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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

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リヴァイ『その背に負うは 穢れ無き翼』1225記念

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  1. 1 : : 2014/12/03(水) 14:01:12
    リヴァイといえば、言わずと知れた人物であろう

    彼の人となりは粗暴で近寄りがたい
    目付きが悪く、背が若干低い

    口数が少なく、稀に饒舌になった時も、その話の意味を周囲に理解させる事が出来ない程、皮肉った言い方しか出来なかった

    そんな彼を周りの人間と繋げる役割を果たす、謂わば潤滑油足り得た存在が、ハンジ・ゾエだろう

    彼女もまた、言わずと知れた人物

    リヴァイとはまた違った意味でだが

    そんな彼らの若かりし頃の物語

  2. 2 : : 2014/12/03(水) 14:42:30
    つんざく様な巨人の咆哮

    血生臭い空気

    壁外にいればこれらの事象は珍しくはない

    現に今も、第一旅団東南策敵班はこれらの二つに脅かされていた

    死者多数、負傷者多数

    負傷者の救護もままならない、そんな状況

    辛うじて生きている者も、巨人の圧倒的力によって今にも食い尽くされそうになっていた

    そう、巨人は文字通り人を食う…いや、飲むといった方が正しいか

    とにかく調査兵団第一旅団東南策敵班は、そんな危機的状況に陥っていた



  3. 3 : : 2014/12/03(水) 14:52:01
    そんな状況の中でも、瞳が恐怖で縛られていない人物が存在した

    「ドッ……セイ!!」

    独特な掛け声と共に、自在に宙を舞う一人の兵士

    兵士の刃が煌めく瞬間…巨人の肉がごっそり削がれていく

    みるみるうちに原型を留めない肉片と化す、巨人

    だがそれを近くで見ていた兵士がぼそりと呟く

    「また、狂ってやがる」

    兵士は馬を操りその場を後にしようとした

    だが、鐙を返した所で立ち止まる

    「……ちっ」

    兵士は舌打ち一つすると、宙を舞う兵士の方へと向き直った

  4. 4 : : 2014/12/03(水) 16:20:26
    宙を舞う兵士は、未だに舞い続けていた

    肉塊となった巨人は、みるみるうちに体を再生させる

    その部分をまた、兵士が切り刻んでいく…いたちごっこだ

    兵士は不敵な笑みを浮かべながら、愉しげに肉を削ぐ作業に興じている

    馬上の兵士は、その様子に苦虫を噛み潰す様な顔をした

    「おい、ハンジ。お前いい加減にしろ!」

    馬上の兵士の声が聴こえたのか、宙を舞うハンジと呼ばれた兵士は、巨人の背中に取りついた

    「何?今良いところなんだけどな。邪魔しないでくれよ」

    ハンジは不満そうに言葉を発した
  5. 5 : : 2014/12/03(水) 16:27:23
    「何がいい所なんだ、バカが」

    馬上の兵士は馬の上から巨人の体へと、ワイヤーを射出する

    それと同時にボンベに注入されているガスを蒸かす

    すると兵士の体は風を切る様に、宙を疾走する

    そして、暴れる巨人の背中に取りついた

    「何がいいところって…男でいえば、男女の営みのフィニッシュの場面だ、わかるかい?」

    ハンジは隣に降り立った兵士に、血走った目を向けた

    兵士は表情一つ変えず、ふん、と鼻で息をする

    「んなもんわかるか、メガネ。さっさとやらなきゃガス欠になるぞ」

    「あーあ、いい所でまぁたリヴァイに邪魔されたよ…気持ちいいところでいっつも止められる…」

    ハンジは肩を竦めた

    血走っていた目が、幾分冷静さを取り戻したかの様に見えた

    「うるせえ、よがるならベッドの上だけにしとけ、バカメガネ」

    「へえ、よがらせてくれるわけ?君が…」

    リヴァイと呼ばれた兵士は、ハンジのその言葉に盛大に舌打ちをすると、トリガーを握ってアンカーを射出する

    巨人の頭の頂点に…

    リヴァイの体は巨人の頭上遥か上にまで舞い上がり、今度は稲妻の様な機動を描きながら墜ちて行く

    「ヒュー!!相変わらず凄いな!!」

    ハンジはそれを見て叫ぶと、自らも体を舞い上がらせた

    アンカーは巨人の首に突き刺さる

    リヴァイの稲妻の様な斬撃が巨人の頭を薙いだ数瞬後、ハンジは横合いから巨人のうなじに向けて刃を閃かせる

    「ドッセイ!!」

    その掛け声と共に、巨人のうなじがばっさりと切り落とされたのであった
  6. 6 : : 2014/12/03(水) 16:56:18
    多大な犠牲と、殆ど実りのない壁外遠征は、民衆からも卑下され続けてきた

    死に物狂いで戦って、やっと生きて帰ったとしても、彼らを待つのは蔑みと憐れみの入り交じった目

    そんな中でも自分を律していなければならない彼ら調査兵団は、生半可な精神力では勤まらなかった

    この危険な調査兵団に、志願して入った若者たち

    彼らは自由を求める翼になるために戦い続けている

    少しでも、人類生存の突破口を拓くために

    勇敢な先人たちを習ってただひたすら、戦いに明け暮れる日々

    そんな彼らにも、休息は必要だ

    戦い疲れて寝るものもいれば、とにかく食べる者、酒を飲む者、家族に会う者…

    壁内に戻った彼らは事後処理の後、つかの間の休息をとるのだった

  7. 7 : : 2014/12/03(水) 17:12:37
    「疲れたね。相変わらず悲惨な遠征だ。ロビン、ターク、ベン、フランツ…数えきれないくらい、部下が死んだよ」

    ある大衆酒場でクダを巻いているのは、メガネの兵士、ハンジ

    ダークブラウンの髪に、ヘイゼルの瞳

    遠征の最中は血走らせていたその瞳も、今は霧が揺蕩う様に力を無くしていた

    ハンジは机に肘をつきながら、酒臭い息を吐いた

    「壁外はそういう所だ」

    ぼそっとそう言うのは、リヴァイ

    艶やかな黒髪をばっさり刈り上げて、白いブラウスに白いスカーフを首から下げている

    壁外では鋭く尖ったような目をしているが、今は幾分柔らかな光を宿している様に見えた

    「そういう所だけどさ…なんか、なんとか、ならないのかな…って…」

    ハンジは眼鏡を外すと、机に突っ伏した

    肩がかすかに震えていた

    「なんともならねえ。俺だってお前だって、自分が生きるのに精一杯だ。いや…だがお前は…わかってるだろ」

    リヴァイの言葉に、ハンジは顔をあげて頷く

    「ああ…私が正気でいられたら…もっと被害が防げたはずだ。私の…私のせい、だ…」

    「バカメガネ、自惚れんな。お前一人の力で被害が防げるはずがねえだろうが。ほんの少し防げたくらいだ」

    リヴァイは何時もよりかなり優しげな声色でそう言うと、ハンジの背をぽんぽんと叩いてやった

    「少しは、防げたんだ…だから私のせいだ」

    「お前、いい加減しつこいぞ。バカメガネ」

    ハンジの瞳から溢れる涙を乱暴に拭いてやりながら、リヴァイはため息をつくのだった
  8. 8 : : 2014/12/03(水) 18:18:59
    壁外でのハンジの暴走も、その事後のクダ巻きも、ここ一年くらいずっと続いている

    リヴァイと出会った頃のハンジは、兵士達の間でも信頼厚く、天性の強さに優れた頭脳も相まって、まさに優等生といった風情を醸し出していた

    突然調査兵団に入団した曰く付きのリヴァイにとって、ハンジの様な、人を出生地や住んでいた場所に拘らず、気さくに声をかける存在は貴重であった

    最初はただ、自分の技術を奪いたいだけで近寄って来ているとリヴァイは思っていた

    だが共に過ごすうちに、その考えが誤っていた事を認識した

    ハンジは度を越えたお人好しで、とにかく困っていれば放っておけない性格だった

    だから、いきなり調査兵団に入らされ、しかも初陣で馴染みを失ってドン底にいたリヴァイを、ハンジは掬い上げたのであった
  9. 9 : : 2014/12/03(水) 18:24:57
    やっと調査兵団での生活にも慣れ、兵士達からも蔑みではなく、尊敬と畏怖を受けるようになった

    だがそんな折りに、今度は助けた方がドン底に陥る

    ハンジは壁外に出る度に徐々にその性質を変え、やがて精神に異常をきたすまでに至った

    壁外では、血走った目で巨人の姿を無茶苦茶に追い、帰れば泣きじゃくる

    リヴァイはそんな姿を繰り返し見せつけられた

    助けられた恩を返すなどという感覚はリヴァイにはなかった

    ただ何となく、ハンジの事を放っておけず、こうして酒のみに付き合っていたのであった
  10. 10 : : 2014/12/03(水) 19:01:20
    「ひっく…もう少しお酒、ちょうらい…」

