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【僕とハンジと、時々、巨人】~怒涛の日帰り温泉編~
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- 1 : 2014/03/29(土) 16:39:17 :
- こんにちは。
執筆を始めさせていただきます。
最初にお詫びを…
今回の話…
長いです。
毎回私は、大学ノートに下書きしてから、投稿しているのですが、
前回の~モブリットの目標編~が全9ページだったのに対し、
今回は…
21ページにも膨れあがってしまいました。
なるべく読みやすいように清書していきますが、
分かりにくい所がありましたら、コメントにてお寄せください。
よろしくお願いします。
まず今回はエルヴィンの視点から物語は始まります。
では…
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- 2 : 2014/03/29(土) 17:03:39 :
- 俺(エルヴィン)は、毎朝の日課である郵便受けの中身のチェックをした。
調査兵団に届く手紙類は、まず係りの兵士が郵便局員から手紙を受けとり、宛名ごとに振り分け、それぞれの部屋に投函していく。
しかしながら、間違って投函されることもしばしばだ。
だが、責めるわけにもいかない。人員不足の多忙な中、こなしてくれているのだから。
…その人員を減らしている要因は、俺自身が立てた作戦にあるのだから。
「」
俺は、1通の手紙に目をうばわれる。
何度も見返してみるが、間違いない。
懐かしい名が、そこにあった。
しかし、その宛先は俺ではなく、リヴァイだった。
俺はその手紙をリヴァイに届けようと周りを見回すと、ちょうど彼が通りすがった。
「…おい、リヴァイ。お前宛だ。」
うんざりした顔を見せるリヴァイ。
「…どうせ俺宛といえば、人類最強のくせにまだ巨人共を駆逐できねぇのか、といった具合の、クレームの手紙だろう。…読む気にもならねぇ。そっちで処分しておいてもらおうか。」
その言葉に、俺はどうやら真剣な顔つきになったらしい。
「…俺の個人的な頼みでもあるんだが、ぜひ読んでみてくれないか。」
そんな俺の様子に、リヴァイの顔つきも変わり、俺から手紙を受け取った。
「…知らねぇ名だな。ここで読むぞ。」
リヴァイの問いに答えるように、俺は目を伏せた。
カサ…
封を開ける音が、妙に大きく響く。
カサ…
俺は目を伏せたまま、耳だけを傾けていた。
カサ…
「ふぅ…」
リヴァイの息をつく声に、読み終わったのだと思い、顔を上げる。
リヴァイがこっちを見ている。
「…エルヴィン。」
「…どうした。」
「外出許可をもらうぞ。今すぐに、だ。」
彼の申し出が、今さっき読んだ手紙と関係していることなど、疑う余地もなかった。
「いいだろう…すまないな。」
俺の言葉に、リヴァイはあきれた顔をして、
「お前が謝る理由は、どこにもねぇよ。」
「ああ…そうだな。」
リヴァイは身支度をするために自室へと戻った。
俺は…なぜか外の空気を吸いたくなった。
そうだな。捕獲した巨人の様子を見に行ってみるか。
どんな状況になっているか、気になるしな。
…もとい、巨人を相手にしているハンジの様子が…。
そう考えた後、なぜか笑みがこぼれた。
なんだか今日の俺は、様子がおかしいのかもしれない。
あいつが見たら…なんと言うだろうな…。
-
- 3 : 2014/03/29(土) 17:14:49 :
- どうも!!
こんにちは、こんばんは、おはようございます!!
モブリット.バーナーですっ!!
すみません、序盤からバタバタしてしまって…
でも、慌てずには、いられないんです!!
誰か分隊長を…ハンジ.ゾエを止めてください!!
