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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品はオリジナルキャラクターを含みます。

東京喰種√Σ lV

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  1. 1 : : 2016/06/21(火) 18:25:36
    ちょろっと時間かかりましたが、とりあえず立てました。√Σ(シグマ)と読みます。オシャレでしょ?(・ω・)
    眠い&修正で、投稿は明日からとなります。
    かたじけない。

  2. 2 : : 2016/06/21(火) 18:55:09
    待ってました!!
    題名のセンスが良い…
    期待です!!
  3. 3 : : 2016/06/21(火) 19:30:30
    ハッ(;゚Д゚)! コメント制限してなかった! わすれてた。

    >>2
    まだまだ拙いセンス、お褒めにあずかり恐悦至極です。
    久しぶりのコメント嬉しいですw感動!
    期待ありがとうございますね!!
  4. 4 : : 2016/06/24(金) 22:44:33
    すいません、ちょっと来れなかった。

    シリアス続きだったので息抜き回を入れるも、すぐにシリアスへ。 やっぱりこういうのは向いてないみたいです。


    一応、『続』じゃない方の『P』の>>142からつながってます。
    『P』の一番下に『>>142』と書いておいたので、そこを押していただければパッと移動できます。はい。

    いちいち読むのメンドクセェという方は、読んでください↓。回想はいるまでのザックリしたあらすじです。

    狂喰種がアカデミーに襲撃。

    カネキがこれを撃退。

    しかし肋骨骨折などの負傷により、重症の教官と脚をチョンパされた玲ともども病院にお世話に。

    有馬が病室に訪問。

    有馬『裏口入局で、君が捜査官になることがきまった』
    カネキ『わかりました』

    二週間後、病院を退院。教官と一緒にアカデミーに帰る。(リハビリなどのため、玲はまだまだ病院生活が続く模様)

    カネキは昼間にもかかわらず、部屋に着くなり寝てしまった。

    数時間後、悪夢により叩き起こされた。

    記憶の混乱、あわててアルバムを探す。

    記憶の結合。

    以下P〜続Pまで過去篇。

    これで思い出してくれましたか!?

    それでは続き投稿します。
  5. 5 : : 2016/06/24(金) 22:47:02






     夕刻、午後六時。




     汗ばんだ体をシャワーで濯ぎ、浴室からあがる。四月中旬ということで、気温はだいぶあたたかくなってきていた。とくに風呂あがりは体温が上昇していて非常に暑い。
    部屋は自分一人だしいいか、と下だけを着用し、パンツいっちょうで脱衣所を出た。
    素足でぺたぺたと歩きながら、バスタオルでしめった上半身と髪をなでくりまわす。
    火照った体を冷ますため、ミネラルウォーターをちょびっと呷る。
     ぬるいし、おいしくない。冷蔵庫か氷でもあれば、冷たくておいしいのに。
     わざわざ食堂の厨房まで氷を取りにいくのも面倒だし、これで我慢しよう。

     カネキはもう一度、口の中を水で満たした。


    § § §


     記憶は思い出したけれど、あまりよく、分かっていない。
    頭の中でイメージできても……イメージできるけど、よくわからない。当時のことは、幼い自分が御しきれる許容範囲外だったのだろう。断片的な記憶の中で、より鮮明なものは、歪んだ愛情と、彼女が撃たれて死んだことだろうか。
     一面に花が咲いていて。真っ暗で。でも視認できた。
    ……生が止まる時間まで、自分は散りゆく彼女を、綺麗だと思ってしまった。
     そして、ほのかな哀感。
    彼女を理解はできてないが、嬉しかったんだと思う。彼女からもらっていた、愛とは程遠いその溺愛が。表現が、酷く苦しい拷問だったとしても。


     愛されるということが、嬉しかったのだ。



     おかしいだろうか? 狂ってるだろうか?

     もし他の誰かが、僕と同じことを語っていたら、僕の目にその人は奇異に映るだろう。

     僕が抱いている感情は異常なのだ。
     だから、金輪際、蒸し返すのはやめる。
     だが、忘れることは赦されない。

     忘れてはならない。
     あの事件は僕にとって、とても重要で、大切な出来事だったから。



     悪夢はどこか遠くへ。






     それから、 彼女(悪夢)はみていない。
  6. 6 : : 2016/06/24(金) 22:51:54



    § § §



     体が乾き、タオルを首にかける。表面は冷たいが体の内部はぽかぽかだった。
     しかしずっとこのままだと風邪をひきかねない。五分したら服を着ようと決めた。
     それまで何をしようか。じっと待つのは落ち着かない。

    「あ、そうだ……荷造りしなきゃ」

     すっかり空気だったが、近々捜査官になるのだった。
     どういうふうに仕事をするんだろう。
     最終的には喰種と戦うんだろうな。そんなことを考えながら、ベッドのしたから出しっぱなしのダンボール箱に手をやる。
     荷造りと言っても本やアルバム、母さんの遺品くらいしかなく、本が大半を占めている。ベッドのしたに詰めてある幾多のダンボールは九割本だった。
     新居地は〔CCG〕の手引きでマンションを一室用意してくれるそうだから、全部運んでも問題はないだろう。部屋が狭くても広くても、ほとんどが亡き父の私物のため、捨てたり置いていったりはできなかった。