    ハンジは目じりに涙の跡を残しながら、グラスをリヴァイの前に押しやった

    リヴァイはそれを押し戻す

    「お前、飲み過ぎだ。もう止めておけ。帰れなくなるぞ」

    「何だよ…酒くらい好きに飲ませてくれよ…リヴァイ」

    ハンジは目を擦りながら不満そうに口を開いた

    「もう二日分は飲んだ。それにお前…眠たいんだろうが。目、擦るな。真っ赤になってるぞ」

    目をごしごしと擦るハンジの手を、リヴァイは止めた

    ハンジはその手をとって、自分の頬に押し付ける

    「リヴァイ…手もちっさいね…ふふ」

    「また言いやがったな、クソメガネ」

    リヴァイはいつも背丈をネタにするハンジに、鋭い視線を向けた

    「チビは嫌いじゃないよ?私は」

    「お前の趣味は聞いてねえ。帰るぞ」

    リヴァイはそう言うと、ハンジの手を握り立たせた

  11. 11 : : 2014/12/03(水) 20:52:08
    リヴァイとハンジの間に、男女の関係があるわけではない

    ただ彼らが生きるための支えを欲した時に、たまたまお互いが側にいた

    それだけの繋がりでこうして共に過ごしている

    今夜も静まり返った夜の街道筋を、足取りの覚束ないハンジを半ば抱える様に、リヴァイは調査兵団兵舎へ向かっていた

    リヴァイが肩の上に顎を乗せた状態のハンジに、ちらりと目をやる

    彼女は今にも寝そうな顔つきであった

    「おい、重てぇ。お前の顎が尖ってて痛えんだよ」

    リヴァイはそう毒づく

    こんな所で寝られたら、担いで帰らなければならない…以前そうなって、仕方なく担いで帰った所、それを門兵に見とがめられ、エルヴィンにまで話がいってしまったのだ

    エルヴィンに借りは作りたくない、それに変な噂が立つのもごめんだ…既成事実はないというのに

    リヴァイの心の中を読んだのだろうか

    ハンジはうっすら目をあけて、リヴァイの耳元で囁く

    「よがらせてくれるのは、いつ…?ふふ」

    「……何寝ぼけてやがる、バカメガネ」

    リヴァイはひょいっと体を低くした

    そのはずみでハンジは前につんのめる

    「おっとっと…全くつれない男だね、君は」

    ハンジはいたずらっぽくそう言うと、先程までの覚束ない足取りはどこへ消えたやら…

    スタスタと歩き始めたのであった



  12. 12 : : 2014/12/03(水) 22:09:21
    壁の中でひっそり息を潜めて暮らしていた人間

    彼らが怯えるのは、百年ほど前に突如現れた巨人の存在

    巨人は人を食らう

    それだけを糧に生きている様だ

    様だ、と言うのは…まだ詳しい生態が解明されていないからだ

    巨人には身体の再生機能があり、排便器官は無い

    彼らは巨体に見合わぬ俊敏な動きをする

    その動きに、巨体から繰り出す力が加われば、人間などひとたまりもない

    そんな巨人にも唯一弱点があった

    彼らはうなじを無くすと、煙に巻かれる様に蒸発したのだ

    そのうなじの弱点が解ってから、人類は巨人と戦う術を常に模索してきた

    そしてその技術が、調査兵団をはじめとする兵士達に受け継がれて来ていたのであった
  13. 13 : : 2014/12/03(水) 22:16:44
    調査兵団は、他の兵団…駐屯兵団、憲兵団よりも一層優れた戦闘能力を有していた

    彼らは常に生死をさ迷うような過酷な戦いの中、確かな技術を学んでいった

    そんな調査兵団の中でも群を抜く戦闘能力を持つのが、リヴァイだった

    彼は調査兵団分隊長、エルヴィン・スミスに下る形で調査兵団入りした

    エルヴィンの見立て通り、リヴァイはまさに天才だった

    みるみるうちに頭角を現し、一年たった今では、知らない人はいない程の存在になった

    人類最強の男

    彼は彼自身が望んだわけではない称号を煩わしく思いながらも、その立場に見合う働きを見せてきたのである
  14. 14 : : 2014/12/03(水) 22:25:49
    ハンジを部屋に送り届けたリヴァイは、自室で一人静かに紅茶を嗜んでいた

    人類最強の男は、紅茶が大好物だった

    ティーカップの持ち手を持たず、カップの枠を上から鷲掴みにする様に持つのが彼のスタイル

    その持ち方にも実は訳があったが、本人はそれを語りたがらない

    実は彼は地下街出身で、ティーカップすらまともに手に入らなかった幼い頃、大事にしていたカップの取っ手を壊してしまったのだ

    それ以来彼は、一風変わったスタイルで紅茶を飲む様になった

    窓の外から眺める星は、美しい

    壁外の夜空も美しい

    空はどこから見ても美しいのに、何故人はどこまでも遠くへ行けないのか

    何故縛られていなけれはならないのか

    リヴァイは一瞬考えたが、すぐに諦めた

    もう後戻りは出来ない、戦うしか道はないのだから
  15. 15 : : 2014/12/04(木) 09:08:55
    「今回の壁外遠征でも、見事な活躍だったらしいな、奴は」

    調査兵団本部のある一室で、一人の男が口を開いた

    顎に無精髭を生やし、頭髪は黒いがかなり量が少なくなっている

    顔には沢山の皺と、傷があり、歴戦の兵士の風貌そのものだ

    「はい、キース団長」

    もう一人の男が、彼の言葉に相づちを打った

    「お前の見立て通りだ。流石だな、エルヴィン」

    「いえ、全ては彼を引き入れるために尽力して下さったあなたと、ザックレー総統のお陰です」

    もう一人の男はそう言うと、金の髪を冠した頭を下げた

    「だが奴がいくら強かろうと…遠征の結果はいつもとさして変わりは無い。上からまた、遠征を半永久に中止すると言う意見が噴出しはじめた。いかんともし難い現実だ」

    キースの言葉に、エルヴィンは頭をあげて首を振った

    「いいえ、キース団長。彼の存在は無駄ではありません。彼の名声によって、我々調査兵団は首の皮一枚繋がっているんです」

    エルヴィンはキースの目をじっと見つめてそう言い切った

    その瞳の奥深くに、青い焔が燃え盛っている様に見えた

    「なるほどな。人類最強の男という冠か…」

    「はい、集団が苦境に立たされた時にこそ、英雄の名前が必要です。彼は…リヴァイは、その点で調査兵団に多大に貢献しているのです、団長」

    キースはエルヴィンの言葉を聞いて、ため息をついた

    「遠征の結果ではなく、人類最強の男という看板に民衆の目を向ける…か」

    「はい、キース団長。調査兵団は彼がいる限り、畏怖されるべき存在となるでしょう。彼が、調査兵団の行く末を握っていると言っても過言ではないと思っております」

    エルヴィンは頷くと、力強い敬礼を施した

    「そうだな。リヴァイと…お前が調査兵団の将来を担うんだ、エルヴィン」

    キースはそう言って、エルヴィンの肩をぽんと叩いたのであった

  16. 16 : : 2014/12/04(木) 14:26:55
    そんな団長と分隊長の話の張本人は、自前の大事なティーカップを綺麗に洗い、棚にしまい込んでいた

    前に勝手に使われていた事があったので、目につかないよう棚の奥へ入念に押し込んだ

    「クソメガネ、勝手に使うのはまだいいが、取っ手を雑に扱いやがるからな…」

    そう一人ごちる所で、彼の勝手几帳面というか、神経質ぶりが伺える

    彼は非常にきれい好きでもあったから、室内も塵一つ無いほど掃除が行き届いていた

    勿論部屋の掃除は本人が行う

    リヴァイの部屋は他のどの兵士の部屋よりも整理がされて清潔だった

    「さて、寝るか」

    リヴァイはそう言うと、壁外の方を向いている窓辺に歩み寄る

    そして目を伏せ何かを呟くと、ベッドにそっと、まるで埃が舞うのを防ぐかのように横たわるのであった

  17. 17 : : 2014/12/04(木) 14:53:03
    一方、ハンジはと言うと、まだ一人部屋を与えられてはいない

    一人部屋は本来班長以上でないと割り当てられない

    ハンジには同室の兵士がいる…いや、正確にはいた

    だが、彼女は先の遠征で命を落とし、ハンジは事実上一人部屋状態であった

    四人が寝泊まりできる広い部屋

    ハンジはそのベッドの一つに、どかっと腰を下ろした

    埃が舞うなど気にしない

    部屋は相変わらず本やらメモやら服やら何やらで、ごった返している

    「いつも、散らかすと叱ってくれたよね…。で、結局片付けてくれた。彼女はいいお嫁さんになったよ」

    ハンジは俯き目を伏せた

    リヴァイが言うように、自分一人の力で彼女らを死なせない様になど、無理な話だ

    だが、ハンジは底無しのお人好しで、底無しの慈愛の精神の持ち主だった

    だから、助けられなかった兵士達を思い、なにかが出来なかったかと悔やみ、涙した

    そんな後悔を幾度となく繰り返すうちに、

    自分の力の至らなさを痛感するうちに

    壁外で頭に血が上って、冷静な判断がいつしか出来なくなった

    自分は鬼になったのだと言い聞かせた

    全ての巨人を駆逐する鬼になったのだと

    だがいくら巨人を狩ろうとも、その数が減る様子は無く…

    いつしか巨人がただ憎い存在でしかなくなり、あらゆる残虐な狩り方で天敵を弄ぶ様になった

  18. 18 : : 2014/12/04(木) 15:22:59
    翌日もその翌日も、調査兵団は壁外遠征の事後処理に追われていた

    キースやエルヴィンは、戦死者の家族の元へ報告に駆け回り、その他の面々は、提出書類、馬車や馬、立体機動装置の整備等を分担していた

    帰還後も休む暇はなかった

    特に何の成果も得られなかった遠征の後に、休む暇など与えてくれようはずが無い

    リヴァイも黙々と馬の世話をしていた

    馬の世話は、潔癖性のリヴァイは嫌うのかと思いきや、自ら進んで行っていた

    リヴァイは殊更丁寧に、自分の馬だけではなく仲間の馬の世話もしていた

    いつもの鋭い眼光は成りを潜め、優しげな瞳を馬達に向けている

    彼は人に対しては必要以上に警戒するが、それ以外には驚くほどに寛容であった
  19. 19 : : 2014/12/04(木) 15:38:54
    「リヴァイさ~ん」

    戯けた口調で名前を呼ばれた彼は、馬のブラッシングの手を止め、眉を潜めた

    「なんだ、クソメガネ」

    振り向きもせずそう言うと、またブラッシングを再開するリヴァイ

    「お馬さんたち元気?わお、気持ち良さそうにしてるね~」

    ハンジは迷惑そうなリヴァイを気にする事なく、馬を優しく撫でた

    「ヒン…」

    馬は目を閉じて軽く鳴いた

    「邪魔すんな、クソメガネ」

    「私も世話をしようかとね」

    ハンジはそう言うと、後ろから顔を出して自分の髪の毛をつつく馬を振り返った

    「ここは間に合ってる」

    「でも、この子が離してくれない。この子、リヴァイの子だよね。主人に似ずに大人しくて可愛いね」

    ハンジはそう言いながら、馬の眉間を撫でた

    「俺の馬に触るな」

    「触ってきたのはお馬さんからだよ、ねー?」

    「ちっ…好きにしやがれ」

    リヴァイは舌打ちをすると、またブラッシングに勤しんだ
  20. 20 : : 2014/12/04(木) 20:07:10
    「ねえねえ、もうすぐだね。毎年恒例のあれ」

