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仮面ライダーぼっち20

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  1. 1 : : 2014/06/08(日) 22:14:36
    守るべきものの為、ついに戦うことを決意した八幡。
    それぞれの思いが絡み合い、ライダーバトルは苛烈さを増していく。
    最期に生き残るライダーはただ一人。ライダーを倒せ!
    戦わなければ生き残れない!
  2. 2 : : 2014/06/08(日) 22:15:12
    宿に戻った俺は、ひどく動揺しながらも雪ノ下に事の顛末を伝えた。
    それを聞いた雪ノ下は、呆然とし、そしてその現実を受け入れることを拒否した。
    「比企谷君、いくらあなたでもそんな冗談を言うとは思っていなかったわ」
    と、いつものように蔑んだのち、しかし俺の涙を見て認めざるを得なくなったようだ。
    由比ケ浜の友人に彼女のことを尋ね、そしてその記憶が消えていることを確認すると、そのまま意識を失った。
    俺も彼女同様絶望の淵にいたが、雪ノ下のそんな姿を見て皮肉にも冷静にならざるを得なかった。
    目を覚ました雪ノ下は俺をバカにできないほどに虚ろな目をしていた。
    帰りの電車の中でも、彼女の様子が戻ることはなかった。


    失ったものは、限りなく大きい。
    俺はこの短期間で、戸塚と由比ケ浜という大切な人を二人も失った。
    雪ノ下がああなっていなければ、俺は虎になった李微よろしくなんども発狂していたことだろう。

    家に帰った夜、絶望の淵にいた俺は思いついた。
    彼女を救う手段が一つだけある。
    それは、俺か雪ノ下がライダーバトルの勝者になること。
    二人で生き残れば、最後にどちらかのベルトを破壊し、そして残った方が由比ケ浜を生き返らせればいい。
    雪ノ下には同様に、小川絵里という救いたい人物がいるが、とにかく手段がないわけではない。
    心の中に少しの希望が湧きはじめたその時、ふと我に返る。
    それでいいのか、と。
    由比ケ浜を救うため、他の命を奪っていいのだろうか。
    材木座や戸塚がいた時ならば話は別だが、俺にとっては今残っているライダー(雪ノ下以外)よりも、由比ケ浜結衣一人の命の方が大事だ。
    葉山よりも三浦よりも戸部よりも、雪ノ下陽乃よりも、他の誰よりも……
    だが、それを彼女は良しとするだろうか。
    自分の為に俺と雪ノ下がその手を穢すことを、他者の命の上に成り立った生を生きていくことを、あの優しい少女は良しとするのだろうか。

    めまぐるしい勢いで思考を進めながら、それでもこんな時でさえ体は休息を求めるのか、俺は深い眠りに落ちていった。

    次の朝、俺はけだるい体を無理やり起こして学校に向かった。
    あの考えについて雪ノ下と相談したい。
    昨日の様子だと来ないだろうから、『由比ケ浜のことで話がしたい』とメールを送った。
    これは、とても俺一人で決められる問題ではない。
    それとも俺は、人殺しをすることに対して共犯者を求めているのだろうか。
    自分のそんな嫌な考えから目をそむけるように、俺は自転車をこぐ足に力を込めた。
    右手につけた腕時計は、今の俺達を象徴するかのように、昨日の夜から止まっていた。
  3. 3 : : 2014/06/08(日) 22:15:38
    「入るぞ」
    いつもは黙ってあける部室のドアを、俺は一言断ってからあける。
    それは、俺達の立場が変わってしまったことを暗に示すものだったのかもしれない。
    「……彼女はもう、ここにはこないのね」
    「雪ノ下……」
    そう言った彼女の表情は、昨日よりいくらかましになっている。
    しかし、赤く充血した目とその下にうっすらとで来たくまが、彼女の心境を雄弁に語っていた。
    「それに関して、話があるんだ」
    雪ノ下は何も言わない。
    「……俺達で、他のライダーを全て倒す、そうすれば、由比ケ浜は生き返る」
    雪ノ下は驚嘆の表情を浮かべる。
    「驚いたわ」
    「お前なら思いつきそうなことだと思ったがな……」
    「あなたがそれを提案したことについてよ。てっきり、反対されるものだと思っていたから。由比ケ浜さんの気持ち、とか言って……」
    「もちろん、それがある。だから、悩んでるんだ……」
    「そうね……だけど、命あっての物種というわ。命がなければ、悲しむことも、後悔することもできない……」
    「そうだな……」
    「あなたに、覚悟はある?」
    「……」
    「本当に守るべきものはなんなのか、決めなければ、何一つ守れない。戸塚君や、材木座君、由比ケ浜さんがそうだったように……」
    「……そうだな……でも、お前はいいのかよ」
    「なにが?」
    「小川絵里さん、お前の戦う理由になった人のことだ」
    「っ……」
    「俺はそのことが気になってる、由比ケ浜を救いたい、その気持ちは俺もお前も同じだ。だが、最期のその時、お前はどちらを選ぶんだ?……どちらかの命を捨てる覚悟が、あるのか?」
    「それ、は……」
    「……すまん、なんか責めるような言い方になっちまったな……でも、決めないといけない。俺も、お前も……」
    「あっはっはっはっ」
    その場にそぐわない不快な嘲笑が響く。
    聞き間違えるはずもない。
    雪ノ下陽乃。
    ライダーバトルを始めた張本人にして、いくつもの命を奪って来た黒幕だ。
    「いやー、いいねいいねー。うんうん、悩むのは若者の特権だよ~」
    「貴様、一体何をしに来た」
    「今すぐ出て行きなさい。……この場所を穢すのは許さない」
    「ひっどいな~、私は二人を助けにきてあげたのに~。ま、正確にはガハマちゃんを、だけどね」
    「「!?」」
    俺と雪ノ下の呼吸が止まる。
    「どういう、こと……?」
    「そのままの意味だよ~、ガハマちゃんの命を復活させてあげようかって言ってるの」
    再び、俺達は息をのむ。
    「どう?どうどう?してほしい?生き返らせてあげようか?」
    「……そんなことが、できるのか?」
    「うん、もっちろん。ただ、無条件に、じゃないけどね~」
    「黙りなさい、そんなことができるわけ……」
    「雪乃ちゃ~ん、このライダーバトルを始めたのはわたしだよ?仮にできるとしたら、私しかいないよね?そしてあなた達は、その可能性に賭けるしかないんじゃないかな~」
    「……」
    「どう?比企谷君、雪乃ちゃん?」
    「やれるものなら、やってみろ」
    「あ~、そういう言い方しちゃうんだ~。じゃぁ私帰るよ、バイバ~イ」
    「待て!……待ってくれ」
    「なぁに?」
    「頼む、生き返らせてくれ」
    「じゃぁ、誠意を見せてよ」
    「誠意ですって?」
    「うん、二人の誠意を見せてくれたら、私も鬼じゃないから、生き返らせてあげるよ?」
    「……お願いします」
    「お願い、します……」
    俺は唇をかみしめながら深々と頭を下げる。
    「え?二人のガハマちゃんへの気持ちってその程度なの?」
    「なんだと……」
    「誠意って言ったら、普通わかると思ったんだけどな~」
    「私達に、土下座しろと言っているのかしら?」
    「それ以外にあるの?」
    「っ……」
    「やらないの?やらないならもう私帰るね」
    「やるよ、やればいいんだろ……」
    言って、俺は無言で雪ノ下を見る。
    彼女にとって、これ以上の恥辱はないだろう。
    それも、この世で最も忌み嫌う姉に向かってするのだから。
    「……」
    雪ノ下は黙って膝をついた。
    「……すまない」
    「なぜあなたが謝るのかが分からないわ」
    ならば、それ以上の言葉はただ彼女を傷つけるだけだ。
    俺も床に頭をつき、手をつく。
    「あっはははははっっ!本当にやったよ!アハハハハハハハハ!惨めだね~」
  4. 4 : : 2014/06/08(日) 22:15:43
    パシャリと、カメラの撮影音が響く。
    「うんうん、いいねいいね。これ待ち受けにしよ~っと」
    「あ~あ、こんなことなら熱~い鉄板でも持ってくればよかったな~。なんて言うんだっけ?『本当に誠意があるのなら、どこでだって土下座できるはずだ、それが肉焦がし、血を焼く、鉄板の上でも!』だったかな~。あははははっ!」
    そう言って陽乃は、俺の頭の上にその足を置いた。
    そしてそのままグリグリと踏みつける。
    「あ~あ、ハイヒールでも持ってくればよかったよ~。あはは、なんかあれみたいだね、SMプレイ?」
    上からかかる力は更に強さを増す。
    「よいしょっと!」
    追い打ちをかけるように頭を蹴りつけられる。
    俺は何をされても決して声を出さなかった。それは、惨めな俺に出来る最後の抵抗いだった。
    「あはは、もう頭上げていいよ~。いやー、楽しかった~」
    「「……」」
    「二人とも顔怖~い、私はお友達の命を助けてあげる恩人だっていうのにさ~」
    「……もういいだろ」
    「そうだね、それじゃ……変身」
    そう言って陽乃はオーディンへと変身を遂げた。
    それと同時に吹き荒れた激しい風が俺達を壁に打ち付ける。
    「あ、ごめんね~。注意するように言っとけばよかったね」
    「……早く始めなさい」
    「はいはいっと。じゃぁ、行くよ」
    「Time Vent」
  5. 5 : : 2014/06/11(水) 20:45:00
    くすっちさんのss読んでたら自分ss書きたくなってきたんですが書いたら読んでくれますか?
  6. 6 : : 2014/06/12(木) 22:45:08
    →→→nyさん
    もちろんですっ!!!!!!
    僕の作品を読んだことがきっかけで書きたいと思ってくれるなんて……
    こんなに嬉しいことはありません!

    本作は今大きな分岐点にありますので、慎重になってしまいこれからどう文章にしていくか少し行き詰っているのですが、どうかこれからも気長に見守ってください。
    スレッド立てたら教えてくださいね<m(__)m>
  7. 7 : : 2014/06/12(木) 23:18:21
    ありがとうございます( ´▽`)                             既に設定だけ書き始めています。                                                          大道克己の死から三ヶ月後の風都が舞台となります。                                                          主人公はなんと財団Xの実験台にされている青年です(^^;                                                           これからどう話が転ぶのか、そもそも話が進むのか?                              怪しいところですがよろしくお願いしますm(_ _)m                                                           タイトルは「仮面ライダー正義(ジャスティス)」です
  8. 8 : : 2014/06/13(金) 22:37:02
    空間が、光で満たされる。
    その眩しさに思わず閉じた瞼を再び開けた時、
    彼女はそこにいた。
    「由比ケ「由比ケ浜さん!」」
    俺の言葉をさえぎった雪ノ下が、由比ケ浜を抱きしめる。
    しかし、少し違和感がある。
    由比ケ浜は先程からその目を開けもしなければ、雪ノ下を抱きしめ返すこともしない。
    「もぉ~、気が早いよ、雪乃ちゃん」
    「……これはどういうこと?」
    「それを今から説明するからさ。はい、これ」
    そう言って俺に砂時計を渡してきた。
    「これが、ガハマちゃんの残りの寿命だよ」
    ……どういうことだ?
    「一度は死んだ存在だからね、その命を維持するにはたくさんのエネルギーが必要になるんだよ。これをひっくり返して、全部砂が落ちちゃったらその時ガハマちゃんは死んで、二度と生き返ることはない」
    「……つまり、由比ケ浜は長く生きられないと、そういうことか?」
    「何もしなければ、ね。ミラーワールドのモンスターを倒せば、砂の量は増える。ライダーなら、それよりはるかに多く。そして、ライダーバトルが終わった時この砂時計は消えて、彼女の寿命の成約は無くなる。あ、もちろんもともとの寿命で死ぬけどそれはさすがに勘弁だよ?」
    そう言って陽乃は汚い笑みを浮かべた。
    これで俺達は、ライダーバトルを止めるという選択肢は取れなくなった。
    雪ノ下はもとより小川絵里を助けるという戦う理由があったが、俺と由比ケ浜との出会いによって戦いに対していささか消極的になった。
    そして俺は、今まであまたライダーと交戦してきたが、基本的には非戦派だ。
    その状況は、ライダーバトルを始めた彼女からすれば好ましいものではなかっただろう。
    「説明はこれくらいかな。じゃ~ねー」
    彼女らしい笑い声をあげて、雪ノ下陽乃は去っていった。
    「……そういうこと、ね」
    「まぁ、何かあるとは思ってたがな」
    「それでも私達は、前に進まなければならない。覚悟を決めなければならない」
    「……わかってるさ、一番守らなきゃいけないものくらい」
    「その言葉を聞いて安心したわ」
    だけど、だからといって、それ以外の物をすべて捨てる覚悟は……。
  9. 9 : : 2014/06/13(金) 22:37:07
    しかし、それを今言うわけにはいかなかった。
    「それじゃ、始めるわ」
    雪ノ下が砂時計をひっくり返す。
    ゆっくりと、命の砂が落ちていく。
    「……あれ?ゆきのん?」
    今度こそ、由比ケ浜結衣が目を覚ました。
    「由比ケ浜さん!」
    先程の焼き直しのように、雪ノ下は再び由比ケ浜を抱きしめる。
    「え!?ええっ!?ど、どしたのゆきのん!いつもはこんなことゆきのんからしないのに!」
    「あなたは必ず、私が守るから……」
    「ま、守るって何から?えへへ、でも、ありがとう」
    由比ケ浜も雪ノ下の背中に手をまわしてギュっと抱きしめる。
    早速百合百合かよ、と茶化す気にはならない、なれなかった。
    雪ノ下の感情は、察するに余りあり過ぎるから。
    「あ、ヒッキー。何でだろ、久しぶりな気がするなぁ」
    「ん、まぁ、二日ぶりだけどな」
    「えへへ、でも、また会えてよかった、そんな気がするんだ」
    「……っ」
    「……あの、由比ケ浜さん。こんなことを早々に聞くのもどうかと思うのだけど、トラウマなどには、なったりしていないの?」
    「トラウマ?なにそれ、トラなの?ウマなの?どっち?」
    「トラウマというのは、心の傷のことよ」
    「心の傷……?えっと、何が?」
    「何がって……あなたは三浦さんに」
    「優美子?優美子がどうかしたの?」
    「……」
    なるほど、そういうことか。
    「なぁ由比ケ浜、こんな物に見覚えはあるか?」
    ポケットの中から龍騎のカードデッキを取り出して由比ケ浜に見せる。
    「何それ?龍の、顔……?ううん、知らないよ」
    「っ!」
    雪ノ下の表情が驚嘆に変わる。
    やはり、ライダーバトルに関する記憶を失っている。
    ただそれは、彼女にとってはいいことなのだろう。
    「そうか、ならいいんだ。悪かったな、変なこと聞いて」
    「ううん、ヒッキーが変なのはいつものことだから!」
    彼女は無邪気に笑う。
    陽乃の物とは対極の、どこまでも貴い笑顔だ。
    「うっせ―、一言余計なんだよ」
    「あ、もう暗くなってきたね。そろそろ帰らないとね。今日は三人で帰ろうよ!」
    「……ごめんなさい、今日はどうしても行かなければならないところがあるの」
    「行かなきゃいけない所?それって、どうしても今日なのか?」
    正直、雪ノ下のこの言葉は意外だった。
    「それってどこ?もしよかったら、あたしも一緒に行きたいな」
    「……三浦さんに会いにね。どうしても、一人で行かなければならないの。……彼女の家、どこにあるか教えてくれないかしら」
    ……雪ノ下……。
    由比ケ浜は雪ノ下の表情をじっと見つける。それが真剣そのものだということを認めると、
    「うん、わかった。じゃぁ、また今度ね。えっと、優美子の家はね……」
    「ありがとう、由比ケ浜さん。それでは、また」
    雪ノ下は毅然として歩き出す。
  10. 10 : : 2014/06/13(金) 22:37:21
    「おい!待てよ!」
    俺は走って、少し先に歩き出していた雪ノ下に追い付いた。
    「比企谷君……何か用かしら?」
    「何か用、じゃねぇだろ。俺も行く」
    「……そう。由比ケ浜さんには、悪いことをしてしまったわね」
    「そうだな、だから埋め合わせとして、明日一緒に出かけることにした」
    「驚いた……あなたって気を遣えるのね」
    「今更だな……言っとくけど、三人で、だからな?」
    「ふふ……なら、何としてでも生きて戻らなくてはね。彼女との約束だけは、破りたくないから」
    「そうか」
    「ええ、そうよ」
    「俺は……やっぱりライダーバトルなんて止めたい、だけど、自分の想いを曲げてでも守りたい物があるから、その為に戦うよ」
    俺のその言葉に対して返答はせず、雪ノ下は再び歩き出した。
    大切なものがあるから、だから戦う。このライダーバトルに命を投じた、一歩先を歩く彼女の気持ちが、少しだけわかった気がした。


