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殺人者の嘯き

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  1. 1 : : 2019/08/12(月) 10:36:12
    2F

     ┌───┐
     窓   窓
     │ 1 │
     └─窓─┘┌─窓───┬──窓──┬───窓──┐
          │  2  │  3  │   4  │
          窓     │     │      窓
          ├────扉┴────扉┴───扉──┤
          │階段                │
          ├─扉───┬扉────┬───扉──┤
          窓     │     │      窓
          │  5  │  6  │   7  │
          └──窓──┴───窓─┴───窓──┘

    1F

     ┌───┐
     窓   窓
     │ 1 │
     └─扉─┘┌────┬────────┬────┐
          窓 9  │        扉 10 │
          │    │ ┌───┐  │    │
          │      │ 机 │  ├────┤
          │階段    └───┘  扉 11 │
          │             ├────┤
          ├────┐        │    │
          │ 13 扉        扉 12 窓
          └────┴──┐8┌───┴────┘  


    1···塔 2···客室《アルミン・アルレルト》 3···客室《クリスタ・レンズ》 4···客室《エレン・イェーガー》 5···客室《ライナー・ブラウン》 6···客室《ジャン・キルシュタイン》 7···客室《サシャ・ブラウス》 8···玄関 9···厨房 10···風呂 11···トイレ 12···書斎 13···遊戯室


  2. 2 : : 2019/08/12(月) 10:42:14
    序章(プロローグ)



    「五年前の『事件』を知ってる?」


    「ああ、知ってるよ。ベルトルト」


    ベルトルト「未解決のまま終わってしまった事件だ。それを僕とマルコで解決できないかなと思ってね」


    マルコ「出来るのかな、僕らに」


    ベルトルト「それはどうだろう。兎に角行ってみようよ」


    ───五年前の悲劇の邸宅に。

  3. 3 : : 2019/08/12(月) 15:27:07
    一章 (ツドウ)



    「僕らに共通することはただ一つ。全員『小説家』ということ·····ですよね」


     《アルミン・アルレルト》は言った。


    「顔は見たことあるな。アルミン・アルレルトだろう、推理小説家の」


    アルミン「ええ。貴方は?」


    「ジャン・キルシュタイン。ホラー小説を執筆するな」


     馬面の男、《ジャン・キルシュタイン》は胸ポケットから煙草を取り出した。


    ジャン「あ、悪い。吸ってもいいか」


     全員が了承の意を示し、ジャンは煙草に火を着火する。副流煙が煙草の先端から天井へ昇り、姿を消していく。


    「それより、これからの事について話し合わないか」


     《ライナー・ブラウン》は椅子から立ち、その場の全員を見渡して言った。彼はアルミンと同じく推理小説家である。


    「あの、皆さんこれを受け取って、この屋敷に来たんですよね······? じゃあ、この手紙を送った、この会の主宰者がこの中に居る筈なんですが······」


     《クリスタ・レンズ》は(ふところ)から一通の手紙を取り出し、困惑を表情に表す。同意するように場の全員が頷いた。


    「でも、この六人の中には居ないんですよね······?」


     《サシャ・ブラウス》が確認する。


    ジャン「ああ。少なくとも俺はこの手紙を受け取って知ったからな。どうせお前らもそうなんだろ?」


    「······なあ。そろそろ行ってもいいよな。二階の客室」


     《エレン・イェーガー》はのっそりと体を動かして階段まで歩いていく。その行動を見てアルミンが代表して言った。


    アルミン「じゃあ、取り敢えず解散にしましょう。手紙の主が帰ってきたらまたここに集まればいい話ですしね」


    ジャン「そうだな。じゃ、俺も部屋で休むわ」


     それぞれ別の方向に別れた。ある者は厨房で冷蔵庫の中を確認し、ある者は遊戯室へ入っていく。
     ライナーはここに来宅した際、何か塔のような物を見たのが気になって、玄関の扉を開ける。すると後方からアルミンの声が掛かってきた。


