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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

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進撃の調査劇団~オペラ座の怪人~

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  1. 1 : : 2014/06/08(日) 11:48:27
    こんにちは。執筆を始めさせていただきます。
    今回のオペラ座の怪人について、ご存知無い方もいらっしゃるかもしれませんので
    数珠繋ぎの解釈を含みますが、説明させていただきます。

    オペラ座の地下に住みつくファントムは、顔は醜くただれ、誰からも愛されることはなかった。

    そんな彼は、以前から密かに歌の稽古をつけていた女優、クリスティーヌに恋をし、彼女に脚光を浴びさせるため、暗躍する。

    クリスティーヌの心は、温かく、まっすぐ誠実に愛を示す恋人、ラウルと、永遠に明けない夜の闇の如く、自分を独占しようとする怪人

    、ファントムとの間で、揺れ動く。

    最後にファントムは、ラウルの命と引き替えに、クリスティーヌに結婚を迫るが、クリスティーヌに

    「醜いのは、あなたの顔ではなく、歪んだあなたの心だ。」

    と諭され、その醜い自分の顔に、キスを受けたファントムは、

    「自分のことは忘れて、2人で逃げろ。」

    と、クリスティーヌとラウルを逃がし、自分は1人、暗い地下へと消えた。

    その後、彼を見た者は、誰もいなかった。

    数珠繋ぎなりの解釈なので、“違うだろ!”と思う方もいらっしゃるかと思いますが、お許しください。

    今回は、進撃キャストで、このオペラ座の怪人を演じてみます。…どうなることやら(^_^;)

    * エルハン&リヴァハン

    * 長編

    *今までの劇団シリーズとは、ちょっと違った雰囲気

    …以上でも良い、という方は、どうぞ、ご入場ください…
  2. 6 : : 2014/06/08(日) 12:21:14
    【開演、30分前 演者控え室にて】

    ーリヴァイ[as ファントム]

    また始まった。下らない戯れ事。

    一番腹が立つのは、それに付き合い、流されている自分。

    彼の目的は、こんなことじゃない。

    巨人を一匹でも多く殺すこと。自分が生き残るために。

    これ以上、自分の背に、背負わせないために。

    彼は、仮面を手にとった。虚空に刻まれたその瞳からは、何も読みとれない。

    これから自分は、これを纏うのだ。

    ファントム。

    愛を知らずに、がむしゃらに追い求めた、オペラ座の怪人…。

    ファントムと自分には、決定的な違いがあった。

    ファントムは、人を殺めてまで、愛を求めた。

    自分は…自らの手を血で染めてもなお、愛を、拒んだ…。
  3. 7 : : 2014/06/08(日) 12:40:58
    【開演、20分前、舞台袖にて】

    ーハンジ.ゾエ[as クリスティーヌ.ダーエ]

    地味な衣装を身に纏ったハンジは、華やかな衣装に身を包み、不機嫌そうな顔をする共演者に、声をかけた。

    「…最初私は、ただのコーラスガールの1人なんだね。」

    ーリコ.ブレチェンスカ[as カルロッタ]

    「私は主役の座を奪われる、歌姫役か…初めての舞台でこの役って、気に食わないね…」

    リコの言葉に、ハンジは親しげに彼女の肩を抱き、

    「しばらくは、君が主役なんだからさ、頑張りなよ。」

    リコは、ふうとため息をつき、ハンジの手を逃れ、歩き去っていった。

    前回の公演を視察したダリス.ザックレーは、3兵団合同での公演を提案した。むろん、総統の提案に、意義を唱える者などいなかった。

    この公演で得た利益は、壁内で暮らす市民、とくに貧困層へと寄付される。

    ーエルヴィン.スミス[as ラウル子爵]

    「…やあ、ハンジ。」

    「ああ、エルヴィン。なあに、その格好。ハマりすぎなんだけど。」

    ハンジの言葉に、エルヴィンは照れくさそうに首をさすった。

    「…まさか、俺が貴族の役をやるとはな。少しは、内地の貴族の気分が味わえるかな。」

    「今後の活動の参考になるといいね。」

    「…そうだな。」

    話の筋書き上、恋人同士になると分かっていた2人は、目を合わせると、はにかんだ笑みを交わした。エルヴィンが口を開く。

    「…リヴァイが、ファントムだそうだな。」

    リヴァイ。その名前に、ハンジは、目の前にいる恋人役の男から、目をそらす。

    「…うん。」

    「散々文句を言っていたが…ちゃんとやるだろうな、あいつは。」

    表情を曇らせるハンジを尻目に、エルヴィンは明るい口調で話続ける。
  4. 10 : : 2014/06/08(日) 13:50:06
    「最終的には、クリスティーヌはラウルと結ばれるようだが…」

    エルヴィンは言葉を切った。ハンジは、彼の顔を見る。

    「果たしてリヴァイは、みすみすクリスティーヌを手放してくれるかな?」

    「…そんな…わざわざ話の流れを変えたりしないよ…」

    言葉では否定してみたものの、ハンジの心は揺れていた。

    自分は何を、何を期待しているというのだろう。

    「…俺は…」

    エルヴィンの顔が、真剣な表情へと変わる。ハンジは息をのんだ。

    「…俺は、リヴァイがどう出ようと、クリスティーヌを手放す気はない。」

    ハンジは顔が熱くなるのを感じた。自分が赤面する必要は無いのだ。これは、お芝居の話なのだから。

    「…さあ、そろそろ開演だ。」

    エルヴィンの声かけに、ハンジは我にかえる。

    「うっ…うん、頑張ろうね、エルヴィン。」

    「…ああ。」

    エルヴィンは静かに、こたえた。
  5. 13 : : 2014/06/08(日) 16:49:07
    【開演】

    アナウンス 「ただ今より、3兵団兵士による、合同演劇、オペラ座の怪人を上演いたします…」

    開演ブザーが鳴り、幕が上がる…。

    ーナイル.ドーク [as オペラ座支配人、フィルマン]

    「…オペラ座の怪人と名乗る人物から、手紙が届いた。」

    ードット.ピクシス [as オペラ座支配人、アンドレ]

