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魔術師やるなら余所でやれ!2

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  1. 1 : : 2015/03/02(月) 15:54:26




    夢を見ていた。
    昔の、少し昔の。




    「お兄ちゃん、流れ星にお願いするの、何にする?」




    そこは満天の星が煌めく夜の舞台。
    月光が淡く大地を照らす。
    リィンは少し考える素振りを見せて。




    「魔術がもっと上手くなるように。それとシャルがもっと優しくしてくれるように。リィエルが幸せになれるように」




    それを聞いたシャルと妹──リィエルはクスクスと笑った。




    「三つもあるのかい」




    シャルがリィンの背中をバシバシ叩く。




    「いや、まだまだあるぞ」




    「多いよ」




    リィエルは口に手を当てて微笑んだ。
    そんなリィエルの様子を見て、リィンはぶっきらぼうに言った。




  2. 2 : : 2015/03/02(月) 16:07:08



    「そういうお前は、どうなんだよ」




    リィエルは手を後ろ組み、リィンの顔を覗き込んで言った。




    「お兄ちゃんが幸せになれるように」




    その傍らでシャルが「兄妹愛は素敵だな」と呟き、リィンは苦笑する。
    上を見上げると、流れ星が金色の軌跡を空に描きながら右から左へ、上から下へ流れる。




    「どうやら、始まったみたいだな」




    「だね」




    真っ黒な夜空、満月を背に天を彩るローレス十字流星群。
    流れ星が十字を描くことから、いつしかそう呼ばれるようになった。




    「これだけ流れ星があるなら、願い事叶い放題じゃん」



  3. 3 : : 2015/03/02(月) 16:11:33



    「お前は図々しいなリィン」




    シャルの呟きに頷きながら同意するリィエル。




    「そう言えば、さ」




    思い出したようにリィンが言った。




    「リィエル、願い事一つでいいのか?」




    「うん。いいよ。だってお願い事は一つにしないと────」




    その時のリィエルの顔は、どこか悲しくて、しかし魅入ってしまう美しさだった。




    「────一つにしないと、叶わないよ」








  4. 4 : : 2015/03/02(月) 16:22:05





    眩しい何かを全身に浴びて、意識が眠りの奥底から浮上する。
    カーテンの隙間から差し込む朝日が、どことなく心地いい。
    そうか、夢だったのか。




    「懐かしいな」




    愛しく、そして悲しくもある妹の記憶。
    決して忘れることのできない甘く、そして苦い記憶。




    大きく欠伸をすると、力いっぱいカーテンを開き、窓をオープン。
    爽やかな朝の風が顔を撫でる。
    部屋の空気が入れ替わり、なんだか空気が美味しい気もする。




    暫しの間放心状態になっていたため、ドアを叩く音に気づくのに遅れた。




    「起きてるのか? 遅刻したら風穴開けるからな」




    ドアの向こうでシャルが急かす。




  5. 5 : : 2015/03/02(月) 16:32:47




    一昨日、メルガルウス魔術師団第三小隊の班長を始めたのだったか。
    めんどくさいと呟きながらも、魔術師団から支給されたフードと金の刺繍がある黒いローブを羽織る。




    意識が完全に覚醒していないため、なかなかボタンがはまらない。
    やっとの思いで服を着替え終わると、シャルの待つ一階へと向かう。




    リィンは魔術師が大嫌いだ。
    それはもう嫌いの嫌い、その昔、神が創り出した七つの破滅級魔術を使ってこの世界ごと消し飛ばしてほしいくらい嫌いだ。
    本当、魔術師やるならもっとファンタジーな世界に行ってほしい。余所でやってほしい。




    それでも自分は魔術に携わっている。
    班員のアリスが言っていた。
    滑稽だと。
    本当にそう思う。魔術が大嫌いなのに、魔術師をやっている。
    笑える。




    「…………リィエル」




    今は亡き妹の名前を呟きながら、階段を下りていった。




  6. 6 : : 2015/03/02(月) 16:34:14










    第三章「宮廷からの刺客」









  7. 7 : : 2015/03/02(月) 16:42:11



    「バカなのかお前っ!?」




    第三小隊会議室に入った瞬間、リィンは大声で叫んだ。
    怒声を浴びたイノリだが、ピクリとも反応しない。それどころか、眠りながらお菓子を食べるという曲芸まで披露している。




