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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品は執筆を終了しています。

最原「たとえ剣が折れても」

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  1. 1 : : 2017/11/07(火) 22:13:22
    こんにちは!

    今回も秋のコトダ祭投稿作品としてこの作品を投稿したいと思います。

    この作品のテーマとしましては【ナイフ】を用いて投稿していきたいと思います。

    少し長くなりそうですが宜しくお願いします!


    ※追記 すいません! 入れ忘れてましたがネタバレ注意です!
  2. 2 : : 2017/11/07(火) 22:15:28

    さぁ、これで御仕舞いだ。

    我らは救国の戦士にして災厄の使者。

    彼の者ら亡びを贄として我が故郷(ふるさと)の礎としよう。


    救い(滅亡)よここに在れ。

    「……………ゥ……」



    「………チガウ…」


    違う……? 違うだって…?


    この路は既に真っ紅だっていうのに。


    1歩進めば崩れていく路に退路などありはしないのに。





    じゃあ、俺たちがやって来た事はなんだったんだよ……?


    もう他にどうすればいいんだよ……
  3. 3 : : 2017/11/07(火) 22:22:54
    ―――――――――――――

    ―――――――――

    ――








    外からちらほらと子供の下校する声が聞こえてくると放課後のチャイムが授業からの解放を伝える。

    最原「く……っ うぅ…」

    1日の授業の終わりに思わず伸びをした。

    最原(叔父さんの手伝いにはまだだいぶ時間があるし… 誰か誘ってもいいかも知れないな)

    そんな考えを先読みしたかのように…

    百田「終一!今日の放課後空いてっか?」

    最原「百田くん うん。あんまり遅くならなければ大丈夫だよ」

    百田「そりゃあタイミングがいいな! 今から駅前の…」


    百田「えっと新しくオープンした…アレの店だ…」

    最原(どうしたんだろう… 百田クン…)

    最原「……駅前で新しくオープンって……もしかしてあのクレープ屋の事?」

    百田「そう!それだ! そこへ今から行こうとしてたんだ」

    最原「え?あの女子に大人気っていう……」

    百田「う、うるせーな! これにはちゃんとワケがあってだな……!」
  4. 4 : : 2017/11/07(火) 22:38:25
    百田「お~い! こっちこいよ!ハルマキ~~!」

    最原「あっ…なるほど、それで……」

    春川「ちが……っ! わたしは別に…!」

    百田「あのクレープ屋の前を通る度にじっと店の方を見てたからなぁ いっぺん連れてってやろうと思ってな!」



    春川「百田……っ!」

    耳まで赤くして詰め寄ったところに

    赤松「まぁまぁ 春川さん!」

    赤松(いいじゃない。素直になっても せっかく百田クンが誘ってくれたんだしさ!)

    春川(た…確かに…この学園入る前はあんな店に入る機会もなかったけどさ……)

    春川「分かった。行くよ。」

    百田「赤松も来るだろ? 行こうぜみんなで」

    赤松「え? え~と… 私は遠慮しとこうかな~なんて…」

    百田「いいから 遠慮すんなって!」

    百田「よし!決まりだな! 早速出発するか!」

    春川「………」

    赤松「大丈夫だよ! 次があるって!」

    春川「別に……」

    最原(百田クン…)

    最原「じゃあ、バスでも使って…」

    百田「いやいや、終一。 ここは俺の出番だろ!」
  5. 5 : : 2017/11/07(火) 22:47:35
    最原「『俺の出番』って百田くんもしかして…」

    百田「そうだ! 俺のアレを使えば駅前でもひとっとびだろ!?」

    最原「それはそうかも知れないけど… 能力を公の場で使うのは…」

    春川「ていうより… 3人とも抱えて行くつもりなの?」

    百田「あぁ 2人腕に抱えて1人背中に乗ればいけるだろ!」

    百田「よし! それじゃ行くか!」

    校庭のど真ん中に男子1人と女子2人を抱えた者が立っている光景はこの学園とてそう見られる光景ではない。

    百田「展開!! 『ロケット・マン』!!」


    百田の詠唱と共に脚部にジェットエンジンが展開される。

    ファンの回転数が上がり高い音を放つ。周囲を砂煙が覆う。


    百田「行くぜ! しっかり掴まってろよ!!」

    赤松「百田くん… その… 安全運転でね!」


    3人を抱えたまま打ち上げ花火のようにいっきに上昇する。
  6. 6 : : 2017/11/07(火) 22:58:56
    みるみる内に地面は足元から一直線に離れていく。

    百田「よし! 駅はあっちだな!」

    上空でホバーし、方向確認もそこそこに機首(上 体)を下げて隕石の如く降下する。


    最原「百田クン……! 地面が…!」


    すぐそこまで迫ると体の向きを変え…

    脚部のバーニアで減速し…

    地面に降り立った。まるで特撮ヒーローのように。



    着陸地点は駅のすぐそばの公園。



    通行人が豆鉄砲を喰らったような顔で4人を見つめていた。

    幼児「すっげー! 何あれーー!」

    春川「………」

    最原「つ…次からは歩いて来ようか…」

    百田「わ…悪い……」






    ここは、ノンフィクションに比べたら 少しだけ奇妙な世界。

    「魔術」が発見されてほんの十数年の現代。
  7. 7 : : 2017/11/08(水) 21:10:34
    ~クレープ店~

    赤松「バッチリ注目浴びちゃったね…」

    最原「そりゃ… 空からいきなり人が飛んでくればね…」

    百田「けど… 俺が持ってるような『能力』自体はそこまで珍しいモンじゃねーんだろ?」

    春川「わたし達の『能力』がどこにでもあるモノだったらあの学園へのスカウトは来ないんじゃない?」

    最原「確かに魔法自体はそんなに珍しいものじゃないけど百田クンみたいな固有の能力は別だよ」

    最原「世間ではまだまだ未知の能力って感じじゃないかな?」

    百田「なるほどなぁ… まぁ俺はこれくらいしかマトモに使えなかったからな… 『能力』自体はそんなに珍しくないのかと思ってたぜ…」

    最原(僕もあの学園にいると時々そう錯覚しちゃうけどね…)

    百田「というかハルマキ… お前そんなに食べんのか?」

    春川「違うよ…」

    春川「孤児園の子達にも買ってあげようと思って…」

    百田「そっか。 じゃあ、また俺がロケット・マンで送ってやるよ!」

    春川「電車で行くからいい。」
  8. 8 : : 2017/11/08(水) 21:46:19
    この日はそのまま駅でお開きとなり、春川は孤児院へ、最原は叔父の探偵事務所へと向かった。


    ~探偵事務所~


    叔父「おかえり、終一。悪いね 急に呼び出して…」

    最原「うん、大丈夫だよ。叔父さんも一人じゃ書類の整理大変だろうし…」

    叔父「助かるよ… 門限は大丈夫かい?」

    最原「うん、いざとなったら学校に電話すればいいしね。」

    叔父の事務所と書斎はいつも木と本の匂いに満ちている。

    最原(これとこれはあっちの棚…)

    書類やファイルがふわふわと宙を漂いながら棚へ帰っていく。

    叔父「そうそう。今日来てもらったのはこの用事があったからなんだ」

    叔父「これを見てくれ」

    叔父「ある事件の遺留品だ。無理を言って借りて来たんだが…」

    叔父「何か魔術が使用されたような痕跡はあるか?」

    最原「調べてみる…」

    密閉された袋ごしに手をかざし、魔術の痕跡を調べる。

    最原「……う~ん… それらしい痕跡は見つけられないかな…」

    叔父「そうか… 魔術使いの線は考えにくくなったな…」

    書類に目を通しながら叔父さんは煙草を燻らせる。

    叔父「お前が産まれたくらいの時に魔術なんて物が発見された時は信じがたいものだったが…
    今では犯罪にまで悪用されるケースが出てきてしまった…まぁ、ごく稀な事例だが…」

    叔父「警察にも魔術に通じてるヤツは少ない。鑑識でさえね。」

    叔父「そこでまぁ、身近に魔術に通じてるお前に聞いてみる事にしたんだが…」

    叔父「また難解な捜査になりそうだ…」

    独り言のように叔父さんは呟いた。





    しばらくして、事務所や書斎の整理が終わった頃。

    叔父「ありがとう、終一。今日は何か食べに行こうか」

    最原「うん、じゃあ 近くのレストランにでも…」


    その時。

    食器や窓がカタカタと揺れだした。

    叔父「なんだ?地震か…?」

    カタカタと音を立てていた窓はガタガタと音を変え…

    部屋全体がユサユサと揺れ始めた。

    最原「うわっ…!」

    叔父「終一……! 本棚から離れろ!!」

    よろよろと壁づたいにその場を離れると

    間一髪のところで本棚がズドンと音を立てて倒れた。

    最原(なんだ? この感じ… ただの地震とは違うような……)

    やがて揺れが収まった

    叔父「大丈夫か…? 終一。」

    最原「うん… 今のは大きかったね…」

    叔父「とにかく… テレビでもつけてみよう」


    「番組の途中ですがここでニュースを…」


    案の定どこの局も地震の事で持ちきりだ。

    叔父「ん? なんだ… 映りが悪いぞ…」

    最原「アンテナが曲がったんじゃない?」


    「なお、一部地…では……重……な電波…害が発生しており…」

    叔父「終一。学校に連絡しなさい。 こんな状況じゃ繋がりにくいかも分からんが…」

    最原「分かった。」


    やはり、携帯では通じない。

    事務所の電話を借りて連絡を取ることにした。

    最原「…やっぱ繋がりにくい……」

    電子メッセージばかりを返す電話機にやきもきしていたところ…

    ふと、日常聞くことのない音を耳にした。

    最原「……なんだ? この音…」

    いや、彼に至ってはつい最近似たような音を耳にしていた。

    最原(まるでジェットエンジンみたいな…)

    音は段々と大きくなっていき…

    そのうち窓を震えさせるような轟音と化した。

    最原「なんだ…!? これ…」

    最原(余震でもないしこれは…)



    音の正体は空からやって来た。
  9. 9 : : 2017/11/09(木) 09:56:58

    最原「は………?」



    ビリビリと空気を震わせて空からやって来たのは巨大な旅客機であった。


    頭のすぐ上を飛び去り……



    そのまま街に突っ込んでいった。


    閃光と爆風が街全体を包んだ。


    あまりに現実離れした光景にただ呆然とする事しか出来なかった。



    叔父「これは…… 大変な事になったぞ………」

  10. 10 : : 2017/11/09(木) 10:05:41
    【Tips】

    ロケット・マン


    超高校級の宇宙飛行士 百田解斗の固有魔術。

    全身にアーマー、両手足にバーニアを展開する。その姿はまるで特撮ヒーロー。

    ロケット・マンとの名を持つがバーニアは細かい操作が可能なジェットエンジン、爆発的な加速力、上昇力を持つロケットエンジンとの切り替えが可能。全身のアーマーは宇宙空間での生存を可能とし大気圏の突破と突入に耐える。
  11. 11 : : 2017/11/12(日) 22:06:19


    翌日の報道はまさに昨日の地震の記事一色であった。

    最原(今日は臨時休校か……)

    なんでもこの地震、震度で言えば実に5弱とそれこそ世界が終わる勢いで騒ぐ程の事でもない。

    しかし、件の地震が「世界の終わりが来た」かのように騒がれているのには理由があった。



    「地震というのは通常… プレートの歪みが戻ろうとする勢いで発生するものですが……」

    「今回の地震はそうではないと?」

    ニュースキャスターも台本抜きに顔真っ青だ。

    「えぇ… まことに信じがたい話ではあるのですが……」


    「どうやら地球ごと揺れていたと言うのが各省庁の見解です……」

    最原「地球丸ごと揺れてたなんて……」

    最原(そんな昔ばなしどっかで聞いたっけな……)
  12. 12 : : 2017/11/12(日) 22:39:16

    叔父「こんな状況で外にも出れなくては退屈だろうが… 家にいた方が安全だろう。」

    叔父「幸い2、3日程度なら食料も持ちそうだ。」

    最原(百田クンや… 春川さん…… みんな無事だろうか…?)

    最原(赤松さん………)


    その時、着信音が携帯から鳴り響く。

    最原「わっ! とと…っ」


    百田『終一!! 無事か!?』

    最原「あぁ…! 百田クン! うん! こっちは大丈夫…」

    百田『良かった… 何度かけても全然繋がらねぇからよ……』

    最原「まぁ… みんな連絡取りたいだろうしね…そっちは大丈夫なの?」

    百田『あぁ、春川とも連絡ついたし… あとのヤツらはみんな学校にいたからな。 なんなら代わろうか?』

    最原「………………」

    最原「いや… いいよ。 みんなが無事なら…」

    百田『そうか…… 分かった。落ち着いたらこっちにも顔出せよ!』

    最原「うん!」
  13. 13 : : 2017/11/15(水) 13:34:42

    最原「さて… 今日はもう事務所の片付けだけかな。」

    この日は昨日の地震で散らがった事務所を片付け、床に就いた。



    最原「ふぅ……」

    最原(やっぱ身体を動かさなくても魔力を長い間使うのは疲れるよな…)

    最原「………僕の能力なんて簡単な浮遊魔法以外は魔術師に使うこと前提だもんな…」

    最原(まぁ、だからこそ叔父さんは僕を読んだんだろうけど… あんまり活躍する機会はなくてもいいかな…)



    あれこれと考えるうち、いつの間にか眠りに沈んでいた。
  14. 14 : : 2017/11/15(水) 13:40:21
    【Tips】

    観察眼

    超高校級の探偵 最原終一の固有魔術。

    相手の使う魔術の詳細を知ることが出来る。
    発動条件から欠点、弱点、限界値まで見ることが可能であり、魔術を行使された痕跡があればそこから推し量り知ることも可能。

    しかし、魔術を持たない者には何の効果もない。
  15. 15 : : 2017/11/15(水) 14:04:42

    翌日、彼を叩き起こしたのは携帯のベルであった。


    最原(まず……もうこんな時間…)


    最原(学校から…?そういえば学校あるのか?今日は…)

    最原「はい… 最原ですけれども…」


    「最原終一君で間違いはないかな?」

    最原「はい… お間違えありません」

    「では、手短かに伝えるが明日の昼…… そうだな。5時間目の始業くらいまでに来てくれれば構わない。昼頃にこちらの警備員が向かう。
    外はまだ危険なことは承知の上だが大事な用事なんだ。」

    こちらが質問する隙もない一方的な要求。

    最原「あの… 電話ではダメですか?」

    「すまないがこればかりは直接顔を出して欲しい。」

    最原(どうしても直接でなきゃいけないのか…)

    最原「分かりました。では明日伺いますので…」


    電話はそこで切れた。


    最原(今のって確か希望ヶ峰学園の学長の声だよな… 一体どんな用事なんだ…)
  16. 16 : : 2017/11/16(木) 09:56:35

    最原「叔父さん… 明日ちょっと学校に出てくるんだけど…」

    叔父「なんだ…? もう学校が開いてるのか?」

    最原「いや… たぶん違うと思うけど… 明日迎えが来るらしいから…」

    叔父「断れないのか?」

    最原「それが…何か緊急の用事みたいで…」


    叔父「むぅ……」

    叔父「分かった。 くれぐれも気を付けて行くんだよ。」

    苦い顔をしながらも叔父は了承してくれた。






    そして、その翌日の事務所前はおかしな緊張に包まれていた。


    「最原 終一様ですね? お迎えに上がりました。」

    いかにも政治家とか裏社会のボスやなにかが乗るような黒い高級車が横付けされている。


    最原「じゃあ… 行ってくるから…」

    叔父「気を付けてるんだよ…」


    叔父の顔は明らかに不安そうであった。


    「先の地震の影響で道が塞がれてしまいましたから… 少し遠回りしますよ。」

    と、これは運転手。

    黒塗りのガラスの先、ビルを挟んで向こうにはまるで世紀末のような光景が広がっている。

    最原「街中に飛行機が落ちるなんて…」

    「日本だけではないんですよ… 国によっては燃え損なった人工衛星が落ちたりなんかしたそうですよ…」

    最原(地球が丸ごと震えたらしいから世界中に影響があるのは当然かも知れないけど…)



    「もしかすると… 今回の事もその件についてかも知れませんね…」

    最原「今回の呼び出しと何か関係が…?」

    「なにせあの学園に呼び寄せられているのはこの世界の『希望』と称される方たちですからね…」

    「……失礼。出すぎた事を…」

    最原「あ… いえ……」

    それっきり運転手は黙りこくってしまった。


    最原(予想もつかない…… 一体どんな話が飛び出してくるんだ………)


    車はいつの間にか校門のすぐ手前まで来ていた。
  17. 17 : : 2017/11/16(木) 10:10:44
    【Tips】

    希望ヶ峰学園

    世界中から優れた才能を持つ高校生を招集し、世界の発展のため優れた才能を更に伸ばす事を目的として建設された超特権的な学園。

    シラバス、学年制度共に独自である。

    近年では特に「魔術」について重点を置いている。
  18. 18 : : 2017/11/16(木) 10:31:07


    あれほどの大災害がありながら学園の様子に大きな変化はない。

    最原を含む130期生を除く全員が出席していない事を除けば……

    静かな廊下を抜けて教室の引き戸を開けた。


    最原「おはよう。みんな。」

    百田「おう!終一! お前が最後だぜ!」

    赤松「最原クン! 大丈夫だった?」

    最原「うん。僕は平気だよ。」

    最原「春川さんは…? あの後孤児院に向かったって…」

    春川「生きてるよ」

    最原「よかった… みんな本当に無事で…」

    百田「まぁ、殆ど全員宿舎とか学園にいたからな」

    茶柱「まったく……! 男死は時間にルーズすぎます!!」

    白銀「まぁまぁ… こうして無事が確認できたんだから…」


    最原(あぁ… よかったな… 本当にいつも通りのみんなだ……)

  19. 19 : : 2017/11/16(木) 11:08:37

    星「……再会に浸ってるところ悪いんだがよ…」

    彼の声にクラスのメンバーは振り向いた。

    星「俺達はよ… 一体何の用事でここに集められたんだ?」

    星「それこそ……外出は危険だってのに最原を呼び寄せてまでよ…」

    星クンはどこか、常に1歩引いてみんなと接してきた。

    だが、その慎重な性格こそ彼の長所でもあった。

    東条「確かに…… 私たちを呼びつけた学園長もここにはいないし…」

    王馬「もしかして… ここに集められたメンバーでコロシアイゲームが開かれたり…」

    ゴン太「えぇ!? 殺し合い!? どうして!!?」

    王馬「ウワァァーーーーァアアア!!! 怖いよぉおおおおお!! ママぁああああ!!」

    東条「………話を進めていいかしら?」

    曲者揃いのクラスは収拾のつくところを知らない。
  20. 20 : : 2017/11/17(金) 10:12:51


    最原「そうだ… 赤松さん。ちょっといいかな?」

    赤松「なに?」

    最原「その…… 少し気になってることがあるんだけど…」

    最原「今回の地震って……地球が丸ごと揺れたって言うけど…」

    赤松「うん… 最初聞いたときはそれこそ『あり得ない!』って思ってたけど…」

    赤松「それが…… どうかしたの?」

    最原「いや… どこかで地球が丸ごと揺れたとか震えたって話… 聞いたことあるなぁと思って…」

    赤松「あ~ 言われてみればちょっと覚えてるかも…… けど、地球が丸ごとって……?」


    春川「それって『折れた剣の伝説』じゃない?」

    赤松「あぁ! それだ!」

    最原「そっか…! だからどこかで聞いたことある気がしたんだ……!」

    春川「まぁ… 小さい子とかによく絵本とか読み聞かせるから覚えてたけど…」

    赤松「確か… 大地が怯えて震え上がった事を知った勇者が魔王をやっつける…… みたいな話だっけ?」

    春川「そうだね。物語の内容はだいたいそれで合ってるよ…」




    春川「だけどそれお伽噺話だよ?今回の件に何か関係あるとは思えないんだけど……」

    最原うん…… だよね… 何か引っ掛かる気がしたんだけど……」
  21. 21 : : 2017/11/17(金) 17:52:42
    真宮寺「いや… そうとも限らないと思うヨ……」

    どこから聞いていたのか、後ろに立っていたのは真宮寺 是清。

    最原「真宮寺クン……」

    真宮寺「昔話だとか人々に昔から語り継がれてきた話には人々の経験や教訓を込めて語り継がれているケースはけっこう見かけるヨ」

    真宮寺「春川さんには馴染み深いかも知れないけどウサギと亀みたいな教訓めいた昔話はたくさんあるでショ?」

    春川「まぁ… 確かにそれはそうだね…」

    真宮寺「あとは…民俗学的には専門外なんだけど イスラム教で豚を食べていけないと言われるようになったのは人々が寄生虫の被害に遭うのを防ぐためっていう説もあるんだヨ…」

    最原「そういう昔話も無下には扱えないって事か…」

    春川「じゃあ真宮寺が直接聞いてみればいいんじゃない?」

    赤松「えっ… それって……」

    春川「確か… 死人と話が出来るんでしょ?」

    真宮寺「ククク…… そうだネ… 厳密に言えばこの世をさ迷う魂限定だけど……」

    赤松「そ… それって本当に……」

    真宮寺「だけど、僕が会話出来る魂はこの世をさ迷ってる100年ほど前までの魂限定だヨ…
    僕の力でも『あの世』までは干渉できないしこの世界に100年以上留まると存在その物が消滅してしまうらしいからネ………」

    最原「あの世ってあるんだ……」

    真宮寺「非現実的かい?」

    真宮寺「けど…… 今ここにいる僕たちも… とても『非現実的』な存在と言えるんじゃないカナ……」

    最原(確かに… 簡単な物体浮遊だとか日常生活に使うような魔術だったらこの学園以外にも発現してる人はいる……)

    最原(だけどやっぱり…… これだけ特徴的な能力ってなるとな………)
  22. 22 : : 2017/11/17(金) 18:09:36
    【Tips】

    霊術

    超高校級の民俗学者 真宮寺是清の固有魔術。

    未練を残し「あの世」に召されていない魂に限って交信を行う事が出来る。また、怨念を持つ霊に呼びかけ破壊、怨嗟の欲求を満たさせるという形で戦闘に応用する事も可能。

    ただし、肉体から抜け出て100年までの魂限定。それ以上は霊その物がこの世に存在できない。
  23. 23 : : 2017/11/19(日) 19:08:42
    仁「すまない!! 遅くなった!!」

    ようやく彼らを呼びつけた張本人のお出ましだ。

    仁「申し訳ない…… 会議が思ったより長引いたもので………」

    最原「学園長……」

    夢野「それで…… ウチらは一体どうしてこんな時に呼ばれたんじゃ?」

    仁「うむ……… まずは君達に説明しなければならないが…」

    仁「さて… どこから話したものか………」

    ボヤくように小声で呟いた。

    仁「その前に少し水を飲んでも……」

    茶柱「もう!! じれったいですね!!」



    教室に大急ぎで飛び込んで来たときといい息も切れ切れだ。

    赤松「そ… そんなに大変な事なのかな…」


    王馬「もしかして、被災地域のボランティアか何かかな?」

    王馬「ほら! 俺ってタダ働きとか肉体労働とか大好きだし!!」

    夢野「ほ…本当にボランティア程度で済むんじゃろうか………」
  24. 24 : : 2017/11/19(日) 19:17:41
    仁「申し訳ない… では本題に入ろう…」

    廊下に出た学園長が戻ってきた。


    仁「みんな……先の大災害で…知り合いや、友人… ご家族に被害や…大きな混乱もあると思う…」

    仁「だけど…… ここにいる生徒全員が今ここに出席できている事はとても喜ばしい事だと思っている。」

    仁「……みんなは先の大災害について情報はどの程度知っているかな?」

    赤松「た… 確か… 地球が丸ごと揺れたとか…」

    東条「揺れその物だけじゃないわ。同時に発生した重大な電波障害のせいで… 航空機や人工衛星にも甚大な被害が出ているわ。」

    東条「現に………」

    東条の視線の先にはかの墜落した航空機があった。

    仁「そうだね… 揺れその物はそこまで大きなものではないのにここまで被害が出ている理由… まずはそこから話していこう。」
  25. 25 : : 2017/11/19(日) 21:04:40
    仁「そもそもの話……地球その物が揺れているというのが間違いだったんだ。」

    星「何……?」

    最原「それじゃあ……」

    仁「揺れていたのは宇宙全体と観測する事ができた。」


    「…………………………」


    全員一様に同じように頭の上に「?」でも浮かんできそうな表情。

    意味は分かるが理解はできないといったところだ。

    百田「ゆ……揺れたァ!? 宇宙が…… 丸ごと揺れたってのか……!!?」

    白銀「地味にスケール大き過ぎかも……」

    百田「いや、地味どころじゃねぇだろ!!!!」

    仁「もう少し正確に言うなら……」


    仁「あの大災害は我々がいる『空間』その物が揺れたと言えるだろう………」



    最原「……………」


    きっとチョコボールでも口に投げようものならそのまま口に入っていきそうな顔をしていた。


    だって宇宙だ。端から端まで410億光年だぜ?
    見えてる範囲だけで。



    キーボ「そ… それはなんというか…… 余りに現実離れしているというか……」

    王馬「だから現実だっつってんじゃん!!
    ロボットはこんなことも分かんないのかよーーーッ!!」

    最原「いや… こればっかりはキーボ君と同意見だよ…」


    入間「けどそれがオレ様達が集められてる理由と何が関係あんだよ!!」

    王馬「おっ!メスブタにしてはなかなか鋭い質問なんじゃない?」

    入間「ぴぎぃいいい…… 誉められたのぉ…?
    貶されたのぉ………??」

    最原「続きをお願いします。 先生……」

    仁「う… うむ。 さて、ここからが本題だ。」
  26. 26 : : 2017/11/19(日) 21:26:19
    仁「さて、今回の災害がどういう仕組みで発生しているのか……」


    仁「それはこの空間自身が他の空間と衝突しようとしているからだ。」

    仁「先の大災害はこの衝突の前触れに過ぎないんだ。」

    宇宙規模の災害に目を丸くしていたらお次はまた別の「空間」があるときた。

    赤松「な… なんだかスケールが大きすぎて何が何やら……」

    百田「よ… 要は俺たちがいる宇宙とまた別の宇宙がぶつかろうとしてるって事だろ…?」

    仁「その通り… 現に今も2つの空間は近づきつつあるんだ……」

    夢野「じ… じゃが…… その2つの空間がぶつかると…… どうなるんじゃ?」


    仁「………………………」



    苦虫を噛み潰したような表情のまま、なかなか次の言葉が出てこない。




    少し、長い沈黙の後……







    仁「みんな。ここからはよく覚悟して聞いてほしい。」
  27. 27 : : 2017/11/19(日) 21:50:45



    仁「もし、2つの空間がぶつかり合うような事が起きれば……」




    仁「その空間は2つとも消滅する事になるだろう……」







    「…………………………」

    再び流れるは薄暗い曇天のような重苦しい沈黙。






    最原「え……?」


    赤松「消滅……………??」


    王馬「……………」


    夢野「じ… 冗談………よな?」


    白銀「ほ…… 本当にそうなの!? 冗談とかじゃなくて………」

    東条「冗談だったら…… よかったのだけど…」


    東条「……………」

    真宮寺「………確か… 東条さんの本当の仕事って……」



    彼女はその「完璧さ」故に日本を裏からコントロールする程の存在。


    普段動揺しない彼女がここまで顔を蒼くしている。

    仁「………ここへ来るのが遅れた理由も… その混乱ゆえなんだ……」


    仁「本来これはごく一部の人間しか知ることのないトップシークレットだからね………」


    今さらになって気がついた。



    静かだった廊下がいつの間にか騒がしくなっている事。


    学園に馴染みのない国籍もまちまちの人間が出入りしている事。



    とても「ドッキリ大成功!」なんて看板の出番は無さそうだ。



    王馬「それで……?」

    ゴン太「王馬…クン……?」

    王馬「先生はいつになったら本題に入ってくれるのかな~?」


    王馬「世界が大変な事になってんのはもう分かるよ?けど……」

    王馬「『なんで』、『オレたちを』呼び出したの?」




    仁「………………」


    仁「そうだね。君達には話さなければならない事だ………」
  28. 28 : : 2017/11/19(日) 22:14:09
    仁「では… なぜ、2つの空間が引き合っていて…ここにみんなが呼び出させる事になったのか…」


    仁「それはこの空間と別空間とが(アンカー)(チェーン)で繋がっているからなんだ。」


    仁「鎖と錨はそれぞれ6対あってお互いの空間を引っ張り合っている。だから2つの空間は引き合っている。」

    仁「そして、その錨が打たれた元を辿ったところ………」




    仁「ここにいる6人に錨が打たれている事が分かった。」




    仁「赤松楓」


    仁「王馬小吉」


    仁「最原終一」


    仁「白銀つむぎ」


    仁「百田解斗」


    仁「夢野秘密子」



    仁「以上の6人だ。」


    赤松「え?」


    最原「は……?」


    王馬「………………」






    なぜ。


    なぜ自分なんだ。


    なぜあの人なんだ。


    そもそも、自分に錨が打たれているなら自分にどうしろというのか。


    自分に一体何ができるのか。


    これからどうなってしまうのか。

    様々な考えが6人の頭の中をグルグルグルグルと駆け巡る。
  29. 29 : : 2017/11/19(日) 22:31:14





    沈黙。



    この教室に入ってからというもの沈黙が多い。




    鉛のような重苦しい沈黙。



    口火を切ったのは彼だった。


    百田「それで……」

    百田「それで……… 俺たちはどうしたらいいんだよ………」

    夢野「う……ウチには見えんぞ…そんな鎖……」

    白銀「そりゃ…… 私にだって見えないよ!」


    仁「勿論、肉眼で見える物ではない。魔術に通じた君達であってもね……」



    仁「とにかく、このままでは2つの空間の衝突は時間の問題だ。」


    白銀「じゃあ…… 私たちに死ねって言うんですか?」

    赤松「白銀さん………!」


    赤松が制するがここにいる6人が多かれ少なかれ頭をよぎった事だ。


    仁「違う……!! そうではない!!」


    学園長はハッキリと、大きな声で否定した。

  30. 30 : : 2017/11/19(日) 22:53:08
    仁「そうではない。 この世界を救う方法も…」

    仁「君達が死なずに済む方法もちゃんとある!!」


    仁「あるが……」


    最原「先生……何ですか? その方法は……」

    赤松「教えて下さい。先生…」



    仁「うん…… まったく… 私がしっかりしなければならないと言うのに……」


    学園長は顔を上げ、まっすぐにこちらを見つめる。


    仁「君達に打たれた空間の錨は君達の魂…… 魔術を直接行使する霊体に繋がれている。それは恐らく向こうにいる6人にも同じ事が言えるだろう。」

    最原「やっぱり… その別空間の人間にも錨があるんですか…」

    仁「うん。観測の結果からして十中八九間違いはない。」

    仁「したがって… 君達を殺しても解決にはならない。肉体から離れれば魂に直接手出しはできなくなってしまうからね。」

    仁「それに、厄介な事にこの6つの錨はこの空間その物にも投錨しているとも言えるんだ。」

    百田「つ… つまり……?」


    仁「君達に打たれた錨はこの空間の存在を安定させる物であり… これを破壊されればこの空間は存在できなくなる。」

    仁「だから仮に魂に手を出せてもそれはこの空間にとっては自殺行為だ。」

    百田「ま… マジかよ……」

    夢野「で…では……その錨を切ったらどうじゃ?
    そしたら2つの空間は引き合わんじゃろ??」

    白銀「そっか! それなら…!」

    仁「残念ながら… それは意味がない。」


    仁「鎖の方はあくまで錨同士が引き合う力が具現化したもの… 対をなす錨が存在し続ける限りこの鎖は何度でも繋がり続ける。」

    白銀「そんな…」


    王馬「じゃ、どうするのって話だけど……」

    王馬「いよいよこの話のメインってワケだね!」


    仁「流石に察しがいいね…」

    仁「錨を放置しておけば2つの空間は引き合ってやがて衝突する。錨はこの空間の存在を安定させるための物であり君達の錨を破壊することも鎖を断ち切ることも不可能。」


    仁「この世界が助かる方法は………」















    突然、自分がこの世界において途方もなく重大な存在である事を知らされた6人のみならず。


    その場にいる全員が思わず生唾を飲み込んだ。





    仁「この世界が助かるには…… 相手側の錨を破壊する。それしかない。」

  31. 31 : : 2017/11/19(日) 23:12:42
    王馬「もーーだからじれったいんだって!!」

    最原「王馬クン…!?」

    王馬「茶柱ちゃんじゃないけどじれった過ぎんだよ先生!! もっとハッキリ言ったら!?」

    茶柱「ちゃん付けなんてやめて下さい。虫酸が走ります。」

    赤松「確かに相手側の錨を壊すって言われてもどうしたらいいんだろうって思うけどさ……」



    仁「………しかない…」


    最原「え……?」


    刹那、最原は自身の耳を疑った。


    仁「相手側の錨の持ち主を…… 殺すしかない。」





    最原「な……ッ!!」

    百田「あァ……!?」

    赤松「そ…… そんな………」



    王馬「ふぅん… だけどさ… 肉体が死んだら魂が肉体から抜けて手出しできなくなるんじゃなかった?」

    仁「それには例外がある。」

    仁「君達の持つ魔術…… それで相手側を攻撃すれば… 魂ごと相手の錨を破壊する事ができる。」


    仁「ただし、これが可能なのは同じく錨を持つ者だけだ…」

    赤松「魂ごと……って…」


    仁「うん。相手は死ぬどころか… 冥界にもたどり着けない。」



    仁「そして……」







    仁「錨を失った側の世界は消滅するしかない。」



    百田「おい… 待てよ…… それって………!」


    王馬「オレ達6人で相手側の6人を殺して相手側の空間も潰すしかないってことだね!」



    仁「……………ッ!!」




    彼は嬉々として、飄々と答えた。
  32. 32 : : 2017/11/20(月) 11:19:37
    赤松「空間を潰すって………」

    最原「王馬クン……… 少しは先生やみんなの気持ちも考えて…」

    百田「そ… そうだ! 俺達が別の世界を破壊するなんて……!!」

    王馬「考えてるよ? だって仕方ないじゃん。
    そーゆー事なんだもん。」

    王馬「でしょ?」


    仁「………………そうだ。」

    仁「君達にしかできない事だ。」


    仁「それに…… 時間もそこまで残されているわけではない…」

    仁「さっきも言ったが… これは宇宙規模の災害だ。2つの宇宙を巻き込む程のね……」

    仁「このままでは2つの宇宙は共倒れだがどちらか1つは生存する。」

    白銀「けど……逆を言えば………」



    彼らは単に6人の敵を殺すのではない。




    もう1つの宇宙に住まう森羅万象 天地万物
    一切合切。



    その全てを消滅させるのだ。






    王馬「なるほどなるほど……… オレ達が何をしなきゃならないかはよ~く分かったよ。」




    王馬「つまらなくは無さそうな『ゲーム』だよね!!」
  33. 33 : : 2017/11/20(月) 11:22:42
    夢野「んあ……!!?」

    白銀「ちょっと……!!」


    百田「テメェ……… 今までの話聞いてなかったのかよ…?」


    王馬「え? 百田ちゃんには聞いてないように見えた?」


    百田「そうじゃねぇよ!! 分かってんのか!!
    俺達の手で6つ全部の錨の持ち主を倒さねぇと……!!」


    赤松「それだけじゃなくて…… もし… 私達が勝ったとしても…………」


    赤松「一体………何人が犠牲になるのか…………」



    王馬「関係ないでしょ。那由多だろうが阿僧祇だろうが統計だよそんなの…」


    百田「統計……ッ!? 統計だとテメェ!!」

    百田「その那由多とか阿僧祇の向こうの空間の住人だって…………」



    百田「全員生きた命じゃねェか!!!!」



    百田「例え、俺達が生き残るためにそれだけの人数を…犠牲にするしか道はねぇとしてもよ……………」

    百田「その生きた命を粗末にするのは俺が許さねぇぞ!!!!」

    最原「百田クン……」




    王馬「はァ…………」



    王馬「やっぱバカだなぁ。百田ちゃんは………」



    それの表情は普段ゴン太等に向ける冗談めいた表情ではなく………


    心底呆れ返った落胆したような表情であった。



    王馬「だからさ、要は戦争(ゲーム)なんだってば。」


    百田「テメェ…………! いい加減に…………ッ!!」

    王馬「先生さぁ! ちょっと質問あるんだけどいいかなぁ!」

    百田の怒りを嘲るように遮った。

    王馬「その相手側の錨の持ち主ってさ、やっぱオレ達みたいな魔術を使えんの?」

    仁「恐らく… その可能性は非常に高い。いや、ほぼ確実といっていいだろう…」

    仁「錨の持ち主は特に強力な魔術が発現するからね………」

    王馬「ハハッ! やっぱそうなんだね! ありがと先生!」

    百田「いい加減にしろよ!!!! お前ッ!!!!」


    最原「百田クン!!」

    心頭に発する百田は王馬の胸ぐらを掴んだ。


    百田「テメェはさっきからゲームゲームって……
    人の命を何だと思ってんだよ!!!!」


    白銀「そうだよ!! 本当にとてつもない数の人たちの命がかかってるのにゲームだなんて……!!」


    王馬「そうだよ!! 闘争(ゲーム)だよ!! 生存競争(ゲーム)だから負けたくないんだよ!!!!」


    王馬「戦い(ゲーム)をする以上絶対負けたくないんだよ俺は!!!だから真剣にやんだよ!!!!」




    王馬「それにせっかくオレがみんなに余計な気を背負わせないように気を遣ったっていうのにさ……」





    王馬「ま、これもウソかも知れないんだけどねーー!!」







    国と国とが殺し合う戦争も


    その後の人生を賭けた受験だろうと


    因縁のライバルとの果たし合いも。



    総ては勝ち負けがあり、「ゲーム」であると言える。



    彼に言わせれば命、人生、名誉がかかっているだけに過ぎない決闘(ゲーム)なのだ。
  34. 34 : : 2017/11/20(月) 17:24:05


    最原「けど… 僕たちは何をしてればいいんですか?」

    仁「………相手がこの事を察知していれば向こうからやって来るかも知れない。」

    仁「だが今はどうにかもう1つの空間とのアクセスを試みている。」

    仁「君達の鎖も大きな観測所であれば辿る事ができる。 今は2つの空間の境界が曖昧になりつつあるから程なくアクセスも確立されるはずだ。」


    仁「人類の叡知と持てる魔術の全てを費やしてね。」


    仁「みんな…… 今日は色々な事を知らされて… 本当に疲れたと思う。」

    仁「いつ転送が始まるか分からないし… また向こうから刺客がやって来ないとも限らない。
    みんな今日のところはしっかり休んでくれ。」

    最原「…………分かりました。」













    この世界に起こっている事。


    自分がしなければならない事。


    それが達成されねばどうなるか。


    分かりはするけど飲み込めない。




    その日は全員、神妙な面持ちでそれぞれの自室へ戻るのであった。
  35. 35 : : 2017/11/20(月) 17:46:25
    【Tips】

    折れた剣の伝説

    ※概略

    1章

    その昔、大地が揺れ、震えた。

    古代人はこれを神の裁きと怖れ多くの生け贄が捧げられた。

    しかし、それは神々の怒りではなく大地の恐怖であった。

    勇猛果敢、魔術にまで通じていると知られたある街の青年が大地の化身の住まう火の山を訪ねると大地の化身は答えた。

    「我々… いや、この世の森羅万象は間も無く消え去る。これは覆らぬ神の意志である」と。

    憤慨した青年は長年共に戦場を渡り合った長剣と5人の仲間を連れ神との戦へ赴く。



    ※中略(道中の戦い、ルートについては国や地域ごとに差がある。)


