    エレン「ちゃんと血出るのかこれ…やけにリアルで気が削がれそう…」


    身体に付着した魔獣の血を自身の氷を溶かして水に変えて洗い流すエレンを遠くの木々の上からアニ、ライナー、ベルトルトの3人が眺めていた。
  44. 44 : : 2021/11/09(火) 05:06:20
    ライナー「今の見えたか?」


    アニ「……」


    ベルトルト「次元が違う…」


    常に周囲の魔力を索敵しているエレンは、瞬時に3人の元へ空間を移動する。


    エレン「サボりか?」


    ライナー「うおっ!?」


    アニ「別に…。ただ、見掛けたからさっきの一部始終を見てただけだよ。それはそうと、さっきアンタ何したの?なんも見えなかったんだけど」


    エレン「如何なる剣でも、精神を研ぎ澄ませ、集中力が極限にまで達した時なら空間ごと斬る事が出来る。初めてこの芸当を実現させた達人はこれを“次元斬”と呼ぶようになった」


    アニ「アンタ人間じゃないよ…」


    エレン「刀ってのは己の精神を研ぎ澄ませる事で力が増すものだ。どんなに斬れ味のある刀でも、それに伴う精神が無ければなまくら同然だ」


    ライナー「それだけ、長い間それと一緒に時間を過ごしてきたんだな」


    エレン「まぁ、ガキの頃からずっと一緒だからな。ほら、ダラダラしてねぇでお前らも頑張れよ。あまりサボってると、リヴァイさんから撃鉄を食らうぞ」


    そう言って、エレンはその場を去った。


    ベルトルト「……やっぱり、あの眼を手に入れるにはどうにかして無力化を図るしか…」


    アニ「アンタまだそんな事言ってんの?」


    ライナー「ベルトルト…本気か?“ジークさん”の言ったことを鵜呑みにするのか?」


    ベルトルト「あの人は僕達を導いてくれる人だ。だったら、僕はそれに従うだけだよ」


    アニ「少なくとも、アンタじゃアイツはやれないよ。他の連中でも殺す事は愚か、無力化だって無理でしょ」


    ベルトルト「アニ…君は憎くないのかい?僕達がこの世界の人類が」


    ライナー「ベルトルト、よせ。今は訓練中だ。その話はこの場でする事じゃねぇ」


    ベルトルト「………」


    不穏な空気の中、アニはエレンの事を思い浮かべる。


    アニ「………」


    ………もし、あたしが敵としてアンタとやり合うことになったら、必ずあたしが殺してあげる。
    その眼もあたしが手に入れる…。

    だから、アンタの事を色々知っておかないといけない。そうじゃないと、アンタを殺す事なんて出来ないからね。


    アニ「……流石に説教食らうのは嫌だからさっさと行くよ」
  45. 45 : : 2021/12/19(日) 02:05:05
    クリスタ「エレンのおかげで魔力のコントロールが少しだけ上手になった気がするよ、ありがと」


    エレン「お前の努力が出した結果だろ。俺は何もしてない」


    クリスタ「だとしても、コツを教えてくれたのはエレンでしょ?だから、ありがとう。今度お礼に何処か出掛けよっか。“2人で”」


    エレン「……荷物持ちは勘弁だぞ」


    クリスタ「そんなのじゃないよ。少し人気の無いとこで話がしたくてさ」


    エレン「穏やかじゃねぇな」


    クリスタ「痛い事はしないよ。私じゃエレンはやれないもの」


    ユミル「こんな所に居たのか、探したぞクリスタ。おい、クリスタに怪我とかさせてねぇだろうな?」


    エレン「……じゃあな、“クリスタ”。予定空けとく」


    クリスタ「──!」


    ユミル「……は?」


    鬼の表情をするユミルを無視してこの場を去るエレンに謎の高揚感を覚えたクリスタ。


    ユミル「おい!クリスタ、予定空けとくって何だ!?まさか、アイツと!」


    強い力で肩を掴まれ、グイグイと前後に揺さぶられるクリスタだが、その表情は笑みを含んでいた。


    ──この名前で呼ばれるのも、悪くないのかも?
    お姉ちゃん、早くしないとお姉ちゃんの好きな人取っちゃうかも…。


    クリスタ「ふふっ。これからどうしよっか」


    ユミル「クリスタ?クリスタ!?何だその笑顔!」


    そんなこんなで、合宿初日を事故も無く終わりを迎えた。


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
    〜食堂〜


    エレン「それで、何で俺はこんな所で飯食ってるんですかね」


    イザベル「昔はこんな風に4人で飯食ったろ?」


    エレン「そういう話じゃなくて…」


    ファーラン「どうして俺達に囲まれてるのか…だろ?」


    エレン「簡単に言えばそうです」


    イザベル「まぁ、久々に会ったんだから一緒に飯食いてぇってのもあるけど……」


    リヴァイ「エルヴィンに聞いたぞ。お前、この組織を完全に信用してないらしいな」


    ファーラン「本当の事を言ってくれ」


    エレン「父さん達をやった奴が誰なのか、未だに分からない上に複数人でやったという可能性も考えられる。だから、その協力者が全く居ない…つまり、風元素を操る魔導士1人がやったという確証が得られない限り、全てを信用するのは無理です」


    リヴァイ「そうか。真っ当な理由があるならそれでいい。それを追い求めるのはお前自身がやる事だ、俺達は何も干渉はしない」


    エレン「ありがとうございます」


    リヴァイ「どうしようも無くなったら直ぐに言え。助言くらいはしてやる」


    エレン「はい…そうして貰えると助かります」


    イザベル「さて、聞きたい事も聞けたし飯食うか!」
  46. 46 : : 2021/12/21(火) 12:35:05
    〜翌日〜



    リヴァイ「………」


    エレン「はぁ…はぁ…ッ!」






    イザベル「エレン大丈夫か…?」


    ファーラン「けど、見ないうちに強くなってるのはよく分かる。昔はボコボコにされてたからなぁ…」


    アルミン「あの、どうしてエレンは雷元素しか使ってないんでしょうか…?炎と氷もあるし、刀だってあるのに…」


    イザベル「あぁ…。なんて言えば良いのかなぁ」


    ファーラン「まぁ、簡単に言えばエレンが決めたんだよ。リヴァイと特訓する時は雷しか使わないって」


    アルミン「エレンが?」




    お互いに身体中に雷を流し、身体能力や移動速度を上昇させた上で格闘術での特訓を行うリヴァイとエレンの元へ偶然そこに居合わせたアルミンがイザベル、ファーランの両名に問い掛けた疑問は真っ当なものだった。


    “人類最強”として謳われるリヴァイ相手にやれる人は全く居ない。そんな相手に己自身の力を全て使わないエレンに疑問を隠しきれなかったのだ。


    ファーラン「今じゃリヴァイ程じゃないけど、雷を使いこなしてるエレンだが、昔は酷かったんだ」


    イザベル「懐かしいなぁ!兄貴と同じ事しようとして全身黒焦げになってたっけ」


    ファーラン「あいつの、エレンの雷の力を彼処まで育て上げたのはリヴァイなんだよ。だからなのか、リヴァイに追い付きたいが為に、ああやって同じ条件で挑む事が多かったんだ」


    アルミン「リヴァイさんが…」


    イザベル「エレンのやつああ見えて頑固だからなぁ…同じ事言ったら“そんな事したらフェア”じゃないって聞かなくってさぁ」


    アルミン「リヴァイさん相手にフェアも何も無いんじゃ…」


    ファーラン「はははっ!だよなぁ」





    リヴァイ「どうしたエレン、動きが鈍いぞ」


    エレン「はぁはぁはぁ…。まだ、やれます!」


    息を整えたエレンはイェーガーの証である赤眼を顕にする。


    リヴァイ「眼無しでここまでやれたんだ。それ使うってんなら、せめて一撃でも入れてみろ」


    エレン「ッ!」


    エレン自身、“眼”を使ってもリヴァイに一撃を入れられるのか…悩んでいた。ここ数年で力を磨いたが、やはり相手は“人類最強”。格が違う上に扱いが難しい雷元素をいとも簡単に操ってみせる魔導士。
    一撃を入れる事が如何に難しいものなのか…改めて実感するのだった。



    リヴァイ「そうだ、それでいい。常に相手の動きに気を配れ。特に格上の相手はコンマ1秒の差が勝負を決する。その眼はその差を埋めやすくするモノだ。あとは必死に喰らい付いてこい」


    エレン「はいッ!」





    イザベル「すげぇなエレン!兄貴の攻撃を交わしてるぞ!」


    ファーラン「あとは攻勢に出られれば」


    アルミン「………あの赤い眼…何処かで」


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    エレン「…………」



    イザベル「あちゃー。今日こそはいけるって思ってたんだけどなぁ…やっぱり兄貴はレベルが違ぇや」


    ファーラン「気絶したように眠ってるな」


    リヴァイ「まだ動きに粗があるが…このまま行けば一撃入るかもしれねぇな」


    イザベル「えーっと、眼はまだ…うん。大丈夫そうだ」


    ファーラン「まだ、合宿訓練残ってんだけどなぁ…」


    リヴァイ「俺がエルヴィンに話をつけてやる」


    イザベル「それじゃ、あたしはエレンを医務室に連れて行くかな」


    そうして、早朝から始まった特訓は終わりを迎えた。

    エレンはイザベルに背負われ、医務室へと送られた。


    リヴァイ「……おい、そこのお前」


    アルミン「は、はい!」


    リヴァイ「随分と考え込んでるみてぇだが…あの眼が気になるか?」
  47. 47 : : 2021/12/23(木) 14:12:19
    アルミン「……!!?」


