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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品はオリジナルキャラクターを含みます。

この作品は執筆を終了しています。

『さざ波に寄せて』 ③ ※エレミカです 『時を超えて』番外編

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  1. 1 : : 2015/03/05(木) 22:44:17
    『さざ波に寄せて』 ② ※エレミカです 『時を超えて』番外編の続きです。



    http://www.ssnote.net/archives/32128



    最終章では、オリジナルキャラクターを出します。(といっても回想でさらっと触れる程度ですがw)



    第一回の転生ではエレミカですが、現代部分となる第三回の転生ではアルクリになる予定です。



    よろしくお願いします!



  2. 2 : : 2015/03/05(木) 22:49:04
    第13話
    さざ波に寄せて




    2861年
    シガンシナ区・アルレルト法律相談事務所




    「ありがとうございます!!! 本当にありがとうございます!!!」


    「いえいえ、よく頑張りましたね? 辛かったでしょう?」


    行政裁判で勝訴できたことに、僕の依頼人は泣いて喜んでくれた。









    現代において僕は、弁護士として働いている。


    司法試験を一発で合格し、弁護士資格を得た僕は、横暴な政治家から庶民を守る正義派の弁護士として知られるようになった。


    強きをくじき、弱きを助ける・・・・・今の僕の理想だ。


  3. 3 : : 2015/03/05(木) 22:50:04




    ここまで来るのに、僕は大きな過ちを犯してきた。


    一度目の転生で人生を誤り、すべてを壊してしまったツケは、二度目の転生にまでその影を落とした。


    二度目の転生でエレンと再会したとき、僕は二等兵になっていた。


    宰相から二等兵へ・・・・・・大した出世だよね?


