このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。
この作品はオリジナルキャラクターを含みます。
この作品は執筆を終了しています。
#Final 大好きだよ。 【セレナ最終章】
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                  - 1 : : 2014/04/28(月) 20:20:44
- こんばんは。執筆を始めさせていただきます。
 
 最初に、お詫びを。
 
 このSSの舞台は、進撃の巨人の世界です。
 
 しかし、私は進撃の巨人の世界をもとに、セレナ.ラングレーというオリキャラを登場させていました。
 
 オリキャラの規約に従い、進撃の巨人が舞台でありながらも、未分類カテゴリーからの投稿をさせていただきます。
 
 私はパソコンを使っていませんので、カテゴリーを複数選択することができませんでした。
 
 紛らわしいことをして、すみません。
 
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                  - 2 : : 2014/04/28(月) 20:22:44
- …と思ったら、ちゃんと複数選択されてますね…良かった(^_^;)
 ごめんなさい。ちゃんと分かってなくて…
 ではまず、セレナの説明から、させていただきます。
 
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                  - 3 : : 2014/04/28(月) 20:41:07
- 841年(当時10才)
 セレナは、育ての親から性的暴行を受け、1人、地下街の娼婦として生きてゆくことになります。
 842年(当時11才)
 憲兵に暴行されているところを、エルヴィンによって救われ、自分にセレナ.ラングレーという名前を授けてもらう代わりに、訓練兵と
 なり、調査兵団に志願することを約束します。
 846年(当時15才)
 セレナは無事訓練兵を卒業し、調査兵団所属の看護兵として活動することになります。
 85O年(現在、19才)
 心身共に成長したセレナは、仲間たちの死を乗り越え、エルヴィンへの想いを胸に、そばに寄り添い、生きることを誓います。
 数珠繋ぎがこのキャラクターに込めた思いは、
 人は何度でもかたちを変えて生まれ変わり、生き続けることができる、ということです。
 セレナはエルヴィンと出会う以前、別の名前をもっていました。
 しかしその名は、セレナにとって、汚らわしい思い出の象徴でしかなく
 綺麗な翼を背負ったエルヴィンに、新たに羽ばたくことのできる名前を求めたのです。
 しかしながら、セレナは正式なキャラクターではありません。
 数珠繋ぎがセレナを書くことをやめ、皆さんの記憶から消えてしまえば、セレナはある意味、死んでしまいます。
 数珠繋ぎは、セレナにそんな死に方は、させたくありませんでした。
 …ので、半ば強引に、スレッドを立てさせていただきました。
 これは、数珠繋ぎの完全な自己満足です。どうかどうか、認めていただけたらと思います。
 長文、失礼しました。では、本編をどうぞ…
 
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                  - 4 : : 2014/04/28(月) 20:49:49
- 「団長…また、約束しませんか。」
 私からの…約束…。
 「私は…セレナ.ラングレーを愛し、セレナとして生きていきます。
 だからあなたも…エルヴィン.スミスとして、自分自身を愛し、生きてください。」
 受け入れてくれた…そして…
 「…俺には君の方が、より多くの悲しみを背負っているようにみえるぞ…少し、分けてもらおうか…」
 優しく…口づけしてくれた…。
 初めての…愛している人からのキス…。
 この想い…
 言葉にすると、汚れてしまうくらい
 胸に秘めた想い…
 あなたが…好きです…。
 
- 
                  - 5 : : 2014/04/28(月) 20:56:25
- <医務室にて>
 「あれっ、セレナさんどうしたんですか、にやにやして。」
 後輩看護兵の声に、私(セレナ)は我に帰った。
 考え事をしていた。あの人のことを考えていた。
 顔…にやけていたのだろうか…はずかしいな…。
 「何か良いことでもあったんですか?」
 後輩の探るような表情に、私は慌てて首を振った。
 「えっ…別に何も…」
 自分の顔が熱くなるのが分かる。やば。落ち着け、私。
 「…ほら、回診に行くわよ。」
 後輩が再び口を開く前に、私は立ち上がった。
 早く顔の火照りを直さなきゃ。
 今日もあの人に…たくさん会えますように…。
 いつからだろう。この願いを毎日唱えるようになったのは。
 
