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或る夏の日

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  1. 1 : : 2017/09/19(火) 20:42:51
    桜内梨子ちゃんの誕生日を記念して、ラブライブサンシャインのssを書いてみました。ようりこの優しい百合です。
  2. 2 : : 2017/09/19(火) 20:43:24
    「――全速前進、ヨーソロー!」

    浦の星女学院の屋上に、溌剌とした少女の声が響き渡る。その弾けるような声だけで、声の主が天真爛漫な少女であることが伝わってくることだろう。さらに、声だけでなく姿も見ている者にとっては、その姿は太陽の如く輝いて見えるに違いない。
    ――大袈裟過ぎる表現だろうか。だが少なくとも……、

    「やっぱりすごいな、曜ちゃんは」

    桜内梨子はそう感じていた。



    ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



    「――ごめん、今日は水泳の練習があるから一緒に帰れない!」

    季節は夏。放課後の夕刻といっても、太陽の輝きは昼間のそれと余り変わらない。そんな燦々とした日光が照りつける教室の窓辺で、曜は顔の前で両手を合わせて謝罪の言葉を口にした。

    今日はスクールアイドル部が休みの日。放課後特にすることがない梨子は、いつもの部休日と同様にスクールアイドル部の同学年組、千歌と曜と三人で下校しようと二人に声を掛けた。
    初めに声を掛けた千歌は梨子の誘いに即座に快諾した。しかし、次に声を掛けた曜の返答は、断りの意志を示すものだった。

    「そっか。大会、近いんだもんね」

    どうして、という疑問に答えるかのように、千歌は曜の事情を代弁する。

    「それなら、仕方ないね……。水泳、頑張ってね!」

    「ありがとう梨子ちゃん! 渡辺曜選手、全身全霊で練習に励む所存であります!」

    梨子の激励の言葉を受けて、曜は夏の日差しに負けない元気一杯の声で決意表明をして敬礼。そして、鞄を片手に教室を駆け出して行った。

    「すごいなぁ曜ちゃん。水泳もやって、スクールアイドルもやって……。人一倍青春してるって感じ」

    「うん。私もそう思う」

    教室を後にした曜の背中を見送りながら、千歌が曜への感嘆を口にする。梨子はそれに同意した。

    「それじゃあ、二人で帰ろうか」

    僅かに青空を漂っている雲がちょうど太陽を遮ったところで、梨子は千歌と共に教室を後にした。
  3. 3 : : 2017/09/19(火) 21:04:23



    ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



    帰り道のバスの中、梨子は千歌との会話を弾ませながらも時折寂寥感に襲われた。
    千歌と二人きりであることに物足りなさを感じているわけではない。実際、そういう場面は今まで何度もあったが、寂しさを感じたことはない。
    本来共にいるはずの存在の欠如。現状を楽しんでいるつもりでも、人はそれだけで空虚感を抱くものなのか……。

    ――それとも、私にとって曜ちゃんの存在が大き過ぎるのかな。

    梨子にとって、彼女はいつも憧れだ。体力があって、可愛い衣装を創るセンスと発想力があって、料理もできて……。スクールアイドル部と水泳部を兼部していて、もしかしたらAqoursの中で、少なくとも二年生の中では一番忙しい筈なのに、そんな素振りを一切見せず、いつも太陽のように輝く笑顔を見せてくれる、そんな彼女に憧れているのだ。
    だけれども、

    「いくら曜ちゃんでも、大変だろうな……」

    燦々と輝く太陽は美しいが、同時に厳しくもある。日差しがじりじりと照りつける夏のこの時期に、スクールアイドル部と水泳部の両立。しかも、水泳部の方は大会と来た。そうなれば、押し寄せる疲労は今までの比ではないだろう。そして、疲労を取り除くための休息の時間すら、殆ど取れてはいないのではないのか。
    千歌と別れ帰宅した頃、梨子の心を占める寂寥感はそんな曜への不安感へと変わっていた。

