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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品は執筆を終了しています。

モブリット『宵闇を照らす一筋の光』―一周年記念SS―

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  1. 1 : : 2015/01/08(木) 19:46:06
    早いもので88がnoteに来て一年になります

    今回のSSは、私のSSにおいて一番活躍してくれたモブリットとハンジの話を、彼らへの愛を込めて書きたいと思います

    久々にかなり長い話になります

    デビュー作である リコ『私は蝶になる』から一年

    ここまで応援し、支えて下さった読者の皆様方に感謝を込めて

    私の今持てる全てをの力で書いていきたいと思います

    モブリット『宵闇を照らす一筋の光』

    混沌とした閉鎖的な世界において、悩み苦しみながらも歩むハンジを、いつも側で支えるモブリット目線の話

    モブリットの想いはハンジに届くのか?

    ウォールマリアの崩壊後からの話になります
    ネタバレは単行本+特典DVD

    コメントはこちらに頂けたらとても嬉しいです
    http://www.ssnote.net/groups/553/archives/1
  2. 2 : : 2015/01/08(木) 20:09:00


    ウォールマリアの崩壊から一年

    人類は危機的状況に陥っていた

    もともと壁の内側のみを生活圏にしていた人類

    その土地は決して広くはなく、特に食糧生産において、自給自足が成り立つぎりぎりのラインであった

    壁の外には広大で肥沃な大地があるとされている

    だが、人類は壁の外に出ることを許されてはいない

    いや、厳密には一部の例を除いて、出る事が不可能であった

    壁の外には、人類にとって最凶の天敵、圧倒的な力を持つ巨人がはびこっているからである

    人類は巨人によって壁の内側に追いやられ、息を潜める様に、さながら虫かごに捕らわれ、傷ついた蝶の様に生きるしかなかったのであった
  3. 3 : : 2015/01/08(木) 20:33:19
    そんなぎりぎりの状況で、それでも厚く固い壁に守られて、人類は生き永らえていた

    だが、その100年に続く情況が、ある事件をきっかけにひっくり返る

    人類を守る存在であった三枚の壁

    ウォールマリア、ウォールローゼ、ウォールシーナ

    三人の女神の名を冠した神の壁

    王都ミットラスを中心に、円を描くようにたたずむ三人の女神

    巨人でさえ防いでいた不可侵であるはずのその壁の一枚が、いとも容易く破られたのだ

    2体の巨人によって

    一番外側に位置していたウォールマリアの崩壊によって、人類は巨人に生活圏を追われる事になった

    ウォールマリアの住人は、更に内側の壁に逃げ込む

    その避難した住人を加えた人類に振りかかる危機

    生活圏が大幅に減少した事で、人類はもはや、その人口を支える食糧生産が出来なくなっていた

    日に日に口にできる食糧が減ってくる

    餓死をする人すら現れ始める

    食糧をめぐる争いが多発する

    そんな危機的状況の中、人類を守るための剣であり盾である兵士達は、その鋭くなければならない牙の手入れさえままならなかった

    人類は、その存亡の瀬戸際に立たされていた
  4. 4 : : 2015/01/08(木) 20:47:34
    ─────────────

    あんな事があった日の夜は、得てして上官は不安定になる

    昼間は明るく振る舞っていても、夜になると豹変する

    史上最悪の事態だ、間違いない

    簡素な執務机に突っ伏して肩を震わせている上官に、掛ける言葉も見つからない

    泣いているのだと思う

    確認は出来ない、上官の口からは嗚咽も漏れてはこない

    だが、確かに泣いている

    何となく判る…もう三年、この人の背中を追っているのだから
  5. 5 : : 2015/01/08(木) 21:02:06
    先ほど、キース・シャーディス団長から聞かされたあの話

    最低最悪の作戦

    あんな話を聞かされて、自分の気持ちすら揺らいでいる

    それなのに、上官を宥めるような言葉が出せるはずもない

    頭を数回振ってみる

    目の前の事態は何も変わらない

    ふぅ、と息をつく……このまま何もせぬわけにはいかない

    副官として、出来る事を考えなければならない

    この人は、こんな所で歩みを止める事を許されてはいないのだから
  6. 6 : : 2015/01/08(木) 21:54:14
    「班長……」

    執務机に歩み寄って、なるべく声のトーンを落として呼んでみた

    その声が上官に届いたのだろうか

    肩が少し、揺れた



    しばらく待ったが返事は無い

    肩の震えは止まった様だ…泣き止んだか

    「班長、そろそろお休み下さい。もう、夜半過ぎです」

    俺がそう言うと、また肩がぴくりと揺れた

    顔は、まだ上げようとはしない

    そうか……

    思い立って、その場を離れる

    部屋から続く洗面室で、洗いざらしの清潔なタオルを水に浸してしぼる

    それを手に、再度執務机に突っ伏す上官に声を掛ける

    「班長、お顔をお拭き下さい。すっきりしますよ」

    そう言って濡れタオルを上官の顔の横に差し出すと、ほんの少し顔を上げて、俺の顔をじっと見つめてきた

    「……泣いてないよ」

    ぼそっと呟く弱々しい声

    微かに覗く目じりには、くっきり涙の跡が残っているのに

    目の回りが真っ赤に染まっているのに

    「はい、班長」

    それでも俺の返事に『否』はない

    この人の言う事には、逆らわない

    ただし、事がこの人の命に関わるのであれば、その限りではないが……
  7. 7 : : 2015/01/08(木) 22:57:10
    「今、何時?」

    濡れタオルで顔を拭きながら、くぐもった様な声で尋ねる上官

    胸のポケットを探り、懐中時計に目をやる

    「午前二時半です、班長」

    「そうか、もうそんな時間か…」

    上官はそう言って、深く息をついた

    その目は虚空をさ迷うように揺れていた

    そんな上官の様子を横目で見ながら、机の隅に置かれた眼鏡を手に取る

    涙か汗かわからないが、濡れて固まった様な跡がこびりついていた

    それをそっと拭き取り元の場所に置くと、図ったかの様に、上官は眼鏡に手を伸ばした

    「ありがと」

    そう言うと、眼鏡をしっかりとかけ直した

    虚空をさ迷っていた瞳は、不思議と力を取り戻したかの様に光り輝いた
  8. 8 : : 2015/01/08(木) 23:49:38
    「さっきの話さ、君はどう思った?」

    頬杖をつき、頭を傾けて問う上官

    ブラウンの髪はぼさぼさで、全く手入れが行き届いていない

    かなり量が多いその髪を、後ろで雑に束ねただけの髪型

    少し特徴のある、筋のとおった鼻

    細面の輪郭

    性別を感じさせない中性的な顔立ちだが、れっきとした女性だ

    喉元には男である特有の象徴は無いし、胸にはふくらみが確かにある

    ブラウンの瞳は、睫毛こそ量は少ないが、くっきりとした二重瞼で、凛とした趣を見せる

    辛うじて美しい部類に入るかもしれない

    そんな女性が、俺の直属の上官、ハンジ・ゾエ班長だ

  9. 9 : : 2015/01/09(金) 07:33:41
    「さっきの話と言うのは、キース団長がおっしゃった…」

    「ああ、それさ。君はどう思った?」

    鋭い視線で見据えてくる班長に、思わず背筋が伸びる

    こういう質問をされる度に、副官として試されているのではないかと勘ぐってしまうのだ

    「……最低の作戦だと思いました」

    考えても、今の自分の口からはこんな事くらいしか出てこない

    小さな声で正直に思った事を話すと、班長ははぁ、とため息をつき、また表情を曇らせた

    返答がまずかっただろうか

    そう思い、慌てて頭の中で自分の発言に対するフォローを考えようとした時

    「最低だよね」

    班長はそう言って、両手で顔を覆った

  10. 10 : : 2015/01/09(金) 08:09:41
    そうだ、あんな作戦、最低以外に評価する言葉が出るはずがない

    どう考えても最低だ
    考えた奴に人の心があるのか問い質したくなるほどだ

    ………自分のボキャブラリーの少なさを棚に上げて、心の中で毒づく

    だが、口に出しては言えない

    目の前で、また肩を震わせ始めた班長を見れば……

    俺の副官という立場上、火に油を注ぐ様な発言など出来ない

    何とか前向きに、如何様な作戦にも取り組んで頂く事が俺の役目だから

    正直荷が重い

    この人の副官と言う立場は、俺の力量では勤まらない

    事ある毎にそう思いながら、三年間この人の側に就いていた
  11. 11 : : 2015/01/09(金) 08:52:31
    「班長、そろそろお休みにならないと、お身体にさわりますよ」

    折角泣き止んでほっとしたのも束の間、また同じ状況に逆戻り

    何とか状況を打開すべく言葉をかけてはみるものの、班長は両手で顔を覆ったままだ

    三年も側にいるのに、いまだにこの人がどうすれば元気を出すのか、どうすれば泣き止むのか、全く見当がつかない

    情けない話だ

    「………班長、眼鏡がまた汚れますよ」

    何とか状況を打開したいと思い、苦し紛れに再度言葉を発した

    すると、班長は両手を顔から離した

    「君はこの状況で、眼鏡の心配をするのかい?」

    「はい、先日壊れて新調したばかりですので…」

    俺がそう言うと、班長は泣き笑いの様な笑顔を見せた

    そして、手を伸ばして俺の額に掛かる前髪を指で掬い、その下に隠れる傷を指でなぞる

    「君に投げつけちゃったからね、先代の眼鏡は………おでこの傷、まだ残ってるね」

    班長の指は、何度も俺の額の傷を撫でる

    その感覚がくすぐったいやら恥ずかしいやら…

    俺は思わず身動ぎした
  12. 12 : : 2015/01/09(金) 18:46:48
    カッとなると、衝動的な行動にでる班長

    確かに額の傷は、眼鏡が当たってついたものだ

    だが、俺に向かって投げつけたわけではない

    苛立ちのあまり眼鏡を振り向き様に投げ捨てた時に、たまたまいい位置に自分がいただけだ

    班長のせいではない

    額に傷がついたくらいで、俺はなんとも思わない

    だが、班長は違った

    「君を傷物にしちゃった。責任とらなきゃね」

    額の傷をなぞる度に、そんな事を言ってくる

    しかも冗談めかした表情ではなく、いたって真摯な眼差しで

    「こんな傷くらいで、責任だとか言わないで下さい、班長」

    そうだ、壁外へ行けばもっと酷い怪我もするし、傷も沢山刻まれている

    第一女でもないのに、傷物がどうとか言う話になるのがおかしい

    俺の心の中の声が聞こえたのだろうか

    「壁外でついた傷は、巨人どもがつけた。でも額のそれは、わたしがつけた。だから、責任はとるさ」

    班長は静かにそう言うと、すっと立ち上がりつま先立ちになる

    そうなると、身長差が五センチ程の俺と向かい合わせになる

    間近でじっと見つめられると、息が出来なくなる

    「班長……」

    耐えきれずに目を伏せると、額にちくりと痛みを感じた
  13. 13 : : 2015/01/09(金) 22:54:14
    「痛っ!」

    「へへっ、でこぴんの刑だ」

    目を開けると、不敵な笑みを浮かべる班長の顔が見えた

    「でこぴん…?」

    「ありゃ?もしかして君、何か期待しちゃった?ははは、まさかね!」

    俺は憮然とした表情を隠しもせずに、つんと顔を背けた

    いつもこうだ

    この人の思わせ振りな態度は、いつも俺を混乱させる

    「何も、期待なんかしませんよ」

    顔を背けたまま吐き捨てるように言うと、班長は俺の顔を覗きこんだ

    「モブリット、怒った?」

    心配そうな表情を向けられると、不満も何も全て心に押し留めてしまう

    「いいえ、怒っていません、班長」

    結局はこの人に逆らうことなど出来はしないのだ

    それほどまでに、この人に心酔していた
  14. 14 : : 2015/01/10(土) 17:07:41
    「班長、いろいろ考えたい事はおありでしょうけど、今日の所はお休みになって下さい」

    気になる事があると、自分の体に鞭を打ってまで励む班長

    それをお諌めするのが俺の役目

    この人に何かがあったら俺のせい……無理はさせてはならないのだ

    とにかく、もう午前三時になろうとしている

    何がなんでも休んでもらいたかった

    「何かね、眠れそうにないんだ…今日は」

    「お気持ちはわかりますが…着替えてベッドに横になれば、自然と眠気が訪れますよ」

    俺はそう言いながらベッドを指差す

    すでに着替えはベッドの上に用意されていた

    俺が用意した

    班長は衣食住に無頓着すぎるきらいがあるから、そういう面でもサポートしなければならない

    側についたばかりの頃は、相手が女性だということもあって遠慮がちだったが、今では生活のほぼ全て、風呂に入れる以外の事は俺がサポートしている

    生理周期も把握している

    食べ物の好みもしっている

    異性の好みは……わからない

    外面的な事はわかっていても、内面的な事までは相変わらず理解できていなかった

    「じゃあ、着替えるよ」

    「では、俺は部屋に戻りますね。また明日の朝参りますから」

    班長がベッドの上の着替えに手を伸ばしたので、俺は踵を返して部屋を出ようとした

    「モブリット」

    背中に声をかけられて振り返る

    「はい、なんでしょうか、班長」

    「一人にしないでほしい。眠れないかもしれないし」

    班長は憂いを秘めた表情を見せる

    保護欲を掻き立てるようなその表情

    そんなものを見せられて、断れるはずがない

    「あなたが眠りにつくまで、お側にいます」

    そう言って、再度後ろを向く

    背後に微かに聞こえる衣擦れの音

    それが俺の心を落ち着かなくしているなんて、この人は知らないのだろう
  15. 15 : : 2015/01/10(土) 18:07:28
    「モブリット、領土奪還作戦てさ……」

    寝間着に着替えてベッドに横になるや否や、俺にそう話しかけてくる班長

    寝ようという意欲が全くないらしい

    「キース団長のお話ですね。上が決めたことですから、今更覆る事はないでしょう」

    そう返事をしながら、ベッドの側の椅子に腰を下ろす

    班長の目はらんらんと輝いている

    まるで昼夜逆転した赤子の様に純粋な目

    こうなると、今日はこの人は寝ないかもしれない

    知識欲を満たそうとする時、この人は一番輝きを増す

    今まさにその状況なのかもしれない

    「あんなの、成功すると思うかい?立体機動も使えない民間人が、例え万単位で導入されても、巨人の据え膳にしかならないと思わない?」

    「成功などしません。この作戦は、失敗します。ウォーリマリア奪還など、叶うはずがないです」

    俺の言葉に、班長は目を伏せた

    「何とか、民間人を助ける方法は……」

    「……ありません、少なくとも俺には考え付きません」

    「民間人を、見殺しにしろっていうのか」

    班長の震えるような声

    まっすぐな性格のこの人には、受け入れがたい事実

    だが、それを受け入れるしか、人類が生き残る術はない

    「そうです、そうするしか、もう道は残されていないのです」

    「………食糧難か」

    「はい、領土の多くを失い、避難民に溢れたこの国で、もはや人口を支えるだけの農地、耕地はないのです」

    実際の所、兵食にも影響が出て久しい

    最近では一日2食、しかもパンのみ、スープのみ、こんな食事だ

    民間人なら、もっと厳しい食糧事情だろう

    今回の作戦は、ていのいい『口減らし』に他ならない

    だからこそ、班長は心を痛めているのだった
  16. 16 : : 2015/01/10(土) 23:15:47
    「私は…人類を守るために心臓を捧げた兵士だ。それなのにそんな作戦…矛盾してるよ」

