ssnote

x

新規登録する

作品にスターを付けるにはユーザー登録が必要です! 今ならすぐに登録可能!

この作品は執筆を終了しています。

葉山「…ヒキタニ君」 八幡「…んだよ」

    • Good
    • 3

loupe をクリックすると、その人の書き込みとそれに関連した書き込みだけが表示されます。

▼一番下へ

表示を元に戻す

  1. 1 : : 2013/12/08(日) 20:09:35
    16作目。今回は[葉山と八幡の口喧嘩]との要望を頂いたので、書かせて頂きました!シリーズ物ではなく、短編ですかね。
    葉山と八幡のぎこちなさや互いに意識し合っている様をお届けできたらと思います。

    拙い文ですが、精一杯頑張ります。
  2. 2 : : 2013/12/08(日) 20:11:16
    唐突で申し訳ない(んな事思っちゃいない)が俺は[葉山隼人]という男が好きではない。

    端的に言えば嫌いだ。

    というか普通に嫌い。好きの反対は無関心だから!ドヤァ
    とか言ってる奴がいるが、無関心なんてものはこの世にないのである。

    何かを知ってしまえばその物に対して自分の中で評価を下す。
    これは自分には関係がないから。興味がないから、無関心であると。

    そうやって人は関心がないものには無関心という関心を勝手に結びつける。

    人はそれを好きの反対だと誤魔化し、自らの感情に蓋をする。

    そんなのは欺瞞だ。

    好きなものは寿司。間違えた。
    好きなものは好き。嫌いな物は嫌い。うん、赤貝とか。違うか

    そういった各々の主観による完全な分断が無意識下で行われているからこそ人間という一個体が成り立っているのである。

    高校生ともなればその無意識下の分断。認識など呼吸をするより容易く行われ、最早それが生活の一部になっているまである。

    つまるところ何が言いたいかと言うと、葉山隼人という人間を俺はきっとどうしようもなく意識している。

    故に、無関心などではいられず極度に行動を認識しその意味を咀嚼する。

    葉山隼人という人間の行動全てを咀嚼し、存分に噛み砕いた上で判定する。

    そして二度、三度と終わりの見えない認識を下し続ける。間違いない。


    俺はあいつが、嫌いだ。


    成績優秀、眉目秀麗…
    もはや天衣無縫の極みとか使い始めてもおかしくはない。あの漫画はおかしいけどな。いやマジで。

    そんな葉山は今日も今日とて俺の目の前で爽やかな笑顔を作りながら話しかけてくる…なんなんだよこいつアクオとか噛んでねえのに爽やかな匂いすんぞ……


    葉山「やあ、ヒキタニ君」

    八幡「…んだよ」

    葉山「今日の放課後、時間取れないか?話したい事があるんだ」ニコッ

    八幡「俺にはねえよ。つーかわざわざ放課後じゃなくてもここでいいだろ」

    葉山と放課後を過ごすなんざ、考えただけで反吐が出る。

    いや、やっぱ教室から出た方が良かったか?周りの視線が痛い…とくに海老名さんの視線はマジで痛い。いろんな意味で。


    葉山「……わかった」

    八幡「…」


    俺の表情から動く気がない事を悟ったのか、幾分声のトーンを落として葉山は続ける。


    葉山「……君は、僕が君の事を理解していないと。そう言っただろ?」


    またか…最近こいつはこの話しばっかしてきやがる。返事すんのも面倒くせえ、同じ事しか言わないとかNPCかよ、最近のNPCはもっと良く喋るぞ!放置してたりすると喋るんだぞ!!


    葉山「…その理由を教えて欲しい。何回も頼んで申し訳ないが、僕は君を…正しく認識したいと、皆にも君を正当に認識して貰いたいと思っている」

    八幡「っは……正しく認識?そもそもお前の言う認識ってのはなんだよ?ぼっちをリア充さまの力を使って内輪とやらに放り込む事を言うのか?んなのはごめんだな」

    葉山「……っ!!…またそうやって自分の評価が改められようとする機会から逃げるのか?」


    逃げるだと?ああ、やはりこいつはダメだ。根本から俺とは違う。というより根本の所でこいつは俺を理解できやしない。


    八幡「…逃げる?それこそ認識不足だな葉山。俺はこの通りぼっちなんでな、そもそもお前と同じ土俵にすら立っちゃいない。故に逃げる動作なんざ必要じゃないんだよ。」


    葉山「…」

    八幡「それに、立ちたいとも思わねえ。」

    葉山「だったら…同じ土俵に立てば、僕の質問に答えてくれるのか?」


    そう言って俺を睨み返す葉山の目は、何を思うのか…葉山が俺を根本の所で理解出来ないのと同じ様に、きっと俺もこいつを…[葉山隼人]という男を理解することは不可能なんだろう。


