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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品はオリジナルキャラクターを含みます。

この作品は執筆を終了しています。

礼図探偵事務所

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  1. 1 : : 2020/02/05(水) 23:52:23
    Deです! オリジナルの作品見たいぜということで、歴戦のメンバー集めました!お題の縛りがある中、皆さんどういう風に立ち回るのか気になりますねー 


    参加者
    ・De
    ・風邪は不治の病(http://www.ssnote.net/archives/83670)
    ・ししゃもん
    ・あげぴよ
    ・カラミティ
    (http://www.ssnote.net/archives/83667)

    お題
    ・お風呂
    ・夕焼け
    ・光
    ・シール
    ・崖


    です!では、ご覧ください!
  2. 2 : : 2020/02/05(水) 23:53:14




    「ここまでだ…! あなたのトリックは全て見破った! アリバイ偽装の謎も紐退いた! ……なぜ、なぜこんなことをした!」


    波が岩を侵食し、急斜面の崖を形成する。理屈では分かっていても、なかなか府に落ちないのは、想像する波が弱々しく頼りないからだろう。

    若い男が物凄い剣幕で、中年期頃の男へと怒声を飛ばす。それにコーラスを加えるかのように、荒々しい波が崖に打ち付けられ、辺りに音が轟く。

    周囲には一台のパトカーと年季の入った黒く塗られた普通車が並列されていた。後は数人の人間と、数羽の烏が空を飛んでいるだけだった。

    中年男性は海を背に、ゆっくりと、自分を非難する男を見つめる。まるで他の生物には興味がないかのように、不気味なほど澄んだ瞳で凝視する。


    「なんとか言ったらどうですか。例えどんな理由があったとしても、人を殺して良い理由にはならない」


    若い男はその態度に全く狼狽えず、頭に被った漆黒のハットから僅かに目を覗かせ、睨みをきかせてさらに言葉を上乗せした。

    その瞬間だった。

    中年の男性は身を海へと投げ捨てる。

    同刻、一羽のカラスが鳴いた。


  3. 3 : : 2020/02/05(水) 23:53:41



    小鳥がさえずり、桜のつぼみが木々に生い茂っている。そんな春の訪れを感じさせる春の便りは届いているのだが、まだ肌寒さが残っており、季節は、コタツと切っても切り離せない生活を人間に強いるのだった。


    「やばい… 今月ピンチすぎる」


    6畳の狭い部屋で、ピンク色の髪を掻き毟りながら彼女はそうぼそりと呟いた。


    「今月ピンチすぎるあああああああああ!!」


    なぜか叫び直した。あたりの可燃ゴミや読まなくなった漫画を投げ散らし、物に当たった後に疑問符を浮かべた。


    「待てよ……? なんでこんな今月ピンチなんだ?」


    「……あー、そういや100万円分の服が入ってる福袋を30万で買って転売しようとしたら、クソダサいのしかなくて1着も売れなかったな。それか」



    少女は自分が投げたゴミと判断したものを一瞥すると、それが自らが購入した福袋に入っていた、よく理解できない柄のついた布の塊であることに気づき、さらに肩を深く落とした。


    しばらくしておもむろに立ち上がり、玄関に向かう。乱雑に置かれている靴達の下に埋れていた、チラシの束をめくりにめくり、取捨選択していく。


    「飲食は……前の店長がミートボールをタピオカと言い張って売って捕まったしなぁ。治験は……前にやったら脇毛が生えまくったから却下なんだなぁ、これが」


    「……ん? 探偵の助手募集?」


    面白そうだ、とだけ呟き、ほくそ笑みながら少女はクローゼットの扉を勢いよく開けた。



  4. 4 : : 2020/02/05(水) 23:54:34




    向かう先は少女が住んでいる場所から4駅離れた、少し閑散とした地域にあり、都心から離れている方が静かな夜を過ごせると、逆にそこを売りにしている街だった。


    駅を出て、噴水を右に曲がる。爪先が分かれた足袋のようなブーツが、レンガの敷き詰められた道の上で音を軽快に鳴らす。まだ外は肌寒いが白いボアのもこもこ加減が冬を彼女に感じさせなかった。

    5分ほど歩くと、常連の客だけで成り立ってそうなカフェやアパレルショップも少なくなっていき、住宅街がちらほらと見え始めた。


    「……ここか」


    キャップのつばを親指と人差し指で挟み、上から撫でるように眺める。縦に長い、白色の小さな建物だった。息を飲むと、意を決して少女は扉をくぐった。


    「たのもー!!!!」


    いやこいつは全く緊張していなかった。なんなら探偵ってどんなことやってんだろ、冷やかしに行くかぐらいのテンションであった。


    扉を閉めると、部屋は薄暗いどころか暗闇に包まれていることに気づく。だが、ところどころで白や黄や青、オレンジの光が放たれており、夜空の星座を思わせるような幻想的な風景が彼女の目に飛び込んできた。

    足をさらに踏み入れると薄い雲のような霧状のもやが、周りに漂い、冷ややかな感触は少女を愉しませた。

    その闇の中に、ひとりの男が立っている。闇に同化するかのような黒を身に纏い、つばが深いハットを被っていた。ジャケットのフラップには純白の白が配色され、糸がほつれている。


