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アニ「元・人類の敵」アルミン「現・恋女房」

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  1. 1 : : 2015/04/21(火) 09:31:19
     恋愛感情で世界を救済する超ご都合主義SSです。

     多分結構長くなります。

     ちなみに、漫画もアニメも見たことがなく、二次創作作品とま

    とめサイトから得た知識だけで書いているのでキャラとか設定と

    か色々おかしいと思うのでそのつもりでお願いします。
  2. 2 : : 2015/04/21(火) 09:48:51
    アルミン「ただいま。結婚記念日なのに遅くなっちゃったね」

    アニ「おかえり。いいよそんな、今実験大変なんだろ」

    アルミン「まあね。仮にも人を乗せて長距離を移動するものだか

    ら、安全には細心の注意を・・・おっと、忘れるところだっ

    た。はい、アニ」

    アニ「え?綺麗な箱だね」パカッ

    アルミン「一年目だから紙製のブローチにしてみたんだ。

    どう?気に入ってくれたかな」

    アニ「ありがと//」ニコッ ダキッ

    アルミン「あはは。お礼の言葉がシンプルなのはずっと変わらな

    いね、アニ」ナデナデ

    アニ「う、うるさい//・・・今日の夕飯は、あんたの好きなオム

    ライスときのこのスープだよ。あっためるから着替えて待って

    て」

    アルミン「はいはい」
  3. 3 : : 2015/04/21(火) 10:45:12

     旧ウォール・マリア南部では一番の経済特区・・・7年前に今

    まで予想もしていなかった方法で巨人を絶滅させた救国の聖女に

    因んでイーミル区と呼ばれているが・・・の市街地のやや外れに

    僕たちの新居がある。巨人との戦いが終結してから復興は着々と

    進み、今では僕が生まれたシガンシナ区も人口数千人(この世界

    では指折り)の大都市になった。現区長のエレン・ミカサの政策

    で、商工業もさることながら農業も盛んになり、旧壁外地域開拓

    の重要な拠点にもなっている。僕もそちらに移ろうかと考えたこ

    とがあったが、職場が遠くなるからここに住むことに決めたの

    だ。ちなみに、その職場というのは旧調査兵団本部(ウォール・

    マリア陥落以前の方)の建物を利用した総合科学研究所。ハンジ

    元分隊長が所長兼生体化学部門の責任者で、僕は副所長兼理工化

    学部門の責任者だ。旧体制下では思想と同様に科学の発展も抑圧

    されていて、十分な教育がなされていなかったため、今はまだ研

    究員二人の小さな職場だけれど、あと十年もすれば熱心で優秀な

    人材が入ってくるだろう。
  4. 4 : : 2015/04/22(水) 22:18:36
    アニ「・・・ルミン?ちょっと」

    アルミン「ハッ・・・ごめんごめん」

    アルアニ「「いただきます」」

    アルミン「あ、今日のスープはいつもとちょっと味が違うね。」

    アニ「そりゃ、腕によりをかけて作ったからね」

    アルミン「うん。すごく美味しいよ」ニコッ

    アニ「//それはよかった。ところで、さっきはどうしたの?」

    アルミン「?ああ・・・いや、ほんとに世の中変わったなと思っ

    てさ」

    アニ「全くね・・・私も未だに夢を見ているような気がしてなら

    ないよ。小さいころから悪魔の末裔だと教えられ、全てを賭けて

    滅ぼそうとしていた壁内人類のあんたと結婚して、こうして生き

    ているなんてさ」クスッ

    アルミン「ふふっ・・・そのきっかけを作ったのはアニ自身だろ」

    アニ「そうだね・・・何であのとき、あんなに思い切ったことが

    できたんだろう・・・」

  5. 5 : : 2015/04/23(木) 21:40:08
    850年・・・私たちが訓練兵団を卒業してすぐに行われた第57

    回壁外調査。”座標”かもしれないエレンを故郷に連れ帰るため、