「分隊長、無茶です、やめてください!」
「だ~いじょぶだって。さ、ソニー、ビーン、行こう!!」
「無理ですって!!」
前回の、~モブリットの目標編~を読んでいただいた方はご存知かとは思いますが、
僕と分隊長は、温泉デートの約束をしたんです。
2人っきりで。
少なくとも僕は、そう思ってました。
ところがどっこい、分隊長はいきなり
「どうせなら、ソニーとビーンも誘おうよ!」
とか言いだしたんですよ。
…こんな時に限ってリヴァイ兵士長も姿を見せないし、
周りにいる駐屯兵団の面々も、どん引きして近づいてすら来ない。
…はぁ…どうしよう…泣きたい…
-
- 5 : 2014/03/29(土) 20:41:10 :
- 「なんの騒ぎだ。」
はっ…天の助け!!
「エルヴィン団長!助けてください!」
僕は、身の振り構わず叫んだ。
「ハンジ…一体、何をする気なんだ!?」
若干語気を強めたものの、冷静に問いかける団長。
「エルヴィン!止めないでくれ!!私はどうしてもソニーとビーンを連れて行きたいんだ!」
「…どこへ連れて行くというんだ?」
「温泉!!」
「」
…さすがの団長も言葉を失ったようだ。
万事休すか…!?
そう諦めかけた僕を尻目に、団長は静かに
「…ハンジ、ソニーは4m、ビーンは7m級だったな。」
「うん、そうだけど。」
「人間の大きさに換算すると、大体ソニーは3人分、ビーンは6人分といったところか…」
「」
分隊長が黙った。
「合わせて9人分の入浴代を、誰が払うんだ。」
「え…」
「さらに、巨人をそのまま野放しの状態で温泉に向かわせることは不可能だ。運搬をする兵士が必要になってくる。馬車もな。その経費は誰が出すんだ。」
「う…それは…」
段々と勢いを無くす分隊長。
「…エルヴィンが…」
「俺は出さん。」
「僕も払いません!!」
しおしおと巨人から離れる分隊長。
決着はついたようだ。
「しょうがない…モブリット、2人で温泉に行こうか。」
しょうがないって何ですか…
「何だお前ら、2人で温泉か…」
「あ…」
まずい。団長の目の前でデートに向かうなんて。
ただでさえ、上官と副官の恋愛を、快く思ってるわけじゃないのに…ストップをかけられるだろう。
僕は覚悟を決めた。
すると団長は、急に辛そうに顔を歪め、僕と分隊長に背を向けた。
「はぁ…どうも最近疲れがたまってな…目の前の光景が見えづらくなってな…俺は今、何も見えん。…そういえば、ついさっき何か聞いたような気がしたが…それも思い出せん…ふむ…」
…あ…団長…
僕は察した。
僕は、ポカンとしている分隊長の手を引き、温泉へと向かった。
…後には、あっけにとられている駐屯兵団の面々もいたけれど、
そんなの気にしてたら、ハンジ.ゾエの恋人はつとまりません!
