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  1. 1 : : 2020/02/08(土) 14:53:49
    大遅刻です。すいませんすいません。
    お久しぶりです。今回は『オリジナルコトダ祭り』に何故か参加させて頂きました!以下その他参加者様とお題となります。


    参加者(敬称略)
    ・De
    ・風邪は不治の病
    ・ししゃもん
    ・あげぴよ
    ・カラミティ

    お題
    ・お風呂
    ・夕焼け
    ・光
    ・シール
    ・崖

    次スレより本編になります。
  2. 2 : : 2020/02/08(土) 14:57:44


    「くふふ、くふふ」
    「罪人だ、罪人だ」
    「あはは、あはは」
    「そうだ、そうだ」
    「悪い奴、悪い奴」
    「はやく、はやく」
    「処刑だ、処刑だ」

     七つの嘲笑と無数の冷笑が響く。酷く耳障りなその声は、子供の様な声で、女の様な声で、男の様な声で、老人の様な声で、ただ、ただ、ソレを嘲り笑う。枢要罪に天罰を、物言わぬ大衆(サイレント・マジョリティー)も、罪人が天罰を受ける事を望んでいるのだろうと。

    「頭を抜いてしまおうか」
    「手と足も抜いてしまおう」
    「見て見て、お肉の管だ」
    「赤い絵の具でおえかきしよう」
    「こいつどうする?」
    「罪人の味方だ悪い奴にきまってる」
    「ついでに殺そう」

     揺籃から立ったばかりの幼子の様に、無邪気に、悪気も無く、悪辣を振舞う。


    ─────まるで人間が内包する醜悪の全てを体現したかの様な存在だった。



  3. 3 : : 2020/02/08(土) 15:00:28






    「んで、ガイシャは?」

     時代錯誤で皺だらけなベージュのトレンチコートのポケットに手を突っ込み、検視官が忙しなく動く中、突っ立っている無精髭の男は、隣に立つメモ帳を覗く眼鏡の男に訊ねる。

    「えっと名前は田金典久、54歳、会社役員、それとその妻、田金尚子、50歳、直接的な死因は不明、まあ、でも見たまんまじゃないですかね、出血多量によるショック死っすよ」

     深夜、日本家屋が建ち並ぶこの住宅街の一角にて、一件の通報から、この事件は発覚した。軒並みの住宅の中でも立派なこの家屋には、むせ返る程の血と臓物の臭いが充満していた。

     遺体は肉塊と言っても差し障り無いほどに破壊され、辛うじて首から上は無事であったが、首から下が酷く損壊し、現場であるリビングには多量の血がぶちまかれ、この凄惨な現場をより色濃く演出していた。

    「さてね。どんな恨みを買えばこんなになるまでぶっ壊されるんだ」

    「さそもそも人間技じゃないでしょ、これ」

     無精髭の男は現場の家を離れ、眼鏡の男はそれに追従する。何時もならば静まり返る深夜の住宅街であるが、今夜ばかりは何事かと、野次馬らが騒ぎ立てる。そんな様相を横目に男はここまで乗ってきた黒いセダンに再び乗り、座席を倒して自らの手帳を眺めた。

    「せふて……なんて読むんだこれ? とにかくこれはカルト教団がらみか? まさかアニメオタクや中坊じゃねえだろ」

     現場には『Septem peccata mortalia "avaritia"』と書かれた貼り物(シール)が残されていた。書き殴った様な物では無く、わざわざパソコンで作ったらしい、一般的なフォントが使われた物だ。

    「目立ったカルト集団が動いてるんなら公安が何か言ってくるんじゃないですかね。それに、人を解体するのって結構労力いるっすよ? 遺体は持ち込まれたものでなく、その場で解体されたものらしいっす。集団の、愉快犯っすね」

     不可解なのはその動機だ。田金夫婦に怨恨を持つ様な関係性は今の所無かった。隣人らの聴取でも人付き合いは良好なものだ。
     殺される理由、使われた凶器、単独犯なのか、複数犯なのか、その全てが解らない。