    八幡「…知るかよ」


  3. 3 : : 2013/12/08(日) 20:13:29
    険悪な雰囲気が周りに漏れたのか、視線が集まり、不穏な空気を孕んだ喧騒が増す…葉山はこうなる事を危惧して放課後を選択したのだろうが、俺としては教室でどう扱われようと気にはしない。


    ーざわざわ


    葉山「…」ぎりっ


    ーすたすた


    葉山の空気を読み、丸く収めるためのスキルはとても強力だ。それこそ俺なんかには絶対に使えない。

    でも、だからこそ葉山隼人という人間は自分に課せた丸く収めるという行為の呪縛に侵されているように見える。


    今も本心を隠し、不穏な空気になり変わった教室を丸く収め直すためにあのスマイルを使うんだろう。


    三浦「っちょ…隼人遅いしーって……隼人?」

    戸部「いやーマジ隼人君スロースターターっしょ!つーかヒキタニ君と何話してたん⁈」

    葉山「…」

    三浦「隼人?」

    隼人「…いや、なんでもないよ」ニコッ

    八幡「……」イラっ


    出た。真のリア充のみが有する一瞬でキャラをリセット、感情の波をフラットに戻す技。

    俺だけがあいつとの会話のしがらみを…苛立ちをリセット出来ないでいる。

    いつだったか、俺のことをマークしないはずがないと葉山は言った。

    あの時俺は、何を感じたのだったか…
  4. 4 : : 2013/12/08(日) 22:24:13
    殴りあいとかあるのかな?
  5. 5 : : 2013/12/08(日) 23:11:26
    >>4
    殴り合いはしない予定です!






    ーーーーーーーーー

    ーーーーーー

    ーーー



    葉山の意味深な発言から1週間が経とうとしていた。


    ー同じ土俵に立てば、質問に答えてくれるのかい?


    俺はこの1週間、葉山の言葉をずっと考えていた。

    そもそも俺と葉山が同じ土俵に立つ場面なんて想像がつかないのが実際のとこだ。

    葉山は表、俺は裏。そんな勝手で、傲慢な認識が俺の中にはある。

    表裏一体と言うが、裏を返せば表と裏は決して隣合わないという意味でもある。

    物事への取り組み方、解決の仕方がまるで違う俺と葉山に、何故だかその言葉はしっくりくる。


    八幡「…ふぅ」

    平塚「比企谷!」

    八幡「…はい」びく


    やべ、考えごとに集中しすぎて授業聞いてなかったわ…こりゃ鉄拳覚悟しなきゃならんか。


    平塚「…聞いていなかったのか?来週のHRの時間を借りて、君たちにはディベートをしてもらう。いいな?」

    八幡「…」


    ディベート…でたよ。あの、あれだろ?ほら、揚げ足とりまくるやつ。
    うん、多分あってる…

    つーかディベートとか…誰がやりたがるっつうんだよ。提案した奴バカじゃねーの?


    平塚「…聞いているのか比企谷?君に説明してあげたんだがな」

    八幡「あ、はい。聞いてます」

    平塚「うむ。では葉山、比企谷。面白い勝負を期待しているぞ?今日は以上だ!」ほくほく

    八幡「…は?」


    いや、あのアラサーいまなんつった?
    俺と葉山がディベート…?
    なんだそれ、つーかなんのイジメだよ!イジメ!ダメなのん!!

