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魔術師やるなら余所でやれ!
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                  - 1 : : 2015/02/27(金) 21:37:02
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 序章《ニート卒業》
 
 
 
 
 
 
 
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                  - 2 : : 2015/02/27(金) 21:48:12
 「あー、ニート最高!」
 太陽が燦々と照りつけ、新緑が山を彩るとある真夏の日。
 うちわでパタパタと自分を仰ぎながら転がる青年がいた。
 年齢は十八ほどか、夜空のような瞳と漆黒の黒髪。どことなく夜を思わせる青年は、椅子に座ってアイスを頬張る女性に向かって言った。
 「そのアイス美味しそうだな。くれよ」
 「君はもう少し遠慮というものを知ったらどうだね?」
 二十歳ほどの外見、深い藍色の長髪、真っ白なロングコートを羽織った、かなりの美人だ。
 「ニートに遠慮なんてないさ、シャル」
 「気安く呼ぶなよ、クズ」
 
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                  - 3 : : 2015/02/27(金) 21:55:41
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 笑顔で青年をクズ呼ばわりするシャルは、指先を青年に向けた。
 一瞬後、シャルの指先から閃光が迸り、青年の頬を擦過。壁を撃ち抜いた。
 
 
 
 
 「────あれ? 今魔術で俺を殺そうとしたのかな?」
 
 
 
 
 「惜しいな。あと少しで人体が消滅していたのにな、リィン」
 
 
 
 
 そう、シャルは魔術を放ったのだ。
 それも、触れれば人体が消滅するレベルの。
 リィンは冷や汗を掻いた。
 
 
 
 
 「……今、当たってたら死んだよね?」
 
 
 
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                  - 4 : : 2015/02/27(金) 22:02:45
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 本来魔術とは、術者の体内に存在する"魔術回路"と呼ばれる魔力蓄積器官にアクセスし、様々な過程を経て発動できる。
 つまり、それ相応の時間を要するのだ。
 しかしシャルはそれを刹那的に行う。
 魔術の熟練度の高さがこれで窺えるだろう。
 
 
 
 
 「ッチ」
 
 
 
 
 「舌打ちしたぁ! 今舌打ちしたよね!? 俺を殺そうとしてたよねッ!?」
 
 
 
 
 「おいおいリィン、人聞きの悪いことを言うな。私は家に蔓延る害虫を駆除しようとしてるのだよ。いつから人間になったつもりなんだね?」
 
 
 
 
 「俺人間扱いされてなかったの!?」
 
 
 
 
 「当然だよ。食料を荒らすゴミ虫だと思っていたよ死ね」
 
 
 
 
 もう、泣きたくなってきた。
 ちなみに、シャルはニコニコしながら暴言を吐くので、もうなんというか、酷い。
 
 
 
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                  - 5 : : 2015/02/27(金) 22:18:15
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 「あのー、せめて人間扱いしてくれない?」
 
 
 
 
 「自惚れんなよゴミ虫。駆逐するぞクズ」
 
 
 
 
 相変わらず笑みを絶やさないシャル。
 そして肉眼では見えないが、シャルの周囲に何かが渦巻いている。魔力だろう。
 
 
 
 
 「シャル、俺は本当にシャルに感謝してる。シャルがいなきゃ、今の俺はない」
 
 
 
 
 「だろうな」
 
 
 
 
 「だから、これからもよろしく」
 
 
 
 
 「天閃の神槍 」
 
 
 
 
 シャルは腕をかざし、魔術を詠唱。
 瞬時に膨れ上がる膨大な魔力。
 シャルの魔術回路『閃槍』 が発動される。
 この世界、いや、宇宙の法則を無視し、触れた物質を跡形もなく消滅させる魔術。
 
 
 
 
 「ちょッ、それはヤバい! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅぅぅ!!」
 
 
 
 
 全長五メートルはあろうかという光の槍が形成され、それをシャルが掴む。
 
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                  - 6 : : 2015/02/27(金) 22:24:27
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 「跡形も無く消すぞ」
 
 
 
 
 リィンは顔を真っ青にしながら首を振る。
 
 
 
 
 「それ、シャレにならないから! お願いしますやめてください!」
 
 
 
 
 「この無能なクズめ。魔術は一度発動したら止めることはできない。つまり────」
 
 
 
 
 「────あ、死ぬ」
 
 
 
 
 刹那、リィンの視界は真っ白に染まった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 「ッチ」
 
 
 
 
 「舌打ちしたぁぁ!」
 
 
 
 
 シャルは結局、攻撃を外した。
 そのおかげでリィンは生きてる。
 だが、家の壁が消滅した。日差しが容赦なく降り注ぎ、室内(果たして壁がないのに部屋としていいのか)は熱気に包まれる。
 
 
 
 
 「…………死ねよ、リィン」
 
 
 
 
 「丁寧にお断りします」
 
 
 
 
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                  - 7 : : 2015/02/27(金) 22:31:30
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 「全く、昔のリィンはどこに行ったのやら」
 
 
 
 
 遠い何かを見つめるような眼差しで虚空とにらめっこするシャル。
 リィンはかぶりを振った。
 
 
 
 
 「昔は、もういいんだ。もう、いいんだ」
 
 
 
 
 力無く俯くリィンを、シャルは母親のように宥めた。
 
 
 
 
 「リィン、やり直そうとは思わないのか? お前ほどの魔術師だ。引く手数多だろうに」
 
 
 