- 
                  - 6 : : 2014/04/28(月) 21:15:24
- <会議室にて>※ここからは、エルヴィン視点です
 俺は次回の壁外遠征についての概要を説明すると、周りの部下たちを見回した。
 「…以上の説明で、何か質問はあるか?」
 「はいっ!」
 …案の定、1人の兵士の手が挙がる。
 「…なんだ、ハンジ。」
 「巨人の生け捕りについてだけど…」
 …やはりな。
 「却下だ。」
 「えええ~っ!」
 思っていた通り、第四分隊長ハンジ.ゾエは、大人げなく口を尖らせる。
 「分隊長…もうその話は…」
 おずおずとハンジを宥めるのは、第四分隊副長のモブリット.バーナーだ。
 「うるっっっさい!!!」
 ハンジの一声に、しゅんと引き下がるが、その目はしっかりと彼女を見守っている。
 俺の目から見ても、なかなかの名コンビだと思う。
 2人は、強い絆で結ばれているのだろう。
 強い絆、か…
 俺はいつの間にか、物思いに耽っていた。
 
- 
                  - 7 : : 2014/04/28(月) 21:21:06
- あの時…君が医務室で倒れた時、君が言った。
 また、約束をしよう、と。
 『…今度は君からの約束か。』
 『はい。』
 君は俺の手を強く握り、あたたかいと言って、涙を溢していたな…真っ直ぐに俺を見詰めたままで。
 君の事を愛しいと、改めて思った。こんな感情、捨ててしまうべきかもしれない。
 でも、約束をした。自分自身を愛し、生き続けると。
 『そっ…あの…団長…私涙で顔が汚れ…て…』
 そっと君に口づけした。
 あたたかかった…。
 
- 
                  - 8 : : 2014/04/28(月) 21:31:47
- 「…ヴィン…エルヴィン!?」
 ハンジのバカでかい声に、俺は我に帰った。
 ハンジ分隊長殿の追及がはじまる。
 「私の話、聞いてた!?」
 俺は素直に答えた。
 「…すまないが、もう1度説明してもらえないか。」
 ハンジは、大きく溜め息をつく。
 「どうしちゃったのさ、エルヴィン。な~んか顔がにやけてたよ。」
 「…気持ちの悪いやつめ。」
 そう吐き捨てるのは、兵士長のリヴァイだ。
 冷ややかな目でこちらを見ている。冷ややかなのは、いつものことか。
 「にやけてなど、いない。他に質問が無いのなら、これで会議を終了する。」
 君を愛しむ気持ちを、捨てたわけじゃない。
 だがこの想いは、心の奥底にしまっておかなければならない。
 でなければ調査兵団は…人類は前へ進めない。
 俺も…そして君も、共に人類に心臓を捧げた兵士なのだから。
 会議を終了させ、廊下に出た時には、俺は調査兵団団長の、エルヴィン.スミスへと戻っていた。
 これでいい。これでなければならない。
 人類の…勝利の為に。
 
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                  - 14 : : 2014/04/29(火) 23:06:15
- 私は、エルヴィン団長に書類を届けるため、団長室へと向かっていた。
 団長室へ行くのが楽しみになったのは…いつからだろう。
 あの人に…会えるから。
 団長室の扉を叩く。
 「…誰だ。」
 あの人の声。心が高揚する。
 「セレナです。」
 「…入れ。」
 「失礼します…。」
 扉を潜ると、感じる。
 あの人のにおい。あの人と感じる空気。
 ここは別空間。心臓の鼓動が高鳴る。
 落ち着け、自分。仕事、仕事…。
 「団長。前回の医療回診についての報告書です。」
 私は笑顔を見せない。報告をする時は淡々と話す。
 あの人も、同じだった。
 「うむ…セレナ、以前提出した書類に記入ミスがあった。」
 …うそ…いつもちゃんとチェックしてる筈なのに…。
 「言い訳は聞かない。気を引き締めろ…いいな。」
 「はい。」
 「分かったのならそれでいい。持ち場に戻れ。」
 「はい。」
 私は、団長室を出た。
 目頭が熱くなる…どうして…。
 あの時…あの人と約束を交わしてから、私は強くなんてなれなかった。
 どうしたら、あの人に優しくしてもらえるだろうとか
 どうしたら、あの人とまた、ふれ合うことができるだろうとか
 そんなことばかり、考えるようになってしまった。
 こんな気持ちのままでは、壁外に出れば命は無いだろう。
 もし私が死んだら…貴方はどんな顔をするのだろう…
 …団長…
 
