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マッスル大戦 Zero〜始まりの筋肉〜

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  1. 1 : : 2016/08/12(金) 15:43:57
    http://www.ssnote.net/archives/47855 の過去のお話になります。どちらから見てもお話に支障はありません。
  2. 2 : : 2016/08/12(金) 21:28:24


    「ねえお母さん!」


    少年は燦然と輝く瞳を母親に向け、そう問いながら大きな女性を象った銅像を指差す。


    「どうしたの?」


    「なんであの人は女の子なのにあんなに強そうなの?」


    少年の指差す女性の銅像は、確かに普段イメージするか弱い女性とはかけ離れた体格をしていた。全身を美しく厚い筋肉で覆われ、その太い腕は振るだけで近くのものを吹き飛ばすことができそうだ。


    しかし特に少年が心を惹かれたのは女性の腹筋であった。その腹筋は銅像でありながらも少年の心を圧倒する。これを実際に見たならば少年はどれほど興奮していたことだろう。


    「ふふ、それはね────」


    母親は少年の頭をそっと優しく撫でながら、少年と同様に銅像を見つめる。


    そして、自らも母から伝え聞いた古来からの昔話を少年にゆっくりと語りだすのであった。

  3. 3 : : 2016/08/12(金) 21:28:50



    ◇ ◇ ◇


  4. 4 : : 2016/08/12(金) 23:07:31


    ここは西洋にある小さな小さな島国。中央にある城には美しい姫様が住んでおり、城周辺ではその姫を守るために大多数の騎士が警備していた。


    その数千人にも及ぶ騎士軍のリーダーを勤めるのは、見た目はか弱い美しい女性であった。その女騎士は戦いに必要な様々な技術を網羅しており、特に剣術に長けていた。


    今日も平和な日々を暮らしている女騎士の下に、その知らせは唐突にやって来る。


    「騎士長!!」


    騎士長。それは騎士軍のリーダーにのみ与えられる女騎士の別称である。騎士にとっての名誉であり生きがいでもあるその名前に、女騎士は自分などが相応しくないという思いを抱いており、騎士長という名で呼ばれるのはあまり好きではなかった。


    「どうした?」


    女騎士の自室に飛び込んできた騎士に問う。


    「街で盗賊が暴れております!」


    「お前達だけでどうにかできんのか」


    「それが─────」


    騎士から伝えられた衝撃的な話に思わず目を見開く。女騎士は慌てて防具をその身に纏いながら騎士に告げる。


    「すぐに行く」

  5. 5 : : 2016/08/16(火) 21:25:59


    「はっ!!」

    騎士は美しい敬礼を行いながら高らかと返答し、女騎士の部屋を後にした。


    女騎士は慌てた様子で全ての防具を身に付けると、自らも部屋を急いで退出する。城内の階段を駆け下り城の外へ向かう。


    「現場はどこだ!」


    「馬で3分ほどです!」


    「急いで準備しろ!」


    「既に待機してます!」


    騎士の言う通り、女騎士が城を出るとそこには愛馬である白馬が凛と佇んでいた。


    女騎士は白馬に走り寄りそのままの勢いで上に跨る。白馬の横に繋がれた馬に騎士が乗るのを確認すると、


    「早く案内しろ!」


    「こちらです!」


    言いながら馬同士を繋いでいた縄を解くと、騎士の乗る馬が颯爽と駈け出す。


    「走れ!」


    女騎士は白馬に縄うち騎士の馬を追わせる。城下町は一見普通の様子だが、盗賊団に襲われているかと思うと胸が痛む。ましてや───────。

  6. 6 : : 2016/08/16(火) 21:27:16


    「あそこです!」


    騎士の指差す方向を見ると、そこには確かに無数の人集りができていた。その中央の盗賊団と思われる男は何か叫んでいるようだ。


    女騎士は白馬に更に縄打ち、白馬の足を加速させていく。その足音が人々に届き始めたのか、一人、また一人とこちらを振り向き始める。


    「騎士長様だ!!」


    人々の歓声に答えるように、騎士は馬に跨ったまま腰に付けた剣に手をかける。しかし──────、


    「そこまでだ!!」


    人々の歓声をかき消すように、騒ぎの中心に立つ盗賊団の男から怒声が響いた。


    女騎士は剣の柄から手を離し、白馬から飛び降りる。前にできていた人混みは女騎士の接近により左右に分かれ、女騎士が通るための道が作られていた。


    女騎士はその道を進みながら、その先にいる盗賊団の男に目をやる。その男の隣には男に刃を突きつけられ涙目で震える幼い少女がいた。


    「お望み通り私が来たぞ!」


    女騎士は歯をギリと噛み締めながら、怒りを露わにする。そう、女騎士が血相を変えてここに来た理由はこれであった。人質に捕らわれた少女を解放してほしければ、女騎士を連れてこいと盗賊団は騎士達に告げたのだ。


