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このSSは性描写やグロテスクな表現を含みます。

この作品はオリジナルキャラクターを含みます。

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東京喰種~死神を継ぐ者~

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  1. 1 : : 2016/01/31(日) 15:23:19



    http://www.ssnote.net/groups/1240/archives/34

    よくわかんないことがあったら上のを見てください。あ、感想とかも。




    群集に紛れ、人の肉を喰らう。
    人の姿をしながら、人とは異なる存在──喰種。
    復讐に燃える"死神継ぎ(セカンド・デスサイズ)"と呼ばれた一人の捜査官の物語。


    二重人格と"殺戮衝動"に悩まされる若き天才捜査官詠原零(うたはられい)は、有馬、鈴屋以来の二十二歳の若さで特等捜査官となった。


    そんな彼に課せられた使命は、有馬貴将名誉特等捜査官以上の働きを行うこと。
    零は有馬貴将の後継ぎとして奮闘するが、殺戮衝動が暴走して────?


    一方、密かに計画が進むCCGによる"東京喰種戦争"。
    東京に残存している喰種を一匹残らず駆逐する大規模作戦"戦争"が発動されようとしていた。


    喰種と捜査官。
    決して相成れない双方が交わる時。
    悲劇の連鎖と悲しみの螺旋を描く"ジョーカー"の思想はさらに加速する────!


    ってわけで、始まります!
  2. 2 : : 2016/01/31(日) 16:28:47


    「……なんだ、これ」


    部下に喰い場が荒らされているとの報告を受け、急いで来てはみたものの、目の前に広がる血の池地獄が視界に入った瞬間、これまで数多くの死を目にしてきた彼でさえ目を背けたくなるような光景が、そこにはあった。


    「ひッ、ひぎぃあああぃぁあぉぁあッッ」


    ボチャ、と。まるで巨大な芋虫が引きちぎられるような音がして、間歇泉のような凄まじい勢いで血液が空中に飛散する。
    グチャ、と。腐敗した肉を踏み潰したような音がして、血液によって真っ赤に染まった内臓と粉々に砕けた骨が中を舞う。
    あのミミズみたいな長い、妙に生々しいものは小腸か。


    「あぁああひぃッッ!? しししぃぃしし死神ぃぃぃ!!!」


    旋風のように、まるで息をするかのように殺戮を繰り返す、返り血で赤く染まった白鳩の姿がそこにはあった。


    真っ白な、雪のようなセミロングの髪。
    夜空のような深い、吸い込まれそうな黒い瞳。
    普通の白鳩とは違う、漆黒のロングコートに、漆黒のアタッシュケース。もう片方は、雷撃を纏った剣。


    吐き気がした。


    胃酸が口内にせり上がってきて、鼻が苦しい。
    先ほどアジトで喰った人間を丸ごと吐き出してしまいそうな気がした。
    臭い酸味を帯びた液体が駆け上がってくる。
    なんとか胃袋へと押し込み、吐瀉は避ける。


    が。


    一歩踏み出した瞬間、まるで泥沼にハマったかのような錯覚を覚えた。
    いや、それは錯覚ではなかった。


    「ッ!?」


    異臭を放つ生々しいモノが、辺り一帯に敷き詰められている。
    辛うじて誰かの内臓だろうと判断できる。
    一体どれだけの数殺せば死体の内臓で地層のようなものができるのか。


    足を踏み入れる隙間もない。
    よくよく地面を見てみると、もはや生前の原型をとどめている死体は一つとしてなかった。


    いつの間にか悲鳴は消えていて、足下に広がる地獄絵図とは無縁の安らかな静寂が訪れていた。
    それも、束の間の安らぎ。


    死神が、血塗られた死神が。
    まるでお気に入りのオモチャを見つけたような顔をして、一歩、また一歩と近づいてくる。
    踏みしめる度にグチャ、グチョ、と耳を塞ぎたくなるような生々しい音が響く。


    「はやく……逃げないと…………」


    はやくこの場から立ち去れ!
    急げはやく!
    しかし、脳からの司令は、身体が受け入れなかった。


    心と身体が完全に乖離してしまったかのように思えた。いや、すでに乖離してしまったのだ。


    目の前の死神を美しいと思ってしまった時点で。
    目の前の絶望を美しいと思ってしまった時点で。
    目の前から迫り来る不可避の死を美しいと思ってしまった時点で。