    いや、れんちょんですら緩和できないショックなんだが…つーかマジにどうなってんだよ…

    俺1人だけが状況の変化に追いつけないまま、授業は終わり昼休みへと切り替わった。


  6. 6 : : 2013/12/08(日) 23:11:54
    葉山「ヒキタニ君」

    八幡「…」


    俺が目線だけで先を促すと穏やかな微笑を讃えて葉山は続ける。


    葉山「あまり内容を理解していないように見えたからね、事のあらましが知りたいんじゃないかと思って」

    八幡「…お前の仕業かよ」チッ

    葉山「まあね。」

    八幡「あっさり肯定か。つかなんなのお前?こんな事して何の意味がある」

    葉山「意味ならあるさ。…君は、普通にやっても同じ土俵になんて立ってはくれない。そうだろう?」


    葉山…そういうことかよ。


    八幡「んで、先生まで使って搦め手で同じ土俵に引きずり出したってか。呆れを通り越して哀れだな葉山。そんなに俺を吊るし上げたいのか?」

    葉山「……君のそういう考え方しか出来ない所は、僕も哀れだと思うけどね……」はぁ

    八幡「…」ギロ


    格上だと認めている相手、それも葉山からの直接的な物言いに否応もなく身体は反応してしまう。

    頭に血が上り、暴発しそうになる自意識を理性でなんとか押さえつけ精一杯の侮蔑と反抗を持って葉山を睨めつける。


    葉山「…そんなに睨むなよ」ギロ

    八幡「生憎もともと目つきは悪い方なんでな。つーかお前も睨んでんじゃねえかよ」


    そう指摘されると、葉山は一瞬周りに目を配りながら眉間に出来た皺をさする。なに、俺の事見たから目が疲れたとか言い出すの?アイボンしろアイボン。


    葉山「はあ…すまない。君と今言い合う気は無いんだ……ただ、少し卑怯な手を使ったからね。それだけを謝って置こうと思って」

    八幡「謝られても困る。それじゃあ俺が出ることに賛成したみたいだろうが」

    葉山「君も諦めが悪いね…授業の一環となった以上、君は出るしかない。」

    八幡「お前も頭が足りないな葉山。HRなんてのはほとんど内申点にも加算されないからな、出る必要も大してねーんだよ」

    葉山「考えが足りないのはどちらだろうね?僕が、君のその行動に対して、対策をしていないとでも?」


    言われて気付く。葉山は成績だけ見るなら俺よりも遥かに上なのだ、国語学年3位を誇る俺だが葉山はそのさらに上の学年2位。ちなみに1位は雪ノ下だ。……なんなのあいつ、マジでぼっちは勉強しかすることないとか思われるからあんまりいい点取るの辞めて貰えませんかね?


    八幡「…対策っつーのは平塚先生か?」

    葉山「さあ。ここでそれを教えたら君がそれの対策を立てるかもしれないからね。」

    八幡「別に対策なんざたてねーよ。ただ普通に学校は休むけどな」

    葉山「…そこまで、出たくないのか」

    八幡「はあ?何を今更。当たり前だろ、クラス内カーストトップのお前が相手のディベートなんざ出来レースにも程がある。第一俺のクラス内での立ち位置位、お前だって把握してるはずだ。どう考えてもまともな勝負になんざならん」

    葉山「もちろん、把握はしているよ。…このクラスの人皆が把握はしている。ただ、正しく認識できている人はごく僅かだ。そうだろう?」

    八幡「把握と認識は別物ってか?いかにもお前らしい言葉遊びだな。大体の人間は何かを把握したらそれ以上の解は求めない。把握も認識も、個々人の先入観や決めつけがある時点でどっちも変わりゃしねーよ」

    葉山「だから、僕はそれを変えたいと何度言えば……っ!!」ギリ
  7. 7 : : 2013/12/08(日) 23:31:33

    ーザワザワ


    ーザワザワ


    っち…大声だすなよ。この空気を治すのはお前だろうが。

    なんでわざわざリスクを負うような真似をする…?

    葉山の本当にしたいことは、なんなんだ。


    葉山「…すまない、でも。僕は……」


    俺はそれを…見極めたいと、思ってるのか?

    修学旅行の時、生ぬるい関係に浸っていたいと嘆いた葉山の気持ちに同調できたように…今の葉山の気持ちにも、気付く事が出来るのか?

    答えは、否だ。

    なら俺は今度こそ、それを証明するしかない。


    八幡「はぁ…わーったよ。ディベートに出るには出てやる…」

    葉山「ほ、本当か?」

    八幡「ああ。ただ、どうなっても知らねえぞ……」

    葉山「…もちろん。望むところだよ。」にこ

    俺にそう言い残し葉山は席を後にした。俺の予見している、いや、やろうとしている未来と葉山が思い描く未来には、この時点でもう既に取り返しのつかない差が開いていることなど、知りもせずに……

