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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品はオリジナルキャラクターを含みます。

この作品は執筆を終了しています。

逃亡犯、エレン・イェーガー《後編》

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  1. 1 : : 2015/02/08(日) 21:29:17
    http://www.ssnote.net/archives/31039
    前編の続きとなります。
    今回もどうぞよろしくです。
















    「着いたよ、エレン」




    世界が黒く包まれ、星々が煌めき、月が太陽に変わって大地を淡く照らす。
    フェイは目先の建造物を睨みつけるように見据えていた。
    フェイを真似るようにして視線をフェイから横にスライドさせると、二人を見下ろすようにそびえ立つ教会。
    エレンとフェイにとって、因縁の場所でもある。




    「大丈夫なのか?」




    「僕の心配をするより、自分の心配をしたらどうだい?」




    エレンは大きく息を吐く。
    フェイの家で一瞬合間見えた絆は幻だったのだろうか。
    現時点で唯一の味方、もとい相棒と言えそうな彼女の態度と言葉は素っ気ない。
    それがちょっと寂しくもある。




    「入ろう」




    「あ、待てよ」




    スタスタと先行していく彼女の背中を追って、エレンは駆け出した。
  2. 2 : : 2015/02/08(日) 21:33:38



    「それで、ここに来て何をするつもりなんだい?」




    小首を傾げながら聞いてくるフェイ。




    「ここには組織に関わる証拠があるんじゃないかって思って。ほら、ダイイングメッセージっていうのか? そんな感じ」




    「穏便に済めばいいんだけど」




    「だな」




  3. 6 : : 2015/02/09(月) 06:24:21


    巨大な門を飛び越え、敷地内に入る。
    頭上で月光を反射し鈍く光る十字架がエレンとフェイを見下ろす。
    辺りに人の気配はないが、警戒することに越したことはない。




    「君が僕のお父さんの死体を見たのは、二階の一番森に近い部屋だったよね」




    「ああ。ここに来ると色々思い出してくる」




    教会内に入り、事件現場に直行する。
    少し躊躇いがちに扉を開くと、驚くほど綺麗になっていた。血の跡はまだ少し残っていたのだが。




    「捜索を開始しよう」




  4. 7 : : 2015/02/09(月) 07:38:36



    いつでも逃げれるように窓は開けておく。
    夜風が頬を撫で、全身を突き抜ける。
    うっすらと鼻孔を刺激する鉄のような臭いは、まだ血の毛が抜けていないからだろう。




    それはそうと、フェイの精神力の強さには恐れ入る。
    黙々と証拠を探すフェイの後ろ姿を見ながら思った。
    彼女がいなければ、今ごろエレンはローゼの中で隠れ、一歩も外に踏み出せていなかっただろう。今だからこそ言えるが、こうした状態に陥った時、自分を支えてくれた人に感謝の気持ちがこみ上げてくる。




    「なに?」




    エレンの視線に気づいたのか、フェイが振り返る。




    「いや、なんでもない」





  5. 8 : : 2015/02/09(月) 14:31:06




    「そう」




    素っ気なく返すと、背中を向けて捜索を再開する。
    本当、掴めないヤツだな。
    今一度大きく息を吐き出すと、一度部屋から出て廊下に行ってみる。




    「どこにいくんだい?」




    「ちょっと廊下も見てみる。何かありそうだしな」




    壁から顔だけを覗かせ周囲を確認。
    誰もいない。安堵の息を吐いて注意深く辺りを見渡す。
    そういえば、ここにアルバムがあったな。
  6. 9 : : 2015/02/09(月) 15:10:55



    廊下をくまなく探してみるが、一向に見つかる気配がしない。




    「ないな…………」




    きた道を引き返そうと振り向き、そこではたと気づく。まだ一カ所、探していないところがあるではないか。
    そう、掃除用具入れ。




    考えるより先に身体が動いた。
    ダッシュで廊下を駆け抜け、掃除用具入れに向かう。
    荒々しく扉を開くと、部屋の中でフェイが「うるさいよ!」と叫ぶが、それすら耳に入らない。




    「頼む……ッッ」




    祈るような気持ちで中をのぞき込むと、そこにはあのアルバムがあった。




  7. 10 : : 2015/02/09(月) 15:17:27



    「これだ」




    確証はない。だが、きっと何かがある。




    「エレン、それは…………?」




    「アルバムだ。多分、お前のお父さんが結婚式を行う前……つまり、お前のお母さんが写っている……」




    エレンが言い終わるのとフェイがアルバムをひったくるのはほぼ同時だった。
    パラパラとページを捲るフェイ。
  8. 11 : : 2015/02/09(月) 15:25:08




    「お母……さん」




    ポツリ、と呟くフェイの瞳には、涙が溜まっていた。バサリとアルバムを落とすと、両手で口元を覆う。両眼からとめどなく涙が溢れ、その場に崩れ落ちた。




    「お母さん……お父さん……なんで、なんで僕を置いて逝っちゃったの……ッ?」




    嗚咽を漏らしながら、涙を拭う。
    エレンはなんて声を掛けていいのかわからず、ただ見ていることしかできなかった。
    月光を反射してキラキラ光る彼女の涙は、ひどく綺麗で、悲しかった。




  9. 12 : : 2015/02/09(月) 15:41:50



    どれほど泣いていたのだろうか。
    袖で最後の涙を拭うと、ペチペチと頬を叩いて立ち上がる。




    「見苦しいところを見せちゃったね」




    頬に朱が差しているのが月明かりで見える。
    極力気にせずに、平然を装って言う。




    「気にすんな。俺も母さんが死んだ時はそうなってたからさ」




    「そっか、エレンも…………」




    感傷的な雰囲気になりつつあることに気づいたのか、フェイがエレンの背中を押して教会を出るように促す。




    「さあ行こう。それとさっきのことは忘れてくれ」




    「お前が泣いてたことか?」




    返ってきたのは強烈な右ストレートだった。




  10. 13 : : 2015/02/09(月) 16:06:08



    「標的を発見しました」




    ウォール・ローゼ内地、とある街にて。
    長椅子に腰掛けた男の横でベル・フェイクとツガヤ・ヒーツが並んで立っていた。




    「早馬か。ふむ、どこでだ?」




    「教会に向かったようです。エレン・イェーガーと共に、フェイ・アドモスも一緒に行動しているらしいです」




    「アドモス……? まさか、ルーン・アドモスの娘か。訓練兵団から姿を眩ませたと聞いたが、まさかエレン・イェーガーと共に行動していたとは」




  11. 14 : : 2015/02/09(月) 16:19:00


    「いかが致しましょう」




    ベルが言い終わると同時にツガヤが前に出る。




    「僕が行きます」




    「いや、カシムを使う」




    「伯爵ッッ、なぜです? 僕は一度エレン・イェーガーを封殺した!」




    「だが、逃しただろう」




    「ッッ、しかし─────」




    「カシムはすでに配置についています。指示を仰げば即座に攻撃可能です」




    ギリッとベルを睨みつけるツガヤ。
    しかしベルは何事もなかったかのように去っていく。
    ツガヤは短く舌打ちをし、部屋をズカズカと出ていった。




    「カシム・モーゼル。ふふ、私の下部よ、標的をすり潰せ」






  12. 15 : : 2015/02/09(月) 16:29:26




    「何も殴ることはないだろ……」




    「いいじゃないか。結局傷も治ったんだし」




    月明かりが照らす森の中、エレンとフェイは立体機動を行っていた。
    視界が悪いのだが、問題ない何より驚いたのは、フェイが立体機動に馴れすぎているということだ。夜間の立体機動は難しいのだが、難なくこなす。なるほど、当時のミカサ以上と言われるだけのことはある。




    「このアルバム、何が書いてあったんだ?」




    先ほど、一人でアルバムを見ていたフェイに聞く。




    「落ち着いて話せる場所で話すよ」




    背負っているリュックをポンポンと叩きながら言う。




    「そうか」




    ────刹那、前方の木々が悲鳴を上げて倒れる。
    何事かと、ガスの噴出をセーブ。緊急停止。




    「あれ? 場所間違えたのか?」




    そこに立っていたのは、一角獣の紋章。
    そして全身を鎧のようなもので包んだ人間。
    いや────"半巨人"だった。
  13. 16 : : 2015/02/09(月) 16:41:42



    「あれが、"半巨人"なのかい?」




    フェイが驚愕の表情を浮かべる。
    それもそうか。鎧を纏った人間なんて、見たことも聞いたこともない。




    「ああ……。それも、モデルが鎧の巨人だ」




    ライナーの能力をそのまま引き継いだのか。
    ボンベを背中に背負い、腕に支出装置があることから、対人立体機動装置だとわかる。
    だとしたら─────




    エレンがフェイに向かって跳ぶのと、"半巨人"が散弾銃引き金を引いたのは同時だった。




    フェイを突き飛ばすように抱え、立体機動に移ろうとするが─────




    「────ッッ!」




    弾丸が肩を掠めて痛感。焼けるような激痛が走る。




    「エレンッッ?」




    「距離を取れッ! 撃ち抜かれるぞ!」



  14. 17 : : 2015/02/09(月) 17:03:16



    横殴りの豪雨のように襲ってくる弾丸は、エレンとフェイの通過していったすぐ後ろを貫く。
    このまま二人で並んで立体機動をしていると危ないと感じたのか、アイコンタクトをとって分散する。




    「エレン・イェーガー! 会いたかったぞッッ!」




    「俺はこれっぽっちも会いたくねーよッッ」




    トリガーを引くと、爆発的にガスを放出。各部にガスが行き渡り、重力を振り払う浮遊感。
    直後、ワイヤーに導かれるままさらに上空に飛翔。その後を弾丸が追う。




    「エレンッッ!」




    カシムの背後に回り込んだフェイが抜刀。
    奥の木の幹にアンカーを突き立て、空中を滑走するかのようにカシムに迫る。




    「バカッッ」




    歯ぎしりをしたエレンは急激な方向転換。身体に強力なGが襲いかかる。




    「ッッシィ!」




    惚れ惚れするかのような一撃離脱。
    ブレードでV字を作って標的のうなじを切り取る戦法だが、敵は人間。相手が巨人だったら、確実に討伐していただろう一撃。
    しかしカシムは身体を大きく仰け反らせて斬撃を回避。その真横をフェイが擦過する。





  15. 18 : : 2015/02/09(月) 17:54:58




    エレンの脳裏には、背中に風穴を空けられるフェイの姿が容易に想像できた。
    現に今、カシムがフェイに向かって銃口を向けている。




    「相手が巨人だったら確実に今のは死んでた──が、相手が悪かったな」




    「そんな─────ッッ」




    乾いた銃声が響く───一瞬前、ワイヤーを突出した木の枝に突き刺し、振り子のような動きでフェイの小さな身体をかっ攫うエレン。




    「エレン────」




    そのままアンカーを引き抜いて羽根車がワイヤーを引き戻す。
    ガスを噴出させ、反対方向の木の枝に着地する。



    「大丈夫かッ、フェイ」




    「僕は大丈夫だけど───ッ」




    フェイはエレンを見て眼を大きく開く。
    腹部に空いた黒い丸は、弾丸が貫いていた。
    しかも、巨人の再生能力を持ってしても回復すない。
    恐らく、巨人化抑制液で加工された弾丸なのだろう。
    血が滴り、足下を赤く濁らせる。




    「……ごめん。僕が勝手な行動を取ったばっかりに」




    「謝るなら、あいつ倒してからにしろ。強いぞ。マジで」




    患部を抑えながら、地面に佇む鎧を、殺意のこもった瞳で射抜いた。
  16. 19 : : 2015/02/09(月) 19:14:59



    傷が再生しない。痛い。苦しい。
    しかし、立ち上がらなければ。
    力を入れる度に溢れ出る血が、傷の深さを明確に表していた。
    まだ先ほどのことを引きずっているのか、浮かない顔をするフェイ。




    「だから、気にすんなって。お前のせいじゃない」




    「わ、わかってる……」




    「お前のせいじゃない」




    コクリと頷くフェイ。
    さすがは訓練兵団首席。切り替えがはやい。




    「とりあえず、俺がヤツを陽動する。お前は俺とあいつが格闘戦(インファイト)できる状況をつくってくれ」




    「…………対人立体機動装置を壊せばいいんだね?」




  17. 20 : : 2015/02/09(月) 19:37:19



    「ああ。できるか?」




    「状況次第では。それより、君の方が危ないだろう」




    「俺は大丈夫だ。よし、それじゃあやるぞ」




    言うや否や、エレンはカシムの正面に躍り出る。




    「安心しろ。お前らがどんな作戦を練っても、"半巨人"には勝てない!」




    太腿辺りに巻きつけてある交換用の銃身に転換。すぐさま発砲。
    その周囲を旋回するようにぐるぐると回るエレン。




    「逃げてばっかじゃねーか!」




    続けて発砲。散弾銃が火を噴く。
    手、脚、肩を掠めながら擦過。
    傷口から血が噴き出す。やはり再生することができない。




  18. 22 : : 2015/02/10(火) 07:27:34



    敵もこのまま撃ち続けても弾の無駄遣いだと感じたのか、立体機動に移る。
    対人立体機動装置は人間相手だからこそ真価を発揮する。




    「くそッッ」




    後ろをとられてはマズい。
    縦横無尽に空中を駆け回る。
    そういえば、先ほどからフェイの姿が見当たらない。




    「撃ち抜かれるぞ!?」




    銃身を交換し、続けざまに発砲。
    身を翻して弾丸を回避すると、ブレードを破棄。その瞬間にブレードをリリースすることによって、綺麗な円を描きながらブレードがカシム目掛けて飛んでいく。
    起動を脚で逸らすと、少しフラつきながらも立体機動を再開。




    「やっぱりか」




    鎧状態での立体機動は立体機動の性能を著しく低下させている。精々走るよりマシな程度だ。
    なら、このまま立体機動での戦いに持ち込んだ方がいいのでは?
    しかしそれじゃあこちらのガスが先に消耗されるし、何よりブレードで鎧は斬れない。
    交換式の銃身が無くなったを見計らって逃走に移っても、追って来られ、さらに援軍も呼ばれて詰む。
    今、自分は巨人化することはできない。




    どうする? どうする?



  19. 23 : : 2015/02/10(火) 09:18:59




    「あぐッ」




    弾丸が手首を掠り、操作装置を取り落としそうになる。




    マズい。マズい。マズい。
    ガスの残量が残り僅かだ。このままではガス欠を起こして落ちる。
    短く舌打ちをすると、低空飛行に移行。
    もし落ちた時に無事ようにと思って行った行動が、凶と出た。




    「墓穴を掘ったな」




    一瞬カシムが光ったかと思うと、鎧が空気に溶けたように消え、普通の人間体に戻る。
    軽くなったから、立体機動の速度が爆発的に向上。エレンのすぐ真上に位置を取る。




    (速い──────!)




