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世界で、たった一人の君へ。

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  1. 1 : : 2016/11/09(水) 11:25:25


    【作者 まえがき】



    君の名は。paraselene

    もし壁

    君に出会えてよかった ありがとう

    に続いての正式な4作目、こちらは完全にオリジナルとなります。

    いずれ、別サイト「小説家になろう」

    および、自らが漫画として描き、投稿しようと考えている作品です。


    前述の通り完全にオリジナルの作品です。

    拙い文章かつ、他作品も同時に書いていくため更新優先度は低めです。


    ですが、この17年間の僕の全てを この作品に描いていこうと思います。


    どうか、よろしくお願いします。



    追記

     今まで作中で沢山のありがたい意見を頂いております。ありがとうございます!
     ですが、今現在は他の方が読みやすくなる様、コメントは申し訳ありませんが不許可とさせて頂いてます。
     感想、ご意見は是非是非こちらへお願いします。ご協力、お願い致しますm(_ _)m

    http://www.ssnote.net/groups/2284
  2. 2 : : 2016/11/09(水) 11:30:09

    どうしても、伝えたい人がいます。

    僕のこの作品を通じて 僕の気持ちを伝えたい人がいます。

    その人が僕みたいな人間の作品を今は読んでくれるかわかりません。

    それでも、伝えたい思いがあります。

    自己満足になってしまうかもしれません。


    ですが、その人以外にも。


    この世の中で生きている、様々な「傷」を抱えた

    人達へ、伝えたい思いがあります。

    ―――――この作品で、たくさんの人に、僕の思いが伝わってくれたら、それ以上の幸せはないです。




  3. 3 : : 2016/11/09(水) 11:30:19


    Contents


    Prologue

    >>4


    第1話 「君の、本当の名前が知りたい。」

    >>12


    第2話 「私、本当にあなたに会える気がする。」

    >>


    第3話 「俺は、お前を絶対に助ける。」

    >>


    第4話 「あなたになんて、出会わなければよかった。」

    >>


    第5話 世界で、たった一人のあなたへ。

    >>


    Epilogue 

    >>


    __________________

    登場人物

    青山 慎哉(あおやま しんや)

    18歳。大学一年生。
    小説家を目指している。至って真面目な性格。人を助ける為に生きる事を強く願う。
    人と関わりを持つことは苦手だが、人と話すのは嫌いではない。

    琴峰 莉奈(ことみね りな)

    現在16歳。高校一年生。
    アニメやマンガ、小説が大好きで、漫画家か小説家になる事を考えている。過去に凄惨な経験がある。
    思考力と想像力に非常に富み、人の気持ちを考えようとする性格。

    鈴村 幹太(すずむら かんた)

    19歳。大学一年生。慎哉と同じ大学に通っている彼の親友。
    仁義にこだわり、フレンドリーな性格。普段は紳士だが、中身は女好きな一面もある。剣道部に所属する。

    日向 玲菜(ひなた れいな)

    18歳。慎哉、幹太と同じ大学に通う大学一年生。明るく、ほがらな性格。
    心理系の仕事を目指しているが、周りには隠していることがある。ダンスサークルに通う。

    水無瀬 奈乃華(みなせ なのか)

    莉奈の幼い頃からの親友。16歳、高校一年生。
    歌が大好きだが、ゲームやアニメも大好き。慎哉とは莉奈を通じて仲良くなる。
    少しボーイッシュな面もあるが、非常に乙女なところもあり、優しい性格。


    九城 美咲(くじょう みさき)

    16歳。高校一年生。莉奈と奈乃華の親友。
    九城家の跡取り娘だが、マンガや小説を好み、莉奈達と関わりを持つ。
    おっとりとした性格で、異性から非常にモテる。


    高橋 響也(たかはし きょうや)

