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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品は執筆を終了しています。

―◇其の名は生命(いのち)◇巨人と出会い、狂喜する◇狂気のハンジ・ゾエ―

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  1. 1 : : 2015/05/04(月) 17:43:49




         ―――――前書き的な何か―――――




    はいどうも御機嫌よろしゅうです(´・ω・`)


    連休という事でちょっぴり執筆的な行為に割く時間を
    得る事が出来たこの度、他にも沢山書きたい事がある最中、

    いい加減前から書きたくて書きたくて仕方の無かった
    ハンジさんもので一つ中途半端に書いて置こうと思い、
    こうして書き始めました。・・まず、長引いてるあっちの
    方を楽しみたいのも山々なのですが、一旦また何か
    書きたい事が思い出されてしまうと、これが消えるまでに
    何とかしておきたいのも性分ですので・・・仕方ないですね
    (;´・ω・)


    そんなこんなで、最初に書き始めるきっかけとなった、
    ハン×エレものの・・・一応続きの様な前日譚のような
    なんか訳わからんものになります。


    しかし話の内容からしてエレンとハンジさんの絡みが
    少なく、むしろ兵長やミケさん、モブさんが主軸となってくる
    様な感じの今回。相変わらずシリアスなんだか、
    ギャグなんだか、メタなんだか分別のつかない物となって
    おりますので、万一読んでしまって不快な気分にさせて
    しまった場合は申し訳有りません!


    尚、このお話は先述の通り、随分前に書かせて頂いた


    “ハンジ「エレェェエエエエン!!!!」”の続きとして
    エレン本人が其々に"あの人"のお話を伺う・・・

    という内容の話になっております。

    以下、恒例の簡易注意点になります
  2. 2 : : 2015/05/04(月) 17:46:10



           ※今更かもしれませんが※


    こうして但し書きをして初めて投降させて貰ったあの頃が
    懐かしい限りですが・・・・当SS的な何かの中では、ハンジさんは
    “女性”として描かれています。・・・もう既に作画兵団の
    方々や造形師様方の立派な活躍により彼(女)の雌雄判定は

    ほぼ確実なものとされてはおりますが、まだ今以て、
    BL的リヴァ×ハン帝国の牙城を崩させまいと最後まで
    戦い抜く歴戦の勇士が生存しているのもまた事実ですので、
    そこは誤解の無きように最初に申し上げておきます。



          ※著しく凄まじい猛烈なキャラ崩壊※


    先ずハンジさんです。こちらのハンジさんに関しては出来るだけ
    原作的な、理知的でおしとやか、かつどこか抱擁感溢れる
    素敵な人として描いていきたい腹積もりでしたが、過去回想
    的なパートに入るにあたり、その辺りも色々ぶち壊しです。

    余りにもぶっ飛んでしまっている部分も多少ありますので
    ファンキー描写、要注意です。

    (ファンキー:おびえている・いやなにおいのする・一風変わった)


        ※改行形態の一時変更・セリフ等の一時改変※


    アニの話で試験的に行った物を更に改行を少し伸ばして
    あります。・・ので、PCの人にとっては幾らか
    読みやすくなるか。


    非常に読み辛い話で読みやすさを考慮するのも
    おかしな気配りですが・・^^;

    あと、台詞括弧の前に、キャラ名を入れない方式です。


         ※いつも通りの、原作、TV、スピンオフ全話
         ネタバレ、そしてそこかしこに転がる矛盾と、
         深刻なキャラ崩壊。そしてパロディ要素※



    原作全巻の既読に、アニメ全話と、限定版付属DVD全話に関する
    ネタバレ要素アリの方向でお願いします。・・・ただし、設定の
    不備などに関しては・・・公式ですら各所に矛盾点と
    断定はできないものの、それと思しき記載も散見されるため、
    その辺も大目に見て貰えたら有難いです。

    (一例・ミケさんの壁外遠征経験値等。一部紹介欄では
     ミケさんの壁外遠征における参加頻度は兵長やハンジさんより
     劣っているとの記述がありますが、外伝を見る限り、
     兵長がミケさん以下の在籍年数である事は確実ですので、
     壁外遠征そのものが、団員全員強制参加であった場合には
     その記述は矛盾したものとなります。)





      ※性的な描写は最後の方までは多分無いと思います※



    ・・・それらに帰属するジョークはありますので、普通に
    チェックは入れてますが、折角なのでそういった事も最後の方で
    少しは書いてみるかもしれません。危ないと思ったら、
    ◆◆◆←こんな感じの警告線を挟みます。
    どうしてもエロスを払拭しきれない、そんな人間。




            ※モブリットさんの喋り方※

    これがもっとも苦難した部分ですが。個人的に受け入れられない
    方は多いと思いますのでそんな場合はスミマセンm(__;)m

    何せ彼が長々とサシでエレンと話してたりだとか
    そう言うシーンってない物なので・・・・彼の過去に関しては
    完全に謎に包まれているというのも有り、その辺は完全に
    好き勝手やっちゃっています。改めて、なんかすみません。。



             ※オリキャラについて※

    一応創作設定としてそんな人たちも出てくる事にはなりますが、
    モブリットさんならぬモブ兵さんや、チョイの間の兵士など、
    固有名詞や特別な役どころという訳でも無い為、この辺りは
    オリキャラという認識から外させて頂きます



             ※頂いたレスについて※

    書き込みは可能ですし、万一何かお言葉を頂ければそれは
    どの様な方向性にしろ有難くレスを返させて頂いた上で
    一定時間経過後、非表示に切り替えると思いますが、そこは
    ご容赦の程をm(__)m
  3. 3 : : 2015/05/04(月) 17:49:11





           ―リヴァイ兵士長の証言―






    ハンジ(あいつ)との馴れ初めだと・・・・・?」
     ジロリ・・・・・






    「え・・・・あの、はい。。もし差し支えない様でしたら
     是非兵長の口からもお聞きしておきたいと思ってたので…
     あ、あの、迷惑でなかったら・・、ですけど」




    申し訳なさそうに引き攣りながら何かマズい事を
    聞いてしまったかとその頬に一筋の雫を走らせて尚も
    尋ねるエレン。



    対してリヴァイの方は声色こそ怪訝そのものといった感じでは
    あるものの、普段の彼を良く知る者からすれば寧ろこの程度は
    不機嫌の内にも入ってはいない程度の表情変化である。




    そこまでの見込みが間違っていない事を信じて
    己の疑問をぶつけるエレンであったが・・・・




    「最初に言っおくが・・・俺はあいつの恋人でも何でもねえぞ・・・
     第一今はお前が半ばそんな立ち位置に居るんだろうが・・・。


     いや・・・飼犬と飼い主だな・・・あれじゃあ。


     ・・・・ともかく、“馴れ初め”ってのは
     普通そういう間柄にしか使われねえ言葉だ。


     誰かに誤解される前にその認識を正しておけ。いいな」





    「すっ・・・スミマセン!;」ババッ







    「・・・で、何だ。つまりお前は今・・・俺とあいつが・・・・初めて
     調査兵団(ここ)で顔を合わせた時の事を・・・聞きたいって言ってんのか。」


     


    「は・・・・ハイ!!ハンジさん自身に先に伺う事も
     考えはしたんですけど・・・その、何と言ったらいいか」




    「・・・・顔に書いてあるぞ・・・・お前の懸念は大方的外れじゃねえ。

     そんな事を聞こうものなら必ずどこかで楽しい楽しい
     巨人の話(脇道)に逸れて・・・そのまま本筋には二度と帰って来れなくなった上に
     明日の草毟りにお前ら揃って寝坊する羽目になる。

     初顔合わせとなりゃ正確には中途入団のその日って事になるが
     …直接顔を合わせるに至ったのは壁外遠征の野営の最中だ。
     
     ・・そうなれば後日現れて当時の団員の頭数を目一杯
     減らしてくれやがった奇行種の話に飛び火するのは
     いたって自然な流れだしな」






    「へ・・・兵長・・・まだ何も言ってないんですから
     心を読まないで下さい・・・・///; って・・あれ、兵長今・・・・」






    「・・・・・どうした」






    「、中途入団って言いませんでしたか・・・・?
     ハンジさんって・・別の兵団から調査兵団に
     転向したんですか?!?」




    「・・・・・・・」




    「・・・・何か盛大に勘違いしてる様だな・・・・眼鏡(アイツ)は調査兵団じゃ
     俺より古参だぞ。・・・班の中の誰かしらから訊かなかったか・・・・
     俺が地下街の出自だって事を。途中からここに来たのは
     寧ろ俺の方だ」





    「・・・・・・!!!!!
     そういえば・・・ペトラさんにそんな事を言われてた
     気がしましたが・・・すっかり失念してました・・!
     兵長が地下街出身だなんて・・その、余りに
     イメージとかけ離れていた物で・・・・・;」





    「人に限らず全ての物事に於いて対象を見た目だけで
     判断しようとするのは止せ。俺より整理整頓に煩い
     地下街の住人も居れば・・・地下出身の俺よりも
     身嗜みに無頓着なズボラ女だって探せば
     近くに居るんだからな・・・・」




    「は・・・はい・・・;」





    「ともかくそういう事なら・・・話すのは面倒だが部下の寝坊を
     防ぐ為にも俺には班長としてその問に答える説明義務がある。

     ・・・そういう事になっちまうだろうが」
  4. 4 : : 2015/05/04(月) 17:55:42



    「あの・・・なんか、すみません・・・」





    「・・・過度には気にするな。前も言った筈だが・・これでお前には
     俺達特別作戦班全員が・・・割と感謝してるんだからな。

     ・・・正直な話、お前にぶっ倒れられてまたメガネの御守が
     誰か別の奴に委ねられることになったりしないかと心配すら
     している始末だ。分ったら自分の身体を第一に気遣え・・・・。

     ・・・俺達の為にな。」






    「ぅ・・了解です・・・」バッ!!




     


    「さて・・するとどこから話すのが分かり易いか。
     
     ・・・あれは・・俺が壁の外を初めて拝んでそこから
     帰って来てからの話だったか。」






    「、、、」





    「・・・だが誤解を生む前に先んじて言って置くぞ。

     今しがた言った様に正確には俺が初めてアイツに
     声を掛けられたのは壁の外だった訳だが・・・その時は
     俺に昔馴染みの“連れ”が居た。アイツとしちゃ
     俺よりどちらかと言えばその“連れ”に話しかけた
     体だったが・・・」



    「(兵長に・・・・昔馴染み・・・・?)」




    「そこまで話せば馬のクソの様に話が長くなっちまう。

     ・・・そもそもそれから後に二言三言初めて会話したのも
     壁の内側に這う這うの体で俺達全員帰還してからの事だ。

     ・・・そこからになるが別に構わないな・・・?」





    「ぁ・・・・はい!勿論です!!!!」






    ―――

    ―――――






    現在の壁外遠征にてその機能性を確かなものとして確立させた、
    エルヴィンスミス現団長が考案した長距離索敵陣形であるが・・・・


    その陣形の試験的な採用から初の壁外遠征・・・


    記念すべき初陣ともいえる日こそが・・・若りし頃の
    リヴァイにとっての初陣でもあった。



    当陣形の採用から初の実戦とは言え途中まではそれなりに
    機能していた陣形と、信煙弾による索敵伝達網であったが・・




    神による試練か、はたまた悪魔の気まぐれか。


    “天候”と言う名の全生物に等しく制裁を下す不予知の猛威が…
    彼らの陣形組成と視界を妨げ・・・また、運命と示し合わせた様に
    そこに偶然居合わせた奇行種の濃霧に乗じた奇襲により、

    出発翌日にして早々に総兵力の3割以上を失う結果を
    迎える事になる。



    ――討伐ありきではなく、如何に巨人の顔を見ずに躱しきって
    前進するか。・・・その考えは非常に理に適っていた筈であり、
    陣形の運用法も索敵伝達網の着想も概ね間違っては居なかったが

    ・・・そこに自然の摂理とその都合がうまく介在するとは限らない。


    結果天気の気まぐれという要素のみに新兵、熟練兵併せて
    相応以上の犠牲を払う事になってしまった手前、

    初の実戦投入にも関わらず、それ以上の作戦続行は最早被害を
    拡大するだけであると判断した当時調査兵団の長を務めていた
    キース・シャーディス前団長は・・・


    苦虫を噛み潰すという表現すら生温い苦汁を脳裏に湛え・・・


    天候の回復を転機に早々と帰還する道を選ぶ事を
    余儀なくされた。






    ・・・これはその数日後の話――


  5. 5 : : 2015/05/04(月) 17:59:22





    ―――十数年前・・調査兵団活動拠点内・食堂にて―――






    「やあやあ、災難だったね。お友達が巨人に
     食べられちゃったんだって?それも初陣でいきなり
     雨天、濃霧、奇行種の豪華三点盛りと来たもんだ。
     
     ・・・心中お察しするよ。私なら初っ端からこんなの
     絶対に耐えられっこない」ウンウン





    「・・・・何だ手前ぇは」





    「何だっ....てそりゃないよ!!!?ほら、此間の遠征!!

     覚えてないの?!御菓子をあげた時に名前も聞いたし
     自己紹介だってしたじゃない!!・・・・私は覚えてるよ!?

     君は・・ほら、“リヴァイ”だ!・・・それで・・
     今回の遠征で命を落としてしまったっていう
     あの明るくて気の良さそうな子が・・・“イザベル”で、
     世渡りが上手そうな彼が・・・“ファーラン”だったろ?」




    「・・・・・・」




    「ま・・・、間違って・・・ないよね・・・?;」




    「間違ってはいねぇが。」





    「(ホッ・・)私の名前だってそんな憶え辛い感じじゃあ
     ないだろ?ほら・・私の名前は・・・」




    「馬鹿にするな。・・・名前くらい憶えてる。

     途中からずかずかと入って来て幅を利かせてた事で少なからず
     煙たがられている筈である余所者同然の俺達に対して・・・

     眼鏡をかけた変人が積極的に話しかけてきたら
     忘れたくても忘れられるか。

     ・・・しかもソイツの名前が外見も相まってまず野郎にしか
     見えない類のモノなら・・・尚更な」





    「っ・・・・///;」





    「(コイツは・・・今一何を考えてやがるか得心がいかねえ。
     どの世界でも言える事だが訳の分からねえ奴とは
     極力関わり合いにならねえ。・・・これに尽きる。)」





    「びっくりしたなぁ・・しょ、初対面で誤解されなかったのは
     随分久しぶりだったから・・・ちょっと何か嬉しいな・・・////」





    「俺が聞いたのはお前の名前についてじゃねえ。

     そこまで聞いてるなら理解できてるだろう。
     俺が今どういう気分でこうしてお前を睨んでいるか、
     それ位の事はな・・・・
     

     それを・・・・何だ・・・・?エルヴィン・スミスといい、
     お前といい・・・調査兵団の連中ってのはそういう
     デリカシーの無い連中の集まりか何かなのか」





    「おもっきしスルーされちゃったよ畜生!!(泣)

     ぇえと、何・・・デリカシー・・・?いや、それは私だって
     勿論そういうつもりで話し掛けたんだってば。

     失意に落ち込む仲間を元気付けるのは共に戦う
     仲間の役目だろ!ホラ!」バッ





    リヴァイへと己が両腕を目一杯に広げ、
    何かを促すハンジ。一方その仕草を心底怪訝そうな
    眼差しで睨むリヴァイ。ただでさえ細い三白眼が
    彼の不快指数を表すように更に狭まる。







    「・・・・何のマネだ。その格好は」





    「壁の外じゃそんな暇はないけどさ・・・、
     ここはもう・・・壁の中だ。本当に辛い時は・・・
     仲間を失ったりしてやりきれない時は、意地を張らずに
     思いっきり泣くべきだ。・・・だからホラ、遠慮せずに
     お出で?」ホラホラ




    「・・・・」




    口上だけ読み取ろうとしたならば・・・・人によっては
    軽く愚弄と受け取られかねない申し出であったが・・
    目の前の調査兵団一等兵ことハンジ・ゾエ。

    生憎当の本人の顔からは・・・それが冗談や挑発の類である、
    といった感じは全く見受けられない。
    本気でその顔からは涙を受け止める為にも
    自らの胸を貸そうという心意気が見て取れる。



    しかし、その事実を受け止めた上でそっけなく
    あさっての方向へとその仏頂面を向けるリヴァイ。
    そして間髪入れずに・・・・





    「・・・・・一ついいか。お前が俺をバカにしてるか
     本気で心配してるか・・・それ以前の問題がある。」





    「・・・・・ん?何だオイ、ひょっとしてキミ、
     恥ずかしがって照れてるん(ry...


    「・・・・・臭ぇんだよ・・・・!(ギリッ・・)女だって自覚があるなら
     もう少し身嗜みに気を向けたらどうなんだ・・・・・え?

     髪まで油で鴉みてえな色に光らせやがって。
     馬の尻尾でもまだそこまでギトギトしてねえぞ」



  6. 6 : : 2015/05/04(月) 18:01:25





    一切歯に衣着せぬ率直な言葉の刀身で
    これを一刀両断の元に迎え討つ。


    その口ぶりからは一切ジョークの片鱗すら感じとれない。
    本気で忌避の感情を前面に押し出した倦厭っぷりが
    まざまざと現れており・・・・



    単刀直入に言ってその表情は典型的な“ヤな面”である。



    まるで蓋を開けた直後の肥溜めに嫌々柄杓を突っ込んで
    中身を掬い取らねばならない経験の浅い農作業者のよう。




    「なっ??!??!?」
     ガガーーーン!!!!!





    「地下のゴミ溜めにゃもっとヒデぇ奴等は当然居たが・・・

     お前らは何だ・・?物乞いでも浮浪者でもねえだろうが。
     普通に毎日水浴びを許される程優遇された環境で
     どうしたらそこまで落ちぶれた身なりで居られるんだ」





    「わっ・・・!!!わかってるよ!!言われなくたって、
     もっと出来るだけ汗を落としておいた方がいいって
     言う事くらいはさ!!でも・・・正直面倒臭いんだ!!

     日々壁外で得て来た巨人の情報と調査結果を過去の物と
     照らし合わせて研究を重ねていくのに、壁の中でさえ
     大忙しだってのに、この上おフロなんて入って
     無駄にしてる時間なんて無いだろ!?」ガバッ!!
     ナァ!!!?





    「力一杯握り拳振りかざして女が言う事か。

     ・・・・第一そう思うならその貴重な時間を俺なんかに
     ちょっかい出すのに浪費せずに自分の水浴び時間に費やせ。
     
     とにかく一っ風呂浴びるまでは二度とこの俺に
     触れられる距離まで近付くんじゃねぇ・・・!

     次寄って来たら前置き無しにケツを蹴っ飛ばすぞ」
     ギロッ・・・




    「そんなァ・・・;って・・・・そんなに匂うかな私・・・;;
     なぁ、どう思う?モブリット...」クル...
     (クンクン)





    辛辣極まりない・・・とは言え、リヴァイ本人の清潔意識の
    基準から言えば至極当然の叱咤をその身に受け、
    叱られた飼犬の様に項垂れて回れ右するハンジ。




    「常に同じ班で居る所為か鼻が麻痺してしまって適切な助言が
     見当たりません。・・ですが概ね彼の主張は
     間違っていないと思います。

     ・・・という訳で、ショックを受けたのなら是非この機会に
     5日ぶりの水浴びを敢行してきて下さい、ハンジさん。」
     



    その真後ろにて様子を伺っていた、同じ班員の
    後輩でもあるモブリット・バーナー二等兵は、
    困り顔で同情を求める目の前の上官に対し、

    彼女の横着っぷりを念頭に置いた上であえて
    取り付く島を与えないといった返答で以て淡々と
    事実だけを返す。






    「麻痺するってお前!!;そりゃ遠回しにいって
     そんなに匂うって事か!!??;
     
     分かったよもう!浴びればいいんだろ!!水をさ!??
     お前まで私をバカにしやがって!!;」フンフン!!‐3




    「馬鹿にしてるとかじゃありません。

     …ただ、もっとハンジさんには・・・女性としての節度を
     持って欲しいという、班を同じくする者として抱く・・・
     ・・・・これは切実な願いです。」(鼻声)




    「鼻摘みながら言うなよ!!!?;普段そんな事
     してないじゃんモブリット!!??」マジデヤメテ!!



  7. 7 : : 2015/05/04(月) 18:03:45





    ――その翌日・同・食堂にて――






    「どうだリヴァイ!!これで文句ないだろ!」(サラサラ。。)
     ァースッキリ!;




    ガチャガチャ・・・




    「・・・・“どうだ”じゃねえよ。それが普通なんだろうが。

     あと人の食事中に割り込んで来るんじゃねえ。
     お前はお前の場所で喰え」

     


    モブリットの発言に信を置くならば実に
    5日ぶりとなる水浴びと洗髪により、束ねられた
    自らの後ろ髪を見違えるように風に靡かせた彼女が・・・
    再びリヴァイの眼前に立ち塞がる。



    ・・・・が、



    現在リヴァイは他の調査兵同様、食事の真っ最中であり、
    その表現は正しくは立ち、塞がる、というよりも
    座し、塞がるといった所か。通常席数の問題もあるので
    どの食卓にもその着席間隔に空席などは基本的に
    存在せず、キッチリと埋まっている筈であるが・・・

    先の遠征による急な欠員と、リヴァイ本人から放たれる
    威圧的極まりない周囲へと向けられる態度の悪さが・・・
    彼の利用する食卓のみを見事な特等席へと変えていた。


    しかしそんな事など毛程も意に介さず、
    遠慮なしにそのテリトリーへと自らの食事を乗せた盆を
    滑り込ませるハンジ。選んだ席はリヴァイの対面だった。




    「お前ってキミね・・・。一応私、兵団と言う組織単位で
     考えればキミの上官にあたる人間って事になるんだけど
     ・・・ぅうん、まあ、いいや・・・」カタカチャ・・・





    「ハンジさん、慣れない先輩風を吹かせないで下さい。
     正直肌に合ってませんから」カタカタ。。。





    「モブリットは黙ってなさい!」メッ!!





    その様子を後方にてすれ違いざまに見届けながらも
    軽く牽制して往くモブリット。


    流石に彼までもはリヴァイと同じ食卓に着こうとはしないものの

    危なっかしい直属の上官が、あまり人当りの良くない新兵と
    何らかの諍いを起こさぬようにと場所の近い椅子を見つけ、
    その視線を此方から離さず腰かける。





    「・・・・お前よりあっちの二等兵とやらの方が
     よっぽど兵士としちゃ真っ当な性格をしてそうだな。」





    「・・・言っとくけどあんなんで、同じ二等兵でも
     キミより立場上は上なんだからな!ピッカピカの
     一年生であるキミよりはね!」フンフン(´Д`)⁼3




    「別に馬鹿にした物言いはしてねえよ。

     寧ろ褒め称えてやった位なんだが・・・。
     
     無視できねえ問題を抱えた上官の監視をやりながら
     自分の仕事までこなさなきゃならねえ・・・
     
     難儀な話だな。俺なら所属の転向を訴える」スッ・・・




    「・・・もう慣れましたから・・・・。」




    食事の締めに紅茶を煽りながらも向けられた
    同情の言葉に、沁み沁みと返すモブリット。


    その表情にはとても今期入隊の新兵とは思えない哀愁と
    疲労感が漂っており、彼の表情を照らし出す
    蝋燭の灯りまでもが・・・その表情を薄幸気味に照らし出す。
     


    「や・・・。そういった自由は我々には無いよ、
     私も彼も、そして君も、与えられた任務の為だけに
     この兵団、そして班の括りを与えられてる。
     
     ・・・・違うかい?」クィクィ




    「尖った食器の先端と指先で他人様を指すな。
     親にそう習わなかったか。」ズズ・・・




  8. 8 : : 2015/05/04(月) 18:06:27




    「ムム・・・;地下街出身って話なのに何て細かい所まで
     礼儀に煩いんだ・・・・。もっとフランクな
     態度で接してくれる物とばかり思ってたのに。」




    「オイ・・・・。地下出身ってだけでそいつら全員を
     いいかげんな人間と判断するな。

     現に地上に居住権を持ってるだけでなく安定した
     生活と衣・食・住が約束されていながら・・・
     
     あんな鈍く輝く髪の毛を恥ずかしげも無く人前に
     晒してる奴だってこうして目の前に居るんだからな。」




    「キミって外見と雰囲気に関わらず結構喋る時は
     喋るんだな!!それと一々言う事が酷くないか!!?」




    「酷くねえし、当たり前の事しか言ってない。
     それから見た目と口数の多さは何の関係も無ぇ。

     ・・何よりさっきからお前に言おうと思ってたんだが」





    「・・・・あむ?」モグモグ・・・





    「・・・・俺の名前は“キミ”じゃねえ。

     ・・・昨日はちゃんと覚えてやがったクセに
     もう忘れたのか・・?このクソ眼鏡が」
     



    「そっちこそ!!覚えてるって自分で言ってたじゃないか!
     私の名前は“クソ眼鏡”じゃなくってハン...!