    ご近所付き合いが今後大変になりそうな声量で入ってきた彼女に対して、中にいた黒づくめの男は吃驚した顔で口を開く。


    「……お客さん? 申し訳ないけど、この店は畳むことにしたんだ。お手数かけるんだけど、依頼は他の場所にしてもらえるかな」


    「私のボンバー挨拶にその反応? できるね? さては」


    「なんなんだその判断基準は……」


    「こっちも申し訳ないけど、この店は畳ませない。ここで働きたいからね、私が!」



    そう自信満々に話し、少女はにかっと白い歯を見せる。対する男は疲れた目で彼女を見つめ、ゆっくりとカウンターの椅子に腰掛けた。


    「……僕は人を殺した。だからもうこの仕事はしない」


    男の周りには青色のライトが多く配置されているのか、彼の今の感情を現すかのように青白い光が照らしていた。


    少女はしばらく黙り込んだ後、合点がいったように彼を指差し大きな声で叫ぶ。


    「あ〜……! 礼図烏!(レイズカラス) 最近流行りの人殺し!!」


    少女な無神経な一言で、男はカウンターに顔を勢いよく突っ伏せることになった。


    「そうだよ……所詮俺は人殺しの殺人鬼だよぉ……!」



    机の上で握り拳を作り、泣きそうな声でワナワナと震え始める。それを見つめながら、少女は直近で見たニュースを思い出す。



  5. 5 : : 2020/02/05(水) 23:56:03
    ーー
    ーーーー

    『数々の依頼をこなす、名探偵の礼図烏のその仕事っぷりに密着していきたいと思います!』

    『どうも、礼図烏です』

    『探偵として、事件を解決するコツなんてものはあるんでしょうか?』

    『ありますね。まずは現場検証、そして証拠をパターンに当て嵌めていくことです』

    『パターンですか?』

    『ええ、僕はトリックを解く手順を体系化しました。それさえ踏まえればだいたいのトリックはすぐに解けますよ』

    『へぇ〜 なんだか事務的な作業みたいなもんなんですね』

    『まあそうです。多い物から順にアリバイ、密室、身体的特徴などの謎を形成する要素から、氷、食べ物、毒などの仕掛けの組み合わせでトリックは形成されるので、それらを体系的に分類していくとだいたいのトリックは数十ぐらいのパターンに分けれますね』


    『と、いうことは私でもそのパターンに当てはめればトリックが解けるということですか……?』


    『論理上は可能なんじゃないですかね。ただ分類が結構難しいので慣れないうちは、数学の公式みたいに使えないと思います』


    『ありがとうございました!ではこの後、犯人の説得を特別に見せて頂けるそうなので、同行したいと思います!』


    ーー
    ーーーー


    『トリックは暴いた……なぜこんなことを?』

    『へへ、バレちゃしょうがねえか……(ありきたりなくだらない内容なので忘れた)……どうせ捕まるぐらいなら、死んでやる!』

    『待て!……いいか、真実ともう一個だけひとつしかないものがある。命だ。お前の命は一個だけしかない、掛け値なしに尊い物だ。やり直せよ……やり直せばいい。何年かかっても、何十年経っても!!』


    『あんた……』


    ーー
    ーーーー


    『ぐすっ……いや〜 私感動して涙が出ちゃいました』

    『どうも』

    『それにしても、なぜ崖の上で説得を?』

    『崖の上でやるとだいたい死のうとするので、説得の仕方がパターンに嵌めやすいからですね』

    『へぇ〜 そこまで計算されてるんですね!! では、この辺りで密着取材を終わります。ご視聴ありがとうございました』


    ーー
    ーーー


    礼図烏が犯人を追い詰め、その犯人が崖から飛び降りる! 責任問題? やり過ぎだったのでは? 人への説得をブランディングすることが問題視 そもそも礼図烏の探偵の腕はたいしたことがない? 「いつかやると思ってました」同業者からの声 


    ーー
    ーーーー




    「……」


    少女は口を紡んだまま、礼図の方へと歩むと、彼の側に立ち沈黙を貫いた。お互いに無音の時を幾ばくか過ごすと、せき止められた水が溢れるように彼女の口から言葉が飛び出した。


    「やり直せよ……何年かかっても、何十年経っても!!」


    「殺すぞお前!!!!」


    黒歴史を掘り返され荒ぶる礼図を放置して、少女は上着のポケットを漁ると、くしゃくしゃになった紙を取り出し、彼に渡した。


    「履歴書!!」


    何を言っても無駄なのだと悟り、彼は紙を受け取ると、不貞腐れた顔でそれを眺めた。


    「名前が花札 恋果(ハナフダレンカ)……19歳……出身大学……東京大学理科一類!!?」


    「凄いでしょう!」


    花札はピスピスと両手の指を2本立てて見せ、得意げにしながら礼図を見下ろす。


    「いや、やっぱり見た目通りのアホか。出身じゃなくて在学だ。履歴書の書き方を知らないアホが東大生な訳ない」


    「あ? 誰が見た目通りのアホだ?」


    「ピンクの髪、冬に履いているショートパンツ、太ももを覆うサイハイソックス、表面積を85%ぐらいキラキラのデコレーションで奪われているブーツ、誰がどう見ても変人奇人の格好だろ!!」


    「オシャでしょ?」


    「そんでなんでトップスだけ普通のボアなんだよ!! 上半身だけ流行追ってて他全てとセンスが乖離してて気色が悪い!! お前みたいな東大生がいるか!!」


    「ほんとだもん〜〜信じて信じて信じて!!」


    花札は思いっきり駄々をこね、その場で何度も地団駄を踏みつける。その行為は礼図にある種の恐怖を植え付けることに成功した。


    (成人間近の女の地団駄は見てるこっちが苦しい……)


    思いっきり青ざめている礼図の表情を汲み取ったのか、自由奔放なのか、少女は手を叩いて提案をする。


    「……あ! こうしよう! じゃあ私が出す問題を解ければ、あなたは私を高学歴少女と崇め、私を採用し、この店も畳まない。もし解けなかったら私は諦めて帰ります」


    (なんだそのルール……こっちが解けないフリをすれば良いだけだろ)


  6. 6 : : 2020/02/05(水) 23:56:30


    「書くもの頂戴!」


    礼図はボールペンを少女に差し出すと、彼女がルーズリーフに何かを書いているのを黙って見つめていた。


    (部屋の間取り図……?)


