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アルタイルと星の翼たち

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  1. 1 : : 2013/10/21(月) 22:19:32
    ペトラが主役。
    リヴァイとの恋愛そしてオルオがペトラに片思い。
    勝手にリヴァイとオルオがペトラのことで火花を散らしている。
    ペトラが幼い頃からその最後までの物語です。
    オリジナル設定はありますが、オリジナルキャラはなしです。
  2. 2 : : 2013/10/21(月) 22:20:43
    ①幼き日の思い出

    晴天のその日。
    雲ひとつないシガンシナ区の大空では
    「調査兵団」が壁外調査から凱旋するベルの音が鳴り響いていた。

    「みんな!おにーちゃんがそろそろ帰ってくるよ!」

    一緒に遊んでいる友達にそう声を掛けたのは
    まだ幼いペトラ・ラルだった。
    この『おにーちゃん』というのはペトラの実の兄ではなく、
    いつも自分のことを妹のようにかわいがってくれる
    隣人の息子だった。調査兵になってから、
    多忙を極めるのにも関わらず、たまにある休日で帰省すると、
    ペトラだけでなく、近所の子供たちを面倒をみたり
    また遊ばせたりなど、頼りがいのある『兄貴分』だった。
    その『おにーちゃん』が初めての壁外調査で凱旋する、
    ということで、ペトラは『おにーちゃん』を出迎えようと
    皆に声を掛けていた。
    そして、シンガンシナ区の大通り沿いに向かうと、
    その多くの足音で帰還兵たちが近づいてくるのがわかったが
    しかし、近くにいた大人たちが皆を取り囲み
  3. 3 : : 2013/10/21(月) 22:21:16
    「子供が見るもんじゃない」

    「あなたちはおウチで待ってなさい」

    そんな声を掛けられながら
    ペトラたちは通りから締め出されてしまった。

    「おにーちゃん、見たかったのに!みんな意地悪!」

    ペトラを始め、その大人の態度に怒りながらも、

    「おにーちゃんは家についたのかな?」

    「行ってみよう!」

    皆の提案で『おにーちゃん』の家に走っていくことにした。
    家に近づくにつれ、誰かの泣き叫ぶ声がしてきた。
    それは『おにーちゃん』の家からだった。
    そして、玄関先に近づいてきたその時、

    「ペトラ、入っちゃいかん!」

    ペトラの前に飛び出し遮ったのは
    青ざめた顔をしたペトラの父だった。
  4. 4 : : 2013/10/21(月) 22:22:12
    「どうして…?」

    そしてペトラを抱きかかえると、他の友達に対して

    「みんな、今日はこのあと雨が振るみたいだから、もう帰りなさい」

    「え?お空、晴れてるよ?」

    「いいから、ペトラ!さぁ、みんな、今日はおウチに帰ろうね~」

    ペトラの父は友達を優しく諭し、皆を帰らせることにした。
    皆がそれぞれ疑問に感じながらも、それぞれ帰路につくことにし、
    見送ったペトラの父は、自宅へ入っていった。

    「お隣さん…残念だったね…」

    そう話すのはペトラの母だった。

    「あぁ…『行方不明』ってことだけど、ほぼ死んでしまっただろう。
    未だかつて、『行方不明者』が帰還したことはない」

    ペトラの父はペトラを椅子に座らせると、ため息をついた。

    「お父さん、『ゆくえふめぇ』って何?」

    「ペトラ、まだそれはわからなくていいよ…」

    いつも優しい父が、暗い表情になっているということは
    『何かあったんだ』と幼いペトラにもわかっていた。
    そして父はペトラの前で腰を下ろすと、

    「ペトラ!!おまえが大きくなっても
    絶対に『調査兵』だけにはさせない!!」
  5. 5 : : 2013/10/21(月) 22:24:37
    ペトラに目線をあわせながら、
    大きな声で怒鳴ると、その両肩をつかんだ。

    「お父さん!まだペトラは子供なのよ…!
    それにお隣さんに聞こえたらどうするのよ!」

    「お父さん、怖い…!!」

    ペトラは父のその大きな声に驚くと、
    椅子から飛び降り、母に抱きついた。
    幼いペトラは泣くことしかできなかったが、
    『おにーちゃん』に何かあったのかも、
    ということは勘付いていた。
    この日以来、
    『おにーちゃん』の話題はしてはいけない、
    という雰囲気が近所中に広まり、
    そしてあの優しかった『おにーちゃん』に
    会うことはなかった。そしてしばらくすると、
    隣人はどこかに引っ越してしまい、
    『おにーちゃん』のことは
    一切、わからなくなってしまった。
    この『おにーちゃん』は幼いペトラに
    淡い恋心を抱かせた初恋の相手でもあった。
  6. 6 : : 2013/10/21(月) 22:25:07
    それから、何年も過ぎた頃、
    自宅の食卓でペトラは両親と一緒に夕食を囲みながら
    両親に将来について相談していた。

    「お父さん、私、訓練兵に志願しようと思うんだ」

    ペトラの父は食事を口に運ぶ手が止まった。

    「訓練兵か…まさか、調査兵団に行くとはいわないよな?」

    「まさか!いつか、憲兵団に入れたら将来安泰だし、
    お父さんもお母さんも安心でしょ?」

    ペトラは父に笑顔を向けると、父は安心したような表情を見せた。
    幼い頃から『調査兵団はダメだ』と口すっぱく言われながら
    ペトラは育ったが、それ以外はやりたいことを何でも
    させてくれるような、柔軟性があり、優しく、頼もしい父だった。
    ペトラもそれに応えるように孝行娘へ成長していった。
  7. 7 : : 2013/10/21(月) 22:26:07
    「そうか!ペトラ!憲兵団か…!難関だがな…。
    それなら、応援するよ、なぁ、母さん!」

    「えぇ…」

    ペトラの母は気のない返事をするが、気がついていた。
    そして、父が床につき、ペトラが自室へ向かおうとすると、
    母はペトラを呼び止め、食卓でもう一度、席に座らせた。
    そしてゆっくり話し始めた。

    「ペトラ…あなた、本当は…調査兵になりたいんじゃないの?」

    「えっ…」

    眼力強くを真っ直ぐ見つめられると、ペトラは

    「何言ってるの?さっき『憲兵団に入りたい』って言ったでしょ?」

    「お母さんは、ごまかされないよ」

    「…お母さん」

    ペトラは視線をそらさず母と話し続けた。

    「正直にいいなさい…」

    「だから、憲兵団に…」

    「ペトラ、その涙は…何なの?」

    母の言うとおりだった。
    正直に調査兵団に行くと言えば、止められるのは
    目に見えていたために
    『憲兵団に入る目的で訓練兵へ志願する』
    という建前にしていた。
    ペトラにとって両親についた初めての『嘘』であり、
    そしてその涙は罪悪感から流していたのだった。
  8. 8 : : 2013/10/21(月) 22:27:14
    「お母さん、ごめんなさい…調査兵になりたいの」

    ペトラは正直な気持ちを打ち明けた。

    「ペトラ…ダメよ…やっぱり…あのお隣さん息子さんみたいな
    ことになったら、お母さんは…」

    ペトラの母は涙を流して反対した。

    「『おにーちゃん』はホントに残念だった…だけど、私はあの
    優しいくて頼りがいがあって、みんなから慕われる人が所属していた
    ところを見てみたい。私はまだまだ小さい子供だったのに、
    なんて、大きな人なんだろう、って思ったの」

    「ペトラ、まさか、『おにーちゃん』を?」

    「うん、好きだったよ。初恋だったよ」

    「この子は『おませさん』だったのね…」

    母は涙ながらも笑みを浮かべ、ペトラを見ていた。

    「だけど、初恋の人を追って過酷なところに飛び込むのは
    やっぱり、お母さんは反対よ」

    母は改めて反対した。
  9. 9 : : 2013/10/21(月) 22:27:38
    「お母さん…私、絶対生きて帰ってくるから…お願い」

    「ペトラ…あなたは反抗期もない、育てやすい子だと思っていたけど、
    まさか、こういうことになるとはね…」

    「お母さん、ごめんなさい…」

    「しばらく、考えさせて…それから、
    お父さんには絶対にバレないようにしないと…」

    ペトラはと母はその晩はそのまま
    これ以上話さずにそれぞれ床についた。
    そして、訓練兵の願書を出す前日。
    ペトラの母がペトラの部屋に入ってきた。
  10. 10 : : 2013/10/21(月) 22:28:07

    「お母さん…」

    「ペトラ、お母さんね…色々考えたの。
    やっぱり、反対…」

    ペトラは黙るしかなかったがそれでも決意は変らなかった。

    「幼い頃のあなたを思い出していたら、
    ホントにあなたは手のかからない子供だった…。
    あなたの一世一代のわがままが『調査兵』になることなら、
    誰にも止められないのよね…
    それにあなたの人生はあなのもの。悔いの残らない人生を
    応援するのが、親の役目なのかとも思えるの…」

    母は泣きながらペトラを抱きしめた。

    「お母さん…」

    そしてペトラも泣きながら抱きしめていた。
  11. 11 : : 2013/10/21(月) 22:29:11
    「もし、途中でお父さんにバレたら、
    お母さんが何とかするから、まかせなさい。
    ただし、必ず生きて帰ってくるんだよ」

    ペトラの母は身を切り裂かれる思いで
    送り出すことを決意していた。

    「お母さん、ありがとう…」

    「ペトラ…それに『おにーちゃん』と遊んでいた子達…
    みんな親孝行でいい子ばかり…」

    「うん…みんな、『おにーちゃん』の優しさや強さ忘れてないよ」

    「覚悟は出来ているの?」

    「うん、もちろん!」

    泣きはらした顔にはペトラの優しい笑顔が戻っていた。
    『おにーちゃん』と一緒に遊んだ友達の中で
    訓練兵に志願したのはペトラだけだった。
  12. 12 : : 2013/10/22(火) 22:18:16
    ②同期のライバル

    訓練兵へ志願するその日。
    ペトラ・ラルは母には正直に打ち明けていたが、
    父には『将来、調査兵になる』ということを伏せ、
    強い決意と共に訓練兵に志願することにした。

    「ここか…『第○○期、訓練兵募集』の看板もあるし、ここで間違いない」

    ペトラは訓練兵団の施設の場所を確認し、
    願書を持って入ろうとした瞬間、
    同じ施設内に勢いよく入ろうとした志願者とぶつかった。

    「あ、すいません…えっ!大丈夫ですか…?」

    「大丈夫も何もあるか!バカヤロー!舌噛んじまったじゃねーか!」

    「ご、ごめんなさい…」

    ペトラはぶつかったことよりも、『舌を噛む人』を初めて見たために
    驚きのあまり勢いで『謝った』という感じだった。

    「まぁ、謝ってくれるなら、いいけどさ…あんたも気をつけなよ!
    余所見してるから、ぶつかっちまうんだ!」

    このぶつかってきた志願者はまるでペトラだけが悪いような
    言われようだったために、普段は些細なことを気にしない
    彼女だが納得がいかない様子だった。
  13. 13 : : 2013/10/22(火) 22:18:52
    「え?…あの…あなたが、勢いよく入ってきたから、
    ぶつかったんですよね?急いでるのはわかるけど、
    何も考えずに突進した結果なんじゃないですか?」

    「何いってんだ…!」

    その時、彼の口から出血を見てペトラは引き気味になり、

    「あ…あの、これで血を拭いてください!
    しゃべらない方がいいじゃないですか?」

    ハンカチを差し出し止血するよう促すと

    「返してもらわなくていいので、使ってください!それじゃ!」

    ペトラはその場から逃げ出すように
    訓練兵団の施設に入っていった。

    「コラ!待て!話は終ってないぞ…!まったく…あの面覚えた!」

    止血しながら立ち上がると…

    「あの子も訓練兵に志願か…
    かわいい顔して中々やるじゃん!イテッ!」

    まだまだ出血が止まらない口を
    ハンカチで押さえていたのは
    オルオ・ボザドだった。
    これがペトラと初めて会った日の出来事だった。
  14. 14 : : 2013/10/22(火) 22:19:25
    訓練兵としての生活が始まると、
    ペトラは自分を良くしてくれた
    『おにーちゃん』のことを
    思いを馳せることがあった。

    「『おにーちゃん』もこの空を見上げていたのかな…」

    思わず独り言を言いながら、訓練施設内の窓から外を見上げると

    「『おにーちゃん』?あんたはアニキを追ってここにきたのか?」

    ペトラの独り言を聞いていたのはオルオだった。

    「あ、この前の…」

    「あぁ、この前はどうも…おかげさまで舌は
    すっかりよくなったけどね。
    それに悪いけど、ホントにハンカチは捨てちまった」

    「いいよ…返さなくても…気持ち悪いし」

    身体を仰け反らせ引き気味に答えた。

    「ペトラー!ウチの班の座学が始まるから行くよー!
    急がないと置いてっちゃうよ!」

    「うん、わかったー!じゃ、そういうことだから!」

    ペトラは同じ班の同期から名前を呼ばれると、
    ホッとしたように駆け足でオルオの前から去っていった。

    「ペトラって言うんだ…ホントは捨ててないんだけどなぁ」

    オルオは照れ隠しで『ハンカチを捨てた』と言ってしまったが、
    本当はキレイに洗って渡そうとポケットに忍ばせていた。
  15. 15 : : 2013/10/22(火) 22:20:00
    そして月日は流れ、訓練期間も中盤を迎えたところだった。

    「オルオー!また舌噛むんじゃないのー?
    私の速さに付いてこれるかなー?」

    「こらーっ!待てー!ペトラ!!」

    オルオとペトラは同期の中でも1,2位を争うほどに
    立体起動装置を難なく使いこなすことができ、
    訓練が始まると、いつも競い合っていた。
    ペトラは『建前上、憲兵団を目指す』
    ということになっているため、死に物狂いで
    鍛錬に励んでいた。
    そしてあるとき。

    「ペトラー!俺についてこれるのか?」

    「オルオ…!痛っ!」

    「どうした、ペトラ??大丈夫か?」

    オルオが振り向くと、ペトラは力み過ぎて
    自分の目の前に飛び出していたの木の枝に
    気づくのに遅れ、避けたのはいいが、
    枝で腕を引っかいてしまった。
    二人は立体起動装置で飛びながら

    「ペトラ!やっちまったなー!仕方ない、俺が治療してやる!下りろ」

    「何言ってるんだよ!これぐらいの傷!」

    「とにかく、下りろよ!」

    「わかったよ…まったく…」
  16. 16 : : 2013/10/22(火) 22:20:26
    ペトラはいつも嫌味っぽいオルオにイライラしていたが、
    今回は『自分を心配してくれている』ということで、とりあえず
    言うことを聞くことにした。

    二人は地上に降りると、

    「ペトラ、腕見せてみろ!」

    「で、何すんの?」

    制服のジャケットが少し穴が開いた程度で
    かすり傷程度だったためにオルオは少し安心していた。

    「なーんだ、たったこれだけで、悲鳴上げるとは、さすが女の子だねぇ」

    「何?そんなこというなら、もういい!」

    ペトラがオルオから嫌味を言われ、
    立体起動で飛び立とうとすると、

    「ごめん、ごめん!ちゃんとやるから!」

    オルオはそういいながら、ポケットにずっと忍ばしていた
    初めて出会った頃にペトラから借りたハンカチ取出し、
    それを三角に折り曲げると丁寧に包帯状にして
    傷口をジャケットの上から縛った。

    「これは応急処置だ。あとは帰ってから薬塗ってもらいな!」

    オルオは立体起動で先に飛び出し、

    「別にこのハンカチ、捨ててもらってもかまわないから!じゃーな!」

    捨て台詞を残してどんどん先に進んで行ってしまった。
  17. 17 : : 2013/10/22(火) 22:20:52
    「何よ!あいつ…!あれ、このハンカチ、私のもの?
    あいつ捨てたって言っていたよね…?」

    初めて出会った頃のハンカチをまだオルオが
    持っていたことに驚いたが、今すぐ取り出せるということは
    『ずっと持参していた』ということにもさらに驚かせた。

    「まぁ、素直じゃない、アイツらしいけどね…ありがと、オルオ!」

    ペトラは再び立体起動で飛び出し、オルオを追いかけていった。

    二人は何かとけなし合うことが多かったが、
    それがお互いに切磋琢磨して技術を高め合うことに繋がると
    ペトラは気づいていた。
    そして『同期のいいライバル』という気持ちでいたが、
    オルオにとってはそうではなかった。

    解散式を迎えるその日。
    ペトラとオルオは成績上位10人の中に入るほどの成績を修めていた。
  18. 18 : : 2013/10/23(水) 22:47:39

    ③手紙

    所属兵団を決めるその日。
    ペトラ・ラルは自室で父宛に手紙を書いていた。
    3年間の訓練を終え、新たな所属兵団に行くことを
    書こうとしていた。

    「やっぱり、正直に書いた方がいい…ごめんなさい、お父さん」

    お詫びの言葉と共に憲兵団ではなく、
    調査兵団に属するということを書いていた。
    ペンを走らせ、3年間の過酷な訓練を思い出すと、
    オルオ・ボザドのことも思い出していた。

    「いいライバルだったな…まぁ、アイツは憲兵団に行くだろうけどね」

    そして、調査兵団の勧誘式に新兵が式場に集められ
    調査兵団団長の挨拶の後、志願者が残ることになった。

    ・・・ん?ペトラ…?なぜ、おまえが残っている?

    ペトラが残っている姿を見て驚いていたのはオルオだった。

    ・・・まぁ…俺目当て、ってこともないか…これからもよろしくな、ペトラ

    オルオはライバル以上に思っていたペトラを見ると、嬉しい気持ちもあった。
    一方、ペトラの方は

    ・・・オルオ…あー!もう、なんでよ!やっと、アイツの嫌味っぽいところから
    離れられると思っていたのに…仕方ない…また競い合って高めるしかないか

    ペトラはライバルが一緒だと切磋琢磨し合いながら調査兵として貢献できる、
    それ以上のオルオに対しての思いはなかった。
    そして、新兵たちが調査兵団本部へ移動する日。
    ペトラはとても緊張していた。

    ・・・やっとこの日がきた

    ペトラは自分の初恋でもある強くて優しい『おにーちゃん』が所属していた
    調査兵団に自分も属すると思うと、胸の高鳴りが押さえられなかった。
    そして、ベテラン兵の中に『おにーちゃん』を知っている人がいるのなら、
    どういう活躍をしたのか話を聞いてみたい、とういう思いもあった。
    そして本部内の馬小屋である『きゅう舎』の前を通ったときである。
    小柄で目つきの鋭い調査兵が馬で颯爽と駆け出していった。
  19. 19 : : 2013/10/23(水) 22:48:18
    ・・・おにいちゃん?まさか、生きていたの…?

    驚いて後ろを振り向くと、その調査兵はあっという間に見えなくなっていた。
    すると、新兵たちの間から

    「おい、今の見た?リヴァイ兵士長だよな?」

    「人類最強の兵士って言われているらしいぞ!」

    ・・・あの人がリヴァイ兵士長なんだ、噂では聞いていたけど、
    『おにーちゃん』にそっくりとは思わなかった…まさか、本人?

    様々な思いをめぐらせていると、オルオが話しかけてきた。

    「ペトラ!もしかして、人類最強のリヴァイ兵士長に一目ぼれか?」

    「な、何言ってるのよ!オルオ!バカじゃないの!」

    ペトラが頬赤らめ、慌てる様子にオルオは驚かされた。

    ・・・まさか、ホントに一目惚れ…?