    リヴァイ「幸いここには俺達以外誰も居ねぇ。正直に話せ」


    アルミン「今まで、エレンと一緒に苦楽を共にして来ましたけど、あの赤い眼は初めて見ました。けど、ハッキリとはしてませんけど、何処かで見た事があるような気がするんです」


    リヴァイ「そうか」


    ファーラン「リヴァイ、エレンについて話してもいいのか?」


    リヴァイ「コイツはエルヴィンに似て頭を使った事が得意だと聞く。“コレ”の重要性がよく分かるだろう」


    アルミン「…………?」


    リヴァイ「ついてこい。前からエルヴィンがお前と話をしたいと思ってたらしい」


    非力で臆病、加えて自分に自信が持てず、頭の良さだけが取り柄だったアルミンの人生はここから一変する事になる。


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    エルヴィン「よく来てくれた。以前から君と話をしたいと思っていてね」


    アルミン「いえ、僕なんかと話がしたいと思ってもらえて光栄です」


    エルヴィン「謙遜はしないでくれ。私は、人類の未来には君のような魔導士が必要だと考えている」


    アルミン「人類の…未来?」


    エルヴィン「そうだ。……さて、早速本題に入るとしよう。今から話すのは我々人類の存続が掛かったものだ。心して聞いてくれ」


    アルミン「は、はいっ!」


    エルヴィンの真剣な表情とそれから伝わる気迫に萎縮するアルミンは声を張る。


    エルヴィン「先ず、君は“魔族”という存在を知っているか?」


    アルミン「はい。遥か昔に、人類に負けて彼らに封印された。という事くらいですけど」


    エルヴィン「そうか。なら、話は早いな。率直言うが、君達が学園に入る頃にその封印が解かれ、魔族が復活を果たした」


    アルミン「なっ!?」


    エルヴィン「現に、最近のこの国では魔獣の動きが活発でね。魔獣関係の討伐任務が急増して来ている」


    アルミン「ま、魔族が復活したと言うのなら、どうして奴らは僕達を襲撃に来ていないんでしょうか…?」


    エルヴィン「あくまでこれは仮説なのだが、復活を果たした魔族は人類掌握の為に力を蓄えていると考えている。我々組織と同じように」


    アルミン「で、では…魔導演武を開催する時間が惜しいのでは?」


    エルヴィン「君もそう感じるか。今君達が受けている訓練だが、本来の目的である魔族に対抗する為だ。魔導演武については建前でしかない」


    アルミン「つまり、僕達をなるべく多く組織に迎え入れて、魔族に対抗する。という事ですか?」


    エルヴィン「理解が早いな」


    アルミン「でも、魔族が復活した事とエレンにどう関係が?リヴァイさんはそう言ってましたけど」


    エルヴィン「………“予言”だよ」


    アルミン「予言…?」


    エルヴィン「数年前に予言が遺されてね…。『新たに魔の王が誕生し…世界を支配する。一族最強にして最後の赤眼を求め、魔は復活を果たし、人類を支配するべく動き出す』とね」



    アルミン「赤眼……!!」



    エルヴィン「そう。この“一族最強にして最後の赤眼”とは、エレン・イェーガー。彼の事だ」


    アルミン「エレンが……」



    エルヴィン「既に彼からの協力を得られている。後は時が来るまでこちらの戦力を増強するだけだ」


    アルミン「そんな素振り…1度も」


    エルヴィン「これはまだ公にすべきではない。だから、これはまだ君達2人にしか伝えていない」


    アルミン「こんな重大なことをどうして僕に?」


    エルヴィン「さっきも言ったが、人類の未来の為に君のような魔導士は必要不可欠だ。君には他者をまとめあげる力がある。その力は、きっとこの先の戦いで目覚める事になる。だからこそ、君には将来私の補佐をやって貰いたい」


    アルミン「───!!!!」


    エルヴィン「エレンやリヴァイの様な力ある者は弱者を導くには少し物足りない。だが、君のように強力な力を持っていないからこそ、人を導く事が出来ると私は思っている」


    アルミン・アルレルトという少年は自分に自信が持てずにいた。いつもいつも、幼馴染のミカサに助けられてばかりだった。

    体力も無ければ強力な力がある訳でも無い。しかし、そんな人物だからこそ人を導く事が出来るのだとエルヴィンは言っている。

    その言葉を受け、やっと自分に自信が持てるようになれた気がする。そうアルミンは思った。

    いつまでも幼馴染に助けられてばかりではいられない。
    今まで、助けられた分…今度は自分が彼女を助けてあげる番なのだと。


    エルヴィン「ふっ…いい目だ。これから先、君に頼る時があるかもしれない。その時は、力になってくれるか?」


    アルミン「はい!」
  48. 48 : : 2021/12/23(木) 20:57:52
    〜医務室〜


    イザベル「おっ、起きたか?」


    エレン「……すいません、迷惑かけて」


    イザベル「迷惑とか思ってないから気にすんな!寧ろ兄貴相手によく頑張ったって褒めてやりたいぜ!」


    エレン「けど、リヴァイさんが本気を出したら…俺なんて一捻りでしょうね」


    イザベル「………」


    エレン「強くならなきゃいけないのに…リヴァイさんに気を使わせて…」


    イザベル「なぁ、エレン。兄貴はそんな事思ってないと思うぞ」


    エレン「………」


    イザベル「兄貴は本気でお前の力になりたいと思ってる。もちろん、あたしとファーランもだけどな!でも、人一倍大事なエレンだからこそこうやって付き合ってくれてるんだと思うぜ」


    エレン「……何で、そんなに俺の事…」


    イザベル「何で…って、そりゃお前。あたしらの大事な弟分だからに決まってるだろ?家族を大事にしない奴なんて居るわけない。そうだろ?」


    エレン「…………ッ」


    この人達はいつもそうだ。

    こうやって独りになろうとする俺を、無理矢理手を掴んでは引っ張っていくんだ。

    そんなだから…俺はいつもの自分で居られなくなるんだ。必死に本来の自分を隠そうと鎧を着込む自分になれない…。

    この人達には、何をやっても意味を成さずにただそれがあっという間に瓦解する。


    イザベル「あたしらの前では取り繕おうとしなくていい。ずっとそうしてると疲れるだろ?」


    その日、俺は初めて…この人の前で涙を流した。


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    エレン「すいませんでした…何か情けない姿を」


    イザベル「あたしは別に構わねぇけどな!ホントに可愛い弟みたいで悪い気はしなかった!」


    エレン「恥ずかしいんで、やめてください…」


    イザベル「あっははははは!!!照れるなって!可愛いなぁ、この野郎!」


    エレン「だ、だからっ!!」


    この2人のやり取りを陰から見ていたリヴァイとファーランはどこか穏やかな表情をしていた。


    ファーラン「やっぱり、エレンは変わってなかったな」


    リヴァイ「アイツは変わってねぇよ、昔からな」


    ファーラン「っと、こんな事してる場合じゃなかった。そろそろ時間だな」


    そう、忘れているかもしれないが、あと少しで合宿訓練が始まるのだ。


    リヴァイ「遅れるなよ」


    そう言って先に行くリヴァイを尻目に、「はいはい」とやや微笑みながら医務室の中へと向かった。
  49. 49 : : 2021/12/27(月) 00:54:26
    今日もまた、エルヴィン達監修のもとに訓練が行われた。


    クリスタ「って事で、よろしくねエレン?」


    エレン「何がよろしくだ…。こっちの気も知らねぇで」


    クリスタ「周りがどうとか関係無いよ。私は殺すつもりで行くけど、エレンは手加減してね。勝てないから」


    エレン「勘弁してくれ……」


    渋々、嫌々ではあるが…訓練は訓練だ、手抜きは許されない。

    エレンは一切攻勢に出ず、ひたすら受け身に徹した。
    何故なら、普段彼女が周りからどんな評価を受けてるのかが嫌でも耳に入ってくるからである。

    女神、天使、神様etc…上げればキリがない。

    内心、「早くこの対人格闘訓練の時間が終わって欲しい」と願いながら、クリスタの攻撃を避けるか捌いていく。


    エレン「……………」


    クリスタ「やぁっ!」


    殺すつもりで行くと言っていたのは本当のようで、繰り出される攻撃の一つ一つに重みが込められていて、まともに受ければ捻挫までは行かずとも、打撲くらいはしそうな勢いがある為、受け身でいられるのも時間の問題かもしれないと悟る。


    クリスタ「むぅ……。エレン、やる気ある?」


    女神様は納得がいかないご様子であった。
    どうやら、本当の神様は居なかったらしい。


    エレン「は?」


    クリスタ「さっきからずっと受けてばっかりじゃない。こういうのはお互いに受け合うべきじゃないの?」


    エレン「…………」


    周囲(一部を除いた同期の男子)の視線が死ぬ程嫌になりそうである。

    ただでさえ、彼女と組んだ事でさえ妬ましいのに…まさか彼女を攻撃しないだろうな?