    「…わしは、舞台に立つというのは、初めてではないのじゃが、ドキドキするのぅ。」

    ピクシスの言葉に、ナイルは深々とため息をついた。もうすでに、幕は上がり、大勢の観客が注目している。

    さすが生来の変人、と称賛すべきか…。

    「…ピクシス司令、もう幕が上がっています。」

    「そうかそうか。なになに、手紙が届いたって?」

    「…はい…給料の支払いと…舞台の掃除をしっかりしておけ、と。」

    ピクシスは、あごを撫でながら、にやりと笑った。

    「ファントム役は、リヴァイか。」

    「…でしょうな…」

    舞台の上に立つ2人の男は、ため息をついた。ふと、思い出したように、ピクシスが口を開く。

    「…確か本来なら、怪人のために、特等席を空けておく、という要求じゃなかったかのぅ。」

    ピクシスの言葉に、ナイルは再び手紙に目を通す。

    「…追伸が書いてある。」

    ナイルは、読み上げる。

    「…ちなみに俺は、クソメガネの舞台なんざ興味はねぇ。席は好きにしろ…だそうだ。」

    その言葉を聞き、ピクシスは声を上げて笑った。

    「…それでいて、給料の支払いはちゃっかり要求してくるとは、さすが人類最強の兵士。あなどれんのぅ。」

    心底楽しそうな表情のピクシスとは裏腹に、舞台の進行の遅れを危惧したナイルは、声を上げる。

    「…とにかく、次のシーンへ移ろう!」
  6. 18 : : 2014/06/08(日) 21:42:08
    次のシーンに移り、舞台の上では、新作オペラ{ハンニバル}の舞台稽古になった。

    「歌なんて、得意じゃないけど…」

    そう前置きし、歌い始めたリコの歌声は、観客や共演者を魅了するのに、充分な美しさであった。

    「…素晴らしいのぅ、リコよ。」

    笑顔で拍手をし、近づくピクシス。本来なら、笑顔で迎えるところだが、リコは冷ややかな目を彼に向ける。

    「…司令、今の私はカルロッタです…それと…」

    リコは突然、ピクシスの手を引き、舞台袖へと押しやった。

    「…危険です…」

    その言葉と同時に、先程までリコとピクシスが立っていた場所に、背景幕が落下する。

    それを確認すると、リコは静かに言った。

    「…それじゃあ、私は退散します…」

    彼女は、舞台袖奥へと消えた。

    「…えっと…カルロッタの代役は…」

    リコの歌声の美しさに聴き入っていたナイルは、我にかえり、声を上げた。

    ーペトラ.ラル [as バレリーナ。クリスティーヌの友人、メグ.ジリー]

    「…えっと…クリスティーヌがいいと思います!」

    上ずった声で、メグ.ジリー役のペトラは、ハンジを前に押しやる。

    しかし、ハンジは心ここに在らず。ハンジの視線は、天井裏に向けられたままだった。

    背景幕は、自然に落ちたのではない。彼が仕掛けたのだ。

    ファントム…リヴァイ…。

    ハンジは、天井裏の足組みの上を、黒い影が走り去るのが見えた気がして、必死に捜していた。

    異常なまでに高鳴る胸の鼓動を、抑えることができずにいた。

    「…クリスティーヌ…クリスティーヌ!?」

    ナイルの呼び掛けにも、ハンジは応えない。ナイルは、大きくため息をつくと

    「…ハンジ!!!」

    「…はいっ!?」

    ようやくハンジの目が晴れる。ナイルは続ける。

    「…カルロッタの代役を、クリスティーヌ、君にやってもらう。早く着替えるんだ。」

    「…えっ…はっ…は…」

    ハンジが返事をするより先に、ハンジは衣装係に引きずられ、舞台袖へと消えていった…。

    ペトラは、ハンジを見送ると、ふう、と息をついた。

    ハンジ分隊長、ずっと何を見ていたのかしら…。

    ペトラはふと、ハンジが先程まで見上げていた視線をたどってみた。

    天井裏には、足場が簡単に組まれており、薄暗いなか、だらりと垂らされたロープが数本、静かに揺れ動いていた。

  7. 19 : : 2014/06/08(日) 21:59:17
    マドンナの衣装を身に纏ったハンジは、舞台の中央に立たされ、呆然とした。

    「…さあ、クリスティーヌ、勇気を出して、歌ってごらんなさいよ。」

    ペトラに背中を押されながらも、ハンジは歌えなかった。

    なぜなら…何を歌えばいいか、分からないからである。

    今までの劇団は、台本無しのアドリブだったが、今回は歌のみに関しては、どの場面で歌うのかあらかじめ決められており、各自練習しておくようにと、厳命が出されていた。

    要するにハンジは、歌の説明をされている間も、実験体のソニーやビーンのことを考えており、他の団員が歌の練習をしている間も、ソニーやビーンと戯れて(?)おり、結果、このような事態を招いてしまったのである。

    兵士としての役割を、日々忘れずに任務に励んでいた、といえば、聞こえは良いのだが…。

    とにかく、今は何か歌わなければならない…!

    ハンジは覚悟を決めた。

    「…スウッ…」

    ハンジは息を大きく吸い込み…

    「…ま~…♪」

    ハンジの第一声に続く歌声を、誰もが固唾を飲み、見守った…。

    「…ま~いご~の迷子の子~猫~ちゃん~あ~なた~のお家~はど~こで~すか~♪」

    突然流れ始めた調子っ外れな童謡に、観客はざわめき、ナイルは頭を抱え、ピクシスは腹を抱えて1人、笑いだした…。
  8. 28 : : 2014/06/11(水) 08:29:24
    【公演再開】