 
 "魔術師"というワードを聞いた瞬間、リィンの表情が強張り、拳が震える。
 
 
 
 
 「知ってるだろ、シャル。俺はもう魔術師なんかじゃない。魔術師の、資格なんて───」
 
 
 
 
 雰囲気が悪い。空気が悪い。居心地が悪い。
 
 
 
 
 「…………あるさ。君は気づいていないだけだよ」
 
 
 
 
 「もういいんだ」
 
 
 
 
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                  - 8 : : 2015/02/27(金) 22:38:50
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 「だが、このままニートでいるワケにはいかんだろう」
 
 
 
 
 「え?」
 
 
 
 
 「いや、何言ってんのコイツみたいな表情をされても、私が困るんだが」
 
 
 
 
 「何言ってんの、コイツ」
 
 
 
 
 「言うなよ! 私が言いたいよ!」
 
 
 
 
 どうやらリィンとシャルはボケとツッコミ両方操れるらしい。
 
 
 
 
 「これからもよろしくって!」
 
 
 
 
 「答えはNOだ」
 
 
 
 
 「何で!? 俺とシャルの仲だろッ?」
 
 
 
 
 「おぇ…………何が俺とシャルの仲だよ。いつから私とお前は仲良くなったんだよ。吐き気がする」
 
 
 
 
 「…………」
 
 
 
 
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                  - 9 : : 2015/02/27(金) 22:54:08
 シャルは大きく息吐き出すと、タンスまで歩いていき、引き出しを開け、書類を取り出した。
 それをリィンに押し付けるようにして渡す。
 「何だよ、これ」
 「その中には、君を推薦したいという魔術師団の推薦状が入っている。 かなりの量だ」
 魔術師団とは、主に魔術師のみで構成された軍隊のことを指す。
 国家指定戦力で、魔術師団で国の方向が決まると言っても過言ではない。
 リィンは書類の封筒を開けずにまじまじと眺め、投げ捨てた。
 「なッ……リィン、正気かい? 魔術師団に入れば、将来は約束される。そうそう入れるものではないぞ。君はそれを蹴ったんだ」
 「なあ、シャル。俺は、俺はな。約束された将来なんて、望んじゃいねーよ」
 「…………カッコつけたつもりだろうが、要するに働きたくないんだろう?」
 
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                  - 10 : : 2015/02/27(金) 22:59:43
 「………………」
 図星だ。完全に図星だ。
 リィンは明後日の方向を向いて視線を泳がせている。
 「リィン、君が魔術師を嫌うのは仕方ないことだと思う。けど、過去の自分との決別といった意味でも、これは自分を変えるチャンスだと思わないか?」
 シャルの言葉にかぶりを振るリィン。
 「もう決めたんだ。魔術は使わない」
 「…………じゃあ、魔術師団に入って働かないと、ここから追い出す」
 
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                  - 11 : : 2015/02/28(土) 07:15:53
 「えええぇぇぇぇぇぇぇぇええええッッ!?」
 リィンが驚愕に眼を見開く。
 「当然だ。君はこれで晴れてニート卒業だ。おめでとう」
 「やだやだやだやだ! 働かない! 働きたくない!」
 子供のようにだだをこねるリィンに、シャルは鋭い視線を浴びせた。
 「リィン、ここで死ぬか、魔術師団に入って品行方正に生きるか、好きな方を選べ」
 「…………後者を選びます」
 絶望した表情で頭を垂れるリィン。
 シャルは腹を抱えて笑っている。
 「ふむ、それじゃあ、お前に合ってそうな……そうだな、ここなんてどうだ?」
 シャルが封筒の中から取り出したのは、"メルガルウス"魔術師団の推薦状。
 リィンはそれを受け取ると、嫌々覗き込む。
 「────は? 俺が第三小隊の班長?」
 メルガルウスと言えば、ここ──ローレス王国の魔術師団の中で五本指には入る魔術師団だ。
 果たして本当に自分がそんなところに推薦されるのだろうか。
 いや、される。
 リィンの脳裏にうっすらとした記憶が過ぎる。
 「ここならいいだろ。五本指に入ると言われてるが、私一人で圧勝できる雑魚魔術師団だからな」
 「魔術師団は最低でも五十人で構成されてるんだぞ…………」
 化け物だ。
 魔術師団相手に一人で勝てる魔術師なんて、多分一握りだろう。
 残念ながら、リィンはそれに含まれない。
 
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                  - 12 : : 2015/02/28(土) 07:23:14
 「一人じゃ不安かもしれないから、私は教官として一時的にメルガルウスに身を置くことにした」
 「いいのかよ。国家指定最高戦力の一人が魔術師団に身を置いて」
 「安心しろ。私は基本的に傍観主義だ。肩入れはしない」
 そう言うと、シャルは消滅した壁から外に出る。
 「どこ行くんだよ」
 「買い物。リィンのニート卒業祝いにな」
 
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                  - 13 : : 2015/02/28(土) 09:29:42
 遠くなっていくシャルの背中を見ながら、リィンはおもむろに呟いた。
 「ニート卒業…………か」
 ニートになって二年。これまで、何もせず、何の進歩もなく過ごしてきた。
 人生の無駄遣いだと思ったことも、まあ無いこともない。
 しかし、こうしてまた魔術に携わるなんて思ってもみなかった。
 夢であると信じたい。
 だが、机に置いてある推薦状が視界に入り、それが事実なのだと再確認させられる。
 「魔術、ね。あーあ、最悪だよ」
 だるいだるいと呟きながら、椅子に腰掛ける。
 まったく、シャルのやつ、めんどくさいものを持ち込んでくれたな。
 
