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アルミン&アニ「一週間食えんズ、」

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  1. 1 : : 2014/08/09(土) 20:56:40


    8月のとある土砂降りの日。ぼくは訓練所内の医務室にいた。


    同期の女の子と一緒に。


    一週間前の出来事を思い出しながら、その子の横顔を眺めていた。











    これはぼくと“あの子”の、一週間の物語。

  2. 2 : : 2014/08/09(土) 20:57:44






































































    「一週間食えんズ、」






































































  3. 3 : : 2014/08/09(土) 21:07:55


    848年 8月9日。





    ぼく達訓練兵はいつものように、訓練所近くの森で立体機動の訓練を行っていた。





    午前中はカンカン照りで、それこそ教官の頭頂部のように輝く太陽が眩しかったのに、


    午後からはそれまでの天気が嘘のように、激しい土砂降りに見舞われた。





    黙って午後は座学にしてくれればいいのに、融通の利かない教官は


    この土砂降りの中、立体機動訓練をやると言い出したもんだから本当に困っちゃう。


    反対する訓練兵もわんさか居たと言うのに。





    ただでさえ事故の多い訓練。こんな土砂降りの中、何も起きない筈がない。


    ましてやぼくみたいな奴が、無事に帰って来られると本気で思ってるのかな?

  4. 4 : : 2014/08/09(土) 21:22:27


    訓練開始から間もなく。





    激しい雨で視界が効かない中、ついに……いや、当然の如くやらかしてしまった。


    鈍臭いぼくは樹にアンカーを刺し損ね、近くの崖下に真っ逆さま。





    巨人と戦う事もなく、訓練中の事故で死ぬとか、ぼくの人生って一体……?


    ……っとその時、走馬灯の代わりにとある人物の顔が視界を横切った。


    近くを飛んでいた子の顔だった。






    まさかあの子がぼくに手を差し伸べてくれるなんて、思いもしなかった……

  5. 5 : : 2014/08/09(土) 21:34:10

    ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



    周囲を激しく打ち付ける雨粒の音でぼくは目を覚ました。


    辺りが薄暗い。下には岩のごつごつした感触。洞窟の中なのだろうとぼくは理解した。






    「…っ!」


    身体を起こそうとした時、激しい痛みで動きが止まる。


    どうやら激しく打ち付けたのは雨だけではなかったみたいだ。






    「やっと目が醒めたの?」


    洞窟の中に、突然響いた声。


    ミカサ……に似た、あまり感情がこもっていない声だけど、違う。






    「……アニ?」


    今しがた聞いた声を、ぼくが知っている声と照合して一人の女子の名前を探り当てた。


    確かそんな名前だったと思う。


    正直自信が無くて、語尾が上がってしまう。だってろくに会話したことなんか無いんだから。

  6. 6 : : 2014/08/09(土) 21:45:59


    「アニが助けてくれたの?」


    「だってあんた、落ちる寸前に私の顔を見てたでしょ」


    「あー……覚えてないなぁ」


    本当はうっすらと覚えていたけど、ぼくは誤魔化した。特に理由は無い。






    「仮にあんたが死んだとして、その後に化けて出て来られても困るからね」


    ははは、とぼくは笑う。


    意外だなぁ。こんな事を考えるような子だったんだ。






    「でも、後悔してる。黙ってあんたに祟られたほうがマシだったかもしれない」


    「どう言う事?」


    ぼくに祟られるより悪い事?一体何だろう?


    まぁ、別にアニを祟るような芸当は当然できないワケだけども……

  7. 7 : : 2014/08/09(土) 21:57:06


    「見なよ、この雨。当分止みそうにない。私達はここから下手に出られない」


    「雨が止んだら出られるよ」


    「下は断崖絶壁。落ちる途中にそこの樹に体を引っ掻けて、どうにかここに飛びこめた」


    「立体機動なら問題ないよ」


    「何で私達が今、立体機動装置を装備してないか教えてあげようか?」


    「……」






    つまりそう言う事か。当然だね。


    正直、ぼくも薄々気付いてたけど。あえてアニの口から聞く必要もなさそうだ。

  8. 8 : : 2014/08/09(土) 22:08:44


    「加えて上は鼠返しみたいになってて、素手で登るのも無理」


    「つまりぼく達は……」


    「晴れて“遭難者”になれたワケだね」






    その言葉を聞き、改めて自分の置かれた状況を理解した。


    簡単に言ってしまえば、今この場からぼく達が自力で生還できる方法は……


    「ない」


    「え?」





    思わず声に出てしまった。アニが不意を突かれたように剽軽な声を出した。


    ちょっとかわいいと思ってしまった自分に腹パンしたくなる。


    こんな時に何を考えているんだか……

  9. 11 : : 2014/08/09(土) 22:19:20


    「これがもし“死亡者”にでもランクアップしようものなら、本当に笑えないね」


    うん。冗談抜きで笑えない。


    「どうしよう」


    「それはあんたの得意分野でしょ。どうにかしてよ」


    “どうにかして”。この世で最も無茶振りな言葉だと思う。


    加えて全身を走る痛み。この痛みがぼくの思考を更に鈍らせる。






    あれ?