    クリスティーヌが代役を務めた舞台は大成功した(…ように丸め込まれた)のだが、ハンジの心は未だ浮わついたままだった。

    「セリフも、歌も忘れちゃうヒロインなんて、おもしろいですね。」

    別室にハンジと2人きりになったペトラは、そう笑いかける。

    「…私、歌って苦手なんだよね。先が思いやられるよ。」

    ため息をつくハンジ。

    「そんな華やかな衣装で、ため息なんかつくもんじゃないですよ。」

    ハンジはふと、顔を上げる。

    「…クリスティーヌは、歌が得意なの?」

    ハンジは知らないとみえる。ペトラは、ゆっくりと説明をはじめる。

    「ええ、とても。音楽の天使に、歌を習っていたそうですよ。」

    「音楽の…天使…そんなの、でてきたっけ?」

    オペラ座の怪人の内容を把握し、音楽の天使の正体を知っているペトラは、口を開きかけたが、すぐにやめた。

    秘密にしておいたほうが、いいのかもしれない。

    …コンコン。

    扉がノックされる。

    「…あ、きっとラウル子爵だわ。私は、退散させてもらいますね。」

    ペトラと入れ替わりに入ってきたのは、ラウル子爵こと、エルヴィンだった。手には、花束を抱えている。

    「…ご苦労だったな、ハンジ。」

    花束を受け取り、ハンジははにかんだ。

    「…クリスティーヌ、でしょ。」

    「まあ、そうなんだが、どうも呼びづらくてな。ハンジと呼んだ方が、調子がでる。」

    ハンジは苦笑した。

    「じゃあ…私もエルヴィンって呼ぶよ。」

    その言葉に、エルヴィンはふと真顔になった。

    「…ああ。構わない。」

    ハンジは、その目が怖かった。その瞳にほだされ、目を閉じれば何をされるのか、分かっていた。

    大勢の観客の目の前でも、彼はためらわないだろう。

    「…ごめん。1人にしてもらえる?」

    やっと出た言葉がこれだった。にもかかわらず、エルヴィンは優しく微笑む。

    「ああ。ゆっくり休むといい。」

    彼の優しさは、常に手の届くところにあった。裏で何を考えているのか分からないにしても、見れば分かる優しさには、安心できた。

    実際、自分は何度も甘えていたのだろう。

    自由の翼たちを束ねることのできる、この大きな背に。

    「…エルヴィン…」

    ハンジが呼び止めると、彼は振り向く。まだ優しい笑顔のままで。

    「…どうした。」

    ハンジは笑う。いたずらっぽく、子憎たらしくみえるように。

    「…ん~ん、何でもないよん♪」

    しかし、彼は気を悪くするでもなく、ハンジの頬にそっと触れた。

    「…綺麗だな、ハンジ。」

    そして彼は去ってゆく。ハンジは、なぜか腹がたった。熱くなる自分の顔が、なぜか憎らしい。

    …そして、彼の優しさも。

    「…ばか。」

    それがハンジの、精一杯の抵抗だった。
  9. 30 : : 2014/06/11(水) 11:14:56
    【公演再開】

    「…おい…」

    不機嫌そうな男の声が、ハンジの耳に届く。

    ハンジには分かった。声の主はファントム。リヴァイであると。

    「…リヴァイ~、どこにいるの~?」

    「…後ろを向いてみろ。」

    リヴァイの言葉に、ハンジはおそるおそる後ろを見た。しかし、あるのは鏡だけだ。

    「…って、いない…じゃ…」

    鏡に映る自分の背後に、仮面の男がいる。

    ハンジは振り向いた。

    「…!?」

    誰もいない。

    「…来い…」

    どうやら声は、鏡の中から聞こえてくるようだった。ハンジは、まるで前から知っていたかのように、鏡に手をかける。

    右にずらすと、スッと開く。鏡の向こうは、無数のローソクに照らされていた。

    そこに、1人の男が立っていた。

    「…ファントム…」

    男は、ハンジに黒い皮の手袋に包まれた手を、差しのべる。ハンジはその手をとる。

    そのまま2人は、夜の闇の世界へと、歩きはじめた。

    舞台のために用意された、音楽が流れはじめる。しかし、もはやハンジの耳にそれは届かない。

    ハンジは虚ろな目をファントムに向けたまま、彼に手を引かれ、歩き続ける。

    ファントムは、時折クリスティーヌに目を向け、徐々に彼女を虜にさせていった。

    そして、小さな船に2人がたどり着いたころ、彼は歌いはじめる。

    「…もう1度、私と歌おう…♪」

    この声。リヴァイだ。

    夢うつつのなか、ハンジは確信した。正直、信じられずにいた。

    髪を後ろでかため、黒い怪人の衣装に身を包み、白く、光輝いてさえみえる仮面を被った彼が、あのリヴァイだなんて…

    「…ファントムオブオペラはそこにいる…♪」

    でも、間違いなくこの声は、リヴァイで…

    「…お前の心の中に…!♪」

    ハンジは、彼に身を委ねた…。

    「…歌え、私の天使…私のために…!♪」
  10. 31 : : 2014/06/11(水) 11:53:25
    船は、ファントムの隠れ家へとたどり着いた。

    ファントムは船を降り、マントを脱ぐ。

    ハンジは船に乗ったまま、初めての恋に身を委ねる従順な少女のように、彼の次の言葉を待った。

    ファントムは再び歌いはじめる。

    「…お前が来たその目的…♪」

    「私に仕え、歌ってほしい…私の音楽のために…♪」

    ファントムはハンジを船から降ろすと、背後から抱きしめ、彼女の身体を愛撫する。

    ハンジは、遊女のように熱を帯びた吐息をもらしながら、目を閉じる。

    「暗黒の世界にひたるのだ…♪」

    「…その時…お前は私のものになる…♪」

    ハンジは、震える唇で彼の名を呼んだ…

    「…ファン…トム…」

    ハンジはそのまま意識を失い、倒れこむところを、彼は、抱き留めた。

    そのままベッドへと運ぶ。

    幼女のようなあどけない寝顔に、彼は、息をついた。

    本当は、クリスティーヌを鏡の中へ連れ込んだ時、始めに歌うのは、ハンジの役目であった。

    …チッ、…完璧に忘れてやがるな、クソメガネ…。

    リヴァイは心の中で悪態をつくと、改めてハンジの寝顔を見た。

    「…んんっ…ん…」

    目を覚ますのではないかと、リヴァイは警戒した。が…

    「…ん~…リヴァ…イ…」

    そう寝言を発すると、目を覚ますことなく、そのまま眠りこけている。

    リヴァイは、何かの衝動にかられ、スッと目を細める。

    そのまま彼女に身を寄せようとするが、ふと、動きを止め、後ろを見る。

    自分たちが、大勢の観客の前にいることに気づく。

    リヴァイは、垂らされた太いロープを引いた。するすると、ベッドに備え付けのカーテンが降りてくる。

    …その後、観客の目には、重なりあう2つの影が、映ったことだろう。
  11. 32 : : 2014/06/11(水) 12:44:47
    「…クリスティーヌ…?」

    メグ.ジリーことペトラは、おそるおそる、先程までハンジと一緒にいた部屋へと入った。

    中には、誰もいない。

    ペトラは、息をつくと

    「ハンジ分隊長~?」

    返事はない。

    ペトラには分かっていた。ハンジは今、彼、ファントムのところにいるのだ。

    オペラ座の怪人の物語が、今後どういう展開を迎えるのかは、ペトラには分かっていた。しかし、これは普通の演劇ではない。台本の無い、調査劇団の演目なのだ。

    今までだって、子やぎたちはおおかみに喰べられずに済んだし、かぐや姫は月に帰らなかったし(代わりにおじいさんが連れていかれた)舌切り雀のつづらの中身は、物語からは想像もつかない“モノ”が入っていた。