    「ケタケタケタ……もーっといっぱい殺そう。いいと思う。もっと、もっと、もっともっともっともっともっともっともっともーーーーっといっぱい」


    飛びっきり笑顔で。


    「殺したい」


    急に視界が高くなった。
    あの美しい死神がとても小さく見える。
    死神の正面には、首から上が無い醜い身体があった。
    あんな風にはなりたくないなと思って眺めていると、再び視界は元の高さに。
    死神の笑顔を見た瞬間。


    自分の首と身体は乖離してしまったんだと、ようやく気づいた。


    「セ……カンド………デスサイズ………!」


    そうして、意識は途切れ、もう二度と戻れないと感じた。













    #01「継者」


  3. 3 : : 2016/01/31(日) 21:54:03


    「───以上が、先日の喰種集団"シェル"の討伐記録です、和修局長」


    穏やかな笑みを浮かべ、まるで孫を見るような目で零を見る和修吉時。
    初めて合った頃に比べると、シワが少し多くなった気がする。
    相変わらず温厚な性格で、気さくで話しかけやすい。


    孫の彼女も少しは見習って欲しいものだが。
    無理な相談か。


    一通り報告書を読み終えた吉時は、テーブルに肘を立て手を組んだ。


    「さすが、死神を継ぐ捜査官だな」


    「そんな……僕なんかが有馬名誉特等殿の後継ぎだなんて。恐れ多いですよ」


    「だが、貴将は君にナルカミを託した。そして"俺を超える力を持っている"と言っていただろう」


    「まあ、そうですけど」


    吉時は再び報告書に目を通す。


    「まさか、たった一人でSレート喰種率いる喰種集団を片してしまうなんてな。貴将や什造以来の驚きだよ。それに、綺麗に解体してくれて」


    「あはー、その件に関しては……」


    言葉を紡ごうとしたが、「失礼します」という声によってかき消された。


    「お爺様、報告書をお持ちしました──って、な、なんでアンタがいるのよッ」


    「僕も報告書を提出しに来たんだよ……」


    和修綺凛(わしゅうきりん)。それが彼女の名前だ。
    零と同じく、二十二歳の若さで特等捜査官に登りつめた天才。
    和修家開闢以来の逸材と謡われている。


    青みがかった黒髪を後ろで纏めた、どこからどうみてもお嬢様といった風格を漂わせている。
    朱色の瞳には強い意志が宿っており、何かと零のことを悪く言う。
    ライバル意識というのだろうか。


    現在、この二人が"有馬ロスト"の穴を埋めるCCGの切り札であることは間違いない。
  4. 4 : : 2016/02/01(月) 23:18:11


    五年前、喰種集団"アオギリ"殲滅作戦の際にCCGは多くの捜査官を喪った。
    隻眼の梟率いるアオギリ、ピエロマスク、CCGの三つ巴の戦闘が繰り広げられ、かつてない死闘が繰り広げられられた。


    前線で戦った上級捜査官のほぼすべてが死亡を確認されており、その中には有馬貴将もいた。


    多大な犠牲を払った殲滅作戦は成功したが、失ったものが多すぎた。
    CCGの平均年齢は一気に若返り、歴戦の捜査官の喪失、新たな巨大喰種集団の登場が折り重なり、深刻な人手不足となった。


    若手育成に力を注ぐCCGが目をつけたのが詠原零と和修綺凛だ。


    「ちょっとそれ見せてみなさい」


    「あ、おい」


    デスクの上に置いてあった零の報告書をひったくり、しばらくの間眺める。
    特に驚いた様子を見せず、とんとんと端を揃えて元あった位置へと投げた。


    「アンタにしては上々ね。精進しなさい、詠原特等殿」


    言うやいなや、自身の報告書をデスクに叩きつけてズケズケと出て行ってしまった。
    ほんとなんだろう。


    零が首を傾げていると、吉時が笑い、


    「零に駆逐数で負けてショックだったんだろう。とは言っても、綺凛も喰種集団のアジトに単身で突っ込んでいって全滅させたからな。まさか、こんな馬鹿げた報告書が同時に提出されるなんて。CCGの未来は安心だな」