    28歳。慎哉のバイト先の先輩で、次期店長。非常勤教師をしていたが、現在は訳あってコンビニ店で働いている。
    非常に面倒見が良い性格。慎哉の一番の相談相手。




  4. 4 : : 2016/11/09(水) 11:34:43



    ◆ ◆ ◆ ◆




    plologue




    ────4月の桜の花は、ひと月程過ぎるとすぐにその身を儚く散らしてしまう。


    どうせなら。

    一年中その美しいつぼみを開いてくれればいいのにと、ふと思う。

    いや、4月の限られた月日にその身を咲かせているからこそ、人はそれを、美しいと感じるのかもしれない。


    春のうららかな日、俺は桜が咲き乱れる風情ある公園のベンチに腰掛けていた。

    角砂糖8個に、ミルクを多めに入れた、もはやカフェオレのようなコーヒーを片手に。


    本来なら朝9時のこの時間帯は、普段の平日であればすでに大学の講義を受けている頃だ。

    だが、講師が体調不良ということで、今日の午前の講義は、突如として休講になった。


    大学に向けてスクーターを走らせ、あと5分ほどで目的地の大学に到着するという所で、親友からのSNSで、その事に気がついた。

    ───その結果、まぁおよそ2時間近くの時間と労力を無駄にする形となったわけだが。


    昔から、俺は

    「頭のネジがどこか足りていない」

    「どこか人とズレている」

    そういったような事を。

    あるいは。

    それに近いことなどを、家族を始め、たくさんの人から言われ続けていた。

  5. 5 : : 2016/11/09(水) 11:36:05



    そしてそれは、こういったちょっとした小さな失敗がきっかけで、いつも言われていたように思う。

    以前の俺だったら、それがきっかけで誰かを傷つけてしまった場合、きっと自らを責め立て、落胆していたかもしれない。


    もう一度、過去に戻ってやり直したいとすら思っていただろう。


    でも。




    それはあくまで「以前の」自分であったなら、という仮定の話だ。


    今の俺は、あの時とは違う。あの時のように、過去にすがり、失敗から逃げようとは、今は決して考えていない。

    むしろ、前向きに。ポジティブに。


    失敗したときの後ろ髪を引くような後悔も、行動を起こしたからの証だと、割り切ることができるようになった。

    そんな風に、確かに思う。


    とりあえず、一分ほど天を仰いだ後に、近場のコンビニを探すことにした。

    その時、腹の虫がぐるぐると唸る。

    そういえば、朝食もまともに食べず大急ぎでスクーターを学校に飛ばしていたのだった。


    「…………」


    だめだ、急に気持ち悪くなってきた。

    胃に何か詰め込み、腹の虫を落ち着かせることにした。



    桜の木が真っ直ぐに並行している道路をスクーターで走る。春の風が、ヘルメット越しに唸るように響く。


  6. 6 : : 2016/11/09(水) 11:39:01

     
    公園からそう離れていない位置にあったコンビニは、何やら店内前の暖簾で大いに珈琲を推していた。

    新しく開発され、新発売という形になった珈琲らしい。


    店内をぐるりと回ったところで特に食べたい物が見つからなかった俺は、

    広告に興味を引かれた結果。

    コンビニお勧めの珈琲と、会計の際に思わず目に付いたチョコドーナツを、気まぐれに購入し、コンビニを出る事にした。


    俺は別に珈琲の味がわからないわけではない。別に飲もうと思えばブラックも飲めなくはない。正直、どの珈琲がどう美味しくて、どう味が変わっているのかはさっぱりだけど。

    まぁ今の俺の気分はブラックではないのだ。

    角砂糖とミルクを大量に入れて、その店の珈琲を楽しもう。うん、それがいい。


     ……まるで。

     親に怒られないように必死に言い訳をする小学生のようだと、俺は思わず心の中で小さく苦笑した。


    なかなかに謎な性質だが、俺はこうして18年間生きてきた。つまり、一応18歳。

    いや、変な言い訳は止めよう。

    まぁ簡単に言うのなら、俺は変人というわけだ。

    そうして、現在。

    コンビニを出て、また桜木通りをスクーターで駆け抜け。


    なかなかに美味だったドーナツを食べ終えて、今俺は苦みがほぼ皆無に等しい珈琲をすすっている。