    カネキ「そういえば……最近、高槻泉の本読んでないや」



     ふと、自分の敬愛する小説家を想起した。 高槻泉(たかつきせん)、鬼才と謳たわれる才色兼備の作家である。
     お気に入り作家の作品を入れたダンボールには赤いシールを貼付していたから、どの箱に入れたかすぐ見当がついた。

    カネキ「あった」


     埃をかぶったダンボール。本が読みたくなれば図書室へ行って借りてきていたし、奥のダンボールを引き出してまた押入れるという作業が厄介だったので、一度も開けることなく本はダンボールの中に眠ったままだった。

    カネキ「久しぶりに読もうか」


     高槻泉の処女作である『拝啓カフカ』を手にとり、表紙をめくると文字の羅列に眼を走らせた。忘れようのない懐かしく心地良い本の薫りと、高槻泉の独特の雰囲気が網膜と鼻孔から侵入し充溢する。
     カネキは頬を緩ませ(ページ)をめくってゆく。しばらくカネキは夢中で本を読んでいた。



    カネキ「…………」


     五十頁ほど読みすすめ、カネキはたまらず本を綴じた。お世辞にも明るいとはいいがたい顔で考え込むように目を落とす。
    『拝啓カフカ』を読んでいる途中、厳密には序章中盤で、これまでにない感覚を味わわされていた。カフカだけではない、他の高槻作品もちらっと読んだが同じ感想だった。

    カネキ「……っ」


     高槻泉の作品はどこか哀愁を感じる。
     物語も構成も優れたものでおもしろいのに、細部に踏み込めば──筆舌に尽くし難い、暗く悲喜劇的な絵画が風景として渦を巻く。悲壮美とでも称せばいいのか。
     醜穢な罪が、この世の悪性が、嘆きを叫んでいる。文中の悪辣な言霊に、得体のしれない怨嗟が含まれいる気がした。

    カネキ「高槻泉は、なにを……?」
  7. 7 : : 2016/06/24(金) 22:59:05



     ガチャッと部屋のドアが開けられ、思考が中断される。驚いて(おもて)をあげると、シマウマを切って分けたような、馴染みの二人がいた。
     安久黒奈と奈白である。カネキは病院にいたから、二週間ぶりだろうか。

    カネキ「あ、久しぶりだね。クロナちゃん、ナシロちゃん」

     手をふる。
    「うん」と応じて二人もふりふりさせた。
     が、突然つぶらな瞳をさらにまんまるにさせ「きゃっ」と両手で顔を隠した。指の隙間から目が覗いている。ついでに耳が赤かった。カネキはどうしたんだろうと首をひねった。


    クロナ「けっ、けん……」

    ナシロ「ふく……」


    カネキ「ふく? あ、わっ! ご、ごめん……すぐ着替えるから出ててもらえるっ?」


    「う、うん」と、どもりながら二人は返事をし部屋の外に出た。

    カネキ「くしゅっ……」

     なんだか寒いと感じていたら、服を着ていなかった。五分後に着るとか言っていたのはだれだろう。三十分後である。
     十秒で着替え、待機する二人に知らせた。

    カネキ「それで、どうしたの?」

    クロナ「おばさんが」

    ナシロ「ケンの退院祝いと捜査官になったお祝いしようって、みんなとごはん作って待ってる」

    カネキ「おばさん?」

     誰。

    クロナ「食堂の」

    カネキ「ああ、あのおばちゃんか……そっか……もう作ってあるんだよね? 言ってくれれば手伝ったのに」

    ナシロ「それじゃお祝いならない。それに、昼間ケン寝てた」

    カネキ「眠たかったからね。ん? 部屋入ったの? 」

    クロナ「うん。お昼、病院から教官と帰って来たって聞いて来たんだけど」

    ナシロ「でも寝てたから、顔だけ覗いて出た」

     寝顔を覗かれていたことに驚きである。
    それにしても、食堂のおばちゃんはそんなに温厚篤実な人だったのか。
     豪快なだけだと思っていた。いいや、豪快な人は気前がいいというのがキマリだから、別に変じゃないのかもしれない。

    クロナ「それにしても」

    ナシロ「ケンがパンツ一枚でいたなんて」

    カネキ「邪推はよしてねよね? お風呂あがりで涼んでただけだよ」


     二人は「ふーん」と半目でカネキを見る。疑われている。やめてほしい。このままでは噂が噂を呼んで、入局直後から『変態捜査官』なんてあだ名をつけられてしまう。

    クロナ「しってる」

    ナシロ「冗談」

    クロナ「さ、食堂いこ。みんな待ってるよ、おばさん怒らせると怖いし」


     二人は優しい姉のように笑った──カネキのほうが年上なのだが。
    本当はわかってくれてないんだろうな、と少々卑屈になりながらも、あの人を怒らせると怖そうだったので二人に連れられ食堂に向かう。
     そして、なぜか二人はカネキと距離が近かった。
  8. 8 : : 2016/06/24(金) 23:05:47





     そこは阿鼻叫喚の戦場で、地獄絵図と化していた。
     暴走する子供と大人。大人の乱闘。倒れる大人。叫ぶ子供。泣く子供。大笑いする大人。回る子供。踊る大人。たおれる子供。狂える食堂のおばあちゃん。眠る大人。逃げる子供。慌てる大人。腹芸する教官。食べる子供。食べる大人。飲む大人。飲む子供。呑まれる大人。呑まれた子供。猛る食堂のおばちゃん。喰われる肉。呑まれた食堂のおばあちゃん。
      カネキに抱きつくクロナちゃんとナシロちゃん……と食堂のおばちゃん。うっ。
    始まりは、ひょんなことで誰かが酒を飲んだことだった。
     食堂につくと、皆がカネキに群り『狂喰種』の話題で持ちきりだった。
     教官も生徒たちも、カネキのことを英雄視していて困った。それを面白くないと疎む子たちも少なからずいるのだから。

