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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

鏡に映るモノを好きになれなければ愛は遠のく

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  1. 1 : : 2020/05/31(日) 03:49:56
    舞園主人公のssをゆっくり更新していきます。


    「さやかちゃん今日も可愛いね」

    「絶対美人になるよ」

    「この可愛さ…羨ましい」


    幼稚園の送り迎えの時に他の子のお母さんがみんな私の頭を撫でてそう言う。
    私の手を繋いでいる先のお母さんは少し誇らしげにしてる風に見える。
    でも私の心は複雑でわからなかった。特に自分で可愛さを作っているわけでもないからあまり嬉しくない。勿論嫌な気持ちにもならない、だって褒められてるんだもの。



    さやか「ねえ、お母さん」

    幼稚園からの帰り道、お母さんが運転する車の中。後部座席に腰をかけてる私は今日の疑問をぶつけてみた。

    母「なに?」

    さやか「可愛いってどういうこと?」

    母「うーん、可愛いは可愛いって意味よ」

    さやか「それじゃわからない」

    母「お母さんにもわからないわ」

    さやか「じゃあ…」


    さやか「お母さんにとって、私は可愛い?」

    お母さんは友達のお母さんによく『美人』と言われている、そのお母さんからも私は可愛く見えているのだろうか率直な疑問だった。

    母「うん、勿論」

    お母さんは即答した。

    母「でもね、お母さんはさやかの友達のママ達が言ってる可愛いじゃないの」


    母「お母さんとお父さんの間に産まれてきた時から貴方は私の可愛いなのよ」

    さやか「産まれた時から?」

    母「そう…産まれた時から、可愛くて大切な存在」

    さやか「ふーん…」

    母「って、さやかにこんな話するのはもっと後だと思ってた」

    さやか「……可愛い…可愛い…うーん」

    母お家着いたら、もうちょっと詳しく説明してあげる」

    さやか「うん」


    そう言うとお母さんは好きな歌手の音楽を流しながら運転に集中した。
    私も後部座席に持たれて眠った。
  2. 2 : : 2020/06/01(月) 02:01:25
    その夜。晩ご飯を家族と一緒に食べている時、私はたまたま付いていたテレビに目を向けた。

    さやか「……可愛い」

    テレビの画面には5人で結成されたアイドルグループが映っている。きらびやかな衣装に身を包み、笑顔で歌ったり踊ったりしている。


    母「あっ、今可愛いって言った」

    さやか「あっ…」

    母「可愛いわよね、ここ最近のアイドルグループじゃ一番の人気ね」

    さやか「………お母さん」

    母「なに?」

    さやか「私も…こんな風に見えてるのかな?」

    今日の帰り道に頭を撫でてくれた色んな子のお母さん達、あの人たちも私を可愛いと言ってくれた。画面の中にいる彼女達を可愛いと私は思った。
    つまりあのお母さん達は今の私と同じ気持ちになっていたのかと思った。

    母「うーん、ちょっと違うかなぁ?」

    さやか「えっ」

    母「でも気持ち的には似ているかもしれない」

    さやか「えっ?」

    母「小さいうちはね、大人には可愛く見えるものなの。お母さんもさやかのお友達は可愛いと思う。でも人間は生きていくうちに色々な感情が芽生えて素直に「可愛い」とは言えなくなるの」

    さやか「でも、画面に写っている人達のことをお母さん。可愛いって言ってたよね。大きいのに」

    母「ええ、だって彼女達は可愛くなるための努力をしているもの。大人になる度に、可愛くなるには彼女達のように努力が必要になるの」

    さやか「じゃあ…私も大人になったら可愛く無くなるの?」

    母「さやかが可愛くなる為に努力を怠るならそうなる」

    さやか「そ…そんな」

    母「……さやかはあの子達のようになりたいの?」

    お母さんがテレビの方へと視線を移す。既にパフォーマンスを終えた彼女達はテレビ外にいるファンの人に手を振っている。

    もしもあそこにいるのが私だったら。そう考えると今までに感じたことのない高揚感に心が包まれる。
    可愛さを追求してその最果てがテレビに映っているものなら私は自分自身も可愛いと思えるのだろうか。


    『あんな風になりたい』


    親以外の他人でそんなことを思い浮かんだのは初めてのことだった。


    さやか「うん、なりたい」


    その場から立ち上がり私は自分自身を鏡に映し出す。
    可愛くなる、キラキラしたアイドルを目指す。


    今思えば、全てはこの日から始まったんだ。
  3. 3 : : 2020/06/01(月) 13:49:08
    期☆待
  4. 4 : : 2020/06/04(木) 00:11:00
    >>3 感☆謝


