ssnote

x

新規登録する

作品にスターを付けるにはユーザー登録が必要です! 今ならすぐに登録可能!

このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品は執筆を終了しています。

ペトラ『優しい愛に包まれて』モブリット

    • Good
    • 4

loupe をクリックすると、その人の書き込みとそれに関連した書き込みだけが表示されます。

▼一番下へ

表示を元に戻す

  1. 1 : : 2015/02/02(月) 16:44:34
    ペトラ『優しい愛に包まれて』モブリット

    モブリットとペトラの、切なく甘いラブストーリーです

    舞台はウォールマリア崩壊後

    ペトラ目線です

    ちょっといたしてる部分があります、苦手な方は気を付けて!

    ネタバレは単行本

    よろしくお願いいたします(*μ_μ)♪
  2. 2 : : 2015/02/02(月) 16:45:11
    窓から月明かりが射している

    真っ暗な部屋を仄かに照らす、柔らかで優しげな光

    そんな部屋の片隅に設えたベッドの上で、鳶色の瞳が私を捉えて離さない

    いつもは月明かりの様に穏やかで優しげなその瞳は、今は刺す様に熱を帯びている

    その熱っぽい眼差しに射抜かれて、息が詰まりそうになる

    身体は完全に、一回りは大きな身体に組敷かれている

    いかに対人格闘を叩き込んである私の身体でも、同じ様に戦い慣れた、しかも男には力で敵わない

    抗おうとも思ってはいない

    この状況は、間違いなく私が作り出したのだから
  3. 3 : : 2015/02/02(月) 16:45:34
    私の手首を押さえ付けていた手が、頬に当てられる

    大きくて温かい手

    「ペトラ」

    少しハスキーな低い声が私の名を呼んだ

    「ひゃ、は、はい」

    間近で発せられた声に、思わず返事が上ずってしまう

    ここにはいつもの様な、リラックスした雰囲気はない

    あるのは、理性と欲の狭間に揺れる、なんとも言えない緊張感だけ

    「今ならまだ、止められるけど」

    どうする?と言った感じで問い掛けてくる所は、やはりいつものこの人らしい

    「止められる……?」

    「ああ」

    私の言葉に頷き、頬を撫でる

    その手の指先が微かに耳に触れて、肩がぴくっと震えてしまう

    「んっ……」

    思わず声まで出してしまう

    すると何の前触れもなく、突然唇を塞がれる

    たった今、「止められるけど」と言ったはずの彼の口によって……
  4. 4 : : 2015/02/02(月) 16:45:58
    「そんな声を出されて、止められる男はいないよ」

    唇が離れて開口一番、肩を竦めながらそう言う男

    「だ、だって……耳が……」

    「誘ったのは、君だ」

    私の言い訳をばっさり切り捨てる

    そうだ、誘ったのは私

    憧れている人とは違う人を、誘ったのは私

    「耳を触られるのすら嫌なら、この先は無理だよ。今ならまだ止められる。帰らないなら、もう遠慮はしないけど、いいかな?」

    真摯な眼差しで、私に諭すように問い掛けてくるこの人

    一つ勘違いをしているみたい

    耳を触られるのが嫌なんじゃない

    「耳は、くすぐったいだけです」

    私が小さな声でそう言うと、彼は頷いた

    「そうか」

    彼の指先が、ゆっくりと円を描くように、頬を撫でる

    その指先が首筋や耳に触れると、またさっきの様な声が出かかってしまう

    繊細に触れられれば触れられる程に、感覚が敏感になっていく

    「あっ……」

    ついに堪えきれずに声が音になって漏れた

    慌てて口をつくんだら、その様子を見咎められる

    「どうする?いい加減我慢も限界なんだけどな……」

    そう言って、息を吐く彼

    鳶色の瞳は、先程よりも更に熱を帯びていて、潤んでいる様にも見える

    違う、潤んでいるのは私の瞳

    恥ずかしさと迷いで、いつしか目に涙が浮かんでいた
  5. 5 : : 2015/02/02(月) 16:46:31
    「……ペトラ、ごめん」

    そう言うと、彼は私の上から退いた

    急に、身体を離されて熱が逃げる

    寒い……漠然とそう思った

    「なんで、謝るんですか……?」

    この人は何も悪くないのに……

    「確かに誘ったのは君だけど、それに乗ったのは俺だ。君が、本当に抱かれたいと思ってここに来たわけじゃないのも、何となく理解していたのにね」

    彼はベッドの縁に腰を掛けて、自嘲気味に言った

    「……でも」

    「ペトラ、今日は帰ってくれないか?俺も、本当に我慢の限界だから。男はね、そういう生き物なんだよ」

    鳶色の瞳が、私に向けられる

    未だにその瞳には熱が感じられたが、それはいくぶん和らぎ、いつもの穏やかな色に戻ってきていた

    「すみません、モブリットさん」

    その瞳を確認した瞬間、気が緩んで涙が溢れた

    「いいよ、気にしなくて。ほら、泣かないで」

    彼……モブリットさんはいつもの様な優しい笑みを浮かべて、私の頬に伝う涙を指の腹で拭った

    「ごめん……なさい」

    「謝らなくていいよ。さ、部屋に戻るんだ」

    モブリットさんに促される様に、私は立ち上がり、部屋の扉に向かう

    扉を開けたのはモブリットさん

    「おやすみ、ペトラ」

    彼は笑顔でそう言うと、私の頭をくしゃっと撫でた

    「おやすみなさい……」

    私が頭を下げると、彼は頷いて扉を閉めた

    別れ際まで私を気遣う優しげな眼差し

    私はいつも優しいモブリットさんに、大変なことをしてしまったと、今更ながら後悔した

    「ごめんなさい……」

    扉を背に呟いて、また涙を溢した
  6. 6 : : 2015/02/02(月) 16:49:06
    この優しすぎる上官に、思えば何度も相談をしてきた

    壁外の事、戦い方のこつ、将来の事、部下としての心得、そして恋愛の事

    相談事は多岐に渡っていた

    モブリットさんは私の直接の上官ではない

    私の直接の上官は、相談する様な雰囲気を持っていなくていつも排他的

    大体恋愛の事は、私の直接の上官が対象になっているから、それを本人に相談なんて出来るはずもない

    だからいつも、話しやすいモブリットさんに相談していた

    初めて出会った時から変わらず優しいこの人に、私はいつも甘えていた
  7. 7 : : 2015/02/02(月) 16:53:35
    ─2年前─

    「うっ、うっ……」

    初めての壁外調査で、恐怖のあまり失禁してしまった私

    新兵には良くある事だと先輩方に慰められても、気持ちは収まらなかった

    夜営の見張りの時間になろうとしているのに、涙が止まらなくて……

    一人離れた所に座り込んで泣いていた

    調査兵団に入って巨人を倒し、人類を平和に導くんだと意気込んでいたのに、のっけから出鼻を挫かれた

    恥ずかしいし、情けなかった

    しばらくそのまますすり泣いていると、パサッと何かが頭に被さってきた

    「あっ……」

    私は慌てて頭を上げた

    被せられた物は、柔らかい肌触りの毛布だった

    「少し、冷えるかもしれない。石畳の上だしね。くるまって寝ておくといいよ」

    私に毛布を渡してくれた人は、穏やかで優しげな表情をしていた

    鳶色の瞳は、柔らかな光を宿していた
  8. 8 : : 2015/02/02(月) 16:54:19
    「……ありがとう、ございます。でも、私は見張りの時間が……」

    私がそう言って立ち上がろうとすると、鳶色の瞳の先輩兵士は首を振った

    「いいよ、いろいろあって疲れただろ?仮眠もとれていないんじゃないかな?」

    いろいろあって、と言われた辺り、この人の耳にも失禁の噂が届いたんだろう

    私はまた、恥ずかしさで涙が込み上げてきた

    「だ、大丈夫……です」

    「いいよ、無理はしなくて。北側の見張りは俺一人で大丈夫だからね、ペトラ」

    先輩兵士はそう言うと、一瞬にっこりと笑顔を見せて、踵を返した

    優しげな笑顔だった

    結局私は、優しい先輩のその言葉に甘えた

    そして、泣きつかれていつの間にか眠っていたのだった


    私とモブリットさんが初めて会話を交わしたのは、この時だった
  9. 9 : : 2015/02/02(月) 17:21:12
    壁外から帰ると、また休む間もなく日々任務や訓練に明け暮れる毎日

    そんな毎日だったが、私には唯一の楽しみがあった

    憧れていたリヴァイ兵士長をたまに見かける事がそれだ

    訓練兵の時、はじめてリヴァイ兵士長を見た時から、何故か心を惹かれていた……謂わば一目惚れだった

    人類最強と呼ばれる英雄、という名前にも惹かれていたのかもしれない

    調査兵団に入って、初めてリヴァイ兵士長の人となりを目の当たりにした時、実は少々怖かった

    殆ど話さないし、話したとしてもクソとかばかがとか、そんな言葉しか発しないから

    でも、少しずつ接していくうちに、この人が見た目通りの怖い人ではなく、実は優しい不器用な人だということがわかった

    私の憧れは、いつしか恋に変わっていた
  10. 10 : : 2015/02/02(月) 17:48:23
    訓練兵時代以前から、まともに恋などした事が無かった私には、その気持ちを本人に伝える事などできるはずもなく……

    秘めたる想いを胸に、数回の壁外遠征を生き抜いた

    だけど、その生は紙一重で死に転じる

    いつ死んでもおかしくない状況ばかりだった

    壁外調査が近付くにつれ、私は目に見えて不安定になった

    夜になると怖くて、震えて泣く時もあった

    その夜も、とてつもない不安に襲われて、いてもたってもいられず、部屋を飛び出した
  11. 11 : : 2015/02/02(月) 17:49:19
    夜の闇の中、月明かりだけが兵舎の訓練場を照らしている

    私は目に涙を浮かべながら、訓練場の地面にへたりこんだ

    その時だった

    「ちょっとぉ、モブリットってば! 話聞いてくれよ! 」

    夜の静けさを打ち破るような、すっとんきょうな声

    その声が誰のものか、調査兵団にいれば誰もがわかる

    「……うるさいですよ、ハンジさん。もう夜半過ぎです。兵士たちの眠りを妨げます」

    その声と共に聞こえてきた声も、私は知っている

    鳶色の瞳の優しい先輩兵士、モブリットさんだ

    「君が話を聞いてくれないからだろ?! 」

    「明日の朝聞きますから」

    「それ、昨日も聞いた! 」

    賑やかなやり取りに、私の涙も引っ込んだ

    「とにかく、今日は早くおやすみ下さい。壁外遠征までに体調を崩せば、元も子も無いですよ」

    モブリットさんが諭すように、ハンジさん、に言う

    「壁の秘密についてさあ、考察したい事が……」

    「それについては明後日聞きますから」

    「そんなの、どうせ何時までたっても聞かないつもりだろ! 」

    結局モブリットさんに背中を無理矢理押されながら、ハンジさんは兵舎に入っていった
  12. 12 : : 2015/02/02(月) 17:50:00
    二人のやり取りを聞いているうちに涙が引っ込んだ私は、ふぅ、と息をついた

