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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

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It's all for you~全てはあなたのために~モブリット分隊長

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  1. 1 : : 2014/11/17(月) 22:50:32
    It's all for you

    という、私の好きな言葉で、大好きなモブリットの話を書きます

    進撃の世界が平和になった後の妄想捏造話です

    こうなってたらいいなあという、希望的な意味も含めながら書きます

    カップリングもありです
    ネタバレは基本単行本♪
    よろしくお願いいたします♪
  2. 2 : : 2014/11/17(月) 22:51:07
    人々が真の自由と平和を享受するために、流した血は大量であった

    何の罪も無い美しい心を持った人々の血

    長く続いた特権を、当然のごとく行使し、腐った管理体制の元、それを貪り尽くした貴族たちの淀んだ血

    自由を得るために闘い続けて散った、勇敢な血

    それらは全て、同じ赤い血だ

    100年以上続いた巨人との闘い、そして壁の中の支配階級とのせめぎあい

    それらがやっと終わりを迎えた時

    人々は新天地を求め、壁の外へと羽ばたいて行った

    そんな新時代を築き上げた一翼を担った者達の物語
  3. 4 : : 2014/11/17(月) 23:08:15
    いくら巨人の驚異が去ったとはいえ、兵士達の役割が終わった訳ではなく、生き残った調査兵団員を含め、駐屯兵団、憲兵団は変わらず存在していた

    調査兵団は、革命の第一の功労者としてその立場を確固たるものにした

    革命前までは遠征費を捻出するのに四苦八苦していたが、今ではリーブス商会を筆頭に、溢れんばかりの潤沢な資金が、調査兵団に流れ込む様になった

    その資金で何をいたそうというのか

    それは、名前の通り「調査」だった

    人々が、巨人の驚異が去った新天地に流出しかかった時、一人の指導者がそれを止めた

    長く閉塞された世界で暮らしていた人類は、巨人によって人口が激減していた

    指導者は、まずはその人口を国家が運営できる適正なラインにまで戻す事を決めた

    外に出るためには、まずは受け皿を安定させなければならない

    この国の指導者は、人口回復のための政策を打ち出した

    この指導者は、王ではない

    この国は、もう王政ではなくなったのだ

    民主制…国民が選んだ指導者の元、新たな基板作りを始めているのであった



  4. 5 : : 2014/11/17(月) 23:13:50
    そんな中、人々が流出する前に、その橋頭堡を作るべく活動しているのが、潤沢な資金を持つ、調査兵団であった

    彼らは飽くなき探求心を、巨人ではなく今度は新天地に向けた

    その卓越した戦闘力と、精神力で、新たな大地の奥深くへと、歩みを進めているのである

    そんな調査兵団のトップは、さぞや勇敢な人物なのであろう

    確かに、勇敢で知性に溢れた人物である

    だが彼女は…

    戦うことが出来ない身体になっていた
  5. 9 : : 2014/11/17(月) 23:34:30
    「いやー!お腹がぽっこり、見てくれよこれ!どんどん膨れてくるよ。そのうち破裂するんじゃないかな?」

    几帳面に整理された室内に、設えられた二人がけソファ

    そこに一人の女性がどっかり腰を据えている

    大きくせりだしたお腹を擦りながら、ふうふうと荒い息をしている

    「破裂なんかしたら大変じゃないですか、団長」

    窓際の机に向かって、書類にペンを走らせている男が、ちらりと女性に視線を移して言葉を発した

    「だって風船みたいなんだもん…さわってみるかい?モブリット」

    女性はよいしょと立ち上がると、机に向かう彼に歩みより、腹をつき出した

    彼…モブリットは女性の腹に手で触れる

    風船ではない、確かにしっかりとした質量を感じる、そんな感触

    「本当に大きく、なりましたね。あ、動きましたよ、今」

    「お、ほんとだね!!この子は女だよ!!男がさわると動くからね~!」

    女性はしたり顔でそう言った

    以前よりずっと丸みを帯びた顔

    その顔を彩る眼鏡は変わらない

    「旦那さんに似た、女の子になるといいですね。あ、男の子でも、旦那さん似がいいですね、ハンジさん」

    モブリットが女性…ハンジにそう言うと、彼女は口を尖らせた

    「何で私に似たらダメなんだよ!!聞き捨てならないな!!」

    「ダメではないんですけど、何となく…今までの行動をお側で見ていた俺にはですね…」

    「あー、わかったよ!!どうせ変人だとかいいたいんだろ、君は!!」
    ハンジはプイッと顔を背けた

    モブリットは肩を竦めたが、言葉としては若干違ったニュアンスを発した

    「どちらに似てもいい、元気で生まれて来てくれればそれで…」

    そう言って、ハンジのお腹を優しく撫でるのであった
  6. 10 : : 2014/11/17(月) 23:52:24
    その時、コンコンと扉がノックされた

    「分隊長、失礼しま…あっ、団長、こんにちは。また来てたんですか」

    一人の女性がそう言いながら、部屋に入ってきた

    ふわりとカールした髪を肩の上で切り揃えている

    柔らかそうな髪に、柔らかそうな頬
    少し気の強そうな顔立ち

    彼女はハンジに、明らかに呆れたような表情を見せていた

    ハンジはその表情を知ってか知らずか、にやりと笑みを浮かべて、片手をひょいと上げた

    「やあ、ヒッチ。元気そうで何より!!」

    「元気じゃないですよ…この所残業が続いてて、幹部なんて楽だと思っていたのに、何か騙されましたよ」

    ヒッチはそう言って、頬を膨らませた

    「すまないね、ヒッチ。中々片付かなくて…」

    今も机の上の書類と格闘しながら、モブリットはヒッチにすまなそうに頭を下げた

    「ぶ、分隊長は謝らなくていいんですよ!!忙しい時に呑気に妊娠なんかしてるこの人が…!」
    ヒッチはハンジを指差して、キッと睨んだ

    「ごめんヒッチ!!計算が狂っちゃってね!!なんか試しにやったらジャストミートって感じでさあ!!」

    「何がジャストミートなんですかっ!!計算くらいしてくださいよ!!」

    「あーっ、もう、喧嘩は止めてくれよ…」

    モブリットは頭を抱えた
  7. 11 : : 2014/11/18(火) 08:20:15
    「だいたい、何でいっつも仕事の邪魔しにくるんですかぁ?ハンジさんは産休でしょ?家で休んでいたらいいのに。せっかく堂々と仕事を休めるのに、信じられない」

    ヒッチは不満そうに顔を歪めていた

    「だってさあ、家で一人腐ってても、精神衛生上よろしくないじゃないか」

    「ここで仕事の邪魔されたら迷惑ですよ!!」

    「邪魔なんかしてないだろ?ね、モブリット」

    ハンジは最後の手段と言わんばかりに、懇願するような目をモブリットに向けた

    モブリットはまるで二人の間に入るのを拒絶するかの様に、殊更書類と真剣ににらめっこをしていた

    だが、名指しで呼ばれては無視を決め込むわけにはいかない

    ちらりと呼ばれた方に顔を向けた

    「まあ、邪魔ではないですよ。ただほんっとうに忙しいんで、大人しく黙って座ってていただけたら助かります」

    ため息混じりにそう言うと、また書類とのにらめっこを再開させた
  8. 13 : : 2014/11/18(火) 10:25:23
    「大人しく座っているんだけどなあ…黙ってはいないけどさ」
    ハンジは身重の身体をソファに沈めながら、息を吐いた

    彼女の臨月の身体は、そんな些細な動作ですら息切れを起こす

    心配症なモブリットは、そんな上司の姿を見ればベッドに括りつけてでも大人しくして貰おうと考える

    だが、読んでいる出産と育児の書によれば、適度に身体を動かす方が良いとある

    だから、彼女が毎日の様に自宅から調査兵団本部に来る事を拒まなかった

    「ハンジさんは、一分でも黙っていられない質ですしね」

    ヒッチがハンジの膝にブランケットをかけてやりながら、憎まれ口を叩いた

    彼女は一見勝ち気でつんけんした様に見えるが、実際は少し違った

    憎まれ口を叩きながらも、相手を思いやる心は持っていた

    ただ、素直に外には出さないだけである

    「一分くらい黙ってられるさ!!」

    「じゃあ、はいどうぞ、黙ってて下さい」

    ヒッチの言葉に、ハンジはぐっと唇をかむ

    しばらくそのまま、二人のにらめっこが続いたが…

    「ぷ、ぷぷぷ…顔が真っ赤になってる~!必死すぎ!!力むと産まれちゃいますよ…あははは!!」

    ヒッチがハンジのあまりの形相に耐えきれず、お腹を抱えて笑い始めた

    「笑うなよな!!あー、ヒッチには勝てないなあ、まったく」

    「私に勝てないなんて、ハンジさん弱すぎ…ぷぷぷ」

    ヒッチは尚も、手を口に当てくすくすと笑うのだった
  9. 14 : : 2014/11/18(火) 11:01:01
    そんなハンジとヒッチの姿を見ながら、モブリットは心の中で一息ついた

    戦いが終息し、皆が新たな一歩を踏み出した時、ハンジは身はともかく、心がぼろぼろになっていた

    全てを成し遂げた事による、後遺症なのだろうか

    力強く前を見据えていた瞳は、輝きを無くし、文字通り脱け殻の様になってしまった

    常に神経を張りつめ、思考を繰り返す

    そんな日常が続いていた中で、その役割から突如解放された時…

    ハンジの心は確かに、音をたてて崩れた

    重責すぎる重責を、ずっと背負い続けた結果だった

    その様子に、モブリットは自分がもっと、彼女の責務を肩代わりするべきだったと後悔した

    至らない自分に、腹をたてた

    だが、彼はそこで悔やんで終わることを由とはしなかった

    壊れかけた彼女をまた、正常に戻すために、様々な手を考え、実行したのである



  10. 15 : : 2014/11/18(火) 11:13:45
    そう、また、とあるように、彼女が壊れたのは一度ではない

    彼と出会った頃、すでに彼女の精神は壊れかけていた

    暴力的で誰の言うことも聞かず、ただ本能の赴くまま行動していた彼女

    その原因は、目の前で簡単に失われていく、愛する仲間達の無惨な姿

    助けてやれなかった無力な自分

    優しかった彼女の心が、繰り返されるそれらの事象に耐えきれなくなり、壊れたのだった

    モブリットは、そんなハンジの側に献身的に付き従い、やがてその心を解きほぐす事に成功した

    彼女が誰を見ていようと、何処を見ていようと、彼には関係は無かった

    全ては彼女のために、行動してきたのであった
  11. 18 : : 2014/11/18(火) 16:40:12
    「でも、このくそ忙しい時に孕ませるなんて、分隊長も何考えてるんですかね!!ちょっと弛みすぎだと思う、調査兵団は!!」

    ヒッチは矛先をモブリットに代えて、苦言を呈した

    「ははは」
    モブリットは彼女の視線から逃れる様に、明後日の方向を向き、笑って誤魔化そうとした

    「モブリット…」
    ハンジはそんなモブリットに、何が言いたげな表情を向けた

    だが、彼の名前以外の言葉は口に出さなかった

    「しかも、結婚もしてないのに妊娠させるだなんて…なんか分隊長らしくないし…」

    ヒッチは探るような目をモブリットに向けた

    「まあ、若気のいたりというかね…はは」

    「私も危ないんじゃないですか!?分隊長の副官だし、ほぼ毎日一緒にいるし!!」

    ヒッチのその言葉に反応したのは、本人ではなく、上司だった

    「大丈夫だよ。モブリットは、そんな危ない事をする男じゃないさ」

    ハンジは何処と無く憂いを秘めた眼差しを、モブリットに向けてそう言った

    「団長を孕ませておいて、危ない事をする男じゃないなんて、信憑性皆無ですけど?」

    「ヒッチ、本当にすまない、信じてくれ。頼む」

    モブリットの懇願する様な眼差しと、言葉に、ヒッチは黙るしか術を持たなかった

  12. 20 : : 2014/11/18(火) 16:57:16
    ハンジの心を取り戻すために講じた策の一つが、彼女、ヒッチの存在であった

    革命の最中、ハンジは腹心の部下達を失った

    調査兵団自体も、その動乱の最中にかなりの人数が犠牲になった

    革命後、その減った人数を補うために、駐屯兵団、憲兵団より選ばれた人材が、調査兵団に加わった

    そう、兵団自体の人気も逆転現象を起こしていた

    今や調査兵団は憲兵団以上に人気の職場となっていたのだ

    革命時に調査兵団に貢献した者を積極的に、調査兵団に引き抜いた

    そうして白羽の矢が立ったのが、ヒッチ・ドリスだった

    彼女を当用したのは他でもない、モブリットだった

    彼女の明るさと、現実的で尚且つウィットに富んだ思考は、拠り所を失いかけているハンジの心に、良い刺激を与えると感じたのだ

    歯に衣を着せぬ発言も、怖いものを怖いと言える素直さも、全てひっくるめて、彼女の存在がハンジを救うと考えた

    その彼の予想は的中し、ハンジは日増しに笑顔を取り戻していったのだった

  13. 22 : : 2014/11/18(火) 17:21:04
    勿論、ヒッチをただハンジの当て馬として当用したわけではない

    憲兵団で楽がしたいと豪語していた割りに、彼女は職務に忠実であったし、仲間とは折り合いが悪かったらしいが、外からみた彼女の評判は、思った以上に良いものだった

    要するに、世渡り上手であると言えた

    彼女のいろいろな持ち味は、新制調査兵団に新しい風を吹かせてくれると、モブリットは考えた

    そんな経緯から、彼女は憲兵団から調査兵団第二分隊副隊長に大抜擢されたのであった

  14. 23 : : 2014/11/18(火) 18:58:29
    「とにかく赤ちゃんのためにも、じっとしてて下さいよ、ハンジさん。胎教に良さそうな子守唄でも歌うとか…」

    ヒッチの言葉に、ハンジは首を横に振る

    「いや、それはモブリットに却下されたんだ。音痴すぎるから、赤ちゃんに聞かせるのが憚られるらしい。失礼だと思わないかい?ヒッチ」

    「赤ちゃんは、お腹にいる時から声を聴いているんですよ。そんな大事な時期に音程の外れた歌なんて、もっての他です」

    モブリットは厳しい視線をハンジに向けて、そう言った

    「モブリットは赤ちゃんを音楽家にでもするつもりなのかい?」

    「確かに、分隊長は意外と厳しいですからね…赤ちゃんの時というか、お腹にいる時から、英才教育とかさせる厳しいパパになるかも…」

    「赤ちゃんかわいそうだね…」

    ハンジとヒッチは、お腹を撫でながらひそひそ話をするように、額をつき合わせた

    「全部、聴こえてるんだけどな…。英才教育なんかしませんよ。人聞きの悪い…」

    モブリットは二人の様子に、肩を竦めたのであった



  15. 24 : : 2014/11/18(火) 20:52:31
    「ヒッチ、すまないけどこれを…統合本部に持っていってくれないかな」

    モブリットはそう言うと、ヒッチに処理したての書類の束を指し示した

    「あ、それなら暇だし、私が持って…」

    「わかりました、帰りに買い物してきていいですか?分隊長」

    ハンジの言葉を遮る様に、ヒッチはモブリットの手から書類の束を受け取った

    「ああ、街に出るのも久々だろうし、ゆっくりしてくるといいよ。アルミンによろしく伝えておいてくれ」

    モブリットは微笑みを浮かべてそう言った

    調査兵団、憲兵団、駐屯兵団を束ねる統合本部の代表、今や権力の中枢にいるのが、調査兵団の104期生だった、アルミン・アルレルトだった

    彼は非凡な才能を発揮し、エルヴィン・スミスと共に革命を成功に導いた最大の功労者だった

    エルヴィン・スミスは元調査兵団団長…
    彼は遠く北の山奥に幽閉同然で暮らしていた

    革命は成功した

    だが、それまでに沢山の人々を死なせ過ぎた

    その責任をとって、自ら野に下ったのである

    エルヴィン・スミスは、残りの余生を静かに過ごすはずであった

    しかし、彼に恨みをもつ貴族達の放った暗殺者によって、その生涯を閉じる事となった
  16. 25 : : 2014/11/18(火) 21:01:24
    「久々にアルミンに会いたいのに…」
    ハンジは頬を膨らませたが、ヒッチは意に介さない

    「アルミンには私がちゃんと会っておきます、ハンジ団長。あなたは動かず大人しくしたらいいんですよ~」

    ヒッチはハンジにぺろっと舌を出すと、モブリットに会釈をして、部屋を退出していった

    「…ヒッチのけちー」
    ハンジはヒッチが去った扉に向かって、あっかんべーをした

    「あなたの身体を気遣っての事ですよ、団長」

    モブリットは諭すような優しい声色でそう言った

    ハンジは頷く

    「ああ、そうだろうね。ヒッチは、優しいからね」

    「随分彼女の明るさに、助けられています」

    モブリットはそう言うと、なにかを考える様に、窓の外に視線を移した
  17. 26 : : 2014/11/18(火) 21:21:45
    「ねえ、モブリット」