    「はい、ですが、人類を絶やさないためにはこうするしか……」

    「……わかってる。でももし、自分の愛する人が、家族が、その口減らしの矛先に立たされていたら、君はどうする?」

    班長の問いは、痛いところを確実についてくる

    その問いに答えるのをためらっていると、班長は首を振った

    「ごめん、いじわるな事を聞いた。気にしないでくれ」

    「…いえ、もし家族がその矛先に立たされたとしても、それに逆らうことは許されてはいませんから、何も出来ないです、俺には。納得は出来ないでしょうけれど」

    「そうか……ごめんね、モブリット」

    班長はそう言うと、俺の頭を撫でた

    「いえ、差し当たり俺の家族はローゼ北部に住んでいますので今回は大丈夫ですが…それもいつまで続くかわかりません」

    「……ああ、そうだね。ローゼだって、マリアみたいに簡単に突破される可能性が高いもん」

    班長の言葉に、俺は頷いた

    「ですから、我々はそれを食い止めるための突破口を速やかに見つけるために、邁進するしかないのだと思います。それが、生かされた者の使命であり、責任だと思います」

    「うん、君の言は正しい。そうするしか、道はないよね……」

    辛そうに顔を歪めながら、言葉を絞り出す班長に、俺はこれ以上かける言葉が浮かばなかった

    「班長、そのためにはまずは睡眠が必要ですよ。おやすみ下さい」

    やっと思い付いた言葉をかけると、班長は素直に頷いた

    「ああ、そうするよ」

    「あなたが寝るまで側にいますから、ご安心を」

    「うん、ありがとう…おやすみ、モブリット」

    班長はふわりと笑顔を見せると、目を閉じた

    この人の笑顔が見られた、それだけで、自分の心が暖かくなるのを感じた
  17. 17 : : 2015/01/11(日) 15:25:52
    この人の寝顔を見ていると、壁外での暴走など嘘のように思える

    あどけなく、何の不安も見せていないその表情、だが、不意に見せる仕草が何とも自分の心を掻き立てずにはいられない

    じっと見ていると、ついうっかり頬に指を滑らせかける

    その行動を幾度となく寸前で止めた

    男ならば、自分が気になる異性が目の前で無防備な状態でいれば、あわよくばと思って当然だと思う

    きっと、手を出しても誰も咎めないだろうと思う

    だが、今の俺にはその一歩を踏み出す事は出来ない

    この人に何かがあったら俺の責任なのだ

    その守るべき人の寝込みを襲うなど、あってはならないことだ

    そう言い聞かせつつも、いつもこうして俺の前で無防備な姿を晒す班長に、愚痴のひとつも溢したくなるのだ

    俺は男で、あなたは女なんですよと

    それでも、そんな事は口にはしない

    今はそれよりも重大な事が、多くこの人にのしかかっているのだ

    俺の役目は、その精神的負担を少しでも軽くする事なのだから
  18. 18 : : 2015/01/12(月) 10:46:45
    翌日のために兵服一式をハンガーに掛けて整えて、部屋を後にする

    正直に言うと、見ていても飽きない寝顔ではある

    だが、不躾に見られているのも女性からしたらいい気にはならないだろう

    それに何より、自分が餌を前にお預けを食らっている犬の様に思えてくる

    だから、班長が眠れば早々に退散するに限る

    そう思いながらも、もう一度寝顔を拝んで退室しようか、なんて考える俺の意思の弱さはいかんともしがたい

    ため息を一つつき、小さく呟いて退散する

    「おやすみなさい、いい夢を」




  19. 19 : : 2015/01/12(月) 14:52:21
    翌朝、朝食の時間に班長の部屋の扉を叩く

    すんなり起きて着替えを終えている確率と、まだ寝ているか、寝ぼけている確率は五分五分といった所か

    「班長、おはようございます」

    そう声をかけると、がちゃりと扉が開いた

    「モブリット、おはよう」

    扉の隙間から覗く班長の姿は寝巻きのまま

    起きてはいたらしいが、どうやらベッドでぼんやりしていた様だ

    「ここで待機していますから、ゆっくり支度をなさって下さい、班長」

    そう言葉をかけて扉を閉めようとすると、閉まる寸前に班長の足が扉の隙間に入れられる

    「中で待っててくれよ。外で立たせているのは申し訳ない」

    「…はい、わかりました」

    「さっさと着替えるね」

    そう言うや否や、いきなり無造作に寝巻きを脱ごうとする班長

    俺は慌てて視線を反らした

    「……班長、一応あなたも女性なんですから」

    思わず口をついて出たその言葉に、班長は俺の顔を覗き込む

    「デリカシーが無さすぎる?」

    「はい」

    「…はは、いつも言われているから慣れたよ」

    班長はそう言って愉しげに笑うと、俺の頭をくしゃくしゃと混ぜた

    「髪、整えたばかりなんですが………」

    俺は眉をひそめた

    「少しくしゃっとなってる方が好きだ、私は」

    「はあ、そうですか…」

    「うん、だからまぜまぜ」

    班長はそう言いながら、指を俺の髪に絡ませて遊ぶのだった

  20. 20 : : 2015/01/12(月) 18:49:43
    朝食は少しだけ野菜の入ったスープのみであった

    班長はぐいっとスープを一気に飲み干して、一瞬で朝食を平らげた

    「もう終わってしまった。モブリットはまだ沢山残っているね。食欲無いの?」

    「いいえ。俺はゆっくり咀嚼して、少しでも満腹中枢に働きかけようとしているわけで…」

    「なるほど、少ない食事を逆手にとっているわけだね」

    班長は納得したように頷いた

    「はい。しかし…もし今ウォールローゼが突破されたら…と思うと寒気がします」

    「そうだね。満足に食べられていないから、戦う力が出ないよね。意欲はあっても、体が思うように動かない」

    班長はお腹をさすりながらため息をついた

    「そうですね」

    俺が頷くと、班長は辛そうな表情を見せて呟く

    「やっぱり、潮時なのかな…」

    班長も煮えきらない思いはあれど、理解していた

    このまま食糧難が続けば、巨人に食い殺される以前に人類が滅亡する可能性が高いことを

    あの作戦を、実行せざるを得ないことを
  21. 21 : : 2015/01/12(月) 20:59:02
    今日の任務は壁内哨戒

    馬で壁に沿って駆け、異常が無いか確認するのだ

    じっと机に向かう執務よりは、班長にとっては気が紛れていい

    班長の鹿毛の愛馬も、機嫌が良さそうに小さくいなないていた

    「さあ、行こうか」

    ひらりと馬に跨がる班長

    鐙で軽く合図を送ると、ゆっくり歩き始めた

    俺もまた、愛馬に荷物をくくりつけて跨がる

    班長の愛馬は血の気が多くて気性が荒い

    反対に俺の馬は大人しくて気が弱い

    とはいえ、壁外調査を何度も俺と一緒に生き抜いてきた馬だ

    巨人相手に腰が引ける事はない

    俺の方がよほど腰が引けていると確信していた

    かなり先に行ってしまった班長を追うべく、愛馬のたてがみを撫でる

    「俺たちも行こうか」

    そう言うと、言葉がわかったのだろうか

    鐙の合図を待つことなく、いななきを合図に駆け始めた
  22. 22 : : 2015/01/12(月) 21:49:21
    自分より余程頼りになる愛馬と共に、班長の後を追う

    思えばいつも、俺はこうして班長の背中を追っていた

    隣に並ぶことなどおそれ多い

    三歩後ろを甲斐甲斐しくついていくのが副官たる所以だ

    班長の身に危険が及びそうな時には、勿論体を張って守るのが役目だ

    班長がそれを望んでいるのかいないのかはわからない、迷惑に思われるかもしれない

    だが、もう心に決めていた

    この人の下についた時から、ずっと

    殊更不器用でまっすぐなこの人を、自分が守ると

    そのためなら鬼にでもなんでもなるのだと
  23. 23 : : 2015/01/13(火) 15:29:37
    休憩を交えながらひたすら馬で駆ける事数時間

    特になんの異常も見当たらず、帰路につき始めたのは夕方になりつつある時間帯であった

    「とりあえず、今は平和そのものだね」

    「はい、今の所は」

    班長の言葉に相づちを打った

    その間にも馬はトロスト区の調査兵団本部へ駆けている

    疲れをあまり見せていない

    壁外での過酷な条件で耐え抜いている彼らにとって、壁内を駆けるのは散歩の様な物なのだろう

    あまり刺激しないようにそっとたてがみを撫でてやると、一瞬瞬きをぱちぱちとした

    「お前は偉いな」

    心の底からそう言って、また視線を前方に向けた

    その先には颯爽と馬を駆る班長の姿

    その後ろ姿の凛々しさは、見るものを勇気づける

    夜に見せる弱さも、今見せている凛々しさも、俺にとってはどちらも大切なあの人の姿だ
  24. 24 : : 2015/01/13(火) 21:15:50
    本部へ到着したのは、すっかり日が暮れて辺りが夜の闇に覆われた時間帯だった

    少し遅い夕食…というにはささやか過ぎる、根菜がほんの少し入っているスープを、人気の無い食堂で二人ですすっていた

    何て事はない日常の一コマ

    だが俺にとっては、こんな些細な時間でさえ貴重だ

    いつまでこうして側にいられるかわからない

    調査兵団は死と隣り合わせだ

    どんな歴戦の兵士も、壁外ではほんの少しの油断が、いや、油断などしなくても、簡単に命を落とす

    自分もいつ死ぬかわからない

    考えたくはないが、生き急ぐこの人だって例外ではないのだ

    人類のために心臓を捧げた兵士だから、そのためなら命をかける覚悟は出来ている

    だが、俺がする敬礼は、人類に対するものでも、王に対するものでもない

    俺の心臓は、班長に捧げている

    この人が進むために、この命ある限り着いていくのだ
  25. 25 : : 2015/01/13(火) 21:26:04
    「モブリット、私の顔に何かついてるかい?」

    考え事をしながら不躾に班長を凝視していたらしい

    班長は俺の顔を覗きながら、首をかしげていた

    「すみません。美味しそうに食べているなあと、つい」

    「モブリットの真似してさ、一生懸命噛んでみたんだよ。なけなしの芋をさ」

    班長はそう言うと、スープの中から小さな芋の欠片を探り当て、それを口に入れた

    もぐもぐと咀嚼すると、頬がほんの少し膨らんで可愛らしい…様な気がするのは贔屓目かもしれない

    とにかく俺は、この人にどうしようもないくらい惚れているんだろう

    惚れていると言うよりは、憧憬に近い感情だ

    憧れているだけでいい

    自分のものにしようだなんておそれ多い

    この人は人類にとって重要な、鍵を握る人材になると俺は確信しているのだから




  26. 26 : : 2015/01/14(水) 13:13:07
    「今日はお疲れでしょうけど、風呂には入っておいて下さいね、班長」

    妙齢の女性に対して、風呂に入れなどと言うのは不思議かもしれない

    汗をかけばそれを流したくなるのが人間だし、女性ならなおの事、風呂に入りたくなるものだと思う

    しかしこの人は違う

    そういう所は非常に無精で、放っておけば一週間、いやそれ以上風呂に入らなくても平気な質だ

    気持ちが悪い、よりも面倒くさい方が先につくらしい

    ほら、今回も俺の言葉通り、班長は頬を膨らませる

    「面倒くさいなあ……寝ている間に勝手に洗ってくれないかな、誰か」

    頭をぼりぼりと掻きながらそう言う始末

    頭かゆいんだろうと毒づきたくなる

    こういう姿を見ていると、俺はこの人のどこに惚れたんだろうと自問する

    「赤ちゃんじゃないんですから、寝たまま風呂で体を洗ってもらうとか、あり得ませんよ」

    俺が肩を竦めてそう言うと、班長は唇をすぼめて、人差し指をくわえた

    「ばぶぅ」

    「…………はい?」

    「ばぶぅ」

    ………もしや、赤ちゃんの真似なのか?

    信じられない、この人は自分の年齢をわかっているんだろうか

    いや、違う、これは俺をからかうためにわざとやっているのだろう

    「そんなに大きな赤ちゃん、俺の手には負えません」

    「ばぶぅ……可愛らしいだろ?」

    性懲りもなくまた、赤ちゃんの真似をする班長に俺は…

    「可愛らしいですよ。さあさっさと風呂行って下さいね」

    そう言って、着替えを押し付けた

    「感情がちっともこもってない」

    当たり前だ、こめてない

    そう言えたら楽だけどな

    「とにかく、風呂に入ってきてください、お一人で。頭、かゆいんでしょう?俺も汗を流しに行ってきますから」

    「一緒に行こうか、モブリット」

    「はい、班長」

    そう言って肩をがっちり掴まれながら風呂に向かった

    その後俺は、無理矢理女湯に引きずり込まれそうになって、悲鳴を聞き付けた兵士達に助けられたのだった……

  27. 27 : : 2015/01/14(水) 13:58:26
    「はははは!」

    「ちょっと、笑いすぎですよ、分隊長」

    一悶着あった後、やっと解放されて湯船に浸かっていた

    隣で同じように湯に体を投じている人に笑われながら

    その人は、先程の一悶着の一部始終を、脱衣場の影からこっそり伺っていたのだ

    一悶着って……俺が班長に女湯に引きずり込まれそうになった件の事だ

    「いやあ、そのまま連れ込まれれば良かったんじゃないか、モブリット」

    「……そんな事できるわけないでしょう、エルヴィン分隊長」

    「いやあ、久々に笑った笑った」

    ………確かにこの人がここまで笑ったのを見たのは、調査兵団に入って初めての事だ

    この人は、エルヴィン・スミス分隊長

    鋭い視線を油断なく辺りに巡らせて、切れ者と称される頭脳は、他の誰の追従も許さない

    その思考は常に人の想像を超えた所にまで飛躍する

    端正なルックスに、惚れ惚れするような立派な体躯の持ち主で、さながら黄金の獅子の佇まいをみせる

    そんな完全無欠なエルヴィン分隊長なはずなのに、今俺の横にいるのは……

    腹を抱えて笑いをこらえている姿

    「笑いすぎです、分隊長。そのまま女湯になんか入らされては、俺は痴漢の現行犯でつかまりますよ」

    「まあ確かにそうだが…女湯は男のロマンというし、な?モブリット」

    そんな、真剣に同意を求められても困る

    というか、この人こんなキャラだったのか?