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                  - 15 : : 2014/04/29(火) 23:16:48
- <数日後>
 俺は、わざわざ王都からご足労願った貴族殿を出迎え、本部内を案内していた。
 壁外調査には、常に多額の資金が必要となる。
 スポンサーが必要だ。
 そんな中、調査兵団本部を視察したい、という物好きが現れた。
 視察の理由を尋ねたが
 「私はねぇ、人類の勝利の為に、日々尽力している君たちが、普段どういう生活を送っているのか、興味がありましてねぇ。
 視察の結果次第では、協力を惜しみませんよ…結果次第ではね。」
 タヌキが。腹の中で何を考えているのか分からない。
 政治目的か、それとも…。
 側近を引き連れて通路を練り歩く貴族殿を、調査兵たちは、笑顔で出迎える。
 事前に粗相の無いようにと、指導しておいた結果だ。
 一行はそのまま、医務室方面へと進んでいった。
 
- 
                  - 17 : : 2014/04/30(水) 13:50:56
- 「…ここは医務室です。常時看護兵が待機し、負傷兵の回診や、体調不良者の診察を行っています。
 俺の説明を聞きながら、貴族殿の視線が、1人の看護兵をとらえた。
 セレナだった。
 貴族殿は、いやらしい笑みを浮かべながら、セレナのもとへと歩み寄った。
 「…君も、看護兵なのかい?」
 「はい…セレナ.ラングレーといいます。」
 セレナも事前の指示通り、愛想笑いを浮かべた。
 貴族殿は、ピクリと眉を上げ
 「…君ねぇ…敬礼しないのかい?」
 「えっ?」
 戸惑うセレナに、貴族殿はセレナの手を掴み、腰に手を回す…明らかに、不自然な動きだった。
 「敬礼ってのは…こうだったかな…いや、こうか…」
 そう言いながら、セレナの身体を物色する。
 セレナが、必死に耐えているのが見てとれる。
 貴族殿に失礼の無いようにと、壁外調査の為の大切なスポンサーだからと、俺が事前に指示したからだろう。
 「…そうだ、団長さん…」
 「…はい…」
 タヌキの真の目的が分かった。こいつは…
 「この子で手を打とうじゃないか。」
 「…と、申しますと?」
 こいつは…幼い頃から兵役に就き、汚れを知らない少女たちを品定めするために…。
 「この子は、私が買おう。その代わり、次の壁外調査の費用は、心配しなくていい。これから先も、良い関係を築こうじゃないか。」
 おい、どうした、エルヴィン.スミス。なぜ、イエスと言わない。
 壁外に出なければ、人類は巨人に勝てない。
 首を縦に動かすだけでいい。
 なぜ、動かないんだ、俺の体は…。
 パシッ…!
 気がつくと、俺の手は、タヌキの右手を掴み、捻り上げていた。
 「…あいにくですが…」
 俺は続けた。
 「その子は…我が兵団の大切な戦力です。諦めていただけますか。」
 貴族殿にとっては、予想外の展開だったのだろう。
 その目は驚き、見開かれていた。
 それは、セレナにとっても同じようだった。
 「大切な戦力…ですか…」
 貴族殿は、俺の手を振りほどいた。
 「あなたのその判断…後悔することになりますよ。」
 そう言い残し、側近を連れて、貴族殿は去っていった。
 勿論、資金援助など、望める筈もない。
 セレナはうつむいていた。体が震えている。
 