    「ハンジ・ゾエ・・・だろ

     ・・・・お前の名付け親は一体お前に何を求めて“神の親切”
     なんて御大層な名をあてがったんだろうな・・・。

     兵士じゃ無く牧師にでも成って貰うのが親の夢だったんじゃ
     ねえのか。・・・名前負けにも程がある。

     しかも産まれて来たのがこれで男と言い張れば通りそうな
     女だってのが始末に悪い。・・・親にしてみればとんだ
     災難だったな」






    「名前でここまで弄られるなんて今迄生きて来て初めての
     経験だよ!!なんかちょっと新鮮な気分!;
     
     って言うかリヴァイ、君は・・・思ったよりそういうの
     博学なのかな・・?私自身、意味位知ってはいたけど、
     流石に聞いてホイホイ即答できる人なんてなかなか
     居ないと思うんだけど」






    「偶々知ってただけだ。」






    「ほっほう!じゃ、リヴァイ!?キミは君自身の名前の由来を・・・
     誰かしらから聞いた事はある??」ニヤニヤ





    「・・・ねえな。・・・・あるのか。そんなモンが」




    「えっとね・・詳しくは壁の外から来た言葉かそうでないのか、
     資料でもその辺曖昧で良くは解ってないけど・・
     意味だけなら本で見た事があるよ!“盾と矛”だ!確かね。」
     カチャカチャ(ムグムグ)




    「・・・俺の方が最初から兵士になる将来を熱望されてたってのか」





    「いやいや、その二つを対として扱う場合には武器としての
     それらを言う事も当然あるんだけど・・大体の場合は

     “相反する二つの事柄”を指し示す場合が多いんだ。
      つまり、そう言う意味での“盾と矛”だね・・。

     キミの場合どっちかと言えばこっちなんじゃないかな。」
     ムグムグ・・・




    「・・・此処まで聞いておいて何だが・・・・
     名前の豆知識なんぞどうでもいい。

     なら・・・ハンジ・ゾエ。テメエは俺に
     何の恨みがあって食後の心休まる茶飲み時間を
     こうして妨害しに来やがる。

     お前の汚い食べ方を見ていると折角淹れた茶の
     風味が台無しだ。用が無いならとっとと
     俺の目の前から・・・」




    「用なら・・・あるさ!(ガフガフ・・)ホラ、昨日の話の続き!
     私もリヴァイが言った通りにこうしてちゃんと
     お風呂に行ってきたんだ!!

     もう逃げっこ無しだよ!?ちゃんと話をきいてくれるよね!?」
     ハフハフ




    「・・・(溜息)分かった・・逃げねえからせめて落ち着いて
     零さずに食ってくれ・・それ以上焦った食い方をされると
     見ているこっちが不愉快だ」


  9. 9 : : 2015/05/04(月) 18:09:03


    ――数分後――




    「いやあ、陣形訓練でもあまり接する機会が無かったとは
     言ってもね、君らは中途入隊という観点から見ても、
     その出自からしても。調査兵団の中じゃ結構な
     有名人だったんだよ?」





    「お前らみてえに恵まれた訓練施設でタダ飯が保障された
     生活を・・・扱きがキツイのか何か知らねぇが、
     地獄か何かと勘違いしてる連中からしたら・・・。



     そりゃ地下街のゴミ共が自分らと同じ兵団にいきなり
     そんな地獄も通過せず滑り込んでくりゃ・・・
     不愉快にも思うだろうな。

     有名にならねえ方がおかしい」




    冷めかけて渋みが増した紅茶を同様に渋い表情で
    口腔に流し込みながら不機嫌そうに返すリヴァイ。




    「違う違う!もう捻くれた奴だなキミは本当に!!
     私はそういう意味で君達を有名だって言ったんじゃない


     遠征初参加でしかも手ぶらではなく戦果の首手柄を
     持っての帰還を難なくこなした君には・・・・それは
     あまりにもピンとこない事かも知れないけど、
     凄まじい事なんだよ。キミとは是非ともこうして
     話をしてみたかった。本当だよ??」




    「・・・俺が巨人を仕留めて初めて帰ってきたのは
     あいつらが居なくなってからの事だが」





    「・・・改めてお悔やみの言葉を。彼女と彼は・・・

     実に惜しい事をした。幾ら悔やんでも
     悔やみきれないよな・・・本当に、、」ギュ・・




    先程までとはうってかわって神妙な顔になり
    食卓の上に組んだ掌を握り、祈るようにして
    悲しげな顔を見せるハンジ。その顔には平時の様な
    明るい様子は一切無い。





    「・・・悔やむだと・・・?そんな暇は俺にはねえ。」




    「・・・・!」







    エルヴィン(あいつ)にも言われた事だが・・・
     俺がここであいつらの事を悔やんだところでそれは
     何の得にも成らなければ薬にも成らない事だ。

     お前のその気持ちは有難く貰っておくことにするが・・・
     “あいつらの為”にも、そして“俺”の為にも
     後悔なんて下らねえ感情を口にするんじゃねえ」




    「・・・・君は・・・強い人間なんだな・・・ひょっとして
     地下の人達ってのはみんな・・・」



    「地下だの地上だの、そんなものは関係無い。
     ・・・・それに俺自身、流石に馴染みの顔が
     合流と同時に胴体と泣き別れになった時は・・・

     こんな事を口にする余裕も無かった。

     体中から聞いたこともねえ唸り声が上がったと思えば・・・
     気付けばあの気持ち悪ィ手足の生えたクソが目の前で
     五体ズタズタのボロ雑巾になってやがった。

     一体誰がその場で呆然と立ち尽くしてた俺を
     ご親切に助けてくれたんだかな」




    「・・・・報告によれば君が合流したとき既に・・・
     その班はフラゴン分隊長含めて全滅だったって
     話だし・・・・キミさっき自分で言ってたじゃないか。」





    「・・・・・・・・」




    「しかしフラゴンさんにしてもそうだけど。彼らだって
     初陣だからといって決して腕の足りない兵士だなんて事は
     無かった。経験という要素さえ抜きにすれば・・・馬術にしろ
     立体機動にしろ、充分私達に引けをとらない立派な
     腕前だった。それが・・・」







    「・・・・関係無い。結局・・・死んじまったら・・

     天気が悪くて足場がよくなかったんだとしても、

     装備に何らかの不備があったんだとしても・・・

     その過程がどうあろうと関係ねえ。

     “今日はツいてなかった”それで終いだ。そこは・・・地下でも
     ・・そして壁の外でも一緒だがな。最善を尽くしても死ぬ時は
     死ぬ。・・・前回の遠征とやらが正にそうだったんだろ。

     聞いた話じゃぁ・・・

     これまでとは違う、巨人遭遇のリスクそのものを
     回避する事を主とした・・・画期的な陣形とやらが。

     ふとした雨っぷりであのザマだ。お前らこそ俺達よりずっと
     長い事こんな事を繰り返してきてるってのに良く
     そんな調子でいられるもんだな」



  10. 10 : : 2015/05/04(月) 18:12:29



    「そりゃあ辛いさ。君らの班の中には当然仲が良いのも
     大勢居た。その前回の遠征でも旧知の仲が6人死んでる。
     壁外で走り回ってるとその辺鈍くなってくるってのはね

     ・・・まあ、認めるよ。最初に友達を目の前で踊り食いされた
     時のような激昂は・・もう久しく自分でも感じてないかな。

     ・・・理由は言うまでも無い。

     余計な怒りに神経を割いていると次に巨人のおしゃぶりに
     されてしまうのは目の前にいる私になってしまうからね。

     巨人と戯れるのはまあ・・・///それはそれで私にとっては
     心滾る時間だから、楽しめる事それ自体はいいんだけど・・・

     うっかり食べられちゃったらもう彼らと
     触れ合う事も叶わないし・・・・ねぇ?///

     ・・ぁあでもその奇行種、一目でいいから見てみたかったなァ!!
     ねえ、どんなだったの、ホラ、顔つきとかさ、髪の長さ...
    「・・・・・・・・・・・」ガタッ・・・ 





    ハンジの質問も語りきる所まで行かない所で
    唐突に席を立ち上がるリヴァイ。





    「―――お?あれ、どうしたのリヴァイ?
     まだ紅茶が残ってるよ・・?それに話がまだ・・」






    「―――便所だ。デケぇ方が急に尋ねてきやがった。
     待てねえなら別に食器を片付けちまって構わねえ。

     ・・・・それから・・・おい」




    「・・・・・・!」




    2人を別卓にて後方から伺っていたモブリットに向かい、
    顎で示すリヴァイ。




    「今・・・少し(ツラ)を借りる時間はあるか」





    「っ・・・お、オイオイオイ!!!面ってキミ、
     喧嘩とかじゃないだろうね!?それともまさか
     便所に男が連添いでっ...て、?!」ウホッ





    「・・・・コイツの脳味噌の安否について
     確認してえことがある。少し良いか・・・」イラッ・・・




    「・・・・構いませんが」





    「モブリットーーーー!!!ま、まっ・・・!!待つんだ!!
     そっちに・・・・!ソッチに行っちゃダメだーーーッ!!!

     普段から私に向かって節度がどうのこうの言ってる
     お前が人の道から外れるのか!!?考え直せ!!
     そして今すぐ戻ってこい!!!」NOOOO!!!





    「ハンジさん、あなたの脳味噌は腐ってやがります」
     ニッコリ(ヒクヒク)




    「、、、、」





    食卓から半立ちの姿勢で両の手を伸ばし、
    身も蓋も無い誤解の末にその場に留まるよう
    モブリットに必死に促すハンジだったが・・・

    必死の訴えもむなしく、二人は食堂を後にする。



  11. 11 : : 2015/05/04(月) 18:15:55




    ――調査兵宿舎・廊下――





    ・・・しかし、リヴァイが用事があったのは用足しは勿論、
    ハンジが思い描いたような誤解に基づいた逢引の為の
    同伴でも無かった。

    その歩を食堂からある程度離れた位置で止め、
    己が呼び出した眼前の二等兵へ向かって
    先程から疑問に思って居た事を率直に投げかける。




    「アイツは・・・・(ココ)が大丈夫な方の人間か・・?

     俺達と何か根本的に構造が異なってるとか、
     そういった事は無いのか・・・?見た所昼間っから酒を
     浴びてるようにも見えねえし、仮にもお前の上に
     居る人間だって事はだ・・・“あの”壁外への
     命懸けの集団遠足を乗り切りつつも・・・

     その階級に就くまでああして息をしてたって事だ。
     お前の真面目な意見を聞きたい・・・“アレは”・・何だ??」




    問いかけるリヴァイの表情は平素通りの
    ほぼ無表情に近い顔ではあるものの・・・彼の内心には
    正直訳が分からない、という感情だけが強く
    渦巻いていた。


    つまり彼は自分自身でもつい先だって接触してきた
    “彼女”の扱いに心底悩んでいたのだ。


    あのテンションを、たまに変わったところがある、
    “少し風変わりな”上司として捉えるべきか、

    もしくは“できるだけ相手にしない方がいい狂人”
    の類として認識すればいいのか・・・その如何に。





    「・・・見たままですよ。“あの人”を見て最初から
     普通の人だと思う方なんて先ず一人もいないと
     思いますが・・・そういう意味では・・・・無いんでしょうね」
     (溜息)





    「ああ・・・・残念ながらな」





    「・・・・質問の意味が今一捉えづらいんですが、
     もう少し具体的に言いますと・・??」




    「・・・・悪かったな・・・口数は多い方だが
     説明するのは余り得意じゃねえんだ・・・。なら、
     ストレートに言うぞ。」



    「はい。是非そうして貰えると助かります」




    「アイツの巨人に対する“あの”(はしゃ)ぎ様は何事だ。

     ・・・・巨人偏愛の変態野郎なのか?
     
     仲間を昔相当喰われたと言っていた。

     ソレをきっかけに頭のネジがものの見事にフッ飛び、怒りに
     狂った猛烈な勢いで・・・喰われた仲間の頭数以上の巨人共を
     芸術的なオブジェに造り替えて壁外の街に
     飾ってきたって経緯も・・・・誰かに聞いた。

     ・・・だが今さっき見せていた、・・・あのいかれ(▪▪▪)っぷりは一体
     どういう意味だ・・・・?頭の中身が一風変わってるってのは
     情報どおりだが・・偏愛趣味に目覚めたなんて経緯は
     聞いてねえ。・・・話の辻褄が合わねえだろうが」



    「・・・・・」




    至極もっともなリヴァイの詰問に暫しの間
    目頭を押さえていたモブリットは、深い溜息と同時に
    それに対する答えを語り出す。




    「まあ・・・・・そう思いますよね。私だって大して貴方と
     変わりません。あの人の考えている事は・・・本当に、
     本当にどこまでが本気なのか。底が見えないんです・・・。」




    「・・・・・つまりてめぇもアレの本性を知っている訳では
     無いと。そういう事になるのか」





    「・・・いえ。何というか・・・私が兵団に来た当初・・・
     とはいっても今期入隊ですからまだ1年経つか
     経たないかと言うごく最近の事には他なりませんが
     ・・・ともかくその頃には未だ・・・」



    「・・・・・?」




    「・・・・未だ、あの人は、“普通”の・・・・
     “普通に巨人を心から憎んでいる”他の調査兵と・・
     つまり貴方の様な人と同じ雰囲気を纏っていました。

     いえ・・・“普通”というのは大分生温い表現ですね、
     ハッキリ言ってアレは・・・・正気の沙汰では
     有りませんでした。」




    「悪いが今も大して正気には見えないんだが」




  12. 12 : : 2015/05/04(月) 18:19:11



    「そういう意味では無く・・・巨人に対する憎しみの・・
     その度合いが他の兵士とは比較にならなかったんです。

     ・・・先程貴方が物の例えか、口伝の通りか、
     “壁外のオブジェ”という言葉を使いましたが・・・

     その言葉の表す通りの地獄が・・・あの人の手によって
     創り出される様をこの目で何度も目の当りに
     してきました。」




    「・・・・・」





    「恐らくあの人のそんな狂気の具現ともいえる
     鬼の所業をこの目で見る事にならなければ、
     私は今こうして貴方と話をしていないでしょう。
     とっくに巨人の吐瀉物になって壁外に転がってます。」





    「―――あいつが。」





    いつもの無表情ではあるが、合間に置かれた無言の数秒間には・・・
    確かにリヴァイ本人のにわかには信じ難いといった心境が
    まざまざと見て取れた。




    しかしモブリットは考え込むリヴァイをもお構いなしに
    事実として存在する彼女の“偉業”ならぬ“異業”を
    列挙していく。




    「5m級の首を撥ね飛ばし、

     8m級の両腕を肩から斬り落とし、

     10m級の腱を幾重にも掻っ捌き、

     13m級の両目を嬉々として引っ掻き回し・・・
     全ての巨人が満足に抵抗できなくなった所で
     ようやく何かを思い出したかのようにその刃を
     うなじに突き立てに行く。それが・・・・」



    「・・・・・・」





    「それが私の知る限り、最も古い記憶にある、
     第四班ハンジ・ゾエ副長、その人の姿です」





    ―――――――

    ―――――

    ―――

    ――








    「・・・・・・・・・はぁ。」







    「何だ・・・昔話をあまりしたがらない俺が折角時間を割いて
     ここまで話したってのに・・随分と気の抜けたリアクションを
     見せるもんだな。何か不満な事があったか・・・?」ジ・・・・





    「ぁっ・・・??!い、いえいえ!!とんでもないです!!
     あまりにも意外な事が多かったので少し呆気に
     とられてしまったというか・・! 寧ろ色々と
     聞いた事の無い事や・・・知らなかったことが
     知れてかなり助かりました!!・・・ただ・・・・」






    「ただ・・・・何だ?それでも何か気になる事があるから
     そういう顔をしてるんだろお前は。その理由を
     分かり易く説明しろ。気になるだろうが」




    「はい・・・。ではその話の通りですと・・兵長が
     ハンジさんと知り合った頃には・・・ハンジさんは既に
    “ああ”だったって事なんですね」



    「あぁ・・。俺が知り合った時には既に
     “あの調子”だった。前にお前にも話しただろ。

     結局“現”第四分隊副長であるアイツから聞いたのも
     そこまでの話だ。その直後に食堂から飛び出してきた
     眼鏡が訳の分からない事を喚きながら話の腰を
     へし折ってくれやがったからな。

     お前にかつて話した3メートル級のアレについての
     話も・・・又聞きでしかない。相当なイカれっぷりで
     あったことは間違いないらしいが」






    「・・・そう・・ですか・・・」





    「・・・・ハンジ(あいつ)の事がもっと子細に知りたいなら・・・“その”
     第4分隊副長にでも聞いたらどうだ。
     
     お前も何度か奴に同伴してる姿を見た事くらいあるだろ。
     あの、いつでもクソ生真面目な面した、いかにも
     まともそうなヤツだ。」

     

    「はい・・、いつもハンジさんの傍に居る方ですよね」



    「第四分隊副分隊長、モブリット・バーナー。
     ・・・今のお前の100倍はあのクソメガネに手を焼いてる
     半ば珍獣の世話係みたいなポジションに居る
     不憫な奴でもあり・・・・・入団当初の俺と会話できる位の
     対話能力がある奴だ。無下に接してきたりはしねえだろ」



    「・・・・有難うございます兵長!!貴重な時間を
     こんな事の為に割いて頂いてすみません!!」
     ババッ!!




    「それは構わないが・・・エレンお前、
     明日の除草作業には遅れるんじゃねえぞ・・いいな」





    「はっ!!!!!」ドンッ




  13. 13 : : 2015/05/05(火) 02:09:24







      ―モブリット・バーナー第四分隊副隊長の証言―









    「おや・・・君は・・・・・」




    「ああ・・・こうして改まってお話しするのは
     初めてです!今期104期生として南方訓練兵団より
     調査兵団へ入団しました・・・エレン・イエーガーと
     申します!!(心臓を捧げよ!) ドンッ

     あの・・・・、唐突で申し訳ないのですが、
     ・・・ハンジさ・・・あ、いえ、ハンジ分隊長の話では
     副長が今こうして特別作戦班臨時拠点に
     出向いて来てるのは・・・通常の服務時間に該当して
     居ないとの事で・・・そのですね・・・、もしお時間の方
     少しでも許すようでしたらどうしても個人的に
     お聞きしたい事があるのですが・・・」スミマセン;



    「・・・・いや、目的が一致しているようで安心したよ。

     実は今日私がここにこうして来たのも最近分隊長が
     すっかり夢中で付きっ切りになってしまっている
     君と少しでも話が出来たら・・・と思っての事だからね。

     そう言うことなら此方こそ助かる。聞きたい事も
     山ほど有る・・・・そちらの疑問にも出来うる限り
     返答しよう。」




    「あ・・・!有難うございます副長!!」





    「ああ・・・それから、分隊長の呼び方にしても
     言葉遣いにしてもそこまで肩肘張らずに・・・・
     いつも通りで構わない。

     ・・・・ほら、調査兵団(ウチ)は民意発足等の経緯もあるから
     公の場ではそうも行かないが、普段からは割と
     堅苦しい空気が無いんだ。他の兵団に比べて
     失命率も圧倒的に高い事から・・・普段から如何に
     自然体で居られるかというのも大事な事だと
     考えられている。・・・・無論最低限の規律は守らなきゃ
     いけないけどね」




    「お気遣い感謝いたします!では・・あの、
     早速なのですが、少し・・・ハンジさんの事で・・・」



    「そうそう・・・まずそれなんだが・・・・・君の疑問に
     色々スムーズに答える為にも、最低限君に前以て
     聞いておきたいことがある・・・とは言っても、恐らく
     この手の詰問は・・・もううんざりするほど聞かれて
     いると思うが・・・改めて君の口から事実として
     確認しておきたい。君は・・・・」



    「はい・・・・・、」




    問われる言葉の内容は・・・・聞かずとも充分予想が付く。
    その至極最もな質問内容は・・・この拠点へ
    エレン自身が秘匿される前の段階にて・・・
    耳にタコが出来た上で、そのタコが潰れても
    おかしく無いくらいに・・・・何度も繰り返し聞かれた
    物だったから。しかし、その質問内容が全く同じで
    あっても・・・・



    「君は・・・・君自身の体を“巨人”に変化させる事が
     可能な人間・・・・とだけ聞いている。それは相違なく
     そのままの意味で事実なのかな・・・・?」


    相手の身の上が違うだけで質問者の目に宿る
    疑念の色は・・・大きく異なるものであった。

    これまで自身を地下に幽閉し、何時目の前で
    本性を表した化け物が暴れだすかという恐怖に
    駆られながらも、命令に従う以上、“仕方なく”
    取り調べを行ってきた駐屯兵、憲兵らとは違い・・・

    彼の目の奥底には・・・“警戒”という色は多少あれども、
    恐怖という色は殆んど見て取れなかった。




    「・・・・事実です。ただ・・・
     変化・・と一概に言い切れるのか、まだその
     詳細な原理は検証の余地が無いので何とも
     言えないのですが・・・どうも、あの時駆けつけた
     兵長の証言と状況から考えたハンジさんの考察では・・
     
     自分の『巨人化』は。“巨人に成る”というよりは・・
     “巨人を造る”という感覚に近いんじゃないかと・・」


  14. 14 : : 2015/05/05(火) 02:12:08



    「・・・なるほど。“造る”・・・か」フム・・



    その言葉を聞きながら、顎に手を置いて
    深く考え込むモブリット。

    先程まで今少し強めに宿っていた瞳の中の
    警戒の色も一層薄らいでおり、全く同じとは言えないが
    その巨人の原理について一考する様は・・・微かに
    彼の分隊長と重なる様でもあった。

    その落ち着きぶりと言えば・・・寧ろ未だ完全に
    打ち溶け合えてはいない、特別作戦班の面々よりも
    自身に対して心を開いているようにすら見て取れる程。





    「あ・・あの・・・副長は・・・・」




    「・・・・?ああ、何だろうか?」



    「自分が・・・怖くは・・・いえ、あの、
     危険なものだと思わないのですか・・・・?」



    「・・・・・・・?」



    「鮮明には思い出せませんが・・・自分が巨人化して
     ローゼの外門を塞いだのはそうして物的証拠も
     残っている事実です。そんな・・・・

     いついきなり15メートルに膨らむか分からない
     危険な存在を目の前にして・・・副長は全く
     身構えたりとかそういった感じが・・・・」



    「ぁあ・・・・・それはもう何ていうかね・・・
     君もこの数日、“あの人”と四六時中同伴していたと
     聞いてる。そんな君にだったら少しは理解して
     貰えるだろう。・・・・あの人の傍に長くいると・・・
     その辺大分“ずれて”しまうんだ(苦笑)」



    「は・・はは・・・^^;」



    瞬間、巨人の講義に嬉々として没頭する
    彼女の姿がエレンの脳裏に駆け巡る。




    「何といっても・・・自分の身を案じている暇が無い。
     目の前には巨人を見つけるなり、まず何より先に
     接近しようとする危険極まりない人が居るからね。

     普通は部下の無謀な先行を上官が制したりするのが
     当たり前なんだろうけど・・・どういう訳か
     あの人にそういう常識は通用しないからな・・・

     いっそ、巨人に食いつかれてもまだ笑い続けて
     そうな気がして度々血の気が引きそうになるよ。
     これだけの付き合いがあるのにも関わらずだ」



    深々と、本当に深々と肺の中の空気を
    微塵も残さず吐ききる貫禄充分な溜息を見届け、
    エレン自身も己の内に芽生えた、目の前の副長に対する
    僅かなシンパシーを感じつつあった。



    「何より、巨人の事しか頭に無いとはいっても、
     ああして何だかんだ無茶をしながらも今まで長い事
     調査兵団で生き残っている分隊長が・・・
     心を許して寄り添っているという君の事だ。


     それが精々ここ数日の間で築かれた仲で
     あったとしても・・・・あの人がそうして信じた君なら。

     ・・・私にとってそこまで恐ろしげなものには
     見えてこないんだ」



    「副長・・・・」



    「その・・・ほら、アレだよ・・・
     こんな事を面と向かって言うのも何だが。」




    「は・・はい?」




    若干俯きつつも言いづらそうに口ごもるモブリット




    「夜の相手とか・・そういった・・・床の間での相手も・・・
     随分させられたんだろ?本当に君が何か
     よからぬ事を考えているのだとすれば・・・

     装備はおろか衣服すら纏っていない上官と同室する
     その機会に暴挙に打って出ないのはどう考えても(ry




    「ちょ・・・・!!!!////ちょっと副長!!!?
     誰にそんなコトを・・!!!!///」




    「いや・・・誰って・・・他でも無い本人に・・
     なんだが・・・・;」



    「そっ・・!そうですか!!!////;でもスミマセン!!!
     ホント、面と向かってそう言う話をするとなると
     流石に恥ずかしすぎて口が回らなくなりますので!!

     ・・・・できることならそういった方面の話は・・・その;」




    「ぁあ、悪い、悪かったよ。今のは・・・
     それだけ、君が私達に害意を持っている存在として
     認識できる要素を内包していないという事実を・・
     
     できるだけ回りくどくない形で分かりやすく
     言いたかっただけなんだ。別に君を困らせたかった
     訳じゃない。・・本当に済まない事をしたね・・
     しかしこれは同情と労いの言葉として素直に
     受け取って欲しいんだが・・・」


  15. 15 : : 2015/05/05(火) 02:15:52




    「・・・はい//?」




    「あの人の相手は・・・さぞや大変だっただろう?
     もしあの人が得心行くまで君が相手をしてくれたと
     いうのなら、それは凄まじい快挙・・・・
    「えっ・・・?!?いや、あの。、副長!!!
     それって・・・・!!!それって
     ハンジさんが今までも誰かとああいった事に
     興じていた事実に基づく証言ですか!!!