    「あんたら、何してんの?ここ、あーしの家なんだけど」
    自分の家の前に立つ俺達の姿を認めて、仮面ライダー王蛇、三浦優美子は、手に持つスマホをいじりながらそう言った。
    「だから来たのよ、そんなことも分からないのかしら?」
    「何の為にって聞ーてんだけど」
    「あなたとわたし達の接点なんてこれしかないでしょう?」
    雪ノ下は悠々とカードデッキをかざす。
    「あなたが由比ケ浜さんにしたことを、しにきたのよ」
    「はっ、面白い。あーし今超イライラしてんだよねー。二人まとめてぶっ殺してやる」
    「比企谷君、行くわよ」
    「ああ」
    「「「変身!!」」」
  11. 11 : : 2014/06/13(金) 22:37:41
    「「Sword Vent」」
    俺と雪ノ下は同時に三浦に斬りかかる。
    「Sword Vent Strike Vent」
    右手にベノサーベル、左手にメタルホーンを持って三浦はそれを受け止める。
    「強い……」
    「この前結衣をぶっ殺したかんね、そーと―パワーも上がったってわけ!」
    言葉通り、俺達二人を押し返す。
    「よくも由比ケ浜さんを……」
    「Trick Vent」
    「Trick Vent」
    「なら、お前がライダーバトルで死んでも文句はないな、三浦ぁ!」
    8×2の計16体となった俺達が一声に攻撃を仕掛ける。
    「っ……うっぜぇんだよ!」
    「Advent Advent」
    三浦はベノスネーカーとメタルゲラスの二体の契約モンスターを召喚する。
    毒液と突進攻撃により俺達の分身は全て消えてしまった。
    モンスターの能力もかなり上昇しているようだ。
    「ちっ、出し惜しみしてる場合じゃないか」
    「一気に決めるわよ!」
    「「Survive」」
    烈火と疾風の力が周囲を包む。このカードを使うと体に多大な負担がかかるが、今はそんなこと言っていられない。
    「Shoot Vent」
    「Blast Vent」
    俺が遠巻きにレーザー攻撃を放ち、雪ノ下の突風が相手に接近を許さない。
    「クッッ……」
    風のせいで三浦はまともに回避行動も取れず、着実にダメージが蓄積している。
    王蛇の持つカードは豊富でどれも強力だが、遠距離戦用のカードはほとんどない。
    と、その時だ。
    近くの池から何かが出現した。
    そしてそれは王蛇へと向かっていき、体当たりをかます。
    俺はそれ、そのモンスターに見覚えがあった。
    「エビルダイバー……?」
    エビルダイバー、由比ケ浜が契約したエイのモンスターだ。
    「ハ、ハハハ……助かった、マジ助かったわ。忌々しいライダーの亡霊!あーしに従え!」
    そう言って彼女は一枚目のカードをかざした。
    『Contract』 
    三枚目の、契約のカードだった。
  12. 12 : : 2014/06/14(土) 22:50:02
    エビルダイバーがカードの中に吸い込まれていく。
    これで、三浦の契約モンスターは三体だ。
    「こんなのありかよ……」
    「ハッ、そんなこと言ったらあんたらのサバイブだって同じっしょ」
    「比企谷君、一気に決めるわよ」
    「ああ」
    「「Sword Vent」」
    強化された剣で三浦に攻撃を仕掛ける。
    「Swing Vent」
    「これでも、喰らえっ!」
    伸縮自在の、かつて由比ケ浜が使っていた鞭の武器、エヴィルウィップを振り回す。
    そのリーチの長さに、俺達の攻撃が届く前に迎撃される。
    「あーしの力、見せてやるよ」
    「Unite Vent」
    突如、ベノスネーク、メタルゲラス、エビルダイバー、三体のモンスターが現れる。
    「ユナイト……まさか」
    雪ノ下がそう言い終えないうちに、それは起こった。
    三浦が最初に契約したコブラのモンスターベノスネークのもとに二体のモンスターが接近し、眩しい光を上げたかと思うと三匹のモンスターは一体の巨大なモンスターとなっていた。
    全身を硬いサイの鎧で覆い、背中にはエイが翼となって装着され、頭部はおぞましいコブラの顔が。
    「クク……これがあーしのモンスター、獣帝ジェノサイダーだ!」
    確かに、獣帝の名にふさわしい。並々ならぬ威圧感を感じる。
    「行け!ジェノサイダー!」
    「ルァァッッ!」
    三浦の声に呼応して、口からエネルギー弾を放つ。
    「大きいっ!」
    その攻撃が着弾し、俺達の体が大きく吹き飛ばされる。
    「これならっ!」
    「Shoot Vent」
    雪ノ下が弓状の武器、ダークアローを使ってエネルギー砲を放つ。
    圧倒的なスピードでそれはジェノサイダーに向かっていく。
    直撃しようとしたその時、ジェノサイダーの腹部が開き、その攻撃を飲み込んだ。
    「い、今のは……」
    あれはまるで、全てを吸収するブラックホールだ。
    「はは、すげぇ、こいつマジ使えるわ」
    「だったらあなたよ!」
    雪ノ下が照準を三浦にさだめなおし、再び攻撃を放とうとすると
    「させるかっ!」
    「Steal Vent」
    敵ライダーの武器を奪うスチールベントを三浦が発動させ、ダークアローが三浦の手に移った。
    「なら俺がっ!」
    手にしていたドラグバイザーツヴァイからレーザー攻撃、メテオバレッドを放つ。
    「はっ!」
    三浦は早速奪った武器を使い、俺の攻撃を相殺させる。
    それだけではない、ジェノサイダーが再びエネルギー弾を放ち、遠距離専用の武器を失った雪ノ下を攻撃する。
  13. 13 : : 2014/06/14(土) 22:50:20
    「来なさい!ダークレイダー!」
    「お前もだ、ドラグランザー!」
    「「Advent」」
    二体のモンスターがジェノサイダーに襲いかかる。
    炎と風と、エネルギー弾。
    その応酬は苛烈さを極めた。
    「よくも由比ケ浜さんをっ……あなただけは、消すっ!」
    「……だっ!」
    同時攻撃を仕掛ける俺達を、三浦は見事に捌く。
    ダークアローで接近を許さず、少し近づいてもエヴィルウィップで再び距離をあけられる。
    「うっぜーのは、あんたたちっしょ!」
    雪ノ下の体に鞭がクリーンヒットし、その体が空中に舞い上がる。
    「っし!とどめだ、ジェノサイダー!」
    まずいっ!
    最悪の状況を予想せざるを得なかった、そんな時。
    「Freeze Vent」
    その電子音が鳴り響くと同時、ジェノサイダーの動きが止まった。
    この技は……。
    「Final Vent」
    「なっっ!!?」
    物陰からトラのモンスターが現れ、王蛇を地面につけて引きずり回す。
    「はぁっ!」
    そして、そこに現れた仮面ライダータイガのですとクローで高々と持ち上げられる。
    「お前は、僕の世界に必要ない。僕は、真の英雄になるんだ」
    「誰だ、あんた……」
    「……消えろ」
    仮面ライダータイガ、もとい葉山隼人が三浦にとどめを刺そうとする。
    あの様子だと、三浦はタイガが葉山だということは知らないようだ。
    「こんなとこで、終われっか」
    満身創痍ながらも、隙を見つけて三浦はミラーワールドから離脱した。
    「……お前、なんでここに」
    俺の問いかけなど一切無視して、葉山もミラーワールドを去った。
    「雪ノ下、大丈夫か?」
    「愚問だわ」
    「とりあえず、戻るぞ」
    「ええ」
    「……しかし、参ったな。まさか、契約のカードを三枚も持ってたとは……」
    「私達も人のことを言えた立場ではないでしょうけど、契約のカード三枚に武器略奪のカード……優遇され過ぎだわ」
    「まぁ、言っても始まんねぇな。この上あいつがリュウガみたいにサバイブのカードを手に入れたら……」
    「やめてくれるかしら、フラグが立ってしまうわ」
    「……」
    「どうかした?」
    「いや、お前がそんな言葉を使うなんて、驚きだと思ってな」
    「あなたが読んでいた、ライトノベル、だったかしら?少しだけ、読んでみたのよ。あまり肌に合いそうにはなかったけれど」
    「そうか」
    「何を笑っているの?気持ち悪いわ」
    「仮面があるんだからんなことわかるわけないだろうが……」
    雪ノ下雪乃が、俺と共通の話題を持つ為、慣れない物に手を出してくれた。
    その事実が、無性に俺を嬉しくさせた。
    ……自意識過剰とかじゃ、ないよな?
    「明日、十時にららぽ前集合だから。遅れるなよ?」
    「わかってるわ……また明日」
    「ああ、また、明日」
    きっと、俺と彼女はもっと近づけるはずだ。そんな未来の為にも、俺は生き残る覚悟を新たにした。
  14. 14 : : 2014/06/14(土) 22:50:36
    奉仕部三人で出かけた翌日の教室。
    え?昨日の感想?由比ケ浜さんと雪ノ下さんがとっても仲好く百合百合していました。
    まる。
    「はろはろ~、比企谷君」
    俺に話しかけてきたのは、海老名姫菜だ。
    「……何だ」
    正直言って、話したくない相手である。
    「これ、この前のお礼」
    そう言って彼女は、ハート型の紙に包装された何かを手渡してきた。
    何?この前の告白を真に受けちゃったの?俺のことが好きなの?
    まぁそんなことが俺と彼女の間で成立するはずもないのだが。
    「開けてみて」
    言われたとおり、包装紙をビリビリト破って中を確認する。
    ちなみに意図的に破いたのは、先日のせめてもの意趣返しだ。
    「これは……」
    それは、ライダーバトルで使用するカードだった。
    『Strange Vent』
    「何で私が持ってるかは、聞かないでくれるよね?」
    「そりゃ、お前が答える気がないんだからな。無駄なことはしない主義だ」
    「あはは、比企谷君は話が早くて助かるな~。案外私たちならうまくやっていけるかもね?」
    「ああ、俺もそう思ってた」
    「どうでもいい相手にはそういう態度取るところ、気に入ってるよ」
    「てめぇに気に入られてもなにも感じねぇよ」
    「辛辣だな~。この前は情熱的な告白してくれたのに」
    「……そろそろ黙れ」
    「あはは、ごめんごめん。それじゃね~」
    そう言い残して彼女は、三浦達の輪の中に戻っていく。
    変わらないことを、停滞し、偽りの関係を維持することを選んだ彼女達と自分達の関係。
    正しいのは、どちらだろうか。いや、正解も間違いもないのかもしれない。
    しかし、昨日殺そうとした相手に平気で笑いかける葉山隼人の姿には、やはり違和感を抱かずにはいられない。
  15. 15 : : 2014/06/14(土) 23:19:39
    放課後の部室。由比ケ浜と雪ノ下がいつものように仲睦まじく会話をしていると、何の前触れもなく部室のドアがノックされた。
    「失礼します」
    明るい声で入って来たのは、生徒会長の城廻めぐりだ。
    「……何しに来た」
    「ひ、比企谷君。そんな露骨に嫌な顔しなくてもいいのに」
    「歓迎されるとでも思ってたのかよ……」
    「ヒッキー、言いすぎだよ」
    「……それで、何の用ですか?」
    雪ノ下の言い方も大概だと思うんですがこれはいいんですかそうですか。
    まぁこいつはこれが平常運転だからな。
    「うん、相談したことがあって……」
    「俺達はあんたの相談なんて聞きたくねぇっての……」
    「ヒッキー!」
    「へいへい……」
    「えっと、私の相談ってわけでもないんだけど……。入って来て」
    「こんにちは~」
    「あ、いろはちゃん」
    「結衣先輩、こんにちは~」
    「知り合いか?」
    「うん、サッカー部のマネージャーだよ。だから隼人君関係でちょっとね」
    葉山関係か……全くいい予感がしないな。
    「もうすぐ生徒会長選挙があるのは知ってる?」
    初耳だな。
    由比ケ浜も首をかしげる。
    まぁこいつはこんなばっかなんだけど……。
    だが、雪ノ下雪乃だけは違った。
    「ええ、すでに公示もすんでますよね。立候補者も発表されてたと思いますが」
    「お前すげぇな。何でも知ってんじゃねぇの?」
    「なんでもは知らないわ。知ってることだけ」
    こいつ……ラノベ読んだってのは本当みたいだな。
    「さすが雪ノ下さんだね。それで、一色さんはその会長候補なんだけど……」
    そう言う彼女の歯切れはどこか悪い。
    「あ、今向いてなさそうとか思いませんでした?」
    一色が俺の方を向いてそう言った。
    「いや、別に。俺はお前のこと何も知らないし興味もないからな」
    「ヒッキー、言い方」
    何だろう、彼女からはあまり俺の好きではない、どちらかというと苦手なオーラが出ている。
    それは、俺がこの手でその命を奪った折本かおりや、相模南に似ている。
    まぁつまり、彼女は空々しくて薄ら寒い。
    「それで、何か問題でも起きたんですか?」
    どこか苛立ちを内包させた声で雪ノ下が尋ねる。
    「一色さんは会長に立候補したんだけど、その、なんていうのかな。……当選しないようにしたいんだ」
    「要は、選挙に負けさせてほしいということですか?」
    端的な雪ノ下の質問に城廻がうなずく。
    「生徒会長をやりたくないということか?」
    「はい、そうです」
    一切悪びれるふうもなく彼女は言ってのけた。
    「……ならばなぜ立候補したの?」
    「私がしたんじゃなくて、勝手にされてたんですよー」
    何それ?どこの芸能人?
    「なんて言うか、悪ノリっていうんですかね~。クラスの友達が何人か集まってっていうか~」
    そいつらは間違いなく友達ではないが、俺が教えてやる義理もないし、彼女もそんなことは望んでいないはずだ。
    「それにしては、随分手が込んでるわね。推薦人は三十人以上必要なはずなのに」
    「事情が事情だし、取りやめにしてもらえばいいだろ選挙管理委員会の責任でもあるしな」
    俺がそう言うと、城廻は少し気まずそうにうつむいた。
    「うん……私達生徒会の最後の仕事がそれでね……責任感じてるんだ……」
    責任感じてるのに問題を人に丸投げにするのはどうなの?
    「それが、担任もかなりやる気になっちゃってて……」
    「それこそ事情を話せばいいだろ。下手すりゃいじめだぞ?」
    「それが、人の話聞かない人でね……私から言ってみたんだけど、逆効果だったよ」
    「なら、立候補の取り下げも難しそうだな……」
    「うん、規約にも書いてないしね……」
    「なら、選挙で負けるしかない。そういうことか」
    「ただ、立候補者が一色さんしかいないから……」
    「そうなると信任投票……まず落ちることはないな」
    「ていうか、信任投票で落選とかかっこ悪すぎですよー。絶対いやです」
    んなこと俺らが知るかよ……。
    「そういうわけで、解決に協力してくれないかな?」
    「……俺は降りる。こいつのせいじゃないかもしれないが、ミスしたのは選官だ。責任を感じているというのなら、自分達の力だけで何とかしろ」
    「……そうね、それに今は、私達も大切な時期だし……」
    そうなのだ。ライダーバトルでの脱落者も増え、それぞれの力も強くなり、以前よりも俺達は危険な状況にある。
    この状況で、あまり厄介事には関わりたくない。
    それが敵対するライダーの城廻の依頼ならなおさらだ。
    「えー、やろうよー」
    「由比ケ浜さん……でも……」
    「あたし、三人で何かしたいな……ゆきのん……ダメ?」
    出た、無意識の上目遣い!雪ノ下に効果は抜群だ!
    「はぁ……しょうがないわね」
    雪ノ下さんチョロすぎぃ!
    となると、俺も協力せざるを得なくなる。
    「……仕方ないな」
    こうして俺はまたしても、厄介事に足を踏み入れることとなった。
  16. 16 : : 2014/06/15(日) 20:54:59
    とうとういろはす登場ですね(^O^)                                                             続き楽しみにしてます(゚∀゚)
  17. 17 : : 2014/06/27(金) 22:32:20
    「これ、応援演説をやる人間は決まってないんだよな?」
    「うん」
    俺の問に城廻が答える。
    「なら、簡単だ。話は早い」
    「どういうこと?」
    「信任投票になっても確実に負けられて、一色はノーダメージで切り抜けられる。要は、こいつが原因でなく負けたってことをみんながわかればいい」
    「そんなことできるの?」
    「応援演説が原因で不信任になるなら、一色のことを気にする奴はいない」
    敗北の理由を、否定される理由をすり替えてやればいい。
    「……そのやり方を、認めるわけにはいかないわね」
    雪ノ下が静かに口を開く。
    「理由は?」
    「あなたがやろうとしているのは、海老名さんの時と同じようなことでしょう?」
    「……っ」
    それを聞いた由比ケ浜が息をのむ。
    「……なら、なんだっていうんだ?」
    「そんなやり方、認められるわけないでしょう」
    「だから、なんで」
    「大切な友達が傷つくようなやり方なんて、私は絶対に認めない!」
    彼女にしては珍しく、声を荒げた。
    「……そうだよ、あたしだって、そんなの嫌だ」
    「……」
    返す言葉がなかった。
    いつだったか、火野先生に言われた言葉があった。
    俺が傷つくのを見て、心を痛める人がいる、と。
    もう、とっくに本物を手に入れていたんだ。
    かつて、心の奥底でどうしようもなく渇望した、本物の関係を。
    「言ったわよね?本当に守るべき物を決めなさい、と。私ももう、決めているわ。そしてその中には、あなたと過ごす時間も含まれているのよ。もしあなたがそれを壊そうというのなら、私は持てる力全てを使って止めて見せるわ。だから……覚悟しなさい?」
    そう言って雪ノ下は、優しい笑みを浮かべた。
    「……ああ、お前にはかないそうにないからな、大人しく言うこと聞いとくよ」
    「そう、ならいいのよ」
    「えへへ、三人で考えよう。解決法を、きっとうまくいくよ!」
    「あ、あのー……私達は……」
    「一色さん、ここは、帰ろうか」


