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密めき隠れる恋の翼たち~『エルヴィン・スミス暗殺計画』

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  1. 1 : : 2013/11/06(水) 22:37:58
    100年前、壁の中に逃げてきた東洋人は実は
    あの『親方様』に使える隠密だった?
    そして100年後に出会う調査兵と
    隠密が恋に落ちるというお話です。
    主役はオリジナルキャラの隠密のイブキ。
  2. 2 : : 2013/11/06(水) 22:38:26
    ①100年の呪縛(上)

    晴天の汗ばむような陽気のその日。
    その異国の地にやってきた全身黒ずくめの集団は
    突如現れた化け物から逃げ惑い、
    倒壊した建物の合間と多くの死体の中を駆け抜けていた。
    その集団の上に立つ時の権力者に命じられ、
    異国にはやってきたものの全く予想していなかった化け物の
    襲来から死に物狂いで逃げるだけだった。

    「何なんだ…!今まで順調に計画は進んで後は
    またヤツ等が乗り込む客船に忍び込むだけだったのに…」

    「とにかく、逃げろ、化け物から逃げるんだ…!」

    東洋からその異国へやってきた集団は突然現れた人の形をした
    数メートルもある高さの化け物から必死に逃げそして戸惑いそして
    途中で何人もの仲間がその化け物に食われてしまっていた。

    「…このままでは『親方様』の命に応えられず、裏切ってしまうことに…」

    「いや、我々の代わりはいくらでもいる…もう自分の国に帰るよりも
    今を生き延びることを考えるしかない…」

    そして後ろを振り向くと、たくさんの仲間で来ていたはずだが、
    だいぶ減っていることに気がついていた。
  3. 3 : : 2013/11/06(水) 22:38:52
    「みんな…この異国の地で…命を落とすとは…」

    その集団は正面を見据えて逃げることしか許されない中、
    正面の白い壁を発見した。

    「おい…!みんな、前を見ろ!あの壁を越えるぞ!」

    「あの向こうに何があるの?また化け物がいるんじゃ…?」

    「とにかく、登るしかないだろう!」

    生き残ったものたちは手持ちの武器を器用に用いて壁を登り、
    50Mの頂上に上りたった。

    「みんな…どれだけ残った…?」

    「…半分か…」

    壁に残ったその全身黒ずくめの集団は当初その異国の地に降り立った
    人数の半分をその化け物に食われてしまった。

    「あの化け物…は肉人に似ている…」

    その集団の若者が自分の国の人を弔う場所で見たという
    人の形ではあるが肉の塊の『妖怪の化け物』の話をし始めた。
    だが、その集団の頭(かしら)はそれを遮り

    「そんな話はどうでもいい…とにかくこの壁の中には
    あの化け物はいないようだ。この中に下りるぞ」

    その地上にはウォール・シーナを建設したばかりの
    その国を改めて治めようとする者たちがいた。
    すぐにウォール・ローゼ、ウォール・マリアを
    建設しようと予定していただけに
    上空から降りてきた黒ずくめの集団に驚き銃を向けた。
  4. 4 : : 2013/11/06(水) 22:39:07
    「おい…!おまえらは何者だ?『巨人』に関係あるのか?」

    ・・・『巨人』とは…あの化け物のことか?

    黒ずくめの集団の頭は唯一、
    その異国の言葉を理解し話すことが出来た。
    また無抵抗であることを示すために
    その目の前のものたちに顔を晒して
    手持ちの武器も足元に置いて正直に答えるだけだった。

    「我々は…遠くの国からやってきた…
    そして今はあの化け物から逃げてきただけだ…」

    その国の者は銃を突きつけながら

    「おまえらの顔立ちは…見慣れないな…そんな真っ黒な髪してるだな。
    そういや、『教会のヤツ等』が東洋って国に行ったことがあるって聞いたが、
    おまえらは…その国から来たのか?」

    息を飲みながら、頭に質問した。

    「まぁ…そんなころだ」

    頭も本来の目的は隠し
    やはり息を飲みながら答えるしかなかった。

    「こいつらを連れて行け…!」

    その銃を突きつけた者は
    『今は新たな壁を作ることに集中すべきと』判断し
    黒ずくめの集団をウォール・シーナの『城内』の地下牢へ
    閉じ込めることにした。
  5. 5 : : 2013/11/06(水) 22:39:25
    「…頭(かしら)!俺たち、どうなるんだ?
    これから…もう国には帰れないのかよ!」

    「この牢から簡単に逃げられるが…
    …あの化け物から…どうやって逃げ切る?」

    牢獄に閉じ込められ、
    命からがら逃げてきたのに頭の言葉で
    『もう国には帰れない』…そう想像するだけで
    落胆するしかなかった。

    「俺たちが生き延びるには…もうこの方法しかないだろう…」

    頭は牢で見張り番に対してリーダーを呼ぶように頼むが
    壁の建設もあり、実際に会えるまで数日かかった。
    その間、『客人』として扱われたために投獄されたとはいえ
    食事などは与えられていた。

    「私に何の用か…?」

    この後100年に渡り『王政府』として壁内を支配する
    統治者が頭の前に現れた。
    そして頭(かしら)はその者が放つ匂いで気がついた。

    ・・・こいつは…『親方様』と同じ匂いがするが…まぁ、我々の親方様には劣る…

    そして頭はゆっくりと語り始めた。
  6. 6 : : 2013/11/06(水) 22:39:57
    「あんたは…今からこの『壁の中』で新しい国を作るのか?」

    「あぁ…そういうことになるな」

    統治者もその頭に何か企みがあることに気づき
    気を引き締めて話を聞くことにした。

    「国を新たに作るとして、これからあんたを邪魔したり、
    裏切ったりするものも出てくるはずだろう…そんなときはどうする?」

    頭はニヤっと冷たい目で笑うとその統治者を思惑顔で見つめた。

    「…それをおまえたちが殺るってことか…?」

    「ほう…話が早い…まぁ、そんなところだ…」

    頭はその統治者を邪魔するもの監視し場合によっては暗殺する、
    そして新しい国を作れるよう裏で協力する代わりに自分たちを
    この国で生かせて欲しいと願うと『必要悪』ではなく
    『必要』と理解され統治者にすぐに快諾された。
    この黒ずくめの集団は東洋からきた暗殺を専門とした『隠密』だった。
    本来は自分たちの上に立つ権力者の『親方様』の命により
    情報収集と武器の調達やその権力者に
    接触してきたその異国の地の者を監視して再び帰る予定だったが
    予想外の巨人の襲来により国に帰ることは叶わなかった。
    そして新たな国を作りるに当たりその統治者に仕えることとなったが
    自分たちが生き延びる手段は新たな地でも『隠密』として生きるしかなかった。
    ウォール・シーナの中の限られた範囲内でしか生きられない隠密は
    約100年の間、だいぶ減ってしまった集団の中で子孫を残しながら、
    その忍びの術を伝え残していった。
    統治者のために邪魔者を監視と暗殺の繰り返していくと
    『王政府』は揺ぎ無い権力を手に入れることに成功していた。
  7. 7 : : 2013/11/06(水) 22:43:50
    ②100年の呪縛(中)

    「もう俺は…人を殺すことに疲れた…」

    ウォール・シーナ内に囲われている『隠密』のひとりはつぶやいた。

    「そうね…私も娘たちにこんなことはさせたくない…この壁を乗り越えて
    どこか安全なところでひっそり暮らしたい」

    このウォール・シーナ中で隠密が陰ながら暮らすようになって
    何十年と過ぎたその日。
    隠密の『ある一家』は命じられ暗殺することにに疲れ果て
    そして授かった二人の娘には平凡ながらも、『殺し』以外のことをして
    生きて欲しいと願いながら生きていた。

    「だけど…壁は3ヶ所もある…どうやって乗り越えるのよ?」

    「とにかく…やるしかないだろう…」

    この夫婦は3重に壁に囲まれている理由を
    『巨人から守られるため』と聞いているものの巨人を実際に
    目の当たりしたことがないために壁の向こうなら、
    希望があると信じていた。
    そしてある夜。
    その一家は幼い娘とまだ生まれたばかりで
    上の娘と年の離れた赤子を連れて
    ウォール・シーナ内の囲われたアジトから
    逃げ出すことに成功した。

    「簡単に抜けられても…すぐ追ってはくるだろ…
    とにかく、せめてウォール・マリアまで行けたら、
    何とかなるか…」

    「お父さん、どこ行くの…?」

    幼い娘は物心ついた頃から
    忍びとしての術を身につけており
    その逃げ足は速く赤子を背負う母よりも素早く
    ウォール・シーナ内の屋根を駆ける
    父の後を付いていくことが出来た。
  8. 8 : : 2013/11/06(水) 22:44:25
    「おまえが幸せになれるところだよ…」

    「えー!私はお父さんとお母さんとみんなでいると、幸せだよ!」

    父はその声を聞くと胸が痛くなったが、
    前を進み壁を乗り越え、
    最初の壁・ウォール・シーナを
    超えるしかなかった。
    世襲で受け継いだ頭(かしら)の一家は裏切り逃げ出した
    一家がいることに気がつくとすぐに追っ手をつけたが
    隠密が今では敵となった相手を晦ましながら逃げているために
    探し出すまで数日要していた。

    「もう逃げられない…子供たちだけでも…」

    どうにかウォールマリアの森の中までにたどり着いたが、
    母は乳飲み子を抱えて逃げることに限界を感じていた。
    そして背後に追っ手が迫っていることにも気づいていた。

    「ここまで来たんだ…!行くぞ…!」

    何度も励ましながら逃げ続けていたがとうとう…

    「おい…探したぞ…!」

    すでに頭の一家がその家族に追いつかれていた。

    「おまえたち…逃げられると思っているのか?
    我々はこの壁の中でしか
    生きられないことわからないのか?」

    「我々は自分たちの本当の国に帰れなくても、
    せめて子供たちには、平凡な生活をさせたいんだ…!」

    裏切り者の一家の父は嘆願した。

    「平凡な生活…そんなものは我々が生きる術にはない…
    裏切り者には死を…」

    世襲で受け継いだ頭がその父に向かい刀を向けた。

    「やはり、そうくるか…おまえら、逃げろ…!」

    家族に対して逃げるよう指示をすると、頭に対して勝負を挑んだ。
    この父は隠密の中でも上位の実力者のために
    頭と刃を向け合っても互角の勝負だった。
  9. 9 : : 2013/11/06(水) 22:45:04
    「お父さん…!」

    幼い娘は母と、そして母が抱える乳飲み子の3人で逃げるも
    母が追っ手に捕まってしまい

    「おまえだけでも逃げなさい…!」

    幼い娘は母の言葉通りそのまま逃げ続けていると
    その後方では母の断末魔の叫び声が聞こえてきた。
    幼い娘は振り返りたくても、震えて身を隠すことしか出来なかった。
    また実力者の娘であるため、その身を仲間内から隠すのは
    『朝飯前』だった。
    そしてその断末魔を聞いて気を取られた瞬間に父も頭に切られ
    息絶えてしまった。

    「もうひとりの娘は…?」

    「逃げられた…」

    「この森の中にいるだろう、早く探せ」

    その時だった。
    母親から奪った乳飲み子が火がついたように泣き出した。

    「こいつも殺した方がいいか…?」

    母を殺した隠密が乳飲み子に刃を向けた瞬間、

    頭がその手を止めた。

    「いや…この娘はこいつの血を引いている。
    きっといい隠密に育つだろう。我らの子として育てる」

    そういいながら、自分が殺した一家の父を見ていた。

    「あの逃げた娘は今はいい…必ず殺す…裏切り者は許さない」

    頭は乳飲み子をウォール・シーナへ連れ帰りわが子として
    そして隠密として育てることにした。

    ・・・お父さん…お母さん…イブキ…

    一家の生き残った幼い娘は隠れながら、自分の両親が死にそして
    まだ赤子の妹が連れされたことを気づいていた。
    幼い娘は数日さまようと、ある山小屋にたどり着いた。
    そこには両親と自分と同じくらいの年齢の男の子がいる
    自然と共に暮らす家族だった。
    その家族は見慣れない顔立ちの子供だったが身寄りもなく、
    また言葉も通じないため哀れに思いすぐに引き取り自分たちの子供として
    育てることにした。そして幼い娘も久しぶりに家族を失い久しぶりに味わう
    家族の温かさに心を許していくのだった。
    そして温かく接してくれた家族に
    幼い娘は言葉も通じ合い家族として馴染んでいき、数年後には
    同じ一つ屋根の下に住んでいるその一家の息子と恋に落ちた。
    そして両親が残念ながら次々と病で亡くなったとき、
    一緒になることを決心していた。そこは『アッカーマン家』だった。
  10. 10 : : 2013/11/06(水) 22:46:30
    ③100年の呪縛(下)

    「お母さん、痛いよ…!」

    「これはね、私たちの一族のしるしなのよ」

    その幼い娘はすでに母になる年齢になり、『ミカサ』と名づけた自分の娘の
    右手首を傷つけ『しるし』を入れていた。その理由はいつか、
    赤子のときに生き別れになった自分の妹であるイブキに出会ったとき、
    ミカサが自分の「姪」であるということを気づいてもらうためだった。

    「ミカサも自分の子供ができたら、このしるし受け継いでもらわなきゃね」

    笑顔でミカサに言うと

    「お母さん、子供ってどうやってできるの?」

    母は予想外の質問に面食らい夫に話を振った。

    「お父さん、どうやって出来るのかしらね…?」

    父も戸惑い

    「もうすぐイェーガー先生が来るから、聞いてみようか?」

    往診のためそろそろアッカーマン家を訪れるという
    イェーガー医師に聞いてみようと話をごまかす姿を見ると
    母は微笑むだけだった。そしてそのドアが誰かがノックをしたとき。
    父はイェーガー医師だと思い、そのままドアを開けると
    来訪者にそのままその腹を刺されてしまい、倒れてしまった。

    ・・・まさか…隠密が…?

    母は自分を追ってきた隠密かと思い、
    ミカサに逃げるように促しそして自らも戦い
    挑むもそのまま殺されてしまった。
    呆然と立ち尽くしているミカサに対して
    3人の来訪者は

    「おまえは、暴れるなよ…」

    そういうと、そのまま連れ去ることにした。
    そしてもう何年も使われていない空き家をアジトとする
    3人組はミカサを縛ると床に寝転がし、放置していた。
  11. 11 : : 2013/11/06(水) 22:47:01
    「この娘…見かけない顔立ちだな…」

    「あぁ、100年前までは人類にも種類があってな。
    こいつは東洋って国から壁に逃げてきた末裔らしい」

    「ほう…だが、こいつの父親は『東洋人』には見えなかったぞ」

    「あぁ、こいつは純潔じゃないな。本当に狙っていたのは母親だ」

    ミカサの母は珍しい東洋人のためにその身を売買する
    ブローカーだったが予想外の抵抗のため殺めてしまい
    『その血を引くミカサだけでも』
    ということで連れ去られてきたのだった。

    ・・・寒い…

    ミカサはその二人の会話を聞いても両親が目の前で殺されてしまい、
    あまりにも突然のことのため何が起きているかわからなかった。
    そしてその場にいないもうひとりは奥の部屋で話していた。

    「…予定が狂った。おまえらが探しているという『東洋人の女』を仲間が
    手違いで殺してしまった…」

    「まぁ…いいだろう…元々殺す予定ではあったからな」

    その話し相手は隠密の頭だった。
    ミカサの母を十数年も渡り捜し続け殺す目的で誘拐した、
    ということだった。

    「あの娘はどうする…?」

    「我らの血を引いている。予定通り渡してもらう」

    「わかった…」

    隠密の頭は金を渡すと、

    「向こうの部屋の様子が変だぞ…?」

    「わかった、様子を見てみる」

    ・・・まったく、不気味だぜ…こいつの勘は鋭くて面倒だ

    この3人組のひとりは仲間二人にはブローカーとして
    一仕事すると説明していが、実際のところは
    隠密に金で雇われ『ミカサの母』を引き渡すと
    金を独り占めするはずだった。
    ドアを開けると、仲間二人がミカサを助けにきた
    エレン・イェーガーに殺されている姿だった。
  12. 12 : : 2013/11/06(水) 22:47:46
    「おまえら…何を…!」

    そのひとりが怒りのままエレンの首を絞めるが

    「戦わなければ、勝てない…」

    その言葉を聞いたミカサは
    何かに取付かれたようにナイフと力強く握ると
    その男の後ろから心臓目掛け一突きで刺し即死させてしまった。
    隣の部屋から密かにその光景を見ていた隠密の頭は

    ・・・さすが、我々と同じ血を引く一族だ…
    殺すより隠密として育て治した方がいいか…

    「エレン…!何をしている…!?」

    そこに突然、驚きと唖然とした表情で
    飛び込んできたのは憲兵団と共にやってきた
    エレンの父のグリシャ・イェーガー医師だった。

    ・・・邪魔者が入った…ミカサとか言ったな…覚えておこう…

    隠密の頭は人手が増えてきたために
    その身を隠すとそのまま消え去っていった。
    そして両親を一度に失ったミカサはそのままイェーガー家に
    招き入れられそのまま家族の一員として暮らすことになった。
    一方、ミカサの叔母である『イブキ』は
    頭の一家に暗殺者として育てられていた。
    もともと実力者の血を引きそして、
    さらに上回る実力者になっていた育ての親に
    忍びとしてのすべを託されると、
    自国に戻れば一流と呼ばれるような隠密になっていた。
    愛を知らずにただ人を殺めることでで、
    育ての両親に褒められる、それだけで生きてきたのだった。
  13. 15 : : 2013/11/07(木) 22:50:06
    ④暗殺者・イヴ

    イヴキの実の両親が殺された後に頭(かしら)の一家に引き取られると、
    我が子同様に可愛がりそして隠密として出来る限りの術と
    その国の言葉を頭はイヴキに授けた。
    頭にも実の娘や息子もいたが、
    分け隔てなく接してきたのはもちろん頭の妻も同様だった。

    ・・・イブキなら…使いこなせる…

    頭の妻は自分の実の娘には『気が引ける』という理由から、
    イブキがある年齢に差し掛かったとき、
    『女の武器』を使い男を骨抜きにして
    暗殺するという術も授けていた。
    イブキは純潔な東洋人でありながら、
    3代に渡り異国の地で生活してきた影響か、
    顔立ちや体つきもその異国の人間に近い雰囲気もあり、
    ミステリアスな雰囲気を醸し出していた。
    『その行為』が愛し合う男女がするものだと知ったのは
    その術を授けられてしばらくたってからのことだった。
  14. 16 : : 2013/11/07(木) 22:50:46
    「母上…私だけがしている『術』は…その…」

    あるとき、イブキは頭の妻に自分だけに
    与えられた『術』について恐る恐る聞いてみた。

    「あぁ…あの術はイブキ、
    おまえしかできないのだよ。わかってくれ…」

    頭の妻はイブキをそっと抱きしめ
    『おまえにしか出来ない術』という表向きにしていた。

    ・・・イブキ、これも裏切り者の一家の責任だ…

    頭の母はイブキの抱きしめながら、ほくそ笑んでいた。
    自分の娘には授けたくないが、イブキに授けた術は
    『裏切り者の一家への報』いという
    屁理屈にも似た言い訳を自ら作り出していた。

    ・・・母上…私…頑張る…

    イブキは健気にも母に抱きしめられると、
    その術も『隠密としての術の一つ』として
    理解するようになっていた。
    また隠密の仲間内からはその『術』が
    本来は禁断の術でもあるため
    半ば軽蔑されることもあったが、

    ・・・私は育ててもらった恩があるから…

    周りから実の親は裏切り者であると
    聞かされると、負い目も感じていて、
    その術を遂行することにを深く気にすることはなく
    ただ忠実に隠密としての大儀を果たすだけだった。
  15. 17 : : 2013/11/07(木) 22:51:42
    そして何年も過ぎたある夜のこと。
    ウォール・ローゼ内で王政府を裏切りながら
    商売をする男を暗殺することになっていた。
    イブキは薄暗い連れ込み宿にその男を誘うと

    「おまえの名前は何というんだ…?」

    男はイブキを抱きしめながら名前を聞いてきた。

    「私はイヴ…そんなことより、さぁ…」

    イブキはその暗殺の際、名前を聞かれると
    その異国の地に見合うように『イヴ』と名乗っていた。
    そしてイヴキがその行為をしようとしたとき。

    「…おまえが噂に聞く『イヴ』か…」

    その男は力任せにイブキを押し倒し組み敷いた。

    「何だ…おまえ?」

    イブキが突然のことで戸惑っていると、

    「まぁ…『仕事熱心な憲兵』とでも言っておこうか。
    俺が世話になっている金ずるでもある商売人が
    命を狙われているかもしれないから、
    特に夜は入れ替わって欲しいって頼まれていたもんでね…」

    イブキは隠密の仕事で初めての失敗であり、
    そして憲兵に顔を見らてしまった。

    「…まぁ…楽しませてもらって、おまえの処遇は考えるよ…」

    その憲兵がイブキの胸に顔をうずめると

    「そうはいくか…」

    イブキは冷たい声で返事をし
    すばやくその憲兵がポケットの中に
    ナイフを隠し持っていたことを察知すると、
    そのポケットから抜き取り憲兵の胸を刺した。

    「それでも憲兵かおまえは…簡単に殺されてるじゃねーよ…」
  16. 18 : : 2013/11/07(木) 22:52:35
    返り血を浴びたイブキは手に持っていたナイフを
    床に投げると、そのまま刃先は木製の床に突き刺さった。
    イブキはターゲットとなる商売人を改めて探し出し
    今度は間違いなく仕留めるとそのまま
    ウォール・シーナ内に戻った。
    頭に憲兵を殺したことを知られると…

    「おまえは…なんて失態を…!
    まぁ、最終的に大儀を果たせたからいいものの、
    その憲兵は商売女ともみあになって死んだ、
    ってことになるだろう。組織としても大事にはしないはずだ」

    「申し訳ありません…お頭…」

    「…今回だけ…見逃す。
    またおまえに『打ってつけ』の暗殺がある。
    それを失敗したら…おまえの命はないと思え…」

    頭はイブキを眼光するどく睨みそして
    ひれ伏していた彼女の胸倉を掴むと
    そのまま床に叩き付けた。

    ・・・お頭…私は大儀のためなら私は命を捧げます…

    イブキは言われるがままに次回の暗殺の為に
    命を全うする覚悟で挑むことにした。
  17. 19 : : 2013/11/07(木) 22:53:53
    ちょうどその頃。
    ウォール・ローゼ内では巨人に変身できる人間がいると
    持ちきりでその処遇が審議所で決定していた。

    ・・・巨人化した人間を利用して壁外調査とは…何としてでも
    止めなくてはならない…

    その男は審議所で調査兵団団長のエルヴィン・スミスを睨むと
    その膝に置いた拳を強く握っていた。
    『巨人がいる世界の真相』を知るその男は万が一でも
    この壁外調査成功を収め、巨人の世界の謎が世に
    晒されるようなことがあれば、自分の立場が危ぶまれるために
    エルヴィンに対して危惧の念を抱いていた。

    ・・・次回の壁外調査まで30日とか言っていたな…
    それまでに手をうたねば…

    その男が審議所から出てくるを待っていたのは帽子を目深に被り
    密かに近づいてきたのは隠密の『頭』だった。
    すれ違い様に

    「ダンナ…いい話がある…
    今夜、ウォール・シーナの○○まで来てください…」

    「何…?誰だおまえは!?え…?」

    その男が振り返ると、すでに『頭』の姿はなかった。
  18. 20 : : 2013/11/07(木) 22:54:50
    指定した秘密裏の場所は
    『巨人がいる世界の真相』を知る人間が集う場所だった。
    その男が指定した場所に集まると、
    すでに真相を知る人間が集まっていた。
    ウォール・シーナ内でもエルヴィンのことを
    疎ましく思うのものが多々存在していた。

    「やはり…あの男は切れ者だ。
    放置しておくと我々の立場が危うくなる…」

    「あぁ…そうだ…。消し去ったあと、
    できればあのエレンとかいう少年もどうにかせねば…」

    「やってくれるか…?頭…?」

    最後に話をまとめたのは代々に渡りこの壁内の
    統治してきた『王政府』の一族だった。

    「御意…」

    そしてその依頼に冷たくも
    氷のような声で応えたのは頭だった。
    その場で決まったのは壁外調査までの30日までの間に
    エルヴィン・スミスの暗殺とそしてあわよくば、
    巨人化する少年のエレン・イェーガーの強奪だった。
    その暗殺者に『打ってつけ』として選ばれたのがイブキだった。
  19. 21 : : 2013/11/08(金) 22:24:39
    ⑤陰から眺める

    ウォール・シーナ内でも『王政府』管轄の極秘施設の中に
    隠密たちの住まいでもあるアジトがあった。
    そこは石作りで冷たく、東洋の国では木製が当たり前だっただけに
    身体が馴染むまでは苦労したが、
    時が経てば当たり前の住まいになっていた。

    「イブキ…おまえに『打ってつけ』の仕事がある。
    調査兵団団長のエルヴィン・スミスの暗殺だ…」

    隠密の頭(かしら)は自分が娘同様に育てたイブキに対して
    暗殺の依頼の説明を始めた。
    頭は隠密の中でも絶対的権力を持ち、
    イブキはアジトの冷たい床でひれ伏しながら
    その依頼に耳を傾けていた。
    30日後に行われる『壁外調査』を阻止するためでもあり
    エルヴィン・スミスのの策略を恐れた『巨人の世界の真相』を知る
    権力者たちが命を狙っていた。
    例え今回の壁外調査を中止に追い込んでも、
    さらには『手を変え品を変え』あらゆる手段で巨人の真相へ
    迫るだろうと考えた権力者たちはエルヴィンの命を奪うことが
    最善だと結論付けた。
    また隠密の数もだいぶ減ってしまい、このままだと
    『近親婚』でもしない限り増やせないと判断した頭は
    これを限りに新たな異国の地の者を仲間に入れるか、
    または隠密を解体するかという岐路に立たされていた。

    ・・・イブキ、おまえがこの仕事を成功させることに掛けよう。
    その結果次第で、我々の運命も決まる…

    頭はイブキの胸倉を掴み、

    「俺が授けたあらゆる術を使え…もちろん、その身体も…」

    頭はイブキのその身体を嘗め回すように見ると、
    振り払うようにイブキの彼女の胸倉から手を離した。
    そして振り返りイブキに背中を見せると、

    ・・・イブキ、すまない…親としての態度は失格だがわかってくれ…

    頭は長い間、娘として接してきたためにもちろん、
    親心というのもあり、その態度に後ろめたい気持ちも芽生えるが
    すべては『大儀のため』という理由にイブキに辛く当たることが多かった。

    「御意…調査兵団本部へ忍び込み…エルヴィンとやらを抹殺します…」
  20. 22 : : 2013/11/08(金) 22:25:14
    イブキは頭の背中を見ていると、今回の仕事は今までとは違う、
    何か運命のようで『特別な機会』を与えられたようなもの感じ取っていた。
    そしてその日の夜に一人でウォール・シーナを出ると調査兵団本部のある
    ウォール・マリアまで向かうことにした。
    自分の痕跡を残せないために夜に街中を移動し、
    明るい時間に森を抜けるという移動手段をとっていると
    到着まで数日かかってしまった。

    ・・・やっと到着…殺しより『移動』が大変なのは勘弁して欲しいね…

    イブキは石造りの調査兵団本部の施設に忍び込むと
    エルヴィンの執務室の窓が見える
    向かい側の建物の死角となる位置で
    身を潜め調査兵団本部内を眺めていた。

    ・・・なんだ…この化け物は…?これが『巨人』ってヤツか?