    そう言えば、何でアニはこんなにピンピンしているんだろう?


    ぼくと一緒にここに落ちたんじゃないのか?

  10. 12 : : 2014/08/09(土) 22:30:27


    「アニ、怪我とかしてない?」


    アニに聞いてみる。


    別にやましい質問をするワケでもないのに、ぼくの声は普段より半音上ずった。






    「別に」


    「そう。ならよかった」


    怪我が無いに越したことはない。


    何故アニが無事なのか疑問だったけど、もうどうでもよくなってきた。


    それ以上に厄介な問題が山積みなのだから。

  11. 13 : : 2014/08/09(土) 22:41:27


    「で、どうにかなりそうなの?」


    アニの鋭く突き刺さるような一言。


    山積みの問題を、まとめてぼくにぶん投げて来た。
    せめて小分けにしてほしかった……






    「ちょっと時間が欲しいかな」


    「そう」


    そこで会話が途切れる。


    だって今までろくに話したことが無いのに、ポンポン話題が生まれるワケがない。


    アニに至っては一度もぼくと目を合わせてくれないし、
    ぼくはぼくでやっぱりアニの目を見れない。






    やはりぼくは、アニに対して後ろめたい気持ちなんだろうか?


    ここに閉じ込められたような形になったのも、ぼくに非があるワケなんだし。

  12. 14 : : 2014/08/09(土) 22:52:20


    「ごめんね」


    「何が?」


    「ぼくのせいでアニまでこんな場所に」


    「悪いのは勝手にあんたを助けようとした私。自業自得ってやつだよ」


    「放っておけばよかったのに、どうして……」


    「あんただって、私が放っておけばこの場で悩まずに済んだのに。悪い事したね」


    「……」






    言葉に詰まる。そして冷静に考える。


    そうか、アニが助けてくれなければ今頃ぼくは……






    ぼくはアニの顔をちらりと覗き込む。勿論遠目に。


    アニは、羨望と軽蔑の入り混じった目で何かを見上げている。






    ぼくもその視線の先に顔を向けてみる。

  13. 15 : : 2014/08/09(土) 22:59:50


    「うわ……」






    天井付近に張られた大きな蜘蛛の巣。


    そこに一匹の虫がかかり、今にも捕食されようとしていた。


    アニが蔑んだ眼をしていた理由はこれか、とぼくは納得した。


    半分は。






    もう半分。なぜ羨ましがっていたのだろう。


    巣?虫?捕食?






