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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

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逃亡犯、エレン・イェーガー《前編》

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  1. 1 : : 2015/02/02(月) 17:04:20





    調査兵団の最終的であった全巨人の駆逐。
    見事に完遂し、調査兵団は鳴り止まない拍手と歓声に包まれた───────その、半年後。




    「冗談ですよね、兵長」




    「なんだ、エレン」




    有り得ない光景を目の当たりにしたエレン。
    その横には人類最強の兵士、リヴァイ。




    「いや、ちょっと待ってください。嘘ですよね?」




    「これが嘘だと思うなら、病院に行ってこい」




    二人の目の前にそびえ立つ───教会。
    ここでは明日、結婚式が行われるんだとか。
    そして、この巨大な教会をたった二人だけで掃除するというのが、今回の目的。




    「いや、だって兵長、本部の倍ぐらいありますよ?」





    「掃除が多くできるだろう」




    「そういうことではなくて……」
  2. 2 : : 2015/02/02(月) 17:06:55



    「何か問題でもあるか?」




    「大ありですよ!終わるわけないじゃないですか!」




    「ピーピーうるせぇヤツだな。さっさと始めろ」




    「そんなぁ……」




    エレンを置いてスタスタと先に歩いていくリヴァイの小さな背中を眺め、エレンは大きく息を吐いた。




  3. 3 : : 2015/02/02(月) 17:18:53



    「俺は一階をやる。お前は二階をやれ」




    あえて部屋の数が少ない二階を与えてくれたのは、リヴァイの優しさなのだろうか。
    そうであって欲しいと思いつつ、階段を登る。




    「思ったより綺麗だな」




    壁に飾られてある絵画は、ある女性が椅子に座って微笑む写真。呼吸を奪われるほど美しいそれは、まるで別世界のもののようだ。




    「さすが教会だな」




    手すりに手を掛けながら踊場をターンすると、まるでパーティー会場のような大広間が見える。




    「というか、二階を掃除する必要があるのか?」




    結婚式が行われるのは一階のみ。
  4. 4 : : 2015/02/02(月) 17:55:35


    などと内心毒づきながらも、階段付近にある掃除用具入れの扉に手を掛ける。
    そこで、ふと床に落ちているアルバムのようなものが目に入る。




    「写真……集?」




    ピラリ、とページをめくると、男性と女性、そしてその娘と思わしき家族写真があった。
    どれも微笑ましい写真ばかり。
    中には、撮られるのを嫌がった少女を無理やり撮ったのか、恥ずかしがって視線を逸らしがちにしている少女の姿が写っていた。
    なんだか後ろめたい気持ちになって、パタンとアルバムを閉じる。




    「さて、掃除始めなきゃ兵長に怒られる……」
  5. 5 : : 2015/02/02(月) 20:16:05


    蛇口を捻ってバケツの中に水を注ぎ込む。
    満タンになったところで、取っ手を持ち上げ、右手でモップを掴んで窓掃除から始める。





    「それにしても立派な教会だなぁ」




    窓を拭きながら廊下の奥に差しかかると、鼻孔を刺激する臭いが漂う。そして空気を切る音。
    この臭いには、覚えがある。
    血臭?立体機動装置?
    全身を悪寒が襲う。
    この扉の向こうにが何がある?
    ゴクリと唾を呑み込み、ゆっくりと扉を開く。
    そこには─────────




    「死体………ッ」




    部屋中に散って赤い華をつくっている夥しい量の血痕。
    そして真っ赤になってうつ伏せで倒れている、おそらく人間だったもの。
    鼓動がはやまる。
    恐る恐る近寄ると、驚愕に息が詰まりそうになる。




    首が、ない。




    「なんだ、これ………」




    背中に刺さった対巨人用のブレード。
    いまだに出血していることから、死んでからそれほど時間が経っていないのだろう。
    一歩後退すると、踵にコツンと何かが当たる。
    ゆっくり、ゆっくり振り向くとそこには。




    切断された生首が、絶望の表情を浮かべて転がっていた。
  6. 6 : : 2015/02/02(月) 20:28:41



    虚ろな瞳で、こちらを見つめる首。
    何を思ってか、自分でもわからないが、死体に向かって歩き出す。
    脳内で警鐘が鳴り響く。窓から入り込む風が、エレンの頬を撫で、冷や汗を攫う。
    そっとブレードの柄を握る。
    いったいなんなのだ。何が起こった?




    「そういえば……」




    この殺害されたと思われる男性には見覚えがあった。先ほどのアルバム。
    そこに写っていた、恐らく父親と思われる男性。なぜ、ここに……?




    思考を巡らせていた。だからこそ、警戒を怠った。
    ドタドタと廊下を駆け抜ける音にビクン反応する。
    まさにその瞬間、大きくドアが開かれる。




    「憲兵だッッ、動くな!」




    胸元に一角獣の紋章。
    秩序を守るユニコーンが、その目に映った。




    「ち、違うッッ、待ってくれッ」




    そこではたと気づく。血塗られたブレードを固く握っている自分は、どのように映るだろうか。
    憲兵の一人が走り寄ってくると、脚を掛けて転ばせる。
    床にぶちまかれた血溜まりに顔から倒れ込み、鉄のような臭いと共に、手首に何か固形物が固定される。




