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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

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決着の日

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  1. 1 : : 2016/07/25(月) 23:37:44
    久しぶりに初投稿です。よろしくお願いします。
  2. 2 : : 2016/07/25(月) 23:38:20






    もういっそのこと死んでしまおう。


    そう思ったのは、今日、独りぼっちで昼食を食べていた時。クラスメイトの雑談が、自分を非難しているような錯覚に陥った時だった。


    とてつもない不快感に身を焼かれ、これ以上、生きていくことが困難に思われた。私はカップヌードルを啜る音で、泣いているのを誤魔化し、完食後、そそくさと教室を抜け出た。


    炎天下、陽炎が漂う夏の日のことだった。




  3. 3 : : 2016/07/25(月) 23:39:03






    しばらく街を当てもなく歩いていると、ふと、古びた雑貨屋のような建物が目にとまった。


    喧騒に包まれていた街の中で、ポツリとたずさんでいたその建物に、ひどく近親間を覚えた。


    立ち寄ってみると中は閑散としており、妙に涼しかった。風が吹き抜け、私の衣服をはためかす。


    もう少しゆっくりしていこうかと、薄暗い中をぼんやり突っ立っていると、奥の方から白黒の熊が出てきた。


    あまりの衝撃的な出来事に言葉を失った私は、身振り手振りで害意がないことを熊に示す。


    熊は奇妙な笑い声をあげ、奥に姿を隠した。呆然としていた私に逃げるという選択肢はなく、その後、熊は再び奥から出てきた。ただし、今度は『何か』を持って。



    「うぷぷ……人生に『絶望』したって顔だね? でも少々、自暴自棄気味。そういうの、嫌いじゃないけど好きじゃないよ」


    「だからコレを上げます! 苗木! ちゃんと育ててね?」



    熊は私に、変な物体を差し出す。触ると、サラサラとした髪の毛のようで、ブーメランのような形をしていた。


    非現実的な出来事に戸惑う私を尻目に、熊は自論を展開し始める。



    「人生の9割って運で決まるよね。出会いとか、才能とか。残りの1割は努力でどうにかなるけど、その1割だけじゃ幸せになれない」


    「まあ、それを言い訳に生きてる奴ほど成長しないんだけどね! うぷぷ!」



    それだけ言うと、熊はくるりと踵を返し、おもむろに歩いていった。


    熊の言う通り自暴自棄気味であった私は、当面の危機がとりあえず去ったことで、この不可解な状況を簡単に受け入れることができた。夢の世界に生きているような、そんな感覚。


