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追憶③

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  1. 1 : : 2016/10/02(日) 20:07:15
    過去レス
    『追憶』
    http://www.ssnote.net/archives/48585

    『追憶②』
    http://www.ssnote.net/archives/48872


    前作『蛍』の続編・・・なんですが・・・
    どうなる事やら。


    前作を読んでないとあんまわかんないです。

    前作『蛍』
    http://www.ssnote.net/series/2989


    オリジナル設定多数。
    キャラ崩壊バリバリ。
    細かい事は抜き。

    因みに私、艦これはやった事ございません。
    おそらく筋金入りの提督さんには向かないと思われます。


    以上を踏まえた上でお付き合いいただけたらと・・・思っております。


    申し訳ないです(;゚(エ)゚) アセアセ
  2. 2 : : 2016/10/05(水) 12:39:15
    秋から冬にかけての空はまるで突き抜けるように蒼く、何処までも上ってゆく事が出来そうなほどの透明感を湛えていた。


    夏のあっけらかんとした空の蒼さも良いが、空の蒼みを語るなら、やはりこの時期の空が一番だ。




    空気も澄み渡り、洋上では肌寒ほど。



    これから向かう演習の場では、そろそろ冬物のコートかダウンを着込まないと寒さにやられてしまうだろう。


    それにしても艦娘という存在は寒さに強いのか、そもそも寒さを感じないのか・・・夏の炎天下でも平然と行動し、この冬に差し掛かるほどの洋上の寒さも何のその。


    鎮守府内では暑いだの寒いだの言っていたりもするが、実際に熱中症になったとか、風邪やインフルエンザになったという話は聴いたことが無い。

    そもそもあんな薄着・・・もう肌が露出なんで言うレベルでは語れないような艦娘も居る中、やはり同じ生体といえども・・・相当強靭なんだろうな・・・と想像することしか出来なかった。



    今こうして目の前で調整作業をしている彼女・・・陸奥もその中の一人なんだろう。

    これだけ肌の露出もあり、胸元が強調されるような服装であるにも関わらず、この寒さに鳥肌一つ立てることも無い。


    こっちは呉鎮守府内の開けっぴろげの工廠、しかもご丁寧に一番北風が入り込みやすいように両側の扉が開いた状態でブルブルと震え、海風のすさまじさを身を持って体験している中、文字通り『涼しい顔』で調整作業の進行具合を眺めていた。



    彼女の艤装には何本ものケーブルが刺さり、数台のノートPCが画面上にプログラムの羅列を上から下へと流し続ける。
    その間、砲台が彼女の意思とは関係なく旋回したり、砲身を上下させたりと・・・様々な動きをしていた。



    「なんだか変な気分ね・・・自分の意思で動かそうとしていないのに、勝手に動いてるのを見るのって」



    陸奥が不思議なものを見るような表情でいつも見慣れている自分の艤装に目を落としている。

    そうこうしている内に彼女の眼前にはディスプレイが表示され、様々なデータを流す。



    「どうです?表示が以前のと違ったりしてるので戸惑うかもしれませんが・・・」

    「う~ん・・・細かい所は違うけど、それほど大差は無いわ。ようは慣れでしょ?ね?」


    大川の問いかけにウィンクしながら答える陸奥。
    なんとも・・・相変わらずな人だ・・・大川は内心にそう呟きながらノートPCの画面に眼を向けなおした。


    調整作業も大分進み、そろそろ終盤に差し掛かる頃、大川は長井の所在を確認する。


    工廠内には彼女は居ない。


    鎮守府内に係留されている護衛空母『かが』のほうに出向いているのだろう。
    暫く彼女はこっちに戻ってこない事を確認すると、PCの画面から眼を離すことなく、大川は陸奥に話し掛ける覚悟を決めた。
  3. 3 : : 2016/10/05(水) 21:41:58



    「ねぇ陸奥さん・・・一つ聞きたい事があるんですが・・」

    「なぁに?提督・・・じゃなかった。課長さん?」

    「今は明石さんと夕張さんくらいしか居ないから呼び方に気を使わなくていいですよ」



    慌てて呼び方を変える陸奥に鼻でクスッと笑いながら大川が答えた。



    「鼻で笑わなくってもいいじゃない・・・で、なんなのよ?」

    「長井さんがネックレスに通している指輪・・・なゼ彼女がそれを持っているんですか?」



    それまで鼻で笑う大川に対して口を尖らせてそっぽを向いていた陸奥が突然表情を変えた。
    大川に向き直ると、軽く溜め息を吐く。



    「飯島さんから聞きました。長門さんが解体される前夜、酒盛りになった際に陸奥さんに何か渡していたって話・・・それって指輪じゃないんですか?」

    「そうよ。彼女から・・・貴方との大事な指輪を託されたわ」

    「では何故それを長井さんが・・・?」

    「・・・・」



    陸奥は大川の問いに眉間に皺を寄せながら答えることをためらっていた。
    大川はそんな彼女の思いつめた表情を見て、眉をひそめる。



    「課長さん・・・いえ提督・・・提督は、フェリーの沈没の話、知っている?」



    陸奥が意を決したかのように喋りだした。



    「いえ・・・詳しくは知りません。確か8年前にそういうことがあったと長井さんに聞いています」

    「正確には15年前の話なの・・・彼女に過去の事を説明する際に、意識が戻る3年前・・・今からで言うと8年前と、そう教えたそうよ。しかもそのフェリーの事故は公表されてないの・・・」



    陸奥の言葉に大川は驚きの目を向ける。


    確かにフェリーの事故・・・しかも相当数の死者を出している割にはそれを知っている人は殆ど居ない。
    それだけの惨事・・・言うなれば事件とでも言おうか、それをなぜ公表されなかったのか?

    大川も素朴な疑問としてずっと心の中に思っていたことだった。



    「フェリーが沈んだのは15年前、長門が解体される数ヶ月前の話よ。彼女はずっと貴方の死を自分の責任と思いつめていたわ」

    「知っています・・・」



    陸奥の言葉に大川は悲痛の面持ちになる。
    陸奥は彼の肩に手を置き、その眼を見つめた。


    「提督が気に病むことじゃないわ。あれは仕方なかった。提督は長門を助けたかった。それだけだもの・・・」


    ちょうど工廠の入り口前に山瀬海将補が大川を呼びにきた所だった。
    陸奥と大川がなにやら真剣な面持ちで話をしているのを見て、彼は足を止めた。
    陸奥はそんな山瀬の姿を見ると、悲しげな微笑を送る。



    山瀬は大川の傍らに佇むと、話に入るでもなくその様子を見守っていた。



    「あの時、呉鎮守府から演習目的で出航した私と長門は、それぞれ駆逐艦、軽巡洋艦の子達を引き連れて伊予灘から豊後水道を抜けて宮崎沖の太平洋に出る予定だったの」


    ああ、いつもの演習に向かうルートだとすぐに思いつくと、大川は顔を俯けた。


    鎮守府から出航すると、南に進路を取り江田島との間、狭い海峡を抜けてゆく。
    途中に掛かる国道487号線は大型船舶も通れるように高い位置に橋梁が掛けられており、悠々とぬけてゆく事が出来る。
    あとは西に進路をとり、火山、岳浦山を左に見ながら通過、柱島、中島などを抜ければ伊予灘へと出られる。



