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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品はオリジナルキャラクターを含みます。

東方光影創

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  1. 1 : : 2016/04/27(水) 01:57:52
    この小説の注意点

    ・かりすまぶれいく

    ・都合のいい設定

    ・原作キャラの死亡

    ・亀投稿

    以上が許せる方も許せない方もきっちり見ていってね!
  2. 2 : : 2016/04/27(水) 02:13:37
    光と影は対であり、また、支えあっている。
    光によって影が出てきて、影が消えると、光も存在する意味を失う。


    この物語は、幻想の地に現れた宇宙のように大きな影と、太陽のように照り輝き始めた光の、運命を跨ぎ、乗り越える物語である。
  3. 3 : : 2016/04/27(水) 14:23:45
    ジョナサン「今度は放さん!ディオ!君の命運今尽きた!」

    ジョナサン「うおおおおお!このナイフはああああああああ!!このナイフは!君が父さんに突き立てた、ナイフだああああああああああ!!」

    ディオ「ウッ…グアッ……WRYYYYYYYYY!!!!」

    ジョナサン「ウワッ! グゥ……!うおおおおお!」

    ディオ「(こいつ!両腕の骨をぐちゃぐちゃに砕いたのに、体に火がついたのに、力をほんの少しも緩めん!?)」

    ディオ「よーし、いいだろう。共に業火の中へ、飛び込んでやろう!だがな!死ぬのはお前一人だ!いくら火力が強くても、脱出できるくらいの能力はある筈さ!」

    ジョナサン「うおおおおおおお!!父さあああああああん!!最後の力をーーッ!!」

    叫び。無心の叫び。
    その叫びが父の魂に届いたのか。
    それとも、幼い頃から住んできた屋敷の構造を、無意識に利用していたのか。

    蹴った!壁を蹴った先には!

    ディオ「なっ、何!?」

    ジョースター家の守護神、慈愛の女神像!

    ディオ「エアアアアア!!!!グアアアアア!!よくも!貴様こんな……!グアアアッ!!」

    ディオ「(わっ、忘れていた!子供の頃からあった、侮ってはいけない奴の爆発力を!)」

    ディオ「ジョジョーーッ!!こんな……筈では……俺の…人…生……。」
  4. 4 : : 2016/04/27(水) 15:54:15
    レミリア「ああ、もう!いったい何でなのよ!」


    ここは幻想郷。現代日本の山奥にあるとされる、結界で隔離された土地。隔離されている為、通常は外部から幻想郷を認識することも行き来することもできず、幻想郷からも一部を覗いて外の世界を認識することも行き来することもできない。

    幻想郷には人間はもちろん、外の世界での空想の生物である、妖怪や妖精。果てには神様までもが住んでいる。

    そして今、ここにいる幼女(500歳)は幻想郷の勢力の一角、吸血鬼が主『紅魔館』。その主である。名はレミリア・スカーレット。
    自分でカリスマカリスマといっているがわがままに加え、適当。弄りすぎたら泣く癖もなかなか抜けない。
    だが、仮にも吸血鬼。戦闘能力はずば抜けており、幻想郷の中でもかなり上の地位にいる。

    パチュリー「あなたの自業自得でしょう、レミィ。」

    レミリア「あなたまでそんなことをいうのね、パチェ。」

    このパチェ、もといパチュリー・ノーレッジは、レミリアの古くからの親友であり、背中を任せられる実力を持つ魔法使いである。
    いつもは紅魔館の中に作らせた大図書館で本を読んだり、司書といっしょに魔法の研究などをしている。
    しかし、体が病弱なのに加え、持病の喘息で、動きすぎるとすぐ疲れたりするなど、身体能力はほとんどない。

    今回は能力がなくなった友を慰める為…という名目でレミリアをからかいに来たのだ。

    レミリア「そもそも何で私の『運命を操る程度の能力』が取られるのよ!」

    パチュリー「これも、運命なのよ。」

    レミリア「じゃかましいッ!」

    パチュリー「んもう…分かったわよ。」

    そう言って説明していく。因みにこれは13回目の説明である。

    要約すると、レミリアが昨日の宴会で鬼と戦い、宴会場所である博麗神社のあちこちを壊した為、巫女にこてんぱんにされたあと、巫女に脅されたスキマ妖怪によって『一年間能力禁止の刑』を受けたのだ。

    レミリア「だーかーらー!そんなの私はやってないって言ってるでしょ!」

    しかし、酔った状態で巫女にこてんぱんにされた為、当事者はその時の罪悪感どころか記憶まで失っている。
    因みにこのやりとりも13回目である。

    パチュリー「ハイハイ。良かったわね。レミリアちゃん。」

    レミリア「レミリアちゃん言うな!」

    ドッグォォォォン!!!!

    と、この時。紅魔館の前の湖を跨いだ先の魔法の森で大爆発が起きた。
  5. 5 : : 2016/04/27(水) 15:58:48
    今回は少し、説明を。
    この作品ではパチュリーは魔女ではなく魔法使いという設定であります。意見が別れると思いますが、これからは魔法使いでやっていきますので、ご了承を。
  6. 6 : : 2016/04/27(水) 20:29:25
    咲夜「あら?」

    今ここで窓拭きしているメイドの名は十六夜咲夜。紅魔館のメイド長であり、財政管理などレミリアができないような仕事も行っている為、彼女が紅魔館を握っているといっても過言ではない。
    しかしそんなことが軽々できる訳ではないし、ましてや彼女は人間である。これには咲夜の持つ『時を操る程度の能力』を使っている。
    これは、どこぞの貧弱吸血鬼とはちがい、長時間使う事が出来るので、無駄に広い紅魔館もすぐに掃除できるし、一瞬で八時間の睡眠をとるなども出来る。また、能力の応用で館内の空間を広げているのも彼女である。

    そんな彼女が、部下のメイド妖精の報告を聞きながら窓拭きをしている時。

    ドッグォォォォン!!!!

    湖方面の魔法の森で大爆発が起きた。
    咲夜「(爆発……妹様?いや、メイド妖精の報告を聞いてる限り部屋にいたとのこと。ならば調べる他ない。お嬢様の事だから原因を探ってきて欲しい筈だしね。)貴方達、私はあの爆発を調べてくるから……そうね、貴方、この窓で最後だから代わりに拭いといてくれるかしら。あと、貴方はお嬢様に私が調べに行くことを伝えてくれないかしら。」

    メイド妖精達「はっ、はい!行ってらっしゃいませ!」

    その返事を聞いたあと、咲夜はにっこりと笑って時を止めた。

    コツ、コツ。無音の紅魔館に足首が響いていく。

    咲夜「それにしても一体なんなのかしら。妖精のイタズラにしては規模が大きい。妹様じゃないとすると、また白黒かしら。」

    咲夜はそう言いながら紅魔館の外に出た。館内から見るのとではやはり爆発の威力は大きいとわかる。

    門を出ればそこにいる筈の居眠り門番がいない。おそらく彼女も向かったのだろう。湖の方を見れば、霧が濃いせいでよく見えないが、うっすらとオレンジ色が見える。炎が回っているのだろう。咲夜はそのまま湖の外周を回って行く。あの濃霧に入れば服が濡れること間違いなし。

    咲夜「あら、あれは…。」

    そこには、緑色の帽子、中国の拳法の達人が着るような服、赤とオレンジが混ざったような腰まで届く綺麗な髪。言うまでもなく、紅魔館の門番、紅美鈴である。
    彼女は中華風の妖怪であり武術を得意としているが、弱点はなければ他にすごいところもない妖怪である。
    しかし、暇があれば居眠りをし、そのたびに咲夜にナイフで刺される始末。だが、彼女は眠っていながら『気を使う程度の能力』を使う事が出来る為、紅魔館に住んでいる者以外の気を察知すると目を覚ますのだ。
    因みに、咲夜もだが、紅魔館のメイドは全員彼女に鍛えられている。おかげで咲夜は、ナイフ術に加え体術もできるようになっている。

    咲夜はある程度美鈴に近づいたところで時止めを解除した。
  7. 7 : : 2016/04/28(木) 22:22:32
    咲夜「ねえ中国。」

    美鈴「わっ、咲夜さん!?あと中国じゃないです。」

    咲夜「そこの妖精達は何?」

    美鈴「消化を手伝ってくれてるんですよ。ほら、氷精が氷を作って、他の妖精達が氷を炎の上に乗せてるんですよ。あれなら炎が酸素を取り込めませんし、熱したら溶けて水が消化してくれますしね。」

    咲夜「へえ、なかなか考えているのね。あともう1つ聞きたい事があるのだけど。」

    美鈴「奇遇ですね。私にも質問があるのですが。」

    と、このあたりで炎が消化できたようだ。残ったのは焦げた土や木、真っ黒な煙である。

    咲夜&美鈴「「『あそこ』にいるのは何(なんですか)?」」

    『あそこ』、というのはこの爆発の中心であろう場所。美鈴が「ちょっと待って下さい。」といったあと、弾幕と呼ばれるエネルギー弾を出す。
    これは人間のもっている霊力や魔力。妖怪のもっている妖力などを形として打ち出すものだ。その形状は多種多様。丸いものもあれば星形のもの、レーザーのようまであったり、綺麗な白色の弾幕もあれば、ピンク や水色など、可愛らしい色もある。
    そんな中、美鈴の虹色の弾幕が爆発の煙を取り除いていく。だんだんと視界が開けていくにつれてこの爆発の惨状も表していく。ついには、彼女達が言っていた、『あそこ』の全貌が見えた。
    そこにいたのは、

    咲夜「に、人間!?それも男の…。」

    美鈴「しかも彼、生きてますよ!!」

    そう、身長は2mはあるんじゃないかと言うほどの高さ。髪色はおそらく金。引き締まった身体に、これでもかというほどの筋肉をつけて、そこに倒れていた。
    おそらく、というのはあの爆発に、あの炎、あの煙の中を生き残ったといえど無傷な訳がない。全身が炭のように大火傷していて、上半身の服は焼けたのか、半裸になっており、ズボンも所々焼けている。

    美鈴「すぐに永遠亭につれていきましょう!」

    咲夜「分かったわ。貴方はお嬢様にこの事を伝えてきて。私が運ぶわ。」

    美鈴「分かりましたけど……その人連れていけますか?」

    咲夜「いいから、ほら、行ってきなさい。」

    咲夜はそう言いながら時を止めた。

    咲夜「うん……しょっと、やっぱり重いわね。どうせ火傷してるんだし、引きずって行きましょ。」

    と、咲夜はその人間の太い首をもって、永遠亭がある竹林まで引きずっていった。
  8. 8 : : 2016/04/30(土) 14:15:29
    ???「ムゥ……ここは……どこだ……。」

    見渡せば、そこは牢屋。壁は汚れたのか、真っ黒な硬い石で出来ており、外と分断するように鉄柵がいくつも繋がっている。よく見れば、牢屋の外の奥に階段があり光が上から漏れている。あそこからなら出られるかもしれない。

    ???「これは……。」

    鎖。鎖が足首にまとわりつき、その先は壁に繋がっている。鎖の途中で重りまでついているのだから、脱出するのは容易ではないだろう。

    するといきなり、自身を阻む鉄柵の前に綺麗なメイドが現れた。一瞬で出てき為、驚かずにはいられないだろう。

    咲夜「あら、起きていたのね。気分はどう?」

    ???「少し悪いですね…。失礼、ここはどこでしょう?」

    咲夜「ここは紅魔館の地下牢…といってもわからないでしょう?」

    確かにそうだ。KOUMAKANなんて地名は聞いたことがない。
    しかし自分はここに捕まっている身なのだから、情報を集めなければこちらが不利だ。

    ???「はい、聞いた事がありませんね…ここがどこか聞く前に自己紹介しませんか?」

    咲夜「分かったわ。私の名前は十六夜咲
    夜。ここで働いているしがないメイド長よ。」

    ???「私の名前はディオ。ディオ・ブランドーです。よろしく。」
  9. 9 : : 2016/05/01(日) 19:20:37
    咲夜「ディオさんですね、分かりました。何か聞きたい事は?」

    ディオ「そうですね。ここの場所の詳細と自分が置かれている身の状況の二つですね。」

    咲夜「一つずつ説明していくわね。まずここは幻想郷と呼ばれる世界の中にある紅魔館という屋敷よ。幻想郷というのは
    貴方がいた世界の一部を結界と呼ばれるもので区切って作った世界よ。」

    ディオ「へえ、そんなものがこの世にあったとは知らなかったですね。」

    咲夜「案外受け入れるのね。ここに来たものは驚き騒ぐのに。」

    ディオ「親友に考古学者をやってる奴がいてね、驚きの毎日だったさ。」

    咲夜「へえ、例えば?」

    ディオ「ある仮面を付ければ人を越えた生命体になれる、とかね。」

    咲夜「フフ、ディオは冗談が上手ね。話を続けるわね。貴方の身について、ね。」

    ディオにとっては一番の問題である。牢屋に入れられている時点で悪いイメージしかわかない。おおよそ囚人か奴隷だが、ディオは死刑にされてもいいくらいの悪事は働いているし、ディオの肉体なら奴隷としては申し分ない。
    しかしどちらにしても、この咲夜という女性と話す接点が見つからない。もしかしたら同じ奴隷仲間のよしみとして話しているかもしれないが、やはりありえない。では残った可能性をこの女に聞かないとならないディオは話を聞いて驚愕しか現れなかった。

