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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

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この作品は執筆を終了しています。

#5 失う【セレナ続き4】

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  1. 1 : : 2014/02/14(金) 21:30:39
    #0生まれる、#1集う、#2いとしむ、#3刻む、#4、想うに続き、6作目の作品を執筆させていただきます。よろしくお願いします。
    いよいよ104期生の登場です。
  2. 2 : : 2014/02/14(金) 21:36:07
    846年、ペトラ、オルオ、セレナの3人は、調査兵団入団を果たし、兵士として飛躍的な成長を遂げる。
    850年、第104期訓練兵たちは、解散式を終える。
    その後のトロスト区防衛戦において、エレン.イェーガーは巨人へと変身を遂げる。
    そしてトロスト区奪還戦にて、巨人化したエレンの活躍により、人類はトロスト区奪還に成功したのである…。
  3. 3 : : 2014/02/14(金) 21:59:12
    ー850年

    「…しかし、夢みたいな話だよな…」

    「うん…巨人を味方にして、領土を奪い返すなんて…」

    ペトラとオルオを含む調査兵団は、先日のトロスト区奪還戦において、壁外調査を終えた後、駐屯兵団工兵部と共に、トロスト区に残された巨人の根絶に成功したのである。

    「えっと…何て名前だっけ、その巨人になった子って…」

    ペトラの問いに、オルオは皮肉そうに笑い、

    「そんなだからお前はその程度なんだよ。俺には分かる、分かるが、それ

    をあえて…」

    「エレン.イェーガー。」

    背後から声がする。セレナだ。

    「あ、セレナ。」 「お前、負傷兵の回診はもういいのか?」

    「ええ。…みんな、エレン.イェーガーの話でもちきりね。」

    調査兵団内では、人間が巨人に変身し、しかも味方になった、という話でもちきりだった。
    なんでも今、エレン.イェーガーは兵法会議にかけられているという。団長や兵士長をはじめとする兵団の上層部も、会議に参加している。

    「会議の結果次第では…処刑もあり得るでしょうね。」

    「やっぱり、巨人は巨人ってこと…なのね。」

    ペトラが言う。

    「私も人伝に聞いただけだけど…自我を失って兵士に向かって拳を振り上

    げたこともあるそうよ。その後自我が戻って岩を運んだみたいだけど。」

    「…どっちにしろ、信用するにはまだ早い、という訳か…」

    セレナの言葉に、オルオは皮肉な笑みを浮かべる。

    「今期卒業の新兵の首席は、歴代でも類の無い逸材だっていうし…どんな

    子が入ってくるか、楽しみね。」

    セレナも微笑する。





  4. 4 : : 2014/02/14(金) 22:15:43
    そんなとき、本部に1人の兵士が駆け込んできた。息が乱れ、口から唾液が漏れているのも構わず、叫ぶ。

    「エ…エレン.イェーガーの調査兵団入団が決定した!」

    「!?」 周囲は驚き、色めき立つ。

    兵士は、その場に崩れ落ちる様に膝をつくが、報告を続ける。

    「リ…リヴァイ兵士長に…監視を任せた…らしい…とっ…特別作戦班を…

    結成するって…」

    セレナは口元に手を触れ、思案する。

    「リヴァイ兵士長をリーダーにして、エレン.イェーガーの監視班を作るつ

    もりなんだわ…まだ、完全に信用を勝ち得たわけではないのね。」

    「特別作戦班かぁ…」

    ペトラは天井を仰ぎ見ながら、

    「誰が選ばれるんだろ。」

    「フッ、安心しろペトラ。お前はまだ俺の域に達していない…。俺が選ば

    れなければお前が選ばれることは…」

    得意気にオルオは話していたが、いつの間にか、ペトラもセレナもいなくなっていた…。



  5. 5 : : 2014/02/14(金) 22:38:23
    翌日、特別作戦班、通称リヴァイ班が結成される。
    リヴァイを筆頭に、エルド.ジン、グンタ.シュルツ、オルオ.ボザド、ペトラ.ラルの5名である。
    リヴァイ班は、エレン.イェーガーと共に、旧調査兵団本部に集結し、共に生活をし、第57回壁外調査に備える事となった。