    「ッッ─────」




    それが手錠だとわかった瞬間、口の中に押し込まれる大量の綿。巨人化を防ぐ為のものだとわかると、諦めたように眼をつむった。




    ────チクショウッッ。
  7. 7 : : 2015/02/02(月) 20:36:36



    教会から連れ出される時、馬車の前でリヴァイが腕を組みながらエレンを見つめていた。




    「………エレンよ、なぜ殺した」




    違うッッ!俺じゃないんです!
    そう叫びたかったが、口内を綿で固定されているため、声が出ず、ただただ俯くだけだった。




    「おい、乗れ」




    強引に馬車に押し込まれる。
    エレンは助けを求めるようにリヴァイに視線を送るが、最後の最後までリヴァイがこちらを向くことはなかった。




  8. 8 : : 2015/02/02(月) 20:50:26




    「ふん。人類を救った英雄も、半年で堕落か。随分落ちぶれたな?エレン?」




    「だから、俺はやっていませんよッッ!」




    地下牢獄。最深部に幽閉されたエレンの元にやってきたのは、憲兵団師団長、ナイル。




    「嘘をつくな。あの状況で被害者を殺せたのはお前だけだ」




    「違う……俺じゃない……」




    手首を鎖で繋がれ、思うように動けない。
    まるでそれは、翼を失った鳥のようで。




    「では、それを誰が証明できるんだ?」




    「それは………」




    言葉に詰まる。
    あの場には誰もいなかった。死体と、自分だけ。




    「罪を認めろ。エレン・イェーガー」




    話にならない。
  9. 9 : : 2015/02/02(月) 21:00:30



    「もう一度最初から聞くぞ」




    「何回も話したじゃないですか」




    「なぜお前は教会にいた?」




    「……結婚式を控えた教会を、掃除するため。兵長と二人で」




    いったい何度目だろうか。かれこれ二時間は話し込んでいる。




    「先ほど結果が出たが、あれはお前のブレードだったそうだ」




    「そんなバカなッッ?俺は立体機動装置しか現場に持っていってませんよ!?」




    そこで、ひどく後悔する。
    かまを掛けたような表情をするナイル。
    奥歯がギシリとなる。




    「まあムキになるなよ。だれも兵装の話なんてしてないぞ」





    「ッッ」





    「それに、殺された男性は明日、その教会で結婚式を行う予定だったそうだ」




    「…………?」




    「残念だよ。魔が差したのか何なのか知らないが」
  10. 10 : : 2015/02/02(月) 21:06:09



    「違う………」




    「犯行に使われたのはお前のブレードで、現場にはブレードを握ったお前が立っていた。誰も証言者はいない」




    「それはッッ……俺のブレードが犯行に使われたのは……」




    なんと言っていいのかわからず、沈黙。




    「それに、リヴァイが言っていたぞ。馬車で教会に向かう途中、顔色が優れてなかったと」




    「………」




    「ブレードをケースに入れてたかはわからないが、どう考えてもお前が犯人だ」




    「違うッッ。違う俺じゃないんです……」




    俯きながらぼやくエレンを背に、ナイルは階段を登っていった。
  11. 11 : : 2015/02/02(月) 21:17:55



    「なんだよ。証拠が不十分すぎるじゃないか」




    頭を抱えてうずくまる。
    なんで、俺がこんな目に。




    「………ッッ、くそッ」




    体重を壁に預け、自分の手をジッと見つめる。
    巨人化。
    脳裏に過ぎるが、大きく首を振ってその思考を追い出す。
    事故現場にせめて誰かいれば────待て。
    そこで何か、違和感を覚える。
    部屋に入る前に、空気を切った音はなんだ?
    あれは間違いなく立体機動装置だった。聞き間違えるはずがない。
    そして死体の死亡時刻。恐らく立体機動装置を使った何者かは、エレンの接近に気づいて窓から飛び出した?




    「だとしたら────」




    窓が開いていたことも頷けるし、何より兵士が立体機動の音を間違えるわけがない。
    さらに、憲兵がたどり着いたタイミングの良さ。明らかに狙っていたかのようなタイミングだ。となると、計画的殺害?エレンに罪をなすりつけるための?だが、誰が?
    考えられる候補の中で最も可能性高いと思われるのは、巨人に猛反発している貴族、そして旧王政。




    「組織的な何かが関与している……?」


  12. 12 : : 2015/02/02(月) 22:08:46



    それに、家族がすでにいたはずの男性の結婚式。離婚か何かだろうか。
    そういえば、被害者は兵服を着用していた。
    いろいろあって、紋章は見れなかったが。
    ともかく。
    どうやら憲兵側はどうにかしてエレンをつぶしたいらしい。



    「あぁぁもう」




    床に大の字に寝転がる。
    瞼を閉じると、コツコツと階段を降りてくる音が聞こえる。一人ではない。二人。
    まさかと思って飛び起きると、案の定、アルミンとミカサが心配そうにこちらを覗き込んでいた。




    「エレン!」




    ミカサが鉄格子を握りながら叫ぶ。




    「お前ら………」




    「元気がないね、エレン」




  13. 15 : : 2015/02/03(火) 07:21:43



    「当然だろ。牢屋に入れられては元気が出るやつなんていねーよ」




    わざとらしく肩をすくめてみせる。




    「それにしても」




    アルミンの言葉に、文字通り言葉を失った。




    「まさか君が、人を殺すなんて」




    ──────は?




    「ま、待てよアルミン。お前、冗談だよな?」




    「冗談?まさか。君は人を殺したからここにいる。そうだろう?」




    「違う!俺はやってない……ミカサッッ、お前ならわかってくれるよな」




    すがるようにミカサの方を向くと、バツも悪そうに顔を逸らす。




    「そんな………違う……」




    最も信頼している二人からの疑惑の眼差しは、エレンの心を深く抉る。
  14. 16 : : 2015/02/03(火) 07:30:23



    「そこでじっくり考えるんだ。今、自分が何をするべきか」




    「エレン……ごめんなさい」




    「そんな………」




    アルミンとミカサが遠くなる。このままでは、もう二度と会えないかもしれない。
    手を伸ばすが、届くはずもなく。
    ただ空を切るだけで。




    「………助けてくれ」





  15. 17 : : 2015/02/03(火) 07:48:45


    どれほど時間が経っただろうか。
    ムクリと身体を起こし、周囲を見渡す。
    特段変わった様子もなく、ただただ暗いだけ。
    コツンと壁に頭を預け、意識を手放そうとしたとき、三度目の訪問者が訪れる。
    憲兵だ。
    ガチャガチャと牢の扉を開け、入ってくる。
    何事かと見つめていると、手には注射器のようなものが握られている。
    腕を掴まれ、その真意に気づいた時、短く息を呑んだ。




    「巨人化抑制液……」




    文字通り巨人化を一定時間抑制する作用を持った液体が、注射針を通して体内に流れ込む。




    「王都にこい。王女様がお呼びだ」





    「ヒストリアが……?」
  16. 18 : : 2015/02/03(火) 07:57:35


    しばらく馬車の中で揺れながら、王都ミットラスに到着する。
    巨大な城壁が連なり、何人たりとも侵入を許さない、そんな圧力をかけているように思える。
    ガチャ、と手錠の鍵も外され、両手が自由になる。
    見上げるほど巨大な扉の前に立たされると、憲兵二人が扉に押し開ける。
    重々しい音と共に、光彩を刺激する眩しい光。その先の玉座に座っていたのは、現王女ヒストリアだった。