     その辺り、個人的には聞き逃すわけに
     行かないのですがッ・・・!!」ガバッ・・・・!



    本人の証言から、またリヴァイの口頭確認で
    彼女の男性遍歴が皆無と認識していたエレンは流石に
    聞き捨てならないという様子で食卓に乗り出す。



    「こっ・・言葉が足らなかった!すまない!
     そうじゃないんだ・・ホラ・・あの人は少し・・
     いや、少しでは無く普通の人間と興奮のスイッチが
     大分異なるから・・

     巨人に遭う事が出来る唯一の機会・・・
     つまり壁外遠征が近付くにつれて・・・・
     興奮がピークに達していく傾向があるんだ・・。

     それは単純に謎多き巨人に対する知識欲から
     来るものとだけ思っていたんだが・・・」ポリポリ・・・



    「・・・・!」ゴクリ・・・!



    「何故だかは分からないが・・・どうも・・・・


     同時に強い性的欲求も芽生えてしまうらしい
     事が・・・最近になって分かった。私と・・同じく
     第四班の二ファが書類の受け渡しに分隊長の
     使用している上官用宿舎に立ち寄った
     際に発覚した事実なんだが。

     ・・・・その、自慰に耽っているとしか思えない
     こ・・・・声が;」



    「/////」オ・・ォオ・・・



    「しかし用向きが問題だった。
     渡すべきモノが重要書類なだけに・・・流石に、
     では次の機会に・・とはいかなかった。

     つまり私達二人はその場で分隊長の・・その、
     “アレ”が終わるのを息を殺して待っていた訳だが」



    「まさか・・・;」



    「床の脚部が軋む音と嬌声が止んだのは・・・
     かれこれ消灯時間に差し迫る頃だったか。

     つまり・・・あの人、夕食も摂らずに
     仕事の疲れが残ったままの体で消灯時間まで
     ぶっ通しで励んでらっしゃった事になる。

     やっと静かにはなったものの、すぐに戸を
     叩いたのでは流石に動揺させてしまうと気遣って・・
     数分置いてから、念を置いて二ファに戸を叩いて
     もらったんだが・・・」



    「・・・・・」



    「やはりというか応答が無くてね。
     そのまま寝てしまったのだろうと予想は出来たが、
     流石に書類だけは渡さないわけにも
     いかない。信じられない事に施錠もされてなかった
     戸を、二ファに開けさせたんだ・・・そうしたら」



    「(顔真っ赤)」ドキドキドキ・・・





    「すまない、余りにも凄まじい光景が
     部屋の中には広がっていたようで・・・
     私も直接は目にしていないんだが、とにかく
     二ファが慌てて分隊長の元へ駆け寄って衣服などを
     箪笥から見繕っている様子だった・・・・///

     恐らく・・一糸纏わぬ・・というか、
     飾らないで言うなら正に“全裸”で事に及んでいた
     様子だった・・・・。」




    「そんな状況で部屋に鍵をかけないなんて・・
     一体ハンジさんは・・・・・;/////」




    「・・・あの状況から、そして普段から随分と
     熱心に語っている君への想いを鑑みるに・・
     あの人の相手をするのはかなりのハードワーク
     だったんじゃないかとね・・・心配で仕方が
     無かったんだ。


     い・・いや、本当に済まないね、こんな話は
     止してくれと君から先程言われているのに」




    「まあ・・・その////ハンジさん(あの人)の体力が全く
     男性兵に引けを取らないという事実だけは・・・
     改めて理解できました。。。オレの体力的な都合は
     完全に無視でしたから・・・

     最初なんかは巨人化の反動で体力的にしんどかったので
     ・・・・正直生きて帰れないのではないかと・・・・」
     ブルブル・・・・;
     



    「・・・・済まなかった。私からも今後は極力無茶を
     しない様、キツく言い聞かせておくと・・・・
    「いっ!!!いえあの!!今はッ・・・その!」



    「・・・?」


  16. 16 : : 2015/05/05(火) 02:21:15


    上官の失態を自ら咎めようと頭を下げた
    モブリットの言葉を、若干の焦燥を顔に浮かべながらも
    中断させるエレン。




    「体力的にも大分元の感も戻ってきましたし・・・

     寧ろあの人の何一つ飾らない積極的で熱心な所も
     オレとしては・・・その・・!!///」プルプル・・・・



    「・・・・・・・」




    モブリット本人も少々意外そうな顔をして
    赤面しつつも顔を上げる事が出来ずにいるエレンを
    凝視している。





     これは・・・意外だったな。話を聞くには
     そういった関係にまで発展する前に彼は・・・
     分隊長(あの人)の“巨人特別講義”の洗礼を初対面で
     受けていると聞いている。
     アレ(▪▪)を徹夜でやられて・・・それでも
     嫌気が差さなかったというのか。それ程までに彼にも
     巨人に対する興味があった・・・?いいや。。

     分隊長自身と、それから取り調べ中にリヴァイ兵長が
     行った質疑応答で・・・・彼の中にある壮絶なまでの
     巨人への憎悪は既に耳にしている・・・・。すると・・・
     彼自身が分隊長にそれだけの興味が元々あった・・・?

     いや・・・・精神的ストレスに余程強い耐性を
     持ち合わせていたのか・・・・?




    モブリットがそのように逡巡したのは
    実際には僅か数秒間の間の事であったが・・・



    「ふ、副長、あの・・・いいですか・・?」




    「あ、ああ。済まない。少し考え事をしていた。。

     ・・・で、何だろうか・・・?君の方から・・
     私に聞きたい事があるんだったね・・。


     とはいえ・・大体聞かれる話の内容は
     予想がついているんだが」




    「何か・・・気を遣わせてしまってるみたいで
     申し訳有りません。ただ・・・兵長が・・・・
     自分よりも更に昔のハンジさんを知っているのは
     副長だと仰っていたので・・・・」



    「・・・それは誤りではないが・・私より先に
     分隊長を入団当初から見て来た兵士としては
     ミケ分隊長と言う先立ちが居る。

     したがって私が知る前の分隊長の事を聞くなら・・・
     最後はあの人に聞くしかないだろうな・・・・」




    「いえあの・・・副長が知る前のハンジさんって
     一体・・・;兵長が知り合った頃には既に、
     その昔の性格から大分様変わりしてしまった後だとは
     聞いているのですが・・・・

     その前にもハンジさんの性格ってなにか変調を
     来したりしてたんですか・・・・?
     
     まさか定期的に人格が塗り替わってしまう
     多重人格者とかだっていうんじゃ・・・」オソルオソル...;




    若干青褪めた顔で、やや穿った意見を口にするエレン。



    「・・・・何もあの人に限った事じゃない。
     広義で捉えれば君も含めて、人間なんてものは
     皆そのようにできているものだ。・・理由は至極単純。

     人類(我々)には・・・“適応”しようとする、
     自らを造り替える力が備わっている。
     
     しかしそれを完全に近い形で行うには・・
     身体の造りだけを何とかしても周囲の環境に
     適応したとは言えない。身体を動かす役割を担う、
     “内面”に於いても・・・

     それは必要な事だ。この兵団にやって来て
     それまでの人格が大きく変わった人なんて・・・
     珍しくも何ともないさ。私もその一人であるし・・・
     
     “あの”リヴァイ兵士長にしてもその一人だ。」




    「リヴァイ・・兵長も・・・・?」
  17. 17 : : 2015/05/05(火) 02:25:31


    「ああ・・・。あの人は特に兵団への入団経緯と
     自らの出自が・・・キミほどでは無いとはいえ
     かなり特殊だったからな・・。おまけに、入団当初から
     訓練兵科を経ても居ないのにあの錬度だ。当時から
     周囲との軋轢はあったが・・・
     
     只でさえ人員の減りが早い我々調査兵団の中では・・・
     そんな兵長倦厭派の兵士が一通り壁外で帰らぬ
     者になる方が早かった。・・まあそれはともかく、だ。

     ・・・分隊長の過去についてあの人から
     何か訊いたなら・・・あの人の最も古い仲間の話も
     少しはされなかったか」



    「兵長に・・・地下街からの付き合いがあった方々の
     存在自体は聞きましたが・・・肝心のその人達に
     ついてだけは・・・詳しくは話して頂けませんでした。

     いえ・・、それくらいオレにだって分りますから
     当然踏み込みはしませんでしたけど・・・多分ですが
     ・・・兵長は・・その方達を最初の遠征で・・・
     亡くしてしまったのでは・・・と」




    「・・あの人が伏せたというのなら私が下手な事を
     言うのは後が怖いので・・、それについては明確な
     返答を示しかねるが・・・まあ、そんな所だ。」




    「・・・きっとその時ですよね・・兵長が
     それまでと少し変わったっていうのは」




    「・・・旧知の仲が無残な死を遂げてそれでも一切
     心を乱さない兵士など先ず居ない・・・私はそう思う。


     話の本題に戻るが・・・私個人の認識では・・・
     その傾向が最も顕著な人こそが」




    「・・・・・!」
     ゴク・・・・





    「君が今最もその経緯を気にした上で・・・こうして
     訪ねている“あの人”だからな」






    ――

    ――――




    リヴァイが地下街での紆余曲折を経て調査兵団所属の
    エルヴィン・スミス分隊長(当時)へと下る形になる、
    一年近く前。・・・当時は未だ、エルヴィン・スミスが
    その後考案する事になるような画期的な戦略陣形は
    遠征部隊には採用されてはおらず・・・・


    当然の様に運任せの巨人遭遇率と、その邂逅に
    合わせた見敵必殺戦術が主な進軍陣形であった頃。


    しかしてその“必殺”とは、必ずしも怒れる人類側が
    巨人にもたらす“必殺”と成り得る訳でも無く・・・


    当然の様に壁外遠征での死傷者数が
    凄絶な右肩上がりを示している中・・・・
    その渦中へと訓練兵卒で入団を果たした、
    若き日のモブリット・バーナー現副分隊長。



    ―――これは、その“彼”が調査兵団第四分隊へと
    配属になった頃の話・・・・




  18. 18 : : 2015/05/05(火) 02:27:58








    ――調査兵団・馬術訓練場――





    「やあ、君達が今季調査兵団に所属を希望した
     新兵にして・・その中でもこの第四分隊に抜擢された
     幸運な一年生諸君だね!初めまして!私は・・・・」ニコニコ



    「・・・・・・;」





     第一印象は・・・『よくわからないひと』だった。




     私が“その人”と初めてまともに顔を合わせたのは
     所属兵科と分隊が決まってから、初めて屋外で行った
     馬術訓練に際した顔合わせの時だった。


     その日、第四班の分隊長は訓練に参加できない
     用事があり、その場を取り仕切っていたのが、
     他でもない当時の“ハンジ副分隊長”だったから。


     壁外で最も命綱と成り得るのは立体機動装置・・・ではない。

     ガスという有限にして持続性に於いては決して看過できない
     問題が残される動力、そして複雑な機構を有するそれは、
     有事の際の離脱手段、そして巨人との交戦時にはこの上なく
     重要な意味を持つ兵士の“命綱”ではあるが・・・


     壁外で何よりも重要な物が何かと問われるなら、
     それは“脚”である“馬”に他ならない。


     ―――故に調査兵にとってもっとも優先的に
     行われる訓練は・・・・先ず何よりも先に、
     “馬”に慣れることだった。


     調査兵専用の“馬”は一部の特殊な早馬等と異なるとはいえ、
     それでも一応は優秀な馬同士を交配させた末に
     生みだされた正真正銘の血統書付の名馬揃いであり、

     巨人の遭遇にも簡単には怯まず、かつ、
     信煙弾・音響弾などの急激な音にも耐え、

     騎手が唐突な巨人との交戦に応じて立体機動に移った際に
     放馬状態となっても調教通りに別の馬を駆る騎手の誘導を
     遵守する従順さまで併せ持つという、特殊な訓練を受けた
     専用馬である。

     その為、当然今季入団の新兵にとっては自らの脚として
     その身を預けることになる馬と触れ合うのも
     その日が初めてである。

     ・・・以上の理由から当日は陣形等綿密な打ち合わせが必要な
     要素よりも、先ず馬の扱いを各自自分の物にするための訓練が
     先決として

     副長のみが監督している状況に於いてでも馬術の訓練と
     馬の慣らし走行が行われる、そんな馬術訓練初日の事であった。



    「私は君達にとても大きな期待を抱いているよ。

     最初に言ったように君達は、この調査兵団という組織に・・・
     自ら“志願”した真の兵士だ。もうそれだけで他の多くの
     駐屯兵団を志した新兵らとは大きく中身が違ってるって訳だ。

     ・・・・勿論“私の様”な勇敢という評価とはあまりに
     かけ離れた人も・・・この中には居るのかもしれないけどね。


     ・・・まあどの道同じ事さ。壁外で死んでいく兵士の数はもう、
     耳にタコができるほど聞かされてきたんじゃないかな。
     調査兵団(ココ)を志願する人の通称が駐屯兵団辺りじゃぁなんて
     言われてるかも君達なら既に知ってる筈だ。

     “自殺志願兵”・・・だってさ。失礼しちゃうよね。
     最初(ハナ)っから死ぬつもりしか無いならあんな血の滲むような
     訓練兵科を態々修了する必要だって無さそうなモノなのに」





    「(どっちだ・・・・・?!)」




    「(わからねえ・・・どっちだ!?)」




    「(よく・・・分からない!!)」



    その場で新兵激励の言葉を挨拶がてら受けている
    同四班へと配属になった数名は・・・モブリット同様に

    目の前で飄々と語っている副長へと困惑の視線を
    泳がせる。




    ・・・・あまりにも気になって、話の内容も
    ロクに彼らの頭には届いていない。
  19. 19 : : 2015/05/05(火) 02:36:51





    ・・・何がそんなに気になっているのか、彼らが
    目の前で語る上官の全身に這わせた視線を行きつかせる
    その終着点は・・・・・・




    「・・?オイオイ、緊張するのは分るけど新兵諸君、もう少し肩の力を
     抜いて御覧??それと、人の話を聞くときはもう少し意識して、
     出来るだけ人の目を見た方が良い。・・・・何故か
     私と初めて顔を合わせる人は私の目をあまり見ようとせず
     大体視線を下におろしちゃうんだよなぁ・・・・・

     ・・何でだろうね?そんなに怖い顔してるかな私」





    「(アレは・・・ある(▪▪)のか・・??!)」




    「(単なる・・・鳩胸・・・か・・・?しかしそれにしては・・・!?)」




    「(イヤしかし・・・平面にも見えなくはない・・・!!)」





    「まあ、真面目に人の話を聞いてはいるんだしそこまで
     目くじら立てる程の事でもないか・・・・(ポリポリ)」





    「「「(どっち(▪▪▪)なんだ・・・・・!?)」」」






    開け放たれた隊服の前方、その奥に覗くシャツが
    隠している輪郭のみであった・・・・





    ―調査兵団兵舎・馬小屋―




    「各々訓練、遠征共に兼用で与えられる馬は事前に
     知らされている通りだ!中にはニンジン喰らうより
     兵士の髪の毛毟る事の方が趣味だっていう変わり者も
     いるから注意しろよ!!禿げたくなかったらな!」








    「オイ・・・あれ、お前はどう見る・・・?」



    「いや・・・・どうと言われても」



    「ああ、副長だろ・・?俺は絶対にあると思うんだが」



    周囲の新兵内では完全に話のネタはこれ一色と
    成り果てており、話の内容にできるだけ我関せず・・・と
    いった真面目ぶった雰囲気を作っていたモブリット自身が
    実は、その場で一番気になっていた訳であるが・・・



    「畜生・・・せめて隊服が双方兼用で無く意匠が違って
     いればな・・・。声までどっちにしても違和感が無い」



    「現実的に考えてみるとあの声は少し高くないか」



    「だがずっと凝視していても・・・・全く揺れて(▪▪▪)ないぞ・・・?;」



    「揺れてはいないが全く無い(▪▪)ようにも見えない」



    「そもそも無い(▪▪)からといってどちらか断定するのも早計に過ぎる」



    「じゃあ・・・結局どっちなんだよ」



    「・・・この際逆転の発想でだな・・あっち(▪▪▪)の方にあるかないか(ry」





    「オイゴルァ!!!!貴様ら何を納屋でペチャクチャやっとるか!!
     変な事に使おうとする奴が居ても困るからな!!!
     残念だが雌馬は女性兵の方にしか行かない様になってる!!

     分ったら馬のケツなんて眺めてないでとっとと表へ出るんだ!!」





    「あのジョークは・・無い(▪▪)だろ・・・・」



    「だからどっち(▪▪▪)が無いんだよ・・・」



    「おい、早く行こうぜ、でないとまたドヤされるぞ」



  20. 20 : : 2015/05/05(火) 02:43:29






    ――調査兵団・馬術訓練場――







    「“違う、そうじゃないっ!!”」





    ――檄が、飛ぶ。





    「ハッ!!・・・イヤっ!!!」


                「わっ・・・っとと・・!!」



      「どう!どう!!・・・・・・」


                 「フッ・・・・・!」

              ピシッ!!
    パシンッ!!





    ダガガッ         ドガガッ!!  
        

       ドドッ!!           ドドドッ




    各々の馬に鞭を入れる音と・・・
    それらに交じって彼の副長の、檄が飛ぶ。




    「ああもうだから違うって!!! ダメだダメ!!全然ダメ!

     今のが壁外なら君は巨人に3回は追い付かれて馬ごと美味しく
     お召し上がりに・・・・!」ガミガミ・・





    「(・・・・そんな事を言われても。)」



    頭を掻き毟りながら叫ぶ副長。未だ慣れ親しんでも居ない馬に
    振り回されながら、思うように速度も出せない新兵達に向け
    本気で焦りの色を貼り付けた顔で檄を飛ばす彼(女)に
    内心で嘆息を漏らすモブリット。


    訓練兵科でも馬術に関しては当然一通り皆こなしては居る。
    しかし、当然の如く馬とは生き物であり、立体機動装置等の
    整備と扱いを此方で徹底していれば同じ動作を約束
    してくれる機械とはまるで勝手が違う。



    それも今日跨っている馬は、当然初めての顔合わせである。
    幾ら調教が行き届いているからとはいえ、今日初めて背中に
    跨ってくる新兵を彼等が都合よく歓迎してくれるとも思えない。



    「うわっ・・・っとと・・・・!」パシッ



    与えられる人参に、鞭に、その日の気分。それらの不確定な
    要素で走る彼等に対し、幾ら騎手が必死になった所で・・・


    と、誰もがその様に思う中・・・勿論彼も・・・モブリットバーナーも
    その例に漏れる事は無かった。

     




    「“違うッ!!、そうじゃない!!”」
     グワッ!!




    「副長!!著作権問題に引っかかりそうな
     語句の連呼はお止めください!!」




    遂に安定しない手元と副長の理不尽な落雷の連発に
    大声で以て意見してしまうモブリット。周囲の新兵も
    それまで真面目一色といった雰囲気を纏い、
    周囲の雑談にも進んでは混ざろうとしなかった彼を
    丸い目で凝視していた。




    「煩い!黙れ黙れ―――ッ!!!メタな言い訳をする暇があるなら
     その駄馬をどうやったら速馬の様に操れるかその巨人の
     10分の一にも満たない頭の中で考えるんだ――ッ!!

     それに句読点に小っちゃい『っ』に、感嘆符を挟んでるから
     何も問題ないね!!

     第一言われなきゃどう考えたってこんなのを権利の侵害だなんて
     思う奴皆無だろ!!細かすぎるんだよ!!」ギャアギャア!!




    しかし、どこかずれているというか、普通なら昨日今日
    入団したての新兵に怒鳴られたりでもすればそんなものでは
    済まなそうなものだが、これを同じようなノリで返してくる
    副長。どうやら相応に冗句は通じる気質の様である。


  21. 21 : : 2015/05/05(火) 02:46:53




    ――調査兵舎・男性兵宿舎――





    「おいお前、すげえな・・・!あの鬼の副長に意見するなんて!」




    「ぁ・・・ああ・・・幾ら何でも初日にあの叱咤は行き過ぎだと
     思ったから・・・・しかし・・・鬼の・・・?そんな呼び名が既に
     定着してるのか・・・?」



    訓練で流した汗を濡れ布巾で拭きながら応じるモブリット。



    「俺達の命名じゃねえよ。既に遠征から2回帰って来てる
     古株にして腕利きの先輩方から聞いたんだ。どうにも
     あの人は・・・・調査兵の中でも人一倍、巨人共に対する

     ・・・・なんていうのかな、怒りとか、殺意っていうのか、
     そんな感情が頭のネジ1,2本じゃ利かないくらいブッ飛んでる
     らしい・・・・。」



    「訓練監督の段階でもその素質は十分見て取れるというか・・・
     ・・・まあ納得の情報ではあるが・・・・」



    昼間目にし、今も脳裏に焼け付いている副長の焦り顔。
    その顔に貼りつく焦燥の色は・・・単純に躁鬱の激しい者に
    見られる感情の起伏などでは無く、あくまで本心から
    その場に居る全員の命を気遣っているかのような・・・
    とても訓練に際して見せる気迫では無かったことを
    思い出すモブリット。



    「しかし古株とはいえ・・・・2回だろう・・?
     あの副長はかれこれ10回以上帰って来てると聞いてるが・・・・
     2回帰って来れればそれでもう熟練みたいな扱いなんだな」



    「・・・馬鹿お前知らないのか・・・?そもそも新兵が最初の
     遠征で帰って来れる事それ自体が稀なんだって話だぞ・・?
     俺達が今日跨った馬・・・・つい前回の遠征まで全頭違う
     騎手が面倒見てたらしい。勿論その偉大な先立ち様方・・・・
     もしくは俺達の一期前になるか・・・その先輩新兵様方は
     今頃巨人の腹の中って訳だ」




    「・・・・・・・・・・?!」





    「気が付かなかったか・・・・・?俺のは何も無かったが
     結構、注意深く見てみるとそこら中に黒い斑点が
     毛並みに交じってる奴が・・・・」





    「・・・・・・」





    副長の鬼気迫る顔を三度思い出し、
    その顔が何を想い、自分達にきつく当たっていたのかを
    再三認識し直すモブリット。




    「そんな地獄に足を踏み入れて・・・もう数えて10回以上
     こうして戻ってきているのか・・・・あの人は・・・・」



    「狂人と天才は紙一枚の違いだって言葉はある意味
     本当なのかもしれん。アレがまともな人間だったら
     分隊の副長なんてそもそも務まる器じゃないのかもな」



    「一体あの人は・・・・壁の外で・・・今迄何を見てきたんだろうか」



    「・・・さあな。しかし早晩俺達もそれを身を以て知ることになる。

     ・・・・果たしてそれを知ることが出来る段階で俺達が
     巨人の糞になっていないかどうかは保証されてないけどな」



    「・・・・巨人の胃袋には・・・・消化する機能が備わってないらしい。

     だから俺達が巨人の糞尿と言った物に姿を変える未来は
     そもそも用意されていないさ・・・。運よく仇を討ってくれる
     兵士が現れるまで巨人の腹の中で朽ち果てて・・・・定員が
     一杯になれば吐瀉物として再び地に降り立ち、今度は鳥の餌だ」




    「真面目かっ!」ゲシッ




    「いや・・この情報も・・・実を言えばあの人(▪▪▪)が巨人を解体した
     その末に判明した事実らしい・・・。」



    「へぇ・・・・マジか」



  22. 22 : : 2015/05/05(火) 02:50:31



    「・・・ぁあ。知っての通りうなじを刈り取れば
     煙の様に消えてしまうという巨人の身体。・・俺達は未だ
     その消えてしまうまでの時間的猶予も何も、この目で見ては
     居ないから何とも言えないが・・・それまでの間に
     巨人の身体的構造を少しずつでも解明できてしまう程の
     数を・・・・あの副長は仕留めているって事になる」




    「気の違いっぷりには参るが、そう考えると頼もしくはあるな」




    「・・・・どうかな。壁外での死因は第一に孤立による
     連携不備が挙げられるとされている。巨人と交戦する場合、
     最低でも2人対一体が理想とされているが・・・・

     当然複数体同時に現れないでいてくれる
     保証はない。他の兵士に助け舟を出さないで済むよう・・・
     
     最低限逃げ馬としての優秀さだけでも身に着けて
     おかなければ壁外ではやっていけないという・・・あの人なりの
     やり方なのかも知れないな・・・」




    「・・・・・なんだお前、・・・まさかあの(▪▪)副長に惚れてんのか!?」
     バンバン!!!!




    「っっ!?!? (ゴホッ)何をいきなり言い出すんだ!?
     第一あの人がまだどっち(▪▪▪)だか分からないって談議に
     花を咲かせてたのは君らじゃないか・・・・・!

