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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品はオリジナルキャラクターを含みます。

この作品は執筆を終了しています。

死は残酷で綺麗で美しい

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  1. 1 : : 2018/02/13(火) 00:23:43

    ん~はいKAIです。

    今回はスイッチさんの企画に参加条件としてオーディションをする事になって、

    その、お題として『生きる事と死ぬ事の素晴らしさ』を書くことになりました。

    正直…小説書きは苦手で、あまり書いた事なくて読みにくいし話が分かりにくくなると思いますが、よろしくお願いいたしますm(._.)m

    期限が明日の22時までなのでそれまでに書き上げる予定なのでよろしくです。


    以上!

  2. 2 : : 2018/02/13(火) 00:48:22


    ― アイツなんなの? ―


    ― マジでムカつくわ… ―


    ― からかっても無反応だし。何アイツ… ―


    ― ずっと一人でいるよね?何でなの? ―


    ― 友達居ないんじゃね? ―


    ― 根暗って奴? ―


    ― だって休み時間も勉強してんじゃん ―


    ― 必死にガリ勉して馬鹿みたい ―


    ― 自分だけ良い子ちゃんアピールとか ―


    ― 勉強は出来るよねアイツ…、まっ勉強しかしてなさそうだし ―


    ― て言うか存在がイラつく ―


    ― 確かに、アイツが来ると空気が臭くなるし ―





    うるさいな…。

    うるさくて集中できねぇ…。

    てか黙れよ。

    ほっといてくれ。

    馬鹿が移るんだよ…。




    ― あれ?何処行くんだろ? ―


    ― どうせ逃げたんだろ ―


    ― お前が声大きいからじゃねーか ―


    ― いや、わざと聞こえるように言ったし ―


    ― そりゃあそうか! ―


    ― なぁ、アイツ帰ったし、机隠さね? ―


    ― それ名案! ―





  3. 3 : : 2018/02/13(火) 07:48:59




    何時からだっけ?

    小学校の時は普通に友達もいた。

    毎日のように遊んでさ。

    馬鹿騒ぎして…。

    あれ…?。

    何処から変わったんだっけ?

    なんで好きでもない勉強しかしなくなったんだっけ?





    「…………」





    家に帰ったら、すぐ勉強。





    「帰ったのならただいまぐらい言いなさい」





    うるさいな…。

    誰の為に勉強してると思ってんだ。





    「ごめんなさい…父さん……」





    「まったく…、そういえば、次の学力テスト。分かってるよな?」




    「…うん、分かってるよ。……母さんは、また病院に?」





    「お前が今気にする事は勉強と結果だけ気にしてればそれではいい」





    なんだよ…。

    それくらい聞いたっていいじゃないか。

    ふざけやがって……。

    父さんも…母さんも…兄さんも…勝手過ぎる……。

    父さん勝手に自分の思う事を俺に押し付けてさ…。

    母さんは俺の事気にせず、兄さんばかり面倒見て…。

    兄さん…、お前が倒れたせいで…俺に全部いってんだよ。

    ふざけやがって…。

    ふざけやがって、ふざけやがって、ふざけやがって…。

    どいつもこいつも……ふざけやがって…。


  4. 4 : : 2018/02/13(火) 09:07:53


    「…………」




    部屋に戻って直ぐ椅子に座り机に予習用のノートと教科書、シャーペンを取り出し…。

    ダメダメ…。頭が空っぽだ。





    「テスト勉強……しないと…」




    ベッドとタンス、そして机、本、教科書、資料、参考書、ノート、ペン。

    それしかない俺の部屋。

    俺の私物のほとんどは勝手に何もかも捨てられた。

    不要だってさ。

    成績、テストの点、頑張って結果を残しても、誉められない。

    当たり前だってさ。

    当たり前…、100点が当たり前。

    99点を取れば叱られ、98点以下を取った場合は、仕付けと言う名の暴力、食事の制限…睡眠の制限、ひたすら勉強をさせられる。

    勉強して学校で結果を残して、その繰り返し…。


    勉強して…勉強して……


    勉強……勉強…勉強…勉強…勉強…勉強……





  5. 5 : : 2018/02/13(火) 18:38:53





    こんな生活になったのは…。

    全部、兄さんをせいだ。

    兄さんは勉強なんてしなくても結果を残せた。

    父さんと母さんは兄さんばかり誉めてた。

    小さい時からずっとそうだったから、俺も気にならなかった。

    やきもちなんてなかった。

    それが自然だったから…。


    なのに…、なのに…なのに……。


    兄さんは急に柄の悪い連中と付き合い始めた。

    理由…?