    「随分久しぶりね、エレン」




    「ヒストリア……」




    憲兵が軽く敬礼すると、扉の向こうに消えていく。




    「確かこの前会ったのは、半年前くらいだったかしら?」




    「……そうだな」




  17. 19 : : 2015/02/03(火) 09:11:41


    「………それで、なんで俺をここに連れてきたんだ」




    「さぁ、何でだろうね」




    エレンは呆れ返っていた。
    大きく息を吐き出すと、肘掛けに肘をつき、視線を泳がせた。





    「それはそうと、こんな話は知ってる?」




    唐突に、しかしヒストリアは笑顔を絶やさずに。




    「巨人化実験が、今もこの壁内で行われていることを」




    ガタン、と大きな音を立てて椅子から立ち上がる。




    「そんなバカな……ありえない!もう巨人は………俺だけだ」




    「本当にそう思う?」




    「え………」




    あまりにも真剣なヒストリアの眼差しに射抜かれ、背筋が伸びる。




    「巨人化抑制液が作られたのは、いつ?」




    そこでハッと気づく。
    抑制液が作られたのは、調査兵団が壁外への道を切り開き、残存する巨人を全て駆逐した、その直後だった。




    「おかしいよね?巨人を全部駆逐したのに、抑制液なんか作る必要があったのかな?エレンだけのために作られた……なんて、考えられないよね?」




    ゴクリと唾を呑み込む。




    「それじゃあ、まさか………」




    「巨人化実験の失敗作の暴走を止めるために作られたと考えるのが妥当だろうね」
  18. 20 : : 2015/02/03(火) 10:45:46




    「何のために……?」




    「曰わく、旧王政の残党が王位を奪還するため。曰わく、王位を狙う貴族の陰謀。単なる噂話らしいけど、妙だよね。抑制液のことも、エレンの事件のことも」




    「妙………だと?」




    ヒストリアは椅子から立ち上がると、窓際まで優美に歩き、さんに手をつく。




    「もしかしたら、巨人化を意のままに操れるエレンを邪魔と判断した人間が、エレンを処分するためにこんな行動を起こしたのかも」




    「………おい、ヒストリア。お前、何を知ってる?」




    「やだなぁ。私はただ、憶測で物を言ってるだけだよ」







  19. 21 : : 2015/02/03(火) 10:57:04



    違う。彼女は憶測なんかで言ってるんじゃない。確信を持って話している。
    彼女の瞳を見れば、わかる。




    「ヒストリア、教え──────」




    「───おい、エレン・イェーガー。時間だ」




    両脇に憲兵がやってきて、強引に連れ出す。




    「おい!ヒストリアッッ」




    「エレン、もしあなたが皆を信じるなら、自分の力で────────」





    ────ガシャン。
    巨大な扉が重い音を立てて閉まり、王室と廊下を遮断する。
    ヒストリアが何を伝えたかったのか、わからなかった。
  20. 22 : : 2015/02/03(火) 11:41:38




    エレンが憲兵に連れ出された後の王室。
    ヒストリアは椅子に座り直し、奥の方に向かって語りかける。




    「本当に良かったんですか?」




    「ああ。エレンには悪いが、こうするしかない」




    ゆっくりとこちらに歩いてきたのは、元調査兵団団長、エルヴィンと、現調査兵団団長のハンジだった。




    「頭が鎧の巨人並みに固いエレンに、伝わったのかな?」




    「………」




    「………」




    ハンジの呟きに、二人は黙りする。




    「あれ?ヤバくない?」
  21. 23 : : 2015/02/03(火) 11:52:29


    「……いや、むしろ脳みそが鎧の巨人並みに固いからこそ、我々の望む行動を取ってくれるかもしれない。なぜなら、彼はいつも私たちの想像の斜め上を行くからな」




    「斜め下とかに急降下して、おとなしく牢屋で余生を過ごす……なんて、ありませんよね?」




    「……」




    「……」




    沈黙。




    「うん。マズいわこれ」




    「ハンジさん!」




    「落ち着いてよヒストリア。どの道エレンは牢屋に入れられるんだ。それがヤツらの目的だ」




  22. 24 : : 2015/02/03(火) 12:03:48



    少し思案顔で顎に手を当てるエルヴィン。




    「しかし、この仮定がもし間違っていたら、エレンは処刑されるかもしれないぞ」




    「いや、これは仮定じゃないよエルヴィン。何のために兵団の武器庫を開けてたと思うんだい?」




    そこでようやく気づいたのか、エルヴィンは眉を寄せる。




    「そうか。武器庫でエレンのブレードを持って行った時点で、エレンに罪を被せようとするヤツの犯行が確定するというわけか」




    数あるブレードの中で、エレンのを使った。
    全てハンジの読み通りだったというわけだ。




    「エルヴィン、少しバカになった?」




    「ハハ、現役には勝てんよ」




    「それで、エレンのブレードを持っていったのは、どんな人だったんですか?」




    「フードを深く被っていてわからなかったけど、立体機動装置を使ってたから、兵士だよ。それもすごく手練れでね。モブリットの追跡を撒いたんだよ」




    「モブリットさんのを!?」




  23. 25 : : 2015/02/03(火) 12:19:13


    驚きを隠せないヒストリアを余所に、ハンジはなおも続ける。




    「多分そのまま教会に直行したんだろうね」




    「やはり巨人化実験か」




    「だね。ヒストリア、少し荒れるよ」




    「お気になさらず。私は私の政務を全うするだけです」




    「その意気だよ。それじゃあ、何かわかったら早馬で連絡してくれ」




    「了解しました」




    去って行く二人の背中を眺めながら、ヒストリアは祈るような気持ちで呟いた。




    「エレン……」
  24. 26 : : 2015/02/03(火) 12:48:36





    王都を出たエレンは、再び馬車の中で揺られていた。
    ヒストリアは最後、何が言いたかったのだろうか。何を伝えたかったのだろうか。




    『エレン、もしあなたが皆を信じるなら、自分の力で─────』




    自分の力で、何をしろというのか。何ができるというのか。
    ヒストリアの話が本当なら、この事件の裏には何かしらの組織が関わっていることになる。
    いったい、誰が─────?