    ハンジはゆっくり立ち上がると、執務机に肩肘をつき、物思いに耽る腹心の部下に歩み寄った

    「はい、何でしょうか、ハンジ団長」

    モブリットはその気配に席を立ち、彼女にその椅子を勧める

    ハンジは首を振ってそれを制する

    「いいよ、少しくらい立っていられる」

    気の効きすぎる副官に、少々不満げにそう言った

    「身重の方を立たせて、自分が座るという様な教育を受けていませんから…」

    モブリットはそう言いながら、ハンジをゆっくり椅子に座らせた

    「君は、私に甘いよほんと」
    ハンジはそう言うと、手を伸ばして彼の頬に触れた

    「そうですね。自分でもそう思います」

    頬に触れる暖かさに、耳朶が熱を帯びる

    このまま目を閉じれば、いい夢が見れるかもしれない

    モブリットはそう思いながら、目を閉じた
  18. 28 : : 2014/11/18(火) 22:04:04
    「ねえ、本当に、黙っておくの?」

    ハンジの言葉に、モブリットは夢を見るのを諦めて目を開けた

    彼の視界に見えるのは、不安げな表情のハンジであった

    モブリットは、優しい眼差しを彼女に向ける

    そして自分の頬に触れる彼女の手に、自分の手を重ねた

    まるで彼女を安心させるかの様に

    「あなたは何も心配なさらないで下さい。今は元気な赤ちゃんを産むことだけを考えて…いいですね?」

    「………うん、わかったよ、モブリット。君に任せる」

    ハンジはそう言うと、モブリットに微笑みかけた

    だがその笑みは、何処か力の無いものだった

    「出産を控えて、いろいろ不安もあるでしょうけれど、大丈夫ですよ。必ず乗り越えられますから」

    モブリットはハンジを安心させるために、彼女の背中を優しく撫でた

    「うん、頑張るよ、私」

    「それと、例の件は…ヒッチには折を見て話しますから、ご安心を」

    「うん、わかった」

    ハンジは力強く頷いた


  19. 30 : : 2014/11/19(水) 11:43:22
    ―統合本部 本部長室―

    「アルミン、やっほ!」
    ヒッチは軽くノックをした後、扉を開いて軽快にお辞儀をした

    部屋の主は大きな机に雑然と積まれた本や書類に囲まれながら、闖入者に目をやる

    大きな青い瞳に明るい金の髪
    一見女性と見まごうばかりの童顔の顔立ちだが、こう見えて今や兵団を束ねる若い長だ

    「やあ、ヒッチ。相変わらず元気そうだね」
    若い長は少しトーンの高い声で、そう言った

    「アルミンも相変わらず、忙しそうだね」

    「そうだね、いくらやっても仕事がはかどらない。猫の手も借りたいくらいだよ」

    ヒッチは書類と本の山に囲まれている机にそっと歩み寄った

    そして、その書類の束の上に、自分が言付かった書類をポンと置く

    「はい、猫の手はないけど、また宿題が増えましたな、閣下」

    ヒッチは不敵な笑みを浮かべながらそう言った

    アルミンは肩をすくめる

    「うわあ、また増えた・・・」

    「仕方ないよね、エルヴィンさんがいなくなっちゃったからさ・・・」
    ヒッチは気の毒そうな目を、アルミンに向けた

    アルミンは頷く

    「そうだね。エルヴィン団長がやってた事を代わりにやらなきゃならないんだから、休めるわけがないんだよなあ」

    「アルミンて見た目とは違ってすごい奴だったんだね。エルヴィンさんにすべてを一任されるなんてさあ」

    「凄くなんかないよ。悪知恵が働くだけさ」

    アルミンはそう言うと、立ち上がって大きく伸びをした

    「悪知恵が働くのは、賢い証拠だからねー」

    「狡いだけだって、よくエレンとミカサにも言われてたよ。アルミンは想像力過多で、こすい奴だって」

    アルミンはそう言いながら、机の上に飾られた一枚の小さな絵を見た

    幼い頃に描いてもらった、幼馴染3人の絵だった
    アルミンの宝物だ

    「泣き虫アルミンが、立派になって・・・きっとエレンもミカサもびっくりするだろうね。特にエレン」

    ヒッチはそう言いながら、窓の外を眺めた

    その瞳には、ヒッチが見たいものは映らない

    それははるか遠く、どこにあると知れない場所にあるからだ
  20. 31 : : 2014/11/19(水) 11:54:06
    「ミカサは、無事だろうか・・・」

    アルミンはヒッチと同じように、窓の外を眺めた

    「どうだろうね、リヴァイ班がいくら精鋭とはいえ、当てのない旅だからねえ。エレンたちを見つけられたら、いいんだけどな」

    「見つけた方がいいのか、そっとしておいた方がいいのか、いまだに迷ってるよ、僕は」

    アルミンはそう言うと、視線を下に落としてため息をついた

    「巨人達の村・・・ね。でもそこにアニだっているんでしょ?私はもう一度、あいつにあっていろいろ文句いってやりたいんだよ。貸しもたくさんあるしさ」

    「多分、アニも、ベルトルトも、ライナーも、皆一緒だと思う」

    「面白おかしく暮らしてるなら、それはそれでいいんだけどね」

    ヒッチの言葉に、アルミンは頷く

    「そうだね、そうだと信じたいな」

    「エレンたちを見つけようと思ったのは、ミカサが推したんでしょ?どうせ」

    「まあ、それもあるんだけどね。エルヴィン団長が残した言葉でもあるんだ。彼らと友好関係を築きたいってね」

    「ふうん、なんかスケールが大きな話しだね、それ」

    ヒッチはアルミンが座っていた椅子にどっかり腰を下ろして、執務机に頬杖をついた

    「そうだろ?一応ここは政府の中枢とか呼ばれてるからね。スケールの大きな話なんか、この書類の中にわんさかあるさ。なんなら見てみるかい?」

    「うわーえんがちょえんがちょ!どうせ手伝わせるつもりなんでしょ?やだやだ、勤務外労働はいたしませんよ、閣下!」

    ヒッチは椅子から飛びのいて後ずさった

    「あはは、手伝ってくれよ、ほんとに!」

    「絶対やだから!断固拒否!」

    「閣下の言いつけだよ?」

    「パワハラで訴えてやる!!」

    ヒッチはアルミンと部屋の中で追いかけっこをするのであった
  21. 32 : : 2014/11/19(水) 14:46:52
    「ただいま戻りましたー!」

    威勢の良い声と共に、調査兵団団長室の扉を開けたヒッチ

    部屋の主は本来ならば団長であるハンジ・ゾエであるが、産休中のため、現在は団長代理であるモブリット・バーナーの部屋となっている

    時間は夕方を過ぎ、夜のとばりが降りている

    部屋は薄暗かったが、明かりは灯っていた

    部屋の主から、返事はない

    ヒッチが首をかしげながら執務机に歩み寄ると、部屋の主は机に突っ伏して眠っていた

    机の上の書類は、全て無くなっていた

    「全部一人でやっちゃったのか…」

    ヒッチはそう言いながら、手にした小さな包みを、机の上に置いた

    そして、ベッドの上に畳んでおいてあったブランケットを、部屋の主…モブリットの肩に掛けてやった

    「上司が真面目だと、部下も真面目にやらなきゃいけなくなるんだよなあ…参った参った…おやすみなさい」

    ヒッチは肩を竦めて、部屋を後にした


  22. 33 : : 2014/11/19(水) 16:56:56
    「ん…」
    目を開けると、見覚えのある風景が飛び込んでくる

    ゆっくりと身体を起こし、ポケットを探り、懐中時計に目をやる

    「もう、こんな時間か…」

    書類を全て処理し終え、それを部下に言付け、各部署に持って行ってもらい、一息つこうと目を閉じた所までは、覚えていた

    「夕飯も食べられなかったな。随分寝てしまった」

    兵舎の食堂も、既に閉まっている時間

    モブリットは息をつくと、身体に掛かっているブランケットを丁寧に畳む

    「ヒッチが帰って来たんだな。あれ…?」

    そこで初めて、机の上に見慣れない物を発見する

    小さな包みだ

    モブリットはそれを手に取り、しばし躊躇った後、包みを開いた

    中にはこれまた小さな箱が入っていた

    箱を慎重に開けると、そこには…

    「…はは、ヒッチ」

    箱の中には、緑の石のループタイが入っていた

    団長職に就く者は、公式の場ではループタイを着用する

    団長代理の自分には必要無いと言ったはずなのに、彼女は聞かなかったらしい

    もうすぐ執り行われる、新政府の記念式典のために、用意したのだろう

    「どうしても、俺が出なきゃならないのかな…」

    例え代理であっても、団長等という職が、自分に見合っているとは思えない

    モブリットは仕事中よりもより盛大に、ため息をついた
  23. 34 : : 2014/11/19(水) 17:10:58
    翌朝

    夕食抜きだったモブリットは、早めに起きて食堂にいた

    少し多めにパンとスープをもらい、それを手早く口にする

    今日も仕事が待っている、のんびりしている暇は彼には無かった

    食堂には殆ど人がいない

    静かな朝だ

    明るい日差しが窓からさしている
    いい天気だ

    今日は外をゆっくり散歩するように勧めてみようか…モブリットはそんな事を考えていた

    彼は、常にハンジを気遣っていた

    ヒッチに過保護だの、甘いだの言われて当然だ

    だが何を言われても、彼はそのスタンスを崩すことは無い

    彼女は、モブリットの生き甲斐になっていたのかもしれない

    それほどまでに、モブリットはハンジに心酔していた
  24. 35 : : 2014/11/19(水) 17:26:29
    「分隊長、おはようございます~、ギリギリセーフ!!」

    扉がノックされたと思った瞬間、元気な声が部屋に響き渡った

    「ヒッチ、おはよう。昨日はご苦労様」

    「…あーっ!!分隊長、ループタイしてないし!普通貰ったら次の日着けて、貰った人に見せるとかしませんかぁ!?」

    ヒッチは、執務机に向かうモブリットにつかつかと歩み寄り、不満そうに口を尖らせた

    「すまない、ヒッチ。着けようと思ったんだけどね…」

    「嘘だー!着けるなら、襟つきシャツ着るじゃないですか!!分隊長今日襟なしシャツだし、燻んだダサい色だし~」

    ヒッチはモブリットの、兵服ジャケットの下のシャツに文句をつけた

    「返す言葉も無いよ…」

    モブリットは項垂れた

    それを見たヒッチは、突然慌て出す

    「わ、ちょっと、情けない顔しないでくださいよ!!一応団長代理なんですよ!?」

    「誰か代わりに出てくれないかな」

    「無理ですよ!!そんな顔しても、出なきゃならないのは変わりませんよ!」

    ヒッチは腕組みをして、子供を叱る様な口調でそう言った

    「どうせ情けない顔だよ…」

    「そうですよ!!威厳の欠片もない!!わかりました、ちょっと待ってて下さい!」

    ヒッチはそう言うと、部屋を飛び出して行った

    「威厳の欠片もない…か。はは」

    モブリットは彼女の去った後に目をやりながら、微笑み浮かべた


  25. 36 : : 2014/11/19(水) 17:56:03
    「ただいま戻りました!」

    しばらくして、ヒッチが部屋に戻ってきた

    「おかえり、ヒッチ…っと」

    「それ、着てください!!分隊長」

    ヒッチはモブリットに、白いシャツを手渡した

    しっかり糊付けされた、綺麗な襟つきシャツだ

    「わざわざ探しに行ってたのか…」

    「はい、そこらへんの兵士から、拝借してきちゃいました!!さ、着替えましょ、ダサいシャツは脱いで…」

    ヒッチはそう言いながら、モブリットの兵服ジャケットを脱がしにかかる

    「ちょっと待ってくれ、自分で着替えるから…」

    「あ。私なら大丈夫です。男の上半身なんて腐るほど見てるんで」

    ヒッチはおろおろするモブリットを尻目に、ジャケットだけでなく、ダサい色と言われたシャツまで脱がしに掛かった

    「腐るほどって、君ね…」

    「あら、分隊長いい身体してるじゃないですか~。さすがは腐っても調査兵団ですね。筋肉隆々!!」

    ヒッチはモブリットの上半身をじっくり眺めながら、頷いた

    「セ、セクハラだ…」

    「さ、白いシャツを着ましょ!」

    モブリットの訴えを聞いているのかいないのか、ヒッチは意に介さず、白いシャツを上官に着せてやるのだった


  26. 37 : : 2014/11/19(水) 20:43:17
    「さ、仕上げに昨日買ったループタイをして…完成!!ほら、似合うじゃないですか!!」

    ヒッチはモブリットの姿に満足そうに頷いた

    「そ、そうかな…?白いシャツなんて着た事、殆ど無いからなあ…」

    「どうしてですか?白は一番清潔感があっていいんですよ」

    ヒッチは上官の髪を整えながら、首を傾げた

    「ほら、壁外遠征ばかりだったから、汚れが目立つ服はなかなか着れなくてね」

    「はー、なるほど。でも白似合いますよ。ヒッチさんのコーディネートでもてもて間違いなし!!」

    「もてもて、ねえ…」
    モブリットは肩を竦めた

    「これなら、ナイル師団長より絶対かっこいいですよ!!勝った!!」

    ヒッチはブイサインを、モブリットに示した

    「勝負なんか、おそれ多いよ…」

    モブリットはそう言いながら、ため息をついた

    「髪の毛、上げてみますか…」

    「ヒッチ、俺の話聞いてるかい!?う、わ、それだけは勘弁してくれ!!」

    「大人しくしなさい、分隊長!」

    ブラシとワックスを持ったヒッチに、しばらくの間追い回されたモブリットであった

  27. 38 : : 2014/11/20(木) 08:23:20
    「おはよ、朝から激しいね、君たち…ぷぷぷ…」

    モブリットがヒッチに追い回されている隙に、ハンジが扉を開けて入ってきた

    「あっ、団長また出たー!しかも早朝から!?もっとゆっくり寝てなきゃだめじゃないですかっ!!」

    ブラシとワックスを手に持ち構えながら、ヒッチは頬を膨らませた

    「うわ、ヒッチに朝から叱られたよ。何か武器持ってるしさ、怖い怖い」

    「そうですよ、武器です!!男を上げるためのですがね!!」

    そう言うと、くるりと踵を返し、一息つこうとしたモブリットに向き直る

    「わ、まだ諦めて無かったのか!!」

    後ずさるモブリットに、じりじり詰め寄るヒッチ

    「さあ、エルヴィンさんの様にきっちり分けて固めて気品を出すか、はたまた、オールバックにして力強さを出すか…」

    「エルヴィンの髪型希望!!…ぷぷぷ。想像しただけで笑える…」

    「ハンジさん!!笑ってないで止めてくださいよ!」

    モブリットの悲鳴の様な声が、部屋に響き渡った
  28. 39 : : 2014/11/20(木) 08:36:27
    「ちっ、折角イケメンにしてあげようとしてるのに…言うこと聞かないんだから!!」

    結局激しく拒絶されて、髪型を変える事が出来なかったヒッチは、忌々しげに舌打ちをした

    「いや、ありがたいんだけど…絶対に似合わないのがわかっているからさ…」

    「ははは、君たち仲良しだよね!!何か…昔の私とモブリット見てるみたいだよ」

    ハンジは扉に背を預けながら、二人のやり取りに目を細めていた

    「えー!!分隊長がこんなに上官に攻めてたんですか!?信じられない、大人しいのに」

    ヒッチはモブリットを指差しながら頭を振った

    「そうだよ、モブリットはずけずけと物を言う奴だったしね。あんた、とか呼ばれたりさ」

    「へー、そうは見えませんけどねえ」

    「時と場合によりけり、でしょう?いつも口うるさくはしていなかったはずです」

    モブリットはハンジをソファに座らせながら、不服そうに顔をしかめた

    「そうだね、君は過保護で、心配性なだけだよね」

    ハンジはそう言いながら、モブリットの頭をわしゃっと撫でてやるのだった
  29. 40 : : 2014/11/20(木) 08:49:43
    「でも、ハンジさん、今日は早すぎですよほんとに。もっと寝てなきゃだめですって」

    ヒッチはそう言いながら、ハンジの隣に腰を下ろした

    何をするかと思いきや、手に持ったブラシでハンジのぼさぼさの髪を解かしはじめた

    「今日はね、病院なんだ。もう臨月だから、週一で来てくれって言われてね」

    ハンジはお腹に手を当てながら顔を綻ばせた

    「定期検診てやつですか~。あれって恥ずかしく無いんですか!?ハンジさん」

    「あれって…ああ。慣れるよ、どってことない。最初はびびっちゃうけどね」

    「ですよね~!!女医さんならいいんだけどな~」

    「だよねー。一応女医もいるけどさ、タイミングと、日によって先生変わるからなあ…」

    二人は額をつき合わせて、ガールズ?トークに華を咲かせた

    モブリットは気配を消すかの様に、静かに執務机に向かうのであった
  30. 41 : : 2014/11/20(木) 14:02:31
    「ところで、分隊長」