    いや、もはや珈琲という名のカフェオレをすする、という表現が正しいのかもしれない。

    休憩がてら見つけた桜の木が咲き誇る小さな公園のベンチで、ゆったりとした朝を堪能していた。

    ────そんな中、気持ちのいい春の風がふと俺の顔を撫でる。



    それに続くかのように、散り始めの桜の花が風に揺れ、花びらが舞った。


    ─────綺麗だと、感じた。


    こんな風に桜を見るのは随分と久しぶりだし、

    今までに一人でこのような景色を眺望したことは一度もなかったからだ。


  7. 7 : : 2016/11/09(水) 11:44:54



     いや、そもそもの話、「彼女」と出会ったりしなければ。

     こんな風に、何かの景色に感情を覚えたりするようなことなんて、なかったのかもしれない。

     きっと、こんな景色に気が付くことすらもなかっただろうと、そう思った。

     人は美しいものを見たり、聞いたりすると自然とそれを「誰か」と共有したいと感じるものらしい。



     だけど、実際それは間違いじゃないだろう。

    最近のSNSの爆発的な流行は、きっと人間の、その本能的な感覚のせいじゃないかと、勝手に思っている。

     別に無責任な批判家を気取ってそのことを否定したいわけではないし、否定する権利も、そんな資格すらもない。


    だけど、強いて言うのであれば。




    「人とはそういう生き物」(...........)なんだと。




    俺自身が勝手に達観しているという、ただそれだけの話だ。


     だけど、俺はほんの1、2年前まではこんな風に達観をするような人間ではなかった。

     そしてきっとあの時の俺はこんな風に理解をし、納得をするようなことはなかっただろうと思う。
     

     もっと諦めが悪くて。

     もっと引きずってしまうような。

     そんな、人間だった。


     そうだ。彼女と出会ったことで、数多くのものが変わった。

    たくさんの何かが。

    そして、きっとそれは、悪い意味でも。良い意味でも。


    「………………」


    思わず、ため息をつく。

    もう、彼女と連絡を取らなくなってから一年以上経つというのに未練でいっぱいの自分に、情けなさを覚えたから。


    琴峰 莉奈(ことみね りな)との思い出は。


    それくらいどうしようもないくらいに、俺の胸から消えてはくれない。





    ──────桜の花びらが膝の上へ、ひらひらと落ちる。
  8. 8 : : 2016/11/09(水) 11:47:58

    つい先ほどまで、大きな桜の大樹でその身を華麗に咲かせていたはずの、小さな花びらが。

    桜は、ある時期を過ぎれば、花を咲かせていたのがまるで一瞬の出来事だったかのようにすぐに地面へと散っていってしまう。


     ちょうど、俺の膝の上へと舞い落ちた、この花びらのように。


     人間もたぶん、一緒だ。人間の一生なんて、地球単位でみれば、はっきり言ってとてつもなく小さい。


     きっと、文字通り、一瞬なのだろう。

     彼女と出会ったことで、俺はそれを実感し、そして理解した。したくもない理解を。

     諦めを、つけてしまった。

     彼女との「瞬間」が永遠に続いてくれていれば、どんなにか幸せか。


     何度、そう願ったかわからない。
     
     だけど、今になって思う。今更ながらに。

     どんなにそう願っても、人のひと時は、絶対に永遠になどならないのだと。

     当たり前のこと。変わるはずも無いこと。


     だけど、そんな単純で、残酷な真実に気づくのが、あまりにも遅すぎたのだと、俺は思う。


     ───あの時、もっと、ちゃんと考えていればよかった。


     そう後悔しても、あとの選択を悔いても。
    戻ってくることのないものが、確かにあるのだということを。


     もっと早く気づくべきだったのだと、そう思う。

     気づけば、公園の隅に申し訳なさそうに建てられている時計の針が、9時30分を指していた。


     珈琲はすっかりと冷めてしまい、手からは温もりが消えていた。
    別にこれから何か予定があるわけでもないので、もう少しだけこの公園に留まることにする。


     ベンチにさらに深くもたれ掛け、ふと空を見上げた。

     薄い青色に、綿菓子のような、ふわふわとした雲がいくつも浮かんでいる。


    そんな空に、二本のラインが引かれていた。まるで空に線を引いたような、真っすぐな雲。