    今回のオペラ座の怪人だって、予想もつかない結末が待っている…気がする…。

    ペトラはそれが楽しみでもあり、逆になぜか怖くもあった。

    「…あ…」

    ペトラの予想通り、鏡の前に、黒いリボンの結ばれた、バラの花が落ちていた。ハンジ分隊長は、この中だ。

    ペトラは、鏡の扉を開き、中へと進んだ。

    なぜか、ファントムらが通った時とは異なり、通路は薄暗く、ローソクの無い燭台には蜘蛛の巣がはり、床にはネズミがはい回り、ペトラは思わず、悲鳴を上げた。

    背後に、誰かの手が肩に乗る。

    「…ひっ…!」

    ーナナバ (as マダム.ジリー)

    「…ここからは、進めないよ。」

    知った顔に、ペトラは安堵の表情を浮かべる。

    「…はい…すみませんでした…」

    素直に踵を返すペトラに、ナナバは微笑む。

    「…さ、戻ろうか…」
  12. 33 : : 2014/06/11(水) 13:09:55
    「やっぱり兵長のファントムは痺れるぜ!!!」

    ーオルオ.ボザド (as 大道具係、ブケー)

    今までの演目を舞台袖で見守っていたオルオは、周りのたくさんの共演者に向け、熱のこもった演説を続ける。

    周りの共演者たちは、オルオと同じく、リヴァイの演技に心酔してはいるものの、時折リヴァイの演技の物真似らしきモノを交えるオルオに、やや冷ややかな目を向けていた。

    「…全っっっ然似てないわ、オルオ…」

    その言葉に、オルオは振り向くと、腰に両手をあて、うんざりとした表情をみせるペトラと、その隣でにこやかに微笑む、ナナバの姿をとらえた。

    「…ああ!?ペトラ、お前には、兵長の演技の素晴らしさがわかっ…」

    オルオが言い終える前に、ペトラはオルオに詰め寄る。

    「兵長の演技の素晴らしさを認めるのと、あんたの下手な物真似を認めるのとでは、次元が違いすぎるのよっ!」

    声を荒げるペトラを尻目に、ナナバは、静かにオルオに声をかける。

    「…君の出番は、これからだったね…」

    「…え、…はい。舞台の天井裏で待機して、兵長…いや、ファントムを見かけたら、追いかけろって指示を受けてるっす…」

    オルオの言葉に、ナナバは、うっすらと微笑む。冷たい笑みを。

    「…気をつけるんだよ…」

    「…な、なにをです?」

    「彼は今…」

    ナナバは言葉を切り、下を向く。地下には、ファントムが潜んでいる。

    「…ファントムだからね…」

    オルオは、戸惑った。

    「…はあ…分かってるっす。」

    そう受け答える他、彼にはどう返せば良いか、分からなかった。

    舞台は、オペラ座館踊り場へと移行する。

  13. 34 : : 2014/06/11(水) 13:55:24
    ナイルは、歌いだせずにいた。

    本来なら、このシーンでは、支配人のアンドレとフィルマンが、ファントムからの手紙の内容に憤慨し、歌を歌うのだが、直前に受け取った手紙の内容が、歌とはかけ離れたものだったのである。

    頭を悩ますナイルとは対照的に、ピクシスは大いに喜んだ。

    「…なになに、“あのクソメガネに歌は無理だから、歌はカルロッタに任せろ”…?はは、優しい怪人もいたもんじゃのぅ。」

    ピクシスの言葉に、ナイルは大きくため息をつく。ピクシスは続ける。

    「…それでいて、“俺への給料は、どうなってる?”…ときた!なかなかユーモアのある男だのう、リヴァイも。」

    ナイルは、その場にしゃがみこんだ。そんな彼に、ピクシスは声をかける。

    「…どうじゃナイル、給料を支払ってやっては…」

    ナイルはゆるゆると顔を上げ、

    「…憲兵団からは出しませんよ。彼は、調査兵団の人間です。支払い義務があるのは、エルヴィンです。」

    すると、階段下からエルヴィンが現れる。

    「…俺はきちんと毎月支払っているが…」

    そしてピクシスに、ファントムからの手紙を見せる。

    「…なになに、“とりあえず、クソメガネは返してやる…なあ、エルヴィンよ…どうやらお前も本気のようだな…”?最後の意味が分からんが…」

    眉をひそめるピクシスに、エルヴィンは、優雅に微笑んでみせる。

    「…いえ、他愛のないことですよ…」

    「…あの、指令…」

    現れるなり、カルロッタ役のリコは、戸惑った表情をみせる。

    「…ファントムからの手紙を読んだのですが、“このまま次回の舞台もカルロッタが貴婦人役で、クリスティーヌが小姓の役でいい。あと席は好きにしろ”…どうします、なんか違う展開になりそうですが…」

    本来なら、ファントムはクリスティーヌに貴婦人役を、カルロッタに小姓の役に回るよう、要求するのである。このままでは間接的ではあっても、ファントムの要求通りことを進める形になってしまう。