    数多の試練を乗り越え、仲間を失いながらも青年はとうとう神々の玉座へとたどり着く。

    その威光に怖れる事なく青年は立ち向かう。
    しかし、神の力凄まじく愛用の剣も砕け散る。

    それでも青年は諦めない。折れた剣を手に再び神へと立ち向かう。青年の仲間の1人が目にした最後の青年の姿。



    それから青年の姿を見た者はただの1人も現れない。


    ただ、彼が例え剣が折られようと連れ添った仲間を失おうと。

    立ち向かい、この世界が存在し続けている事は紛れもない事実だ。





    世界中に似たような伝承が残されている。
  36. 36 : : 2017/11/21(火) 22:31:59


    次の日。


    目覚めた先にあるのは寄宿舎の天井だった。

    最原「いつのまにか寝てたな……」


    昨夜はあれやこれやと考え考え、眠れる気など起きなかったが


    最原「そういえば朝はどうしようか…」

    こんな状況では食堂ですら開いてはいないだろう。


    すると、個室の呼び鈴が鳴った。

    赤松「最原くん? 私だけど?」

    最原「え……ッ!? ち…ちょっと待って!!」

    最原(うわ… なんだこの寝グセは……)

    そういえばまだ寝間着のままだった。




    大急ぎで身支度を整えると彼女は扉の外で待っていた。

    赤松「おはよう! 最原クン! その… 昨日はよく眠れた?」

    最原「うん… なんかいつの間にか寝てたみたいでさ…」

    赤松「そうなんだ… やっぱ探偵ってからには肝が据わってるのかな?」

    最原「いや…たぶん、そんなこともないと思うけど…」

    赤松「あっ! そうそう! 今日は本当は食堂はやってないけど東条さんが朝ごはん作ってくれたって!」

    最原「あっ それで起こしてくれたんだね。ありがとう」

    赤松「えっ? もしかして私が呼びに行くまでずっと寝てたの?」

    最原「い、いや! ちゃんとその前には起きてたから…!」
  37. 37 : : 2017/11/22(水) 13:40:54

    食堂の扉を開けると既に見慣れた顔が並んでいた。

    夢野「また最後じゃなぁ最原」

    茶柱「ほら! 早く席に着いてください! あなた待ちですよ!!」

    最原「う…うん!」

    茶柱に急かされて少々慌てて座った。

    東条「みんな揃ったのね。 どうぞ。冷めないうちに…」


    赤松「わぁ…」

    百田「すげェ……」


    まるで一流ホテルの朝食のようだ。

    東条「学園長先生に厨房と食材の使用許可を頂いて作ってみたの。」

    百田「あぁ!! 最高の味だぜ!!」

    ゴン太「ダメだよ! 紳士は食事の前に挨拶しなきゃ!」

    最原「いただきます。」


    東条「みんな…… こんな状況で大変かも知れないけどしっかり栄養つけてね」

    赤松「東条さんは……」

    東条「大丈夫。 私1人がいなくなったところで何も出来なくなるほど頼り無い人達じゃないわ。」

    赤松「それもそうだけど… 東条さんも食べようよ!」

    東条「大丈夫よ。 体調管理もメイドの仕事だもの…」

    東条「それから… 最原くん。」


    最原「え? 僕…?」

    東条「後で話したい事があるから… 食事の後来てくれないかしら?」

    最原「わ、分かった…」


    王馬「何なに? ママ愛の告白??」

    白銀「ありがちだけど尊い……! けど、地味に死亡フラグじゃない……??」

    春川「縁起でもない……」

    最原(春川さんに言われるとなんだか妙に説得力が…)

    東条「ただの野暮用よ。」


    ほんの少しだけ彼は落胆した。
  38. 38 : : 2017/11/22(水) 14:00:47


    豪華な朝食を済ませると教室から少し離れた廊下で話す事になった。


    東条「ごめんなさいね。呼び出して… 早速なんだけど……」

    何かを察知した東条は最原の背後に向かって走った。



    王馬「たはーー! なんでバレちゃったかな~」

    東条「あっちに行ってて頂戴。」



    東条「さて、本題に入ろうかしら…」

    王馬をつまみ出した東条が戻ってきた。


    東条「最原君。もし、万が一にもあなた達が負けるような事になれば…… 私たちはどうなると思う?」

    最原「そ… それは… この世界丸ごと消滅するわけだから… その……」




    最原「死……………」





    東条「そうね。だけどそうならない対策もされているわ。」


    東条「私達に限ってね。」

    最原「どういう事……?」

    東条「私達がここに集められている事にはもう1つ理由があるの。」


    東条「学園長先生も言ったけど… 今、世界中の技術を集めて異空間への門を開こうとしている…」

    東条「それは例の錨の持ち主を倒すためでもあるけど…」

    東条「実際はあなた達が敗れた時の保険というところが大きいわ。」


    最原「じゃあ… 僕たちが負けたら… それを使ってみんなを……」


    東条「そうよ。 だから私たちはここにいるの。」


    東条「この空間が消え去る事になった時… この地球の子孫を生き残らせるためにね……」
  39. 39 : : 2017/11/23(木) 00:22:42

    東条「そして… あわよくばこの世界の仇をとるためにね…」

    最原「………」

    東条「これが………今の日本の… いえ、世界中の方針よ。」


    最原「どうして……」




    最原「どうして僕にそんな事を………」


    東条「錨を持っている人の中では… あなたが一番話すのにふさわしいと思ったからよ。」


    東条「自分に自信を持って」


    最原「ありがとう……! 東条さん! 僕も頑張るから……!」



    最原(そうだよな… これはもう僕達だけの問題じゃないんだ…)

    最原(……そうだ。 叔父さんにまた長くなるって連絡しないと…)
  40. 40 : : 2017/11/23(木) 00:39:20


    最原は廊下に残り携帯を取り出した。


    最原(………やっぱ繋がりにくくなってるのかな…?)


    例の災害の影響で電子機器にも悪影響が発生している。


    最原(まぁ、いいや… 全く繋がらないってわけでも…………)









    耳にコール音を聞きながら背中に氷柱をぶちこんだような悪寒が走る。


    彼に備わった「それ」はいち早く「殺気」を感知していた。




    最原(魔術使い……………………!!!!)


    咄嗟に身体を屈めると頭上を紫電が突き抜ける!


    最原「うわっ!!!」

    一刀をかわしたのも束の間。

    身体を傾け過ぎた彼は床に崩れ落ちる。



    燕のように白銀の閃光が切り返し、目前に迫っていた!!


    即座に横に転がる事で太刀筋から彼は逃れた。



    「今の攻撃をかわすとは……… 察知能力に優れた魔術のようだな………」


    綺麗に整え結わえられた銀色の髪。

    切れ長の目尻に紅の瞳。


    背中には空の竹刀袋を背負ったセーラー服の少女が立っていた。




    はたと見れば鋭い目付きの端正な剣道少女。


    手の内にあるのが日本刀でさえなければ。

  41. 41 : : 2017/11/23(木) 00:57:58

    最原「お……お前は…………!!」

    「…………その様子だと『事情』はしっかり把握しているようだな………」


    最原(コイツ……… やっぱり……!!)


    「なるほど。 威力偵察に留めておくところだったが…………」





    「錨を1つ消せるならその方が効率がいい。」




    ゆらゆらと妖しく輝く刀を少女は構えた。


    最原(どうする………!? 僕の…… 僕の力で何が………………)




    最原(何ができる……………………ッ!?)


    時間にして0.5秒。最原は目の前の少女から意識を外した。



    そのコンマ数秒は命の獲り合いに決着を付けるには十分すぎる時間だ。



    最原「うッ………!グッ!!」


    胸部を一文字に玉鋼が通過する。



    次に視界に入ってきたのは赤い噴水。


    最原「あぁぁ…… ぁあが……っっ!!」



    膝が震える。


    視界が霞む。


    呼吸が乱れる。



    そして、閃光は再び旋回し斬り返す。


    咄嗟に身体を仰け反るが……



    既に遅し。


    最原「は……!! かはっ!!」



    鼓動のリズムに合わせて血が吹き出し


    創口からは息が漏れ出す。




    彼は重力に引きずられ床に崩れ落ちる。

  42. 42 : : 2017/11/23(木) 01:05:28


    最原(そ……んな……)



    最原(こんな事って…………っっ!!)



    「終わりだな。」




    「一撃で決められず申し訳ないが………」





    「悪く思うなよ………」





    最原(マズイ……! これは……!!)



    最原(早く……誰かに…………!!)





    断頭台のギロチンのように白い刃がかざされる。


    「……っ!」


    視界の隅から飛翔した物体を彼女は軽く身を捻ってかわす。



    「………モップ?」


    東条「さ………」



    東条「最原君!!!!」

  43. 43 : : 2017/11/23(木) 01:23:11


    「なんだ? お前は…………?」


    「ふむ…… お前も魔術の素質はあるようだが
    てんで戦闘向きではないではないか。」


    東条「……そうかしら? 主人を護るのも…メイドの務めよ………」



    「そうか…… なら…………」



    「護ってみせろ…………」



    赤松「最原クン!!」


    東条「あ…赤松さん!?」


    百田「終一!! 大丈夫か!!? 返事をしろーー!!」




    「クッ…………」



    東条「みんな…… どうして!?」


    「まぁ、偵察としてはこんなものか………」



    少女が合図をすると、そこに…いや、何もない空間に穴が広がった。



    「機会があればまた会おう、異世界の魔術師たち………」



    百田「待ちやがれ!!!! テメェ終一に何を……………ッ!!!!」



    百田の怒りに目もくれず、その少女は穴の中へと消えていった。


    赤松「最原クン…! 最原クン!!」


    東条「まだ命はあるわ…… だけど… 急がないと手遅れになるわ…」


    百田「終一!! おい! 目を開けろって!!」




    拡がっていく紅い血溜まりに比例して彼の顔からは生気が消えていった。


  44. 44 : : 2017/11/23(木) 01:25:02



    【前哨戦】



    最原 終一 対 ??? ???



    最原 終一 戦闘不能。


    ??? ??? の勝利。
  45. 45 : : 2017/11/23(木) 02:20:39




    少女は元いた世界へと帰還した。


    「ペコ!! なんだその返り血は!!」


    「お前の任務は偵察だって言っただろうが!!」


    辺古山「申し訳ありません。潜入した先で錨の持ち主がいたので… 少々交戦を……」

    九頭龍「ったく… 本格的な作戦はまだこれからだってのによぉ……」


    狛枝「まぁまぁ… こうしてケガもなく帰って来たんだからさ…」

    狛枝「幸運にもさ…」


    九頭龍「おめぇまさか…手前(テメェ)の能力をペコに使ったってのか? 」


    狛枝「そんなぁ! ボクごときの能力で辺古山さんを手助けするだなんて…おこがましいにも程があるよ!!」


    雪染「はいはい! そんな風に言わないで!
    みんな!! 辺古山さんの報告を聞きましょう!」



    ここは、小説より奇なる現実より少しだけ奇妙な魔術の世界。


    人々の暮らし、文化、文明に深く魔術が根差した世界。
  46. 46 : : 2017/11/23(木) 02:30:29

    雪染「それで辺古山さん! 報告をお願いできる?」


    辺古山「はい。私が先遣としてもう一方の錨が打たれた世界… 所謂異世界へ偵察に出たところ…」

    辺古山「敵は魔術より科学に重きを置いて発展した世界のようです。」

    辺古山「それもあってか… あの世界の魔術は研究されてから日が浅く…」


    辺古山「魔術師の練度にも未熟さが見られます。」


    辺古山「それは錨の持ち主にも同様に言える事です。」


    辺古山「我々の力をもってすれば… 負けるような事はほぼ無いと考えます。」

    雪染「なるほどね…… ありがとう! 辺古山さん! 率先して危険な役割に立候補してくれて… 貴重な情報が手に入ったわ」

    雪染「みんな…… 正直、世界は今とてもとても由々しき事態に陥っているわ。」

    雪染「だけど… 私はこのクラスのメンバーなら… この世界を救えると信じてるわ!!」




    雪染「だから…… みんなでこの危機を乗り越えましょう……!!」


    この77期生の担任兼、学園の責任者である彼女は教壇に立ち、生徒を鼓舞する。
  47. 48 : : 2017/11/23(木) 22:27:01
    雪染「何せ…… 我が希望ヶ峰学園魔術学園の誇る77期生… その中から更に選ばれし精鋭だもの!!」

    小泉「選んだのは私たちじゃなくて『時代の錨』なんじゃ……」

    日向「まぁ…いいんじゃないか? ここにいるのは世界中で優れ最もた魔術師なんだろ?」

    狛枝「そうだね。君も一応は錨に選ばれた『才能ある』高校生だからね」

    日向「なんだと……」


    小泉「はいはい!そこまで!! 狛枝もいちいち突っかからない!」

    左右田「んで? 俺たちは次に何すりゃいいんだ?」

    小泉「もう忘れたの?万に1つ向こうからの魔術師の転送に備えてここに2人置いてあとは向こうの世界に転送でしょ!」

    小泉「そうだったよね? 七海さん」

    七海「うん。それで… 誰が残って誰が向こうの世界に行くかだけど…」

    西園寺「あーあ。こんな腐れ童貞が錨の持ち主だなんて日向おにぃよりよっぽど意味分かんないよ」

    左右田「うるせぇな!! 作戦を確認しただけだよ!!!」

  48. 49 : : 2017/11/23(木) 22:53:41

    七海「おほん…… それじゃあ分担を始めようか…」


    【希望ヶ峰魔術学園 錨の持ち主】

    日向 創

    狛枝 凪斗

    左右田 和一

    七海 千秋

    辺古山 ペコ

    小泉 真昼



    七海は黒板に自らを含めた6人の名前を並べた。

    七海「う~ん… どうしようか。」

    小泉「やっぱ…… こうして見るとスゴい魔術のメンバーだね…」

    田中「フン…… いずれも地獄の悪鬼のごとき力の持ち主よ…」

    ソニア「確かにみなさん個性的な能力の持ち主ですが…」

    罪木「あっちの世界の環境は魔術や体調には影響はないんでしょうか…」

    辺古山「大丈夫だ。 実際に行ってきたが魔術的にも生存にも問題ない。 いかんなく力を発揮できるはずだ。」



    七海「じゃあ… 向こうの世界に行きたい人…」
  49. 50 : : 2017/11/24(金) 00:43:17

    辺古山「私は既に1度向こうへ出向いている。 もう1度行くのも問題はない」

    日向「俺も……」


    日向「俺も…… そのもう1つの世界ってのに行ってみようと思う。」


    七海「これで辺古山さんと日向くんは決定かな?」

    七海「他には…?」

    左右田「俺も向こうの世界には興味があるな!」


    左右田「俺も立候補するぜ!!」

    七海「これで左右田くんも決定で……」

    狛枝「じゃあ… ボクは待ってる事にするよ。」


    七海「小泉さんは?」


    小泉「えっ? うん…… そうだね…」

    小泉「左右田じゃないけど… 私もこことは違う世界を見てみたいっていうのもあるし……」


    小泉「写真に収めたいって思ったんだよね…」


    日向「小泉………」


    小泉「けど… 私も待ってようかな。」

    七海「じゃあ、あとはわたしだね。」


    七海「みんな? これでいいかな?」


    遠征メンバー

    辺古山 日向 左右田 七海

    待機メンバー

    狛枝 小泉



    狛枝「うん! 異論無いよ。 見事な采配だね!」

    左右田「よっしゃ!! いっちょやってやるか!!」


    雪染「ありがとう。七海さん。 みんな…」


    日向「……………………」
  50. 51 : : 2017/11/24(金) 01:36:40



    日向(みんな平気なのか……?)

    日向(そりゃ確かに……俺たちがしなきゃならない事なんて分かってる。)



    日向(だけど……)



    顔を上げてもいつもの面々に大きな変化はない。

    まるで修学旅行の班分けみたいな雰囲気だ。



    日向「なぁ……小泉?」

    小泉「え? 何よ?」

    日向「お前は……平気なのか?」

    小泉「平気って………」


    日向「分かってるさ… 俺たちが為すべき事をしなきゃ…この世界が消えちまうってくらい…」

    日向「分かってるけど… これから俺たちは世界を1個消すんだぞ…?」

    小泉「分かってるよ! だけど………そんな事気にしてたって仕方ないじゃん!!」

    小泉「負けたらみんな死んじゃうんだよ!!!! そんな事ぐらい私だって分かってるよ!!!!」



    小泉「分かってるけど………」



    小泉「せめて今くらいは…… 忘れさせてよ…」


    七海「…………」


    左右田「………………」



    少し考えれば当然の事。


    ここにいる誰もがその事を理解していない筈はない。


    日向「わ……悪かった…! 小泉! お前の気持ちも考えず…………」

    狛枝「はぁ…… 錨の持ち主ってからには少しは見所のある魔術師かと思ってたんだけど……」

    狛枝「やっぱり性根は予備学課のクズその物だったね……」

    日向「…………ッ!」

    狛枝「オマケに使える術式といえばあれっぽっちなんだもんね…… 錨の持ち主を選んだ人物がいたらとんだ選択ミスだよね……」

    雪染「その辺にしておきなさい。狛枝くん。」


    日向「いえ…………」


    日向「狛枝……」

    日向「汚名は実績で返すぞ………!」

    狛枝「そ、がんばってね」
  51. 52 : : 2017/11/25(土) 14:56:20

    【Tips】

    希望ヶ峰魔術学園


    日向達の住まう空間における「希望ヶ峰学園」。
    魔力に溢れ、まるで電気や電波のように魔術が普及した世界において選りすぐれた魔術師(高校生に限定)を集める特権的な学園。
    最原達のものとは違い「予備学課」が併設されており、特に秀でた魔術を持たずとも「希望ヶ峰魔術学園」のブランドを求め入学する、させる者も少なくない。
  52. 53 : : 2017/11/25(土) 15:07:01

    自分たちは特例的に集められた生徒であるため授業は特に無い。

    呼び出しがあるまでは基本、自由行動だ。



    七海「日向クン!」


    日向「なんだ……… 七海か…」

    七海「どうしたの。そんなところで外なんか眺めて…」

    日向「………何でもない。」

    七海「気にしてるの…? 狛枝クンの言った事…」

    日向「まぁ……少しはな…」

    七海「日向クンの魔術だって立派な才能じゃない!」

    七海「だって… その気になれば隕石だって止められるんでしょ!?」

    日向「まぁ…… 巨大隕石とかじゃなきゃ全力でやれば……」


    七海「それってやっぱりスゴい事だよ! 日向クンだって……」

    日向「けど…… だけど俺の魔術はお前達の魔術とは違うんだぞ!!」

    日向「ニセモノなんだよ………!! 俺の術式なんて!!」


    七海「そんな事……… 一体誰が決めたの?」

    七海「日向クンの魔術は魔術。それはまやかしでもなければ確かに日向クンが持ってるものでしょ?」

    七海「その魔術で多くの人が助かったのは紛れもない事実でしょ?」


    日向「………………っ」





    日向は内心、ますます自己嫌悪に陥った。


    彼は生まれついてより人々が「普通に」使う魔術は使えなかったが「これ」に至っては誰にも負けない程の自信もある。

    しかし、魔術の世界において「これ」は特例であることは事実である。



    彼は、「人を助けたい」「誰かを救いたい」という思いでこれまで「これ」を使って人助けを行って来たのではなかったのた。


    (特例じゃない… ウソじゃない……… ニセモノじゃない!!)


    そう言い聞かせてきた自分こそ最もたるウソ。



    日向「…………あぁ… そうだったな… ありがとう、七海……」



    日向「……………………」
  53. 54 : : 2017/11/25(土) 15:54:52


    七海「じゃあ… わたしからも1つ聞いていい?」

    日向「あぁ… なんだ?」

    七海「『大魔王』ってさ… 本当に大魔王だと思う?」

    日向「どういう事だよ………」


    七海「うん…… 大魔王っていうとさ、世界を支配するために魔物を従えてるボスだけどさ…」

    七海「もしそれが魔物を助けるためだったとしたらどうなのかなって」

    七海「実はね… さっき日向クンが小泉さんに言ってた事…わたしも少し考えてたんだ。」


    七海「まぁ… みんな敢えて言わないようにしてるのは分かったけどさ……」

    七海「もし… わたし達が勝てば…… この世界の人は『勇者』って言うかも知れないけどさ……」


    七海「向こうの世界の人からしたら悪魔とか……それこそ……」


    日向「『大魔王』ってことか………」

    七海「…………」


    七海「ねぇ、本当にもうどちらか1つの世界が滅びるしか道はないのかな?」

    七海「両方助ける方法だって……!」

    日向「それは……!」



    日向「それがあったら…… みんなそうするだろう…………」


    七海「……そうだよね… ごめん…」



    日向「いや、俺も考えてた事だし……それに…」


    日向「俺たちはただ『大魔王』ってだけじゃない。」


    日向「『勇者』になれる側面だってある。」


    日向「だから…… 俺たちは……」


    日向「ただ人間を制圧するだけの魔王じゃない。」


    七海「……ありがとう。 日向クン……」


    七海「頑張ろうね…… お互い、大魔王兼……」


    日向「勇者だな。」
  54. 55 : : 2017/11/25(土) 21:21:00



    視点変わってここは最原達の希望ヶ峰学園。


    ここではいよいよ決戦に備えて大騒ぎだ。


    「転位座標に誤りはないか!?」

    「各発電所に連絡!! 出力を更に上げろ!!」

    赤松「最原クン……………」


    仁「申し訳ない…… 我々が事前に察知できていれば…」

    仁「東条さんの応急手当のおかげでなんとか一命はとりとめたものの……」


    仁「目を開けるかは彼にかかっている……」

    百田「クソッ!! 終一…………!!」


    仁「それと…… 彼は昏睡する前… こんな事を言っていた…」




    仁「『彼女は鬼神だ』と………」



  55. 56 : : 2017/11/28(火) 20:33:42


    夢野「鬼神…? 鬼神とは一体どういう事なんじゃ…?」

    白銀「たぶん… 最原くんの事だから… 彼女の能力に関係しているのは間違いないと思うけど……」



    赤松「これが… 現実……」

    赤松「そうだよね…… 向こうだって本気なんだから…」


    百田「んなこたぁどうだっていい……!! 俺は終一にこんなマネしたヤツをぜってぇ許さねぇ……!!」

    王馬「許さないで…… どうするつもりなの? 百田ちゃん…」

    百田「決まってんだろ!! 必ず見つけ出してブッ」

    王馬「ブッ殺すの?」

    王馬「矛盾してるね… こないだは命を粗末にするヤツは許さないとか言ってたじゃん」

    百田「何言ってやがんだ!! それとこれとは……!!」


    赤松「やめようよ……! こんな時に!」



    「……学園長。転送の準備が整いました。」

    仁「そうか。御苦労……」


    仁「全員、それぞれ思うところはあると思うが… いよいよ転送の準備が整った。」

    仁「恐らくは向こうから仕掛けて来るという事は分かっている。だが、我々も… 君達も… ただ胡座をかいて待っているだけなんてできないだろう…」


    仁「2つの空間の境目が曖昧になっている事もあって……前回の向こうからの転送の跡… つまりは足跡のような物を辿る事で向こうの世界の座標を見つける事ができた。」

    仁「そして… 人類初の空間の転送が行われようとしている…」


    仁「だが、技術的にもまだまだ疑問が多く転送に関して絶対の保障はできない。」


    仁「それでも…… 人類の未来のため… 転送を希望する者はいるだろうか…?」
  56. 57 : : 2017/11/30(木) 12:01:48


    百田「俺は行くぞ!! 終一に傷を付けた落とし前は俺がつけてやる!」

    王馬「まぁ、最原ちゃんを襲ったヤツとすれ違いにならないといいけど…」


    仁「他に…… 誰かいるかな?」





    2人目が立候補するには少し時間がかかった。




    赤松「あの………」



    赤松「私が…立候補しようかな……」


    アンジー「楓も終一の事怒ってるの??」

    赤松「ううん…… でも… 怒ってないわけでもないんだけど…」

    赤松「…って! いつからいたの!?」

    アンジー「ついさっきだよ~ こないだから神さまにお祈りしてたからね~」
  57. 58 : : 2017/11/30(木) 14:43:13

    真宮寺「ずいぶん熱心なお祈りだネ…」

    アンジー「そりゃあもう楓や終一が無事でいられるようにうんとお祈りしたからね」

    春川「最原はもう無事じゃ済んでないでしょ…」


    アンジー「だいじょぶだよ~ 『まだここで死ぬ定めではない』って神さまも言ってたよ~」

    白銀「なんか… 地味に俗っぽい神さまというか…」

    アンジー「それに万が一、終一に何かあってもブロンドで色々おっきい神さまが待ってるってさ~」

    赤松「い…… 色々って…」

  58. 59 : : 2017/12/04(月) 00:35:26

    赤松「神さまなんて… いるのかな……?」

    アンジー「神さまが与えてくれるのはいつだってお恵みだけとは限らないんだよ~」

    アンジー「神さまは気まぐれだからね~」

    白銀「地味に… 大変すぎる試練だね…」

    アンジー「主は言いました… クリスマスにはみんな帰れると……」


    白銀「だからそれ死亡フラグだって!」

    アンジー「だけどね、楓。」



    アンジー「神さまはいるよ。」

    アンジー「神さまは楓や終一や… みんなの事ちゃんと見てるよ。」


    赤松「うん… ありがとう。アンジーさん…」


    赤松(アンジーさんなりに… 励ましてくれたのかな?)


    「学園長。そろそろ……」


    仁「早いな…… もう仕掛けて来るか……」


    仁「では… 急ぎになるが転送希望者は私に着いて来てくれ。 他のメンバーは敵の降り立つ座標に送迎する。そこからは係の者が担当する。」


    王馬「なんだかワクワクしてきちゃうよね!いいな~ 空間を越えて転送なんて超偉大じゃん!!」

    赤松「私は…そんなにワクワクしないかな…」

    百田「それならなんでオメーは希望しなかったんだよ?」

    王馬「え? だって俺は悪の総統だよ? そーいう危険な事はトップ自らがやることないんだよ!」

    白銀「じゃあ… みんなお互いに頑張ろうね…」


    夢野「さて… ウチの魔術…… 見せてやるかの。」

    茶柱「夢野さん…… 出来れば… 可能なら転子が変わってあげたいです………」

    夢野「やめい…… それに聞いたじゃろ… 錨を壊すのはウチらでなければならぬ……」

    夢野「………転子はウチを信じて待っておればよい。」


    東条「信じてあげましょう…… 信じる事も立派な役目よ」

    茶柱「分かりました…… 夢野さん… どうかご武運を!」


    仁「さぁ… 時間がない。 みんな頼んだぞ!!」
  59. 60 : : 2017/12/04(月) 01:21:03


    希望ヶ峰学園の地下深くにそれはあった。


    百田「すげぇ……」

    赤松「こんな物を地下に作ってたなんて……」


    仁「世界中から集められた人材と知識で24時間ノンストップで作業が進められたからね。」

    仁「すまない… 本来大人たちが解決すべき事を…」

    赤松「だ…大丈夫です! 覚悟は決まってます!」

    百田「あぁ!! いつでも始めてくれ!!」


    仁「ありがとう。 本当にたくましい生徒を持ったものだ…」


    「さぁ… こっちです…」


    仰々しい金属製の輪やら巨大な電極に囲まれたパネルの上に2人は立たされた。


    仁「では…これより転送を行う。詳しい原理を説明している暇も実用試験をしている暇もないが……」

    仁「二人ともなるべく密着している方がいい。その方がリスクが…」

    赤松「わ…分かりました」

    百田「心配すんなよ! 終一には黙ってるしそもそもこれはノーカンだノーカン!」

    赤松「うん。 そうだね…」


    「転送開始します!!」


    「座標軸を固定! 接続回路安定しています!」

    「充填率107.4%!」

    安全装置(セーフティ)解除(アンロック)!!」


    仁「撃鉄(ハンマー)起こせ!」

    仁「壁を穿て!!」


    周囲に爆音が響き渡る。

    赤松「きゃっ!!」


    仁「諸君らの健闘を祈る!!」


    「頼んだぞーー!!」

    「頑張れーーーーッ!!」


    様々な声援を耳にしながら視界は白亜へと包まれていく。
  60. 61 : : 2017/12/04(月) 09:49:10



    赤松「……………………」


    百田「いてぇ…頭が………」



    目を開けると先程までの厳めしい研究所のような部屋は影もなく……

    よく見る街の光景。


    しかし、それは全く似て非なる光景。


    「×××××××……?」

    「△△△△??」


    通行人が怪訝な眼差しを向ける。


    見慣れない装置。 見慣れない道具に囲まれていたが…

    それらは全て魔力によって行使されていると赤松達は察した。


    百田「どうやら… 上手くいったみてぇだな……」

    赤松「うん…… 聞こえてくる言葉も… 標識も看板も全然読めないし…」



    ここが、先程まで自分がいた空間とは全く別の物であることを証明するには充分過ぎた。


    赤松「……どうしよう? よく考えたら」

    百田「いや… 錨を持ってた終一を見つけて殺しに来たんだ……」



    百田「向こうから仕掛けて来るんじゃねぇか……?」

  61. 62 : : 2017/12/04(月) 09:57:57


    「おーい!」


    「こんにちはーー!」




    「あれ?やっぱ通じないのかな……?」



    赤松・百田「……………………………ッ!!」



    瞬時にして身の毛が総毛立った。


    この世界において、自分たちが分かる言語で話しかけられるなど明らかに異常事態。


    狛枝「うん!やっぱり通じてるみたいだね。辺古山さんの言った通りだ。」


    狛枝「もしかしたら、魔術の形態が似てるのかな? だから意志疎通ができるのかも…」

    小泉「………………」



    赤松「ウソ…………」

    百田「て……テメェら……!!」





    狛枝「初めまして… 異世界の魔術師さん……」
  62. 63 : : 2017/12/04(月) 10:20:41

    狛枝「いやぁ、こんなにいきなり出くわすなんてやっぱりボクはツイてるよ!」


    百田「テメェか? 終一に手ェ出したのは…?」

    百田は既に己の術式を展開していた。


    狛枝「あぁ… たぶん君が言っている人とボクは違うと思うよ」

    狛枝「それに… こんな街の真ん中で始めるのも無粋でしょ?」


    狛枝「君達にはどうでもいい事かも知れないけどさ……」


    赤松「そ……そんな事…!!」


    百田「ソイツのペースに乗せられるんじゃねェ!!!!」

    百田「ソイツらを殺らなきゃ…… 今度はこっちが消えちまうんだ!!」




    百田「喰らいやがれェエエ!!!!」




    切り離された右腕がロケットモーターで飛翔する。




    百田「宇宙飛翔拳(ロケット・パンチ)……!!」

  63. 64 : : 2017/12/04(月) 10:48:25



    百田「クッ……!!」


    小泉「ハァ……ハァ………!」



    彼の拳は次の瞬間には明後日の方向へ向いていた。


    百田「何をしやがった……… 確かに俺は…!」


    小泉「狛枝!!」



    狛枝「流石は小泉さん! ボクなんかが出るまでも……」


    小泉「そんな事言ってる場合じゃないでしょ!!」



    小泉(多分… あの特撮みたいな格好したヤツが近接型で…… あの子が特殊系の能力の持ち主……)

    小泉「狛枝!! いいからアンタはそっちの子を……!!」

    小泉「こっちは……引き受けたから!!」


    狛枝「分かったよ。小泉さんがそう言うなら…」







    異空間の街角


    超高校級の宇宙飛行士 百田 解斗

    vs

    超高校級のカメラマン 小泉 真昼





    超高校級のピアニスト 赤松 楓

    vs

    超高校級の幸運 狛枝 凪斗

  64. 65 : : 2017/12/04(月) 11:49:40


    狛枝「さて、どうしようか? 君は……」


    赤松「赤松…楓。」

    狛枝「ご丁寧にありがとう。ボクは狛枝凪斗。君達と同じ魔術師だよ。」



    狛枝「まぁ、魔術師といってもボクなんてゴミのような…」

    赤松「な…なんで私たちの言葉が分かるの? 私たちだって………」


    狛枝「魔術は魂を通じて流動するモノだからね… それを扱う者同士は自然と意志疎通ができるようになるんだけど……」

    狛枝「君達の世界では違うの?」

    赤松「私たちの世界では… こんな風に魔術がありふれてるなんて事はなかったよ………」


    狛枝「ふぅん… やっぱり、似てるところはあっても違うところはあるもんだね……」


    赤松「わ… 私は!」

    狛枝「分かってるよ… キミが言わんとする事は……」

    狛枝「だけどボクは光栄なんだよ………!!
    キミのような異界の素晴らしい『才能』に触れる事が出来てさ………!!!!」


    狛枝「きっとキミも素晴らしい才能に愛されているんだね………!!」


    赤松「私は…………」


    赤松「私は嫌い……! こんな力……!!」

    狛枝「どうして? 戦いに使わなきゃいけない事が……?」


    赤松「それもそうだけど違う………」


    赤松「だけど………」



    赤松「それでしか……… みんなを助けられないなら……………ッ!!」



    掌からト音記号や5本線、音符をあしらった魔方陣を展開する。


    狛枝「素晴らしいよ……! やっぱりキミ達は素晴らしい希望なんだ………!!」



    狛枝「希望と希望がぶつかり合ってより強い輝きを放つ……………」


    狛枝「やっぱりボクはツイてる…………… こんな希望のぶつかり合いに立ち会えるなんて……」









    狛枝「さぁ………!
    キミの希望を見せてよ………ッ!!!!」
  65. 66 : : 2017/12/04(月) 16:51:37


    狛枝の手に降り立ったのは杖。 魔法の杖。

    二匹の蛇が巻き付き、翼の生えた神々しさすら感じさせる逸品。



    狛枝「ヘルメスの杖(ケーリュケイオン)。これがボクの力だよ。」


    赤松「悪いけど… 私は絶対負けたりしないから!!」



    キィーーンと耳を劈くような不快音が狛枝の耳を貫く。


    狛枝「なるほど…… やっぱり音に関する力なのかな…!」

    しかし、しばらくして。


    狛枝「……………」


    赤松「えっ……!!」


    常人ではとても耳から手を外して活動できない程の音量、不快度であったはずだ。


    狛枝「さぁ。ここからはボクの番だよ。」


    狛枝が軽く杖の先を振ると………




    ビシビシ… ビキッ!!



