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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品は執筆を終了しています。

エレン「お前らに心臓を捧げる!!」

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  1. 1 : : 2015/08/02(日) 13:22:31
    初投稿です!

    ネタバレ注意。
    キャラ破壊してるかも…
    原作と違う箇所が多々あります。


    アドバイスや感想なんか貰えたら嬉しいです!
  2. 2 : : 2015/08/02(日) 13:40:32
    「まだお前らと出会って数年なのに、いつの間にか家族より大切な存在になっちまったよ」



    恥ずかし気も無くこんな事を言うのは、馬鹿でお調子者のコニーだった。



    コニーは馬鹿だけど、純粋な心の持ち主でもあると思う。


    だからこんな恥ずかしいセリフもサラッと言えてしまうのだろう。




    「馬鹿のクセに良い事言うじゃねぇか!
    ま、私はクリスタが1番大切な存在だけどな!」



    「ちょっとユミル!!」



    2人は相変わらず仲が良い。



    目付きも口も悪いユミルはよくコニーと口喧嘩をしたりサシャに水汲みをさせたりする奴だが、なんだかんだ俺達を信じ、今もココにいてくれる。



    そう。


    俺とユミルがライナーとベルトルトに攫われたあの時、いっときはあの2人にユミルは付いて行ってしまった。



    けれど、何を思ったのか壁の中へユミルは帰って来た。



    俺達を信じてというよりはクリスタを守る為に戻ってきたのかもしれないが。


    けど、やっぱり帰ってきてくれたのは嬉しかった。




    クリスタは、ユミルがライナーとベルトルトに付いて行ってしまった事で一時は心を閉ざしてしまった。



    「天使」や「女神」と言われていたクリスタがまるで「氷の女王」になってしまったかのようだった。



    けれどユミルが帰って来た事で、その氷は溶かされて今では元通りだ。

  3. 3 : : 2015/08/02(日) 13:46:00
    「いつも通りですね…」



    「…てめぇはいつも通りすぎるがな」



    いつも通りと言うか、相変わらずと言うかサシャはどんな時でも食べ物を口にしている。



    今もどこから取り出したのか、パンを美味しそうに頬張っている。


    いや、どんな時でもと言ったけど流石に訓練中は食べていなかったな。




    ジャンも相変わらずの悪態のつきようだ。



    目付きの悪いアイツが横目でサシャを睨むその顔はとてもじゃないが兵士には見えない。



    いや、もう兵士じゃないんだけどな…






  4. 4 : : 2015/08/02(日) 13:55:50
    「ねぇ、こんな時になんだけど思い出話でもしない?」



    そう言いだしたのは幼馴染のアルミンだった。



    アルミンは正しい答えを導く力がある。
    俺はそんなアルミンにいつも助けられていた。



    今だってそうだ。
    "こんな時に"じゃなくて"こんな時だからこそ"思い出話をしようと言いだしたのだろう。




    「そうだな。
    語りつくせねぇほどいろんな思い出があるけどな」



    俺がそう言うと隣から「エレンが思い出話をするなら、私もしよう」と言う声が聞こえた。




    ミカサはいつも俺の隣にいて、俺に何でも合わせようとする。



    そう、俺が兵士になる時も調査兵団に入る時も…




    今思えばアルミンやミカサを巻き込むべきじゃなかった。




    いや、巻き込むって言うのは違うかもしれないけどあの時2人を止めていればこんなに苦しむ事はなかったのにと後悔だけが残る。


  5. 5 : : 2015/08/02(日) 14:09:48
    「思い出と言えば入団式の時のサシャには驚いたな〜
    あの教官の前で堂々と芋を食べ出すんだからな!」




    「あ、コニー!!
    その話はタブーですよ!!
    コニーだって心臓の位置間違ってたじゃないですか〜!!」




    コニーとサシャがまた喧嘩を始める。
    よく喧嘩をする割には仲が良い。
    喧嘩するほど…ってやつか。




    「おい芋女。
    心配するな、お前のその出来事はは104期誰もが忘れられねぇよ」



    「ジャン!?
    い、芋女って誰の事ですかね…?」



    サシャはその時の話をするとすごく嫌がる。
    きっと恥ずかしいんだろうけど、サシャにも恥ずかしいという気持ちがあるんだな。




    「芋女、お前は飯食ってる時に放屁するくらいだから今更恥ずかしがる事ねぇだろ」



    「ちょっと、ユミル!!
    サシャも女の子なんだよ!
    それに…あれは…」



    クリスタがユミルを注意しつつミカサの方へと視線をうつす。



    「そ、そうですよ!
    あの時の放屁はミカサのついた嘘なんですよ!!」




    確かにあの件は俺のせいでもある。




    「サシャ、あの時はすまなかった。
    俺とジャンが喧嘩したせいで…
    ほら、ミカサも今の内に謝っておけよ!」




    「…エレンがそう言うのなら。
    あの時はごめんなさい。
    でも、あの時私はサシャにパンをあげたはず。
    あれで手打ちにしてほしい。」




    「ま、そうですね!
    あの時はパンありがとうございました!」




    「ははは…
    サシャはパンを貰った瞬間に機嫌がなおったからね…」



    アルミンがそのやり取りを聞いて、眉を下げて笑う。




  6. 7 : : 2015/08/02(日) 14:23:06
    「そうだな…俺の思い出と言えば…
    適正判断の時のエレンのあの無様な姿は忘れられねぇな」



    ジャンがこっちを見ながらニヤニヤと笑っている。



    「あれはベルトが破損していたからじゃねぇか!!!」


    思わずジャンの胸倉を掴む。



    するとジャンも負けじと俺の胸倉を掴む。




    「はっ!でもその後、俺様にアドバイスを求めて来たじゃねぇか…
    それも情けねぇツラし「エレン」



    ジャンが言い終わらないうちにミカサが仲裁に入り、俺の手を掴む。



    「エレン、感情的になってはダメ。
    あれは金具が破損していたから仕方ない。
    それに、金具が破損していながらも体制を保てた。
    エレンはすごい」





    「ちっくしょおぉおぉお!!!
    いつもお前ばっかり、羨ましい!!!!」



    ジャンが更に強く俺の胸倉を掴む。




    「やめろよ!!!
    本当にいい加減服破れちゃうだろ!!!」




    ジャンと喧嘩するたびに伸びていく俺の服の胸元。
    けれど、今となってはコレもいい思い出の品かもしれない。






  7. 8 : : 2015/08/02(日) 14:33:18
    >>夏架さん
    ありがとうございます!!
    すっごい、励みになります!!





    「まぁまぁ、2人とも…
    私はやっぱり特別休暇がすごく楽しかったなぁ…」




    クリスタが話し始めたので俺達も静かにその場に座る。




    そう言えば特別休暇なんてあったな…





    ---------------



    「今日は特別休暇だね。
    何をしようか?」



    いつも通りに起きて、いつも通り朝食を食べる。



    けれどもアルミンが言う通り、今日は訓令兵になって初めての休暇だ。




    「私はエレンと一緒にいれれば何でもいい」




    「ん〜そうだなぁ。
    俺は自主練でもしようかな」




    俺がそう言うと同時にクリスタとユミルがこちらにやってきた。



    「ねぇねぇ、3人とも!!
    今日この後何か予定あるかなぁ?」



    笑顔で話しかけてくるクリスタとは裏腹にユミルはものすごい血相でこっちを睨んでいる。




    「俺は自主練するつもりだけど…」




    「そっか…もし良かったらなんだけど…
    もっともっと仲良くなる為に皆で街にお買い物に行かないかな?」




    その時、何故かアルミンの顔が少し明るくなりそして興奮気味にこう言った。




    「エ、エレン!!
    たまにの休暇なんだから皆と親睦を深めるのは大切な事だよ!」




    ユミルの視線も御構い無しに、珍しくアルミンが乗り気だ。






  8. 9 : : 2015/08/02(日) 14:41:05
    「うーん。
    そうだな、他には誰が来るんだ?」




    「えっと、私とユミルとサシャとミーナだよ!
    今から男の子達も誘うところなんだ!」



    その時、サシャがコニーを連れてやって来た。




    「クリスタ!
    コニーを誘っておきましたよ〜!」




    「おう、エレン!
    お前らも一緒に行こうぜ!
    俺楽しみで、全財産ポケットに詰め込んだぜ!!」




    「早く行きましょう!
    美味しい食べ物が私を呼んでいます!!」



    サシャとコニーはノリノリだ。
    そしてこの2人を見ていると俺も何だか楽しみになってきた。




    「そうだな。
    次いつ休暇があるか分からないしな!」



    「エレンが行くのなら私も行こう」



    「僕も行くよ!
    あとコニー、お金をポケットに入れておくのはよくないよ。
    後で僕の巾着を貸してあげるよ」





    俺達は街に行く準備とコニーに貸す巾着を取りに1度部屋に戻る事にした。
  9. 10 : : 2015/08/02(日) 14:58:04
    「けどよぉ、お買い物って言っても訓令兵は安月給だから俺そんなに金持ってないんだよなー」



