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追憶⑤

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  1. 1 : : 2017/01/29(日) 19:49:34
    過去レス
    『追憶』
    http://www.ssnote.net/archives/48585

    『追憶②』
    http://www.ssnote.net/archives/48872

    『追憶③』
    http://www.ssnote.net/archives/49248

    『追憶④』
    http://www.ssnote.net/archives/50296


    前作『蛍』の続編・・・なんですが・・・
    どうなる事やら。


    前作を読んでないとあんまわかんないです。

    前作『蛍』
    http://www.ssnote.net/series/2989


    オリジナル設定多数。
    キャラ崩壊バリバリ。
    細かい事は抜き。

    因みに私、艦これはやった事ございません。
    おそらく筋金入りの提督さんには向かないと思われます。


    以上を踏まえた上でお付き合いいただけたらと・・・思っております。


    申し訳ないです(;゚(エ)゚) アセアセ
  2. 2 : : 2017/02/18(土) 23:25:06
    第二波攻撃が始まった時、退避中の『かが』から何機かの戦闘機が飛び立った。


    夕張から何度もCICへ戻るように促されながらも、彼女は甲板上から動こうとはしなかった。



    輪形陣の中に上がる水柱を避ける様にして飛び立った戦闘機があった。
    長いにはその戦闘機に乗っている人物はなんとなく想像できた。


    カタパルトから射出されると、アフターバーナーを全開にして右ロールで一回転・・・・昔から変わらない。





    なぜそれが『彼』だと判ったのかは長井自身にもわからないが、彼女はその飛び立つ戦闘機を見送りながら無事を願った。


    第二波の敵艦載機が次々とその戦闘機に落とされ、空からのその数を減らしてゆく中、翔鶴、瑞鶴の直掩機もまた奮戦していた。
    艦娘の第11、12戦隊が大破者を出しながらも深海棲艦の進行を食い止め、金剛、陸奥もそれぞれ破損しながらも砲撃を続けた。


    突然空を覆う味方の航空機が飛び回り、援軍が間に合った事を皆に伝えていた。


    長井はその様子を夕張に見守られながらずっと甲板上から眺めていた。





    何故私はここに居るのだろう?


    今この場に居る理由は判っている。
    開発した兵器のトライアルの為に居るという事も。
    そしてトライアル中に突然戦闘に巻き込まれたという事実も。


    そうした理由ではなく、何故今私はこうして護衛艦の甲板の上でこうして戦闘をただ眺めているのだろう?



    この手すりの向こう、大海原で艦娘達が戦っている。
    何故私はここに居る?



    私が居るべき場所は・・・





    長井は遠方に上がる水柱の間を掻い潜りながら戦闘をしている第七駆逐隊の姿を見つめていた。


    それぞれが手に持っている砲を敵に向け、必死に撃ち続けている。


    皆それぞれに損傷を受け、背負う艤装か薄っすらと煙が立ち上っていた。


  3. 3 : : 2017/02/18(土) 23:25:50




    今こうしている間にも、彼女たちは傷付き、倒れている。
    私は・・・ただ見ていることしか出来ないのか?
    私にも・・かつて私にも・・・・


    長井は手すりを握る手に力を込める。
    片がワナワナと震えるのが自分でも感じ取れた。





    夕張は隣で手すりを強く握り締め、眉間に皺を寄せ何かを堪える長井の姿が、かつての『長門』の姿そのままに見えた。



    夕張自身も良く知っている。
    今の彼女は『長井』であって『長門』では無い。


    体の生体組織の8割近くが『彼女』のものだったとしても、決して『彼女』ではないのだ。


    なら何故、今こうして彼女は此処を動こうとしない?
    彼女の体には、すでに艦娘としての機能も、記憶も無いはずなのに・・・


    夕張は視線を空に向ける。



    飛び回る戦闘機のジェット音がやたらと近くに感じる。
    あの飛び方・・・そしてあの機体。


    きっと大川提督だ。
    彼が飛んでる・・・



    夕張でもわかるほどの高速で綺麗な機動は、見ている者を魅了し、追われる者を圧倒する。



    気が付けば頭上の敵艦載機は姿を消していた。


  4. 4 : : 2017/05/13(土) 21:19:47

    『こちら『こんごう』!!3時方向、レ級近づく!距離約300!!!』



    夕張が戦闘周波数の通信に反応し、丁度陸奥たちが砲撃を行っている反対舷に首を振った。

    長井には聞こえて居ないはずなのだが、彼女も夕張とほぼ同時に同じ方向を見る。


    長井は遠方を凝視する。


    肉眼では見えないほどの・・・でも確実にそこに居て、禍々しいほどの威圧感を放っている。


    夕張もそれを感じているのだろう。
    彼女がゴクリと唾を飲み込む音が長井の耳にも届いた。




    反対舷では陸奥と金剛が長距離砲撃を行っている。
    彼女達でさえレ級の存在に気付いていない。






    レ級は砲撃をするでもなく、その禍々しいほどの嘲う表情を引き攣らせ近づいてくる。


    夕張は瞳の中に組み込まれている望遠機能を最大にする。
    観測範囲が狭まり、対象物を捕らえ損ねるが、何とかピントを合わせた。


    レ級自身も手負いのようで、艤装のあちこちから煙を上げ、砲の一部はすでに欠損しているように見える。


    しかしあの程度であれば今だ強力な攻撃力を残している可能性が高い。



    それよりもあれだけの手負いで尚、禍々しく見開かれた瞳には殺気を孕んだ輝きがある。


    夕張はレ級の纏う空気に圧倒されつつも、横に居る長井に視線を向けた。


    長井には見えていないはずの距離・・・それでも尚、彼女はレ級の居る方向を凝視し、眉間に皺を寄せていた。


    彼女にもわかるのか・・・?
    そんな筈は無い。


    艦内放送で言われているわけでもないし、ましてや戦闘中に入った通信を彼女が聞けるわけも無い。


    では何故・・・?



    夕張は微かな疑問を残したまま再びレ級に視線を戻した。








    長井は突然誰かの声にその方向に視線を向けた。

    無線の雑音混じりの声が直接頭に飛び込んでくる感覚に戸惑いながらも、体は勝手にその方向を向く。



    300・・・とても肉眼では見える距離ではない。
    隣の夕張も同じ方向を向いていて、遠方を見ているということは、確実にそこにレ級が居るのだろう。


    彼女がゴクリと唾を飲み込む音がはっきりと聞こえた。


    長井には確かにレ級の姿そのものは見えなかったが、レ級が持つ恐ろしいほどの・・・まるで光をも湾曲させるような忌まわしい雰囲気は感じる事が出来た。



    陸奥さんや金剛さんは気付いていないのか?
    反対舷を見やれば彼女たちは今だ長距離砲撃中。



    声を掛けるにも轟音に掻き消されてしまうし、よしんばそれが無かったとしても声の届くような距離とも思えない。


    何も出来ない焦燥感に駆られながら長井はレ級のほうに視線を戻した。



    先程から感じている忌まわしいプレッシャーはどんどん近づいてくる。
    豆粒程も見えなかったその姿が、波間に見え隠れする距離にまで近づいてくる。





    『人間トイウモノハ・・・いつダッてソウナのダロウ』





    突然、長井の頭の中に誰かしらの声が響いた。
    先程聞いた雑音混じりの叫びとはまた違う、憎しみと恨みが綯交ぜになったような・・・搾り出された声。



    どこかで聞いた事のある-----


    『貴様ハかツて・・・私ニ言ったナ・・・『それでも信じたい』ト・・・ソノ結果はドウダ・・?』




    次々と流れ込んでくる言葉に、その圧倒的な威圧感に言葉を失うも尚レ級から目を逸らさずに見つめ続ける。


    それでも信じたい・・?