    赤松「………!?」


    赤松の背後のすぐ背後にあった鉄筋コンクリの建造物に巨大なヒビが入り……


    赤松に向けて崩れ出した!!


    ガラガラと地響きを立てながら瓦礫が雪崩となって押し寄せた!










    ものの数秒で5階建てはあろうかというビルは瓦礫の山と化した。


    赤松「はぁ…はぁ……」


    赤松(どういう事……!? 杖を振りかざしただけでビルが……)


    瓦礫の雪崩から間一髪逃れた赤松はひどく混乱していた。


    狛枝「あちゃあ…… やっぱりボクの能力って大したことないなぁ……」

  66. 67 : : 2017/12/04(月) 17:10:45


    赤松(ビルにいた人は…? 周りの人達はみんな逃げて行ったみたいだけど……)


    赤松(いや… そんな事より考えないと…!! あいつは一体……!!)



    考えあぐねていた赤松の視界に次に飛び込んで来た物は…



    ガシャン!!


    赤松「うわっ!!」


    赤松(車……!? どうして……!!)


    狛枝「やれやれ… みんな車も放って逃げちゃったんだね…」


    ハザードランプを焚いて放置されていた現地人の車が


    次々とエンジン音を上げて赤松に向けて突撃する!


    赤松(どうなってるの…!? これじゃあ『演奏』どころじゃ…)


    赤松「くッ……!!」


    暴走車両の群れからビルの階段を上って逃れる。


    赤松「なにが…どうなって……」


    狛枝「自分からビルに逃げ込むなんて……」



    再びビシビシというひび割れる音とコンクリの破片が赤松の頭上に落ちてくる。




    赤松「しまっ……!!」



  67. 68 : : 2017/12/05(火) 21:53:42

    轟音を立てながらビルがまた1つ瓦礫と化した。



    狛枝「……まさか… この程度で終わってなんかいないよね……?」


    狛枝「赤松楓さん………??」


    赤松「ハァ… ハァ………ッ」


    瓦礫の山から彼女は立ち上がる。


    狛枝「流石だね……! あの程度じゃ傷1つないよね……!!」


    赤松「無傷なんかじゃ…… ないよ……」


    狛枝(なるほど…… やっぱり音に関する能力…)


    狛枝(音とはつまり空気の波… 彼女は今その波に包まれている状態……)


    狛枝(空気を一定の空間で反響させ… その厚い空気の層を壁にしているって事か………)


    赤松(受けてばかりじゃ勝てない……… こっちから攻めないと………!!)


    赤松「今度はこっちから行くよ!!」


    再び両の掌に魔方陣を展開。

    それを前にかざしてパチンと鳴らすと………




    赤松(『音 圧(サウンド・プレッシャー)』!)



    圧縮された空気の波は……


    その前方を津波のように打ち砕きながら突き進む!!


    赤松(これで…… 生きていられる人間なんて………)





    瓦礫や砂ぼこりを巻き上げて音の津波は狛枝の目前まで差し掛かる。





    狛枝「……………………………ッ!!」





    赤松(よ……避けない………………っ!!?)
  68. 69 : : 2017/12/05(火) 22:12:14



    爆音、爆風を撒き散らしながら音の津波は砕け散る。


    赤松(なんで……!? 避ける動作も何もなかった………!)



    赤松(だけど…… これで…………)



    「フッ……フフフフ……」




    それは、ほんの最近聞いた覚えのある声。


    赤松「まさか………!」



    狛枝「ハ………ッ! ハハハハハハハハハハハハハハハ!!」



    全身ボロボロになりながら瓦礫の上に彼は立つ。


    赤松「そんな…………! どうして……」


    彼女にとって不可解であったのは何も音 圧(サウンド・プレッシャー)を受けて立っていられる事よりも……


    赤松「避けるまでも……… なかったって事………?」



    狛枝「買いかぶり……過ぎだよ…………
    ボクだって…… 攻撃を反らす努力くらいはしたよ………!」


    狛枝「だけど………! 赤松さんの力はボクの『力』をはね除けて見せた………!!」


    狛枝「やっぱり赤松さんはボクなんか足元にも及ばない優れた魔術師なんだ………!!」


    狛枝「ボクは感動したよ………………ッ!!」



    赤松「ぐ………………ッ!!」


    赤松「なんでよ!! 私は………! 貴方を殺そうとしたんだよ!!! それで…………っ!」




    赤松「それでどうして感動なんてするんだよ!!!!!」




    狛枝「誤解しないでよ赤松さん…… ボクは何も嫌味を言ってるわけじゃ………」


    赤松「うるさい!!!!」


    赤松「感動した感動したって…………!!」



    赤松「私が『どう弾いてるか』なんてどうでもいいクセに!!!!」




    赤松「早く……… いなくなってよ!!!!」
  69. 70 : : 2017/12/05(火) 22:36:14

    赤松「そんなに私の攻撃を貰いたいなら……!!」


    赤松「今度は………!」


    指を弾いて鳴らすとそのまま指先を一文字に振るう。


    音波は三日月型を成し、刃となる!


    赤松(音刃(おんじん)……!)


    狛枝「ダメだよ……… そんなに感情的になっては…」

    音の刃を杖の先で容易く軌道を変える。


    空振った音の刃は建造物を切り裂きながらそのまま空へ飛んでいった。





    赤松(どうして……? 一体なんで私の攻撃が当たらないの……!?)

    赤松(それだけじゃない…… ビルが突然崩れだしたり……)

    赤松(何かの力の向きを変える能力? 何か空気に関する能力……??)

    赤松(けど…… だとしたらあの車は一体どうやって………)



    赤松「だったら………!!」



    赤松は大きく息を吸い込むと……



    赤松「ワッ!!!!」


    赤松(直接………!!)


    反響を右腕にチャージ。


    そして、閉じ込められた振動(ビート)は反響により更に増幅していく。



    『ビート・スマッシュ』




    次の瞬間には赤松は走り出していた。


    狛枝「いいね…… 赤松さんもいよいよ本気だね…………!!」

  70. 71 : : 2017/12/05(火) 22:44:07


    狛枝の姿が目前まで迫る。


    脚を休めずそのまま踏み切ろうという


    まさにその時。



    ガッ……!!



    赤松(えっ……)



    赤松は足下の石につまづいた。




    赤松(こんな………!)


    赤松(こんなんで……………っ!!)





    そのまま、重力に従わざるを得ないか。







    否。





    赤松「………………ッ!!」


    すぐさまもう片方の脚を踏み出し、転倒を防ぐ!




    ヤツの姿はもうすごそこだ。



    狛枝「え……っ!」




    赤松「『ビート・スマッシュ』!!!!」


  71. 72 : : 2017/12/05(火) 22:52:29



    狛枝「ぐっ……!!」


    狛枝「ぁあああああああああッ!!!」



    ヒットしたのは左腕。




    左腕が振動に負けてちぐはぐな方向へ激しく蛇行する!



    狛枝「グッ……ゥうううううううッ!!!!!」


    咄嗟に彼は自分の杖で自分の左腕を思いきり叩くと………



    左腕は身体から吹き飛び空中で爆発四散。


    赤松「く……っ!!」



    狛枝「ハァ… ハァ…… 参ったな……… ここへ来て……… ボクの『確率』はハズレてばっかりだよ………」


    狛枝「元々ボクの力なんて大したことないけどさ………」


    赤松「確率………? どういう事………??」







    狛枝「もう、教えちゃってもいいかな…………」



    狛枝「ボクの魔術であるヘルメスの杖(ケーリュケイオン)はね…………『確率』を変えられるんだよ…………」



    狛枝「いくら『確実(100%)』にするのが無理でも…… ここまで外されるなんて…………」





    狛枝「やっぱり……… キミ達は素晴らしいよ……!!」

  72. 73 : : 2017/12/05(火) 23:05:08
    【Tips】


    ヘルメスの杖(ケーリュケイオン)


    超高校級の幸運 狛枝凪斗の固有魔術。

    物事の起こる確率を変える。
    使用する際は2匹の蛇が巻き付き、翼の生えた『ヘルメスの杖』が顕現する。

    ありとあらゆる物事に対し使用可能であるがその何れも『100%』にはできない。
    また、確率は使用者や対象者。変えようとする物事に依存する。
  73. 74 : : 2017/12/06(水) 00:02:36

    狛枝「さぁ……!今度はボクから行くよ!!」


    バカン!!


    背後で何かが爆発したような音がした。


    アスファルトの地面から汚水が吹き上がる。



    赤松(マンホール……? 地面から汚水を吹き上げて何を……?)


    赤松(視界を塞いで何を…)

    赤松(視界を………!!)


    咄嗟に赤松は頭上に音のシールドを展開する。


    形状や種類により異なるものの、マンホールの蓋の重さは40kgにもなると言う。


    円形の鉄塊が赤松の頭上に降り注ぐ!!


    赤松「くぅ……っ!」


    シールドを鉄塊が激しく叩く!


    が…


    赤松「……ァあああああああああッ!!」




    灯台もと暗し。



    地面をバウンドした蓋が赤松の背中を直撃した!!



    頭上にシールドを展開していても背後や足下まではカバーされていなかった。



    赤松「ゲホッ!! ゲホッ!! …ぅうぇ……っ!」


    赤松「ぐぅぅ……っ ぅうあああああああああああああああッ!!!!」


    今までに味わった事のない激痛に赤松はのたうち回る。骨は軋み内臓は裏返る。


    その上、破壊されたマンホールから吹き上がる下水の悪臭が更に吐き気を増幅する。



    狛枝「ガス爆発なんてさ…… 『不幸』な事故だと思うよね……?」


    赤松(ガス……? 一体何を……!)


    赤松(……………ッ!!)



    轟々と吹き上がる下水の水音に混じって何か空気が抜けるような音を耳にした。



    赤松「まさか………!!」




    狛枝「音と匂いで気付かなかったでしょ…?」


    狛枝「ボクにしては…… なかなかいいアイディアだと思わない?」


    狛枝はかざしていた杖を一旦解除すると……


    オイルライターを放り込む。













    閃光と爆音に周囲は包まれた!!



  74. 75 : : 2017/12/06(水) 00:23:32



    異空間の街角 別地点




    激しい閃光と爆音をこの二人もしかと認識していた。


    百田(赤松と…… あのフワフワ頭のヤツ… 相当ヤバい戦いらしいな……)


    小泉(狛枝……! あんた一体どんな戦い方してんの………!?)


    百田(っと…… 今は…目の前の敵に集中しなけりゃ……)


    百田(赤松も……戦ってんだ…!!)



    百田「エンジン全開でいくぞォ!!!」


    両足のバーニアが唸りを上げて百田の身体を一気に打ち出す!!


    百田「『ジェット・ナックル』!!!!」


    拳の軌道、角度は確実に小泉を捉えていた。



    捉えていた筈だ。



    百田「な……ッ!!」



    『スカッ』という効果音でも付きそうな程の盛大な空振り。


    そして、バーニアによって浮かんだ身体と地面との僅かな隙間に………


    小泉「……………っっ!!」



    毒々しいナイフを構えた彼女が下から襲い来る!


    百田「クソッ!!」


    すんでの所で刃先から彼は逃れた。


    小泉「クッ……!」



    百田(どうしてだ……? 1発目はロケットエンジンを使ったロケットパンチとはいえ…… 今使ってんのは細かい制御の効くジェットエンジン……!!)


    百田(なんで…… なんで当たらねぇんだよ……!)


    小泉「…… ハァーー… ハァーーー………!」

  75. 76 : : 2017/12/06(水) 13:26:57

    小泉(速い………! フレームに収めるのが精一杯………)


    小泉(だけど…… やっぱり相手は近接型………)


    小泉(必ず勝機を掴んで見せる……!)



    百田(何かカラクリがある筈だ……… それが何なのか………)

    百田「まだまだこんなもんじゃねェぜ!!!!」


    両腕同時のジェット・ナックル。


    ミサイルの如く小泉目掛けて突き進む!


    小泉(問題は…… この遠隔操作できるパンチ………)

    小泉(アスファルトを打ち砕くあの威力…… わたしが喰らったらひとたまりも…………!)




    2つの拳はそれぞれ別の軌道で小泉を捉える。


    小泉(そこ…………………ッ!!)
  76. 77 : : 2017/12/06(水) 13:38:15


    直進していた2つの拳はまたも軌道を変えられていた。


    百田(ここだ………!)



    飛翔する2つの拳が「パー」になったかと思うと……




    爆音と共に指先が四方八方に飛び散った!!


    小泉「しまっ………!」



    小泉「あ………っっ! が…ッ!!」




    百田「『フィンガー・ショットガン』…… 指先1つ1つの威力は大したことねぇが… 的中率なら抜群だぜ………」


    小泉(『大したことない』…………?)

    小泉(1つ1つがまるで銃弾みたいに……)


    主の腕に戻ってきた拳。その指先は朱に染まる。


    百田(ロケットパンチの方は反らされた… だけど…フィンガー・ショットガンは効いた…)

    百田(あれはアイツにとって不意だった……… だから当たったんだろーけど…)


    百田(クソッ……! 分からねぇ… 一体どんな力なんだよ………!?)
  77. 78 : : 2017/12/06(水) 14:57:41

    小泉(どうしよう…… この力はただでさえ負担が大きいのに……)


    小泉(アイツの指先が身体の中に残んなくて良かった……)

    傷口に手をかざすと……


    小泉(これで……… 体力は戻らなくても傷口はなんとか…)

    小泉(日向からコツを教わって正解だったかも……)

    百田「な……ッ! なんだ!! オメーその力は!!」

    小泉「な……何って…… 回復魔術だけど… そんなに珍しいの……?」

    百田「珍しいも何も……! そんな多くの魔術使えるわけ………!!」

    百田「…………いや、俺はたまたま使えねーだけだ!」


    小泉(…… 1つの能力に特化してる事が殆どって事ね…)

    小泉(けど、確かめる術もないし本当にコイツが使えないだけかも…)

  78. 79 : : 2017/12/07(木) 09:45:11

    百田(やっぱこいつ等…… 俺たちよりも魔術に精通してやがる……!!)

    百田(そこら辺の人や物だって………)



    百田(いや、それより… コイツの能力を見破らねぇことには……)

    百田(やっぱ色んなパターンを試して見破るしかねぇ…!)




    ヒトは見ながら考えることは難しい。

    例え、対象を凝視しながらでも「意識」そのものは思考、思索に囚われるからだ。




    宇宙飛行士として訓練を積んだ彼でさえ。それを認識できなかった。


    百田「は……?」


    懐への侵入を彼は許したのだ。



    百田「グ……ッッ!!」


    小泉(もう一度……!!)


    小泉は更に一歩奥へと踏み込む!



    百田「クソッ!!」


    こめかみ目がけてジェットの拳が加速する。



    しかし、拳の軌道上に彼女の頭部はない。



    彼女の手に持ったナイフが百田の装甲を溶かし深々と突き刺さる。





    百田「な……ッ! あが……っ」

    小泉「ハァ…!! ハァ…!!  かは……っ!」

    百田「グ……っ ォオオオオオオオオオ!!!!」


    激痛に意識が飛びかけながらも小泉を振りほどく。
  79. 80 : : 2017/12/07(木) 10:31:27
    百田「クソ……ッ!! なんだよこのナイフは……!」


    百田(何かの骨…? いや…牙か……)


    小泉「か……」



    小泉「返して!!」


    小泉「それは…… 大事なものだから……!!」






    2日前



    西園寺「ねぇ! 小泉おねぇ!」


    小泉「え…… あぁ…どうしたの?日寄子ちゃん…」

    西園寺「小泉おねぇはさ……『錨の持ち主』として… 向こうの魔術師と戦うんでしょ…?」


    小泉「……うん、そうだね。」


    小泉「日向には怒鳴っちゃって…… 悪いことしたな…」

    西園寺「あ… あんなの! 日向おにぃが空気読まないのが悪いんだよ!!」

    小泉「ふふっ ………そうね。まぁ他の男子よりはよっぽどマシだけどね」


    小泉「…ありがとう。日寄子ちゃんと話してたら…ちょっと落ち着いた。」


    西園寺「けど…… 小泉おねぇは…!」

    小泉「大丈夫だよ! きっと何とかなるから……」


    西園寺「小泉おねぇの力は…… 戦いなんかに使えないじゃん!!」






    小泉「………そんな事もないよ。」

    小泉「確かに…… 私はこの力を……」


    小泉「写真を撮ることだけに使ってきた。」


    小泉「だけど… 戦いに応用すればきっと強力な力になる。」


    小泉「だから…… 私は大丈夫だよ。」


    西園寺「小泉おねぇ……」




    西園寺「ごめん… 分かってたよ… 小泉おねぇや…日向おにぃにしかできないことだって……」


    西園寺「けど…」







    西園寺「小泉おねぇ! これ…… 使って!!」


    そういって彼女が懐から取り出したのは何やら物々しい木箱。


    小泉「なに…? これ……」


    小泉「骨…? いや… 牙か何かを加工したみたいだけど…」



    30㎝程の細長い蛇の牙の根本にそのまま柄を付けたかのような逸品。


    西園寺「ハイドラ……」


    小泉「え…?」


    西園寺「『双頭の毒竜(ハイドラ)の牙』。ウチの蔵に大事そうに仕舞ってあったヤツだよ…」


    小泉「ハイドラの牙……」



    小泉(うっ……!)

    柄に手を触れた瞬間。彼女は感じ取った。


    小泉(これ… 『いわくつき』なんだ…… 私の魔力を吸い取って力にしてる……!)


    西園寺「わたし…… 踊り以外は全然…何やってもダメで……」


    西園寺「今回だって… 小泉おねぇと一緒に戦うこともできなくて……!」


    西園寺「だけど… 小泉おねぇが戦うのに… 何かできない事はないかと思って……」



    西園寺「それで……!」


    言い終わるまでもなく、彼女は西園寺を抱きしめていた。


    小泉「ありがとう……! 日寄子ちゃん!」



    小泉「大丈夫… それさえあれば…もう百人力だよ…!」


  80. 81 : : 2017/12/07(木) 10:55:23

    【Tips】

    双頭の毒竜(ハイドラ)の牙



    「この世界」の奥地には未だに鷲の頭部を持つ獅子や命を持つ石像。御伽や草紙に語られる伝説の生き物が存在するという。「ハイドラ」もその1つ。

    毒撒き散らし二つの頭を持つ竜の牙。それを毒腺ごと抜き取り武器に加工したもの。

    刃先からは常に猛毒が滴り、世界に両手で数える程しか存在しない逸品だが、所持した者の魔力を食い漁り、衰弱させていく。

    毒腺は柄の内部に収納されている。西園寺家の蔵にあった物も相当古い物だが今もなお胎動し、生きて人間の魔力を貪る。
  81. 82 : : 2017/12/07(木) 12:59:19


    百田「このナイフが……な…」


    ナイフを掴んで抜き取ったその時。


    百田「う…お……ッ!」


    百田「魔力が… 吸い取られて……!」


    百田「くッ!!」


    慌ててナイフを放り出した!


    しかし、ナイフを掴んだ彼の右手は術式が解け、生身の肌を晒していた。



    百田(ば…っかな……)



    百田(アイツはこんなもん持って… 戦ってたのかよ…!)


    小泉「ハァ…ハァ…! ゲホッ!! うぅ…!」



    膝は震え、目は霞む。意識は朦朧とし、彼女を特徴づける鮮やかな赤髪には白髪が混ざり始める。


    小泉「それに…… そのナイフに刺された時点で…! アンタは……!!」








    百田「………あぁ。 そうかも知んねぇな…」


    百田「俺は死ぬかも知んねぇ……」





    百田「けどよぉ」



    白やオレンジを基調とした彼の装甲はドス黒い黒と赤黒い紅へ変貌していく。


    拳の先は完全に「ロケット型」となり、吊り上がった半月のような眼とシャークマウスが紅く浮かび上がる。



    百田「お前の魔術のカラクリはだいたい分かった………」


    百田「もう、俺を『捉える』のは無理だぜ………」
  82. 83 : : 2017/12/07(木) 13:27:49


    異空間の街角 爆心地


    狛枝「おーーーい!!」





    狛枝「赤松さーーーーーん!!」



    狛枝「……死んじゃったのかな…?」





    爆発の規模はかなりの大きさであった。





    火が踊り煙が巻きあがり瓦礫は横たわる。





    狛枝「こんな程度じゃないよねぇ……? 早く出てきて続きをやろうよ!!」













    赤松(………………)




    泥とホコリと下水にまみれて瓦礫の下で眼が覚めた




    気がしただけだった。




    赤松(私…… どうなったんだろう…??)






    赤松(あれは……………)




    赤松(わた……し…?)

  83. 84 : : 2017/12/07(木) 13:44:56


    十年前


    「楓ちゃんは本当にピアノが上手ね~」


    赤松「うん! だってたのしいもん!」


    「本当に… お母さん誇りに思うわ。」


    赤松「『ほこり』ってなに? おかあさん」






    赤松(なに見てるんだろう… わたし……)



    「優勝。赤松楓さん。」


    赤松「はい!」




    「大変素晴らしい演奏でした。」



    「楓ちゃん本当ピアノ上手いよね~!」

    「合唱の時も助かるわぁ…ありがとう。赤松さん」


    赤松「そんな… わたしはただピアノが好きなだけだよ……」







    赤松(うん…… 今もピアノは大好きだよ…)
  84. 85 : : 2017/12/07(木) 14:02:34



    「どうだろう? もちろん赤松さんさえ良ければだけど…」


    赤松「ウィーンへ…? 私がですか…?」


    赤松「分かりました! ぜひやらせてください!!」


    「もう私が教えられることは何もない… 堂々と… 君の全力を出し切ればいいんだ。」





    赤松(中学のときだっけ…? 懐かしいなぁ… あの後パスポート取ったり何なりで大変だったんだっけ……)





    万雷。




    そこに広がるのは正に10000の雷が鳴ったかのような割れるような拍手。


    スタンディングオベーション。




    東西様々な言葉で称賛の言葉が上がる。



    「素晴らしい! 感動的だ!!」







    赤松(そう…… みんなの喜ぶ顔を見るのが好きで……)


    赤松(音楽の持つ力に何より感動したんだ……)





    赤松(感動……??)







    赤松(…あれ? なんだろう… この違和感……)
  85. 86 : : 2017/12/07(木) 15:08:10



    「すごいね!感動した!」


    「感動的だ……! 本当に高校生か!?」



    「こんな感動的なピアノは初めてだ!!」




    赤松(い… いや……)


    赤松(なに…? この胸騒ぎは……)



    「感動した!」「感動した!」「感動した!」



    赤松(いやだ…… やめてよ…)



    「感動した!」「感動した!」「感動した!」「感動した!」



    赤松(やめて……! やめてったら…!!)


















    赤松「…………………………」




    照らすスポットライトは彼女にフォーカス。



    集う聴衆は耳を傾け



    グランドピアノも準備万端。



    今宵の演奏も感動をおとどけ。




    ドレスで着飾り始めましょう。











    曲目:ドビュッシー「月の光」







    赤松「え…?」



    赤松「指が…… 勝手に………!」




    曲の途中に関わらずスタンディングオベーション!



    赤松「イヤだ! やめて!! 私はいま自分の意志で弾いてないんだよ!!?」


    「感動した!」「感動した!」「感動した!」「感動した!」

    「感動した!」「感動した!」「感動した!」「感動した!」

    「感動した!」「感動した!」「感動した!」「感動した!」



    赤松「やめてよ!!!! 自分の意志も関係なく感動するなんて間違ってるよ!!!!」



    「感動した!」「感動した!」「感動した!」「感動した!」




    赤松「やめてって言ってんじゃん!!!!!!!」




    怒りに任せて鍵盤を叩くと間抜けな不協和音が飛び出した。



    赤松「どうして………」




    赤松「楽器と音楽が大好きだったのに……」


    赤松「音楽の持つ力が大好きなのに…」





    赤松「どうして……………」









    気が付けば、ステージにひとりぼっち。












    とは、いかないようだ。




    赤松「最原くん……?」





    最原「赤松さんのピアノはやっぱりすごいなぁ…」





    赤松「い…いやだ!! やめて! 最原くんにだけは……!!」





















    最原「感動したよ。」




  86. 87 : : 2017/12/07(木) 15:11:07







    赤松「いやぁあああああああああああああああああああああああ



    あああああああああああああああああああああああああああああ



    ああああああああああああああああッッッッ!!!!!!!!」





  87. 88 : : 2017/12/07(木) 15:47:27







    「ねぇ……」




    「聞こえる……?」




    「ねぇ、大丈夫?」




    「だいぶうなされてたみたいだけど……」




    感覚が舞い戻る。



    全身の鈍い痛みに口に広がる泥水と鉄の味のハーモニー。



    見覚えのあるフワフワ頭の片腕の男。



    糞のような夢のお次は糞のような現実だった。





    赤松「あなた……… なんで…?」


    狛枝「なにが?」


    赤松「なんで…私にとどめを………」


    狛枝「決まってるじゃないか! ボクたちは互いにもっと全力で希望をぶつけ合わなきゃ!!」


    狛枝「あんな終わり方じゃボクも納得できないよ…」

    狛枝「それに個人的に聞きたいこともあるし。」


    赤松「聞きたいこと…?」


    狛枝「君の能力に関することだよ…」

    赤松「そんなの… 音の振動と空気の揺れを操れるってだけで…」


    狛枝「あぁ… ちがうよ。そっちじゃないんだ……」


    狛枝「君はボクが『感動した』って言ったそばから明らかに目の色が変わったからね…… 一体… 何があったんだろうと思ってさ…」


    狛枝「言っておくけど…… ボクはあの時イヤミを言ったわけじゃないよ」


    赤松「ねぇ…… 君は機械が再生してる音楽に感動したりする?」


    狛枝「しないと思うよ。」


    赤松「そうだよね…」

    赤松「例え機械越しの音楽に感動するとしても… それは曲を演奏してる人のまごころがあるからだよ!」




    赤松「私のピアノも…… ある時からみんなに『感動した!』って言われるようになったよ…」


    狛枝「………自分の腕とは関係なしにって言いたいの?」



    赤松「……そうだね。そんなところだよ…」


    赤松「この力を授かった日から… 私がどんな風に弾こうと…
    どれだけミスしようと…心の中で何を考えていようと……!!」


    赤松「みんな口を揃えて『感動した!』って!!」


    赤松「おかしいよこんなの!!!!」


    赤松「こんな力絶対に間違ってる!!!!」



    赤松「どんな意志を持とうと無条件で感動を起こさせるなんて………」


    赤松「そんなの音楽じゃない!!!!」



    赤松「だから…… 私は… この能力が…」



    赤松「死ぬほど嫌い………!!」








    狛枝「なんだ……」

    赤松「え…?」


    狛枝「超高校級のピアニスト……でいいのかな?」

    赤松「そうだけど…」


    狛枝「ははっ やっぱり君たちとの世界はここと色々似てるみたいだね!」

    狛枝「超高校級のピアニストともあろう赤松さんが… そんな事で悩むなんて……」


    赤松「そ…そんな事……!?」


    狛枝「それに…… もう答えは掴んでるじゃない……」


    狛枝「どんなにミスだらけの演奏でも… 寸分たがわぬ機械のように正確な演奏だろうと………」



    狛枝「本当に大事なのは赤松さんの『心』………」


    狛枝「そうでしょ?」
  88. 89 : : 2017/12/07(木) 15:57:02

    【Tips】


    音の魔術師(マジシャン・オブ・サウンド)


    超高校級のピアニスト 赤松楓の固有魔術。


    音の振動、それにより発生する波を操る。ただし、これは戦闘面に限った能力。この魔術は術式を展開することにより古今東西あらゆる楽器の音を疑似的に鳴らすことができる。


    また、音楽の神の祝福を受けており、この能力を授かる者はどのような楽器を弾いても、どのように楽器を弾いても。
    術式から放たれる特殊な音波が対象の本能に感動を呼び起こす。機能というより特性のようなもので本人の意志で解除することはできない。

    音楽の神に愛される素質があるからこその「祝福」であるが、赤松にとっては祝福ではなく「呪い」であった。
  89. 90 : : 2017/12/07(木) 16:27:01


    狛枝「だけど… それはそれ。これはこれ……」


    狛枝「ボクも… もう容赦しないから……」


    赤松「……そう。」


    赤松「なら私も…… 本気で行くから……!!」




    赤松「貴方を倒して…… 今度こそ… 思いっ切り… 最原くんとピアノを弾くんだ………!!」



    大地に足を確りと踏みしめ、赤松は立ち上がる。


    芸術的な音符の整列を象る魔法陣が両の手に顕現する。



    狛枝「いいね…… いい『希望』だよ………!!」











    仕掛けたのは互いにほぼ同時だった。



    赤松「『音圧(サウンド・プレッシャー)』!!」


    音圧の壁は正面でなく…



    左右同時!



    狛枝「『ヘルメスの杖(ケーリュケイオン)』」



    赤松の意志の乗り移った攻撃を僅かに反らし、回避!


    狛枝「まぁ… これなら落としても…」


    狛枝「問題ないかな……!」


    杖を振り下ろすとはるか頭上で何かが光る。



    眩しい太陽の下に光った流れ星。

    それも1つや2つではない。


    その流れ星はまさに「彼女」めがけて燃え落ちる。



    狛枝「旧文明のスペースデブリ…… 燃え尽きずに地面に落下する確率は……」



    狛枝「0%(ゼロ)じゃない。」



    赤松(あれはシールドで受けきれない…)


    赤松(だったら…)


    大きく息を吸い込むと……


    赤松「ワァーーーッ!!!」



    赤松(音の衝撃を… 全方位に……!!)



    赤松(『サラウンド・ショック』!!!!)




    迫りくる人工衛星の流星群は残らず吹ッ飛んだ。



    赤松「音刃(おんじん)!!」


    赤松「やぁああああああああああああああああああああ!!!!」



    激しい振動を伴う音の刃が四方八方から複雑な軌道を描いて狛枝の肉を切り裂く。



    狛枝「ぐ……っ! うぐッ!」

    狛枝(やっぱり……赤松さんの『意志』は強靭そのもの……だからボクの杖でも全部確率を使って反らせるわけじゃない……!)



    狛枝(……あまり使いたくなかったけど… ボクも全力でやらなくちゃならない……!)


    狛枝(さぁ… キミの希望がどれ程のものか見せてもらうよ……!!)
  90. 91 : : 2017/12/08(金) 09:38:24


    異空間の街角 別地点


    百田「コイツは言うなれば失敗作だ……」



    百田「シャトルってーのは厳しい宇宙の環境から乗組員(クルー)を護る揺りかごでなけりゃならねぇ……」



    百田「コイツは護るどころか危険に晒しやがる……」




    百田「だが……! スピードだけは超一流だぜ…!」






    問題児(プロブレム・キッド)』!!



    百田「『捉えられる』なら…… 捉えてみやがれ!!」




    百田「俺は……! 宇宙に轟く百田 解斗だぜ!!!!」


  91. 92 : : 2017/12/08(金) 10:18:08


    その声だけを残して百田の姿は「消えた」。


    小泉(速い…! フレームを一杯に広げても追いきれない…!!)


    百田(最初は瞬間移動の類だと思ってた……)


    百田(けどそうじゃねぇ…! もっとタチのわりぃ能力……!!)

    百田(それは恐らく……!!)



    一筋の流星がUターンしてきたかと思うと……


    「こちら」へ一直線に突撃!



    小泉(ま…ずいかも……)

    小泉(もう、力が………!)


    ビリビリと空気が震えやがて轟音が鳴り響く。


    小泉「わぁああああッ!!」


    そのソニックブームと圧倒的風圧だけでも人1人吹き飛ばすには充分すぎる。


    背後の「ビル群」を粉々に吹っ飛ばしながら少しずつ減速してきた。


    百田「くそ……ッ!」

    百田(やっぱ飛んだ「問題児」だぜ…… 制御の効かなさはロケットの比じゃねぇ……!!)



    百田(しかも………)



    手先に痺れが生じ



    目の前は靄がかかったかのように霞んでいる。



    百田(やべぇな…こりゃ……)


    小泉(まずい…… こんなの続けられたら…… とても避けきれない……!! )





    「「早いとこ決着をつけねば………!!」」


  92. 93 : : 2017/12/08(金) 10:38:34



    【Tips】


    問題児(プロブレム・キッド)


    ロケット・マンの隠された形態。スピードと破壊力を追求した結果、制御と使用者の安全を欠いた欠陥機。黒を基調としたボディに赤黒い色でシャークマウスと吊り上がった眼が浮かび上がるのが特徴。

    速度の限界は測り知れないがどんなに速くとも欠陥機は欠陥機。
  93. 94 : : 2017/12/08(金) 14:16:04


    百田「はァアアアああああああああああああああッッ!!!!」


    爆発したような音とほぼ同時に目前まで拳が迫っていた。


    小泉(はや………!!)



    右ストレートと左フックを続けざまにかわす。



    百田「ォオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」




    ロケットエンジンをフル活用し、拳が爆発的に直進したかと思えば…

    すぐさま次の射撃位置に戻る…


    それはまさにロケット・パンチのラッシュ!




    百田「『ロケット・流星群』!!!!」



    小泉「くッ! うぐッ…!!」



    小泉「あっつ………!!」


    ロケット・パンチのラッシュに加え、拳が後退すると同時に発生するバーニアの噴炎が肌を焦がす。




    百田(実際、俺が最初にナイフで刺された時も瞬間移動だと思った…)


    百田(けど、そうじゃねぇ…アイツの能力の正体は………)





    百田(時を止めること………!!)

    百田(決定的だったのは2発違う軌道で撃ったジェット・ナックルが『同時に』反らされた事…!)


    百田(そしてその能力は恐らく長くは発動できない…)


    百田(それだったら俺はとっくにめった刺しになってる筈だしな……)







    カシャ    カシャ






    百田(さぁ… 使えよ…! その力をガンガン使え!!)






    カシャ




    百田「どぉおりゃあああああああああああああああッッッ!!」

  94. 95 : : 2017/12/09(土) 23:11:22


    小泉(まずい……! これはもう多分勘づかれてる……!!)