    ハンジの言葉に、リヴァイはブラッシングの手を止める

    「あれってなんだ。俺はまだここに来てやっと一年。毎年とか言われてもわからねえ」

    「…あ、そっか。去年の今頃だっだったもんね、リヴァイがここに来たの。えっとね、もうじき新人さんが入ってくるんだよ」

    ハンジは、自分の髪の毛を()んでくるリヴァイの馬を、窘めるように鼻先をつつきながら言った

    「新人…訓練兵の卒業か」

    「そっそ。今年は何人来てくれるかなあ。毎年希望者が減ってきてるからね。ゼロもあり得るよ、この状況なら…」

    ハンジは肩を落とした

    「好き好んで壁外へ行きたがる奴など、お前くらいなもんだろ、ハンジ」

    リヴァイは、そんなハンジをチラリと横目で見てそう言った

    「私みたいな物好き、たくさんいたらいいなあ」

    「お前みたいなのが沢山いたら鬱陶しい」

    リヴァイは眉を弦を引き絞る様にしかめた

    「またまたあ、嬉しいくせに」

    「嬉しいわけねぇだろうが、クソメガネ」

    リヴァイはそう言い捨てると、その場を立ち去ろうとした

  21. 21 : : 2014/12/04(木) 20:17:46
    「待って待って!!今日も夜付き合ってくれよ」

    ハンジは慌ててリヴァイの手を握って動きを遮った

    「またかよ。もう酒は飽きた」

    「いいじゃないか。今日は少しにするからさ…」

    ハンジは手を引き離そうとするリヴァイに抵抗しながら、口を尖らせた

    「一人で行けよ…」

    「こんなに物騒な時期に、女の子一人繁華街を歩かせるのかい!?」

    「女の子は歩かせねえ。お前はハンジだ」

    リヴァイはやっとのこと手を振り払って、ハンカチでごしごし拭いた

    「女の子だろ!?私。っていうか私が手を握ったくらいでそんなに拭かなくても!!」

    「お前はハンジだ。手は、お前さっき馬のクソさわっただろうが。くせえんだよ」

    「あー、そういえばそうだった!!」

    ハンジはそう言いながら、手をリヴァイの鼻先に近付けた

    「くせっ!!」

    「ほらほら、臭いだろ~ハンジさんの酒に付き合わない場合、寝てるときにこっそり臭いのを部屋に放り込むからね」

    「………冗談じゃねえ。いや、お前は本当にやるからな…」

    リヴァイははぁ、とため息をついた


  22. 22 : : 2014/12/04(木) 20:29:14
    夕暮れ時

    結局リヴァイは、ハンジの酒に付き合ってやるべく、繁華街へ向かっていた

    ハンジは何度もリヴァイに腕を絡ませようとしたのだが、それらの動き全て避けられていた

    「なんか、裏通りはやっぱり危なそうだね…」

    ハンジがちらりと裏通りを覗いて呟いた

    「ああ、スリやたかりは勿論、身体を売る奴、薬をやる奴…」

    「あらっ、なんか揉めてるみたいだよ、みて、リヴァイ」

    ハンジが指差す方向には、確かに人だかりができていた

    小さな男の子と、それを背に庇うようにしている若い女性、そして今にも乱暴を働こうとしているかの様な、いかにも品の無い男が数人

    「行くぞ、関わるな」

    「だめだよ、完全に多勢に無勢じゃないか。女性も危ない」

    ハンジはそう言うと、裏通りに踏み出した
  23. 23 : : 2014/12/04(木) 20:48:47
    「まて、ハンジ」

    その動きを、リヴァイが止める

    「何だよ、手遅れに…あっ」

    視線の先にあった状況に変化があった

    「人が乱入してきた。男だな」

    「ほんとだ、先を越されたかあ」
    ハンジは殊更残念そうにため息をついた

    男の子を背に庇う女性と、品の無い男どもの間に、一人の男が割って入っていた

    体格的には男どもの方が立派に見える

    遠目だが、割って入った男はどうやら男どもを説得している様な素振りだった

    「説得なんて無理無理。どかんと一発やるしかないって。甘い甘い」

    ハンジが肩を竦めた

    「確かにな…」

    リヴァイは状況を注意深く観察しながら言った

    「あっ、危ない!!」

    ハンジが叫ぶ

    男どもの一人が、闖入者に殴りかかったのだ

    ハンジが駆け寄ろうとした、その時

    「うわっ!!」

    殴りかかられた男は、悲鳴のような言葉を発しながらも身をそらし、自分の顔面を狙った腕を一瞬で捻り、そのまま地面に叩きつけた

    ハンジは駆け寄るのをやめ、その戦いを観察した

    「あと二人…」
    ハンジはぼそりと呟いた

    仲間を倒された男達は、二人同時に飛びかかる

    「逃げて下さい!!」

    二人組に飛びかかられながら、男は背後の女性と男の子に叫んだ

    二人のうち一人には、彼の右ストレートが、もう一人には彼の左足が炸裂した

    ハンジは腰を抜かしている女性と男の子を庇いながら、その様子を食い入るようにみつめていた
  24. 24 : : 2014/12/04(木) 21:01:20
    「はぁ、はぁ…」

    男達が逃げるようにその場を走り去った後、女性と男の子を助けた男は、膝から崩れる様に座り込んだ

    「大丈夫か」

    リヴァイが男に歩みより、跪く

    「は、はあ…大丈夫です…。やばいなあ、やってしまった…」

    男は何故か頭を抱えていた

    「やあ、君強いね!!」

    ハンジが女性と男の子を立たせながら、笑顔でそう言った

    「い、いえ…大したことでは…」

    男は顔を真っ赤にして首を振った

    思ったより若く、なんとも優しげな、人の良さそうな顔立ちをしていた

    「あの…助けて頂き、ありがとうございます」

    女性が男の子の手を握りながら、男に頭を下げた

    「お兄ちゃんありがとう。強いね!!」

    男の子は目をキラキラさせていた

    「いえ、俺は何も…。強い人はもっと沢山いるよ」

    男はますます顔を赤らめながらそう言った

    「あの、お礼をしたいのですが、お名前を教えて頂けませんか?」

    その言葉に、男は突然慌て出す

    「いや、いや、お礼なんかいいです!!大したことではないですし、名前はちょっと、まずい…かもしれないし…」

    男はしどろもどろになりながらそう言った

  25. 25 : : 2014/12/04(木) 22:13:59
    「本当に、お礼なんていいですから!では失礼…」

    男は立ち上がり、頭をペコペコ下げながら立ち去ろうとした

    「待った」

    その男の腕を、ハンジが素早く絡めとる

    「わ、わ、離して下さい…もう帰らなきゃ、門限が…」

    「君、兵士だろ?門限を気にするという事は、訓練兵。しかも名乗れない…となると憲兵団狙いだね」

    ハンジは狼狽える男を指差して、探るように言った

    「…ど、どうしてわかるんですか…?」

    「状況から読み取っただけだよ」

    ハンジはそう言うと、不敵な笑みを浮かべた

    「兵士…さん」

    女性はふと顔を曇らせた様に見えた

    「お姉ちゃん、兵士さん強いね!!僕も父さんみたいに兵士になるよ!!そしてこのお兄ちゃんみたいに強くなる!!お姉ちゃんを守るからね!!」

    男の子のその言葉に、女性は今にも泣き出しそうな顔をした

    リヴァイが男の子の頭にぽんと手をおいた

    「坊主、兵士にならなくてもお姉ちゃんは守ってやれるぞ。まずはしっかり勉強しろよ」

    「は、はいっ…あ、リヴァイさんだ!」

    少年はリヴァイの顔を見てまた一段と表情を明るくした

    「リヴァイも有名になったね~。おっと、君、待ちなさいって」

    話題がそれた間にその場を立ち去ろうとした男の襟首を、ハンジはぐいっとつかんだ

    「うっ!!」

    「名前くらい大丈夫だって。ほら名乗れ名乗れ」

    ハンジに促されて、男は諦めたように女性に向き直った
  26. 26 : : 2014/12/05(金) 13:40:25
    「訓練兵団に所属しています、モブリット・バーナーです。とはいえもうすぐ卒業なんですが」

    男は照れくさそうにしながら名乗った

    「モブリットさん…ありがとうございました」

    女性は深々と頭を下げた

    「いえ、いえ!そんな大袈裟な…」

    救出の立役者である男…モブリットは、更に顔を赤くして首を振った

    「いいえ、この子があの人達とぶつかってしまって…謝っても許してもらえず、どうしようかと思っていたので、本当に助かりました」

    女性は顔を上げて言った

    「お姉ちゃん、もう行かなきゃ!!お医者様に間に合わないよ!!」

    男の子が街角の大時計を見て、声をあげた

    「あらっ、大変…またゆっくりお礼をさせてください」

    女性はまた頭を下げると、男の子の手を引いて駆け出した

  27. 27 : : 2014/12/05(金) 14:34:23
    「ねえねえ、バーナー君」

    ハンジがつんつんと、モブリットの肩を叩いた

    「は、はい、何でしょうか?」

    「美人だったね」

    ハンジは不敵な笑みを浮かべながら、モブリットの顔を覗き込んだ

    「はい、確かに…って、美人だとか関係ありませんって」

    「役得だったね」

    「おっしゃる意味がよくわかりません」

    モブリットは少々不服そうに口角を下げた

    「わかんないかあ…」

    「そんなもんわからんでいい」

    リヴァイはボソッと口をひらいた

    「では、時間が無いんでこれで失礼しま…」

    「待った」

    ハンジはまた、立ち去ろうとしたモブリットの襟首をつかんだ
  28. 28 : : 2014/12/05(金) 15:53:38
    「あなたはリヴァイさん、ですよね。という事は、あなた方は調査兵団…ですか?」

    モブリットの言葉に、ハンジは頷き彼の手を握る

    「ご名答。私はハンジ、小さい彼はリヴァイ。よろしく!」

    「は、はあ。よろしくお願いします…って違います。兵団の方ならお分かりかと思いますが、訓練兵は門限が厳しくてですね、今すぐ帰らないといろいろやばいんです」

    モブリットはハンジの手を引き剥がそうとするが、関節を巧みに押さえられて微動だにしない

    「門限なんて、破るためにあるんだよ」

    「いや、いや、そんなわけないですよ。今は特に大事な時期なんで目立ちたくないですし…」

    「進路か…」

    リヴァイの小さな声に、モブリットが頷いた




  29. 29 : : 2014/12/05(金) 16:16:30
    「君は憲兵団希望?」

    ハンジの問いにしばし躊躇った後、モブリットは口を開いた

    「はい、一応今のところは」

    「って事は優秀なんだねえ、顔に似合わず」

    訓練兵からの進路には三通りあり、一つはハンジ達調査兵団、一つは壁の守りを担う駐屯兵団、さらにもう一つが、憲兵団

    特に内地と言われる、この国の安全地帯に勤務できる憲兵団は訓練兵全員が目指しているといっていい所だ

    だが憲兵団には、訓練兵約300人のうち一握り…成績上位10名しか行けなかった

    だから、ハンジは彼を優秀だと言ったのである

    「はあ、ですがぎりぎりなんです。本当に。ですから門限を気にしているんですよ…」

    「門限破りの方法なら伝授するよ!!先輩が!!」

    ハンジはがしっとモブリットの肩を掴んだ

    「おいハンジ、離してやれよ。泣きそうだぞ」

    リヴァイがボソッと言葉を発した

    「な、泣きはしませんよ…。ですが本当にやばい…」

    「あのさ、君、調査兵団においでよ。君みたいに優秀で真面目で強い、そんな人材はうちに来るべきだ。憲兵団なんてね、腐ってる。あいつらはまともに働きやしない。新人に仕事を押し付けて、ギャンブルに賄賂に…憲兵が聞いて呆れる話しか聞かないよ」