    オルオは『最強のライバル出現』に心が折れそうになったが、
    意を決して言い放った。

    「まぁ、俺がいるじゃないか!ペトラ」

    「…ホントにバカだったんだね!」

    ペトラは軽蔑するような眼差しオルオに向けると、
    調査兵内の本部に入っていった。

    ・・・半分冗談だけど、さすがに…傷つくな

    オルオはため息をつきながら、
    ペトラの後を追うように本部内に入っていった。
  20. 20 : : 2013/10/23(水) 22:49:02
    リヴァイは次期団長であるエルヴィン・スミスに下る形で
    調査兵団に所属した、と言われているが、経歴の詳細は
    エルヴィンくらいしかわからず、謎が多い人物だ。
    新兵の期間は今は未定でも
    いつか来る壁外調査のための訓練だけでなく、
    本部内の清掃や馬の世話などが多かった。
    そしてペトラは、とある小さな馬小屋の『きゅう舎』の
    掃除担当になっていた。
    訓練が終った後の掃除は大変だったが、
    ペトラにとってはやっと念願かなっての調査兵になれた為
    ただ目の前のことを一生懸命やるだけだった。
    そのきゅう舎の掃除当番になって数日が過ぎた頃。
    くまでを使いながら、小屋の中を掃除していると、

    「おい…新兵、掃除は終ったか?」

    冷たくも寂しげな声がペトラの近くで聞こえてきた。
    振り向き、その声の主がリヴァイだと気づくとすぐに
    心臓を捧げる敬礼をして、

    「はい!リヴァイ兵長!もう終ります!」

    リヴァイはその姿に舌打ちをした。

    「…別に掃除中は敬礼なんか必要ねーよ、さっさと手を動かせ」

    「はい、申し訳ありません!」

    ペトラが謝るのを無視しながら、
    リヴァイはきゅう舎から出て行くと自分の馬を連れて出て行った。

    ・・・なんだ、あの口の悪さは…!
    優しい『おにーちゃん』じゃなかった…か。
    いつもみんなに優しく頼られてる人が
    あんな粗暴な態度は絶対にしない…でも、似ている…。
    だけど、リヴァイ兵長ってなんで寂しげにしゃべるんだろう

    ペトラは初恋の『おにーちゃん』に似ていると思っていたリヴァイの
    口の悪さと比べると不快な気持ちになったが、
    リヴァイ自身にはとても悪い感じはしなかった。
    そして、ペトラはこのきゅう舎で何度かリヴァイと
    顔を合わせることが多かったが
    その度『おにーちゃんに似てる…』と思いながら、
    じーっと見てしまうことがあった。
    そして、とうとう…
  21. 21 : : 2013/10/23(水) 22:49:59
    「…おい、新兵…」

    「はい、リヴァイ兵長、掃除は終了しました」

    敬礼はしないものの、姿勢を正していると

    「…おまえ、ここに俺が来る度、
    何か見てるけど、文句でもあるのか?」

    ・・・ひーっ!気づかれていた…

    「あ、えっと…あの…昔の知り合いに似ていたので、
    それでつい…申し訳ありません」

    ペトラは正直に答え深々と謝ると、
    リヴァイは舌打ちをして自分の馬を連れ出した。

    「…新兵、おまえの名前はなんだ?」

    「ペトラ・ラルです!」

    「…ペトラか…覚えておく」

    ・・・私、新兵のまま、クビになるの…?怖い…

    ペトラは怖さでいっぱいになっていたが、
    いつもの通り、リヴァイは颯爽と馬で駆けていった。

    ・・・だけど、リヴァイ兵長って…どうして訓練が終ってから、
    いつも一人で馬でどこかに行くんだろう?謎だわ…

    リヴァイは馬で調査兵団本部近くの訓練所でもある
    草原を駆けながら

    「ペトラか…やっと名前聞けた」

    ペトラに興味があって名前を聞いたまでだった。

    その翌日。ペトラが父に出した手紙の返事が届いていた。
    『もしかして、勘当されるかも』そう思うと、開けられるに
    ずっと制服のジャケットの胸ポケットの中に入れていた。
    そして、訓練が終っていつもの通り、
    きゅう舎を掃除を終えた頃、意を決して、読むことにした。
  22. 22 : : 2013/10/23(水) 22:50:33
    その内容にはペトラは驚かされた。
    実は父も憲兵団ではなく、調査兵団に行くのではないか、と
    薄々気づいていたということ、そしてペトラが不在の間、
    『おにーちゃん』と一緒に遊んでいた仲間たちが
    ペトラの両親が寂しくならないよう、
    毎日のように遊びに来てていたこと、
    そして、みんなを通して改めて『おにーちゃん』の人柄を知ったこと、
    必ず生きて帰って来いと…。そして最後に

    『父として人類のために活躍する娘を誇りに思う』と、

    綴られていた。

    「お父さん…ありがとう」

    ペトラは約束を破り、調査兵になったことで
    勘当されると思っていただけにきゅう舎の前で、
    止め処なく溢れる涙を止められなかった。

    「大変、このままじゃ、リヴァイ兵長が来てしまう、あ…」

    ペトラがその涙を拭う時間もなく、
    すでにリヴァイが目の前に来ていた。

    「…ペトラ、掃除は終ったか?」

    「はい、リヴァイ兵長!終了しました」

    「おまえ…泣いてるのか?」

    「はい、父からの手紙で…申し訳ありません、
    こんな情けない顔を晒してしまって」

    深々と頭を下げた。

    「…別におまえは悪いことはしていない。
    生きている間に孝行するんだな」

    「はい…」

    いつもの通り、自分の馬を連れて行こうとするが、
    リヴァイは途中で止まった。
    そして振り返らずにペトラに話しかけると、

    「…ペトラ」

    「はい!」

    「ここに、おまえの馬はいるか?」

    「はい、います」

    「…すぐ、用意しろ、出かけるぞ」

    「わ、わかりました…!」
  23. 23 : : 2013/10/23(水) 22:51:36
    ペトラは父からの手紙を制服の胸ポケットにしまい、
    そして急いで清掃道具を片付けると、自分の馬に乗り
    リヴァイの後に付いて駆け出して行った。

    ・・・まさか、リヴァイ兵長と一緒に出かけるって…
    どこに行くんだろう

    到着した場所は兵団本部から
    離れた場所に位置する丘で、
    夕焼けがキレイに見えるポイントだった。

    ・・・キレイな場所ですね…

    「…あぁ」

    軽く返事をするとおもむろに胸ポケットから
    古びた分厚いが小さな手帳を取り出した。
    そして、ゆっくりと1ページずつめくり出した。

    「リ、リヴァイ兵長…」

    「なんだ…」

    「何をされているんですか…?」

    「あぁ、これか…今まで命を落としていった部下たちの
    名前を見ている…」

    「えっ」

    「俺はみんなの名前を思い出すだけで、弔いになると信じている」

    ・・・リヴァイ兵長…

    口の悪い粗暴だという第一印象だっただけに、
    ペトラはその行動に驚くだけだった。
    そして、あたりが薄暗くなり始めた頃にすべてのページを
    めくり終えていた。

    「ペトラ、帰るぞ…」

    「はい!」

    「…さっき俺が言った『生きている間に孝行』するってのは…
    おまえが、生きている間ってことだ。調査兵である以上、
    親より子が先に行く確率が高くなる、わかったか?」

    「…はい」

    リヴァイは調査兵団本部に戻るため
    再度、馬で駆け出した。
    ペトラはリヴァイの後姿を見ながら、
    『親が生きている間にする孝行』と思っていただけに、
    その日はギャップがありすぎるリヴァイにとまどう
    ばかりだった。そして寂しげなしゃべり方は
    『たくさん名前を背負っているから…?』
    そう感じてならなかった。そして、ペトラ自身もそこに
    自分の名前を書かせてはならないと誓った。
    きゅう舎に到着すると、ペトラは深々とお礼をした。

    「リヴァイ兵長、今日はありがとうございました。
    また明日から訓練に励みます!」

    「…あぁ」

    リヴァイのいつものごとく
    愛想がない態度と後姿を見送ると、
    ペトラはその日からなんとなく
    リヴァイが『おにーちゃん』との
    初恋を過去にしてくれるような気がしていた。
  24. 24 : : 2013/10/24(木) 23:18:25
    ④秘密

    ペトラ・ラルとオルオ・ボザドが調査兵団に所属して、
    2回目の壁外調査のまさにその日だった。
    二人は始めの壁外調査で『ある失態』を演じただけに
    2回目の方がより緊張していた。
    このときの調査は新たな拠点の目的地を探すだけでなく、
    過去の壁外調査で命を落とした兵士の遺品がないか
    捜索の目的もあった。以前、重要な『モノ』を拾ったことがあり、
    それが巨人の謎に関わる貴重な証拠として繋がっていた。
    そして、その時。
    調査兵たちは新しい拠点でもある何にもない
    草原の目的地で一旦休憩に入っていた。
  25. 25 : : 2013/10/24(木) 23:18:58
    「今回は『あんな恥ずかしい』思いしたくない…」

    ペトラは思わず独り言を言ってしまうくらい、
    初めての壁外調査でまさに文字通りの
    『赤っ恥』をかいていたのだった。
    そして近くにいたオルオをの姿を見てイラつくペトラは

    「オルオ…何だか最近、雰囲気おかしくない?」

    その『嫌な』雰囲気を指摘していた。

    「…なに言ってるんだ、ペトラ、俺は前からこうだぞ」

    顔を引きつらせながら、またペトラは続けた。

    「そのしゃべるときの間の取り方とか、表現とか…
    それにそのスカーフ!…もういい!勝手にやってて!」

    ペトラは尊敬するリヴァイの真似をするオルオが
    腹立たしかった。

    ・・・オルオのヤツ、何考えてるんだか…兵長のマネするなんて

    オルオはイマイチなりきれないが、
    自分自身もリヴァイを尊敬し、
    そしてせめて外見だけでもなりきりたいまでだった。
  26. 26 : : 2013/10/24(木) 23:19:46
    ペトラは『本物』のリヴァイを目で追いながら、

    ・・・今日もすごい数の巨人を一人で討伐していたけど…
    あの技術はいったいどこで身につけたんだろ?
    訓練兵のとき『ああいう削ぎ方』習ってないし、他の先輩が
    やってるのも見たことない。見習って、私ももっと上にいかなきゃ…

    ペトラはその心にその決意をさらに強めていた。

    そのとき、リヴァイはハンジ・ゾエと
    過去のルートをもう一度、捜索する予定になっていた為、
    どの当たりから捜索するか地図を見ながら検討していた。
    そして、ハンジがペトラを何となく見ると、
    視線の先がリヴァイにあることに気づいた。

    「リヴァイ!ペトラがあなたに熱い視線を向けてるよ~!
    あんなかわいい子に見つめられて、隅におけないね!」

    ハンジがからかい半分に言うと

    「…うるせーな、てめーは。あいつの馴染みと俺が似てる
    って言われたことがあったんだよ。
    またそれを思い出してるだけじゃねーのか?それだけだ」

    「だけどあなたも、
    見つめられてイヤではないんじゃない?」

    リヴァイは舌打ちをして

    「…で、どのルートを行けばいいんだ?」

    話題をすぐに捜索の件に戻した。

    「あぁ、この資料通りにね…あと、
    終了したら、この信煙弾打ち上げて」

    「…あぁ」

    「それから、この資料のルートの担当は…
    あなたとペトラにやってもらおうかな!」

    「…なんだと?おい!」

    「ペトラ!ちょっときてー!」

    ハンジはリヴァイを無視してペトラを呼び出した。
  27. 27 : : 2013/10/24(木) 23:20:23
    「ハンジ分隊長、お呼びでしょうか?」

    ペトラは二人のそばへ駆け出し近づいてきた。

    「ペトラ、そんなに急がなくていいって!このルートね、
    リヴァイとあなたに行ってもらうから、よろしくね!
    あとの説明もリヴァイよろしく!」

    ハンジはペトラに資料と信煙弾を
    渡すとそのまま他の作業に入った。

    「兵長…よろしくお願いします」

    「…あぁ、行くぞ」

    「はい!」

    ペトラはリヴァイの前に立つと相変わらず緊張してしまうが、
    その粗暴な態度とのギャップを知ってから、
    心底、悪い人ではないと理解しているが、
    緊張するのは『尊敬する上官だから』ということにしていた。
    そして、リヴァイが馬に乗ると先頭になり、ペトラが後ろから付いていく
    その姿を見ていたオルオは

    ・・・リヴァイ兵長ならペトラを…でも、俺だって…

    ペトラがリヴァイに対して『特別な感情があるかも』ということが
    何となくか感じていた。
    訓練兵から長い付き合いの間柄であるがゆえに態度やしぐさで
    感じていたが、オルオも『特別な感情』を抱いていたから
    さらに敏感に感じていた。
    しかし、オルオ自身もリヴァイを尊敬しており、
    どうしようもできない、もどかしさがあった。
  28. 28 : : 2013/10/24(木) 23:21:12
    ペトラはリヴァイの背中を追いかけながら

    ・・・尊敬する兵長の負担になってはいけない…

    ペトラは本来の自分の姿をその口の悪さや態度で
    隠しているかのようなリヴァイを何度か見ていると
    知らずに惹かれている自分がいることに気づいたが、
    それは『尊敬している』ということに摩り替えていた。
    そして『初恋のおにーちゃん』に似ているから、
    それでその気持ちは『勘違いしている』と
    言い聞かせ、本当の気持ちをごまかしていた。

    「ペトラ、着いたぞ。ここだ、この林に入るぞ」

    「わかりました!兵長」

    二人は巨人がいないことを確認し、
    そこに立つ細い木の下に馬の手綱を結ぶと、
    捜索を開始した。

    「ペトラ、単独行動は万が一
    巨人が出てきた場合は危険だ。
    常に俺の後ろから付いて来い」

    「了解しました!」

    ペトラはリヴァイの後姿を追うと、
    自分の本当の気持ちが溢れそうで
    怖くなるため、あたりを見渡しながら、
    高い木々と草木が生い茂る林の中を
    付いていくことにした。
    そして、二人がある程度の距離を
    歩き回り探しても特に収穫はなかった。

    「クソメガネが…まったくないってのはおかしいぞ
    ここは、前に探し尽くしたんじゃねーのか?」

    「兵長、そうなんですか?」

    「あぁ、遺品でなくても、骨もないのはおかしい」

    「…骨も?」

    ・・・もしかして、おにーちゃんの骨もあるかも…
    この遺品探しって、行方不明者の遺骨も探しているんじゃ…?

    ペトラはもう過去の淡い初恋になりつつある
    『おにーちゃん』を思い出すと、

    「兵長!もっと細かく探しましょう!」

    リヴァイの目を見て必死に訴えた。
  29. 29 : : 2013/10/24(木) 23:21:50
    「…だがもう時間がない。
    長時間、平地に少人数で
    滞在するのは危険すぎる。
    作戦の本質を見失えば本末転倒だ」

    「…はい、了解しました…」

    ペトラは力なく返事すると自分の発言が
    本来の目的から逸脱している
    ということをリヴァイに見抜かれていると感じていた。
    二人が馬のところまで戻る途中で、
    突然、雨が降り出した。リヴァイは空を見上げると

    「この雨量で日差しがある。
    きっと通り雨だ・・ペトラ、雨宿するぞ」

    「え、大丈夫ですか…?さっき平地に長時間…」

    すかさず、リヴァイは

    「…俺が言うんだ、すぐ止む」

    ・・・ひぃ、人類最強の顔が…

    眼光鋭く、睨まれると指示に従うことしか出来なかった。

    「…それに馬を雨の中、走らせるのは気の毒だ。
    今は木の下にいるから、濡れはしない」

    「はい…了解しました」

    ペトラはリヴァイが
    馬にも優しいのはなんだか微笑ましくも感じた。
    二人は林の中にある木の下で自由の翼の制服の
    フードを被りながら、雨宿りをしていた。

    「ペトラ、さっき俺が『骨』と話したら、反応したが…
    それは俺に似ている馴染みの骨を捜そうとしたのか?」
  30. 30 : : 2013/10/24(木) 23:22:21
    リヴァイが突然話しかけたことにも驚いたが、
    それが、まさにその通りで面食らった。

    「兵長、なぜそれを…」

    「あぁ、なんとなくなだが…わかった。
    骨がなくても、俺が弔っていはいる。名はなんだ?」

    ペトラが名前を出すと、リヴァイは

    「…きっと俺が調査兵団に入る前の兵士だろう。
    すまないが、その名は俺の手帳にはない…」

    「そうですか…」

    ペトラががっかりして、うつむいてしまった。

    「なんだ、初恋か?」

    「あ、まぁ…」

    頬を赤らめまたうつむくしかなかった。

    「初恋の面影をを追いかけ、調査兵になるとは奇特なもんだ」

    ペトラは尊敬しているリヴァイには言われたくなかったが、
    実際、言われても仕方ないことだと理解していた。
    その為に何も言い返せず、うつむくだけだった。

    「…まぁ、だいぶ前だが、訓練施設に行ったとき、
    年くった教官に俺に似た『初めての壁外調査で
    かわいがってるヤツをかばって死んだ兵士がいた』
    って聞かされたことあったが…きっとそいつだろうな」
  31. 31 : : 2013/10/24(木) 23:22:53

    「えっ…兵長、本当ですか…?」

    「あぁ、本当だ」

    「ありがとうございます…兵長…
    みんなから頼られ強くも優しい『おにーちゃん』らしい
    最後がわかってよかったです…」

    ペトラは泣きながらも笑みを浮かべリヴァイにお礼をすると、

    「泣くんじゃねーよ…」

    リヴァイはペトラの頭から被っている
    フードを手前から引っ張り、
    彼女の泣いている顔を隠した。
    そのうちにだんだんと雨脚が弱くなっていき、

    「ほら、すぐ止んだだろ?」

    リヴァイが空を見上げると、
    雨は止み雲の合間から青空がのぞき出した。

    「ホントだ!晴れ出しましたね!」

    ペトラも涙で濡れた頬のまま、
    笑顔で空を見上げフードを外すと、

    「…ペトラ」

    「はい?」
  32. 32 : : 2013/10/24(木) 23:24:14
    ペトラが振り向くとリヴァイが
    その首元に手を伸ばし自分のそばに引き寄せると
    ペトラの唇に優しいキスをした。そして、

    「…おまえの初恋はもう思い出だ。
    わかったな?ペトラ」

    リヴァイは冷たく淡々と言いながら
    ペトラに鋭い眼差しで見つめていた。

    「え?あの…」

    ペトラは突然キスされて戸惑いながら、
    自分の本当の気持ちをこれ以上抑えられなく
    溢れ出しそうで怖かった。

    「言っておくが、俺は女ったらしではないからな…」

    「それは、雰囲気から…」

    「どういう意味だ!?とにかく、もう帰るぞ」

    リヴァイは晴れ間が広がったことを確認すると、
    捜索終了の信煙弾を打ち上げた。

    ペトラはリヴァイのキスの意味がわからずにいた。

    ・・・まさか、兵長も私を?ってことはないよね…
    このことは秘密にしよう…

    ペトラが『おにーちゃん』の名前を出したとき、
    その記されたであろう手帳を開かずに答えたリヴァイは
    『あの膨大な名前を暗記しているのか?』と考えると
    またその意外な一面がさらに居た堪れない気持ちにさせた。
    そして、リヴァイの兵長としての立場を健気にを守るために、
    キスされたことは誰にも言わずにいよう、
    そしてリヴァイに対しても、なかったことにして
    胸に秘めようと決めていた。
  33. 33 : : 2013/10/25(金) 14:00:29
    ④本当の気持ち

    2回目の壁外調査からどれくらい月日が流れただろうか。
    ペトラ・ラルとオルオ・ボザドは中堅の兵士になっていて、
    その後の壁外調査では巨人と対峙するごとに討伐数を
    増やすことに成功していった。
    その理由としては二人が尊敬するリヴァイが討伐する姿を
    食い入るように見てはその技を『盗み』そして
    また訓練兵時代と同じようにののしりあいながらも、
    お互いが競うことで技術が向上していくことを
    ペトラは知っていた。しかし、オルオの方はその競う理由は
    『もしかして、ペトラは何だかんだとリヴァイ兵長ではなく
    俺を選ぶのか?』と勘違いしていたが、
    そのペトラの本心は『同期のライバル』以上も以下もなかった。
    そしてあるときから、オルオは気づいたことがあった。

    ・・・なんで、リヴァイ兵長のそばにいつもペトラが…?

