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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品は執筆を終了しています。

信頼と絆に思いを寄せて─リヴァイとハンジとモブリット─

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  1. 1 : : 2015/04/15(水) 16:17:11
    リヴァイ『その背に負うは 穢れ無き翼』の続編になります。先に下記を読んで頂いた方が内容がわかりすいです
    http://www.ssnote.net/archives/28211


    時代は845年

    リヴァイとハンジとモブリット

    原作でも行動を共にする事が多い彼らの関わりを、ウォールマリア崩壊の話と共に書いていきます
  2. 2 : : 2015/04/15(水) 16:17:37
    調査兵団分隊長エルヴィン・スミスは、兵団の将来を担う者達を渇望していた

    その物事を見通す類い希なる頭脳は、人材を見分ける力においても突出していた

    そんな彼の元に集った二人の若者は、今や名実共に調査兵団の主力になっていた


    一人は、エルヴィンが地下街から掬い上げた、小柄で目付きの悪い青年、リヴァイ

    彼は持ち前の戦闘能力に加え、卓越した立体機動術を駆使し、今や他に並び立つ人類はいないであろうと言われる存在となっていた

    人々は彼をいつしか『人類最強』と呼ぶようになっていた


    もう一人は、訓練兵団を優秀な成績で卒業後、意気揚々と調査兵団入りした稀有希な女、ハンジ・ゾエ

    彼女は常識に囚われる事の無い、柔軟な思考の持ち主であった

    彼女は飛躍した思考能力と、天分の才といえる戦闘センス、その両方を持ち合わせていた


    そんな彼らが調査兵団に入団してから、ほんの少しずつ、だが確かに、世界は動き始めていた

    100年以上停滞していた時代は、今まさに動こうとしていた

    それが人類にとって繁栄をもたらすのか、はたまた衰退から破滅へと導くのか

    それは誰にもあずかり知らぬところではあったが
  3. 3 : : 2015/04/15(水) 16:17:55
    「おい、クソメガネ、起きろ」

    ゲシッ

    人類最強のモーニングコールは、刺激的だ

    妙齢の女性の部屋に本人に無断で立ち入り、ベッドであられもない姿をさらしている部屋の主に、踵落としを食らわせる

    しかも、兵服と対になっているブーツを履いたままだ

    「いっ!いってぇぇ!」

    そして慌てて飛び起き、背中を擦ろうとする部屋の主

    だが、踵は絶妙なまでに、手が届きにくい場所をとらえている

    寝ぼけている部屋の主は、背中に手を回しながら必死で患部を探るが、やがて諦めたのか、両手で顔を覆った

    「リヴァイ……背中に穴が開いてないか、見てくれよ……絶対に開いてる、風穴が」

    絞り出すような声でそう言う部屋の主に、見事な踵落としを見せた人類最強、リヴァイは鼻を鳴らす

    「ふん、知らねえ。毎朝毎朝手間かけやがって……おい、さっさと服を着ろ、クソメガネ」

    「あっ、また下着のまんま寝ちゃった。見たな?」

    胸を隠す黒い下着を身につけただけの上半身を腕で庇うようし、部屋の主……クソメガネ、本名ハンジ・ゾエはしなを作った

    「見たくねえもん見せんな。寝間着くらい着ろよ」

    リヴァイは眉をひそめた
  4. 4 : : 2015/04/15(水) 16:18:13
    ハンジが兵服のシャツを羽織ったのを確認したリヴァイは、部屋の扉を開けた

    そして、外で直立不動している兵士に目をやる

    兵士は、なんとも申し訳なさそうな顔をリヴァイに向けていた

    「あっ、兵長、すみません……毎朝、その……」

    「いい加減慣れろ、モブリット。いいか?女だと思うからいけねえんだ。犬か猫……動物だと思ってりゃあいい」

    ペコペコ頭を下げる兵士、モブリットに、リヴァイは諭すような口調で言葉を発した

    「そうしたいんですが……自分には班長は女にしか見えなくて……」

    「稀少生物だな。あいつに欲情しかかるとは」

    「兵長!それは、口外しないで下さいとあれほどっ……」

    モブリットは顔を真っ赤にした

    「毎朝あいつを起こすのは、本来俺の役目じゃねえ。副官であるお前の役目だろうが。上官が裸で寝てようが、ナニしてようが、早く慣れて職務を全うしろ」

    リヴァイはぴしゃりとそう言うと、恐縮して身を縮めるモブリットの肩をポンと叩いて、その場を去った
  5. 5 : : 2015/04/15(水) 16:18:37
    「おはようございます、ハンジ班長」

    部屋の中をおそるおそる伺うように見渡しながら、モブリットは入室した

    「やあ、おはようモブリット。ちょっと、背中見てくれよ」

    ハンジはベッドに腰かけながら、扉付近で立ち往生している副官を手招きした

    「は、はあ。どうされましたか?」

    モブリットはしばし躊躇った後、上官の求めに応じるべく歩を進めた

    「ここ、この辺見てくれない?さっきリヴァイに踵落とし食らわされてさぁ」

    「か、踵落とし、ですか?!」

    ハンジの指し示す背中に目をやりながら、モブリットは目を丸くした

    一応は女性である上官に、いくら小柄とはいえ男性であるリヴァイが手を……いや足を出すなど、モブリットには想像がつかない世界だったからだ

    「そうだよ、踵落とし。ゲシッてね。超痛かったよ……穴開いてるかもしれないから、見てくれ」

    「は、はあ。とりあえず穴は開いていない様ですよ。上から見た感じですが」

    モブリットはおそるおそる、患部とおぼしき部分に手で触れた後、ほっとした様に言った

    寝起きに人類最強の踵落とし……普通なら無事ではすまないだろうと思っていたからだ

    そう、彼はとても心配性だった

    「ちゃんと見てよ、服捲ってさ」

    ほっとしたのも束の間、またしても上官の口から飛び出る問題発言

    彼は口をぽかんと開けたまま、しばし硬直した


    「あの……無理です。上から見ただけでわかりますし、服の下をわざわざ覗く必要は……」

    「あー、大丈夫だよ。ブラはしてるから!」

    「ブ、ブラ?!…………じゃなくて、大丈夫じゃないですよ、班長。自分は男ですし、あなたは女性なんですから、そんなに簡単に肌を……その……」

    モブリットは懸命に、上官の無理難題を撥ね付けようと言葉を選んだが、徐々にその声は小さくか細くなっていった

    「肌を、なんだい?」

    ハンジは神妙な面持ちで、副官に問い掛けた

    だが、内心は表情とは正反対……今にも吹き出しそうな笑いを堪えていた

    「な、なんでもありません……」

    副官はついに反抗することを諦め、項垂れた

    「あー、君はそんなに私の背中を見るのが嫌なんだ。もしかしたらすっごく青くなって大変な状態かもしれないのに……」

    上官の悲しげな表情に、モブリットはごくんと唾を飲み込んだ

    「わ、わかりました……見ます、見ますよ!」

    彼は意を決すると、勢い良く上官のシャツを捲り上げ、そして一瞬垣間見た後、すぐに元に戻した

    「どうだった?一瞬だったみたいだけど、見えた?」

    「……あ、青くなっていましたが、穴は開いてませんし、腫れてもいなかったです」

    モブリットはふぅ、と息をつきながら上官に状況を伝えた

    「そうか、良かった。ありがとう、モブリット」

    ハンジはくるりとモブリットの方を振り向くと、にかっと笑った

    色気のある表情とは言い難かったが、モブリットは何故か顔を赤く染めた

    「いえ、すみません、ハンジ班長……」

    そして彼は何故か、ペコリと頭を下げる下げたのだった
  6. 6 : : 2015/04/15(水) 16:18:59
    朝食後、モブリットが立体機動訓練に出ている間、ハンジとリヴァイは次の作戦についての会議に出るべく、団長室に向かっていた

    「でさあ、顔真っ赤にしてんの。かっわいいだろ?」

    今朝の出来事を面白おかしく話すハンジに、リヴァイは弦のような眉を引き絞った

    「おい、あまりからかってやるな。奴の生真面目で遊んでるんじゃねえ、メガネ」

    「だってさ、私を女扱いするなんて、稀少生物だろ?君だってそう思わないかい?」

    「……まあな」

    確かに稀少生物だと、モブリット本人に伝えたところであったリヴァイは、素直に頷いた

    「きっと彼、女性経験ないんだろうなあ。まあ私も男性経験ないけど」

    「……あぁ?」

    「あっ、信じてないだろ?なんなら試してみるかい?リヴァイ」

    ハンジはそう言いながら、挑戦的な目をリヴァイに向けた

    「いや、まあお前みたいな珍獣奇行種じゃあ相手にされねえだろうな」

    「違うよ。やっぱり初めては大切に取っておくべきだと思ったからさ!チャンスはいくらでもあったんだよ?」

    「そうか、良かったな」

    リヴァイは気の無い返事をすると、すたすた先に歩き始めた

    「待ってよー、リヴァイ。君は童貞?チビだし目付き悪いし口も悪いしさ」

    「ばかにすんな。んなわけねえだろうが」

    リヴァイは吐き捨てるように言った

    「えーっ!?違うのか!じゃあさ、いつ、何処で、誰と、どんなシチュエーションでやったんだい?!」

    ハンジは捲し立てる様にリヴァイに詰め寄った

    「ばかか!何でてめえに言わなきゃいけねえんだ。鼻息吹き掛けんな!クソメガネ!」

    「教えてくれよー、興味があるんだ!」

    「うるせえ!黙れ離れろ、クソメガネ!」

    リヴァイはまとわりつくハンジの脳天にげんこつを食らわせて、彼女がのたうち回っている間に、足早にその場を去った
  7. 7 : : 2015/04/15(水) 16:19:28
    845年


    年度始めの壁外調査は、100人規模で行われる事になっていた

    シガンシナ区突端壁を開門し、そこから巨人の領域へ足を踏み入れる

    目的は、壁外における橋頭保たる砦の設営

    悪天候時における長距離策敵陣形の運用

    この二点だった

    悪天になるかはわからないため、今回の第一の目的は、砦の設営になる

    トロスト区に本部を置く調査兵団は、遠征数日前にシガンシナ区へと移動し、調査兵団シガンシナ支部から遠征に出るのが常であった

    その遠征前の大移動を明日に控え、トロスト区における作戦会議は、本日が最終日であった
  8. 8 : : 2015/04/15(水) 16:19:44
    「以上だが、質問がある奴はいるか?」

    調査兵団団長キース・シャーディスが、集った幹部達にそう問い掛けた

    彼の顔に深く刻まれたシワが、今の彼の立場の困難さを物語っている

    年齢以上に老けて見える彼であったが、団長になる前、ただの一兵卒だった時には、勇猛果敢を地で行くような兵士であった

    階級を駆け上がるにつれてのし掛かる、戦う以外の様々な重圧が、彼の外見だけではなく、内面すら蝕んでいた

    そう、誰が見ても明らかであったのだ

    彼がもう、限界だという事が


    だが、それでも兵士達は彼に着いていく

    疲れ果てても壁外に向かう事を止めない真っ直ぐな彼の人となりと、そしてなによりも、彼の背後に控える男に、全幅の信頼を寄せていたのだ

    キース・シャーディスの懐刀と言われる、調査兵団分隊長エルヴィン・スミス

    近い将来、このエルヴィン分隊長が団長に指名されるであろう事が確実視されていた
  9. 9 : : 2015/04/15(水) 16:19:59
    「エルヴィンてさぁ、何考えてるか謎だよね」

    明日トロスト区を離れる兵士達は、本拠地で過ごす最後になるかもしれない時を、思い思いに過ごすのが常だ

    壁外調査から帰還できる確率は70%、時にはそれを大幅に下回る

    だから彼らは思い当たる最良の方法で、それぞれ夜を明かすのである

    そして今や幹部となった二人の若者は、いつもの様に馴染みの酒場兼料理屋で食欲を満たしていた

    「あのたぬき。涼しい顔して、腹の底ではとんでもねえ事を考えてやがるはずだ」

    「リヴァイ、エルヴィンの事ほんっとに嫌ってるねえ。でも、最近はちょっと見直してきたかな?」

    そう言いながらリヴァイの顔を覗き込むハンジ

    すでに顔は紅潮していた……飲酒のせいだ

    「近寄るな、酒くせえぞ、メガネ」

    リヴァイは顔を背けながら、ぼそっと口を開いた

    「まだそんなに飲んでないって。で、ちょっとはエルヴィンを好きになったかい?」

    「一生好きになんかなるかよ」

    ハンジの問いに、リヴァイは即答した

    「素直じゃないねえ……まあ、ちょっとおっかない顔する時あるから、わからなくもないけど!」

    「あいつが笑うと怖ぇんだよ。気持ち悪ぃしな」

    「うわっ、失礼な奴ーははは!」

    ハンジは楽しげな笑い声をあげた
  10. 10 : : 2015/04/15(水) 16:20:16
    「そういや、副官はどうした。今日は連れてこなかったのか?あいつとお前に言ってやりてぇ事を山ほど抱えてきたんだ、俺は」

    リヴァイの言葉を聞いたハンジは、にやりと笑みを浮かべた

    「モブリットかい?今日はデートだよ、デート!いいよねぇ、青春だよねぇ!」

    「…………あれか、前に奴が助けた女か。まだ繋がってるんだな」

    リヴァイはしばし思考を巡らせた後、脳裏に思い当たる人物を見つけて言葉を発した

    「うん、まだ繋がってるかどうかはわからないけどね。私の予想では、まだ繋がってないよ!」

    「話を妙な方向に持っていくな、バカメガネ」

    「あっばれてしまったか!へへっ」

    ハンジはペロリと舌を出した

    「ちっ。これだから欲求不満のばばあは困る」

    リヴァイは盛大に舌打ちをした

    「いやまて、君よりは年下だよ、私は! せめてお姉さんだろ、そこは!」

    「ほう、欲求不満に関しては否定しねえんだな」

    「ああ、 否定しないよ。だからリヴァイ、今夜辺り探り探りやってみないか?!」

    ハンジはリヴァイの手をガシッと掴み、目を輝かせた

    「離せ! 俺はお前の身体なんざ探りたくねえ! 欲求不満解消は他を当たれ!バカが!」

    「ちぇー、つまんないの」

    ハンジはそう言って、口を尖らせた
  11. 11 : : 2015/04/15(水) 16:20:51
    「そうだ、お前に言っておくがな、毎朝自分で起きやがれ。それができねえならせめて寝間着を着て寝ろ」