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                  - 14 : : 2015/02/28(土) 09:43:40
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 氷系統の魔術を箱型保存装置に使った、通称冷蔵庫を開けると、ひんやりとした冷気が頬を撫でる。
 適当に飲み物を掴むと、コップに注ぐ。
 冷たい液体が胃に入ってきて、体温がじんわりと下がっていく感覚。
 大きく息を吐くと、再び推薦状に眼を通す。
 
 
 
 
 「メルガルウス」
 
 
 
 
 ここの上層部は、リィン・アルリーファと言う男をどこまで知っているのか。
 リィン・アルリーファの魔術を知っているのか。
 リィン・アルリーファの平凡さを知っているのか。
 
 
 
 
 
 「……………………凡才の俺は、白兵戦しかなかった」
 
 
 
 
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                  - 15 : : 2015/02/28(土) 09:59:01
 魔術が発達した中での白兵戦は、自殺行為だ。
 魔術で身体能力を強化したり、魔術を纏ったりすれば別の話なのだが、リィンの場合はそうじゃない。
 本当に、ただの白兵戦だ。剣術を使い、武術を行使する。
 だが、シャルは彼を認める。
 それはなぜか。
 「部下に恵まれていればいいんだけどな」
 小隊は主に集団で仕事を行う。
 魔獣の討伐、悪に手を染めた魔術師の排除など、仕事は様々だ。
 それぞれの小隊で重要になってくるのは個々の力と協調性。
 しかし今は、個々の力が重要だと聞く。
 優秀な部下を持つほど、仕事が捗る。
 「あぁぁ…………さらばニートよ」
 こうして、リィンのニート生活はこの夏の日を境に終わりを迎えたのだった。
 
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                  - 16 : : 2015/02/28(土) 10:13:04
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 第一章《若干一名を除く第三小隊の生意気なヤツら》
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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                  - 17 : : 2015/02/28(土) 13:08:43
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 ローレス王国北西部、比較的に平均気温が高い帯に属すこの王国はない建国からすでに百年が経とうとしていた。
 そんなローレス王国最大の特徴は、国家指定魔術師団が多く存在することだろう。
 それゆえに教育機関が発達しており、世界でもトップクラスの魔術師を放出している。
 魔術による戦乱の時代へと突き進む世界において、脅威とされる一国だろう。
 
 
 
 
 教育機関、そして魔術師団が多く存在するから、多種多様の人種が共存していて、貿易の場ともなっている。
 
 
 
 
 
 そんな街の中心部に、メルガルウス魔術師団本部は佇んでいる。
 良く言うと城塞。悪く言えば牢獄。
 魔力で形成された十五メートルはあろうかという巨大な壁。上部には魔術による自動射撃をおこなうガトリングガンが常に眼を光らせている。
 
 
 
 
 そんな巨大な壁の前でお菓子を食べながら誰かを待っている少女がいた。
 
 
 
 
 「………………」
 
 
 
 
 チョコをコーティングしたスティック状のお菓子を、ポリポリと食べる。
 よく見ると、足下にはアタッシュケースほどの大きさの袋があり、その中から飛び出すほどお菓子が詰め込まれている。
 
 
 
 
 ポリポリポリポリポリポリポリポリ。
 パクパクパクパクパクパクパクパク。
 少女は眠たそうな瞳を擦りながらお菓子を食べる。
 
 
 
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                  - 18 : : 2015/02/28(土) 13:32:36
 「むぅ…………皆、遅い」
 雪のように真っ白な髪と、真っ白な肌。
 眠たそうに細められたら瑠璃色の瞳には、手に持ったお菓子しか映っていない。
 華奢な身体つき。笑えば可愛いのだろうが、感情というものがこの少女は死滅している。
 無表情な美しい人形を思わせる少女は、別の意味でも目立っていた。
 「……………………?」
 それもそうだろう。
 だってパジャマ姿で門の前に大量のお菓子を持って突っ立っているのだから。
 本人は自覚がないらしい。
 しばらくお菓子をかじっていると、重々しい音が響き、少年が顔を覗かせる。
 「イノリ…………またパジャマで来てるのかよ」
 赤色の短髪に、赤い瞳。
 鋭利なナイフを 思わせる少年は、哀れむように少女────イノリを見た。
 「それに、遅刻だ」
 「そんな、ハズない。私は、起きて、お菓子を食べて、服着替えて、お菓子食べて、歯を磨いて、お菓子食べて、ここに来た」
 「嘘つくな。着替えてねーぞ」
 
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                  - 19 : : 2015/02/28(土) 13:42:37
 「…………ほん、とだ。寝ぼけてた、のかな」
 「いや、お前は常に寝ぼけてるだろ」
 「そう、なんだ。ルーンは私より私のこと、知ってるね」
 ルーンと呼ばれた少年は大きく息を吐き出す。
 こいつは第三小隊の問題児だ。
 「寮にもどって服着替えてこいよ」
 「…………ん、そうする」
 そう言うとイノリは巨大なお菓子袋を抱え、ふらふらとした足取りで寮へと向かった。
 背中が見えなくなるまで見送ると、ルーンは門を閉め、本部に入っていった。
 