    そうだ・・・私はあの時・・・・
    目の前のレ級に・・・傍らには皐月と長月が・・・






    あの時?
    あの時って何?




    皐月?長月?
    なぜ艦娘の・・・所属の違う彼女達が・・?





    頭の中が混乱し、手すりを握る手がガタガタと震えだした。

    誰の物かもわからない映像が頭の中でノイズ交じりに浮かび上がり、断片的に視界がすりかわってゆく。

    震える手で額を押さえ、尚レ級を見つめ続ける長井の肩を異変に気付いた夕張が揺する。

    きっと自分を呼びかけているのだろう夕張の声はこれだけの近さにも関わらず長井の耳には遠くくぐもって聞こえ、自分が今何をして何処にいるのかもわからない感覚に囚われていた。




    『人間ハいつモソウだ・・・何モカワリはシナイ・・・ナラバ殲滅スルダケ』

  5. 5 : : 2017/05/13(土) 21:20:48


    違う・・違う!
    確かに何も変わらないかもしれない・・・



    今だって誰かがどこかで殺されたり、自らの私利私欲、疑心暗鬼の中で親兄弟までを手に掛ける奴だって居る。



    国の安全の為に他の民族を見下げ、差別し、かつての歴史を繰り返さんとする人だって・・・それが大国のトップなら尚更だ。



    確かに人は何も変わってないのかもしれない。
    深海棲艦に殲滅されても文句は言えないだろう。


    でもそれだけなのだろうか?
    そんな中にも、良識に則り人を愛する人たちだって大勢居る。

    大多数の人が、少しでもより良い暮らしを求め、必死に生きている。
    それを否定しても良いのだろうか?




    「違う・・・違う・・・」




    長井は俯きながら呟き、涙を流した。
    零れ落ちた雫は海に吸い込まれ、うねる波の一つに波紋を広げる事無く消えてゆく。



    夕張はその涙の意味がわからぬまま、彼女の肩を抱き続けた。




  6. 6 : : 2017/05/13(土) 21:24:29



    戦う事しか知らなかった。






    暗い闇の中、彼女は膝を抱え、瞳を伏せていた。
    自分が今、何のために此処に居て、どうして今こうして瞳を伏せているのか?

    その事も判らぬまま、宙を漂い続けた。

    その耳に聞こえるのは、繰り返される雫の垂れる音。
    彼女はその音に耳を傾け続けた。






    戦う事しか知らなかった。






    そう、私はこの国を守るために作られた。
    世界の7強の中の一隻として建造され、この国の艦隊の中心に据えられた。


    厚い装甲も、巨大な艦砲も、針山のように設置された副砲や高角砲、対空機銃も、全ては敵を打ち破るためのもの。

    それ以外の装備は必要も無く、必要とも思わなかった。




    人々は願いを込めて私を『長門』と呼んだ。




    私は敵国の戦艦と砲火を交えることも無く、戦の終わりを向かえ、接収され、実験に使われ人知れず沈んだ。



    あれからどれだけの年月が過ぎたのだろう?



    気が付けば、私は『艦娘』と呼ばれる存在としてここに居た。


    その身に命を宿し、かつての『私』の艦魂を宿し、人として、軍艦としてこの世に蘇った。




    私は戦う事しか知らなかった。
    それ以外何が必要なのか・・・私はそう思っていた。










    目の前に迫っているレ級は薄和笑いを浮かべ、額から血を流していた。

    尾に取り付いている砲の一部は無くなっていて、辛うじて残っている砲身も真直ぐなものを数えた方が速いくらいだった。

    目測100m前後だろう・・・彼女がこちらに向けて砲撃すれば必ずと言って良いほど当る距離なのに、レ級は砲を向ける事も無く、まるでこちらを砲撃する意思が無いかのようだった。




    彼女は見つめ続けた。
    揺れる護衛艦の上で手すりに掴まり、夕張に肩を抱かれながらレ級を見つめ続けた。


    レ級の言葉に反論の狼煙を上げる為に。
    憎しみや悲しみだけでは何も生まれない事を彼女自身も知っているからだ。


    深海棲艦に肉親を殺され、なんとか生き残りながらも自身の過去も何も持ち合わせて居ない今。

    出来ることなら深海棲艦を殲滅したいと思っているし、平和な海を取り返したいと願っている。

    でもそれでは今我々に語っているレ級と同じではないのか?




    あの時・・・私は何を見たのか?
    彼女は誰の記憶かも判らない映像を心に浮かべていた。




    やっと敵の本拠地を捉え、一大反抗作戦を実施したあの時。
    いつまでも続くのではないかと思われるほど終わりの見えない悲惨だった戦い。


    何人もの艦娘、何隻もの戦闘艦艇が沈んでいき、何機もの艦載機が撃墜されていったあの海原。


    様々な国家の威信をかけて集まった人々の犠牲の中に行われた作戦。


    彼は被弾した私を助けようとして・・・・・





    脳裏に浮かぶ彼のその瞳は、春の桜が舞い散る中、優しく彼女に微笑みかけ、心を暖める。


    そして今まで思い出すことが出来なかった、まるで靄が罹った様にはっきりと見えなかったその顔が焦点を結ぶ。


    死の淵の中で、血みどろになった震える手で二つの指輪を渡してくれた彼の最後の微笑が胸を締め付けた。

    護衛空母『かが』の艦橋屋上での約束を守る事が出来ず、彼女に謝ったあの最後の言葉・・・。








    この姿に生まれ変わり、私は初めて意思を交わすことを知った。
    この姿に生まれ変わり、私は初めて『痛み』を知った。

    それは何も肉体的な苦痛だけではない。
    私の中には『心』があり、そしてその『心』も痛みを知る、という事も。

    純粋に思えば思うほど、痛みも苦しみも増すが、それ以上の温もりや喜びを抱きしめる事も出来るということを知った。









    目の前に居るレ級の姿がなぜか滲んだ。


    胸が苦しくなるほどの切なさを感じ、彼女は首から下げている二つの指輪をシャツの上から握り締める。

    頬を伝う暖かな雫は先程浴びた水柱のものではない柔らかさを残し海へと還って行く。


    心の中の叫び声を噛み殺しながら彼女はレ級を見つめ続けた。






    戦う事を疑問に思ったことも無い。
    かつて聯合艦隊の旗艦も勤めた私だ、戦う事や死ぬ事になんら恐れは無い。
    しかし、何も守る事も出来ないまま、身勝手に消えたくは無い。