    でも結局、僕の身の丈には二等兵がお似合いだった。




  4. 4 : : 2015/03/05(木) 22:51:30





    「・・・・・・ふぅ。」


    依頼人が帰宅し、仕事が一段落すると、いつものようにパイプに火をつけた。


    パイプを吹かしながら、夕日の光が差し込む事務所の椅子に深く座り込んでいると、ドアをたたく音が聞こえた。


    ・・・・・・今日は恋人と一緒に夕食を食べる約束をしていたからね。


    急いでパイプの火を消して、椅子から立ち上がった。



  5. 5 : : 2015/03/05(木) 22:52:06




    「今日は一段と冷えるね、アルミン。」


    「わざわざ来てくれてありがとう、クリスタ。寒かったろう?」


    両腕でクリスタを抱き寄せる。


    「ふふ、アルミン、今日は何月何日か分かる?」


    「今日? 11月3日だけど・・・・・・あっ!」


    「うん、誕生日おめでとう! アルミン!」


    すっかり自分の誕生日だということを忘れていた・・・・・・でも、クリスタは気にかけていてくれたんだね。


    「受け取って、アルミン。」


    そういうとクリスタは、カバンの中から丁寧にラッピングされたプレゼントを取り出した。


    「一生懸命選んだの、開けてみて。」




  6. 6 : : 2015/03/05(木) 22:53:39




    プレゼントの包みを開けると、中のものに驚かされた。


    「これって、『中世抒情詩撰』!? すごく高い稀覯本だよね? ありがとう!!!」


    中世の有名な詩を集めたこの本は、僕が喉から手が出るほど欲しかったものだ。


    僕はその場ですぐにこの本のページをめくった。


    「・・・・・・ん?」


    目次を見ていた僕は・・・・・・懐かしい名前を目にした。でも、何かが違う。




  7. 7 : : 2015/03/05(木) 22:54:14








    『さざ波に寄せて』・・・・・・カレン・H・レイス









  8. 8 : : 2015/03/05(木) 22:54:51




    カレンにはHなんてミドルネームなんて入ってなかったはず。


    急いで僕はその詩が収められたページをめくった。






    ・・・・・・間違いない。この詩はカレンの詩じゃない。


    カレンの母親、ミカサの詩だ。






    一度目の転生の時、エレンとミカサとの間に出来た女の子がカレンだ。


    でも、一体どうしてカレンは・・・・・・













    ふと、カレンの名前の下を見ると、献辞が記されていた。





  9. 9 : : 2015/03/05(木) 22:55:46










    今は亡き父、A・Hへ、愛をこめて








  10. 10 : : 2015/03/05(木) 22:57:30




    嬉しさと後悔が一緒になって・・・・・・涙が溢れた。


    「・・・・・・僕は・・・・・・カレンをろくに、愛せなかったのに・・・・・・うう・・・・・・うわあああぁああぁぁぁああ!!!」


    「アルミン! どうしたの!?」


    急に泣き出し、膝をついたアルミン。










    カレンには分かっていた。


    父が、自分のしてしまったことに、強い自責の念を抱いていることを。


    それ以来、人を愛せなくなってしまったことを。


    そして、それは、現世では救われないということも・・・・・・。





    父の死後、カレンは一計を案じた。


    父の気を引く方法で、いつか伝わることを願った。
















    (カレン)の愛が、千年以上の時を超えて、(アルミン)に繋がった。






  11. 11 : : 2015/03/06(金) 13:12:35
    第14話
    時を超えて ~armin's tale~





    「落ち着いた? アルミン?」


    「うん・・・・・・ごめんね、かっこ悪いところを見せちゃってさ。」


    恋人の前で大泣きしてしまい、アルミンは死にたくなるほど恥ずかしかった。


    「その、カレンっていう人は誰なの?」


    言葉に詰まるアルミン。



  12. 12 : : 2015/03/06(金) 13:13:15




    一度目の転生の話を、僕は誰にもしたことがなかった。


    僕ばかりじゃない・・・・・・エレンも、ミカサも、ジャンも、エルヴィン団長でさえ、この話には口を閉ざしている。


    「・・・・・・辛い記憶だったのね。無理はしなくていいよ?」


    クリスタは心配そうに僕の顔を覗き込んだ。


  13. 13 : : 2015/03/06(金) 13:13:44





    ・・・・・・決めた。


    「いや・・・・・・無理はしていないよ、クリスタ。」


    「アルミン?」


    覚悟を決めて、僕は事務所の椅子にゆっくりと座った。


    「カレンは・・・・・・一度目の転生で、エレンとミカサの間に生まれた娘なんだ。」


    クリスタは不安になった。アルミンはこれまで詳しい自分の転生の話をしたことがなかったからだ。


    聞こうとしても、いつもはぐらかされていた。


    なのに、どうしてアルミンは話す気になったのだろう?