    リヴァイは真摯な眼差しをハンジに向けて言った

    「うーん、裸にお布団気持ちいいからさ、ついつい」

    「お前がまともな格好で寝ねえせいで、毎朝しなくてもいい仕事が増えるんだ。寝間着さえ着てりゃ、モブリットも普通にお前を起こしに行けるんだからな」

    「私は下着姿見られても平気なんだけどな」

    ハンジは不服そうに頬を膨らませた

    「お前は平気かしらねえが、奴が嫌がってるんだろうが」

    「違うよ。モブリットは嫌なんじゃなくて、恥ずかしいんだよ」

    ハンジが首を振ると、リヴァイは机をバンッと叩いた

    「…………わかってるならちゃんと服着やがれ!明日からは頼まれても起こしに行かねえからな。朴念人にもそう言っておけ、クソメガネ」

    「わかったよ。全くリヴァイは素直じゃないなあ。ほんとは起こしたいくせに」

    ハンジはつんつん、とリヴァイの頬をつついた

    「んなわけねえだろうが、勘違いすんな。付き合いきれねえ」

    リヴァイは彼女の指先から逃れるように身をよじった
  12. 12 : : 2015/04/15(水) 16:21:13
    「今回も、暴走しないように気張らなきゃなぁ……」

    ハンジはぼそっと口走ると、手にしたグラスを傾けた

    氷だけになったグラスは、カラン、と音をたてた

    「まだ出るんだな、悪い癖が」

    「ああ、目の前で部下をパクつかれちゃうと、どうしてもね……助けてやれない自分にも苛立ってしまうんだ」

    いつもは冷たく見える小柄な男の瞳に、どこか気遣わしげな光りを感じて、ハンジは彼の顔に手を伸ばした

    頬に指先で触れると、彼は一瞬くすぐったそうに顔をしかめた

    そのままハンジの指はリヴァイの頬を撫で始めたが、彼は大人しくされるがままになっていた

    「ありゃ、嫌がらないのかい?」

    身動きひとつしないリヴァイに、ハンジが首を傾げた

    「猫にでも撫でられてると思って耐えてやってる……もういいだろ」

    リヴァイはそう言うと、ひょいと顔を背けた

    「んー、もう少し……」

    「断る」

    名残惜しそうに手を伸ばすハンジに、リヴァイはきっぱりそう言った
  13. 13 : : 2015/04/15(水) 16:21:31
    「私の同期はさ、もう誰もいなくなっちゃった。大切な人を、これからもっと失うんだろうね、目の前で……」

    ハンジはそう言うと目を伏せた

    リヴァイはちらりとその様子を伺ったが、何も言わずに酒を口に含んだ

    「まあ、私が死んじゃう可能性も高いけどね。無茶苦茶やらかしてる自覚あるし」

    「……わかってるなら何とかしろ」

    「何とかしたいんだけどなあ……モブリットの声も、聞こえた時は冷静になれるんだけどね」

    ハンジは以前よりは落ち着いたものの、未だに壁外で巨人を目にした時の衝動的行動が抑えきれずにいた

    それを止める唯一の手段が、彼女の副官モブリットの悲鳴に近い静止の叫びなのだが、それも100パーセント功を奏するわけではなかった

    「モブリットは、壁外へ行く度に寿命を縮めてるぞ。巨人に突進するお前の側についていなきゃならねえんだからな」

    「うん、わかってる。無理させてるってね。だから労ってあげたかったのに、泣きそうな顔で拒絶されたよ?」

    「……労い方が間違ってるんだろうが」

    リヴァイは肩をすくめた
  14. 14 : : 2015/04/15(水) 16:21:50
    「何で?男は穴ならなんでもいいんだろ?皆そうして発散してるじゃないか。私も一応女だしさ、使わない手はないと思うんだけどな」

    「穴ならなんでもいいってなんだ。変な本の読みすぎだ」

    リヴァイはため息をついた

    「男の本能はそういうものだろ?」

    「人間は動物じゃねえ。本能以外の部分が大多数を占めてるはずだ。違うか?」

    リヴァイの言葉に、ハンジは顎に指を当てしばし考えるように目線を上向けた

    「要するに、気持ちがなきゃダメって事?私はモブリットが好きだし、彼も私が好きだよ。リヴァイも私が好きだし、私もだ。それで充分じゃないのかい?」

    ハンジはリヴァイと自分を交互に指差しながら説明した

    「……お前は好きなやつとなら誰とでもヤるのかよ。例えば親父とか」

    「…………ヤるわけないだろ?」

    ハンジは眉を潜めた

    「モブリットがお前とヤるのを拒絶する理由はそんなところだろ」

    「……なるほどね。そうなのかあ」

    リヴァイはモブリットの複雑な胸の内を実は理解していたが、それを伝える事はしなかった

    他人から告げられても、双方にとっていい気はしないだろうからだ

    「まあ、あいつはもう少しお前に遠慮しない事を学ぶ必要はあるだろうな」

    「そうだよねー。女扱いは嬉しくない事はないけど、もっと頼ってほしいね!」

    ハンジはポンッと胸を拳で叩いた

    「お前はまずデリカシーを持て」

    「うーん、デリカシーのある私なんて私じゃない気がするんだけどなあ……って睨むなよ、リヴァイ」

    結局の所、ハンジもモブリットも、まだ何処かたどたどしいのだ

    一人前以上の部分を持ちながら、ある部分では足りなさすぎている

    それがハンジたるゆえんか、と思ったリヴァイであった
  15. 15 : : 2015/04/15(水) 16:22:27
    色気があるようで無い二人の飲み会が終わり、ハンジはふらふらと自室に続く廊下を歩いていた

    酒が思った以上に回っている

    肩を貸してくれていたリヴァイはすでに、部屋に帰ってしまった

    彼はどんなにいい雰囲気になろうとも、ハンジと共に夜を明かそうとはしなかった

    「つれないよなぁ……」

    ぼそっと呟いてみるが、寂しさは拭われる事はない

    ハンジ自身、リヴァイを好きである事は認識しているが、それがどう好きなのか、その辺りはまだ図りかねていた

    先程リヴァイが言ったように『家族』に近い愛情なのか、はたまた友情なのか、信頼なのか、それがわからなかった

    モブリットに対してもそうだ

    彼が自分を女性として認識しているのはわかる

    だが、恋愛感情を問われると、否だと思っている

    何故なら彼にはデートに誘ってくる様な女がいるのだ

    彼女の事は自分も知っている……凄い美人で、優しそうな女性だ

    モブリットとて満更でもないだろう

    彼のたまの休日は、彼女との逢瀬で予定が埋まっている事が、それを物語っている

    「そろそろ進展したのかなぁ」

    ハンジは窓の外を眺めながら、小さく声を発した
  16. 16 : : 2015/04/15(水) 16:22:52
    ハンジがそう呟くのにも訳がある

    モブリットは真面目が過ぎるのか、もう何度も彼女と逢瀬を重ねているというのに、一向に仲が進展しないのだ

    彼がデートから帰ってくる度に状況を報告させるのだが、浮いたような話は全く聞かされない

    報告によれば、手一つ握らないらしい

    男としてそれはどうなんだろう、と言うのだが、彼は困ったような顔をするだけだった
  17. 17 : : 2015/04/15(水) 16:23:11
    「班長、お帰りなさい……あっ、大丈夫ですか?!」

    噂をすればなんとやら

    自分の部屋の前に副官の姿を見つけた

    だがその瞬間、ハンジは足をふらつかせた

    すかさずモブリットがハンジの腕をとり、身体を支える

    「モブリットもおかえり。今日は楽しかったかい?デート……ふふっ」

    ハンジは副官の肩に寄り掛かりながら、唇をうっすら開けて笑みを浮かべた

    「……班長、飲み過ぎです。酒臭いですよ?」

    上官がこうしてたまに見せる笑みが妙に艶っぽく映り、彼を落ち着かなくさせる

    そう言う時は、それと気付かされない様に話題を反らす

    「ああ、今日はよく飲んだよ。明日からはシガンシナだ、ゆっくりしていられないからね」

    ハンジはそう言うと、熱い息を吐いた

    「そうですね」

    「で、どうだったんだい?今日のデートは。話反らすなよ?」

    上官の問いに、モブリットは何故か目を伏せた

    「…………何も、ありませんよ。いつもどおり、食事をして、お茶を飲んで、帰ってきました」

    「本当に何もないのかい?今日は君、変な顔してるね?なんかあったのかい?」

    モブリットの些細な仕草に、ハンジは何かしっくりこなくてそう聞いた

    「先程も言いましたが、何もありません。さあ、今夜からは壁外遠征に向けて充分休眠しましょうね」

    「嫌だ。君、なんかあっただろ?聞くまで寝ないからな」

    ハンジはくるりと彼に向き直ると、手のひらを彼の頬に当てた

    その瞬間、彼の耳にハンジの指先が触れる

    その感覚に、モブリットは身体を震わせた

    「な、何もありませんてば」

    モブリットの苦し紛れの発言に、ハンジが納得するはずがない

    ハンジはモブリットの手を引き、半ば無理矢理自室に連れ込んだ
  18. 18 : : 2015/04/15(水) 16:23:34
    「さあ、ハンジさんに何があったか話しなさい」

    ハンジはモブリットをベッドに掛けさせ、自分は彼の正面に椅子を置いて腰を下ろした

    「な、何もありませんてば……本当に、他愛のない話をして、食事をして、少し酒を飲んで……」

    モブリットはそこまで言って、言葉を止めた

    「酒を飲んで?」

    「…………以上です」

    「嘘だ。君は何かを隠している。私にはわかるよ」

    ハンジの真摯な眼差しに、モブリットはたじろいだ

    冗談混じりに面白おかしく問われるのが常であった、逢瀬の度の尋問

    だが今日の上官は様子が違った

    いつになく真剣な表情で、真摯に自分と向き合っている

    決して興味本意ではないのがわかる

    「隠しているわけではないのですが……」

    「私には関係ないから言いたくないとか、よもや言ったりしないよね?私と君との間だしね?」

    そう言われてしまうと、モブリットとしては反論する術を失う

    彼は気が進まないながらも、きちんと話をする事にした
  19. 19 : : 2015/04/15(水) 16:23:51
    「実は、もう会うのをやめたんです」

    「…………えっ?なんで?」

    ハンジは首を傾げた

    あんなに足繁く会いに行っていたはずなのに

    確かに彼はまだ、彼女に手を出していなかったのだろうが、いずれ近い内に恋仲になるであろうと思っていたからだ

    すると、その疑問に答えるようにモブリットが口を開いた

    「いろいろ考えて、決めたんです」

    「それは、彼女に言われたの?いや、決めたんですって事は、二人で決めたのか、それか君が決めたのか、どちらかだね」

    ハンジの言葉に、モブリットは頷いた

    「その通りです……俺が、そう決めました」

    「何で?あれだけ会いに行って、楽しそうだったのに。何か嫌な事でも言われたのかい?」

    ハンジは、表情を曇らせて俯くモブリットに、優しく問い掛けた

    「…………いいえ、嫌な事なんか何も。ですがもう、決めたんです」

    モブリットは小さな声でそう言った
  20. 20 : : 2015/04/15(水) 16:24:16
    「モブリット、ちょっと落ち着こうか! あんな美人を蹴るなんて、現実的じゃないぞ?思い直せ!正気か?!」

    ハンジは突然モブリットの両肩をがっちり掴み、揺さぶった

    「ちょ、ちょっと、班長…………ハンジさんこそ落ち着いて下さい!」

    されるがままになっていたモブリットも、さすがに自分の頚がむち打ちになるかもしれない程激しく揺さぶられて、慌てて上官の肩を掴んだ

    「落ち着いてるよ……はぁはぁ、げほっ」

    「何処がですか。息切れてますよ、班長」

    モブリットは咳き込むハンジの背中を摩ってやった

    「ああ、落ち着いた……」

    「全く、壁外以外で暴走しないでくださいよ……壁外でも困りますが」

    「だって、君がワケわかんない事するから悪いんだろ」

    ハンジはムスッと頬を膨らませて、そっぽを向いた

    「ワケわかんないですか……ですよね」

    「ああ。ワケわかんないね。ちゃんと彼女には訳は話したんだろうね?」

    ハンジの言葉に、モブリットは目線をついと反らした

    「……一応は」

    「彼女にちゃんと話してないだろ?!」

    ハンジは鋭い視線をモブリットに向けて、詰問した

    彼女は煮えきらない態度が大嫌いだからだ

    モブリットは上官の予想以上の剣幕に、肩を震わせた

    「全部は、話せていないです……」

    そう言って頭を垂れるモブリットの顔を、ハンジは注意深く伺った

    彼は悲しみと辛さが同時に来たような、そんな表情を顔全体に貼り付けていた
  21. 21 : : 2015/04/15(水) 16:24:38
    「理由を聞かせてくれないか?まあ部下の色恋沙汰に首を突っ込むのは無粋だけど、そんな顔した君を壁外へ連れていけないからな」

    ハンジの言に、モブリットはますます縮こまった

    上官の言う事が正しいのを、彼自身理解したからだ

    ただでさえ不安定な上官に、その静止役である自身までもが不安定な状況では、壁外へなど行けない

    「はい、班長のおっしゃる通りです。すみません、こんな時期に……」

    「いいよ、謝らなくても。人の気持ちなんて現実の都合のいい様に変えられないんだからさ。何があったか、話せる所だけで構わないから、聞かせてくれないか?」

    ハンジは副官の少し癖のある前髪に指を絡めながら、優しく問い掛けた

    モブリットがちらりと上官の顔に目をやると、丁度自分を心配そうに見つめる、柔らかな光を宿すブラウンの瞳と目があった

    彼の顔に、一瞬で血がのぼる

    慌てて目を反らすが、ハンジの脳内には部下のその様子がはっきり刻まれていた
  22. 22 : : 2015/04/15(水) 16:24:58
    「ふぅん、彼女の夢かあ……」

    副官から話を聞いたハンジは、遠いところを見るような目で思考を巡らせた

    「はい。お話しした通り、彼女の夢はごくありふれた、他愛のない物です。ですが……そんな事すら、自分は叶えてあげられそうにないんです」

    モブリットはそこまで言うと、肩を落として息をついた

    「なんで叶えてあげられないって決めつけるんだい?未来の事なんか、わからないじゃないか。君なら彼女と一緒に、暖かい家庭を築いて行けるはずだよ?君は真面目だし、まともなんだから」