    さて、ここは本部。セレナは、呆れ顔で目の前の分隊長を見つめていた。ハンジ.ゾエ分隊長である。

    「もぉ~~~、ソニーとビーンが手に入っただけではなくて、さらにエレ

    ンまで…この感動と興奮をっっ誰が抑えることが出来ようかっ、いや、で

    きないっ!」

    ずっとこの調子である。セレナはため息をついた。ハンジの話を気長に聞いていられるのは、セレナか、ハンジ直属の部下、モブリットのみだった。

    「セレナっ!」

    ハンジはセレナの両肩をつかむ。

    「……はい。」

    「君も実験に参加してみない!?」

    ものすごく輝いた目で言うハンジ。セレナは愛想笑いを浮かべ、

    「…そう…ですね…時間が合えば…ぜひ…」

    「そう言うと思ったよっ!約束だよっねっねっねぇっっ!!」

    ハンジはそう言いながら、セレナの肩を揺すりまくる。
    目を回すセレナ。

    「あの…ハンジ分隊長…そろそろ旧本部へ向かわれては…」

    セレナの言葉に、ハンジは手を離し、

    「そうだね!じゃ、行ってくるよ!!」

    と言うと、ハンジは去っていった…。

    (旧…調査兵団本部…私も今度行かなくちゃ…エレン.イェーガーの体調の

    チェック…任されてるもんなぁ…)

    イスの背もたれにだらりともたれ掛かったまま、セレナは思った…。










  6. 7 : : 2014/02/15(土) 07:14:29
    しかし、事態は一転する。被験体であった巨人、ソニーとビーンが殺害されたのである。
    結局無許可で立体起動装置を使い、巨人を殺害した兵士は見つからず、新兵勧誘式を迎え、総勢21名が、第104期調査兵団となった。

    「エレン.イェーガーくん…よね?」

    旧本部内をオルオとペトラの3人で歩いていたエレンは、背後から呼び止められた。

    「はい?」

    エレンは振り向く。…見ると、栗色の髪を束ねた、美しい女性兵士が立っている。

    「…あなたは…?」

    「私は、看護兵のセレナ.ラングレー。あなたの体調管理を任されたの。…

    といっても、本部の方の回診もあるから…時々ここに来て、診察させても

    らうわね。」

    セレナは、微笑する。エレンの顔が、少し紅潮する。

    「セレナも大変だよね。看護兵も人手不足だし…」

    ペトラは心配顔で言う。セレナは笑って、

    「でも…」 ここで、ペトラもいたずらっぽく笑い、

    「「エルヴィン団長から指名を受けたから」」

    ペトラは、セレナと声を合わせていた。セレナはとまどう。ペトラは大笑いして、

    「セレナの言うことなんて、いつも決まってるもの。分かるよ。」

    オルオも笑って

    「いつもワンパターンなんだよ、お前は。」

    そんな3人のやり取りを見て、エレンは言う。

    「もしかして…3人は同期なんですか?」

    「そうよ。私たち、第100期生なの。もう長い付き合いになるわね…腐れ

    縁ってやつかしら。」

    ペトラは答える。

    「フッ。お前たちが俺の域に達するには、まだまだ手順をこなしてないが

    な…」

    オルオが言う。一同、沈黙。

    「……………オルオってさ、最近、雰囲気変わったよね…」

    セレナの言葉に、ペトラは冷たく

    「…気にしないであげて。」

    と言った…。




  7. 8 : : 2014/02/15(土) 07:30:09
    セレナはエレンの診察を始めた。脈拍、血圧の他、問診もした。

    「…気分が悪いとか、そういうことは、ない?」

    「はいっ、ありませんっ。」

    「昨夜はよく眠れた?」

    「はいっ。」

    「食事はちゃんと食べれてる?」

    「はいっ。」

    セレナはクスリと笑い、

    「…そんなに緊張しなくていいのよ。」

    側についていたペトラが笑って

    「セレナに照れてるんじゃないの?」

    エレンの顔が赤くなる。

    「そんなんじゃありませんって!」

    「そうよね。エレンは入団したばかりで、まだ分からないことが多いだろ

    うし。」

    セレナが言う。

    「そう。そうなんです…オレ、本当に自分でも分からないことだらけで…



    エレンはそう言ってうつむいた。ペトラ、セレナの顔も曇る。

    「…申し訳ないけど、私たちもあなたのことに関しては、分かっていない

    ことだらけよ。でも、できる限りのことはしていくつもりだから。そう重

    く考えることもないわ。」

    セレナは言った。





  8. 10 : : 2014/02/15(土) 07:49:04
    数日後、調査兵団の合同訓練があり、セレナも同行することにした。

    訓練の際、エレンは右足を負傷し、セレナの手当てを受けることになる。

    「大層なケガをしたものね。あまりはりきるのも、考えものよ。」

    セレナは手際よくエレンに包帯を巻いていく。その手早さに、エレンはつい見入ってしまう…。その様子を、遠くから見ていた人物がいた。
    こちらに向かって走ってくる…!