    私はその日以降、アリとあらゆるアイドルの真似をしてみた。振り付けを覚えて歌を歌ってみる、お母さんから撮ってもらった動画を見ると最初は違和感があったものの段々と本物に近い可愛い姿で踊れてるようになっていった。
    歌には元々自信があった、幼稚園の頃は歌の時間に歌が上手いとよく先生に褒められてた。当時の私にとっては初めて出来た特技だった。

    自分の姿を見ても今まではなにも感じなかった。生まれた時から、意識がある時からこの顔。周りの子は可愛いと言ってくれるが自分にはわからなかった、生まれた時から持っているものを褒められても歌を褒められた時のような慶びは無かった。

    でもお母さんが撮ってくれたアイドルの真似をしている私は可愛いと思えた。

    そして可愛いと思われたかった。
    元々持っていたものではなく、手に入れたもので。

    そんな夢を幼稚園の頃に持った私は小学校に入っても夢が薄くなることは無かった。寧ろ気持ちは大きくなっていく一方でその夢を叶える為に私は何事にもひたすら努力をした。







    音楽教師「はい次、舞園さん」


    音楽のテストはクラスメイトの前で合唱1番を一人で歌い、その歌を先生が点数にして評価するというものだった。
    歌が得意で無い人は言うまでもなくかなり嫌がっており歌が上手い人も人前に立つのが苦手な人は本来の実力が緊張によって喰われ、低い点数をつけられる。
    勿論私も人前で歌を歌うのは初めてだったけどいざ歌って見ると楽しかった、幼稚園の頃から努力を重ねてきた歌は誰にも負けないという自信とみんなに可愛いと言われたい気持ちが緊張を押しつぶした。


    音楽教師「はい、ありがとうございました」

    舞園「ふぅ……」


    気づくと自然とクラスメイト拍手が私に送られていた。
    私に送られた拍手の音は今までにないくらい音楽室中に響いて大音で私の身体中を包み込んだ。


    音楽教師「素晴らしかったよ、舞園さん。孤独の中ここまで歌える小学生はそうそういないよ」

    舞園「あっ、ありがとうございます!」

    音楽教師「この後のみんなも、さっきの舞園さんみたいに緊張に押し潰されず表現豊かに歌っていこう」


    結果、高評価。学年でたった1人の満点をいただいた。





    「さやかちゃーーん!!」


    この授業が終わった後、仲のいいクラスメイトの1人が私の肩を叩いて声をかけてくれた。

    「さっきのテスト凄かったよ!普段から上手いなぁって思ってたけどまさかあのテストであそこまで歌えると思ってなかった!」

    舞園「そう?そう言われると凄い嬉しい、ありがとう。歌だけは昔から自信あったんだ」

    「歌だけじゃないよ!振り付けみたいな感じで手とか身体とか動かしててさ、なんというか…」


    「すっごい可愛いかった!!!!」

    舞園「!」


    それが初めて自分で手に入れた物で可愛いと言われた瞬間だった。
    胸から何か熱い物が込み上げてくる、幼稚園からの目標がついに叶った瞬間だった。


    舞園「ありがとう!!私も…凄い楽しかった!!」


    目頭が熱くなった私は目標を叶えてくれた人に対して全力でお礼を言った。
  5. 5 : : 2020/06/06(土) 02:23:22
    私が歌を褒められても、踊りが褒められても。決して家での練習は欠かさなかった。
    お母さんから借りたカメラを机に固定させて色々なアイドルの踊りを完璧にコピーして完成度を上げていく、私が知っている世代はほぼ踊れるようになったので今度は私より少し上の世代やお母さんの世代のアイドルの真似までしてみることにした。

    数年前の動画と今の動画を見返しても格段に今の方が上手くなっている。今の方がアイドルっぽい、今の方が可愛い。
    いずれ誰かの曲ではなく『自分の為に作られた曲と自分のダンスがオリジナルになるかも知れない』そう考えると胸が高鳴る。
    いつか夢は叶う、そう信じて日々を過ごしていた。







    小学生高学年に入り、友人と遊んだり授業量が増えたりと色々忙しくなってきたがそれでも練習は欠かさなかった。
    ダンスをたくさん練習したせいか反射神経が良くなった気がした、体力測定もAを貰ったり運動会でも活躍できる場面が増えた気がする。

    そんな楽しい日々を過ごしていたとある夜、宿題を終わらせて眠ろうとした時。お母さんが部屋に入ってきた。


    母「さやか起きてる?」

    舞園「うん、今寝ようとしてたところ」

    母「これ見て」

    舞園「なに?」


    広告の記事に載っていたのはとある音楽事務所のオーディションを開催するというものだった。

    『新人オーディション開催!!10歳から18歳の女性アーティスト募集!!』


    母「この会社、今凄い波に乗ってて色々な有名アーティストを輩出してるのよ」

    舞園「ここの会社なら…アイドルになれるの?」

    母「合格すればね」

    舞園「じゃあ…やってみるよ!私!」

    母「……………………」

    舞園「…お母さん?」

    母「本当にいくの?」

    お母さんの声のトーンが低くなる、それは普段はあまり見せることない声だった。

    母「オーディションには受かるかまだわからない。けど、もし受かったなら貴方はアイドルへの道へ一歩踏み出す」

    舞園「うん…」

    母「テレビの世界にはきっと画面に映っているものが全てじゃない、芸能界の裏側。お母さんはよく知らないけど普通に生きていく時よりももしかしたら何倍も辛いかも知れない」