    私は・・・私は・・・







    暗闇の中、膝を抱え俯いていた彼女がふと顔を上げた。
    その頬に伝う雫は、いつか流したあのやるせない思いを詰め込んだ雫。

    彼女の頬から流れ落ちた雫は、見えない水面に落ちると綺麗な王冠を作り波紋を広げ消えていく。









  7. 7 : : 2017/05/13(土) 21:26:57


    「私は・・・あの時、人を信じた。今も変わりは無い。貴様達が『人間』という存在に憎悪を持ち続けるように、それでも私たちは彼らを信じ続けるだろう」




    長井はレ級に向かって叫んだ。

    隣の夕張は突然の事に唖然と長井を見つめる。
    人が変わったような長井の行動に驚きを隠せなかった。



    「私には守りたい物がある。守りたい国がある。守りたい人が居る。確かに人は変わらずに身勝手だ。自らの保身の為に周りの全てを壊そうがどうとも思わない者達ばかりだ。しかしそんな者はごく一部の人間であって、大多数の者は違う。ただ普通に人を愛し、愛する者を守るためには自らの命を投げ出せる・・・・そんな存在だ。」



    長井は手すりを握り締め、真直ぐにレ級を見つめながら語りかける。

    夕張にも聞こえていたレ級の言葉が長井にも聞こえていた事実を知り、心の中の疑問が確信へと変わってゆく。



    彼女の中では今、長門の記憶と意識が呼び覚まされている。


    きっとレ級とのコンタクトがきっかけなのだろう。
    長井は夕張を振り払うと、そのまま真直ぐにレ級の嘲うような瞳を見据えた。




    「そんな人たちが居る限り、私たちは人を守る。これからもだ。人の中にある優しさや温もりを信じて・・・彼の思いを・・・信じて!」



    彼女がそう言い放った直後に、護衛艦に接近していたレ級の周りに細かな水柱が乱立し、長井の上空を擦過するようにF-35EJV改が高速で通過し、上昇に転じた。


    ものすごい轟音を発しながら通過したF-35EJV改を追いかけるように強風が護衛艦全体を押し通るように吹き抜ける。



    突然の轟音に長いも夕張も驚いたが、操縦者の癖を知っている二人には盲信的な安心感があった。



    長井は押し通る強風に煽られた長い髪を押さえながら上昇から旋回に転じた機体を目で追っていた。
  8. 8 : : 2017/05/13(土) 21:33:09


    急激な旋回は巨大な重力となって頭上から彼の体を押しつぶそうとする。



    しかし彼はそんな事お構い無しに操縦桿を引き続けた。


    HL計画だかなんだかのお陰で体だけは丈夫で、これだけの急激な機動をしてもなんら問題は無い。

    まぁ、全く問題にならないのかといわれれば別問題だが・・・




    通常の旋回や宙返りであれば、大体円軌道を描く外側に足が向き、内側に頭が向くように機体を操作する。

    自分の行く先を見上げるように確認するためには大事な事なのだが、これにより自分の体重の何倍ものGが頭上から圧し掛かった時に、全身の血液が足に下がって行ってしまい脳に血がいかなくなる現象である『ブラックアウト』が起こる。


    これが起きてしまうと昼間の明るい日差しも夕闇以下に感じてしまう視覚障害が発生し、最悪意識を失う。

    戦闘中に意識を失えばそれこそ致命傷で、良くアクロバット中に墜落事故が起きてしまうのも大抵これが原因だ。


    しかし大川の場合、HL計画での強化が効いているせいなのだろう、それが極めて起こりにくい体になった・・・らしい。


    『らしい』という書き方になってしまっているのは元々彼は戦闘機パイロットで、Gに対する訓練も受けている事、ここ数年で耐G対策に使われている、急激なGが発生した際に下半身を空気圧で圧縮し締め上げ、血を下半身に集中させない『耐Gスーツ』の性能が上がっている事、元々彼がGに対する耐性が強かった・・・・などの要因が挙げられるので、HL計画の産物だけではない、というのが今の所の定説だった。





    操縦桿の武器選択スイッチを操作し、胴体下に装備されている『ガンポット』を選択する。

    目の前のH.U.Dの表示が変わり、機銃用の照準が表示される。


    照準のオートジャイロ機能が機体の小刻みな動きに反応し、レ級を機銃照準に捕らえ続けるためにH.U.D内をゆらゆらと動き回る。




    「『ワイバーン01』より護衛艦『こんごう』へ、現在貴艦へ接近中のレ級へ攻撃準備中、これより機銃掃射後、貴艦上空を擦過、旋回の後ASM-6を使用する、送れ」




    戦闘周波数で発せられた通信には懐かしい響きがある。
    ましてや『ワイバーン』なんてコールサインを聞くのは何十年ぶりなのだろうか?



    『こんごう』の艦橋に居た一同はざわつき、艦長は溜め息を吐いていた。




    それはそうだ。

    『彼』の死亡以来、このコールサインは欠番になっているし、誰かが継いだという話も聴いたことが無い。

    若い世代では知らない人間も多いが、中堅クラス、下士官や尉官の中にはまだあの『作戦』の経験者も多数居た。



    そんな『生残り組』がこのコールサインを聞けば、おのずとざわつきもするだろう。


    かつての『英霊』が生き返ってきたのだから・・・



    それと同じで、海上で深海棲艦と戦闘を繰り広げている艦娘達にも動揺が広がっていた。


    中には戦闘中にも関わらず、上空を見上げるものまで出る始末。


    事情を知っている陸奥、金剛も砲撃を続けながら空を見上げた。



    「あのクソ提督・・・こんな時に生きていた事バラすなんて最低だわ!なんなの?あの男・・・敵に狙われたいの?ドMなの?」



    曙があらかた片付いた敵駆逐隊を警戒しつつ上空を見上げる。



    「曙ちゃん・・・まだ戦闘中だよ?危ないよ?」

    「煩いわね潮・・・わかってるわよ。文句はあのクソ提督に言いなさいよ。あんな通信皆に聞かせて・・・」



    同じ第七駆逐隊の潮が曙を気遣う。
    曙はそんな潮の姿に溜め息混じりに悪態を吐いた。
    しかしその言葉と裏腹に戦闘機を追うその瞳は空の眩しさと機体の美しい機動に奪われていた。








    「大川提督が・・・飛んでいる?」



    『こんごう』の艦上で長井がぽつんと呟く。
    目の前のレ級は機銃弾をたんまりと受け、煩わしそうに顔を拭うと空を見上げる。


    それまで『こんごう』に向けられていた意識を逸らした事に成功した機体は照らし出される陽光を反射させながら旋回をしていた。


    レ級の尾に装備されている対空機銃や主砲がF-35に向けられる。



  9. 9 : : 2017/05/13(土) 21:33:49
    「長門さん・・・聞こえましたか?」

    「あ・・ああ夕張、わかるぞ・・・提督・・・成功していたのか・・・話は大野氏から聞いていたが・・・」

    「あ、そうか・・・長井さんの記憶もあるんですもんね」



    まだすこし混乱している長井に夕張が話し掛ける。

    夕張は『長門』である長井に話しかけようとする。


    聞きたいことが幾つもあった。
    話したいことが幾つもあった。
    皆が彼女をずっと待っていたことも。
    そしてもう戻ってこないだろう事も。
    積もる話は幾つもある。