    俺の中のエルヴィン分隊長のイメージが崩れた瞬間だった
  28. 28 : : 2015/01/14(水) 16:07:25
    「いや、すまんな、モブリット。君のお陰でハンジも徐々に落ち着いてきている様で、感謝しているよ」

    「はあ、そうでしょうか…あまり実感がわきませんが」

    ポンポンと俺の肩を叩きながら笑顔でそう言うエルヴィン分隊長に、ため息混じりにそう返答する

    実際問題、壁外では巨人の姿を見つけるや敵意むき出しで、自分の命を省みず猪突猛進するし、壁内でもよく泣いている

    あの人の何かを変えているという実感は全く無いのだ

    「側にずっといれば気がつかない変化が、確実にハンジには起こっている。俺にはわかる。君をハンジの副官にして正解だったよ」

    そう言われると悪い気はしない

    俺は頭を下げた

    「これからも善処いたします」

    「ああ、頼むぞ、モブリット」

    エルヴィン分隊長はそう言うと、湯船から出て行った


  29. 29 : : 2015/01/14(水) 21:13:26
    「ふぅ、さっぱりした!モブリットもよく温まったみたいだね」

    髪をタオルで拭きながら、鼻唄混じりに部屋に戻る班長

    後ろをついて歩く俺は頷く

    「はい、お陰様で」

    「エルヴィンがいたんだろ?話し声が聞こえてた。なんか楽しそうに笑ってたよね、エルヴィン」

    班長は立ち止まると、体ごと振り返った

    すると、半歩後ろにいた俺と向かい合わせになる

    洗いざらしの、まだほんのり濡れて、下ろされた髪

    上気した頬、柔らかな笑み

    全てが相まって魅力的に映る

    心臓がドキッと音を出した気がした

    「あ、はい。先程のあなたのお戯れを笑ってらっしゃいました」

    「ん?戯れって、ああ、君を女湯に入れようとしたあれかあ。後少しだったのになあ……」

    班長は俺の前髪に指を絡めながら、頬を膨らませた

    「何が後少しですか…危うく俺が痴漢扱いされる所でしたよ」

    「赤ちゃんだから、一緒に入ったら洗ってくれるかなあってね」

    ぺろりと舌を出しながらそんな事を言ってくる班長

    けしからん、俺の気も知らないで……

    「誰が赤ちゃんなんですか。全く……」

    「やっぱり恥ずかしいかい?」

    きょとんとした表情で首をかしげる班長に、俺はついに切れた

    「………当たり前じゃないですか!俺は男なんですよ?!あなたの副官以前に、男です!あなたは何ですか?!」

    「私はハンジ」

    「じゃなくって……ああもう!」

    俺はついにやってしまった

    ガシッと班長の胸を鷲掴みにしたのだ

    「いてっ!」

    「あんたは女でしょう!」

    「………い、痛いんだけど、モブリット。触るならもう少しソフトに触ってもらえない?」

    眉をひそめる班長に、ハッと我に返った
  30. 31 : : 2015/01/14(水) 21:42:18
    「すみません班長、ついうっかり」

    鷲掴みにしていた胸からパッと手を離して、頭を下げと、班長は下から顔を覗いてきた

    「いいやうっかりじゃないね。わざとだわざと」

    「………はい、すみません」

    あんたが悪いんですなんて、言える立場にはない

    セクハラであることは確かなんだから

    「……ぷ、ぷぷっ」

    神妙な顔つきで頭を下げると、班長は吹き出したように笑い始めた

    「なんで笑うんですか…?」

    「だって、モブリット、顔が赤くなったり青くなったりせわしないんだもん…ははっ。大丈夫、怒ってないからさ」

    班長はそう言うと、俺の手を取って自分の胸元に押し付けた

    「な、何を……?」

    「いやあ、ハンジさんは少し安心したよ。モブリットはもしかして男が好きなのかなあとか思っていたからさあ。そっかそっか」

    手に当たる柔らかな感触に、振り払わなきゃいけないのに体が言うことをきかない

    「お、男が好きって……」

    「うん、わかったよ。モブリットは朴念人で、むっつりすけべだってね」

    「えっ!違う!違います班長!」

    俺はぶんぶん首を振った

    「良かったあ。なんかほっとしたよ。君はいつもどこか無理をしすぎてる気がしてたからね。たまには切れても構わないよ」

    班長はそう言うと、柔らかな笑みを浮かべた

    その笑みに吸い寄せられる様に、思わず見つめてしまう

    「班長…ありがとうございます」

    「うん、しかしさ相当気に入ったんだね。私の胸。あんまり大きくはないけど」

    ……今気がついた

    ずっと班長の胸に手を当てていたことを

    「ぎゃぁ!す、すみません!」

    俺は慌てて手を離した

    「いいよ、減るもんじゃないし」

    班長は俺の前髪を指で遊びながらそう言った

    「だ、ダメですよ!減りませんけど、ダメです!」

    「あんまりいきなり強く握らないでね?やっぱり順序とか心の準備とかさ」

    「そういうのも要りませんから!」

    俺の悲鳴の様な言葉が、辺りに響いた

  31. 32 : : 2015/01/15(木) 11:34:21
    何て失態をしてしまったんだろう……

    にやにや顔の班長を部屋に押し込んで自室に戻った直後、俺は立ち眩みのような目眩をもよおした

    この三年間、必死で守り抜いてきたあの人に、あろう事か手を出してしまった

    そう、ついうっかり

    確かにここの所、以前にも増してデリカシーのないあの人の行動にいらいらしていた

    俺の純粋な気持ちをまるで粉砕するかの様な態度に、俺の堪忍袋もそろそろ限界が生じる時期だったのかもしれない

    それにしたって、いきなり女性の胸を掴むのは御法度だ

    訴えられても仕方がない状況だ

    あの人が寛大だから済んでいるだけで……

    はぁ、とため息をつくしかなかった
  32. 33 : : 2015/01/15(木) 11:47:05
    少々乱雑に兵服を脱ぎ捨てた後、やはり思い直してきっちりとハンガーにかける

    寝巻きにそでを通してベッドに腰かけ眼を閉じると、先程の出来事が走馬灯の様に流れてくる

    風呂上がりの艶やかなあの人の表情

    上気した頬にいい香りがする髪

    そしてこの手でしっかりと感触を確認した、想像以上に柔らかかった、胸の双丘

    眼を開いて、両手を広げてみた

    「柔らかかったな……」

    ぼそっとつぶやき、ふと我に返る

    「だ、だめだ……思い出したら……でも」

    忘れるなんてできない

    だって俺は男で、あの人に惚れているんだから

    また眼を閉じると、体の一部分がはっきり熱を帯びているのがわかった

    「ああもう…ほんとに最低だ……」

    あの人を汚しているわけじゃない

    そう言い聞かせながら、今日の所は男としての欲求に抗うのを辞めた

  33. 34 : : 2015/01/15(木) 13:58:13
    翌朝

    いつもの時間に班長の部屋の前にいた

    セクハラ紛いの行為をした翌日だ…足取りも重くて気分も冴えなかった

    扉を何度かノックしようと試みたが、その度になんと言葉を発すれば良いか考えてしまい、断念した

    もしかしたら、班長の気が変わって処分なんて事だってあり得ない話ではない

    だが、考えたって仕方がない

    ふぅ、と肩で息をついて扉をノックした

    「班長おはようございます」

    いつも通りの挨拶

    しばらく待ったが返事はない

    何時もなら返事がない場合は勝手に入室するが、昨日の今日だ

    もう少し待つ事にした
  34. 35 : : 2015/01/15(木) 14:59:41
    それから数分、ノックをしてみたり挨拶をしてみたりしたが、返事が無い

    もしかして怒っているんだろうか

    いや、昨日の別れ際にはそんな素振りはなかった

    でも、班長は精神的にムラがある人だ

    もしかしたらやっぱり気が変わって……

    とにかくらちがあかない

    意を決して扉を開けた
  35. 36 : : 2015/01/15(木) 15:03:47
    「おはようございます、班長」

    入室してすぐに挨拶をしたが、反応はない

    部屋はカーテンが閉まったままで薄暗い

    カーテンの隙間から射す日の光だけが、部屋に明かりを灯していた

    部屋の隅に設えてあるベッドからは、確かに人の寝息が聞こえてくる

    視線を向けると、仰向けで布団がずり落ちた状態で寝ている班長の姿が見えた

  36. 37 : : 2015/01/15(木) 17:05:12
    しばし躊躇った後、ベッドに歩み寄る

    なぜ躊躇ったかって、仰向けで寝ている班長の格好ときたら……

    上衣は胸の下辺りまでまくれ上がってへそ丸出しだし、下は下着のみでズボンも履いていない

    俺が部屋に入る事があるのを想定してのこの格好

    やはり男として見られていないのか

    それともただ無頓着なだけなのか

    もしくは……誘っているのか?

    いやいやそれはあり得ない

    危機感が足りなさすぎると思う

    もし誰かが部屋に入ったらどうするんだ

    こんなあられもない姿を他人に見られてしまうじゃないか

    「はぁ……参ったなあ」

    思わずため息混じりに呟いて、ベッドの下にずり落ちた布団を体にかけてやるのだった
  37. 38 : : 2015/01/15(木) 17:47:32
    「う………んっ」

    不意に班長が寝返りを打った

    妙に艶やかで耳に残る声と共に

    そして、掛けてやったばかりの布団をまた足で蹴り落とした

    むき出しの生足に、黒い下着までばっちり把握できた

    ラッキー………じゃない!

    もういい加減にしてほしい

    こんな格好を俺に見せるなよ…

    とにかく一刻も早く起こそう

    でないといろいろやばい……

    昨夜この人の胸の感触やら何やらをおかずに一応すっきりしたものの、一晩たてばまた復活する

    「はぁ」

    盛大にため息をついて、班長の肩をとんとんと叩いた


  38. 39 : : 2015/01/15(木) 21:12:47
    「班長、班長、おはようございます」

    半ば肩を揺さぶるようにすると、班長はうっすら目を開けた

    「あ…モブリット……おはよ」

    班長は気だるげに口を開きながら、ゆっくり体を起こした

    乱れた髪の間から覗くうなじに思わず目がいってしまう

    ダメだ、なんだか昨日から変なスイッチが入りっぱなしだ、俺

    首を不自然なまでにブンブン振ると、班長が首を傾げる

    「モブリット、どうしたんだい?朝から酔っぱらってるの?」

    「いいえ、どうもしません。それより早くお着替え下さい。どうしようもない格好されてますよ、あなた」

    俺の言葉に班長は、自分の体をまじまじと確認した

    「ありゃ、ズボンはくの忘れてた」

    「そ、そうですよ!昨日風呂の前に寝巻き一式お渡しして、部屋に入るときには着ていたはずなのに」

    俺はハンガーに掛けてあった兵服一式を班長に手渡しながら、眉をひそめた

    「ああ、そうなんだ。でも部屋に入ってから脱いだのさ」

    班長は困ったように唇をすぼめた

    「あんな格好で寝ては風邪を引きますよ?ちゃんと無精せず履いて寝てください。と言いますか、何故履いたものを脱ぐんですかね」

    「何故って…いろいろあるんだよ。女にだってね」

    「………はあ、そうですか」

    班長の言っている意味が良くわからなかったのだが、相槌は打った

    班長はしばらく俺の顔をじっと見つめていたが、やがて肩で息をした

    「さあて、着替えますか」

    「はい、お願いします」

    俺がくるりと背を向けると、衣擦れの音が耳に届く

    振り向きたくなる衝動をぐっと堪えながら

    しばし目を閉じた



  39. 40 : : 2015/01/16(金) 12:13:22
    朝食を平らげ、任務に就く

    今日はトロスト区の巡視だ

    ウォールマリアからの避難民と、ローゼ住人との間でトラブルが多発している昨今

    暴動を未然に防ぐのが俺たち兵士の役目だ

    とはいえ人々はもう、暴動を起こす気力も体力も失いかけていた

    町中に油断なく視線を送りながら、班長の後ろを歩く

    女性にしては背が高い…170センチもある

    俺ともそんなに変わらない

    ただ、後ろ姿はやはり女性のそれだ

    無駄な肉がついていない均整の取れた肢体は、腰が見事に括れている

    手足が長いのは持って生まれた資質だろう

    スカートやワンピースを纏えば、美しいだろうなと想像したりする

    だが、班長がそんな服を着たのは見たことがなかった

    タンスにもそれらしい衣装は入っていない

    ジーンズやスラックスのみだ

    休暇くらいお洒落を楽しめばいいのにと思う反面、着飾れば余計な心配が増えそうな気もして…

    そうだ、班長はこのままでいい

    他の男にわざわざ魅力を見せる必要はない

    この人の魅力は、俺だけが知っていればいい

    まてまて……いつから俺は、こんなに独占欲が強くなったんだ

    この人は俺の物じゃないのに

    昨日のあの出来事から、俺は気が触れてしまったんじゃないだろうか

    戻れ戻れ、いつもの自分

    俺は頭を数回振った
  40. 41 : : 2015/01/16(金) 12:30:06
    「ねえ、モブリット」

    班長が振り返って俺の名前を呼んだ

    「はい、なんでしょうか、班長」

    「あれ、見てよ」

    班長の言葉は、低く抑えられていた

    何事かと班長の指差す方向を見ると、年老いた老人が兵士に詰問されていた

    「憲兵ですね。何かあったんでしょうか」

    「あまりいい事があった風には見えないね」

    班長が眉をひそめた

    老人は狼狽えて腰を抜かしている様子でうずくまり、憲兵は高圧的な態度で声を荒げていた

    「あっ……」

    班長がそう言って目を見開いた

    憲兵が老人を足蹴にしたのだ

    「班長、どうします……って、こら!待ってください!」

    俺の制止の前に、班長は老人と憲兵の元へ駆け寄って行ってしまったのだった

  41. 42 : : 2015/01/16(金) 14:07:31
    「ちょっと!老人になんて事を!」

    班長は老人を庇うように、憲兵との間に割って入った

    「なんだ貴様は!へっ、調査兵団か」

    「職務妨害で尋問していただけだぞ。邪魔をするなら貴様も逮捕だ!」

    憲兵は二人いた

    エリートのはずだが何だか柄が悪い

    組織自体が腐りきっているという噂は本当らしい

    「何があったかは知らない。だが足蹴にするのは道理に叶わない!」

    班長は厳しい口調でそう言った

    「このじいさんがばかな事を言いふらしてやがるから、蹴ってやっただけだ!」

    「ばかな事ってなんだ!兵士たるもの、力の弱い人間に対して暴力を振るうべきじゃない」

    すると、憲兵が班長の胸ぐらをぐいっと掴んだ

    にやついた笑みを浮かべながら、班長の耳元に口を近づける

    「!!」

    俺が駆け寄ろうとしたその時

    「モブリット、来るな!」

    班長はそう叫んで、俺を止めた

    「班長!ですが……」

    「ご老人を安全な場所へ、頼む」

    瞳をちらりと俺に向けてそう言うと、胸ぐらを掴む憲兵に向き直った

    その間に割って入りたい、そう思ったが、命令には逆らえない

    慎重に事の推移を横目で見ながら、老人を少し離れた場所へ避難させた
  42. 43 : : 2015/01/16(金) 15:06:11
    老人を民衆に預けて班長の所へ急いで戻ると、既に事は済んでいた