     元よりあの人に関しては口伝の域を出ないとはいえ
     興味があったのは認める!だがそれが判明していない以上
     そう言った意味で副長への興味を認めたら俺は・・!二つに
     一つの確率で同性愛趣向の変態に仲間入りする事に・・・・!!!」




    「まだそんな事気にしてたのかお前!!それがたったさっき、
     判明したんだよ!!お仲間が貼りついてくれたお蔭でな!!」




    「・・・・何だって・・・・?!」ガバッ



    「厠だよ・・・・!流石に便所に行く時を見計らって
     その行く先を見張ってれば自ずと答えには辿り着けたんだ!
     何も身体の線を睨まなくったって良かったんだ!」



    「・・・・で・・・?結果は・・・・!?」ゴクリ・・・




    一際真剣な表情を見せるモブリット。





    「副長は・・・お花を摘みに(▪▪▪▪▪▪)行かれた・・・!!つまり・・・・!!!」






    「ぉ・・・おお・・・・・・!!」




    自らの見立てが誤っていなかった事に心の底から胸を
    撫でおろすモブリット。その安息感はまるで死地から生還した
    その足で自室のベッドに身体を預ける瞬間の兵士の様でもあった。



    「何だおいその顔は!!これで心置きなく副長を枕のお供に
     出来るってか・・・?悪いが部屋は共用なんだ、匂いが残るからな
     ・・・・するなら表か便所に行って・・・・・・・」




    「黙ってくれ!!!余計な御世話だ!!!!」カッ







    その時・・・・・




    バンッ



    「何だ何だ騒がしいな新兵諸君!!今副長って呼ばれてた
     気もするんだが・・・まあいい。モブリット・バーナー二等兵、
     この場に居るかな??」



    話の主役に祭り上げられていたハンジ副長その人が
    宿舎の戸を開け放ち、部屋内に顔を覗かせる。



    「・・・・っ、オイ、御呼びだぞ!!行って来い!!(小声)」クスクス


    「襲うなよ!!!・・いや、襲われるなよ・・・か!!!(小声)」ケラケラ


    「後であっちの方どうだったか聞かせろよモブ!!(小声)」ハハ・・




    「ハッ!!!ここに!!(畜生・・・!好き勝手言いやがって・・・!)」ドンッ




    「おっし、丁度よく居てくれて助かった。
     一緒に来てくれないか?・・・2,3伝えときたい事がある。」



    「ハ・・・はぁ・・・・、、」スッ・・




  23. 23 : : 2015/05/05(火) 16:05:26





    ――調査兵団拠点内・食堂――







    「ほら、これだ。・・・・この陣形を・・・
     まあ陣形とは言っても壁の外では常に巨人との遭遇で

     思ったように陣形を維持する事が難しいから・・・・この配置を
     とりあえずは新兵の中でも成績に秀でた君の頭に
     叩き込んでおいてほしい。・・・・一応新人全員の生存率に関わる
     重要な責務でもある。頼めるかな」パサッ・・・




    「ぇえ・・・、それは・・勿論です。ではそのように・・」カサ・・



    机の上に置かれた一枚の羊皮紙。新兵のみの配置が簡易的に
    記されているとはいえ、一つの班に属する者の配置が

    この一枚で済まされているというのは、モブリットとしても
    陣形そのものにどれだけの汎用性があるのか若干疑問に
    思わせる所があったのだが。陣形の質問を彼がする前に・・・


    目の前の副長から彼に対する質問が向けられるのが先であった。




    「訓練兵卒業時の成績を見させて貰ったよ・・・・。
     正直目を疑った。君は・・・どうしてまた調査兵なんかに?」




    「・・・・・?」



    彼は、正直一瞬彼女の投げかけた問いの意図を
    理解できなかった。



    「・・・・・すみません、質問を質問で返す無作法をお許し下さい。
     ・・・・・・その、どうして、とは一体どのような意味で・・・」



    「いや・・・どのようにも何もないさ。君・・・次席で兵団を出てる
     エリート中のエリートじゃないか・・・・!そんなどこから
     どう見たって内地行きの切符を選びそうな君が・・・!

     何を考えてこんな、地獄行きの片道切符を・・・・?」



    「・・・・副長。入団したての新兵の士気を下げる様な発言は
     流石に承服致しかねますが。・・・そもそも切符が片道であるか
     どうか、それを決めるのは我々個々の生きる意志、
     それから巨人に臆さぬ度胸とそれを切り抜ける機転に
     他ならないと・・・・自分は考えています。」



    「・・・・・・・」




    「私が何を考えて此処に居るのか・・・・それは・・・
     きっと貴女と同じです。副長。」





    「・・・・・・へ?・・・・わ、私??」




    「ええ・・・。巨人討伐数、及び解体数共に兵団暫定3位の
     成績だけでなく・・・巨人の未知なる生態の解明、
     その偉業にも貢献する・・・・貴女のように。自分にも・・・
     彼らが何であって(▪▪▪▪▪)何を目的に人を喰い、
     何を想って毎日を壁の外で彷徨っているのか・・・
     それがどうしても気になって仕方が無いという心は
     確かに存在します。


     それを知る為に。その為に私はこうして調査兵団の
     門扉を叩きました。班分けの選考は完全に兵団任せ
     でしたので・・・こうして奇しくも班を同じくする上官として
     貴女の元に着けたのは何よりの僥倖でした。改めて・・・
     宜しくお願いします」スッ・・





    そう言って、恭しく礼をするモブリットの真面目一色と言った
    雰囲気に頬を掻きながら照れくさそうに応じるハンジ。




    「いや・・・・それはね、キミの買被りだよ。

     私は何もそう言った大義の為だとか何かの役に立とうとして
     巨人共の解体に躍起になっている訳じゃ無い。偶々
     山程殺していく過程で…そうした巨人の構造や特性が明らかに
     なってるってだけの話さ。奴等に感情が在るかどうかは
     さておいて・・・・私の内にある本質も、結局は巨人共と何ら
     変わりはしない」



    「・・・・・???・・・・巨人・・・・と?いえあの・・・それは一体
     どういった意味で・・・・」




    「言葉通りの意味さ・・・私にはね・・・私の中には・・・
     奴らに対する憎しみと怒りしか存在しない。

     君の様な、巨人に対する知識欲が先行してこの兵団に
     飛び込んで来たのは・・・・精々昔の話さ。沢山の仲間が
     目の前で無惨にも食い散らかされた。

     詰まる所私の中には巨人に対する殺意しか無いんだ」




    「・・・・・・」
  24. 24 : : 2015/05/05(火) 16:14:51



    「君も直ぐに分るようになる。それ位の気概でなけりゃ・・・
     壁の外ではやっていけないんだ。午前の訓練でも
     大人気無く熱くなってしまって新兵にはとても悪い事を
     してしまったと我ながら思ってはいる。・・・・しかしだね、

     壁外で馬を思うように扱えないあまりに、本来なら
     助かったその命をあっけなく巨人共に摘み取られていった
     仲間たちの末期の顔を思い出すと・・・どうしてもね。」



    「心中お察しします。それは・・・目の前で仲間を失ってきた
     副長にしか理解できない物ですから。・・・こちらこそ
     その心根の全てを察する事も出来ずに異議を申立てしてしまい
     誠に・・・・」





    「・・・?異議・・??君なんか私に言ってたっけ・・・?;」




    「・・・・・・・;」





    「・・・なんでも有りません・・・・;」




    「・・・・悪いね、訓練中とはいえこっちも必死だから、
     どうしても気分が盛り上がってる最中の事は覚えが
     悪くて・・・。ええと、何の話だったか・・・」




    「壁外遠征の陣形の話・・・・でしたね。大本の話題としては」



    「そうそう、そうだった。・・・ともかくだね、
     今はとにかく兵士の頭数が足りない。陣形に関しては

     今迄に無い画期的な物が考案されてる最中だって話だけど・・
     今は知っての通り、巨人と遭遇したら、やり過ごせるなら
     即離脱だが・・・それが無理なら遭遇次第即、交戦だ。

     元々巨人との遭遇率が全て運に左右されているから
     生きて帰れる兵士が少ないのは当然の事なんだが・・・

     それなら何故調査兵団の馬たちは・・・・騎手を失って尚
     私達と共に壁の内側に帰って来れるんだと思う?」




    「・・・・巨人には人間以外の生物に興味を向けないという
     習性が確認されているのと・・・騎手を失った馬は、最寄りの
     兵士の誘導に応じる調教を受けているから・・・でしょうか」





    「まあまあ正解だけど・・・そう言う意味じゃない。

     もっと単純な話さ・・。いくら巨人が興味を向けないとはいえ
     彼等だって一応はその巨人の興味の的となる人間を
     常に背中に乗せて壁外を駆け抜けなきゃいけないんだ。

     対する奴等だって全てが全て、行儀よく馬上の兵士のみ
     摘み上げて行くわけじゃ無い。その辺は兵士同様に
     命の危険を被っている訳だが・・・・。」




    「ええ・・・まあそれは・・・」





    「単純に・・・馬自身は本領を発揮できれば大抵のサイズの
     巨人からは逃げ切れる脚を持っているって事さ。
     それなりの重さを持つ立体機動装置と人一人分の重さ。

     それらがあっても無くても・・・正直な話、それが
     一人くらいだったらあまり彼らにとって問題では無いんだ」





    「・・・・・・(どう考えてもその差は大きいと思うが・・
     この人が改めてそう口にするという事はそれだけの経験を
     ここまで積んで来た結果に辿り着いた答えなのだろうか)」




    「それでも巨人の口から逃げ切れない新兵達が
     毎度毎度遠征の度に空っぽの墓標に化けてしまうのは・・・

     彼らが自身の命を預ける馬の能力とモチベーションを
     十分に発揮できていないからさ。君も今しがたコレを見て
     思った事だろう。この陣形には・・・そもそも
     有事の際の陣形展開が殆ど用意されていない。


     ・・・つまりどのような形を維持して先に進めば良いか、
     その形のみが記された陣形でしか無いんだ。

     ――それではとても“陣形”等とは呼び難い。

     確かに孤立が一番壁外で危ない状態だと知っていればこそ、
     皆が皆纏まって陣形を維持する事は何より重要だ。
     しかしだね・・・・」



    「(昼間は本当にそこまでこの人が難しい事を考えているのか
     本気で疑問に思って居たが・・・・この様子を見るに
     この人は本気で・・・・)」
     
  25. 25 : : 2015/05/05(火) 16:18:14



    訓練中とはうってかわって、真摯な熱意をもって
    現状の陣形に対する己が疑問を掲げ、熱弁を振るう彼女。

    そして普段は滅多に見られないその表情に見入っていく
    モブリット。彼も未だ壁外にて巨人を目の前にした彼女を
    知っている訳では無い。・・・・が、しかし。




    「(ここまで真面目に班員や陣形に対して危機意識を持てる人が
     簡単に狂人と切り捨てられていい筈は無い。・・・きっと
     噂の中に耳にする話の殆どは数多の脚色を経て、
     元々の彼女が持っている特異性も手伝って膨れ上がった
     ものに違いない・・・・。

     改めて・・・これなら自分はこの人を信じてやっていく事に
     疑問を抱かずに済みそうだ・・・)」


    こうして彼女の人柄を再度認識した彼は・・・
    それからしばらくの間も彼女の元で己の成すべきことを
    粛々とこなしていく事になる。


    毎日の仕事の中で再認識させられた事と言えば・・・

    彼女はその利発そうな外見に反して
    (眼鏡の有無もそのイメージに強く作用しては
    いると思われるが)事務仕事や、書類管理などに関しては
    総じて雑であるという事。

    しかし替わって、調査兵の肝となる馬上からの立体機動など、
    その実技訓練の様に直接身体を動かす事となると、こちらは
    人が変わったように熱意を振りまく、所謂鬼教官っぷりを
    発揮するということ。









    ―ウォールマリア内・山林地帯―





    「そうそう!!思い切りも大事だがあくまで機会(タイミング)を逃さずに!

     馬上から立体機動に移る行為は調査兵団(う ち)じゃ日常茶飯事
     だけど、これは元々移行その物が命に関わる危険行為だ!!
     考えなくても分ると思うが、落馬のリスクが半端ない!!

     巨人に喰われて死ぬならまだ格好が付こうってモンだけど
     これがアンカー外してコケた挙句に仲間の馬に
     頭蓋を踏み砕かれたとあっちゃぁ、おいおい死んでも
     死にきれない!!

     ・・・・因みにそんな先立ちが過去に私が知ってるだけでも
     3人くらいいました!君等の中に、その記録の栄えある
     4人目として名を馳せる超新星が現れない事を心から
     祈ってるからね!!・・・・・っほっは!!!」バシュンッ!!




    ギュギギッ!!!!





    「すげー・・・・・なんであんなふざけた喋り方してて
     正確に馬上から樹木を捉えられるんだ・・・・?」




    「だからアレがあの人の()なんだろ・・・!」




    「相変わらずどんなに激しく動いても全く揺れないがな・・・」



    「ああ・・。全くブレがない・・」



    「おいっ・・!あんまり凝視するなっ・・!!本人あれで結構
     胸周り気にしてるって噂だぞ・・・・!何でも訓練兵時代から
     男日照りが続いてるらしいからな・・・・!」



    「日照りって言うかアレはもう干ばつにさしかかってるんじゃ
     ないのか・・・?;本人にその辺ハッキリさせようって意思が
     まるで感じられないんだが・・・・」



    「人前でも平気で鼻毛を抜く癖もどうにかした方がいいよな」




    「それを目撃した奴に自らの分身を擦り付けようとする癖もな」





    ビシュッ!!!



    「ひっ!!!!?」



    瞬間、馬上で風に晒される自身の横っ面にアンカーの
    掠める風圧を感じ取る第四班新米調査兵。

    何が起こったのか理解できずその身を震わせて馬に制動を
    かけて周囲を見渡すが・・・・・・



    「クルァ!!!!だぁれが停まっていいっつった!!!

     聞こえたぞ貴様!!!誰が男日照りの貧乳鼻毛野郎だって!!?」
     ピキピキ....!!!(キュルキュルキュル!!)




    「しっかりちゃっかり聞こえてらっしゃる!!!!」ヒィィ!!!



    そのワイヤーの発射元に居たのは、樹木の側面に
    般若の出来損ないの様な鬼の形相で仁王立ちする
    鬼の姿・・・・否、鬼の副長の姿であった。


    片方の射出ワイヤーを少々行き過ぎた叱責として此方に
    寄越した状態でありながら器用にも重力に逆らって
    その身を樹木に直立させている。腕組みするその姿からは
    殺意以外のものには到底置き換えることのできない
    なにかが揺らめいていた。
  26. 26 : : 2015/05/05(火) 16:24:20



    「よぅしいい度胸だ!!!これより調査兵団名物、
     立体機動鬼ごっこを開始する!!!
     鬼は私、只一人だ!!もし貴様ら全員日没まで逃げきれなかった
     その時は・・・・!!(ペシン) ぁいてっ;」




    彼女の暴走気味な提案を途中で遮ったのは・・・・




    「悪ふざけも度が過ぎると洒落にならん・・・その位にしろ」




    ハンジの取り付いている樹木、その更に上部に位置する
    場所より突き出した枝にワイヤーを回し、
    自身の身を宙吊りにしている長身の兵士の姿だった・・・・





    「ミケ分隊長・・・・・!」




    変人揃いの調査兵団の中でも屈指の変態・・・。
    その身長等から一際目を引く・・・謎多きベテラン兵士、
    ミケ・ザカリアス分隊長だった。


    初対面の新兵の中でも書類の受け渡しなどで直接接触を
    行っているものは全員もれなく体臭を嗅がれた上に
    嘲笑されるという謎の新兵歓迎の儀礼を喰らっており、

    その誰もが先述の通り、男女を問わず嘲笑で最後を
    締めくくられている為、それ以外のリアクションが
    場合によって用意されているのか否か・・・・その議論は未だに
    新兵の間でもまことしやかに囁かれている。



    「イったいなミケェ・・・・!!何もぶつこと無いだろ~?
     親父にもぶたれたことないのに!!!」ォーイテ....




    「立体機動を追いかけっこの道具として使うなど言語道断だ。
    ・・・・それから有りもしない名物を勝手に作るな。
     新入りが本気にしたらどうする。


     ・・・・それに・・・。そんな事をした挙句に課せられる罰則と、
     キース団長の小言、及び頭突きに比べれば、この程度の叱責で
     済む事は寧ろ有難いと思ってほしい位だが・・・・」




    尚、平時は口数も少なく、如何せん何を考えているのか
    捉えようのない彼ではあるが・・・壁外遠征の参加経験回数は
    “何故か”ハンジよりも少ないとされる反面、

    調査兵団への在籍年数はハンジ以上であり、
    その対巨人戦における戦闘能力は兵団中屈指の物であるという
    噂が・・・・新兵達の間でも否応なしに彼への注目度を上げる
    要因となっている。



    「あンの頭突きだけは勘弁だ・・・!アレめっちゃ痛いからな!!

     あんまりに頭突きで貰ったたん瘤の痛みが長引き過ぎて
     元々長引いてたアレの痛みが消えるまですっかりそっちの
     痛さを忘れてたくらいだからな!

     しっかしアレさぁ、なんであんな強力な頭突きを繰り出してる
     張本人は禿げないんだろうね・・・?見てろ、今に絶対
     禿げあがるぞ。」



    「・・・・そういう冗句を平気で人前で言う性格も・・・
     何とかした方が良い。お前・・・・少しは将来を
     誓い合う相手を探そうとかそういう気持ちは無いのか。
     こんな俺が言うのも何だが・・」






    「んーにゃ。無いね。全然。全く。」バッサリ




    「また随分躊躇なくバッサリ言ったな。・・・まあ、
     それでどうという事も無いがな。せめていつ死ぬか
     分からない以上その位の楽しみがお前にもあったって・・・」



    「・・・・なにを言ってるんだいミケ??・・お楽しみだったら・・・
     有るじゃないか・・・・・それも調査兵の本分にしっかり則った、
     立派なお楽しみが・・・・!!」フルフル・・・・




    「ハンジ・・・・・」




    「私にはそんな事の為に割いてる時間なんて毛程も無いんだ…!
     今こうしている間にも壁外では私に切り刻まれるその時を待つ
     哀れな・・・・」ゾクゾクゾク・・・・
    「ハンジッ!!!・・・・・止せ、気持ちを昂ぶらせるのはいいが・・・
     今はその位にしておけ・・・・・・・!;」



    語り口の最中、見る見るうちにその顔色に浮かぶ狂相が
    増し始めたハンジを制するミケ。若干長く続いた
    会話のせいで忘れかけてはいたが、今は互いに立体機動装置で
    樹木にその身を繋ぎとめている状態である。


    ミケと会話を始めた我が班の上官を邪魔する訳にもいかないので
    ・・・・と言わんばかりに自主的に馬上からの立体機動に
    悪戦苦闘する部下たちを尻目に・・・・ミケに力強く握られた
    己の右腕に滲んだ脂汗を見つめるハンジ。


  27. 27 : : 2015/05/05(火) 16:26:56




    「アレ・・・・・ゴメン。。私また・・・・少しの間・・・・。。。

     ねえミケ、私変な事言って無かったよね・・・・?何も
     おかしな事したりなんて・・・・」....




    「・・・・・・気にするな。特に部下に何か粗相をやらかしたり
     なんてことはなかった。・・・・鬼ごっこを始めるとか
     言いだした以外はな・・・・」



    「それはしっかり覚えてんだけど」
     



    あっけらかんとしているハンジであったが・・・
    その腕に寸前まで直接触れていたミケは、彼女の身に起きている
    明確な異常に気がついていた。



     ・・・・・震えていた。



    ハンジのその腕は・・・確かに震えていたのだ。




    「(こいつ・・・あの時からというものの、巨人の事になると必ず
     こうだな・・・・無理もないし、当然の事ではあるんだが・・・
     しかし・・・・・コイツのコレは・・・・明らかに危険だ・・・・!)」


    ミケが心の奥底に思い浮かべていたのは・・・・、



    彼女が未だ入団間もない頃。一度目の遠征を奇跡的にも
    巨人の顔すら見ずに生還できた彼女が・・・・

    来る二度目の遠征にてその楽観を尽く挫かれることになった・・・
    その日の出来事であった。しかしその場にミケが覚えている
    光景を記憶している人間は目の前の彼女をおいて他には
    居なかった。


    そう・・・、ハンジ・ゾエ、本人以外には。




    「(こいつの根幹にあるのは間違いなく・・・俺と同じ、
     巨人への恐怖・・・・!!しかしコイツは・・・・その恐怖をまともに

     払拭できていないその状態で・・・他の誰よりも強い巨人への
     憎しみと殺意を爆発させてしまう・・・・。・・・危険だ・・・、
     コレではいずれ・・・・いずれ必ず自らの墓穴を掘る事になる)」





    「ぁあ・・・・、今日は駄目だなァ・・・血が足んないよ。

     クラクラしてきた。訓練中事故になっても困るから
     団長に休憩許可取りに行ってくる・・・・」フラフラ・・・




    「お前なら頭ごなしに却下される事も無い・・・・
     遠慮せずそうした方が良い・・・・・」





    ――彼女の特異性については調査兵団内でもそこそこ
    知れ渡っているものであり・・・・その対巨人戦における戦闘能力も
    さることながら・・・・、巨人達へ抱いている潜在的憎悪感も
    凄まじく強い物である。その度合いは正に
    破滅的ともいえる狂いっぷりであり、彼女の事を聞こうとすると
    周囲の調査兵は口を揃えて

    “何故未だに彼女が息をしていられるのか不思議で仕方がない”

    という意見が、まず真っ先に挙げられる。


           “会 敵 必 殺”


    エルヴィン・スミス、次期団長の考案する事になる
    長距離索敵陣形が正式に採用される前の当時の段階では・・・
    陣形の都合上それは仕方が無い事でもあったのだが・・・


    彼女のそれ(▪▪)は、聊か以上に常軌を逸していた。



  28. 28 : : 2015/05/08(金) 03:16:15





          ―――それから数ヶ月後――――









    ――それは・・・モブリットバーナー2等兵にとって初めての遠征…




    ――初めての壁外・・・・



    ――そして・・・・





    初めて仲間を失う恐怖を知ったその日の出来事。












    ―――壁外・ウォールマリア外周周辺・湖畔付近―――





    「距離200ッッ!!速い!!!!速すぎますッ!!分隊長!!!
     馬力がどうとかでは無くこのままではいずれ
     確実に全員喰われます!!!指示を!!」






    壁を越えたその先にある世界。



    時間としては昼過ぎ頃ではあるものの、僅かな陽光を
    透けさせて微かに輝く鉛の様な、重苦しい曇天の中・・・


    それまでの比較的温暖であった気温とその辺り一帯の
    気温差が作り出す、広範囲にわたる靄の只中を、
    全速力で駆け抜ける第四分隊の生存者達数名。




    生存者・・・という言葉が示している通り、
    彼等はつい今しがた奇行種を交えた複数体の巨人による
    洗礼を受けたばかりであり・・・現在靄と呼べるまでに
    回復した視界が、未だ濃霧と言って差し支えない程に
    劣悪であった視界の中で、

    有視界距離のギリギリ外側からその急襲を受ける形と
    なってしまった。現時点で奇跡的に生存していた
    モブリットが把握しているだけでも3人が馬ごと
    潰されていく様を視認しており、


    それ以降の状況判断に関しては正直頭が追いついていなかった。


    身のこなしが尋常では無い程素早い一体の大型から命辛々
    逃げ出すのに精一杯な状況の中、現在並走している
    仲間の総数すら満足に計算できていない。




    ・・・距離確認の為だけに振り返った後ろをそれ以上
    省みることなく・・・また、そんな事をしている暇すら
    惜しいという程の逼迫した顔で・・・モブリットが叫ぶ。




    「ぶっ・・・分隊長!!指示を!!!」






    「言われずとも分かっている!!奇行種だ!!!!!
     文句を言われて待つ馬鹿が何処に居る!!!横一列に散り!!

     追いつかれた者が時間を稼いでいる隙に各自全力にて
     離脱だ!!!陣形の基本形も忘れたのかこの愚か者めがッ!!!」



    そう返したのは列の先頭を切って走る、髭面の男。

    在籍年数と壁外からの帰還回数という選考基準の元、
    前回の遠征より落命した前分隊長に替わって第四班の
    全権を託された・・・所謂新任の分隊長であった。


    しかし、その男の所属は元々第四分隊ではなく、

    別の班に在籍していた経緯を持つが、前回の遠征にて
    分隊単位で壊滅的な打撃を受けた人的被害の影響を鑑みて
    充てられた、第四班の補充人員的な位置付けであった。

    言ってしまえば彼は戦闘能力のみを主眼に置いて任命するには・・
    それはあまりに不適任(▪▪▪)であると危惧された末に・・・・

    ハンジ・ゾエ一等兵を副長に抑え込む形で第四班の長として
    据えられた・・・言わば暴走抑止の為の安全弁的存在であった。




    ・・・・つまりは経験豊富な人員というよりも元々暴走気味な
    “問題児”を抑制するために班に据えられた見張り役に近い。






    「ッッッ・・・・!!!!」





    その性分を分かり易く表すかのような、
    状況打開の為に何を賭けようともしない逃げの一手を
    主張する分隊長と・・・あまりの呆れに言葉を失うモブリット。

    隣に並走しているのは仮にも上官の中の上官。
    自らの班の全権を握る第四分隊長の男ではあるが・・・・
    そんな事はお構いなしに、否、そうであればこそと、
    無言で舌打ちに続けた歯軋りを響かせる。
  29. 29 : : 2015/05/08(金) 03:19:37





     調査兵の一個小隊を任される班の長たる者でも・・・!!!
     追いつめられればこの有様なのか・・・・!こんなに・・・!
     こんなに人間とは弱い生き物なのか・・・・・!?