    「あっ……」






    気付いてしまった。アニもこちらを見る。やれやれと言った表情だ。


    恐る恐るアニと視線を合わせ、そして投げられた山の中から一つの問題を取り出し、口に出す。











    「……ご飯、どうしよう」

  14. 16 : : 2014/08/10(日) 19:55:12


    848年 8月10日。






    遭難二日目。清々しいという言葉が全く当てはまらない朝だ。


    雨の音でろくに眠れないし、変な虫が寝床を歩くもんだから気になって仕方ない。


    まぁ、本当の問題は別の“虫”だったけどね……






    「ぎゅるぎゅる……」






    これが例の“虫”の鳴き声。昨晩からずっと鳴いている。泣きたいのはこっちだってのに。

  15. 17 : : 2014/08/10(日) 20:07:22


    昨日から何も食べていない。これだけ空腹感を味わうのは、開拓地で暮らしていた時以来だ。


    量や味に文句はあれど、きっちり三食あり付ける訓練所は
    本当に恵まれていたんだな、と改めて思う。






    ずっと“食わず”ではあったけど、“飲まず”ではなかった。


    洞窟の奥に小さな窪みがあり、その中に湧水が溜まっていたから。


    どうにかそれを飲みながら耐えて来たけど、正直一晩でもう挫けそうだ。


    水溜りの中に小魚一匹、沢蟹一匹、何でもいいから居てくれればどれほどありがたいことか。

  16. 18 : : 2014/08/10(日) 20:19:59


    仮にこの水溜りが、巨大な池だったらどうだろう。


    その中にはたくさんの生物が生息していて、魚だろうと甲殻類だろうと選り取り見取り。


    中にはヌシと呼ばれる巨大な魚が居て、でもそれをぼくがいとも簡単に釣り上げて、
    お腹を空かせたアニの前に持ってきて一言。


    『ほら、食べなよ。アニのために釣って来たんだぜ』
















    「なんだ、起きてたの」


    アニの声で現実に引き戻される。終わりを告げた淡い妄想。
    あぁ、余計な事を……

  17. 19 : : 2014/08/10(日) 20:31:34


    「眠れたもんじゃないよ。ここには睡眠を妨げるものが多すぎる」


    「あんたって男のくせにデリケートなんだね」


    「アニは眠れたの?」


    「まさか。こんな場所で乙女が熟睡できると思ってるの?」


    「……」






    もっともだ。


    こんな場所で平気で眠れるのはミカサ位……って言ったら、ミカサの拳が飛んできそうだ。


    まぁ、本当に飛んでくるならありがたいけど。むしろ飛んできて。そして助けて。

  18. 20 : : 2014/08/10(日) 20:44:16


    「はあぁ……」


    「うるさい」


    「ごめん」


    「そう思うなら、何か食べ物を取って来るくらいの男気を見せてほしいもんだね」






    出来る事ならそうしたいけどね。どうせ無理だって、アニも分かってるじゃないか……

  19. 21 : : 2014/08/10(日) 20:53:23


    どれほど時間が経っただろうか。


    曇天の空の明るさ加減では、おおよその時間を測る事も困難だ。






    雨はまだまだ止む気配がない。アニが水を飲みにその場を離れる。


    立ち上がる瞬間、僅かだけどふらついたのが見て取れた。アニも疲弊してるんだな。






    冗談抜きで、この状況をどうにかしないとぼく達は本当にお仕舞だ。間違いなくお仕舞だ。


    ……と、心の中でいくらそう思っても、心の中のまた違う場所で楽観視しているぼくが居る。


    『大丈夫、雨が止めば誰かが探しに来てくれる。助けに来てくれる』と。






    どうやらぼくの頭の中は、ぼくが思っている以上にお花畑が広がっているみたいだ。


    自覚しても尚そう思える。甘ちゃんめ!


  20. 22 : : 2014/08/10(日) 21:06:18


    アニが戻ってきた。先ほどまで座っていた場所に再び収まる。


    昨日からこの動きの繰り返し。


    水を飲みに立っては戻る。それ以外はほとんど動かない。






    当然だよね。動けばエネルギーを消費する。動けば動くほど消費する。


    動かないに越したことはない……はずなんだけど、やっぱりお腹が空いてしまう。


    喧嘩をしてるワケでもないけど、仲良くしてもどうせ減る。


    こういう時、何も食べずに生きられる巨人が羨ましいと思っちゃうよ。

  21. 23 : : 2014/08/10(日) 21:21:19


    「……」


    「……」






    相変わらず会話は無い。口を開けば、きっと良くない事ばかり溢れ出してしまうだろう。


    ぼくはもぞもぞと体をくねらせ、アニに背を向け、目を閉じた。











    眠っている間に、全てが解決してくれればいいのにな……

  22. 25 : : 2014/08/11(月) 20:08:52


    848年 8月11日。


    遭難歴も3日目を迎える。





    この経歴が、後の彼に多大な影響を及ぼすのであった……みたいな書き出しで自伝を出そう。


    もっとも、この場から無事に生きて帰る事が出来たらの話だけど。






    ありがたい事に、今の今までぼくは目を覚ます事は無かった。


    疲れていた……というよりかは、衰弱に近かったためだろうね。だって何も食べてないもん。






    アニは……






    「……」


    これまで通り、同じ場所に腰を下ろしている。寝てないのかな?


    顔には昨日以上に疲労の色が見て取れる。目は虚ろで隈も浮き出ている。綺麗な顔が台無しだ。

  23. 26 : : 2014/08/11(月) 20:23:26


    ……と、アニを見たついでに洞窟の外の景色が目に入る。


    「雨、上がってる」


    自分でも驚くほどに明るく、弾んだ声が出た。


    天候が回復したと言うだけで、置かれている状況は何一つ好転していないと言うのに。






    「アニ、見て、外が晴れてるよ。もしかしたら、みんなが探しに来てくれるかもしれない」


    探しに来てくれないかもしれない。


    今頃エレンやミカサは、どんな想いで居るのだろう?