    それから俺達は、他愛もない話をしながら問題について話し合った。
    これといっていい案は出なかったが、俺達は、きっとうまくいくと、根拠のない、それでも何よりも信頼するに足る確信を持っていた。俺達が力を合わせれば、なんだってできる。そんな、昔の俺が聞いたら鼻で笑いそうな確信を。
  18. 18 : : 2014/06/27(金) 22:32:40
    「う~ん、なかなか難しいね」
    そう言って火野先生は頭を抱えた。
    城廻に相談された翌日、奉仕部でのことだ。
    何かいい案はないかと火野先生を頼ったところ、ここじゃなんだからとわざわざ部室まで来てくれた。
    「やはり、難しいですか」
    「うん、もしやる気がある人がいたらとっくに立候補してるだろうし……」
    昨日それぞれ考えてきた結果、やはり他に立候補者を立てるしかないということになった。
    「俺も城廻さんに相談されて一色さんの担任の人に言ってはみたんだけど……さっぱり逆効果でね。あはは、あの人の中ではもうドラマが出来上がってるっていうか……」
    火野先生の言葉はだんだんと小さくなっていく。
    人の批判をするのが嫌いなのだろう。
    要するに、引っ込み思案な女子生徒をクラス全員で応援しよう!みたいなことか……。
    「なんだか面倒事がまた君達のところに行ってしまって……ごめん」
    火野先生が申し訳なさそうに頭を下げる。
    「や、やめてください」
    奉仕部の二人と同じくらい、火野先生は大切な人だ。
    こんな顔をさせる為に相談したわけじゃない。
    「そ、そうですよ!火野先生は何も悪くないじゃないですか!」
    「それに、引き受けた時点でわたし達はこの問題の当事者ですから」
    「うん……とはいってもね……」
    自分が少しでも関わったことに関してはなんでも、何とか解決しようとする。
    そしてそれを、苦に思わない。
    もしも英雄と呼ぶべき人間がいるというのなら、こういう人のことを言うのではないだろうか。
    「……なるほど、葉山がなれない訳だ」
    「何か言った?」
    雪ノ下が首をかしげる。
    「いや、何でもない」
  19. 19 : : 2014/06/27(金) 22:32:55
    「すいません、ありがとうございました。俺達で何とかしてみます」
    「ごめんね、力に慣れなくて……何か必要なことがあったら何でも言ってね。俺も自分なりに、色々やってみるよ」
    そう言って火野先生は部室を後にした。
    「……いい人ね」
    「ああ、間違いない」
    「ほぇ―……」
    「ん?どうした、由比ケ浜」
    「いや、二人が誰かをそんなに褒めるなんて珍しいなーと思って」
    「まぁ、あそこまでいったらな……貶す要素も見つからん」
    「あなたの腐った目をしても短所を見つけられないなんて……流石火野先生ね」
    「何で一回俺をディスったの?絶対必要なかっただろ……」
    あの人は、ああ見えて聡明だ。
    ああ見えて、という言い方は失礼かもしれないが、どんなことにも考えなしに突っ込んでいく馬鹿とは違う。
    きちんとリスクを承知して、自分が何をできるのかを理解して、その上で動いている。
    自分に損しかなくても行動してしまうあたりは、短所と言えないこともないが、それこそがあの人の最大の美徳だろう。
    「火野先生に迷惑をかけない為にも、何とかしないとねっ!」
    「ん……そうだな」
    再び俺達だけで話し始めて数十分後、教室の中からでも聞こえるほど大きい廊下を走る音が聞こえたかと思うと勢いよく扉が開かれた。
    「ひゃうっ……」
    由比ケ浜が小さな叫び声をあげる。
    そして、そこにいたのは、今までにないほど真剣な顔をした火野先生だった。
    いつもの柔和な笑顔はない。
    「ど、どうしたんですか?」
    「ゆ、雪ノ下さんっ!」
    その両手を雪ノ下の肩に乗せる。
    「は、はい」
    「今すぐ来て、俺の車に乗ってくれ」
    「な、何かあったんでしょうか?」
    少し困惑した様子で雪ノ下は言う。
    顔をうつむけて、火野先生は言った。
    「君のご両親の家で火災が発生した……二人とも……焼死したみたいだ……それだけじゃない、雪ノ下家に関する、あらゆる親戚縁者も死んだそうだ……君と、君のお姉さんを除いて……」
    「……そうですか」
    驚くほど落ち着いた声で彼女はそう言ってのけた。
    だが、それは彼女のこれまでの境遇を考えれば、わからないでもなかった。
    幼いころから父と母の願いを叶える為の、道具の様に育てられてきた彼女としては、家族に抱く感情は憎しみ以外の何物でもないだろう。
    「わかりました、すみません、お手数をお掛けしてしまって」
    こんな状況でも彼女は、家族のことよりも火野先生に迷惑をかけてしまうことを考えているようだった。
    ならば、決して口にしてはならないことだろうが、彼女にとってはむしろ良かったのかもしれない。彼女を、雪ノ下雪乃を縛る大きな鎖がほどけたのだから。
    「ゆ、ゆきのん……あたし達も、行って……いいかな?」
    由比ケ浜の表情は、当事者である雪ノ下よりも遥かに暗い。
    親友のことが心配でならないと言った風だ。
    「心配しなくてもわたしは……わかったわ、ありがとう」
    無論俺も、この場にひとり残るつもりはない。
    「じゃぁ三人とも、ついてきて!」
  20. 20 : : 2014/06/27(金) 22:33:09
    「事件があった場所では、怪物の目撃情報がいくらかあるんだ」
    「そうですか……姉さんがやったのね」
    「雪ノ下さん……」
    どうやら火野先生も、彼女の態度から雪ノ下けの事情をいくらか察したようだ。
    やはり、この人は聡明だ。
    「こんなこと、本当は今言うべきじゃないんだろうけど……」
    火野先生は重々しく口をあけた。
    「人は、親がいなくても生きていける。もちろん、きちんと子供を愛してくれる親なら、いた方がいいに決まってるけど、子供のことを道具として思ってないような親なら……いない方が、ずっとましだ」
    火野先生は、苦虫をすりつぶしたような顔をした。人の悪口や、不満などめったに言わない人がこんなことを言うなんて、本当に珍しい。
    「俺の親は政治家でね……ずっと道具の様に俺は育てられてきたよ。英才教育といえば聞こえはいいけど、それは全部、あの人たちのためのものだった。あの人たちの、名誉心を目指す為だけの……」
    似ている、火野映司と雪ノ下雪乃の境遇は、驚くほど似ている。
    「世界の紛争地帯を旅している時に、俺の止まってた村が敵国に占拠されて、村人も俺もみんな人質になった。……みんな殺されたけど、俺だけは助かった。政治家の親が、裏で金を回したからだ。……でもそれは、俺のことを思っての物じゃなかった。俺がやってきた世界の旅は、彼らの政治活動の為の美談として使われたんだ……」
    「先生にも、そんなことが……」
    「家族だからといって、絆があるわけじゃない。血のつながりなんて、みんなが思ってるほど強くない。……だけどね」
    一呼吸おいて、続ける。
    「血のつながりもなにもない赤の他人が、命を賭けてでも守りたいと思える人になることもある。それが、人と人とのつながりだよ。って、君達には、こんな言葉必要ないかな」
    振り返って俺達三人を順番に見て、火野先生はにっこりと笑う。
    「せ、先生っ!」
    雪ノ下が叫び声をあげる。
    見ると、ドライバーが前方から目をそらした車が、ガードレールに思い切りぶつかろうとしていた。
    ちなみにここは、高い崖となっている地帯だ。
    「「「「う、うわぁぁあぁああああぁぁっっっ!!!!」」」」
  21. 21 : : 2014/06/27(金) 22:33:25
    「お前ら、生きてるか……?」
    俺は、ゆっくりと目をあける。
    雪ノ下がとっさに踏んだサイドブレーキと、火野先生がとっさにきったハンドルのおかげで、ガードレールすれすれで車体は止まっている。
    「あ、危なかったぁ……」
    「死ぬかと思ったわ……」
    「ご、ごごごごごごめん!本当にごめんなさい!」
    今までにないほど火野先生が狼狽し、深々と頭を下げる。
    狭い車内にもかかわらず土下座しようとするのを、俺達は必死に止める。
    「本当にごめん……俺が死ぬならまだしも、君達をこんな危険な目にあわせてしまうなんて……」
    見ると、火野先生の目からは涙がこぼれおちていた。
    きっとこの人は、自分の最期でさえ涙を流さないだろう。
    だけど、人を傷つけるのは我慢ならない。
    そんな人だ。
    「も、もういいですから。誰も怪我しなかったんですし」
    「そうだよ先生。怪我の紅葉ってやつだよ」
    それを言うなら怪我の功名だし、ちなみに誰も得はしていないんだが……。
    「まぁ、今度から感動的な話をするなら車の外でお願いしますね」
    雪ノ下はいたずらっぽく笑った。
    「うう、三人とも、本当にごめんよ~!」
    そう言うと火野先生は俺達三人に抱きついてきた。
    俺はともかく女子生徒に抱きつくのはセクハラなのでは……と言おうとしたが、わんわんと声をあげて泣く火野先生を見たら、そんなことを言う気はすっかり失せてしまった。