    ハンジはモブリットの顔に真摯な眼差しを向けた

    「おい、ハンジ…」

    リヴァイは何故か、ハンジに向かって首を振った

    「俺も、噂はいろいろ耳にしています。今は進路に悩んでいます。一人になりたくて街に出たんですが…」

    モブリットはそう言うと、ため息をついた

    「そっかあ、邪魔しちゃったんだね。なんか悪いことしたなあ。大事な進路だ、しっかり考えてほしいけど、出来たら調査兵団も少し、念頭において欲しいな…」

    「おいていますよ。憲兵団か、調査兵団で悩んでいますので…」

    ハンジは彼のその言葉に、笑顔を見せた

    「そっか!君は見かけによらず勇気があるんだね。是非よろしく頼むよ!!」

    モブリットはハンジの笑顔を食い入るように見つめた

    その瞳の中から、何かを探しだすかの様に

  30. 30 : : 2014/12/05(金) 20:00:40
    モブリットが走り去った後、リヴァイとハンジは表通りに戻り、行きつけの酒場に入った

    店内は香ばしい香りと、グラスを交わす音で溢れていた

    二人は奥まった場所にあるテーブルにつき、酒をちびちび飲みながら、先程の出来事を反芻していた

    「リヴァイってさ、結構子どもには優しいよね。いつもクソとかしか言わないのに、ぼうず、なんて目尻下げて語りかけていたしね」

    「…あぁ?優しくねえさ。ただな…」

    リヴァイはそこで言葉を止めた

    「ん?なんだい?」

    「ぼうずの姉が、兵士と聞いて顔色を変えていた気がした」

    リヴァイはそう言うと、グラスを机においた

    「そうなんだね。兵士にいい印象が無いのかなあ。ま、分かる気がするけどね」

    ハンジは机に置かれたリヴァイのグラスに、酒を注いだ

    「どうでもいいがな」

    「またまた、見かけによらず優しいリヴァイさんたら」

    ハンジはそう言うと、グラスの酒をあおった
  31. 31 : : 2014/12/06(土) 09:01:02
    「見かけによらずといやあお前…あいつに何回もそう言ってただろう」

    リヴァイのほんの少し責める様な口振りに、ハンジは口を尖らす

    「だってさ、本当に見かけによらないんだもん。あんなに鮮やかに男三人を(ほふ)る様には見えないし、憲兵団に入れる程成績良さそうにも見えないし…。人は良さそうだったけどさあ」

    「お前、失礼過ぎるぞ」

    リヴァイは諦めたように肩を竦めた

    「さっきの子さあ、調査兵団に来るかな?」

    ハンジの問いに、リヴァイは眉をひそめる

    「それもだ。お前、奴を勧誘しただろう」

    「ああ、彼はいい調査兵になりそうだと思ってね。顔に似合わず勇敢だし、実技も水準以上。あなたみたいに即戦力…とまではいかなくても、伸びるよ、彼」

    ハンジはそう言うと、顔を綻ばせた

    反面リヴァイの表情はますます固くなった

  32. 32 : : 2014/12/06(土) 09:16:43
    「お前は奴の生死に責任持てるのか?」

    リヴァイの切っ先するどいナイフの様な言葉

    だがその言葉とは裏腹、彼の表情はどこか憂いを帯びていた

    「どういう事?」

    ハンジは首を傾げた

    急に態度を変えたリヴァイに、怪訝そうな表情を向けた

    「わからねえか?あいつは憲兵団に入れるんだ。だが悩んでいる。お前の言葉を真剣に聞いていた。何かを探すように、お前の目を見ていた」

    「…ああ」

    「もし奴が調査兵団に来たら…それはお前の言葉と熱意が奴の背中を押したことになる、そうは思わねえか?」

    リヴァイのその言葉に、ハンジは目を見開いた

    「そうだね、その通りだ。もしこっちに来たら…その結果もし死なせたら…私が彼の生死を左右した事になる。私が殺したのと、同じだ…」

    ハンジは両手で顔を覆った

    「責任を持てないのなら、誘うな」

    「ああ、軽率だったよ。どうしよう…今から訂正に…」

    ハンジは指と指のすき間からリヴァイを見ながら言った

    「今さら訂正できるか。言った事は返ってこねえ。お前は勧誘した。だが後は奴が選ぶだけだ」

    「ああ、そうだね。もしこっちに来たら…私は…」

    ハンジは顔を覆っていた手を離して、ぐっと握った

    「私は、あの子を死なせない様に努力しよう。それくらいしか、責任取れない」

    「ああ、そうしてろ。いつもみてえにいちいち暴走してりゃあ、守るもんも守れねえがな」

    リヴァイの言葉に、ハンジはゆっくり頷いたのであった


  33. 33 : : 2014/12/06(土) 21:40:07
    「でもさ、本当にこれからどうなるんだろうね。壁外遠征だって毎回、エルヴィンたちのお陰で何とかやれてるけどさ…」

    ハンジはため息をついた

    壁外では生死の綱渡りのような彼らの活動だが、壁内でもまた違った意味で綱渡りをしていた

    政治的な思惑だ

    調査兵団の行く末は大物貴族達が握っている

    エルヴィン達幹部は、それらとの交渉に奔走する毎日だった

    「貴族の豚どもは自分の事しか考えちゃいねえ。豚だからな。あんなやつらとまともにやりあってる事だけは尊敬してやる」

    「ははっ、エルヴィンの事だね。君はエルヴィンが嫌いだからなあ!!」

    ハンジは苦虫を噛み潰したような顔のリヴァイを見て、愉しげに笑った

    「ああ、嫌いだ」

    「ま、いわくつきだしね。エルヴィンは君を大事にしてる様に見えるけどなあ」

    「気色悪ぃ…」

    ハンジの言葉にリヴァイは背中を震わせた

    「ま、エルヴィンにとっては無くてはならない人材だからね、君は。私にとっては、大事な親友さ」

    「…お前と親友なんかになった覚えはねえ」

    リヴァイは心底迷惑そうに顔を歪めた

    「あっそうか!!恋人か!!って睨むなよ、怖いなあ」

    ハンジはそう言うと、リヴァイのグラスに入った酒をあおった

    「おい…飲み過ぎだ、クソメガネ」

    「だって足りない。もっと酔いたいしね」

    尚もグラスに酒を注ごうとするハンジの手を、リヴァイは掴んで止めた

    「少しにすると約束したはずだ。もう出るぞ。俺は眠い」

    「はいはい、わかりましたよ。人類最強さん」

    ハンジはそう言うと、自分の手を掴むリヴァイの手を、ぎゅっと握りしめたのだった



  34. 34 : : 2014/12/07(日) 16:17:45
    ハンジを部屋まで送り届け、自室に戻ったリヴァイは、直ぐ様愛用のティーカップを片手に炊事場へ行く

    彼の唯一の楽しみと言っても過言ではない、静かな夜のティータイム

    自分の手でいれた紅茶で一息ついた後、眠りにつくのが彼の日課だ

    いつもの様に炊事場で紅茶をいれ、部屋に戻ろうと廊下を歩いていた時だった

    後ろから足音がした

    後を着いてきているのかわからないが、気にせず部屋に向かうリヴァイ

    だが次の瞬間、首筋に急激に接近してきた何かに身を翻す

    「ふん、今日も石鹸の匂いに酒の匂いだな、リヴァイ」

    「…ミケか」

    リヴァイはそう言うと、身を翻した際に床にこぼれた少量の紅茶を拭いた

    「旨いのか、それは」

    「やらん」

    「旨いのか、と聞いただけだが…」

    ミケはそう言うと、すん、と鼻を鳴らした

    「旨い」

    「俺にも飲ませろ」

    「断る」

    リヴァイはミケの頼みをキッパリ断ると、ミケから背を向け歩き始めた

    「ハンジにはなつくのに、俺やエルヴィンには冷たいな」

    「当たり前だろうが」

    実はリヴァイが調査兵団入りしたきっかけを作ったのが、エルヴィンであり、ミケであった

    その時に彼らにプライドをずたずたに切り裂かれた結果、一年たった今でも、エルヴィンとミケにだけは微妙な態度をとっていた

    「俺は鼻が利く。今度香りのいい紅茶でも手土産にするか。そしたらお前も俺にしっぽを振るかもしれんしな」

    「しっぽなんかついてねえ。だが紅茶は貰う」

    「わかった。首を長くして待ってろ」

    「期待せずにいてやる」

    リヴァイはそう言うと、その場を後にした

    ミケはその後ろ姿に、何かを考えるような目を向けていた


  35. 35 : : 2014/12/07(日) 23:33:42
    リヴァイはここに来るまでは、調査兵団を血の気が多い変人の集まりだと思っていた

    確かに変人の集まりには変わりはない

    自ら好き好んで、壁外という謂わば死地に赴くのだから

    だが、血の気が多い訳ではない事を知った

    彼らはいつも誰よりも冷静で、誰よりも壁の中と外の事を考えていた

    何故巨人によって人類は壁の内側に追いやられなければならなかったのか

    何故巨人は突然現れたのか

    それらを探求する事こそが、人類を存続させると信じているのが彼ら調査兵団だった

    壁の外の広大な大地を自由に踏みしめたい

    鳥のように、遥か彼方地平線まで飛んで行きたい

    巨人を殲滅し、人類が本当の自由を勝ち取るための戦いをしていた調査兵団

    リヴァイは彼らと行動を共にするうちに、彼らの熱意と意識の高さに、心を動かされ始めていた

    自分の力でどこまでやれるかはわからない

    だが自分が持ちあわせていない何かを、彼らは持っている様な気がして…

    組織の力となる事を望むようになっていった

    エルヴィンは相変わらず苦手である

    何を考えているのかわからないからだ

    だがリヴァイはエルヴィンにも、自分に足りないものを見出だしていた

    だからこうして、彼が言う「いけすかない狸」に着いてきているのであった
  36. 36 : : 2014/12/08(月) 11:58:51
    翌朝

    久々に非番のリヴァイは、朝から部屋の掃除に勤しんでいた

    彼は毎朝掃除をする

    調査兵団ではすでに恒例となっており、彼が窓を空ける音がすると朝が来たと、身支度を整える者すらいる

    地下街からきた胡散臭い男は、確かに今、調査兵団の兵士たちにとって目標であり、尊敬する存在になっていたのだ

    兵士たちが想像していた人となりとは、一線を画していた

    リヴァイは驚くほど真面目で、ぶっきらぼうだが他人を気遣う事を忘れなかった

    そんな彼が今一番気がかりな存在が、ハンジだった

    何とか暴走を食い止められないか、思案を巡らせていた

    ハンジの力も、調査兵団には欠かせない物だ

    彼女は既に班長クラスになってもいい実力を有していながら、今だ階級がない

    彼女自身は階級になんの執着もないが、人材が不足している調査兵団にとって、彼女が本来つくべき席が空白だというのは、死活問題だった
  37. 37 : : 2014/12/08(月) 15:44:55
    そんな朝を過ごし、朝食を一人静かに食べ終えたリヴァイは、兵舎の裏にある馬屋へと足を運んだ