    私は憲兵団の仕事を休んで壁外に出た。ところが、いざ巨人化し

    てエレンを探してみたら、ベルトルトによって伝えられていた情

    報がさっぱり役に立たない。暫く迷走しているうちに、大中小三

    人組の姿が視界に入った。
  6. 6 : : 2015/04/25(土) 09:18:57
    そのうち、一番小さいのが落馬した。体格的にあるとしても中

    だと思っていたが、一応フードをめくって顔を確認する。現れた

    のはぱっちりとしたブルーの瞳。さらさらの金髪ボブがよく似合

    う、女の子のような可愛らしい顔立ち。

    (アルミン・・・)

    16年の人生の間に、私が唯一想いを寄せた男。使命を果たすた

    めにずっと気持ちを押し殺してきた。

    (今度生まれ変わるときには・・・別の形で、敵同士じゃなく生

    まれ変わりたいな・・・)

    しかし、その瞬間の私は戦士だった。気を取り直して確認する

    と、一緒に走っているのはジャンとライナーだということがわ

    かった。

    まず、ジャンを摘み上げてみる。そうすれば、ライナーはジャン

    を助けるふりをして私に捕まり、脱出するふりをして私の掌にエ

    レンの居場所を刻み込むはずだった・・・。
  7. 7 : : 2015/04/25(土) 18:22:54
    しかし、私に斬りかかってきた彼は、ちっともそれらしい斬り方

    をしなかった。明らかにジャンを助けることだけを考えていた。

    (兵士モードか・・・そうだよね。兵士のあんたは皆の兄貴分

    で、優秀な兵士だもんね。・・・そして今、あんたの隣には、守

    らなきゃいけない仲間がいるんだもんね・・・)

    ライナーが3年間の訓練兵生活の中で日和り、壊れてきているこ

    とを、私は知っていた。そして私も・・・・・・いい加減限界

    だった。

    ふと下を見ると、再びアルミンの姿が視界に入った。キリキリと

    胸が痛んだ後・・・私の中で何かが弾けた。否、今なら断言でき

    る・・・トロスト区襲撃時には無理やり封じ込めた兵士の心が覚

    醒したのだ。

  8. 8 : : 2015/04/25(土) 22:51:07
    (アルミン・・・あんたは絶対に死なせない!)

    優しくて可愛らしい笑顔も、どんな困難にも強い意志と人一倍の

    努力で喰らいつく姿勢も・・・たとえ窮地に追いやられても守り

    抜きたい。ここまで本気になったことは、多分それまでの人生で

    はなかった。

    (ベルトルト・・・ごめんね。私まで軽く兵士に戻ってしまっ

    て・・・エレンもちゃんと捕まえるから。やがては壁内人類きっ

    てのブレインになる男だと思って許しておくれ)

    馬に乗ろうと立ち上がったアルミンを、私はひょいと摘み上げて

    目の高さまで持ち上げた。

  9. 9 : : 2015/04/26(日) 08:52:45
    「うわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁl」

    「アルミン!?くそっ、何考えてやがるんだ女型のやつ!」

    (はぁ、そんなにおびえなくてもいいじゃないか。まったく、傷

    つくよ・・・って今私巨人だから当たり前か)

    それなら、いっそ気絶してもらったほうがやりやすい。

    「ア・・・ルイン」ニコッ

    「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!」シロメ

    一番安全な舌裏にアルミンを収める。下で、微妙に戦士に戻ったらしいライナーがさりげなく手でエレンのいる方向らしきところを示していたから、私は方向転換して巨大樹の森を目指した。
  10. 10 : : 2015/04/26(日) 18:36:59
    まずい。これは誘導されたか・・・・・・

    エレンを追って巨大樹の森に入ると、どうも様子がおかしい。こ

    れは明らかに罠でも仕掛けてあると、直感が告げる。

    (・・・まさか、使う時が来るとはね。でも、やってやるよ、マ

    ルセル)