    「浜野、戻る前に少し寄り道するぞ。いいか?」
    「ええ、構いませんよ深山先輩。どこ行くっすか?」
    「……ちっと相談したい奴がいる」

     眼鏡の男、浜野が頷くと、無精髭の男、深山は車を発進させた。


  4. 4 : : 2020/02/08(土) 15:01:52




    「それじゃ、自分は車で待っときますんで。しっかし、不気味なとこっすね」

     住宅街を抜け、ネオンに彩られる繁華街から外れた一角、街灯も疎らな暗い夜道のシャッター街、築三十年は余裕で経ってそうな、亀裂の入った三階建てのコンクリート製のビル、その三階のテナントにだけ、ほんのりと明りが灯っている。

     時刻は深夜一時を回っている。看板も何もないが、そこは確かに"機能"していた。
     深山は仄暗い急斜面の階段を上がり、アルミの扉を開ける。

     内装は云わば普通の事務所だ。良く言えばアンティーク、悪く言えばボロ。埃っぽい室内にはどこかの粗大ゴミから拾ってきたらしい、穴の空いた黒い一人掛けのソファ、唯一の光源は丸い木目のテーブルに置かれたランプだけ、来客用なのか一応灰皿も置いてある。

    「深山さんか、久しぶりだね」

     木目のデスクに突っ伏し、オンボロなイスに腰掛けているのがこの事務所の持ち主。二十前半程、黒を基調としたベストとワイシャツとスラックス、寝癖混じりの黒髪に痩身、蒼白なに糸目のこの男。

    「……『貪食者』っての以来だな。自称探偵の、宮八京咫(みやはちけいた)」

    「半年ぶりくらい? いやあ、嬉しいなあ。深山さんの方から来てくれるなんてなあ」

     ケラケラと軽薄に笑う様に、深山は少したじろいだ。

     無理も無い、この男は『人間』ではないのだから。

    「さて、深山さん、僕んとこに訪ねてきたってことは。怪事件かな?」

     糸目からうっすらと覗く瞳孔は、深く、暗い。深山はその眼を合わさない様に、視線をずらす。スマートフォンを取り出し、件の貼り物の写真を見せる。

    「まず、これが何かわかるか?」

    「……『Septem peccata mortalia "avaritia"』これはラテン語だ。これには『七つの大罪、強欲』と、そう書かれてるね。七つの大罪というのはとても有名だ。創作物なんかにも良く使われる。西方の十字に祈る宗教の千年以上前からある枢要悪だね」

     日本においては七つの罪源と呼ばれ、人の枢要徳、つまりは美徳の対比として作られたとされる罪。罪というよりは欲や情のことであり、それらが罪の源となるモノだと定められものだ。宗教においてそういった理念は良く在るものだ。

    「……遺体は綺麗にバラバラ、内側から爆弾で吹っ飛ばされたみたいにな。しかし、焦げ跡はなく、工具で丁寧に切断したとも思えない。何か強い力で引き千切った感じだった。そして、犯行時間が短過ぎる(・ ・ ・ ・)

     手帳を開き、事件の様相を語る深山を横目に、京咫はそれを相変わらず軽薄そうな笑みを浮かべて腕を組んで聴いていた。

    「ガイシャの妻の方が、午後10時くらいまで娘と通話してたらしい、隣人が悲鳴を聴いたのがその20分後。通報を聞いて交番の警官が遺体を発見したのが11時手前、チェーンソーとか工具類での犯行も考えてたが。断面はやはり、その類じゃなく、千切られた様な感じだ」

    「深山さん、現場を図に描ける? なるべく正確に」

    「こいつじゃ駄目か?」

     深山が手帳を広げて京咫に見せる。簡単な図であったが、現場となったリビングの遺体の場所から家具の位置まで精査に記入されていた。それを見た京咫は「なるほど」と一人納得した。その様子に深山は首を傾げるが、この京咫という男には常識を当てはめてはいけないと、無理に納得するしかなかった。