    「あはは。
    確かにそうだけど少しくらいの買い物なら大丈夫じゃない?
    ココに居るとお金の使い道なんて無いからね…」



    そんな事を話しながら部屋に入ると、そこにはライナーとベルトとジャンとマルコがいた。




    「おう、お前ら出掛けるのか?」



    「あぁ、ライナー。
    クリスタに誘われて街に買い物しに行くんだ」



    そう答えるとライナーはすごい勢いで立ち上がり「俺も行っていいか!?」と俺の肩を掴んだ。



    「あ、あぁ。
    クリスタも皆で行こうって言ってたし、いいと思うぜ…」




    「おい、エレン…
    もしかしてミカサも行くのか?」



    今度はジャンが俺に詰め寄って来る。



    「あぁ、行くって言ってたぜ」




    「…お、俺も行く!!!」




    ジャンがこういうのに加わるのは意外だった。



    ベルトルトとマルコは「僕達も行くよ、心配だから」とライナーやジャンを見ながらため息をつく。






    「はい、コニー。
    ここにお金を入れておくといいよ」




    「おぉ!!
    ありがとな、アルミン!!」




    皆それぞれ準備をして食堂に戻る。



  10. 12 : : 2015/08/02(日) 15:14:01
    そこにはクリスタ、ユミル、ミカサ、ミーナ、サシャの他にアニもいた。



    「お、アニも行くなんて珍しいな!」



    ライナーがからかうように言うと、「べつに」とだけ言ってそっぽを向いてしまった。



    「それじゃあ、行こっか!」



    俺達13人は街へと向かった。




    道中、みんなそれぞれに他愛もない会話をしながら歩く。







    「キース教官ってもともとは髪が生えてたらしいぜ!!」



    「ほ、本当ですか!?
    どうして今、あんな事になっちゃったんでしょうね…」



    「外での訓練の時、教官の頭が眩しすぎて直視できねぇぜ…」



    「せめて帽子を被ってもらいたいもんですよね〜」






    「ふふふ、街に行ったら何を買おうかな♪」



    「クリスタ街は危ないから私から離れるなよ!」



    「もうっ!!
    ユミルったら…私だってもう兵士なんだから自分の身くらいは自分で守れるもんっ!!」

  11. 13 : : 2015/08/02(日) 15:23:16
    >>のあ♪さん
    ありがとうございます!
    まだまだ未熟ですが、最後までお付き合いして頂けると嬉しいです…





    「街に行ったらクリスタに花束でも買ってプレゼントしようかな…」



    「やめときなよ、ライナー…」



    「ベルトルトはアニに何もプレゼントしないのか?」



    「なっ!?なんで僕がアニに!?」



    「お前…バレていないとでも思っていたのか?」








    「アニは街に行ったら何を買うの?」




    「…べつに」



    「え〜髪留めとかは?
    …エレンはピンク色の物を身に付けてる子は女の子らしくていいってこの間言ってたけどなぁ〜?」



    「…」








    「ミ、ミカサ…
    よかったら街に行ったら俺と2人で飯でも食いにいかねぇか…?」



    「私はエレンと食べる。
    ので、あなたとは行かない」



    「………」




    「ジャ、ジャン…
    しっかり…」






  12. 14 : : 2015/08/02(日) 15:30:02
    「街に調査兵団グッズとか売ってねぇかな?」



    「…それはきっとないと思うよ?」




    「そうなのか?
    じゃあ、巨人を駆逐する道具とかねぇかな?」



    「立体起動装置があるじゃないか…」






    すごく遠く感じる街までの道のりも、皆で話しながらとなると案外近く思えた。




    街へつくなりアニとミーナはアクセサリーショップへ、クリスタとユミルは雑貨屋へ、そして何故かライナーとベルトルトはその後を付いて行ってしまった。


    アルミンとマルコは本屋に向かったようだ。



    皆で街に来た意味はあるのだろうか。
  13. 15 : : 2015/08/02(日) 15:49:46
    「アニ!!
    こっちに可愛い髪留めたくさんあるよ〜」




    「……ミーナはどんなのが良いと思う?」




    「う〜ん、そうだねぇ…
    こんなのはどうかな?
    ピンクの花が付いててすっごい可愛いよ!」



    「…私が花なんて恥ずかしいよ…」



    「そう?じゃあこっちのは?
    ピンク色の石が埋め込んであって大人っぽいアニにピッタリだよ!!
    あ、でもこっちのピンクのリボンがついたのはいつもと違った感じでいいかも!」



    「あ、あのさ…
    その、エレンは本当にそんな事を言っていたのかい?」



    「うん、確かに言ってたよ!
    食堂で男の子達と話してるのを偶然聞いたの」



    「でも…わ、私はピンクなんて柄じゃないし…やめておくよ」



    「えー!!
    アニは本当は素直で可愛い乙女じゃん!!
    きっと似合うよ!!
    それにアニは顔立ちも綺麗だし」



    「そんな事ないよ…
    でも…折角だからやっぱりこのピンクの石を埋め込んだのを買おうかな…」


  14. 16 : : 2015/08/02(日) 16:11:56
    「ユミルみて!!
    このハンカチすごく可愛い!!」



    「女神クリスタ様にはピッタリなハンカチだな!」



    「もうっ!
    ユミルったら女神なんて言わないで…
    けど、このハンカチ少し高いなぁ〜…
    他にも欲しい物あるのに…」





    「よ、よぉ!クリスタ!
    そのハンカチ俺が勝ってやるぜ!」




    「えっ!?ライナー!?
    いいよ、そんなの悪いし…」




    「あ?ライナーさんよ、物で釣る作戦に出たか?」




    「うるせぇ、ユミル。
    そのハンカチを貸せ、金を払って来る」




    「ユミル!!!そんな事言っちゃダメでしょ!!!
    ありがとう、ライナー!
    大事にするね!」







    「このハンカチ、アニっぽいな…
    僕も…プレゼントしようかな…」
  15. 17 : : 2015/08/02(日) 16:30:31
    「コニー!!
    こっちにお肉がありますよ!!!
    あっちにはパァンが!!!」