     こんな有様は・・・自分の訊かされてきた“調査兵”などの
     姿とは決して違う・・・・!仲間が・・・・!!
     会敵から10数える間も無い内に仲間が3人喰われた・・・・!!
     そんな状況で簡単に逃げ切るのも困難だと分かって尚・・・・・



     囮を用いての遁走・・・!?どう控えめな見方をした所で
     恰好のいい言葉ではないし、それは端的に言ってしまって
     ただのトカゲの尻尾切り・・・!!!作戦でも何でもない・・・!



     「・・・・・・・・!!!」




    彼の首筋に走る汗。逡巡に揺れ動くその瞳は・・・
    視界が悪い靄の中、逃走に全意識を向ける彼らとは違い・・・・

    只一人、後方に詰め寄る異形の姿を、その影と自らの間の
    距離感を捉えていた。





     横一列に並んで走り、喰われた奴は、残念賞。



     各々合掌しつつその場を離脱・・・・??!?




     そんな・・・・そんな命令が・・・・・



     ・・・・・・・ふざけるな!!!!!




    後方より四脚にて猛烈なスピードで迫る奇行種を視界端に
    捉えたその直後・・・。



    心の内で故郷に残す家族の名を反芻したモブリットは・・・・





    パシンッ!!!!






    「ぁああああああああぁぁぁあああ!!!!!!!!」




          ズザザザザザッッ・・・!!!ガガガ!!!





    只遁走するだけでも今にも追いつかれそうであった状態で、
    無謀にも馬の鼻先を翻した。縮まる奇行種との差は・・
    そのスピードも相まって、あっという間にすれ違い、
    逆に突き放される形となる。・・・・が、しかし





    「ガフ・・・・ゴフフッ・・・・・・!!!!!」




    ズズン・・・・..ズン・・・..ズン・・.ズン・・.ズン..!!!!!






    当然、継続して遁走を続ける分隊長らを含めた
    第四班の兵士達ではなく距離的に近い位置に留まった
    モブリットを睨めつけ、その歩を再び刻み始める奇行種。






    「っ!?!??な・・・・新兵っっ・・・貴様何をッ・・・!!!」




    「ぶっ・・分隊長!!!もう間に合いません!!!前進しましょう!!」




    「全員喰われちまいますよ!!!!!」







    無我夢中にて手綱を握っていた分隊長。

    当然反応すら遅れ、事態の異変に気が付いたのは
    遥か後方に引き返したモブリットを目で追う奇行種が・・・・

    こちらの追跡を中断し、その照準を孤立した彼へと
    向け直してからの事であった






    「クッ・・・・最後までおかしな方向に生真面目な奴だったが・・!
     貴様の犠牲は無駄にはせん・・・・!!!総員!!全速にて離脱だ!!
     奴が作ったこの期を逃すな・・・・・!!」ババッ!!!




    単騎にて無謀な特攻へその身を晒したモブリットの覚悟を
    見事に履き違え、更にその彼の名前すらも極度の興奮状態に
    あるその段では満足に頭から引きずり出すことのできない、

    そんな分隊長には・・・・その時点で更に見落としている事が
    二つ程あった。




    1つは・・・・追ってきていた巨人は、モブリットが
    その身を賭して殺しに掛かったその一体だけでは無かった
    という事・・・・。そしてもう1つは・・・・




    自らの班における現状最高戦力にして最大の問題児(▪▪▪)…その不在であった。

  30. 30 : : 2015/05/08(金) 03:21:53
















     こんな所で・・・・死ぬのも御免だが、仲間を踏み台にして
     往き延びよう等更に御免だと啖呵を切ったが・・・・...!




     我ながら・・・・我ながら実に馬鹿な事をした・・・・・!



     逃げる事をやめ、改めて標的を視認する猶予が
     出来たその瞬間に・・・・自らのバカさ加減に気付いてしまった。


     
     体高、凡そ13m級・・・・・...!おまけに夢の中で想像していた
     奴等よりも遥かに小回りの利く、悪魔の様な四足の奇行種・・・!




     こんな奴相手に少しでも一矢報いてやる等と・・・・



     思い立った自分が信じられない・・・・。今のこの心境さえ
     理解できていれば自分は・・・



     先程心の中で罵倒した臆病風の化身ともいえる分隊長を・・
     軽蔑する事も無く大人しくその指示に従う事も出来ただろう。


     ・・・・いや・・・・、臆病者のまま生きる勇気を選ぶ事も・・・
     出来たんだろう・・・・・・。



     しかしもう遅い。



     ――脚が・・これはヒビでは済まないか・・・折れている。
     馬は・・・使い物にならない。



     追いつめるまではあれ程俊敏だったこの憎き仇は、
     何故かここへ来てその顔をゆっくりと此方に向けている。


     散々恐ろしい思いをさせたうえで追い詰めておきながら、
     最後はじわじわと嬲りに来る。――最悪だ。


     よく見れば口元には先程喰われた仲間の物と思しき
     血痕がこびりついている。



     ・・・だが、思っていたより頑張れた。
     追ってきていた奴はコイツの他には後4体いたが・・・



     内一体の5m級・・いや、この際見栄を張らずに4mとしよう。
     ともかくそんな小ぶりな奴ではあったが・・・

     何とか人類の仇を一体だけはこの刃で仕留められた。


     消える所までは無我夢中で確認できていないものの、
     あの深さなら確実に捉えている筈。何もできずに

     ただ喰われるのみで大半の新兵がその生涯に幕を下す
     現状から考えるならば・・我ながら上出来と言った所だろう。

     

     そうなると後の3体が今どこで何をしているのか気になる
     所ではあるものの・・・・まあ、どの道これでは
     関係無い事か。




     こんな最後だけは・・・・死んでも御免だと思っていたが・・・・。




     残念な事に自分は今・・・そのような最期を迎え、
     ―――そして死ぬ事になったのだ。




     選んだのは・・・他でもない自分自身。




     
    「(良かった・・・片方のブレードは未だ切れ味が十分に
     生きている。これなら傷みも然程無い・・・と願いたい。)」




    なぶり殺しにされるくらいならと、既に自刃の準備に入る
    モブリット。



    ―――ただ、意外な事に彼の中に悔いは無かった。
    こうして自分が惹きつけた事によって、
    自らが心の何処かで僅かに敬愛していた、彼女(▪▪)もまた・・・


    無事この窮地を脱する事が出来たのだろうかと・・・・
    僅かながらにもそう思う事が出来たから。






     さて・・・・一思いに済みそうな部位は果たして
     どのあたりだったか。


     ・・・いや、痛覚の密集部分を避ける事も考えた方が
     良いか・・・?何れにせよ早く決めなければ先に
     喰い付かれてしまうな・・・・




    彼の脳内はこの期に及んで至って冷静だった。

    やるべきことを果たし、救いたい人を
    救う事が出来た安息感と、未だ何とか自身の手で
    巨人から受ける殺戮の憂き目を体感せずに
    済むという打算から来るものだろうか。

    それは・・・、それまで彼の心を支配していた
    恐怖心を丸ごと塗りつぶしてしまう程の
    落ち着き振りであった。


  31. 31 : : 2015/05/08(金) 03:25:17






    ―――しかしだからこそ彼は・・・・次の瞬間大いに絶望した。





    「やあやあ、何をお気楽に地べたに寝転がってんだいモブ!!!」






    「!!!??」





    靄を突き抜け、響き渡る、実に緊張感に欠けながらも・・・
    はきはきとした、陽気な声。その声こそは・・・・

    彼が今一番聞きたい声でも有りながら・・・・実際には
    この状況下では一番聞きたくない声であったから。





    「おネんねの時間はまだまだ先だぞ!!どんなに眠くても
     壁の内側に帰るまで我慢しなさい!!!でなきゃ
     そこのアホ面四本足のおやつにされちゃうぞ!!!」






    「(――――副長っ!?!??)」






     ――どうして此処に。。




    ―――幻聴であってくれれば何程良かったことか。


    最後の最期で自らの託した希望が踏みにじられる音を聞く
    モブリット。それというのも無理は無く、
    一目散に逃げる事しか考えて居なかった分隊長らとは違い
    彼の頭には・・この一体以外にも


    その後を追う形で3体の巨人が視界の奥で靄に踊っているのを・・
    その目で確認した記憶が確かに残っていたからだ。



    故に・・・・




    「ハンジさん!!!!逃げッ・・・・逃げてください!!!

     一人で4体はどう考えても無茶苦茶です!!!!自分は
     この通り足をッ・・・・・!!!」ガバッ・・・・! 




    「ぁあ!そういや後ろに一体転がってたな!!モブお前、
     見かけによらずハデにやるじゃないか!!!
     益々気に入ったぞ!!討伐一体おめでとう!!!
     
     これから一緒に毎日巨人を焼こうぜ☆!!?」





    「ばっ・・・・!!訳の分からない事を言ってないで
     早く逃げて下さいっ!!!第一貴女馬はっっ・・!!!」





    「だぁーかぁーらーー・・・・・何を言ってるんだモブリッツ!!」
     ジャギ・・・




    「・・・??!」





    必死に地べたから持ち上げたその顔に飛び込んで来たのは・・・


    薄くかかる靄の中、ケープを・・・隊服を・・・・その装備品の
    尽くを黒血で染め上げた・・・狂気に塗れた道化の様な出で立ちの
    ハンジ・ゾエ副分隊長の姿であった。


    周囲の靄が濃く漂っているので一見して分かり辛いが、
    その全身からは見間違いでも何でも無く、うっすらと
    立ち上る蒸気が見て取れる。・・・恐らくそれらは
    彼女自身の血痕などでは無く、全て巨人の返り血なのだろう。

    顔に被った黒鉄色の隈取りが・・・・
    蒸気を伴う消失と共に狂気の笑顔を晒し出す。

    ゴーグルで一部、顔面を保護していなければ失明の恐れすら
    ある盛大な被り方をしている為、その姿で唇を歪める様子は
    正に狂人としか形容できない禍々しさ。

    そしてこれはモブリットにとって最も平常心をかき乱される
    事実であるが・・・彼女の傍に肝心の馬の姿が見当たらない。





    しかしそうした絶望の追い打ちにモブリットが
    愕然とするよりも先に・・・・更なる狂気の雄叫びがその場を
    劈く事になる。




    「逃げる必用なんてさ~・・・これっぽっちもないの!」




    カチャッ・・・・




    「残ってンのは・・・・そいつだけだから....サぁぁァァ!!!!」



    バシュッ!!   ドシュッ!!!



    地上より彼女が打ち出したアンカーが捉えたのは何と・・・・


    何と事もあろうに四足でどう暴れるか予想も付かない奇行種の・・
    両の膝裏ど真ん中。何の躊躇も無くワイヤーを収納した彼女が
    宙ぶらりんとなった位置は・・・・四つん這いになっている
    奇行種の、両足の間。つまり臀部の真後ろという腱を狙おうにも
    うなじを狙おうにもまるで最適解とは言えない


    完全に理解不能なポジショニングであった。

  32. 32 : : 2015/05/08(金) 03:28:08


    ・・・しかし、これこそ狙い通りとすかさず捻った半身と、
    僅かに覗かせた狂気の貼りつく笑顔でモブリットの
    驚愕する顔を認めると・・・・




    「アッハハハハ!!!.....えい・・・や★!!!」




    ドスリ




    腱を狙った動きを封じる為の攻撃でも無く・・・・
    大凡何の行動遅延効果も望めない、
    言うなれば“特に理由の無い刺突”。


    移動から攻撃まで、そうした余計な行動に割いている
    時間的猶予など皆無であるという事実すら無視し・・・




    ケタケタと笑い声を上げた後に突き込まれる
    “無意味なだけの尻への刺突”。



    それを一切の迷いなく、深々と・・・・一思いに
    一突きにて完了して見せるハンジ副分隊長。



    位置的にそれは、人間であれば丁度菊門に
    ぴったり重なるであろう位置であり、この攻撃の対象が
    巨人で無く人間であったりした場合には・・例え
    縮尺で同じくらいの大きさの刃が差し込まれたのだと
    仮定しても、想像すらしたくない激痛が臀部のみならず
    半身を支配していた筈である。



    ――しかし相手は巨人。菊門はおろか、痛覚すら
    その身には存在しないとされている(▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪)・・・・・巨人である。




    「・・・・・・・・・・・・・・・」



    ズン・・・・!ギチ・・・・



    無言で振り返り、既にワイヤーを収納して地に降り立っている
    ハンジを睨むと、一瞬だけ動きを止める奇行種。






    「っしゃぁああ!!!ヤってやったぜ!!!凸(ビッ!!!)
     悔しかったらやり返して見な!!!ホラホラ、こっちだ!!!

     未だ前も後ろも手付かずだぞ!???そのデカい図体に
     見合った太くてでかいモノで・・・・・!!!」パパンッ!!




    ・・と、巨人を相手取る上では明らかに無為な行動とされる
    挑発行為に没頭し、全力でガッツポーズをとりつつも

    突き出した自らの尻を新しいものに差し替えたブレードの腹で
    叩き鳴らすハンジ。絶対に真似をしてはいけない危険行為の
    見本市である。


    「って、ああ↓↓お前は巨人だからそういうの無いんだったか。
     じゃあいらないや・・・お前。・・・・とっとと・・・

     ....くたばっちゃえよ....!このク



    「ガッッ・・・・・!!!!」





    ドドッ・・・・・・!!!ズシャッ!!!!
                       ガガッガガガガガ!!



    高揚の頂点へと差し掛かった瞬間、一気に火を落とした鍋の
    様に、その表情に影を落とすハンジであったが・・・

    彼女が言い切るよりも先に、奇行種が飛びついた勢いで
    地表が抉られる轟音が辺りに響き渡る。





    「ハンジさん!!!!!!!!」




    立ち込める土煙に向かい、泥にまみれたその身体を持ち上げて
    叫ぶモブリット。




    「いゃ ぃやぁ・・・・☆副長とかって堅苦しい呼び方されるより
     やっぱり名前で呼んで貰えるのは新鮮でいいねぇ・・・・

     そう考えるとやっぱり生き残れば残った期間が長い程
     序列で偉くなっちゃうのはなんだかさみしい限りだ。

     ・・でも今はそっちのお楽しみよりコレ(▪▪)を先に
     何とかしないとねぇ・・・・。・・・・・それに何より・・・・」






    「・・・・・・!」




    一先ず安否を確認したい者の声を聴けたモブリットは
    その表情に一時的な明るさを取り戻したが・・・




    「ッッ・・・・副・・・・・・!!!!;」




    土煙の靄が晴れかけたその中にあった光景に、
    自身の血の気が一気に全身から駆け下りる音を聞く。




    相変わらず不敵にも軽口を叩く事を止めないハンジの
    居る場所といえば・・・文字通り、奇行種の
    “眼と鼻の先”であったからだ。眉間に打ち込んだ
    アンカーにより、その身を奇行種の寄り目の真ん前で
    繋ぎとめ、あろうことか腕組みをしている彼女。


  33. 33 : : 2015/05/08(金) 03:32:03







    「久々の巨人狩りだぁ・・・・//楽しませて頂かなければ」




    「ゴルル・・!」ブアッ!!!



    自らの顔にたかったハエを叩こうとするかのように
    一時的に二足にて立ち上がりつつも右腕を振りかぶった
    奇行種だったが・・・その掌が空を切るより先に



    「ね!!!!!」 ジャギギッ!!!!



    腕組みの姿勢から流れるように抜剣するハンジ。



     ズチュッ!!!!! ギシュッ!!!



    その両刃は瞬きをする間もなく13m級の双眸に
    深く深く突き立てられる



    「フグォォアアアアアア!!!!!」


    ガグン・・・

         ブン・・・・!ブン....!!!

    両目が潰された瞬間、堪らず両腕を元の4足歩行の姿勢に戻し
    首を振りながらももがき苦しむ奇行種




    「ぉっと☆」バシュッ!!  ドスッ!!ドス!!



    そんな状態に陥っても尚、奇行種から離れようとせず、今度は
    アンカーを一旦抜き、引き抜いたブレードをそのまま頸部の
    弱点から外れた位置を器用に狙い、突き刺すハンジ。

    突き刺したブレードに捕まる格好で首筋にへばり付いている。



    「グォァアアアア!!!」



    我が身に纏わりつく邪魔者を振り払わん為か、
    回復しない視界に躍起になっているのか、唸り声を上げ、
    見えない何かを追い散らすかのように暴れる奇行種



    「・・・・随分とまあ可愛らしい声を上げて鳴くンだねぇ・・・
     けどそんな事では死ねないよ・・・・」ギチチッ・・・!!!


    ズチュッ・・・・!!!




    「!!!!!!!」ビグンッ!!!



    直後、全身の筋に何かがのたうち回るかのような緊張を見せる
    奇行種の四肢。



    急所(うなじ)には・・・・!一太刀たりとも
     挿れちゃいないんだからさァ////!!!!!」ギチュッ・・・・!!!





    「gッガァァァアアアアアアアア!!!!!」




    そう言いつつも、今度はうなじのど真ん中へと
    容赦なく突き降ろされる一本の白刃。





    「っあ、ごっめ~ん挿入れちゃったぁ♥、ゴメンよ、
     初めてだし痛かったんだろうねぇ・・・・・・・・



     ・・・けど先ずそこだよ」



    人間の身体とどこまで似通った構造であるかは定かではない物の
    他より明らかに刃の通り辛そうな筋繊維や頸椎などの
    密集箇所であるその場所に突き刺した刃。

    ・・・収まりきらない分のその鈍い銀色に、恍惚とした表情を
    映し込んでニヤけるハンジ。


    ・・・真下から感じる凄まじい高熱に、正しくその身を
    焦がすかのような高揚感を表していた顔は・・・
    またもや急激に氷のように冷え切った顔となる



    「お前らってさぁ・・・・一体なんなの・・・・!?ねえ!!?!

     痛くないんだろ!!!!?腕斬られたって指斬られたって、
     お構いなしに人を喰いに来れる程痛みに鈍感な筈なんだろ!?

     今だってそうだ!!!後ろの初めてを抜身のモノで一思いに
     奪ってやったってのにピンピンしやがって・・・・・!
     ・・・・・かと思えば」




    タタンッ!!!   バシュッ!!



    もがき苦しんで、とうとう四肢を投げ出し、地べたを
    転げまわるのみとなった奇行種からようやく離脱した
    ハンジだったが・・・・



    「・・・・目ん玉とかうなじとか・・・・この辺を
     つっつかれるとそんな大袈裟に痛がるんだよな!!!!

     本ッ当・・訳わかんないんだよこの××××野郎がッッ!!!!」


    ザギンッ!!!   ズチュッ!!!





    「・・・・・・・!!!!・・・・!!!っ・・・;」






    ――それは最早、殺戮ですらなかった。


  34. 34 : : 2015/05/08(金) 20:13:10




    「大体お前らいつどこでどうやって増えてんだよ!!!
     まずそこから教えろって!!!なぁ!!!!

     本当はさァ・・・・!喋れるんだろ!!!?」ドスッ!!!




    ――喉笛に食い込む、消耗したなまくら。




    「こんなデッかいナリしてても、どうせ中には
     汗だくの小さいオッサンがはいってるとか、そんなオチ
     なんだろ!!!?答えてくれよ!!!お前ら一体ッッ・・・!!
     
     一体何なんだよ!!!なぁぁ!!!!!!!」




    ――殺す事すら忘れ去り、痛みを一切感じない筈の
      彼らの身体に自らの怒りの慟哭をぶつけていくハンジ。




    しかし、彼等のダメージ回復の速度も同時に熟知している彼女は
    抜け目なく目を狙いに行く事だけは怠らない。



    正気を一切合財放棄しているように見えてあくまでも
    徹底的に嬲りに行くその姿ではあったが、彼女の意識は
    完全には冷静では無いのだと、傍から見て居たモブリットに
    気付かせる点が一つだけあった。



    「(副長・・・・・替えの刃が・・・・もう・・・・・・!!)」




     しかしなんて滅茶苦茶な戦い方だ・・・!!


     技術も度胸も伴ってはいる。・・・しかし何より
     体力面で大きなハンデを負わされる女性兵で有りながら
     あそこまでの手腕を振るえる様になるには・・生半可な
     鍛錬で到底足りる筈も無い。

     壮絶な・・・血反吐を吐いても膝を突く事を許されない様な
     地獄の訓練兵科を経て来た自分でも、恐らく彼女が今まで
     積み上げてきたものに比べれば何一つ及んではいない
     事だろう。


     だが改めて、戦い方がまるで論理的ではない・・・!
     あんな調子で2∼3体もの巨人を相手にしていたら・・・、
     いくら後手に回らずに居られたとしても、
     直ぐに替刃のストックが尽きてしまう・・・・・!



    ハンジの腰で揺れるブレード収納ボックスに収まる
    替刃の残は・・・・既に左右残り一本ずつ。


    彼女が現在その手に握りこんでいるグリップに
    装着されている分も、既に全く必要のない箇所へ繰り返された
    無為な刺突により、本来ならば屈曲耐久度を限界まで
    引き上げる為に設えられている、ブレードの節目二つ、
    三つ分程は折れて刃渡りが短くなってしまっている。

    ここまでブレードを乱暴に扱いながらも未だ
    優勢に立っている彼女は、やはりどう考えても
    何かがおかしいとしか言いようがない。


    目の前で繰り返される無意味な暴挙に
    釘付けになりながらも・・・今自分が何をするべきか、
    必死に考えるモブリット。







    「ホラ!!!ほらっ!!!なんだよ!!立派なのは身の丈だけか!?」


    ザシュッ!!! ギチッ!!!



    ―――刺突。




    「傷の治りが遅くなってきてるぞ!!」


    ビシュッ!!ズルッ....!!!



    ――掻っ切り。




    「もっと意地を見せてみろって!!!」



    ズンッッ!!!!  ゾガッッ!!!



    使い物にならない程消耗した右腕側のブレードを
    転げまわる奇行種の左目に突き刺し、グリップから
    外すと、刃の軸部分に更に追い打ちの前蹴りをお見舞いし、
    幾ら暴れ廻ろうと抜ける事の無い位置まで深々と
    差し込まれる刃。


    ガチャ・・・チキ・・・




    「・・・・もうラス1か・・ ッ・・・仕方ないなァ・・・・

     取り巻きのちっちゃい奴等が無駄に筋張ってた
     からなぁ・・・。ぁ~・・・テンション下がる。」

  35. 35 : : 2015/05/08(金) 20:17:42



    ズン・・・・





    「・・・・!!!」ガタガタ・・・・



    「・・・・・・・・?あぁ・・・・?」カチャ・・




    ――15m級。



    そこに新たな足音を響かせたのは・・・




    二足で直立しながらも、不気味なポージングで
    恥部と胸部を庇いながら体をくねらせる・・・

    15m級の女型巨人であった。




    2メートル程しかその場に居たものと差が無いとはいえ、
    その姿勢が常に2足で立っているとなると・・・



    大きさはまるで別物のように感じる。




    「ぁ・・・・ああ・・・・!!」



    ハンジの助太刀により、一時は助かるかと思いかけた
    モブリットだったが、自らの替刃とガスを彼女のストック分と
    換装する間も無く、無情の邂逅を告げる足音が・・・
    虚しくその場の空気を震わせる。



    「・・・・・・・・。」




    新手の乱入に関しては、流石に今迄通りの調子で
    居る訳にもいかず、替えたばかりの刃で、雑草を
    毟って投げ捨てるかのように、何の感慨も無く
    足元のうなじを一閃するハンジ。


    その冷え切った目には、既に先程まで罵詈雑言を
    ぶつけていた仇敵の存在すら映ってはおらず、

    更には替刃も後が無い程に消耗し、装置を駆動させるのに
    必要なガスについても既に相当量消耗して居る状態である。

    一つの、絶体絶命とも言える窮地に立たされている筈の
    己の現状に対して・・・しかし彼女は。




    「何じっと見つめてるのさ・・・なんだよ、まさか誘ってるのか??」
     チャキッ・・・・




    一片も焦りの色を見せては居なかった。



    「思わせぶりな格好しやがって・・・別に私は相手が女でも
     構わないけどね・・・・・!

     ・・・・けど人のお楽しみをわざわざこうして邪魔しに
     しゃしゃり出て来たんだ・・・・!!

     楽にイけると思うなよ・・・・・!?」チキッ・・・・




    しかし



    バスッ・・・・     カカンッ・・・



    「!!!?」




    ボンベ内のガス圧が足りなかった事により
    本来ならば石壁に突き立つほどの速度で突出する
    筈のアンカーが・・・・力なくハンジの立体機動装置より
    飛び出した後に地面で跳ねるのを見るモブリット。



    「っ・・・!何だよ・・・・これからって時に!!!
     これだから機械はイヤなんだ!!!」ガシャッ!!! 