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                  - 20 : : 2015/02/28(土) 15:44:29
 「あ、遅いですよルーン。それで、イノリはどこにいるんです?」
 第三小隊会議室で、黒髪の少女が口を開いた。
 裾の短い和服の上に黒色に金の刺繍がされたローブという異色の格好をしている。
 まるで人形のようなきめ細かい端麗で小さな顔、濡れたような光沢を放つ漆黒の長髪。
 黒い瞳を持つ少女──オトハがルーンを見つめる。
 「イノリのヤツ、またパジャマで来てたから、帰した」
 「バカかい? 無能だねルーン」
 今度は爽やかな碧色の髪の少女──アリスが言った。
 「イノリを一人で帰したら、もうここに来ないよ。また寝る」
 髪と同じく、碧の瞳がルーンを睨む。
 肩まで伸びた髪をうなじ辺りで結わえ、前髪で右眼が隠れている。
 やはりオトハ、ルーンと同じく黒色に金の刺繍がされてあるローブを羽織っている。
 
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                  - 21 : : 2015/02/28(土) 18:00:39
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 「じゃあ俺に行けっていうのか? 冗談じゃねえよ。イノリのヤツ、生活リズムが夜型なんだぞ」
 
 
 
 
 イノリは夜行性の梟みたいなヤツだ。
 夜間にこそ力を発揮するらしい。
 
 
 
 
 「まあ、イノリに昼間働けっていうのが無理ですよね…………」
 
 
 
 
 「オマケにお菓子を食い尽くすからね。給料の八割はお菓子に使うらしいよ」
 
 
 
 
 室内に沈黙が訪れる。
 
 
 
 
 「…………あ、そうだ。今日は新しい班長さんが来るんですよね」
 
 
 
 
 「この前の班長は怪我して前線で働けなくなったからな。デスクワークに徹してるらしい」
 
 
 
 
 「不審な魔術師集団も増えてきた物騒なご時世だからね。優秀な班長ならいいんだけど」
 
 
 
 
 それから三人は、世間話などをしてイノリと新班長の到着を待った。
 
 
 
 
 
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                  - 22 : : 2015/02/28(土) 18:38:40
 「やべぇぇっ! シャルにぶっ殺される!」
 リィンは街を駆け抜けていた。
 まるで制服のようなスーツを着こなして──おらず、上着のボタンは全開だし、ネクタイはしていない。フード付きの黒いローブに袖を通しておらず、チャラい。
 ともあれ、今日は記念すべき初出勤の日なのだ。
 シャルに遅刻したら一秒につき千発の- 閃槍 を撃ち込むと言われたので、遅れたら死ぬ。
 「ヤバイヤバイ!」
 リィンはグチグチ言いながらも、久々に街の風景を流して見ていた。
 変わっていた。スゴく変わっていた。
 風景もそうだが、さらに便利になった魔術。
 まるで自分だけ取り残されているようだった。
 などと思っていると、メルガルウス魔術師団本部の巨大な壁が見えてきた。
 懐中時計を確認すると、ギリギリ間に合っていて、ホッと息を吐き出す。
 「あぶねー。遅刻したら存在ごと消滅させられるからなぁ」
 
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                  - 23 : : 2015/02/28(土) 18:45:49
 壁を回って門にたどり着くと、一人の少女が突っ立っていた。
 見るからに魔術師だろう。
 正直言ってかなり可愛い──が、団服のボタンが一つずつズレてるし、ローブも無駄に大きい。ものすごく眠たそうだし、何よりも袋に入っているお菓子の量に驚愕した。
 一年分くらいあるのではないか。
 真っ白な少女はリィンに気づいたらしく、ゆっくりと視線をスライドさせる。
 「…………誰? 変な格好、してる。服、着こなせて、ない」
 「お前には言われたくねーよ!」
 瑠璃色の瞳はこっちをジッと見据えている。
 なんだか、不思議な雰囲気を持つ少女だ。
 「…………何の、用? フード付きのローブって、ことは、班長、なの?」
 「うん、わかってるなら敬語を使ったらどうなんだ?」
 しかし真っ白な少女は首を傾げる。
 「敬語? なに、それ。お菓子?」
 
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                  - 24 : : 2015/02/28(土) 19:47:21
 もう、ダメだ。
 リィンは自分の手に負えないと判断し、門を開く。
 それに続き、真っ白な少女も中に入った。
 「というかお前、なんで門の前で突っ立ってたんだ?」
 「道に、迷ってしまって」
 「新米なのか?」
 真っ白な少女は首を横に振る。
 「かれこれ、一年、くら、い?」
 「じゃあなんで迷うんだよっ!!」
 「方向、音痴、だから?」
 「方向音痴の領域をはるかに通り越えてるだろ……」
 
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                  - 25 : : 2015/02/28(土) 19:52:31
 真っ白な少女はまたお菓子を食べ始める。
 なんてマイペースなヤツなんだ。
 「お前、名前は?」
 唐突な質問に、眼をパチクリさせる少女。
 手に持っていたスナック菓子を呑み込むと、眠たげに言った。
 「イノリ。イノリ・スリーフレス」
 「そっか。俺はリィン・アルリーファだ。今日から第三小隊の班長をやることになったんだ」
 イノリは首を傾げると、ポンと手を叩いた。
 「なる、ほど…………」
 「どうしたんだ?」
 「リィン、あなたが、新しい班長、なの?」
 