  22. 22 : : 2014/06/27(金) 23:21:08
    俺達が目的地に着いた時、それはすでに建物としての原形をとどめていなかった。
    全てが焼け落ち、後にはもう何も残っていない。
    「……本当にすべて、無くなったのね」
    「雪ノ下さん……」
    「気になさらないでください。ここには、いやな思い出しかありませんから」
    と、その時だ。突如俺は頭痛に見舞われた。
    こんな時に……
    次の瞬間、驚くべきことが起こった。
    鏡から現れた五匹のモンスターが現れた。
    それは、数秒たってもこちらの世界に残っていて、ミラーワールドへ戻らない。
    「……は?」
    通常、モンスターがこちらの世界に来るのは一瞬で、そのわずかな時間で人間を襲う。
    こんなふうに留まるなんて……。
    鏡の中を見ると、あちらにはさらに多くの敵がいるようだ。
    数は、十くらいだろうか。
    どれも同じ種類で、白いヤゴの様な姿だ。
    「どうなってる……?今は、考えてる場合じゃないな。二人は、ミラーワールドの方をお願い。こっちにいる方は、俺が片付ける」
    「すいません、お願いします!」
    「え?え?これ、何?」
    悪いが、由比ケ浜の質問に答えるのは後だ。
    「「変身!」」
    「変身!」
    「タカ!トラ!バッタ! タ・ト・バ!タトバ!タ・ト・バ!」
    現実世界とミラーワールド。二つの世界での戦いが始まった。
  23. 23 : : 2014/06/27(金) 23:21:29
    「Sword Vent」
    「Strike Vent」
    雪ノ下は剣で、俺は炎攻撃で敵を迎え撃つ。
    こいつら、数は多いが一体一体の力はたいしたことない。
    「これなら、サバイブは使わなくて済みそうね」
    「ああ」
    気合を込めた一撃で、一体の体が爆発する。
    雪ノ下の方も同じようなペースだ。
    「デデブ、ゲブ、デデブ」
    モンスター達は気持ち悪い呻き声をあげながら接近してくる。
    「終わらせる、ドラグレッダー!」
    「Advent」
    ドラグレッダーの炎で、俺が相手していた残り四匹のモンスターが消滅する。
    「行くわよ!ダークウイング!」
    「Final Vent」
    いつもとは違い、地表でダークウイングと合体し、地面と平行にモンスターを貫いていく。
    「終わったみたいだな」
    「いいえ、まだよ」
    雪ノ下の指差した方を見ると、今倒したのと同種のモンスターが十数匹うごめいていた。
    「なんなんだ、こいつらは……」
    なぜこんな大量にモンスターが?
    「……ライダーバトルが、終わりに近付いているということかもしれないわね」
    「なんにせよ、倒さないといけないだろ」
    敵に向かっていこうとする俺を、雪ノ下が再び止める。
    「なんだ?」
    「待って、何か来るわ」
    彼女の言った通り、敵モンスターの近くの鏡から一人のライダーが現れた。
    斧を持った蒼と白の戦士、仮面ライダータイガだ。
    タイガは斧を振り回し、敵をなぎ払う。
    まぁ、今はあいつを無理に倒す必要も助ける必要もない。
    俺は傍観を決め込むことにした。
    と、そこに。
    「Advent」
    モンスター達のもとに紫色のコブラが現れて、タイガ諸共毒液を浴びせる。
    「探した、探したぞ、よくもやってくれたなぁっ!」
    現れた王蛇がタイガに襲いかかる。
    互いの召喚機である杖と斧がぶつかり合う。
    「ベベブ、ベブ」
    生き残った一体が王蛇に攻撃しようとするが、王蛇はただの一撃でそれを爆発四散させる。
    「Strike Vent」
    タイガが両腕に巨大なトラの爪を装備する。
    「Advent」
    そんなタイガを迎撃すべく、王蛇はエイのモンスターエビルダイバーを呼び出す。
    「Freeze Vent」
    すかさずタイガはその動きを凍結させる。
    「あんたの弱点は、わかってんだよぉっ!」
    「Advent」
    そう言って王蛇は、三枚目のアドベントカードを発動させた。
    物陰から現れたサイのモンスターメタルゲラスにタイガは思い切り吹き飛ばされる。
    タイガにとって王蛇は鬼門だろう。
    虎の子の一枚であるフリーズベントが、王蛇相手には十分機能しない。一匹止めたとしても、まだ二体王蛇には残るのだ。
    「デストワイルダー!」
    「Advent」
    タイガも契約しているトラのモンスターを呼び出し、王蛇のもとに向かわせる。
    「テメェは、ぶっ殺す!」
    「Final Vent」
    メタルゲラスとの必殺のカードをスキャンし、王蛇はデストワイルダーに強烈な突進攻撃を喰らわせる。
    デストワイルダーは多量のダメージを受けたからか姿を消してしまった。
    この一撃で倒れて契約が切れてしまわなかったことは、タイガにとって僥倖だろう。
    「クッ……」
    諦めたのか、タイガは真っ向から王蛇に向かっていく。
    だが、いつも不意打ちばかりで戦って来たタイガと王蛇ではふんできた場数が違う。
    見る見るうちにタイガが劣勢に立たされていく。
    「Sword Vent Swing Vent」
    そして、タイガと王蛇の差はまだある。
    それは、所持カードの差だ。
    三体のモンスターと契約している上、武器略奪のカードも持つ王蛇は選択肢がタイガに比べて多い。
    同じカードを出すのでも、三枚の中から選ぶのとそれしか選べずに使うのとでは意味合いが違う。
    タイガの胸を、コブラの牙を模した剣ベノソードがついた。
    「ぐぅあぁぁッ!」
    「さぁ、これで終わりだ!」
    鋭い牙でタイガののど元を突き刺そうとしたその時だ。
    「「「キィィィーーッッ!!!」」」
    多数のレイヨウ型モンスターが王蛇に襲いかかった。
    「これって……」
    「ああ、仮面ライダーインペラ―の、戸部翔の、契約モンスターだよ」
    どうやら奴は、誰につくのか決めたようだった。
    「戸部、テメェ……チッ!」
    三浦は憎々しげにつぶやいた後、しかしダメージは相当たまっていたのか、驚くべきスピードでミラーワールドを去っていった。