    目前の光景は


    一瞬にして「静止画」となる。



    しかし、それも長くは持続しない。


    後ろに退こうと攻撃の軸から逃れようとしても……




    「フレーム内」のそれはシャッターの呪縛から解き放たれると


    怒涛の連打は再びこちらを捉え動き出す!



    充分な距離を稼ぐ時間も反撃に転じる時間を創り出すことももはや不可能であった。







    カシャ







    再び、フレームに収めた世界は一瞬の静寂を迎える。





    百田「まだだ………!」




    百田「まだ……………」






    百田「まだァ!!!!!」




    晴れところによりロケットパンチの雨。



    小泉「グぅ……ッ!!」



    傘もないでは降られるばかり。



    小泉「が……! あぁ…ッ!!」



    ロケットがこめかみを掠めていった。



    百田(ここだ……!!)




    百田「『宇宙に轟く蹴り(ロケット・キック)』!!」




    吹っ飛びそうになる意識を無理やり起こし






    カシャ






    蹴りがほんの瞬きする間止まる。




    再び動きを取り戻した蹴りは無様に空を切った!





    百田「『宇宙飛翔拳(ロケット・パンチ)』!!」





    先ほどのような乱打ではなく狙いすました右ストレート!



    小泉(しめた……!)






    カシャ





    リモコンの一時停止ボタンでも押したようにピタリと動きが止まる!!



    小泉(これなら……!!)




    そして、再び動き出す。


    小泉「う…ぐ……ッッ!!」


    背後から車に跳ね飛ばされたかのような衝撃。


    軋む骨のサウンドに合わせて臓はきりきり舞い。


    小泉「ぁぁああああああああああああッッ!!!」



    今まで止めてきたはずの男の背中が勢いよく遠ざかった。
  95. 96 : : 2017/12/09(土) 23:22:38

    【Tips】


    時間の(タイム)シャッター



    超高校級のカメラマン 小泉真昼の固有魔術。



    具現化された「シャッター」が開いてから再び閉じるまでのわずかな間、時間を停止させる。

    「シャッター」が閉じるスピードを落とせばより長く時間を止められる。時を止めるには「被写体」としたものを視界(フレーム)に収める必要がある。

    また、使用者への負担、消費する魔力が非常に高い。



    小泉の入賞作品にはこの力を用いて撮られた物も多い。
  96. 97 : : 2017/12/10(日) 17:48:59


    小泉「あ……! がぁああ…… あぁ!!」


    小泉(どうして…… 一体何が……!)




    小泉(まさか……!)



    切り離された脚が百田の許へ舞い戻り、元通り結合する。


    百田「やっぱり…… お前が時を止められるのは正面に限った事なんだな…」



    百田「お前使いすぎた…… その力を… オマケに… あのナイフを使いながらじゃ消耗だって相当激しいはずだ……!」

    百田「ま、お陰で俺はお前の力を見破れたんだけどな」






    百田「そろそろ終わりにしてやるぜ……!」




    百田「悪く思うなよ…」





    彼の身体は少しずつ地面を離れていくと




    一気に加速し、雲を突き抜ける。




    百田(お前の技に敬意を示して……)



    百田(最高の技で決めてやる………!)





    やがて空は群青となり



    暗黒と星々の宇宙へ達す。




    百田(やっぱ… すげぇや…… 宇宙ってよ……)


    百田(俺たち…… こんなすげぇモンが丸ごと消えちまうか否かの戦いやってんだな……)



    かつて、ソ連の宇宙飛行士、ユーリ・ガガーリンは言った。



    「地球は青いヴェールをまとった花嫁のようだった。」



    違う世界へやって来ても、それは同じであった。


    百田(やっぱ青いんだな… 異世界の地球もよ……)

    百田(なんて、感傷に浸ってる場合じゃねぇか)


    百田(こいつが俺の…… 最期のフライト………!!)















    バーニアで方向転換し、異界の地球を見やる。




    深く青い海に白い雲の化粧をした星が



    徐々に大きく迫ってくる。




    やがて緑の大地から




    グレーに染まる人の都市。






    目指すは彼女の紅い髪。









    百田「宇宙に轟く流星(ローリング・メテオ)!!」
















    流れ星が落ちた。









    百田「ぐ………ッッ!!!!」



    百田「ぐぁああああああああああああああああッッッッ!!!!」





    首の根本から背中の下にかけて何かが一直線に貫いた。




    百田(なぜだ………!!)





    百田(なぜ………… うごけ…… て……)




    今は主なき流れ星。


    地面に落ちるもなお止まらず。



    遠くの宇宙(そら)へ消えていった。










    小泉「ハァ……! は…! ゲッホ!!」



  97. 98 : : 2017/12/10(日) 18:34:22


    小泉「か………った…の……?」





    文字通り指の先さえ動かなかった。


    意識もじきに深い闇へと落ちるだろう。




    小泉「やっ……たよ……… ひよ… こ … ちゃん!」








    眼には深いクマができ、鮮やかな赤い髪はもう7割以上が白髪になってしまった。



    だが、彼女は勝った。

















    ここで、少し時間を巻き戻す。







    小泉(どうしよう…… あんなの受けたら… 今度こそ……)



    小泉(死………!)




    背中の先には地面しかありはしないのに、真っ黒なローブを被った死神が背後からその手の大鎌を自分の首にかけている。


    小泉にはまさにそう感じられた。



    小泉(宇宙空間から加速して…… わたしごと吹き飛ばすつもり……?)


    小泉(だけど…… もう一度時を止めたところで………!)



    すでに、まともに回避行動をとるだけの力は残されていなかった。


    できることと言えば虫のように這うことくらい。


    小泉(あと1回…… あと1回だけなら………)



    小泉(なにか…… 策は…!)





    宇宙まで飛び出してからのタックルを止める術などない。


    止めたところで「その1回」で殺しきれなければ彼女自身の敗北であり、死であるからだ。




    小泉(ここに日向がいたら止めてくれたかな……)



    一条の光が遥か上空で煌めいた。



    小泉(あんな猛スピードで落ちてこられたら…… もう…)





    小泉(猛スピード………?)










    小泉の脳裏に閃光が走った。





    今一度。ナイフを強く握りしめる。



    小泉(そう……か…)


    小泉(なにもわたしが…… 動かなくても………!)


    小泉(運動エネルギー(必要な力)は向こうが稼いでくれる………!!)




    轟音が迫り辺りが明るくなっていく。



    小泉(まだ…… 直前までは………)











    小泉(ここ………!!!!)




    熱風が目前まで迫った時。







    「シャッター」は切られた。








    その力強く、猛々しい姿は小泉のフィルム(脳裏)にしかと焼き付けた。





    小泉(ごめんなさい……… 異界の魔術師…)




    小泉(百田解斗…………)



    小泉(わたしは貴方を……忘れはしない。)















    ナイフは、「そこ」へ置けばいい。


    時が動き出せば彼自らがナイフに激突するからだ。


    大気圏の突入時には音速を遥かに超える速度で地球に突入する。



    たとえ、ナイフ1つでもその途中で激突すれば一大事。




    あとは、最後の力を振り絞って






    這って逃げればいい。






  98. 99 : : 2017/12/10(日) 18:42:33


    異空間の街角  カフェテリア前 



    超高校級の宇宙飛行士 百田解斗

    vs

    超高校級のカメラマン 小泉真昼







    勝者  小泉真昼


  99. 100 : : 2017/12/10(日) 20:07:07


    異空間の街角 爆心地




    赤松「まだまだ!! 私は負けないよ!!!」



    これまでと違い、彼女は「鍵盤」を展開している。




    狛枝「おっかしいなぁ……! さっきまでは… 使ってなかったのに!」

    赤松「貴方の言葉で…… やっと気づけた………」


    赤松(今なら… 本当に胸から『ピアノが好き』)って言える……!!)


    赤松「だけど… それとこれとは別だよ!」


    狛枝「お互い様だね……!! それがキミの希望なんだね…!!」




    赤松「『恨みっこなし』だね……!」


    奇妙な感覚であった。


    互いに命を張り合った世界の命運を背負った戦いだというのに




    どこか、晴れやかな気分であった。




    そして確信していた。


    このままでは埒が明かないと。





    互いの全力の一撃で全てを決するしかないと。




    狛枝(ボクの能力は基本的に自分から攻撃を仕掛けるには向いてない…… 応用ができないワケじゃないけど…)

    狛枝(赤松さんの心臓を止める……?)



    狛枝(いや、あの強靭な赤松さんの意志を捻じ曲げて心臓を止めるのは厳しいかな……)


    狛枝(『魔術に最も重要なのは意志の力』って… 先生も言ってたっけ……)

    狛枝(もっと… 何か違う現象は………)



    赤松(変な気分…… 私と彼は殺しあってるのに…)


    赤松(けど、私はこの戦いに… 悔いを残したくない…!)

    赤松(それはきっと…… 彼も同じなんだ…)





    それはまさに「決闘」であった。
  100. 101 : : 2017/12/10(日) 20:19:47



    二人の間に流れる一瞬の静寂。



    さながら荒野のガンマンの果し合いの如く。







    先に仕掛けたのは赤松の方であった。


    赤松「ビート・スマッシュ!!」



    鍵盤を用い、より効率的に反響を溜め、両手同時のビートスマッシュ。



    狛枝(あれに触れたら………)





    狛枝(敗ける(死ぬ)………!!)



    狛枝は模索…… いや。




    すでに術式を確立していた。


  101. 102 : : 2017/12/10(日) 20:32:20



    狛枝「危なかった………」





    狛枝「やっと完成したよ……!!」





    赤松「………………!!」



    明らかな違和感。


    鍵盤は沈黙を押し通し


    手を叩いても軽快な音は鳴らず



    喉でさえ声を出すことを否定した。






    狛枝「古代ギリシャの神ヘルメス…… その杖である『ケーリュケイオン』。」


    狛枝「これは元々…… 物事の「確率」じゃなくて「比率」を変える物なんだ………」


    狛枝「もしかしたら…… こっちが正しい使い方なのかもね。」






    赤松(な…… 何…? 何を言ってるの……??)


    赤松(音が聞こえない………!!)




    赤松「……! …………ッ!!」


    そして、すぐさまその「違和感」の正体に辿り着く。



    いや、辿り着かずにはいられないはずだ。





    赤松(息が………! いや…………)




    赤松(空気を……!!)
  102. 103 : : 2017/12/10(日) 21:01:28


    狛枝「できれば… これは使いたくなかったんだけどね……」


    狛枝「だって…… 音を扱う赤松さん相手に『空気を無くす』だなんて……! 無粋にも程があるよ………!!」


    狛枝「だけど…… ボク自身… もうそんな事を言ってる場合でもなかったしね……」






    狛枝「そろそろ手足も動かなくなってきたんじゃないかな……?」


    狛枝の指摘は正しかった。





    空気0の真空の中。赤松はすでに意識すら失いかけていた。


    赤松(指が……… 声も……!!)



    手足は言うことを聞かず視界はぼやける。



    赤松(わた……し…の………)





    赤松(敗け…………?)









    ドクン










    赤松(あぁ…… 動いてる… 私の心臓…… 音は聞こえないけど…………)






    ドクン




    赤松(けど…… もうじき止まるんだ…)



    赤松(大見得切ったわりに…… あっけなかったなぁ…)



    ドクン








    赤松(心臓…………)


  103. 104 : : 2017/12/10(日) 21:32:47


    狛枝「さて… そろそろ1分経つけど……」



    狛枝(念のため… ボクの周囲の空気も抜いておこうか……)






    二人は真空の空間に残された。



    狛枝(……身悶えもしない。)


    狛枝(まぁ… 真空にしてからもうかなり経つし……)






    ドクン









    狛枝(え……?)









    狛枝は瞬時に確信した。それは自らの「心音」ではないと……




    狛枝(この真空の空間で……! いや…… これは…)




    狛枝(鼓動……!!)




    音とは空気の振動。


    空気が無いでは楽器も歌姫も沈黙せざるを得ない。



    しかし、「振動」までもが無くなったわけではない!




    狛枝(まさか……! 手も足も…… 声も出せない状態で… 鼓動の振動を………!)




    狛枝(そんなに… 心臓に負担をかければ赤松さん自身が……!!)



    狛枝(いや… 彼女は… そうまでして………!)


    振動は地面を伝って狛枝の足元を捉える。


    そして足から狛枝の肉体へと入り込んだ鼓動(ビート)は内部から組織を破壊する!!




    狛枝(ウッ!!! グゥウウウウウううううううッッ!!)


    消し飛びそうになる意識を無理やり叩き起こし術式を維持する。



    狛枝(まだ… まだ…… 倒れては………!)


    鼓動が足元から伝わる度に骨は粉砕され筋肉と内臓はグズグズのミンチになっていく。




    狛枝(もう… 少し……)


    赤松(まだだ……)






    「「まだ、死ねない!!」」



  104. 105 : : 2017/12/10(日) 21:45:56





    勝負が決したのは同時であった。







    狛枝「ガはッ!! ハァーー… ハァ…」


    赤松「ゲッホ!! うぅ… ぐぅ…あぁッ!」





    2人のいた空間に空気が戻る。




    狛枝(これは… ダメだ…… 治らない…)



    赤松(これは…… もう… ダメ…  かな………)


    狛枝「ま…いったよ…… ボクの… 負けだよ……」

    狛枝「もう全身ズタズタだよ………」



    赤松「私の…… 方こそ…」


    赤松「もう…… いきて… 帰れそうにないや………」





    互いにその場から全く動けないまま爆心地に横たわっていた。


    狛枝「まさか……… ボクごときを倒すために…自分の…命と引き換えに…… するなんて……」


    赤松「『キミごとき』なんて… 思ってないよ……」



    赤松「これは… 『引き分け』…… かな?」

    狛枝「ボク…… ごときが…  キミと……… 引き分けなんて……」






    狛枝「……………いや」




    狛枝「とっても…… 光栄だよ…………………」














    赤松(ごめんね…… 最原くん… もう…一緒に戦えそうに… ないや………)





    赤松(もう一度…… 連弾できるって…… しんじて…た…………)




  105. 106 : : 2017/12/10(日) 23:06:55







    「………………………」






    「……………………………」









    「………この……音は…?」







    「赤松……さん…?」




    赤松「あぁ… こんなところにいたんだ…… 最原くん。」



    最原「赤松さん…… なん…で…」


    赤松は自らの術で鍵盤を展開した。



    赤松「ねぇ。一緒に弾こう!」


    赤松「あいにく… 本物のピアノは用意できないけどさ…」

    最原「赤松さ………」


    赤松「ね!」


    最原「う…うん……」




    広がるのは無。 虚無。



    その先に僅かに光の点が2つ見えるだけ。



    赤松「最原くん!事件の前はちゃんと練習してた?」

    最原「うん…… それはもちろん…」


    赤松「本当? じゃあ……前より上達してるかチェックしちゃうからね!」




    何もない空間に腰掛け、鍵盤に指を乗せる。


    赤松は高音側を最原は低音側を。


    赤松「なに弾こっか?」


    最原「じゃあ……『月の光』で……」

    赤松「好きだね… それ。私も大好きだけどね」



    息を合わせた旋律は



    虚無の空間に鳴り渡る。



    赤松「上手いね。 じゃあ… 少しペース上げてみようか。」

    最原「うん……」



    旋律はペースを上げる。


    しかし、2人の息はピタリと合ったまま。


    赤松「本当に上達が早いなぁ……」

    赤松「もう、最原くん1人でもピアノ弾けるんじゃないかな?」


    最原「い………」


    最原「いやだよ……」


    最原「君だけには……! ここへ来て欲しくなかったのに…!!」



    旋律が、僅かに乱れた。



    赤松「最原くんはさ…… 自分がもう死んだって思ってる?」

    最原「それは……」


    最原「それは確かに…斬られたし…… ここには何もないし…」


    赤松「まだ、死んでないよ。 最原くんはね。」

    最原「え……」

    最原「どうして…… そんな事が…」


    赤松「分かるよ。ここはそういう所だもん」

    赤松「ある人に教えてもらったの。」


    最原「じゃあ…赤松さんは……」


    赤松「………」


    彼女は静かに首を振った。


    赤松「私はダメ。…死んじゃったよ。 ここへは無理言って来てるの。」


    最原「そ……んな…」


    低音側の演奏は止まってしまった。


    赤松「ほら、手が止まってるよ。」


    最原「だって……! だって………!!」


    赤松「……ごめんね。最原くんを放って… 1人で違う世界に行って……」


    赤松「アンジーさんに嘘ついちゃったかもな… 本当は怒ってたのかも知れない……最原くんのこと」


    最原「僕は…… 僕は………!」


    赤松「最原くん」


    赤松「最原くんは…… ここにいちゃダメな人だよ…」


    赤松「みんな… 最原くんを待ってるんだよ!」



    最原「分かってる…! 僕がやんなくちゃいけない事くらい……!」



    赤松「………」


    赤松「もう……いつまでも低音側いないと私がさみしいんだけど?」


    最原「ご…ごめん……」


    弱弱しくも低音側の旋律が再び流れ始めた。



    赤松「私もね、最初はこの能力も嫌いだったし… 『音楽が好き!』って心の底から言えるか正直不安だったの……」


    最原「………分かってたよ。」

    赤松「えっ……?」

    最原「赤松さんの演奏する楽器の音波には… 人間の本能に作用する音波が含まれてるって……」


    最原「だけど……」


    最原「それでも…赤松さんが心を込めて演奏してるのは見てて分かったよ。」


    最原「だから…… 赤松さんのピアノで僕は間違いなく……」

    最原「感動していたよ。」



    最原「もちろん今だって…!」



    今度は高音側の旋律が僅かに乱れた。

    赤松「ごめん… ちょっとミスっちゃった……」

    赤松「励ましに来たはずなのに… 私が励まされちゃった……」


    赤松「本当……つまんない事気にしてたんだね…私……」


    最原「赤松さん……」


    最原「……………」



    最原「僕…… 戻るよ…」


    最原(そうだ… いつまでも……しょげてる場合じゃないんだ!)

    最原「僕の力で… 何ができるかはまだ分からないけど…」

    最原「僕は……精一杯あがいてみせるよ。」



    旋律はよりハッキリと、かつ優しく。


    赤松「ふふっ… やっとカッコいいとこみれたなぁ…」

    赤松「実は今の演奏にも元気になる音波がふくまれてたりして!」


    最原「そんなの…赤松さんには必要ないよ。」

    最原「『音の魔術師』の名前は……まさに赤松さんにふさわしいよ……」


    赤松「…ありがとう。 本当にありがとう…… 最原くん。」


    最原「僕の方こそ……」


    最原「ありがとう…… 赤松さん。」










    曲目:『月光』

    演奏完了。



  106. 107 : : 2017/12/10(日) 23:07:43
    ________

    ____

    __





    赤松「じゃあ…… 私は戻るからね…」


    赤松「さようなら… 最原くん。」


    最原「うん…」



    最原「さようなら…… 赤松さん…」


    赤松「最原くんは… 私と逆の方へ行くんだよ?」

    最原「だ… 大丈夫だよ そんなに何度も確認しなくても…」

    赤松「帰る途中は絶対振り返っちゃダメなんだよ!」

    最原「もう大丈夫だから……!」





    赤松に背を向け、最原は歩き出す。


    赤松「あと70年…… いや、80年… 100年はこっちに来ちゃダメだからねーーー!」

    赤松「絶対振り返っちゃダメだからねーーーーーーー!!」











    最原「もう…… 分かってるよ… 赤松さん…!」







    超高校級の探偵 最原 終一。



    今、現世に帰還す。
  107. 108 : : 2017/12/10(日) 23:28:50

    異空間の街角 爆心地(旧役所前)


    超高校級のピアニスト 赤松楓

    vs

    超高校級の幸運 狛枝凪斗



    引き分け(両者死亡)

  108. 109 : : 2017/12/11(月) 10:26:30











    視点は戻ってここは最原達の世界。




    ここでは更なる決戦、混戦、乱闘の様相を呈していた。







    日本 孤島の古戦場


    王馬「まさか…… 総統のオレがこんな所で戦うことになるとはね!」


    日向「ここは…… 古戦場か…」



    各地に残る戦火の跡と現代も活動する飛行場。


    日向「けど… ここなら思いっきりやれそうだ」

    王馬「お互いにね……」







    ドイツ 絶壁の城



    白銀「地味に…… いいシチュエーションだと思わない?」


    七海「そうだね… 溢れてる魔力もいい感じ……」



    この城は正確には中世に建てられた城ではなく、19世紀にとある小説の世界に憧れた大公が廃城を生かし再現したものだという。



    白銀「すごいよね! 自衛隊のジェット機で10時間足らずで到着しちゃってさ。こんなお城撮影に使えたら最高だったろうなぁ……」

    七海「撮影なら… 小泉さんに任せるのが一番かな」


    白銀「なんだか… あなたとの対決はとってもいいものになりそうな気がするよ!」


    七海「私も……」

    七海「そうだと思うよ…」






    アメリカ合衆国 工業地帯


    夢野「うぅ…… ここは騒がしくてマナが少なくて嫌じゃ…」


    左右田「そうかぁ? 俺にはサイコーのロケーションだぜ!!」


    夢野「んあ!?」


    世界終末の危機でも止まっている工場ばかりとは限らない。



    煙立ち昇る煙突に人影があった。



    左右田「なるほどな…… やっぱりこっちに来て正解だったぜ… 分解してまた組み上げたくてたまんねぇ機械ばっかだぜ………!」

    夢野「なんの意味があるんじゃ… ソレ……」


    左右田「………」


    左右田「その格好からすると…… どうやらここ職員や何かじゃなさそうだなぁ…」

    夢野「当り前じゃ… ここの職員はとっくに避難しとる…」


    左右田「なるほど… じゃあやっぱりお前が俺の相手ってワケだ……」






    日本 希望ヶ峰学園




    静まりかえった校庭に月の明かりが影を映し出す。



    辺古山「……………」


  109. 110 : : 2017/12/11(月) 11:53:43



    王馬「ま、無駄話してるのもなんだしちゃっちゃと始めようか!」


    日向「望むところだ!!」




    日向(……構えも何もない… コイツは一体何の力を……)


    日向(とはいえ…… 俺ができることは限られてる…)


    日向(遠距離型か……? それとも…)


    足元の石を素早く拾い上げ






    グッ………





    王馬の顔面向けて放り投げた!


    凄まじいスピードで石が飛翔するが……



    石は目前で砕け散った。


    日向(なんだ…? アイツは指先すら動かしていない……!)


    次の瞬間、白いシャツに赤い点が現れ、じわっと広がっていくのを認識した。


    日向(痛覚…遮断!!)


    しかし、その赤い点は腕や脚にも現れた。



    日向「クソッ……!」


    王馬「あれ? どうしたの? オレはまだ何もしてないんだけど?」


    日向「白々しい……!」


    日向(この傷の正体は恐らく……!)
  110. 111 : : 2017/12/11(月) 12:18:58


    その場に立ったまま動かない王馬と対照的に日向は地面を蹴り出した!


    日向(どっちにしろ俺が敵を倒すには……)

    日向(これぐらいしか……!!)



    拳を握り締め、王馬相手に飛び掛かる!


    王馬「あーあー…… なんかつまんないな意外と…」



    王馬が軽く後ろに飛びのくと……


    横から何かに思い切り吹っ飛ばされた



    日向「しま……っ!」






    響く砲声はその正体を物語る。


    日向(召喚系……! それも恐らく……!)


    王馬「いきなり人のスピードを超えて走り出したと思ったらそのまま顔面パンチなんてさ!ホントに怖いよね~」

    王馬「そっちの魔術師は……みんなそうなの??」


    日向「……手段はどうあれ… 同じような事をやるのは不可能じゃないだろうな……!」


    王馬「あれ? やっぱ見間違いじゃないや………」



    間違いなく効力射、いや直撃だったはずだ。



    その男は硝煙の中から立ち上がる。


    王馬「それとも…幽霊かな?」


    日向「試してみるか?」
  111. 112 : : 2017/12/11(月) 15:04:57


    再び飛び出したのは日向の方だった。

    日向(いくら痛覚を遮断したって…ダメージが無くなってるワケじゃない… 傷口を塞ぐにもまた魔力がかかる……)

    日向(だいたいもう能力は読めた…無駄弾食らうわけにはいかない!)


    日向(とにかく距離を詰めなきゃ埒が明かない……!)





    唐突にラッパの音が周囲に鳴り響いた。


    日向「ラッパ…?」


    日向(また何か召喚する気か……)

    日向(させるか…!)


    つま先で地面を抉りながら蹴り上げる!


    王馬(砂埃……!)

    日向(視界は奪った!)



    蹴り出した足を今度は踏み切り、もう片方の脚で高い蹴りを繰り出す。

    2人の間に飛び込んで来た者があった。


    日向「コイツ……!」


    どこかでうっすらと聞いた覚えのあるラッパの正体は



    「進軍ラッパ」であった。


    「総員構え!!」


    先頭に立つ騎兵がサーベルを振り上げる。







    「撃て!!」







    揃えられた銃剣先が一斉に火を噴いた!

     
  112. 113 : : 2017/12/11(月) 17:12:39


    「ぐぇえああッ!!」


    目前に飛び込んできた囮諸とも銃弾が直進する!


    日向「チ…ッ!」


    日向(視力強化……!)




    途端に銃弾の速度が落ちて見えた。


    日向(こんな唐突に歩兵が出てくるってことはやっぱ召喚系か…)

    日向(どうにかして本体を叩く隙が欲しいが……)


    もう一度王馬の元へそのまま跳躍。


    顔面に拳を叩きこもうとするも…


    「うぉおおおおああああ!!!!」



    すぐさま彼の兵士が身代わりとなった上、警戒が疎かになる側面や後ろからすぐさま銃弾が飛んでくる。

    日向(クソ…… やっぱダメか…!)


    王馬「うんうん! つまらなくは無くなってきたね!」



    日向「どこか狛枝みたいなヤツだな……」

    王馬「その狛枝っていうのもこっちに来てんの?」

    日向「……いや、アイツはこっちへは来ていない」


    王馬「ふぅん…」


    王馬(じゃあ赤松ちゃんか百田ちゃんとやってるわけだ…)

    王馬「オレは王馬 小吉! こんな機会だけどさ、せっかくだから君の名前も教えてよ!」

    日向「日向 創だ…」


    王馬「ふぅん… そっかいい名前だね」

    王馬「それで日向ちゃんの力も知りたいんだけど…」

    日向「教えるわけないだろ…」



    王馬「ちぇッ…… やっぱゴン太みたいにはいかないか…」

  113. 114 : : 2017/12/13(水) 16:30:43


    日向(さて… どうしたものか…… 見るからに全力というわけでもなさそうだし能力の底も知れない…)


    日向(こっちは最初っから全力だけどな…)


    馬に騎乗した「指揮官」が王馬の前に立ち、その前を小銃を構えた歩兵が陣取る。


    王馬「目標! 前方の日向ちゃん!! 一斉射撃!!」





    「撃て!!」



    ざっと200人はあろうかという歩兵の横隊が再び一斉射撃!


    しかし、銃弾の1つ1つが日向には見えている。


    横に広い銃撃ならば縦に避ければいい。


    高く跳躍し、軽々とかわすと…



    日向(ならば召喚されたものを倒せば無力化するか…?)


    重力に従ってゆっくり下方へ加速を始めたころ。


    下の歩兵達は空の薬室を開け、ポケットから弾薬を取り出し再び薬室に込め薬室を閉じ、再び日向に狙いを定めする。



    当然、そんなことで発射に間に合うはずもない。



    隼の如く上空から一直線に降下したかと思えば歩兵の一団が軽く数10名は吹っ飛んだ!



    薬室を閉じて構えて撃ったかと思えばそこに既に彼の姿はなく…


    同士討ちに隊列は混乱し、その間にも歩兵は紙屑のように空中を舞う!



    王馬「新式銃、大砲用意!!」


    歩兵の統率が乱れ出した所へ新たな号令が下る。



    ガラガラと車輪の音を立てて並べられるは黒くどっしりと構えた鉄の筒と…

    いくつもの銃身が束なった奇妙な銃。


    日向(新手か……!!)



    王馬「撃て!!」




    砲声のリズムに合わせて新式銃(ガトリング銃)がバリバリと歌い出す!!




    「ぎゃああああああ!!」



    日向を狙った弾に巻き込まれ歩兵が次々となぎ倒されていく。




    砲弾と銃弾の雨に日向も無傷ではいられなかった。


    日向(同士討ち……!? 一体何を……!!)


    日向「お前…! 一体何して……!」





    王馬「う~ん… オレの全力の一斉射が効かないなんて…」



    日向「ウソつけよ……」

    日向(話すだけ無駄か…)



    日向(クソ…… 確実にダメージが溜まってる…)


    痛みを感じないのが幸いだった。


    服はすでに血と煤に汚れボロボロ。


    身体のいたるところに砲弾の破片が刺さっていた。
  114. 115 : : 2017/12/14(木) 10:37:23


    日向(普通、召喚系の魔術は術で召喚をする度に魔力を消費する… 一度戦闘で倒された召喚獣の類なんかは復活させるにも時間を食う……)


    日向(もうざっと300くらいはあの兵士を出したはずなのに消耗も見られない……!)



    日向(だけど…)






    やっとこさと砲弾を込め、弾倉を交換している隙に…




    日向(今さらひるんでられるかよ……!!)



    王馬「また正面から? 芸がないなぁ 日向ちゃんも…」




    王馬「ん……?」



    懐に切り込まれ、隊列は再び混乱を極める。



    「歩兵は! 歩兵はどこだーーッ!!」



    日向「おっと! お前たちにはまだ、具現化しててもらわなきゃ困るんだ!!」


    「ひぃいいいい!」



    並びたてられたガトリング銃の1つを奪い取ると…


    日向「確かこれは……」



    掴んだまま構えるとハンドルを回すと…




    弾丸が次々と放たれた!



    精々ボルト・アクションやレバー・アクションの所謂1発ずつしか撃てない銃ばかりの時代にこの弾幕は効果的であった。



    王馬「…………」



    「ひぃえええ!!」


    「ぎゃあああ!!」



    王馬の前に並べられた兵士がバタバタと倒れていく。



    日向(コイツ…… 自分で召喚したものを躊躇なく盾に……!)


    日向(召喚術士として自ら召喚対象を消させるなんて…)




    日向(召喚術士としては飛んだ凡ミス(タブー)だ……!)


    日向(それとも数には自信があるって事か…?)


    日向「だったら………!!」




    一旦地面に舞い降りると…


    そこに放置された大砲を掴むと……



    日向「そぉおお…らァああッ!!」



    総大将(王馬)向け投げ飛ばす!



    しかし、当然これも兵士の肉壁が阻む。




    日向(だったら兵士(肉壁)ごと吹き飛ばすだけだ……!!)



    大砲を投げ飛ばした腕のもう一方に掴んでいたのは…



    その弾であった。




    日向「喰らえッ!!」


    腕の筋肉を極限まで張り詰めると……




    砲弾は日向の腕から放たれる!!


    着弾地点は王馬のまさに頭上!






    爆音に合わせて破片と爆炎が飛散した!
  115. 116 : : 2017/12/14(木) 13:44:49


    日向(真上からなら兵士で肉壁を張るのも無理なはずだ… これなら……!)


    確かに、そこに王馬も兵士の姿も無かった。



    代わりにそこにあったのは何やらコンクリート製の箱のような物。






    王馬「いやぁ… すごいよ日向ちゃんはさ!」


    日向「…………ッッ!!」



    コンクリートの塊から声がする。




    それはいわゆる掩体壕(トーチカ)と呼ばれる物だった。



    ガラガラと音を立ててコンクリートの塊が崩れ去る。



    王馬「いや~ 今のは流石にビックリしたよ!」



    王馬「まさか……オレの術を逆に利用するなんて…」



    言い終わる前に日向は既に飛び出していた。




    拳が直撃したのは…



    コンクリートであった。





    王馬「そんなんじゃ一生かかってもオレを殺せないよ? 日向ちゃん!」



    王馬「それから…… 日向ちゃんも頭の上には気を付けた方がいいんじゃない??」


    日向「お前の思い通りには………!!」






    空を裂くエンジンの音と甲高い風切り音。


    日向「………!」



    日向の強化された視力と身体能力をもってしても完全な回避とはいかなかった。




    空から降りてきた複葉機が水平飛行に戻ったかと思うと…






    再び爆音が鳴り響き地面はまるで噴火したかのよう。




    日向「が……ッ カハ……ッッ!」



    王馬「さぁ、もう退屈してきたし片付けちゃおうか!」


    日向を囲むようにして「塹壕」が展開される。



    塹壕の中には「機関銃」を携えた歩兵が詰め…


    後ろには巨大な「榴弾砲」。



    更には「毒ガス」を用意した工兵が爆撃地点に迫る!




    爆撃地点はまさに包囲状態。





    王馬「総員… 一斉射撃……」






    本日の古戦場の天候は弾丸と砲弾のスコール。



    トーチカにでも身を隠してご注意を。


  116. 117 : : 2017/12/14(木) 14:37:41



    場面変わって、ここはアメリカ合衆国。


    世界最大級の工業地帯に今は2人だけ。








    左右田「お前を殺さなきゃなんねぇのは気が引けるけどよ…」


    左右田「うるせー家族だけど死んじまえとまでは思わねぇし…」


    左右田「変わりモンだらけのダチとか… ソニアさんとか……」




    左右田「宇宙が滅びて消えちまうには…… 惜しいヤツらなんだよ…」




    左右田「まぁ… そんなのはお互い様だよな…」


    夢野「……ウチにも…大事に思う人くらいはいるわい…」


    夢野「お互い、こんな形で会いたくはなかったの……」





    工業地帯に冷たい風が吹き抜ける。



    左右田「けど… 俺は敗けねぇぜ…」

     
    夢野「……ウチの魔術に勝てるかの…?」





    左右田「あぁ! 見せてやるよ!」




    左右田「『機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)』!!!!」




    周囲の煙突、ボイラー、工作機械が左右田の前に集結し…



    現れたのは巨大ロボ。


    様々な機械が一か所に集結し、人の形を成している。





    ライトか何か。 奥では目のような球体が怪しく光る。



    夢野「…ウチの魔術…… とくと見て逝くがよいぞ…」
  117. 118 : : 2017/12/15(金) 10:18:47



    左右田「生きて帰んのは俺だ!!」


    左右田は巨大な機械の集合体の頭の上に立っている。


    夢野「…さて、どうしたものかの……」



    夢野(ここであまり火は使いたくないしの…)



    すぐ傍の巨大な球体には「火気厳禁(No fires)」。



    夢野「まずは小手調べじゃ」



    種も仕掛けもない黒いステッキを軽く振りかざした。




    左右田「させるかよ!!」




    一方で巨大集合体メカは脚を上げる


    すると、これまた巨大な影が夢野の周辺に出来上がる。




    左右田「ん…?」




    そのまま踏み込もうという時、ゴロゴロという音に左右田は気づく。


    不自然に真っ黒な雷雲が左右田の頭上に浮かび上がっていた。



    左右田「マズい……!」


    慌てて巨大メカの中に避難した直後…




    ガラガラと音を立てて雷が直撃!



    夢野「どうじゃ……?」





    左右田が内部に逃げ込む間。操作は止まっていたため、片足を上げたままの奇妙な格好で巨大メカは静止している。


    左右田「…ッブねぇだろ!!」



    巨大メカから声がする。どうやら術者も機械にもさしたるダメージはないようだ。



    夢野(この程度では効かぬか…)


    巨大メカのライト()に再び灯がともる。




    左右田「今度はこっちから行くぞ!」



    巨大な鋼鉄の腕がそびえ立つ煙突に延び…



    そのまま根本から煙突を引き抜いた!



    左右田「そりゃあ!!」



    煙突を大上段で構え重力とパワーに任せて振り下ろす!