    「…はっ、はい?」

    気配を消したつもりでいたのに、唐突に自分が呼ばれて、思わず面食らうモブリット

    「やっぱり、立ち会いはされますよね~当然」

    「立ち会い…?」
    ヒッチの問いかけに、一瞬頭が真っ白になる

    だが、その意味を理解した瞬間、今度は顔が蒼白になる

    「いや、それはその…」

    「何て顔してるんですかっ!?情けない!!」

    上官の歯切れの悪い、しどろもどろな返答に、ヒッチは目くじらを立てた

    「ハ、ハンジさんの出産の立ち会い、だよな…?それは、無理かも…しれない…」

    「パパになるくせに、何びびってるんですか!?しっかりして下さいよ!!」

    「あ、まあ…そう、なんだけど…その…」

    ヒッチの剣幕に、モブリットは目を泳がせた
  31. 42 : : 2014/11/20(木) 17:12:25
    「モブリットは仕事が大変だから、ついててもらうのは無理だよ。大丈夫、一人で平気さ」

    「えーっ!!でも分隊長はいつもハンジさんに付きっきりだったくせに、肝心な時に側にいないなんて、変ですよ~」

    ハンジの諭すような言葉にも、ヒッチは耳を貸さない

    彼女は非難じみた目を、モブリットに向けた

    「肝心な時…」

    モブリットはぼそっとそう発した

    「そうですよ。ハンジさんだって、今は大丈夫だって言ってても、やっぱりいざとなったら不安になるものらしいですし、かなり痛いらしいですし、誰か側にいてあげたら、それだけで気が紛れますよ!!って、本に書いてありました!!」

    ヒッチは二人に捲し立てる様に言った

    「本、読んでくれてるんだ、ヒッチ…」
    ハンジはヒッチの言葉に、嬉しそうに微笑んだ

    「あっ、わたしだっていずれ赤ちゃん産みますし、その時のために、読んでるんです!!」

    ヒッチは少々顔を赤らめながら、そう言った

    「ありがとう、ヒッチ。嬉しいよ」

    「そ、そんなこと言われたって、何も出ませんよ!?」

    ヒッチはハンジの慈しむような温かい視線に、顔を真っ赤にするのだった
  32. 43 : : 2014/11/20(木) 19:13:55
    「何だか、ハンジさんって変わりましたね」

    ハンジが病院に行くために部屋を出た後、ヒッチは感慨深げに言葉を発した

    「ああ、そうだね」

    「柔らかくなったというか、丸くなったというか…何だろうなあ…」

    ヒッチは考えを巡らせる様に、天井に目をやった

    「赤ちゃんがお腹にいるからかな。母性愛というか…確かに表情も優しくなった様に感じるね」

    モブリットはそう言って、書類から窓の外に視線を移した

    「赤ちゃんかあ…かわいいだろうなあ!!で、分隊長…立ち会い!!してあげて下さいよ~?」

    「立ち会い…かあ。仕事中じゃなければ、考えよう…かな」

    モブリットは尚も歯切れの悪い物の言い方をした

    「まあどうせ仕事中でも、ハンジさんがそんな状態ならじっとしてられないでしょうけどね~」

    ヒッチはモブリットに、いたずらっぽい笑みを浮かべながらそう言った

  33. 44 : : 2014/11/21(金) 08:49:08
    静かな執務室に、微かに鳴るペンを走らせる音

    時おり頬杖をついたり、ため息をつきながらも、真剣な眼差しを机の上に向ける上官

    ヒッチはそれをじっと観察する

    上官が真面目なのは、自分がここに配属されてから全く変わりない

    最初はこの勤勉さに、驚いた

    憲兵団にいた時には、上官は仕事などまともにしていなかった

    昼間から堂々と酒を煽り、ギャンブルに興じていて、それを部下に隠しもしなかった

    だから、ヒッチにすれば上官は仕事と責任だけを押し付け、美味しいところだけを取る、盗人の様な存在だった

    だが、ここに来てからそのイメージは一新された

    この真面目な上官は、自身に仕事がいくらたまっていようが、他人に押し付ける事はなかった

    むしろ部下の仕事すら肩代わりする程だ

    自分より先に執務室を出る事は滅多に無い

    この上官だけではないだろう、調査兵団とはそういう所なのだ、ヒッチはそう思った

    助け合わなければ、生きていけない所だった

    それらを、革命の時にはじめて彼ら、調査兵団に関わって知ったのである



  34. 45 : : 2014/11/21(金) 09:00:18
    調査兵団へ誘われた時、ヒッチは迷った

    危険な仕事をさせる所だという認識しかなかったからだ

    だが革命の最中、彼らの中に、自分達憲兵団には無い何かを確かに感じた

    それが何なのか、考えた

    答えは信頼と、絆だった

    彼らはお互いに信頼しあっていた

    彼らの間は、絆で結ばれていた

    絆は時にほどけそうになった

    それでもそこをしっかり繋ぎ直す役を担う人物が、綻びを修復した

    それを担っていたのが、ヒッチが仲良くなったアルミンであり、団長であるハンジであり、今は壁外へ、巨人の里を探しに行っているリヴァイ兵士長だった

    事の大なる部分を決めるのは、エルヴィンだった

    彼らは力では圧倒的に不利な状況を、信頼と絆で乗り越えたのである


  35. 46 : : 2014/11/21(金) 09:09:19
    この、モブリットという人物が、初めは胡散臭くて仕方がなかった

    ヒッチには理解し難い行動ばかりとっていたからだ

    仕事をさぼらないのは勿論、部下であるヒッチに対しても、謙虚な態度しかとらなかった

    上官は偉そうだという常識を頭に有していたヒッチにとって、モブリットは規格外だった

    少し疲れたとでも言えば、いつの間にかお茶をいれてくれて休憩を促したり、たまには遊びたいといえば、仕事中でも、行っておいでと笑顔で背中を押した

    その行動に、初めはラッキーだと遊びに行ったりしていたヒッチ

    だが、帰ってくる度、自分が部屋を出た時と同じ状況で机に向かっている上官を見ているうちに、わがままを言うのをやめたのだった
  36. 47 : : 2014/11/21(金) 09:16:55
    こんなに自分に優しいのは、もしかして狙われているのかな、と考えた

    だが、それも杞憂に終わる

    この真面目な上官には、大切な存在があるのが明白だったからだ

    上官の上官、ハンジ団長

    だが上官とハンジ団長は、特にデートをするのを見たことがなかったし、色気のあるような話も、見たことも聞いたこともなかった

    特別な関係である事は間違いないのだろうが、恋人同士にも、見えなかった

    だから、ハンジ団長が妊娠したと聞いた時に驚いた

    いつの間にか、手を出していたんだと

    何となく、引っ掛かるものを感じながらも、日に日に大きくなるハンジのお腹の中の赤ちゃんを、ヒッチは楽しみにしていたのであった
  37. 48 : : 2014/11/21(金) 09:29:48
    「ヒッチ…何か変かな、俺」

    モブリットのその言葉に、ヒッチは自分が上官をずっと凝視しながら考えに耽っていた事に気が付いた

    「変と言えば変ですけど」

    「ん?何処が変かな」

    モブリットはそう言いながら、髪に手をやったり、服を整えたりした

    「顔」

    「そ、それは今さらどうしようも無いじゃないか」

    「嘘ですよ…ぷぷ」

    不服そうに頬を膨らませる上官を目にして、ヒッチは愉しげに笑った

    「それなら良かった…」

    「分隊長はいい男ですよ。ヒッチさんが保証します」

    ヒッチはそう言って、見事な敬礼をした

    「本当かい?何だか嬉しいな」

    モブリットは頬を緩めた

    「それも嘘ですよ」

    「ええ!?俺、何か君に悪いことでもしたかな…当たりがキツい気がするんだけど…」

    「な、何て情けない顔~ぷぷぷぷ」

    モブリットの一喜一憂に、ヒッチはお腹を抱えて笑うのであった


  38. 49 : : 2014/11/21(金) 10:28:39
    昼が過ぎ、辺りがほんのりオレンジ色に染まる時間

    仕事が一段落して、モブリットとヒッチがコーヒーを嗜んでいる時、ハンジが部屋に入ってきた

    「ただいまあ!あー、疲れた!」
    ハンジは両手に荷物を持って、ふうふうと荒い息をしながらも、嬉しそうな顔だった

    「ハンジさん、今までずっと外に出られていたんですか?!」
    モブリットは慌てて席を立ち、ハンジの両手の荷物をむしり取る様に奪い、ソファにハンジを座らせた

    「私、飲み物を持ってきますね。ハンジさんの好きなリンゴジュース」

    ヒッチもさっと席を立つと、そう言って扉に向かった

    「ヒッチ―、私の好きな飲み物は・・・」

    「コーヒーは却下です!」

    ヒッチはハンジの言葉を遮る様に、部屋を後にした

    「ちぇ、一日一杯くらいならいいって先生言ってたのに・・・」

    ハンジはそう言いながら、ふう、とまた大きく息をついた

    「カフェインはなるべく控えた方が良いと、本に書いてありましたからね。ここはヒッチの言う事を素直に聞いておく方がよさそうですよ、団長」

    そう言いながら、モブリットはコーヒーを飲む

    「ずるーい!!」

    「ヒッチが折角淹れてくれたので・・・」

    「ちょうだい?」

    ハンジはちらりと上目使いでモブリットを見た

    「・・・どこでそのねだり方を学んだのでしょうか、団長」

    「ヒッチが教えてくれたんだよ」

    「部下に何を教わってるんですかあんた・・・」

    モブリットはあきれた様な表情を見せた

    ハンジはそれを聞いて、嬉しそうに顔を綻ばせる

    「うわ、ひさびさにあんたって呼ばれたよ!」

    「そんな事で喜ばないでください、団長」

    モブリットはそう言って、肩をすくめた
  39. 50 : : 2014/11/21(金) 10:41:13
    「お待たせしましたー、どうぞ、団長」
    ヒッチが戻ってきて、ハンジに飲み物の入ったマグカップを手渡した

    ハンジはそれを手にして、飲み物を凝視する

    「ヒッチ、ありがとう」

    しばらく後にそう言うと、にっこりと笑顔を見せた

    「いいえー。団長の食べ物と飲み物の恨み怖いですしね」

    「へへー、温かいね、美味しい」

    ハンジは飲み物を口にして、さらに顔を明るくした

    モブリットがちらりとその飲み物を確認して、なるほどと言った感じで頷いた

    ヒッチはハンジにリンゴジュースではなく、コーヒーを淹れてやったのだった

    かなりミルクの量が多い、カフェオレを

    「ヒッチは優しいな、いいお母さんになりそうだよ」

    モブリットがそう言うと、ヒッチはむすっと顔を膨らます

    「いいお母さんになる前に、いい女になりたいんですよ私は~。そして玉の輿に乗るんですからね!!」

    「へー、ヒッチ玉の輿狙ってるんだね。まあ、ヒッチの狙ってる子は、ある意味玉の輿に近いんじゃない?」

    ハンジはいたずらっぽい笑みを浮かべながら、ヒッチに問いかけた

    「な、何の話ですかね?!狙ってるとかよくわかりませ~ん!」
    ヒッチはそっぽを向いた

    「お似合いだと思うよ、俺も」

    モブリットがハンジに同調する

    「な、な、お二人してなに言ってるんですか!?あーやだやだ!」
    ヒッチは顔を真っ赤にしながら、首を振るのだった
  40. 51 : : 2014/11/21(金) 10:49:01

    「もう、いつ生まれてもおかしくないってさー。かなり下に降りてきているらしいよ」
    ハンジはお腹をさすりながらそう言った

    「そうですかあ、赤ちゃんにもうすぐ会えるんだー」
    ヒッチはこれ以上ないほどに頬を緩ませた

    「ヒッチは楽しみで仕方がないみたいだね。ハンジさんの赤ちゃんが」

    モブリットの言葉に、ヒッチは顔を更に赤くする

    「う、まあ、そうですね。楽しみですよ・・・」

    「そっかあ、嬉しいなあ!きっとこの子もヒッチの声をお腹の中で聞いてるからさ、会いたがってるはずだよ!」

    ハンジはそう言いながら、ヒッチの頭を撫でた

    「ハンジさんよりは優しくてきれいな声だと思いますしね。当然です」

    ヒッチはふん、と鼻を鳴らした

    「もしわたしの母乳の出が悪かったら、ヒッチ、代わりによろしく頼むよ!」

    ハンジのその言葉に、ヒッチは目をむく

    「そ、そんなの出るわけないでしょうが!!」

    「いや、結構立派なおっぱいしてるから、出るんじゃないかなあと、へへ」

    「ちょっと、ハンジさんつつかないでください!セクハラで訴えてやる!!」

    「・・・・・・・・・・」
    そんなやり取りを所在なさげにやり過ごす、モブリットであった
  41. 52 : : 2014/11/21(金) 10:58:00

    「買い物は・・・ベビー用品ですね、団長」

    おっぱい談義が終わった後、ヒッチがハンジの持ち帰った袋を確認しながらそう言った

    「ああ、必要な物、そろそろ揃えておかなきゃとおもってね!」

    「・・・、団長これ、全部用意されてますよ」

    ヒッチは眉を顰めながら立ち上がると、団長室の大きな戸棚の扉を開けた

    そこには沢山の育児用品が、きちんと整頓された状態で陳列されていた

    「ありゃ、何時の間に・・・」

    「・・・」
    モブリットはそーっと立ち上がると、執務机に抜き足差し足で向かう

    「さっきから分隊長は一言も口をききませんけど・・・一番楽しみにしているのは、分隊長ですよ、ハンジさん。まあ、パパですから当たり前ですけど」

    ヒッチはモブリットの背中を指さしながら、肩をすくめた

    「モブリット・・・ありがとう」

    ハンジはモブリットの背中に、頭を下げてそう言った

    「・・・いえ、俺は何も」

    モブリットは消え去りそうな声で、かろうじてそう言葉を発したのであった
  42. 53 : : 2014/11/21(金) 11:08:51
    「あー、ハンジさんはいいなあ、うらやましい」

    ハンジが帰宅の途についた後、ヒッチはため息交じりにそう言った

    「何がだい?ヒッチ」

    モブリットの問いに、ヒッチは上官を指さす

    「こんなに優しい旦那さんがいるからですよ。あ、結婚はされてないのは知ってますけどね」

    「ああ・・・うん」

    モブリットの歯切れの悪い返答に、ヒッチが首を傾げる

    「分隊長、何か最近変ですよ。顔がとかじゃなくて」

    ヒッチの言葉に、モブリットは目を伏せる
    「変かな?いつもと変わらないよ、俺は」

    静かにそう言うと、ソファに座り込んで大きく息をついた

    「なんとなく、変な気がするだけですけどね」

    「そうか、すまないね、なんだか」

    ヒッチの心配そうな表情に、モブリットは思わず謝罪した

    「謝らないでくださいよ、余計わけわからなくなっちゃう!」

    ヒッチは眉をひそめながらそう言った

    「そうだよな、本当にすまないね」

    「ほらーーーまた謝った!上司は部下にそうそう頭を下げるべきじゃないですよ!折角ヒッチさんコーディネートのイケテル団長ファッションに身を包んでいるというのに!!」

    ヒッチはそう言うと、モブリットの少し乱れた襟元と、ループタイを直す

    「威厳なんか皆無だよな・・・はは」

    自嘲気味にわらうモブリットに、ヒッチはついにばしっと背中を叩く

    「もっと堂々としててください!目指せエルヴィン・スミス!」

    「エルヴィン団長・・・なんて無理だって!」

    「無理じゃない、やるんです、というかやりなさい!」

    ヒッチの剣幕に、終始押され気味のモブリットであった
  43. 54 : : 2014/11/21(金) 11:20:08
    ヒッチが部屋に戻ったあと、モブリットは一人執務室で物思いに耽る

    抱えている数々の事象に、自分がどう対処していけばいいのか、それを慎重に考えていた

    部下にまで心配をかけている事実・・・態度には出していないはずなのに

    自分の団長代理としての役割の重さ

    そして何より、ハンジの出産にまつわる不安と葛藤

    自分がそれらを一人で背負わなければならない事に、耐えきれなくなってきているのかもしれない

    モブリットはそう思った

    いずれ、誰かに話さなければならない事はわかっていながら、その事の重大性を踏まえると軽々しく誰にでも話せるわけは無い

    モブリットが抱える事象は、それだけ重大な事であった

    彼は大きく息をついた

    もう少し、時が来るまで耐える

    そう考えて、瞳を閉じた

    ただ敬愛する上司についていくだけでよかった時間がどれほど貴重で大切であったか

    そしてその時間がどれほど幸せであったか

    たとえ状況が常軌を逸するほどに過酷な物であろうとも、ハンジと乗り越えてきたその時間は、彼にとっては幸せな物でしかなかった

    今はただ

    時が満ちるのを待つのみ

    たとえ自分の心が滝の様な涙で溢れようとも、あの人だけは

    モブリットは静かにそう思いをはせるのであった
  44. 55 : : 2014/11/21(金) 11:30:31
    それから数日、平和で穏やかな日々が続いた