    イブキが身を潜めている位置から見える下位の広場では
    カラネス区を奪還したとき捕らえた2体の巨人が
    あらゆる実験にかけられ、繰り返される様子が伺えた。
    イブキは壁の中で仕事をするものの、壁外へは出たことはなく
    初代の隠密が巨人から逃れるがめ壁の中に入ってきたとは
    聞いていたが、その目で巨人を見るのは初めてだった。

    ・・・確かに…あの化け物からは逃げたくもなる…だけど、
    あの人はなぜそこまで巨人に立ち向かう…?

    そこにはハンジ・ゾエが槍を持ちながら、
    泣き叫びながら巨人の胸や目を突き刺し、
    その巨人の弱点を探している様子だった。
    隠密として様々な最悪な状況を目の当たりにしてきたイブキも
    ハンジのその熱心な態度には引き気味になっていた。
    そしてそのときだった。ハンジが

    「ほら…痛くない、痛くない…?」

    巨人の心臓部分を槍で突き刺していると、
    巨人を取り巻くワイヤーの一つの
    留め金が外れそうになっていることにイブキは気づいた。

    ・・・あれを利用してまずは、エルヴィンとやらの様子を伺うか…

    エルヴィンは執務室でデスクに向って
    何やら書き物に集中している様子だった。

    ・・・タイミングを見て…まだだ…

    イブキはエルヴィンの様子を伺いながら
    ハンジの実験の様子も目が放せなかった。
    そして巨人がハンジに噛み付こうとした途端、
    その金具がとうとう外れてしまった。
  21. 23 : : 2013/11/08(金) 22:25:57
    「分隊長…!!」

    補佐のモブリットの声と共にハンジはその身をかわし
    危機一髪というところで、巨人の餌食からは免れたが
    巨人を止めていていたワイヤーの留め具もその勢いに
    連動していくつも飛び出したと同時に
    イブキは手持ちのゴム紐を張ったパチンコで
    エルヴィンの執務室の窓を目掛け小石を勢いよく発射した。

    ・・・え…?

    イブキがパチンコから小石を離したその瞬間、
    エルヴィンはその身を避け、
    ただ執務室の窓ガラスに小石が貫通して割れただけだった。
    イブキはエルヴィンは『頭が切れる策略家』と聞いていたが、
    その反射神経や運動能力は未知数だっために
    小石が貫通して、その身体に当たったときの
    態度を伺おうとしていたが、まさか『避ける態度』を
    見せるとは思わなかった。

    ・・・面白いヤツじゃない…エルヴィン・スミス…!

    イブキはエルヴィンの態度にその口元の口角は上がった。

    「いや~!エルヴィン!すまない~!ケガはない??」

    留め具のひとつがエルヴィンの執務室の窓ガラスを
    割ったと思ったハンジは実験場からエルヴィンを申し訳に
    謝っていた。しかし、何度も失敗していたハンジに
    悪びれる様子はあまり感じられなかった。
    周りではモブリットを始め駐屯兵団の兵士たちが暴れる巨人を
    仕留めるために慌てふためいていた。
    エルヴィンは窓を開け、実験場を見下げると

    「あぁ…俺は問題ない、それよりも早く拘束する作業を」

    「了解した!」

    ハンジは皆と一緒に巨人を大人しくさせ再び拘束させた。
    何度もやっていることのため、
    ハンジにとっては日常的なことで簡単に仕留めていた。

    ・・・今のはこの騒ぎに便乗して俺を狙った…?

    エルヴィンはその背中に感じる視線を気にしないようにしていたが
    ガラスが割れた瞬間、『狙われている』と確信していた。
    またイブキがガラスを割った瞬間、小石は2個放たれていた。
    1個目はエルヴィンの身体を狙うためのガラスを貫通させるため、
    もう1個はそれより少し大きく窓ガラスを割る目的のため、
    貫通の痕跡を消すために放たれたものだった。
    エルヴィンは割れたガラスの中から自分を狙ったであろう小石を見つけると

    ・・・誰が何のために…まさか、壁外調査の阻止か?

    エルヴィンは小石が放たれたであろう方角を
    割れた窓ガラス越しに睨むがそこには人の気配はなかった。
    もちろん、イブキはすでに去っていた。
  22. 24 : : 2013/11/08(金) 22:26:20
    ・・・頭は切れるは、勘も鋭い…なかなか手ごわいが、
    やってやろうじゃないか…すべては大儀の為に

    イブキは調査兵団が夜になるとウォール・シーナの建物に比べ
    暗がりになりやすいことをがわかると、その身をしばらく
    調査兵団本部に隠すことをしていた。
  23. 25 : : 2013/11/09(土) 22:28:08
    ⑥孤独

    イブキが調査兵団団長のエルヴィン・スミスの暗殺を企てている間、
    調査兵団本部その身を潜めてることにしていた。

    ・・・ウォール・ローゼの建物ってなんでこんなに暗いんだろ…
    まぁ、経済的にはシーナの方が回っているし、それはそれで仕方ないし、
    こっちとしては好都合だけどね…

    壁内では城に近いウォール・シーナは経済的に潤っている影響か
    街並みもキレイであれば、またライフラインも整備されていて、
    そこに住む人々は日常生活も不便さは感じていなかった。
    イブキはウォール・シーナの中で『王政府』から
    囲われている生活をしているとはいえ、
    ウォール・ローゼよりも『不便のない生活』をしていたために、
    調査兵団本部において室内が暗すぎることに驚いていた。
    イブキはエルヴィンの執務室の出入り口付近の天井に潜んでいると、
    主な関係者の様子を伺っていると要注意が存在することに気づいた。
    一人はミケ・ザカリアスで彼は匂いで
    何かを勘付く様子でイブキが気配を消していても
    その存在する方向で鼻をすすり、眼光鋭く天井を見つめていることがあり、
    もう一人のリヴァイミケもミケと同様、イブキが気配を消しているのに
    何度か彼女が隠れているその場所をピンポイントでにらむことがある。
    そのためにイブキは暗殺はエルヴィンが一人になる真夜中にと決めていた。
  24. 26 : : 2013/11/09(土) 22:28:26
    ・・・だけど…エルヴィンって…いつも周りに人がいるんだろ…

    昼間は気配を消して調査兵団本部内でも人気のない天井付近で隠れては
    仮眠を取ったり一時的な休憩をすることもあった。
    ずっと殺気立っているとエルヴィンを含め勘の鋭い3人がいると、
    気配を察知される可能性が高いためだ。
    イブキは調査兵団本部に潜入して数日中に決行するつもりでいたが、
    エルヴィンが一人になるタイミングが少なく絶好のチャンスを何度も逃していた。
    イブキはエルヴィンのことを『策略家』と聞かかされていたが、
    今まで彼女が暗殺してきた、人を信用しないため
    いつも孤独な『策略家』とは大違いだった。
    天井裏で一人、足を抱えて昼間は作戦を考えつつ、
    イヴキは考え事をすることが多かった。

    ・・・私はウォール・シーナにいても一人だったな…

    頭(かしら)の一家と一緒にいても、やはり裏切り者の一家の娘ということで
    負い目を感じながら生きていた。育ての親の頭が実の娘と息子と接する時と
    イブキに対しては心なしか冷ややかな態度になっていた。
    いつも仕事から戻ってくると、育ての親の頭が褒め、
    そしてその妻に抱きしめられるとイブキは『愛されている』と思い込んでいた。
    しかし、親心も二人の気持ちには存在していたが、
    『大儀』を忠実に守ることがイブキと接するときにはその気持ちが上回っていた。
  25. 27 : : 2013/11/09(土) 22:28:42
    ・・・この調査兵団って『死』と隣り合わせのはずなのに悲壮感がない…

    数日間、イブキが密かに覗いていて感じていたのが
    ハンジ・ゾエを始め明るい人が多い。
    隠密の皆はいつも命をもてあそぶ影響か、
    暗くて心から笑うような人を見かけることがなかった。
    そのためイブキは調査兵団の兵士たちを見ていると
    自分の孤独感がさらに増していくような感覚がしていた。
    イブキは孤独には慣れているはずだったが暗殺の相手が特に
    孤独感などなく自分と対照的な人物であると
    『どうしてそんな人が死ななければ?』と思うこともあったが、
    すべては『大儀のため』と気にするつもりはなかった。
    しかし今回の暗殺対象のエルヴィンを密かに見ていると、
    その周辺の強力な実力者や信頼の厚さもあり、
    さらにエルヴィンそのものがさらに上回る実力者だと認識すると
    今まで一番の手ごわい暗殺の対象者だと感じていた。
  26. 28 : : 2013/11/09(土) 22:29:03
    ・・・早めに決めないと…このままでは見つかってしまう…
    ごちゃごちゃ考えるのはよそう…

    再び暗殺者としての冷酷な心を取り戻し、夜中になるのを待ち
    その心を集中させていた。
    そして真夜中になったその時間。イブキは調査兵団の
    執務室を兼ねたエルヴィンの部屋に向うことにした。
    イブキは屋外の窓から忍び込もうとした際、
    巨人の実験場には見張りの兵がいると気づいたが、
    そこにその見張りは巨人に集中していて、
    エルヴィンの部屋の方向には気は取られていない様子だった。

    ・・・お頭…?なぜこんなところに…?

    イブキが身を潜めていると、
    隠密の頭が2体の巨人の様子を伺っていることがわかった。
    そしてイブキが近くに潜んでいることにも気づいているようだった。

    ・・・もしかして、私がなかなかエルヴィンを殺らないから見にきたの…?
    特に加勢する様子もない…他の目的があるかもしれない…
    私は私で実行に移そう…

    イブキは外側から窓を音を立てずにカギを壊してその窓を開けると、
    室内に忍び込むことに成功した。
  27. 29 : : 2013/11/09(土) 22:29:22
    ・・・簡単に入れるのはおかしい…まさか気づかれている…?

    寝室のドアに背を向けると、
    人の気配を感じてエルヴィンが中にいることを確信していた。
    イブキは息を整え寝室のドアを開けると、気配を消して侵入すると、
    ベッドには人の形をした寝姿を発見した。

    ・・・このエルヴィンの顔だ…寝息を立てている…大丈夫、本物だ…

    そしてイブキが懐からナイフを出して両手を振りかざし
    エルヴィンの胸元目掛け、ナイフを刺そうとした瞬間だった。

    「おい…てめー…なにしてやがる…?」

    イブキが振り返ると、そこには気配を消して
    エルヴィンの寝室でイブキを待ち構えていたリヴァイだった。

    ・・・見つかった…!

    イブキは舌打ちすると、咄嗟に寝室から飛び出し、そして
    執務室の窓を突き破ると、そのまま調査兵団本部の施設内の
    屋上を飛び越えて逃げることにした。

    「待てーー!」

    イヴキが後ろを振り返ると、リヴァイとミケ・ザカリアスが立体起動装置を起動させ
    追いかけてくるのがわかった。

    ・・・ヤバイ…立体起動…追いつかれる!

    調査兵団の本部から街へイヴキとリヴァイ、そしてミケの3人が月明かりに照らされ
    イブキが屋根から屋根へ飛びながら逃げ惑うと、後方には二人が迫っていた。

    「あの黒ずくめ野郎…!立体起動なしで、器用に屋根伝いに逃げやがって!」

    またイブキが屋根から屋根へ飛び降りようとした瞬間、リヴァイが
    立体起動装置のワイヤーだけを操作して、イブキの右足首に絡ませた。

    ・・・痛いっ!…えええっ!

    イブキの足首に痛みが走ると、その瞬間、空中に浮いていたイブキは
    リヴァイがワイヤーを手元に引く操作をするとイブキのその身体は勢いよく
    二人の方へ引き寄せられていった。
  28. 30 : : 2013/11/09(土) 22:29:43
    「おっと…!逃がしはしないぜ…!」

    ミケが自分の手元に引き寄せられたイブキを抱き寄せたとき

    「こいつ…女か…?」

    ミケが身体に触れた瞬間、その女性らしい柔らかさで驚くと同時に
    布で覆って隠していた顔をリヴァイがさらすと、
    イブキの長い髪と共にその顔が現れた。

    「ほぉ…女だっとはね…この顔、どこかで見たことあるような…」

    「とにかく、リヴァイ、こいつを本部の元へ連れて行くぞ」

    ミケはイブキを口を持っていた布で猿轡のように閉じ、
    そしてワイヤーで後ろでに手を結ぶとそのまま抱え込むと、
    立体起動でエルヴィンの執務室まで戻ることにした。
    本部へ戻る頃には突然、エルヴィンの執務室の窓ガラスが割れたために
    その下の巨人を見張っている兵たち騒ぎ出したが、
    エルヴィンがなだめ、騒ぎは落ち着きつつあった。
    イブキがリヴァイとミケに小脇に抱えられ執務室に連れ込まれると、

    「おまえか…この数日、俺を見張っていたのは…!」

    エルヴィンはイブキのことを髪の毛を掴みながら睨んでいた。
    イブキも怯むことなく睨み返していた。
  29. 31 : : 2013/11/09(土) 22:30:05
    ・・・しくじった…!

    イブキにとって初めて暗殺の対象者に捕まってしまうという
    失態を犯してしまったのは焦りが招いたことと、そして
    敵はエルヴィンだけでなく、鋭い勘の持ち主のリヴァイとミケにも
    してやられた、ということだった。
    数日前に執務室の窓ガラスを割られたその直後からリヴァイとミケから
    本部内で人の気配、特に殺気がするということをエルヴィンに報告していた。
    そして『近々その殺気を放っているものが姿を現す可能性がある』と判断して
    この数日、リヴァイとミケはエルヴィンの部屋で特に夜中に待ち構えていた。

    「地下牢に連れて行くぞ…」

    引き続きイブキはリヴァイとミケに小脇にかかられると、
    地下牢に強制的に連れて行かれると、
    その後ろをエルヴィンが付いていった。
    イブキはその鉄格子のある地下牢は
    松明で周囲が照らされるも薄暗く人の顔が
    近づいてやっとわかるような程度だった。
    イブキはそこで天井から吊るされ、鎖の先に付いた枷で
    両手首を拘束されてしまった。
    イブキは3人を睨みながら、どう脱獄するか考えていた。
  30. 32 : : 2013/11/09(土) 22:30:45
    ・・・こんな枷くらい…すぐ外せるだろうが、
    問題はこの3人から勘付かれずにどう逃げるかだね…

    エルヴィンがイブキの猿轡を外すと

    「おまえは何の目的で俺に近づいた?」

    エルヴィンは改めてイブキの髪の毛を根元から引っ張りたずねた。

    「さぁ…ね…!」

    イブキはエルヴィンを睨むと正体をはぐらかした。

    「あぁ…この女…あいつに似ている…」

    リヴァイが腕組みしながら、目を見開きイブキを睨んだ。

    「俺を審議所で殺意むき出しにしていた
    あのエレンの馴染みの『ミカサ』だ…」

    リヴァイは審議所でエレン・イェーガーを足蹴りにしている最中、
    今にも飛び掛り、止めに入りそうなミカサ・アッカーマンを覚えていた。

    「あぁ…確かに似ているな…」

    エルヴィンがそういうとミケもうなずいた。
    イブキはミカサの叔母ということもあり、
    顔立ちはミカサの目元をキツくして髪は同じ黒髪だが長めで
    身長はミカサよりも少し高くまた体つきは
    『様々な経験』から大人びていた。

    ・・・ミカサ…あの子はここにいるのか…

    イブキは不敵な笑みを浮かべると、3人を改めて睨んだ。
  31. 33 : : 2013/11/10(日) 22:51:56
    ⑦捕まる

    イブキは調査兵団本部の地下牢で両手を拘束され吊るされながらも
    目の前のリヴァイ、ミケ・ザカリアス、そしてエルヴィン・スミスを睨んでいた。
    エルヴィンはイブキの黒ずくめの隠密の服を見ながら

    「この服は…なんだ?おまえらの制服か?」

    着物のように前合わせと帯の組み合わせの服装は
    なじみがなく珍しそうに眺めていた。
    イブキは口を閉ざし、エルヴィンを睨むだけだった。

    「ほう…無視か…」

    エルヴィンは冷たい表情のままイブキの前合わせの着物の
    首もとが交わる襟の部分を思いっきり左右に引っ張ると
    前合わせの部分を乱れさせた。

    「エルヴィン…!おまえ何を!」

    そばで見ていたミケは驚いたが、その下はさらしで巻いていて
    胸があらわになることはなかった。

    「へーっ…そこの背の高いヒゲの殿方は純情なんだね…
    私の裸が見たかったら、エルヴィンに頼むことだね…!」

    イブキは艶かしい声でミケに言うと

    「わかった…その通りにしよう…」

    エルヴィンは無表情のまま
    イブキを睨みそのまま巻いていた
    さらしを下まで一気に下ろすと
    上半身の着衣は乱れ、たわわな胸元があらわになり、
    冷たい石造りの牢屋とは不似合いな
    大人の色香が漂っていた。
  32. 34 : : 2013/11/10(日) 22:52:21
    「エルヴィン…ほんとにやるとは…!」

    ミケはエルヴィンの行動にたじろぐも、
    イブキに釘付けになってしまった。

    「エルヴィン…あんたって、堅物って聞いていたけど、
    こういうことが好きなんだね…!3人さえよかったら、
    今から4人でここで楽しいことしても
    私はかまわないんだよ…!」

    イブキがエルヴィンを睨み不敵の笑みで言うと

    「はしたない女…」

    リヴァイが舌打ちしながら冷たい声で言い放った。
    そしてエルヴィンが水をはったバケツを持ちながら

    「頭を冷やせ…」

    イブキの身体に冷水を浴びせ
    そのままお腹を拳で殴ると、イブキは
    空腹なのに内容物を吐きそうになりながら
    気絶してしまった。

    「エルヴィン、この女をどうする?」

    リヴィイが問うと、

    「しばらくこのまま拘束する。
    壁外調査の何らかの妨害かもしれない。
    今回の調査を妨げは一切許さない…」

    気絶してうな垂れるイブキを
    睨みながら淡々と言い放ちそして

    「確かにミカサ・アッカーマンに似てるが…
    明るくなったら本人と対面させよう。
    何か関わりがあるなら、彼女の拘束もあり得る」
  33. 35 : : 2013/11/10(日) 22:52:49
    「あぁ…そうだな…」

    リヴァイはエルヴィンの応えに冷たく返答する間、
    ミケはイブキの妖艶な色香に心を奪われそうになっていた。

    ・・・この女…確かに『いろいろ経験済み』だが悲しみも背負っている…
    なぜだ…本心でこんなことやっていない…

    ミケのその勘の鋭い『不思議な鼻』はイブキについて嗅ぎ出すほど
    イブキの行動について疑問を抱える感覚に陥っていた。

    「おい、ミケ…話を聞いているのか?」

    エルヴィンは半ば不機嫌な様子でミケを睨むと

    「あぁ…ミカサに似ているってことだよな?」

    ミケは『話半分』という状態でエルヴィンとリヴァイの話を聞いていた。

    「とにかく…あとは明るくなってからだ。
    今は気絶しているからいいが、この女のことだ…脱獄も可能性大だ。
    ハンジにでも頼んで頑丈な鍵でも見繕ってもらおう」

    エルヴィンが淡々と話すと3人はイブキの地下牢は
    出来る限りのカギを掛け、その場を後にした。
    そして地上に出ると引き続き外の騒がしさに気づいた。
    そこにはハンジ・ゾエの補佐でもあるモブリットが
    慌てて近づいてきた。

    「エルヴィン団長!ハンジ分隊長はどちらに行かれたのでしょうか?
    先ほどから探しているのですが、見当たらないのですが…!」

    それを聞いていたリヴァイは

    「ハンジなら、旧本部の古城にいる。何があった?」

    リヴァイは慌てているの様子のモブリットに質問した。

    「今しがた…!2体の実験体の巨人が何者かに殺されました…!」

    モブリットは3人に巨人殺害の報告をすると、
    そのままハンジを呼びに旧本部まで馬で
    駆け迎えに行くことにした。
  34. 36 : : 2013/11/10(日) 22:53:33
    「今度は巨人が殺されるとは…今日は夜中から災難続きだな…」

    リヴァイが冷たい声で言うと、

    「まさか…!」

    エルヴィンは再度慌てて地下牢に向うと
    リヴァイもミケも後についていった。
    しかし、そこにはまだ気絶をしてうな垂れている様子の
    イブキがそこにいるのだった。

    「こいつと巨人殺害は関係ないのか…?」

    エルヴィンがホッとした表情と同時に
    またその顔を引きつらせていた。

    「まぁ…同時に起こるとは全く無関係ではないだろう…エルヴィン」

    リヴァイは眼光するどくイブキを睨むと淡々と応えていた。

    イブキを地下牢に閉じ込めながらも、見張りをつけることにした。
    その担当はミケが受け持つことになったが、
    イブキが放つ大人の色香だけでなく、その背負う悲しみも気になり、
    『ただの暗殺者』ではない、ということに気づいていた。

    ・・・あの巨人のそばにお頭がいたけど…殺害と何か関係あるのか…

    イブキは朦朧とした意識の中で3人の会話を聞いていると
    巨人の近くにいた頭のことを思い出していた。
    そして明るい時間になると、ミカサが呼ばれ鉄格子越しに対面させられた。
    ミカサは上半身があらわになったイブキに戸惑い後ずさるが、
    暗がりの中、徐々に目が慣れていくに連れて、
    よく目を凝らして顔を見ると、自分にも似ていれば
    亡き母の面影のあるイブキにさらに戸惑いの様子を見せた。
  35. 37 : : 2013/11/10(日) 22:53:57
    「あんたが…ミカサか…大きくなったね…噂には聞いていたよ」

    イブキは天井から吊るされ鎖の音を鳴らせながら、
    ミカサの方向に身体を向けた。

    「私は…知りません…この女…」

    「だが、この女は君のことを知っているようだが、ミカサ?」

    エルヴィンは淡々とミカサにたずねるが、
    驚き戸惑うミカサは黙るだけだった。

    「まぁ…初対面だから、この子が私のことなんて知るはずない…
    でも、これを見なよ…」

    イブキが右手首の枷をずらして
    その手首の内側に刻まれた『しるし』を見せた。

    「…あれは…!」

    イブキと同じ『しるし』がミカサの右手首には刻まれていた。

    「我ら…『一族』の証拠は刻まれているが、今のミカサには関係ない…」

    イブキは淡々と言うと

    「私は何も知りません!」

    ミカサは戸惑い叫ぶだけだった。

    「ミカサ…君のカラネス区奪還の活躍を
    差し引いてもこの揺るがない怪しい証拠がある限り…」

    エルヴィンにそう言われると、ミカサはその手首を隠した。
  36. 38 : : 2013/11/10(日) 22:54:20
    「…君を24時間監視する。こうして牢に閉じ込めないだけ
    まだ救いと思え。壁外調査は常に人材不足だ。新兵ながらも
    実力者の君は評価すべきだからな。もう訓練に戻れ」

    ミカサはエルヴィンに心臓をささげる敬礼をすると
    監視の調査兵に付き添われそのまま出て行った。

    「…へーっ、エルヴィン、あんたも優しいところあるんだね…
    見直したわ…」

    イブキはエルヴィンに意味深な眼差しでそう言い放った。

    「まぁ…まだ聞きたいことは山ほどあるが…ミケ、引き続き見張りを頼む」

    エルヴィンはミケに見張りを頼むと壁外調査の準備など
    まだまだイブキにかまっていられないことが多々ありその場を去っていった。

    「まぁ…俺も忙しいんだけど…」

    ミケは鉄格子の前の椅子に座りながら、
    腕組みしながら引き続き、目のやり場に困りながらも
    監視を続けることにした。

    「なぁ…あんた…そろそろ名前くらい名乗ったらどうだ…」

    ミケがイブキに問うと不敵な笑みを浮かべた。

    「この3人の中では私に優しいのはあんただけだね…」

    天井から吊らされたイブキは
    揺ら揺らと動きながら応えた。
  37. 39 : : 2013/11/10(日) 22:54:55
    「とにかく、名を名乗れ」

    ミケは照れながらも、改めてイブキに名を名乗るよう促した。

    「私は…イヴ…」

    イブキは暗殺のときの名前の『イヴ』と
    力なく名乗るととそのまま再びうな垂れた。

    「イヴか…名前あるじゃねーか…なんだ寝るのか?」

    イブキは真夜中にエルヴィンに水をかけられて以来、
    そしてこの石作りの調査兵団本部の地下牢で一晩中
    上半身をさらしていると身体を冷やし
    熱を出してしまっていた。

    「顔が赤い…熱か…。まぁ…悪いが看病はできない」

    ミケは『ただの暗殺者』ではないと感じながらも
    調査兵団団長であるエルヴィンを狙った以上、
    体調を崩すイブキをそのまま吊るされたまま
    監視するしかなかった。
  38. 40 : : 2013/11/11(月) 22:04:36
    ⑧優しさに触れる

    ・・・くそ…こんなときに…

    イブキは熱で全身が火照りその頭は
    熱と頭痛でボーっとしていた。
    両手首を拘束され天井から吊るされた状態ではあるが、
    意識はかろうじて保っていた。

    「イヴ、おまえ大丈夫か…?」

    熱で真っ赤な夕日のように
    なった顔を見たミケ・ザカリアスはさすがに心配になってきた。

    「えっ…私のことを心配するのかい?
    私はあんたのボスのエルヴィンを
    殺そうとした女だよ…
    ホントはさっさと死んだほうがいいって思っているんだろ?」
  39. 41 : : 2013/11/11(月) 22:05:10
    イブキは朦朧としながらも、ミケの質問に答えていた。

    「今死なれては困る。エルヴィンを狙った理由は何なんだ?」

    ミケは改めてイブキに問うが返事がなかった。
    ミケが目を凝らしてイブキの様子を見ると、
    意識を失っているようだった。
    そのときだった。ちょうどエルヴィン・スミスと
    リヴァイがイブキの様子を見に
    イブキのいる地下牢まで下りてきてた。

    「あの女、何かしゃべったか?」

    エルヴィンがミケに問うと

    「あぁ…名前は『イヴ』と名乗ったが、あとはあの調子だ」

    ミケは鉄格子の中のイブキの指差した。

    「何だ?寝てるのか…?」

    「どうやら、水をかけられ、
    ここの寒さで熱を出して動けないみたいだ」

    「何…!」

    エルヴィンは鉄格子に近づきイブキに声を掛けるも
    無反応だった。そして急いで鉄格子のカギを開け始めた。
  40. 42 : : 2013/11/11(月) 22:05:42
    「おい、エルヴィン、てめー何してんだ?」

    その様子を見ていたリヴァイが止めに入るが
    エルヴィンはそのまま牢に入ると、
    イブキの身体に触れて確認すると

    「すごい熱だ…!俺を狙った理由もわからぬまま死んでは困る」

    意識のないイブキの手首を拘束していた枷を外すと
    そのまま抱きかかえ兵団内の地下室から
    調査兵団本部内の空いている個室に向うことにした。

    ・・・あれ、私は誰かに抱えられている…?
    見張りのミケか…?えっ?