    そんな感情ダダ漏れの視線をたった今送られている。
    ハッキリ言ってもう抜け出したい、そんな心境のエレンはどうしたものかと沈黙してしまう。


    その様子を遠くから眺めていたリヴァイ一行はというと。



    リヴァイ「あの野郎…何してやがる」


    イザベル「流石にエレンでも女殴るの抵抗あるのかな?」


    ファーラン「アイツ…苦労してんだな」


    エルヴィン「相手の彼女は同期からの人気が凄まじいと聞いている。それが原因だろうな」


    と、こんな様子。

    いい加減周囲の視線にイライラしてきたエレンはある事を考えた。


    エレン「少しやりたい事あるんですけど…良いですか?」


    エルヴィン「あぁ、構わないよ」


    イザベル「お、怒ってねぇか?アイツ」


    ファーラン「イザベルには怒ってないように見えるか?」





    エレン「はぁ………鬱陶しいなぁ」


    徐ろに空を見るエレン。それに連られて彼を見ていた者達も空を見る。


    すると──。



    リヴァイ「……昔猿真似して黒焦げになった奴がここまでになってるとはな……悪くない」


    極めて小規模な雨雲が発生、直後…エレンに嫉妬の感情を視線と同時に向けていた者達全てに一筋の雷が降り注いだ。

    エレンによる雷の鉄槌である。
    それには、「こちらを気にしている暇があるなら集中しろ」という感情が込められていた。


    イザベル「え、エレンの奴…あんなにまでコントロール上手くなってるのか!?」


    衝撃の事実に動揺を隠せないイザベル。


    ファーラン「昔のエレンとは思えないな」


    微笑混じりに過去の懐かしさを浮かべるファーラン。


    リヴァイ「やるからには徹底的に…それは訓練も同じだ。集中してなかった奴らに責任がある」


    エレンの行動に肯定するリヴァイ。


    エルヴィン「まさかここまでとは…。先が楽しみだ」


    笑みを浮かべながらエレンの未来に楽しみを覚えたエルヴィン。


    周囲でプスプスと煙を焚かせて気絶している同期の事を気にせず、さも何も無かったかのようにヒストリアの元へ戻るエレンに対しヒストリアは。


    クリスタ「エレンってたまに容赦ない時あるよね…人間じゃないってこういうのを言うのかな?」


    集中していない連中に灸を据えたというのになんて事を言うんだとエレンは言いたくなった。
  50. 50 : : 2022/01/08(土) 07:07:26
    かくして、魔導演武開催へと向けて凡そ2ヶ月にも及ぶ合宿の日々は終わりを迎える。


    〜食堂〜

    アルミン「皆お疲れ様!もうすぐ魔導演武だね」


    ライナー「先輩達の指導のおかげか、俺達も強くなった。それを証明してやるんだ」


    アルミンらが談笑しているその場から少し離れた位置に、エレンは居た。



    エレン「…………」


    クリスタ「こんな所でポツンと1人?エレンもあそこに混じってきたらいいのに」


    エレン「騒がしいのは苦手なんだよ。それこそ、お前こそ向こうに行ってきたらどうだ?クリスタ」


    クリスタ「私は…いいや。エレンと居る方が自然と落ち着くの」


    エレン「そうか…」


    クリスタ「………ねぇ、魔導演武って何の意味があるのかな」


    エレン「は?」


    クリスタ「おと…国王が主催する程の催しなんでしょ?それにしたって、それをやる事に意味はあるの?」


    エレン「さぁな……王族の考えてる事なんざ知らねぇよ」


    クリスタ「……そっか」


    会話が尽きたと思われたが、唐突にエレンが語り始める。


    エレン「……親父がまだ生きてた頃、こんな催しは無かったと聞いた。だと言うのに、大規模な事をする事には必ず何か裏がある。王族や貴族ってのはいつもそうだ。本音と建前の使い方が露骨過ぎる…」


    クリスタ「本音と建前…」


    エレン「おかしいだろ。あくまでも、親父の世代では魔導演武なんてものをやらなかった王がこんな早急に考えつくか?」


    クリスタ「確かに…それなら、昔から続く伝統ある行事として通させた方がまだ理解出来る」


    エレン「そうだろ?さっきも言ったが、この魔導演武には裏の目的がある。それが何なのかは知らねぇけどな…」


    そう言ってエレンは食堂の出口へと歩いて行く。
    残されたクリスタは、この事について頭の隅に留めつつ同期達の中へと入っていくのだった。


    食堂から出たエレンは黙々と自室へと向かいながら魔導演武についての予測を立て始める。


    そうだ…。昔から続く伝統行事ならまだしも、この期に及んでこんな大層なモノをしでかすのには何か目的がある。


    奴らが恐れてんのは十中八九、予言だ。
    予言が遺されてから直ぐに俺の一族を全滅にまで追いやった程だ。だが、こうして生き残りである俺が存在しているとなれば、必ず魔族は襲撃に来る。

    一族を全滅させて意気揚々としてるはずの豚がこうして全域の魔導士を集めて、魔導演武を行う理由。

    考えたくは無かったけど、俺の存在を認識する為としか考えられねぇな。

    要は魔族が襲撃に来る前に俺を何かしらの方法で殺害、眼を奪ってそのまま奴らに献上するって流れか?

    しかし、眼を魔族に渡した所で奴らが見逃すか?
    殺されるリスクを受け入れてまでする必要があるのか?


    エレン「……分かんねぇな、何も。まぁ、つまるところ…誰かが俺の存在を上に言ったって事か。だとすると……」


    俺と一番関係が近い上にレイス家のヒストリア…
    もしくは、ガキの頃に会った事があるらしいフリーダ・レイス…


    この2人だけど…寮生活をしていると考えれば可能性は薄い。2人以外の誰かが、王政と繋がってる。そう考えた方がまだマシか…。


    エレン「兎も角、魔導演武。1秒でも油断しちまえばゲームオーバー…ったく、めんどくせぇな」
  51. 51 : : 2022/01/08(土) 07:40:18
    〜王都ミットラス 王宮〜


    「その話、真であろうな?」


    「はい。イェーガー一族の生き残りと思しき人物が魔術学園に居るとの事です。魔導演武には必ず参加するかと」


    「そうか。…忌々しいイェーガーめ…そんなにまで我々人類を危機に陥れたいのかっ!」


    「良いでは無いか。逆に好機と見るべきだ、人類の反逆者たるイェーガーを公開処刑する事で、我々王政の統治は磐石だ」


    「魔族の襲撃に合わせて、イェーガーの眼を受け渡す。そうすれば、我々人類は安泰だ」


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    それから数日、魔導演武開催に基づき街は活発に溢れている。


    エレン「魔導演武は幾つかのチームに別れて競い合い、見事勝ち残る事が出来れば莫大な資金が贈呈されるとの事だ」


    アルミン「チームに別れてって事は、エレンと競い合う事になるって事かい?」


    エレン「いや、そうじゃない。この魔術学園にも数がある。俺達がいるのは南方支部、他の3つの学園のヤツらと競い合う事になる」


    ミカサ「……つまり、状況に応じてこの中からチームを作って勝ち進んでいく。ということ?」


    エレン「そういう事だ。例えば知識を主とされたモノにはアルミンを主軸にチームを編成したり、技術を主とされたモノにはジャンを主軸に、実力や能力を主とされたモノにはミカサやアニを出す」


    アルミン「なるほど…魔導士にも各分野のエキスパートが居る。それを僕達の中から選抜して出場していけば…!」


    エレン「勝ち筋が見えてくるって訳だ」


    ライナー「お前が居てくれると心強いな」


    エレン「俺は何もしてねぇ」


    一行がやる気に満ちている様子を遠目から見ているのはキース・シャーディスだ。


    キース「エレン・イェーガー。やはり奴には強いカリスマ性がある。癖の強い者達をまとめ上げるとは」


    キース「あのような者が憎しみに囚われているというのは、実に惜しいな…」


    そしてついに………。





    魔導演武が始まった
  52. 52 : : 2022/01/20(木) 06:26:01
    魔導演武の開催に伴い、多大なる歓声が起きている中、リヴァイはひとり険しい表情をしていた。


    リヴァイ「ナイルの奴ら…随分と“何か”を警戒してるみてぇだが…」


    エルヴィン「ナイル達憲兵同様、来賓の上役も何やら落ち着きが見えないな」


    リヴァイ「チッ…。急にこんなモノ始めやがるって事は、上の豚共は余程の“目的”があるらしいな」


    ハンジ「国王が一体どんな目的でこの催しを起こしたのかは分からないけど、私達はエレン達が勝ち進んでくれる事を祈るしかないよ」


    エルヴィン「……エレン、か」


    エレンが魔導演武について推測を立てていると同じ様に、エルヴィン達もこの催しの本質を見極めようとしていた。


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    控え室


    エレン「………」


    アルミン「…? どうしたのエレン、浮かない顔だね」


    エレン「ん?あぁ、何でもねぇよ」


    そうこうしていると、控え室のスピーカーから司会の人物と思しき声が発せられる。


    『それでは、各学園から選抜された生徒達はこの会場中央へ入場してください』


    エレン「いよいよか…」


    アルミン「合宿の成果を見せる時が来たね」


    ミカサ「絶対に負けない…!」


    ライナー「先輩達直々に指導して貰ったんだ、負けるわけにはいかねぇよな」


    ベルトルト「あぁ…!頑張ろう!」


    アニ「こういう空気は苦手だけど…そうも言ってられないね」


    クリスタ「怪我をしたらすぐに言ってね!」


    エレン「さぁ、行くぞ…!」


    「「「「「うん!/おう!」」」」」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    「あれが、エレン・イェーガーか。常に奴の行動に警戒しろ、国王陛下より抹殺せよと命令が下されている。周囲の目もある、なるべく怪しまれない程度に動け!」