    部屋に戻って寝よう

    そう思って立ち上がった時、兵舎から人が出てきた

    ハンジさんを部屋に送り届けたであろう、モブリットさんだった

    私が居るのに気がついたのか、歩み寄ってきた

    「やあ、ペトラ。夜の散歩かな?」

    そう言ってゆったりとした優しい笑顔を見せるモブリットさんに、私は頷いた

    「はい、眠れなくて……」

    「壁外遠征が近いからね。何回経験しても、慣れないからわかるよ」

    モブリットさんは、私の言葉に同意した

    「はい、時々凄く不安になって、いてもたってもいられなくなるんです」

    「成る程ね。そう言う不安は、誰かに話したりはしないのかな?自分だけで背負っていては、押し潰されてしまうよ?」

    そういえば、私はあまり人に怖いとかそう言う事を伝えていなかった

    調査兵団に入ったくせに、壁外へ行くのが怖いなんて、誰にも言いづらかったから

    「今までは、話す事はありませんでした」

    「そうか、君は我慢強いんだね。でも、無理はしなくていいんだよ。皆平気そうにしているけど実は怖いと感じている。それぞれが様々なやり方で、それを除こうとしているんだ。そうだな……例えば酒を飲んで大騒ぎするとか」

    モブリットさんは私の不安を取り除こうと、丁寧に優しく語りかけてくれた

    「酒を飲んで大騒ぎですか」

    「ああ、そうだよ。ハンジさんはまさにそのタイプだね。何度付き合わされたか……リヴァイ兵長は静かに飲んでるだけだね。あの人にも恐れはあるはずなんだけど、全く見えないんだよな」

    唐突に出てきたリヴァイ兵長の名前に、私はドキッと胸が音を出した気がした

    「リヴァイ、兵長と、飲みに行かれるんですか?」

    私は思わず身を乗り出して聞いてしまった
  13. 13 : : 2015/02/02(月) 17:50:22
    「ああ、兵長とハンジさんは腐れ縁だからね。俺はそれに付き合わされているだけさ」

    モブリットさんは苦笑気味にそう言った

    「そ、そうですか」

    私がふぅ、と息をついた、その瞬間

    「もしかして、君、兵長と飲みに行きたいのかい?」

    「へっ、ええっ!」

    モブリットさんに図星をさされて、奇声をあげてしまった

    「そ、そうか……ははは。わかりやすいね」

    モブリットさんは愉しげに笑った

    「なっ、何がですかっ?! 」

    わかりやすいと言われて、私は焦った

    要するに私の兵長への気持ちが、いきなりばれてしまったという事だ

    たった数回のやり取りで……

    自分の頬が急激に熱を帯びたのがわかった

    恥ずかしい……

    そんな私に、モブリットさんが優しげに声を掛けた

    「兵長はとっつきにくそうに見えるけど、実は結構よく話すし、部下の面倒見もいいんだよ。今度、飲みに誘ってあげるよ」

    「ほ、本当ですか……?」

    私はモブリットさんの言葉に、内心飛び上がって喜んだ

    「ああ、勿論。約束するよ」

    そう言って、モブリットさんは私の頭をくしゃっと混ぜた
  14. 14 : : 2015/02/02(月) 19:21:28
    いいね!引き込まれた
  15. 15 : : 2015/02/02(月) 19:26:56
    >サッカーバカさん☆
    ありがとうございます♪
    嬉しいです(*´ω`*)
    頑張りますので、最後までよろしくお願いいたします♪
  16. 16 : : 2015/02/02(月) 19:51:39
    こうして、意図せず私は憧れの兵長と飲みに行けることになった

    それが、私の運命を大きく変えるきっかけとなる

    今まで遥か遠くにしか感じられなかった兵長の存在を、ぐっと身近に感じられる様になったのも、この時からだった

    夢のような時間は、確かに存在していた
  17. 17 : : 2015/02/02(月) 19:52:01
    ─ある夜─

    「いやあ! オルオが漏らしたんだろ?! 気持ちわかるなあ! 私もさぁ、ちょっぴりちびったし! 」

    「きたねえぞ、クソメガネ」

    酒が入りながらだけど、ハンジさんと兵長のそのやり取りに私はビクッと背中を震わせた

    お漏らしをしたのは、私もだから……

    しかも兵長がいるのに、そんな話題

    そんな時、ハンジさんの隣にいたモブリットさんが口をはさんだ

    「ちなみに、兵長は初遠征の時は失禁されたんですか?」

    至極真面目な表情で兵長にそう問いかけるモブリットさんに、ハンジさんが驚きの表情を向けた

    「ひっ……モブリット、君はリヴァイによくそんな話を振るね」

    「俺は漏らさなかった」

    兵長は予想と反して、モブリットさんの問いに即答した

    「流石です、兵長」

    モブリットさんがそう言うと、兵長が切り返す

    「……お前は?」

    「俺も漏らしませんでした」

    「……そうか。じゃあ漏らしたのはオルオとハンジだな」

    兵長の言葉に、ハンジさんが首を振る

    「私はちょっとだけだってば! びしょ濡れのオルオと一緒にするなよ! 」

    「ふん、クソメガネ気持ちわりぃ」

    「うるさい、リヴァイ! 」

    こうして、何とか私の失禁の話題にはならなかった

    矛先を反らしてくれたモブリットさんにちらりと目を向けると、丁度向こうも私を見ていたのか、目があった

    モブリットさんは私に、優しげな笑顔を見せた

    私はぺこりと頭を下げた
  18. 18 : : 2015/02/02(月) 21:37:56
    こんな感じで、私は何度も上司の飲み会に参加するようになった

    兵長と二人きりでというのは一度もなかったけど、それでも充分幸せだった

    ハンジさんが酒に酔うと面白いし、皆が酔っぱらっても、一人平然としている人がいるから安心だった

    皆と同じペースで飲みながら、全く酔わないのは兵長ではなく、意外にもモブリットさんだった

    鳶色の瞳の優しい上官は、見た目に寄らず相当の酒豪だったのだ

    だからこそ、酒を飲んでばか騒ぎをするハンジさんのお目付け役をさせられているのかもしれない、と私は思った

    兵長は酔うほどにお酒を飲まない

    いつも量を加減して飲んでいた

    お酒より紅茶を飲みたがる人だという事も知った

    どんな兵長を見ているのも、幸せだった
  19. 19 : : 2015/02/02(月) 22:32:52
    そんな幸せな時間が増えるにつれて、私はある事実に気がついた

    兵長は、いつもハンジさんと一緒にいる

    飲むときも、出掛ける時も

    腐れ縁だとモブリットさんは言っていたけど、それだけでは無さそうな何かを、漠然と感じ始めていた

    私は兵長との距離が縮まる毎に、切なさで胸が苦しくなった

    ハンジさんは少し変わっているけど、とても素敵な人だと思う

    兵長はハンジさんと付き合っているんだろうか

    付き合っていてもいなくても、自分の気持ちを伝える勇気は無い

    けれど、やっぱり気になった
  20. 20 : : 2015/02/02(月) 22:34:03
    そんなある日の事

    私は非番をもて余して、兵舎の馬屋に足を運んだ

    そこには、同じく非番なのだろうか……私服のモブリットさんが馬に人参をあげていた

    いつもの優しい表情を馬に向けていた

    「モブリットさん」

    私が声を掛けると、モブリットさんはくるりと振り返る

    「やあ、ペトラ。君も非番かい?」

    モブリットさんは、表情と同じ様な穏やかな声色でそう言った

    「はい。モブリットさんもですか?」

    「ああ、特に予定もないからこうして馬屋にいるんだけどね」

    そう言うと、鼻を擦り寄せてくる愛馬のたてがみをわしゃわしゃと撫でた

    「好きなんですか?馬屋にいるのが」

    「そうだね。ここは静かだし、彼らは大人しくて従順で、本当に可愛いからね。ほら、俺はいつも騒がしい人についてるだろ?だからたまの休みくらいゆっくり静かに過ごしたいんだ」

    モブリットさんは肩を竦めた

    いつも騒がしい人といえば、ハンジさん以外あり得ない

    確かにすっとんきょうな声を上げて、落ち着きがない事が多い

    そんなハンジさんに振り回されているモブリットさんは、調査兵団で一番の苦労人と言われていた

    「確かに、静かですね」

    私は、馬のたてがみを優しく撫でてあげながらそう言った
  21. 21 : : 2015/02/03(火) 07:35:26
    「ペトラ、君は予定は無いのかい?」

