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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品は執筆を終了しています。

「IQ120未満の方には死んでいただきます」

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  1. 1 : : 2016/07/09(土) 22:00:26

    みんなは「チムコ」って、知ってるかな?

    「チムコ」というのはね

    たとえば

    おしっこする所を

    さわると

    気持ちが良い、とか

    あるいは

    おしっこする所を

    こすりつけると

    気持ちが良い。

    といったことを

    「チムコ」というんだ。



    次から真面目に書きます。自分はカマボコチームの人間です。
  2. 2 : : 2016/07/09(土) 22:03:35


    問1. 海豚「この漢字の読み方を答えなさい」

    A,イルカ B,サンゴ C,エビ


    問2.「メロスの友の名前は?」

    A,エウメネス B,セリヌンティウス C,ヌケサク


    問3.11235□「□に入る数は?」

    A,6 B,7 C,8 D,9


    問4. 2 3 5 7 11 □ 17

    A,12 B,13 C,14 D,15


    問5, 次の英文と同じ意味の英文を選びなさい「Nice to meet you」

    A,「How do you do?」

    B,「How are you?」

    C,「How’s it going?」


    問6,次の文を英語にしなさい「今日はテストだ」

    A,「Today is a test」

    B,「There is a test todey」

    C,「We have a test todey」


    問7,視力検査は何を基準としているか答えよ

    A,角度 B,大きさ C,距離


    問8,去年、B市N町で起きた殺人事件。犯人はどのような薬物を凶器に用いた?

    A,メチルアルコール B,塩酸 C,硫酸


    問9, 米の輸出量が1番多い国は?(2015年)

    A,中国 B,日本 C,ベトナム D,タイ


    問10, 去年、K高校の教師が生徒とラブホテル付近で歩いているのが目撃された。さて、悪いのはどちら?

    A,生徒 B,教師



    問題は以上です。あなたのIQは……









    気の抜けた音楽が流れたかと思うと、ドクロのマークと、濁った赤色にポップ調の字体で、『あなたのIQは100です。残念!』と画面に映し出された。


    桑田「はぁ!?」


    俺はその画面を見つめ、大声で悪態をつく。夜だが交通量が多い道路の側であったため、声は隣を駆けていった車に掻き消された。


    桑田「……やってらんねー」


    不意に馬鹿馬鹿しくなり、歩道の上にあった石を車道へ蹴飛ばす。石は激しく宙を回転した後、アスファルトに転がっていった。


    その石を行き交う車が踏みつけるのを尻目に、俺は止めた歩みを再開し、蟠りを浮かべる。



    桑田(なんだったんだ、今の……)



    先ほど、警報音のようなけたたましい音が携帯から鳴り響いた。慌てて取り出し、電源を付けると、勝手に『IQテスト』が始まった。


    どうやらそれは俺だけでなかったらしく、見渡すと、通行人のほとんどが自分の携帯とにらめっこをしていた。


    ウイルスか何かかと戸惑っていた俺も、『IQテスト』が制限時間を告げた時は、自分でも驚いたが無意識のうちに回答していた。


    何せ、制限時間がとても短い。一問につき10秒あるかないかだ。止めるかどうかを考える間も無く、俺は一心不乱に問題を解き進めた。


    終わってみると結構できた自信はあったのだが、残念ながらこの結果である。


    いや、実を言うとIQ100がどのくらいなのかもわからない。残念ではないのかもしれないが、少なくともこの『IQテスト』は残念そうだった。




    桑田(明日あいつらにも聞いてみるかな)




    今年で付き合いが三年目になる希望ヶ峰学園の連中。なんだかんだいって頼れる奴らだ。


    そう考えていると蟠りも薄れていき、『IQテスト』のことなど記憶の隅に寄せられ、俺の心は既に今日のオリックス戦を楽しみにしていた。


    オリックスの球場飯が美味いことを思い出し、それが俺の空腹に拍車をかける。足早に家へと向かった。



  3. 3 : : 2016/07/09(土) 22:22:12




    ーー

    ーーーー

    ツギノヒ

    ーーーーーー

    ーーーー





    教室に入るなり、クラスメイトが発する騒音が耳に鳴り響く。一瞬、不快感に顔を歪めた。



    山田「おっ! 桑田殿ではありませんか!!」


    桑田「何だよ、うるせーな」


    俺の方に振り向いて話かけてくる山田に対し、ぶっきらぼうに返すと、俺の態度をセレスが咎める。



    セレス「あら、不機嫌の極みですわね」


    朝日奈「何かあったの?」


    桑田「……昨日の変な『IQテスト』の所為でよぉ〜、臨時ニュースとかが始まってさ、ロッテ戦が観れなかったんだよ」



    俺が独り言のようにブツブツ呟くと、山田が跳ね上がる。



    山田「今、まさにその話をしていたんですぞ!!」


    桑田「!? へ、へ〜」


    俺としては結果も良くなさそうだったし、別に興味もなかった為、適当に相槌を打った。


    すると、セレスはクスリと笑みを浮かべ、俺の顔を覗き込みながら話し出す。



    セレス「その反応……さては、全くニュースを見てませんね?」


    桑田「お、おう。不貞寝しちまってよ……」


    朝日奈「えー!? ニュースは見ておいた方がいいよ! 昨日の『IQテスト』が凄いことになってるんだから!」


    桑田「凄い、こと……?」



    何故だか胸がざわつく。血流が激しく巡り、心臓の鼓動が痛いほどに早くなった。


    皆にばれないよう苦しさに喘いでいると、すぐ側に腰掛けていた十神が英語の活字で埋め尽くされた新聞を閉じ、俺たちの方を向く。



    十神「フン、南北アメリカやヨーロッパ周辺、アジア全域、エジプト……これらの国で一斉に『IQテスト』が始まったそうだ」


    桑田「そ、そんな広範囲……ってか、世界中で!?」


    十神「ああ、それに犯行グループの正体も目的も一切わかってないらしい。物騒だな」


    朝日奈「物騒って……そんな言葉じゃ片付けられないよ!」


    桑田(そりゃそうだ)