    花札は区画をいくつか作り、稚拙なレベルのパンダや象の絵を書き殴っていった。

    大きな四角形の真ん中にいるパンダの目はバツ印が描かれており、その横には包丁と思われる刃物が添えられていた。小さなもずくの様なものが乱雑されている中、像は陰険な笑みを浮かべている。

    ベランダと思われる区画には、小さな水たまりの様な物があり、その他に刺々しいカケラの様なものも散らばっている。



    「そのもずくは一体……?」


    「もずくじゃなくてガムテープ! 意地悪!」



    意地悪だったことは少年時代から一度もない、と礼図は面を食いながら考える。これは殺人現場の構想なのだろうかと。


    「はい。令和元年1月A日にパンダさんが死んでいました。その日は晴れでした。動機を洗うと犯人として浮かび上がったのが、像さんでした。ただ、象さんには犯行時刻と思われる時間にアリバイがあります。さて、どうやって象さんはパンダさんを殺したのでしょうか」


    「質問はしてもいいか?」


    「どうぞどうぞ、3回まで質問チャンスをあげます!」


    花札は屈託のない笑顔で笑いかける。その顔を見ながら、礼図はハッとする。


    (何をやってるんだ俺は……この問題を解いたら俺は目の前にいるアホ女と一緒に働くことになる)


    (ただ……良い問題だ。ちょうど良い。解けないと名探偵としての沽券に関わるし、解ければ探偵としての腕を見せれる、そういう難易度の問題……)


    彼の額に滲む少量の汗は、決して礼図自身が動揺しやすく、精神的に脆いことを差し引いたとしても、眼前のアホ女による策略が彼女の器量の高さを物語っていることに他ならなかった。



    (意図してやっているのか? この解きたくなるようなさじ加減……こいつアホだが食えない……いやマジでアホだけど……!)


    口をへの字に曲げて、数回首を横に、縦に、捻った後にため息をついて礼図は花札に語りかけた。


    「……象のアリバイとは?」


    「近所の住人がパンダさんが死んだ日に、彼の部屋で窓ガラスが割れた音を聞きました。午後5時です。けど、その時間には、象さんは友達と一緒に過ごしていたアリバイがあったのです」


    「……なるほど、要は像のアリバイを崩せたら良いって訳か」


    「そうわよ! さあ続いて質問どうぞ!」


    (ほら……早く。まだ聞かなきゃいけないことがあるでしょ?)







    「いや、いい。謎は全部解けた」


  7. 7 : : 2020/02/05(水) 23:57:23


    きっぱりとした口調で礼図はそう告げる。その目に曇りは無く、真っ直ぐと花札に視線が向けられる。面食らった顔をしている彼女を無視し、探偵は言葉を続けた。


    「水たまりだ。この謎の綻びはここから紐解かれる」


    「まずなぜ水たまりがあるのか。この時点で謎は『雨による天候の条件変化』『氷』『摩擦力の低下』にほぼ絞られる。そして『晴れ』という条件から雨天時である状況を外せる」


    「そして『ガラスが割れた音』……トリック解読の根幹を成す、関所のような存在だが、既に俺の手のひらの上に落ちた」


    「『散らばったガムテープ』、これが為せる役割は『ガラスを割った音を消せる』もしくは『粘着力を利用したトリックへの応用』……このガムテープと割れたガラス、関連性が無いはずがない」



    「おそらくガラスは一度割られていた」



    「トリックの順序はこうだ。まず像は、ガラス戸を外し、ガムテープを貼った。そしてヒビを中央に入れておき、外側を砕き、ガムテープを剥がす。そうして外枠とガラスを分けた。さらに氷を枠とガラスの上下の間に噛ませ、固定した」


    「冬なんだからしばらくは氷は溶けない。溶けるとすれば、それは温度が変化する瞬間。『夕陽』による西日だ。ガラスが割れた音を住人が聞いたのはちょうど午後5時。西日は徐々に氷を溶かしていった」


    「氷が溶け、滑る。ヒビの入ったガラスは大きく音を立てて割れるって寸法だ」



    少女は淡々と推理を紡いでいく探偵にある種の恐怖を覚えた。この男は、『トリックを先読み』したのだ。


    本来なら『ガラス戸の位置が西側にある』という情報が無ければ解けないはずなのだ。だからこそ質問でその情報を聞き出す必要があったのだ。まるで平行線の錯角が等しいことを利用して、解くはずの証明の問題を、平行線であることを問題文を読む前に理解されるような、遙か上の別次元からの推理。


    (少年探偵団のヒントでコナン君は思いつくはずなのに……この男の推理は3巡先を行っている!)


    「大正解! 採用、あざっす!!」


    「ぎゃああああああああああああああ!!」


    礼図は頭を抱え、大きく打ち崩れる。部屋に設置されている光の点滅が激しくなっていく。


    「あぁ……あー……」


    深く項垂れ、ぶつぶつと愚痴を垂れる男に対してクスッと花札は笑った。


    「大丈夫。私を採用したこと絶対間違いじゃない」


    少女は儚げに、吹けば消えてしまいそうなそんな弱々しい頬笑みを見せた。その瞬間、光は失われた。



  8. 8 : : 2020/02/05(水) 23:57:58




    暗転から、車内へ。

    森の中を走るその車の後部座席に、礼図と花札の姿が見えた。


    花札が『礼図探偵事務所』の助手として雇われてから数日が経っていた。礼図の元にやってくる仕事のほとんどが、あの事件についてのインタビューや取材だった。


    それにうんざりして引退を決めた礼図だったが、花札の策略?により再び事務所を再開することになる。再出発の足がかりとして選ばれた仕事は富豪『峠(とうげ)清志(きよし)』の館で行われる推理ディナーショーへの出演。


    彼の使用人が出す催し物を解いたり、探偵としての経験を語ったり、用はーーーー。


    「用はコンパニオンってこと? れいちゃん」


    「えほっ! げほっ!!」


    わざとらしく使用人の運転手が咳をする。上流階層の遊びを、下界の文化に喩えられた屈辱を主人の代わりに受け止めて、不届き者を嗜めようとしているのだろう。


    「もっとマシな言葉を選べ……」


    気の小さい礼図は、少し青ざめながら、腕を組み直す。普段なら注意する『れいちゃん』呼びもこの日はスルーした。


    「じゃあパパ活? れいちゃんパパ活するの?」


    「げほっ!! げほっほほほ!! げほっ……げぼぼぼぼぼぼぼ!!!!」


    わざとえづいたせいで胃の内容物が込み上げてきたのか、運転手は多量の吐瀉部を自分の足元に嘔吐することになった。


    「うわああ!! こいつゲロ吐きやがった!! れいちゃんなんでぇ!? 推理してよぉ!!」


    「……」


    「うわああ!! れいちゃんの顔がとんでもなく歪んでる!! もらいゲロ!? もらいゲロするの!? そんな、こんなとこで見せてもらってもいいの!?」


    なぜか頬を赤らめ、目を煌めかせ、嬉々として燥ぐ花札を尻目に礼図は帰ったら今度こそ止めようと固く決意を結んだ。


  9. 9 : : 2020/02/05(水) 23:58:22



    屋敷に着くと、古びたその風貌とは裏原に、その外貌を支える尊大な作りに礼図は息を飲んだ。濃い茶色を塗られた外壁に、濃淡な緑色をした屋根。よくある明治の建物の配色だ。