    理由なんてないらしい。

    別に父さんと母さんからの圧力を感じた…なんてベタなやつじゃない。

    だって兄さん、結果を残せば誉められていたし、ご褒美と称して俺なんかよりも沢山欲しい物を買ってもらっていた。

    理由は単純。

    ただの気分転換だこと。

    その気分転換のせいで、車と衝突事故を起こして、3年間ずっと病院のベッドで寝ている。

    起きる事はほぼ無いらしい。

    兄さんに向かってた風が俺に向いた。

    風が合わなかったのかな?

    兄さんと違う扱いを受けた。

    結果を出せなかったら暴力…いや虐待かな?

    嫌な中学受験をさせられ、結局…結果を残せず…、受験に失敗してひたすら殴られた。

    父さん曰く、底辺の中学校だから100点なんて普通らしい

    だから、結果を残そうと嫌な勉強をしている。

    殴られるのは嫌だし…。





    「…………」




    たまらず衝動的に、机の物を払い飛ばした。




    「何やってんだろ?…俺?」








  6. 6 : : 2018/02/13(火) 18:40:27



    「こんな時間に何処へ行く?」





    「参考書を買いに…」





    「そうか…、参考書を選んだら、すぐ帰って来なさい。いいね?」





    「はい、父さん…」




  7. 7 : : 2018/02/13(火) 18:42:13






    夜の河川…。

    暗くて、何も見えない。

    蛙の鳴き声と川の流らる音しか聞こえない場所。






    「…………」



    ただ、暗くて先が見えない河川敷の川を見下ろしていた。




    「…俺……、何やってんだろ?」





    本当に何をやってんだろ?

    家に帰りたくない。

    勉強なんてしたくない。

    学校にも行きたくない。


    もう…何処にも行きたくない。






    「あれ?能義(ノギ)じゃね?」




    「…………」










    「ほんとだ能義だ、ガリ勉ボッチの能義君じゃん」



    「ひっでーあだ名だな~」




    「ねぇ~能義くーん、こんな所で何してんの?」




    「…………」




    クラスの馬鹿連中…。

    嫌な奴にあった。

    付いてねーな…。





    「なぁ~無視すんなって?」




    「…………」




    「なぁ…おい」




    「聞いてんのか…よっと!」




    背後から蹴りが飛んで来た。

    無視しただけで蹴り飛ばすとか、神経どうかしてる連中だな。

    糞…、リンチ確定だな…。




    「ッ……ッ…」




    「いきなり蹴り飛ばすとか鬼畜過ぎんだろ~」




    「だって無視するからムカつくじゃん?」




    「まぁ、能義の癖に無視決めるとかムカつくな」




    「なぁ…立たせようぜ」




    「おい起きろ」




    「………………」





    一人…二人……四人か?

    ハァ…。














    「………………痛ッ…」





    服…、泥だらけになっちまった。

    その癖、顔は殴らないとか…。

    バレたくないのなら最初っからすんなっての?





    「このまま……死なねーかな?」





    こんな苦痛しかない生活…いや、世界…。

    生きていたくない。

    ずっと眠っていたい…。

    でも兄さんですら死にきれず動かなくなるのは嫌だ。

    だから、一思いに死にたい……。






  8. 8 : : 2018/02/13(火) 18:43:47





    「あの…?大丈夫?」








    なんだ?

    急に話しかけて…、誰だコイツ?

    てか、この状態で大丈夫に見えんのかって?




    「なんでもないですよ…」




    「なんでもない訳ないじゃないの」




    しつこい…。

    一人にしてくれ、てか帰れっての。




    「泥だらけだし…、ケンカでもしたの?」




    「…………」




    「聞いてるの?」




    「そうですよ…、ケンカですよ」




    「…そう、君も災難だね…」




    災難…、確かに災難だ。

    てか、この数年は災難以上にしんどい。




    「待っててコンビニで、消毒液と絆創膏かってくるから」




    ほっといてくれればいいのに、その女は俺を介抱した。

    そのまま、勝手に帰れば良かったと思った。

    けど、身体中の痛みと、何故か勝手に帰るのは流石にまずいと思ってしまった。

    だから、しばらく待った。

    それがきっかけ。

    そんな些細なきっかけだった。






  9. 9 : : 2018/02/13(火) 18:46:36



    「捨て猫…?」




    「うん、なんか可哀想で…」




    河川敷の目立たない場所で捨てられていた。

    二匹の白色の毛と黒色の毛の子猫が、ダンボールの中で眠っていた。

    見つけたのは彼女。




    「ねぇ…(レイ)くんの家で飼えない?」




    「却下、無理」




    「まっ、それもそうか。家も無理だし…、どうしようか?」




    この数日間、ずっと彼女…、



    (カナメ) 味紗希(ミサキ)…ミサと、あの河川敷でずっと会っている。

    会う理由なんてないのに毎日のように会って話していた。

    人との繋がりに飢えていたのか?