  4. 4 : : 2016/07/09(土) 22:23:04


    桑田「でも、そうなると疑問だよな。あんな大掛かりなことをしたのに、何の進展もないなんて……」


    十神「所詮、狂人の考えてることはわからんさ。ただ、人外な技術力があるのは確かか……下手をすればペンタゴンより上だろうな」



    ペンタゴンと言えば、アメリカ国防総省のことだ。それ以上の技術力……俺はゴクリと生唾を飲む。


    唾が食道を通過していくのを感じていると、クラスメイトが続々と集合してくる。



    腐川「もうお終いよ。きっと宇宙人の仕業だわ……!」


    葉隠「なんでそうなるんだべ。俺はオカルトは信じねーんだ!」


    不二咲「でも、あながち間違ってないのかも……僕でもあんな大掛かりなハッキングは出来ないし」


    石丸「不二咲さんでもか……しかし、複数人で行ったらどうだろう? 手分けしてやれば、不可能ではないのではないか?」


    不二咲「あっ、確かに! それなら出来るかも!」


    十神「……だとしたら、余程の組織力だな。そんなに大きな組織なら、一層、何の手がかりがない理由が説明できなくなる」



    皆がノンストップ議論を繰り返している場に黙り込んでいる俺がいるのは妙に気まずく、右手で頭を掻いた。


    よく、こんなに能天気に話せるものだ。


    ため息をつき視線を変えると、苗木が不安そうに掛け時計を見つめているのが目に写る。



    桑田「どうしたんだ?」



    俺が近寄ると、少し身体を跳ねさせ、苗木はこちらを向いた。



    苗木「い、いや……霧切さんがまだ来てないなって思ってさ。ほら、いつもは遅刻しない方が珍しい霧切さんだけど、昨日の今日だし」


    江ノ島「それに……僕は霧切さんが大好きで、いつもあのスカートの中に進みたいと思ってるんだ!」


    苗木「江ノ島さん! 勝手に吹き替えしないでよ!」


    江ノ島「テヘペロォ……」



    必死に抗議する苗木に対し、江ノ島は舌をだし、全く悪びれていない様子だ。そんな2人を見て、俺は横槍を入れた。



    桑田「はぁ〜、お前ら本当に仲いいな」


    苗木「マジで止めて」



    すると苗木に物凄い形相で迫られ、気持ちが後ずさりし、無言で頷く。


    その時だった。


    携帯から、再び爆音が鳴り響いたのは。



    桑田「何だっこれッ……!?」



    ポケットの中の携帯が、激しくバイブする。脚が強く揺さぶられた。あちらこちらから発せられる様々な振動が教室中を包み込むと、次は悲鳴も聞こえてきた。


    携帯を握ると、あまりの振動に手が震える。いや、震える理由はそれだけではない。


    慎重に取り出して、電源を付ける……




  5. 5 : : 2016/07/09(土) 22:25:04




    ーー

    ーーーーー


    ーーーー





    ???「イエー! 世界中のみんな見てる?」


    モノクマ「僕はモノクマ! この事件の黒幕だよ!」


    モノクマ「……僕はね、知ってるんだ。この世が上手く回っていないのは全部頭が悪い奴の所為だって!」


    モノクマ「エボラ流行のきっかけも、日本の政治が上手くいかないのも、N高校のポスターに僕が出演してるのも、全部、頭が悪い奴の所為なんだよ!だから」










    モノクマ「『IQテスト』の結果が『120未満』だった人間は全員死んでいただきます!」








    モノクマ「……とまあ、いきなり殺害予告したわけだけど、だから直ぐに殺すってのもエンターテイナーじゃないじゃない?」


    モノクマ「数日間の猶予をあげましょう! 精々、後悔と自責に灼かれてください! バイバイ!」





    ーーーー

    ーーーーーー


    ーーー


  6. 6 : : 2016/07/09(土) 22:25:44




    そこで映像は途切れた。さっきまで白黒の熊が映り込んでいた画面は、今はただただ黒いだけである。


    黒い画面に反射した俺の顔は、困惑と焦燥の混ざり合ったような表情をしていた。



    葉隠「なんだべ……!?」


    朝日奈「『IQ120未満』って嘘……!? 私、100くらいしかなかったよ!?」



    途端、クラスメイトが騒ぎ立てる。俺も混ざりたかったが、声が上ずり、上手く出せないでいた。




    苗木「み、みんな! 落ち着いて!」


    大和田「落ち着けるか!! オレァIQ60しか無かったんだぞ!!」


    腐川「低すぎでしょ……!?」



    どうやら教室は、IQが120未満と以上の者とで二分化しているらしい。俺も、未満グループのように喚いたり騒いだりしたい気分だったが、妙な違和感がそれを止めさせた。



    桑田「いや……」


    十神「まあ、わかってることは1つだけあるな」



    瞬時、皆が十神の方を向く。俺も自分の発言を取りやめた。



    十神「む? そんなに知りたいのか?」


    朝日奈「当たり前だよ! 何かわかったんなら教えて!」


    十神「犯人のIQが120未満ってことだ」



    平然と話す十神に、誰もがクエスチョンマークを頭の上に浮かべる。ただ、俺は十神の言いたいことがなんとなく予測できた気がした。


    俺は黙って耳を傾ける。



    大神「何故、そんなことがわかるのだ?」


    十神「単純だ。『IQ』で頭が悪いかを測れるわけがない。なのにそれを行うとは馬鹿としか言いようがないからな」


    十神「そもそも東大生の平均IQが120だ。つまり、IQなど頭の賢さにはほとんど依存しない」


    十神「それにこんな大雑把な設問でIQが測れるわけないだろうが。本気でそう思ってるならIQ120未満確定だな」


    山田「ああ、よくアプリのIQテストの結果を晒して自慢している人がいますが、あれは痴態も晒していたのですね!」


    セレス「誰が上手いことを言えと」


  7. 7 : : 2016/07/09(土) 22:33:53



    概ね、十神の意見には同意だった。だから、俺も喋ることを許された気になり、声の出し方を思い出した。思い切って出してみる。



    桑田「……俺たち、どうなるんだ?」



    やっと出た俺の声は、想像していたような力強いものでなく、か細く、消え入るように教室に染み込んでいった。



    朝日奈「く、桑田も120無かったの……?」


    桑田「あ、ああ、こんなことなら真面目にやっときゃよかった……」



    本当は全力だったが、こっぱずかしいものがあったのでそれは隠した。


    わざとらしいため息をついて肩を落とした瞬間、


    教室のドアから目にもとまらぬ速さで何者かが駆け込んできた。数歩で俺たちの元に近寄り、とある人物の胸元を握りしめる。


    叫び声や、抵抗、何らかのアクションを起こすことさえ不可能なスピードだった。ただただ、目の前で起こる現象を見つめることしか出来ない。



    ……霧切が、江ノ島を机に押し付けている。







    背中に両腕を拘束し、全体重を乗せて江ノ島の動きを封じている。微動だにさせないその様は、まさに超高校級の探偵だ。


    しばらく沈黙が空間を支配した後、最初に口を開いたのはやはり江ノ島だった。



    江ノ島「……何これ? 熱烈なアプローチはありがたいけど、せめて人気のないところでしてくれない」


    霧切「戯言。少し危機感を持って頂戴」



    江ノ島のふざけたセリフを、いとも容易く切り捨てる。そして、声の重みをさらに増して霧切は続けた。



    霧切「……率直に言うわ、『IQテスト』の黒幕、それはあなたね?」


    江ノ島「……へぇ、なかなか早いじゃん」



    ニヒルな笑みを浮かべる江ノ島。クラスメイトのほとんどが、この事態を受け入れられないでいた。


    あの狂気染みた事件をクラスメイトがやったという事実は、まるで頭をハンマーで殴打されたような衝撃だった。



  8. 8 : : 2016/07/09(土) 22:34:47


    朝日奈「う、嘘でしょ……?」


    霧切「残念ながら嘘じゃないわ。都内のとある建物から、例の『IQテスト』を行うための高度な機材……高度というより、最早SFの世界のような機材ね。それが検出された。そこにいた人物を問い詰めると、全員が『江ノ島盾子』という名前を出したわ」


    霧切「他にも様々な場所が抑えられて、今もあなたの手下は捕らえられているの。あなたの負けよ、江ノ島盾子」



    冷静な口調で、霧切は捲したてる。が、汗ひとつかかない江ノ島は至って余裕があるようだった。むしろ、追い詰められているのは霧切の方な、そんな気さえした。


    しかし、沈黙の中に、外部からサイレンの音が紛れ込む。どうやら外には警察が駆けつけてきているらしい。江ノ島は逃げることすら不可能なようだ。






    彼女らのやり取りに、口を挟む人間はいなかった。誰もがこの異様な雰囲気にのまれ、この光景が現実だと認識できなかったのだ。


    数秒経過すると、おもむろに江ノ島が話し出す。いつも通り、日常から抜け出していない口調で。



    江ノ島「……でも本当は、“まだ”でしょ?」


    霧切「ッ!?」



    やはり、そうだった。霧切のポーカーフェスタは江ノ島の言葉で崩れ、顔には焦燥が漂い出す。


    霧切とは対照的に、江ノ島の額には一切の歪みがなかった。



    江ノ島「だって、『数日以内に殺す方法』は見つけてないもんね? ううん、見つけられるはずないよ。あれはトップシークレットだもん」


    霧切「黙りなさい……! あなたを拷問でも何でもして、絶対に見つけ出すわ!」


    江ノ島「拷問するなら相手を選びなよ。そんなツマンナイ方法でアタシが口を割ると思う?」



    拷問において最も効果的なのは、睡眠を与えないことだと聞いたことがある。想像しただけで悍ましい内容だが、今の江ノ島にはそんな人間の苦悩など捩じ伏せそうな凄みがあった。