    しかしそんな様子の夕張を詳しい話は後だと長井が制すると、夕張は顔を引き締めながらレ級を睨む。



    「陸奥さん金剛さんは敵の増援に手一杯な状態です。幸い援軍は間に合っていて戦闘そのものはこちらが優勢・・・」

    「私の艤装は?」

    「たとえ在ったとしても装着は無理です。その体には接合マウントが装備されていません。通信を受信できた事だけだって驚きなんですから・・」

    「下手に刺激してこちらを狙われれば、この艦艇ではひとたまりも無い・・か。」



    手すりを握り締めながら長井が歯を食いしばる。



    「今は『ワイバーン01』に任せましょう・・・提督なら大丈夫です」


    夕張はそう呟くと拳を握る。

    長門は旋回するF35を見つめ続ける。
    何時かの光景が胸の中に去来する。


    今は嫌な予感しかしない。


    長門は胸に下げている指輪を強く握りなおした。
  10. 10 : : 2017/05/13(土) 21:36:42


    『こんごう』上空を擦過する直前、甲板上に人影が見えた。
    おそらく女性二人。



    格好から想像するに夕張と長井。
    どちらにしても戦闘状態で甲板に出ていること事態、危険極まりない。



    「『ワイバーン01』より夕張。甲板上に居るのは貴官か?送れ」



    ちょうど海と空が入れ替わった状態で通信を送る。




    『ワイバーン01、こちら長門。私と夕張の二人です。』



    長門?確かに声、喋り方と彼女そっくりだった。
    彼女は・・・もう戻る事は無い。



    しかし・・・




    『凄い・・・もう通信出来てる・・・ワイバーン01、夕張です。長門さんが・・・帰還されました!』




    夕張の声はまるで歓喜に沸くように弾んでいる。


    大川は夕張の言っていることが理解出来なかった。
    帰還とは大げさな・・・と長門は呟くと鼻で笑う声が入った。

    長門は『詳しい事情は後ほど』と大川に伝えると、すこし間を置いて言葉を続けた。




    『まるであの日の再来のような状況です。ワイバーン01、くれぐれも・・・あの『かが』の艦橋屋上で交わした約束、お忘れなきよう・・・』




    にわかには信じられない話だった。
    しかし『かが』艦橋屋上での約束を覚えている時点で疑う余地も無い。




    一体何が起こっているんだ・・?




    明石からは解体後、生体組織の8割を『彼女』の為に使い、記憶など残っているはずも無いときかされていた。


    それなのに・・こんな事が在りえるのだろうか?


    しかし今はそんな事を考えている暇は無い。


    この状況で在ればなおさらあの艦を・・・長門を・・・皆を・・・
    守らなければならない。








    もう二度と彼女を『追憶』の中だけの存在にしないために・・・・












    大きな旋回を終ええるとF35はレ級を照準軸線に捕らえる。
    同じ頃、レ級は尾についている主砲をF35に向け終わった。



    彼我の距離が見る見る縮んでゆく。



    大川が操縦桿の武器選択スイッチを操作し、対艦ミサイルにセットする。
    目の前に海原が広がり、レ級の姿がH.U.Dの照準サークルに入る。

    四角のターゲットボックスがレ級を捕らえ、それをシーカーダイヤモンドが追いかける。


    二つが重なりターゲットボックスが赤色に変わる。
    アラームが鳴り、ミサイルロックが掛かった事を告げた。


    操縦桿の発射トリガーを絞る。


    ガクンと衝撃が走り、両翼から切り離された対艦ミサイルが点火、そのままレ級に向かって猛然と加速を始めるのと同時に、こちらに向けられたレ級の尾に閃光が迸る。


    対艦ミサイルは加速を続けながらレ級に向かう。
    それとほぼ同時にレ級の主砲がF35に向かって火を噴いた。






    大川のF35から放たれたASM-6はレ級に向かって一直線に飛翔してゆく。



    レ級から放たれた砲弾は空気の層を突き破り、真空波を自らの後ろに引き連れながら突き進む。




    大川のF35を掠めた二発の砲弾は、一発が真空波の刃で操縦席の風防を砕き、主翼の根元、機体背面の外板を紙くずを引き剥がすように捲れさせ、破り捨て全てをむき出しにした。



    尾翼を破壊し、そのままはるか後方へと抜けてゆく。



    機体の下部を通過した砲弾はエンジンの空気取り入れ口を潰し、機体腹面の外板を剥がしエンジンを破壊した。


    操縦席の緊急脱出装置が作動し、射出座席のロケットモーターが点火されると砕け散った風防が吹き飛び、操縦座席が勢い良く上方へと射出された。



    ロケットモーターの噴射が終わると座席は操縦者から離れ、操縦者がパラシュートでゆっくりと海面に降下してゆく。




    そのまま機体は空中分解を起こし砕けながら海面へと落下、一部はそのままの勢いでレ級へと向かった。


    レ級は大川が放ったASM-6を前面で受け、戦艦のシールドの硬さに守られ轟沈を免れたものの、衝撃で後方へと吹き飛ばされた。


    更に追い討ちをかけるように勢いのついた大川の機体の破片をもろに受ける。
    そのすさまじい衝撃により気を失ったらしく、そのまま海面にうつぶせに倒れた。



    長井はこの一瞬の出来事を『こんごう』の艦上から、まるでスローモーションを見るように、映画のワンシーンを見ているかのように呆けて見ていた。


    しかしその目の前の出来事が現実のものだと認識した瞬間、声にならない叫びを上げていた。


    血の涙を流さんとばかりに喉の奥から搾り出すように響いたその叫びは、然艦娘達に響き渡った。

  11. 11 : : 2017/05/13(土) 21:38:15


    エピローグ



    山間の道を町へと車が走る。



    全開の窓から柔らかな風が通り抜け、桜の花びらが目の前で舞っていた。
    その中の一枚が運転席のダッシュボードに舞い込み、そのまま助手席の窓へと抜けて行った。



    長い髪が柔らかな風に靡く。

    車は山間の緩い下り坂を抜け、街へと滑り込んで行く。




    空は冬の何処までも続く蒼さとは変わってほんの少しだけ白味を帯び、遠方の島々は霞の中に薄っすらとその影を見せるだけだった。



    海に向かって擂鉢状に下がってゆくこの街も中心街に出れば平地となり、勾配はほぼ気にならなくなる。


    この街も隣の広島市も山の間の平地に作られたような港湾都市であり、広島の海に近い町はほぼそのような感じだった。

    夜は車ですこし山を登ると街の明かりや港湾に灯る光が輝き、夜景が綺麗だった。




    元々海上自衛隊の根拠地があり、もっと遡れば旧日本海軍の重要施設があった土地柄だけに、太平洋戦争終戦間際には大規模な空襲に晒された。



    戦艦日向、榛名がその空襲を受け、大破着底したのもこの港だった。





    隣の広島市に至って言えば、太平洋戦争の際には原子爆弾の標的にされ、世界で初の核兵器による被爆地となっている。

    それは何も海軍の施設があっただけではなく、あの当時それほど空襲の被害にあってなく、それで居て港湾都市としての大きさや山に囲まれた地形が原子爆弾の威力を図る上で適していた事、当時捕虜収容所が広島には無いと思われていたことが選定の決定打だった。



