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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品はオリジナルキャラクターを含みます。

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密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスの苦悩』

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  1. 1 : : 2013/12/28(土) 11:02:10
    密めき隠れる恋の翼たち~『エルヴィン・スミス暗殺計画』
    http://www.ssnote.net/archives/2247

    http://www.ssnote.net/archives/4960
    密めき隠れる恋の翼たち~『番外編・エルヴィン・スミスとの1週間』

    巨人に右腕を喰われたエルヴィンと
    最愛のミケを失うが、
    エルヴィンに仕えることになった
    隠密のイブキの新たなる関係の続編。

    オリジナル・キャラクター

    ・イブキ

    かつてイヴと名乗っていた
    エルヴィンの命を狙っていた隠密の調査兵


    ・ミランダ・シーファー

    エルヴィンの同期であり、
    かつての壁外調査で命を失った
    最愛の女性調査兵
    若き自由な翼たち(http://www.ssnote.net/archives/414)の主役
  2. 2 : : 2013/12/28(土) 11:02:36
    そのベッドしかない狭い部屋では
    女の甘い息遣いとベッドのきしむ音が響く。
    愛する男に抱かれる女のため息が広がると、
    その聞き覚えのある声を耳にしたイブキは
    それは自分の声だと感じた。

    ・・・あぁ…私はミケに抱かれている…ミケ…

    イブキが背中に手を伸ばした瞬間、
    その感触がミケではないことに気づいた。

    ・・・え、誰…!?

    「イブキ…」

    その声の方向には最初はぼやけて見えなかったのだが、
    見覚えのある顔が目の前に現われた。

    「エルヴィン…!!なぜ!?どうして…?」

    イブキは自分に覆い重なる
    エルヴィン・スミスが目の前に現われると
    驚きの声をあげた。
  3. 3 : : 2013/12/28(土) 11:02:52
    「イブキ…イブキ…」

    また聞き覚えのある声に耳に入ってくると、
    目が覚めた。
    イブキはエルヴィンに抱かれる夢を見ていた――

    「イブキ、どうした…?うなされていたみたいだが…?」

    イブキはエルヴィンの病室で
    エレン・イェーガー奪還後の1週間の出来事を
    リヴァイやハンジ・ゾエ等が報告して帰った後、
    エルヴィンの病室のベッドのそばで
    そのまま自分の腕を枕にして
    疲れからか、寝入ってしまっていた。

    「エルヴィン…!どうして私がここに…!?」

    イブキは夢で見たエルヴィンがそのまま目の間に驚きのあまり
    慌てふためき仰け反っていた。

    「どうしてって…君は調査兵団団長である俺を世話するためだろ…?」

    エルヴィンはイブキの質問に答え
    冷ややかな眼差しを注いでいた。

    「えっ…そいえば、そうだった…」

    イブキは顔を赤らめるも、冷静になりながら、
    元に座っていた椅子に腰掛けた。

    ・・・私はミケだけなのに…なぜそんな夢を…?

    「イブキ、何か悪い夢でも見たか…?」

    「いや…何でもないよ」

    ・・・まさか、あなたに抱かれる夢を
    見たなんて言える訳がない…!

    「なら、いいが…」

    エルヴィンは声を掛けるほど心配になり、
    不安な表情になるがイブキが大丈夫だと感じると
    ホッと胸を撫で下ろしていた。
  4. 4 : : 2013/12/28(土) 11:04:44
    「もう…こんな時間か…」

    イブキが何気なく病室の窓の外を見ると、
    日が暮れ始め、大空の大部分が茜色に染まっていた。

    「あぁ、もう日が暮れる…」

    エルヴィンは窓の外を見ると伏目がちになり
    ため息をついた。

    「エルヴィン、どうしたの…?」

    「いや…また過酷な日常が始まると思うとな…
    これが今まで当たり前だったが、こうして君と過ごしてきた
    穏やかな1週間が貴重な時間だと感じるよ」

    「えっ…!さっき『団長は寝飽きている』って言っていたと聞いたけど…?」

    「それは、団長しての立場上、言ったまでだ…」

    「へーっ…そうなの…!」

    イブキが茶目っ気のある笑みを浮かべ
    エルヴィンを見つめると穏やかな表情をしていた。
  5. 5 : : 2013/12/28(土) 11:05:04
    「ところで、イブキ、ベッドから降りるのを手伝ってくれないか…?
    長い間、寝ていると足が思うように動かない」

    エルヴィンは皆から報告を受けた後、
    徐々に団長としての眼差しに戻りつつあるために
    体調の回復のリハビリを始めることにしていた。

    「でも、もう遅い時間だし、焦らなくてもいいんじゃ…?」

    「いや、遅すぎるかもしれない…」

    イブキはエルヴィンの真剣な眼差しが注がれると
    肩を貸すことにしていた。

    「エルヴィン、いくよ…!」

    肩を貸しながら立ち上がろうとすると、
    一瞬、歩けたかと思うと、体力が消耗していることもあり
    よろけてしまうと、イブキに抱えられていた。

    「もう…!大丈夫?ムリはだめだよ!」

    「いや、もう少し歩けるようになるまで、
    自分の執務室まで」

    「今日で向こうまで歩こうとするのは無茶だよ!
    最初は病室内から始めよう」

    「わかった…」

    エルヴィンはイブキに腰周りを抱えられ、
    どうにか歩けるようになっていたが、
    今まで鍛えてきた身体が痩せ細り
    かつてないほどの力のなさに愕然としていた。
    また右腕を失った影響で身体に力を入れる
    バランスの悪さに戸惑いを覚えていた。
  6. 6 : : 2013/12/28(土) 11:05:21
    「エルヴィン、今日はここまでにしよう!
    いきなりキツイことして、
    傷の治りに影響でもしたら大変だよ」

    「それもそうだな…」

    エルヴィンがベッドの淵に座ると、
    額には汗がにじんで、
    垂れた前髪が額にくっついていることを
    イブキは気づいた。

    「エルヴィン、汗かいてる…」

    イブキがタオルで額の汗を拭おうとすると、
    エルヴィンがその手を左手で握ると
    イブキの肩を抱き寄せ
    そのまま自分の左側に座らせていた。

    「俺は…このまま団長として続けていくべきか…」

    「何、弱気なこと言っているの!らしくない…」

    「弱っているのは確かだ…」

    その声はまだ短い付き合いのイブキではあるが、
    弱々しいエルヴィンの声を聞いたのは初めてだった。

    「エルヴィン、徐々に体力を回復するしかない…
    今はこれに尽きるんじゃない…?無茶はダメだよ」

    「あぁ…」

    イブキはエルヴィンを笑みを浮かべ見つめると
    顔が近づきキスされそうになったために身をかわした。
  7. 7 : : 2013/12/28(土) 11:05:38
    「もう…エルヴィン…!隙あらばだね。
    その体力があれば、復帰も早かったりしてね…」

    そのイブキの呆れた声を聞いたエルヴィンは
    苦笑いを浮かべた。
    イブキはエルヴィンの左手で頭を抱えられ
    長い黒髪を撫でられると、ふとエルヴィンに
    抱かれる夢を思い出していた。

    ・・・どうして、あんな夢を見たんだろ…いつも
    私の心にはミケがいるはずなのにな…

    「イブキ、今夜は…ここにいてくれるよな…?」

    「えっ…?」

    イブキはエルヴィンの真剣な眼差しが注がれると
    何もしないだろう、夢のようなことはないだろうと
    根拠はないが確信していた。

    「もう…!私はどうなっちゃうの…?」

    身体を抱え、身を守るような茶目っ気な態度をすると
    いつもならうろたえるはずだが、
    また苦笑いし、肩を抱くだけだった。
    イブキはその手がかすかに震えている感じがした。

    ・・・エルヴィン…ホントに弱っている…?

    イブキはエルヴィンを翻弄するような態度をすると、
    いつもならうろたえるはずなのに苦笑いの顔を見ると
    どうにか復帰まで支えなければならないと改めて感じていた。
  8. 8 : : 2013/12/28(土) 11:05:57
    「わかったよ!エルヴィン!今夜からここで寝るけど…」

    「え…!いいのか…?」

    「…ただし!私はソファで寝るから」

    二人の目の前にあるソファを指差して
    イタズラっぽい笑顔で答えていた。

    「あぁ…それは…仕方あるまい…」

    「何?その残念そうな顔は…?」

    「いや、別に…」

    イブキはエルヴィンの戸惑い照れる態度を見ると
    いつものうろたえる顔に少しだけ戻っていて安心していた。

    ・・・私がこんなこと言っても…ミケは何も言ってくれないの…?

    この数日、イブキに危険が迫るとき、
    その心に最愛のミケ・ザカリアスの声が
    沸いてくるように聞こえていたが、
    その時ばかりは聞こえてこなかった。
    エルヴィンのそばにいても
    『安全だから声がしないのか?』とイブキは思うと、
    寂しく感じていた。

    「じゃ…支度してくるから、一旦私の部屋に戻って――」

    「わかった、すぐ戻ってくるんだ」

    「あのね…!一応、女なんだから、いろいろ支度があるの!」

    イブキは立ち上がると、
    半ば呆れた様子でエルヴィンに言い放った。

    「それもそうだな…とにかく待っている」

    イブキはエルヴィンを抱えベッドに寝かせると、
    自分の部屋に戻っていった。
  9. 9 : : 2013/12/28(土) 11:06:15
    ・・・ミケ…すまない…今の俺には…イブキが――

    「うっ…ミケか…痛っ…」

    エルヴィンの失った右腕から
    この数日味わったことのない激痛が走った。

    「ミケ…!受けて立つ…」

    エルヴィンは左手で右腕を優しく抱えながら
    痛みに耐えていた。
    この痛みがミケからの反撃なのか、それとも
    リハビリのために動いていたため疲れからの
    影響なのか、右腕に痛みからうめき声を上げた。
    その声は廊下まで響いていたために
    軍医が驚き病室に飛び込んできた。

    「…団長!大丈夫ですか?」

    「私は大丈夫だ、気にするな」

    軍医がエルヴィンの傷を確かめると、
    リハビリのため久しぶりに動き回ったために
    その影響で傷が疼いたものと診断した。

    「団長、とにかくムリはなさらずに。
    イブキは何をしているんだ、まったく…」

    軍医が思わずイブキの不満をもらしたときだった。

    「イブキは…私のために甲斐甲斐しく世話をしているが?」

    エルヴィンが軍医を睨みながら答えていた。

    ・・・団長はそれほどまでイブキに…

    「…失礼しました…とにかく、あまり無茶をなさらずに」

    「あぁ…すまなかった」

    軍医は心配そうな表情を残しながら、
    そのまま病室を離れていった。
    イブキは病室でエルヴィンが痛みに耐えていることを
    露知らず、部屋で支度をした後、シャワーを浴びていた。
  10. 10 : : 2013/12/28(土) 11:06:35
    ・・・ミケ…あなたの声でもいいから、聞きたいよ…

    イブキは一人になると、
    相変わらずミケのことを考えることが多い。
    そして身体を丁寧に洗いながら、
    何度かミケの声が響いてきた胸元に手を添えていた。