    そう、彼女の夢は、ごく普通の暖かい家庭を築いて、ありふれた生活をする事だったのだ

    だが、モブリットにとってのそれは、不可能に近い夢だった

    「俺は、調査兵です。しかもまだ新兵。いつどうなるかわからないじゃないですか。そんなあやふやな立場で、軽々しく彼女の夢を叶えてやるなんて言えません」

    モブリットはきっぱりそう言った

    「待ってよ。彼女のために生きて帰る努力をすればいいじゃないか。私だって出来るだけ君を守ってあげられるよ?今までだってそうしてきたじゃないか」

    ハンジは頑ななモブリットを何とか説き伏せようと、必死の面持ちで言葉を紡いだ

    だが、モブリットは急に表情を固くする

    「俺は……いつまでもあなたに守られていたくはありません。一刻も早く一人前の調査兵になって…………」

    彼は唇をぎゅっと噛んで、拳を握りしめた

    「モブリット……?」

    ハンジは副官の様子に、わずかに首を傾げた

    「すみません、班長。今日はもう、部屋に帰っていいですか?明日の仕度もしなければいけないので」

    心配そうに見つめるハンジの視線に気が付いていながら、モブリットは上官の顔を見る事なく、ベッドから立ち上がった

    そして扉のノブに手をかけた時、背後から上官の声が耳に届いた

    「モブリット……なんかごめんね」

    その申し訳なさそうなハンジの声色に、モブリットはぎゅっと目をつぶった

    謝らなければならない、そう思いながらも、彼の複雑な心境がそれを許さなかった

    だから、言葉に出してこう言った

    「班長の明日のお支度は、ちゃんと整えてありますから、ご確認下さい」

    そう言うと、上官の方を見ないままお辞儀をし、部屋を後にした
  23. 23 : : 2015/04/15(水) 16:25:18
    「はぁ、班長に当たってしまった……」

    上官の部屋を半ば飛び出してきた副官は、自室に向かいながら呟いた

    上官は何も悪くない、それなのにあんな別れ方をしてしまった……しかも、おやすみなさいの言葉すら失念していた

    「俺は、駄目だな」

    モブリットはこめかみを指で押さえながら、頭を振ってみた

    だが、苛む頭痛は治まることはない

    痛みは後悔の念と共に、留まることなく押し寄せて来る

    そうだ、ハンジさんは何も悪くない

    悪いのははっきりしない自分自身なのだ

    上官が言う、美人の彼女に誘われるまま、彼女と時を忘れて楽しく過ごしていた……心の中の大部分に違う女性を住まわせておきながら

    上官にも真実を打ち明けてはいない

    敬愛する上官の背中を守れる兵士になりたい、という彼の夢

    それは一刻も早く叶えたい、切実な夢だ

    その夢を叶えるためには、『美人の彼女』の夢を叶えてやる暇はないのだ

    だから、彼女から付き合いを匂わされた時、潮時だと感じて身を引く決意をした

    身を引くもなにも、まだ始まってすらいない仲だったのだが
  24. 24 : : 2015/04/15(水) 16:25:40
    ハンジは、モブリットが先程話した事を反芻していた

    彼は確かに、彼女と会う事を楽しんでいた

    彼からデートに誘う事はなかったらしいが、それでも休日毎に精一杯きちんとした服装で出掛けていた

    帰宅後の彼の表情は、ほくほくと幸せそうに見えた

    「満更じゃなかったはず、なんだよなぁ。でも、彼女の夢を叶えられないってのは……間違ってはいないか」

    ハンジははぁっとため息をついた

    調査兵団にいれば、常に死と隣り合わせだ

    壁外では、どんなベテラン兵士であろうとも一瞬で命を奪われる

    その上モブリットはまだ新兵だ

    彼女に将来の約束をしたり、必ず帰ってくるなどとてもじゃないが言えないだろう

    ハンジとて、易々と大事な副官を死なせるような事はしない

    何よりも優先して彼を守ると決めているからだ

    何故なら、モブリットはハンジが調査兵団に引っ張ったも同然だからだ

    そして、壁外で暴走してしまう自分自身の、唯一無二の静止役である彼を死なせれば、次こそは完全に自分は壊れてしまうだろうと思っていた

    ハンジにとってモブリットは、他に代えがたい相棒だった

    馴染みのように仲の良いリヴァイですらその立場にはなれない

    ハンジはいろいろな意味で、モブリットを必要としていた

    だからこそ、自分の全てを知ってもらいたかったし、遠慮もしてほしくはなかった

    だがその気持ちはまだ、モブリットには届いていなかった
  25. 25 : : 2015/04/15(水) 16:26:00
    「ま、また話し合う必要があるな……はっ、しまった。明日から起こしてくれって頼むの忘れた……仕方ない、最終手段だ」

    ハンジはそう言うなり、本棚から分厚い本を取り出し、椅子にどっかり腰を下ろした

    「さあ、じっくり読むぞーっ! 」

    大きく伸びをし、読みかけだった本にらんらんと輝く目を向けた


    静かな夜の静かな部屋に、古びた本の匂いと、ページをめくる音が彩りを添える

    禁忌とされる貴重な本は、知識欲旺盛なハンジの大切な相棒の一つであった
  26. 26 : : 2015/04/15(水) 16:26:31
    「班長、おはようございます。起きていらっしゃいますか?」

    午前7時前

    扉をノックされた音と共に、副官の声が聞こえてきた

    「はーい、起きてるし開いてるよ。服も着てるから、入って」

    ハンジは椅子に腰を下ろし、本から目を離す事なくそう言った

    しばしの静寂の後、扉がゆっくり開く音がした

    「班長、おはようございます。もうご準備できてらしたんですね」

    副官の驚いたような声に、ハンジは頷く

    「ああ、できてるよ」

    「先程兵長を呼びに行きましたら、今日から起こしにいかないからお前が行け、と一喝されまして……」

    「ありゃ、そりゃぁ朝から身の縮む思いをしたねえ」

    ハンジがくるりと振り返ると、モブリットが目を丸くした

    「…………班長、服よれよれなんですが。というか、昨夜用意しておいた着替えがそのまま掛かってますよ?」

    「あっ、そうだっけ……うっかりしてた」

    ハンジはぺろっと舌を出した

    「もしや……昨夜から着替えてらっしゃらない……?」

    モブリットは震える指先をハンジに向けながら、信じられない物を見るような目を向けた

    「ああ。実はね、リヴァイが起こしてくれないって言ってたのを君に伝え忘れてさ。でも、今日はシガンシナへの大移動の日、遅刻する訳にはいかないだろ?でも、君は起こしに部屋に入らないから……」

    「……は、はい」

    「だから、一晩中起きて本読んでた!」

    ハンジの得意そうな表情を目にしたモブリットは、すぅっと息を吸った

    「…………偉そうに胸はって言う事じゃないでしょうがっ! あんた子供じゃないんだから、夜更かしなんかしないでくださいよっ!」

    モブリットの悲鳴のような声は、部屋の外にまで響き渡ったであろう事疑い無い
  27. 27 : : 2015/04/15(水) 16:26:52
    「そもそも君が変なところで遠慮して、起こしに来てくれないから悪いんだろ?」

    ハンジは不満そうな口ぶりで言葉を発した

    「班長が下着姿で寝てるのが悪いんじゃないですか!」

    「私は見られても構わないって何度も言ってるよ?」

    副官の剣幕にハンジは立ち上がり、ずいっと彼に顔を近づけた

    すると、彼の顔にみるみる赤みが射すのがはた目からもわかる

    ハンジはその変化を内心楽しむようになっていた

    だから事ある毎に、こうして彼に悪意の無い悪戯をしていた

    「は、班長は平気かもしれませんが……俺は平気じゃないです!」

    案の定、モブリットは顔を真っ赤にしながら後ずさる

    だが、なおじりじりと距離を縮めてくる上官に、モブリットはついに壁際まで追い詰められた

    「君って希少生物だよねえ。私を女扱いするなんてさ、ほんと」

    自分より少し背の高い副官の顔を上目使いで覗きながら、彼の前髪に指を絡める

    意図せず指が彼の額に触れると、その度に体をびくつかせる

    この反応が、ハンジにとっては可愛くて仕方がない

    自分に対してこんな反応を示す男を見たことがない

    ハンジの知識欲はあらゆる方向で、留まることを知らないのだ

    「班長……セクハラです……」

    「髪の毛触ってるだけでかい?」

    副官の随分弱々しくなった声に、ハンジはますます楽しくなってしまう

    そして、仕上げとばかりにドンッと壁に片手をついて、彼との距離を限りなく近づける

    「ひっ……!」

    モブリットの口からこぼれ落ちた小さな悲鳴

    「…………なるほど、朝から元気だね。抜いたげよっか?」

    ハンジのその言葉に、モブリットは慌てて取り繕う

    「いえっ、結構です!って、班長何言って……は、離れて下さい!」

    「じゃあ、これどうすんの?」

    「ほ、ほっとけばそのうち収まりますからってこらっ、勝手に触らないで下さいよ!」

    股間を鷲掴みにされながら、モブリットはまたもや悲鳴をあげた
  28. 28 : : 2015/04/15(水) 16:27:10
    「とりあえず、おっきくなったあそこ、見たこと無いから見せてくれ」

    「な、何を言ってるんですか……嫌です!」

    真顔でとんでもない事を頼んでくるハンジに、モブリットは首をぶんぶん振った

    「やましい事じゃない。普通に気になるんだよ、頼む」

    「やましい事じゃないって……っていうか、見たこと無いなんて嘘つくの止めましょうよ……」

    「嘘じゃないって。私はまだ未通だし」

    しーん

    静寂が部屋を支配した

    モブリットは目を見開き上官の顔を凝視する

    上官は真顔で頷いた

    「…………朝っぱらから嘘つかないでくださいよ!エイプリルフールはもう過ぎましたよ?! どこの世界に『抜いたげよっか?』なんて言う処女がいるんですか!謀るのもいい加減に……」

    「ここの世界」

    「うあーっ!ああ言えばこう言う!」

    そう叫んで頭を抱える副官に、ハンジは愉しげな微笑みを向けていた
  29. 29 : : 2015/04/15(水) 16:27:28
    「と、とりあえず早く着替えて下さい!俺はちょっとはばかりへ……」

    モブリットは前のめりになりながら、ハンジの脇をすり抜けようとした

    だが、その彼の襟元を素早く掴むハンジ

    「わー!私も一緒に行く!」

    目をぎらつかせながら、鼻息荒く叫ぶ

    「あんたアホですか!着いて来ないで下さい!」

    モブリットは体を何度もよじって、やっとの事で自由の身になった

    「いいじゃん、減るもんじゃなし」

    「ふて腐れないで下さいっ!もう、ほんっとうに着替え済ませてて下さいね?! 大移動に間に合わないですよ!」

    副官はそう叫ぶと、つかつか部屋の扉に向かった

    その背に、ハンジが声をかける

    「モブリットも早く抜いといでよ?大移動に間に合わなくなるからさぁ!ねぇ、ところで抜くのって所要時間どれくらいなの?」

    その瞬間、モブリットは扉のノブに手をかけたまま固まった

    そして、くるりと体を反転させる

    ハンジに向けたその顔は、真っ赤に燃えていた

    「早く抜いといでよってあんたねっ!いい加減にして下さい! もう付き合いきれません!」

    「ははっ、顔真っ赤だ。照れてる」

    「違うわ!怒ってるんですよっ!」

    モブリットはふん、と鼻を鳴らすと部屋を飛び出して行った

    しばらく副官が去った扉を見つめていたが、やがて身を折り曲げて笑い始める

    「はははっ……くっそ、可愛いな……!ははっ」

    ハンジにとって、副官をからかうのは少ししかない楽しみの一つであった
  30. 30 : : 2015/04/15(水) 16:28:10
    トロスト区の大鐘楼の鐘が、門の開閉を知らせる

    シガンシナへは、トロスト区突端壁の開閉門から出立する

    そこからウォールマリア南突端の街シガンシナ区へ一日かけて南下する

    この区間は人類の活動領域であるため、危険は少ない

    だが、常に死と隣り合わせの調査兵団に油断は無い

    すでに斥候を先発させており、情報を得ながら兵を移動させる

    わざわざ死地に赴く調査兵団を見たいがために、多くの町人が門の付近に集まっていた


    「いやあ、相変わらず人気者だよねえ、私たち! 」

    そう言って不敵な笑みを浮かべるハンジは、きょろきょろ辺りを見回しながら言葉を発した

    「何処がですか。穀潰しだの税金の無駄遣いだの聞こえて来るんですが……」

    副官は、人々の野次にまだ慣れていないのか、身を縮こまらせていた

    「ははっ、まあ自分から自殺しに行ってる様にしか見えないだろうしねえ。壁外に何があるのか、興味がない人達には」

    「……はい、そうですね」

    モブリットは上官の言葉に頷いた

    彼自身、まだ実感がないのだ

    この遠征が本当に人類の自由を勝ち取るための礎になっているという実感が

    「私は、ただ知りたいだけさ、真実をね。どうして壁外は広くて清々しいのに、こんなこじんまりした所に押し込まれてなきゃいけないのか。そして、野次ってる人達は、真実から目を背けているだけさ。背けていられる時代だから仕方ないけどね」

    ハンジの視線は壁を越えて更に遠くに向けられている

    彼女はその瞳を部下に向けた

    「モブリット、周りの蔑みや野次に惑わされるな。自分がやりたい事に、ただ邁進するんだ」

    モブリットは上官の輝く瞳を、眩しげに見つめた

    彼はこの瞳の輝きに、魅せられていたのであった

    「でさあ、結局10分くらいトイレに行ってたじゃない?すっきりしたかい?」

    「班長、あんたって人は……」

    嗚呼、これさえなければ完璧なんだけどなぁとモブリットがため息をついたのは言うまでもない
  31. 32 : : 2015/04/15(水) 16:28:49
    「クソメガネ、お前な……」

    街道筋にある小さな集落で、昼休憩をとる調査兵団一行

    うららかな昼下がり、のどかな村

    シガンシナへの旅程では必ず足を止める、勝手知ったる場所だ

    思い思いの場所で兵士達が昼食に舌鼓を打つなか、リヴァイは呆れたような声を発していた

    もちろん相手はハンジだ

    「なんだよ、ただ単に知的好奇心旺盛なだけだろ」

    「モブリット相手に遊ぶなとあれほど言ったはずだが」

    ハンジのふて腐れた声に、だがリヴァイは意に介さない

    不機嫌を絵に描いた様な顔をハンジに向けていた

    「だって、反応が可愛くてさぁ」

    「副官はお前のおもちゃじゃねえ。人格がある、一人の人間だ。そう扱え」

    「モブリットだって満更じゃないはずだ。リヴァイだってそう思うだろ?」

    ハンジの言葉を聞いたリヴァイは、しばらく考えた後口を開いた

    「あいつはお前を女だと認識している。だからこそ、必要以上に距離を縮めないように意識してるんだ。副官として側にいるためにな。そのあいつの並々ならぬ努力を、お前は片っ端から摘んでるんだ、わかるか?」