    いや、それはないなと否定する。

    何となく、気分転換ってやつだ。

    ミサとは一時間ほどの他愛のない会話をするだけの関係。

    ただ、それだけ。

    この時間が終われば、家に帰って勉強して、寝て、学校へ行って、影口を叩かれ、私物を隠され、放課後になって、夕方、ミサと会って話しをする。

    最近はその繰り返し。


  10. 10 : : 2018/02/13(火) 18:49:40



    「てか、飼えないなら最初っから拾ってくるな」



    「だって可哀想だったし」



    ミサは一つ年上の女性。

    高校には行ってないらしい。

    ずっと仕事をさせられているとか。




    「じゃあさ、ここで飼おうか。二人で」




    「は?」




    話しをするだけの関係は次第に変わっていった。

    二人で、必死に子猫の世話をした。

    俺達は、子猫の世話をすると同時に引かれていった。

    彼女と会話をするだけで嫌な事を忘れられた。

    楽しかった。

    この感覚は久しぶりだった。

    彼女と会って一緒に子猫の世話をするのが楽しみになっていった。

    回りの詰まるような生活の中の唯一の支えになった。


    そんなある日だった。

    多分…、これが始まり…。





  11. 11 : : 2018/02/13(火) 18:51:25




    「スッゲー!めっちゃ燃えてんじゃん!」




    「流石に可哀想じゃね?」




    「だったら手に持ってるライターとスプレーはなんだよ~?」




    「だって面白いじゃん?そうだろ?」




    「それに賛成賛成~。別に捨て猫だろ?誰も気にしないね?」




    俺とミサで育てていた子猫が燃やされていた。




    「あっれ~?能義じゃん?何突っ立ってんだ?」




    「お前も交ざれよ。動画撮ってやるからさ~」




    「…………」




    「おい!聞いてんのか?」




    「………何してんだ…?」



    「は?なんだよ、なんか言いたげだな?」




    「何してんだよ??なぁ???」




    「何って?捨てられた命のリサイクルしてやってんだよ」




    「どうせ野垂れ死ぬんだったら、俺達の遊び道具として貢献させてやってんだよ」




    「そうそう遊び遊び~」




    「…………」




    気が付けば、俺は…、コイツ等を殴り飛ばしていた。

    気が動転した。

    多分発狂もしていたと思う。

    ひたすら殴りかかった。





  12. 12 : : 2018/02/13(火) 18:54:25






    「痛ッ…コイツ……ふざけやがって…」




    「俺、鼻から血出てきたわ」




    「弱い癖に刃向かいやがって…」



    「今日はここまでにしてやる…。けど、明日覚えとけよ。能義く~ん~」



    河川敷には俺と焼かれた子猫、スプレー缶とライターがのこった。



    「………ッ……ッ…ッ!……くッ!……チッ!…チッ!……糞…糞、糞!」



    憎悪。

    いっぺんの憎悪が俺を支配する。

    憎い…。




    「糞ッ!糞ッ!糞ッ!糞ッ!!」



    憎くて仕方がない。

    アイツ等が憎い。

    殺したい。

    あの子猫が何をしたって……。

    子猫…。




    「はッ!?」




    我に返った。

    痛みが走る身体を無視して、子猫の元に駆けつけた。

    燃やされていたのは白色の毛の子猫一匹だけだった。

    黒色の毛の子猫の姿は何処にも見えなかった。

    白の子猫の身体中は毛が燃やされ、皮が剥がれ、肉が剥き出しになっていた。

    所々焼け跡と流れる心血に臭気、白色の毛の子猫から出た物だった。




  13. 13 : : 2018/02/13(火) 18:55:55




    「…あ……あ…あ………ああ…あ…」



    息はあった。

    だけど息をしているだけ。

    多分助からない。

    誰が見ても明白だ。

    白の子猫は苦しむような掠れた唸り声を途切れながら…、俺の耳に響いた。

    全身のほとんどを焼かれて…。

    その苦しむ姿を見てられなかった。


    本当に苦しいそう…。


    苦しそう……。


    苦しそうだ………。










    楽にさせないと…。







    そう思い立った瞬間だった。


    迷いなんてなかった。


    子猫の首を強く…力強く……絞めた。

    子猫の痙攣が激しくなるのを両手から全身に伝わって来た。

    涙が溢れてきた。




    「…ごめん……ごめん………ごめん…………」




    涙が止まらない。

    けど…俺は、その手を緩めない。

    最後まで…最後まで……ずっと子猫の首を絞め続けた。









    「…あ……」


    白色の毛の子猫が死んだ。