    5年前、私たちの目の前で巨人に喰われたもう一人の同志・・・

    私たちの中で一番の兄貴分だった彼は、自分の巨人化訓練の合間

    を縫って、私たちに色々な技を叩きこんでくれた。

    (アニ。俺たち4人の中で、お前の巨人体が一番身軽に動け

    る。だから・・・もし、順調に壁を壊せなかった場合、一番危険

    な任務をお前に託すことになるだろう。そのためには、きついだ

    ろうが身につけられることは何でも身につけておいた方がいいん

    だ)

    (うん!頑張るよ私)

    一回深呼吸して、私は近くの樹の、私の手が届く一番高い枝めが

    けて飛びあがった。



  11. 11 : : 2015/04/27(月) 22:00:07
    「!!?おい!女型のやつ樹に登りやがった!!」

    「何なんだあの運動能力は・・・って消えた?」

    「畜生!さっぱり読めねえ」

    下で兵士たちが騒いでいる。ふふふ。7,8歳のときから巨人化

    制御の特訓を積んできた戦士を嘗めてもらっては困る。一瞬で人型に戻る

    ことなど朝飯前だ。

    (とはいえ・・・アルミンをどうしようか)

    私の小柄な体躯だけなら一日がかりでも絶対に見つかりはしない

    が、アルミンを連れて逃げ回るのは流石に厳しすぎる。重さはと

    もかく、樹の上で自分より10センチも背の高い人間を傷つけな

    いように運ぶとなると相当動きは鈍くなる。林冠に近いところで

    はあるけれど、立体機動装置があれば十分登ってこれてしまう。

    (無謀すぎたか・・・情けないね。身体能力なら十分にあるの

    に、惚れた男一人救えやしない。アルミン・・・私にもあんたほ

    どの知恵があったら・・・)ギュッ
  12. 12 : : 2015/04/28(火) 01:16:03
    アルミンを抱きしめる腕に力がこもる。すると・・・・・・

             ピキピキッ

    私の腕から結晶が少しずつ広がって、やがてアルミンの身体だけ

    を包んで固まった。窮すれば通ずとはよく言ったものだと思う。

    (まさかこういう使い方もできたとはね)

    水晶の足の方を楔形に尖らせ、手近な樹の幹に叩き込む。アルミ

    ンが目を覚ましたらかなり怖い思いをさせてしまうだろうけど、

    これならきっと見つからない。

    「ごめんねアルミン。これしかないんだよ・・・できればそのま

    んま寝てて」ボソッ
  13. 13 : : 2015/04/28(火) 08:13:16
    私はもう少し下の方に降りて、エレンの姿を探す。

    (あれだ!・・・護衛は1、2、3、4人か・・・・・・)

          ガリッ カッ

    「女型だ!上から降ってきやがった!」

    「今までどこにいたんだ・・・」

    「考えても無駄だ。立体機動に移れ!!」
  14. 14 : : 2015/04/28(火) 08:14:54
    >>13 すみません!なぜか登録解除されてしまいましたが>>1です。
  15. 15 : : 2015/04/30(木) 19:52:53
    (やばっ!これ、エレンに手出せないパターンだ。・・・逃走経

    路は・・・あっちの方が手薄だな。あの辺の樹の間を縫って走れ

    ばいける!一回森から出て無知性巨人を呼ぼう!)ダダダッ

    「女型が逃げたぞ!」

    「10時の方向だ!追え!」

    「畜生!あの大きさでなんて速さだ」

    (そろそろいいかな)スゥゥゥゥ

      
       キィィィィィヤァァァァァァァァァァア!!!!!