    「私だってそれはわかってるさ。でも、距離をおかれるのってなんだか寂しいんだよ。リヴァイもそうだけどさ……」

    ハンジはボソッと呟くように言った

    「なんでそこで俺が出てくるんだ」

    リヴァイは首を傾げた

    「君も、モブリットも、つれないんだよ。全く押しの弱い男ばっかりだな」

    「…………とにかく、モブリットに対してもう少しデリカシーを持って対応してやれ。毎度泣き付かれる俺の身にもなれ」

    リヴァイはそう言うと、昼食のパンの最後の一片を口にいれた

    「ははっ、モブリットに頼られるのだって満更じゃないくせに」

    「ちっ、うるせえな。……もうすぐ出立だ。クソしとけよ?」

    リヴァイは吐き捨てるように言うと、立ち上がりその場を後にした
  32. 34 : : 2015/04/15(水) 16:30:32
    調査兵団がシガンシナに到着したのは、夕焼けから夜に移り変わる頃であった

    兵士達はそれぞれ分担して、旅の疲れを癒す暇なく雑務をこなす

    その中でも大切な事は、長旅を支えている馬の世話だ

    ブラッシングしてやったり、餌をやったりして、馬の労をねぎらう

    兵士達に宛がわれる馬はとても高価で、家が一件建つほど貴重な存在である

    調査兵団にとっては、壁外で生きていくために、馬の機動力は必須だ

    いろいろな意味で、馬を大切にしている彼らであった

    まさに命を預け合う相棒の様に、彼ら馬に接していた

    「ほら、お疲れ様。こら、皆順番だから……髪を引っ張るなよ」

    馬の当番は、主に新兵の仕事だ

    モブリットは馬の餌である乾草を、彼らの厩にある桶にいれてやりながら、後ろから髪を引っ張られていた

    彼は馬が好きだった

    戦場で頼もしい彼らは、こうしているととても愛らしいしぐさを見せる

    じゃれて髪の毛を数本無駄にされても、彼らに癒されているのであった
  33. 35 : : 2015/04/15(水) 16:30:55
    「はぁ……お前達は可愛いよなぁ。一緒にいても飽きないし。癒されるし……俺、本当に疲れてるんだよ……」

    馬全員に餌をやった後、自分に宛がわれている愛馬の元へ行き、鼻先に頬を擦り寄せた

    「お前も疲れてるよな?ごめん、お前に愚痴ってどうするんだよなぁ……でも、ほんとにもう、どうしたらいいか分からないんだ……」

    モブリットははぁとため息をつき、目を閉じた

    副官として早く一人前になりたいという思いと、上官に対して抱いている、胸が締め付けられる様な想い

    この双方が共に報われる日は来ないだろうと、彼は考えていた

    上官の瞳に魅せられて調査兵団に入ってもうすぐ一年

    彼にとって上官は尊敬する上司であったし、困った所が多々ある上司でもあった

    だがいつしか、ある感情が彼の頭の中を席巻した

    彼女に恋をしているのだという感情

    その事に気が付いた時、彼はまさかと頭を抱えた

    よりによって尊敬するあの人に対して、そんな感情を抱いてしまったとは

    そして彼が悩んでいたのは、もう一人、彼が尊敬する上司に対してだった

    彼らが並んで立つのを見るだけで、心が躍っていた

    この困難な状況を打破してくれるという夢や希望を、彼ら二人の背中に見出だしていた

    そんな彼らの仲を裂くような、今自分の中に抱えている感情

    モブリットはそれを持て余していた

    「だいたい、兵長は優しすぎるんだよな……だからいつも頼ってしまう。というか、兵長が怖いなんて言う奴おかしいよな……?懐の深い人なのに」

    そう、彼は直属の上司であるハンジはもちろん、その相方の様な存在のリヴァイに対しても、尊敬の念を抱いていたのだった

    「ああ、俺はやっぱりだめだ。次の遠征で死ぬかもしれない……」

    モブリットは苦しげに顔を歪ませた

    彼はハンジを好きでいながら、その感情を煙に巻きたくて、そして安らぎを得ようと他の女と会って、しかもその女性までも傷付けてしまった事に、ずっと後悔の念を抱き続けていた

    「兵長にも世話になっているのに、仇で返すなんて、だめだよな……」

    リヴァイとハンジがお互いを信頼しあっていて、例え肉体的に関係を持っていないとしても、その関係が深いものだということはわかっていた

    その間に割って入る様な自らの気持ち……ハンジに対する恋心

    彼はそれを、何とか押さえ付けようと尽力していた

    だが、押さえ付けるほどに反発して、その想いは日増しに増えていくのであった
  34. 36 : : 2015/04/15(水) 16:31:32
    そんな副官の複雑な心境など露知らず……ハンジは団長室で愉しげな笑みを浮かべながら、すっとんきょうな声をあげていた

    「キース団長……また、ハゲが増したんじゃないの?!大丈夫ぅ?」

    「ハンジ、貴様というやつは……」

    キースは額に手を当てながら、首を振った

    「ハンジ、言葉が過ぎるぞ」

    エルヴィンの制止も意に介さない

    ハンジはキースの、確かに更にハゲが増した頭頂部に手を伸ばして撫でる

    「ここまできたら、いっその事つるっと全部剃っちゃった方がすっきりするよ! 頭の形きれいだしさ! 」

    「貴様が丸坊主にするなら、考えてやらん事はないぞ、ハンジ」

    キースは負けじと言い返す

    だがハンジはまた、不敵な笑みを浮かべながら言葉を返す

    「あー、私はあなたみたいにきれいな頭の型なんだじゃないから無理なんだよ。絶壁気味だからね……親がずっと同じ体勢で寝かせてたからかなぁ……?団長は、ずっとおんぶされたんじゃない?泣き虫だったんだよ!可愛いね!」

    「……エルヴィン、リヴァイ、こいつになんとか言ってやってくれ」

    「俺には無理だ」

    リヴァイは静かに口を開き、エルヴィンは頭を振った

    キースでさえも、天真爛漫なハンジに振り回されていたのであった
  35. 37 : : 2015/04/15(水) 16:31:50
    その夜、モブリットがハンジの部屋を訪れた時の事だった

    ハンジにあてがわれた部屋へと向かうべく廊下を歩いていると、視線の先に人影が見えた

    「リヴァイ兵長」

    モブリットが人影にそう呼び掛けると、人影はスタスタと彼に歩み寄った

    「よう、ハンジは留守だ。風呂に突っ込んできたからな」

    「あ、お手数お掛けしました。兵長の言う事は聞いてくれるので助かります」

    モブリットは、目の前に立つ上背の小さな男に頭を下げた

    「いや、ついでだったからな。お前は馬のクソ掃除係だったんだろ?……匂うぞ」

    「うわっ、すみません、気が付きませんでした。馬屋に長居してしまったので……」

    モブリットはあわててリヴァイから距離をとった

    リヴァイの潔癖ぶりは兵団では周知の事実

    臭い匂いを漂わせていて近寄るなどもってのほかだった

    「馬に悩みでも打ち明けたか」

    「……な、なんでわかるんですか?!」

    モブリットはリヴァイの言葉に面食らった

    「なんだ、本当に馬に相談してやがったのか。適当に言っただけなんだがな」

    「そ、そんな……」

    リヴァイが肩を竦めた隣で、モブリットは頭を抱えた

    「とりあえず、風呂いくぞ。そんなくせえ匂いさせてりゃあ、ハンジに清潔にしろだの言えねえからな」

    「は、はいっ、兵長! 自分すぐに支度して来ますんでっ!」

    モブリットはそう言いながら敬礼すると、一目散に駆け出していった

    「……せわしねえな」

    リヴァイは彼の後ろ姿を見送りながら、ぼそっと呟いた

    「まあ、だがたまには悪くはない」

    なんだかんだ言って、リヴァイにとっても、モブリットはかわいい部下であった
  36. 38 : : 2015/04/15(水) 16:32:22
    「兵長って……セクシーですよね」

    風呂は裸の付き合い

    同僚と距離を縮めるにはうってつけだ

    全てをさらけ出せる、それが風呂たるゆえんだ

    モブリットはリヴァイに対して、素直な感想を述べた

    「……おい、俺はそんな趣味はねえぞ。じろじろ見るな」

    モブリットに背中を流してもらいながら、リヴァイはぎろりと背後に鋭い視線を送った

    「ご心配なく。俺にもそんな趣味はありません。ただ羨ましいだけです、大人の色気というんでしょうか……そういうの、全くないんで、自分は」

    「ばかか、俺の方が羨ましいぞ?背丈がどうしても伸びなかったんだ。何でだろうな」

    リヴァイは背中を念入りに擦ってもらいながら、嘆息をもらした

    「身長ですか……地下街に長くいたからとか、ですかね?」

    モブリットが首を傾げると、リヴァイは首を振った

    「いや、地下街にいたやつでも、でかい奴は山ほどいやがったからな。遺伝だろうな」

    「俺は本当に羨ましいです。兵長の男っぷりとか、懐の広さとか。強さはもちろんですけどね。ハンジ班長と渡り合っていけるのもあなただけですし」

    モブリットはリヴァイの背に暖かい湯をゆっくりかけながら、ため息をついた

    「俺はあいつと渡り合ってるつもりはねえぞ?お前の方がよほどあいつに寄り添ってやってると思うがな」

    「……そうでしょうか。俺はそうは思いません。俺は今のところ、班長の何も役に立ててませんし、むしろ足を引っ張ってます。あ、勿論一刻も早く一人前になりたいと思ってはいるんですけどね……兵長、お背中痒いところはありませんか?」

    「いや、大丈夫だ。さて、次はお前の番だな」

    リヴァイはそう言うと立ち上がり、モブリットを椅子に座らせた

    「俺は自分で……」

    モブリットがおそれ多いと後ろを振り返った時、リヴァイは仁王立ちで静かに彼を見下ろしていた

    「俺の洗い方に不服でもあるのかよ」

    小さく、だが確実にその声はモブリットの耳に届いた

    その瞬間、モブリットは背筋をピンと伸ばした

    「めっ、滅相もない! よ、よろしくお願いいたします! 」

    「任せておけ。大掃除は得意だ」

    リヴァイはおもむろにたわしを構えた

    「兵長、たわしで擦るのは……!」

    モブリットはたわしを構えて不敵な笑みを浮かべるリヴァイから逃げようと、身をよじるが、リヴァイにがっちり肩をつかまれてしまう

    「じっとしてろ……上手く洗えねえだろうが」

    「兵長、背中が死にます!……痛?!あっ……」

    「いくらなんでもたわしで擦るわけねえだろうが。冗談通じねえな、お前」

    わしゃわしゃわしゃ……

    たわしのかわりに、よく泡立ったスポンジで優しく背中を洗うリヴァイ

    「たわしで皮を削がれるのかと思ってました……」

    「んなことするわけねえだろうが。俺は結構」

    「はい、兵長は優しいです……ありがとうございます」

    モブリットはリヴァイの言葉を遮りながら、目を閉じた

    モブリットは確かに、リヴァイの優しさを感じ取っていた

    「おい、うっとりすんな」

    「兵長に惚れてます、自分……」

    「たわしはどこだ、たわし」

    そしてリヴァイも確かに、モブリットに対して弟の様な情を抱いていたのであった
  37. 39 : : 2015/04/15(水) 16:33:29
    「はぁーっ、極楽ですねぇ……」

    湯船に体を浸けながら、モブリットは大きく伸びをした

    「クソの臭いは消えたか?」

    「はい、お陰さまで……兵長ありがとうございます」

    「ならいい」


    ピチャッ……

    風呂場に訪れたしばしの静寂

    微かな水滴の音だけが耳に入ってくる


    「兵長は、恋をした事はありますか?」

    「……何だ、突然。恋愛相談か?」

    「まあ、そんなところです」

    モブリットはそう言うと、リヴァイに笑いかけた

    だがリヴァイはその表情に、どことなく寂しげなものを感じていた

    「地下街なんざろくなもんじゃねえ。だが、恋するに値するような女はいた」

    「そうですか、兵長はもてますしね。地下街でもきっと皆の羨望の眼差しを受けていたんでしょう」

    モブリットはリヴァイを、眩しげに見つめた

    「おい、じろじろ見るな」

    「羨望の眼差しを向けているだけなんですが……俺は兵長を、本当に尊敬しているんですよ」

    「そうか、そりゃありがたいな。で、何が聞きたい?クソメガネの事だろう?」

    リヴァイは唐突に話を切り出した

    「……はい、そうです。俺は今、自分が嫌なんです」

    モブリットはため息をついた
  38. 40 : : 2015/04/15(水) 16:34:03
    「なるほどな。やっぱりお前はハンジが好きなんだな」

    「はあ、多分……すみません、兵長」

    リヴァイに一通り話した後、モブリットはしょんぼりと頭を下げた

    「なんで謝るんだ、お前」

    「だって、お二人は相思相愛じゃないですか……俺は、邪魔なんかしたくないのに、なんでよりによって気になる人がハンジさんなんでしょうか……」

    モブリットはそこまで言うと、ザブンと頭の先まで風呂に浸かった

    ブクブクと空気が水面に上がる

    しばらくリヴァイはその様子を眺めていたが、一分程経っても浮き上がってこないのを見て、モブリットの顎を手で押し上げた

    「……おい、死ぬぞ?」

    「はは、死ねませんよ。さすがに」

    モブリットは自嘲気味に笑った

    「調査兵、風呂で溺れて死亡、とか明日の新聞に載るところだったぞ」

    「兵長が犯人みたいに言われそうですね」

    「……やめてくれ、俺は前科者なんだぞ?それこそ言い訳すら出来ずにブタ箱行きだ」

    リヴァイは頭を振った

    「前科……とは言え、地下街で生きるためにはいたしかたなかったんでしょう。俺は踏み入れたことがないんでわかりませんが……兵長が訳もなく人を殺めるとは思えませんから」

    「まあ、ろくでもねえ場所には変わりねえ。だが、あそこにも精一杯生きてる奴がたくさんいる。いつか日の下で暮らしたいと夢見てる奴等がな」

    リヴァイは天を仰いだ

    「巨人さえいなくなれば、地下街の人々も、外へ出て生活出来ますよね……壁外には広大で肥沃な大地が広がっていますから」

    「ああ、そうだな」

    モブリットの言葉を聞いたリヴァイは、顔を部下に向けた

    モブリットは、遠くを見通している様な奥深い瞳を、天に向けていた

    「ハンジも、お前が好きだぞ」

    「はい、部下として、可愛がって頂いています。ですが、恋愛対象としてではないでしょう」

    「…………どうだろうな。あいつの考えてる事は、俺にもわからねえ。ただ言えるのは、お前がどうしたいかだ。ハンジを自分のものにしてえなら、俺に遠慮する事はねえ。大体、相思相愛ってなんだてめぇ……勝手に決めやがって」