    「……和修特等殿が駆逐したSレートは二体ですか、そうですか」


    「いいライバル関係だ。互いを磨き合い、さらなる高みへ登ってみせろ、零」


  5. 5 : : 2016/02/07(日) 16:36:00


    ###



    真っ赤に燃ゆる夕陽がさらに西に傾いた。
    零は自身のパートナーである瑞樹葉出海(みずきばいずみ)二等捜査官と共に、行き着けの喫茶店で珈琲を飲んでいた。


    「……」


    「あの、詠原くん?」


    「……いや、なに。こうして瑞樹葉と二人きりで過ごすのも悪くないなって」


    「それ、わたしのこと口説いてるの?」


    「なんでそうなるんだよ?」


    「だよね、詠原くんってそういう人だもんね」


    「なんだ、それ……」


    彼女の言ってることが理解できない。
    「そんなところが、だよ」と言われたが、いまいちわからない。


    「わぁ、美味しいね、このレアチーズケーキ」


    「瑞樹葉ぁ、注文取りすぎだろ……」


    「え~、詠原くん特等捜査官なんだからわたしより給料いいでしょ?」


    「上司のポケットマネーをあたかも自分のもののように遣うんじゃないッ」


    「は~い。あ、ブレンドコーヒーおかわりで」


    「お前な……」


    洒落たテーブルの上に積み上げられた皿を見る。少なくとも、コーヒー四杯とケーキ六個は軽く平らげている。
    今もなお皿と口を往復するフォークは、しばらく止まりそうにない。


    瑞樹葉出海は昔からそうだった。
    マイペースで楽観的で傍観主義で、自分から積極的に物事に触れようとはしない。
    そのくせ才能はあるし、以外と(というかかなり)美人だ。
    あまり特徴のないボブカットだが、まだ可愛さを残した顔に綺麗さが混ざったような顔をしている。
    アカデミー時代からそこそこ告白されていたと聞いたが、彼氏がいるなんて噂は聞いたことない。


    「瑞樹葉ってさ」


    「ん、なに?」


    「可愛いな」


    「……それ、わたしのこと本気で口説いてるっぽい?」


    「え? あ、いやッ、そういうつもりじゃなかったんだ。その、もうすぐ大規模作戦があるし、普段言えないこと言っとかないと機会を逃しちゃうかもって思って……」


    「……そっか」


    近々、十三区の超高層ビル"バビロン"を本拠地とする喰種集団"ガネーシャ"を掃討する目的で行われる大規模作戦。
    喰種集団の金づるを一気に叩き、組織力を低下させる狙いらしい。


    「……ねえ、詠原くん」


    「なに?」


    「わたし、詠原くんみたいに強くなりたいよ」


    珍しく、彼女らしからぬ顔だった。
    不安に押しつぶされそうな、今にも泣き出しそうな。そんな顔をしていた。
  6. 6 : : 2016/02/07(日) 17:19:48


    「今回の作戦の参加条件……遺書の提出だった」


    出水は大規模作戦への参加が初めてだから、不安なのかもしれない。
    死の恐怖に脅えているのかもしれない。


    「……瑞樹葉は書いたのか?」


    「うん。両親にね、今までありがとう、さよならって。それくらいしか思いつかなくて」


    「……そっか」


    「詠原くんはなんて書いたの?」


    「僕は…………空白だよ。何も書いてない」


    不安と恐怖に支配されていた出水の表情が、一瞬にして驚きに変わり、微笑に変わった。


    「なにそれ。あはは」


    「笑うなよ。わりと本気で考えたんだから」


    これは、僕なりの。僕なりの意思表明なんだ。


    「僕に二重人格と例の発作があることは知ってるよね。それに負けないように、僕自身が塗りつぶされないようにって意味」


    「それ、遺書にする意味ないじゃん」


    「だって、別に遺書を読んでくれる人なんていないし。それに、死ぬつもりも、死なせるつもりもないからね」


    少しでも彼女が安心してくれれば。
    そう思った。


    「そっか。ありがとね、詠原くん。わたしのこと励ましてくれてる?」


    「まぁ、そんなところ。パートナーに死なれちゃ困るしな」


    零は正直に気持ちを伝えるのが苦手だ。
    それが悪口とかならいいのだが、感謝とか誉めたりとか、そういうのは嫌い。恥ずかしいから。


    「こう見えても僕、死神継ぎ(セカンド・デスサイズ)だよ? 僕が守るさ。S3班は誰も死なせない」


    「セカンド・デスサイズってなんだかオタクぽいよね~。それさえなかったら、多分キュンキュンして詠原くんのこと好きになってたかも」


    「冗談はいい。さっさと食べきれ」

  7. 7 : : 2016/02/07(日) 20:21:45


    らしくないセリフを言って赤面した顔を見せないようにそっぽを向く零。
    先ほどの泣きそうな顔はすでに忘却の彼方。
    出海は一変して、悪戯っぽい表情を浮かべた。


    「慣れないこと言って恥ずかしいの?」


    よもや出海がこんなこと言うなんて思っていなかったのか、反撃のためのカードを切ってなかった零は面食らい、真っ白な髪と肌のため、余計に赤く火照ったように映る頬が、その全てを物語っていた。