    誰もが誰かを切り捨て、そして手を結ぶ。
    ライダーバトルの加速を再び感じて、俺達は鏡の世界を後にした。
  24. 24 : : 2014/06/28(土) 23:53:46
    「すまない戸部、助かった……だが、なぜ俺を……?」
    「んなの、友達だからに決まってるっしょ」
    優美子が去ったミラーワールドで、俺の問いに戸部はさも当然と言った様子で答える。
    「だが、優美子もお前にとって……」
    「そりゃー優美子たちのことも友達だけどさ、俺にとっての一番のダチは隼人君だから」
    「……そうか、ありがとう」
    こいつも、俺にとって大切な存在だ。
    だから……。
    「デデブ、デブ、デネブ」
    新たに三体のモンスターが現れた。
    「隼人君は今きついっしょ、ちょっと待ってて 一気に決める」
    「Final Vent」
    戸部が必殺のカードをスキャンすると、レイヨウ獣の群れが現れる。
    その集団攻撃を喰らい、モンスター達は消える。
    「……これが、厄介だったんだよな」
    戸部が契約しているのはギガゼールというモンスター一体のみだが、この手のモンスターは他の、群れのモンスターにも協力してもらえる。
    だがこれで、アドベントカードもファイナルベントカードも使い果たし、モンスターは呼べない。
    「Strike Vent」
    「ハァッ!」
    俺はすっかり無防備な戸部の背にデストクローを突き刺す。
    「がぁっ……え?は、やとくん?なん、で……」
    「お前が俺にとって、大切な存在だからだよ」
    「……は?」
    「英雄は、多くを助ける為に自分の大切な存在を失わないといけないんだ。だから、お前を倒せば俺はまた英雄に近づける」
    「Final Vent」
    一度消えたデストワイルダーが再び現れ、戸部を引きずり回す。
    「ガッ・・・・・・アァァァァッッ!」
    そして最後に、彼を高々と爪で持ち上げる。
    「俺はただ、幸せになりたかっただけなのに……」
    友の死を確認して、俺は静かにミラーワールドを去った。
    仮面の下で流れた涙には、自分でも気付かなかった。
  25. 25 : : 2014/06/28(土) 23:54:03
    「比企谷君!雪ノ下さん!」
    現実世界に戻った俺達を、変身を解いた火野先生が迎える。
    「そっちも無事終わったみたいですね」
    「……砂時計、たまっているわ」
    由比ケ浜に気づかれないよう、雪ノ下が俺に耳打ちする。
    「そうか……」
    「ねぇ、三人とも!これどういうこと!説明してよ!」
    流石に隠しきれないので、由比ケ浜がかつてライダーだったことや、ライダー同士で戦うことなどを除いて簡潔に話した。
    「そんな……」
    「まぁ、心配すんな」
    「ええ、大丈夫よ」
    「心配するよ!」
    俺と雪ノ下の肩を掴んで続ける。
    「そんな、そんな危ないことを二人がしてるなんて……あたしも、ライダーだったらよかったのに。そしたら、二人を守れるのに……」
    「……っ」
    由比ケ浜の、ライダーとしての最期。それは、三浦の必殺の一撃から俺を庇って……。
    「いや、お前は十分すぎるほどやってくれてるよ」
    「……?あたし、何もしてないよ?」
    「いいえ、あなたはただそこにいてくれるだけで、私達にとって十分なのよ」
    「ふ、二人にそんなふうに言われるなんて、なんだか照れるなぁ……無茶だけは、しないでね?」
    「ああ、わかってる」
    「ええ、もちろんよ」
    「そっか、なら、安心だ」
    「雪ノ下さん、今回の件についてだけど……」
    「おそらく、姉がやったことでしょう。早く決着をつけないと……」
    「……もう少し、残る?」
    「いえ、もうここには要はありません」
    「……そっか、なら、送っていくよ。三人とも、乗って?」
    「今度は、安全運転でお願いしますね?」
    「うっ……はい……」
    「ねぇゆきのん、今日ゆきのんのおうちに泊まってもいい?」
    「唐突ね……」
    「やっぱり、駄目かな?」
    「いいえ、そんなことないわ」
    「やったぁ!ゆきのん大好きぃ! あ、ヒッキーは?」
    は?こいつ何言ってんの?
    「ごめんなさい由比ケ浜さん、いくらあなたのお願いでもそれは絶対にお断りだわ。貞操の危機を感じるもの」
    最初に会った頃の会話を思い出して思わず笑ってしまう。
    「別に行くなんて一言も言ってないだろうが……」
    「うーん、そっかぁ……三人でお泊りしたら、楽しそうだと思ったんだけどなぁ……あ、火野先生も一緒に!」
    「ええ!?俺!?」
    「火野先生なら……安心ですね」
    火野先生に対する信頼感が半端ない。
    確かにこの人がエロ本やらなんやらを読んでいる姿というのは想像できない。
    「でもまぁ、楽しそうだな……」
    「あはは、そうだね。俺も世界を回ってきたけど、友達同士で泊まりっことかいうのは経験ないなぁ」
    それにそういった年頃の頃は、厳しい親のもとにいたのだろうし……。
    「……やっぱりやろうよ!この四人でお泊まり会!ちょうど今日は金曜日だし!」
    エイエイオー、と、由比ケ浜は右手を高く突き上げる。
    その目はウルウルと雪ノ下を見つめている。
    「……まぁ、私は構いませんけど」
    いいの!?お前ほんと由比ケ浜に甘すぎだぞ。
    「ねぇねぇヒッキー!」
  26. 26 : : 2014/06/28(土) 23:54:16
    まぁ、なんだその……。こいつには命を救ってもらったという、返しても返しきれない恩があるわけで……。こういった機会に少しでも返しておいた方がいいかもしれない。
    「はぁ……しゃーねーな、わかったよ」
    「やったぁ!先生、後は先生だけだよ!」
    しかしいくら火野先生が信頼できると言っても、教育者としての立場上断るのではないか、と思ったのだが。
    「本当!?いやー、楽しみだなー!あ、でも明日のパンツを取りに行かなきゃいけないから一回学校に戻ってもいいかな?」
    他にも必要なもの色々あるのにまずはパンツなんだな……。
    「火野先生、私の家ではパンツパンツと連呼するのはやめてくださいね?」
    雪ノ下が凍てつくような笑みを浮かべる。
    「は、はい……でも、パンツはいつも一張羅を吐いておけって死んだじいちゃんが……」
    「その話は以前にも聞きました」
    「……ごめんなさい」
  27. 27 : : 2014/06/28(土) 23:54:28
    その後学校と俺の家により、俺達を乗せた車は雪ノ下宅に到着した。
    ちなみに由比ケ浜はけっこう頻繁に雪ノ下の家に泊まっているらしく、着替えも置いてあるとのことだった。
    仲がよろしいようで……。
    「うわー、大きいマンションだな―」
    「さぁ、あがってください」
    「「「おじゃましまーす」」」
    家について少し休むと、すでに時刻は七時になろうとしていた。
    「夕飯を作らないといけないわね」
    「あ、あたしも手伝うよ!」
    「由比ケ浜さん、ありがとう。でも、気持ちだけで十分だわ」
    「そうだぞ由比ケ浜、ここは雪ノ下に甘えておくんだ」
    冗談じゃない、何としてもここは阻止せねば!
    「あ、俺も作るよ。世界のいろんな料理をごちそうするよ!」
    「うわ……それはマジで楽しみだな……俺もなんか軽く作るわ」
    「では二人とも、お願いします」
    「ちょ、ちょっとぉ!あたしも!あたしも作る!ちょっとは上手くなったんだからっ!」
    あそこから多少進化しても決して食えたものじゃないんだが……。
    「せっかくだから、みんなでつくろうよ!」
    由比ケ浜の料理の腕を知らない火野先生が屈託のない笑顔で言う。
    「……どうなっても、知りませんからね」
    かくして、雪ノ下が洋風料理、俺が中華料理、火野先生が中東を中心に世界の料理を、由比ケ浜がデザートを作ることになった。
    雪ノ下の家のキッチンは一人で使うにはあまりに広すぎるが、それでも三人で使うには流石に手狭だ。
    だが、そんな中でも雪ノ下と火野先生はプロ顔負けの手際で作業を進めていく。
    俺も専業主婦志望として恥ずかしくない程度には上手くやっている。
    そして由比ケ浜は、
    「う、うわぁっ!卵の殻が入っちゃった! 砂糖と塩間違えたっ! 小麦粉適量?一袋でいっか!」
    ふと横を見ると、火野先生の手が止まっていた。
    「……見たこと無いヤミーだな……」
    ヤミーって……否定しようとしたが、彼女が作っている物は魔物に間違いなかった。
    「あ、ああー、今日俺あんまお腹すいてないなー……料理だけでお腹いっぱいになっちゃうかもなー」
    火野先生が予防線を張る。
    こいつ、やりおる!
    「あ、じゃぁ先生最初にこれ食べてみて!結構うまくいったと思うんだー!」
    「う、うん……ありがとう」
    完全に墓穴を掘ったようだ。
    「だから、言ったじゃないですか……」
    「ごめんなさい……」
    俺の言葉に、火野先生は本日何回目かもわからない謝罪の言葉を口にした。
  28. 28 : : 2014/06/28(土) 23:54:41
    テーブルの上には、豪華な料理が並んだ。雪ノ下が作ったグラタンとパエリア、俺が作った餃子とチャーハン。火野先生が作った世界の料理、名前はわからないが、どれもとてもおいしそうだ。
    ……そして、デザートの、ケーキ(本人いわく)。
    しかも、ご丁寧に特大ホールサイズだ。
    それはきらびやかな料理の中で異彩を放っていた。
    由比ケ浜以外の三人の表情が暗くなる。
    「うわー、どれもおいしそう!でも、あたしのも味見してないけど絶対おいしいよ!」
    なんで味見しないんだよ!せめてそれくらいやれよ!
    まぁ、何はともあれ食事だ。
    「「「「いただきます」」」」
    まずは雪ノ下の作ったパエリアを口にする。
    「うっま!お前これ、マジで店に出せるレベルだぞ!」
    「ゆきのんの料理はいつもおいしいね!」
    「うん、すごくおいしいよ!」
    「あ、ありがとう……」
    雪ノ下は恥ずかしそうに顔を下に向ける。
    続いて、火野先生の料理を食べる。
    「……っ!」
    瞬間、体に衝撃が走った。
    それは他の二人も同様だった。
    美味い、なんてもんじゃない。
    「これ、店に出せる、とかそんなもんじゃないです。俺が今まで食って来た中で一番うまい」
    言い方は悪いが、これに比べたら雪ノ下の先程の料理は幼子の作った料理、俺の料理など泥団子のようなものだ。
    由比ケ浜のは、由比ケ浜のはあれだ。うん。
    「な、何これ……」
    「こんな味、食べたこと無いわ……舌が、喜んでいる」
    「そ、そんな、褒めすぎだよ」
    タハハ、と先生は笑う。
    褒めすぎなものか。これを表すには、とても言葉では足りない。
    どんなに言葉を尽くしても、表しきれない。
  29. 29 : : 2014/07/22(火) 17:43:27
    くすっち天頂さん福本伸行先生の漫画好き何ですか?
  30. 30 : : 2014/07/26(土) 23:54:34
    火野先生の作った料理はあっという間になくなってしまった。
    それに続いて、雪ノ下の俺の料理もなくなる。
    そして……
    「ついに、来たわね……」
    「これを、食べんのか……」
    「俺、ちょっとお腹が痛くなって……」
    席を立とうとした火野先生の服を雪ノ下がしっかりとつかむ。
    「火野先生?」
    言って、彼女はにっこりと笑った。
    「あはは、もう、大丈夫かな―……」
    「さぁ、みんな食べて食べて!」
    これ絶対毒だろ……つーかケーキが紫色になるってありえるの?
    「い、いただきます……」
    最初に飛び込んだのは火野先生だ。
    恐る恐るといった様子で口に運ぶ。
    瞬間、彼は苦悶の表情を浮かべた。
    「…………」
    黙ってうつむく。
    「これは……とても個性的な味だね」
    こういう時に出る『個性的』という言葉は総じていい意味を持つことはない。
    字を『個性的』と言われれば、それは汚いということだ。
    「えへへ、ありがとう!ヒッキーとゆきのんも食べて!」
    「ばっかお前……こんなもん劇物だろうが」
    「そうね、限りなく毒に近いと思うわ」
    「な、そ、そんなことないしっ!」
    由比ケ浜はそう言って自分の料理を口にする。
    「うわっ!まずっ!何これっ!」
    お前が作ったんだろうが……。
    「由比ケ浜、人に料理を出す時は、せめて味見くらいしろ。……最低限の、マナーだ」
    「うう……ごめんね、火野先生」
    「い、いや、気にしなくていいよ。アハハ」
    「うう……これはもう捨てちゃうね」
    「待て、別に捨てることはないだろ。一応一口くらいはな……」
    意を決めて、俺は残っていたケーキを一気に食べる。
    「ひ、ヒッキー!?」
    「な、何をしているの!?」
    「比企谷君!体壊すよ!?」
    地味に火野先生のその一言はひどくないか……?まぁ、言う通りなんだが。
    体中に広がる不快感。まさか食事をしてこんな気分になることがあるとは……。
    「……まぁ、次は頑張れ」
    「うん……ありがとう」
    「さて、食事も済んだことだし、そろそろ入浴にしましょうか」
    「あ、ゆきのん!じゃぁ一緒に入ろうよ!」
    なに、こいつら、本当に百合なの?
    「はぁ……仕方ないわね。私達が先に入ってもいいかしら?」
    「ああ、お前の家なんだしそれが妥当だろ」
    「うん、俺達のことは気にしないでゆっくり入ってきなよ」
    「ヒッキー、覗かないでよね!」
    「比企谷君。もしそんなことをしたら……」
    「なぜ俺だけ……」
    やはり火野先生に対する信頼は絶大のようだ。
    まぁ俺が同じ立場でも同じようなものだろうが。
    「ははは、まぁ俺はグリードになりかけちゃったからそういうことに興味が持てないしね……」
  31. 31 : : 2014/07/26(土) 23:55:36
    「わかったわね、覗き谷くん?」
    「なんつー名前だ……。つーかな、そういうのは好きな奴のじゃないと興味ないっつーの。だから俺がお前らの裸なんか見たって何も感じるわけないだろうが……」
    「え!?ヒッキー好きな人いるの!?」
    「まぁそんくらいはな」
    「それは誰なのかしら。別に気になるというわけではないのだけれど、その女性の身の安全の為にも私にはそれを知る義務があるわ。まさか奉仕部から性犯罪者を出すわけにはいかないし、それに」
    「心配すんな。好きな奴を傷つけるようなまねはしない。信じろよ、お前の友達を」
    「そ、そうは言っても……」
    「お、同じクラスなの!?」
    由比ケ浜が身を乗り出して聞いてくる。
    「何でお前に言わなきゃいけないんだよ……別に俺が誰を好きでもお前には関係ないだろ」
    「う、ううっ……じゃ、じゃぁ、どんな人かだけ教えてよ」
    「はぁ……?そんなこと聞いてどうすんだよ。野次馬根性強すぎだろ」
    「比企谷君、いいから教えなさい」
    「まぁ、そんくらいなら良いけど……そうだな、人の為にいつでも一生懸命で、幸せそうに笑っていて、どんなことがあっても諦めない、周りにいる奴を一人残らず幸せにするような人、かな」
    「ゆ、ゆきのん、そんな人、いたっけ……」
    「少なくともわたし達の周りには……もしかして」
    「わ、わかったの!?」
    「火野先生……?」
    「はぁ!?」
    「ええ!?」
    予想外の答に、俺と先生はそろって驚きの声を上げる。
    「違うから、俺にそういう属性はないから」
    「そ、そうだよ。それはないよ、絶対」
    火野先生は必死に否定する。
    そりゃそうだろう。ていうかこいつは何でそんな回答にたどり着くの?海老名さん属性なの?
    「じゃ、じゃぁ誰なの?教えてくれてもいいじゃん」
    「ばっかお前、こういうのは、言葉にすればするほどしょぼくなる物なんだよ。さっさと風呂入ってこい」
    「うう、わかったよ……」
    不満たらたらといった様子で由比ケ浜達は去っていった。
    「いやぁ、やっぱり比企谷君も恋愛するんだね」
    「そりゃまぁ……高校生なんてそんなもんでしょ」
    「実るといいね」
    「ありがとうございます、先生は、今まで何人くらいと付き合ったりしてきたんですか?」
    「俺?あはは……恥ずかしながら一人も……恋愛的に人を好きになったことがないんだ」
    「もったいないですね、モテそうなのに」
    「学生時代にはそんなこと考える暇もなかったし、卒業してからは旅をしてばっかりで、それからライダーになって……うーん、でも、そういうのは関係なく、俺自身に問題があるのかな」
    「別に恋愛した方がいいっていうわけでもないですしね。ちょっとさびしい言い方になりますけど、恋愛って得られる物より費やす物の方が圧倒的に多いと思うし」
    「それがわかってる君でさえ、惹かれてしまうほどの物ってことでしょ?」
    この人にはかなわないな、ほんと……。
    「でも知ってます?女性の理想の男性像は、『四低』らしいですよ」
    「四低?」
  32. 32 : : 2014/07/26(土) 23:56:21
    「低姿勢、妻の言うことを聞く。低リスク、公務員や大企業に勤めてる。低燃費、飲み会なんかにはいかない。低依存、家事もしっかりとこなす。これじゃまるで、奴隷じゃないですか」
    「うーん……でも、そんな中から素敵な人を見つけるのっていいと思わない?」
    俺と同じような思考に至るが、そこから導き出す結論がまるで違う。
    だから、この人と居るのは面白い。
    「その言い方だと、まるで大半の女性はハズレの様ですね」
    いつの間にか戻っていた雪ノ下が会話に入ってきた。
    「まぁ実際そんなもんだろ。この世界には星の数ほど男も女もいるが、そんな中から自分に合うのは一握りだ。宝探しみたいなもんだろ」
    「そしてあなたは、その宝を見つけた、と」
    「宝箱を見つけても、鍵がないんじゃ意味がない。俺なんかじゃつりあわないさ。……まぁ、諦めるつもりもないが」
    「驚きだわ。あなたの口からそんな言葉が聞けるなんて……本当に好きなのね」
    「うう、もうどうしようもないのかな……」
    雪ノ下の後ろにいた由比ケ浜がぼそりと呟く。
    「あ、火野先生、先に入ってきてください」
    「そう?じゃあ、お言葉に甘えて」

    火野先生が上がった後、俺も手早く入浴を終えた。
    その後はトランプなどをして楽しく遊んだ。
    「……なんだか久しぶりに、将棋がしたくなってきたなぁ」
    「たしなまれているのですか?」
    「うん、旅してるうちに、世界のあそびは大体覚えたよ」
    「一局、やりませんか?」
    「お手柔らかにお願いします」
    こうして、雪ノ下対火野先生の将棋対決が始まった。
    ―――
    「じゃぁ、王手」
    「っ……飛車が……」
    「じゃぁ、ここに桂馬を」
    「私の角が……」
    「じゃぁ、飛車で金を取って龍王になります」
    「金将が無くなった……」
    「角を龍馬にして、王手」
    「……参りました」
    雪ノ下は、鉄壁の守りを誇る穴熊囲いを展開したにもかかわらず、完全に守りをズタズタにされていた。
    結果、大戦終了後は、大駒、金銀を全て火野先生が所持するという異様なまでの差がついた。
    「クッ……では、次はチェスを」
    ―――
    「ビジョップで、雪ノ下さんのクイーンをとるね」
    「っ……」
    「ナイトで、ルーンを取ります」
    「く……」
    「俺のポーンが一番前の列に入ったから、クイーンにします」
    「っ……こうなったら一か八か攻めて」
    「キングとルーンの位置を交換します」
    「次でチェックできたのに……」
    「クイーンを動かして、チェックメイト」
    「……参りました」

    「オセロをしましょう」
    ―――
    「それじゃぁ、黒を角に」
    「すご、外側が全部先生の黒色になった」
    「こりゃ圧倒的だな……」
    「ま、まだよ。例え外側を全て取られたとしても、最後に数で勝っていれば……」
    そう言った彼女だったが、64マス全てが埋まる前に、彼女が使う白色は盤上からなくなった。
    「参りました……」
    「ありがとうございました」
    「姉さんにだって、ここまで負けてことはないわ……」
    火野先生が陽乃のような悪人だったならば、彼女をはるかにしのぐ強大な敵になっていただろう。
    俺は心の中、彼が仲間であることに感謝した。
    「そろそろ、寝ようか。もう12時過ぎたし」
    「あ、あとひと勝負……」
    「また明日やろう。夜更かしはお肌にもよくないよ」
    ―――
  33. 33 : : 2014/07/26(土) 23:56:41
    「それでは、お休みなさい」
    「おやすみー」
    俺と先生、由比ケ浜と雪ノ下が同室で眠ることとなった。
    「比企谷君、起きてる?」
    「はい」
    「……これから、戦いはもっと厳しくなると思う。……自分の信じる物を、見失わないで。それはきっと、君の支えになるから」
    「……うす」
    「それじゃ、今度こそお休み」