    俺の両手の中で死んだ。

    俺が死なせた。

    殺してしまった。




    「俺が……俺が………」




    手の震えが止まらない…。

    罪悪感がまとわりついてくる。




    「…俺は、なんで…?なんて事を……あ…ああ…あ……あ……ああ……」






    ふと死んだ子猫の顔に目が行った。




    「…………」




    "なんて安らかな顔なんだ…"。


  14. 14 : : 2018/02/13(火) 18:58:01





    ただ、そう思った。

    さっきまであんなに苦しんでた顔が、なんでこんなに安らかな顔ができるんだ?


    その時は理解できなかった。


    なんでだ?


    だって…。


    死んだんだぞ?


    俺に殺されたんだぞ?


    焼かれて苦しんでたんじゃないのか?




    わからない…。

    なんで、こんなに安らかな顔ができるんだ?


    わからない……わからない…。


    わからない…。






  15. 15 : : 2018/02/13(火) 19:03:20






    「…酷い……酷過ぎる…」




    「…………」



    ミサと俺は死んだ子猫を、あの河川敷に埋めた。

    あれ以来、もう一匹の黒色の子猫の姿は見えなくなった。

    何処に行ったかも分からなかった。


    それにミサは泣いていた。

    けど、あの時は泣いたのに今は泣けなかった。

    頭の中の疑問で頭がいっぱいだったからなのか?





    「…残酷……なんでこんな残酷な事がでいるのだろう?」




    「さぁ……わからない……俺には……」




    わからない…。

    確かに残酷なのは変わらない。

    正直…泣けないだけで、俺は…悲しんでる。

    多分…、俺の家族が死のうが、こんなに悲しくはならないくらい悲しい…。

    ライツ等を殺したいとも思ってる。




    「残酷だよね……本当に、この世界は……そう思わない?」




    「…………」




    その時のミサの言葉に何故か重みを感じた。







  16. 16 : : 2018/02/13(火) 19:21:13







    「…………」



    ふと、少し前にミサとの会話を思い出した。




    『ねぇ…礼くんは家族の事、どう思ってるの?』




    『なんだよ?突然…』




    『なんとなく聞いてみたくて…』




    『…家族の事か……』




    『うん…』




    『死んでくれないかなって思ってるよ』




    『……そう…』




    『驚かないんだ…?』




    『だって、私も思ってるもん…』





    少し前にミサから聞いた話だが、父親と二人暮らしだそうだ。

    父親は働かずに、ミサに全て任せているそうだ。

    そんな父親に殴られたりしてるそうだ。

    父親が持ってくる仕事をミサにさせて、その稼ぎを父親に取られて生活をしているとか。

    俺の父親もミサの父親も、暴力を奮って、無理やり従わせる。

    だからかな…、似た者同士だからミサに引かれたのかな?

    だけど…、




    「…ミサ……あの時、死んでくれないかなってって言ったけど、正直わからいんだ……」




    俺と違って…ミサは……

    ミサは…本当に家族が死ねばいいって思ってるのかな?

    最近、わからない事だらけだ。

    あの子猫の死に顔が忘れられない。

    ミサのあの質問と言葉も頭に引っ掛かってる。


    本当にわからない…。










  17. 17 : : 2018/02/13(火) 19:25:37











    「ミサ…?」




    「…もう……嫌………」




    久しぶりにミサに会った。

    子猫の墓を作って以来、しばらく会って居なかった。

    目を赤くして泣いていた。

    まるでこの世の終わりのような絶望した表情に変わっていた。

    ミサに何があったんだ?




    「ミサ…、一体どうしたんだ?」




    「…なんで……なんで……こんな残酷な……」




    「ミサ…?」




    「あはっ…あはははは………」




    悲しげで、心が死んだような笑い方をしていた。

    正直、今のミサに恐怖を感じていた。




    「礼くん……私ね……」




    ひきつった笑みと頬を涙で濡らして絶望的な表情のミサ。

    あのミサが、こんな事になっているなんて、何があったら、そんな顔ができるんだ?












    「妊娠しちゃったの……知らない客の…子を……」







  18. 18 : : 2018/02/13(火) 19:27:58






    ミサの言っていることが理解できなかった。

    聞き間違えたのか?

    あれ?ミサはさっき、なんて言った?