    散弾銃が火を噴き、上空から降り注ぐ弾丸。
    回避は不可能。致命傷を避けるためにブレードと腕を使って防御。
    腕、脚に激痛が走り、歯を食いしばる。
    銃身を転換するのを見て、トリガーを引き、距離を取ろうとするが──────。




    「────ガス欠……?」




    次の瞬間、無慈悲にも立体機動装置はエレンを見放した。
  20. 24 : : 2015/02/10(火) 20:16:26


    「嘘だろ────」




    両手を無様に振り回すが、重力は容赦なくエレンの身体を地面に引きつける。
    なんとか足を下に向けた瞬間───。
    身体を駆け巡る痛みと響く震動。
    振り回されるように地面を回転し、頭を下に背中から大木に衝突。
    肺から空気が一気に絞り出され、取り戻そうと必死に喘ぐ。




    「ァ……ガァハッッ、ケホッ」




    ぐにゃぐにゃ歪む視界。眼の焦点がはっきりしない。
    霞む視界の中、間近に迫ったカシムが銃口をこちらに向けて標準(ロックオン)




    任務達成(ミッションコンプリート)




    ようやく意識の焦点がはっきりした瞬間、カシムは躊躇無く引き金を引いた。
  21. 25 : : 2015/02/10(火) 20:34:21



    ──────カシャ。
    弾丸はエレンを貫かなかった。
    いや、発射されなかったのだ。弾切れ。
    変えの銃身も底を尽き、銃撃での攻撃は不可能となった。




    「弾切れか? まあいい」




    対人立体機動装置を剥ぎ取ると、再び皮膚が硬質化。鎧を纏う。




    「俺がこの手で殺してやるよ」




    ピキピキ、と音を立て、鎧の硬度がさらに増す。
    痛む身体をなんとか起きあがらせ、攻撃を回避しようとするが、脚が凍ったように動かない。
  22. 26 : : 2015/02/10(火) 20:48:17



    「消えろっ、エレン・イェーガーぁぁッ!」




    鈍い音と共に身体を襲う激痛。腹部に拳を喰らい、骨が悲鳴を上げて砕ける感覚。
    大きく、そして激しく喀血。
    鮮血が空を舞い、地面、木、そしてカシムに降りかかる。




    「ッッッッッッッ!!」




    言葉にならない悲鳴。
    地面に擦過痕を残しながら木に激突。
    視界が暗転しかける。




    「ッッチ、きたねぇな。まあいい。エレン・イェーガーは死んだか」




    口元にかかった血をペロリと舐める。
    ────直後、体内で循環する何かが激しく踊り狂う。




    「─────君が死ね」




    突如として上空から降り注ぐ声に驚愕したのはカシムだった。
    顔を上げた瞬間、欠けた月を背に、燃えるような瞳の少女がブレードを構えていた。




    「無駄だッッ! 俺の鎧は───ッッ?」





    視線を自分の身体に戻して、二度驚愕。
    鎧が次々と消えていく。
    これは──────




    「巨人化抑制液。エレンの吐いた血を舐めたのが運の尽きだったね」




  23. 27 : : 2015/02/10(火) 20:52:09




    そうか、巨人化抑制液は微力ながらも凄まじい効果を発揮する。体内に取り込むと途端に細胞に作用し、巨人の能力がかき消される。
    つまり、今のカシムは丸腰の人間だ。




    「貴様ぁぁッッ!」




    「お父さんの苦しみ、身を持って味わってくれ」



    フェイは一思いにカシムの身体を貫いた。





  24. 28 : : 2015/02/10(火) 21:03:46



    血が溢れ出し、カシムが倒れ込む。
    返り血を浴びたフェイは嫌そうな顔をするが、エレンに向かって走り出す。




    「エレン、無事かいッッ?」




    体当たりせんばかりの勢いで首に抱きついてくるフェイ。
    意識は朦朧としているが、フェイがカシムを殺したというのは認識できた。
    瞼が落ちそうになるが、フェイが必死に肩を揺らす。




    「はやくここから逃げないとッッ」




    冷え切ったエレンを抱え、フェイは立体機動に移る。身体を襲う重力はなぜか心地よく感じ、エレン意識を手放した。



  25. 29 : : 2015/02/10(火) 21:10:49




    「馬鹿な……、カシムが死んだだと?」




    「ほら、言ったじゃないですか伯爵。僕に行かせろと」




    ツガヤの煽るような言葉に耳も傾けず、手に持っていたグラスを叩き割る。




    「……ふん。まあいい。まだ私にはネインがいる。やつなら確実にエレン・イェーガーを消せる」




    「……いいです。結局、ネインでもエレン・イェーガーには勝てませんよ」




    「随分アイツの肩を持つんだな」




    「そうですね、彼は面白い」




  26. 30 : : 2015/02/11(水) 07:35:47


    身体が音を立てながら再生していく。
    細胞が死滅し、新たな細胞が生まれ、骨が構成され、血が通い、肉が盛り、皮膚が張り付く。
    再生完了。




    不意に肩に重さと温かさを感じて眼を開くと、エレンの肩に頭を乗せ、静かな寝息を立てながら眠るフェイの姿があった。
    フェイがここまで連れてきてくれたのだろう。




    「……ここは」




    フェイを床に転ばせると、身体をいたわりながら立ち上がる。思いのほか痛みは抜けていて、身体が軽く感じる。




    周囲を確認すると、どうやらここは倉庫らしい。埃を被った置物がたくさん置いてある。
    スライド式のドアに手を掛けて横に動かすと、朝日がエレンの身体を射抜く。
    どうやらここは、ウォール・ローゼの中心部から離れた場所らしい。
    近くに壁がある。




    「眩しい…………」




    「ああ、起きたのかフェイ」




  27. 31 : : 2015/02/11(水) 08:07:36



    「エレンッッ、大丈夫ッッ?」




    エレンを視界に捉えた瞬間、こちらに飛びついてくるフェイ。
    その表情には、心配と不安と、微かな安堵が混じっていた。




    「ああ。大丈夫だ。ありがとう、フェイ」




    お礼を言われて気恥ずかしくなったのか、視線を逸らして俯く。




    「………僕も、ありがとう」




    「え?」




  28. 32 : : 2015/02/11(水) 09:17:03



    およそ彼女らしくない言葉に、エレンは眉を寄せた。




    「……僕を庇って、君が銃弾を喰らったとき」




    「ああ…………あったな、そういえば」




    「エレンが僕を庇ってくれなかったら、僕は死んでた。言いそびれてたね。ありがとう」




    顔を俯けているから表情は窺えなかったが、耳元が真っ赤に染まっており、自分の感情を素直に伝えるのが苦手なんだな、と。
    エレンは苦笑する。




    「気にすんな。それにしてもフェイ、お前すごいな」




    俯くフェイに向かって声を掛けるが、返事が返ってこない。




    「フェイ?」




    「……その、一ついいかな?」




    「ん、なんだ?」




    「温泉に行かないかい?」





  29. 33 : : 2015/02/11(水) 09:27:57




    「温泉…………なんでだ?」




    困惑した顔のエレンをキッと睨みつけるフェイ。




    「あのね、僕だって女の子なんだよ。お風呂に入りたいんだ。サッパリしたいの」




    「まあ、わからないこともない」




    「決まりだね」




    嬉しそうに微笑むフェイは、なんだか少し、棘が抜けたような気がする。




    「あ、その前に少し、着替えを買いたいんだ。いいか?」




    「僕はリュックに入れてきたんだけど……まあいいや」




    それから、この倉庫を拠点として活動することに決め、ウォール・ローゼの中心部へと向かった。
  30. 34 : : 2015/02/11(水) 15:44:11


    温泉に向かう途中、エレンを連行していた憲兵のポケットから奪い取ったお金を遣い、着替えを買い込む。
    流石に奪った金を遣うのは気が引けたが、今はそんなこと言ってる場合ではない。




    温泉にたどり着いた二人は暖簾をくぐると、店員の声がこだまする。
    フェイは満面の笑みを浮かべて女湯と標識された暖簾をくぐる。
    苦笑しながらそれを見送ると、エレンは男湯に向かう。




    まだ朝早かったこともあって、自分たち以外にが客がいない。好都合だ。
    先に髪と身体を洗って、ゆっくりと湯船に浸かる。熱すぎずぬるすぎず、心地いい湯加減だ。
    天井を見上げると、昨日の"半巨人"との戦闘を思い出していた。




    「……くそッ」




    圧倒的実力差。結局自分は巨人の力が無ければ無力な人間だと、改めて痛感した。
    それに、フェイの手を煩わせてしまった。
    本来なら、自分が殺すべきだった。殺さねばならなかった。
    自分は、エレン・イェーガーは所詮、人類を救った英雄などと呼ばれているが、無力だ。




    そう考えていると自己嫌悪になってくる。
    ダメだ。こんな状況でネガティブな思考を持ってはいけない。
    頭を冷やすために水風呂に身体を放り投げる。




    「冷たッッ」




    最初こそ冷たかったが、徐々に慣れていき、身体の温度が低くなっていくとともにクールダウンされていく脳内。
    どれだけ水風呂に入っていただろうか。
    冷え切った身体を温め直すためにもう一度湯船に浸かり、ゆっくりと更衣室に向かった。
  31. 35 : : 2015/02/11(水) 16:15:31



    入り口付近のソファーでくつろいでいると、三十分ほど経ってフェイが更衣室から出てくる。
    心なしか気分が良さそうなフェイは無言でエレンの向かいの椅子に座る。




    「いい湯だったよ」




    「だな。貸切状態だったし」




    柱時計に眼をやると、時針は午前十時を指していた。




    「これからどうするんだい?」




    フェイが机に両肘をついて顔を寄せる。
    ふんわりと、女性独特の甘い香りがエレンの鼻孔をくすぐる。
    湯上がりの上気した頬でこちらを見る。




    「そうだな……、昨日の戦いで立体機動装置が一個壊れたからな。武器を補給したい」




    「僕が聞いているのはこれからの方針だよ」




    相変わらずつんけんしたヤツだな、と内心思いつつ、顎に手を当てる。




    「何とかして例の"半巨人"を作り出した組織の目的を掴みたいんだけど」




  32. 36 : : 2015/02/11(水) 16:31:51


    手元にあった水を一口飲む。




    「俺の予想は、"半巨人"の……言い方は悪いけど、大量生産だと思う」




    「何のために?」




    「王位を奪い取るため。いるんだよ。今も調査兵団をよく思っていない貴族が。今の最高権力者は、元調査兵団ヒストリア・レイスだろ? だからあんまり貴族の中で好かれてないんだ」




    「なるほど。"半巨人"を使って、武力で権力を奪ってやろう、という算段かい?」




    エレンは頷くと、コップの水を飲み干す。




    「調査兵団の反撃を抑えるために、俺を消そうとしてるんだと思う。だから巨人化抑制液も開発された」




    「確かに、そう考えるのが妥当だね」



  33. 37 : : 2015/02/11(水) 20:09:29




    しかしフェイは難しい顔をする。




    「もしそれが本当なら、マズいよ。壁内が血で染まる」




    「そうだな。まだ壁外で暮らせるようにはなってないからな」




    巨人の駆逐からたった半年しか経っていないため、整地などができていないのだ。




    「……エレンの予想がホントなら、僕たちが止めるしかない。放っておいたら、人間同士の戦争が起こってしまう」




    調査兵団対"半巨人"と憲兵団と駐屯兵団。
    いくら調査兵団に歴戦の兵士が集まっていようとも、"半巨人"のみならず、二つの兵団を相手にすれば確実に負ける。そして死ぬ。
    ミカサも、アルミンも、リヴァイも、皆死ぬ。




    「俺は自分の潔白の証明。フェイはお父さんの敵討ち。それを目的に戦おうって決めたが、これはもう俺たちだけの問題じゃねえ」




    フェイは大きく頷く。




    「おそらく、君の言ってることは真実だ。そうだね、今ならいいかな」




    そう言うとフェイはリュックからくだんのアルバムを取り出す。
  34. 39 : : 2015/02/12(木) 16:13:14



    「そういえばアルバムに何かあったって言ってたな。何があったんだ?」




    フェイは自分たち以外に人がいないのを確認すると、アルバムのページをめくる。
    手が止まったかと思うと、一枚の写真を引き抜き、裏っ返す。




    「これは……?」




    「鍵だよ。それも、とある貴族のね」




    写真にはフェイとそのお父さん、お母さんが写っていて、カメラに向かって微笑んでいる。中でも、フェイの笑顔は向日葵のようで。




    「シュルーワルト伯爵。調査兵団がヒストリア・レイスを女王に即位させなければこの世界の実権を手に入れていた」




    鍵に刻まれた家紋が、何よりの証拠だ。
    不死鳥の紋章。永久に一族は滅びないことを示す、だったか。




    「だとすれば、仮説が事実に近づくな。フェイのお父さんはこの鍵と情報を持って逃げようとしたが、流失を恐れたシュルーワルト家、つまり"半巨人"をつくったヤツに殺された、と」




    「王位を奪うためにこんなことをするのも頷ける。エレンの座標の力を恐れたシュルーワルト伯爵がエレンを消そうとしているのもね」
  35. 40 : : 2015/02/12(木) 16:20:09



    しかし、そこで疑問にぶち当たる。
    確かツガヤは──────




    『先輩の座標の力は通用しないんですよ』




    そう言っていた。
    ならば何故、シュルーワルトは座標を恐れるのか。
    あれはツガヤのハッタリ? それとも自分の知らない座標の力があるのか? 巨人を操作して配下に置くこと以外に?