ですよね、皆さん。
-
- 6 : 2014/03/29(土) 20:49:38 :
- 僕たちは、馬車に乗った。
分隊長はしばらくブツブツ文句を言っていたけれど、
ほどなくして機嫌を直し、にこにこと笑って僕に話しかけてくる。
「早く温泉入りたいね、モブリット。」
「そうですね、ハンジ…さん。」
「やっぱ露天風呂だよね。今日は天気もいいし、きっと最高だよね、モブリット。」
「だといいですね、ハンジ…さん。」
「…あのさぁ」
「…はい…」
「怒ってるの?」
「えっ…何をです?」
「私が…ソニーとビーンを誘ったこと。」
「」
「ごめん。ほんとはモブリットが1番いいの。彼らのことももちろん気になるし、一緒に楽しめたらいいなって思うけど、私が大好きなのは、モブリットだけだよ。」
「///」
え…ハンジさん…そんな…
「あ…でも…」
うん、うん。
「ソニーとビーンのことも…やっぱ好き!!」
分かってますよ、ハンジさん。
…大好きですよ。
-
- 7 : 2014/03/29(土) 21:20:31 :
- 温泉に到着です。
「さぁモブリット!突撃だ~っ!!」
そのノリで言われると、僕もつい
「はいっ!」
と答えてしまう。突撃先は、もちろん露天風呂だ。
もちろん、服は脱ぐ。
「…ふぇ~っ…いい湯だね…」
「…そう…ですね…」
気がついた時には、ハンジさんと2人で、混浴の露天風呂に浸かっていた。
湯船にタオルを入れてはいけないので、2人共全裸だ。
…下半身が…ここが白濁湯で良かった…。
「…2人っきりだね…」
「…そう…ですね…ハンジ…さん。」
「何なのさっきから。」
「はは…」
僕の目標。ハンジさんをハンジと呼んでみること。
僕は、大きく息をついた。
「モブリット…楽しくないの?」
「そんなことないです!とっても楽しいです!」
「ならいいけど。」
僕は、チラリとハンジさんを見た。
いつもと違って、髪を上にまとめ、メガネを外したハンジさん。
…いい。…すごくいい。
触れたい。
いや、触れて良いのだ。僕らは恋人同士じゃないか。
触れてOK。
よしっ…。
ところが、お湯の中で、ハンジさんが僕の手を握ってきた。
「…あのさ」
「は…はい…」
「本当に私でいいの?」
「…え…」
「私、あなたよりずっと年上だし、美人でもなければ、胸だってそんなにないし…」
恨めし気に自分の胸を見下ろすハンジさん。
何なんだこの超絶的ないじらしさは…
ハンジさん…もう手を離してください。僕はもう、色々な所が限界です…///
「モブリット、聞いてるの?」
「はっ…はいっ!聞いてます!!」
「もしかして興味本位とか?奇行種って呼ばれてるのは、どんな女かっていう…」
「そんなこと…絶対にありません!」
僕はハンジさんの両手を握り、向き合った。
「僕は真剣です!あ、あと、ハンジさんは普通にしてれば美人だと思います。」
「普通にしてりゃって、どういう意味!?」
「あ…違います!巨人と戯れるハンジさんも素敵です!」
「私は巨人といるときだって普通にしてるじゃん!」
「自覚ないんですか、あなた!」
「モブリットの意地悪!」
「意地悪じゃないですっ!」
僕は思わず、身を乗りだし…ハンジさんが後ろに倒れはじめる。
いけない…こんな所で頭をぶつけたら…
僕はハンジさんの後頭部を守ろうとし…結果、2人で温泉にダイブした。
…もし、地上だったら、僕はハンジさんを押し倒してる様に見えただろう。
けど、水中だったので、2人でもがき、あわてて温泉から顔を出す。
ずぶ濡れになって顔を見合わせ、僕たちは笑った。
ああ、楽しいな…ありがとう、ハンジ…さん。
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- 8 : 2014/03/29(土) 21:30:06 :
- 温泉を出たあと、僕たちは温泉宿の周りにある商店街をぶらついた。
色々な店が並び、ハンジさんは楽しそうだ。
それをすぐ後ろから見守る僕…うん、いい感じ。
「ねぇねぇ、モブリット。これかわいいよ。」
ハンジさんの視線の先には、ショーウインドウに飾られた、ネックレスがあった。
銀色の鎖の中央に、輝かしいダイヤがついている。
僕は、改めて思った。
ハンジさんって…女なんだな…。
「…モブリット…」
「…はい…」
「…行こうか。」
「え…?」
流れ的には、僕はあのネックレスをおねだりされる立場にあるんじゃないのか…。
「待ってください、ハンジさん。」
「…ん、どうかした?」
僕はショーウインドウのネックレスの値段を確認する。
「」
…無理。
「早く行こ。」
さりげなく、ハンジさんが僕の手を引く。
「…はい…行きましょう。」
泣きたいと思ったのは、これで2回目、か…。
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- 10 : 2014/03/29(土) 21:40:24 :
- 「あっ…」
ふと、ハンジさんが足を止める。
「どうしました?」
僕の問いかけにも応じず、ハンジさんはとある方向に釘付けになる。
ぼくも、ハンジさんの視線を追う。
「…あ…」
リヴァイ兵士長だ。
なぜ、こんな所に…という疑問もあるけど、それよりも気になるのは、
隣で楽しそうに並んで歩く金髪の女性。
まあ、言うまでもないけど、美人だ。
リヴァイ兵士長は、あいかわらず眉間にシワを寄せたまま、まっすぐに前を向き歩いている。
でも、たまに女性の話に相づちを打っているようだ。時折、口が動いているのが分かる。
リヴァイ兵士長と連れの女性は、そのまま僕たちに気づくことなく、人混みの中へと消えていく…。
「…モブリット…」
「…はい…」
「追っかけよう!」
え~っ!?