  14. 14 : : 2015/03/06(金) 13:15:01





    「詩集に会ったこのA・Hってスペルは?」


    「うん・・・・・・A・H(アルミン・アルレルト)、僕のスペルだ。」


    クリスタは事態がよく呑み込めないと顔をしている。


    「エレンとミカサが死に、僕が引き取った・・・・・・カレンは僕の養子だったんだ。」


    「えっ!?」


    「・・・・・・僕が二人を巻き込んで、殺してしまったんだよ。」


    「そ、そんな・・・・・・。」


    アルミンは平素からどこか物憂げな表情をしている。クリスタは漠然とそう感じていたが、この時、その理由を察した。


    きっとアルミンは、前世で大きな罪を犯してしまっている。その罪悪感に、押しつぶされそうになっているのだと。





  15. 15 : : 2015/03/06(金) 13:15:27








    物憂げな顔が、より一層悲愴な表情になる。


    「話は今から1511年も前のことなんだ・・・・・・長くなるけど、聞いてくれるかい?」


    そういうとアルミンは、パイプに火をつけて、一度目の転生の話を始めた。


    当事者を除いて、今まで誰にも明かさなかった話。


    僕の、最も罪深い部分。


    クリスタには、そのすべてを知って欲しい。











    外はあの時と同じように、強い北風が吹いていた。














  16. 16 : : 2015/03/06(金) 13:16:43











    ______________







    第15話
    彼岸





    1350年
    シュトルムブルク





    荒れ気味の海からは、冷たい潮風が吹き付けている。


    俺はエレンを抱きかかえ、馬を走らせていた。


    朔風は馬で移動する俺達を、容赦無く凍えさせる。


    海の冷気は包帯で覆われた傷口の中にも入り込んで、衰弱しているエレンを苦しめた。



  17. 17 : : 2015/03/06(金) 13:17:21






    城の外からは、牧童が笛を吹いているのが聞こえた。


    純粋な音色が物悲しく、明け方の城の中に響き渡る。


    エルヴィン王の追撃を振り切り、俺達は何とかシュトルムブルクに帰ってきた。


    必死に看病しているが、出血が止まらない。


    エレンの容体は、徐々に悪化していた。



  18. 18 : : 2015/03/06(金) 13:18:18




    「・・・・・・ジャン?」


    「気が付いたか・・・・・・エレン!」


    「ミカサは・・・・・・ミカサは・・・・・・どこなんだよ・・・・・・?」


    額に手を当てるジャン。


    物凄い高熱だ。


    俺は・・・・・・間違っちまったのか?









    俺は・・・・・・エレンを斬ってしまった。


    俺は・・・・・・なんてことをしちまったんだ。


    俺にはもう・・・・・・何が正しいのか、わからねえよ。




  19. 19 : : 2015/03/06(金) 13:18:47



    「大丈夫だ・・・・・今こっちに向かってる!」


    叫びたい気持ちを必死に堪え、何とか嘘を付く。


    「・・・・・・良かった。」


    安心したのか、穏やかな表情になるエレン。


    「ミカサが・・・・・・来る・・・・・・ここに・・・・・・。」


  20. 20 : : 2015/03/06(金) 13:19:33




    エレンの目には、ミカサの幻影が見えていた。


    ミカサが俺に、微笑んでいる。


    もっと近くに来てくれよ、ミカサ。


    ゆっくりと幻影は近づいてくる。


    喜びに震えた。


    「ミカ・・・・・・サ・・・・・・。」


  21. 21 : : 2015/03/06(金) 13:21:43



    呼吸が乱れ始める。


    「おい! しっかりしろ! エレン!!! もうすぐミカサがここに来るんだぞ!?」


    「なに・・・・・・いって・・・・・・んだよ・・・・・・もう・・・・・・いるじゃねえか・・・・・・。」


    エレンは相変わらず微笑んだままだ。








    幻影でも見ているのか!?