    彫刻されている「峠」の表札に、なんとも言えない畏怖の念が湧き上がってくる。


    彼が建物を見上げていると、窓から覗いてる人影に気づく。それを注視していると、その人影はサッと姿を隠してしまった。


    「れいちゃ〜ん! ここ凄いよ! 広い! 後で埋蔵金探そう!!」


    「やめなさい」


    笑顔ではしゃいでいる花札を無表情で眺めながら、男はため息をつく。


    しばらく立ち竦んでいると、玄関の扉がゆっくりと開いていき、中からメイド服を着た女が現れた。ただ、そのメイド服は非常にスカートの丈が短く、ディズニーランドにいる高校生ぐらいの丈だった。いや、高校の制服を着ているから奴らが高校生というのは、あまりに安直だが。


    おそらく違うんだろうが。



    「うわぁ……えろ……」


    「えー! れいちゃん、ああいうのが好きなんだ?」


    「いや、真面目そうなのにスカートを短いのが、『着させられてる感』があっていい」


    「きっしょ」


    軽蔑の目を向ける花札と、満足気な顔をしている礼図を尻目に、メイドは一礼し、屋敷の中へと手を向ける。


    「ようこそお越し下さいました。屋敷の案内を務める『冥土 杏奈(めいど あんな)』といいます」


    「ディナーまで少しのお時間がございます。それまでは部屋で疲れを取られるか、お仲間達と談笑を愉しみになってはいかがでしょうか。もちろん私たち共、礼図様たちが快適に過ごせるよう最善を尽くさせていただきます」


    その女性に導かれるまま、礼図たちは屋敷へと足を踏み入れる。その女性の言葉の中に、礼図にとって一つ引っかかる単語が含まれていた。


    (お仲間……? いったいどいつらのことだ?)


    疑問は明かされないまま、彼らはカーペットの上を土足で進んでいく。しばらく歩くと、肖像画や風景画が廊下に並んでおり、薄暗い電灯がぼんやりとそれらを照らし、背筋を這うような不気味さのある光景だった。



    ところどころ高窓から光が降り注いではいるが、外の深い森が光を止めているのか、どうにもその射し込んだ光も頼りなかった。しばらく歩くとメイドは扉の前で立ち止まった。


    「ここが礼図様と花札様のお部屋になっております」


    「え」


    絶句する礼図。を差し置いてメイドから部屋の鍵を受け取る花札。


    (えぇ……なんで同室なんだ? しかもこいつは全然気にする素振りもないし)


    「では、お部屋の説明をさせていただきます」


  10. 10 : : 2020/02/05(水) 23:58:50


    部屋に入ると、まず目についたのはその大きさだ。部屋そのものの大きさもさることながら、設置されているテレビも家電屋で見かける最大のものよりもいくらか大きかった。


    「私の部屋の8倍はある!!」


    「切ない例え方はやめろ」


    8人は添い寝できそうなキングサイズの遙か上のサイズのベッド。龍の模様が描かれたカーペット。何を置いても規格外だった。


    「次に案内させていただくのはシャワールームです」


    連れられていき、二人は気付く。入ってきた扉から左に進むと、木でできた引き扉があることに。


    そこを開いていくと、高級ホテルを連想させるような小綺麗な化粧室があり、その中に取り付けられる重々しい鉄の扉が、ひどくそのドレスな雰囲気に合っていなかった。


    「その鉄の扉の奥がシャワールームなんですか?」


    「ええ、旦那様の意匠が施されたシャワールームです」


    メイドがその扉をおもむろに押していくと、中は外の異質さに比べると、こじんまりとしたスペースがあるだけだった。いや、だけというには細部があまりに異彩を放っている。


    広いシャワーヘッド。下方部に設置された円状の筒たち。管も何本か天井から下ろされていた。そして極め付けは足元にある2本のレバーと十数個のボタン。


    「これが意匠…… なんですか?」


    「はい、まずはご覧ください」


  11. 11 : : 2020/02/05(水) 23:59:22



    メイドはしゃがみ込み、左をレバーを少し下げ、右のレバーを大胆にも一気に下ろした。


    レバーの先にはダイアルがあり、ちょうど車のギアチェンジの際に用いるシフトレバーのように、レバーを上げ下げして使い分けることで何パターンもの状態を入力することができるのだろう。


    そして彼女はボタンを数回、指を行ったり来たりさせながら押す。すると、照明が抑えられ、辺りがどんよりとした闇に支配された。


    固唾を飲んで見守っていると、青色の美しい光が数本の筒から放たれ、さらにミストのような霧が幻想的に周りを包み込んだ。


    「はぇ〜 すっごい綺麗。れいちゃんのとこの装置に似てね?」


    「そうか……風呂にこうやって導入するのも有りかもなぁ」


    雑に感動を表現する花札とは対照的に、腕を組み感嘆の表情を浮かべる礼図。


    「こちらが操作マニュアルになります」



    ラミネート加工が施されているプレートが礼図に手渡される。そして横から顔を挟んでくる花札。そのプレートには幾つかのレバーの操作とボタンの押し順が描かれており、複雑な操作の工程をまとめたものになっていた。


    それをザッと眺めながら、自分が作るときはもう少し簡略化しようと考える礼図だった。



    「では、私はこれで」


    頭を下げ、出ていこうとするメイドに礼図は声をかけ引き留めた。


    「待ってください。あなた仲間達ってさっき言いましたよね? その仲間って奴らに心当たりがないんです。是非そいつらが誰か教えてくれないですか?」


    「はぁ…… おそらくはお会いになったほうが早いかと」



    メイドの後ろを黙ってついていく二人。正確には花札は煩かったのだが。しばらくすると大広間に出た。そこには縦に長いテーブルが設置されており、その先には暖炉まで備え付けてあった。いかにもな豪邸を連想させるそれらの要素。