    「お前は良く食うなぁ…
    さっきも肉食ってたじゃねーか。
    俺はもう腹一杯だぜ」




    「なら、私がコニーの分も食べるのでコニーも自分の分買ってください!」



    「おぉ!
    って…ん?
    それ、なんかおかしくねぇか?」



    「おかしくないですよ!
    ほら、買いに行きますよ!
    お肉を買ってパァンを買って、他にはあのスープも美味しそうですね!」



    「ん…?
    あぁ、そうだな!
    とりあえず俺も買えばいいんだな?」



    「そういう事です!
    こうなればこの街の食べ物全部制覇しますよー!」



    「お前そんなにも金ねぇだろ…」
  16. 18 : : 2015/08/02(日) 16:43:21
    「なんでジャンがついてくるんだよ!!」



    「別にいいじゃねぇか!!
    それにお前について行ってる訳じゃねぇよ!!」




    「なら、あっち行けよ!!」




    「あぁ!?やんのか、エレン!?」





    「エレン、喧嘩してはダメ。
    それより私はエレンと何かお揃いの物が欲しい…」




    「え?ヤダよ。
    お揃いなんて」





    「……」





    「な、ならミカサ!!
    俺とお揃いの物を…!!」




    「エレンとお揃いがいい…
    ので、ジャンとお揃いの物はいらない」








    「うぉっ!?
    このドリンクを飲めば巨人なんてイチコロだってよ!!!
    俺、これ買って行こう!!!」



  17. 19 : : 2015/08/02(日) 16:58:14
    「マルコ、この本なんか面白そうだよ!」



    「本当だ!
    この人の本、僕大好きなんだ!!」



    「本当に!?僕もだよ!!
    良かったら今度、お互いの持っている本を貸し合おうよ!」



    「もちろんだよ!
    とりあえず僕は今日、この本を買うよ」



    「マルコがその本を買うなら僕はこっちを買うよ。
    それでこの本も貸し合おう!」



    「そうだね。
    あと、立体起動装置の整備も少し手伝ってくれないかな…?
    最近なんだか調子が悪くて…」




    「もちろん。
    僕も念の為に自分の立体起動装置の整備をしておこうと思っていた所だしね」



    「じゃあ、整備をしながらお互い本の感想でも話そうか」


  18. 20 : : 2015/08/02(日) 17:33:49
    ------------


    「あの日はすごく楽しかったなぁ…
    辛い訓練の日々を忘れるくらいに…」




    クリスタが少し悲しそうな顔をしながら目を伏せた。




    「そうだね…
    でも僕はやっぱり何でもない毎日が思い出だな…
    例えば…」



    今度はアルミンが話し始めた。
    アルミンもまた、悲しそうな顔をして。




    --------------



    「ベルトルトの寝相の悪さは芸術的だな…」



    毎朝、僕達はベルトルトの寝相を見るのが日課になっていた。




    「コニー、お前の寝言もなかなかだぞ」




    「うるせぇ!
    ジャンだってこの間、ノックしろよババァ!なんて叫んでたぞ」



    またジャンとコニーの言い争いが始まる。




    「どうせだったら、ベルトルトの寝相で今日の天気を占おうぜ」



    ライナーのその一言から僕逹はベルトルトの寝相で天気を占うのが日課になった。


  19. 21 : : 2015/08/02(日) 18:07:38
    次の朝、早速ベルトルトのベッドの周りに皆が集まる。



    「今日は頭の位置と足の位置が逆になってるから雨だね」



    僕がそう言うとエレンは「外はこんなに晴れてるからこれは当たらねぇな」と呟いた。




    「ま、占いだからな」



    と、ライナーも雨が降るはずは無いといった様子だった。



    僕だってそう思った。



    何しろ今日は雲ひとつないほどの晴天だったから。



    けれど2限目の対人格闘術の時、いきなり空に真っ黒な雲が広がった。




    「お、おいまさか…」




    僕と組んでいたジャンが空を見て驚いたように声を上げた。




    その時、雨が勢いよく降り始めたり




    訓練は中止になり、僕達は3限まで部屋で待機となった。




    「まさか本当に雨が降るなんて…
    ベルトルトすげぇな!!」



    エレンがベルトルトにそう言うと意味がわからないと言った感じに首を傾げた。



  20. 22 : : 2015/08/02(日) 18:50:07
    次の日は頭の位置こそはそのままだったが、枕や布団が何故かベッドの下に落ちていた。



    「布団とかがベッドの下に落ちてはいるが、今日は特に寝相が悪いわけでもねぇから晴れだな」



    ジャンがそう呟きながら落ちている枕と布団を拾い上げてベルトルトのベッドに戻してあげている。




    ジャンは悪人面で口が悪いけれど本当は悪い人じゃないと、こういう時に思う。




    そして、今日はジャンの予想通り1日中カラッとした晴天だった。




    しかし次の日の朝、物凄い光景を僕達は見てしまった。



  21. 23 : : 2015/08/02(日) 19:18:36
    「おい…やっぱりお前らってそういう仲なのか…」




    コニーが引き気味にライナーに尋ねる。




    「ちっ、違うんだ!!
    俺が朝起きたらココにいたんだ!!」




    なんとその日、ベルトルトは何故かライナーのベッドに潜り込んで寝ていた。




    「やっぱりライナー、お前はホモだったのか…」



    「別に俺はお前らがそういう関係でも気にしねぇけど、部屋ではやめてもらいたいもんだな…」



    特に理由のある言葉の暴力がライナーを襲った。



    そしてその日、窓の外はどんよりと曇っていた。




    「これはどうなんだ?
    雨って事なのか?」



    「うーん。
    でも頭と足の位置が逆の時に雨が降ったからこの場合は…
    とんでもない天気になりそうだね…」




    はじめは遊び半分だったのに、あんまりにも当たるもんだからいつの間にか占いから天気予報となっていた。



  22. 24 : : 2015/08/02(日) 19:51:09
    そして、いつものように朝食を食べている時だった。



    外からゴロゴロと大きな音が聞こえたかと思うと空全体が強烈な光に包まれた。





    「キャアアアア!!!」



    突然の雷に驚いた女の子達は一斉に叫び声を上げた。
    そんな中、僕とエレンは顔を見合わせた。



    ジャンやコニー、ライナーも窓の外をみて驚いた顔をしていた。



    間もなくして、バケツをひっくり返したかのような大雨と窓を突き破りそうなほどの風が吹き荒れた。



    「すごい雨だね…」



    ベルトルトは呑気にそんな事を言いながらパンをかじっていた。
  23. 25 : : 2015/08/02(日) 20:02:38
    ベルトルトすごっ!Σ(゜Д゜)
    期待です
  24. 26 : : 2015/08/02(日) 20:53:28
    ーーーーーーーーーーーー



    「ベルトルトの天気予報は百発百中だったな」



    「あぁ、あれはスゴかったな!!」



    ジャンとコニーが懐かしむように呟く。






    「あと、ジャンとエレンの喧嘩はもう名物みたいな感じだったよね」




    「エレンはすぐに熱くなると衝動的に行動する。
    やっぱり私がいないとダメ」




    ミカサはすぐ母さんみたいな事を言う。
    いくら家族だからって俺はもう子供じゃねぇのに。




    「おい、ジャンとエレンよ…
    流石にこれからは喧嘩とかよしてくれよ。
    特にエレンは…皆んなの命を預かってるんだからよ…」




    ユミルが冗談とも本気とも言えない口調でそう言う。




    「あぁ…わかってる…」




    「おい、死に急ぎやろう。
    今回だけは本当に死に急いでくれるなよ…」




    今度はジャンが真剣な眼差しで俺にそう言う。




    その場の雰囲気が一瞬にして張り詰める。

    物音一つしない程に静まり返り、息をするのも苦しいくらいだった。



    「えっ…えぇっと…
    それじゃあ、私の思い出話しも聞いて下さい!!」



    この空気に耐えきれなかったのか、サシャが明るい口調で話し出す。
  25. 27 : : 2015/08/02(日) 21:16:06
    「お前の思い出話しはどーせ飯の事だろ!」



    コニーもサシャに便乗し、明るく振る舞う。



    少しだけその場の空気が和らいだ気がした。





    「ち、違いますよ!!
    私の思い出は…あの…壁が破壊されていなかったのにウォールローゼに巨人が現れた時の話しです…」




    クリスタ、ユミル、コニーの顔がひどく曇る。



    3人はいろいろと思う事があるのだろう…




    流石にサシャもそれに気付いたようだったが、かまわず
    話を続ける。




    「私はあの時、1人で故郷へ向かっていたんですよ…」







    --------------




    もうどのくらい故郷に帰ってなかっただろう…


    皆…無事かな…





    不安に押し潰されそうな中、故郷に向けて最高速度で馬を走らせる。




    ふと、辺りを見ると新しい村が出来ている事に気付いた。




    「…新しい村が出来てる」






    何気無く村に目をやるとそこには巨人の姿と…





    襲われている人の姿が見えた…





    今は戦闘服も着てなければ立体起動装置もない…



    戦うのは不可能。



    どうする…どうする…



    あの人を…見捨てる…?

















  26. 28 : : 2015/08/02(日) 21:22:56
    いろんな考えが頭の中を渦巻く。





    けれど決断を出す前に体が勝手に動き出していた。




    近くにあった斧だけを持って、私は巨人のいる方へ走り出す。





    「うぁあぁぁあぁあ!!!!!」




    無我夢中で、巨人のうなじに斧を振りかざす。




    何度も何度も…



    自分が巨人の返り血で染まっていく…





    斧ではうなじをうまく削ぐことが出来ずに切っては修復し切っては修復し、全くキリがなかった。




    どうすればいい…?



    そんな事を考えている時だった。






    「あっ…!?」






    巨人の返り血で手が滑り斧が壁の方へと飛んで行ってしまった。





    「あぁっ…」






    もうダメだ…諦めかけたその時、目の端に人の姿が見えた。




    そちらの方に視線をうつすと、青白い顔に脂汗を浮かばせガタガタと震えている女の子がいた。







    「えっ…!?
    子供…!?」




    じゃあ、今襲われているのは…


    この子の母親…!?



  27. 29 : : 2015/08/02(日) 21:36:15
    再びいろんな考えが頭の中を渦巻いた。




    女の子だけなら確実に助ける事が出来る…




    けれど、そうなればこの子の母親が…




    じゃあ、母親をまず最初に助ける?




    でも巨人の標的がいつ私や女の子にうつるか分からない…



    そうなれば全滅する可能性もある…













    「…ごめんなさい」










    私は女の子の手を引いて家を出た。



    ごめんなさい、ごめんなさいと何度も心の中で唱えながら。









    「もう大丈夫ですよ…」





    無理に作った笑顔で私がそう言うと、女の子は虚ろな目で「何が?」と呟いた。




    「えっ…」




    「…お母さん足が悪いの」



    何も言い返せない私をよそに、女の子は淡々と話し始めた。




    お母さんの足が悪い事。



    その事を村の皆は知っていたのに、誰も助けてくれなかった事。



    そして自分も見ているだけで何も出来なかった事。



    私はその話を聞いて返事をする事もなく女の子の手を握ったまま、ただ立ち尽くしてしまった。



  28. 30 : : 2015/08/02(日) 21:45:01
    期待
  29. 31 : : 2015/08/02(日) 21:50:59
    私もこの子の母親を見捨てた。



    私も…何も出来なかった。





    今更、罪悪感に襲われた。




    それと同時に自分が情けなく感じた。






    「…!?」




    その時だった。



    巨人が家から出て来てしまった。




    そして、私はやっと我に返って馬に駆け寄る。





    「あっ!?
    ちょっと待ってくださいよ!!
    調査兵団の馬なんですから3メートル級くらいでビビらないで下さいよ!!!!」



    付いていない時はとことん付いていない。


    まさか、馬にも逃げられるなんて…





    今は罪悪感にかられて、後悔してる場合じゃない…




    とにかく逃げないと…



    私はすぐ側にあった弓を持って再び、女の子の手を握りながら走り始めた。





  30. 32 : : 2015/08/02(日) 22:01:34
    走っている最中に私は女の子にこんな事を言われた。



    「どうして、そんな喋り方なの?」





    そう言われた瞬間、何故か走馬灯のように色んな思い出が蘇ってきた。



    ユミルに喋り方について叱られた事。


    コニーのパンを横取りして喧嘩した事。


    食料庫から食料を盗んだ事がバレて死ぬほど外を走らされた事。



    思い出す全ての事が、取るに足らない日常だった。








    「…ねぇ、聞いて。
    大丈夫だから、この道を走って。
    弱くてもいいから…あなたを助けてくれる人は必ずいる。
    すぐには会えないかもしれないけど…
    それでも会えるまで走って!」



    私は女の子の手を離し、巨人の方に向き直った。




    このまま2人で逃げていれば確実に追いつかれてしまう。




    2人が助かるにはまず、ここで少しでも巨人の足止めをするしかない。




    こんな弓で足止め出来るかなんて分からない。




    けれど、やるしかない。




    私は巨人に向けて弓を構える。






    女の子は走り出そうとせず、ただ私の後ろ姿をぼぉっと眺めているようだった。




    早く…早く…
    逃げて…



    せめて、この子だけでも生き延びて欲しい…!










  31. 33 : : 2015/08/02(日) 22:14:54
    「走らんかい!!!!!」




    自分でも驚くくらいに大きな声で叫んだ。





    そして、私の声を聞いて女の子はやっと前を向いて走り出した。






    きっと振り返る事もなく走り続けてくれるだろう。




    後はここで、足止めさえ出来れば…






    私は巨人に向けて矢を放った。





    …が、刺さった先は巨人の足元だった。






    「ちっ…」




    矢の数はもうわずか。


    失敗は許されない。





    巨人の目を潰すことができればかなりの時間を稼げる…



    落ち着け、落ち着け。



    あの的は大きくて、動きがノロイ!!!