    「はぁ、はぁ……」

    荒い息をしながら肩を上下させる班長

    眼鏡が顔の上から消えていた

    班長の足下には、昏倒した二人の憲兵が転がっていた

    ぎらつき血走った瞳

    握り締められた拳で、唇からの出血を拭う

    そして、片足を振り上げて憲兵の頭に降り下ろそうとした

    「班長!いけません!」

    俺は咄嗟に、倒れた憲兵の前に躍り出た

    ドンッ…

    鈍い音と共に、俺は肩が弾けとんだ様な感覚にとらわれた

    「あっ…!」

    「っつ………」

    激痛に思わず顔が歪む

    「なんで、モブリット!」

    我に返ったのだろうか

    班長は慌てた様子で俺の前にしゃがみこんで、今しがた蹴りを加えたその肩に、そっと手で触れた

    「痛っ……」

    「なんで飛び出してくるんだよ!ばか!危ないだろ!」

    班長はおろおろした様子でそう言った

    その瞳は今にも涙腺が決壊しそうな程に揺れていた


  43. 44 : : 2015/01/16(金) 15:16:05
    「これ以上、力を振るう必要はありません、班長。先程言ってたじゃないですか…力の弱い人間に暴力はいけないって、ご自分で……」

    俺がそう言うと、班長は首を何度も振った

    「違う!あの時は相手が老人じゃないか!だいたい君が怪我してどうするんだよ!」

    「……相手は既に昏倒しています。これでも始末書物の事件ですよ。これ以上事を大きくするのは得策ではありません……いてて」

    俺は立ち上がろうとして断念した

    ものすごく肩がいたい

    左肩が動かない…どうやら脱臼したようだ

    余程の蹴りだったんだろう

    「モブリット…肩が外れてる。待って。ちょっと痛いよ?」

    班長はそう言うと、いきなり俺の肩にぐいっと力を込めた

    「い…………!!!」

    物凄い激痛が身体中に走る

    叫びそうになるのを必死でこらえた
  44. 45 : : 2015/01/16(金) 15:24:41
    「ちょっとじゃないです……班長」

    「ありゃ、涙目になってるよ、モブリット」

    班長はそう言いながら、俺の頬を撫でた

    「痛かったです…」

    「うん、でもちゃんと入ったと思うよ?」

    恐る恐る腕を上げてみると、少し痛むが問題なく動いた

    「ありがとうございます、班長」

    「……行こっか、モブリット」

    班長はそう言うと、俺に手を差しのべた

    俺はその手をしっかりと握り締めた

    「はい、班長」

    この手を離したくないと思った事は、永遠に秘密だ

  45. 46 : : 2015/01/16(金) 16:31:02
    「さっきのじいさんはどうやら、例の作戦に駆り出されるらしい。」

    「そうでしたか……」

    巡視を続けがてら、班長の話を聞く

    例の作戦といえば、じきに行われる口べらしの事だ

    「うん、でね、じいさんみたいな戦力にならない者を投入するのに、なんで憲兵は戦わないのかっていちゃもんつけられたらしいよ」

    「……なるほど。確かにあの作戦で壁外へ行くのは、我々だけですからね」

    「ああ……」

    班長はそう言いながら、ふと首筋を気にした様に手を当てた

    赤くなっている様だった

    「どうしました?お怪我ですか」

    「……ん?ああ、私が腹をたてた理由の一つさ」

    班長はそう言って、手で耳の下辺りを隠した

    「充血している様ですが……まさか」

    「ああ、あいつにつけられた。気持ち悪い。思わず殴ってしまったよ」

    班長はそう言うと、自嘲気味に笑った
  46. 47 : : 2015/01/16(金) 16:40:08
    俺の中で何かがプッツンと音をたてて切れた

    「………」

    無言でくるりと踵を返すと、元来た道を足早に辿る

    「モ、モブリット?!待ってよ!どうしたんだよ?」

    班長が手を握って歩みを止めようとするが、俺に止まる意思は無い

    「一発……いや二人がかりで女性に手を出したんだ。二発、三発くらいは正当防衛になるはず……」

    「モブリットってば!」

    班長に、ぐいっと力を込めて進行方向とは逆に引っ張られたせいで、歩みを止めざるをえなくなった

    「止めないで下さい。許せません」

    冷ややかにそう言い放って、班長の手を振り払う

    自分の中にこんなにも怒りが溢れる事があったのか、というほど腹が立っていた
  47. 48 : : 2015/01/16(金) 17:08:10
    「もういいって。殴って蹴ってスッキリしたし」

    「よくないですよ。ハンジさんに傷をつけるなんて…許せません。相応の報いを………」

    ちらりと班長の首筋に目をやる

    くっきりと残っている、赤い痕

    俺の怒りは収まりそうにない

    「別にヤられたわけじゃないしさ。キスマークくらい何でもな………」

    「そんな所にキスマークなんかつけられて、何でもない訳ないじゃないですか!」

    俺は思いきり叫んだ

  48. 49 : : 2015/01/16(金) 18:23:41
    「モブリット…」

    班長が不意に、俺の前髪に指を絡ませた

    その仕草に思わず息を飲む

    「はい」

    「落ち着いて?」

    柔らかな光を宿すブラウンの瞳に、吸い込まれそうになる

    「はい、すみません、班長」

    俺は掠れる様な声で応えた

  49. 50 : : 2015/01/16(金) 20:07:12
    「モブリットがそんなに怒ったの、初めて見たよ。ちょっと驚いた」

    街道筋を二人でゆっくり歩きながら、班長がそう言った

    「すみません……」

    「謝らなくていいさ。私のために怒ってくれたんだろ」

    立ち止まり頭を下げる俺の頭を、班長はぐしゃっと混ぜた

    「凄く、腹が立って…」

    「うん、私も嫌だった」

    班長はそう言うと、足下の小石を蹴った
  50. 51 : : 2015/01/16(金) 20:19:47
    「モブリットはさ、いつも憎らしいくらい冷静だし、穏やかであんまり怒らないけど、ああやって怒る時もあるんだね。私の事になると…かな?」

    「はい。あなたに何かがあったら、俺の責任ですから」

    「君に責任なんて…無いよ」

    班長は首を振った

    「それは、俺なんかに責任を持って欲しくないという意味でしょうか」

    「……いいや違う。君は私のために、平気で身を投げ出すんじゃないかと、不安なんだ 」

    「いけませんか?」

    不安げに揺れる班長の瞳を見つめながら、俺はそう問いかけた
  51. 52 : : 2015/01/16(金) 21:21:04
    「私の無茶に付き合って、死なれるのは嫌だ」

    班長は小さな声でそう言うと、地面に視線を落とした

    「わかりました。なるべく死にません、班長」

    「ああ…それとね、やっぱり君には冷静でいて欲しいんだ。私と一緒に暴走したら、誰も止められないよ?」

    班長は俺の髪を弄んでいた指で、頬に触れた

    ジン、と冷たい様なくすぐったい様な感覚が、体を震わせた

    「……善処いたします。それが副官というものですし。先程はあまりにも腹が立って…お許しください」

    「いや、君が柄にもなくあんなに怒ってくれて、実は嬉しかったよ」

    班長は微笑みながらそう言った

  52. 53 : : 2015/01/16(金) 21:35:24
    「でも俺は、だめです」

    「ん?何が?」

    「あなたの事になると、最近冷静でいられなくなるんです」

    最近ずっと悩んでいた事を、ぽろりと口に出した

    「はは、昨夜の胸鷲掴みとかか」

    「はい…すみません。副官としてあるまじき行為です。ずっと謝罪しようと思っていました」

    俺がそう言うと、班長はぽりっと鼻の頭を掻いた

    「別に謝らなくていいよ。まあ、昨日も言ったけどさ、いきなりじゃなくってちゃんと一からやってくれたらいいなとは思うかな」

    ………班長の言葉に、一瞬頭が真っ白になった

    その言葉が何を意味しているのか、必死に頭の中で考えた

    そして、幾通りの考え方をしても、一つの答えしか導き出さないと気が付いた時、全身に流れる血が全て顔に来たように、熱くなった



  53. 54 : : 2015/01/16(金) 22:26:20
    「モブリット、顔が真っ赤だよ?」

    「あ、当たり前です。突然そんな事おっしゃって……」

    顔の赤みは既にばれているのに、手のひらで顔を隠した

    無駄な足掻きだ

    多分全てばれていたんだろう

    俺の気持ちも何もかも

    指の間から班長を覗き見ると、憎らしい程に余裕綽々な表情で、口角を上げていた

    「君がキスマークごときで冷静さを失うのは、要するに……私との関係が問題なんだよ、うん」

    「いえ、たとえ俺があなたとそういう関係だったとしても、キスマークは許せません。万死に値します!」

    キッと班長に鋭い目線をくべて、そう言い放った

    「万死に値しますって……あははは!」

    「本気ですよ?!けしからん!俺だって触れたことがないのに…!ってああ……」

    余計な事が口をついて出た

    と後悔する暇もなく、班長がにやりと笑みを浮かべる

    「そうか、モブリットも触りたかったのか」

    「ち、ち、違います!俺は……俺はただあなたを守りたい一心で……」

    俺はしどろもどろに言葉を発した
  54. 55 : : 2015/01/16(金) 22:42:46
    班長が俺の手を握る

    心臓が大きく弾けた気がした

    「モブリット、いつも本当にありがとう。それとさっきさ、名前で呼んでくれて嬉しかったよ。初めてハンジさんって言っただろ?」

    「………そうでしたか?頭に血が上っていたので、よく覚えていないんです」

    「もう一回呼んでよ?ハンジさんって。なんならハンジでも可」

    班長の要望を聴いて、俺は握られた手を握り返した

    そして口を開いた

    「ハンジ……さん」

    「なんだい?モブリット」

    艶やかな笑みを浮かべながら、繋がれた手に一層力をこめるハンジさん

    俺は、なんだい?と問われているのがわかっていても、もはや何も口に出すことは出来なかった

    感無量だった
  55. 56 : : 2015/01/16(金) 23:40:33
    「しっかし、キスマーク消えるかなあ…ほんと気持ち悪いよ」

    俺の手を握り歩きながら、ハンジさんはそう毒づいた

    「帰ったら氷で冷やしましょう。その前に綺麗に消毒しますね。汚らわしいですから」

    首筋の痕に指先で触れると、班長はびくっと身じろぎした

    しばらくの沈黙の後、ハンジさんがぼそっと俺の耳元に囁きかけた

    「もし消えなかったらさ、キスマーク、上書きしてくれてもいいよ?」

    「上書き……ですか?」

    「うん、あ、でも気持ち悪いか!だってあの憲兵と間接キッスになっちゃうしね」

    ハンジさんのいたずらっぽい笑みに、だが俺は至極真面目な眼差しで口を開く

    「わかりました。上書きします」

    「えっ?!えっ?ちょっと?!ひゃっ!」

    ハンジさんの首筋に顔を埋めて、くそいまいましい赤い痕に唇を当てて、おもいきり吸った

    そして、ぺっ…と外に何かを吐き出すような仕草をした

    「汚らわしい毒は抜いておきましたから」

    「……………モブリットのばか。恥ずかしいだろ、こんな往来で」

    「あなたが上書きしろと言ったからやったまでです。俺はあなたに忠実なので」

    それに何より、あの赤い痕が目に入る度に腸がにえくりかえるのだ

    精神衛生上よろしくない

    そうだ、別に俺のキスマークをハンジさんにつけたかったわけではない……かもしれない

  56. 57 : : 2015/01/17(土) 08:16:26
    巡視を終え、調査兵団本部に着いたのは夕方から夜に移り変わる時間帯であった

    少々イレギュラーな事があったが、あれからは至って普通に職務についた

    浮わついた心に蓋をする様に、殊更真面目に取り組んだかもしれない

    暴走していたので忘れていたが、左肩がまだ痛い

    脱臼は治っているのだろうが、炎症を起こしているのかもしれない

    じきに壁外遠征が控えているというのに、困るな…

    そう思いながら、一人で医務室に向かった

    班長は幹部の会議に出席中だ

    例の作戦の詰めの話し合いだろう

    …今夜も荒れるかもしれないな

    何と無くそんな気がした
  57. 58 : : 2015/01/17(土) 08:28:39
    結局左肩は脱臼による炎症で、しばらくは動かさない方がいいとの診断を受けた

    おあつらえ向きに、明日から壁外遠征までの数日は書類処理などの雑務だ

    腕を酷使する様な事もない

    自室に戻ってアイシングしながら、夕食までの時間をつぶす事にした

    「はあ、今日もいろいろやらかしたなぁ」

    思わずそう呟いた

    班長の首筋の後を見た時、尋常では無いほどの怒りがこみ上げてきた

    大事な物を犯された感覚

    思い出すだけでやはり心がざわつく

    だが…その後の俺の行動ときたら、目も当てられない

    完全に副官としての立場をかなぐり捨てていた

    「駄目だな、まだまだ…これではハンジさんを守れない」

    任務中は冷静に勤めよう

    肩に当てたアイシングを頭に当てて冷やしながらそう思った


  58. 59 : : 2015/01/17(土) 08:45:24
    しばしベッドで横になりながらアイシングしていると、扉がノックされた

    「はい、どうぞ、開いています」

    俺は来客にそう声を掛けながら、ベッドから降りて扉に向かった

    扉を開けると、今にも泣き出しそうなハンジさんが立っていた

    「班ちょ…………」

    上司をそう呼ぼうとした時、ハンジさんが俺の胸に飛び込んできた

    肩が微かに震えていた

    「班長、どうされましたか?会議でなにかありましたか?」

    班長の神経を逆なでない様に、ゆったりとした口調でそう話し掛けた

    「………やっぱり、胸くそ悪いよ……あんな作戦」

    「はい、班長。そうですね」

    右手で班長の背中をゆっくり撫でていると、やがて震えは収まってきた

    「罪もない人たちを死地に送り込むのは、調査兵団の名の元にらしいよ……都合の悪いことは全部私たちに押し付けやがった」

    「……なるほど、旗印は自由の翼ですか」

    「ああ、そうさ。最低だ。憲兵団も駐屯兵団も、旗は出さないらしい。私たちに全ての罪を押し付けるつもりなんだよ」

    班長は忌々しげに、首筋の赤い痕に爪を立てた

    その手を俺は寸前で止める

    「いけません。傷をつけては」

    冷静に言葉を発した
  59. 60 : : 2015/01/17(土) 09:21:26
    「だって、気持ち悪いんだよ、忘れたいのに忘れられない」

    「一応、上書きしましたし、消毒もアイシングもしましたが…それでもだめですか?」

    自分の肩を自分で抱いて、ハンジさんは身震いした

    余程の嫌悪感だったらしい

    「駄目だ…モブリット、気持ち悪いよ……あいつ、あのおっさん、私に、お前みたいなあばずれは、兵士なんかやらずに娼婦でもやって、男に、股を開いてろって…二人がかりで押さえつけられて、首筋を舐められて、あんな………」