    そのテーブルの椅子に腰掛けている3人の老若男女と、壁によって立っている使用人たち。彼らを見つめようとすると、それより先にその集団の1人が勢いよく席を離れた。


  12. 12 : : 2020/02/06(木) 00:00:10



    「おいィ! 烏やんけェ! ワレ生きとったんかァ!」


    喧しく騒ぎ立てる、薄紫の髪を逆立てている男。その耳にはいくつものピアスやイヤリングが装飾されており、見る人によっては耳に痛みを覚える程だろう。


    「……相変わらず煩いな、お前は」


    「黙れィ! お前が辛気臭いだけじゃァ!」


    花札は最近見た雑誌を思い返す。この売れないバンドマンのような風貌をした男の名前は『打火師 灼(うちひし しやく)』、職業は探偵。言葉巧みに犯人を追い詰め、失言を拾い証拠を掴むやり方を得意としている。


    「そんなんじゃからお前、犯人を追い詰めすぎて殺したりするんじゃァ」


    「うっ……そうだよ……俺は所詮人殺し……」


    「あー! いっけないんだ! いじめだよこれは! 教育委員会に提出させていただきます」


    「す、すまん! そんなつもりはなかったんじゃァ! 言い過ぎたなら謝るゥ! この通りィ!」


    頭を勢いよく下げる打火師。四つん這いになって首を垂れる礼図。ネチネチと人格非難を交えた罵倒を続ける花札。現場は混沌を極めていた。



    「フフ……元気ね」


    そのカオスを側から眺め、微笑む女性。手に持ったワインを傾け、その鮮やかさと香りを楽しむと、口へと運んだ。


    「むむ! なんだこのババアは! れいちゃん! この女誰よ!」


    「誰がババアじゃあああああ!! このクソガキがああああああ!!」


    脚をテーブルの上に激しく叩き、乗せると、黒のワイドパンツが露わになる。トップスはダブルのライダースジャケットを着用しており、見た目通りの強そうな女性だった。



    「うぅ……俺は人殺し……」


    「おい! テメェ! あのババアはなんだって聞いてんだよぉ〜!!」


    花札は礼図の上に跨り、首を両手で掴んで上へと引っ張り、仰け反らせる。それに対し、堪らず彼は叫んだ。



    「痛い痛い痛い痛い! 同業者だよ! 『坂井 彼岸(さかい ひがん)』! 探偵だ!」




    「無茶苦茶だ……」



    その状況を眺める少年。①制服を着用している ②ここはディズニーランドではない ③ディズニーシーでもない ①②③より、高校生であることが証明される。


    「フォッフォ… 元気じゃのぉ…」


    「「「!?」」」


    奥の扉が開かれ、英国のトラッドな格好ををした1人の老紳士が入ってきた。ゆっくりとした足取り、シワだらけの弱々しい顔とは別に、有無を言わさぬ威圧感を感じさせる。



    「まるで小童の児戯」



    鋭い眼光を探偵達に飛ばし、冷徹な視線が彼らを通り抜けていった。打火師は冷や汗を一筋流し、舌打ちと共に心の中で毒づく。



    (『黒刻 宗氏(くろきざみ そうし)』……昭和のホームズと呼ばれた男……こんな怪物まで呼んどるんかァ、何を考えとんや峠の旦那はァ!)


    「えっと……一応自己紹介した方がいいのかな。宮藤 慎二(みやどう しんじ)です。高校生ですけど、探偵やってます。よろしくお願いします」



    「そして私が……」




    波打つ階段を上から、一段、一段踏みしめ、ブーツが鳴る音を響かせる人間がいた。徐々にその姿が見え始めると、そいつはピンク色の髪をなびかせ、集団を見下ろし口を開いた。



    「ーーーー花札 恋花。礼図烏の助手」


    「いつの間にあがったッ!」

  13. 13 : : 2020/02/06(木) 00:00:59


    暴れる花札を抱え、肩にかけながら礼図は下へと向かった。すると、顔を赤らめ、俯く花札を気色悪く思った彼は質問をした。



    「どうした?」


    「……重くない?」


    「なんでそういうところ女々しいわけ!?」



    礼図はツッコミが5あがった。





    意図的に集められた探偵たち。何か不吉なものを感じながら、探偵らは席を囲んで座った。食事の時間がそろそろ始まると説明され、わざわざ部屋に戻る理由もなかったのだ。


    「花札さんは大学生なんですか?」


    「え? 違うよ?」


    「あ、違うんですね。ソッカ……趣味は?」


    「DBDと絵画鑑賞。好きなキラーはトラッパー。好きな作風は18世紀頃の新古典主義」



    ぎこちない会話を繰り広げる宮藤と花札。宮藤は指を絡め、緊張しているのか変な汗を額に浮かべて引きつった笑みを浮かべていた。



    「ん〜 この人らに比べてれいちゃんなんか特徴なくない?」


    「は?」


    「なんかこう、欲しいよね。名台詞みたいなのが。オリジナリティ欲しいね」


    「あ、花札さん、僕ありますよ! 『謎とジッっちゃんの名はいつもひとつ!』ってやつが!」



    話をしている若者らには目もくれず、黙々とタバコをふかしていた坂井がようやく口を開いた。


    「……峠さんはまだ来ないの?」


    「……」



    坂井の質問を、木で編まれたカゴに盛られているハッカ飴の袋を開封し、口に放り込みながら、打火師は黙って見つめる。


    いくら主人とはいえ、客人をここまで放置するのは不躾だ。若干の非常事態を感じながら、まだ騒ぎ立てることをしないのは彼らがこの状況を何度も経験しているからだろう。



    「そうですね、心配ですし私が見てきます」


    初老の使用人が歩き出すと同時に、探偵達は空気が変わるのに気付いた。この空気は、仕事の空気。張り詰めた空気。


    数分後、使用人の叫び声が聞こえると、「やはりな」と昭和のホームズは歯をぎらつかせた。



  14. 14 : : 2020/02/06(木) 00:02:07



    ーー

    ーーーー



    「工夫を凝らしたシャワールームで死ぬなんて、皮肉が聞いてますね」


    ボソリと宮藤が告げる。


    「死体は峠清志、本人のもので間違いないですね?」



    坂井が使用人を睨み、確認を促す。どうやら主人も客人も同じ部屋で過ごすことになるらしい。客人と同じ立場を選ぶのは彼の矜恃か信念か今となってはわからない。


    狭いシャワールームだ。今現在、殺人現場であるシャワールームに入っているのは坂井と黒刻と宮藤だけだった。


    首に締められた跡がある衣服を一切身につけていない裸の死体。それはなんとこの館の主人、峠清志のものだった。


    「ええ、ですが……ま、まさかこんなことになるなんて」



    状況を確認する、使用人と探偵たち。死亡推定時刻は午後6時。だが、その時刻は全員が広場にいたのだ。広場にいなかったのはキッチンにいたシェフたちぐらいのものだが、彼らは彼ら同士でアリバイを証明し合っている。