    わからない。疑問を解消したと思ったらまた新たな疑問も現れる。




    だが。




    「フェイのお父さんが命を賭して伝えてくれたメッセージ、無駄にするわけにはいかないな」




    「当然だよ。絶対シュルーワルト伯爵を捕まえる。そして戦争を止める」








  36. 41 : : 2015/02/12(木) 16:26:01




    「ハンジさん」




    調査兵団本部。
    研究室から出てきたハンジに声を掛けたのはアルミンだった。




    「エレンとフェイ・アドモスを発見しました。ウォール・ローゼの中心街です」




    「ええぇぇぇッッ!? なんで堂々と中心街なんか歩いてんだよ! バカ!?」




    ガックリと肩を落とすハンジ。




    「やっぱりエレンはバカだなぁ。うん」




    「それで、どうしますか」


  37. 42 : : 2015/02/12(木) 16:40:18



    「とりあえず、トロスト区の訓練所に誘導しよう。キース元団長には話してあるからね。それに、エレンとフェイちゃんは訓練所に入らざるを得ない。そういうシナリオだからね」




    「それにしても、まさかシュルーワルト家がこの事件に大きく絡んでるなんて」




    「そうだね。エレンには申し訳ない。今この世界は内戦なんてやってる場合じゃないんだ。尻尾を掴むための犠牲で適役なやつなんて、エレンしかいなかったから」




    ハンジは申しわけなさそうに眼を伏せると、ゆっくりとかぶりを振る。




    「いや、何かを捨てなければ何も変えられない。私たちは選んだ。エレンの名誉と命を捨てることを」




    アルミンは悲しそうに俯く。




    「ミカサには、そんなこと言えませんよね」




    「言ったら、もうどうなるかわかったもんじゃないしね」




    「……けど、計画通りです。"半巨人"を排除しつつ、シュルーワルト家の目的の真実に迫る。途中で脱落したらそこまで。全部暴けば大勝利。まだエレンが死ぬと決まったわけじゃありません」



  38. 44 : : 2015/02/12(木) 17:15:38



    「…………そうだね。そう信じたい。なんせ、"半巨人"を一人倒してるし」




    「そうですね。信じましょう。エレンを」




    ハンジは大きく頷くと、部屋の中のモブリットを呼び、指示を出す。
    いつもこうならいいのに、とは口にしない。
    モブリットは頷く、急いで外に行ってしまった。




    「───さて、この件については機密事項だ。くれぐれも関係者以外には気取られるなよ?」




    「わかってますよ」




    調査兵団幹部とアルミン、ヒストリア、キース。これを知っているものは限りなく少ない。だが、それでいい。大人数での行動は目立つ。




    「……エレン、僕は君を信じるよ。だから、今は耐えてくれ──────ハンジさん、兵士を送ります。行きましょう」










  39. 45 : : 2015/02/12(木) 17:26:17



    「ちくしょう、なんたってこんなに兵士がいるんだよ!」




    エレンとフェイは一度寝ぐらの倉庫に戻った後、シュルーワルト伯爵の本家があるストヘス区に向かおうとしたが、兵士の数が多すぎて下手に身動きが取れない。
    強引に立体機動で突っ切ろうとフェイに言った際には、膝を思いっきり蹴られた。
    完全に包囲網に嵌まったわけだ。
    しかしどういうわけか、包囲網の綻びがあった。
    それはトロスト区に逃れれるようになっており、罠を承知の上でトロスト区に向かっているというわけだ。




    「ずっと歩いているとフードで暑いよ。立体機動装置も重いし。せっかく温泉入ったのに……」




    エレンの立体機動装置はカシムとの戦いで壊れてしまったため、今はフェイのしかない。
    フェイが自分で立体機動装置を装着すると言ったのだが。




    「いや、フェイはいい匂いだったぞ?」




    何故だろう。フェイの眼光がギロリと光った。




    「変態ッッ、女の子の匂い嗅ぐなんて最低!!」




    「いや、違うって! 温泉から出たときだって! 不可抗力だろ!?」




    それからしばらく、フェイは口を聞いてくれなかった。
    心なしか、フェイの顔は赤くなっていた。




  40. 46 : : 2015/02/12(木) 17:39:08




    どれだけ歩いただろうか。
    壁がはっきりと視界に映り、昼を過ぎた太陽は最高地点から傾いた。




    「……おかしい。絶対」




    フェイが小さく呟く。




    「ああ。配置についている兵士の数が少なすぎる」




    罠か?
    そう思った瞬間、フェイはエレンを抱え、壁にアンカーを撃ち込む。
    途端、重力を振り切る感覚。
    気づけば、壁の上に立っていた。




    「……上手い。完全に監視の意識の裏を突いた立体機動だ」




    フェイの立体機動の技術には光るものがある。
    もし彼女がエレンたちと同期だったら、ミカサ
    と首席を争っていたかも───いや、立体機動だけを見たら当時のミカサをゆうに超えていると言っても過言ではない。




    「エレン重たいよ。腕がヘトヘト」




    手をぶらんぶらんと振るフェイ。
    ともあれ、壁にバレずに登れたことは大きい。現状から見て、トロスト区に逃げ込んだ方が良さそうだ。
    今後の動きはゆっくりとできる所で話したい。




    そして何より、立体機動装置が欲しい。
    フェイのガスも多くはないはずだ。
    エレンも自分のために、逃走のためには立体機動装置は必須だ。
    ならば行くべき場所は一つだ。




    「訓練兵団の訓練所。そこに行こう」




    「奇遇だね。僕もそう思ったんだ」




    フェイは再びエレンを抱えると、壁から飛び降りた。
  41. 47 : : 2015/02/12(木) 18:07:10




    「エレン・イェーガーとフェイ・アドモスをトロスト区で発見しました」




    ウォール・ローゼの別荘からストヘス区の本家に戻ったシュルーワルトは、ベルの話を聞いて眉を寄せた。




    「トロスト区だと……? ふん。使えない兵士どもめ。まあいい。ネイルを送り込め。今度こそ確実にエレン・イェーガーを消す」




    「伯爵、そのことなんですけど」




    ベルの隣のツガヤが口を開く。




    「なんだ、ツガヤ」




    「伯爵は何故エレン・イェーガーを消そうとするんです?」




    「……いいだろう。教えてやる」




  42. 48 : : 2015/02/12(木) 18:22:25



    「座標とはすなわち、この世界の座して標なる者。この世界の中心に座標を置く人物のことを指す」




    いまいち要領を得ないツガヤ。




    「"二千年因子"と言った方がいいか。二千年に一人、世界から選ばれるのだよ。その世界において最強の力に」




    つまり、なんだ。
    この世界はエレン・イェーガーを中心に廻っているというのか。
    彼がこの世界の座標軸なのか。
    "二千年因子"。果たしてどんなものなのか。




    ツガヤは来るべき決戦を思い、口角を上げた。
  43. 49 : : 2015/02/12(木) 19:41:55




    「おにーちゃん、大好き♡」




    「あ、ああ……俺も、だぞ。妹よ。ふは、ふははははは………はは」




    一体全体、何をしているんだろう自分たちは。
    ラブラブな兄妹を演じているのにはワケがあった。




    フェイに抱えられて壁から飛び降り、立体機動を行使して無事着地。
    訓練所に向かおうにも、歩いていくのには遠い。
    あれこれ話し合った結果、馬車を使って向かうことになった。





    しかし、エレンは顔が割れており、フェイはトロスト区に知り合いが多いということもあり、エレンはメガネをかけ、フェイは髪を下ろしている。
    気休め程度だったのだが、案外バレなかった。




    何事もなく馬車に乗ったのはいいものの、そこでそれは起きた。




    訓練所の一つ前の馬車停で乗ってきた駐屯兵二人の内の一人が、エレンの方をジッと見つめ、思い出したように叫んだ。




    「あ、エレン・イェーガーだ!」




    と。





  44. 50 : : 2015/02/12(木) 19:47:09



    そのせいで馬車の中の視線が一気にエレンに集まる。
    あちらこちらから「確かに……」とか「逃亡したんだろ?」などと声が聞こえてくる。
    マズいと思い、フェイに耳打ちしようとした瞬間─────。




    「おにーちゃんは本当にエレン・イェーガーに似てるよね!」




    そう言って俺の腕に抱きついてきた。




    「おにーちゃんいっつもそう言われるから困っちゃう。あれぇ? どうしたの"レン"おにーちゃん?」




    エレンは吹き出しそうになった。
    あのフェイが。あのフェイが。あのフェイが!




    「そ、そうだな、ははは……」




    「おにーちゃん♡」




    首に抱きついてくると、耳元で囁く。「僕に合わせてくれ」と。









  45. 51 : : 2015/02/12(木) 19:57:52




    それから訓練所前にたどり着くまで、フェイの演技に付き合い、なんとか危機を脱した。




    馬車から降りると、フェイがオーバーヒートしたかのように真っ赤になり、その場に崩れ落ちる。




    「は、恥ずかしかった……死ぬかと思ったよ……」




    「いや、結構可愛いかったぞ」




    「かッ、可愛いいって……」




    「とにかく助かった。ナイスだフェイ」




    そう言うと、フェイはさらにグタッとなる。




    「もうやだ。恥ずかしい。お嫁にいけない……」




    へたれ込むフェイを起きあがらせ、訓練所の裏に────兵站行進時に通る丘に向かった。
  46. 52 : : 2015/02/12(木) 20:08:16




    空には夕陽が登っていて、世界を燃やしたように赤く照らしていた。
    グラウンドで対人格闘の訓練をしているため、兵舎からは遠いし、音は聞こえない。
    はやいところ立体機動装置とガスボンベを入手し、先ほどの兄妹作戦で宿を見つけたいところだ。




    しかし、そう上手くいくはずもなく────。




    「エレン、誰かくる」




    木の陰に隠れて、頭だけ覗かせて前方を見ると、見慣れた顔が並んでいた。




    「アルミン、ジャン……」




    「…………アルミン分隊長のことは知ってるよ。ジャンって人は次期団長候補だよね」




    「ああ。そうだ」




    まさか、こんな形で出会うとは。
    どうする?
    対人戦では、正直言ってあの二人を相手にしても勝てないとは思わない。
    だが、あの二人以外、それもミカサやリヴァイが近くにいたら確実にアウトだ。
    どうする?




    「……どうする。このままじゃ見つかる」



  47. 53 : : 2015/02/12(木) 21:04:00




    「戦おう」




    即答するフェイ。




    「お前、立体機動装置を装着してるんだぞ? 動けるかよ」




    「それは相手も同じだよ。僕が最初に出る。後で、兵舎の前で落ち合おう」




    「おい、フェイッッ」




    フェイは助走をつけてジャンプ。
    トリガーを引いてワイヤーを放出。立体機動に移る。
    それを見たアルミンはジャンにだけ残るように言って、フェイを追う。




    「少しは信用されたってことかな」




    ポジティブに考えよう。
    それにしても、フェイが飛び出たのに誰も反応しないとなると、アルミンとジャンの二人だけしかいないのだろうか。




    まあ。




    やるべきことは一つだ。




    「よぉ、ジャン。少し見ない間にさらに馬っぽくなったか?」




    「うっせーよ悪人面。まさか、本当に悪人になっちまうなんて。ふん。鼻で笑っちまうぜ」




    「その鼻、へし折ってやろうか」




    ジャンを突破する。






  48. 58 : : 2015/02/13(金) 14:34:06




    エレンがジャンの正面に立つと、ジャンが立体機動装置をハズす。




    「地下牢に帰れよエレン」




    「断る」




    小高い丘に戦慄が走る。




    「お偉いさん方から働きかけがあってな。殺人を犯して逃亡しているヤツを追ってくれと」




    シュルーワルトが兵団に指示を出している可能性が高い。
    まさか、調査兵団まで捜査に駆り出されてるなんて。




    「……」




    「おい、何か言えよ、この死に急ぎ悪人面野郎ぉぉぉッッ!」




    ジャンの叫びが戦いの狼煙となった。




  49. 59 : : 2015/02/13(金) 14:44:47




    あえてエレンの得意な格闘戦で勝負を挑んできたのは、ジャンの負けず嫌いな性格からか。




    凄まじい勢いで突進してきたジャンは、その勢いを殺さずに拳を繰り出す。
    当たれば勝負の決め手に化ける攻撃なのだが、無駄が多い。
    手の甲で攻撃を払い軌道を逸らすと、反対の拳が円運動を描きながらジャンの腹部に炸裂。




    「ッグ、のやろぉぉぉ!」




    何とか踏ん張って衝撃に堪え、再び殴りかかる。




    「ジャン……」




    戦略も戦術もない、ただ拳を振り回すだけの攻撃。もちろん格闘戦が得意なエレンには当たらない。




    「クソッ、クソ、クソッッ」




    「もう止めないか、ジャン」







  50. 60 : : 2015/02/13(金) 14:52:45




    ジャンとエレンの能力を比較すると、立体機動と座学はジャンの方が上だ。
    しかしその他──中でも対人格闘においては、エレンと比べてジャンの方が大きく劣る。
    これは巨人討伐時、巨人化を想定して格闘しか訓練しなかったエレンと、巨人相手を想定して立体機動の訓練しかしなかった兵士の差だろう。




    現に、エレンはジャンの攻撃をワザと紙一重で避ける余裕を見せている。





    エレンは、残酷な選択をした。
    実力差を見せつけ、戦意を喪失させる。
    いくらジャンがうざいとか鬱陶しいとかめんどくさくても、仲間を傷つけるのはいやだ。




    しかし、ジャンは一向に攻撃を止めない。




    「ジャン、分かってんだろ? お前じゃ俺に格闘戦で勝てないってことが」



  51. 61 : : 2015/02/13(金) 15:02:23


    「ッッ、うっせーよ!」




    渾身の一撃、拳を片手で受け止めると、ジャンが叫んだ。




    「俺は……俺は、お前が自分の口から犯人じゃねぇって言うまで止めねぇぞッッ」




    一瞬力が抜け、ジャンの手を離す。
    ジャンは驚いたような顔をするが、キッと表情を鋭くすると、エレンの頬を思いっきり殴った。
    受け身を取る気にもなれず、ゴロゴロと丘の上で転がる。




    「…………いってぇな」




    切れた唇から蒸気が溢れ、即座に傷が再生される。
    夕陽の光が遮断されたかと思うと、ジャンが夕陽を背にこちらを睨んでいた。
    上半身だけ起きあがらせると、大きくため息をつく。




    「────やってねぇよ。俺は犯人じゃない」




    「だろうな。知ってた」




  52. 62 : : 2015/02/13(金) 17:09:59



    「────は?」




    「だから、知ってたって。聞こえなかったのか?」




    だとしたら、なんで自分は殴られたのだろうか。




    「俺、殴られ損じゃねーか!」




    「うるせぇんだよ! いっつもいっつもミカサといちゃつきやがって! 死ねッッ」




    「お前が死ね!」




    しばらくお互いを眺め合って、同時に吹き出し、腹を抱えて笑う。




    「あー、腹いてぇ。おいジャン。どういうことだよ」




    「あ? 何がだよ」




    「なんで俺が犯人じゃないって確信してんのか聞いてんだよ。まさか、一部の人間が真実を知ってるのか?」


  53. 63 : : 2015/02/13(金) 17:14:40



    ジャンは視線を下げると、ゆっくりとかぶりを振った。




    「ああ、そうだ」




    ジャンが言い終わるのと同時に、エレンがジャンの襟を掴む。




    「教えてくれ! 裏で何が起こってるッ?」




    ジャンは押し黙り、答えようとしない。




    「おいジャンッ! 答えろよッッ!」




    なおも沈黙を貫き通すジャン。
    エレンは短く舌打ちすると、襟から手を離す。




    「……大体予想はついてる。シュルーワルトだろう?」




    そう言うとジャンは眼を見開く。




    「もうそこまで知ったのかッ?」




    ハッとするジャン。
    完全に失言だった。エレンはそれを逃さない。
  54. 64 : : 2015/02/13(金) 17:24:44


    「おい、もうって何だよ。お前ら、全部知ってんだろ! 何で教えてくれない?」




    「……スマン。ハンジさんの指示なんだ。答えることはできない」




    まさか、調査兵団は全部知っていたのか。
    どういうことなんだ。
    まさか、兵長が自分だけを誘って教会の掃除に行った時も、二階の掃除をさせたのも、自分に罪を被せるためなのか。
    最初の最初から、全部知ってたのか。




    「……ふざけんなよ」




    もしかしたら、フェイのお父さんが殺されることも知ってたというのか。




    いや、そうじゃない。
    犠牲は仕方ないことなのだ。常に勝利というものは、大量の犠牲の上で成り立っている。
    物や労力、精神力、そして命。
    わかってる。わかってるのだ。
    自分がとてもくだらないことに腹を立てていることが。
    けど、許せない。
    なぜだろう。フェイを泣かせたことが異常に腹が立つ。




    「……スマン、エレン。多くは言えないが、これだけ言わせてくれ」




    ジャンはゆっくりと言葉を紡ぐ。




    「"半巨人"に負けるな。シュルーワルトを止めてくれ。俺たちにできるのは、お前らの手伝いをすることだけだ。全部終わったら、ちゃんと謝る。お前にも、フェイ・アドモスにも」




