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儚い夢と埖の山

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  1. 1 : : 2016/05/01(日) 13:05:27


    僕は、蝶が好きだった。






    わけもなく蝶に魅せられた。







    白銀、琥珀、あるいは瑠璃色の羽を光らせ、空を優雅に舞う蝶に僕は他の何とも比べられぬ特別な思いを抱いていた。



    外に出ては幼虫を探し捕まえ、虫篭に入れて我が子のように見守った。

    学校から帰ると手も洗わずに虫篭の前で見守る。

    時には葉っぱを取り替え模様替え。
    僅かではあるが確実に一歩一歩進化していくその過程に、親の気持ちというものを少し理解した。


















    ある時、それは(さなぎ)だった。

    殻の中で力を溜め、綺麗な蝶となって世に旅立つ準備を始めたのだ。

    殻の中で、何をしているだろうか。
    夢を描いているだろうか。
    希望に胸を膨らませているだろうか。


    僕の心は高揚していた。























    ある時、それはついに蝶となった。


    厚い殻を破り、透き通るほどに真白(しろ)い羽をバッと広げ、宙を舞う。


    僕はその姿に涙を流して喜んでいた。
    あの日ただただ単純に葉っぱを毟り食うだけだった愚鈍な青虫が、純白のドレスを纏って在るべき形へと進化したのだ。

    自分が、ここまで育てた。
    本当に我が子のような存在だ。






























    ある時、僕は蝶を野生に還した。



    あれほど可愛がっていた存在が、どうでもよくなったのだ。



    ひらひらと空を舞い、もう空に馴染んで見えなくなる。



    どうしてだろう、などと考えることもなく僕は空っぽの虫篭を持って家へ帰った。






















    ある時、僕はまた幼虫を捕まえた。

    我が子のように世話をしたそれは綺麗な瑠璃色に光る羽を魅せ、モルフォ蝶となった。

    この時僕は、白のドレスを纏った蝶のことなどとうに忘れていた。



    そして瑠璃色の蝶もまた、自然に還る。



    青い羽を羽ばたかせ、森の中のサファイアはその姿を消した。
  2. 2 : : 2016/05/01(日) 13:07:37

    あれから何年が経っただろう。


    携帯ゲームに夢中になる年齢になった僕の世界に、もう虫篭は存在していなかった。


    網も篭もなく、代わりに手に収まる薄い機械だけが僕の視界に在った。




    我が子のように育てるのは、(せい)(めい)もない画面の向こうのモンスターだった。

















    ある時、僕はガチャでかなりのレアモンスターを手に入れた。


    それは、僕がかつて愛していた蝶の形をしたモンスターだった。



    かつての思い出が、記憶が、愛が、蘇る。


















    ……ことはなく。


    僕はただ、強いモンスターを手に入れたその事実に喜んだ。




























    ある時、僕は携帯ゲームをやめた。



    現存する全ての強力モンスターを手に入れ、レベル最大まで育て、誰にも負けない完璧な存在(アカウント)になったというのに。


    ゲームはこれから、というところで、どうでもよくなったのだ。






    それが何故かもわからぬまま、しかしそれに慣れていく自分に違和感はなかった。




























    ある時、僕は何も持っていなかった。





    ただ携帯で他人とたわいもない会話をするだけの日々が続く。



    その携帯で最近までゲームに夢中だったことも、蝶を育てていたことも忘れていた。




    何の趣味も持たない僕は、何も進まない。
























    ある時、僕は気付いた。









    僕は、何も好きじゃなかった。









    僕が夢中になっていたものは、『過程』に過ぎなかったのだ。





    自分で何かを育てる。自分の力で何かを強くする。

    そうして自分自身の力となっていくその過程に、僕は心が昂ぶるような何かを覚えていたのだ。






    強くする。そして自分も強くなる。
    否、(いいや)そういう感覚に陥る。

    その時だけは僕の心は満たされていた。


    だが、その全ては完全になるとどうでもよくなった。






















    『もう強くなれないから』(僕を満たすことができなくなったから)
























    あの日、あれだけ時間をかけて『強くした』蝶。


    あの日、あれだけ金をかけて『強くした』モンスター。










    時間をかけて金をかけて。
    そうして完成したものは割り箸のタワーに過ぎなかった。





    その思い出さえ儚くて、すぐに忘却(わす)れてしまうのだ。















    僕は、何も持っていない。



    僕は、何もその手に掴んでいない。
























    残ったのは、ゴミの山と儚い夢だけ。



















    ………束の間の優越感だけ。



    END
  3. 3 : : 2016/05/01(日) 13:14:50
    あげぴよです。


    とても短い作品でした。
    「え?これだけ?」と感じた方、申し訳ありませんこれだけです。


    皆様は幼少期から大事にしてるものってあるでしょうか。

    それは、何年経った今でも大事にしていますか?

    今夢中になってるそれ、心や金をかけるほどの価値はありますか?






    あなたは『僕』になってしまっていませんか?




    以上です。
    ではまた他の作品でお会いしましょう。

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aimerpiyo

あげぴよ

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