- 
                  - 18 : : 2014/04/30(水) 13:59:42
- 「…す…」
 微かな声で、何やら訴えている。
 「セレナ…よく聞こえないのだが…」
 セレナは顔を上げた。笑顔を作って。
 「団長…私…平気です…」
 彼女は繰り返した。
 「団長…私…平気です…」
 笑わせるな。
 「それは…本心からそう言っているのか。」
 彼女は黙った。
 「あの男に買われて…あの日俺と交わした約束は、守れるのか、セレナ…」
 「…それは…」
 「資金のことなら、何とでもなる。今や、我が兵団は1人1人が貴重な戦力だ。そう易々と自分の身をなげうつな。」
 彼女はまた、俯いた。
 「…すみません…」
 俺は何も言わず、部屋を出た。扉を閉める。
 もしかしたらその後君は…泣いていたのだろうか…。
 
- 
                  - 19 : : 2014/04/30(水) 14:06:12
- 私は泣いていた。
 あの人が、医務室から遠ざかるのを確認すると、掠れた声を上げて泣いた。
 以前の私は…あの人から…口づけを受ける前の私は、こんなんじゃなかった。
 命令された事を、完璧にこなす。
 何も求めず、ただあの人のそばにいられれば、それでいいと思っていた。
 あの人の顔を見て…寂しいなんて感情は、起こらなかった。
 いやだ。
 たすけて。
 このままだと私このまま…死ん…で…
 どうせ死ぬのなら…あの人の見ているところで死にたい。
 …寂しい…たすけて…誰…か…。
 
- 
                  - 20 : : 2014/04/30(水) 14:21:53
- 「…で、エルヴィン…」
 俺は団長室に向かう途中、ハンジに呼び止められ、非難の目を浴びせられた。
 「さっきの貴族、すごすごと不機嫌そうな顔して帰っていったけど、資金援助の方は、大丈夫なの?」
 俺は足を止めた。ハンジもそれに倣う。
 「…無理だろうな。」
 その言葉に、ハンジの悲鳴にも似た叫びが響く。
 「えええええ~っ!?…そんな呑気なこと言ってる場合じゃないよ!!」
 「お前の言いたい事は百も承知だ。…このまま壁外調査が出来なければ、巨人にも出会えないし、巨人の生け捕りなど、まったくもって不可能だ。」
 俺は言葉を切った。ハンジは俺の言葉を待っている。
 「…しかし、今我々がここで断念すれば、今まで命を賭して戦ってきた兵士たちの思いが…無駄になる。」
 ハンジは俯いた。俺は続ける。
 「それだけは…絶対に…避けなければならない…」
 「じゃあ…どうするの?」
 「俺は今から王都へ出向く。留守の間のことは、頼んだぞ。」
 俺は何か言いたげなハンジを残し、王都へと向かった。
 
- 
                  - 21 : : 2014/04/30(水) 14:38:07
- 私は顔を上げた。
 いつの間にか、眠っていたようだ。
 泣き寝入りなんて…子供みたい。
 しかも今は勤務時間内だ。…もう、自分に嫌気がさしてしょうがない。
 「…起きたか…」
 近くで声がする。ええ、起きました…え…?
 「!?」
 驚き声のする方を見る。
 「リヴァイ…兵士長…。」
 リヴァイ兵士長が、壁にもたれ掛かり、立ったままこちらを見ている。
 「睡眠薬を取りに来たのだが…」
 リヴァイ兵士長の言葉に、私は我に帰る。
 「あっ…はい…すぐに用意します…」
 この人は…たまに眠れなくなるらしい。とくに、壁外調査から戻ったあとの夜は。
 「あいつは…王都へ行ったぞ。」
 リヴァイ兵士長が言う。あいつ…エルヴィン団長のことだろう。
 私は顔を上げることができない。
 「私の…せいです…私が…」
 リヴァイ兵士長が、ため息をつくのが分かる。
 「まあ…詳しい事情は知らんが…」
 私のそばに近づく足音。
 視線の先に、靴のつま先が見える。私は、そっと顔を上げた。
 「…前にも言ったが、もう一度言うぞ。」
 彼はゆっくり続けた。
 「お前には…やるべきことがまだ山程ある。」
 「…はい…」
 「死んでいった…お前の友人たちの為にも…それを忘れるな。」
 死んでいった私の友人…
 オルオ…
 …ペトラ…
 彼らはリヴァイ班だった。巨人殺しの達人集団ともいわれた精鋭部隊の一員だった。
 彼らは死んだ。
 私は生きている。
 「…薬はこれか。」
 リヴァイ兵士長は、立ち尽くす私の手から睡眠薬の入ったビンを取ると、去っていった。
 私は…生きてる…生きて…
 