    妊娠というワードが聞こえた気がした。

    いや…。

    気がしたんじゃない。

    事実、今、ミサが言ったんだ。

    それと同時にミサの送っている生活を、この時初めて理解したんだ。






    「…あははは……本当………笑っちゃうよね……」




    死んだようにどす黒く絶望というなの瞳をしながら、彼女はひきつった笑みを俺に向け続けた。





    「ミサ……なんで…?」





    「なんで?…ねぇ……なんでだろう……こっちが聞きたいよ」




    頭が痛い…。

    彼女の絶望が俺に伝わる感覚…。

    なんて気持ち悪いんだ。



  19. 19 : : 2018/02/13(火) 19:31:32




    「そうだなぁ……お母さんが出ていって、直ぐだったかな?」





    淡々とミサは昔の事を語りだした。




    「私のお父さん……いやお義父さんはね、血が繋がってないの…」




    知らなかった。

    俺と同じで父親から虐待を受けているのは何となく分かっていた。

    けど、それだけ…。

    それだけしか理解していなかったんだ。




    「あれは…小学校を卒業して直ぐだったかな…。お義父さんに襲われて……いや~あの時に痛かったし辛かったし怖かったなぁ……」





    それも初耳だ。

    正直、止めてほしかった。

    耳が痛い。

    耳から脳へ…、まるで直接縛られたような幻覚痛が脳に走る感覚だ。





    「それが始まりで…、しばらくお義父さんの相手をしてね……。お金が無くなったのかな?」




    ミサ…もう止めてくれ。

    もういい…、もう話さないでくれ。




    「…お義父さんが客を連れてきては、私はお義父さんの客の相手をして……」



    なぁ…?。

    止めろって……。

    止めろ…。




    「それから生活の為に、お義父さんの持ってくる仕事を、ただ、ひたすらやりこなすようになったの……それから…」




    「もう止めろ!!もういい!!…十分理解した……」




    初めて、彼女に怒鳴った。

    聞いてられなかった。

    本当に馬鹿だ。

    ミサも俺も……。

    いや、俺の方は最も馬鹿だ。

    大馬鹿者だ。

    何が似た者同士だ…。

    俺は結果を出せば、殴られないし、食事を減らされることもなければ、寝る時間も奪われる事はない。

    だけどミサの方がよっぽど地獄じゃないか…。

    ミサが生きている生活は生き地獄だ…。

    俺なんかと比べるのも、おこがましいくらい地獄だ。




  20. 20 : : 2018/02/13(火) 19:35:15





    「ごめんね…。子猫が死んですぐ、こんな事になって……」




    「こんな事で片付けんな……」




    「あははは…ごめんね……」




    その笑い方やめろよ…。

    見てて気分良いもんじゃない…。

    そんな不自然過ぎる笑みの君なんて見たくねーよ…。



    「ほんと……どうしよう……どうしたらいいの?」




    俺は……。


    俺は…。

    俺は、彼女に何をしてやれる。

    助けれるのか?

    今の俺が…?

    無理だ。

    じゃあなんて言えばいい?

    下ろせって、無責任な事を言えばいいのか?

    産めって、これ以上もないくらいの無責任な事を言えばいいのか?

    なんて言えばいい?

    今の彼女に…、なんて言えば救われる?

    ミサを救う方法はなんだ?


    どうしたら彼女が救われる?