  24. 27 : : 2014/08/11(月) 20:38:09


    「淡い期待を抱くほど、裏切られた時のショックが大きいよ」


    「……」






    そんな言い方しなくたっていいじゃないか。


    それともアニは、助けに来てもらう事を望んでないのか?
    ちょっとイラついた。

  25. 28 : : 2014/08/11(月) 20:54:00


    昨日よりさらに重たくなった体を起こし、ぼくは水を飲みに向かう。


    水から得られるエネルギーより、飲みに向かうエネルギーのほうが大きいんじゃないか?


    余計な思考ばかりが働く。あぁ、帰りたい。






    「ん……」


    水面に顔を近づけ、水を一口、二口、三口……もうたくさん。


    ずっと水しか飲んでないから、水っ腹で気持ち悪い。






    「気持ち悪い」


    声も出た。よっぽど気持ち悪いんだなと自分でも改めて思った。

  26. 29 : : 2014/08/11(月) 21:08:43


    「アニは飲んだ?」


    「……」






    答えない。


    アニがあの場から動いた形跡がないから、きっとしばらく飲んでない筈なのに。


    あのままじゃ、確実に……






    「はいアニ、少しでも飲んでおかないと持たないよ」


    結局ぼくは、近くにあった丁度いい窪みの石を拾い、水を汲んでアニに持って行った。


    よろめきながら持って行ったせいで、中身が少々こぼれちゃったけど許してくれるよね?

  27. 30 : : 2014/08/11(月) 21:22:38


    「……ありがと」


    か細い声。喉が渇いているだろうから尚更声が出ないんだろうね。











    急にめまいがして、ぼくはそのまま座り込む。


    本当にここから生きて帰る事が出来るのかな……?

  28. 31 : : 2014/08/12(火) 20:08:30


    848年 8月12日。






    いよいよ4日目を迎えてしまった。今日は暑い。


    昨日まではそこそこ冷たかった水も、今日はぬるい。気持ち悪い。






    一昨日まで降っていた雨のせいで湿度も高い。おまけに洞窟内は熱がこもって尚更不快だ。


    満身創痍のぼく達から、容赦なく体力を吸い取っていく。それこそ必要以上に。


    ぼく達に何の恨みがあるんだ!

  29. 32 : : 2014/08/12(火) 20:23:11


    助けは一向に来る気配がない。


    天候は言い訳にできないと言うのに、どうして誰も来てくれないんだ。


    まさかぼく達は、見捨てられたのか……?






    いや、そんなワケない。


    力尽きる最期の瞬間までは、そんな事は無いと信じることにしよう。多分。






    昨日以上にめまいとよろめきを覚えながら、ぼくは水を飲み、そしてアニの分を汲む。


    正直、自分でも動けるのが不思議と思えるくらい消耗していた。

  30. 34 : : 2014/08/12(火) 20:38:01


    「はい、アニ」


    「……」


    アニは答えない。動かない。どうして?






    「飲まないと持たないよ」


    「……」


    何でここに来て無視するんだ?


    せっかく人が持ってきてあげたのに、その行為を無下にする気か?






    ぼくはイラついた。


    何に対してイラついているのかハッキリ分からないけど、とにかくイラついた。


    きっとアニに無視された事以外にもイラつくための理由があるはず。敢えて考えないけど。

  31. 35 : : 2014/08/12(火) 20:53:08


    それにしても、アニは一体何を考えているんだ?


    まるで、この場から生きて帰る事を本気で望んでいないような?


    ただ単に消耗が激しくて、思考を行動に移すための体力が残ってないだけなのか?







    もしアニが、この場で死ぬ事を望んでいるのだとしたら……







    ……やめた。考えるのも恐ろしい。第一、そんな事を考えているワケがない。











    ぼくは自分の持ち場に戻り、横になった

    こうして4日目も過ぎていく。助けは……まだ来ない。

  32. 36 : : 2014/08/13(水) 20:36:18


    848年 8月13日。


    遭難5日目にして、最大のイベントが発生した!