- 
                  - 22 : : 2014/04/30(水) 14:47:39
- 俺は王都に出向き、様々な手段を使って資金を捻出した。
 …それは到底他人に話せるような内容ではないのだが。
 本部へと戻り、次回の壁外調査についての詳細を話し合う会議を召集することにした。
 だがそれも、また明日からだ。今夜はもう休もう。
 自室に戻り、ベットに入ると、俺は息をついた。
 自分の手を見つめる。
 君があたたかいと言ってくれた、手を。
 自室で1人になるとき、俺は君との約束を思い出す。
 そして、自分に問う。
 約束を果たすのか。果たした時…俺は…君は…調査兵団、そして人類は…。
 この想いを、捨ててしまいたいと、何度も思った。
 その方が楽だろう。
 君を愛する自分を。温もりを求めるエルヴィン.スミスを。
 だが捨てられない。こびりついたままで、離れない。
 どうか君が今…泣いていませんように…。
 
- 
                  - 23 : : 2014/04/30(水) 14:53:10
- <翌日、医務室にて>
 「セレナさん、それ、違いますよ。」
 後輩看護兵の声に、私ははっとした。
 確かに違う。この薬じゃない。
 「…ごめんなさい…」
 「いいです。私、やりますから…」
 後輩看護兵が、私の代わりに、てきぱきと作業をこなしていく。
 「…ごめんなさい…」
 私は後輩に詫びながら、昨日のリヴァイ兵士長の言葉を思い出していた。
 『お前には…やるべきことがまだ山程ある。』
 私の…やるべき…こと…。
 その後、すぐに全兵士に召集がかかった。
 
- 
                  - 24 : : 2014/04/30(水) 15:12:01
- 集まった兵士たちを見回した後、エルヴィン団長は口を開いた。
 「…予定通り、壁外調査が実施されることになった。」
 兵士たちは、団長の次の言葉を待つ。
 「そこで、君たちに相談がある。」
 周りがざわつきはじめる。
 「…前回の壁外調査でも、我々は多くの兵士を失った。しかし、我々は再び前進しなくてはならない。命を落とした兵士たちのためにも…」
 エルヴィン団長は、続ける。
 「索敵班が不足している。できれば、君たちからの立候補で決めたい。…因みにこれは、最前線での索敵だ。言うまでもなく、極めて危険な任務ではあるだろう。」
 …周りの兵士たちのほとんどが、団長から目をそらす。
 「しかし、我々調査兵団…ひいては、人類が前進するのに、重要な役目でもある。引き受けてくれる者は、直接私のところまで申し出てくれ…以上だ。」
 索敵班。
 いち早く巨人を発見し、信煙弾を用いて他の団員たちに知らせる。
 エルヴィン団員が考案した、「長距離索敵陣形」の理論の1つだ。
 「わざわざ立候補する人なんて…いるのかしら。」
 隣に立つ兵士の1人が呟く。
 「…でも、誰かがやらなければ、かえって犠牲を増やすことになるわ。」
 他の兵士が応える。すると、1人の男性兵士が口を開く。…彼の名を、私は知らなかった。
 「そうだな。団長の考案した陣形のおかげで、調査兵団の生存率は飛躍的に向上した。俺たちは死にに行くんじゃない…」
 男性兵士の言葉に、皆が注目しはじめる。私も彼の方を見た。
 「…団長を信じよう。団長は、俺たちを死なせるために壁外へ送ってるんじゃない。自分達は、生きて巨人に打ち勝つ。…俺は、団長を信じる。」
 皆、彼の言葉を黙って聞いていた。
 彼は索敵班に行くのだろうか…
 あの人を…信じて…
 