    イブキは自分が今回の暗殺の対象のエルヴィンに
    抱えられていることに驚くも、熱で身体が動けないために
    『今、殺れる』と思っても無抵抗な状態になっていた。

    ・・・このまま…何されるんだ…どこかに放り出されるんだろうな…

    イブキはほぼ観念した気持ちでいると、
    その個室に通されそして
    やさしくベッドに寝かされた。

    ・・・え?なんで…?

    イブキは予想外の扱いに驚き薄目を開けるとエルヴィンが
    厳しい表情でもあるが心配しているようにも見えた。
  41. 43 : : 2013/11/11(月) 22:06:14
    ・・・なんてお人よしなんだ…私はあんたを殺そうとしたのに…

    そして兵団内の軍医が呼ばれ治療を受けさせると
    『肺炎寸前』と診断され、
    そのままこの個室で寝かされることになった。
    そしてハンジ・ゾエが呼ばれイブキの濡れた着物から
    洋服に着替えさせ、両手首には
    ベッドに固定された枷で拘束したままだった。
    この個室も逃げられないように窓には鉄格子も備え付け
    ドアも格子型で頑丈なハンジ特製の鍵が掛けられると
    中が監視できるような状態にした。

    「エルヴィン、この鍵と鉄格子なら、逃げられないよ!」

    「ハンジ、ご苦労」

    エルヴィンはハンジを労うと彼女はその個室を後にした。
    そしてエルヴィンはイブキのそばに椅子を置いて座ると
    しばらく看病していた。

    「なぜここまでする…私はあんたに殺されても仕方ないんだ」

    目が覚めたイブキはエルヴィンに疑問を呈した。

    「あぁ…そうだな…しかし、私を狙った理由を知るまで
    死なせはしない…」

    「それもそうだな…」

    イブキは薬が効いてきたのと熱でぼーっとするために
    再び眠りに入った。
    そして、眠ったことを確認すると廊下で待っている
    ミケと交換することになった。
  42. 44 : : 2013/11/11(月) 22:07:22
    「エルヴィン…優しすぎる処置じゃないか…?」

    ミケもエルヴィンの接し方に驚くが、すかさず

    「押してダメなら…ってヤツだ…あとは頼む」

    エルヴィンは低く冷たい声でミケに言うと
    その肩をポンと叩くとそのまま
    自分の執務室へ戻っていった。

    ・・・押してダメなら、引いてみな…か…肉体的に痛めつけずに
    『優しさ』で口を割らせようってことか?

    ミケはエルヴィンの『情』をも利用する冷酷さに驚くも、
    イブキのそばに座りその顔を見ると最初の頃に比べると、
    顔の赤味も引いていて安堵していた。

    ・・・こいつは…ホントに何者なんだ?

    イブキはこの数日、張り詰めた時間を過ごしていたために
    その疲れから解放されたかのように眠りに落ちていた。
    太陽が西に傾き始めると、石作りの本部内が冷え始め、
    ミケはイブキの身体に毛布をかけようとすると、
    彼女が目を覚ました。
  43. 45 : : 2013/11/11(月) 22:07:50
    「すまない…起こしてしまったか」

    ミケが謝ると

    「別にあんたが謝る必要なんてない…」

    まだまだ赤い顔をして少し苦しそうに応えた。

    「ねぇ…あんた…私に気があるようだね…?」

    イブキはミケに艶っぽい声と眼差しで言うと彼は
    一瞬目が泳いだ。

    「何言ってるんだ、バカじゃねーの…」

    「ねぇ…私を逃がしてくれたらさ…
    私といいことしようよ?いいでしょ?」

    イブキは拘束されながらも、ミケが座っている方へ
    その身体を傾けた。
    ミケは気を引き締めそして低い声でいい放った。

    「あいにく、愛のないそういう行為はしない主義なんでね…」

    ミケは腕組みしながら鼻で笑い睨みつけた。
    イブキはミケから睨まれると伏目がちになり
    ため息をついた。
  44. 46 : : 2013/11/11(月) 22:08:37
    「愛か…愛を知る前にそういう行為してしまったから、
    愛なんて意味わかんない…」

    ・・・え、なんで私はこんなこと言ってるの?弱ってるから?

    イブキはミケに対して本音を言ってしまう自分に驚き
    天井を遠くを見つめるように見ていた。

    「おまえも過酷な人生だったんだな…」

    「過酷かどうかわからない…これが日常だったから」

    ・・・イヴのヤツ…だんだん話し出したじゃねーか…
    『情』を利用するのもありだろうが、なんだかな…

    ミケはエルヴィンが『情』を利用して口を割らせるという
    策略に疑問を感じていたが、少しずつ心を開いている様子の
    イブキを見ていると、それも命を狙う理由を知るには
    仕方ないことだと理解し始めた。

    「ねぇ…私は殺されるんでしょ?
    何にもしゃべらないよ…
    だから、いっそのことそのまま殺してよ?」

    「バカいえ…まずは身体を治すことが先だ」

    「回復させて殺すか…それも惨いけど、アリだろうね…」

    ミケはイブキが死ぬ覚悟、しかも殺される覚悟はいつでも
    出来ていると感じると、死と隣り合わせの調査兵ともまた違う
    何かを背負っていると改めて感じていた。
  45. 47 : : 2013/11/11(月) 22:09:56
    「あんた、ミケって言ったっけ?」

    「あぁ…」

    イブキは熱が下がってきたもののまだ苦しい様子で話し出した。

    「ミケ、あんたのボスのエルヴィンは怖いヤツだ…。
    私のような女を優しい嘘で包み込んで落とそうとする作戦か…
    本当の愛や優しさを知らない私には堪える…」

    イブキは両手の枷に力を入れ音を立てた。

    「…やっぱり…エルヴィンを生かしちゃいけない…」

    イブキは少しずつ回復していくと同時に
    再びエルヴィンへの
    殺害意識も戻ってきた。

    「それは俺たちが許さない…おまえにとっては敵でも
    俺たちには大事な『ボス』だからな…」

    ミケは腕組みしながら睨むと淡々とイブキに話していた。
    そして部屋が暗くなると、ランプで明かりを灯しそして
    廊下では松明がたかれ部屋の中は
    二人の周りだけ温かい明かりに包まれていた。

    「ねぇ…なんでここってこんなに暗いの?」

    イブキがミケにつぶやくように言うと

    「ここが暗い…?」

    ミケや調査兵にとってのウォール・ローゼの暮らしは
    明かりは松明やランプが利用され
    ガス灯などもあるが、それはほんの一部だけだ。
  46. 48 : : 2013/11/11(月) 22:10:28
    「まさか…おまえ、普段はウォール・シーナにいるのか?」

    ウォール・シーナはガス灯が当たり前であちこちに灯され
    それが日常であり、ステイタスのようでもある。

    ・・・しまった…

    イブキは思わず口にしてしまったことを後悔すると
    改めて天井を見ていた。
    ミケは自分にとっての日常でも、
    その違和感を覚えたイブキが口にした何気ない一言が
    彼女の正体に少しだけ明らかになった。

    ・・・ウォール・シーナの輩がエルヴィン殺害を企てる…ってことか…

    ミケはほんの少しだけイブキの『大儀』に近づけたような気がした。
    そして廊下から誰かがイブキのいる部屋に近づいてくる足音が聞こえてくると

    「ハンジ…だっけ?彼女がくるみたいだね…」

    「おまえ、足音だけでわかるのか?」

    「まぁ…」

    イブキは天井を見ながらもその耳を廊下で傾けていた。
    そしてハンジが自分で改造したドアのカギを開け
    部屋に入ってきた。

    「いや~!お二人さん、おまたせ!夕食の用意が出来ましたよ!」

    「ハンジ、ご苦労」

    ミケがハンジから食事の入ったトレーを受取ると、
    テーブルを用意してトレーを置きイブキを起こし食べるよう促した。
    その向かい側にはミケも座りそして一緒に食事することになった。
  47. 49 : : 2013/11/11(月) 22:10:52
    「今日の夕食は兵団の特製の手作りパンとシチューだよ!
    どっちも出来立てだから、温かいうちにたーんと召し上げれ!」

    ハンジが明るく二人に言うと、
    イブキはただ食事を見つめるだけだった。

    「イヴ、なんだ食べないのか?
    または枷があると食べにくいか?
    それは我慢してくれ」

    「…あんたたち…調査兵団って怖いね…
    優しさで人を惑わそうとする『術』も持っているんだ…」

    イブキが淡々と話すとハンジがすかさず応えた。

    「何いってるのー?確かにあなたは敵かもしれない。
    でも、弱っているときに何か仕掛けるのは卑怯じゃない?
    だから、あなたが元気になってから、
    そのときはまたね…!」

    ハンジは明るく言うも、
    エルヴィン殺害の目的を探ることは忘れていない、と
    言いたげだった。

    「温かい食事…人とする食事ってどのくらいぶりだろ…」

    イブキが思わずつぶやくと、
    ハンジも椅子を持ち出しそのテーブル席についた。
  48. 50 : : 2013/11/11(月) 22:11:15
    「あーあ!私は食事済ませたからね~!残念。人数が多いほうが
    食事は楽しいからね!ミケ、このパンの半分もらうよ!」

    「おい、何するんだ??」

    ハンジはミケのパンを半分ちぎるとその口にほおばった。

    「やっぱり、出来立てはおいしいね~!イヴも食べなよ!」

    イブキはミケとハンジの大人気ないやりとりを尻目に
    パンを手に持つと温かさに驚いた。そしてしばらく見つめていると

    「ウォール・シーナでは
    もっと美味いパンがあるとでも言いたいのか?」

    ミケがイブキに言い放つと

    ・・・イヴはウォール・シーナからきたの?

    ハンジは声には出さないものの、
    目を見開きイブキを見つめた。

    「違う…パンってこんなに温かいものだったの?
    私はいつも冷え切ったパンしか食べたことないから…」

    そしてイブキがパンをちぎり一口ほおばると、
    シンプルな手作りパンだが
    温かくて甘さがその口に広がると

    「美味しい…パンってこんなに柔らかくて甘かったんだ…」

    イブキは明るい雰囲気での食事がほぼ初めてだったために
    味わうことと同時に心も温まるような感覚が
    全身に染み渡っていくようだった。
  49. 51 : : 2013/11/11(月) 22:11:39

    「ホント…エルヴィン・スミス、あんたたちの『ボス』は怖いヤツだ…」

    イブキは食べかけのパンを見つめながら、ため息をついた。

    「ホント、怖いヤツだよ~!エルヴィンは!昔からそうだよね?ミケ?」

    「あぁ…でも、俺に言うなよ!ヤツはどこかで聞いているかもしれない…」

    「あ、そうだった!エルヴィンの勘の鋭さには何度もビビらされたよ…!」

    イブキは二人のやり取りを見ていると
    ミケとハジンはエルヴィンと長い付き合いであり
    冗談を言えるような間柄だと思うと微笑んだ。

    「さぁ、さぁ…イヴ!病み上がりでもちゃんと食べなきゃ!
    こんな『オッサン』のミケと一緒の食事はイヤかもしれないけど、
    まぁ…楽しくやってよ!じゃ、また後で片付けにくるから!」

    「『オッサン』は余計だろ…!」

    ミケはハンジを睨むと
    彼女は明るく二人に挨拶して
    そのまま部屋から出て行った。
    そしてその暗がりの廊下には気配を消して
    立っているのはエルヴィンだった。
  50. 52 : : 2013/11/11(月) 22:12:05
    ・・・ホントに聞いていたか…!

    ハンジは驚くも冷静さを装い、

    「エルヴィン、
    あなたの言う『押してダメなら…』の作戦、
    なかなか効果あるみたいよ。
    ミケにも多少は心開いているみたいだし…」

    「そうか…引き続き頼む」

    エルヴィンは振り返ると、そのまま自分の執務室に向った。

    ・・・こっちの身にもなってよね…結構、心苦しいんだから…

    ハンジはエルヴィンの背中を見つめながらそっとため息をついた。
    イブキは温かいパンをほおばり、そしてシチューを食べ、
    賑やかな雰囲気での温かい食事が
    身に染みると『大儀』が揺るぎそうで怖くなった。

    「なぁ…イヴ、さっき、『優しい嘘』で惑わすとか言っていたけど…」

    「うん…」

    「俺は少なくとも、おまえにはそんな嘘をつかない。
    正直に向き合っている。それだけだ…」

    「えっ…」

    イブキが顔を上げてミケの顔を見上げると
    何度か睨みつけられていたのに優しく微笑み
    まっすぐ彼女を見つめていた。

    「ホント…調査兵団って怖いね…」

    ・・・うそつき…これ以上、私を惑わせないで…

    優しさに触れたことのないイブキは
    うつむきながらも心も温かくなるような食事を
    ミケと続け、久しぶりのまともな食事だったために
    病み上がりでまだ少し熱があるものの
    出されたものはすべて平らげていた。
  51. 53 : : 2013/11/12(火) 22:04:15
    ⑨本当の自分

    ・・・熱もだいぶ下がったし…朝になったら、また地下牢に戻されるか…

    夜中になると、
    イブキが収監された調査兵団内に存在する鉄格子の個室は
    ハンジ・ゾエ特注の格子型のドアのカギを
    ミケ・ザカリアスによって掛けられ、そして彼は自室に戻っていった。
    ハンジ特注のカギは頑丈で『凝った仕掛け』があり
    簡単には開錠できない為、定期的に見回りの兵が来るが、
    ほぼイブキは一人にさせられていた。
    イブキは天井を見つめながら、今後の自分自身について考えていた。

    「この枷、外せない…ハンジってすごいんだなぁ…」

    イブキは自分の手首の枷を見ながら何とため息をついた。
    隠密では捕らえられたときの『抜け』の修行もあったが
    そのときの枷とは比べものにならないくらいの
    ハンジの『巧妙な作品』には驚かされていた。
    それよりもここまで拘束されたら、
    エルヴィン・スミスの暗殺の実行を移すのが難しくなると
    『大儀』を果たせないことにも焦っていた。

    ・・・大儀を果たせないなら、死ぬしかない…

    今まで多くの命を奪ってきたのに自分の命が危うくなると、
    寝られなくなってしまった。
  52. 54 : : 2013/11/12(火) 22:04:47
    ・・・多くの人生を奪ってきたその報い…覚悟をきめなければ

    考え事をしながらも、いつもとは違い
    キチンと横になってベッドで寝ている影響か
    気がついたら、ウトウトとしてきて寝息を立てていた。

    ・・・名前はイヴ、そしてウォール・シーナから来た…
    それ以外わからないか…

    エルヴィン・スミスは気配を消しながら、イブキの様子を見に来ると
    イブキが自分のもとへ送られた理由を考えていた。

    ・・・やはり、壁外調査の妨害…今のところはこれしか考えられない…

    エルヴィンはイブキのいる部屋から離れ、
    自分の寝室も兼ねた執務室へ戻っていった。
    イブキの部屋の周辺は『仲間の接触の可能性』も予想されるということで
    夜中も調査兵や駐屯兵が見回りをしていた。
    その様子を遠くから頭(かしら)が伺っていた。

    「イブキめ…しくじったか…まだ壁外調査まで日数があるが、
    しばらく様子を伺うか…」

    調査兵団本部の近くにいるにも関わらず頭の気配は誰にも
    気づかれなかった。
    そして翌朝。
    イブキは地下牢に戻されると予想し
    ベッドで座って待っていた。それは拘束されている現在の
    イブキにとっては最大の行動範囲内でもある。

    ・・・ミケか…

    イブキの部屋に近づいてくる足音でミケが『地下室へ移動』のため
    迎えに来たと思っていた。
    頑丈なドアのカギを開錠してその手に持っていたのは
    二人分の朝食のトレーだった。

    「おはよう…朝食だ。また俺と一緒で悪いが、食うぞ」

    「え…?あ、おはよう…?」

    ミケが昨晩と同様にテーブルをイブキの前に用意して
    そしてトレーを彼女の目の前に置くと再びミケと
    朝食を囲むことにした。
    目を丸くして朝食を見つめていた。
  53. 55 : : 2013/11/12(火) 22:05:15
    イブキの目の前に座ったミケは

    「なんだ?キライなモンでも入っているか…?」

    その日の朝食は焼きたてのパンと野菜が一口大に切られた
    コンソメ味のスープだった。

    「ミケ…あの…これはどういうこと?」

    「朝食だけど?」

    イブキはてっきり地下牢に閉じ込められると
    思っていただけに驚くばかりだった。

    「あの…私は地下牢に戻されるんじゃないの?」

    「いや…イヴ、おまえはここで収監するって
    エルヴィンが決めた。
    この部屋はハンジ特注のカギ付きだし、
    脱獄は出来ないだろうってね」

    ミケがイタズラっぽく言いながら、
    パンを一口ちぎってはその口にほお張った。

    「どうして…?そんなに優しくするの?どうして…?
    私はエルヴィンを殺しにきたのよ?なのになぜ?」

    ・・・やはり、エルヴィンの言うとおり…
    イヴは肉体的に痛めつけるより
    精神的に『優しく』した方が拷問に近いのか…

    ミケは目を泳がして戸惑い、動揺するイブキを見ると
    『優しさに飢えている』と痛感した。

    「ここでの決定権はすべてエルヴィンが持っている。
    俺はその従いどおりにおまえと接しているだけだ」

    「そっか…昨晩言っていた
    『私に正直に向き合う』というのも命令されたから?」

    「それも…あるな…」

    ミケは命令もあるが、しかしイブキに正直に向き合い、
    真摯に接することで暗殺の理由を話してくれるとに繋がると
    信じていた。

    「ミケ…命令されて正直に向き合うって…それって何よ?
    もう…何がなんだか…こんなものいらない…」

    イブキが突然、食事が乗せられたトレーを
    ひっくり返そうとした瞬間、
    ミケはその手を掴んだ。
  54. 56 : : 2013/11/12(火) 22:05:58
    「おっと…ウォール・ローゼでは食い物は貴重なんでね…!
    ウォール・シーナと違って、
    その行動は『お門違い』ってヤツだ。とにかく、食えよ」

    ミケは手を離してイブキに食事をするよう促した。

    ・・・私…動揺している…
    人に優しくされたことなんて…今までなかった…

    イブキは温かいパンを手に取ると昨晩の夕食で出された味を思い出すと
    唾液が口の中に溢れてくることを感じていた。
    そしてまた一口大にちぎりほお張ると、ため息を漏らした。

    「おい…!ため息つきながら食事すると、うまいモンもまずくなるぞ!」

    明るく優しい声の顔をイブキが見ると
    そこには柔らかく微笑むミケがいた。

    「そうだね…」

    イブキはミケの言うとおり一流と呼ばれる隠密のため
    ウォール・シーナ内では食に困ることはなかった。
    また食事も物心付いたときから一人ですることが多く
    二人以上でする食事にも戸惑いを覚えていた。

    「私は…人から優しくされたことないから…
    ホントに戸惑う、どうしたらいいのか…」

    うつむきながら、イブキは独り言のようにつぶやいた。

    「ありのまま…まずは正直な自分を出していいんじゃないのか?」

    大きなゴロゴロとした野菜を頬に含みながらミケが応えると
    その顔をイブキは目を丸々とさせ言い放った。
  55. 57 : : 2013/11/12(火) 22:06:30
    「…リス…みたい…!」

    そしてミケの膨らんだ頬を見ては笑みを浮かべた。

    「なんだ、それ…!」

    「だって、頬に餌を詰め込むリスみたいだから…!」

    イブキは優しさに触れていると、目の前に映るものが
    新鮮に感じて今まで言ったことないような冗談が
    思わず口から出てしまった。

    ・・・私って…今まで冗談とか言った事あったっけ…
    この『殺し』は半分失敗のようなもの…今は流れに逆らわずに
    そのまま流されて様子を見るしかないか…
    完敗なら『死』が待っている…せめて、本当の自分として死にたい…

    「ミケ…ありのままの私…それさえも私にはわからない」

    「そうか…」

    悲しげに微笑みミケを見つめると
    また再びパンをちぎってほお張った。

    ・・・本来は冗談を言うような明るい子のはずだろうけど、
    虐げられた人生で本来の自分がわからないんだろうな…

    「ミケ、ありがとう…ごちそうさま…」

    イブキはキレイに食事を終えると
    ミケに微笑んで見せた。
    何か覚悟を決めた上で
    穏やかな表情にミケはドキっとした。
    胸が高鳴るような驚きは
    裸を見た瞬間とは違い、戸惑わされてしまった。

    「あぁ…それじゃ、また今度は昼に来るよ…」

    ミケが立ち上がり片付けると

    「ねぇ、私はここで何してたらいいの…?」

    イブキはミケに聞くと

    「あぁ…俺たちは忙しいし、ここは頑丈だし…まぁ、
    おまえがしゃべるまで『待機』だな」

    「待機って…」

    そのまま待機を命ずるとミケはそのままイブキの部屋を後にした。
    この部屋はバス・トイレなど近くにあるもののすべて
    数名の女性の調査兵、またはハンジが付き添い用を足すために
    プライバシーはなかったが、それ以外は困ることはなかった。
    もちろん拘束されていることには変りはないが…。
  56. 58 : : 2013/11/12(火) 22:07:01
    「全く逃げられない…この『牢』には隙間がない…
    だけど、どこかに弱点があるはずだ…」

    イブキはその弱点をこの鉄壁の独居房化した個室を
    隅々まで観察して探すが、見当たらなかった。

    「私は…何も話さない限りここにいるしかないのか…」

    ベッドの上で壁にもたれ膝を抱えては
    自分の扱われ方について考えながら独り言を言うと
    窓の外を眺めていた。

    ・・・今日は晴れか…だけど、身体を動かして緩めないと、
    力が発揮できない。まさか、それも汲んでここに閉じ込めているのか…

    窓から入る温かい日差しを感じると体調も回復しつつあるため
    身体を動かし軽い運動をしたい気持ちでいっぱいだった。

    ・・・ここにいると、寝るか考え事するしかないのか…

    膝を抱えながら、ゴロンと横になり温かい陽だまりに包まれると
    自然とうつらうつらと居眠りをしてしまった。
    そしてイブキは夢を見ていた。
    その夢は『女の武器を使う術』が
    初めて男女が愛し合う行為と知った直後の
    『殺し』を思い出す内容だった。
    その男の目は爛々としてまさに獣が小動物を
    襲うような状態であり、イブキはまた違う意味での
    殺意が目覚め、ただ対象者の男を命を奪うことに
    夢中になって小刀で相手を刺すと
    全身に返り血を浴びてしまった。
    その血を浴びたとき、
    イブキは気持ち悪さで吐き気に襲われたが
    アジトに帰ると頭とその妻に褒められたことで救われていた。
    しかし、実際には親心はあってもイブキは
    ただの隠密の『道具』の一部としか扱われていなかった。
    そして、目が覚めるとまたその血を浴びていることと勘違いして
    目が覚めると同時に叫び声を上げてしまった。
  57. 59 : : 2013/11/12(火) 22:07:36
    「イヴ、どうした…!?」

    ちょうど昼時であり、
    ミケとエルヴィン・スミスがその様子を伺うために
    イブキの部屋にやってきたのだった。
    顔は青ざめその身を抱えるイブキをミケが心配し近寄るが

    「いや…!来ないで…!血が…!!」

    涙目になり動揺するイブキだったが

    「血…?ケガでもしたのか?
    血なんてどこにもついてないぞ…?」

    「えっ…?」

    イブキは両手を見ながらその全身を見て、
    そして返り血などないことを確認すると
    安堵で胸をなでおろし、ため息をついた。

    「夢か…」

    ・・・精神的に追い詰め過ぎてイヴの正体が判明する前に
    気が触れても困るか…

    エルヴィンはイブキのその様子を目の当たりにすると、
    何か気分転換が必要と感じた。

    「イヴ、気分転換に外に出てみるか?」

    「え…?」

    イブキは調査兵団に捕まり2日の間で
    まるで大切な客人をもてなす扱いのために
    驚かされるばかりだった。

    「もちろん、俺が引率して、ってことだが…手錠をして鎖でおまえを繋いで、周りには俺を含め装備した調査兵が囲むが」

    「あ…ぜひ…!」

    イブキは逃げられるチャンスも巡るかもしれないと思い
    エルヴィンの誘いに乗ることにした。
    しかし、両手にはハンジ特注の手錠と鎖の腰紐をエルヴィンが持ち
    イブキが調査兵団本部のバルコニーへ立つとその周辺では
    立体起動装置を装備したミケやリヴァイを始めとした
    調査兵たちが本部内から覗いて囲っていた。

    「壁外調査の準備で忙しいってのに俺たち何してるんだ…?」

    「まったく、あの女、早く吐いちまえばいいのによ…」

    中には訓練で忙しいのに借り出された
    兵士たちの不満の声も聞こえてきた。
    その声を感じていたイブキも

    ・・・私だって、まさかこんなことになるとは思っていないよ…

    戸惑いながらも久しぶりに頬をかする風を感じては
    心地よい空気に触れ悪夢を見たことも忘れつつあった。
    その手の冷たく重たい手錠以外は不快に感じることはなかった。
  58. 60 : : 2013/11/13(水) 22:27:04
    ⑩その心に芽生えた優しさ

    その日の昼過ぎ。
    イブキとエルヴィン・スミスは調査兵団本部のバルコニーに立っていた。
    イブキのその手にはハンジ・ゾエ特注の手錠と鎖で出来た腰紐の先は
    手綱のようにエルヴィンが握っていた。

    「風が気持ちいい…」

    イブキはバルコニーの手すりにその重たい手錠を置きながら
    久しぶりに感じる屋外での風を楽しんでいる様子だ。

    「あぁ…そうだな、今日は晴れてよかった」

    エルヴィンは白い雲が浮かぶ青い空を
    まぶしそうに眺めイブキに返事をした。

    ・・・私…何やってるんだろ…暗殺対象者と一緒に心地よい気分に
    浸っているって…

    冷静になるとイブキは遠くを見つめるだけしか出来なかった。

    「イヴ、改めて聞こう…おまえはなぜ俺を狙った?」

    エルヴィンの淡々とした口調の質問に
    イブキは振り返りながら目を細め微笑んだ。

    「なぜだろうね…これが私の仕事だから…としか言えない…」

    細身の黒いパンツで胸の谷間が見え隠れするような白いシャツを外に出し、
    そのたたずむ妖艶で色気のある美しさを目の当たりにした
    回りを囲む調査兵たちは息を飲んだ。

    「エルヴィン団長…
    あの色っぽい姿を目の前にしても微動だにしないな…」

    「団長は『冷静沈着な大人』だから…きっと大丈夫だろうよ…」

    その声をよそにミケ・ザカリアスも気になって見つめていた。

    ・・・二人は何を話しているんだ?イヴ…まさか、
    ここでエルヴィンを殺すとかないよな…それにエルヴィンも
    装備しているから、すぐ反撃できるだろうが…

    そしてイブキは再び振り返り、正面の遠くの壁を見据え話し出した。

    「エルヴィン…あんたって人の良心を利用する
    酷な命令を部下にするんだね…」

    「どういう意味だ…?」

    エルヴィンは眉間にしわを寄せたずねた。

    「ミケとハンジに…『優しい嘘』で
    私を落として口を割らせようとした…
    きっとあの二人もキツイだろうね…。
    肉体的に私を痛みつけるのも
    イヤだろうけど、まぁ…私の場合は優しくされる方が
    ある意味『拷問』に近いかも」

    イブキは最後はため息交じりになっていた。
  59. 61 : : 2013/11/13(水) 22:27:55
    「結構、しゃべるんだな…」

    「そうね…ミケの『優しい嘘』のおかげかもね…」

    「ミケの『優しい嘘』か…」

    エルヴィンは一息ついて話し出した。

    「俺はあいつとは長い付き合いだが…
    あいつの嘘は聞いたことない。
    いつも真っ正直の生き方のはずなんだがな…」

    「えっ…?」

    イブキは思わず背中に力が入るくらい驚いた。

    「へーっ!…ミケは正直者か…」

    イブキは本部の建物を見回し
    ミケを見つけると微笑んだ。
    その視線に勘付いたひとりの調査兵が

    「今…ミケ分隊長を見ましたよね…?」

    その声でミケの周辺にいた兵士たちが
    一斉に視線をミケに向けると、ミケは頬を赤らめていた。

    ・・・やっぱり、あの色気にやられたか…?