    お母さんの手が私の肩を掴む。昔は大きな手だと思っていたけど今はそう感じないのは私の体が大きくなった証拠かもしれない。

    舞園「お母さんは…私がアイドルになるの…嫌?」

    母「そんなわけない。娘の背中を押してあげない母親は失格よ。でもただただ心配なの、この選択が貴方の人生を狂わせないかどうか」

    舞園「…………………」

    アイドルは全てがキラキラしていて華やかなもの。
    それはあくまでテレビに映っている時だけかもしれない。
    その思考は小学校の学年が上がると同時に気づいていた。仲違いや方向性の違いでのグループ解散、不倫や暴行での芸能界引退。
    ネットで見ているうちに私の目指している世界はこんなこともあると気づいた。


    舞園「それでも…」

    母「?」

    舞園「それでも…私はアイドルになりたい」


    そう、既に私は知っている。
    覚悟はとっくに出来ていたんだ。


    母「…わかった、お母さんももう否定的な意見は言わない」

    お母さんはその場で立ち上がって散らしを持って部屋の扉へと歩く。

    母「申し込んでおくね」

    舞園「うん!ありがとう!」

    申し込むと言ったお母さんは笑顔は私の不安を少し和らいでくれた。

    頑張ろう。夢にようやく手を伸ばすところまできた。
  6. 6 : : 2020/06/13(土) 02:35:15
    そうして私はオーディションに合格して正式にアイドルとしての舞園さやかが誕生した。

    中学に入る頃には既に世間一般に認知されるくらいには私達のグループは有名になっていた。
    何もせずに可愛いと言われるのは未だに喜べない、元から持っているものだしそもそもテレビで可愛いと言われて誇るべき人は私ではなく私の担当をしたメイクさんだろうと思う。

    でも踊ってる自分、歌っている自分が世間に評価されるのは本当に嬉しい。幼稚園の頃、可愛くキラキラしていたあの姿に私は少しずつ近づいていると考えると心が高鳴る。







    「好きです!!付き合ってください!!」

    私とクラスメイトの彼は今通っている中学の屋上にいる。
    太陽は西に傾いて沈む直前の夕暮れ時、目の前の彼は私に手を差し伸べている。
    それはドラマなどでしか見たことなかった愛の告白、それがリアルで私の目の前で起こっている。


    舞園「えっと…杉元君…ですよね?」

    杉元「う…うん!」

    舞園「杉元君は、私のどこを好きになってくれたのですか?」

    杉元「え、だって…舞園さん頭良いし、運動も出来るし…なにより……」


    杉元「可愛いし!!」

    舞園「可愛い?」

    杉元「うん!俺テレビとかよく見るからさ、そこで映ってる君は俺には凄い輝いて見えてさ…憧れでさ」

    舞園「……………」

    杉元「俺もアイドル系とか詳しいし、話も意気投合出来そうなんだ」


    杉元「だから!そんな君が好きだ!俺と付き合ってください!」

    舞園「アイドルの私を見てくれたり、長所を褒めてくれたり杉元君の気持ちは凄い嬉しいです」


    舞園「でもごめんなさい」

    杉元「えっ、なんで…」

    舞園「確かに貴方は私のことをたくさん知ってくれている、でも私は貴方のことを詳しく知らないんです」

    杉元「うっ…」

    舞園「…勿論杉元君が嫌いな訳ではありません、ですのでこれから先も友達として接していただけたら嬉しい」

    舞園「それが私の気持ちです、本当にごめんなさい」

    杉元「いや、良いんだ。俺の一方的な想いだったから、これからも友達として、よろしく!」


    彼は鞄を持ち上げて駆け足で屋上から出て行った。
    正直彼が私の一ファンだったのは嬉しいけどそれで彼と付き合うというのは違うと思った私の答えだ。
    アイドルとして煌びやかな姿だけを見てる人とは付き合いにくい、表面上だけしか見て私という人間のことを本当に好きなのか疑心になってしまう。


    舞園「そう…もし、男性の方と付き合うなら…」


    舞園「アイドルの私を知りもしない人間」


    舞園「アイドルの舞園さやかではなく、1人の人間としての舞園さやかを…心から相思相愛出来そうな人…」

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