    「もう……、嫌…………死にたい……死んで消え去りたい……」







    「なら死のうか。一緒に…」



  21. 21 : : 2018/02/13(火) 19:38:16




    「……えっ?」



    無意識の内に自然と、その言葉が出た。

    一緒に死ぬ……。

    一緒に…。


    それなら…。


    それなら彼女が救われる。




    「礼くん…?」




    「一緒に死のう、ミサ」




    「…いいの?こんな私と…?」




    「当たり前だ」




    正直、死ぬのが怖くはなかった。

    だって、俺はいつでも死ぬ気だったのだから。

    いままで、死ぬ機会が無かったってだけで……。

    だけど、彼女と一緒なら死にたいと思える。

    ミサとなら死んでもいい…。

    だから……。





    「本当に、私と一緒に死んでくれるの…?」




    「ああ…本当だ。俺は君と一緒に死にたい」






  22. 22 : : 2018/02/13(火) 19:41:38







    ミサと一緒に死ねる…。

    彼女も喜んでくれた。

    これで、彼女が救われる…。

    真夜中の空。

    廃墟になったマンション。

    今、俺は、ミサと一緒に廃墟のマンションの屋上に来ている。

    ここなら死ねる。

    死に場所としては破格だ。

    策を越えてゆっくりと、下覗きこむ。

    やっぱり全然怖くない。

    むしろ嬉しかった。




    「最後の確認、本当にいいの?」




    「ああ…、ミサに一緒に行こう」





    俺は彼女の手を握る。

    彼女も俺の手を握った。

    もう終われる…。

    終わるんだ。

    こんな糞みたいな生活と世界とお別れできる。

    彼女と一緒に…。

    これ以上のないくらい幸せだ。

    さぁ行こう…ミサ。




    「礼くん…」




    「ミサ…」




    二人で身体を風に任せた。



  23. 23 : : 2018/02/13(火) 19:45:48


    ふらっと…軽く…、壁のない…底の冷たい地面へ。


    落ちて……。


    落ちて…。




    「ごめんね…」




    手が引っ張られた。

    俺の身体が策にぶつかりその場に倒れる。

    何が起きた。

    俺はミサと…。


    ミサ…?


    彼女の方に振り向く。

    時間の流れが遅く感じた。

    感じている感覚に身体が追い付かない。




    「やっぱり、私一人で行くね。礼くん…」




    「…ミサ……?」




    必死に彼女に手を伸ばす。

    けど、身体が追い付かない。

    とても遅くなった時間。

    一人で落ちて行く彼女と彼女のその声しか感じなかった。




    「礼くんは生きて…」



    廃墟のマンションの屋上から一人で落ちて行く。

    自由落下に身体を任せた彼女はそのまま地面へ向かった。




    「ミサッ!!!」




    その叫びが彼女に届く事なく、鈍く地面に叩きつけられたような音に書き消された。



  24. 24 : : 2018/02/13(火) 19:49:13




    「えっ?ミ…サ…??」




    何が起きたのか理解できない。

    なんでまだ屋上にいる?

    俺は彼女と一緒に落ちたはずなのに?

    どうしているんだ?




    「ミサ……?」




    下を除きこむが、暗闇で彼女を確認する事ができない。



    「…ミサ……ミサ!!」



    必死に階段を駆け降りる。

    ミサはどうなった?




    「ミサ!ミサ!!ミサ!!!」




    気がおかしくなりそうなくらい彼女の名前を叫んだ。

    ただ、がむしゃらにミサの元へ向かった。



  25. 25 : : 2018/02/13(火) 19:51:37




    「ミサ…?ミサ……?」




    「…………」




    倒れたミサが、そこにいた。

    けど返事がない。

    見下ろしてピクリとも動く気配がない。

    聞こえていないのか?





    「ミサ?」




    彼女の周囲に血溜まりが形成されていた。




    「ミサ!!!!!!」




    血溜まりに沈む彼女に駆け寄る。




    「ミサ!!ミサ!!ミサ!!」



    返事をかけるが返ってくる筈もない。

    返事をしてくれ…。

    ミサ…、頼む!

    返事を返してくれ!!

    どれだけ彼女の名前を叫ぼうともミサは動かない。




    「…ミサ……」




    死んでいた。

    死んでいたんだ。

    暗闇の中でも彼女が死んだのは理解してしまった。

    俺を残して…。


    ミサは死んだ。


    約束したのに…。


    彼女に置いて行かれた。


    彼女に約束を破られた。




    「ぐぅ"ぅ"ぅぅ"……ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァァァ…」




    発狂しそうだった。

    彼女を抱き抱え、必死に彼女の亡骸を強く抱きしめた。

    こうでもしないと正気を保てなくなる気がしたからだ。

    なんで…俺を置いて一人で死んだ?

    悲しい…憎い…悲しい………。

    不の感覚が込み上げてくる。





    「ミサ…!ミサ……!!」




    何故こんなにも悲しい…。

    何故こんなにも彼女が憎い…?


    何故こんなにも、やりきれない?


    答えてくれ…ミサ?






    月明かりが突然と姿を表し、俺と彼女を見下ろすように照らした。

    暗闇が広がっていた地面が照らされ、血が鮮明に反射した。

    暗闇が嘘だったかのように周囲を照らした。








    「…綺麗だ……」



  26. 26 : : 2018/02/13(火) 19:57:09




    月明かりに照らされた彼女の顔。

    河川敷で見た、あの絶望仕切った顔が、こんなにも穏やかになって綺麗で美しかった。

    まるで、全てから解放されたかのような幸せそうな安らかな顔。





    「なんで……こんな顔ができる?」




    あの時もそうだ。

    あの子猫も死ぬ寸前まで苦しんでたのに、死んだとたん、安らかな顔をしていた。

    死んだらそうなるのか?

    死んだから彼女も、こんなに綺麗な顔ができるのか?