    咲夜「ここの主……お嬢様は実は吸血鬼でね、私たちが貴方を拾ったから貴方をお嬢様の『食糧』として保管しているのよ。」

    ディオ「(なっ、何だと!?ここの主が吸血鬼!?この世界にも『石仮面』があるのかッ!?しかもよりによってこのディオを食糧だと!?ふざけるな!同族だろうが!)」

    そしてここまで考えて気づいた。いや、『ようやく気づいたのだ、自分の体が人間に戻っていることを!』
  10. 10 : : 2016/05/06(金) 17:32:14
    ディオ「(クソッ!何故かは知らないが人間に戻っている!まだ吸血鬼になる前の体だと!?仮に幻想郷を抜けたとしても人間のままでは意味がない!………だが、ここの主は吸血鬼、石仮面をもっている。ならばそれを奪えばいい話。ひとまずはここからでなければ。)」

    咲夜「フフ、ようやく貴方の驚いた顔が見れたわ。貴方って凄く慎重だから…まるで石橋を叩くどころかコンクリートに改装して渡りそうね。」

    ディオ「ええ、流石の私も食糧となれば驚きですよ。……でも私の体が食べれますか?きっと肉は固いでしょうし、血もいいものではありませんよ。」

    咲夜「(吸血鬼の事は驚かないのかしらね。)いいえ、むしろそのくらいがいいわ。吸血鬼だから一般的な人間の肉じゃ柔らか過ぎるのよ。それに貴方は大きいから食べるところも増えて一石二鳥って奴よ。」

    ディオ「駄目なら逃げたかったのですがね。…そう言えば、もし拾われなかったらどうなったでしょうか。」

    咲夜「外来人……貴方のように外から来た人は大体は妖怪に食べられて死ぬか、拾われて最終的に博麗神社に行くかよ。博麗神社に行った人は新たに二つの選択肢ができるわ。なんだと思う?」

    ディオ「HAKUREIZINZYAというものがわからないのだがね……外に行くか残るか、じゃないですか?」

    咲夜「まあ正解ね。正しくは外に帰るか永住するか、よ。それより貴方神社を知らないの?」

    ディオ「ZINZYA…ああ、東洋の国にあるというあの?あと……YOUKAIとは何ですか。」

    咲夜「妖怪っていうのはこの国……外でもあるけど日本というの。日本の伝承された信仰において、私達では理解できる筈がない、おかしな存在のことよ。種類もたくさんあるし、幻想郷には妖怪の山という妖怪が仕切ってる大きな山もあるわ。」

    ディオ「妖怪……それは吸血鬼も入るのですか?」

    咲夜「ええそうよ。ついでに言えばこの館には私と貴方達食糧以外は全員人外よ。」
  11. 14 : : 2016/05/10(火) 19:00:11
    ディオ「聞きたくない情報でしたが…。」

    咲夜「ふふっ、と、話はおしまい。何か食べたい物は?」

    ディオ「そうですね……イギリス料理が食べたいですね。」

    咲夜「いいの?イギリス料理は美味しくないって聞くけど。」

    ディオ「貴方達の方がおかしいと思うんですがね。やれ美食だのやれ伝統だの。喉を通して胃を満たせば十分なんですよ。ですけどこれでもイギリス出身なので豚に食べさせるようなモノは駄目ですよ。」

    咲夜「分かったわ。……はい、召し上がれ。」

    一瞬で牢屋の中に料理が出される。作ったばかりのように暖かい。ご丁寧に食器や飲み物…さすがにワインは贅沢なのか水まで出されている。

    ディオ「ありがとう…すごいな、ここまで美味しい料理は初めてだ、向こうだったら専属メイドにするほどだよ。」

    咲夜「ありがとう、作った甲斐があったわ。」

    美味しいイギリス料理といって最初に思うのはローストビーフである。
    牛肉の塊を蒸し焼きにし、中身をほんのり赤みが残る程度に焼き上げた後、薄くスライスしてグレイビーと呼ばれる焼いて出た肉汁をかけて食べる。

    咲夜の料理にもメインとして出され、料理店で出せば間違いなく料理長にスカウトされるもの。それを毎日食べているここの者は周りからはうらやましいの一つしか言われない。

    咲夜の料理にはローストビーフの近くにいわゆる付け合わせが乗っている。
    それはヨークシャー・プディングというもので日本人にはクリームのないシュークリームといえば分かりやすいだろう。
    肉料理の付け合わせとして出され、これにもグレイビーをかけて食べるのだ。

    他にもじゃがいもを焼いた、いわゆるベイクドポテトまで出されていて、まさにイギリス料理といっていい料理が並んでいる。

    ディオ「そうだ、咲夜はどうやってこれを一瞬で運んだのですか?作りおきがあったとしてもあの早さは人間が出せるものじゃないよ。」

    咲夜「ああ、そういえば能力の事を話してなかったわね。」

    ディオ「能力ですか?」

    咲夜「ええ、この幻想郷に住んでいるものがもつ能力よ。まあ誰でもって訳じゃないわ。人外は能力をもつ事が多いけど人間はあまりいないわ。知っている限りじゃそのへんにいる奴は持っていないわ。因みに私の能力は『時を操る程度の能力』よ。さっきは時を止めている間に作って運んだのよ。」

    ディオ「時を操る…ですか。そんな能力があるなら能力持ちには会いたくないですね。」

    咲夜「みんながみんなこんな便利な能力じゃないわ。『空を飛ぶ程度の能力』を持った奴がいるけど、この幻想郷にはほとんどが空を飛べるし、いらないのよ。私だって飛べるもの。」

    ディオ「それにしたって、時を操るということは時を止めれば好き放題できるし嫌なことがあっても時を戻せばいい。他の人の時を加速させてすぐに老化するのもできるのでしょう。」

    咲夜「そんな能力があるならここにはいないわよ。私ができるのは時を止めることぐらいしかできないわ。物質の加速とかはできるけどそこまで万能じゃないわ。『魔法を使う程度の能力』とか『あらゆる薬を作る程度の能力』とかいるけど、魔法を何でもかんでも使える訳じゃないし、薬を作るには材料がいるわ。万能能力なんてのは……いや、ひとりだけいたわね。」

    ディオ「ふぅ……美味しかったです。それで話の続きですけど万能能力をもった奴がいるんですか?(そんな奴がいたらもし幻想郷を支配するとき邪魔じゃないか。)」

    ここでディオが食事を終える。満足のようだ。

    咲夜「ええ。名は八雲紫。『境界を操る程度の能力』を持ってて、加えて胡散臭くて用意周到。全てがあいつの手のひらで転がされているよう。もしかしたら今も見られてるのかも。」

    ディオ「そんな奴がいるなら今すぐ追い払って欲しいのですが。」

    咲夜「残念だけど無理ね。スキマっていう空間の中に入って隠れてる。しかも私達の様子だけを覗き見してるからね。」

    ディオ「そうですか…そういえば、貴方は日本の言語を喋っているのですか?」

    ディオはイギリス出身。咲夜との話は分かるが、その話している口はディオの母国語を話してはない事が容易に分かる。

    咲夜「当たり前でしょって…ああ、貴方イギリス出身なのね?なぜ話が通じるのかってことでしょう?八雲紫が言語の境界をいじくったのよ。もともと幻想郷の創設者の1人だからね。」

    ディオ「(やはりこのディオの一番の障壁は八雲紫か……もし吸血鬼に戻っても倒されるかもしれない、警戒しなければ。)」
  12. 15 : : 2016/05/16(月) 21:07:05
    今回から、私以外が書いた書き込みを全て非表示にします。ご了承ください。
    感想、批評、アドバイス。何でも書き込んでもらっていいですが、しっかりと読んだあと非表示にします。
    非表示にしたものは全て執筆終了後、表示させます。
    小説をより見やすくするための配慮ですので、改めて言いますが、ご了承を。
  13. 16 : : 2016/05/16(月) 21:58:22
    時は二日程戻る。

    レミリアとパチュリーがお茶会を楽しんでいると、

    ドッグォォォォン!!!!

    大爆発が起きた。その後のパチュリーの動きは迅速だった。
    まず紅魔館の全体に結界を張る。博麗の巫女やスキマ妖怪なら一瞬で破られるが、衝撃耐性を持っているので白黒魔法使いの全力さえ受けなきゃ一発は受けれる。
    次に爆発の原因を考える。一番の原因はレミリアの妹かと思う。が、却下。先ほど図書館を出る前に地下室にいることを確認。地下室にかけた結界は壊されていないので可能性がほとんど無い。
    じゃあ、誰が……と考えたところで、

    コンコン!

    少々荒いノックの音がし、レミリアに視線を向ける。

    レミリア「入りなさい。」

    メイド妖精「失礼します!お嬢様に咲夜さんから伝言が。」

    レミリア「内容は?」

    メイド妖精「先ほどの大爆発の原因を調べに行きます、と。」

    レミリア「分かったわ。通常業務に戻りなさい。」

    「失礼します。」と言って出ていくメイド妖精を目で追いながら、とりあえずパチュリーの方を向く。その目には「なんでこんなことになったのか教えてパチュリーせんせー」という期待の色が伺える。

    パチュリー「……知らないわよ。少なくとも結界に異常はないわ。咲夜の報告を待ちなさい。」

    レミリア「えー!もうすぐおやつの時間なのよ!お!や!つ!今日はプリンの日なのよ!咲夜の帰りを待つなんておやつを我慢しなさいってことでしょう?いーやーだー!」

    パチュリーが駄々をこねるレミリアを呆れた目で見ていると、

    コン、コン。

    先ほどのノックよりも落ち着いたノックが来た。

    レミリア「入っていいわ。」
  14. 17 : : 2016/05/18(水) 17:56:05
    美鈴「失礼します。」

    入って来たのは美鈴だった。門番であるはずの彼女がなぜここにいるかわからないが、逆にその彼女が来たということは重要なことかもしれないと、パチュリーは思う。

    美鈴「先ほどの大爆発について咲夜さんの代わりに報告しに来ました。」

    レミリア「そう、説明しなさい。」

    その言葉を合図に大爆発の現状などを伝えていく。

    パチュリー「つまり……爆発の鎮火は完了済み。原因は不明。爆心地の中心には黒焦げになった男が倒れていた。その男は咲夜さんによって永遠邸に連れられた……ってこと?」

    美鈴「その通りです。」

    美鈴の話をまとめるとこんな感じだ。するとレミリアが疑問に思う。

    レミリア「美鈴、その男の特長は?」

    美鈴「はい、わかりました。身体は2m程。とても筋肉質な体で恐らく金髪。里の人間ではないと思います。」

    レミリア「とすると不明の妖怪か外来人……ますます謎ね。咲夜の報告が楽しみだわ。」
  15. 18 : : 2016/05/22(日) 23:14:21
    咲夜「(それにしても……いろいろ凄かったわね。)」

    メイド長十六夜咲夜はディオとの話し合いを終え、主に報告しに歩いている中、ある二つの感情を飛びまわしていた。

    それは『好奇心』。ディオの話を聞いていると時間が永遠になったかのように楽しい。心も段々安らいでいく。

    そしてそれを平然とやってのけたディオへの『恐怖』。
    咲夜は今まで沢山の人間を見てきた。ちょっと言っただけで心が折れる奴、平然と嘘をついて巧みに誤魔化す奴、純粋に人を助ける奴。

    そんな中、ディオのような者は初めてみる存在だった。まるでモノクロの世界に金色の光が降ってきたように。

    そんな存在を咲夜は自分の主に伝えにいくところだ。

    二日前にディオを永遠邸から連れて帰って来たときも報告をした。
    その時何故かレミリアは終始にやけていて、楽しみを隠せない様子だった。
    ………因みにレミリアはパチュリーや妹以外の者にはカリスマを装って話している。何でも主としてのプライドがあるとかないとか。

    と、咲夜はいろいろ考えている内にレミリアの部屋の前まで来ていた。時間を止めれる彼女が時間が進むのは早いなと考えるのはおかしなことだ。

    コン、コン。

    いつもの規則正しいノックをして主の許可を待つ。

    レミリア「入りなさい。」

    咲夜「失礼します。お嬢様、新しく拾った食糧についてご報告を。」

    この部屋にはレミリアしか居らず、レミリアは椅子に座りながら言う。

    レミリア「ようやく起きたのね。で、どうなの?」

    咲夜「はい、彼、ディオについての情報ですが________」
  16. 21 : : 2016/05/30(月) 18:24:59
    咲夜から聞いた話を箇条書きにまとめると、