    だから彼女は、その夜曜に電話を掛けた。

    「もしもし?」

    「もしもし梨子ちゃん。どうしたの?」

    「えっと……、ちょっとお話ししたくなって」

    用件を聞かれるが、梨子は曜のことが心配で電話をしたとは答えなかった。曜は誰にも心配を掛けたくないと思っているだろうし、そのように振る舞っているからだ。

    「うん、良いよ。何の話?」

    初めは当たり障りのない話を。それでいて、伝えたいことに繋がる話を――。

    「曜ちゃんみたいになりたいなって話」

    「えっ、急にどうしたの? ……もしかして、新手のドッキリ企画が進行中!?」

    「違うわよ。曜ちゃんが部活に行った時、千歌ちゃんと話したの。水泳もスクールアイドルも頑張っている曜ちゃんは、人一番青春してて羨ましいなあって」

    「何だ、そのことかぁ……。別に大したことじゃないよ。梨子ちゃんがピアノ、果南ちゃんがダイビングをやってるのと同じだって」

    「ううん、すごいことだよ。果南さんのダイビングもすごいことだと思うし。……私のピアノは、スクールアイドル活動の一環みたいなもので、二人とはちょっと違うから」

    「そうかなぁ。梨子ちゃんのピアノだって――」

    曜はいつだって謙虚で、傲ることを知らない。自分の優れている点を鼻にかけるようなことをしない。

    自分の抱えている重荷を、他人に見せることをしない。

    「曜ちゃんっ!」

    「は、はい!?」

    「無理は、しないでね。辛くなったら、いつでも私に相談してね」

    これだけしか言えなかった自分が、梨子は恨めしかった。
  4. 4 : : 2017/09/19(火) 22:09:49



    ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



    梨子と曜の電話から三日後の日曜日、Aqoursの一同は屋上でダンスの練習に励んでいた。

    「ワンツー、ワンツー、ワンツー」

    果南の声と手拍子とでリズムが刻まれる中、覚えたての振り付けをなぞるように体を動かしていく。

    新曲の練習を初めて初期の頃は、やはり持って生まれたセンスの差が顕著に表れやすい。余り運動が得意でない部員達の最初のダンスは、はっきり言って不格好極まりないものだ。それでも彼女達は、たゆまぬ努力によって拙いダンスをアイドルのダンスへと昇華させていく。そこで生まれる達成感もまた、プロのアイドルにはないスクールアイドルならではの醍醐味とも言えよう。
    その一方で、運動神経抜群の曜のダンスはいつも最初からキレキレだ。練習の後半には、果南と一緒にダンスが不得手の部員のサポートに回ることも多い。

    それはきっと、今日の練習にも言えることであるはずだが――。

    「わっ!」

    不意に耳に飛び込む曜の声。続いて、尻餅をつく音がした。

    「曜ちゃん、大丈夫!?」

    「……だ、大丈夫だよ千歌ちゃん! それよりごめんね、良いところだったのに途切れさせちゃって」

    痛がるどころか、ダンスを中断させてしまったことに対して謝辞まで述べる曜。自分のことよりも、他人への気遣いを――。そんな態度は曜らしいといえば曜らしい。しかし……、

    ――さっきのミスは、らしくない。

    「曜、少し休憩した方が良いんじゃない?」

    曜の転倒に同様の感想抱いたのだろうか、果南が曜に休憩を取ることを勧める。

    「大丈――。やっぱり、ちょっと水飲み場で顔でも洗ってこようかな」

    一瞬断りかけたが、結局曜は果南の勧めに従い少し練習を抜けることを選択。階段へと向かっていった。そして、曜の姿が見えなくなったところで――、

    「私も、少し休憩してもいいですか?」

    梨子は湧き上がった感情のままに、曜の後をつけていった。



    ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



    ――身体が重い。

    曜は自覚していた。自分の身体が思うように動いてくれないことを。そしてその原因も。

    「後たった二週間なんだから、耐えなきゃ」

    要領が良い。そう思われることが嫌だったときもあった。でも、それは悪いことではなく、寧ろ長所。そして、それが活かされる場面は紛れもなく今だ。今が、渡辺曜の正念場なのだ。

    鉛のように感じられる足を引きずって、曜は水飲み場まで辿り着く。両手を皿にして水を貯め、それを顔へとばしゃり。これで、汗と一緒に疲れも洗い流れ――。

    「はぁ……はぁ……あれ……おかしいな……」

    乱れた呼吸が治らない、疲労がどこへも行ってくれない。

    「――曜ちゃん!?」

    遠くから梨子の声。このままではまずいと、いつものように痩せ我慢をして見せようとする。まずは表情から。目一杯の笑顔を、梨子へと見せるのだ。

    「梨子ちゃんも休憩に……!?」

    驚きで、曜は言葉を詰まらせる。

    ――こんなに近くに居たなんて。

    遠くに聞こえていたはずの声は、すぐ近くから放たれていたものだった。自覚以上の身体の不調を理解し、焦燥から心臓の鼓動が早まる。その鼓動の早まりは、更なる変調を曜へともたらそうとする。

    落ち着け。落ち着け。落ち着け。

    視界が微かに霞み始めるも、曜は何とか平静を取り繕おうとする。
    そして一言、「大丈夫」と口に――。

    「曜ちゃん」

    ――優しい声だった。

    直後、曜の右手が温かな感触に包まれる。

    「着いて来て」

    曜の右手をしっかりと、それでいて優しく握りしめた梨子は、曜に自分に着いて来るように言った。曜は突飛な状況に驚きながらも黙って頷き、梨子の後に続いていった。
  5. 5 : : 2017/09/19(火) 22:18:59



    ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



    「――保健室?」

    梨子が曜の手を引き向かった先は、養護教諭不在の日曜日の保健室だった。
    目的地に到着すると、梨子は曜の手を放し何の説明もなしに保健室のベッドに腰を下ろす。

    「あの……梨子ちゃん――」

    「座って」

    「え?」

    「こっち来て座って」

    そう言って、梨子は自分の隣を指差す。
    真剣な表情、真剣な声色で指示され、曜は素直に従わざるを得ない。梨子と同じベッド、梨子の隣に腰掛ける。すると、梨子が少し距離を詰めてくる。