    江ノ島「それに……『真の黒幕』はアタシじゃないしね。アタシはそいつの計画に乗っただけ」


  9. 9 : : 2016/07/09(土) 22:35:42


    桑田「ッ!?」



    サードインパクト。江ノ島の言葉に、誰もが耳を疑う。こんな短い時間に話が二転三転もする出来事、これまでも、そしてこれからも一生体験することは無いだろう。



    霧切「なっ……!? で、デタラメよ!」


    江ノ島「いや、本当だよ。ていうか……うん、これならオモシロイや。良し、そうしよう」



    江ノ島は、拘束されている人間とは思えないように、屈託のない笑顔を見せる。白い歯が溢れていた。



    江ノ島「アタシとオマエラでゲームをやろう! 命賭けの!ルールは簡単、オマエラは3日以内に『真の黒幕』を見つけ出せば勝ち! 出せなかったら負け!」


    江ノ島「負けたら『IQ120未満』の世界中の人間が死にます! どう? 燃えるでしょ!」



    江ノ島の声が教室に響き渡る。呆然とするしか無かった俺を差し置き、苗木が声を荒げる。



    苗木「ふざけるな! 一体、何の理由で人間の命を奪えるんだッ!?」


    江ノ島「さあ? アタシはオモシロソウだったから乗っかっただけだし、明確な意思はないよ。そこら辺は黒幕に聞いてね」


    苗木「いい加減ッ」


    苗木の激昂を遮り、江ノ島は続ける。


    江ノ島「はいはーい、じゃあ、嬉し恥ずかし質問タイムでーす。皆さんが気になってること、疑問に思ってること、全部答えてあげちゃいまーす」


    特有なリズムと抑揚をつけ、煽るように質問を促す。素直に手を挙げたのは、セレスだった。


    セレス「では、ひとついいですか。何故、3日という期間なのでしょうか?」


    江ノ島「え? 元々、3日で殺害って計画だったからだよ。それ以上でもそれ以下でもないね」


    セレス「そうですか。ありがとうございました」



    セレスがあっさり引き下がると、今度は葉隠と十神が前に出る。



    葉隠「黒幕ってもよぉ、何人いんだべ?」


    江ノ島「私を黒幕じゃないとするなら、1人かな」



    葉隠の問いが終わると、十神が口を開いた。



    十神「このゲーム、圧倒的にお前が有利だ。人物特定など、3日やそこらで出来るようなものではないぞ」


    江ノ島「あー、まあそっか……じゃあ、こうしよう。1日ごとに私がヒントを出すから。それでチャラってことで」


    大和田「ヒントだとォ!? 大したことなかったらぶっ飛ばすぞ!!」


    江ノ島「安心してよ。アタシはゲームには拘るからさ。フェアになるよう心がける」






    江ノ島「じゃ、最初のヒントね。『ヒント①:このクラスの中に真の黒幕がいます』」





  10. 10 : : 2016/07/09(土) 23:07:37





    ーーー

    ーーーー


    テストカラ イチニチメ ゴゴノブ

    ーーーーー
    ーーーー




    絶句。


    それ以上に今の状況をひとつ残さず、そして短絡的に表現できる言葉は無かった。



    石丸「う……嘘をつくなッ!」



    石丸が叫び声を上げるが、江ノ島は我関せずといった風に黙秘を決め込んでいる。


    もうこれ以上、今日はヒントを出す気がないのだろう。なんとも適当なディーラーだ。


    俺たちは重苦しい空気に耐え切れず、戸惑いを表したり、発言をしたりした。



    十神「この中に『真の黒幕』がいる……か」


    大和田「馬鹿しい! 信じるなよ! そいつの言葉を!!」


    大和田がみんなに言い聞かせるように、辺りに向かって怒鳴りつける。それに対応したのは霧切だった。



    霧切「いえ……信憑性は高いのよ。残念ながらね。クラスメイトなら、江ノ島さんと個人で接触しても不自然じゃないから、絞り込めない。外の人物であった方がまだ特定し易かったかもしれないわね」


    不二咲「で、でも、そもそも『ヒント』ってのが嘘って可能性はないのかな?」


    霧切「もちろんその可能性も大きいわ。だから、私は江ノ島から3日以内に秘密を聞き出せるように何でもやってみる。あなた達は……『真の黒幕』を探して頂戴」



    なるほど、分業というわけか。超高校級の探偵
    である霧切の力を借りれないのは厳しい気もするが、確かに江ノ島の『ヒント』が真実だという根拠はどこにもない。


    『江ノ島の発言の真偽』と『真の黒幕を暴くこと』は同時並行で進めていくしかないのだろう。


    俺は息をゆっくりと吸い込み、汗ばむ手を開閉しながら、空気を吐き捨てた。


  11. 11 : : 2016/07/09(土) 23:08:10



    ーーー

    ーーーー

    ーーー





    霧切が江ノ島を警察の群れまで連行していくのを、窓から眺める。多くの報道陣が来ているのか、夕陽の淡い赤色を掻き消す、凄まじいフラッシュは教室にまで届いた。


    朝日奈は悪態をつきながら、カーテンを閉める。



    蛍光灯から放たれる朧げな光は、この教室を閑散と照らしていた。


    皆が俯いて、黙り込んでいる。何を言うのが正解なのか、何を信じていいかがわからなかった。


    しかし、こんな時だからこそ、率先してアクションを起こさなくてはならない。非常時には、出来る限りの精一杯をすべきだ。


    俺が発言しようとする合図の、その最初の文字の子音を、十神が覆い被せた。



    十神「……さて、先ずは俺たちで分かれてみるか」


    桑田「わ、分かれるって……何をだよ?」


    十神「何を? そんなもの、『IQが120以上か未満か』のどちらかに決まっているだろう」


    十神「情報量が少ない今、やれることはやらなくてはならない」


    桑田「……」



    『真の黒幕』に最も近いのは誰か。俺は十神が怪しいと睨んでいた。


    すました態度で、いつも上に立とうとしている。自分以外の人間など、ティッシュ半枚くらいの価値しかないと考えていそうだと思っていた。


    ……だが、たった今、十神の言った「全力を尽くす」という言葉は俺の考えていたことと酷似していて、その思考の共通点が、疑心暗鬼の中では何よりも嬉しかった。



    俺は、十神の提案に頷く。それに数人も続いた。残りの人間はどっちつかずだが、異議が挙がらないことから、おそらく賛同に傾いている。



    十神「良し、では『以上』が前の方、『以下』が後ろの方だ」



    十神の号令により、俺たちはぞろぞろと別れ出す。足並みから、俺と大和田、朝日奈が『以下』の方へ行かんとすることがわかる。


    俺は自分の学の無さを再び露見することに対し、恥ずかしさに顔を赤らめる……何てことはなく、ただただ皆の表情を凝視していた。


    『真の黒幕』がこの中にいるのなら、そいつの小さな変化を見逃してはいけない。俺は食い入るように教室を眺めた。


    しかし、表情に特に気掛かりになることはなく、その代わり、教室には不可解な状況が発生していた。



  12. 12 : : 2016/07/09(土) 23:34:23



    苗木「えっ……十神クン!?」



    反対側の方から苗木が驚嘆の声を挙げる。十神は、いや、正確にはセレスと腐川も含め、彼らはその場から移動していなかった。



    十神「何を驚いている? 少し考えればわかるだろう。俺たちは参加してないんだよ。このくだらん『IQテスト』にな」



    脳に何かが突き刺さるように思考が晴れる。そういえばそうだ。あんな唐突な方法なら、参加していない場合だって考えられる。


    例えば風呂に入っていた、他にもたまたま携帯の電池が切れていた、など、何通りも参加が不可能な状況が容易に想像出来た。



    十神「フン、犯人のIQが低いと言った俺の自論に、さらなる証拠が加わってしまったな」



    十神が腕を組み、不敵に微笑む。



    大和田「ケッ! 本当はただ結果が悪かったのを隠してぇだけなんじゃねぇの!」



    大和田が俺の背後から悪態をつく。それを腐川が噛み捨てた。



    腐川「アンタねぇ……こんな時に、見栄なんてはるわけないでしょ……!」



    全く持ってその通りだ。嘘をついて得をすることなどない。もし腐川たちが『以下』の人間で、命がかかっているとなると尚更だ。


    反論を終えると、腐川は『以上』のグループに目をギョロリと動かし、視線だけを向けて、語り始める。



    腐川「……ってわけで、アンタもさっさと戻りなさいよ」



    腐川の言った人物に注目が集まる。ウニ頭のそいつは、惚けた顔をしていた。



    葉隠「はぁ!? 俺!?」


    大和田「ったりめぁだ!! てめぇが『以上』なワケがねぇだろ!!!」



    全く持ってその通りだ。葉隠が屑なのは知っていたが、まさかここまでとは。



    葉隠「いやちげえって!! マジで!! ぴったし『120』だったんだって!!!」


    腐川「な、何ですって……!?」


    朝日奈「それより、葉隠が以上がその数字を含むって知ってることの方が驚きだよ!」




    辛辣な驚嘆が教室を包み込む。言われてみれば、選択制だから適当にやってても正解する確率はあるが……俺はこの時、生きて帰れたら、絶対に勉強をしようと心に決めた。



  13. 13 : : 2016/07/09(土) 23:39:50



    十神「まあ、あれだけ大雑把なんだ。こんなイレギュラーなこともあるだろう……問題は、『真の黒幕』の意図だ」


    苗木「そうだよね。どうして『IQテスト』を行ったりしたんだろう」


    大和田「馬鹿ってやつが嫌いなんだろ! クマみてぇなのも言ってたじゃねぇか!」


    山田「ふむ、それはあまりにも短絡すぎはしませんかな?」


    舞園「ですが、いい線はいってると思います」


    山田「……と、言いますと?」


    舞園「さっきの会話にもありましたけど、こんなもので学力は測れません。ですから、何かの問題のみを基準として、それが解けるかどうかで殺す人間を判断しているのではないでしょうか」


    腐川「何か特定の問題……? 犯人はある分野のオタクとでもいいたいの?」


    桑田「……あ」




    俺はハッと思い出す。1つだけ、明らかに問題として不適切な問題があった。



    桑田「……『問10, 去年、K高校の教師が生徒とラブホテル付近で歩いているのが目撃された。さて、悪いのはどちら?……A,生徒 B,教師 』」


    桑田「……これじゃないか? これだけ、明らかに他の問題と異質だ」



    俺が言い終えると、クラスは再び静寂に支配された。何かを考えているのか、この問題に困惑しているのかはわからないが、おそらく両者なのではないかと思う。


    俺は昨日初めてこの問題と直面した時、心臓が跳ね上がり、激しく脈打つような気を覚えた。


    今の今までこの問題の話題が出てこなかったのも、無意識のうちに皆が避けていたからなのかもしれない。













    K高校とは、私立希望ヶ峰学園のことである。








  14. 14 : : 2016/07/10(日) 00:26:17






    ーーーー

    ーーーーーー

    ーーーーー



    去年の冬のことだった。


    俺が二年生の時、学校が冬休みに入ったため、俺は自宅で寛ぐために帰宅した。



    夜間だというのに、やけに煩いサイレンの音が外から聞こえてきたのをよく覚えている。


    窓を開けて様子を確かめると、数台のパトカーが男を囲んでいた。






    紅い光を一身に浴びながら警察に連行されていたその男は、担任の『西園寺先生』だった。





    何時もは凛々しい顔つきも、その時は悲壮感で満たされていた。酷い顔つきだった。


    後で聞いた話だが、ラブホテルで予備学科の生徒と一緒にいたところを通報されたらしい。俺の家の少し離れにはラブホテルがあった。


    さらにその後、西園寺は嫌がる女子生徒を何度も唆して性行を強要したと報道されていた。


    だが、俺たちは西園寺を信じていた。あの先生がそんなことするわけない、と。西園寺が証拠不十分で釈放され、学校を辞め、連絡が取れなくなった後も信じ続けた。


    西園寺が捕まったラブホテルに詳しい捜査が入ると、様々な違法行為が発見された。そのことにより、マスコミの標的が西園寺からラブホテルに移ったことで、西園寺の存在は次第に世間から忘れさられていった。