    まずいぞ、こんな時に。


    安静にしなきゃならねぇエレンが、幻影を見て興奮している。


    精神の高揚が、エレンの傷口をさらに悪化させていく。


  22. 22 : : 2015/03/06(金) 13:22:33




    ジャンは悲嘆にくれた。


    安らかに満ち足りているエレンの精神とは裏腹に、エレンの肉体は崩れていく。


    まるで、エレン自身がそうなることを望んでいるかのように。










    「っはぁ・・・・・・っはぁ・・・・・・ミカサッ・・・・・・今度はッ・・・・・・俺を・・・・・・温めてくれよ・・・・・・。」


    震える声で、今度はエレンが必死に訴え始める。


    再び意識が混濁し、沈んでいく。


    ここ数時間、エレンの意識は浮き沈みを繰り返していた。










    意識が沈むたび、エレンは死へと近づいていく・・・・・・分かっていても、もうどうしようもなかった。


    アルミンの調合した愛の秘薬の魔力に導かれ、愛することと死ぬこととが、同じになった。


    エレンの愛情は、エレン自身を破滅へと招いていた。



  23. 23 : : 2015/03/06(金) 14:36:29
    第16話
    惨劇





    「見ろ! 誰かが馬に乗って来るぞ!!!」


    見張りのこの一言に緊張が走る。


    「おい、一体誰が来たっていうんだよ!?」


    ジャンが剣を抜いて叫んだ。


    白いドレスを身に身に纏った黒髪の女性が近づいてくる。首にはマフラーを巻いている。


    「ミカサ王妃です!」


    その一言に、ジャンは心底ほっとした。しかし・・・・・・


    「奥のほうにはエルヴィン王の軍勢がいます!」


    「くそっ! ミカサは追撃されてんのか!!!」


  24. 24 : : 2015/03/06(金) 14:38:53




    「ああ・・・・・・ミカサが・・・・・・ここに!!!」


    再び意識を取り戻したエレン。


    「待ってろ・・・・・・今・・・・・・行く・・・・・・。」


    深手を負った体を起こした。エレンの顔が歓喜に輝いた。


    「ミカサが・・・・・・俺を・・・・・・癒しに・・・・・・・・・来た!!!」


    溢れる歓喜が、血となって傷口から流れ出ていく・・・・・・エレンの興奮は最高潮に達し、自ら包帯を剥ぎ取った。


    夥しい出血。


    「逝こうぜ・・・・・・俺たちだけの・・・・・・世界に・・・・・・」






    「エレン!!!」


    城の中に駆け込んだミカサが、くずおれるエレンを受け止めた。




    ミカサの目を見つめ、最後にエレンは、つぶやいた。











    「・・・・・・ミカサ・・・・・・・・・・・・」











  25. 25 : : 2015/03/06(金) 14:39:58








    「エレン? エレン!? 声を出して! 返事をして!!!」


    微笑んだまま、エレンの表情はもう動かなかった。


    「逝かないで・・・・・・エレン・・・・・・目を開けて!!!」


    ミカサの両目から、涙が溢れた。


    愛しい人は、もう目覚めることはない。









    「エレン・・・・・・あなたはまだ、死んでない。私と一緒になって、初めて、死ぬ。」


    ミカサは徐々に溺れはじめた。


    周りから、エレン以外のすべてが、少しずつ、消えていく。








  26. 26 : : 2015/03/06(金) 14:42:39



    「エレェェェン!!! うう・・・・・・このくそったれがああああ!!!」


    ジャンの両目からも、涙が溢れた。


    「エルヴィン王の軍勢が迫っています!!!」


    ジャンはエレンとミカサを見た。俺は、最後の義理を通す。


    「また会おうぜ、エレン、ミカサ。」


    そういうと、手に持った剣に力を入れた。


    「俺は・・・・・・二人を守ってやる!」


    城を守る壁の外へと、駆けだした。



  27. 27 : : 2015/03/06(金) 14:43:44












    「エルヴィン王! 人が来ます!」


    城の中から、剣を持った男が走ってくる。


    エルヴィン王の隣には、壁外の国の宰相が一緒にいた。


    自分の罪を告白し、三人を救うためにここに来たのだ。


    「ジャン!?」


    宰相は目を疑った。










    「うおおおおおあああああ!!!」


    ジャンはたった一人でエルヴィンの軍に斬りかかった。


    瞬く間に三人を斬り捨てる。


    更に、ジャンはエルヴィン王に斬りかかる。


    「王をお守りしろ!!!」


    ジャンに向けて、弓矢が引き絞られる。


    「止めるんだ!!! ジャン!!!」


    宰相は叫んだ。


    「・・・・・・アルミン!?」


    その瞬間、矢は放たれた。










  28. 28 : : 2015/03/06(金) 14:44:55


    沢山の矢がジャンの体を貫いた。


    心臓も射抜かれて、ジャンは絶命した。


    「ジャァァァン!!! うわあああぁああぁぁぁああ!!!」


    アルミンの悲痛な叫び声が響き渡った・・・・・・














  29. 29 : : 2015/03/06(金) 14:48:15





    城の中に入り、エレンが既に亡くなったと知ったアルミンの嘆きは尋常ではなかった。


    泣いて泣いて、声がかすれても、涙が尽きることがなかった。










    エルヴィンは粛然たる思いでこの惨劇を見渡した。


    アルミンがすべてを告白したことで、エレンが無罪だと知ったエルヴィンは、二人を許そうとここにやってきた。


    なのに、すべてはもう手遅れになってしまった。


    エレンとジャンはもう死んでしまった。


    私も、アルミンも、するべき選択を誤った。


    エルヴィンは、心の中で詫びていた。







    済まない・・・・・エレン、ミカサ、ジャン。


    感情を滅多に表に出さないエルヴィンも、その目に涙を湛えていた。




  30. 30 : : 2015/03/06(金) 14:51:43
    第17話
    子守唄 ~さざ波に寄せて~






    アルミンは、最後に一人残った妹、幼なじみの元へと駆け寄った。


    「しっかりするんだ! ミカサ!!!」







    ミカサの耳は、もう何も聞こえていなかった。


    ミカサの目は、もう何も見てはいなかった。


    ただ真っ直ぐに、エレンだけを感じている。








    僕もエレンを見ると、不思議なことが起こった。


    エレンの遺体から、赤い靄が立ち上り始める。


    まるで血が蒸発して、人の形を成したかのようだった。









    すると、ミカサは歌を歌い始めた。


    愛と死を主題に編んだ、哀切な歌。


    これまで僕が聞いた、どの声よりも哀しく、どの声よりも澄んでいた。





  31. 31 : : 2015/03/06(金) 14:53:11






    穏やかに あなたの顔に


    微笑んで 時安らかに


    満ちていく あなたの光


    見えてない? 周りの人に?