    「梨子ちゃん、これはどういう――」

    もう一度、事情を問い掛けようとしたところで、曜は後頭部を梨子側へと優しく押される感触を覚える。不意の出来事に曜は抵抗する間もなく、上体がベッドと水平になるように倒れ込む。その先には、柔らかい感触が待ち構えていた。
    ベッドの感触ではない。無生物にはない温もりが、その証拠だ。
    何事かと、曜は上方へと顔を向ける。そこにあるのは、頬を紅葉色に染めた梨子の顔だ。その視覚情報と、自分の頭に触れる柔らかな感覚、そして元々の二人の位置関係から、曜は現状を推測した。

    「ひざまくら……」

    「は、恥ずかしいから言わないの! あと、こっち見るのもだめ!」

    恥じらい一杯の顔でそう言われて、曜は素直に言い付け従い視線の位置を戻す。それから、今まで何度か阻まれた問い掛けをする。

    「何がどうしてこうなったのか、私にはさっぱり分からないのですが」

    「こうすれば、曜ちゃん休んでくれるかなって思ったの」

    「梨子ちゃんから見た私って、そんなに甘えん坊さん!?」

    「……ううん。曜ちゃんはしっかり者で、器用で、一人でも色々なことができちゃう人。だから寧ろもっと……、私に、皆に、甘えて欲しいな」

    甘えて欲しかった。これが自分が本当に言いたかったことなのだと、梨子は言葉にしながら理解した。
    そしてそっと、曜の頭を撫で始める。少し、曜の頬も火照ってきた。だが――、

    「甘えられないよ。スクールアイドル部と水泳部との兼部は、私が、自分が好きで決めたことだから」

    曜の意志が瓦解したわけではない。
  6. 6 : : 2017/09/19(火) 22:22:56

    「うちの水泳部は団体戦に出られる程人はいない。だから、辞めたって良かった。誰にも迷惑は掛からない。私が一番やりたかったことは千歌ちゃんと一緒に何かに全力で打ち込むことだったから、水泳を辞めても少し心残りはあったかもしれないけど、きっと毎日が充実してたと思う」

    寧ろ、その意志は言葉になって強く顕になっていく。

    「でも私は、水泳を捨てなかった。千歌ちゃんはスクールアイドルに青春の全部をぶつけようとしてるのに、私はそうしなかった。だから……だから……、こうやって両方やろうとして、それで疲れちゃってるのは私のせい。皆には、迷惑掛けられない。甘えられない」

    秘めていた想いを吐き出した曜の声は、顔が見えずとも泣いているのがわかるくらい涙声だ。そんな曜に掛ける言葉は――、

    「迷惑なんかじゃないよ。寧ろ……、甘えてくれると嬉しいな」

    もう決まっている。

    「皆、曜ちゃんのことが大好きだから、曜ちゃんに頼られたら喜んで手を差し伸べるから、助けになりたいって思っちゃうから、もっと皆を頼って欲しいな」

    「……でも、私の身勝手に皆のことを巻き込みたくない」

    「曜ちゃん真面目過ぎ。全然、身勝手なんかじゃないよ。もし曜ちゃんが身勝手なら、自分のピアノコンクールのために予備予選に出なかった私はどうなっちゃうの?」

    「別に、そのことをどうこう言ったつもりは――」

    「いいえ。曜ちゃんの言っていることは、そういうことです」

    「うっ……」

    身勝手と自分を卑下したことを予想外の方向から攻撃され、曜は辟易する。

    「――なら私は、どんな風に皆に甘えれば良いの?」

    辟易し、梨子の助言に従うことを選んだ曜。そんな彼女の、心からの問い掛けだった。
    器用で、要領が良く何でも上手にこなす曜でも――、そんな曜だからこそ、他人への甘え方は不器用なのだ。
    梨子は曜の質問を受け、微笑み、穏やかな口調で答えた。

    「簡単だよ。大会までの間、スクールアイドル部を休めば良いの。水泳にしても、スクールアイドルにしても、疲れが溜まったままやったって良いことはないから。両方同時にやることと、両立することは違うんだよ」

    「それは皆に――」

    「迷惑じゃない。さっき言ったばっかりでしょ、皆曜ちゃんに甘えてもらいたがってるって。休むのも一つの甘えみたいなものだから」

    「でも」

    「休みなさい」

    「……分かった」

    梨子の頑なな姿勢に、曜はやむなくその提案を受け入れる。
    曜自身、本当はそれが正解なのだと、随分前から心の何処かで気付いていたのだけれど……。

    「――梨子ちゃんって、何だかお母さんみたいだね」

    「えっ!?」

    唐突な曜の言葉に、梨子は驚き顔を赤らめる。その表情を見て、曜は目を細め……、

    「おやすみなさい、梨子ちゃん」

    梨子の膝枕の上で、安らかな眠りについた。



    ――大好きだよ。



    ―fin―
  7. 7 : : 2017/09/19(火) 22:25:31
    【あとがき】
    初めて書くジャンルはやはり難しいなと感じました。台詞とか、ちゃんとキャラに合ったものになってるのか不安だったり……。
    感想等いただけましたら幸いです。

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