    やっぱりそうなのか……。

    でも、ミサは俺に生きてって言って死んだ…。

    それじゃあおかしくないか?

    死んだらこんなにも幸せそうな安らかな顔をしているのに、

    こんな苦痛と絶望しかない世界に俺一人だけを残して、生きてなんて……身勝手過ぎないか?

    矛盾してないか?

    なぁ…教えてくれよ、ミサ…。




    「ニャア…」




    一匹の猫が隅で小動物を噛っていた。

    暗闇で分からなかったが、月明かりのお陰で、猫の存在に気がついた。

    見覚えがあった。

    まだ、少し小さいが肉片で口回りを汚していた黒猫。

    あれは、俺と彼女で育てていた子猫の片割れだ。

    あの時、焼かれずに生き残っていた黒色の毛の子猫だった。

    こんな所にいたのか?

    俺は、その子猫だった黒猫と目があった。

    薄暗い中を生いる闘志に燃えた黒猫の光る目。

    小動物を食い殺して生きようとしている黒猫。

    なんで、こんな残酷な世界で、そんなに生きようとするんだ?


    なぁ…俺に、教えてくれないか?




  27. 27 : : 2018/02/13(火) 19:59:24





    あれから数ヶ月。

    変わらない糞みたいな生活。

    変わったのは寒い季節になったって所か…。

    後、学校が終わると父さんが迎えに来て、俺を家に閉じ込めるようになったくらいだ。


    今、家には俺しかいない。


    珍しく父さんは兄さんがいる病院に行っている。

    久しぶりに一人になれた。

    けど、俺の部屋は外に出られないように南京錠で固く閉ざされている。

    父さんが帰ってくるまで、部屋からは出られない。

    もう…馴れた。

    一日トイレに行かなくても平気になったし、水分を摂取しなくても平気だ。

    ただ、今一人に慣れた事だけが、なによりだった。



    あの事件以降…、俺には疑問しか残らなかった。

    彼女はあの後、死んでどうなったのかな?

    ちゃんと葬式は行われたんだろうか?

    あの子猫だった黒猫は、まだ生きているのかな?



  28. 28 : : 2018/02/13(火) 20:06:12




    一階の固定電話がなった。

    だけど、部屋からは出られない。

    仕方がないから電話を無視するしかなかった。

    だけど、十分おきに固定電話が鳴り響いた。



    「うるさいな…。いい加減諦めろ」



    何度も何度も電話が鳴った。

    たまらず俺は、家の鍵を手に部屋のベランダから外へ出て、家の玄関を開け、苛立ちながら電話を取った。




    「もしもし…」



    「こちら能義様の御自宅でよろしいでしょうか?」











    父さんと母さん、兄さんが死んだ。

    病院で火事があったそうだ。

    兄さんを助けようとして死んだそうだ

    身元確認の為に何度も電話をした。

    電話の主はそう伝えた。







  29. 29 : : 2018/02/13(火) 20:07:23




    家族から解放されたが一人になった。

    葬儀は身内が執り行ってくれた。

    だけど俺は葬儀には出なかった。

    出たくもなかった。

    好きでもない家族の葬儀に顔を出すなんて嫌だった。

    家族を失ったショックで籠っている…と、いう事にした。

    うまく誤魔化せた。

    一人になって、誰も居なくなった家を後にして…俺は、先ず河川敷へ向かった。



    子猫も彼女も居なくなった広い河川敷…。

    あるのは白色の毛の子猫の墓だけ。

    後は、伸びた草と砂利と泥だらけで打ち上げられたゴミだけだ。


    俺が唯一知っている心を許せる存在だったものの墓。

    家族の葬儀が行われている事なんて気にならなかった。

    ただ、目の前の子猫の墓の前に座り込み、ただじっと見つめるだけ。


    あの子猫をこの手で殺した感触が、まだ俺の両手に残っていた。

    そう感じていると両手が震えた。

    あの子猫は生きたかったのかな?

    けど俺はあの子猫を殺してしまった。

    でも殺したのに、子猫は安らかな顔で死んだ。

    やっぱり死にたかったのか?

    今となっては、もうわからない…。




    だけど、一番分からない事は……。







  30. 30 : : 2018/02/13(火) 20:08:33





    夕方になっていた。

    もう葬儀は終わった頃か?

    まぁ…どうでもいいか。

    ここにくるのもいつぶりだ?

    廃墟になったマンションの屋上…。

    彼女が死んで、俺が生き残った場所。



    俺は策を越え、躊躇なく飛び降りた。


    飛び降りた理由?


    死にたいからじゃない?