    空の彼方に引かれた確かな軌跡がそこにはあった。


    ふと、思う。


     きっとその飛行機雲は、たとえ水平線の果てまで行ったとしても、

    ─────決して混じり合うことはないだろう(・・・・・・・・・・・・・・)

    ─────交差することもない(・・・・・・・・・・)のだろうと。

  9. 9 : : 2016/11/09(水) 11:48:17







    だけど同時に。



    もしも、世界でたった一人の君へ、この思いを伝えることができたなら────











  10. 10 : : 2016/11/09(水) 11:48:48




    きっと俺は。




    たとえ明日にでもこの命がなくなっても構わないとも、そう思った。


    君に出会えて よかったと。


    ありがとうと。



    確かに、そう伝えることが


    できるのなら。













  11. 11 : : 2016/11/09(水) 11:49:17














    世界で、たった一人の君へ。











    空山 零句


















  12. 12 : : 2016/12/31(土) 01:49:51




    第1話 「君の、本当の名前が知りたい。」




    ※ ※ ※ ※

    ふと、重いまぶたを少しだけ開いた。

    陽の光は、柔らかく。

    包み込むように、窓越しに俺の頬を撫でている。


    心地の良い、光だ。


    その優しい日差しに甘えるように、そのまま俺はもうすこしだけ、眠りにつこうとする。

    だけど、そうしてまぶたを閉じた瞬間、まるで狙いすましたかのようなタイミングで、ソファの上に放り投げていたスマホの通知音が響いた。


    「……んん、なんだよ」


    眠りと目覚めの狭間をたゆたう、あのなんとも心地の良い感覚を邪魔された俺は、少々不機嫌気味にスマホの通知を見る。


    「あ……」

    「……幹太(かんた)か」


    その通知の内容は、高校からの親友からのメッセージだった。

    それを見た俺は、軽くカーペットから身体を起こし、メッセージアプリをそのまま開く。


    『やっぱり休講だったろ、午前の講義』


    という内容だった。

    時刻は昼過ぎ。
    俺はつい2時間ほど前まで、大学からほんの少し離れた、桜の良く映えた公園にいた。

    本来ならば、今日は午前中に、文学部の講義が四時間連続で行われる予定だったのだが、今日は講師が珍しく体調不良という理由で、それらが無くなったのだ。

    『そうだな。あの後……結局すこし寄り道してから大学に行ってみたけど、やっぱり無かった』と、俺は幹太へメッセージの返信をフリックで入力する。


    俺はその事を、つい2時間ほど前、大学へと原付を飛ばす途中で知った。

    それもまた、幹太からのメッセージがきっかけで、気付けた事だった。

    どうやら今は、普段講義を受けている教室で天文学部の講義が代わりに開かれているらしく、あの時幹太がメッセージを送って教えてくれなければ、危うく笑い者となり、とてつもない恥をかく所だった。

  13. 13 : : 2017/02/14(火) 08:58:38

    『まぁ、ありがとよ。助かった』

    と、俺は幹太にメッセージを送る。

    すると、五分後に既読がつくと、返信もほぼ同じタイミングで届いた。


    『礼ならメクドのLサイズのポテト奢りで頼んでいいか?』

    『笑笑』と。

    「…………」


    こいつ、調子乗りやがってこの野郎と一瞬思ったがまぁ普段から色々と世話になっている親友へのお礼も悪くないなとも思い、俺は『仕方が無いな、奢ってやらんこともないぞ』と返信する。


    すると、今度は割とすぐに返信が届く。


    『何様だテメェ笑笑』

    『あ? 俺様。w』

    『死ね笑笑』

    『www』

    と、いつものノリで俺は慣れたリズムで文字を打っていく。もうここ数年の付き合いだ。コイツとのやり取りはだいぶ慣れた。

    そういや数年前はこんな風な相手ができるなんて思ってもいなかったよなーと何となく考えていると、幹太から『というわけでこれから遅めの昼飯食わねぇか』とメッセージが再び来る。


    「………ん? 待てよ?」


    あれ? と俺は気付く。

    そういやコイツ、部活は?