    そして、俺たちに春が訪れた時だった。西園寺が、転勤先の地で強姦を犯して捕まったのは。




    ーーー

    ーー

    ーーーーー




  15. 15 : : 2016/07/10(日) 00:33:45




    けたましいアラームの音で、乾燥したまぶたを動かし、上体をベットから起こす。


    ぼんやりしてしていると、どうやら大分寝過ごしていたらしく、携帯には待ち合わせに対しての催促のメールが大量に表示されていた。


    しばらく静止した後、ちらりと窓の方に視線を向けてみる。


    外を覗けるはずのそこには、分厚い鉄板が重苦しく存在していた。



    桑田「……夢じゃないのか」







    ーー
    ーーー

    テストカラ フツカメ

    ーーーーー
    ーーーーーー




    昨日、俺が言った『問10』のことに関して、十神は『あれは終わったことだ。むしろ、俺たちの気を逸らすフェイクだろう』と答えた。


    一晩寝て、その意見には納得できた。


    俺の意見が却下された後、もう夜も遅いからということで、一旦寝ることになったのだが……その頃には、外は暴動のようなものが起こっていた。


    怒声が飛び交い、過激な単語が書かれたプラカードを掲げる者もいた。自分たちの命がかかっているとはいえ、『皆殺し』という言葉を上げるのはどうかと思う。朝日奈や不二咲は泣いていた。


    希望ヶ峰学園はこの荒れが収まるまで、俺たちをここに『閉じ込める』形で、守るという方針を示した。俺の部屋についていた鉄板は、その一環である。



    桑田(……つっても、若干、息苦しいけどな)



    俺は待ち合わせ場所の食堂へ向かいながら、そんなことを考えていた。



  16. 16 : : 2016/07/10(日) 00:39:25





    食堂に入ると、心に重苦しくのしかかるような空気を感じ取る。皆、かなり精神的にきているのだろう。疲弊した顔つきに、生気を発していない者もいた。



    桑田「おいおい、どうしたんだよ。まだ、これからじゃねーか! 話合えば絶対解決できるって!」


    十神「……やれることはやったさ。貴様が来る前にな」


    桑田「……あ?」


    十神「問題を再び解くことで、何か共通点を見出せないかと考えた。そこでいざ俺たちで集計してみると、1問正解するごとにIQが20ずつ上昇していく仕組みだということがわかった」


    十神「だが……ただし、それは、『問10』で『B(教師)』を選んだ者だけらしい」


    桑田「ッ!!」



    やっぱり鍵は『問10』だった。俺の方が正しかった、と、十神に勝ち誇りたい気持ちもあったが、そんな俗的なことは後回しだ。


    最大の発見に、血流が唸るように脳を駆け巡る……ちょっと待てよ。解決の糸口になりそうな情報を見つけたのに、何故、皆はこんなに落ち込んでいるのだろうか。


    俺は黙って、十神の言葉を待つ。




    十神「……そんな期待を含んだ眼差しを向けても無駄だ。やれることはやったと言っただろう。警察に確認を取った」


    十神「『西園寺』はもう死んでいる。先月、獄中で舌を噛み切ったらしい」




    足場が、パズルのピースのようにバラバラに崩壊していく。実を言うと、俺は心の底で『西園寺先生』を尊敬していたのだ。


    結婚して家庭を築き、子供はいなかったそうだが、奥さんと幸せな生活を送っている。生徒に親身になって接してくれる。時には罵声を上げることもあったが、俺たちのことを思ってやってくれていたことだと、今でも思う。いい記憶を挙げればキリがない。


    だから彼がラブホテルで捕まったというのも、生徒に自らの性病を移させたというのも、俺には信じられなかった。その後、強姦で捕まったことも、何かの間違いじゃないかと、自分の耳を疑い続けた。……その先生が、死んだ。


    惚けて佇んでいると、大和田が割り込んでくる。




    大和田「やっぱりよぉ……『西園寺先生』に恨みがある奴が『真の黒幕』なんだよ!IQテストがそれを物語ってんじゃねぇか!!」


    大和田「『問10, 去年、K高校の教師が生徒とラブホテル付近で歩いているのが目撃された。さて、悪いのはどちら? A 生徒、B 教師』ってよぉ!?」


    大和田「『B』を選ばなきゃ全員、120を超えないように出来てんだ! つまり先生は悪くないって答えた奴が全員死ぬってことだろうが!!」


    不二咲「……で、でも、先生は……!」


    大和田「あぁ!? 何、泣いてんだよ!? 泣けば解決すんのかよ!?」


    不二咲「ッ……うぐッ……!」


    石丸「大和田君! 少し冷静になりたまえ!! もめても何も解決しないぞ!!」


    朝日奈「……でも、私たちこのままじゃ死んじゃうかもしれないんだよ!?」


    朝日奈「そりゃみんなはいいかもしれないけど、私たちは死んじゃうかもしれないんだよ!!」



    もう最悪だった。険悪な雰囲気は、さらにドス黒い怒気を孕んで一層、その深みを増していく。


    皆の精神が臨界点の限界を超えないよう、十神がなんとか取り繕う。


  17. 17 : : 2016/07/10(日) 00:39:52


    十神「……そろそろ、霧切が連絡をしてくるはずだ。江ノ島からのヒントを伝える連絡をな」



    その言葉で、若干、心が軽くなる。場の雰囲気が和らいだ気がしたのも、あながち間違いではないのだろう。


    今か今かと連絡を待ち構えていると、十神の電話がバイブの音を立てて震えた。十神は俺たちを見回すと、ゆっくりとそのスマホを握る。


    十神は通話をスピーカーに設定し、俺たちにもヒントを同時に共有できるようにした。


    まず、聞こえたのはノイズ。雑音が混ざりながらも、耳をすませば、次第に霧切の声が聞こえてきた。




    『……皆、聞いてるかしら? じゃあ、今日のヒントを江ノ島の言葉そのままに言うわね』














    『ヒント②:オマエラに与えたヒントに1つ嘘を混ぜました』





  18. 18 : : 2016/07/10(日) 02:01:14






    ーーー

    ーーーーーー






    どれほどの間、場を沈黙が支配したのだろうか。いや、実際には1分にも満たないはずである。はずであるのだが、俺には、永遠のように感じられた。


    次に起こるアクションに、恐怖のようなものを感じていたのだ。悪寒が背筋を駆けていく。


    その恐怖の正体はーーーーーーー






    大和田「……許さねぇ」






    『パニック』だ。


    自らの呟きと共に、大和田は机を蹴り上げた。破壊音が食堂に響き渡る。


    江ノ島に好き勝手に弄ばれた悔しさ、閉鎖空間におけるストレス、一切謎が解けてない振り出しに戻った恐怖、それらが蠢き、皆の中の心を決壊させた。


    十神の携帯から何かが聞こえてきたが、耳を傾ける人間は誰もいなかった。いや、憤りで何も入ってこなかったというべきか。


    大和田の暴走に感染したかのように、ヒステリックな悲鳴が聞こえてきたかと思えば、何かが飛んでしまったのか、ケラケラと笑い声も聞こえてくる。


    正気を保っている人間はもういないように思えた。俺がこうやってあれこれ思考を展開させているのも、今の現状を受け入れたくないからである。


    朝日奈や不二咲の悲痛な叫びと苗木の笑い声が重なり、まるで死の交響曲のようだった。それを支える低音は大和田の破壊音。そしてこの曲が成り立っているのは、呪詛のような個人の独り言もあるだろう。