    そこまで言われていた事に全く気が付かなかった

    たかがキスマーク、ではなかったのだ

    ハンジさんの頬をぽろぽろとこぼれ落ちる涙を目にして、俺は拳を握りしめた

  60. 61 : : 2015/01/17(土) 09:34:08
    昼間に平気でいたのも、無理をしていたということか

    そうだ、ハンジさんは夜にならなければ本心をさらけ出さない

    人目に付くところでは決して出さないのだ

    ……あの憲兵たち、やはり殴り殺しておけばよかった

    そんな気持ちには蓋をする

    今俺がとるべき行動は、冷静に、ハンジさんが元気を取り戻せるように勤める事だ

    「嫌な思いを沢山されましたね」

    俺は静かにそう言って、右腕でそっとハンジさんの体を自分に引き寄せた

    胸の中で嗚咽を洩らすハンジさんの背中を、同じリズムでずっと撫でた
  61. 62 : : 2015/01/17(土) 10:18:33
    「ぎりぎりまで我慢しようとしたんだよ?だって今は混乱を収めるのが先決で、私が…調査兵団の兵服を着た私が騒ぎを起こすのは良くないと思って…でも、押さえつけられて、首筋に違和感を感じた時には、もう我を忘れてた」

    俺の胸を涙で濡らしながら、ハンジさんは言葉を発した

    「はい、そこまでされているなら、昏倒させるくらい正当防衛ですよ。民衆も、誰もあなたを咎めなかったでしょう」

    「ああ…うん、そうだね」

    ハンジさんはふぅと息をついた

    やがて、ハンジさんの口から漏れる嗚咽が聞こえなくなった

    泣き止んだのだろうか

    そう思った瞬間、俺の背中にハンジさんの腕が回された

    その腕はぎゅっと俺の体を抱いた後、力を緩めた

    そして、指がためらいがちに背筋を撫でた

    その感覚に、俺の中の冷静な部分が、脆くも崩れ去りそうになる

    俺は強く目を閉じた


  62. 63 : : 2015/01/17(土) 17:14:47
    「モブリット、お願いだ。忘れさせてくれ…」

    胸に埋めていた顔を上げて、涙で潤んだ瞳を俺に向けながら懇願する

    指は相変わらず、俺の背筋をゆっくり滑っている

    まるで誘うように

    そんな表情を向けられて、態度と言葉で誘われれば、拒絶する事など出来るはずがない

    「……後半時間足らずで夕食の時刻ですが」

    拒絶はしないが、班長に冷静になる時間を持って欲しくてそう言った

    それに、実際半時間ぽっちで忘れさせる、なんて不可能だ

    「半時間では足りない?」

    「……足りません。俺一人が満足するための行為じゃないですから」

    「でも、私もう……」

    ハンジさんはそう言いながら、何かに耐えるような表情を見せる

    そして、俺の耳元に唇を近づけて言葉を発した

    ハンジさんの言葉を聴いた瞬間、俺は今まで働きすぎていた理性を解放した
  63. 64 : : 2015/01/17(土) 19:23:08
    「ハンジさん」

    上司を名前で呼びながら、その体を強く抱き締める

    意外なほどに華奢で柔らかい…男勝りではあるが、やはり女性だ

    先程ハンジさんがしたように、指先で背筋を辿る

    服の上からの刺激、それでもハンジさんの身体はびくりと反応した

    腕の力を緩めて、彼女の頬に手を当てる

    自分が長年焦がれていた相手の顔を間近で観察する

    頬には涙が流れた跡

    眼鏡の奥の瞳は熱っぽく輝いている

    「モブリット、早く…」

    どうやら焦らされていると思ったらしい

    ハンジさんは少々唇を尖らせてそう言った
  64. 65 : : 2015/01/17(土) 20:06:11
    「まだ慌てる時間じゃないですよ、ハンジさん」

    「わかってるけどさ…」

    そうだ、夕食よりも大切な任務だと誘ったのはこの人自身だ

    時間に追われて適当にはしたくない

    俺の大切な人を自分自身の手で犯すなら、仕草や声、指の先から髪の毛の先まで、余すところなく…愛したい

    「全て、見たいんです、ハンジさん」

    「わかったよ、モブリット」


    ハンジさんが自ら兵服に手を掛ける

    ジャケットを脱ぎ捨て、胸元のベルトを外し、シャツのボタンを一つずつ外していく…俺の目の前で

    衣擦れの音が耳に届く

    いつもの様に背中越しではない

    俺の表情を伺いながら、シャツを脱ぎ捨てる

    何処と無く戸惑う様な表情

    どうしようもなく愛しい…もう一度、今すぐ腕の中に収めたい

    そう思ったが、辛うじて堪えた
  65. 67 : : 2015/01/17(土) 20:14:31

    ハンジさんは自らベルトを全て取り除き、スラックスに手を掛けた

    だがそこで動きがピタリと止まる

    懇願する様な目

    その目に頷き、俺はジャケットを脱ぎ捨てて、シャツの首もとを緩める

    スラックスに掛けられた手を、ゆっくり俺のシャツに触れさせる

    「…ずるい……あ、」

    ハンジさんはそう言いながら、俺のシャツのボタンを外していく

    その間に、あらわになった背中を直接撫でながら、耳朶を食む

    普段聞くことのない甘い声が、上官の口から漏れる

    こんな声を出すのか、反則だ

    いい加減我慢の限界

    はだけたシャツをかなぐり捨てて、上官の体を抱き上げる

    「うわっ…」

    ハンジさんの驚いた様な声も、いまの俺には興奮起爆剤にしかならない

    そういえば左肩が痛い

    今更ながら思い出したが、頼む、後一時間でいいからもってくれ

    ベッドに上官の体を半ば落として、スラックスを一気に剥ぎ取った
  66. 68 : : 2015/01/17(土) 21:11:24
    ハンジさんの体に覆い被さりながら、頬を撫でる

    眼鏡を外し、眉間の辺りにキスを落とすと

    「ん…」

    ハンジさんは喉を鳴らして目を閉じた

    「ハンジさん、キスしていいですか?」

    薄く開いた唇に指を這わせながらそう言うと、ハンジさんは閉じていた目を開けた

    「ここまでさせておいて、今それを聞くかな?」

    少々非難のこもった口調

    だがそれすら愛しい

    この人のどんな所も、俺にはかけがえの無いものだ

    「返事を伺いたいのですが」

    「……いいに決まっ……ん」

    不貞腐れたように唇を尖らせながらそう言葉を発したその瞬間

    俺はハンジさんの言葉を遮る様に、唇を奪った
  67. 69 : : 2015/01/17(土) 21:26:35
    言葉を発している途中だったハンジさん

    お陰で唇を密着させればすぐに、俺の舌の侵入経路を確保できた

    口腔内を犯しながら目を開けると、ハンジさんはぎゅっと目を閉じていた

    やばい、可愛い

    俺が想像していた、大人の魅力のハンジさんとは違う

    現実とは小説より奇なりとはまさにこの事

    ハンジさんは少し苦しそうだ

    鼻で息が出来ますよ…なんて言う暇は俺には無い

    完全に、男としてのスイッチが入ったから
  68. 70 : : 2015/01/17(土) 21:45:55
    しばらく、口腔内に隠れるハンジさんの舌との追いかけっこにうつつを抜かす

    「ん、ん……」

    無意識の内に溢れる声は、甘い

    舌を絡めとれば、その声はますます切羽詰まった様に溢れる

    存分に口の中を味わった後唇を離すと、ハンジさんはうっすら目を開けた

    「………………いじわるだね、君は」

    「どこがですか?」

    「知らない」

    ぷいっと顔を背けるハンジさん

    いや、もうそれも可愛い

    さっきから反則しまくっているのはあなたです

    あなたのせいで、俺はこうなった

    もう止まれない

    胸を隠す黒いブラの上から、柔らかいそれを鷲掴みにする

    「あ……」

    非難めいた顔を俺に見せる

    昨日自分から触らせたじゃないですか

    一からやってくれたらって言ったのはあなたです

    「嫌ですか?嫌だったらおっしゃって下さい」

    「は、恥ずかしいだけだよ……」

    そう言って頬を染めるハンジさんは、もう可愛いを通り越して美しかった

    いや、表現できる言葉を、俺は持ち合わせていなかった


  69. 71 : : 2015/01/17(土) 23:13:57
    赤みが射して、えもいわれぬ程美しく見えるその頬を親指の腹でゆっくり撫でる

    「ハンジさん…」

    限りなく愛しいこの人の名前を呼ぶ

    「モブリット、何…?」

    潤んだ瞳…完全に女の顔だ

    俺の下には、あられもないハンジさんの姿

    本当はずっと触れたくてたまらなかった、その身体を、ぎゅっと抱き締めた

    「俺は、あなたが好きです。ずっと好きだった」

    「モブリット、奇遇だね。私もだよ。君を…愛してる」

    そう言って俺の腕の中で微笑む大切な人

    もう二度とこの人の側を離れない

    俺はそんな想いを込めて、もう一度彼女に深く口付けた

    その後はもう、お互いに立場も時間も忘れて求めあったのだった
  70. 72 : : 2015/01/17(土) 23:37:37
    「モブリット、肩は大丈夫?」

    お互いに散々絡まりあった後、一緒にシャワーまで浴びてすっきりし、またベッドに体を預けていた

    「……痛いです」

    「ばかだなあ、あんなに無理するから」

    ハンジさんは俺の額をぴん、と指で弾いてそう言った

    「あなたが忘れさせてって言うからじゃないですか」

    「やり過ぎだよ、私途中で気が変になりそうだったよ」

    ハンジさんはこつんと頭を俺の胸に当てた

    「たった三回やったくらいで」

    「き、君は三回かもしれないけどさあ、私は……」

    抗議するような上目遣いを俺に向ける

    「ハンジさんは何回でしたか?」

    「ばか!数えてないよそんなの!」

    顔を真っ赤にしながら首を振るハンジさんは、やはり可愛いと断言できる

    「ええとですね、俺が把握する限りですが、1、2、3、4、5、6…………」

    「ゆ、指折り数えるな!」

    悪のりに対する突っ込みも顕在

    実は何だかとてもほっとした

    忘れさせて…という命令を遂行できたのか、そこが不安だったからだ

    「ハンジさん、忘れましたか?」

    俺の問いに、ハンジさんは

    「ああ、君の上書きが激しすぎて、嫌な事が全部吹き飛んだよ」

    そう言って、笑顔を見せたのだった


  71. 73 : : 2015/01/18(日) 08:07:53
    「ハンジさん、俺は食堂へ行ってきますね。もう10時を回っているので、もしかしたら夕食残っていないかもしれませんが」

    ベッドから体を起こしてそう言うと、ハンジさんは俺の手をぎゅっと握る

    「一人にしないでくれよ」

    「……そうですか、まだ足りませんでしたか」

    「いや、そんな事は……んっ…」

    あまりにも可愛いかったので、もう一度唇を奪った

    ハンジさんはキスをしながら、甘い声を溢す

    それが俺の体の何処かにスイッチを入れてしまう

    だが流石にこれ以上は、ハンジさんの身体に鞭を打つことになりそうだ

    ……俺はまだいけそうなのは置いておいて

    捨てかけた理性を復活させて、唇を離した

    「お腹が鳴りましたよ、ハンジさん。何か無いか見繕って来ますね」

    「…ああ、わかったよ。ついでに寝間着を…」

    「わかりました。少し待っていて下さいね」

    俺はハンジさんの頬を優しく撫でて、身支度を整え部屋を出た
  72. 74 : : 2015/01/18(日) 20:26:39
    夜の食堂は閑散としてはいたが、パンが数個残されていた

    2つのパンを手にした後、ハンジさんの部屋に立ち寄って寝間着を用意する

    カーテンを閉めて部屋を出た所で、廊下の先に人影を確認した

    「エルヴィン分隊長」

    俺は人影に向かって頭を下げた

    「モブリットか。ハンジの様子はどうだ?…おっと、部屋にはいないんだな」

    俺が手にしたパン2つに、女物の寝間着

    それらの状況で判断したのだろう

    鋭くて食えないお人だ

    「はい。ここにはいらっしゃいません。ハンジさんは…元気です」

    「そうか、ご苦労。会議の後、かなり腐っていたのでな、大変だっただろう」

    エルヴィン分隊長は俺の肩をポンと叩いてそう声を掛けてきた

    「いえ、それほどでも」

    「そうか、それならよかった」

    意味深な笑みを浮かべる分隊長に、きっと俺とハンジさんの間に何があったか、見透かされているんだろうな、と確信した

    「では、失礼致します」

    「ああ。ハンジの事、これからもよろしく頼む」

    「はい、善処致します」

    エルヴィン分隊長が去る後ろ姿に頭を下げて、足早に自室へ戻った



  73. 75 : : 2015/01/18(日) 22:37:46
    「ただいま戻りました」

    「おかえり、モブリット」

    部屋に戻ると、ハンジさんが笑顔で迎えてくれた

    ベッドの上で、布団を身体に羽織って

    「パンしかありませんでしたが…食べましょうか」

    テーブルの上にパンを置いたトレイを並べて、コップに水差しの水を注いだ

    「うん、お腹空いた」

    ハンジさんは布団を羽織ったままベッドから飛び降りた

    「…下、裸ですよね?先に寝間着を着ましょうか」

    「うん、そうする」

    ハンジさんはそう言うと、布団をぱさっと床に落とした

    先程さんざん知り尽くした裸体が、露になる

    俺は思わずくるりと踵を返した

    「そんなに易々と、裸体をさらけ出さないで下さい」

    「さっき全部見せたじゃないか。君、背中とお尻にあるほくろまで把握しただろ?」

    ハンジさんはそう言って、俺の後ろから抱きついてきた

    柔らかい胸が背中に押し付けられるのが、はっきりわかる

    「先程は、そういう行為の最中でしたからね」

    「まあそうだけど……まだ元気になりそうだよ?」

    ハンジさんは俺の耳にそう言葉を掛けながら、また熱を帯び始めた俺自身に触れた

    「……お戯れを」

    俺はその悪戯な手を握って退かせながら、呟くように言った

    「はは、モブリットはスイッチが入る前は可愛いね」

    ハンジさんは俺の頭をよしよしと撫でながら言った

    「あなたはスイッチが入った後も可愛いですよ」

    「可愛いのかい?初めて言われたよ、そんな事」

    「とりあえず、着ましょうか。風邪をひいてしまいますよ、ハンジさん」

    俺は仕方なくハンジさんの方を振り向き、寝間着を羽織らせた

    「うん、そうするよ。またモブリットに無茶苦茶犯されそうだしね!」

    「今日はもうしませんから、ご安心を」

    ぼそっとそう言いながら、この天真爛漫な女性の寝間着のボタンを一つずつはめていった

    「そっかあ…それはそれで残念」

    そんなことを言われれば、またスイッチが入ってしまう

    「肩が痛いんですよ」

    本当はあなたの体が心配だからとは、何となく言えそうになかった

    「早く治そうね、モブリット」

    「はい、わかりまし……」

    俺の言葉を遮る様に落とされた、柔らかな唇

    目を閉じて、その暖かさと柔らかさを唇に焼き付けた
  74. 76 : : 2015/01/19(月) 16:20:02
    「肩さ、ほんとに大事にしなきゃ。遠征までに治るの?無理はしてほしくないけど…」