    相変わらずハンジは毎朝団長室に足を運び、最近はその部屋に居座る事が多くなった

    というより、家に帰すよりは目の届く所にいてくれたほうが、何かがあった時に安心だからという、モブリットの計らいであった

    産前産後は精神的にも不安定になる時期だ

    ヒッチの様な存在がそばにいた方が気も紛れるだろう、彼はそう考えた

    検診にもヒッチが付き添う様になった

    特別手当として新しい服を一着買ってやるという約束をして・・・

    ヒッチは嬉しそうに、検診に付き添うのであった
  45. 56 : : 2014/11/21(金) 11:42:53
    そんなある日、いつもの様にモブリットはヒッチと執務に励んでいた

    ハンジも時折それを手伝いながら、育児用品を整理したり、本を眺めたりして過ごしていた

    「よし、君たちのためにハンジさんがコーヒーを入れてきてあげよう!!」

    ハンジはそう言うと、よいしょとソファから立ち上がった

    その瞬間だった

    水風船が割れたような音が、微かに聞こえた

    「えーー、コーヒーは自分が飲みたいから入れるんでしょう、団長。って、あれ?」

    「やばい、もらした!?うそ!」

    ハンジは慌てふためいた

    ハンジの足元に、液体がしたたり落ちていた

    「違う、それは失禁じゃないですよ!ヒッチ、急いで下着の替えを」

    モブリットがその様子に素早く行動を開始する

    「は、はい。ハンジさん着替えましょう」

    「急いで馬車を呼ぶから、出る準備をしていてくれ」

    モブリットはそう言い放つと、部屋を飛び出した
  46. 57 : : 2014/11/21(金) 11:43:10
    「ハンジさん、大丈夫ですか・・・?」
    下着を着替えさせて、ハンジをベッドに横たわらせながら、ヒッチは心配そうに声を掛けた

    「ああ、大丈夫・・・これって、破水かもしれない」

    「かもしれない、じゃなくて、破水ですよ、間違いなく」

    ヒッチはそう言いながら、ハンジの額の汗をハンカチでぬぐった

    「破水しちゃったら、早く産まなきゃいけないんだよ、たしか」

    ハンジの不安そうな顔に、ヒッチは頷きながらもにっこり笑う

    「そうですね!もうすぐ、赤ちゃんに会えるんですよ!楽しみです」

    「そうか、もうすぐ・・・そうだよね」

    ハンジは少し、表情を明るくした

    「そうですよ、頑張ってくださいね、お母さん!」

    「ああ、任せておいて、すぽーんと産んでくる」

    「なんですか、その効果音は!もう・・・あはは」

    ヒッチは楽しそうに笑いながら、ハンジのお腹を撫でてやった
  47. 58 : : 2014/11/21(金) 11:54:16
    それから、ハンジはモブリットが呼んだ馬車と、調査兵団所属の軍医と共に、病院へ向かった

    モブリットとヒッチの見立て通り、ハンジは破水したのだった

    執務室で書類とにらめっこをしながら、モブリットは落ち着かなさげに何度も時計に目をやっていた

    「ちゃんと、陣痛は来ているだろうか・・・」

    破水をしてしまうと、赤ちゃんを守っていたクッションが無くなる

    破水から始まる出産は、迅速に行わなければ、感染症などを起こす危険性がある

    とはいえ、破水が先の出産はよくある事なのではあるが

    「心配しなくても大丈夫ですって。元気そうでしたし、笑ってたし、軍医さんも心配いらないっておっしゃってたじゃないですか」

    ヒッチの言葉に、モブリットはふうと息をつく

    「そう、なんだけどね・・・もう、6時間か」

    「ですね、今頃陣痛と戦っているんじゃないかな、ハンジさん」

    ヒッチが窓の外を見ながら、そう言った

    「そう、だろうね」
    モブリットも窓の外に視線を移した
  48. 59 : : 2014/11/21(金) 12:00:16
    「分隊長、知ってますか?赤ちゃん産むのって、鼻の穴からスイカを出すくらい痛いらしいですよ」

    ヒッチが眉をひそめた

    「・・・そんなの、不可能だろ?」

    「でも、それはずーっとその痛さじゃなくて、徐々に、痛くなるらしいですよ。最終的にはその激しい痛みが来る間隔が狭まってくるらしいです」

    「・・・なるほどね」

    モブリットはそう言うと、また時計に目をやった

    「・・・分隊長」

    モブリットの様子に、ヒッチがたまらず声を掛けた

    「ん?なんだい、ヒッチ」

    「我慢してないで、さっさと行ってきてはいかがですか?心配すぎて、居ても立っても居られないっていうオーラが出まくってるんですけど」

    ヒッチは困ったように首を傾げながら、そう言った

    「いや、でも俺が行ったところで何もできやしないし・・・邪魔になりそうだしな・・・」

    「何を迷ってるんですか?大切な人の、一番苦しい時に、側にいてあげないなんて。いてあげられない理由があるならわかるんですよ。でもここには私がいて、私は仕事を代わりに出来ちゃうわけですからね」

    ヒッチはそういうと、胸を張った

    モブリットはしばらく目を伏せたが、やがて立ち上がる

    「やっぱり、行ってくるよ。あとはよろしく頼む」

    そう言うと、兵服のジャケットをつかんで部屋から飛び出して行った

    「ふう、世話のやける上官・・・ふふ」

    ヒッチはそう言うと、先ほどまでモブリットが座っていた椅子にどかっと座る

    「さあて、上司が残して行った宿題でも片付けますかな!ヒッチ団長代理代理様が・・・ぷぷ」

    一人で含み笑いをし、書類に向かうのであった
  49. 60 : : 2014/11/21(金) 12:25:38
    モブリットが分娩室に通された時、彼が敬愛する上司は痛みに耐える様な顔をしていた

    「ハンジさん、唇をかみしめないで、力を抜いて。力を入れる場所はそこじゃないですよ。もっと、下です」

    医者にそう言われながら、上司は必死に痛みと戦っていた

    彼女の視界が、部屋に入ってきたモブリットの姿を捉えた時、その瞳から大粒の涙が零れ落ちた

    「モブリット・・・痛い、よ・・・」

    その大粒の涙と力ない声に、モブリットは慌てて駆け寄る

    「ハンジさん・・・」

    見た事のない上司の辛そうな姿に、モブリットは彼女の手を握りしめながら、医者の方を見た

    「大丈夫です。もうすぐですから」

    医者は静かにそう言った

    「ハンジさん、もうすぐですよ、頑張ってください」

    「だ、だって・・・さっきからもうすぐとしか、言わないんだもん、先生・・・」

    ハンジは唇を尖らせた、その瞬間また顔をゆがめる

    「うう、またきた・・・あと、何回いきんだら出るん、だ、よ」

    「あと3回ほど、ですかね」

    「それも、さっきから数が変わって、な、い・・・」

    不満そうな声も、ほとんど声になっていなかった

    そんな様子に、モブリットはもはや見ていられないとばかりに目を閉じる

    替われるものならば、替わってあげたい、だがこれだけは頑張ってもらうしかない

    もう一度苦しむ上司に視線を向けて、その額の汗をぬぐう

    「ハンジさん、大丈夫です。神様は乗り越えられる試練しか、与えないんですから」

    モブリットの言葉に、ハンジは一瞬にやりと笑った

    「・・・君の口から神様なんて言葉が出るなんて・・・私、そんなにやばそうなの?…っ痛」

    この状況でなおも憎まれ口を叩く上司に、モブリットはほっと胸をなで下ろした

    「ハンジさん、頑張ってください。髪の毛が、見えてますよ。貴女と同じ色の髪の毛が」

    モブリットのその言葉に、ハンジは顔をゆがませながらも頷いたのであった

  50. 61 : : 2014/11/21(金) 12:41:27
    それから数十分後、ハンジは元気な赤ちゃんを産んだ

    彼女と同じ髪の色で、彼女と同じ瞳の色の、女の子だった

    彼女は泣いていた

    自分がたった今産んだ、小さな命を胸に乗せて、腕で優しく抱いてやりながら

    モブリットはというと、ベッドの側の椅子に座り込んで、両手で顔を覆っていた

    彼の肩は微かに震えていた

    「モブリット・・・ごめんね、怖かったんだろ?えらい現場を見せてしまったね」

    ハンジの言葉に、モブリットは首を振った

    彼の口から言葉は発せられない

    「大丈夫かい?顔、上げなよ」

    「・・・大丈夫、です」

    モブリットはなおも顔を上げない

    ハンジは赤ちゃんをしっかり片手で抱きながら、彼の顔を覆う、彼自身の手を退かせた

    「・・・君」
    ハンジはモブリットの顔を見て絶句した

    「大丈夫です・・・本当に」

    「泣きすぎだよ、顔真っ赤じゃないか。そんなに怖かったのかい?」

    ハンジの労わる様な声に、モブリットは頭を振る

    「怖いわけ、ないじゃないですか・・・。俺は・・・」

    モブリットはそこまで言って、言葉を詰まらせた

    「モブリット?」

    「俺は、嬉しいから泣いているんですよ。感動しました・・・ありがとうございます、ハンジさん」

    彼のその言葉に、ハンジは満面の笑みを浮かべて、彼の頭を撫でる

    「モブリット、来てくれてありがとう。嬉しかったよ。実は、すっごく不安だったんだ。痛いしさ、もう何がなんだかわかんないくらい、痛かったんだよ。でも、泣かなかったんだよ、君が、来る前までは・・・だけど」

    「そう、でしたか。本当に、よく頑張りましたね・・・。赤ちゃんは、よく寝ています。本当に、可愛いです」

    モブリットはハンジの胸の上の小さな命にそっと手で触れた

    その小さなかけがえのない命は温かく、柔らかく、限りなく愛しい存在の様に、彼は感じた
  51. 62 : : 2014/11/21(金) 12:54:06
    「ねえ、抱いてやってよ。生まれたてのこの子を」

    ハンジはゆっくり体を起こして、赤ちゃんをモブリットに差し出した

    「え、いや、それは・・・」

    「可愛いよ?」

    「可愛いですよ、当たり前です・・・。でも起こしてしまいそうですし、どうしたらいいのかわかりませんし・・・壊れてしまったらと思うと・・・」

    モブリットはうろたえた

    「はは、そうそう壊れやしないって!このハンジさんの赤ちゃんだよ?ほら、ほら」

    ハンジはそう言いながら、モブリットの腕に赤ちゃんをそっと乗せた

    「・・・意外と、しっかりしてますね。しかし、可愛いなあ」

    モブリットは腕の中ですやすやと眠る赤ちゃんの姿に、頬を緩ませながらそう言った

    「私に似て、可愛いだろ?」

    「・・・そう、ですね。旦那さんにはあまり、似ていない様に・・・」

    「モブリット・・・、あのさ」

    ハンジは赤ちゃんを抱くモブリットに、問いかけた

    「はい、なんでしょうか、ハンジさん」

    「私、ちゃんと育てるからね、この子を」

    「・・・はい、俺もできる限り協力します」

    モブリットはそう言うと、赤ちゃんをハンジの腕に返して、頭を下げた

    「モブリット、本当にありがとう。君にはいつも迷惑をかけっぱなしだね」

    ハンジの言葉に、モブリットは首を振った

    「そんなことは・・・」

    そこまで言って、口をつぐむ

    ハンジのための苦労なら、買ってでもするのだと

    迷惑などと思ったことは一度もなかったと

    これからも頼ってほしいと・・・

    そう言いかけて、やめたのであった

  52. 63 : : 2014/11/21(金) 13:01:58
    仕事を急ぎ終え、病院に駆け付けたヒッチは、赤ちゃんと待望の対面を果たしてご満悦であった

    その帰り道、上司と暗い街道筋を歩きながらスキップをしていた

    「あーかっわいかったなー!ついに分隊長もパパかあ!頑張らなきゃいけませんねえ!」

    ヒッチの言葉に、モブリットは歩みを止めた

    「ヒッチ、話があるんだ。兵舎についたら、俺の部屋に来てほしい」

    「えっ?何ですかそのお誘いは!奥さんが出産だからって浮気は・・・なんていう色気のある話ではなさそうですね。わかりました、すぐ行きますから」

    モブリットの真剣な、そしてどことなく憂いを秘めた表情に、ヒッチはそう言って頷いたのだった


    兵舎のモブリットの部屋は、綺麗に整頓されたいかにも几帳面な男の部屋と言った感じであった

    ヒッチはその部屋に設えてあるソファに腰を下ろしていた

    モブリットはヒッチにコーヒーを差し出して、向いに座った

    「話ってなんですか、分隊長」

    ヒッチはモブリットに早速切り出した

    「ああ、話す前に約束してほしいんだけど・・・。今から話す内容は、誰にも言わないで欲しいんだ。知っているのは、俺と、アルミンと、ハンジさん本人だけだから」

    「アルミンも知ってるんですね・・・わかりました、誰にも言いません、多分」

    「ヒッチ・・・」

    「冗談ですよ、すみません。言いませんから、どうぞ」

    ヒッチの言葉と、彼女のいつになく真剣な眼差しに、モブリットは意を決した様に話を始めた

  53. 64 : : 2014/11/21(金) 13:14:08
    「実は、ハンジさんが生んだ赤ちゃんの父親は、俺じゃないんだ」

    「・・・え?」
    モブリットの言葉に、ヒッチはハトがマメを食らったような顔をした

    「モブリットさんの子どもでしょう?」

    「違うんだ」

    モブリットは頭を振った

    「いいえ、だって、ほら、育児用品買ったり、出産まで酒絶ちしたり、出産に立ち会うまでしたのに・・・」

    「それはしたけど、俺が父親ではないんだ」

    モブリットはそう言うと、目を伏せた

    何かに耐える様な、そんな表情だった

    「・・・じゃあ誰が父親なんですか?」

    ヒッチの飾らない、ストレートな質問は、モブリットの心に矢のようにつきささった

    「ハンジさんの赤ちゃんの父は・・・エルヴィン団長なんだ」

    「・・・ええええええええ!」
    衝撃の事実に、ヒッチは思わず大きな声で叫んだ

    「ヒッチ、声が大きい」

    「す、すみません・・・いやだって、お、おかしくないですか?計算が…合わないことはないか・・・」

    ヒッチは指折り数えながら、そう言った

    「そういう事なんだ。君が変に思っていた事が、少しは解消されたんじゃないかな」

    モブリットはそう言いながら、ふうと息をついた

    ヒッチは首を振る

    「いいえ、解消されません。余計理解できなくなりました。じゃあどうして分隊長はそこまでするんですか?エルヴィン団長にハンジさんが抱かれたってことですよね?それを平気でいたってことですよね?わかんない」

    「君の、言いたい事はわかっているつもりだよ。でもね、平気だとかそういう次元の問題ではなくて・・・」

    モブリットはそこまで言うと、言葉をとめた

    「ハンジさんがずっと追っていたのは、エルヴィン団長の背中で、そのハンジさんの背中を追っていたのが、俺だってことだよ」

    「・・・ということは、ハンジさんはエルヴィン団長が好きだったって事ですか?それで、政変で野に下らなきゃならないとなった時に、思い切って抱かれに行ったとか?」

    「君は話の察しが早くて助かるよ」
    モブリットのその言葉に、ヒッチは机をばんと叩いた

    「ええええ、信じられない!うそでしょ・・・?私はてっきり・・・」

    「黙っていてすまなかった、ヒッチ」

    モブリットは立ち上がり、深々と頭を下げた
  54. 65 : : 2014/11/21(金) 13:26:14
    「もう一つ、話しておかなければならない事があるんだ。それも・・・」

    「はい、内密ですね、もうこれ以上びっくりさせる様な事はないでしょう、さすがに」

    ヒッチはそう言うと、腕組みをした

    「・・・エルヴィン団長は、生きている。この事は、俺と、アルミンと、ナイル師団長、そして今話した君しかしらない」

    「・・・えええええええ!暗殺、されたんでしょう?!」

    「されてないんだ。世間的には死んだように見せかけているだけで、ご存命なんだ。北の山奥の村で、名前を変えて暮らしてもらっている」

    モブリットは静かにそう言った

    「・・・そう、だったんだ」

    「黙っていて、本当にすまなかった、ヒッチ」

    モブリットは再度、深々と頭を下げた

    ヒッチは慌てて立ち上がる

    「も、もう頭は下げないでとあれほど・・・でも、分隊長、それじゃあ」

    ヒッチは下げた頭を上げようとしないモブリットを覗く様に見ながら、言葉を発した

    「それじゃあ、分隊長は・・・自分の子どもじゃないうえに、自分の女でもない人にそこまでしてたって事・・・ですか?」

    「そうなるね」

    モブリットは顔を上げると、頷いた

    「そうなるねって・・・どれだけお人よしなんですか!分隊長!いい人は早死にするんですよ、もっと狡くならないと!」

    「十分狡いよ。だって、エルヴィン団長が生きている事を、ハンジさんに知らせていないんだからね」

    モブリットはそう言うと、窓の外に視線を移した

    その表情は形容しがたいほどに切なく、愁いを帯びていた

    「知らせていないのだって、どうせエルヴィン団長に指示されてるんでしょ?そうに決まってる。分隊長はそういう人だもん・・・」

    ヒッチはそう言うと、唇をかみしめた

    彼女の瞳には、うっすら涙が見え隠れしていた
  55. 66 : : 2014/11/21(金) 14:16:21
    「エルヴィン団長は、ご存じなんですか…?赤ちゃんが出来たこと…」