    焦燥、憤怒、自責、それらの感情が深淵で混ざり合い、弾けては消え、行き詰まった現状が再び負の感情を呼び起こす。




    指揮を止めたのは、十神だった。




    十神「……これで、大方絞れたじゃないか。江ノ島も馬鹿だな。俺たちの中に真の黒幕がいないとすれば、西園寺に恨みを持つ人物はだいたい予想がつく」



    その言葉で、俺は現実に一気に引っ張れる感覚を持った。そうだ。江ノ島に弄ばれたっていい。要は最後に真の黒幕を見つけられればいいのだ。



    桑田「……十神の言う通りだ。俺たちの中じゃないとしたら、西園寺先生と揉めた予備学科の生徒とか、そいつの関係者が怪しいぜ」



    叫んでいた連中は少し気分が落ち着いたのか、今は咽び泣いている。苗木は糸が切れたように椅子に腰掛けると、虚空を見つめて微動だにしなくなった。


    ……気持ちは痛いほどわかる。一度は仲間を疑い、恐れてしまったのだ。江ノ島の所為だとはいえ、その罪悪感は計り知れない。



    十神「さあ、忙しくなるぞ。まず、例の女子高生の人間関係や最近の言動を洗いざらい探る。そして不本意だが時間もないわけだし、マスコミにも協力してもらおう」



    十神が仕切ることにより、先ほどよりもほんの少し空気が澄んだ気がする。本当に、十神には頭が上がらない。お前は確かに超高校級の完璧だよ。


    俺はクラスメイトに背を向けると、食堂から出るために一歩を踏み出した。



    十神「おい、どこに行く?」


    桑田「便所だよ。安心しろって」



    十神の方を向かずに、手を軽く振り、余裕があることを示す。理由は特にない。強いて言うなら、少し1人になりたかったのだ。


    そう、決してこれからの作業が面倒くさそうだったからトンズラしようとか、そんなことは考えていないのだ。



  19. 19 : : 2016/07/10(日) 02:02:54






    ーーー


    ーーーーー

    ーー






    公衆トイレに入ると、鏡の前に立ち、自分の酷い面を拝んだ。やつれていて、血が通っていないかのように青白かった。


    手をかざして水を掬い、隙間から溢れ落ちる前に顔にかける。ひんやりとした肌を刺すような感触が、全体に広がっていく。


    顔から滴る水を手の甲で軽く吹くと、もう一踏ん張りと、両の頬を力強く叩いた。


    あと少しだ。死の緊迫感が足りないのかはわからないが、今はそれほど恐ろしくはない。


    いや、きっと仲間を疑わずに済むという事実が心を軽くしたからだろう。正直なことを話すと昨日は半信半疑で、ロクに人を疑えていなかった。


    そう考えると、逆に身内を疑わずに済む今の状況の方がありがたいーーーーーーー





















    ーーーーーーーーー違和感。


    違和感、違和感、違和感。違和感。




    桑田「……ッ!!?」




    唐突な違和感は膨れ上がり、俺の頭の中の可能性を潰していく。そして、ある一点に絞っていった。


    気づきと違和感は、確信に変わる。



    桑田「あはは……あれだな。俺なんかに気づかれちまうより、まだ、他の奴に気づかれた方が良かったかもな……」



    俺は涙を堪えながら、食堂へと戻った。今回の鍵を握るのは、やはり『あいつ』だろう。『あいつ』を説得できるかに、全てがかかっている。




  20. 20 : : 2016/07/10(日) 02:05:52



    ーー

    ーー

    ーーーーー



    食堂に戻るなり、すれ違いで十神がそこから出ようとしているのを見かけた。


    俺は先ほどのやり取りを彷彿とさせながら、十神に問いかける。



    桑田「おいおい、どこ行くんだよ? 外は暴動で危ないんじゃなかったのか?」


    十神「少し江ノ島のところに行って来るだけだ。外で財閥の者を待機させてあるし、心配には及ばん……まあ、念には念を、だ」


    桑田「そうか……わかった。気をつけてな」


    十神「ああ、言われなくてもそうするさ」



    十神はそう言い残し、玄関ホールの方へと足を進めていった。まあ、アイツのやりたいことはよくわかる。


    霧切から『ヒント②:嘘を混ぜた』を貰ったはいいが、これが霧切の嘘だと話にならない。逆にこれを霧切の嘘だと仮定するなら、江ノ島の『ヒント①:俺たちの中に黒幕がいる』の辻褄が合ってしまう。


    よって、十神は『霧切から送られたヒント②』の真偽を直接確かめようとしたのだ。それが偽物なら霧切が黒幕になるが……流石にそんな一発でバレるような真似は俺でもしない。十神もあくまで確認程度に向かうのだろう。


    しかし、だからこその盲点という可能性もある。そういった不穏分子は潰しておけるときに潰しておくべきだ。


    俺は十神の健闘を祈りながら、食堂に入った。


    そして入るなり、『ある人物』の名前を呼び、2人っきりで話すことを提案した。公共の場で今から2人っきりになることを打ち明けることで、危害を加える気が無いことを証明したかったのだ。


    快く、とまではいかなかったが、なんとか承諾してもらい、俺たちは2人っきりで誰もいない教室へと移動するのだった。






    ーー




    ーーー






    ーーーーーーー


    ーーーー




    ミッカメ アサ



    ーーー







    ーー


    ーーーー

    ーー




  21. 21 : : 2016/07/10(日) 02:53:37




    今日はきちんと時間通りに起きることができた俺は、食堂で、湯気が立ち上るコーヒーをゆっくりと啜っていた。


    身体が暖かさに包まれていくのを感じながらも、内なる不安は重く俺にのしかかっている。



    朝日奈「桑田……おはよう」


    桑田「おう、おはよう」



    食堂に入ってきた朝日奈と軽い挨拶を交わすと、彼女は俺の隣に腰掛けた。


    元気がないように思えるが、最早それも慣れてしまっていた。気まずい沈黙が俺たちの間に流れる。先に口を開いた朝日奈が、そのぎこちなさを壊した。



    朝日奈「……で、どうだった? 昨日、不二咲ちゃんと何か話したんでしょ?」


    桑田「あ〜……おう……」




    その一言で、昨日のことが思い出される。あまり掘り起こしたくない記憶。




    ーーー

    ーー



    閑散とした教室で、俺は不二咲をじっと見つめる。不二咲の顔には影がかかっており、薄暗い教室ではそれがやけに儚く見えた。


    そして、俺は意を決して話し始める。


    自分の考えを言葉にするのは苦手なのだが、不思議とこの時はスラスラと言葉を紡ぐことができた。


    数分にも満たない時間で説明が終了すると、不二咲は目に小粒の涙を浮かべた。俺も、視界が薄い膜でも貼ったかのようにぼやけてきた。


    しかし俺たちに感傷に浸る時間などない。不二咲は震える声で、上ずるながら喋る。



    不二咲「……確かに桑田クンの考えは的を得てると思う」


    不二咲「けど、確証がない」


    桑田「そう、そうなんだ。だからその『確証』をお前に調べて欲しいんだ……!」


    不二咲「……本当にごめんなさい。それは無理かな」


    桑田「ど、どうしてだよ?」


    不二咲「ボクはもう、人を疑いたくない……中立でいたいんだ。このままみんなを見守りたい。きっと、黒幕には黒幕なりの理由がある。だから……全てを、運命に任せたいんだ……」


    不二咲「きっと運命なら、正しい方を救ってくれるはずだから……だから、最期まで中立でいたい」


    桑田「不二咲……」


    不二咲「自分勝手だって、悪いことだって思うけど……こればっかりは、わかって欲しい……」




    ーーー


    ーーーーーー



  22. 22 : : 2016/07/10(日) 02:54:34




    桑田「……ほとんど失敗だよ」


    朝日奈「えぇ!? 何やってんの!? こんな時に!!」


    桑田「だってしょうがねぇだろ……それにまだ、終わったわけじゃねえ」




    そう、終わったわけじゃないんだ。確証がなくたって、あの考えは筋が通っている。……けど、万が一でも、確証のない推理に人の命を賭ける勇気を俺は持っていなかった。




    十神「……よし、揃ってるな」




    昨日ぶりに俺たちの前に顔を出すなり、頭数を把握し出す十神を尻目に、俺たちはそいつの隣の少女を凝視していた。



    大神「帰ってきたのか……ご苦労だったな。霧切」


    霧切「ええ……ただいま」



    穏やかに微笑む少女に、朝日奈が勢いよく抱きつく。その反動を受けた、彼女が座っていた椅子は激しく床に打ち付けられた。



    朝日奈「えぇーん!! 心細かったよ!!」


    霧切「ごめんなさい……私も、できる限り早く戻りたかったけど……」


    山田「も、戻ってこれなかったってことは……」


    霧切「ええ、結局、江ノ島から情報は吐かせられなかったわ……私の実力不足ね」


    朝日奈「そんなの霧切ちゃんの所為じゃないよ! 大丈夫!」


    霧切「……ありがとう。じゃあ最後に……みんなでもう一度考えましょう。今日のヒントはもうすぐ発表されるから」


    セレス「もうすぐ……ですか?」


    十神「ああ、最後は自分で言いたいと江ノ島がごねてな。それに最終決戦のこともあるし、既にある程度解放してある」


    腐川「ある程度って……どのくらいなんですか?」


    十神「希望ヶ峰学園の地下に裁判場のような場所があるだろう。あそこに閉じ込めている。そこに無線を設置し、通信可能にしたというわけだ」




    十神が言い終わるのと同時に、黒に染まっていたモニターが煌めき出す。




    江ノ島『あー、あー、聞こえてますかぁ? じゃあお待ちかねのラストヒントねー』



    人をおちょくる口調で、奴は語った。神経が逆撫でされるような、腹立たしい感覚。





    桑田「……」





    一瞬の静寂が場を包む。




    不二咲「……」


    不二咲(桑田クン……)