- 
                  - 25 : : 2014/04/30(水) 15:26:26
- …思っていた通り、索敵班への立候補者は、少なかった。
 全くいなかったわけではない。
 1人、真っ先に申し出てくれた男性兵士がいた。
 俺は、彼に敬意を表し、堅く握手を交わした。
 そして団長室へと歩を進める途中、目の前に彼女が現れた。
 「…あの…」
 「なんだ。」
 俺は、セレナの次の言葉を待った。
 「私を…索敵班へ配属してください。」
 俺は、息をついた。
 「お前は…看護兵としての仕事があるだろう。」
 「後輩が充分にやってくれます。もう、私が監督する必要もありません。」
 俺は、目をそらしてしまいたかった。しかしそれは許されることではない。
 「お前は、前線での実戦経験がほとんど無い。無謀なことは、やめろ。」
 「やらせてください。」
 俺はセレナに数歩近づいた。セレナは、まっすぐに俺を見ている。
 「はっきり言うが、戦闘実績の少ないお前は、足手まといになる。お前は看護に専念しろ。」
 するとなぜか、彼女は笑った。
 「…もっと…頼りになる…優秀な兵士は、たくさんいましたよね…」
 彼女は続けた。寂しげに笑って。
 「彼らの代わりに…私が死ねばよかった…」
 バシッ。
 彼女の頬を打ったのは、俺の手だった。
 
- 
                  - 26 : : 2014/04/30(水) 15:31:03
- <数日後、壁外調査当日>
 「開門始め!!壁外調査を開始する!前進せよ!!!」
 俺の号令と共に、兵士たちは馬を走らせる。
 「長距離索敵陣形!!展開!!」
 我々は前進する。
 人類の勝利を手にするために…。
 
- 
                  - 27 : : 2014/04/30(水) 15:35:59
- 私は馬を走らせた。
 結局私はまた、看護兵としての任務を任され、前線に出ることはなかった。
 壁外に出て、少し経つと、赤の信煙弾が見えた。
 巨人発見の合図だ。
 「赤の信煙弾を…早く!」
 私は隣を走る後輩に指示をだす。
 「はいっ!」
 ふと、あの人に刻まれた右頬の痛みを、感じた。
 「セレナさん!」
 悲鳴にも似た、後輩の叫び声。私は声のする方を見た。
 巨人の姿がすぐ近くに…見えた。
 
- 
                  - 28 : : 2014/04/30(水) 15:41:15
- 俺のもとに、1人の兵士が馬を走らせ、寄ってきた。
 「団長、伝達です!今、後方医療班近くに巨人が出現!索敵班の取りこぼしと思われます!援護班が今、討伐に向かっています!出現した巨人が全部で何体なのかは不明です!!」
 「全て援護班に任せる。極力陣形を乱すな!」
 「了解です!」
 俺の指示を伝えるため、兵士は去っていった。
 医療班…
 俺は思い出していた。ほんの数日前の、あの時を。
 
- 
                  - 29 : : 2014/04/30(水) 15:49:38
- 頬を打たれ、セレナは呆然として頬を押さえ、下を向いた。
 もう、俺の理性は、限界だった。
 『なぜ…どうし…て…』
 彼女の頬を打った手を握りしめ、俺は苦悶の表情を浮かべた。
 『…団長…』
 彼女は言った。
 『…私…団長のこと…』
 『言うな。』
 俺は止めた。彼女の言葉の続きを、俺は想像できた。
 聞いてはいけない気がした。
 『…ごめんなさい…団長…』
 『とにかく、お前は看護兵だ。自分の任務に全力を尽くせ。』
 『はい…』
 俺は再び歩き始めた。
 背中に、彼女の視線を感じた。そして…
 俺が止めた言葉の続きが、俺の背中に向かって、聞こえた気がした。
 
- 
                  - 35 : : 2014/05/01(木) 21:36:58
- 怒号と悲鳴。
 血の臭い。何かが砕ける音。
 私は願った。
 人の死の先に…安らかな場所があることを。
 首から先の無い彼に。
 腰から下を失った彼女に。
 魂の安らぎがあることを。
 「ちくしょう!!何でこんな事に…」
 援護班の1人が、そう叫び声を上げる。
 残る巨人は2体。目で確認する限りでは。
 増援はあるのだろうか。
 私は飛んだ。
 あの人の知らない間に…死にたくはないから。
 「足を狙え!俺がうなじを狙う!!」
 先輩兵士の指示が飛ぶ。
 「はい!」
 私は巨人の踵を削いだ。
 巨人の体が傾きはじめる。その隙を狙い、先輩兵士がうなじを削いだ。
 やった。
 残るは1体だ。
 私はふと、周りを見回した。
 