    「伊予灘を抜け、別府湾を通過しながら豊後水道に入る時・・・潜水カ級が現れた・・・」


    きっと陸奥は当時を思い出しているのだろう。
    俯き、悲しみを湛えた瞳が滲む。


    大川は対面の椅子に掛けたまま黙り込んでいた。
    山瀬はそんな二人の様子を立ったままただ見つめるだけだった。

  4. 4 : : 2016/10/07(金) 20:13:39


    「駆逐艦の子達がいち早く気付いてすぐに爆雷を投下したわ・・・でもね、相手はすでに魚雷を扇型に発射しててね・・・そこに偶然フェリーが・・・」


    「一瞬でした。通信を受けてすぐに飯島さんは攻撃命令を出しましたが、時すでに遅く・・・。私は現場に居ましたが・・・それはもう悲惨な状況でした・・・」



    山瀬が間髪入れずに説明をする。
    大川は腕を組み、黙ってその話を聞いていた。


    「長門が沈んでゆくフェリーに飛び込んで、辛うじて息のある一人の女性を発見した・・・それが彼女」

    「長井さん・・・・ですか」


    大川の言葉に陸奥が黙って頷く。


    「発見当時、右腕肘部より下が欠損、同じく右大腿中部より下が欠損、全身火傷、頭蓋一部欠損と・・・顔の判別も付かないくらいで生きていることが不思議なほどでした・・・」


    山瀬が当時の長井の状況を話す。


    「では今の彼女は・・・本当は誰なのかわからない・・?」


    大川は山瀬の言葉に疑問を差し挟んだ。


    「はい。お察しの通り、彼女自身の身分を証明する物も無ければ、発見時の状況では顔の照合もできませんでした。彼女の戸籍は5年前にあてがわれたものです」

    「そんな・・・でもなぜ・・?彼女は・・彼女は俺の死んだ時の事を夢に見ると言っていた・・・彼女は・・・彼女は『長門』の記憶を持っている・・・どうして・・・どうしてそんなことが・・・」

    大川は山瀬の言葉に愕然とする。
    彼女の仕草、彼女の香り・・・彼女が見る夢。
    容姿も何処と無く似ていた。

    大川は長井を『解体後の長門』では無いかと薄々感じていた。



    そう信じたかった。



    艦娘は解体されると普通の女性に戻る・・・
    かつて工廠の関係者からそう聴いていたし、その話をずっと信じていた。
    記憶を消され、艤装と接続される接合部を外され、後は普通に生きる・・・



    しかし、山瀬や陸奥の話を信じるならば・・・長井は解体後の『長門』ではない。
    ならば前に話してくれた『夢』を見ることも無いはず・・・


    第一記憶を消されている状況の中で、それを思い出すことが出来るのか・・・?
    一度でも防衛機密に触れ、その中で生きてきた存在であった『艦娘』の記憶の管理を、そんなに杜撰にするとは思えない。


    では彼女は・・・なぜその夢を?



    その記憶を持っていなければ見ることの出来ない夢・・・
    彼女は別人のはずなのに・・・





    そう、別人だったのに・・・





    椅子から立ち上がり、工廠の扉越しの海を見つめる大川。

    突然聞かされた話に混乱し、自分の信じていたもの、信じようとしていたもの、希望としていたものがガラガラと音を立てて崩れ去るようだった。


    愕然としている大川の背中を陸奥が抱きしめる。
    山瀬は第二種軍装の白い帽子の鍔を引き下げ、目深に被りなおした。



    陸奥は「落ち着いて・・・」と囁いた後、大川に語りかけた。



    「長門は・・・貴方を死なせてしまった自分が許せなかった。彼女は死に場所を求めていたの・・・ずっとね。そうして彼女は、自らの身の処し方を見つけた・・・」


    陸奥の言葉に大川は拳を握り締める。
    ギリギリと音が聞こえてくるぐらいに硬く握られた拳は振るえ、大川は深い溜め息を吐く。



    三人の間に北風が吹きぬける。


    遠くで出航を告げる汽笛が鳴る。
    出航ラッパが鳴り響き、長井が載る護衛艦が先に演習海域に出航してゆく事を伝えた。


    冷たくなってしまった大川の頬には、未だ温もりを失う事の無い雫が流れた。
  5. 5 : : 2016/10/08(土) 20:41:33
    「そうですね・・・はい・・・了解しました」


    長井は自らのスマホに掛かってきた電話に対応する。


    どうしたんだろう・・・?
    さっき出航前に探したけど姿が見えなかった。
    工廠で戦艦娘『陸奥』の調整作業を行っているはずだった。


    山瀬提督に「あとはこちらで対処します。出航の時間なのでとりあえず乗船してください」と言われ、準備を整えて護衛艦『こんごう』に乗り込んだ。


    出航から30分ほどして彼から電話が掛かってきた。
    しかしなんだか声が暗い・・・

    工廠の中で何かあったのだろか・・・?


    長井は風が吹き荒ぶ後部甲板の手すりに肘をかけながらスマホで話していた。
    出航前に艦長と話をする機会があり、この時期に瀬戸内海である伊予灘がこれだけ寒いのは異例だとの事。

    ここ数十年、毎年何らかの異常気象が観測されてきたが、今年のは格別らしい。
    長井は冷たい風と波飛沫を浴びながら遠方の海を眺めていた。



    「どうしたの・・?声が暗いですよ・・?」

    『あ・・・ああなんでもないですよ。ちょっと調整作業に手間取りましてね・・・とにかくこちらは今鎮守府を出ました。そちらも調整を続けつつ予定海域に向かってください。では・・また現地で』



    一方的に切られた電話に不安を感じつつ、彼の気の無い話し声に一抹の不安を抱いた。










    艦(ふね)は巡航16ノットで滑るように進んでゆく。
    艦首が切り裂き、引き連れる引き波は、綺麗に船体の横を広がるように目の前を遠ざかってゆく。



    海風が冷たく、耳元でごうごうと唸りを上げながら彼の周りを吹き抜ける。
    空は何処までも高く、内海である瀬戸内の海は波も穏やかだった。



    唯一例外は、まだまだ温暖なはずのこの時期に、毎年何かしらの被害にあう異常気象のお陰でこの海も何時に無く寒かった。

    護衛空母『かが』の艦橋の上、レーダードームの脇の手すりに肘を掛け、先ほどまで護衛艦『こんごう』に乗り込んでいる長井と電話で話していた。


    彼女に声が暗いと指摘され、先ほどの話があまりにも衝撃的だったことが表に出てしまっているのだろうか?と反省しながらも、明るい雰囲気にはなれない自分が居る。


    これ以上話すともう胸の内にしまって置けなくなってしまうと思い、慌てて話を終わらせて電話を切った。

    あまりに一方的に切ってしまったから、彼女も気にしているだろう・・・



    そんな事を考えながら手すりに頬杖を付いていると、山瀬海将補が艦橋屋上へと上がってきた。



    「去年と今年と・・・異常気象でしてね・・・。まだ9月だと言うのに異常な寒さなんですよ」

    「そうだな・・・こんなに寒い瀬戸内海は今までに経験が無いね・・・しかも9月だろう?」


    山瀬が手すりに両手を付き、遠方の島々を眺めながら大川に話し掛けた。
    大川は同じく手すりに肘を付いたまま遠方を眺めている。
  6. 6 : : 2016/10/08(土) 20:42:58