    思えばこの時点で決定的に露見していたのだ。

    やはり葉山隼人という男は俺を理解など、出来やしないのだと。

    そして俺もこの時に気付くべきだった……

    一度見限った人間に、再度希望を……ひょっとしたら理解してくれるのではないか。という叶うはずのない希望を抱いてしまった過ちに。


    その後、葉山や由比ヶ浜によるリア充の輪(笑)によって教室に漂っていたどこか陰鬱とした空気はなりを潜め、表面上は普段通りの教室に戻っていた。

    俺は葉山によってもたらされたイライラや葛藤を消し去る為に1人、自販機へと足を向けていた。べ、別に教室に居づらいとかじゃないんだからねっ⁈

    ーーーーー

    ーーー



    自販機であったか〜いコーヒーを購入し、ベストプレイスで喉を潤す。

    葉山との会話で喉や胸に溜まったドロドロをコーヒーが押し流してくれる。

    ふと、視界によぎる人影に目をやった。


    戸塚「あ、八幡っ!ここにいたんだね!」にぱー

    八幡「と、戸塚か」

    戸塚「うん…あ、隣…イイかな?」


    全然どうぞ!っていうか寧ろ俺の隣は戸塚の為に空いていると言っても問題はない!問題はないのだが苦難はあるだろう。

    というか隣じゃなくて、上でもいいんだよ?

    適当に挨拶を返すと戸塚はとてとてと俺の隣に座る。やっべ!ちけえ!!八幡、トキメキ!


    八幡「…昼飯、くったのか?」

    戸塚「あ、うん!もう食べたよ。……八幡が居ないから、急いで食べて来たんだ…」ちら

    八幡「…」


    俺が戸塚の余りの可愛さに言葉を失っていると戸塚は慌てて言葉を続けた。


    戸塚「あ、えっとさ!ほら…さっきの授業で少し、無理やり選ばれたみたいだったから…大丈夫かな?って思って……」

    八幡「戸塚……」ぼー


    ダメかもしれない。戸塚のこの上目遣いを見た俺はそんな弱音なんてペダルと一緒にどっかいっちまった!ヒーメヒメ!戸塚はヒメ!

    俺が心の劇坂を登っていると戸塚は顔を赤らめながら俺の様子を伺ってくる……たまらん


    八幡「あーいや…まあ、なるようになんだろ」

    戸塚「そ、そっか。うん、八幡は頭いいもんね!でもさ…僕で良かったら、一緒に出るからね?」ぎゅ

    八幡「と、つか///」


    え、なに⁈ここが人生のゴールですか!一緒に出るって、結婚式?いや待て、国内じゃ同性婚は出来ないから国外に出るって事か!!

    よし、今日帰ったらパスポート作らなきゃ!
    そのまま国外に高飛びしちゃえばディベートも出なくて済むもんね!やっべ、マジ天才☆

    そんな戸塚との明るい未来を考えながら、俺の現実は1分1秒と地獄(ディベート)へと向かっている。そんな地獄に戸塚を連れて行く訳にはいかないのだ!!


    八幡「あー、気持ちはありがたいんだが…ああいうのは、1人でやりたいタイプなんだよ。」

    戸塚「そ、そっか…」しゅん

    八幡「…悪いな」

    戸塚「ううん!大丈夫だよ!あ、あとね八幡?」

    八幡「ん?」

    戸塚「あんまり、無理しないでね?」

    八幡「あ、ああ…///」

    戸塚「うん!じゃあ、僕教室に戻ってるね!またね八幡っ!」


    俺にそう言い残し戸塚は教室に戻って行った、曲がり角を曲がる直前にこちらを振り返り手を振る戸塚は、間違いなく女の子であった。(迫真)

    戸塚を見送ったは良いが、戸塚に心配されているという事実が俺の置かれている状況の不安定さを如実に表しているのは間違いない。

    だがしかし、戸塚パワーを充電した俺のヤル気はバリ3なのでそんな事もう気になんてなら……ならないのだ!はぁ……教室戻るか。
  8. 8 : : 2013/12/09(月) 01:42:54
    ーーーーーーーーー