  55. 65 : : 2015/02/13(金) 17:33:23




    「…………フェイを泣かせたことには変わりない。全部終わらせて、ハンジさんにもリヴァイ兵長にも言いたいこと言ってやる」




    「ああ……ありがとう」




    ジャンの口から彼らしくない言葉が出てきたので、エレンは呆けた顔をする。




    「珍しいな。お前がお礼を言うなんて。明日は馬でも降るのか?」




    「いや、お前が女のことで本気になるのもおかしいぞ。明日は巨人でも降ってくるのか?」




    「…………」




    「…………」




    なんだか何も言えなくなって、二人とも押し黙る。




    ────果たしてそれは数々の死地を乗り越えた兵士の第六感といったところか。




    ただならぬ殺気を感じ、感任せに双方飛び退く。
    エレンとジャンが一瞬前までいたところに、まるで隕石のような、熱い何かが降ってきた。




    いや、これは─────




    「会いたかったぞ。エレン・イェーガー」





    ────"半巨人"だった。
  56. 66 : : 2015/02/13(金) 18:19:28



    地面に跡を残し、尋常じゃないほどの蒸気を噴き上げながら、それは立っていた。




    「……"半巨人"ッ」




    「これが噂の……」




    「私の名前はネイル・スリンプフォン。超大型巨人の能力を引き継ぐ"半巨人"」




    なるほど。この異常な蒸気の放出量はそのせいか。薄々感づいていたのだが。
    ネイルと名乗る男は、ジッとエレンを見据える。




    「消えてもらおう」




    「暑苦しいおっさんだな。一回水風呂入ってこいよ」




  57. 67 : : 2015/02/13(金) 19:48:00


    「軽口を叩けるのも今のうちだけだぞ。わっぱ」




    「わっぱ……」




    ネイルから噴き出す蒸気の量が一気に増え、肌で感じる空気中の温度の上昇。




    「ジャン、訓練兵をこっちに寄せないようにしてくれ」




    「一人戦うってのかッ?」




    「頼む」




    しばらくジャンは口を開けたまま固まっていたが、息を吐き出すと、背中を向ける。




    「俺的には死んでほしんだが───死ぬなよ、エレン」




    「ああ、もちろん」




    立体機動装置を置いて、ジャンは一気に丘を駆け下りる。
    その背中が見えなくなる頃に、ネイルは言った。




    「わっぱ、私はカシムのようにはいかんぞ」




    蒸気とともに増していく殺気を感じ、エレンは固い唾を呑み込む。




    「────そうらしいなッッ」





    エレンは大地を大きく蹴り上げ、ネイルに向かって走り出した。




  58. 68 : : 2015/02/13(金) 19:58:01




    「さて、エレン先輩。見せてください。あなたの力を」




    高みの見物、といったところか。
    ツガヤは丘付近の最も高い木からエレンとネイルの戦いを見下ろしていた。




    脳内に響くのは"二千年因子"というワード。
    彼───エレン・イェーガーは、この世界に選ばれた。最強の力に選ばれた。
    見たい。体感したい。感じたい。戦いたいッ。




    「さぁ、最強の扉を開いてくださいッッ」



  59. 69 : : 2015/02/13(金) 20:50:03




    ネイルとの接近戦は、絶望的に不利となり、悪戦となっていた。
    もともと格闘戦(インファイト)が得意なエレンだが、近づけば近づくほど熱で焼かれ、視界が悪くなり、結果、本来の力を発揮できていない。
    再生能力は追いつくものの、痛みまで消すことはできない。
    超高温の物質に触れたら、焼けて手や足が千切れそうなほど痛い。




    「熱ッッ」




    しかも、先ほどからネイルは一歩も動いていない。
    こういう相手は、接近戦を得意とするエレンにとって汲みし難く、相性が悪い。
    後ろに大きく跳躍し、一旦距離を取る。




    「どうしたわっぱ。もう終わりか?」




    「お前が熱すぎるんだよ」




    しかし、策がないわけではない。
    超大型巨人は超高温の蒸気を噴き上げ、何人たりとも寄せ付けないが、それは同時に自分の身体を消失させている。
    つまり、長期戦に持ち込めば───




    「────長期戦に持ち込む、か?」




  60. 70 : : 2015/02/13(金) 21:00:40



    ネイルはエレンの心を読んだ風に言った。




    「悪いが、その弱点は克服してもらった。伯爵の技術は素晴らしい」




    だとしたら、欠点が無い。
    勝てる道理なんて、何一つないじゃないか。




    ─────だが。




    「だったら、新しい弱点見つけてやる」




    「面白い。全力で相手をしてやろう。わっぱ」
  61. 71 : : 2015/02/13(金) 22:04:26



    無策で突っ込むのはただのバカなのだが、今は策もなにも、作戦の建てようがない。
    何故かネイルは攻撃する気配を見せず、ただただエレンをジッと見据えるだけだ。




    「どうすればいい…………」




    そこでふと、何かに気づく。
    カシムとの戦いでは、巨人化抑制液のせいで巨人化できなかったし、再生もできなかった。
    今は?




    「そうか、これがあった」




    ────巨人化。
    考えるよりも先に身体が動いた。
    巨人化する事によって兵士たちを呼んでしまうかもしれないが、なりふり構っていられない。




    意を決して親指を噛み千切った───直後、落雷のような轟音が轟き、世界が眩しく輝く。




    そこに立っていたのは、エレンの巨人だった。
  62. 72 : : 2015/02/13(金) 23:42:31



    十五メートル級の巨人が世界の物理的法則に反して一瞬で現れる。




    「そうきたか。だが、予想はしていたぞ」




    (潰すッッ!)




    エレンは大きく腕を振り上げると、地面のネイルに向かって拳を振り下ろした。
    それを難なく避けると、エレンの足元を駆け回る。




    「どこを狙っている、わっぱ。そんな攻撃では当たらんぞ」




    やはり巨人体では予備動作が大きく、攻撃の糸に気づかれやすい。




    (いや、違う。こいつは蒸気の噴出、つまり、立体機動と同じ原理で加速している?)




    脚部を注意深く見てみると、確かに、脚部の蒸気の放出量が異常だ。
    つまり、爆発的な推進力を利用した高速移動。
  63. 74 : : 2015/02/14(土) 07:41:53



    蒸気の放出で高速移動を可能としたネイルを捉えるのは至難の業だった。
    爆発的な推進力を活かした強烈な蹴りに加え、熱のせいで皮膚が焼ける。
    先ほどから何度攻撃を喰らっただろうか。




    (強い……ッ)




    確かに彼の言う通り、カシムとは比べものにならない。一度"半巨人"を倒したからと言って、舐めてかかってもいい道理なんてなかったのだ。




    「終わりだ、わっぱ」




    アキレス腱に爆発的な推進力で加速した蹴りが直撃し、体勢が大きく崩れる。
    完全に転倒し、うなじを狙える高さになってしまう。
    ネイルは蒸気を噴出。
    うなじを狙って高速移動を開始。
    マズいと思った時には、すでに身体が動いていた。




    巨人化の解除。
    凄まじい蒸気が空気中にぶちまけられ、ネイルの動きが一瞬止まる。




    うなじ部分から飛び出したエレンは、それを逃さない。



  64. 75 : : 2015/02/14(土) 08:01:17



    大地を抉るほどの踏み込み。
    身体のバネを最大限に活かしたハイキック。
    それは確実にネイルの顔面を捉えた。
    しかし、巨人化の後は反動で少なからず体力の消耗が激しい。威力は半減といったところか。
    身体中が燃えるように熱い。痛い。
    だが、手を休めない。




    ニ撃目は円運動を描きながらの右拳。
    それをネイルは両腕を交差させて防ぐと、カウンターの回し蹴り。
    頬に熱が帯びた脚を掠め、一瞬表情が歪む。
    続く攻撃でなぎ払うような水平蹴り。姿勢を低くしてかいくぐると、がら空きになった腹部に渾身のストレート。
    捉えた。




    「ッグ…………ッッ」




    ネイルはたまらずノックバック。
    さらに追撃をかけようと距離を一気に縮める。
    全霊を打ち込んで放った拳は、あろうことか空を斬った。




    「ハズれた……!?」




    いや、違う。
    熱波の放出、つまり蒸気の放出によって攻撃の軌道を逸らしたのだ。なんという放出量。




    「わっぱ、お前に恨みはないが、伯爵のためだ。悪く思うな」




    次にエレンが見た光景は、蒸気による推進力によって加速したネイルの拳だった。
  65. 76 : : 2015/02/14(土) 09:17:17



    腹部に攻撃を喰らった。
    推進力を活かした拳は、高速で走る馬車の直撃に匹敵する威力だ。
    地面に擦過痕を残しながら転がり、数メートル吹き飛んだところで停止。
    うなじを損傷していないので死にはしないが、骨が折れ、内臓に突き刺さり、かつてない痛みがエレンを襲う。




    「ッッヅ、アアアアァァァァアァアアアアアアァァァアアアアああああッッッッ!?!」




    肋骨が折れて肺に突き刺さり、呼吸ができない。胃に穴が空いて激しく喀血。
    目眩がする。痛い。痛い。苦しい。
    酸素を欲して喘ぐが、血が噴き出すだけで意味がない。腹部を貫いて骨が生えている。あり得ない。あり得ない。痛い。





    「そう言えば、巨人はうなじを深く損傷しないと死ねないんだったな。その点では"半巨人"より優秀か。弱点が少ない」





    絶叫するエレンを見下ろし、ネイルは不気味に口角を上げる。




    「さらばだ。わっぱ」




  66. 77 : : 2015/02/14(土) 09:25:34



    ───ダメか。




    ネイルは手刀でうなじを切り裂かんとばかりに構える。
    ぎゅっと目をつむる。終わった。




    しかし、エレンとネイルの間を高速で通過した何かによって、トドメの一撃は不発に終わった。
    それに続き、エレンの身体をかっ攫う何か。
    朦朧とする意識の中、エレンが見たものは、自分の身体を抱いて立体機動を行うフェイだった。




    「……フェ………イ」




    「エレンッッ、大丈夫かいッ? 死なないよね!? ねぇ!」




    「なんとか…………」




    不意に何かが空気を叩く音がして、音源に向かって視線をスライドさせると、そこには自由の翼がはためいていた。
    その背中は小さく、しかし全てを預ける信頼に足る頼もしい背中だった。




    「リヴァイ……兵、ちょ……」




    「ずいぶんなやられようだな。エレン」




    人類最強の兵士、リヴァイがそこに立っていた。
  67. 78 : : 2015/02/14(土) 10:31:36



    「ほう、リヴァイか。一度会ってみたかったんだよ」




    「ふん。暑苦しいジジイは生憎嫌いなんでな」




    「たかが人間が"半巨人"に立ち向かおうなど、片腹痛いわ」




    「たしかにそうだな。俺ではお前には勝てん」




    リヴァイはエレンに視線を移すと、静かに言った。




    「いいか。ここでこの暑苦しいジジイを殺さなきゃならねえ。何故だか分かるか?」




    「調査兵団が逃亡犯に手を貸したことになるから……?」




    「そうだ。そこで女に支えてもらってるヒマなんてねぇ」





    そう言うとリヴァイはエレンに背を向ける。




    「さっさとシュルーワルトを倒してこい。帰ってきたら、掃除の基本から叩き込んでやる」




  68. 79 : : 2015/02/14(土) 10:49:04



    そう言うとリヴァイは、重力を振り切って空を舞い、遠くに行ってしまった。




    「そうか、すでに調査兵団は知っていたのか。まあいい。ここでお前たちを消せば済む話だ」




    「エレン、どうするんだい? ────エレン、エレンッッ?」




    エレンは静かに眼を閉じ、精神を集中させていた。
    いや、そうせざるを得なかった。
    脳内で渦巻くこの感覚はなんだ。




    シュルーワルトを止める。"半巨人"を倒す。
    アルミンとミカサに会いたい。ジャンの期待に応える。リヴァイ兵長に掃除を教えてもらう。
    そして、フェイを守りたい。




    周囲に渦巻く熱波に対して、エレンの精神は明鏡止水の境地にあった。




    ────流れてくる。"二千年因子"を持つものたちの記憶が。




    ある者は魔法を使い、ある者は人間を操作し、ある者は天候を操り、ある者は万物を造った。




    全て、その時代における最強の力。
    交わるはずもない記憶が、二千年の時を経て交錯する。
    その瞬間、エレンの自我は吹き飛び、真っ白な感情────"無"が流れ込んできた。
  69. 80 : : 2015/02/14(土) 11:02:27



    「エレン……? ねえエレンってばッ」




    フェイの手をそっと退け、ゆっくりとネイルに向かって歩く。
    満身創痍、多数箇所負傷。
    しかしエレンはゆっくりと、ことさらゆっくりと歩く。その一歩一歩が、とてつもなく途方もなく重い。




    「わっぱ、ずいぶんと別人みたいではないか」




    エレンの接近に合わせ、蒸気の量が増加。増す殺気と熱気。




    「この一撃で首もとからうなじを抉ってやろう」




    ネイルが構える。




    「我が必殺の一撃、受けるがいい」




    「エレンッッ!!!」




    フェイの叫びと同時に、ネイルが爆ぜるように動いた。
    爆発的な推進力。直撃すれば壁すら破壊しそうな威力の拳が、エレンの首もとめがけて流星のような速度で迫る。




    ────そして、乾いた音が響いた。




  70. 81 : : 2015/02/14(土) 11:30:51


    ネイルは、目の前で起こった現象に驚愕をの表情を浮かべた。
    あり得ない。
    自身が使える巨人の力が、エレンの"力ある言葉"によってかき消されたのだ。




    「森羅万象、あらゆる巨人の力を今この瞬間《無効》とする。消えよ────我巨人の王なり」




    ひどく冷たく、感情のない言葉。
    だがしかし、とても重く、とてつもなく強いその言葉は、今この瞬間、森羅万象における全ての巨人の力を《無効》化した。





    「バカな……そんなバカなことがあってたまるかぁぁぁぁッッ!! この力は偉大なるシュルーワルト伯爵より賜った最強の力だッ。たかが座標程度にぃぃッッ!!」




    狂ったように襲いかかってくるネイルに冷ややかな視線を向けると、エレンはネイルの側頭部に拳をめり込ませ、後頭部に踵を落とす。
    巨人の力を失ったネイルの頭蓋骨はいとも簡単に砕け、絶命した。




    ────と同時に、エレンが地面に突っ伏す。




    「エレンッッ?」




  71. 82 : : 2015/02/14(土) 11:47:21



    フェイはエレンに駆け寄り、胸に耳を当てる。
    神に祈るような気持ちでエレンに抱きつく。
    ドクン、ドクンと、心臓の鼓動が聞こえる。
    もうそれだけで十分だった。