    翌日は、雪ノ下宅で朝食を取った後、そのまま解散となった。
    この日常を守る為なら、俺はきっと戦い続けられる。

    あと少しで家に着くというところで、いつもの頭痛が俺を襲った。
    「早速か……変身!」
    中で俺を待ち受けていたのは、またしても白色の気色悪いモンスターの群れだった。
    なぜ、こいつらはこんな大量に……?
    由比ケ浜の為、モンスターのエネルギーが必要になる俺達としては、ありがたいといえばありがたいのだが。
    「さっさと終わらせるか」
    「Sword Vent」
    すっかり手になじんだドラグセイバーを持って敵にきりかかる。
    「ヤッ!ハッ!ダァァァッ!」
    勝負はあっという間に着いた。
    いくら数が多くても、こいつらはここの戦闘力が低すぎる。
    戦闘直後特有の、一瞬の気が緩んでしまった状態の俺を、それは襲った。
    後方よりの、マシンガン攻撃。
    「ガッッ!」
    そのモンスターに、俺は見覚えがあった。
    バイクを人型にしたかのような、君の悪い姿。
    城廻めぐりが変身するオルタナティブの契約モンスターだ。
    それを象徴するかのように、ライダーである彼女も現れる。
    「……てめぇ、汚い真似を」
    俺と彼女の関係は、決して良好とはいえない。だが、今すぐに戦わなければならないようなものでもなかったと思うが……。
    しかし、相手がこういうふうに出てくるのなら、話は別だ。それに、由比ケ浜の為にも、ライダーバトルに決着をつけなければならない。
    「Sword Vent」
    剣を携えた城廻が、モンスターとともに襲いかかる。
    「Advent」
    「ドラグレッダー!モンスターの方をつぶせ!」
    「グルガァァッッ!」
    剣と剣とがぶつかり合う。
    「俺はもう、迷わないっ!」
    「Strike Vent」
    「Accel Vent」
    俺の放った炎攻撃は、しかし彼女の超速移動で避けられる。
    そして彼女はそのまま俺の胸を剣で切りつけた。
    前やった時もこのカードに苦しめられたんだったな……。
    「でも、忘れたのかよ。それでも俺には勝てなかっただろうが」
    「Survive」
    体にかかる負担は大きいが、仕方ない。
    「Shoot Vent」
    無数のレーザー攻撃が城廻を襲う。
    「っ……!」
    声を上げないのは、彼女の誇りだろうか。
    「お前らのしりぬぐいをしているというのに……こんなタイミングで来るかよ、普通……いい加減に、しやがれっ!」
    更に追撃のレーザー攻撃。そこにドラグランザーが援護の火炎放射を放つ。
    衝撃で、城廻は地を転がる。
    「これで決める……」
    「Final Vent」
    「Final Vent」
    俺の必殺のカードに対し、城廻も切り札のカードを発動させる。
    互いに、バイクモードとなったモンスターにまたがり加速する。
    「はぁぁぁあああぁぁっっ!」
    正面から、激突。衝撃で俺はバイクから投げ出される。
    それは城廻も同様だった。
    彼女は戦況の不利を認めると、そそくさとミラーワールドから離脱していった。
    もう一人の当事者の一色いろはには落ち度はないが、この問題の為に動くことに、俺は少なからぬ疑問を覚えた。
  34. 34 : : 2014/07/26(土) 23:57:17
    翌日の放課後、俺は生徒会室を尋ねた。
    無論、城廻めぐりに昨日の件を詰問するためだ。
    幸い、室内にいたのは彼女一人だった。
    「比企谷君?ノックくらいしてほしいなぁ」
    特有のとろとろとした口調で彼女はそう言った。
    「……そんな関係じゃないだろ、俺達は」
    「……?どういうことかな。まさか、告白じゃないよね」
    「はっ。ある意味それ以上に濃い関係と言えないこともないけどな」
    俺はカードデッキを取り出す。
    「……何のつもり?」
    「何のつもり、だと?昨日はいきなり襲いかかってきたくせによくもまぁぬけぬけとそんなことが言えるなぁ」
    「何言ってるの?私昨日は一日中家にいたよ?」
    「やめようぜ、そんな茶番は」
    「本当のことだよ!」
    「お前の変身するライダー、オルタナティブが俺に奇襲を仕掛けてきた。契約モンスターもサイコローダー、お前の物だったよ」
    「そんな、でもわたし、本当に……」
    「不意打ちでも負けたから、立場を変えたのか?……そんなのはさすがに、通らないだろうが。俺達はお前の起こした問題の為に動いてたんだぞ。少なくとも、この件が片付くまでは手出ししないのが最低限のことだと思ったがな」
    「比企谷君、あなたは何か勘違いを……」
    「これ以上は、無駄なようだな。行くぞ……変身!」
    こいつをここで見過ごしたら、後々必ず後悔する。問題が俺だけで終わるのならばまだいいが、ことは雪ノ下や、変身できない由比ケ浜にも及ぶかもしれない。
    「何で、こんな……」
    「変身しろ!城廻!」
    鏡の中からドラグレッダーが現れ、威嚇の咆哮を上げる。
    「やるしか、ないの……?少しだけ、わかりあえたと思ったのに……」
    彼女の瞳から一筋の涙がこぼれおちる。
    「……あまり俺をなめるなよ。そんな物でだまされるのは、中学時代の俺までだ」
    もっとも、もう一人の俺はどんなことも意に介さなさそうではあるが。
    「変身……」

    「「Sword Vent」」
    「あなたが何を勘違いしてるのかは分からないけど、わたしだって、こんな所で死ぬわけにはいかないのっ!」
    「いい加減見苦しいぞ!城廻っ!」
    二つの剣がぶつかり合う。
    心なしか、以前戦った時よりも強くなっている……?
    「やぁぁぁああぁっっ!」
    力任せに城廻の剣を払い、斬りつけようとするも、それより先に彼女の拳が俺の胴に入る。
    「ぐッ……」
    「Guard Vent」
    剣を投げ捨て、両手にドラグシールドを持つ。
    城廻の剣攻撃をかいくぐる。
    「ドラグシールドには……こういう使い方もあるっ!」
    盾に着いた各6本の爪を体に当てるようにして盾を交差させる。
    「っっ!!」
    「これでもくらえっ!」
    「Strike Vent」
    火炎攻撃で追撃する。
    「Advent」
    しかしそれは、現れた彼女のモンスター『サイコローダー』によって防がれる。
    更にサイコローダーも火炎放射攻撃を放つ。
    「っ……」
    その攻撃を終えると、サイコローダーはそのまま俺に接近してきた。
    ドラグクローで応戦するが、なかなか攻撃が当たらない。
    その時、いつの間にか背後に回って居た城廻の斬撃をもろに背中に受ける。
    また使うしかない……
    「Survive」
  35. 35 : : 2014/07/26(土) 23:57:22
    サバイブ態になる際に発生する灼熱から逃れるため、敵の包囲がとかれる。
    「Shoot Vent」
    これまでの戦闘で、城廻がこの技を苦手としていることはわかっている。
    この技、メテオバレットは、威力も高く連射が可能なので、二体の敵を相手にも十分戦うことができた。
    本来は遠距離戦でその真価を発揮するが、今のような至近距離でも決して弱い武器ではない。
    特に、0距離からの連射は壮絶な威力だ。
    「だっ!はっ!やぁっっ!」
    いける、俺がそう思った時だった。
    「はぁぁぁあぁっっっ!」
    後方から飛び降りてきた何かが、俺の背に斬撃をくらわせた。
    「がぁぁっ!」
    思わず膝をつく。
    すぐさま振り返ると、そこにいたのは城廻と寸分変わらぬ姿をした『オルタナティブ』であった。
    「どうなって……かっ!」
    口を開いた俺に、そいつは容赦なく追撃を与えてくる。
    「お前いった……」
    「援護しろ!こいつはお前の敵だろ!」
    しかし城廻は戸惑っているのか、何のアクションも起こさない。
    「ちっ!」
    舌打ちをするとそいつは、俺の腹に蹴りを入れる。
    「いつまでもやらせるかよ!」
    俺は最優先攻撃目標を城廻からそいつに変更する。
    「Trick Vent」
    8体となった俺は、次々とメテオバレットを放つ。
    この攻撃に逃げ場はない。
    「Accel Vent」
    しかしそいつは、オルタナティブの持つ特有カードアクセルベントを使い、一瞬で分身たちを蹴散らした。
    加速状態は解けたが、続けて俺に向かってくる。
    俺は奴をギリギリまで接近させ、
    「Guard Vent」
    超高熱の炎の壁を展開した。
    ひるんで敵が体勢を崩したその時を俺は見逃さない。
    「Advent」
    ドラグランザーがその巨体でそいつに突進する。
  36. 36 : : 2014/07/26(土) 23:59:27
    一ヶ月近くも更新できなくてごめんなさい!
    夏休みに入ったので、できるだけ8月中には完成させて、第二部に行こうと考えています。
    乞うご期待!
  37. 37 : : 2014/07/27(日) 00:02:14
    →→→nyさん
    カイジ(和也編途中まで)と零は少し読みました。
    面白いですよね!
  38. 38 : : 2014/07/30(水) 23:34:05
    「この間俺を襲ったのはお前だったか……」
    もはや考える余地もない。
    こいつは敵だ。
    「Final Vent」
    ドラグランザーを変形させ、その背に飛び乗る。
    「Final Vent」
    敵もバイクに飛び乗る。
    城廻と戦った時と同じ状況だ。
    「やああぁぁぁぁっっ!」
    「ふんっ!」
    今まさに激突するというその時、敵はその車体を空中に浮かせ、衝突を回避した。
    そしてそのまま猛スピードで走り去り、ミラーワールドから脱出した。
  39. 39 : : 2014/07/31(木) 23:46:21
    「比企谷君……」
    「すまない……」
    生徒会室、俺は針のむしろだった。
    「随分といってくれたね……不意打ちでも勝てないから、私が態度を変えた、だったっけ?」
    「……謝罪の言葉もありません……」
    ありませんから、言いませんが。なんて言ったら火に油を注ぐことになるのは目に見えている。
    「ふぅ……まぁ、選挙のことで迷惑かけてるし、これで貸し借り無しってことで」
    「そう言ってくれると助かる」
    「じゃぁ、そういうことで」
    「ところで、あのライダー、もう一人のオルタナティブに、心当たりはないか?」
    「うーん……わからないな。わたしはこのベルトを、なぜかこの生徒会室にあったのを偶然手に入れただけだから」
    「そうか、ありがとう」
    「……意外だな」
    「何がだ?」
    「君がそんなふうに謝罪や感謝の言葉を言うことがだよ」
    「お前は俺を何だと思っていたんだ……」
    「知らないよ。君のことなんて、何も知らない。だって、教えてくれなかったでしょ?」
    「ま、そりゃそうだな」
    「でも……」
    「でも?」
    「これからは少しずつ、知っていくよ。あなたが教えてくれないなら、自分で調べればいいことだから」
    「ご自由に」
    「うん、じゃぁそうするね。……それで、選挙のことなんだけど……」
    「すまん……まだいい案が浮かばない。というか、あいつらがそれを許してくれそうにないからな」
    「また自分を犠牲にするつもりだったの?」
    「あいつらと同じことを言うんだな。別に犠牲とかじゃない。それが一番合理的だってだけだ」
    「理屈だけで動けないのが人間だよ」
    「……言うじゃないか」
    「人は成長するんだよ。知らないところで、君の周りの世界は変わっていく」
    「成長かどうかは別として、その意見にはおおむね同意だな」
    「やっぱり意外だよ、君が私の意見に賛成するなんて」
    「だからお前は俺を何だと思ってる……俺は俺が正しいと思ったことをするだけだ」
    「まるで正義のヒーローだね。愛と勇気だけが友達だっけ?」
    「そんなんじゃねぇよ。それに、少しだけだが友達はいるよ」
    「そっか……そこにわたしは入ってるのかな?」
    「愚問だな、つーか、わかりきってること聞くんじゃねぇよ」
    「でも、私は比企谷君と仲良くなりたいと思ってるよ?」
    「そりゃどうも……んじゃまぁ、未来の友達とやらの為にサクッと解決してくるよ」
  40. 40 : : 2014/08/01(金) 23:58:56
    「んで、だ。そろそろどうするか決めないといけないんじゃないか?」
    奉仕部部室で俺は二人にそう言った。
    「そうだね……」
    「考えならあるわ」
    「なんだ?」
    「私が、会長選挙に出るわ」
    「ゆきのん……」
    「それはお前が俺に言った、自分を犠牲にするって奴じゃないのか?」
    「そうだよ、それに……奉仕部はどうするの?」
    雪ノ下は責任感の強い人間だ。成り行きでなったとしてもその職務を全うするだろうことは想像に難くない。
    「第一に、私は決して自分を犠牲にするわけじゃない。そして奉仕部は……」
    一呼吸おいて、彼女は続ける。
    「だから、私と一緒に生徒会役員をやってくれないかしら」
    「「え?」」
    「……正直なところ、以前からやりたいとは思っていたの。だけど確かに、奉仕部との両立は難しいとは思うわ。それは文化祭の時にわかったし……だけど、あなた達と一緒なら……」
    「ゆきのん……」
    「おいおい、俺は校内一の嫌われ者だぞ?」
    「全役員の指名権は会長にあるわ。当選してしまえばこちらの物よ」
    「お前……言うようになったな」
    「そうね、少し変わったかもしれないわ。そうね……由比ケ浜さんが副会長で、比企谷君は庶務」
    「なぜ俺が庶務……」
    「もちろん、無理にとは言わないわ。少しだけ、考えてみてくれないかしら」
    「ゆきのん!あたし、やるよ!」
    そう言って由比ケ浜はいつものように抱きつく。
    「はぁ……雪ノ下」
    「なにかしら」
    「これは、本当にお前のやりたいことなんだよな?」
    「ええ、そうよ」
    「そっか……なら、仕方ねぇな。俺もやってやるよ」
    「……本当に?」
    「ついても仕方ない嘘はつかねぇよ」
    「……ありがとう」
    「嬉しいけど、ヒッキーがそういうなんて以外かも!」
    「ハッ……別に、少しだけ面白そうっていう、ただそれだけだよ」
    「これで給仕係は確保できたわね」
    「おい、今スルーできない発言が聞こえたんだが?」
    「聞き間違いよ、茶汲み谷君」
    「もはやごまかす気すらねぇじゃねぇか……」
    「よーーし!じゃぁ、決定だね!……あれ、じゃぁ奉仕部は無くなっちゃうの?まぁ、三人で活動できるならいいけど……ちょっとさびしいね」
    「部活としても部室も残してもらえるよう掛け合ってみるわ。生徒会での仕事は奉仕部の発展形という感じになるでしょうね」
    「えへへ、楽しみだね。あっ!生徒会室にいろいろ持ち込んでいいのかな?」
    「そういうことは当選してから決めろっつーの」
    「この私が落ちるとでも思っているのかしら?」
    そんな性格だから落ちるんじゃないかと思ってるんですよ……。
    「それでは、今日は解散ということで。手続きの方は全て私でやるわ」
    「おつかれ」
    「おつかれー!」
    はぁ、まったく……いつから俺はこんなふうになっちまったんだろうな。
  41. 41 : : 2014/08/01(金) 23:59:11
    でも、それも悪くない。
    人の本質は変わらない。その考えは今も間違っているとは思わない。
    ただ、人の見方が変わるということは、往々にしてあることだ。
    ならば今回のことも……
    いや、もうごまかすのはやめよう。人は変わる。
    変われるんだ。
    「せーんぱい」
    らしくもないことを考えていたその時、
    後方から突然声をかけられた。
    振り返らずともわかる。
    「一色か」
    「問題、うまく解決してくれそうですね」
    「由比ケ浜にでも聞いたのか?」
    「はい、それで、これはそのお礼です」
    突如、一色は俺の背中に抱きついてきた。
    そしてそのまま、腕を回す。
    なまめかしい動きをする彼女の腕が俺の体をまさぐる。
    「……くくっ」
    「こんな時に笑うとか、ドン引きですよ?」
    「そんなとこには入ってないぜ?」
    「?なんのことですか?」
    勢いよく彼女を振り払う。
    その衝撃で一色は体勢を崩して転倒する。
    「女子に恥をかかせるとか、最低です」
    「そういう芝居はいらないんだよ、オルタナティブ」
    「ッッ……わかってたんですか」
    「薄々とな、確信したのはついさっきだが」
    言って俺はカードデッキをかざす。
  42. 42 : : 2014/08/02(土) 23:49:45
    「物騒ですねぇ」
    「最初に仕掛けてきたのはお前だろ?つーか、お前の為に動いてやってたんだから少しは自重しろっての」
    「それとこれとは話が別ですよ。それに、その件に関しては今ので貸し借り無しってことで」
    「俺はお前みたいな清楚系ビッチが一番嫌いなんだよ」
    「人をビッチ呼ばわりとは……失礼ですね」
    「ま、御託はいい。始めよう」
    「うーん……当てが外れましたね。先輩は好戦派ではないと思っていたんですが」
    「ま、人には色々あるってことだ……変身!」
    「やるしかない、か……変身」