     誰が作ったのか、デカデカと『金木研くんさようなら! 卒業パーティー』と紙に書かれてあってカネキは戸惑った。
     ややあって、おばちゃんが腕によりをかけて作った、極上の手料理が並ぶパーティーは開催された。そこでおばちゃんが『ジュースなんて飲んでらんないよ! 大人は酒飲みなぁ!』とはっちゃけ、酒を持ちだしたのだ。職員や教官は大喜び。子供は飲んでみたいなーと羨ましがり、ついに一人がこそっと酒を飲んでしまったのだ。
     酒はどうやらその子の味覚にあっていたようで、その子は「うめぇ!」と大声で叫んだ。それがいけなかったのだろう、他の生徒たちは「俺も、私も」と興味津々で飲酒をはじめた。慌てて大人たちが止めようとし、奪い合いが始まったのだ。
     けれども多勢に無勢。生徒の数に押し負けた大人たちは酒瓶を根こそぎかっさらわれ、数十分後に子供も大人も泥酔した。
     我関せずと傍観を決め込んでいたカネキは、酒を飲まずにすんだのだった。



    「ケン」

     色気づいた声で、ナシロとクロナが身を寄せてくる。

    カネキ「も……もしかして、酔ってる?」

     聞くと二人は「酔ってない」と駄々っ子のように首をブンブン振る。
     酔っているようだった。酒は恐ろしいもので、酔っぱらうともっと恐ろしい。
     万が一にも間違いが起きないよう、カネキはそっと席を立つ。
    「待ちな」と制止がかかり、足が止まる。動きたくとも、肩に置かれた巨腕を払えなかった。

    カネキ「……なんでしょう……?」

    おばちゃん「主役のアンタがどこに行くってんだ? アア?!」

    カネキ「少し酔ったので、夜風を」「酒飲んでねぇだろ」

    カネキ「……」

    ナシロ「けん……どこいくの……?」

    クロナ「どこいくき? ひっく」

     袖を掴み、猫撫で声を出し上目遣いで引き留めようとする二人。

    「さあああ、座って酌をしなぁ!!」

    「うあっ!」

     おばちゃんはカネキを椅子に投げつけ、さらにその重い体でのしかかり、カネキを椅子代わりにした。両脇は白と黒の双子にホールドされ、抵抗できず、

    いまに至る。


    おばちゃん「ほらじゃんじゃん注げ!」

    カネキ「はい、はい……あの、僕が主役なんですよね? ひどくないですか。いちおう怪我してるんですが……」

    おばちゃん「文句でも?」

    カネキ「ないですよー……」


     どうにかしなければ。さしものカネキもそろそろ我慢の限界だった。おばちゃんは重く、ナシロとクロナは、その小さな……約やかなながらも確かにある膨らみが当たっていて、気まずいことこのうえないのだ。そろそろ本気でこの空間を脱却したほうがいい。

    カネキ「すみませんっ!」

     謝ると、おばちゃんを押しとばした。
     おばちゃんは地面につんのめり機能が停止する。間髪入れずカネキは二人を引き剥がしにかかった。

    カネキ「っ!」

     がっちりしすぎて微動だにしなかった。
     数分の格闘後ナシロちゃんが酔い潰れるも、クロナちゃんが一向に離れず膠着状態が続いた。
  9. 9 : : 2016/06/24(金) 23:14:13



    クロナ「いーあー、いーやー!」

    カネキ「はぁ……しょうがないな、もう」

     カネキはクロナを引きずるようにして、外に出た。あの部屋は酒の匂いが充満していて、耐えられなかった。

    クロナ「こょ、こんらとろろにつれらして……ナニする気ぃ?」

     ひっと赤面し、体を両腕で抱くポーズをする。

    カネキ「連れ出すって、クロナちゃんが離さなかったんじゃないか……とりあえず酔いを醒まそうよ」


     カネキはそんなクロナに冷静に対処する。


     (つかさ)に隣り合わせで座り、虫の鳴き声のきこえる星の下で、草原を駆け抜ける夜風を浴びる。

    クロナ「けん……」

     クロナがぽつりと喋った。陶酔した顔が素面に戻り、呂律がしっかり回っている。
     酔いが覚めたのだろう。顔は赤いままだが。

    カネキ「大丈夫?」

    クロナ「……うん、ごめん……迷惑かけて」

    カネキ「あはは、気にしなくていいよ」

    クロナ「……ずっと思ってたけど、ケン、変わった? なにかちがう」

     鋭敏な洞察力だ。
     カネキは素直に感心した。

    カネキ「どうだろう……『変わった』は語弊があるかな。僕のなかで靉靆するモヤが消えてスッキリしたって感じかな」

    クロナ「モヤって……?」

    カネキ「昔のことを、振りかえっていたんだ」

     浮かない顔で言うカネキにクロナは気を利かせ、それ以上言及することはなかった。


    クロナ「ケンは……グールを、うらんでる?」

     ふられた脈絡のない問いに、カネキは面食らい、何とこたえるか二の足を踏んだ。
     すぐに考える素振り仕草をし、正直にこたえる。

    カネキ「 喰種は(・・・)、怨んでないよ」

    クロナ「ど、どうして……?」

     そうこたえると思わなかったのか、クロナは狼狽した。彼女はカネキの母が喰種に殺されたと知っていたのだろう、口の軽いどこかの教官から。大事なヒトを殺されれば、往々に激情を宿すのが常だ。
     カネキとて例外ではなく、怨んでいた。
     ただ、その対象が『喰種』という一つのカテゴリーに総括された大雑把なものでなく、母を殺した喰種〝ジェイソン〟一人だけというはなしだ。