    「いや、知らないんだ。ハンジさんはただ一度だけ、団長とそうなったんだけど、タイミングが良すぎたのか、ハンジさんがそれを望んだのか…とにかく、団長は妊娠したのをご存じ無いんだ」

    モブリットはヒッチの問いに、頭を振った

    「じゃあ、もう、エルヴィンさんには黙っておきましょうよ。ハンジさんにも、エルヴィンさんが生きている事は内緒に…ね、分隊長」

    ヒッチはモブリットの、固く握りしめた拳を、自分の手で包み込みながらそう言った

    「それは…迷っているよ。時期が来れば、話すかもしれない」

    「だ、駄目ですよ!!だって分隊長はハンジさんの事が…」

    ヒッチの言葉を遮る様に、モブリットは人差し指を彼女の口許に添えた

    「俺の事は、関係ないからね。あくまで、ハンジさんとエルヴィン団長の間の話だ」

    「そ、そんなこと、納得できるわけ、無いじゃないですか!!私は絶対、言わせませんからね…それに、関係ないからなんて、そんな…」

    ヒッチはそう言うと、モブリットの頭を自分の胸に、半ば強引に抱き寄せた

    彼女の目から、涙が堰を切るかのように溢れだした
  56. 67 : : 2014/11/21(金) 14:56:48
    「ヒッチ、君にお願いがあるんだ」

    部下の胸から、自分の頭が解放されると、モブリットは真摯な眼差しを彼女に向けて、言葉を発した

    「何ですか…分隊長」
    ヒッチは尚も涙を流しながら、応じた

    「ハンジさんの側に、出来るだけいてやってほしい。出産後はとにかく大変らしい。授乳も不規則だし、寝る間もなかなかとれないという話だしね」

    モブリットの言葉に、ヒッチは頭を振る

    「いや、ですよ。ハンジさんの事、嫌いになりそうです…。絶対に、分隊長の気持ちを知っているはずなのに…」

    「ヒッチ、ハンジさんは自分から、俺に世話をしてくれと頼んできた事は、一度も無いんだよ。育児用品にしかり…俺が勝手にやっているだけなんだ」

    モブリットの諭すような口調に、ヒッチは唇をぎゅっとかみしめた

    「嫌です…」
    ヒッチは首を振った

    「ヒッチ、頼む。ハンジさんは良くも悪くも真っ直ぐな人だ。恋の駆け引きなんかにも全く興味がない。そんなハンジさんが、エルヴィン団長に身体を差し出したという事は、それ自体にきっと、何か意味があるんだと思う」

    モブリットはヒッチに、真剣な表情で語りかけた

    「じゃあ、分隊長がハンジさんのお世話を付きっきりでして差し上げたらいいじゃないですか」

    「勿論、俺もやれる事はやるよ。でも、身の回りの細やかな事は、俺より同性の君の方が、きっとそつなくこなす。何より俺は…」

    モブリットはそこまで言って、ヒッチの肩に、そっと手を置いた

    「君と話をしているハンジさんが、本当に嬉しそうで…だから、是非側にいてあげてほしい。無理は承知だ、君に迷惑をかけてすまないけど…頼まれてもらえないかな」

    モブリットの言葉に、ヒッチはしばらく目を閉じた後、ゆっくり頷いた

    「わかりました。分隊長の頼みだから、やらせて頂きます」

    「ありがとう、ヒッチ」

    「ハンジさんの気持ちも、確かめます、必ず。ではおやすみなさい」

    ヒッチはそう言うと、部屋を出ていった

  57. 72 : : 2014/11/21(金) 22:02:58
    それから数日後、ハンジは無事、赤ちゃんと共に退院した

    ここから、大変な生活が始まった

    ハンジにも実家はあるが、調査兵団に入るにあたり、勘当同然で家を飛び出してきた手前、実家には慣れない子育てのサポートを頼もうとはしなかった

    一人で育てるつもりでいながら、側にいつも様にいてくれるモブリットに、つい甘えてしまっていた


    真夜中、数時間おきの授乳に疲れたハンジがうたた寝している間、モブリットは目をらんらんと開けている赤ちゃんの相手をしていた

    昼間は勿論、彼は団長職をこなしている

    夜になるとハンジの家に行き、夕食の準備をする

    ハンジも料理ができないわけではないが、産後の下腹部の痛みも未だに残り、しかも赤ちゃんを育てるための母乳に、体の栄養が奪われる

    慣れない育児に、昼間はほぼ一人で頑張っているせいか、疲れが見える

    そのため、少しでもハンジの負担を減らそうと、モブリットは夕食から後の、夜の付き添いをしていたのであった
  58. 73 : : 2014/11/21(金) 22:15:54
    「可愛いなあ…本当に」

    真夜中に、赤ちゃんを大事そうに抱きながらそう呟くモブリット

    昼の仕事からぶっ続けで、睡眠もろくに取っていない彼であったが、赤ちゃんの顔を見ているだけで、疲れが紛れる気がしていた

    「飽きないんだよなあ…」

    夜なのに、目をらんらんと輝かせている赤ちゃんの頬に、そっと指先で触れる

    柔らかい感触に、モブリットは頬を緩めた

    「可愛いとしか言いようがないな。親バカか…いや、親じゃなかった」

    モブリットはそう呟くと、赤ちゃんの頬に頬擦りをした

    そして、ふと隣で寝息をたてているハンジに視線を移す

    その寝顔は赤ちゃんと似ている

    モブリットは、ハンジの頬にそっと手を伸ばした

    その頬の感触を、だがモブリットは確かめる事はしなかった

    触れる寸前で思いとどまり、伸ばした手を引っ込めたのだった

  59. 74 : : 2014/11/22(土) 09:11:15
    昼間は、定期的にヒッチがハンジの家に顔を出していた

    モブリットから告げられた衝撃の事実に、まだ自身は動揺していながらも、可愛い赤ちゃんの顔を見ると、それらのわだかまりが全て払拭された気がしていた

    今日も昼食の時間に、ヒッチはバスケットを手に持ち、ハンジ宅を訪れた

    バスケットにはピクニックよろしく、いつもサンドイッチやおにぎりが詰まっていた

    「団長、赤ちゃん赤ちゃん!!」

    ヒッチは挨拶もそぞろに、赤ちゃんの姿を先に探す

    「ヒッチ、来てくれたんだね、ありがとう。赤ちゃんは寝てるよ。昼間はぐっすりなんだ」

    ハンジは少し疲れた様な顔をしながらも、微笑みを浮かべてベビーベッドを指差した

    ヒッチがベッドを覗くと、赤ちゃんはすやすやと愛らしい寝顔を見せていた

    「かっわいい~!私が来たときはいっつも寝てる気がするけど、可愛い…」

    ヒッチは暫しためらった後、そっと赤ちゃんの頬に指で触れた

    ハンジが隣に来て、反対の頬に触れる

    「可愛いよね、うん。困ったことに、昼夜逆転してるのか…夜には目がらんらんなんだ」

    「…という事は、夜に来ている分隊長は…」

    ヒッチの問いに、ハンジは頷く

    「ああ、本当に迷惑をかけているよ…。申し訳ないと思ってはいるんだけどね…」

    ハンジはそう言うと、俯き目を閉じた

    ヒッチはハンジのその様子を見て、ゆっくり言葉を発する

    「分隊長は…迷惑だなんて、思った事は…一度も無いと思いますよ。ハンジさん」

    「ああ、そう、だよね…」

    「頼れる時には、頼ればいいと思う。甘える時には、甘えればいいと思う。分隊長はきっと、それを望んでいるはずだから…」

    ヒッチの言葉に、ハンジは彼女の顔に視線を移した

    彼女の、どこか憂いを秘めたような眼差しが、ハンジに向けられていた

    「私は、幸福者だよ…本当に。私には過ぎた部下だ。君も、モブリットも…」

    「部下として括らないで下さいよ。私はともかく、モブリットさんは、部下の範疇を、ずいぶん前から越えています」

    ヒッチは頬を膨らませた

    「そうだね、部下だという言葉では、表せないんだ。分かってはいるつもりなのに…。私は…どうしたらいいかな…」

    ハンジは今にも消え去りそうな声で、そう言った

    「自分がどうしたいのか、考えればいいんじゃないですか。本当に望んでいる事を。でもまずは、赤ちゃんをしっかり育てましょ。今はこの子の事だけを考えましょ、ね、ハンジさん」

    ヒッチはそう言うと、赤ちゃんの頬にまた触れた

    「ああ、そうだね。うん、頑張らなきゃね。ヒッチ、ありがとう」

    ハンジは頷き、微笑んだ

    「では早速、腹が減っては戦ができぬ!!昼食にしましょ!」

    「了解!!」

    ハンジとヒッチはお互いに敬礼をしあって、クスッと笑ったのであった
  60. 75 : : 2014/11/22(土) 09:46:51
    「こんにちはー!!」

    ハンジとヒッチが仲良く昼食に舌鼓を打っている時、玄関から声がした

    「どうぞ、入って!!」
    ハンジが玄関に向かって声を掛けるのと、ヒッチが玄関へと駆け出すのはほぼ同時だった

    「アルミン、来たんだね!!」

    「ヒッチ、来てたんだ!!」

    二人は顔を合わせてそう言うと、部屋に入った

    「やあ、アルミン。元気そうだね!!」

    「ハンジさん、ご出産おめでとうございます!!これはお祝いです…」

    そう言って、ハンジに紙袋を手渡したアルミン

    「わ、ありがとう!!おもちゃがたくさんだ!!助かるよ、おもちゃは何も用意してなくてさあ」

    ハンジは紙袋を漁って、ガラガラを取り出すと、ヒッチに手渡した

    「それ、赤ちゃんのベッドに置いてやって。アルミン、赤ちゃん見てやって、かっわいいからさあ」

    「ハンジさんは超親バカなんだよ、アルミン。さ、こっちこっち!!」

    アルミンは、ヒッチに連れられてベビーベッドに向かった

    ベッドの中ですやすやと眠る赤ちゃんに、頬を緩ませるアルミン

    「か、かわいいなあ…癒されるよ。仕事の疲れがね…」

    「アルミンも、大変だよね」

    ハンジの言葉に、ヒッチが応える

    「モブリットさんの机の数倍、アルミンの机は凄いですからね…」

    ヒッチは震えながらそう言った

    「手伝ってくれないんですよ、ヒッチが…」

    「当たり前でしょ!?私はアルミンの部下じゃないし~!!あっちいけしっし」

    「ひ、酷いよヒッチ!!」

    二人のそんなやり取りに、ハンジは優しげな笑みを浮かべるのであった



  61. 76 : : 2014/11/22(土) 10:01:15
    その頃調査兵団団長室では、いつも通り執務机の書類を裁断しながら、昼食を口にするモブリットの姿があった

    彼は最近いつも、食堂に行く間を惜しんで、職務に励んでいる

    生来の真面目さが成せる技であったが、それだけではない

    彼は仕事に打ち込む事で、余計な事を考える余地を無くしたかったのである

    自分自身の行動、葛藤、様々な事象が彼の心の中を掻き乱す

    仕事に邁進している間だけは、それらを忘れる事が出来た

    とにかく日が高いうちは仕事に、夜は赤ちゃんの事だけを考えよう、そう思いながらも、物思いに耽る事を止められなかった

    そしてついつい寝不足がたたり、いつの間にか机に突っ伏している事がたまにあった
  62. 77 : : 2014/11/22(土) 10:09:18
    「あらあ、分隊長寝てる…」

    ハンジの家から団長室に戻ったヒッチは、最近たまに見かける上司のうたた寝に、肩を竦めた

    「仕方ないよねえ…殆ど寝てないもん。真面目な分隊長が職務中にうたた寝…ふふ」

    ヒッチはそう言いながら、いつもの様に、背中にブランケットを掛けてやると、代わりに仕事を始める

    「しっかし私もくそ真面目になったよねえ。きのこマルロが見たら驚くだろうなあ…どうしてるかな、きのこ…ププ」

    ヒッチは元同僚のマルロに思いを馳せ、含み笑いを洩らした

    ちなみにマルロは憲兵団で、師団長の側近として敏腕を振るっていた

    「きのこにも、たまには会って顔見せてやりますかね~いけねっ、仕事仕事」

    そう言いながら、また書類に向かうのであった

  63. 78 : : 2014/11/22(土) 10:49:14
    そんなある日の夜、ハンジは珍しく夜に寝ている赤ちゃんを見ながら、口を開いた

    「ねえ、モブリット」

    傍らにいて、布オムツをたたんでいるモブリットに声を掛けた

    「はい、何でしょうか、ハンジさん」

    モブリットは手を止めて、上司の方を見た

    彼女は赤ちゃんの顔を、限りなく優しげな表情で眺めていた

    「名前、決めなくちゃなって思ってね」

    「名前…ですか。難しいですね」

    モブリットは赤ちゃんに視線を移して、じっと見つめた

    「決めてくれないかな、君が」

    ハンジのその言葉に、モブリットはぎょっとして上司の方を向く

    彼女は真摯な眼差しを、モブリットに向けていた

    「いえ、でも、それは…」

    「私はね、この子は…君みたいに思いやりのある、優しい子になって欲しいんだ。だからさ、君が名前、つけてあげてくれないかな」

    ハンジはそう言うと、にっこりと微笑んだ

    「ですが、俺は…」

    「モブリット、お願い」

    上司のその言葉に、今まで一度も嫌だと言えたことがないモブリット

    「はい、わかりました。俺なんかでよければ…」

    「俺なんか、じゃない。君じゃなきゃ、だめなんだ」

    ハンジはそう言うと、複雑そうな表情のモブリットの頭を、優しく撫でた

  64. 79 : : 2014/11/22(土) 16:11:53
    「モブリット、今日はもう休んでていいよ。珍しく赤ちゃんはよく眠っているし、君は昼間も夜も、働きづめだろ。私は昼間に寝れるからね」

    ハンジは、赤ちゃんの様子を飽きることなく見つめるモブリットに、そう声を掛けた

    「最近は、自分も職務中にうたた寝してしまう事がありまして…。ですから、睡眠はとれています。ハンジさんこそ、昼間大変なんですから、休んで下さい」

    「うたた寝では、疲れはとれないよ。ちゃんと寝なきゃ、ベッドでね」

    ハンジはそう言うと、モブリットをベッドに押しやった

    「いや、でも…」

    「つべこべ言わずに、寝るんだよ、モブリット」

    ハンジは無理矢理モブリットをベッドに押し付けると、布団を身体に掛けてやった

    「な、何かありましたら、起こして下さいね、ハンジさん…」

    モブリットは申し訳なさそうな顔をしながら、ハンジにそう言った

    「ああ、わかった。おやすみ、モブリット」

    ハンジはそう言って、モブリットの眉間を指先で撫でた

    その何ともくすぐったい様な、落ち着く様な感覚に、モブリットはたちまち夢の世界に旅立ったのであった

  65. 80 : : 2014/11/22(土) 16:43:18
    ベッドに入るや否や、すぐに眠りについたモブリットの顔を、ハンジは憂いを秘めた眼差しで見つめていた

    「疲れていたよね…ごめん」
    ハンジはそう言うと、モブリットの頬に手を伸ばして、撫でた

    もう少し、柔らかかった様な気がする…彼の頬は、男にしてはふっくらしていたはずだ

    働きづめでやつれて、体重が落ちたのか

    無理をしているのが、明らかだった

    「モブリット…私は…」

    彼の頬に手を添えたまま、ハンジは俯いた

    どこまでも優しく、いつでも自分の事を考えてくれているモブリットに、甘えている事はわかっている

    エルヴィンとそうなった事を話した時、モブリットは表情一つ変えなかった

    それどころか、想いを遂げることが出来て、良かったと言った

    長年自分が誰の背中を見てきたのかを、側で付きっきりだったモブリットは、気がついていたのだ

    その時の彼の様子から、ハンジはモブリットが自分を特別に思ってはいないのかと、そう考えた

    だがその認識は、打ち明けた次の日に間違っていた事がわかる

    遅刻などしたことがない、模範生のようなモブリットが、酒の飲み過ぎで二日酔いになり、半日遅刻してきたのであった

    すみませんすみませんと、平謝りのモブリットの顔は、目の下にくまがくっきり浮かび、瞳には全く力が感じられなかった

    その上、後日発覚した妊娠騒ぎ

    もうモブリットは、もしかしたら壊れてしまうのではと、ハンジは思った

    だが、モブリットはまた、ハンジの予想を越えた対応をする

    彼はハンジのお腹に手を当てて、おめでとうございますと言った

    そして、勿論産みますよね、全力でサポートしますからと、見事な敬礼をしたのであった

  66. 81 : : 2014/11/22(土) 16:58:21
    ハンジは、モブリットが自分を大切に思ってくれているとわかっていても、エルヴィンへの敬愛の念は抑えられなかった