    アルミン「あっ、ライナーさん。そろそろ豪雨なので外には出ない方が好いかと」


    ライナー「豪雨だと? ······確かに降りそうだが」


    アルミン「来る前に天気を確認しましたから。今もスマホで見れ······あれ?」


     彼のスマートフォンを操作する手が止まる。「何かあったのか」と訊くライナーを見詰めて言った。


    アルミン「······駄目だ、圏外。インターネットに繋がらない」


    ライナー「はっ!?」


     上からドタバタと足音がする。振り向くとジャンが勢いよく階段から降りてきた。


    ジャン「ちょっ、圏外になって繋がらないんだが!?」


    ライナー「······俺が推理小説家だからこう言うイメージをしてしまうんだろうが······嫌な予感がするな」


    ジャン「おい······不穏な事は言うなよ」

  4. 4 : : 2019/08/13(火) 08:27:35
    サシャ「私達、何の為に集められたんでしょうかねえ」


     冷蔵庫を漁りながらサシャがクリスタに尋ねた。


    クリスタ「そうですね······結局、《推理会》って何の事なんでしょうか······書いてあったから来たんですけど」


    サシャ「クリスタさん、推理小説家じゃないですよねー」


     はい、と返事を返すクリスタに、冷蔵庫を隅々まで漁ったサシャが言った。


    サシャ「······まともに食材が無いですね。精々あってこれです」


     彼女が片手に何かを取り出す。全体的に赤く、髑髏が描かれたビン。所謂(いわゆる)デスソースだった。


    クリスタ「······これでどうやって生きていけ、と」


    サシャ「戸棚も見てみましょう!」


     戸棚も隅々まで漁るが、収穫は大量のインスタントヌードル、レトルトカレーなどと言ったインスタント食品だった。
  5. 5 : : 2019/08/18(日) 10:52:46
    マルコ「······でもどうして急にあの事件を?」


     マルコが運転する車内で、彼がベルトルトに訊いた。


    ベルトルト「······僕の友達がね、その事件に関係していたんだよ。でも結局、還ってこなかった。いや、それ以前にその屋敷に来ていた全員が殺されたらしいね」


    マルコ「そして誰もいなくなった、か。ミステリじゃあるまいし、そんなことが······」


    ベルトルト「でも現にあったじゃないか。警察も全員分の死体を確認している」


     マルコは重々しく頷き、車のスピードを上げた。


    マルコ「でも、今更行って証拠があるかな」


     数刻の後、ベルトルトは首を振っていった。否定とも肯定ともとれない頷きだった。その後言った。


    ベルトルト「そればっかりは、行ってみないと判らないさ」







    エレン「······」


     エレン・イェーガーは一人客室に居た。いつの日かの晩、彼の許に届いた手紙を眺めていた。



    『前略

     「前略」で宜しいのかは理解しかねますが、この度は推理作家、エレン・イェーガー様を今回の《推理会》に招待したいと存じます。
     場所は同封の地図に印しております、ご確認ください。また、集合時間は午前中ならばいつであっても構いません。
     今回のこれに、貴方様も参加してくださることを楽しみにしております。
                                             草々』


    エレン「······」


    ───たっく、何で来てしまったんだろうな。エレンはそう悔やんでいた。
    ───再度見ても《推理会》と書いてある。じゃあ何でホラーのジャン・キルシュタインやファンタジーのクリスタ・レンズを呼んだんだ? アルミン・アルレルト、ライナー・ブラウン、そして俺は推理小説家だが、サシャ・ブラウスなどフードライターだぞ? 最早推理に全然関係ないじゃないか。