    ・名をディオ・ブランドー

    ・1867年生まれ、21歳

    ・イギリス人の貴族

    ・外来人

    ・外の世界で屋敷で火事が起き、死亡

    ・爆発の原因は分からない

    ・大学では法学部首席

    ・運動もできる

    ・イケメン

    レミリア「本当?なら完璧人間じゃない。」

    咲夜「はい、『天は二物を与えない』と言われますが彼には二物どころか三物も四物も与えられています。」

    レミリア「しかもそんな奴がこの時代にいるわけないと思ったら100年以上前の奴じゃない。幻想入りの仕組みが分からないわ。」

    正確には149年前である。

    レミリア「それで……咲夜から見たらどうなの?」

    咲夜「先ほどおっしゃられた通りまさに完璧人間かと。対談中も気さくに話しているように見せて常に警戒心を解きません。また、彼の話には何故か惹かれてしまうものがありました。お嬢様には不敬ですが、正直死ぬには惜しい人材かと。」

    レミリア「ふふ、それは私もよ咲夜。確認したいことが二つあるけど、それさえあればうちの執事にでもしたいものよ。」

    咲夜「確認したいこと……ですか?」

    レミリア「ええ、一つ目は『マナー』。貴族なのだからある程度はできるでしょうけど執事なら咲夜並に完璧に、よ。二つ目は『戦闘能力』。美鈴が言うには人間では強者の部類らしいけど美鈴と同レベルの強さが欲しいわ。」

    なんと強欲なお嬢様だろうか。ただでさえすばらしい才能を持っているディオにこれ以上を求めるなど、まさにワガママである。
  17. 22 : : 2016/06/04(土) 15:23:33
    咲夜「失礼ながらお嬢様、マナーについては大丈夫かと。」

    レミリア「何故?」

    咲夜「彼に一度食事を出したのですが、その作法は私ですら見惚れるようなものでした。彼曰く、イギリスは料理の味より作法を重視する、と。」

    レミリア「そんなにすごいのね。確かにイギリス料理は美味しくないけど……うん?咲夜が出したのはイギリス料理?」

    咲夜「その通りでございます、お嬢様。彼がイギリス料理がいいと言ったので。」

    レミリア「だとすると和食は食べられないわね。私はできるようになったけど、箸の持ち方は難しいもの。そのあたりは一応教えてあげて。」

    咲夜「かしこまりました。それと、戦闘能力ですが、実際に美鈴と戦わせるのはどうでしょう。」

    レミリア「そうね。その方が手っ取り早いし、美鈴に伝えておきなさい。ただ、戦うのは三日後、夜に行うわ。あと、ディオには話さず、当日戦闘前に説明すること。」

    咲夜「かしこまりました。」

    レミリア「ああ、最後に。」

    レミリアは月の光が入る窓を見ながら、念を押した。

    レミリア「ディオのことは外に知らしめちゃダメよ。永遠邸が広めてるかも知れないけど、そこも明日には押さえておいて。」

    いわばこれは『独占欲』。この世界ではちょっとの世間話も、マスゴミによって広げられる。もしかしたらこの会話も聞かれてるのかも知れない。どうせなら執事になってから自慢するべきだとレミリアは思う。だからこその忠告なのだ。

    咲夜「かしこまりました。では、失礼します。」

    「ガチャ、バタン」という扉を開け、閉める音だけが部屋に広がる。
  18. 23 : : 2016/06/08(水) 20:37:51
    ディオ「さて…これからどうしようか……。」

    ディオは悩んでいた。先ほどのメイドとの会話では好印象を与えるようにしていた。メイドがディオの情報を主に報告すると踏んだディオは主に気に入られ、外に出られるよう、あわよくばこの屋敷でそこそこの立場になれるよういろいろ頑張っていた。

    ディオ「この屋敷でメイド以上の立場になれば、主が持っている石仮面を盗めるだろう……しかし、たとえ吸血鬼になれたとして、その後はどうするべきか…」

    その場合、考えられる答えは二つ。

    一つは紅魔館の者を倒し、勢力拡大し、幻想郷を支配する。しかしこれは成功確率2%以下だろう。紅魔館には今のところでも時間を止める咲夜や主の吸血鬼。同時に立ち合えるものじゃないし、ここには他にも強者はいるだろう。万が一、万が一それらを切り抜けられても八雲紫がいる。確率は2%と言ったがこれは0%だ。

    二つ目はそのまま逃げ、幻想郷でひっそりと生き、いずれは外の世界に帰ること。これは一つ目に比べればまだまだ現実的だが、紅魔館の奴らが自分を追って情報を流すだろう。その状態でひっそりと生きるなど難しい。

    ディオ「吸血鬼にならないという選択肢は却下だな。外の世界に戻れば石仮面なぞ残っているかもわからん。まだ情報が足りないな。最悪の可能性としてここの主はもとから吸血鬼という種族で石仮面は持ってないということだ。ここには妖怪とか言うのがいるから吸血鬼がいてもなんらおかしくないかもしれん。」

    だが、やはりディオは聡明である。メイドの咲夜に好印象を与えられたことも、主のレミリアに気に入られて、執事という立場になれることも、主のレミリアは生粋の吸血鬼だということも。すべて計算通りであり、計算外れだった。
  19. 24 : : 2016/06/10(金) 18:17:13
    三日後______。

    咲夜は時間が止まった世界でディオが食べた夕食を運んでいた。今の時刻は八時二十分。

    咲夜「いよいよ今日ね……。」

    今日こそディオが執事になる、いわゆる面接の日なのだ。時間は午後十一時。その瞬間決闘が始まるため、両者とも準備をしておかなければならない。
    今回の決闘は、咲夜が審判でレミリアは自室の窓からカリスマっぽく観戦する。

    咲夜「そういえば決闘の事を言ったら美鈴凄く喜んでたわね。なんでかしら。」

    咲夜が分からないのも当たり前である。美鈴は『気を使う程度の能力』でディオの気はとても濃密で粘りが強い感じだったので興味が湧き、ぜひ一戦交えたかったのだ。
    因みにこの気に気づいたのは爆発の時ではなく、咲夜が永遠邸から治療したディオの首を持って引きずってきた時である。

    咲夜「まあ美鈴なんてほっといて、これからどうしようかしら。」

    そう、咲夜が悩んでいるのはこの後である。さっきも言ったが今の時刻は八時二十分。決闘の準備などもあわせて、残り時間は二時間三十分もあるのだ。

    つまり端的にいうと暇なのである。メイド長としての仕事はすべて終わった。今やることと言えば彼女が持っているディオの食事後の皿を洗う程度。















    咲夜「さて、どうしようかしら。」

    彼女が全力を持って行った皿洗いの時間はたった三分。

    「とりあえず自室に戻るかな」と考えたところでハッと気づいた。今日咲夜が買い出しの帰りに道端にぽつんと置かれた奇妙なケースがあったのを思い出したのだ。
    真っ黒で中の様子は分からないが、金色の取っ手がついており、いかにも重要そうなものが入ってそうなケースだった。

    しかし、鍵がかかっていて、その場で開けようとしたが開けれず、鍵開けをするのも面倒だし、早く帰らないといけなかったから部屋に放ったまま置きっぱなしだった。

    早速部屋に戻ってケースをみる。変わっている様子はない。レミリアから「いつどこで宝箱を見つけるか分からないから鍵開けの技術と道具は必要なのよ」と言われ持っていた鍵開けようの道具がこんなところで使うとは思いもしなかった咲夜だが、その針を取り出してガチャガチャと鍵穴に差し込む。
    いつしかガチャリと音をたて、鍵が開いたのだと分かる。咲夜は針を抜いて静かにケースを開ける。そこにあったのは、

    咲夜「………何これ。」

    仮面があった。材質は石で、怒ってるのか喜んでるのか分からない表情。鼻から右側の眉あたりにかけて変なぐるぐるがついている。よく見れば牙のようなものも。

    咲夜「うーん……見れば見るほど気味が悪いわね。」

    咲夜は仮面を手にとって観察する。裏には変な文字が刻まれており、まったく読めない。咲夜は一度軽い気持ちで仮面を顔につける。

    材質が石ということもあり、つけ心地は悪い。手鏡を取り出して、自分の顔を見てみる。

    咲夜「うん、やっぱりナシね。」

    仮面を外してケースの中に入れる。「お嬢様に一応見せておこう」と考え、仮面が入ったケースを持っていく。

    それが吸血鬼を生み出す道具、『石仮面』だと知らずに。
  20. 25 : : 2016/06/12(日) 20:36:31
    十一時五十分。

    ディオが「もうそろそろ寝ようか」と考えたあたりで、いきなり咲夜が牢屋の前に現れた。

    ディオ「何か用かな?」

    咲夜「いきなりだけど、貴方に外に出てもらうわ。」

    ディオは驚く。当然である。「どうやって外に出ようか」と考えているのに断らない訳がない。
    この内にも咲夜がどこからか取り出した牢屋の鍵を使って牢屋の中に入ってくる。どうやら行くのは決定らしい。

    ディオ「何故かは知らないけど、分かった。行こう。」

    咲夜「行かなくても無理矢理連れてくわ。」

    「だろうな」という声は喉まできて止める。鎖の錠を外されている間にどうするか考える。

    咲夜自身がこんなことをするとは到底思えない。だとすればそれは咲夜のお嬢様の差し金だろう。外に行って咲夜から逃げれるとは思ってないが、少なくともそのお嬢様が見ているのだ。逃げるのは諦めるというのが健全な判断である。

    咲夜「ほら、動きにくいと思うけど立って。」

    咲夜がチョイチョイと手を動かす。仕方なくディオは立とうとするが、三日間動いていなかったため、すぐに後ろに倒れる。

    ディオ「ムゥ…………。」

    咲夜「ふふっ、ほら立って。」

    予想通りといった感じでディオが倒れた為、咲夜は笑みをこぼす。

    ディオ「手ぐらい貸してくれたっていいじゃあないか……。」

    咲夜「貴方の身体だと私が倒れるわ。」

    最もである。そんな内にディオは壁に手をついて立ち上がる。しかし、まだふらついている。

    咲夜「しっかりしなさい。時間はないのよ。」

    ディオ「ああ……ふぅ、そこそこ慣れてきたな。」

    ディオはふらつきながらも咲夜の後ろでついていく。目的地に行く間に咲夜から説明を受ける。

    咲夜「実は貴方の事をお嬢様が気に入られてね、執事にしたいそうよ。」

    ディオ「そうなのか……?いや、牢獄生活よりはマシか……。」

    咲夜「まったくよ。それで執事にするにあたって貴方の戦闘能力を見たいそうよ。つまりはオーディションよ。」

    ディオ「執事に戦闘能力がいるのか……いや、メイド長が時を止めるんだから必要なのか……。それで、相手は?」

    咲夜「相手はうちの門番。紅美鈴っていう妖怪よ。」

    ディオ「人間である私には差が激しいんじゃないのか?」

    咲夜「そこら辺も考慮してるわ。第一相手は女性なのだから大丈夫でしょう。まあもし死んでもお嬢様がしっかり食べてくれるわよ。」

    するといきなり景色が変わった。先程まで地下からの階段を登っていたが目の前にあるのは森。頭上にあるのは夜空。足元にあるのは柔らかい土。

    つまりここは外。

    ディオ「………食糧の私には屋敷の中すら見せてくれないのだな。」

    咲夜「時間短縮よ。あと五分で始まるからね。」

    咲夜はまた歩き出し、ディオもついていく。一分もかからずついた目的地まで赤い壁が続いている。壁の奥には立派なとても赤い城のような屋敷がある。あれが紅魔館だろう。

    咲夜が立ち止まり、ディオもつられて立ち止まる。後ろから覗けば門に寄りかかって寝ている女性がいた。
    咲夜は何も言わずナイフを投げる。そのナイフはきれいに女性の頭へ向かう。

    しかし寝ている女性は近づいてきたナイフを指先で挟んで止めた。これにはディオもビックリだ。

    ディオ「(もしかしてこの女が門番なのか?だとすれば負ける可能性は高いぞ。)」

    咲夜「チッ……起きてたのね、美鈴。」

    美鈴「今舌打ちしましたね咲夜さん!?決闘の時間なんだから起きてるのは当たり前ですよ!」

    と、美鈴はその大きい胸を張って言うがディオの気が近づいてさっき眠りから覚めたのだ。

    美鈴「あっ、貴方がディオさんですね!私、紅美鈴と言います。」
  21. 26 : : 2016/06/12(日) 20:39:29
    ディオ「あっ、ああ……咲夜から話は聞いている。私がディオ・ブランドーだ。」