    瓦礫が舞い飛び地響きが工業地帯を揺らした!
  118. 119 : : 2017/12/15(金) 10:45:08



    左右田「クソ…… やっぱもうちっと小さく作っときゃ良かったかな…」


    耐久、パワーに優れているのはいいが如何せん動きが鈍く人間サイズの敵には対処しにくい。


    左右田「どこだ…… どこに…」










    一方地表もまた緊張感に張り詰めていた。


    夢野「はぁ… はぁ……」


    夢野(あ… 危うくペチャンコにされるところじゃったわ…)


    夢野(あやつも何か… バズーカとか…ミサイルみたいなモノを使わんあたり巻き沿いを恐れているんじゃろうか……)





    ここが何の工場かは分からないがあちこちに怪しげなマークや配管、タンクが混在し、如何にも「火気厳禁」という雰囲気を醸し出していた。




    夢野(そういえばここは何の工場なんじゃ……)




    砂煙の向こうで巨影が煙突を振り回して暴れている。



    夢野(火を使わず…)



  119. 120 : : 2017/12/15(金) 13:50:37




    左右田「クソ……ッ! ダメだ…! やっぱ見つからねぇ…」



    探し物をしていて、部屋やらをガチャガチャと探し回っていると探し物の行方が余計分からなくなる。


    今の左右田はまさにその状態であった。



    左右田「てか… さみぃな……」


    ツナギでも少し暑いくらいであったはずが今は白い息が出ている。


    左右田「さむ……っ! 何か…ボイラーかなにか…」



    コクピットは温水の配管を利用してどうにか温度を保っていたが…





    左右田(なんで急にこんな寒くなってんだよ……)




    左右田「ちげぇ……! これは…!!」






    左右田(攻撃されてる…………!!!)




    何かが軋む音とビシッとヒビが入るような音がコクピットにも届いていた。



    左右田(マシンの表面が………!!)





    夢野はそこに立っていた。無論ただ突っ立っているわけではない。



    ステッキを掲げ、立ちはだかる夢野は詠唱を続ける。

    冷気がマントを揺らしていた。





    夢野「『絶対零度』……」




  120. 121 : : 2017/12/15(金) 14:39:23





    途端、巨大マシンの表面が凍り付いた。



    氷の塊はマシンを侵食していく。







    左右田「こ…のままじゃ………!」



    顔の表面が凍っていくのを左右田は肌で感じ取っていた。






    厳密に言えば、原子の振動は完全に停止するわけではないため「絶対零度」とはならない。



    しかし、機械に異常を発生させ、人命を奪うにはそれでも充分すぎた。




    左右田(こんなところで…)



    左右田(こんなところで死んでたまるかよぉおおおおお!!)





    言う事を聞かない手足をどうにか動かし…


    ボタンを押すと…








    「ボンッ!!」という音と共にマシンの頭部が切り離された。




    夢野「んあ…!?」


    夢野(あ… あんな機能が……)




    左右田「まだまだこんなんじゃ死ねねぇな!!」

  121. 122 : : 2017/12/18(月) 12:27:31


    左右田「俺の『兵器』はまだまだあるからなぁ!!」



    夢野(確かに…… 機械にあふれとるこの場所じゃウチは不利じゃ……)


    夢野(かといって…… ここから離れるわけにもいかんし…)



    左右田「『分解と組み立て(スクラップ・アンド・ビルド)』!」



    再び工場の機械が浮かび上がり、分解されると……



    また新たなヒト型ロボットとして形を成していく。



    しかし、変身中に攻撃してはいけないなどというお約束はここには存在しない。



    夢野(氷では仕留めきるのに時間がかかる…)


    夢野(ならこれはどうじゃ………)





    夢野(あやつが浮かんでいる今なら…!)



    ポケットから取り出したのはマッチ。

    そこから一本マッチを引き抜いて擦ると…



    当然、火が出る。



    夢野(鉄を燃やすほどの火力……)




    掌のすぐ上まで舞い降りた小さな炎は輝きを増して膨張していく。





    やがて、バスケットボール大から…



    赤白の大玉と同等のサイズまで膨れ上がる!



    左右田「さぁ…! 2号機のしゅつげ…」





    完成したであろうヒト型ロボットに巨大な火の玉が直撃した!
  122. 123 : : 2017/12/18(月) 15:38:04


    左右田「そんな程度の火力じゃ俺のマシンは死なないぜ!!」



    夢野の計算では少なくとも鋼鉄が赤熱するほどの熱を与えたはずである。



    しかし、現にそのメカは平然としている。



    夢野(一体……何を…!)



    左右田「反撃開始だ!!」



    再び形成されたヒト型ロボットはかすり傷1つなく



    更に小型化され、機動力が増している。



    左右田「そりゃああ!!」



    ヒト型マシンが拳を振り上げ



    そのまま振り下ろす!



    夢野は後ろに飛びのいて回避する!



    左右田(なんだ……? 見かけによらず身体能力も高いってのか…?)



    夢野「ていッ!!」




    杖から煙が立ち込めた。



    左右田「クソッ……!! 煙幕か…!」





    夢野「ハァ… ハァ…!」






    左右田「畜生! 出てこい!!」


    左右田(あの強大な魔術に高い身体能力…… 放っておくとヤバいことになりそうだぜ…)


    左右田(恐らく… この世界でトップクラスの使い手…!)


    左右田(こうなったらアレを引っ張り出すか… この距離じゃ時間が必要だけど…)





    夢野(マズいの…… このままではやっぱりペチャンコじゃ…)




    夢野(もう夜も明けそうじゃ… 視界がよくなれば有利なのは…)


    夢野(向こうじゃな…)






    じきに日が昇る。


    朝日はこの決着の行方を知るだろうか。
  123. 124 : : 2017/12/18(月) 16:55:55



    一方。古戦場における戦いも苛烈を極めていた。




    「準備砲撃完了! 機関銃斉射!!」



    濛々と立ち込める煙を曳光弾が貫く。





    王馬「………………」




    「次、化学砲弾 撃ち方始め!!」




    立ち込めていた煙は毒々しい色に変化していく。



    「やった!」


    「やったぞ!」



    「どうだ! ざまぁみやがれ!!」








    やがて、煙が晴れてくると……




    日向「…………………」




    「ひ…ッ!」


    「次弾込めろ! 何でもいい! 早く!!」




    日向(全身の細胞分裂を加速… 及び代謝の強化……)


    日向(骨の内部を繊維型に成形し硬度を上げる……)




    日向(更に… 筋肉の限界張度をさらに向上………ッ!!)




    「撃て!! 撃て!!」





    次弾が放たれることはなかった。




    日向の周囲に残ったのはクレーターだけだった。



    王馬「なるほど… やっぱり、能力を使ってないワケじゃなかったんだね……」


    王馬(汗に混じって毒ガスの成分が流れ出てる……)


    王馬(スピードも更に向上している……)



    王馬(やっぱ強化系か…)





    ズン!!





    トーチカの天井からパラパラと石の欠片が降ってくる。


    日向「言っただろう…… 最初っから全力だってな…」


    王馬「ウソばっか…」


    日向「それは…… お互い様なんじゃないか?」


    王馬「あは…ッ! やっぱ分かった!?」



    日向(今度こそ… 俺はこの力を胸を張れる事に使ってやるさ…)
  124. 125 : : 2017/12/18(月) 17:08:51

    【Tips】


    強化術式



    強化術式そのものは日向固有のものではなく、殆どの魔術師が扱うことができる。
    そもそも「魔術」とは、自然界や自身に潜在する「魔力」を「魂」を媒体として物理的な現象を起こしたり様々な様式で応用することが魔術である。

    これにより、魔術師の攻撃は魂と肉体。その両方を効率的に破壊するのである。


    ところが、日向の術式は魂を介さず直接、自身の肉体に作用する。魔術としては異例であり特例であり、欠陥でもある。


    とはいえ、日向の術式は一般的な強化術式に比べ遥かに出力が高く、人間を遥かに凌駕した動きが可能になる。
  125. 126 : : 2017/12/18(月) 17:49:50


    王馬(強化系ってことは自身にしかかかんないワケか…)


    王馬(ん? それなら…)





    王馬「もちろん!! オレの力はこんなもんじゃないよ!!」


    王馬(オレ勝ったじゃん)





    王馬「戦車大隊出撃!!」



    地の向こうから現れたのは鉄の獅子の群れ。


    砲を携え堅牢な装甲を身に纏う鉄の戦車(ライオン)



    王馬「踏みしだけ!!」



    履帯がガタガタと音を立てて突き進む。



    王馬「各自、照準! 発射!!」


    鉄の獅子が吠えると前に現れるのは鉄の雨。



    死の横雨だ。


    しかし、日向には死でも何でもなく…




    日向「遅すぎる。」



    脇腹にボディーブローを食らった鉄獅子は悲鳴を上げる間もなく吹っ飛んだ。



    吹き飛んだ先で味方の戦車も巻き込む。



    威勢を奮っていた鉄の獅子も今となってはまるで丸めたティッシュペーパー。


    王馬「日向ちゃん!後ろにも気を付けたほうがいいんじゃない!?」




    何やら、遠くからサイレンのような音が聞こえる。






    日向「………」






    それはかつてソ連兵に恐怖を知らしめた『悪魔のサイレン』





    王馬(『Ju-87b(ジェリコのラッパ)』……!!)




    急降下してきた爆撃機が爆弾を投弾!




    それでも日向は動じない。



    日向「ここだ!!」




    落ちてきた1tの爆弾を


    日向は蹴り返した!




    よもや爆弾に撃墜されるとは思うまい。




    日向「そう同じ手に何度もかかるか!!」



    視界は良好。目標は健在。





    日向「これで………」


    日向(捉えた…!)



    目の前に捕捉する王馬の姿。



    今度はトーチカも何も展開していない。






    軋む骨と裏っ返る内臓の感触が日向の拳に伝わる。



    かつて、両国の軍が命がけで奪い合ったという丘に王馬は飛んでいった。
  126. 127 : : 2017/12/26(火) 00:40:46



    日向「ハァー! ハァー……!」


    日向(アイツ… なんで避けなかったんだ…)





    王馬「ゲホォ!! ぐ…! グッヘ……!!」




    胃の内容物に血が混じって逆流してきた。



    地面を蹴って日向は距離を縮める。



    王馬(思った…… 通り………!!)


    日向「…………」



    王馬「さ… さすがに死ぬかと思ったよ…」


    日向「………」




    王馬「けど… こんなもんじゃ終わらないよ……!!」



    手を振りかざすと再びプロペラが風を裂く音が鳴る。



    日向(やっぱり… まだ……!)



    機銃掃射が地面を抉る。


    日向「チ……ッ!!」



    20㎜弾の一部が脇腹を通過していく。


    日向(ヤバい…… こんなこと続けてちゃ体力が…!)
  127. 128 : : 2018/01/02(火) 11:44:32


    繰り返すようだが傷口だけ塞がっても体力までは回復しない。


    ただし、一方で王馬は回復などの術式は持っていない。



    日向(そういえば… コイツは…… 魔力が尽きないのか……?)



    王馬は脇腹を抑えながらもなお平然としている。


    日向(それにあの笑顔は…… ただ俺がナメられてるってだけじゃない……)



    日向(もっとタチの悪い………)



    王馬「どうしたの? 日向ちゃん もうお終い?」


    日向「うるさい…… そんなわけあるか……」


    日向「お前をブッ倒すまでは………」



    王馬「…そう。」




    心底人をバカにしきったような



    一切の光と希望を否定する下卑た笑み。




    王馬「さあ! じゃあそろそろケリつけちゃおうか!!」


    王馬「『最後の戦闘大隊(ラスト・バタリオン)』出撃!!」
  128. 129 : : 2018/01/02(火) 12:25:19



    召喚されるのは100の重戦車(TigerⅠ)



    300の戦闘機爆撃機(ヤークトボンバー)


    199の歩兵。







    右手を振りかざすのは1人の指揮官。




    王馬「見せてあげるよ!! オレの最強の一斉砲火をさぁ!!」






    次々と横回転(バンク)して一直線に降下する戦闘爆撃機。


    鉄の獅子に続いて現れたのはTigerⅠ()であった。



    それはかつて連合国軍に絶望を教え込んだ鉄の虎。




    戦車の裏からは機関銃(マシンガン)を構えた歩兵が迫る。
  129. 130 : : 2018/01/02(火) 12:43:10




    振り下ろされた右腕と同時に一斉に点滅する発砲炎はともすれば命の灯を手放しそうになるほど美しいものだった。



    曳光弾の流れ星、願いではなく死を運ぶ。




    88㎜(アハト・アハト)を上に飛んで避けると…


    上から機銃と機関砲が空で出迎える。



    日向「グフ……ッ!!」



    機関砲の榴弾が腹部で爆裂し焼夷弾が身を焦がす。



    日向「クッ……ソ!!」



    空で待ち受ける戦闘機も今さら迂闊に距離を詰めてこない。



    遥か眼下で指揮官はほくそ笑む。



    日向(なんとか……)




    日向(距離を………!!)


  130. 131 : : 2018/01/02(火) 14:47:12




    日向(どっちにしたって俺に切れる手札はこれしか……!!)



    横殴りの砲弾()弾丸()が吹き付ける。


    日向「がぁああああああああああッッ!!」




    目指すは指揮官1人。




    しかし、「暴風雨」は日向を逃しはしない。




    そして、痛覚を完全に遮断したのはミスであったかも知れないと彼は直感した。



    ぐらりと視界が揺れて地面が迫る。


    左脚がもげていることに気づいたのはそれからである。



    88㎜の砲口はその決定的な隙を見逃しはしなかった。




    風切り音が過ぎると腹に風穴が空いていた。

  131. 132 : : 2018/01/02(火) 15:27:53


    日向「………ッ!」



    右手を付くとグッと肘を曲げ……


    そのまま地面から飛びあがる!!




    日向「ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」



    戦車の砲は前後左右360°に渡って振れる。


    しかし、真上となれば話は別。




    戦車の上に戦士降り立つ。



    日向「ハァあああああああああッッ!!!!!」




    指揮官(王馬)は微笑む。



    彼は、何を思うのか。




    日向「その笑顔…」




    日向「やめさせてやる!!!!」


  132. 133 : : 2018/01/02(火) 20:53:51



    日向の拳が再び王馬を捉えた。


    まさに顔の形が変わるような衝撃。




    そのまま地面に半分めり込んだまま滑り込む。

    日向「チ…くしょう!!」




    日向(やっぱり踏み切りが足りなかった………!)



    王馬「ブフ………ッ!!」



    王馬「ハ…… ハハハハハハハハハハ!!」




    王馬「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」




    日向「……どうした…! 何が可笑しい!?」


    王馬「だって……」




    王馬「日向ちゃんこのゲームの『ルール』分かってんの……!?」
  133. 134 : : 2018/01/03(水) 13:30:28

    【Tips】



    最後の戦闘大隊(ラスト・バタリオン)



    超高校級の総統 王馬小吉の固有魔術。


    ラスト・バタリオン。その名はかのドイツ第三帝国総統アドルフ・ヒトラーの演説にも度々登場する。
     魔術師の能力としては1000人(厳密には指揮官である自身を除いた999人)の大隊を操るというもの。 1000人までであれば一度に歩兵を指揮することができ、1000人までで運用する兵器であれば武装させる事も可能。
  134. 135 : : 2018/01/04(木) 15:28:47

    日向「ルール…? このゲームのルールだと……??」


    王馬「もしかして今の今まで気づかないで戦ってたの?」



    日向「…………」


    王馬「まさか……『パンチだけ』が日向ちゃんの戦い方ってなわけでもないよね? そうでしょ?」


    日向「あるなら…… とっくに使ってるっていいたいのか…?」



    王馬「ま… そう捉えてもらって構わないけどさ……」



    日向「どうした…! 何が言いたい!?」





    王馬「そっか…! 気づいてないんだったらつまんないしもう教えちゃおっかな!」




    王馬「結論から言うと日向ちゃんはオレにはもう勝てないんだよ!!」




    日向「………どういうことだ?」



    王馬「『ただ殴ってるだけ』じゃ勝ち目なんてないってことだよォ!!」
  135. 136 : : 2018/01/04(木) 17:11:59


    王馬「魔術師の戦闘ってのはさ… 魂と肉体……その両方を効率的に破壊することにこそ「兵器」にはマネできない点だけどさ…」


    王馬「今回に限っては正直肉体の破壊なんてどうでもいいんだよね」



    王馬「現に88㎜でブチ抜いてもノーダメージ(・・・・・・)なんだからさ!」



    日向「言ってくれる……」



    日向(傷が…塞がらなくなってきた……)



    王馬「んじゃ何が重要かって言うとそれはやっぱ『魂』の破壊になるんだよ…」


    王馬「こういう具合にさ!」


    腰から拳銃(ワルサー)を引き抜くと銃声が4発響いた。


    日向「グっ……!!」


    日向「あが……ッ!」




    王馬「あれ? 傷はもう塞がんないの?」



    日向(畜生……ッッ!!)



    日向(やっぱりこんな付け焼刃じゃ…………)
  136. 137 : : 2018/01/08(月) 22:20:15





    王馬「日向ちゃんなんでこっちに来たの?」


    銃弾が右膝を砕く


    王馬「だって勝ち目ないじゃん。0.1どころか0じゃん」


    弾丸が左腕をへし折る


    王馬「ルールも分かってないようじゃオレも張り合いがないな!」



    鉛弾が左脚を貫く



    日向「がぁ……あ!!」



    五体を地面に放り出した。



    最後に右腕を弾丸が抉った。







    王馬「脳味噌ブチまける前に聞かせて欲しいな」




    王馬「どうして魂を殺せない(・・・・・・)日向ちゃんがこのゲームに参加してるわけ?」
  137. 138 : : 2018/01/08(月) 23:02:47




    日向「…………………」




    王馬「この戦い(ゲーム)はさ… 要は相手側の魂を1つ残らず殺さなきゃ勝ちは成立しないんだよ。」


    王馬「そんでもって誰か1人でも『肉体だけを』破壊してしまったらそれは敗北(ゲームオーバー)…」



    王馬「だからそこらで監視してる原潜もステルス爆撃機も指をくわえて眺めることしかできないんだからさ!」




    王馬「そして… 日向ちゃんのパンチはオレの魂までは届かなかった……」



    王馬「日向ちゃんの攻撃は全ッ然なんの意味も成してないんだよ!!」






    王馬「で…… このゲームでは最悪の戦犯になりかねない日向ちゃんが一体こっちに何しに来たの?」



  138. 139 : : 2018/01/09(火) 11:05:27






    日向「………分かってたさ。」


    王馬「え?」




    日向「俺の強化術式ではお前を倒せないばかりか……」


    日向「魂を破壊出来ずに『錨』に手出しができなくなる事もな………」



    王馬「……で? それで……」




    日向「だから……… この戦いの間もずっと…使えるように… コツを掴もうとしていた…………」












    日向「お前を倒すためにな。」


  139. 140 : : 2018/01/11(木) 13:47:46



    王馬「………」


    王馬「…………」




    王馬「……………」




    王馬「はァ…!?」



    日向「聞こえなかったのか……?」



    日向「俺は………!」



    日向「『お前を倒す』って言ったんだ…!!」






    日向(最後の回復……それでも動けるのは1分が限度か……)



    日向(十分だ…!!)





    神経節、筋肉、血管、全身の細胞に魔力が駆け巡る。



    急速に細胞分裂を活性化させ風穴を塞ぐ。




    日向「グゥゥぅぅうううううううああああああああああッッ!!!!」




    王馬「ふざけんなよ………」



    王馬「ふざけんなよお前ェ!!!!」
  140. 141 : : 2018/01/11(木) 14:41:39


    王馬「戦車隊! 戦闘機部隊!!」



    しかし、一部の戦車と戦闘機、歩兵は言うことを聞かず、徐々に消滅していった。


    王馬(被害が嵩みすぎた…… 1000人は召喚が維持できないか……!)


    王馬(いや……)



    王馬(十分だ………!!)



    ワルサーの弾倉(マグ)を替えた。



    残るはおおよそ500の戦闘員。



    ”最後の大隊”の最後の抵抗(ラスト・スタンド)



    王馬(ナメられたもんだよ……)





    王馬「総員続け!!」


  141. 142 : : 2018/01/12(金) 02:59:59





    日向「邪魔だァああああ!!」



    王馬「敗けるかよ……!」




    戦車が指揮官への路を塞ぐ。


    日向「ォオオオオオオオオオオオオ!!!!」



    日向は鉄の虎に拳を叩きこんで活路を開く。



    一方で王馬は勝利への糸を断ち切らんと大隊を指揮する。



    王馬(残り300ほど……!)



    衝撃音と砲撃音が歌い鉄屑が舞う。





    王馬(88㎜も20㎜も効いてない… いや…無理やり動かしてんのか………)


    日向「見せてやるぜ………!」



    日向「”弾丸”を撃てるのは何もお前だけじゃないぜ……!」

  142. 143 : : 2018/01/12(金) 04:21:52



    日向「”俺は勝つ”!!」



    日向の右腕に『弾丸』が1発装填された。



    日向「お前を倒して……」


    日向「俺はみんなの元へ帰る。」



    王馬「チッ……!」




    王馬「ナメるなよお前…!」



    王馬「お前……!! 今までの戦いが全部『予行練習』だったって言うのかよ!!」


    王馬「新技の練習だがなんだか知らないけど………」



    王馬「最初っから舐めプ(手ェ抜いてた)って事かよ!!」




    日向「ナメてなんかいない!!!!」




    日向「この1発は……お前を倒すために………」



    日向「俺が全力で創り上げた弾丸だ……!」





    王馬「グぅ……ッ!!」



    僅かに残った歩兵の隙を通り抜け……



    三度、指揮官の前に躍り出た。








    日向「『言弾(コトダマ)』………!!」








    目前にワルサーの銃口が合わさったまま慣性に従って飛翔する。







    戦争(闘争)の終結は弾丸(9㎜ルガー弾)弾丸(言弾)の衝突。



  143. 144 : : 2018/01/12(金) 04:56:09





    右眼孔、胸部に弾丸を浴び…




    輝きを増す右腕の内部を弾が通過した。






    しかし






    彼の弾丸(言弾)は今更物ともしない。







    王馬(コイツ…… あの腕で………!!)



    三度、日向の拳が王馬を捉える。



    それは、ただ単に肉体を破壊するのみならず……



    彼の魂までも貫いた。



    王馬「あ……!がぁ………っ!!」





    日向「魂まで…… 届いただろ………!!」




    単に殴られた痛みとは違う。


    身体が言うことを聞かず、自分の肉体の所有権が無くなっていくような感覚。



    王馬「ク……ッソが………!!」

  144. 145 : : 2018/01/15(月) 09:58:40




    王馬「クッソォ…………!!」


    銃口が日向の右腕を捉えた。




    2度の銃撃を受けた右腕は既にズタズタになっている。



    日向「ぅううァあ〝あ〝あ〝あ〝あ〝あ〝あ〝あ〝あ〝あ〝あ〝あ〝あ〝あ〝あ〝ッッ!!!!」




    これは2度受けた方の拳だ。




    王馬(コイツ……!! あの腕で殴りやがった……!!)



    日向「がぁああああああ……!!」



    日向(マズい……! もう痛覚も遮断しきれない…!!)



  145. 146 : : 2018/01/15(月) 10:15:31

    【Tips】



    言弾(コトダマ)



    言魂(ことだま)とは主に日本において言葉の持つ霊的な力の事を言う。また、その力によって現実の事象に対し何らかの影響を及ぼすという信仰を言魂信仰と言う。

    人類の持つ言の葉には人の感情を左右し、時に歴史の羅針盤を狂わせる。そんなひとひらの言の葉が持つ微弱な魔力を増幅し、言葉に出した後、相手に打ち込む。これが言弾(コトダマ)である。 希望ヶ峰学園本科臨時入科生 日向創が戦いの最中に編み出した魔術である。
  146. 147 : : 2018/01/15(月) 10:42:40





    王馬「負け…て…!」



    王馬「られるかよぉおおおおおおおおおおお!!!!!」




    指揮官にこれだけ距離を詰められては戦車も戦闘機もただの烏合。


    それをカバーする歩兵ももはや維持不可能。



    指揮官と一兵卒の最後の命の取り合い(戦争)






    王馬「来いッ!!」




    大隊指揮官が最後の力を振り絞って召喚するはMG42(ヒトラーの電気鋸)






    布をビリビリと裂くような独特の発射音と共に指揮官の前方は7.92㎜の暴風雨となった。



    その暴風雨を突っ切る影1つ。



    日向「俺は……!」



    日向「”俺は負けない”!!!!」





    日向「生きて… 今度こそ胸を張る!!!!」


    言弾を装填した左腕は激しく輝き



    幾千の銃弾と一発の言弾(弾丸)が真っ向から対峙した後







    夜半の空に銃声だけが鳴り響いた。

  147. 148 : : 2018/01/15(月) 17:09:26




    拳は王馬の胸部に着弾したまま停止していた。



    全身アザだらけの少年と蜂の巣状態の少年は互いに対峙したまま動かない。


    王馬「ぐぁあああ………ッ!」



    そのまま数歩下がると王馬はそのまま崩れ落ちた。


    王馬「ハッ……ハッ!」


    王馬「か……! ガハッ!!」



    意識が飛びかけ、視界はぼやける。



    手にしたワルサーもMG42も歩兵も戦車も戦闘機も


    既に指揮官の護衛を断念し虚空に溶け込み消えていく。



    日向「ぐぅうう……」



    少し遅れて日向もその場に倒れこんだ。



    王馬「まさか… 言葉の持つ僅かな魔力を増幅して…… 打ち込む… なんて……」


    日向「意外だったか……?」



    日向「お前のように…… 顔色も変えずに… 口先から嘘を並べるヤツには… 分からない…だろ……」


    王馬「それはちがうよ…」


    王馬「オレは…… 性根の底から… それこそ…魂から……『ウソつき』だからね……!!」



    日向「そうかよ…」


    王馬「けど…」



    王馬「舐めプ(手ェ抜いてた)っていうのは…取り消すよ……」




    王馬「日向ちゃん!!」



    王馬「オレ… つまらなく…… なかった…だろ?」






    孤島の古戦場はほんの数分前とはうって変わって静寂に包まれていた。




    日向「最後まで… 分からないヤツだったな………」





    日向(俺も… ダメか……)








    深い深い海の水底に沈んでいくように意識が薄れていく。














    日向(なんか… 眠いな……)


    日向(もう… 起きなくてもいいかも…)

















    日向(いや……)


    日向(ダメだ……!! まだ…)





    日向(終われない!!)








    日向(俺は………………!!)





    日向("生きる!!")










    暗い水底で左腕だけは輝きを取り戻す。













    日向「ウぉォォオオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!!」
  148. 149 : : 2018/01/15(月) 17:14:46


    孤島の古戦場


    超高校級の総統 王馬小吉


    vs


    超高校級の??? 日向創





    勝者 日向創
  149. 150 : : 2018/01/16(火) 02:08:40








    一方、遥か東の大陸でも戦いは激しさを増すばかりだ。



    左右田「どこだ…? どこにいる…?」



    コクピットに座る左右田の頬に汗が伝う。


    左右田(今度はあっちぃな……)




    夢野(さて…どうするかの……)



    煙突の陰から巨大な影の様子を伺う。



    通常、このような戦闘において優位に立つのはむしろ夢野の方である。


    圧倒的装甲、火力、機動力を持つ戦車であっても単独、かつ街中や増してやこの工業地帯のような入り組んだ地形ではその機動力を生かしきれぬまま対戦車兵器を携行する歩兵には格好の餌食となる。




    しかし、それはあくまで戦車対歩兵の話。




    そしてこの戦闘において先に動いたのは…



    左右田の方だった。


    左右田「いつまでも『コイツ』を機内に入れておくのは暑すぎるな…」



    左右田「それに… どっちにしろ早くしねぇと冷えて固まっちまう(・・・・・・・・・)からなぁ!!」




    巨影は重々しく膝を曲げると…


    脚に溜まったエネルギーを放出し空へ跳びあがる。


    夢野「見つかったのか……!?」



    左右田「見つからねぇなら……!!」




    左右田「ここごと焼き払えばいいんだ!!!!」



    左右田「御返しだぁああああああああああああああああああ!!!!」




    巨大ロボの胸部がバックリ開くと…



    中から赤く流動する銑鉄が流れ出る。



    その落下地点は……





    ”No fires !!”







    左右田「装甲の無さが命取りだ!!」





    夢野「しま……っ」





    赤く光りながら流れ落ちる銑鉄は当然、ガスタンクの外郭を融解し………




    タンクの中身に引火する。






    暴れ狂う炎と赤い銑鉄が弾け飛ぶ!!




    一度引火した工場の火事はそれだけで鎮火するはずもなく



    周囲の可燃物に連鎖爆発を起こす。





    ものの数十秒後には地獄のような光景が広がっていた。

  150. 151 : : 2018/01/22(月) 10:29:25





    左右田「よっと…!」



    重々しい音を立ててマシンが地面に着地してきた。



    左右田「流石にひどい光景だな… まだ爆発も収まってねぇみたいだし……」



    左右田「どうなった…?」




    左右田(これで死んでくれるなら苦労はねぇんだけど……)



    炎の向こうに瓦礫の山を見た。



    左右田「……………」





    左右田「そこか!!」




    瓦礫の山に向かって走り出す左右田のマシン。



    左右田「そんな不自然に瓦礫が集まるか!!」



    同時に、左腕が変形し回転する刃が姿を現す。



    左右田「『シュレッダー・パンチ』!!!!」




    その時、瓦礫が弾け飛び中から魔法使いが姿を見せた。



    左右田「くそ……ッ!!」



    瓦礫に阻まれて視界が塞がれる。



    空を切った刃に挟まった瓦礫の一部が粉々に砕け散った。





    夢野「はぁああああああああ…!」




    海の波が引いていく時のように周囲の炎が引いていき…



    やがて集まる。




    集まった炎は夢野の頭上で巨大な火球となる。




    左右田「炎は効かねぇって………」





    左右田「言ってんだろ!!!!!」





    夢野「……………!!」
  151. 152 : : 2018/01/22(月) 11:53:13




    夢野「ウチの『魔法』を…… 見せてやろう…」



    左右田(火球ならコイツを直接止める事はできねぇ…)



    左右田(それとも…余程火力に自信があるのか…?)




    実際、夜明け前の空は火球に照らされ昼間同然の明るさになっている。


    左右田(悪いがそんなもんに俺は負けねぇ!!)




    左右田(それほど大掛かりな魔術なら…)



    ひしゃげた鉄骨を右手に持つと……



    左右田(維持と増幅に相当な神経を使う……)



    左右田(こいつをその場から動いてかわせるか……!!)




    鉄骨を横回転させながら投げつけた!!



  152. 153 : : 2018/01/22(月) 14:10:50




    しかし、夢野は全く動じない。



    左右田「な……っ!」



    一方で鉄骨の方は不自然な軌道を描いて地面にめり込んだ。



    左右田「重力か……!!」


    左右田(瓦礫を寄せ集めてガードできたのもそういう事か……!!)



    夢野「ウチの魔法に……」




    夢野「タネも仕掛けもありはせん!!」



    左右田「タネも仕組みもあんのが魔法だ!!」



    左腕の特大シュレッダーを一旦格納すると再び別の瓦礫を掴むと…


    今度は回転を付けずに槍を投げるように瓦礫を打ち出す。



    左右田「ぐぁ……!」



    急激に重さを増した瓦礫と自重に巨大マシンはよろめいた。
  153. 154 : : 2018/01/23(火) 01:14:28
    僅差で瓦礫は夢野からコースを外れる。



    左右田「クッソぉ…おおお!」


    足元のコンクリを割りながらマシンは重力に引きずり込まれていく。



    片足ずつ無理やり動かして夢野の元へ歩む。



    左右田(これほどの魔術を2つ同時に展開するとは…!)



    左右田(何か……! 何かコイツに勝つ手立てが……!)




    夢野「さぁ…! 見るがよい!!」




    縮小した太陽のような火球がゆっくりと下降を始める。
  154. 155 : : 2018/01/26(金) 10:27:31




    重力に足を掴まれたまま火球を見上げた。




    コンクリートを焼き溶かしながら火球は地面を抉りながら空まで飛んでいった。








    左右田「どうだ… これで…」



    爆煙が晴れた向こうでは…


    既に次の「魔法」の準備が整っていた。





    左右田「こいつは……… 冷気か!?」




    左右田「ヤバい………ッ!!」





    夢野「『絶対零度』……!」





    赤熱する程熱された外殻が急激に冷却される。



    耐熱素材で覆われた外殻にヒビが走った!



    左右田(金属は高温から急激に冷却されると割れちまう…)



    左右田(こいつは…… それを狙って…!)




    夢野「ハァ…!ハァ……!」


  155. 156 : : 2018/01/29(月) 16:34:26




    夢野「うぅ……っ!」



    身体に力が入らなくなる感覚と同時に地面に膝をついた。


    夢野(意識が……飛びそうじゃ…)



    左右田(重力が解けた…!)



    左右田(だが… この辺りの機械はあらかた使い尽くしちまった……!!)



    左右田(導線(コンダクター)が繋がるまではなんとか生き残らねぇと……!!)


    左右田の手の平から術式が展開され”導線”が顕現し…




    地面に刺さって突き進む!



    夢野「まだ… 倒れておらんか……!!」

  156. 157 : : 2018/01/29(月) 16:39:41

    【Tips】



    導線(コンダクター)



    元は機械と機械を繋ぐ銅線。
    左右田の固有魔術の展開と同時に手の平から顕現し、これを機械に繋ぐことで操作権を得る。



  157. 158 : : 2018/02/02(金) 15:28:35



    左右田(ここいらの工場で造られてるモノ…… ソイツを使えば……!!)


    左右田(やってやる!!)



    左右田「……!?」




    閃光が闇夜にうねっている。


    否、それはあの小さな手のひらから放たれる電撃。




    左右田「ち……畜生…!!」




    夢野「敗けるわけには……」



    夢野「いかないんじゃ!!!!」




    のたうつ閃光の蛇が左右田を指向した。




    左右田「クッソ……!!」



  158. 159 : : 2018/02/02(金) 16:03:16






    左右田「…………」
















    左右田『よっしゃ! こりゃ成功だ!!』


    田中『ほぅ……これは見事な鉄の巨兵だな…』


    田中『さながら”機械仕掛けの神”。『デウス・エクス・マキナ』とでも言おうか!!』


    左右田『田中じゃねぇかよ どうしたんだよこんなところに…』





    ソニア『ちょっとお時間よろしいですか?』


    左右田『ハイハイ!! 喜んで!!』









    左右田『なるほど…旧文明のペット用品ですか…』


    ソニア『どうですか? 直せそうですか?』


    左右田『お任せください! 何なら更にグレードアップして見せますよ!』


    田中『すまない… 我も魔獣を封じた鉄籠に付きっきりというわけにはいかんのだ……』


    左右田『まぁ、いいってことよ! ほら、直ったぜ。』



    田中『フン… さすがはデウス・エクス・マキナよ…』


    左右田『なんだよソレ気に入ったのか…?』


    ソニア『デウス・エクス・マキナ…もしかしてそれが左右田さんの魔術の名前ですか?』


    左右田『いや…そういえばこれといって名前なんて付けてませんでしたね…』

    ソニア『それはいけません!!』


    左右田『え… なんで……?』


    ソニア『その力を使うときに技に名前もないでは締まらないじゃないですか!』

    左右田『ま…まぁ、それは…』


    ソニア『勇者「ああああ」なんて締まらないでしょう!!』



    左右田『そりゃ…確かにそうですね……』

    田中『なら良いではないか。デウス・エクス…』

    ソニア『いいじゃないですか!デウス・エクス・マキナ!!』



    田中『……』

    左右田『そ…そうですか?ソニアさんがそこまで言うなら…』


    ソニア『デウス・エクス・マキナには”機械仕掛けの神”っていう意味があるんですよ!』

    左右田『へぇ… 機械仕掛けの神……』


    ソニア『他には”ご都合主義”なんて意味もあるんですよ!』


    左右田『ご…ご都合主義……』

    田中『もともとそれは演劇における言葉なのだ… どんなに舞台がこじれても(デウス)さえ降臨してしまえば万事解決してしまうからな……』


    左右田『え…? 要は爆発オチ的な……??』


    ソニア『いいじゃないですか!』

    左右田『え??』


    ソニア『本来であればたどり着けない結果に導く機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)!!』


    ソニア『素敵なチカラじゃないですか!』
  159. 160 : : 2018/02/09(金) 22:27:03




    左右田(確かに……)


    左右田(俺があれ程の魔力を持ってるヤツに勝つなんてそれこそご都合主義かもしれねぇ………)



    左右田(だけどな……)






    左右田「起こしてやるよ……その『ご都合主義』ってヤツをよ!!!」




    ”導線”は今接続された。



    左右田「来い!!」



    接続された先にあるのは新品の兵器であった。



    この工業地帯において製造されていたのは重火器などの兵器の数々であった。


    左右田(大体の製造機械を見た途端ピンときたぜ……)



    左右田(ここで製造されてるあらゆる製品は「殺すために」造られてるってな……)






    左右田(初めから殺すことだけを考えて造られた機械か…)



  160. 161 : : 2018/02/09(金) 22:30:26


    夢野「うぅ…!」


    夢野(あやつに… 機械を集められてしもうた…)




    夢野(どうすれば……)








    ~数年前~



    夢野「科学の…ちしき……??」


    師匠「そうだ。私たちの使うマ… 魔法は科学の知識無しには成り立たない。」

    夢野「科学が…魔法とそんなに深い関係が……」


    師匠「あるともさ。魔法と科学は表裏一体だからね。」


    師匠「と…いうわけで今の学校の授業に加えて魔法のやくに立つ科学の勉強をしようか」


    夢野「あ…ウチ……ちょっと具合が…」
  161. 162 : : 2018/02/09(金) 22:51:02



    夢野(魔法と……科学………)


    夢野(ヤツを倒す科学…… 魔術とはなんじゃ……?)



