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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

孤独から始まる巨人への反撃 壱

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  1. 1 : : 2022/12/06(火) 03:30:47
    俺は雨が嫌いだった……。


    俺にとって雨は“絶望”の兆しだった。


    そう…。
    俺達人類の活動領域が後退せざるを得ない状況に陥ってしまったあの日……。

    大好きな母さんが為す術もなく“奴ら”に食い殺されたあの日……。


    俺は………“雨”が嫌いだ。

    ・・・・・・・・・・・。

    845年……。

    “ウォール・マリア”の最南端に位置する街。

    “シガンシナ区”

    そこに、ある少年が暮らしていた。


    「ただいま、母さん。薪、このくらいで充分?」


    カルラ「おかえり“エレン”。今日もありがとね。………うん、ちょっと多いかもだけど、問題ないわ」


    エレン「わかった。父さん、今日は早いんだ?」


    グリシャ「あぁ。今日は、内地の方に診療があってな」


    エレン「そっか。頑張ってね」


    薪を暖炉にくべた後、朝食を食べる為に椅子に座る。

    しかし、エレンは一向に手を動かす事はなく、どこか暗い表情で俯いていた。


    グリシャ「?………エレン、どうした?」


    エレン「か、母さん……あのさ、聞いて欲しい事があるんだけど」


    カルラ「どうしたのよ、改まって」


    エレン「──俺が、“調査兵団に入りたい”って言ったら、反対する?」


    カルラ「……そうね。あなたは大事な息子だもの、命を危険に晒して欲しくはないわ」


    エレン「そ、っか………そうだよね。ごめん、変な事言って………いただきます」


    グリシャ「エレン、どうして……調査兵団に入りたいんだ?」


    頬張る所に父に止められ、エレンは正直に自分の思いを語る。


    エレン「俺さ……自由になりたいんだ。この鳥籠みたいに囲う壁から……」


    カルラ「エレン……」


    エレン「確かに、母さんの言う通り…調査兵団は壁外調査から帰る度に悲惨な姿で帰ってくる。いつ死ぬとも知れない苦痛に足掻き続けてる。でもさ、そんな姿に憧れてるんだ」


    エレン「だから、最後のわがままとして聞いて欲しい。調査兵団に入る事を許して欲しい…!」


    カルラ「…………もし、辛くなったら…“帰ってくるんだよ”?約束してくれる?」


    エレン「分かった…必ず!“必ず帰ってくる”!!」
  2. 2 : : 2022/12/06(火) 03:58:06
    そうやって……。


    わがままなんて言って、“必ず帰ってくる”なんて言わなければ……。


    “雨”は来なかったのかもしれない。


    エレン「な、なんだよ───アレ」


    有り得ざる光景。
    高さ50mもの壁の上から覗く謎の顔…。

    人はそれを……こう呼んだ。


    「“巨人”だ…!!」


    突如──。


    シガンシナ区の門に“巨大な穴”が創られた。


    瓦礫の雨、重く硬いソレは容赦無く街中に降り注ぐ。

    更に、開けられた穴からは大小異なる巨人の群れ。


    そしてようやく、気を取り戻したエレンは本能からの警告を受け取り、真後ろではなく真横へと駆け出した。


    エレン「うそだっ、うそだっ!そんなわけないっ……そんなこと、あるはずがっ!」


    加速する心臓の鼓動、肺が悲鳴を上げ、呼吸器系が苦しくなる。

    ──この先を曲がれば、いつもの家が……!


    エレン「────え?」


    大きな“雨”の破片に潰された我が家…。
    そして……。


    カルラ「…………え、えれん?」


    崩れた家の瓦礫に下半身を埋められ、動けなくなっている最愛の母の姿。


    エレン「母さんッ!!!」


    カルラ「エレンッ!?いったいなにが─」


    エレン「壁が破壊されたんだっ!!もう巨人が街の中に入ってきてる!」


    カルラ「──壁がっ!?な、なら!早く逃げなさい!私は脚を潰されて動けない、ここからじゃ逃げられない!」


    エレン「ダメだっ!!母さんと“約束”したんだ!“必ず帰ってくる”って!その先に母さんが居ないなんて、俺は考えたくないっ!だからっ──」


    鈍い足音、嫌でも耳に入ってくるソレは…確実にコチラへ向かって来ていた。


    エレン「ッ!!いやだ、絶対に助けるっ!」


    カルラ「エレン、よく聞いて──」


    エレン「────!!!!」


    そこで交わされた会話に何があったのかは分からない。しかし、状況は子供のエレンでもとっくの前に理解出来ていた。

    “逃げなければ母諸共死ぬ”


    カルラ「これはあなたへのお願い。だから、私はいいからっ、早く!」


    エレン「っ、うぅっ………くそっ!!」


    それが………母さんとの別れだった。

    振り返らず、ただひたすらに前へ、前へ…走った。
    一度振り返ってしまえば、決意が揺らいでしまう。

    だからこそ、振り返らずに…涙を噛み殺して、走った。

    鮮血が飛び散る音が耳に入った時──。



    俺は人知れず世界を呪った。
  3. 3 : : 2022/12/06(火) 04:28:06
    それからの記憶は曖昧で、ハッキリとは覚えてない。

    ただ、覚えている事があるとすれば……。

    全身から煙を放つ自分の姿と、見覚えのある眼鏡が転がっていた事だけ…。

    そうして俺は、今………。


    エレン「……………」


    訓練兵団としての生活を歩み始めた。

    ・・・・・・・・・。


    キース「これより、第104期訓練兵団の入団式を行うっ!私が運悪く貴様らを監督する事になった、“キース・シャーディス”だ。貴様らを歓迎する気は毛頭ない!」


    恐喝とも言えるそれは、最早歓迎と言えるかどうかすら怪しい。

    その恐喝の下、通過儀礼を行う最中…エレン・イェーガーは静かに立っていた。


    キース「貴様は何者だっ!」


    アルミン「ウォール・マリア、シガンシナ区出身!アルミン・アルレルトです!」


    キース「そうか、馬鹿みたいな名前だな!親が付けたのか!」


    アルミン「祖父が付けてくれました!」


    そのやり取りに意味はあるのか?と、どうでもいい疑問符を頭の中に浮かべながら色んな同期と教官のやり取りを聞いていると、そのキース教官が目の前を通過する。

    少し視線がかち合った気もしたが、気の所為であろう。


    しかし、自分の同期は個性的な人物が多くは無いだろうか?

    憲兵志望の脳内花畑、敬礼を間違えるバカ、この状況で芋を貪る違うタイプのバカ…。

    そうこうしているうちに、入団式は終わりを迎えた。

    ・・・・・・・・・・・。


    一人隅っこで夜食を口に運んでいると、先程のアルミンが同期に囲まれていた。


    どうやら、シガンシナ区の出身という事で質問攻めに見舞われているらしい。


    エレン「………バカバカしい」


    夜食を食べ終えた後、早くもその場を抜け出した。

    その様子を、小柄な体格の金髪の少女に見られていた事には気付かなかった。


    さっさと気持ちの悪い汗を流したく、シャワーを浴びる為に男子用の脱衣所とでも呼べば良いのだろうか、そこで自分の兵服を脱ぎ捨てて熱いお湯を頭から浴びた。


    エレン「………ふぅ」


    鏡の中にいる濡れた自身に問い掛ける。


    訓練兵団に入ったのは?

    ─強くなる為。

    それは何故?

    ─奪われた故郷を取り戻し、家に帰る為。

    なら、まず最初にやるべき事は?