    「エレン……生きてる…………良かった。本当に……」




    瞳から一筋、涙が零れ落ちる。
    しばらくフェイは、エレンの温もりと心臓の鼓動を感じていた。




    しばらくして、エレンから離れると、その場から脱出しようとエレンを抱き上げる。
    空は暗くなっていて、夕陽は壁に隠れて見えなくなってしまった。




    「宿があればいいんだけど……」




    ────そこで、一筋の光に射抜かれる。




    背筋が凍りついた。




    「久しいな。アドモス訓練兵。付いて来てもらおうか」




    「キース、教官…………」




    フェイの周りには、教官たちが包囲網を展開していた。



  72. 83 : : 2015/02/14(土) 11:53:52



    エレンとネイルの戦闘を見物していたツガヤは、頬が緩むのがどうしても堪えられなかった。




    「流石は先輩です。ついに"二千年因子"に目覚めましたか」




    調査兵団が真相を知っているのは、報告しない。その方が面白そうだ。
    何より、彼は必ずシュルーワルト伯爵の本家にやって来る。





    「決戦近いですよ。"半巨人"対座標。楽しみです」




    正直、王位を奪うのなんてどうでもいい。
    ツガヤが望むのは、エレンとの戦い。
    そのためには、邪魔を排除する。エレンには最高のコンディションで戦ってもらうために。




    「フェイ・アドモスを消す」




    感情の高ぶりは因子を加速させる。
    いや、彼とは肉弾戦で戦いたい。
    互いが巨人の力を失った状態で。




  73. 84 : : 2015/02/14(土) 12:26:51



    フェイは困惑していた。
    教官たちに囲まれた後、兵舎まで連れて行かれ、教官室で少し話をして、最後にエレンが寝てる部屋に案内され、そして今に至る。
    かなり広い部屋に、ベッドがいくつも並んでいる。第二医務室だろう。




    フェイはエレンの眠るベッドに腰掛け、まじまじとエレンを眺める。




    「エレン…………」




    「…………なんだよ、フェイ」




    「え、ええぇぇッッ、起きてたの?」




    「悪いかよ……」




    ベッドから降りると、ドアは向かって歩き出す。




    「どこに行くんだい?」




    「ちょっとキース教官と話がしたくてな」




    それだけ言い残し、エレンは行ってしまった。
  74. 85 : : 2015/02/14(土) 12:36:27




    「…………僕は、エレンにどうして欲しいんだろう」




    一人ぼっちになった薄暗い部屋の中で、フェイは力無く呟いた。
    ずっと憧れていた、人類を救った英雄。
    自分の手なんて、届かないものなんだと思っていた。
    けど、今は。





    「……僕とエレンは、ただの協力関係……なんだよね…………」




    もし、無事にこの事件が解決できたとして、そしたら、自分とエレンの関係はどうなるのか。
    自分とエレンの間には、何も残らない。




    「…………一人、か」




    お母さんは死んで、お父さんも死んで、新しいお母さんも今どこにいるのかわからない。




    ────自分は、一人だ。




  75. 86 : : 2015/02/14(土) 13:33:07


    全身が冷たくなっていく。
    いつも隣にあった温もりが、無くなってしまう。怖い。エレンが遠くに行ってしまうことが。
    エレン、エレン助けて。




    「やだ……エレン、僕を一人にしないで……ッ」




    フェイは、ガタガタと震える身体を抱き寄せた。今は暑いはずなのに、フェイは寒さに凍えて俯いた。




  76. 87 : : 2015/02/14(土) 13:38:51



    ドアをノックする音が部屋に響き渡り、キースは顔を上げた。




    「入れ」




    「失礼します」




    入ってきたのは、エレンだった。




    「久しいな、イェーガー」




    「本当ですね」




    「それで、何の用だ?」




    キースは客人用の椅子に座るように促すと、自身も向かいの椅子に座る。




    「少しお話したいなって思って」




    「ふむ、いいだろう。それにしてもイェーガー、敬語がずいぶん上手くなったな」



  77. 88 : : 2015/02/14(土) 13:52:57



    「リヴァイ兵長の教育の賜物ですよ」




    エレンは苦笑しながら言った。
    キースは孫でも見るような眼差しをエレンに向ける。
    先ほどとは打って変わって真剣な表情になるエレン。




    「今俺とフェイの状態は、訓練兵団に匿われているということでいいんですか?」




    「そうだ。訓練兵はもちろん知らないし、これは全てハンジの思惑通りだ。ウォール・ローゼで違和感を感じただろう。なぜ包囲網に綻びがあったのかと」




    「あッ…………」




    なるほど、まんまと訓練所に誘導されたというわけだ。いつもは奇行種みたいで引き気味なのだが、さすがはハンジといったところだ。




    「だが、明日にはトロスト区を出た方がいい。"半巨人"の敗北を通して、シュルーワルトが兵を送り込んでくるからな」




    「そうですか……」




    「安心しろ。武器の提供はしてやる。貴様らには内戦を止めてもらわなければならんからな」




    「ありがとうございます」




    「ああ、それとイェーガー」




    キースは思い出したように口を開いた。
  78. 89 : : 2015/02/14(土) 14:08:43



    「アドモスのことなんだが」




    「フェイの……?」




    「一緒に戦ってきたお前なら分かるだろう。ヤツの実力が」




    確かに、フェイの実力には度肝を抜かされた。
    彼女がいなければ、自分はきっと今ここにいない。




    「だが、アドモスもまだ十四歳の少女だ。それを忘れるな」




    「はい……」




    「それと、アドモスはお前にスゴく憧れててな」





  79. 90 : : 2015/02/14(土) 14:21:24



    「フェイが……俺に?」




    「ああそうだ。訓練兵団内でも、話す話題がほとんどお前のことばっかりでな。時々教官室に来ては当時のイェーガーのことを聞いてきた」




    エレンは意外の感に打たれていた。
    フェイが自分に憧れてていたなんて。




    「つまり、だ。今のアドモスを支えてやれるのはお前だけだ」




    「……はい。フェイは大切な人ですから」




    そう言うたと、キースは鼻を鳴らして笑った。




    「お前が女に対してそんなことを言うなんてな」





  80. 91 : : 2015/02/14(土) 15:32:09



    「フェイ、起きてるのか?」




    教官室から第二医務室に戻ると、フェイはベッドに横たわっていた。
    髪を下ろしているので、風呂に入ったのだろう。
    時計を確認すると、十時半を廻っていた。




    「寝てる……か」




    自分もはやいところ風呂に入って寝ようと考え、浴場に向かおうとすると、布が擦れる音がして振り返る。




    「なんだ、起きてるなら返事しろよ」




    フェイはゆっくり立ち上がると、おぼつかない足取りでこちらに歩いてくる。
    正面で立ち止まったかと思うと、全体重をエレンに預けるようにして倒れかかってくる。




    「おい、フェイ──────」




    ────フェイは、泣いていた。



  81. 92 : : 2015/02/14(土) 15:59:44




    「怖いんだ……ッ」




    「…………え?」




    フェイはエレンの胸に顔をうずめながら、服をギュッと掴んだ。




    「もしこの事件が無事に終わって、そしたら、エレンは僕の隣からいなくなっちゃって、それでずっと事件が続けばいいのにって…………」




    フェイはゆっくりとかぶりを振った。




    「僕、最低なこと考えた…………」




    エレンは困惑する。
    フェイは、自分から離れたくない? 




    「エレン、エレン。お願い。僕を一人にしないで。僕から遠くに行かないで……」




    それは、両親を亡くした彼女の切なる願い。
    キースは言った。フェイはいくら強くても、十四歳の少女だと。
    確かに、その通りだ。
    今自分の腕の中で涙を流しているフェイは、訓練兵団の首席でも兵士でもなく、ただの少女だ。
    腕利きの兵士とは思えないほど華奢で柔らかい。




    フェイは、孤独を恐れている。




    その気持ちは痛いほど分かる。
    自分は犯人でもないのに薄暗い地下牢にぶち込まれた時、涙しそうになった。つらかった。




    だから今、自分がフェイにしてあげれることは。





    「……大丈夫だ、フェイ。お前は一人じゃない。俺がいる。この事件が終わったら、調査兵団に来いよ。ちょっと癖のある人達ばっかだけど、きっと楽しい。俺もフェイがいてくれた方が嬉しい。だから────」



    エレンはフェイの潤んだ瞳を見つめながら優しく言った。




    「────泣くなよ。らしくねぇ」





  82. 93 : : 2015/02/14(土) 16:10:28




    視線が絡まり合う。
    心地良い空気が部屋に流れ込む。
    どれくらい見つめ合っていただろうか。
    フェイは手の甲で涙を拭う。




    「……ありがとう、エレン」




    「あ、ああ……」




    泣き笑いのような表情でこちらを見つめるフェイ。花が咲きこぼれたように微笑んだ彼女に見惚れてしまいそうになる。
    エレンはなんだか恥ずかしくなって視線を逸らすと、フェイはベッドに腰掛けた。




  83. 94 : : 2015/02/14(土) 16:27:24


    「まあ立ってるのもなんだし、座ろう」




    ぽんぽんとベッドを軽く叩きながら、フェイはエレンに座るように促す。
    断る理由もなかったので、フェイの隣に座る。




    「…………僕はね、君に憧れていたんだよ」




    「……そう、なのか」




    先ほどキースから聞いたのだが、エレンは彼女の話を聞くことにした。




    「君にとっては、僕は多くを救った一人に過ぎないんだろうけど、僕は君に憧れていた。いつか僕も、エレン・イェーガーと一緒に壁外調査をしたい。僕が業を磨いたのはそのためだよ。笑うかい?」




    エレンはなんと答えていいのかわからず、困惑。しかし、素直に言った方がいいのではと思い、口を開いた。




    「なんていうかその、嬉しい……。俺もさ、調査兵団に入りたいと思った理由が、壁外を冒険したいからなんだ。そりゃあもう、バカにされたよ。親に反対されるし、街を歩けば罵声が飛ぶ。異端者だってな」




    「でも、それを可能にした」




    エレンはゆっくりとかぶりを振り、自嘲する。




    「俺は、多くの犠牲の上に立っている。もう、数えきれないほど死んだよ。俺の目の前で」




  84. 95 : : 2015/02/14(土) 16:49:58

    フェイは黙り込んでしまった。どうやら次の話し手はエレンらしい。




    「皆俺を庇っていなくなってしまうんだ。その度に歯噛みするんだ。悔しいよ。だから俺は英雄なんかじゃない。大量の血と死を撒き散らす死神だ」




    「そんなことッッ」




    フェイを手で制してエレンは続ける。




    「だから、もう失うのは嫌なんだ」




    フェイは俯くと、静かにエレンの肩に頭を乗せた。





    「フェイ……?」




    「安心してよ。僕がエレンを守ってあげる」




    「頼もしいな」




  85. 96 : : 2015/02/14(土) 17:21:16



    「……エレンってさ」




    突然フェイがこちらをジト目で睨んでくる。




    「な、何だよ」




    「女の子の扱いに慣れてる」




    エレンはベッドから転げ落ちそうになった。




    「そんなわけねーだろ。怖いわ」




    「むぅ、そうかな」




    「そうだよ」




    フェイは大きく欠伸をすると眠たそうに眼を擦った。




    「もう寝よう。明日、終わらせる」




    「そうだね。それじゃ、一緒に寝ようか」




    「待て、何でそうなる」




    フェイはとぼけた表情で言う。




    「マズいことでもあるの?」




    「大ありだろ!」




  86. 97 : : 2015/02/14(土) 19:39:38



    「そうだよね。男は欲望の塊だもんね」




    「俺はそんなんじゃねーよ……」




    「じゃあ、断る理由もないよね? まさか、僕と一緒に寝たらマズいことでもあるの?」




    「ッッ、いや、それは…………」




    「じゃあ、決まりだね」




    フェイはベッドに寝転がると、エレンに向かって微笑んだ。




    「一緒に寝よう?」




    エレンは大きく息を吐き出すと、諦めたように頭を抱えた。




    「はぁ……、わかった。わかったよ。一緒に寝ればいいんだろ」




    「僕はいつでもウェルカムだよ」



  87. 98 : : 2015/02/14(土) 19:49:48



    エレンがベッドに転がると、フェイは嬉しそうに微笑んだ。




    「温かいね」




    「そうだな」




    お互い上を向いたまま会話する。
    時計を見ると、十一時を廻っていた。




    「エレン、腕枕して」




    「はぁ? なんでだよ」




    「僕は枕がないと寝れないんだ。お願い!」




    「……まぁ、いいよ」




    ホレ、と言って左腕を差し出すと、フェイは遠慮無く頭を乗せる。
    フェイの甘い匂いが漂い、フェイが隣にいてくれているんだと実感すると同時に、ミカサ以外の女の子と寝るのは初めてだなと苦笑する。




    「フェイ、明日がシュルーワルトの本家に行くんだけど──────」




    「─────やめてよ、今だけ。今夜だけはエレンの事しか考えたくない」




    「…………悪ぃ。明日話す。お休み、フェイ」




    「うん。お休み、エレン」




    明日、もしかしたら自分は死ぬかもしれない。
    フェイも死ぬかもしれない。
    だけど今は、今夜だけはフェイの温もりを感じていたい。




    今夜は、久し振りにグッスリ眠れそうだな。
    二の腕にフェイの温もりを感じながら、エレンは静かに瞼を閉じ、そして意識を手放した。

  88. 99 : : 2015/02/14(土) 20:40:46




    翌朝、二人の動きは迅速だった。
    即座に朝食を済ませ、キースから立体機動装置を受け取り、例の兄妹作戦で馬車に乗り込むことに成功。
    壁付近で降りると、やはりフェイは崩れ落ちた。




    なんとかフェイを立ち上がらせ、壁を立体機動で登る。
    ウォール・ローゼに入ると、再び馬車を捕まえ、ストヘス区に向かって進む。




    やっとの思いでストヘス区にたどり着いた時には、すでに日が沈んでおり、夜の静寂が訪れていた。




    「フェイ、ここからが本当の戦いだ。覚悟はいいな?」




    エレンの問いに力強く頷くフェイ。




    「行こう」





  89. 100 : : 2015/02/14(土) 20:49:09



    「エレン・イェーガーとフェイ・アドモスがストヘス区に入りました」




    ベルは静かにそう告げた。




    「ふん。身の程知らずめ。この警備の中でのこのこやってくるとは」




    シュルーワルトはワインを煽って高らかに笑った。




    「ツガヤ、お前一人で十分だろう」




    「もちろんです伯爵。全て僕にお任せください」




    「ふははは、私がこの世界を制するのは時間の問題だ。ベル、ワインを持ってこい」




    「承知致しました」




    ツガヤは内心、シュルーワルトの精神を疑った。彼らは自分が作った最強の"半巨人"を二人も倒しているというのに。
    危機感が皆無だ。




    だが、そんなものどうでもいい。




    部屋から出ると、ツガヤは呟いた。




    「さあ、来てください先輩。戦いましょう」




  90. 103 : : 2015/02/15(日) 07:55:01



    「アルミン分隊長の言ってた通りだね」




    エレンとフェイは、憲兵及び調査兵約三百人体制の警備網をかいくぐり、シュルーワルトの本家の裏門の前までたどり着いた。




    これはエレンがネイルと戦っていたとき、フェイがアルミンから作戦を聞いたらしい。
    流石知将アルミンといったところか。
    警備網の穴を誘発している。




    「……この屋敷の中にある巨人化実験の証拠、そして自白をさせれば俺たちの勝ちだ」




    「うん。これが、最後の戦いなんだね」




    エレンは頷き、立体機動で屋敷の内部に入り込む。続いてフェイも屋敷に入る。
    屋敷の中では立体機動装置は荷物になるので、門付近に隠しておく。




    エレンとフェイは視線を合わせると大きく頷き、巨大な本家に向かって駆け出した。
  91. 104 : : 2015/02/15(日) 08:13:01


    これは罠なのか、それとも施設内にエレンたちが入ることはできないだろうという油断なのか。難なく裏扉にたどり着くと、ゆっくりと扉を開く。
    顔だけ覗かせて確認するが、人の気配はない。それどころか、所々天井灯に明かりが灯っているだけで、どこか不気味な感じがする。




    フェイに目配せすると、施設内に入り込む。
    廊下と思わしき通路は、掃除された形跡がない。カビ臭いし埃っぽい。
    生活感が皆無だ。
    もしかしたら、自分たちは当たりを引いたのではないか。
    ここが巨人化実験を行う施設なのでは?