    クロナ「そう……」

    カネキ「うん」


     沈黙。
     お互い黙り込み、宴会場の喧騒が距離をおいてゆく。

     天上海に一条の星が流れる。
     風に撫でられ、草が鳴く。
     その涼しげな声がはやくも夏を感じさせた。


    クロナ「私は……ナシロも、喰種を、怨んでる」


     目を瞑り、訥々と彼女は話をする。
     クロナもまた、遠い日の記憶を蘇らせていた。

    クロナ「私たちの両親は、喰種に殺された」



     あるところに、裕福な家庭がありました。その家には二人の女の子がいました。
     双子でした。うつくしいお母さんとカッコいいお父さんがいて、なに不自由なく幸せに暮らしていました。
     ある日、悲劇はおきました。
     喰種というヒトを喰らう化け物に、母を殺され、父を殺されたのです。
     双子はなにもできず、両親が喰い散らかされるさまを黙視することしかできませんでした。喰い散らかすだけ喰い散らかすと、喰種は二人に目もくれずどこかへいってしまい、残ったのは原形をとどめない両親の死体でした。
     行き場をなくした双子の姉妹は、遅れて駆けつけた捜査官に保護され〔CCG〕に引き取られました。そこで、双子は特別な訓練を拝受しています。



     すべては憎き喰種を討つために。



    カネキ「……そっか……」

     聞いて、それだけつぶやく。

    クロナ「……ちいさかったから、お母さんとお父さんの顔、あんまり覚えてないの。でも、そのときのことは嫌なくらい覚えてる……」

    カネキ「クロナちゃん……?」


     急にクロナがそっぽをむいた。
     カネキは泣いているのだと察し、そっと空を仰いだ。
     言葉をかけても、慰めにもならない。
    ただのかりそめだ。だから、なにも言わずに隣にいる。

    カネキ「……!」

     ぽすっと、肩に圧がかかった。クロナがカネキの肩に寄りかかっていた。
  10. 10 : : 2016/06/24(金) 23:18:11



    クロナ「……ちょっと、このまま」

     カネキは無言でうなずいた。

    クロナ「……ねえ」

    カネキ「どうしたの?」

    クロナ「ソレ、やめたほうがいいとおもう」

    カネキ「ど、どういうこと? 」

     どれを、やめればいいんだろう。
     白い、この髪だろうか。うーんと唸っていると、

    クロナ「その、クロナ〝ちゃん〟っていうの。ヘン」

    カネキ「あ、そういうことか。でも、僕ってあんまりヒトを呼び捨てにするのは……」

    クロナ「うん、友達いなさそうだもんね」

    カネキ「と、友達くらいいるよ」

     なんて失礼なことを言うんだろう、この子は。

    クロナ「いるの? 」

    カネキ「うん……いるよ。大切な友達が、一人」


     たった一人。
     たった一人だけだが、カネキは友達が100人いるよりも、その一人のことを誇りに思えた。初めて会ったときから、いつも自分を支えてくれた永近英良。
     

     大切な親友。



    クロナ「ふ〜ん……それで、呼ばないの?」

    カネキ「え?」

    クロナ「名前」

    カネキ「呼ばなきゃ、だめ?」

    クロナ「べつに、無理強いはしないけど。…………気がむいたら呼んで」


    カネキ「……うん、そうするよ」

    クロナ「うん、そうして」

     笑い合い、カネキとクロナは喧騒が鎮まるまで雑談に興じた。



    カネキ「さあ、そろそろ戻ろうか、みんな潰れてるだろうし」

     立ちあがり、砂埃をはらう。歩きだしたところで「……ケン!」と呼び止められた。疑問の眼差しでクロナに向きなおる。

    クロナ「ほんとうに、行くの?」


     かぼそい声で、縋るようにクロナは言う。カネキはそれが喰種捜査官のことを指しているのだとわかっていた。

    カネキ「うん。一足先に、ね。たまにはここにも顔みせるつもりだよ」

    クロナ「……わたし、ケンにはいなくなってほしくない……ナシロもさっき言ってた」


    ──『けん……どこいくの……?』──


     ああ、そうか。そういう意味だったのか。カネキは自分のこと大事におもってくれているんだな、と嬉しく思った。

     不確定要素の塊の、この世界。
    みんな、混迷を極めた先行きのみえない不安の世界で生きている。無際限の蜘蛛の糸にがんじがらめになって、あっちへこっちへ、手繰り寄せられる。
     生と死は紙一重だ。誰もがカーブミラーの無い十字路を猛進している。
     いつどんなタイミングで外敵が飛び出すか予測不可能だ。事故は、掌握できない。
     だから、保障はできない。