    ─立体機動装置の適正訓練に合格する。


    エレン「よし、頭は冷えてる。何も問題は無い。さっさと洗うもん洗って寝よう。時間を無駄には出来ない」
  4. 4 : : 2022/12/06(火) 04:55:52
    予想通り、最初は立体機動装置の適正判断の為のテスト。


    「今期は優秀な者達が多い様ですね」


    「あぁ。だが、その中でもあの2人は抜きん出ている」




    エレン「…………」


    ミカサ「…………」




    「エレン・イェーガーとミカサ・アッカーマン。あそこまで微動だにしてないのは初めて見る。だが…」


    ──才能がある者が居れば、それがない者も中にはいる。


    キース「どうしたクリスタ・レンズ!上体を起こせ!」


    エレン「…………?」


    上体を保つ事が出来ず、逆さに宙吊りになってる彼女のベルト部分に違和感を感じた。

    よくその細部を見ると……。


    エレン「……教官、少しいいですか?」


    キース「む?」


    おもむろに彼女へ歩み寄り、声を掛ける。


    エレン「ちょっといいか?確認したい事があって……」


    クリスタ「へ?う、うん」


    上官に彼女を下ろしてもらい、違和感の正体を確認する。


    エレン「………やっぱりな。教官、これ…“破損”してます」


    キース「何だと?」


    エレン「この部分、正確にはこのベルトの金具…。ここって点検内容になかった部分です」


    キース「ふむ…。慧眼だな…なぜ分かった?」


    エレン「自分のと見比べてみたのが大半の理由ですけど……立体機動装置については独学で使い方調べた事があるので。………ほら、これ使ってさっきと同じ感覚でやってみろよ。多分大丈夫な筈だ」


    クリスタ「あ、ありがとう…」


    ・・・・・・・・・。

    不可思議な事故こそあったが、脱落者は居なかった。

    彼女のベルトに誰も気付かなければ、あのまま開拓地に送られていただろう。


    誰も気付かなかった箇所に気付くという並外れた観察眼を披露したエレンは、やはり同期に囲まれてしまった。


    エレン「…………」


    密かに苛つくエレンの気にも留めず、やいのやいのと質問を繰り出す。

    その鬱陶しさのあまり、勢いよく立ち上がり、残った食事をサシャに寄越し、どこかへ去っていった。


    コニー「どうしたんだ?」


    アルミン「きっと、人と関わるのが苦手なんだよ。昨日も一人で食事をしてたみたいだし」


    ジャン「はっ。いけ好かねぇ野郎だ」


    ライナー「だがアイツのおかげで、クリスタは開拓地に行かずに済んだんだ。そうだろ?」


    クリスタ「わ、私、お礼しに行ってくる!」


    ユミル「お、おいクリスタ!」


    あの時、感謝を述べずにいたのだ。彼に礼を言うなら今しかない。

    そう思い、クリスタは一人飛び出した。
  5. 5 : : 2022/12/06(火) 05:40:10
    エレン「はぁ、はぁ、はぁ……ふぅ。……ん?」


    クリスタ「あ、あの……さっきはありがとう!エレンのおかげで脱落しなかった。だから、ありがとう!」


    エレン「………礼を言われる程の事じゃない」


    タオルで汗を拭き、笑うクリスタを横目に見る。


    クリスタ「そんな事無いよ。私にとっては凄く助かったもの」


    やはり、どこか違和感がある…。
    それが何なのかは分からない…。


    エレン「……まぁ、そういう事にしとく。じゃあな、さっさと飯食って寝な」


    クリスタ「うん!おやすみなさい!」


    ・・・・・・・・・・・・。


    あいつから感じる違和感が何なのか掴めないまま…対人格闘、長距離兵站行動、座学。


    なるべく人付き合いをしないように、徹底した。
    これ以上、大切な人を作りたくない…。

    どうせ、居なくなってしまう。

    そんな不安に駆られないように…。

    どれだけ、声を掛けられようと、徹底した。

    そして…ようやく立体機動の訓練が始まる頃には、俺と同期との間に壁が出来るようになった。

    それなのに……。


    クリスタ「立体機動の訓練、私達ペアになったんだって。よろしくね!」


    エレン「………………」


    こいつはその壁を通り抜けて、“違和感”のある笑顔で俺に関わろうとする。

    それがどうしようもないくらいに……。

    ──鬱陶しかった。気持ち悪かった。

    ・・・・・・・・。


    教官の号令が掛かり、全員が一斉に森の中へ飛んでいく。

    俺は少し遅れて、立体機動に移る。


    エレン「……………」


    クリスタ「ま、待ってよ!訓練はペアで最終地点に向かうって!一人で行くなんてダメだよ!」


    必死に喰らいつかんと、普通以上にガスを吹かす。
    明らかな自殺行為。実戦じゃガス切れは“死”に直結する。

    それが分かってるのかどうか…。
    だが、それでもクリスタは俺のペースに着いていこうとする。


    やがて中盤に差し掛かった頃、やはりと言うべきか……。


    クリスタ「あ、あれっ?」


    ガス切れを起こし、そのまま地面へ落下していくクリスタ。

    そこでようやく分かった。“違和感”の正体が。

    ずっと頭から離れない、しがみついて離さない……“違和感”。


    エレン「……吹かしすぎだバカ野郎」


    気付けば身体が勝手に動いていた

    “考えるよりも先に身体が動いてた”。
    なんて事を言う英雄なんかがいるそうだが、そんな事有り得ないと思ってた。

    今この時まで…。
  6. 6 : : 2022/12/06(火) 06:28:41
    クリスタ「っ……いき、てる?」


    確実に、“死んだ”と思った。
    誰の役にも立てないまま、死んだと思った。

    でも、どうして?


    クリスタ「あっ──」


    そうか……彼が助けてくれたのか。
    でも、どうして……。


    エレン「くそ…っ!」


    クリスタ「どうして……私“なんか”を助けてくれたの?あれだけ、人と関わろうとしなかったのに」


    エレン「うる、せぇな……。目の前で死なれちゃ…胸糞悪いだろ…っ」


    クリスタ「………」


    エレン「お前…何でそこまで俺に関わろうとするんだ」


    クリスタ「……必要とされたいから」


    エレン「……………」


    クリスタ「私ね、人の為に死にたくて兵士になろうと思ったの」


    ダメだ、今すぐに黙らなきゃ……。
    迷惑をかけたこと、謝らなきゃ…。


    クリスタ「何も無い空っぽの私じゃなくて…皆から愛されるいい子の“クリスタ”のまま死にたいの」


    お願い、黙って…!
    助けてくれた人に、嫌われたくない!


    クリスタ「だから、エレンに必要とされて…愛されて、エレンにとって私は“いい人”のまま死にたいから。エレンに関わろうと頑張った」


    エレン「…………」


    クリスタ「迷惑を掛けた事は謝る。私のせいで怪我をさせちゃった事も謝る!お詫びに私の身体を好きにしてくれたっていい!!」


    ──だからっ…!