    「まさか、エルヴィン…私に手を出さないよね…」

    イブキはシャワーの蛇口を止めると、
    かすかに笑みを浮かべていた。
    そして再びエルヴィンの病室に戻ると
    痛みから解放され、安心しきった表情で寝息を立てていた。

    ・・・エルヴィン、疲れたのか…おやすみ…

    イブキが掛けられた毛布が乱れていたために整えていると、
    エルヴィンの左手が伸びてきてイブキの右手を掴まえた。

    「やっと…戻ってきたか…」

    「『やっと』って…!そんな長い間ではないよ!」

    ・・・気配もなく、いきなり手を掴むのはやはり、
    勘は鋭いままか…

    イブキはエルヴィンの左手を優しく握りなおすと、
    そのまま左手を毛布の下に通した。
    ベッドのそばに置いたランプのセピア色が
    二人の周りを温かく灯し見守っているようだ。

    「イブキ、また明日のリハビリに付き合ってくれ。
    明日は…どうにか執務室まで行けるようにする」

    「うん…でも、無茶はダメよ」

    「あぁ…」

    「今日はもう寝た方がいいよ。色々あったでしょ…?」

    「色々ね…」

    エルヴィンはかすかに笑みを浮かべた。
    それはミケからであろう、
    反撃を受けたことの思い出し笑いだった。
  11. 11 : : 2013/12/28(土) 11:06:56
    「もう、エルヴィン!また笑っている…!
    リヴァイたちから報告を受けて大変だったでしょ?」

    「そっちか…」

    「『そっち』って!何を考えいたんだか」

    イブキは呆れながら、その夜の寝床である
    ソファーに腰掛けた。

    「それじゃ、私はもう寝るから」

    「わかった…このソファー、もう少し寄せられないか?」

    「もう…!そばにいることは変らないから、この位置でいいの!」

    イブキは再び呆れていると
    何かを思い出したかのように言い放った。

    「ミケからの反撃があるかもしれないよ…!」

    エルヴィンはミケからの反撃なのか、
    激痛が走ったことを再び考えると
    左手で右肩を添えると、黙り込んだ。

    「あぁ…それも困るな…おやすみ、イブキ」

    「おやすみ…」

    イブキはソファーで持参した毛布に包まるとエルヴィンの方向に
    顔を向けるとそのまま横になった。

    ・・・今夜は…よく寝られるか…

    エルヴィンは意識が戻って以来、
    イブキが自分の部屋に戻ると
    一抹の寂しさが残り、あまり寝付けなかった。
    エルヴィンはイブキが目を閉じる姿が見ながら
    自然に目が閉じていくのを感じていた。
  12. 12 : : 2013/12/28(土) 11:07:13
    「う…ん…う…」

    エルヴィンが寝入って数時間後、
    声が聞こえると目が覚めた。
    それは隣で寝るイブキが寝息を立てていた。

    ・・・イブキか…

    エルヴィンはイブキの寝顔を見ていると
    届くはずではない距離だが、
    左手を伸ばしていた。

    「ミケ…」

    イブキは幸せそうな表情で寝言を言っていた。

    ・・・イブキ…君の心にはいつもミケがいるのか…

    エルヴィンは伸ばした左の手のひらを見ると
    伸ばした理由がイブキをミケから
    奪いたいという気持ちだったことに気づいた――

    ・・・俺は…生涯、ミランダだけだと思っていたが…

    エルヴィンは同期であり、
    かつての壁外調査で失った
    ミランダ・シーファーだけを生涯、愛すると思っていたが
    まさか、最初は命を狙うために現われた
    イブキにこんな気持ちになるとは思ってもいなかった。
    また同期でもあり、親友のミケの最愛のイブキに――
  13. 13 : : 2013/12/28(土) 11:07:30
    ・・・だが…またミランダのように失うことがあれば…
    また逆も然り…この想いは押えるべきか…

    エルヴィンは失った右腕をチラっと見ると、ため息をついた。
    また調査兵団だけでなく、各兵団が存続の危機である状況に
    女にうつつを抜かすべきではない、甲斐甲斐しく世話をする
    イブキを利用して回復の手助けをしてもらう、
    それだけの関係でいい、冷たい態度に出るべきだと考えると
    胸が締め付けられる感覚がした。

    ・・・俺は…女に関しては昔から成長してないな…

    エルヴィンはイブキの寝顔を見ると、
    そのまま穏やかな気持ちになると
    気がつけば自然に寝息を立て始めていた。

    「朝…か…」

    エルヴィンは窓から射す朝日の温かい光で目を覚ました。
    イブキが閉めていたカーテンを開ける後姿が
    視界に飛び込んで生きた。

    「エルヴィン、おはよう!起こしちゃった?
    今日からリハビリだよね?一緒に頑張ろう」

    イブキが笑みを浮かべエルヴィンに近づくと、
    ベッドサイドのテーブルに用意すると
    食堂からすでに取り寄せていた
    朝食のプレートを丁寧に置いた。
  14. 14 : : 2013/12/28(土) 11:07:44
    「エルヴィン、起こすよ…」

    イブキがエルヴィンをベッドに座らせるために
    抱きかかえ、目の前に顔が近づくと、
    昨夜は『冷ややかな態度に出るべき』と考えていたのに
    目の前にすると、自分の気持ちが揺らぐことを感じていた。

    ・・・イブキを…己の回復のために利用する…必ず…

    「エルヴィン、どうしたの?私を睨んで…?何か私の顔についてる?」

    イブキはエルヴィンを睨むような眼差しに気づくと指摘すると
    彼は伏目がちになっていた。

    「今後…左利きになるから…食べる訓練も必要だよね…」

    イブキはエルヴィン失った右腕を気遣いながら
    左手で食事をするよう促した。

    「そうだな…」

    ・・・エルヴィン、どうしたんだろ?顔色が悪い…

    ため息をつきながら、エルヴィンは左手で
    スプーンを持ちスープをすくおうとするが、
    上手くいかず、苛立ちのままスプーンをテーブルに
    音を立てながら押し付けた。

    「エルヴィン、何するのよ…!食べ物はウォール・ローゼでは
    貴重なのに、団長のあなたでも、その態度は許せない…」

    イブキはかつてミケに差し出された食事を粗末にしようと
    したとき、鋭い眼差しで注意されたことを思い出しながら、
    エルヴィンにも同じように厳しい態度で接していた。
    しかし、エルヴィンはイブキに注意されても、正面を見据え
    無反応だった。
  15. 15 : : 2013/12/28(土) 11:08:08
    「エルヴィン、何か言ったらどうなの?何なの?もう…」

    エルヴィンは身体が思い通りにならないもどかしさと
    自分のイブキに対する気持ちでいらだっていた。

    「もう…ホントにどうしたの…?仕方ない、今朝まで私が手伝うから」

    「あぁ、すまない…」

    イブキがエルヴィンのそばに座ると、
    丁寧に食べさせることにした。
    甲斐甲斐しい姿を見ると、自分の気持ちが抑えられないことに
    気づきながら、大人気ない態度に出た姿が気恥ずかしくなっていた。
    イブキを団長の世話という任務から解任させれば済むはずだが、
    エルヴィンはその考えまでには至らなかった。

    ・・・イブキ、離れろ…

    「えっ…」

    イブキに突然、イブキの心にミケの声が沸いてきた。
    危険が迫ってくるときに限って聞こえるミケの声が
    まさかエルヴィンの世話をしているときに
    聞こえるとは思わなかった。
  16. 16 : : 2013/12/28(土) 11:08:29
    「イブキ、どうした…?」

    「ううん…なんでもない…」

    イブキはその声に戸惑い始めていた。

    ・・・ミケ、どうして…?私がエルヴィンから離れないといけないの?
    エルヴィンは私にとって危険ってこと…?

    イブキはエルヴィンに触れられても、深く気にしていなかった。
    エルヴィンに気に入られていてるとその態度でわかっても
    自分が本気にならなければ、と――

    ・・・あんな夢も見たし、ミケが焼きもち焼いているの?
    まさか、作戦に関してエルヴィンは
    誰にも言えない企みがあるとか…

    イブキがミケの声の理由を考えていると、
    エルヴィンは策略家であることも思い出していた。
    その内、イブキはエルヴィンに対して
    動かしていた手を止めてしまっていた。

    「イブキこそ、どうしたんだ…?」

    「何でもないよ…ごめんね、何だかぼーっとしちゃって!
    早く食べて、執務室まで行こう」

    イブキは気分を入れ替えるように明るい声でエルヴィンに話すと
    執務室まで行く準備を始めていた。
  17. 17 : : 2013/12/28(土) 11:08:50
    ・・・ミケ、私は…あなただけ…大丈夫よ…

    イブキはかすかに微笑みながら、ミケの声が聞こえていた
    胸元に手を当てると、背中が熱くなることを感じた。
    背中からミケに抱きしめられた温かさのために
    彼から抱きしめられている感覚がした。

    「ミケ…!」

    イブキが優しい笑みを浮かべ
    片付けのため両手にプレートを持ちながら思わず口にすると、
    エルヴィンが怪訝な眼差しをイブキに送った。

    ・・・ミケ…近くにいるのか…俺が奪ってもいいよな?イブキを…?

    エルヴィンはイブキの声を聞いた瞬間、
    イブキを『己の回復のために利用する』と誓ったはずなのに
    ミケに対して感情をむき出しにしたことに驚いていた。

    ・・・俺は…一体、何を考えているんだ…
  18. 18 : : 2013/12/28(土) 11:09:06
    イブキはエルヴィンに肩を貸すと、廊下に出ていた。

    「団長…大丈夫ですか…?ご無理をなさらずに…」

    軍医が二人の姿を見ると、心配で近寄ってきた。

    「イブキと共に執務室へ向う。
    誰かが私に作戦の報告に来たら、
    執務室へ行くように促してくれ」

    「かしこまりました…」

    軍医はエルヴィンがイブキと密着している姿を見ると
    何となく口角が上がって嬉しそうな様子を見逃さなかった。

    ・・・まぁ…イブキにまかせていたら、回復も早いか…

    軍医は二人の姿を見ながら鼻で笑うと、
    そのまま自分の仕事に戻っていった。

    「エルヴィンの執務室って、
    病室から近いはずなのに…ゆっくり歩くとこんなに遠いんだね」

    イブキは自分よりも背も高く、やせ細ったとはいえ
    まだまだイブキよりも大きな身体を抱えていると
    額に汗を浮かべていた。
    それでも笑顔でエルヴィンを支えていた。

    「あぁ…そうだな、イブキ、あっ」

    「危ない!」

    エルヴィンがバランスを崩して転ぼうとした瞬間、
    イブキは咄嗟に右腕の傷をか庇おうと身を挺して
    守る態度をしながら、転ぶ動作を阻止していた。
    隠密でもあるイブキは軽々とした
    動きはお手の物だ。
  19. 19 : : 2013/12/28(土) 11:09:29
    「危なかった…!傷口を床にでもぶつけたら、リハビリの意味がなくなる」