     ドスドスドスドスドスドスドス・・・・・・・

    (わ、予想以上の数が集まったな。こりゃいいや。私はこれにて

    失礼っと)シュタッ

    「女型がまた樹に登ったぞ!立体機動で追いかけろ!」

    「・・・否、前を見ろ!!」

    「!?無知性巨人の大群だと?」

    「女型がよんだのか?」

    「とにかく応戦しろ!」
  16. 16 : : 2015/05/01(金) 20:19:09
    結局、大混乱に陥った調査兵団は、程なくして総員撤退の信煙弾

    を打ち上げた。

    (何とかしのげてよかった)

    結晶を樹から引き抜き、ぱっと目についた洞に飛び込む。幸い、

    私たち二人が身を隠すだけのスペースはある。

    「怖い思いさせちゃってごめんね。これで少し体力が回復してれ

    ばいいんだけど」

    落馬したときにできた額の擦り傷が完全にかさぶたになってい

    る。巨人の自然治癒力が若干アルミンにも作用したようだ。

        シュゥゥゥゥ・・・・・

    「ほう、随分珍しい技術をお持ちのようだね、お嬢さん」

    耳慣れない声に顔を上げると、洞の入り口からのぞき込む影が一

    つ。

    「その子を返してくれないかい?わずか15歳にして私やエル

    ヴィンもびっくりの知将ぶりを発揮してくれた、人類の希望の星

    なんだよ。」

    「・・・・・・あんた、誰?」

  17. 17 : : 2015/05/01(金) 21:01:55
    結晶化を解除し、まだ目を覚まさずにぐったりしているアルミン

    を抱きかかえて、私はやっとのことで言った。

    「誰、とはご挨拶な。・・・私は調査兵団で分隊長をしてる、

    ハンジ・ゾエって者さ」

    (こいつか・・・・・・)

    ライナーとベルトルトから聞いている。エルヴィン・スミス、リ

    ヴァイ・アッカーマン、ミケ・ザカリアスと並ぶ調査兵団部幹部

    の一角。並の巨人を単独で討伐できる戦闘力を持ち、私たちが

    ウォール・マリアを破る前から調査兵団で生き残っている手練れ

    の兵士であり、巨人の生体研究に作戦立案までこなす調査兵団の

    ブレイン。

    (思ったより若いし女らしいけど)
  18. 18 : : 2015/05/01(金) 21:20:19
    「お嬢さん。制服の紋章からして憲兵だね。どうして憲兵が壁外

    にいるのかな?そもそも、あなたの名前は?」

    「あんたに名乗る名前なんざない」

    「言うと思った。まあ、もうわかってるようなもんだけどね。

    ・・・たしかにアルミンはトロスト区奪還作戦の立役者だが、顔

    と名前はそんなに売れてはいない。加えて、戦闘力は誰が見ても

    訓練兵団卒業ギリギリで、彼自身が実戦で大きな脅威になると

    は考えにくい。そんなアルミンをわざわざ攫うということは、彼

    の頭脳レベルを熟知している訓練兵団の同期生の可能性が高

    い。南方訓練兵団104期生で憲兵団に行ったのは・・・アニ・

    レオンハート。君だけだ」ビシッ

    「・・・すべてお見通しってわけか。」

    「そういうこと☆ミ」

    ・・・だめだ。完全に詰んだ。
  19. 19 : : 2015/05/02(土) 08:37:58
    「ふふっ・・・もう逃げられるなんて思わないよね。

    リヴァイ、馬を」

    ・・・やっぱり、そうくるよね。

    「さあ、アルミンをこちらに渡してもらおうか」

    仕方なく、横抱きにして洞の入り口までにじり寄る。

    「思ったより素直で助かるよ。リヴァイ、登ってきて」

    「とっくに登ってる」ヒョコッ

    初めて間近で見た人類最強。・・・私に言われたくはないだろう

    けど目つきが悪い。

    「ほう・・・これがお前のいう女型の”中身”ってやつか」

    「そうだけどまずはアルミンを旧本部へ連れて行って。攫われて

    からずっと気絶しっ放しみたいだから。・・・信じて。私もじき

    にこの娘を連行する」

    「チッ・・・無茶すんなよクソメガネ」シュッ



  20. 20 : : 2015/05/05(火) 14:51:32
    「さて、残るは君だね」

    「そう言われてあっさりついていくと思うかい、分隊長さん」キッ

    「おお怖い。ま、ちょいとお話しようか」

    ハンジ分隊長は洞の入り口にひょいと腰かけると、何故か髪を結

    びなおし始めた。支給品の石鹸とは明らかに違う、甘ったるい花

    のような香りが鼻腔に流れ込んでくる。

    (普段は数日に一遍しか入浴しないと聞いていたのに・・・)