    何と、小さな兎が洞窟内に迷い込んできたんだ。


    突然入口に叩き付けられるようにして落ちてきた。


    きっと、ぼく達と同じように崖から落ちてきたんだね。






    「はっ!」


    素早くぼくは兎を捕まえる。今なら、獲物を屠るブラウスの心情がほぼ100%理解できる。

  33. 37 : : 2014/08/13(水) 20:48:32

    「アニ、やったよ!兎を捕まえた!」


    「……」


    アニはちらりとこちらを見たが、特に反応を示さない。


    まぁ確かに、多少は目に輝きを灯したかもしれない。けど、それもすぐに消えてしまったけど。






    「アニ、久しぶりの食事にありつけるよ!早速準備を……」


    「あんたさあ」


    唐突にアニが口を開いた。ぼくの幸せ気分絶頂状態に水を差すような一言。


    たった一言だけど、アニが何を言おうとしたのかは言われなくても分かった……気がした。

  34. 38 : : 2014/08/13(水) 21:00:40

    「今ここでそいつを捕食するっていう行為はさ」


    何でわざわざ“捕食”なんて表現を使うんだよ……






    「巨人共が、私らを捕食する行為と何ら変わらないんじゃないの?」


    「変わるよ!ぼく達は生きるために食べるんだ!でも奴らは、殺すために食べるじゃないか!」


    「結果的に捕食して殺す事には変わらない」


    「う……」


    言葉に詰まる。


    疲労で頭が回らないというのもあったけど、アニが言ってるのはただの屁理屈のはず。


    だけど、その屁理屈すらも正当化してしまうほどの眼力をアニは放っていた。






    一体、どうしてそこまで……?

  35. 39 : : 2014/08/13(水) 21:12:07

    じゃあ君は、今まで何を食べて来たと言うんだ?


    人間が……いや、いかなる生物であっても、他の生物を殺さずに生き続ける事なんて


    絶対に不可能じゃないか。






    今更綺麗事を語るつもりなのか。それとも、やはりアニは“乙女”なのか。






    っと、ぼくはそこで大失態を犯す。


    ぼくの力が緩んだ一瞬の隙を狙って、兎が腕から抜け出した。それこそ、まさに脱兎の如く。






    「あっ……あぁ」


    兎はあっという間に洞窟の外へと消えていった。


    崖下に落ちたのか、はたまた上に登ったのか。


    そんな事は、今のぼくにとってはどうでもよかった。

  36. 40 : : 2014/08/13(水) 21:26:28

    一度は手にした活路。


    しかしアニの言葉とぼくの迷いによって、それはいとも簡単に塞がってしまった。


    何でだよアニ。あぁ、イライラする。






    「……」


    兎が逃げた事については、何も語らないアニ。


    洞窟の外をじっと見つめ、安堵しているようにも見えた。ぼくは更にイラついた。


    え、なに?なんだかんだ言って、ただ単に兎がかわいそうだったからとか、そう言う話なの?


    結局、アニも一人の女の子って事?


    動物がかわいそうとか、そんな甘い考えでこの場から生き延びようとしてるの?

  37. 41 : : 2014/08/13(水) 21:36:19

    ……やめた。


    今のぼくの心情じゃ、次から次とドス黒い感情が溢れてくる。


    ぼくの純情ピュアミンのキャラが崩れないうちに、自制しないとね。






    「……次は逃がさないからね。アニも覚悟しておいて」


    あらかじめ釘を刺す。余裕がないんだから、なりふり構っていられないんだよ、アニ。






    「あんたさぁ」


    「?」


    「仮に……仮にだよ。ここから今すぐに脱出する方法があるとしたら、信じるかい?」


    「え?」


    ここから今すぐに……?何を言っているんだ?

  38. 42 : : 2014/08/13(水) 21:48:03

    「そんな方法があるの!?」


    「仮に、って言ったでしょ」


    「……」


    どうやら頭がおかしくなったのはぼくだけじゃないみたいだ。


    でも不思議と、アニの目は真剣そのものだ。






    何が言いたいのかは知らないけど、今日はこれ以上頭を使うのは無理だ。


    寝よう。











    アニに背を向け、ついでに現実にも背を向け……たいのをぐっと堪え、ぼくは目を閉じる……

  39. 43 : : 2014/08/14(木) 19:54:12

    848年 8月14日。


    遭難6日目。多分。






    辺りは真っ暗だ。衰弱しているのもあって、随分と長い間眠っていたようだ。


    眠っていたという表現が、本当に正しいかどうか分からないけど。


    長い眠りから“永い”眠りになってしまう前に、誰かぼくらを見つけてくれ……






    「……アニ?」


    自分でも驚くほどか細い声だった。相当衰弱している。全身の感覚も薄れている。


    正直、もう水を飲みに行く気力もないし、ヘタすれば生きる気力もどこかに落っことしそうだ。

  40. 44 : : 2014/08/14(木) 20:09:20

    んでもって、声をかけても相変わらず無言のアニ。


    まぁ、返事する力も残ってないと言えばそうかもしれないけど、こんな感じの事を


    幾度となく繰り返されたぼくにとっては、“無視された”以外の捉え方はできないよ。






    珍しく横になってるな。さすがにずっと座りっぱなしで疲れたかな……え?