    ーーーーーー

    ーーー




    午後の授業もつつがなく終わり、そそくさと教室を後にする。

    特別棟に入り暫く歩くと、後ろからパタパタと小走りで近づいてくる音がする。

    俺は後ろを振り返る事なく、歩くペースを気持ち落とした。


    由比ヶ浜「ヒッキーやっはろー」ぱたぱた

    八幡「おー。今日は早いんだな」すたすた

    由比ヶ浜「うん…なんか、少し教室のふいんきおかしいからさ…」スタスタ

    八幡「雰囲気だよバカ……あー、そうだったか?」すたすた


    まず間違いなく教室の雰囲気の悪化は俺と葉山の所為なのだが、由比ヶ浜に心配を掛け続けるのも気が引けるしな……誤魔化しとけばいいだろ


    由比ヶ浜「ヒッキー…」ぴたっ


    俺が誤魔化しに掛かると分かったのか、由比ヶ浜はどこか悲痛な面持ちで俺を呼び止める。


    八幡「ん?なんだ?あー、腹痛いのか?だったら気にしないでいっ

    由比ヶ浜「ヒッキー!!」

    八幡「…なに」

    由比ヶ浜「今日の隼人くんおかしかったよ…あたし、ディベート?って何か良くわかんないけど、隼人くんと対決するって事なんだよね?」

    八幡「ああ、まあそうなるな」

    由比ヶ浜「でもそれじゃあ……」


    由比ヶ浜はそこまで言ったきり、俯いてしまった。
    由比ヶ浜が何を言いたいのかは良くわかる。なにしろそれは真っ先に俺が思った危険性だからだ……

    葉山の奴が何を考えているのかは分からないが、あいつの企みはまず間違いなく失敗する。

    結果、きっと俺は今よりも更に教室に居づらくなるのだろう。今よりも居づらいとか、それもう自分の教室って言えねえな……

    それでも俺は、由比ヶ浜に心配を掛けたくないと。そんなわがままをもう持ってしまっている……

    いつだったか理性の化け物と言われた俺が、理性よりも感性を取ろうとしてしまっている。

    それ位、由比ヶ浜結衣という女の子と雪ノ下雪乃という女の子は俺にとって素敵だと思える存在になっている。絶対本人には言えないが……

    だとしたら俺は、

    教室での立場なんて塵程も必要がないと思ってしまっているのだ。


    八幡「…ここ寒い。部室行くぞ」

    由比ヶ浜「…ん」
  9. 9 : : 2013/12/09(月) 01:44:05
    ーガラガラ


    八幡「うす」

    由比ヶ浜「やっはろー、ゆきのん」

    雪ノ下「こんにちは。2人一緒は珍しいわね」ぺらっ

    由比ヶ浜「うん、そこで会ってさ。」

    雪ノ下「…そう」ぺらっ

    八幡「…」


    生徒会選挙の一件以来、この部室にはもうあの暖かな紅茶の香りはしない。

    俺も由比ヶ浜も、その事については何も言えないでいるままだった。

    あの日以降、会話が止まるのをどこか怖れるかのように言葉を繋ぎ続けた由比ヶ浜も今日はそれをしなかった。

    空気の異変を察知したのか、雪ノ下が深く逡巡した後、視線は本に落としたまま会話の矛先をこちらへ向けた。


    雪ノ下「…あなた、由比ヶ浜さんに何かしたの?」

    八幡「なんもしてねえよ。」

    雪ノ下「…そう」ぺらっ


    雪ノ下からの久しぶりの口撃に想像以上に素っ気ない返事をしてしまった。

    前ってどんな風に会話をしていたんだったか……


    由比ヶ浜「あ、あー!いやほんとヒッキーはなんもしてないよ⁈」

    由比ヶ浜「うん、まあちょっと具合が悪いっていうか…だからゆきのんは気にしないで!」

    雪ノ下「……わかったわ。」

    由比ヶ浜「あはは……ありがと、ゆきのん」

    雪ノ下「……なら、今日はもう終わりにしましょうか。」パタン


    由比ヶ浜を思いやってそう提案したのだろうが、それは逆効果だ雪ノ下。

    俺と葉山のしがらみのためにこいつらまで暗い空気にさせるなんてのはごめんだからな……


    八幡「じゃあ俺は帰るわ。雪ノ下、由比ヶ浜が少し落ち着くまで見ててやってくれ」

    由比ヶ浜「ひ、ヒッキー?」

    雪ノ下「……ええ」


    これでいい。これは自分を犠牲にしたとかそういう行為ではないはずだ。

    これなら、間違っていない。

    今回の問題は元より俺と葉山の問題だ、なら。

    これまで通り、自分で対処するしかない。

    帰路に着き、ベッドで眠りに落ちるまで

    俺の頭には由比ヶ浜と雪ノ下の顔が張り付いて離れなかった。


    ーーーーーーーーー

    ーーーーーー

    ーーー




    土日を挟み、特に問題もないままディベートの決行日を迎えた。

    葉山が何をするつもりかは知らないが、俺のやることは特に変わらない。

    まずまずの勝負をし、そして葉山に勝ってもらう。

    考える限りこれしか方法はなかった。

    俺の様なクラス内カースト最下位が葉山に楯突くような言動を取れば生意気だと批判を受ける。

    逆にやる気をまるで見せないまま負けても僻みだなんだだと難癖をつけ、批判を受ける。

    どっちにしろ攻撃されるとか…地獄でももうちょい優しいんじゃねえの。

    いくら攻撃されようが気にするつもりは毛頭無いのだが、俺が気にしなくても気にする奴がいるって事をもう覚えてちまってるからな……

    そんな事を延々とループさせながら来るべき6限のHRを寝て待つことにした。

    果報は寝て待てと言うが、寝て待っても来る結果が悲惨すぎねえか?