    「はい、暇です」

    私はモブリットさんの問いに即答した

    「暇か……勿体ないな」

    モブリットさんは苦笑気味に呟いた

    「モブリットさんも暇なんでしょう?」

    「まあ、そうだね。何もしないのが予定というかね」

    「お年寄りの休日みたいですよ、モブリットさん。ふふっ」

    私は思わず笑ってしまった

    「ある意味年寄りに近いかもしれないなあ。普段生き急ぎ過ぎている人の側にいるだけに、寿命が確実に縮んでる自覚があるんだ」

    「そ、そんなわけ無いじゃないですか……あはは! 」

    困ったような表情で切実に語るモブリットさんが、何だか可愛らしく見えて、私は更に笑った

    「人の不幸を笑うなよ、ペトラ」

    「不幸だなんてうそ、だってモブリットさんは絶対に好きで世話をしているでしょう?ハンジさんの事……あはは! 」

    「す、好きで寿命縮めるやつなんかいるわけないだろ……」

    モブリットさんはげんなりといった表情をした

    「わ、わかりました、ふふっ。じゃあ、暇人同士外出しませんか?美味しいもの食べたいなあ」

    私の言葉に、モブリットさんは頷く

    「そうだね。ずっと馬屋にいるわけにも行かないし、行こうか」

    「はい、行きましょう 」

    こうして私はモブリットさんと町に出ることになった
  22. 22 : : 2015/02/03(火) 07:35:54
    トロスト区の商店街は賑やかだ

    巨人の脅威など全く感じない、平穏な街

    だけど確かに壁の外には巨人がいて、人は壁の外では生きられない

    ウォールマリアが壊された時、人類は混乱の渦に巻き込まれた

    巨人によって、百年に渡り人類を守っていた壁が、いとも容易く壊されたのだ

    私はその時、訓練兵団にいた

    東側、カラネス区の訓練兵として日々兵士になるための技術を磨いていた

    そんな矢先に起きた、ウォールマリアの崩壊

    私はその事実に、人類の平和は紙一重で滅亡に繋がると理解した

    それがきっかけで、駐屯兵団志望という進路を変更した

    壁外へ行くのはやはり怖い

    でも後悔はしていない

    じっと壁にすがりついているよりは、何でもいい、巨人に対して打開策を見い出したい

    そんな一心で戦い、生き抜いてきた
  23. 23 : : 2015/02/03(火) 07:36:26
    「お腹がすいたな。何か食べたい物はあるかい?」

    モブリットさんの問いに、私は腕組みをして考えを巡らせる

    「うーん、何でも食べたいんですけど、強いて言えば魚のフライとか、ハムのサンドイッチとか、芋のフライも捨てがたいし、お肉も食べたいし……」

    「……はは、食欲旺盛だな」

    モブリットさんは愉しげな笑顔で言った

    「あっ、全部食べるなんて言ってないですよ?」

    私は頬を膨らませた

    「全部食べたそうな顔をしていたんだけどな」

    首を傾げながらそう言うモブリットさんに、私は

    「そ、そんな顔してません! 」

    そう言って、つむじを曲げた

    「まあ拗ねるなよ。好きなものを好きなだけ食べたらいいさ」

    「本当ですか?勿論おごりですよね?」

    私が不貞腐れた表情のままちらりと隣を伺うと、モブリットさんは穏やかな笑みを浮かべていた

    「ああ、財布の中身が許す限りならね」

    そう言うと、私の頭をくしゃっと混ぜた

    そういえばいつも髪をくしゃっとされるなあと思いながら、お腹を満たすために行動を開始した
  24. 24 : : 2015/02/03(火) 11:53:41
    「あー、幸せ。お腹がいっぱい」

    私は結局、魚のフライにハムのサンドイッチを奢ってもらった

    大好物にお腹が満たされて、心も幸せになった気がした

    「幸せか、それは良かった」

    モブリットさんは私の言葉に、破顔一笑した

    「モブリットさんは、お腹いっぱいになりましたか?」

    「ああ。君が食べているのを見ているだけで、お腹がいっぱいになったよ」

    「そ、そんなにがっついてませんよ?! 」

    私は顔を真っ赤にして詰め寄った

    すると、またモブリットさんは私の頭に手を置いた

    「ごめんごめん。なかなかの食べっぷりが可愛くてね……はは」

    そう言って、髪の毛をくしゃっとした

    「モブリットさんて、いつも私にそれしますよね……髪の毛、絡まっちゃいますよ」

    「ああ、すまない。つい無意識のうちにやってしまって。頭の位置が手を置くのに丁度良くてね」

    そう言って、モブリットさんはいたずらっぽい笑みを浮かべた

    「ど、どうせ私はチビですよ! 」

    「いいや、丁度いいよ、本当に」

    モブリットさんは、拗ねる私の頭に性懲りもなく手を置いて、またくしゃっと混ぜたのであった
  25. 25 : : 2015/02/03(火) 14:45:08
    こうして、私はモブリットさんに何度も食事をご馳走になり、一緒に飲みに連れていってもらい、兵長への恋心の相談にまで乗ってもらうようになった

    気がつけば、任務中は別として、それ以外の時間をモブリットさんと過ごす事が多くなった

    そうして2年の月日が流れた

    モブリットさんは穏やかで優しくて、いつもそれとなく私を気遣ってくれていて、一緒にいてとても居心地が良かった

    それが、ある事をきっかけに事態が急変して、あの夜の出来事に繋がっていく
  26. 26 : : 2015/02/03(火) 14:45:29
    私はその夜、たまたま兵舎の廊下を歩いていた

    皆が寝静まった時間

    誰もいないだろうと思っていたのに、ある部屋の前で、人影を確認した

    私は慌てて、だけど素早く身を隠した

    人影は、兵長とハンジさんだった

    二人は何かを話している様だった

    すると、二人の影が唐突に重なりあった

    お互いの唇と唇が、強く合わさっている

    まるで貪るように

    私は目を離したいのに、離せなかった

    二人はそのまま、雪崩れ込む様に部屋に消えた

    ガチャンと閉まる扉

    そこは、紛れもなくリヴァイ兵長の部屋だった

    私は、しばらく動悸が収まらなかった

    やっぱりそうだったのか、という思いと、まさか、という思いが頭の中で交錯して、叫びたい程息苦しくなった

    不思議と涙は出なかった

    叶わなかった恋

    だが、恋心はそう簡単に消えるはずがない

    私は苦しくなって、胸を押さえた
  27. 27 : : 2015/02/03(火) 16:13:55
    私はふらふらとさ迷うような足取りで、ある部屋の前にたどり着いた

    胸のポケットを探り、時計を確認する

    ─午前二時

    こんな時間にこんな顔で部屋を訪ねてきたら、どう思うだろう

    というか、寝ているかもしれない

    睡眠の邪魔をすべきじゃない

    普段の私ならそれくらいの事は考えられたはずだ

    でも、今の私には何も考えられなかった

    とにかく、一人でいたくなかった

    私はコンコン、と扉をノックした
  28. 28 : : 2015/02/03(火) 16:16:36
    しばらくすると、キィ……という音をたてて扉が開いた

    扉を開けた部屋の主は、私の顔を見て一瞬目を見開いた

    だが、直ぐにいつもの穏やかな表情に戻した

    「こんばんは、ペトラ。どうしたんだい?こんな時間に珍しいな」

    モブリットさんは鳶色の瞳を私に向けて、柔らかな声色で言葉を発した

    心配そうに私を見つめるその瞳を、私はじっと見詰めた

    そして、息をついた

    「ペトラ?」

    「……モブリットさん、今夜は私と一緒にいてください」

    私のその言葉に、モブリットさんは目に見えて表情を崩した

    困ったような、狼狽えるような、そんな表情を私に見せた

    「怖くて眠れないのかな?それなら勿論、寝るまで側に……」

    「違います。そういう意味じゃありません」

    私は首を振った

    モブリットさんはしばらく私の顔をじっと見つめていたが、やがて肩で息をした

    「わかった。とりあえず入りなさい」

    私は誘われて部屋に入った

    真夜中に女が男の部屋にいるという事がどういうことか、勿論私はわかっていた

    だからそれを証明するかの様に、真っ先に部屋の隅に設えてある、簡素なベッドに腰を下ろした

    モブリットさんは、ベッドの側の椅子に腰を下ろした

    「ペトラ、何があったんだ?聞かせてくれると嬉しいんだけどな」

    そう優しく語りかけてくれるその言葉、柔らかな表情……いつもと変わらないモブリットさん

    だけど、今の私にはその優しさは伝わらない

    とにかく、忘れたかった、なにもかも

    「……話してくれそうにないな。まあ、大体何があったか予想はつくけど……」

    私の思い詰めた表情に、モブリットさんはため息をついた
  29. 29 : : 2015/02/03(火) 16:34:58
    「モブリットさんは知っていたんですか?二人がそういう関係だってことを」

    「……知らないはずがないよ。ハンジさんといつも一緒にいるんだからね」

    モブリットさんは私に真摯な眼差しを向けながら言った

    「どうして、私に教えてくれなかったんですか?二人が付き合っている事を」

    「二人は付き合っているという間柄ではないよ」

    モブリットさんの言葉に私は首を振る

    「付き合ってないはずないです。だってあんな……」

    「あの人達の間には、あの人達にしかわからない絆がある。恋人同士という繋がりではないけど、もうお互いしか気を許すことが出来ない立場にあるんだ。だから、欲求を満たすにも気を許したもの同士、傷の舐め合いも気を許したもの同士……そんな関係なんだ」

    モブリットさんは私に、まるで子供を諭す時の様な優しい目を向けた

    「でも、それって恋人同士にしか思えません」

    「ああ。でも違うんだ。本人達がそう言ってる。リヴァイはそろそろまともな普通の女と付き合うべきだとか、兵長に至っては俺にその役目を頼んでくる始末。俺にはあの人の隣に並ぶ資格すら持ち合わせていないのにね」

    モブリットさんは肩を竦めた

    「モブリットさんは、ハンジさんの事が好きなんですか?」

    「そりゃあ、嫌いではないよ。尊敬してるし、あの人に着いていこうと決めているからね。でも、男女としてという意味では、無いな」

    モブリットさんはそう言うと、何故か立ち上がって扉に向かった

    「モブリットさん?」

    私が声を掛けると、モブリットさんはくるりと振り返った

    「お茶でもいれてくるよ」

    そう言うモブリットさんに、私は静かに口を開く

    「お茶はいりません。側にいてください」


    「……わかったよ、ペトラ」

    モブリットさんは何か問いたげな鳶色の瞳を私に向けた

    だがそれ以上は言葉にはしなかった
  30. 30 : : 2015/02/03(火) 17:00:24
    めっちゃドキドキしてます。
    モブペト探してたんですよ
    期待
  31. 31 : : 2015/02/03(火) 17:01:36
    めっちゃドキドキしてます。
    モブペト探してたんですよ
    期待
  32. 32 : : 2015/02/03(火) 17:06:06
    >>天界組の奴隷さん☆
    ありがとうございます♪
    頑張りますので、最後までよろしくお願いいたします♪
  33. 33 : : 2015/02/03(火) 17:06:45
    モブリットさんは私の隣に座った

    簡素なベッドのスプリングが、二人分の体重のせいで軋む

    「なあ、ペトラ。一応言っておくけど、俺は男だし、聖人君主でもなんでもないから、こうなると本当に歯止めが効かなくなるよ?」

    私の顔を覗くように見ながら尚も優しげな口調を崩さないモブリットさんの手を、私はぎゅっと握りしめた

    「わかっています」

    私のその言葉を聞いたモブリットさんは、息を一つついた

    そして、私の顔をじっと見つめる

    鳶色の瞳が、底深い光を湛えながら私を捉える

    何時もとは違った目で見つめられて思わず身動ぎをした、その時

    身体がモブリットさんの腕の中に引き寄せられる

    そして、息が詰まる程強く抱きしめられた

    耳に吐息がかかる

    くすぐったい

    そう思った瞬間、しっとりと柔らかな感触を耳朶に感じた

    その感触は、耳朶から首筋へ

    「んっ……」

    私は思わず声をあげた

    すると、抱き締められていた身体が解放される

    そして、私の顔をじっと見つめる鳶色の瞳

    いつもの様な優しげなものではなく、熱っぽく何処か切羽詰まった様な眼差し

    射竦められて、瞬きすらままならない

    近づいてくるモブリットさんの顔

    一瞬だけ鼻先が触れ合わさる

    次の瞬間、私の唇に彼の唇が押し付けられた

    そのまま身体をベッドに押し倒される

    モブリットさんは手首を軽々片手で押さえつけ、問答無用で私の身体に覆い被さってくる

    抗えない、圧倒的な力

    いつもとは全く違う雰囲気のモブリットさんに、私はただ、身を震わせる事しか出来なかった

    そうして、あの夜の出来事に繋がっていった
  34. 34 : : 2015/02/03(火) 18:08:52
    結局モブリットさんはその夜、私を抱く事はなかった