    「すまない、イブキ…」

    ホッとした表情のイブキを見るとエルヴィンは
    改めて、イブキが必要だと感じていた。

    「やっと…到着したよ!エルヴィン…!」

    「やっと…だな」

    イブキが執務室のドアを開けると、
    イブキはエルヴィンは最初に
    執務室の壁側に置かれたソファーに座らせた。

    「イブキ、ご苦労だった」

    「うん、エルヴィンもお疲れ様!」

    エルヴィンはイブキの安心した顔を見ると
    そばに座らせると頭を抱えるように抱きしめていた。

    「やはり…今の俺には君が必要だ…イブキ」

    「そうね、転ぼうとしたときとか、必要だよね」

    「あぁ…」

    エルヴィンが『必要』だと言ったのはリハビリだけでなく、
    心の支えであるイブキにそばに居て欲しいということも
    含まれていたが、
    イブキは『団長の世話として必要』ということとして理解していた。
  20. 20 : : 2013/12/28(土) 11:09:49
    「たくさんたまっていたか…」

    エルヴィンのデスクには不在の間に
    山積みになっていた書類に視線を送った。

    「今日は病室と執務室の往復だから、
    書類のチェックは後回しでいいんじゃないの…?」

    「いや、見たからには…」

    エルヴィンはイブキに再び抱えられると、
    自分のデスクの椅子に座ることにした。
    エルヴィンがいつものように書類をチェックしようとすると、
    本来、右利きであるために右腕を出そうとするしぐさをすると、
    戸惑い覚えた。

    「俺は…そうだ…もう…」

    改めて、右腕を失ったことを目の当たりにさせられた。
    そしてたどたどしく左腕を伸ばし、書類を確認するも、
    何もこれ以上できないことに愕然としていた。
    イブキはエルヴィンの悔しそうな眼差しを見ると
    ソファーから立ち上がりデスクの前に近づくと声を掛けた。

    「エルヴィン、今日はもう病室へ――」

    「わかってる!」

    エルヴィンは怒りのままに山済みの書類を左手で払うと
    ひらひらと多くの書類の紙が空を舞うと執務室の床に
    散らばった。
  21. 21 : : 2013/12/28(土) 11:10:10
    「…エルヴィン!」

    イブキはいつも職務に対して冷静なエルヴィンが感情をあらわにする
    態度は見たことなかった。
    左肘をデスクに突き、頭を抱えるエルヴィンを見て何も言わず、
    散らばった書類をイブキは一枚ずつ拾い丁寧に整え始めた。

    ・・・事務的な仕事は…他の誰かの手伝いが必要だよね…

    「…この書類、ここに置くね。もう帰ろうよ」

    イブキはエルヴィンを優しく諭しながら、病室へ戻ることを提案したとき、
    一人の調査兵の精鋭が執務室に入ってきた。

    「団長、執務室に
    いらっしゃると伺ったためこちらで報告させて頂きます」

    「あぁ、ご苦労」

    エレン・イェーガー奪還の際、多くの中堅の調査兵を失っていたが、
    命を落とさず生き残った精鋭の兵士がエルヴィンに報告があると
    執務室に来ていたのだった。

    「大事な話なら、私は外すね」

    「いや、イブキ、その必要はない」

    「わかった…」

    イブキはソファーに座りながら報告を聞くことになった。

    「リヴァイ兵士長とハンジ分隊長からのご報告です…」

    その精鋭はある山頂の山小屋に隠れている
    エレンやヒストリア・レイスから遠回りして、
    誰にも後をつけられずにやってきていた。
    そして二人がエレンがウォール・マリアを防ぐための実験と
    新たな敵であろう中央第一憲兵団を欺きながら
    すべてを同時に実行していくという旨の内容だった。
  22. 22 : : 2013/12/28(土) 11:10:23
    「さすが、リヴァイだ…私の考えを理解している。
    その通りに進めるよう改めて報告してくれ。頼む…
    しかし、爪をすべて剥ぐ拷問とは…」

    エルヴィンはニック司祭の拷問さらた後の死について
    硬い表情を見せるもハンジ・ゾエがそばに近くにいながら
    この死を目の当たりにしてりるために、気に病んでいるだろうと
    想像していた。

    「それから、ハンジはよくやっていた。気にするなと伝えてくれ」

    「はい、わかりました」

    「レイス卿とは一体…」

    エルヴィンは報告書を読みながら、眉間にしわを寄せていた。

    「エルヴィン、私がその『レイス卿』とやらの屋敷に忍び込んで
    巨人に関する何かがないか探ってくる」

    イブキはソファーから立ち上がると
    エルヴィンのデスクの前に立った。

    「いや、中央第一憲兵団も関わっている以上、
    慎重になる必要がある。今すぐ行かなくてもいい」

    「どうしてよ?それにその拷問…
    私がいた組織のやり方にも似ている…」

    イブキがいた隠密でも王政府に逆らう輩に対して
    拷問することがあった。主に頭(かしら)が実行していることだったが
    イブキは中央第一憲兵団に隠密にも
    繋がっているのではないかと考えていた。
    イブキは主に『実行部隊』であったために頭から依頼を受けても
    その裏にある思惑などは知らされていなかった。
    それは余計なことを考えさせず、実行だけさせる頭の方針でもあった。
    イブキはエルヴィンに反対されるも、
    それを無視して精鋭にレイス卿の屋敷の場所を聞いた。
  23. 23 : : 2013/12/28(土) 11:10:49
    「その場所は…」

    精鋭が地図を取り出したときだった。

    「作戦を練ってから、君には忍び込んでもらう。まだ早い」

    エルヴィンがイブキに対して隠密としての動きを阻止していた。

    「どうしてよ?こういうことは早い方がいい。目星がついているなら――」

    ・・・イブキ、ダメだ

    「えっ…!?」

    イブキの心には警告のため
    ミケの声が沸いてくるように聞こえてきた。

    ・・・どうして、ミケ…?止めるの?私は行くから…

    「イブキ、とにかく却下だ。作戦を練ってから、判断する」

    「二人して私を止めるなんて…」

    イブキは両手で拳を作って、
    エルヴィンをにらみつけていた。

    「二人して…だと?」

    ・・・まさか、ミケが阻止しているのか…?

    「おい、イブキ…!団長に対してのその態度は何だ…?」

    調査兵の精鋭はイブキを睨むと
    イブキは睨み返していた。

    「私は情報収集をする調査兵…それに命を掛けるのが私の役目…」

    「確かにそうだが、団長に対する態度を改め――」

    「まぁ…私に対するイブキの態度は今に始まったことではない。
    何度も言わせるな、今すぐ忍び込むのは却下する」

    精兵が団長であるエルヴィンに対する怪訝な態度を示すも
    当人は深く気にせず、それよりも隠密の働きを却下した。

    「それじゃ、その作戦を練って判断できる…
    調査兵はどれだけ残っているの?」

    イブキは怯まず改めてエルヴィンにするどい眼差しを突きつけた。
  24. 24 : : 2013/12/28(土) 11:11:08
    「それは…この本部に残っているのは我々3人そして、
    あとはリヴァイたちがいる山小屋にいる兵士か…」

    「じゃ…私は問題ないと判断するよ。あなたはどうなの?」

    イブキは精鋭である兵士にに問う。

    「俺も…イブキの腕なら今からでも――」

    「閣下だ。リヴァイたちが加わっても同じだ」

    エルヴィンは言語道断で却下するだけだった。

    「どうしてよ?エルヴィン、腕を失って…怖気づいたの?
    あの強気なあなたはどこに行ったのさ…?
    心臓を捧げる力強い敬礼をするあなたはどこへ行ったの…?」

    「おい!イブキ!団長に対して失礼じゃないか…!」

    精鋭は声を荒げてイブキのシャツの襟元掴んだ。

    「…君こそ…イブキに対するその態度は何だ…?」

    「すいません、団長…」

    エルヴィンが精鋭を睨みつけると、ゆっくりと襟元から手を離した。

    「私は…今まで調査兵たちが命をかけてきたように
    全身全霊で命をかける…それだけ。だからすぐにでも行かせてよ」

    イブキはエルヴィンのデスクに両手を突いて願うもエルヴィンは
    首を縦には振らなかった。

    「確かに…私の命令により数多くの命を落としてきた。
    その家族にも恨まれてもおかしくない立場であると理解している。
    だが…彼等は皆、調査兵としての職務を全うして命を失った」

    エルヴィンは淡々とイブキに話し始めた。

    「私だって職務を全うして――」

    「君は違う…君は」

    エルヴィンはイブキが言うことを遮った。
  25. 25 : : 2013/12/28(土) 11:11:27
    「君は…ミケに会うために命を落とすことを覚悟している」

    「それは…」

    イブキはエルヴィンから目を逸らし、伏目がちになった。

    「作戦が練られてないだけでない。
    今の君の状態では何も成果は得られず、
    いたずらに命を捨てるものだ」

    エルヴィンは見抜いていた。
    自分と一緒にいつもいてもイブキの心にはミケがいる。
    会いたいがために命を捨てる覚悟をしていることを――

    「君のその働きはまだ必要だ。
    だからもう少し待てと言っている。それだけだ」

    エルヴィンは鋭い眼差しをイブキに送ると、
    イブキは何も答えられなくなってしまった。

    ・・・ミケが『ダメ』と言ったのは本当に『レイス卿』が危険だからってこと…?
    それとも、私が命を投げ出すことを知っていたから…?

    イブキは何も出来ないもどかしさで
    拳を強く握ることしか出来なかった。

    「団長、今からまたリヴァイ兵士長たちに
    団長の意見を改めて報告にあの山小屋に
    戻りたいのですが、よろしいでしょうか…?」

    「あぁ、頼む…行き来させて申し訳ない」

    「ただ困ったことが…先ほど、帰った際、
    途中から後を付けられている気配がして
    巻いたのはいいのですが、すぐに戻るのもどうかと――」

    「私が見張る」

    「イブキ、それは頼もしい…お願いしたい!」

    精鋭はイブキが見張ることを提案すると、
    心強いとすぐに願った。
  26. 26 : : 2013/12/28(土) 11:11:47
    「イブキ、やってくれるか?」

    「もちろん…!」

    エルヴィンもイブキに頼むと
    その眼差しは隠密として力強さがあった。

    「で、その山小屋までのルートは…?」

    地図を広げて場所を確認すると、
    ほぼ森の中を行くだということがわかった。

    「この距離だったら…私は馬はいらない」

    「えっ…?」

    精鋭は驚くだけだった。

    「だって、森を駆け抜けるだけだから」

    「大丈夫なのか…?」

    「私を誰だと思っているの…?」

    イブキは不安がる精鋭に対して
    睨みつけるも、笑みを浮かべていた。
    その表情には色気があるために
    精鋭は頬を赤らめた。

    「じゃ…よろしく頼む…」

    エルヴィンはイブキに頼むと、
    自信に溢れる眼差しを注いで
    悔しくて握っていた拳は緩んでいた。

    「まかせて!それじゃ、支度してくるから」

    イブキは忍装束に着替えるために
    自分の部屋に戻っていった。

    「イブキのヤツ、大丈夫かな…」

    精鋭はイブキを不安がるような表情を見せるも
    心なしか嬉しそうにも見えた。

    ・・・こいつ…イブキに骨抜きされたか…?