    「…だからといって、ハンジ…クリスティーヌを主役にしてもなぁ…」

    ナイルは、首をひねる。

    「…次に、森のくまさんでも歌い出したら、それこそ台無しだ。」

    悩める一同の前に、ペトラとナナバが現れる。

    「…これはただの演目ではありません。」

    ペトラの言葉に、一同はペトラに目を向ける。

    「これは、調査劇団の演目なんです。これには、台本がありません。でも今までだって、台本無しで、やってこれました。…観客の皆さんのお陰なのですが…」

    ペトラは、観客席に向かい、微笑む。

    「…どうぞ自由に、物語を動かしてみてください。結果は自ずとみえてくるはずです。」

    ペトラの言葉に真っ先に反応したのは、ピクシスだった。

    「…このままカルロッタを主役にせんか。」

    ピクシスの言葉に、ナイルも大きくうなずいた。

    「そうだな!森のくまさんより、ましだからな。」

    ピクシスも、にやりと笑い、

    「ああ。森のくまさんや、メダカの学校より、ましだからの。」

    ピクシスとナイルは、カルロッタ、リコへと視線を移す。

    リコは、いたずらっぽく笑うと、

    「…私、歌いたくありません…」

    「ええっ!?」

    支配人の2人は、青ざめる。

    「…拒否します…帰らせてもらいます…」

    そう言い残し、リコは出口へと歩き出す。

    「…待て、リコ…!」

    「何が不満なんだ、言ってみろ…」

    慌てて追いかけるナイルとピクシス。リコは、込み上げてくる笑いを、派手な扇子で隠した。

    上官2人をあれほどまでに慌てさせ、自分にご機嫌をとらせる機会など、めったにやってこない。

    …ここは少し、楽しませてもらおう。どうせ、物語でも、カルロッタは機嫌を損ねて、フィルマンとアンドレはご機嫌をとるんだから。

    ナナバは、そっとエルヴィンに歩み寄り、耳打ちした。

    「…ファントムからの伝言だけど…」

    エルヴィンは、さりげなく耳を貸す。

    「…クリスティーヌは渡すつもりは無い、だそうだよ…」

    その言葉に、エルヴィンは静かにうなずいた。

  14. 35 : : 2014/06/11(水) 14:41:24
    なんとかリコのご機嫌とりに成功し、舞台は幕を開けた。

    小姓の衣装に身を包んだハンジは、ぼーっと突っ立っているだけで、リコが歌いながら機転を効かせ、引っ張って回したり、つついたりして、なんとか舞台は進行していった。

    …ここで、舞台の内容から話はずれるが、この調査劇団の劇場には、S席というものが存在した。

    S席では、より舞台全体を見渡すことが出来、臨場感も味わえる。

    最初に“彼”を発見したのも、S席の観客だった。

    観客の1人は、右側に気配を感じ、ふと視線を舞台からそらす。

    すると、劇場の右、天井部分に位置する通路から、黒い影が動くのを発見する。

    観客は驚き、目を見開く。その様子を不審に思った隣の観客が、視線を追う。

    その隣も、そのまた隣も。

    どよめき。それがいつしか、1つの言葉に変化する。

    「…ファントムだ…!」

    舞台の上でも異変に気づき、観客たちの視線を追う。

    「…兵長…」

    ペトラは、ファントムの姿から、リヴァイを見いだす。

    しかし、ハンジは違った。ハンジは、ファントムの姿を一心に見つめ、歓喜にも似た表情で彼を迎え入れた…。

    「…ファントム…」
  15. 36 : : 2014/06/11(水) 15:23:04
    「…チッ、うるせぇな…」

    ファントム、いやリヴァイはそう毒づいた。すぐさま天井裏へと続く扉に入る。

    観客のどよめきが、少し小さくなる。彼はただ、舞台の様子を偵察していただけだった。自分の要求は(給料の支払い以外)通っているのだから。

    …今、クリスティーヌの心は自分に向けられている。先ほど自分に向けられた彼女の視線から、それを読みとるのは、極めて容易なことだった。

    相変わらず単純明快だな…あの…クソメガネは…。

    リヴァイは、自分の心が高揚するのを感じた。別にハンジに、恋心を抱いているわけではなかった。しかし、オペラ座の怪人のように、最終的に打ち砕かれ、孤独に最期を迎えるというのは、癪に障った。

    しかも、相手はエルヴィンだ。負ける気はしない。

    ふと、人の気配を感じた。

    「…あの…兵…長…」

    見れば、自分の直属の部下、オルオだった。

    「…なんだ。」

    彼の威圧感に、圧倒されながらも、オルオはおそるおそる続ける。

    「…あの…とくに理由は無いんですが…兵長をお見かけしたら追いかけろとの指示が…」

    リヴァイは、ゆっくりとオルオと向き合う。

    「…ほう…お前、いつから他のやつの指示をきくようになったんだ…てめぇは、俺の部下だろうが…」

    人類最強の兵士に凄まれ、オルオは怯える。

    「…えっと…それは…その…」

    何も言えないオルオに、リヴァイは胸ぐらを掴み、そのままオルオを後ろへ後ろへと進ませる。

    ちょうど、舞台の真下にくる位置まで。

    「…なぁ、オルオ、知ってるか…」

    「…なっ、なにをです…?」

    リヴァイには、狂気に満ちた光が、その瞳に宿りつつあった。

    オルオは、ナナバに言われた言葉を思い出す。

    『今のリヴァイは…ファントムだから…』

    違う。兵長は兵長だ。ファントムなんかじゃねぇ!

    オルオはそう自分に言い聞かせ、正気を保った。

    リヴァイは、続ける。

    「…この舞台で最初に犠牲になるのは…お前だ。」

    「なっ…!?」

    「大道具係、ブケーは、ファントムに首を絞められて殺害され、首を吊られた状態で舞台に落とされる…」

    リヴァイは、オルオに近づく。オルオは、後ずさる。

    「…それを見た劇場の関係者は、ファントムの警告に背くとどういうことになるのか、思い知ることになる…」

    またリヴァイは、オルオに近づく。オルオ、後ずさる。

    「で、でも兵長…兵長は今回、主役はカルロッタで良いと…兵長は警告なんて、出してないはずです…!」

    オルオの必死の呼び掛けに、リヴァイは静かに彼に近づき

    「…俺は今、兵長じゃない…」

    オルオの首に、そっと手をかける。

    「…俺は…」

    「へい…ちょ…」

    「…ファントムだ…」

    リヴァイは、両手に力を込めた。
  16. 40 : : 2014/06/11(水) 21:23:49
    【公演再開】

    呼吸をするのが苦しくなり、オルオは焦る。

    「へい…ちょう…くっ…くるしい…」

    リヴァイは、すぐに手を放す。

    「…なんてな。冗談だ。」

    その言葉に、オルオは首をさすりながら、苦笑する。

    「じょ…冗談きついっすよ、兵長…」

    リヴァイは、我関せずと、下を見下ろす。

    「…どちらにせよ、お前には落ちてもらう必要があるな…」

    オルオは再び、後ずさった。

    「…安心しろ。ちょっとしたアトラクションだ。」

    「アトラク…ション?」

    リヴァイは今度は、上を見た。

    「オルオ…ロープを用意しろ。」

    ゆくゆくは、そのロープで自分を縛り上げるのだろうと、オルオには予想がついたが、上司の命令には逆らえず、いそいそと、なるべく丈夫そうなロープを探した。

    そして案の定、リヴァイの手によって、オルオは縛り上げられた。

    「…長さは測った。床への衝突は避けられる…はずだ。」

    「…はず、ですか…」

    この高さから落ちて、死にはしないにしても、大ケガは避けられないだろう。

    ふと、リヴァイはオルオの横にしゃがみ、肩を抱く。

    「…すまねぇな…全部、俺のエゴだ…許せよ。」

    そう言い終えると同時に、リヴァイはオルオを突き落とす。

    「兵長…やっぱカッコいいっすぅぅぅぅっ…!」

    オルオは、叫び声と共に、一気に落下していった。
  17. 41 : : 2014/06/11(水) 21:31:54
    舞台上に突如現れた珍客に、観客のみならず、出演者もパニックを起こした。