デート中に元彼(あ、元セフレ?)の後を追っかけるのって、間違ってませんか!?
皆さんだってそんなことされたら、嫌ですよね?
しかし、そんな僕の気持ちとは裏腹に、ハンジさんはどんどん走っていってしまう。
…追いかけるしかない…か。
待ってくださいよ、ハンジ…さん!
-
- 12 : 2014/03/29(土) 21:48:11 :
- リヴァイ兵士長と連れの女性は、なんと僕たちがさっきまでいた温泉宿に入っていく。
「ちょっと…手ぇ早いな、リヴァイの奴…」
「…ですね…」
「…よし、私たちも入ろう。」
「まだ追うんですか、もうやめましょうよ。」
「やだ!」
「でも、これ以上他人のプライバシーに首を突っ込むのは、まずいですよ。」
僕は、他人の、に語気を強め、言い放つ。
「まずくない!」
あ~、はいはい。
「行きましょうか。」
「うん!」
僕たちは、温泉宿の中へ入っていった。
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- 13 : 2014/03/29(土) 22:08:46 :
- リヴァイ兵士長たちは、入ってすぐの、ラウンジのソファーに腰を下ろした。
僕たちは、リヴァイ兵士長の視界に入らない位置に座り、様子をうかがう。
相変わらず、連れの女性は楽しそうだ。
「相手の女性…すごく楽しそうですね…」
「うん。」
「リヴァイ兵士長の…恋人ですかね…」
「うん。」
「けっこうな美人ですね…」
「うん。」
「ちょっとハンジさん、僕の話、聞いてます?」
「…うん…」
あ…ダメだ。完全にリヴァイ兵士長に意識を集中させてる…。
「ハンジさん!?」
僕は、ハンジさんの頭をつかみ、無理矢理僕の方へ向かせる。
「ったいな!何すんの!?」
「ハンジさん、僕らは今、何をしてるんですか!?」
「リヴァイの尾行。」
「ちがうでしょ、僕らは今、デート中でしょう!?」
「あ、そっか…」
「そっか、じゃありません、少しは僕の気持ちも考えてください!」
「…おい」
「モブリットの気持ちは、いつも私考えてるよ!モブリットだってリヴァイがどんな女とデートしてるのか、気になるでしょ!?」
「…お前ら…」
「気に…なるけど、今僕は、ハンジさんと温泉デートを…」
「…おい…クソメガネ…」
僕とハンジさんは、その聞き覚えのある声に、ビクリとして振り向いた…
「お前ら…何してやがる。」
リヴァイ兵士長が、すごく不機嫌そうな顔でこっちを見下ろしている。
本日3回目の…泣きたい…
「あ…はは…やっほ~、リヴァイ…」
「はぁ…残念だな。」
「な…にが…ですか?」
問うてみる。怖いけど。
「せっかく成立したカップルを…こんな風光明媚な場所で葬り去ることになるとは…」
ひぃぃぃっ…!!