    「今日は少々暑いからねぇ。しかも君の巨人体ときたら凄く速い

    し、女型だし、スタイルいいし、超絶滾ったよ!!」

  21. 21 : : 2015/05/05(火) 22:40:31
    突然のハイテンション。・・・そういえばこの人、調査兵団の中

    でもとびぬけた変人だった。


    これまた何の意味があるのかわからないが、ハンジ分隊長はふっ

    と口元に笑みを浮かべ、ぐいとゴーグルを上げて私をじっと見つ

    めてきた。

    (わ・・・結構綺麗な人だな)

    わりとぱっちりとして、いかにも意志の強そうな目・・・どこか

    ミーナの目に似ている。髪と同じ深い栗色の瞳をきらめかせるそ

    の様子はさながら少女のようだが、そこはかとなく大人っぽい色

    香を漂わせている。

  22. 22 : : 2015/05/06(水) 08:14:30
    「ところで・・・・・・気づいてる?今、君顔が真っ赤だよ」

    「・・・・・・え?///」

    必死になりすぎてて意識してなかったつもりだが、よくよく考え

    れば今の今までアルミンを抱きかかえて介抱?していたわけで。

    「おやおや・・・もしかして、アルミンを攫ったのは君の私情

    かな?本来攫うことになってたのはエレンでしょ?

    確かに、絵面的にお似合いだもんね君たち。外見は可愛らしいけ

    ど内面はすごく大人びててしっかりしてる辺りそっくりだし」

  23. 23 : : 2015/05/09(土) 21:45:25
    「・・・・・・そんなこと言って何になるんだい」

    「さて、ね。乙女の恋心ってのは凄いパワーを秘めているものだ

    からね。善悪だの、敵味方だの、そんな基準だっていとも容易く

    吹っ飛んでしまうくらいに・・・・・・現に、今回の君の計画変

    更は、これからの歴史を大きく変えた。それがどっちに転んだの

    かは、今は知ったことじゃない」

    「・・・何が言いたいの?」

    「いや?ただ、若いっていいねって言いたいだけだよ」
  24. 24 : : 2015/05/09(土) 22:02:22
    いや絶対違うだろ!・・・・・・何この人怖い。人当りは良いく

    せに。だんだん向こうのペースに引き込まれてる気がする。髪が

    動くたびに揺れる例の香りの所為か、頭そのものまでもボーっと

    してくる。調査兵団侮りがたし。

    「あ、そういえば東洋にもこんな話があったねえ・・・・・・」

    思考回路が全くつかめない。これ、気づいた時には完全に洗脳さ

    れてるパターンじゃないか!?おとなしく捕まるだけ捕まってお

    いて、拷問の時に頑張る方がいいのか・・・・・・?

    しかし、ハンジ分隊長はスイッチが入ってしまったようで、口を

    挟んでも聞いてくれなさそうなオーラがすごい。・・・しょうが

    ない。何とか右から左に聞き流して対応しよう。
  25. 25 : : 2015/05/09(土) 22:25:54
    「昔々、お江戸の本郷という地区の八百屋に、十五歳になるお七