    美鈴の異常なテンションにディオは驚く。

    美鈴「ええ、今日貴方と戦えると聞いて三日前から喜んでたんですよ!貴方の気は外来人にしては特殊ですからね、すぐに負けないでくださいね。」

    ディオ「(気?しかもすでに三日前からオーディションは決められてたのか。)
    あいにくこちらも死ぬわけにはいかないからな。勝たせてもらうぞ。」

    美鈴「私だって負けませんよ!」

    咲夜「仲良しのとこ悪いけどルールを説明するわよ。」

    残り時間は三分。きっちり十一時からスタートなので長引かせたくないのだ。

    咲夜「まず美鈴は手加減すること。一瞬で近づいて首をはねるなんて論外よ。次に美鈴は妖怪だからディオは何でもやっていいわ。それこそ足をかけたり土を投げたり。」

    ディオ「(レベルが低くないか?)」

    咲夜「制限時間はなし。どちらかが背中を地面につけるまで試合は続くわ。あと、美鈴は弾幕なしよ。」

    「えー!」という声が聞こえるが咲夜は無視。

    咲夜「最後に、この試合はお嬢様が見ている事を忘れないでね。それじゃ、始めるわよ。二人とも位置について。」

    残り三十秒。心の中で「バッチリね。」と喜んでる咲夜から二人は離れる。二人の距離は十m程。

    ディオ「(この女は妖怪……何をやっても許され、相手は手加減する。これならば勝てるな。)」

    咲夜「十!九!八!七!」

    ディオ「(絶対に執事になって石仮面を奪い、)」

    咲夜「六!五!四!」

    ディオ「(吸血鬼になりいずれは外に帰り、)」

    咲夜「三!二!一!」

    ディオ「(誰にも負けない男になる!)」

    咲夜「スタート!」
  22. 27 : : 2016/06/18(土) 21:43:55
    試合が始まる少し前。

    レミリアの部屋

    レミリア「パチェ、どっちが勝つか賭けをしない?」

    パチュリー「またいきなり……いいわよ。賭けるのは何?」

    レミリア「ふふふ、明日のおやつよ!おやつはたまたま咲夜が買ってきたカステラよ!」

    パチュリー「!………分かったわ、それでどっちに賭けるの?」

    レミリア「勿論美鈴よ!いくら強いと言っても弾幕ごっこ以外で人間が妖怪に勝てる訳がないわ!」

    パチュリー「そう、なら私はあっちの……何だっけ?」

    レミリア「ディオよ!ディオ!」

    パチュリー「そうそう、ディオに賭けるわ。」

    レミリア「やったー!パチュリーのカステラは全部いただきね!」

    パチュリー「全部なのね……ってもう始まるわよ。」

    レミリア「美鈴勝てー美鈴勝てー。」

    そんなことがあった。

    紅魔館の外

    美鈴「先手必勝です!」

    美鈴はダッとディオのもとまで瞬時に走り込み、

    美鈴「せいやっ!」

    左足で踏み込み、右足を前に出しながら拳を作った右腕で殴り込む。

    ディオはそれを後ろに下がることで回避。反撃はしなかった。

    ディオはカウンタータイプである。
    と、言うのも知っている通り慎重派なディオはこういった試合等では最初に相手の動きを見て、観察して、覚えて、理解した上で攻撃に入る。
    だから今反撃をしなかったのだ。

    美鈴「ふっ!」

    美鈴は今度は右足で踏み込み、左足で横から蹴ってきた。蹴る間に出した右腕を戻す。

    次にディオは相手の攻撃をどの程度のものかを見る。そのため、美鈴の蹴りは見事に当たる。

    ディオ「グウッ!」

    予想外の痛みにディオは耐える。

    ディオ「(これは吸血鬼になった時と同じ、いや、それ以上かッ!?)」

    美鈴がその隙を見逃す筈がない。ディオが吹っ飛ばされなかった為、そのまま左腕を出す。加えて蹴り続けている左足に力を加える。

    普通の人間なら目の前にきた左腕を避けようと、後ろに引く。横にいったとしてもそのまま蹴られる為だ。

    しかしディオは痛みに耐えている力を少し緩め、なんと!逆に!自ら蹴られたのだ!
    そうやって左腕を回避し、美鈴に狭まれていた距離を伸ばしたのだ!ディオは背中を地面につけないように着地し、美鈴を見た。

    ディオ「(痛かったが奴から離れることができた。そして後ろには樹。グッドだ。)」

    美鈴はまたもやディオに近付く。そして右腕で攻撃。ディオは横にずれることで回避。そして美鈴の拳は止まることなく、

    バキッ!!

    樹を破壊した。それを見たディオはそのまま左腕で攻撃。避けようと思えば避けれる程度の速度。

    美鈴はこれをしゃがんで回避。距離を離したくないならば最善の策だろう。そのまま頭上に来た腕をとろうとする。

    だが、美鈴の腕は虚空をかく。ディオが腕を振り上げた為だ。ディオはそのまま振り上げた腕と同時に後ろに下がる。

    ディオ「(まだ繋ぎ技を見ていないがなるほど、分かった。)」
  23. 28 : : 2016/06/24(金) 23:34:32
    美鈴「(期待外れですね……。)」

    美鈴は負けるとは思っていないが、流石に弱すぎる。反撃もせず回避ばかりで反撃したと思ったら普通に避けられる。咲夜でも勝てるんじゃないのかと思う程。

    美鈴「(とりあえず次で終わらせようかな。そうだ。前に外来人がやっていた『おらおららっしゅ』をやろう。面白そうだし。)」

    『おらおららっしゅ』。防御にも使う腕を両方とも使い、「おらおら」という掛け声を出しながら拳で殴りまくる技。

    しかしこの技、避けられると反撃がくる可能性がある。
    だが、当てることが出来れば、莫大な威力を持つ。いわば捨て身の技だ。

    ディオなら避けるのは厳しいし、避けても反撃を出さないだろう。

    そう思った美鈴はディオのもとまで走り込む。ディオの近くで右足を蹴りこむ。当然避けられるが、計算の内だ。

    美鈴「おらおらおらおらおらおら!!」

    右腕、左腕、右腕、左腕、右腕、右腕、左腕……規則性など考えずに殴りまくる。

    しかしなんということか。ディオは避けている!全てを避けている!
    美鈴は色々な方法で殴りまくるが、ディオはまるで未来を見ているように避けているのだ!

    ディオ「(いつぞやのジョジョとのボクシングを思い出す。ならばあれをしてやろうか。)」

    ディオは『おらおららっしゅ』を避けながら左手に力を込め、

    美鈴「おらおらおらおらッ!?」

    美鈴の『おらおららっしゅ』を掻い潜り、左腕で美鈴の腹を殴る。さっきとは違って本気だ。

    美鈴は予想外のディオの反撃とその痛みに驚く。だが耐えられない程ではない。

    故に美鈴はディオの反撃に耐えた。いや、『耐えてしまった』。

    ディオ「フン!」

    そう遠くない距離にある美鈴の顔に右腕で殴り込む。

    ビキッ!

    美鈴「(鼻の骨が折れるなんて……なんてパワー……)」

    美鈴は驚く。さっきまでは本気ではなかったのだと。
    しかし、ディオの攻撃は止まらない。

    ディオ「(このまま!親指を右目に突っ込んで!殴り抜ける!)」

    美鈴は数m吹っ飛ぶ。背中はついていないが、ディオに右目を潰されたため、常に周りに気をつけなければならない……

    と言うことはない。美鈴の『気を使う程度の能力』でそこは補えるのだ。

    そんな一瞬の思考を働かせている内に、ディオがいつの間にか近づいている。

    ディオ「ハァッ!」

    ディオが右足で横から蹴ってきた。美鈴は後ろに引いて避ける。

    すると、美鈴は体勢を崩す。何事かと思えば、そこには『樹の破片』。
    美鈴が破壊した樹の破片が辺りに飛び散り、そのいくつかが美鈴の足を貫いている。

    美鈴「しまっ……」

    「しまった」すら言えない内にディオが体勢を崩した美鈴に飛びかかる。

    ドン!

    ディオの蹴りが炸裂する。美鈴は余計に体勢を崩す。

    美鈴「ま……まだだあああぁぁあああ!!」
  24. 30 : : 2016/07/01(金) 21:51:14
    美鈴は今、ブリッジのような体勢である。違うところと言えば腕が腰の横にあること。

    ディオは今、美鈴の腹部の下の方を蹴った。今も両足を美鈴の上にのせて力をかける。美鈴としては別段きつくはないが、起き上がれないので少々厄介だ。

    そのため、美鈴がとった行動は、今も支えている腕を使って、ディオを引き離そうとするもの。

    腕をどうこうするにも、必ず美鈴から離れないといけない。これではディオは離れるしかない。

    ディオは捕まるギリギリで少し跳んで、美鈴の真横に着地。

    美鈴「(ハッ……しまった!)」

    もう遅い。美鈴は腕をあげていた。

    今の美鈴の体勢は、組体操にあるサボテンの支える側のような体勢をしている。
    ディオが追撃を出す。そのまま右足で蹴り飛ばそうと、そのとても太い右足を後ろに引く。

    美鈴「ハッ!」

    ディオ「フン!」

    間一髪。美鈴は瞬時に起き上がり、その後ろにディオの蹴りが来た。

    美鈴「(よし!ここで体勢を整え……ハッ!?)」

    美鈴の視界には闇しか写らなかった。目を潰された訳でもないのに。

    美鈴「(えっ!嘘!能力が使えない!?)」

    『気を使う程度の能力』で独特なディオの気を探ろうとしたが、ディオどころか何の気も感じない。死の世界にいるわけでもないのに。

    本当に死の世界にいるのだろうか。そんな様々な出来事から美鈴は恐怖し、一瞬狼狽えた。

    その後、妖怪特有の人間を察知できる能力があるのを思いだし、使おうとしたが、遅かった。

    不意に顔面に何かがあたり、頭は後ろに向かって、

    トン。

    いつしか、美鈴の背中は何かについた。
  25. 31 : : 2016/07/03(日) 23:00:03
    ディオ「(なんだこいつ………急に動きが鈍い…どころか初心者同然の格好だぞ。)」

    ディオが蹴り飛ばそうとするも、美鈴はギリギリで起き上がり、助かった。
    と思えばいきなり動きがおかしくなっている。挙動不審と言うより電池残量が少なくなったロボットだろうか。

    ディオ「(何か知らんがもらったッ!)」

    この美鈴の状態をチャンスと感じたディオは左手で美鈴の顔を後ろに押す。
    この時、優しく足をかけておく。

    何の抵抗もなく美鈴は後ろに倒れ、

    トン。

    美鈴の背中が地についた。
  26. 32 : : 2016/07/05(火) 22:53:56
    咲夜は固まっていた。

    決闘を前半、中半、後半で分けるとするなら、前半はディオが押され、中半でディオが反撃をし、後半で何故か美鈴が呆気なくやられた。

    おかしい。普通におかしい。何故美鈴はあそこまで隙を見せたのか。少なくとも彼女は自分が有利でも調子にのる性格ではない。

    すると、倒された美鈴が起き上がる。続けて美鈴がなんともないのを確認したディオがチラチラと咲夜を見る。

    目線に煽られた咲夜がすかさず、

    咲夜「たっ、ただいまの勝負、ディオの勝ちッ!」

    決闘の勝敗を叫ぶ。

    ディオ「いい勝負でした、美鈴さん。」

    美鈴「うんうん、私も充分に楽しみました。これで貴方は執事なんですね?私のことは美鈴と呼んでください。」

    ディオ「なら喋り方も変えよう。美鈴、これでいいか?」

    美鈴「はい、オッケーです!それで、『最後のあれ』はなんなんですか?」

    ディオ「『最後のあれ』?」

    美鈴「いや、やっぱり何でもないです。それより、貴方の執事服、とても見たいです!明日が待ち遠しいですね。」

    ディオ「あと数十分もすれば明日なのだが。」

    咲夜「ほらほら、イチャイチャしてないでお嬢様の所にいくわよ。」

    「イチャイチャなんてしてないですー!」という美鈴の声を後に、咲夜は進む。ディオもついていく。
    美鈴もついてこようとするが、いつの間にかナイフが頭に刺さっている。門番の仕事をしろという意味だろう。




    レミリアの私室

    レミリア「なっ、何イイイィィィィイイッ!!美鈴が負けた!?人間に!?」

    パチュリー「カステラっておいしいのよねー。特に耳の甘味が紅茶によくあうのよねー。」

    レミリア「何故だッ!?私はギャンブルの天才だ!ルーレットでは当たりすぎて私の場所にみんなが置くし、ポーカーでフォーカードとかストレートフラッシュとかなんて当たり前!なのにこの私が賭けで負けるなんて……!」

    パチュリー「最近はこあも頑張っているし、一切れだけあげようかしらねー。」

    レミリア「さっきからそこ!うるさい!パチェ!貴様イカサマをしたな!?」

    パチュリー「なんの事かしら。さっぱり分からないわ。」

    レミリア「イカサマをしたのは分かっているッ!どうせこっそりとディオに会って身体能力を上げる魔法をかけたのだろう、違うかッ!?」

    パチュリー「はいはい、負け惜しみはおしまい。そもそも私はイカサマなんてやってないし、現に戦う前からここにいるじゃない。だいたい、さっき言ってた賭けだとかギャンブルだとかは運命を操ってただけで能力禁止したらルーレットは全然当たらないし、ポーカーはブタばっかり出てあっさり負けたじゃない。」

    レミリア「グフゥッ!?」

    完敗。レミリアの完敗である。正直パチュリーもディオが勝つとは思っていなかった。だからディオが勝ったときは本当に嬉しかった。

    パチュリー「ほら、もうすぐ咲夜が来るわよ。しっかりしなさい。」

    コン、コン。

    咲夜「咲夜です。ディオを連れて来ました。」

    レミリア「入りなさい。」

    サッと態度を変えたレミリアが応対する。
  27. 33 : : 2016/07/12(火) 18:45:19
    咲夜「失礼します。」

    ディオ「失礼します。」

    咲夜が部屋に入り、続けてディオも入る。

    部屋の中には二人の人物がいた。

    一人は、ドレスを着た、かわいらしい少女。身長は子供のそれと変わらず、青い髪に赤い瞳。違和感があるなら背中にある蝙蝠のような黒い羽だろう。

    もう一人は、紫色の寝間着のような服を着た少女。目はぼんやりとしていて、分厚い本を持っており、最初の少女にはなかった大きな胸を服から覗かせている。

    ディオは考える。この二人のどちらかが咲夜のお嬢様。つまり『吸血鬼』なのだ。二人共お嬢様ならなおさらヤバい。

    正直どちらでも吸血鬼に見える。つまりディオは誰がお嬢様か分からない。

    ディオ「初めまして、お嬢様。ディオ・ブランドーと言います。」

    と、本を持っている少女に言った。もう一度言う。『本を持っている少女に言った。』

    咲夜「(えっ。)」

    レミリア「(あれ。)」

    パチュリー「(へえ。)」

    もちろん間違っているのはディオであり、であり、小さい少女がお嬢様である。

    パチュリー「私の名はレミリア。レミリア・スカーレット。これからよろしくね。」

    だが!パチュリーはこの状況を利用して、レミリアになったのだ!