    「おい、エレン!!」

    茶色の短い髪を刈り上げた少年だった。目付きの悪い面長なこの少年は、勢いよくエレンにつかみかかる。

    「…ジャ、ジャン、なんだよ!今、訓練中だろ!?」

    「今やっと休憩時間になったとこだよ!さっきから見てりゃお前、訓練中

    に美人に介抱されてデレデレしやがって!」

    ジャンと呼ばれた少年は、エレンを揺さぶりながら、そうまくし立てる。

    「ケガしたんだから、しょうがないだろ!デレデレなんてしてねぇよ!お前

    と一緒にすんな、この馬面!!」

    「なんだとこの死に急ぎ野郎!!」

    2人のやり取りを聞き、駆け寄ってきた2人の新兵がいた。
    金髪の髪に、青い瞳をした少年と、黒い髪をなびかせた、美しい少女だった。



  9. 12 : : 2014/02/15(土) 08:19:24
    「やめなよ、2人とも!」

    金髪の少年が、2人をなだめる。

    「どうしたの、エレン…ケガしたの?」

    黒髪の少女が、心配そうにエレンにたずねる。

    「ん?…あぁ。大したことねぇよ。そんな心配すんなよ、ミカサ。」

    ミカサと呼ばれた少女は、セレナの方を見、

    「…エレン、この人は?」

    ミカサの質問に、セレナが答える。

    「私は看護兵のセレナ.ラングレー。エレンの体調管理も任されているの。

    よろしくね…えっと…」

    「ミカサ.アッカーマンです…」

    ミカサが答える。続けて金髪の少年が

    「僕は、アルミン.アルレルトといいます。」

    そして、ジャンはエレンを離し、

    「ジャン.キルシュタイン…です。」

    ミカサは、素早くエレンのそばに寄る。セレナは今一度、エレンの足の状態を見て、驚く。

    「すごい…もう治りかけてるわ…」

    そしてミカサに向かって微笑みかけ、

    「大丈夫。すぐに良くなるわ。」

    と言う。ジャンは再びエレンの両肩をつかみ、

    「…お前、本当に頼むぞ。分かってんな?」

    エレンはふと、ジャンから目をそらし、

    「ああ…分かってるよ…」

    「あ、みんな、そろそろ訓練が始まるよ。」

    アルミンが言う。ジャン、ミカサ、アルミンは、訓練へと戻っていく。
    3人の背中を見送りながら、セレナは言う。

    「あなたも…良い仲間に巡り会えたのね。」

    その言葉に、エレンも3人の背を見ながら、

    「…はい。」

    と、答えた。




















  10. 13 : : 2014/02/15(土) 08:31:30
    そして…運命の日が来る…。

    「開門始め!!第57回壁外調査を開始する!前進せよ!!」

    その後、右翼索敵班、女型巨人が率いる巨人たちに襲われ、壊滅。
    女型の巨人、エレンら中央荷馬車護衛班を追走。
    リヴァイ班、女型巨人と遭遇する。
    そして…

    「片目だけ!?片目だけ優先して早く治した!?そんなことができるなん

    て!!」

    「ペトラ!!早く体勢を直せ!!」

    「ペトラ!!早くし…」
  11. 14 : : 2014/02/15(土) 08:44:34
    「重傷者を最優先!!自分で動ける者は各自荷馬車へ移動して!」

    撤退命令の後、セレナは必死に負傷者の対応にあたっていた。思ったよりも、負傷者は少なかった…多くの兵が、死亡したからである。
    しかし、一刻を争う重傷者もいる。看護兵もやられている。セレナも体にキズを負い、完全な状態ではなかったが、まだ動くことができる。
    やるしかない。…もう、辛い選択はしたくない。一生懸命やろう。
    ペトラが自分を信じてくれているのだから。
    つかの間の待機の後、カラネス区へと帰還するため、移動を開始する。移動の際の震動も、負傷者にとっては大きなリスクだ。
    セレナは、重傷者の体を震動から守るため、必死に支えていた。周りは皆、虫の息の者ばかりだ。

    (みんな、生きて生きて…お願いだから…)

  12. 15 : : 2014/02/15(土) 08:51:05
    後方では、巨人が出現したらしい。巨人から逃れるため、遺体を棄てているようだ。セレナは少しの間目を閉じ、黙祷した…。

    『セレナー!』

    …ペトラの声が聞こえ…た…?