     はぁ、と染色すれば青であろう溜め息を()く。


    エレン「《推理会》ねぇ······」

  6. 6 : : 2019/08/18(日) 19:35:12
     午後一時の鐘が鳴る。結局、一時間経っても主催者は来ることはなかった。


    ライナー「《推理会》ってさ、主催者が殺されて出てくるなんてことはないよな」


    アルミン「まさか······それより、まだ来ないんですかね」


    サシャ「もう先に食べちゃいましょうよ」


     彼女がそう提案して、全員が納得する。クリスタとサシャが厨房に向かい戸棚を開けに行く。


    ライナー「おや、エレンとジャンはどうした」


    アルミン「多分客室じゃないですか。呼んできます」


    ライナー「俺も行こう」


     彼等が二人を呼びに席を立ち、階段を登る。
    アルミンがジャンの部屋の扉をノックし呼び掛ける。その間にライナーがエレンを呼びに行った。


    アルミン「ジャンさん、昼食です」


     しかし反応は無い。彼は再度扉を叩く。


    ライナー「どうした?」


     エレンを連れたライナーが戻ってき、怪訝な表情でアルミンに訊いた。


    アルミン「反応が全然無いんです。どうしましょう」


    エレン「開いてるのか?」


     アルミンが扉のノブに触れ、ゆっくりと回転する。


    アルミン「······開いてます」


    ライナー「寝てんのか?」


     ライナーが扉を開けると、矢が背中に突き刺さり息絶えたジャン・キルシュタインの遺体が発見された。
  7. 7 : : 2019/08/19(月) 10:43:15
    二章 (シャサツ)



    ライナー「ジャン!!」


     ライナーが走って窓の右側にある机に伏せたジャンの元へ向かう。彼は首筋に手を当て脈の確認をするが、後にゆっくりと首を横に振った。もう既に息絶えているのだ。


    アルミン「そ、そんな······!!」


     彼等が慌てる中、エレンは冷静さを保ち言った。


    エレン「死体の確認だ······。ジャンの背中には一本の矢が刺さっていて、机に突っ伏している。周りに血液が飛散していないから、恐らく即死······或いは動けなかっただったんだろう。普通の矢一本とは思えないから恐らく(やじり)に毒でも塗っていたんじゃないか」


     冷静さを取り戻したアルミンが頷いた。


    アルミン「······恐らく、そうでしょう。或いは背後から矢を持ってぐさっと───」

     アルミンの案を遮ってエレンが言った。


    エレン「それは難しいんじゃないか? 矢が折れても曲がってもいない。遠くからボウガンか何かで撃ったんだろうよ」


    ライナー「······だが、いつ殺したんだ?」


    エレン「······判らない。ボウガンで撃ったとしても誰かが気付きそうな物なんだけどな」


     廊下から足音が聞こえた。クリスタとサシャが階段を登ってきているのだった。


    クリスタ「あの、ジャンさんとエレンさんは?」


     ジャンの部屋の前まで来た彼女等が、ライナーに訊いた。


    ライナー「······見ない方が良い。ジャンが殺されたんだ」


    サシャ「殺された!?」


    アルミン「あの、ライナーさん。彼の遺体はどうします······?」


     ライナーは暫し逡巡したが、やがて意を決して答えた。
    ジャンの遺体はベッドで横にされ、上からの白いシーツで覆われる。葬式等である顔隠しのつもりだった。




    アルミン「······さて、先程ジャンさんの遺体が発見されました」


    クリスタ「······何か、信じられないですね」


     彼女がそう呟いた。誰もがそう思っていた───いや、犯人以外はの誰もが、の方が正しいだろう。


    ライナー「死亡推定時刻なんて俺らには全然判らねえからな。取り敢えず、俺やアルミンと会話した時間───いつだったか、あれは」


    アルミン「予想でしかありませんが、恐らく十二時半かと」


    ライナー「じゃあ、殺されたのが十二時半からさっきの一時半の間と考えよう」


    サシャ「じゃ、じゃあたった一時間の間に殺されたんですか!?」


    アルミン「厳密に言ってしまえば、一時間も無い。死体発見時を一時半にしているんですから、殺害時間はそれより短くなってくる筈です」


    ライナー「俺とアルミンはジャンとの会話以降遊戯室にずっと居たからな。殺害は難しい」


     いや、とアルミンが否定する。


    アルミン「一度トイレへ行きましたから。まあ五分程度なんですけど」


    サシャ「私はクリスタと一緒に居ましたね。厨房とか書斎とかに」


    ライナー「じゃあつまり、ずっと二階に居たのは───」


    「ちゃんと解ってるさ」とライナーの言葉を遮ってエレンは言った。


    エレン「俺はずっと部屋で寝てたからな。つまりアリバイが微塵も無く、犯行が一番可能な人物、ってことだろ?」


    ライナー「······ああ、そうなるな」


     暫く沈黙がその空間を支配した。誰もが互いの様子を窺っている。その沈黙に堪えかねたか、アルミンが立って言った。


    アルミン「······こんなときに食欲も湧きませんが、取り敢えず昼食としましょうか」


    サシャ「······そうですね、まずは食べましょう」


  8. 8 : : 2019/08/19(月) 14:54:15
     ただただ、誰も言葉を発さぬ無言の昼食会であった。食事も質素なもので、沈黙が明らかに増えている。
     当たり前だ、食事の時間に殺人の話など出来る筈がない。三十分ほどで無言の昼食会は終わった。