    「呪術や儀式といった作為は無く、突発的に発生する典型的なモノだ。そうだね、明日の昼ごろ、また来てよ」

     軽薄な笑み、だが、それは別に深山を小馬鹿にしたり見下したりしているわけではない。元来の彼が、そういう生き物であって、そういう風にしか表情を作れない為だ。


  5. 5 : : 2020/02/08(土) 15:02:40



     京咫の事務所から出た深山は、黒いセダンへと乗り込む。

    「情報屋とかそんなのっすか?」

     いつの間に買ったのか、サンドイッチを食べながらスマートフォンを弄る浜野に呆れつつ。適当に「そんなところだ」と頷き、車を発進させた。一度、署まで戻り自宅へ帰るのは明け方になりそうだと、溜め息混じりにハンドルを回す。

    「ガイシャの田金、ネットの一部じゃ会社から横領してるって噂っすね」

    「噂に過ぎないんだろ?」

     宮八京咫という男を、深山はあまり多くは知らない。以前起きた『貪食者』事件とは、京咫がそう呼んでいるだけで、世間では変死事件として扱われている。そして深山があの奇妙な自称探偵と出会ってから一年、人に非ずの事件は続いていた。


  6. 6 : : 2020/02/08(土) 15:03:19





     翌日の昼。

    「深山先輩、今日はどうします?」

    「お前は現場の周辺の聞き込みしてくれ。俺は少し行くとこがある」

    「了解っす」

     署内の捜索本部室で浜野にそう告げ、深山は京咫の事務所へと車を飛ばす。昼間にも関わらず、相変わらずこの通りには人が居ない。もはや何かしらの作為的なものが働いているのではないかと疑う程だが、今はとにかく京咫の元へ急ぐ。
     そして事務所の前には既に軽薄な笑みを浮かべた京咫が待っていた。

    「やあ、深山さん。まってたよ」

    「宮八、何かツテはあるのか?」

     腕を組み、京咫の糸目がうっすらと開く。

    「色街、行きますよ」

    「はぁ?」

  7. 7 : : 2020/02/08(土) 15:04:59




     繁華街より外れ、今はまだ人の通りも少ないが、夜になればネオンに彩られ、飲み屋と風営店で賑わう街。暴力団を始めとした広域組織が深く関わる街でもあるが、ここでは多くの情報を拾う事も出来る。

    「まあここはヤクザ屋さんの稼ぎ場であるんですけど、"僕等"みたいなのも隠れ蓑でもあるんですよ」

    「"僕等"、だと?」

    「人に非ずヒト、そういったのが名を変え、顔を変え、潜んでるんです。それも沢山」

     道すがらそう説明する京咫に、深山は訝しげだった。京咫の様な存在が沢山居るとは、にわかに信じられないと。

    「案外、付近にいるものですよ。異形というのは。ああ、ほら、着きましたよ」

    「……ソープランドか?」

    「やだなあ、お風呂屋さんですよ、お風呂屋さん」

     五階建てのその建物はどこか淫猥な雰囲気が漂っている。京咫は風呂屋と繕うが、間違いなく深山の言う通り、ソープである。
     今はまだ開店していないが、入り口の扉は普通に開いていた。
     カウンターと待合室の電気は点いていないが、カウンター奥のスタッフ部屋より人の気配がする。特に遠慮する素振りもなく、ズカズカと京咫はその奥へと入っていく。

     中はパイプ椅子とデスクとロッカーといった簡易の休憩所になっており、小柄な老人が煙草を吹かしながらテレビを見ていた。着ているものは京咫と同じく黒ベストとワイシャツとスラックスであり、そもそもここのボーイの服を京咫が私用している感じであった。