    だから、エルヴィンが野に下り、もう二度と表舞台には立たず、幽閉されると聞いた時、これが最初で最後だと思い、ハンジは長年心にためた想いを、身体を差し出す事で示した

    エルヴィンも、一度は拒否したものの、最後だからと言うハンジの言葉に、彼女の望む通りにしたのであった

    その結果、ハンジは妊娠したが、彼女は子どもが欲しくてそう望んだわけではなかった

    ただただ、エルヴィンの愛を、受け止めたい一心だった

    その後、エルヴィンは暗殺されたが、スミス家の優秀な血は、お腹に宿る赤子に受け継がれた

    ハンジはこれが運命だと悟った

    この血を絶やさない事、そんな重大な事が、自分に託されたのだと、そう思ったのであった

  67. 82 : : 2014/11/22(土) 17:13:48
    ベビーベッドで眠る赤ちゃんと、ベッドで寝るモブリットを交互に眺めながら、ハンジは息をついた

    モブリットは、赤ちゃんを我が子の様に大切に接していた

    風呂に入れる時などは、母であるハンジよりもよほど丁寧である

    心底嬉しそうに赤ちゃんの相手をする

    オムツを替えるのに、なんの躊躇もしない

    100点満点の、父親だ

    例え血は繋がっていなくても

    ハンジはモブリットの手に、布団の下を探って触れる

    温かい、大きな手

    限りなく優しい男の手だ

    「私にこの手を握る資格は、あるのかな…」

    散々好き勝手をし、モブリットを振り回しているという自責の念が、ハンジを苛んでいた
  68. 83 : : 2014/11/22(土) 18:10:06
    「う、ん…」

    ハンジが目を覚ますと、いい匂いが鼻腔をくすぐった

    身体を起こすと、簡素なキッチンでせかせかと動くモブリットの姿が視界に入った

    テーブルの上には、パンとサラダが置いてある

    「モブリット、おはよう。いい匂いがするね」

    ハンジがそう言いながら立ち上がると、モブリットがくるりと振り返った

    「おはようございます、ハンジさん。起こしてしまいましたか」

    「ううん、それより、私も寝ちゃってたんだね。ごめん、モブリット」

    ハンジはキッチンに足を運んだ

    いい匂いの正体は、野菜のスープであった

    「昨日は赤ちゃんもぐっすりでしたから、大丈夫です。そろそろ起きてくるかもしれませんし、先に朝食をどうぞ」

    モブリットはそう言うと、ハンジを座らせて、飲み物とスープを彼女の前に差し出した

    「君は食べないのかい?」

    「俺は、もう時間ですので…パンだけ頂いていきます」

    モブリットの言葉に、ハンジは寂しげな表情を見せた

    「そっか、そうだよね。忙しいしね…」

    「ハンジさん…、昼にはヒッチが来ますから、本当にすみません…」

    モブリットはいたたまれない様な顔つきになりながら、頭を下げた

    「いや、なんで君が謝るんだよ…こっちこそごめん。なんか最近気が弱くなったというか…」

    「産後はそういった精神状態になるものらしいです。一時的なものではあるのでしょうけど…」

    モブリットの心配そうな表情に、ハンジは笑顔を作った

    「大丈夫、心配しないで。いってらっしゃい」

    「……はい、いってきますね。しっかり朝食を食べてくださいね」

    モブリットはそう言うと、赤ちゃんの顔を覗いて、部屋を後にした

    「産後鬱、ってやつなのかなあ…何だか寂しくなってきた…」

    ハンジはモブリットの去った方をじっと見つめながら、いつしか涙を流していた
  69. 84 : : 2014/11/22(土) 18:36:43
    「ヒッチ、今日は少し早めにハンジさんの所へ行ってくれないか?」

    執務をしながら、モブリットは不意にヒッチに声を掛けた

    「構いませんけど…何かありましたか?」

    ヒッチはモブリットの言葉に頷きながら、問いかけた

    「ハンジさんが少し寂しそうだったからね」

    「ふうん。そういう時にはぶちゅっと一発キスでもすれば、落ち着きますよ~分隊長」

    ヒッチは唇をつきだして投げキッスをした

    「な、何を言って…」

    「それか、押し倒しちゃうとか!?」

    「で、出来るわけないだろ!!そんな事…」

    モブリットは悲鳴のような声を上げた

    「えー、意気地無し」

    「そういう問題では…」

    「わかりましたよ、行ってきます。これが片付いたらね…」

    ヒッチはそう言うと、手に持った書類をばさばさとはためかせた

    「ああ、よろしく頼むよ」

    「ほんっと、じれったいなあ」

    「ヒッチ?!」

    モブリットは、部下の積極的発言に目を白黒させるのであった
  70. 85 : : 2014/11/22(土) 19:14:48
    その日の夕方、モブリットは早めに仕事を切り上げて、ハンジの自宅に赴いた

    ヒッチは元気そうだったと言っていたものの、やはり朝のあの寂しそうな表情が、モブリットの頭の中を占領して、仕事が手に着かなくなっていた

    モブリットが部屋に入ると、ハンジはソファに座り、赤ちゃんを抱いていた

    「あ、モブリット。おかえり」

    ハンジはモブリットに笑顔を見せた

    「ただいま戻りました…あっすみません」

    モブリットは挨拶もそぞろに、ハンジに背を向けた

    「ありゃ、どうしたの?」

    ハンジの問いに、モブリットは手に持った買い物袋をテーブルに置きながら、ばつが悪そうに言葉を発する

    「いえ、授乳中でしたので…失礼しました」

    「なあんだ、全然構わないのに、ねー」

    ハンジは赤ちゃんに問いかける様に言った

    「そう、ですか…」
    モブリットは尚もハンジの方を向こうとはせず、買い物の整理をしはじめた

    「最初はさ、上手く飲めなかったのに今はさ、ゴックゴック飲んでるんだよ。成長したよ」

    ハンジの言葉に、モブリットは頷いた

    「見てみるかい?」

    「結構です」

    モブリットは、ハンジの提案を即拒否した

    「そっかあ。飲んでる姿、すっごく可愛いんだよ。小さい口で一生懸命さあ…」

    「…見ます」

    「はは、うんうん」

    ハンジの手招きに応じて、ソファに座る

    遠慮がちに覗くと、確かに小さな口でしっかり乳を吸っている赤ちゃんが目に飛び込んできた

    「…」
    モブリットは無言でその姿を見ていた

    「よく考えたらさあ、君は出産シーンだって見てるのに、なんで授乳中を見るのが恥ずかしいんだよ…ふふ」

    「…確かにそうでした」

    モブリットは顔を赤らめながらそう言った

    「はは、面白いなあ、君は」

    「放っといて下さい、俺は真面目なんですよ。それより、本当に可愛いですね」

    モブリットの言葉に、ハンジは笑顔で口を開く

    「うん、可愛いよ。しかし君は本当に親バカだなあ」

    ハンジの言葉に、モブリットは首を振る

    「いいえ、本当に可愛いので…親バカではありません」

    「ははは」

    「それに、俺は…」

    モブリットはそこまで言って言葉を止めた

    そして、立ち上がりハンジと赤ちゃんに背を向けた

    「モブリット…?」

    「夕食の支度をしてきますね」

    ハンジは彼の背中をじっと見つめた

    何処と無く、その背中が寂しげに思えた

  71. 86 : : 2014/11/22(土) 23:05:10
    「ねえ、モブリット」

    静かな夜、赤ちゃんは昼間ずっと起きていたからか、ぐっすり眠っていた

    ハンジはベビーベッドを覗きながら、何時もの様にモブリットを呼んだ

    「はい、何でしょう、ハンジさん」
    彼も何時もの様に返事をする

    モブリットは、赤ちゃんの額を撫でている上司の側に歩みより、跪いた

    「名前、考えてくれた?」

    「…はい」

    ハンジの問いに、モブリットは頷いた

    「聞かせて?」

    「気に入っていただけるかわかりませんが…」

    モブリットはそう言うと、胸のポケットから一枚の紙を取り出した

    「お、いろいろ考えてくれたんだね」

    「はい…どれか、気に入っていただける名前はありますか、ハンジさん」

    「君が決めた名前なら、何でも構わないよ。本当に」

    ハンジはそう言うと、モブリットに微笑みかけた


  72. 87 : : 2014/11/22(土) 23:13:28
    「では…フレイヤという名前はいかがでしょうか」

    モブリットのその言葉に、ハンジは目を細める

    「フレイヤか…女神、だよね。いい名前だ」

    「フレイヤは月の女神でもありますが、この子なら、名前に負けないほど輝くと思います」

    モブリットはそう言うと、何故か立ち上がり、頭を下げた

    「君は今から、フレイヤだ。いい名前をもらったね」

    ハンジはそう言いながら、たった今フレイヤという名前になった赤ちゃんの頬に、そっと指先で触れたのであった



  73. 88 : : 2014/11/22(土) 23:34:36
    フレイヤとなった赤ちゃんは、ハンジやモブリット、ヒッチらの愛情をたくさん受けて、すくすく成長した

    一月が過ぎ、外出が出来るようになってからは、ハンジはフレイヤを連れて、調査兵団本部に散歩…と称して遊びに来るようになった

    名前の女神、よりはまるで天使の様に、兵団の兵士たちに可愛がられた

    二月、三月がたつと、意図的に笑うようになった

    一番最初にきゃっきゃと笑い声を上げたのは、鏡に写る自分を見た時だった

    その時丁度モブリットが、泣きじゃくるフレイヤを抱いてあやしていた

    お腹が空いたわけでもなく、オムツが濡れている訳でもなく、何故だかわからないまま、必死にあやしていると、不意に鏡を見て笑い始めたのだった

    フレイヤの笑い声を聞いた瞬間、モブリットは彼女を高く抱き上げた

    嬉しくて、仕方がなかったのである

    一方ハンジは、初めての笑い声を聞き逃して、口を尖らせていた

    しかし、それを何とか宥めようと、必死にもう一度笑わそうとしているモブリットの姿を見て、大笑いしたのであった


  74. 89 : : 2014/11/22(土) 23:44:20
    そんな幸せで穏やかな日々が、いつまでも続くのだと、誰もが思っていた

    だが、ただ一人だけ、一切顔にも態度にも出さなかったが、思い悩んでいる人物がいた

    それは他でもない、フレイヤの成長を間近で見てきた、モブリットであった

    彼は悩みに悩んでいた

    大切な人に、大事な事を話せていない

    その事実と罪悪感に、常に苛まれていた

    そして、それを話せばこの幸せな日々はもう、戻っては来ないであろう事に

    決断の時を、先伸ばしにすればするほど、別れが辛くなるのは明白であるのに

    勇気の無い自分に、心底嫌気が差していたのであった

  75. 90 : : 2014/11/23(日) 00:14:51
    フレイヤが8ヶ月を過ぎた頃、モブリットは兵舎の自室にヒッチを呼んだ

    「分隊長、何かご用ですか?浮気のご用命なら…違いますね」

    「ああ、すまない、夜遅くに」

    モブリットはヒッチに頭を下げた

    「いいえ、大丈夫ですよ。夜更かし好きですし。で、何でしょうか」

    「明後日、ハンジさんをある場所へ連れていくのに、付き添ってやって欲しいんだ。フレイヤも一緒に、だ」

    モブリットの言葉に、ヒッチは頷く

    「はい、わかりました。旅行ですか~?楽しみ!何処へ行くんですか?」

    「……北の、山奥の小さな村だよ」

    モブリットは辛うじてヒッチに聞こえるくらいの声で、そう言った


    「…北の山奥?」

    「ああ、そうなんだ。長旅になる、十分準備はしておいてほしい。よろしく頼むよ」

    モブリットはそう言うと、立ち上がった

    ヒッチは、ソファに座ったまま動かない

    「分隊長、それって…もしかして」

    ヒッチは恐る恐るモブリットの顔を覗く

    そして、上司の表情を見て、全てを悟った

    「い、嫌です!!絶対に、嫌!!」

    ヒッチは首を振りながら叫んだ

    「ヒッチ、君にしか頼めないんだ。わかるだろ?」

    「嫌だったら、嫌です!!」

    ヒッチは頑なにそれを拒んだ

    「ヒッチ…頼む」

    モブリットは跪いて、ヒッチの固く握りしめられた拳に、手を添えた

    「ど、どうしてですか…?だって、とっても幸せそうだったじゃないですか…ハンジさんも、分隊長も、フレイヤちゃんも…どうして今さら…」

    ヒッチの瞳から溢れだす涙を、モブリットは何度も指で掬う

    「いつかは全部打ち明けようと決めていたんだ。フレイヤが、旅に耐えられる様になれば…ハンジさんが、子育てに慣れてくれば…そのタイミングを、ずっと悩んでいたんだよ」

    「で、でも…」

    ヒッチは尚も、首を縦には振らない

    「ハンジさんがこのまま、何も知らずにいるなんて…フレイヤの父親はまだ生きているというのに、それを大切な人たちに黙っている事なんて、俺には出来ない」

    「分隊長…」

    「俺にとっては、ハンジさんは勿論、エルヴィン団長も、神のような存在なんだ。尊敬している。そのお二人の子どもも、一緒だ」

    モブリットはヒッチに諭すように言った

    「分隊長…分隊長は、バカです。出産にだって立ち会って、夜通し世話をして、オムツだって離乳食だって、なんだってやってきたのに…それなのに…。ハンジさんにだって、あれだけ尽くしてきたのに…」

    ヒッチは堪らず、声を上げて泣いた

    「ヒッチ…」

    モブリットは大泣きするヒッチの背中を、何度も何度も撫でた

    しばらくそのまま、部屋にはヒッチの泣き声が響いていた

    やがて彼女は泣き止むと、モブリットに凛とした眼差しを向けた

    「わ、わかりました。分隊長…私が責任もって、ハンジさんをお連れします…」

    「ありがとう、ヒッチ…」

    モブリットは泣き笑いのような表情で、ヒッチの頭を撫でたのであった
  76. 91 : : 2014/11/23(日) 00:43:17
    次の日の夜

    フレイヤはお得意のハイハイで、あちこち這いずり回っていた

    その様子を、ハンジは優しげな表情で見守っていた

    モブリットはそんな二人を、少し離れた窓際の椅子に座って眺めていた

    彼にとって、敬愛する上司

    そして、その上司の愛らしい子ども

    自分の命より大事なものだと、即答出来る自信があった

    ずっとこのまま、眺めていたい…そう願うのは当たり前だった

    だが、彼は大切な人のために、その願いを自ら諦める事を決めた

    何より大切な人たちのために…ハンジとフレイヤのために、真実を打ち明ける決心をしたのである
  77. 92 : : 2014/11/23(日) 01:08:00
    「ハンジさん、お話があります」

    モブリットのいつになく真剣で、それでいてどこか儚げな様子に、ハンジは内心首を傾げた

    「どうしたんだい?変な顔して」

    モブリットは何も言わずに、ハンジをソファに座らせて、自分は向かいに座った

    そして、大きく息をついた後、ゆっくり口を開いた

    「ハンジさん、実は…フレイヤの父親は、エルヴィン団長は、生きています」

    「………」

    モブリットの言葉に、ハンジは固まった

    「政変の際に、エルヴィン団長は自ら犠牲になって、野に下りました。いずれは貴族達の残党が、恨みを団長にぶつけるのは明白で…幽閉されてしまえば、調査兵団で守ることも出来ませんし、かといって無罪放免するにも、犠牲が大きすぎました」

    ハンジは何も言わずに、モブリットの言葉を聞いていた

    「団長は、死ぬつもりでした。ですから自ら幽閉されようとしていたのです。ハンジさんが団長とそうなったのは、そのあたりの時点でした。そこまでは、ハンジさんも御存知ですね」

    「…ああ」

    「エルヴィン団長は死ぬつもりでしたが、アルミンがエルヴィン団長に生きていてもらわなければと、知恵を出しました。それが、暗殺騒ぎ…だったのです。暗殺されたことにして、生きていてもらおうとしたのです」

    モブリットは、足元にまとわりつくフレイヤを抱き上げて、話を続けた

    「アルミンは、エルヴィン団長が、まだこの世の中で必要な人材だと確信していました。間違った方向に人類が曲がった時に、指針になるべき人だと。ですが、エルヴィン団長はそれをよしとはしなかったのです。もう、例え生きていても、自ら表舞台に立つことは無いとおっしゃいました」

    「アルミンは、エルヴィン団長に、表舞台に立たなくても、何でもいい、自分達に残してほしいといいました。アルミンは、まだまだエルヴィン団長から学びたかったんです。その熱意に押されて…団長は、山奥の村で名前を変えて、生きる事を決めました」