    当然、本人のレミリアからはたまったもんじゃない。

    レミリア「ちょっとパチ

    パチュリー「ああ、彼女はパチュリー・ノーレッジ。一応ここのナンバー2よ。」

    レミリア「(こいつ……!)」

    レミリアの反論を上から押さえつけ、同時に自分をナンバー1に上げた。
    どちらがお嬢様かなんて分からないディオは本心からパチュリーがお嬢様だと思った。

    ディオ「お嬢様、これからよろしく、というのはつまり……」

    パチュリー「ええ。貴方は美鈴に勝ったからね。晴れて明日から執事よ。大丈夫。私は嘘はつかないわ。」

    レミリア「(現在進行形で嘘ついてる奴が何を……!)」

    にっこりと笑うパチュリーにレミリアは心の底から憎む。

    ディオ「ですが、私はまだここのマナーが分かりません。お嬢様方に失礼が出るのでは?」

    パチュリー「大丈夫よ。それも明日から咲夜が手取り足取り教えてくれるわ。咲夜と並ぶくらいになったら、私に仕えなさい。」

    レミリア「(あんた引きこもりでしょが!)

    レミリアの受難は続く。
  28. 34 : : 2016/07/18(月) 05:16:23
    パチュリー「ああ、そうそう。私はいつも図書館にいるわ。大事が起きない限り上には来ないわ。」

    ディオ「上には、とは?」

    パチュリー「図書館は地下にあるのよ。それでここは最上階。つまりはそういうこと。」

    レミリア「一応私の私室

    パチュリー「何か質問はあるかしら?ないなら貴方の部屋へ案内するけど。」

    レミリア「(もうキレてもいいよなァ…!)」

    レミリアの発言なんてなかったかのように押し進めるパチュリー。

    咲夜「(これは……止めるべきなのでしょうか。止めないとお嬢様に怒られるけどパチュリー様には『貸し』がある……すみません、お嬢様。)」

    レミリアの「ちょっと咲夜この紫もやし何とかして」という目を咲夜は心痛みながらも振り払い、『貸し』を思い出す。

    咲夜「(パチュリー様にお出しするお茶請けのタルトをメイド妖精といっしょに作ったのが間違いだったわ。)」

    いくら妖精とはいえメイドが塩と砂糖を間違えるなんて初歩的なことをするとは誰だって思わないだろう。

    ディオ「それではいくつか。この館の壁や門は全て赤色で、この部屋の内装も赤色です。もしかして全ての部屋が赤色なのですか?」

    パチュリー「そうね。基本的にレミィの趣味で赤色になってるわ。ただ、地下は少し違うわ。図書館はそうだけど本棚が多すぎて余り赤くないし、貴方がいた牢屋は赤なんてなかったでしょう?」

    ディオ「確かにそうですね。」

    パチュリー「他に何かある?」

    ディオ「ここの住民やメイド達との顔合わせは……」

    パチュリー「明日になるわね。時間としたら、朝食後かしら。」

    ディオ「分かりました。それでは最後に、明日の起床後の行動を教えてください。」

    パチュリー「咲夜、そのへんどうなの?」

    咲夜「朝は顔合わせまでの仕事はないですね。精々、身だしなみを整えるぐらいかと。」

    パチュリー「だ、そうよ。洗面所の場所は後で教えてもらいなさい。」

    ディオ「分かりました。質問はもうありません。」

    パチュリー「OK。それじゃ、明日はよろしくね。」

    ディオ「お嬢様のご期待になれますよう、慎んで努力致します。」

    咲夜「行くわよ、ディオ。質問しました。」

    ディオ「失礼しました。」
  29. 35 : : 2016/07/25(月) 02:08:43
    ディオ「なぁ、咲夜。」

    咲夜「貴方の口調も緩んできたわね。何よ。」

    ディオ「お互いのことを知らなかったからだ。質問なんだが、レミリア様のあの羽…じゃなくて翼?あれはなんだ?」

    咲夜「今自分で言ったとおり翼よ。お嬢様は吸血鬼って言ったでしょ。」

    ディオ「ん?レミリア様がお嬢様なのか?」

    咲夜「そうよ。私はレミリア様に仕えている。貴方はパチュリー様に仕える。そういうこと。」

    ディオ「そうか。ああ、そういえば、私のお嬢様は吸血鬼なのか?」

    咲夜「どうみても違うでしょ。吸血鬼には羽があるのよ?パチュリー様は人間の魔法使いって奴よ。」

    ディオ「魔法使いだったのか…。」

    ディオ「(薄々気づいていたがレミリアが吸血鬼か。つまりここには石仮面がない。どうすれば……。)」

    咲夜「ほら、もう着いたわよ。」

    ディオ「ああ、分かった。」

    咲夜がディオの部屋であろう扉の横で止まり、ディオも咲夜に言われて扉に手をかける。

    ガチャリ。

    心地よい扉の開閉音と共にディオを迎い入れたのは質素な部屋。

    いや、部屋中が血で塗られたように赤いから質素とは言いにくいが、家具は扉側から見て、右側にディオの身長がギリギリ入るぐらいの大きいベッド。左側の奥に小さな机と椅子。左側の手前の隅には何も入っていないだろうクローゼットがある。それだけ。

    一番印象を受けるだろう場所は窓。扉の反対側にあり、そこまで大きくもないが、そこから入ってくる月の光は、とても美しく、幻想的で、心を奪われる……

    かもしれないが、ディオの心には響かなかった。

    ディオ「(これからこの部屋に住むのか……目が痛くなりそうだ。)」

    ディオが思ったのは質素な事でも、光の事でもない。部屋中が赤い事だ。

    自分の部屋の壁や床が赤くなると思えば恐ろしいだろう。落ち着く筈がない。

    咲夜「それじゃあ今日からはここに住んでね。明日の六時には迎えに行くわ。」

    ディオ「なぁ、私は執事だろう?執事服とかはないのか?」

    ディオがクローゼットを開けながら言う。何も入っていない。

    咲夜「あるにはあったんだけど、ディオの身体じゃ入らないのよ。」

    ディオ「どうするんだ?」

    咲夜「私が能力を使って作るわ。すでに貴方のサイズも測らせて貰ったわ。」

    ディオ「また時間を止めたな……。」

    咲夜がいつの間にか持っているメジャーを睨んで言う。

    咲夜「ふふふ、明日寝坊しないように早く寝なさい。」

    ディオ「確かにそうだな。非常に不愉快だが、そうしよう。」

    咲夜「まったく、素直じゃないわね。お休みなさい、ディオ。」

    ディオ「ああ、お休み、咲夜。」
  30. 37 : : 2016/08/01(月) 11:25:57
    咲夜が去ったディオの部屋で、ディオはベッドに座っていた。

    ディオ「(この世界の吸血鬼はやはり羽があるのか。仮に石仮面を使ってもバレないか…?いや、やめておこう。八雲がいるからな。とりあえずは『紅魔館の従者』という保険を手に入れた。後は石仮面と外の世界に戻る算段。これが理想的だが、石仮面を見つけても、外の世界に戻る算段を見つけるのが遅いと、いつかは石仮面がバレる。逆に、外の世界に戻る算段を見つけても、石仮面が見つからないと、「まだ帰らないのか」と、怪しまれる。)」

    ディオ「どうしたものか…。グッ!」
    ズキリ。

    美鈴との戦闘で負った左足。応急措置すらやらずにパチュリーのところに行ったために、怪我が酷くなっていく。
    ディオ「……先に身体を休めた方がいいか。」

    と、ディオはベッドに寝る。もう0時に近いからか、疲れたのか、ディオの意識はすぐに闇に染まる。

    まるで光が奪われたように。

    時は少し遡る。

    レミリアの部屋

    レミリア「パチェ!貴方がこんなにもクズでゲスな奴とは思わなかったわ!」

    パチュリー「?何言ってるのパチェ。」

    レミリア「私はレミリアだ!なぜ私の名を無断で使った!?分かりやすく丁寧に答えろ!」

    するとパチュリーは顎に手を当て、少し考え、紙とペンを取り出し、

    「無能な当主に代わって」

    「自分で支配し、操っていく」

    「これが紅魔の夜明けぜよ^^」

    レミリア「これが紅魔の夜明けぜよじゃあかしい!!なぁーにが夜明けじゃ!こちとら明けたら死ぬんだよ!」

    「^^」

    レミリア「聞いてんのか!てゆーかその顔文字止めろうぜぇんだよ!」

    「(´;ω;`)ブワッ」

    レミリア「それはいいから!」

    「(´・ω・`)ショボンヌ」

    レミリア「もう何もツッコまないぞ!」

    パチュリー「一つ一つうるさいわよ、パチェ。ストレスが溜まっているならひじき食べてなさい。カルシウムはストレス解消と身長を伸ばすのに効果的よ。」

    レミリア「ここにグングニルのスペルカードがあってだな。」

    パチュリー「分かったからそれを収めなさい。じゃあ話すわよ。」

    と、先程までからかっていた顔は消え、真面目な顔になるパチュリー。

    パチュリー「何となくだけど、彼、ディオはどうもキナ臭い。何か隠してるような気が気でならないのよ。」

    レミリア「そう?『人生の勝ち組』ってくらいと思ったけど。」

    パチュリー「そんな浅はかな思慮な時点でダメね。つけこまれるかもしれないわ。」

    レミリア「私は吸血鬼。人間ごときに騙されないわ。」

    パチュリー「いい、レミィ。何事も行動するときは最悪の状況を考えなさい。そして先を読む。たったそれだけで貴方の敵は減るかも知れないわ。」

    レミリア「私に敵なそおらん!」

    パチュリー「そういうのが心配だったのよ。こういう時の最悪の状況は、ディオが何らかの力でパワーアップし、幻想郷、ひいては外の世界を支配できるまでにしてしまうこと。」

    あり得ない訳ではない。実際、ディオはその計画も考えている。

    パチュリー「貴方では心配だったの。もしこれで貴方が死ぬようなことになったら、皆が悲しむわ。」

    レミリア「パチェが死んでも悲しむわ。」

    パチュリー「だから、私が言いたいのは貴方と私では殺される時の対応が違うの。貴方の身代わりでもあるんだから感謝なさい。」

    レミリア「パチェ……貴方って人は……。」

    パチュリー「まあこれはただの予感だし、一度レミィより上に立ちたかったからね。」

    レミリア「空気と雰囲気と状況を考えて言え!やっぱり邪心漏れ漏れじゃねーか!」

    パチュリー「?何言ってるのパチェ。」

    レミリア「だから私はレミリアだっての!!」

    ギャーギャーと騒ぐレミリアの部屋の前で、

    咲夜「(これ入ってもいいのかしら……どうしよう。)」

    その手に『不気味な仮面が入った黒いケース』を持って悩んでいた。
  31. 38 : : 2016/08/09(火) 00:40:58
    ディオ「うん……?」

    ディオが眼を覚める。

    ディオ「ここは……」

    無理もない。三日牢屋暮らしだった男が眼を覚めると視界が真っ赤なのだから。

    ディオ「(ああ、思い出した。執事になったんだったか。)」

    ディオはベッドから起き上がる。

    ディオ「朝か……今は何時だ?」

    この部屋には時計がない。そのために時間が分からない。

    すると、ディオは朝日が射す窓に近づき、窓を開ける。キラキラとした陽光がディオを覆う。

    ディオ「ふむ。太陽の向きからして……もうすぐ六時ぐらいか。」

    ディオは太陽の向きで、時間を予測したのだ。実際、今の時間は五時五十三分である。

    ちなみに、この時間だと、ディオは六時間程しか寝ていない。それでも起きたのは緊張によるものだからだろうか。

    ディオ「なんにせよ、咲夜が来ていないのはそういうことだろう。なら……」

    「六時までの空き時間をどう過ごすか。」

    本来、たった七分、たった四百二十秒待てばいいだけ。しかしディオはそれが分からず、退屈な待ち時間をどうするかと悩んでいる。

    ディオ「…………」

    ふと横を見る。開けられた窓がディオの顔を表す。そう顔に違和感は見られない。というより寝起きの割には整い過ぎている。

    顔。

    ここでディオは思い出す。主人のレミリアから顔を洗っておけということ。そして咲夜に洗面所を教えてもらうこと。

    しかし昨日は考え事で咲夜に聞いていなかった。

    ディオ「……暇潰しにはいいかもしれん。」

    そう言い残し、部屋の外に出る。

    赤い視界から脱け出した先は赤い視界。ここでディオは考える。

    ディオ「(レミリアが吸血鬼でパチュリーが魔法使い。翼が生えていたのはパチュリー。それっぽい本を持っていたのはレミリア。咲夜はレミリアに仕えて俺はパチュリーに仕えている。……駄目だ。何か認識がおかしい。何か違う筈。)」