    「そういえば・・・嫁さんと子供は元気?」


    大川がちらりと山瀬を見やりながらたずねる。


    「おかげさまで・・・上の子はもう中学生になります」

    「ああ・・・もうそんななんだ・・・時は流れるもんだ。俺が初めて会ったのはまだ赤ん坊だったしな・・・下の子は?」

    「ええ・・・元気ですよ。女の子なのにね・・・・上の子が男の子なもんだから・・・やんちゃもので困ってます」

    「へぇ・・・良いじゃないか、賑やかで」


    子供の話を楽しそうに話す山瀬を眺めながら、胸の奥がチクリと痛む。
    自分には無い幸せそうな後輩の姿を見て、呉の工廠での話を思い出した。




    長井は『長門』ではない




    そう決定付けられた話を思い出し、なんだかまた目頭が熱くなる思いがした。
    年上の後輩にそれを見られることを嫌い、海に向かって顔を俯けた。


    そんな大川の様子を見て、山瀬が察したのだろう。
    急に黙り込んだ山瀬は、遠方の島々に目線を移した。



    「・・・豊後水道で深海棲艦・・・潜水艦でしたが・・その進入を許したって事で、15年前の『事件』は闇に葬られる形になりました」


    山瀬は訥々と語り始める。
    大川は相変わらず海に目線を落としていた。

    海猫の鳴き声が海原に響く。
    時折飛魚が艦の通過で海面に飛び出し、30m以上海面を飛翔しまた海中に姿を消す。


    「当時は深海棲艦との戦闘も小康状態で、ましてや日本近海での発見はほぼ無かった。国民にも徐々に物資が行き渡り始めた頃で・・・政府としてもネガティブな話は表に出したくは無かったのが本音でしょう。ましてやあれだけの予算を使って行われたミッドウェーの作戦後暫くしてですからね・・・戦死者数も相当数に上りましたし・・・。当時の報道で『豊後水道でフェリーが爆発事故』程度の発表はあったみたいですが・・・皆生活に必死で、殆ど叩かれる事も無く時間の中に埋もれて行きました」



    山瀬は帽子を取り、髪をかきあげながらまた被りなおす。
    黙って聞く大川は、遠方の島々を眺めながら溜め息を付いた。


    突然、タラップを上がってくる誰かの足音が後ろで響く。
    二人はその音に後ろを振り返った。
  7. 7 : : 2016/10/08(土) 20:44:11
    「大川てい・・課長・・・陸奥の調整、完了しました。いつでもいけます」

    「ああ・・・明石さん、ありがとうございます」

    「到着予定は明朝だ・・・それまではゆっくり休むように陸奥に伝えてくれ」



    山瀬は明石にそう伝える。
    明石は敬礼をする。



    「・・明石さん?まだ何か?」



    大川が敬礼後も動こうとしない明石に話し掛けた。



    「・・・陸奥さんから頼まれまして・・・『私では上手く説明出来ないから』と・・・」

    「陸奥さんから・・・?」

    「はい・・・長門さんの件です」



    眉をひそめる大川に明石が真剣な面持ちで話し掛ける。
    山瀬は明石を制する事もなく、「自分は持ち場に戻ります」と一言残して去っていった。


    夕暮れにはまだ遠いが、少しずつ日が落ち始め、蒼みを帯びた空から若干の茜色が滲み出していた。


    海は凪ぎ、風は冷たく吹き抜ける。


    大川は、今はもう何処にも居ない長門との思い出を呼び起こしながら、明石が自分の横に歩いてくるのを眺めていた。



    「提督は・・・何か悩まれたり、考え事があったりすると良く此処にいらしてましたね」


    明石が手すりに掴まり、遠方を過ぎ行く島影を眺めながら話し掛ける。
    大川は黙ってそれを聞いていた。



    「長門さんは・・・『彼女』を助けた時・・・自らの解体を決意されました」

    「・・・・」
  8. 8 : : 2016/10/08(土) 20:47:35

    言葉も出なかった。


    何故・・?と大川は尋ねたかった。
    しかし声に出す事が出来ず、ただ明石を見つめる事だけがその時唯一出来ることだった。


    明石は彼の顔を見ることなく話を続ける。



    「長門さんはHL計画の事を知っていました。そして・・・提督の再生に決定的に欠けていた物も・・・・それを提供するために自らの体を差し出したかったんです。少しでも可能性が上がるなら・・・自分の体を使って欲しいと・・・」



    明石は涙を流しながら話を続ける。



    「飯島幕僚長は何度も止めてました。まだまだ国防には長門さんの力が必要な事もあった。でも一番の望みは・・・再生の成功した提督と、長門さんをもう一度・・・それを一番望んでた。だから幕僚長も必死だった」


    飯島さんらしい・・・肝心な事は言わないで・・・

    大川は明石の話を聞きながら堪える事の出来ない雫を海へと帰した。
    引き波の中に吸い込まれる雫は、白い飛沫の中に紛れ見えなくなる。


    「しかし状況は変わりました。救出した『彼女』は一刻を争う・・・・再生用の培養槽の中で何とか延命措置をし、なんとか生きながらえていたその女性の命は風前の灯火でした・・・・だから長門さんは・・・・」



    明石は手すりを握る手に力を込める。


    胸が詰まり上手く喋れなかったが、必死に全てを伝えるために呼吸を整える。
    何度も何度もしゃくりあげながら彼女は続けた。



    「解体される直前、陸奥さんに『もし彼女の再生が成功したら、その彼女に託した指輪を渡して欲しい』と頼んでました。再生の成功した彼女に自分の生体部分を提供すれば、もう今の自分ではなくなる。だけど提督が再生に成功し、もしその『自分ではない自分』に会うことがあったら・・・この指輪を見れば、たとえお互いの記憶がなくなってたとしても、きっと気付くだろうからって・・・・たとえ今の自分ではなくても、別の誰かになったとしても、提督の傍に居られればそれでいいと・・・」

    「もういいですよ明石さん・・・ありがとう。お陰で・・・・心が晴れました」



    泣きじゃくる明石を抱きしめながら大川は呟いた。


    そうだったんだ・・・だから・・・。
    なんだか納得の出来る話だった。


    なんとも彼女らしい。

    大川は久しぶりに清清しい涙を流していた。
    明石の頬にも大川の涙が落ちる。

    明石は大川の胸に抱かれながら彼を見上げる。
  9. 9 : : 2016/10/08(土) 20:50:58

    「長門の体は・・・・その女性に8割の生体組織を使っています。欠損してしまった手足、火傷の酷い表皮、失明を免れなさそうだった眼球組織、欠損した頭蓋、脳組織の一部・・・・。そして提督、それは貴方の体の中にも生きています・・・・今こうして鼓動を打っている心臓組織の一部・・・脊椎、脳組織、神経組織の一部・・・」



    自分の中にも長門の組織が生きている。
    大川はその言葉に胸が鷲掴みにされるほど切なさを抱いた。




    彼女の心は、今自分の中にあり、共に生きている。




    そして今、護衛艦『こんごう』の中で生きている長井・・・彼女もまた『長門』の生まれ変わりと言っても差し支えない。


    先程まで抱いていた喪失感、失望感・・・・でも今は明石の話を聞き、新たなる希望へと全てが変わる。


    彼女は記憶を失くしている『長門』そのもの。



    彼女が首に掛けているネックレスに通した指輪。
    まさに彼女が持つに相応しいだけの思いが詰まっていた。


    それは命を賭して守ろうとした大川の心。
    記憶を失くしてまでも、自らの命を投げ出してまで傍に居る事を願った『長門』の思い。




    暮れ行く空を眺めながら、彼女は今何をしているのだろう・・・きっと先程の電話の件で心配を掛けてしまっているであろう事を心の中で詫び、そして全てを語ってくれた山瀬、陸奥、明石に心からの感謝を思っていた。