    赤い靄が、少しずつ、白い光へと変わっていく。


    その光が、はっきりとした人の形を成していく。


    かつて少女にマフラーを巻いてあげた、9歳の少年の姿になっていく。







    愛しい人の 胸元に


    顔をうずめて 囁くに


    溺れるといい? 泣くといい?


    愛に溺れて 死ぬといい?







    哀しみに満ちていた少年の顔が、穏やかになっていく。


    まるで、怖い夢を見た後に、子守唄を聞いて安心する子供のように。






    あなたの元に この想い



    さざ波に寄せ   うち沈み




    溺れていくの     海底に






    ミカサの体も白く光りはじめる。


    その白い光が、9歳の少女となっていく。


    マフラーを巻いた、在りし日の少女に。











    死んだあなたが    愛おしい





    あなたの胸に       うち沈み







    溺れていくの










    幸福に・・・・・・





  32. 32 : : 2015/03/06(金) 14:54:44






    少女は、少年に近づくと



    自分のマフラーを少年に巻いた



    少年は涙を流し



    そして





    少女に淡いキスをした











    二つの光は



    さざ波の音に



    消えていった・・・・・・







  33. 33 : : 2015/03/06(金) 14:56:35









    ミカサは



    エレンに寄り添い



    眠るように

























    息を引き取った










  34. 34 : : 2015/03/06(金) 14:56:51


























  35. 35 : : 2015/03/06(金) 21:00:39











    ______________





    第18話
    時を超えて ~armin's tale ②~





    2861年
    シガンシナ区・アルレルト法律相談事務所





    一晩かけて、アルミンは、自分の一回目の転生の話を、自分の罪をクリスタに告白した。


    話し終わる頃には、東の空から丁度、日の光が部屋の中に差し込み始めた。


    アルミンは沈痛な面持ちで涙を流し続けた。


  36. 36 : : 2015/03/06(金) 21:01:56


    しばらくの沈黙の後、アルミンが再び口を開いた。


    「結局・・・・・・僕は権力に弱かった。権力を背景に企んだエレンへの復讐は、エレンを殺し、ジャンを殺し、ミカサを殺した。


    この事件をきっかけに僕は失脚して宰相の地位を追われ、エルヴィン団長は保守派貴族を抑えられなくなった。そしてクーデターによって失脚し、壁外へと追放された。


    僕らが調査兵団だった時に築き上げた平和を、僕は壊してしまったんだ。」


    クリスタも、初めの人生ではヒストリア女王として、二度目の転生ではクリスタ大統領として、権力の頂点を極めた人間であっただけに、アルミンの苦悩は理解できた。








    政治は人間を化け物にする。力を持った人間は、その使い方をよく心得なければ、たちまち心の奥底にある凶暴性が顔を出す。


    アルミンの場合、復讐心が化け物だった。巨人だったのだ。そのために、アルミンは大きな苦しみを後世まで背負うこととなった。



  37. 37 : : 2015/03/06(金) 21:04:29


    「僕は壁外の国から亡命し、遠く知らない土地で、丁度国王の地位を追われたエルヴィン団長と再会した。


    団長はエレンとミカサの子供であるカレンを大切に育てていた。でも、再会したころの団長は、病気で亡くなる寸前だった。


    団長の死後、僕はカレンを引き取った。」


    まさに数奇な運命だった。


    「僕はカレンをどう愛したらいいか分からなかった・・・・・・。父親らしいことは何もしてやれないまま、僕は病死した。でも・・・・・・僕はカレンに愛されていたんだね。」