    私は半ば追い出される様な形で、モブリットさんの部屋を出た

    閉められた扉を背に、いつも紳士で優しく穏やかなモブリットさんに何て事を迫ったんだろうと、後悔の念に苛まれた

    私は失恋で気が動転していた

    モブリットさんはそれをわかっていたからこそ、何度も私を止めようとした

    それでも引かない私に応える形で、私を押し倒した、そのはずなのに

    結局、私の涙を見て抑えたのだ

    自分が誘ったくせに、泣いたのだ、最低だと思う

    完全に私の身勝手が、モブリットさんを振り回した

    「……ごめんなさい」

    何度もそう呟いた

    それしか私には出来なかった

    優しい人を傷つけた

    自分だけが傷つけばよかったのに……

    私の涙は留まるところを知らなかった
  35. 35 : : 2015/02/03(火) 19:54:41
    翌朝

    私はどんな顔で、モブリットさんにも、兵長にもハンジさんにも会ったらいいのかわからなくて、一人食堂の片隅の席で、窓の外を眺めていた

    食が進むはずもない

    トレイに乗っている朝食に全く手をつけずにいた

    失恋と、その後の身勝手極まりない行動

    どう謝ればいいのかもわからない

    このまま消えてしまいたい、そう思った時だった

    「おはよう、ペトラ。隣いいかな?」

    そう声を掛けてきたのは、モブリットさんだった

    いつもと変わらない優しげな笑顔

    私はそんなモブリットさんに掛ける言葉が見つからず、ただこくりと頷いた
  36. 36 : : 2015/02/03(火) 19:57:19
    「あんまり食べてないみたいだな。いつも食欲旺盛なのに、珍しい」

    私のトレイを指差しながら、首を傾げるモブリットさん

    いつも通りに接してくれているんだろう

    この人は思えばいつも、私を気遣ってくれていた

    「あの……モブリットさん」

    私は拳をぎゅっと握りしめた

    「ん?なんだい?ペトラ」

    「昨日は、ごめんなさい。私……」

    俯きながら小さな声で謝った

    モブリットさんは、私の頭をくしゃっとした

    いつもの仕草だ

    「謝らなくていいっていっただろ?俺も悪かったんだから」

    「……モブリットさんは悪くないです」

    私は首を振った

    「いいや、そんな事はないよ。役得だなと思っていたしね。あわよくば、ってね」

    「役得?」

    私は首をかしげた

    「そうだよ、男はそんなもんなんだ。ペトラは身を持って感じたから今更だけど、気を付けるんだよ。君は……可愛いんだから」

    モブリットさんはそう言うと、にっこり微笑んだ

    私の顔が、熱がこもったように熱くなった

    唐突に可愛いと言われて、恥ずかしくて……
  37. 37 : : 2015/02/03(火) 20:13:21
    「ほら、冷めてしまうから食べよう、ペトラ」

    モブリットさんはそう言うと、私にスプーンを押し付けた

    「で、でも、あまり食欲がなくって……」

    私が渋ると、モブリットさんはあろうことか、パンをちぎって私に差し出した

    「ほら、口を開けて」

    「は、はいっ?! 」

    「ほら、食べなさい」

    モブリットさんは至極真面目な表情で、私の口元にパンを差し出す

    「じ、自分で食べますから……あ」

    そう言った瞬間、口の中にパンを放り込まれた

    「美味しいだろ?ちゃんと食べなきゃダメだよ」

    モブリットさんはそう言ってにっこり笑った

    「い、いきなり何を……」

    「ん?スープも口に入れて欲しいのかな?」

    「ま、まさか! いい加減にして下さい、恥ずかしい! 」

    私は慌ててスープとパンを掻き込み始めた

    ちらりと横目でモブリットさんを見ると、愉しげに含み笑いをしているのが目に入った

    からかわれた!

    そう思って頬を膨らませながら朝食を掻き込む

    気がつけば、さっきまで思い悩んでいた事が吹き飛んだように、スッキリとした気持ちになっていた
  38. 38 : : 2015/02/03(火) 20:14:34
    そうして一日が滞りなく済んだ

    兵長ともいつも通りに接する事ができた

    恋心がそう簡単に失われる事はない

    やっぱり兵長の事が好きだし、憧れている

    けれど、いつまでも後ろを向いてはいられない


    よくよく考えてみれば、こうして前を向けたのは、他ならぬモブリットさんのお陰だった

    何故あんなに優しいんだろう

    あの夜の事だって、普通に考えれば据え膳で、止めるメリットはモブリットさんには無いはずなのに

    いつも、自分の事よりも相手の事を考えている気がする

    ハンジさんに振り回されながら、ハンジさんへの気遣いも忘れない

    部下への気遣いは上司へのそれよりも更に厚い

    そして何よりも、私が困っている時にはいつも側にいてくれた

    モブリットさんの懐の深さに、改めて気付かされたのだった
  39. 39 : : 2015/02/03(火) 21:13:29
    その夜の事だった

    「ペトラ、一緒にお風呂行こうよ。リヴァイがくせえって煩くてさ」

    ハンジさんが私にそう声を掛けてきた

    「はい、是非一緒に入りましょう! 」

    確かに兵長に憧れている私にとっては、この人はライバルになるのかもしれないけど、不思議とそうは思わなかった

    モブリットさんの言う『お互いしか気を許さない』謂わば二人三脚の様な二人に、私が入る隙間などない

    まだ胸にしこりは残っているけれど、私は二人を応援できるような、そんな気持ちになっていた
  40. 40 : : 2015/02/03(火) 21:13:44
    「うわーお! ペトラ、また胸でっかくなってない?! 」

    二人で並んで風呂に浸かりながら、ハンジさんは大きな声でそう叫んだ

    「な、なってませんよ! もうこれ以上大きくはなりません! 」

    私は慌てて胸を隠した

    「なるよぉ、男に揉んでもらえばさ。ははは」

    「なっ、何を言ってるんですかっ、ハンジさん! 」

    すると、ハンジさんが私に身体を擦り寄せてきた

    「ねえ、モブリットになにかされたらしいね?」

    突然小声でそう耳打ちしてきたハンジさんに、私は思わず息を飲んだ

    「ど、どういう意味ですか……?」

    「今朝ね、何だか様子がおかしくてさ。長年一緒にいるからわかる、勘みたいなものなんだけどね。突っ込みに切れがないし、ため息ばかりつくしさ……で、おかしいから脅したのさ、何があったか話せってね」

    ハンジさんは小声でそう言った

    「お、脅した……?」

    「うん。言わなきゃ次の壁外遠征で、陣形無視して巨人に特攻するってね、ははは! 」

    「ハンジさん?! 」

    この人はこれでも調査兵団の分隊長

    そんな無茶を許されるはずはないのに

    「ま、冗談だけど、私ならやりかねないだろ?だから渋々話したんだ。そしたらびっくり、君の事を押し倒したって……あの朴念人が、ね。たまってたのかなあ、ごめんねペトラ。何もなくて良かったよ」

    「……いいえ、私が誘ったんで、モブリットさんは悪くありません」

    私のその言葉に、ハンジさんは目を見開いた

    「君が?」

    「はい……」

    私は項垂れた
  41. 41 : : 2015/02/03(火) 21:14:01
    「そうかあ、なるほどね。君からモブリットを誘ったのか……いやあ、モブリットって変な所潔癖でさ、付き合っている人以外に手は出さないんだよね。娼館なんかも行かないし、私がたまってて誘っても足蹴にされるくらいなんだ。だから押し倒したなんて想像がつかなくてね」

    「そう、なんですか……」

    私はまた申し訳ない思いで胸が苦しくなった

    そんな真面目な人に対して、私はなんて事をしてしまったんだろうと……

    「ねえペトラ、君はよくモブリットにいろいろ相談しているだろ?」

    「はい、いつも相談に乗ってくれます」

    私が頷くと、ハンジさんは微笑んだ

    「もしよかったらさ、今度モブリットの話も聞いてやってくれないかな?例えば、好きな人の話とかさ……ふふっ」

    そういえば、私はいつも相談してばかりで、モブリットさんの話を聞いたことは殆どなかった

    「はい、わかりました。今度聞いてみます」

    「ああ、そうしてやって」

    ハンジさんはそう言うと、私の肩にぽんと手を置いて、風呂から上がった

    私は湯槽に浸かりながら、モブリットさんに何を聞こうか、ゆっくり考える事にした
  42. 42 : : 2015/02/03(火) 22:19:28
    その日の夜、私はまたモブリットさんの部屋を訪ねた

    よくよく考えてみれば、私は自分の事ばかり話して、モブリットさんの話を聞いたことが無かった

    あれだけいつも一緒にいるのに……

    だから今日は、モブリットさんに自分の話をしてもらおうと思った

    聞きたいことは沢山ある

    時計を確認すると、午後八時半

    大丈夫、まだ寝る時間じゃないし、迷惑にはならないはず

    私はモブリットさんの部屋の扉をノックした

    すると、部屋の中から

    「どうぞ、開いています」

    と声がした

    私は扉を開けて、部屋の中に入った
  43. 43 : : 2015/02/03(火) 22:20:19
    期待。
  44. 44 : : 2015/02/03(火) 22:35:45
    >>如月さん☆
    ありがとうございます♪
    嬉しい!頑張ります(*μ_μ)♪
  45. 45 : : 2015/02/04(水) 07:28:43
    「モブリットさん、こんばんは。あっ、お仕事中でしたか」