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                  - 26 : : 2015/02/28(土) 20:01:20
 「え? それじゃあ、お前は第三小隊のメンバーなのか」
 イノリは首を縦に振る。
 「それじゃあ、第三小隊会議室ってどこにあるか知ってるか?」
 「わかん、ない」
 「だろうな。なんか分かってた」
 「分かってた、のに、聞いたの? 見かけによらず、意地悪だね。リィン」
 「だから、班長には敬語を使えって──いや、スマン。無理だよな」
 敬語をお菓子と思う時点で、イノリの非常識さに気づくべきだった。
 というか、非常識を通り越して異常だろう。
 「そういえば、第三小隊のメンバーって、優秀なんだろ? シャルから聞いたぞ」
 シャル、と聞いた瞬間、イノリの眼が少し開く。
 「シャルって、国家指定最高戦力、の?」
 「ああ」
 「知り、合い?」
 「ああ。シャルの家でニートしてた」
 「…………ニートって、社会の、ゴミでしょ?」
 なぜだろう。シャルにニートと言われるのはなんとも思わなかったが、イノリに言われると、なんだか腹が立つ。
 
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                  - 27 : : 2015/02/28(土) 20:06:00
 「それに、しても、リィンがあのシャルと知り合い、だったなんて」
 もう敬語を使えとは突っ込まないでおこう。
 「まあな。俺を育ててくれたのはシャルだった」
 「じゃあ、魔術も、シャル譲り?」
 眠たそうな瞳の奥で、微かな期待が揺れているが、リィンはゆっくりかぶりを振った。
 「俺はそんなんじゃない。凡才だよ。人並み程度にしか魔術は扱えない。どちらかというと、肉弾戦が得意だな」
 「肉弾戦は、自殺、行為。バカのやること」
 リィンは苦笑する。
 「まあ、そうなんだが」
 
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                  - 28 : : 2015/02/28(土) 20:10:10
 リィンは自嘲気味に微笑んだ。
 「まず第一、俺は根本的に魔術が嫌いなんだよ。いや、嫌いになった」
 「どう、して?」
 リィンの暗い雰囲気を察知したのか、お菓子を食べるのを止める。
 「まぁその、色々あってな」
 「ふー、ん。そっか。色々、あったんだ」
 深く聞いてこないことに感謝する。
 リィンが魔術を嫌いな理由は、魔術の闇をそのまま体現したような、浅い話ではないのだ。
 
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                  - 29 : : 2015/02/28(土) 21:06:18
 お菓子を頬張りながら無言で歩くイノリを横目に、リィンは第三小隊会議室を発見した。
 懐中時計を確認すると、約束の時間までギリギリだったので、早足で向かう。
 小柄なイノリは不自然な大股でリィンの歩調に合わせる。
 「リィン、と、話すの楽し、かった」
 こっちはそうでもないんが、とは言えず、頷く。
 「これからも、よろし、く」
 それだけ言うと、再び袋に手を忍ばせ、お菓子を漁る。
 どうやら、一緒に部屋も入りたいらしい。
 「ああ。よろしくイノリ」
 取っ手に手を掛け、大きく息を吸い、吐いた。
 班長として、第一印象が大切だ。
 「よっし」
 意を決して扉を開けたリィンを待っていたのは、三人の魔術師と、一人の最強の魔術師だった。
 
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                  - 30 : : 2015/02/28(土) 21:18:38
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 「遅かったじゃないか、リィン」
 
 
 
 
 シャルが机に腰掛けて座っていた。
 
 
 
 
 「いや、セーフだろ」
 
 
 
 
 シャルは、それもそうか、と言うと、第三小隊のメンバーに眼を向ける。
 
 
 
 
 「これが、君の部下たち。皆優秀だよ」
 
 
 
 
 「それは………よかった」
 
 
 
 リィンがわざとらしく咳をすると、四人は姿勢を正した。
 
 
 
 
 「えーっと、俺はリィン・アルリーファ。よろしく。これからこの第三小隊の班長をさせてもらうことになったんだけど、まず、お前らに言いたいことがある」
 
 
 
 
 リィンは大きく息を吸い込み、短く吐いた。
 
 
 
 
 「班長命令には絶対遵守すること。それだけだ」
 
 
 
 
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                  - 31 : : 2015/02/28(土) 21:25:28
 「まあ、軽く自己紹介でもしとくか?」
 そう言うと四人は顔を見合わせる。
 少し話し合った結果、まずは碧色の髪を持つ少女が口を開いた。
 「アリス・リート 。よろしく、班長」
 「……………………ああ、次」
 今度は赤髪の少年。
 「ルーン・アトラスだ。よろしくな、班長」
 第三小隊は敬語というものを知らないのだろうか。
 「オトハ・シュルースフォートです。よろしくお願いします、リィンさん」
 ようやくまともなヤツがきた、と思いながら、最後のイノリに視線を移す。
 
- 
                  - 32 : : 2015/02/28(土) 21:46:55
- 
 
 
 「イノリ・スリーフレ、ス。改めて、よろし、く」
 
 
 
 
 途切れ途切れの言葉を紡ぐイノリ。
 リィンは全員を見渡し、大きく頷いた。
 
 
 
 
 「俺を入れて五人。小隊の最低人数だが、十分だろう」
 
 
 
 
 「そうか? 少ない気がするけどな」
 
 
 
 
 「多くの人数を纏めきれない無能な班長なんだろうね」
 
 
 
 
 イノリもそうだが、ルーンとアリスも敬語というものを知らないのだろうか。
 というか、知っておけよ。
 
 
 
 
 「あのな、アリス。もう少し言葉を選べ。それに、最初からこの人数だったんだよ」
 
 
 