    その疑問は、確信に変わった。




    「エレン、これ……」




    「ああ。間違いない」




    床に取り付けられたら見るからに不自然な扉。おそらく地下に続いているのだろう。
    開こうと扉に手を掛けるが、開こうとしない。
    そこで鍵穴があることに気づく。




    「…………お父さん」




    フェイは悲しげに呟き、胸ポケットからお父さんが自分たちに託したシュルーワルト家のマスターキーを取り出し、鍵穴に入れる。
    カチャリ、と開錠する音がして、扉を開ける。




  92. 105 : : 2015/02/15(日) 08:20:51



    地下へと続く通路はまるで奈落。どこまでも続く闇が、もう二度と地上に出ることができないようで、不安に駆られる。
    エレンはそんな思考を追い払うようにして頭を振る。




    「行こう」




    コツ、コツと一歩を踏みしめる度に、靴の裏が音を奏でる。
    心拍数が下に行くたびに上昇し、緊張感を高ぶらせる。
    それはフェイも同じなのか、難しい表情をしてずっと無言だ。




    「……なあ、フェイ」




    「なんだい?」




    「この先には、この世ならざる光景が待ってるかもしれない。大丈夫か?」




    フェイは不安そうな顔をするが、首を振った。




    「少し怖いけど…………エレンがいてくれるから、大丈夫」




    「そうか」




  93. 106 : : 2015/02/15(日) 08:32:00


    十分ほど階段を降り続けただろうか。
    これ以上は下にいけないらしく、ここが最深部らしい。
    階段にはなかった明かりがあり、安堵の息が漏れる。




    「エレン、ここ、絶対何かあるよ」




    「だろうな」




    二人の視線の先にあったのは、『第一実験室』と標識されたプレートだ。どことなく調査兵団にいる人間版奇行種の危ない実験室と被り、危険な香が漂う。




    「近づいてみよう」




    先ほどから人の気配はないが、細心の注意を払いながら第一実験室に近づく。
    近づいていく度に、獣のような呻き声が聞こえてきて、冷や汗が流れる。
    扉までたどり着くと、フェイが不安そうな表情でこちらを窺う。
    この呻き声は何なんだい?
    そう視線で聞いてきている。
    エレンは首を横に振ると、意を決して扉を開いた。




    そこにあったのは───────




    「─────何だよ……これ」



  94. 107 : : 2015/02/15(日) 08:46:21



    頭をハンマーで殴られたような衝撃が全身を突き抜ける。
    まさか、まさかそんな……。




    「巨人化実験の、失敗作…………ッ」




    分厚い鉄格子の中に詰め込まれた巨人化実験の失敗作。彼らは、皮膚が剥がれ、目がこぼれ落ち、首が四本になり、頭から頭が生え、表面が筋肉になり───挙げていったらキリがない。
    もう、人間の原型を留めていなかった。




    檻の中の一人がエレンに気づいたのか、鉄格子に体当たりしながら叫ぶ。




    「おいあんた……助けてくれないか!!?目が見えないんだよ!!」




    目が両方ない男性がこちらを見る。
    焦点がずれてる。見えていないのだ。
    それをかわぎりに、鉄格子の中が咆哮する。




    「だぜよごぎがらだぜよぉぉぉおお俺のジンゼイがえぜよぉぉぉおおぁあああああ!!!」




    「あらぁ? 美味しそうな肉ねぇ?食べてもいいかしらぁぁぁぁああはははははははは!!」




    狂ってる。
    彼らも、シュルーワルトも。
    エレンには激情が渦巻いていた。




    「人を何だと思ってんだシュルーワルトォォオオッッ!!」




    「エレン……すごい声が…………」




    ハッとする。
    フェイにこれを見せてはダメだ。




    「見るな、フェイッッ」




    フェイを押し出すようにして実験室から飛び出る。




    「エレン…………?」




    「見ちゃだめだ……」
  95. 108 : : 2015/02/15(日) 08:53:38



    フェイは察したのか、渋々頷いた。




    「何が、あったんだい?」




    「巨人化実験の失敗作。酷いよ」




    「そっか…………」




    エレンは首を振ると、先に進むように促す。




    実験室は十個あって、一から九までが失敗作を詰め込んでいる場所、そして十の扉を開く。




    「ここは……」




    そこは、まるで資料室のような場所だった。
    資料が散らばり、足場が無いほど散乱していた。




    「エレン、これ見てッ」




    フェイが突きつけてきた資料に目をやると、エレンは驚愕した。




    「おい、なんだよこれ…………」




    「……そういう、ことだよ」




  96. 109 : : 2015/02/15(日) 09:03:30


    これは、見たことがある。
    見間違いかもしれない。現実逃避をしたくなって足下の資料をかき集めるが、どうやら、現実を受け入れなきゃいけないらしい。




    「ふざけるな…………ふざんなシュルーワルトッッ」




    巨人化実験に使われた人は、皆半年以内に起こった不可解な事件の被害者だった。
    つまり、シュルーワルトは巨人化実験のモルモットを手にいれるために、人為的に事件を引き起こして誘拐し、権力を使って事件の真実を隠蔽し、嘘の情報を流していたのだ。




    「そんな……そんなことって………」




    「あり得るんだよ。ここ半年で各地で起きた事件のほとんどはシュルーワルトが引き起こしたんだ。クソッ、ふざけやがって」




    そこで、エレンはある資料に目がいく。
    それを見た瞬間、息が詰まりそうになった。




    ────レイラ・アドモス。
    馬車転倒事件で死亡。
    死体の行方はわからず、捜査は打ち切り。





    アドモス。
    このレイラという女性は、栗色の髪、そして端麗だと容姿が、フェイに似ていた。
    まさか、フェイのお母さんまで────。
  97. 110 : : 2015/02/15(日) 09:06:46



    「エレン、どうかした?」




    「え、いや。なんでもない……」




    フェイは何故か、ジッとエレンを見つめる。
    ふいに、手に持っていた資料をワザとらしく隠してしまう。
    マズいと思った時には、フェイに資料を奪われていた。




    「フェイ、見るなッッ」




  98. 112 : : 2015/02/15(日) 09:20:02



    もう、遅かった。
    しゃくりあげるような声がして、フェイがエレンの胸に顔を埋める。




    「お母さん……なんで、どうしてこんなことしたの……ッ、お母さん………」




    なるほど。
    レイラ・アドモスの死を不可解に思ったフェイのお父さんは、真相を探るべく、シュルーワルトの実験に深入りしてしまった。
    情報を知ったフェイのお父さんは──言うまでもないだろう。




    「フェイ、この資料を持って帰ろう。そしてシュルーワルトを捕まえて、終わりにしよう」




    涙を流すフェイの背中に腕を回し、優しく抱きしめた。




  99. 113 : : 2015/02/15(日) 09:26:29



    どれだけそうしていただろうか。
    エレンは静かにフェイを離すと、資料を集める。
    フェイはペチペチと頬を叩くと、エレンの隣に腰を下ろして資料集めを手伝う。




    「エレン、君には恥ずかしいところを見せてばっかりだね」




    「そうだな。まあ、俺は気にしないけどな」




    「僕が気にするの。まったく……」




    フェイは唇を尖らせると、ツンとそっぽを向く。相変わらずだな、と苦笑しながら、エレンは立ち上がる。




    「よし、シュルーワルトはアルミンたちに任せて、俺たちはこれを持って帰って終わりにしよう」




    二人は大きく頷くと、地上を目指して歩き出した。
  100. 114 : : 2015/02/15(日) 09:57:11


    階段を登りきって小汚い廊下を並んで歩いていると、唐突にフェイが言った。




    「エレン、ありがとう。僕が今こうしてれるのは、エレンのおかげだよ」




    「何言ってんだよ。俺の方こそ、フェイがいなきゃ死んでた。ありがとう」




    「これで、終わるんだよね。全部」




    「ああ。終わる」




    裏扉にたどり着くと、フェイは少し頬を紅潮させて言った。




    「僕、調査兵団に入る。それで、エレンと一緒の班で活動するんだ」




    「俺がいる班はいろいろと面倒だぞ? リヴァイ兵長なんか、休みの日の朝五時に起こしにきて掃除するんだぞ。勘弁してくれよ」





  101. 116 : : 2015/02/15(日) 10:08:06


    「あはは、楽しそうだね」




    「まあ、楽しいんだけどな」




    フェイは扉に手を掛けると、悪戯っぽく笑った。




    「将来的には、エレンのお嫁さんになりたいな」




    エレンは吹き出しそうになるが、必死に堪える。自分でもわかるほど、顔が赤くなる。




    「お前な……」




    「半分冗談、半分本気だよ」




    「どっちだよ」




    フェイは扉を開く。
    エレンはそれを眺めながら、頬を緩めた。




    ──────ふと、視界に紅が映った。




    月光を浴びて宝石のように光るそれは、フェイの胸部から弾け飛んだものだと気づいた。
    理解が追いつかない。何が起こった。




    「……………カハッ」




    フェイが口から大きく喀血。
    そこでエレンは気づいてしまった。




    ────フェイが、撃たれた。




  102. 117 : : 2015/02/15(日) 10:13:06



    「フェイ……?」




    力無く倒れ込んでくるフェイを抱き留め、エレンはスルリと腰を下ろした。




    フェイの口からは血が糸をつくって垂れている。
    胸部から血が溢れ出て、服を赤く彩っていた。
    バシャリ、と、エレンの顔に温血が降りかかる。
    二発目の銃弾が、フェイを穿ったのだろう。




    「フェイッッ!」





  103. 118 : : 2015/02/15(日) 10:17:27



    フェイを撃ったのは、門付近の壁に立っていたツガヤだった。




    「バイバイ、フェイ・アドモス。両親のところに送ってあげましょう」




    ツガヤは薄く微笑むと、壁から飛び降りる。




    「まだ終わっていませんよ先輩」




    手に持っていた銃を放り投げ、ゆっくりとエレンに向かって歩き出す。




    「決着を着けましょう。先輩」





  104. 119 : : 2015/02/15(日) 10:28:50



    エレンの腕の中の体温は、徐々に冷たくなっていく。
    まだ終わってなかった。あいつだ。ツガヤ・ヒーツがまだいたのだ。
    このまま、フェイは死ぬ。
    そんな思考を叩き潰し、フェイを揺さぶる。




    「フェイ……」




    「エレン……僕は、死ぬ……のかな」




    「死なないッ。絶対に死なない。すぐ、治るよ」



    フェイはうっすらと微笑むと、エレンをジッと見つめる。
    その瞳は虚ろだった。




    「そ……か。死ねない、よね。だって僕、調査兵団に入るから……。エレンのお嫁さんに、ならなきゃ…………だし」




    「うん」




    「否定、しないの……?」




    「肯定もしてねえだろ」




    フェイは嬉しそうに微笑む。




    「エレンは、エレンだね……」
  105. 120 : : 2015/02/15(日) 10:34:32


    「そりゃあ、俺だからな」




    フェイの表情が徐々になくなっていく。
    フェイの体温が徐々になくなっていく。
    フェイの時間が徐々になくなっていく。




    フェイはゆっくりとかぶりを振ると、優しく微笑んだ。




    「エレン、僕ね、僕…………君に言いたいことがいっぱいあるんだ」




    「うん」




    「今、言うね?」




    フェイは重たそうに口を開く。




  106. 121 : : 2015/02/15(日) 10:41:26


    フェイはどこか走馬灯を見ているようで。
    エレンは必死に胸の奥から溢れるものを抑えていた。




    「ごめんなさい」




    「いいよ」




    「ありがとう」




    「うん」




    「好き」




    「…………うん」




    「─────ッ」




    大きく喀血する。
    ドバドバ溢れる血が、エレンの眼には映った。




    「好き……好きだよエレン。何よりも好き。僕の孤独を埋めてくれた、エレンが大好き……」




    フェイの瞳から涙がこぼれ落ちる。
    綺麗だな。そう思った。




    「もう、眠いよ」




  107. 122 : : 2015/02/15(日) 10:52:08


    フェイはゆっくりと瞼を閉じる。
    そして、エレンを求めるかのように手をばたつかせる。




    「エレン、エレンどこ……もう見えないよ……怖い。怖い……」




    エレンはフェイの手を、冷たくなったフェイの手を優しく包み込む。




    「俺はここだ。ここにいるよ」




    「エレン……わかるよ。エレンの手温かい」





    「フェイの手……温かいよ」





    「エレン、僕ね、僕、聞きたいな。エレンの気持ち……」





    「お前が次に起きた時。聞かせてやるよ。俺の気持ち」




    そう言うとフェイはゆっくり眼を開け、そして微笑む。





    「エレン、ありがとう。大……好き……だよ」




    エレンの手から、フェイの手が力無く地面に堕ちた。
    もう、動かない。
    寝ちゃったんだな、フェイ。




    エレンは立ち上がると、眠るフェイに向かって言った。




    「ありがとうフェイ。俺を信じてくれて」




  108. 123 : : 2015/02/15(日) 11:08:33



    涙は出ない。
    悲しみ以上の感情が渦巻いているからか。
    エレンはジッとして闇を睨んでいた。
    少し経って、聞こえてくる足音。
    徐々に顔が見えてくる。
    こいつが、こいつこそが────




    「────ツガヤ・ヒーツ」




    「久しぶりですね、先輩」




    相変わらずのツガヤは、淡々とした口調で言う。




    「フェイ・アドモスはどうなりました? 死にましたか?」




    「…………寝てる」




  109. 124 : : 2015/02/15(日) 12:33:33


    「そうですか、永久的に寝ましたか。それは良かった」




    ツガヤは笑うと、エレンを真っ直ぐ見据える。




    「さあ、始めましょう。先輩」




    エレンとツガヤは、一瞬の違いもなく地面を蹴り上げた。
    二人の距離一瞬で縮まり、格闘戦にもつれ込む。
    単純な格闘技術なら双方同等だ。
    しかし、ツガヤは人間体のまま硬化が行えるため、圧倒的優位な状況に立つことができる。
    はっきり言うと、エレンに勝ち目は無い。




    大きく踏み込んだエレンは、すくい上げるようなアッパーを繰り出し、ツガヤの顎目掛けて楕円を描きながら迫る。
    それをツガヤは首だけを動かして回避すると、拳を硬化させてエレンに襲いかかる。




    「潰れてくださいッ」




    あれを喰らったら数分間まともに動けない。
    迫り来る拳──硬化されていない部分を手の甲で払い退けると、腹部に渾身のストレートをぶち込む。
    しかし、人間の硬度とは思えない感触がして、左手が快音を立てて砕ける。
    腹部を硬化したのだ。