    カネキ「僕は死なないよ」

     莞爾 (にっこ)りと笑って。

    クロナ「うん……約束」

     お互い小指をたて、ギュッと巻きつかせる。



     翌週、カネキは金木研三等捜査官として、新たなスタートを切った。
  11. 11 : : 2016/06/24(金) 23:25:49








    ****.





     殺せ。俺のように。





    ────────2年後。







    「たす、助け……っ」


     奇天烈なマスクをつけた男がなにかを発しようとし、しかし、細く鋭い白銀の柱が男の頭蓋を穿ち、それは未遂に終わった。

     骨、肉、血、肉、骨、血、死。死。死。死。
     見渡す限りの周囲にはおびただしい量の死が散乱していた。
     死が積み上げられた墓標の頂点で、白を基調とした服装の青年が傲然とたたずんでいる。

    ──任務完了。

    「終わったか、ケン」とうしろから声がした。ケンと呼ばれる青年は首だけをうごかして振り返った。 反動で、澄んだ白髪が揺れる。

    カネキ「えぇ……たったいま。有馬さんの方も終わったんですね」

     初夏を凍らせる、凍てついた目がカネキ捉えた。熱気を寒気に変える冴え冴えとした威容の彼は、有馬貴将。
     特等捜査官で、金木研の上司である。
     捜査官に就任して二年、カネキは彼のパートナーとして仕事をさせてもらっていた。

    有馬「ああ、思ったより時間がかかった」

    カネキ「数だけは〝蟻〟のように多かったですからね」


     任務内容は『蟻』の殲滅だった。
     増殖した『蟻』勢力を全滅させるべく、カネキを含む有馬班とその他の班と共同で殲滅にあたるも、想定以上に数が多く手間取ってしまったのだった。

    『蟻の巣』から出て、歩きながら話す。


    有馬「今日、行くのか?」

    「はい」とカネキは答えた。

    カネキ「 報告書(レポート)を提出したのちに」

    有馬「それはいい、俺がやっておく。ケンはまっすぐ向かうといい」

    カネキ「さすがにそれは……」


     有馬は立ち止まり、ぼーっと後ろを見ていた。つられてカネキも見てみる。
     ちょうどいいところに、タクシーが通りかかろうとしていた。
     ここまできたら、もう無碍にはできない。珍しく有馬が気を利かせてくれているのだ。「それじゃあ、有馬さん。あとはよろしくお願いしますね」というと、カネキはタクシーを拾った。

    「どこまで?」

    優しそうなタクシーの運転手が行き先を尋ねる。

    カネキ「嘉納総合病院までお願いします」

    「あいよ」

    カネキ「そうだ有馬さん。宇井さんにもよろしく伝えておいてもらえますか?」

    タクシーの窓を開け、そう言う。

    有馬「ああ」

    有馬はゆっくりうなずいた。

    カネキ「ありがとうございます。それでは、失礼します」

     窓を閉め、運転手に出発をお願いした。
     病院に向かう途中、カネキは一度花屋で止まった。そこで12ダースの花束を購入し、またタクシーに乗る。
     目的地に到着するまでのあいだ、ぶれる窓の風景を見つめながら運転手とちょくちょく世間話をする。

    「ヘえ! 兄ちゃん喰種対策局の人なのかい」
    「まだまだ、未熟者ですけどね」
    「ははっ、じゃあ兄ちゃんが俺たちの平和を守ってくれてるわけだ」
    「茶化さないでくださいよ。そんな大したものじゃないです」


     終始そんなやりとりを続けていた。
     運転手はしばしば「喰種の実在」について触れていた。認知はされていないようで、都市伝説程度に考えているのがわかる。カネキは不思議に思った。捜査官にとって当たり前の存在は、一般の市民にとって霊的存在だということを。
    「で、喰種っているのか?」
    「いますよ」

    「で? いるのか喰種って」
    「います。さっきも言ったでしょう。信じるか信じないかは運転手さんの自由ですけど」


     いたちごっこのこの会話にようやっと句点が打たれたのは、結局タクシーが目的地に到着してからだった。
     タクシーを降りると、そこは夏だった。
     うだるような暑さから、いそいそひんやりした病院に逃げ込む。受付の女性がカネキに気づき「どうぞ」と微笑んだ。
     軽く頭を下げ、階段を上がり、奥へ。


     とある病室のドアをスライドさせ、入った。


    カネキ「久しぶり。お見舞いに来たよ」



    ────ヒデ。




     二年。彼はまだ目を覚まさない。
  12. 12 : : 2016/06/24(金) 23:30:23


    今日はここまでです。

    ヒデになにがあったのか……?