    愛された証である献辞を見る。今でも胸を焼くような後悔を感じる。もっとカレンを抱きしめてあげればよかった・・・・・・。もう二度と会えない娘に対する思いが募った。





  38. 38 : : 2015/03/06(金) 21:06:33



    「二度目の転生の時、エレンとミカサは再び出会った。前の恋愛を知っている僕から言わせると、驚くほどの純愛だったよ。


    子供も出来て、後は結婚するだけだった。でも、平和を壊してしまった僕のツケが、ここでも影を落とした。」


    アルミンの声がここに来て震えはじめた。


    「エルヴィン団長が失脚して、レイス家が追放されたことで、壁内には圧政が誕生した。6世紀も後に、君が自由の翼の元に立ち上がり、圧政を倒すために戦争を起こすきっかけを作ったのも、この僕だったんだ!」


    クリスタはハッとした。


    「そうだよ、クリスタ・・・・・・この戦いに出征したエレンは戦死した。僕は一番の親友を、二度も殺してしまったんだ!!!


    ・・・・・・あああ・・・・・・うわあああぁああぁぁぁああ、あああぁああぁああああぁああ!!!!!!」


    ここに来て、僕の心は決壊した。


    激しく声をあげて、エレンが死んだあの時のように、泣いて泣いて、それでも涙は出続けた。





  39. 39 : : 2015/03/06(金) 21:08:46




    「アルミン・・・・・・私はね、今でも思うの。」


    クリスタは泣きじゃくる僕を抱きしめてくれた。瞳に涙を潤ませている。


    「ユミルが居なかったら、私はここには居なかった。誰かに愛してもらって私たちは生きている。


    確かに愛は危険な時もある。エレンとミカサの愛が暴走して、何もかも壊してしまったように・・・・・・。


    でも、誰かを愛せなかったら、死んでるも同じだって。」


    「そうだね、クリスタ。結局二度目の転生でも、戦傷者となった僕は何もしないままに一生を終えた。まるで生きた屍みたいだったよ。


    だからこの現世で僕は弁護士になった。今度は誰かをしっかりと愛そうって、心に決めたんだ。」


    「アルミン・・・・・・。」


    「僕は十分すぎるほどの愛情を周りの人間から注いでもらった。それを返さなかったら罰が当たると思うんだ。・・・・・・だからね、クリスタ・・・・・・。








  40. 40 : : 2015/03/06(金) 21:11:14






























    僕と、結婚してくれないか?








  41. 41 : : 2015/03/06(金) 21:11:48



    クリスタは面食らった。


    いきなりこんなところでプロポーズされるなんて夢にも思っていなかったからだ。


    しかしながら、二度も権力を極めたクリスタである。すかさずアルミンに答弁した。


    「勿論喜んで。でも、条件が二つあるわ。」


    今度はアルミンが狼狽える番であった。しかしながら、彼も練達した政治家だったため、そんな様子はおくびも出さずに答弁に応じた。


    「結婚する以上、条件もしっかり吟味させていただくよ。それで、その条件とはなんでしょうか?」


  42. 42 : : 2015/03/06(金) 21:14:06



    「まず一つ目の条件。」


    生唾を飲むアルミン。












    「私と結婚したら、必ず幸せになることよ。」






    ・・・・・・また泣いてしまった。


    「もう、アルミンのバカ! 弱虫!」


    「だって・・・・・・君のせいだよッ! クリスタ!」


    ・・・・・・嬉しかったんだ。罪悪感に苦しむ僕に、幸せになれって言ってくれて。


    僕に圧し掛かる罪は軽くはならないけど、それを支える力を分け与えてくれて、本当に嬉しかったんだ。


  43. 43 : : 2015/03/06(金) 21:16:43




    「もう一つの条件・・・・・・それは。」


    「それは?」


    大丈夫・・・・・・クリスタとなら、僕はもう何でも乗り越えられる。





















    「禁煙することよ。」


    「えッ!?」


    目玉がポーンと飛び出す思いだった。


    「だって、もう必要ないでしょ? パイプは体に良くないわ! 私と結婚するためなら、乗り越えられるでしょ?」









    そりゃないよ!!!