    これも彼の日課の一つだが、今日は何故か馬屋へと運ぶ足を止めた

    馬屋から見知った人物が馬に乗って出てきたからだ

    リヴァイはすっと身を建物の影に隠す

    敵ではないのだから隠れる必要はないのだが、彼は何となく、朝からその人物に出会いたく無かった

    「…」
    リヴァイが無言で気配を消していると、彼の耳に声が届く

    「猫が一匹隠れているぞ、エルヴィン」

    「ああ、黒猫かな。なかなかつれなくて困る」

    馬屋から出てきたのは、ミケとエルヴィンであった

    リヴァイは小さく舌打ちをすると、建物の影から歩み出た

    「狸にキツネ」

    ぼそっとそう言い捨てると、リヴァイはその場を立ち去ろうとした

    だが、それを止めるかの様にエルヴィンがリヴァイの肩に手を置いた

    「今から訓練兵の修了式に行くんだが、お前もくるか?新兵勧誘式もあるんだが」

    「面倒だ、行かねえ」

    リヴァイが断ると、エルヴィンは苦笑した

    「お前が来てくれると助かるんだがな」

    「俺に演説でもさせるつもりか、てめえ」

    「まさか…お前は俺の横に居てくれるだけでいいんだ」

    エルヴィンの言葉にもう一度きっぱり断ろうと思った

    だが新兵とやらを一度見てみたいとふと思ったリヴァイは、結局ついていく事にしたのだった



  38. 38 : : 2014/12/08(月) 23:10:13
    訓練兵の修了式が滞りなく終わった

    成績上位10名は名を呼ばれ、訓練兵達の前に立ち、その栄誉を称えられる

    その中に、確かに先日繁華街の裏通りで見知った人物がいた

    モブリットは8位だった…十分すぎる成績だ

    訓練兵の成績は、三年間における実技、座学、資質などを総合してつけられる

    優しげで気の弱そうに見えた男だが、先日の行動といい、なかなかきもが据わっている様だ

    リヴァイがモブリットに視線を向けていると、その視線を感じたのだろうか

    今度は向こうがリヴァイの方を向いた

    モブリットは一瞬目を見開いた後、軽く会釈をした

    奴はどうするんだろう、とリヴァイは一瞬考えた

    だが、自分に会釈をした後のモブリットの表情が、厳しくどこか決意を秘めて様に見えて…

    奴は決めたのかもしれない…リヴァイは漠然とそう思った

  39. 39 : : 2014/12/09(火) 08:13:55
    訓練兵達が皆一様に緊張の面持ちを見せている

    修了式を終え、広場に整列した訓練兵達

    先程から彼らの前に設えてある壇上には、数人の兵士が立っていた

    一人、真ん中で言葉を発しているのは、調査兵団団長である、キース・シャーディス

    彼から少し離れた傍らにいるのが、エルヴィン

    彼は青い目を光らせながら、新兵達を見ていた

    そして、そのエルヴィンの傍ら、舞台の袖に近い場所には、ミケとリヴァイがいた

    リヴァイは壇上に上がるのを拒否したのだが、結局命令だと言われてしぶしぶ上っていた

    案の定、有名になりつつあるリヴァイを見て、新兵達は一瞬ざわついた

    リヴァイは不機嫌そうな表情をしていたが、それでも新兵達の様子を見る事を忘れなかった

    300人に及ぶ彼らから、一体酔狂な奴は何人いるだろう…そんな考えを脳裏に巡らせながら

  40. 40 : : 2014/12/09(火) 08:33:09
    団長の演説後、調査兵団に入団を希望する者だけがその場に残った

    十数名の新兵が、不安と恐怖と戦うような顔つきで佇んでいた

    その新兵一人一人に労いの言葉を掛けていくキースとエルヴィン

    リヴァイはミケと共にその様子を伺っていたが、やがて足を踏み出した

    そして、新兵の中で唯一の見知った顔に、話し掛ける

    「お前、今ならまだ間に合うぞ?憲兵団」

    リヴァイのその言葉に、新兵…モブリットは一瞬目を伏せた

    そしてゆっくり首を振った

    「いいえ、もう決めましたから」

    「折角の8位が台無しだな」

    「大したことはありません。エルヴィン分隊長は首席でしたし…」

    モブリットはそう言うと、ちらりとエルヴィンを見た

    「…そうなのか」

    「はい。とてつもなく優秀な方です」

    「ただの狸だぞ」

    話を聞いていたのだろうか、エルヴィンが突然会話に割って入ってきた

    「ああ、悪知恵の働く狸だ」

    リヴァイはそう言うと、ふん、と鼻を鳴らした

    「エルヴィン分隊長、よろしくお願いいたします」

    モブリットはおそれ多いと言った体で頭を下げた

    エルヴィンはモブリットの肩をぽんと叩くと、リヴァイやミケ、キースと共にその場を去った


  41. 41 : : 2014/12/09(火) 09:05:37
    「彼とは知り合いか?リヴァイ」

    兵団本部への帰り道、エルヴィンはリヴァイに問いかけた

    「ああ、つい先日知り合いになった。お人好しのバカだ」

    「そうか、お人好しか」

    エルヴィンは愉しげな笑みを浮かべながら、相づちを打った

    「ああ。だが白兵戦は中々のもんだった」

    「…一体どんな知り合いなんだ。彼と喧嘩でもしたのか?リヴァイ」

    「いいや、奴が戦っていたのを端から見ていただけだ」

    リヴァイはそう言って、尚も話しかけようとするエルヴィンから距離を取るように、足早に歩き始めた

    モブリットが調査兵団入りをしたと知れば、ハンジはどうなるのだろう…そんな事を考えながら

    責任を背負い込む様なハンジを、やはり放ってはおけないリヴァイであった
  42. 42 : : 2014/12/09(火) 17:11:42
    「ハンジ、奴は調査兵団入りを決めたぞ」

    その日の夜、リヴァイはハンジの部屋を訪れてそう言った

    「奴って…バーナー君の事だよね」

    ハンジはため息混じりにそう言った

    「ああ、奴は8位だったぞ。他の上位の奴は全員憲兵団に行った」

    「そっかあ…来ちゃったかあ。憲兵団を蹴って…」

    ハンジはベッドに腰を下ろして肩を落とした

    「どうする、ハンジ」

    「どうしよう、リヴァイ」

    珍しく気遣わしげなリヴァイに、ハンジは今にも泣きそうな顔を見せた

    「おい、泣くなよ?俺は考えたんだが…お前の下に、奴をつけてもらえ」

    「…私の下に?だめだよ、私なんかの下じゃあ…私は危険だ」

    ハンジは指でこめかみを押さえた

    どうしても抑えきれない、壁外での衝動

    あんな状態の自分の側に、リヴァイならまだしも、新兵なんかが近寄れば、命の危険にさらされる

    「お前は責任を持つと言ったはずだ。奴一人くらい守ってみせろ」

    ハンジの迷いとは裏腹、リヴァイはきっぱりとした口調で言った

    「守る…」

    「そうだ、お前は仲間を守りたかった。そうだろ?だから守ってみせろ、モブリットをな」

    リヴァイの言葉に、ハンジは暫く空を仰いでいたが、やがて頷いた

    「…ああ、そうだね。まずは一人、守る事を考えてみるよ」

    「モブリットの配置の件は、俺が上に掛け合ってやる」

    「ああ、頼むよリヴァイ。君の言うことならエルヴィンも聞き入れそうだ」

    ハンジはそう言うと、笑顔になった

    「…お前はそうやって笑ってろ。じゃあな」

    「えっ!?今なんて…ああ、いっちゃったよ」

    リヴァイの思わせ振りな捨てぜりふに、ハンジは肩を竦めた

    「バーナー君を守る…かあ。出来るかなあ、私に。目の前で何人もの仲間が死んでいくのを、助ける事が出来なかった私に…」

    ハンジはそう言いながら、ベッドに寝転んで目を閉じた

    そしてそのまま、夢の世界に行ったのだった

  43. 43 : : 2014/12/09(火) 19:10:28
    翌日から、新兵が調査兵団本部に配属された

    彼らは班長達の元で、基本的な訓練を行う

    そんな中、ハンジはエルヴィンに呼ばれて団長室に行った

    部屋には部屋の主であるキースと、ハンジを呼び出したエルヴィンがいた

    「ハンジ、新兵を一人お前の下につける事にした。お前は今日から班長だ。これからより一層働いてくれよ?」

    キースがハンジの肩に手を置いてそう言った

    「班長…私が?」

    「そうだ。不服があるか?」

    キースがそう問うと、ハンジは首を振った

    「私でいいんですか?私が班長なんかになって…」

    ハンジの力ない言葉に、エルヴィンが反応する

    「お前が班長にならなくて、誰がなるんだ。いい加減力に見あった働きを見せろ、ハンジ」

    「……部下は一人?」

    「ああ、お前がご所望の男だよ。珍しいな、ハンジが男に拘るとは」

    エルヴィンの言葉に、ハンジは目を向く

    「そ、そんなんじゃないってば…いろいろあるんだよ」

    「とにかく、モブリットの世話はお前に任せるぞ、ハンジ班長」

    キースの言葉にハンジは頷き、力強い敬礼を施した
  44. 44 : : 2014/12/09(火) 20:56:56
    調査兵団に配属された新兵十数名が座学に勤しんでいる間、ハンジはそわそわしていた