    「アニっ!?」


    目を開けない。呼吸も弱い。これってもしかして……






    「アニ!アニ目を開けて!」


    「……うるさい」


    よかった。安堵で全身の力が抜ける。


    ちょっと気を抜けば、それだけでお空に逝ってしまいそうなほど弱っているぼくの身体。


    慌てて気を引き締める。

  41. 45 : : 2014/08/14(木) 20:24:22


    「悪いけど、私はそろそろ限界だよ。頑張るなら、あんた一人で勝手にどうぞ」


    限界という言葉からは想像できないほど、アニの声には張りがあった。






    「なっ…!?何を言っているんだ!二人で生き延びるんだよ!」


    「いい加減諦めな。助けなんか来ない。別に来てほしいとも思ってない」


    ……。






    『助けなんか来ない』。アニの言葉が、ぼくの中で繰り返し再生される。


    本当なら真っ向から反論したい。だけど、今この現状がアニの言葉を裏付ける。容赦なく。

  42. 46 : : 2014/08/14(木) 20:39:06

    「本当に誰も来ないのかな……?ぼくらは見捨てられてしまったのかな……?」


    「あんたのお友達くらいは探しに来てくれるんじゃないかと、私も淡い期待はしてたけど」


    「えっ?」


    「あんたの宿主達だよ」






    宿主って……。


    ぼくは一体どういう目で見られていたんだ?エレンとミカサのオマケって事なのか……?

  43. 47 : : 2014/08/14(木) 20:55:13

    「結局、あんたはお荷物としか見られてなかった。だから未だに助けが来ない」


    「違うよ」


    「認めなよ。おかしいじゃないか。周りに人が来てる気配が全くない。つまり、誰も来ていない」


    「違う……」


    「当然だよ。訓練兵二人のために、危険を犯してまで捜索させるはずがない。つまり私達は……」


    「違うっ!!!」






    残された力を使い、ぼくは全力で否定した。それくらいしか今のぼくにできることはない。






    「……あんたは信じてるんだね。そいつらの事」


    「当然じゃないか。彼らはぼくの大切な……」


    そこまで言ったところでぼくは言葉に詰まる。


    ぼくにとってエレンとミカサはとても大切な人達。


    だけど、“友達”という言葉で片付けられるほど浅い関係じゃないよね?

  44. 48 : : 2014/08/14(木) 21:10:27

    「アニには居ないの?友達?」


    「……」


    瞬時に曇るアニの表情。聞かれたくない事を聞かれた、という感じの表情に見える。


    あ、もしかして地雷踏んだ?






    「そうだね。少なくとも、あんたらみたいな関係を築いてる奴はいない」


    「誰も?」


    「誰も」


    「女子は?」


    「別に?」


    「同郷の人とかいないの?」


    「……いないよ」


    「本当に?」


    「しつこいね」






    流石に怒ったかな?


    でも、こう言う時でもない限り、アニとこんな話をする機会は金輪際無さそうだから、


    思い切って問い詰めてみた。やっぱり怒ったかな?

  45. 49 : : 2014/08/14(木) 21:25:35


    「あんたって臆病者かと思ってたけど、案外度胸があるんだね」


    「何の話?」


    「こっちの話」


    「?」






    相変わらず噛み合っているようで、噛み合わない会話。


    何が言いたいのかサッパリピーマンだよ。

  46. 50 : : 2014/08/14(木) 21:41:05

    「でも、やっぱり臆病者だよ」


    「だから何の話なのさ」


    「ヘタすれば、この洞窟が墓場になるんだ。思い出作りでもやるつもりなのかと思ってた」


    「思い出作り?」


    「夜這いでも掛けてくるんじゃないかと思ってたんだよ。でも、結局あんたはあんただったね」


    「夜這いって…!」






    さらっととんでもない事を考えてるんだな!アニってこんな子だったのか?


    かけてもいいなら今すぐにでも……






    「まぁ、その時は黙ってないけどね」


    よし、やめよう。ぼくは臆病者で十分です。痛いのは嫌です。

  47. 51 : : 2014/08/14(木) 21:52:46

    「夜這いをかけるためには、それなりの手順を踏まないとダメだよね」


    「手順?」


    「そう、手順。ぼくと君との関係性を、ね」


    「必要な手順を踏んだら夜這いを掛けるって事かい?」


    「どうだろうね?」


    「変な奴」






    あぁそうさ。どうせぼくは変な奴さ。


    変な奴だと改めて思い知った時点で、ぼくはアニに投げかける。
















    「ぼくと……友達になってくれないかな?」

  48. 52 : : 2014/08/14(木) 22:06:11

    言った。言っちゃった。


    別に愛の告白とかって言うワケじゃないのに、なぜか胸がすごく高鳴る。なんでだよ。






    「変な奴にはすでに友達が居るじゃないか。私である必要はないんじゃない?」


    「あの二人は友達って言うより、家族……に近いかな?」


    「聞かれても知らないよ」


    「とにかく、ぼくには明確な“友達”と呼べる存在が居ないんだ。だから、ね?」






    流石にちょっと強引過ぎたかな?