    俺の通う大学はどこにでもある一般的な大学と同じように、部活と、同好会といったものに近いサークルが存在する。

    サークルの方は、活動は自由。

    大抵、どこのグループも「全員でとにかく楽しむ」といったようなことを重視しているところが多く。

    それは運動系でも、文化系でも似たようなところがやはり多いらしい。

    それに対して、部活動の方は「全国優勝」だとか、「一致団結」といったキャッチコピーを主に活動しているようだ。

    幹太の所属する剣道部も、その一つである。どうやらかなり強い部活とのこと。

    例年、サークル、部活の人数比としてはやはり、圧倒的にサークルの方が多いわけなのだが、最近ではその比率も少し変化してきていると聞いたこともある。

    剣道部も幹太曰く、人数が何故か俺の代からめちゃくちゃ増えた、という話らしい。しかも、どの入部者も本気で剣道に取り組んで来た者が多く、中には全国個人優勝といった人間もいると聞く。

    無論、そんなレベルの高い剣道部に所属しているコイツもそれなりに腕はあるらしく、相当な剣道好きなのである。

    講義が終わると、いつも速攻部活へと飛んでいく程には。


    そんな幹太が、こんな部活が始まる時間帯にどうして飯を自分から誘ったのかがよく分からず、思わず俺は気になってメッセージで訊いてみる事にした。







  14. 14 : : 2017/02/14(火) 09:15:51

    『めんどい。』

    「………」


    返信はそれだった。
    どうやら説明する気は無いらしい。

    いや確かに別にお前が困るだけだし、俺にはどうしようもないからいいんだが。

    思わずげんなりしていると、続いて返信が幹太から届き、リズムの良い通知音が部屋の昼時の和やかな空気を微かに揺らす。


    『まぁ、後で直接話すわ。とりあえずこのあと十五分後に近くのメクドに集合でいいか?』

    『……いや俺は別にいいけどお前今大学じゃねぇの。めっちゃ遠いじゃねえかよ』

    『うん? いや、実はもうメクド来てる笑笑』

    『……なるほど。』

    『ぼっち飯になるからとっとと来い笑笑』


    「………はいはい」


    ふぅ、と小さく息を吐く。

    洗面所で軽く顔を洗う。

    蛇口から流れ出す水は氷のように冷たく、意識までもハッキリとそれは呼び起こす。

    そして、鏡の中のもう一人の自分をタオルで顔を拭きながら見つめる。

    目のクマはだいぶ消えたな、と思い、そして同時に琴峰 莉奈のことを何となく思いながら、ドライヤーを取り出し、熱風で濡れた髪の毛の水分を乾かす。

    あぁ、消えないんだな、とふと思う。

    それはまるで、

    まるで心に刺さる棘のように、

    あるいは割れたヒビガラスののように。

  15. 15 : : 2017/02/15(水) 12:11:22


    それは、いつまでも俺の心に残り。

    痛みとなって身をえぐり続ける。

    あるいは大切な何かがヒビから漏れていく。


    都合の良い救いなど、訪れようはずがない。

    そんな事を思いながら俺は上着を着て、スマホを片手に部屋を出た。

    殺風景で家具の少ない部屋からは、誰かが「行ってらっしゃい」などと言ってくれるはずもなく、きっと、もしかしたら俺はずっとこうなのかもしれないと考えて。


    誰もいない家の、重いドアを閉めた。







  16. 16 : : 2017/02/15(水) 19:01:25

    ※ ※ ※ ※

    午後二時半。

    時刻は昼時というには少し遅い時間だけど、それでも遅めの昼飯を食べる人も多く居た。

    外から見てもわかるほどに、人で賑わうメクドバーガーに来た俺は、安めのランチセットを注文し、幹太を探していた。


    「おーい、慎哉!」

    「…!」