    「「Sword Vent」」
    「やぁっ!」
    俺の剣が一色の腕をかすめる。
    数号合わせてわかったが、まともに戦えばサバイブ体にならずともこいつは俺よりも弱い。
    「っ……やはりカードが少ないですね」
    苦々しげにつぶやき、彼女はデッキから一枚のカードを取り出す。
    彼女が所持しているのは、ソードベント、アクセルベント、アドベントにファイナルベントの四枚だけだろう。
    他にあるのなら、先からの戦いで使っていないことにいささか疑問を感じる。
    あいつはこれまで、重要な場面でアクセルベントを使ってきた。
    ならばここで奴が使うのは……
    「Advent」
    俺のドラグバイザーから音声が鳴る。
    「Advent」
    それに数瞬遅れて一色がカードをスキャンする。
    しかし、現れた彼女のモンスターは、それより先に現れ臨戦態勢に入っていたドラグレッダーの突進を喰らい吹き飛ぶ。
    更にその攻撃は一色にも確実にダメージを与えたようだ。
    「本当に面倒くさい人ですね……」
    「Accel Vent」
    やはりな……バカの一つ覚えというかなんというか……しかしこのカードに対して有効な対策がないことも確かだ。
    「Survive」
    結果として俺は、この諸刃の剣のカードを使わざるをえなくなる。
    「Shoot Vent」
    高速で移動する一色を捉えようと俺はレーザー攻撃を連射する。
    ドラグランザーも後方に現れ援護の火炎攻撃を放つ。
    しかしその攻撃はなかなか当たらず、先程から一色の剣が俺の体をかすめている。
    「ぐぅっ!」
    俺は両手を抱え防御態勢に入る。
    「やぁぁっ!」
    それを好機と見た一色は、今まで以上に大胆に攻撃を仕掛けてきた。
    「っ……今だっ!」
    ドラグバイザーツヴァイのレーザー攻撃発射口を一色に向け、零距離からフルパワーの一撃を放つ。
    「うわぁぁぁっっ!」
  43. 43 : : 2014/08/13(水) 10:49:16
    一色の体が宙に舞う。
    「ここだ!」
    「Final Vent」
    ドラグランザーを呼び、飛び乗ろうとしたその時だ。
    「ドゴォォォン!」
    耳をつんざくような音が鳴り、俺の体に何かが直撃した。
    「うぐぅぅっ!」
    俺は地に転がり、ドラグランザーは帰っていく。
    「やぁ、比企谷、この姿で会うのは久しぶりか?」
    「……っゾルダッ!」
    仮面ライダーゾルダ、平塚静が近づいてくる。
    「なぜだ?一色が消えた方がお前にとってもいいんじゃないのか?」
    「サバイブのカードを持つお前達は危険すぎるんでな、先に始末することにした」
    「なるほど……お前らグルってわけか」
    「そういう……ことだっ!」
    先程放たれた砲撃が再び俺を襲う。
    横に跳びそれを回避すると、空中で無防備になった俺を一色の剣が斬りつけた。
    「っ……やってくれるな」
    「Advent」
    「行けっ!ドラグランザー!ゾルダを攻撃しろ!」
    「Advent」
    「防げ!マグナギガ!」
    ゾルダの前に契約モンスターのマグナギガが現れ、ライダーへの攻撃を防ぐ。
    「グルアァァァアッッ!」
    「ブモォォオオッ!」
    ドラグランザーが炎で、マグナギガはミサイル、火器などでひっきりなしに攻撃を繰り出す。
    おかげで俺達の周りでも爆発が絶えない。
    「私を忘れてもらっては困りますねっ!」
    「Advent」
    突如、一色と彼女の契約モンスターが前後から襲いかかってきた。
    「ぐぅっ!」
    ダメージを負った俺を、抜け目なくゾルダが追撃する。
    「そろそろ、終わりにしようか」
    「Final Vent」
    ゾルダが必殺のカードをスキャンする。
    「待て!まだあたしが!」
    「そんなこと知らん」
    こいつら……仲間割れか。
    一色は隙だらけだ。
    今から自分がすることを思うと少しだけ気が暗くなるが、迷ってはいられない。
    「だぁっ!」
    背後から一色を切りつけ、その体を俺の体が隠れるよう前にかざす。
    「っ……なにをっ!」
    彼女がそう言い終わらないうちに、ゾルダの攻撃が炸裂した。
    「いやァァァァァっっ!」
    一色を縦にした俺にもすさまじい衝撃が伝わる。
    それでも何とか、大したダメージを負わずに耐えることができた。
    「Shoot Vent」
    掴んでいた一色の体を放つと、ゾルダから新たな攻撃が放たれた。
    その標的は俺ではなく一色で、すでに満身創痍だった彼女はその攻撃がとどめの一撃となり、ミラーワールドから肉体を消滅させた。
  44. 44 : : 2014/08/13(水) 10:49:30
    「……仲間じゃなかったのか?」
    「そんな問をする意味があると思っているのか?」
    「……」
    「私達は互いに利益があるから手を組んだ、ただそれだけだ。隙を見せればやられることはあいつだってわかっていたさ。そうだろう?」
    「ああ、そうだな」
    「それに君だって、彼女を盾にしたじゃないか。君の友達がされたように」
    「っ……」
    「比企谷、お前は三浦のことをとやかく言う資格があるのかな?」
    「あーしが、なんだって!?」
    突如ゾルダの背後に現れた三浦優美子、仮面ライダー王蛇がメタルホーンでゾルダの背を突く。
    「くっ……きさま、いつから」
    「んなことどうでもいいっしょ。あーし、あんたが気に入らないんだよ。消えろっ!」
    「っ……」
    遠距離戦にはめっぽう強いゾルダだが、近距離戦は苦手らしく、先程から王蛇に押されっぱなしだ。
    「ほらほら、どうした!」
    「調子に乗るなよ、小娘!」
    「Shoot Vent」
    先程まで手にしていた大砲とは違い、肩に装備するキャノン砲を呼び出す。
    そして超至近距離からそれを発射した。
    流石の三浦もこの距離では回避は叶わない。
    「がぁぁっ!……よくもっ!」
    勇ましく再び接近する王蛇だが、ゾルダがキャノンを連射するので、やむなしと見てか後退を始めた。
    ゾルダは逃がすまじとキャノンを打ち続ける。
    と、その時俺の体から砂が落ち始めた。
    これ以上の長居は不可能だ。
    二人の戦う様子を見ながら、俺はミラーワールドを後にした。
  45. 45 : : 2014/08/13(水) 10:49:45
    その翌日。
    学校で三浦も平塚の姿も確認したので、昨日決着がつくことはなかったらしい。
    そのことにがっかりしている自分に気付き、人の死を願うようになってしまったことに嫌気が差す。
    それでも俺は、もはや立ち止まることはできない。
    そんな段階は、とうの昔に過ぎ去ってしまったのだ。
  46. 46 : : 2014/08/13(水) 10:50:00
    「うーっす」
    「こんにちは、比企谷君」
    「やっはろー!」
    「雪ノ下、お前選挙の届け出いつするんだ?」
    「それならもうすませたわ」
    「応援演説はあたしがやるんだよ!」
    「……不安しかわかないんだが……」
    「どういう意味だし!」
    「それでも目が腐った男にやらせるよりは幾分ましでしょう?」
    「そうそう!って、ゆきのんもなんか馬鹿にしてない!?」
    「つーかお前、俺ら以外に友達いないのかよ……」
    「わかりきったことを聞かないでほしいわね」
    「何でちょっと誇らしげに言うんだよ……」
    「まぁそれはそれとして、これで一色さんの問題は解決ね」
    「ほえ?一色さんって誰?」
    「え……?」
    「あー……雪ノ下、ちょっといいか?」
    「……いいえ、もう結構よ。今ので、わかったから」
    「……そうか」
    「ねぇねぇ!一色さんって誰?あたし気になるんだけど」
    「小説の登場人物よ」
    「へぇー、二人ともおんなじ本読んでるんだ。あ、あたしにも読ませてよ!」
    「由比ケ浜さんに文字は早すぎると思うのだけど……」
    「そうそう、まずは絵本から始めたらどうだ?あれなら文字読めなくてもなんとなくわかるからな」
    「って、二人ともあたしのこと馬鹿にしすぎっ!もぉっ!」

    こうして日々は過ぎ、選挙当日がやってきた。
    「まぁ、お前に言う必要もないだろうが、あんま気張らずに頑張れ」
    「ふふ、わかっているわ。それよりあなたこそ覚悟しておくことね。これからは生徒会役員として働いてもらうんだから」
    「はぁ……わかってるっつーの……あれ?由比ケ浜は?」
    「緊張を解いてくると言って少し外に出ていったわ」
    「あいつが緊張してどうすんだよ……まぁお前以外立候補者いないし大丈夫だろうな」
    「それは私に相手がいたら負けたかもしれないということかしら?」
    「別にそういう意味じゃねーけど……相変わらずすごい自信だな」
    「当然でしょう、それに見合う能力は持っているつもりよ」
    「さいですか……」
    「だからあなたも、もっと自信を持ってもいいと思うのだけど」
    「っ……そいつはどうも」
  47. 47 : : 2014/08/13(水) 10:50:14
    「比企谷……あいつ、雪乃ちゃんと……」
    彼らの会話を立ち聞きしていた男がいた。葉山隼人である。
    彼は雪ノ下雪乃と幼馴染で、以前から彼女に好意を寄せていた。

    「あいつ、英雄である僕を貶すだけではなく……どこまでつけ上がれば気がすむんだ……」
    もう、許せない。今日こそは、あいつを倒す。
    「行け、デストワイルダー」
    「あっれー?隼人じゃーん」
    声をかけてきたのは雪ノ下陽乃だった。こいつは、昔から嫌いだ。
    しかしなぜここにいる?
    「隼人~、比企谷君のと戦おうとしてるでしょ~?」
    なぜ知っているかはもはや驚かない。こいつはそういう奴だ。
    得体が知れず、気味が悪い。
    外見こそ多少雪乃ちゃんに似ているものの、中身はまるで違う。
    「それが、なんですか?」
    「隼人は、比企谷君に勝てると思ってるのかな~?」
    「当然だ、俺があんな奴に負けるはずがない」
    「ふ~ん、じゃぁ、これと戦ってみてよ」
    彼女がそう言うと、鏡の中に一人のライダーが現れた。
    「……比企谷?」
    「正確に言うと、比企谷君の影、だね。彼は、仮面ライダーリュウガ」
    「比企谷の、影……」
    「比企谷君に勝ってるっていうんだったら、影であるリュウガにも勝てるよね?」
    「当然だ、僕は、英雄になる男だ」
    「じゃぁ、リュウガを倒して見せてよ。比企谷君は、その後でもいいでしょ?」
    「……わかった」
    陽乃の言うとおりに動くことは癪だが、比企谷から生まれたものだと言われると、無性に闘争心が湧いた。
    あいつを倒す前菜と思えば戦うことは決して悪くはない。
    「変身!」
  48. 48 : : 2014/08/13(水) 10:50:31
    「俺はお前のコマじゃないんだがな」
    「わかってるって。これが終わったらもう何も言わないからさ。ライダーを倒せばあなただって強くなれるし、比企谷君はあなたの手で殺したいんじゃないの?」
    「ふん……まぁいいだろう。今回まではお前の口車に乗せられてやる」
    「ありがとね~」