    「よく来たな。剣をそこに置きここに来い」


    男は少女に刃を更に近づける。逆らえば少女が餌食になるぞという無言の脅迫であろう。女騎士は男の命令通り剣を地面に静かに置き、ゆっくりと歩み寄る。


    男はニヤニヤと笑いながら近づいてくる女騎士を見つめる。女騎士はきみ悪さに身を強張らせながらも男の目の前から動かない。女騎士は反撃の機会をうかがっていたのだ。男が一瞬でも隙を見せれば、少女を救い男を捕まえる腹づもりであった。


    「そこに座れ」


    拒否権などはもちろん女騎士にない。言われるがままに女騎士は膝を地につける。男を睨みつけながら、男がこちらから視線を外す一瞬を待つ。だが、男は用心深いのか、一瞬たりとも女騎士から視線をそらさない。


    いつの間にか人々からの歓声は消えており、その場を包むのは静寂。しばらく続いた無音の世界を、男は笑い声と共に切り開いた。


    「やれ!お前ら!」


    その刹那、女騎士に他の盗賊団の男が襲いかかる。抵抗すれば少女の命がない。女騎士はなす術なく手にかけられる縄を受け入れる。


    人々からはどよめきが漏れ、騎士達も剣をこちらに向けるだけでその場からは動かない。


    「あばよ、騎士長さん」


    その言葉と共に、女騎士の世界は暗黒に染まった。

  7. 7 : : 2016/08/16(火) 21:27:32



    ◇ ◇ ◇


  8. 8 : : 2016/08/16(火) 21:28:30


    「う──────」


    女騎士は短く呻きながら顔をゆっくりと上げる。頭に響く鈍痛に顔を歪めながらも、周囲の状況をいち早く認識しようとする冷静な頭脳は健在だった。


    手を縄で柱に繋がれ思うように身動きがとれない。場所は恐らく盗賊団のアジトと言ったところだろうか。薄暗くもだだっ広いその部屋には家具と思われる物は何も置かれておらず、床や壁、天井には血痕が至る所に付着していた。そこから考えられるこの部屋の用途に、女騎士は騎士長という身でありながらも震える。


    「やっと起きたか」


    背後から不意に声をかけられるも、女騎士は拘束のせいで首を少し曲げるのがやっとだった。


    「あんたは───」


    「俺は盗賊団のリーダー。君の身柄をこちらで拘束させてもらったよ」


    ゆっくり女騎士の前に立った男は服の上からでもその体格のすごさがわかる屈強な男であった。


    男はニコリと微笑みながら女騎士の方に手を伸ばす。女騎士は恐怖に目をつむり、少しでも男から離れようと繋がれた柱に体を押し付ける。


    「そんなに怖がる必要はない。僕は君にあることを教えたいだけなんだ」


    言いながら、男は女騎士の髪を優しく撫でたかと思うと、気絶している間に鎧を脱がされ露わになった薄い生地の服に手を伸ばしていく。


    「ひっ──────」


    女騎士の喉から短い悲鳴が発せられる。いくら騎士長といえど女だ、こういう行為に恐怖を覚えるのは当然であろう。


    男はそれを聞きケラケラと笑いながら、女騎士の服を破り捨てた。下着姿を晒してしまった女騎士は恥ずかしさと恐怖に板挾みになる。


    「ふっ、やはり全然だめだったか」


    一変した男の静かな笑いに違和感を覚え男の顔を見ると、その視線の先にあるのはどうやら女騎士の貧相な胸であった。恥辱の限りを受けた女騎士は今すぐ男を殺してやりたかったが身動きがとれないのであればどうすることもできない。