    第一発見者である老人は黒いゴム手袋を顔に当て、面食らった状況をなんとか理解しようとしてる風に努めているように見えた。


    「そんな驚かんでええがなァ 犯人やねんからアンタ」


    「なっ!? えっ!?」


    目をパチクリさせて、絶句する老人。老体に鞭を打つことを躊躇う素振りもなく、打火師は続ける。


    「バレバレやで、なかなかこんなエグい証拠の残し方はせんなァ」


    「やめなさい、打火師。貴方のそれは恫喝と一緒よ」


    「えっ?」


    「チッ ワンチャンもうちょっとで白状するかと思うたんやがなァ」



    意味が理解できないといったように立ち竦む老人を無視し、打火師は自制を促してきた坂井に向けてニヤリと笑った。


    「なっ……! カマをかけてたんですか!?」


    メイドの杏奈が驚いた表情を見せる。ざわつく周囲を無視し、黙々と二人の探偵は犯行現場と向き合っている。



    「品がないのぉ……最近の若造は。ホレ、目くじらを立てんでも犯行現場は我々に手がかりを恵んでくれておる」


    「この天井からしたたる水……普通に身体を洗い流しているだけでは、こうはならない……」


    「なぜわざわざシャワールームで殺したのか……見たて殺人かのぉ? そうなると、まだまだ死体は増えるな。このしたたる水は犯行時刻の改竄かの」


    ※見立て殺人(みたてさつじん)とはあるものに見立てて事件が装飾された殺人のこと。



    「部外者がこの館に潜んでる可能性……それも捨てきれませんね。この館を手分けして捜査しましょう。我々で警察が来る前にできることはやるべきです」



    推理であらゆる可能性を追う二人を、息を殺して見つめる使用人たち。これが本気を出した探偵の姿か。昭和のシャーロックホームズはともかく、新気鋭高校生探偵の宮藤も自分の考えを疑う様子は微塵も持っていなかった。



    (しかし、この謎、かなりトリックの全容が見えない。たいした証拠もないし、探偵が集まっているとはいえ正直解けるのかすら怪しいーーーーー。)


    これは坂井の内心だが、内容は差異あれど、同じような考えを3人は浮かべていた。この謎を紐解く難易度の高さ。



    「えぇ〜 屋敷全体調べるとかめんどくさくない? れいちゃんどうする?」


    「なっ!? 人が殺されてるんだ! そのくらい当たり前でしょう! 見損ないましたよ花札さん!」


    「あぁ、俺もめんどくさいから屋敷の捜査はしなくていいと思っている」


    「……礼図さんも同じ考えなんですか!? 花札さんはともかく……アナタは探偵を舐めてるとか思えない!!」




    花札はこの世のものとは思えない、そんな禍々しい笑みを浮かべた。最もその顔は他の誰にも見えていない角度で作られたが。



    「この謎は既に解けた。さっさと片付けて食事にするぞ」


  15. 15 : : 2020/02/06(木) 00:02:46


    「なっーーーー!?」


    「なんじゃと!?」


    「……チッ」


    「……信じられない、速過ぎる。いや、速過ぎるだけじゃない。本当にこの謎が解けたの? 雲を掴むような謎なのに?」



    礼図には昭和のホームズや平成の江戸川乱歩といった通り名がない。なぜなら彼こそが歴代の探偵の中で最も優れているからだ。強いて言うなら『どんな上乗せされた謎をも貪り尽くすカラスーーーーー。』




    『レイズ 烏』









    「この謎はまず、主人の本当の死因について考えなければならない。絞殺の跡があるからといって、必ずしも死因とイコールな訳ではない」


    「だって主人が死んだその時刻に、俺たちは誰もこいつの首を締めれないんだから。別の方法で殺されたとみるべきだ」


    「さっき宮藤クンは外部犯の犯行を追ったが、それは目の前の謎から逃げてるだけだ。今ある条件から推理を導くのが俺たちの仕事なんだからな」


    「俺に探偵を舐めてるって言ったが、君の方こそ推理を舐めてるよーーーーー。」


    ゴクリと固唾を飲み、非難されてる宮藤はおろか、誰も一切口を挟まない。この時ばかりは花札という煩い女も不気味なほど静かに、告げられる推理に耳を傾けるだけなのだ。


    「さて、話を戻すけど、じゃあどうやって主人は死んだのかって話だが、それは様々あるとしか言いようがない。『窒息』『毒ガス』『心臓発作』『ショック死』etc…」


    「はぁ ? なんじゃそりゃあ」



    黒刻が流石に突っ込まざるを得んと言わんばかりに、礼図の話の腰を折ろうとする。



    「ただ条件から絞れていくのさ」


    「このシャワールームは狭い、しかも密室を作れる。そういう状況で起こるトリックはもうひとつしかない。『窒息』と『毒ガス』だ」


    「み、密室? 少なくとも僕にはここが密室には思えませんけど。だってドアには鍵もついてない。内側から引けばいつだってーーーーーーーあっ!?」


    「そう、その引くって動作がミソだ。もしシャワールームの内部に大量の水が有れば、内側から大きな水圧がかかり、扉は開けない」


    「排水溝を詰まらせれば、シャワーから出てくる水がシャワールームを水で埋めるって寸法さ」


    「簡単に言ってくれるわね。排水溝を詰まらせるっていうけど、詰まらせて水が流れなくなったっていうなら、その水はどこにいったのよ?」


    「それを解決するのがこれだ」


    礼図は舌の上にある物体を乗せ、口にしまっていたその内容物を観衆の目に晒す。



    「それは、ハッカ飴ェ!?」


  16. 16 : : 2020/02/06(木) 00:03:35



    「そう、飴だ。飴玉を数十個排水溝に入れておけば、水の流れをほとんど止めてしまうぐらいには、確実に塞げる。おまけに熱と水で溶けるし、証拠も流れて消えてしまう優れもの」