    アルミン「······」


    ライナー「なあ、アルミン」


     考え込んでいるアルミンに向かってライナーが声を掛ける。


    ライナー「ジャンの件、何か思い付いたか」


    アルミン「·····駄目だ。どうしようもないんです。圏外で警察にも電話出来ないし、出来たとしても外は豪雨でいつ土砂崩れが起こってもおかしくない」


    ライナー「それは脱出方法だろ······」


    アルミン「でもねライナーさん、推理小説の読みすぎかもしれませんが、こういうのって続けて行われるものなんですよ······?」


    ライナー「おいおい、そんな事言うなよ。大きな声では言えねぇが、俺としてはエレンが一番怪しいと思ってる」


    アルミン「仕方無いことですよ。彼は一番の容疑者ですから······それより、被害者の部屋に行きますか、もう一回」


     彼等は階段を登って二階に行き、ジャンの部屋の扉の前に立つ。ドアを開けると視界の端に膨らんだベッドのシーツが目にちらちら入ってしまう。


    アルミン「ジャンさんはこう、机に突っ伏して、背中が射られた状態で発見されました。エレンさんも言っていたけれど、近距離でぐさっと刺した可能性は低い。じゃあ、部屋の前でボウガンをパシュッと撃った? いや、誰かに見られる場合がある。じゃあ部屋の中に入って撃った? いや、それも撃った直後に部屋から出たところを見られる。二階に人が居なくたって、一階に行くと更に人が居る確率が高まる。どっちにしろ危険なんですよ」


    ライナー「そもそもジャンを殺したのは何故なんだ? いや、動機は犯人以外判らない筈だがな」


     そう言いながらライナーはジャンの遺体に近付く。ハンカチを出して指紋が着かないようにジャンのジャケットの内側やズボンのポケットなど、あらゆる場所の所持品を確認した。


    アルミン「じゃあ、僕は机とかを探してみます」


     と言い、彼は机やロッカーを漁り始める。


    ライナー「······ジャケットの内側に入ってた、この財布。中身は·····全く盗られていない。紙が何枚も残ってる。一部だけ盗られたってのは有り得なさそうだから、金銭目的じゃないな」


    アルミン「こっちも、スマホとか普通に引き出しにありました。どうやら、大切な物は何も盗られてないようですね······少なくとも、僕らにとって大切な物は」



    ライナー「てことは、怨恨、または狂気か······?」


    アルミン「犯人が狂ってるかは判りませんが······恨み、なんですかね······?」

  9. 9 : : 2019/08/22(木) 19:57:21

    ┌──────┐
    │ 神の視点 │
    └──────┘

     「神の視点」。どんな人物の行動も思考も見ており、そして彼がこれからどうするかといった”未来”も見抜ける、正に”神”の視点である。
     これを、神の視点と言っても良いのだろうか。これ以上の語彙を見つけることは出来なかったため、これを”神の視点”とする。
     犯人は(わら)って、思っていた。
    ───まさか、あれほど上手くいくとは······運が良かった。
     断言してしまおう。
     彼(もしくは彼女)は、近距離からジャンの背中を刺しておらず、遠距離からボウガンで撃った。これは確実なことだ。
     そしてもうひとつ、豪雨は死体発見時には降っている。降り始めたのは午後一時十五分前後だ。
     またボウガンの件だが、彼(彼女)が撃った時に、二階には人はエレン・イェーガー、ジャン・キルシュタイン以外に居なかった。しかも両者部屋に居るのである。
     しかし、彼等しか二階には居ない事を彼(彼女)は知らない。それも含めて「運が良かった」のだろう。······しかし誰かが廊下で会話をしてても、犯人の姿は確認出来ないだろうが。

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