    「「「「「はっ!」」」」」


    ナイル「これも、人類の未来の為…人類を守る為だ。恨んでくれるなよ、恨むなら…“イェーガー”の名に産まれたことを恨め」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    ミケ「憲兵達が動き出したようだな…やはり、エレンと関係があるらしい」


    エルヴィン「そうか…」


    ハンジ「どうする?エルヴィン」


    エルヴィン「どうもしないさ。今は彼らを泳がせておけ」


    リヴァイ「……てめぇに何か考えがあるってんなら異存はねぇが、万が一エレンの身に危険が生じれば俺は出るぞ」
  53. 53 : : 2022/01/22(土) 08:17:36
    滞りなく開催された魔導演武の裏で、憲兵達の不穏な動きを垣間見るエルヴィン達は、彼らの動きに注視しつつ観戦している。

    しかしこの最中、ある所では2人の親子による談話が行われていた。


    フリーダ「お父さん…どうしてこんな事をするの?昔はそんなじゃなかったじゃない」


    ロッド「………」


    フリーダ「(エレン)をどうするつもり?」


    ロッド「予言が正しいのなら、既に魔族は復活を果たし、我々人類に報復をするべく力を蓄えている。彼の持つ“眼”を求めて」


    フリーダ「だから、エレンを事故に見立てて殺した上で奴らに渡すって言うの?」


    ロッド「これは私達人類が生き残る為に必要な事だ、理解するんだ」


    フリーダ「ソレを差し出したところで、命が助かる保証は何処にも無いんだよ?」


    ロッド「………」


    フリーダ「昔、私は彼に助けられた。彼は私の恩人なの……エレンにそんな事するのはいくらお父さんでも許さない!」


    ロッド「確かに、お前を助けてくれたのは彼だ。だが、いずれ来る人類存亡の危機を回避するには彼の命が必要なのだ」


    フリーダ「だからって私をこんな地下洞窟で拘束する意味は無いでしょ?何を考えてるの?」


    ロッド「お前にソレを話す理由は無い」


    フリーダ「っ!! 待ってよ!まだ話は終わって…!」


    フリーダの言葉を聞くことも無く、ロッドは姿を消してしまった。

    しかし、だからといって何もしないフリーダでは無い。
    彼女自身、今すべき事を考えるのだ。


    フリーダ「大丈夫…エレンにはリヴァイさんがついてる。生半可な戦力じゃエレンはやられないはず」


    フリーダ「私は私で、今出来る事をやるんだ…」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    一方、エレン達は魔導演武にて他の魔術学園の生徒達と競い合っていた。



    エレン「障害物がある中を走り抜ける…か。敏捷性に長けた上に反射神経が高い奴が出る。アルミンの判断は正しかったみたいだな」


    控え室に設置されているモニターに、次々と現れる障害物を意図も簡単に潜り抜け駆けていくミカサやアニの姿が映し出されていた。


    ジャン「アルミンの采配を疑う訳じゃねぇが、お前がここに残ってるのが腑に落ちねぇな」


    エレン「アルミンにここだって時に俺を出すって言われたんだよ」


    アルミン「どの項目もエレンが適役なのはそうなんだけど、1人だけでフル出場は無理があると思ったんだ。それなら、エレンを切り札的存在としてキープしておいた方が、相手の予想を大きく上回る事が出来るかなって」


    コニー「アルミンが何言ってるか分からねぇのは俺がバカだからじゃねぇよな?」


    ユミル「ちょっと黙っとけよ、バカ」


    ライナー「何はともあれ、ミカサとアニのワンツーフィニッシュだな」


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    ミカサ「はぁはぁはぁ…僅差だけど、私が一番」


    アニ「はぁはぁはぁ…チッ」



    「な、何なんだよアイツら…」


    「女の体力じゃねぇだろ…」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    ライナー「アイツら2人でやり合ってたのかよ…他の奴ら少し引いてるじゃねぇか」


    アルミン「あはは……」
  54. 54 : : 2022/01/28(金) 10:19:20
    「……あいつが、グリシャ・イェーガーの息子か。なぁ、ナイル師団長さんよ。アンタはホントにあのガキを始末しちまえば人間が救われるって思ってやがんのか?」


    ナイル「俺にそれを知る必要は無い。だが、このやり方に多少の不満はある」


    「……そうかい」


    ハットを被った男は静かに消える。

    先程、ナイルは「多少の」不満はあると答えたが、本当は多少どころでは無い。


    ナイル「王政は何を考えている…?あのような未来ある子供の命を奪う事に何も感じないのか?」


    ナイルは同期のエルヴィンと取り合った自身の妻と、そして子供が居るのだ。不満があるのは当然である。


    ナイル「エルヴィンがあそこまで執着するあの子供に、一体何があるというのだ…」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    時間と共に会場のボルテージは上がり、そして今、舞台はクライマックスへと向かっていた。


    エレン「………尾けて来てんのはもう分かってる。いい加減姿を現したらどうだ?」


    「あら、意外と鋭いのね」


    エレン「………」


    暫くの間、控え室から出ていたエレンに尾行していた謎の女。

    しかし、その存在は舐められたものでは無い。


    「一体誰だ…そう言いだけな顔ね?けど、これさえ見れば私が誰かなんて言わなくてもわかるでしょ?」


    エレン「………その紋様」


    妖艶な出で立ち、瑞々しい美肌、そして嫌でも目に映り込む黒い紋様。

    左太腿に刻まれた黒いソレは魔族である証であった。


    エレン「随分と速い襲撃だな…回復が待ちきれずに眼を取りに来たのか?」


    「そんなんじゃないわ。今回は、そうね…。ただの挨拶と言ったところかしら」


    エレン「挨拶?」


    「ええ。いずれ貴方の眼を貰う…そして、貴方の身体を至上の器と化し、新たな王を誕生させる」


    エレン「………」


    「私達魔族の力は絶対。必ずお前達人間を支配下に置く。それまでの間、精々死なないで頂戴ね?大事な器に何かあったら大変だもの」


    エレン「テメェらなんざに渡すかよ。俺達人間が阻止する。滅びるのはお前らの方だ…」


    「………ふふっ。よく見ると良い男ね、器にする前に…楽しむのもありかもね」


    高らかに笑いながら、魔族の女は姿を消した。


    エレン「やってみろよ…クソ野郎が」






    クリスタ「やっと見つけた、こんな所で何してるの?そろそろ出番だよ、エレン」


    エレン「…あぁ、今行く」
  55. 55 : : 2022/02/13(日) 04:36:35
    何の問題もなく進行される。

    殆どの観客や出場者がそう思っていた。


    エレン「………」


    彼、エレン・イェーガーを除いては…。


    エレン「ロッド・レイス…何故王であるアンタがここに居る…」


    ロッド「そう警戒してくれるな。私は話をしに来ただけだ」


    国王、ロッド・レイス…。彼が何故この場に居るのかは誰にも知る由もない。


    ロッド「そう、話をしに来ただけだ。話をしに、な…!」


    エレン「──ッ!?」


    突然の一撃に不意を突かれたエレンだが、殺気を感じると同時に赤眼を露わにする。
    刹那の間に姿を消すエレンは、刀を抜き、ロッド・レイス目掛けて振り翳す。

    しかし──。


    ロッド「疾いな、グリシャの息子よ」


    翳された空間に存在する透明な壁に阻まれてしまう。


    エレン「チッ!」


    ロッド「そう殺気を立てるな。言っただろう?話をしに来たと」


    エレン「不意を突いて人の眼を抉り抜こうとしてる奴の言葉を信用出来ると思うか?」


    ロッド「ふむ。流石に露骨過ぎたか…」


    エレン「これも全部計画通りってか?この意味の分からない大会を始めたのも全部これの為だってわけか」


    ロッド「聞いていた通りお前は察しが良いようだな」


    エレン「こうして公衆の面前でやる事じゃねぇよな?民を守るべき王が、こんな事していいのか?」


    ロッド「知っているか?人間とは単純な生き物だ。予言が残されればその様に行動し、他人を深く知ろうとせずに友と呼ぶ。お前の周りにもそういう者達は大勢居ただろう?」


    これはエレンを挑発する戯れ言に過ぎない。
    それに、エレンが心から友と呼べる者は指の数程度にしか存在しない。
    だからロッドの言葉に踊らされてはいけない、そう自分に言い聞かせる様に感情を抑えていく。


    エレン「確かにそうかもな。けど、知らない方が幸せな事だってあるさ」


    ロッド「…………」


    エレン「本当の自分を隠して今を生きてる奴…」



    ライナー・ベルトルト・アニ「…!」



    エレン「本当の自分を曝け出せる場所が無くて、偽りの自分を演じてる奴」



    クリスタ「………」



    エレン「俺だってそうだ。忘却の彼方へ飛ばされたこの”名前“を背負って生きてる。本当に相手の事を知りたいってんなら、本人の口から告げられるまで待ってやるのが普通じゃねぇのか?」


    ロッド「なら、もし仮にお前のその名について語った時、周りはどうする?お前はどうなる?」


    エレン「そんなもの、その時にならなきゃ分かんねぇだろ。結果は誰にも分からないんだからな」


    ロッド「そうか。知らない方が幸せな事だってあると言うのなら、今お前の後ろにいる男が…親の仇だと、言ったら…どうだ?」


    エレン「────!!!」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    リヴァイ「チッ!」


    エルヴィン「………やはりそうか。ケニー・アッカーマン、奴が彼の目的か」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    ロッド「さぁどうする…?親の仇は目の前に居るぞ、果たして正気を保っていられるか?」