 
 「そうかい。まあ、僕は人数が少ない方がいいんだけどね」
 
 
 
 
- 
                  - 33 : : 2015/02/28(土) 22:30:06
 全員が十代半ばという、平均年齢の低さ。
 恐らく、リィンと少ししか違わないだろう。
 それに、あのシャルが優秀と評したのだ。
 個々の技量は相当なものと思われる。
 「それじゃあ、頑張ってくれよ、我が愛すべき愛弟子」
 シャルはリィンの肩をポンと叩くと、部屋から出て行った。
 机には、これからの仕事内容など、様々なことが書かれている。
 案外優しいことは、昔から知っていた。
 まあ、何がともあれ。
 「よし、それじゃあ第三小隊活動開始だッ!」
 
- 
                  - 34 : : 2015/03/01(日) 08:00:45
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 第二章《初陣》
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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                  - 35 : : 2015/03/01(日) 09:29:33
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 魔術師は主に、魔獣の討伐、犯罪に手を染めた"黒魔術師"の排除など、大小様々な仕事がある。
 今回第三小隊に課せられた任務は、最近ローレス王国北西部の山に現れた小規模な黒魔術師の集団の討伐だった。
 
 
 
 
 いくら小規模と言っても、敵は魔術師。
 命の危険だってある。
 それは全員が重々承知していることだ。
 
 
 
 
 本部から馬車を使って北に三時間。
 転移魔術を使えば速いのだが、周囲の魔力に大きく干渉するため、敵に気づかれる可能性が高い。
 めんどくさいのだが、仕方ないだろう。
 
 
 
 
 「リィン班長、作戦とかはないのか?」
 
 
 
 
 ルーンが隣に座るリィンに言った。
 
 
 
 
 「そうだな、特にないな。今回の任務はお前らの魔術を見たいってのもあるからな」
 
 
 
 
 「作戦を考えれなかっただけじゃないのかい?」
 
 
 
 
 「お前は一々ムカつくやつだな……」
 
 
 
 
 アリスの毒舌ぶりには恐れ入る。
 
 
 
 
 「まあ、資料を見せてもらったが、能力は高いが実践経験があまりないらしな。これを機会に実践慣れしてくれ」
 
 
 
 
- 
                  - 36 : : 2015/03/01(日) 09:46:45
 リィンは馬車に取り付けられた窓から空を見上げる。
 夕陽が赤く燃えていた。
 帰るのは夜になりそうだな。
 「おいイノリ、仕事中は寝るなよ」
 「うん、わかってるよリィン」
 お菓子を食べながら返事をしたイノリにどこか違和感を覚えながら、大きく欠伸をする。
 「リィンさん、リィンさんの魔術回路ってどんなのですか?」
 「あ、それは俺も気になった」
 オトハの一言で全員が食いついてくる。
 リィンはめんどくさそうに呟いた。
 「お前らが思ってるほどスゴいのじゃないぞ。物質や分子を集めて魔術に変換して、武器をつくる程度だ」
 「リィン、弱い?」
 
- 
                  - 37 : : 2015/03/01(日) 09:50:33
 「うっせーよ! そもそも俺は魔術なんて嫌いなんだよ。異世界でも行ってくれと常々 思ってる」
 「なのに魔術師をやってるんだね。滑稽だよ」
 リィンは泣きたくなってきた。
 なに、この部下たち。
 血も涙もないこの言いよう。
 「だ、大丈夫ですか?」
 「ぁあ…………オトハ、お前だけが頼りだ」
 「えっと…………?」
 困惑するオトハを余所に、馬が到着を知らせる。
 目的地に着いたらしい。
 
- 
                  - 38 : : 2015/03/01(日) 10:04:39
 馬車から降りた五人は、夕陽に照らされた山を見据える。
 標高はそれほど高くない。
 周りは山に囲まれているので、人気が皆無だ。
 聞こえてくるのは、イノリがお菓子をかじる音だけ。
 「山頂にヤツらが住み着いてるらしい。油断せずに行こう」
 随分整備が行き届いた山道を、リィンを先頭に進む。
 
- 
                  - 39 : : 2015/03/01(日) 10:35:44
 警戒しながら山頂に向かったので、既に陽が沈んでおり、足下を照らすのは道脇にある灯りだけだった。
 「あれが住処、なんしょうか?」
 オトハが指差す方には、警備がずらりと並んだ小規模な要塞があった。
 「小規模な集団とだけあって、住処も小規模なんだね」
 「油断するなよ。何があるかわからない──っておい! イノリっ!!」
 お菓子の袋を置いて、突如駆け出したイノリ。
 まさか、正面から突っ込もうというのか。
 「くっそ、あの暴食お菓子娘……」
 リィンが歯ぎしりすると、ルーンが口を開く。
 「安心しなよリィン班長。あいつ、夜ならこの中で一番強いから」
 「それは、魔術回路が夜になったら増幅するとかか?」
 「いいや。あいつは基本夜型なんだよ。本当はスゴい魔術師なんだけど、昼間は能力が半分以上に落ち込むんだ」
 