    「それはそうと、じゃぁ一体誰が彼女に指輪を渡しにいったんです?やっぱり陸奥さん?」



    大川は涙を拭きながら、本当にどうでもいい質問を明石に投げかける。
    明石は微笑みながら大川から離れると、手を後ろに組み、恥かしそうに答えた。



    「陸奥さんだとば次に会う機会があったときに簡単にばれそうな気がしたので・・・私が変装して届けました」

    「なるほど・・・確かに陸奥さんは変装とかしてもバレそうだもんね。そりゃ納得だ」



    その言葉に、お互いは夕暮れをバックに笑い合った。




  10. 10 : : 2016/10/17(月) 19:38:46
    軍艦と言う物は船と言えども貨客船と違い何かと実用一点張りの艤装を施されている物。



    そこには色気とか味気などと言うものは皆無に等しく、いかに戦闘時に迅速に行動できるか?
    何処に何があり、何を操作すれば一刻を争う事態に対処するだけの行動が取れるか?
    居住性はある程度のところで犠牲とされ、必要最低限確保されるべき快適性は民間レベルとは比較にならないほど低い。



    それはそうだ。



    長旅を主な任務とする貨客船と戦闘を主任務とする艦艇では設計理念からして違う。


    しかしそれにも例外があり、こと食事に関しては民間レベルに匹敵するくらいの美味さがある。


    もちろん貨客船ほど豪華なものは出ないが・・・・。



    そこは国民の血税を使っていると言う考え・・・幾ら有事の際はその尖兵として真っ先に命を賭する国防海軍の面々と言えども普段はその税金で生活を支えられている身、贅沢などは言える訳が無い。



    しかし味に関してはそこら辺のファミレスやファーストフードとは比べてはならないほどの美味さがあり、毎週金曜日のカレーに関しては各艦艇に特別のレシピが存在するくらいにそれぞれに味が違う。




    どの護衛艦のカレーが美味いか、と言う事ではなく、どの護衛艦のカレーも美味いのだ。


    因みに旧日本海軍時代から毎週金曜日は必ずカレーが出される事が日本海軍の慣例となっているが、それは海上勤務の場合、曜日感覚がなくなるため毎週金曜日をカレーの日と定めているのだ。




    たまたま大川が乗り込んだ日が金曜日ではなく、ことさら美味いと評判の護衛空母『かが』のカレーは明日の演習終了後となってしまっているのだが、夕食に出た肉じゃがも当然美味く、大川を満足させる味だった。



    第一、今回の乗船目的が『統合戦術情報共有高速ネットワーク計画』の最終テスト・・・艤装に装着され、様々な処理を行う『高速戦術情報共有システム』とそれを可能にする『予備電算機』のトライアルでなければ、好き好んで乗り込むのはそれこそ当艦所属の水兵かミリタリーオタク以外は居ないだろう事は想像に難くない。





    夕食が終了し、大川は借りている士官室でノートPCを使い明日のトライアルのテスト内容を確認していた。


    いつもなら一緒に行動している長井は、今は護衛艦『こんごう』に乗艦していた。

    最近の護衛艦は艦のネットワーク回線を使い、通常のインターネットに繋げる事も出来る。

    陸地から離れていても衛星回線を使うことも可能だ。



    暫く明日の確認作業をしていると、彼のネット電話ソフトのコール音が鳴った。

    画面上に表示去れている『通話』ボタンをクリックすると、なんとも見慣れた厳つい顔のお偉いさんが画面上に映し出された。
  11. 11 : : 2016/10/17(月) 19:42:45

    『よう、景気はどうだ?』

    「幕僚長・・・・珍しいですね。ネット電話で掛けてくるなんて」



    画面上に映し出された厳つい顔に満面の笑みを貼り付けて飯島が話し掛ける。

    大川はその顔を見ながら思わず自分も笑ってしまった。


    『明日のトライアルな・・・正直いけそうか?』

    「これまた何の脈絡も無しにいきなり来ましたね・・・どういうことです?」


    突然の連絡、そして突拍子な質問・・・大川は怪訝な顔を見せる。
    大体飯島が突然連絡を寄越す時点で何かしら良くない、乃至は状況が変わった事を暗に仄めかしていた。



    『深海棲艦との戦闘が再開された。今は局地的で散発的な戦闘だが・・・いずれあちこちに飛び火する可能性が高い』

    「戦闘再開?何処情報です?」

    『国連統合海軍本部からだ。現在ベーリング海で米海軍、カナダ海軍などと交戦中だ。それ以外の戦闘報告は今の所無いが・・・。現在、大湊警備府に我が国防海軍所属の艦娘、約15隻が集結中、彼らの援護に向かう予定になっている・・・トライアルの結果如何では、すぐにでも実戦投入できるようにしてもらいたい』

    「了解しました。最良の結果を出せるように努力いたします。・・・・が、貰った通信で失礼なのですが、ちょっと幕僚長に確認したい事がございまして・・・」



    大川の眼がスッと細まる。

    無理も無い。


    先程・・・と言っても数時間前に明石から聞かされた経緯と、以前幕僚長から聞いていた経緯が食い違っている事に、大川は若干の腹立たしさを感じているのだ。

    大川の視線にただならぬ雰囲気を感じ、口ごもる飯島に彼は畳み掛ける様にといただした。


    「以前執務室にうかがった際、長門さんの解体に関して伺った内容と、先程明石さんから伺った内容に食い違いがございまして・・・」

    『・・・・明石・・・余計な事を・・・』

    「以前、と言っても防衛大時代ですか・・・。幕僚長は私を出しに合コンを開くため騙まし討ちのような誘い方で連れ出された事がございましたね・・・」

    『お前・・・良く覚えてるなそんな事』

    「航空隊の女性事務員を誘い出すために、私を出しに使われたことも・・・」



    顔をしかめる飯島に薄べったい視線を送り、あくまで丁寧な対応を崩さない大川は、過去を引き合いにだし彼の弁明を待った。

    飯島は『過去のことはさて置き、長門の件に関しては確かに嘘を付いたよ』と一言おいてから語りだした。


    『長門が解体を申し出た時にお前の話は出した。明石から何処まで聞いているか判らんがあいつの事だ。おそらくいきさつは大体知っているのだろう?まぁそういうことだ。事情はどうあれ彼女の解体を止める事が出来なかったのは俺の不徳のいたす所であるし、結局彼女の生体組織を使わなければ二人の再生が出来なかったのは我々の技術の限界だったと言う事だ・・・すまん。』

    「なぜそれを話してくれなかったのです?」


    素直に事実関係を認めた飯島に彼は質問を重ねた。
    飯島はばつが悪そうに頭を掻くと『それを言ったらお前は自分を責めるだろ?』と一言発し、後は苦笑いをしていた。


    『長門もお前も・・・似たもの同士と言う所だな』


    飯島は最後にそう締めくくった。

    ちょうど飯島が話し終わると同時に、ネット電話に新たな着信が来る。
    相手は長井だった。


    「大変申し訳在りません幕僚長、お話の最中でしたが長井から着信が入りまして・・・」

    『俺の方の話は終わってるから気にするな。明日のトライアルはたのんだぞ。じゃぁな』


    ブツリと飯島の映像が画面上から消え、続けてネット電話のウィンドウの通話ボタンをクリックする。


    画面に映し出されたのは、少し緊張気味の長井の顔だった。
  12. 12 : : 2016/10/22(土) 20:55:33




    『すいません課長・・・誰かとお話中でしたか?』

    「今幕僚長から通話が入ってましてね・・・もう終わったから大丈夫ですよ。それよりどうですか?『こんごう』の乗り心地は?」



    柔和な表情を見せる大川の顔を見たからなのか、長井の顔が少し綻ぶ。
    しかしそれも一転、長井は口を尖らせた。



    『護衛艦ですから・・・貨客船と違って乗り心地や間取りや快適性に気を使っているわけ無いじゃないですか。まぁ・・食事は美味しかったですが』

    「こっちも似たようなものですよ。ただ長井さんと違うのはこちらの方が若干新しいってだけですね。長井さんの言うとおり食事に関してはミシュランガイドに乗らないのが不思議なくらいです」