  23. 23 : : 2016/07/10(日) 02:55:16




    ーーーー

    ーー



    不二咲「わかって欲しいんだ……」


    桑田「……」



    ボクが言い終わり、桑田クンは少し黙ったかと思うと、一気に力強く胸ぐらを掴んできた。



    不二咲「なっ、何するの!?」


    桑田「中立……!? 運命……!? 寝呆けるのもいい加減にしろッ!どっちが正しいか正しくないかを、他人に決めさせるなッ!! お前が決めろッ!!」


    桑田「テメェの価値観をテメェで決めなくてどうするんだッ!!」


    不二咲「……そりゃ、僕だって、黒幕がやってることは間違ってると思ってる……けど、桑田クンの考えだけじゃ疑うには弱いんだ……」


    不二咲「僕は、もう、仲間を疑って、無実だって知りたくない……一度は疑った仲間と、この先本気で笑いあえるの!?」


    桑田「……じゃあ、勝負は明日の朝だ」


    不二咲「え?」










    桑田「もし今ここで、俺が明日のヒントの内容を当てることができたら、俺の意見の正当性が増すはずだ。そしたらお前も疑える」


    桑田「だから、当てる……明日のヒントは……!」



    ーーー

    ーーーーー




    不二咲(昨日、君は今日のヒントの内容を予言した……それがドンピシャだったら、きっと自分の考えは正しいだろうって……)


    不二咲(確かに、そうなってくるとそれはもう一種の確証だ……疑うには十分過ぎる……けど、外したら……)


    不二咲(きっと……もう無理だ。時間的な意味でも、精神的な意味でも……)




    江ノ島『さっそく発表するね。ヒント③は……』




















    桑田・江ノ島「『ヒントは全て正しい」』








  24. 24 : : 2016/07/10(日) 02:58:34








    しばらくの沈黙の後、大和田が声を荒げる。



    大和田「ひ、ヒントが全て正しいだぁ!? どういうことだそりゃ!?」


    十神「わからん……ヒント②と明らかに矛盾しているが……」


    十神「とにかく、昨日の時点では六人くらいに絞れていたんだ。西園寺と揉めた女子高生、その友達、そして家族……とりあえず、もう一度話し合う必要があるな」


    十神「いざとなったら江ノ島に交渉して、黒幕指定とチャンスを増やしてもらえばいい」




    周りが騒ぎ立てている中で、俺と不二咲だけがお互いを見つめて静止していた。



    不二咲「く、桑田クン……!?」


    桑田「ああ、ダッシュで行ってこい」



    俺が目配せすると、不二咲は表情を引き締め、無言で駆け出す。おそらく、こうなることは覚悟していたんだろう。……自分で裁きに加わる覚悟を。



    葉隠「あれ? 不二咲っち?」


    桑田「トイレだ」


    葉隠「トイレか……」



    アホが納得している横で、俺はあることに気づいた。



    桑田「……ま、まだモニターの電源が付いてるぞッ!?」



    驚きのあまりに叫んでしまうと、皆が瞬間的にモニターの方に釘付けになる。再び緊張と警戒が空間に漂いだした。





    江ノ島『ーーーーああ、そうそう。待つのは嫌いだからさ、今から黒幕当てゲームを行おっか。至急、赤い扉の前に集合な』



    桑田「ッ!?」




    想定外。確かに今日、江ノ島の表現を借りるなら、『黒幕当てゲーム』をやるという話はもちろん把握していたが、ラストヒントを出されてからゲーム開始までの間隔がここまで短いとは……果たして不二咲は間に合うのだろうか?


    嫌な汗を額に浮かべ、俺はゆっくりと目を瞑る。平常心を取り戻すためだ。そして、俺たちの作戦を黒幕に見透かされないために、口と目を開いていった。



    桑田「欠員、もしくは途中参加は認められるのか?」


    江ノ島『えー? うん、別にいいけど』


    桑田「そうか」


    桑田(良し、これで不二咲の欠員が合法的になった。後はさりげなく不二咲抜きで裁判場に向かうよう誘導するだけ)


    桑田「じゃあ、不二咲はとりあえず置いてくか。しっかし、トイレに行くんなら、大か小くらい聞いときゃよかったな」


    朝日奈「桑田!? 女の子になんてことを聞こうとしてんのよ!!」


    桑田「冗談だって。さあ、行こうぜ」


    桑田(これで不二咲の話題を出しにくくなったはず。さてーーーーーー腹をくくるか)



    俺は率先して前に出る。俺が道を作るのだ。絶対に勝たなきゃいけない時こそ、俺は責任を負いたい性格だった。




  25. 25 : : 2016/07/10(日) 03:00:46









    ーーー

    ーー



    サイシュウ ケッセン



    ーーー

    ーーー

    ーー





    『男子三日会わざれば刮目して見よ』という諺があるが、俺はどう見えているのだろうか。


    ……奴の目から。







    江ノ島「……ッ!」





    地下特有の淀んだ空気を吸い、俺たちは足を並べる。席に鎖で拘束されながらも目をギラつかせる江ノ島に、俺は視線を鋭く飛ばした。




    桑田「……刮目できてるか?」


    江ノ島「うぷぷッ……相手にとって不足無しってところかなぁっ!?」




    江ノ島は鎖を激しく揺らしながら不気味に笑う。金属が擦れ合う音が、やけにスプラッターだった。




    江ノ島「じゃあ、ルールの再確認といこっか。私のヒントを頼りにお前たちは真の黒幕を当てなきゃいけない。人物指名のチャンスはもちろん1回こっきりね!……うぷぷ〜 悔しそうな顔して、どうしたの十神君〜!」


    江ノ島「まあいいや。で、うん、そんなところかな。じゃあ早く推理、やっちゃってくれない?」




    江ノ島の呼びかけに当然、誰も応えない。お互いに顔を見合わせたが、不安を共有しただけだった。



    江ノ島「ちょっと〜! 早く推理してくれないと、やっちゃうよ? 殺っちゃうよ?」



    薄ら笑いを浮かべながら話す江ノ島に対し、俺は友の顔を見ることを止める。今度はただ、ジッと奴の目を睨みつけた。



    桑田(『腹をくくる』とか言っておきながら、チャンスが1回ってのを聴いて縮こまってちゃ話になんねえんだよッ!)


    桑田(いい加減、目を覚ませ俺ッ!! いつだって活路は死の淵と隣り合わせだったろッ!!)





    桑田「……誰もいないんなら、俺が行くぞ」




    無言の戦慄が場に走る。それを最初に打ち破ったのは、朝日奈だった。



    朝日奈「桑田……こういう時、なんて言えばいいかわかんないんだけど……頑張れ!」



    その言葉に俺の心臓を強く押される。血流が、闘争心をかきたてた。瞬きほどの次の瞬間、俺は口を開いていた。




    桑田「推理を始めようか」




    ークライマックス推理ー




    桑田「まず、江ノ島が出したヒントをおさらいしよう」


    桑田「1日目が『ヒント①:このクラスの中に真の黒幕がいます』」


    桑田「二日目が『ヒント②:オマエラに与えたヒントに1つ嘘を混ぜました』」


    桑田「そして最後に三日目が『ヒント③:ヒントは全て正しい』……ってわけだけど、明らかに②と③で矛盾している」


    江ノ島「うぷぷ……そうだよねぇ、で、どうするの?」


    桑田「どうもこうも……その矛盾こそが『答え合せ』だったんだろ、江ノ島」


    江ノ島「『答え合せ』か……面白いねぇ、うん、続けてよ」


    桑田「……まず俺は、二日目の時点で、ヒント②に違和感を抱えていた。これのせいで俺たちの中でヒント①が否定されたわけだが」


    桑田「ヒントは、お前がフェアにするといって出したんだ。そんなヒントに、嘘を混ぜるとは考えにくい。やっぱりそこが違和感で、その違和感が推理の糸口だった」

















    桑田「ヒントは2種類あったッ!!」





  26. 26 : : 2016/07/10(日) 03:07:46


    桑田「お前がフェアにすると言って出したヒントの『表ヒント』ッ! そして、ゲームを複雑化するための『裏ヒント』の2種類ッ!!」


    江ノ島「うぷぷ……その根拠は?」


    桑田「それを今から説明してやる」


    桑田「まず、ヒント②の『オマエラに与えたヒントに1つ嘘を混ぜました』という言い回しも、違和感という材料があれば怪しく見える」


    桑田「ヒント②が出た時点では本来、ヒントはヒント①しかないわけだから、それを嘘だと言いたいのなら、『お前らに与えたヒントに1つ嘘を混ぜた』という言い方をせずに、『ヒントに1つ嘘を混ぜた』と言えば事足りるはずだ」