    昼休みになり、ベストプレイスで食事を取り終えた俺はあったかいコーヒーを一息に飲み干し教室へと向かう。

    そういや、いつからマッカン飲んでねえっけ……

    教室に戻ると、普段よりもBカーストの人間がはしゃいでいるのが目についた。

    その事に疑問を覚え、辺りをさりげなく見回すとトップカーストの連中が欠けていることがわかった。

    するとこちらに近づいてくる人影に気付き、ちらと盗みみる。


    海老名「ヒーキタニ君」

    八幡「……海老名さんか」

    海老名「なになに?隼人君がいないのが気になっちゃうのかなあ?」はあはあ

    八幡「あ、いや。別に……」

    海老名「やだなーもう!素直になっちゃいなよ!ハヤハチユーザーはそれを待ってるんだよ⁈」

    八幡「いやもうほんと。今が1番素直なんで…」


    ハヤハチユーザーってなんだよおい……
    順調に布教活動をしている海老名さんは腐腐腐…とひとしきり笑うと、顔を近付け耳元で囁いてきた。


    海老名「なんか、結衣が呼び出したみたいだよ?今はその話でもちきりっぽいね。」

    八幡「…由比ヶ浜が?」

    海老名「うん。まあー、まずそっち方面の話ではないけどね」

    八幡「…そうか」

    海老名「うん!あー、あとね。最近、隼人君おかしいじゃない?前とはヒキタニ君への意識の仕方が違うっていうか…」

    八幡「…」

    海老名「だから、早く元に戻ってね?」


    海老名さんはそう言い放つと素早く教室の後ろへ戻っていく。

    あんなに顔を近付けられたのに、俺の頭の中は由比ヶ浜と葉山の事でいっぱいだった。

    それから15分程して由比ヶ浜と葉山は教室に戻って来た。

    ものの見事に何も無かった様な空気を作り出し、いつも通りの教室へと姿を変えて行った。

    ただ、由比ヶ浜の顔に浮かぶ僅かな緊張と決意めいたものが…

    心に残ってしょうがなかった。
  10. 10 : : 2013/12/09(月) 01:47:41
    ーーーーーーーーー

    ーーーーーー

    ーーー




    平塚「以上で終了する!」


    平塚先生の掛け声で俺は我に返った。

    会議状に並べられた机の両端には、勝利を称えられる葉山と善戦虚しくも完敗した由比ヶ浜の姿があった。

    三浦や海老名など、周りの人間が慰めたり褒めたりしている中、一部の奴らに嘲笑を向けられている。

    昼休みに感じた嫌な予感は最悪の形で適中した。

    葉山の狙いや俺の行動を全て見越した上で由比ヶ浜が取った策は、俺の代わりとして出場することだった。

    由比ヶ浜の行動は結果として、葉山×ヒキタニというカードよりもトップカースト同士の勝負という普段見られないインパクトのおかげで、俺がどうのこうの言われる事もなかった。