    『個室を貸していただいてるだけありがたいですけどね』



    「間違いないですね」と大川が言うと二人は画面越しに笑い合った。



    『あの・・・こんな時に聞いていいのかな・・・?』


    長井が下を向く
    大川はその仕草が気になった。



    「・・・どうしたの?」

    『さっきね・・・スマホで話したときに元気なかったから・・・。陸奥さんの調整が大変だったってだけじゃないような気がして・・・』



    大川は先程の艦橋屋上でのやり取りを思い出し、今更ながら申し訳ない気持ちで一杯だった。

    確かにあの時は自分の中にあった仄かな希望も無くなり、悲嘆に暮れていた。

    結局明石の話でその悲嘆は新しい希望へと変わった訳だが、あの時点ではその悲嘆を隠し切ることが出来ず、我ながらまだまだ大人になりきれてないというか・・・とても恥かしい思いをし、相手には不安を与えてしまうと言う愚かしいまでの子供っぽさだった。



    確かに長門の解体後の姿なのかも知れないという淡い期待があったのは事実だし、そうだったら良いなという考えもあった。

    いつも頑張ってくれている長井を食事に誘い、海を二人で見に行った時に話した夢の事。



    期待が確信に感じてしまうのも無理は無かったと思う。



    しかし、自分が彼女に思いを寄せたのは・・・それだけの理由だったのだろうか?

    あの時果たせなかった約束の指輪を長井が持っていた事。
    過去の記憶を持っていた自分には、その指輪を一目見たときに直感でそれと判った。



    だがそれ以上に彼女と時を重ね、彼女そのものと思えるその人柄。
    そういったことに引かれていったことも変える事の出来ない事実だった。



    懸命に自分を支えてくれる長井。


    一緒に悩み、考え、時にはキツイお叱りもあったが、それでも必死になって様々な問題を共に解消して行った事。


    どんなに帰社が遅くなっても、会社で待っていてくれる彼女。

    その全てが大川の中で降り積もり、自分の背中を必死に支えてくれる一つの大きな柱となっていた事。


    そういった全てが彼女への思いではなかったのか?


    画面の中で不安に表情を曇らせている彼女を見て、大川は心が痛くなった。
  13. 13 : : 2016/10/22(土) 20:57:23

    「うん・・・確かにそれだけではなかったね。僕もその事を整理することが出来なかった。君に無用な心配を掛けちゃったね・・・ごめんよ」

    『そう・・・』


    大川の言葉に素っ気無く答えた長井。

    本当は一杯伝えたい言葉もあったのだろう。
    でも今は彼を信じることしか出来ないし、そう答えることしか出来なかった。



    このトライアルのための出張へ出かける二週間前、大川に突然食事に誘われた。
    今まで何度か食事に行ったり、皆で飲みに行ったりもしたが、ああしてゆっくり二人きりで食事を楽しんだのは初めてかもしれなかった。


    食事とお酒を堪能し、帰ろうと並木道を歩いている時、ふと海が見なくなった。

    大川にその事を伝えると、彼の車でそのまま海へ向かう事になった。


    海を見ながら、自然と心の中に閉じ込めていた事・・・最近良く見る夢の話が口をついてポロポロと言葉を紡いだ

    何が起きているのかも判らず、ただ不安を感じている私を抱きしめ、私を守ると言ってくれたその思い。

    抱きしめられた時の懐かしい温もり。
    彼との運命を感じた瞬間だった。


    だからなのだろうか、何時の頃からか自分には彼を支えると言う使命にも似た思いがあった。



    初めて会った防衛省のプレゼン。
    彼と初対面のはずなのになぜか涙が流れた。


    心の中に湧き上がる言葉に出来ない思い。
    頭の中に渦巻くように通り過ぎてゆく映像たち。

    その全てが自分には全く判らない出来事ではあったが、どこか懐かしさを覚えた。


    プレゼンが終わり彼が私に声を掛けてきた時、何の違和感も無く彼と話しながら帰った。



    『彼を助けたい』



    本当に漠然とした想いだった。

    彼がやろうとしていたプロジェクト。
    今私達が関わっている『統合戦術情報共有高速ネットワーク計画』

    彼がそのプロジェクトで難航を重ねながら必死に戦っている姿を見てその思いは強くなった。


    役員会で自らの役職を投げ打ってでも彼と共に働きたいと訴え、それが認められ課長補佐として今この場に居る。

    彼と共に戦えるのなら、課長と言う役職を捨て去る事に後悔は無かった。


    必死に努力するその姿は認める。
    しかし彼自身も完璧ではない。

    机を片付ける事も無く、始終散らかりっぱなしで資料は良く失くすし、報告書を書いても誤字脱字が多いし、頑張っているのは認めるけどおっちょこちょいだし・・・・。


    誰かが傍で支えてないと本当に不安になってしまう。
    でもどんな困難にも真直ぐ立ち向かおうとする強い意志。


    だから・・・・
  14. 14 : : 2016/10/22(土) 20:58:47
    長井は自らのノートPCに映る大川の瞳を見つめ続けていた。
    彼は彼女の視線の中に姫たる思いを感じたのだろう、和らいだ視線を長井に送る。