    何せ直属の部下を持つのは初めてだからだ

    そんな落ち着かない様子のハンジに、リヴァイが眉をひそめる

    「おい、ハンジ…。落ち着けよお前。顔もさっきから気持ち悪ぃ。ニヤニヤしたかと思えば神妙な顔つきになりやがったり」

    「なんか緊張するんだよ、リヴァイ」

    「お前、新兵より緊張してどうするんだ、バカが」

    リヴァイは肩を竦めた

    「うーん、何を教えて上げよう…」

    「とりあえずは、酒でも飲みに連れていってやればいいだろ」

    リヴァイの言葉に、ハンジはぽん、と手を叩いた

    「そうだね!!新兵歓迎会でもしてあげよう!!ハンジ班へようこそ、だね!!」

    「普通は班長なら10人以上部下がつくがな。お前はまずは一人から、だな」

    「ああ、頑張るよ。責任のある立場だしね。ねえ、リヴァイも一緒に行くだろ?歓迎会」

    ハンジはリヴァイの顔を覗きながら言った

    リヴァイは首を振る

    「嫌だ、めんどくせえ。俺の部下じゃねえしな」

    「リヴァイの可愛い後輩だろ~!一緒に行くべきだ」

    「今日は死んでもいかん。昨日も一昨日も飲んだんだからな。二人でいけよ」

    リヴァイはそう言うと、さっさとその場を立ち去った
  45. 45 : : 2014/12/09(火) 22:14:27
    「…ああ、リヴァイいっちゃった。どうしようかな、どんな顔したらいいんだろ。やっぱり威厳のある表情だよね、上官だし。女だからって舐められても困る。きりっとしなきゃ…」

    「あの…」

    ハンジが一人で呟いていると、背後から声が掛かった

    ハンジが振り向くと、困ったような表情のモブリットが立っていた

    「うわあ!いつの間に!」

    ハンジは慌てて、後ずさりした

    「今、座学が終わりまして、あなたにつく様に言われました。先日はお世話になりました、ハンジ・ゾエ班長」

    モブリットはそう言うと、完璧な敬礼をした

    「や、やあ、バーナー君。今日からよろしく頼むよ。私の部下は今のところ君だけだから、二人で頑張ろうね」

    ハンジは、モブリットの肩に手を置いてそう言った

    「はい、ハンジ班長。よろしくご指導下さい」

    「分からない事は何でも聞いてくれよ。遠慮はいらないからね」

    「はい、ありがとうございます、ハンジ班長」

    モブリットはそう言うと、頭を下げた

    「今日はとりあえず、お互いの事をよく知るために飲みに行こう。君、お酒は飲めるかい?」

    ハンジの問い掛けに、モブリットは頭をあげて頷く

    「はい、飲めます。むしろざるです」

    「そうなのか!見かけによらずお酒に強いんだね、バーナー君…いや、モブリット」

    「はい、見かけによらず強いです、班長」

    モブリットはそう言って、笑顔を見せた

    「…あー、見かけによらずばっかり言ってごめんね。悪気はないから」

    ハンジはばつが悪そうに言葉を発した

    「はい、わかっています。それに、よく見かけによらず、って言われますのでお気になさらないで下さい」

    「そっかあ。いろいろ君の話を聞きたいな。特に恋愛事情とかさ」

    「恋愛…ですか、何も面白い話はありませんよ、班長」

    モブリットは困ったように、首を傾げた

    「はは、私もないや!色気の無い青春を送ってきたんだねえ…」

    「多少はありますよ、さすがに」

    「じゃあその話を詳しく聞こうか」

    ハンジはそう言うと、モブリットの肩をぐっとつかんで顔を寄せた

    「俺は壁外についてお聞きしたいんですが…」

    「はは、わかったよ。とにかく飲みに行こうね」

    「はい、よろしくお願いします、班長」

    二人の直属の上司部下の関係が、こうして始まったのであった
  46. 46 : : 2014/12/10(水) 08:35:36
    ハンジが新たな一歩を踏み出した時、リヴァイはエルヴィンの執務室にいた

    分隊長室だ

    一人はどっかりとソファに腰を下ろして足を組み、一人は執務机でペンを走らせていた

    「ハンジにモブリットをつけようと思った理由、教えてくれないか、リヴァイ」

    ペンを止めて顔を上げると、エルヴィンは問いかけた

    「別に理由なんかねえ。あいつはモブリットに町で会った時に勧誘した。その責任をとれってだけの話だ」

    「なるほどな」

    エルヴィンは、リヴァイの相変わらず不機嫌そうな顔に苦笑した

    「奴は自信を無くしている。力は存分に持ち合わせているのにな」

    「モブリットを下につけたのは、ハンジのためか」

    エルヴィンの言葉に、リヴァイは返答しなかった

    ただ真摯な光を宿す瞳が、輝いていた

  47. 47 : : 2014/12/10(水) 15:34:59
    「君さ、8位だったって聞いたよ。全然、余裕で憲兵団に行けたんじゃないか」

    酒の席で、ハンジは部下になったモブリットととりとめの無い話をしていた

    「余裕なんて全く無かったですよ。座学はともかく、実技が…」

    「実技かあ。でもさ、この間の立ち回り、さすがだったよ。そういえば、お礼には来た?あの美人さん」

    「ああ…翌日にいらしてましたね。お礼なんていいって言ったのに…」

    モブリットはそう言うと、少々顔を赤らめた

    ハンジはそれに目ざとく気がつく

    「あれあれあれ、顔が赤くなったよ?なんかあったのかい?気になるなあ」

    「な、何も無いですよ…からかわないで下さい」

    「じゃあ、何でそんなに顔が赤くなるのかなあ?二人の仲が進展したとか!?」

    ハンジは身を乗り出して興奮気味に問い詰める

    「そ、そんなんじゃないですってば!変な詮索をしないでください、ハンジ班長」

    モブリットは首を振ってそう言った
  48. 48 : : 2014/12/10(水) 22:15:34
    「本当に何も無いのぉ?ハンジさんだけに教えてくれよ~モブリット」

    「そんな事を言われましても、無い物は無いです…ただ彼女と話をしただけですよ」

    モブリットは、しつこく食い下がるハンジにそう言った

    するとハンジがずいっと顔を彼に近付ける

    「どんな話?!」

    「ちょっと、近いです、班長…」

    モブリットは急に距離を狭めてきた上官に、顔をますます赤くした

    「ありゃ、また赤くなったよ。モブリットは恥ずかしがりやさんなのかな?」

    「は、恥ずかしいですよ。そんなに間近に顔を近付けられたら…」

    モブリットはそう言うと、プイッと顔を背けた

    「おお、モブリットは私を女扱いしてくれるのかい!?今まで一度も私を女扱いした兵士はいなかったのに、歴史的瞬間だ!!」

    ハンジはそう言うと、モブリットの手をがしっと握りしめた

    「だって、女性じゃないですか…違うんですか?」

    「どう思う?試してみるかい、モブリット」

    ハンジはそう言いながら、自分の胸を突き出した

    「………班長、酔ってますね?」

    「酔ってないよ~だ。で、試すの試さないの、どっち?」

    「試しませんよ。なに言ってんですか…」

    モブリットは肩を竦めた
  49. 49 : : 2014/12/10(水) 22:33:38
    「で、どんな話をしたんだい?」

    「たいした話ではありませんよ。自分の事とか、家族の事とか…その辺りの話をしました」

    しつこく聞いてくるハンジに、モブリットはついに諦めて、全ての質問に答えることにした

    「なんか、彼女は兵士にいいイメージが無さそうだったよね、そういえば」

    「そうなんです。彼女は兄が調査兵だったんですが、早くに戦死されたみたいで…」

    モブリットはそう言うと、肩を落とした

    「そうか…でも弟がいるんだろ?この間助けた男の子」

    「ああ、あの子は近所にすむ子だそうです。あの子の父親も調査兵だったんですが、やはり戦死されたみたいです」

    モブリットの言葉に、ハンジは俯き目を伏せた

    「そっか…」

    「はい、ですので、兵士には確かにいいイメージが無いのは事実だと思います」

    モブリットはそう言いながら、急に元気を無くしたハンジに気遣わしげな表情を向けた

  50. 50 : : 2014/12/10(水) 22:42:55
    「壁外は、恐ろしい所ですか?ハンジさん」

    モブリットの問いに、ハンジは頷く

    「そうだね。いつだって油断は出来ない場所だ。でもね、何だろう…空気は美味しいよ」

    「空気、ですか」

    「ああ。開放感があるんだ。風も心地いい気がするしね。人が壁の中にいすぎて、空気が汚れているのかな?」

    ハンジはそう言いながら、首を傾げた

    「開放感ですか…未だ見ぬ未知の大地が無限に広がっているからかもしれませんね。風は地平線の遥か彼方から吹いてきているのかもしれませんし」

    モブリットは窓の外に目をやりながら、静かに言葉を発した

    「ああ、そうだね。きっとそうだ」

    ハンジは頷いた
  51. 51 : : 2014/12/11(木) 08:24:29
    酒に酔っておぼつかない足取りのハンジを支える様に、兵舎へ戻ったモブリット