    一発目の原子爆弾が落とされ甚大な被害を受けた3日後には二発目の原子爆弾が長崎に落とされるわけだが、それは完全なとばっちりで、二発目の当初の投下目標は小倉だった。


    しかし事前に飛んでいった気象観測機の情報から、小倉の上空の天気が悪く(雲量が多く、被害の確認が出来そうに無かった)急遽第二目標だった長崎に変更された・・・というのが真相らしい。


    しかも長崎には捕虜収容所があり、連合国側の兵士が相当数犠牲になっている。


    戦後その事が公に語られることは無かったが・・・。



    因みに長崎に原子爆弾を投下したB-29は飛行ルートの大幅な変更から燃料が残り少なくなり、テニアンの基地に戻る事が出来ず、急遽占領間も無い沖縄に不時着している。


  12. 12 : : 2017/05/13(土) 21:40:02


    港湾都市ではあるが、深海棲艦には直接の攻撃を受けた事が無いものの、敵による海上交通路封鎖の際には他都市同様、相当の経済的打撃を蒙った事は想像に難くない。




    7年前に屋久島近海で起きた屋久島沖海戦が日本の排他的経済水域内で起きた最後の海戦であり、世界的に見ても、あれほどの海戦がその後発生した事実は無かった。



    同時期に起きたベーリング海方面、北極海方面などでの同時多発的な深海棲艦との海戦は鎮圧され、その後深海棲艦の艦隊を見たものは居ない。



    国連海軍は引き続き監視の目を光らせており、各国も輸送船団には必ずと言って良いほど駆逐艦、護衛艦、空母などの護衛艦隊が同行した。


    もちろん艦娘達も同行しており、彼女達の最大の利点は機動艦隊単位の戦闘力を護衛艦一隻に搭載でき、しかも応急修理施設を小規模のスペースで簡単に確保できるという点だった。



    米国や日本などではそれ専用の艦艇が就役中で、艦娘の需要は増えることはあっても減る事は無かった。




    「あ!『あきしお』だ!ほら『あきしお』だよ!」



    助手席に座る少女が突然声を上げた。


    車はちょうど国防海軍呉史料館の前を通過する所で、史料館の入り口には海上自衛隊時代の潜水艦『あきしお』が巨大な台座の上に据え付けられていた。


    国防海軍呉史料館と大和ミュージアムは隣近所・・・というよりもお互いが正面を向け合っている状態で、呉の重要な観光スポットとなっている。


    また2000年代前半に始ったJR西日本呉線の呉駅前再開発で作られ、また最近改装と拡張工事を終えた『ゆめタウン呉』がすぐ隣に在り、休日は特に渋滞が酷い。


    ただ上手く通り抜ける事が出来れば日本国国防海軍、呉鎮守府までは一番近道であり、駅前のゴミゴミしている街並みを見るよりは渋滞を覚悟しつつ海が見えるこの道の方が幾分か気分も良い。


    今の季節であれば窓を開け、潮風を楽しむのも渋滞の中のささやかな癒しであった。




    「そうだね・・・『あきしお』だ。」



    潮風の香りを感じ、渋滞に飽きてきた彼女が運転席から巨大な船体を眺め、ぽつんと呟いた。


    助手席の少女は瞳を輝かせながらじっとその勇士を眺め続けている。



    運転する彼女の瞳に映る巨大な潜水艦は、塗装も塗りなおされ、外見は綺麗に見えるが、実際は半世紀以上前の遺物以外の何者でもなく、更に言えば大和ミュージアムに飾られている旧日本海軍の『戦艦大和』に関しては遺跡級の代物だった。



    因みに、現在は艦娘の『大和』が作戦行動等が無い空いた時間を利用し、自身が沈没した1945年4月7日の事を語ってくれており、それがもう一つの名物となっている。



    彼女は大和ミュージアムの建物を眺めながら、通り抜ける潮風に髪をなびかせ自身の追憶の中の『大和』の姿を思い出していた。



    あの日、彼女は『大和轟沈』の悲報を横須賀で聞いた。
    彼女にはどうする事も出来なかった。

    先の海戦で中破状態となり、物資不足の為に修復も出来ず---



    赤信号が目に入り、若干急ブレーキ気味に車は停止線をすこしだけ超えて停車した。

    スキール音すら出なかったものの、あのまま追憶に思いを馳せ続けていたら信号を無視していたかもしれない。

    平日とは言えそれなりの人通りのある場所だけに油断は絶対にしてはならない。


    ましてや隣に少女を乗せて居ればなおさらだ。



    額の冷や汗を何食わぬ顔で拭い、ルームミラーで後方を確認する。
    幸い後続車は車間を相当取ってくれていたらしく、それほど慌てていなかったらしい。
    ミラーに自身の鳶色の瞳を見つめ、軽く瞳を閉じ溜め息を吐いた。



    ふと見上げると轟音と共に上空を飛ぶ飛行機の編隊が見えた。



    結構低い高度を旋回しているということは、国防海軍呉戦闘機部隊が訓練を終えて着陸態勢に入っているのだろう。
    もうそろそろ海軍艦旗返納式も始るか・・?




  13. 13 : : 2017/05/13(土) 21:43:47


    今日は数々の作戦に参加した武勲艦である護衛空母『かが』が退役する日だった。


    以後の任務は新造護衛空母『しなの』が受け継ぐ。



    此処の所相次ぐ武勲艦の退役が続いていて、昨年は『こんごう』『きりしま』『みょうこう』『ちょうかい』が、その前の年は『いずも』『ひゅうが』『いせ』等が退役となっていた。


    海上自衛隊時代の護衛艦を延命に延命を重ね、更に近代化改修を経て何とか此処まで持たせてきたのだが、流石に限界を感じた防衛省が屋久島沖海戦後に予算を取り付け新造艦の建造を活発化させた。




    『いずも』『ひゅうが』『いせ』の後任には『あかぎ』『しょうかく』『ずいかく』が、『こんごう』『きりしま』『みょうこう』『ちょうかい』の後任には『やまと』『むさし』『あがの』『あおば』が配属された。



    通常、退役した護衛艦は民間に払い下げられる事も無くスクラップとなる。

    戦闘艦艇であるがゆえ、燃費や効率などは考えられてはおらず、高速、高機動、戦闘などによる損傷を繰り返すため船体の疲労が激しく再利用は不可能となる。



    例に漏れず『こんごう』型4隻と『いずも』『いせ』『ひゅうが』は解体が決定されたが、『かが』に関しては今後も呉で記念艦として一般公開されることが決まった。



    護衛艦が記念館として公開されることも相当特別なのだが、更に海軍艦旗返納式が一般公開されることも特別だった。


    通常であれば、退役艦とは言えついこの間まで第一線で戦っていた軍艦だけに機密も多い。


    また基本性能の良いところは新造艦にも引き継がれる傾向がある。


    安定して性能を発揮していたり、今だ第一線で使える技術は継承される為、軍事機密の塊である艦が常時一般公開されることはまずと言って良いほど無い。
    観艦式等、特別な式典で軍人の監視下の下、特定の場所の見学は出来るだろうが・・・。