    長井はその視線の優しさに自身も微笑んだ。



    『今は・・・明日のトライアルに集中しよう。これが終わったら・・・時間を掛けてゆっくり話したい。僕の事も・・・君の事も・・・僕達のこれからのことも・・・・』

    「うん・・わかった」



    画面上で長井を優しく見つめる大川の言葉に、それ以上の言葉を紡ぐことも出来ず、長井もその瞳を見つめ返した。

    なんだか言葉に出来ない程の大切な思いが伝わり、今は信じるしかないという気持ちにさせる大川の言葉だった。


    一体何があったのか?正直気にはなる。
    だが彼の言葉はその言葉の意味通りなのだろう。
    これから時間を掛けてお互いの思いを重ねてゆけば良い。


    長井は彼を信じることで心の中にあった不安を脇に寄せ、明日のトライアルに集中する決意を固めていた。



    『そうだ・・・さっきまで幕僚長と話していたんだけど、ベーリング海で国連統合海軍の米艦隊とカナダ艦隊が深海棲艦と交戦中らしい』

    「え・・・そうなの?」

    『今、大湊警備府に海軍の艦娘15隻が集結、援護に向かうと言う事らしい、明日の結果如何ではすぐにでも実戦配備の可能性が高い』

    「了解しました。夕張さんが完璧に調整してくれているはずなのでこちらも問題ないと思います」


    長井はそれまでの雰囲気を払拭するように顔が引き締まった。
    その姿を見た大川はホッと胸を撫で下ろす。



    『長井さんはそうやってキリっとしている姿がかっこいいね。惚れ直しちゃうよ』

    「なに言ってるんですか・・・馬鹿」



    顔を赤らめる長井に大川が笑い掛ける



    「こちらの金剛さんの調整も万全です。明日はバッチリ結果出しますよ!」

    『それにしても・・・護衛艦『こんごう』に艦娘の『金剛』さんが乗っているのも面白い話だね』



    大川が長井に向かってウィンクを送る。
    二人は画面越しに笑い合っていた。

  15. 15 : : 2016/10/31(月) 20:09:10
    気が付けば、一面真っ白に染まっていた。





    しかしそれが強い光によって視覚が一時的に麻痺してしまっていると言う事に気付くまでにそう時間は掛からなかった。




    その光はまるで高高度での旋回時とか、縦のループを行っている時に突然太陽が視界に入ってしまった様な感覚だった。




    地面に近い、排気ガスと雑踏で汚された空気と違い、雲の上を飛ぶ高空は大気も澄んでいて、光が直接脳に届いているのかもしれないと錯覚するほ



    どに白く直線的に瞳に飛び込んでくる。



    あたりは静寂に包まれているのか、自分の耳が馬鹿になってしまったのか、はたまた感覚そのものが鈍っているのか・・・

    自分の浅く荒い呼吸音と同じリズムを繰り返す心音だけがやたらと大きく聞こえていた。



    自分が今何処に居て、何をしているのかもわからないまま『彼』はとにかく視界を確保しようと眼を細めてみた。



    そうしてどのくらいの時間が過ぎたのだろう?
    それは一瞬の出来事なのかもしれないし、何時間も過ぎたのかもしれない。



    次第に回復し出した視力の中に見え始めたのは、HUD(ヘッドアップディスプレイ)に映し出される各種情報と照準サークル、少し視線を落とせばアナログ計器とグラスコックピット化されている大きなディスプレイが三つ。


    どうやら自分は戦闘機のコックピットに座っているらしいと気付くのに暫しの時間を費やしたが、今飛んでいる空があの日の空だと言う事だけはすぐに理解できた。





  16. 16 : : 2016/10/31(月) 20:10:15



    ぼんやりする視覚、聴覚、思考。



    徐々にはっきりとし出した聴覚に容赦なく飛び込んでくる無線連絡、毎分3万回転以上するジェットエンジンのタービン音。




    キャノピー越しに下を見れば、海面に白い筋をくねらせながら艦船が交錯する。
    その白い軌跡は深蒼のキャンパスに毛筆で描かれた様な綺麗な円を描き出していた。





    その円の中には様々な命の軌跡があり、たった今この真下で懸命に戦っている美しさがある。



    『彼』はぼんやりとそれを眺めていると、深蒼に広がる海原の点に視線を凝らす。


    ゆるい旋回のまま高度を下げ、その点をもっとも良く目視できる様機体を傾ける。



    今正に艤装から炎をちらつかせ、肩膝を付いているであろうその姿に、二つの小さな航跡が高速で近づいている。




    その向こうには・・・






    「レ級・・・?」





    『彼』はぽつんと呟いた。





    それまでぼやけていた全てがみるみるはっきりと頭に飛び込みだす。
    『彼』は上空から見下ろすその光景に戦慄し、手が震えだした。




    『・・だい・・か・・・きか・・・~被弾!!』




    『彼』が呟くのと同時に通信が入る。
    その瞬間、狂ったようにスロットルレバーを最大限前に倒し、アフターバーナーを点火させる。



    気が付けば、『彼』は叫び声を上げていた。
    レ級に向かって機体を反転させる。



    翼端と機体背面にヴェイパー(主翼の付け根や翼端、高機動時は機体背面にも発生する霧または霧状の筋。機体が高機動飛行をしたり、湿度の高い大気内では低速でも発生する)を発生させ、頭上から圧し掛かってくる強大なGに体中を押さえつけられ、目の前が薄暗くなるのを感じながらも彼は速度を緩める事をしなかった。



    ジェットノズルから発生している蒼白い炎が勢いを増す。


    推力偏向ノズルが炎の向きを無理やりに変え、通常の航空機では失速してしまうような動きを平然とこなし、それによる高いGにも耐え抜く。





    姿勢を整えた機体はレ級に向かって一直線に降下していった。



  17. 17 : : 2016/11/03(木) 19:15:22


    海上の小さい点が徐々に大きくなり、深海棲艦の形が判り出す。
    使用武器が20mmガトリングガンになっている事を瞬時に確認すると操縦桿のトリガーを握る。



    コクピットの横にある発射口の蓋が開き、ブーンという連続音と共に4発に1発の割合で組み込まれている曳光弾(弾丸発射後、弾の底部に込められている発光体が発光し弾道を示す弾丸)が一直線にレ級に向かって吸い込まれてゆく。