    桑田「他にも『ヒント①に嘘を混ぜた』と、対象そのものを言い表せばそれで済む」


    桑田「じゃあ、なぜそれをしなかったか? 理由はひとつだけだ」






    桑田「嘘を混ぜたのはヒント①じゃなくて、ヒント②以前の『裏ヒント』のどれかだからだろッ!!」


    桑田「だから『お前らに与えたヒントに1つ嘘を混ぜた』という言い方をしたんだッ!『複数あるヒントの中のどれかに嘘を混ぜた』というニュアンスを含ませるためにッ!」


    桑田「つまり、『裏ヒントの方に嘘を混ぜた』というのがヒント②の本当のヒント……ってわけだ」



    江ノ島は黙って微笑み、周りは騒ついている。
    俺は、さらに続けた。



    桑田「これを裏付けるのがヒント③だ。『ヒントは全て正しい』……さっきも言ったようにヒントは2種類ある。それを踏まえることで、このヒント③の見方は全く変わってくる」


    桑田「このヒント③の対象は表ヒントのみ、だろ? それでヒント②とヒント③の矛盾が解消される」


    桑田「嘘が混ぜられてるのが裏ヒントで、全て正しいのが表ヒントだ」







    江ノ島「うぷぷ! 面白い推理だけど、その裏ヒントはどこにあるのさ? それを見つけてなかったら話になんないよ!」


    桑田「惚けんな。こっちはもう分かってんだからよ。お前言ってたじゃねぇか……」




    ーーーー

    ーー


    ーーーーーーーー



    江ノ島「はいはーい、じゃあ、嬉し恥ずかし質問タイムでーす。皆さんが気になってること、疑問に思ってること、全部答えてあげちゃいまーす」


    特有なリズムと抑揚をつけ、煽るように質問を促す。素直に手を挙げたのは、セレスだった。


    セレス「では、ひとついいですか。何故、3日という期間なのでしょうか?」


    江ノ島「え? 元々、3日で殺害って計画だったからだよ。それ以上でもそれ以下でもないね」


    セレス「そうですか。ありがとうございました」



    セレスがあっさり引き下がると、今度は葉隠と十神が前に出る。



    葉隠「黒幕ってもよぉ、何人いんだべ?」


    江ノ島「私を黒幕じゃないとするなら、1人かな」





    ーーー




    ーーーーーー









    桑田「この質問タイムのお前の回答こそがッ! 裏ヒントなんだッ!!」





  27. 27 : : 2016/07/10(日) 03:09:00




    桑田「問題解決のための示唆が本来の意味の『ヒント』なのだから、これも充分にヒントだと言えるだろ。ヒントを表ヒントだけだと錯覚させる。それがお前のトラップッ……!」



    大和田「と、いうことは……黒幕は1人じゃないってことか!?!???」


    桑田「い、いや……まだ確証が持ててない」


    山田「ふざけんな!(声だけ迫真) そんなんじゃ推理になんないよ!!」


    桑田「うるせえ豚ァッ!! だから今、不二咲に調べてもらってんだよ!」


    大神「なんと…… 不二咲の欠席にはそういう旨があったわけだな」


    桑田「というわけでしばらく待って……」





    突如、天井付近のモニターが雑音を発しだし、色を付けていく。そして、雑音が人の声に変わっていくのがわかった。






    ???『……く、桑田クン……』




    桑田「不二咲ッ!? ……け、結果はどうだった!?」

















    不二咲『ごめん……捕まっちゃった……』


    桑田「ッ!?」






    モニターに移された不二咲は酷く怯えている。武装した何人かの人間に囲まれ、その中の1人に銃口を突きつけられていた。






    江ノ島「ハッキングをしようと外にアクセスした瞬間を狙い打って、逆にこっちが希望ヶ峰学園のシステムをハッキング……玄関ゲートの解放ってわけ。不二咲を使って情報収集くらい読めてるって」


    桑田「……!」


    江ノ島「黙ってないで続けてよ。早くしないと、外の暴動を起こしてる連中がここに来ちゃうよ?」


    桑田「……え、江ノ島……!」



    縋るような声を上げる俺に、彼女は口角をめいいっぱい引きつらせ、その綺麗な歯を剥き出しにする。目には生気が宿っていない。


    その不気味な笑顔に、心まで削られそうだ。


    そしてそっと一言、






    江ノ島「壊れたぁ?」







    ーーーーーーーーーーッ。


    飲み込まれそうだ。既に、心を、膝まずかされそうなほどに、打開策のない、閉鎖空間のような状況。


    息が止まる。道が消える。光が閉ざされる。


    何もかも闇に消え、





    残ったのは俺だけになった。





    闇に飲まれて初めて気づいた。それは、俺という人間は限りなく薄いということ。


    自分の才能を信じたことなど一度もない。信じていたのは周りの評価。


    周りが「凄い」と言ったから、凄いと思った。


    周りが「出来る」と言ったから、出来ると思った。


    今回、不二咲に相談を持ちかけたのも、「正しい」と言って欲しかったからなのかもしれない。

















    ただ俺は、最終回3点ビハインド、ツーアウト満塁で打席が回ってくるのが好きなんだ。


    この好きって気持ちは俺自身だろ?


    だったら、俺のすべきことはひとつだ。










    桑田「……自分を、信じることにしたよ。バットはちゃんと振るッ……!」







    江ノ島「……へ〜、アタシの嫌いな顔になったじゃん」





  28. 28 : : 2016/07/10(日) 03:11:56







    ーRe クライマックス推理ー



    桑田「さっき言ったように、ヒント②は裏ヒントの中に嘘があることへの暗示だ」


    桑田「だからまずは指定しよう。嘘が混ぜられてるのは『黒幕が1人』という発言」

















    桑田「じゃなくて、『もともと3日で殺害という計画だった』の方ッ……!」


    桑田「そう考えなきゃ話が通らない。このゲームは瞬時に考えられたにしては、計画的すぎるんだよ。『もともと3日で殺害という計画だった』は嘘で、本来の姿は『もともとゲームを行う計画だった』ッ……!」



    十神「じゃあ、黒幕は……その質問をしたセレスか……!?」







    セレス「……」






    桑田「いや違う。アレはたまたま、もしくはギャンブラーの勘ってやつだろ。他の人物が代わりを務められる行為は全部無視だ」


    桑田「真に見るべきは、『代用が効かない行動』のみッ! このゲームが計画的である以上、ある人物の行動は必ず組み込まなければならないようなッ! そんな行動ッ! そしてそれがラストヒントッ!」




















    桑田「真の黒幕は霧切響子。お前だ」


    桑田「あそこで突入して、ゲームに俺たちを巻き込めたのはお前だけ。代用できる人物はいない。それこそが、お前が計画に参加していた証拠ッ……!」





    さざめきが大きくなる中、彼女は物静かな海底にいるようにゆっくりと、口を開いた。




    霧切「ちょっと……証拠にしては弱くないかしら?」




    桑田「ああ、だから不二咲に確証を調べてもらおうとしたんだけどな……根拠は、俺を信じることで生まれた」




    ーーー

    ーー


    ーーーーーー




    十神「良し、では『以上』が前の方、『以下』が後ろの方だ」



    十神の号令により、俺たちはぞろぞろと別れ出す。足並みから、俺と大和田、朝日奈が『以下』の方へ行かんとすることがわかる。


    俺は自分の学の無さを再び露見することに対し、恥ずかしさに顔を赤らめる……何てことはなく、ただただ皆の表情を凝視していた。


    『真の黒幕』がこの中にいるのなら、そいつの小さな変化を見逃してはいけない。俺は食い入るように教室を眺めた。


    しかし、表情に特に気掛かりになることはなく、その代わり、教室には不可解な状況が発生していた。




    ーーー

    ーー


    ーーーーーー






    桑田「表情を読む自信はあったんだ。人の顔色を伺うことに長けていた俺なら、よっぽどポーカーフェイスの上手い奴じゃない限り、ぎこちなさを見抜けるはずなんだ」


    桑田「でもあの時、ぎこちない奴はいなかったッ! そして……お前もいなかったんだッ! それが根拠だよ霧切響子ッ……!」



    霧切「じゃあ……百歩譲って私が黒幕だとして、動機は何? それが1番大切でしょ?」



    桑田「……やっぱ似てるな」


















    桑田「『西園寺 仁』は、お前の父親だろ? なんてことないさ。動機はただの復讐だから」












    霧切「……正解、じゃあ、答え合せね」












  29. 29 : : 2016/07/10(日) 03:14:20









    ーーーーー


    ーーー


    ーーーーーーーー






    霧切「まず、桑田クンの推理が正しいってことは伝えておくわ。私と江ノ島は共にこの計画を練り、黒幕側のアクシデントのフリをして予定通りに黒幕当てゲームを実行したの」


    霧切「そして、『西園寺 仁』が私の父親ってのも正解よ。養子に入って苗字は変えたみたいだけど、父親を探してこの学園にきた私には直ぐわかったわ」


    霧切「……以上。何か質問はあるかしら?」



    淡々と話す霧切に、俺たちは言葉を奪われる。彼女が冷静なのはいつものことだが、今回は冷静というより冷血という感じがした。




    苗木「なんで、こんなことを……!?」


    霧切「さっき桑田クンが言ってたじゃない。復讐よ。私はなんだかんだで父親を尊敬していたの……いえ、正確には、この学園に来て尊敬するようになった、かしら」


    大和田「じゃあよぉ、なんで問10で『生徒が悪い』を選んだ方を殺すような問題を作ったんだッ!! テメェも父親が悪いって心の中じゃわかってたんじゃねぇのか!!?」


    霧切「……少しその汚い口を閉じてなさい」











    霧切「私が1番許せなかったのはッ!! あなたたちのような上辺を飾る偽善者たちッ!! 先生を信頼している……? 先生がそんなことするわけないって信じてる……?そんな、人を傷つける勇気のない臆病な偽善にッ!! 私はいつも虫酸が走ってたッ!!」