    「ちょ、ちょっと待ってください! 確かに排水溝は塞ぐことが出来るかもしれません! ですが、止めてしまえばいいじゃないですか! 水を!」


    「そ、そうじゃな。ここの水を止める操作は複雑じゃったが、仮にもここの主人。水が流れない、外に出れない、となったら水を止めれば良い! それで一先ずの危機は去るはず! 違うか?」


    「その通り。だが、水を止めれなくなるんだ。主人は。まあ見てたらわかるよ」



    「礼図さん! 頼まれていたものです!」



    使用人はおもむろに長方形の水槽を洗面所の前に置くと、懐中電灯を礼図に手渡した。



    「さすが金持ち、なんでもあるな」



    そうほくそ笑むと、その水槽の中にある程度の水を注いでいき、1/4ぐらいの水が中に溜められた。


    「主人は意匠を凝らしたこの装置が大好きだったんだろ? 今日もきっと使ったはずだ。使ったとしたら、この異常事態、現場はどうなっていたのかというと」


    礼図は部屋を暗くするように指示し、真っ暗になった空間で、まるで怪談の語り部のように話を続けた。


    「こうなる」


    懐中電灯の光が付けられたかと思うと、水面が煌めき、眩い光を放っていた。



    「全反射ーーーー。ある一定の角度から『光』を放つと、水面で反射をし、外に光が逃げなくなる現象をいう」


    「犯行時刻でも同じ状況が起きていた。何本の筒から放たれる光は今のこれより、さらに複雑に水面を輝かせた。その結果、レバーやボタンを見失ったのさ。主人は」


    「いくら主人と言えど、見えない状況下で手探りでレバーの位置を間違えずに入力し、十数個のボタンを一切の押しミス無しで、水を止める操作を行うなんて無理さ」


    「水は止められず、上がっていく水位。天井まで達するまでもなく、主人は溺死したはずだ。天井から滴る水の正体は、トリックの滲み跡だったってわけだな」


    「もし万が一殺せなくても問題ない。なぜならこのトリック、飴さえ溶けてしまえば他意を立証できない。排水溝の詰まりなんてどこも抱えてる問題さ。有耶無耶になって終わり」



    皆が絶句していた。緻密に練られた計画にもそうだが、にじり寄るような、犯人の息遣いさえ聞こえてきそうな推理に、礼図の探偵としての資質に魅入られたのだ。


    「で、結局誰が殺したんだァ?」


    「まずこのトリックはシャワールームに飴を仕込めなきゃ始まらない。よって怪しいのは使用人の中の誰かだけどーーーー」


    「お前珍しく当たってたよ。第一発見者の爺さん、貴方しか絞殺の跡をつけれない」


    老人はワナワナと震えながら、語り始める。


    「お、面白い推理だ。今度推理小説を書くときの参考にさせていたーー」


    「証拠は、その手袋の下にある。水死体の皮膚は剥がれやすく、くっついたらなかなか剥がれない。あの状況、手についた皮膚を洗い落とす暇もなかったはず」


    「あなたの手袋の下は死体の皮膚がくっついている。違いますか?」



    膝から崩れ落ちる、使用人の老人。それを見ていれば誰もが理解できた、この事件は終わったのだ。



  17. 17 : : 2020/02/06(木) 00:04:25



    夜、礼図は深い眠りについていた。警察が激しい雨によって来れなくなった事情をメイドから聞き、仕方なく雨宿りをこの忌々しい館ですることになった。


    ギギ…と重々しく扉を開けられ、何者かたちが礼図が寝静まった部屋へと忍び込んできた。


    「さよなら」


    そう告げる女性の手には刃物が握られており、礼図の首元をその刃が狙いを定めている。妖しく光を反射し、輝く包丁。目掛け、鋭い蹴りが飛んだ。



    「お前らさぁ……くだらんこと企むのはいいけど、私たちを巻き込むな」


    その蹴りを放った人間の正体は花札だった。


    「なっ! なんじゃお前は!」


    「よっ 人殺し。やっぱお前ら全員グルだったか。そこのジジイが打火師に責められているとき、かばったのが妙だと思ったんだ」


    「だって殺人だぜ? 首を突っ込みたくないだろ? 関係ない奴は。突っ込むのは探偵と犯人だけってね」


    クスクスと笑う花札を対象に、使用人は青ざめた表情だった。


    「お前らの目的はおおよそ予想がつく。峠清志の遺産の山分け。代筆屋に遺書を書かせ、ジジイが財産を受け取る文面を作った。ジジイなら峠との関わりも長いだろうし、遺産を相続してもおかしくはない」


    「わざと殺人だと匂わすことで、そちらに意識を割かせ、遺書への注意を逸らし、偽装を誤魔化そうとしたのはいい発想だと思うわ」


    「ただ、詰めが甘かったなぁ。絞殺の跡をつける役割をジジイにしたせいで、遺書の内容が受理されない可能性が出てきた。それとも水死体を触ると皮膚が剥がれるという発想が抜け落ちていたのか」


    「……だからあなた達を殺して、私達の中から犯人を出すの。あなた達は最初からいなかったし、彼を犯人にはしない」


    「私達が来なかったことぉ? 無理だと思うけどぉ? 探偵集めたのって峠清志でしょ? 薄々自分が殺されるのがわかってたんじゃないのぉ? さすがにそこら辺手は打ってると思うけどぉ?」



    「……じゃあどうしろって言うのよ! 今から代筆屋に依頼するのは絶対無理! 作成に数日かかるし、峠清志が死んだとなったら遺族が動く! 本当の遺書が先に見つかるかもしれない!……私達は、全員峠清志に多額の借金を背負わされているの。だ」