    俺がミラーワールドに入って少しして、どこからともなくリュウガが現れた。
    「こいつが、比企谷の、影、か」
    「御託はいい。始めるぞっ!」
    「Sword Vent」
    「Strike Vent」
    激しい音を立てて爪と剣がぶつかる。
    なんて重い一撃なんだっ!
    「オラァっ!」
    敵の剣が俺の胸を切り裂く。
    こいつは、気が抜けない。
    「Advent」
    「早速モンスターだのみか」
    「Advent」
    互いに契約モンスターを呼び出す。
    だが俺には、必殺のカードがある。
    「Freeze Vent」
    リュウガの黒龍がその動きを止める。
    そして俺とデストワイルダーは前後から爪攻撃を浴びせる。
    「面白い技を使うじゃないか」
    「Strike Vent」
    リュウガは右手に剣を、左手に龍頭型の武器を装着した。
    「はぁあっ!」
    後方のデストワイルダーを黒炎で牽制しながら、俺に剣で切りかかる。
    理にかなった攻撃だ。
    「お前なんかにっ!」
    だが、数の上でこちらが優位であることには変わりない。
    両手の爪を使って攻撃を仕掛けるものの、なかなか敵にダメージを与えられない。
    「デストワイルダー!俺と同時に前から攻めろ!」
    「グルッ!」
    俺の指示を受けたデストワイルダーがこちらに回り込む。
    「行くぞっ!」
    「甘いんだよっ!」
    俺とデストワイルダーが腕を振り上げたその一瞬を狙い、リュウガは剣を横薙ぎに振るう。
    「くぉっ!」
    「ガァァッ!」
    「この程度か?」
    「なめるなっ!」
    再び攻撃を仕掛けるが、ジャンプして買わされる。
    「もう、終わりにしよう」
    「Survive」
    リュウガの体をどす黒い炎が包む。
    それと同時、凍結していた黒龍も黒炎をまとって再び動き出す。
    「お前じゃ、あいつを倒すなんて無理だったな」
    「Final Vent」
    「どこまで俺をっ……」
    「Final Vent」
    リュウガの周りを黒竜が舞う。
    デストワイルダーは技を発動させる為、リュウガに襲いかかる。
    が、黒龍にはじかれてしまう。
    「消えろぉぉっっ!」
    バイク型になった龍に飛び乗り、リュウガがこちらに向かってくる。
    回避しようとするが、黒炎をひっきりなしに俺の周りに吐き出し、それもかなわない。
    「うっ、うわぁぁぁぁっっっ!」
    「はっ、他愛もない。次はお前だ、仮面ライダー龍騎」
  49. 49 : : 2014/08/22(金) 23:12:50
    雪ノ下雪乃が壇上に上る。
    ただそれだけで、生徒達はパタリと雑談をやめた。
    「……まず、私はお礼が言いたいです。
    今こうしてここに立っているのは、私の大切な人達のおかげだから。
    私は、人とのかかわりを軽んじ、鬱陶しく思っていました。
    そんなことから私が得られるものは何もない、と。
    だけどそれは、大きな間違いでした。リスクも何も顧みず、いつも私の味方で居てくれた人、周囲からどれだけ嫌われようと自分の信念を貫き通す人、自分の立場など考えず、私達の傍にいてくれた人……
    そんな素敵な人達とのかかわりの中で、私の考えは変わりました」
    雪ノ下……。
    「私はそんな人たちが、すごしやすい環境を作りたい。周囲に合わせる者達が集団で力を持つ、そうではなく、正しい道を歩む人が後ろ指を指されない、そんな当たり前で正しい場所を。
    だから……」
    一呼吸おいて、彼女は告げる。
    「人ごと変えて見せます、この世界を」
    この上なく美しい笑顔で、彼女はそう言ってのけた。
    他の誰かが言ったならば、それは笑われてしかるべきセリフだったのだろう。
    だが、それをバカにできる者は誰もいなかった。
    彼女ならば、それができるかもしれない、その場にいる者全員がそう思ったのである。
    彼女はもう一度笑顔を浮かべて礼をすると、悠然と壇上を下りた。
    誰からともなく拍手が沸き起こる。
    そしてその音はどんどん大きくなっていく。
  50. 50 : : 2014/08/22(金) 23:13:02
    「おつかれさん」
    奉仕部部室で、俺は雪ノ下に声をかけた。
    「あら、比企谷君。今日も来てしまったのね」
    「何?俺が来たら何か問題でもあるの?」
    「よくわかったわね、その通りよ」
    「そんなことより、ゆきのんのスピーチすごかったよね!」
    「その後のお前の演説は目も当てられなかったがな」
    「あぅ……」
    雪ノ下の完璧な演説の後に壇上に立った彼女は、右手と右足が出るほどの緊張ぶりで、生徒達の笑いを買っていた。
    しかしそれは、悪意が込められたものではなく、微笑ましいものだった。
    「だって、友達のことだから、ちゃんとしたいって思うじゃん……自分のことだったら失敗してもいいけどさ……」
    まぁ、その結果大失敗したんですけどね。
    「あ、ヒッキー失礼なこと考えてるでしょ!」
    「失礼っていうか、事実だな。その結果お前がミスった、っていう」
    「あぅぅ……」
    「まぁ、大丈夫だろ」
    「そうよ、確かに由比ケ浜さんの演説はひどかったけど……」
    「ゆ、ゆきのぉん……ごめんなさい」
    「でも、私は好きだったわ」
    「うぅっ……あたしもゆきのんのこと大好き!」
    「私は演説の話をしているのだけど……」
    「ゆっきのーん!」
    しかし由比ケ浜は聞く耳持たない。
    「まったく……敵わないわね」
    その時、校内放送前のベルが鳴った。
    「本日行われた生徒会長選挙の結果をお伝えします。信任に投票することを選んだ人が過半数を超えたので、雪ノ下雪乃さんが新たな生徒会長となります」
    その放送が終わると、校内のあちこちから拍手が起こった。
    「おめでとさん」
    「やったねゆきのん!」
    「ええ、これからもよろしくね、由比ケ浜さん」
    あれれ―?僕は―?
    「お茶汲み、よろしくね」
    んのアマ……。
    「何?俺の仕事はお茶汲みで確定なの?」
    案外楽そうだな。お茶汲み万歳!
  51. 51 : : 2014/08/29(金) 23:25:05
    「あはは、おめでとー!」
    笑顔が満ちた教室に、絶対に聞きたくない魔王の声がこだまする。
    「雪ノ下……陽乃ぉっ!」
    「何をしに来たのかしら……」
    「もぉ、そんな怖い顔しないでよー。大事なお知らせをしに来たんだよ」
    そう言うと陽乃は、ちらりと由比ケ浜の方を見る。
    「由比ケ浜さん……すこし、席をはずしてくれないかしら」
    「ゆきのん……」
    由比ケ浜は心配そうな表情で雪ノ下の顔を覗き込む。
    「何も心配することはないわ。だから……ね?」
    「わかった。ゆきのんがそう言うなら……ヒッキー、ゆきのんのこと、守ってあげてね」
    「……ああ、任せろ」
    俺がそう言うと、陽乃はプッと笑った。
    「あはは、君がそんなこと言うなんてねぇ。お姉さん驚きだよ」
    「お前が俺の何を知ってるんだ?」
    「知ってるよ?私はなんでも知ってるから」
    彼女がそう言うと冗談に聞こえないから性質が悪い。
    由比ケ浜が教室を出たのを確認すると、陽乃は再び口を開いた。
    「ライダーバトルは長引きすぎた……これから一週間以内に終わらせる」
    「んなっ……」
    「っ……由比ケ浜さんは、どうなるの!」
    柄にもなく雪ノ下が声を荒げる。
    「もちろん、エネルギー供給が無くなるから死んじゃうよ?」
    何でもないことのように、さらりと言ってのけた。
    「テメェ……」
    「勘違いしないでね?わたしだって、好きで終わらせるわけじゃない。もっともっと楽しみたいけどさ、色々と限界もあるんだよね」
    「限界……だと?」
    「うん、前兆はもう現れてるよね?無数に発生しているモンスター。あれが成長して、世界を覆い尽くす。そうなれば、もうわたしの……誰の手にも負えなくなる」
    俺達は黙って彼女の言葉を聞いていた。
    「まぁ、そういうことだから。あと残ってるライダーは、あなた達と私と、リュウガ、ゾルダ、王蛇の六人だね。めぐりと、他の世界のライダーはカウントしないから。それじゃぁね」
    彼女はそう言い残し、あっという間に去っていった。
    「……比企谷君」
    「ああ、わかってる。……やるしかない」
  52. 52 : : 2014/08/29(金) 23:25:27
    由比ケ浜はすでに帰っていたので、珍しく俺達は二人で下校することになった。
    「あまり近くを歩かないでくれる?恋人にでもなったつもりかしら?」
    「俺がお前と付き合うことなんて絶対ないから安心しろよ」
    「……」
    そう言うと雪ノ下は黙ってしまった。
    あれ?俺のことが好きなの?
    「由比ケ浜さんのことは?」
    「は?」
    「彼女のことは、どう思っているの?あなただって、気づいてないわけではないでしょう?」
    「大切な存在……だよ。でも、そういう関係になることはない。俺にも好きな奴くらいいるからな」
    「戸塚君か小町さんのことかしら?」
    「そりゃあの二人は天使だけど。お前でもそんな冗談言うんだな」
    「全く冗談のつもりはないのだけれど」
    「それはそれで心外だな……」
    「あら?外れていたかしら?」
    「あながち間違ってないのが困りどころだよ」
    互いの顔を見て、少し笑ったその瞬間、
    不快な音が頭の中で鳴り響く。
    「またか……」
    鏡の中では、例の白のモンスターがうじゃうじゃと群がっていた。
    「「変身!」」
    「俺は右をやるから左の方を頼む!」
    「わかったわ!」
    「Sword Vent」
    「Trick Vent」
    俺は剣で敵を切り裂き、雪ノ下は分身とともに敵を翻弄する。
    しかし敵は次から次へと湧いてくる。
    「キリがない……」
    「Strike Vent」
    広範囲を攻撃できる炎で敵を焼きつくす。
    「Advent」
    ドラグレッダーも呼んで攻撃を加えるが、まだ数は多い。
    と、その時だ。
    何体かの敵モンスターがその動きを止めた。
    ……何だ?
    「よくわからないけど、今のうちに倒しましょう!」
    「了解!」
    剣で無防備なモンスターを切り裂こうとしたその時、モンスターの体にひびが入り、中から水色の不気味なモンスターが出現した。
    先程までの姿をヤゴだとするなら、今は翼が生えきる前のトンボのようだ。
    「ッッ、速いっ!」
    反応できないほどではないが、先程より明らかに移動速度が上がっている。
    小さく舌打ちをつくと、残りの白モンスター達も動きを止める。
    「こいつらまた……」
    切りかかろうとした俺の剣を、成長したモンスター達が複数で止める。
    「邪魔だっ!」
    が、攻撃が当たらず、なかなか数を減らせない。
    そうこうしているうちに残りも全て成長体へとなってしまった。
    「仕方ない……比企谷君、サバイブよ!」
    俺達が切り札のカードをスキャンしようとしたその時、バイクの音が聞こえてきた。
    その色は黒。
    城廻めぐりが変身するオルタナティブ・ゼロだ。
    その攻撃をまともに食らい、多数のモンスターが爆破する。
    「城廻……なんで」
    「私は、人を守る為にライダーになった。だから……ライダーを守っていい!」
    こいつ……。
    「すまん!恩にきる!こいつらを倒すの手伝ってくれ!」
    「わかった!」
    「二人とも、耳をふさいで!」
    「Nasty Vent」
    言うや否や、雪ノ下は超音波攻撃を放つ。
    「今よ!」
    「「Sword Vent」」
    それぞれ剣を手にした俺達三人は、一斉にきりかかる。
    敵を倒したことによる爆発がひっきりなしに起こる。
    「雪ノ下、決めるぞ!」
    「了解!」
    「「Final Vent」」
    必殺の一撃で、周囲の敵をなぎ払う。
    これで大方つぶしたはずだ。
    その油断がいけなかったのだろう、俺達は戦場に響く死神の足音に気付けなかった。
    「Final Vent」
    俺と雪ノ下がその存在に気がついたのは、後方にいた城廻の叫び声が響いてからだった。
    「ああああぁぁぁあぁぁっっ!」
    俺達が彼女の方を振り返ると同時、その体が爆発した。
    「あ、ああ……城廻……」
  53. 53 : : 2014/08/29(金) 23:25:46
    「あなたはっ!!」
    彼女にとどめの一撃を加えたのは、俺に似た姿の闇のライダー、仮面ライダーリュウガであった。
    「さぁ、今日こそ決着をつけようぜ」
    「お前っっ……よくもっ!」
    「Survive」
    サバイブのカードを発動すると同時、俺はリュウガにきりかかる。
    「Survive」
    相手も闇のサバイブのカードを使って姿を変える。
    「「Sword Vent」」
    全く同じ形状の武器が激突する。
    だが、押されていくのは俺の方だった。
    「くぅっ!」
    「その体、俺によこせっ!」
    リュウガの刃が俺の胸を思い切り切りつけた。
    「ぐぉっ!」
    吹き飛ばされたのを利用して一端距離を取ろうとするが、敵はそれを許さない。
    ダッシュで追撃を仕掛けようと向かってくる。
    「Sword Vent」
    その攻撃を止めたのは雪ノ下だった。
    「比企谷君!大丈夫!?」
    「ああ、すまない。助かった。だが……こいつは俺一人でやる!」
    悪いと思いながらも雪ノ下の体を押しのけて、再び俺は剣を振り上げる。
    「こいつは俺の分身……なら、俺の力だけで倒してみせる!」
    「お前に俺は倒せない、俺が最強のライダーだ!」
    またも俺達の剣は鍔ぜり合う。
    雪ノ下は少し不満そうな顔をしながらも、(仮面の上からだが、雰囲気でなんとなくわかる)俺の言葉を聞きいれて距離を取ったところで立っている。
    「いいのか?あいつの力を借りなくて」
    「同じこと何回も言わせんな……俺がやるって言ってんだろ!」
    俺の刃の切っ先が、わずかだがリュウガの体をかすめる。
    「面倒くさいなぁ、我ながら!」
    その攻撃にひるむことなくリュウガが繰り出した攻撃が俺の右腕に直撃した。
    「お前なんか、俺じゃない!」
    剣を握っていない左手のパンチがリュウガの腹に命中する。
    「分身って言ったのはテメェだろうが!」
    リュウガが突如放った飛び回し蹴りが俺の脳を揺らす。
    「俺は変わった!」
    「人の本質は変わらないってのが、テメェの持論じゃねぇのかよ!」
    腹に思い切りキックを喰らった俺は、地面に倒れこんでしまう。
    「変わっただと?周囲に迎合することを覚えただけだろうが!成長した?辛い現実を知った上での諦観がか!?笑わせんじゃねぇぞ!」
    ゲームなどでは、倒れ込んだ敵への攻撃はできないが、リュウガは容赦なく追撃を行う。
    「比企谷君!」
    「来るなぁっ!」
    「お友達に助けてもらわねぇのかよ、ハハハハっ!テメェは、弱いから仲間とつるんでるんだろ?だったらこんな時にこそ使わないと意味ねぇぞ!」
    刃が振り下ろされる。
    頭を切り裂くその攻撃を、俺はすんでのところで止めた。
    「あ?」
    「そうさ、俺もずっとそう思ってた。教室の中で、まるで威嚇のように大声でくだらない話をしてる奴らのこと、なんてバカなんだろうと思ってた。『みんな』の輪から出ない為に自分を殺してる奴なんて、生きてる意味がない、『友達だから』なんて言葉をまるで魔法の言葉の様に使って好き放題ふるまう奴には殺意すら覚えてたよ。今でも、その思いは変わらない」
    「そうだろうが!だったら……」
    「でも!」
    「ああ?」
    「でも、だからこそ、俺は本物がほしかったんだよ。そんな偽物だらけの世界の中で、最高に輝く本物を」
    「……」
    「そして、やっとそれを手に入れた。……だからっ!」
    俺は刃を押し返し、大地に立つ。
    「だから俺は、負けられないんだよ」
    「ハ、ハハハハハ、あーああ……呆れて物も言えねぇ。だったら、その大事なもん抱えて死んじまえ!」
    「Final Vent」
    リュウガの周りをダークランザ―が舞う。
    「Final Vent」
    そして俺は、ドラグランザーとともに高く跳び上がる。
    俺とリュウガが放とうとしている技は、互いにサバイブ前のファイナルベントだ。
    それがなぜ今サバイブ態で発動するのかは分からない。
    だが、なぜか俺はこの展開に納得していた。
    「はは、いいじゃねぇか」
    俺は火炎をまとい上から、漆黒の闇をまとったリュウガが下から向かってくる。
    「「ウオォォォォォォッッッ!!」」
    今までで最大規模の爆発が、俺達を包んだ。
  54. 54 : : 2014/08/29(金) 23:26:14
    Оpen Your Eyes For The Next BOTTI!
    最終回予告!
    三浦「お前だけは……絶対に殺す!」

    ―あなたの寿命は、もう……-
    平塚「それでも、私はあいつと決着つけてやんなきゃって、思うんだよな」

    「「「キャァァァァァッ!!」」」
    川崎「おいそこのモンスター、今私を笑ったな?」
    川崎(大志)「いいなぁ、あのモンスター達、あんなに仲間がいて」
    ―チェンジ!キック(パンチ)ホッパー!-

    火野映司「こんな数のモンスター……あいつと一緒に戦った時以来か……?
         大丈夫!明日のパンツさえあればね!」
    ―タカ!クジャク!コンドル! タ~ジャ~ドル~!-

    陽乃「さぁ、これで終わりだよ」
    「Final Vent」
    八幡「雪ノ下ぁぁぁっっ!」

    雪乃「今の私は……龍騎とナイトで……仮面ライダー、ドラゴンナイト!」
    「「Survive」」

    ???「叶えたい、願いは……」

    戦わなければ生き残れない!

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kusutti

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