    「あ? なんだ京咫かよ。もうウチの制服はやんねーぞ」

    館置(かんおけ)の爺さん、『強欲』が出たよ」

    「あぁ?」

     紫煙が揺らぐ。不機嫌だった表情をますます不機嫌にさせ、館置と呼ばれた老人は煙草の先を灰皿に押し付け潰す。

    「チッ……糞餓鬼共が、のさばりやがって。京咫ァ、ソイツぶっ殺すんだろ?」

    「勿論」

     些かイチ警察官としては聞き逃せない会話であると深山は思うが、しかし、今はその『強欲』の正体を知る方が先決だと、それは聞き流した。それに法律とは人間の為に存在するものであって、彼等に適応するかどうかは怪しい。

    「装備は?」

    「腕に五、足に五かな」

    「十分だな。『生まれたて』なんぞ肉の塊、いや、肉の塵すら残すんじゃねえぞ。待ってろ、"予知"してやる」

     そういうと、この老人は自らのこめかみに人差し指を立て、グッと指先に力を込め始めた。震える指先がいとも容易く自らの頭を貫き、そしてそれを事もあろうか弄りだしたのだ。

    「な、何を?」 

    「まあまあ、黙って見てて、館置の爺さんは、くたばり損ないだけど、この程度じゃくたばんないから」

    「やかましいわ京咫! お前が黙っとれ!」

     僅かな時間、弄るの終えて自らの脳から指先を抜いた館置は指先をハンカチで拭う。なお、頭に空いたはずの穴は血の一滴すら垂らす事もなく、既にふさがっていた。

    「……こっから郊外の山道、だな。おい、そっちの人間の兄ちゃん、スマホ持っておるんだろ? 周辺の地図を開いて見せろ」

    「あ、ああ……構わない」

     深山がスマートフォンのマップアプリから、市街周辺の地図を開きデスクの上に置く。館置はそらを凝視しつつ「ここだな」と指を差した。

    「今からおよそ四時間後の夕刻だ。くく、正に降魔が刻って奴だな」

    「ありがと、館置の爺さん」

    「礼なんざいらん。落とし前つけてこい」

     踝を返し、京咫は部屋を後にする。そして館置は再びテレビの方へと向き直した。

    「……爺さん、あんたは」

    「……何、俺ぁしがない"仙人(イモータル)"だよ。京咫のこと、頼んだぜ」


  8. 8 : : 2020/02/08(土) 15:06:15





    「館置の爺さんはさ、ああやって指をねじ込んで思考を加速させてんだ。元々はありとあらゆる波動の揺らぎを感じる仙人でね、揺らぎのある力場から未来を計測する事が出来るんだ」

    「何一つわからん。いや、まあ、オカルトを今更信じないという訳じゃないが……それより教えてくれないか」

     車を飛ばし、山道の近場へと向かう二人、ハンドルを握る深山は、助手席で伸びをする京咫に訊ねた。

    「『大罪』と『強欲』だ。宗教的な話じゃなく、お前達にとってそれは何を意味するんだ?」

    「簡単に言うと『属性』だよ。『生い立ち』といってもいいかな。七つの罪源には七つの悪魔が宿っている。僕等もまた『大罪』から生まれ落ちたものなのさ」

    「……? つまりは、その『大罪』とやらが前の『貪食者』といった化け物を生んでいる?」

    「『大罪』は切っ掛けに過ぎない。深山さん、人がある日突然、大きな力を得たらどうする?」

    「さあ、力によるが、好き勝手に振る舞うのか、恐れて隠すか……」

    「そう、結局の所、そいつ次第なのさ。『貪食者』といった奴等は前者、館置の爺さんらは後者なだけ……『大罪』とは情と欲だ。思想や環境、果てはネットの書き込み一つが切っ掛けになる事だってある。ずっと昔から続いてんのさ。それこそ人が文明を持ち始めた頃からね」

     京咫はそう淡々と答えた。理解が追い付かないが、しかし、そういった化け物は結局、人から現れていると京咫は言う。京咫と出会った時から深山が認識し始めたソレは、事実、古くから存在し、人の中に紛れていたという事。

