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運命の玉

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  1. 1 : : 2017/03/22(水) 21:46:52
    こんにちは!こんばんは!初めての方ははじめまして!刹那でございます!

    今回は調味料杯の作品です!
    ジャンルは所謂ショートショート
    星新〇先生のようなタッチで書いていこうかな〜と思いつつ実は見切り発車なのでどうなるかはわかりません(笑)
    それでも面白く思っていただけるよう精一杯書いていくのでよろしくお願いします!
  2. 2 : : 2017/03/23(木) 21:39:22













    その男は普通の家で生まれた


    父は営業課の普通のサラリーマンで母は専業主婦


    兄が二人いて、三人兄弟の末っ子だった


    彼の誕生を受け、市役所に届けを出した父は玉を受け取って帰ってきた


    通称、運命の玉


    二十歳前後まで''子供''が肌身離さず持っていなくてはならない物だ
  3. 3 : : 2017/03/23(木) 21:44:54
    全ての人類が人工知能によって生活のサポートを受ける時代


    政府も統一されそれを管理しているのも人工知能


    世界で初めて人類全員が平等に幸せを享受できる時代である


    いつかの思想家が危惧したように機械任せの生活で人間が堕落しないよう


    人の仕事、というものは今でも残っていた


    全員が仕事に就き、働く


    成績により出世したり降格したり


    そんな過去何十年、何百年と続いてきた人の営みは今もなお続いていた
  4. 4 : : 2017/03/24(金) 20:22:48
    変わったことといえば一つ


    玉の存在


    運命の玉はその人の将来を決定する


    大人になると玉が割れ


    中からその人に最適の仕事が書かれた紙が出てくる


    その人の今までの人生経験、考え方などをもとに精査し人工知能が決める


    人工知能の決定は絶対で逆らうことは出来ないが


    その人の人生に基づいて決定がくだされるのでその人が興味を持っていない仕事が選ばれることは滅多にない


    実際このシステムを導入してから辞職者は大幅に減り


    今ではフリーターなどというものは死語と化した
  5. 5 : : 2017/03/30(木) 07:50:08
    その男は至って普通の家庭で育った


    母が専業主婦ということもあり色々なことに興味を持つよう教育された


    しかしその男は何にも興味を持たなかった


    不思議なことだ


    普通の子供なら何に対しても興味を持つはずだ


    なのに全く何にも興味を示さなかった


    ただ無関心


    それだけだった
  6. 6 : : 2017/03/30(木) 22:55:38
    そんな彼に転機が訪れたのは男が中学生の時


    図書室で読んだ一冊の本がきっかけとなった


    そこには周りに囚われず我が道を行く主人公の英雄譚が描かれていた


    自由


    男はそんな文字に心を奪われた


    自由とはなんだ?


    今の世の中は自由に生きられるのか?


    管理される中に自由はあるのか?


    そんな考えは男を一週間ばかり支配した
  7. 7 : : 2017/03/31(金) 23:10:04
    だがきっと誰でも経験があるように


    男は少し経つとふとその事を忘れた


    まるで最初から何も考えついていなかったかのように





    そうして十年が過ぎた


    男も十代後半


    そろそろ玉が割れる時期になった


    周りの友人は皆次々と玉が割れ、己の道を見出す


    それを元に大学を決めたり就職する会社を選んだりなど


    新たな''大人''を迎えるにあたって社会も同世代の人も準備を始めた
  8. 8 : : 2017/04/02(日) 17:12:52
    だが男の玉は一向に割れる気がしなかった


    玉が割れない者は一般教養に力を入れる大学への入学が義務付けられている


    男はその大学に進学し何か興味を持つよう日々学習に明け暮れた


    しかし玉は割れない


    朝起きて玉を確認し


    朝食を食べて確認し


    授業を受けて確認し


    昼食を食べて確認し


    また授業を受けて確認し


    家へ帰って確認し


    夕食を食べて確認し


    風呂へ入って確認し


    寝る前に確認しても玉は割れてない


    周りの人は皆玉が割れるのに......


    遂に大学の同期は全員いなくなり


    男一人だけが義務大学に残った
  9. 9 : : 2017/04/03(月) 21:17:55
    ひょっとして玉が壊れてるんじゃないか?


    そんな淡い期待も市役所に行けば儚く潰える


    「この玉は正常に稼働しています。確かにあなたの歳で割れないのは異例ですが......」


    「はあ」


    役所が......いや役所にあるコンピューターがそういうのだから間違いないのだろう


    なんで割れないのか


    人生の経験値が足りないのか


    頭は悪くない


    運動もできる


    なのに何故......?