「…あら、お友達?」
戦慄した空気を和ませたのは、リヴァイ兵士長といたあの金髪女性だった。
にこにこと、おだやかな表情で僕たちを見ている。
「チッ…ダチじゃねぇ…俺の部下だ。」
僕とハンジさんは、ひきつった笑みを女性に向ける。
「まあ、じゃあ、あなたたちも兵士なのね。まあ、素敵。ぜひ一緒にお話しましょうよ。」
…という訳で、僕たちはリヴァイ兵士長と、金髪女性と同じ席につくことになった。
まぁとりあえず、命が助かっただけでも、ありがたいと思わないと。
でも僕はこのあと、さらに心臓に悪いショックな事実を知ることになる。
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- 14 : 2014/03/29(土) 22:15:12 :
- 「まずは自己紹介からしなくちゃね…私、マリー.ドークよ。あなたは?」
マリーさんに問われ、僕は
「はい…モブリット.バーナーといいます。」
と答える。それに倣い、ハンジさんが
「私はハンジ.ゾエ。…あの、失礼ですが、憲兵団の、ナイル師団長の…」
マリーさんはにっこりと笑い
「ええ。私はナイル.ドークの妻よ。」
はいぃ!?
あ、皆さん、心臓の方は大丈夫でしょうか。
僕は…ちょっとヤバイです…うう…。
-
- 17 : 2014/03/29(土) 22:25:52 :
- 「ちょっとちょっとリヴァイ、いくら何でもまずいって。人妻の…しかも別の兵団の師団長の妻に手を出すのは…ちょっと…」
ハンジさんの言葉に、リヴァイ兵士長は心底うんざりした顔をして
「…おい、お前から説明してやれ。」
リヴァイ兵士長から説明を求められたマリーさんは、可笑しそうに手を叩いて身を乗り出した。
「まさか本当に来てもらえるなんて、思わなかったのよ、本当に…」
「…順番に説明しろ。」
リヴァイ兵士長に言われ、マリーさんは、こほんと咳払いし、説明しはじめる。
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- 18 : 2014/03/29(土) 22:39:34 :
- ※ここからの説明は、マリーの視点で語られます
…さっき説明があった通り、私、マリー.ドークの夫、ナイル.ドークは、憲兵団の師団長をしているの。
月々のお給料はまあまあだけど、なんせ1日中家にいたためしが無くて、帰ってきたはいいものの、すぐに食事とお風呂だけ済ませて飛
び出して行っちゃうのよ。ほんと、信じられる?
子供と家のことを、ほとんど私に押し付けて、自分は仕事が忙しいの1点張り。
だから私、仕返ししてやろうと思って。
…え、どんな仕返しかって?
これは娘からの提案だったんだけど、かの有名なリヴァイ兵士長を、デートに誘ってみたらって。
そうしたらお父さん、他の男の人にお母さんを取られると思って、家に帰って来るよって言うの。
…えっ、なぜリヴァイを選んだかって?