    オルオはというと…間一髪、床との衝突から免れた。

    「オ…オルオ!?なにやってんの、そんな所で…」

    ハンジが尋ねると、オルオは、泣き笑いの表情を浮かべ

    「いっ…いやあ…ちょっとしたアトラクションっすよ…」

    「アトラクションて…」

    ふと、頭上に人の気配を感じ、即座に上を見上げた。

    マントを翻し、去っていく人影…。

    「…ファントム…」

    ハンジは、いつの間にか、彼の後を追おうとした。

    「…ハンジ…」

    その腕をつかんだのは、エルヴィンだった。

    「…どこへ行くつもりだい?」

    静かに問う。ハンジはうつむいた。

    「…別に…どこへも行かないよ…」

    混乱の最中、舞台は次の場面へ移行した。
  18. 53 : : 2014/06/14(土) 10:23:35
    【公演再開】

    次の場面は、中庭だった。作り物ではあるが、雪がちらついている。

    「…ハンジ…」

    エルヴィンとハンジ、2人きりでの場面だった。

    ハンジは、エルヴィンと目を合わせられずにいる。

    ハンジの手をとり、エルヴィンは続ける。

    「…本当なら、俺はここで歌を歌うんだが…」

    「うっ…」

    ハンジは、気まずそうに顔を歪めた。はっきり言って、どこで何を歌うかの問題以前に、この舞台がミュージカルであること自体、よく分かっていなかったのである。

    このシーンでも、自分は歌うべきだったのかもしれない。

    「もう、歌はいいんだ…」

    エルヴィンは、ハンジを抱き寄せる。

    ハンジには理解できた。彼にこれから、どうされるのかを。

    「あっ…あのさ…」

    ハンジは慌てた。

    「わ、私だって歌えるよ…は、春の小川とか…夕やけこやけとか…歌おうか…!」

    エルヴィンは、黙ってハンジと向き合う。

    「ゆ~やけこ~や~け~でひ~がく…」

    なぜ、童謡ばかりなのかはさておき、ハンジはエルヴィンにキスされていた。

    ハンジは、目を閉じた。それはあたたかく、日頃の不安が吸いとられていく感覚さえ覚えた。

    …もう、後戻りは不可能だった。
  19. 54 : : 2014/06/14(土) 10:45:45
    キスの合間に、ハンジは問う。

    「エルヴィン…私のこと、好きなの?」

    「…さあな。」

    再び唇を合わせる。

    「…ひっど!エルヴィンの女たらし~!」

    エルヴィンは、問う。

    「お前は…リヴァイが好きなのか?」

    その問いに、答えられず、ハンジはエルヴィンにまた求める。

    「…答えられないのか…」

    エルヴィンの追及に、ハンジは答えた。

    「…好きとか嫌いとか…あんま考えたことないかなぁ…」

    その答えに、エルヴィンは笑った。

    「…それが、真実だと願うよ…」

    そして、ハンジの額に、優しく唇を触れさせた。まるで、幼い少女を目の前にするかのように。

    「…さあ、行こう…」

    エルヴィンは、ハンジの手を引く。

    ハンジは、それに従った。

  20. 55 : : 2014/06/14(土) 10:54:04
    …その様子を、舞台セットの銅像の陰から見ていた人物がいる。

    ファントムだ。

    仮面に隠されたその表情から、何も読みとることはできなかった。

    ただ、雪に埋もれた地を見つめている。

    ファントムは、地に降り立った。

    そして何も言わず、舞台袖へと消えた。
  21. 56 : : 2014/06/14(土) 11:08:40
    舞台の世界では、3ヵ月が経過したことになっていた。

    オペラ座ではこの3ヵ月間、何事もなく経過し、関係者は平和を謳歌していた。

    ナイルは、仮面舞踏会のシーンのため、ピクシスと共に仮面の衣装に着替えていた。

    「マッスカレ~ド、マスカレード♪」

    ノリノリのピクシス。その横でため息をつくリコ。普段はピクシスの直属の部下なのである。

    「楽しみだのう、舞踏会!仮面を付けておるから、誰が誰だか分からんが…」

    ピクシスの言葉にリコは

    「…指令は仮面をつけてても、すぐに指令だと分かります。」

    その言葉に、ピクシスは嬉しそうにリコの肩を抱き

    「そうか、そうか。そんなにわしの最高司令官オーラはハンパないか。はっはっは!」

    本当は、1人だけお酒臭いから分かるんだけど。

    リコは心の中でそう言い残し、ピクシスの手から逃れた。

    仮面舞踏会は、異様な盛り上がりをみせていた。
  22. 57 : : 2014/06/14(土) 11:35:20
    そんななか、音楽がピタリと止み、階段を1人の人物が優雅に降りてくる。

    ファントムだった。

    「何を驚いているのですか、皆さん…♪」

    ファントムが、歌いはじめる。ハンジはエルヴィンの横でそれを聴いていた。

    ハンジの首には、指輪のついたネックレスが輝いている。

    話の設定上、クリスティーヌとラウルは婚約したのである。

    恥ずかしいから、つけたくないと駄々をこねるハンジに対し、衣装の1つだからと、周りが説得し、やっとつけたのである。

    エルヴィンはその場を離れ、武器を装備しに向かう。ファントムは、ハンジへと近づいた。

    「…あのさぁ、リヴァイ…」

    ハンジは再び、ファントムをリヴァイと呼ぶことができた。エルヴィンからキスを受けて以来、ハンジはファントムの呪縛から解かれつつあった。

    「…リヴァイ…答えてよ、プリチーメガネのハンジさんだよ…お~い…」

    リヴァイは答えない。仮面舞踏会とあって、周りは皆仮面を身につけているが、リヴァイのそれは、禍々しい邪気を孕んでいた。

    「リヴァイ…ねぇ、いつもみたいに、クソメガネって呼んでよ…」

    リヴァイ、無言。

    「リヴァイ…」

    リヴァイは、ハンジの首に光るネックレスに手をかけた。

    「…クリスティーヌ…お前は…」

    ネックレスが引きちぎられる。

    「俺の…ものだ…」

    「…リヴァイ…」

    そこへ武器を装備したエルヴィンが、リヴァイに切りかかる。舞台はそのまま、地下へと移行した。
  23. 58 : : 2014/06/14(土) 11:50:44
    リヴァイは人類最強の兵士だ。