- 
                  - 36 : : 2014/05/01(木) 21:48:12
- 1人喰われた。
 熟した果実のように、ぼとりと地に落ちる。
 私は彼を知っていた。
 頭痛がすると訴えて、一度医務室に来たことがあった。
 故郷に、母親がいると言っていた。
 ああ…。
 「セレナさん!」
 後輩の声がする。
 見ると、後輩は1人の兵士を懸命に引きずっている。
 「どうしたの!?」
 私の問いに、後輩は悲痛な表情を浮かべ
 「この子…まだ生きてて…ケガしてるんです!」
 見ると…確かに、かすかに息がある。
 「…とにかく、残りの1体を討伐して、荷馬車に乗せましょう…あなたは、この子のそばにいて。」
 「…はい…」
 「しっかりして!負傷兵を助けるのが、看護兵の役目でしょ!?」
 この言葉は、自分自身を奮い立たせる言葉でもあった。
 あの人が言っていた。
 『お前は看護兵だ。自分の任務に全力を尽くせ。』
 私、やります。そしてもう1度、貴方のそばに寄り添いたい。
 今度は泣き顔ではなく…笑顔で口づけを交わしたい。
 あの時交わした約束を…守りたい。
 私は飛んだ。
 幼い頃、あの地下街の窓から見た、純白の鳥を、なぜか思い出した。
 私は飛べる。どんなに翼が汚れようとも。
 私の背には…あの人と同じ、自由の翼があるから。
 
- 
                  - 39 : : 2014/05/03(土) 11:36:57
- とりあえずの安全が確認出来た荒野に、俺たちは拠点をおいた。
 まずは、ガスや刃の補充。
 それと…遺体の身元確認作業を実施した。
 荷馬車の上に、布にくるまれた遺体が次々に乗せられていく。
 ここで感傷的になってはいけない。
 悲しむことはいつでもできる。今は生き残った者たちを、無事に壁の中へ帰すのが先決だ。
 「…以上の者たちは…遺体の回収ができませんでした。」
 側近の兵士の報告に、俺は淡々と応じた。
 「では、行方不明で処理しろ。」
 「はい。」
 そこへ、俺の腕を強く引っ張る人物が現れる。
 リヴァイだった。
 「…どうした、リヴァイ。」
 俺の問いかけにも応じず、リヴァイはぐいぐいと俺をどこかへ連れて行こうとする。
 仕方なく俺は、彼に従う事にした。
 
- 
                  - 40 : : 2014/05/03(土) 11:43:56
- 行き着いた先は…負傷兵が集められたテントだった。
 簡易的に張られたテントの中で、うめき声の他に、すすり泣く声が聞こえる。
 中に入り…俺は胸を締めつけられる感覚におそわれた…が、すぐに平静を取り戻した。
 うなだれ、泣き続ける看護兵の横で…
 セレナ.ラングレーが、横たわっていた。
 血に染まった兵服をまとい…他の負傷兵の治療をしていたのか、包帯を手にしたままだ。
 その包帯も今、血に染まっている。
 リヴァイがささやく。
 「…早くしろ。今なら…まだ息がある。」
 