    やはり、イノリはパジャマだった。




    「お前何やってんの!? パジャマで本部来るって、バカっ? 大バカっ!?」




    「……私、パジャマ、なの?」




    「パジャマだよ!」




    「そんなハズ、ない。だって今日起きて、お菓子食べて、服着替えて、お菓子食べて、お菓子食べて、歯磨きして、お菓子たべながら、オトハと一緒に、きた、から」




    「えっ!?」





    「嘘ついてんじゃねーよ! オトハは今日一番最初に来てたし、そもそもお前着替えてねぇよ!」




  8. 8 : : 2015/03/02(月) 16:46:52



    「なる、ほど」




    夜型のイノリは朝や昼にめっぽう弱い。
    そのため、普通の会話すらままならない。




    「それじゃ、リィン、付いて、きて」




    「やだよ」




    「…………ケチ。死ね」




    「今死ねって言ったよね!?」




    「…………っち」




    「舌打ちしたよね!?」




    二人のやり取りに呆れたのか、アリスが仲介しに入る。




    「僕がイノリを連れていくよ。まったく、班員一人もまともに扱えないなんて。無能だね」




  9. 9 : : 2015/03/02(月) 17:23:24




    相変わらず毒舌だな、と思いながら、リィンはアリスに感謝の視線を向ける。
    アリスはイノリを引っ張るように連れ出し、寮へと向かった。




    「イノリめ…………」




    「まあそうカッカすんなよリィン班長」




    「いや、お前らはもっとカッカしろよ」




    「もう慣れましたから」




    「そう言えばアイツ、入団式でもパジャマ着てきたよな。大量のお菓子持って」




    「マジか…………」




  10. 10 : : 2015/03/02(月) 19:50:54


    改めてイノリの非常識さに驚きながら、新たな任務のことが頭の中を駆け巡っていた。
    ローレス王国王女及び主要人物の護衛。
    その国最強の魔術師団、宮廷魔術師団同士の水面下での争いの中、戦いに乗じて他国の刺客を撃退するという護衛任務だ。




    はっきり言って第三小隊のメンバーはメルガルウス魔術師団の中でも群を抜いて強い。圧倒的だ。
    しかし相手は主要人物に手を掛けるほどの魔術師だ。
    初陣みたく簡単にはいかないだろう。




    「あー、お前ら。イノリとアリスが帰ってきたら、新しい任務について説明するからな」




    「はい、リィンさん」




    「楽しみだな」




  11. 11 : : 2015/03/02(月) 20:33:21




    余裕な態度を見せるルーンに釘を刺す。




    「その油断が命取りだぞ」




    「わかってるわかってる」




    ケラケラと笑いながら言うルーン。
    リィンは大きく息を吐き出し、オトハに問い掛ける。




    「シャルはどこに行ったんだ?」




    「確か、ローレス王国王女の所に行く、とか言ってた気がします」




    「そういやシャルのやつ、王女と面識があるとか言ってたな」




    「まあ、国家指定最高戦力だからね」




  12. 12 : : 2015/03/02(月) 20:42:31


    「エグいやつだよ。破滅級魔術をぶっ放すヤツだしな」




    破滅級魔術とは、太古の時代に神々が創り出した七つの魔術だ。
    優秀な魔術師が一発放てば国の地形を変えるほどの威力を誇る。
    まさに破滅を導く神の魔術。




    「やっぱり国家指定最高戦力は違いますね。あんなのが世界に七人いるんですか…………」




    「怖いよな。まあ、破滅級魔術は一般の魔術師でも使おうと思えば使えるけど、魔力が足りないだろうな」




    「一気に魔力欠乏症で即死だな」




    ────突如、非常事態を知らせる音響魔術装置が響いた。




    「なんだっ!?」




    廊下からドタドタと誰かが走ってきて、荒々しくドアを開いた。




    「リィン班長、緊急事態です! 何者かがメルガルウス魔術師団本部に侵入しましたッ!」




  13. 13 : : 2015/03/02(月) 20:52:20




    まず普通に考えて、本部に侵入することなんてできない。
    魔術によるフルオート射撃、厳重な警備、一流魔術師の包囲網。これら全てを突破しなければならない。
    まず不可能だ。




    それを可能とするならそれは────




    「────宮廷魔術師団の連中か」




    だとしたらマズい。
    敵の目的はわからないが、このままだと内部から切り崩される。
    宮廷魔術師を相手にしたのなら、小隊三つは必要だ。
    それほど宮廷魔術師は強い。
    ましてや、集団なら絶望的だ。




    今はシャルもいない。上部の魔術師たちもローレス王城に召集されているため、人数がいつもの半数ほどになっている。
    まるで狙いすましたかのようなタイミング。
    計画性があると見て間違いない。