    男はまあ仕方ないかとため息をつき、自らも服を脱ぎ捨てていく。その行為が進むにつれ、女騎士の恐怖は一層と高まっていった。


    そして、


    「さあ、準備は整った」

  9. 9 : : 2016/08/16(火) 21:29:08


    女騎士と同様に、男も下着一枚の姿となる。男の厚い筋肉から放たれる少しの威圧は女騎士の恐怖をより増長させる。


    ガタガタと歯を震わせながら下を向く女騎士の顔を男は掴み、自らに向けさせる。


    「ちゃんと見てろよ」


    そう言い、男は自らの下着にゆっくりと両手を伸ばしていく。


    ─────こんな男に処女奪われちゃうんだ。


    女騎士が来る日まで守り続けてきたそれは今日失われるのであろう。その喪失感と恐怖に体を支配され、もうどうでもいいやと男の方に目を向ける、その刹那であった。


    「リラックスポーズ!!!!」


    男は下着に伸ばしていたはずの手を腰の辺りに付け、そう叫び始めたではないか。

  10. 10 : : 2016/08/16(火) 21:30:19


    女騎士を襲う威圧が大きくなった気がしたが、そんなことよりも目の前の男の奇行に脳内が疑問符を生み出していく。


    「うおおおおおおおおお!!まずは全身に力を入れ体を見せつけるリラックスポーズだああああああ!!!」


    いつの間にか背後に立っていた数々の盗賊団の男達が一斉に歓喜の声を上げる。


    女騎士は何が起きたのかさっぱり理解できず、大きく見開いた目をパチパチとさせる。


    男は体を少し横に向け、腰に当てる手を腹の前に持ってきたかと思うと、片方の手首を掴み胸の方に反対側に引き寄せる。


    「サイドチェスト!!!!」


    「でたああああああ!!!リーダーの胸筋がより強調されるサイドチェストおおおおおお!!!!」


    ご丁寧に解説をしてくれる下っ端の男どもに微笑みながら、男は更に別のポーズをとる。


    体は横に向けたまま軽く膝を曲げ、腕を体の後ろで組む。


    「サイドトライセプス!!!!」


    「うわああああああああ!!!!リーダー自慢の上腕三頭筋が強調されるとともに体の側面を見せつけ腿の太さなどを見せつけるサイドトライセプスだあああああ!!!!」


    こんな丁寧な解説を声を揃えて叫ぶとは、一体こいつらはどれほど練習したんだという疑念を抱くほど、いつの間にか女騎士から恐怖は消え去っていた。


    男は女騎士にもその爽やかな笑顔を向けながら、次々にポーズをとっていく。


    「モストマキュラー!!!!」


    「でたああああああ!!!!最も力強さを見せつけることのできるポーズと呼ばれる、僧帽筋、腕、胸などの太さを強調できるモストマキュラーだあああああ!!!!!!!」


    その後、男によるポージングとその下っ端達による丁寧な解説は1時間ほど続いた。

  11. 11 : : 2016/08/16(火) 21:30:36



    ◇ ◇ ◇


  12. 12 : : 2016/08/16(火) 21:31:28


    「よく戻ってきましたね!!」


    この国の姫である美しい女性が、苦笑いを浮かべる女騎士にそう微笑みかける。


    「拷問などされたのではありませんか?」


    「いやぁ……拷問というか……」


    女騎士は男のポージングを思い浮かべながら、拷問ではなかったよなと笑う。


    「大丈夫なら良かったですわ。ゆっくりお休みなさい」


    「ありがとうございます」


    男の謎のポージングが終わったあと、女騎士は何事もなかったかのように解放されたのだ。あの行為は女騎士にとって謎でしかなかったがそれは誰にも言わず、女騎士の心の内に秘めた。


    こうして女騎士の元にいつもの平和な日常が戻ったわけだが、


    「アドミナルアンドサイ!!!!」


    夜な夜な、女騎士の自室からは謎の大声が響くようになったらしい。


    『完』

  13. 13 : : 2016/08/16(火) 21:34:43
    あとがき

    マッスル大戦はシリーズ化したら面白そうとある人に言われなんとなく書いてみた2作目です。面白かったなら幸いです。次作も一応書く予定なのでその時はよろしくお願いします

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著者情報
inazuma

腹筋くん

@inazuma

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