    「さて、館置の爺さんの言ってた山道だね。時間にはまだ余裕があるから少し様子を見よう」


  9. 9 : : 2020/02/08(土) 15:07:00





     時刻は五時に差し掛かる。山道の入口に今の所、人は来ていない。この山道は途中で道が絶たれており、ハイキングコースになっているが、シーズンでもなければ人が立ち寄る事は殆ど無い。
     山道の中腹には切り立った崖があり、一昔前は自殺の名所なんて呼ばれていたが、今ではただ、人気の無い場所としか認識していない。

    「……来たみたいだね」

     山道入口付近の民家を影に車を止めていたが、山道へと入っていく車を確認し、深山はエンジンを掛けて、距離を置いてその車を追う。
     アスファルトの道は、少し広い駐車スペースとなって切れている。先程の追っていた車のみが駐車され、中はもぬけの殻だ。普通の自家用車らしいが、深山は少し、訝しげにその車を眺めた。

    「どうやらここから歩いて行ったみたいだね。館置の爺さんの指してた場所は……丁度崖の辺りか。さあ、急ごう」

    「そうだな」

  10. 10 : : 2020/02/08(土) 15:08:29




     冬場の山道は少しずつ深山の息を切らせていく。深山もイチ警察官として、それなりに体を鍛えている方ではあるが、歩き慣れない道が、少しづつ体力を奪っていった。しかし、横目に軽薄そうな笑みを浮かべる男は、まるで口笛でも吹きだしそうな程、汗の一滴すら垂らさずに、すいすいと進んでいく。

    「深山さん、あと少しだよ」

    「わ、わかってる……」

     山道から夕焼けが見える。夜闇が太陽を落とすまで、もう半刻もないだろう。そしてようやく山頂付近の崖へと到着した。

    「やあ、いい夕焼けだね。『強欲』の」

     京咫がそう、まるで友人に話し掛ける様に、崖際に立つ人影へと声を掛けた。
     丁度、夕日の逆光でよく見えないが、しかし、やがて日が落ち、辺りか暗くなるにつれて、そのシルエットが露見してゆく。

    「……『強欲』に生まれたのは元より守銭奴だったからかな? いいや、それともただ金を持つ人間の事が特に理由も無く憎いのかな?」

     その人物の横には、大きなスーツケースが一つ。

    「……おい、なんでお前がここにいやがる」

     わなわなと震える深山にの目に写るのは。


    「深山先輩こそ、なんでここにいるっすか」


     普段は気の抜けた様な顔の眼鏡の男が此方を睨む。その目は汚泥の様に濁り腐り、その視線は酷くベタつく、粘着質なものだ。

     浜野、深山の後輩であり、バディを組む相棒だ。組んで一年、確かにそんなに深く知り合う程の時間を過ごした訳ではないが、それでも深山は浜野に対してはやる気こそイマイチだが正義感は強い方だと認識を持っていた。

    「そっち、先輩の隣……僕のご同類っすね。わざわざ連れて来たって事は。ああ、ってことは、先輩は薄々感づいてる感じっすか?」

    「……お前もそうなのか?」

    「まあ、こんなとこでアヤシイケース持って僕は違います、って言っても信じてもらえないし警戒される程度には先輩は"こっち"に踏み込んでるんっすよね?」

    「……良く見る車だと思った。ナンバーを見ても信じられなかった。まさかとは思ったが」

    「そのまさかだったんすね」

     けらけらと笑う浜野はスーツケースに手を掛ける。深山に見せ付ける様に開き、そして中が露わになった。

     折り畳まれ、無惨な姿形となっている誰かの遺体。先の事件ほどバラバラな訳ではないが、まるで玩具か何かの様に有り得ない方向へと関節が曲がった男の苦痛に歪む死に顔が、深山らを覗く。