    そのミケの様子を見ては息を飲んだ。
    ミケの隣に立っているリヴァイは舌打ちをして

    「おい、ミケ…しっかりしろ…」

    軽く肘で小突くと、ミケは我に返った。

    「あぁ…すまん、ぼーっとしていた」

    その一言に調査兵たちは笑いを堪えるのに必死だった。
    イブキはまた正面を向いて話し出した。

    「じゃ、ハンジやあんたはどうなのさ?」

    「ハンジも根が正直者で例え嘘をついても、
    すぐに目が泳いでバレる…」

    「で、あんたは?」

    「俺は…嘘をつくくらいなら、何も話さない…」

    エルヴィンは淡々と応えた。

    「へーっ!なるほどね…!」

    そのときだった。正面を見据えているイブキの背中に
    力が入り殺気立つ様子にエルヴィンは勘付いた。

    ・・・くるか…?

    エルヴィンは思わず刃の袂に手を置くが
    イブキはまだ正面を見据えていた。

    ・・・あれはお頭(かしら)だ…
    私たちの様子を伺っているのか…

    イブキは遠くの壁付近のレンガ造りの煙突のある建物の影から
    こちらの様子を伺っている頭を始め数名の隠密たちに気づいた。
  60. 62 : : 2013/11/13(水) 22:28:14

    ・・・あの距離ではどの武器も届かないだろう…
    私に姿を見せて『早く殺せ』という警告か…?

    イブキは頭たちに鋭い目線を送ると、
    エルヴィンの元へ振り向いた。
    そして顔は微笑むも、小さな声で

    「エルヴィン…あんた、今の私の様子に気づいたよね…?」

    「あぁ…俺を今、殺るつもりか…?」

    エルヴィンは息を飲むと

    「今はないね…武器も持っていないし、
    逆に私があんたに殺されてしまう…」

    そしてエルヴィンの胸元まで近づくと、
    制服のループタイをずれた位置からキレイに直しながら、
    流し目で頭たちがいる方向へ鋭い視線を送った。

    ・・・お頭…エルヴィンを殺るのは私なんだから…邪魔はしないで…

    その強い気持ちでイブキは殺気立つと、
    エルヴィンは袂にさらに力を入れた。

    ・・・俺から視線を外してこの態度とは…その視線の先には何が…仲間か?

    エルヴィンはイブキの視線の先には何も見つけられなかったが
    息を飲むしかなかった。その喉の音を聞いたイブキは

    「何焦ってるのさ…
    強気なあんたらしくもない…あんたは私が守る…」

    イブキは鋭い目線を頭たちに送りながらも、
    淡々と冷静に話しかけていた。

    ・・・私が殺すから…

    その本心はイブキ自身が殺すまでは
    手出しは出させない、『お頭たちから守る』ということだった。
  61. 63 : : 2013/11/13(水) 22:28:31
    「俺を守るって仲間からか…?」

    「まぁ…そんなところか…」

    エルヴィンはその返事を聞いた瞬間、
    イブキを横抱きにして抱えると
    本部内に急いで戻ることにした。

    「ちょっと…!エルヴィン、突然どうしたのよ…!?」

    様子を見ていたミケを始めとした
    調査兵たちも突然のことで驚いていた。
    エルヴィンは自分たちを狙っているだろう
    敵から身を守るために咄嗟の行動だった。

    「エルヴィン、どうしたんだ…?
    向かい合わせで話し出した思ったら…?」

    ミケはそのエルヴィンの行動に戸惑うばかりだった。
    イブキはエルヴィンのその行動に目を丸くしながら
    微笑むと

    「もう『あいつら』は気配を消したから、狙ってこないよ…」

    「そうか…」

    エルヴィンはバルコニーの出入り口を見据えながら
    イブキの言葉にホッとした影響か思わず本音でささやいた。

    「このまま…ベッドへ
    二人して倒れ込みたい気分だが…仕方あるまい…」

    「もう…こんな時に…!
    そういや、あんたって…嘘つくくらいなら、
    何も言わないって言っていたよね?」

    エルヴィンは頬を赤らめると黙り込んだ。

    「私は…いいよ…」

    イブキが艶っぽくエルヴィンの胸の中でささやくと
    エルヴィンの抱きかかえる手に力が入った。

    「冗談だよ…まったく!」

    出入り口のドアが開くと
    そこで待っていたのはミケだった。

    「エルヴィン、どうしたんだ?突然…?」

    ミケが慌てふためいて二人に話しかけた。
    そしてエルヴィンが抱えていたイブキを下ろすと

    「今からイヴが見ていた視線の先を捜索だ。仲間がいる…!」

    エルヴィンは兵士たちに捜索の命令を出すと、すぐさま
    蜘蛛の子を散らすように皆は捜索に走った。

    「あ…もう気配は消えているから、探すのは至難の業だよ」

    「何か手がかりを残しているかもしれない。
    可能性がある限り探させる」

    エルヴィンは強い口調でイブキに言い放った。
  62. 64 : : 2013/11/13(水) 22:28:54
    「そっか…」

    イブキは『無駄足』になるとわかっていながらも
    調査兵たちの背中を見送るしかなかった。
    リヴァイは舌打ちしながら

    ・・・エルヴィンの野郎も…骨抜きにされやがって…!

    リヴァイはエルヴィンの頬の赤味に気づくと
    不機嫌になりながらも命令に従い捜索に向った。

    「じゃ…私はまた『自分の部屋』に
    戻っていいんだね?お二人さん?」

    「あぁ、そうだな…」

    エルヴィンは冷静さを取り戻すと、
    再びイブキを部屋まで送ることにした。
    イブキを挟みミケを先頭にでエルヴィンが
    腰紐の先端を持ちながら後方で歩き部屋に向っていた。

    ・・・この女は…暗殺者としてだけでなく、また別の意味で危険だ…!

    エルヴィンは息を飲みながら、自分を殺そうとした相手に対して
    気持ちを動かされた自分に驚きイブキの背中を見つめていた。
    その喉の音に気づいたイブキは

    「エルヴィン、まだ焦っているの…?」

    イブキはイタズラっぽくミケの背中を見つめながら話しかけると、
    エルヴィンは黙るしかなかった。
    そして部屋の中に入ると、
    再びベッドに備え付けれれた『枷』で両手首を拘束した。

    「エルヴィン、いい気分転換になったけど、
    まさかこんな大掛かりなことになるとは…」

    「イヴ、おまえの仲間がいるとわかっただけでも、収穫ありだ。
    だが、俺を殺す目的は聞き出していないからな…」

    エルヴィンは低く冷たい声で言い放った。

    「まぁ…それもそうね」

    イブキはベッドに座りながら視線を落とし
    ため息をついた。そして再びエルヴィンを
    意味深な目つきで見つめると

    「エルヴィン、ここのベッドでもいいのよ…?」

    イブキは自分のベッドを指差しイタズラっぽく微笑んだ。
    ミケは何のことだかわからず、呆気に取られていると

    「ミケ、俺たちも…捜索に向うぞ!」

    エルヴィンはイブキに目をあわさず
    そのままミケを連れて
    捜索に向うことにした。
    もちろん、ドアのカギの点検は怠らずに
    その場から離れた。

    「…『骨抜き完了』…か…」

    イブキは微笑むと、
    二人が出て行った出入り口を見つめていた。

    ・・・エルヴィンを殺るには…武器はどうしよう…
    まぁ…後で考えよう

    ベッドの上で壁にもたれ膝を抱えながら、
    エルヴィンの暗殺を忘れていないが、
    まさか万が一、頭たちがエルヴィンを狙った場合、
    身を挺して守ろうとわざとループタイを直すしぐさをした自分を
    思い出しては驚いていた。

    ・・・まさか、私があんな行動するとは…

    イブキは自分の中に芽生えた優しさに
    戸惑いを覚えながらも
    エルヴィンの咄嗟の行動を思い出し笑いをしていた。

    ・・・策略家でも…男は男ってことだね…

    そして窓の外を見つめるとお腹がすいた合図の
    『腹の虫』の音がなることに気づいた。

    「今日はお昼抜きか…」

    ため息を付きながら息を吐くとなぜか、
    イブキは穏やかな気持ちになっていた。
  63. 65 : : 2013/11/14(木) 22:34:03
    ⑪頭、調査兵団本部内へ侵入

    「俺は一体、どうしたんだ…」

    エルヴィン・スミスはイブキに魅了されてしまい、
    部下からは『冷静沈着な大人』だからと
    惑わされないだろうと思われていたものの
    大人気なく、自分の欲を表した言動を
    イブキに発していたのはエルヴィン本人だった。
    そして両頬を両手のひらで叩きながら
    イブの部屋から離れ廊下を歩いていると、
    ハッと我に返り気がついた。

    ・・・もしかして、また騒ぎに便乗してイヴに接触するのでは…?

    エルヴィンが振り返ると後ろから付いてきた
    ミケ・ザカリアスは驚く顔を見せた。

    「エルヴィン、どうしたんだ急に振り返って?」

    「イヴの仲間が…接触してくるかもしれない…」

    二人は再び急ぎ足でイブキのいる部屋は向うと
    全身黒ずくめの頭が頑丈なドアの覗き窓から
    イブキの様子を伺っていた。

    「誰だーー!!」

    エルヴィンは頭に向かい大声を発するとそのまま
    その姿を煙のごとく姿をくらました。

    「今のは…なんだ?」

    エルヴィンは一瞬の出来事で唖然としながら、
    イブキのいる部屋を覗いた。
    そこにはベッドの上で膝を抱えドアの前の
    エルヴィンとミケを見えていた。

    「イヴ…今、仲間が接触してきたよな…?」

    エルヴィンは魅了されていたことはすっかり忘れ
    冷静にイブキに話しかけていた。
  64. 66 : : 2013/11/14(木) 22:34:20
    「…あぁ…今、一瞬現れたと思ったら、
    あんたの声と共に消えた」

    イブキはエルヴィンを見つめながら、
    頭が現れたことを正直に話した。

    「本当だな…」

    エルヴィンは眼光鋭くイブキを見つめ言い放った。

    「…えぇ…本当よ…」

    イブキもエルヴィンに負けじと強い眼差しで
    見つめ返し返事をした。
    今しがたエルヴィンを骨抜きにした妖艶さは消え
    一人の隠密としてイブキはエルヴィンに接していた。

    ・・・やっぱり頭が私の目の前に現れたってことは…
    必ず大儀を果たすよう『警告』にきたとしか思えない…

    イブキはエルヴィンを見つめながら考えていた。
    そして頭は調査兵団本部に侵入することは
    長い間、隠密として君臨する実力者のために
    たやすいことだった。
    しかし、イブキが閉じ込められている
    その部屋のカギを見ると

    ・・・難解な仕掛け…未だかつて見たことないカギの部屋に
    イブキが閉じ込められていたとは…これも調査兵団の実力か…

    頭はエルヴィンとミケの暗がりの
    天井付近から様子を伺っていた。
    そして、ミケが鼻をすすると、
    不思議な鼻が頭の存在を捉え、
    頭が忍ぶその天井付近を睨んだ。
  65. 67 : : 2013/11/14(木) 22:34:43
    「エルヴィン…向こうにいるぞ…!」

    エルヴィンはミケの声を聞くと、
    刃の袂に手を添えるとその天井方向に鋭い目線を送った。

    ・・・何…?なぜ気づいた?

    すると、頭はミケに睨まれながら、
    再び調査兵団本部から姿を消したのだった。

    「あれ…もういなくなったぞ…いつも一瞬で行動するヤツらだ…」

    ミケは再び鼻をすすりながら
    頭の存在を確認しようとするも
    すでに消えていなくなっていた。

    「煙のごとくやってきては…消えるとは…」

    エルヴィンはイブキを部屋の外から覗くと息を飲んだ。

    「イヴ、おまえにはこの部屋に引き続きいてもらうが…
    24時間体制で監視する、いいな…?」

    「えぇ…わかった、仕方ないことね…」

    イブキはエルヴィンを睨むと再び壁にもたれ
    両足を抱えると、ベッドを再び見つめため息をついた。

    ・・・穏やかな気持ちになれたと思ったけど、
    振り出しに戻ったか…

    「ミケ、おまえは早速、イヴの監視だ。
    俺は命じた捜索の中止のため
    兵士たちをを呼び戻してくる」

    「あぁ…わかった…」

    ・・・やはり…壁外調査までに俺を殺すってことか…?

    エルヴィンはその手に怒りの拳を握ると
    そのままイブキの部屋を後にした。
    ミケは鉄格子のドア越しにイブキを見ながら

    「イヴ、おまえの仲間はすごいな…敵ながら関心するよ」

    「…え、まぁ…親だから…」

    「もしかして、今のはおまえの親父か…?」

    「確かに親父だけど…育ての親…」

    ミケはドアの前のイスに腰掛けると腕組みをした。
  66. 68 : : 2013/11/14(木) 22:35:08
    ・・・人殺しを教える育ての親か…何か複雑そうだな…

    ミケは膝を抱えるイブキの姿を見ると
    やはり深い悲しみを背負った人生であると確信していた。

    「ねぇ…ミケ…さっきエルヴィンから聞いたけど、
    私に本当に正直に接しているんだってね…?」

    「え、まぁ…そうだが…」

    イブキは天井を見ながらミケに上の空で話しかけた。

    「私の仲間が接触してきても、正直な気持ちでいてくれる…?」

    「あぁ、もちろんだ、イヴはイヴだから…」

    「えっ…!」

    少し驚いた声をあげるとイブキはミケを目を丸めて見つめた。
    断れるつもりで聞いた質問のために驚きの顔は隠せなかった。

    「ありがとう、ミケ…!」

    イブキはミケの正直さが嬉しくて、優しい微笑みで返事をした。
    その笑顔にミケは心が根こそぎ奪われそうになったが、
    ぐっと気持ちを引き締めた。

    「まぁ…いいってことよ…!」

    ミケは照れながら、ヒゲを指先でかきながら
    笑顔で答えていた。
    壁外調査までイブキは24時間体制で監視されることになったが
    その中心となったのはミケだった。
    リヴァイは特別作戦班の遂行のための訓練、
    そしてハンジ・ゾエは極秘作戦の武器の開発や管理で
    多忙のため二人は担当から外された。
    ミケはその高い戦闘能力から『臨機応変』に
    その能力を発揮できるために特に担当は持たず
    多忙を極める二人に比べると比較的時間が作りやすかった。
    エルヴィンは団長であるため壁外調査の全責任を負うために
    もちろん、担当は対象外ではあったが、
    『君子危うきに近寄らず』のことわざ通り、
    『自分の命を狙うだけでなく、男の欲をくすぐる危険な女』
    として認識して必要以上に近寄らなかった。
  67. 69 : : 2013/11/15(金) 23:01:46
    ⑫一人の女として

    第57回の壁外調査まであと1週間を切った夕暮れ時。
    イブキが窓から外を覗くと夕焼けよりも一雨きそうな
    雨雲の方がより多く大空を占めていた。

    「今夜は雨かな…
    この時間だとそろそろミケが夕食を持って…
    来た来た…!」

    イブキはその近づいてくる足音でミケ・ザカリアスだとすぐわかった。

    「ミケ、いつもありがとう…!」

    「まぁ…いつものことだから、いいってことよ!」

    ミケはイブキの監視担当になってからほぼ毎日のように
    一緒に顔を向き合わせて食事をしていた。
    頭(かしら)がイブキのところに現れてから、
    24時間の監視となったが、その時以来、
    頭やまたその仲間が近づいてくる様子はなかった。
    いつも食事のときは他愛のない会話を笑顔を交えて
    話しているが、ミケがイブキの部屋に入れるのは
    食事だけで、後は廊下から監視するだけだ。
    ドアは頑丈な格子で出来て中は覗けても
    簡単には開錠できないハンジ・ゾエ特注のカギが
    備え付けられていた。

    「今夜は大雨になりそうな天気だから、
    訓練が早く終ったんだ?」

    「あぁ…雨だと余計に体力使うから
    濡れないことにこしたことはない」

    笑顔で他愛の会話が収監されているとはいえ
    イブキにとっては新鮮であり気がつけば
    楽しみになっていた。
    そしてある時からイブキはミケの食事の
    ペースが遅くなっていること、
    そして彼がエルヴィン・スミスの暗殺の理由を
    問わないことに気づいていた。
    食事が長くなるとその分、
    イブキを目の前にするのが長くなるのだが
    意図的なのかたまたまなのか、
    イブキは特に指摘せずに
    食事の時間をを楽しんでいた。
    そして外では稲光がしてはあたりを昼間のように
    明るくする現象が何度か起きていた。
  68. 70 : : 2013/11/15(金) 23:02:06
    「カミナリが来るか…」

    ミケが窓から入る光を見ると思わずつぶやいた。

    「ミケってカミナリが怖いとか?」

    イブキはイタズラっぽくミケに微笑みかけた。

    「バカいえ…!そんなことあるわけない…」

    「大男がカミナリ怖いって笑っちゃう…」

    イブキは当初に比べてよく笑うようになっていた。

    ・・・本来のイヴは…愛嬌のある女なんだろうな…

    ミケも多忙な毎日でも気がつけば
    イブキとの食事が楽しみになっていた。
    『殺害理由は次回聞こう』と思うだけでなく、
    彼女のそばにいたいがために食事の時間を自然に
    延ばし、時間をかけて食事することが多くなっていた。

    「ごちそうさま…!」

    イブキが平らげた食器が置かれたトレーを
    ミケに差し出すと、ミケは伏目がちに

    「それじゃ、また明日…」

    「わかった、ありがとう…」

    イブキも伏目がちになってしまっていた。
    ミケの背中を見送る瞬間はまた次回もあるだろうと
    思いながらもイブキにとっては壁外調査が始まれば
    自分の命も危ういために楽しい時間が減ってしまうという
    寂しさも募らせていった。
    廊下の外の椅子に座ってミケが監視することもあるが、
    その時は他の兵士もいるために食事のときのような
    楽しい会話をすることはなかった。
    しかし、イブキにとってはミケがいるというだけで
    安心感もあった。

    ・・・この…穏やかな時間はもう長くないだろう…
    この状態だったら、壁外調査までにエルヴィンを殺せない…

    イブキはもちろん
    エルヴィン・スミスの暗殺を念頭に浮かぶも
    拘束された手首の枷とドアの頑丈な
    開錠が難解なドアのカギを
    開けて出て行くのはムリだと判断していた。
  69. 71 : : 2013/11/15(金) 23:02:27

    ・・・死を…覚悟するしかないか…

    ドアの向こうの格子から見えるミケに微笑むと
    そのまま横になった。
    イブキは穏やかな日々を過ごすようになってから
    横になって見る夢は今まで殺めてきた
    暗殺の対象者の最期の姿が出てくることが多くなっていた。
    そしてうなされ苦悶に満ちた寝顔をすることもあり
    ミケが夜中の見張りや見回りにきたとき心配することもあった。
    その姿を何度も見ていると、抱きしめたくなる衝動に
    ミケは駆られるが、ずっと抑え続けていた。

    ・・・イヴは暗殺者だ…そんな気持ちを持ってはいけない

    その雨の日の夜はカミナリが鳴り響くような
    大雨になっていた。
    稲光に照らされたイブキの顔をミケが見ると
    やはり、夢でうなされているようだった。

    ・・・イヴ、すまない…俺は何にもできない…

    そしてイブキが寝言で

    「ごめんなさい…ごめんな…」

    脂汗をかきながら、身体をくねらせ苦悶の表情を浮かべると
    ミケは思わず立ち上がり、格子を掴んでイブキを見ていた。

    「イヴ…」

    ミケは心配でもあり、
    胸が苦しい気持ちでその名前を呼ぶとイブキが目覚めた。

    「ミケ…またうなされていた?最近、こうなのよね…」

    イブキは苦悶の表情がまだ残るもののあえて明るい表情を
    ミケに見せていた。

    「大丈夫だから!また寝るね…おやすみ…」

    イブキはミケの顔を見て安心するとまた横になった。

    ・・・あんなに心配した声で名前を呼ばれたことない…
    ミケ、私を苦しめないで…

    ミケとイブキはお互いに心を許し日々を過ごすと
    特別な感情も芽生えていたが
    ミケは調査兵として、そしてイブキは大義を果たすためにと
    気にしないように接していた。

    ・・・ミケか…あいつは使えるぞ…

    雨の中、気配を消しやすいため再び調査兵団本部に忍び込んでいた
    頭(かしら)がミケとイブキがお互いに思い合ってることに気づくと
    エルヴィン・スミスの暗殺に使えると何やら企てていた。
    ミケはイブキが心配で窓から朝日が入ってくるまで見守ると
    朝食を準備するためにドアの前を後にした。
    イブキはミケが離れていくと目を覚まして

    ・・・ミケは…ずっとそばいたんだ…
    ミケは正直にここまで私のこと心配してくれるのは嬉しい…
  70. 72 : : 2013/11/15(金) 23:03:14
    イブキは女としての幸せに包まれているが、
    やがて訪れるであろう『死』を考えると、
    最後の幸せと噛み締めていた。
    そしていつもの通り、トレーを持ってイブキの部屋に入ってきた。

    「おはよう!今日の朝飯だ」

    「ありがとう、ミケ…」

    その日の朝はミケがテーブルについても
    イブキは伏目がちになっていた。

    「イヴ、どうした…?昨晩、うなされていたし、気分悪いとか?」

    「そうかもしれない…」

    イブキはいつもの朝がもういつも通りに来なくなかもと
    感じると、ミケの顔が見れなくなってしまっていた。

    ・・・お頭が近くにいる…
    エルヴィン殺害決行のための最終段階に入ったか…

    イブキは頭が雨に紛れ調査兵団本部内に入ったことに勘付き、
    自分自身にまた接触してくるだろうと予想していた。
  71. 73 : : 2013/11/16(土) 23:11:32

    ⑬作戦、決行(上)

    イブキは今日か明日にでもエルヴィン・スミスの殺害が決行され
    そしてイブキ自身がほとんど殺害計画に失敗しているため
    その報いのための死が待っていると思うと、目の前の
    ミケ・ザカリアスの顔をまともに見ることが出来なかった。

    「イヴ、顔色悪いぞ、大丈夫か…?」

    「うん…大丈夫、
    せっかくミケが運んでくれたんだから、食べなきゃね!」

    イブキはどうにかミケの顔を見て食事に手をつけると、
    手先が震えていることにミケは気づいていた。

    ・・・イヴ…ホントにどうしちまったんだ…

    ミケは息を飲み他愛もない会話をしながらも、
    いつも通りに接していると最後に

    「そういや、今日…忙しくて、
    このあとここに来れるのは夜中の見回りくらいだな…」

    「え…そうなの…わかった」

    イブキは顔をあげてミケの顔を見ると再び伏し目がちになった。

    ・・・まさか…この食事が
    ミケとの二人の時間が最後になるとは…

    「いつも、ホントにありがと!」

    イブキは空元気に食事を早く済ませミケを送ることにした。

    ・・・また食事の時間を長引かされたら辛い…
    これ以上は私には楽しい時間は不毛…

    「ほら、ミケも忙しいんでしょ?さっさと食べなきゃ!」

    イブキはミケを急かすように早く食事を済ませるよう促すと
    その通りにしていつもよりも食事の時間は半分くらいになっていた。

    「じゃ…また夜中に…」

    ミケが伏目がちに食事のトレーを片付けイブキに背中を向けると
    いつも通りに出て行くミケが本当に遠くにいってしまうようで
    イブキは心が引き裂かれるようだった。

    ・・・まさか、こんな気持ちになるとは…短い時間だったけど、
    人として、女として…楽しかったよ、ミケ…

    イブキはミケの背中がドアを開けてそして
    格子から見えなくなると一筋の涙を流した。

    「あれ?涙…私が泣くのはどのくらいぶりだろうか…」

    その指先で拭った涙を見ては、
    改めて自分の最後の大儀に挑むことに決意していた。

    ・・・きっとお頭や仲間が接触してくる…それまで待機か…

    イブキは自分の手首の枷や
    ハンジ・ゾエの特注のドアを見ては
    自分ではどうにもならないために
    お頭たちにエルヴィン暗殺の決行の
    流れを任せることにした。
    同日の昼過ぎ。
    ちょうど、監視の兵士が
    交換のために持ち場を離れた瞬間だった。
  72. 74 : : 2013/11/16(土) 23:11:51
    「イブキ…」

    「お頭…!」

    鉄格子のドアの目の前に現れたのは隠密の頭だった。

    「今夜、エルヴィン暗殺を決行する。
    その時にこのドアも開錠できるだろう。わかったか?」

    「御意…」

    イブキが返事をすると頭は
    煙のごとく姿を消すとその同時に
    交換の兵士が現れそして持ち場である
    格子のドアの前の椅子に座った。

    ・・・このドアの開錠する…?どうやって…!?

    イブキはハンジ特注のドアを見ながら目を丸々としていた。
    そしてイブキは心を落ち着かせ夜に向って集中していると、
    その時間はやってきた。

    ・・・あの足音はミケ…、もう一人いる…?やっぱり…!