    リヴァイはふん、と鼻を鳴らした

    「相思相愛じゃないですか、どう見ても。お似合いですし」

    「俺はあいつが嫌じゃねぇが、そういう関係でもねえ。あいつくらいしか気を許せる奴がいなかっただけだ」

    「またまた、兵長素直じゃないですねってちょっと、にらまないで下さいよ……」

    リヴァイに鋭い視線と殺気を投げ掛けられて、モブリットは身を小さくしたのであった
  39. 41 : : 2015/04/15(水) 16:34:23
    「とにかく、その女にはもう一度会って、ちゃんと落とし前つけてこい」

    「はい、わかりました。必ずそうします」

    モブリットは素直に頷いた

    「まあ、次の壁外調査で生きて帰ってからの話だがな」

    「確かに、そちらの方が難題です……」

    モブリットは肩を落とした

    彼はまだ、自分に自信が持てていなかった

    こうしてリヴァイに話を聞いてもらっていなければ、きっと前を向く事すら出来なかっただろう

    いつも、誰かに助けてもらわなければ前に進めない……そんな自分に嫌気がさしていた

    そんな彼の悲痛な胸の内を知ってか知らずか、リヴァイはゆっくり口を開いた

    「なぁ、モブリット」

    「はい、兵長」

    「俺はな、自分がハンジを好きか嫌いかと聞かれりゃあ、嫌いじゃねえ。だがな、俺は奴と一緒になる気はねえ。誰とも、一緒になる気はねえんだ」

    リヴァイの言葉の真意を読み取るように、モブリットはじっとその小さいが整った造作の顔を食い入るように見つめた

    「要するに、あいつが前を向いてりゃあそれでいい。勿論前を向くために俺が必要ならば、出来ることはする。だが、俺には出来ねえ事は山ほどある。そこで、お前の出番だ。わかるか?」

    リヴァイの回りくどいわかりにくい説明は、だがモブリットにはしっかり伝わっていた

    「……二人がかりですか?」

    「まあ、そうとも言う。お前がいなけりゃ、ハンジは死ぬぞ?今あいつの暴走を止める役目は、お前にしかできねえ。だから、お前は死ぬなよ?」

    リヴァイはモブリットに、人差し指を突きつけながらそう言い放った

    「……はい、兵長。ありがとうございます」

    「おい、てめえ、抱きつくな!なつく相手間違ってんじゃねえ、バカが!」

    リヴァイは突然モブリットに抱きすくめられかけたのを寸前でかわし、部下を水中に押し込んだのであった
  40. 42 : : 2015/04/15(水) 16:34:47
    「へえ、リヴァイと風呂入ってたんだ。楽しかった?」

    モブリットがハンジの部屋に戻ると、すでに上官は寝間着に着替えてベッドに腰を下ろしていた

    「はい、楽しかったですよ。話を聞いてもらっていました」

    「そっかぁ。同性にしか打ち明けられない悩みみたいなのもあるしね」

    ハンジはまだほんのり濡れた髪をタオルで拭きながら、意味深な表情を見せた

    「あなたにも殆ど同じ事をお話ししましたよ?」

    「全てではないだろ?私にはまだ何か隠してるはずだよ、君は」

    「……次の壁外調査で生き残っていれば、全てをお話しするつもりです」

    モブリットはそう言うと、真摯な眼差しをハンジに向けた

    「そうか、わかった。じゃあ生き残らなきゃね。君も、私も」

    「はい、精進します……髪、解かしましょうか」

    モブリットは、棚からなけなしの美容用具の一つであるブラシを取り出し、ハンジに歩み寄った

    「おっ、よろしく頼むよ! モブリットは髪の毛解くの好きだしね。髪フェチだろ?」

    「……誰が髪フェチですか。あんたがまともに髪の手入れをしないから仕方なく……」

    「いつもありがと、モブリット」

    そう言って微笑むハンジは、間違いなく魅力的な女性で、しかも強くて凛々しい兵士で……

    好きになっても仕方がないじゃないか、と変に納得したモブリットであった
  41. 43 : : 2015/04/15(水) 16:35:42
    二日後

    早朝のシガンシナ区南壁の開閉門前に、調査兵団が整列し、前進の合図を待つ

    今回の遠征は、すばやく目的地に到達し、拠点を設置後またとんぼ帰りするという旅程だ

    夜には帰還予定であった

    100人程の調査兵が、馬に乗り、緊張の面持ちを見せている

    リヴァイは先頭に近いところで、空に目を向けていた

    「リヴァイ、何かあるのかい?」

    隣にいたハンジの問いに、リヴァイは頷く

    「ああ、白い鳥だ。壁外へ飛んでいった」

    「いいね、自由に空を飛べるって。私たちも翼は持ってるんだけどな」

    ハンジはそう言いながら、胸のポケットに手を当てた

    そこには大きな二枚の翼が描かれた紋章があった

    「いつか、飛べる日がくるのでしょうか」

    そう言葉を発したのは、随分顔色が悪いモブリット

    ハンジは彼の頭に手を伸ばし、くしゃっと混ぜた

    「当たり前だろ?そのために前に進むんだ。そんな顔してちゃだめだよ」

    「しけた面みせんな、モブリット」

    二人の上司に励まされ、モブリットは歯をくいしばって力強く頷いた

    その時、前進の合図と開門の鐘が鳴り響いた

    845年初頭の壁外調査が、幕を開けた
  42. 44 : : 2015/04/15(水) 16:36:03
    「あーっ、いい空気! 楽しみだなぁ!」

    ハンジは壁外に飛び出すや否や、手綱を離してばんざいをした

    「は、班長!危険です!」

    「わくわくしてきたよ、モブリット」

    「な、何がですか?」

    目を輝かせるハンジに嫌な予感がして、モブリットは眉を潜めた

    「決まってるじゃないか! 巨人をザックザックと切り刻み放題! 再生するからいくらでも切れるし、ストレス発散さ!」

    「やっぱり…………班長、無茶はよして下さい。ザックザックはいいんですけど、どうせならうなじだけをザックリと……ほら、兵長みたいに」

    モブリットは、後方に下がったであろうリヴァイがいる方向を指さした

    「リヴァイの戦いも間近で見たいから、ちょっくら離脱……」

    「あんた、一兵卒じゃないんですから、勝手な行動は慎んで下さい!」

    モブリットの剣幕に、ハンジはぷうっと頬を膨らませた

    「けーち」

    「……そんな顔しても可愛くありません」

    モブリットはプイッと顔を背けた

    「あっ、モブリット顔真っ赤だ! 場違いに照れてるぞ?!」

    「うるさい! あんたこそ場違いな顔してないで、真面目に真剣に任務についてください!」

    モブリットの叫び声に、馬が一瞬身震いした

    「わかってるよ……ぷくく」

    「ごめんな、びっくりさせて……全てあの人が悪いんだよ……?」

    慌てて馬のたてがみを撫でるモブリットを見ながら、含み笑いをしているハンジであった
  43. 45 : : 2015/04/15(水) 16:36:48
    「右前方、赤の信煙弾確認!巨人です! 」

    西の方角からの信煙弾に、部隊全体が回避行動をとろうとした矢先だった

    「左後方、黒の信煙弾……奇行種です!」

    東の方向からも信煙弾があがる

    「挟まれた?」

    ハンジの言葉に、モブリットが頷く

    「その様ですね……索敵班が無事ならいいんですが」

    「左側索敵班からは、陣形を閉じる指示への返事もない。右にはリヴァイがいるから大丈夫そうだけど……左は、なんだか嫌な予感がする 」

    ハンジはそう言うと、くるりと馬を返した

    「は、班長?! 上からの指示を待ってから!」

    「だめだよモブリット。私の嫌な予感は当たるんだ。君も一緒に来るよね?」

    モブリットはしばしハンジの顔色を伺っていたが、そこに冷静さを見出だして息をついた

    「勿論、お供します」

    「よし、行こう。周囲に充分気を付けて」

    ハンジはそう言うと、モブリット一人を伴って陣形を離れた



    その頃リヴァイは、ハンジの想像通り右側前方の巨人を数体駆逐していた

    「ちっ……」

    リヴァイが索敵を担当していたのは右側後方

    前方から巨人多数と必死の形相で訴えた後、それを伝えた兵士は息絶えた

    リヴァイが駆け付けた時には、右側前方の索敵班はほぼ壊滅

    数人の兵士を助けるために、リヴァイは辺りにひしめく巨人を手当たり次第駆逐した

    「リヴァイ兵長……すみません……」

    辛うじて生き残った索敵の兵士の言葉に、リヴァイは首を振った

    「いや、それより中央の指示に従え。陣形を閉じるらしいぞ」

    リヴァイはそう言うと、左……東の方角に目をやった

    そして、馬頭を東に向ける

    「兵長、どちらへ?」

    「左側後方から返事がねえ。様子を見てくる……お前たちは上からの指示に従え」

    「はい、わかりました。兵長、お気を付けて」

    リヴァイは一路、黒の信煙弾があがった東側を目指す
  44. 46 : : 2015/04/15(水) 16:37:11
    「なんだ……これは」

    左側後方にハンジ達が見たもの、それは……

    凄惨な殺戮現場だった

    15メートル級の四つん這い奇行種が、兵士をまさにイッキ飲みする場面

    辺りに散乱する、同僚たちの体の一部

    生きている者は……

    「ハンジ、はんちょ……逃げて……」

    辛うじてそう言葉を発する、奇行種にくわえられている兵士のみ

    辺りは不気味なまでに静まり返っていた

    「…………くっ」

    ギリッ、とハンジは唇を噛み締めた

    その時だった

    後方からパシュッと、聞き馴染みのある音がする

    そして静寂を破り、空を切る様に飛ぶのは……

    「モブ、リット?!」

    ハンジは目を疑った

    いつもなら自分の行動を制止する事に徹するモブリットが、まさか積極的な行動に出るとは

    彼は、奇行種の背中に深くブレードを突き刺して取りついた

    ぎゃぁおぉん……

    異様な声をあげながら悶える奇行種の口の中から、ぽろりとこぼれ落ちた兵士

    ハンジは馬を走らせて、兵士を救出した

    「無事、だったか」

    「ハンジ、班長……」

    兵士は涙と血でぐしゃぐしゃな顔をハンジに向けて頷いた

    ぎゃぁぁおぉん!

    未だに巨人の背中に取り付いているモブリットを、振り払おうと大暴れする巨人

    「……君は、ここでちょっと待ってて」

    ハンジがそう言って、トリガーを握ったその時

    ズバシュッ

    まるで稲妻の様な光が、奇行種の首をうなじごと切り落とした

    ズ……ン

    奇行種は地に伏した

    その背に軽やかに舞い降りたのは……

    「リヴァイ!」

    彼は背中に取り付いたまま動かないモブリットに、跪いて声をかけた

    「おい、生きてるか?」

    「…………はい、腰が抜けてますが」

    「よくやった。討伐補佐1だな」

    リヴァイはそう言うと、モブリットの頭をぐしゃっと混ぜた

    「………………モ、も、も、モブ……モブリットぉぉ!」

    馬を捨てて駆け寄るハンジ

    「ハンジ班長、ご無事……っ?!」

    ハンジはモブリットの言葉を遮るように、自分の唇で、彼の唇を塞いだ

    それを離すと、今度は頬を思いきり引っ張る

    「君ねっ、私の美味しいところ持っていってくれちゃって!っていうか、無茶するなよ!寿命が縮んだよ!」

    「…………あ、あ、あんた公衆の面前で何を……じゃなくて、あんたがいつもやってる事をやっただけじゃないですか!俺の寿命がいつもどれだけ縮んでいるか、わかりましたか?!」

    ハンジの言葉に、モブリットも応戦した

    「私はいいんだよっ!」

    「よくありませんよ!」

    「……お前ら、場所をわきまえろ」

    リヴァイはため息混じりに言葉を発した
  45. 47 : : 2015/04/15(水) 17:11:05
    モブリットが記念すべき討伐補佐1を記録した遠征ではあったが、今回の遠征では100人の兵士の内、壁に戻ってこれたのはたった20人だった