    結局の所、彼は義務大学初の卒業生になった
  10. 10 : : 2017/04/05(水) 11:26:24
    しかし卒業して社会に出ても仕事がない


    適性の職業でないところでは今採用してもらえないのだ


    願うのは早く玉が割れることだけ


    バイトは適性に関係なくできたので毎日働く


    当然給料は少ない


    十年、二十年がすぎ


    それでも玉は割れない
  11. 11 : : 2017/04/05(水) 19:34:51
    周りにはずいぶん白い目で見られる


    あいつはまだ子供なんだと


    親が生きているうちは肩身が狭い生活をしていた


    きっと親も辛かっただろう


    上の兄二人は立派に社会人として働いている


    だけど末っ子はいつまでも玉が割れない


    世間様に顔向けができないと両親が嘆いているところも見たことがある


    でも決して見捨てたりはしなかった


    二人は男と同じくらい......いやそれ以上に玉が割れるのを待ち望んでいた


    そして二人とも寿命を迎え亡くなった


    男が大学を出てから三十年が過ぎた頃だった
  12. 12 : : 2017/04/05(水) 19:43:21
    男の兄たちはいつまでも仕事につけない男を疎ましく思っていた


    両親の死にそれが爆発したのか


    二人は男を実家から追い出した


    玉が割れるまで帰ってくるなと


    男は途方に暮れた


    幸いなことにバイト代は一部を家計に、一部は自分の口座に振り込んでいたのでしばらくは問題がなかった


    だが子どもであるということはかなり深刻なことだった


    家を借りることが出来ないのだ


    ホテル等は利用ができるがアパートなどの契約はできない


    もちろん買うこともだ


    僅かしかもらえないバイト代で食いつなぐのは至難


    ホテル代は馬鹿にならない


    結局ホームレスの生活を送ることになる


    たまに銭湯に通うもののお金が少なくなるにつれ段々行く間隔も空いていき


    次第にみすぼらしくなっていく男にバイト先はクビを宣告した
  13. 13 : : 2017/04/05(水) 19:46:48
    新たにバイトをしようと面接を申し込むも全て落とされ


    やがて男の金は尽きた


    こうなれば盗んででもお金を――


    と思うものの


    天職についている警備員の前では実行に移すことも出来ない


    でもいっそ捕まって壁の中で養ってもらおうか


    とも思うがその度胸も気力ももう男にはなかった
  14. 14 : : 2017/04/05(水) 20:11:27
    いくつ目かわからない面接に落ちた帰り道


    男は昨日から何も食べていない腹をさすりながら道を歩いていた


    もうダメだと


    このままでは本当に死んでしまうと


    ポケットの中から玉を取り出して地面に投げつける


    「こいつのせいでッ!!」


    ろくな人生じゃない


    決まった仕事、決まった生活


    手にするはずだった平穏は何もかも一つの玉のせいで台無し


    もうどうすることも出来ない


    このまま大人になれなかったアホとして死ぬのだろう


    叩きつけられた玉はポーンと弾み道を転がっていく


    その音でふと我に返る


    あれがないとほんの僅かな可能性すらも途絶える


    不味い、と


    「ま、まって!」


    慌てて走り出す


    だが腹の減った体ではんうまく力を出すことができない


    「くっそ!」


    走る


    走る


    僅かな可能性


    自分をさんざん振り回したモノを


    「はぁ...はぁ...」


    やっと捕まえた


    そこで気づく


    玉にヒビが入ってる......?


    割れるのか......?


    「危ない!!!!」


    誰かの叫び声とともに背中に強い衝撃


    咄嗟に玉だけは必死に握りしめる


    これだけは手放せない


    これだけは


    宙に浮かんで静止する感覚


    刹那、男の身体はアスファルトに叩きつけられた


    玉に夢中でいつの間にか車道にでてたみたいだ


    体中が痛い


    視界が真っ赤に染まる


    思わず右目をつぶった


    左目は普通に見える


    手を頭にやって血が出ていることに気づく


    右目に垂れた血が入ったようだ


    痛い


    そうだ、玉は?


    今は持ってない


    地面に叩きつけられた時は手に持っていた


    どこで手放した?


    玉を握っていた右手を見ると血で染まっている


    そうだ...頭部の流血を確認した時か


    頭だけ少し上げ周りを見る


    あった


    いや......?


    玉じゃない


    割れてる......?


    落ちそうになる意識を必死に保ちながら


    割れた玉から出てきた紙を手に取る


    俺の......


    仕事......


    そこには大きな文字で





    自由人





    と書いてあった


    職業説明欄には




    何にも囚われない仕事







    男の力が一気に抜けた


    何にも囚われない......?


    確かに決まった仕事をやる必要も無い


    コンピュータの指示に囚われない


    けど...........


    薄れゆく意識の中で今までの人生が思い返される


    これが走馬灯というものなのか


    「クソッ......タレ......」


    それだけ言い残し男は永遠の眠りについた




















    fin
  15. 15 : : 2017/04/05(水) 23:43:20
    世にも奇妙な物語とかで出てきそうな作品ですね!!文章力は鍛えてきたつもりでしたが、やっぱりあなたには遠く及びませんね!
    これからも良い作品を執筆していってください!!応援してます。
  16. 16 : : 2017/04/06(木) 07:25:11
    >>15
    読んでいただきありがとうございました!
    まだまだ至らないところばかりですがそう言っていただけるのは本当に嬉しいです!
    お互いにこれからも頑張りましょう!
  17. 17 : : 2017/07/09(日) 19:58:30
    奇妙な物体に振り回されるっていうのはどちらかというと安部公房っぽい感じがした。

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stardust

刹那

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