    ミケがドア越しに現れたと同時にその後ろには
    その背中に小刀を突きつける隠密の一人が現れた。

    「くそ…しくじった…交代の瞬間にやられた…」

    「ミケ…!」

    ミケは精鋭に後ろ手にさせられると、
    その手はすばやく縄で拘束され
    もう一人の仲間が現れると、膝を後ろから足蹴りにして
    ひざまづくような体勢にさせられた。
    イブキは二人に鋭い視線を送ると

    「お願い…ミケは傷つけないで…」

    低く半ば脅迫めいた声で言い放った。

    「ほう…おまえがそこまでこいつを…
    まぁ、どんな難解なドアでもそのカギを持ってる
    ヤツを襲えばいいってことだ。その方が簡単だ…」

    「やっぱり…そうか…」

    イブキは誰かを襲って殺害するなどしてカギを奪うだろうと
    予想していたが、それがミケだとは予想外だった。
    そして精鋭がミケから奪ったカギで頑丈な格子のドアを
    開錠しそして、イブキの手首の枷も外した。
    久しぶりに味わう開放感もミケの苦悶の顔を見ると
    心地よさには浸ってられなかった。
  73. 75 : : 2013/11/16(土) 23:13:17
    「大儀のため…わかったか…?」

    「御意…」

    イブキはの精鋭の前でひざまづくと小刀を渡されてた。

    「おまえのその身体を使ってでも、
    何としてでもエルヴィンを殺ってこい…わかったか、イブキ?」

    ・・・イブキ…?イヴの本当の名か…?

    イブキは悲しげな表情のままドアから出ると
    ミケの前にひざまづくとその頬を指先でそっと撫でた。
    その目はミケが初めて感じたときの悲しみを
    背負っていたときと同じ状態に戻っていた。

    ・・・さよなら…

    イブキはその悲しげな表情のまま笑みを浮かべると
    そのままエルヴィンの執務室へ歩み出した。

    「イブキ、こいつはエルヴィン殺害までの人質だ…」

    イブキは後ろを振り返り、ミケを見ると
    そのまま姿を消しエルヴィンの元へ向った。

    ・・・ミケ…ごめんね…

    「まぁ…ここに閉じ込められていたとはいえ、
    あいつの『あの術』は健在だろうから、
    エルヴィンもすぐお陀仏だろうよ」

    「あの術…?」

    仲間の一人が独り言のように言うと、
    ミケがそのことについてたずねた。

    「あぁ…イブキは男を自分の身体を使いトリコにさせて、
    その隙に殺害する名人なのさ…」

    ・・・イヴの悲しみの表情は…こういうことか…?
    愛を知らずにそういう行為をしながら殺め続けてきたから…?

    ミケはその仲間が黒ずくめで全身を隠すも
    その目がイブキをバカにして
    侮辱しているような表情にも見え
    憎しみさえわきあがってきた。
    イブキは長期間、拘束されていたが一流の隠密ゆえ
    すぐにその勘を取り戻ししていた。
    そしてエルヴィンの執務室に到着して静かにドアを開けると

    ・・・この前のようなヘマはできない…
    今はエルヴィンだけでリヴァイの気配も感じられない…

    イブキは隠密としての大儀である
    エルヴィンの暗殺は一歩手前までその手は届いていた。
  74. 76 : : 2013/11/17(日) 21:40:16
    ⑭作戦、決行(下)

    「今頃…エルヴィンとイブキは…」

    イブキの隠密の仲間がミケ・ザカリアスを人質に取りながらも
    まるでミケに聞かせ何かを想像させるかのようにな思わせぶりな
    独り言を言った。

    ・・・エルヴィンとイヴが…そんなこよりもコイツ…許さん…

    イブキがエルヴィン・スミスの執務室へ行ってどれくらいっただろうか。
    最悪な状況になっていないか、想像するのも怖いくらいだった。
    暗がりの廊下の中、誰かが歩いて3人の前に近づいてくると

    「誰だ…?他の見回りか…?」

    隠密の精鋭が刀にの袂に手を置くとそこに現れたのはリヴァイだった。

    ・・・コイツも出来るヤツだ…

    精鋭は竿から刀を振りかざすと、リヴァイにその刃先を向けた。

    「ミケよ…いい加減に『人質の振り』するのはやめたらどうだ?」

    「あぁ…それもそうだな…」

    ミケは拘束されることを覚悟の上だっために隠していた
    ハンジ・ゾエ特製の小型ナイフで縄を解くと立ち上がった。
    ちょうどそのとき。
    イヴキはエルヴィンの執務室から寝室に忍び込んでいた。
    そしてまた簡単に寝姿のそばに近づけたために違和感を感じていた。

    「エルヴィン…わかっているでしょ?起きてよ…」
  75. 77 : : 2013/11/17(日) 21:40:56
    「あぁ…」

    イブキはエルヴィンがなぜだか
    無抵抗だと感じると、その身体の上にまたぎ
    まじまじと顔を近づけて見つめていた。

    「この作戦はもう失敗だ…どうせ私は死ぬ…
    ねぇ、私を殺してよ…」

    「どういうことだ…?」

    「あんたは素晴らしい仲間に囲まれている。
    私がどうあがいたってムリだ…大儀は果たせなかった…」

    「それは…ミケが影響しているか…?」

    「何のことだか…」

    イブキは上体を起こすと伏目がちになった。

    「ミケが関係ないなら…こんなことしてもいいよな?」

    エルヴィンはイブキを抱きしめると、簡単に組み敷くことが出来た。

    「ほぉ…おまえは男に簡単に身体を許すのか?」

    「あんたこそ…女に簡単に身体をまたがせるの…?」

    二人は最初からお互いに殺意がないことは勘付いていた。

    「前に『ベッドに流れ込みたい』って
    おまえに言ったことあったけど…
    まさか、こんなときに叶うとは思わなかった…」

    「そうね…」

    イヴキは『死んでもいい』と思っていたため、
    自暴自棄で無気力のままで『そういう関係』になっても
    かまわないと覚悟を決めても
    エルヴィンを見つめられず伏目がちになっていた。
    そしてエルヴィンがイブキにキスをしながら、
    口移しに『何か』を押し込めると、片手で口を押さえた。

    「エルヴィン、ちょっと、何を…!」

    「イヴ、すまない…」

    エルヴィンはイブキの身体に
    覆いかぶさったまま口を押さえていると、
    暴れていた身体が大人しくなり
    そのまま意識を失ってしまった。
    そして静かになった様子を感じて現れたのは
    密かに隣の部屋で待機していたハンジ・ゾエだった。
  76. 78 : : 2013/11/17(日) 21:41:45
    「エルヴィン、どうなった…?うわぁぁ!
    ゼラチンで丸めた睡眠薬を飲ませるって、
    こんな方法だったとは…」

    エルヴィンがイブキに覆いかぶさった姿を見ると、
    何をしていたのかハンジは簡単に想像できた。

    「あぁ…危なかった…
    俺の口に含んでいたヤツが中身が溶ける寸前だった…」

    エルヴィンは安心した表情を
    ハンジに見せるとベッドから降りた。

    「ハンジ、君の特製の『睡眠薬』はちょうどいい配合だった…」

    エルヴィンはめまいを起こしたようにフラついたのは、
    少し睡眠薬がもれて、眠気を誘ってしまったようだった。

    「エルヴィン、大丈夫?」

    「あぁ…大丈夫だ…今からヤツ等のところに向うが…イヴのことを頼む。
    それから、今見たことはミケに内緒にしていてくれ」

    「うん…わかった!」

    ・・・言えるわけがない!口移しで『睡眠薬』を飲ませたって…

    エルヴィンは執務室を後にすると、
    イブキを脱獄させた隠密、ミケやリヴァイがいる方向目指して
    足音を立てずに歩いていくとちょうど、
    4人の気配を感じると、その身を隠した。

    「てめーだけは許さない…!」

    ミケはイブキを侮辱していた隠密の首を掴むと
    石造りの壁に押し当てていた。
    そして、その隠密が小刀を取り出しミケの腹に
    目掛け突き刺そうとした瞬間、
  77. 79 : : 2013/11/17(日) 21:42:30
    「ミケ!危ない!」

    エルヴィンが声をかけた瞬間、
    ミケはその小刀の持った手を掴んだ。
    そして精鋭もエルヴィンの姿に気づき
    リヴァイに向けていた刃をエルヴィンに方向を変えると
    刀を振り上げた。

    「エルヴィン、覚悟ーー!」

    その声と共に目の前のリヴァイを振り切ろうとすると、

    「おい…俺を無視するな…」

    リヴァイは身をかがめると、頭の足首の腱を目掛け刃を走らせた。

    「…なに?」

    その足首は鎖帷子で守られいて、刃がかけた程度のために
    そのまま精鋭はエルヴィン目掛け突進していった。
    それを目撃したミケが隠密の仲間の小刀を奪い、
    精鋭に目掛けて放つとそのまま背中に
    奥深く突き刺さるとそのまま倒れこんだ。

    「兄者…!」

    その様子を見ていた仲間は驚いていると
    ミケはその首を絞めながら

    「おい…てめー!エルヴィンを狙った理由は何だ…?」

    「…誰が言うか…」

    ミケは鋭い眼光で持っていた小型ナイフで
    目を突き刺す素振りをすると

    「壁外調査を中止に追い込む…これ以上、俺は何も知らない…」

    「あっさり吐いたな…」

    ミケはその隠密を床に突き落とすと
    そのままうな垂れてしまった。
    リヴァイは鈍らになってしまった、
    刃を収めると、舌打ちしながらエルヴィンにたずねた。
  78. 80 : : 2013/11/17(日) 21:42:57
    「エルヴィン、こいつら…どうする?」

    「あぁ…別に殺す必要もないだろう。
    だが、きっと仲間も近くにいるはずだ…」

    エルヴィンはリヴァイに
    この二人をロープで拘束すると、
    真夜中の調査兵団本部の近くに放置するよう命じた。
    そしてしばらく様子を伺っていると
    仲間が迎えにきてはあっという間に二人を連れると
    姿は煙のごとく消えていった。

    「やはり、仲間もきていたか…」

    その様子を見ていたエルヴィンは安堵することなく
    静かに調査兵団本部へ戻っていった。

    ・・・すべて終った…とは言えないな…
    また同じようなことが起こるかもしれない…

    今回の『エルヴィン・スミス暗殺計画』は失敗に終ったが
    また同じことがあるだろうと想像すると、
    拳を強く握るしかなかった。
    本部にエルヴィンが足を踏み入れるとそこに
    待っていたのはミケだった。

    「本部内を見回ったが、ここには仲間はいないようだ…」

    「そうか…」

    ミケは息を飲みながら

    「イヴは…無事か…?」

    「今は俺のベッドで寝ている。ハンジが世話をしているはずだ」

    ミケは安堵するものの、

    「なぜおまえのベットに…?」

    「まぁ…色々と…」

    エルヴィンはその場を濁すと、二人して執務室へ向った。
    ミケは早い時間にイブキに会ったときその様子から
    エルヴィンの暗殺はその日だろうと確信していた。
    それをエルヴィンに報告すると、
    仲間がイブキを脱獄させ暗殺するだろうと予想していた。
    そして暗殺目的でイブキがエルヴィンに接触してきたとき
    睡眠薬を飲ませ再び『拘束』した後、
    残った隠密をリヴァイとミケが『片付ける』という
    作戦を立て実行に移したまでだった。

    「エルヴィン、イヴはちゃんと睡眠薬を飲んだんだな…。
    …しかし、どうやって?」

    エルヴィンは焦りながらも

    「あぁ…まぁ…色々と…」

    ミケの前ではやはり口を濁すしかなかった。
    エルヴィンは当初、格闘を交えた場合、
    どさくさにまぎれ飲ませようと計画をしたいたが、
    寝込みを襲ってきたイブキに
    殺意がなかったために咄嗟に思いついた飲ま方が
    『口移し』だった。
  79. 81 : : 2013/11/18(月) 22:24:27
    ⑮生きながら、生まれ変わる

    イブキはエルヴィン・スミスの寝室から改めて
    自分の部屋に戻されることになったが、
    その時、横抱きにして彼女を抱えていたのは
    ミケ・ザカリアスだった。

    ・・・よく寝ている…

    ミケはイブキの寝顔を見ると安堵の表情を浮かべていた。

    「エルヴィン…ホントにそうするのか?」

    「あぁ…目が覚めたら、話すつもりだ」

    ・・・イブキが『それ』を引き受けたら、しばらく一緒にいられるが…
    俺も調査兵として、どれだけ生きられるかわからかない…

    そしてイブキを丁寧にベッドに寝かせると、拘束していた手首に
    枷がないのはいいが、その跡を見ると撫でるように触れると
    ベッドの上にその手を置いた。

    「じゃ…エルヴィン、あとはよろしく頼む…」

    「ミケ、ご苦労…」

    ・・・ハンジの計算だと
    もうそろそろ起きるってことだがな…

    イブキはエルヴィンの暗殺を企てる輩を
    片付ける作戦で
    睡眠薬で眠らされたが、
    その調合をしたのがハンジ・ゾエだった。

    「…あれ、ここは…頭が…重い…」

    太陽がだいぶ上がった頃。
    イブキが徐々に目を覚ますと、
    飲みなれない睡眠薬を飲んだために
    頭が重たい感じがして、
    そして目の前がボヤけて見えていた。

    「あれ…ミケなの…?」

    薄目を開けながらイブキのそばに誰かが
    心配そうに見つめていたが、
    ぼやけた輪郭から徐々に
    その姿ががわかってくると

    「エルヴィンか…」

    ため息混じりにつぶやくと

    「ミケじゃなくて…申し訳ない…」

    「えっ…私、生きてるの…?」

    イブキはエルヴィンに寝ぼけながらもたずねた。
  80. 82 : : 2013/11/18(月) 22:25:29
    「こうして話しているってことは生きていること…だよな?」

    「まぁ…そうだよね…私はあんたに
    口移しで『毒』を盛られたかと思っていたから…」

    「…あぁ…咄嗟のことだったとはいえ、悪かった…」

    エルヴィンはイブキに照れながら謝った。

    「あんたって『咄嗟』に私によく触れるよね?」

    「あぁ…壁外調査を主とする我々は『出たとこ勝負』が多いから、
    それがクセみたいなもんだ…」

    「どういういい訳だよ…」

    イブキは微笑みながらぼーっとしても
    エルヴィンとの受け答えはしっかりしていた。

    「…ミケもケガもなく無事なんだね…?」

    「あぁ…無事だ」

    「よかった…」

    イブキはミケの無事を聞くと安心した表情を浮かべると
    エルヴィンは少し複雑な表情をした。

    「何その顔は…?私とミケの仲が気になる…?」

    「えっ…?」

    「少なくともミケはあんたみたいに
    私に『咄嗟』に触れたり、キスしたり
    迫ったりするような人じゃない…紳士だよ…」

    「今のミケに知られたら、恐ろしいな…」

    エルヴィンは焦りながらドア付近を横目に見ると
    誰もいなくて安心していた。

    「ミケには内緒にするよ…もちろん、言えるわけない…。
    ところでこうして私のそばに
    あんたがいるってことは、話があるの…?」

    「あぁ、そうだった…実は…」

    イブキは安堵感から口数が多くなっていた。
    本来、兵団の団長の命を狙うような輩は
    すぐに憲兵団に突き出すはずだが、エルヴィンは
    イブキの身体能力に着目していたたために
    その存在を隠しとおしていた。
    立体起動装置なしでも例えスピードが出なくても
    同じような動きをするイブキに興味を持っていたのだった。
    エルヴィンはミケに心を開いている様子を伺うと
    暗殺者から足を洗わせ、
    仲間に入れたいと考え始めていていた。
    今後は調査兵としてその能力を活かして欲しいこと、
    また暗殺者が狙ってくる可能性もあり、
    そして巨人の秘密を探るため兵団のために
    『隠密』としての働きが必要ということを
    エルヴィンは痛感していた。
  81. 83 : : 2013/11/18(月) 22:26:20
    「イヴ…どうか、その能力を人類のために活かして欲しい。
    壁外調査は失うものが多くても何も成果も得られないことがほとんどだ。
    あらゆる可能性を模索して人類存亡を阻止したい…
    だから、生まれ変わった気持ちで調査兵団に来て欲しい」

    「え…でも…私が生きていたら…マズいことも…」

    「それなら、大丈夫だ。悪いと思ったが、君が最初に着ていた
    あの『服』を血泥を付けて森に捨てさせた。
    それならきっと瀕死の重傷の後、野犬にでも襲われて息耐えたと
    思われるかもしれない…」

    「そう…うまくいくかな…」

    「恐らく、ハンジに任せたから大丈夫だろう…」

    イブキは何でも作れるハンジなら
    大丈夫かもしれないって思うと
    笑みがこぼれた。

    「考えておく…」

    「いい返事待っている…」

    「だけど、どの兵団に所属するのも普通は訓練兵からでしょ?」

    「あぁ…通常はそうだな。
    訓練兵にならずとも調査兵になれば、
    これで二人目だ」

    「一人目は誰なの?」

    「リヴァイだ…」

    「そうなんだ…あの鋭さ…ただものじゃないと思っていたら、
    普通の経歴の兵士ではなかったのか…」

    イブキはいきなりの話で答えが出ないが、
    ミケにも相談してみようと考えていた。

    「エルヴィン、待たせたな…」

    「ミケ…!え…?」

    イブキはミケがドアから入ってきたことで嬉しい気持ちが
    溢れてきたが、一緒に入ってきたのがミカサ・アッカーマンで驚いていた。

    「ミカサ…!」

    ミカサは緊張した面持ちでイブキと対面すると椅子に腰掛けた。

    「今、ミケ分隊長から聞きましたけど…
    あなたはもう暗殺者じゃなくなったって…?」

    「え…っ?」

    イブキはミケが自分のことをそんな風に
    説明していたとは驚いていた。
    そして上体を起こして話し始めた。

    「そう…生まれ変わろうかと思ってね…」

    微笑みながら冗談っぽく応えた。

    「あなた、名前をイヴって言うんですよね…?」

    ミカサがおそるおそる質問してきた。

    「でも…本当は『イブキ』って言うんじゃ…?」

    「え…?なぜそれ知ってるの?」

    ・・・やっぱり、イヴは『イブキ』なんだ…

    ミケは隠密がイブキと呼んでいたことを思い出していた。

    「私のお母さんが時々、
    夢でうなされていることがあった…そのとき、
    『お父さん、お母さん、イブキ…』って
    名前を寝言で言ったことあった。
    それをお父さんに聞いたら…
    お母さんの両親は亡くなったけど…
    生死がわからないままの
    生まれたばかりの『妹』がいて
    その人が『イブキ』だって…言っていた」

    「…そうなの…姉さんは
    私のこと…ちゃんと覚えていたのね…」

    イブキはミカサのその話を聞くと涙が自然と流れ出した。

    「私はあなたのお母さんの妹…イブキ…、
    あなたの叔母なのよ、ミカサ…」

    「えっ…!叔母さん…?」

    ミカサは驚きの声を上げるしかなかった。
    エルヴィンとミケはミカサの身体能力の高さを
    考えると、イブキと同じ血が流れているなら
    納得するものがあった。
    イブキは姉であるミカサの母親の最期を
    知っていたためにどこまで、
    何をどう話していいものか戸惑っていた。
  82. 84 : : 2013/11/18(月) 22:27:07
    「この『しるし』…お母さんが私たちを結びつけてくれたのかな?」

    ミカサが右手首の見せると、イブキも同じ『しるし』を見ては

    「そうだね…姉さんがきっと…」

    ミカサは亡き母の面影のあるイブキを涙ぐみながら見つめながら

    「叔母さん…!」

    ミカサは涙ぐみながら、イブキに抱きついた。
    そしてイブキも抱きしめるとお互い涙の『初対面』を果たした。

    「やっぱり、お母さんに似ている…同じ匂いがする…」

    「姉さんと…同じって嬉しい…」

    イブキはミカサを抱きしめながら、
    止め処なく溢れる涙を流れるままにしていたのは
    うれし涙を止める気にはなれなかったからだ。

    「もし、『イブキ』が調査兵になれば、ミカサも心強いよな…?」

    エルヴィンはイブキを再びミカサを
    『出しに』使い調査兵に誘うと

    「え…?そうなの…?じゃ、イブキ叔母さんのことを
    私の大事な親友たちにも紹介なきゃ…!」

    ミカサは笑顔でイブキのことを見てはとても喜び
    すでに歓迎しているようにも見えた。

    ・・・エルヴィン、さすが策略家…!

    イブキは涙ぐみながらもエルヴィンの
    策略には関心しながらも微笑んだ。

    「それは…ミケにも相談しからでいい…?」

    「あぁ…それもいいか、
    ミケ…イブキを口説いてくれ、頼んだ…」

    「イブキを口説くって…!何だそりゃ、エルヴィン…」

    イヴキとミケは顔を見合わせると、
    お互いに照れて笑ってしまった。
    エルヴィンはミカサを連れてイブキの部屋から出ると
    ミケと二人きりにした。
  83. 85 : : 2013/11/19(火) 22:00:37
    ⑯イヴからイブキへ(上)

    ミケ・ザカリアスはイブキのことを心配していたのに
    いざ二人きりになると、何も話せないでいた。

    「やっぱり、二人で話すときは
    テーブルを用意した方がいい…?あ…」

    イブキは何かに気づいて、声を上げると

    「私がテーブルを用意できるなんて、新鮮…!」

    イブキはミケの前で立ったり座ったり出来るという
    行動が新鮮で嬉しく感じていた。

    「あぁ…そうだな…!」

    ミケはその様子を微笑んで見ていた。
    結局、二人はいつも食事をしていたときのように
    テーブルを挟んで話すことにした。
    イブキはテーブルの上に手を置いて指を絡ませると

    「手が重くなくて話せるって、
    いいねぇ…!心も軽くなる感じがする」

    イブキはミケに微笑むも反応が薄かった。

    「ミケ…?どうしたの…?
    私が調査兵になるはイヤなの…?」

    「あぁ…イヤだね…!」

    「えっ…!」

    イブキはミケの予想外の答えで驚きのあまり
    胸が締め付けられる気持ちになっていた。

    「やっと…暗殺者のイヴから、
    普通の女のイブキに戻れたと思ったのに…
    また危険な調査兵とは…」

    イブキは胸が締め付けられる気持ちから
    ミケの優しさにときめくような胸の鼓動に変っていた。

    「ミケだって…その危険な調査兵でしょ…?」

    「俺は…強いから…!」

    「何それ…!」

    イブキはただ微笑むしかなかった。

    「私は…ミケが私とは一緒にいたくないから…
    調査兵になってほしくないかと思っていたよ!」

    「…そんなことはない!」

    ミケは即座に否定した。

    「それじゃ、一緒にいたい…?」

    ミケはイブキの顔を
    一瞬見たと思うとすぐに目線をそらした。

    「ちゃんと…声に出して答えて…!」

    「一緒に…いたい…」

    「私も…かな?」

    イブキは照れながら答えるとミケの
    答えを幸せそうに聞いていた。

    「でも…ミケとこうして顔を合わせて話せる日が
    また来るとは思っていなかったから…嬉しいよ、ホント」

    「俺はただ…大事な人を失うのはこれ以上、耐えられない…」

    ミケはイブキにかつて気持ちを伝える前に
    失った同期の女性兵士がいたことを告白した。
  84. 86 : : 2013/11/19(火) 22:01:33
    「…私はそんなにミケに思わわれるなんて、
    羨ましいと思う…私は恋なんて、
    させてもらえなかったから…」

    イブキは伏目がちになり、両手を見ていた。
    そして再び顔を上げると

    「それに…過去の恋の話をされると、ちょっと焼きもち…」

    「ごめん、そんなつもりじゃ…!」

    ミケがイブキの顔を見ると穏やかな笑顔を向けていた。
    やはり、心が根こそぎ奪われそうな感覚がしていたが
    それも止められないでいた。

    「私のような愛を知らずに『その行為』をしてきた女に
    思われるのは…イヤだよね…」

    イブキは自分の身体を抱きしめるように答えると

    「…そんなに自分を咎めるもんじゃない…仕方なかっただけだろ?
    それは『暗殺者のイヴ』としての話だ。
    ただの女のイブキは…まだまっさらだろ?」

    イブキは今度は嬉しさのあまり
    胸が苦しくて締め付けられる気持ちになった。

    「…うん…イブキとして『まっさら』だよ…」

    イブキはうつむき頬赤らめながら
    自分の気持ちを話し出した。

    「ここに座って、ミケといつも向かい合って
    食事をするのが幸せだった。
    暗殺者として生きてきたのに
    その揺るがない気持ちが
    まだ会って間もないはずなのに
    あなたと過ごすことにより溶かされていった…
    他愛のない会話で温かい食事を囲むことが
    ただただ…幸せな時間だった。
    人として女として…だから、昨日はもうこれで
    最後かと思うと…死んでもいいと思っていた…
    ミケ、あなたの顔に触れたとき、
    もう二度と会えないと思っていたのにまたこうして…」

    イブキは最後は涙で声にならなくなっていた。
  85. 87 : : 2013/11/19(火) 22:03:19
    「イブキ、わかった…」

    ミケはイブキを見つめると、
    手を握ると手首の枷の痕を撫でていた。

    「痛かったろうな…長い間…」

    「ミケとの食事の時間は忘れられていたよ…」

    イブキは照れながら伏し目がちに答えた。

    「そうか…俺は…昨晩、イブキに顔を触れられた時、
    また失うかと思うと…怖かった…」

    ミケは照れながら、イブキに正直な気持ちを打ち明けた。

    「こうして帰ってきたから…イブキとして」

    「そうだな…」

    ミケはイブキの握っている手に力を入れた。

    「ミケ…私は『イヴ』としてたくさんの命を奪ってきた…
    だけど、これからは『イブキ』として人類のために
    私が役に立てるのならこの命を捧げたい。
    それが私が奪った命の報いとなるとは思えないけど、
    これから私が『イブキ』として生きるなら
    調査兵になるしかないと思う…」

    イブキはミケに真っ直ぐな眼差しで言うと

    「そうか…調査兵は
    特に壁外に行くと過酷なだけだ…いいのか…?」

    「私はこの命が尽きるまで…あなたのそばにいたい…」

    イブキが潤んだ瞳から、一筋の涙を流すと
    ミケは自分の気持ちにも
    歯止めが効かないことに気づいた。

    「わかった…一緒にこの命が尽きるまで…」

    ミケはイブキの涙で濡れた頬を
    優しく撫でると穏やかな笑顔を見せていた。
  86. 88 : : 2013/11/19(火) 22:03:43
    ・・・おい、ミケ…こんなときはチューするんだよ!チュー!