    「グッッぁぁッッ」




  110. 125 : : 2015/02/15(日) 12:46:43



    痛い。骨が粉砕された。指が明後日の方向に向いている。
    エレンは歯を食いしばると、再生を開始。
    ツガヤは脚を硬化させたエレンの足元を狙ったローキック。エレンはそれを跳躍で避けると、空中で一回転。そのまま遠心力を利用してツガヤの顔を狙う。




    「無駄ですよ先輩!」




    顔の一部を硬化させて防御するが、エレンの蹴りはツガヤの頭上を擦過。
    これはフェイクだ。
    素早く地面に着地し、強烈な中断蹴りを放つ。
    防御が遅れたツガヤは後ろにノックバック。




    「…………流石です先輩。やはりあなたは面白い! しかしあなたの力はまだまだそんなものじゃないハズだ」




    ツガヤは両手を広げると、声高らかに叫んだ。





    「"二千年因子"の力を見せてください! 最強の力を、僕に見せてください!!」




  111. 126 : : 2015/02/15(日) 12:52:32



    「戦闘狂かよ……ッ」




    エレンは静かに精神を統一すると、視界がホワイトアウト。
    音が聞こえなくなり、エレンの中の全てが無に帰す。




    そして、エレンは明鏡止水の境地に立っていた。




    「それですよそれッッ! さあもっと強く!」




    不思議と心は凪いでいて、自我があった。
    流れ込んでくる二千年の記憶は様々だ。
    苦しい記憶、楽しい記憶。
    まるでコマ送りのように流れる。




  112. 127 : : 2015/02/15(日) 13:05:55



    それらが一気に弾け飛び、意識が現実に引き戻される。
    目の前には、倒すべき相手の姿がはっきりと映る。




    「さあ、見せてください先輩。僕も本気で行きますッッ」




    爆ぜるように動いたツガヤは、エレン目掛けて硬化した拳を振るう。
    それら全ていなし、ツガヤから距離を取る。




    「ッッ、先輩ぃぃぃッッ!!!」




    脚を硬化させたツガヤは、舞い踊るようして回転しながらエレンの首を捕ろうと接近。
    怒涛の連撃に、一瞬首が跳ぶイメージが脳内に浮かぶ。
    咄嗟に身を屈めると、超高速で頭上を硬化した脚が通過。一瞬でも判断が遅れていれば、首から上が無くなっていただろう。




  113. 128 : : 2015/02/15(日) 13:15:41



    後ろに飛び退き、ツガヤのジッと見据える。
    エレンは意を決して右手を水平に振った。
    両の瞳が一瞬煌めき、エレンは"力ある言葉"を口にした。




    「巨人の王の名において、今この瞬間、森羅万象あらゆる巨人の力を《無効》とする──我巨人の王なりッ」




    「これが─────」




    エレンを中心として巻き起こる旋風は、徐々に力を増し、消える。
    それと入れ替わるようにして光が現れ、視界を真っ白に染めた。
  114. 129 : : 2015/02/15(日) 13:21:38



    ────刹那、互いの体内から巨人の力が無に帰す感覚。
    ツガヤの硬化した皮膚は剥がれ落ち、エレンの再生途中だった左手も完治しないまま停止する。




    座標の力で全ての巨人の力を今この瞬間封じたのだ。これこそがこの世界における最強の力、巨人を無力化させる力だ。




    故に、勝負の決着をつけるのは互いの格闘術のみ。




    「凄い…………これが座標……これが"二千年因子"ッッ。さあ先輩、幕引きといきましょうッ」




    最終ラウンドの火蓋が、切って落とされた。




  115. 130 : : 2015/02/15(日) 13:47:20



    ツガヤはまず視界を眩ませるように拳を繰り出す。それを予測したエレンは身体を大きく横に逸らすと、流れに逆らわず蹴りを入れる。
    予測しない方向からの蹴り。だが敵もさるもの。
    脚を振り上げて防御したかと思うと、そのまま天から叩き落とすような踵落とし。




    「ッッ」




    右腕で受け止め、軸足を払うと、ツガヤの体制が大きく傾く。
    その回転の勢いを維持したまま、円運動を描きながら流星のような速度で叩き込まれる拳。




    「ガハッッぁぁ」




    しかし攻撃を休めない。
    追撃しようと距離を詰め────しかしツガヤもそれを読んでいた。
    強引に身体を捻って体制を立て直すと、お返しと言わんばかりの回し蹴り。
    脇腹に直撃し、大きく吹き飛ぶ。
  116. 131 : : 2015/02/15(日) 14:07:43


    地面に叩きつけられる瞬間に受け身を取るが、ツガヤの蹴りの威力は強く、身体中を痛みが走る。




    「ツガヤ………、ヒィィィツゥゥゥッッ!!」




    狂ったように咆哮し、エレンは大地を蹴り上げた。
    そして射程距離に入ると、まるで弾丸のような拳を連続で突き出す。
    ツガヤは防御に徹し、その連撃をかいくぐると、一旦後ろに下がり、最接近。
    助走によって威力を増した拳がエレンを直撃する────否、エレンはそれを見切り、反撃。




    「いいです先輩ッッ、面白いッ。これこそが闘争ッッ!」




    息つく間もない怒涛の連撃。
    ツガヤはまるでそれを読んでいるかのような回避を見せる。
    エレンは短く舌打ちすると、拳を握る手にさらに力を込め、空気を切り裂くような拳を繰り出す。




    「────ッ」




    それはあまりにもはやく、ツガヤには見切れなかった。
    直撃。
    腹部を完全に捉えた一撃は、磁石の反発のように弾き飛ばした。
  117. 132 : : 2015/02/15(日) 14:38:06



    地面を数回バウンドしてやっと停止。
    ツガヤは血を吐き出すと、エレンを睨みつける。




    「先輩…………ッ」




    殺意のこもった眼差しに射抜かれ、背筋が凍る錯覚を覚える。
    素早く距離を縮めると、ツガヤは咄嗟に立ち上がり、迎撃体制を取る。




    「先輩……死んでください!」




    「断るッッ!」




    互いの拳がぶつかり合い、大気が揺れる。
  118. 133 : : 2015/02/15(日) 14:53:40



    「なんで、なんで人を殺すッッ? なんで戦うんだよッッ。お前らのせいで何人死んだッッ!?」




    「僕の知ったことではありませんッ。僕は戦わなければ存在を証明できないですッッ!」




    「黙れッッ、お前がそこにいるっていうのが存在だろうが! 一々戦う理由なんてねえんだよッッ」




    「百本譲ってそうだとしても、僕は戦いたい! わかりますか? これは僕の本能なんですッッ! あなたが調査兵団にいるように、僕の居場所は戦いなんです。闘争の渦の中なんですよ」




    ツガヤは哀しそうな、弱々しい表情を見せる。




    「たくさんの仲間に囲まれ、幸せを謳歌してきたあなたにはッ、僕の気持ちなんてわからないでしょうねッッ!!」




    もう言葉による説得は諦めなければならない。
    エレンはゆっくりとかぶりを振り、ツガヤに言った。




    「お前は、痛いな」




    「お互い様ですよ、先輩」




  119. 134 : : 2015/02/15(日) 15:07:41



    ツガヤはにっこり微笑むと、両手を挙げた。




    「どういうつもりだ」




    「降参ですよ。降参。あなたに勝ったところで、もう僕は助からない運命ですから」




    ホラ、といって指を指すと、調査兵が施設内に侵入していた。




    「それじゃあ、さようなら、エレン先輩」




    「…………」




    ツガヤは背を向けると、こちらを振り向かずに歩いていってしまった。




    彼は、フェイを撃った。
    許せない。だが憎めない。
    彼の境遇に親近感を覚えたからだろうか。
    わからない。




    まあ、これで全部終わったのだ。資料を持って帰れば、全部終わる。




    エレンは重い足取りで、フェイの元に向かった。
  120. 135 : : 2015/02/15(日) 15:28:47




    フェイの元にたどり着いたエレンは腰を下ろし、フェイに言った。




    「なあ、終わったぞフェイ。起きろよ」




    返事は────ない。




    「フェイ、なぁフェイ起きろよ。寝たふりなんだろ?」




    悲しい。悲しいほど悲しい、現実逃避。




    「返事、聞かせてやるから、さ。起きろって」




    いつしか、エレンの頬を熱い涙が筋をつくっていた。
    そして、崩れた。
    泣く。ひたすら泣く。泣いて泣いて、泣いて。
    けど涙は止まらない。




    もう、フェイは二度と動かないのだから。




    フェイの声を聞くことも、フェイの笑顔を見ることも、フェイの温もりを感じることも、叶わない。




    フェイが死んだ。フェイが死んだ。フェイが死んだ。
    その事実だけが、エレンの脳内に響き、残酷な現実を突きつけた。




    「……お願いだから、起きてくれよ……フェイ─────ッ」














  121. 136 : : 2015/02/15(日) 15:33:04



    いつの間にかエレンはフェイを横抱きにして、シュルーワルト本家の正門にたどり着いていた。
    腕の中のフェイは冷たく、肌が青白い。
    門を出た瞬間、調査兵団の皆が駆け寄ってくる。




    「エレンッッ!」




    「ミカサ…………」




    ミカサはエレンが抱きかかえている少女を見て、驚愕する。




    「おい、根暗野郎」




    リヴァイがミカサに声を掛けると、ミカサはリヴァイを睨みつける。




    「今は一人にしてやれ」




    ミカサは渋々了承し、エレンから離れていった。




  122. 137 : : 2015/02/15(日) 15:39:46






















  123. 138 : : 2015/02/15(日) 15:48:29



    数日後、エレンは墓地にいた。
    フェイの墓石に花を添えると、両手を合わせた。




    「フェイ、遅れてごめん。なんか、気持ちの整理がつかなくてさ。まだお前が死んだって、信じれない」




    エレンは数日前、リヴァイが言っていたことを思い出した。












    「くそっ、調査兵団め、まさか最初からわかっていたのか……ッ」




    屋敷が調査兵団によって襲撃されていると知ったシュルーワルトは、持てるだけの荷物を持って逃走を企てていた。
    しかし、それは窓が砕ける音とともに消え失せる。




    「どこ行くんだ、クソ野郎」




    「り、リヴァイッッ」




    リヴァイはしばらくシュルーワルトを眺めると、吐き捨てるように言った。




    「お前の行き場は牢獄だ。死刑じゃないだけ感謝しろ」




    証拠は全て挙がっていた。
    ツガヤ・ヒーツが調査兵団に自主し、全てを明かした。
    物的証拠はエレンが持っているらしく、まあそれは後回しだ。














    こうして、シュルーワルトの野望は、エレン・イェーガーの活躍によって打ち砕かれたのだ。
  124. 140 : : 2015/02/15(日) 16:05:22



    エレンはかぶりを振る。




    「俺のどこが英雄なんだろうな」




    死神か、それとも疫病神か。
    とにかく自分は、大量の血と死を撒き散らすろくでなしだ。




    「英雄、か。それは俺じゃなくては、死んでいったお前らのような人に与える言葉じゃないかな」




    エレンは自嘲気味に笑うと、そっと墓石を撫でた。





    この先、英雄である彼は、これまで死んでいった仲間の祈りを背負って生きていかねばならない。
    それは途方もなく重く、ひどく辛い道となるだろう。
    しかし、自分は歩いていかねばならない。
    それが死んでいった仲間に対してできる餞なのだから。
    死体の山の頂上で光を浴びる自分の、運命なのだ。




    エレンは大きく息を吸い、吐いた。
    そしてフェイが眠る墓石に向かって優しく言った。




    「また来るよ、フェイ」




    風が吹き、墓石に添えられたら赤い薔薇の花が揺れた。
    花言葉は、愛情。




    ふと、フェイの声が聞こえた気がして振り返ると、あるのは薔薇の花だけで。
    エレンは苦笑すると、皆が待つ本部へと、ゆっくりと歩いていった。




    静かな風は、まるでフェイが背中を押してくれているようで、心地よかった。
















    The End
  125. 141 : : 2015/02/15(日) 16:06:57
    良かった
  126. 142 : : 2015/02/15(日) 16:12:34
    フェイ〜〜(/ _ ; )


    執筆、お疲れ様でした‼︎
    巨人を倒した後の平和な世界での事件。
    発想もさることながら、とにかく先を読めないストーリーの展開が面白かった。
    乙です(*^^*)

    次回作も期待してます。
  127. 143 : : 2015/02/15(日) 16:15:22

    あとがき






    長いッッ!
    そしてフェイぃぃぃぃッ!
    やってしまった。フェイを殺してしまった罪悪感が緋色を抉ります。
    はい、というわけで逃亡犯、エレン・イェーガーは無事終了しました。


    これも、皆さんのおかげですッッ。
    お気に入りくれた方。せっかくコメントしてくれたのに返事を返せない作者を最後まで応援してくれた方。ありがとうございました。



    話は変わりますが、ハッピーエンドかバッドエンドで迷ってたんですよね。
    まあ、個人的にはこれ一番しっくり来ました。
    ほら、バッドエンドは悲しくなるし、ハッピーエンドだったらありきたりだし、悩みに悩んだ末、大好きなフェイを殺してしまいました。
    文章力のなさが、フェイの死にインパクトを与えられなかった……ッッ。




    長くなりましたが、どうもありがとうございました!




  128. 144 : : 2015/02/15(日) 16:17:19

    >>141
    ありがとうございますッッ!



    >>142
    ありがとうございますッッ!
    いやあ、何度もコメント頂いてるのに返せなくてすいません!
    次回作もどうぞよろしくですッ
  129. 145 : : 2015/02/15(日) 16:24:05
    物語の展開にドキドキさせられ、最後に涙が出そうになりました。



    素敵なストーリーをありがとうございます!
  130. 146 : : 2015/02/15(日) 16:30:31
    執筆お疲れ様でした
    最後のところで泣いてしまいました
    次回作を期待してます
    次回もがんばってください
    応援してます
  131. 147 : : 2015/02/15(日) 17:57:30
    お疲れ様です!!

    隻眼のオタクのクインケ


    羽赫:オタク

    を持ってる人は違う!!


    文才ありすぎ!神ぃぃぃ!!

  132. 148 : : 2015/02/15(日) 18:12:43
    皆さんありがとうございますッッ!
    いや、本当にありがとうございます。
    あのわかりにくいシーンで涙ぐんでくれて嬉しいです。精進しますッッ


    >>147
    羽赫:オタクはやはり最高です!
    フォルテッシぃモぉぉぉッ!
    ありがとうございます!
  133. 149 : : 2015/02/15(日) 18:53:42
    緋色さん、文才ありすぎです!!
    凄すぎるっ!

    バトルシーンが丁寧に表現してあり、頭の中でイメージできました!

    流石です(*`・ω・´)


    フェイ。゚(゚´Д`゚)゚。
    可愛らしいキャラで好きでした(笑)

    執筆お疲れ様でした!
  134. 150 : : 2015/02/15(日) 19:06:28
    すごい良かったです!!
    先の読めない展開に魅力されました!!
    次回作も期待です!!
  135. 151 : : 2015/02/15(日) 19:11:40
    >>149
    嬉しいです!
    バトルシーンは確かに結構力入れました。
    フェイを好きになってくれて嬉しいです!
    ありがとうございます!