    エレン「お前が…父さんを、母さんを…絶対に─」


    「ケェニィィィィィィッ!!!」


    ケニー「お?」


    リヴァイ「エレンよ、テメェの考えてる事は分かっちゃいるが…コイツには聞きてぇ事が山程ある。それまでコイツの相手をさせるわけにはいかねぇ」


    エレン「リヴァイ…さん」


    ケニー「よぉ、リヴァイ。大きくなったかと思ったが、あんまり変わってねぇなぁ?」


    リヴァイ「………」


    ケニー「今おめぇに構ってる時間はねぇんだが…いい加減こっちも退屈してた所だ。仕方ねぇ、遊んでやるよ」


    ケニーの言葉を皮切りに、ケニーとリヴァイはその場からとてつもない速さで飛んで離れていった。


    親の仇を前にして、傷を負わせる事も出来ずに居たエレンは、何故だか急に頭が冷える様な感覚を覚えた。
  56. 56 : : 2022/06/06(月) 22:11:39
    ロッド「……?」


    その様子にロッドは疑問を隠しきれなかった。


    ロッド「何故、お前は冷静に居られる?親の仇が手の届く範囲に居るのだぞ?」


    エレン「1つ、聞いていいか?」


    ロッド「…………」


    エレン「こんな壮大な催しを考えた理由は何だ?」


    ロッド「何……?」


    エレン「親父らが生きてた頃は、こんなモノは無かったと聞く。それなのに、この短期間でこの催しを考えたその理由は何だ?」


    冷静に、淡々とした雰囲気でロッドにそう問掛ける。


    エレン「今この場で静寂と化している観客達に、俺ら一族の事を知らしめる為?いや、違う」


    先程と様子が明らかに変わっている事にロッドは一筋の汗を流す。

    そんなロッドをお構い無しにと、自身の推測を語る。


    エレン「来たる災厄の為に魔導士の練度を上げる為?それも違う」


    エレン「ちゃんと考えれば単純なもんさ。やけに神経を尖らせてる憲兵達、見慣れない格好の魔導士から感じる明確な殺意、そして……」


    ロッド「………っ?!」


    エレン「さっきあんたがして見せた行動」


    刀の切っ先をロッドに向け、更に一族の証たる赤眼を見せるエレン。

    その表情は余裕で、そして微かに殺意を持っていた。


    エレン「全部、俺のこの“眼”が目的。違うか?違うわけないよな?さっきのあんたは確実に眼を狙った。その行動に嘘はつけない筈だ」


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    エルヴィン「なるほど…。確かにそう考えれば、納得はいく」


    ハンジ「けど、どうしてこの会場で…?」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    エレン「レイス家を含めた上級貴族はこう考えた。遺された予言が現実になるのなら、必ず“奴ら”は赤眼を求めてこの国を襲撃する。だが、国を守らなければならない。そこで満場一致として出された答えとは…」


    ロッド「……………」


    エレン「多くの国民が集まるこの会場で、イェーガー最後の生き残りであるこの俺を始末し、あわよくば赤眼を奴らに受け渡す。そうすれば国は何の被害を出すことも無く守る事が出来る、そう考えたんじゃねぇのか?」


    その直後、会場一帯がざわつき始めた。



    「奴らって誰だよ?」


    「あの子供を始末?どうしてそんな事を?」


    「赤眼とか奴らってのと関係があるのか?」


    「どうして国王様はそんな事を?」


    数々の疑問が辺りを飛び交うが、答えてくれる者は存在しない。ただ国民に不安を与えるだけのモノになってしまった。


    エレン「たかが1人の命の為に、周りを犠牲に国を守る事よりも…その1人の命を奴らへの供物として捧げる事で国を守れると判断した貴族たち」


    エレン「そんな予言に誰よりも恐れを生し、死力を尽くして国を守る事も出来ねぇ王の為に、斬られるのは耐えられねぇ…。あんたに目的があってこれを起こした様に、俺にも目的があってこれに参加したんだ」


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    エルヴィン「───!!!そうか、彼の本当の目的は!」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    エレン「イェーガーという一族の名を護る為に、俺はあんたら国の上層部にクーデターを仕掛ける。新たな王を築き、真っ当な人間達の導きの下でこの国を根本から変えてやる」


    ロッド「な、なん…だとっ?!」


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    ハンジ「ちょ!?どういう事なの!?エレンがクーデターを仕掛けるって!?」


    エルヴィン「私にも分からない。だが、彼は私以上の博打をするつもりだ」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    ロッド「そ、そんな事が許されると思ってるのか!?それに、貴様一人で成し遂げられると思っているのか?!」


    エレン「誰が一人でやるって言ったよ?」


    「私の知らない所で、そんな事を企んでいたのは驚愕しますが、マスターが決めたのなら…私はそれに従うまでです」


    ロッド「!!き、貴様は…!」


    吹雪「覚えておられたようで何よりです、ロッド・レイス」


    エレン「俺には吹雪が居る。それに、あんたが消そうとしてる奴の名が何なのか、覚えてねぇとは言わせねぇぞ?」


    ロッド「その眼…ただの赤眼では無い、と言うのか…?」


    エレン「あくまで書物に記されてたから本当の名前までは知らねぇけど、3つの巴模様から形が変わったこの赤眼を“万華鏡写輪眼”って言うらしい」


    ロッド「あくまで、貴様一人の力で国に反旗を翻すと言うのか!?」


    エレン「何か知らねぇけどよ、お前らみたいなのに負ける未来が見えねぇんだ」


    誰もが沈黙してるこの殺伐とした空気の中で、1人だけ口を開いた者が居た。


    「君は何を考えているんだッ!!」
  57. 57 : : 2022/06/06(月) 23:11:36
    エレン「……?」


    クリスタ「アルミン…?」


    アルミン「何を馬鹿な事を考えているんだ!?クーデターを起こす?第一、新しい王様を築き上げるってそんなの誰が務まるって言うんだよ!?」


    エレン「………」


    アルミン「確かに、僕は君の友達だと思っているけど、君の事はほとんど何も知らない。でも、友達が間違っている事をしようとしてたら僕はそれを止める!」


    エレン「……お前のそれは感情論だ。それに、お前にその権利は無い」


    アルミン「それがどうしたって言うんだ!!確かに僕は自分の意思が弱い、それが理由でミカサに助けられてばかりだった」


    ミカサ「……」


    アルミン「だとしても、君を止めるという事だけは僕の意思だ!君をそれを否定される言われはないよ!」


    エレン「………」


    アルミン「それに…そんな事をして、君の家族が喜ぶと思ってるのかい!?」


    エレン「…………」


    吹雪「──!!」


    エレン「……何も知らねぇ癖にズケズケと」


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    ハンジ「エレンの魔力が急に跳ね上がった!」


    エルヴィン「君達は、大丈夫なのか?」


    ファーラン「俺達はアイツの魔力の重さは何回か経験してる。けど、昔よりも増してる」


    イザベル「今のアイツ、魔力の重さとか濃さとかそういうので言えば、はっきり言って兄貴以上だ」


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    ミカサ「ッ、この…魔力!」


    クリスタ「前よりも増してる…」


    アルミン「どうしたエレン!何も言い返せないのか!?何か言ってみろよ!!」


    エレン「お前に何が分かる。何も分からねぇだろうな…同胞は皆一晩にして皆殺しにされ、両親を憧れた魔導士に殺された。お前なんかに俺のこの痛みが理解できるってのか!?」


    エレン「両親から学べる事は可能な限り全て学んだ。それも全部親父みたいな魔導士になりたいと願って、でもある日その魔導士に両親が殺された!!あの時の絶望がお前に分かんのかよッ!?」


    アルミン「…………」


    エレン「最初は親父達の仇を打てればそれで良かった。それさえ出来れば他に求めるものは何も無かった。けどそこで思ったんだよ…。同胞や家族を奪っておいて何食わぬ顔で、まるで何事も無かったかのように生きてる国の上層部が居るから俺達は殺された」


    エレン「この学校に入るまでの旅の合間に、俺は幾度と無くこの国の闇を見てきた。人の尊厳を弄んで人身商売をする屑、少し反発されただけで人の命を弄ぶゴミ、そんな奴らを俺はこの手で斬り捨てて来た」


    エレン「だから俺は考えた。今のゴミの塊みたいな貴族や、それを黙認する国王を粛清する。そして新たに王を築き上げ、この国の汚れを消してやる」


    初めて本人の感情を垣間見た瞬間だった。それは、付き合いの長いヒストリアや吹雪でも、彼がこれほどに感情を顕にした姿を見るのが初めてという程。


    エレン「俺を止めるってんなら好きにすればいい。尤も、お前にその覚悟と殺意があればの話だがな」


    そして、エレンと吹雪は億を超える桜の花びらと共に姿を消した。
  58. 58 : : 2022/06/07(火) 00:20:02
    突如として起きたエレンの反乱、その中で残された“予言”や“奴ら”という国民の不安を煽る言葉が飛び交う中で、この魔導演武は幕を閉じた。