    という娘がいた」

    あ、だめだ。この人の声すごく耳に残る。何でだろう。

    「あるとき、お七の家が火事に遭い、一家総出で菩提寺・・・こ

    の世界でいえば、ウォール教の教会みたいなところが役所と同じ

    機能を持ってなおかつ災害時に被災者を受け入れていたと思って

    くれればいいが・・・に避難した。・・・これ自体は、火事と喧

    嘩は江戸の華とかいってよくある話だったらしい。

    ところで、この寺には吉三郎という、それはそれは美しい寺小姓

    がいた。寺小姓というのはまあ、見習の修道士みたいなものか

    な。実際にはもっと爛れたこともしてたらしいが今回の話には関

    係ない」

    更に困った。・・・・・・話自体も凄く面白いじゃないか。聞い

    たら絶対まずいのに、うっかり聞き入ってしまう。

  26. 26 : : 2015/05/09(土) 23:08:03
    「お七も当然、吉三郎に一目惚れした。完全にメロメロになって

    しまった・・・・・・この寺というのは、当時その国で主に信仰

    されていた仏教という宗教の施設なんだが、その仏教の教えによ

    り、寺小姓及び僧侶・・・つまり修道士・・・は、女性と愛し

    合ってはならなかった。男性同士ならよかったんだがまあいい

    や。・・・お七もそんなことは百も承知だった。しかし・・・

    お七の家は裕福で、江戸中・・・まあ、壁内と同じくらいの人口

    だと思ってくれればいい・・・で知らない者はないというレベル

    の美少女だったから、我が儘が通らないという経験がなかっ

    た。だから・・・・・・吉三郎も、手に入れられると思ったんだ

    ろうね。近くにいた小坊主を買収し、毎晩毎晩夜這いをかけ

    る、苦しくも甘い避難生活を送っていた」
  27. 27 : : 2015/05/09(土) 23:46:33
    「しかし、火事に焼かれた町は当然復興する。とりわけ裕福なお

    七の家はすぐに復旧の目処が立った。・・・さて、困ったのはお

    七だ。『この蜜月の終わりなんか認めない!』と主張したはいい

    ものの、ただの世間知らずな箱入り娘に両親を説得できるだけ

    の知恵や度胸はなく、仕方なく家に戻った。

    しかし、お七が吉三郎をそう簡単に忘れられるわけがない・・・

    恋心をこじらせたお七は、ある日恐ろしいことを思いついた。

    『この家がもう一度焼ければ、私は吉三郎様の許に戻れる!』

    ・・・この世界の”放火”とお江戸での”放火”は、罪の重みが全然

    違う。お江戸というところは風が強くて冬になるとかなり乾燥し

    たらしくて、そのくせ家屋がほとんど木造で燃えやすかったから

    だろうけど、一度やったら火あぶりになる重大犯罪だったんだ」

  28. 28 : : 2015/05/10(日) 00:04:14
    「勿論お七だってわかっていたよ。いくら箱入り娘でも知らず

    に生きていけるようなことじゃないからね。・・・でも、完全恋

    愛脳のお七にはそんな分別すら残っていなかった。実行してし

    まったんだよ。生憎、その日は特に風が強かった。自分の家だ

    けで済ませるつもりが、本郷一帯・・・面積で言ったらトロスト

    区の1/4くらいかな・・・を焼き尽くしてしまったんだ。

    お七は近所の人に現行犯逮捕され、町奉行所・・・まあこの世界

    の駐屯兵団?いや憲兵団かな?みたいなところに連れていか

    れ、そこのトップであるお奉行様直々の取り調べを受けた。」
  29. 29 : : 2015/05/10(日) 06:29:34
    「お奉行様は、お七に『お前はまだ十四だろう』と尋ねた。

    お江戸には一種の少年法があって、十四歳以下の者が死刑に相当

    する罪を犯した場合、十五歳になるのを待って遠島・・・あそこ

    は島国だったらしいからね、別の島に追放して労働させる刑罰

    さ・・・という処置がなされていた。実際、その労働だって過酷

    なもので生きて帰れた者はない、いわばこの世界で罪人をなけな

    しの食糧とナイフ一本持たせて壁外に追放するようなものだ

    が、すぐには殺さないことが情状酌量という扱いだったらしい」

    「それって・・・・・・島流しの方が辛いんじゃないかい」

    「ふふっ、それについては私は何とも言えないが・・・もしかし

    たらお七もそう思ったのかもね。そう、彼女は正直に十五歳だと

    答えた。何度聞き直されても『私は十五です』と繰り返した」
  30. 30 : : 2015/05/10(日) 13:01:03
    「結局、お七は犯行から二、三ヶ月後・・・春の盛りに処刑され