    昔の狩猟生活を思い出しながら、2本目の弓を放った。










    「がぁ…ぁ…」










    巨人が微かに叫び声を上げる。




    なんとか片目を潰すことが出来た。




    弓は残り1本。




    あと片目を潰せば私も生きて帰れるかもしれない。




    いや、こんな所で死ぬ訳にはいかない。






    生きて帰って…




    もう一度…





    104期の皆に…










    その時、私は自分の考えに驚いた。





    どうして…最初に会いたいと思った相手が、どうして最初に頭に浮かんだ相手が家族や村の皆ではなく104期の皆なんだろう…






  32. 34 : : 2015/08/02(日) 22:27:53
    余所者と関わる事が怖かった。



    いつまで経っても自分に自信が持てなかった。





    そんな私が、何故?




    いつのまに?





    104期の皆の事をこんなにも大好きになっていたなんて…






    またコニーとパンの取り合いをしたい。



    生きて帰ったら、アルミンに座学を教えてもらって賢くなれるように勉強をしよう。




    ユミルにあの時叱ってくれてありがとうってお礼を言わなくちゃ…。






    …もっと、もっと、もっと






    もっと、これからもずっと104期の皆と過ごしていきたい…!!








    「あぁあぁあぁあ!!!!」






    自分でも馬鹿だと思った。



    無謀かもしれないと思った。





    私は矢を握りしめ、直接巨人の目にぶっ刺した。



    一か八かの賭けだった。




    馬鹿な私が精一杯考えた結果がこれだった。





    でも、確実に巨人の目を潰すにはこの方法が一番確実に思えた。









    そして、私は賭けに勝った…






    巨人の両目は確実に潰れた。



    修復にはそれなりの時間がかかるはず…





    私は無我夢中で女の子の走り去った方へと走り続けた。




    女の子は無事だろうか?



    もう誰かと合流しているだろうか?




    そんな事を考えながら走っている時だった、何頭もの馬の駆ける足音が聞こえて来た。
  33. 37 : : 2015/08/03(月) 07:39:35
    -------------


    「女の子は、ダウパー村の人たちと合流していて無事でした。
    そして…その時久しぶりにお父さんに会ったんです…」




    サシャが今まで見た事もないような真剣な顔で、でも目には涙を溜めながら話を続ける。




    「そこでお父さんが立派になったなって…褒めてくれたんです…
    私はあの時初めて誰かを守る事が出来ました…
    けれども同時に、あの子の母親を見捨ててしまった…
    誰にも言えなかったんです…



    ごめんさい、思い出話というより懺悔みたいになっちゃいましたね…」




    ついにサシャがこらえる事が出来ずに、涙を1粒頰に零した。



    「けれど私にとっては初めて人の命を助け、初めて人の命を見捨て…
    そして104期の大切さが、どれだけ自分が104期の事が好きか分かった…そんな時だったんです。
    私にとってはいろんな意味で1番の思い出です」




    サシャの目から1粒、2粒と涙が零れ落ちていく。





    するとクリスタがいきなり立ち上がり、サシャを包み込んだ。





    「サシャ…辛かったね…
    いっ…いっぱい泣いていいよ…
    私もサシャが、104期の皆が大好きだよ…」





    クリスタの目からもとめどなく涙が溢れていた。





    「お、俺だって最初に…
    家族よりっ…大切な存在だっ…だって…
    言ったじゃねぇかよぉ…」




    目を真っ赤にさせたコニーが嗚咽交じりに言う。





    「お前ら…ほんっとに馬鹿だな!!!」





    そういうジャンだって、今にも目から溢れ出しそうなほど涙を溜めている。




  34. 38 : : 2015/08/03(月) 09:07:24
    「…そろそろ日が沈む」




    辺りはもう暗くなりかけていた。





    「もう話している時間はない。
    そろそろ準備をしないと」



    ミカサが腰を上げようとした時だった。





    「待ってくれ、ミカサ。
    俺は…最後にエレンの思い出話を聞きてぇんだ…」




    そう言いだしたのは意外にもジャンだった。




    俺は正直驚いた…




    ジャンがそんな事を言い出すとは夢にも思っていなかったから。





    「…エレンの思い出話なら聞こう」




    「お、俺の思い出話…か…」





    思い出を思い出す、と言うのはおかしいかもしれないが俺は必死に記憶から楽しい思い出を探し出した。




    正直、皆が話す楽しい思い出話のほとんどを俺は忘れていた。




    いや、思い出さないようにしていたのかもしれない。



    過去の事を思い出そうとすると…いつも思い出すのは…悪夢ばかりだから。






    「おい、死に急ぎやろう。
    やっぱりてめぇの思い出なんざ聞きたくねぇ。
    その代わり、全部話してみろよ…
    聞いてやるからよ…」





    ジャンにそう言われた瞬間、糸が切れたかのように何故か涙が次から次へと頬を伝った。




    「エレン…?」



    ミカサが心配そうに俺の顔を覗き込む。




    「俺の…話…?」



    「あぁ…
    お前の中の悪夢を全部いま…
    出しちまえよ」




    「ジャン…お前どうしたんだ?
    エレンにそんな優しいなんて…」



    コニーが驚きを隠せないような表情で尋ねる。



    「う、うるせぇ!!
    俺はこれからの為に言ってるんだよ!
    そんなモヤモヤ抱えたまんまで、万一しくじられたら洒落になんねぇからな!!」




    「…エレン、僕達に全部話してよ。
    エレンが抱え込んでいたもの全部、今吐き出していいんだよ…」



    俺の背中をさすりながらアルミンも優しく促す。
  35. 39 : : 2015/08/03(月) 10:09:58
    「俺の…抱え込んでいた事…」




    --------ーーーー



    俺自身にも何がどうなっているのか全くわからなかった。





    いきなり自分が巨人になって、化け物扱いされたと思ったら人類の希望と呼ばれて…








    そして今度は悪魔と呼ばれるようになった。





    ユミルがライナーとベルトルトの元から帰ってきたあの日、少しだけだが巨人についての謎が明かされた。





    ユミルが調査兵団に自分の知っている事を全て話したのだ。


    獣の巨人の事。


    ライナーとベルトルトの故郷の事。


    自分は60年間壁の外を彷徨っていた事。


    人を食べたことを覚えていない事。






    その内容は驚く事ばかりだった。



    けれど新しい情報を得て人類は1歩前進したのだ。




    調査兵団はユミルの存在を他の兵団や世間に黙秘する代わりに、人類の味方になる事を要求した。




    調査兵団側からするとユミルがまた人類を裏切る可能性もあったわけだが、その反面巨人化できる人材が増えるのは大きなプラスとなると考えたみたいだ。




    もちろん、ユミルは人類の味方になる事を誓った。





    そしてその日、クリスタも隠していた事全てを調査兵団に打ち明けたのだ。




    クリスタの本当の名前はヒストリアだと言う事。



    クリスタはレイス家の妾の子だと言うこと。



    母親は既に殺されていると言うこと。





    それを聞いてこの日、人類はまた1歩前進した。






  36. 40 : : 2015/08/03(月) 11:14:56
    それらの情報を繋ぎ合わせ、1ヶ月後に壁外調査が行われる事になった。




    しかし、攫われた俺を助ける為に戦ってくれた兵士のほとんどが重症者で1ヶ月程度でどうにかなるとは思えなかった。



    エルヴィン団長もその1人だ。





    俺のせいで、エルヴィン団長の右腕が失われてしまった。





    兵士、特に調査兵団では片腕を無くしてはもう活躍する事は絶望的だろう。



    立体起動装置を使うことも、巨人と戦うこともできない。





    けれども、エルヴィン団長は今度の壁外調査に同行する事を自ら要望したらしい。





    それを聞いた調査兵団のほとんどがエルヴィン団長が壁外調査に行く事を反対した。




    皆、口に出さないだけで思うことは多分一緒だったんだと思う。




    「その身体じゃ死にに行くようなもんだ」と…





    調査兵団はもちろん、街の人達の憧れでもあるエルヴィン団長。




    そんなエルヴィン団長に命を助けられた兵士は数知れないほど存在する。



    それにエルヴィン団長が考え出した索敵陣形のおかげで、ほとんど死者を出す事なく何度も壁外調査を成功させている。



    そんなエルヴィン団長を失くすのは人類にとって1つの希望を失うに等しかった。



    けれども、エルヴィン団長が壁外調査に同行する事に反対しない人達もいた。



    ハンジさんやリヴァイ兵長、その他からエルヴィン団長と幾度となく戦ってきた兵士達だった。




    俺は反対しないリヴァイ兵長達に疑問を抱いた。






    そんな俺に気付いたハンジさんはこっそり俺に話をしてくれた。








    「エレン、どうして私達が反対しないのか不思議なんでしょ」




    「えぇ、まぁ…」




    「…エレン、君は次の壁外調査でも大変な役割を果たしてもらう事になる。
    だから君にはハッキリと伝えておくけど…
    今度の壁外調査がもし失敗すれば












    もう人類が勝利する事は永遠に無いだろう」







  37. 41 : : 2015/08/03(月) 11:19:16
    俺はそれを聞いた瞬間、驚きと動揺を隠しきれずハンジさんに捲し立てるように質問をしていた。




    「人類が勝利できないってどういう事ですか!?
    今度の壁外調査が失敗すれば人類は滅ぼされるんですか!?
    どうしてっ…!?」




    「エレン、落ち着いて。
    私とエルヴィンとリヴァイ、そしてアルミンを交えて何度もクリスタや、ユミルが話してくれた事全てを考察したんだ。
    するとね、驚く事に4人全員が同じ答えを出したんだ。
    その答えっで言うのが、1ヶ月後の壁外調査を予定している日に…




    超大型巨人及び鎧の巨人がまたやって来る。必ず」






    また…奴等がくる!?