    ハンジさんは向いの椅子に座り、パンを片手に心配そうな眼差しを俺に向けた

    「大丈夫ですよ。あなたお一人を戦地に送り込んだりしません。俺は必ずあなたの側にいます。そう決めたんで」

    「そっか…へへ。ありがとう、モブリット」

    真摯な眼差しをに向けて言葉を発すると、ハンジさんは照れたように笑った

    「一人にしたら何しでかすか、わからないですしね」

    「む、否定できない所が辛い」

    今度は一点、頬を膨らませて口を尖らせた

    凛とした大人の女性である事は確かだが、この人は純粋で可愛らしい面を沢山持っている

    行為中はもちろん、それ以外にもだ

    「無茶は自重なさって下さいね」

    「ベッドの上で無茶やらかすのは君だけどね」

    「……減らず口、もう一度塞いでおきましょうか」

    俺がそう言うと、ハンジさんは顔を真っ赤にする

    「あ、いや、さっき今日はもうしないって…」

    ほら、自分から挑発したくせに、乗ってやったら恥ずかしがる

    ……可愛すぎる。俺だけが知っているハンジさんであって欲しい

    「嫌なんですか?その割りにはもぞもぞ落ち着きがない様ですけど」

    「そ、そんな事はないし…」

    「そう、ですか」

    俺は立ち上がり、ハンジさんに歩み寄る

    パンを片手に俺の動きを伺うハンジさんが、こくりと喉を鳴らした音が確かに聞こえた

    椅子に座るハンジさんの前に跪き、赤みが差した頬に手で触れる

    体を伸ばして、ハンジさんに自分の顔を近づける

    すると、彼女はきゅっと目を閉じた

    口がうっすら空いていて、明らかに俺を誘っている

    そんな可愛い上官の誘いに俺は………

    「………ムグッ!」

    「余計な事ばかり言う口、塞いでおきました」

    パンを突っ込んでやったのだった

  75. 77 : : 2015/01/19(月) 16:40:50
    「モブリットのばか。デリカシー無さすぎだ、酷い、乙女心をもてあそんで」

    ハンジさんはパンを凄い勢いで食べ尽くして、毒づいた

    「口を塞ぐと言ったじゃないですか」

    「普通あんな風に迫られたら、パンを突っ込まれるなんて思わないだろ?!」

    確かにその通りだが、どうしても拗ねるハンジさんが見たくなった

    俺は自分はMに近いと思っていたが、どうやら真性はSなのかもしれない

    「君はもっと純粋で可愛い子だと思っていたのに!」

    純粋で可愛い部下です

    二人きりの時以外は

    「ところで、乙女心って何ですか?」

    「う、うるさい!どうせ私は乙女じゃないよ!」

    ハンジさんはついに、プイッと顔を背けてしまった

    本格的に拗ねたようだ

    正直言うと、その姿が凄く可愛いのでしばらく見ていたいのだが、焦らしすぎも良くない

    俺は痛む左肩に目をやった

    ……後一時間、耐えてくれ

    心の中で左肩に黙祷を捧げ、本日第四ラウンドの臨戦態勢に入ることにした
  76. 78 : : 2015/01/20(火) 09:43:41
    膨れっ面でそっぽを向くハンジさんの頬を優しく撫でる

    すると、ハンジさんはちらりとこちらを伺った

    だが、また明後日の方向を向いてしまう

    怒っている様だが、俺の指が頬から耳に、首筋に伝う様に動く度、体がピクッと震える

    先程散々溺れた快楽の名残がまだ確かに身体に残っていて、敏感に反応するのだ

    寝間着のボタンに指を掛けて、ハンジさんに問いかける

    「ハンジさん、ご自分で脱ぎますか?先程の様に」

    すると、ハンジさんは背けていた顔をこちらに向けて、ふぅと熱い息を吐いた

    「………君が脱がせて」

    「御意」

    上官の命令に従い、俺の指は、先程着せたばかりの寝間着のボタンをするすると外していく

    上衣を床に落とすと、既に胸の先端は立ち上がっていた

    それに手で触れようとした時、ハンジさんがその手を握りしめた

    「やらなくていいから、早く頂戴」

    そう言うと、俺のスラックスのウエスト部分を緩めて、また熱を帯びて昂り始めた物を外気に晒した

    そして、徐に口に含む

    「は、班長、そんな事しなくても…」

    そう言いながらも、跳ね除ける事はできない、というかしない

    ハンジさんの温かい口腔内が、ざらついた舌が、そして何よりも俺の物を口に含んでいるその扇情的な姿が、本日四度目のスイッチを完全に入れる

    「もう、出来る?」

    上目使いでそう問いかけるハンジさんに、俺は頷き、彼女の下着の中を確認すべく、手を入れる

    そしてその中心の潤いを確認した時、密かに思った

    ……この人どれだけ俺から精気を奪えば満足するんだろう

    もしかして、これは戦いなのか?

    どちらかが精魂尽き果てるまで、もしくは夜が明けるまで延々と続くのか?

    それならば負けられない

    とことん付き合ってやる

    何だか本当に格闘技の試合の前のような心境で、俺は拳を硬く握りしめた

    ……すまない俺の左肩

    そう謝って、待ちくたびれて催促をする彼女の中に、自身を投入すべく行動を開始したのであった
  77. 79 : : 2015/01/20(火) 15:05:10
    「ん………」

    目が覚めると、カーテンの隙間から明かりが射していた

    何だか気だるい体を起こして、床に散らばっている寝間着やら兵服を目にし、頭を振る


    そうだ、あれからけっきょく第5ラウンドまでいったんだった

    で、力尽きてそのまま寝てしまった

    いつもきちんと整理されている自分の部屋の床に、これ程衣服が散らばっていた事はいまだかつてない

    隣にはすやすやと眠るハンジさんがいる

    そっと頬に触れようと手を伸ばした時、肩に痛みが走る

    「…っつ」

    どうやら昨日無理をしすぎて、また痛めたらしい

    自業自得だ、仕方がない

    はぁと息をつき、ベッドから降りる

    何も身につけていない、全裸だ

    ハンジさんも、同じ状態だろう

    俺は散らばった衣服を集めて畳み、棚から洗いざらしのシャツとスラックスを取り出して着た

    立体機動のベルトを着用し、ブーツをはいて、ジャケットを羽織る

    胸のポケットを探り、懐中時計を確認する

    もうすぐ朝7時

    良かった、遅刻はしなくて済みそうだ

    洗面室で顔を洗い、鏡に映る自分の顔とにらめっこをする

    なんとも気の弱そうな男が映っている

    髪の毛があちこちぴょん、と跳ねている

    行為の最中に散々かき回された髪だ

    タオルを濡らして頭に載せながら、ため息をつく

    「やりすぎた…」

    その一言に尽きる

    左肩はもちろん痛いが、身体中が痛い

    俺の大事な部分も、働きすぎて痛い

    お互いに久々の行為で、テンションが上がっていた

    それに、俺はもちろん、ハンジさんもそうしたかったのだ

    要するに、お互い三年間欲求不満だったという事だ

    だから、一度火がついたが最後、お互い冷静さをかなぐり捨てて何度も繋がりあった

    「自重しよう……でないと体が持たない」

    俺の身体もだが、ハンジさんの体に何かがあってはならない

    来る壁外遠征のためにも、壁外遠征までは禁欲を鏡に向かって誓うのだった

  78. 80 : : 2015/01/20(火) 17:04:55
    寝ている班長はそのままに、そっと部屋を出る

    班長の着替えも必要だし、あの様子だとしばらく寝かせておいた方が良さそうだ

    朝食も部屋に持って帰ろう

    そうだ、あまり人に見とがめられない様にしなければ

    昨夜の様にエルヴィン分隊長に会ってしまったら、また全てを悟られるに違いない

    致した事自体に後悔は無い

    だが、程度という物がある

    ハンジさんの身体が異常をきたしていなければ良いのだが…

    それだけが気がかりだった

    これからはゆっくり関係を深めていこう

    そう心に決めた
  79. 81 : : 2015/01/20(火) 17:10:23
    朝食のパンを無事に二個獲得し、班長の部屋で兵服一式と下着を物色する

    決して趣味でやってるわけじゃない

    どんな下着を持っているのかなんて、俺は全て把握済みだ

    昨日は黒だった

    刺激的な勝負下着…なのかはわからない

    今日は清楚なピンクでいこう

    ………決して趣味でやってるわけじゃない

    多分

  80. 82 : : 2015/01/20(火) 17:30:33
    自室に戻ると、班長はまだベッドの上で寝息をたてていた

    まだしばらくは寝かせておける

    今日は遠征前の機材確認などが主な任務で、差し当たり急ぎの仕事は無いからだ

    そっとカーテンの隙間から外を覗く

    ランニングに興じている兵士達がいる

    元気な事だ

    ストレッチをしている兵士たちは、どうやらカップルらしい

    溢れる様な笑顔を、女性兵士が男性兵士に見せている

    自分にはあんな恋愛など無縁だと思っていたが、まさかこうも運命が急に舵を切るとは

    自分にも、そして班長にも、予想できなかったんじゃないだろうか

    カーテンを閉め、ベッドに歩み寄る

    すうすうと心地よさそうな寝息をたてて、ぐっすり眠っている、俺の大事な女性

    愛しい寝顔

    俺だけの物にしたい

    だがこの人は調査兵団に、人類に無くてはならない存在に必ずなるお人だ

    だから俺は、班長を後ろから支える

    隣に並べなくても構わない

    いざとなれば飛び出せる位置にさえ居ればいい

    ただ、二人だけのときは……

    昨夜の様に翻弄したいし、されたい

    それくらいは、構わないだろうか

    「愛してるの言葉は、真に受けてもいいんですか、ハンジさん」

    俺は小さな声で呟いて、ハンジさんの頬を撫でた



  81. 83 : : 2015/01/20(火) 21:31:20
    しばらくベッドの側の椅子に座り、作戦に関する書類に目を通す

    昨夜の会議で、ハンジさんが持ち帰ってきたものだ

    全て頭に入れて、燃やしてしまう

    それが鉄則

    作戦名は「ウォールマリア領土奪還作戦」

    25万人を越える、主に避難民を投じて、人海戦術で領土を奪還する

    数万人単位で分け、旅団を形成

    各旅団を束ねるのは、調査兵団の班長以上の階級をもつ兵士

    要するに、ハンジさんも旅団を束ねることになる

    烏合の衆だ

    戦い方など知らない、一般市民達だ

    沢山の人が、巨人の餌食になるだろう

    いくらハンジさんが守ろうとしても、目の前で数えきれない命が失われる事に間違いはない

    それを考え、思い詰めて、ハンジさんは昨夜不安定になったのだろう

    多分、憲兵のキスマークは多少の問題でしかない

    首筋に残る痣にそっと手で触れながら、目を閉じた

    ハンジさんは無茶をするだろう

    人々を助けるために、血眼になるだろう

    俺は…この人を守れるだろうか

    いいや、守るのだ

    命にかえても、必ず
  82. 84 : : 2015/01/20(火) 22:06:41
    「う、ん…」

    首筋に触れる感覚で目が覚めたのだろうか

    ハンジさんが身じろぎをして、うっすら目を閉じた開けた

    「班長、おはようございます」

    俺は首筋に触れていた手を引っ込めて、静かに言葉を発した

    「おはよう、モブリット」

    ハンジさんは気だるげにそう言って、体を起こした

    布団がハンジさんの体からぱさっと落ちる

    何も纏っていない上半身が露になった

    「あ、何も着てなかった」

    ハンジさんはそう言うと、腕で肩を抱くように胸を隠した

    「そうですね。昨夜あれから寝てしまったので。あなたも、俺も」

    ハンジさんがちゃんと前を隠している

    恥じらいを持ったんだろうか

    そう思った矢先

    「ねえ、こうしてたらちょっとはセクシーかな?」

    「何の話です?」

    「いや、君いつもデリカシーがないとか、あなた女でしょとか煩いからさ。こうした方がいいかなって。で、どうだい?」

    そんな事いちいち聞かなければいいのに、と思うが、気を付けるだけましだ

    大きな進歩だと言える

    「その方が恥じらいがあって、女性らしくていいですね」

    俺は真面目に答えて頷いた

    「可愛い?」

    「はい?」

    思わず聞き返してしまう

    「私は可愛いのかい?そう言ったよね、昨日。だからほんとかなって」

    じっと俺の表情を伺いながら、ハンジさんは少々不安そうに問いかけてきた

    なるほど、ベッドの上で確かに可愛いと言った記憶がある

    何度も可愛いと思ったのは事実

    だが今は完全に禁欲モード

    可愛いのは可愛いが、歯の浮いた台詞を言うのにかなりの努力が必要だ

    「やっぱり、雰囲気でそう言っただけだよね!だって可愛いなんてさ、今まで生きてきて一度も言われたこと無かったしね、はは」

    ハンジさんはそう言うと、自嘲気味に笑った

    「違いますよ」

    「え、なんだい?」

    「雰囲気で言ったわけではありません。いや、もちろん言葉に出せたのはあの行為の最中だったからというのはあります。ですが、俺はいつもあなたの事は可愛いと…思っています」