  49. 54 : : 2014/08/14(木) 22:18:55


    「一つ」


    「えっ?」


    「一つ、条件がある」


    条件、か。こう言った場面ではほぼお決まり取った感じだね。


    友達になる事すら、タダでは虫が良すぎるって事なの?






    「ここを生きて無事に出られたら。そしたら友達になってあげてもいいよ」


    「本当に?」


    それって実質OKって事じゃないか!!






    あ、いや、でもやっぱり難しいのか?だって今ぼく達の置かれている状況は……

  50. 55 : : 2014/08/14(木) 22:30:11


    「そう、ここを生きて出られたら。ちゃんと覚えておきなよ」


    「ありがとう」


    何に対してのありがとうなんだろう。自分でも分からない。


    アニが思ったよりもすんなりと友達になる事を受け入れてくれたからかな。






    まさか、ここから出られると思ってないから、ぼくとそんな約束をしたんじゃ?


    もしそうだとしたら、何としても生き延びてアニにギャフンと言わせなくちゃ。

  51. 56 : : 2014/08/14(木) 22:42:09


    ……とそこで、お互いのたわいも無い会話が、お互いの命を繋ぎ止めていたことに気付いた。


    全身の力が急激に抜けていく。






    当然だ。よく今日まで持ったと思う。ずっと限界を感じていたんだから。


    だけど、ぼく達の体に残されていた最後の力を振り絞って、ぼく達は大切な約束を取り付けたんだ。






    後は、この大切な約束を果たすために、何としても。


    そう思った直後、ぼくの意識は闇へと落ちて行った……

  52. 57 : : 2014/08/15(金) 12:58:12

    848年 8月15日









































    「アルミンっ!アニっ!」


    唐突に響く声。その声でぼくは目を醒ました。目は開かなかったけど。


    これはきっとエレンの声だ。その周りでも別の声がする。






    「生きてるか!?返事をしろ!!」


    「アルミンっ!!」


    「アニっ!!」






    ミカサと、ライナーと、ベルトルト。


    ようやく……ようやくぼく達を見つけてくれたんだね。

  53. 58 : : 2014/08/15(金) 13:13:06

    外は土砂降り。ぼく達が遭難した日と同じくらい、ひどい雨だ。



    意識はあるけど、声が出ない。目も開かない。


    あれ、これって意識がある事にならない?






    相変わらずどうでもいい事についてばかり考えちゃうなぁ、ぼくの頭は。


    きっと本当に死ぬ間際にも、どうでもいい考察とかしてるんだろうな、多分。






    あ、今、何だか体が浮いた。






    「しっかりしろアルミン!今、連れて帰ってやるからな!」


    あぁ、エレンに抱き抱えられたのか。


    ふわりと宙に浮くような感覚だったから、ぼくはてっきり。縁起でもないね。

  54. 59 : : 2014/08/15(金) 13:28:08

    「エレン、慎重に。アルミンはまだ生きてる」


    「当たり前だ!助けに来るのが遅くなっちまってすまねぇ、アルミン!」


    とんでもない。


    君達がずっとぼく達を探し続けてくれただけで十分さ。
















    「ゴンッ!!!」






    突然鈍い音が響く。どこから?


    あ、ぼくの頭だ。

  55. 60 : : 2014/08/15(金) 13:43:08

    「うわあっ!!アルミンすまねぇっ!!」


    「エレンっ!何してるの!慎重にって言ったでしょ!!」






    あぁ、エレンがぼくを洞窟の壁にぶつけてしまったのか。


    何でぼく自身がここまで冷静に分析できているんだ?






    とにかく、今分かる事。痛い。すごく痛い。


    そんな事を考えているうちに、ぼくの意識は再び闇の中へと落ちていく……

  56. 61 : : 2014/08/15(金) 19:57:52
















































































  57. 62 : : 2014/08/15(金) 19:59:08

    ここはどこだろう?


    自分の記憶の中にある場所と照らし合わせる。あ、医務室か。






    見慣れた場所のはずなのに、何だか長い間留守にしていたような、そんな不思議な感覚に陥る。


    何でぼくはここにいるんだろう?何でこんなに体が弱ってるんだろう?