    ???の墓標


    エレン「………もし、今も生きてたら父さんは俺を叱ってるんだろうか。母さんは、なんて言うんだろうな」


    吹雪「…………」


    エレン「俺は、間違ってんのかな?」


    吹雪「………」


    エレン「俺は、何の罪もないただ平和の中で暮らす人達があんなゴミクズ共に弄ばれてる事に我慢が出来ねぇんだよ…」


    吹雪「以前、マスターが道を違えようとした時、私はそれを止めると言いましたが…私はあくまであなたの従者。最後までマスターの味方です、普通に考えればクーデターなどありえません。でも、マスターが決めたのなら、私はそれに従うまでです」


    エレン「そっか……苦労をかける」


    吹雪「気にしないで下さい」


    マスターは優しい人。父上や母上が喜ぶなんて事は無い。そんなの分かりきっている。

    だとしても、マスターは血で全身を塗らす事を選んだ。

    その決断は決して軽んじていいモノなどでは無い。それ相応の覚悟、そして切っ掛けがこの決断に至るに十分過ぎたのです。


    今のマスターに必要なのは、理解や友情などではなく…ただ、何も言わずに傍に居てあげる事。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    後日


    ハンジ「どうするの、エルヴィン?彼、あれから消息不明だけど」


    エルヴィン「本来であれば、彼を止めるべきであるんだろうがな……。あれだけの覚悟と力を見せられてしまってはな…」


    リヴァイ「事の詳細はイザベル達から聞いた。どうもアイツはエルヴィン、お前より1枚上手みてぇだな」


    エルヴィン「そうだな。まさか王政にクーデターを考え付くとは…。やはり、人の信頼は簡単に得られるものじゃないな」


    リヴァイ「これはアイツ自身のケジメもある。俺達部外者が立ち会っていいモノじゃねぇ気がするが」


    エルヴィン「それについては私も同じだが、王政にはあのケニー・アッカーマンが居る。クーデターも容易くはいかないだろう」


    リヴァイ「………それで?」


    ハンジ「ま、まさかだけど…エルヴィン、もしかして」


    エルヴィン「あぁ、そのまさかだ。皆、今の王政に不満が無かった訳では無いだろう?何とかして彼と連絡を取って手を組む」


    リヴァイ「分かった、お前の判断を信じよう」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    それから数日後、未だエレンの消息は不明。

    エレンとアルミン達同期との亀裂は生じたまま、日々を過ごす事になった。

    ただ一人を除いては……。


    クリスタ「………予定空けとくって言ってたのに…」


    「最近の貴方は彼について考える時間が増えたわね」


    クリスタ「……ウンディーネ。うん、そうかもしれない」


    ウンディーネ「彼の力は歴代イェーガー一族最強、そんな男相手に貴方の仲間は止めようとしてるって…呆れを通り越して拍手が出るわ。何をしたって彼は止められないわよ」


    クリスタ「そうだね、エレンは強い。止めようものならいくら知りあった仲でも殺しに来る」


    ウンディーネ「やけに肯定的ね。良い子のクリスタはどこに行ったのかしら」


    クリスタ「良い子のクリスタは私が現実逃避の為に作り出した幻想、初めから存在しないよ。私はヒストリア・レイス。同期の中でも唯一エレンと深い繋がりがある女だよ」


    ウンディーネ「ふふっ、あはははっ!やっぱりヒストリア、貴女は私の主ね。それでこそ、私が認めた人間よ」


    ヒストリア「最初から私はエレンの味方、私達レイス家がした事は彼にとって許されざるものだけど、あくまでそれはお父さんがやった事、私は何もしてない。お姉ちゃんも、何もしてない」


    ウンディーネ「久々に話せて楽しかったわ。次は彼がいる所で本人と会話させてちょうだいね?」


    ヒストリア「うん、頑張ってみるよ」


    自身が契約を結んだ水元素の妖精、ウンディーネと会話をした後、ヒストリアは再びクリスタという殻を被った。


    クリスタ「そう。誰もエレンを止める事は出来ない…たとえ、私でも…それがお姉ちゃんであっても…」
  59. 59 : : 2022/06/11(土) 04:38:23
    翌日。

    ー?????ー


    吹雪「マスター、調子は如何ですか?」


    エレン「大分馴染んで来た。慣れるのには少し時間は掛かりそうだけどな」


    吹雪「そうですか…」


    エレン「そんな顔するなよ。確かに1人で決めた事だ、相談の1つや2つすれば良かったんだろうが…こうするしか無かった」


    吹雪「いえ、そうじゃなくて……」


    エレン「お前、あの時の事…気にしてるのか?」


    吹雪「…………はい」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    それは何年か前の出来事


    私達2人がまだ旅という名の放浪を続けていた時の事

    幾度と無く、国の闇を見続けていた時期。

    当時は宿に泊まれる程の金銭は無く、辛うじて一日一食は出来ていたであろう時期だった。


    黒いローブを身に着けていたのもあったせいか、不気味だと近付かれる事は無かったのだが……。

    そんな私達に、13~4才くらいの少女が声を掛ける。


    エレン「…?」


    女の子「あの…大丈夫、ですか?」


    エレン「あまり俺らに近付かない方がいいぞ」


    女の子「でも、お兄さん…すごく辛そう」


    周囲の人間が近付こうともしなかったのに、声を掛ける人が居るとは思わなかった。

    そんな女の子は心配そうな表情をして、食べ物をマスターに手渡した。


    女の子「その…これ、どうぞ」


    彼女はその後直ぐにどこかへ走り去ってしまった。疑問を浮かべる私達は顔を見合った。


    エレン「……食うか?」


    吹雪「い、いえ。私は元々食事は必要無いので大丈夫ですので、マスターが食べて下さい。ここの所、満足な食事もしてませんからね」


    エレン「そうか…じゃあ…」


    それから、来る日も来る日もあの女の子は私達も前に現れて食べ物を与えては何処かへ行ってしまう。


    女の子「あ、あの!ずっと、ここに居るんですか?」


    エレン「まぁ、宿に泊まれる程金無いしな。そのうち此処を離れるさ」


    女の子「じ、じゃあ…私の家!」


    エレン「は…?」


    女の子「私の家に、来ませんか?お父さんもお母さんも、きっと歓迎してくれると思います!」


    純粋無垢な子供の善意は無駄には出来ない上に、前から彼女の両親には感謝をしたかった。というのもあり、私達は彼女の家へ案内される事になった。


    エレン「…いいのか?こんな得体の知れない奴、家に上げて」


    「構いませんよ。この子からも聞いてましたが、悪い人には見えないので」


    「ささっ、どうぞ中へ」


    吹雪「ありがとう、ございます」


    私達は、彼女の両親に手厚くもてなされ、食事や湯浴み、更には寝床まで用意してくれた。


    吹雪「娘さん、良い子なんですね。見ず知らずの私達に食べ物分けてくれるなんて…何から感謝すれば」


    「そんな、気にしないで下さい。貴女方と接するようになってから、あの子も明るくなって来たんですよ。以前は表情も暗かったのに…あんなに笑うようになったんです。私達の方こそ、感謝したいくらいです」



    エレン「お、おい!そんなに引っ張るなって!」


    女の子「お兄さんも!早く早く!えへへっ!」



    吹雪「可愛らしい娘さんですね」


    天真爛漫な女の子に振り回されるマスター
    その光景は、元気活発な妹に手を焼く兄の様だった

    今思えば、あの子はマスターの事を好いていたんだと思う。だからこそ、私は同じ女の子として彼女を守ってあげたかった。でも、出来なかった…。
  60. 60 : : 2022/06/21(火) 01:26:05
    エレン「お前が気に病む必要はねぇよ。あれは、元々俺が関わったのが間違ってたんだからな…」


    吹雪「そんなこと…!」


    マスターはこうして慰めの言葉をかけてくれますが、やっぱりどうしても…自責の念があるのです。


    エレン「忘れるな。俺たちは無実の民が平和に暮らせるように、国の“病”を払う必要がある。これはその為の第一歩、それを成すには吹雪、お前の力が必要だ」


    吹雪「マスター…」


    そうだ…そうだった。あの子は、マスターに恋した彼女は…この国の病に犯されてしまった未来ある子供。

    二度と、このような事があってはならない。
    だからこそ、マスターは国に謀反を起こそうとしているのだ。


    エレン「とはいえ…俺は眼を移植したばかりだ、暫くの間は大人しくしてなきゃならねぇ。結界は張ってるつもりだが、万が一の可能性がある。その時は…」


    吹雪「はい…!」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    同時刻。

    アルミン達104期生は、突然クーデターという大罪を犯すと言ったあの日以来、場の雰囲気は暗いままだった。


    ミカサ「アルミン、本気なの?」


    アルミン「確かに僕じゃ勝てないかもしれない。けど、国を裏切るなんて僕は許せない…!」


    アニ「勝てない喧嘩を買うのは、勇気じゃなくて無謀って言うんだよ。それが分かってて言ってるの?」


    アルミン「わかってるよ。でもエレンは…本当は優しい人だと思うんだ。僕らが思ってる以上に…」


    クリスタ「でも、エレン相手にどう戦うの?」


    アルミン「それは……」


    あれ程までに強いエレン相手に戦う。正直に言ってしまえば、勝負にもならないだろう。

    心·技·体、そのどれもが同期の誰よりもずば抜けている。そんな彼を相手に戦うのはあまりにも無策だ。


    アルミン「きっと、皆の力を借りる事になる…と思う」


    ジャン「へっ!いけ好かねぇアイツをぶちのめせるんなら、俺はそれでも構わねぇぞ」


    アルミン「えっ?」


    ジャン「何より、アイツには俺達に説明する義務がある。そうだろ」


    ジャンの言葉を皮切りに、殆どの同期がアルミンに賛同する事になったのだが……。


    クリスタ「確かに、皆の力を合わせれば“戦う”事は可能かもしれないけど……。それだけでエレンを止められるの?」


    そうだ。彼女の指摘通り、質の高い相手に対して量で立ち向かう。それも一つの戦術だ、エレンを相手に“戦う”事は出来る。

    だが、肝心なのはそこでは無い。
    彼と付き合いの長いクリスタ、いやヒストリアは分かるのだ。

    彼の心は鎖されている。最早言葉ではどうにもならないと…。


    アルミン「クリスタ…?」


    クリスタ「…あっ、ご…ごめんなさい。今のは忘れて?」


    ライナー「まぁ、同期が争うんだ。クリスタにも思う事があったんだろうさ」


    アルミン「そう、だね…」


    意味深な言葉を残して、その場を去る彼女の背中を見つつ、彼らはクーデターの阻止をする為に一つ前に進んだのだ。
  61. 61 : : 2022/07/02(土) 00:17:11
    クリスタ「………こんな所で何してるの?阻止される前に潰しに来たの?」