    私が部屋に入った時、モブリットさんは兵服のジャケットを肩に掛けて、机に向かっていた

    「ペトラだったのか。ごめんごめん。てっきりハンジさんかと思ってね」

    モブリットさんは私の声にくるりと振り返り、立ち上がった

    「あ、お仕事中ならいいんです、今度で」

    「いや、こんなの何時でも出来るから……」

    机の上を指差すモブリットさん

    そこには裁縫道具に、シャツやジャケットが数着置かれていた

    「繕い物でしたか。お手伝いしますよ?」

    「いや、本当にいいんだ。暇な時にちくちくしているだけだからね」

    モブリットさんはそう言ったが、私は机に歩み寄り、シャツを一枚手にした

    「ボタンですね、引きちぎれてる……これ、ハンジさんのシャツですよね?」

    「そうなんだよ。ちなみに繕い物は全部ハンジさんの物さ。あの人は無頓着すぎてね。放っておくと穴だらけの服を着て、平気でいるんだから……」

    モブリットさんはそう言って、肩を竦めた

    「モブリットさんがやってくれるから、甘えてるだけじゃないですかね……ふふっ」

    私はそう言いながら針と糸をとり、ソファに座ってボタン付けを始めた

    「すまないね、ペトラ」

    モブリットさんはそう言うと、私の向かい側に腰を下ろして、手を動かし始めた

    大きな手は思いの外器用に繕っていく

    私はその手を凝視した

    だけど、その指は昨夜私の頬を繊細に撫でた物だというのを、唐突に思い出してしまって……

    思わずぎゅっと目をつぶった

    「……ペトラ?どうかしたかい?」

    モブリットさんが私の様子に、気遣わしげな口調で話しかけてきた

    「いいえ、な、何も……」

    私は慌てて首を振った

    「そうか」

    モブリットさんはそんな私に、いつもの優しい眼差しを向けて微笑んでいた
  46. 46 : : 2015/02/04(水) 07:30:24
    「いやあ、助かったよペトラ。二人がかりでやると早いな」

    「モブリットさんて、器用なんですね。繕い物も凄く綺麗に仕上がっているし……」

    モブリットさんが修復した箇所を見て、私は心底感心した

    「器用にならざるを得ないよ。あんな上司だし、実家には年の離れた小さい妹がいてね。人形やら服やら、何でも作らされるんだから」

    「妹さんがいらっしゃるんですね」

    そういう話も初耳だった

    でも確かに、弟か妹が居そうな雰囲気ではある

    とても部下の面倒見がいいし

    私はなるほど、と思った

    「ああ、そうなんだ。何なら人形つくってあげようか?……兵長の」

    「! け、結構ですっ! 」

    私は頬を膨らませて、そっぽを向いた

    「そうか、結構自信あるんだけどなあ……なんなら等身大でも」

    「い、いりませんってば! 」

    「ははは、そうか、そりゃあ残念」

    モブリットさんは愉しそうに笑った

    「そ、それなら、モブリットさんの人形を下さいよ! 」

    私のその言葉に、モブリットさんがぎょっとした

    「お、俺の人形……?」

    「はい、モブリットさんの人形です」

    私は頷いた
  47. 47 : : 2015/02/04(水) 07:31:20
    「俺の人形なんかどうするんだよ」

    恐る恐るといった体でそう尋ねてくるモブリットさんに、私は真面目な表情で言った

    「……等身大モブリット人形の、ほっぺたを摘まんで伸ばします」

    「考えただけで、頬が痛くなるよ……」

    モブリットさんは自分の頬を擦りながらそう言った

    「後は、頭をぐしゃぐしゃに混ぜます。何時もされているので仕返しです」

    「俺は君の髪をぐしゃぐしゃにはしてないだろ?」

    モブリットさんは困ったような表情を見せた

    「……そして、夜、怖かったり、寂しくなったら話しかけます。私は実は、今も遠征前にはとても怖くて、夜寝れない事もあるので、モブリット人形がいれば落ち着きます」

    「…………」

    モブリットさんは驚いたように口を半開きにしたまま、しばらく動かなかった

    「モブリットさん、だから人形を下さい」

    どうしてこんなことを言ったのか、私にもわからない

    でも、素直に思った事をありのままに伝えた

    思えばモブリットさんの前では、私はいつも無理をしなくてよかった

    自然体でいられた

    だから、一緒にいて居心地が良かったのだ
  48. 48 : : 2015/02/04(水) 14:36:16
    モブリットさんはやがて、ふぅと息をついた

    「それなら全部、人形じゃなくて本人にやってもらって構わないよ。ほっぺたを摘まんで伸ばすのも、頭をぐしゃぐしゃにするのも、夜に話を聞くのも……」

    そう言って、はにかんだ様な笑みを見せた

    「じゃあ早速……」

    私は徐に手を伸ばし、モブリットさんの頬に触れて、指で摘まんだ

    「痛っ……! いきなりそれか」

    「本人にやってもいいって言ったじゃないですか……びろーん、あはは」

    私はモブリットさんのひょうきんな顔に、思わず笑ってしまった

    「ま、いいけどね……」

    モブリットさんは、やっと解放された頬を撫でながら、ボソッと呟いた
  49. 49 : : 2015/02/04(水) 14:36:43
    「次は、モブリットさんの恋愛話を聞きたいです。好きな人とか……」

    「人形には話しかけるだけじゃなかったのか?」

    「そこは臨機応変に。だって私、今までモブリットさんに沢山話を聞いてもらいましたけど、モブリットさんの話は殆ど聞いたことが無かったから」

    私の言葉に、モブリットさんはうーんと唸った

    「恋愛と言ってもなあ……訓練兵時代には居たことはいたよ、彼女がね。まあ、訓練の合間に抜け出してこっそり……みたいな事もやらかしたなあ……」

    「こっそり……なにをやらかしたんですか?」

    「ま、まあそこは若気のいたりって事で」

    モブリットさんはばつが悪そうに、明後日の方向を向いた

    「モブリットさんのエッチ」

    「し、仕方ないだろ?若かったんだから……」

    モブリットさんは口を尖らせた

    「で、その彼女とは、どうなったんですか?」

    「……彼女は一緒に調査兵団に入って、初陣で散ってしまったんだ」

    モブリットさんはそう言うと、目を伏せた

    「ごめんなさい、余計な事を聞いてしまって……」

    「いや、全然構わないよ。気を遣わないで、大丈夫だから」

    モブリットさんは私の頭をくしゃっとしながら、微笑んだ
  50. 50 : : 2015/02/04(水) 14:37:12
    「そういうペトラはどうなんだよ。兵長を好きになる前は、誰かと付き合ったりやらかしたりはしなかったのか?」

    逆に質問されて、思わず身体がびくっと震えた

    「……あー、私はですね、付き合ったりしたことはありません。勿論やらかすなんてそんな事……ちょっといいなぁと思う人はいたにはいたんですけど……」

    「へえ、意外だなあ。モテそうなんだけどね」

    「まさか、モテるわけないじゃないですか! 」

    私は首を振った

    「いや、モテてると思うよ。自分で気が付いていないだけで」

    「違いますよ! 絶対にモテてません! 」

    「……そうか、鈍感なんだな、自分の事になると」

    モブリットさんは納得した様に頷いた

    「鈍感じゃありませんよ……多分」

    「声が小さくなったな」

    項垂れた私の顔を覗きながら、モブリットさんは気遣わしげに言葉を発した
  51. 51 : : 2015/02/04(水) 15:53:45
    「鈍感ですか……」

    「まあ、はっきり気持ちを伝えなかった方にも問題はあるけどね。思わせ振りな態度だけでは伝わらないしね」

    モブリットさんはそう言うと、考えを巡らせる様に顎に手をやった

    「はっきりアプローチしてくるのは、オルオくらいですね。俺の妻だのなんだの」

    「はは、オルオか。羨ましいよ、自分の気持ちをあれだけさらけ出せるのはね」

    「あれは出しすぎですよ! ほんっとに迷惑してるんです! あれのせいで兵長にも、オルオと夫婦だとか言われたり……」

    私は頬を膨らませた

    「夫婦か……意外と似合うかもしれないね」

    モブリットさんはうんうんと頷いた

    「だっ、誰が誰と似合うんですかっ?! 」

    「オルオとペトラ」

    「いやぁぁぁ! 止めてください! 」

    私は悲鳴のような声をあげた

    「そこまで拒絶するなよ、オルオが可哀想だろ?……ははは」

    「わ、笑わないで下さい! 」

    「いや、だって顔が真っ赤だからさ……よほど恥ずかしいんだか、怒ってるんだか……ははは」

    モブリットさんがお腹を抱えて笑い始めた

    「恥ずかしいんじゃないです! 怒ってます! とっても! 」

    私はプイッと顔を背けた
  52. 52 : : 2015/02/04(水) 15:54:28
    「怒らせたか……すまないね。可愛いからついつい」

    モブリットさんは尚も笑いを堪えながら言った

    「か、可愛くないです! 」

    「……可愛いよ、ペトラは可愛い」

    モブリットさんはそう言いながら、じっと見詰めてきた

    鳶色の瞳はいつもと変わらない、優しげで柔らかな光を宿している

    この瞳に見つめられた時、私は心が落ち着く

    でも今は何だか、少し息苦しい

    モブリットさんの手が、私の頬に触れる

    頬に触れた手に、私は何かを確認したくて、思いきって自分の手を重ねる

    大きな手

    この手は戦場では果敢にトリガーを握り、ある時は私の頭をくしゃっと撫でる

    繊細な手つきで繕い物をする

    そして私の手の動きなど、赤子を捻るように軽々と封じてしまう、そんな力を持った手

    目を閉じると、頬にその大きな手の温かさが伝わってくるのを、つぶさに感じられた

    私は唐突に理解した

    この手に触れてもらうのを、私は望んでいたのだと

    いつも優しい眼差しを向けて、優しく包み込んでくれるこの人の側に、自分は存在したかったのだと

    私は目を開いた

    柔らかな微笑みを浮かべたモブリットさんに、私はゆっくり言葉を発する

    「私は好きです……この手が」

    「そうか、ありがとう、ペトラ」

    モブリットさんははにかんだように笑った
  53. 53 : : 2015/02/04(水) 16:58:49
    「モブリットさんの手は大きくて、温かくて、なんでも出来て、ちょっとエッチですけど……好きです」