実は私と娘たち(娘が2人いるのよ)、リヴァイ兵士長の大ファンなの。
この前の凱旋の時なんか、私、年甲斐もなく手振っちゃったわ。
今日改めて間近で見て…やっぱりいい男ね!ちょっと小柄だけど。
それで調査兵団宛に、ダメもとで手紙を出したの。
まさか本当に来てもらえるなんて、思ってもみなかったわ。
本当にごめんなさいね。でも、楽しかったわ。帰ったら娘たちに自慢しなくっちゃ。
-
- 19 : 2014/03/29(土) 23:03:04 :
- ※ここからまた、モブリットの視点に戻ります
一通りマリーさんの説明が終わると、リヴァイ兵士長が静かに一言。
「俺は手を出しちゃいねぇからな。」
「じゃなきゃ困るって!」
「そうですよ、リヴァイ兵士長!だいたい、お2人でこんなところを出歩いてること自体、疑われるんじゃないですか?」
「お2人じゃないわよ。」
マリーさんが微笑みながら自分のお腹に手を当てる。
「…ここにもう1人。」
「…3人目、ですか…」
正直、僕はナイル師団長とは会話すらしたことがなかった。
唯一印象に残っていることといえば、兵法会議の際、エレンを英霊にしようとした、冷酷な一面だけだった。
まさかこんな美人で楽しい奥さんがいて、子供もいるお父さんだなんて、想像すらしてなかったな…。
ここでマリーさんは、ふと目を伏せた。
「…あの…エルヴィンは…元気かしら…」
「団長ですか?」
「夫のナイルと、エルヴィンは同期なの。もうずいぶん昔の話だけど、私の働いていた酒場に、よく2人で来てくれていたの。」
マリーさん、酒場で働いていたのか。
きっと僕も通いつめただろうな…。
「それで、私とナイルが結婚することになって、結婚式にエルヴィンも招待したんだけど、壁外調査と重なってしまって、出席出来なくて。それ以来…10年位かな。会ってないの、エルヴィンとは。」
「エルヴィンは元気だ。…俺にお前の手紙を読め、と頼み込むくらいな。」
リヴァイ兵士長の言葉に、マリーさんは驚き目を見開いた。
「…エルヴィンが…じゃあまさか、あなたが今日ここに来たのは…」
「今日、お前に会ったのは、俺の判断だ。だが、そのきっかけを作ったのはエルヴィンだ。」
「…そう…」
「ねぇ、今から会いに行かない?」
ハンジさんがきりだす。…ああ、そうか。
「そうですよ、マリーさん。今から団長に会いに行きましょう。」
僕の言葉に、マリーさんは複雑そうな顔をして
「そんな…いきなりじゃ悪いわ。」
「人類最強の男をいきなりデートに誘っておいて、それはないでしょう。大丈夫です。団長もきっと喜びますよ。」
僕が力強くうなずいてみせると、マリーさんは笑顔をみせ、
「そう…じゃあ、お願いしようかしら。」
「よしっ、善は急げだ!」
ハンジさんのかけ声を合図に、僕らは調査兵団本部へと戻ることにした。
-
- 20 : 2014/03/29(土) 23:37:44 :
- ※ここからはエルヴィンの視点になります
<調査兵団本部にて>
俺(エルヴィン)は、提出された書類に目を通し、目の前にいる兵士に告げた。
「…セレナ、この書類は不備だらけだな。すぐに書き直せ。」
「はい…申し訳ありません。」
「先日新しく配属した看護兵の指導の方は、どうなっている。」
「はい、こちらも早く壁外での実践に対応出来るよう、指導を進めています。」
「次の壁外調査まで、もう日にちがない。分かっているな?」
「…はい。」
俺はなるべく淡々と話を進める。
彼女に、感情のこもった言葉など、かけるべきではない。
…かけては、いけない。
ドアがノックされる。
「…誰だ。」
「…俺だ。」
リヴァイの声だ。
「…入れ。」
扉が開くと、リヴァイが入って来て、その後ろには…
「…久しぶりね、エルヴィン。」
「…マリー…」
「俺は外に出ている…おい、看護兵、お前も外に出ろ。」
「…はい。」
リヴァイに言われ、セレナは俺とマリーに一礼すると、リヴァイと共に外へ出ていった。
部屋には、俺とマリーの2人だけが残った。
マリーが歩み寄って来る。
俺は、なぜか目をそらした。
「…さっきの子、看護兵なの?可愛らしい子ね。あなたのお気に入り?」
「…マリー、なぜ君がここにいる。」
そう問い返す俺に、マリーは微笑む。
「相変わらずね、あなたは。」
その表情に、その声に、俺はあの頃を思い出す。
2度と戻らない日々。
あれから俺は団長になり、何人の兵を巨人に喰わせたのだろう。
「元気そうで良かったわ。10年振りかしら。お互い、年をとったわね。」
「マリー、俺の質問に答えてくれ。なぜ君がここへ来るんだ。」
「あら、いけなかった?」
「だめだ。一般市民が気軽に赴いて良い場所ではない。」
「リヴァイさんに頼んだのよ。あと、モブリットさんとハンジさんにも協力してもらったのよ。あなたの顔を見に、ね。」
そうか…そういうことか。俺は何となくだが察しがついた。
「じゃあエルヴィン、私の質問にも答えてもらうわよ。」
マリーがいたずらっぽく笑う。
まったく昔と変わらんな、こいつは。
「さっきの看護兵の子、あなたどう思ってるの?」
「…質問の意味が分からんが。」
俺の言葉に、マリーは目を細めて
「私の勘をなめるんじゃないわよ。あの子に気があるんでしょ、あなた。…けっこう若くて可愛い子じゃない。でもなんか大人びてるし、あなたとは、案外お似合い…」
ドンッ…!