    「クソッッ」




    大きくかぶりを振る。
    わからない。証拠及び情報が少なすぎるし、何よりもバカな自分がどれだけ考えでもって結論にはたどり着くまい。
    馬車は林の一本道を通る。
    ウォール・シーナの道はどこも整備されているが、ここの道は吐き気がするほど揺れる。




    「全く……」




    座り直そうと手錠で繋がれた手を器用に使ってた起き上がる───瞬間、とてつもない浮遊感がエレンを襲った。直後、擦過音が鳴り響き、天地が逆さまになって身体中に痛みが走る。
    前方から聞こえる悲鳴と共に、馬車が転倒したのだと気づいた。
  25. 27 : : 2015/02/03(火) 12:58:21


    衝撃で馬車のドアが開き、転がり落ちるようにして地面に叩きつけられる。
    背中を強打し、一瞬息が詰まる。
    這いずるようにして転倒した馬車の側面に移動すると、憲兵二人が血を流して倒れ込んでいた。地面に血痕が残っていることから、頭をひどく打ちつけたことがわかる。
    そして、あろうことか、さらに事態は悪化していた。
    なにやら焦げ臭い臭いが辺りを漂い、嫌な予感がして振り返ると、馬車が馬ごと炎を上げて燃えている。




    「ッッ」




    憲兵を手錠で繋がれた手で引っ張り、炎から遠ざける。
    幸い炎は林に引火せず、道の真ん中で燃えているのが不幸中の幸いだろう。
    しかし、いったいなぜ?
    必死に思考を巡らせていたからか、すでに夕日が沈みかけていたことに気づかなかった。
    そして、背後の殺気にも。




    「エレン・イェーガー……ね?」




  26. 28 : : 2015/02/03(火) 13:14:34



    「誰だ」




    振り返ると、フードを深く被り、訓練兵団の兵装と思わしき服装をした少女が立っていた。
    腰にぶら下がっているのは立体機動装置。
    両手にはブレード。
    夕日を鈍く反射し、どこか恐怖を覚える。




    「これから死体になる人間に、名乗る名前なんてないよ」




    「ッッ、お前が馬車を転倒させて、火をつけたのか?」




    「うん。全部君を殺すためだよ」




    そこで、ようやく彼女が自分を殺そうとしていることに気づき、一歩後ずさる。




    「誰……だよ」




    「言ったよね。死体に名乗る名前なんてないと」




    「何で、俺を殺そうとするッ?」




    それを聞いて、少女は黙る。
    しかしそれは三秒と続かず、再び口を開く。




    「君が……僕のお父さんを殺したからに決まっているだろう!」




    一気に間合いを詰めた少女は、ブレードを大きく振りかぶる。
    だが、いつまで経ってもブレードは下ろされない。相手も、お父さんを殺したと思っていた殺人犯が憲兵を助けたのに困惑しているようだ。
    続く膠着状態。
    しかしそれは、遠くで聞こえる新手の足音でかき消える。
    短く舌打ちした少女は、立体機動で林の奥へと逃げていく。




    「まさかあいつ……」




    アルバムにあった写真の少女か?
  27. 29 : : 2015/02/03(火) 13:30:19



    そこでふと、倒れている憲兵のそばでキラリと光る何かを見つける。
    それを見た途端、心臓の鼓動が急速に加速する。




    ────手錠の鍵。




    いまなら、逃げることができる。
    ゆっくり、ゆっくりと鍵の元に歩く。
    バカ、やめろ。ここで逃げたら、馬車の転倒も自分の所為にされかねない。そうなれば、牢獄は確定だ。もし裏で組織が動くのなら、処刑だってあり得る。
    短く、浅くなっていく呼吸。
    鍵を手に取るが、ガタガタと震える。




    ────俺は殺してない。無実だ。なのに、なぜ捕まらなければならない?




    何度も自問するが、返ってくる答えは同じだ。




    ────俺に罪を被せようとしたヤツらがいるからだ。




  28. 30 : : 2015/02/03(火) 13:40:17


    心臓が破裂してしまうほどバクバクと動く。
    悔しい。何もできずに、ただただ罪を被せられることが。
    逃げる?逃げない?逃げる?逃げない?
    心の中でその二つの問いが響きあう。




    選べ、選べよエレン。お前はこのまま、いわれのない罪を被されたまま、薄暗い地下牢で一生を終えるのか?




    ───────。




    答えは否だ。
    いつの間にか、震えるは止まり、心拍数も平常通りに戻っていた。
    カチャリ。
    開放感のある音と共に、両手が自由になる。




    ────逃げなければ。




    憲兵の立体機動装置一式と、フードをかっさらい、素早く装着する。
    すぐそばまで来た足音がエレンを急かす。




    急げ、急げ、急げ、急げ!




    立体機動の装着が終わり、深くフードを被ると、トリガーを引いてワイヤーを放出。
    木の上部へとアンカーを打ち込むと、ワイヤーがエレンの身体を引き上げる。
    重力を振り切って舞い上がったエレンは、再びワイヤーを放出。
    そして、ギリッ、と下唇を噛み締めた。













    ─────────。




    数分後、憲兵団が駆けつけたときにはもう、エレン・イェーガーの姿は無く、燃えながら転倒している馬車と立体機動装置を奪われた憲兵、そして彼を縛っていた手錠だけがそこに残っていた。
  29. 32 : : 2015/02/03(火) 17:04:28




    「エレン・イェーガーが脱走しました」




    巨大な屋敷の中の一室にて。
    執事らしき男が椅子に座る男性に向かって告げる。




    「ふむ。想定内だ。しかし、どうやって?」




    「馬車を引いていた憲兵がまだ起きないからわかりませんが、恐らく、彼女かと」




    「ふん。皮肉なものだな」




    グラスいっぱいに注ぎ込んだ酒を一気に飲み干す。




    「エレン・イェーガーには消えてもらわなければならない。ヤツは危険過ぎる。我らの計画にいずれ仇をなす存在となるだろう」




    「では、排除しますか?」




    「ああ。早急にな」




    「御意に」




    ───そう。何人たりとも邪魔させない。
    邪魔をするのであれば容赦なく叩き潰す。




  30. 40 : : 2015/02/04(水) 06:05:37


    「標的はストヘス区郊外を移動中。フードを深く被った人間は全て検査しろ」




    男がそう言うと、威勢のいい返事と共に、馬の鳴き声が辺り一帯に響きわたる。




    「この包囲網を抜け出すことはできないだろうね……」




    男が細く微笑むのと、執事が立体機動で地面に着地するのは同時だった。
    執事は長身、かつ、微妙に影が薄い。




    「ツガヤさん」




    「ああ、ベル。いいところに来たね。これからエレン・イェーガーを叩くところ何ですよ」




    「……そう、ですか」




    「ははは、ゲームの時間です。このストヘス区から逃げてみてください。エレン先輩(・・)




  31. 41 : : 2015/02/04(水) 15:53:27



    今の自分を表す言葉は、孤立無援というのが妥当だろう。
    なぜなら、自分は逃亡犯なのだから。
    幸い、まだ自分が逃亡者とストヘス区の人間は気づいていないらしく、フードを深く被り、立体機動装置を隠していればいいのだが、それも時間の問題だろう。