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                  - 41 : : 2014/05/03(土) 12:03:28
- 俺はセレナのもとへ歩み寄った。
 リヴァイは入り口に残り、俺から目をそらしている。
 俺に気づいた看護兵は、泣きながら俺にすがる。
 「団長…セレナさん…ケガをした兵士と…私を…助けようとして…ここへ来てからも…セレナさん本当は…動いちゃいけないのに…看護を続けて…それで…」
 俺はゆっくりと、看護兵を押し戻した。
 「…セレナのことは俺に任せて、お前も任務に戻れ。」
 「…はい。」
 看護兵は、涙をぬぐい、持ち場へと戻っていった。
 リヴァイはさりげなくテントを出ていく。
 彼なりに、気を遣っているのだろう。
 俺はセレナを見た。かすかに息をしている。
 「セレナ…セレナ…!」
 俺の呼び掛けに、セレナは目を開ける。
 その目を見て…俺は覚悟を決めた。
 もう…時間がない。
 「セレナ…セレナ、聞こえるか?」
 セレナはかすかに頷く。俺はセレナを抱き寄せた。
 これで俺の声も伝わるし、セレナの声も充分に聞き取れる。
 俺の想いを伝えよう。今だけは…いや、今だからこそ、俺は人であることを取り戻さなければならない。
 「セレナ、お前を殴った時、お前俺の背中に向かって…言ったよな?」
 セレナは頷く。
 「お前が伝えた言葉と…俺がお前に伝えたい言葉は、きっと同じだ。今、一緒に言おう…できるか?」
 セレナは頷く。
 俺はセレナの額に、自分の額を押し当てた。
 俺が伝えたい想い…そして、君が俺に伝えたい想い…
 「「…大好きだよ…」」
 ほらな。同じだ。
 俺は微笑んだ。セレナも同じだった。
 …そして…
 
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                  - 42 : : 2014/05/03(土) 12:14:37
- 後から聞いた話だが、その時を迎えた時、1羽の白い鳥が飛び立っていったのを、多くの兵士が見たという。
 その翼は汚れをしらない、純白の美しい翼だったという。
 「セレナ…」
 もう、彼女は応えない。
 「…セレナ…」
 もう、彼女は応えない。
 その死に顔は、穏やかに微笑んでいた。
 俺はその顔に、優しく口づけした。
 彼女は、微笑んだままだった。
 「セ…セレナ…さん…?」
 先程の看護兵が、呆然と立ち尽くしてこちらを見ている。
 「…俺は彼女を運ぶ。お前は持ち場を離れるな。」
 俺は静かに看護兵に指示を出すと、セレナを抱きかかえ、テントを出た。
 背後から、看護兵の泣く声が聞こえた。
 遺体回収場まで彼女を運び、他の遺体と同じように、布にくるんだ。
 彼女の顔に布をかける前に、俺はもう1度、セレナに微笑み返した。
 
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                  - 43 : : 2014/05/03(土) 12:27:50
- 回収場を離れようとする俺の目の前に、リヴァイが立っていた。
 
 俺たちは、言葉を交わすことなく、会話をした。もはやこの場に言葉など、必要なかった。
 
 並べられた幾つもの遺体。今回の犠牲も、少なくなかった。
 
 俺はふと、隣に立つ兵士長の男を見た。
 
 彼はじっと、遺体を見つめている。彼は今、何を思うのだろう。
 
 風が、俺たちの前を通りすぎてゆく。
 
 風が治まるのと同時に、リヴァイ兵士長は、遺体に向かって敬礼した。
 
 兵士長の姿を見、他の兵士たちも次々にそれに倣う。俺も敬礼した。
 
 不意におとずれた。我々調査兵団の心が、1つになろうとしている時が。
 
 我々が背負う翼。
 
 たとえどんなに汚れようとも、自由を信じ羽ばたき続ける自由の翼。
 
 我々は戦う。戦場に散った兵士たちと共に。
 
 彼らの意志を…その背にまとって。
 
 蒼穹を舞え
 
 自由の翼たちよ
 
 ーFin.
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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                  - 44 : : 2014/05/03(土) 12:34:26
- …以上で、終了とさせていただきます。
 では、皆さんにお礼の言葉を。
 セレナを、今まで応援してくださって、本当にありがとうございます。
 セレナは幸せでした。
 数珠繋ぎも、幸せです。
 感謝します。ありがとう。
 では、また別の物語でお会いできることを願って…。
 
- 
                  - 61 : : 2015/02/22(日) 22:56:59
- あの、今まで影から応援してました。
 いつかまたセレナが現れる事を待っています。
 
- 
                  - 62 : : 2015/02/23(月) 07:44:51
- >>61 ニナさん
 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
 彼女を、私自身の手で死なせたにもかかわらず、いまだに頭の中から離れないのが、正直なところです。
 応援していただき、とても嬉しく思います。
 
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