    左右田「行くぞ!!こいつで最後だ!!」



    高い音でファンが唸る。


    背中に翼と戦車砲を背負い。



    仰々しい6本の銃身が左腕で回転する。



    地面から僅かに浮きながら”3号機”は夢野の前に降り立った。



    夢野「そうじゃな……」



    夢野「恐らくは… これで最後じゃろうな……」



  162. 163 : : 2018/02/09(金) 23:10:27



    しばしの静寂の後



    動き出したのはまさに同時であった。



    左腕のバルカン砲が高いモーター音を上げて回転を始め…


    夢野が術式を展開する。



    バルカン砲の銃身が回転し、弾が飛び出すまでには若干のタイムラグがある。


    それを夢野は見逃さなかった。


    展開した魔法陣からそのまま火球が飛び出し…




    3号機に直撃する!!



    しかし、いくら巨大な火球であろうとも炎その物に物体を押し返す力は無い。



    爆炎を突き破り弾丸が飛翔する!


    術式を切り替え、強い重力をかけることによって弾丸を下に反らす。

  163. 164 : : 2018/02/09(金) 23:58:28


    夢野(いくら武器が変わろうとも相手が金属の塊であることには変わらんはずじゃ……)


    夢野(ならば…)


    擦ったマッチが魔法陣を潜ると業火の砲弾と化し3号機を追跡する。




    それを3号機は地面を滑るように疾走(はし)ってかわす。


    夢野(速い…!)


    左右田「今度こそ!!」



    射撃音とほぼ同時に射弾は地面に吸い込まれていく。


    夢野「う…わっ!」


    弾丸は20㎜以上ともなれば榴弾としての機能を果たす物が大半を占める。


    20㎜バルカンの砲弾ともなれば地面に吸い込ませるだけでは被害0とは言い難い。対人戦ならばなおの事だ。


    左右田「相手の周囲には常にこの地表より強い重力が発生している…」


    左右田(だったら……!)


    左右田「射撃プログラム修正!」


    左右田(今の射撃データから射撃プログラムを修正すりゃ重力で反らすっていうアイツの戦法は通用しねぇ……)

    左右田(プログラム修正まではおおよそ1分か…)


    夢野(速すぎる…!これでは金属が割れる程の熱を伝えることはできん……!!)



    左右田「それまで持てば……!」



    背中の戦車砲が夢野の方角を向いて止まる。


    轟音と共にタングステンの鏃が飛翔するも…


    これも地面に捕まりその速度を失う。


    左右田「どうした!仕掛けてこねぇのか!!」


    肩部のカバーが開き…


    内蔵されたランチャーからミサイルが一斉に飛び上がる!!



    左右田「自動で的を追うコイツがかわせるか!!」


    しばし上に飛翔を続けていたミサイルは夢野の姿を確認するや否や…


    一斉に下降し始めた!


    夢野(今度はミサイルか…!)


    夢野(今はこれしか……!)


    左右田「何…ッ!」


    それまでカメラに夢野の姿を捉えていた操作モニターは砂嵐にチャンネルを変えた。


    ミサイルは明後日の方向に向かっていった。


    左右田「クソッ…!!電波妨害(ジャミング)か……!!」


    夢野「このままでは……ジリ貧じゃな………」


    左右田「よし…射撃プログラムは生きてる…」


    左右田(今の電波妨害はほんの2、3秒間だった…)

    左右田(どうやらヤツにも2つ同時に大規模な術式を使うだけの体力は残ってねぇみたいだな……)

    左右田(あと20秒……)


    左右田(その時こそ… 俺の勝ちだ………!!)
  164. 165 : : 2018/02/17(土) 22:11:07


    エンジンの出力を上げ夜明け前の紫色の空に3号機は浮上する。


    左右田(ほんの数秒ほどだがあと一つ試しておくか……!)



    対象の中心から円形に重力が張り巡らされている正に重力の台風。



    その台風の隙。



    左右田(真上からなら……!!)



    夢野「……!!」




    砲身が回転を始めた直後に夢野は走り出していた。



    左右田「ぐぉ……!!」



    3号機は再び重力の暴風に巻き込まれる。




    そして……




    『射撃プログラム修正完了』



  165. 166 : : 2018/02/21(水) 00:38:36


    左右田(よし……!!)


    強烈な重力を計上した上でデータの更新が完了した。



    左右田「ロックオン……!」



    十字線に走る夢野の姿を捉えた。




    左右田「()ッッ!!!!」




    爆音が空気を打ち震わせ音速を超えて鏃が飛翔する。



    夢野「んあ……ッ!?」


    その時、瓦礫が夢野の足を捉え…



    そのまま地面に伏すこととなった。



    その瞬間。



    鏃は背後の建造物を貫通した。


    左右田「クソッ…!!なぜだ!!」


    夢野「く……っ!うっ!」



    左右田(機体が重くねぇ……)


    左右田(重力が戻りやがったんだ……!!)



    夢野「転子……」



    夢野(ウチは……)




    夢野(絶対に…… 帰るぞ……!!)



  166. 167 : : 2018/02/21(水) 01:23:19


    左右田「射撃プログラム停止! 目視照準!!」


    左右田(射撃プログラムは無駄になったがこれで厄介な重力は消えた……!!)




    左右田(近づいて仕留める!!)




    夢野(火球でも冷気でも……)




    夢野(電撃でもありはせん………)





    空中に2本の金属柱が平行に浮かび…




    夢野(魔術のみでもなく… 科学だけでもない……)



    その2本の金属柱の間に更に金属の塊が設置される。



    左右田「ォォオオオオオオオオオ!!!!」





    そして2本の柱の間に3号機の姿を捉える。




    夢野(これで電磁誘導は再現できたはずじゃ……)






    左右田(あれを飛ばそうってのか…?)



    左右田(いや、ちげぇ……!!)




    バルカン砲が唸りを上げて砲弾をまき散らす。


    左右田(当たれ……! 当たれ………!!)



    横に向かって夢野は走り出す。






    ちょうど2人の描く軌道が円形になったころ。







    金属の塊が音速を超え衝撃波(ソニックブーム)を撒き散らす。




  167. 168 : : 2018/02/24(土) 00:32:30



    2本の金属柱(レール)に電流が走る。




    金属柱を流れる電流は磁界を生み出し……






    弾丸を弾き飛ばす!





    その”弾丸”は音よりも、そして銃弾よりも速く




    目標を打ち砕く。






    夢野「ハッ… ハッ……!!」









    左右田「あ………」




    左右田「え…っ?」





    胴から下の景色は、それまでのコクピットと違ってやけに開けた景色だった。








    朝焼けが横たわる鋼鉄の人形と勝者の背中を照らしていた。


  168. 169 : : 2018/02/24(土) 00:48:46




    アメリカ合衆国 工業地帯



    超高校級のマジシャン 夢野秘密子



    VS



    超高校級のメカニック 左右田和一







    勝者 夢野秘密子
  169. 170 : : 2018/02/27(火) 03:30:33





    夢野「うぅ… んあ……」




    精魂使い果たした夢野はその場にぐったりと倒れこんだ。




    夢野(た… 立てん…… 魔力を…使い果たしてしもうた……)



    左右田「やるじゃねぇか……」



    夢野「……!?」





    左右田「心配すんなよ…… 俺も… 見ての通りのザマだぜ…」



    左右田「くっそぉ……… 勝ちたかったぜ… 俺だってよ…」




    左右田「けど…… これでお前たちの世界は… 守られた… かもな……」




    夢野「………」



    夢野「…『かも』ではダメじゃろ……」



    左右田「へっ…… そうか… 」




    左右田(こりゃダメだわ……)


    左右田(最初っから… 覚悟が…違いすぎたわ………)






    その時。



    カランと何かが落ちる音がした。



    夢野「なんじゃ…?」


    地面に伏していた夢野にはその振動ははっきりと感じ取れた。


    夢野「地震……!?」



    左右田「いや… ちげぇ!!」


    左右田「二つの世界がいよいよぶつかりかかってるみてぇだ…」


    夢野「そうか… ウチらが戦ってる間も… 止まるわけではなかったの……」



    激闘の爪痕を色濃く残す工業地帯はその”揺れ”により更に崩壊していく。



    鉄骨が真っ逆さに落ち地面に突き刺さる。


    夢野「いかん…このままでは……」



    左右田「………」



    左右田が導線を用いて引っ張り出したのは3号機に使われなかった旧式戦闘機。


    左右田「乗れよ…」


    夢野「な…なに……?」

    左右田「それに乗れよ。俺が動かしてやる…」


    左右田「お前もほとんど動けねぇんだろ? ここにいたって死ぬだけだぜ…?」


    夢野「それはそうじゃがお主は…」


    左右田「バーカ… 下半身吹っ飛んでんだぜ?」

    左右田「俺の意識が… 切れないうちにさっさと乗れ……」



    左右田「心配しなくても……こんなちっぽけな魔力じゃ…お前の錨を壊せねぇことくらいは分かってる……」



    左右田「誓って無事にお前をここから脱出させてやる…」



    揺れは収まらず工業地帯は崩れ去っていく。


    左右田「はやくしろよ…!」

    夢野「ん…うむ……」



    身体を這いずるようにして夢野はその旧式戦闘機に乗り込んだ。


    左右田「言っておくけどな……! 残りの魔術師は… 俺よりも強いぜ……」




    左右田「ずっと… ずっとな………」



    夢野「それでも…… ウチは諦めるわけには…いかないんじゃ……」



    エンジン音を立て、旧式戦闘機は工業地帯を見下ろす。





    程なくして旧式戦闘機は自動航行となって夢野を運んでいった。




  170. 171 : : 2018/03/05(月) 11:05:59



    時はしばし遡って舞台は日本へと戻る。


    希望ヶ峰学園の静まりかえった校庭に彼女は降り立つ。








    辺古山「…………………」





    普段であれば人などいないそこに今は複数の人影がある。







    天海「こんな夜更けにどうしたんスか?こんなところで……」


    辺古山「その台詞はそのままお前に返そうか…」

    辺古山「後ろでコソコソしている2人もな……」


    天海「さぁ…? ここは俺の学校だしちょっと夜の散歩に来ただけなんスけど……」





    物陰に2つ人影があった。



    茶柱「えぇ……!? もうバレてるじゃないですか…!」

    ゴン太「やっぱり…… すごく強力な魔術師みたいだね…」

    ゴン太「あの人が………最原くんを…!!」

    茶柱「そうですね…最原さんは男死ではありましたが……」

    茶柱「それに… このまま放っておけば女子のみなさんにも危害が及びます! 今制圧してしまいましょう! 先手必勝です!!」


    ゴン太「待ってよ茶柱さん! まだ天海くんから合図が出てないよ!」


    ゴン太「それに…もう場所はバレてるから…今出るのは危険だよ!」


    茶柱「そ……そうですね。分かりました。」

    茶柱(何か… いつものゴン太さんとは違いますね…)






    辺古山「ここにいる錨の持ち主を出せ。」

    天海「一体何の話をしてるんスか?」


    辺古山「出さぬと言うならお前も斬って倒すだけだ。」

    天海「物騒っスね………」

  171. 172 : : 2018/03/06(火) 01:25:09
    細く湾曲した刀身が月明かりに白く輝く。




    辺古山「どうした?退かないのか?」



    天海「貴女が俺の通り道にいるだけじゃないっスか」



    辺古山「それならば貴様も……」




    辺古山「あの世に行けェ!!」




    一筋の光を残した刀身を天海の腕が受け止め…






    草陰から飛び出す影2つ。
  172. 173 : : 2018/03/06(火) 02:10:16


    天海「グッ……………!」


    辺古山(…!!)


    本来吹っ飛ぶはずの腕に少しの疑問を残しながらも次の状況にすでに対応していた。


    視界に飛び込んで来たのは蜂、雲のような蜂の群れが目前に突撃してきた。



    しかし、この毒蜂ですら「本命」でない事を既に
    見抜いていた。



    その目潰しの後ろに隠した襲撃者の正体を




    茶柱「………!!」


    ゴン太「危ない!茶柱さん!!」


    処断し首を落とす刃を身体を回転させてやり過ごす。



    辺古山「なるほど……全員少しは腕に覚えがあるというわけか……」


    辺古山「だが、そんな事では私の命まで刃は届かんぞ。そもそも一連の動きには殺気が…」


    一閃。刃が通過する。



    ゴン太「くッ…………!!」



    辺古山「やればできるじゃないか……」


    辺古山「たかだか音速程度ではいずれにしろ届かんがな」


    天海(やっぱり…強いっスね……)

    天海(おまけに俺達は殺してはいけないってハンデ付き……)


    天海(最原くん……!今は君が頼りっすよ………)



    辺古山「まぁ… 殺気がないというのも無理からぬ話か……」





    辺古山の纏うオーラが変わっていく。
  173. 174 : : 2018/03/06(火) 10:15:18


    辺古山の襲撃とほぼ同時刻。所は変わって絶壁の城。



    白銀「へぇ!そっちのゲームとかキャラも魅力的だね~!」

    七海「そうだよ! だいたいゲームみたいな機械はこっちだと旧文明っていうんだけど…」

    七海「中でもその初期のゲームが一番好きだなぁ」


    白銀「わたしもよくそのへんの作品コスプレしたなぁ」
  174. 175 : : 2018/03/07(水) 15:56:33


    白銀「ねぇ、私たち住む世界が同じだったらもっと仲良くなれたりしたのかな」


    七海「それは…わたしも同感かな……」



    白銀「そうしたら今日初めて会った人間と殺し合えなんていうこともないよね……」











    白銀「こんな風にさ…」





    黒紫の霧が七海に纏わりつく。



    息を止めたまま霧の外まで七海は飛び退いた。





    七海「…………………ッ!!」




    白銀「まぁ… 流石に即死呪文一撃ってわけにはいかないよね……」


    七海(……まさか…………)


    七海「もしかしたら… わたしの魔術は意外と似通ってるのかもね……」


    白銀「さぁ…… それはどうかな……?」
  175. 176 : : 2018/03/10(土) 01:58:08








    降り立った彼女の姿は元の地味な制服姿でなく


    黒く長いローブに先の尖った帽子、手には木から削り出したような魔杖。


    典型的な「魔女」といった出で立ちであった。

    白銀「あなたも術式があるんでしょ?早く使ったら?」



    七海「もう……使ってるよ。」



    白銀「……!!」



    白亜の大理石と無骨な石造りとで構成された城はみるみる内にブロック状(ドット絵)と化していく。



    白銀「なるほど…… そういう事ね…」





    七海の様相もまた先程までとはうって変わった物となっていた。




    宝石をあしらった兜、いぶし銀のプレートが身を包む鎧に…

    背中には紋章を掲げた剣があった。




    七海「さぁ…… ゲーム開始だよ………!」
  176. 177 : : 2018/03/13(火) 13:40:31

    チアキ
    HP2480
    MP2092


    ツムギ
    HP1731
    MP1923


    白銀「なに?このステータス……」


    虚空にこれまたドットが並んで数字を写し出している。


    七海「見ての通りステータス画面だよ…」

    白銀「ふぅん…… なるほど。それは分かりやすいね…」


    白銀(この数値通りだとわたしは若干不利ってことね……)

    白銀(とあれば長期戦は出来ないね!)



    黒死の霧が再び七海の周囲に纏わりつく。


    七海(うっ……)


    吸い込まねば即死こそ免れるものの皮膚には火傷のような痛みが走る。


    ついでに目も痛い。


    その時。





    氷の刃が黒の霧を突き抜いて飛行してきた。



    七海「………………」


    天井向けて飛び上がった七海の足元を氷の槍がズタズタに引き裂いた。




    眼下には既に待ってましたと言わんばかりに投擲体勢にある白銀の姿があった。



    身体にひねりを加えて氷の投槍(ジャベリン)を投げ放った!!

  177. 178 : : 2018/03/14(水) 16:09:42



    氷の投槍が音を立てて砕け散る。


    顔色ひとつ変えずに剣を鞘に納めた。




    白銀「なるほどね… この程度はお見通しって事か………」


    壁から踏み切るとそのまま白銀の元に刃を振り下ろす。


    白銀「……………!!」


    とがった帽子の布切れを横目に見るや…


    床板までも刃は切り裂いた。



    白銀(この場所じゃ"魔法使い"は不利かも…)



    七海「くっ………!」



    床に突き刺さった剣が抜けないでいる。




    言うまでもなく決定的な隙を見逃す筈もなく……



    白銀「衣装変更(クロス・チェンジ)!!」


    ヒロインの変身シーンの如く白銀は光に包まれる。



    七海の頭上僅か上空数cmの地点で白銀の得物は槍へと変わっていた。



    白銀(司祭(プリースト)……!!)

  178. 179 : : 2018/03/14(水) 16:41:15


    七海「おっと…!」


    床から勢いよく剣がすっぽ抜けた直後……


    槍を真下に向けた長いローブを被った人影が落ちてきた。


    早くも、城の床は原型を留めていない。



    白銀「いっつつ……」



    白銀「なんで避けたのよ!!」


    七海「そりゃ……避けるよ…」


    七海「この身体にも慣れてきたし… 次は本気だよ………」



    チアキ
    HP2475
    MP2090


    ツムギ
    HP1620
    MP1798
  179. 180 : : 2018/05/04(金) 17:16:56


    白銀(それにしても……相手のこの能力は何なんだろう……??)


    白銀(私と同じ変身系? けど… この城ごと変質させているとなると……)




    白銀(これ……………マズくない?)


    七海「よっと……」

    こめかみ目掛けて飛んできた剣戟を辛うじて槍で防いだ。

    白銀(何……! これ………!?)

    白銀(手が痺れて… 感覚が…………!)


    とても目の前の、どう見てもダウナーらしい少女の剣戟きとは思えない。


    涼しい顔で第二撃が繰り出される。

    白銀(ヤバい……!)


    白銀(距離を…………!)


    全力で床を蹴り、飛び退くと剣は空振りとなった。


    七海が顔を上げると白銀は既に詠唱を開始していた。


    白銀(もし予想通りなら…… 私の能力じゃあの子にはハッキリ言って不利かも………)


    白銀(だけど…… 同じゲームの世界なんだったら………!)


    白銀(むしろ好都合………!!)



    白銀「爆裂術式3号(エクスプロジオン・ドライ)!!」



    暴走する魔力を閉じ込めた球が七海の前に出現し……



    白銀が指を鳴らすと同時に城の壁の一面が粉々に吹っ飛んだ。
  180. 181 : : 2018/05/04(金) 17:28:37


    白銀(こんな程度じゃ彼女も死なないはず……!)


    爆煙と砂埃が立ち込め前方の視界はほぼ0となった。

    白銀「爆裂術式4号(エクスプロジオン・フィーア)!!」




    先程と比べ一回り小さい、暴走する魔力を閉じ込めた球。



    それがざっと200~300。


    白銀「行けェーーーーッ!!」



    白銀(いずれにしろ……私の『模倣(コスプレイ)』じゃあと……2、3分は姿を変えられない……)


    白銀(反撃の隙を与えずに………)


    白銀(押し切る………………!!)


    砂埃に向かって魔力の球は一斉に群を成して突撃する。



    砂埃の中を爆撃の嵐が吹き荒れた!

  181. 182 : : 2018/05/04(金) 17:51:24

    【Tips】



    模倣(コスプレイ)


    超高校級のコスプレイヤー 白銀つむぎの固有魔術。



    現実に存在しないフィクションの存在の姿、能力を模倣する事ができる。

    模倣する対象へのイメージがハッキリしている程より忠実に、より強力な状態で再現する事ができる。逆に、神など漠然とした存在や使用者が詳しくない人物(キャラ)では其の持つ本来の力を発揮する事は出来ない。

    1度姿を定めると10数分の間姿を変えることが出来ない。
  182. 183 : : 2018/05/04(金) 18:09:46



    視点は一旦、希望ヶ峰学園へと移る。


    茶柱「ハァぁぁああああああああああああっ!!」


    ゴン太「うォォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

    2人同時攻撃を難なくいなす。


    そして、背後にナイフを振りかぶる天海の姿を見ずに捉え……


    ギリギリまで引きつけバックジャンプで上空へ逃れる。


    ゴン太「天海くん!!」

    天海「く…………ッ!」

    2人の間をすり抜け、激突だけは回避する事ができた。


    辺古山「なんだ…… かわせたのか…」


    茶柱「ご心配なく……!いざとなったら天海さんを投げ飛ばして助けますから…!特別に!」

    天海「手加減はしてほしいっすね…」


    ゴン太「あの人…… やっぱりとてつもなく強いよ……」

    ゴン太「動物みたいに…ただ力が強いだけじゃなくて… 戦い方を分かってる感じがする…」


    茶柱「そういえば… 以前は山にいたって……」

    天海(相手も『超高校級』…… やっぱり俺とは違う意味で死線を潜り抜けまくってるみたいっすね……)


    辺古山「さて、これ以上錨の持ち主でもないお前達に関わっているのも時間の無駄だ……」


    辺古山「そろそろそこを通してもらおうか………!」



    辺古山の纏うオーラが青から朱へと変わった。

  183. 184 : : 2018/05/04(金) 19:00:55


    茶柱「また何か… オーラ的な物が変わりまし…


    天海「茶柱さん!! 避けて!!」



    横一線に凪ぎ払われた刀を下に潜ると……


    その腕に茶柱は触れた。

    空中で180°辺古山の身体が回転した。

    その無防備な背中に目掛け蹴りを入れようと脚を曲げたその時。


    上体をひねり、すぐ目前に茶柱の姿を捉える。

    茶柱「えっ………」


    それはまさに、回転するギロチンの如く。


    ゴン太「虫さん!!」


    地面を突き破って現れたのは大量の百足。


    茶柱「いやぁああああああああああああッ!!」


    その余りのグロテスクな光景に茶柱は飛び退いた。


    そして、百足は飛び上がった勢いのまま辺古山の顔面に張り付き……


    身体を這い回り、噛みまくり、目を塞ぎ、更には体内へと侵入を試みる。


    常人であってはとても正気ではいられない光景であった。

    回転するギロチンは蠢く百足に覆われた。


    辺古山「……………ッ!!」

    天海(獲った………………ッ!)


    構えたナイフを手に飛び掛かる。

  184. 185 : : 2018/05/04(金) 19:09:46

    【Tips】



    流転の理


    超高校級の合気道家 茶柱 転子 の固有魔術。


    触れた物を自在に回転させる(転ばせる)事が可能。地面に固定されている物には無効。




    蟲遣い


    超高校級の昆虫博士 獄原 ゴン太 の固有魔術。

    虫と心を通じ合わせ、使役が可能となる。
    ただし交信、使役が可能になるのはあくまで「虫」であるのでカエル等の両生類。トカゲ等の爬虫類。その他人間、動物、魚類には効果がない。
  185. 186 : : 2018/05/04(金) 19:25:36


    辺古山「やれやれ……」


    天海「……………ッ!!」


    辺古山「ただの女子高生でもあるまいし………」


    体表をワサワサと百足が蠢く。


    無論。その開いた口にも百足が雪崩れ込む。


    ゴン太「天海くん!!ムカデさん!!
    ダメだ!!!!」





    グシャリと何かを咀嚼する音。


    それは他ならぬ、口に入り込んだ百足の大群。


    百足を振り払いながら、刀が再び一閃。



    天海の側頭部に向けられた刀は天海の腕に止められた。



    天海「ぐぁあ…………っ!!」


    天海(さっきとは…… 比べ物にならないパワー……!)


    金属板が割れるような音の後。天海はそのまま横へ吹っ飛ばされた。


    手の平で百足をグシャグシャと潰しながら転がった天海の元へ歩み寄る。


    辺古山「やはり袖の中に籠手を巻いていたか…」


    天海「ぐっ………ッ!!」

    天海(即席の籠手とはいえ…… 鉄板をこうも易々と……)

    辺古山「だがその腕はもう使えまい……」


    だらりとぶら下がった左腕の方へ再び刀を振るう。


    天海「がぁあアアアアッ!!!」

    辺古山「折れた腕をもう一度盾にするとは……」


    その表情は感心というより、冷笑を含んでいる。

    辺古山「終わりだ!!」


    ナイフを持つ利き腕を籠手の上から刀が砕いた。


    天海「ぐぁぁああああああああああああッッ!!!!」

    両腕が垂れ下がりナイフが地面に落ちる。


    天海(あぁ……これは… )


    天海(悪運尽きたっすかね…)

  186. 187 : : 2018/05/04(金) 19:34:56

    【Tips】



    生存者(サバイバー)


    超高校級の???? 天海 蘭太郎の固有魔術。

    窮地において生存する確率を上げる。本人の実力と経験があって初めて強力な能力として昇華する。

    しかし、あくまでも「確率を上げる」に過ぎないので「明日地球が爆発する」等の事象からの生存は困難を極めるであろう。
  187. 188 : : 2018/05/04(金) 19:46:42

    茶柱「天海さん!!」


    次の瞬間、天海の視界はぐるりと回転した。


    天海「な…………っ!!」


    そして、270゚程空中で回った先には茶柱と辺古山の姿があった。


    天海「茶柱さん!!」


    ゴン太「虫さん!!」


    構えた辺古山の腕に目掛けて虫が殺到する。


    茶柱(もう一度…………っ!!)


    辺古山に向かって伸ばした腕は……













    次の瞬間には宙を舞っていた。




    茶柱「…………………ッ!!」



    その場の3人は全員凍りついた。













    名前を叫ぼうとしても、身体が、口が動かない。

    ただ無様に宙を舞うだけ。





    だが、目の前の茶柱が絶叫するのはその視界に確と焼き付いた。








    ゴン太「うわぁああああああああああああああああああああああああッッ!!!!!」



    虫を使役せず、ゴン太はその身ひとつで突撃していた。



    辺古山「えぇい…… 邪魔くさい!!」


    残った虫諸とも刃がゴン太の腹部を引き裂く。






    辺古山「留め………………ッッッ!!!!!」

















    「そこまでだ!!!!」


  188. 189 : : 2018/05/04(金) 23:12:01


    最原「………………………」


    辺古山「誰かと思えば……いつぞやの死にぞこないではないか…」

    天海「最原……くん!」


    ゴン太「最原くん!!」


    最原「そうさ……あの時の死に損ない…」


    最原「殺し損ないだよ。」


    辺古山「ふん……口は減らないようだな…」

    辺古山「それでこそ殺し甲斐のあるというもの…」


    天海「最原くん!! そいつは……!」


    最原「分かってる……」



    最原「彼女の能力は『羅刹天(ラクシャサ)』インド神話に語られる鬼神が元だよ。」

    最原「この羅刹天っていうのは仏教の守り神であるんだけど…」


    最原「今のこの状態はラクシャサ。インド神話に登場する鬼神で人を惑わし、喰らうという…」


    最原「あるモノを守護するモノとただ目の前の目標を破壊しつくモノ…… それを使い分ける事こそ彼女の能力…」


    最原「そして…… 鬼神の名を冠するだけあって…… 強い。」


    辺古山「言いたい事はそれだけか?」

    最原「だけど…………」



    最原「僕の力は…… 恐らく君の予想の上を行く………!!」


    辺古山「お前がそんな冗談を言う人間には見えなかったがな………」


    辺古山「なら………」


    辺古山「その力見せてみろ!!!!!」



    地面を蹴り出し一直線に最原との距離を詰め……



    上空へと飛び上がり刀を垂直に最原の脳天に叩き付ける。


  189. 190 : : 2018/05/04(金) 23:23:04




    最原「……………………………」



    微動だにしない最原。



    辺古山「な…………に……っ!!?」


    振り下ろした刀は確かに手元にある。


    しかし……


    肩口から深く、刃が食い込んだかのような傷が「出現」していた。


    辺古山「バカな……… 一体…… なぜ………!!」


    最原「…………さぁ。」


    辺古山「グッ……………ッ!!!」



    辺古山「うぁァァアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」


    目の前に立つ男の横一線に腹を自慢の刀でカッ捌いた。


    はずだった。


    辺古山「ふ……っ! うぐぅぅ……!!」


    次の瞬間。自分の腹部がやけに生暖かい事に気がついた。

    辺古山「ハァ……っ! ぁあああ!! カッハ!!」


    自らが死に瀕した事は何度でも体験した。


    死への恐怖などとっくに克服したつもりでいた。


    しかし、今回ばかりはワケが分からない。


    何が起こっているか分からず、何も解らぬまま死ぬ。


    そうした時。辺古山は言い知れぬ恐怖に駈られた。



    何故この男は目の前で平然と佇んでいて…


    自分は致命傷とも言える傷を負っているのか。

  190. 191 : : 2018/05/04(金) 23:30:36


    天海「茶柱さん!! 大丈夫っすか!!」


    茶柱「あまり…… 大丈夫って感じじゃありませんね…」

    天海「今から止血しますから……」


    茶柱「えぇ…… 今は……特別許してあげますよ…」


    天海(けど……何故? 最原くんは一体どれ程強力な力を手に入れたんすか………)



    辺古山「なるほど……そういう事か……」

    辺古山「貴様の能力は自分が受けるハズの傷を相手に擦り付ける事……」


    辺古山「だから……貴様は…………!」


    息も絶え絶えに、傷口から零れ落ちる臓腑を押さえながら辺古山はまだ進む。


    辺古山(ぼっちゃま…………!)

    辺古山(貴方がボスになるその日まで………)


    辺古山(私は…………!)


    最原「それは……半分当たってて半分外れてるよ。」

    辺古山「そんな事はどうでもいい!!」


    辺古山(何か…… 何かあるはず………!)


    辺古山(突破口…… 逆転の術が………!!)
  191. 192 : : 2018/05/04(金) 23:43:55


    ゴン太「最原くん!」

    最原「ゴン太くん! みんな!」


    最原「……ごめん…遅れて……」


    茶柱「まったく…… 待ちくたびれましたよ……」

    天海「最原くん。今は… 」

    最原「うん………」

    ゴン太「最原くん。大丈夫? ゴン太加勢するよ?」

    ゴン太「虫さん達…… お願い! もう一度力を貸して!」


    最原はそれを静かに制止する。


    最原「大丈夫。」



    最原「僕の残っている魔力全てを使って………」



    最原(『書き換える!!』)





    辺古山(もし、何か転移系の魔術であれば… 私が受ける傷はヤツが受けるかも知れない……)


    辺古山(だが…… 私だけが傷を負って終わりという事も………)


    辺古山(転移………?)



    その時。辺古山の脳裏にある閃きが走る。


    辺古山(ぼっ…ちゃま………)


    辺古山(何れにしろ…… 私はもう… 貴方の元へ戻れそうにありません……)


    辺古山(ですが………)



    辺古山「ぼっちゃまの進むべき路は…… 私が護ります!!」
  192. 193 : : 2018/05/04(金) 23:57:36


    辺古山は悟ったような表情で、笑みさえ浮かべている。


    辺古山(飛び道具になる術や…… 火や氷を生み出す術は苦手でしたが…)

    辺古山("暴走"させる事くらいは………!!)



    辺古山「貴様を倒す方法が……やっと解った。」






    最原「まだ……やるって言うのか………?」

    最原「僕らにはきっと…… 戦わずに済む道だって……!!」


    辺古山「それがもう無理だと… 貴様ももう知っているだろう………」


    辺古山(見るにお前は……自分の命が助かりたいが為に他人に犠牲を強いられる性格ではあるまい……)


    辺古山(だが、それこそ…… お前の敗因!!)


    辺古山(傷を変移させる事がお前の力なら…)


    辺古山(逃す先のない傷は……)



    辺古山(そのままお前に還る!!)



    辺古山「私は…… ぼっちゃまの……! 九頭龍組の力! ぼっちゃまの刀にして砦!!」


    辺古山「異界の魔術師よ……! この九頭龍組用心棒辺古山ペコを倒す事を………」




    辺古山「誇りに思え!!」




    青と朱のオーラが混ざり合い、紫のオーラへと変わる。



    逆手に持ち、高く掲げた刀を



    心臓へと突き立てる。


    魂に辺古山の暴走する魔力が流れ込み


    弾け飛ぶ。



    希望ヶ峰学園は激しい閃光に包まれた。


  193. 194 : : 2018/05/05(土) 00:06:28

    【Tips】

    羅刹天(ラクシャサ)


    超高校級の剣道家 辺古山 ペコの固有魔術。


    原典はインド神話に語られる鬼神ラクシャサ。
    このラクシャサは日本の仏教では羅刹天の名を持ち、仏教の守り神として知られている。

    この力を持つ者は守備と回避に特化し、何かを護るための羅刹の力。攻撃を最優先とし、(自らの身を含め)護る事より目前の敵を殲滅する事に特化したラクシャサの2つの側面を持つ。



    なお、この力を用いて与えた傷は全て使用者へと還る。
  194. 195 : : 2018/05/05(土) 00:15:31


    最原「……………」


    天海「俺たち…生きてる……?」



    最原(……………)



    ゴン太「僕たち……確かに爆発に巻き込まれたよね……?」

    天海「それは……最原くんがどうにかしてくれたんすよね?」


    最原「う…うん…… 」

    最原「とにかく…… みんなの手当てをしよう。」


    「おい! 大丈夫か!!」

    「早く! 誰か手当てを!!」



    学園の周囲のスタッフが集まり、天海と茶柱を治療室へと運んでいった。

  195. 196 : : 2018/05/05(土) 00:19:36


    日本 希望ヶ峰学園


    超高校級の探偵 最原 終一
    超高校級の???? 天海 蘭太郎
    超高校級の昆虫博士 獄原 ゴン太
    超高校級の合気道家 茶柱 転子

    vs

    超高校級の剣道家 辺古山 ペコ




    勝者 最原終一ら、希望ヶ峰学園生徒。
  196. 197 : : 2018/05/05(土) 02:41:48


    場面は古城へと戻る。


    古城の砂煙は晴れる気配を見せない。

    白銀「げほっ!!げほっ!!」


    白銀(マズイ……! これじゃ視界が……一体どこから………!?)

    七海「自分の攻撃で視界無くしちゃダメだよ……」

    白銀「……………ッ!!」


    背中を氷の柱で突き刺されたかのような悪寒が走る。


    声は後ろでも横でもなく…

    直上!!


    白銀「が……ぁああああっ!!」


    氷のような悪寒のあとは赤熱した鉄棒を突っ込まれたかのような痛み。


    七海「……………」



    チアキ
    HP2468
    MP2090


    ツムギ
    HP1002
    MP982

  197. 198 : : 2018/05/05(土) 02:51:52


    白銀(相手はどう見ても魔法も剣も両方使える「勇者(ブレイブ)」……!)


    白銀(司祭(プリースト)でも戦士(ファイター)でも剣か魔術のどちらかで追い詰められる……)

    白銀(ましてや同じ勇者(ブレイブ)を使ったって……!)