    「クソッ、どうすればいいんだよ」




    フードのポケットに入っていた財布は、恐らく憲兵のものだろう。
    遣うのは気が引けたので、ズボンのポケットに押し込む。




    「とりあえず壁の付近に行ってみるか……」




    気取られぬよう、ごく自然体で歩く。
  32. 42 : : 2015/02/04(水) 16:14:16



    なるべく人目を避けるように裏路地を通り、建物の陰から頭だけを覗かせて様子を見るが、とてもじゃない。完全に包囲され、立体機動で壁を登ろうにも無理がある。
    牢屋で打たれた巨人化抑制液もまだ体内で循環しているのがわかる。




    「道にでも迷いましたか?」




    不意にかけられたら声に驚いて後ろを振り向くと、にこやかに微笑む男性が立っていた。
    自分と同い年くらいだろうか。憲兵団の紋章、一角獣が胸元に描かれている。




    「えっと、その……」




    「とりあえずあちらの大通りに出ましょう。僕が案内します。さあ」




    腰にぶら下がっている立体機動装置を見て、エレンはゴクリと唾を呑み込む。
    ここは彼の言う通り、親切心に甘えてやろう。
    コクコクと頷くと、先導する憲兵の少年から少し距離を取って歩く。




    「知ってますか?巨人がいなくなったのに、兵団が存続している理由が」




    「いや、詳しくは知らない……」




    自分が兵団の者であると感づかれたら最後、応援を呼ばれることになる。
    的確に相槌を打つことにした。




  33. 43 : : 2015/02/04(水) 16:22:35



    「憲兵団が存続しているのは、秩序を守るため。駐屯兵団が存続しているのは治安を守るため」




    壁の内部にいた巨人も完全に壁と一体化し、壁内の巨人はいなくなった。
    当然巨人がいなくなれば、それぞれの兵団の役割も変わってくるわけで。
    聞いた話によると、今の訓練兵団は立体機動や馬術よりも対人格闘や銃器取り扱い、座学を重視しているらしい。




    「そして、調査兵団は未踏領域、つまり壁外の調査、及び地図の作成です。巨人がいなくなった分、楽になったと思いません?」




    「まあ、そうだな」




    「話は変わりますが、どういった用事でストヘス区に?」




    唐突な質問にたじろぎ、戸惑う。
    慌てるな、と心の中で自分に言い聞かせる。




    「祖父の家に」




    「お爺さま」




    大通りの騒がしさが次第に大きくなってくる。
  34. 44 : : 2015/02/04(水) 16:31:17




    「そういえば」




    少年が呟く。




    「お名前、言ってないですね」




    「え、ああ……」




    「僕はツガヤ・ヒーツと申します。どうぞよろしく。エレンさん」




    エレンの肩がピクリと反応する。




    「エレンって、あの調査兵団のエレン……だよな?」




    「当然です。エレンさん」




    全く、自分がエレンであることを疑っていない風に言うツガヤ。
    脳内に警鐘が鳴り響く。




    「……百本譲って、俺があのエレンさんだとする。そしたら、お前はどうする?」




    「決まっているでしょう」




    次の瞬間、エレンの頬を掠めてアンカーが飛んでくる。咄嗟に反応できていなければ、眉間に刺さってブレードで首を斬られてお終いだ。




    「あなたを殺すんですよ。エレン先輩ッ!」
  35. 45 : : 2015/02/04(水) 16:52:18


    咄嗟に両脇から操作装置を抜き、太腿辺りにぶら下がるブレードボックスから抜刀。
    同じく抜刀したツガヤ電光石火体現したような速度で走り込んでくる。
    躊躇いもなくブレードを振り下ろすツガヤは、本当にエレンを殺そうとしている。




    「ッッ」




    右斜め上段から繰り出された斬撃を、ブレードで傾けて防御。
    それだけが目的ではない。
    ブレードは側面を滑りながらエレンの真横を擦過。体制を崩したツガヤに回し蹴りを入れて距離を取る。




    「流石ですエレン先輩」




    「先輩……?」




    「ええ。巨人化実験の成功者にして完全なる巨人になることができる人間」




    背筋に悪寒が走り、ヒストリアの声が脳裏で再生される。




    『巨人化実験が、今も壁内で行われていることを』




    まさか、そんなわけない。




    「僕も実験の成功者なんですよ。先輩」




  36. 46 : : 2015/02/04(水) 17:11:44



    「そんな………」




    驚愕の表情を浮かべるエレン。
    しかし──────。




    「さて、敬愛する先輩を殺すのは少々気が引けますが──────」





    ────先手必勝。
    先ほどは一発もらったが、今度は速攻で決着を着ける。
    両腰の射出装置がうなり、両脇にアンカーを突き立てる。そしてトリガーを握ると、ガス圧を利用するファン駆動色のウィンチが悲鳴を上げながらガスを噴き出す。
    ガスを使った爆発的な推進力で加速。
    頬を突き抜ける風が髪をもてあそぶ。
    ブレードを大きく振りかぶり、振り抜く。
    キィン、スチールが擦れる音が響く。
    ブレードを交差させて攻撃を防いだのか。
    そのままワイヤーに導かれるままツガヤの頭上を通過。上空に身を投げ出す。
    それを追うようにしてツガヤも飛翔。
    屋根の上に降り立つと、羽根車が回り、ワイヤーを巻き取る。




    「お見事です。調査兵も巨人がいなくなると立体機動装置を対人の武器として扱うのが上手くなるものですね」




  37. 47 : : 2015/02/04(水) 17:38:36


    「んなワケねぇだろ!」




    大きく音を立てながら屋根を蹴り上げ、ツガヤに襲いかかる。しかしツガヤは笑みを絶やさず。




    「せっかちな先輩ですね。もう少しお話しましょうよ」




    「お前に喋ることなんて、一つもねぇよ!」




    「では、先輩には聞き手に回ってもらいます。そうですね、まずは僕の昔話なんてどうです?」




    そう言うとツガヤはブレードボックスにブレードを収めると、腰を低く、格闘技でも行うような姿勢を取る。




    「なめんなよッッ」




    なぎ払うような斬撃をしゃがんで避けると、つま先を軸に一回転。




    「僕が生まれたのはウォール・シーナの内地でしてね」



    右、左、左、上と全て難なく回避。




    「生まれつき身体が弱かったんですよ」




    今度は手法を変えて槍のような攻撃。
    横殴りの雨のような連撃も、軽やかなステップで華麗に回避。



  38. 51 : : 2015/02/04(水) 20:05:34



    「けど、伯爵は僕に巨人の力を分け与えてくれた」




    エレンは一旦距離を取り、再び接近。
    緩急をつけた攻撃を繰り返すが、軽い身のこなしで苦なく避ける。




    ──────なんでッッ




    「その力で僕は生き長らえた。元々早死にする運命だった僕は、巨人化実験よって、ここにいるんです」




    ──────どうしてッッ




    「他の実験者はほとんど死んでしまいました。残ったのは僕を含む三人だけです」




    ──────攻撃が、当たらないんだよッッ!