    特に壁外調査で死者・負傷者が増えていき、
    当初の作戦の各々の班が縮小されるにつれて、
    リヴァイがペトラを呼んで、そばに置いていたのだった。

    ・・・もしや、二人にはすでに…?

    オルオは二人のことを疑っていたが、
    しかし、調査兵団本部いるときは
    特別、一緒にいることを見かけることはなかった。

    ペトラもそのことは感じていた。

    ・・・兵長はどうして私をそばに呼ぶんだろう…?

    ペトラはリヴァイからキスされたことは
    もちろん黙っていたが、リヴァイもその時以来、
    何事もなかったような態度だった。
    ペトラも『それでいい』と感じていて、
    リヴァイから呼ばれると甲斐甲斐しく命令に応えていた。
  34. 34 : : 2013/10/25(金) 14:01:06
    その日。
    壁外から帰還のためにペトラはリヴァイに命令され
    負傷兵が乗る荷馬車の荷台に乗っていた。

    「大丈夫ですよ!もうすぐ壁が見えますよ!」

    ペトラは負傷兵の手を握りながら、
    声を掛け励ましていた。

    「ありがとう、ペトラ…おまえの手は温かいなぁ…
    調査兵なんかならなくて、その温かい手なら、
    普通の家庭を築けたかもしれないのに…」

    「またまた…!私は心臓を捧げることを誓った兵士ですから!」

    お互いに笑みがこぼれると、
    馬で併走しているリヴァイはその様子見ていた。
    そして調査兵団本部へ到着すると負傷兵たちは救護班に
    引き継がれていった。

    ・・・『普通の家庭』か…私には無縁なこと…

    さっきまで一緒だった負傷兵に言われたことが
    ペトラの心に引っかかっていた。

    「ペトラ!今日は俺の方が討伐数、上だぜ!」

    「あ、そう…」

    オルオはペトラに討伐数の自慢のため、話しかけていたが、
    予想外の無反応でそのままオルオの前から
    離れていく様子に驚いていた。

    ・・・いつものペトラだったら、歯向かってくるのに、なぜだ…?
    何かあったのか?

    そしてわざと反応させるために後ろから肩をつかみ、

    「なぁ、ペトラどうしたんだ!自信でもなくしちまったか?」

    「うるさいな!もう!」

    ペトラはオルオのつかんだ手を睨みつけながら振り払うと、
    そのまま本部内に入っていった。

    ・・・ペトラ…ホントにどうしたんだ?
    そんなに悔しそうな顔して…何があったんだ?

    オルオは戸惑いながら、ペトラの後姿を見送るしかなかった。
  35. 35 : : 2013/10/25(金) 14:02:04
    「あぁ…さっきはオルオに
    悪態ついちゃったなぁ…あとで謝ろう」

    ペトラは本部の外側にある井戸水で顔を洗いながら、
    負傷兵と話していたことは深く考え込む事でもなく、
    『大したことでもなかった』
    と、冷静になってみるとそう感じていた。
    オルオに大人気ない態度を取ったことに
    申し訳ない気持ちになっていた。
    そして顔を洗い終え、タオルで拭いていると

    「…ペトラ」

    「ん?…へ、兵長…!」

    タオルから顔を拭った瞬間、
    その前に立っていたのはリヴァイで
    慌てふためいていた。

    「すいません、こんな姿見せてしまって…」

    「まぁ…いい、今日はご苦労だった。
    負傷兵はみんな救護室で手当て中だ」

    「早く元気になるといいですね…」

    「あぁ…ペトラ」

    「はいっ!?」

    ペトラはリヴァイがその場から去って
    いくものだと思い気を抜いていたら、
    予想に反して名前を呼ばれて驚いて返事をしてしまった。

    「さっき荷馬車で普通の家庭どうこう…って言われていたよな?」

    「…はい、まぁ…」

    「おまえはここで、
    特に壁外では健気に皆に尽くし、必要とされている。
    平凡ではないが、俺はそれもペトラらしくていいと思うがな」

    「ありがとうございます!
    兵長にそうおっしゃって頂けるなら、
    私は頑張っていけます!」

    いつもの愛想のない冷たい声ではあるが、
    リヴァイに褒められると
    ペトラは精一杯の笑顔で答えた。

    「…まぁ…これからもよろしく頼む」

    リヴァイはペトラの頭を軽くポンと触れると
    本部内に向かって歩いていった。

    「…兵長…」

    ペトラはリヴァイのその手の優しい感触で
    涙が溢れ、そしてずっと騙していた
    自分の本当の気持ちも溢れ出してきた。

    ・・・兵長…やっぱり、あなたのことが…
    でも…この気持ちを認めたら、ここにいられなくなる

    ペトラはもう一度顔を洗って、
    泣いている自分を誰にも見られないようにしていた。
    『初恋のおにーちゃん』の面影を追いかけて調査兵団に
    入ったのがキッカケだったのにリヴァイに出会って
    それが叶わなかった初恋の思い出として
    受け止めることが出来ていた。
    またさらにリヴァイへの気持ちを認めたら
    『浮かれた気持ち』で調査兵になった思い、
    ペトラは自分を責めていた。
  36. 36 : : 2013/10/25(金) 14:02:51
    ペトラが本部内に入ると、談話室から出てきたオルオに
    バッタリと出くわした。

    「あぁー!オルオ!さっきは悪かった!
    なんか、イライラしててさー!ホントごめん!じゃ!」

    ペトラは空元気にオルオに謝ると、笑顔で立ち去るが、
    オルオは涙で腫れた目元は見逃さなかった。

    ・・・ペトラが泣いていた…?まさか、リヴァイ兵長と何かあった?

    オルオはもしその相手がリヴァイでなければ、
    食って掛かりたい気持ちでいっぱいだが、
    それが尊敬する上官のリヴァイのために
    どうすればいいのかわからなかった。

    ・・・くそっ、なんでこんなときに…!

    オルオの目の前にリヴァイが向かって歩いてくる
    その姿が映った。ペトラを泣かしたのか聞きたい、しかし
    勘違いかもしれない、またその相手は尊敬するリヴァイ兵長…
    という気持ちがオルオの中で駆け巡っていた。
    手で拳を強く握りながら、

    「兵長、ペトラ、泣いてたみたいですけど
    何かあったのでしょうか…?」

    「俺に聞くな…」

    目の前を通り過ぎるリヴァイに対し、
    精一杯考えた出した答えが
    いつもの冷たい声の一言で終ってしまった。

    ・・・リヴァイ兵長じゃなければ…ホントに殴っていた…

    オルオはその怒りの拳は握ったままで、自室へ戻っていった。
    リヴァイはオルオが去っていくのを横目に立ち止まった。

    「ペトラが泣いていた…?」

    リヴァイは日常から平常心を保つよう努めているが、
    久しぶりに心がざわつく感覚がした。
    そしてそんな気持ちに舌打ちをしながら、
    いつもの習慣の馬に乗ってあの丘を目指すことにした。
  37. 40 : : 2013/10/26(土) 22:08:29

    ⑤夕焼けの見える丘で

    リヴァイは時間が許す限り、いつもと同じ時間、
    同じ丘へ向けて愛馬と共に駆けていた。
    それは『部下の弔い』のためだった。
    調査兵団にきて、どのくらいの月日が流れただろうか。
    その課せられた習慣はリヴァイは自分自身が『すべき』だと理解していた。

    「ペトラ…」

    オルオ・ボザドからペトラ・ラルが泣いていたと聞かされると、
    その胸がざわついていた。
    調査兵団には『下る形』でやってきた影響と、
    元々高いプライドからか『愛だの恋だの』ということは
    次元が低いとして極力、気にしないように努めていた。
    思わず名前をつぶやくほどペトラは
    初めて会ったのは新兵時代の馬小屋の『きゅう舎』で甲斐甲斐しく
    掃除をしている姿だったが、そのときはなんとも感じていなかった。
    しかし、いつもキレイに隅々までキレイに清掃されていること、
    そして馬が心地よく過ごせていることを走らせながら実感すると
    その人柄のよさを感じていた。
    あるとき、父からの手紙で涙を流す姿を見た頃には
    『気になる存在』と自覚してしていた。
    そして、弔うための丘につれてきたこともあった。
    深い意味はなく、気分転換させたいと思っただけの行動だった。
    そしてペトラがいつまでも引きずっている初恋に
    ケリをつけさせたいが為に衝動から一度だけキスしたことがあった。
    自分でも予想外の行動で、機会があればわびでも入れようかと
    思っていたが、ペトラ自身が気にしないよう努めている
    その『奥ゆかしさ』を目の当たりにすると、
    彼女に惹かれている自分がいて驚いていた。
  38. 41 : : 2013/10/26(土) 22:08:55
    そして舌打ちをしては

    ・・・まさか、あんな年下のガキにこんな思いするとは…

    リヴァイは胸のざわつきに冷静に戸惑うばかりだった。
    夕暮れ時の空は青空からオレンジに変り始めていた。
    そして、いつものポイントが見えてくると、

    「あれは…ペトラ…!?」

    リヴァイを待っていたのはすでに
    その弔いの丘に到着していたペトラだった。

    「兵長…」

    ペトラはリヴァイを見つけると、寂しげに名前を呼んだ。

    「なんだ…」

    リヴァイはいつもの冷たくも寂しい声で返事をしていたが、
    その胸のざわつきはまだ残っていた。

    「しばらく一緒にいてもいいですか?」

    「…好きにしろ…」

    ペトラはうなずくだけで、しばらく黙り込んでいた。
    リヴァイは時々、チラッと見ると馬上から遠くを見ている姿は
    『何か思いつめている』様子にも見えた。
    その日の壁外遠征で増えた新たな
    ページをめくっているとペトラが話し出した。

    「兵長、すいません…以前よりもその弔う時間が長くなっていると
    感じていましたが、私が始めてここに来たときよりもまた…」

    「あぁ…そうだ…増えちまったな」

    「ごめんなさい…兵長、私は大事な時間の手間を取らせていたとは…
    長くなっている時間を感じて実感しました。失礼します…」
  39. 42 : : 2013/10/26(土) 22:13:14
    ペトラが帰ろうとしたとき

    「待て!もう少しだ、待っていてくれ」

    「…はい」

    ペトラは弱々しく返事するだけだった。
    そして空がオレンジに染まった頃、
    リヴァイは制服のジャケット内側の胸ポケットに締まった。

    「ペトラ…何のようだ?」

    「兵長、今まで本当にお世話になりました」

    ペトラは思いつめている様子で話し出した。

    「何?」

    「私、転属願いを出すことにしました」

    「…何言ってんだ、おまえは…?」

    リヴァイは予想外のことで胸のざわつきが
    抑えられなかった。

    「私は初恋の面影を追いかけることが
    キッカケに調査兵になって
    だけど、それが思い出になったのに…
    まだ『浮かれた気持ち』でいます。
    そんな気持ちで…
    人類のために心臓を捧げることなんて出来ません」

    「どういう意味だ…?」

    ペトラは潤んだ瞳をリヴァイに向けると
    意を決し胸の内を告白した。

    「リヴァイ兵長、私はあなたが好きです…
    だから、さよならです…」

    リヴァイがペトラの気持ちを聞くと

    「ほう…おもしろいじゃねーか…」

    「え?」

    ペトラはリヴァイの予想外の返事に
    驚きの声を上げた。

    「…調査兵団を去る人間は命を落としたり、
    その怪我の具合から戦線離脱をしたヤツ等がほとんどだ…」

    ペトラはただ黙って聞いているだけだった。

    「『愛だの恋だの』言って…去るものは前代未聞だ」

    リヴァイは冷たく言い放った。

    「それでもかまいません…
    その手帳に私の名前が書かれるくらいなら」

    「…そうか、駐屯兵団あたりに俺が推薦状でも書いてやろうか?」

    ペトラは再び黙り込んで、また意を決したように

    「はい…お願いします」

    ペトラが涙を浮かべるも笑顔になるよう努め、
    そして大きな瞳の強い眼差しで答えると
    リヴァイはその顔を見ながら決意は固いと感じた。

    「…俺の気持ちは聞かねーのか?」

    「『ただの部下』ですよね?」

    ペトラが即答すると、

    「…『ただの部下』にキスするような
    無節操な男だと思われていたのか、俺は…」

    リヴァイもいつも通り冷たく寂しい声で返事した。

    「いや、その…」

    ペトラは意外なことを言うリヴァイに戸惑っていた。
  40. 43 : : 2013/10/26(土) 22:14:10
    「そらから、おまえは数少ない中堅の実力者の一人だ。
    今辞められては兵団として困る…それに」

    リヴァイは馬をそばに寄せるとペトラの頬に
    ゆっくりと手を伸ばしその先へ進むと、
    指に栗色の髪を絡ませ、後頭部で止めた。
    リヴァイは自分の顔をペトラに近づけ、
    その目を見つめながら

    「…転属は俺が認めん」

    リヴァイは少し唇を開きながら、
    ペトラの唇に押し当て
    苦しくなるくらいのキスをした。
    そのとき、夕暮れの大空のその色が
    二人をオレンジに染めていた。

    ・・・兵長…!?

    ペトラはただ驚きと窓くばかりだった。

    「まだまだ俺のそばにいろ…
    ただし…調査兵としての『覚悟』は忘れるな」

    リヴァイはいつも通り冷たい声ではあるが、
    その声に『熱』がこもっているように感じられた。

    ペトラは自分の本当の気持ちに対する
    リヴァイの返事に涙を流すも、微笑むよう努め、

    「わかりました、兵長…この命が尽きるまで、
    あなたのそばで…」

    最後は声がつまり、言葉にならなかった。

    「もうしゃべるな。
    薄暗くなってきた…もう帰るぞ、ペトラ」

    リヴァイが先に馬を走らせると
    ペトラはうなずいて、
    そして後ろからついて駆けるだけだった。

    ・・・なんてことだ…この俺が…?

    リヴァイは調査兵団に入って以来、
    初めての胸のざわつきに応えるような行動をとった。
    そして、チラッと後ろのペトラの様子を見ると
    笑顔になっていた。

    ・・・悪くない…

    リヴァイはいつもの鋭い目つきで正面を向くと、
    調査兵団本部が遠くではあるが、
    だんだんとその姿が見えてきた。
  41. 44 : : 2013/10/27(日) 20:59:48
    ⑥第56回壁外調査へ

    ペトラ・ラルがリヴァイにその胸の内を告白しても
    今までの調査兵としての生活に大きな変化はなかった。
    次回の壁外調査が未定でも、
    いつ予定が組まれても挑めるよう訓練や物資の調達など
    『いつも通りの毎日』を生活を過ごしていた。

    ・・・兵長に気持ちを伝えても、
    今まで通りで何も変らない…でも、
    『いつも通りの毎日』にあなたと一緒にいられるだけで
    それでいい…

    ペトラはリヴァイへ気持ちは変らず持ちつつも、
    『何も求めないことが兵長のため』と健気に
    その熱い思いを傾けるだけだった。
    その日の早朝。
    調査兵団本部の近くの訓練施設内の草原で
    平地での立体起動装置を機能させる訓練が行われていた。
    通常、平地では走っている馬から一人が飛び出すとそのまま
    巨人の足首あたりにアンカーを指して足首を削ぎ、
    そしてもう一人がうなじを削ぐ、というように
    二人一組でなされることが多かった。

    「もう…なんで、私があんたとコンビを組まないといけないのよ?」

    「まぁ…これが俺たちの運命(さだめ)ってヤツだ、ペトラ」

    「気持ち悪っ…鳥肌立つからそんな言い方止めて…!」

    ペトラのコンビ相手のオルオ・ボザドは
    相変わらずリヴァイの口調をまねていたが、
    そのたびにペトラからは気持ち悪がられていた。
    しかし長い間、『切磋琢磨』で競い合っていた二人のため、
    オルオが巨人の足首を削ぎ、ペトラがうなじを削ぐという
    コンビネーションは他のどの兵士達のコンビよりもずば抜けていた。
  42. 45 : : 2013/10/27(日) 21:00:35
    「やはり、あの二人を組ませて正解だったな、リヴァイ」

    この訓練の様子を視察しながら、隣のリヴァイに話し掛けたのは
    調査兵団の団長に就任したばかりのエルヴィン・スミスだった。

    「あぁ、実力ある中堅同士だからな…」

    リヴァイはエルヴィンの言うことに
    いつもの口調で冷たく返事をした。

    「まさか、おまえから提案するとは思わなかったが…」

    エルヴィンは訓練の様子を見据え淡々と意味深に言うと

    「…どういう意味だ?エルヴィン…?」

    舌打ちするとリヴァイはこれ以上何も言わなかった。
    オルオがエルヴィンとリヴァイが近くにいるということを確認すると、

    「ペトラ、あの二人が視察にきている。とりあえず挨拶に行くか?」

    「え?あ、そうだね!」

    ペトラはオルオからそう言われ、リヴァイとエルヴィンに視線を送ると
    リヴァイの相変わらずの鋭い目つきに緊張感が走るが、
    訓練時はいつもその本当の気持ちを抑えることに徹していた。

    「おはようございます!エルヴィン団長!」

    オルオは元気よくエルヴィンに挨拶した。

    「オルオ、ご苦労」

    そしてオルオはペトラとコンビを組めて実力が発揮できるのは
    長い付き合いだから、ということをエルヴィンに力説するも
    楽しげに話していた。

    「やっぱり、俺たちしか出来ないことだよな!ペトラ!」

    そういいながら、オルオはペトラの肩に手を置くと、
    リヴァイが舌打ちした。
  43. 46 : : 2013/10/27(日) 21:01:24
    ・・・もう、オルオ…!兵長の前で!!

    ペトラは何も言えず、その場を笑顔で立ち尽くすしかなかった。

    「…まぁ、せいぜい頑張ることだな、お二人さん。
    エルヴィン、他のヤツ等のところにも行くぞ」

    リヴァイはいつものように冷たい口調で二人に言い放ち、

    「あぁ…二人とも訓練に励め」

    エルヴィンが先に
    他の兵士の訓練の様子を見るためその場から離れた。

    「はい!」

    二人は返事をして、また訓練に戻ろうとするが、
    リヴァイがペトラの顔を見みると

    「…ペトラ、ちょっと来い」

    ペトラだけを呼び止めた。
    そしてリヴァイの目の前に立つと

    「兵長、何でしょうか?えっ・・?」

    リヴァイは何も言わず、訓練中に
    その頬についたであろう砂埃を親指で払うと、
    自分のハンカチで指を拭った。
    そして舌打ちしながら

    「汚ねーな…まったく…」

    そのまま振り返りエルヴィンの後を追いかけ
    その場を立ち去った。

    ・・・兵長が私の顔を…!?