    「あーパスパス。いいよそういう話。なら、私がこの場で代筆してあげる」


    「は?」


    「心得があるから大丈夫! 字体を見せてくれれば数十分で真似れるよー。そうすればそこのジジイを犯人として突き出しても問題ないよね?」


    「な、なんじゃとぉ!? そ、そんなことするはずないじゃろ!? 私たちは家族よりも固い絆でーーーー」


    「本当にできるの?」


    「うん、できるよ。殺すのは私の腕を見てからでも遅くないでしょ?」


    「えっ!? えぇっ!?」


    「そこのうるさいジジイを縛っておいて。峠清志の字体と筆、他にいるものは?」


    「うーん……液体のりかなぁ?」


    「液体のり?……まあなんでもいいけど、不気味な子ね。いったい何が目的なの?」


    「目的なんてないよ。ただ、れいちゃんは面白いから、飽きるまで一緒にいたいだけ」


    「飽いて飽いて、どうでも良くなって、一滴たりとも出汁が出なくなるまで絞りに絞って、最後に捨てるその日まで一緒にいたいだけだよ」






  18. 18 : : 2020/02/06(木) 00:05:02





    朝が来ると、昨日の雨が嘘のように消え去り、サンサンと太陽の日が降り注いでいた。


    少女と男は屋敷を後にしようと、送迎の車が来るのを待っていた。


    「いや〜 お手柄解決だったね れいちゃん」


    「何がお手柄だ。結局、依頼主が死んでゲスト料も貰えないし、解き損だ」


    「いや〜? きっと近い日に結構お金くれると思うよぉ〜? 使用人の人たちが」



    ほくそ笑む少女の表情に礼図は気づかない。


    ふと、木々から翼を広げ飛んでいく一匹の烏。その姿を見つめ、自分と重ね合わせた。


    「俺にはこの生き方しかできない……どんな不名誉だってねじ伏せてやる。俺の推理で」


    「あ! 忘れてた!」


    少女が叫ぶと、走って表札の方へと駆けていくと、ポケットから液体のりを出し、塗りたくった。そして紙を貼り、上書きする。



    「何やってんだ!?」


    「いいじゃん! 事件完全解決したし、このぐらいはセーフだよ! いこいこ!」


    「お前なぁ……」



    花札は腕を組み、礼図を表札から他の場所へ連れていく。



    「言ってたでしょ! 何がオリジナリティ探偵として欲しいって!解決した場所に私たちのシール貼ってって、征服していこーよ!」


    「えぇ……環境的にどうなんだぁそれ?」






    『礼図探偵事務所 完』


    シールに書かれたその文字を背に、彼らはまた別の事件へと向かうのだろう。きっと彼女が飽きるまで。だが、彼の推理が常人の遥か上を行くのなら、きっとその時は来ないのだろう。




  19. 19 : : 2020/02/06(木) 00:08:22
    読んでくれた人にありがとう! 今回はミステリー書いてみたんですけど、花札ちゃんが結構いいキャラになってくれたので個人的に満足です。やっぱオリジナルの難しさってキャラ作りですからぁ!(ヒロシ)(やっぱ羽田陽区だったわこれ) ではまた会う日まで〜
  20. 20 : : 2020/10/26(月) 14:31:20
    http://www.ssnote.net/users/homo
    ↑害悪登録ユーザー・提督のアカウント⚠️

    http://www.ssnote.net/groups/2536/archives/8
    ↑⚠️神威団・恋中騒動⚠️
    ⚠️提督とみかぱん謝罪⚠️

    ⚠️害悪登録ユーザー提督・にゃる・墓場⚠️
    ⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️
    10 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:30:50 このユーザーのレスのみ表示する
    みかぱん氏に代わり私が謝罪させていただきます
    今回は誠にすみませんでした。


    13 : 提督 : 2018/02/02(金) 13:59:46 このユーザーのレスのみ表示する
    >>12
    みかぱん氏がしくんだことに対しての謝罪でしたので
    現在みかぱん氏は謹慎中であり、代わりに謝罪をさせていただきました

    私自身の謝罪を忘れていました。すいません

    改めまして、今回は多大なるご迷惑をおかけし、誠にすみませんでした。
    今回の事に対し、カムイ団を解散したのも貴方への謝罪を含めてです
    あなたの心に深い傷を負わせてしまった事、本当にすみませんでした
    SS活動、頑張ってください。応援できるという立場ではございませんが、貴方のSSを陰ながら応援しています
    本当に今回はすみませんでした。




    ⚠️提督のサブ垢・墓場⚠️

    http://www.ssnote.net/users/taiyouakiyosi

    ⚠️害悪グループ・神威団メンバー主犯格⚠️

    56 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:53:40 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ごめんなさい。


    58 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:54:10 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ずっとここ見てました。
    怖くて怖くてたまらないんです。


    61 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:55:00 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    今までにしたことは謝りますし、近々このサイトからも消える予定なんです。
    お願いです、やめてください。


    65 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:56:26 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    元はといえば私の責任なんです。
    お願いです、許してください


    67 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    アカウントは消します。サブ垢もです。
    もう金輪際このサイトには関わりませんし、貴方に対しても何もいたしません。
    どうかお許しください…


    68 : 墓場 : 2018/12/01(土) 23:57:42 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    これは嘘じゃないです。
    本当にお願いします…



    79 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:01:54 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    ホントにやめてください…お願いします…


    85 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:04:18 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    それに関しては本当に申し訳ありません。
    若気の至りで、謎の万能感がそのころにはあったんです。
    お願いですから今回だけはお慈悲をください


    89 : 墓場 : 2018/12/02(日) 00:05:34 このユーザーのレスのみ表示するこの書き込みをブックマークする
    もう二度としませんから…
    お願いです、許してください…

    5 : 墓場 : 2018/12/02(日) 10:28:43 このユーザーのレスのみ表示する
    ストレス発散とは言え、他ユーザーを巻き込みストレス発散に利用したこと、それに加えて荒らしをしてしまったこと、皆様にご迷惑をおかけししたことを謝罪します。
    本当に申し訳ございませんでした。
    元はと言えば、私が方々に火種を撒き散らしたのが原因であり、自制の効かない状態であったのは否定できません。
    私としましては、今後このようなことがないようにアカウントを消し、そのままこのnoteを去ろうと思います。
    今までご迷惑をおかけした皆様、改めまして誠に申し訳ございませんでした。

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