    それはそうと、黒い什造ってかっこいいですよね。
  13. 13 : : 2016/07/13(水) 20:04:31
    遅くなり申し訳ありません。投稿します。割りに少ないです、はい。
  14. 14 : : 2016/07/13(水) 20:09:38




     植物状態に近い重度の昏睡状態で、目がさめる可能性はほぼゼロだそうだ。

     近ごろは仕事に忙殺され、こうして訪問するのは実に二ヶ月ぶりであった。
     古くなった花瓶の水をすて、綺麗な水をいれる。
     しおれた花を、あらたに買ってきた花ととりかえる。
     窓を開け、換気をすると、ベッドで目をとじ深い眠りにつくヒデのもとにおもむいた。
     点滴の支柱の横にパイプ椅子を組み立て、暇をもてあましているであろうヒデに土産話をする。
     金木犀章を賜ったこと。
     白双翼章を授与したこと。
     さっきも、喰種組織を壊滅させたこと。

    カネキ「ごめんヒデ。このあいだ、交戦したんだけど、一方を逃した。二人の仇……討ちそこねたよ」

     枝のように痩せほそった手をにぎり、ひとりごちる。ヒデは相槌をうつでもなく、依然と目をつむって口をとざしていた。酸素マスクをとおして息をする声だけが、カネキの独り言に返事をする。
     白いカーテンが翩翻とひるがえって、病院特有の臭味が新鮮な空気に浄化される。
     母を失い、たったひとりの親友をも失った。
     徒然と胸中を靉靆する雨模様。
     二年間、カネキはずっと寂寥感に溺没していた。
     埋めようのない空白は、自分に罪をつきつける。
     いつからだったか。
     罪と罰を願望するようになったのは。
     母の墓参り、ヒデの見舞いに来る都度、いつも自嘲する。自虐する。
     そして想像する。
     怨霊の弾奏。
     聖夜の雪原にて、十字架に磔にされ、啞、聾。刑をまつ情景を。
     青い執念の火炎が白雪を溶融し、やがて悲涙の小夜時雨が鎮火せしめる。
     こがれた贖罪の槍で、心臓を貫かれるのだ。
     贖っても贖っても滅罪できぬ深淵の罪。
     自分には罰が必要だ。


     僕のせいなんだから。


    『キミのそれは、逃げじゃないの?』

     脳裏をかすめた、ある女性の一言にカネキは奥歯を噛んだ。

    カネキ「…………もう、こんな時間か……」

     カネキは寝そべるヒデを起きあがらせ、〝ケア〟をはじめた。腕、足、太腿、肩、首。全身をくまなく解すようにして、ケアをする。
     もう二年も眠っている。
     筋肉の衰えでろくに動けもしないだろう。だがこうしてケアを続ければ回復は断然早くなる。

    カネキ「田口さん、ちゃんとやってくれてたんだ」

     しかし、今日のようにしばらく訪れることが叶わなかった場合、ケアをしても無意味だ。隔日か、二日に一度はしなければ効果がない。
     その旨を看護師に伝え、かわりにケアを頼んでいた。最初は迷惑そうに「忙しいから」とあしらわれていたカネキだったが、なんどもしつこく頼むものだから、熱意に根負けしたのか看護師の田口は渋々肩代わりしてくれた。
     感謝してもしたりないくらいだった。
     三時間かけてケアを終わらせると、空はうたたねをしていた。
     黄昏の陽が窓を突き抜け、白い埃を肉眼で確認できた。
     病室を橙黄色に塗りつぶす陽は、陽炎と見紛うほど鮮麗であった。
     明日は学校がある。長居はしていられない。カネキは「また来る」とは言わず、別れの挨拶だけをして退室した。
  15. 15 : : 2016/07/13(水) 20:22:30




    「ただいま」
     
     これといった意もなく、そうつぶやいてみる。言葉が部屋のなかで薄まって消えていった。
    〔CCG〕に用意してもらった1LDKのマンション。
     蛇口をひねりグラスに水をいれる。
     一口あおって喉を潤し、部屋に入る。
    我ながら飾り気がなく殺風景な部屋だ。地味目なカーペット。ガラスの円卓。テレビ。小さな家具。ベッド。窓側に背くように配置された本棚。
     外套とスーツを脱ぎ、クローゼットにおさめる。となりにはさまざまな高校の制服がある。カネキは部屋着に着替えると棚から一冊本をつまんで、ごろっとベッドに寝そべった。仰向けのまま片手で本をひらき、文字の羅列を読んでいく。

    カネキ「だめだ」

     長く息を吐き、本をとじる。
     集中力が乱れている。
     活字を頭にいれてもアウトプットされ、内容が蒸発してしまう。
     なにが読書の邪魔をしているのか考える。末、読書は諦め、風呂に入って寝ようと決めた。
     入浴後、携帯を確認してみると、一件のメールが届いていた。
     誰だろうか? 連絡先を交換しているのは〔CCG〕局内のヒトばかりだ。
     それも滅多にメールのやり取りはしない。迷惑メールはこないように設定してあるので違うだろう。
     有馬の顔が浮かんだが、彼がメールなんてありえない。
     とりあえず開いてみる。
     途端、カネキは「げっ」という表情をつくった。

    『高槻先生』からだった。

     とんだ迷惑メールである。



    ────────────
    From:高槻先生
    Sub :お誘い
    ***********************************
     やほー!(。>ω<)ノ
     カネキくん
     お仕事お疲れ様です。
     お元気してますかねー?