    ペトラは頬が赤くなりそうになり
    どうにか平常心を保つが
    口元は緩んでいた。

    ・・・オルオの野郎…さっき、わざとペトラに肩を…
    あいつは俺たちのことに気づいている

    殺気だった目つきでエルヴィンの背中を追いかけると

    「おまえが私情を挟むとはな…リヴァイ」

    その視線に気づいたエルヴィンが淡々と言うと
    リヴァイはただ舌打ちしか出来なかった。

    「オルオ!さぁ、訓練を再開するよ!」

    その顔はいつものような平常心を保ちながらも
    嬉しそうなペトラを見たオルオは

    「おう!またやるぞ、ヘマするなよ!ペトラ」

    オルオもいつものように振舞った。

    ・・・リヴァイ兵長…あなたにペトラを渡さない

    オルオのその心はペトラへの気持ちで溢れていた。

    この平地での立体起動の訓練が強化されていたのは
    エルヴィンが団長として就任して初めての
    壁外調査が近いうちに予定されているためだった。
  44. 47 : : 2013/10/27(日) 21:02:10
    そして第56回の壁外調査を迎えた早朝。
    調査兵団・団長のエルヴィンを始め
    調査兵たちがカラネス区の壁外に繋がる門に向かい
    列を作っていた。

    「エルヴィン団長!巨人共を蹴散らしてください!」

    「リヴァイ兵士長だ!一人で一個旅団の実力があるってよ!」

    カラネス区の住民からの声を背に兵士たちは
    士気を高めていた。

    「ペトラ!今日は俺たちの訓練の成果の
    ご披露といこうじゃないか!」

    オルオは意気込みながら
    隣のペトラに話し掛けると
    ペトラは正面を見据えているが

    「うん…そうだね…」

    その返事は上の空のようだった。
    オルオがその目線の先に目をやると
    先端にいるリヴァイとハンジ・ゾエが何やら
    話している様子だった。

    ・・・ペトラ…おまえは一体、リヴァイ兵長の何なのか…

    「ペトラ!俺たちもリヴァイ兵長とハンジ分隊長のように
    仲良くいこうぜ!」

    オルオは焼きもちから、
    周りに聞こえるような大きな声でペトラに言うと

    「オルオ…!うん、とにかく今日はやってやろうよ!」

    ペトラは驚きオルオの方へ振り向くと
    空元気のように返事をするが、
    突然、大きな声で言われたために戸惑ってしまった。

    ・・・オルオのヤツ、何考えているだか、
    あの二人と私たち比較するなんて…

    ペトラは引きつりながら、オルオに笑顔を向けていた。
    オルオは元々、感情的になりやすいが、
    ペトラのこととなると、さらにヒートアップしてしまうことがあった。
  45. 48 : : 2013/10/27(日) 21:02:27
    ・・・オルオの野郎…

    リヴァイは舌打ちするも、冷静さを保つもちながら
    正面を見据え開門を待っていた。
  46. 49 : : 2013/10/27(日) 21:03:04
    壁外ではあるが、
    まだ壁から近いとある旧市街地。
    人気のないその場所で、若い兵士が
    巨人との戦いに敗れ今まさに
    その巨人に口に挟まれ喰われる寸前だった。

    「…おまえらなんか、リヴァイ兵士長に…!」

    折れてしまった剣を巨人のその頬に
    最後の力を振り絞り突き刺すと
    その巨人も反撃のように噛み砕こうとした
    まさにその瞬間、
    リヴァイによってうなじを削がれ巨人は膝から崩れ落ちた。
    そしてリヴァイが他の2体の巨人を討伐した後、
    その兵のそばへ戻ってきた。
    ペトラがその若い兵士の手当をしていたが

    「…兵長、血が止まりません」

    リヴァイに命じられた通りペトラも止血に努めるも
    出血量が多く処置が追いつけない様子だった。
    そしてリヴァイがひざまずくと兵士は
    自分の血で濡れたその手を伸ばしてきた。

    「…兵長、俺はこのまま何も役に立たずに死ぬのでしょうか…?」

    その兵士は死の間際にいながらも、自分を責めていた。
    リヴァイはその手を握ると力を込め言い放った。

    「…おまえは十分に活躍した…そしてこれからもだ。
    おまえが残した意思が俺に力を与える…約束しよう、
    俺は必ず巨人を絶滅させる!」

    その兵士はリヴァイのその力強い声を聞くと
    安心したような顔で永遠の眠りについた。

    ・・・兵長…いつもはみんなに厳しいのに…

    ペトラはその兵の最期の安心した顔を見ていると
    リヴァイとの信頼関係の表れのようにも感じていた。
    そしてその直後、巨人が街を目指し、
    壁が破壊された可能性があるために
    エルヴィンが退却命令を出したのだった。
  47. 50 : : 2013/10/27(日) 21:03:32
    「ペトラ、この兵は後にここを通る
    荷馬車護衛班が運び出すだろう…行くぞ」

    「え、兵長…彼を置いて…?」

    ペトラはこの兵の安心して眠る姿に
    後ろ髪引かれる気持ちが強くなった。
    リヴァイは自分の馬でその場から駆け出し、
    後ろを振り向くとペトラが付いてきていないことに
    気づいた。

    ・・・ペトラ…どうした?

    よく後ろを見ると、その兵の姿を
    キレイに整えているペトラだった。
    リヴァイがその場所へ戻ろうとした瞬間、
    荷馬車がペトラの方へ近づいてくるのが見えてきた。

    ・・・ビックリさせやがって…

    舌打ちをすると正面を見据え壁内へ向かっていった。
    その荷馬車護衛班と併走していたのはオルオだった。
  48. 51 : : 2013/10/27(日) 21:04:13
    「ペトラ!おまえ、一人で何やってんだよ!」

    オルオは怒鳴りながら馬から下りると
    ペトラのそばに寄ってきた。

    「オルオ!この近くに今は巨人はいない。
    せめて彼の姿をキレイに整えて先に行った兵長たちと
    合流しようと思っていたの!」

    オルオはペトラの優しさにため息が出た。

    「まったく、おまえは…。
    手伝ってやるよ、荷馬車に乗せるよ」

    「オルオ、ありがとう!」

    ペトラとオルオがこの兵を荷馬車に乗せようとしたその時、

    「ペトラ、ちょっと待った!
    今、ガーゼか何か持ってないか?」

    「持ってるけど、どうしたの?」

    ペトラはオルオに促され、ガーゼを手渡した。

    「せっかくの男前が台無しだ。
    命を落として頑張ったおまえの顔を
    最後くらいキレイにしないとな…」

    オルオはその若い兵の血で染まった顔を
    ガーゼで丁寧に拭いていた。

    ・・・オルオにもこんなに優しいところもあるんだ、見直した…

    そして、荷馬車にその若い兵を二人で乗せると、
    併走しながら、壁内に戻ることにした。

    「オルオ、今回は私たちの実力を
    披露できなかったけど、次回は絶対にやってやろうね!」

    「おう!そうだな、絶対に!」

    ペトラはライバルとして見直したオルオに
    次回への意気込みを笑顔で伝えると、
    オルオも自信を持って応えていた。
  49. 52 : : 2013/10/28(月) 21:12:40

    ⑦リヴァイ班誕生

    第56回の壁外調査を限界まで進まず中断し、
    トロスト区に戻った調査兵たちはその惨状に
    目を疑うばかりだった。
    しかも『巨人化する人間』も存在することを聞かされると
    自分たちが壁以外へ出ている短期間の出来事とは
    思えないほどの状況を目の当たりにして
    驚かさせられるばかりだった。
    そして人類が初めて巨人に勝利して数週間後。
    審議所で巨人化できる人間であり、
    今期新兵でエレン・イェーガーの処遇が決まり
    調査兵団に一時的に託されると、
    新たな壁外調査に備えることとなった。
    その責任者となったリヴァイはエレンを監視するため
    新たな特別作戦班、
    通称『リヴァイ班』が創設する準備に入っていた。
    リヴァイは自室のデスクに座り、その班員を決めるため
    調査兵たちの経歴の資料に通していた。
  50. 53 : : 2013/10/28(月) 21:13:10
    「エルド・ジン、グンタ・シュルツ…この二人の精鋭としての実力や
    調査兵としての性分には申し分ない。だが残りの二人…」

    その候補者はオルオ・ボザド、そしてペトラ・ラルだった。
    この二人も先に決めた二人と同様に実力・性分は問題なかった。

    ・・・ペトラの甲斐甲斐しさ…エレンの身の回りや精神面も
    ケアしてくれるだろう…しかし、引き入れることは私情にならないか…

    頬杖をつきながらその資料にあるオルオの名前に
    視線を移し見つめていた。正確には睨んでいた。

    ・・・バカバカしい…

    リヴァイは舌打ちしながら、その資料を閉じ、
    エルヴィン・スミスの執務室へ向かった。

    「エルヴィン、俺の班の兵士を決めた」
  51. 54 : : 2013/10/28(月) 21:13:41
    それは班員決定の報告のためだった。
    そしてエルヴィンに班員の名前の一覧を見せると

    「リヴァイ、この4人ならおまえの班で活躍できる。
    それから、エレンを守るためにはこの本部ではなく、旧本部を使え」

    「…旧本部だと…?あのバカでかい古城か?」

    エレンの管理だけでなく
    『維持のための掃除』が必要となると
    舌打ちするしかなかった。

    「まぁ…あの古城はエレンを託された
    我々に提示された条件の一つ、
    『危険が及べばエレンを即拘束』という…
    それが可能な地下室も備えているからな」

    エルヴィンが淡々とリヴァイに説明すると、

    「あぁ…それはわかっている…
    班員を呼び出し早急に古城に向かう」

    リヴァイは少々不機嫌に答えると
    そのままエルヴィンの執務室から出て行った。

    エルヴィンはその班員の一人であるペトラの名前を見ながら

    「リヴァイ、おまえが私情を挟むとは思えんが…」

    エルヴィンは頬杖つきながら、思わずそう口にすると
    意味深な笑みを浮かべていた。
    そしてリヴァイは自室に班員の4人を集め
    リヴァイ班の経緯が説明していた。

    「…エルド、グンタ、ペトラ、そしてオルオ…」

    最後のオルオの名前を言うときのリヴァイは
    無意識に力が入っているようだった。
  52. 55 : : 2013/10/28(月) 21:14:24
    「…おまえら、4人にはエレンを建前では『監視』する
    ということだが『守り』に徹してくれ。
    明日から特別作戦班の拠点が旧調査兵団本部の古城だ。
    早急に荷物をまとめ明日の出発に備えろ…いいな」

    そして話が終わり、それぞれ退出のため、
    リヴァイの部屋から出て行くためドアから出て、
    最後にペトラが出て行こうとした瞬間、
    リヴァイが彼女の手をつかむと、そのままドアは閉められた。
    ペトラはリヴァイの部屋に残ったままだった。

    「兵長…?」

    ペトラは驚きそのまま後ろを振り向いた。

    「…ペトラ…こうしてまともに話すのも久しぶりだな」

    リヴァイはペトラの手を握ったまま
    いつもの冷たい声で話していた。
    ペトラは普段はリヴァイに対する思いを抑えているだけに
    こうして二人っきりになると、頬がその思いで紅潮してきた。

    「兵長…そうですね…」

    緊張と嬉しさでペトラは恥ずかしそうに答えていた。

    「それから、明日から古城での生活だが、
    ペトラ、おまえらしいやり方でかまわない、
    エレンの面倒を見て欲しい。
    なんだかんだと、アイツはまだ子供だからな…」

    「はい!わかりました!」

    ペトラは元気よく挨拶するが、
    リヴァイはまだ話を続けていた。

    「それから…前回の壁外調査で
    あの最後に見取った兵士のそばにしばらくいただろ?」

    「はい…あの安心した顔を見ると
    せめて姿を整えてあげたいと思ったので…」

    リヴァイは舌打ちをすると握っていた手を
    そのまま手前に引き寄せペトラを抱きしめた。

    「…心配させやがって…」

    「えっ…兵長…!」
  53. 56 : : 2013/10/28(月) 21:14:54
    ペトラはただ驚くだけでリヴァイの
    胸に抱きしめられていた。

    「明日からよろしく頼む、もう行け…」

    リヴァイはペトラを見つめると髪を指で絡めながら
    優しく撫でるとそのまま部屋を出るよう促すと
    ペトラはうなずき、頬を紅潮させながらそのまま
    リヴァイの部屋から退出した。
    ペトラが幸せそうな顔でリヴァイの部屋から
    出てくるのを目撃したのはオルオだった。

    「ペトラのヤツ…いないと思ったら、こういうことか…」

    オルオはペトラとリヴァイとの関係をこれまでは
    疑いのままだったが、この一瞬で確信に変った。
    相手がリヴァイならあきらめた方がいいのかと悩まされるが、
    ペトラの笑顔を思い浮かべるとなかなか踏ん切りがつかなかった。
    一方のペトラはリヴァイに抱きしめられた感触をかみ締め
    気持ちを引き締めようとするが、
    どうしてもその口元は緩んでしまっていた。
  54. 57 : : 2013/10/29(火) 22:31:06
    ⑧旧調査兵団本部・古城

    リヴァイは調査兵団特別作戦班の班員、エルド・ジン、グンタ・シュルツ、
    オルオ・ボサド、ペトラ・ラルそしてエレン・イェーガーを率いて
    その拠点であるカラネス区から離れた森の中にある旧調査兵団本部の
    古城にそれぞれの愛馬にまたがり向かっていた。
    『率いて』といっても実際はリヴァイは最後方から
    エレンを『見守る』ような列を作り向かっていた。
    その隣にはペトラが併走していて、前方のエレンに対して
    オルオば先輩風を吹かせているのを見て呆れながら眺めていた。
    ペトラはそれよりも隣にリヴァイがいることが嬉しくても、
    皆の前ではその気持ちを抑えようと徹していた。
    またペトラはエレンの後姿を見て
    『この少年が本当に巨人に変身するの?』と疑問に感じていた。

    ・・・エレンは見た目もどこにでもいるような少年の雰囲気だけど…
    それに兵長から『歯が吹き飛ぶくらい足蹴りを喰らった』って
    ハンジ分隊長が言っていたけど、傷一つ見当たらない…?

    ペトラは審議所でリヴァイから文字通り『ボコボコ』になるまで
    足蹴にされたというのにエレンの傷一つないキレイな姿を見ては
    治癒の速さは巨人の異常な回復力の影響なのか、
    ペトラはただ不思議がって首をかしげていた。

    「うおお…お…!」

    乗馬中にエレンに対して先輩風吹かせていたその天罰か、
    オルオは舌を噛んでしまい、叫び声を上げてしまった。
    その話し相手であるエレンを青ざめさせ、
    ペトラは呆れるばかりで情けない眼差しでその光景を見るしかなかった。
    古城につくなり、ペトラはオルオに対して心配するというよりも馬上で
    話しすぎるのは危険だと注意を促すも

    「俺の女房を気取るには必要な手順を踏んでないぜ…」

    オルオ本人はリヴァイの真似をしているつもりだったがその態度がさらに
    ペトラを苛立てさせていた。
    この古城である旧調査兵団本部はどのくらいの期間、
    主を不在にしていたのだろうか、
    周りは雑草が生い茂り、中は埃まみれになっていた。
    それを目の当たりにしたリヴァイは班員で清掃に取り掛かると命じ
    自らも埃を避けるためか、頭巾をしてまで精を出して隅々までキレイにしていた。
    その両開き窓がある部屋を掃除していたリヴァイはエレンが掃除したという
    上の階の部屋の清掃具合を確認するためにその場から離れた。
  55. 58 : : 2013/10/29(火) 22:31:35
    「失望したって顔だね!エレン」

    エレンの前に現れたペトラはリヴァイに言われた通り、
    『面倒を見る』というのもあったが、
    まだまだ会ってまもないこと、
    そして巨人になる場面に遭遇してない影響か、
    その実感がなく、かつての初恋の
    『おにーちゃん』が自分にしてくれたように一緒にいて
    安心できるような存在になろうと密かに決めていた。
    そしてリヴァイの態度に対して失望した様子のエレンに

    「…神経質で粗暴で近寄りがたい感じで…」

    ペトラはさらにリヴァイの印象を悪く持たれそうな紹介をしつつも
    『強力な実力者だからこそ我を通さず、規律を重んじる』というように
    全くの『でたらめな人』ではないということを
    エレンに明るくも楽しそうに話していた。
    その話しぶりから、エレンはリヴァイは
    『近寄りがたいが信頼されている人』という印象を改めて持った。
    そしてその日の掃除を終え、皆は談話室で一息ついていると、
    そこにエレンに興味津々のハンジがほぼ乱入のような状態でやってきた。
    その直前にはリヴァイから『…死ぬかもな』と真顔で言われていただけに
    エレンのその顔は引きつらせていていた。
    ハンジの巨人とエレンに興味に対する勢いは自制が効かず、
    リヴァイ始め班員たちは何度もそれを目の当たりにしているため見るに
    耐えられずにエレンを残して自室に戻っていった。
  56. 59 : : 2013/10/29(火) 22:31:59
    「星がキレイ…」

    ペトラは自室に戻ると部屋の両開きの窓を開け外を眺めていると、
    キレイになった部屋から眺める星はさらに清々しい気持ちにさせていた。
    その日の予定は朝から晩まで掃除続きだったこともあり、
    すでに星が見える時間になっていた。
    ペトラは一日中、立ったり座ったりと訓練ともまた違う身体の使い方を
    しているのにも関わらず、疲れ知らずに一日中働き通しだった。
    それはやはり今までよりも近くにリヴァイがいるという影響が大きかった。

    ・・・これからはここが住まいとなると
    今までよりも兵長を近くに感じても…遠い人だよな…

    キレイな星を見上げながらもため息をついた。
    日ごろから『何も求めないのが兵長のため』と
    ペトラは暗示を掛けるように、自分に言い聞かせていた。
    だが、そのせいで近くにいるのに
    『普通の男女のようなことが出来ない』ことは
    一人になると寂しくも感じていた。
    心地よい疲れを感じながら、ペトラはリヴァイにキスされたり
    抱きしめられたこともあったことを思い出すと、
    頬を紅潮させながらも『少しだけ遠くなった過去』のようにも感じていた。

    ・・・調査兵としての覚悟があるんだから…これも致し方ないよね

    ペトラが一人で納得し、ため息混じりに窓を閉めると同時に
    誰かがペトラの部屋のドアをノックした。
    しかも、ノックだけで名乗りはしなかった。
  57. 60 : : 2013/10/29(火) 22:32:32
    ・・・誰だろ?こんな時間に…

    ペトラは談話室に残してきたエレンとハンジ以外の誰かだろうと思い
    ドアをそっと開けると、その隙間から眼光鋭いリヴァイの顔が見えた。

    「兵長…!?」

    目を見開きリヴァイを見ると、舌打ちをしながら
    ドアを開けるとそのまま音を立てずペトラの部屋に入ってきた。

    「まったく…ドアはさっさと開けろ」

    リヴァイはいつもの冷たい口調で言いながら
    ペトラを見つめドアの前で立っていた。

    「兵長…何か、ご用でも…」

    ペトラは戸惑いながらも、リヴァイが自分の部屋で
    二人っきりでいると思うと顔が赤くなっていった。
    そしてリヴァイは窓際に立つと

    「ほう…さすがだな、この窓も自分が写る位に
    キレイに磨かれている…」

    「え?お掃除のチェックに来たの…」

    「バカ言え…!」

    リヴァイは即座に否定した。

    「ペトラ…おまえに会いきた」

    リヴァイはいつもの冷たい口調でいいながらも
    ペトラを鋭い眼差しで見つめていた。

    ・・・ひえ…そんな目で見るって私何かした…?