マリーの言葉は、俺が机に拳を叩きつける音で遮られた。
だめだ…マリーに怒ってどうする…。
「…ごめんなさい…私…」
「…俺の方こそ…すまない。マリーの方こそ、元気で何よりだ。今度、3人目が生まれるそうだな。体を大切にな。」
俺は、どうにかこしらえた笑顔を、マリーに向けた。
「ええ…この子が生まれたら、また手紙を出すわね。」
「ああ。楽しみに待っている。」
その後、マリーは外で待機していたリヴァイに連れられ、帰っていった。
1人になった俺は、数枚の書類が残る机の上に手をつき、うなだれた。
俺はもう…マリーを愛していた頃の俺とは違う。
あの時の自分にはもう戻れない。
もう…他人を愛することなんて…。
後で机の上の書類を見返したら、所々水で濡れていた。
水なんか飲んでいなかったのに…どこで濡らしてしまったんだろうな…。
-
- 21 : 2014/03/30(日) 00:26:30 :
- ※ここからは、ナイルの視点になります
<その夜のナイル家>
俺(ナイル)は、何日ぶりかの家路についていた。
子供たちの起きている時間帯に帰宅出来るのは、何日…いや、何週間ぶりだろう。
「ただいま。」
玄関のドアをくぐると、さっそく子供たちが出迎えてくれる。
「お父さん!」
「お父さん、お帰りなさい!」
「うむ。ただいま。」
10歳と8歳の娘2人が、無邪気に俺にまとわりついてくる。
仕事の疲れを忘れさせてくれる、幸せな瞬間だ。
「お父さん、大変だよ!」
「事件だよ、事件!」
娘の言葉に、俺は子供の戯れ言と思い、付き合ってやる。
「ほぅ…何が起こったんだ?父さんは師団長だからな。すぐに犯人を捕まえてやるぞ。」
俺の言葉に、娘たちは顔を見合わせ、笑い合う。
「お母さんがね…」
「母さんが、どうかしたのか?」
「デートに行って来たんだよ!」
「あの、リヴァイ兵士長と!」
俺は血相を変えてマリーのもとへ向かう。
「おいっ…おい、マリー!」
「帰って早々、何ですか騒々しい。」
「今…聞いたぞ!お前、リヴァイと何をしたんだ!?」
慌てる俺の背後で、娘たちが楽しそうに
「デートだよ。」
「デートしたんだよ。」
「お前たちは、黙ってなさい!」
おいおい、冗談じゃないぞ…
「マリー、どうなんだ!?まさかお前、あいつと…」
「だったら、どうだと言うんですか。」
「あいつ…ぶっ殺してやる!」
「お父さん、こわい…」
娘が涙ぐんでいる。俺は少し声を鎮めて
「マリー、正直に答えてくれ。子供たちの前で話せないようなことなら、場所を変えて話をしよう。」
「別にここだって話せますよ。私はただ、少しお話をしただけです。何もやましいことはしていません。」
「…しかし、何でリヴァイと話なんか…」
俺の問いに答えたのは、娘たちだった。
「作戦だよ。」
「そう、作戦、作戦。」
「作戦…だと?」
長女が続けて答えた。
「お父さん、最近全然家に居てくれないでしょ。私たち、すごく寂しいんだよ。で、私考えたんだけど、お母さんが別の男の人とデートに行っちゃえば、お父さんもお母さんを取られちゃうって思って、慌てて家に帰って来るって思ったの。」
「作戦、作戦!」
次女も喜んで跳び跳ねる。