    エルヴィンも、それなりの実力の持ち主だが、やはりリヴァイに押され気味である。

    しかも周りは鏡で囲まれており、エルヴィンは苦戦した。

    そんななか、エルヴィンの手を引き、その場から離れるよう促す人物がいた。

    マダム.ジリーこと、ナナバである。

    「…今は彼には勝てない。引いて。」

    話の流れに従った展開ではあったが、エルヴィンは納得いかない表情のまま、ナナバに従った。
  24. 59 : : 2014/06/14(土) 12:08:16
    【マダム.ジリーの部屋にて】

    「…リヴァイは…」

    エルヴィンが口を開く。

    「…今のリヴァイは、普通ではないと思うのだが…」

    ナナバは、静かに口を開いた。

    「…私も詳しくは知らないけど…」

    エルヴィンは黙ってナナバの話に耳を傾ける。

    ナナバは気がついた。ここが舞台の上であることに。ナナバはエルヴィンに体を寄せ、耳打ちする。

  25. 63 : : 2014/06/14(土) 15:45:45
    「リヴァイは…オペラ座の怪人ファントムに…自分自身を重ねてる。」

    エルヴィンは、まさか、と笑った。

    「何言ってるんだ。リヴァイは今回たまたまファントム役をやっているだけであって、本当にファントムというわけではない。俺には彼とファントムに共通するところなんて、見つからないがな…」

    君の気のせいだと一笑に付す様子を見せながらも、エルヴィンは考えた。

    人類最強の兵士とよばれ、熱い想いを胸に秘めていることを、自分は理解しているつもりだった。

    一見粗暴で近寄り難く見えても、仲間や部下、とくに彼の直属の部下たちからの(少々常軌を逸した)信頼は厚い。彼は充分愛されているのだろう。

    それに対し、ファントムはその顔の醜さから、母親からも拒絶され、誰からも愛されず地下へ住み着き、クリスティーヌを手に入れるためならば、人殺しにさえ手を染める。

    違う。リヴァイはファントムではない。

    エルヴィンはナナバに笑いかけ、こう締めくくる。

    「それに…リヴァイが手に入れようとしているのは、歌姫クリスティーヌではなく、奇行種ハンジだからな。」

    その言葉に、ナナバはいたずらっぽく笑い

    「そのハンジにキスしてたのは、どこの誰かな。」

    エルヴィンは苦笑した。自分は、ハンジに惚れているのだろうか。あの時自分は、夢中で彼女を求めていたような気がする。

    自分も欲しているのだろうか…他人からの温もりというものを。

    舞台はついに、佳境を迎えていた。
  26. 64 : : 2014/06/14(土) 16:05:39
    【舞台裏にて】

    ーモブリット.バーナー (as ピアンジ)

    「…分隊長…この衣装、派手じゃないですか?」

    自分の格好を鏡で見ながら、不安そうに問うモブリット。そんな部下の表情に、ハンジは笑って

    「よかったね、モブリット。いつも裏方なのに、今日は出演できて。うん、良く似合ってるよ、その衣装。」

    上司の言葉に、モブリットは改めて鏡を見る。

    「…そうかなぁ…」

    実はモブリット演じるピアンジは、これから舞台上で始まる{ドン.ファンの勝利}という作品の主役、ドン.ファンを演じる。

    無論、目立つことがそんなに得意ではないモブリットは、できません!と断ったのだが、周りから、チョイ役だからと丸め込まれ、現在に至る。

    「…ま、お互い頑張ろうよ、モブリット。」

    「はい…分隊長…」

    モブリットの言葉に、ハンジは口を尖らせる。

    「ノン、ノン。私は、クリスティーヌ、だよ。」

    そんな上司の様子に、やる気を出してくれたのは良いものの、一抹の…いや、かなり大きな不安を覚えるモブリットであった。
  27. 65 : : 2014/06/14(土) 16:16:15
    【舞台上にて】

    幕が上がる。

    モブリットの歌声に、周りの出演者や観客は、思わず拍手を送る。真面目な彼は、もちろん練習も充分に行っていたのだが、もともと歌の才能が備わっていたとみえる。

    合間、モブリット扮するピアンジは、幕の裏に入る。

    そして不意に、後頭部に衝撃を受け、モブリットの意識は暗転した…。

    倒れたモブリットの代わりに舞台に上がったのは、ピアンジの衣装に身を包んだ、ファントムであった。
  28. 66 : : 2014/06/14(土) 16:30:02
    真っ先に異変に気づいたのは、ハンジだった。

    常日頃から行動を共にしている副官とリヴァイを見間違うはずがない、と言えば聞こえは良いのだが、悲しいかな、明らかに身長の差が大きかったのである。

    あ…リヴァイじゃん…っていうかモブリットは…?

    戸惑うハンジを尻目に、物語は進行していく(…とはいえ、ハンジはただ立っているだけだが…)。

    「…ねぇねぇ、モブリットはどうしたの?」

    小声で問うハンジ。リヴァイは答えない。ただひたすら物語を進めている。

    「ちょっと、リヴァイってば…」

    袖を引く。リヴァイはそれを、乱暴に振りほどく。

    「…リヴァ…」

    ハンジは意を決し、ファントムの仮面に手をかけた。

    「リヴァイ…」

    剥がされた仮面の下には、調査兵団兵士長、リヴァイの顔があった。リヴァイは、まるで眠りから起こされたように目を見開くと、そのままハンジを抱え、舞台袖へと消える。

    舞台はファントムの隠れ家へと移り変わった。

  29. 68 : : 2014/06/14(土) 16:48:51
    【ファントムの隠れ家にて】

    「…あのさぁ、さっきまでのリヴァイ、なんか変だったよ。」

    ハンジは、ファントムの仮面を握りしめたまま、リヴァイと向き合った。もう彼に、この仮面を付けてほしくはなかった。

    「…お前に変とか言われたくない。」

    少しの間をおいて、リヴァイは静かに答える。

    「どういう意味なのさ、それ。」

    「…てめぇで考えろ…この…」

    ハンジは、次の言葉を待った。

    「…クソメガネ…」

    ハンジは思わず、リヴァイに抱きついた。そして泣いた。

    「うわあぁぁぁん!」

    「チッ…服に鼻水付けてんじゃねぇよ…離れろクソが。」

    「うっ、だって…リヴァイはなんかリヴァイと違うし、エルヴィンとキスしちゃったし、ファントムに指輪取られるし、もう訳分かんないしぃぃぃ…」

    「…なんだお前…」

    リヴァイは、ハンジの顔をつかんだ。

    「…てめぇ、エルヴィンに惚れたんじゃないのか?」

    涙と鼻水で濡れた顔を、赤らめるハンジ。

    「ちっ、ちが…う…///」

    「キスしてただろ。何度も。ありゃディープキs…」

    慌ててリヴァイの口をふさぐハンジ。

    「いっ、言わないでよ…///」

    リヴァイの口をふさいだまま、ハンジはうつむいた。

    「…あれは…話の流れで、つい…」



  30. 70 : : 2014/06/14(土) 16:57:07
    リヴァイは、沈黙したままハンジを見つめている。もう大丈夫と判断したハンジは、手を放す。