    頬に当てられている手を指でなぞりながらそう言うと、モブリットさんが

    「一言余計だな……」

    そう言って肩を竦めた

    「だって、あの時私の事を軽々押さえつけたじゃないですか。モブリットさんはそう言う時だけ本気を出すんだと思いました」

    「そりゃあ、あんな時間に部屋に来られるだけでも危ないのに、その上誘われたら誰だってその気になるよ。力だって入るさ」

    モブリットさんは口を尖らせた

    「ちょっと、怖かったんです。モブリットさんがいつもとは全然違ったから……」

    「そうか、怖かったか……ごめんねペトラ。確かにちょっと強引すぎたかもしれない。俺も久々だったから、余裕がなかったんだ」

    モブリットさんはそう言うと、頬に当てていた手を自分の膝に戻して、頭を下げた

    「いいえ、きっとそれが普通なんです。ただ私がその……経験がないから分からなかっただけで……」

    私は今にも消え入りそうな声で言葉を発した
  54. 54 : : 2015/02/04(水) 17:40:42
    「経験がない、か……」

    「はい、変でしょうか……?」

    私が心配そうに尋ねると、モブリットさんは首を振った

    「まさか、変なわけないだろ。でも初めてだと知っていれば、もう少しやりようがあったかなと……」

    「やりよう、ですか?」

    私が首をかしげると、モブリットさんは慌てた様子で首を振る

    「あー、いやいや、別に初めてだって知っていたとして、上手く運んで据え膳食えたかもなんてこれっぽっちも……」

    「そんな事を考えていたんですか……」

    私はじと目をモブリットさんに向けた

    「考えてないって! 」

    「怪しい……だって訓練抜け出して致すくらいエッチなんだもん」

    私は眉間に皺を寄せながら、腕組みをした

    「そ、それは若かったからだって……それにまだ壁も破られていなくて、皆、その、のんきだったからさ……」

    「何だか急に歯切れが悪くなりましたね、モブリットさん……ふふふっ」

    今にも泣き出しそうな表情のモブリットさんに、私は思わず笑ってしまった
  55. 55 : : 2015/02/04(水) 18:26:26
    「笑うなよ……からかわれた」

    憮然とした表情のモブリットさんに、私は笑顔を向ける

    「いつも私をからかうじゃないですか。お返しです……ふふっ」

    「……ま、いいか。あながち間違ってもいないしな」

    モブリットさんはそう言うと、息をついた

    「間違ってないんですか?」

    「……まあね。男なんてそんなものだし、君は可愛いから仕方がないよ」

    モブリットさんは目を細めながら、私を困ったように見つめた
  56. 56 : : 2015/02/04(水) 18:36:07
    「私を可愛いなんて言うの、モブリットさんだけなんですけど、どこが可愛いんですか?」

    私の言葉に、モブリットさんは首を振る

    「いやいや、皆そう思っているよ?口に出さないだけさ」

    「……でも、聞いたことが本当にないし……で、どこが可愛いんですか?教えて下さい」

    私は真剣な表情で訊ねた

    「……そうだな、ちょっと手を広げてみてくれないか?」

    「はい」

    私はモブリットさんの言葉の言う通り、手のひらを広げて差し出した

    モブリットさんは私の手に、自分の手を重ねる

    「ほら、俺より1関節分くらい小さい手だ。可愛い、もみじの様な手だよ?」

    「可愛いって……手が小さいって事じゃないですか。もみじの様なって、赤ちゃんじゃないんですから……」

    私が口を尖らせると、モブリットさんはもう片方の手を、更に私の手の上に重ねた

    「……君も俺の手が好きなんだろ?大きくて、温かくて、なんでも出来て……ちょっとエッチな手だったかな?」

    モブリットさんはそう言いながら、私の手を指先で弄ぶ

    くすぐったいような、焦れったい様な感覚に、私はどぎまぎした

    「ま、まあそうですけど……」

    辛うじてそう言葉を発すると、モブリットさんは私の手を握りしめた

    「俺も、ペトラの手が好きだよ。こんなに小さいもみじの様な手なのに、男顔負けのブレード捌きを見せる勇敢な手だ。それなのに握ると柔らかいんだ。最高だよ」

    そう言いながら、木漏れ日の様な温かくて優しい眼差しを私に向けた

    その優しさに包まれて、私は手だけではなくて、心まで暖かくなった気がした
  57. 57 : : 2015/02/04(水) 18:50:44
    「さて、もう9時だな。そろそろ部屋に帰って休みなさい、ペトラ」

    モブリットさんは私の手を離すと、突然そう言った

    「えっ……まだ9時ですよ、モブリットさん」

    「実はね、この際時間は問題じゃないんだ。そろそろ部屋に戻りなさい」

    「どうしてですか……?私なにか悪い事でもしましたか?」

    私は何だか寂しくなって、そう言った

    もう少し、モブリットさんと話をしていたかった

    というか、優しい眼差しに包まれていたかったのだ

    「いや、悪い事なんて何も無いよ。むしろ君が可愛いのが問題であって……」

    「どういう意味ですか?」

    私の問いに、モブリットさんは机を指差した

    「これが君と俺の間を隔ててるからいいものの、これがなければ今ごろまた、危ない感じになってるって事だよ……俺が」

    困ったようなモブリットさんの表情に、私はしばらく考えを巡らせた

    そして、やっと言われている意味と置かれている立場を理解すると、急に心臓の動きが活発化しはじめた

    漏れ聞こえそうなくらい、心臓が早鐘を打つ

    「そ、そうですか……」

    「ああ、そうだよ。わかったかい?」

    私は顔を真っ赤にして頷いた
  58. 58 : : 2015/02/04(水) 18:51:40
    「モブリットさん、あの……」

    私はおずおずと口を開いた

    「なんだい?ペトラ」

    「私はもう少し、一緒にいたいかなあ……と」

    私は、熱くほてった頬に手をあてながら言った

    「君は昨夜に引き続き、俺におあずけをくらわそうと言うのか……」

    モブリットさんは震えるような声で呟いた

    「ええとですね……モブリットさんといると、何だか落ち着くんです。自分のままでいられるし、安心感がありますし……」

    私がほんのり笑みを浮かべながらそう言うと、モブリットさんは眉をきゅっとひきしぼった

    「安心されているのか……?」

    「はい、駄目ですか?」

    私の問いに、モブリットさんははぁと息をついた

    「光栄だよ、ペトラ」

    そう言って、少し困ったように笑った
  59. 59 : : 2015/02/04(水) 19:48:12
    「でもね、やっぱり俺は安心で健全なお兄さんのままでいたいから、また明日話をするよ、ペトラ」

    モブリットさんは立ち上がって扉に向かった

    私も立ち上がって後に続いた

    モブリットさんの手が扉のノブに掛かった時、私はその大きな手に、もみじだと言われた小さな手を重ねた

    「今日は、帰りません」

    私はモブリットさんの背後から、そう言葉を発した

    「……ペトラ、君ね」

    モブリットさんが振り返る

    そして、私の顔を見てはっと息を飲んだ

    多分私が今までに無いくらいに、顔を真っ赤にしていたから

    心臓の鼓動と、顔の熱さが尋常じゃない

    私はそれでも、勇気を振り絞ってモブリットさんを見つめた

    鳶色の瞳の優しい先輩兵士は、切ないような甘いような、苦しいような嬉しいような、なんとも言えない表情を、私に向けていた

    「今日はモブリットさんと、一緒にいたいです」

    私は静かにそう言った

    「それ、意味はわかって言ってるかい?」

    「はい、わかっています。今日は泣きませんから」

    モブリットさんの確認にも、私は淀みなく即答した
  60. 60 : : 2015/02/04(水) 20:13:07
    「俺は、兵長じゃないよ?」

    「そんなの見たらわかります」

    私は口を尖らせた

    「……今日は途中で止めないよ?」

    「はい、覚悟は出来ています」

    「いや、そんなに気負われても……」

    モブリットさんは苦笑した

    「でも、私は初めてなんで、やっぱり少し怖いんです。だから……いつもみたいに優しくしてくれたら、嬉しいんですけど……」

    私は上目使いでそう言いながら、モブリットさんの手をぎゅっと握った

    「いつもみたいに優しくか……難しいな」

    「そうなんですか?」

    「そりゃあ、俺は昨日からおあずけ状態で、そうじゃなくても久々だし、君は普段は可愛いんだけど、不意に凄く魅惑的になるし……」

    モブリットさんは明後日の方向を向きながら、ぶつぶつ物を言った

    「じゃあ、止めておきます」

    「それは無理だ」

    モブリットさんの真剣な眼差しに、私は思わず

    「ふふふっ……モブリットさん面白い」

    笑ってしまったのだった
  61. 61 : : 2015/02/04(水) 20:14:05
    「君は小悪魔だな、男の純情を手玉にとって笑うなんて」

    私に手を弄ばれながら、モブリットさんは眉を潜めた

    「私が小悪魔だなんて……あはは。それに純情ってなんですか」

    「なんですかって、君ね」

    「……でも、モブリットさんは好きな人しか抱かないんですよね、ハンジさんがそう言ってました。と言うことは、私とそうなるのはポリシーを曲げてってなりますよね?」

    私の言葉に、モブリットさんは口をポカンとあけて、目を見開いた

    「ペトラ……それは本気で言ってるのか?それともボケてみたのか?」

    「こんな時にボケるわけないじゃないですか、もう」

    私が不満そうに言葉を漏らすと、モブリットさんが首をぶんぶん振った

    「ち、違う……ペトラ、俺はポリシーを曲げた覚えは無いよ。というか、この流れでまさか気が付いていないのか……」

    「何なんですか、もう。はっきり言って下さいよ」

    私がそう言うと、まだ信じられない、と言いたげな目を向けて口を開いた

    「俺は……君の事がずっと、好きだったって事だよ」

    モブリットさんのその言葉の響きを脳内で数回反芻した後、私は口を大きくあけた

    「う、う、うそー! 」

    「それはこっちの台詞だよ、ペトラ」

    モブリットさんはそう言うと、肩を竦めた
  62. 62 : : 2015/02/04(水) 20:19:02
    モブぺト!いいかも、期待です
  63. 63 : : 2015/02/04(水) 20:24:32
    >さっちさん☆
    ありがとうございます♪
    頑張ります(*μ_μ)♪
  64. 64 : : 2015/02/04(水) 21:53:07
    「だ、だってですよ?私は何度も兵長の事を相談したりしましたよね?モブリットさんに」

    「ああ、そうだね。話を聞くとか、一緒に飲みに誘うくらいしか力になれなかったけどね」

    「そ、その時から私の事、その……好き、だったんですか?」

    私は震える声で、恐る恐る訊ねた

    「そうだなあ、いつからかは忘れたけど、割りと会ってすぐに可愛いなあと思ったよ。好きになるのに時間はかからなかった気がする」

    「う、うそー! じゃあ凄く失礼な事をしてたんじゃない、私……」

    要するに、私は相当の鈍感だったと証明されたのだ

    気がつかないとはいえ、自分の事を好きでいてくれている人に、よりによって恋愛相談していたなんて……

    穴があったら入りたいくらい恥ずかしかった

    「別に失礼でもなんでもないよ。相談にはのりたくてのったんだし、話を聞いている時も君は可愛くて楽しかったしね」

    モブリットさんはそう言うと、笑顔を見せた

    「ご、ご免なさい、モブリットさん……」

    私は半泣きになりながら謝った

    「いいって。はっきり伝えなかった俺が悪いんだしね。ペトラは何も悪くないよ」

    モブリットさんの優しさは、ここにきても健在で……

    鳶色の瞳は狼狽える私を、柔らかく優しく包み込んでくれた
  65. 65 : : 2015/02/04(水) 22:39:43
    「さ、俺の気持ちもわかったところで、部屋に戻りなさい。さもなければ本当にいたしますよ?」