    廊下で二人の様子を
    盗み見していたのはハンジ・ゾエだった。
    エルヴィンに頼まれイブキの部屋の
    頑丈なカギの撤去するために
    その部屋に来たものの、
    ミケとイブキの甘いひと時を目の当たりにすると
    夢中になって見守っていた。
  87. 89 : : 2013/11/20(水) 22:41:28
    ⑰イヴからイブキへ(中)

    「ハンジ、何をしている…!?」

    イブキの部屋を見守る背後に立ちながら小声で
    ハンジ・ゾエに話しかけたのはエルヴィン・スミスだった。

    「エ、エルヴィン…!?」

    「静かに…!」

    エルヴィンは低く冷たい声でハンジに声を掛けるが
    自らもイブキとミケ・ザカリアスのいる部屋を覗き見ていた。

    「確か…昔、おまえらもこうして俺のことを覗いていたよな?」

    「あぁ…そういうこともあったけ…!」

    ハンジはかつてミケと二人して
    エルヴィンに対して同じようなことをしたことを
    彼が知っていたことを指摘されると慌てふためいてしまった。

    「あいつらのことだ…俺たちに気づいている、もう行くぞ…」

    「そうだね…わかった…!」

    ハンジはエルヴィンに促されると、
    二人して部屋から離れることにした。

    ・・・しかし、ミケの優しさはすごいな…
    暗殺者をごく普通の恋する女に変えちゃうんだから…

    ハンジはミケの優しさに関心すると同時に
    エルヴィンに話し掛けた。

    「エルヴィン、今のミケが、あなたがイブキに
    『口移し』したこと知ったら…どうなるだろうね?」

    ハンジはイタズラっぽくにたずねると、

    「ま…また俺の命が危うくなる…かもな…」

    エルヴィンも戸惑いながらも冗談っぽく
    ハンジの質問に答えていた。
  88. 90 : : 2013/11/20(水) 22:41:59
    「あの二人…もういなくなったみたいだな…」

    ミケとイブキはハンジとエルヴィンがドアの向こうの廊下から
    こっそりと覗き見ていることも、
    そして退散したことにも気がついていた。

    「そうだね…!」

    イブキはハンジの茶目っ気なところに微笑んでいた。

    ・・・ハンジは色んなものを発明するけど、
    面白い人なんだ…
    だから、あんなに明るい人なのかな…

    ミケは立ち上がりながら

    「イブキ、エルヴィンのところに行くぞ…!
    調査兵になるって決意したんだったら
    早めに伝えた方がいい」

    「うん、わかった!」

    イブキも立ち上がるとミケのそばに寄ると

    「ミケってこんなに身長が高かったっけ…?」

    お互いに思い合っていても、実際にそばに立つのは
    ほぼ初めてなことのためにイブキは目を見開き
    驚いた顔で頭一つ分以上の
    身長差のあるミケを見上げていた。

    「まぁ…ね…」

    ミケはイブキの頭を優しく撫でると、
    その手で長い黒髪を指で絡ませながら通らせた。

    「さぁ…行こう」

    ミケは無意識にイブキの手を握ると
    彼女も強く握り返していた。

    ・・・ミケの横顔ってこんなに間近で
    見たことなかったけど、
    こんなにステキだったんだ…!

    イブキがミケの横顔に見とれていると、
    その自分を愛しむような眼差しを見つめるイブキが
    愛おしくて思わず抱きしめた。

    「抱きしめるのはあとで…って思っていたけど、
    そんな目で見られると…」

    「ミケ…」

    イブキはミケのぬくもりを感じると、
    幸せな気持ちに包まれていた。

    「…だけど…エルヴィンの匂いがするのは
    さっきまであいつのベッドに寝かされていた…影響だよな?」
  89. 91 : : 2013/11/20(水) 22:42:30
    ミケの何気ない一言で
    イブキは思わずその体を離すと、

    「そ、そう…よ!長い時間寝ていたみたいだからね…!」

    ・・・ミケの鼻は何でもわかっちゃうんだっけ…!
    口移しのこと知られたら、大変…

    イブキはあとで念入りに歯磨きをしようと決めていた。
    再びミケはイブキの手を握りると指を絡ませ
    エルヴィンの執務室へ足取り軽く向かっていった。

    「エルヴィン、いるか…?」

    ミケはエルヴィンの部屋のドアをノックしながら
    イブキの手を優しく振りほどいた。

    「ミケか?入れ…」

    エルヴィンの入室許可をもらうとそのままイブキと二人して
    入室すると、そこにはハンジとリヴァイと共に
    来る壁外調査の会議をしている様子だった。

    「エルヴィン、イブキが話があるそうだ」

    ミケに促されて、イブキがエルヴィンのデスクの前に立ち
    引き締まった顔で自分の思いを伝えることにした。

    「エルヴィン…私は人類のため、この命を捧げます…」

    エルヴィンは厳しい表情でイブキを見つめると

    「そうか…その決意に感謝する。
    君は今まで辛い人生だったろうが…
    またさらに過酷なことが待ち構えているだろう。
    それでもいいんだな…?」

    エルヴィンがイブキにその覚悟を問うと
    ミケの顔をチラっと見た。

    「もちろん、覚悟の上です。
    今まで殺めてきた命の報いになるとは思わないけど、
    この命を捧げるには調査兵として
    尽くすしかないと決心しました」

    「そうか…ミケもいいんだな?」

    「え?なぜ、俺に…?まぁ、イブキがそう決意しているなら、
    受け入れるしかないだろう…」

    「イブキ、君を調査兵として歓迎する…」

    イブキエルヴィンの許可を得て調査兵として
    第二の人生を歩むことが決まった。
    それを聞いていたリヴィアは舌打ちをして

    「暗殺者が調査兵として何が出来るんだか…」

    「えっ…!」

    イブキはリヴァイの言葉に驚くもそう言われても
    仕方ないと感じつつも黙って聞くしかなかった。

    「おまえは確かにすばしっこいが…
    立体起動には敵わないだろう?」

    「でも、立体起動装置なしでも、
    あのような動きはできる…!」

    「ほう…」

    リヴァイがイブキを見下すような態度を取ると
    ミケが割って入った。
  90. 92 : : 2013/11/20(水) 22:42:54
    「リヴァイ、言いたいことはわかる。
    だが、もう暗殺者の『イヴ』は死んだ。
    新たに『イブキ』として調査兵として命を捧げると言っているんだ。
    何か文句があるなら、俺に言え…」

    ミケはリヴァイを睨むと、さらにエルヴィンが割って入った。

    「まぁ…俺が必要だと許可したんだ。
    すべては人類存亡を阻止するため。
    そのためならあらゆる手を尽くす。それだけだ…」

    イブキはうつむきながらも3人の話を聞いていた。

    「まぁ、まぁ…!3人とも!新たに仲間が増えたんだし、
    仲良くやっていこうじゃない!よろしくね!イブキ!」

    ハンジが3人をなだめながら、明るくまとめると
    イブキは笑顔になった。

    ・・・ありがとう!ハンジ…

    「みなさん、これからよろしく…!」

    イブキは笑顔で挨拶すると、
    改めて調査兵として気持ちが引き締まる感じがした。

    「ところで、エルヴィン、
    次回の壁外調査まで数日しかないけど、
    イブキは何をしたらいいの?」

    ハンジがエルヴィンにイブキの予定をたずねた。

    「あぁ…この短期間ではもちろん、
    今回の壁外調査には間に合わないが…
    ハンジ、君の班の何か雑務の手伝いとかあればいいのだが…」

    「え…じゃ…私の班の掃除をお願いしてもいいかな…?」

    リヴァイが舌打ちすると、

    「てめーの班の掃除なんぞ、鳥肌モンだ…」

    イブキはリヴァイのそんな声はよそに
    仕事を与えられたことで
    嬉しい気持ちでいっぱいになった。

    「何でもやります!ハンジよろしく!」

    イブキはハンジに笑顔で挨拶すると、
    お互いに両手で握手をした。
  91. 93 : : 2013/11/20(水) 22:43:07
    ・・・イブキ、頑張れ…でも、ハンジの班の掃除だと、
    どれだけ散らかってるだろうか…

    ミケはイブキの意気込む笑顔を見ると微笑ましかった。
  92. 94 : : 2013/11/21(木) 22:14:58
    ⑱イヴからイブキへ(下)

    「おい、聞いたか?団長を暗殺しようとした女が
    調査兵になったらしいぞ?」

    「ホントか?団長は相変わらず何を考えているんだ…」

    「でも、すげーいい女らしいな!」

    イブキのエルヴィン・スミスの暗殺が失敗した後、
    エルヴィンはそのイブキの能力に着目していたために
    暗殺者のイヴから生まれ変わり調査兵として
    第二の人生を歩むことになった。
    エルヴィンの説得よりもその心を許したミケ・ザカリアスと
    命が尽きるまで一緒にいたいという気持ちの方が
    イブキにっては比重が大きかった。
    またイブキの能力を活かすには
    壁外調査まで日数が足りたいため訓練には参加せず
    その代わりにハンジ・ゾエの『巨人研究班』の研究室の掃除を
    エルヴィンに命じられていた。
    イブキは長い髪を後ろに束ねエプロンをして、そして
    三角布でマスクをしながらほうきで掃いていたり、
    ガラクタの整理整頓をしていた。

    「いや~…!イブキ、ごめんね…!
    今回の壁外調査が決まって
    色々新しい武器の開発とかあって…
    私もモブリットも全然手がつけられなくて…」

    「イブキさん、すいません…」

    掃除をしているイブキの前に
    現れたハンジと補佐のモブリットは
    申し訳なさそう声を掛けた。
    イブキは三角巾のマスクを外すと

    「ハンジ、モブリットさん、気にしないで!
    私はここで生かせてもらえるだけで充分だから!」

    ・・・イブキさん、キレイ…!

    モブリットは少し汗ばみながらも
    笑顔で答えるイブキに見とれていた。
  93. 95 : : 2013/11/21(木) 22:15:53
    「さぁ、モブリット、
    これから新しい武器のテストに行くよ!イブキ、あとはよろしくね」

    「はい、お二人ともいってらっしゃい!」

    笑顔で二人を見送るとイブキは再び掃除に取り掛かった。

    ・・・ハンジ分隊長もちゃんと身奇麗にしたら、イブキさんと
    同じくらいキレイになるだろうけどな…

    モブリットはイブキの笑顔に見送られながら
    心のどこかでそう思っていた。

    「ハンジはすごいな…こんな開発していたなんて…」

    イブキは6人掛けのテーブルが3卓置けるような広さの
    その研究室をで一人で片付けていると、作りかけの武器や
    または使われなくなった金具や鉄板の切れっ端などが散乱した
    足の踏み場もないような研究室を見渡していた。

    「この部屋って窓もないの?でも、明かりが…?」

    イブキは外気が入るのは出入り口のドアだけだと思っていたが、
    山積みになっている失敗作が入った箱と箱の合間に光が
    射していることに気づいた。そしてその山積みの箱を除けると、
    両開きの出窓が現れてきた。

    「なんだ!ちゃんと窓があるじゃない…!」

    イブキが両開きの窓を開けると研究室は1階であり、
    窓の向こうには調査兵団本部内の施設の一つでもある
    訓練場が目の前に広がっていた。

    「やっぱり、外の空気は新鮮でいいなぁ!」

    イブキは先日まで自分の部屋でほとんど監禁状態だったために
    その顔に触れる新鮮な空気に目を閉じながら微笑み、
    まるで肌で空気を味わっているようにも見えた。
  94. 96 : : 2013/11/21(木) 22:16:51
    「おい、あの女…!例の団長を暗殺しようとしたヤツだ…」

    「なぜあんなところに…?」

    「まさか、調査兵になった振りして団長の暗殺を?」

    「いや、団長に下って調査兵になったって噂だ…」

    「ってことは団長の『女』になったのか?」

    来る壁外調査のため訓練に励んでいた兵士達は
    窓から顔を出したイブキを見かけると様々な憶測を並べて、
    噂を立てていると訓練が半ば中断している状態になっていた。

    「おい、おまえたち何をしている…!?え、イブキ?」

    そこには兵士たちがある一定方向を見ていることに対して
    注意を促しに馬で駆けてきたのはミケだった。

    「分隊長、あの暗殺者…なんであそこに?」

    「『団長の女』になったって噂も…?」

    ・・・どうしてこんな噂が…

    ミケのそばに集まってきた兵士たちからはイブキに関わる
    噂が飛び交っていることには驚いたが
    『団長の女』になっていることには不機嫌になった。

    「あぁ、まぁ…色々あったんだが、
    今日、エルヴィンから詳しく説明があるらしい…
    言っておくが決して『団長の女』ではない…!」

    鋭い眼差しで睨むと兵士たちはそれぞれの
    持ち場に戻っていった。
  95. 97 : : 2013/11/21(木) 22:18:05
    「なんで、俺たちが睨まれるんだ?」

    「怖ええー…!」

    窓から顔を出していたイブキがまた掃除に取り掛かろうとすると、
    訓練場でミケが見ていることに気づいた。
    そして軽く右手を振るとミケが笑顔で答え
    そのまま振り返り訓練に戻っていった。

    「ミケ…頑張ってるね…!私もこの『山』を片付けなきゃ…!」

    イブキは暗殺者として虐げられた人生だったが
    今ではどんな雑用でも汗を流すことが
    新鮮であり楽しく感じていた。
    しばらくガラクタの整理整頓をして
    やっと足の踏み場が見え出したところで
    そこに入ってきたのはエルヴィンだった。

    「イブキ、ご苦労」

    「エルヴィン、お疲れ様!」

    イブキはエルヴィンに笑顔で答えると、
    その身体は埃まみれになっていた。

    ・・・このままでは…皆の前には出せないな…

    「イブキ、今からシャワーに入ってこい、その後に話がある」

    「シャワー?まさか…?」

    イブキは思わず仰け反り、身体を隠す素振りをした。
    それを見ていたエルヴィンは顔を赤らめ

    「イブキ、何を考えている!?あの続きは今ではない…!」

    「あの続き?今ではない??」

    イブキは冗談で身を隠す素振りをしたが、
    エルヴィンの本音には笑ってしまった。

    「エルヴィン、冗談よ!まさか…私に惚れちゃったとか…?」

    イタズラっぽくイブキが言うと

    「バカか…!とにかく、
    急いでシャワー浴びてまたここに戻ってこい」

    「はいはい…あなたの匂いも消したかったから、ちょうどよかった!」

    ・・・こ、小悪魔…!

    イヴとしての妖艶な面影は消えたとしても
    イブキは男心を翻弄するような言動を特にエルヴィンに突きつけては
    からかって楽しんでいた。
  96. 98 : : 2013/11/21(木) 22:18:46
    ・・・エルヴィンって堅物だけど、女に関してはそうでもないみたいね…

    イブキは不敵の笑みを残しながら、
    自分の部屋に戻りその隣にあるシャワー室で汗を流していた。

    「見張りもいなくて、
    一人でシャワーに入るのはどれくらいぶりだろう…」

    イブキは自分の身体を丁寧に洗いそして支給されていた
    シャツと黒い細身のパンツに着替えると改めて巨人研究室の前にいくと
    そこにはエルヴィン、ハンジ、そしてミケが待っていた。

    「あれ、みんな…どうしたの?」

    「今から部下たちに君を紹介する」

    エルヴィンはそういうと、
    イブキを兵士たちが待っている大食堂へ案内した。

    「なんだか…緊張するな…」

    廊下を歩きながらイブキがそうつぶやくとミケが
    肩を叩きながら

    「大丈夫だ、みんなついている…」

    「そうだよね…」

    イブキはミケに笑顔で答えていた。
    そして大食堂にはほとんどの兵士たちが集まって夕食を囲んでいた。
    エルヴィンが食堂の中でも全体を見渡せる場所に立つと話し出した。

    「皆、食事中にすまない。少しだけ耳を傾けて欲しい」

    兵士たちが食事を中断すると、そこにはイブキも一緒にいて驚いていた。
  97. 99 : : 2013/11/21(木) 22:19:39
    「あの女…なぜ?ここにいる?死んだじゃないのか?」

    「暗殺はどうなった?」

    「団長と結婚するって聞いたぞ…?」

    ・・・勝手に妙な噂ばかり流しやがって…

    ミケは時間が経つごとに
    憶測と噂ばかり広がることにやはり不機嫌になっていた。

    「皆も知っての通り、彼女は私を暗殺しようと本部内に忍び込んだ。
    だが…詳細は省くが我々の説得により彼女が持つ技術を活かし
    調査兵となると決意してくれた。もちろん、
    彼女には暗殺者として殺意はもうない。
    だからこうして私のそばに立っていられる。
    どうか皆からの理解を頂きたい」

    エルヴィンが兵士達の顔を見ながら
    真摯な態度で紹介すると皆は息を飲んだ。

    「そのイヴって女…本当に殺意はないんですか?」

    「あぁ…名前の紹介を忘れていた…『イヴ』はもう死んだ。
    彼女は『イブキ』として生まれ変わり
    調査兵として人類に心臓をささげる」

    イブキは緊張の面持ちで
    教えられたばかりの
    心臓を捧げる敬礼を皆の前ですると
    その長く黒髪が揺れると、
    イブとしての暗殺者の悲しげの表情は消え
    新たなる決意の強いまなざしが
    皆に注がれるとまた兵士たちはまた息を飲んだ。

    「イヴとはまた違うキレイさがある…」

    「歓迎するしかないか…」

    「ホント、キレイね…」

    女性兵からも思わずため息が出るほどだった。

    「なお、『イブキの管理』はミケ分隊長がするのでよろしく!」

    そばに立っていたハンジがみんなに
    『イブキはミケのもの』と宣言しているようにも聞こえた。
  98. 100 : : 2013/11/21(木) 22:25:44
    「ハンジ分隊長、それはどういうことですか?
    団長の女じゃないんですか?」

    「まさか!なんでそうなるのよー!
    とにかく『イブキの管理』はミケ分隊長の担当!
    だから、イブキに何か聞きたいことがあればミケを通してね!」

    ・・・ハンジめ…まぁ…
    とにかく、これでみんなもイブキのことを理解してくれたらいいが…

    ミケは最初は怪訝そうに
    イブキを見る兵士たちに不安を覚えていたが
    ハンジの挨拶により和やかな雰囲気に
    変わっていくことにホッと
    胸を撫で下ろした。
    イブキはその後食堂で皆と和やかに食事をすると、
    そのまま自分の部屋へ戻った。

    「緊張した…まさか皆の前で敬礼させられるとは…」

    すでに星空が拝める時間になってた。
    イブキの部屋の窓から星がチラホラと見え出すと
    灯されたランプがイブキの周りを淡いオレンジ色に
    染めていた。そしてベッドで横になりながら、

    「やっぱり、自由に動けるっていいなぁ…!」

    枷がなくなった両手を天井に向けて手を見ていると、
    その視界に入ってきたのはミケだった。イブキが起き上がると

    「今日はご苦労だったな…」

    「ありがとう、ミケ…!だけど、
    昨日から色々ありすぎて目が回る感じだよ」

    「だろうな…」

    ミケはイブキの向かい側の椅子に座ると
    安堵の表情を見せていた。

    「もう…イヴじゃなくて、イブキとして生きる。それが嬉しい…」

    ミケは目の前に座っているイブキの
    手を引くと座りながら強く抱きしめた。

    「ずっと…抱きしめたいと思っていた…」

    ミケはイブキの耳元でささやくとイブキの顔を見ると
    長い黒髪を両手の指で梳かし、頬に手を寄せそっと唇にキスをした。
    イブキは胸の鼓動を感じると『生きている』喜びを全身で味わっていた。
    そしてミケが再び抱きしめると

    「もう…エルヴィンの匂いはしない…」

    ミケの一言で身体がビクっとしてしまうが

    ・・・よかった…全身丁寧に洗って…!

    イブキはミケに抱きしめられながら、
    これまで味わったことがないような
    幸福感に包まれていた。
  99. 101 : : 2013/11/22(金) 23:14:51
    ⑲暗殺失敗の果てに

    エルヴィン・スミス暗殺に失敗に終った後であり、
    壁外調査の数日前。
    ウォール・シーナ内の秘密裏の場所には
    『巨人のいる世界の真相』を知るものたちが集まり、
    そしてその傍で隠密の頭(かしら)がひれ伏しながら
    再び会議をしていた。

    「頭(かしら)…おまえが付いていながら、なんて様だ…!」

    「もう壁外調査まで残り数日。どうしたものか…」

    「まぁ…よい…エルヴィン・スミスのことだ。
    これも想定の範囲内だ。例の作戦を発動させるしかないか…」

    王政府の統治者は新たな作戦があると提案してきた。

    「例の作戦とは?」

    そこにある小柄で目つきの鋭い少女がひれ伏せる頭の前に現れた。

    「ほう…おまえが早速、登場するとはな…!」

    頭は驚くというよりも「歓迎する」ような表情を見せるが
    その少女は愛想もなく目をそらすだけだった。

    「まぁ…数日後の壁外調査は過酷になるだろう。
    例の強奪も忘れるな。とにかく全力を尽くせ」

    王政府の統治者はその少女に言うと無愛想でその場を後にした。
    頭はその少女のことを幼い頃から知っていたが、
    その日からさかのぼること1ヶ月半前の
    カラネス区の防衛線にも見かけていた。
    『巨人化する少年がいる』と急きょ聞きつけた
    王政府の関係者から依頼されカラネス区に
    忍び込みその様子を伺っていた。
    そしてその途中である訓練兵に目をつけた。

    「あいつ…我等の仲間に…『王に身を捧げる』と言っている噂だ…」

    そしてカラネス区であちらこちらで
    巨人の殺戮が繰り広げられる中、
    頭はその訓練兵が人目に付かないところにいると
    目の前に立ちはだかった。
  100. 102 : : 2013/11/22(金) 23:15:44
    「なんだ…!おまえは!?どの兵団の制服でもない…!?」

    全身黒ずくめの男が現れるとその訓練兵はたじろいだ。

    「…この巨人のいる世界は生きるだけでも困難だ…
    『王に身を捧げる方法』が兵士以外にもあるのだが、
    おまえは興味ないか?」

    「何を言っている?今はそんなこと言っている場合じゃない!
    エレンが超大型巨人が開けた穴をふさぐことを
    手助けすることに先決なんだ!それにもう…王には興味がない!」

    黒ずくめの目しか見えない頭に力強く言い放つと

    「王には興味がないか…ずいぶんとご無礼なことを言うもんだな…」

    頭は無表情のままその訓練兵に向うと刀を全身に入れると
    一刀両断で一瞬で死に追いやった。

    「そいつの立体起動装置…預かっててくれない?
    何かの役に立つかもしれない」

    音も立てずに急に現れ
    頭の後ろに立っていたのはその少女だった。

    「誰だ!?…おまえか?これか?わかった」

    頭が殺した訓練兵はマルコ・ボットだった。
    また頭は少女から立体起動装置を託された。
    それからしばらくしたある夜。
    頭はその少女に呼ばれ調査兵団本部に忍び込むと、
    指定した場所に立っていた。

    「あれは…イブキ…!
    今夜、エルヴィン・スミスの暗殺の決行か?
    必ず大儀を果たすんだ…」

    イブキがエルヴィンの執務室に入るのを見送るとその少女が現れた。

    「今から『壁外調査を中止の警告』のために
    ここに捕らえられた巨人を殺す。あんたも手伝ってくれ」

    「ほう…おまえは誰から依頼された…?
    まぁ、野暮ったいことは聞くのはよすか…」

    その少女は頭に見張りを頼むと、
    調査兵団が実験のために採られていた
    2体の巨人、ソニーとビーンのうなじをそいだ。
    そしてそのまま頭のそばに寄り

    「あの預けていた立体軌道装置を渡してもらおうか?」

    その少女はマルコの立体起動装置を頭から受取ると
    そのままどこかに消えてしまった。
  101. 103 : : 2013/11/22(金) 23:16:36
    「『壁外調査の中止の警告』と
    『エルヴィン・スミス暗殺』が同時に行われるとは…
    何としてでも中止に追い込みたいってことか…あいつらは…」

    頭は2体の巨人が蒸気と共に姿を消す間、頭自身も
    そのまま煙のごとく調査兵団本部からその姿を消していた。
    秘密裏の会議ではまた新たな作戦が決行されると決まっていた。

    「父親も我が弟子の中でも筋のいい挌闘家だが…
    おまえも引き継いでいるだろうな、
    そのたたずまいからわかる…アニよ…!」

    頭が見送った少女はアニ・レオンハートだった。
    アニが『女型の巨人』に変身できることをすでに
    知っているこの秘密裏の会議に集まった
    『巨人のいる世界の真相』の輩達は
    数日後に行われる壁外調査で調査兵団を
    壊滅に追い込みそしてエレン・イェーガーを
    強奪させる目的を王政府は託していた。
    壁外調査の前夜。
    調査兵団本部内ではウォール・シーナでの
    王政府の思惑も露知らず、
    兵士たちは闘志を高めていた…一部を除いては。
    そしてその時。
    エルヴィンの執務室では今回の壁外調査の
    『極秘作戦』に関わる兵士たちが集まっていた。

    「エルヴィンよ…
    この作戦ではどれだけの兵が命を失うか…
    わからないってことだな?」

    リヴァイはエルヴィンを睨むと静かにエルヴィンは答え始めた。

    「あぁ…誰かにとっては
    私を殺してまででも阻止したかった壁外調査だ。
    必ず報復も兼ねて得たいの知れない敵が現れるだろう。
    そして今までとは比べ物にならないくらいの
    命が奪われると安易に想像できる…
    みんな、すまない…
    今から謝ってもしょうがないことだが、覚悟して挑むしかない…」

    エルヴィンはデスクの上で両肘をつき両指を絡ませると、
    その前に自分の頭を抱え悲痛な表情を見せていた。
    エルヴィンは世間では『稀代の悪』と言われ様だが執務室では
    皆を思うと頭を抱えることが多かった。
  102. 104 : : 2013/11/22(金) 23:17:24
    ・・・俺も…どうなるかわからないってことか…

    ミケ・ザカリアスは長い付き合いである
    エルヴィンの悲痛の表情を見ると
    自分自身の命も危ぶまれることに覚悟を決めていた。
    一方、イブキはハンジ・ゾエの『巨人研究室』の
    掃除とガラクタ整理を命じられ数日、
    やっと人を招いてお茶が出来るようなスペースや
    くつろげるような雰囲気までに
    キレイに整えることが出来ていた。
    掃除などはやりなれないことが多くその手先には
    かすり傷を作りながらも、
    『暗殺以外』で人の役に立てることに喜びを感じていた。