    白銀(私が使っても中途半端に終わるだけだ……
    )

    白銀(それにこの狭い城の中……)

    白銀(一体どうしたら……!)


    白銀(自分じゃ………勇者(ブレイブ)だと思ってたんだけどな…)


    七海「ごめん……」


    七海「けど私も……」



    七海「負けられないから………」


    七海「行くよ…………!」


    白銀(城の……中?)
  198. 199 : : 2018/05/05(土) 03:05:00


    剣が石の床を引摺りカリカリと音を立てる。


    その音はグリーブとガントレットとがガチャガチャいう音に掻き消される。


    剣を構えたまま倒れた白銀の元へ駆け寄る。


    白銀「まだ……あった………!」


    白銀(私の一番得意なジョブをね………!)


    砂煙は晴れつつあり、外の景色がおぼろ気に見える。

    白銀(この狭い城の中にいたから…… 思い浮かばなかったけど……!)



    白銀は傷ついた身体を奮って薄い砂煙へと駆け出した。

    七海「…………!!」


    無論、そんな行動を七海が見逃がすはずはない。


    砂煙を突き破り、月夜へと飛び出す。



    白銀「やっぱり……着いてきてくれたね……!!」


    白銀「空想(イマジン)トレース……!」


    白銀「衣装交換(クロス・チェンジ)!!」



    光が白銀の身体を包み込む。



    光の中から権限するは……



    弓兵(アーチャー)!!



    流れ星のように月夜に一筋の光が疾走る。

  199. 200 : : 2018/05/05(土) 03:14:20



    目の前に光の矢。



    七海が砂煙を抜けた時に見た物だ。


    七海「あっ………」




    『ガキン!!』



    白銀「くっ………!」


    明らかに放った矢が頭蓋骨を貫く音ではない。



    重力に則り、二人は地面に着地する。


    七海「兜がなければ即死だったよ………」


    白銀(やっぱり強い……! ライフル弾くらいには矢を加速させたのに………!)


    七海が言い終わる前に森林へと姿を隠すものの…


    白銀はある違和感に教われる。


    白銀(この森…… ドット絵? あの城と同じ………)


    白銀(城もまだドット絵になってるみたい…)


    白銀(え? そもそもドット絵ってどういう事??)

    白銀(自分がいる周りの景色をドット絵に変えた?)


    白銀(一体何のため………)




    魔術にはまだ精通していなくとも…


    多くの空想(フィクション)に触れてきた白銀には最悪の予感。

    そして、先程の七海の声以上の悪寒が彼女を襲った。



    白銀(ウソ………でしょ…)

  200. 201 : : 2018/05/05(土) 03:28:12


    背後から僅かな光を感じる。


    白銀(………!!)


    先ほどまで立っていた場所が炎に抉られ消し炭になった。



    落下しつつも照準を合わせ、術式を込めた矢を放つ。



    顔面スレスレで飛ぶ矢をかわす。


    七海の背後からは爆音と閃光。さながら打ち上げ花火の如く。


    白銀(こんなの……チートだよ…! チート!!)


    空中を歩く敵プレイヤーなどオンラインで見かけたらぶち切れモノだ。


    空へ放たれる矢は空を切り、花火を上げるだけ。


    一方、七海は空からの爆撃。



    片手で術式を展開し、森林地帯を爆撃!機銃掃射!


    古今東西どのような戦場においても、頭上を抑える事は圧倒的優位に立つという事。


    白銀(けど……!)


    白銀(相手はオンラインのチーターじゃない……!)

    白銀(当たれば………死ぬ!!)



    白銀(当てれば………!!)

  201. 202 : : 2018/05/05(土) 03:35:25


    地面に手を触れ、石を握り絞める。


    先程と同じ爆裂矢に石を簡易に接着し、纏わせる。

    七海「やっぱり……あんまいい気はしないな…」


    七海「……!」


    森の中から再び矢の対空放火。


    空を飛翔する七海は容易く矢をかわす。


    またも打ち上げ花火か。

    否、今度の打ち上げ花火は…


    『破片』を撒き散らす。



    七海「うっ…ぐ………!」


    榴弾砲、手榴弾、爆弾。

    これらの多くは爆発その物ではなく、爆発により飛散する破片により殺傷する。

    矢の榴弾が次々と森の中から打ち出される。
  202. 203 : : 2018/05/05(土) 03:45:17


    白銀「墜ちろ…! 墜ちろ……!」


    白銀「墜ちろ墜ちろ墜ちろ墜ちろ墜ちろ墜ちろ墜ちろ墜ちろ墜ちろ墜ちろ墜ちろ!!!!」



    白銀「墜ちろッッッ!!!!!」



    対空放火は苛烈を極める。


    七海「こうなったら……」



    白銀(止まった………!)



    七海は空中で静止し、両手で術式を展開する。


    白銀「私の最大の魔力……! 最大の加速を込めて………!!」


    白銀「打ち上げ花火にしてあげる!!!!」




    轟音と衝撃波を撒き散らして矢は進む。


    さながら、夜空へと昇る花火のように。


    一方、七海の頭上では巨大な火球が形成されていた。


    火球は下降を始める。



    七海と白銀。矢と火球とが一直線に並んだ。

  203. 204 : : 2018/05/05(土) 04:02:17



    火球の中に矢は突進し……


    火球を突き抜けるか



    信管は…


    火球の端で爆発した。



    白銀(どうして………!?)


    白銀(なんで炎で信管が………!)


    白銀(違う……! この匂い……!!)



    白銀(あれは完全に魔術の炎ってわけじゃない………!!)


    火球の中身は炎でもなく、実体のない魔力デもなく。



    単なるナパーム。




    焼夷爆弾等に使われた燃料である。


    七海「……………」



    このサイズの火球を回避する術は白銀には残されていなかった。


    白銀「ハハ…… そりゃないよ…」




    白銀「こんなチート紛いに強くて… いつでもゲームを変えれて………自分ルール押し付けてさ…」



    白銀「これで… こんなんでゲームオーバーなんてさ………」




    白銀「クソゲーもいいとこだよ…………」



    白銀「あぁ… ちがうや…… そうじゃない…………」












    「やっぱり模倣(コスプレ)じゃダメだったか……」






    火球が弾け飛び、緑の森林は紅い炎の地獄と化した。


  204. 205 : : 2018/05/05(土) 04:04:46


    ドイツ ゼッペキのコジョウ



    チアキ
    HP2003
    MP1230


    ツムギ
    HP0
    MP982






    チアキ は たたかい に しょうりした ! ▼
  205. 206 : : 2018/05/05(土) 04:14:21

    【Tips】


    ゲーミング・ワールド



    超高校級のゲーマー 七海 千秋の固有魔術。


    結界魔法の一種であり、対象を自らのゲーム空間に閉じ込め生命力を示すHP、魔力量を示すMPというステータスを与えられ、基本的にはこのHPが0になれば敗北である。

    対象や使用者の意向により、レースゲームやギャンブル等で命を賭け戦う事も可能であるが、使用者自身が最強のゲーマーである事。
    チートコードをも知りつくしている上、更にゲームの内容は使用者が容易に変更する事ができる。

    対象の能力を奪うことは出来ないものの、それでもこの結界に囚われれば使用者(ゲームマスター)に勝利する事は困難を極める。

    また、ゲーム内で用いるアイテムは全て使用者の魔力から形成されるため、対象の魂を破壊することも可能である。

    アイテムはどのようなゲームをしていても、あらゆるゲームから持ち出す事ができ、剣と魔法のゲームに核爆弾を持ち込む事もFPSに薬草を持ち込む事も可能。
  206. 207 : : 2018/05/05(土) 05:57:30






    2日後…



    最原(異世界に行った百田クンと赤松さんは戻って来ることはなかった。)


    最原(王馬クンは満足げな顔をして遺体で見つかり……)

    最原(白銀さんに至っては死体すら見つからない。)



    最原(無事に戻って来たのは夢野さんだけだった。)


    最原(赤松さんは戻って来ない事はおおかた予想がついた。生死をさ迷っていた頃。ボクの夢に現れた。)

    最原(21世紀に、しかも仮にも探偵がこんな体験をするとは正直思わなかった。)


    (赤松さんは敵の魔術師と相討ちになったらしい。)

    (あの時、出会った赤松さんは… 魂となった赤松さんは……)


    (魔法に詳しくないボクでも明らかに壊れていることは明らかで……)

    (よほどの無理をしてこの世でもあの世でもないあの場所にたどり着いたことも。)


    (そして、そんな身体になってで何をしたいかと思えばボクとピアノを弾きにきたと言うのだ。)


    (ボクを励ましに来たのだ。)


    (彼女らしいなんて思うのは失礼だろうか。)


    (百田クンはどうやら敵の魔術師に敗れたらしい。)


    (相手もとても動ける程のダメージではないらしいけど…)


    (白銀さんは何故か女装のコスプレを勧めてきたけど悪い人ではなかった。 アニメに関してはかなり話し込んだ。)


    (だけど死体も見つけられないほど燃やされたらしい。)


    (王馬クンが死ぬなんて予想もしてなかった。)

    (思えばみんな彼のウソに振り回されっぱなしだった。)

    (キミの満足げな顔もウソなのか?)




    (結果的にみんなは殺されたのだ。)



    (あの快活な声と肩をバンバンと叩くあの手にはもう会えず)

    (ボクら助手組は取り残されたわけだ。)


    (赤松さんともうピアノを一緒に弾くことは2度と無いだろう。)

    (白銀さんと色々なゲームやアニメについて話すことも。)


    (王馬クンのウソに振り回されることも。)



    (こちらだって、『生存』という最低限にして最大限のエゴを押し付けているわけだ。)


    (それならばやり返されるのもまた当然。そんな事は分かり切っている。)



    最原「赤松さん……… 百田クン…………!」


    最原「白銀さん…… 王馬クン………」



    あぁ、クソ。声が聞きたい。



    また何事もなかったかのようにボクに笑いかけてくれよ。



















    その時。



    個室の呼び鈴の音で意識を引き戻された。


    春川「お邪魔していい?」

    最原「え? うん……」
  207. 208 : : 2018/05/06(日) 15:51:24


    部屋に招き入れたまでは良かったものの




    最原「…………………」

    春川「……………………」


    二人とも座ったまま気まずい空気が流れる。

    最原「あ… お茶でも……」

    春川「何言ってるの そんなもの無いでしょこの部屋に……」


    最原「あ… ごめん…………」


    _____

    ___

    __




    春川「ったく…… 戻って来てから塞ぎ込んで返事もしないんだから……」

    春川「後で東条にお礼言いなよ。 部屋の前に3食置いていってもらったんだから…」

    最原「うん… ありがとう……」

    春川「だから…… それは東条に言うセリフでしょ…」

    最原「そ… そうだったね……」









    春川「あんた今が何日かも分かってないんじゃないの?」


    最原「そういえば… あれから何日…………?」


    春川は隠す素振りもなくため息をついた。


    春川「呆れた…… 本当に何日経ったかも分かんないなんて…」


    春川「あれから2日経って今日で3日目。さっき食べた朝食で7回目でしょ」

    最原「そうだったね…… ごめん……」

    春川「もう… そういう事言いにきたんじゃなくてさ…」
  208. 209 : : 2018/05/11(金) 23:50:00


    春川「私だって…… クラスから4人もいなくなったら……」


    春川「つらいよ。」


    春川「だけど……」

    春川「あんた……夢野がどうしてるか知らないでしょ?」


    春川「あいつ…… 帰って来てからずっと魔術の訓練してるんだよ…」

    春川「友達が傷つけられようと…… この世界を救う為に…少しでも魔術の腕を上げておきたいってね…」


    春川「それなのにあんたは………!」



    春川「いつまでそうやってウジウジやってるつもりなんだよ!!」

    春川「みんな…… この世界を救う為に自分なりに出来る事をやってるんだよ!!」






    春川「けど…… それでもさ…」


    春川「最後の仕上げをしなきゃならないのは夢野と……あんたなんだよ! 最原!!」




    春川「いくら向こうの魔術師が殺したいくらい憎くてもそれが出来るのはあんた達だけなんだよ!!」


    春川「それなのに…………!」



    春川「あんたは一体こんな所で……!




    最原「分かってるよ……!! 僕と夢野さんでどうにかしなきゃこの世界の終わりだって事ぐらい!!」


    最原「僕が…… 僕がどうにかしなきゃこの世界は終わるって事ぐらい!!」


    最原「そうだよ……… 終わりなんだよ…」


    最原「けど……」


    最原「もう世界を救ったって……… 赤松さんも百田クンも…」




    最原「どこにもいないじゃないか………」



    春川「…………………………ッッ!!」



    春川「最原………ッ!!」

  209. 210 : : 2018/05/12(土) 00:31:10



    春川「ふざけんな!!!!!」


    春川「だったら……! だったら何の為に百田は死んだんだよ!!」


    春川「百田だけじゃない……! 赤松だって…… 他の二人だって……!!」


    春川「この世界が消えて無くなるくらいだったら……!」


    春川「あんたがそうやって… こんな半端な所で諦めてたら………!!」


    春川「一体何の為の犠牲だったんだよ!!!!」


    春川「赤松にも…… 言われたんじゃなかったの?」


    最原「……………!」






    最原「ごめん…… 僕… どうかしてたよ……」


    最原「いや、もしかしたら… 『ただの夢』だって…… 勝手に割りきってたのかも知れない…」


    最原「僕…… 約束してきたんだ………」



    最原「どんな結果になろうと……精一杯足掻くって……」


    最原「赤松さんと……確かに約束してたんだ………」






    春川「…………」


    春川「……………ごめん… 私の方こそ怒鳴ったりなんかして………」


    春川「…自分が辛いからって… 最原に当たり散らして…………」


    最原「いいんだ…… いいんだよ 春川さん…」



    最原「僕だって…… いつまでも部屋に籠ってるわけにはいかないし……!」


    最原「ちょっと…… みんなにも会ってくるよ」



    春川「ちょっと待った。」


    最原「え………?」



    春川「その……」






    春川「私は…… 待ってるよ… 最原が帰って来るの…………」



    最原「……………うん。ありがとう。 春川さん…」
  210. 211 : : 2018/05/12(土) 01:36:08






    視点変わってここは希望ヶ峰魔術学園。


    日向「七海。交代の時間だ。」


    七海「あ、ありがとう。日向くん。」


    日向「どうなんだ…? 小泉の様子は……」


    七海「手術は無事に終わったけど……魂その物の損傷が大きくて…」


    七海「あとは…… 本人次第だって…」

    七海「そっちはどうだった?」

    日向「あぁ、西園寺なら少しは落ち着いたみたいで…さっき部屋に戻ったところだ…」


    日向「九頭龍は………口でこそ何も言わないけど… 今はそっとしておいた方がいいだろうな…」


    七海「そう…………」


    日向「自力でここに戻ってこれたのは…
    俺と七海だけか……」



    日向「七海……」


    日向「俺たちがやってる事は… 正しいんだよな……?」


    七海「……正しいでも間違ってるでも… 多分…どっちでも無いんだよ……」


    七海「わたしたちは……わたしたちが『やるべきだ』と思ってる事をやってるだけ…」

    七海「それはきっと…… 向こうの魔術師だって同じだと思う。」


    日向「そう…… だよな…」


    日向「俺達は魔王兼………」

    七海「勇者だもんね……」







    日向(左右田が敗れて… 狛枝が逝った………)


    日向(殺したって死ななそうなアイツが……)





    日向(お前は…… どんな気持ちで戦ってたんだ?)

    日向(俺たちとアイツらの世界を見て…… 何を思うんだ……??)

  211. 212 : : 2018/05/12(土) 01:50:20




    ほんの少し見ないうちに、学園の外は世紀末のような有り様だ。


    いや、世界が終わりかかっているのだから世紀末で合ってるだろう。



    例の震動は激しさを増し、地上において無事に残った建物は既に半分以下だ。


    果たして、本当にこのまま魔術師を殺せばこの崩壊は収まるのだろうか。

  212. 213 : : 2018/05/12(土) 02:13:34
    _______

    _____

    ___

    __









    東条「××避難所の収容人数が限界だから分散収容してもいいかですって?そっちで判断させなさい! 各種手続きの省略は既に容認したはずよ!!」


    東条「え?某国の原潜…? あぁもう! 世界が丸ごと終わるかもって時に何考えてるのよ……!」






    最原が部屋を出ると春川の言葉通り、誰もが少しでもとこの世界の崩壊に立ち向かっていた。

    目の前の、自分に出来る事をひたすらに。


    東条「あら、最原くん。やっと部屋から出てきたわね。 気分はどうかしら?」


    東条「お昼ご飯は… もう少し待ってて頂戴。あと少しで一息つけるから…」

    最原「うん。大丈夫だよ… 」


    最原「それより… 僕も何か手伝うよ。 書類仕事なら少しくらい…」

    東条「そうね… 本来は一般人に見せられない資料ばかりだけど… 最原くんが悪用するだなんて思わないし…」


    東条「いや… ダメよ! メイドが主人に仕事を手伝わせるなんて……!」


    最原「いいんだ。東条さん。 僕も… この世界の為に頑張ってる人の為に… 手伝いたくなったんだ。」

    最原「………もちろん。次の戦いだって全力を尽くすし……!」


    東条「………分かったわ。なら… 少しお言葉に甘えようかしら。」


    最原「うん。 任せて。」

  213. 214 : : 2018/05/12(土) 02:25:10

    希望ヶ峰学園 地下空間




    仁「これは………」


    仁「確かなのかこれは……! これが本当ならば………!!」


    「残念ですが……… 何度精査しても観測結果に誤りを発見出来ません………」


    仁「バカな………!」


    仁「『これ』は何なのだ!! 全宇宙に等しいエネルギーの集合体……!?」


    仁「あり得ない……! この学園の最深部のデータにも… それと同じようなモノは存在していた……」

    仁「だが…… これは… コイツは…… 最早そんな次元じゃあない!!」


    仁「こんなモノ…………」






    仁「『神』と言う他何と形容すればいいんだ……」



  214. 215 : : 2018/05/12(土) 02:46:43



    希望ヶ峰魔術学園 天文台



    雪染「まさかここと違う宇宙に…… あの人たちと同じ事を考えた人がいたなんてね…」


    「呑気に言ってる場合じゃないっすよ!!」


    雪染「この学園が産まれた理由。」


    雪染「そして……」


    雪染「カムクラ・イズルの存在……」

    雪染「いや… 彼らがこれを何と呼称しているかは分からないけど……」

    雪染「彼らは…… これを食い止める為に…」

    「彼らって言うと…… 本来78期生となるはずだった……」

    雪染「えぇ…… これで点と点が繋がるわ……」


    雪染「カムクラ・イズル……折れた剣の伝説……」

    雪染「消えた78期生とがね………」

  215. 216 : : 2018/05/12(土) 03:30:43

    ________

    ______

    ____

    _






    東条「ありがとう。最原くんのおかげで思ったより早く片付いたわ。」

    最原「どういたしまして… じゃあ… お昼にでも…」



    「希望ヶ峰学園 130期生は今から体育館に集合して欲しい。繰り返す…」


    最原「呼び出し…?」


    東条「何かあったようね……」

  216. 217 : : 2018/05/12(土) 06:20:47



    体育館には12人の人影がある。


    夢野「転子よ大丈夫か…? まだ立ち歩かぬ方が……」

    転子「大丈夫ですよ!幸い、手は無事に繋がりましたしあとはリハビリを重ねるだけです!」


    仁「みんな既に集まっているようだね……」

  217. 218 : : 2018/05/13(日) 22:01:43



    仁「未帰還のクラスメイトが出てきてしまった事は私としても……… 非常に無念に思う。」

    仁「ロクに弔いをする時間も無くて申し訳無いが……」

    仁「君達に伝えなければならない事がある。」





    皆が仁の口元に注目し、固唾を呑んだ。


    仁「結論から言うと…… 一連の事態は全く解決には向かっていなかった…」


    仁「いや、結果的に間違っていたというより他ない……」


    最原「間違っていた……?」


    夢野「ど……どういう事じゃ!? ウチらの戦いは…… 間違っておったのか!?」

    仁「………………」



    仁「君達がちょうど戦闘の最中にある頃…」


    仁「君達の錨と鎖に関して新たな事実が明らかになった。」


    仁「鎖を引き合わせているモノの正体だよ。」

  218. 219 : : 2018/05/13(日) 23:38:51



    真宮寺「確か、錨と鎖は互いに引きつけ合ってるって事だったはずだけド……?」



    仁「ついこの前の観測データではね……」


    仁「だが、この鎖と錨は磁石のように自ら引き合うのではなく、この鎖を"引っ張る存在"が確認されたんだ。」

    最原「何かが鎖を辿って2つの宇宙を衝突させようとしている……?」


    仁「そういう事になる…」


    茶柱「何なのですか…… その"何か"というのは……」



    仁「………この学園が創設された目的… 意味。」


    最原「え……?」


    仁「その"何か"というのはこの学園が創設された目的に深く関わっている。」


    仁「君達には… そこから説明しなくてはならない…」
  219. 220 : : 2018/05/15(火) 13:49:08



    仁「この学園の発足は130年以上前。ある研究機関がこの学園のそもそもの始まりだったんだ。」

    仁「『"完全なる人間"計画』。この学園はその計画を進行するための研究機関であったわけだ。」


    春川「完全なる人間計画………?」


    仁「当時、この国に限らず… 世界は激動の時代にあった。植民地政策、世界大戦、大恐慌…… 挙げ続ければキリが無いが… そんな人類をある意味見限った団体があった。」


    仁「そんな彼らが創設した研究施設こそこの"現"希望ヶ峰学園。 『旧 希望ヶ峰研究所』さ。」


    仁「研究所のメンバーは人類に対し深い"絶望"に浸っていた。彼らからすれば… 学習もせず悲劇を繰り返すばかりの人類を統率、管理し…人々に"希望"をもたらす存在……」


    仁「まさに………"神"とも言える存在を産み出そうとしていたんだ。」


    最原「人類を管理して統率する存在を作り上げる事…… それがこの学園の目的……?」

    夢野「な…なら…… ウチらや先代の生徒が集められたのは…どういうわけなんじゃ?」
  220. 221 : : 2018/05/15(火) 13:59:46



    雪染「向こうの世界とはおよそ50年程の時間差があるけども… 恐らく…… 向こうにおける"希望ヶ峰学園"とこちらの"希望ヶ峰魔術学園"。どちらも同じような動機で創設されたと思うの。」


    雪染「この世のありとあらゆる魔術を無尽蔵に使いこなす"人工の希望"。『カムクラ・イズル』。」


    雪染「私たちの世界もかつては科学に支配されていた。だけど… 魔術の発見以来、この世界の様相は大きく変わってしまったわ。」


    雪染「そんな科学に親しんだ人間からすれば…奇跡のような力にこの学園の創設者達は着目した。」


    雪染「魔術の完成形。"完全無欠の魔術師"をこの学園は創ろうとしていたのよ……」
  221. 222 : : 2018/05/15(火) 14:05:57


    仁「その時の彼らの事情や心情までは今となっては分からない。もしかしたら"希望"というのは建前で兵器利用だとか… もっと目の前の利益を目指した研究だったのかも知れない。」



    仁「それは…… 恐らく向こうの希望ヶ峰学園でも同じ事なのだろう……」


    星「向こうの世界にも希望ヶ峰学園?」


    最原「僕らと同じように… 魔術の才能を集める特別な学園が向こうにもあるらしいんだ…」


    最原「そして…… 僕らが戦った彼女達もそんな学園の生徒だったんだよ…」


    星「……そうか。 なかなか世界ってのは広いんだか狭いんだか分からねぇな…」


    仁「とにかく、その計画の第一人者こそが今回の黒幕。」


  222. 223 : : 2018/05/15(火) 14:07:01




    「「神座 出流(カムクラ・イズル)」」




  223. 224 : : 2018/05/15(火) 14:15:42


    最原「かむくら……」


    天海「いずる………」


    仁「そう。 この学園の創始者でもある神座出流。彼は……」


    仁「自らに改造手術を施したんだ。」


    仁「ありとあらゆる才能、能力、叡知を兼ね備えた"完全なる人間"になる為にね……」

    仁「そして… その才能のデータを集める傍ら… 若く、才能ある"研究サンプル"が必要になった。」


    茶柱「まさか…… それが………」


    仁「そう。」



    仁「"超高校級"がこの学園に集められる意味さ。」

  224. 225 : : 2018/05/15(火) 14:49:10



    日向「そんな……サンプル(モルモット)って………!!」


    日向「じゃあ……! ここにいるヤツらはみんなその"カムクラ・イズル"とかってヤツの為に集められたってのかよ!!」


    雪染「…………えぇ。」


    雪染「優れた魔術師の中でも… とびっきり若くて腕のいい魔術師をこの学園は必要としたのよ。」


    九頭龍「"モルモット"の活きが良くて強い方がより優れた魔術を集められるから……ってか?」


    雪染「………………」


    罪木「そんな… 先生を責めても… 意味が………」


    九頭龍「うるせぇよ!!!! だったら納得しろってのかよ!!!!」


    九頭龍「そんな人間兵器じみたワケわかんねぇモン造り出す為に俺達は集められて死んでいったってのかよ!!!!」



    九頭龍「そんなクソみてぇな計画さえなけりゃ誰も死ぬこたァ無かっただろ!!!!」


    九頭龍「ペコが死ぬ必要無かったじゃねぇかよ!!!!」


    雪染「……………………」


    日向「それは………」


    日向「それは違うぞ…… 九頭龍。」


    九頭龍「……………なんだァ? テメェ……」


    九頭龍「ペコや他の奴らの犠牲は…… 必要な犠牲だったって言いてぇのか?」


    日向「違う……! そうじゃない!!」


    九頭龍「だったら何なんだよ!!!!」


    九頭龍「そもそもこんなバカみてぇな計画なけりゃ犠牲を出す必要なんざ無かっただろうがよ!!!!」

    日向「錨を打たれた時点で俺達がやらなきゃならなかったんだ!!」



    日向「そうだ……誰も死ぬ必要なんて無かったさ!!」


    日向「けど、戦えるヤツが他に居ないんだから俺達がやるしかないだろ!!!!」


    日向「死ぬ必要は無くても……… "戦う必要"はあったんだよ……………!!」


    日向「俺達がやんなきゃそれこそ全員死ぬしか無かっただろ!!!!」

    九頭龍「テメェ ペコが死んだのは勝手に死んだんだから自分には関係ねぇって言いてぇのかよ!!」

    日向「違う!! 俺だって誰も死ぬ必要があったなんて……!」

    九頭龍「同じだバカ野郎!! お前…… どうせ七海のヤツが生きてたから安心しきってんだろ!! 」

    日向「何だとこの………!!」




    弍大「いい加減にせんかお前らァアアアアッ!!!!」


    弍大「言い争いになってはまともに話にならんじゃろうが!!!!」


    ソニア「そうですよ……! それに… 先生のお話もまだ途中でしたし……」



    日向「………すまなかった… 俺もつい熱くなって……」


    九頭龍「……………」


    雪染「………………そうよ。」








    雪染「九頭龍くんの言う通りよ……!」


    日向「え……?」



    雪染「誰も死ぬ必要も……戦う必要なんて無かったのよ!!」


    日向「戦う必要が無かったって……」



    雪染「ごめんなさい…… 取り乱して……」



    雪染「先生なのにだらしなくて……」


    雪染「私には……全てを話す義務があります。」



    雪染「…………特に日向くん。」



    雪染「あなたには…… 心して聞いて欲しいわ。」
  225. 226 : : 2018/05/16(水) 16:20:22




    最原「それで……」



    最原「続きを聞かせてください。先生………」


    春川「最原……………!」


    夢野「…………………」


    東条「……やめておきましょう……… 彼だって言いたい事は貴女と同じだと思うわ…」


    春川「…………。」


    仁「では…… その神座出流の顛末についてになるが…」


    仁「当時、自ら率先して実験台となり…全国から集めた超高校級のデータを自身にインプットさせつつ、少しずつ"人間の完成形"を目指して改造手術が重ねられた。」


    仁「才能を後天的に植え付ける実験自体は奇跡的に成功したようだ… ここまでは良かった。」



    仁「しかし…彼は当時既に30代後半… 研究職からすればこれは異例の若さだったが…… 肉体的には既に衰退していく一方の時期だ。」


    仁「結果的に…… 彼を完成された人間にすることは不可能と見なされた。 そこで研究は若く、手術に適合する人材を見つけるという方針に転換されたのだが…」

    仁「それに納得がいかないのが勿論、神座出流だ。」


    仁「考えてもみれば当然の話だ。自分が主導した実験が頓挫したばかりか自身も"失敗作"として打ち棄てられる羽目になったのだから…」

    仁「他の研究者にとって神座出流は邪魔者となった…… 実際この頃から怪しい私設軍隊や得体の知れないエージェントとのやり取りの記録が残っている。既に研究者達は世界の救済などに興味は無くなっていたのだろう……」

    仁「そして、中途半端に才能を身につけられ暗殺しようにも左遷するにもどうにもならなかった神座出流を始末するために……」


    仁「恐るべき事を考えつく奴がいたんだ…」
  226. 227 : : 2018/05/18(金) 19:19:42




    雪染「さて、話はむしろここからが本題なのだけど…」


    雪染「完璧な魔術師であるカムクラ・イズルにはもちろん、幾つもの試作機(プロトタイプ)が存在していたわ。」


    雪染「適性のある学生を全国から選りすぐり……才能を伏せて本科に配属するの。」


    雪染「人道に反した実験に参加してもらう報酬としてね……………」



    日向「才能を伏せて………………?」


    七海「じゃあ…… 日向くんの才能が伏せられてるのは…」


    雪染「内部にはこう呼ばれているわ………」


    雪染「"超高校級のプロトタイプ"とね………」


    雪染「日向くんは…… もう少しで例の計画の実験台になる所だったのよ………!」




    雪染「最も…… その前に世界がそれどころでは無くなって… 日向くんには錨が打たれていることが分かったから… 計画は今のところ擱座しているわ……」

    日向「俺が…… 実験台………??」


    田中「聞けば聞くほど…… この俺でさえ震える程の悪辣ぶり……」

    澪田「あの~ ちょっと質問してもいいっすか…?」

    雪染「どうぞ。澪田さん…」


    澪田「その~ ……先生の話だと今までにけっこうな人数がその計画の犠牲になったんすよね……?」

    澪田「だったら…… その計画の犠牲者はどうなったのかな~って……… 今までにそんな人達… みたことも無いし…」

    九頭龍「おおかた海にでも捨てちまったんだろよ…………」


    雪染「犠牲になった人達がどうなったのか……」

    雪染「それは今回の一件において最も重要なポイントになるわ」
  227. 228 : : 2018/05/18(金) 19:44:10



    仁「さて…… 話が飛んでいるように思われるかも知れないが………」


    仁「地下にあるあの機械は何の為に使われたか……」

    最原「確か… 空間に穴を空けて赤松さんや…百田くんを……」


    仁「そう。あれは空間に穴を空けて人類が本来到達する筈さえ無かった"別の空間"に到達する事を可能としたトップシークレットの代物……およそ120年前学園の卒業生が形にしたものだ。」


    仁「それが最初に使われたのが………」


    仁「神座出流の始末だったんだ……」


    最原「証拠隠滅って…」


    天海「それにしちゃ随分大掛かりな方法を使うんすね…」


    仁「例え、海や山奥に死体を遺棄しようにも人手も時間も移動手段も必要だ… そもそも死体が発見されては何にもならない……」


    仁「であれば……手近にある大掛かりな… なおかつトップシークレットの機械を使う事にしたのだろう…」



    仁「万が一にも戻って来れぬよう…神座出流は"無の空間"に追放された…」
  228. 229 : : 2018/05/18(金) 20:48:07



    雪染「澪田さんの指摘通り… 学園側は実験台となった生徒のその後の処遇に苦慮していたわ…」


    雪染「何せ…… その殆どが普通の生活に戻れないほど人格や思考が破壊されてしまったのだから…」


    雪染「そして…… そんな事が明るみになればこの学園は無事ではいられない………」


    雪染「学園は……… 学問上『あるのではないか』程度に囁かれていた私達が住む世界と異なる"負の数"の世界。」


    雪染「無の空間にそれらの実験台を廃棄しました。」

  229. 230 : : 2018/05/18(金) 21:02:56




    仁「そして、それは我々に最悪の形で払い戻される事になった………」



    最原「まさか……… 2つの空間をぶつけようとしている犯人は……」


    仁「その通り………」



    仁「希望ヶ峰学園創始者。神座出流だ。」


  230. 231 : : 2018/05/18(金) 23:50:27


    雪染「今回の事件の黒幕は………」


    日向「…………………」


    雪染「打ち棄てられた"カムクラ・イズルたち"と言っていいでしょう。」


    日向「"カムクラ・イズルたち"…………」


    雪染「それがどのような過程を経て宇宙を破壊する程の力を手に入れたかまでは今のところ不明だけど……」


    雪染「そもそも……… こんな計画さえ無ければカムクラ・イズルが発生することも…… あなた達が戦う事にもならなかったのよ…………!!」


    雪染「錨を打ち込んだのも鎖を引いているのも……」


    雪染「全てそのカムクラ・イズルの仕業なんだから!!」



    「「…………………………」」



    雪染「ごめんなさい……『仕業』なんて私達が言えた立場じゃ無かったわね…………」


    雪染「この秘密を喋った以上……事件の解決のするしないに関わらず……私はこの学園の教師ではいられなくなるでしょう…………」



    西園寺「そんなの……… ズルいじゃん……」


    雪染「そこで…… あなた達の担任として… 最後のお願いをしたいと思います。」




    雪染「日向くん、雪染さん。」



    雪染「どうか…… 向こうの世界の魔術師と出会ったら…………」


    雪染「彼らと手を取り合って欲しいの。」



    雪染「彼らもきっと……… 自らの世界を救う為に… 必死なだけだと思うから……」


  231. 232 : : 2018/05/19(土) 00:09:59


    仁「その神座出流は無の空間に追放されたのたが………」


    仁「何らかの因子によって強大な魔術を身につけ…… この世界に復讐する事にしたのだというのならまだ分かるが……」


    最原「自分を追放した仕返しに… 2つの宇宙を破壊すると……?」


    仁「いや、観測された魔力量によれば…… 恐らく地球1つ破壊し尽くすには余り過ぎる程の力を秘めている。」

    仁「わざわざ"2つの宇宙"を巻き込む程の理由がない。 そんな事をせずとも我々を皆殺しにする事など容易いからね……」

    天海「要は…… 2つ以上の宇宙を巻き込む必要があったって事なんすかね…………」

    仁「最原くん、夢野さん。」


    仁「君達が最後の頼みだ………」

    仁「君達はこれからその無の空間に赴いてもらい…… 神座出流の討伐を依頼したい。」


    夢野「宇宙2つ丸々壊してしまうようなヤツを……… ウチらが……??」


    最原「……………………」


    最原「………分かりました。」


    夢野「んあ…!?」

    最原「僕の力がどの程度まで通用するかは分かりませんが……やってみます……!!」


    夢野「ウチらに………勝てるのか…? 最原………」


    最原「僕1人でやるわけじゃないからね。」


    最原「それに…… この力なら… どんな相手だって………」


    夢野「…………… しょうがないの……とっておきの魔法を見せてやるとするかの。」

  232. 233 : : 2018/05/19(土) 00:33:47








    「それなら………」


    「ボク達がやります!!」


    「フフっ………」


    「ちょっと……! なんで今笑ったの!」

    「いえ… あまりに予想通りだったものだからつい…ね。」


    「貴様1人で行くつもりか?」


    「まさか! 私たちもついて行くに決まってるじゃないですか!」

    「お前1人においしいトコは持ってかせないぜ!」

    「ダチが腹ァ括ってんだ。付き合わねぇ理由がねぇ」

    「ウム! 兄弟! この僕も共に死地に飛び込むぞ!!」

    「死地なんて言葉使うんじゃないわよ… 縁起の悪い……」

    「ボクも…… どのくらい役に立つかは分からないけど… 精一杯やってみるよ!」

    「えっと… スイマーがどのくらい役に立つか分かんないけど… とにかく! 考えるより動けだよね!」

    「戦いとあれば… 我が出ぬ理由は無い。 我も共に…」


    「負け試合にベットはしない主義ですから。 肉壁も来るでしょ?」


    「に……肉壁!? ……いや! 不肖肉壁! どこまでもお供しますぞ!!」


    「占いじゃ この戦い…… 失敗するって出てるべ…… けど… 逆に言えば7割は成功するって事だな! よし! それなら俺も着いていくべ!!」




    「その……」

    「アタシ? アタシは別にこのままでも十分絶望的だと思うけど?」


    「けど… なんかこの終わり方は違うっしょ お姉ちゃんも好きにしたら?」

    「うん! 私も行くよ……!」


  233. 234 : : 2018/05/19(土) 00:45:25



    ________

    _____

    __


    最原「………先生?」


    仁「あぁ、いやすまない……」


    最原「何か…… 考え事ですか?」



    仁「少し前、君達によく似た生徒に会った事があってね。」


    「座標軸を固定! 照準99.98%一致。」

    「最終セーフティを解除。」


    「エネルギー既に充填済み。あとは撃鉄を打つだけです!」


    仁「了解した。 魔術師をそちらに送る。」


    仁「では…… 頼んでもいいかな?」


    最原「もちろんです。 この世界を……救ってみせます。」

    夢野「ウチらに任せておくとよいぞ」


    仁「あぁ、とても頼もしいよ。 あの時の彼らのように……」



    最原と夢野はパネルの上に立つ。



    仁「撃鉄(ハンマー)起こせ!!」


    仁「次元貫通機…………」



    仁「()ッッ!!」


  234. 235 : : 2018/05/19(土) 01:08:08







    夢野「な……何もない…… 真っ暗なだけじゃ……」


    最原「………いや… よく見て。夢野さん。」


    夢野「あれは…… 宇宙? いや、地球か…」

    最原「僕が赤松さんに会った場所に似てる……」

    最原「だけど…… 僕が見た時より地球が近づいてる。」


    夢野「最原はここに来たことがあるのか?」

    最原「うん…… もっとも…… 夢みたいな物だったのかも知れないけど……」




    「それは夢や幻ではない。」



    最原・夢野「…………………………………ッッッッ!!!!」


    「それは確かにお前の魂が見た現実だ。」



    最原「お前が……………」




    一見、初老の男がそこに立っているだけ。


    しかし、その身に纏う気迫、オーラ、威圧感は明らかにそれが只者ではない事を物語る。


    銀色の長髪が靡き、紅い瞳が煌々と光る。



    神座「初めまして。 ここに人が来るのは3回目……いや、君は戻って来たのか。」


    神座「あのピアノはなかなか悪くなかったな。」



    最原、夢野は"殺意"と"闘志"を忘れていた。



    否、忘れさせられていた。



    次の瞬間、自分の視界に飛び込んで来た物は



    四肢が吹き飛び、臓腑を撒き散らし、頭は宙を舞っている自分と夢野の姿だった。



    最原「……………ッ!!!!」



    肺が、心臓が呼吸の仕方を、脈のとり方を忘れたみたいだ。


    最原「ハッ………! …………ッッ!!」



    神座「フ……ハハハ!! お前らとっくに1000回は死んでいたぞ……!!」


    夢野「な…… 何じゃ今のは……!」

    最原「げ……幻覚………??」


    神座「フン…… お前達の魂が"死んだ"と自覚していれば… とっくにお前らは死んでいる。」



    神座「さて、デモンストレーションはこんなところでいいだろう……」
  235. 236 : : 2018/05/19(土) 01:20:01



    神座「…………!」


    最原(今だ……………!!)