    トレーを持ってウロウロしていた俺が目に入ったんだろう、筋肉ゴリラが俺の名前を呼びながらモッシモッシとLLサイズのポテトを頬張る姿が視界に写った。


    「……悪いな、俺お前みたいな筋肉ゴリラ知らねぇわ」

    「ぶっころすぞとっとと来い。」


    俺は幹太の向かいのソファテーブルに座り、トレーを置いた。


    「冗談だよ。ってお前、そのポテトサイズいくつだよ!? それ以上食ったら痩せねぇぞお前!」

    「ほっとけ、痩せたくても筋肉にしかエネルギーが変換されねぇんだよ」


    丸い顔をこちらに向けながら幹太は構わずポテトを口に運ぶ。

    外見は非常にポッチャリとしており、お肉もよくついた体つきに見える為、よく周りからはでぶと言われているが、実はコイツの身体はほとんど筋肉で出来ている。

    初めて見た時は大層驚いたと思う。驚きすぎて卒倒しそうになった程だった。


    「おい、どした? 何俺の筋肉に見とれてんだ?」

    「黙れデブ」

  17. 17 : : 2017/12/24(日) 13:08:14

    「で、話を戻すけどさ」

     話題が脱線する事によって、色々と収集が着かない事故が起きそうなので、スマホのメッセージ上の会話の続きを俺は振ることにする。

     相変わらず幹太はもぐもぐとポテトを頬張っている。コイツホントにこれ目的なんじゃないだろうな。

    「それで、何でお前は今日は珍しく部活休んでるんだ?」

     目の前のこいつは、ようやくポテトをついばむ右手をペーパーで拭き取りながら「あぁ、それなら至極簡単な理由だ」と低い声で会話を続ける。

    「簡単な理由?」

    「そ、オレは普段から真面目に剣道やってる身だからな」

    「……というと?」

    「うちの部活はちょっと変わっててな」

    「普段真面目に部活に取り組んでる奴は、大会前でもない限り休みを貰えるって感じのとこなんだよ」

    「……へぇ……」

     正直、素直に驚いたと言うのが正しいだろう。というより、まず俺自身がサークルにも部活にも所属していないからというのがあり、イメージしていたものと差が生じていた、という方が更に正しいかもしれない。
     
    「……そういうもんなのか? この学校の部活は」

    「さぁ、他の部活の事なんぞオレは知らん。ただまぁ、というより今回は顧問から休めって言われたってのが一番の理由ってとこだ。
     普段基本的にオレは休まないから、少しは休養をとれって話らしい」

    「……なるほどな」

    「まぁ、オレの話は良いんだよ。慎哉はどうだよ? わざわざサークルにも入らずに一心不乱に書きまくってる小説の方は進んだのか?」

    「………」

     カップの中のジュースを吸いながら、考えてみる。アレは進んだ、と表現していいものなのだろう。
     書きまくってる、という幹太の表現はあながち間違いでもない。実の所、サークルにも部活にも何一つ興味を持てなかった俺は、ここ二、三週間は講義が終わるとカフェテリアか家でスマホに文字を打ち込んでいる。

     二年前から始めた執筆の習慣は、今も変わらない。変わらないものはそこにあり続け、そして現在へと至っている。
  18. 18 : : 2017/12/24(日) 13:11:04

     そんな風に少し考え込んでいると、おーい、どしたーと幹太が手を振っているのが視界に映る。

    「ん、あぁごめん」

    「お前って考え込むといつもそうなるよな」

     幹太は呆れる様に笑う。
     コイツは本当に俺の癖をよく分かっている。

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okskymonten

空山 零句

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