    「奴等が来るって…つまり…」




    「そう、今度奴等がくればウォールシーナまで一気に壁を壊される事になるだろう」





    もう俺の頭の中は真っ白だった。



    何故、奴等は壁を壊す?


    何が目的で?



    何の為に?





    「でもさ、エレン。
    逆に言っちゃえば今度の壁外調査で成功したら、人類は勝利するんだ。
    もう壁の中に閉じ篭っておく必要はなくなるんだよ!!!」





    …人類の勝利?



    もう壁の中で生きていく必要がなくなるのか?



    そしたら俺やアルミンが夢にまで見た冒険をする事が出来るのか…?






    「ハンジさん…
    俺、今度の壁外調査頑張ります!
    そして…必ず巨人を駆逐してやります!!」










    それから、今まで以上に厳しい訓練をこなし訓練の後は毎日行われる作戦会議に俺も参加した。











    そして、壁外調査前日の夜。




    最後の作戦会議が行われた。




    この日は、壁外調査に行く調査兵団全員が集められた。





    全員と言っても人数は100人足らずだった。







    「明日の壁外調査に人類の存亡がかかっている。
    正直…勝利する確率、敗北する確率は半分ずつだ」





    エルヴィン団長のその言葉に皆、固唾を飲む。




    「おいエルヴィン…
    珍しく弱気じゃねーか。
    クソの調子が悪いのか?」





    「私は快便だよ!」





    「お前には聞いてねぇよ、クソメガネ」





    リヴァイ兵長とハンジさんはいつも通りの様子だった。




  38. 42 : : 2015/08/03(月) 11:22:59
    「君たちは人類に心臓を捧げた兵士だ。
    この中には愛する妻や可愛い子供、親しい友人がいる者がほとんどだろう。
    けれど明日…君達には人類の為に死んで欲しい。
    無論、私もそのつもりだ」





    俺はこの時初めて、リヴァイ兵長やハンジさんが何故エルヴィン団長を止めなかったのかわかった気がした。





    エルヴィン団長は、今度の壁外調査で人類の存亡をかけて…死ぬ気なんだ。





    エルヴィン団長自身、あんな体で無事に壁外から帰って来ることなんか不可能だという事を分かっていて…





    死に場所を戦場に決めたんだ…






    「もし、死ぬのを躊躇うようなら今ここで調査兵団をやめてくれ」




    「!?」




    いきなのりのその言葉に調査兵団一同は、驚きを隠せなかった。





    猫の手も借りたいくらいの状況で更に兵士の人数が減ってしまえばその分、人類の勝利は遠のくとも言える…







    なのに、何故?












    それからひどく長い沈黙が続いた。






    いや、まだ3分も経ったいないだろう。
    けれど俺の中ではひどく長い時間に感じた。







    そしてその間、誰一人としてこの場から去るものはいなかった。






    「皆に礼を言う。
    ココに残ってくれてありがとう。
    そして明日、壮大に散ってくれ!!!
    人類に、心臓を捧げよ!!!!」





    「はっ!!!!」





    俺達はこの日、人類の為に死ぬ事を決意した。



    いや、死なずに皆で帰ってこれるのが1番良いに決まっている。




    けれど今回の壁外調査は今までとは訳が違う。





    生きて帰ってきたいなんて、甘い事は言ってられないのかもしれない。





    俺達は明日の壁外調査で、超大型巨人及び鎧の巨人と戦う事になるのだから。




  39. 43 : : 2015/08/03(月) 11:31:52
    俺たちはその晩、誰一人言葉を交わすことなく眠りについた。




    もしかしたら明日、俺や仲間達が死ぬかもしれない…





    恐怖の波が俺の中に押し寄せる。





    大丈夫、大丈夫、大丈夫。





    そう自分に言い聞かせながら無理矢理目を閉じ、朝日が昇るのを待った。





    --------ーーーーー




    「俺、本当は怖かったんだ…
    また俺のせいで誰かが死んじまうんじゃねぇかって…
    けど、何よりもお前らが死んじまうのが1番怖かったんだ…」





    俺は耐えきれず俯いた。



    皆の顔をこれ以上見ていたら、話もできない程に涙が溢れてしまいそうだから。






    「あの時の事を思い出すだけで…
    俺は気が狂いそうになっちまう…
    けど、頼む…ここで、ここで全部吐き出さしてくれ…」






    --------------







    俺達は予定通り、今日この日壁外へ向かった。





    エルヴィン団長は先頭に、俺とリヴァイ兵長とハンジさんはちょうど真ん中の位置にいた。






    他の皆はかなり距離が離れているせいで、姿は見えるものの誰が誰なのか見分けはつかなかった。






    「おい、クソガキ。
    キョロキョロするんじゃねぇ」




    「す…すいません…」






    俺が周りを気にしても仕方ねぇのに…






    …あいつらならきっと、大丈夫だよな。









    ふと脳裏に女型の巨人を捕獲した時の事が浮かんだ。





    『私達を、仲間を信じて…
    お願い…』





    今は亡きペトラさんに言われた言葉を思い出す。




    そうだ、俺は仲間を信じるんだ…!



    だから、前だけを向いて…







    そう胸に誓った時だった。






    大きな足音と、激しい地響き。






    「予定より随分早く来ちゃったねぇ…」





    風に乗ってハンジさんの声が微かに聞こえた。






    ハンジさんの声が聞こえたかと思うと、今度は大きな音をたてながら前方で黒と赤の信煙弾が打ち上げられた。






    『超大型巨人か鎧の巨人、またはその両方が現れたとき赤と黒の信煙弾を打ち上げるんだ。
    通常の巨人や、奇行種などと区別をつける為にね』



    作戦会議の時にハンジさんがそう言っていた。




    つまり今、前方に奴がいるという事だ…






  40. 44 : : 2015/08/03(月) 12:17:07







    「ちっ…5分もまだ経ってねぇぞ…」




    超大型巨人及び鎧の巨人が出現して数分後、今度は青の信煙弾が上がった。






    『赤と黒の信煙弾が上がってもエレンとユミル、そしてリヴァイとミカサも戦闘には加わらないでほしいんだ。
    出来ることなら、エレンとユミルの存在を向こう側に知らせたくないからね』





    ハンジさんの作戦を一つ一つゆっくり思い出す。





    『そしてその4人と私以外の皆は、赤と黒の信煙弾が上がったらすぐに戦闘に加わってほしいんだ。
    そこで、エレンとユミルが巨人化して戦う前に両目や膝の裏なんかをやっちゃってくれたら上出来だね』





    「おい、エレン…
    この後の作戦は分かっているな?」




    いつものように落ち着いているように見えるリヴァイ兵長。



    けれどその額には嫌な汗を滲ませていた。






    「…はい」






    『そして、4人以外の皆には青の信煙弾を渡しておくよ!
    前衛が壊滅する前…つまりこれ以上の戦闘は無理だと判断した時に青の信煙弾を上げてほしいんだ。
    青の信煙弾が上がったら、エレンとユミルは巨人化して戦闘に加わって欲しい。
    もちろん、その時は私やリヴァイ、ミカサも戦闘に加わるんだよ』




    ここからは、俺がやってやる…






    「いきますっ!!」




    俺は右腕をおもいきり噛んだ。







    最初の信煙弾が上がってから今まで、絶えず聞こえてくる悲鳴や叫び声。





    あいつらはまだ生きているのだろうか?




    今、行くからな…










    「あ゛ぁあぁ゛あぁ!!!!!」







    最近になってようやく、巨人になっても自制心を保てるようになった。




    けれど…今回ばかりは…




    自制心なんて保てそうにねぇ…






    あいつらが憎くて仕方ねぇ…




    あいつらをぐちゃぐちゃにして、喰ってやる…








    「エ…ン!!…レン!!
    エレン!!!!!落ち着いて!!
    君の気持ちも分かるけれど、今は自制心を保って!!」





    ハンジさんの声…?





    「エレン、自制がきかねぇのなら今ここで削ぐそ…」





    リヴァイ兵長の声もする…





    そうだ…俺は今…任務を遂行しなきゃいけないんだ…




    怒りに、憎しみに身を任せちゃいけない…





    俺は言葉を話せない為、こくりと1度頷いた。





    「おぉ!エレン落ち着いたようだね!
    左斜め前方にユミルの巨人がいるのが見えるね?
    そちらの方へ向かってくれ!!
    どうやら、あいつらの標的がユミルに向いたようなんだ!」





    俺はもう一度こくりと頷き、ユミルの方へと急ぐ。











  41. 45 : : 2015/08/03(月) 12:58:39
    道中、俺の目に映るのは人…



    いや…人だったものがその辺に転がっている光景だった。





    骨が剥き出しになっている腕。



    ほぼ原型をとどめていない足。



    脳や腸、心臓などの臓器までもが転がっている。





    どうして…どうしてあいつらはこんな事が出来るんだ…?





    絶対に許せねぇ…



    俺は…あいつらを…






    「おいエレン…
    意気込むのはいい事だが現状をきちんと把握しろ…
    あの汚ねぇ巨人共をよく見ろ」








    リヴァイ兵長の言葉通り、奴らの方へと目を向ける。





    「!?」




    その光景に俺は目を丸くした。




    目の前にいる超大型巨人の両目は閉じられており、鎧の巨人は地面に片膝を付き立てずにいるようだった。









    スゴイ…




    素直にそう思った。






    あの、超大型巨人と鎧の巨人2体を相手にしながらここまで…



    勝てる…!!



    これなら、いける!!!