  11. 11 : : 2020/02/08(土) 15:10:42

    「まだ『力』の加減が上手く出来なくて……コイツ、田金と結託して会社の金を横領してるってネットに上がってたんすよね。いやあ、許せないっすよね。会社のお金は、きちんと従業員らに分配しなきゃ。神経削って働いてるのは従業員なんっすから」

    「例え真実であっても、お前が処断していい理由にはならねえだろ」

     眼鏡の奥の汚泥の様な浜野の瞳が揺らぐ。粘着質な視線は深山から京咫へと移った。

    「ところで、お宅は何?」

    「僕の事は気にしなくていいよ。遺言が終わったら言ってよ」

    「あ?」

    「殺すから」

     浜野の眉がピクリと動いた。相変わらず薄ら笑いを浮かべる京咫の糸目がうっすらと開く。

    「お宅、ご同類っすよね? 僕等が何になったのか解ってんすか? 眠るとずうっと語りかけてくるんすよ。七つの声とたくさんのざわめきが」

    「解ってるよ。君が『大罪』の悪魔達に囁かれ、無数の『悪意』に騒がれてる事くらい。自らが何者か、もう聴いたんだろう?」

     太陽が落ち、月明かりだけが三人を照らす。夜と共に、浜野は人では無い何かへとなろうとしていた。かつて、深山が見た事があるソレに『貪食者』というモノがいる。

     それは『暴食』の『蝿王(イモータル)』と自ら名乗り、人とも蝿とも付かぬ異形となった。



    ─────不死(イモータル)

     それら全て、不死の異形であり、世に紛れる人に非ざるヒト。永遠を彷徨う理外の化け物。

     不死に至る切っ掛けは多々有る。

     人の血と魂を啜る悪鬼、呪と術の深奥を臨む為に至る魔人、怨恨の果てに怪異と堕ちる地に縛られる霊魂が受肉したもの、そしてそれらの肉を喰らい、自らも不死となった者。

     この世には居るのだ。存在しうる『罪源』に触れ、悪魔に囁かれ、悪魔となる者が。

    「『強欲』の『瓜燈灯(イモータル)』だってさ、僕は」

     浜野の顔面が膨れ上がり、眼球が弾け、血の代わりに炎が漏れた。眼窩の奥と口の中に明りが灯り、それは酷く不細工なランタンに見える。また、右腕も醜く風船の様に膨れ上がり、その様は世間一般に広く知られる瓜燈灯(ジャックオランタン)とは余りにも掛け離れた姿であった。

  12. 12 : : 2020/02/08(土) 15:12:51

    「……浜野!」

    「深山さん、下がって。あれはもう、人じゃないよ」

     深山は拳を握るが、京咫の言葉に従う。ここより先は、人に非ずヒトとの決着。最早、只人に付け入る隙は無いのだ。

    「お宅さ、何の『大罪』で何の『不死(イモータル)』か知らないけど、不死同士じゃ決着つかないと思わない?」

     至極、それは言葉通りに彼等が死なず者同士ならば普通の事だ。不死同士でどちらかが死ぬまで戦うとは矛盾している。お互いに死なないのだから。

    「まあ、バラバラにすれば勝ちなのかな?」

     一刀、凡そ人の四倍五倍に膨らんだ腕を縦に振る。間合いはおよそ八メートルはあろうかと言うのに、しかし、その腕はしなり、伸びて、京咫を打ちつけんと落ちてくる。

     鋭く疾い、只人ならば成すすべ無く打ちつけられていただろう。だがその腕を京咫を捉える事は無かった。最低限の動きで十分に回避出来る。
     外れた腕が土煙を上げ地面を抉る。しなる腕は再び京咫を下から襲いに掛かるが、それもまた、軽くステップする様に回避をした。