    「君もイブキも…無事にまた戻って来るんだ」

    「はい…!」

    精鋭は心臓を捧げる敬礼をするも、
    エルヴィンの眼差しの鋭さに背筋が凍る感覚がした。
  27. 27 : : 2013/12/28(土) 11:12:03
    ・・・どうして、こんなに俺は睨まれなければならないんだ…?

    「お待たせ!じゃ、すぐに出発しよう」

    イブキが忍装束に着替えると、
    エルヴィンの執務室に戻ってきた。
    まだ顔を隠しておらず、
    長い黒髪をなびかせていた。

    「イブキ、気をつけるんだ」

    「わかった…」

    「本当に馬は必要ないのか…?」

    「うん、いらない」

    「どのくらいで戻ってこれる?」

    「たぶん日没には…?」

    「そんなに時間がかかるのか…?」

    エルヴィンはイブキが心配で無意識に質問攻めをしていた。

    「とにかく、その距離だと馬で行くより森の木々を
    駆け抜けた方が早いから」

    「木の上から落下の危険は――」

    「エルヴィン!いい加減にしてよ!
    私が大丈夫って言ってるんだから、大丈夫なのよ!」

    イブキは途中からイラつきを通り越して
    エルヴィンの態度に呆れていた。
  28. 28 : : 2013/12/28(土) 11:12:21
    ・・・団長は…イブキが好きなのか…?だから、
    俺を睨んだり、こんなに過剰に心配したり…?

    精鋭は顔を引きつらせながら、二人のやり取りを見ていた。

    「時間がない、もう出るから」

    「あぁ…私はまたここで待っている」

    「それじゃ…またあとで」

    イブキが執務室から出ると、顔を布で隠し
    完璧な隠密の姿となり、鋭い眼差しになっていた。

    ・・・イブキ…無事に帰ると思うが…

    エルヴィンは席からゆっくり立ち上がると、
    デスクの後ろ側にある窓に立ち外を眺めた。
    片手で窓の淵を持つと自分の落ちた体力に
    改めて驚くと同時にイブキの必要性を痛感していた。

    「まさか…こんなに体力が落ちるとはな…」

    窓の外から見える馬小屋の『きゅう舎』から見えるのは
    精鋭が駆けるだけで、イブキの姿は見えなかった。

    「イブキはどこにいるのか…?」

    すでにイブキの姿はエルヴィンの視界から消えていた。
    イブキは姿を隠しながら精鋭の馬を追っていた。
    森を掛けるときは立体起動装置のような動きで音もなく
    空を移動していた。そして怪しい動きを感じると、
    方向変換の合図のため小石を左右の肩にぶつけると
    精鋭には伝えていた。

    ・・・今のところ…誰かに追われるとか…
    そういう動きは感じられないか…

    イブキは精鋭が肉眼で見える距離の間を取りながら
    周りを気にしながら移動していた。
    そして、森の中をだいぶ走った頃、イブキの鋭い耳が
    同じ方向を駆け追いかけてくる馬のひづめの音を勘付いた――
  29. 29 : : 2013/12/28(土) 11:12:38
    ・・・馬で追いかけてきたか…同じ隠密なら、マズいと思ったが、
    どうやら、そうではないようだ…

    イブキは後から追いかけてくる怪しい馬から
    精鋭の姿をくらませるために早速、方向変換のために
    肩に小石をぶつけた。

    ・・・何が迫っている…?俺には何も感じないが…?

    馬のひづめの音は精鋭には聞こえていなかったが
    イブキの言うことだからとその小石がぶつけられた方向に
    向かい駆け出していった。
    そしてイブキは素早く精鋭が乗る馬のひづめの跡を消して
    新たにニセモノの足跡を描くとまた森を駆け出した。

    ・・・これで…惑わせ、追いかけられないか…

    イブキは精鋭に追いつくと、後ろから追いかけてくる
    馬のひづめの音がしなくなっていたことに安堵していた。
    そして後ろから追いかけていた怪しい動きの馬に乗っていた輩は
    途中で止まってしまっていた。

    ・・・あの調査兵め…姿をくらますとは、団長から何を託された…?

    これ以上追いかけてもムダとわかるとそのまま引き返していった。
    そしてイブキに見守れながら、
    精鋭はリヴァイたちが待つ山小屋に到着していた。
  30. 30 : : 2013/12/28(土) 11:12:55
    「ホントに森の中にあるんだね」

    精鋭がまたがる馬のそばにイブキはひらりと着地した。

    「イブキ!いつのまに…!」

    「この距離なら、たやすいものよ!」

    イブキが茶目っ気のある笑みを浮かべるが
    疲れた表情ではなかった。
    そして、見張りをしていたコニー・スプリンガーが
    二人に気づくと近寄ってきた。

    「イブキさん!来てくれたんですね!」

    コニーはイブキに抱きしめられたこともあり、
    その頬は赤らめていた。

    「コニー!お疲れさん!この山奥ならしばらく身を隠せそうね」

    コニーはイブキと精鋭を
    リヴァイたちが待つ山小屋へ案内していた。

    「イブキ叔母さん!」

    ミカサ・アッカーマンは自分の叔母でもあるイブキを見かけると
    嬉しそうな表情をを隠せず、そばに近寄っていった。

    「ミカサ!元気だった?」

    イブキが隠していた顔を披露すると、長い髪と共に
    ミカサの目を少し鋭くしたような
    少しミカサに似たイブキの素顔が現われた。
    年の近い叔母であるが、イブキがミカサよりも
    大人っぽい表情をしている。
    その姿を見たリヴァイは舌打ちをしていた。
  31. 31 : : 2013/12/28(土) 11:13:15
    「イブキ、何でてめーがわざわざここに…?
    エルヴィンの世話係で忙しいんじゃねーのか?」

    「あぁ…今の私は一時的に伝達の『見守り係』よ。
    確かに怪しい輩が付いてきていた」

    「ほう…そうか、もちろん、巻いてきたんだろうな?」

    「それは、私にはたやすいことよ」

    イブキはリヴァイに対して不敵の笑みを浮かべていた。
    精鋭がエルヴィンからの報告をリヴァイとハンジにしている間、
    ミカサはイブキをエレンやアルミン・アルレルトに紹介していた。

    「ミカサの叔母さんか…!似てるよな!アルミン!」

    「僕もそう思う!髪が長かった頃のミカサに似ている」

    「もう、二人とも!そんなに見つめたら、恥ずかしいよ!」

    イブキは照れてしまい、
    再び布で顔を隠そうとする
    素振りをしていた。

    「だけど…ここってどうしてこんなにキレイなの…?」

    イブキが山小屋のキレイさを指摘すると、
    それはキレイ好きなリヴァイからの命令だとエレンが説明していた。

    「キレイ好きなのはいいけど、この部屋は隙がある…」

    それを聞いたリヴァイは舌打ちをしてイブキに近づいてきた。

    「おい…!イブキ、それはどういう意味だ…?」

    リヴァイはイブキをするどい眼差しで睨むと、
    まわりにいたエレンやアルミンはたじろいだ。

    「あぁ…確かに外に見張りがいるのはいい。
    でも、それを突破してきたら、キレイな状態のこの部屋は
    敵をそのまま招いているようなものだと思う。
    せめて敵が入ってきたらわかるような仕掛けが
    あってもいいじゃないの…?」

    イブキは自分の意見を言うと、語尾は力強くなっていた。
  32. 32 : : 2013/12/28(土) 11:13:29
    「ほう…仕掛けとは…?」

    「キレイ好きとは関係なく…
    例えばドア付近に小石をばら撒いて
    足音が聞こえるようにしたらいい。あとは、
    夜にでも窓のそばに花瓶でも置いて、開けられたら
    それが落ちて音を立てると侵入がわかる。
    日常的にある何気ない置物とかで、『仕掛け』は簡単にできる――」

    イブキは自分が知っている隠密としての日常にある道具を使った
    侵入がわかるような仕掛けを皆に教えていた。

    「なるほど…エレン、聞いていたか?早速取りかかれ!」

    「はい!兵長…!」

    エレンを始め、皆がイブキが提案していた『仕掛け』を設置し始めた。

    「イブキの能力が発揮されるときがきたね!」

    「ハンジ!でも、あなたの発明ほどじゃないよ…!」

    ハンジがイブキに近づいてきては関心する様子を見せていた。

    「ここはあとどれくらいで気づかれるかわからないけど、
    とにかくしばらく身を隠すにはいいところだと思う」

    「そうか…大変だろうけど、
    皆で出来ることを実行するしかないよね…」

    イブキはハンジがニック司祭を自分のミスで死と判断しているのか
    元気がない様子にも見えた。

    「モブリットさん!ハンジを支えてあげてね…!」

    イブキはハンジに対して心配そうな表情をする
    モブリットを見ると笑みを浮かべていた。

    「はい…!それはもちろん」

    モブリットはイブキに言われると伏し目がちになりながら、
    照れていた。
  33. 33 : : 2013/12/28(土) 11:13:48
    「ところで、ハンジ…」

    イブキは表情を変え真顔でハンジに質問し始めた。

    「何?どうしたの?」

    「ミケが…命を落としたところって…ここから遠いの…?」

    その声に一斉に皆の注目をイブキは浴びていた。

    「あぁ…遠い。ここは秘密裏の施設のようなもので、
    ミケは命を落とした施設は…皆が知っているし、方向も違うよ」

    「そうか…」

    「イブキ、まさか!?行こうとしているの…?」

    「うん…ミケの最期の場所を見てみたい…
    もう安全が確認されたから、行ってもいいんでしょ?」

    「そうだけど…でも、見たら辛くなるんじゃ…」

    「何か、ミケの遺品でもあったら…いいかと思って…」

    ハンジはイブキのミケに対する愛の深さを改めて知った。
    そして場所を教えるが、得たいの知らない『さる』の存在を教え
    ハンジは行くことをあまり気乗りしなかった。

    「イブキさん!『さる』がいたら、大変ですよ。
    俺の村をメチャメチャにした野郎ですから…!」

    コニーは自分の母親を始め自分の家族を滅茶苦茶にした
    『さる』を考えると、怒りの拳を握るしかなかった。

    「コニーも大変だったんだよね…みんなが付いているから…ね」

    イブキはコニーを優しい声で励ますと、肩に触れた。

    ・・・あれ…?今日は抱きしめてくれないのか…?