    モブリットはそこまで言うと、席を立ち、ハンジの側で跪き、頭を下げた

    片手でしっかりと、フレイヤを抱きながら

    「ハンジさん、黙っていてすみませんでした。あなたに話さなかったのは、全て俺の一存です」

    ハンジはモブリットの様子を、じっと見つめていた

    「明日の朝、馬車を用意しました。旅のしたくも、整えています。フレイヤと一緒に、北の山奥に、向かって下さい」

    モブリットはそう言って立ち上がると、フレイヤをハンジの膝に乗せた

    何も言わないハンジに、さぞや怒っているのだろうとちらりと顔を見た瞬間

    なんとも物悲しい表情で、自分を見ているハンジと目が合った

    「……ハンジさん、すみませんでした」

    モブリットはもう一度頭を深々と下げると、風呂の支度に取りかかるべく、その場を後にした

  78. 93 : : 2014/11/23(日) 01:20:37
    風呂からあがるフレイヤを抱き取り、丁寧にその身体を拭いてやるモブリット

    もう、こうして服を着せてやることも無いだろう、そう思いながら、モブリットは手際よくオムツをつけ、服を着せてやった

    フレイヤはご機嫌で、だぁだぁと声を出して、手足をばたつかせていた

    モブリットが彼女を抱き上げた時だった

    「パ…」

    という言葉を発しながら、フレイヤはモブリットの頬に手を伸ばした

    「ん?なんだい、フレイヤ」

    「パ…パ…パ」

    フレイヤはそう言いながら、モブリットの頬に、手でぱちぱちと触れた

    モブリットは目を丸くした


    「パ…パ」


    フレイヤの発している言葉の意味を理解した時

    今までずっと堪えてきた何かが、ぷつりと切れたように

    モブリットの瞳から、涙がこぼれ落ちた

    「パ、パ」

    尚もそう言うフレイヤに、モブリットは首を振った

    「ごめんフレイヤ…俺は君の…パパじゃないんだ…」

    モブリットは絞り出すような声でそう言って、フレイヤをぎゅっと抱き締めたのだった
  79. 94 : : 2014/11/23(日) 01:32:16
    しんと静まり返った夜

    モブリットは明かりを消して、そっと立ち上がった

    フレイヤも、結局あれから一言も話さなかったハンジも、ぐっすり眠っていた

    「パパと呼んでくれて、ありがとう…」

    モブリットはそう言って、ベビーベッドの中で眠るフレイヤの頬を、そっと撫でた

    そして、隣のベッドで眠るハンジの顔を見た

    手を伸ばしたが、やはり触れることは出来なかった

    「ハンジさん…ありがとうございました」

    モブリットはそう言って頭を下げると、ハンジの家を後にした


  80. 95 : : 2014/11/23(日) 01:38:50
    モブリットは知らなかった

    ハンジが実は起きていた事を

    ハンジはモブリットが家を後にしていく様子を、目で追っていた

    その姿を目に焼き付けるように、ハンジはぎゅっと目を閉じた





  81. 96 : : 2014/11/23(日) 10:56:18
    ハンジ達が北の山奥に旅立ってから、調査兵団本部では、いつもの可愛らしい声が聞こえなくなっていた

    兵団員達は、ハンジとフレイヤが何処へ行ったのかは知らない

    ただ、ヒッチらと旅行に出掛けていると認識していた

    何となく物足りなさを感じながらも、兵団員達は、迫る壁外調査の為に慌ただしく過ごしていた

    勿論それは、団長代理であるモブリットも同じである

    彼はハンジのいない穴を埋めるべく、日々仕事に明け暮れていた

    副官であるヒッチの不在もたたり、団長室に泊まり込みをしなければならない程に、多忙を極めた

    だが、胸にぽっかりと空いた穴を気にする暇がない方が、彼には有りがたかった
  82. 97 : : 2014/11/23(日) 11:14:03
    壁外調査まで後数日、ハンジ達が旅立って2週間がたった

    モブリットは久々に夜に時間が空いたので、何となく、ハンジの家に来ていた

    何も考えてはいなかった

    ただ足が勝手に動いていた

    家に入ると、しんと静まり返って、何処と無く埃っぽかった

    当たり前だ、もう2週間、誰も来ていないのだから

    モブリットは、窓という窓を開け、あちこちに積もった埃を払いながら、雑巾掛けをした

    彼の几帳面な性格は、埃っぽい家を許せなかった

    誰ももう、来ることは無いのに、それでも丁寧に掃除をした

    彼のかけがえの無い時間を、埃が消してしまう気がしたのだった


  83. 98 : : 2014/11/23(日) 12:48:04
    部屋中を綺麗にし、やっと人心地ついたモブリットは、ソファに座って息をついた

    懐中時計が指している時間は夜の二時

    目を閉じると、忘れようとしていた思い出が脳裏をよぎる

    彼にとって、生きてきた中で一番彩りのあった時間に想いを馳せながら

    勤務疲れが貯まりきった身体が、睡眠を欲していたのだろうか

    彼は誘われる様に、眠りについた
  84. 99 : : 2014/11/23(日) 13:02:33
    頬に何かが触れる感覚に、モブリットは眠りから覚めた

    目を開けると、先ほどまで見ていた夢の続きが再現されている様な光景があった

    彼の頬を撫でる、凛とした瞳を眼鏡越しに見せる女性

    彼は、紛れもなく夢の続きだと、もう一度目を閉じた

    「ただいま、モブリット」

    彼の耳に届く優しげな声

    その声に誘われる様に、もう一度目を開けると、ふんわりと微笑むハンジの姿が、彼の瞳にはっきり写し出された

    「ハンジ…さん?」

    微かに疑問を帯びたモブリットの問いに、ハンジはモブリットの頬をきゅっとつねった

    「2週間会わなかっただけで、私の顔を忘れたのかい?」

    モブリットは、青天の霹靂に言葉を失った


  85. 100 : : 2014/11/23(日) 13:13:35
    「ハンジさん、どうしてここに…」

    「どうしてって…ここは私の家だよ?何言ってるんだよ、モブリット」

    ハンジはつねっていた指を離すと、肩を竦めた

    「そ、そうですが…でも…」

    「寝ぼけてるの?随分疲れた顔してるけど…ちゃんと睡眠とってるのかい?」

    ハンジの言葉に、モブリットは頷く

    「はい、多少は…」

    「ちゃんと寝なきゃだめだろ…?ほんとに君は、私がいなきゃだめだね。はは」

    ハンジはそう言うと、モブリットの頭を撫でた

    「…ハンジさん」

    「私も、君がいなきゃ、ダメだけどね」

    ハンジの言葉に、モブリットは、今にも決壊しそうな涙腺と戦うのであった

  86. 101 : : 2014/11/23(日) 13:28:19
    「フレイヤは…?」

    モブリットの問いに、ハンジはベビーベッドを指差した

    「寝てるよ、ぐっすりだ。旅の道中も賢かったんだよ」

    「そうですか…」

    モブリットはそう言うと、ベビーベッドに歩みより、覗いた

    そこには何よりも愛らしい存在が、すやすやと眠っていた

    その頬にそっと触れると、ふんわりとした弾力と温かさが、彼の冷たくなっていた心をほぐした

    いつしかモブリットの瞳から、涙がこぼれ落ちた

    「ねえ、モブリット」

    背後から、労る様な声が掛かる

    彼が心から愛した女性の声

    「はい、何でしょうか、ハンジさん…」

    モブリットはいつもの様に返事をした

    当たり前だった日常を、噛み締める様に、ゆっくりと

  87. 102 : : 2014/11/23(日) 13:42:01
    「フレイヤは、言葉を覚えていただろ?君は聞いたよね」

    ハンジはモブリットの顔をじっと見つめながらそう言った

    「はい…」

    フレイヤが初めて発した言葉を聞いたときの、感動と哀しみ

    それを思い出して、また涙が一筋こぼれ落ちた

    「何て言っていた?」

    「……パパ、と、言っていました」

    モブリットの言葉に、ハンジは頷いた

    「君の事をパパと、呼んだんだね、フレイヤは」

    「はい、驚きました、本当に…」

    モブリットはフレイヤをそっと撫でながら、泣き笑いのような表情を見せた

    「ねえ、誰がパパって教えたと思う?」

    ハンジの問いに、モブリットはしばし考えた後、口を開いた

    「兵団員もそう呼んでいましたが…それだけでは覚えませんよね。ヒッチでしょうか」

    「私だよ。私が教えたんだ。君をパパって呼ぶように、パパっていう単語を、何度も教えたんだ」

    ハンジの言葉を聞きながら、モブリットは止めどなく涙を流した

    「そう、だったんですか…」

    辛うじてそう言葉を発したモブリットを、ハンジは両手でしっかり抱き締めた

    「そうだよ。ずっと、そのつもりだったんだから」

    モブリットは、ハンジの温もりに包まれながら、涙を流した

    だがそれは、今までと違う、幸せな涙であった

  88. 103 : : 2014/11/23(日) 15:24:52
    「モブリット、パパになってくれるかい?フレイヤの」

    ハンジはモブリットの耳元でそう言った

    モブリットは顔をあげ、不安げな眼差しをハンジに見せた

    「俺にとって、あなたも、フレイヤも、敬愛の対象です。しかも、フレイヤは稀代の…軍師、最高の頭脳と、強さを併せ持ったエルヴィン団長の、血を引いています。俺には…」

    モブリットはそこで言葉を止め、ハンジをじっと見つめた

    「俺には、不相応ではないでしょうか…あなたの夫になる事も、フレイヤの父になる事も」

    モブリットの言葉に、ハンジは頷いた

    「君がそう思うのはわからないでもないよ。言ってる私も、君に無茶を押し付けてるんじゃないかなって思っているから」

    「いえ、無茶だとかそういう事ではなくて…」

    「ううん、わかってるよ、大丈夫。私は随分自分勝手に動いていたからさ、君の将来を左右する事までお願いするのを、ずっと憚っていたんだ」

    モブリットはその言葉を聞きながら、ハンジが自分と同じ様に悩んでくれていた事を知った

    「あなたの自分勝手やわがままは…俺の喜びです」

    ハンジはその言葉に弾かれた様に、誰よりも忠実で、誰よりも自分の事を考えてくれていたモブリットに、キスを落とした

    しばしその柔らかい感触を堪能した後

    「君は本当に、物好きだ」

    そう言って、輝くような笑顔を見せたのだった
  89. 104 : : 2014/11/23(日) 15:35:33

    「君はフレイヤの父になる自信が無さそうだけど…十分、立派なパパになってるよ」

    「そう、でしょうか…」

    モブリットの不安げな表情に、ハンジは肩を竦める

    「そうだよ。出産に立ち会うわ、授乳は覗くわ、最初に笑わすわ、パパと呼ばれるわ…」

    「授乳は覗いてません。見ただけです、あなたに、すすめられて」

    モブリットは首を振った

    「それにさ、よく考えてよ…君とキスをしたのだってさっき初めてなのに、すでに出産中のあらぬ姿を見られててさあ…それで夫になれないとか、おかしいよ?あんなの旦那しか普通見れないだろ」

    「…そういえば、パパですね、と通されました…」

    「だろ?ほらね。君は立派な私の夫で、フレイヤのパパだよ」

    ハンジはそう言って、モブリットの頭をわしゃわしゃと混ぜた
  90. 105 : : 2014/11/23(日) 15:46:42

    「後ね、君が心配しているのは将来の事だ。フレイヤが物心ついた時、本当の父親が別にいる事を知った時…そうだよね」

    「はい…」

    モブリットは、頷いた

    「それも、大丈夫。だって私はその時を見越して、君に名前をつけてもらったんだもん」

    「名前…ですか?」

    「ああ、そうさ。フレイヤはきっとショックを受けるだろう。大好きな優しいパパと、血が繋がっていない事に…でもね、その時に、君が名前をつけてくれたと知ったら…フレイヤは、どう思うかな…?」

    ハンジの言葉を聞いているうちに、止まっていた涙が、また一筋こぼれた

    「そうさ、フレイヤは、君に沢山愛されている事を、その名を名乗る限りずっと、感じ続けるんだよ、モブリット」

    「……ハンジさん、あなたそこまで、考えていたんですか…?」

    「ああ、当たり前だよ。私をなめないで、モブリット」

    ハンジの目に映るモブリットの顔は、みるみるうちに、涙でぐしゃぐしゃになっていった

    流した涙の痕が、彼の長年の積もる想いを表しているかの様に見えて、ハンジは彼の唇に、自分のそれをもう一度、重ねた
  91. 106 : : 2014/11/23(日) 17:55:23
    二人はソファに座り、お互い寄り添う様にしながら、積もる話をした

    「エルヴィンにね、沢山宿題を持たされちゃったよ…全く、隠居してるじいさん想像してたらさあ、全然変わってなくてさあ…」

    ハンジは肩を竦めながら、分厚い冊子をドン、と机に置いた

    「お元気だったんですね…良かった」

    「うん。無精髭を伸ばしててね、仙人にでもなる気かよって言ってやったよ!!」

    ハンジは愉しげに笑った

    「この宿題は…凄い、ですね。有りとあらゆる政策と、トラブルシューティングが事細かに記載されている」

    モブリットは冊子を捲りながら嘆息をもらした

    やはり、エルヴィン団長は健在だった
    その頭も、全く衰えてはいなかった

    彼が尊敬した団長の後ろ姿が、冊子を通して見える気がした

    「エルヴィンは、フレイヤを見て驚いていたよ。一度だけ、抱いてたな。自分に似てないから良かったと言いながら」

    「エルヴィン団長…」

    「それとね、モブリットに感謝してるって伝えてくれだってさ。出産と育児のサポートと、フレイヤを会わせてくれた事にね」

    ハンジはそう言うと、モブリットの膝を枕に、ソファに横になった

    「そう、ですか…良かった、本当に」

    モブリットは甘えてくるハンジの頬に手を伸ばした

    そして今度こそ、その触れられなかった頬に、そっと指先で触れたのであった
  92. 107 : : 2014/11/23(日) 18:15:47
    「さて、長旅で疲れたから寝たい所だけど、モブリットがこの調子だとそうはさせてくれなさそうだし…」

    「…何の話ですか、ハンジさん」

    「夫婦らしい生活をだね」

    モブリットの膝の上で不敵な笑みを浮かべるハンジに、モブリットは肩を竦める

    「俺も疲れてるんで、寝たいです。それにこの調子ってなんですか?」

    「いやあ、たまってそうだなあとね」

    ハンジの言葉に、モブリットは盛大にため息をついた

    「ハァ…たまってませんよ。お気遣いなく」

    「私がたまっているかもしれないよ?」

    「長旅で疲れているのに、また疲れるような行動は控えるべきです。フレイヤはまだ、あなたの母乳が必要なんですよ?疲れて出が悪くなったらどうなさるおつもりですか」

    モブリットは膝の上にあるハンジの頭を覗きながら、諭すように言った

    「折角の感動的なシーンを、官能的に締めくくるのがドラマチックだとは思わないか?」

    「………一気に冷めてしまいました」

    「ええええ!!そりゃまずい!!今すぐ温めなきゃ!!」

    ハンジはそう言うと、素早く身を翻し、ソファにモブリットを組み敷いた

    「ちょ、ちょっとハンジさん?!」

    「温めるしかないな、うん」

    勝手に納得したように頷き、モブリットのシャツのボタンを外しかけた、その時

    「うあーん、うあーん!」

    ベビーベッドから、泣き声が響いた

    「フ、フレイヤ!!」

    モブリットはハンジを押し退けて、ベビーベッドに駆け寄り、フレイヤの身体を抱き上げた

    「よし、よし、ごめん、起こしちゃったね…」

    モブリットはそう言いながら、フレイヤを左右にゆっくりと揺らしながら、背中を優しく叩いてやった

    「……やっぱり、立派なパパだよ。ふふ」

    ハンジはそんな二人の姿を見ながら、幸せそうに微笑むのだった
  93. 108 : : 2014/11/23(日) 18:22:56
    それから数ヵ月後、ハンジの名字がバーナーとなり、晴れて3人家族となった

    その結婚式を、本人たちはこじんまりと身内だけで行うつもりだったのだが…

    アルミン統合作戦本部長と、ヒッチ調査兵団第2分隊副隊長によって、多数の関係者がこぞって集まる、盛大なお祭りとなった

    ハンジの花嫁姿よりも、フレイヤの天使の羽根がついた白いドレス姿の方が好評だった事は、花嫁には内密である


    ―完―

  94. 109 : : 2014/11/23(日) 18:42:32
    ―数年後―

    「私の父は、調査兵団団長、モブリット・バーナーです。いつもパパと呼んでいるので、今回もそう呼ばせて頂きます」

    「私のパパはとても優しくて、かっこよくて、思いやりがあって、とっても素敵です。その上パパは、私にとても甘くて、目に入れても痛くないほど可愛いと言ってくれます」

    「でも、私はパパと血が繋がっていません。私は先日それをパパから聞いて、とてもショックでした。今まで生きてきた7年間で、一番悲しくて、沢山泣きました」

    「そんな時、お母さんが私に言いました。私が生まれる前の事から、私が生まれた時の事、そして生まれた後の事」

    「パパは、どんな時も、ずっと私の側にいてくれました。パパは、私にフレイヤと言う素敵な名前をつけてくれました。パパという言葉を、私は一番最初に話しました」

    「パパは私のために、沢山泣いてくれました。それ以上に沢山笑ってくれました。そしてごくたまに、叱ってくれました」

    「パパは、誰がなんと言おうと、私のパパです。パパ、ありがとう、大好きです。これからもずっと、パパと一緒です。初等科一年、フレイヤ・バーナー」


    彼女が読んだこの弁論は、全土の初等科生徒の中で、若干名の金賞を授賞したのであった

    ―おまけ、完―



  95. 110 : : 2014/11/23(日) 21:53:06
    執筆お疲れ様でした!