    ガランッ... チャキリ・・・・




    一際大きな舌打ちと同時にそう悪態をついた
    彼女は何と・・・・




    「何を・・・・あなたは一体何をしてるんですか
     副長ッっ!!!!!!!」




    「ぁん・・・・?何ってモブお前・・・・・」




    立体機動装置の転倒時等に働く、心臓部を
    保護するための安全解除機構。それらを自ら有効に切り替え、

    既に錘としての役割しか果たさなくなった『それ』を
    切り離したのだ。その身に携えているのは既に
    残り一対となった使い捨てのブレードとそのトリガーのみ。
    操作用ワイヤーが中途半端に遊んでしまっている。



    「動かなくなったから・・・外したんだよ」





    「目の前のソレが目に入らないんですか!!?
     15mの敵を前にしてガスが切れたからといって
     簡単に装置を手放すなど・・・・・!!あんた本当によく
     今迄生きて来れましたね!!!!」


    「そうはいっても・・・ねぇ?(ポリポリ)動かない装置なんて
     ただの邪魔にしかならないんだし・・・他に何か
     やり様ある・・?この状況さ・・・・」



    幾ら距離があるとはいえ、仮にも視界の内に15m級という
    特大の巨人を認めながらあまりにも場違いな雰囲気で
    言い合う二人。間違いなく二人とも何時
    女型に踏まれて絶命してもおかしくない状況であるため
    その光景は非常にシュールである。

  36. 36 : : 2015/05/10(日) 01:41:52



    このような掛け合いが出来る位の時間的猶予を与えてくれる
    所を見るに・・・その女型に関しても、種類は違えど、
    やはり“奇行種”の一類に分けられる固体だったのだろう。
     


    「無論ですよ!!幾らでもやり方はある筈です!!!

     それだけ手際よく装置を脱着できるなら、私を囮にして
     そいつに喰わせるなりして・・・・!上手く胴体から下が地面に
     落ちてくれればそれで副長だけなら自分のガスボンベを
     装填できるだけの時間的余裕はあった筈です!!!それを・・!!」



    「・・・・ぅうん。。」



    既に完全に自らも冷静さを失っている事に気が付いていない
    モブリット。流石のハンジもこの主張に対して
    いつも通りの調子で喰い付いてくるような反応は見せず、
    あくまで落ち着いた口調で部下を諭しにかかる。



    「囮にして逃げてくれって・・・・。。あんたならそうしたの?
     モブリット。そんなのゴメンだって思ったから・・・あんた、
     分隊長の指示に逆らってこうしてここに居るんだろ?
     

     そこでそんな格好で横になる羽目になってるんだろ??」





    「っ・・・・!!!そ・・それは・・・・!!;」




    「私だって御免だよ。こんな訳わかんない、服すら着られない
     アホのおもちゃにされて命を落とすなんてさ・・・!!

     ましてそんな奴等の手によって大事な仲間が
     喰われるのを指を咥えて見てるなんて・・・!!!!
     二度と・・・・・ッッ!!!ぁあ、二度と...!!」ギリギリギリ・・・!



    寸前まで落ち着いた口調で部下を諭していた彼女の
    全身に・・・それまであった余裕の喪失と共に、一つの異変が
    巻き起こっていた。


    追い詰められた生類が自身の身を守りきる為に平時には
    全身の駆動を司る脳によって、解放する事を
    良しとされていない余剰分の膂力が漲っていく。


    それは・・・・偏に土壇場にて発揮される、火事場の馬鹿力と
    呼ばれる物でもあり・・・当然普段制動がかけられている
    その力を全開放しなければいけないと判断されるその
    状況は・・・・



    「二度とごめんだ」ギチッッ・・・



    ―――ーッドドッ・・・・!!!



    自らの身を案じて居られる余裕など微塵も無い、
    極限状態であった。




    その場で屈んでから、脇構えの位置で
    ブレードを帯刀した彼女は・・・・


    本当に立体機動装置を用いていないのかと目を疑う程の
    スタートダッシュを切って、その場を飛び出した。


    しかし、モブリットの耳に確かに嫌な違和感を伝える
    一つの異音。それは・・・只、走り出す、その為だけに
    彼女の腱が悲鳴を上げた音でもあった。


    「;っっ....痛ッッ..ぁァァァアアアアア!!!!!!!」ズンッ!!!!



    相手が先程の様な活発に動き回る奇行種でなかったのが
    幸いしたのか・・・踝の腱を正確に捉える、彼女の斬撃。
    一太刀による斬撃で有りながらも、返す刃で
    再生の瞬間を逃さず、抉り取るその迅さ。



    「・・・・っ・・・・」ググンッ・・・・


    腱の一部が欠けた事により、片足にかかっていた重心を
    大きく狂わされ、その身を揺らす15m級。しかし
    まだ転倒まではせず粘っている。



    同時に無茶苦茶な速度を叩き出して駆け出した為
    損傷した自身の腱に引きずられる感覚に、今までの狂相とは
    まるで方向性の異なる表情に眉根を歪めるハンジ。


    今迄のような足運びはもう不可能であると、その足に走る
    激痛によって理解すると・・・・そこからはとにかく、
    眼にも留まらない速さで15m級の腱を引っ掻き回した。


    「倒れろッ!!!倒れろッ!!!!倒れろ倒れろ倒れろ倒れろ!!!!」
    ドズッ!!ザギッ!!ガシャッ・・・・!ギチュッ・・・!ギンッ!!!


    これ以上の刃の消耗は文字通り状況の詰みを
    意味するため、本来ならばその扱いには慎重に
    なって然るべきであるが・・・・当然、そんな余裕が持てる
    状況では無かった。乱雑に引き裂かれる腱と、
    時折骨にぶつかってブレードの刃こぼれが誘発される
    異音が混じりはじめる。
  37. 37 : : 2015/05/10(日) 01:46:31


    ッズズンッ・・・・・!!!






    極端に動きが緩慢なのか、そうする事しか
    出来ないのか、腱を破壊されたことにより、一時的に
    膝を付く形に追いやられてもなお、股間と胸部を
    隠す姿勢を止めない女型の奇行種。




    「っっ・・・・!っしゃァ・・・・!やっと・・・・!!!

     ・・・・・・!!!?」ガギ・・・!!!




    目の前に届く位置にまで降りて来たうなじを目がけ、
    帯刀していたもう一本のブレードを交えて
    止めに移ろうとしたハンジであったが・・・・



    ギギ・・・・・・!



    腱を破壊するまでにブレードに掛かった負荷が
    余りにも大きすぎた。不揃いな刃渡りにより、
    捉えたうなじをみすみす取りこぼしてしまう。更に、
    極度の興奮状態も都合よくは続かず・・・・遂に
    その場に崩れ落ちてしまう。





    しかしそこは・・・・






    「ぐぁあああああああ!!!!!」ッダ...ダダダダ・・!


    片脚を折っているかもしれないとはいえ、
    気合いのみで十分自分にもその状況を切り抜ける程度の
    仕事は果たせると判断したモブリットが、取りこぼした
    止めを確実なものとして抉り取った。



    ...ザシュッッ・・・!!!



    「ッハハ・・・・;格好つかないなぁ・・・!!最悪だ・・・!
     最も悪いと書いて最悪だよ・・・・!ミケに後でこってり
     絞られるなぁ・・・・;いや、団長が先か・・・・クッソ~・・;」
     グスグス・・・・



    「ふ・・・副長!!?あ、あなた一体・・・・」




    その目には確かに一筋の涙がこぼれていた。



    「怖かったよぉ・・・・・!!本当に・・・・っ!!
     本当におっかなかった・・・・!ガスの残量見誤った
     私も人の事言えないけどさぁ・・・・!あんた、あの状況で
     単騎引き返すとか本当、無いだろ・・・・!もう・・・
     もう本当に勘弁してくれよ・・・・・!」グジュ・・・・



    「ぁあ・・・ああ!;す、スミマセン!!?」ガバッ



    余りの態度の急変っぷりと、自身に向けられた言葉に
    思わず頭を下げずにはいられない。


    「済みません・・・・!!自分が迷惑をかけたばっかりに
     副長御一人にあれだけの数の巨人の相手をさせて
     しまい・・・・・!その・・・さぞかし・・・あの!!!」



    態度を急変させる事くらいは見慣れている彼の副長の
    姿ではあるが・・・その目元に溢れてはこぼれる涙には
    全く慣れていない為、語るべき言葉を模索する
    頭も、それを紡ぎ出すべき唇も満足に操れず、
    右往左往するのみのモブリット。



    「違うって・・・・もう!!!!;私が怖かったんじゃない・・・!

     あんたが今にも喰われるかもしれないっていう・・・
     この状況に生きた心地がしなかったんだよもぉぉ....!!」
     ヘナヘナ・・・



    しかしそんな彼に対し、涙ぐんだ顔で全く普段のような
    覇気の欠片も無い抗議の声をあげるハンジ・ゾエ。



    恐らく、ガスの残量に注意が行かなかった事についても
    同様に・・・・彼女は平静を装いながらも、相当に焦り、
    事前に襲い来る3体余りの巨人を屠った直後だったのであろう。


    それ程までに・・・・



    「ハンジ・・・・さん・・・・;」



    それ程までに、彼女は・・・仲間を失う、その恐怖に
    我が身を省みぬ程に戦慄していたのかもしれない。

  38. 38 : : 2015/05/10(日) 01:53:55




    「っつか・・・・いっテぇえええ!!!↓↓;;

     股が裂けそうっ・・・・っていうか裂けてるコレ絶対!!
     よく見てくれモブリット、私の脚が普段より長くは
     なってないか・・・・・・???;ゥウ・・痛ぇ・・・・!!」



    内股で膝を地に着き、モジモジと悶えているその姿は・・・
    何も事情を知らない者が見れば、極限の淵に立たされる
    その時までトイレを我慢している様子に見えなくも無い。





    「多分ですが・・・副長。骨が折れている自分より、
     未だ貴女の方が足の自由が利くハズであると思います。
     ・・・ですから」



    「ちょい待った。ストップだモブリット。
     あんたまさかこの期に及んでまだ・・・(イラッ)」


    「気持ちは分りますが、この場合そうも
     言っていられないでしょう。陣形が今どうなっているか
     分りませんが・・・これだけこの場で留まっていて
     蹄音一つ聞こえないという事は・・・きっと自分達は
     戦死者とカウントされて、本隊は一次拠点に・・・」



    馬は無くともせめて自分の分の残量豊富なガスだけでも・・と、
    自らに進言しようとするモブリットを制するハンジ。



    「ふふん・・・。私が馬もほっぽって巨人共と
     イカれたダンスを踊るのに夢中になるノータリンだと
     本気で思ってるのか・・・・コレだから新兵は。」フッ・・



    それまでの痛みもどこへやら、余裕の笑みと共に
    ワザとらしく溜息を吐いて見せる。



    「あの・・・脚の痛みは大丈夫ですか」



    「っ・・そうだったァ・・・;!!くそう、
     思い出させんなよもぉーーー!!イテテ・・・

     ・・・・じゃなくってだね、そうそう、馬だよ馬。」スッ...



    そう言って急に思い出したように指笛の構えに入り、
    一気に肺に空気を取り込むと・・・・




    ピュイイッ!!!!



    小気味よくただ一度だけその笛を鳴らすハンジ。




    そして待つ事数十秒・・・・・


    ドドッ・・・  ドドド・・・


       ブルルッ・・・・




    「っぉ~~~!ヨシヨシヨシヨシ!!!グッボ~~イ♪

     良く待っててくれたなヒューイ!!それでこそ私の相棒だ!!
     帰ったらニンジンたらふく食わせてやる!!」
     ワシワシワシ!!!






    「・・・・・・・・ぉ・・・・・おお・・・・!!

     す・・・凄い・・・!!これだけ離れた場所に・・・
     馬を繋ぎもせずに待機させてたんですか・・・・・・・!?

     今私は初めて心の底から・・・貴女を尊敬しています!副長!!!」
     ババッ・・・・!




    「・・・・ここは多分耳を真っ赤にして怒る所なんだろうけど・・・

     なんだろうな・・・あんたの顔に真面目に私をバカにした
     感じが無い事に免じて・・・・不問にしといてやる。。」ムス・・






    「そ・・それはもう!!馬鹿にするなどとんでもない!!!
     改めて今ここで・・・初めて貴女に担当して貰った馬術訓練の
     重要性が身に染みて理解できました!!貴女はやはり・・・
     やはり間違った人では無かった・・・・・!」



    感極まってその場に跪き、涙を零すモブリット。



    「ォ・・・オイオイオイ!;なにもそこまで大袈裟な
     言い方する事もないだろ!!恥ずかしいから顔を上げなって//」



    「何処に恥ずべき行動を見て居る人が居ますか。
     ここは壁外ですよ・・・・・」ズズ・・・



    「私が照れくさいんだよ!!!いいからほら、もう分かったから
     頭を上げろってモブリット!!さっさと馬に乗るぞ!!

     あんたも今言った様に、ここ壁の外だからな!!?
     今にも次のフードファイターが現れたっておかしく
     ないんだかんな!!早く私の馬に乗れって!!片脚でも
     それ位できるだろ!!」


    「15m級相手に立体機動装置なしで挑む貴女に
     言われたくありません!!貴女こそそんな体たらくで
     馬に乗れるんですか・・・?!」




    「くっそ~・・・命の恩人の、それも上官に向かって
     何て言い草だ・・・・けどま、あんたの言う事も尤もだ。

     ・・悪いが、手綱を頼む・・さっき夢中になってた時に少し
     腕の方も無茶をしてしまって・・・実は思うように
     片腕上がんないんだ今・・・」
  39. 39 : : 2015/05/10(日) 02:02:27



    「急に弱気を見せないで下さい!・・・・分かってますから・・・
     それくらいせめて働かせてください・・・!折角副長に
     救って頂いたこの命・・・ここで捨て置ける筈も
     有りませんからね・・・・」




    「だからぁ・・・、そう言うの恥ずかしいから止せって・・
     

     しっかし・・・何とかなっちゃったなぁ・・・・・
     立体機動装置なしであのサイズを仕留めたって私達・・・
     これ、かなりの武勲になっちゃったんじゃ
     ないのか・・・・。」



    「私以外証人が居ませんし・・・それにアレほど此方の動きに
     鈍感な個体では如何に15m級とはいえ大した武勲には
     成らないでしょう。

     ・・・・この程度で済んだ幸運には大いに感謝していますが・・・・
     この1体はせめて副長の討伐に入れておいて下さい。私1人では
     最早・・・立ち向かおうとすら思えなかった筈ですから」




    「そんな真面目ぶったってここじゃ得られるモノは
     何にもないよ?素直に貰っとけって。一応あんたがあそこで
     止め刺してくんなかったら私が死んでたんだろうし・・・っね!」
     ググッ・・・



    先に馬上に跨ったモブリットの手を借り、引き上げられる
    ハンジの身体。その四肢には先程の奮戦で相当な負荷が
    掛かってしまっている様で、良く見ると全身小刻みに
    震えている様が見て取れる。

    先刻までは自分の装置にガスをセットしておくよりも・・・
    と思って居たモブリットではあったが、その様子を
    尻目に捉え、考えを改め直すモブリット。



     次何かに遭遇した場合・・・・状況を打開できる可能性が
     あるとすれば自分だけだ・・・その時は・・・・


    グッ・・・・・


    「・・・・すみません、副長・・・・掴まって頂くのは構いませんが
     もう少し姿勢維持のし易い位置をですね・・・・、
     それと力ももう少し抜いていただけると」


    「副長って言い方堅いなあ・・・・、ねえさっきみたいに
     名前で呼んでよモブリット」


    「聞いてるんですか」


    「っ~~!!聞~~てるよもう!!!それよりお前!!
     今・・・・ひょっとして、ひょっとしなくても、

     “次本隊と合流するまでに何かあったら自分が・・!!”とか

     そう言う感じのこと考えてただろ・・・・!」ジト・・・・



    「・・・・事実ですから否定はしませんが。何か問題でも」



    「許さないぞ!!折角二人してこうして助かったんだ、
     帰りも二人一緒に帰る!!せめてそれ位の気概でなきゃ
     この壁の外でやっていける訳・・・・!!」



    「ハイハイ、(溜息)分りました。お気持ちは察しましたので、
     どうかそれ以上無駄口を叩いて舌を噛まない様
     注意してて下さいね」
  40. 40 : : 2015/05/10(日) 02:08:01


    パシンッ!!!!




    「っととと・・・・!ったく・・・相変わらず何て無礼な
     物腰だ・・・帰ったら教育のし直しだな・・・」イソイソ


    改めてモブリットの腰回りに手を回し、騎手を務める
    彼の姿勢の邪魔にならない様、その背に体重を預けるハンジ。


    「ぇえ。無事生きて帰れたのならそれはもう喜んで・・・・

     しかし副長。あのですね・・・もう少し重心を
     後方に傾けては頂けませんか。背中にですね・・・」

    「ん~~・・・・??何だお前、照れてんのか???
     これはな・・・・当ててん(ry
    「グリップ保持のホルスターが当たって痛いんですが」


    ゴスッ!!!!



    「ッッッ痛ッった!!!!な・・・なんですか!!!急に後頭部を・・・!

     それも柄尻で殴打する事無いじゃないですか!!!!
     落馬してしまったらどうするつもりですか!!!」



    「あんたが女性に対して有り得ない返しをするからだろ~?
     (グリグリグリ・・・)ぇえ・・?それってのはつまりあれかな、

     私の胸部は・・・体重を乗せて密着してもホルスターの方にしか
     気が行かない程カサが低いって事なのかな・・?」


    その手に握りこんだブレードの装着されていない
    柄の台尻で彼のこめかみを圧迫し続けるハンジ。


    「っっっ・・・・・?!!!!分かりました!!
     謝りますからもうその辺にしてください本気で痛いです!!
     勘弁して下さい副長ォぉぉおお!!!!」



    「副長じゃない!!名前で呼べ―――ッッ!!!」




    湖畔付近を抜ける頃には視界も回復し、運よく道中の
    巨人との遭遇も無く本隊の休息地点にまで合流を果たした
    二人は・・・・帰還までの間も負傷兵でありながら

    自分達同様に本隊と合流した第4班騎馬隊に混ざって進軍。
    ハンジ・ゾエ副分隊長に至ってはその翌日早くも
    全身が悲鳴を上げているその身体で周囲の制止にも
    耳を貸さず、遭遇した2体の巨人を討伐したという・・・




    ―――――

    ―――

    ――






     
  41. 41 : : 2015/05/10(日) 02:08:15

    「・・・・と、まあ、色々と昔から無茶苦茶やる人だったんだ。

     ・・・本当にね。聞いた話では訓練兵科内では君にも
     “生き急ぎ野郎”という呼称が定着している様だが・・・

     あの人のはそれを軽く超えてしまっている。私の目の前では
     巨人の掌に収まった瞬間が3回あったくらいだ」




    「・・・生き急ぎではなく正しくは“死に急ぎ”ですが・・・」ハハ・・・




    「尚更に酷い言い草だな・・・(微笑)」




    「しかし副長・・・・あの、それだと・・・・」




    「うん?何だろうか」




    「ハンジさんがそこまで巨人を目の敵にしていた頃から
     今の“あんな”性格になったのは一体・・・・」



    「ああ・・・・、そうだったそうだった。キミは・・・・
     それが気になって私にこうして話を伺いに来たんだったね。

     それは漏らすことなく伝えておかなければいけない事柄だ。
     アレは・・・・その遠征のすぐ次の遠征だったか・・・・
     とにかく前回の遠征とは打って変わって
     天気の良い日の事だった・・・・わた


    ガタッ!!!



    「うわ」




    食堂の椅子に座り、在りし日の回想に浸ろうと天を仰いだ
    モブリットの肩に後方から覆いかぶさったのは他でもない・・・



    「お~やおや~・・・・こんな所でコソコソと・・
     男二人でなんのお話かな??リヴァイの話ではどうやら
     私の事を嗅ぎまわっている不貞の輩が今この城内に
     徘徊しているって話なんだが・・・・エレン??
     キミはそんな不審人物に心当たりは・・・」ニヤニヤ

    ギリギリギリ・・・!


    「っ・・っ・・・・!!!」パン・・パンパン!!



    首に回されたその腕は、単に抱き付くだけでなく、
    動脈の流れを遮る形で極まっており、非常に危険な
    ホールド姿勢となってしまっている。声も無く絞めつける
    その絡み手に平手打ちで降参の意思を伝えるモブリット。



    「ハッ・・・・ハンジさん!!!すみません!!オレです!!
     オレがどうしてもハンジさんの事が気になったので
     頼みこんでこうして兵長やモブリットさんに昔の話を
     伺ってたんです!!不快な気分にさせてしまったのなら
     オレ自身が罰を受けますから、どうか怒りを鎮めて
     下さ・・・・・!!!

    パッ・・・・



    「・・・・まったく・・・・、本当にキミは馬鹿正直な奴だな。
     いや、そんな怒っちゃいないよ。寧ろ嬉しい位さ。

     それだけ私なんかの事を理解しようとしてくれるのはね。
     ただ・・・人には色々と知られたくない過去って奴もある。
     私の場合なんかそりゃもう特に・・・色々とね・・・」ニンマリ・・・・



    その顔に輝く、不気味な笑顔



    「ッ・・・・!!」ゾクッ・・・・・



    思わずその顔に気圧されるエレンだったが・・・
    そこに至るまでの彼女の過去をどうしても知りたいという
    情熱に駆られていたエレンは・・・・


    「っす・・・・!すみません!その辺りは本当に
     配慮が足りてませんでした・・・・!!しかし自分は・・・
     いえ、オレは・・・・!どうしてもハンジさんが
     巨人に対して今のような見方をするようになったその・・・
     
     理由と経緯を知りたくて・・・・それで・・・!」フルフル・・・・



    「・・・・・・・」



    「とにかくオレ・・・・!もっとハンジさんの事が
     知りたいんです!!!教えたくない事があるなら・・・
     ハンジさん自身がその辺り掻い摘みながらでも構いません!!

     どうか・・・その頃の話を聞かせては貰えませんでしょうか!!」
     ガタッ!!!


    自らの気持ちを僅かなりとも偽る事なく・・・
    直球にてぶつける道を選んだ。
  42. 42 : : 2015/05/12(火) 01:50:45





    「・・・・・・・う~ん・・・・・」




    その言葉を真正面から受け止めるも、これといって
    困るでもなく、拒絶の色を見せるでもなく、
    どうしたものか、といった顔をつくるハンジ。





    「・・・・何を渋る必要がある。お前の大好きな、

     それこそ時間を忘れて没頭できる巨人についての話を
     してくれと・・・・そいつは自ら進んで言ってるんだぞ。

     昔話を躊躇うような繊細な心でも持ってたか・・・お前が」 



    不意にその背に掛けられた言葉の主は・・・ハンジが食堂に
    忍び足で入る際に半開きにしたままの戸口に寄りかかった
    リヴァイであった。



    「いや・・・だからこそさ。此間だって、
     長話が過ぎたせいでエレン・・・・、君朝辛かったんだろ?」






    「・・・・・・・・・・・・」



    「・・・・・・・・・・・・」



    「・・・・・・・・・・・・」





    無言でその場に固まるのは・・・無論ハンジを除く他三名。




    「お前が・・・・・巨人絡みの話に意識を持ってかれると
     一切周りが見えなくなるお前が他人の身体を気遣って
     やがるのか・・・・?!」


    仕掛けた罠に偶然未知の生物を捕えてしまった猟師のような
    目でハンジを見つめるリヴァイ。その目に宿る驚きは
    どちらかといえば喜びに帰属するようなものではなく、

    信じれないといった心が半分、天変地異の前触れを知らせる
    悪夢の前兆では・・・という、不吉な物を見る心が半分。

    ・・・・・といったところだ。



    「ヒドいななんか!!その反応!!!」




    「いえ・・・・全く酷くもおかしくも有りませんよ・・・・。

     分隊長・・・・貴女が自分の趣味に関する質問をされて、
     口より先に相手の都合を慮る事に脳を動かすなど・・・・
     前代未聞の出来事です。

     ・・・・・失礼ですが、何かおかしなものを口にしたりは
     していませんか・・・・・・・・?!」



    「食ってないよ!!!リヴァイんとこのおっちょこちょい
     ペトラが食用と間違って摘んで来た毒キノコ以外はな!!」



    本気で大丈夫か、という目で訴える部下の目つきに
    更なる精神的打撃を受けるハンジ。





    「・・・・成程、確かに・・・その程度の毒物で分隊長の
     末期に差し掛かった脳味噌が正常に戻る筈はありません
     からね・・・。すると摂取物以外で何か内面に影響する
     要素が・・・・・・」ブツブツ・・・・・





    「お前喧嘩売ってるだろ!!!何だ!!!何が不満なんだ
     お前ら一体!!!私が人の心配するのがそんなに・・・・!」


    ガシ・・・


    「・・・ぉ?」



    ガミガミと声を荒げて抗議する彼女の手を握りこんだのは
    他でもない・・・・・



    「オレは・・・・ハンジさんとの付き合いの長さで言ったら
     兵長や副長に比べるまでも無く、会って間もない
     程度ですから・・・・確かな事は言えません。・・・・けど・・・
     
     オレは・・・オレはそういうの、凄く嬉しいです。
     

     只・・・・気を遣ってくれるハンジさんも好きですけど、
     時間を忘れて話に入り込んでいる時みたいな・・・・
      こっちの疲れすら忘れさせてくれるような笑顔が
     絶えないハンジさんの方が・・・好きかも知れません。

     だから・・・・もし話して頂けるなら・・・気を遣わずに
     どうかお願いできませんか・・・?」




    エレン自身の両手だった。


  43. 43 : : 2015/05/12(火) 01:55:20



    「・・・・・・・」




    「ん~~~・・・・・///////こりゃ参ったな・・・・(ポリポリ)

