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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品は執筆を終了しています。

赤い雪

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  1. 1 : : 2016/12/29(木) 13:24:50
    皆さん、こんにちは、進撃のMGSです。

    こちらは蒼電さんの企画、短期ss執筆会の参加作品になります。

    http://www.ssnote.net/groups/2275




    どうぞよろしくお願いします。
  2. 2 : : 2016/12/29(木) 13:25:22








    __________1946年、1月







    中央アジア、ウズベキスタンの首都、タシケントはケッペンの気候区分によると地中海気候に属し、冬でも平均気温は1.9℃と、平均してはそれほど厳しい寒さには見舞われない。





    それでも、流れ込んでくる寒気の勢力次第で気温が-15℃前後まで冷え込むこともあり、一転して酷寒の地へと変貌する。

    過去には-28℃という強烈な寒さに見舞われたこともあるタシケントの冬は、お世辞にも過ごしやすいとは言えない場所であった。



    この年もまた寒波に覆われたタシケントは、気温が氷点下を下回る日も珍しくなく、狼がその牙を突き立てるような寒さに耐える日々が続いていた。







  3. 3 : : 2016/12/29(木) 13:26:59










    __________時刻は朝の6時。





    粗末な小屋の中では、男が一人、身を切るような寒さに体をガタガタと震わせている。

    粗末な木製のベットには南京虫が住み着き、体のあちこちに痒みを感じているようで、頻繁に体を掻いている。



    白髪混じりの無精ひげはいかにも不潔で、ぼろぼろのつなぎとともに、彼が労働者として酷使されていう現実を如実に物語っていた。





    辺りを見渡せば、三段ベットがほかにも一つ。

    それぞれに無精ひげを生やした不潔な男たちが横になっている・・・・・・。



    はぁとため息をつき、男は起き上がると、いつものように労働の支度を始める。






    朝8時から始まる、幸福感に満ち溢れた(・・・・・・・・・)労働だ。

    そしていつものように、朝日を眺めるために窓を覗く。






    とここで、男は見慣れない光景を目の当たりにした。








  4. 4 : : 2016/12/29(木) 13:28:10









    厚く垂れこめる雲の下、肌の白いソビエトの軍人たちが4人、ゆっくりとこちらに歩いてくる。

    薄汚れた外套をまとった兵士たちに混じって一人だけ、手入れの行き届いた外套をまとった将校と思しき人間が一人。





    髪をきっちりとオールバックにセットし、きちんと髭を剃ってある顎に手を当てた将校は、にこりともせずにこちらへと歩いてくる。

    如何にも神経質そうなその男は、灰色の瞳をじろりとこちらに向け、カツカツと音を立てて歩いてくる。





    流暢な日本語をしゃべり、小屋の中に入ってきた男は丁重な自己紹介を始めた。








    「朝早くから失礼させていただくよ。えっと・・・・・・・・・・・・中島さん、だったかな?」

    「ええ、中島です。あなたは?」


    「この地に新しく着任した、イワーノ・ゴドスキーです。どうぞよろしくお願いします。」







  5. 5 : : 2016/12/29(木) 13:29:50








    ゴドフスキーは中島に右手を差し伸べ、中島も求めに応じて握手をする。

    黒い目が灰色の目を探るように見つめる。



    そんな気配を感じ取ってか、ゴドスキーはようやく笑みを浮かべて、肩をポンと叩いた。







    「そんなに冷たくされてしまうと、こちらも困ってしまいますなぁ。」

    「冷たくされているのは、そちらだろう。」


    「いやいや、我々は仕事としてやらなくてはならなくてねぇ。今回の仕事もお役所仕事という訳だよ。ああ、かけてくれたまえ。」








    和やかな笑みを浮かべて、ゴドスキーは無造作に置かれた椅子に座り、向かい合う形で中島が不愛想に椅子へと座る。

    他の男たちは、まだ朝が早いせいか、寝息を立ててベットに横になっているようだった。







    「君へ事情聴取は確かに何度も行われている。そしてその都度、君の潔白は証明されてきた。」

    「ならなぜ聴取する?」


    「ああ、それだがね。お役所仕事というのは煩雑でね、引き継ぎの際に仕事が重複してしまうのも仕方ないのだよ。」








    やれやれとため息をつき、首を左右に振るゴドスキー。







    「だから約束しよう。君への聴取はこれが最後だ。金輪際君への聴取は行わない。君は確か、ロシア語が話せたね? 私も母国語で喋っても構わないかい?」

    「お構いなく。」







  6. 6 : : 2016/12/29(木) 13:31:42








    ゴドスキーは机の上に紙を広げ、万年筆を手に取って・・・・・・・・・・・・尋問の準備を整える。

    ゴドスキーはロシア語を使い、あくまで優しい声で中島に質問を始めた。








    「君は、このナヴォイ劇場の建築現場で密かに計画されている、ストライキについて知っているね? いったい誰が、そんなことを考えたのかな?」









    「何度も聞かれた話です。私は、ストライキのこと自体、前任の監督官から聞いて初めて知ったのです。」

    「ああ、そうだったね。もちろん知っているとも。私も前任の監督官から引き継ぎを受けたからね。いい人間だっただろう?」


    「とても、そう・・・・・・・・・・・・気の利く男でしたよ。様々なところを根掘り葉掘り質問してきてね。」


    「そうともそうとも、執拗に質問を繰り返すことから、蛇というあだ名をつけられていたよ。ふふふふふふふ。」