    「いくぞ。侵入者を撃退する!」




  14. 14 : : 2015/03/02(月) 21:16:23



    オトハとルーンを引き連れて走るリィンに、ルーンが言った。




    「リィン班長、分かれて探した方が効率的だと思わないか?」




    「バカ。敵の人数が分からないし、手薄だったとはいえメルガルウスの包囲網を突破したんだ。敵は相当の手練れと見てまず間違いない」




    それに同意したのか、ルーンは押し黙る。




    右折、左折、右折。
    無駄に広い本部で、敵を見つけるのは難しいかもしれない。
    だが気を抜けない──────だからこそ、背後からの殺気を察知することができた。




    「避けろッ!」




    リィンが叫ぶと、各々飛び散る。
    そして擦過していく魔術によって放たれた攻撃。




    「見つけた、リィン」




    フードを深く被った少女が、口角を持ち上げた。
  15. 15 : : 2015/03/02(月) 21:46:33



    黒の基準としたスーツと外套、そして汚れのない純白のローブに、王国の紋章が刺繍された異色の服装をしている。
    宮廷魔術師で間違いない。




    「冗談じゃねえぞ」





    リィンは脂汗を流した。
    ルーンの魔術は飛翔が前提で行われる遠距離型攻撃魔術だ。
    狭い室内ではその真価を発揮することはできない。
    そう考えると、天才的精密魔術射撃を行うオトハが後方支援。リィンが前線で戦うということになる。




    「…………ルーン、お前は別の場所に敵がいないか探せ」




    「俺の魔術はここじゃ発揮できない、か。了解だリィン班長。死ぬなよ」




    ルーンは自身の置かれた状況を素早く判断し、宮廷魔術師のいる方向とは逆に駆けていった。




    「リィンさん…………」




    「お前は後方支援。俺が前線で戦う。頼むぞ」




  16. 16 : : 2015/03/02(月) 22:07:32



    「は、はい!」




    未知なる敵に困惑しているのか、オトハの声は少しうわずっている。
    リィンはジッと宮廷魔術師の少女を見据える。




    「宮廷魔術師さんがこんなとこに何の用だよ」




    無言。




    「まあいいけど。出来れば帰っていただきたいねッ」




    言い切った瞬間、リィンが弾かれたように動いた。
    まさに疾風。一足跳びに少女に襲いかかる。




    「"偽造(グランマティカ)"ッ」




    地面に両手をつきながら言い放つ。
    直後、"空気中の魔力"が紫電のようにほとばしり、刹那的にリィンの両手には双剣が生み出され、代わりにその場にあった床がごっそりと消えた。




    魔術回路"偽造(グランマティカ)
    自身が想像した有形の物質を、その場にある物質を偽造してつくり上げる転換式魔術。
    この世界において、物質とはほぼ無限に存在するので、半永久的に発動することができる。




    オトハは驚愕していた。
    ただでさえ転換式魔術は時間がかかるのに、それを瞬きする暇もなく行う速さ。
    そして魔術を使った時、不自然に光った空気中の魔力。
    魔力とは本来、自分の体内に存在する魔術回路から供給されるものだが、リィンは魔術回路を発動した様子がなかった。
    いったいどういうことか。




    しかし今は自分の成すべきことをする。
    魔術回路"全銃(オールリボルバー)"を発動。
    リィンよりは遅いが、魔力を銃に転換。
    二挺魔術拳銃を構えた。



  17. 17 : : 2015/03/02(月) 22:19:28



    リィンの高速転換を見た少女は、声を上げる。




    「リィン、やっぱり最高!」




    迫り来るリィンの斬撃を後ろに跳躍して回避すると、指をパチンと鳴らす。
    リィンの後ろでマズルフラッシュが光り、魔術で作られた弾丸が飛んでくる。
    精密な射撃だ。このまま直進すれば眉間を貫かれて死ぬ。
    しかし────




    「"碧茨(モバレーゾ)"」




    突如窓ガラスを突き破り、リィンたちとの間に割り込む何か。
    それはリィンの進撃を止め、オトハの射撃を受け止めた。




    「植物……!」




    魔術回路"碧茨(モバレーゾ)"は、植物及び微生物の成長を操作する魔術だ。
    今のように、植物を急激に成長させ、防御に使ったりもできる。




    リィンは、この魔術を知っている。




  18. 18 : : 2015/03/02(月) 23:22:28




    「お前まさか、セトリアッ!?」




    少女はにっと口を持ち上げ、フードをバサリは剥ぎ取った。
    現れたのは、藍色のボブカット。
    髪と同じ藍色の瞳、ほっそりとした身体つき、ピスクドールのような少女が姿を露わす。