    ましてや『かが』の技術は『しなの』にも受け継がれている物もある可能性があり、相当思い切ったことをしたとその筋のオタクからはネットで話題になっていた。



    海軍艦旗返納もまた一般公開されることの非常に少ない式典であるが、この式典の場合、そもそも防衛省の規則類にこの儀式の規定は存在しないものであって式典そのものを公開する必要も執り行う義務も存在していないのである。



    ただ、全く公開されていないかというとそうでもなく、知る限りでは国防海軍がまだ海上自衛隊時代の平成13年6月、呉基地における潜水艦「なだしお」の除籍の際が公開されている。



    この時は、13年前の「なだしお事件」の当事者でもあり、新聞、TVではかなり大きく報道された。

    なだしお事とは、1988年(昭和63年)7月23日に海上自衛隊潜水艦『なだしお』と遊漁船『第一富士丸』が衝突し、遊漁船が沈没した海難事故。
    第一富士丸の乗客39・乗員9(定員超過)のうち30名が死亡、17名が重軽傷を負ったという痛ましい事故だった。

    しかも衝突した場所が東京湾内での事故だけに、当時メディアで公開された映像を見て、自分の住む街の目と鼻の先の事故に驚いたものである。



    『なだしお』の件はさて置き、通常一般公開されることの無い艦に同じく一般公開のほぼ無い式典が話題を呼び、式の始る相当前から呉鎮守府には人が殺到しており、呉市民もこぞって見学に訪れていた。





    交通渋滞を予想して海軍は国防海軍呉史料館前の通りに通行規制をかけており、関係者を優先的にその通りへと通行させていた。


    式典前の混雑を予想して彼女はこのルートを通るように通達されており、先程も軍関係者は規制する通りを顔パスで通過してきた所だった。


    そう、彼女は「一般公開を見学に来た」のでは無く「国防海軍からの特別招待」だった。
  14. 14 : : 2017/05/13(土) 21:47:08

    飛行甲板の上は吹きっ晒しで暖かな日差しもすこし冷たい潮風で相殺されるような気分だった。


    車での移動でもあり、今日は天気予報でも暖かくなると言っていたのを信じ、すこし薄めのブラウスとジャケットで来たが、若干寒さを覚えた。

    膝丈のスカートが風に揺れ、気を付けの姿勢のまま、軍艦旗の前に二列横隊で整列している。


    専任伍長が軍艦旗を降下させ、綺麗な三角に折りたたむ。
    回れ右をし、それを副長に渡した。


    乗員はそのまま艦を下り、呉総監の前に整列をする。
    最後に落ちてこられた艦長に副長が軍艦旗を渡すと、艦長はそのまま総監に軍艦旗を返納する。






    厳かな空気の中、海軍艦旗返納式が終わると、艦は一般公開の客でごった返す。


    一度艦を下りた『彼女』ももう一度艦に乗り込み、艦内を見学して廻った。




    懐かしかった。
    全てのものが懐かしかった。



    途中、第六駆逐隊の面々と久しぶりに会い、少女を彼女達に託し、自分はその足で艦橋屋上へと登ってゆく。


    見学者は皆一様に格納庫や兵員室、機関室や艦橋内部などを見学していて、此処には誰も上がってくる様子も無かった。



    すこし潮風が冷たいが、眺めは最高だった。




    あの時、『彼』に抱きしめられた突堤が見えた。
    最後の晩餐を皆で行ったのもその突堤だ。



    遠方に目を移せば江田島が見え、春霞の中、人々の生活の息吹を感じる。
    離れた所から小型漁船の焼玉エンジンの音が聞こえ、なんとも喉かな景色だった。





    あの時、此処で『彼』と交わした約束。
    ネックレスに通した二つの指輪--------




    自分が記憶を取り戻す事ができ、やっと果たされると思っていたのに・・・・


    『彼女』はそっと指で唇に触れると、涙を堪えるように胸元の『指輪』を握り締めた。




    「やっぱりここに居ると思ったわ」



    タラップを上がりきる音と同時に背後から声がする。


    声の主は『彼女』の隣まで歩み寄ると、海軍女性士官の礼服の帽子を小脇に抱え、手すりに寄りかかり遠方の江田島を見つめていた。



    「・・・陸奥か」

    「なによ・・ご挨拶ねぇ。全然顔見てなかったから心配してたのよ?」

    「はは・・・すまんすまん」



    『彼女』は陸奥に対する素っ気無い態度を詫びると、力なく笑った。

    陸奥は先の海戦終了後、横須賀へと移動になっていた。


    此処と横須賀ではおいそれと会える距離では無く、幾ら連絡を取り合っていたとしてもやはり実際に顔をあわせないと何処と無く心配になってしまう。

    久しぶりに会った姉の姿を見て、ホッとする反面、素っ気無い姉の態度に陸奥は軽い溜め息をついた。



    「今日は一人?海優ちゃんは?」

    「さっき六駆の子達に会ってな・・・彼女達に駆け寄って行ってたので、すまないが任せてきた」


    あらあら・・・と方を竦めると互いは暫しの間無言だった。


    遠くで鴎の鳴く声が聞こえる。
    時折魚が跳ねているのだろう。
    何かが海面に飛び込むような音が響く。




    「屋久島沖海戦の前夜・・・此処で『彼』と話をしていたわ」



    陸奥が無言の空気の中、つとつとと語りだした。
    『彼女』はそれを黙って聞いている。


    時折強く吹く潮風が長い髪を揺らし、スカートの裾が優しく翻る。
    暖かと冷たさを併せ持つその風はまるで今の『彼女』の気持ちそのもののようだった。



    「私ね、『彼』に聞いたの。貴女を好きになった理由・・・。でもね、結局最後まで教えてもらえなかったわ」



    陸奥の話を無言で聞きながら、『彼女』はなんとも『彼』らしいな・・・そう思いながら口元を笑みの形に吊り上げた。



    常々言っていたことだった。
    自分が本当に意図している言葉を伝えるのは難しいと。



    「好きだ」とか「愛している」という言葉は聞こえは良いが、それがどれだけの想いなのか?

    それは人によってまちまちだ。


    必ずしも二人が同じ想いで、同じだけの苦しみや悲しみ、喜びをその胸に抱いているとは判らない。

    でもお互いの心の中の想いを時間をかけて幾つもの言葉を費やし、そしてその行動で示す事は出来る。


    だから私も『彼』にそうしてきたし、『彼』も私にそうしてくれた----
  15. 15 : : 2017/05/13(土) 21:48:10

    「どうしたの?」



    陸奥が『彼女』の顔を覗き込みながら尋ねる。



    「いや・・なんとも皮肉なものだなと思ってな・・・」



    それまで遠くを眺めていた目線を空に映しながら『彼女』が呟いた。
    空に舞う鴎が鳴きながら飛び去ってゆく。


    霞む青空を見つめながら軽く溜め息を吐くと言葉を続けた。




    「もう30年も近く前か・・・私はこの場所で『彼』と未来を誓い合った。しかしその翌日、彼は私を守るために散った。彼とあの事件の彼女をよみがえらすために私は自らの解体を決意して・・・・7年前に偶然から『私』が戻って・・やっと約束が果たせると思ったのだがな・・・」