    俺は……

    自分で解決することも、なんの助力も出来ないまま

    優しい女の子が頑張り、負ける姿を見ているしかなかった。

    いつの間にか硬く握っていた手の平には、深く爪の後が残っていた。


    ーーーーーーーーー

    ーーーーーー

    ーーー



    帰りのHRが終わると、真っ先に俺は目的地へと歩き出していた。

    季節を強く感じさせる風が吹き荒ぶ中、1つしかない出入口に視線を留める。


    ーガチャ


    葉山「やあ。ヒキタニ君」

    八幡「…」


    いつかの文化祭の時も、俺と葉山はこの屋上に居た。
    あの時は相模を移動させるという共通の目的の為にお互いを利用しあったが。

    あの時と今とでは、俺を取り巻く環境も

    葉山に向ける感情も

    全てが変わっていた。


    ー人はそう簡単に変わらない


    自信をもってそう豪語していた頃の自分を思い返しながら、目の前でこちらを見据える葉山に視線を合わせる


    葉山「君から呼び出したのに、だんまりっていうのはあんまりじゃないかな?」

    八幡「…葉山」ギロ

    葉山「…まあ、君が何を言いたいかは分かるよ。」


    そう告げてこちらを見る葉山の目には俺に対する憐れみがありありと溢れていた。

    ああ……やはり間違っていた。

    こいつの誘いに乗った事も、こいつに俺との違いを叩きつけようと決めた事も。

    何もかもが俺とこいつとではズレているのだ。

    もはやこいつに何を言っても無駄だと頭の中で警鐘が鳴っているが、全力で無視して話を続ける。
  11. 11 : : 2013/12/09(月) 01:48:36
    八幡「……今回の問題に由比ヶ浜は関係ないだろう!」

    葉山「…」

    八幡「お前の目的はディベートで俺と接戦をして俺に向けられる目を変える事じゃなかったのか?」

    葉山「…」

    八幡「……答えろ」ギロ

    葉山「…僕も最初はそのつもりだった。けど、考えが変わった。」

    葉山「君は僕に同情を押し付けるなと言ったね。でも君の本心は、やはり違うんじゃないか?」

    八幡「…俺が、誰かに助けて貰いたがってるってか?」

    葉山「…ああ」

    八幡「ふざけんな!同じ事なんども言わせんじゃねえよ!!」

    葉山「でも実際君は今日結衣に助けられただろう?」ギロ

    八幡「…っ!!俺を助ける為なら由比ヶ浜が傷付くのは目を瞑るってのか」

    葉山「それこそ、今まで君がして来た事じゃないか」

    八幡「…だから、由比ヶ浜を利用したのか」

    葉山「…比企谷。言葉を選べよ。俺は結衣を利用なんてしていない」

    八幡「…はあ?」


    葉山が由比ヶ浜を使って、あの行動を起こしたんじゃないのか?

    だったら由比ヶ浜は……


    八幡「…」

    葉山「結衣達に頼まれたんだ。君を出す代わりに自分を出してくれ。ってね……そこで気付いたよ、あのまま君を出した所でなに一つ変わらないって…」

    葉山「だから結衣達の提案を呑んだ。君は誰かに助けられる為に動いてる訳じゃないと言ったね。だったら、結衣が今日何か行動を起こそうとしていると、少なからず勘付いていたはず。違うか?」


    確かに葉山の言うとおり、由比ヶ浜が昼休みに葉山と出て行った時点で嫌な予感はした……

    なら俺は、由比ヶ浜に助けられることを臨んでいたのか?