    ???「あのー……少しいいですか?」

    ディオが悩んでいると下からかわいらしい声が聞こえる。メイド服を着た、黒髪を緩やかなボブカットにした羽が生えた少女がいる。

    ディオ「なんだい?」

    ???「あっ、その……あ、貴方はお客人ですか?」

    ディオの今の姿は半裸。見知らぬ半裸の男が家にいれば誰だって驚く。

    ディオ「ああ、すまない。実はお嬢様方のサブライズでね。まだまだ新米だが今日からここの執事なんだ。ディオと呼んでくれ。」

    凛「へえ。執事さんですか。あっ、私、メイド妖精の凛と言います!よろしくお願いします!」
  32. 39 : : 2016/08/18(木) 08:00:48
    凛「(あの人……何やってるのかな。)」

    メイド妖精、凛。水色を薄めたような色の羽を持った彼女は、メイド妖精の中でも古参で、そのためも、実力もあり、メイド妖精の中では一番……ではなく二番である。

    そんな彼女が朝から館の見回りをしていれば、空き部屋になっている筈の部屋の前で佇んでいる長身の半裸男。

    紅魔館で男を見るなど長く仕えている彼女でも滅多になく、その男の美しい顔や、鍛えあげられた筋肉を見て、ドキドキしながらも、凛は声をかける。

    凛「あのー……少しいいですか?」

    ディオ「なんだい?」

    凛は男の優しげな声にもドキドキし、顔が真っ赤になりそうだが、何とか我慢して応える。

    凛「あっ、その……あ、貴方はお客人ですか?」

    ディオ「ああ、すまない。実はお嬢様方のサブライズでね。まだまだ新米だが、今日からここの執事なんだ。ディオと呼んでくれ。」

    凛「へえ、執事さんですか。あっ、私、メイド妖精の凛と言います!よろしくお願いします!」

    凛「(こんなカッコいい人が執事さんなんて……ここは先輩として、しっかりサポートしなきゃ。)」

    凛は挨拶と共ににっこりと笑顔を向けながらも、心の中で目標をたてる。

    凛「それで、ディオさんは何してるんですか?」

    ディオ「お嬢様から言われてね。顔を洗いたいのけど、洗面所がどこにあるかわからないんだ。教えてくれないか?」

    凛「あっ、よかったら案内しますよ。」

    ディオ「いいのか?」

    凛「はい!」

    ディオ「じゃあ頼むよ。」

    凛はディオを案内していく。別段遠くもないが、その間に凛はディオが外来人であることや、今日の七時に正式に執事になることを聞いた。

    凛「そうだったんですか。はい、着きましたよ。帰りは覚えてますか?」

    ディオ「ああ、大丈夫だ。付き合ってくれてありがとう。」

    凛「こちらこそありがとうございました。執事、頑張って下さいね。また後で!」

    と、凛はディオにさよならを告げ、離れる。










    凛「うぅ~恥ずかしかった。」

    勿論、凛の行動に恥じることはなく、単純にディオと話したことが恥ずかしかったのだろう。

    凛「でも……ふふっ、いい人だったなー。」

    麻耶「誰がー?」

    凛「わっ!?麻耶!?」

    そこに横槍を入れる茶髪のショートカットに眼鏡をかけたメイド妖精。

    彼女の名前は麻耶。凛の友達でもあり、メイド妖精としての実力は凛の次で三番目。イタズラ好きで仕事をしている仲間にちょっかいをかけるのも当然。メイド妖精の中では力が強く、咲夜の買い物の荷物持ちとして呼ばれることもしばしば。

    花が好きというかわいらしい一面や、純潔を表すような真っ白な羽もあり、結果として人気がある少女。咲夜と一緒にディオを部屋に運んだ一人。

    麻耶「で?誰がいい人だって?」

    凛「麻耶には教えないよッ!」

    麻耶「つれないなぁ~。」

    亜依「あらあら、私にも聞かせてくださらない?」

    凛「亜依まで……七時になったら分かるよ。」

    またもや横槍を入れたメイド妖精。名前は亜依。彼女も麻耶と同じく、凛の友達。凛と同じ黒髪だが色は紺に近く、ポニーテールの少女。羽は、赤を薄めた、しかしピンクとは違う目立つ羽。

    だが、彼女を強調させているのは間違いなくその大きな胸。妖精達は胸が小さいのがほとんどで、凛や麻耶も貧乳と言われる部類だが、彼女だけは巨乳と言われる部類である。

    故に恨まれることもあるが、彼女自身はおっとりとした優しい性格で、メイドの実力も妖精の中では一番であるおかげで信頼も厚い。

    ……ちなみに、妖精は頭が単純、いわゆるバカというものが多いが、凛や亜依の知能は妖精にしては高い。麻耶はどうなのかと聞けば誰もが「あれは悪知恵」と大きく首を縦に振る。

    亜依「あらあら、七時に何かあるのですわね。」

    麻耶「出たよ、おっぱいオバケ。」

    麻耶は心底嫌味ったらしく言う。

    亜依「あらあら、そんなに言われなくても。」

    麻耶「ケッ!それで、七時だっけ?いったい誰なのよ。」

    凛「少しくらい我慢出来ないの?」

    亜依「あらあら、後一時間ですわね。」

    麻耶「ちょっとぐらいいいじゃない!ケチ!」

    凛「はいはい、さっさと仕事に戻るわよ。」

    そこで会話を終えたメイド妖精達は離れ、自分の仕事へ戻る。
  33. 40 : : 2016/08/26(金) 00:24:39
    ディオ「これは……急いだ方が良いな。」

    ディオが急ごうとしているのは、時間を確認したからである。紅魔館は見た目こそ赤く、そんな所に住んでるなど気が狂っているとしか思われんが、赤くさえなければ立派な洋館であり、洗面所にまで時計が置かれているのもそれを示している。

    ちなみに現在の時間は五時五十八分。少しぐらい遅れてもいいかもしれないが、ディオとしては仕事初日から遅れるのは信用されないかと思ったので、急ごうとしているのである。

    行きはメイド妖精と話したり、追い越さないように歩幅を合わせていたが、そんな事もないので、帰りは短い時間で部屋につく事ができた。扉を開けると既に咲夜がいた。

    ディオ「(遅れたか。)」

    咲夜「四秒の遅刻よ。初日から遅刻っていうのは印象が悪くわよ。」

    ディオ「四秒くらいいいだろう。それに洗面所すら置いてあった時計を部屋に置かなかったのも原因と思うが。」

    と言った瞬間ディオの40cm先から銀色に輝いたナイフが飛んできた。
    ディオは驚きつつもサッと左手でそれをとる。ちょうど眉間に向かっていて、そこまでの間7cm程。二秒もあればグッサリと刺さっていただろう。

    咲夜「今日からの関係はメイドと客人じゃなく、上司と部下よ。気をつけなさい。」

    ディオ「今更咲夜に敬語を使うのか?」

    と言った瞬間ディオの後ろ30cm先からまたもや銀色に輝いたナイフが。
    後ろからだが、今度は驚く事なく左手のナイフで弾き飛ばす。

    キィン!

    高い音を出して床に落ちる。落ちたナイフは消え、ディオの手からも消える。ここまでくれば次の行動は分かるだろう。

    ディオ「…………かしこまりました、メイド長。」

    咲夜「それでいいのよ。まずクローゼットを開けて。執事服が入っているわ。」

    クローゼットを開けると、言われた通り執事服が入っていた。ディオに合わせたそのサイズはとても大きく、 誰が来てもぶかぶかになるだろう。

    咲夜「私は外にいるから、五分でそれを着なさい。」

    服を着るのに五分。普通の服ならば充分な時間だが執事服ならばそうはいかない。執事服を着たことがある者も中々いないだろう。それを五分というのは難しい話である。
    ディオもこれには無茶だと思ったが、咲夜の何者も寄せ付けない強い眼差しに諦め、執事服をとる。

    咲夜「じゃあ、頑張ってね。」

    とディオの返答を待たずに嬉しそうに部屋を出る。ディオを弄ったからだろう。

    ディオ「……さっさと動くか。」

    ため息をつき、袖に腕を通していく。
  34. 41 : : 2016/09/03(土) 17:07:03
    ディオ「ああ、もう五分か、早いものだ。」

    咲夜「そうね、何てったって三百秒だものね。一秒なんて一瞬。それが三百回繰り返されるだけ。ほら、この瞬間にも一秒は過ぎていく。」

    咲夜が言いながら部屋に入る。

    ディオ「フッ、その考え方、嫌いじゃあない。」

    咲夜「ン?」

    ディオ「何でもありません。」

    ディオ自身は敬語が嫌ではない。ただ咲夜という少女に使っているのが彼女に屈しているということであるからだ。

    咲夜「うーん、後は…………」

    咲夜がディオの着ている服に眼を向ける。意外にもディオは着こなしており、見たことも着たこともない人が見れば、その眼差しを輝かせることだろう。

    咲夜「及第点ですらないわ。せいぜい六十二点ね。」

    ディオ「(及第点とか言うのもどうせ百点とかだろう。)」

    だが、本家から見ればお粗末なもの。六十二点というそこそこの点数がとれたのも、それが初見だったからというだけ。

    勿論、そのような不恰好で人前に、ましてや主に見せる訳にはいかない。

    咲夜「はい、これで三十八点加点よ。」

    ディオ「ようやく及第点か……ですね。」

    咲夜が時を止めて服のシワなどを直したのだ。ディオはその行動をいち早く理解したが、呟いた言葉を聞かれているのに気付き、敬語に変え、話を逸らす。

    ディオ「質問です。」

    咲夜「何?」

    ディオ「朝食の時間を聞きたいです。」

    咲夜「ディオったら食いしん坊ね。」

    ディオ「朝食後に挨拶をするので聞いたまでです。」

    咲夜「…………本当に可愛くないわね。ま、いいわ。貴方やメイド妖精達は七時、お嬢様方は八時よ。」

    ディオ「では、残り時間五十分弱ありますが何をするのでしょう?」

    咲夜「(なんか敬語は敬語でウザいわね。)」

    咲夜「お勉強。この館の案内、っていうか説明ね。」

    ディオ「説明ですか?」

    咲夜「そう。まず、館の構造からね。」

    と、いつの間にか紙とペンが現れ、咲夜はそれに何か書いている。

    咲夜「紅魔館は高さ10mの壁に囲まれ、正面にだけ15mの門があるわ。そこに美鈴がいるわ。」

    館を簡単に書いているのだ。「寝てるけどね。」と付け加えて続ける。

    咲夜「地上四階で、一階が居間だとかダイニングルーム。厨房もあるし、大浴場とかもあるし、宴会場として使うホールとかもあるわ。んで、」

    咲夜「次は二階。メイド妖精の居住スペースって感じ。メイド妖精用の簡単な厨房もあるわよ。」

    咲夜が質なら、メイド妖精は量。その多さはなんと百二十八人。一部屋に四人が住んでいるが、それだけでも三十二部屋。

    咲夜がそれを簡潔にディオに伝えると、ディオは驚く。

    ディオ「そんなに部屋があるのですか?」

    咲夜「もともと一階はホールとかダイニングルームとか広いところがたくさんあるし、私の能力を使えばまず大丈夫よ。」

    時間と空間は密接な関係である。
    アインシュタインの相対性理論しかり、空間、すなわち物質の動き=時間なのだ。
    空間があるからこそ、時間は存在する。全ての物質が止まる、それは時間の停止を意味する。

    空間の拡張なら、それも物質の動き。拡げたい空間の時間を加速させ、物質を動かせる訳だ。

    また、彼女が消えれば、拡張させた場所の時間は全て戻る。その点では紅魔館という木綿豆腐を掌に乗せていると言っても過言ではない。

    ディオ「そうですか。」

    ディオ「(フン、今すぐにでもこいつを殺したいが、ここがどんな事になるか分からん。)」

    それを理解したディオは『計画』の一部に入れる事を考える。

    咲夜「ディオ?話聞いてる?」

    ディオ「勿論です。次は三階ですか?」

    が、咲夜に遮られ、思考をシャットアウト。咲夜の話に耳を向ける。

    咲夜「そうよ、三階は客間や客室。私の部屋にこの部屋もあるわ。空き部屋もたくさん。」

    ディオ「それだと客人は三階まで上がらないといけないのですか?」

    咲夜「その通りよ。まあこの館に来る物好きな奴なんて全然いないだろうし。そして、四階よ。」
  35. 42 : : 2016/09/05(月) 22:55:13
    咲夜「四階は、歩いたから分かると思うけど、お嬢様の私室があるわ。」