    「クソッッ」




    趣向を変更。
    ブレードを収め、エレンが最も得意とする格闘戦に持ち込む。





  39. 52 : : 2015/02/04(水) 20:32:56




    左拳のミドルパンチを見せてからのローキック。身体を左に傾けてからの跳躍で避けるツガヤ。そこから更に踏み込んで掌打を繰り出す。
    今まで笑みを絶やさなかったツガヤだが、ここで初めて表情に焦りの色が見えた。




    「先輩、あなたは、いわば"完全なる巨人"。対する僕たちは、"半巨人"なんです。言ってる意味が解りますか?」




    これまで回避を続けてきたツガヤだが、怒涛の連撃に、腕、脚を使って防御する。




    「知らねぇよッッ」




    渾身の中段蹴りがガードを貫通し、衝撃で靴が屋根を滑る。




    「いいでしょう。教えてあげます。これが"半巨人"の力ですッ」




    距離を詰めて拳を繰り出すエレン。
    確実に顔面を捉えた。




    「ッッヅ!」





    しかし驚き、そして痛みの声を上げたの果たしてエレンだった。
    腕が、まるで硬質な物体を殴った時のように痛い。指が有り得ない方向に曲がり、血が噴き出す。
    驚きにツガヤの方を振り返り、驚愕。
    彼の腕が、水晶のように硬化していたのだ。




    ─────人間体のままで。

  40. 53 : : 2015/02/04(水) 21:18:34



    「驚きました?驚いたですよねッッ?僕はアニ・レオンハートの能力をそのまま引き継いだんですよ」




    「アニ………だと」




    俊敏性、格闘術、一点集中治療、部分硬化。
    彼女のスペックを、女型の巨人の能力を引き継いだだと。




    「"半巨人"とは、巨人の持つ再生能力、そして要求スペックを突破した選りすぐりの実験体です。巨人にはなりませんが、人間体のまま巨人の力をフルに活用できる。故に、先輩の座標の力は通用しないんですよ」




    傷口から蒸気が吹き出る。
    どうやら抑制液の効果が切れたらしい。




    「女型の巨人の能力が人間体のまま使えるって……化け物だな」




    直感が告げている。彼には勝てないと。
    逃げろ逃げろと心の声が聞こえる。



    ─────だが。




    ここで逃げたら、今までの自分が、巨人の力を使ってきた自分の存在が否定されそうで。




    『あなたはもう必要無いんですよ。旧型』




    そう、言われてる気がして。




    拳を強く握る。
    逃げてはダメだ。
  41. 55 : : 2015/02/04(水) 22:03:56



    「どう抗っても、僕には勝てないですよ。残念ですが」




    確かに、今戦っても勝てる見込みは限り無くゼロに近い。
    どうする、どうする、どうする?
    その時、壁付近で何かが爆発する音が辺り一帯に響き渡る。




    「な、なんだッ?」




    ────今しかない。




    意識の裏をついた立体機動。一瞬反応が遅れて悔しそうな顔をするツガヤだったが、こちらを見つめるだけで、追ってこようとはしなかった。




    壁付近の憲兵及び駐屯兵が爆発の起こった方向に向かうのを見て、アンカーを放出。
    壁の上部に突き刺さり、エレンの身体を導く。




    一度死地をくぐり抜けたが、もしかすると壁の向こうに兵士が待ちかまえてるかもしれない。
    しかし、ストヘス区から出ないことには何も始まらない。
    意を決して壁の真上を通過。
    下方を確認するが、変わった様子はない。




  42. 57 : : 2015/02/04(水) 22:12:49




    このまま失速しながら地面に降りれば──
    ───突如、背中に衝撃が走り、右手を操作装置がこぼれる。




    「─────カハッ」




    激しく喀血エレンの意識は闇の中に吸い込まれていく。




    ────銃で撃たれた。
    油断していた。それゆえに背後まで気が回らなかった。




    咄嗟にワイヤーを放出。
    壁に引っかかり、なんとか停止。
    しかし重力によって速度が増した落下のせいで、そして片方だけアンカーが刺さり、体重を上手く支えられないということもあり、落下。
    高さは五メートルほどだったが、頭から落下して、エレンの意識は完全に吹き飛んだ。



    最後に映ったのは、壁の上部から覗く、銃を持った少女だった。
  43. 61 : : 2015/02/05(木) 17:10:22





    ダルい。




    目を覚まして初めに思ったことがそれだ。
    我ながら楽天的というかなんというか。
    サビくさい臭いがして、手動かそうとするが、手錠で拘束されている。
    サビの臭いはどうやらこれのようだ。
    鉄製のパイプに固定され、動けそうにない。
    重い瞼を持ち上げ、周囲を確認する。
    恐らく倉庫の中だろう。




    「俺、銃で撃たれて………あれ、思い出せねえ」




    すると扉の向こうからドタドタと足音が聞こえる。スライド式のドアが勢いよく開かれ、外の光が倉庫内に差し込む。




    「起きてたんだね」




    入って来たのは、エレンより少し年下、栗色のショートカットに、結んだ髪を一房、斜め後ろに尻尾のように垂らした、どこか知的雰囲気を感じる少女だった。




    「お前は………」




    背中に銃弾を受け、頭を地面に叩きつけられる瞬間、壁の上にいた少女だ。




    「僕はフェイ・アドモス。君が殺した男性の娘だよ」




    僕───と名乗る少女は、突き刺すような視線でエレンを見つめる。
    直視できなくなり、視線を逸らす。




    「……俺は殺してない」




  44. 62 : : 2015/02/05(木) 17:23:09




    「じゃあ、なんで君は捕まったの?」




    「それは……誰かに、いや。組織に罪を被されたんだ」




    「懺悔の言葉は、それだけかい?」




    太腿のブレードボックスから抜刀。
    エレンの首もとにブレードを押し付ける。




    「本当に殺してないんだ。俺は───」




    気づけば、エレンは天井を見上げていた。
    直後下顎を襲う強烈な痛み。
    フェイに蹴り上げられたのだろう。歯が砕け散る。




    「ガッッ………ッ」




    砕けた歯を吐き捨てると、切れた口内から血が糸を引いて垂れる。
    再生が始まる。




    「もう一度聞くよ。君は僕のお父さんを殺したね?」




    「だから、俺は殺してないって────」




    今度は頬を爪先で蹴り飛ばされ、燃えるような痛みが襲う。




    「ぐっ……ぁ」




  45. 63 : : 2015/02/05(木) 17:32:54



    「巨人って本当に再生がはやいね。ブレードを使ってもいいかな」




    握っていたブレードをエレンに向け、凍えるような眼差しでエレンを射抜く。




    「痛い思いをしたくなかったら、自分の罪を認めたらいい。僕たち家族は、第二の人生を、道を歩いていくハズだったのに」




    そこであのアルバムの写真を思い出す。
    そうか、やはり死んだ男性──フェイのお父さんは、一度妻を亡くしてるのか離婚したのかはわからないが、再婚する予定だったのだ。