    モブリットの献身ぶりに涙が…。まさにタイトル通りのお話でしたね。
    最初は父親はリヴァイかな?とも思いましたがエルヴィンかぁ…。美人さんになりそうですね。モブリットが嫁にやるのを反対しそうなのが目に浮かびますw

    嬉しいオマケもありましたし、バーナー家が幸せになっていると信じています。
  96. 111 : : 2014/11/23(日) 22:00:07
    執筆お疲れ様でした!

    いつもながら、感動しました……
    読み返して、泣いております……

    モブリットはハンジさんが全て(?)……上手く説明できないけど……
    とにかく、感動しました…

    これからも頑張ってください♪
  97. 112 : : 2014/11/23(日) 22:09:19
    >きみどりさん☆
    読んで頂き、ありがとうございます!!
    リヴァイを考えましたが、よくあるパターンになるかなあと、今回はエルヴィンにしてみました!!
    エルヴィンの血を引いてますが、ハンジさんにそっくりらしいですw
    頭は凄くいいでしょうなあ…(*^O^*)
    バーナー家の執事になりたいです…(*ToT)
  98. 113 : : 2014/11/23(日) 22:12:11
    >とあちゃん☆
    読んで頂きありがとうございます♪
    泣いてくれたんだね…ありがとう(*ToT)
    読み返してくれるなんて、筆者冥利につきます(*ToT)
    モブリットはハンジさんのために全てを捧げている、そんな感じです、はい!!
    嬉しいコメント、ありがとうございました!!
    いつもありがとう(*^^*)
  99. 114 : : 2014/11/23(日) 22:21:12
    執筆、お疲れ様でした。
    いつもながら、ロメ姉さんの作品には、感動させていただいております。
    誰よりも、進撃のキャラをきちんと見据え、想像していく力がなければ、描くことはできない作品ばかりですね。
    今回は、涙が止まりませんでした。
    さだはる、複雑な事情抱えてまして(…どうでもいい事だけど)バーナー家のように、血が繋がっていなくても、深い絆を築ける家族が、本当に…本当に実現できたら、いいのにと、思いました。
    モブリット…旦那にほしいなぁ(^^)素敵な作品を、ありがとうございました。本当に、あなたを尊敬します。
  100. 115 : : 2014/11/23(日) 22:35:41
    執筆お疲れ様でした
    モブリットの行い全てがハンジさんの為…ヒッチに言わせると過保護過ぎる愛のこもった行動が最後の幸せを築いてくれて嬉しかったです。
    今回は一人の人間としてモブリットを尊敬いたしました(*´Д`*)

    おまけのフレイヤちゃん弁論からモブリットの親バカが伝わってきましたw
    モブリットはきっと嫁さんと娘さんを大切に面倒みてくれてますね( ´艸`)バーナー家万歳!
  101. 116 : : 2014/11/23(日) 23:58:07
    執筆お疲れ様です!
    毎回本当に凄い作品ばかりで…
    特に自分が読んでて好きなシーンが、モブリットがハンジとフレイヤの事を想い、エルヴィンのいる町に行かせようとする所です(泣)
    その話を聞いてるヒッチも自分の中でモブリットを支えてくれた優しい女の子だと思います!
    血が繋がっていなくても【愛情や絆や仲間の支え】で繋がる事が出来てるんだろうと思えました!

    そして、おまけも(泣)
    88師匠は本当に素敵な作品を書かれますよね♪師匠の作品は本当に大好きです!
    このお話も進撃の巨人が争いや戦いが終わった後の世界で本当にこうなれば良い!って思います!長文を書いてしまいましたが…
    本当に素敵な作品をありがとうございます!!次の作品も期待してます!!!!!
  102. 117 : : 2014/11/24(月) 00:44:48
    >数珠繋ぎさん☆
    読んで頂き、ありがとうございます♪
    キャラの読み砕きには細心の注意を払って、なるべく不自然でなく、原作に沿うように…をモットーにしている私にとって、さだはるさんのお言葉はとても嬉しくて、励みになります(*ToT)

    私の作品で泣いて下さるなんて、感激です
    この作品を通じて、出産の大変さ、子育ての大変さ、そして喜び、人との絆…いろいろ書きたいことがありまして…
    それが表現できていたらいいなと思っていました

    複雑な事情…皆さんそれぞれにきっといろいろな難題を抱えているのだと思います
    さだはるさんも、いろいろ抱えておられるんですね

    でも、私からみたさだはるさんはとてもおおらかで、心の広い人に思えます
    きっと、その複雑な事情さえも乗り越えて、さだはるさんは羽ばたくのだと思います

    神様は、乗り越えられる試練しか、与えませんから!!

    絆を大切に、これからもゆっくり歩んでいきましょう♪お互いに!!
  103. 118 : : 2014/11/24(月) 00:49:09
    >だぁりん☆
    読んで頂きありがとうございます♪
    ヒッチが今回は潤滑油の様な役割でしたが、いかがでしたか(*´-`)
    彼女は書いていて楽しいですw

    モブリットは、数々の原作の雰囲気から、自己犠牲タイプに思えて、今回は限りなく切ない話にしてみました

    モブリットの親バカぶりに、ハンジさんが嫉妬…みたいなのも期待…w

    コメントありがとうございました!!

  104. 119 : : 2014/11/24(月) 00:55:38
    >EreAni師匠☆
    読んで頂きありがとうございます♪
    そうなんですよ!モブリットだけではなく、ヒッチがモブリットをしっかりサポートし、彼を支えて励まし続けているんです…
    ヒッチは、ハンジさんも支えていますし、今回の話の功労者はヒッチなんですよね!!

    モブリットなら、ハンジとフレイヤにエルヴィンの事を黙ってられないだろうなって…あのシーンは、一番の山場です

    愛情や絆や仲間の支え、まさにそう、師匠は私の伝えたいことを全て読み取ってくれて、感激です!!

    今回は、アニたちを探す別動隊の話は書けなかったので、いずれ書くつもりです!!

    平和な世の中になりますように…

    師匠、素敵なコメントありがとうございました!!
  105. 120 : : 2014/11/24(月) 04:21:49
    執筆お疲れ様でした!

    今回も素晴らしい作品ありがとうございます。

    読んでいて、途中から涙が止まりませんでした(泣)

    モブリットの優しさや、ハンジさんに尽くしている姿、感激でした。
    また、血が繋がっていなくても、愛情や絆など沢山の物で繋がっている家族が、
    とても幸せに過ごせるんだなぁと思いました。

    この作品を読み、家族を大切にしたいと改めて思いました。


    最後にエルヴィンが父親だったのは、ビックリしましたw

    次回も期待してます!

  106. 121 : : 2014/11/24(月) 08:24:04
    >はんちゃん☆
    読んで下さってありがとうございます♪
    そして、私の作品で泣いてくれてありがとう(*ToT)

    家族の大切さを再確認してもらえたんだね、本当に嬉しいです、書いたかいがありました(*^^*)

    エルヴィン父ねw
    リヴァイにしようか迷ったんだけど…w
    意外性と、でも可能性無くはないかなと、そうしてみました♪

    いつも周りの人を思いやる気持ちを大切にしていきたいですね♪
  107. 122 : : 2014/11/24(月) 19:35:34
    久し振りにこちらに顔を出して、最初に貴方の新作を読めたことを幸せに思いました。

    相変わらず見事

    お疲れ様でした、
  108. 123 : : 2014/11/24(月) 21:10:10
    執筆お疲れ様でした (`・ω・´)

    行間の工夫や文章、発想も素晴らしいと思いました!

    家族に対しての考え方が少し変わりました。

    あと、凄い読みやすかったです。

    これからも期待してます!
  109. 124 : : 2014/11/24(月) 21:19:54
    執筆お疲れ様でした。
    始めましてハンジがかりといいます。
    いつも、88さんの作品を楽しんで読ませてもらっております。
    とても感動しました!
    これからも頑張ってください。
  110. 125 : : 2014/11/24(月) 21:58:01
    >gjさん☆
    お久しぶりです♪
    一番に私の作品を読んで下さって、ありがとうございます・゜・(つД`)・゜・
    幸せだなんて、こんなに素敵なコメントをもらえる私はもっと幸福者デス♪
    ありがとうございます♪
  111. 126 : : 2014/11/24(月) 22:00:58
    >いちごの兄貴☆
    読んで下さってありがとうございます♪
    誉めすぎですよ~なんもでないぜw
    家族に対する考え方ですか!!
    兄貴にそう言って頂けるなんて、嬉しいです、ほんとに!!
    コメントありがとうございました♪
  112. 127 : : 2014/11/24(月) 22:03:22
    >ハンジがかりさん☆
    始めまして!!
    いつも読んで下さり、ありがとうございます♪
    感動したと言って頂けて、本当に嬉しいですし、私も泣きながら書いたかいがありました!
    これからもぼちぼち、ゆっくり書いていきますので、また遊びに来て頂けたら嬉しいです♪
    コメントありがとうございました(*^O^*)
  113. 128 : : 2014/11/26(水) 20:00:47
    執筆お疲れさまでした。

    もう、感動した、としか言えないくらい感動しました。
    実の父じゃないことをかくしていながらもハンジさんとフレイヤに愛情を注ぐ。流石はモブリット、という感じでした。

    楽しみにしてます!!
  114. 129 : : 2014/11/26(水) 20:07:52
    >ハンジもどきさん☆
    読んで頂き、ありがとうございます♪
    モブハンの集大成とも言える作品になりました、これ以上は書けないかもしれないと、思ってしまうほど、思い入れがある、作品です

    いつも愛のあるコメント、ありがとうございます(*´ω`*)
    また頑張ります♪
  115. 130 : : 2014/11/27(木) 01:37:16
    お疲れ様でした!

    モブリットの一途さ…というんでしょうか、献身ぶりには感動しすぎました。
    ほんとうに良いパパになりそうですよね*

    88さんの作品にはいつも心を動かされっぱなしです。
    これからも応援してます!
  116. 131 : : 2014/11/27(木) 09:13:45
    >つーるさん☆
    読んで頂きありがとうございます♪
    モブリットは原作を見ていても、ハンジさんに対して心配性で過保護に見えるので、それを再現して膨らませてみましたw
    嬉しいお言葉に感激してます(*´ω`*)
    ありがとうございます!
    これからも頑張りますので、また読んでやってください♪
  117. 132 : : 2014/11/30(日) 00:49:29
    お久しぶりですm(_ _)m

    読ませていただきました!!
    とても読みやすい美しい文章で溜め息ばかり出ますww
    モブリットがとてもモブリットでモブリットしてたので(←??)んもう、素敵でした!!\(^o^)/
    私の中でのとても理想的なモブハンです…
    とにかく感動しました!!

    88さんの作品、これからも作品期待してます!!
  118. 133 : : 2014/11/30(日) 07:58:57
    >あるふぉんさん☆
    お久しぶりです♪
    読んで頂きありがとうございます!!

    読みやすい美しい文章…誉められちゃったぁぁ嬉しいです(*´ω`*)

    モブリットファンとして、彼の人となりだけは誰よりも詳しく、誰よりも理解していたいですキリッ!!

    理想的なモブハン、そう言って頂けて幸せです…o(T□T)o

    これからも頑張ります!!(^-^)v
    またよろしくお願いいたします♪
  119. 134 : : 2014/12/31(水) 18:54:24
    ロメ姉お久しぶりです。

    (物凄く長いです。お暇な時に目を通して頂けると嬉しいです。)

    久々にnoteに遊びに来て、この作品を読ませていただきました。

    私はずっとヒッチに共感しながら読んでいました。
    モブリットが自分を犠牲にしてまでハンジを優先させることに疑問を感じ、悲しみ、涙を流しながらも物語を読み進めることをやめられませんでした。
    文章にとても引き込まれました。

    血が繋がっていなくたって想いが繋がっていれば家族なのだと、血の繋がりなんて所詮、本人達の意思によってどうにでもなるものだと思いました。
    真実が何であれ、事実を作るのは本人達に他ならないのだとよくわかりました。

    最後に私は、モブリットのような広い心と他人を尊重する姿勢、そして自分を押さえる気持ちを見習いたいと感じました。

    せっかく執筆を再開しようとしたのに、いろいろ私生活でゴタゴタしまい、結局書けないままになってしまっている私なのですが...
    そのゴタゴタは全て、自分が周りを見て合わせれば回避できたものだったのです。
    そして、血の繋がりにこだわらなければ何事も無く対応できていたはずなのです。

    この作品で、私の物事に対する考え方が変わりました。

    明日からの2015年は、今までとは違う私で、生まれ変わった私で生きていくことが出来ます。

    新しい考え方を、モブリットやハンジ、文字を通して教えてくださって本当にありがとうございました。

    いつまでもロメ姉の大ファンだよ!
    陰ながら応援してます♪
  120. 135 : : 2014/12/31(水) 21:32:03
    >リオン姫☆
    姫お久しぶりです!
    元気でしたか?

    私はツイッターもやめてしまって、あなたともそえんになってしまって、とても寂しかったです
    でも、こうしてまた、作品に目を通してくれて、大晦日にとても幸せな気分になれました!

    私の周りから、大事な人が去っていきました
    仕方がない事です、ネット上での関係なんてね
    でも、姫みたいにこうしてまた、顔を出してくれる人がいることに、とても勇気をもらえました

    家族に対する考え方ですか……
    姫は本当に、私の作品をすみずみまで読んでくれたんだね、書きたかった事、すべて姫が理解してくれていて、また幸せな気分になれました、ありがとうね!


  121. 136 : : 2014/12/31(水) 21:37:16
    そうだね、他人を尊敬する気持ち、大切だよ
    でもその前に、まずは自分を好きになろうね!

    姫はかわいくて、真面目で賢くて、優しいです
    そして、周りを見て合わせられなかった、そんな自分も、好きになってください

    全部があなたです、否定はしなくていいんですよ!
    ただ、前に進むために、そんな自分のいろんな一面を好きになったうえに、更に成長するために自分の生き方を少し変えてみるのはよいかも!

    でも、無理はだめだよ!

    自分を好きになれたらね、自然と人にもそれをおすそわけできるようになるんだよ!

    姫は大丈夫!保証します!

    って私が言っても嬉しくないかもだけどw
    私もあなたをずっと応援しています!
    一緒にがんばろ!
  122. 137 : : 2015/01/01(木) 20:41:07
    ロメ姉。

    私にくれた一言一言が本当に嬉しいです。嬉しくない訳がないじゃないですか!
    特に自分を好きになるという発想はありませんでした。

    私、自他共に認めているのですが、同年代の子よりも精神年齢が高いんです。
    そのためか、無意識のうちに人を下に見るいうな態度を取ってしまっていて、それもゴタゴタの原因なんです。

    ロメ姉が教えてくれたこと、大切にしていきますね。

    それと、去っていってしまった方のことですが、コメント等はしなくてもきっと時々覗いていらっしゃると思います。
    私も覗いていましたし(月に一回あるかないかでしたが)。
    ああ、だめだめ。謙虚に謙虚に...すみません。

    私に親身になってくださって本当に感謝しています。ありがとうございます。
    ロメ姉はどんな人に対しても、広い心を持って他人を尊重しながら接していて心から尊敬します。
    リアルモブリットですね。

    今年もよろしくお願いします。
    ロメ姉の作品を楽しみにしています!
  123. 138 : : 2015/01/01(木) 22:16:13
    >姫☆
    嬉しいコメントありがとう!
    確かに精神年齢というか、大人な考え方ができる子だよね!

    人の目線に合わせる、というのはとても大切なので、是非意識して貰えたら、もっと素敵な女の子になるよ!

    とはいえ、私がそれを学んだのは、幼稚園の先生になった時だったので、まだまだこれからいろいろ経験する中で学んでいけると思う!

    だってまだ若いし!

    謙虚な人ほど、伸びます!
    私の知ってる凄い人は、みんな謙虚なんです
    私もつねに謙虚な気持ちで、と思ってます(とはいえなかなかできないときもありますが…)

    去ってしまった人に恥ずかしくないように、これからも頑張らなきゃですね!

    姫、これからもよろしくね♪

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fransowa

88&EreAni☆

@fransowa

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