    エレン「今の俺にそんな事は不可能だよ」


    目元に巻かれた白い帯は彼の視界を暗く染めている。
    確かにそんな状況では…と、ヒストリアも納得したようだ。


    ヒストリア「だから、吹雪ちゃんも居るんだね」


    エレン「周囲の警戒してるだけだけどな」


    エレン「それはそうと、そっちは随分と躍起になってるらしいな」


    ヒストリア「そうだね。皆はエレンからの説明が欲しいみたいだよ、あなたにはその義務があるって」


    エレン「説明…?“国の病”を認知出来ない輩共に説明は不要だろ」


    崖の先端に座っている彼は、雰囲気が以前とまるで違っていた事には驚きはしなかったヒストリアだが、同時に疑問を抱く事になった。


    ヒストリア「この“国の病”?」


    エレン「このいつ終わるともしれねぇ平和の中を、死にたくないと思い生きてる国民…それらは根本から取り除くべき『悪意』、ようは国の病に侵されている」


    エレン「愛する人の為に今を生きる者、俺たち魔導士を目指して日々研鑽を重ねる子供、死した者の為にこれから未来(さき)を生きようとする者。全て等しく、見えない病に蝕まれている」


    ヒストリア「もしかして、それらの根源が…王族を含めた貴族だって言うの?」


    エレン「…………」


    ヒストリア「そう、なんだ……」


    沈黙を肯定と受け取るヒストリアは悟った。

    「もう、この男を止める術は皆無に等しい」と。

    あるとするならば、力でねじ伏せるしか無い。
    しかし、それが出来るのも人類最強と名高いリヴァイのような者しか当てはまらないのだ、並大抵の力が通用しない。


    エレン「俺はこの眼で、病に犯された奴を見た事がある。普通の人間じゃ口も聞かない、近寄らない。それなのに、あいつは俺に声を掛けてきた」


    ヒストリア「………あいつ?」


    エレン「こっちの話だ。……確かに、親父たちが喜ぶわけが無い。そんな事は分かってるさ…誰よりも」


    吹雪「マスター、身体が冷えます。そろそろ戻りましょう」


    エレン「けど、親父ならきっとこう言うさ。“自分が信じる道を進め。例えそれが、修羅の道になろうとも…その先に、お前が探した答えが待っている”」


    そうして、辺りから桜の花が舞い上がり、彼ら2人を包み込むと…やがて2人は桜と共に消えて行く。


    ヒストリア「………信じる道の先に、探した答えが待っている…か」


    彼女は再び殻篭り、忘れていた湯浴みをするべくこの場を後にした。
  62. 62 : : 2022/07/17(日) 22:01:30
    それから凡そ半月後、比較的大きめの洞窟を隠れ家として身を置くエレンの元に、一人の少女が訪れた。


    「し、師匠ッ…!ただいま戻りましたッ!ハァッハァッ!」


    エレン「随分と慌てた様子だな。“エリナ”」


    少女の名はエリナ。歳は本人曰く、13。
    彼女は以前、自身の不注意で大人の男にぶつかってしまった際、抵抗虚しく人気の少ない廃屋に拉致され、危うく身体を弄ばれそうになった時にエレンに助けられた。

    容赦無く男を斬り伏せたエレンを前に恐れずに、感謝を述べ、最終的には弟子にしてくれと若さ故の勢いと純粋な眼差しをぶつけられてしまい、珍しく折れたエレンを師事するようになった。


    吹雪「まずは落ち着きましょう。はい、ゆっくり飲んでね」


    エリナ「ありがとうございます!んぐっんぐっ……ふぅ〜!」


    エレン「良い飲みっぷりだこと…ただの水だけどな。それで?」


    エリナ「あぁ、そうでした!学園の魔導士、恐らく師匠が言ってた人達だと思います。彼らが予想よりも遥かに早く動きを見せています」


    吹雪「………!」


    エレン「へぇ…?」


    エリナ「それから、その動きを察知していたのか王都も厳重に警備されてて、上流貴族の連中も強い警戒を見せています」


    吹雪「単純にこちらの動きが読まれている…わけでは無いようですが」


    エレン「だろうな。俺たちは目立った動きは見せてない。だから、いつ俺が動き出すのか…予想は難しいはずだ」


    エリナ「あ、あの…これは小耳に挟んだ事なので、事実かどうかは分からないですけど…破劫の皇女が王都ミットラスの地下深くの牢に囚われてるって誰かが言ってましたけど、それと関係があるんでしょうか?」


    エレン「………フリーダ・レイスが牢に…ね」


    吹雪「マスター、もしかすると…」


    エレン「アイツが殻を破ったのか…或いは」


    エリナ「ど、どうしましょう…」


    エレン「まぁ、混乱に乗じて貴族共を粛清出来ると考えれば好機そのものなんだがな…」


    吹雪「マスター、如何なさいますか」


    エレン「移植した眼も馴染んだ上に異常も無い、学園の連中が王家の注意を引いてくれてるんなら…都合は良い」


    吹雪「では……?」


    エレン「あぁ、準備しろ。国の病を打ち払う時だ」


    吹雪・エリナ「はいっ!!」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    数時間後。


    エレン「………予想以上に数が少ないな。学園の実力者は殆ど居るようだが…」


    吹雪「ですが…何処か、様子が」


    エレン「王都に向かうってんなら、もう少し人手が必要な筈だが…何が起こってる?」


    王都に向かっていると思われる魔導士の一団は、予想よりも人の数が少ないという事に疑問を抱くエレン。

    そんな彼らの耳に、聞き慣れない爆音が入った。


    エレン「──ッ!?」


    吹雪「い、今の音は…!?」


    その瞬間、あらゆる場所から伏兵らしき者達が飛び上がっていた。


    エレン「“桜吹雪”ッ!」


    吹雪「……!」


    その名を呼ばれ、彼女は赤みがかった刀身の剣となって彼の手にその鞘は握られた。


    そして──。


    エレン「ッ!!」


    振り返りざまに鞘から刀を引き抜き、その慣性のままに背後からくる攻撃を弾いた。


    「黒い服装、紅い刀……奴が報告にあったエレン・イェーガーだ!これは上からの命令である!奴を打ち倒せ!」


    エレン「チッ!この状況すら読んでたってわけか…!」


    即座に建物の屋根伝いに駆け抜けるエレンを、集団は追撃を開始する。


    「追え!奴を逃がすな!」


    エレン「何が起きてやがるんだ…!」


    混乱に乗じて貴族らの粛清を行うはずが、自らが混乱に陥ってしまった事に驚きを隠せないエレンは追撃に応戦する事となる。
  63. 63 : : 2022/07/17(日) 22:41:10
    遡ること数分前。


    リヴァイ「……二ファ、どうだ?」


    二ファ「兵長…特に異常はありません。それにしても、彼女を引き渡してしまって、大丈夫なのでしょうか?」


    リヴァイ「これはあのガキが決めた事だ。俺らに止める権利は無い」


    数日前、急遽王都よりクリスタ・レンズ改め、ヒストリア・レイスの引き渡しを通達されたリヴァイらはヒストリア本人の意思もあってか、それに応じた。

    しかし、リヴァイは疑問を抱かずにはいられなかった。
    それは、ヒストリアが名を偽っていた事ではなく…今この状況についてだった。


    リヴァイ「…………」


    ──妙だな…。中央憲兵の使う手じゃない、俺の知る“アイツ”は素人は使わない…。

    どっかで、こう……俺達のような。


    そこでリヴァイは二ファにある話を持ち掛ける。


    リヴァイ「二ファ、“切り裂きケニー”を知ってるか?」


    二ファ「え?はい。何年か前に、憲兵が100人以上首を切り裂かれたという都市伝説ですよね」


    リヴァイ「……ソイツは居る、全て本当の事だ」


    二ファ「え……?」


    リヴァイ「ガキの頃、奴と暮らした時期がある」


    二ファ「ど、どうしたんですか兵長?冗談ですよね?そんな事言うなんて、らしくないですよ?」


    リヴァイ「………」


    ──目標を集団で尾ける時は……両斜め後方と



    「………………」


    ………見晴らしの良い高台。



    リヴァイ「──!二ファッ!!」


    時すでに遅し…声を張り上げた時には、既に彼女は命を絶たれた後だった。


    「今のをよく避けたなぁ、リヴァイ。いや、避けたって言うよりはチビだったから当たらなかったか?」


    リヴァイ「ケニー…!!!」


    ケニー「爆ぜろッ!」


    散弾のように飛び散った空気砲に対しリヴァイは外套を盾にするが…いとも容易く貫通し、その余波で屋根の一部が大破した。

    その一瞬の隙に、リヴァイは怒りとも、悲しみとも取れるような表情で、屋根の上で横たわる彼女を見遣り、一粒の雫を零し、雷の速さでケニーより逃亡を図った。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