    僕は、心の中で悲鳴を上げた。








    Fin



  44. 44 : : 2015/03/06(金) 21:20:18






    『さざ波に寄せて』




    カレン・(アルレルト)・レイス


    今は亡き父、A・H(アルミン・アルレルト)へ、愛をこめて





    穏やかに あなたの顔に

    微笑んで 時安らかに

    満ちていく あなたの光

    見えてない? 周りの人に?



    愛しい人の 胸元に

    顔をうずめて 囁くに

    溺れるといい? 泣くといい?

    愛に溺れて 死ぬといい?



    あなたの元に この想い

    さざ波に寄せ うち沈み

    溺れていくの 海底に



    死んだあなたが 愛おしい

    あなたの胸に うち沈み

    溺れていくの 幸福に








    ※『中世抒情詩撰』より、抜粋。



  45. 45 : : 2015/03/06(金) 21:27:23
    以上で終了になります!



    完結に当たり、今回の作品を書かせていただくきっかけを与えてくれたmisoyosiさんにまず感謝したいと思います。



    次に、この作品を読んでくださった読者の皆様に感謝いたします。



    今回の作品は普段と違い、テキスト形式に下書きを書きながら作成しました。(普段は行き当たりばったりです。)



    「救われた命はお前の為に」「時を超えて」につながるような伏線も、この物語には出ています。



    例えば、「救われた命はお前の為に」では戦争が起こっていましたが、元をただすと、アルミンがその原因を作ってしまったといった塩梅です。



    他にもいろいろ伏線を入れましたので、つながりを見つけていただけたら嬉しいです。



    最後に、物語の感想を頂けたら幸いです。
  46. 46 : : 2015/03/07(土) 08:19:54
    お疲れ様でした。
    そしてありがとうございました。

    三回目の転生、二回目の転生の話を書いた後で、一番最初の転生の話を書きたいとおもっていたのですが、どうしてもアルミン目線というのが出来なくて、MGSさんにお願いしてしまったのですが・・・
    ここまですばらしい話に仕上げていただいて本当に感謝しております。

    一番最初に『時を超えて』の中で出てきた設定ではアルミン、ミカサが兄妹、エレン、ジャンが兄弟という大雑把な設定でしかなく、それを此処まで膨らまして話として持って言ってしまったMGSさんの手腕に敬服いたします。

    自分の世界観だけで話を持っていくことも可能なんだろうと思いますが、こうして人の目線の中で新たな物語として紡いでいただける喜びを感じています。

    自分が書いてきた『時を超えて』という話が誰かの胸に響いてくれたんだという喜びは何事にも変えられません。

    今自分が書いている話は、本編を踏襲しつつ話を変えていこうと思っている作品でして・・・何処まで出来るかわからないのですが、この作品に負けないよう、頑張って書いていきたいと思っております。

    本当にこの作品を作ってくれてありがとうございました。
  47. 47 : : 2015/03/10(火) 06:36:46
    misoyosiさん。設定ばっかり無駄に凝った作品をお気に入り登録ありがとうございます。



    今回の作品は、misoyosiさんの作品が純愛ものでしたので、私はその逆のベクトルの作品を書いてみようと思ったのがきっかけでした。



    この作品において、エレンとミカサは愛に溺れて破滅し、アルミンは復讐という名の権力に溺れて破滅し、ジャンは正しいが故に破滅し、エルヴィンは時代の流れに抗しきれずに破滅しました。



    うがった見方をすると、この物語はエレンとミカサの心中物語です。



    果たして二人は救われたか? 救われたとも、そうでもないとも言えると思います。



    ミカサが最後に歌を歌うシーンは、私にとって二つの意味を持っています。



    愛情は、人を救うこともあれば、破滅させることもあるということです。



    ミカサはエレンを浄化しましたが、ミカサ自身は破滅しました。どちらに重きを置くかは人それぞれだと思います。



    何だかえらそうなことを語ってしまいましたが、つまるところ、人を愛することって難しいなぁってことに尽きるでしょうか。



    何はともあれ、完結できてよかったです。misoyosiさんの作品に何とか近づけたでしょうかw



    misoyosiさん、エレンとアニのAnother story、期待してます。


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hymki8il

進撃のMGS

@hymki8il

この作品はシリーズ作品です

『さざ波に寄せて』 ※エレミカです 『時を超えて』番外編 シリーズ

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