    「ペトラ!?」

    返事はない。ペトラの姿も確認出来ない。負傷兵がうめき声をあげる。
    そうだ…今は…

    「ペトラ!…また、あとでね!」

    セレナは、答えた…。


  13. 16 : : 2014/02/15(土) 09:20:07
    カラネス区に到着し、本部にたどり着くと、セレナは意識を失い、倒れた。セレナ自身、相当な重傷を負っていたのだ。
    そのままセレナは2日間、昏睡状態に陥った…。

    『…ナ…セレナ…?』

    『え…?』

    ペトラがこっちを見ている。どうやらイスに座ったまま居眠りをしていたようだ。
    …ここは…訓練兵宿舎の…食堂…?ああ、そうか。どうやら自分は、長い夢をみていたようだ…。

    『こんな所で眠りこけてると、マヌケヅラが丸見えだぜ?』

    …オルオの声だ。オルオも笑ってこっちを見ている…。

    『マヌケヅラって、何よ。あんたの顔よりはマシでしょ?』

    ペトラが反論する。

    『なんだよ、お前の寝顔よりはマシじゃねぇのか?』

    『わっ…私の寝顔って…見たことあるの!?』

    ペトラが赤くなってる。オルオは、いたずらっぽく笑って

    『見なくても…大体想像はつ…』

    オルオの足に、ペトラの蹴りが炸裂する。オルオは苦痛に顔を歪める。

    (もう…やめなさいよ…2人共……でもこの瞬間…大好きだなぁ…)

    ペトラはそこで、何かに気づくと、

    『…ほら、オルオ。私たち、もう行かなくちゃ。』

    『ああ…そうだな』

    ペトラは、笑顔でセレナの方を向き、

    『じゃあセレナ、私たち、行かなくちゃ。』

    『マヌケヅラしていつまでも寝てんじゃねぇぞ。』

    オルオも、笑顔をみせる。
    奥の扉が開く。まばゆい光が溢れている…。

    『じゃあね、セレナ!』

    『そんじゃな。』

    2人は笑顔で手を振る…

    (え…どこ行くの…2人共…ねぇ…どこに…ねぇ…)













  14. 19 : : 2014/02/15(土) 11:45:28
    「ねぇ…」

    目が覚めた。…訓練兵宿舎ではない。ここは…調査兵団本部の…病室…?