    頭が痛い。それに、どうも最近の出来事が思い出せない。


    土砂降りの中で立体機動訓練を行ったことは覚えてるけど、そこから先の記憶が……






    「やっと目が醒めたの?」


    ふと、声のした方向に目をやる。


    この子は確か……






    「……アニ?」


    正直自信が無くて、語尾が上がってしまう。だってろくに会話したことなんか無いんだから。


    って、何だかこんなやり取りを最近どこかでやったような気がする。でも、やってない気もする。


    思い出せないなぁ。

  58. 63 : : 2014/08/15(金) 20:11:17


    「あんた、身体の調子はどう?」


    「どうしてぼくは医務室に居るんだっけ?」


    「は?」


    アニが驚いたような声を出した。そんなに変な事言ったかな、ぼく?






    「冗談はやめなよ」


    「冗談じゃなくて、本当に分からないんだ。もしかして、訓練中に何かあったの?」


    「……」


    言葉を失う、とは今のアニの事を指すんだろうね。さっぱり理解できない、と言った表情だ。


    ぼくも理解できないんだけど……

  59. 64 : : 2014/08/15(金) 20:23:10

    「……そうか、あんた、頭打ってたもんね。つまり、覚えてないんだね」


    「訓練中に頭を強打したって事?」


    「つまり、あの約束の事も覚えてないんだね」


    「えっ?」


    「……」


    アニの声がか細すぎて、何を言ってるか聞き取れなかった。


    すごく大事な事を言ったような気がする。聞き返したけど答えてくれない。






    思い出そうと頭を働かせるけど、ズキズキと痛んで思うように回らない。


    でも確かに、誰かとどこかで一緒に過ごしたような記憶は断片的にある。

  60. 65 : : 2014/08/15(金) 20:36:07


    「もしかしてぼく、誰かと一緒にどこかで過ごしてたりしなかった?」


    その言葉を聞いたアニの顔が、少しだけ明るくなったように見えた。


    勿論、端から見れば大した変化には見えないだろうけど、間違いなく明るくなった。






    「誰かって?」


    「誰かまでは思い出せないけど、同期の子かな」


    「その子と何か、約束でもしてたのかい?」


    「……そこまでは思い出せない。でも、そんな気がする。確証は無いけどね」


    「そう……」


    何でだろう、アニが物凄く寂しそうな表情をした。相変わらず、端から見れば殆ど分からないけど。

  61. 66 : : 2014/08/15(金) 20:43:08

    外は土砂降り。見つめるアニの横顔。


    この光景、やっぱり初めて見る景色ではないんだよなぁ。なんだっけ?






    「じゃあ、私はこれで」


    アニはそのまま部屋を出て行ってしまった。ぼくに脇目もふらないその横顔がすごく寂しそう。


    何でだろう……?

  62. 67 : : 2014/08/15(金) 20:53:19


    一人になった部屋の中で、独りの静寂を愉しむぼく。たまにはこういうのもいいと思う。


    どこかで一緒に過ごしたような気がする“あの子”。


    大切な約束を交わしたような気がする“あの子”。






    今どうしてるんだろう?それとも、元々そんな子は存在しないのかな?


    アニなら何か知ってるのかな。後で聞いてみよう。

  63. 68 : : 2014/08/15(金) 21:03:05

    ふと、カレンダーの日付を見る。8月15日。


    ぼくの最後の記憶の日付から、一週間が経過している。






    この一週間の間に、ぼくに何があったのだろう。


    “あの子”との記憶も、この一週間の事なんだろうか。






    「ふぅっ」


    と、そこでぼくは全身の力が抜けた。そのまま後ろに倒れ、布団に受け止められる。


    身体がすごく疲れている。弱っている。とりあえず横になりたい。

  64. 69 : : 2014/08/15(金) 21:10:34


    例の“あの子”の事は、調べようと思えば後からでも調べられる。


    今はゆっくり体を休めることが先決だ。






    ぼくは目を閉じる。薄れゆく意識の中で思う。






    “あの子”にまた会えるよね。ちゃんと存在するよね。きっと友達になってもらえるよね。


    今度会えた時は聞いてみよう。


























    「ぼくと……友達になってくれないかな?」




















































    「一週間食えんズ、」夏の章・完



  65. 70 : : 2014/08/15(金) 21:11:34
    以上で終わりです。秋の章でまたお会いしましょう。



    余談ですが、外苑の過去作も良ければご覧ください。


    ・エレン「やっぱ何事においても柔軟さって必要だと思うんだよね」
    http://www.ssnote.net/archives/20054
  66. 71 : : 2014/08/15(金) 23:24:45
    これは傑作ですわ。
    お疲れ様でした。
  67. 72 : : 2016/06/25(土) 23:06:57
    お疲れ様でした。

    秋の章でお会いするのを楽しみにしています。

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