    葉隠「つまり、どういうことだ……!?」


    霧切「彼は……本当に手を出してなかったのよ。予備学科の連中に、『友達がラブホに連れ込まれそうになっている。助けて』ってメールを受け取り、自宅を飛び出して向かったところを写真に撮られただけ……要するに、嵌められたの」


    霧切「最初は、仁先生がそんなことするわけないって声も大きかった。けど、仁先生と生徒が同じ性病を持ってると分かっただけで、みんなは手のひらを返した。フフッ……笑っちゃうわよね。彼が性病を持っていたのは遺伝なのに」


    大和田「じゃ、じゃあよ、生徒に移しちまったんじゃねぇの?」


    霧切「……彼の性病、『HIV』が普通の性行で移る確率はどのくらいだと思う? 実は、1%もないのよ。少なくとも数回の性行じゃ移らないわ」


    十神「……西園寺が無実だという証拠は?」


    霧切「……女子生徒に直接聞いたわ。どうも、本校舎の先生という肩書きを持ってるだけで、予備学科には癪だったらしいわね」


    霧切「……」


    霧切「……そして、彼は社会の理不尽さに飲まれ、本当の犯罪者になり、命を落とした。彼の妻も、彼を追って死んだ。私がこんなことをしてるのも、彼女の奥様に遺頼まれたからなの」


    霧切「『もし西園寺 仁を、心から信じている者がいるなら、どうか社会に報復して欲しい。間違っているとわかっているが、最初に間違ったのは向こうなのだから』……と、遺書には書かれていたわ」


    霧切「西園寺 仁は悪くない。彼は立派な教師だった。私から離れたのも、父親が性病を持っていることが周りにばれれば、私に被害が及ぶから」


    霧切「なのに、みんなが彼を蔑んだ……!! 声を上げる人は性犯罪者と嘲笑い、声を上げない人は心の中の下賤な目で見下したッ!!」


    朝日奈「マスコミとかには言わなかったの……!?」


    霧切「言ったわ。けど、どこも取り上げなかった。話題として面白くないし、あれだけ非難して冤罪でしたじゃ、また叩かれちゃうものね」


    霧切「結局、彼が釈放されても私と彼の奥さん以外、誰も信じなかった……だから、滅ぼすことにしたの。IQ120以下なんて嘘よ。対象は愚かな人間全体」


    腐川「そ、そんなこと……!!」


    江ノ島「できる」


    江ノ島「できちゃうわけよ! 私様の技術力を駆使すれば、アメリカの軍事衛生を数分間も止めれちゃうわけ! 技術力は全人類のスマホをハッキングしたことで証明した! 後は止める時間帯をロシアとか中東の国に売って、アメリカは総攻撃を喰らう!」


    江ノ島「……と見せかけて、止める時間は数秒にするの。そうすればアメリカは総攻撃を阻止できる。けどね、ハッピーエンドとはいかないの。始まるんだよ、第三次世界大戦が」


    江ノ島「……って予定だったんだけどね〜。霧切が負けちゃったし、計画は打ち止めだよ。ルール破ったらただの殺戮になっちゃうかんね」


    霧切「……まあ、私は負けたの。けど、私が負けていいの? 理不尽を恨んだ私が負けることが正しいの!?」












  30. 30 : : 2016/07/10(日) 03:15:19






    桑田「いや、1番の被害者はどう考えても、ノイローゼになった西園寺に犯された人だろ」










    霧切「フン、その人だって……理不尽な社会の1人だったかもしれないじゃない」


    桑田「当然の報復ってわけか? ……理不尽すぎるだろ」


    桑田「復讐を悪だとは言わない。でも殺すなら、予備学科の生徒とかマスコミ、ギリギリで俺たちまでにしとけよ。お前が理不尽の体現者になってどうすんだ?」


    霧切「……あ、あなたに何がわかるのよッ!! 私は理不尽な社会に父親を奪われたッ!! だったら、その社会に報復するのは当然でしょ!?」


    桑田「いや、そもそも、お前の親父が応援を呼んでラブホに行けばこんなことにならなかったんじゃないの? 大方、1人で助けてカッコつけようとしたんだろうけどさ。普通、警察とか学校に報告するよな?」


    霧切「そ、それは……切羽詰まってたから適切な判断ができなかっただけよ!!」


    霧切「なんなのあなたッ!? 西園寺先生を尊敬しているとか言ってたのに、そうやってすぐに手のひら返してッ!?」














    桑田「それでも信じてるって言ってんだよ!!!!」


    桑田「俺はッ!!! 先生を信じたかったッ!!! みんなだって信じたかったんだッ!!!」


    桑田「お前だけが理不尽な社会に生きてると思うなよ!! 俺たちだってそこに生きてるんだぜ!?」


    桑田「他人なんか気遣う余裕なんてないッ!! 葬式の3日後にはみんな笑ってるッ!」


    桑田「だから、お前が誰より先生を信じてたなら、お前が俺たちを救ってくれよッ!! すぐに手のひら返してやるから!! いつだって返してやるッ!! ……もっと早く返したかったよコンチクショーめッ!!!!」







    俺が叫んでいるのを、霧切は黙って見ていた。彼女が少し俯くと、静寂が場を支配する。


    どれほどの時間が経っただろう。彼女は、顔を上げ、微笑んだ。






    霧切「ーーーーーーーーーーありがとう」






    銃声と共に、頭部から出た血飛沫が彼女を包み込む。そして、何かが切れたように倒れこんだ。


    悲鳴と嗚咽が交差する中、彼女の顔が濡れているのは、血だけじゃないことに気づいた。


    俺は、今度は黙って泣いた。






    ーーーーーー


    ーーー


    ーーーーーーーー


    ーーーーーー



    ーーーー


    ーー


    ーーーーーーーーー







    あれから数ヶ月が経った。江ノ島は今もどこかに投獄されているらしい。


    あの事件が起こした副産物といえば、国内の自殺の件数が減ったこと。


    そして、他殺の件数が増えたこと。


    被害者が、理不尽を殺し始めたのだ。自分が、理不尽側になれることに気づいたのだ。


    歯止めは効かない。気づいてしまったのだから、これからも増えていくだろう。




    俺は日課のランニングを終えると、荒い呼吸を整え、ポケットの内にある自宅の鍵を取り出す。


    そこで、違和感を覚えた。玄関の鍵が開いているのだ。


    恐る恐る慎重に開けていくと、玄関に血が撒き散らされ、その奥に、倒れている人影を見つけた。


    それは、俺の両親だった。







    霧切、教えてくれよ。



    これがお前の絶望(希望)なのか?








  31. 31 : : 2016/07/10(日) 03:18:09
    終わりっ! 閉廷!!

    テーマは絶望希望だったんですけど、ヒントが希望で状況が絶望って感じで現しました。勘の良い人は西園寺先生の正体気づけたかもですね!(オリキャラ含むをしてないから)

    視聴ありがとうございました!!
  32. 32 : : 2016/07/10(日) 11:56:26
    お疲れ様でした!
    とても面白かったです。
    次作も期待してます!
  33. 33 : : 2016/07/10(日) 12:07:43
    >>32
    初投稿なんでそう言ってもらえると嬉しいです!! ありがとうございます!!
  34. 34 : : 2016/07/17(日) 20:49:26
    面白かった。
    乙。
    あと名前、BNKRG姉貴www
  35. 35 : : 2016/07/17(日) 21:07:59
    >>34
    ありがとうございます!
    ISISにBNKRG名義で殴り込みに行くのは人間を疑いました。人は悲しいなぁ…
  36. 36 : : 2016/07/17(日) 21:41:22
    >>35

    本当にたまげたぁ。
  37. 39 : : 2017/03/20(月) 11:29:55
    すごいですね!桑田くんって頭良いのかな?
  38. 40 : : 2017/04/07(金) 20:46:59
    >>39
    証拠隠滅とかしてたし、そこそこ賢いと思います!
  39. 41 : : 2017/08/06(日) 00:29:59
    桑田のかっこよさにゾックゾクしてました、て事は最後のヒントの時点で桑田はどこまで気づいてたんですかね?

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ZUNnoORIKYARA

紅くらげがコーラン燃やしながら猫食べた

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