    た。かつては華やかに着飾って、使用人を連れて歩いていた金持

    ちのお嬢様が、質素な死に装束に身を包み、裸馬に後ろ向きに乗

    せられ、処刑場まで晒し者になりながらも・・・お七の最期の姿

    は、それはそれは美しく輝いていたと伝えられている。

    『この私を人間の屑と言いたいのなら、いくらでもお言いなさ

    い。笑いたければ笑うがいいわ。・・・私は、一筋に貫いたこの

    恋にも、それにささげた人生にも一切悔いはないし、間違ってい

    たとも思わないから。・・・たとえ刃がこの身を貫こうが、

    焼かれて灰になろうが、私の魂はこの世に留まり続ける。愛しの

    吉三郎様にずっと寄り添うのよ。

    ・・・そうして、生まれ変わった次の世も、また次の世も、

    ともに死後の世界にあるという楽園で添い遂げるの。』」
  31. 31 : : 2015/05/10(日) 13:30:11
    「『でも、このお江戸では私の行いは認められない。か弱き市民

    を守る法も、今や犯罪者の私を守ってはくれないで、これから私

    を火で責め立てて殺そうとする。私は文字通りの焦がれ死という

    わけか・・・最っ高よ!』というようなことを、馬上で言っての

    けたらしいけど、おそらく本心だったんだろうね。

    最期は

    『世のあはれ 春吹く風に 名を残し 

                  遅れ桜の 今日散りし身は』と、

    当時の慣習で”辞世の歌”・・・この世を去る時に残す短い叙情

    詩だね・・・を残して刑場の露と消えた。

    ここに出てくる桜というのは、お江戸で人気のあった花のこと

    だ。壁内じゃ見られない・・・もしかしたら君の故郷には咲いて

    いたかもしれないが・・・花だが、何でも薄紅色の花が木の枝

    を覆うように咲いて、遠目に見るとまるで雲のように見えてそれ

    はもう美しいらしい。・・・そして、春の終わりのごく短い期

    間咲いた後、朽ちる前に散ってゆく特性は、儚さと潔さの象徴で

    あり、その国の美意識の核でもあった。・・・お七は十五歳とい

    う娘盛りの時期に死んでゆく自分の身を、桜の花に重ね合わせた

    んだ・・・どうだい、美しい話だろう?」
  32. 32 : : 2015/05/14(木) 13:49:29
    「ねえ、アニ。ここで質問だけど・・・・・・お七は幸せだった

    と思うかい?」

    何でそんなこと訊くのだろう。このお七という娘は結局死罪に

    なってしまった。それはつまり、高々恋愛で人生のすべてを棒に

    振ってしまった愚か者だということで。そんなのが幸せだなんて

    「ちなみに・・・吉三郎はお七の死後、お七のために祈り続け

    たらしいよ」

    馬鹿じゃないの・・・・・・死んだ後に祈ってもらったって何に

    もならないじゃないか・・・・・・。決まってる。

    「・・・幸せだったんじゃないでしょうか」


          え?待って私今なんて言った!!?

  33. 33 : : 2015/05/17(日) 02:29:46
    「確かにお七は罪人として処刑されました。しかも火炙りなん

    ていうむごい方法でね・・・。でも、愛しの吉三郎はちゃんと

    愛し抜いてくれた。それで十分・・・・・・命かけ罪人に身を落

    とした甲斐があったんじゃないかな」

      
     何で?口をついて出るのは思ってもないはずのことばかりだ。



    (・・・ん!?もしかしてもう私手遅れなの?)