    俺は恥ずかしさのあまり、一気に捲し立てる様に言った

    「モブリット………」

    ハンジさんが俺の手を握りしめた

    「はい、ハンジさん」

    「もう一回言って!小さい声でよく聞こえなかったからさ」

    「……嫌です。もう言いませんよ、恥ずかしい」

    俺はそっぽを向いた

    「モブリットのけち!恥ずかしがり屋!」

    「はいはい」

    俺は子供のような要求をしてくるハンジさんに、内心可愛すぎるだろと毒づきながら、態度に出しては肩をすくめた



  83. 85 : : 2015/01/21(水) 12:32:25
    「形だけは大旅団だね」

    朝食のパンにありつきながら、作戦指示書に二人で目を通す

    「そう、ですね。一応作戦に参加する市民には武術指導が入っているらしいですが」

    「武術?対人格闘が何の役にたつんだよ……」

    ハンジさんははぁ、とため息をついた

    「何の役にもたたないでしょう。巨人に有効な唯一の武器がスナップブレードと、立体機動装置なんですから」

    「要するに指示した奴らは、訓練を施したから、最低限責任はとった。これで失敗すれば運用側の責任、とでもいいたいんだろうね」

    運用側とはすなわち我ら調査兵団だ

    ハンジさんの目測は正しい、そう思った

    「責任は……キース団長がお取りになるのでしょう。すでに後任への引き継ぎが進められていますから」

    「…エルヴィンか」

    「はい、エルヴィン分隊長しか適任はいないでしょう」

    ハンジさんは何かを考える様に、顎に手をやり目を閉じた

    「エルヴィンは、何を考えているのか全く読めない。切れる人だけどね」

    「そうですね。たまに話せば気さくな面を見せてくださいますが、基本的には厳しい方でしょう」

    「あーあ、好き勝手にやれなくなりそうだよ」

    ハンジさんは口を尖らせた

    「あなたも、班長ではなくなるでしょうし、好き勝手できる立場では無くなることは確かです」

    「えっ…私も?」

    「そうですよ。エルヴィン分隊長が団長になれば、その椅子が空きますからね」

    俺は静かにそう言った

    この人にのし掛かる責任が、さらに大きくなるであろう人事が、この先に待っている事は請け合いであった

    「やだな、分隊長だなんて……荷が重いよ」

    肩を落とすハンジさんに、俺は

    「俺も、できる限りサポートしますから」

    そう言って右拳で左胸をとん、と叩いた

    あなたに捧げるのは俺の心臓

    あなたが前に進むために、俺は全力で支える

    それを暗に伝える手段

    「ありがとう、モブリット………」

    ハンジさんはそう言うと、椅子を立ち、俺を後ろからふわりと抱いた
  84. 86 : : 2015/01/21(水) 15:45:56
    その日の任務も滞りなく済み、夜になった

    明後日に控えた奪還作戦の会議を、今夜も行う

    昨夜は会議後に不安定になった班長だ

    今日はどうだろうか

    腹を括るしかないと頭では理解しているのだろうが、あの人の人一倍優しい心が、あの作戦を拒絶しているのかもしれない

    吐いたりしないだけ、ましなのか

    とにかく見守り、支えるしかない

    あの人の心が壊れないように
  85. 87 : : 2015/01/21(水) 19:16:07
    「ただいま。ああ、疲れた」

    すっかり疲れきった表情で部屋に戻ってきた班長は、ソファにどさっと腰を預けた

    「おかえりなさい、班長。お疲れ様でした」

    水差しからコップに水を入れ、班長に手渡すと、それを一気に飲み干した

    口元から溢れた少量の水を、手の甲でぐい、と拭う

    「ありがとう、モブリット。ここ、座って?」

    班長はそう言いながら、自分の隣を指差す

    三人は座れる程のソファ

    「はい」

    俺は頷いて、班長の隣に腰かけた

    許せる範囲で距離をおいて

    だがそれを見咎めたのだろうか…班長は突然身体を横に倒した

    俺の太ももを枕にする形で仰向けになると、ちょうど俺が班長の顔を上から見下ろす感じになる

    「もう飽きたのかい?」

    そう言って、俺の頬に両手を伸ばして撫でる

    くすぐったい…というか飽きたってなんだ?

    そうか、急に距離をおいたからよそよそしく感じたのか

    「まさか…一日で飽きるとかあり得ませんよ」

    「だって、なんか甘えちゃいけない雰囲気出してたからさ」

    班長はそう言って、頬を膨らませた

    ……と同時に俺の頬を左右に引っ張った

    「痛っ…」

    「二人きりなのに、班長って呼ぶしさ。お仕置きだよ」

    そうだ、確かに班長と呼んだ

    だがそれは、これ以上身体を酷使しないがための、いわば防波堤の様なつもりで使っていた

    禁欲モードを態度で示しているわけだ

    「すみません、ハンジさん」

    「飽きたわけじゃなければ、いいよ」

    未だに不服そうではあるが、やっと頬は解放された

    「その…お体大丈夫ですか?」

    俺は意を決してたずねてみた

    「ん?何が?………ああ、大丈夫だよ、私は。体が少しだるかったけど、今はもう平気さ」

    「そうですか…それならよかったです。昨夜は俺、かなり無茶をやったと思っていたので…」

    ハンジさんの言葉に、ほっと胸を撫で下ろした

    ハンジさんが俺の頬から耳に、手を移動させる

    思わずゾクッとして、体が震えた

    「確かにかなり、激しかったね。肩痛めてるくせにさ…はは」

    「言い返す言葉もありません……」

    俺は耳朶を指で弄ばれながら、頭を下げた

    禁欲モードのはずなのに、体が反応してしまう

    「ま、しばらくは無理は禁物だね。でもさ……」

    ハンジさんはそこまで言って言葉を止めると、ひらりと身を翻して、俺の膝の上に馬乗りになった

    「ハ、ハンジさん?!」

    腕が首に回されると、顔がぐっと近付く

    鼻と鼻とが触れあうくらいの距離で、ハンジさんは艶やかな笑みを見せる

    「キスくらいはいいよね?」

    そう言うと、油断してぽかんと口を開けていた俺に、半ば食べるように唇を重ねてきた

    「ん…」

    自分でキスを先導しながら、艶やかな声を出す

    まるで昨日の仕返しと言わんばかりに、口の中に舌を入れてくる

    ……ハンジさん、それはだめなやつです!

    俺の禁欲モードが解除されてしまうやつです!

    なんて心の中でしか叫べない

    だって唇を塞がれているんだから
  86. 88 : : 2015/01/21(水) 20:08:52
    「スイッチが入ってないモブリットは、やっぱりモブリットだね」

    唇が解放されると、ハンジさんは俺の頭を撫でた

    「どういう意味ですか?」

    「可愛い部下。可愛い可愛い」

    そう言うと、俺の頬に自分の頬を擦り付けてきた

    確かにそうだ…膝の上に乗られて、キスをされて、頬擦りされて…完全に翻弄されている

    この状態は、いつもの上司と部下の関係の俺たちの姿と重なる

    俺は普段仕事では、完全にハンジさんに振り回されているのだから

    だが可愛いって…

    あまり言われて嬉しくはない、男としては

    「ハンジさん、可愛いって言われるのは何だか複雑なんですが」

    「え?いいじゃないか。いざという時は頼りになるし、男らしいからさ」

    ハンジさんはそう言うと、俺の頬に数回軽いキスを落とした

    「いざという時なんてありましたっけ?」

    「セックスの時!」

    ハンジさんは俺の問いに、間髪置かずにそう答えた

    「な、な、何を……」

    「冗談だよ。いつも頼りにしてるし、可愛いけどちゃんと仕事ができて有能だし、一生懸命だし、男らしいし、大好きだよ」

    涙目になりかかった俺に、微笑みかけながらそう言うハンジさん

    大好きだの言葉に嬉しくなって、俺は…

    ハンジさんの唇に、自分のそれを重ねたのだった
  87. 89 : : 2015/01/21(水) 20:14:22
    明後日の遠征に備えて、今日は早めに休むことにハンジさんが了承した

    一緒に寝ようとせがまれたが、さすがにそれでは俺が眠れない

    一晩中もんもんとする事請け合いだからだ

    いくら禁欲モードとはいえ、あんなキスをされた上に、大好きだなんて言われて、直後に一緒に寝ようなんて言われては……

    誰でもいたしたくなるだろう

    肩もましにはなったが、まだ傷む

    今日明日はゆっくり休むと誓って、アイシングを肩に当てたまま、そそくさと眠りについた
  88. 90 : : 2015/01/21(水) 20:41:36
    翌日

    朝からハンジさんの表情は曇っていた

    明日はついにあの、いまいましい作戦の決行日だからだろう

    ため息ばかりつくハンジさんを見ていると、自分も沈んでしまいそうになる

    だが、それではだめだ

    一緒に沈んでしまっては、誰がハンジさんを浮上させるのか

    ハンジさんが沈まない様に、支えるのが俺の役目

    だから、俺は今にも沈みそうな心に鞭を打って、笑顔を見せた

    「班長、いい天気ですね」

    本当にいい天気だ…まるで班長の心の反対側の様な快晴

    俺達はトロスト区の商店街に、明日使う備品を調達がてら散歩に繰り出していた

    「そうだね、モブリット」

    ハンジさんが頷く

    「明日は晴れますかね」

    「ああ、晴れそうだね。気は重いけど……」

    ハンジさんはそう言うと、肩を落とした

    俺はおもむろにハンジさんの左手を握った

    ハンジさんが振り返り、目を見開く

    「壁外遠征前は、カップルは皆こうしているんですよ」

    俺がそう言うと、ハンジさんはにやりと笑った

    「兵団本部でだろ?セックスしてる声も聞こえる時がある」

    あなたの声も丸聞こえだと思う…は心の中に留めた

    俺のせいだと言われるに決まっているから

    「交わる事も、手を繋ぐ事も、できるうちにしなければ。彼らはそう考えているんでしょう」

    「じゃあ、私たちも帰ったら交わろっか」

    「……却下です。今日も交わりません」

    俺はきっぱりそう言った

    「もしや、使い物にならなくなったのかい?君のそれ」

    ハンジさんは俺の下半身を指差しながら言った

    「………んなわけないでしょうが。肩が痛いからですよ!」

    「使えるならよかった。じゃあさ、腕枕してくれよ」

    「それなら考えます」

    俺がハンジさんの提案に頷くと、ハンジさんは飛び上がった

    「ひゃっほー!腕枕腕枕!」

    「ちょっと、ハンジさん恥ずかしいですよ!こんな道の往来で!皆見てます!」

    はしゃぐハンジさんに、俺は頭を抱えたのであった
  89. 91 : : 2015/01/21(水) 21:31:36
    しんと静まり返った夜

    室内の明かりは全て落とされている

    カーテンの隙間から漏れる月明かりだけが、部屋を柔らかく照らしていた

    すうすうと、間近で寝息が聞こえてくる

    微かに空気を揺らす息づかいが、俺の頬を撫でる

    約束の腕枕

    小さなベッドで身を寄せあいながら、同じ布団にくるまっている

    温かくて柔らかな体

    それを抱き枕の様にして、俺はもの思いに耽っていた

    明日の、ある意味通常の壁外遠征よりも精神的に厳しい作戦

    目の前で何千人、いや何万人規模で亡くなっていくのを、この人は目の当たりにするだろう

    調査兵団に入って数年、壁外で巨人に対して無茶な行動をしてきたハンジさん

    それは全て、目の前で大切な友人を、部下を、上司を、巨人に食われたせいで起こった、精神的病の一種だった

    それは俺が側についてから少しずつ回復の兆しが見えはじめていたが…

    明日の作戦で、またぶり返すのではないだろうか

    優しいこの人の心が、心配でたまらなかった

    隣で眠る大切な人の悲しみを、のし掛かる責任を、どうにかして肩代わりしたい

    少しでもいい、楽にしてやりたい

    あどけない表情にも見える寝顔を見ていると、本当に幸せに思える

    この人を守りたい、愛しいこの人を

    必ず、守らなければならない

    俺は、ぎゅっとハンジさんを抱いた

    ハンジさんだけは、俺が守ると誓いながら
  90. 92 : : 2015/01/22(木) 14:42:34
    翌日

    トロスト区突端地区、ウォールロ開閉門の広場前に多くの避難民が集められた

    皆、手に各々武器を持っていた

    斧や鍬、矛、そんなところだ

    巨人に通用するはずのない武器を手に、人々は一様に生気を失った様な、青い顔をしていた

    自らの運命を悟っているのだろう

    拒絶し暴れる人もいない

    不気味な静けさに包まれている

    この世界では、王の命令は絶対

    誰も逆らう事はできない

    いや、逆らうなどという概念がない

    俺も訓練兵になるまではそうだった

    だが、兵士として様々な事を学んでいくうちに、少しずつ考え方が変わってきた

    なぜ、力を持つ者が巨人から遠ざけられるのか

    力を持つ者こそ戦うべきではないのか

    なぜ壁の外に興味を持つのがいけないのか

    なぜ壁外に関する書物が禁忌とされているのか

    数々の何故、に気がついた者が、こうして調査兵団に集まっている

    理由も無く死ねと言われて、死ななければならないこの世界は、一体なんのために存在しているんだろう

    目の前で一言も言葉を発しない人々

    老人もいる、戦えるはずがないのに

    人口を大義名分でもって大幅に減らす

    こうしなければ、人類は滅亡する

    割り切れないが、どうする事も出来ない

    いくら疑問があれど、所詮は一兵士

    逆らう事は出来ない

    今はまだ……

    将来の来るべき時、ハンジさんが力を蓄えておける様に、今回の遠征では絶対に無茶はさせない

    鹿毛の馬に跨がり、さながら戦女神の様な凛とした佇まいのハンジさんの背中を見つめながら、俺はぐっと拳を握りしめた
  91. 93 : : 2015/01/22(木) 15:09:04
    ゴーンゴーン…