    クリスタ「だからっ……嫌いにならないでっ…!」


    エレン「………気持ち悪ぃ」


    クリスタ「─────。」


    エレン「そうやって自分殺して、相手に媚びて…無理して笑って……気持ち悪いんだよ。もっと“自分”を出せよ」


    クリスタ「………え?」


    エレン「お前にどんな過去があろうがどうでもいい。死にたきゃ勝手に死ね」


    クリスタ「なら、私を──「ただし」……え?」


    エレン「……俺より先に死ぬんじゃねぇぞ」


    クリスタ「そ、それはどういう──んっ…!?」


    突然の事で何が起きているのか理解出来なかった。
    けど、それを理解した時、顔が沸騰するのではないかと言うくらいに熱くなった。


    エレン「──っはぁ。……二度も言わせんな、ったく」


    クリスタ「あ、えっと……え?」


    エレン「はぁ……。だから、俺より後に死ぬか、俺と一緒に死ぬか選べっ!分かったらさっさと立て!」


    その場に座り込む私に背を向けて歩き出す彼は…。

    どこか大きく、広く、カッコよく見えた。


    クリスタ「…そっか、そういう事…なんだ」


    彼は“クリスタ(わたし)”を助けた訳じゃなくて……。

    ヒストリア(わたし)”を助けてくれたのか……。


    ぶっきらぼうで近寄り難いけど、ちゃんと話せば…分かるもんなんだ。

    私は駆け出して、その背中に抱きついた。


    エレン「……なんだよ」


    クリスタ「ふふっ。大好き!」


    エレン「…………あっそ」


    私が原因で起きた事故だったけど、そのおかげで私は少し幸せになれたと思う。

    だって、こんなに優しくて人思いなカッコいい男の人は……この先現れてくれないだろうからっ!
  7. 7 : : 2022/12/06(火) 07:33:15
    俺は雨が嫌いだ……。


    俺達人類の活動領域が後退せざるを得ない状況に陥ってしまったあの日……。

    大好きな母さんが為す術もなく“奴ら”に食い殺されたあの日……。


    俺は………“雨”が嫌いだ。


    けど──。


    エレン「──もうじき雨は止みそうだ」


    クリスタ「ん?どうしたの?」


    エレン「何でもねぇよ。つか離れろ、鬱陶しい!」


    あの後、不慮の事故で立体機動装置が壊れ、そのまま歩いて来たと報告をした。

    こっぴどく叱られると思ったけど、「次回からは気を付けろ」とだけ言われ、何事も無かったように今日の訓練は終わった。


    その後は大変だった。

    やれ「クリスタに怪我させねぇよな」だの、やれ「事故に見せ掛けてクリスタを襲おうとしたんじゃねぇだろうな」だのとグチグチ……。

    怪我したのは俺の方だ…。

    まぁ、怪我の治りは早い方ではあるから…そこまで気にしてねぇしどうでも良かった。

    ……なんでこうなったのかは、俺にも分からない。

    ただ……せめて母さんを安心させたかったのかな。

    「必ず。必ず、貴方にとって大切な人を連れて、私達の家に帰ってきて」

    あの日交わした母さんとの約束……。


    エレン「………あいつがそうかは知らねぇけど、必ず家に帰る。それだけは……絶対にだ」


    ・・・・・・・・・。


    後日…。


    クリスタ「はいどうぞ。珈琲入ったよ」


    エレン「…………(ズズッ)」




    ユミル「わ、私のクリスタが…!」


    ライナー「い、いったい何が!」


    アルミン「凄いなぁクリスタ…。もうエレンと仲良くなったんだ」


    ミカサ「先日の立体機動の訓練……あの後からよく2人が一緒に居るのを見掛ける」


    2人の距離感が近すぎる事に気付いた彼らは、思わずエレンに詰め寄った。


    エレン「………ん?」


    クリスタ「それでねー?……ん?どうしたの皆?」


    ユミル「お前コイツに何されたんだ!?」


    クリスタ「え?な、何もされてないよ?」


    ライナー「こないだの立体機動の訓練の時、お前ら事故で装置壊れたんだよな?その時に何かあったのか?」


    クリスタ「な、何もなかったよ?ただ、歩いて合流しただけだよ?」


    ユミル「だったら、どうしてそんな密着してんだ!」


    クリスタ「どうしてって……」


    エレン「………好きにしろよ」


    一瞬だけ、2人の視線がぶつかった事を見逃す程鈍感では無いユミルは更に声を上げて詰め寄った。


    ユミル「なんだ今の目配せは!?やっぱり何かあったんだな!?白状しやがれ!」


    クリスタ「そ、そんな事言われても……“恥ずかしい”よ」


    “恥ずかしい”?
    頬を赤く染めて両手で顔を隠す可愛い彼女は、今“恥ずかしい”と言ったか?


    ユミル「おい!!さっさと吐け!クリスタに何したんだ!」


    エレン「はぁ……。何って…俺より先に死ぬなってキスしてやっただけだよ。文句あるか?」


    衝撃の告白…。
    そんなどう考えてもプロポーズとしか捉えられない事を、真顔で平然と言ってのけたというのか?


    アルミン「お、男前だ…!」


    ミカサ「………」


    クリスタ「そうなの。だからごめんねユミル。私、エレンと結婚するよ」


    ユミル「あ、な……な…」


    撃沈。

    一言で言い表すとしたらそれが適切だろう。
    ユミルとクリスタのスキンシップの間で「結婚してくれ」と割と本気で、かつ揶揄うように言っていたユミルが撃沈した。


    もれなく、クリスタという美少女に恋心を抱く男共も呆気なく撃沈。


    クリスタ「みんなどうしたの?何か変だよ」


    エレン「…………(ズズッ)」


    今日は殊更に騒がしい。
    他人事のように一蹴して、珈琲を飲む。

    アルミンの中で、彼に対する印象がガラリと変わった日でもあった。
  8. 8 : : 2022/12/08(木) 03:49:09
    後日。


    エレン「………」


    立体機動の最中、視線を慌ただしく巡らせて巨人を模した的を探す。

    ──4、8、16、26…。

    視界に入っただけでも30体以上はこの森の各地に点在している。

    この訓練はどれだけ巨人の的を倒したかどうかで成績に左右が着く。
    コニーやサシャのように、誰かに着いていって獲物を先取りするのはかえって非効率。


    エレン「自分から探した方が速い…っ!」


    早速目の前の10m級の的の項を削いで、即座に次の獲物を探す。

    その様子を観ていたキースはその動きに、どこか既視感を覚えた。


    キース「……あの動き、あの速さ…先日立体機動については独学で調べた事があると言っていたが……いや、だとしても…」


    そう。どこか、似ているのだ。
    かつて、自身が調査兵団の団長を務めていた時期に少しだけエレンと似たような動きを見た事があったのだ。

    調査兵団の兵士長を務め、“特別作戦班”のリーダーを務めるあの“人類最強”と名高いあの男に……。


    エレン「………ぁ?」


    奇行種という名目だろうか、唐突にした方向から飛び出してきた様なソレはエレンを喰らいつかんとしていた。


    エレン「………っ」


    しかし、エレンはワイヤーを地に放出する事で地に背中を向けたまま垂直落下、そこから弧を描くように上昇した後、身体全身を回転させながら逆手に持ったブレードで項を斬り落とすという荒業を披露して見せた。


    キース「……やはり、似ているな。“リヴァイ”に」




    エレン「やっぱり奇行種ってのは挙動が読めないな…」


    そう小さく愚痴を零し、そそくさと次の標的を探しに飛び去って行った。


    キース「…………ふっ」


    最も巨人を倒した者として、ミカサ・アッカーマンが称された。

    同時に僅差ではあるものの、一歩及ばなかった惜しい者として、エレン・イェーガーの名が挙がった。


    この日より、104期訓練兵団において
    エレン・イェーガー、ミカサ・アッカーマンの2名が、今期の優秀な兵士として注目される事となる。

    そんなエレン・イェーガー、現在はキースに呼び出され、立体機動装置についての質問を問われていた。


    キース「イェーガーよ。貴様は以前、立体機動装置の使い方を“独学”で調べたと言っていたな、その事について聞きたい」


    エレン「………昔、偶然すれ違った兵士の人に『お前には巨人を殺す才能がある』って、半年間世話になった事があります。だからその時に。まぁ独学と言っても、基礎知識を教えてもらっただけで、残りの事は全部自分なりに」