- 
                  - 40 : : 2015/03/01(日) 11:10:47
 イノリは魔術を発動せずに敵本拠地に直進していた。
 それに気づいた警備が鐘を鳴らす。
 「おい、敵襲だ!」
 「人数はっ!?」
 「五人」
 「たった五人だと!?」
 小規模と言っても、人数は五十人を超えている。
 とてもじゃないが、並みの魔術師一人が相手にできる人数ではない。
 しかしイノリは止まらない。
 「おいそこの女! 止まら────」
 男は最後まで言葉を言うことができなかった。
 「- 雪姫 」
 イノリを中心に、絶対零度の吹雪が吹き荒れる。
 世界が真っ白に染まり、凍てつく。
 「なんだよ、あいつの魔術!!」
 魔術回路"- 雪姫 。
 自分を中心とした範囲内にあるあらゆる物質を凍結させ、その活動を停止させる魔術。
 また、瞬時に氷をつくり出す。
 
- 
                  - 41 : : 2015/03/01(日) 13:28:05
 「確かに、イノリの魔術は強力だが、連携ができなさそうだな。- 魔術強化 する必要がありそうだ」
 前方で無双するイノリから十分な距離を取り、リィンは呟く。
 「班長、指示をくれないかな。第三小隊では班長命令は絶対なんだろう?」
 アリス前を見ながら言う。
 「そうだな、全員散開、敵を全員生け捕りにしろ」
 三人は頷くと、各々散っていった。
 お手並み拝見といこうか。
 「くそ、数が多いな」
 リィンは迫ってくる黒魔術師を武術を行使して薙ぎ払い、壁に登る。
 そのまま壁の上を疾走し、上部からの攻撃を行う黒魔術師を叩き落とす。
 
- 
                  - 42 : : 2015/03/01(日) 13:40:57
- 
 
 
 リィンの元から離れたアリスは、住処の内部へと向かっていた。
 それも、超高速で。
 
 
 
 
 「全く、甘い班長だよ。黒魔術師なんて殺してしまえばいいのに」
 
 
 
 
 魔術回路"風迅 "。
 風を放出するこの魔術は、防御を顧みない攻撃特化なのだが、風による加速で攻撃が回避できるので、大きな欠点はない。
 強いて言うなら、攻撃が決め手に欠けるくらいだろう。
 
 
 
 
 「班長命令だから、仕方ないか」
 
 
 
 
 目の前に現れる黒魔術師を風の刃を放出し、切り刻む。
 
- 
                  - 43 : : 2015/03/01(日) 14:44:33
 その姿はまるで風と踊る妖精の如し。
 空中でのありえない 急激な方向転換を行い、攻撃を華麗に回避する。
 「遅いよ。そんなに遅いと、置いてかれるよ。まぁ────」
 黒魔術師達の間を縫うようにして、一陣の風のように通り抜ける。
 直後、巻き上がる旋風。吹き荒れる暴風。
 堪えきれなくなった黒魔術師達は吹っ飛ぶ。
 「────もう、遅いけどね」
 地面に着地すると、リィンのいる方に振り返る。
 高みの見物だろうか、ムカつく。
 「…………リィン・アルリーファ」
 
- 
                  - 44 : : 2015/03/01(日) 14:55:22
 「相変わらずあいつら、無茶苦茶な魔術つかうなぁ」
 ルーンはアリスと反対方向に走っていた。
 あまり人数は多くないが、囲まれてしまったようだ。
 「観念しろ、 メルガルウスの白魔術師」
 どうやらまともな魔術師は白魔術師と呼ばれているらしい。
 ルーンは頭を掻くと、だるそうに言った。
 「生け捕りなんてみみっちいこと、できねえぞ」
 黒魔術師の一人が合図を出すと、ルーンに向かって一斉に飛びかかる。
 逃げ場は、ない。
 しかし、黒魔術師達の視界から、ルーンが消えた。
 
- 
                  - 45 : : 2015/03/01(日) 15:06:21
 「せっかちなヤツらだな。野蛮だぜ」
 上空から声が聞こえ、首だけを上に向けると、そこには天使がいた。
 いや、正確には、天使のような人間。
 純白の三対六翼。
 神々しいその姿。
 まるで神話の大天使、ラ=フォリオラを連想させる。
 しかしその翼は、刹那的に変色する。
 真っ赤に濡れた紅い翼。
 夥しい量の血を吸い上げた堕天の翼。
 魔術回路"- 紅翼 。
 深紅の翼で一定時間の飛翔を可能とし、 羽根を固形化させて飛ばすことも可能な遠距離型魔術。
 上空から、しかも鳥のような動きをするので、一方的な射撃が可能となる。
 「急所は外してやからさ」
 パチンと指を鳴らすと、固形化した羽根が地上に向かって降り注ぐ。
 まるで血の雨。
 全て黒魔術師の急所を外しながら擦過し、肉抉る。
 「あらかた終わったかな。まあ、戻ろうか」
 
- 
                  - 46 : : 2015/03/01(日) 18:58:37
- 
 
 
 最後の一人、オトハは、ゆっくりと歩きながら、リィンが叩き落とした黒魔術師と対峙していた。
 
 
 
 
 「お嬢ちゃん、怪我したくないなら帰りな」
 
 
 
 
 オトハはムッとして、男を睨む。
 
 
 
 
 「その必要はありません。怪我なんて、しませんから」
 
 
 
 
 胸に手を当て、魔術回路にアクセス。
 体内を循環する魔力が放出される。
 そして魔力が固形物を型どり、徐々に姿を現す。
 白く光る何かをオトハが掴むと、輝いていた何かが露わになる。
 
 
 
 
 「全銃 」
 
 
 
 
 魔術回路"全銃 "。
 魔力を銃、および弾丸に変換する万能な魔術。
 自身の指からも発砲できるので、中距離戦を得意とする。
 また、魔力を帯びた銃を扱うので、オトハ自身の身体能力も大幅に向上する。
 