    コニーはイブキに抱きしめられるかと思って頬を赤らめていたが
    肩を触れていただけで残念がっていた。
    そして一緒にイブキと来ていた精鋭が焦った表情でイブキに話しかけた。
  34. 34 : : 2013/12/28(土) 11:14:07
    「イブキ、まさかこの後にミケ分隊長が
    命を落としたあの施設に行こうとしているんじゃ…?」

    「まさか!今日はさすがにいかない。
    あなたを無事に本部まで送らないといけないし」

    「そうか、それならいいが」

    精鋭は安堵で胸をなでおろしていた。

    「だけど、ハンジを始めみんなと話せて、
    何だか安心した…もう少しここに――」

    「いや、報告はもう終ったから帰るぞ」

    「次はいつ会えるかなるかわからないし」

    精鋭はすぐに帰るようイブキに促していた。

    「日没までに戻れるから、大丈夫よ」

    「いや…団長がお待ちかねだ」

    「待たせておけばいいよ、帰れないわけじゃないんだから」

    「少しでも遅れたら、俺が何を言われるかわからないんだよ!」

    精鋭は焦った表情でイブキに半ば強制的に帰る様促していた。
    その様子を見ていたハンジは目を見開いた。

    「イブキ、まさか…エルヴィンと…?」

    「まさか!エルヴィンが
    私に色々とちょっかいを出すけど、いちいち
    相手にしていたら、キリがない」

    「へーっ!イブキ、エルヴィンに対して言うね…!」

    「それに…私はミケだけのものだから…」

    ハンジはイブキの物悲しい表情を見ると、
    ミケを失ってまだまだ傷は癒えていないと感じていた。
  35. 35 : : 2013/12/28(土) 11:14:32
    「だけど…!エルヴィンがイブキと接している姿、
    見てみたいものだ」

    ハンジはニック司祭を自分の判断ミスで死なせたと思って以来、
    笑ったことはなかったが、
    エルヴィンがイブキにちょっかいを出している姿を
    想像すると、笑いたくて仕方ない表情をしていた。

    「ハンジにエルヴィンを大人しくさせる道具でも作って欲しいよ」

    イブキが頭をかきながら
    ハンジに冗談を言うとお互いに声を出して笑っていた。

    「イブキ…ホントにそろそろ…!」

    「あぁ、そうだね、もう帰らなきゃ」

    イブキと精鋭は山小屋を後にすると、
    馬で掛ける精鋭の後を追いかけるような
    動作をしたと思ったら、煙に巻いたように
    姿を消したイブキを見て皆を驚かせていた。

    「ほう…あれがイブキの実力か」

    リヴァイは一瞬で消え去った
    イブキに珍しく関心していた。
  36. 36 : : 2013/12/28(土) 11:14:50
    ・・・帰りはさすがに誰も付いてこないけど、
    あの惑わしたポイントにまだ残っている誰がいるかもしれない――

    イブキは精鋭が掛ける馬を追いながら、周りに目配せしながら
    本部に向うと、そのポイントを過ぎても怪しい輩はいないことに気づいた。

    ・・・どうやら、大丈夫みたい…

    イブキは安心するが、本部に到着するまで気が抜けないため
    そのまま後ろを追いかけていった。
    しばらくして本部の施設に入ったときだった。

    「どうやら、帰りは誰も来なかったみたい…」

    イブキは精鋭の後ろに音も立てずに
    気づかれずに乗ると、精鋭は声をあげて驚いていた。

    「まったく、調査兵がたったこれだけで、驚くもんじゃないよ」

    イブキは安堵感と長距離を移動したために
    安全が確認されると、精鋭の後ろに乗っていた。
    そして顔を覆い隠した布を下ろすと、長い髪がなびいていた。

    ・・・イブキ…俺も惑わすのか…?

    精鋭は照れた表情で馬小屋のきゅう舎に到着すると、
    自分に対して急に鋭い目線が注がれていると感じた。

    「だ、団長…!」

    エルヴィンが執務室の窓から、覗いて睨んでいることに気づいた。
  37. 37 : : 2013/12/28(土) 11:15:15
    「私が馬をきゅう舎に戻すから、先にエルヴィンに――」

    「いや、一緒に行こうイブキ」

    「えっ…あぁ、まったく…」

    イブキもエルヴィンが窓から精鋭を
    睨んでいる様子に気づくと呆れていた。
    そしてエルヴィンの執務室に到着して山小屋でのことを報告すると
    改めて兵団の様子を動きを伺っている輩がいると感じていた。

    「今日はご苦労だったな…もう下がっていい、ゆっくり休め」

    精鋭は心臓を捧げる敬礼をして、執務室を後にすると
    『団長がイブキにちょっかいを出す姿』を想像すると
    含み笑いをしていた。

    ・・・いつも冷静な団長だが、あんないい女の前だと、ムリもないか…

    廊下を歩きながら、疲れを労いにシャワー室に向っていた。

    「そっか…エルヴィン、また今から病室に戻らないといけないよね」

    「あぁ…そうだな、また肩を貸してくれないか、
    疲れているところ申し訳ない」

    「わかった…」

    エルヴィンの腰に手を回して廊下を歩いていると、
    イブキの耳元でエルヴィンがささやいた。

    「無事に…帰ってきて何よりだ」

    「大げさだよ、ただ先に進む兵士を
    追いかけながら、敵を欺くだけのことした、それだけ」

    「俺は心配だった…」

    エルヴィンの鼓動がイブキの身体にも響くと、
    心なしか早鐘のようになっていると感じた。

    ・・・心配させたか…でも、こうして無事だし

    イブキはかすかに笑うと、
    少しずつエルヴィンの足取りがしっかりしていることを感じた。
  38. 38 : : 2013/12/28(土) 11:15:36
    「ねぇ、エルヴィン、もう私の肩は…いらないんじゃない?」

    「なぜだ?」

    「だって、足取りがしっかりしてない…?」

    「えっ…?」

    イブキに指摘されると、またおぼつかないような歩き方になっていた。

    ・・・エルヴィン…わざとだな…
    歩きにくいようにしているのは…!

    「もう…そんな態度していると、またミケからの反撃がくるかもよ…!」

    「受けて立つから、かまわない…」

    「『受けて立つ』って言うことは、もう足はしっかりしてるってこと…?」

    「あっ…」

    エルヴィンは思わず立ち止まると、少しずつではあるが、
    支えなしでも、歩けることをイブキに見せていた。
    イブキが山小屋に行っている間、心配でも自分で少しずつ歩けるよう
    一人でリハビリをしていたのだった。

    「まったく…エルヴィンは…」

    「俺は今日のリハビリで疲れた。
    団長の世話をする君の肩くらい借りてもいいだろう」

    「何よ…!そのわがままな子供みたいな態度は…!」

    エルヴィンが伏し目がちになりながらも、
    わがままな態度を見てイブキは苦笑いをしていた。

    「はい、はい…それじゃ、肩を貸すから、
    そのまま病室に行こうね…エルヴィンくん!」

    イブキはエルヴィンを子ども扱いして、
    肩を貸すと不機嫌な表情になりながらも
    廊下を一生懸命歩いていた。
  39. 39 : : 2013/12/28(土) 11:15:54
    ・・・ミケは甘えん坊だったけど、
    エルイヴィンはわがままか…!
    男はみんな『子供』に返るときがあるのかな

    イブキは笑みを浮かべながら、エルヴィンの病室に戻ると
    静かにベッドの淵に座らせた。

    「今日はリハビリもしたし、汗かいたよね?汗ふくよ」

    「あぁ…頼む…」

    エルヴィンのシャツをイブキは丁寧に脱がせ身体の汗を拭くと、
    また左手で拭いている手をつかまれた。

    「もう…エルヴィン、また…私は疲れているの!早く拭かなきゃ風邪――」

    エルヴィンは左手でイブキの
    腕を掴みながら自分の胸元に引き寄せた。

    「ホントに心配させやがって…」

    「無事に帰ったからいいでしょ」

    「あぁ、そうだな…」

    エルヴィンはイブキを強く抱きしめていた。
    そしてエルヴィンが右腕を庇いながら、
    ベッドに一緒にベッドに倒れこもうとすると、
    イブキは阻止していた。

    「もう…あなたって人は…!」

    「いや、身体がバランスを崩して倒れただけだ…」

    「もう…こんなことばかりだと、軍医さんに頼んで、
    団長の世話の任務を解いてもらうからね…!」

    イブキは半ば呆れているのと、半分冗談で言うと
    エルヴィンは焦っていた。

    「すまない、復帰までそばにいてくれ…」

    「もちろん、冗談よ!着替えたら、私はシャワーに入ってくる」

    イブキはエルヴィンを着替えさせ、ベッドに寝かせると
    そのまま自分の部屋に向っていった。
  40. 40 : : 2013/12/28(土) 11:16:15
    ・・・エルヴィンは…何考えているんだろ、ホント…

    ミケのことをまだまだ忘れないイブキは
    エルヴィンの本心に気づかずにいたが、
    抱かれた夢を見たこともあり、
    夢が現実になりかけたために、
    阻止できたことに安堵していた。

    ・・・ミケが命を落としたあの施設跡地…
    さすがに馬で行くしかないけど、いつ行こうか…

    イブキはシャワーで汗を流しながら、
    ミケが命を落とした場所に行くことを考えていた。

    ・・・エルヴィンが寝ている間…夜中に行って帰ってくるしかないか…

    イブキは天気次第ではあるが、タイミングが合えば
    その日の夜中にでも行こうと考えていた――

    ・・・エルヴィン、寝てる…さすがに疲れたよね…?

    イブキがエルヴィンの病室に戻り、寝ている姿を見ると
    安堵した表情を浮かべた。
    そして窓から夜空を見上げていた。

    ・・・この天気だと…雨は振らないか…
    タイミングを見て馬で駆けよう…

    イブキは静かにカーテンを閉めるとそのまま
    自分の寝床であるソファーで毛布で身体を包んでいた。
    そして数時間後、イブキはエルヴィンが寝息を確認すると、
    静かに起き上がって出て行こうとした――

    「イブキ、どこに行く…?」

    エルヴィンは気配を消しながら行動する
    イブキに勘付くとそのまま目を開けた。
  41. 41 : : 2013/12/28(土) 11:16:43
    ・・・エルヴィン…体力と共にさらなる勘の鋭さも回復しつつあるか…

    イブキはエルヴィンの顔を見ると
    暗がりの中でも睨んでいるようにも見えた。

    「どこって…女の私にそんなこと聞くの…?」

    わざとらしく恥ずかしそうな表情をして、
    どこに行くか察しろとでも言っているような姿を
    エルヴィンに見せた。

    「あぁ…そんなところに行くのに
    気配を消していくことないだろう…?」

    「別にいいじゃない…どこだっていいでしょ?」

    イブキは半ば呆れるような顔をしてエルヴィンを睨んでいた。

    「勝手な…行動は許さん…」

    エルヴィンは右腕の傷を庇いながら、
    自らベッドの上に座ろうとするも、
    どうしても痛みが走り、簡単に座れないため
    もどかしさで、左手で握りこぶしを作ると、
    ベッドに打ち付けていた。

    「エルヴィン、ムリはしないの…」

    イブキがエルヴィンを優しくなだめ、
    肩を抱えベッドに座らせると、
    改めてイブキはソファに座った。

    「イブキ…どこに行こうとした?こんな夜中に…?」

    「それは…」

    イブキは目を逸らし、答えを濁した。

    「ミケが…命を落とした場所か…?」

    イブキは勘の鋭いエルヴィンの前では
    嘘は付けないと思い正直に話すことにした――

    「ええ…そうよ、ミケが命を落としたというあの施設跡地に――」

    「ダメだ…!」

    エルヴィンはイブキに有無を言わず反対した。
  42. 42 : : 2013/12/28(土) 11:17:04
    「どうしてよ?あの場所はもう安全宣言が出たから、
    行ってもいいでしょ?」