    キース「そうか。手間を取らせたな、戻って良い」


    エレン「はい、失礼します」


    ・・・・・・・・・・・。

    ライナー・ブラウン。
    屈強な体格と強靭な精神力を併せ持つ。
    率先して皆を引っ張るその姿は、仲間からの信頼も厚い。


    アルミン・アルレルト
    体力面では劣っているが、その頭脳は座学において非凡な発想力を見せている。


    アニ・レオンハート。
    斬撃に非の打ち所が無く、対人格闘ではその才能を遺憾無く発揮している。
    しかし、連帯性に何があり孤立気味。


    ベルトルト・フーバー。
    積極性に欠けているものの、内に秘める潜在能力は極めて高い。


    ジャン・キルシュタイン。
    立体機動においては、アッカーマンやイェーガーに次ぐトップクラスの実力がある。
    しかし抜きみ過ぎる性格故に、軋轢を生みやすい。


    サシャ・ブラウス。
    型破りな野生の勘を持っているものの、組織行動に向かず、食に関して言えば暴走しがち。


    コニー・スプリンガー。
    小柄な体格を活かした小回りの利く動きが得意ではあるのだが、その反面…頭の回転がやや鈍い。


    ミカサ・アッカーマン。
    あらゆる科目を完璧にこなす。
    “歴代でも類の無い逸材”との評価は妥当。
    しかし、アルレルトの事となると我を見失う不安定さが目立つ。


    エレン・イェーガー。
    独学で学んだという立体機動の動きは、どこか“あの男”を彷彿とさせ、他の追随を許さない。
    しかし、ストイック過ぎる性格が…連帯性に支障をきたしてしまっている。


    キース「どうやら、今期は優秀な者が多いようだな」


    訓練に励む今期の訓練兵に期待感が増している事に、キースは僅かに笑みを零していた。
  9. 9 : : 2022/12/10(土) 02:41:58
    時間の流れはあっという間である。

    立体機動、対人格闘、座学、過酷で厳しい環境下の中で行われる訓練というのは、自身の体内時計を簡単に狂わせる。

    そうして、気付けば既に3年……。

    第104期訓練兵団の終わりの日が目前まで迫っていた。


    トーマス「無理だ!調査兵団に入って巨人と戦うなんて…アイツらには勝てっこない!」


    アルミン「それでも僕は、調査兵団に入るよ」


    ジャン「おいおい、アルミン…。お前はどうしようもない死に急ぎだな。お前の頭なら有効的に使えるとこがあったりすんだろ。何で調査兵団なんだ」


    アルミン「元から憲兵志望の君には僕の考えてる事なんて分からないよ。何も出来ない…知り合いの兵士に担がれて、目の前で大切な人を食い殺された僕の気持ちなんて…」


    ジャン「あぁ、知らないな。けどな、これだけは言える。“人類は巨人には勝てない”。5年前にそれはもう分かったんだ」


    アルミン「じゃあ、いつ終わるとも知れない束の間の平和が壊されたとして…。そこで大人しく巨人に殺されろって言うの?僕は嫌だよ。何もせず殺されるくらいなら、精一杯足掻いて死にたいからね」


    その話が聞こえていたのか…。
    エレンはアルミンにどこか親近感を覚えた。

    同じ出身、経緯は違えど、結局は家族を巨人に殺された。
    同情とまでは言わないが、それに何も思わない程…彼は人を捨ててはいなかった。


    エレン「ジャン。俺はお前の方が余っ程ビビってるように見えるぞ」


    ジャン「違うな、俺は現実を見てる。5年前のあの日……人類は巨人相手に何も出来なかった。その結果がこれだ。いいか?巨人には勝てないんだよ」


    エレン「勝てないから“逃げる”事は間違ってない、好きにしろ。ただ、勝てないから“諦める”のは現実逃避に過ぎない」


    エレン「現実から目を背けて逃げるのと、現実に向き合った上で逃げるのとでは、意味が違う。お前は前者の方だ」


    ジャン「あのなエレン。誰もがお前やミカサみてぇに強いわけじゃあねぇんだ。憲兵への入団権利を得た上で、調査兵団に入るってのは少しおかしいんじゃねぇのか?」


    エレン「この世は弱肉強食。“戦わなければ勝てない”。これはいわば巨人との“戦争”だ。敗けたら死ぬんだぞ?死なない為に死ぬ程努力して、準備する。何で当然の事が出来ないんだ?」


    エレン「それも出来ない連中の為に態々加減してまで明け渡すくらいなら、無理矢理にでも死地に引っ張り込んでやる。今俺達がどんな現実の下で生きてるのか、その頭に刻み込んでやる」


    ──“明日”それが起きても逃げんなよ。兵士になった以上、現実から目を背ける事は許されない。
  10. 10 : : 2022/12/10(土) 03:35:34
    翌日。

    訓練兵団として最後の日。

    自由の翼のシンボルを掲げ、人類の勝利の為に死地へ向かわんとする調査兵団が、壁外調査へと向かう日だ。


    中でも、その注目を浴びているのが……。


    「見ろ!“リヴァイ兵士長”だ!一人で一個旅団の実力があるってよ!」




    リヴァイ「……チッ。うるせぇな…」


    羨望の眼差しを向ける連中に対して、静かに悪態をつくリヴァイに“ハンジ”は声を掛ける。


    ハンジ「皆の羨望の眼差しも、あなたの潔癖過ぎる性格を知れば幻滅するだろうねぇ」


    そして、調査兵団第13代団長、エルヴィン・スミスの指揮の下、調査兵団は壁外調査を開始した。

    ・・・・・・・・・・。

    壁上の固定砲台の整備を行っていた時、それは突然として現れた。


    エレン「………………会いたかったぜ」


    ──超大型巨人。


    突風を思わせる多量の蒸気を放ち、上からこちらを見下ろす超大型巨人。

    その場に居た数名の同期が吹き飛ばされ、立体機動で壁に張り付く中、エレンは平然とその場に立っていた。


    そして、超大型巨人は固定砲台ごと、壁上を右腕で薙ぎ払う。


    エレン「………明らかに砲台を狙った、やっぱりコイツ“知性”があんのか」


    超大型巨人も、鎧の巨人も……明らかに門の破壊を目的として、あの絶望を降り注いだ。

    だとすれば……恐らく今回も。


    エレン「めんどくせぇ……」


    同じように、壁に張り付き門の様子を伺う。

    すると、やはり……15m級の巨人が通れる程の穴が開けられた。


    それが意味する事は5年前と同じ。


    コニー「ま、マジかよ…。巨人が、入って来るぞ」


    エレン「コニー、お前は皆を連れて上官にこの事を報告してくれ。奴の相手は俺がやる」


    コニー「なっ……お、おいっ!?」


    そうして、再びエレンは壁上へと飛んで行った。


    エレン「………他と違って動きは遅い。なら、勝機はある…か?」


    考えていても仕方ない。エレンはワイヤーを超大型巨人の項部分に射出した後、ガスを吹かしてワイヤーを高速で巻き取り接近する。


    しかし──。


    エレン「──っ!!熱っ!!」


    ──やっぱり、コイツには知性があるっ!“俺と同じように”…誰が中に居る?