    「あっ、セレナさん!」

    右隣で声がする…エレンだ。

    「エレ…ン…大丈夫…なの?」

    その言葉に、エレンは笑って

    「それはこっちのセリフですよ。セレナさん、自分の体のことも考えない

    で無理に動くから…」

    そう言われて、初めて自分の体の状態に気づく。あちこちに包帯が巻かれてある。

    「ごめんなさい、エレン。本当は、私があなたの体のことをきちんと管理

    しなきゃいけないのに…」

    「オレなら、大丈夫ですから、セレナさんこそ、きちんと体を治してくだ

    さいね。」

    エレンの言葉の後に、部屋の奥からもう1つ声がした。
    …リヴァイ兵士長が、腕組みをし、壁にもたれかかってこちらを見ている…。

    「そうだな。…お前にはやるべき事がまだ山ほどある。しっかり体調を整

    えろ…俺も他人のことは言えんがな。」

    「…分かりました。今は自分の回復に努めます。」

    セレナの返答に、リヴァイは目を閉じ

    「…ならいい。」



















  15. 20 : : 2014/02/15(土) 12:11:42
    セレナは、エレンの方を見、

    「エレン…申し訳ないのだけど…ペトラを呼んできてもらえないかし

    ら…」

    エレンは、目を反らした。

    「…エレン…?」

    エレンは答えない。

    「エレン…オルオは…ペトラは…?」

    エレンは答えない。セレナは、長く息をつき、目を閉じ…

    「…そう…」

    すべてを、悟った。

    「すみません…セレナさん…」

    ようやくエレンが口を開く。セレナは問う。

    「どうしてあなたが謝るの…あなたが殺したの…?」

    「ちがいます!…でもオレが…選択を誤らなければ…」

    「選…択…?」

    「おい、エレン。」

    場の空気を打ち消す様に、リヴァイが鋭く言い放つ。

    「もう行くぞ。…お前も俺も、それほど暇じゃねぇんだ。」

    エレンはその言葉に、伏し目がちに、

    「…はい。…セレナさん、失礼します。」

    「うん。…ありがとう、エレン。」

    意外なセレナの言葉に、エレンは一瞬驚いたが、リヴァイが足早に立ち去る姿を見るなり、慌ててあとを追った。
    セレナは、天井を見た。
    泣けない。涙が出ない。不思議だが、懐かしい感覚でもあった。地下街にいたころ、何人もの男たちに犯されていたときも、こんな感覚を味わっていた。
    悲しい…はずなのに。泣きわめいてしまえば、楽なのに。何だか色々なものが自分の中でうごめいて、おかしくなりそうだ。

    (ペトラ…オルオ…まさかまさか…うそだ。)

    セレナは、ふと思い立った。そうだ、資料室。















  16. 21 : : 2014/02/15(土) 12:28:26
    資料室には、壁外調査の度に出る犠牲者の名簿が納められていた。
    そこの第57回の名簿を見れば…。
    セレナは起き上がり…多少ふらついたが、何とか歩ける。
    資料室へ向かった。普段ここは、誰も出入りしない。
    多くの書物の中から、第57回壁外調査の資料を手にとる。
    頁をめくる…犠牲者の名簿。

    「…。」

        <オルオ.ボザド>

    オルオ…。思えば、訓練兵の時、罰ランニングの後、布団で眠ることができたのは、あなたが助けてくれたからだった。
    薬棚の一件で、気まずくなってしまったあとも、何事もなかったかのように、普通に接してくれた。
    …オルオ…

    「…ありがとね。」

    セレナは、オルオの名にそっと触れた。
    触れた指をどかすと、大好きな名がそこにあった。

        <ペトラ.ラル>

    ペトラ…ペトラ…私を…救って…くれた…

    『私たち…友達にならない?』

    ペトラ、私、うれしかったよ。私、あれからね、本当に楽しかったよ。毎日ね、笑うことができて、一緒におしゃべりして、笑って…ケンカもしたよね、仲直りもしたね。
    いつもいつもいつも…一緒に…いたのに…。

  17. 22 : : 2014/02/15(土) 12:36:09
    セレナは、その場にしゃがみこんだ。声も出せず、涙も少ししか出なかった。こんなにも悲しい思いをして苦しんでいても、もう慰めてくれる友人もいない。もう二度と、あの大好きな瞬間は訪れない。
    不意に、体の痛みがセレナを襲った。
    自分の体はおそらく回復するだろう。そしてまた、壁の外で戦う…。
    セレナは思い出した。あの、きれいな翼を。

    『さあ行こう、セレナ…』

    思い出した。そうだ、私は約束した。私が生まれることと引き換えに。
    セレナは、資料室をあとにした。

    (ペトラ…ありがとう。またね。)


  18. 23 : : 2014/02/15(土) 12:46:06
    翌日、アルミンの発案により、女型巨人の正体の目星がつけられ、エレンや調査兵団の王都召集の日を同じくとし、捕獲作戦が練られた。
    リヴァイは足を負傷していたため、作戦の実質的な参加は認められなかった。
    作戦会議後、リヴァイは1人、自室にいた。

    『兵長…ありがとうございます…』

    声を聞いた気がした。あの日、後ろから抱きすくめられたとき、何も感じなかった訳ではない。彼女のぬくもり、胸の膨らみ、わずかな息遣い…。
    リヴァイは、額に手をやる。

    「…ああ…そうか…」

    理解した。自分に不安だと打ち明け、背中を抱いてきた女と、自分が何度も抱いたシーナの女…
    2人は…似ている…。






  19. 24 : : 2014/02/15(土) 13:06:08
    ーウォール.シーナ

    「来てくださったんですね…ありがとうございます。」

    肩まで伸はした茶色の髪に、大きな瞳。
    リヴァイはまた、この娼婦のいる店を訪れていた。部屋に入り、女が、リヴァイに触れようとする…が、それをかわし、リヴァイは女に背をむけた。リヴァイは言う。