    「会いたかった、リィン!」




    空気中の微生物が急激に成長し、様々な動物に象られて襲いかかる。




    「ちょッ、おい待てよセトリア! なんで俺とお前が戦わなきゃいけない!」




    「問答無用、私にボコられて!」




    「断るッ!」




    襲い来る微生物たちに斬撃を加えながら、セトリアに向かって前進する。
    しかし、それを許すほどセトリアも甘くない。
    短く呟くと、、床から植物が槍のように次々と生えてくる。
    下の階の植物を成長させたのか。




    オトハはバックステップで回避しながら装填。
    セトリアを照準。
    引き金を引く。
    弾丸が空気をかぎ分けながらセトリアに向かって飛ぶ。
    それをさらに成長させた植物で防ぐと、リィンに向かって蹴りを繰り出す。
    死角からの蹴りがリィンの側頭部を捉え、背中から壁にぶつかる。




  19. 19 : : 2015/03/03(火) 17:24:19



    「かぁッは」




    肺から酸素が絞り出され、空気を求めて喘ぐ。




    「リィンさん!」




    オトハが悲鳴に似た声を上げる。
    そのため一瞬隙ができ、セトリアはそれを見逃さない。




    ポケットに手を突っ込み、無造作に腕を引き抜く。花の種だ。




    「咲いて」




    息を吹きかけると、瞬時に成長。
    槍にも似た植物の茎がオトハに迫る。
    反応に遅れたオトハは蒼白。
    横っ飛びで直撃は回避するが、腹部を擦過。
    鮮血が溢れ出す。




    「オトハ、しゃがめッ!」




    リィンの指示を受けたオトハは、頭を抱えながらしゃがみ込む。
    その背後で、オトハを貫かんとする植物。
    リィンは腕を横に薙ぎ。




    「廻れ、鼓動する卍斬(アグレッシブ・ブレイブ)──!」




    瞬時に空気中の魔力がいくつもの剣に転換され、輪を描きながら廻る、廻る。
    孤を描きながら青白い閃光が迸り、植物を斬りさく。




  20. 20 : : 2015/03/03(火) 17:36:29



    剣はやがて廻るのを止め、リィンの周囲に集まる。その切っ先は、全てセトリアに向いている。




    「話を聞いてくれセトリア、なんでローレス王国宮廷魔術師団のお前が、メルガルウス魔術師団と戦わなきゃいけないんだよ!」




    「問答無用。私と戦って! リィン!」




    「この単細胞生物!」




    剣を二本掴み、セトリアに向かって突進する。
    セトリアが指を鳴らすと、窓の外から再び入り込んでくる巨大植物。中庭は広大で植物が多く存在するので、完全にアウェーだ。




  21. 21 : : 2015/03/03(火) 19:02:04



    葉が小さな刃のように成長し、リィンに襲いかかるが、オトハが射撃によって全て撃ち落とす。
    なんという精密射撃。




    そのまま直進し、射程範囲にセトリアを捉える。




    「少し大人しくしろ、セトリアッ」




    「断る」




    リィンとセトリアの間に巨大な壁が──いや、大木が分け隔てる。
    短く舌打ちをすると、姿勢を低くする。
    オトハは糸を汲み取ったのか、魔力を供給。




    射線上を穿つ一閃弾(ミギキックスライサー)──射撃(ファイヤ)ッ」




    銃がレーザーを放つ未来的形状を取り、射線上に存在する全てを穿つレーザー砲を放つ。
    リィンの頭上を通り抜け、大木を貫通。
  22. 22 : : 2015/03/04(水) 16:00:31




    大木に綺麗な円状の穴ができ、そこからセトリアの焦りの表情を見た。
    リィンはもう一発撃てと目配せするが、オトハが首を振る。
    どうやら強力ゆえに魔力を多く消費するらしい。




    仕方ない。
    リィンは意を決してセトリアに追撃しようと試みるが、その思考を一瞬で叩き出し、防御のために魔力を盾に転換。
    セトリアの放った植物の種を弾き返す。
    しかし誤算だった。
    植物の種は地面に落下した途端に成長を初め、槍の形状を取った。




    「薔薇の花ッ?」




    棘が飛び交い、廊下のあちこちに傷をつける。
    リィンは盾で、オトハは射撃で全て叩き落とす。




    「危なかっ────ッッ!?」




    盾で視界が塞がっていたため、前方の攻撃が見えない。
    だからこそ、セトリアの攻撃を見切ることができなかった。




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yaya

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@yaya

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