「別の男って…それがなぜリヴァイなんだ?」
「それは…」
娘たちは声をそろえて
「「かっこいいから!」」
俺はため息をついて、子供たちと視線を合わせた。
「…いいか、お父さんはな、お前たち…ひいてはこのウォール.シーナに住む人たちのために、頑張って働いてるんだ。
俺だってお前たちと一緒にいたい。だが、お父さんがいなければ困る人たちが、このウォール.シーナには、たくさんいるんだよ。」
「でも…お父さん、私たちは、お父さんが私たちのお父さんだって分かるけど、今お腹にいる赤ちゃんは、きっとまだ分からないよ。
全然お父さんの声を聞いてないんだもん。
生まれてきてからも、お父さんはどこって、迷っちゃうかもしれないよ。」
つたない言葉で、必死に訴える次女。
その横で長女も、涙で潤ませた瞳で、まっすぐに俺を見ている。
「…そうだな。すまなかった。本当に…このとおりだ。」
俺は、娘2人に、深々と頭を下げる。
長女が口を開く。
「私たちはお姉さんだから、許してあげる。だけど、お腹の赤ちゃんは、まだ分からないから、ちゃんと謝ってね。」
俺はお腹の中の子に…もとい、マリーと向き合った。
おずおずと、マリーのお腹に向かって頭を下げる。
「すまなかっ…」
「待って!!」
慌てた様子で長女が止める。
「待って。私が台本を書いたげるから。」
台本だと…?俺は思わずマリーの顔を見る。
マリーが微笑みかけてくる。
少し待つと、長女から1枚の紙を渡される。
「はい、これを読んでね。」
「…わたしが…あなたのお父さん…だよ…」
「もっと心を込めて!!」
娘2人の指導のもと、やっと台本を読み終えた俺は、夕食を済ませ、娘たちと風呂に入り、そのまま寝かしつけた後、マリーに酌をしてもらい、酒を飲んだ。
「すまなかったな、お前たちに寂しい思いをさせて。」
「いえ…私の方こそ、大人げないことをして…すみませんでした。」
「いや。リヴァイとは、どんな話をしたんだ?」
「何って…他愛のない世間話ですよ。」
「世間話ね…」
俺はそれ以上追及しなかった。
マリーのことだ。きっと大丈夫だろう。
-
- 22 : 2014/03/30(日) 00:33:01 :
- 「そうそう。ねぇ、あなた…」
「ん、どうした?」
「今日、懐かしい人に会ったのよ。誰だと思う?」
「さぁ…誰に会ったんだ?」
俺は、マリーの口からその名を聞くと、思わず目を伏せた。
その様子に、マリーもただ、元気そうで良かった、と言ったきり、口をつぐんだ。
グラスの中の氷が、寂しげにカラン、と音をたてた。
-
- 23 : 2014/03/30(日) 00:37:14 :
- 以上で終了とさせていただきます。
長い物語を、最後まで読んでいただき、
本当に感謝いたします。
リヴァイ兵士長に、かわいいファンができましたね。
この子たちには、また別の物語でも、活躍してもらおうと考えています。
次回の内容については、まだ未定ですが、
きっと必ず書くに決まってます。
楽しいですから、ね。
では、失礼いたします。
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