    モブリットさんの言葉に、私はしばし俯き考えた

    モブリットさんといたす事が嫌なわけじゃない

    ただ本当に怖いだけだ

    でも、優しいこの人なら、恐れもすべて包み込んでくれる気がする

    「私、やっぱり…………今日はここにいます」

    私は意を決した

    「ペトラ、俺に気を使わなくていいんだよ?そりゃあ、君の事が好きだし可愛いと思っているけどね」

    「私はいつもモブリットさんにお世話になっているし……」

    「そんな見返りが欲しくて、相談にのったりしたわけじゃないよ」

    モブリットさんは首を振った
  66. 66 : : 2015/02/04(水) 22:40:39
    「ち、違うんです……その、上手く言えないんですけど……私、モブリットさんの側にいたいんです、本当に」

    私はそう言って、モブリットさんの手をとって、思いきって私の左胸に押し付けた

    「 ペトラ?! 」

    「凄く、どきどきしてるんです、さっきから。わかりますか?」

    はにかみながらそう言うと、モブリットさんは首を振った

    「……耳を当ててみないと、音が聞こえないな」

    そう言って手を離すと、今度は屈んで耳を胸に当てた

    「どう……ですか?聞こえますか?」

    私が小さな声で尋ねると、モブリットさんは胸に耳を寄せたまま目を閉じた

    「ああ……柔らかいな」

    モブリットさんは熱い息を吐きながら呟いた

    「えっ?! それ音じゃないし! 」

    「音も聞こえるよ、ドンパンドンパン」

    「そんな音するわけないでしょうが!モブリットさんのエッチ! 」

    私は叫んで後ずさった
  67. 67 : : 2015/02/04(水) 23:43:09
    「はいはい、どうせ俺はエッチですよ。もういいから早く部屋に戻れよ……」

    「な、なんで拗ねるんですか?! 私は今日はここにいるって決めたのに! 」

    そっぽを向いて拗ねるモブリットさんに、私はそう言い放った

    「どうせまた、途中でおあずけをくらうんだよ。ペトラは小悪魔だから、俺の純情を踏みにじるんだ、きっとそうだ」

    「こ、小悪魔なんかじゃ……! 」

    「じゃあ、いたしますか」

    そう言って私の手を握るモブリットさん

    その鳶色の瞳は、まるでえさのおあずけをくらっている子犬の様に、切なく揺れていた

    「……す、少しだけなら」

    私は顔を真っ赤にして呟いた

    するとモブリットさんは、呆れたようにぽかんと口を開いた

    そして、わなわなと唇を震わせながら

    「す、少しだけとか、無理に決まってるだろ? やるかやらないか、どっちかだって……」

    と、今にも消え入りそうな声で私に言ったのだった
  68. 68 : : 2015/02/05(木) 10:27:36
    「モブリットさん、ごめんなさい」

    私は頭を下げた

    「いや、かまわないよ。思い直したなら、早く部屋に戻りなさいって……」

    優しい笑みを浮かべながら言葉を発するモブリットさんに、私はいきなり抱きついた

    「こういう雰囲気に慣れてなくて、どうしたらいいのかわからないんですが……私、決めたんです」

    モブリットさんの耳元に唇を寄せてそうささやくと、大きくて器用な手が、私の背中に回された

    モブリットさんが息を吐く

    熱い息が額にかかってくすぐったい

    そう思って顔を上げると、鳶色の瞳と目があった

    いつもの優しい眼差し

    でも、なんとなく熱のこもった光を宿しているように見える

    「大丈夫、俺も慣れてない、緊張してるよ」

    「本当ですか?」

    「ああ、当たり前だよ」

    そうか、いつもと違って見えるのは緊張しているからなのか……なら、私も同じだ

    少しほっとした
  69. 69 : : 2015/02/05(木) 10:28:15
    「本当に、俺でいいの?」

    気遣わしげにそう聞いてくるモブリットさんに、私はこくりと頷いた

    「モブリットさんがいいんです、私」

    笑顔でそう言うと、モブリットさんは肩で息をした

    そして、私の背中に回した腕に力をこめた

    「あ……」

    強く抱き締められる感覚に、思わず声をあげると、モブリットさんが耳元に口を寄せて

    「可愛い声だな」

    とささやきかけてきた

    「は、恥ずかしいです、そんな事言われたら」

    私が顔を上げてそう言うと、モブリットさんは頬に手を当てた

    「大丈夫、俺しか聞いてないから。もっと聞かせなさい」

    「そ、そんな時だけ命令口調やめて下さ……んっ」

    私は最後まで言葉を発する事が叶わなかった

    強く唇を、私のそれに押し付けられてしまったから
  70. 70 : : 2015/02/05(木) 11:49:24
    唇が離されると、今度はいきなり身体を抱き抱えられた

    「わっ! お、重たいですから下ろして下さい! 」

    私は人生初のお姫様抱っこに思わず叫んで、モブリットさんの髪の毛を掴んだ

    「大丈夫だよ、軽い軽い。こら、ジタバタしない」

    「だ、だってだって……」

    私の声を聞いているのかいないのか、モブリットさんは意に介さず、そのまま足を踏み出す

    私の身体をポスッとベッドに優しく落とし、モブリットさんはふわりと私の頬を撫でた

    そして自分の胸元の立体機動ベルトをはずし、シャツの襟元を片手で弛める

    その仕草が妙にセクシーに見えて、私の心臓が早鐘を打ち始めた

    「ペトラ」

    モブリットさんの声が私の名を呼ぶ

    「は、はい」

    私の返事に応えるように、モブリットさんは頭に手をやってくしゃっと混ぜる……いつもの様に

    そして、いつもよりも若干熱を帯びた、だけど十二分に優しく柔らかな鳶色の瞳を私に向けた

    「途中で嫌だったら、言うんだよ?」

    表情と同じ様な優しい声色でそう言うと、親指の腹で私の頬を撫でた

    「あ……でも、今日は止めないって……」

    「嫌なのに無理矢理なんかしたくないんだよ。君は初めてなんだろ?君が出来るところまでで構わないんだから、ちゃんと言うんだよ?」

    モブリットさんは優しい

    私は心の底からそう思った

    そして、この人に全てを委ねたいと思った

    「モブリットさん……大好き」

    私の小さな声は、でも確実にモブリットさんの耳に届いただろう

    モブリットさんは感無量と言った感じで相好を崩した

    「ペトラ、ありがとう」

    そう言うと、私の上に屈み込んだ

    ゆっくり落とされる唇は、とても柔らかくて……

    私はただ必死に、その唇を求めた

    私がずっと包まれていた柔らかな温もりを、そこからも感じたくて
  71. 71 : : 2015/02/05(木) 14:36:31
    モブリットさんは腫れ物を触るような繊細な手付きで、私の頬から耳、首筋に触れていく

    「あっ……ん……」

    その刺激に意図せず声が漏れる

    自分の口から飛び出したとは思えない程に、甘くて熱い、声

    恥ずかしい……けれど抑えられない

    目をつぶってみても、歯を食い縛ってみても、モブリットさんが私に与える刺激に声を出さずにはいられない

    首筋から鎖骨へと指が滑っていく

    「あ……」

    ああ、もうだめかもしれない

    恥ずかしくて死んでしまいそう

    そんな私の気持ちとは裏腹、モブリットさんの指は私のシャツのボタンを外してはだけさせ、シャツの隙間に侵入した

    大きな手は、下着ごと私の胸をやんわりと揉む

    「柔らかいな、それに大きい」

    そう呟きながら、弾力を確認するかの様に何度も繰り返し揉まれた
  72. 72 : : 2015/02/05(木) 14:50:52
    「お、大きいですか……?あぁっ! 」

    話そうとした瞬間、下着の下から直接、胸の先端に刺激を加えられる

    背筋に電流が走ったような感覚にとらわれて、一際大きな声が出てしまった

    「大きいよ。立体機動の邪魔にはならない?」

    「……な、なりませ……んっ!?ちょっと……話せな、……あぁ……」

    モブリットさんは意地悪だ

    私が話をしようとした矢先に、矢継ぎ早に胸の先端に刺激を与えてくる、絶対にわざとだ……

    「邪魔にはならないんだな。なるほど」

    「モブリットさんの意地悪……」

    私は恥ずかしさのあまり、目に涙をためた

    「意地悪って……いつも通り優しくと言われたから、いつも通り話しかけてるだけなんだけどな」

    「わ、私が返事しようとしたら……っんー 」

    そしてまた、言葉の途中で邪魔される

    いきなり強く押し付けられる唇

    離れ際にもう一度ついばむように口付けられて、もう何も言えなくなる

    「ペトラ、ごめん。可愛い反応だからつい……」

    「……もう、モブリットさんのバカ」

    「いてっ!」

    突然申し訳なさそうな顔をするモブリットさんに、私はでこぴんをくれてやったのだった
  73. 73 : : 2015/02/05(木) 14:53:41
    じゃれ合うように絡まりあっているうちに、お互いの呼吸が切迫したように荒くなる

    抗いようのない快感に、もう声は抑えない

    恥ずかしさも何処かへ吹きとんで、何も考えられなくなる

    お互いの体温を奪い合うように身体を密着させれば、それだけで後はもう何も欲しくないと思えて、必死にしがみつく

    破瓜の瞬間、彼が耳元で発した言葉に、私は痛みとは別の意味で涙をこぼす

    それをまた必要以上に心配する彼が愛しくて

    私は幸福感でいっぱいになった

    鳶色の彼の優しい愛に包まれて、この時が永遠に続けばいいのにと思いながら……
  74. 74 : : 2015/02/05(木) 15:59:49
    事後、お互い一糸纏わぬ姿で、小さなベッドに身を寄せあっている

    全く寒くはない

    先程の行為による熱がまだ冷めきっていないから

    「ペトラ、本当に大丈夫かい?」

    私の隣で尚も心配そうにそう問い掛けてくるモブリットさん

    あの瞬間涙をこぼしたのが、余程堪えたらしい

    「大丈夫だって、何回も言ってますよ?モブリットさん」

    私は不安に揺れている鳶色の瞳を見つめながら、手を伸ばした

    頬に触れれば、くすぐったそうに目を細める

    可愛い、漠然とそう思った

    「そうなんだけど……無理をさせたんじゃないかってね」

    「大丈夫ですよ、本当に。痛くて泣いたわけではありませんし」

    私の言葉に、モブリットさんはふぅと息をついた

    「そうか、それなら良かった」

    「はい」

    私は笑顔でそう言うと、彼の胸に顔を埋めた

    目を閉じれば、トクトクと鼓動が聞こえてくる

    落ち着く音だ

    背中に腕が回されて、ふわりと抱かれる

    まるで私の身体をいたわるように、優しく
  75. 75 : : 2015/02/05(木) 16:00:30
    「痛くて泣いたわけじゃないなら、なんで泣いたんだい?」