    私は『苗木』を優しく握り、軽い足で自宅へと向かった。その後、この店に訪れることはなかった。



  4. 4 : : 2016/07/25(月) 23:39:30


    ーーー

    ーー

    ーーーーー

    ーー






    静寂が、ヒトの潜在意識下にある海の底を彷彿させる。息苦しく、生き苦しいアパートの個室で、私は苗木と睨めっこしていた。


    厳かな器具のおかげで、板張りの床は夏の夜だと言うのにひんやりと心地良い。


    私はおもむろに立ち上がり、本棚から、埃かぶったガーデニングの本を取り、読み漁った。



    『苗木はちゃんと土に埋めましょう』



    私は頭をひねり、身近にどこか、苗木を埋めれるような場所がないかと考えた。


    そういえば、近所に裏山があった。明日、あそこに埋めることにしよう。どうせ用事なんてないのだから。


    私は苗木に微笑むと、布団を敷き、灯りを閉ざした。枕元にあった苗木を手繰り寄せ、そっと抱いて眠りに落ちる。


    暗闇の中、私しかいないはずの部屋に、視線を感じた。しかし、不思議と悪い木はしない。この出来事が夢かうつつか分からぬまま、私はしがらみから解放されていった。




  5. 5 : : 2016/07/25(月) 23:40:14




    ーー

    ーー


    ーーーーー




    蝉の断末魔が、はちきれんばかりに辺りに響き渡っている。重いシャベルを抱えながら、私は汗を垂らして進む。


    もちろん苗木を埋めるためであり、それは作業服のポケットにしまってある。


    凸凹した石が足裏に感じられる度、その尖った分だけ体力が削られる気がした。


    がむしゃらに山道を歩いていると、平べったいところに出た。







    そこには何もなかった。




    風が吹き抜ける。




    何処までも、何処までも、限りなく吹き抜けていく。





    私はそくそくと地面にシャベルを突き立て始めた。疲れなど感じず、一心不乱に掘り進める。


    しばらく掘った後、苗木をそこにそっと埋めた。乾燥した土を見つめ、空を仰ぐ。雲一つない晴天が広がっていた。


    水をやりをしに後でこよう。


    そして、それを私の生き甲斐にしよう。






  6. 6 : : 2016/07/25(月) 23:40:34



    ーーー

    ーーーーー


    ーーー

    ーーーーー




    あれから一週間が経ったが、苗木は少しも成長した気配がない。心配になった私は、植物に話しかけることで成長を促進する方法を取ることにした。


    したのはいいのだが、いざ話すとなると、話題が見つからないし、声が掠れて上手く喋れない。


    声に関してはリハビリをすれば良いのだが、困ったことに、話題はどう足掻いても捻り出せそうになかった。私には、人に話すような過去も今もないのだ。


    悩んだ末の私の打開策は、学校に行くことだった。話題作りのために、その日の夜、私は制服にアイロンをかけた。


  7. 7 : : 2016/07/25(月) 23:40:52




    ーーー

    ーーーーーー

    ーーー




    世界に色が付いていく。


    あの頃の私は溺れていた。


    俗な喧騒に。尊大な焦燥に。殻を被った悲壮さに。




    通学中、ふと車道に目をやると、内臓が腹部から飛び出し、無残に横たわっている猫を見かける。




    その出来事さえも、輝いて見えた。純粋に心を揺さぶられることに、歓びを覚えたのだ。濁りのない、澄んだ残酷。


    色が付いた世界は今までよりも心地よく、穏やかな風が吹いていた。


  8. 8 : : 2016/07/25(月) 23:41:14




    ーー

    ーーー

    ーーー





    苗木が私の膝の丈まで伸びていた、ある日、私は苗木の様子に違和を感じた。



    「エスパ-デスカラ」

    「ラ-ユ! ラ-ユ!」


    小さな、青色の虫がたかっていたのだ。


    心なしか、苗木に元気がないように感じる。私は折れた枝などをかき集め、持っていたライターでそれを燃やした。


    灰色の煙がもくもくと立ち登り、苗木を包み込む。煩かった虫の声も、しばらくしたら聞こえなくなった。




  9. 9 : : 2016/07/25(月) 23:41:41





    ーーー

    ーーー

    ーーーーーー




    夏休みに入った。最初は話題不足を憂いたが、そういえば私は受験生であることを思い出し、進路のことなんかを相談してみることにした。


    1度会話が弾む仲になると、案外話題など必要ないのだ。


    そういえば、苗木は私の背丈くらいまで伸びていた。



  10. 10 : : 2016/07/25(月) 23:42:00



    ーーー

    ーー

    ーーーーーー




    夏休みに入って数日が過ぎた。


    その日、苗木の元を訪れたのはいつもより遅くで、夜空には満天の星空が輝いていた。


    苗木はいつの間にか成長しきっており、大きな枝を空いっぱいに広げ、深い緑の葉を携えている。


    私は幹に抱きつくと、耳元に囁くように言葉を紡いだ。


    いろいろ話した後、ふと、見上げてみる。





    生い茂った葉と葉の間に煌めく無数の星たちが、どうにも、苗木の涙のように見えた。




  11. 11 : : 2016/07/25(月) 23:43:33





    ーーー

    ーーーー

    ーー







    ある日の夕方。


    苗木に水をやるため、軽快な足取りで山道を進んでいると、ちょうど北西の方角から、カラスの群れが飛び去っていくのが見えた。


    胸騒ぎを覚えた私は、黙って駆け出す。












    しばらく走ると、いつもの場所に苗木の大木が見えてきた。私は息を弾ませながら、慎重に近づいていく。


    視界に入り込んできたのは、黒い人影。何の比喩でもない、ただ人の形をした立体的な影。


    そいつは意味のわからないことを叫びながら、苗木へと暴力を与えている。



    「ひゃっはー! はよクソまみれでヤろうぜ! もう気が狂うほど気持ちええんじゃぁ〜!!」



    私はその行為の中断を促すため、影に向かって叫び声をあげた。自分でも驚くくらいの、そんな声だった。


    影はくるりとこちらを向くと、嘲笑を浮かべ(たような気がする)、大きな歩幅で突っ込んできた。


    今度は恐怖で声が出ない。息を潜め、震える身体を抱きしめた。目を閉じ、楽に死ねることを祈る。


    しかし最後にもう一度、自分がどうなるにしろ、苗木をこの目で見ておきたいと思い、暗闇を切り開いた。



    そこに映しださた光景は、苗木が枝で影を殴り飛ばしているものだった。



    「グァバッ!!」



    影は数メートルほど吹き飛ばされ、土を捲りながら、地面を勢いよく転がる。


    呆然と苗木を見つめていると、苗木はこちらをじっと見つめ、『行け』と、一言だけ語った。


    私が狼狽するのと影が立ち上がるのは、寸分の狂いもないほどに同じタイミングだった。影は苗木だけを睨み、地を蹴る。


    私は涙と鼻水で顔をしわくちゃになりながら、坂を下りだした。






    ーーー


    ーー


    ーーーーー




    まただ。


    また、助けられた。


    私は、また、助けられた。


    弱い私を、


    醜い私を、


    彼は黙って、助けてくれた。


    今ならわかる。


    きっとあれは、夢じゃない。


    現実のプロローグ。


    だから、









    今度は、










    私があなたを助ける。





















    私は意を決し、ゴミを抱え、ダストシュートに飛び込んだ。


    暗闇が視界を支配する。けど、恐怖は薄れていた。


    暗闇の先に彼がいるから、だから私は希望を持てる。







    霧切「……ね? 苗木クン」






    「決着の日」END






  12. 12 : : 2016/07/25(月) 23:44:35
    終わりッ! 閉廷! ラブ&ピース!
    みんなありがとうございます!!

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ZUNnoORIKYARA

紅くらげがコーラン燃やしながら猫食べた

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