    当然20mm程度の弾では戦艦級相手にはなんら効果は見込めない。
    しかし相手の注意をこちらに向ける事は出来る。


    レ級に弾丸が命中し、火花を爆ぜさせる。
    吸い込まれた曳光弾があちこちに兆弾し、さながら花火の炸裂を思わせる。



    そのままレ級の頭上を擦過するように高速で通過すると、右上昇旋回でもう一度レ級に照準軸線を合わすべくスロットルを全開にする。





    彼女を守る。
    今はそのことだけが心の中を支配していた。




    翼端に、機体背面に再びヴェイパーが発生し、高速、高機動での旋回を空に刻み付ける。


    機体が軋み、『彼』はそれまでの真昼の明るさから、一気に薄暮の夕暮れの様な薄暗さを味わう。


    遠心力で血が一気に足元へと逆流し、一時的に脳に血液が不足する『ブラックアウト』を感じながらも速度を緩める事も無く、一気に操縦桿を引き起こす。




    丁度空と海が真逆になる頃、『彼』は通信で彼女の無事を確認する。
    操縦桿の武器選択スイッチをミサイルにセットし、使用火器を93式空対艦誘導弾に選択する。


    旋回の頂点から少し過ぎた時、『彼』は海面を見上げた。


    薄暗い中にレ級の姿を見つける。
    その手前の三人は・・・無事だ。


    レ級がこちらに砲を向けている姿が見えた。
    注意が彼女からそれたことを安堵し、少しでも早く旋回を終えミサイルロックを掛けようと気持ちが逸る。


    向こうもこちらが旋回中では撃っても当たらない事は承知しているだろう。


    自分の心臓の音と呼吸音がやたらと大きく聞こえる。
    通信はなにやら叫んでいるみたいだが『彼』の耳には届かなかった。


  18. 18 : : 2016/11/13(日) 21:00:54
    目の前に海原が広がり、レ級の姿が照準サークルに入る。



    四角のターゲットボックスがレ級を捕らえ、それをシーカーダイヤモンドが追いかける。



    二つが重なり重なったターゲットボックスが赤色に変わる。
    アラームが鳴り、ミサイルロックが掛かった事を告げた。



    操縦桿の発射トリガーを絞る。


    ガクンと衝撃が走り、両翼から切り離された対艦ミサイルが点火、そのままレ級に向かって猛然と加速を始めるのと同時に、こちらに向けられたレ級の尾に閃光が迸る。



    対艦ミサイルは加速を続けながらレ級に向かう。



    レ級の尾から放たれた砲弾は猛然と向かってくる。
    砲弾の周りの空間は歪み、高速で回転をしながら飛んでいるのが判った。



    きっと真空波を引き連れているのだろう。



    レ級にミサイルが当たった事を確認できないまま、突然目の前の風防が粉々に吹き飛んだ。

    同時に体に鈍い衝撃が走る。



    砲弾が擦過し、風防を吹き飛ばした事を想像した『彼』は、可能な限り後ろを振り返る。


    見える範囲の機体の状況は最悪で、片翼は外板が剥がれ、最早翼としての機能を果たしていない事は想像に難くない。

    体に感じた鈍い衝撃はきっと破片が当たったのだろう。


    息がつまり上手く呼吸が出来ない。
    口の中に血の味が込み上げてくる。
    今は痛みが無くとも時間の問題だ。


    今自分が置かれている状況をぼんやりと把握すると、軽く瞳を閉じた。













    ごめん・・・あの時の約束、守れそうに無い・・・・。













    『彼』は頭上の脱出装置のハンドルを眼一杯引きながら心の中に呟いた。


  19. 19 : : 2016/11/13(日) 21:01:50














    目の前が突然暗くなり、突然体が鉛のように重く、全く動かす事が出来なくなった。


    頭の中で必死に体の動かし方を思い出し、指先から少しずつ力を入れてゆく。
    聴覚には聞きなれた機関の音が微かに聞こえ、廊下を誰かが歩いてゆく音が聞こえた。


    動き方を思い出した体が寝返りを打ち、次に張り付いてしまったように空く事が出来ない瞼を開ける。


    暗がりの中、うっすらと見える天井が自分の見知っている物ではない事を認識すると、頭の中に現在居る場所を思い出させた。


    『彼』は枕もとのスマホを取ると、スリープを解除する。


    突然明るくなった画面の光に眼をやられ、眼球の奥に痛みを感じながらもその中に表示されている時計を確認した。





    AM2:30




    時計を見てうめきとも溜め息とも付かない声を漏らす。



    安定した艦内の気温の中、自らの体にじっとりと寝汗をかいている事に気付くと体を起こし、少し離れたテーブルの上にあったペットボトルを一気に飲み干した。



    額に手を置き、大きな溜め息を付くと、さっきまで見ていた夢の感覚が残る体を引きずり、海風にあたる為にドアを開けた。
  20. 20 : : 2016/11/22(火) 19:17:18


    非常等だけが灯る廊下を歩き、タラップを上る。

    途中、当直の兵と出くわしたが、眠れないので海風に当たりたいと事情を話したら『夜明け前ですから海に落ちないように気を付けてください』と笑顔で敬礼された。



    飛行甲板上から艦橋横のタラップを上がってゆくと彼の特等席があった。



    艦橋屋上、レーダードームの傍。
    大川はそこからの眺めが好きだった。



    その場所から海原を眺めると、なぜか心が落ち着いた。



    ミッドウェーの、あの最後の作戦前夜に海を眺めていたのもこ場所だった。
    長門との思い出もある。



    月明かりが深夜の濃紺の空に冴え渡り、海原にその白銀の光を落としこんでいる。

    巡航速度で進む艦から凪いだ海を眺めれば、さながら幻想の世界に迷い込んだようだった。
    あと数段タラップを上りきると着くというところで、大川は先客の存在に気付いた。


    月明かりに照らし出されたそのシルエットは女性のものとすぐにわかった。

    護衛艦内で、しかもこんな時間に比較的自由な行動できるのは、我々のような立場の人間か、艦娘のどちらかと言う事になるだろう。


    なぜなら此処は見張りの当直員が常駐する場所ではないからだ。


    大川はそんな事をぼんやり考えながらタラップを上がりきる。
    彼女は足音に気付いたのだろう。



    月明かりに照らされた凪いだ海を眺めていた後姿が振り返る。
    巡航速度が作り出す合成風速に髪を靡かせ、彼女は少し驚きの表情を見せたが、上がってきた人物が大川と気付くと微笑を送る。
  21. 21 : : 2016/11/22(火) 19:18:52

    「こんばんわ、陸奥さん」

    「こんばんわ課長さん。どうしたの?こんな時間に」

    「いやぁ~・・・変な夢みちゃいましてね・・・眠れなくなっちゃって」



    手すりに歩み寄り、陸奥の横で頭を掻く大川。
    陸奥はそんな姿をほほえましく眺めていた。



    「陸奥さんこそどうしました?」

    「・・・明日の事がね」

    「気になりますか?」



    陸奥の顔を覗き込みながら尋ねる大川に、外に跳ねている髪を指でくるくると弄びながら陸奥が答える。

    勝手な思い込みだが、あまり細かい事を気にしない性格なのではと思い込んでいた大川は少し驚きの顔を陸奥に向けた。



    「なによ、その眼。今まで私の事を『細かい事を気にしない女』見たいに思っていたの?」

    「いや・・・そんな事は思って・・・ました。すいません」


    口を尖らせる陸奥に大川が真剣に謝る。
    その姿を見て陸奥は口元を緩ませた。


    「・・・陸奥さんに限らずなんですが・・・戦艦娘の皆さんって、いざ戦闘ってなるとあの落ち着き様でしょ?細かい事を気にしないっていうか、胆の据わり方が違うんだろうなって・・・ずっと思ってました。」

    「・・・そんな事無いわ。大きな作戦の前だったり、小さな作戦行動でも重要度の高いものがあれば、やっぱり前の日は落ち着かないし、緊張もするわよ・・・提督だってそうだったでしょ?」


    手すりに手を掛け、凪いだ海を眺めながら陸奥がぽつんと呟く。
    大川は今までの勝手な誤解を心の中で詫びた。


    どんなに勇ましくとも、歴戦の戦艦の艦魂を宿していても、彼女たちはやっぱり女性で、皆と同じように笑い、泣き、悲しみ、喜び・・そして恋もする。

    艦娘全員が前世と呼んでよいだろう過去の艦の記憶や経験を持ち、二度と同じ徹を踏むまいと努力し、それぞれの思いの中で戦い、傷付き・・・それでも必死に全てを守ろうとするその心。

    それがどんな所から来た思いなのか?どうしてそうまでして戦えるのか?


    今まで深く考えた事は無かった。





    大川が現役だった頃は、彼女達の力を借り、この国を守る事に必死だった。


    彼女達が我々の味方になってくれている事になんら疑問を差し挟む事も無く、ある意味彼女達に甘えていたのだろう。

    しかしどういう形にせよ現役を離れ、改めて彼女達と接していると、あの時考える事の無かった彼女達の思いを考えるようになってきた。

    彼女達艦娘は何を思い、何を支えに共闘してくれているのだろうか?
    ただ旧日本海軍軍艦の艦魂を宿しているからだけなのだろうか?


    かの大戦で大敗を喫し、国を守るために生まれたそれぞれの艦魂が、今こうして艦娘という形を纏い先の大戦で果たせなかった思いを果たそうとしているのだろうか?


    そう思うと大川は改めて頭の下がる思いがした。
  22. 22 : : 2016/11/22(火) 19:20:52
    彼はそんな事を思いながら遠く白銀に輝く海面へと視線を移す。
    ふと気付くと陸奥が彼の話をせかすように大川を見つめていた。


    大川は少し慌てながら彼女の問いに対する答えを探した。



    「そうですよね・・・誰だって。僕もね・・・出撃の時は手が震えてましたよ。スクランブルで飛び立つ時は集中しちゃうんでそんな事感じてる暇も無いんですけど・・・なまじ飛ぶまでに時間があったり、複座の戦闘機なんかではなおさらね・・・」

    「複座で緊張するの?私は戦艦だからよくわからないけど・・・単座とはやっぱり何か違うのかしら?」



    陸奥が疑問の瞳を大川に向ける。


    「だって、自分以外の命を後ろに乗せてると思えばやっぱり緊張しちゃいますよ。僕の操縦ミスで死なせちゃうかもしれないし・・・自分が勝手に死んじまうのはいいんですけどね・・・」