    エレン「てめぇは……“誰”だっ…!!!」


    確実に捉えた…しかし…。


    エレン「外した…訳じゃなさそうだな。煙に紛れてどっかに逃げた?」


    手応えの無さに思考を巡らせていると、報告が行き届いたのか…上官がこちらへ声を掛ける。


    「おい、何をしているっ!超大型巨人出現時の作戦はもう始まっている!」


    「お前は、訓練兵か。では、直ちに持ち場に着け!」


    何も言わず右手拳を左胸に当て、了解の意を示す。
    地獄はまだ始まったばかり。

    これより、『トロスト区防衛戦』が勃発する。
  11. 11 : : 2022/12/10(土) 04:14:16
    あの後、作戦確認の為の場所に向かって見れば、見るに堪えない恐怖に駆られる同期達が居た。

    人気の無い一室、彼女に連れられて、1つの椅子に座らされてみれば、膝の上に乗られて抱き着かれる。


    エレン「………」


    クリスタ「みんな、怖いって震えてる。“どうして今日なんだ”……って」


    エレン「綺麗事が通るほど甘くない。この世界は残酷なんだ……腹を括らなきゃならない。アイツらにとってのそれが今日だったって話だ」


    クリスタ「エレン、私怖いよ。もしエレンが死んじゃったらって思うと……胸が苦しくなるの」


    自分よりも他人の心配をするクリスタを抱き留めはしない。ただ、頭を手を置いた。


    クリスタ「ねぇ、これが最後かもしれないから。安心したいの……だから、キス…いい?」


    答える前に、彼女の両手で顔を固定され、柔らかい唇が触れる。

    触れるだけの控えめなキス。
    クリスタは寂しさを埋めるように、彼を逃がす事はしなかった。


    クリスタ「んっ……ふふっ。外では皆これからの事で怖さいっぱいなのに、私達はこんな事をしてる。ちょっとドキドキするね」


    エレン「……満足したか?そろそろ時間の筈だ」


    クリスタ「……うん、ごめんね。わがまま言って……ありがとう。もし、生きて帰れたら…その時は」


    エレン「約束は出来ねぇぞ?」


    クリスタ「それでいいよ……エレンが生きててくれれば、それでいいよ」

    ・・・・・・・・・・・。


    二輪の薔薇をシンボルとする駐屯兵団。

    訓練兵団を含めた兵士を指揮する立場にある“キッツ・ヴェールマン”は、作戦についての再確認の為の説明を行った。


    キッツ「前衛を駐屯兵団率いる訓練兵団、中衛を訓練兵団率いる支援班、後衛を駐屯兵団の精鋭班がそれぞれ受け持つ!尚、伝令によると…迎撃に向かった先遣隊は既に全滅しているとの事だ!」


    『先遣隊の全滅』

    それは、如何に訓練をした上官だとしても、巨人という未知の化け物に殺されてしまうという事を示唆している。


    キッツ「兵士として規則に従い、敵前逃亡は死罪に値する!死力を尽くして作戦の完遂にあたれ!」




    エレン「“敵前逃亡は死罪”……ね。それじゃ恐怖心を煽るだけだろ。あんなのが隊長、しかも指揮官なんて大丈夫なのか?」


    ミカサ「エレン……アルミンは、大丈夫だろうか」


    エレン「大丈夫だ。身代わりになってでも、アイツは死なせねぇよ。アイツみたいな力の無い奴こそ、俺達には必要なんだ」


    ミカサ「あなたが死んでしまったら、クリスタが悲しんでしまう…」


    エレン「分かってんよ。後衛は任せたぞ、仕事が終わればこっちに来てもいい。死ぬなよ」


    そうしてエレン達訓練兵は、死地へ向かう。

    これから先、向き合うべき地獄へ身を投げるのだ。


    エレン「トロスト区防衛戦、開始だ…!」
  12. 12 : : 2022/12/10(土) 05:10:13
    エレン「前衛は総崩れ…思ったより絶望的だな」


    上官の指示のもと、エレン率いる34班は立体機動中、視界の状況を目の当たりにする。


    エレン「まぁ、実戦経験があまり無い駐屯兵団だと考えれば納得はいく」


    冷静に状況把握を行い、集中していたせいか……右斜め前方より飛んで来た“奇行種”に気付かなかった。


    アルミン「皆っ!無事かい!?」


    ミーナ「私は大丈夫…!」


    エレン「チッ!“一人”失ったっ!」



    エレンの視線の先には、高台のような柱にしがみつく巨人の“口許”。


    トーマス「あ、あれ……なんで……?」


    アルミン「トーマスッ!!!」


    ミーナ「アルミンッ!落ち着いてっ!」


    エレン「バカがっ!」


    仲間の惨状に怒りを見せ、単身突撃するアルミンに連られるミーナ……それを見て呆れるように追い掛けるエレン。


    そこから34班は動きを乱し、全滅の一途を辿らんとしていた。


    アルミン「どうして……僕は……」


    ──仲間が喰われているのを見ているんだろう…。


    トーマスが喰われ、ミーナが喰われ……班の仲間が次々と死んでいく。

    簡単に喰われゆく仲間の姿を目の当たりにし、巨人の恐ろしさを刻まれたアルミンはただ、建物の屋根上に膝をつく。


    巨人への恐怖、仲間が死んでいく絶望感、それを前に何も出来ない自分の無力感。

    初めての地獄を見たアルミンの身体は、髭を生やした一体の巨人に襟を摘まれ、今にも喰われんとしていた。


    それでも、アルミンの身体は動かない。

    やがてアルミンは巨人の口内へ落下、舌の上を滑り落ちていると分かった時、初めて身体が動いた。

    アルミンは叫ぶ。

    誰でもいい、この手を掴んで助けて欲しいと…。
    そんな願いが込められていた。

    叶わないと思っていたその願いは、同じ班員の彼によって救われた。


    エレン「何もかも、全部…っ。予定が狂った…!」


    アルミン「エレン……?」


    エレン「アルミン……あいつに、クリスタに伝えといてくれ──」


    アルミン「エレンッ、早くっ!!!」


    その叫びも虚しく、エレンは片腕を残し、そのまま巨人によって喰われていった。

    ・・・・・・・・・・・。

    巨人の胃袋の中だろうか…。

    身を浸すその液体は真っ赤に染っており、そこら中に死んだ仲間の遺体が力無く浮かんでいる。


    エレン「何で…今なんだろうな」


    記憶に浮かんだのは、かつて…憧憬の念を抱いたあの日の事。


    エレン『“エルヴィン・スミス”……調査兵団の団長。ずりぃよ、それ』


    『あ?』


    エレン『誰かの為に力を使う…。あんたみたいな生き方を、俺にも……教えてくれよっ!!!』


    『………お前、名は』


    エレン『エレン……エレン・イェーガー』


    『そうか。俺は──』




    エレン「“リヴァイ”…さん」


    あれ以来、ずっと思ってた。

    “あの人の下で戦って死にたい”……と。


    エレン「無駄死には……しちゃダメなんだよ」


    失った右腕を天へ伸ばす……。

    “化け物”に等しいこのような自身を好いてくれたあの顔がチラついた。


    エレン「俺が護ってやるんだ…。俺が──」


    ───俺が護るんだよッ!!!!!!


    そう叫んだ時……。

    一筋の橙色の稲光が自身に落ちた様に思えた。
  13. 13 : : 2022/12/17(土) 21:03:53
    周囲に誰一人居らず、そこにはエレンを呑み込んだ巨人が一体。


    そんな巨人の身体が……四散した─。

    夥しい程の血液が周囲の建物に飛び散り、その中心に存在する“謎の巨人”。


    それは、怒りを体現するように……空へと吼えた。


    ──ウオオオオオオオオオオオーッ!!!!