 
 
 
 
 「標的確認 、照準 」
 
 
 
 
 オトハの眼がきらめき、黒魔術師たちを捉える。
 
 
 
 
- 
                  - 47 : : 2015/03/01(日) 19:07:39
 「撃ち抜いてください、- 発射 ッ」
 二挺拳銃が火を噴き、黒魔術師の集団を撃ち抜く。
 弾丸は制圧用の- 制圧痛弾 。
 殺傷能力はないため、生け捕りには持ってこいだ。
 「…………終わった。疲れたなぁ…………」
 オトハは膝から崩れる。
 「お疲れ様」
 後ろからリィンが歩み寄ってくる。
 「リィンさん」
 「スゴいな、全員。強いよ」
 
- 
                  - 48 : : 2015/03/01(日) 19:37:39
- 
 
 
 「資料通りだ」
 
 
 
 
 範囲内の物質を全て凍てつかせる魔術回路"雪姫 "を持つ、通称『凍てつく白銀の雪姫 』イノリ。
 
 
 
 
 風による加速により、爆発的なスピードと攻撃を繰り出す魔術回路"風迅 "を持つ、『風で加速する舞妖精 』アリス。
 
 
 
 
 大天使を思わせる、飛翔を可能とした魔術回路"紅翼 "を持つ、『堕天した紅き大天使 』ルーン。
 
 
 
 
 銃を自在に造り出す魔術回路"全銃 "を持つ、『全て穿つ鬼才の狙撃手 』オトハ。
 
 
 
 
 優秀な魔術師には畏敬を込めて二つ名が与えられる。
 この四人ははっきり言って天才魔術師だ。
 
 
 
 
 「…………強いな」
 
 
 
- 
                  - 49 : : 2015/03/01(日) 20:23:38
 終章「最初の晩餐」
 
- 
                  - 50 : : 2015/03/01(日) 20:30:14
 「えー、それでは、第三小隊の初陣成功を祝って──乾杯!」
 その後、本部近くのレストランでお祝いをすることとなり、シャルの奢りで晩餐を開くことにした。
 「リィン、そのお肉美味しそう。もらうよ」
 「あ、お前っ、それは俺の好物!」
 昼間とは打って変わってハキハキと喋るイノリ。
 夜型というのは本当だった。
 不意に背中を叩かれる。
 そちらを向くと、シャルが微笑んでいた。
 「さすがだよリィン。やってくれると思ってたぞニート」
 「今回は敵が弱かっただけだし、俺は何もしてない」
 「いやぁ、また君の魔術を見る時がくればいいんだがね」
 「それは多分、相当後かだろうな。優秀な部下で良かった」
 
- 
                  - 51 : : 2015/03/01(日) 20:33:40
 「それで、どうだ? 久々の仕事は」
 「疲れた」
 「だろうな」
 シャルは苦笑する。
 「二年もニートしてたからな。身体も鈍るだろうさ」
 正面を向くと、他人の食べ物をリスのように頬張るイノリ。
 そしてつまらなさそうに飲み物を飲むルーン。
 イノリをぶっ叩くアリス。
 それをオロオロと見守るオトハ。
 こうして見ると、皆可愛いと思う。
 「リィン、話があるんだ。来てくれ」
 
- 
                  - 52 : : 2015/03/01(日) 20:40:30
 シャルについて行き席を外す。
 人気がいない場所までくると、唐突にシャルが口を開いた。
 「いいか、リィン。次の任務はヤバい」
 「ヤバいって…………何が?」
 「宮廷魔術師団」
 そのワードを聞いた瞬間、リィンの背筋が凍てついた。
 「その執行者たちが刺客としてローレス王国の王女を殺そうとしている」
 「…………どこの国の宮廷魔術師団だ?」
 「ヴァルデル帝国」
 
- 
                  - 53 : : 2015/03/01(日) 20:46:19
 ローレス王国と肩を並べる列強で、魔術師の育成機関は恐らくこの王国以上だろう。
 宮廷魔術師団とは、その国の直属の魔術師たちで構成された最強の魔術師団だ。
 そんなヤツらが、王女を狙っているなんて。
 「つまり、なんだ。護衛しろってか?」
 「そうだ。それに、列強同士の宮廷魔術師団がぶつかり合う。それを逃すほど他国の連中もバカじゃない」
 「戦いに紛れて、ローレス王国の魔術を盗む、あるいは主要人物を暗殺する、か」
 シャルは首を振る。
 「だが、君なら勝てる。宮廷番号零」
 「…………わかった。引き受ける」
 リィンはその任務を引き受けた。
 魔術嫌いな彼を動かす宮廷魔術師団とは。
 第二話へ続く。
 
- 
                  - 54 : : 2015/03/01(日) 20:46:58
 次回も見てね。
 
- 
                  - 55 : : 2015/03/01(日) 21:03:44
- スレが出来たらすぐに見に行きたくなるような作品でした(*^^*)
 続き期待です
 
- 
                  - 56 : : 2015/03/01(日) 22:55:54
- 二十歳ほどの外見
 外見だけでスバッと年齢を言っちゃうと他にもいい表現があるようなとか思っちゃいまする。
 とにかく乙でした、第二話にも期待させて頂きます
 
- 
                  - 58 : : 2015/03/02(月) 15:55:13
 http://www.ssnote.net/archives/32198
 第二話投下。
 是非みてね。
 
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                魔術師やるなら余所でやれ! シリーズ 
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