    大川は陸奥の疑問に恥かしそうに答えた。
    陸奥は優しく微笑みながらそれを聞いていた。


    「どうしたんです?そんなに笑ってて」

    「え?・・ああ、なんか提督らしいなって思って」


    相変わらず陸奥は微笑んでいる。
    大川は陸奥のそんな微笑を見つめながら心の中にある思いを口にだした。



    「僕も聞きたいんですけど・・・陸奥さんは何故戦うんです?」

    「私?」

    「そう・・・僕が現役だった時はそんな風に考えた事が無かった。ただ深海棲艦と互角に戦える戦力として、人類に協力してくれる強い味方として・・・素直にそう思っていました。陸奥さんたち艦娘と言う存在をね。状況も切迫していて、考えている暇が無かったというのが実情だった気もしますが・・・。でもあのときだって皆さんと決して向き合っていなかった訳ではない。」



    大川は言葉を切ると視線を空の月に移す。
    空は雲ひとつなく濃紺の中に白銀の光を湛えている。

    二人の居る屋上の床にも二人の影が長く伸びていた。
    海は何処までも凪ぎ、緩やかな波を切る音が響き渡っていた。



    「でもこういう形で一線を退いて、改めて皆さんと向き合ってみて思ってたんです。艦魂を宿しているとは言え、旧日本海軍軍艦の生まれ変わりとは言え、皆さんには艦だったときの記憶が在り、そして今は感情だって持っている。僕らと全く変わらないじゃないですか。だから・・・上手く言えないけど、どんな思いで戦っていたのかなって・・・そう思ったんです」



    陸奥は軽い溜め息を付くと、大川と同じく白銀の光を放つ月を見上げた。


    「そうね・・・最初は私も不思議な気分だったわ。こんな姿になって生まれ変わったことも、人とこうして話して、人とこうして関わって行く事も・・・ほら、軍艦だった頃は・・・お互いに一方通行だったでしょ?話をすることも出来なかったし・・・でも、だからかな・・」


    陸奥は急に表情を曇らせる。
    大川は黙って彼女の話に耳を傾けた。


    「あの時、私は沈んだわ。世界のビック7とか、最大級の艦砲を積んだ戦艦だとか言われても、大した活躍も出来ずにあっけなく・・・。事故でね・・・」


    陸奥は手すりから半身を乗り出すように海を見下ろす。

    護衛空母『かが』が作り出す引き波が月明かりに照らされて広がってゆく。
    暗がりに眼が慣れればその広がりが遠くまで広がってゆく様が綺麗だった。

    しかしその綺麗な引き波を見つめる陸奥の瞳は悲しげに微笑んでいた。
  23. 23 : : 2016/11/22(火) 19:22:56
    「1400名の命と共に・・あっという間だった・・・。建造された時、私には色んな人の思いや期待が詰まっていたから・・・凄く悔しかった」


    それまで悲しげに引き波を見つめていた陸奥は大川に振り返ると力強い瞳で彼を見つめる。

    大川はその眩しいばかりの視線を正面で受け止めた。


    「でもね・・・気が付けばこの姿に生まれ変わってて、色んな人と話したり、その思いに触れる事が出来て・・・私に与えられたこの不思議な力は、皆を、大好きな人を守るためにあるんだって、その時強く思ったの。だから私は戦う・・・それが理由よ」


    風に靡く髪を耳に賭けながら陸奥が言葉を紡ぐ。
    大川はその言葉に胸が詰まる思いだった。



    陸奥と言う戦艦は非常に不運な軍艦の中の一隻だった。
    建造され、戦闘に参加することも無く広島県呉の柱島で謎の爆沈を遂げてしまう。
    結局原因もわからず、陸奥本人も突然のことだったので何もわからなかったと語っていた。



    彼女の言葉通り建造当初は世界のビック7(ワシントン海軍軍縮条約の発効から条約失効までの間、ネイバル・ホリデーと呼ばれる1922年から1936年の15年間に保有が制限された16インチ砲を搭載した船が7隻しか存在しなかったことからその7隻のことをビッグ7(世界七大戦艦)と呼んでいる。日本の長門型戦艦1番艦「長門」 同2番艦「陸奥」、イギリスのネルソン級戦艦1番艦「ネルソン」 同2番艦「ロドニー」、アメリカのコロラド級戦艦1番艦「コロラド」 同2番艦「メリーランド」 同3番艦「ウエストバージニア」等がこれにあたる。)のうちの一隻と呼ばれ、国民から大いなる期待と親しみを受けたが、最終的に前線には進出するものの戦闘に参加する機会も無く内地へ回航。

    1943年6月8日午後12時10分ごろに三番砲塔から4番砲塔の間で爆発、船体は四番砲塔後部甲板部から真っ二つに折れ、そのまま海底に没した。



    大川もその事実は知っていた。
    だが知識として知っていても、本人の言葉には全く違う重みがある。


    大川は彼女を見つめながら何度も頷いた。
    陸奥はそんな大川の様子を見て不思議そうにしている。





    月は相変わらず白銀の光を二人に注ぎ、海は何処までも凪いで輝いていた。
    二人は言葉も無くその広がる海原を眺めていた。

    少し大きな波が『かが』の艦首で切り開かれたのだろう。
    不意に艦が浮き気味になると、陸奥は少し驚きながらよろけた。
    慌てて手すりに掴まり、後ろからは大川が彼女の背中を支えていた。



    陸奥は手すりに掴まりながらニヤニヤと大川を振り返る。



    「・・・どうしました?」

    「ううん・・・相変わらず優しいのね。ねぇ、さっきから私ばかり話していて不公平じゃない?一つ聞いて良い?」



    陸奥が悪戯っぽく微笑む。
    背中を支える大川は少し嫌な予感がして、背中に悪寒が走った。



    「なんです?」

    「提督は・・・なんで長門に惚れたの?」



    大川は突然の事に咳き込んだ。
    手すりに掴まり顔を真っ赤にして咳き込んでいる。


    陸奥は彼の背中をさすりながら笑っている。



    「この話の流れでそれを聞くんですか?」

    「だって飯島幕僚長からそれとなく聞いた事はあったけど・・・本人からはそんな話聴いたこと無いもの。興味を持つのは普通じゃない?私たちは姉妹艦だし・・・気になるでしょう?」


    陸奥がやっと落ち着いた大川にウィンクをする。
    大川は呼吸を整えると海原に眼を向けなおした。

  24. 24 : : 2016/11/22(火) 19:26:26
    新しいスレです

    http://www.ssnote.net/archives/50296
  25. 25 : : 2020/09/28(月) 11:17:06
    高身長イケメン偏差値70代の生まれた時からnote民とは格が違って、黒帯で力も強くて身体能力も高いが、noteに個人情報を公開して引退まで追い込まれたラーメンマンの冒険
    http://www.ssnote.net/archives/80410

    恋中騒動 提督 みかぱん 絶賛恋仲 神威団
    http://www.ssnote.net/archives/86931

    害悪ユーザーカグラ
    http://www.ssnote.net/archives/78041

    害悪ユーザースルメ わたあめ
    http://www.ssnote.net/archives/78042

    害悪ユーザーエルドカエサル (カエサル)
    http://www.ssnote.net/archives/80906

    害悪ユーザー提督、にゃる、墓場
    http://www.ssnote.net/archives/81672

    害悪ユーザー墓場、提督の別アカ
    http://www.ssnote.net/archives/81774

    害悪ユーザー筋力
    http://www.ssnote.net/archives/84057

    害悪ユーザースルメ、カグラ、提督謝罪
    http://www.ssnote.net/archives/85091

    害悪ユーザー空山
    http://www.ssnote.net/archives/81038

    【キャロル様教団】
    http://www.ssnote.net/archives/86972

    何故、登録ユーザーは自演をするのだろうか??
    コソコソ隠れて見てるのも知ってるぞ?
    http://www.ssnote.net/archives/86986

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