    さっきまで気になっていたはずのあの香りが、今はほとんど感じ

    られない。しかもなんとなく頭がふわっとして、ちょっぴり眠い

    ような気がする。・・・・・・もういいや。私は戦士になり損ね

    た。こんなものを使われたらどうにもならないじゃないか。髪に

    仕込んだ香りと話術だけで私の心を操った人だ、成分さえわかれ

    ば私の結晶を溶かす薬を作ることなど朝飯前に違いない。
  34. 34 : : 2015/05/20(水) 20:00:35
    「そう・・・・・・。じゃあ、どうしてお七は幸せになれたんだ

    と思う?」

    「・・・・・・自分の心に嘘をつかなかったから?」

    ふふっと、ハンジ分隊長が目を細める。こんな優しい笑みを、私

    は今まで見た記憶がなかった。

    「その通りだよ。だから君も、正直におなりよ。・・・本当は

    ・・・・・・アルミンに限らず人なんか殺したくなかったんで

    しょ。でも、やらなきゃならなかった・・・違うかい?」

    そんなの・・・・・・

    「当たり前じゃないか!」
  35. 35 : : 2015/05/22(金) 12:04:21
    たった11歳で故郷を離れ、悪魔の末裔だから、生きていてはい

    けないモノだからと教えられていた壁内人類は、私たちと何も変

    わりはしなかった。私たちと同じように笑い、怒り、泣く。助け

    合うことも、痛みを分かち合うことも、人を愛することも知って

    いる・・・・・・「神はお前たちを選んだんだ」などという曖昧

    な理由で私たちを送り出した無責任な故郷の大人たちよりもずっ

    と優しくて、温かな心を持っているように見えた。ミカサ、ジャ

    ン、コニー、サシャ、クリスタ、ユミル・・・・・・トロスト区

    奪還作戦で、任務のために見殺しにしてしまったマルコ、そし



    「ミーナ・・・」ブワッ

    エレンやアルミンたちと同じ班だった彼女の配置は、ベルトルト

    が蹴破った場所の近くで・・・私が知らない間に殉職してしまっ

    た。・・・・・・無愛想な私に対して凄く親切にしてくれて、い

    つも傍にいてくれた。決して表には出さなかったけど、本当はと

    ても嬉しかった。
  36. 36 : : 2015/05/22(金) 12:23:32
    今まで本当にありがとう。元気でね。・・・そのぐらいのことは

    言いたかった。こんなにあっさり死なせたくなかった。

    「ごめん・・・ほんとに、ほんとにごめん・・・」グスン


    堰を切って溢れ出す涙。止まらない嗚咽。最後に泣いたのはいつ

    だっただろうか。

    「アニ」

    ハンジ分隊長がぽんと私の頭に手を置き、優しく撫でてくれた。

    「私は、今更君たちを責めるつもりはないよ。そんなことしたっ

    て死んだ人は帰ってこないし、君たちの中ではそれが正義だった

    んだろう。だから・・・せめて、人類に攻撃した理由を教えてく

    れないかい?もしかしたら、ほかの解決策があるかもしれないん

    だ。・・・もうこんなこと繰り返したくないなら、一緒に来て」


  37. 37 : : 2015/05/26(火) 10:45:18
    そうして私は旧本部に連れてこられ、エレンが入っているのとは

    別の地下牢に入れられた。
  38. 38 : : 2015/05/30(土) 11:09:54

    旧本部で、ハンジ分隊長はほぼ私に付きっきりだ。あろうことか

    食事まで一緒に摂る。

    「大丈夫だよ。言っただろ、何も殺しはしないって。変なもの

    は入れちゃいない。・・・君を素直にさせるのだって、内服式の

    自白剤なんて使う必要がないことは私が一番知っている。それ

    に、今日の食事当番はリヴァイだからね、私情で勝手に毒盛るこ

    ともない」

    またあの香り・・・実際は捕獲用に巨人を呼び寄せる薬を作った

    副産物として出来てしまった揮発性の向精神薬(対巨人用)らし

    いが・・・の効果で、私はあっさり信じ込んでしまう。

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著者情報
harunonagari

浅野小紅

@harunonagari

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