    エレンを呑み込んだ巨人の身体が爆発する様に四散した後、その内側から出現した巨人は意味深に周囲を見渡し、ある場所を捉えた。


    そこには、兵士達が補給をする場所として設けた本部に群がる大量の巨人が居た。

    それを見ると、“巨人”は本部に向かって地を蹴った。


    ・・・・・・・・・。


    クリスタ「う、そ………」


    アルミン「ごめんっ……僕が、僕のせいでっ……エレンはっ!」



    『自分以外の班員が巨人に喰われた』

    アルミンから知らされたソレは、クリスタにとっては絶望に身を包まれた感覚を覚える。

    それを聞いた、同期達もまた…動揺せざるを得なかった。


    クリスタ「な、何言ってるの?嘘、だよね?エレンが、あんなに強いエレンが……巨人に、食べられたなんて──」


    ミカサ「クリスタ、アルミン。落ち着いて。今はこの状況をどうにかしないといけない」


    アルミン「……ミカサ?」


    不気味な程に冷静でいるミカサは、静かに口を開く。


    ミカサ「マルコ、あの本部に群がる巨人を倒せば…全員がガスを補給出来て、撤退出来る。違わない?」


    マルコ「そ、それはそうだけど…。ほ、本気かっ!?一人で行くなんて無茶だ!」


    ミカサ「私は強い。凄く強い……ので、私なら、本部(あそこ)に群がる巨人を倒す事が出来る」

    ミカサ「貴方たちは、腕が立たないばかりか…臆病で腰抜けだ。そこで指を咥えて見てるといい。咥えて見てろ」


    拙い言葉遣いで颯爽と行ってしまったミカサの背中を見るジャンは悪態をついた。


    ジャン「野郎…ッ。口下手なのも大概しろよ、あれで発破掛けたつもりでいやがる…!」

    ジャン「オイッ!!俺達は、仲間に一人で戦わせろと学んだかっ!!」


    そうして、ジャンはミカサを追うべく立体機動に移る。

    ジャンの言葉に感化された訓練兵達は、己を鼓舞し、一か八か…生きるか死ぬか、本部へと向かった。


    クリスタ「…………」


    アルミン「ミカサ……何処か、怒ってる?」
  14. 14 : : 2022/12/18(日) 21:06:25
    ジャンを含めた104期生が死力を尽くして本部内部に到着した後、アルミンの非凡な発想力によって内部を徘徊する数体の巨人を討伐する事に成功し、無事ガスを補給出来たのだが……。


    ライナー「な、なんだよありゃ…!?」


    アニ「……………」


    ジャン「巨人が……巨人を“殺してやがる”」


    彼らの目には、一体の巨人が複数体の巨人を相手に戦っている光景だった。

    異様…。

    それを見た誰もがそう思った。

    奇行種?いや、巨人を殺す奇行種など聞いた事がない。
    もしそんなものが存在しているのなら、座学の時に教えられてる筈なのだ。

    何より、謎の巨人は明確に…巨人の弱点を“理解”しているようで、確実に巨人を殺していた。


    クリスタ「…………」


    アルミン「何がどうなって……?」


    やがて、群がっていた巨人を全て殺したその巨体は、力尽きたのかその場に倒れ、大量の蒸気を出した。


    ──“項”から。


    クリスタ「…………っ」


    無意識に身体が動いた。

    不可解にも、巨体の項から出て来た者の事を彼女は知っている。


    エレン「………………」


    クリスタ「──っ!」


    ドクン…ドクン…。

    胸元に耳を当て、その鼓動を受け取ると……彼女は涙を流す。


    クリスタ「生き、てる……。エレン…ッ!」


    彼女にとって、何故彼が巨人の項から出て来たのかどうかという問題はどうでも良かった。


    ただ、彼が…エレンが生きていた。
    それだけが、彼女にとっては全てだったのだ。

    ・・・・・・・・・・。


    何だこれ……。

    何だってこんな事になってる…?



    エレン「………っ」


    クリスタ「エレン、あまり動いたら……」



    キッツ「貴様の正体は何だっ!?人か、巨人か!?」


    トロスト区の角に追いやられ、果ては駐屯兵に包囲されており…殺意を向けられている。


    エレン「そういう……ことかっ」


    ぼんやりとした思考を回し、結論に至る。

    どうやら、自身が巨人の身体から出てきたところを見られ、脅威としてあわよくば殺害を図っている。

    絶望的であるのに状況把握が出来るほど冷静さを失ってない事に、自分を褒めてやりたいが…それは後回し。


    エレン「質問の意味が分かりませんね。冷静な判断が下せない頭で、そんな質問をする意味が……」


    キッツ「大勢の者が、貴様が巨人の体内から出て来た所を目撃している!その上でもう一度問う、貴様の正体は何だっ!?」


    エレン「人間だっ!見りゃ分かんだろうがっ!!!」


    言ったところで無意味なのは状況把握をした時から分かってる。

    それに、今はエレンにとって重要なのは自分の事についてではなく、寄り添うように自身の傍らに居るクリスタ、彼女をどう護るべきかどうかだ。


    エレンの声量に少し怯み、どよめく中でエレンはクリスタを見やる。


    クリスタ「……っ」


    歯を食いしばり、鋭く駐屯兵を睨み付けているが…身体は正直で震えている。

    この状況に恐怖を抱いている。


    エレン「どの道俺の言葉を聞く気は無い。殺されるくらいなら……」


    クリスタ「だ、ダメだよ…。そんな事したら、エレンが死んじゃう…」


    エレン「………」


    なら、逃げるか?


    しかし、逃げようと言ったところで何処へ逃げるというのか…これも却下だ。

    抗う事も出来ない、逃げる事も許されない。

    このままでは、彼女を護るどころか……家に帰る事すら叶わない…。


    エレン「考えろ……何か、何か方法は…」


    すると──。


    「よさんか。……相変わらず図体の割に子鹿のように繊細な男じゃ」


    口髭を生やしたスキンヘッドの、老いた男がやって来た。
  15. 15 : : 2023/01/02(月) 04:10:09
    駐屯兵団、南方領土最高責任者

    ドット・ピクシス。

    常に懐に酒瓶を携えており、「超絶美女の巨人になら、食べられてもいい」という願望を持つ。

    誰が呼んだか…人は彼を“生来の変人”という。


    ピクシス「キッツよ。お主は少し頭に血が昇りすぎじゃ。まともな判断を下せる思考が無いようでは、生き残れる状況も生き残れぬぞ」


    キッツ「ぴ、ピクシス司令…!?」


    ピクシス「……ふむ。お主が、エレン・イェーガーか」



    ピクシスは、壁の一角に追いやられているエレンを見る。



    エレン「………」


    ピクシス「そう警戒するでない。ワシは少し、お主と話がしたいと思っての」


    エレン「………話?」


    ピクシス「先に壁上で待っておるぞ」


    エレン「なっ……おいっ!」


    クリスタ「………(取り敢えず、殺されない…って事だよね?よかった……)」


    ・・・・・・・・・・・・。


    ピクシス「………やはり居らぬか。超絶美女の巨人というのは」


    エレン「そろそろ、本題に入って貰っていいですかね。何で俺はここに居るのかを」


    ピクシス「うむ。そうじゃったの。イェーガー訓練兵よ……あそこに鎮座する“大岩”が見えるか?」



    広場…のような場所だろうか。
    その中心には、何故そこにあるのかは皆目見当もつかないのだが……確かに大岩があった。

    空けられた穴を塞げる程に、それは巨大だった。


    エレン「まぁ、見えますけど。………まさかとは思いますけど、巨人になってアレを使って穴塞げって事ですか?」


    ピクシス「話が早いようで何よりじゃ。お主の力であれば、アレを持ち上げる事が可能であろう?」


    エレン「もし仮に、アレを持ち上げられたとしても……周囲に巨人が来られたらどうするってんです?両腕が塞がってちゃ戦えるものも戦えない」


    ピクシス「そこについては問題無い。イアン率いる精鋭班を護衛に付かせよう」


    エレン「………見た目に反して、意外と非情ですね。賭けの部分が大きいこの作戦に…そう簡単に部下の命を捨てるって事ですか?」


    つまり、ピクシスの言い分は…。

    訓練兵、駐屯兵の総力を以て…エレンがあの大岩で穴を塞ぐまでの間、彼を死守…または他の兵士の命を使って巨人を引き付けようと言うのだ。


    ピクシス「ワシはな……どうしても奴らに勝ちたいんじゃ。それこそ、どんな事をしても……。ワシの命令で死した仲間に恨まれようとも、巨人に勝つ。その為に、ワシは喜んで……その責任の一切を背負おう」