    最原は己の術式を展開する。






    神座「……………静かにしていろ。クソガキ。」



    最原(書き変わらない………!!)


    神座「フン…… "書き換え"か? 小賢しい……」



    「うぉぉォオオオオオオオオオオッッ!!!!」



    神座(結界魔法と…… コイツは… また変わりダネだな………)


    棒立ちの神座は現れた人影の拳に捉えられ、吹っ飛ばされた。



    日向「効いたのか………?」


    七海「………チート級に日向くんにバフとあいつにデバフをかけたはずだけど………」


    最原「君達は………」

    夢野「んあ? 誰じゃ… あれ……」


    日向「………ただの通りすがりだ。」

    七海「自分達の世界を救う為にやって来た魔術師だよ。」



    七海「……君達と同じ。」
  236. 237 : : 2018/05/19(土) 01:29:15



    最原「なんだ………これ…」

    夢野「マナが… 溢れるようじゃ……!」


    日向「七海がお前達を強化してくれたんだ。」

    七海「……日向くん。 アイツ…」


    日向「分かってる。あれ1発でやられるようなヤツじゃないって事ぐらい。」


    日向「けど……"俺は勝つ"ぞ………」


    最原(今なら…… 効くか………!?)


    夢野「これはすごいの…… メラがメラゾーマになりそうじゃ!」






    神座「フフフフフフフ…………!」



    神座「なるほど。あの無意味な殺し合いを生き残っただけの事はある………」


    神座「どれも厄介かつ腹立たしい能力だな………」


    七海「……………!」


    日向「どうした…? 七海………」


    七海「マズイ………」


    七海「これじゃあまるでチーター……いや、バグだよ…………」
  237. 238 : : 2018/05/19(土) 01:31:56
    チアキ
    HP:9999
    MP:9999

    ハジメ
    HP:9999
    MP:9999

    シュウイチ
    HP:9999
    MP:9999

    ヒミコ
    HP:9999
    MP:9999






    カムクラ・イズル
    HP:∞
    MP:∞

  238. 239 : : 2018/05/19(土) 02:41:59



    七海「あれにどんなバフをかけて…… 何を使えばいいか分かんないけど……」

    七海「やってみる………!!」

    日向「大丈夫………"俺達は負けない"さ……」

    夢野「最原よ! 援護は頼むぞ!!」

    最原「うん……! もう一度やってみる…………!!」



    神座「誰が何人来ようとも同じ事よ………」


    七海が他のパーティーに超級のバフをかける。

    同時に神座に特大のデバフをかける。


    日向は言弾を装填する。

    夢野は太陽程の火球を生み出し…

    最原は掌にペンを具現させる。


    4方向から一斉に特大の殺意が一点に集まる。


    神座「凡庸! 凡庸!!」

    慣性の言いなり状態の日向を横蹴りで凪ぎ払う。


    神座「言葉の持つ微弱な魔力を増幅させ、実現させる能力……」


    太陽程の火球を唾で掻き消し


    神座「自然現象を操り増幅させる力」


    火柱を夢野の足元から建立した。


    神座「そして……」

    足元に潜り込んだ七海を見下ろし真上に飛ぶと…

    神座「ゲーム世界という結界に閉じ込め自分ルールを押し付ける特権(チートコード)……」


    巻き戻しを押したかのように下に戻る。


    七海「ぐぅ……ッハ!!」


    その場から踏み切ると最原を視界に捉える。


    手も足も出さず頭だけで最原の頭蓋に衝突する。


    最原「…………………ッッ!!」


    神座「相手の能力を見て、書き換えと加筆を行う偽証(ズル)………」


    脳ミソを掴んで揺すられているかのような目眩と吐き気が襲った頃。


    誰1人立ち上がっていない事に気がついた。

  239. 240 : : 2018/05/19(土) 02:48:22

    【Tips】


    偽証(都合のいい真実)


    超高校級の探偵 最原 終一の固有魔術。


    探偵とは事件を解き明かす者。そして真実を見定める者。探偵の証言は時に起こった事実をねじ曲げる(ように見せかけられる)。腕のいい探偵ならばなおのこと。

    "能力を見る、知る"というのはあくまでこの能力の第一段階に過ぎない。相手の能力を見て、知った後、加筆と偽造を可能にする事こそ彼の魔術の本領。魔術師以外には効果が無い。
  240. 241 : : 2018/05/19(土) 03:00:14


    神座「おっと、まだ死ぬなよ。そこまで強く殴ってはいないハズだ。」


    日向(痛覚が……"起きて"やがる……!!)


    日向(いや…… 俺の恐怖と本能が痛覚を叩き起こしちまったんだ………!!)

    夢野「あづぅ……… んあ?? 火の柱が……」

    最原「かはっ! はっ! あぐぅぁあああ……!!」

    七海「はぁ…… はぁ……!」




    誰1人、立ち上がる者はいない。



    神座「なんだ? もうお休みの時間か?」


    神座「まぁ、じきに寝床も賑やかになろうよ。」



    神座「永眠(ねむ)る前に昔話でもしようか?」
  241. 242 : : 2018/05/19(土) 03:26:12



    神座「昔々、"超高校級"と呼ばれた16人の若者がおりました……」


    神座「16人の若者は共に平和に呑気に暮らしていましたが……」


    まず、身体を起こしたのは日向であった。


    神座「ある時、自らが通う学舎の隠された一面を知ることとなりました。」


    直立しようとする両脚を神座が踏み潰した。


    神座「それは愚かな人類に見切りをつけ"完璧な人類"を創ると決めた崇高なる決意と……」


    神座「それを裏切り、完璧な人類となる筈だった人々を"失敗作"としてゴミのように投げ棄てた糞にも劣る害虫の事を!!」

    上げた右足で日向の肋骨を踏みつける。


    神座「完璧な人類となる筈だった未完の人々は2つの世界を恨んでおりました。」


    神座「最初に棄てられたヒトは魔術を持ちませんでしたがあらゆる知識と才能を備えておりました……」

    横に払う剣撃を360゚後方に回転しつつサマーソルトキック。


    兜が粉砕され七海の身体が飛んできた方と逆に飛んでいく。

    神座「後から棄てられた子供達は才能と知識はありませんでしたが魔術に秀でておりました。」


    神座「そして、彼らの怨嗟と怒りは同じ物でした。」


    神座「"よくも棄ててくれた" "いるべき場所に帰せ" "お前達を許さない"と………」


    夢野が魔方陣を展開する。


    神座「そして……」


    神座「最初に墜ちた人間は言いました……」




    神座「"お前達の力と怨嗟を預けよ、我らは全にして1つの怒りの炎である"と…」


    神座「恨み、怒り、嘆きだけとなった子供達の魂は1つに集結しました。」



    魔方陣の下から氷の剣山が隆起した。


    神座「世界へ復讐し、今度こそは"完璧な人類の世界"を開闢すると!!」

  242. 243 : : 2018/05/19(土) 03:49:21


    神座「1つとなった我々は2つの宇宙を滅ぼす事にしました。」


    神座「ところが…… ゴミ掃除の本番という時に…… ゴミの中からゴキブリが飛び出して来たのでした………!」


    神座「糞に沸くウジにも劣る人類に与した汚ならしい16匹のゴキブリがねぇ!!!!」



    最原がフラフラと立ち上がる。



    神座「16匹のゴキブリは小癪生意気にも関わらず自らの死と引き換えに私を再びこの無の空間へと追いやったのでした。」


    最原の元へ神座が歩み寄る。


    神座「私の憎悪を込めた"因子"が既に2つの宇宙に残されているとも知らずに!!!!」


    神座「こんなチンケな折れた剣を残して!!!!」


    神座「無駄に無意味に無価値に死んでいったのでしたぁアアアアッッ!!!!」


    最原の横っ面に拳がめり込んだ。



    投げ出された最原の元へ寄り、頭を掴んで持ち上げる。



    最原「それは……ちがう………!」




    神座「2つの宇宙に残された私の錨をたどり、2つの宇宙を滅ぼす事など私には造作もない事なのでした。」


    神座「そしてオマケにぃ………」


    神座「私の!恨みによって!自分が! 力を! 手に入れたとも! 知らず!!」




    神座「頭の!腐った!!おめでたいハエどもがッ!!」


    動かぬ最原に拳が次々と突き刺さる。


    神座「まだ私に楯突くのでしたがぁアアアア!!」

    足元に最原の身体を叩きたつける。


    神座「全部全員ぶち殺して私は完璧な人類の完璧な人類の為の完璧な人類の世界を開闢するのでしたぁアアアア!!!!!!」



    足元に転がった最原を踏み躙る。

  243. 244 : : 2018/05/19(土) 04:04:38


    神座「おっと……すまないね。」


    最原の胸倉を掴み持ち上げる。


    神座「君は特にクサいからつい力が入ってしまったよ。」


    神座「あの16匹のゴキブリと同じ匂いがねぇ!!」


    神座「さぁ…… 今度は私が貴様らを棄てる番だぞ…… ゴミ野郎共ォ!!!!!!」


    最原「おま……え…は…………!!」


    神座「なんだ…… まだ喋る力があったのか。」


    神座「これは意外だ。いいだろう、喋ってみろ。害虫。」


    最原「お前は……… 自分の恨みを晴らしたいが為に…… ここに落ちてきたその子供達を……」


    最原「取り込んで……! 利用しているだけじゃないか………!!」


    日向「それに…… 賛成だな…………」


    日向「ここに落とされたカムクラ・イズル達は…… 本当に世界への復讐を望んだのか………!?」


    神座「望んだに決まっているだろう。こんな糞溜め以下の場所に放り込んだクソ虫に感謝するとでも?」


    夢野「それは…… おぬしの勝手な思い違いじゃろ………!!」


    神座「黙れ!!!! クソ蝿風情がァ!! ヤツらは人格も知性もぶち壊されたせいでただ恨みつらみをぼやくだけの役立たずの魂だったものだ!!!!」



    神座「そんな"リサイクルできるゴミ"程度の奴らが自分の恨みを晴らしつつ私の役に立てるのだからむしろ感謝して欲しいのだがねェ!!!」



    神座「ここに落ちた価値ある人類と言い切れるヤツは明確な意志を持った私だけだったのだからなぁ!!!!」



    七海「自白したね………」


    七海「あなたは…… ここに落とされたカムクラ・イズルの事なんてどうでもいいんだよ……!」


    最原「お前は……自分の恨みで狂った……
    ただのバケモノだ…………!!」



    日向「完璧な人類が聞いて笑うな………」
  244. 245 : : 2018/05/19(土) 07:01:23




    神座「………………………………………………………」




    神座「言わせておけば……… あの時のゴキブリと同じ台詞を吐きやがって………………」




    神座「そこまで死にたくば塵も残さず消してやる!!!!」




    神座の掌で魔力が暴走する。




    七海「ごめん…… みんな… 防御バフ全開とリジェネかけてるけど………」


    七海「"アレ"は耐えらんないと思う……」


    日向「構うもんか……」


    日向「どっちかが動かなくなるまで攻撃を続けるだけだ……」


    夢野「まだ… まだ……! ウチは負けんぞ!!」


    最原「………敵を……書き換えられないなら…」





    神座「受けてみろ……… 軽く宇宙誕生の数倍のエネルギー量だ……」



    神座「完全なる人類の世界を拓け!!」



    神座「開 闢(ビッグバン)!!!!」
  245. 246 : : 2018/05/19(土) 07:27:03



    日向「クソッ…………」



    防御力の底上げ、超回復(リジェネレーション)、対抗する魔力の爆風、更には能力の書き換えによる保険。


    これら全てをもってしても宇宙開闢の数倍に上る純粋なるエネルギーに耐える保証など何処にも無い。


    眩い閃光が4人を………




    包まない。




    最原「え………?」


    夢野「お主………」


    日向「小泉!!!!」


    七海「小泉さん!!!!」



    神座(クソッ!! 時間停止か………!!)


    無の空間においても時間の概念自体は無くならない。




    怨嗟の魔物も時間という檻の囚人である事には変わり無い。



    小泉「みんなバカ………!」


    小泉「そんなんじゃ…… そんなんじゃコイツは倒せないんだよ……!!」


  246. 247 : : 2018/05/19(土) 09:30:22



    最原「君は……?」


    神座(クッッッソ虫共がぁアアアア……ッッ!!)


    小泉「………魔術師だよ… あんたらと同じ……」


    小泉「コイツはもう…… 防御力とか攻撃力の底上げとか……弱体化なんかじゃ…… もうどうにもならない……!!」


    小泉「コイツを倒すには…… あの折れた剣が必要なんだよ………!!」


    日向「なんで…… そんな事が分かるんだよ………」

    小泉「教えて……くれたんだよ! 『折れた剣の伝説』を創り上げた張本人が!!」

    神座(小……ッ癪なァ…………ッッ!!)



    閃光の球は少しずつ拡大していく。


    七海「小泉さん……! そんな身体で魔力を使ったら………!」


    小泉「何言ってるの………! これが破裂したら……! 少なくともどちらかの宇宙は完全に破壊されるんだよ!!」


    小泉「30分………!」


    小泉「30分コイツを食い止めるから……!!」



    小泉「早く剣を探して!!!!」


    日向「……分かった!」


    七海「アイテム探しだね………!」


    最原「だったら…… 僕は彼女に魔力を……」


    小泉「ここは私1人で足りるから!!」


    小泉「早く見つけて来て!!」



    小泉「未来を………変えてよ!!」



    最原「分かったよ! 必ず見つけて戻るから!!」
  247. 248 : : 2018/05/19(土) 09:55:33








    小泉「貴方達が78期生?」


    苗木「うん。今は訳あって魂の君と交信してる。」


    霧切「本当はもっと早くに助けに来たかったのだけど……」


    大和田「肉体っちゅう魂を現世に食い止める器がなけりゃ…… 霊媒士に呼び寄せられるくらいしか俺達は現世にちょっかいは出せねぇってわけだ…」

    セレス「死人に口無しとは言ったものですわ。」

    山田「なにぶん……『しんでしまうとは なさけない!』というヤツですな…」

    小泉「じゃあ…… 私ももう……」

    不二咲「うぅん。君はまだ大丈夫間に合うよ。 ちょっと生死の間をさ迷ってるだけだから…」

    葉隠「けど、正直言って戻ったあとはオレ達がサポートしてやれる可能性はほぼゼロに近いべ……」

    朝日奈「何言ってんの! 『この作戦は7割成功する!』なんて言ってみんな肉体は消し飛んじゃったんだから!」

    葉隠「し… しょうがねぇべ… 3割は当たるんだよ……」

    大神「あながちハズレとも言い切れぬかも知れぬぞ?」


    小泉「それは…どうして……」


    大神「まだ……戦っている者がいるではないか。」
  248. 249 : : 2018/05/21(月) 18:12:22



    小泉「本当だ……見える…」






    小泉「だけど………」


    桑田「あちゃー…… ボコボコじゃんよ…」


    小泉「ちょっ…… 呑気に言ってないでよ!」

    小泉「アレを倒す方法だってちゃんとあるんでしょ!?」

    苗木「もちろん… 可能性はある。 ボクたちはそれを教える為に君達の元にやって来たんだからね。」
  249. 250 : : 2018/05/22(火) 14:44:07

    舞園「2つの宇宙を股にかけた冒険もいよいよおしまいって事ですね……」


    十神「冒険しているより待ち時間の方がずっと長かったがな…」


    小泉「待ってたって……私たちを?」


    十神「他に誰がいると言うんだ。」

    桑田「『折れた剣の伝説』はお前らが続きを創るんだぜ!」

    小泉「え……? あの童話が?」

    腐川「元は本当にただの童話だったらしいけど… あたしらの一件があって以来その……あたし達の話……ってことになってるらしいわよ…」


    小泉「確か…… 世界を揺らす程の怪物を15人とか16人の英雄が立ち向かって……」

    小泉「戻ってこれたのは仲間の1人だけだったっていう……」

    苗木「そこは… ボク達から説明するよ。」


    苗木「今から…… もう何年も前か分からないけど… ボクたちも君たちと同じようにあのカムクラ・イズルの脅威について知る事になったんだ…… 世界が丸ごと揺れるっていう大災害と共にね…」

    朝日奈「あぁ、ちなみに私たちも希望ヶ峰魔術学園の出身だよ!」

    霧切「私たちもあのカムクラ・イズルの事実にたどり着いたのだけど… 本来彼らに世界を壊す程の力なんて持ちあわせていなかった…」

    大神「まるではぐれた幼子のように…さ迷い…自我も無いのに恨みと悲しみ…… 無理矢理植え付けられた魔術だけが残っている…… そんな存在であったからな…」

    十神「俺達は当初可能であれば奴らとの和解が主な目的だったのだが…」


    戦刃「予想外な事に… そのカムクラ・イズルを纏めて… 統率している指揮官がいたの」

    小泉「それが…… あのカムクラ・イズル?」


    小泉「だけど…… あれはどう見ても"高校生"には見えないっていうか……」

    桑田「そりゃ… アイツの姿は俺達の世界から捨てられた"カムクラ・イズル"じゃねぇからな。」

    不ニ咲「カムクラ・イズルを率いていたのは… 全く別の世界からやって来た人だったんだよ…」

    舞園「異界からやって来た"それ"は本来魔術など持っているはずもなかったのですが……」
  250. 251 : : 2018/05/26(土) 20:51:47
    不二咲「この曖昧な空間が彼に魔力を発現させてしまったんだね……」

    不二咲「彼がやって来た世界に元々魔力はなかったけどここは魔力があるとも言えるし無いとも言える場所だから…」


    十神「ともかく、俺達はこの問題を解決するべく2つの世界を行き来しながらここへたどり着いたわけだが……」


    苗木「………………」


    朝日奈「その……負けちゃったんだよね…私たち………」



    江ノ島「そうそう! 苗木が絶望しちゃったせいでさ!」


  251. 252 : : 2018/05/28(月) 16:47:08

    桑田「苗木の"折れる筈のない剣"こそ俺たちの切り札だったんだけども……」

    小泉「折れる筈のない剣……?」


    山田「そこで話は苗木殿の固有スキルの話になるわけですが……」


    苗木「……ボクの魔術は…」


    江ノ島「心が折れない限り決して折れない希望の切っ先。」


    江ノ島「それがあの"折れた剣"ってワケ!!」


    苗木「世界の命運がかかってたのに…… ボクは……」


    苗木「一瞬…… ほんの一瞬…『もうダメかも』って考えが頭に浮かんだんだ………」

    苗木「そしたら…… ボクの剣はいとも容易く真ん中から折られた………」

    桑田「ったく… だからお前1人だけの責任じゃねぇってウン10年と言ってんだろ?」

    戦刃「それに………」


    戦刃「まだ、あの剣が消えずに残っている…… いや、カムクラに消されずに残ってるって事はさ……」


    戦刃「まだ…… まだ折れてないんだよ………」


    戦刃「苗木くんと…… 私たちの"希望"は……」
  252. 253 : : 2018/05/28(月) 22:50:05
    小泉「それが私たちがアイツに勝つために必要なもの…」

    苗木「あれを……まだ戦っている最原クンたちに手渡す事ができれば勝機はある。」


    不二咲「問題は………」


    セレス「どう、あの剣の位置を彼らに伝えるか…… ですね。」

  253. 254 : : 2018/06/09(土) 00:45:08


    ________

    _____

    ___




    最原「ハァ…… ハァ……!」


    夢野「一体……どこまで探せば見つかるんじゃ……」

    最原(考えてみれば…… こんな何の目印もない場所で一体どうやったら剣なんて………)




    日向「どうだ? 七海…… 何か………」



    七海「残念ながら全然…………」


    日向「あと…… 何分なんだ?」

    七海「だいたい…… 15分くらいかな……」




    残り15分でこの2つの宇宙のどちらかは確実に消滅する。


    否、遅かれ早かれ2つ消滅することは必定である。


    最原「どうしよう…… 彼女には今とても話を聞ける状況にないし………」

    夢野「確か…… "折れた剣の伝説"がどうとか言うとったが………」


    夢野「けど…… それが本当にあったことだとしても…帰ってきたのは1人だけじゃったらしいし……死んでしまってるんじゃ…………」


  254. 255 : : 2018/06/09(土) 01:09:52


    最原「"死んでしまってる"………」


    最原「それだ………!」


    夢野「んあ? どうしたんじゃ? 何か……」



    最原「いや…… でも………」


    夢野「どうしたんじゃ! 1人で納得しとらんでウチにも説明せい!」


    最原「出来る……! 死者と会話が出来る人だったら……! ボクたちの身近に!!」


    夢野「死者と会話……… んぁあ! そういう事か!!」

    最原「真宮寺クンなら……! 可能性はある!」



    日向「なんだ…… 何か思い付いたのか?」

  255. 256 : : 2018/06/09(土) 17:18:05



    最原「ボクたちの声を…… もといた世界に届ける事は出来る?」


    日向「多分…… 俺たち3人の魔力を合わせればそっちと通信するぐらいは出来ると思うけど…」

    七海「私たちが通信を中継すればいいんだよね… うん。それなら出来ると思うよ。」

    夢野「3人って…… ウチもやるんか?」

    最原「うん…… 向こうと通信出来れば…真宮寺クンの能力を活かせるかもしれない。」

    最原「彼の死者と会話出来る能力を使えばね…」


    日向「なるほど…… 確かにそれなら折れた剣の伝説の本人たちに直接剣の在処を聞けると…」


    最原「問題は… 彼の能力は過去100年以内に亡くなった人でないと会話が出来ないって事なんだけど……」


    最原「その折れた剣の伝説は僕たちの世界でいう100年前の話だったら………」

    七海「いけるかも知れない……」


    最原「えっ?」


    七海「時間の流れが一方通行に固定されてる普通の世界ならともかく……」

    七海「時間の流れが曖昧なここなら………!」

    日向「ともかく…… このまま何の手がかりも無しに走り回ってもしょうがない…」

    日向「やろう!! 俺たちが通信を中継してやる!!」
  256. 257 : : 2018/06/09(土) 18:43:34



    日向(魔術の痕跡を辿れば…… 恐らくあいつらが元いた世界とコンタクトが取れるはず……)


    日向(けど… 考えてみれば不思議なもんだな……)


    日向(世界を賭けて本気で殺し合った俺たちが…… 今はこうして2つの世界が生き残る為に奮闘している……)


    七海(……彼らも… 自分たちが帰る場所の為に全力で戦っただけだもん…)


    七海(あの人達もまた…… 勇者だったんだよ…)





    ________

    ______

    ____

    __



    「学園長! 通信です!! 彼らから通信が……!」


    仁「繋げてくれ!!」




    最原「その… 希望ヶ峰学園ですか…?」


    仁「………そうだ! 我々は…… 君たちの帰りを待っているぞ!!」


    最原「ありがとうございます…… 先生。」


    最原「早速なんですが…真宮寺クンに繋いでもらえませんか?」
  257. 258 : : 2018/06/09(土) 19:19:05




    真宮寺「え……? ボクに?」

    最原「真宮寺クン…… これは君にしか頼めない……」


    最原「魔力は僕達が中継するから…… 真宮寺クンにはこの空間にいる… 折れた剣の伝説を作り上げた本人達と話してほしい。」

    真宮寺「それは別に構わないけど…… 人数は?」

    最原「えっと…… たぶん… 10人以上は……」


    真宮寺「クッ……… クククク……!」


    真宮寺「これまでに無いほど大変な儀式になりそうだヨ……」


    真宮寺「けど協力するヨ…… 僕がこの世界を守るための助けになるなら光栄だヨ………」

  258. 259 : : 2018/06/09(土) 19:49:29




    日向「来たな……… 術式を中継してお前に位置を伝える……」


    日向「後は頼むぞ……!! えっと……」


    最原「分かった! 行ってくる!!」


    日向「あぁ…! そうだな…… 頼んだぞ……」



    日向(そう言えば…… まだ名前も聞いてなかった)








    苗木「そこから正面に1kmほど……」



    霧切「……若干逸れたわ…… 貴方から見てもっと右よ。」



    石丸「こちらからも君の姿が見えるぞ!」


    不二咲「残り500m!!」


    大和田「ヘバんなよ…! あと少しだからよ!!」


    朝日奈「あぁ! 今度は左に行き過ぎ! もう少し右!!」


    腐川「ちがうでしょ……! あいつから見たら左よ!」


    大神「…… もう目の前だ。 お前からも我らの光が見えるだろう…」


    十神「走れ。それがお前に課せられた義務だ。」


    戦刃「あと300m!」


    山田「あぁ……! 小泉殿の術式が破られかかってますぞ……」


    セレス「負け試合にベットは致しません…… 貴方も勝機を目の前に捉えているでしょう?」


    葉隠「いけーーーーッ!! もう100mもねぇぐらいだべぇーーーーッ!!」


    舞園「そのまま……! そのまままっすぐこっちですよ!!」


    桑田「走れーーーーッ!!! 滑り込んで来ーーーーい!!」




    江ノ島「あれ? ………ちょっとヤバいんじゃない?」


  259. 260 : : 2018/06/09(土) 19:56:08



    そこにかつての小泉の姿は無い。


    肉体までも魔術を行使する燃料とした彼女は文字通り燃え尽きた。




    神座「クッククククククククク……!!」



    神座「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」




    神座「虫め………!! 今度こそ滅び(終わり)の時だ!!」




    神座「今こそ完璧なる人類の世界を拓け!!」



    神座「開闢(ビックバン)!!」




    波及する魔力の波は2つの宇宙を飲み込んでいく。


  260. 261 : : 2018/06/09(土) 20:10:45


    暴走する魔力は2つの世界を破滅させ、無の更地を築き上げ……



    神座「………何!?」


    築き上げる事はなかった。


    2つの宇宙は健在している。



    最原「………もう、何も奪わせはしない………!」


    最原「過去も…… 未来も………」


    最原「僕が書き換えてみせる!!!!」



    神座「バカな…… 貴様らは完全に消滅させたはず………!!」


    最原「確かに…… 僕らは一度は完全に消滅した…… 焼き尽くされた……」


    神座「バカな………!」


    神座「書き換えたと言うのか………!」


    神座「能力ではなく…… 過去を……!」


    神座「"事実"その物を…………!!」


    かつて自らを封じたその剣のカタチとは違う物だった。



    その切っ先はまるで、ペンの先を模した形状をしていた。

  261. 262 : : 2018/06/09(土) 20:20:13



    苗木「……さて、ボク達の役目ももう終わりだね…」


    舞園「えぇ……」


    江ノ島「まぁ…… いいんじゃん? 剣に封じ込まれたままの生活とか絶望的にヒマだし………」


    霧切「予測不能の"希望"に興ざめしたかしら?」


    戦刃「たぶん…… そんな事はないと………」


    桑田「あーあ…… 燃え尽きんのか… 俺たち……」


    不二咲「けど…… そうでもしないと… 過去を改変するのに足りる魔力は生み出せない…」


    葉隠「大丈夫かぁ……? 本当にあいつを……」

    苗木「大丈夫だよ…… きっと。」



    苗木「彼ならきっと……」


    舞園「過去の英雄は…… ステージを降りる番ですかね………」



    苗木「これから先は… 彼らが紡ぐんだ。」









    「我が力、世界に託す。」



    「我らの力を以てして、新たなる希望を拓け」







    神座(忘れもしない…… その忌々しい宝剣の名を…………!!)






    「"闇拓く光の切ッ先"」

  262. 263 : : 2018/06/09(土) 21:01:39


    神座「その…………」



    神座「その切っ先を俺に向けるなァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」


    術式を展開する事も忘れ、神座は最原に殴りかかる。



    神座「グ……ッ!!」


    その進路を日向の拳が遮る。


    日向「俺たちも力を貸すぞ!」


    七海「残った魔力の全てを掛ける……」


    夢野「ウチらの魔力(希望)も…… 持ってゆけ!!」




    神座「クッ……ソがぁああああああああああああああああああああああああ!!!!!」



    神座の胴を裂くように斜めに一閃。



    神座「バカな……ッ!! クソッ!! 言うことを聞け………!! 畜生!!!!」


    七海「"カムクラ・イズル達"が……剥がれていく……」



    神座(剥がれていく……… 俺の従えたカムクラが………!! 天に還って逝く…………!!)




    神座から乖離したカムクラの魂は次々に還っていく。



    神座「おのれ……!! おのれェエエエ!!!!」



    神座「ぬぅァアアアアア!!!!」


    拳が最原の顔面に直撃するや否や………




    神座「クッ………!!」


    指の先からボロボロと自らが崩れていく。



    神座の魔力は加速度的に下がっていく。



    最原「終わりだ………」


    最原「都合の良すぎる真実だって………」


    最原「叶えてやる!!」




    神座「やめ……ろ………!!」



    神座「いやだ!! 死ぬなど……!! 消えるなどゴメンだ!!!!」



    神座「こんな場所に棄てられ…… 誰からも省みられず… 愛されず…… 求められず…………!!」






    神座「誰でもいいから俺が正しかったと言ってくれよぉおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」


    最原「言ったはずだ…………」



    最原「都合の良すぎる真実だって…… 叶えてやるって……」


    夢野「許すのか……? そやつを………」


    日向「正直…… 賛成する気にはなれないな……」


    七海「君は……」



    最原「ボクなら……書き換えられるんだ…」
  263. 264 : : 2018/06/09(土) 21:07:14



    「真実をねじ曲げ… 過去を書き換える。」



    「探偵としての"偽証"の極み。」



    「真実の探求者として愚行の極み。」


    「けれど…… 僕はこの道を選ぶ。」




    手にした短刀(切っ先)をかざす。







    「切っ先よ、過去を偽れ! 真実を欺け!!」



  264. 265 : : 2018/06/09(土) 21:17:49










    日向「マジか…… 本当に…」


    短刀から溢れる魔力の濁流は虚空に文字を記す。


    夢野「本当に…… 過去も事実も…… 全て塗り替えてしもうたのか……?」


    七海「これで…… 壊された世界も… 戦いで倒れた人たちも… 神座 出流(カムクラ・イズル)も…… 全て無かった事になる……」


    七海「けど…… その後は…… 私達の記憶にさえ残らない………」



    日向「ウソだろ…… 俺たちですら…… 覚えていられないのか?」



    夢野「……とんだ骨折り損ではないか………」


    最原「いや…… 世界を2つも救えたんだ………」



    最原「安い代償さ……」



    七海「そう言えば…… 私たちまだ名前も聞いてなかったっけ……」


    日向「まぁ…… そんな場合でもなかったしな……」



    七海「じゃあ…… 最後に自己紹介でもしておこうか…」


    夢野「ウチも…… すぐに忘れてしまうのにか……?」


    日向「いいんじゃないか…… 最後だからこそ……」



    最原「そう…… かもね…」




    「ボクの名前は……………」
  265. 266 : : 2018/06/09(土) 21:23:23




    _________

    ______

    ____

    __






    「………………………………………」



    「…………負けた。敗けた。完膚無きにまで。」




    「あの者共はとうとう私を殺す事もなく、ご都合主義とも取れる方法で世界を…… 私さえも救ってみせた。」



    「私もまた無害などこかの校長であったと改変されてしまうのだろう。」


    「誰も彼も、自らの手柄を誇る事もできず、恩も恐怖も忘れ能天気に生きていくのだろう。
    私もまた……」



    「腹立たしい…… 腹立たしい程に清々しい。」





    「だが…… このままでは癪であるな…」


    「私も…… 書き換えで貴様に抗おうではないか。」

  266. 267 : : 2018/06/09(土) 21:30:35


    ________

    _____

    ___

    __







    「ねぇ! マキねぇちゃん! また本読んでよ!」


    「ほら! "つるぎのでんせつ"だっけ?」


    春川「あぁ…… "短刀の伝説"のこと?」


    「ねぇ! "おれたけん"なんてほんとうにナイフになんのかな?」


    「おまえバカだな~ けん は おれたらつかえねぇんだぜ~」




    春川「さぁ、どうだろうね。」



    春川「けど…… 例え… 剣が折れても諦めないくらいの… 負けず嫌いだったのかもね。」



    「………? おねぇちゃんのいってるコト よくわかんない!」


    春川「もう…… いいからこれ読んだら早く寝なさいよ…」




    春川「"ナイフ(短 刀)の伝説"のはじまりはじまり。」










    End
  267. 268 : : 2018/06/09(土) 21:34:52



    完結が大変遅くなってしまい、本当に申し訳ありませんでした。

    祭の参加者たる自覚の不足、意識の欠如は他の参加者の皆様に対し、大変失礼な行動でありました。


    重ねてお詫び申し上げます。

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著者情報
jun

シャガルT督

@jun

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