    愉快そうに笑うゴドスキーに、中島は眉一つ動かそうとはしない。

    部屋の中にいる男たちは眠っているように見せて、実は言葉を聞き漏らすまいと、拙いロシア語の知識でゴドスキーの言うことに聞き耳を立てていた。








  7. 7 : : 2016/12/29(木) 13:36:48









    「ところで、私につけられたあだ名のことは知ってるかね?」

    「・・・・・・・・・・・・私は生憎、そんなものには興味がない。」


    「でも知ってた。」


    「・・・・・・・・・・・・『ハンター』だと・・・・・・。」


    「そう、『ハンター』だ。このナヴォイ劇場は建築が遅れている。君たち日本人が怠惰な労働者でないことは私も知っているから不思議でならなくてね。」

    「・・・・・・・・・・・・。」


    「ああ、質問はもう終わりにしよう。少し雑談したらここを出ていくよ。パイプを吸っても構わないかね?」










    中島が静かに頷くと、ゴドスキーは懐から大きなパイプを取り出し、中に草を詰め込んでいく。

    マッチをこすり、灯った火をパイプに入れ、ゴドスキーはゆったりと煙を吹かす。




    煙を口から吐きながら外を眺め、ゴドスキーは呟くように雑談を始めた。









  8. 8 : : 2016/12/29(木) 13:40:45









    「・・・・・・・・・・・・雪が降ってきたね。」

    「・・・・・・・・・・・・。」


    「君たち日本人は雪を見て、何を思うのかな?」

    「・・・・・・・・・・・・。」


    「ソビエトにとって雪の日というのはありふれたものでね。特に何も感じる訳ではないんだ。それどころか、人間の生活に苦痛を与えるものだ。そうだろう?」

    「・・・・・・・・・・・・よく、分かりません。」



    「君は実に賢い男だ、中島。素直に敬服するね。だが、君は資本主義の犬だ。」

    「・・・・・・・・・・・・。」



    「野良犬は駆除するものだ。考えてもみたまえ。そこらをうろつく野良犬のことを。人はそれを害獣として駆除するだろう? 人間の感覚というのはそう簡単に抜けるものではないんだ。

    野良犬を見れば人は嫌悪感を催す。そこに理由などない。そう出来ているのだよ。」

    「・・・・・・・・・・・・。」




    「・・・・・・・・・・・・我々にとっての雪とは、赤だ。純白を染める血の色だ。


    だがね、私は敵の犬たちが付けたあだ名を誇りに思っている。私には彼らの気持ちがわかる。

    他の同志たちが誇り高きソビエトとして考えるなか、私は犬として物事を考えられるんだ。」




    「っ・・・・・・・・・・・・。」








    「・・・・・・・・・・・・この宿舎の中に、ストライキを計画した人間がいるね?」








  9. 9 : : 2016/12/29(木) 13:42:48









    中島の顔は、小屋のあたりに降っている雪のごとくに、すっかり蒼白となった。

    目は血走り、瞳に涙をためて、体は小刻みに震えている。



    まさしく、ハンターに射すくめられた野良犬のごとく縮みあがった中島に、ゴドスキーは容赦なくナイフを突き立てる。








    「日本のことわざでいえば何といえばいいか・・・・・・・・・・・・。『蛇に睨まれた蛙』といったところだね。」

    「わ、私は・・・・・・・・・・・・知らない!」


    「勿論知らないとも。君はソビエトの愛に生き、赤い雪を踏みしめていくんだからね。」


    「ど、どういう?」

    「君はもう分かっているとも。君には教育が与えられる。優れた頭脳の持ち主だからね。ロシア語も、まあこの通り堪能だ。他の日本人とは違って。」








    ゴドスキーは笑みを絶やさなかった。

    辺りを見渡し、ゴドスキーは中島に囁きかけた。






    「周りがあまり反応しないあたり、他はロシア語に堪能なわけではなさそうだ。」

    「・・・・・・・・・・・・はい。」


    「では、私の子芝居に少し付き合ってもらおうか。」







    ゴドスキーはそういうと、すっと立ち上がって笑みを浮かべたまま、右手を再び差し出した。

    今度は日本語で、優しさと誠意とを滲ませながら。






    「君への聴取はこれでおしまいだよ、中島さん。君の潔白は私が保証しよう。お詫びの印に、私の部屋でウォッカを奢らせてくれ。」






    ポンと中島の肩に手を回し、ゴドスキーはいかにも親し気に彼を外へと連れだしていく。

    二人と入れ替わりで、3人のソ連兵が、粗末な小屋の中へと入っていく。
















  10. 10 : : 2016/12/29(木) 13:43:54









    聞こえてくる銃声と悲鳴に、中島はぎゅっと目を瞑って、涙を流した。





    ゴドスキーは一仕事終えた、といった感じで、能面のような無表情さに還る。

    小屋から戻ってきた部下たちの靴は血で汚れ、純白な雪に真っ赤な足跡を残して歩いてくる。







    「同士よ。来年の11月、ロシア革命30周年を迎えるこの月に、何としても工事を間に合わせる必要がある。

    ソビエトのために、赤き雪を歩んでいくのだよ。分かるね?」







    ゴドスキーがそっと、中島の耳元で囁きかける。

    猫なで声で、あくまでそっと寄り添うように。








    「君が受けた恩恵を、国家に返す時だよ。さあ、行くとしようか。」



    ゴドスキーはそう言うと、純白の雪原の上に、赤い印を残していった。















    __________シベリアに抑留された日本人の、とある雪の日の風景。









  11. 11 : : 2016/12/29(木) 13:54:03


    以上で終了となります。



    シベリア抑留の話から、かなり脚色を加えて作った話でした。

    短い話でしたが、感想をいただけたら幸いです。




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