    エレン「………ピクシス司令。俺は…巨人に勝ちたいとか、公に心臓を捧げるとか……そういうのはどうでもいい。けど、あんたは“人類の勝利”の為…俺は“約束”の為、今回だけは貴方の駒になってやります」


    ピクシス「ふむ……して、質問じゃ。お主は、アレを使って穴を塞げるか?」


    エレン「……やれるかどうかじゃない。やるしかない……その為に、下の全員を作戦に従わせる必要があります」


    ピクシス「よう言った!お主は男じゃ…!早速準備を進めよう」



    『トロスト区奪還作戦』

    まず初めに、エレンが安全に目的地へ迎えるように、イアン率いる駐屯兵団の精鋭班の護衛の下で最短ルートで向かう必要がある。

    その為の下準備として、訓練兵並びに駐屯兵は大岩が位置する場所とは反対側の壁へ多くの巨人を引き付ける。

    エレンが「巨人化」した後、大岩を持ち上げ、空けられた穴へ運び塞ぐ。その間、エレンに巨人を近付かせない事が絶対条件である。

    大勢の兵士が死ぬ。エレン・イェーガーという後の“人類の希望”の為に、ピクシスは部下の命を捨てる判断をする。


    そして今、ピクシスはエレンを伴って…眼下に集う兵士達を壁上より見下ろしていた。
  16. 16 : : 2023/01/13(金) 07:47:01
    エレン「……何か、妙に騒がしい」


    ピクシス「ふむ…。まぁ、これも予想通りと云うべきか。…うぉっほん─」



    ──ちゅうもぉぉぉぉぉぉぉぉぉおくっ!!!!!!!!!



    鼓膜が震え、気の弱い者が傍に居ようものなら、ふらついてしまいそうな程の声量をその耳で受け取り、つい顔を顰めてしまった。


    ピクシス「これより、『トロスト区奪還作戦』について、説明する」



    ピクシスから告げられる『トロスト区奪還作戦』の内容。

    それは至極分かりやすく、”簡単“である。

    ”誰が見ても巨大だと言える、大岩で穴を塞ぐ“


    ピクシス「まず、彼を紹介しよう。第104期訓練兵団所属、エレン・イェーガーじゃ」


    エレン「…………」



    一部の兵士は知っているだろう。

    彼が…”巨人の項から姿を見せた“という事を。


    それが何故なのかは、誰にも分からない。
    そう……”彼本人以外“は誰も分からない。

    しかし、ピクシスはそれを…世にも信じ難い方法で紹介する。


    ピクシス「彼は、我々が極秘に進めてきた”巨人化実験の成功者“であるっ!」


    エレン「………(まぁ、そうザワつくのも無理は無いか)」


    ピクシスの言葉を鵜呑みにしてしまえば、
    今壁外を闊歩し続ける巨人達は、”実験の失敗者“なのか?という疑問を抱く。


    ピクシス「この『作戦』においてワシは、彼の力が必要だと判断した。よって、彼が有する巨人の力を利用し、大岩を運ばせ、穴を塞がせる事が作戦成功の要である!」




    「いったい…どういう」


    「訳が分からない…」


    クリスタ「………(エレンは、それでいいの?誰かに利用されるなんて…)」


    大半の兵士が、ピクシスの言葉の真意を掴みかねており、何を言わんとしているのかを分からないでいた。

    しかし、少しでも頭の良い兵士は気付く。
    いや──”気付いてしまった“とでも言うべきか。


    「今日ここで死ねってか!?冗談じゃない!俺は下りるぞ!!」


    男の兵士が一人踵を返し歩を進めると、それに便乗するように近くの女兵士が二人、お互いを見合い頷いてその場を去る。

    やがてそれは部下の総意であると示すように

    「俺もっ!」………「俺もだ」………。

    と、次々と多くの兵士が踵を返す。


    イアン「…まずいな」


    リコ「あぁ、このままで……秩序が失われるっ」


    キッツ「っ……覚悟はいいかっ!!反逆者共っ!今この場で、叩っ切る!」


    当然と言えば当然である。
    いくら尊敬し、従える上司からの言葉であったとしても、「死ね」と言われて従う者は存在しない。

    それが出来る者が居たとするならば…”人類の勝利“の為なら公に心臓を捧げると本能で誓った兵士だけであろう。


    エレン「……(誰であっても”死“の概念からは逃れられない。それが早いか遅いか…決めるのは自分自身。所詮…”公に心臓を捧げる“なんてのは偽善に満ちた誓いでしかないんだろうな…。ホント、滑稽に見えるよ)」


    ピクシス「………ワシが命ずるっ!今この場から立ち去る者の罪を……免除するっ!!」


    エレン「………(そう。これは”枷“だ。一度でも兵士になった以上、戦いを諦める事は許されない)」


    ピクシス「ここより内側に、各々の家があるだろう。自分を待つ親や兄弟、愛する者が居る者が大半であろう。ワシは許可しよう。自分が味わっている”巨人の恐怖“を、親や兄弟…愛する者に味合わせたい者は、ここから去るが良いッ!!!」





    「………そ、それだけは………ダメだ。娘だけは…」


    弱肉強食…戦わなければ勝てない。
    こんな残酷な世界で生き抜く為には、自分が”強者“になるより他に無い。

    そして、自身よりも弱者である家族や友人を守ってやれる存在も……強者である彼らしか居ないのだ。


    真実だろうが偽善であろうが、一度「公に心臓を捧げる」と誓ってしまったその瞬間から……。


    彼らは”強者“として生き続け、家族や友人という弱者…人類の為に死ななくてはならない。

    エレン・イェーガーは兵士を選んだ時から分かっていたのだ。

    父を…母を死なせてしまったのは、弱者であった己の責任。
    彼女を…クリスタを家へ連れ帰る事は、強者である己の責任なのだと。


    『……誰よりも強く在ろうとする奴が、内側に殻籠もるなんてのは”責任からの逃避“でしかない』


    エレン「………(ホント…滑稽だよ。アンタ達)」
  17. 17 : : 2023/01/13(金) 08:55:08
    これより始まるは『トロスト区奪還作戦』