    「まだまだぁ!」

     浜野は腕を更に振るう。出鱈目な軌道を高速で描くが、やはり京咫を捉える事は無かった。

    「糞がぁあ!!」

     眼窩と口より炎を吐く。通ってきた林道が火にあっという間に呑まれ、辺りが一気に炎に包まれる。

    「くそ、やべえ!」

    「いやあ、考え無しだねえ。いや、不死だからこの場合は正しいのかな?」

     呑気に話す京咫だが、炎のよりも周りから急速に失われていく酸素に危惧していた。により深山が保たない。

    「深山さん少し僕の周りに寄って」

    「あ、ああ」

     いつの間にか京咫の手にはまるで孔雀の様な羽団扇が収まっており、それをぐるりと体を回し扇げば、あれ程強い炎の手は、ぱん、と消え、燻る煙さえ立たず、残すのは黒焦げになった木々と草のみであった。

    「は? ああ?」

     深山も、そして浜野さえも唖然とした。なんだそれは、と。

    「ああ、そういえば言ってなかったね。僕は『傲慢』の『迦楼羅天(イーモタル)』さ。僕等の中にも格ってものがある。君はなかなか疾いし、そして人間をバラバラに出来る程度には怪力だ。でも、そんなのは不死同士の戦いじゃ下の下もいいとこだね」

    「あ、うあ」

    「せめて嵐の一つ起こせる程度の力が身に付いてから暴れるべきだったね。君はまだ一昨日位に生まれたばかりの赤子なんだから」

     たじろぐ浜野は、駄々を捏ねる様に腕を振るい、空を裂いて地面を抉るが、やはり京咫に当たる事がない。最小に動き、もはや浜野の腕の方が避けているのではないかと錯覚するほどに避け続けている。

    「遺言は?」

     深山は動けなかった。異形と化した後輩に、同情が出来ず、そして、今目の前で行われている事が、どこか遠い場所で行われている様で。そして自らの人間性を守る事に、必死だった。

    「不死同士で殺しあって勝負がつかない? そんな訳が無い(・ ・ ・ ・ ・ ・ ・)だろう?」

     瞬間、浜野の前に立ち、初めて見せた薄ら笑い以外の表情は。

     余りにも淡白で、糸目から覗く深く黒い瞳は余りにも恐ろしかった。

     五つが京咫の指先より迸る。それは鋼線の様にも見えたが、実際はその一つ一つが極小の蛇腹を織り成す刃だ。

    「ちょ、お宅、ちょっとまっ……!!」

     命乞いすらさせず。蛇腹が奔る。幾千走ったのか、それはもう、人の目には追えない。

    「不死とて、塵芥になれば再生出来はしないよ。塵となっては不死とて生きていると定義するのは難しい。まあ、もし生きてたとしても、土埃に紛れ漂って猛省しなよ」

  13. 13 : : 2020/02/08(土) 15:18:04



    「やあ、深山さん、こんばんは」

    「おう」

     あの『強欲者』事件から一月が経った。浜野は行方不明者として扱われ、そして田金夫婦の殺人事件も、当然ではあるが、懸命な捜査にも関わらず、事件に進展は無く、捜査本部はまるでお通夜の如く消沈している。
     田金の周りを洗った結果、会社役員の立場を利用し、もう一人と結託して会社から数年に渡って横領していた事が発覚した。その為、同情といった言葉は次第に薄れていき、そして事件そのものも、新たな別の話題の影へと隠れていく。

    「また、事件で?」

    「……まあな」

     宮八探偵事務所の灯りは消えず、しかし、それはあまり人に知られる事なくひっそりと、そしてそこにいるのは探偵とは名ばかりの不死(イモータル)が一人。








  14. 14 : : 2020/02/08(土) 15:20:28


    end.
  15. 15 : : 2020/02/08(土) 15:22:42
    あとがき
    ここまで読んでくれてありがとうございます。かなり駆け足で作ったので、到らぬ所が多々有りますが、そこはご愛嬌。
    オリジナル載せるのって結構恥ずかしいんですが、楽しんで頂けたら幸いです。それでは。

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著者情報
unagi

ししゃもん_(:3」∠)_

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