    「エレン、お前はまず超大型巨人を殺れ。
    俺が援護してやるからおもいっきりいけ。
    だが、女型の巨人のように片目だけを先に回復されたりしたら面倒くせぇ。
    早めにケリをつけるぞ…」





    超大型巨人…いや、ベルトルト。




    お別れの時だ。




    俺はもうお前に同情なんてしねぇ。





    そしてライナー…


    お前ともお別れの時だ。






    俺は鎧の巨人の方へ視線をうつす。





    「おいクソガキ、よそ見してる場合じゃねぇぞ。
    ハンジ!!お前は鎧の巨人の方へあの小せぇ巨人と行け。
    あと、ミカサもそちらの援護として連れて行け」




    リヴァイ兵長が瞬時に状況を把握し、指示を出す。






    「了解。
    リヴァイ、エレン…気をつけてね…」





    それだけ言い残し、ハンジさんは鎧の巨人の方へと向かっていった。








  42. 46 : : 2015/08/03(月) 13:26:18
    「よし…いよいよだエレン…
    奴の目はまだ回復できてねぇみたいだ。
    俺が周りの巨人共をしとめてやる。
    その間にお前は奴のうなじを食いちぎって中に入っている奴を仕留めろ、いいな?」





    俺はリヴァイ兵長からの指示に返事をする事もなく、超大型巨人のうなじへ勢いよく噛み付いた。




    グチュグチュという嫌な音と超大型巨人の叫び声とそして…



    「おい…エレン!!
    俺らで腕の筋肉も削いでおいてやった!!
    少しの間、うなじを守る事は出来ないだろうが時間の問題だ!!!
    やっちまえ!!!」





    その声は…ジャン…?



    姿こそ見えないけれど、ジャンの声がする。





    生きてたのか…よかった…





    後は…俺に任せておけ…







    「がぁあぁ゛ぁあ゛ぁあ」









    ブチブチッというなんとも言えない音と共に巨人の中身…



    つまりベルトルトを噛みちぎった。





    ベルトルトは既に気絶していたようで、身動き一つ取ることはなかった。





    「エレン!!!
    やっちまえぇえぇぇぇえぇ!!!」





    「あ゛ぁあぁぁあ゛ぁ」





    俺は躊躇うこともなく…








    ベルトルトを殺した。





  43. 47 : : 2015/08/03(月) 15:54:58
    「エレン…よくやった」




    リヴァイ兵長が俺の方へとやって来た。




    一体この人は何体の巨人を殺したのだろう。





    全身が巨人の血にまみれていた。






    「どうやら向こうもケリがついたようだ…
    お前もそのクセェ巨人の中から出てこい」






    リヴァイ兵長の言う通り、鎧の巨人は蒸発し始めていた。



    そして、その近くにはライナーの亡骸が横たわっていた。







    ーーーーーーーーーーーーー





    「本当に俺らは104期は悪運が強いぜ…
    あんな状況で104期全員が生き残ったんだからな…」



    コニーの言う通りだ。




    100人足らずで挑んだ壁外調査だったが、戦いが終わった頃には20人足らずになっていた。





    そんな中で104期全員が生き残っているのは本当にキセキといってもおかしくないくらいだ。





    「でも正直…僕はその後の方が辛かったな…」






    アルミンのその言葉で、再びその場の空気が凍り付いた。





    誰もがこんな結果になるとは思っていなかっただろう。




    俺逹は人類に心臓を捧げた。



    人類勝利の為に何千人もの調査兵団がこの世を去った。








    そして俺逹調査兵団は超大型巨人と鎧の巨人を仕留める事に成功した。





    これで壁を壊される事は無くなった。





    ひとまず人類は勝利したんだ。




    言わば、調査兵団は英雄と言っても過言ではないだろう。






    なのに、何故?





    俺逹は人類によって地獄へ落とされなければいけなかったのか?


  44. 48 : : 2015/08/03(月) 17:24:33
    ーーーーーーーーーーーーー





    「撤収するから、みんな急いで準備して!」






    ハンジさんが負傷者の応急処置をしながら指示を出す。




    「撤収…?
    おいクソメガネ、超大型巨人と鎧の巨人をぶっ殺したあと獣の巨人も殺しに行く予定じゃなかったか?」





    リヴァイ兵長の言う通り。
    超大型巨人と鎧の巨人を仕留める事が出来た場合、続いて獣の巨人も仕留める作戦となっていた。





    「あぁ、そのつもりだったんだけどね。
    天気があまり良くないようなんだ…
    これはきっと嵐が来る…」







    確かに空にはどす黒い雲が広がり始めていた。





    「…そうか。
    なら雨が降り出す前に撤収するぞ」




    そんなリヴァイ兵長の話を聞きながらジャンが「嵐くらいで作戦を変更して撤収するなんて、リヴァイ兵長らしくねぇな…」と呟いた。





    そう言えば、前にグンタさんが「兵長は大嵐の中でも壁外調査を成功させた事があるらしい」と話していた。




    そしてその時、リヴァイ兵長が心を許していた仲間が壮絶な戦死をしたとも。







    仲間…そう言えば…



    「なぁ、ジャン104期の皆は…」




    隣で撤収作業をしていたジャンに俺は1番気になっていた事を尋ねた。





    「あ?あぁ…全員無事だ。
    幸運な事に誰も負傷もしてねぇよ」





    「そうか…
    人類は勝利したんだな…」




    あまり実感が無いものだった。



    けれど、これで壁を壊される事はもうない。




    ハンジさんやアルミンの考察では、獣の巨人が壁を壊したりする事はないと言っていた。




    あともう一息だ。



    あとは獣の巨人を仕留め、骨の折れる話だが壁の外にいる巨人全てを駆逐する事が出来れば…




    俺逹は壁の外から出られるんだ。





    俺は武者震いした。




    一昔前までは巨人を根絶やしにするなんて夢のまた夢みたい話だったかもしれない。



    けれど、今はそれも夢ではない。





    もうすぐ、俺逹は壁の外に出れるんだ…!




  45. 49 : : 2015/08/03(月) 18:04:29


    「負傷者を荷馬車に乗せて!」





    そう言えばさっきからずっとハンジさんが指示を出している。



    それにエルヴィン団長の姿も見えない。







    「あの、ハンジさん…
    エルヴィン団長は…」




    俺がそこまで言うとハンジさんの表情がほんの一瞬曇ったように見えた。





    「あぁ、その話は壁についてからね。
    とりあえず今すごく急いでいるんだ!
    もうすぐ出発するから馬の準備、お願いね!」





    ハンジさんのあの態度を見て確信した。



    なんとなく初めから予想はついていた。




    きっとエルヴィン団長はもう…








    俺は空に向けて敬礼をした。




    心臓を捧げるという意味ではない。




    エルヴィン団長、今回の壁外調査で勇敢に戦い散っていた兵士達に敬意の意味を込めて。
















    「よし、出発するよ!!」







    ハンジさんの掛け声で皆一斉に馬に乗り、壁の方へと走り出す。







    空は先程よりどす黒く染まり、今にも雨が降りそうだった。







    だが、幸か不幸か壁からそう遠くないところで奴らと遭遇したので数十分も走れば壁がうっすらと見えてきた。





    これならなんとか雨が降る前に壁に辿り着きそうだ。




    そんな事を考えていた時、俺は異変に気付いた。





    壁の様子がおかしい。





    いや、壁がおかしいんじゃない…




    あれは…駐屯兵団?