    「いや…得たいの知れない奇行種がいる…
    それはまだ見つかっていない」

    イブキはそれを聞いてコニーの村が『さる』に
    襲われたことを思い出していた。

    「じゃ…そいつが、ミケを…?」

    「…かもしれないな…」

    「それでも…見てみたい、ミケの最期の場所を」

    「ダメだ…何度も言わせるな」

    「どうしてよ、いいじゃない…?
    私は…私の愛する人の最期の場所を見たいよ…」

    イブキは涙ぐみながらエルヴィンに訴えていた。
    エルヴィンはイブキから『私が愛する人…』という言葉が
    発せられると、胸が締め付けられる想いがした。
    エルヴィンは気がつけば
    左手をイブキに伸ばして自分の胸元に抱き寄せいていた。

    「イブキ…ダメだ、本当に…」

    「エルヴィン…」

    イブキは抱きしめられながら、
    エルヴィンの優しくも悲しげな表情を見ていた。

    「わかった…エルヴィン、あなたも一緒ならいいの…?」

    「えっ…」

    エルヴィンは予想外のことをイブキが言うために
    面食らってしまった。イブキはエルヴィンに対して
    潤んだ眼差しで願っていたが、それは自分ではなく
    ミケを見つめていると感じていた。
  43. 43 : : 2013/12/28(土) 11:17:24
    「あぁ…片手で…手綱が引ける体力が戻ればな…」

    「ホントに…?ありがとう!エルヴィン…」

    イブキはエルヴィンにお礼を言いながら、
    抱きしめている左腕を解くと自ら、エルヴィンを
    両腕で抱きしめていた。

    「イブキ…」

    エルヴィンも抱きしめられながら、左腕を
    イブキの背中に手を添えながら抱きしめていた――

    ・・・よかった…近い内に行けたらいいけど…あっ…

    イブキはエルヴィンを抱きしめながら、
    ここで顔をあげたらキスされる、
    そして腕の力を感じると、雰囲気にまかせベッドに
    寝かされるかもしれないと察していた。

    ・・・また身をかわすしかない――

    その時、エルヴィンが突然話し出した。

    「イブキ、調査兵団は常に大事なものを失いながら…
    前に進むということが当たり前の日常だ。
    だが、君とこうして穏やかな日々を過ごしていると…
    大事なものを失うことの怖さを改めて思い出したよ。
    団長としての覚悟が揺らぐが…それでも俺は前に進む…」

    イブキはエルヴィンの胸元で強くも優しい声の決意を聞くと
    顔を上げ彼を見つめていた。

    「エルヴィン、あなたも…大変よね、あなただってミランダさんを――」

    「それは…今はミランダの名を出すな、
    明日もリハビリするぞ。もう寝るぞ」

    「うん…わかった、おやすみ…」

    イブキはエルヴィンを寝かせると、
    そのままソファーで横になった。
  44. 44 : : 2013/12/28(土) 11:17:48
    ・・・ミランダ…すまない、今の俺は…

    エルヴィンはイブキがミランダの名前を出したために戸惑うと
    すぐにイブキにすぐ寝るよう促していた。

    ・・・エルヴィンも…ミランダさんを忘れないか…

    イブキはミケの最期の地に行けるかと思うと
    笑みを浮かべながらそのまま眠りに付いた。
    実際のところ、エルヴィンはミランダを思いながらも
    イブキをミケから奪いたいほど恋焦がれる自分に
    戸惑っていた。
    翌朝。イブキは軍医がエルヴィンに
    診察に来たとき、馬術のリハビリをしていいか聞くと、
    即、却下された。

    「団長、いくらなんでも早すぎます」

    「私は腕を喰われた直後、馬に乗っていたが…?」

    「あのときは気が張っていたからでしょう…!
    その後、意識不明になって、我々はどれほど心配したことか…」

    軍医は馬術のリハビリを必死に止めていた。

    「そうか…」

    エルヴィンが伏し目がちになると
    軍医はため息をついた。

    「団長が手綱を持たず、
    誰かの後ろに乗ることからは始めるなら…」

    「それでもいいのか…?」

    「ただし…スピードは出さないこと、
    そして長時間、乗らないように…
    振動が傷の治りに影響を与える場合がありますから」

    「わかった、すまない…そうしよう」

    軍医は診察を終えると病室に心配そうな表情を残しながら
    そのまま去っていった。

    「イブキ…これで満足か…?」

    「ええ…!エルヴィン、ありがとう…」

    イブキはホッとした表情をしながら、エルヴィンに笑顔を向けていた。

    ・・・この笑顔は俺のためではない…

    エルヴィンはイブキへの思いがもどかしく感じていた。
  45. 45 : : 2013/12/28(土) 11:18:06
    「その前に…ちゃんと歩けるようにリハビリをしなきゃ…」

    「あぁ…そうだな」

    ・・・俺は復帰のためにイブキ、君を利用すると思ってたが…
    君は俺を…ミケのために利用するか――

    エルヴィンはイブキを利用してまで復帰すると当初の決意だったが、
    それが崩れると逆に今は自分が利用されていると思うと、
    薄ら笑いをしていた。

    「もう…最近のエルヴィン!なんか一人で笑っているよ!怖いよ」

    「なぜだろうな…」

    エルヴィンはイブキに物悲しげな視線を送ると、
    ベッドの淵に座ることにした。そしてそこからゆっくり立ち上がると、
    またゆっくりと歩き出した。

    「エルヴィン、ゆっくり…前に進もう」

    「あぁ…」

    エルヴィンは左手で壁を伝うように触れ、
    そしてゆっくりと廊下を歩き出した。
    イブキは右側で心配そうな表情を向けながら
    エルヴィンを見守っていた。

    「だいぶ、歩けるようになったじゃない…!」

    「そうだな…バルコニーまで行ってみよう」

    エルヴィンは調査兵団本部の遠くの壁が
    見えるバルコニーまで歩いていくことになった。
    そこまで行くには階段もあるために
    イブキは階段を登るエルヴィンを冷や冷やしながら
    見守っていた。

    「エルヴィン、やったじゃない…!階段も登れるなんて…」

    階段を登り、バルコニーのドアを開けると
    二人には清々しい風と、温かい日差しが待っていた――

    「あぁ…君のおかげだ、ここまでこれたのは」

    「エルヴィンの頑張りがあったから!私は見守っていただけだよ」

    エルヴィンはバルコニーの手すりを左手で掴みながら、
    身体を支え壁が見えるポイントまで移動していた。
  46. 46 : : 2013/12/28(土) 11:18:23
    「ここは…私と初めて二人で気分転換した場所だったね」

    「あぁ…そうだったな」

    「あのとき、咄嗟にあなたが私を抱きかかえるのは、笑った…!」

    イブキは手すりを背を向け両肘を置きながら笑っていた。
    かつて、隠密のイヴとしてエルヴィンの命を狙ったとき、
    イブキに気分転換が必要になり、この場所で咄嗟にエルヴィンが
    狙ってきた敵から身を守るために抱きかかえたことを思い出していた。

    「もう…あのときのように、君を抱きかかえることはできないが…」

    エルヴィンは右腕を見てため息をついた。

    「ごめん!エルヴィン、そんなつもりじゃ…」

    「気にするな…イブキ」

    エルヴィンはバルコニーに左手を置くと遠くを壁を見据えていた。
    イブキは調査兵団の本部の建物を見上げながら、
    ミケがかつて立って自分を見ていたポイントを探して
    悲しげな笑みを浮かべていた。

    ・・・あの窓の向こうにミケはいたのにな…

    伏目がちになり、イブキも同じように遠くの壁を見ると
    エルヴィンは左腕で肩を抱き寄せていた。

    「イブキ…君は…あのミケが命を落とした場所に行ってどうするんだ?」

    「見てみたいだけよ」

    「見たって…ミケは戻ってこない」

    「それは承知の上…でも、行ってみたいの」

    「そうか…」

    エルヴィンはイブキがミケが命を落とした
    施設場所に行きたがっているのは理解したが、
    理解するほど胸が痛んでいた。
  47. 47 : : 2013/12/28(土) 11:18:40
    「イブキ…ミケへの想いに区切りを付けるというのなら…
    今日にでも行こうか」

    「えっ…?」

    「とにかく、行くぞ…」

    左手でイブキの手を引くと馬小屋のきゅう舎に向った。

    「待って!今のあなたの体力じゃ…」

    「ゆっくり走れば構わない、
    これ以上、君の悲しむ姿を見ていられない…」

    最後の方は小声になってイブキの耳には届いてなかった。

    そしてきゅう舎の前までたどたどしい足取りで到着すると
    エルヴィンの愛馬でもある白馬が久しぶりに会えた影響か、
    頭を出して撫でてと言っているようでもあった。

    「白い馬…かわいいね」

    笑顔でイブキはエルヴィンの愛馬を撫でていた。
    イブキが先に前に乗ると、イブキがエルヴィンの左手を持つと
    どうにか後ろ側に乗ることが出来た。
    イブキが両手で手綱を持ち、エルヴィンは後ろから左手でイブキを
    抱きかかえゆっくりと走り出した。

    「弱った脚の筋肉が…もたないな、これは…」

    「大丈夫?ムリなら、引き返すよ」

    「いや…とにかく、向うぞ」

    イブキは背中から聞こえるエルヴィンの声を聞くとゆっくりと
    ミケが命を落とした
    ウォール・ローゼ南区内の旧隔離施設に向うが、
    時間が通常よりも2倍以上かかっていた。
    そして、施設が見えてくると、屋根は落ち、
    窓はすべて割れ、ところどころに穴が開き
    2階建てのはずだが、2階部分の面影はなく、
    まるで、嵐が過ぎ去ったあとのような光景がイブキの
    目の前に飛び込んできた――
  48. 48 : : 2013/12/28(土) 11:19:00
    「エルヴィン…あれが…あの施設なの…?」

    「あぁ…そうだ」

    イブキは手綱を操ると、
    駆ける馬のスピードを徐々に落としてしまった。

    「イブキ…どうした…?」

    「来るんじゃ…なかった…ミケ」

    エルヴィンはイブキが震えていることに気づいた。

    「エルヴィン、ごめん…せっかく来たのに…」

    イブキは巨人の脅威を目の当たりにしたことがなく、
    ミケが命を落とした施設を目の前にすると、
    震えることしか出来なかった。

    「イブキ…行くぞ…ちゃんと見るんだ…」

    エルヴィンは手綱をイブキに持たせると、
    自分で現実を見るよう促した。

    「早く持て、この手綱を…」

    「うん…」

    イブキは深い深呼吸をすると、
    これまで駆けてきた半分の速さでゆっくりと
    旧施設に向っていった。
    そしてだんだんと、その施設が近づいてくると
    イブキの震えは増していくようだった。