    エレン「もし万が一…俺が暴走しようものなら、躊躇わずに殺して下さい。アンタ達は俺に殺される危険性がある。まぁ、暴走なんてしないようにするけど」


    イアン「極秘人間兵器だか言っていたが…穴を塞げるなら何でもいい。頼んだぞ!」


    エレン「分かってます。それより、何でお前が居るんだミカサ」


    ミカサ「エレン、身体は大丈夫?」


    エレン「思ってたより大分いい。囲まれてた時よりかは余っ程な」


    ミカサ「……エレン」


    エレン「何だよ、少し黙ってろ」


    リコ「ままごとやってんじゃないぞ、イェーガー」


    エレン「そんなつもりは無いです。それと、俺とアンタ達は互いに利害関係にある。人類の命運を掛けなきゃいけないとかってのは考えなくていい」


    ミタビ「これから人類の為に利用されようとしてるとは、中々面白い奴だ」


    イアン「うるさいぞお前達!もうすぐ大岩までの最短ルートだ」


    ──今見える限り…付近に巨人は居ない。皆が上手く囮をやってくれているんだろう。



    「いいか!壁の隅に誘き寄せるだけでいい、無駄な戦闘は避けろ!」




    リコ「一つ言っておくぞ、イェーガー」


    エレン「………」


    リコ「この作戦で、少なからず…多くの兵士が死ぬだろう。アンタの為にな」


    エレン「………」


    リコ「それは私達の同僚や先輩、後輩達だ。当然兵士になった以上、皆覚悟の上だ。だがな…」


    ──彼らは物言わぬ”駒“じゃない。


    「待て……まだだ……」


    ダズ「ッ……!」


    「もう少し………───離脱!!」


    彼らには──


    リコ「名前があり、家族があり……それだけの、想いがある。皆…血の通った人間だ」


    エレン「………」


    リコ「訓練兵時代から、同じ釜の飯を食ってる奴もいる。そんな奴らが、今日ここで……アンタの為に死ぬだろう。アンタには、彼らの死を無駄にさせてはならない”責任“がある。……何があろうとな」


    エレン「…………責任、ね」


    リコ「その事を、その心に刻んでおけ」


    エレン「……善処します(素直に”はい“って頷ける程、俺は出来た人間じゃない。何故なら…)」


    ──母と交わした”約束“を果たす為だけに、強者として生きる…ただの弱者に過ぎないのだから。

    けどまぁ、あの人なら……それが出来るのかもしれないな。


    ピクシス『巨人が出現して以来、人類が巨人に”勝った“事は一度も無い。巨人が進んだ分だけ、人類は後退し、領土を奪われ続けて来た』


    ピクシス『しかし、この作戦が成功した時…人類は初めて、巨人から領土を奪還する事に、成功する!』



    イアン「ここだ、行くぞっ!!」




    ピクシス『その時こそ、人類が巨人に勝利する瞬間であろうっ!』



    リコ「………」


    作戦開始の合図、緑の信煙弾が……空へ放たれた。


    「緑の信煙弾を確認。精鋭班、作戦行動に入りました」


    ピクシス「…………」



    ピクシス『それは、人類が奪われ続けたモノに比べれば、例えようも無く…小さなモノかもしれん。しかしっ!!その一歩は、我々人類にとっての…大きな”進撃“になるッ!!!』



    エレン「──ッ!!!」


    懐より取り出したナイフで左手を斬り付けた後、エレンを強大な閃光が包み込む。


    それは天より送られた”祝福(ギフト)“であり、彼が望む想いを助ける為の力である。


    やがて光が止むとそこには……。


    「………………」


    15m級の巨人が、眼前の大岩を睨み付けるように立っていた。
  18. 18 : : 2023/01/26(木) 22:48:18
    「………………」


    この大岩を破壊された門まで持っていけば、俺達は初めて巨人に勝てる。

    これは、母さんとの“約束”を果たす為の第一歩だ。

    それさえ頭に入ってれば大丈夫だ。

    どうやら、思っていた以上に“この力”は強大で未知で脅威だ。
    自分を見失えば簡単に暴走してしまう。

    今、俺に出来る事は、寄ってくる巨人共をミカサ達に任せて……この大岩で、穴を塞ぐ事だけ。



    リコ「本当に……やってみせるんだな」


    イアン「感心してる場合じゃないぞ!俺達の命に替えても、エレンを巨人から守れ!!」


    ミタビ「おうとも!!」


    ミカサ「はいっ!」


    エレンの巨人化による不安こそありはしたが、エレンが大岩を持ち上げ、一歩ずつ門へ向かう姿を見れば、自然と士気向上に繋がった。


    「……………………」



    “自由”ってのは、誰もが持つべき権利の一つだ。

    そして、俺達は……産まれた時から自由を手にする権利がある。


    ミカサ「はぁっ!!」


    例え、どんな障害があろうと……


    ミタビ「でぇぇえいっ!!!」


    イアン「助かった、ミタビっ!」


    どんな苦難があろうと……


    リコ「怖気付いてる暇は無いぞ!後もう少し、もう少しで、私達は巨人に勝てる!!」


    どんな恐怖や不安があったとしても、関係無い。

    俺達には、それらを乗り越えて“自由”を求めて前へと進まないといけないんだ。

    だからこそ、こんな所で……。


    ───立ち止まってるわけにはいかねぇんだよっ!



    「ウオオオオオオオオオオオーッ!!」



    それは勝利の雄叫びか……はたまた己を鼓舞する怒号か……。

    凄まじい叫びは大岩に込められ、壁にヒビが入る程の力で穴へとぶち込まれる。

    穴を塞いだという事は、“巨人から領土を奪還した”という証拠である。


    リコ「みんなっ……死んだ甲斐が、あったなっ…!」


    作成完遂の合図を示す信煙弾が空へ放たれた。


    リコ「人類が今日、初めて…巨人に勝ったよっ…!」


    ・・・・・・・・・・・。


    「………おい、ガキ共。これはどういう状況だ」



    地に伏せ絶命する二体の巨人の上からこちらを見下ろしている男。

    その背中には…黒と白に分かれた二つの翼。

    “自由の翼”が風に揺られて靡いていた。

    少しずつ薄れ行く意識の中、エレンは小さく男の名を呟いた。


    ──リヴァイ…兵長…。


    “調査兵団”とは。

    人類にとって唯一の矛である。
    壁外調査という名目で死地へと赴き、来るべき『ウォール・マリア奪還』の為のルートを確保する為に、日々を過ごしている。

    兵士の死亡率は極めて高く、とてもじゃないが、進んで調査兵団へ入団しようという者は少数である。

    「生きて帰って初めて一人前」…というのが調査兵団全体に知れ渡る通説だが、そもそも壁外という死地を駆けるだけでも相当な心身への疲労が激しいというのが現実だ。

    その中で、調査兵団屈指の強者が存在する。
    それが“リヴァイ”と呼ばれる、調査兵団の兵士長。



    「お前らなんか、きっと……“リヴァイ兵長”にっ!」



    建物が豊富に存在する場所であっても、歴戦の兵士であっても、人間と巨人とではそもそもの力量が違うのだ。

    その手に捕まったが最後、後は喰われるのを待つのみか、味方が助けてくれるのを待つかの二択である。



    リヴァイ「………」



    幸い、この兵士は後者であったようだ。



    リヴァイ「…………(右に一体、左に二体…)」



    建物の上で眼前の巨人の数を確認していると、そこへ“ペトラ”という女兵士が増援を連れてきたと報告をする。


    ペトラ「兵長、増援を連れてきましたっ!」


    リヴァイ「ペトラ、お前は下の兵士を介抱しろ。残りの兵士は“右”を支援しろ」


    ──俺は“左”を片付ける。


    ペトラ「えっ…?兵長っ?!」


    有無を言わさずに颯爽と飛んでいくリヴァイには困惑しか無く、ペトラの声も届かない程にまで距離が離れてしまった。

    リヴァイが単騎で二体の巨人を相手取る事に対しての困惑だったかもしれないが、そんな心配は不要だ。


    何故なら彼は………“人類最強の兵士”なのだから。

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utiha_sasuke

セシル

@utiha_sasuke

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孤独から始まる巨人への反撃 シリーズ

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