    「どうして、駐屯兵団が壁の上にあんなにも…?」





    隣で馬を走らせていたアルミンも気付いたようで、誰に言うでもなく言葉を漏らした。





    明らかにおかしい…





    駐屯兵団全員と言ってもいい程の人数が、壁の上で何かを待ち構えているかのように立ち尽くしていた。







    「おい…あいつらどう言うつもりだ?
    どう見ても歓迎されてるようには見えねぇが」




    リヴァイ兵長がイラつきを隠せない様子だった。








    その時、大きな爆発音と共にこちらに向かって何かが勢いよく飛んできた。




  46. 50 : : 2015/08/03(月) 19:47:22
    その何かは前を走っていた兵士の1人に直撃した。








    「なっ!?!?
    何で俺たちに向かって固定砲を撃ってくるんだ!?」








    あろうことか、駐屯兵団はこちらに向かって砲弾を撃ち込んできたのだ。







    「おいおい…
    あれは巨人を殺すものだろ!?
    何で俺たちに向かって撃ってきやがるんだ!?」




    馬鹿なコニーでも今がおかしな状況である事は理解できるようだ。






    「お前ら、止まれ!!!!」





    リヴァイ兵長がこれでもかというほどに声を上げる。



    これ以上進むのは危険と判断したのだろう。





    「わぁ!?」





    急ブレーキをかけたせいで、サシャは馬から落ちてしまったようだ。








    「なんで壁を目前にして登れねぇんだよ…」






    ユミルは巨人化した後の後遺症か、顔色が悪く足元もおぼつかないようだ。





    「ユミル大丈夫!?
    向こうで少し休もう?ね?」




    ついにユミルはその場に座り込んでしまった。






    他の兵士達も精神的にも肉体的にも疲弊しきっていて、ギリギリのラインだ。






    そんな中、俺逹調査兵団は壁の百メートル手前で立ち止まる事となってしまった。





    「どういうつもりなんだ…?」







    ハンジさんが困ったと言わんばかりに眉間に皺を寄せる。







    「あいつらは…私達を殺そうとしている…
    エレン、私の後ろに下がっていて」







    「!?
    ちょっと待てよミカサ!!
    殺そうとしてるってどういう事だよ!?」






    ミカサのあまりにも突飛な発想に俺は動揺した。




    そんな訳ねぇだろうと…








    けれどすぐに、ミカサの言ったことが正しいのだと正しかったと思い知らされる。











    「調査兵団共!!!
    超大型巨人及び鎧の巨人は仕留めたのか!?」




    最初に口を開いたのは駐屯兵団だった。




    距離が離れているせいで声をかなり張り上げないと、とてもじゃないが届かない。





    「あぁ!!ちゃんと2体とも確実に仕留めたよ!!
    それより、重症者がいるんだ!
    手伝ってくれないか?」





    ハンジさんは警戒しつつ、少しずつ壁との距離を縮める。






    「ねぇ!?
    手伝わないならそこをどいてくれない!?
    空を見れば分かるようにもうすぐ嵐も来る!!!
    急いでるんだ!!!」







    ハンジさんがどれだけ声を荒げても向こうからの返答は無く、ただ壁の上で何かをコソコソ話すばかりだった。








    そんな事をしている内に、荷馬車から1人の兵士がすごい勢いで飛び出して来た。






    「ハンジ分隊長!!!
    モブの出血が止まりません!!!
    これ以上時間が掛かると彼はもう…」




    1分1秒を争う事態だが、駐屯兵団が俺逹に敵意を向けている限り身動き一つ取れなかった。












    「ちっ…
    もうラチがあかないじゃないか!?!?」






    「おい!ハンジ、落ち着け!!!」





    ハンジさんはしびれを切らしたのかリヴァイ兵長の声に一切反応せず、一目散に壁の方へと走り出す。


  47. 51 : : 2015/08/03(月) 21:01:17
    「おい!!!
    それ以上近づくな!!!」




    駐屯兵団がそう叫んだ頃、既にハンジさんは立体起動装置で壁を登り始めていた。





    「ハンジ、一度降りろ!!!」





    リヴァイ兵長が後を追いかけ、ハンジさんを連れ戻そうとした時にはもう遅かった。








    駐屯兵団が数人がかりでハンジさんを壁から蹴落としたのだ。






    「あっ…」





    立体起動装置のアンカーが壁から抜けてしまい、ハンジさんが頭から真っ逆さまに落ちていく。





    リヴァイ兵長がハンジさんを受け止めようと全速力で走り続ける。





    その時、俺逹はその場を一歩も動き出せなかった。




    ただ口を開けて、呆然と見ているだけだった。






















    「ハンジ!!!!」



















    いよいよ雨が降り始めた。







    雨が地面に打ち付けられる音が耳に入ってくる。








    それと同時に骨の折れる痛々しい音と重く鈍い音が風に乗って耳にこびりついた。











    リヴァイ兵長の腕は、ハンジさんに触れる事が出来ず虚しく空を切った。








    リヴァイ兵長の伸ばした腕から1メートルほど先の地面にハンジさんは勢いよく叩きつけられた。



  48. 52 : : 2015/08/03(月) 22:04:23




    「ハ…ハンジさん…!?」




    「大丈夫ですか!?」





    「出血がひどい…!!
    包帯とガーゼを持ってこい!!」






    さっきまでの静かさとは打って変わって、ハンジさんの様子を見て皆は慌ただしく動き出す。







    「ハ…ハンジさん…?」





    俺はハンジさんの隣に膝をついた。








    かろうじて意識はあるようだったが、出血がかなり酷い。








    「ねぇ…リヴァイ…」






    雨の音に負けてしまいそうなハンジさんのか細い声は、明るくてひょうきんないつもの面影はどこにもなかった。






    「なんだ…!?
    どうした…!?」






    リヴァイ兵長がハンジさんの手を強く握りしめる。






    「あのね…
    私…ずっとリヴァイに秘密にしてた事があるんだ…」







    「…なんだ?」





    「笑わないで聞いてよ…
    私ね…いつの間にか、リヴァイの事が好きになってたみたいなんだ…
    困っちゃうよね…」







    ハンジさんは少しニコッと笑って見せたが、その笑顔は悲痛に歪んでいるように見えた。





    「ハンジ…」





    「あ…やっぱり笑って…?
    というか、笑っちゃうでしょ…
    私がこんな事いうなんて…

    でも好きだよ、リヴァイ…」










    それがハンジさんの最後の言葉だった。








    ハンジさんは静かに目を瞑り、息を引き取った。









    いつも巨人の話ばかりしていて、すぐに俺で実験しようとするあのおちゃらけ者のハンジさんが…





    ハンジさんの事だから死んだフリをしているんじゃないか。






    すぐに目を開けて「嘘だよ〜!!ビックリした!?」って笑いながら言ってくれると思った。





    けれど、もうハンジさんが目を覚ますことはなかった。










    「ハンジ…助けてやれなくてすまなかった…」






    怒りからか、悲しみからかリヴァイ兵長の体が小刻みに震えている。











    「最終警告だ!!!
    それ以上壁に近づくな!!!
    近づけばハンジ・ゾエと同じ運命を辿ってもらう!!!!」






    駐屯兵団がより一層声を張り上げて、俺逹に最終警告を告げた。








    「うるせぇ、豚野郎…」







    リヴァイ兵長は鈍になってしまった刃を手に、一歩一歩壁へと歩き出す。








    「おい、リヴァイ…
    警告が聞こえんかったか?」







    「リヴァイ兵長無茶です!」







    「戻ってきて下さい!!!」







    俺逹は必死にリヴァイ兵長の後ろ姿に声をかけた。





    先程の巨人との戦いでリヴァイ兵長は人並み以上に動き回り、巨人を討伐したに違いない。




    そうなればリヴァイ兵長のゴンベにガスはもう無いに等しいハズ…





    それに手元にあるのは鈍になった刃2本のみ。





    人類最強と言われるリヴァイ兵長でも、この条件ではほぼ負け戦だ…。




  49. 53 : : 2015/08/04(火) 07:42:57
    どうすればいい?





    ここで俺が巨人化すれば、勝てる可能性はあるかもしれない。





    俺は自然と口元に手を持っていく。







    その時、1発の銃声と唸り声が聞こえた。








    「うっ…!?」







    「コ、コニー!?
    大丈夫ですか!?」






    「あ、あぁ…
    腕をかすっただけみたいだ…」









    コニーが撃たれた?




    誰に…?





    俺は壁を見上げる。







    そしてようやく気付いた。






    駐屯兵団に混じって、中央憲兵の奴らもちらほらと居やがる。






    そして、その中央憲兵の手には銃。






    その銃口は俺たちへと向けられている。









    「エレン・イェーガーに告ぐ。
    今度巨人化する素振りをしてみろ。
    皆殺しにしてやる、この悪魔が!!!」







    皆殺し…?




    悪魔…?





    どうして俺逹に敵意を向けられているんだ?



















    「あぁ…最悪だ…」










    ジャンが後ろを振り向いたかと思うと、その場にへたり込む。








    聞き覚えのある無数の足音。





    地面が微かに揺れる。








    「きょ…巨人が来た…」







    いや、今まで現れなかったのが幸運なくらいだ。





    巨人が来るなんて当たり前の事だ。





    だってここは壁外なんだから。







  50. 54 : : 2015/08/04(火) 10:23:58
    どうする?









    どうする?


    どうする?


    どうする?







    ここにいる調査兵団のほとんどが、もう刃もガスも無いだろう…





    そんな中、巨人と戦うのは無理だ。






    けれど俺が巨人化しようとすると、仲間が駐屯兵団や憲兵団によって殺される…









    「おいエレン、仲間を連れて逃げろ」






    「リヴァイ兵長!?」







    「情けねぇが、俺にはもうほとんどガスが残ってねぇ。もって数分ってところだ。
    だから、申し訳ねぇがここに居る全員を守る事は出来ねぇ。
    …だが、ハンジの仇は絶対に…」





    そう言うとリヴァイ兵長は立体起動装置で壁を登り始める。







    すかさず、駐屯兵団や憲兵団がリヴァイ兵長を殺しにかかる。








    「おい、エレン!!!!!
    お前は俺と同じ運命を辿るな!!!!
    いま、仲間を助けれるのはてめぇだけだ!!!
    …大事な人をこんな所で失うんじゃねぇ!!!」









    巨人がもうすぐ側まで迫ってきている。










    「ちっ…」








    ミカサが刃を抜き、巨人に向かって走り出そうとする。









    「待て…ミカサ!!!
    皆、俺の方へ来い!!!」










    俺はいつも何かの決断を迫られる。








    でも、俺にはそれがとてつもなく苦しかった。









    いつだって、









    俺の判断ミスのせいで大切な人を失ってしまう事になるから。







    「撃て!!!!!」










    容赦なく、砲弾や銃弾が降り注ぐ。







    「早く来い!!!!!」







    その間もリヴァイ兵長は次々に駐屯兵団や憲兵団をなぎ倒している。









    「早く!!!!」








    降り注ぐ銃弾が、次々と調査兵団の体を貫く。









    1人、また1人とその場に倒れていくその様はまさに地獄だった。















    「…今から俺は巨人化する。
    しっかり掴まれよ…」












    雨は今もなお降り続いている。









    少し遠くで雷の落ちる音も聞こえた。












    巨人化した俺は仲間を連れて無我夢中で走った。









    後ろからは立体起動装置を使って憲兵団が追いかけてくる。







    「エレン、奴らは馬を持っていない。
    だから出来るだけ平地を走るんだ。
    平地では立体起動装置は使えないから、きっとうまく逃げ切れるよ…」










    アルミンからの助言で俺はなるべく平地を走った。









    ずっと、ずっと力の限り走り続けた。














    その間、俺は一度も後ろは振り返る事は無かった。



  51. 55 : : 2015/08/04(火) 13:00:51
    ーーーーーーーーーーーー



    それが昨夜起きた話だった。




    そして俺逹はあれかは必死に逃げ続けここ、ウォールマリアの廃墟へと逃げ込んだ。







    しかし、ここまで逃げて来れたのは104期のみだった。








    「もしあの時、俺が巨人化していればハンジさんは助かったんじゃないか…
    もしあの時、リヴァイ兵長と戦っていればもっと救える命はあったんじゃないか…
    ずっと、ずっとそんな事が頭の中で渦巻いているんだ…」