    「…てめぇまさか…」

    ハンジの予想に反し、リヴァイは再び口を開く。

    「…俺に惚れてんのか?」

    「…ちっ…」

    ハンジの叫びは…

    「ちっっがぁぁぁぁう!!!!!」

    劇場の外までこだましたという…。
  31. 71 : : 2014/06/14(土) 17:07:20
    「…ハンジ…」

    颯爽と現れたのは、エルヴィンだった。

    「先程までの君の発言をまとめると、俺もリヴァイも、君の中では同等の立場ということになるな。」

    「…あ…あ、ああ、そうかな。」

    先程の絶叫で喉を痛めたハンジは、かすれた声で答える。

    エルヴィンは、リヴァイの横に並んだ。

    「…本来なら、クリスティーヌはラウルを選ぶ。」

    「…あ、そうなの?」

    ハンジのとぼけた返事に、リヴァイはため息をつく。

    「…そうだ。しかしこの舞台は、台本がない。結末は、誰にも分からない…」

    エルヴィンの意図が読めたリヴァイは、エルヴィンを見る。

    「…さあハンジ、俺かリヴァイか、どちらか1人を選ぶんだ。」

    喉をさすりながら、ハンジは驚き目を見開いた。
  32. 72 : : 2014/06/14(土) 17:23:30
    「どちらかって…」

    ハンジは、苦笑いを浮かべた。

    「そんな…選べないよ…」

    ハンジの言葉に、リヴァイは眉を寄せる。

    「…聞いたかエルヴィン。俺たちは、ハンジの中じゃ色恋沙汰の対象に入らねぇらしい。」

    「そうなのか、ハンジ。」

    ハンジは慌てて

    「…そ、そういう意味じゃないよ。2人共、魅力あると思うよ、うん。」

    そんなハンジの言葉に、リヴァイは苛ついた様子でハンジを見る。

    「じゃあさっさと選べ。別に選んだ相手と一生添い遂げる訳じゃないんだ。そう深く考えるな。」

    ハンジは、人差し指を立てると、2人を指さした。

    「ど、ち、ら、に、し、よ、う、か、な…」

    舞台袖から、大きなため息が聞こえた。(観客席からは、笑い声が聞こえた。)

    「か、み、さ、ま、の、い、う、と、お、…り…!」

    ハンジの指は…
  33. 73 : : 2014/06/14(土) 18:10:04
    エルヴィンに止まった。

    「…あ、エルヴィンだ。」

    リヴァイは、少し不機嫌そうに顔を歪める。

    エルヴィンは、にこやかにハンジの手をとる。

    「…では、行こうか、ハンジ…」

    リヴァイは、静かに言う。

    「…ホテルの1室を予約しておいてやるよ。もちろん、ベットは1つだ。」

    「…ああ。頼む。」

    2人の男のやりとりに、ハンジは慌てる。

    「そこ、頼むなよ!何速攻でホテル行こうとしてんのさ!」

    そしてハンジは、静かに隠れ家の奥へと消えようとするリヴァイを見る。

    「…リヴァイ、どこ行くの?」

    「…ファントムはクリスティーヌから拒絶された。お前らはさっさとホテルに行け。」

    ハンジには、リヴァイの、演技とは思えない寂しさが垣間見えた。これは、自分の思い過ごしではないはずた。

    去ってゆくリヴァイの姿に、ファントムの姿が重なる。仮面を纏った、悲しい姿。

    「…さ、行こうかハンジ…」

    ハンジの手を引くエルヴィン。

    「…待って、エルヴィン。」

    ハンジは、リヴァイに駆け寄り、その腕をとる。

    「…どうした。」

    ハンジはそのまま、リヴァイの手を引き、エルヴィンの近くへと連れてゆく。

    「なんだハンジ。結局リヴァイを選ぶのか。」

    そう問うエルヴィンの手を握るハンジ。もう一方は、リヴァイの手を。

    「…やっぱり私、選べない。どっちにも、寂しい思いを、してほしくないから…」

    ハンジは、両方の手を、ぎゅっと握りしめた。

    「…私は、どっちも大好きだよっ!」

    リヴァイとエルヴィンは、顔を見合わせ、息をついた。

    「…で、結局ホテルは3人で行くってか。俺にはそういう趣味はねぇが。」

    「…ホテルから離れろ。」

    リヴァイとハンジの会話を聞いていたエルヴィンは、舞台から立ち去る直前、リヴァイに耳打ちした。

    「…勝負はおあずけだな、リヴァイ。」

    その言葉に、リヴァイはにこやかに笑うハンジを見て、

    「…次は負ける気はしない…」

    これにて、終幕となる。幕が降りてゆき、観客席からは拍手が聞こえる。

    舞台袖からは、すっかり酔っぱらったピクシスが、

    「ブラボー!!!」

    と1人、歓声をあげた。

    舞台上には、ファントムの仮面がぽつりと残された。その虚空を見つめる瞳からは、何も読みとることはできないが、なぜか少し、安らかな表情を浮かべているようにもみえた。
  34. 74 : : 2014/06/14(土) 18:14:00
    ※以上で終了とさせていただきます。
    ご来場いただいた皆様、S席をご購入いただいた皆様、コメントをくださった皆様、ありがとうございました。
    長い時間での鑑賞、お疲れ様でした。
    このあと、また別シリーズを開拓しようかと考えています。もちろん、調査劇団も続きますよ。
    またよろしくお願いします。
  35. 86 : : 2014/10/18(土) 18:04:32
    いい!!
    なにこれ!
    神ss!
  36. 87 : : 2014/10/19(日) 22:21:16
    >>86 リヴァハン応援団さん
    ご来場いただき、ありがとうございました。
    調査劇団シリーズとしては、違った雰囲気をだし、さらに、駐屯兵団のメンバー&ナイル師団長にも出演していただいた、貴重な回でした。
    神SSだなんて…ありがたいお言葉です(//∀//)今夜は良い夢みられそうです♪ありがとうございます(^^)
  37. 88 : : 2018/10/23(火) 22:26:56
    ブラボー!!

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kaku

数珠繋ぎ@引っ越しました

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進撃の調査劇団 シリーズ

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