     ・・・・ほら、見給え君達。これが女性の心を正面から真摯に
     受け止められる純真無垢な少年の心だよ。

     ・・・・いや・・・マジでお手上げだ。本当だったら
     抱き付いて歓喜したい位にど真ん中の満点解答
     なんだけど・・・あまりにも不意打ち過ぎて気持ちに
     リアクションが追いつかないや・・・・」ソワソワ




    「おい・・・エレン。てめえがパブロフの犬並に自分に嘘を
     付けない性分なのは分かった。・・・しかし、お前・・
     本当に良いのか?・・・・“こんなの”で」




    「オイ!!リヴァイ!!!!!そりゃ流石に聞き捨てならないぞ!!
     人を巨人の事しか考えてないモノみたいな扱いしやがって」





    「・・・分隊長・・紛れも無い事実です。」




    「・・・・?ぱぶ・・・犬??」




    「大昔に壁の外の世界にいた学者が行った実験に基づく
     有名な逸話さ。犬の餌を与える際にベルを鳴らす音を
     覚えさせて・・・鳴らすたびに出る唾液の分泌量を
     調べるっていう・・・一種の条件反射的な(ry




    「巨人の事になると締りのない顔で涎を垂らす所と言い、
     お前と同じじゃねえか。この犬野郎が」




    「野郎は無いんじゃない!!!(泣)旬が過ぎたとはいえこちとら
     まだまだ心は乙女なんだぞ!!!」




    「・・お前よく俺と同年代でそんな恥ずかしい事が言えるな。
     そもそも時世的に大丈夫なのかお前らの(つがい)って設定は・・
     
     ・・・下手したら犯罪になるんじゃねえのか」





    「ひ  ど  い!!」





    「ハンジさん!!そんな気にしないで下さいよ!!
     オレだったら全然気にしてませんから!!!歳の差なんて
     ホント気にしないで下さいよ!!!!」





    エレンが必死にフォローするも・・・・





    「まあ・・・精神年齢が近しいというか、ひょっとしたら
     訓練兵以下で止まってるからな。そういう意味じゃ
     気にならないのかもな。」



    「中傷の意味合いを込めないで言うと私も同意見です」





    二人の心無い心の刃が、彼女のうなじを幾重にも捉える。





    「もうやだ・・・エレン・・・・私を慰めておくれ・・・・
     二人が寄ってたかって私をいじめるんだ・・・;

     こんな歳まで浮いた話の一つも話せず壁外ででっかい
     恋人たちと命懸けの鬼ごっこをしてきた私がさぁ・・・(涙)

     少しくらい惚気るのがそんなに面白くないのかなぁ・・・;

     ・・・・なぁ?エレン・・・・・;」
     シクシク・・・・




    「分りましたから、ほら、お水ですから・・・落ち着いて
     下さいって・・・・」




    コトン・・・・・




    「ありがとう~~~・・・・;」ズズ・・・
     ゴッ・・・ゴ・・・・ゴグン・・・・



    眼鏡を外し、涙腺から失われた分の水分を経口摂取の形で
    取り戻すハンジ。頬に走った涙に含まれる塩分で
    早くもその通り道には腫れ痕が出来ている。




    「・・・・・///」



    喉を鳴らしてグラスの井戸水を煽るその姿には
    本来ならば色気の欠片もなかったが・・・
    ボタン二つ分開け広げられたカットシャツの襟口から
    覗く鎖骨と・・・・水分の流動に伴って隆起する喉元に
    一瞬視線を奪われるエレン。

  44. 44 : : 2015/05/12(火) 01:58:10




    「・・・・よかったなクソメガネ・・・・。こいつ、どうやらお世辞で
     お前の外見を庇ってる訳でも無さそうだぞ。お前の
     一挙手一挙動にここまで釘付けになるなんてな・・・・。
     奇特な趣味を持つ奴しか調査兵団(うち)にゃ存在しねえ
     ってのは理解してたが・・・エレン、お前そいつと
     良い勝負かもな。

     似た者同士って意味でもお似合いなんじゃぁねえのか・・・・・(溜息)」





    「かっ・・・からかわないで下さい兵長!!///;」





    「(違う違う・・・・!!!あの人なりに、あれで声援を
     送ってるつもりなんだよ・・・!(小声))」





    「気持ちは嬉しいんだがエレン・・・・・凝視されるのは
     気恥ずかしいから控えめにしてくれないか;//

     私も正直外見には自信がある方じゃないんだ。
     悔しいけどそりゃもうリヴァイやモブが言う通りさ・・

     私なんて・・・私なんてモブに関しちゃ最初男だと
     思われてたんだからな・・・・・!」ジットリ・・・!



    「うっ・・・・(ギクリ)」



    「そんなことありません!!!!!前にも言いましたが
     ハンジさんは充分魅力的です!!!それだけは、
     誰が目の前に居たって声を大にして言い張って見せます!!」
     ブルブル・・・・



    「お前には勿体なさすぎる実直さだな・・・・。このエレン(馬鹿正直)は」




    「嬉しい・・・んだけどエレン・・・流石に・・・・・
     流石に恥ずかしいぞ・・・・!///頼むから皆が居る前で
     だけはその・・・・・!!」



    「何言ってんですか!!平気でみんなの前であ~んとか
     やってたのはハンジさんじゃないですか!!!今更
     これくらいで恥ずかしがらないで下さい!!!」




    「色々と女子には複雑な心境があるんだよ!」


     



    「・・・・・おい、3X歳の女子・・・・・」





    「っぁあああああああぁぁああ!!!!歳を言うなぁぁあああ!!」






    「・・・・な・・なんかスミマセン。。(苦笑)・・・で、あの・・・
     出来る事なら・・・話自体もそれくらい長引きそうなら
     そろそろ話の本題に入って貰えると・・・・」





    事前に話を振った段で、彼女自身、話が長引きそうな
    空気を匂わせていただけにそろそろ話して貰えないか、
    といった顔で斬り出すエレン。



    「・・・・・そういう事なら俺はとんずらさせて貰う。
     先に言って置くが・・・・明日の朝寝坊したらお前らの
     頭の毛を庭の芝生と同じ長さに刈り揃えてやるからな。

     遠征合同演習で晒し者にされるのが嫌ならその辺
     考慮しながら昔話に興じる事だ。」




    「畜生、いじるだけ弄って気が済んだら
     スタコラサッサかよ・・・・!しかしそれは勘弁だなぁ・・・・・・」




    「自分は別にそれでも構いませんが・・・・
     流石にハンジさんに同じことをして頂く訳には・・・・;」




    「そう思うなら出来るだけ手短に済ませるよう、お前からも
     そいつに頼み込む事だな。時間に間に合って、作業中
     居眠りさえしないなら・・・夜中に激しい運動をしようが
     発声練習に励もうが俺の知った事じゃねえ。

     地下室から丸聞こえになってる嬌声くらいは・・・
     多めに見てやる。ただ、それが気になって夜眠れない
     班員も数名居る事を忘れるな」ジロ・・・



    「(ッっ;・・ハンジさん、声筒抜けですよ!??(小声))」



    「(ぇ~、ワタシじゃないよ!きっとエレンが私の
     馬乗りに耐えられなかったアレの時の声だろ!(小声))」


    「(オレより絶対ハンジさんの声の方が上がる頻度も
     音量もダントツですって!!犬の遠吠えに近い声を
     しきりに上げてるじゃないですか!!(小声))」




    ヒソヒソと言い合う二人をその背に・・・・後方からは
    見えない角度で下した首を左右に振りながら・・・・
    兵長と副長の二人は食堂を後にしたのだった・・・・



  45. 45 : : 2015/05/12(火) 02:02:16





           ―ハンジ分隊長自らの証言―






    「え~っと・・・さっきのモブの話し出しから察するには・・
     アレかな。ひょっとしてあいつの初めての壁外遠征の
     話は全部された・・・・くらいの所かな?」





    「・・・・ええ。・・・15m級の奇行種相手に・・・・
     装置無しで斬りかかったっていう話ですよね・・・・」






    「ぁあ~~・・・・そんなのあったあったw」






    「あったあったじゃありませんよ(苦笑);幾ら何でも
     滅茶苦茶すぎます。・・・・あと副長も、ハンジさんの事を
     無茶苦茶する人だって苦笑いして言ってましたけど・・・・

     あの人も大概人の事言えませんよね・・・・;4体近くの
     接近を把握してて一人で馬を引き返させたんですよね。

     ・・・・いえ、流石に直接突っ込みはしませんでしたけど」




    「あいつに限った事じゃないよ・・・調査兵団という組織に
     任意で入ってくる新兵なんてのはさ・・・皆どこか・・・・
     自分のたった一個しかない命より別の物にうっかり命を
     賭けちゃうような人間が多すぎるんだ。

     自分だけが助かるなんて、そんな生き方は御免だ・・・!
     って、思っちゃったりするもんなのさ。最初の内は特に。」




    「・・・・・・・・・」




    「だから団員数がいつまでたっても少ないまんま。

     少数精鋭と言えば聞こえはいいけど・・・とどのつまりは
     利口さを身に着ける事が出来ない兵士は端から
     巨人に喰われていく。悲しい事にその縮図だよね。
     これっていうのはさ。」



    「それは・・・理解しています。壁外を見た事の無いオレが
     言うのもおこがましい話かもしれませんが・・・・。

     一足早くトロスト区で積んだ経験は・・・そう言う意味でも
     決して無駄にしてはいけないんだと・・・そう思ってますから」



    「・・・・・いい心がけだ。君の仲間も半分以上喰われたって話を
     報告の上では聞いてる。その経験は・・・・きっとキミが
     今言ったように壁の外でだって無駄にはならないさ。


     ・・・けどね。あいつの話を聞いたならもう分かってると
     思うけど。私も・・・・かつては私もそうだったから(▪▪▪▪▪▪▪)・・・
     こうしてあいつと二人、何方も欠ける事無く同じ班で
     やっていけてる。」




    「実際・・・心の勝ち負けだと思うよ。根性論でしかないけど、
     諦めたらそこで遠征終了なんだ。・・諦めが・・・人を殺す。 

     諦めるのを忘れて居なきゃ・・・流石にブレード一本で
     あのサイズを相手取ろうなんて思いつきもしなかった
     だろうね・・・・」




    「・・・・どこかで聞いたような言葉ですが(苦笑)」



  46. 46 : : 2015/05/12(火) 02:07:33



    「さて、それじゃあ前置きが長くなってしまったけど、
     リヴァイがああ言ってた通りだ。ここで私が勿体ぶって
     話を長引かせれば・・・・明日の昼頃には駆逐された雑草に
     交じって私達の頭髪が炉にくべられて燃やされる事になる。

     その煙の香りに釣られて毒蛇でも寄ってきたら
     一大事だ。」



    「ハンジさんの心配するところ、少しどころか
     大分おかしい気がするのは自分の気のせいでしょうか」



    「・・・・勿論今のは冗談だけど・・・・もっと大声で
     笑ってくれるようなナイスな反応を期待してたんだけどな。

     ・・本当の所最も憂慮されるのは・・・遅刻云々についてまわる
     リヴァイの幼稚な罰ゲームよりも、話が長引きすぎて
     この後の“夜のお楽しみ”の時間が無くなってしまう
     事の方が大問題だ」



    「まずそっちですか!!!??きょ、今日は危ないから
     止めにしませんか?!?もし・・・もしも・・・・!!;」




    「危ない・・・?いや、危なくないぞ?
     君に危ない日取りを教えた覚えは無いんだけどね・・・
     大体、もし今日がそうだったらもう君、一年後
     くらいには私は兵団に居られなくなっちゃってるぞ」




    「そういうアレじゃありません!!!!!!起床時間です!!」




    「・・・ぁあ;。気にする事無いでしょ・・・幾ら何でも
     あんなの冗談だってば(笑);」
     



    「ハンジさん・・・・兵長はやるといったらやる人です。
     お願いですからここは大事をとって、時間通り
     起床できる安全牌で行きましょうよ・・・・・!;

     それからできれば夜の運動も・・・控えめというか、
     できれば今日はお休みの方向で・・・・;」






    「ぇぇ~~~~~.......」






    「そんな露骨に嫌そうな顔しないで下さいよ!!!
     そんなにアレがしたくて仕方が無いんですか!!?
     ハンジさんは・・・・・・;」





    「ぁあ。したいね。正直。。この季節になってくるとね・・・
     女性ってのは皆そう言う風になるように体が出来てる
     物なのさ。“誰でもいいからとにかくやりたい”

     ・・・ペトラもナナバも、ニファの奴も・・・・きっと
     私と同じように考えているに違いないよ」ウンウン




    「止めて下さいハンジさん!!;そんな事は絶対にありません;
     流石のオレでもそれ位分別つきますよ;

     ・・・・自分の欲求を同じ様に他の女性兵の方々に
     投影するのは本当、どうかと思いますよ・・・・・」





    話の最中も身を寄せてくる彼女には内心嫌な気もしなかった
    エレンだが・・・その場で優先されるべき話を進めてもらう事を
    選ぶ道をとる。






    「~~・・・;分りました!話が消灯時間までにまとまった内容でしたら
     責任もってお相手しますから・・・!だからいい加減話して
     下さいよハンジさん!!!この通りですから!」




    「・・・・いいねいいね!そうこなくっちゃ!!!
     ~~~よぅし、約束だからな!!」



    暗い表情から一転して、輝く笑顔で肩を回しつつ、
    鼻息を荒くするハンジ。それ程までに彼女にとって
    エレンから取り付けられた確約は喜ばしい事であったのか、
    早くもその表情は真剣そのものといった面持ちである。





    「そこまで話をしていたなら・・・あいつが言いかけた
     ところからだな・・・・!そう、アレは・・・・本当に前回の
     遠征とはまるっきり替わって・・・・とても清々しい、
     天気がいい日の事だったなぁ・・・・」
  47. 47 : : 2015/05/12(火) 02:16:59





    ――

    ――――

    ――――――




    ――壁外・ウォールマリアより十数キロ地点・平野部――












    ――突き抜けるような青い空――





    ―張り裂けそうな光を放ち、全てを照り付ける眩い陽光―




    ――頬を撫で往く優しい風――






    「アッハハハハ・・・・!ホぉら、おそいおそ~い!!!
     何してんのこっちだってば~~♪」





    ―それらすべての情景を背に・・・・屈託のない笑顔を湛え―





    「早くしないとぉ~~♥   その首・・・・
     掻っ切っちゃうぞ~~~~~~ッとぉぉオオ!!!!」



    ギャガギャギャギャギャ・・・・!!!!!!!!!!





    ――――異形と戯れる無邪気の化身――――






      ズッッッ.....!!!! キュァァアアアアア......!!



    見晴らしの非常に良い平野部。見渡す限り立体機動に
    使える程の樹木も生えてはおらず、何かにアンカーを
    繋ぎとめるのであるとすれば・・・それは、できれば
    遭遇したくない動く的以外に無いであろうという
    極限の状況に於いて・・・・


    一切何の迷いも無く、一瞬の躊躇も無く自らに追い縋る
    3m級巨人の背後に回り込み、その背筋にアンカーを
    打ち込むハンジ・ゾエ副分隊長。


    一応巨人とは言え、その体高は、あと1メートル
    足りなければその程度の人間は普通に居る、という
    位の小ぶりなサイズであり、その移動速度も
    やはり巨大な物に比べればお世辞にも早いとは言えない。

    手馴れた兵士であれば、転倒を誘う形でもって
    仕留める方が、かえって立体機動装置を利用するより
    手っ取り早いであろう。



    しかしその状況で彼女は迷わずその巨人本体にアンカーを
    打ち込み、間髪入れずに巻き取り機構を作動させる。


    当然対象の等級から考えて、うなじなどの過剰な
    力が掛かればバランスの保持が難しくなって転倒すると
    思われる場所は狙わず、敢えての若干下方向に牽引箇所を
    定め、一気に距離を詰める。



    ――――そして




    「ぃぃぃいいいやっっっ!!!!!!!!」



    ザシュュッッ!!!!!




    ――― 一閃。





    「ッ・・・・・ッッ・・・・・・!!!」





    ズドッ・・・・ドドッ・・・!!



    しかし、首元を正確に撥ねる狙いで振り抜かれた斬撃は・・・
    もしもその刃に晒されたのが人体であったなら胴体を
    文句無しに分かつ程の重みを持っていながらも、

    やはり人体とはやや構造の異なる野太い首骨によって目標両断を阻まれる。

    半分つながった首をぶら下げてうろつく巨人。




    「っちぇっ・・・一発で綺麗にイかなかったな。
     結局こうして歩いて止めを刺しに行かなきゃ
     ならないんじゃ格好付かないんだよな~・・・・」トボトボ・・・・




    幾ら見晴らしのいい平野部とは言え、
    いつその視界の果てより来る新たな友との出会いが
    あるかも分からない状況で緊張感の欠片も無く
    肩を落としながらのたうち回る巨人へと歩を進めるハンジ。
  48. 48 : : 2015/05/12(火) 02:22:35



    「副長!!!なにぼさぼさやってんですか!!
     早くうなじを削いでくださいよ!!!!首が中途半端に
     繋がってないくらいでもそいつらは直ぐに
     襲い掛かってくるんですよ?!」




    その体たらくに檄を飛ばす彼女の後輩にして
    親愛なる部下。・・しかしこの様子を見るだけでは
    何方が上官かも分からない程。・・・それほどまでに
    彼女の全身には緊張感が無かった。



    「は~いはい、大丈夫大丈夫だよ~。
     こうして・・・っフン!!!キッチリ・・・とッ!!


    ザンッ...!!!  ズシャッ・・・! 


     ・・・・両足潰してから腕まで潰せば。」



    しかしそれは・・・前回の遠征までの彼女との
    相違点の一つでもあった。今までの彼女なら・・・・
    巨人への過剰な殺戮行為に身を投じている間に
    己の自我すら保ちきれない程の狂乱に陥る事も
    少なくは無かった。・・・・しかしその時点での彼女は




    「さぁって・・・じゃあ、バッサリいっちゃうよ~★

     ・・・・・ってい。」



    ドスン




    巨人の身体に負わせる太刀傷の数もそれまでより
    やや抑えめに・・・・そして、何より“落ち着いて”
    殺せるようになった。




    「ヒャっはぁ~~!!!今度はうまく行ったぞ!!!(グッ!)
     見ろ見ろモブリット!!!っははははぁ!!!!!

     ・・・・・・ッヘイっ パス!!」




    ゴッッッッ!!!





    「うわっ!!!止めてくださいよ!!!!何考えてんですか!!?
     その状態でも噛みつく位平気でして・・・くる....?・・・!?



    何と斬りおとした3m級の生首をあろうことか此方へ
    トーキックで蹴飛ばして来たハンジ。

    これには流石にモブリットも堪らず血相を変え、
    行き過ぎた悪戯に対して惜しみない糾弾をぶつけようと
    したのだが・・・・その顔が、途中で怒りの形相から・・・

    何か、非常に得心の行かない光景に眉をひそめる表情へと
    変わってゆく。・・・・そしてその表情変化は・・・
    つい今さっきまで爆笑しながら首を足蹴にしていた張本人でもある
    ハンジの身に起こったものの方が著しかった。


    蹴った瞬間からその足に感じた違和感。
    幾ら最大級の人間の身長より僅か1メートルの差とは言え、
    それが巨人という異形である以上、人間と同じ縮尺の
    頭であるとは限らない。比べてみても相当な大きさであり、
    ハンジが爪先で蹴っ飛ばしたくらいでは精々2∼3メートル
    転がる程度かと思われる大きさのその頭部が・・・・・


    重心の偏っていると見られる頭頂部を真下に、
    回転しながらも勢いよく飛び跳ねて行くではないか。






    「あ・・・・・・っれ・・・・・?ぇえっと・・・・」
     ポリポリ・・・




    ドッ・・・ドドッ・・・・   ズシャ・・・




    その飛距離はモブリットが呆然と立ち尽くすその地点を
    優に飛び越え、はるか遠くで石にぶつかり、
    バウンドしながらもその場に留まった。



    シュゥウゥゥウウウ・・・・・



    「・・・・・・・・・」



    斬撃箇所が丁度急所に被っていたのか、すぐさま蒸気を
    全体に纏わせ、首と同時のタイミングで風化していく
    巨人の身体。



    「ヤケに・・・・・手応え・・・や、足応えなかったな・・・・
     何だ・・・・?今の一体が特別に身が軽い奴だったのか・・?

     それとも・・・前回の遠征で私の中に眠る秘めたる力が・・・?!」
     ググ・・・・・!
  49. 49 : : 2015/05/12(火) 02:25:33






    「(イヤ・・・・その可能性は限りなく低い・・・・;なにより
     地面を転がっていくあの回転速度、それから進み具合
     で予想される転がり摩擦力と質量の兼ね合いから言って・・
     明らかに重量に矛盾が生じる動きだった・・・・!

     岩にぶつかってからもあれだけ跳ねるエネルギーが
     残っているのはどう考えても不自然・・・・!)」




    「ちっくしょ~・・・変わり種だって分かってりゃ
     こんな一思いに殺さずに・・・・って、おお!!」ピッ




    「!!?」





    つまらなそうに独り言ちていた彼女が平手でつくった
    庇を覗き込むと、その地平の彼方から現れたのは・・・


    なだらかな平野部、その丁度終りに位置する
    傾斜地点となっている場所の向うから凄まじい速さと
    勢い、そしてこれほどの距離ではそこまでは肉眼では
    確認できないが、物凄い形相をして此方に進路をとる
    巨人の群れが。総じて大きさは4∼7m級と、調査兵団の感覚では
    大したものではないが、如何せん数が多く、そしてその
    身のこなしが尋常では無い程に活発な固体ばかりであった。

    ほとんどが両腕のスイングをフルに生かした
    全力疾走で、身体を傾けながらも爆走しているではないか。



    「きょっ・・・・・距離約500!!!総数・・・・ああもう、
     良く見えません!!7体以上は確実にいます!!!
     とっとと馬に乗って下さいハンジさん!!!!逃げますよ!!!」



    「~~~ブ∼・・・焦った時はそんな風に名前で
     呼んでくれんのになぁ~・・・・なんで普段は
     御堅くフクチョ∼フクチョ∼ってさ。・・・・・そうか!ならもっと
     焦って貰う事にしよう!!!大きさも丁度いいし、

     あいつら取り敢えず全員バラそうぜ♪!!!個体差があるなら
     さっきのが特別軽かったって事になるし!!なぁ!?」



    「なあ!?じゃありません!!!!あんたホントに死にますよ!!!!?」」






    ・・・・ポンッ・・・・


    その時、遠方でただ一発だけ晴天に打ち上げられる緑の狼煙。



    「ほらハンジさん・・・?!!!!本隊からの煙弾ですって・・・!!!!
     あっちが一時拠点の方角です!!!早く合流・・・・・
     ・・・・・・・ってぁああ!!!!!」




    「合流するにしたってサ!!あいつら連れてく訳にゃ
     行かないでしょ!!!!さぁさ!!仕事だ仕事!!(キィン!!キン!!)

     ちゃっちゃとおろすぞ!!!」




    抜刀したブレードを峰で打ち鳴らしつつ、その顔に
    今迄の物とはまったく異質な笑顔を浮かべるハンジ。




    ―――その顔には・・・・




    「何だ何だ!?やっぱり変だと思ってたんだよ!!
     あの図体であんな走り方出来るなんてどう考えたって
     おかしいもんな!!!・・・・頭が特別軽いのか・・・?!

     いや・・・まずは切り取り易い部位から順に
     バラしていくか・・・・?!おいモブ!!!お前あの端っこの
     仲良く手繋いでる奴等2体な!!私で後全部適当に
     ダルマにしてくから!!

     勿体ないから、お前も部分的に切り取って重さ
     計っておけよ?」ウン?



    「勘弁して下さい!!!2体同時に相手をしなきゃいけないだけで
     もう辞世の句をどれにしようか3つある候補の中から
     選定を開始してるんですよこっちは!!!!

     ふざけたこと言ってないで今からでも引き返そうとは
     思ってくれないのですか!!!?(泣)」



    ―未だ解き明かされぬ未知なる謎にむけられた、
     屈託の無い笑顔が・・・・確かに輝いていた。






    「ちっとも思わないね!!なによりそれじゃ私が面白くない!!」





    「ァぁああっぁぁぁ!!!!::もう嫌だ・・・・・!!!
     私が喰われたら、選び抜かれし一句をちゃんと
     聞いて帰って下さいね!?副長!!!?;;;」




    「男が本気でベソかいてんじゃないよ!!!あれくらい
     全部自分で何とかしろっつの!!ホラもうあんなところに」





    「いやぁぁぁああああああああああああああああ

     あぁぁぁぁぁ.............

     .............

     ......

     ...

     .