    調査兵団は大打撃を受けた

    損害の割りには実益は皆無に等しく、団長であるキースは、民衆の前で頭を下げるまでの事態となった

    調査兵団300人のうち、半日で80人を失う事態に、留守役だった兵士たちも、壁外から戻ってきた兵士たちも、一様に意気消沈していた

    討伐補佐1と、上官からの熱い口づけをもらったモブリットも、また同様

    厩で座り込んで、俯いていた

    「……もう、調査兵団は終わるのかもしれないな」

    彼はボソッと呟いた

    彼は団長が民衆に膝を折り、頭を下げたのを見たのであった

    精神的にも肉体的にも疲れが限界に来ている

    彼は部屋に戻る事もせず、その場で目を閉じた



    その頃リヴァイは、ハンジと共に立体機動装置の確認をしていた

    「大丈夫そうだ。君のは?」

    「……ああ、問題ない。ガスも詰めとけよ?」

    「うん」

    さすがの二人も、言葉数が少ない

    彼らもまた、調査兵団の将来を案じていた

    「どうなっちゃうのかな……」

    「なるようにしかならねえ」

    ハンジの力ない言葉に、リヴァイは静かに答えた

    「そうだね……折角のモブリットの記念すべき初討伐補佐なのに……お祝いムードじゃなくなったね」

    「そんなもんで祝って欲しいなんざ、あいつは思ってない」

    「……そう、かな」

    ハンジは項垂れた

    「それにお前、キスしてやったじゃねえか。あいつにゃそれが一番の褒美だ」

    「そうかな?凄く怒ってたけどなぁ」

    ハンジは出来事を反芻するかの様に、視線を上に向けた

    「ついでに処女とやらも捧げてやったらどうだ」

    「…………処女とやらじゃなくて、正真正銘処女さ」

    「ちっ……股を開けて指さす奴が、正真正銘処女なわけねえ」

    リヴァイは忌々しげに舌を鳴らした

    「いつでも試していいよ?リヴァイ」

    「処女は面倒くせえから断る」

    「えっ?!そんなもんなのかい?!てっきり男は処女が好きなのかと!」

    ハンジはリヴァイにガバッと詰め寄った

    「知らねえ。処女だろうがヤってようが、断る」

    「えーっなんだよその拒絶は!頑なだなあ」

    ハンジは肩を竦めた

    「とにかく、モブリットは犬じゃねえんだからな。ちゃんと扱ってやれ」

    「…………ああ。生きて帰ったら、話があるって言われたからね。ちゃんと向き合うつもりさ」

    ハンジは呟くようにそう言うと、立ち上がった

    その時だった

    「ハンジ班長、リヴァイ兵長、大変ですっ!」

    兵士が突然、慌ただしげに部屋に駆け込んできた

    「どうしたんだい?そんなに慌てて」

    「ハンジ班長、大変です!50メートルを越える巨人によって、ウォールマリアが、壁が……突破されました!」

    「な、何だって?!」

    ハンジはリヴァイと顔を見合わせた
  46. 48 : : 2015/04/15(水) 17:11:41
    「エルヴィン、一体どんな状況なんだい?!」

    ハンジとリヴァイが厩に行くと、目の前を数人の兵士が馬で駆けて行った

    「突如現れた50メートルを越える巨人に、外壁を破壊された。内壁も、別の巨人によって破壊された」

    「エルヴィン、待ってよ。壁が破壊されたって……嘘だろ?」

    「嘘じゃねえ、あれを見ろ」

    リヴァイの指さす方向には、ありえない光景があった

    「巨人が……入ってきてる」

    「リヴァイ、ハンジ、巨人との交戦は……なるべく避けるんだ、いいな?」

    「シガンシナの人は?避難は出来てるのかい?」

    ハンジの言葉に、エルヴィンは首を振った

    「被害は甚大だ。今回の遠征に参加していない兵士には避難誘導に行かせた。お前たちは早急にトロスト区へ帰還せよ」

    「エルヴィン、でも、私達主力部隊が戦わなかったら、マリアは巨人で埋め尽くされちゃうよ」

    ハンジはエルヴィンに詰め寄った

    「クソメガネ、俺たちは疲弊している、戦えねえ」

    リヴァイが静かに口を開いた

    「マリアが崩壊したのは確かだ。これ以上ここにいることは許さん。ハンジ、命令だ、トロスト区へ帰還せよ」

    「エルヴィン分隊長、支部内全て確認しました。残留している兵士はおりません」

    「よし、リヴァイ、ハンジ、お前たちも出るぞ?」

    「……わかったよ」

    ハンジは目を伏せたが、やがて頷いた

    「モブリットは、もう出たのか?あいつは馬のクソ当番だったはずだが」

    リヴァイの言葉に、エルヴィンが答える

    「モブリットは厩にいて、一番に飛び出して行ったらしい。町の東側の商店街から逃げ込んできた住人に応対した後にな」

    「…………嘘だろ?モブリット一人で?無茶だ」

    「俺が報告を受けた状況だ。もう確認する手段もない。とにかくトロスト区に帰還する。お前たちも来い」

    エルヴィンの有無言わさぬ態度が、二人に事態の深刻さを知らしめた

    エルヴィンは部下達をつれて、馬を走らせていった

    「行くぞ、クソメガネ。奴は、お前より弱いが、お前より冷静で、危険を見極める目を持っている。無茶はしねえはずだ」

    ハンジの土気色にすら見える顔色を見たリヴァイは、励ますように声をかけた

    だが、ハンジは首をブンブン振った

    「違うよ! だってさっきも、無茶したじゃないか! あんな危険な奇行種に向かって突っ込んでいってさ!どこが冷静なんだよ!」

    ハンジは大声で叫んだ

    だが、リヴァイは更に言葉を重ねる

    「あれは無茶じゃねえ」

    「な、なんでだよ!」

    「…………俺が、教えたからだ。動きが読めねえ奇行種には、まず動きを見るために背中に取り付けってな。奴等の間接は人間と同じだ。背中には手を回しにくいからな」

    リヴァイはそう言うと、騎乗した

    ハンジはしばらく何かを考える様に目を伏せていたが、やがて目を開け、馬に乗った

    「……うん、モブリットを信じる。無茶はしていないって、信じるよ」

    「ああ。だが、念のため、奴が行ったかもしれねえ商店街回りで行くか」

    「リヴァイ、ありがとう……」

    ハンジは泣き笑いの様な表情をリヴァイに向けた

    「奴は無茶はしねえが、お人好しが過ぎるからな。まあそんな性格だから、出会えたんだがな……お前に」

    「そうだったね。モブリットに会ったのは、あの子が暴漢から人を守っていた時だったしね」

    「そうだ。そのお人好しのせいで困ってやがる可能性が無いとはいえねえからな」

    ハンジはリヴァイと顔を見合わせた

    そして、シガンシナ区の東側にある商店街経由で、シガンシナ脱出を図るため、馬を駆りたてた
  47. 49 : : 2015/04/15(水) 17:12:36
    シガンシナ区東 商店地区

    「はぁ、はぁ……」

    モブリットは疲弊しきった身体を、商店の屋根と屋根との境目に隠していた

    既に巨人の領域と化したシガンシナ

    辺りには無惨に、人だったものが散乱していた

    大きな屋根と屋根との間

    人が入り込めるギリギリのスペースに身を潜めながら、彼は必死に頭をフル回転させていた

    どうしたら生きてシガンシナから出られるかを

    彼は知らなかったのだ

    シガンシナ区だけでなく、ウォールマリアの領域全てが巨人のものとなった事を

    馬は、巨人と交戦している最中に行方不明になった

    彼は必死で、討伐補佐どころか、巨人を数体一人で討伐していた

    だが、それも限界になっていた

    ボンベにいっぱい詰めたはずのガスは殆ど無く、遠征から帰って休む暇のなかった身体は、もうこれ以上動きそうになかった

    だが、それでも彼は、何とか状況を打開しようと考える事を諦めなかった

    何故なら……


    「お兄ちゃん……」

    「大丈夫、きっともうすぐ、助けが来るから。心配しないで。静かにしているんだよ?」

    彼の腕には、小さな男の子が収まっていたからだ

    そう、彼は上官達が危惧していた様に、お人好しを地でいっていたのである


    彼が馬屋で居眠りをしていた時、異変が起きた

    商店地区から逃げ込んできた女性が、子供が逃げ遅れたと泣き叫んでいたのだ

    町に巨人が出没しているという情報も、同時刻に駐屯兵団から知らせがあった

    モブリットは様子を見るために、東側商店地区へと馬を走らせた

    まだその付近には巨人の気配はなかった

    だが、単眼鏡で壁の方を見れば、多数の巨人がシガンシナを蹂躙しているのをつぶさに確認できた

    彼は迷った

    一旦報告に戻るか、それとも商店地区に取り残された子供を救出するか

    そして選んだのである

    お人好しの彼らしい選択を



    彼が子供を探しだした時、まさに間一髪だった

    子供は三メートル級の巨人に、今にも食われそうな状況だった

    モブリットは迷わず、立体機動に移った

    15メートル級奇行種に張り付くほどの力を、いつの間にか手にしていたモブリットにとって、三メートル級は敵ではなかった

    彼は無駄のない動きで巨人をしとめ、男の子を抱いた

    彼が来なければ、子供は死んでいただろう

    モブリットは子供を抱いて、馬を走らせた

    だが、巨人はみるみるうちにその数を増やす

    子供を軒に隠して、何体か夢中で巨人を倒している最中、馬とはぐれてしまった

    そうして彼は、屋根の隙間に身を潜める今の状況に陥った
  48. 50 : : 2015/04/15(水) 18:45:08
    「(どうしよう……壁まではぎりぎりガスはもつか。なるべく屋根づたいを歩いてガスを温存したいところだよな……この子を抱いて飛ばなきゃいけないし……)」

    モブリットは無言で考えを巡らせる

    「(ただ、巨人の数が異様だ。もう、戦えるだけのガスは無いし……巨人が大人しくなるらしい夜まで待つか)」

    「お兄ちゃん……お母さんは?」

    不安そうに話しかけてきた男の子に、モブリットは笑顔で答える

    「大丈夫だよ、先に逃げてもらったんだ」

    「そっか、よかったぁ」

    男の子は頷くと、モブリットの手をぎゅっと握りしめた

    「大丈夫、必ずなんとかするからね」

    モブリットは小さな手を握り返した

    彼とてここで死ぬわけには行かない

    何としてでも、生きて戻らなければならない……あの人の元へ

    上官と同じ夢を追うために

    勝算が無いわけではない

    まだ、諦める段階ではないのだ

    夕暮れから、夜に移り変わる時刻

    後数刻で夜の帳が降りる

    それまで身体を休めれば、体力も少しは回復するだろう

    そうすれば、壁に向かって移動できるはずだ

    彼はそう考えていた

    だが、その考えは脆くも変更を余儀なくされる……
  49. 51 : : 2015/04/15(水) 18:45:26
    ハンジとリヴァイは、エルヴィン達の隊を離れ、一路東へ

    途中何度も巨人と遭遇しては、それを相手にはせず、撒いた

    彼らは自分達の活動限界をよくわかっていた

    なるべく戦いを避けながら、商店地区に突入した

    入り組んだ地形は、馬の機動力を殺ぐ

    だが、立体機動には適した場所でもあった

    建物が無惨に破壊され、人が沢山犠牲になっているのを目にしたハンジは、不安げに辺りを見回す

    「まさか、こんな所に一人で来てやしないよね……?」

    「わからねえ。じき日が落ちる。それまで探していなけりゃ……」

    「……リヴァイ、あれ、あれは」

    ハンジがある一点を指差して、言葉を発した

    「馬だ」

    リヴァイはハンジの視線の先に目をやると、目を見開いた

    「リヴァイ、あれは……モブリットの馬だよ」

    「……ちっ、奴は逃げてねえのか」

    リヴァイは舌打ちをした

    その表情は、悲痛に歪んでいた

    「きっと、この辺りの何処かにいるよ……!無茶はしないはずだ。夜を待って、避難するつもりで……」

    「巨人が数体、商店地区に入り込んでやがる。夜まで隠れていられねえ」

    「そうだ、信煙弾を打とう。そしたらきっと……見つけて返事をしてくれるよ!」

    ハンジは慌てて信煙弾を装着した

    「クソメガネにしちゃあいい案だ」

    「打つよ?」

    ハンジは上空に向けて一発、信煙弾を発射した

    ドーン!

    信煙弾は上空に緑の印を描く

    二人は耳を済ませて目を凝らし、辺りに神経を張り巡らせた
  50. 52 : : 2015/04/15(水) 18:45:42
    モブリットの目論見が脆くも崩れ去る瞬間


    ズシン……

    壁外では聞き馴染みのある音が、彼の耳に届く

    そして同時に、建物が揺れる

    「…………」

    彼は無言で身体を起こした

    目の前には、嫌な笑みを浮かべる巨人

    「……きょ、巨人だ……怖いよ」

    男の子はモブリットにしがみついた

    彼は、男の子をぎゅっと抱き締めた後で頭を撫でてやり、トリガーを握りしめた

    「大丈夫、ちょっと待ってて」

    ガスはもう、後1、2度吹かせば空になるだろう

    これが、最後

    例え目の前の巨人を倒したとしても、もう壁を登るガスは残っていない

    彼は選択肢を無くした

    戦うしかない

    心の中で、男の子にごめんと呟く

    もう、助けてあげられない

    そして、目を閉じると彼の脳裏に鮮明に甦る、敬愛する上官の顔

    つい先程、彼の唇に触れた上官の唇の感触を確かめる様に、彼の指先は自分の唇をなぞった

    「……ハンジさん、すみません」

    彼は意を決して、巨人を見据えた

    巨人がまさに、その手を彼に伸ばした瞬間


    ドーン!

    彼の目線の先、巨人の更に後方上空に音を立てて上がったもの、それは……

    「信煙弾?」

    彼はその瞬間、男の子を抱き、回避行動をとる

    数瞬後、彼がいた場所を巨人の手が押し潰した

    彼は、巨人の手が瓦礫から持ち上がる間に、急いで信煙弾を打ち上げる


    ドーン!

    赤い信煙弾

    巨人との遭遇を知らせる合図

    そして彼は男の子を後ろに庇い、巨人と向き合った

    「仲間が来たよ……あと、一踏ん張りだ」

    彼は自分に言い聞かせる様に、男の子に声をかけた
  51. 53 : : 2015/04/15(水) 18:46:02
    モブリットは、男の子を抱きながら必死で、巨人の攻撃から逃げた

    数度の攻撃を辛くもかわす

    だが、彼の体力に限界が訪れた

    受け身を取ろうとした矢先、体に力が入らなくなる

    全身の筋肉が、全て言うことを聞かなくなった瞬間

    彼は背中から、屋根の上に叩きつけられた

    「うっ……」

    苦痛に歪む顔

    全身に激痛が走る

    背中をやられたかもしれない

    だが、彼の気力はまだ死んではいなかった

    「お兄ちゃん……痛い?」

    腕の中で心配そうに言葉を発する、幼い子供

    そんな勇敢な子供の前で、彼は諦める素振りを見せるわけにはいかなかったのだ

    「大丈夫」

    「あっ……」

    その時男の子はまた、モブリットにしがみついた

    巨人が、今度こそ食らってやるとばかりに、大きく口を開いて近付いてきたのだ

    モブリットは、トリガーを握ろうとしたが、もはや指先すら力を入れることが叶わなくなっていた

    「(ここまで、か……本当に、ごめん)」

    モブリットは視線だけを動かして、男の子を見た

    彼は目を閉じた

    その時だった

    パシュッ……

    立体機動のアンカー射出音が耳に届く

    彼が目を開けたその時

    巨人の頭上を高く舞い上がる人影が目に飛び込んでくる

    壁外で何度も目にした、真似ることなど出来ない、舞うような立体機動

    空を舞うまさに戦女神

    その姿を、彼が間違えるはずがない

    「ハンジ……さん」

    そして、横合いから躍り出る、まるで予想もつかない軌道を描きながら、考えられないようなスピードで翔ぶ、戦神

    「リヴァイ兵長……」

    彼の瞳が二人の天才を捉えた時、意図せずその瞳から涙がこぼれ落ちた

    彼の目の前で鮮やかなコンビネーションをみせながら、華麗に巨人を駆逐する上官達

    彼は確かに、そこに神より信じられる者を見た
  52. 54 : : 2015/04/15(水) 20:13:38
    「大丈夫か?モブリット」

    屋根に降り立ったリヴァイが、倒れているモブリットに歩み寄った

    「兵長……はい、すみません」

    モブリットは頷く事しか出来なかった

    「リヴァイ兵士長だ! 」

    モブリットの胸の上から飛び起きた男の子が、目を輝かせた

    「よう。ボウズも無事か?」

    「うん、平気だよ! お兄ちゃんが守ってくれたから!」

    「そうか、良かったな、ボウズ。モブリット、動けるか?」

    リヴァイは跪き、男の子の頭を撫でてやりながら言った

    「兵長、体に力が入りません……受け身を取ろうとしたんですが」

    「背中をやられたか。だがな、一刻も早くここを抜けなきゃいけねえ。ウォールマリアはもうだめだ。トロスト区まで引っ込むぞ」

    「シガンシナだけではないんですね……あの、ハンジさんは?」

    モブリットは先程確かに目にしたはずの上官の姿を探して、視線を移動させた

    「ハンジは下にいる。お前の馬も連れてきてやったぞ。馬に乗るのは無理か?」

    「俺を馬にくくりつけて下さいませんか?あいつは賢いので、あなた達の後を追うはずです」

    「……わかった。ボウズは俺が引き受ける」

    こうして、モブリットと男の子は、九死に一生を得た
  53. 55 : : 2015/04/15(水) 21:03:12
    リヴァイの手を借りて屋根から地面に降りたモブリットの目が、やっとハンジの姿を捉えた