    モブリットさんの言葉に、私は顔を上げた

    「嬉しかったから」

    「…………」

    「愛してるって言ってくれて、嬉しかったから」

    私がそう言った時の彼の表情を、一生忘れない

    今にも泣きそうな程鳶色の瞳を揺らして、なんとか涙を我慢して、柔らかな笑みを浮かべた、そんな表情を

    私は一生、いいえきっと生まれ変わっても

    ずっとずっと忘れない

    「私もあなたを愛しています」

    私の言葉に、彼は目を閉じた

    「ありがとう……」

    その瞳から一筋だけこぼれ落ちた涙

    私はそれにそっと口付けた

    自然に重なり合う唇に、お互い全ての愛をのせて

    たとえ何かが私たちの間を裂いたとしても、いつか必ずまた出会えるように

    心に身体に、そして魂に、お互いの愛を記していく

    それが離ればなれになった時の、目印になるように



    ─完─
  76. 76 : : 2015/02/05(木) 16:00:52
    《おまけエピソード》

    翌朝

    「兵長、ペトラを俺に下さい。必ず幸せにしますから」

    「……ちっ、人の部下に手をつけやがって。物には順序ってもんがあるだろうが。覚悟は出来ているんだろうな」

    カチャ……

    リヴァイの手が、スナップブレードのトリガーにかかる

    仁王立ちのリヴァイの足元には、跪き頭を下げているモブリットの姿があった

    ペトラを抱いた翌日、身支度を整えて真っ先に向かったのは、ペトラの上司、リヴァイ兵士長の元だった

    彼は真面目な人となりから、まずは上司に話を通すのが筋だと考えたのだ

    そしてその足で、ペトラの実家に行くと決めていた

    「はい、出来ています」

    「…………」

    チャキッ

    リヴァイがトリガーにブレードの刃を装着した

    その時だった

    「ちょっと、ちょっと待って下さい! 一体これはどんな状況なんですか?! 」

    二人の間に割って入ったのは、昨夜モブリットによって処女を散らされたペトラその人だった

    「ペトラ、下がっていてくれ。これは避けては通れない試練なんだ」

    「いやいやいや! 兵長切ろうとしてますよ?死にますって! 」

    ペトラは首を振った

    「そうだ、ペトラ。退け」

    「兵長、だめです! 」

    「俺はお前のおやじがわりだ。大事な娘を汚された、その礼はきっちり払ってもらわねえとな」

    リヴァイはペトラに構わず、モブリットにじりじりと近付いた

    トリガーに手をかけたまま……

    そして、ブレードをすらりと抜き去りながらモブリットを睨み付けた

    「……………」

    モブリットは、真摯な眼差しをリヴァイに向けた

    リヴァイはブレードを振り上げて、そのまま真下にすっと落とした

    「だ、だめー! 」

    ペトラがモブリットを庇おうと、身体を投げ出す

    コンッ

    その瞬間、可愛らしい音がモブリットの頭の上から聞こえた

    「……っ痛」

    「みねうちだ。幸せにしてやってくれ」

    リヴァイはそう言い捨てると、その場を後にした

    「…………び、びっくりしたぁ」

    ペトラはへなへなと膝を折った

    「死んだと思った……」

    モブリットはペトラの身体を支えてやりながら、肩で息をした

    「………………ペトラ、お前」

    その時、二人にまた誰かが立ちふさがる

    「あっ、オルオ」

    「俺と言う旦那がいながら、モブリットさんにだ、抱かれたのか……何てことだ」

    オルオは震える声でそう言った

    「誰が旦那なんだよ! バカオルオバカ! 」

    「オルオ、すまない。ペトラは俺が幸せにするから安心してくれ」

    モブリットがそう言うと、オルオははぁと息をついた

    「ま、まあいいでしょう、仕方がねえ……。ところで、ペトラの胸はどんな感じでしたか?それを是非詳しく……」

    「うーん、これくらいの大きさで、白くて柔らかくて、感度もばっちりの素敵な胸だったよ」

    「ごらぁぁ! モブリットさんなぁにを言ってるんですか! バカ! 」

    ペトラはオルオとモブリットの頭を、トリガーで思いきり殴ったのであった



    ─完─
  77. 77 : : 2015/02/05(木) 16:05:27
    《未来への階》

    壁の上から遥か遠く、地平を見渡す

    壁外で散ってしまった、最愛の人

    もう彼女は何処にもいない

    勇敢に戦い、戦死を遂げた

    思えばその作戦が知らされた時、作戦の本質を知らない彼女に、真実を話そうか自分は迷った

    作戦の真意が知らされたのは、ウォールマリア崩壊前に調査兵団に属していた、信頼が証明できるほんの一部の兵士にだけだった

    その中に含まれていた自分と、ウォールマリア崩壊後に調査兵団入りした彼女

    自分には知らされていて、彼女には知らされてはいなかった作戦の本質

    だが彼は、話さなかった

    兵士として、上からの命令は絶対だ

    ましてや最重要事項を、漏らしてはならない事くらい理解している

    だが彼は、話さなかった事を後悔していた

    壁外遠征前夜、いつもの様に交わった後、彼女に、いつもよりも不安そうな顔をしていると言われた時、真実を話していれば

    彼女は死なずに済んだのではないだろうかと

    最愛の人を失った哀しみは、重い影のように彼の背中にのし掛かっていた
  78. 78 : : 2015/02/05(木) 16:05:57
    これが終われば、結婚を申し込もうと思っていた

    彼は手を広げた

    その手に乗っている、小さなダイヤモンドの指環は、持ち主を探すかの様にきらり、きらりと月明かりをうけて輝いた

    「なあペトラ、俺はどうしたらいい?ここから飛び降りれば、君に会えるのかな」

    彼は一歩、壁際に踏み出した

    「幸せに、してやれなくてごめん……」

    彼は壁ぎりぎりの所で足を止めた

    「これも、渡せなかった」

    ダイヤモンドを月にかざすと、まるで彼女の笑顔のようにきらきらと瞬いた

    彼は目を閉じた

    この世に未練など、もう何もない

    足を一歩、踏み出そうとしたその時だった

    「……おい、まてモブリット」

    背後からかかる声

    振り返れば、仏頂面のリヴァイがいた
  79. 79 : : 2015/02/05(木) 16:26:24
    「兵長」

    「何て面してやがる」

    リヴァイはそう言いながら、彼に一枚の封筒を手渡した

    「……これは」

    「ペトラの部屋から出てきた。お前宛だ」

    彼が封筒を確認すると、確かに彼の名前が書かれていた

    裏にはペトラ・ラルと記してあった

    彼は徐に封筒を開けた

    そして、中に入っていた一枚の手紙を、食い入るように見詰めた

    読み進めるうちに、鳶色の瞳からこぼれ落ちた涙

    それは彼の頬にまるで川が流れているように後から後から伝っていった
  80. 80 : : 2015/02/05(木) 16:26:39
    「……何て書いてあったか知らねえが、あいつは悟い。お前や俺が何かを隠していた事に気がついていた。そしてそれを伝えなかった事を悔やむだろう事にも、あいつは気がついていたんだ」

    「…………はい」

    「お前はどうする。ここで退場するか?楽になるか?それとも、あいつの命も背負って生きていくか?選べ、モブリット」

    リヴァイの言葉と、彼女からの手紙、そして手のひらにある小さなダイヤモンド……彼女の笑顔の様に輝くそれが、今にも崩れそうな彼の心を、寸前のところで押し留めた

    「俺は、歩みを止めません。彼女のためにも、自分が出来ることにこれからも、精一杯努めます」

    「……当然だ。行くぞ」

    リヴァイはそう言うと、モブリットの肩をポンと叩いた

    「はい、兵長」

    モブリットはリヴァイの後に続く

    手のひらを広げると、ダイヤモンドがきらきらと瞬いた

    その輝きは永遠

    彼はそこに、確かに彼女の笑顔を見た



    ─完─
  81. 81 : : 2015/02/05(木) 16:55:52
    ペトラぁぁあ!。+°(:°´д`°:)°+。
    うわぁぁ、感動!このお話を読んで、再び思った事が…どうしてペトラは、死んでしまったのぉよ!
    モブペト大好きです…!はい、モブペトバンザイ!
    ロメ姉さん、また書けたら、モブペト待ってます。
    お疲れ様でしたぁ(⊃д`°;)°+。:・°+…:°。
  82. 82 : : 2015/02/05(木) 17:07:00
    >ゆう姫☆
    読んでくれてありがとう!
    ペトラをあまり書けなかった理由に、やっぱり悲しい結末にしかならないからというのがありました

    ですが、彼女は早く逝ってしまったけど幸せだったと思いたいし、きっとまたいつか生まれ変わって幸せになれると思いたくて書きました

    モブペト、次はもっと明るい結末のを書きたいなw

    いつもありがとうね(*μ_μ)♪
  83. 83 : : 2015/02/05(木) 17:22:28
    ペトラ可愛い‼︎
    そして最初から最後までいたしちゃってるモブペトありがとうございましたw
    最近ロメ姉のおかげでモブリットは肉食系だなと思うように…
    でもやっぱりモブリットは優しいね!
    執筆お疲れ様でした( ゚∀゚)ノ
  84. 84 : : 2015/02/05(木) 18:23:09
    >りぃちゃん☆
    いつも読んでくれてありがとう♪
    モブリット、いたしちゃってますねぇw
    たまにはい、いいよね。うむw
    弱いモブリットも書きたくなってきた今日この頃
    ペトラは可愛いんだよねえ……
    死んでほしくなかったわ( TДT)
  85. 85 : : 2015/02/10(火) 03:38:31
    素敵でした。
  86. 86 : : 2015/02/10(火) 07:33:10
    >とあちゃん☆
    読んでくれてありがとう!
    嬉しい(*μ_μ)♪

▲一番上へ

このスレッドは書き込みが制限されています。
スレッド作成者が書き込みを許可していないため、書き込むことができません。

著者情報
fransowa

88&EreAni☆

@fransowa

「進撃の巨人」カテゴリの最新記事
「進撃の巨人」SSの交流広場
進撃の巨人 交流広場