    「よく考えるんだよ?巨人化しても、兵団に抑えられるだけだからね」




    「俺はやってない」




    直後、右肩を貫く白刃。
    鮮血が踊り、壁を紅く彩る。




    「ぐあぁぁぁあッッ!」




    ブレードが肉を抉り、骨の辺りまで深く刺さっている。




    「しゃべる気になった?」




  46. 64 : : 2015/02/05(木) 17:38:45




    「ぃッ………ッ」




    「もう一度聞くよ?君は僕のお父さんを殺したね?殺した時はどうだった?自責の念を覚えてる?申し訳ないと思ってる?」




    「だから、俺は───あああぁぁぁッッ」




    刺さったブレードを引き抜き、再びエレンを標準。やはり人を殺すのに抵抗があるのか、ブレードを握る手は震えている。




    「もう、いい。死んで」




    「ッッ、待ってくれ。俺の話を聞いてくれ」




    「そんなに自分の命が大切なのかい?他人の命をどうとも思っていないのに?」

  47. 65 : : 2015/02/05(木) 17:51:32



    「………とんだ魔女裁判だな」




    「なんだって?」




    「結局お前は俺に罪を認めてほしいだけで、微塵も俺を無罪だとは思っていない」




    一瞬、フェイが顔を歪める。




    「確かに、決めつけはよくない。それで、もし君が犯人ではないのだとすれば、いったいだれが犯人なんだい?」




    「誰、かはわからない。けど、俺を嵌めた組織がいる。お前に撃たれる前にそいつらの幹部と戦った。完敗だったよ」




    「人類を救った英雄が………?」




    心なしか、フェイはエレンの話に興味を持っているように思える。ここは慎重に。




    「ああ。その中に、きっとお前のお父さんを殺したヤツがいる。確信できる。俺はそいつ等を捕まえたい。協力してくれ」




    「甘い考えだね。そう言って、逃げるつもりなんだろう?」




    「そう思うなら、今すぐ俺を殺せ。うなじを深く損傷させたら絶命する。けど、もしお前が俺の話を少しでも聞く気があるのなら、殺すのは待ってほしい。きっと何か、裏があるはずなんだ」




    「………」




    「もし、そんな連中がいなかったら、俺を見せしめに殺して、王政から立派な賞状と名誉を貰えばいい」




    「………本気、なのかい?」




    「ああ。本気だ。どうか信じてほしい。人類を救った英雄と呼ばれてる俺を」




    「………」
  48. 68 : : 2015/02/05(木) 21:06:30




    数秒間の沈黙の後、ため息を吐いてポケットから鍵を取り出し、鍵穴に入れて回す。
    金属の擦れる音が響き、手錠が外れる。




    「………信じて、くれるのか?」




    「犯人じゃ、ないんだね?」




    一瞬言葉に詰まるが、深く頷く。
    もちろんだ。しかし、誰が耳も傾けてくれたか。




    「とりあえずここから出よう。話はそれからだ」




    フェイは立ち上がると、ついてくるように促す。
    倉庫は家の庭にあり、渡り廊下を少し歩くと玄関にたどり着く。
    鍵を開け、居間に案内されると、椅子に座らされる。




    「簡単なものだけど、これ」




    投げ渡されたのは、袋に入ったパンだった。
    店で買ったのだろう。果物で作ったジャムが一緒に入っている。




    「ありがとう」




  49. 69 : : 2015/02/05(木) 21:21:49



    コップにコーヒーを注ぎ、少し遅れてフェイも椅子に座り、机を挟んで向かい合わせになる。この机が、まるでエレンとフェイの間にある厚い壁のようで。




    「さて、話してもらうよ。君の言う謎の組織のこと」





    エレンを一口パンをかじり咀嚼すると、まっすぐにフェイの瞳を見据える。




    「そうだな、どうやって話せばいいんだろう」





    王都でヒストリアが言った巨人化実験。抑制液。そしてストヘス区での攻防。"半巨人"の存在。包み隠さずフェイに話した。




    「その"半巨人"や憲兵を裏で操ってるのが、黒幕だと言いたいのかい?」




    「信じてくれるか?」




    「そうだね、半信半疑ってところかな。まだ確定したわけじゃないしね」




    「十分だ」




    「それで、これからどうするつもりなんだい?」




    「とりあえず、情報を集めなきゃいけない。そしてツガヤ。あいつを倒す」




    「そのツガヤってヤツが実行犯かもしれないんだね」





    「多分な。それと、ここからは俺の勘なんだけど」
  50. 70 : : 2015/02/05(木) 21:31:45



    「ヤツらは多分、お前もマークしてると思う。迂闊に外を歩かない方がいい」




    言うと、フェイがムスッとした表情を見せる。





    「なめないでほしいね。こう見えて僕は訓練兵団首席なんだよ。中でも、立体機動は当時のミカサ・アッカーマン以上と言われてるのがささやかな自慢なのさ」





    「ミカサ以上ッッ?お前、化け物だな」




    ふん、と鼻を鳴らし、素っ気ない態度を取るフェイ。まだ信用されてるわけじゃないんだな。




    「あれ?訓練兵なのに、何してるんだよ?」




    「お父さんが殺されたのに訓練を受けてる場合じゃないんだよ。それに、事件は思った以上に大きなものだからね」



  51. 71 : : 2015/02/06(金) 15:30:58



    「………あ、そうだ。これも俺の勘なんだけど……、お前のお父さんは多分、組織に深く触れすぎたんだだと思う。だから殺された」




    「確かに、僕のお父さんは憲兵団の幹部だったよ。もしその組織が憲兵を操っているのだとしたら、目的を知っていてもおかしくはない」




    「その目的を外に公開しようとしたから、殺された───多分な」




    その犯人と、組織を逮捕できれば潔白が証明できる。しかし、そう易々いかないだろう。
    ツガヤ・ヒーツの話によれば、彼を含む三人の巨人化実験成功者がいる。
    ツガヤがアニなら、恐らく他の二人はベルトルト、そしてライナーの能力を持つこととなる。
    果たして勝てるかどうか─────