  50. 50 : : 2015/05/12(火) 21:39:31




    「・・・・・という話だった訳さ」



    「モブリットさん・・・・;」




    「安心しなよ、あいつが取りこぼした分は全部私が
     責任を持って片付けたんだからさ。誰が
     あいつの長ったらしい辞世の句なんか覚えて
     られるかっての。ねえ?」


    「・・・・そうでなければお二人がこうして存命で居られる
     訳がないですからね・・・・・;辞世の句はともかく・・・

     それで例の首の話から繋がる訳ですね」




    「ぁあ。あの時の感覚は忘れないな・・・・実に不思議な
     感触だった。そこそこの大きさのある巨人の頭。
     頭蓋骨はしっかりある感じだし、中身も空っぽでは
     無いのだけど・・・・なんて言えばいいんだろうね、

     まるで・・・・水分の殆どない巨大な瓜を蹴飛ばした・・・
     みたいな、そんな不思議な感触だった。

     それから小隊単位で押し寄せて来たそいつらの四肢を
     丁寧にバラして・・・・やっぱり身体のどの部分を
     手に取って見ても・・・・その重さは見た目の体積比とは
     到底見合った重さに達していなかったんだ。」





    「それだけ長い間殺し合って来た相手の事とはいえ・・・
     ハンジさんが初めてそれに気づいたっていうのは、
     何というか・・・すごい発見ですよね・・・・・?」




    「・・・・一応ね。だから、この発見がそこから大きなステップに
     繋がる事になる。・・・・そう、今迄その巨大さと、
     仕留めてしまえば塵と消えてしまう訳わかんない
     環境配慮仕様から、誰も考えもしなかった・・・・


     “巨人の捕獲”だ。言うまでも無く一定以上の等級に
     達してしまった個体の拘束は容易じゃないし、
     あんなでっかくて重そうな身体をいくら何でも
     荷馬車で運べるはずは・・・・と思っていたけれど、
     私が初めて首を刈り取ったくらいのサイズであれば・・・

     ワイヤーによる拘束さえしっかりやれば意外と
     数人がかりで荷台に積み込むことができてしまったから
     さぁ大変だ。(ワクワクドキドキ)」



    「(は・・・始まった・・・これは長いぞ・・・!;)」


  51. 51 : : 2015/05/12(火) 21:41:21

     
    「そこからはひたすら計量と捕獲の繰り返しだった。

     愉しかったなぁ・・・・・まさかあんな日々がやってくるなんて
     夢にも思わなかったんだよ私は。いつも彼らに会える
     壁の外じゃ・・・常に新たなる御友達が殴り込みにやってくる
     都合から・・まったくゆっくり話し合う時間が無かったしね
     
     ・


     ・


     ・

     幸いあの子たちは切っても切っても生えてくる体質だから
     一体手頃なサイズを持ち帰る事に成功してしまえば・・・
     
     あとは壁の内側でめくるめくお楽しみの日々が
     待ち受けていたよ・・・・・///(ゾクゾクゾク)

     ・

     ・

     ・

     しかし言葉が本当に一切通じてないんだと分かった時は
     心の底からショックだったよ!!!(ガバッ!!)

     彼らがああして頭を齧りにくるのは私なりにはきっと
     彼らの口内にとても微細な発声器官があったりしてだね・・・
     その中に人を招き入れてそこから彼等なりの
     コミュニケーションが始まるんじゃないかと思っていた
     時期があったもんだけど、よく考えれば彼らが口に
     招き入れた人間はもれなく身体が一部戻って来て
     無い訳だからそれはおかしいだろって話になって・・・


     一度私自身の身を以て試してみようとしたときには
     流石にモブリットにグーで殴られた。


     いや・・・・、当然そんな事で死ぬつもりなんて私にも
     無かったんだよ???ただ、巨人に食べられるにしても、
     彼らの歯に噛み砕かれない様に注意すれば、

     丸呑みにされるように体内に入り込めればさ!
     狼と頭巾少女の童話みたいに、お腹を掻っ捌いて
     出て来れるんじゃないかと思ったんだ!!


     ・・・・さすがに窒息死の可能性にまで目が行かなかったのは
     今だからエレンだけにこっそり教えるけどね・・・・いやあ、
     あの時は我ながら本当に馬鹿をやる一歩手前だった・・・。


     ・・・・・ええ?!エレン、キミは巨人のお腹に入った事があるの?!!

     っく・・・詳しく!!詳しくその時の話を聞かせてくれないか!!?
     (ガバッ・・・・!!!ガタンッ!!!)

     いや・・・・いっそもうキミが巨人化して
     私を飲み込んで見ておくれよ!!後生だから!!!!この通り!!!

     ・・・・・だって、お腹の中に入っても君は窒息せずに意識を
     正常に保てていたんだろ!!??なあ、お願いだよ!!!!


     じゃ、じゃあもうほら!!口の中を見せてくれるだけでいい!
     お願いだよ!!今迄捕まえた巨人には行えなかった
     アプローチの一つとしてどうしても諦めきれないことなんだ!!

     ・


     ・


  52. 52 : : 2015/05/12(火) 21:47:45



    「(あの話から・・・いまではコレ(▪▪)だからな・・・
     もうこれ・・・・何時間喋りっぱなしだ・・・?)」ウツラ・・・ウツラ・・・・




    しかし・・・・コレはこれで悪くは無い。何といっても、
    彼女の顔が最も活き活きとしているその瞬間、それが
    他でもない、今この時なのだから。




    ・・・・そう心の中で思いつつも、



    徐々に遠のく意識と、反対に増していく倦怠感、
    それから・・・・全身を包み込まれるような多幸感に成す術も無く
    睡魔の波に囚われゆくエレン。



     ・

     ・

     ・

     結局どうして四肢みたいな末端の欠損にはあれほど
     鈍感で、反面頭部に近付くにつれて刺突などの刺激に
     敏感になるのかは何度試してみても明らかには
     ならなかったんだ・・・・。弱点とされるうなじに近い
     部位の解剖は・・・ちょっとした匙加減であっという間に
     獲取したサンプルをお陀仏にしちゃう危険性があったから
     おいそれと軽はずみには行えないし・・・・

     ・

     ・

     ・

     一番興味を惹かれた仮説の一つはやっぱり光合成説だね・・!
     彼らの活動が夜間に著しく沈静化するのはかねてより
     噂されていた事だったんだけど・・・、それが布張りによる

     遮光でも同じ結果を示した時は、正にコレだ!!と思った!


     この仮説・・・当て嵌める・・・・・・・彼らが人・・・・喰わないの・・・
     人が居ない壁の外で何年も生き続けられる理由に....


    以上の観点・・・・・、今・・・非常に新しい見方・・・・だね、


     彼・・・・植物の・・・・性が・・・・・・・・・・
     

     ・・・・・・・?! 、、・・・・ォ  エレ....



    ・・・・・・

    ・・・・

    ・・・

    ・・




  53. 53 : : 2015/05/12(火) 21:49:08





    ―城内地下室・エレン部屋―








    「・・・・・、・・・・・?」




    「・・・・・・っっ!!!?」



    ガバッ!!!!



    覚醒してゆく意識の中で、自身が現在身を預けている
    その場所が、記憶の最期にいた筈の場所では無い事に
    全身を飛び跳ねさせるようにして飛び起きる。



    ――――地下室。・・・自室だ。



    状況からして・・・・ハンジさんがここまで運んでくれたのか・・・



    瞬時にそう判断したエレン。



    懐中時計は上官職や観測係等、作戦指示に携わる人員にしか
    支給されていない為、急いで地下室から地上へ上がって
    現在の空の色を確認しに行こうとするエレンを・・・・
    不意にがしりと引き留める腕。



    「っ・・・・・おぁっ・・・・」



    何よりも起床時刻に気を向けていた為自らが今置かれている状況に
    直ぐには意識がいかなかったが、よくよく意識してみれば
    自分が居るその場所が非常に温かい事に気が付く。





    「ンあ・・・・・お目覚めかいエレン。....けどキミが寝付いてから
     残念ながらまだ半刻と経ってないよ。勿体ないから、
     もっと寝ときなさい...っ――..。。。(欠伸)」



    大きく伸びをしながら、その手に乗せていた懐中時計を
    エレンへと手渡すハンジ。しかし今完全に目が覚めた
    エレンとは対照的に、既にこれから起きて何かを
    しようという雰囲気ではなくなっている。



    「・・・・ほ・・・本当だ・・・まだこれだけしか・・・って、
     ハンジさん・・・・その、いいんですか・・・・?」





    「ぁ~~~・・・・?いいって・・・何がさ??」ゴロン・・・






    「あの・・・ほら、オレ確かに約束しましたし・・・。

     ハンジさんがあれだけ楽しみにしてたんですから
     それを反故にするのも何か・・・気が引けるというか」




    「・・・・・君は本当に律儀な奴なんだな・・・・。いいさ、
     それ位の事は気にしない気にしない...


     生きていられればいつだって君とはまたこうして
     寝る事が出来るんだ...流石に坊主にされちゃったら
     モブリットには当分バカにされ続けるだろうしね・・・」





    「そ・・・・そうですか・・・・?なんか・・・すみません・・・・
     巨人の話も途中だったはずなのに・・・・話も聞かずに
     寝てしまって・・・・」



    「だ~か~ら~・・・・気にしないんだって。。。
    たまには・・・・こういうのもいいだろw」ゴロゴロ・・・




    「・・・・そうですね」



    バフン・・・・・



    広げられたハンジの腕枕に起こしかけた上体を倒し、、
    うなじを預けるエレン。こうしていると、
    何とも言えない充足感がある。



    女性兵にしてはそれなりの体格とは言え・・・
    そもそもの身長はそれほどエレンと変わらない彼女。



    「(なのに何故だか・・・・何故かこの人に触れられていると・・・・
     いや、この腕に抱き留められていると・・・・何故だか
     怖いくらい落ち着くんだよな・・・・・)」


  54. 54 : : 2015/05/12(火) 21:50:55



    それが何故かはエレン自身にも理解できてはいないし、
    きっとそれは、“こういう理由があって”という物でもないのだろう。


    そんな不確かでも有りながら確かな満足感を与えてくれる腕の中で・・・
    未だ完全に意識が眠りの淵に脚を落とす前のハンジの言葉が向けられる。





    「昔・・・もうどれくらい昔になるかな。モブリットの奴に
     こんな事を言われた事があるんだ。それが私の中では
     物凄く大きく心に響いてね・・・・なるほどなって思った。

     ・・・・えっと・・・なんていったかな・・・・」




    「・・・大きく響いた言葉なのに咄嗟には出てこないんですか」




    「ちょっとまって・・・んっとね・・・、ほら、
     アイツっていつも何か畏まった言い方するから・・・
     こういう時直ぐには・・・ !ああ、思い出して来た・・・・

     ・・・・えっとね・・・」





    「・・・・・はい?」




    「“私はあなたの意見やその趣向に何一つ賛成できませんが

      ・・・あなたがそれを言う権利、そして知ろうとする権利だけは・・
     
      命懸けで守るつもりです”・・・・・だったかな。なんか、
      そんな感じの言葉だったんだよ」




    「あの人らしい・・・立派な言葉だと思います。その言葉は
     あの人の普段の行動に全て現れてると思いますよ。」





    「・・・・そうだよね。私は・・・実を言うとこの言葉に何度も
     救われたんだ。気持ちの問題ってやっぱりデカいんだね。

     巨人に対して私が憎しみや恨みといった・・・普通の人達が
     向ける様なモノとはまた違った、所謂知的好奇心を
     向けるようになってからはさ・・・そりゃあもう、
     周囲からの変態扱いが半端じゃ無かった。まあ無理も無い。
     
     昔からの私を知っている人は殆どその時点で古株を除いて
     壁外から巨人の胃袋へと旅立ってしまっていたから。」





    「ここまでの話を聞かずにハンジさんの人柄を見た人は・・・
     当然勘違いしますよね・・・・。」




    「うん。・・・しかしそれは大多数の人間からすれば寧ろ
     当然の事であって、この壁の中では・・・調査兵団の中では
     寧ろ異端なのは私の方なのだから、そういう扱いを受ける事に
     多少の覚悟もあったんだけど・・・・やっぱり奴は違ったよ。」



    「・・・・・・・」




    「口ではどうのこうの言ってても・・・。私が言い出すことに
     頭から、そんな事を言うな、とか、そんな筈は無い、
     なんて風に反論しては来ないからな・・・あいつは。

     こうして会って間もない間柄ではあるけど・・・エレン、
     キミからは・・・・あいつと似た何かを感じる時がある。
     難しい意味とかなくて、ただ漠然となんだけどね。」




    「・・・・奇遇ですね。オレもそんな感覚を以前ハンジさんから
     感じた事があります。・・・、全然外見も雰囲気も
     似てないのに・・・・」




    「・・・・それ、誰に似てると感じたのかな?
     差し障りなければ教えて貰っても・・・・?」




    「とても恥ずかしいので黙秘権を頂いても。。。」




    「お・し・え・て・貰・っ・て・も・・・・??(ニコニコ) 」ギリギリ・・・




    にこやかな顔でチョークスリーパーを掛けてくるハンジ。


    エレンにとっての安心感溢れる抱擁のゆりかごは・・・・
    瞬時にして自身の意識を刈り取らんばかりの威圧感を纏う
    死神の鎌と化す・・・・・。。


    「ムッ・・・ぐふっ・・・・・!す、すみませんすみません!!
     言いますから!!言いますから勘弁ッ・・・して下さい!」パタパタ



  55. 55 : : 2015/05/12(火) 21:53:01



    「・・・・ふむ、それで、その私と重なって見えたというのは・・・
     私の知ってるエレンの知人かな?」ニヤニヤ・・・




    「いえ・・・・あの、本当なんでか分からないんですけど・・・
     母親です。・・・・5年前にシガンシナ区で・・・巨人に。」






    「・・・・済まない。それは・・・大分重い話だね。

     ・・・・しかし、そんなに私とその、エレンのお母さんって」





    「いえ、ですから全然似てないんです(苦笑)
     髪型から・・・顔立ちから・・・声色まで、本当に、
     何から何まで。ミカサの奴は良く知ってますからあいつに
     聞けば嘘じゃないって確認取れますよ。

     あ・・・、でも気丈なところはそっくりでしたね・・・」



    「・・・・・・キミがそこまで言うんだ。そりゃもうどんなに
     似てる場所を探そうとしてもそんな部分欠片も
     無いんだろうねw・・・しかし、そうか・・・

     きっとエレン似の・・・快活でそれはそれは綺麗な
     ご婦人だったんだろう・・・。

     そりゃ私とは似ても似つかない筈さ・・・・」ムッスゥゥ・・・・
     



    「そ、そういう意味じゃないですって!!!拗ねないで下さいよ!!
     


     ・・・それに、オレ似って言い方はおかしいですよw;
     母さんに顔が似すぎているとはよく言われましたが・・・。」





    「それはきっとアレだな・・・・。キミがまだ心のどこかで、
     母性を必要としている名残なのかもしれない。

     キミがお母さんを失くした歳がそれだけ早かったというのも
     十分影響しているんだろうけど・・・・無理も無い事だよ。

     例え両親存命であったとしても死ぬまでその支えを必要と
     する人だっている中にあって・・・君は満足に別れの言葉すら
     交す暇も無かった・・・・。いや、これは全くのあてずっぽうだけど」




    「・・・・・・・・?」




    「ひょっとして君・・・・そうしてお母さんとお別れする
     間際まで・・・何かもっと伝えたかった事があるとか・・・
     もっと、こうしておけば良かったという様な後悔が・・・
     何かあるんじゃないのかな?」




    「・・・・・・・・」





    思い浮かべられるのは彼女が口にしたのとほぼ相違ない
    心に残る蟠り。ろくな孝行もできず、最後に交した
    会話と言えば反抗期の具現としかいえない口論の記憶のみ。


    それも・・・壁の外に行く、行かないに関しての言い合いである。



    結果として言ってしまえば今の自分は・・・・



    母から向けられた今生の別れの言葉に背いた生き方を
    歩んでいることになる。



    「心当たりが・・・・あり過ぎますね・・・(苦笑)」


    グッ・・・・


    「・・・・・・・・・!」



    エレンの首下に回されていたハンジの腕枕。

    その腕にかかっていた重心がズレて行き、エレンの鼻先が
    自らの肩口に埋もれる感覚を察するハンジ。





    「母さんには・・・最後の最期まで調査兵を志していた
     自分の考えを・・・改める様にきつく言いつけられてました。

     その頃オレが壁外を目指してた理由は今とは全く
     異なる理由でしたが・・・・・・結局のところ、
     目の前で巨人に母さんを奪われた事で・・・・今のオレが
     ここにこうして存在するんです。

     親不孝者にも程があるってのに・・・・それでもまだ
     母親離れできてないんでしょうね(苦笑)」



  56. 56 : : 2015/05/12(火) 21:57:42


    「・・・・・ん。辛いときはお互い様だ。泣きたかったら
     泣いて良いんだぞ?」


    回した腕で優しくエレンの頭部を包み込むハンジ。


    「・・・・泣きませんって。兵長も同じ事をハンジさんに
     昔言われたって言ってましたけど・・・そう言われて
     素直に泣く男なんてまずいませんよ・・・?」




    「・・・そうだな。男の子には意地があるもんなw」





    「その通りです。っていうか分かってて聞いたんですか・・(溜息)」





    「・・・じゃ、こういうのはどうかな」スッ・・・・




    既に密着しているに等しい位置にあった頭部の向きを変え、
    その距離を限界まで詰めてくるハンジの唇。

    その先端が目指す位置は・・・言うまでも無く・・・・・



    「・・・・・ハンジさん。」




    「・・・・何だい?」



    「断る理由は当然無いんですけど・・・まさかその流れで
     今から何か始まるなんてことは・・・・/////;」ギュッ




    「いやいやいやぁw///それを女性に聞くかね・・・・・・

     答えが聞きたいかい・・・・?口付けの後に行動で示す事になるけど・・・」



    咄嗟にシャツの前面ボタンを襟元まで絞めたエレンの手を
    ハンジの手がさらに握りこみ、その動きを妨害する。



    「もう聞くまでも無いじゃないですか!!分りましたから!
     自分でできますから手を離してください!!(泣)

     ほ・・・本当にするん・・・・ですね?;」





    「・・・・うん。なんかね、話し込んでたら
     目がシャッキリ覚めちゃった。・・・エレンが悪いんだぞ。

     ・・・・さ、まずはお早うのキスからだ。コレはもう
     徹夜コースだな!!終わってから寝てしまったら恐らく
     次に目が覚める頃には私達お揃いの髪型に散髪されている
     事だろうからね・・・・覚悟はいいかいエレン!」ッハッハッハ///




    「モブリットさんの気持ちが今なら痛い程よく分かります(溜息)」




    「ふふん、残念だったなエレンw私はこういう女だよ。
     所詮他人の事なんて巨人の二の次にしか考えられないような・・・」




    「違いますよ」グイッ




    「んっ!?」
    「ム・・・・」



    特に勢い任せに行うという訳でも無く、
    単純にその口を塞ぐようにして行われたエレンの口づけ。

    エレンの表情自体はそれまでとは一変して非常に
    落ち着いたものに変わっており、その接吻で唐突に
    口を塞がれることになったハンジに関しても・・・

    彼女の性格が大きく影響し、照れや恥じらいといった類の
    感情がその顔に現れる事は無かった。



    プハッ・・・・



    「なんだぉぃエレン~wキミも人のこと言えないなぁ//
     その気があるならもっと早くにガンガン・・・・」




    「ですから;そうじゃなくてですね。ほら・・、さっき
     ハンジさんが言ってた・・・・モブリットさんのアレですよ」



    「・・・?あれ・・??」


    何か言ったっけ?という疑問符を並べるハンジに対し・・・・




    「“私は、あなたの意見に賛同できないけど”、なんとか・・・って
     いうあれ・・・。今の心境ならとても良く理解できます。

     オレ・・・・ハンジさんの無茶振りだったら、どんな事にでも、
     何処まででも付き合えそうな気がします。そうしている間が一番・・・
     
     ハンジさんを身近に感じられる、そんな気がするんです。」





    「まっ・・・真面目君かよ//!!くそぅっ!!!反則だそんな言い方!!
     
     さてはエレン、私を悶え殺そうと企んでるな!?恐ろしいヤツめ・・・・!」ヌググ・・・・




    「・・・・で、どうするんですか?;あんまり話してると
     時間無くなっちゃいますよ・・・・?;」



    「やるよ!!やってやる!!!ここまで私を本気にさせた事、
     必ず後悔させてやるからな!!!!絶対に足腰立たなくしてやる!!

     エレンだけリヴァイのブレードで坊主にされてしまえばいいんだ!!」フンフン!!!






    鼻息を荒くして衣服を解き始めるハンジと・・・珍しく
    そのような状況に突入しても未だ焦りを見せないエレンの
    姿が、そこには確かにあった。





    そして――――





    「改めて・・・これからも宜しくお願いします・・・ハンジさん」




    「・・・こっちこそ・・・宜しくね、エレン。」





    示し合わせるでも無く、そこには自然と二つの笑顔が向き合っていた。














    ――・・・to be continued ?





  57. 57 : : 2015/05/12(火) 21:58:06





            ―あとがき的な何か―



    はい、・・・というわけで!、とにかく続きを書きたくて
    書きたくて仕方が無かったくせに、何となくで始まり、
    何となく二番煎じな締めくくり方になってしまいましたが・・・、

    私個人待望の(やっと書けた的な意味で)ハンジ×エレンものでした!


    しかし何といえばいいのか・・・進撃キャラは全員が全員、
    不思議な魅力を持っていると個人的に思うのですが・・・・

    ハンジさんに関してはその中でも特筆してそういった魅力が
    強く放たれているような気がしてなりません。
    (*´ω`*)


    作中にて怒ると最も恐いとされている彼(女?)
    そんなハンジさんの活躍が、今後も更に期待されますね!!!


    ではでは、こんなどうしようもない文面を
    このような末端までお読みくださった心優しき閲覧者の
    皆様に心よりのお礼を申し上げながら...!

    申し上げながら、まだ続きまでだらだらと間延びした挙句
    書ききれていないあれらのお話に着手していきたいと思います!(汗)

    あと執筆手一杯ですが読むのにも時間を使いたいです!(゚o゚;;



    改めて、閲覧、心より御礼申し上げます!!!!(ノД`)・゜・。
  58. 58 : : 2015/05/13(水) 00:55:00
    執筆お疲れ様です( ´ ▽ ` )ノ

    実はこのハン×エレの続きずっと気になってました(((o(*゚▽゚*)o)))
    思い出せば、僕はムーさんの1、2作目辺りってほぼリアルタイムで見ていたんですよね〜

    ちなみにssnoteで地の文が多い作品は敬遠してた愚かな初期カンタ時代に「地の文作品の方が鮮明にイメージが伝わって来て面白いじゃないか!!」って啓蒙してくださった作家さんの一人がムーさんでございます

    これからも情熱的な作品を期待しております!!
  59. 59 : : 2015/05/13(水) 02:37:35
    >>58
    どうもですカンツォーネさん!!コメント、更にはお気に入りまで!
    感謝感激、流星群です!!(雨や霰などという表現では足りません)

    並びに、お久しぶりです!!

    嬉しすぎるお言葉の数々に我が目を疑ってしまいますが・・・!ハンジさんのお話は
    私にとってもSSNOTEさんと出会えるきっかけともなった
    話ですし、個人的にもとても特別な思い入れがある物なので

    それらのお言葉は嬉しすぎて言葉にできません(ノД`)・゜・。

    かく言う私にとっても、カンツォーネさんは、当時
    カンタさんであった頃から考えれば・・・SSを共に書いている
    方であるという条件を念頭に置けば・・

    私の書いたこんなよく分からない物に
    コメントを下さった方の中では最も長い付き合いのある間柄ですので、
    それが今もこうして有難いお言葉を頂けるというのは・・・

    なんというか本当に文字にはできない有難さです・・・・

    何かすみません、喜びのあまり文面も安定していないようです;
    (元々です)


    情熱などとんでもない><;私の書くモノなどすべては惰性で
    できている趣味の産物に過ぎませんが・・・!;
    ともにリアルタイムを往けるこの喜びを無駄にせず、これからも
    書かせていただきます!(*´ω`*)

    追伸、豆知識も密かに楽しみにしているのですよ・・?
    (催促じゃ・・・ないのですよ?(;゚Д゚))
    幾ら又聞きとは仰られていても・・・あの豆知識のお蔭で・・・
    私の食生活に大きな改革がもたらされたのは紛れも無い事実ですのでw

    マーガリン・・・・ダメ、絶対!!!!(;゚Д゚)
  60. 60 : : 2015/05/13(水) 22:21:37
    執筆お疲れ様でした!

    真面目に変なハンジさん書かせたら夢馬さんが一番のような気がします。

    ハンジさんの魅力がここぞとばかりに描かれていてわくわくしながら読ませていただきました。

    ハンエレもいいですね…。
    目覚めそうです。
  61. 61 : : 2015/05/13(水) 22:33:19
    >>60
    どうもこのような場所にまで・・貴重なコメント頂けて涙が止まりません・・

    いいんでしょうかね?私が私のためだけに勝手に楽しんで書いているだけみたいな
    惨状に等しい酷い有様なのに、
    こうしてご感想まで頂いてしまって´д` ;


    そんな個人的な感傷も程々に・・
    いいですよね、ハンエレというのも^ ^

    ・・いえ、単に少数派なものですから
    物珍しく感じるのかもしれませんが・・
    やはりカップリングで頭を抱えるのは

    攻防比率ですよね・・!即ち、これを
    ハン×エレにするのかエレ×ハンに
    するのか・・!;
    (何を言っているのか今一分からない)
    それだけでなんかもう大きく方向性に違いが生じてくる為、
    試行錯誤したらこの2人で何パターンかのカップリングが出来上がってしまいそうです。

    ・・共に目覚めましょうぞ!(´-`)

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著者情報
ne5716

夢馬

@ne5716

この作品はシリーズ作品です

ハンジ × エレン シリーズ シリーズ

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