    時は深夜

    静まり返った兵舎内の廊下をゆっくり歩む二人

    「バーナー君さぁ…私、迷惑かけるかもしれない…」

    ハンジがゆっくり息ををはきながら、そう言った

    「迷惑…ですか?いえ全然。俺は酒には強いので、よく酔っぱらった友人を担いで帰ったものです。班長が酔っていても全く問題無いですよ」

    「いや、違うんだ。まあ、今も…迷惑かけてるけどさ…」

    ハンジはそう言いながら、モブリットの肩にこつんと額を当てた

    「迷惑なんかないです。俺はあなたのたった一人の部下ですし、あなたは俺のたった一人の上司なんですから、一緒に頑張らせて下さい」

    モブリットの言葉は、ハンジの心に温かい光を灯したのだろうか

    ハンジは心が軽くなった気がした

    「うん…一緒に、頑張ろう」

    「はい、よろしくお願いします、ハンジ班長」

    ハンジはモブリットの頭をくしゃっと撫でて、微笑んだのであった

  52. 52 : : 2014/12/11(木) 10:03:08
    翌朝、リヴァイが朝早くに食堂に行くと、すでに先客がいた

    窓際で一人静かに食事をしていた先客は、入ってきたリヴァイに気がつくと、慌てて立ち上がり、敬礼をした

    「リヴァイさん、おはようございます!」

    「よお、早いなお前…モブリット」

    リヴァイはモブリットに歩みより、隣の席に腰を下ろした

    「早く目が覚めてしまいまして…」

    「とりあえず座れよ。いちいち立たなくていいぞ」

    「はい、ありがとうございます」

    モブリットはリヴァイに頭を下げると、椅子に座った

    「ハンジとはゆっくり話せたか」

    「はい、昨夜飲みに連れていって下さいまして…後半は酔っぱらっていらっしゃいましたが」

    モブリットは苦笑気味にそう言った

    「何か、言っていたか?」

    「とりとめの無い話ばかりでしたね。身の上話とか…後は恋愛事情をしつこく…酔っぱらってですが。あ、後…迷惑をかけるかもしれないと、別れ際に…」

    「そうか…」

    リヴァイの表情に何かを感じたのだろうか

    モブリットは思いきって問いかけてみた

    「リヴァイさん、ハンジさんには何か秘密でもあるんですか?俺はよくわからないんですが、先輩方が皆こぞって大変だなと、声をかけて下さるんです」

    「ハンジは、気性が安定しない。普段はそうでもないが、壁外でな」

    「壁外で、ですか…」

    モブリットは不安そうな表情で、窓の外を見た

    「ああ、そうだ」

    「ハンジ班長は、いい人です。おおらかで優しいですし。ですが、壁外では豹変すると認識しても良いでしょうか」

    「それはお前の目で確認しろ、モブリット。そこからどうするのか、着いていくのか辞めるのかはお前が決めればいい」

    リヴァイの真摯な眼差しに、モブリットはごくりと喉を鳴らした

    だが、ゆっくり頷くと、その眼差しに自分の視線を合わせた

    「善処します」

    「…ああ、頼む」

    リヴァイはそう言うと、もくもくと食事をつつき始めた

    モブリットは何かを考える様な目を、窓の外に向けていた


  53. 53 : : 2014/12/11(木) 10:14:44
    ハンジとモブリット、二人三脚の日々が始まり約一月

    新兵を交えた壁外遠征が間近に迫っていた

    否が応にも高まる緊張感

    初陣は戦死率が3割を超える

    新兵達は不安に苛まれていた

    いくら自ら選んだ調査兵団という場所であっても、皆一様に死にたくはないのだ

    それは当たり前だ

    生きるためには冷静な判断を要求されるが、初陣で冷静な状態でいられる新兵はなかなかいない

    ハンジも、新兵と同様に緊張していた

    今回は何時ものように、自分さえよければいい訳ではない

    命を預かっているからだ

    自分に出来るのか…モブリットの命を守ることが

    また目の前で、大切な存在を踏みにじられるのではないか

    ハンジは数々の場面を思い出し、ぐっと唇をかんだ
  54. 54 : : 2014/12/11(木) 10:28:34
    「おい、クソメガネ。唇がちぎれるぞ」

    夜の屋外修練場で佇むハンジを見つけたリヴァイは、彼女の顔を見るなりそう言った

    「ああ、リヴァイ…ほんとだ、唇いてえ」

    ハンジは血が滲む唇をぺろりと舐めた

    水分を塗った唇が、月明かりにぬらりと鈍く光った

    「柄にもなく緊張してるな」

    「ああ、そうだね。私は…冷静でいなきゃいけない。明日は絶対に」

    ハンジはそう言うと、拳をぎゅっと握りしめた

    「あまり力を入れすぎるな。手のひらを怪我すりゃ、立体機動に支障をきたすぞ」

    「ほんとだね…私だめだなあ」

    ハンジは手をぱっと開くと、頼りなさげな表情をリヴァイに向けた

    「お前がだめなら、他の殆どの奴はだめだ。お前は暴走しても巨人討伐数がだんとつだ」

    「はは、君には負けるけどね」

    ハンジはそう言うと、リヴァイの頭を掴み、ぐっと自分の胸に押し当てた

    「なにしやがる…」

    「あのさ、モブリットが私を女扱いしてくれたよ。凄いだろ?」

    「…変人だな、やっぱり」

    リヴァイは頬に明らかに柔らかい感触を感じながら、呟いた

    「ずっと胸に押しつけられながら大人しくしている辺り、君も変人だろ?リヴァイ」

    「……うるせえ」

    リヴァイはそう言うと、そのままの状態で目を閉じた

  55. 55 : : 2014/12/11(木) 12:53:56
    翌早朝、トロスト区調査兵団本部から、シガンシナ区へ向かい、そこから巨人の領域へと足を踏み出した調査兵団

    2列東付近に、モブリットとハンジは配置されていた

    モブリットは青ざめた顔をしていた

    「モブリット、大丈夫?」

    「だ、大丈夫ですよ、今の所は…」

    ハンジの心配そうな表情に、モブリットは無理に笑顔を作って答えた

    「そっか、私も大丈夫、今のところは」

    「…班長同じですね」

    「ははっ、うんうん。頑張ろう」

    ハンジはモブリットに笑顔を向けると、また視線を前方に向けた

    その瞳の力強さと美しさにモブリットは、思わず見入った

    その時だった

    ドォォォン!!

    前方に赤い信煙弾があがった

    「巨人だ」

    ハンジの静かなる声に、モブリットは背中を震わせた

    「はい、班長」

    次々と中央にいる司令部に向かって信煙弾が上がっていく

    ハンジはずっと、最初に上がった信煙弾の方角を見据えていた

    「馬が…走ってる。空馬だ」

    「策敵班が…」

    「ああ、やばいな。行くよ、モブリット」

    ハンジはそう言うや否や、馬を走らせ始めた

    「は、はい!班長!!」

    モブリットは慌てて後を追った

  56. 56 : : 2014/12/11(木) 13:06:45
    二人の想像は正しかった

    東索敵班は壊滅状態だった

    今なお、巨人におそわれている兵士を助ける為に、ハンジは巨人にアンカーを射出した

    「よっ!!」

    「は、班長!」

    モブリットはあわててトリガーを握った

    だが、ハンジの声がそれを制止する

    「モブリットは待ってろ。危険だ」

    ハンジの声色が明らかに変わった様に聞こえて、モブリットはハンジを凝視した

    彼の目に写るのは、先程の穏やかな表情とはうってかわった様な形相のハンジだった

    ハンジが、兵士を掴んでいる巨人の腕を切り裂いた

    モブリットは慌ててその兵士が落下した地点に馬を走らせた

    「大丈夫、ですか!?」

    ハンジに助けられた兵は、辛うじて息をしている様だった

    モブリットは馬に兵を乗せると、鐙を蹴って馬を中央へと走らせた

    後は仲間が何とかするだろうと思ったからだ

    それよりも…

    「ハンジ班長!」

    モブリットが巨人の方を振り返った時、彼は巨人と確かに目があった

    にやりと不気味な笑みを浮かべている、巨人

    初めて見る、人類の天敵

    モブリットは動けなくなった
  57. 57 : : 2014/12/11(木) 13:17:43
    ハンジは確かに、モブリットと目があった巨人と交戦していた

    だが、彼女の意識の中には、モブリットの姿は欠落しており、あるのは巨人のにやついた顔のみであった

    「気持ち、悪いんだ、よっ!!」

    ハンジはまた、ガスを吹かせて上空に舞い上がる

    そしてくるくると弧を描きながら落下し、巨人の体を切り刻んでいく

    巨人はまとわりつくハンジには目もくれず、何故か歩き始める

    「ちっ…怖じ気づいたのかい?だっらしないなあ!」

    ハンジはそう叫んだ

    だが、次の瞬間

    彼女の目の前で、悪夢のような日常の光景が再現される

    しゃがんだ巨人が握ったのは、兵士の姿

    抵抗をする気力すら失って、動こうとはしない

    恐怖に目を閉じたいのに、それすらままならない、限界の状態

    その兵士は…

    「モ、モブリット!?」

    ハンジは唐突に我に返った

    すっかり抜け落ちていた何かが、戻ってきた、そんな感覚を感じながら、ハンジはアンカーを巨人の肩に射出した

    そして、モブリットの体を掴んでいる腕を切り落とすと、そのまま落下する彼の体を、しっかり抱き止めたのであった

  58. 58 : : 2014/12/11(木) 13:24:27
    「モブリット、大丈夫かい?」

    着地するや否や、ハンジは彼を抱いたまま声をかけた

    モブリットはしばらく目を泳がせていたが、やがて焦点が合ってきたのだろうか…ハンジに目を向けて、頷いた

    「大丈夫…です。すみません、班長…俺は…」

    「謝らなくていい。さ、あいつを片付けるよ、戦い方を見ていて」

    ハンジはモブリット体を地面に下ろし、肩をぽん、と叩くと、巨人にアンカーを射出した

    彼女の体はひらりひらりと舞う花びらの様に、軽やかに舞い上がる

    そして、目元でフェイントをかけた後、後背に回ってうなじを鮮やかに削いだのであった
  59. 59 : : 2014/12/11(木) 13:38:28
    遠征から無事帰還した新兵は、やはり七割弱だった

    モブリットはあれから、5度も巨人と遭遇し、その度にハンジに助けられた

    彼は、無事に帰還できた

    だが、到底満足のいく結果であろうはずがない

    モブリットは帰還後の雑務を終えると、直ぐに部屋に引っ込んでしまった


    雑務を終えて、やっと休憩をとることができたハンジは、同じく休憩をとっているリヴァイと話をしていた

    「今日は、暴走しなかったらしいじゃねえか」

    リヴァイの言葉に、ハンジは首を振る

    「いや、暴走したんだ。1体目の時にね。いつも通り何にも回りが見えなくなって、一心不乱に巨人を狩っていたんだ。でもね…モブリットが体を掴まれていて、嫌な予感がしてさ…そこで、戻れたんだ」

    「そうか…」

    リヴァイは頷いた

    「ああ。で、それからはモブリットもちゃんと見てやりつつ、狩りもしっかりとこなした。久しぶりだよ、こんなに遠征の後に心が軽いのは」

    ハンジは胸に手をあてて、目を閉じた

    沢山のわだかまりが、沢山の辛い記憶が、心にはまだ残っている

    だが彼女はそれを、あの一瞬で乗り越える事が出来たのであった
  60. 60 : : 2014/12/11(木) 13:41:54
    「で、モブリットは?」

    「…しばらく一人にしてほしいって。よほど怖かったのかな…」

    ハンジは心配そうな表情をみせた

    「そうか。ちょっと様子見てきてやる。しょげてるのかもしれねえしな」

    「あ、じゃあ私も!!」

    「お前には今は来てほしく無いはずだ。待ってろ」

    リヴァイはそう言うと、立ち去った

    「なんで私には来てほしくないんだよ…」

    ハンジはほほを膨らませたのであった
  61. 61 : : 2014/12/11(木) 13:50:44
    「リヴァイさん…」

    「よう、生きてやがったか」

    ノックもなく新兵に宛がわれた部屋に入ったリヴァイ

    モブリットは窓際のベッドに腰を下ろしていた

    「はい、生きています。ハンジ班長のおかげで…」

    モブリットはそこまで言うと、がっくり肩を落とした

    握られた拳は、震えていた

    「何回命を助けられた?」

    「少なくとも6回は…死にかけました」

    「ま、ましな方だな」

    リヴァイはそう言うと、ベッドの側の椅子に腰を下ろした

    「俺は…何にも出来ませんでした。巨人と目があっただけで、動けなくなりました。なにも、出来なかったんです…」

    「ああ」

    「俺は死んでいました。ハンジさんの下にいなかったら、絶対に、ここに生きて返る事は出来ませんでした」

    「だろうな」

    モブリットは俯き肩を震わせた

    「俺は、ハンジ班長の足を引っ張りました。あの人の側にいては、あの人が力を発揮できません…」

    「そう思うなら、お前はこれからも生き残れ」

    リヴァイはきっぱりそう言い放った
  62. 62 : : 2014/12/11(木) 13:56:00
    「いいか、新兵が役に立とうなんて考えるな。まずは生きて帰る事だけを考えてりゃいいんだ。生きて、奴の戦いをしっかり目に焼き付けて、少しでも自分の力にしろ。学べ。そして早くまともな調査兵になれ」