    『彼女』は胸元の『指輪』を服の上から握り締めると、若干声を震わせた。
    陸奥はそんな姿を見つめると、彼女の肩を抱く。



    「だが、私には海優が居る。『彼』の忘れ形見である海優が・・・だから私はこれからも生きてゆける・・・」



    陸奥に肩を抱かれ、流れた涙を手で拭うと、彼女は毅然と前を向いた。



    「『彼』の所には行ったの?」

    「いや・・・これから行こうと思っていた所だ・・海優をつれてな」

    「私はもうホテルに帰るだけだし、海優ちゃん見ててあげるからたまには一人で行ってらっしゃいよ」



    陸奥はそういって『彼女』にウィンクを送る。
    『彼女』はその言葉に甘える事にした。



    陸奥はその場で第六駆逐隊の暁に無線を送る。
    現在彼女たちは航空機格納庫を見学中で、陸奥はそのまま第六駆逐隊の面々と合流する形で海優の面倒を見ると言ってその場を去った。





    『彼女』は『かが』を下りると、そのまま鎮守府内にある戦没者慰霊碑の前に来ていた。

    そこにはずらりと戦没者の名前が刻まれた石版が建てられており、『彼女』はその中の一つの名前を見つけ、いとおしそうにそっと撫でる。



    瞳を閉じ、暫し黙祷そ捧げるとその場を去った。
  16. 16 : : 2017/05/13(土) 21:52:05


    「あ、こんにちは。あれ?海優ちゃんは一緒じゃないんですか?」



    鎮守府内にある国防海軍病院の一室に入ると、明石が花瓶の花を変えながら『彼女』に振り返った。



    「ああ・・・暁たちと陸奥に預けてきた」

    「だから陸奥さんと六駆の子達が通信してたんですね・・・」



    クスリと笑いながら明石が花瓶に新しい花を差し入れる。
    彼女はそんな様子を眺めながらベットに視線を移した。



    「相変わらず、我らが『眠り姫』は起きそうも無いか・・・?」

    「ええ・・・もう体はとっくに良くなっているんですが・・・」



    眠り姫って・・・彼は男性ですよ、と最初は鼻で笑ったが現状を伝える際には沈痛な面持ちとなる明石。


    判っている事なのだが・・・理解している事なのだが、少しでも快方に向かわないかと来る日も来る日も願ってきた『彼女』にしてみれば明石の口から同じ答えを聞くのはやはり気が重い。


    幾つも繋がれている点滴や、胸元から心電図に信号を送るコードが延び、心電図計は一定のリズムで音を発している。


    正に見ているだけで痛々しいが、自発呼吸もしていて、時々薄っすらと目も開ける。



    しかし何度呼びかけても返答は無く、反射的に開かれただけの状態。
    脳死状態なのかと脳波を図っても波形は正常値を示していた。



    医師や明石、かつてHL計画で研究を行っていた大野氏にも見てもらったが原因は特定できず、経過観察のまま7年の時間が過ぎていた。





    「すまないな明石・・・ほぼ毎日通ってくれているのだろう?」

    「工廠に向かう道の途中ですし・・・ほら、海優ちゃんのお世話とかで色々忙しいでしょう?・・・私には・・・こんな事しか出来ませんから・・」




    艦娘や艤装なら私にも治せるのに・・・俯きながらそう呟く明石。
    気をとりなおし笑顔を作ると、花瓶の水を替えてくると『彼女』に言い残して部屋を出た。



    日はすこしだけ傾き、空が段々と夕暮れの茜色に変わろうとしている。
    鴎の鳴き声が通り過ぎ、再び静寂が二人を包んだ。



    夕日が差し込む静まり返る病室に心電図計の音だけが一定のリズムを刻んでいた。







    「今日・・・『かが』が退役しました。早いもので・・あれからもう7年も経ったんですね。」



    まるで独り言のように『彼女』が語りだした。
    『彼女』は窓から見える夕焼けに視線を移しながら言葉を続ける。



    「覚えていますか・・?30年前の、あの艦橋屋上での約束・・・。」



    『彼』に視線を戻しながら、『彼女』は瞳を伏せる。



    「私は・・・あの約束の通り、どんな事があっても、ずっと貴方の傍に居る・・・ほら、貴方だって私をずっと待っていてくれたように・・・」



    押し包む静寂の中、『彼女』は眠ったままの『彼』に話し掛ける。
    最後はすこし声が震えてしまったが、今の心の中の精一杯の言葉を投げかけた。


    当然、眠り続ける『彼』に届くはずも無く、伝えようとした想いは差し込む夕日の中に霧散した。



    今まで何回と無く眠る彼に伝えてきた言葉だった。



    何時果てるとも知れない現状と不安の中、それでも彼女は彼を待ち続ける事を心に誓っていた。


    それは自分を守るために命を賭け、そして蘇り、すでに解体されその存在がなくなってしまった『私』をそれでも想い続けてくれた『彼』の心に報いるため。



    そして移植された脳組織の中に微かに残っていた記憶が、何かの偶然でフィードバックされ、艦娘の強力な生体組織の力によって強制的に記憶野に定着し、『彼女』そのものが戻ってきた矢先のすれ違いという運命の悪戯。