    俺は思わず声を上げて泣いた。





    子供のように、泣く事しか知らないかのように泣き続けた。













    「なぁ…エレン」






    そんな俺に声をかけて来たのはジャンだった。





    「俺さ…昔は自分さえ良ければそれで良いと思ってたんだ…
    だから絶対憲兵団に入って楽して生きてやろうなんて思ってた」







    ジャンの声は掠れ、時折鼻水を啜るような音も聞こえた。





    「正直、俺はお前みたいにいつでも死ねる覚悟なんてなかった。
    いや、誰だってそうだったと思う。
    けど憲兵行きが決まった次の日…また壁が壊された。
    不運にもあと1日、壁が壊されるのが遅けりゃ俺は巨人と戦わずにすんだのに。
    最悪だったさ…」








    本当はずっと前から知っていた。








    「で、次の日の掃討の時もっと最悪な事が起きちまった。
    いや…見ちまったんだ」






    ジャンは誰よりも友達想いで








    「最期をだれにも見られずに冷たくなったマルコを…」







    真っ直ぐで








    「その時思ったんだ…
    もし俺が憲兵団に入っちまったら、調査兵団を志願したお前らは…
    マルコと同じように、俺の知らない時に知らない所でいつの間にかいなくなってるんじゃねぇかって…」






    人間らしくて







    「それが怖かった。
    もう、知らない間に仲間を失うなんてごめんだった。
    だから、俺はお前らと一緒に調査兵団を志願した」







    いい奴なんだって。







    「だからよぉ、エレン。
    ハンジさんやエルヴィン団長、きっとリヴァイ兵長ももうこの世にはいないだろう。
    けどな、俺は心底お前ら全員が無事である事に安心してるんだ…
    最低だろ…」




    ジャンは力無く笑う。








    「ジャン…
    私だって本当はそう思っちゃいました…
    リヴァイ兵長や上官方がいなくなってしまった悲しみより、私達104期が無事だった事の安堵感の方が遥かに大きかったです…」






    サシャの言葉に全員が頷く。






    「エレン…あなたは自分を責める事はない…
    私達は無事なのだから…それを喜べばいい…」






    みんなの気持ちが、みんなの優しい言葉がより一層俺を泣かせた。





  52. 56 : : 2015/08/04(火) 13:44:33
    「後な、エレン。
    最後にお前に伝えたい事があるんだ。
    俺逹をここまで無事に連れてきてくれてありがとな…
    俺達を守ってくれて、助けてくれてありがとな…」






    「おいジャン…
    お前がエレンに対してそんな事言うなんて気持ち悪りぃ…」







    「うるせぇ、コニー。
    伝えたい事は、お互い生きてる内にしか伝えられねぇからな…」







    俺はきっとこの世で1番、最高な仲間を持ったにちがいない。





    俺も…伝えなきゃ…






    「俺からも…
    皆、俺の事を信じてくれてありがとう…
    こんな俺の事を仲間と呼んでくれてありがとう…
    お前ら、本当に最高な仲間だぜ!!」








    「ちっ…ちくしょう!
    エレン!!!!」





    俺が話し終わると同時に、ジャンが俺の事を強く抱きしめてきた。





    「お、おいジャン…!?」




    ジャンを引き剥がそうとすると「あ、ジャンずりぃ!!!俺も!!!」とコニーまで抱きついてきやがった。





    「ふふふ…エレン、私からもありがと」






    「ク…クリスタ…
    私もエレン以上に頑張ったぞ!?」






    「何だかわかりませんが、私も抱きついておきますね!!!」





    「…エレンは私のもの」




    「エレン!!
    僕も昔からずっと伝えなきゃと思ってたんだ!!
    いつも、助けてくれてありがとう!」










    そしてその後、俺逹は何故かみんなで大笑いした。





    久しぶりにこんな笑った気がした。




    そして、なんだか訓令兵時代に戻ったような懐かしい感じがした。





    こんな状況でもこいつらがいてくれるだけで、俺は幸せだと思えた。






    俺逹はもう2度と、壁の中へは帰れないだろう。





    調査兵団は壁の謎や記憶改竄の事など様々な知識を得てその上、どの兵団よりも圧倒的な戦闘力がある。




    そして唯一壁を壊せる超大型巨人及び鎧の巨人がいなくなった今、人類にとって俺逹調査兵団は不必要となった。




    更に、王政の事や記憶改竄の事などのタブーを全てを知ってしまった俺逹を生かせてはおけないのだろうとアルミンが言っていた。






    確かにこれからは壁を壊される心配はもうない。






    だから壁の中に巨人を入れない限り、また何百年と平和が続くだろう。







    しかし調査兵団には唯一、民間人はおろか他の兵団にまで他言しなかった秘密が1つだけある。





    それが獣の巨人の事だった。





    発表してしまえばひどい混乱を招くと考え秘密にしていた事が、とうとう最後まで調査兵団以外誰も知らない秘密となってしまった。







    だから人類は知らずにいるんだ。







    獣の巨人は、人を巨人に変える力があるという事を。






    そしてそいつは、わざわざ壁を壊さなくてもよじ登って内側に入ってこれる事を。


  53. 57 : : 2015/08/04(火) 13:58:12
    「よし、本当にそろそろ行こうか。
    いつ追っ手が来るかわからないし、もう辺りは暗いから巨人は活動していないハズだ」





    俺逹は重い腰を上げる。





    「あぁ…
    けどよ、本当に海なんてあるのか?」




    ユミルが伸びをしながらアルミンに尋ねる。








    「さぁ…実際僕も本でしか見た事ないからね…
    けどこの世界のほとんどが海で出来ているらしいから、本当にあるとしたら1番辿り着く可能性は高いね」






    この廃棄に辿り着いた時、俺逹はまずこれからどうするかを考えた。






    壁の中へは帰れない。




    けれど壁の外をうろついていれば巨人に食い殺されるだけだ。






    そんな時アルミンが昔教えてくれた話しを思い出した。




    『この世界のほとんどは海っていう水で覆われていて、その水は塩水なんだ!
    他にも炎の水や氷の大地、砂の雪原なんかもあるらしいよ!!!』




    昔はよく、2人で外の世界の想像をしてはあーだこーだと話し合ったものだ。






    あの時は夢のように感じた外の世界。






    けれど外の世界へ放り出された今、絶好のチャンスじゃないだろうか。






    ただ何もしないまま巨人に食い殺されるなんて嫌だ。







    俺はダメ元で話を持ち掛けた。





    やっぱりむやみに外をうろつくと巨人と遭遇する確率は格段と上がってしまう。




    それに、サシャやジャンなんかは壁の中に家族がいる。





    きっと、反対されるだろうと思った。




  54. 58 : : 2015/08/04(火) 14:53:57
    しかし意外にも、皆は俺の話に耳を傾けてくれた。




    そして反対する所か、興味津々といった様子だった。






    「炎の水ってどんなのですか!?
    それは美味しいんですか!?」







    「氷の大地か〜
    きっと綺麗なんだろうなぁ…」






    皆それぞれ目を輝かせていた。





    …きっと皆同じ気持ちだったのかもしれない。





    意味もなく死ぬなんて嫌だ…と。







    そして話し合った結果海に行く事に決まったのだ。





    決め手はアルミンの一言だった。






    『海の向こうには他の大陸があるらしいんだ。
    無論、その大陸は実際に存在するのか分からないけど…
    でも…もしかしたら他の大陸には巨人はいないんじゃないかって思うんだ…
    僕の勝手な憶測だけどね…』






    巨人のいない大陸。




    本当にあるのならそこは楽園だろう。





    けれど実際、壁の外は謎だらけだ。





    壁の外を知る者は誰一人としてこの世にはいない。






    だからこそ確かめたい。








    「よし、追っ手は来てないみてぇだ」





    ジャンがそっと窓から顔を覗かせる。





    「コニー腕の調子はどう?」




    「あぁ、少し痛むが出血も止まったし大丈夫だ!」








    「ユミル、体調は大丈夫なの?」




    「あぁ、ここまで回復したら巨人化するのに何の問題もない」








    これから未知の世界へと飛び込むというのに、みんなの目は心なしか輝いていた。







    「よし、じゃあ外に出よう」






    周りに警戒しながら静かに外へ出る。






    幸いにも巨人は近くにいないようだ。








    「あ、雨上がってるね!星が綺麗〜」





    クリスタがそう言うもんだから俺逹は一斉に空を見上げる。








    空には数え切れない程の星が輝いていた。





    こうやって空を見上げるのも久しぶりだ。











    「じゃあ、巨人化したエレンには僕とミカサとジャンが後はユミルの方に乗せてもらおう」






    いよいよだ…







    いよいよ昔から夢にまでみた冒険が始まる。







    今まで辛い事がたくさんあった。






    けれど俺はこいつらのおかげで、ここまで来れたんだ。








    「なぁ、お前ら」






    皆一斉に俺の方へと振り返る。







    「俺は…






    お前らに心臓を捧げる!!!!」








    俺がそう言って敬礼すると、皆も笑顔で敬礼してくれた。










    「よーし!!
    行くぞー!!!」































    この残酷な世界で彼らは夢を抱き続け、希望を捨てる事はなかった。











    ただ前だけを向き走り出した彼らはやがて夜の闇へと消えていく。









    その姿はとても美しく見えた。













    そしてその後、人類がどうなったのか。








    彼らはどうなったのか。










    誰にも知る由はなかった。















    END





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ayana0518

進撃のあっち

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