    「ここで止めよう…」

    イブキがゆっくりと馬から下りるとエルヴィンは
    左手をイブキが持つとゆっくりと馬から下りた。
    施設の中からイブキとエルヴィンの目の前に
    冷たい風が吹いてくると、それは埃っぽく、
    心なしか血なまぐさいような不快な匂いが
    二人を包むと通り抜けていった――
    エルヴィンは馬から降りた後から
    弱った脚の筋肉がブルブルと震えて
    手綱を持ちながらその場で立ち尽くすしかなかったが、
    イブキが施設に向って歩いていく姿を見守っていた。
    そして、突然イブキがへたれるようにその場にしゃがみ込んだ。
  49. 49 : : 2013/12/28(土) 11:19:15
    「イブキ…!どうした…?」

    エルヴィンがゆっくりと歩き出すとイブキは地面に
    両手をついて何かをつぶやいているように見えた。

    「…ミケなの、これはミケの…?」

    その茶色い土の上には赤茶けた色の
    様々な大きさのまばらな円を作って広がっていた。
    それは明らかに血の跡だった。

    「イブキ…」

    エルヴィンはイブキのそばでしゃがみ
    ただ一緒に血の跡を見るしかなかった。

    「血の跡…周りを見てもここしかな…やっぱり、
    これはミケの血…!?」

    イブキは震える声でエルヴィンに問うとエルヴィンは
    間を置いて冷静に答え始めた。

    「…可能性は高いな…この施設に向ったのは
    ミケだけとの報告だからな…」

    「ミ、ミケ…!イヤーー!!」

    イブキは血の跡を見ながら泣き叫ぶしかなかった。
    エルヴィンはただイブキを肩を抱くことしかできず、
    歯がゆい気持ちでいっぱいだった。

    「イブキ…」

    ・・・こんなにミケを想っているのなら…連れてくるべきじゃなかった…

    エルヴィンはイブキが深く愛するミケのことを考えると
    こうなるだろと考えていたが、想像以上のイブキの動揺に
    戸惑っていた。
    そして血の跡に続く先に日の光の反射して
    光るモノがあることにエルヴィンは気づいた。

    「あれは…?」

    エルヴィンの声とその視線の先をイブキも追うと
    その光り輝くものは立体起動装置のブレード、
    砕けた刃の一部だと気づいた。
  50. 50 : : 2013/12/28(土) 11:19:30
    「あれは…ミケの…?」

    ミケの立体起動装置は奇行種の『さる』が持ち去った為に
    最後の最後に『さる』に向けたブレードの一部だった。
    イブキはよろけながら、その刃を拾うと、手のひらに
    乗るくらいの小さな欠片だった――

    「ミケ…あなたのそばに――」

    「イブキ、何をしている!?痛っ…」

    イブキがその小さな刃を咄嗟に自分の喉に向けようとしたとき、
    エルヴィンが左手で払いのけると、刃で手のひらを切ってしまった。

    「エルヴィン…死なせてよ…えっ?あぁ…!」

    イブキは滴る血に驚くと、自分の忍装束の一部を使い
    エルヴィンの左手を止血していた。

    「エルヴィン…ごめんなさい…でも…ミケのところに――」

    「おまえは…バカだ…イブキよ」

    エルヴィンはイブキを左腕で抱きしめながら、
    落ち着くまでなだめていた。

    「…大切なモノを失いながらも
    前に進むだけしか許されていない俺たちが…
    大切なものを失う瞬間、
    痛みをまったく感じないとでも思っているのか?」

    「えっ…」

    「大切な命を失うたびに痛みは伴う…
    自分が死んだ方が楽だったかもと毎回思う…
    が…その痛みの代償が壁外調査の成功だけではない…
    俺はいつかあの世に行くとしたら、
    死に追いやった仲間たち一人ひとりに謝り続けるしかないと思う
    それでも足りないかもしれない――」

    「…エルヴィン」

    「もちろん、命の尊さ…は知っている…その上で
    心臓を捧げた仲間たちの命をムダにできない…
    その大切な命を自ら絶とうとする、キブキ…おまえを許さない」

    『おまえを許さない』…エルヴィンは力強く言い放つが、
    イブキを強く強く抱きしめていた。

    そしてその時だった。

    ・・・エルヴィン…イブキを許してやってくれ

    「えっ…」

    「ミケ…」

    イブキの心にミケの声が沸いてくるように聞こえると、
    二人が身体を密着させている影響か、
    まるでその声はエルヴィンに伝えるために
    声が響いているようだっだ――
  51. 51 : : 2013/12/28(土) 11:19:49
    「今…ミケの声が聞こえた…」

    「今までね…私に危険が迫ると…ミケの声が心に沸いてきてたの…」

    「あぁ…!」

    エルヴィンはイブキの言動が
    まるでたった今、ミケから聞いたようなことを
    言うことを目の当たりしたのを思い出すと、納得するものがあった。

    「エルヴィン…ごめんなさい…私は何てことを…」

    泣きはらして腫れた眼差しでイブキはエルヴィンを見つめると
    優しく両手で抱きしめていた。
    そして、エルヴィンは血なまぐさい不快な匂いが続くことから、
    もし、この近くにミケの身体が含まれた
    巨人の吐しゃ物があるのなら、
    イブキをさらに見せられないと思っていた。

    「イブキ、もうここから帰るぞ…」

    「もう少しだけ…」

    「ダメだ…」

    「巨人はいないんでしょ…?」

    「得たいの知れない巨人を捕まえたという報告がない。
    だから、そいつが現われるかもしれない――」

    「そっか…」

    「早く帰るぞ」

    イブキはエルヴィンに手を引かれると、
    ミケの血の跡に視線を落とした。

    「まってせめて…」

    イブキはその血の跡のそばに座り、
    震える手で撫でていた。

    「ミケ…私をいっぱい愛してくれて…ありがとう」

    「もう…いいだろう?」

    その姿を見るとエルヴィンは伏目がちになるが、
    強制的に肩を抱かれるとそのままイブキは愛馬の元へ
    連れ去られるように歩かされていた。
    エルヴィンは歩き出すと、気が抜けた影響か
    片膝を突いて倒れこんでしまった。

    「エルヴィン!」

    咄嗟にエルヴィンをキブキが抱きかかえると、
    エルヴィンは『さる』のことが気になるが
    体力が尽きてきているため
    愛馬を見据えゆっくりと歩き始めた。
  52. 52 : : 2013/12/28(土) 11:20:10
    「ごめんなさい…私のわがままに付き合わせて
    こんなことに…」

    「特に気に病むことはない…」

    イブキがまた先にエルヴィンの愛馬にまたがり、
    後ろにエルヴィンが乗るために左手を伸ばすと

    ・・・エルヴィン、まさかそんなに――

    イブキは手を伸ばしたエルヴィンの左の手のひらに
    多くの血がにじむを感じていた。

    「私は…とんでもないことをした…」

    「だから、気に病むことはない!それより馬を出せ」

    手綱を引いたイブキが方向代え調査本部へ向おうとしたとき、
    ちょうどミケの血の跡のあたりに人影が見えた。

    「あれは――」

    しかし、瞬きをした瞬間、消えてしまっていた。

    「イブキ、どうした…?」

    「何でもない…」

    ・・・今のはミケだったの…?

    イブキは馬を出すと、またゆっくりとしたスピードで駆け出すと、
    二人は何も話もせず、本部に向っていた。

    ・・・ミケは私を見送ってくれたの…?
    でも私はあなたの元へ行くには…調査兵として
    全うするとき…バカなマネしてごめんなさい…

    そのとき、イブキの背中が温かく感じたが、それが
    ミケなのかエルヴィンの体温なのかわからなかった。
    しかし心地よい温かさには変りはなかった。

    「背中が温かい…」

    「そうか…」

    エルヴィンは自分の胸元イブキを
    抱きしめたい気持ちでいっぱいだったが、
    それは自分の病室に戻ってからと、
    気持ちを抑えるしかなかった。
    調査兵団本部に到着すると、
    馬小屋のきゅう舎で愛馬を戻し、
    餌を与え撫でる姿を笑顔のイブキを見ると
    エルヴィンはさらに安心感から膝から崩れ
    倒れこんでしまった。
    調査兵団本部に戻ると、
    『団長とイブキが愛馬と共に行方不明』と大騒ぎになっていた――
  53. 53 : : 2013/12/28(土) 11:20:29
    「エルヴィン!?大丈夫…?エルヴィン!!誰か!近くにいない??」

    イブキがエルヴィンを抱きかかえていると
    その声に気づいた団長捜索隊の調査兵たち駆け寄ってきた。

    「団長…!何があったんですか?イブキ、君がついてながら…!」

    エルヴィンは気を失っているようで、うな垂れていた。
    それはまた失った右腕の部分から出血し始めていたからだった。

    「おい、至急病室に運ぶぞ!」

    兵士たちはエルヴィンを抱きかかえるとそのまま
    病室に慌てて連れて行った。

    「エルヴィン…やはり、私は何てことを…!」

    イブキは改めて大変なことを自分がしたのだと痛感していた。

    「私のために命を張っていたってことなの…?」

    イブキは自分の胸に手を当てると、
    心臓が鼓動の速さに気づいていた。
    そしてその時。

    ・・・エルヴィン・スミスを…よろしくね…

    「えっ、誰…?ミケじゃない、女性の声…?
    こんなに優しい声…まさか、ミランダさん…?」

    その声が聞こえた後、イブキはその場にしゃがみこんだ。

    「ミランダさん…あなたの大切な
    エルヴィンを危険な目にあわせて、ごめんなさい…」

    ただ空を見上げて涙を流すと、
    イブキの周りに温かい日差しが差し込むとそれが
    温かい空気になり、身体を包み込んだ。
  54. 54 : : 2013/12/28(土) 11:20:48
    「何…?この温かさは?ミランダさんなの?
    ホントにごめんなさい…」

    自分の身体を包み込むように抱きしめるとイブキは
    涙を止めることが出来なかった。

    「こんなに…温かい人にエルヴィンは愛されていたんだね…」

    ・・・だけど、ミケは私を許せとエルヴィンに言って、
    ミランダさんは私にエルヴィンをよろしくって…どういうことなんだろ…

    エルヴィンの愛馬が鼻を鳴らすとイブキはその音に気づき、
    撫でてと頭を差し出してきた。
    笑顔でイブキが撫でていると、心が落ち着いてくるようだった。

    「おまえは私を慰めてくれるの?いい子だ…」

    イブキが微笑み撫でると、
    エルヴィンの病室にたどたどしい足取りで戻ることにした。

    「エルヴィン…どうなっている…?」

    眉間にしわを寄せ、エルヴィンを真剣な眼差しで見ていると、
    その視線に軍医が気づいた。

    「イブキ…!君がついていて、どういうことだ…?」

    「すいません…」

    顔を出したイブキに対して不機嫌な様子を見せる軍医だが
    イブキは謝ることしかできなかった。

    「謝るのはあとだ!それより困ったことが…!」

    「どうしたんですか…?」

    今度は戸惑い困った様子で話し出した。

    「団長の右腕の治療は済んだのはいいが…左手が…!」

    「まさか、傷が深かったとか…?」

    「いや、違う、これを見てくれ」

    「何…?え」

    その右手にはイブキが忍装束の一部を使って
    傷口を防いだのはいいが、
    エルヴィンのイブキを離したくない気持ちが強いために
    それを握って離さなかった――
  55. 55 : : 2013/12/28(土) 11:21:07
    「イブキ、これは君のものだと思うが…どうにかしてもらえないか…」