    「やっと片付いた…か…
    ハンジもモブリットさんも壁外調査から戻ってきたら
    ここでまた新たに開発したり、くつろげたらいいけどな…」

    イブキはマスクとして装着していた三角巾を外すと
    キレイになった巨人研究室を
    達成感に満たされながら、見渡していた。

    「今日も汚れた…時間も遅いし早くシャワーに入りたい…」

    イブキはエプロンを脱いで巨人研究室から出よう振り向くと
    その出入り口に立っていたのはミケだった。

    「ミケ…!今日もお疲れ様…え?」

    ミケはイブキを目の前にすると、
    そのまま手を引いて抱きしめた。

    「ミケ、どうしたの…?」

    その目は伏し目がちになったと思ったら
    改めて寂しいような悲しいような目つきでイブキを見つめていた。

    「せっかく、おまえは自由になったのに…
    あとどれくらい一緒にいられるか…イブキ」

    ・・・明日の壁外調査…こんなに過酷なんだ…

    イブキは抱きしめられる強さでミケの覚悟を感じていた。

    「ミケ…私はこうしてあなたに出会えて
    闇から私を救ってくれた…それだけでも幸せ…」

    イブキはミケの胸の中でつぶやいた。
    ミケはイブキの顔を見て頬に触れると

    「必ず帰ってくるから…待っていてくれ…」

    真っ直ぐな眼差しでイブキを見ると
    ミケは唇を強く押し当て苦しいくらいのキスをした。

    ・・・ミケ…待ってるから、必ず帰ってきて…

    イブキのミケの背中を抱きしめる
    その手には力が入っていた。
  103. 105 : : 2013/11/22(金) 23:17:44
    「ひ、人の研究室で何を…!
    二人ともここでチューすることないだろ!」

    ハンジが研究室に戻ろうとすると
    その二人が愛しむ姿を廊下から目の当たりにしていた。

    「分隊長…しばらく二人だけにしてあげましょうか?」

    「そうだね…明日は私たちも
    どうなるかわからないからね、モブリット!」

    ハンジはモブリットに優しい眼差しを向けると

    「僕だって死にませんよ!」

    モブリットも笑顔で答えていた。
  104. 108 : : 2013/11/23(土) 21:50:21
    ⑳過酷な数時間

    イブキが今まで収監されていた部屋は今では窓から鉄格子も外され
    そして頑丈なカギから一般的なカギに交換してもらったのはいいが、
    格子のドアはそのままだった。
    そのためにプライバシーはなく、
    いつも見られているような状態ではあったが、すでに慣れてしまって
    そんなに気にならないようだった。
    ただ着替えるときはさすがに人気がないときにしていた。
    ベッドとテーブルしか置けないような
    小さな部屋だが、生まれて初めての個室のためにプライバシーはなくても
    プライベートな空間が出来たのもイブキにとっては嬉しいことである。

    「寝られない…ミケは明日…大丈夫かな…」

    イブキはベッドの上で何度も寝返りをうっては
    寝られない時間を過ごしていた。
    イブキは窓の外から見える夜空の下弦の月に気づくと
    そのまま起き出して窓の外を眺めいていた。

    「平和な夜なのに…」

    夜空を見上げてはため息をついた。
    そしてまたベッドにもぐりこみ天井を見つめていると
    気がつくと、うつらうつらと眠気を誘っていた。
    そして窓の外の朝日の光が部屋を明るくすると
    すぐに目を覚ました。
  105. 109 : : 2013/11/23(土) 21:51:00
    「やっと朝か…」

    壁外調査のその早朝。
    イブキは身支度を整えると調査兵たちを見送るために
    調査兵団本部の出入り口まで付近まで行くと
    兵士たちが集まっていた。
    イブキは遠くから皆を見つめながら

    「ミケ…みんな…どうかご無事で…」

    心配な様子で陰から見守るしかなかった。
    イブキは背伸びをしながら
    大切なミケ・ザカリアスを探していたが、
    見つけることはできず、
    そのまま兵士たちは壁外の出発地の
    カラネス区までまで馬で駆けていった。
    調査兵団本部内は事務方以外の兵士はほとんど
    壁外調査へ向ったために広い本部内はガランとしていた。
    イブキがうつむきながら本部内を歩いていると、
    事務方の女性が声を掛けてきた。

    「イブキ、そんなに肩を落とさない…!ミケは必ず帰って来るから!」

    「はい…そうですよね…」

    イブキは顔を引きつらせながら答えるしかなった。

    ・・・ハンジが『私の管理はミケ』とみんなの前で発表してから、
    なんだか恥ずかしいな…

    その事務方に会釈をすると、本部内のバルコニーへ向った。
    手すりに手を置き空を見上げると、雲ひとつない晴天を仰ぐと
    まぶしさで手で日よけしていた。

    「一人だけの時間って…こんなにゆったりしているものかな…」

    イブキはバルコニーから見える遠くの壁を見ては
    ため息をつくしなかった。
  106. 110 : : 2013/11/23(土) 21:51:31
    ・・・ミケはあの向こうか…私もいつか…壁外調査に行く…。
    過酷かもしれないけど、待つのも過酷だな…

    イブキは振り返りこのバルコニーで
    エルヴィン・スミスと一緒に立っていたことをを思い出していた。

    ・・・なんだかだいぶ前のようだけど、最近のことなんだよね…

    「あーもう!一人でいたら、考え事しちゃう!寝よう!」

    イブキは昨晩、寝られなかったこともあるが
    考え事ばかりしてしまうため
    無理やりでも眠ろうと決めて自分の部屋に戻ることにした。
    そしてベッドで横になって目を閉じていると、
    昨晩の寝られなかった影響もあり、
    すぐに居眠りすると深く寝入ってしまった。

    「イブキ…イブキ…!」

    イブキは寝ぼけながら部屋の格子のドアの向こうから
    自分を呼ぶ声がすると思うと、

    「イブキ、起きて!」

    その声は皆を見送った直後に話しかけてきた事務方の女性で、
    イブキを起こしに来たのだった。

    「え…どうしたんですか…?何かあった…?」

    「今、早馬がきて…もう兵士たちが戻ってくるって…!」

    その顔は青ざめすこし震えているようにも聞こえた。

    「もう帰って来るの!?」

    イブキは眠りが深かったために数時間寝てしまったが、
    その間に兵士たちが戻ってくるとは予想もしていなかった。
    青ざめた事務方の顔を見ると早馬の兵士がどのような
    報告をしてきたのかを恐ろしくて詳細は聞けずにいた。
  107. 111 : : 2013/11/23(土) 21:52:03
    「わかりました…今から正面の入り口で待機します…」

    イブキは部屋を出ると本部の正面で皆を待つことにすると

    ・・・みんな、無事でありますように…

    イブキはふと気づき、ハッとした顔をした。

    ・・・大事な人を失うかもしれないとか、失った感覚…初めてだ…
    私は…今までどれだけの人たちにこんな思いをさせただろう…

    イブキは自分の行いに今更後悔しても始まらないが
    ただ奪った命の重さを改めて実感するだけだった。

    ・・・確かに悪いヤツもいたけど…
    その後ろには無関係な家族もいたんだ…私はなんてことを

    イブキは涙ぐむとうつむき
    口を押さえて声を上げて泣くのを堪えていた。
    イブキが待っていてどれくらいたっただろう。
    短時間だったかもしれないが、イブキにとっては
    とてつもない時間に感じていた。
    遠くから馬がひづめで大地を蹴る音と共に調査兵たちの
    ゆっくりと心なしか無気力な足音が遠くから聞こえてきた。
    先頭のエルヴィンを見ると青ざめながら愛馬の手綱を引いていた。

    「エルヴィン…あんなに憔悴しきって…それにリヴァイも…」

    そばにいたリヴァイもいつもイブキには厳しい態度で接するのに
    その青ざめた顔を見ると何と声を掛けたらかわからず
    イブキは出入り口の物陰に身を潜め立ち尽くすしかなかった。

    「帰還兵って…こんなにも少ないの…!?」

    数時間前までたくさんいた調査兵たちが半分近くになっていて
    イブキの鼓動は激しくその心臓を押さえる指先も小刻みに
    震えている感覚がしてきた。

    ・・・もしかして、ミケは…精鋭とはいえ…

    シャツの胸元をギュと握り
    エルヴィンを先頭に本部内に入ってくる帰還兵たちが目の前に
    通り過ぎる中、イブキはうつむき足音を聞いているしかなかった。
    調査兵たちの足取り重い何人ものブーツがイブキの視界には
    入っていたが、途中からそれが途切れてしまった。
  108. 112 : : 2013/11/23(土) 21:52:40
    ・・・ミケは…どうなった…?

    イブキは怖くて顔を上げられずその場で床にへたれてしまった。
    そして皆から遅れて本部に入ってきたブーツが目の前を通り過ぎると
    イブキの元へゆっくりと歩み出したと思ったら立ち止まった。

    「イブキ…?こんなところで何してるんだ…?」

    イブキが聞き覚えの愛おしい声が頭上ですると
    疲れ切った顔のミケの姿が目の前に立っていた。

    「ミケ…?よかった…無事で…!」

    ミケがイブキの手を引くと重い腰を上げるように立ち上がった。

    「…必ず帰ってくるって言っただろ…?」

    ミケの疲れた声を聞くとイブキは
    涙ながらに抱きつくしかなかった。

    「よかった…ミケ、ホントに…!」

    声にならない声で
    涙するイブキにミケは頭を優しく撫で

    「あぁ…もう…泣くな…またあとでな…
    それから、おまえの姪のミカサも無事だから
    何も心配することはない」

    ミケは本部内のエルヴィンの執務室に向っていった。
    イブキはミケの足取り重い後姿を見送ると
    精神的には混乱しているはずなのに
    イブキの姪であるミカサ・アッカーマンの無事も伝える
    彼の気遣いに安堵の深いため息をついた。

    「ミカサも…無事だったのね…
    こんなに…たくさんの命を失っているのだから…
    …素直に喜んでもいられない…」

    イブキは涙を拭きながら失った多くの命に
    思いを馳せていた。

    ・・・私の奪った命も含め…これからはこの命を背負って
    私も自分の命を掛けなければいけない…

    イブキは大きく深呼吸すると、
    そのまま自分の部屋に戻っていった。
    その日から数日間、エルヴィンが改めて反撃のごとく
    別の作戦を考えるためにミケは執務室にこもっていたために
    しばらくイブキは顔を合わすこともなかった。
  109. 113 : : 2013/11/24(日) 21:01:16
    (21)最初で最後の夜(上)

    ・・・ミケは…壁外調査から戻ってきと思ったら、
    ずっとエルヴィンの執務室でこもりっぱなしで…どうしたんだろ?

    イブキはミケ・ザカリアスが壁外調査から無事帰還しても
    新たな作戦会議の為、エルヴィン・スミスの執務室から戻らないことに
    心配になっていた。

    ・・・また危険な作戦に挑むってことかな…

    イブキは何も聞かされていないだけに自分の部屋にこもると
    色々と考え込んでしまっていた。
    その日は新たな作戦のウォール・シーナのストヘス区へ向う前日。
    イブキは落ち着かない気持ちのまま、エルヴィンの執務室のドアを見て
    ため息をつくと、その場を立ち去り気がつくと数日前まで掃除に取り組んでいた
    ハンジ・ゾエの巨人研究室の前に来ていた。ドアが開いていたため中を覗くと
    片付いたその部屋ではハンジと補佐のモブリットがテーブルに席について
    コーヒーを飲んでいた。イブキの様子に気づいたハンジは

    「あぁ…イブキ、この部屋ここまで片付けてくれてありがとう…!」

    ガラクタで埋もれていたために久しぶりに日の目を見たテーブル席で
    ハンジが挨拶するが、その声は短い付き合いとはいえ
    彼女らしい元気さはないことにイブキは気づいていた。
    そしてハンジがテーブル席に付くよう促すと
    モブリットがイブキにコーヒーを淹れて差し出した。

    「ありがとうございます…モブリットさん、ハンジ…。
    みなさん…ホント大変で何と声を掛けてよいのか…」

    イブキは恐る恐るハンジに話しかけていた。

    「イブキ、そんなにビビらなくてもいいよ!
    私たちは大丈夫だから、ねぇ、モブリット!」

    「はい…!それにこんなに研究室をキレイにしてもらって、
    有難いですよ!」

    モブリットも疲れた表情を見せながらも笑顔で答えていた。
  110. 114 : : 2013/11/24(日) 21:01:55
    「また新しい作戦のために武器の運搬とかあってね、
    明日はまた忙しくなるけど、今は休憩時間…」

    イブキはハンジとモブリットが
    元気を取り戻そうとしている姿を見ると
    ホッとして元気をもらえるような気がしていた。

    「だけど、また新しい作戦があるんだね…」

    イブキは伏目がちに言うとハンジは

    「それから…ミケはまた別の作戦に参加なんだ。
    詳細は言えないけど、私たちとはまた別の班になるよ」

    イブキはミケのことを聞くと
    ため息をつきそうになるが、気を引き締め

    「私も笑顔で…ミケやみんなを見送らないといけなね…
    いつか私も壁外調査に行くときは…笑顔で見送られたい…!」

    イブキはハンジとモブリットに対して微笑み答えていた。

    ・・・イブキ、強がらなくてもいいのに…

    ハンジはイブキ涙を堪え笑顔を振りまいていることに
    胸が詰まる感覚がしていた。
    三人は他愛の話をしていると、イブキはハンジの
    巨人に対する情熱を初めて目の当たりにした。
    そして目を細めて見ているモブリットに対して

    ・・・この二人どういう関係かわからないけど…
    お互いになくては、ならない同志なのかもね…

    二人を見ながら微笑ましくて、
    温かい気持ちになっていた。
  111. 115 : : 2013/11/24(日) 21:02:41
    「ハンジ分隊長!運搬用の荷馬車が到着しました!」

    そこに荷馬車護衛班の兵士がハンジを呼びに
    巨人研究室に入ってきた。

    「あぁ…!もうこんな時間か、モブリット、行くぞ!」

    「はい、分隊長!」

    モブリットがコーヒーカップを片付けようとすると

    「モブリットさん!私がやるから、
    お二人は準備に取り掛かって!私は大丈夫だから!」

    「すいません、イブキさん…お言葉に甘えて…」

    モブリットが申し訳なさそうな顔をすると

    「いいって!モブリットさんも
    ハンジを支えないといけないでしょ?」

    イブキがイタズラっぽくモブリットに言うと

    「はぁ…まぁ、なんというか…いってきます!」

    モブリットは頬を赤らめると、そのままハンジの後を追って
    研究室から慌てて出て行った。

    「余計なこといっちゃったかな…!まぁ、いいか…!」

    イブキは二人を笑顔で見送ると
    3人分のコーヒーカップを片付け
    自分の部屋に戻るために廊下に出た。
    人が少なくなってしまった調査兵団本部が数日前よりも
    広く感じながら足取り重く歩いていると、

    「イブキ…」

    後ろから声を掛けてきたのはミケだった。

    「ミケ…!ずいぶん長いこと会議しているんだね…」

    数日会わなくても長期間会っていないような感覚で
    ミケを見つめると、自然に笑みがこぼれていた。
    その顔を見るとミケは抱きしめたくなる衝動を押さえ
    イブキの肩に手を置いた。
  112. 116 : : 2013/11/24(日) 21:03:39
    「あぁ…オレはまたエルヴィンたちとはまた違う班の作戦がある。
    詳しいことはなんというか…ところで、今夜、時間はあるか?」

    イブキはミケと久しぶりに話せて嬉しい気持ちと同時に
    予定を聞かれて驚き目を見開いた。

    「私には…時間がたっぷりあることミケは知っているでしょ?」

    「それもそうか…イブキ、
    久しぶりにおまえの部屋で夕食でもどうか?」

    ミケは照れながら指先でヒゲをかきながら
    イブキに夕食を共にする時間を誘っていた。

    「もちろん…!」

    イブキはミケが肩に置いた手を握ると、
    笑顔で答えていた。

    「それじゃ、また後ほど…今夜だな!」

    ミケはイブキの手を強く握ると
    再びエルヴィンの職務室へ向っていった。

    ・・・もしかして、今夜が…イブキとの最初で最後の…

    エルヴィンの部屋のドアの前にイブキが立ったとき
    ミケはその嗅覚で勘付いていた。
    そしてタイミングを見て執務室から抜け出し、
    イブキを誘ったまでだった。
    今回の無残に終った壁外調査の引き続きのような
    新たな作戦に挑むミケは命が尽きる感覚が
    間近に迫っているような悪い予感もしていた。

    ・・・そんなことは考えたくないが…

    また会議に戻るためにミケはエルヴィンの
    執務室のドアを開け再び会議に参加した。

    「ミケがこの部屋にまたくる…!」

    イブキは自室に戻ると
    ミケとまた食事が出来ることを楽しみにして、
    殺風景な部屋を見渡していた。

    「何にもない部屋だけど、
    またここでミケと食事が出来るのは嬉しい」

    テーブルを用意していると、ふとベッドが視界に入ると

    ・・・まさかね…!

    イブキは訳もなく照れてしまい
    頬を赤らめていた。
  113. 117 : : 2013/11/25(月) 22:25:22
    ※第(22)章は大人の表現が含まれます。ご容赦ください。
  114. 118 : : 2013/11/25(月) 22:26:04
    (22)最初で最後の夜(下)

    イブキが一人、自分の部屋でミケ・ザカリアスを待っていると
    すでにそのから見える風景は星が煌き始めていた。
    窓の外を見ながら

    「今日は空気が澄んでるのかな…星がキレイ…」

    イブキが窓を開けて外を見ているとその鋭い耳が
    ミケの足音を捕らえると、そのまま窓を閉めた。

    ・・・ミケがきた…!

    イブキは拘束されていたときはベッドの上で待っていたのが、
    今では入り口で迎えられることが嬉しかった。

    「おーい!イブキ持って来たぞ!」

    「ミケ、ありがとう!」

    ウブキはミケを笑顔で部屋に招きいれた。
    そして格子のドアを閉めるとミケはテーブルに
    トレーを置いて夕食の準備が整った。

    「もっと、かわいらしい部屋だといいけどね…」

    「まぁ…ランプの明かりだけでも充分じゃない?」

    ミケはテーブルに置かれたトレイのそばにランプを置くと
    二人の周りだけ淡いオレンジの光が囲っていた。
    調査兵団特製の焼きたてのパンとクリームスープを
    食べながら二人は以前と同じように他愛もない会話を
    楽しんでいた。

    「今は食事の時間を気にないでいられるのがいいね…」

    「それもそうだな…あぁ、そうだ。
    食事が終ったら少し散歩しないか?」

    「うん!ぜひ!」

    イブキは笑顔で答えると、
    食事を終えると二人でミケと二人して食堂まで
    トレー返すと本部内のバルコニーを歩いていた。
  115. 119 : : 2013/11/25(月) 22:26:30
    「さすがに夜は冷えるね…」

    イブキがバルコニーの手すりに手を置くと
    ミケが後ろから抱きしめた。

    「こうしたら、どうだ…?」

    「うん…背中が温かくなっていく…」

    イブキはミケぬくもりを感じながら空を見上げていた。

    「やっぱり、今日は空気が澄んでるね!星がいっぱい…」

    「あぁ…そうだな…」

    輝く星空の下で二人はしばらく
    何も話さずにお互いのぬくもりを感じていると
    ミケが口を開いた。

    「なぁ…イブキ…」

    「何?」

    「今から…オレの部屋に来ないか?」

    「えっ…」

    イブキは突然のことで、身体をビクつかせ驚いた。

    「イヤか…?」

    イブキは息を飲むと

    「イヤ…じゃないよ…」

    返事をしながらイブキは振り向くと
    ミケの正面に立ち、抱きしめられ
    恥ずかしさのあまり顔を
    上げることはできなかった。
    ミケがイブキの手を強くつなぎ誰にも見つからないように
    廊下を歩いていると、
    イブキは胸の高鳴りを止めることが出来なかった。

    ・・・まさか、ミケの部屋に行けるとは…!

    「イブキ、入れ…」

    「おじゃまします…」

    ミケの部屋はドアの手前にデスクがあり
    その向こうにはベッドがあり、
    さらにその後ろが窓という狭い部屋だが、
    分隊長でもあるためシンプルだが個室を与えられていた。
  116. 120 : : 2013/11/25(月) 22:27:04
    「だけど…何にもない部屋だね…」

    イブキは必要最低限の物しかない部屋に驚いていた。

    「あぁ…調査兵である以上…いつ何が起こるかわらないから、
    みんな、荷物は手荷物程度のものしか持ってないよ」

    ミケはランプに炎を灯すとデスクの上に置いた。
    星空が眺められる両開きの窓ガラスのある部屋の中は
    セピア色に包まれていた。

    「まぁ…座ってくれ…」

    「うん…」

    イブキはドキドキしながらベッドの上に座ると
    ミケは椅子に座りデスクに肘を置いた。

    「ミケと今まで何度か二人きりになったことあったけど…
    部屋が違うとこうも緊張するのかな…」

    「オレも緊張する…」

    セピア色に染まっていたイブキの頬が
    今度は赤く染まっていることにミケは気づいていた。
    そしてミケが立ち上がりイブキの傍に座ると、
    イブキはさらに緊張感に包まれた。
    ミケは肩を抱き寄せるとイブキも身を預けていた。

    ・・・こんなに緊張するものだったの…
    男と女って…

    胸の高鳴りが止めれなないイブキは
    ミケに身体を正面に向けられると涙ぐんでいた。

    「ミケ…私はその…『愛のない行為』をたくさんしてきた女だよ…」

    ミケはイブキは強く抱き寄せて

    「それは『イヴ』としてだろ?
    …『イブキ』としては…オレが初めての男だ…」

    「…ミケ!」

    イブキはミケの言葉を聞くと
    抱きしめることしか出来なかった。
  117. 121 : : 2013/11/25(月) 22:27:29
    「イブキ…ドキドキしてるんだな…オレにも伝わるぞ」

    「うん…だって…!」

    抱きしめたミケの胸元にはイブキの鼓動が伝わっていた。
    イブキが顔を上げると、微笑むミケが彼女を見つめていた。
    ミケがイブキに唇に触れるか触れないかの
    くすぐったいキスをすると、ミケの手のひらは
    イブキの背中を伝い抱きしめていた。
    そしてイブキをゆっくりと押し倒すと、
    ミケはイブキに唇を押し当て潤わせると
    お互いに唇を求め合っていた。
    イブキは唇を少し開けると
    ミケは息が苦しくなるくらいその唇を求め続け
    そして顔をあげると、シャツのボタンに手を触れていた。

    ・・・こんなに…ドキドキするなんて…?

    イブキがミケを潤んだ眼差しで見ていると、
    丁寧にボタン一つ一つ外し半分くらいまでになると、
    ミケの唇は首筋を伝い敏感なところを捕らえながら、
    すべてのボタンを外した。
    シャツがはだけた状態でイブキの胸元に
    顔をうずめるミケの背中を抱きしめると、
    ミケも自らのシャツを脱ぎ出していた。

    ・・・『感じるもの』だったんだ…
    愛する人にこんなことをされるって…

    イブキは『イブ』として幾度となく愛のない行為をしてきたが、
    何も感ずるものはなく
    『イブキ』としてはかつて味わったことのない
    心地よい感覚に包まれていた。
    そしてミケはイブキのシャツを丁寧に脱がシャツを
    ベッドの下に投げ捨てるように置くと、上半身をあらわにさせた。
    そしてミケはむさぼるようにイブキを求めていた。

    「ミケ…そんなに…恥ずかしいよ…」

    「ずっと…おまえが欲しかった…イブキ…」

    イブキはミケのストレートな
    正直な気持ちをここでもぶつけられると、
    身体をくねらせ恥ずかしさを
    紛らわせることしか出来なかった。
  118. 122 : : 2013/11/25(月) 22:27:57
    「もう…ミケ…!」

    イブキはミケが照れながらも
    彼が気持ちを打ち明けてくれたことで少しずつ緊張が解け、
    身体が敏感になっていることに気づいた。

    「…ミケ…身体が…あ…ん…熱い…」

    イブキはミケの髪に触れていると、ウエスト周りにも
    そのヒゲが触れくすぐったいようなキスをしていた。

    「ん…ミケ…くすぐったい…」

    そしてミケがイブキのパンツのベルトに手を伸ばすと
    イブキの身体に緊張が走り心臓が飛び出しそうな感覚が全身を包む。

    「いや…ん、ミケ…恥ずかしいって…」

    ミケがパンツを丁寧脱がせ、イブキの全身が現れると、
    セピア色の部屋で顔を紅潮させ
    身体をくねらせた妖艶な姿が横たわっていた。

    「イブキ…かわいいな…!」

    お互いにありのままの姿になると、
    ミケはイブキを改めて組み敷くと
    イブキが愛しみながら目を潤わせる視線の先にはミケがいた。
    ミケは再びイブキに苦しくて音立つようなキスをすると、
    イブキはミケの背中に手を伸ばしてその指先には力が入っていた。
    その唇は再び胸に顔をうずめると、敏感なところを捉えていた。
    手のひらで丁寧に触れていて、
    もう一方はミケの唇が捕らえ離さなかった。

    「ミケ…いい…あぁ…ん」

    イブキはミケがすることに声に出して答え、そしてその手のひらは
    シーツをギュッと強く握るしかなかった。今までむさぼるように
    イブキを求めていたのに何か繊細なものに触れるようにミケの
    両手は指先に軽く力を入れると優しく彼女の身体に触れ始めた。
  119. 123 : : 2013/11/25(月) 22:28:39

    「こ、今度は…何?…」

    ミケの両手のひらがイブキの太もも当たりを捕らえると彼女は
    身体がビクつくくらいくすぐったがると

    「もう…ミケ…くすぐったい…」

    後ずさったミケをイブキが見ると膝を立てた
    両腿の間からイタズラっぽく微笑んでいた。

    「ミケ…何を…?」

    「…溢れているな…」

    「いや…だ…恥ずかしい…!」

    ミケは自らの行為により敏感に潤う『その場所』を
    両腿の合間から発見しては、見つめていた。

    「そんなに…見ないで…あぁっ…!」

    イブキは思わず両手で口を押さえる程声が出てしまったのは
    ミケの唇が潤う敏感な一ヶ所を捕らえ淫靡な音を立て始めたからだった。
    イブキが身体をくねらせても止めようとせず、
    そしてミケのヒゲが触れるとさらにイブキの身体は紅潮させ溢れ出していた。

    「あぁ…そんなところ…い…や…!」

    イブキが出来る抗うことは
    ミケの髪に触れくしゃくしゃにすることくらいだった。
    ミケが顔をあげるとその唇はイブキの潤いが移ると艶やかになり

    「…ホントにイヤか…?」

    「え…もう…ミケ…」

    ミケの顔は意味深に笑みを浮かべるとその唇は
    『抵抗は許さない』と言いたげにイブキにまた苦しいくらいのキスをした。

    「ミケ…こんなに意地悪だったの…?」

    イブキがイタズラっぽく言うと…

    「さぁな…」

    ミケが曖昧な返事をするとその視線はイブキに向けたままで
    指先を身体に優しく這わせると、再び熟れた敏感な場所と捕らえた。
    イブキが顔を紅潮させ身体が全体に刺激が走る感覚がすると

    「…意地悪…かもな…」

    ミケはその敏感な場所を指先を器用に使い
    様々な工夫を凝らしてイブキを何度も頭を真っ白にさせた。
    イブキの唇からもれる甘いささやきは時間が経つごとに
    大胆になっていき