     さっそくですが、今週の日曜日
     暇ですか? 
     ちょっくら付き合ってほしいのだよ。

     まあ! キミに拒否権はないので
     ヨロシクね。
     10時、あの噴水広場で落ち合いましょう。
     んじゃバイバーイ
     
    ────────────


    カネキ「……」

     半ば呆然とメール文を読む。新手のイタズラなのだろうか。
     今週の日曜日といえば、今日は木曜だから、三日後だ。もちろん暇ではなかった。喰種捜査官の仕事は日曜日だからといって、普通のサラリーマンのように休みがあるわけではない。
     あらかじめ休暇届けを提出しておけば休みをとることは可能ではある。が、そんなことをしてやる義理があるのか。



    カネキ「…………『わかりました』……送信、と」
     
     敬愛する高槻先生のせっかくのお誘いだ。無碍にはできない。
     アラームを設定し、カネキは眠りに就いた。

    ***

     あくる朝、カネキは数ある制服のなかから『清巳高等学校』のものを着る。
     朝食を食べて、早めに家を出る。
    『清巳高等学校』は20区にあり、カネキは1区から向かう。昨日も20区にある嘉納総合病院から帰ってきたわけで、何度目とも知らない往復である。電車で行けば十分弱で着くのだが、朝は混雑しているためどうしても時間がかかるのだ。
     それに、まっすぐ登校するのではなく、一度『20区支部』に寄り特等と合流する必要がある。早めに出る理由はこのふたつだ。
     カネキはローファーを履き、家を出た。
  16. 16 : : 2016/07/14(木) 01:41:12


    そういえば、言い忘れていたことが三つ四つありました。なので補足を。

    まず一つ、>>15の最後の方。『本局』ではなく『20区支部』です。すみません。

    以下は今更ですが、

    このSSでカネキくんとヒデは幼稚園時代からの付き合いと書いていましたがミスです。小学校ですね。原作と同じ。

    もう一つは、過去編で出てきた『有馬や伊庭は時系列的にいつ頃なのか?』ということなのですが、『梟戦前』ということになっています。厳密には富良ーー、じゃなくて、有馬の高校時代『JACK』のあたりですね。

    さいごは、現在のカネキの歳。これは18歳。原作一巻と同じくらいです。
  17. 17 : : 2016/07/28(木) 16:22:28
    あわわわぁぁぁー!遅くなってごめんなさい遅くなってごめんなさい!
    しばらく休みがあるので、
    更新速度UP⇧します。明日から、2〜4日に一回の投稿を心がけていこうと思います。

    にしてもあれですよ、あれ、平子さんカッコ良すぎ濡れた。


    追申、最初の作品のほうを大幅改稿するかもしれません。あくまで予定です。(読まなくても問題ありません)
  18. 18 : : 2016/08/03(水) 21:50:04



    「待っていたよ。金木一等」

     20区支部の第三会議室に、そんな声がこだました。会議室には二人の捜査官がいる。
     そこで、カネキはピクリと眉をうごかした。ここにいるはずの人間がいないことに。
     自分を20区に呼び出したのは、丸手斎 (まるでいつき)という上司だ。
     その彼がいないとは、一体全体どういう了見なのだろう。丸手は嫌味な性格だが、こと仕事に関しては几帳面だ。遅刻するような失態は演じない。ならば、丸手はただカネキに仕事をよこしただけということになる。
     冷静に回顧してみれば、「20区に来い」と命令されただけで、『自分も行く』『一緒に捜査にあたる』などとは一言も言っていない。そもそも丸手の担当は基本《1区》だ。特等がちいさな事件のためにわざわざ《20区》まで足を運ぶはずがなかった。

    「こうして話すのは初めてになるのかな。今回の捜査の指揮役を任された、対策I課の 影山輝騎(かげやまこうき)、上等捜査官だ。よろしく」

     影山は右手を差し出し、握手を求めてくる。
     差し出された手を握り、挨拶を返す。

    「初めまして。同じく本局対策I課、金木研一等です」

     影山はカネキが一等捜査官に昇進したとき、昇任式後の祝賀パーティーに顔をみせていたが、話したことはなかった。
     パーマがかかった藍色の髪と白いスーツが特徴的で、ホストのような整った顔をしている。雰囲気がむかし戦った ある喰種(・・・・)に似ていて「なんだか妙に気障ったらしい」というのが率直な印象であった。

    影山「君の活躍はよく耳にする。期待しているよ」
    カネキ「期待にそぐわぬよう努めさせていただきます」

     口ぶりから、やはり丸手が参加しないのは間違いなさそうだ。疑問が解消し、カネキはひとりスッキリした。

    「あのっ」

     抑揚のある明るい声がふたりのあいだに割り込んだ。

    「も、申し遅れました! 対策Ⅰ課所属、 時任美咲(ときとうみさき)三等捜査官です。えぇっと、金木一等のご芳名はかねがね……っ!」

     カネキが顔をむけると、声の主は腰を折り慇懃に挨拶をする。ベレー帽をかぶり、鳶色に近いスーツを着ている。あどけなさの残る面差しは少女のよう。

    影山「彼女は僕の部下だ。このとおり、まだまだスクラロースのように甘い新米だから、君からも指導をたのむよ」

    時任「す、すくらろーすってなんですか」

    影山「フッ……」
     やれやれとでも言いたそうな影山。
     その小馬鹿にした態度に時任はむっと頬を膨らませる。ちなみに、スクラロースとは砂糖のおよそ六百倍甘いとされる甘味料である。甘すぎて、辛味、苦味がするとか。
     カネキは彼らのこぜりあいを華麗に受け流し、形式的な挨拶を返す。