    門の開閉の合図の鐘が鳴り響く

    「モブリット」

    ハンジさんが後ろを振り返る

    その瞳は生気を失ってはいない

    回りの人々とは違う

    「班長、くれぐれも無茶はなさいませんように」

    俺がそう言うと、ハンジさんは頷いた

    「わかってる。ただ、出来るだけ側にいてくれ。自分でもどうなるかわからないんだ」

    「わかりました、班長」

    人々の隊列が動き始める

    ついにウォールマリア領土奪還作戦が幕を開けた

    見た目だけは大軍の我々人類側

    数の上では圧倒的多数

    だが、巨人は……

    考えても拉致があかない

    とにかく前を駆けるハンジさんの事だけを考えよう

    壁外では、他の事に力を割く余力を俺は持ち合わせてはいない

    小さな力は、全てはハンジさんのためにつぎ込む

    人々を守ることは、俺には出来ない

  92. 94 : : 2015/01/22(木) 16:32:35
    しばらくは何事もなく行軍する

    だが、ついに避けられない時がきた

    前方に赤い信煙弾があがる

    同時に数発

    どうやら人間の匂いかなにかに釣られて、巨人どもが押し寄せてきているらしい

    人々が歩みを止め、ざわつき始める

    「進め!」

    そんな怒号が各所でこだまする

    だが恐れをなした人々は、一斉に壁の方へ戻ろうと、来た道を引き換えそうと駆け出した

    そんな矢先、突如横合いから地響きが鳴る

    「巨人だ!多数接近してきているぞ!」

    ハンジさんの声が人々を恐慌状態に陥れる

    逃げ惑う人々

    だが、巨人は容赦なく人々に襲いかかる

    目の前に並べられた食事を貪るように、次々と口に放り込まれていく

    「ぎゃぁぁぁ」

    「うわぁぁ」

    阿鼻叫喚の渦が、辺りに広がる

    「ちっ!」

    ハンジさんが舌打ちをして、人々を食らう巨人の一体にアンカーを射出した

    「班長!」

    俺が叫ぶと、班長は巨人に鋭い視線を向けながら言葉を発する

    「モブリット、来るな!」

    「しかし……ってあ!」

    更に多数の巨人が、左右前方から押し寄せてきた

    巨人は馬に乗った兵士に見向きもしない

    食べやすい餌を寄り好んでいるのか、機動力のない一般人ばかりを追い回す

    一人、また一人と目の前で食われていく

    余りの惨劇に、胃からなにかが逆流しかかった

    だが、目をつぶることはできない

    ハンジさんの姿を確認すべく視線を移動させる

    ハンジさんは一体を鮮やかに倒し、すぐに二体目に取りついていた

    「離しやがれ!いまいましいクソ巨人が!」

    そう叫びながら巨人の身体を切り刻む

    腕に掴まれていた人ごと、巨人の手を切断する

    俺は慌てて落下地点へ急いだ

    手ごと地面に叩きつけられた人は、かろうじて生きていた

    俺は………手を差し伸べられない

    怪我をしても、馬に乗せてやれない

    一人助けられても、他の大多数は助けられない

    きりがないのだ

    そんな事を考える俺は悪魔だ、きっとそうだ

    「すみません……」

    小さな声でそう言い残し、頭上を見上げる

    ハンジさんが鮮やかに巨人のうなじを削いだ所だった

    俺の隣に降りてくると、ハンジさんは頭を抱えた

    「誰も、助けられない……いっぱい、食われたよ」

    「とにかく、群がる巨人をなんとかしましょう。それくらいしか、俺たちには出来ません」

    俺がそう言うと、ハンジさん返事もせずにトリガーに手をかけた

    俺がその手を止める

    「待ってください」

    「………なんだよ」

    「一緒にやりましょう。その方がいいです。巨人は多数群がっている。短時間で確実に倒す必要があります」

    俺の言葉に、ハンジさんは頷いた

    「君の意見は理にかなってる。そうしよう。出来る事を出来るだけやるしかないからね」

    ハンジさんの瞳に、力強い光が戻ってきた

    戦場で輝く戦女神

    ハンジさんはまるでその女神さながら、ふわりと立体機動で宙を舞う

    その速度にも動きにも、俺は到底ついてはいけない

    だが、出来ることはある

    俺はハンジさんの背中を追いながら、うなじを削ぎやすいように囮になるのだった
  93. 95 : : 2015/01/22(木) 16:50:11
    総員撤退の合図が出たときには、辺りには一般人は殆どいなかった

    だが、それでもハンジさんはかろうじて生き残った人々を集め、自分の班員でその集団を守るように陣形を組んで、壁に向かった

    「モブリット、何人くらいいる?」

    「……50人程、です」

    「……………」

    ハンジさんは言葉を失った

    無言で壁の門まで引き返すと、他の班の生き残りの一般人が門を叩いているのが見えた

    「なんで、門を開けない?」

    ハンジさんがその様子に首をかしげた

    すると、門の上から声がした

    「調査兵団は壁を登って帰還しろ!」

    「待て、一般人をあげてやりたい。門が開かないならリフトを下ろしてほしい!」

    ハンジさんが門兵に向かって叫んだが、門は開かず、リフトも準備されている様子はなかった

    「ここに置いていけと言う事か………?」

    「はい、そうでしょう。他の班は、すでに帰投している様です」

    「………そんなこと、出来ない!綺麗事かもしれないけど、やっぱり見殺しなんか出来ない!折角ここまで、生きてたどり着いたのに…………!」

    ハンジさんは門を叩いて泣き崩れた

    拳を力一杯打ち付ける

    俺はその手を止めた

    「拳が砕けます」

    「離せよ!こんな、人を救えない手はいらないんだから!」

    俺の手を振り払い、尚も拳を打ち付けようとするハンジさんを、後ろから抱き竦めた




  94. 96 : : 2015/01/22(木) 16:56:31
    「ハンジさん、落ち着いてください。ガスが残っている兵達で、一般人を上げましょう。上げるなという命令は受けていませんから」

    あえてハンジさんと呼び、冷静さを思い出してもらおうとした

    それが通じたのか、ハンジさんはふぅと息をついた

    「そうだね。そうしよう」

    俺たちは手分けして、壁に到達した一般人達を、ガスが限界に近付くまで上にあげた

    幸いなことに、ガス欠までに壁際にいた100人余りの人を救出出来たのであった
  95. 97 : : 2015/01/22(木) 17:03:05
    領土奪還作戦は失敗に終わった

    初めから結果はわかってはいた

    だが、想像を絶する惨状に、調査兵団全員に重苦しいムードが漂っていた

    見殺しにした

    皆が背負った罪だった

    調査兵団だけではない、いま生きている人類全ての罪だ

    25万人を動員し、生き残ったのは兵士を除いて僅か100名余り

    要するに、俺たちが壁に上げた一般人のみが生存者となったのであった
  96. 98 : : 2015/01/22(木) 17:37:59
    部屋に帰ったのは夜半を過ぎた頃だった

    風呂に入る気力もない、何も考えたくない

    俺は兵服のままベッドに倒れこんだ

    枕に顔を埋めても、脳裏に甦るのは、人々がお菓子の様に食い散らかされる惨状

    寝ることも出来ない

    唇が乾いているが、水を飲もうとも思えない

    吐いてしまうかもしれない

    班長は、団長に呼ばれていた

    今頃勝手に人々を助けた事を、叱られているだろう……表向きは

    ハンジさんは大丈夫だろうか

    別れ際は少し元気がないくらいだったが

    心を痛めている事には間違いない

    様子を見に行こうか

    ふと思い立ち、ベッドから降りて扉に向かった
    まさに扉を開けようと手を伸ばしたその時、それが開いた

    「ただいま」

    ハンジさんはそう言うなり、俺の唇に自分のそれを押し付けてきた

    強引に、まるで貪るように

    首に腕を回して、更に強く押し付けてくる

    「ん…」

    俺はハンジさんの背中を扉に押し付けるように体重をかけて、扉を閉めた

    そのままお互いに口腔内を犯し合う

    濃厚なキスを、お互いの息があがるまで続けた

    しばらくして唇が離れると、ハンジさんは真摯なまなざしを俺に向けて、静かに口を開く

    「忘れさせて、なんて言わない」

    俺の顔をじっと見つめながら、ハンジさんはきっぱりそう言った

    「はい」

    「忘れてはならない。今日の事は、一生背負っていかなければならないから」

    「はい、ハンジさん」

    ハンジさんはいつのまにか乗り越えていた

    あの惨状を目の当たりにしながら、涙を流しながら、だがその瞳は輝きを失うことはなかった

    俺は、前を向く事はおろか、水を飲む、という行為すら放棄していたというのに

    やはりこの人は……人類に必要な人だ

    大半の人が考える事を止めている、この世界に、無くてはならない存在だ

    「私は沢山の命を背負って生きていく。もう立ち止まらない。誰がなんと言おうと、歩みは止めない」

    力強く言葉を発するハンジさんに、俺は確かに輝く未来を見た
  97. 99 : : 2015/01/22(木) 17:49:20
    「俺は、ずっとあなたのお側にいます」

    「うん、これからもよろしくね。モブリット・バーナー第2分隊副隊長」

    ハンジさんは一転、にやりと笑いながら、俺に一枚の紙を押し付けた

    目を通すと、確かに第2分隊副隊長の辞令であった

    「分隊副隊長ですか…俺は班長もやっていないのに」

    「ま、私のお陰の飛び級かな!」

    「そうですね、間違いなく」

    俺が頷くと、ハンジさんは俺の頬を撫でた

    「はは、冗談だよ。でもね、階級なんて何でもいいんだ。君が側にいてくれたらそれでいい」

    「俺も、あなたの側にいられるなら、何でもいいです」

    俺の言葉にハンジさんは、ふわりと抱きついてきた

    「一緒に頑張ろうね。腐った世界をなんとかする」

    「はい、ハンジ分隊長」

    「早速呼ばれた!ははは」

    ハンジさんはそう言うと、朗らかに笑ったのであった


  98. 100 : : 2015/01/22(木) 18:10:32
    「じゃあ、新制第二分隊の親睦でも深めようか!」

    ハンジさんはそう言うと、いきなり俺の腕をとった

    半ば引きずられる様に連れていかれた先は、ベッドではなく…

    「ちょ、ちょっと!ハンジさん?!」

    「お背中お流ししまーす」

    「服、服きたままシャワー室に連れ込まないで下さいよ!って冷たっ!」

    ハンジさんは鼻息荒く、俺をシャワー室に追いやって水をかけてきた

    「どうせ洗うんだから、濡れても構わないだろ」

    そう言うと、自らも水シャワーを浴びる

    「あ、あんた何やってんですか!立体機動ベルトが濡れてしまいましたよ!」

    「いいよ…もう我慢できないから…ここでやるのさ。綺麗にしなきゃモブリットだって嫌だろ?」

    ハンジさんはそう言いながら、何とも切なそうな表情を見せる

    「ここでやるって………恥ずかしいです!」

    「お、明るいところだと恥ずかしいタイプか。なら今日はハンジ分隊長自らモブリット副隊長をいかせてあげましょう」

    ハンジさんはさも嬉しそうに、俺に水を浴びせながらシャツやらスラックスやら下着やらを手際よく脱がせていった

    「分隊長、へ、変態です!」

    俺は思わず叫んだ

    「はは、でも君のも勃ってるから、君も変態って事だね!」

    「俺のは疲れマラというやつですよ!変態じゃなくて生理現象です!」

    「ほう、男にはいろいろあるんだね。詳しく知りたいから、大人しく愛し合おう」

    そう言って自らも裸体を惜しげなくさらすハンジさんに、やっぱりついていく人を間違えたかな、と一瞬思ったのは内緒である


    ―完―
  99. 101 : : 2015/01/22(木) 18:24:17
    執筆お疲れ様です!!
    ハンジとモブリットの作品と言えば88師匠ですよね!!
    モブリットとハンジさんの会話が可愛かったり、格好いい……本当に凄いです!
    個人的にモブリットがハンジさんの仇をとろうと憲兵を追っていこうとしたシーンが好きでした!!♡

    大勢の命を奪った作戦の過去を背負って戦っていこうと思ってるから、ハンジさんもモブリットも強いんだろうなぁと思いました!
    それと同時に本当は弱い人間で2人で協力してやっと強いんだ!って思えました♪
    素敵な作品を読ませて貰って本当にありがとうございます!!これからも頑張ってください!
  100. 102 : : 2015/01/22(木) 19:28:59
    >>98に文章が抜けていたので追記しています

    (´д`|||)
  101. 103 : : 2015/01/22(木) 20:01:20
    >EreAni師匠☆
    読んで下さり、ありがとうございます!
    モブハンといえば私、そう言ってもらうために、一年間モブリットやハンジさんを沢山かいてきました!
    師匠にいつも励ましてもらって、沢山コメントももらって、そのお陰で一年迎えられます!

    モブリットがハンジさんのために切れるシーン、普段穏やかな人ほど怒らせると恐いですから、憲兵さんもハンジさんに止めてもらって、命拾いしましたよw

    小さな力だけど二人で乗り越えていってくれると信じてます!

    師匠ありがとう!
    これからもよろしくね(=^ェ^=)
  102. 104 : : 2015/01/23(金) 22:29:12
    面白かったです。
  103. 105 : : 2015/01/23(金) 22:30:44
    >じけいさん☆
    いつも読んでくれてありがとう!
    じけいさんにそう言ってもらえると、凄くうれしいです!
    いつも励まされてます、ほんとに♪
    これからもよろしくお願いいたします(*´∀`)
  104. 106 : : 2015/01/24(土) 08:26:47
    とても面白かったです!
    モブリットもハンジさんもお互いのことを本当に想いあってるんだなと。
    個人的にモブリットが微妙に肉食だったのがツボりまくりました‼︎
    モブリット格好いい!惚れた‼︎
    でもやっぱり翻弄されるモブリットの方が好きかも♪
    ロメ姉のSSはどれも良い作品ばかりでとても素敵です!
    これからも頑張ってね(((o(*゚▽゚*)o)))
  105. 107 : : 2015/01/24(土) 10:22:03
    >りぃちゃん☆
    読んで下さってありがとうございます♪
    面白いと言って頂けてうれしいです(*´∀`)
    モブリットはただもんもんしてるのを書きたかったはずなのに、急に暴れだしてしまって(誰のせいやw)、困っちゃう(*´∀`)

    私も翻弄される系モブリットが好きですw
    ハンジさんにぶんぶん振り回され続けて欲しい!

    りぃちゃんいつもコメントありがとう!
    これからもよろしくお願いいたします(*´∀`)
  106. 108 : : 2015/01/25(日) 19:32:44
    ハンジさんが荒れていた時からずっと支えてきたモブリットを、本当にこんなエピソードがあったんじゃ!?と思えるぐらい鮮明に、生き生きと描いていて、ロメ姉さすが!と感じました。

    荒れたハンジさんをモブリットの想いが、冷静で聡明な女性に変えていったのかなと...

    特にモブリットが憲兵をぶん殴りに行こうとした場面!
    原作52話以上に萌えました!
    モブリットかっこいい...

    モブリットの今後の嫁バカぶりに、ひっそりと期待していますw

    執筆お疲れ様でした!
  107. 109 : : 2015/01/25(日) 19:50:33
    ロメ姉さん!お疲れ様でした♪(*/∀\*)
    モブリットカッコいい~♪ヒュー
    で、憲兵一回ぶん殴ってやろうか?ああん?
    はっ、ダメダメ…怒りのあまり本性が…ロメ姉さん、気にしないでね♪ハァト♡
    Sっ気のあるモブリット、ごちそうさまでした!(*^人^*)
  108. 110 : : 2015/01/26(月) 10:49:12
    >妹姫☆
    読んでくれてありがとう♪
    本当にあったエピソードっぽく書けていましたか!うれしすぎます(*´ω`*)

    ハンジさんはモブリットがいてこそ、今の凛々しいお姿でいられるのだと確信しています!きりっ

    モブリットの切れたシーン
    あれはもう、ハンジさんがまじうらやまでした(自分で書いててそれ言うか?)

    コメントありがとうございました♪
  109. 111 : : 2015/01/26(月) 10:51:34
    >ゆう姫☆
    コメントありがとうございます♪
    姫が、姫が威嚇してるwだがしかしかわいいぞw

    素敵な本性ですわ(*´ω`*)おほほ
    二人きりのときはちょいS、たまにはいいよねー♪
    またSリット書くので、その時はよろですん(*´ω`*)
  110. 112 : : 2015/02/05(木) 16:53:39
    お疲れ様です。
  111. 113 : : 2015/02/05(木) 16:54:28
    >モブさん
    読んでいただきありがとうございます♪

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fransowa

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