    「クソっ!逃げ足の速いヤツめ!」


    「“立体機動”を用いる俺達よりも、速いってどういう事だよ!?」




    エレン「“立体機動”…コイツら、中央憲兵か…!」


    立体機動…立体機動装置とも呼ばれるこの装備は、惜しくも魔導士の素質を得られなかった者達が国を守る為に開発されたという装備。

    腰の部分に装着された装置からアンカーを射出し、建物の壁や木にそれが突き刺さり、ワイヤーを巻き取ると同じくしてガスを吹かしながら空中を飛ぶという、使用できる場所が限定されるのが欠点ではあるが、森林や建物が並ぶ住宅街などでは、その性能を十二分に発揮し、正しく立体機動という三次元の動きを可能にするのが立体機動装置だ。


    誰でも装備出来るという訳ではなく、立体機動に特化訓練を受ける事でしかその着用を認められていない。

    今ではその着用者の殆どが中央憲兵に属している。


    エレン「なんだってコイツらが…」


    飛んでくる魔術を斬る事で破壊し、接近を仕掛けてくる憲兵を斬り伏せながらも、何故彼らがこんな場所にいるのかと思考を巡らせる。


    エレン「……チッ!考えても無駄か…まずはコイツらをどうにかするしか」


    今ではこうして雷のような速さで距離を取れてはいるが、それが維持出来なくなってしまえばそれ以上逃げる事は出来ない。向こうのガス欠が先か、こちらの魔力が尽きるのが先か…。


    エレン「やろうと思えば全員まとめて蹴散らす事は出来るが…敢えて目立てば動きを抑制されちまう。めんどくせェな…!」
  64. 64 : : 2022/07/23(土) 23:38:00
    〜王都ミットラス 地下牢〜


    ロッド「そろそろ、彼はケニーの部下に襲われている頃合いか」


    フリーダ「……どうしてそんなことをするの。彼は何もしてないじゃない…!」


    ロッド「確かに…彼、エレン・イェーガーは何もしていない。だが、彼が行う事について抵抗もせずには居られないだろう?」


    フリーダ「何を、言ってるの?」


    ロッド「彼は私たち王政に対し、クーデターをすると私の目の前で豪語した。この意味が、お前に分かるか?」


    フリーダ「!?」


    ロッド「お前をここに置いているのは、お前を守る為だ。そして、ヒストリアも同様だ。お前達がレイスの名を持つ限り、彼に狙われない確証など…無いと言い切れるはずがないだろう?」


    フリーダ「なんで……どうして、クーデターなんか」


    ロッド「兎も角だ。彼のクーデターを止める、あわよくば奴を殺す。彼に関する記憶など、お前の力でどうとでもなる。これはレイス家存続と共に、魔族に対抗するための手段の1つだ。事が終わるまで、まだ暫くはそこにいるんだ。分かったな?」


    フリーダ「……………」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    ケニーを含めた少数の部下達から逃亡を行っていたリヴァイは逃げ込んた先の酒場にあるカウンターにて身を潜めていた。

    しかしそこに、ケニーが追い詰めたと言わんばかりに足を踏み入れた。


    ケニー「こっから薄汚ぇ鼠の匂いがするな…どチビの鼠のよ。そろそろ追い駆けっこは終わりにしようや」


    リヴァイ「憲兵を殺しまくったアンタが…憲兵やってる理由が考え付かねぇな」


    ケニー「ガキにゃ大人の事情なんざ分かんねぇもんさ…おっとすまねぇ。おめェはチビなだけで歳はそれなりに取ってたな。あの時も言ったが、お前の活躍を楽しみにしてたんだ。俺の教えた処世術が、こんな形で役に立とうなんて思って無かったからな」


    ケニー「袋のネズミって言葉を俺は教えなかったか?これじゃあどっから逃げようと、上からドカンだぜ?」


    ケニーは近くにあった脆そうな木製の椅子をリヴァイを狙うようにカウンターヘと投げ付けた。

    その衝撃で棚に並べられていた酒の入ったガラス製のボトルがいくつも音を立てて散乱した。


    ケニー「なぁリヴァイ。どうしてお前が魔導士になったのか…俺には分かる気がするよ」


    俺らは地下街(ゴミ溜め)の中で生きるしか無かった、その日を生きるのに精一杯でよ。

    世界はどうやら広いらしいと知った日にゃ、それは深く傷付いたもんだ。

    ──だが救いはあった。


    ケニー「やりたい事が見つかったんだ、単純だろ?単純だが実際、人生を豊かにしてくれるのは…“趣味”だな」


    リヴァイ「趣味か…。俺の部下の頭をぶっ飛ばしたのも、エレンの親を殺したのも…アンタの趣味か?」


    ケニー「あぁ、大いなる目的の為なら殺しまくりだ。てめぇだって、自分の為に殺すだろ?」


    リヴァイ「あぁ……」


    直後、リヴァイは棚のボトルを映し鏡として、店の出入り口に立つケニーに発砲した。


    ケニー「──!!」


    椅子を盾にした衝撃でケニーは後方へ吹っ飛んだ矢先、仰向けに倒れた。


    リヴァイ「助かったよ、爺さん」


    カウンターに乗り上がるリヴァイは店主に護身用の銃を投げ渡し、再度この場から抜け出す為に動いた。


    倒れたケニーの元に、立体機動装置を身に付けた1人の女が歩み寄って来た。


    「隊長、やっと死んだんですか」


    ケニー「ンなわけねぇだろ。死人がどうやって喋るってんだ……いっててて、やられたぜ。そういや酒場なんかは、護身用に銃の所持を認められてたな。あのチビなりに成長してたらしい」


    「……良かったですね」


    ケニー「いい訳ねぇだろ…俺の夢が遠のいちまうだろうが…!」
  65. 65 : : 2022/07/24(日) 00:49:21
    ケニー率いる中央憲兵を相手に応戦をするリヴァイとは別に、彼もまた…中央憲兵を相手に逃げながらも応戦を強いられていた。


    「大人しく投降しろ!」


    エレン「命が惜しいからって、はいそうですかって言うわけねぇだろ…!!」


    次々と波状のように迫り来る魔術による攻撃と、立体機動装置に付属している小型の散弾銃、それらを躱しながらも刀を振るエレン。


    エレン「しつけぇっ!!」


    押し寄せる波状攻撃を範囲の広い黒炎を放つ事で相殺し、その隙に素早い動きで撹乱した後、刹那の間に斬り伏せる。


    エレン「お前らに構ってる暇はねぇ!」


    いくら対人に慣れている中央憲兵でも、天賦の才を持つ者には及ばずといったところか。

    魔導士相手では勝てないと戦意を喪失する者や、体力が尽き動けなくなる者、そして…命を落としていく者。

    様々な者が中央憲兵には居た。


    エレン「……死にたくなけりゃ戦場に来るんじゃねぇよ。“死ぬ”ってのは、お前らが大事にしてる家族や友人を遺してこの世から居なくなる。そういう事だ」


    エレン「この国の住民だってそうだ。戦う力が無いからこそ、今を必死に生きている。そういう無力な人間を悪意ある力から守るのがお前ら憲兵の仕事じゃないのか…?」


    「確かに貴様の言う通りなのかもしれない。だが、私たちは誓ったのだ!国王に、この国に…人々を守る為にこの身を捧げると!」


    その言葉に憲兵たちは再び立ち上がる。声を上げ、奮いあがり、その瞳には闘志の炎が揺らめいていた。


    エレン「…………」


    彼らの表情を見るエレンの表情は暗くなり、深く呼吸をすると、刀を鞘に納め、居合いの構えを取る。

    彼の表情は暗いままだが、髪によって見え隠れする瞳は赤く染まっており、確実に眼前の敵を見据えていた。


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    エレン「彼我の戦力差も測れない程バカじゃ無いだろ…アンタらは」


    赤く滴る液体は刀の切っ先から地に落ちていく。


    エレン「けど、アンタらの勇姿は…確かにこの眼で見届けた。あとはゆっくり休んでくれ」


    血を振り払い、カチンと刀が鞘に納められると…振り返る事も無く、目的の為に歩き出す。


    全てはこの国が為、無力な民を蝕む“病”を打ち払わんが為。


    エレン「必ず成し遂げる…もう二度と、“アイツ”が震え泣く姿は見たくない」


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    ???「私を、助けて下さい…!」

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    エレン「あぁ……分かってるよ」


    少年は進む。国の民を蝕む病を払う為に…
    そして──。


    あの時…身体を震えさせ、涙を流しながら助けを求めて手を伸ばしたあの日の少女を今度こそ、救い出す為に…。

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著者情報
utiha_sasuke

セシル

@utiha_sasuke

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黒衣の剣士と黒髪の女魔導士 シリーズ

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