    >>150
    ありがとうございます!
    先の読めない展開かぁ。
  136. 152 : : 2015/02/15(日) 19:46:29
    フェイのキャラ好きだなー!
    違う作品で出して欲しいくらいです!
  137. 153 : : 2015/02/15(日) 20:30:13
    フェイが殺された後の会話
    とても感動しました、あなたの作品を全部見たくなりました。
    これからも頑張ってください!
  138. 154 : : 2015/02/15(日) 21:20:13
    >>152
    出します!
    今度こそフェイを幸せにしたいです!


    >>153
    アカウント変わっちゃいましたg、ぜひ見てください!
  139. 155 : : 2015/02/15(日) 21:28:16
    わがままですけど現パロとかでもみてみたいです!
    次回作期待してます!
  140. 156 : : 2015/02/15(日) 21:49:46
    >>155
    現パロですか。
    書いたことないので上手くいくかわかりませんが、頑張ってみようかな。
  141. 157 : : 2015/02/15(日) 23:20:43
    すごいよかったです!
    泣きましたよもう。大洪水

    現パロ期待してます!
  142. 158 : : 2015/02/15(日) 23:28:16
    >>157
    どうもありがとうございます!
    感動していただけたのなら嬉しい限りです!
    現パロは作品が終わってからにしようかな
  143. 159 : : 2015/02/17(火) 20:44:08
    うわw
    誤字多いw
  144. 160 : : 2015/02/17(火) 23:19:18
    戦闘シーンでかなりハラハラしました
    すごく良かったです!
  145. 161 : : 2015/02/18(水) 07:16:53
    >>160
    ありがとうございます!
    戦闘シーンは結構頑張ったので嬉しいです!
  146. 162 : : 2015/02/18(水) 21:03:29
    感動しました。
    緋色さん、SS書くのがうまいですね!
    次の作品も、とても期待しています、頑張って下さい。
  147. 163 : : 2015/02/18(水) 22:29:32
    >>162
    どうもありがとうございます!
    次回もがんばりますねっ
  148. 164 : : 2015/02/19(木) 21:59:38
    http://www.ssnote.net/archives/31739
    フェイサイドの話です。
    是非読んでくださいね

  149. 165 : : 2015/03/04(水) 07:56:44
    感動しました…

    フェイの告白シーンでもう画面が見えなくなって。笑
    フェイちゃん大好きです!可愛い!

    続編期待しています!緋色さん頑張ってください!
  150. 166 : : 2015/03/05(木) 20:37:36
    >>165
    ありがとうございます!
    フェイは可愛いぃ。

    番外編でもかこうかな
  151. 167 : : 2015/03/12(木) 18:09:47
    フェイ……((泣

    生存ルートをお願いします…((大泣

    それかフェイの訓練時代を…((超泣

    とにかくフェイが生きてるところを見せてください…((スーパースティックファイナリアリティ大泣
  152. 168 : : 2015/03/12(木) 19:54:50
    >>167
    書きたいのは山々なんですけどね……
    時間的に無理かな。
  153. 169 : : 2015/03/29(日) 01:38:56
    面白すぎます
  154. 170 : : 2015/03/29(日) 17:26:46
    元ネタがあるんですがw
    ありがとうございます!
  155. 171 : : 2015/06/18(木) 23:17:40
    天才ですね
    すばらしかったです!
  156. 172 : : 2015/06/21(日) 16:32:03
    生存ルートも見たい
    特にフェイとエレンが結婚してるところを見たいです‼
  157. 173 : : 2015/09/18(金) 19:40:20
    ↑見てみたい
  158. 174 : : 2015/12/05(土) 14:59:42
    小便チビっちゃいそうです!
    感動しました!!

    それはそうと失敗作の描写は
    あまりの恐怖にクライマックスが頭に入らないんじゃないか?と
    ドキドキしましたが
    まさかのフェイの死!
    フラグ回収待ったなし!もっと間髪入れたげてよお!!!

    何度でも読み返します
  159. 175 : : 2016/04/20(水) 09:31:03
    ブラックブレット
  160. 176 : : 2016/06/25(土) 17:22:00
    フェイ
  161. 177 : : 2016/06/25(土) 21:19:34
    生存ルートみたいです
  162. 179 : : 2016/10/09(日) 20:07:47
    グリシャの妹の名前も「フェイ」だったけど、役人のお遊びで犬に襲われて死んだ。せめてこっちの「フェイ」の幸せそうな姿が見たいです。
  163. 184 : : 2016/10/12(水) 19:29:45
    namusyaka「ママー」ビエーン

    ママ「まあまあ、どうしたの坊や」

    namusyaka「おっぱい飲みたいよー」

    ママ「坊やったらもう良い年なんだからおっぱいは卒業よ」

    namusyaka「やだよーおっぱいー、ママー‼」ビエーン

    ママ「まったくこの子ったら…」

    いろはす「ママー」

    ママ「どうしたのいろはすちゃん」

    いろはす「おしっこー」

    ママ「まあまあ、すぐトイレ行きましょうねー」

    いろはす「もう漏らしちゃったよー」ジョバジョバー

    ママ「この子ったら…」

    いろはす「うえーん、ママー」ビエーン
  164. 191 : : 2016/11/28(月) 18:50:50
    魔鬼天使 Muira.PuamaII:http://zzleshirts.com/p347.html
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  165. 192 : : 2016/12/01(木) 07:41:30
    変えたアカウントがわからないので教えてください
  166. 194 : : 2016/12/12(月) 19:03:59
    >>170元ネタ今日分かった。学校でブラックブレッ5ド巻読んでたらストーリーが酷似してた。でも元ネタの一部分を抜き出したりするならまだしも、元ネタの内容にそってストーリーを進めて行く辺り尊敬する
  167. 195 : : 2016/12/20(火) 20:05:27
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    Spanish sex drops:http://zzleshirts.com/p170.html
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    韓国痩身一号:http://zzleshirts.com/p49.html
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  168. 196 : : 2017/01/23(月) 00:53:29
    すごく良い作品でした。
     
    やっぱりブラックブレッドに、似ています。

  169. 197 : : 2017/10/22(日) 14:42:51
    ライナーを倒せる。
  170. 198 : : 2017/11/11(土) 21:22:22
    久しぶりに見たけど感動した!!
    ······フェイ
  171. 199 : : 2017/11/11(土) 21:23:20
    フェイの生存ルートを!!!!!
  172. 200 : : 2018/08/13(月) 14:07:32
    よかったZe
  173. 201 : : 2018/08/17(金) 22:52:00
    泣きました。フェイ安らかに眠ってくれ(´;ω;`)(´;ω;`)(´;ω;`)(´;ω;`)(´;ω;`)(´;ω;`)
  174. 202 : : 2018/10/28(日) 17:46:08
    死亡フラグがしっかりと建てれていて良かったですよ!
    面白かったです。
  175. 203 : : 2018/10/28(日) 18:01:15
    日本?何言ってんの?
  176. 204 : : 2019/02/17(日) 10:28:07
    フェイさん…エレン様と幸せに暮らして欲しかったな…このSS泣ける…(´;Д;`)
  177. 205 : : 2020/09/27(日) 12:10:13
    高身長イケメン偏差値70代の生まれた時からnote民とは格が違って、黒帯で力も強くて身体能力も高いが、noteに個人情報を公開して引退まで追い込まれたラーメンマンの冒険
    http://www.ssnote.net/archives/80410

    恋中騒動 提督 みかぱん 絶賛恋仲 神威団
    http://www.ssnote.net/archives/86931

    害悪ユーザーカグラ
    http://www.ssnote.net/archives/78041

    害悪ユーザースルメ わたあめ
    http://www.ssnote.net/archives/78042

    害悪ユーザーエルドカエサル (カエサル)
    http://www.ssnote.net/archives/80906

    害悪ユーザー提督、にゃる、墓場
    http://www.ssnote.net/archives/81672

    害悪ユーザー墓場、提督の別アカ
    http://www.ssnote.net/archives/81774

    害悪ユーザー筋力
    http://www.ssnote.net/archives/84057

    害悪ユーザースルメ、カグラ、提督謝罪
    http://www.ssnote.net/archives/85091

    害悪ユーザー空山
    http://www.ssnote.net/archives/81038

    【キャロル様教団】
    http://www.ssnote.net/archives/86972

    何故、登録ユーザーは自演をするのだろうか??
    コソコソ隠れて見てるのも知ってるぞ?
    http://www.ssnote.net/archives/86986
  178. 206 : : 2020/10/14(水) 15:14:53
    459 : ラーメンラーメン : 2018/10/27(土) 23:51:02 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    いやーここまで勘違いした陰キャが集まってると見苦しくて仕方ないね笑


    460 : ラーメンラーメン : 2018/10/27(土) 23:52:10 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    こういう辺境のサイトで嘘吐いて何になるの?そっちが下らなくて草生えるわ


    461 : ラーメンラーメン : 2018/10/27(土) 23:56:16 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    正直まともに話せるのは井上雅也だけだな笑

    こういう時だけ前から思ってたとか下らない理由をつけて便乗してる小学生君はさっさと寝な笑

    462 : ラーメンラーメン : 2018/10/28(日) 00:15:24 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    てかさ、偏差値70なんて、正直勉強大量にやるとかそういうレベルじゃなくて、産まれたときから違うから笑


    あと、勘違いしてるかもしれないが、70はいくときがあるとしか言ってないぞ?笑


    あと、本当の天才はいないって言ってたけど偏差値70程度は天才でもなんでもないし、学校の半分がオタクって言われてるから笑


    知らないのに口出してんじゃねぇよ笑


    463 : ラーメンラーメン : 2018/10/28(日) 00:23:10 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    正直な話、俺は井上雅也だけと話したい。君らみたいな、便乗してるだけの奴等が混ざると、結局それだけになるんだよ。少しは考えてくれ。


    11 : ラーメンラーメン : 2018/10/21(日) 10:35:09 このユーザーのレスのみ表示する
    >>7 177っすね


    12 : ラーメンラーメン : 2018/10/21(日) 10:35:59 このユーザーのレスのみ表示する
    >>8 学年で一番身長ありましよ。柔道してるんで筋肉だけで50㎏超えてますし


    14 : ラーメンラーメン : 2018/10/27(土) 08:24:19 このユーザーのレスのみ表示する
    >>13 片手で持ち上げて投げれるかも

    62 : ラーメンラーメン : 2019/06/20(木) 13:20:42 このユーザーのレスのみ表示する
    偏差値70って言える頭も無いのに下らない煽りしてんじゃねぇよ餓鬼みたいに

    15 : ラーメンラーメン : 2019/06/20(木) 13:38:04 このユーザーのレスのみ表示する
    お前も行ってんのかよ

    偏差値何?

    17 : ラーメンラーメン : 2019/06/20(木) 14:57:11 このユーザーのレスのみ表示する
    >>16 張り合うっていうかもし俺より賢いなら凄いなぁって単純に思った

    まぁほっとくわ

    ラーメンラーメン
    kana3515
    嘘を吐いてる?そんな下らない事をする理由がないだろう。偏差値70前後は努力でどうにかなる問題じゃねぇよ。元の頭次第だよ。それに、ssに関係するのは偏差値じゃなくて文才。あと、人の事も信じられなくて人に合わせて、妄想に縋るような陰キャは黙ってて、どうぞ。受験前でしばらく低浮上なつもりだったけど止める。最後に話して垢消すよ。別に、荒らすつもりとか、そういうのも無いから。
  179. 207 : : 2022/02/04(金) 14:21:40
    http://www.ssnote.net/users/mikasaanti
    我らがトロ様であられるぞ(^ω^)

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    1 : 2021年11月6日 : 2021/10/31(日) 16:43:44 このユーザーのレスのみ表示する
    ごめん、20個作るのは面倒くさかったから4個だけな。

    2 : 2021年11月6日 : 2021/10/31(日) 16:43:56 このユーザーのレスのみ表示する
    sex_shitai
    toyama3190

    oppai_jirou
    catlinlove

    sukebe_erotarou
    errenlove

    cherryboy
    momoyamanaoki

    16 : 2021年11月6日 : 2021/10/31(日) 19:01:59 このユーザーのレスのみ表示する
    ちょっと時間あったから3つだけ作った

    unko_chinchin
    shoheikingdom

    mikasatosex
    unko

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    unko

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    アカウントの譲渡について
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    36 : 2021年11月6日 : 2021/10/13(水) 19:43:59 このユーザーのレスのみ表示する
    理想は登録ユーザーが20人ぐらい増えて、noteをカオスにしてくれて、管理人の手に負えなくなって最悪閉鎖に追い込まれたら嬉しいな

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    パラストも消えた

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    『トロ!敗けを認めろ!』と言われたが

    22 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 20:37:51 このユーザーのレスのみ表示する
    以前未登録に垢あげた時は複数の他のユーザーに乗っ取られたりで面倒だったからね。

    33 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 20:41:33 このユーザーのレスのみ表示する
    >>30エレン 様は最初から捨てた様なもんだけど継続君のは完全に失敗だったなーと反省してる


    46 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 20:45:59 このユーザーのレスのみ表示する
    ぶっちゃけグループ二個ぐらい潰した事あるからね

    52 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 20:48:34 このユーザーのレスのみ表示する
    一応、自分で名前つけてる未登録で、かつ「あ、コイツならもしかしたらnoteぶっ壊せるかも」て思った奴笑

    61 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 20:51:31 このユーザーのレスのみ表示する
    違法云々言い出したらこのサイト自体黒寄りのグレーやし

    89 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 21:17:27 このユーザーのレスのみ表示する
    noteがよりカオスにって運営側の手に負えなくなって閉鎖されたら万々歳だからな、俺のning依存症を終わらせてくれ
  180. 208 : : 2023/01/27(金) 15:57:36
    どっかの厨二病登録ユーザーでは絶対に作れない後編の作品だな(^ω^)
  181. 209 : : 2023/07/01(土) 00:32:34
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    2 : 2021年11月6日 : 2021/10/31(日) 16:43:56 このユーザーのレスのみ表示する
    sex_shitai
    toyama3190

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    16 : 2021年11月6日 : 2021/10/31(日) 19:01:59 このユーザーのレスのみ表示する
    ちょっと時間あったから3つだけ作った

    unko_chinchin
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    36 : 2021年11月6日 : 2021/10/13(水) 19:43:59 このユーザーのレスのみ表示する
    理想は登録ユーザーが20人ぐらい増えて、noteをカオスにしてくれて、管理人の手に負えなくなって最悪閉鎖に追い込まれたら嬉しいな

    22 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 20:37:51 このユーザーのレスのみ表示する
    以前未登録に垢あげた時は複数の他のユーザーに乗っ取られたりで面倒だったからね。

    46 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 20:45:59 このユーザーのレスのみ表示する
    ぶっちゃけグループ二個ぐらい潰した事あるからね

    52 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 20:48:34 このユーザーのレスのみ表示する
    一応、自分で名前つけてる未登録で、かつ「あ、コイツならもしかしたらnoteぶっ壊せるかも」て思った奴笑

    89 : 2021年11月6日 : 2021/10/04(月) 21:17:27 このユーザーのレスのみ表示する
    noteがよりカオスにって運営側の手に負えなくなって閉鎖されたら万々歳だからな、俺のning依存症を終わらせてくれ

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jyudan

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