    ディオは昨日レミリアの部屋から階段を降りてきた。この部屋は三階だから、なるほど確かに四階なのだろう。

    ディオ「他にも部屋はありませんでしたか?」

    咲夜「ええ。貴方には入れない場所だけど説明するわね。」

    すると咲夜は紙に書いている本館とは違うところに線を引いた。

    咲夜「ここには時計搭があるわ。この扉は時計搭と本館を繋ぐ通路の扉よ。通路は四階だけじゃなくて、三階、二階にもあるわ。時計搭の時計は機械式時計だから、時計搭の中には普通とは違う大きさの歯車やヒゲゼンマイがあるわ。触れば怪我じゃすまないわよ。」

    機械式時計。
    中世ヨーロッパにてローマ教皇シルウェステルが修道僧の時に、祈りの時間を村の人に知らせるため、 教会の鐘楼に自動的に鐘を鳴らす機械を設置したことが起源となっている。

    一般的に時計のムーブメントは機械式とクォーツ式があり、今回の時計は機械式である。

    機械式は、電池が要らない為、長持ちする。大事に使えば百年は使えるのだが、精度が悪いのが欠点。

    現在の時計で一番精度が良いのは原始時計というもの。数千年に一秒程度しか狂わないが、機械式はクォーツ式にすら劣るのだ。

    咲夜「私が五日に一度点検するの。この点検の行為までに鍵が二つ必要なのよ。」

    ディオ「二つですか?」

    咲夜「通路の扉の鍵と、メンテナンスルームの鍵ね。通路の鍵は私が持ってるけど、メンテナンスルームの鍵はお嬢様にお持ちして頂いてるわ。」

    ディオ「二人で別々に持つ事により、侵入を防いでいるんですね。」

    咲夜「時計搭に盗むものなんてないと思うけどね。ああそうそう。時計搭の時計の上にテラスがあるわ。時計搭の中から行くんだけど、本館より高いから景色はいいわよ。」

    ディオ「なるほど、行ってみたいですね。」

    咲夜「貴方には一年早いわ。で、次は宝物庫かしら。」

    ディオ「宝物庫もあるのですか。」

    ディオは金に目がない訳ではないが、宝物庫と聞けば誰だって入ってみたいものだ。

    咲夜「宝物庫って言うか金庫ね。金庫は地下にあってね。ここの扉から地下に行けるの。ここ以外からは行けないわよ。」

    ディオ「ではここも時計搭のように防犯を?」

    咲夜「そうよ。扉の鍵は私、金庫自体の鍵をお嬢様。さらに、金庫が開けられたら、パチ…レミリア様の魔法でレミリア様に通じるわ。レミリア様になんの報告もなく私とお嬢様だけに鍵を貰って金庫を開けると、レミリア様が感づいて結界を張るのよ。」

    ディオ「(なるほど、時計搭とは違って金庫を開けるとレミリアに通じるのがやっかいだ。KEKKAIというのが分からんが、されたら不味いというのは分かる。
    …………しかしこいつ、さっきレミリアをパチュリーと言い間違えたな。何故だ?何か隠しておきたい事か?フッ、このディオに隠し事なぞ無駄だ。いずれ暴いて見せるぞ。)」

    咲夜「(あっ、しまった。言い間違えた。ディオの事だから、もしかしたら気づかれたかも。)」

    咲夜は間違いに気づき、ディオが余計な思考を働かせる前に話を続ける。

    咲夜「こんなところかしら。後は屋上があるけど、なにもないし、地上はこれで終わり。」

    ディオ「わざわざ地上という辺り、地下もあるのですね?」

    咲夜「そうよ。地下は一階から三階。離れて五階と……『九十九階』があるわ。」

    ディオ「(『九十九階』だとッ!?そんな所に何があるんだッ!?)」
  36. 43 : : 2016/09/11(日) 15:20:32
    ここで咲夜は紙を裏返し、紅魔館の地下を書いていく。

    咲夜「地下一階は主に人間以外の食材を保存する場所ね。大体は私の許可でメイド妖精達も入れるけど、酒蔵だけは私しか入れないわ。」

    ディオ「私のお嬢様が地下に図書館があると仰られました。地下何階にあるんですか?」

    咲夜「地下一階よ。食料庫とは離れてるけど、とにかくたくさんの本があるわ。」

    ディオ「なるほど、そこも空間を?」

    咲夜「勿論弄ってるわ。」

    ディオ「メイド長が死んだり、地震が起きたら潰れるんじゃないんですか?」

    咲夜「……地震はともかく、私が死ねば間違いなく潰れるわね。というか私が死ぬとか酷い事言うのね。」

    ディオ「すみませんでした。」

    ディオ「(チッ、死ね!)」

    咲夜「まあ良いわ。で、地下二階。ぶっちゃければ倉庫ね。ごちゃごちゃにならないように、私がちゃんと管理してるわ。」

    ディオ「具体的にはどのような物が?」

    咲夜「昔からある壺とか、三年前にお嬢様が買って、六回やって諦めたけん玉とか、本当に色々あるわ。」

    ディオ「(壺はともかく、KENDAMA?六回やって諦めたというから、一回一回が難しいのか?ここの物は良く分からん。)」

    確かに、一回一回は難しいだろう。しかし、それだけで諦めたレミリアもレミリアである。

    咲夜「次、地下三階。ディオがいた地下牢、もとい人間の食料庫ね。」

    ディオ「?昨日私がオーディションで外に出るときに使った階段からは、光が漏れていました。地下二階はそんなに明るいのですか?」

    時間短縮の為、ディオは階段を登りきる前に外に出た。階段の先が分からないのも、もっともだろう。

    咲夜「いいえ、あの階段は地下一階の食料庫に繋がっていたの。わざわざ地下二階を出入りするのは面倒だし。」

    ディオ「(だろうな。)」

    咲夜「地下五階は言った通り金庫。地上四階からしか行けないから案外遠いわよ。」

    ディオ「何故地下四階がないのですか?」

    咲夜「うーん。どうも、紅魔館を建てさせたパチュリー様のご先祖様が相当な『四』嫌いだったとか。」

    『四』。
    日本では、ヨーロッパで言う『13』のような扱いだが、ここまで毛嫌いする理由は誰もが知っているだろう。

    元々古典落語の演目の一つ、『しの字嫌い』から始まったのがだが、今日では『四』を見るだけで『死』をイメージしない人も少ない。

    ディオ「(じゃあ何故地上『四』階も建てさせたんだ……?イヤ、後から増築したのかもしれんな。)」

    咲夜「で、さっきも言ったけど、地下五階は地上四階からしか行けないわ。同じように、地上一階から図書館、食料庫。食料庫から地下三階。地下二階は食料庫から行けるけど、ぶっちゃけ地上一階からも行けるわ。」

    ディオ「つまり、最後の『地下九十九階』はどこから行くか。」

    咲夜「話が早くて助かるわ。そう、『地下九十九階』は図書館から行くの。図書館にはパ、レミリア様か司書がいるから隠れて行く事はムリ。元々そこはお嬢様とレミリア様、私しか行けないから無駄だと思うけど、何重に魔法や結界を掛けているわ。」

    ディオ「(また誤魔化したな。)」

    ディオ「そこまでして一体何があるんですか?金庫より大事なものなんですか?」

    咲夜「そこには……」

    しかしここで咲夜は重大な事に気づく。

    咲夜「(あっ、妹様の立場どうしよ。素直にレミリア様、じゃなくてパチュリー様の妹って言えば良いんだろうけど本当のレミリア様に似てるから……誤魔化すか。)」

    咲夜はそこでいつも身に付けている懐中時計を見て、

    咲夜「あら、もうこんな時間。この話は後ね。五十三分だわ。」

    ディオ「(何故そこで誤魔化す。何か余程大事なものがあるのか?石仮面じゃあるまいな。)」

    咲夜「食堂っていうよりダイニングルームの方が分かりやすいわね。ダイニングルームに行くわよ。」

    ディオ「分かりました。」
  37. 44 : : 2016/09/18(日) 20:47:29
    ディオ「ところで、メイド長。」

    咲夜「その前に、そのメイド長って呼ぶのやめてくれるかしら。」

    ディオ「では何と?十六夜様?メイド長殿?ミス・十六夜?」

    咲夜「(あー無茶苦茶ウゼー。)」

    咲夜「……さん付けで良いわよ」

    ディオ「十六夜さんですか?それとも咲夜さんですか?」

    咲夜「(あークッソウゼー。)」

    咲夜「…………どっちでもいいけど名前呼びは気持ち悪いわ。」

    ディオ「そうですか、十六夜さん。早く行こうと急かしたのに足取りが遅いようですが?」

    咲夜「(あー超ウゼー。ていうか本当にウザい。なんて言うのかしら。そう、早押しゲームで確実に自分が先に押したのに選ばれなかったのが何度もあった時。あれの三倍はウザいわ。)」

    咲夜「………………気のせいでしょ。そんな道端のアリが進んでいる先の事を考えるくらいどうでもいい事を考えるなら、その威圧感を何とかしてちょうだい。」

    咲夜に言われ、頭にクエスチョンマークをつけるディオだが、とりあえず周りを見渡せば、離れた所に巡回していたメイド妖精を視界に入れる。

    ディオと目が合ったらしいメイド妖精は、狼に見つかった兎のごとく、スタコラと逃げていく。

    ディオ「……分かりました、気を付けます。」













    麻耶「(冗談じゃない!冗談じゃない!なんなのあいつ!)」

    巡回していたメイド妖精、というのは凛達と別れた麻耶だったのである。
    彼女は朝食の時間まで館の巡回を頼まれており、凛達と別れた後もいい子ぶるように巡回をし、今はディオ達のようにダイニングルームに向かっている。

    しかし、一度見回った事もあるが、こんな朝っぱらから紅魔館に侵入する奴なんている筈がないと、散歩気分で向かっていれば、自分のいる階、つまり三階から大きな何かを感じる。

    見れば、執事服を着こなしている金髪の大男がいる。そこまではいい。しかし、全身から黒いドロドロとしたもやのような何かが見える。

    あれはそう、麻耶がメイドに就任するときに受けた、自分の頭にリンゴを乗せ、それを数十m先からメイド長自らナイフを投げられ、リンゴに当てるというテスト。

    今では咲夜の実力を近くで見続けているから恐怖しないものの、当時は復活するとは言え、自分に当たるんじゃないのかという恐怖の肉と、咲夜からの威圧の塩でガクガク震えていたものである。

    あの大きな何かはもはや岩塩の何倍だろうか。それすら考えず、麻耶は逃げた。近くに何かいたようだが、そんなことはどうでもいいと逃げる。

    麻耶「ハァ……ハァ……も、もう大丈夫な筈か

    メイド妖精「麻耶さん?」

    麻耶「うわっ!?…………ああ、な、なになに~、どうかした?」

    麻耶「(何であんなのがこんな所に……イヤ、それはいい。もう二度と会いたくない。気絶しそうだよ。)」

    その場にいたメイド妖精に話しかけられ、驚きながらもいつも通りを保とうとする。

    しかし、まさか彼女も思わないだろう。その恐怖の対象、ディオと五分も経たぬ内に会う事など……。
  38. 45 : : 2016/09/29(木) 16:50:07
    場面は変わり、ダイニングルーム。

    ダイニングルームと言うには広すぎて食堂に近いが、そこにはメイド妖精達が集まって来ている。

    メイド妖精達の数ある仕事の中で最も過酷なもの。それこそが料理である。
    自分達の分だけとは言え、なにせ128人なのだ。朝食、昼食、夕食と、それぞれ16人が8組でローテーションしていく。つまり一人あたり八人分作るのだ。

    その中でも楽なのは朝食。だいたいのメニューがトーストやサラダ、コーヒーだったりと、作るのが比較的簡単なものばかりだからである。
    紅魔館は洋館だが、たまに和食を取り入れる時もある。その為、味噌汁作りが苦手というメイド妖精も勿論いる。

    凛「…………」

    亜依「あらあら、どうしたのですか?貴方らしくないですわね。」

    凛「うん、いや、アレ見てよ。」

    亜依「あらあら、アレとはなんですの?」

    アレ、と凛の視線の先には麻耶がいる。麻耶はいつも凛を弄る為に凛の近くにいる。正義感の強い凛だが、一度夕食のトンカツのソースを醤油にすり替えられた時は殺意を覚えた程。

    そんな下らない、しかし質の悪いイタズラをする麻耶が今日は他の所にいる。
    イヤ、それはいい。珍しいがそういうこともあるからだ。
    だが、今の麻耶は何か抜き取られたように消沈している。いつものウザったい笑顔もなく、目の焦点もあっていない。

    亜依「あらあら、確かにおかしいですわね。」

    凛「でしょ?なんかあったのかな。」

    とここで時刻は七時を迎える。そしてその七時ピッタリで咲夜が入ってくる。
    その瞬間雑談していたり手遊びをしていたりしたメイド妖精達が一斉に席を立つ。凄まじい団結力である。