    知りたいから飛び降りた。


    彼女がどうして、俺置いて死んだのかを…。

    俺に「生きて」と、言って死んだ理由を…。


    それが知りたかった。


    それだけだ。


    飛び降りれば分かる気がした。


    死んでも構わない。


    死んだら死んだで、彼女に会えるし…。


    だから、飛び降りた。







    「…ミサ……」








    叩きつけられる衝撃と同時に意識を失った。








  31. 31 : : 2018/02/13(火) 20:10:20









    死んだと思った。

    だけど、また死ねなかった。

    気がついけば病院の一室。

    身体を強く打ったせいで身体中の骨が痛み息が苦しかった。

    また生き残った。

    死ねなかった…。




    「死ねなかったけど、理解したよ…ミサ……」







    飛び降りる直前に、あの子猫だった黒猫が俺を見ていたんだ。

    俺は死んで奴が生き残る…。

    それで理解した。



  32. 32 : : 2018/02/13(火) 20:12:56




    結局のところ俺が死んでも生き残ろうと、変わらないのだ。

    苦しみと絶望しかない世界だと思っていたが、それは間違っていた。


    あの家族から解放されてから生活が変わった。


    俺は親戚に引き取られて、養子になった。


    殴られる事も無くなったし、結果を出さなくても責められる事は無くなった。


    学校も変わって、家庭も変わって、名字も変わって、更に自身の名も変わった。









    死のうと地獄で天国。

    生きても地獄で天国。



    つまり環境だ。



    環境によって死ねば天国だし、環境によって生きれば天国だ。


    ミサと白い毛の子猫は死んで救われた。

    俺と黒い毛の子猫は生きて救われた。


    つまりそういう事。


    こんな単純な事に気が付かなかったなんて、やっぱり馬鹿たな俺…。


    それと単純なこの世界も馬鹿だ。




    なんて幸せと不幸と絶望と希望しかない世界なんだ。



    そんなもののせいで、俺達は、あの子猫達は……彼女は弄ばれたんだ。

    玩具にされたんだ。

    世界に死と生のゲームの駒として遊ばれた。




    でも…。



    悔しい事になんて楽しそうなゲームなんだろう。



    俺も玩具なりに感じた、感じてしまった。


    生きる喜びに、死ぬ喜びに…。





    俺も、その遊びに混ぜて欲しいな。





  33. 33 : : 2018/02/13(火) 20:13:55






    本当に……。










    死は残酷で綺麗で美しい




  34. 34 : : 2018/02/13(火) 20:14:37





    ― 完 ―
  35. 35 : : 2018/02/13(火) 20:20:45
    お疲れ様でした
    生死について深く考えさせられる作品でした
    これはオーディション結果が楽しみです
  36. 36 : : 2018/02/13(火) 20:21:27


    はい以上になります。

    いや~難しい……。

    しかも急ぎで執筆したから変な所あるだろうな~なんて


    とにかくスイッチさんのオーディション作品はこれにて終了です。

    判定の程、お願いいたしますm(._.)m



    以下、このオーディション関連のページです。



    スイッチさんのグループ
    URL:http://www.ssnote.net/groups/2173

    ルカさんの作品
    http://www.ssnote.net/archives/57801




  37. 37 : : 2020/10/03(土) 09:10:12
    高身長イケメン偏差値70代の生まれた時からnote民とは格が違って、黒帯で力も強くて身体能力も高いが、noteに個人情報を公開して引退まで追い込まれたラーメンマンの冒険
    http://www.ssnote.net/archives/80410

    恋中騒動 提督 みかぱん 絶賛恋仲 神威団
    http://www.ssnote.net/archives/86931

    害悪ユーザーカグラ
    http://www.ssnote.net/archives/78041

    害悪ユーザースルメ わたあめ
    http://www.ssnote.net/archives/78042

    害悪ユーザーエルドカエサル (カエサル)
    http://www.ssnote.net/archives/80906

    害悪ユーザー提督、にゃる、墓場
    http://www.ssnote.net/archives/81672

    害悪ユーザー墓場、提督の別アカ
    http://www.ssnote.net/archives/81774

    害悪ユーザー筋力
    http://www.ssnote.net/archives/84057

    害悪ユーザースルメ、カグラ、提督謝罪
    http://www.ssnote.net/archives/85091

    害悪ユーザー空山
    http://www.ssnote.net/archives/81038

    【キャロル様教団】
    http://www.ssnote.net/archives/86972

    何故、登録ユーザーは自演をするのだろうか??
    コソコソ隠れて見てるのも知ってるぞ?
    http://www.ssnote.net/archives/86986

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