    ペトラは何か自分がヘマでもしたのではないかと
    思いをめぐらせるが心当たりがなく
    ただただ戸惑いながらリヴァイの傍へ寄ると、

    「私に…ですか…?」

    緊張感たっぷりでたずねるしかなかった。
  58. 61 : : 2013/10/29(火) 22:33:03
    「この部屋から星が見えるだんな…」

    リヴァイは窓から空を見上げた。
    ペトラはリヴァイが先ほどまで自分自身も
    キレイだと思っていた星空にリヴァイも
    反応しために、嬉しそうにその窓を開けた。

    「そうなんですよ!兵長!」

    ペトラはリヴァイのそばに立ちながら
    さっきもこの窓から星を眺めていた、
    ずっと見てしまいたいくらい、など
    他愛のないことを楽しそうに話しながら
    その横顔を見てみた。

    ・・・兵長も…こんな顔をするんだ…

    部屋に入ってくる心地よい風がリヴァイの髪をなびかせ
    その横顔はいつもの厳しく鋭い眼差しとは違い、
    初めて見るような穏やかな表情になっていた。

    「…俺の顔に何かついているか?」

    星を見上げながら、
    いつもの冷たいリヴァイの口調でペトラに言うが
    その穏やかな顔であるため和らいだような声にも聞こえた。

    「いや…その…」

    ペトラが戸惑っているとリヴァイは肩を抱き寄せ
    星を眺めるだけだった。
    ペトラはリヴァに身体を預けるリヴァイのぬくもりを感じると
    何事にも変えられない幸福感に包まれた。
  59. 62 : : 2013/10/29(火) 22:33:35
    そしてリヴァイばペトラにキスしようと顔を正面に向けた瞬間、

    「…ペトラ…いるか?」

    ペトラの部屋の外から声がした。
    舌打ちしてペトラを抱きしめ、
    そしてドアを恨めしそうに見つめていた。
    ドアの向こうの声の主はオルオだった。

    ・・・兵長にまた抱きしめられてる…!だけど、オルオがどうして?

    ペトラが無言でいると

    「…ペトラ、いないのか…?寝てるか…
    また、今度…ゆっくり、話すよ。おやすみ…」

    オルオは何か言いたげな様子だったが、ペトラが
    不在だと感じるとそのまま去っていった。

    「オルオの野郎…やっぱり…」

    殺気だった眼差しでドアを見つめると
    その手に力が入り、さらに強くペトラを抱きしめていた。
    ペトラはリヴァイに抱きしめられるだけで、
    さっきまで普通の男女のようなれないと
    思ってだけにそのぬくもりを噛み締めるように
    リヴァイに抱きしめられていた。

    ・・・だけど、オルオは何しにきたの…?

    ペトラはオルオのことを『同期のライバル』としか思っておらず
    それ以上の感情があることは微塵も思ってもいなかった。
    またペトラがリヴァイが好きということも手伝い
    その気持ちに気づけなかった。

    「ペトラ…今日はおあずけだ、
    ヤツのせいで気分が乗らなくなった…」

    「えっ…」

    リヴァイはペトラの右あご当たりに優しく手を添え
    自分の顔を近づけると、ペトラの唇にそっとキスをした。
    そして振り返らずに

    「ヤツに…渡さなねぇ…」

    独り言を言いながら静かに退室し
    その背中は殺気立ち、リヴァイは自室に戻っていった。

    「今日はおあずけって…まさか…!」

    ペトラは顔が赤くなり、ベッドに座り込むが
    既になぜオルオが自分の部屋にを
    たずねてきたことなどは忘れ去られていた。
  60. 67 : : 2013/10/30(水) 22:50:13
    ⑧二人だけの時間

    第57回の壁外調査まで残り1週間を切ったというその日。
    ペトラ・ラルはその日のエレン・イェーガーを交えた
    馬を平地で長距離で走らせるという訓練を終えると
    調査兵団本部に一人出来ていた。
    長距離で馬で走っていたのにも関わらず、
    そこに来ていたのは訓練が早めに終ったこともあり、
    前回の壁外調査で負傷兵たちの見舞いのためだった。

    「さすがに…長距離、馬に乗るのは疲れるな…」

    ペトラがその疲れから少しため息をつきながら、
    本部内の負傷兵たちがいる救護室に入ろうとすると

    「ペトラ!来てくれたの?ありがとう!」

    救護室に入り、以前よりもだいぶ元気を取り戻している姿を見ると
    ペトラも先ほどまで感じていた疲れも吹き飛ぶようだった。

    「よかった~!みんな、元気になっているのね!」

    ペトラは皆に笑顔で接していると皆も楽しげに話し出した。

    「こうしてちゃんとお見舞いに来てくれるのは、
    ペトラとリヴァイ兵長くらいだよね!」

    「おい!もちろん、団長もだろ!怒られるぞ!」

    みんなまだまだ包帯に巻かれ痛々しい姿のはずだが、
    その救護室は笑い声に包まれていた。

    ・・・兵長も来ていたのか…

    リヴァイは古城である旧調査兵団本部へ
    特別作戦班の設置したあの夜以来、
    ペトラの部屋へ来ることはなかった。
    またエレンを交えた訓練では顔を出すものの
    それ以外は団長であるエルヴィン・スミスに
    本部に呼ばれ夜遅くまで作戦会議をしているようだった。
  61. 68 : : 2013/10/30(水) 22:50:52
    ・・・そういえば、グンタが今回の作戦には
    何かあるとか話していたっけ…

    ペトラはグンタ・シュルツが訓練中、今回の作戦にエルヴィンが兵士たちに
    明かさなくていいと判断した『意図』があるかも、と勘付いていたため
    それに関係する作戦会議があるかもとペトラは想像していた。

    「なぁ…ペトラ、また次回の壁外調査、おまえら大丈夫か?」

    一人の傷を負った精鋭の兵士がペトラに声を掛けた。

    「え、というと…?」

    ペトラは神妙な面持ちでその兵のそばへ寄った。

    「団長の雰囲気を見てると…何だか
    これまでと違う覚悟を背負っているような気がする。
    俺たちは何度も壁外に出て戦ってきた仲間だ。
    その顔を見ればわかる…」

    その兵は自分の痛々しい身体を見て、
    そしてペトラに鋭い眼差しを注いでいた。

    「くそ、あのとき、もっと俺が気をつけていれば…」

    悔しそうにため息をつき、精鋭であるが故に
    怪我を負ってしまった自分自身が許せないようだった。

    「大丈夫ですよ!リヴァイ兵長だってついてますから!
    早く怪我を治して復帰してくださいよ!」

    ペトラは明るい笑顔でその精鋭の肩を優しくなでて、
    励ますことしか出来なかった。
    そしてペトラは負傷兵と一人ひとりと話をしてまた来ると
    約束すると救護室を後にした。

    ・・・精鋭だから、気づくこともあるよね…
    やっぱり、今回の作戦は何かある…

    ペトラは拳を強く握りながら、
    改めてエレン・イェーガーを伴う壁外遠征が
    これまとは違うもになるだろうと覚悟をしなければと強く思った。

    ・・・まだ時間あるし、帰ったらお父さんに手紙でも書こうかなぁ…
  62. 69 : : 2013/10/30(水) 22:51:26
    ペトラが本部から出て自分の馬が待つ、
    馬小屋である『きゅう舎』へ向かっていると、

    「おい、ペトラ…」

    「え?…兵長!?」

    ペトラが振り向くと、
    彼女を見つけたリヴァイが声を掛けてきた。
    ペトラは予想外にまた久しぶりに初めて出会った『きゅう舎』のそばで
    バッタリ会ったために声がひっくり返ってしまった。

    「…なんだ…この声は」

    リヴァイはいつものように冷たい声でペトラに話し掛けると

    「すいません、突然だったもので…」

    ペトラは頬を赤くして照れるしかなかった。

    「おまえ、何しに本部に来たんだ?珍しい」

    「あ、えと…今日は…」

    ペトラは訓練が早く終ったために
    負傷兵たちのお見舞いにきたことを話すと

    「あいつらのために…」

    リヴァイはペトラを鋭い眼差しで見つめるが
    ペトラは慣れの影響か怖い感じはしなかった。

    ・・・あれ?なぜだろ、眼差しが柔らかい感じする…?

    そのときリヴァイがペトラにお礼を言おうとするが、

    「…ペトラ、あり…」

    リヴァイは普段照れと普段は人にお礼を
    あまり言わないためその不慣れから口ごもってしまった。

    「兵長…?」

    リヴァイは舌打ちをすると

    「ペトラ、今からあの丘に行く。時間があるなら着いて来い!」

    「…はい!」

    ペトラが嬉しそうに返事をすると、
    二人して颯爽とあの丘に向かい駆け出していった。

    「あの二人、お似合いよね」

    「そうそう!私も思っていた!」

    ペトラとリヴァイを見かけた同じ調査兵である女性兵士に
    笑顔で見送られながら、二人は兵団本部を後にした。
    あの丘が見えてくると、青空の向こう側が少し赤く染まりだし
    夕暮れ時に備え、またその日の新しい夕焼け空が作り出そうと
    待ち構えているようだった。
    そしていつものポイントにリヴァイが馬を止めると
    おもむろに手帳を出すと、いつもの通り丁寧に
    命を落とした兵士達の名前に目を通していった。

    「兵長、よろしいですか…?」

    「なんだ…?」

    ペトラがリヴァイのじゃまにならないようにゆっくりと話しかけた。

    「兵長も今日はなぜ、本部に行かれていたのですか?」

    「あぁ…エルヴィンに呼ばれて…会議…」

    リヴァイは名前を読むことに集中しているせいか、
    またはその会議に簡単には口に出来ない『何か』がある影響か
    語尾が小さくなるとこれ以上何も言わなかった。
    ペトラは雰囲気から聞かないほうがいいと察し、
    それ以上は何も質問はしなかった。

    ・・・二人だけの時間が嬉しい…でも、この弔いを兵長だけに
    背負わせていいのか…

    ペトラはリヴァイの横顔を見ながら、疑問に思うも、真剣な眼差しで
    その手帳を見るリヴァイを見てはこれは
    『兵長が選んでしている行動』と感じてもいて
    何も言えずたたそばにいることしかできなかった。
  63. 70 : : 2013/10/30(水) 22:51:51
    ・・・あれ?兵長の髪がいつもより揺れている…?

    ペトラがリヴァイの髪を見て風が吹いていると気づくと
    上空を見上げると、暮れ行く空に雨雲も混ざっていることに気づいた。

    「兵長…空が…」

    「あぁ…雨が振るかもな…もう少しで終る」

    リヴァイは目は後半に続くその手帳の名前を見ながら
    雨の匂いを感じてペトラに話していた。

    ・・・空を見てないのによく気づけるなぁ…

    ペトラはそんなリヴァイを微笑み見つめていた。
    そしてリヴァイがすべての名前を読み終えると
    夕暮れの空が雲が覆いかぶさっていた。
    リヴァイは舌打ちすると、

    「ペトラ、一雨きそうだ。近道で帰るから、ちゃんと着いて来い!」

    「わかりました!」

    リヴァイが先に駆け出すとペトラも後からついていった。
    その空から少しずつ小雨が降り出していて、
    古城である旧調査兵団本部へ通常ルートで帰ると
    距離がある、雨に濡れながら帰ると負担になるため
    近道を知っているリヴァイはそのルートを通ることにした。
  64. 71 : : 2013/10/30(水) 22:52:20
    ・・・馬を雨に濡らしたくない…兵長らしいな

    ペトラはその思惑はほぼ正解だが、
    リヴァイは大切なペトラを雨風に晒させたくない、
    そう思い近道で帰ることにしたのだった。
  65. 75 : : 2013/10/31(木) 22:02:45
    ⑨二人だけの夜(上)

    リヴァイはいつもの習慣である弔いを終えると、
    近道を通って古城である旧調査兵団本部へ
    ペトラ・ラルと共に馬で駆けていた。
    途中でだんだんと雲行きが怪しくなると、
    上空は夕焼けの赤い部分はほとんど消え
    グレーの曇り空が締めて小雨が振り出していた。
    リヴァイは舌打ちして

    「くそ、こんなときに…」

    リヴァイはチラッと後ろを振り向くと、
    ちゃんとペトラがついてきているとわかり
    安心はしたが、大雨が降ると、ぬかるみに足が取られ
    馬の負担にならないか心配になっていた。
    そして、大空にはその時間にしては真っ黒な雲で覆われ
    あたりが暗くなると、小雨だけでなく稲光が何度か
    目に見える周り一体を明るくするのを確認すると
    リヴァイは大雨になるだろうと予想していた。
    そして後ろを振り返ると、

    「ペトラ!大雨になる!スピード上げるから、
    ちゃんとついてこい!」

    「はい!」

    ペトラがリヴァイに向けて返事をしたところで
    小雨から強い雨脚になってきた。
    リヴァイは舌打ちをして

    ・・・このままじゃ、ずぶ濡れじゃねーか…
    もう少しで大事な壁外調査があるってのに…

    リヴァイは自分のことよりも
    ペトラを雨風に晒すことと、そして自分の愛馬を
    気にしつつ走らせていると前が
    見えにくいほどの雨脚の強さになってきた。
    リヴァイはまた舌打ちをして、前方をよく見ると

    ・・・あの場所は…

    リヴァイは見覚えある場所を確認すると、
    後ろを振り返りペトラに言い放った。
  66. 76 : : 2013/10/31(木) 22:03:14
    「ペトラ、あの場所わかるだろ?
    一旦その近くで馬を止めて休憩するぞ」

    「はい…!」

    ペトラも視界が悪くなるのを恐れていたために
    そこが見えて、そこで休憩が出来ると思うと
    ホッとしていた。
    その場所はその日から数日前。
    エレン・イェーガーが巨人になる実験が行われた
    古い枯れ井戸がそばにある小さな納屋だった。
    リヴァイとペトラはその納屋近くにある
    木の下に雨が避けられる位置に
    馬の手綱を結びつけると、
    急いでその納屋に入ってきた。

    「…雨脚が弱くなるまでここで休憩するぞ」

    「はい、兵長…!」

    二人は自由の翼のフードを被っているとはいえ、
    ずぶ濡れになってしまった。

    「ん?こここの前よりキレイになってるんじゃねーのか?」

    この納屋は訓練の休憩所のように使われていたが、
    数日前に来たときは久しぶりに使用されるため、
    埃まみれのためにリヴァイは入ることを毛嫌いしていた。
    しかし、今回は雨のため仕方なく、という気持ちだったが
    キレイな状態で驚いていた。
    この納屋は6人掛けのテーブルが二つ並べば
    狭く感じるようなスペースだった。
  67. 77 : : 2013/10/31(木) 22:03:47
    「兵長、よく気づきましたね!実は…」

    あの巨人化の実験のとき、エレンが休憩中に落とした
    スピーンを拾うことで巨人に変身してしまったために、
    そのときに座っていた皆が休憩に使う
    木製の椅子もテーブルも壊してしまった。
    エレンはそれを申し訳なく思いペトラに相談すると
    『一緒に新しいものを作ろう!』とペトラが提案して手の空いている
    兵士にお願いして木々を伐採し一緒に新しいテーブルを作りそして、
    ついでにこの納屋の掃除をした、ということだった。
    リヴァイはそこに置かれた真新しいテーブルを見ては関心していた。

    「いつのまに…気が利くな」

    「ありがとうございます!それにそのとき思ったのが、
    エレンのような実験に限らず、けが人が出るようなこともあれば、
    必要だと思って救命道具や保存食も置くことにしたんです!」

    ペトラはリヴァイに嬉しそうに話しているとリヴァイが言い放った。

    「…ってことは今日、ここに泊まれるってことだよな?」

    「と、泊まれる?え…まぁ…泊まろうと思えば
    泊まれるかもしれません…ね、毛布や寝袋もありますし…」

    「ほぉ…」

    ペトラはただ新たに必要なものを置いたことの報告のつもりで
    話していただけに、まさか『泊まれる』ということをリヴァイが
    言うのは予想外で少し目を泳がせ戸惑っていた。

    「身体が冷えますから…紅茶でも入れましょう…
    ちゃんと道具もありますから!」

    二人はテーブルに座ると、
    ペトラは少しドキドキしながら自分で用意していた
    湯も沸かせる茶器の道具を使い
    紅茶を淹れリヴァイに差し出していた。
    そして日も落ちて回りも完全に暗くなってしまい、
    明るさはランプだけが頼りだった。
    雨脚は強くなるばかりで、一向に止む気配がなかった。
  68. 78 : : 2013/10/31(木) 22:04:36
    「なかなか…止みませんね…」

    「あぁ…そうだな」

    リヴァイはペトラが淹れた紅茶をすすりながら答えていた。
    ペトラはリヴァイといざ二人きりとなると、緊張から席を立ち
    窓際に立って外の様子を伺うことにした。

    「…ホント雨脚が全く弱まらないですね…」

    ペトラが中々止まない空を見上げると、
    リヴァイが後ろになっていることに気づいた。
    そして後ろから抱きしめながら、

    「このまま止まなければ、一緒にいられる…」

    リヴァイはペトラの耳元でささやいた。
    ペトラはその胸の激しい鼓動を感じながら

    「あ…でも、みんなが心配しますよ…」

    「…心配したいヤツにはさせておけ…」

    リヴァイは冷たく言い放つとペトラは無言になってしまった。

    「あの手を見せてみろ、自分で噛んだ手だ…」

    「あ、この右手ですか…」

    ペトラはエレンが巨人化するための
    『自傷行為』の痛みを理解するために
    噛んだ右手をリヴァイに見せた。

    「おまえら…でも、このおかげでおまらのとエレンの間の
    信頼関係は深まっただろうな…」

    リヴァイはその歯形のついたペトラの右手の甲を
    自分の指で撫でるとその上から指を絡ませていた。

    「そうですね…」

    ペトラは背中に感じるリヴァイのぬくもりを感じると、
    だんだんと雨が止まなければいいのに、そう思い始めていた。
  69. 79 : : 2013/10/31(木) 22:05:00
    一方、旧調査兵団の古城である談話室では
    『ペトラが帰ってこない!』とオルオ・ボザドが心配していた。

    「ペトラ!一体どうしたんだ…こんな大雨の日に…!」

    心配そうにしているオルオを見たグンタ・シュルツとエルド・ジンは
    特に心配しないでテーブルについてコーヒーを飲んでいた。

    「まぁ…気にするなって。きっとリヴァイ兵長もいっしょだ」

    エルドは薄々、二人の関係のことを感じていたこともあり、
    特に気にすることではない、という態度だった。

    「あぁ、そうだ。確かリヴァイ兵長は会議で本部に。
    で、ペトラもお見舞いとかで本部に行ったし、
    一緒に帰ってくるじゃないの?」

    グンタもエルドと同様大して心配しておらず、
    それよりもコーヒーをお代わりをしようか迷っていて
    マグカップを見つめていた。

    「おまえら…!それが余計心配なんだよ!」

    オルオは思わず本音が出てしまうが、

    「なんだ、おまえ!ペトラのこと気になるのか?」

    エルドがからかい半分で言うと、
    オルオは顔を真っ赤にして怒りだした。

    「お、俺はな…大事な仲間がこの大雨の中、
    帰りが遅いから心配してるだけだ…!」

    そしてその時、用があってこの古城に来ていた
    あの女性の調査兵が二人して入ってきた。
    声を荒げていたオルオは二人を気にして黙り込み
    どうにか冷静になるよう努め椅子に座ることにした。
    その二人はオルオたちの隣のテーブル席に座った。
  70. 80 : : 2013/10/31(木) 22:05:34
    「急の大雨は大変…帰れるかな…」

    「そうだね…聞くところによると部屋も余ってるみたいだし、
    雨が止まなければ、泊まるしかないね」

    「そか…まぁ、雨が止まなければ仕方ないよね…」

    二人は他愛もない会話をしていたが、静かになった
    オルオたちには丸聞こえであった。

    「ところで…この古城ってペトラもリヴァイ兵長も宿舎として
    使ってるんだって!」

    「へーっ!そうなんだ!じゃ、あの二人付き合ってるのかな?」

    「そうじゃない?だってあんなにいい雰囲気の二人が
    『一つ屋根の下』にいるんだから、絶対そうよ…!」

    その会話を聞いたとたん、オルオを始め3人は一斉に
    一斉に二人の顔を見た。そしてエルドが声を掛けると、

    「話に入って悪いけど…
    『雰囲気がいい二人』って…ペトラと兵長が
    一緒にいるところ見たの?」

    「えぇ、だってさっき本部で二人で仲良く馬で
    駆けていくの見かけたのよ…!」

    オルオはその言葉で目を見開くと
    肩をガクンと下ろした。

    「まぁ…オルオ!元気出しなって!」

    エルドの励ましも耳に入らない様子で
    オルオは黙り込んだまま、自室へ戻っていった。

    ・・・ペトラ…やっぱり、リヴァイ兵長と…

    なかなかペトラをあきらめられないオルオは
    その手は強く握りこぶしを作っていた。

    その頃、ペトラとリヴァイは止まない雨を見上げながら
    寄り添っていた。

    「…ホントに…泊まった方がいいかもしれない」

    リヴァイはペトラの後ろから耳元でいつもの冷たい声で
    ささやいたが、何となくペトラは熱がこもっている感じがしていた。

    「兵長…」

    ペトラは後ろから抱きしめられながら、
    その胸の鼓動を止めることが出来なかった。
    そしてリヴァイは自分の正面にペトラを
    向かせると強く抱きしめた。
    そしてまた耳元でささやいた。

    「『おあずけ』を食らっているのは…俺の方だからな」

    リヴァイはいつもの冷たい口調で言うものの、
    ペトラに優しいキスをするともう一度強く抱きしめた。
  71. 83 : : 2013/11/01(金) 22:07:06
    ※第⑩二人だけの夜(下)には
    『大人の表現』が含まれますのでご容赦ください。
  72. 84 : : 2013/11/01(金) 22:07:46
    ⑩二人だけの夜(下)

    ペトラ・ラルとリヴァイは調査兵団の施設内にある
    小さな納屋で急の大雨から逃れるために
    身を潜めていたが、その中では
    二人だけ世界の甘い空気が漂っていた。

    ・・・兵長と私が…?