    咲夜「おはよう、貴方達。」

    メイド妖精「「「おはようございます。」」」

    咲夜「今日から新たな従者がここにくるわ。入りなさい。」

    咲夜が言った瞬間、静かにざわめきが広がった。声こそ出ていないが、確かにざわめいたのである。

    亜依「(あらあら、凛が言ってたのはこれでしたのね。)」

    ドアが開けられ、そこには引き締まった身体で金髪の美形、胸元の黒いリボンが特徴的な燕尾服を着た男がいた。
    勿論ディオである。

    見ているだけで目が奪われるような、いや、実際に奪われた綺麗な歩き方でディオは進む。
    1m程歩くとそこで止まり、話し始める。

    ディオ「おはようございます。これからここ紅魔館で執事を勤めさせて頂くディオ・ブランドーです。気軽にディオと読んでくださると助かります。力仕事が必要な時は遠慮なく私を読んでください。これから宜しくお願い致します。」

    ペコリと頭を下げる。そしてニコリと笑顔を作る。

    メイド妖精「「「…………」」」

    沈黙。そして「ヒッ」という恐怖の声を欠き消すように歓声が響く。

    メイド妖精「キャアアアァァァァァァアア!!イケメン!イケメンよ!」

    メイド妖精「なんて礼儀正しい人なの!」

    メイド妖精「頭も体格も良くてイケメンだなんて超優良物件じゃない!」

    凛「(やっぱり……でも、すごい人だなぁ。)」

    亜依「(あらあら、なんてカッコいい人ですの……凛さんがああなるのも不思議ではありませんわ。)」

    麻耶「(な……なんでコイツがいるのッ!?ああ、ダメッ!コイツは悪……魔…………)」

    メイド妖精「ギャアアアア!!麻耶さんが死んだーーッ!?」

    ディオ「(こんなカス共にこのディオが頭を下げるだと……!)」

    ディオの登場により、静かだったダイニングルームはまるでレディー・ガガのライブのように騒がしくなった。ディオの心は怒りと屈辱で染まっている。
    当然咲夜だってこうなる事は分かっていた。

    咲夜「貴方達ッ!!」

    メイド妖精「「「はっ、はい!!すみませんでしたッ!!」」」

    咲夜「……まあ良いわ。ディオに夢中でさぼらない事。良いわね?」

    メイド妖精「「「はいっ!!大丈夫です!!」」」

    咲夜「はい、解散。」

    メイド妖精「「「失礼しますッ!!」」」

    咲夜が解散を告げると、各々が歩き、奥へ行く。先に作った朝食がそこにあるからである。

    咲夜「行くわよ、ディオ。」

    ディオ「承知しました。」

    二人は外に出る。いつしか後ろからはまたメイド妖精達の騒ぎ声が聞こえる。

    咲夜「次は美鈴の所に行くわ。」

    ディオ「承知しました。ところで……十六夜さん。」

    咲夜「何かしら。」

    ディオ「私は人間です。妖精や妖怪と違って食べないと生きていけません。」

    咲夜「貴方の分は後よ。我満という言葉を知ってから出直しなさい。」
  39. 47 : : 2016/10/01(土) 23:45:06
    咲夜「ところで、ディオ。」

    館から外に出ると突然咲夜が聞き出してきた。

    ディオ「なんでしょうか。」

    咲夜「問1。美鈴は何をしている?」

    ディオ「(門番として働いているんじゃあないのか。イヤ、昨日アイツは寝ていた。つまり……)」

    ディオ「……答1。寝ている。」

    咲夜「正解。じゃあ問2。ここから一歩も動かずナイフを使って美鈴に当てる方法は?」

    ディオ「(じゃあとはなんだじゃあとは。)」

    ディオ「答2。投げる。」

    咲夜「正解。問3。貴方はそれができる?」

    ディオ「答3。できる。ライターで紙を燃やす程簡単にできる。」

    咲夜「やりなさい。」

    急に始まった質問だが、結果としてディオが美鈴にナイフを投げて当てるということ。
    咲夜が自分の手に持った投げナイフの柄を向ける。ディオは迷う事なくそれを受け取り、構える。

    ディオ「(昨日門番は門の右扉のそばに寄りかかっていたな。……風は左から微風。距離は長く見積もって13m。………………今だッ!)」

    ディオ「フウンッ!」

    ディオの投げたナイフは揺れる事なく一直線に空を進み、門を越え、そして、

    「ギャアァァァア!!」

    刺さる。

    咲夜「PERFECT.(完璧よ。)」

    ディオ「IT'S HONOR.(光栄です。)」

    まるで茶番劇のように微笑み合う彼女達だが、今なお門番は痛がっている。

    門を開ければ、頭にナイフが刺さった美鈴が悶絶している。刺さりどころが悪かったのだろう、血がドクドクと流れている。

    美鈴「咲夜さん!!何て事してくれたんですか!?」

    咲夜「やったのはディオよ。」

    美鈴「咲……え!?ディオさんがですか!?いや、貴方も貴方で何やっちゃったんですか!?

    ディオ「すみません、十六夜さんに言われ、仕方なく。」

    美鈴「やっぱり咲夜さんじゃないですかぁ~~ッ!」

    咲夜「寝てるのが悪いのよ。」

    怒り騒ぐ美鈴だが、自業自得である。彼女が寝ていなければ良かったのだ。
    そもそも咲夜が時間を止めて美鈴の様子を先に見にきた時点で詰んでいたのである。

    咲夜「……はぁ、ホラ、朝ごはんよ。」

    咲夜がいつの間にか持っていたバスケットを美鈴のそばに置く。

    美鈴「ふぉぉ……あ、ありがとうございます。」

    咲夜「次、行くわよ。」

    ディオ「承知しました。」
  40. 48 : : 2016/10/16(日) 23:42:55
    次に行くのはパチュリー、いや、レミリアのいる大図書館。
    ディオ自身、地下牢を除けば地下に行くのは初めてである。

    咲夜「ここが図書館よ。」

    階段を歩き初めて三十秒程経つと、そこには大きい、ディオですら見上げる程のとても大きい扉がある。

    咲夜がノックをし、「失礼します、レミリア様。」と扉越しに伝え、中に入る。ディオもそれに続き、ディオが入ると扉が閉まる。

    その図書館の全貌は正に圧巻。圧巻である。それはディオの目を見開かせる程だ。

    至るところに本棚があり、もう本棚が壁なんじゃないのかと思うところもある。本棚の本も、年季が入った物や新品同然の物もあり、その全てが本棚に収まっている。

    その本棚の間をスタスタと歩く咲夜。いつの間にか配膳台を持ってきている。ティーポットやティーカップに、クッキーもある。

    ディオ「(まだ朝だろう。レミリアとかいう奴の朝はこうなのか?)」

    咲夜「レミリア様はね、食べたり飲んだりしなくてもいいから食事を必要とし
    ないのよ。その代わりに、読書や研究の休憩として紅茶を用意しているの。」

    ディオの疑問に応えるように咲夜が言う。

    そうしている内にディオ達は目的地に着く。そこにはレミリアとなりディオを騙っているパチュリーが本を読んでいる。シンプルな小さい丸眼鏡が良く似合っている。

    咲夜「おはようございます、レミリア様。」

    ディオ「おはようございます。」

    ディオが咲夜に続いて言う。パチュリーは本にアヤメを使った押し花の栞を挟み、二人に向く。

    パチュリー「ええ、おはよう、咲夜。それにディオも。服、似合ってるわよ。」

    ディオ「お褒め頂き恐縮です。」

    咲夜「ただいま紅茶をお淹れします。」

    パチュリー「待って咲夜。紅茶はディオに淹れさせるわ。」

    咲夜「分かりました。じゃあディオ、頼むわよ。」

    ディオを退けて勝手に決めている二人。話を聞きながらイライラしているディオだが、冷静に考える。

    紅茶の淹れ方。ディオも知識としては知っている。しかしこういったものは使用人にやらせるものなので一度も入れた事はない。
    だが、今ではそのディオが使用人。できるできないじゃなく、『やる』しかないのだが、ディオにはどうしても解せない事があった。

    ディオ「……紅茶を淹れるのにあたって使う茶葉や水、何より火はどうするのですか。」

    疑問文になっていない辺り、ディオも察している。茶葉も水も咲夜が瞬時に持ってこれるし、火については魔法か何かで補えるだろうと。
    ディオは魔法なんて非現実で非常識なものは見たことはないが、石仮面があるのだ。それくらいできない訳がない。

    咲夜「大丈夫、抜かりはないわ。貴方が欲しい物なら言ってくれるなら直ぐに持ってくるわよ。火は無理だけど、お湯であれば持ってこれるわ。なんなら、沸騰直後でもいいわよ。」

    ディオ「(無駄に手際がいいな。)」

    ディオ「…………分かりました。レミリア様。僭越ながら、私が紅茶をお淹れします。

    咲夜「ついでに私の分も淹れて置いて。」

    パチュリー「期待してるわよ。」
  41. 49 : : 2016/10/17(月) 06:17:48






    ディオ「まず、沸騰し始めたお湯を少しと、それを捨てる容器をください。」

    咲夜「分かったわ。」

    配膳台の上に現れるお湯と容器。
    ディオはまずそのお湯をティーポットに入れ、十秒程するとそのお湯を二つのティーカップに均等に注いでいく。
    これは紅茶の成分を充分に抽出するために、あらかじめポットとカップを温めているのだ。

    ディオ「次に、茶葉と……そうですね、だいたい95℃くらいのお湯をください。」

    続いて茶葉をティーポットに入れ、__適当に入れたように見えるが、その量は適切である__次に来たお湯を茶葉の入ったティーポットに注ぐ。
    この時にやる動作が、マンガなどでよく見る高い所からお湯を注ぐアレだ。叩きつけるようにするのが良いのだが、これが中々難しく、素人では飛び散ってしまう。

    がしかし、ディオは素人であるのにかかわらず、それを優にやって見せた。

    ディオ「(老執事がやっていたのをマネしたが、案外できるものだ。)」

    お湯を注ぎ終わると蓋をして蒸らす。
    すると、ティーポットの中の茶葉が舞うようにお湯の中を動き出す。これを『ジャンピング』という。これが起きないと美味しく紅茶を入れられない。
    これが起きなかった場合の原因として、お湯の温度が低い事が挙げられる。ディオが頼んだ95℃がベストなのだ。

    そうして一分程経った頃。ディオはカップに入れていたお湯を最初に用意してもらった容器に捨てる。
    そこからさらに数十秒。ディオは咲夜にスプーンと茶漉しを用意してもらい、スプーンでポットの中を軽く一混ぜ。
    そこから茶漉しで茶殻をこしながら、カップに紅茶を注ぎ始める。

    しかし、適当に一杯ずつ淹れるのではない。片方のカップに1/3程淹れると、もう片方にも同じように淹れる。次にまた片方のカップに少し淹れると、同じようにもう片方のカップに紅茶を淹れる、という風に紅茶を少しずつ淹れながら、両方の濃さを同じにするのだ。

    そして、両方にポットの紅茶を注ぎ終わっても、最後の一滴まで淹れるのが定石。この一滴を『ベスト・ドロップ』といい、これが紅茶のエキスを沢山含んでいる。
    その為、例え紅茶がカップから溢れそうになっていても、この『ベスト・ドロップ』を必ず淹れなければ、真の紅茶とは言えないのだ。

    こうして、ここまでして紅茶の完成だ。後は紅茶を小皿に置き、お茶請けだろうクッキーを添えてパチュリーに出す。

    ディオ「紅茶をお淹れしました、どうぞ。あと、咲夜さんもどうぞ。」





    パチュリ「あら、美味しいじゃない。」

    咲夜「本当ね。紅茶を淹れた事あるの?」

    ディオ「いえ、知識としては知っていましたが、実際に淹れたのは初めてです。」

    パチュリー「へえ、初めてなら上出来よ。まあ、強いて言うなら、咲夜の紅茶より茶葉の味が強いわね。それでも美味しいわ。」

    ディオ「感謝の数々、ありがとうございます。」

    咲夜「そろそろ行くわよ、ディオ。」

    パチュリー「仕事、頑張りなさい。」

    ディオ「はい、お気遣いありがとうございます。それでは失礼します。」

    咲夜「失礼します、レミリア様。」

    いつの間にか、配膳台は消えていた。
  42. 50 : : 2016/11/03(木) 22:33:50
    メイド妖精「おはようございます、ディオさん!」

    ディオ「ああ、おはよう。」



    ディオ「ところで、今は何時でしょうか。」

    咲夜「えーと……今は七時二十八分みたいね。」

    懐中時計を取り出しながら咲夜が言う。色んな事があったように見えたが、三十分程度しか経っていなかったのだ。

    ちなみに今は階段を上がっている。ちょうど次で三階だ。

    ここまでで、朝食を終えて見回りをしていたメイド妖精達に見つかる度、キラキラと目を輝かせる妖精や、先程のように挨拶をしてくる妖精。自信がないのか、隣の妖精とひそひそと話をする妖精もいる。
    分かるだろうが、ウザったい。

    ディオ「レミリア様の朝食までは何をするのでしょう?」

    咲夜「自室待機ね。時間になったら呼ぶから、部屋でじっとしててちょうだい。」

    ディオ「承知しました。では、これで。」

    咲夜は見落としていた。『完璧で瀟洒な従者』という二つ名を持っている彼女が、あることを見落としてしまっていた。


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