    「外に聞こえるぞ…」

    イブキは自ら口を押えるしかなかった。

    ・・・ミケは普段、あんなに優しいのに…こういうときは…

    それでもイブキはミケから与えられる甘い刺激を受け入れていた。
    ミケがイブキを見つめながら、自らを送り込むと

    「ミケ…うっ…ん…」

    イブキはミケの名前を呼びながら
    その瞳を潤わせ指先で優しくミケの頬に触れると最初は
    苦痛な表情から口が少し開くと唇からは吐息が漏れるしかなかった。
    ミケは耳元でその甘いささやきを感じながら
    波打つ動きは止められずにいた。
    ミケの部屋はイブキの甘く切ない吐息が漏れる声と
    ベッドのきしむ音がしばらく続いていた。
  120. 124 : : 2013/11/25(月) 22:29:00
    「ミケって…こんなに大胆だったんだ…」

    イブキは息が整うとミケに話しかけると

    「すまない、イブキ…」

    ミケはイブキの肩を強く抱きしめると思わず謝ってしまったのは
    この行為の大胆さだけでなく、
    『最初で最後の夜』かもしれないという覚悟もあるために
    今までのイブキへの気持ちを体現したからだった。

    「ううん…でも…次はもっと優しくしてね…」

    イブキがミケの頬にキスをすると肩を抱く手に力が入った。

    ・・・『次』があればいいのだが…

    お互いをより深く知るための甘い行いが終わり
    その後の雰囲気を楽しんでいると

    「ミケ…私の人生は…自らの意思もなくて方向性もわからなかった。
    でも、ミケと出会えて…私の人生は変わった…
    これから何があっても…生きていけるよ。私は…自らの人生を歩む」

    イブキはミケの覚悟を感じ取ったのか涙ながらに
    ミケの胸元でささやいた。
    イブキはミケがいなくなることは恐ろしくて考えられなかったが
    一人残される自分自身を心配させないが為についた
    半分本気の『精一杯の嘘』だった。

    「そうか…イブキ…」

    ミケはイブキの気持ちを汲むと何も言わずに
    抱きしめていた肩から
    その手を頭へ移動させ
    髪をただゆっくりと撫でていた。

    「イブキ…明日は早い…少し寝たら…もうオレは出なきゃならない…」

    「えっ…」

    イブキは驚き思わずミケの顔を見ると
    再びミケの胸に顔をうずめるとミケは肩を抱きしめた。

    「おやすみ…」

    イブキは言葉が掛ける言葉これ以上見つからないまま
    『おやすみ』と一言言うとそのまま寝入ってしまった。
    ミケはイブキの寝息を感じるとそのまま抱きしめていた。
  121. 125 : : 2013/11/25(月) 22:29:25
    「…え…何?」

    まだ夜明け前。
    イブキが物音に気づいて目を覚ますと
    ミケがすでに制服を着て
    身支度をしていた。

    ・・・もう行っちゃうんだ…

    イブキはミケの後姿を見ると、驚きと寂しさのあまり
    固まってしまうが一呼吸置いて声を掛けた。

    「おはよう!ミケ!ずいぶんと早起きだね!」

    イブキは起き上がると、空元気でミケに挨拶しながら
    その身体は毛布で恥ずかしそうに隠していた。

    「あぁ…おはよう、すまないが…もう出ないといけない…」

    「そう…」

    元気に挨拶したもののもう別れの時間の
    現実を突きつけられると
    どうしても伏目がちになってしまった。
    そして急いで身支度して着替えると
    一緒にミケの部屋から出ることになった。

    ・・・まさか…こんなに早く…

    イブキがベッドに座りながら
    シャツのボタンを止め終え立ち上がると
    ミケが突然強く抱きしめてきた。

    「ホントは…オレ、行きたくねーよ…おまえを残して…やっぱりヤダよ…イブキ…」

    「…ミケ…」

    イブキは抱きしめられながら
    ミケの甘えん坊のような本音を聞くと
    胸が締め付けられる感覚がしたと同時に敢えて
    空元気を通していた。
  122. 126 : : 2013/11/25(月) 22:29:48

    「ミケは人類のために心臓を捧げる調査兵…なんでしょ?
    大丈夫だよ!私はちゃんと待っているから!」

    イブキは小さい子供をなだめるように
    ミケの背中をさすると、最後は激励するかのように
    優しくトントンと叩いた。

    ミケの顔を見るとイブキは涙が溢れそうで
    すぐに目をそらすと、先にドアまで移動して

    「さぁ…!みんなが待っているでしょ!」

    ドアを開けてミケを部屋から外に出させた。

    「あぁ…」

    ミケは足取り重く部屋から出るとイブキが
    ドアを閉めそしてミケの部屋の前で

    「じゃ…ここで…」

    「イブキ…」

    イブキは涙を堪えミケの部屋の前で
    『別れの挨拶』をすることにした。

    「必ず…戻ってきてね…待ってるから」

    「あぁ…」

    イブキはミケの寂しい眼差しを見ても涙を堪え

    「ミケ…!いってらっしゃい…」

    イブキは今出来るだけの笑顔で見送るとミケは

    「いって…きます…」

    イブキに引きつった笑顔で挨拶するとそのまま振り向いてて
    エルヴィン・スミスの執務室へ向った。
    イブキも自分の部屋に向かい歩いていると、
    途中で気が抜けると、膝から崩れ落ちてしまった。

    「ミケ…ミケ…行かないで…ミケ…」

    口を押えて流れる涙を止められなかった。
    大声で泣き叫びそうな自分を抑えるために
    必死でイブキは自分の口を押えていた。
  123. 127 : : 2013/11/26(火) 22:05:41
    (23)叫び

    「ミケ…行かないで…」

    イブキはどこをどう歩いているかわからない感覚で
    壁伝いに暗がりの廊下を歩いていると、どうにか
    自分の部屋に到着していた。

    「ミケが…いっちゃう…」

    イブキは今回ばかりはミケ・ザカリアスとは
    もう二度と会えないかもしれないという感覚がすると
    身体に力が入らず、部屋のドアを開けるとそのまま
    再びへたれ込んでしまった。
    窓の外を何気なく見ると、夜空の向こうが白々と
    明るくなる様子が伺えた。

    「明け方には出発だっけ…そろそろ…最後に一目だけでも」

    イブキは涙でまぶたを腫らしたまま調査兵団本部の正面の
    出入り口付近が見えるところまで行くと、物陰から覗いていた。
    数日前の壁外調査では多くの兵士が命を落としたために
    今回の作戦では兵士がまばらで、すぐにミケを見つけることができた。

    「ミケ…どうか…無事で…」

    溢れる涙はそのままに声が漏れないように
    口を押えながら泣くしかなかった。
    出入り口付近のミケは兵士たちに指示を出して
    忙しそうにしている様子だが、
    その嗅覚は物陰に隠れたイブキを感じ取ると
    寂しくも鋭い視線を送ってきた。
  124. 128 : : 2013/11/26(火) 22:06:09
    ・・・まずい…気づかれた…あ…

    イブキが振り返ると、そこに立っていたのは
    エルヴィン・スミスとハンジ・ゾエだった。

    「イブキ、どうしたの?そんなにまぶたを腫らして…?」

    ハンジはイブキの様子を心配していると
    出入り口にミケが立ち尽くしていることに気づいた。

    「あぁ…」

    ハンジは二人が今回の作戦が『さらに過酷になる』になると
    察しているなら何も言えなくなっていた。

    「イブキ…ミケの元へ行け、行くんだ…命令だ」

    エルヴィンはイブキに半ば強制的な命令すると、
    イブキはうなずくとゆっくり歩き出した。

    「エルヴィン、やるじゃん…!」

    「まぁ…今回の壁外調査でミケも弱っているだろう…」

    「あなたは、ホントは
    イブキを行かせたくないんじゃないの?」

    「どうだろう…」

    エルヴィンはハンジに意味深な笑みで答えた。

    「まぁ…『キス』はしたんだからいいじゃない?」

    「あれは『作戦上の口移し』だ」

    エルヴィンは自分の暗殺を阻止する作戦を企てたときに
    イブキに睡眠薬を口移して飲ませたことがあったが
    あくまでも『作戦』だったと強調していた。
  125. 129 : : 2013/11/26(火) 22:06:32
    「じゃ…ミケに知らせてもいい?」

    「それは…大事な作戦に挑む前に
    命が危ぶまれることは避けたい…」

    二人の目線の先にはイブキを両手を広げ待ち構えるミケがいた。
    途中でイブキは小走りになると、ミケはそのまま抱き止めた。

    「ミケ…絶対に生きて帰ってきて…」

    ミケはイブキの腫れたまぶたに驚くも

    「こんなに泣いて…バカだな…」

    ミケはイブキの涙を親指で拭うと
    人目も気にせずにイブキに唇を押し当て
    お互いに苦しくなるくらいに唇を求めキスをした。

    「ミケが…こんなに大胆だったとは…!」

    二人の前を通り過ぎるハンジは見入ってしまい、
    目の前を歩くエルヴィンにぶつかりそうになった。
    周りの調査兵たちも作業を中断してしまうほど、
    いつも冷静なミケが人前でキスしているのが
    信じられない様子で見入っていた。
    ミケはイブキを抱きしめながら離す様子もないため
    エルヴィンは咳払いをした。

    「…ミケ、行くぞ…!」

    エルヴィンはミケに背を向け準備を再開するよう促すと
    その身体からイブキを離した。

    「イブキ…行ってくる…」

    「気をつけて…」

    ミケは絡めていた指を名残惜しそうに解くとそのまま
    エルヴィンの後ろに付いて行くと自分の持ち場へ戻った。

    「ミケ…」

    イブキは愛おしい背中を見送りながら
    口を押さえ再び声を出して泣かないように堪えていた。

    ・・・いってしまった…ミケ、みんなも…

    イブキはため息をつきながらフラフラな足取りで
    自分の部屋に戻り、何気なく見た鏡を見ると
    まぶたの腫れに驚かされた。

    ・・・こんな顔…ミケに見せていたんだ…

    情けない顔を確認すると、一人シャワールームで汗を流していた。
    まだ身体に残るミケが触れた感触を思い出しても一緒にいた時間が
    どんどん過去になっていく感覚がしていた。

    ・・・ミケ…絶対に帰って来るよね?
    この思いもただの考えすぎで終わればいいのに…

    イブキはシャワーを止めるともう一度ため息をついた。
    そして一人で自分の部屋でミケの帰りを待つことにしていた。
  126. 130 : : 2013/11/26(火) 22:06:52
    今回の作戦ではエルヴィンとやハンジは
    ウォール・シーナ内のストヘス区へ向ったが
    ミケは104期の調査兵たちの監視の為に行動していた。
    ウォール・ローゼ南区内の隔離施設で
    第57回壁外調査で大打撃を与えた
    アニ・レオンハートの仲間がいないかナナバと共に
    104期の兵士たちを監視していると、
    ミケの鼻は9体の巨人がその施設に
    向っていることに勘付いた。
    ナナバは全身で敗北感を味わい

    「どうして、壁の中で巨人が…?
    巨人の正体も見つけ出せず、この日を迎えた。
    私達、人類は負けた…」

    ナナバの崩れ落ちた様子を見ていたミケは

    「いいや、まだだ…
    人は戦うことを辞めた時に初めて敗北する。
    戦い続ける限りは、まだ負けてない」

    イブキの前で一時は甘えるように本作戦前には
    嘆いていたミケだったがその様子は微塵も感じさせず
    力強く巨人に挑むことに闘志を燃やしていた。
    104期の兵士たちを逃がそうとしている最中に
    この9体の巨人の足の速さに驚かされたミケは

    「ここはオレが囮になる…」

    そういい残し、自ら9体の巨人の討伐のために
    愛馬で駆け出し、立ち向かっていった。
    ナナバを始め他の兵たちは住民の避難誘導のために
    ミケに辛い選択をを押し付ける形になってしまった。
    一気に5体の巨人を討伐したところでミケは

    「なんだ、あいつは…奇行種か?」

    ミケは見たこともない17メートル級で全身を体毛に覆われた
    手が異常に長い獣のような巨人を目の当たりにすると、
    撤退した方が賢明と判断し、愛馬を呼ぶために指笛を吹いた。
    5体の巨人を討伐した後、施設の屋根に上っていたミケは
    愛馬が戻ってくることに安堵していたその時、
    その『奇行種』が愛馬を鷲づかみにすると、ミケ目掛けて投げつけた。
    ミケは突然のことで避けることもできず、そのまま屋根から落ちると
    その下にいた巨人に脚から喰われてしまった。
  127. 131 : : 2013/11/26(火) 22:07:19
    「いやーーーーーっ!!」

    ミケは突然のことで驚き
    そして痛みに耐えられず
    幼子のように泣き叫ぶと、

    「待て」

    しゃべれる者は自分しかいないはずなのに
    声の主の方向を混乱しながら身体を向けると
    その『奇行種』が声を発していたのだった。
    そしてミケを襲う巨人が『待て』を
    聞かなかったためその頭を握りつぶされると、
    ミケは巨人の口から地上へ落とされてしまった。

    「その武器はなんていうんですか…?」

    全身を体毛で覆ったその『奇行種』はミケの前で
    しゃがみこむと話しかけていた。

    ・・・なんなんだ…コイツは

    ミケはその脚は立ち上がれないほど
    捻じ曲がり激痛が走っているはずだが
    恐怖に包まれると、痛みを感じられず
    青ざめ伏目がちになるしかなかった。

    「同じ言語のはずなんだけどな…」

    ・・・オレは夢を見ているのか?

    「まぁ、いいや、持って帰れば」

    そのしゃべる『奇行種』はミケの立体起動装置を引っ張り
    そのまま奪い取ると、ミケは恐怖を感じながらも
    果敢に挑み震える手で刃を向けた。

    「あ、もう動いていいよ」

    『奇行種』の軽いノリのような一言で
    ミケを囲っていた巨人が一斉に襲い掛かった。

    「ぎぃ…やああーーああ……!」

    ・・・イブキ、オレはイヤだ…もうおまえに会えないなんて…

    再び甘えた幼子のように泣き叫ぶと、
    その叫び声と共にミケの身体は
    数体の巨人の中へ消えていった。
  128. 132 : : 2013/11/26(火) 22:07:39
    「え…ミケ?」

    ちょうどその時。
    イブキはミケに名前を呼ばれた気がすると、
    座っていたベッドから立ち上がると、
    部屋のドアの方向へ視線を送った。
    もちろん、誰も立っていないが、
    確かにミケの声を聞いた気がしていた。

    「今の声は…本当にミケだったよ…」

    イブキは自然に涙が溢れると
    全身から力が抜けたようなに
    膝から崩れ落ちた。

    「…ミケ…ミケ…!」

    床に手を着くと涙がポタポタと目下に落ちては
    いくつも波紋を作っていた。
    イブキはミケに何が起こったか勘付いていたが
    認めたくはなかった。イブキはただミケの名前を
    呼ぶことしかできなかった。

    ・・・今まで命を奪ってきた私は…
    たくさんの人にこんな思いを…

    「イヤーーー!ミケー!」

    イブキは自分の身を引き裂かれる思いと同時に
    改めて暗殺者としての罪の重さを痛感すると
    ミケの名前を叫ばずにはいらえなかった。

    「ごめんなさい、私は何てことを…!」

    イブキは混乱して頭を抱えるとベッドにもたれて
    呆然と天井を見つめるしかなかった。
  129. 133 : : 2013/11/27(水) 22:32:49

    (24)決意、新たに

    イブキがミケ・ザカリアスの死に勘付いて
    どれくらい時間が過ぎただろうか。
    窓の外から見える空は藍色が多く
    オレンジ色は姿を消しつつあった。
    イブキはベッドの上に座り壁にもたれ
    天井を見つめるだけだった。

    「ミケが…いなくなった…」

    泣きはらしたまぶたは腫れ
    その目からは精気は失われていた。

    「誰だろう…あぁ…」

    イブキは廊下の向こうから誰かの足音が近づいてきたが
    それはミケではないことにすぐ気づくと同時に
    ハンジ・ゾエがイブキの部屋の格子のドアの前に立っていた。
    ハンジはミケと一緒にいた班から『自ら巨人の囮なった』と
    報告されているだけでその後、どれだけ時間が過ぎても
    ミケが戻らないために最悪な事態を想像するしかなかった。
    ハンジはイブキの部屋のカギが開錠されていることに気づくと
    そのまま部屋に入り何も言わずにイブキのベッドに座った。

    「イブキ…その…ミケは…」

    ゆっくりと話し出したハンジは話し辛そうに
    口を開いた。

    「ハンジ…」

    イブキはハンジの無気力な様子から
    自分の勘通りだと改めて
    ミケの最悪な状況を感じていた。

    「…ミケは『行方不明』になった…」

    イブキは目を見開きそして伏目がちになると

    「そう…私を置いてどこ行ったんだろうね…」

    イブキはハンジから報告を受けると
    『心、ここにあらず』で上の空で答えるしかなかった。
    イブキも兵士が『行方不明』とはどんな状態であるか
    安易に想像できたが、辛い報告をするハンジを察すると
    泣いてはいけないと思いながらも、涙が自然と溢れてきた。
  130. 134 : : 2013/11/27(水) 22:33:25
    「ミケはエルヴィンと私の同期でもあって…付き合いも長くて…
    その分、辛いよ…」

    イブキは肩を落とす、いつもとは違うハンジを見ると
    気を引き締めなければと感じ始めていた。

    「ハンジ…ごめんね、こんな辛い報告させて…」

    「いや…遅かれ早かれ…報告しなきゃいけないことだし…
    それにあなたに見て欲しいものがあるんだ、イブキ…」

    部屋の外にはハンジの補佐でもあるモブリットがハンジを
    心配そうに見守っていた。

    「わかった…ハンジ、それは何?」

    「今、地下室に運搬して『設置』したところだよ」

    イブキはベットから下りるとふらつく感覚はするも
    一息ついて、改めて気を引き締めハンジとモブリットの
    後ろを付いていくと、地下室にたどり着いた。

    「ハンジ…何なの?あれ…?」

    松明が灯されその間には光り輝く大きな
    楕円形の物体がチェーンで巻かれ固定されていた。
    しかもその中には人がいることがわかると
    驚かされるばかりだった。
    その前ではリヴァイがその物体を睨みながら
    立ち尽くしていた。
  131. 135 : : 2013/11/27(水) 22:34:09
    「これね…」

    イブキもリヴァイの隣でこの大きな物体を眺めていると
    第57回壁外調査で大打撃を与えた張本人である
    アニ・レオンハートであるとハンジは説明していた。

    「だけど…どうしてこんなことに…?」

    イブキが目を見開きただ驚いていると

    「それを知っていたら、苦労しねーよ…
    突然、自分の殻に閉じこもりやがった」

    隣のリヴァイは不機嫌に答えるだけだった。
    透明で硬質なクリスタルに包まれたアニは
    目を閉じて寝ているようにも見えたが
    生きているのか死んでいるのかもわからない
    その姿が皆の前でさらされていた。

    「それで…イブキ、アニは憲兵団所属で
    あなたもウォール・シーナにいたし、見覚えない?」

    イブキはアニを見つめるも
    見かけたことも会ったこともなかった。

    「ごめん、見覚えがない…でも…レオンハート?」

    イブキが名前が聞き覚えがあることを思い出すと
    遠い記憶を手繰り寄せていた。

    「私がまだ小さい頃…育ての親にはどういう訳だか
    格闘技の弟子が何人かいて…その時に
    『レオンハートは筋がいい』って言っていたことがあった…」

    「『レオンハートは筋がいい』…ってまさか、アニも小さい頃から…?」

    「いや…育ての親の弟子は確か男だけだったような気がする」

    イブキはクリスタルに包まれたアニを見ながら遠い記憶を辿ると
    これ以上は思い出せなかった。

    「ハンジ、ごめん…あとは思い出せない…」

    「イブキ、ありがとう…『レオンハート家』を調査すれば何か
    わかるかもしれない、キッカケは小さくても、
    大きなものに繋がればそれでいい」

    そばに立っていたリヴァイは舌打ちしながら冷たい声で

    「ほう…コイツは小さい時から習ってたあの格闘術で
    皆を死に追いやったってことか。
    大方…そのレオンハートって野郎は父親だろうな…
    実験用の巨人も証拠も残さず
    殺したのも親父から受け継いだ
    『筋のよさ』から出来ることか」

    実際に格闘を交えたリヴァイのその声はいつもの
    冷たさに加えさらに負傷した足の痛みもあり
    恨み節のようにも聞こえた。
  132. 136 : : 2013/11/27(水) 22:35:21
    「実験用の巨人を殺した…コイツが…?」

    イブキはエルヴィン・スミスの執務室に
    初めて忍び込もうとした夜、
    巨人の実験場の近くに頭がいたことを思い出していた。

    「おい…てめー…また何か知ってるようだが…
    まさか、まだてめーの組織と繋がっているじゃないだろうな?」

    リヴァイがイブキを睨むとさらにイブキも睨み返した。

    「私の中の…暗殺者の『イブ』はもう死んだ…それに…」

    イブキが息を飲み言い放った。

    「ミケの面汚しなんて、私ができるわけがない…!」

    イブキは自分を愛しそして大切にしてくれたミケが
    これからの自分自身の行動によりその名誉が
    傷つかないよう気をつけなければと決意していた。

    「イブキ…あの2体の巨人のソニーとビーンは
    私の家族のようなものだった。
    辛い実験に耐えてくれてね…」

    ハンジがそういうと隣のモブリットが
    やはり心配そうに見守っていた。

    「そうなの…ハンジ…私が知っているのは…
    私が初めてエルヴィンの執務室に
    忍び込もうとした夜、あの実験場の近くで
    『育ての親』が私を見ていた…それだけだよ」

    「イブキの『育ての親』も…巨人殺しに絡んでるってこと…?」

    「わからない…だけど、
    あの時、私がなかなか暗殺の実行に移せないから
    早く殺れと『警告』しにきたかと…感じていた」

    「ほう…」

    その話を聞いていたリヴァイは舌打ちをしながら

    「両方かもな…短時間に誰にも見つからず巨人を2体殺すのは
    一人では至難の業だ…それにあの時、
    さっさと『殺せ』って親に言われ焦って、
    まぁ…失敗したから、今てめーがここにいるようなもんか」
  133. 137 : : 2013/11/27(水) 22:35:50
    「それもそうね…」

    イブキはリヴァイに言われて不思議なめぐり合わせに戸惑い
    あの『失敗』がなければ自分の人生も変わらなかったと
    複雑な心境になっていた。

    「とにかく…今のことをエルヴィンに報告しようよ」

    「あぁ…だけど、エルヴィンの野郎共は
    憲兵団から呼び出しくらって、まだ帰ってねーじゃねーのか?」

    「そういえばそうだったね、執務室で待っていよう…」

    3人がエルヴィン・スミスの執務室に到着すると
    イブキはソファーに座りながら、
    エルヴィンを待つことにした。
    リヴァイとハンジを見ているとミケだけでなく、
    多くの仲間たちを失いながらも前に進もうとする二人が頼もしかった。

    ・・・私も…気持ちを切り替えなくてはならないけど…
    今朝まで一緒だったのに…ミケ…

    イブキはその身体に残っていたミケと一緒に過ごした
    『証』が少しずつ薄くなり、
    あまり感じなくなっていくと寂しさもこみ上げてきた。
    これからは調査兵として振り切らなければならないと思うと、
    腕を組み天井を見上げ涙を堪えるしかなかった。
    その顔を見たリヴァイはイブキの前でドサっと音を立てて座ると
    脚を組んでは、イブキに話しかけた。
  134. 138 : : 2013/11/27(水) 22:36:45
    「てめーが…涙か…まぁ…ここにいる全員、
    特別な感情を抱いた大切な誰かを失いながらも前に
    進むしかないってことだ…エルヴィンも含めてな。
    このクソメガネはあの2体の巨人ってのが
    信じられないがな」

    「ソニーとビーンは大切な家族だよ!」

    ハンジはリヴァイ対してムキになり、歯向かった。

    ・・・みんなも…大切な誰かを失っているのか…

    イブキはリヴァイに言われると、
    大切な人を失ったのは
    自分だけでないとわかっていながらも
    涙がこぼれ、手で拭い気持ちを切り替えることに
    集中していた。
    それからしばらくすると、
    ドアが開きエルヴィンが戻ってきた。
    今回のストヘス区での作戦で街が
    ほぼ壊滅状態になった責任を問われていたが、
    必要性が認められると調査兵団の存続が約束されたために
    収監されず改めて団長として指揮を取る事になっていた。

    「みんな、待っていたのか…」

    ハンジがエルヴィンにイブキから聞いた情報を伝えると
    執務室の席には座らず新しい作戦の指示を皆に与え始めた。

    「ハンジ、『レオンハート家』の調査と
    新たな作戦の各班の指揮を頼む」

    「了解した!」

    リヴァイはまだ負傷した脚が完治しておらず、
    新たな作戦には不参加となっていた。

    「リヴァイ…ウォール教のニック司祭の監視をしてくれ。
    そして、イブキ…」

    「あの怪しい野郎と一緒か…」

    リヴァイは舌打ちするも足が完治していないため
    了解せざるを得なかった。
    エルヴィンはイブキに鋭い視線を送ると

    「今回の作戦で新たに
    ウォール教には表に出ていない
    秘密があると確信している。
    本拠地の施設は今回の作戦で崩壊したが、
    関連したところはいくつも残っている。
    そこに忍び込み巨人に関係すると思しき情報を
    収集して欲しい…」

    「了解…!」

    ・・・ミケ…やるしかないよね…見ていて…
    いつか私があなたのそばに行くまで

    イブキは調査兵として初めての仕事を与えられると
    ミケへ想いは忘れずとも、新たな気持ちで
    この命の炎の灯火が消え行く日まで
    力の限り尽くすことを誓っていた。
  135. 139 : : 2013/11/27(水) 22:37:38

    ★あとがき★

    100年前に壁に逃げてきたという東洋人が忍者の一味だったら、
    面白いだろうなぁと考え描いたSSでした。
    ミカサの運動能力の高さが高いのもその血筋から、
    ということ。
    主役のイブキの名前はミカサが戦艦『三笠』が由来とのことで、
    同型の戦艦から名づけよう思い、戦艦の一覧を見ていたら
    違う型の戦艦の『伊吹』の方が女性っぽくていいかと見た目で決めました。
    そしてミケは戦闘能力が高いのにあまり活躍が見られなかったのため
    準主役的な活躍をしてもらいました。
    また最後に巨人にミケが喰われる時の叫び声は
    実はミケは甘えん坊で『子供に返ったのでは?』と私は解釈しました。
    もっと活躍して欲しいキャラクターでしたが、残念です。。
    今回、エルヴィンを軽いイメージで描いたのは
    色々調べていくと、アニメで声優をされた小野さんを初めて知ったとき
    そのキャラクターに軽いショックを受け、
    エルヴィンにも少し反映させてみました。
    長い間ありまとうございました。
    誤字脱字などに気をつけていましたが、
    後で読むと相変わらず多かったです。
    読みにくい点、失礼しました。

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著者情報
lamaku_pele

女上アサヒ

@lamaku_pele

この作品はシリーズ作品です

密めき隠れる恋の翼たち~ シリーズ

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