    ペトラはこの後起きるであろう出来事を想像するだけで
    恥ずかしさで顔が赤くなり、
    リヴァイの顔さえ見上げることは出来なかった。
    リヴァイはペトラの頬に手を添えその赤い顔を見つめると

    「俺と…イヤか…?」

    冷たくも熱のこもった声でペトラにささやいた。
    ペトラは頬を赤らめたままで

    「怖いんです…兵長と…こんなことって」

    ペトラは潤んだ瞳でリヴァイに言うと鼻で笑った。

    「怖いか…」

    ペトラから一旦離れるとリヴァイは
    寝袋と毛布を床に敷いて横になる準備をしていた。
    そしてペトラを背にして

    「俺も『無理やり』ってのはさすがに咎める。おまえの気持ちが整えば来い。
    もし、イヤなら…今夜は別々に寝て朝まで過ごすぞ」

    リヴァイはいつものごとく冷たくも淡々と言うと、
    そのまま一人で毛布に入っていた。
    背はペトラに向けたままだった。
  73. 85 : : 2013/11/01(金) 22:08:32
    ・・・兵長…

    ペトラはリヴァイの優しさとその愛おしい背中を見ていると
    そばに近づいてジャケットを脱ぐとテーブルに置いた。

    ・・・俺は…一体何をやっているんだ?

    リヴァイが少し冷静になるとまた
    ペトラが無反応のため後ろ振り向いてみた。
    ランプの温かい明かりに照らされたペトラが
    リヴァイのそばに近づきしゃがみこむと、
    恥ずかしそうに脱いだシャツでその姿を隠していた。
    シャツで身体を覆っているだけで
    その下は何も着ていなかった。

    「ペトラ…悪くない…」

    リヴァイはペトラの手をとり
    自分の傍らに招き入れると
    その潤んだ瞳そして覚悟を決めた顔を
    見ていると鋭い眼差しを
    ペトラに注いでいた。

    「いいんだな…?」

    「はい…」

    返事を聞いたと同時にその唇にリヴァイは自らの唇を押し当てた。
    苦しくなるくらいのキスを何度も何度もしては
    ペトラの唇を赤く染めさらに潤いを与え、
    そしてその瞳も潤ませ、リヴァイを見つめていた。

    ・・・兵長と…私が……兵長、好き…

    ペトラはリヴァイに身を預けると
    そのあふれ出だした気持ちを抑えることが出来なかった。
    リヴァイがペトラを見つめ、自らもシャツを脱ぎながら

    「なんだ…その目は…優しくしてとでも言っているのか?」

    いつもの冷たい口調でペトラがその身を硬直させると、
    リヴァイもそれを感じていた。

    「バカか…俺は充分、優しい」

    「もう、兵長…!」

    ペトラが安心して再びその潤んだ眼差しをリヴァイに注ぐと
    リヴァイはその身体を覆っていたペトラのシャツを払った。
  74. 86 : : 2013/11/01(金) 22:08:58
    「ほぉ…」

    ペトラはリヴァに全身のありのままの姿を見られると
    恥ずかしさでただ頬を赤く染め、
    そしてそ両手で全身を隠すと、
    身体をくねらすことしか出来なかった。

    「大人しくしろ…」

    リヴァイはペトラの両手首を強く掴むと
    その上に押しやりそして
    おでこ、両頬、鼻、そして唇に
    くすぐったいようなキスをしながら、
    その掴んでいた手首への力をを緩めていった。
    ペトラはそのくすぐったさで身体の緊張感が
    解けていくのを感じていた。
    リヴァイはペトラのその敏感であろうその『一ヶ所』を
    愛おしそうに唇を押し当て潤わせ、もう一方には
    大事なものに触れるように手を添えていると、
    ペトラの息遣いは荒くもその口は一文字にしていた。

    「ペトラ…どうした…?」

    「だって…今まで感じたことのない感触と感覚が…」

    ペトラは苦しそうに身体を再び硬直させ
    その手は毛布をギュッと握っていた。

    「ほう…そうか…」

    リヴァイはペトラのその声を聞くと自ら
    ペトラの腿の間に自分の膝を入れ『その場所』が
    あらわにする状態にした。

    「え…えーっ!」

    ペトラが恥ずかしさと驚きの声を上げると
    リヴァイの優しい手が身体を伝い
    そして『その場所』に到達した。
  75. 87 : : 2013/11/01(金) 22:09:29
    「どういうことだ…これは?」

    リヴァイがいつもの冷たくとも
    熱のこもった声でペトラにささやき
    そして潤ったその場所を優しく触れていた。

    「だって…兵長が…さっきから…あ…ん」

    ペトラは身体の芯からの
    火照りと潤いを感じると
    その唇から声にならない声と
    甘く苦しそうな息をもらした。

    「ペトラ…その声が聞きたかった…」

    「…もう…」

    ペトラはただ潤んだ瞳で
    リヴァイを見つめることしか出来なかった。
    そしてその潤んだ芯をリヴァイが器用に
    何度も触れると
    ペトラのその顔はさらに紅潮させ、
    面白いくらいの反応を見せた。
    そのことをリヴァイが感じると

    「ペトラ…ここが好きなんだな…」

    「いやん…兵長…そんな…あ…」

    ペトラは全身をくねらせ
    リヴァイがしてくれることを
    その身体全体で感じていた。
    そしてペトラがリヴァイを受け入れると
    『ただ痛いだけ』と聞いたことがあったのに
    その潤いが手伝ってか、
    ただ身体に何かが入ってくるという違和感を
    感じるものの耐えられない『痛み』ではなった。

    「あ…ん…へいちょ…ん」

    ペトラは声にならない、ほとんどが吐息交じりのその声を
    リヴァイの耳元でどんなにささやいても
    彼は波打つ『その動き』をやめることはなかった。
    そして始めは口を一文字にして耐えていたはずなのに
    徐々にペトラのリヴァイに何度もキスされ赤く火照ったその唇から
    甘いささやきと共に気持ちをさらけだし、
    自分のすることに素直に反応する
    ペトラがかわいくてたまらなかった。
    甘く切ないその声はその納屋の中では響いているが
    まだまだ続く大雨の雨音の影響で
    もちろん外に漏れることはなかった。
  76. 88 : : 2013/11/01(金) 22:10:08
    そしてそのひと時を終えると、
    リヴァイはペトラの肩を抱いて、
    二人は横になっていた。

    「兵長…すごい…さすが、世界最強…!」

    ペトラがイタズラっぽく言うと微笑み
    身体をさらにリヴァイにくっつけた。

    「バカいえ…」

    リヴァイは冷たく言い放つと
    その手に力が入った。

    「兵長…さっき私が『怖い』と言ったのは…
    幸せすぎて怖かったんです…
    この時間があとどれだけ続くかと思うと…」

    ペトラは調査兵として
    そして次回の壁外調査のことを想像すると、
    リヴァイに寄り添うことしかできなかった。

    「おまえはバカか…俺が死なせはしない」

    リヴァイがペトラの肩を抱く力がさらに力が入った。
    その納屋の屋根を打つ雨音がだんだんと小さくなり
    雨が止み始めたと二人は気づいた。
    ペトラが窓の外を何気なく見ると

    「あれ…あの星は…?」

    ペトラが窓際に立ちながらその星を眺めると
    リヴァイもペトラを後ろから抱きしめていた。
    そしてその星を見上げながら

    「幼い頃、友達とみんなで
    『星が三角作ってるね』なんて
    言いながら見上げていたんですよ」
  77. 89 : : 2013/11/01(金) 22:10:44
    リヴァイもその星を見上げると、
    輝かしい3つの星が輝いて
    二等辺三角形の形を作っていた。
    それは後に『夏の大三角形』と呼ばれる
    星同士を線で結んだような星群である。

    「あの三角の頂点が星が兵長で、
    私たちはその後ろで…
    まるで私たちを兵長が率いているみたい…
    もちろん、みんなで光り輝きながら!」

    ペトラが指差した三角形の頂点の星は
    アルタイルというわし座の星で、
    その二等辺三角形の中でも
    先頭を切っているようにも見える星だ。

    「あぁ…そういう感じにも見えるな…」

    リヴァイはペトラを優しく抱きしめながら、
    こんなに穏やかな時間を過ごすのは
    調査兵団に所属してほぼ初めてで、
    この時間を愛しむようにその星を一緒に眺めていた。

    ・・・三角か…オルオもペトラを…誰が渡すか…!

    リヴァイはオルオ・ボザドもペトラに気があることに
    気づいていて、星を眺めていると『三角関係』と想像させ、
    抱きしめる力に思わず力が入った。

    「へ、兵長…痛いです…」

    「あぁ…」

    リヴァイは力を緩めると夜空の周囲から
    白々と明るくなるのを見つけ、

    「ペトラ、雨も止んだし、そろそろ夜が明けるだろう。
    明るくなると同時に帰るぞ!」

    「はい!」

    ペトラは身なりを整えそして、何事もなかったように
    その納屋を片付けると、朝日が雲の合間から見え隠れし始めた。
    そして一晩中、大人しく待っていた愛馬を撫でると
    リヴァイを先頭にそのまま古城である急調査兵団本部へ向かった。
    ペトラは静かにそーっと部屋に戻ったが、
    リヴァイは『何も悪いことはしていない』と言いたげに堂々と自室に
    戻っていった。
  78. 90 : : 2013/11/01(金) 22:11:14
    そしてペトラはひと眠りした後、
    その日も行われる訓練の前に兵士専用の
    シャワールームで汗を流していると、その身体に触れながら
    リヴァイが残していった『その感触』を感じていた。

    「兵長…素敵だった…後悔なんてない…」

    ペトラは幸せを噛み締めながら、
    訓練のため再び身なりを整えると、訓練場に向かった。
    先に訓練場に到着していたオルオ・ボザドがペトラを見つけると

    「こら、ペトラ!おせーぞ!
    もうすぐ壁外調査なのに何たるんでるんだ!」

    ペトラは特に時間に遅れてもいないが、
    意味なく怒鳴りつけた。
    しかし、ぺトラは意に介さず、

    「ごめん、ごめん!今日も元気にはじめるよー!」

    ペトラは笑顔でそのオルオの態度をかわしていた。

    ・・・いつものペトラなら、歯向かいながら返事するのになぜだ…?

    そして後からやってきたリヴァイを見つけ、
    オルオが睨みつけると、さらに眼力強くリヴァも鋭い
    眼差しを送っていた。

    「オルオさんとリヴァイ兵長…何かあったのでしょうか…?」

    その二人を見ていたエレン・イェーガーは
    隣にいたエルド・ジンと話しかけると、

    「あぁ…兵長を睨みつけるとは…」

    面食らったようにオルオを見ていた。
    そして近くにいたグンタ・シュルツも

    「…いい根性してるな、オルオは…」

    目を丸々とさせて二人を見ていた。
    そして三名はオルオとリヴァイが花火を散らしているような視線を
    送りあっているのを様子を目の当たりにすると
    引き気味になっていた。
  79. 98 : : 2013/11/02(土) 22:30:38
    ⑪壁外調査、前夜の戦い

    ペトラ・ラルとリヴァイが初めての夜を過ごした翌日から、
    オルオ・ボザドは訓練中はいつも通り何事もないように
    リヴァイと接しているが、訓練の前後はお互いに
    睨みあうということが度々あった。
    もちろん、オルオはリヴァイのことは尊敬しているが、
    ペトラとのこととなると『それは別』という気持ちでいた。
    翌日の壁外調査を控えた特別作戦班のリヴァイ班は特に
    馬で長距離を掛ける訓練を念入りに最終調整すると
    体力温存のためにその日は早めに切り上げることになった。
    オルオは訓練中、自分の感情は抑えていたために
    問題なく調整は終了していた。
    そしてエルド・ジンの提案でリヴァイ班で食事をすることになった。
    訓練が終ったのが夕方のため、皆で夕食を囲むことになったが、
    リヴァイだけは団長であるエルヴィン・スミスに呼ばれ
    調査兵団本部での会議に出席するために欠席となった。

    「ペトラ!今回の壁外調査は、まぁ…馬で長距離を掛けるけど、
    そのとき平地で巨人を見つけたら、俺たち二人の名コンビの
    お披露目といこうじゃないか!」
  80. 99 : : 2013/11/02(土) 22:31:23
    オルオはリヴァイがいないことをいいことにペトラの隣に座ると、
    彼女の背中をバンバン叩いては楽しげに話していた。

    「わかった、わかったよ!そんなに叩かないで!
    見せてやろうじゃないのー!」

    ペトラも元気よく応えるも
    『オルオはなぜか兵長がいないと私に触ってくる…?』と
    最近のオルオとリヴァイの関係に何かあると薄々感じていた。
    そして食事が終わり、皆でコーヒーを飲んでいると、
    グンタ・シュルツが話を切り出した。

    「…なぁ、オルオ…最近、おまえとリヴァイ兵長何かあるのか?
    睨み合っていることが多いぞ…?」

    グンタは
    『ペトラとリヴァイが仲がいいのをオルオがよく思っていない』
    というのを勘付いていて、それをどうにか抑えないと、
    作戦遂行に支障が出かねないかと心配していた。
    その為にエルドに相談すると今回の食事会をすることを提案し
    オルオの話を聞こうという運びとなった。
    また『リヴァイの前では本音を話さないだろう』と
    予想していたためにリヴァイの欠席も想定の範囲内だった。

    「何のことだ?グンタ…!俺はリヴァイ兵長を尊敬しているんだぞ!
    睨んでねーよ!憧れの眼差しを注いでいるだけだよ!」

    明るく答えるもその視線の先にはペトラがいた。
    その視線に気づいたペトラは

    「もう~!オルオったら、兵長を睨むって、
    勝てるわけないじゃない…!
    何ってたって人類最強って言われているんだから!」

    いつもの通り明るく答えていた。
    しかし、特にペトラからのその答えを聞いたオルオは

    「兵長には勝てない…か…そりゃ、そうだ…」

    肩を落としたように応えると、目の前のコーヒーをゆっくりとすすった。
    その様子を見ていたエルドとグンタはオルオはペトラのことを
    本気で好きなんだと感じていた。
    この『兵長には勝てない』というのは、調査兵としての実力だけでなく、
    ペトラに対して男としてもリヴァイの前では『勝てない』という意味で
    オルオは肩を落としていた。
  81. 100 : : 2013/11/02(土) 22:32:05
    ・・・俺…明日の大事な日の前に何してるだろ…

    オルオは冷静になると、
    今は『自分の感情に振り回されている時じゃない』と改めて思うと
    またペトラに話し出した。

    「ペトラ、俺たちは訓練兵から長い付き合いだし、
    ホントにいいコンビだと思っている。
    明日はとにかく…俺の足を引っ張るじゃねーぞ!」

    オルオはいつもの嫌味っぽい調子でペトラに
    右手を挙げ、ハイタッチを求めると、
    ペトラは思いっきり叩いて返事をした。

    「足を引っ張るのはどっちよ??また舌でも噛んで
    みんなに迷惑かけないでよね!」

    リヴァイ班は笑いに包まれていたが
    翌日の初めての壁外調査に挑むエレン・イェーガーは

    ・・・この班に入れてよかった…でも、
    リヴァイ兵長がいないのはちょっと寂しいかも…

    皆と一緒に笑顔になりその楽しげな光景を眺めていた。
    グンタは『オルオは何とか気持ちを切り替えられるだろう』と
    その楽しそうなオルオの姿を見ると、
    食事会を始めた最初に比べると朗らかな様子で
    安堵しては胸を撫で下ろしていた。
    その『宴』は翌日の壁外調査の為にと
    早めに切り上げることになった。
    ペトラが皆の食器を片付けていると
  82. 101 : : 2013/11/02(土) 22:32:38
    「俺手伝います!やっぱり下っ端の俺が…!」

    「いいよ!エレン!明日は初めての壁外調査なんだから
    体力温存しなきゃ!私がやるから、早く寝なさい!」

    ペトラがエレンに優しく諭して早寝を促した。

    「いいか、ガキんちょ!壁外調査というのはな…」

    またオルオが先輩風を吹かそうとしたために

    「ちょうどよかった!オルオ、手伝ってよ!
    オルオが手伝うから、エレンはもう休みなさい!」

    「わかりました…オルオさん、お願いします…」

    ペトラはオルオの態度を見ると、話が長くなりそうと
    察したためにペトラの言うことを聞くことにした。

    「まったく、ペトラはエレンに甘いんだから…」

    「いいじゃない!まだまだエレンは子供なんだから、
    明日はどんな目に遭うかわからないんだから、
    優しくしなきゃいけないときは、ちゃんと優しくしないとね…」

    ・・・ペトラは相変わらず優しいな…

    オルオはペトラの優しさを目の当たりにすると、
    『感情』にまた振り回されそうで、
    気持ちを抑えることに徹していた。
    そして二人してキッチンで
    食器を洗っているとペトラから話し出した。
  83. 102 : : 2013/11/02(土) 22:33:27
    「オルオ、優しいって言えばさ…前回の壁外調査で
    私が命を落とした兵士を姿を整えていた時あったでしょ?」

    「あぁ…あのとき、驚いたよ、壁外でペトラ一人だもんな…」

    「そう、あの兵士を運ぼうとしたとき、彼の血で濡れた顔、
    最後に拭いてあげたでしょ?」

    「あぁ…そういえばそういうこともあったな…さすがに最後の顔は
    キレイにしてあげたいだろう?」

    「そう!それよ…!オルオもそういう優しさあるんだ!
    って思って見直したよ!だからさ、嫌味っぽいところよりも
    優しさもみんなに振りまいてよ!」

    ペトラは食器を洗いながらオルオにその笑顔を向けると
    オルオが『感情』を抑えが効かないことに気づいた。
    この気持ちはリヴァイには勝てない、というよりも
    『負けたくない』という気持ちが強くなっていた。
    そしてちょうどそのとき、リヴァイが会議から戻り自室に戻る途中
    キッチンに明かりがついていたため、ペトラがいると思い近づくと、
    そこにオルオと二人で何やら話しているとわかった。
    気づかれないように隠れて聞き耳を立てていた。舌打ちしては

    ・・・あの二人…何話してやがる…?