    「班長……すみませんでした」

    モブリットは軋む体に鞭を打ち、頭を下げたが、ハンジは彼にちらりと目を向けただけで、何も言葉を発しなかった

    「急ぐぞ。さっさとローゼに引き上げる。エルヴィン達に追い付けるかもしれねえ」

    「はい、兵長」

    リヴァイはモブリットを馬に跨がらせた

    渾身の力で何とか馬に跨がり、念のため身体を馬に括りつけたモブリットは、指先の感覚を確かめる様に手綱を握った

    何とか力が入る様だった

    最悪の事態だけは避けられそうだ

    モブリットは息をついた

    兵士生命に関わる怪我をするわけにはいかないのだ

    言葉を掛けてくれないハンジに対して一抹の不安はあった

    怒っているのだろう……当然だ

    勝手に無茶をして、迷惑をかけてしまったのだから

    謝る言葉すら見つからない

    ウォールマリアの崩壊……100年の平和は仮初めだったのだ

    これからどうなるのだろう

    彼は様々な不安を抱えながら上官達の後を追う
  54. 59 : : 2015/04/15(水) 22:09:44
    シガンシナからウォールローゼへ、その移動はまさに時間との戦いだった

    時間が経てば経つ程、巨人はウォールマリア領域内に深く入り込む

    巨人よりも速い脚を持つ馬で休みなく走り続けながら、本拠地トロスト区へ急ぐ

    何体もの巨人を馬の機動力で何とかやり過ごし、夜通し走り続けた

    休息はとれない

    もはやウォールマリア領域内に、安全な場所など無いのだ

    ハンジは最後方で馬を走らせながら、満身創痍のモブリットを目で追う

    辛うじて馬に掴まっている彼の身体が不自然に揺れる度、落馬の危険性を考えてしまい、目を離せなかった

    モブリットの更に前方には、男の子を乗せたリヴァイがいる

    少年はしっかりリヴァイにしがみついている様だった

    もう一度、モブリットの背中に視線を移す

    意識はあるようで、時おり何かを確認する様に手綱を握り直している

    ハンジは小さく息をついた


    ハンジは、モブリットを救出した時、何か言葉を掛けるべきだったと思っていた

    だが、彼をまさに間一髪で見つけ出した時、そしてまだ生きているのを確認した時、いろいろな感情が内から溢れだして、整理がつかなくなった

    間に合った事は奇跡だ

    たまたま偶然、助けられたのだ

    二度はない

    それほど、瀬戸際だった……自分の片割れの命

    リヴァイの協力がなければ助けられなかった

    何故自分に一言もなく、町に出たのか

    いや、報告などする暇がなかったはずなのだ

    一刻を争う出来事だったのだから

    だが、何も知らせず行く事はないじゃないか

    無理に助けに行く必要だって、ないじゃないか

    いや、慎重だがお人好しの彼の性格を考えれば……

    ハンジは行き場の無い苛立ちを隠すことが出来ず、唇を噛み締めた
  55. 61 : : 2015/04/15(水) 22:41:52
    「ボウズ、腹減ったか?」

    馬を走らせながら、リヴァイは自分にしっかりしがみつきながらも、前を見ている男の子にそう声をかけた

    「うん、お腹すいた、リヴァイ兵士長」

    「だよな、俺もだ」

    リヴァイはおもむろに胸のポケットを探った

    「これ、食っとけ。不味いがな」

    そう言って男の子に手渡したのは、野戦糧食だった

    「うん……はい」

    男の子は長細いそれをパキッと割って、リヴァイの口へ入れた

    「……やっぱり不味い」

    「そうかな、お腹すいてるから、おいしいよ」

    男の子はぽりぽりと音をたてながら、それをゆっくり咀嚼した

    「……そうか、もう食いもんはそれしかねえから、後はローゼまで我慢だ」

    「うん……シガンシナは……おうちは、お母さんは」

    男の子は俯いた

    「うちはまた作りゃいい。お前の母さんは、先に避難したらしいから、ローゼで会える。早く行ってやらねえと、心配してるはずだ」

    「うん。お母さん泣き虫だから……早く行かなきゃ」

    「……夜明けには着くから、眠たくなったら寝てろよ」

    リヴァイはそう言うと、ちらりと後方に目をやった

    後ろにはちゃんと、モブリットとハンジが着いてきていた

    リヴァイは肩で息をした
  56. 62 : : 2015/04/15(水) 23:12:07
    夜通し走り、途中でエルヴィン達本隊と合流し何とか巨人に遭遇することなく、トロスト区へ帰還した四人

    男の子を駐屯兵に預け、三人は調査兵団本部へ戻った

    モブリットを医療班に見せ、部屋で休ませたリヴァイとハンジは、がらんとした食堂でやっと食事を口にした

    「……大変な事に、なったね」

    「ああ。壁の安全神話は崩れたな」

    ウォールマリアからの避難民で、トロスト区は溢れかえっていた

    沢山の領土を失った人類は、狭い場所で更に息を潜めて生きていかねばならなくなった

    「今、避難誘導をしているらしい。私たちもゆっくり休んでいられそうにないね」

    「……とりあえず、遠征に出た兵士は休息しなけりゃ、もたねえ。俺たちもな」

    さすがのリヴァイも、疲労困憊していた

    「うん、リヴァイも顔色よくないよ。早く休まなきゃ」

    「……お前は奴の所へ顔だしてやれよ?飯持っていってやれ。まだ一言も口聞いてねえだろうが」

    リヴァイはハンジに、いつもよりは幾分曇った目を向けた

    「リヴァイ、眠そうだね」

    「話をそらすな。返事は?」

    「…………わかってるよ。ありがとうね、リヴァイ」

    ハンジのため息混じりの言葉を耳にしたリヴァイは、大きく延びをした後、立ち上がりその場を後にした

    その後ろ姿を目で追いながら、ハンジは何かに耐えるように、固く口を結んだ
  57. 63 : : 2015/04/16(木) 15:21:44
    夜の帳がすっかり降りたこの時間に、モブリットの部屋は明かりも灯されておらず、窓から射す月明かりだけが部屋の光源だった

    寝ていると思い、ノックもなく部屋に入ったハンジは、ベッドの上で身体を起こしていた副官を目にして、少し後悔した

    何となく気まずかったのだ

    だから夕食だけ置いて、そっと部屋を出る算段をたてていたのだが……それは早くも変更を余儀なくされた

    「班長」

    モブリットはハンジに、そう呼び掛けた

    その声はいつもより随分力無く、若干震えている様に聞こえた

    ハンジは返事をせず、夕食のトレイを机に置いた

    「夕食、食べれそうなら食べておいて」

    ハンジは自分が意地が悪いと自覚していた

    彼は満身創痍の状態で馬に揺られ続けて、体力を消耗しきっているのに

    ベッドから離れた机に食事を置いて、食えなどと言う自分を

    もし逆の立場なら……

    彼は優しくて気の利く男だから、恥ずかしがりながらもちゃんと口に運んでくれるだろう

    そんな事を考えて、ハンジはため息をついた

    「はい、すみません、班長。わざわざありがとうございます。後程、頂きます」

    ハンジの頭の中を知ってか知らずか、モブリットは何時もの様に丁寧に、ハンジに接した
  58. 64 : : 2015/04/16(木) 15:23:26

    「…………あの子、ちゃんとお母さんと会えたらしいよ」

    ハンジはそう言うと、扉に向かった

    この部屋にいると、頭の中が整理できなくて、暴言を吐いてしまいそうな、そんな感覚に陥っていた

    「そうですか……良かったです。ありがとうございます、班長」

    「礼ならリヴァイに言いなよ。彼は君が取り残されてやしないかって心配してくれてたんだ」

    「…………はい、ちゃんと礼をします。すみません、班長」

    モブリットは静かにそう言って、頭を下げた

    ハンジはその瞬間、くるりと踵を返した

    そしてベッドにつかつかと駆け寄り、彼の胸ぐらを掴んだ

    「なんで、謝るんだよ!君は、謝らなきゃいけないような事をしたのか?! 私が怒っているから謝ってるだけだろ?!」

    「班長……俺は」

    「私がなんで怒ってるかなんて、君にはわからないさ! 何に腹を立ててるかなんて! 」

    ハンジの剣幕に、だがモブリットは真摯な眼差しを上官から離そうとはしなかった

    「あなたは怒って当然です。俺の勝手な行動で、あなたとリヴァイ兵長に迷惑をかけて、しかも命の危険まで……謝罪の言葉もありませ……」

    「違う、違うよモブリット! やっぱり君はわかってない!」

    ハンジはモブリットの言葉を遮るように、叫んだ

    その瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちるのが、夜の闇の中でも把握できた
  59. 65 : : 2015/04/16(木) 15:24:23
    「は、班長……」

    突然泣き出したハンジに、モブリットは狼狽えた

    涙を拭おうと彼女の頬に手を伸ばしたが、どうしても触れることが出来なかった

    「勝手に出てってさ……お人好しもたいがいにしなよ……どれだけ心臓が縮む思いしたと思ってるんだよ……君の馬をあそこで見つけた時、もう君は死んでるかもしれないって、そう思って、気が可笑しくなりそうだったよ……」

    「班長……すみません」

    モブリットは項垂れた

    「私は、君が思っている以上に、君を必要としているんだよ」

    ハンジは胸ぐらを掴んでいた手を離して、彼の頬をそっと撫でた

    「……俺は、あなたに迷惑をかけてばかりで、ずっと、情けなく思っていました」

    「……君に迷惑かけられた事なんかないよ……そんな風に思ったこと、一度もない」

    そう言うとベッドに上り、ハンジはモブリットの身体を抱き締めた

    「は、班長……」

    「よく、頑張ったね……あの状況で、まさか生きているなんて……本当に、よくやった。最後まで、生きることを諦めなかったんだよね?でも、怖かったよね……?ごめんね、遅くなって……」

    ハンジはモブリットの背中をゆっくり撫でてやりながら、涙声でやっと、言葉を口した

    「班長、俺は……」

    モブリットは、ついに堪えきれなくなった涙を瞳から押し流しながら、ハンジの背中に腕を回した

    腕に少し力を込めれば、更にしがみついてくる上官を、この世界で唯一愛しいものだと確信して、耳元で何かをささやいた

    「ありがとう、モブリット」

    ハンジは彼の温もりをしっかり確認するかの様に、彼を抱く腕にぎゅっと力を込めた
  60. 66 : : 2015/04/16(木) 17:03:46
    お互いの温もりを確認する様に、ベッドの上で身を寄せ合っていた二人であったが、やがてハンジが顔をあげた

    「君がさっき言った言葉は、本気だよね?」

    ハンジは熱を帯びた瞳をモブリットに向けながら、そう問い掛けた

    「はい、班長」

    モブリットは頷いた

    「君の全てを擲って、私に着いてきてくれるんだよね」

    「はい、ハンジさん。あなたに何処までも着いていきたい、それが俺の夢です。俺は、あなたと同じ景色が見たいんです……できればあなたの側で」

    モブリットは小さな声で、だがはっきり言葉を紡いだ

    「……それなら、これからもきっちり生き残れ。私の背中を守れるのは、君しかいないんだから、頼むよ。後さ……」

    ハンジは唐突に、モブリットの上半身をベッドに押し倒して、彼の腰の辺りに馬乗りになった

    「なっ、班長、何を?!」

    モブリットは身体を起こそうとするが、すかさずハンジが彼の両肩をベッドに押し付けた

    「もう逃げられないよ、モブリット。観念して、君の童貞私にちょうだい?私も処女だし、上手くできないかもしれないけどさ」

    「ちょっと、なんでそんな話になるんですか?!」

    モブリットの焦る言葉に、ハンジはほくそ笑む

    「君が私に遠慮ばかりしてるからさ……ずっと着いて来るんだったら、いろんな意味でこうした方が、都合がいいんだよ、わかるかい?」

    「ハンジさん、顔怖いです! 百年の恋も醒めますよ!それに……あなたが処女かどうか知りませんが、俺は童貞じゃないですよ?」

    ハンジはモブリットの言葉を聞いた瞬間、首を傾げた

    「えっ?いやいや、童貞だろ?あー、娼館で済ませた事あるとかかい?」

    ハンジは手のひらをぽんと拳で叩いた
  61. 67 : : 2015/04/16(木) 17:04:59
    「ち、違いますよ。普通に訓練兵になる前にも恋人はいましたし、訓練兵時代にも……自慢じゃないですが、調査兵団に入るまでは、切れ目が無かったですよ」

    モブリットは指折り数えながら、そう答えた

    「何だよ、ずっとリアル充実してたのか……うぶな反応だから、てっきり童貞くんなのかと……ちっ」

    「舌打ちなんかなさらないで下さいよ……それに、あんたには兵長がいるじゃないですか。それなのになんで俺に迫るんですか?」

    「あーっ、それだ、それ聞きたかったんだ!」

    ハンジは大きな声で叫んだ

    「耳が裂けそうだ……声大きすぎです、班長」

    「あのさ、処女ってめんどくさいの?なんで?男の側になんか特殊な技能でも必要なのかい?私はずっと、男は処女が好きだと思っていたのに、リヴァイは処女はめんどくせぇって言ったんだよ。ねえ、なんでめんどくさいの?教えてくれ、モブリット」

    真っ赤な顔を自分に近づけて、鼻息荒く質問攻めにするハンジに、モブリットは面食らって口をぽかんと開けた

    「は、ハンジさん落ち着いて下さい……近いですって」

    「教えてくれなきゃ、脱がす」

    ハンジの手が、モブリットの寝間着のズボンに掛けられた
  62. 68 : : 2015/04/16(木) 17:06:13

    「わ、わかりました、わかりましたから……!処女がめんどくさいというのは、よく分からないです。確かに経験者を相手にするよりは、丁寧に手順を踏まなければいけませんが……」