    「…俺は、調査兵団兵士長、リヴァイだ…」

    “女を買う”という行為のうえで、絶対的なルールがあった。
    それは、お互いの名を明かさないこと。名前を明かしたことは即ち、永久的な契約破棄を意味する…。
    女は、悲しそうな目をした。リヴァイは続ける。

    「お前の名前を…教えてくれないか…」

    「私…何かあなたに気に障ることを…」

    「いや、お前に非は一切ない。金は言い値で払う。」

    客の訴えに対し、口を出してはいけない。厳しく教えられてきたことだった。…もう…終わりなんだ…。

    「…言いたくないのなら、それでいい。」

    リヴァイは黙って立ち去ろうとする…

    「…ミシェル…」

    リヴァイは立ち止まる。女は、精一杯の笑顔をみせ、

    「私の名は…ミシェル.テグナー。」

    リヴァイは、まっすぐにミシェルと向き合った。

    「…そうか。」

    ミシェルは言った。

    「あの…お願いがあります。」

    「何だ。」

    「私の名前を…呼んでもらえませんか…」

    リヴァイは一度目を伏せ、またミシェルを見た。

    「…ミシェル…」

    ミシェルは、涙した。

    「ありがとう…リヴァイ。」















  20. 25 : : 2014/02/15(土) 13:14:54
    2日後、女型巨人捕獲作戦が実行に移された。

    ーウォール.シーナ ストヘス区
    女型巨人と思しき人物、アニ.レオンハートを地下へと誘き出そうとするが、失敗。アニは巨人化し、エレンを奪おうと街を破壊し始める。

    「な…何でお前らは…戦えるんだよ」

    「仕方無いでしょ?世界は…残酷なんだから」

    その後、エレンも巨人化し、激しい攻防戦が続く…。
  21. 26 : : 2014/02/15(土) 13:25:13
    その一報を聞いたとき、ミシェルは“接客”していた…。

    「…?」

    扉の向こうがなぜか慌ただしい。

    「…だ!!巨人が現れたぞ!!」

    巨人…?まさか…。客の男も驚き、行為をやめる。

    「巨人…そんなまさか…」

    男の戸惑いをよそに、扉の向こうでは、人々の逃げ惑う音が聞こえる。男は慌てて窓のカーテンの隙間から、外を見る。

    「…どっ…どうなってんだ、ありゃ!?」

    ミシェルも外を見た。

    「…!?」

    2体の巨人が…戦って…いる?
    ミシェルが驚くのを尻目に、男はさっさと見繕いを済ませ、出ていってしまう。

    「あ…」

    待って…1人にしない…

    ガシャン!!!

    大きな音と衝撃を感じ、ミシェルは頭を抱え、その場に伏せた。






  22. 27 : : 2014/02/15(土) 13:42:52
    周りの空間すべてが、ビリビリと震える。ミシェルはようやく顔を上げた。瓦礫の破片が、建物の近くに落ちたのだ。
    おそらく、巨人が破壊した…
    ミシェルの心臓が、早鐘のように打ち始める…。
    だめだ…早くここから逃げないと…
    ミシェルは急いで見繕いを済ませ、部屋を出…

    ガシャンガシャン!!

    「ひっ…」

    瓦礫が建物内を直撃した。巨人が動くたび、振動がここまで伝わってくる…。

    ドシャグシャッ!!

    また落ちた。この近くだ。ミシェルは耳を塞ぎ、夢中で駆け出した。
    …ふと、足が止まる。外に出た。外は…

    「あ…」

    おそらく、瓦礫の破片が直撃したのだろう。数人の遺体があった。血のにおいがする…。ミシェルは、その場に立ちすくした。
    不意に、頭上を照らす日光が遮られる…
    見上げると、建物の一部が崩れ、目前に迫ってきた…。

    『…ミシェル…』

    あのひとの声がする。優しい声。あなたのぬくもりを、内に秘めた優しさを、どのくらいの人が知っているのだろう。
    これから誰が…知ってゆくのだろう…ね…。
    人類最強の兵士の…ぬくもりを…
    ミシェルの唇が、かすかに動く…それを読みとることは、もう、できない…。










  23. 28 : : 2014/02/15(土) 13:50:37
    以上で#5 失う を終了させていただきます。
    さて、次回は…
    これから先、原作と重複する部分が多くなってきます。ただ、原作のノベライズ版を作っても仕方ないので、様々な視点から、進撃の世界感を第一に考えて物語を進めていきます。
    読んでいただき、ありがとうございました。

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kaku

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