    リヴァイの鋭い眼差しはオルオに向いていた。

    「なぁ…ペトラ…この壁外調査が終ったら…おまえどうする?」

    オルオはペトラに意を決して話し出した。

    「もちろん、リヴァイ班は続くだろうし、今まで通りだよ。どうして?」

    ペトラは淡々と応えるが、
    オルオは息を飲んで話を続けた。

    「やはり、この仕事は危険すぎる…。それは承知の上だけど、
    いつ命を落としてもおかしくない。だから、
    壁外調査が終われば俺は残るけど、
    おまえは訓練兵団に転属しろよ。
    エレンと接するペトラを見ていたら、
    教官に向いていると思ったよ」

    「もう…オルオは何考えてるの?私は人類に心臓を捧げると誓ったのよ!」

    ペトラは明るくただ答えオルオの話に耳を傾け、

    「やっぱり、俺はおまえを失うようなことがあったら、耐えられない…だから」

    「…だから?」

    話半分という感じで耳を傾けている状態だった。
  84. 103 : : 2013/11/02(土) 22:34:15
    「ペトラ、その…壁外から帰ってきたら、俺たち結婚しよう!
    だから、おまえは訓練兵団で頑張れ、俺はここで頑張るから…!」

    「…結婚??」

    突然のプロポーズに驚いたペトラは
    持っていた皿を落としそうになったが、
    それをオルオが見事にキャッチした。

    ・・・結婚だと…?

    リヴァイはオルオがペトラにプロポーズした瞬間、
    殺気だった視線をオルオに送ると、その視線は勘付かれていた。

    ・・・リヴァイ兵長…この近くにいるな…

    「ペトラ!危ないよ!皿落としちゃ!
    歯形以外にもまた手を傷つけてどうするんだ!」

    「ごめん!ごめん。突然のことだから、驚いて…!」

    ペトラは笑顔でまたその皿をオルオから受取ると
    今度はペトラが話そうとするが、

    「オルオ…私は…」

    「返事はまだいいよ!壁外調査から帰ってからで!」

    オルオは断れるのは目に見えていたが、
    すぐに断られるのはさすがに耐え切れなかった。
    ただ、オルオは自分の気持ちを伝えたかっただけで、
    これが最初で最後のチャンスかもしれない、と何となく感じていて
    それがペトラへの告白がプロポーズになっていた。
    ペトラはオルオの決死のプロポーズの後もいつもの通り明るく接して

    「オルオ!あとは私が片付けるから、もう先に休んでてよ!
    あともう少しだから、大丈夫よ!ありがとう」

    「あぁ、わかった…なんか、ごめんな。突然…それじゃ、おやすみ…」

    「おやすみなさい…」

    ペトラはオルオを笑顔でキッチンから送り出すと、
    最後の食器を棚に戻す一仕事に取り掛かっていた。
  85. 104 : : 2013/11/02(土) 22:34:55
    ・・・オルオが私にプロポーズとは…だけど…私には兵長が…。
    それに私は誰とも結婚しない…だって、
    調査兵として命を捧げると誓ったから…
    ごめんね、オルオ…

    オルオがキッチンを出た瞬間、
    松明で灯っているが暗がりの古城の廊下で

    「オルオ…」

    冷たく怒りのこもった小声で
    その名前を呼んだのはリヴァイだった。
    そしてオルオもその声の元に振り返ると

    「リヴァイ兵長…聞いてましたよね…?今の会話」

    「あぁ…」

    「兵長、俺はあなたのことを調査兵として尊敬しています。
    もちろん、明日の壁外調査もどんな指示もすべて従います…」

    「当然だ…」

    リヴァイは冷たい視線を送りながらオルオに返事をしていた。

    「ただ…ペトラへの気持ちは負けません…!」

    オルオはリヴァイを睨みつけながら
    ペトラへの思いを伝えた。

    リヴァイは舌打ちして

    「ペトラは…」

    その暗がりから足音が近づいてくるのが聞こえると、

    「誰かいるの…?」

    キッチンでの一仕事終えて、
    自室に戻る途中のペトラの声だった。
  86. 105 : : 2013/11/02(土) 22:35:55
    「兵長…続きは壁外調査から帰ってからで…。
    俺は…負けませんから」

    「わかった…」

    二人は小声で話すとペトラに気づかれないように
    そっと自室に戻っていった。

    ・・・兵長がいると思ったけど、気のせいか…

    ペトラは人の気配が、しかもリヴァイが近くにいるかと
    思ったが誰もいないため首をかしげると
    そのまま部屋に戻るとことにした。

    「疲れた…明日も早いし、シャワー入ろう…」

    部屋に戻り、一息つくとすぐさま着替えを用意して、
    兵士専用のシャワールームで汗を流した後に
    静かに後ろからついて来て
    一緒にペトラの自室に入ってきたのはリヴァイだった。

    「へ、兵長…?どうして…?」

    「あぁ…ちょっとな…」

    リヴァイはペトラのオルオのプロポーズの返事が気になって
    突然、彼女の部屋にやってきたまでだった。

    ・・・俺がなんで、無様な行動を…

    舌打ちすると、ペトラが

    「兵長…何かありましたか?」

    ペトラが自分に対して真剣な眼差しが注がれるのに
    リヴァイは気づくと

    ・・・オルオのペトラへのプロポーズの返事を
    何で俺がペトラから聞かなければいけないんだ…バカらしい

    ペトラを目の前にすると、それはどうでもよくなっていた。
    そしてペトラの手を引き寄せ強く抱きしめた。
  87. 106 : : 2013/11/02(土) 22:36:33
    「髪濡れてるじゃねーか…風邪引くぞ、ちゃんと乾かせ」

    「はい、兵長…」

    ・・・オルオめ…壁外から帰ったら、覚えておけ…

    「もう…兵長、痛い…」

    リヴァイは思わず強く力が入るが、一旦離して
    ペトラをもう一度の姿を見ると

    「…ほう…おまえはこういう格好で寝るのか…」

    「は、はい…」

    ペトラは膝がかくれる位のゆったりとした
    長袖での前開きの白いワンピースのような部屋着の姿を
    リヴァイに見せていた。
    制服以外の姿をリヴァイに見せるのは
    初めてのためにペトラの胸の鼓動は
    また止められなくなっていた。

    「悪くない…この姿は俺の許可なく誰にも見せるな…
    まぁ…許可しないが…」

    リヴァイは冷たくも熱がこもった声で言いながら
    ペトラをまた抱き寄せ頬に手を当てると
    その唇にそっとキスをした。
  88. 107 : : 2013/11/02(土) 22:37:36
    ・・・兵長…私は兵長だけ…

    リヴァイがペトラに触れる度、
    その気持ちは強くなるばかりだった。

    「明日も早いからもう寝るぞ…」

    リヴァイはペトラの部屋から出ようと
    そのドアノブに手を掛けたその瞬間。
    ペトラは急に理由もなく
    リヴァイの制服の背中の自由の翼が
    遠くに行ってしまう感覚がしてくると、

    「兵長…!イヤーー!!」

    咄嗟に思いつめたようにリヴァイを呼び止め
    ペトラは後ろから引き止めるように抱きしめた。

    「おい、ペトラ…!」

    ・・・こいつ、今まで自ら抱きつくとかしたことないのに…?
    まさか、明日の『極秘作戦』に勘付いた…?

    リヴァイは振り返りペトラを抱きしめながら
    そして青ざめたような複雑な表情を見ると

    「おまえを…死なせはしない…
    何度も言わせるな…わかったか?」

    「…はい、兵長…」

    リヴァイは冷たくも熱のこもった声でペトラに言い放つと、
    涙を浮かべたペトラの表情を見ると後ろ髪を
    引かれる思いを振り切り、ドアを閉め自室に戻った。
    ペトラは部屋で一人になると

    「なぜだろ…この変な感覚は…
    明日は大丈夫だろうか…緊張してるのかな…」

    ペトラは突然、訳もなく胸騒ぎに襲われると
    しばらく落ち着かなくなったが
    何度か深呼吸をしていると、
    だんだん落ち着いてきた。
    そしてその日の疲れも手伝い、眠りに落ちた。
  89. 110 : : 2013/11/03(日) 22:22:08
    ⑫第57回壁外調査へ

    調査兵団団長のエルヴィン・スミスの怒号と共に
    調査兵団の兵士たちと
    エレン・イェーガーを始めとした新兵の104期の皆は
    緊張の面持ちで壁外を出発した。

    「…進めーーー!」

    エルヴィンが団長に就任してから
    この2回目の壁外調査の怒号は
    自らの命を削っているような叫び声にも聞こえた。

    「オルオさん、俺の同期は大丈夫ですかね…?」

    「何いってんだてめー!この一ヶ月何やって…うおおっ…!」

    壁外へ出た直後、エレンは
    同期の104期の皆とは別に訓練をしていたため
    心配でオルオ・ボサドに声を掛けたのはいいが、
    そのときに舌を噛んでしまい、
    エレンは余計なことを聞いてしまったと後悔していた。

    ・・・オルオのヤツ…また舌噛んで…

    ペトラ・ラルはエレンとオルオとの
    やり取りを一度は横目にするも
    その後は正面を見据えていた。
    そして昨日、リヴァイが自室から帰ろうとした直後に
    感じた胸騒ぎもすでに治まっていた為に特に気にしてなかった。

    ・・・昨晩の胸騒ぎ…まぁ、今は何も感じないからいいけど…

    ペトラは前方を走るリヴァイを心配しつつも、
    作戦に集中することに努めていた。
    特別作戦班であるリヴァイ班は
    エルヴィン考案の作戦である
    長距離索敵陣形の後列中央待機のため、
    最前線の班に比べると
    今回の壁外調査の過酷さを目の当たりにするには
    少し時間がかかっていた。
    そして壁外へ出てわずかな時間しか経ってないのにも関わらず、
    リヴァイ班の元へ右翼側から最新の陣形の情報を伝えるため
    兵士がリヴァイの元へ慌てて駆け寄ってきた。
  90. 111 : : 2013/11/03(日) 22:22:36
    「…口頭伝達です…右翼側索敵壊滅!…左翼側に伝えてください!」

    この伝達を聞いたリヴァイは即座にペトラに命令すると、
    そのまま左翼側に向かい駆け出した。

    ・・・なんて様だ…

    リヴァイは予想以上にも早く陣形に巨人が
    入り込んでいることに懸念し眉間にシワを寄せていた。

    ・・・右翼側が壊滅って…

    不安を振り切りながら、
    ペトラは左翼側へ急ぎ向かって駆けていた。
    そして中央に位置する荷馬車護衛班からも
    『このまま進むって団長は何を考えているのだ?』と誰もが
    疑問に感じながらも進路を示す緑の信煙弾の方向へ
    調査兵団の兵士たちは進むだけだった。
    そして疑問の先には『巨大樹の森』が待ち受けていた。
    後列中央に位置するリヴァイ班は
    そのまま森の中へ中へと駆け出していくとその右後方から
    奇行種発見の黒の信煙弾が上がると

    「…何かが近づいてきている…!」

    エレンは奇行種でも、得たいの知れない
    何かが近づいていることを察すると、
    その胸の鼓動を止められないだけだった。
    そして増援の兵士が立体起動でその後方で飛びだった瞬間、
    『女型の巨人』が大きな地鳴りのような振動と共に飛び出してくると
    瞬く間に軽く手叩きをするように兵士の命を奪った。

    ・・・何?この巨人は…?

    ペトラは初め全身筋肉がむき出しのような
    見た目が女の形の巨人が自分たちを全力疾走で
    追いかけてくるのを目の当たりにすると、
    ただ目を丸くして呆然とするだけだった。
  91. 112 : : 2013/11/03(日) 22:23:10
    「兵長!立体起動に移りましょう!」

    即、リヴァイに叫ぶとエルド・ジンやグンタ・シュルツも
    同様に立体起動への移るよう指示を仰いだ。
    しかし、リヴァイは冷静に音響弾を上空目掛け打ち上げると

    「おまえらの仕事は何だ?
    その時々の感情にまかせるだけか?
    そうじゃなかったはずだ。
    …この班の使命は、そこのクソガキに
    キズ一つ付けないよう尽くすことだ…命の限り…」

    エレンはそのとき
    リヴァイ班が自分を『監視』するのではなく
    『守る』ためにあると初めて気がついた。

    ・・・兵長…私たちはエレンを命の限り守るけど…
    そうすると、あなたは何から守られる…?

    ペトラはエレンを守ることに徹すると同時にリヴァイの
    行く先も不安になっていた。どうして前を向いていられるのだろう、
    この先に昨晩の胸騒ぎの結果が待っていないか、不安を感じながら。
    そしてリヴァイ班は女型の巨人の脅威から振り切るように
    前を進むだけしか許されない中、エレンは巨人に変身し戦う目的で
    自分の手を噛み切り自傷行為をしようとした瞬間、
    ペトラは止めに入った。

    「私たちを信じて…」

    ・・・エレン、お願い…私たちを…

    ペトラは嘆願するがごとく、強い眼差しを送ると
    リヴァイに『結果は誰にもわからない、やりたきゃやれ』と
    言われながらも、エレンは前を進むこと選択した。
  92. 113 : : 2013/11/03(日) 22:23:41
    ・・・エレン、ありがとう…!

    ペトラはホッとした眼差しをエレンに向けると
    一心に先を目指すリヴァイの背中も見つめていた。

    ・・・『結果』は確かに誰にもわからない…その先に何があるの?
    多くの兵の命を犠牲にして進む前には何があるの…?

    まさにその時だった。

    「撃てーーー!」

    あるポイントに差し掛かった瞬間、エルヴィンの怒号が響くと
    女型巨人を生け捕りにするために無数のワイヤー弾が
    その巨体に目掛け撃たれた。

    ・・・え…?何?

    ペトラが振り返ると、女型の巨人が身動き出来ない状態で
    リヴァイ班を目の前に立ち尽くしている様子だった。
    その身体には無数のワイヤーに繋がれた刃に刺されながら。
    多くの兵士たちをいとも簡単に死に追いやった女型の巨人の
    生け捕りに成功していたのだった。
    先頭のリヴァイが班に命令を下し、

    「後の指揮はエルドに任せた。エレンを森の奥に隠せ」

    そしてエルヴィンと合流するために
    すばやく立体起動で馬上から飛び立ち自分の班を後にした。

    「わかったかー!これが調査兵団の実力だ!」

    オルオはエレンに向かって意気揚々と怒鳴りつけると

    「はい!」

    エレンはその得意げなオルオの表情に自分の選択は
    正しかったと言いたげな笑顔でリヴァイ班の面々を
    見つめていた。

    ・・・兵長…こういうことだったのね…エレンは私たちにまかせて

    ペトラもエレンに得意げな眼差しで見つめると、
    森の奥へ進み巨木の頂上付近で身を隠すことにした。
    そしてエレンが『女型の生け捕り作戦』が極秘であったことは
    どうしてリヴァイは班員に明かさなかったか、という話をしたとき

    ・・・兵長は私は…信用してなかったの?

    咄嗟にペトラは思ったが
    振り返ってみるとリヴァイは二人っきりのとき、
    会議の話をしたとき、何かごもったことを思い出した。
    極秘作戦だから、信用するもしないも、
    一切口外しないことを徹底していたのだろうとペトラは考えることにした。
    そして木々の頂上の合間から撤退命令の信煙弾が上がるのを発見すると、
    班員たちは撤退の準備にかかっていた。
  93. 114 : : 2013/11/03(日) 22:24:10
    「エレンが正しい選択をしたから、今があるんだよ!」

    ペトラは笑顔でエレンに話しかけると、オルオも相変わらず
    先輩風を吹かせていた。

    ・・・オルオは相変わらず…今回も私たちのコンビの力を
    発揮できなかったけど、また次回だね…

    ペトラは二人のやり取りを笑顔で見守るだけだった。
    そして班員で立体起動で飛び出すと、
    馬が待っているその場所を目指した。
    エルドがペトラとオルオの初めての壁外調査で
    『失態を演じた』ことをエレンにバラすとペトラは真っ赤になった。

    「威厳とかなくなったらどうするんだよ!」

    ペトラは忘れたい過去を晒され
    感情むき出しにエルドに怒りをぶつけると、
    その様子を見ていたグンタも怒り出した。

    「いい加減にしろ!ここは壁外だ!
    ピクニンクに来てるんじゃないんだ!後は帰ってからにしろ!」

    ・・・帰ってからか…兵長にも落ち着いたらまた会えるかな…

    作戦終了の開放感からか、ペトラはリヴァイのことが頭によぎった。
    そしてその時、リヴァイからの合流の合図であろう
    信煙弾が上空に上がったことを発見すると
    グンタも現在地を知らせる信煙弾を上空目掛け打ち上げた。
    また皆で立体起動で前に進んでると、調査兵の制服を着た
    リヴァイらしき人物が自由の翼のフードをなびかせ、近づいてきた瞬間、

    「リヴァイ兵長…?いや、違う!だれだ!?」

    その者にグンタは巨人を討伐するはずの刃で瞬殺されてしまった。
    あっという間の出来事でエレンだけが驚きうろたえていると、
    他の3人には作戦の本質は根付いていた。
  94. 115 : : 2013/11/03(日) 22:24:34
    「エレン、進め!」

    オルオはエレンの首根っこを掴むとそのまま空中に放り投げ
    前に進むよう命令した。

    ・・・グンタ…ごめん。私たちは前に進むから…!