    「ほうほう! モブリットが詳しそうだ! 意外だ!で、その手順とは?!」

    ハンジはますますモブリットに顔を近づけた

    「そ、そんな事、口で説明するのは嫌ですよ……恥ずかしい」

    「ふぅん、じゃあ実践してくれ」

    ハンジは静かにそう言い放つと、モブリットの上着のボタンを手際よくはずし始めた

    「こ、こらっ!?処女のくせに積極的に脱がしに掛からないで下さいよ! 興が削がれてしま……あっ」

    モブリットは慌てて口をつぐんだ

    「ほう、そうか。恥じらったりした方が興奮するか……じゃあ……こほん。初めてなの、優しくしてね?……これでどうだ」

    「なんですか、その取って付けた様な言い方は……勃つものも勃ちません」

    「嘘つけ、ちょっと反応してるじゃないか」

    ハンジはおもむろに、副官のズボンの下に手を突っ込んだ

    「…………兵長があんたを抱きたがらない理由がわかりました」

    「なんだよ、それ」

    「ムードもへったくれもない、愛のやり取りにしては淡々とし過ぎていて、且つまるで巨人への探究と同じ様に、気の済むまで身体をいじくり回される……そんな情事とはいえない光景しか思い浮かびませんし……」

    モブリットは、盛大にため息をついた

    「やるのかやらないのか、どうするんだよ?まあ返事を待つ必要はないんだけどさ……」

    「やりますよやります、もうあんたに振り回されるのはこりごりだ。男の純情を踏みにじられ続けて早一年……ベッドの上ではどちらが上か、知らしめて差し上げます!」

    モブリットはハンジに馬乗りにされながら、闘志のこもった瞳をハンジに向けた

    「ほう……たぎるねえ。やっと吹っ切れたか。でもさ、やっぱり初めてだから、優しくしてね」

    「今更優しくしてね、なんて言ってその通りにすると思いますかっ?!」

    「うん、思う。だってモブリットは優しいからね」

    ハンジの言葉に、モブリットはごくりと唾を飲み込んだ

    「あんたじゃないんだから、無茶をするわけないでしょ……」

    モブリットは呟くようにそう言うと、ハンジの身体を自分に引き寄せた

    ハンジはモブリットの胸に顔を埋めて、大きく息を吸い込んだ
  63. 69 : : 2015/04/16(木) 17:08:17
    「モブリット、あのさ、服は自分で脱いだ方がいいかな?君の服は脱がせてあげるからね。男を脱がすってなんかたぎるよ」

    ハンジはモブリットの返事など待つ素振りをみせず、さっさと副官の服を脱がしにかかる

    寝間着の下には、包帯が巻かれていた

    「あー、そういえば、君怪我してたんじゃないか。大丈夫なのかい?できそう?」

    ハンジはモブリットの顔を覗きながら言った

    「今日は止めておきましょうか」

    「まあ、柔な鍛え方してないし、大丈夫だろ。うーん、モブリットはやっぱり男だねえ……胸板が厚い。いいなぁ……」

    「あんた、話聞いてないでしょ」

    自分の胸に頬擦りするハンジに、呆れた表情を向けた

    「じゃあ下を拝見……ってわっ! 」

    ハンジがモブリットのズボンを脱がそうと、腰を上げたその瞬間

    彼は華麗に身を翻し、ハンジを逆にベッドに押さえつけた

    「っつ!……さてハンジさん、覚悟はいいですか?」

    体が痛んだのだろうか、モブリットは一瞬顔を歪めたが、すぐに真顔に戻ってハンジに射すような視線を向けた

    「モブリット、顔がいつもと違う気がするよ」

    「そうですね、あなたにはお見せした事が無い顔です。一生見せないつもりだったのに、あんたのせいで……」

    静かにそう言うモブリットの顔は真剣そのものだったが、頬が朱に染まり、瞳は熱が帯びて、まるで燃えている様だった

    「君の全てを、私に見せてくれ。そして、私の全てを知ってもらいたい。だって君は、私の片割れなんだから」

    「……はい、ハンジさん」

    モブリットはその返事を皮切りに、処女だと言う上官のために、ゆっくり行動を開始する
  64. 70 : : 2015/04/16(木) 18:04:00
    「モブ……リット……」

    ハンジは、自分に覆い被さって首筋や耳にキスを落としていく副官の名前を呼んだ

    彼は一瞬、ちらりと視線を上官に向けたが、返事をする暇など無いとばかりに、舌でざらりと彼女の耳を舐めあげながら、指先を鎖骨から下方へと滑らせる

    「あ……っ」

    ハンジは耳に与えられた刺激に、思わず声を出す

    そして自分が出した声に自分で驚愕する

    「なんて声だ……恥ずかしい……」

    ハンジは一人ごちたが、モブリットはそれにも返事をしない

    彼の指は、器用にハンジの寝間着のボタンを外しながら、胸の谷間を露にする

    そして、控えめだが確かに膨らんでいる胸をその目でしっかり確認した後、躊躇う事なくそれに手で触れた

    指先で押さえてみれば、柔らかく、だがほどよい弾力で手に吸い付いてくる

    モブリットはその感触を覚え込ませる様に、何度もやんわりと揉んだ

    「あ……ね、モブリット……モブリット」

    「……何ですか?少し黙ってて頂きたいんですが」

    モブリットはそう言うと、熱い息を吐いた

    ハンジに名を呼ばれて、普段の彼ならば返事は真っ先に、必ず行う

    だが今は、彼にはある意味余裕が無かった

    組み敷いているのは、間違いなく彼がこの世で一番敬愛する人であるし、自分よりも大切な人である

    いつもは凛々しい上官が、自分が与えた刺激に良い反応を見せて声を上げた瞬間、彼はとてつもなく焦った

    処女だからゆっくり、優しく……しなければならないと思う理性が、弾け飛びそうになったのだ

    久々に、興奮していたのかもしれない

    いや、久々ではない

    彼は初めて、理性を失うほど興奮していたのであった

    「だ、だって一回も返事しないんだもん……あぁっ」

    彼はハンジの話を最後まで聞く事なく、彼女のまだ立ち上がっていない乳房の頂きに吸い付いた

    「ひゃ……あ……モブ……」

    普段は可愛らしい副官の豹変に、ハンジは面食らう

    彼女はただ、与えられる刺激に耐える様に、下半身をきゅっと締めて、自分の胸元でうごめく彼の頭髪を握りしめた

    モブリットは不意に、顔を上げた

    髪を思いきり掴まれて、我に返ったのだろうか

    ハンジが目をぎゅっと瞑って、身体を硬直させている事に気がつき、はっと息をのんだ

    「ハンジさん……すみません。大丈夫ですか?」

    彼はハンジの頬をそっと撫でながら、極力優しい声色でそう言葉を掛けた

    ハンジが恐る恐る目を開けると、いつもの心配性な副官の顔をしたモブリットがそこにいた

    「……大丈夫、だよ、モブリット。でも、ちょっと恥ずかしいんだ。自分が自分じゃなくなるみたいでさ……変な声、出ちゃうし」

    ハンジは唇を少々尖らせた

    「すみません、俺も久々で……自分が自分じゃなくなっていました。ですが……これも、俺なんです。色っぽい声を出す班長も、班長なんです。ですから……」

    「うん」

    「お互いの全てを教え合うわけですから、恥ずかしがらずに、見せてください」

    モブリットの言葉に、ハンジはニヤリと笑った

    「なるほどね……こういう行為の時の私を知りたいわけか。わかったよ、とことん付き合うさ。研究熱心なのはいい事だからね。じゃあさ……」

    ハンジはそこまで言うと、モブリットの頬に手を添えた

    「私も遠慮せず、君の事、隅々まで知り尽くしてあげるよ」

    その挑戦的なハンジの言葉は、モブリットの理性を完全に食らいつくした事は、言うまでもない
  65. 71 : : 2015/04/16(木) 18:04:54
    翌早朝


    「リヴァイ兵長ぉぉお!」

    モブリットが、リヴァイの部屋にノックもなく押し入り大声で叫んだ

    「…………な、んだ……」

    就寝中だったリヴァイは、事態を確認しようと扉の方に目を向けた

    リヴァイの視線の先には、着崩れたパジャマ姿のモブリットがいた

    「兵長、助けて……」

    「だから、なんだ」

    リヴァイは、その場に崩折れるモブリットに目を擦りながら応対した

    「兵長……ハンジさんが……ハンジさんが……」

    「ハンジがどうかしたのか」

    モブリットのただならぬ雰囲気に、リヴァイはベッドから降りて跪いた

    「もう、無理です! 俺には出来ません!」

    「だからなんだと……」

    髪を振り乱しながら叫ぶモブリットに、更に質問を投げようとした時だった

    バターン!

    けたたましい音と共に、部屋の扉が開いた

    「モブリット……こんな所にいたんだね……探したんだよぉ……ふふふ」

    「ぎゃっ!?ハンジさんっ……」

    モブリットは、部屋に入ってきた上官の姿を見るなり、悲鳴をあげてリヴァイの背中に隠れた

    「さぁ、早く部屋に戻って続きをしよう……?」

    「いや、嫌です……もう、もう無理です……」

    モブリットはゆるゆると首を振った

    「何の続きだ?」

    リヴァイの問いに、ハンジが無邪気に口を開く

    「リヴァイ、夜の営みだよ」

    「なんだ……モブリット、さっさとやってこい」

    「いやだぁぁぁ!もう、後は兵長に……」

    モブリットはリヴァイの背中をハンジに向かって押しながら叫んだ

    「だめだよ……モブリット。全てを教えてくれるって言ったじゃないか……まだ、勃起した状態の長さも太さも図ってないし……回数を追う毎に射出される精液の量の変化と、持続時間……まだまだ知らないことが沢山あるんだからさぁ……」

    「ハンジさんっ、そんなもん一晩で調べ尽くせるわけないでしょうが! 兵長助けて下さいよぉぉぉ!」

    「なるほどな、のろけか。そんな事でこんなに朝早く起こすな」

    リヴァイは顔を紅潮させて怪しく微笑むハンジに、モブリットをつきだした

    「リヴァイ、ごめんねぇ。帰ろっか、モブリット……うふふ」

    「し、処女なんて、嫌いだぁぁ」

    ハンジはモブリットを半ば引きずりながら、部屋を後にした


    「……ほらな、めんどくせえだろ、ハンジは」

    リヴァイは肩を竦めて、またベッドに潜り込んだのであった
  66. 72 : : 2015/04/16(木) 18:12:15
    翌朝


    「よお」

    「…………おはよう、ございます」

    「リヴァイ、おはよ! 」

    朝の食堂にて、三人は挨拶を交わした

    一人は清々しい顔を、一人は生気を失った顔を、リヴァイに見せていた

    「モブリット、本懐を遂げて良かったじゃねえか」

    「……よ、良くないですよ!だいたい兵長が処女がめんどくさいなんて言うから……」

    「そうだよ、モブリットに教えてもらったんだよ?処女を抱くときの手順。何もめんどくさくないじゃないか」

    ハンジは口を尖らせた

    「で、持続時間なんかは測れたのか?」

    「うん!えっとね、回数を追う毎に長くなる傾向にあってね……一回目が……むぐぐ」

    「アホな事言いふらさないで下さいよ!」

    モブリットは慌ててハンジの口を手で塞いだ

    「まあ、仲直りできたなら良かったな。ところでモブリット……」

    リヴァイはモブリットに、真摯な眼差しを向けた

    「な、何ですか?」

    「お前に助けを求めてきた、ボウズの母親……美人だったぞ」

    「あ、そうなんだよ。めちゃくちゃ美人だった!色っぽかったし!」

    ハンジがリヴァイに同意した

    「は、はあ……そうでしたか?緊急事態だったんで、顔まではっきり把握していませんでしたが……」

    「お前……美人が困ってたから無理して助けたんじゃねえだろうな……?」

    「そうだよ。前に助けた女も超美人だったしさぁ。助ける人、顔で選んでるんじゃないのぉ?」

    リヴァイとハンジの言葉に、モブリットがついにぶちんと切れた

    「か、か、顔で選んでなんかいませんよ!失礼な! あんたたちに着いていこうなんて間違ってました! 俺にはあんたたちが神様に見えたというのに……俺の目は節穴だった!」

    モブリットは半泣きになりながら叫んで、朝食も程ほどに立ち上がった

    そして、駆け出そうとした瞬間、リヴァイに足を掛けられる

    「わっ!」

    前のめりになってこけそうになった所を、ハンジが寸前で支えた

    「壁内の安全巡回に行くぞ。早く飯食え」

    「冗談通じないねぇ、モブリットは。まあそこが可愛いんだけどさぁ」

    二人の上司に促されながら、モブリットは渋々朝食を口にするのであった
  67. 73 : : 2015/04/16(木) 18:12:48
    こうして三人の関係は、徐々に、だが確実にその絆を強固な物にしていく


    お互い信頼し合える数少ない同志として、これからも厳しく険しい道のりを、前を見据えて歩み続けるのである


    例えその先には、闇が待っていようとも



    だが出来うるならば……

    平穏が訪れることを

    お互いがお互いに願ってやまない


    ─完─
  68. 74 : : 2015/04/16(木) 18:28:16
    執筆お疲れ様でした。
    88さんの直接的(?)なエロの表現が久しぶりに読めたので嬉しかったです。

    次回作も期待しています、これからもモブリットを書いて下さいね。88さんの書くモブリットは可愛らしくて好きです。
  69. 75 : : 2015/04/16(木) 18:33:20
    後書きは今まで書いたことが無かったんですが、今回は彼と皆さんにお礼を言いたくて、思いきってみました。

    彼と言うのはもちろん、モブリット・バーナー君です。
    彼に出会ってなければ、私は作品の大半を産み出せぬままでしたので、彼には頭が上がりません。

    ハンジの後ろにいつも控えていたモブが、モブリットという名前で密かに活躍をしはじめる前から、私はいつも原作やアニメで、彼の姿を探していました。

    その時には彼がこんなに立派なwキャラになるとは思ってもいませんでしたが……今では充分存在感を見せつけてくれて、諌山先生、アニメのスタッフさん、ありがとうございます!
    あんたら神や!

    そして、こうして一年以上こちらで作品を書き続けてこれたのは、一重に読んでくださる皆さんのお陰です、いつも本当に感謝しています。
    あんたらも神や!

    これからも細く長く書き続けたいなあと思っておりますので、どうか生暖かい目で見守って下さい。(ああ、この人またモブリット書いてるよ。ストーカーやろ……的な目で?)
  70. 76 : : 2015/04/16(木) 18:37:29
    >>74
    とあちゃん☆
    いつも読んでくれて、コメントしてくれて、本当にありがとう!
    ちょっと駆け足投稿だったのに、すぐに見つけて読んでくれて……ほんまに嬉しいです( ;∀;)
    あー、エロのレス、公開するのを最後の最後まで躊躇ってたけど……嬉しいっていってもらえて嬉しいw
    また懲りずに書いちゃうからね(*/□\*)
    ありがとう!
  71. 77 : : 2015/04/16(木) 18:38:38
  72. 78 : : 2015/04/16(木) 18:40:09
    >>じけいさん☆
    いつもありがとうございます(〃⌒ー⌒〃)ゞ
    はちはちがんばった!つもり(*/□\*)

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fransowa

88&EreAni☆

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