    葉山「…なのに君は何の行動もせずに、結衣が負けるのを見ていた。結果として君は守られ、君を守りたいと言った結衣は傷付いた。」

    八幡「…」ギリ

    葉山「これでもまだ、助けられるのを願っていたわけじゃないと言えるのか?」


    葉山、お前は狂ってるよ。

    間違いなく、何の余地もなくお前という人間は狂ってる。

    お前は自分を犠牲にする人間全てが誰かに助けて欲しいが為にやっていると勘違いしている。

    仮に俺がそうだとしても。

    他の誰かが…

    いや、由比ヶ浜結衣という優しい女の子がそうだなんてこいつに思わせてはならない。

    生徒会の一件を経て、誰かに傷付いて欲しくない為に動く。ということを知った。

    それが彼女の原動力である事も、今の俺ならわかる。

    そんな

    そんな彼女の行いを

    葉山というたった1人の人間のせいで
    自己犠牲などという矮小な行いに変化させてはいけない。

    俺も彼女も。

    そんな下らない事のために

    ここまで必死に頑張って来たわけじゃないのだから。

    なら俺は、こいつに再度告げなければならない。
  12. 12 : : 2013/12/09(月) 01:49:37
    八幡「もう一回言ってやるよ葉山」

    葉山「…」

    八幡「お前の気持ち悪い同情を、いや、妄想を押し付けて勝手に決めつけんじゃねえよ」

    八幡「俺も由比ヶ浜も、そんなレッテルを貼られる為に守った訳じゃねえんだよ!」


    気付くと俺の頭には、俺が必死に守ったと思ったあの空間が浮かんでいた。


    八幡「助ける人間も、助けて貰う人間も…お前の理想で決めつけんじゃねえ」

    八幡「これは俺の問題じゃねえ、俺たちの問題なんだ。誰のせいで壊れた訳でもない。全てが俺たちの中の問題だ」

    八幡「勝手に関係者面して、変な空想押し付けるな。お前の言動は迷惑だ」

    八幡「お前なんかが、他人の認識やレッテルを貼り替えられると思うな。そんな簡単に回る世界なんて、偽物だ。」

    葉山「…それが、君の考えか」

    葉山「……わからない」

    八幡「…」


    ースタスタ


    そうひとりごちる葉山の声を背中に受けながら早足で屋上を後にする。

    由比ヶ浜は俺に傷付いて欲しくなくて行動した。

    俺にはその気持ちが、痛いほどわかる。

    なら俺は、彼女になんて言えば良いのだろうか。

    階段を降りると、踊り場に腕を後ろに組んだ人影が立っていた。

    見慣れた制服に、見慣れたスカート。しかし彼女の着るそれは他の生徒とは一線を画す程似合っている。

    思わず目を見開いた俺はこちらに向かって微笑む由比ヶ浜と目が合う。


    八幡「…由比ヶ浜」

    由比ヶ浜「ふふっ。ヒッキー顔怖いよ?」

    八幡「……」

    由比ヶ浜「ヒッキーなかなか来ないから、迎えに来ちゃったよ!ほら、部活いこ?」

    八幡「…ああ」


    由比ヶ浜には敵わない。

    俺の考えを見通して行動した彼女だ。なら、今の俺の気持ちも分かった上でここに来たのだろう…

    なら俺は

    今の気持ちを由比ヶ浜のこの優しさに、助けられても良いのだろうか。


    由比ヶ浜「あたし、ううん。あたし達は、やりたいことやっただけだから!」

    八幡「…」

    由比ヶ浜「こないだヒッキーが頑張ってくれたのと同じ。」

    由比ヶ浜「でしょ?」ニコッ



    ああ、やはり由比ヶ浜結衣という女の子は

    どうしようもなく素敵な女の子だ。

    だからこそ、彼女の気持ちを理解した気になり、

    彼女の善意を使った葉山に憤る。

    今日まで何度も何度も思考し、何度も何度も問い直しても尚、変わらなかった答えが今変わった。

    つまるところ何が言いたいかと言うと、葉山隼人という人間を俺はきっとどうしようもなく意識している。

    故に、無関心などではいられず極度に行動を認識しその意味を咀嚼する。

    葉山隼人という人間の行動全てを咀嚼し、存分に噛み砕いた上で判定する。


    今日下された新たな判定に間違いがないよう二度、三度と終わりの見えない認識を下し続ける。


    ああ、間違いない。



    俺はあいつが


    誰よりも、嫌いだ。
  13. 13 : : 2013/12/09(月) 01:52:57
    以上で[葉山と八幡の口喧嘩]おしまいとなります。
    要望を受けて書き始めた今作ですが、原作から掛け離れ過ぎない位置を探りながら書いてみました。
    八幡を意識しすぎて、綻びが生じている葉山を感じてくれたらと思います。
    さて、結衣は1人でディベートの論法を組み立てられたのでしょうか…?

    ではまた次回もよろしくお願いします。
  14. 14 : : 2013/12/09(月) 02:09:57
    面白かった
    葉山がかなりうざいな
  15. 15 : : 2013/12/09(月) 02:38:17
    >>14
    コメントありがとうございます!
    初のシリアス展開だったので、面白いと言って頂けると嬉しいです(*^^*)
  16. 16 : : 2014/02/15(土) 16:56:53
    葉山は雪ノ下でなにか失敗してるから、こんなことしないよ
  17. 17 : : 2015/03/11(水) 19:51:17
    これはSSだからするんだよ
  18. 18 : : 2016/02/01(月) 01:02:19
    つまらん。よくある葉山を無闇に悪者に仕立てようとする手のSSだ。この比企谷はきもいしうざい
  19. 19 : : 2016/05/21(土) 01:31:44
    やっぱり葉山ってクズだわ
  20. 21 : : 2016/12/16(金) 06:13:07
    葉山=疫病神
  21. 22 : : 2020/05/06(水) 01:45:14
    葉山シネ

▲一番上へ

名前
#

名前は最大20文字までで、記号は([]_+-)が使えます。また、トリップを使用することができます。詳しくはガイドをご確認ください。
トリップを付けておくと、あなたの書き込みのみ表示などのオプションが有効になります。
執筆者の方は、偽防止のためにトリップを付けておくことを強くおすすめします。

本文

2000文字以内で投稿できます。

0

投稿時に確認ウィンドウを表示する

著者情報
lk1231

卯もみ☃

@lk1231

「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」カテゴリの最新記事
「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。」SSの交流広場
やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 交流広場