    しかしそれでも『彼女』は希望がある限り待ち続けることを心に誓う。


    なぜならあの海戦の数週間前に身ごもった命が傍に居るから・・・。




    その命を守り抜く事が、そして彼を待ち続けることが、今の私の『使命』と言っても差し支えないと彼女は思っていたからだった。





    布団の上に出されている彼の手をそっと握り、自らの唇に当てる。
    条件反射で彼の手がピクリと動くが、その後は力なく彼女の動きに任せていた。






    「愛している・・・提督・・・」





    瞳を閉じ、彼の手の甲を自分の頬にあてる。
    涙が流れ、彼の手にそれが流れ落ちる。




    瞳を閉じ、堪え続ける涙は溢れ、とめどなく流れ落ちた。

  17. 17 : : 2017/05/13(土) 21:54:47


    どれほど握り続けたのだろう。
    気が付けば、自分の手に力と温もりを感じた。




    明らかに意思を持って握り返している。





    今まで幾度と無く彼の手を握り、彼に話しかけ続けたが、こんな反応を示す事は無かった。



    『彼女』はゆっくりと眼を開け、取っている彼の手を見る。



    指が内側に折りたたまれ、弱々しいながらもしっかりと、温もりを伝えようとする優しさで彼女の手を包んでいた。



    鼓動が早まり、期待と不安の綯交ぜになった胸の中が軋む。
    彼女はそのまま目線を上げ、彼の顔を恐る恐る視線に入れる。





    彼は眼を薄っすらと開き、彼女を見つめている。
    その瞳には光が宿り、明らかに意思を持つ瞳へと変わっていた。




    「な・・・が・・・」

    「提督・・?判るのか?提督・・・?」



    彼は彼女の言葉にゆっくり頷くと、久方ぶりに開く口から発せられる言葉は、掠れながらも彼女の名を必死に呼ぼうとしていた。



    「な・・・が・・・と・・」

    「ああ・・・私は此処に居るよ・・提督・・いや・・・アナタ・・・」

    「長門・・・」



    大川はか細く彼女を呼ぶと、一筋の涙を零した。



    名前を呼ばれ、喜びの中で力強く彼の手を握ると、長門は陸奥と明石に通信を入れる。

    程なくして慌てて病室になだれ込んでくる明石と陸奥、そして第六駆逐隊の子達と・・・



    「長門・・・その子は・・・?」




    入ってきた艦娘の中に見慣れない女の子が一人、はにかむような表情で大川を見つめている。



    「アナタの子供だよ・・・提督。名前は『海優』・・・」

    「・・僕の・・・子?」

    「そう・・・貴方と・・私の・・大切な命」



    そういうと長門は海優をベットの脇に近づける。

    初めて起きて少女を見つめる彼の視線に戸惑いながらも、海優は恐る恐る手を伸ばし、大川に触れようとしている。



    「・・お・・父さん?」

    「・・・まじめまして・・かな?海優・・・」



    今まで起きる事無く眠っていた大川を始めて父と呼び、照れくさそうにしている海優にかすれる声で懸命に話し掛ける大川。


    そっと手を差し伸べて海優の頭を撫でると、海優ははにかむ笑顔を大川に送った。


    この病室に来る途中に呼んだ医師が部屋に到着し、なにやら診察している。
    病室の外には話を聞きつけた艦娘達が意識の戻った大川を一目見ようと集まっている。



    部屋に居る陸奥や明石、六駆の子達は口々に「よかった」を繰り返している。



    診察の最中も、大川は長門と海優の手を握っていた。


  18. 18 : : 2017/05/13(土) 21:58:49



    一年後




    呉のとある小学校





    がやがやと子供達が駆け回り、じゃれあう声が教室に廊下に溢れ変える。
    廊下を通る先生が大きな声で走るなと怒鳴ると、子供たちは悪態を吐きながら笑顔で逃げ去ってゆく。



    時折曲がり角から飛び出してくる子供達を巧みによけながら、長門は二階の教室へと歩みを進めていた。



    週末の学校公開日、彼女は海優の学校での姿を見ようと鼻歌交じりに廊下を歩く。



    途中、海優のお友達のお母さんと世間話をし、愛想笑いに華を咲かせる。



    元々そういうことに疎いというか、軍人気質というか、男勝りというか・・・
    艦娘時代からそういう性格だったため、そういう付き合いは苦手なのだが、海優が居る限りそういう事も必要になる。



    元艦娘ということを自分から言う事は無いが、薄々感づかれているため、その辺の話は常に避けてるようにしていた。



    ただ・・・身長はモデル並に高く、足も長く、スタイルは言わずもがな、やはり羨望の眼差しで見られることも多く、できれば学校公開日も避けたいところだったが、海優の達ての希望でもあるので、可能な限り行くようにはしていた。


    今日も朝、海優の為に弁当を作っていると、瞳をキラつかせた海優が「今日は来るのか?」と聞いてきた。

    流石にあの瞳で見つめられたら「用事が・・」とは居えず、「家事を済ませてから行くから2時限目以降くらいには・・・」と言ってしまった。



    海優を送り出した後、家の事をちゃっちゃか済ませ、服を選ぶ。
    髪を気にしている余裕は無いのだが、普段からしっかりと手入れだけはしているつもりなので軽くブラッシングだけに済ませ、化粧は悩んだ挙句しない方向で折り合いをつけた。



    過去に化粧に失敗し、悪ガキに爆笑された経験が在り、海優がその男の子をぶちのめすという事件が発生した為それ以降は可能な限り避けている。


    しかし・・・あのときの海優は流石に鬼気迫る迫力で男子をぶちのめし、後で相手方の保護者に平謝りだった。



    血は争えないものだ・・・とその時長門は痛感した。



    元々艦娘の血を引いているだけに、生体組織の強靭さは通常の比ではなく、あれでも海優なりに相当セーブしていたのだろうがそれでも小学1年生の繰り出す打撃ではない。



    以後、正当防衛以外どんな事があっても人を殴るなと海優にきつく説教したのは言うまでも無い。




    以来、海優は打撃ではなく関節技を磨くようになったのだが・・・






    海優の教室に着き、まばらに来ている父母の間から海優を探すが、彼女はすぐに見つかる。


    それもそのはず、休憩時間が終わり、自分の席についても尚後ろを気にして振り返ってばかりいるからだ。



    海優は長門の姿を見つけると、ニッコリと笑いかけるが、長門が人差し指を先生の方にむけ『前を向け!』と声を出さず口を動かすと、渋々前を向いた。



    授業が始って暫くすると、ブラウスにニットのカーディガンを羽織った金剛が教室に入ってきた。
    珍しくメガネをかけており、長門が「どうしたのか?」と小声で聞くと



    「海優ちゃんに頼まれたネ。長門来ないかも知れないからってサ」



    と悪戯っぽい笑顔をしていた。
    金剛の姿を見つけた海優は振り返りながら笑顔で手を振っている。
    金剛もニコニコと手を振っていた。





    そろそろ2時限目も終わりに近づく頃、なにやら廊下が騒がしくなった。
    複数のスリッパの音が響き、複数人がこの教室に向かっている事がわかる。



    最初は父母が大挙して押し寄せたのかと思ったが、金剛が「やっと来たネ」と笑っていたので察しがついた。



    教室の後ろの引き戸が静かに開けられると、第二種軍装に身を固めた大川が秘書艦である加賀を連れ教室に入ってきた。


    教室の一同は一斉にざわつき始める。
  19. 19 : : 2017/05/13(土) 22:02:07


    「・・・海軍さんだ」

    「誰のお父さんだよ・・あの人」

    「隣に居るの艦娘の『加賀』じゃない!?」



    と子供たちは口々に喋りあい、父母達も大きな声では言わなかったが概ね同じような内容の話をしながらチラチラと二人を見ている。



    「加賀・・・外で待っていてもよかったのに・・」

    「秘書艦ですから。いつ何時、緊急事態になるとも限りません」




    加賀に話し掛ける大川は周りの目を気にしてか、小声で加賀と話していたが、加賀はいたって平静に返事をしていた。




    「提督・・やっと来たネ」

    「アナタ・・・何故第二種軍装のままなんですか・・・」



    金剛はニコニコしながら大川に話し掛け、長門は呆れている。



    「ははは・・仕方ないだろ。演習おしちゃったし・・・後2時間もしたら呉の総監部で会議なんだよ」

    「正確には1時間55分後です」




    大川の弁明に加賀が補足を入れる。

    何とか場を収めようと、話を逸らすように目をキラキラさせながら手を振る海優に大川も手を振り返した。



    「海優、ちゃんと勉強してるか?」

    「提督・・・声大きすぎネ」


    金剛と大川のやり取りを溜め息混じりに眺める長門。
    ニコニコと頷く海優に周りのどよめきは更に大きくなる。



    誰も海優の親が軍属だとは今まで知らなかったし、長門も可能な限り隠してきた。


    しかもその隣に居るのが金剛と長門である事が知れてしまい、授業どころではなくなってしまった。



    先生が必死に静まるように呼びかけたが、あえなく授業終了のチャイムが鳴った。



    大川は金剛に押され、長門の横に並ぶと、帽子を小脇に挟み、手袋を外す。





    海優が大川に駆け寄り、しがみ付いた。
    大川は彼女の頭を撫でる。




    長門と大川、二人の左手の薬指には、春の陽光を浴び輝く指輪が嵌められていた。





    ~Fin~


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