    「先に言っておくけど、僕と君の間に協力はない。僕は僕のため、君は君のために戦う。共に行動するのは利害が一致したから。僕はお父さんの敵討ちのために組織を、君は目的の阻止と潔白の証明のため」




    「………ああ、わかった」




  52. 72 : : 2015/02/06(金) 19:39:08



    協力はなし、か。
    まあ無理もない。




    「さて、すぐに行動するぞ。もうすぐ憲兵がここにもくる」




    いや、すでにウォール・ローゼにまで憲兵が来ていると見ていいだろう。




    「そうだね。それと、僕と君は今から同盟関係だ。もし君が死にそうなら僕は見捨てるし、その逆もある。そこで提案なんだけど──」




    少し視線を逸らし、微かに頬を紅潮させる。
    その表情は、年相応の女の子みたいで。
    十秒ほど躊躇って、絞り出すように呟く。




    「──ぼ、僕のことはフェイって呼んでくれていい」




    「わかった、フェイ。俺はエレンって呼んでくれ」




    「え、エレン………」




    ぼんやりしながら、エレン、エレンと呟くフェイ。




  53. 73 : : 2015/02/07(土) 08:12:40



    「なんだよ」




    「なッッ、んでもない!さあ急ぐよエレンッッ!」




    「ああ、行こう、フェイ!」




    こうして、真相の解明を誓った一つの同盟が組まれた。同盟と言っても、表面上のものだけなのだが、エレンにとって、もちろんフェイにとっても、この壁内で唯一、たった一人の味方だ。




    そして二人は、各々の目的のため、決意を胸に秘めて動き出す────────
















    Next to 逃亡犯、エレン・イェーガー《後編》






  54. 74 : : 2015/02/07(土) 08:17:31



    あとがき。





    分割の予定だったので、ここで切らせてもらいます。たくさんのコメント、そして終わってもないのにお気に入り登録してもらい、感謝でいっぱいです。
    コメント返せなくてすいません。



    実はこの物語、バッドエンドにしようと思ったんですけど、"半巨人"とかいう中途半端だけど強いキャラを出して、なんかエレンに負けてほしくないなーと思い、終わり方どうしようかと迷ってます。僕っ娘フェイちゃんも可愛いです。



    この作品についての感想などをくれたらな~と思います。
    他の作品もぜひご覧ください。では(^.^)/~~~
  55. 75 : : 2015/02/08(日) 07:46:54
    続き読みたいです
    出来ればハッピーエンドで
  56. 76 : : 2015/02/08(日) 12:39:50
    お疲れ様‼︎
    最高です読んでてドキドキしました‼︎
    ハッピーエンド希望
  57. 77 : : 2015/02/08(日) 13:31:44
    >>75

    どうもです!
    続きは今書いてるのが終わり次第書きたいと思います。


    >>76

    ありがとうございます!
    そう言ってもらえるととってもやる気がでます。
    正直、バッドかハッピーかわからないですが、後編もどうぞよろしくですッ
  58. 78 : : 2015/02/08(日) 21:35:34
    http://www.ssnote.net/archives/31300
    続きです。

    ぜひ見てくださいね!
  59. 79 : : 2015/02/12(木) 15:52:20
    おもしろいです。
    終わりはハッピーエンドがいいです!
  60. 80 : : 2015/02/12(木) 16:01:45
    >>79

    いまだに悩み中ですw
    いや、だいたいは……。
  61. 81 : : 2015/02/19(木) 22:00:12
    http://www.ssnote.net/archives/31739
    フェイサイドの話です。
    是非読んでくださいね!

  62. 82 : : 2015/03/29(日) 00:54:16
    面白い
  63. 83 : : 2015/05/14(木) 00:10:53
    ブラックブレットのネタですか?
  64. 94 : : 2016/11/10(木) 18:38:50
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  65. 96 : : 2016/12/10(土) 18:33:02
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  66. 98 : : 2017/01/23(月) 00:23:33
    この作品は素晴らしいです。 
    突然ですが、ブラックブレッドというアニメを知っていますか?
    話の内容が似ているんです。
    間違っていたらすみません。

    あと、期待しています。
  67. 99 : : 2017/11/20(月) 18:48:28
    ロッドレイスの制圧の指揮官をやりたい方は俺ジャイアン隊までお願いします。
  68. 100 : : 2017/11/20(月) 18:54:57
    結婚式を挙げるはずだった男性を殺した奴はわかりました。アルミンアルレルトかミカサアッカーマンのどちらかです。俺はアルミンアルレルトが犯人だと思います。
  69. 101 : : 2017/11/20(月) 19:00:30
    先ずはその殺された男性の血液検査とブレードの指紋を取ります
  70. 102 : : 2017/11/26(日) 17:45:16
    アルミンアルレルトは射殺だ以上スネ夫調査官長。
  71. 103 : : 2017/12/02(土) 18:39:23
    僕が結婚式を挙げるはずだった男を殺したんだ。楽しいな。クズのエレンを次に殺したんだ。バイバイニートの作者のぶすが。
  72. 104 : : 2017/12/02(土) 18:45:57
    私もアルミンアルレルトを助けてしまった。結婚式を挙げるはずだった男を殺した。
  73. 105 : : 2017/12/02(土) 18:46:53
    おれも犯人見たぞヒストリアレイスだやつが殺したんだ。
  74. 106 : : 2017/12/02(土) 18:48:06
    ライナーさん。ありがとうございます。ヒストリアレイスを緊急指名手配犯人にする。
  75. 107 : : 2017/12/02(土) 18:49:03
    私が主犯格だよ。結婚式を挙げるはずだった男を呼んで殺した。
  76. 108 : : 2017/12/02(土) 18:49:47
    ヒストリアレイスとアルミンアルレルトとミカサアッカーマンを駆逐してやる。
  77. 109 : : 2017/12/04(月) 17:48:49
    僕も見ました。ヒストリアレイスが殺しをやってるところを。
  78. 110 : : 2017/12/07(木) 19:36:51
    ベルトルトさんありがとうございます。引き続きヒストリアレイスミカサアッカーマンアルミンアルレルトの捜索活動を行います。

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jyudan

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