    「はい…わかりました、何とかやってみます…」

    ベッドのそばの椅子に腰掛けると、寝ているエルヴィインに話しかけた。

    「エルヴィン…離して!傷の治療があるの…お願い」

    頑なに握られた左手の拳をイブキが優しくさすると、
    エルヴィンの力が抜けていくようだった。
    そしてイブキが優しく布を解いていくと傷口があらわになった。

    「こんなに酷く…!」

    硬質のブレードを握るように手で払ったために
    エルヴィンは数針縫う程度の傷を負っていた。

    「…団長!今から治療開始します」

    イブキが自分の布を手に取ると、そのまま病室を後にした。

    「私…何やっているだろ、エルヴィンに合わす顔がない…」

    病室の窓の外を見ると、大空の大部分を藍色に染め
    オレンジ色はほんの一部となり、本部内は少しずつ冷え始めていた。

    「…痛っ、あれ、ここは…?」

    「団長!どこに行かれていたんですか?傷まで負って…!」

    エルヴィンが目覚めると、右腕だけでなく、
    左の手のひらにも傷を負いエルヴィンは
    新しい包帯が両方に巻かれていた。

    「そうか…私は左手も傷を負っていた…
    だが、白い包帯ではなかったはずだが?」

    「はい、イブキに解いてもらいました!
    団長…今度こそ、イブキを解任させます、新たに傷まで――」

    「いや、私が認めん…そのイブキはどこに行った?」

    「あれ?先ほどまでここにいたはずだが…?」

    「イブキ…!どこだ?イブキ…!」

    エルヴィンは珍しく動揺してベッドから降りようとするも、
    左手を新たに負傷しているだけでなく、
    衰えた脚の筋肉で気力だけで久しぶりに馬に乗ったために
    下半身の筋肉が震えて全身が動かせない状態でいた。

    「イブキを探してすぐここに連れてこい…!」

    軍医が近くにいる兵士たちを本部内で
    イブキを捜索するよう命令していた。
    一方のイブキはそこまで大騒ぎになっていることとは露知らず、
    自分の部屋の隣にあるシャワー室で汗を流していた。
  56. 56 : : 2013/12/28(土) 11:21:22
    「あの場所に行ってよかったのか…
    私のわがままで、エルヴィンにまた傷を…」

    ウォール・ローゼ南区内の旧隔離施設に行ったのは
    自己満足であり、それでエルヴィンに傷を負わせたことを
    イブキは深く後悔していた。

    「やっぱり今は合わす顔がない…今夜は自分の部屋で寝よう」

    イブキがシャワー室から出て自分の部屋で髪を乾かし
    窓から夜空を見上げていた。

    ・・・ミケ…あの空にいるのかな…私はあなたのところに
    行くにはもう少し時間がかかるかも…

    空を見上げ微笑んでいるときだった。

    「イブキ!自分の部屋にいたか…!みんな、イブキがいたぞ…!」

    「えっ…?どうしたの?」

    振り向くと数名の調査兵が
    イブキの部屋の前に血相を変えて立っていた。

    「イブキ!今すぐ団長の病室に戻るんだ!」

    「エルヴィンに何かあったの?まだ意識が戻らなくなったとか…?」

    血相を変える様子の兵士たちを見ると
    イブキはまたエルヴィンが
    重体になってしまったのかと驚き戸惑い始めた。

    「いや…そういうわけじゃなくて…」

    「どういうこと?」

    「行けばわかる…とにかく、早くきてくれ」

    兵士たちは早く自分の部屋から出てエルヴィンの
    病室に向うよう促していた。そして兵士に連れられ
    病室前に到着するとエルヴィンの声が聞こえてきた。
  57. 57 : : 2013/12/28(土) 11:21:42
    「イブキはまだ見つからないのか!」

    「今、探させています」

    声を荒げるエルヴィンとなだめる軍医の声を聞いたイブキは
    目を丸くして、自分を探しに部屋まで来ていた兵士たちを見ていた。

    「これってどういうこと…?」

    「そういうこと…!俺たちはもう退散する!あとは…ごゆっくり!」

    兵士たちが呆れたような、
    照れたような表情をイブキに見せるながら去ると、
    病室に入った。

    「軍医さん…エルヴィンの様子は…?」

    「イブキ…どこに行っていたんだ!?」

    軍医がイブキを見ると安堵した表情になり
    エルヴィンの前のソファーに座らせた。

    「イブキ、君は引き続き団長の世話を頼んだぞ…
    団長、イブキが戻ってきたので私はこれで」

    『やれやれ』という表情を見せながら
    軍医は病室から去り二人っきりにさせた。

    「エルヴィン、声を荒げてらしくない…
    しかも私を探すってどういこと…?」

    「いや…その…」

    いざイブキがそばに座るとエルヴィンは
    天井を見つめるだけで口ごもっていた。
  58. 58 : : 2013/12/28(土) 11:22:02
    「それより…左手見せてよ」

    「あぁ…」

    新たに包帯を巻かれた左の手のひらを
    イブキは優しく触れた。

    「ごめんなさい…私のせいで…」

    涙を浮かべエルヴィンを見つめると、
    イブキは手のひらを自分の頬に寄せた。

    「この傷を気にすることはない。
    それより、あんなことは二度とするな!わかったか?」

    「…うん」

    低い声でエルヴィンはイブキに言うとその手で
    長い黒髪を撫でていた。

    「俺が君を探させたのは…
    また自ら自分の命を投げ出さないか…怖かった…」

    「もう…そんなことはしない…ごめんなさい…」

    イブキの涙が溢れ出すと、
    エルヴィンは自分の指で涙を拭っていた。

    「泣くな…イブキ」

    「わかった…!だけど、
    ホントに私の命が危ういかも、というだけで探させていた…?」

    溢れる涙が止まると、イブキは自分の指で
    涙を拭きながら笑みを浮かべエルヴィンに聞いていた。
  59. 59 : : 2013/12/28(土) 11:22:22
    「何…?」

    「だって、私の命が危ないから探させるのなら、
    私を拘束したりするかもしれないけど、みんなそれをするわけでもなく、
    なんだか、照れている様子だったから…!」

    「ほう…」

    目が泳ぎ出したエルヴィンにイブキは笑いを堪えていた。

    「命を心配するだけじゃなく、単に私に会いたいからでしょ?」

    イタズラっぽく言うとまたエルヴィンを動揺させて
    いつもの調子の関係に戻そうとイブキはしていた。

    「何を言っているんだ…?」

    頬を染めながらも、エルヴィンは鋭い眼差しをイブキに注いでいた。

    「まぁ…いいけど!とにかく、今日は疲れたから、早く寝よう」

    泣いていた眼差しを笑顔に変えるとイブキは
    エルヴィンの左の手のひらを毛布の下に入れようとすると、
    軽く握り返してきた。

    「イブキ…俺の復帰が遅れそうだな、この手だと…!」

    「何言ってるの?これくらい」

    イブキが再び軽く握り返したときだった。

    「痛いっ…」

    左手を胸元に寄せるエルヴィンは眉間にシワを寄せ
    痛みの表情を浮かべた。
  60. 60 : : 2013/12/28(土) 11:23:03
    「エルヴィン…!ごめん、大丈夫…?」

    イブキがエルヴィンの胸元に顔を寄せると、
    胸元にあった左手を肩に回して抱きかかえると
    二人は同じベッドに寄り添うようになっていた。

    「エルヴィン…!あなたって人は!今のはわざとでしょ?」

    「さぁ…寝るぞ…!」

    「もう…」

    「ミケの声は聞こえるか…?」

    「聞こえない…」

    イブキはミケの名前を出すと伏し目がちになった。

    「でも…声が聞こえないってことは
    『危険じゃない』ってことだから、あなたは何もしないってことよね…?」

    イタズラっぽくイブキはいうとエルヴィンは目を丸くしてていた。
  61. 61 : : 2013/12/28(土) 11:23:22
    「あぁ…そうだな」

    イブキの肩に回した左腕に力が入った。

    「もう…私はある人から
    『エルヴィン・スミスをよろしく』って言われて、
    あなたとを復帰まで手助けしなきゃいけないんだから、
    もう無茶なことできないよ!」

    「イブキ…ミランダの声も聞こえたのか…?」

    エルヴィンは声を低くして天井を見据えていた。

    「どうしてわかったの…?」

    「今まで俺のことをフルネームで呼ぶのはミランダだけだ」

    「へーっ…!ミランダさん、なんだかかわいい!
    きっとエルヴィンのことを特別に思っていたから、
    違う呼び名を考えたのかもね」

    「あぁ…確かにそう言われていたよ…」

    「そうだったんだね…ミランダさんも見守っているなら、
    妙なことはできないでしょ?このまま寝るよ…!」

    「でも、俺は…ミランダから
    『私に構わず恋をしていい』と夢で言われた」

    「何それ…!恋をしてもいいって…!」

    二人は昼間の出来事を忘れるかのように
    ベッドの中で会話を楽しんでいた。
    イブキが話していると、エルヴィンの返事が聞こえなくなると
    だんだんと寝息を立てていることに気づいた。

    ・・・もう、寝てる…だけど幸せそうな顔している…
    あの夢はミランダさんにも見守られていたら、
    実現しなさそうね…おやすみ

    イブキはエルヴィンに抱かれた夢を思い出すと
    かすかに笑みを浮かべていた。
    そしてエルヴィンの頬にキスをすると、
    そのまま同じベッドで寝ることにした。
  62. 62 : : 2013/12/28(土) 11:23:35
    ・・・イブキが俺の頬にキスか…唇の方がよかったが――

    頬の感触でエルヴィンが目を覚ますと
    イブキの寝顔を見て幸福感に浸っていたそのとき、
    失った右腕と左の手のひらの同時に痛みが走った。

    ・・・ミケか…!受けて立つ…俺がおまえのところに行くまで
    イブキのことを…俺が…いいよな

    エルヴィンはイブキの寝顔を見ながら痛みに耐えると
    少しずつ痛みが和らいでいき、
    安堵感から再び寝息を立て始めていた。
  63. 63 : : 2013/12/28(土) 11:23:45
    ★あとがき★

    今までアニメの進撃の巨人の裏で
    こういうこともあるかも、というようなイメージ(妄想?)から
    SSを描いてきましたが、アニメが終了して原作を
    読んでいると、やはり『隠密のイブキ』が出てきそうな
    妄想を掻き立てられました。
    今後、原作を読みながら妄想が沸いてきたら、
    また短編として描いてみたいと思います。
    誤字脱字に気をつけていますが、読みにくい点がありましたら
    申し訳ありあません。
    ありがとうございました。

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著者情報
lamaku_pele

女上アサヒ

@lamaku_pele

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