    「リヴァイさん…」

    モブリットは顔をあげた

    リヴァイは口調こそきつかったが、表情は驚くほど優しげであった

    「生き抜いて、奴の背中を守れるくらいになれ」

    「…はい、善処します」

    モブリットはそう言うと、立ち上がり敬礼をした

    リヴァイは頷くと、部屋を後にした
  63. 63 : : 2014/12/11(木) 14:02:13
    モブリットの部屋から戻ったリヴァイは、ハンジに声をかける

    「もういいぞ、行ってやれ」

    リヴァイの言葉にハンジは眉をひそめる

    「まさか、モブリットをいじめたんじゃないだろうね…」

    「いじめた。泣いてやがったしな」

    「こらあリヴァイ!!いくら君でも、モブリットを泣かすなんて許さないよ?!」

    ハンジはリヴァイに詰め寄った

    「ふん、さっさと行ってやれよ。クソメガネ」

    「うん、わかったよ。ありがとう、リヴァイ」

    ハンジはそう言うと手を振りその場を後にした

    「…これで奴も、やっと一人前か」

    リヴァイはその後ろ姿を見送りながら、一人ごちた
  64. 64 : : 2014/12/11(木) 14:46:32
    「モブリット、大丈夫…?」

    ハンジは部下の部屋に入り、窓際のベッドに彼の姿を確認してから尋ねた

    「はい、大丈夫です、ハンジ班長」

    モブリットはそう言うと、立ち上がりハンジに頭を下げた

    「なになに、何でお辞儀なんかするの?」

    「ハンジ班長、すみませんでした。俺は…あなたに助けられてばかりで…本当ならこの部屋の同僚たちと同様に、命が無かったはずなのに…」

    モブリットの言葉に、ハンジは彼に歩み寄って背中を撫でた

    「皆、いなくなっちゃったんだね。寂しいね…」

    「はい…」

    モブリットは尚も頭を上げずに、背中を震わせた

    ハンジはずっと、その背中を撫でてやっていた

    「君は、謝らなくていいんだ。私は君のおかげで冷静さを取り戻せた。君がいたから、私は戻れたんだ」

    「戻れた…?」

    「そうさ。私の暴走を間近で見ただろ?いつもなら遠征が終わるまであの状態さ。でも今回は…君がいてくれたから…」

    ハンジの震える様な声に、モブリットは思わず顔を上げた

    ハンジは彼の背中を撫でてやりながら、涙を流していたのだった
  65. 65 : : 2014/12/11(木) 14:51:26
    「ハ、ハンジ班長!?俺なんかやらかしましたか?!」

    上官の涙に、慌てふためくモブリット

    「何もやらかしてないって…バカだね、君は」

    ハンジはそう言うと、モブリットにふわりと抱きついた

    「わ、わ、何を…何を?!」

    「ありがとう、モブリット」

    ハンジはモブリットの耳に顔を近づけて言葉を発した

    「わ、ちょっと、耳元でささやかないで下さいよ…やばいですってば!」

    「何がどうやばいのかな?」

    悪戯っぽいハンジの口調に、モブリットは首を振る

    「いろいろとやばいんですってば!離れて下さい!」

    「わかんないな、ちゃんと説明してくれよ」

    ハンジはより一層、モブリットを抱く腕に力を込めた

    「説明なんか…できるわけ無いじゃないですかぁ…」

    モブリットは力が抜けたような声を出した

    「ありゃ、なんか抵抗する力を無くしたかな?なら据え膳でも食うか…」

    ハンジは舌なめずりをした

    「あんたね、それは男が言う台詞でしょうが!」

    「そんな事言って、体は拒絶してないよね、バーナー君」

    「ちょっ!どこ触ってるんですか?!セクハラです!」

    モブリットの悲鳴が部屋に響き渡った

  66. 66 : : 2014/12/11(木) 15:09:46
    「で、結局やらなかったわけさ。ははは」

    翌朝の食堂にて、いつもは一人静かに朝食をとるリヴァイであったが、今日に限っては回りが賑やかであった

    「やらないって…あ、当たり前じゃないですか!?班長何を考えてるんですか!?」

    「…こいつは変人だからな」

    モブリットの悲鳴の様な声に、リヴァイは首を振った

    「だってさあ、いろいろ辛かっただろうなあって思って、慰めてあげたかったのに、最終的には足で蹴られたんだよ?!上官を、足蹴にしたんだ」

    「そういう慰めは間に合ってますから!!今後一切セクハラ行為はお止めください、班長!」

    モブリットの断固たる言葉に、リヴァイが反応する

    「やらせてくれるって言うんだ、やりゃぁよかったんだ」

    「リヴァイさん?!」

    「そういう慰めは間に合ってますって…何?どこか捌け口でもあるのかい?もしや、あの美人ともう、そんな関係に!?」

    ハンジがずいっとモブリットに顔を近づけた

    「ひいっ!?何でまた話が蒸し返されるんですか!?まだ何もやって無いです!」

    「まだって事は、これからやるんだね?うわあ尾行しよ」

    ハンジはにやりと笑った

    「ハンジさん!プライベートを侵害しないで下さいよ!」

    「モブリット…バカだな、お前…」

    リヴァイは二人のやり取りに肩をすくめたのだった
  67. 67 : : 2014/12/11(木) 15:22:40
    ハンジは生涯の片腕となるモブリットと共に、破竹の勢いで戦歴を上げていく事になる

    彼女がその力を存分に振るえるのは、常に背中を守る片腕があってこそであった

    リヴァイは、信頼できる友に加えて、信頼できる部下を持った

    彼はその比類無い力を、人類の敵に対して振るい続ける

    彼らは人類の自由を勝ち取るために戦い続ける

    時に手を携え、時にはお互いの後背を守りながら

    穢れなき心の翼で、飛び続ける


    ―完―
  68. 68 : : 2014/12/11(木) 16:06:23
    面白かったです。
  69. 69 : : 2014/12/11(木) 16:08:10
    >じけいさん☆
    読んで下さってありがとございます♪
    いつも本当にありがとう(〃ω〃)
    感謝しています(´。✪ω✪。`)
  70. 70 : : 2014/12/11(木) 18:02:56
    執筆お疲れ様でした!

    面白かったです!

    地の分(?)の書き方が、流石だなぁと感じました!
  71. 71 : : 2014/12/11(木) 19:38:10
    >とあちゃん☆
    読んでくれてありがとう♪
    とあちゃんにいつも励まされています。
    本当に、いつもいつもありがとう(;つД`)
  72. 72 : : 2014/12/11(木) 22:19:36
    お疲れ様でした!
    ハンジとモブリットの会話がとっても面白かったです!

  73. 73 : : 2014/12/11(木) 22:25:29
    >ハンジがかりりさん☆
    ありがとうございます♪
    読んで頂けて嬉しいデス♪
    ハンジさんとモブリットさんはぼけとつっこみがまさに夫婦です(〃ω〃)
  74. 74 : : 2014/12/12(金) 14:46:04
    執筆お疲れ様でした!

    若モブリット……。ふふふふ…。
    可愛かったです。

    リヴァイとハンジの信頼関係もつかずはなれずの良い関係で素敵でした。
    88さんの書かれるリヴァイはなんでそんなに余裕があって、カッコいいんですかねぇ…。
  75. 75 : : 2014/12/12(金) 15:59:04
    >キミドリさん☆
    コメントありがとうございます♪
    モブリット…wまあまだ若いですからいろいろとね…ふふふ(*´ω`*)

    リヴァハンのつもりで書いたのに、いちゃいちゃはあまりしてませんね…
    いや、多分この先いちゃいちゃするんですよ、きっと(〃ω〃)

    リヴァイかっこいいですか!?
    嬉しいです(〃ω〃)

  76. 76 : : 2014/12/13(土) 11:10:40
    お疲れ様です!
    私もハンジさんに抱かれたい(*´艸`*)
    それで、ギューッってしてもらいたいな♪
    リヴァハンでもあり、モブハンでもあったこの作品は最高でした!
    ロメ姉さんの次の作品にも期待です!
  77. 77 : : 2014/12/13(土) 15:30:41
    >いんこさん☆
    読んで頂きありがとうございます♪
    ハンジさんにぎゅうされたいです(〃ω〃)
    モブリットにも…(*´ω`*)
    一応リヴァハンなんですけど、モブハンというか、ハンモブもありましたね!!
    また頑張りますので、よろしくね♪
  78. 78 : : 2014/12/14(日) 23:31:06
    執筆お疲れ様です!
    師匠の書く作品は毎回凄いですよね!
    リヴァイとハンジの信頼を現す所もですが、モブリットとハンジさん!!
    師匠の作品を見るたびにモブリットが好きになりますwモブリットが『セクハラです!』って言うところが可愛くて可愛くて(〃ノωノ)
    素敵な作品をありがとうございます!!次の作品も期待してます!!!
  79. 79 : : 2014/12/15(月) 07:27:25
    >EreAni師匠☆
    ありがとうございます!
    いやあ、リヴァハンのつもりがモブハン気味になってしまい\(^_^)/
    やっぱり私はモブハンが好きなんだなあと再確認♪
    モブリット好きになってくれるの嬉しいです(*´∀`)
    師匠のモブリットもかっこよくて、大人で大好きです(*^^*)
    また頑張ります!
  80. 80 : : 2014/12/17(水) 20:19:11
    お疲れ様でした!

    ssの書き方からして
    流石だなぁと思いました!

    88さん凄く尊敬してますฅ(*°ω°*ฅ)*

    これからの活動も期待しています(*⌒▽⌒*)
  81. 81 : : 2014/12/17(水) 21:28:41
    >りんごさん☆
    読んで頂きありがとうございます♪
    ふぉぉ(*^^*)
    嬉しすぎる御言葉(*´∀`)
    私には勿体無いです♪でも嬉しいです♪

    これからも頑張りますので、また遊びに来て下さい(*´∀`)

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fransowa

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