    ペトラは心の中でグンタに謝りながらも、
    前に進むことだけに集中していた。
    そしてペトラはリヴァイから指揮を託されたエルドに指示を仰ぐと

    「エレン、おまえは全速力で本部へ向かえ!」

    エレンは3人を信じて本部へ向かうべきか
    戸惑い、うろたえてしまう。

    「かかってこい!刺し違えてでも倒す!」

    ペトラはグンタの恨みでも晴らすように全身で
    その新たな敵に向かいその怒りをぶつけた。
    すると突然爆発音と共に出現したのは女型の巨人だった。
    エレンも戦い挑もうとするが、3人の強い闘志を信じて
    再び前へ前へ進むことを決心した。
    ペトラとオルオが女型の巨人の両目を傷つけ
    1分間の暗黒の闇を与えたつもりだった。
    その間に肩周りの筋肉を削ぎ、そして
    エルドが首筋に向かって刃を入れようとした瞬間、
    女型の巨人が片目を開けると、
    その身体は女型の口に含まれると噛み砕かれ、
    地上へ目掛け真っ逆さまに落とされてしまった。
    片目だけを『優先して』治癒し、
    首筋に迫ってくるエルドを狙っていたのだった。
  95. 116 : : 2013/11/03(日) 22:25:17
    「なんでよ?そんなことが出来るわけがない…!」

    ペトラはエルドが地上に落ちゆく姿に戸惑い、
    体勢を崩したその隙を狙われると
    その身体ごと大木目掛け足蹴りにされてしまった。
    愛するリヴァイのことを
    その最期は思い出すことさえ許されなかった。
    そしてその一瞬を目の当たりにしてしまったオルオは
    沸々と煮えたぎる憎しみや震える気持ちを抑え付け、
    自分の大切なペトラの命を奪った
    女型の巨人のうなじ目掛け

    「おい…死ね…!」

    静かな激高の刃の一筋を入れたつもりだったが…
    その女型の巨人の硬化能力でうなじは守られてしまった。
    オルオは粉々に砕ける刃を目を見開き見つめながら

    「なぜだ…刃が通らねぇ…」

    オルオの煮えたぎる気持ちも虚しく
    女型の巨人に足蹴にされ命を落としてしまった。
    ほぼ一分足らずの間に女型の巨人は
    巨人殺しの達人のリヴァイ班を壊滅に追い込んだ。
    すべてを目の当たりにして怒りの沸点に達したエレンは
    巨人に変身して女型の巨人に挑むことを選ぶ。
    そこへは愛するペトラを始め
    班の皆の最期の姿がそこにあるとは知らず
    リヴァイが向かっていた。
  96. 119 : : 2013/11/04(月) 22:17:43
    ⑬無

    リヴァイはエルヴィン・スミスから命じられ
    『極秘作戦』である女型巨人の捕獲に
    失敗したにも関わらず、刃とガスの補充をし、
    自分の班である特別作戦班と合流するために
    立体起動で巨大樹の森の空(くう)を移動していた。
    エレン・イェーガーが巨人化したと思われる
    雄たけびをリヴァイが聞いたとき、リヴァイは嫌な胸騒ぎがした。

    ・・・なんなんだ…この胸騒ぎは…昨晩のペトラのあれは…

    リヴァイがペトラ・ラルの部屋で突然自分を引き止めるように
    彼女が後ろから抱きついてくることを思い出していた。
    そして途中で精鋭であるグンタ・シュルツの最期を横目に移動すると、
    リヴァイは頭の中で最悪な状況を思い浮かべるしかなかった。
    そして巨人がしたであろう殺戮のあとの先にある
    エルド・ジン、そしてオルオ・ボサドが最期の姿を見つけたときだった。
  97. 120 : : 2013/11/04(月) 22:18:42
    ・・・オルオ…俺に勝負を挑むだけでなんだ、この様は…
    …俺は棄権を認めてないが…?
    おまえは…男として最大のライバルだったよ、オルオよ…

    リヴァイは自分に勝負を挑むだけで、そのまま逝ってしまった
    オルオを目の前にしてもすぐ視線を落とし、
    その最期は直視できなかった。
    そして愛するペトラ・ラルのその血に染まった顔を見つけたとき、
    どんな言葉も感情もその心には沸かなかった。
    リヴァイはいつも自分に笑顔を向けてくれた
    ペトラの最期がその目に映っても信じる信じないも
    ただその姿を目にするしかなかった。
    そしてリヴァイは何の感情もわかないまま、
    巨人化したエレンの雄たけびの方向へ飛びだっていった。
    途中で女型の巨人に攻撃され、
    無残な姿を晒す巨人化したエレンのうなじから、
    エレン本人の姿がいないことを確認すると、
    その先にはミカサ・アッカーマンが一人で
    女型の巨人に刃を向けている姿を発見した。
    そしてリヴァイは討伐をあきらめ、
    女型の巨人の口に含まれているという
    生きているであろう、エレンにすべての望みをかけ
    ミカサと共に女型の巨人に挑むことにしたのだった。
  98. 121 : : 2013/11/04(月) 22:19:57
    「おまえは巨人の気を引け、俺がヤツを削ぐ…」

    ミカサに命令すると、その目には自分の班員たちを
    死に追いやったうらみを晴らすかのような
    強くも寂しげな炎が灯っていた。

    「速い…!」

    ミカサは自分よりも戦闘力の高いリヴァイを目の前にすると
    驚かされるばかりだった。
    リヴァイはただ無心で女型の巨人の全身を刃で削ぐ。
    その刃の袂には班員たち、特にペトラのことを思うと
    いつも以上に力が入っているようだった。
    そしてミカサが巨人のうなじを狙った瞬間、
    リヴァイは女型の巨人から反撃があると判断し、
    ミカサをかばい窮地を救ったその時、その足には痛みが走った。

    「作戦の本質を見失うな!
    自分の欲求を満たす方が大切なのか?
    おまえの大切な友人だろ…」

    ミカサにそう言い放ったその腕の中には
    女型の巨人から救い出したエレンの姿があった。
    そして二人は動けなくなった女型の巨人から離れると、
    リヴァイは後ろを振り返り、巨人の様子を伺うとその目から
    涙を流しているように見えた。

    ・・・てめーは泣けるのか…?俺は泣きたくても泣けねーんだよ…
  99. 122 : : 2013/11/04(月) 22:20:46
    リヴァイはミカサと共にそのままエルヴィンたちが待っている
    合流地点へ向かうと、
    今回の作戦の過酷さが物語るようにその地には
    命を落とした多くの兵士たちが横たわる姿があちこちで見られた。
    リヴァイは多くの横たわる兵士たちから
    その右手に『歯形』のついた兵士を発見すると、
    制服から『自由の翼のエンブレム』を丁寧に剥ぎ取り
    自分の胸ポケットに入れていた。
    そしてその近くでは遺体は持ち帰れない兵士がいることに憤慨し
    エルヴィンに対して楯突く兵士がいることに気がついた。

    「イヴァンは同郷なんです!せめて連れて帰りたい!」

    ディーターが命を落とした仲間のイヴァンのことで
    懇願している姿はエルヴィンを困惑させている様子だった。

    「遺体がなくても死亡は死亡だ…」

    リヴァイがその懇願に割って入り冷たく言い放った。
    その言葉を聞いたエルヴィンは

    「イヴァンたちは『行方不明』として処理する」

    ディーターに対して冷酷な判断を言い渡すと
    そのまま自分の持ち場に戻っていった。

    「お二人には…人の心がないのですか!?」
  100. 123 : : 2013/11/04(月) 22:22:33
    ディーターはリヴァイとエルヴィンの背中に向かい叫ぶが、
    二次被害を出さず無事に帰還するには
    非情な決断と理解する二人には、
    ただ振り返らずに自分に与えられた帰還の準備に
    取り掛かるしかなかった。
    そして帰還の途中、巨人発見の赤い信煙弾が上がった。
    その先にはディーターがイヴァンの亡骸を背負い馬で駆けながら、
    巨人から逃げている様子だった。
    ディーターの行いも虚しく、巨人からの攻撃を受けるとイヴァンの
    遺体を落としてしまい、自分の命も危ぶまれたその時、
    ミカサに救われたのだった。
    そして、もう一体の巨人が遺体を乗せた荷馬車に迫ろうとしていた時だった。

    「俺がやる…!」

    荷馬車に乗っていた兵士が巨人の討伐に挑む体勢に入ると、
    止めに入ったのは併走してきたリヴァイだった。

    「このままでは追いつかれる…
    遺体を捨ててそのまま逃げ切った方がいい…」

    そのリヴァイの無情な言葉を信じられない気持ちで聞くと
    荷馬車に乗る二人の兵は唖然としてしまった。
    だがすぐに

    「やるしかないだろう…」

    「やるんですか?本当にやるんですか…?」

    一方の兵士が遺体にすがり反対し懇願するが、
    巨人がもう目の前というところまで迫りくると
    やはり非情な決断をするしかなかった。
  101. 124 : : 2013/11/04(月) 22:23:50
    二人は一体ずつ荷馬車から遺体を放り投げると、
    心では『みんな…ごめん』と唱えていた。
    そして三体目の遺体を投げ出したときだった。
    その遺体が空を舞った瞬間、覆っていた布が一部はがれると
    ペトラ・ラルの姿が現れた。
    リヴァイは強い眼力でその一瞬を見逃さず、
    転がりながら遠くへいってしまうペトラを見送るしかなかった。
    そして、ペトラの遺体を捨てたところで荷馬車が軽くなり巨人の駿足から
    振り切ることが出来たのだった。
    再び調査兵団の一行は、壁に向かって前進し続けるが、
    見晴らしがいい草原が広がる場所にたどり着くと
    方角の確認と休憩を兼ねて兵士たちは身体を休めていた。
    そこにはディーターが自分がしてしまったことに
    後悔して呆然としているところにリヴァイがそばに寄ってきた。

    「兵長…俺は…」

    「…イヴァンのものだ。これがヤツの生きた証だ…俺にとってはな…」

    ディーターはリヴァイに申し訳ない気持ちで話そうとしたその時、
    その手に渡されたのはイヴァンのモノという
    『自由の翼のエンブレム』だった。
    そのエンブレムを手にするとディーターは
    『非情な人』だと思っていたリヴァイに対して
    溢れる涙を止めることが出来なかった。
    『嘘も方便』…リヴァイはそのエンブレムを
    『イヴァンのモノ』として渡すことにより
    ディーターのその気持ちが晴れるのなら、
    上官として、そして人としてのすべき最善の行動だろうと判断した。
    エルヴィンを先頭にカラネス区へ通ずる門をくぐるとそこに待っていたのは
    住民たちの罵声や非難の声だった。
    兵士たちはその声を耳にしながらも、惨状を目の当たりにしたばかりのため
    返答も出来ず、その声を聞きながら、調査兵団本部へ向かうしかなかった。
  102. 125 : : 2013/11/04(月) 22:25:45
    ・・・あの顔、誰かに似ている…?

    リヴァイがエルヴィンのそばで力なく歩いていると
    年配の男性が近づいてきて歩調を合わせながら声を掛けてきた。

    「リヴァイ兵長殿!娘が世話になってます、ペトラの父です!」

    その声を聞くとリヴァイが馬の手綱を引く手に力が入った。
    ペトラの父が満面の笑みでリヴァイに話しかけてきたのだった。

    「娘に見つかる前に話したいことがありましてね…!
    娘が手紙をよこしましてね!腕を見込まれて
    あなたに仕えることになったとか!
    あなたにすべてをささげるつもりだとか…!」

    ・・・親父さん…頼む今は…やめてくれ…

    リヴァイはその最期を知らないペトラの父が
    明るく話し掛けることに耳をふさぎたい気持ちになっていた。

    「まぁ、親の気苦労も知らないで『惚気て』いやがるわけですわ!
    まぁ、父親としてはですな、嫁に出すにはまだ若いですし
    これからまだいろんなことが…」

    ペトラの父はまるでリヴァイに娘を嫁がせるつもりだが、
    『今はまだ早いのでしばらく待っていてください』とでも
    言いたげにリヴァイに話しかけていた。
    リヴァイはその父の声をただ無心で聞いて
    正面を見据えるしかなかった。
  103. 126 : : 2013/11/04(月) 22:25:59
    その様子を横目で見ていたエルヴィンもただ今後のすべき対策が
    浮かばず呆然と足取り重く歩むしかなかった。
    今回の壁外調査は女型の巨人の殺戮で
    すべてが始まり終えたような出来事は
    あっという間に短時間に起きていた。
    そしてリヴァイは夕方近い時間になると、
    残務もあったが抜け出すように
    あの丘を目指して愛馬を走らせていた。
  104. 128 : : 2013/11/05(火) 22:33:34
    ⑭ひとり…夕焼けの見える丘で

    エレン・イェーガーを伴う
    第57回の壁外調査が無残に終わり、
    その後の残務処理があるものの
    リヴァイはそこから一人抜け出し、
    命を落とした部下を弔う丘に一人で向かっていた。
    その日も夕焼けが見える時間ではあったが、
    夕焼けの空に雨雲もだんだんと広がり始めていた。
    その夕焼けが見える丘に到着すると
    リヴァイは部下の名前の載った古い手帳を
    手に持っているだけで、
    それ以上は何もせずに愛馬にまたがって
    無心の状態が続いていた。

    「…痛っ…」

    女型の巨人と戦った際、
    左足首をひねってしまいその影響で左足の膝や腿の付け根など、
    時間が経つごとにその痛みが左足全体に広がっていることを
    リヴァイは感じていた。またその左足、特に膝の痛みを感じて
    撫でるときに生きているという実感が沸いていた。
  105. 129 : : 2013/11/05(火) 22:34:07
    「俺…何してるんだ…」

    最愛のペトラ・ラルを失って冷静さを保っているつもりだったが、
    彼女だけでなく、リヴァイ班はエレン・イェーガー以外、すべて失った。
    今まで多くの部下を失ってきたが、今回ばかりは
    思考が停止するほどの衝撃をリヴァイは受けていた。
    そして思い出したようにその手帳を開いていくと、
    いつもの通り部下の名前を弔うために名前を見ていた。
    そして夕暮れ時の空はこの日は茜色よりも曇り影響で
    グレーが多くしめているために一雨きそうな空色をしていた。
    あたりが暗くなり始めたその時、リヴァイが最後のページをめくった。
    そこには新たに追加した『リヴァイ班』の名前が綴られていた。

    「エルド・ジン、グンタ・シュルツ、オルオ・ボザド…ペトラ・ラル…」

    この1ヶ月、一番身近にいた4人の名前を指先でなぞりながら、
    リヴァイはいつもの冷たい口調で口にしても、4人は帰ってこない。
    それでも口にせずにはいられなかった。
  106. 130 : : 2013/11/05(火) 22:34:35
    「ペトラ…約束したのに…すまない」

    『俺が死なせはしない』…リヴァイは何度かペトラに約束したのに
    守ることはできなかった。
    ペトラは生前、リヴァイに笑顔を向けていたはずだが、
    思い浮かぶのは血に濡れた顔とそして荷馬車から転がり
    遠くへ行ってしまう最期の姿ばかりだった。
    そしてまだペトラの死について何も考えられない
    『無』の状態がリヴァイには続いていた。

    「俺は…こんなに弱かったか…?」

    リヴァイは舌打ちをしながら手帳を閉じると胸ポケットに入れ
    隣の誰もいない空間を見ていた。
    そこは何度かペトラが待っていた場所だった。

    「くそ、涙も出やしねー…」

    リヴァイは曇り空を仰いでいると、
    だんだんと雨音が近づいてくるのがわかった。
    そしてリヴァイの元へもカーテンのごとく
    雨が近づいてはリヴァイの頭上を通り過ぎていった。

    「雨か…俺の代わりに泣いてくれるのか…」

    そして無言のままにしばらく雨に濡れていると、
    あたりは暗くなり始めていた。
    その雨の中、リヴァイの元へ馬が駆けてくる足音が
    遠いところから徐々に近づいてくることに気がついた。
  107. 131 : : 2013/11/05(火) 22:34:57
    ・・・ペトラ…?そんなわけない…

    リヴァイがその方向を見ていると
    ランタンの明かりを頼りにそこ場所に近づいてくるのは
    エルヴィン・スミスだった。
    そしてゆっくりエルヴィンが乗った馬が近づくと
    誰にもその弱った姿を見せたくないリヴァイはいつもの
    冷たい表情で彼を睨むことしか出来なかった。

    「エルヴィン、何のようだ…?」

    「リヴァイ、やはり、ここにいたか…
    改めて確実に『女型の巨人』を捕らえる作戦を考える。戻って来い」

    「あぁ…あとで行く…」

    「この暗がりでどうやって戻るんだ?今すぐ戻るぞ」

    力なく気の抜けた弱々しいリヴァイの声を聞いたのは
    エルヴィンは長い付き合いで初めてだった。

    「…ペトラ…のこと考えているのか?」

    リヴァイはペトラの名前を出されると舌打ちして
    エルヴィンを再び睨むが何も言えなかった。

    「調査兵団は…まだまだおまえの力が必要だ、リヴァイ…」

    そしてエルヴィンは息を飲んでまた話し続けた。

    「命を落とした者が遺したものをすべて糧にするのが俺たちの役目だ。
    その中には自分の愛するものもいるだろう…。
    俺たちはすべてを失いながらも
    前に進むことしか許されない…
    おまえもわかっているはずだろう?リヴァイよ」

    リヴァイは気力を失ったその声で言い放った。

    「そうだ…確かにおまえの言う通りだ…俺たちは前を進むしか…道はない」
  108. 132 : : 2013/11/05(火) 22:35:13
    エルヴィンはその返事を聞くと、
    最初に弱ったリヴァイの顔を見たときよりも
    少しは安堵したようだった。

    「それから、この作戦がまとまるまで、数日掛かるだろう。
    おまえはその間、古城でエレンと待機だ。足の治療に専念しろ」

    「あぁ…わかった」

    リヴァイが無気力に返事をする頃には雨は止んでいた。
    そしてエルヴィンを先頭に調査兵団本部へ戻るため
    リヴァイはその後ろを愛馬と共に駆けていた。
    あたりはすっかり暗くなっていて星が見える時間になっていた。
    何気なくリヴァイが空を見上げると、
    星同士を点と線をつなげる『三角形』の形をした星群を上空で見つけた。
  109. 133 : : 2013/11/05(火) 22:35:26
    ・・・あれは…ペトラと一緒に見たっけ…

    リヴァイはペトラの思い出の品は何も残してなかったが、
    輝く星を見上げながら、

    ・・・みんなで一緒に輝こうとか言ってたか…
    この星はペトラが残してくれたようなものだな…

    そしてリヴァイは前で走るエルヴィンの背を見据えた。

    ・・・おまえらが輝いているのに、
    俺がいつまでも情けねーツラしてられねーよな…

    リヴァイは舌打ちをすると

    「あれ?また雨か…?」

    その雨はリヴァイの目元にしか振らない涙雨だった。

    ・・・この俺が涙とはな…

    また舌打ちをすると、流れる温かい涙をそのままに
    すべてを振り切り前へ進むことしか許されない運命を噛み締め、
    女型の巨人捕獲に向けて気を引き締めると、
    燃える闘志の炎がリヴァイのその目に再びゆっくりと灯し出した。
  110. 134 : : 2013/11/05(火) 22:36:36
    ★あとがき★

    リヴァイの12月25日生
    「博愛主義で慈悲深い理想主義」
     ■長所は■ 非常に直感が鋭い・完璧主義者・洞察力が鋭い
    創造力がある・人と接するのが得意
    ■短所■ 衝動的・せっかち・無責任
     感情的になりやすい・嫉妬深い・秘密主義・気分屋・神経質
    ●いったん引き受けた仕事はきちんとやらなければ気がすまず、
    犠牲を払ってでも 目的を達成します。

    ♪リヴァイの性格はある誕生日占いのサイトを参考にしましたが、
    ほとんどそのまんまのような気もします。
    ペトラのリヴァイに健気に尽くす姿を見ていたら、
    もしかして付き合っている?と私の妄想が膨らみ、
    SSとして仕上げました。
    またオルオのその最期の姿も悲しいけど、カッコよくて
    リヴァイとペトラと取り合い火花を散らしあうようなことが
    あってもおもしろいかもと思っていました。。
    長い間、ありがとうございました。
    また誤字脱字には気をつけていましたが、あとで読み直すと
    かなりありました。読みにくい点、申し訳ありませんでした。

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lamaku_pele

女上アサヒ

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