    カネキ「よろしくお願いします。時任三等」

    時任「はい、おねがいしますっ」

     カネキの手をつかみ、時任は笑顔でそう言った。

    影山「うん。自己紹介もそこそこに、さあ、会議を始めようか」
  19. 19 : : 2016/08/03(水) 21:53:45



    カネキ「その前に、一ついいですか?」

    影山「なに?」
    カネキ「人数は僕たち3人のみなのですか?」
    影山「そうだよ。それがどうかしたのか?」

    カネキ「ⅠⅠ課の捜査官がいないのかと思いまして」
     喰種との戦いにおいて、ⅠⅠ課は武闘派のⅠ課とはその方向性が異なり、知力をもって後方支援や捜査の全体指揮を担う頭脳派だ。潜入捜査は普段の捜査よりも慎重に進める必要がある。無鉄砲に探るだけでは尻尾をつかむことすらままならない。指揮役はII課のほうがスムーズにことを運べるのだ。

    影山「それは僕へのあてつけかな? 指揮官が僕では不満があると、そういうことかい?」
     どうやら影山の癇に障ったらしい。彼は針を含んだ声色で噛みつく。
     不穏な空気を感じとった時任が目を左右に泳がせる。
     影山に不満がないといえば、嘘になる。しかし反駁は時間の無駄と考え、カネキは穏便にすませるため当たり障りのない諫言を呈した。すると影山は、「君にそのつもりがなくとも、僕にはそう聞こえて仕方がないんだ。実力がどうあれ、立場は僕がうえだ。身のほどをわきまえろよ……一等」と居丈高に吐き捨て「御手洗に行ってくる」と言って席をはずした。
     重い空気は継続し、会議室はお通夜状態となってしまう。

    時任「うわわわっ……か、金木さんっ! あの人めちゃくちゃ怒っちゃいましたよ〜! これから一緒にお仕事するっていうのに、こんなんじゃ支障をきたすんじゃ……」

    カネキ「僕の言い方が良くなかったようですね。迷惑をおかけして申し訳ないです」
    時任「い、いえ、私に謝られても……。」

     実のところ、カネキは影山輝騎という人物が生理的に好きではなかった。それは知っている喰種に似ているからという理不尽な嫌悪ではなく、初めて顔を見たとき、カネキの慧眼は目敏く彼の醸し出すキナ臭さを察知した。その髄がなんなのか、まだわかっていない。ただ、彼は なにかが違う(・・・・・・)

     影山がもどっても、室内は相変わらずぎすぎすしていた。執拗な重石をひきずったまま、会議ははじまった。概要は資料で把握しているので、おさらいに近いが。

     捜査対象は【ハートイーター】と呼称される喰種。その名のとおり、心臓を好む極度の偏食家。ハートイーター関連の捕喰事件はこれまでに十数件。いずれも被害者の心臓部だけがポッカリなくなっている。
     資料によれば、奴が獲物を狙う現場はもっぱら〝ラブホテル〟と〝裏路地〟のどちらか。

    影山「対象は援助交際とみせかけ、人間を襲っているようだ」
    時任「ということは、女性ですか」

    カネキ「いえ、そうとも限りません」

    影山「そうだね、女を装っている男という可能性もある」

    時任「それもそうですね……あ! ホテルならカメラがありますよね? 顔は……」

    カネキ「それについては、もう調べました。上手くカメラをかわしているようです。素顔は映っていませんでした。指紋も髪も、手がかりとなるものはなにひとつありませんね」

     ならばなぜ潜入校が『清巳』なのかというと、ホテルの部屋に清巳高校の制服のボタンが落ちていたからである。殺害時、ターゲットに暴れられ、その拍子にボタンを取られたのだろう。ベッドの下に隠れていたため、ハートイーターも見落としたはずだ。
     わざとボタンを転がし、場所を特定させないためのミスリードの手法だとしても、手がかりがない以上は捜索方法が限定される。

     カネキはボタンを贄にしたミスリードだとは思っていない。ハートイーターはそれほど賢い頭脳の持ち主ではないとふんでいる。賢いヒトなら一定の日をまたがず大量の捕食をおこなわないし、ホテルを選ぶというのも考えにくい。
     高確率で、ハートイーターは清巳高等学校に通う生徒だ。
  20. 20 : : 2016/08/03(水) 21:57:23


     無事、会議は終了し、いよいよ潜入開始。
     カネキは転校生として入学する。
     喰種云々の事情は、もちろん学校の誰にもしらせていない。教員が喰種、なんてこともあるからだ。

    カネキ「……よし」

     時刻は八時より少し前。校門の正面で立ち止まる。この時間帯は生徒も登校しており、閑静としている。キュッとネクタイを締め、カネキは校門をくぐった。
     
     



    「お前たち、今日からこのクラスに新しい生徒が加わる」

     クラス内が騒然となった。「男?」「それとも女?」などと口々に喚きあっている。

    「入っていいぞ!」

     どよめきの波が広がるなか、教室の戸があけられ、学校指定の制服を着用した青年が入室する。
     それだけで、凪のように静まりかえる。転校生は教卓の前にたち、自己紹介兼挨拶をする。


    カネキ「金木研です、今日からこのクラスで皆さんと勉強を共にすることになりました。両親の仕事の都合で様々な学校を転々としているので、またすぐにこの学校を離れることになると思います。短い間ですが、 よろしくお願いします」

  21. 21 : : 2016/08/03(水) 22:02:12
    お気づきでしょうか? ついにグルカルのキャラ登場です。なんか色々探したり口調考えたりするの難しかったです。

    というか「ハートイーター」ってね……僕は通り名みたいな、
    そういうの考えるのめちゃくちゃ苦手なんですよねぇ(´-д-`)
    …ていうか長いっ!w

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著者情報
1025

バカナス

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