    「それとも、本気でわたしのこと口説いてるとか……なんてね」


    もてあそばれたような気がしてならない(実際もてあそばれた)零は返す言葉も無く、なんとか誤魔化そうと冷めたコーヒーをすする。


    「……あのさ、瑞樹葉」


    「新手の口説き方でも考えた?」


    「そうじゃなくてさ」


    さっき飲み干した冷え切ったコーヒーのおかげか。息苦しいほど火照っていた体温はクールダウンしていた。
    出海に何を言われようと切り返せる手札を揃えた──つもり。


    「さっき言ったよな。僕みたいに強くなりたいって」


    「あ~うん、言ったね。あ、もしかして僕は全然強くないよって言うつもり?」


    「正解」


    苦笑する零。


    「なあ、瑞樹葉。強さの定義って、なんだと思う?」


    突然な質問に困惑した表情を浮かべるが、すぐさま答える。


    「カテゴリーによって多少の誤差はあるだろうけど……喰種捜査官ならより強い喰種をより多く一人で殺せるのが強さの定義なんじゃないかなぁ?」


    「だよな。僕もそう思う。一発目で正解が飛び出て言いたいことの半分がなくなっちゃった」


    「いや、大体の人がそう答えると思うよ。時々……というか常々思うけど、詠原くんって意外にポンコツだよね。主に頭が」


    「あはー、ちょっとヒドくない?」


    「別に~」


    「まあいい。ここからは僕の持論なんだけど」


  8. 8 : : 2016/02/07(日) 20:46:54


    強さっていうのは、どれだけ残酷になれるかだと思うんだ。
    生きとし生ける者同士が命を奪い合い、狡猾と虚と死骸が入り乱れたこの間違った世界で、この狂った世界で。
    優しさと残酷さが戦えば、どちらが勝つかなんて目に見えている。


    いや、その二つを同じ天秤にかけるのすら間違っているのかもしれない。


    この世界で、優しさなんて何の意味もない。
    優しさなんて、人間の善意という名の偽りの虚が作り出した空想のクソ産物でしかない。
    人間の本質は冷酷で残酷で残忍で狡猾な、輝く欲望にまみれた闇なのだから。


    どれだけ自分の本質(残酷さ)に向き合えるか。
    どれだけ自分の正義(残酷さ)を信じれるか。
    どれだけ自分の強さ(残酷さ)を受け入れられるか。


    命を奪う行為は等しく悪だ。
    生き物は生まれた瞬間から他の命をすすりながら生きる。
    すなわち、生存とは悪そのものなのだ。
    人間はそれに気づけない。
    それに気づいてしまったら、戦えなくなってしまう。


    自分の正義を振りかざすクインケですら、狡猾からできあがった産物なのだから。


    強さを求めるなら、世界に残酷であれ。


    「……いまいちわからないけど、一つだけ……わかるよ」


    「なにが?」


    「詠原くんの殺戮衝動ともう一つの人格って、世界に残酷になったときなんだね、って」


    「…………かもな」


    「それじゃあ、わたしの持論を展開するね」


    「……は?」


    「"誰かを救うのはあなたの言う強さ(残酷さ)じゃない。あなたの言う弱さ(優しさ)だよ"」


    「…………!」


    「わたしは、あなたの"優しさ"に救われたんだよ────」


    それこそ、彼女らしからなかった。
    瑞樹葉出海らしからぬセリフだった。
    まるでこれは、そんなの、さながら少年漫画のメインヒロインそのもの──。


    「──零くん」


    この狂った世界には場違いな、あまりにも美しすぎるその笑顔は。
    零の視線と息と意識を一瞬にしてかっさらった。
  9. 9 : : 2016/02/09(火) 20:33:16



    ###



    今回のバビロン襲撃戦は、超高層ビル"バビロン"を拠点とする喰種集団"ガネーシャ"の掃討、及び他の喰種集団への金銭の提供を封鎖することにある。


    対策Ⅱ課の長門清正(ながときよまさ)特等捜査官指揮の下、詠原零率いるS3班を中心とした第一次部隊がビルの一階から突入。施設内に蔓延る喰種を討伐しながら屋上を目指す。
    頃合いになったら、ヘリコプターで上空に待機していた和修綺凛率いるS1班が空への退路を塞ぎながら屋上に着地。
    ビルの上層部へ逃げてきた喰種を討伐する。
    目的はSSレート喰種"金獅子"の殺害。


    戦闘では喰種集団"ジョーカー"が護衛に回り、混戦が予想される。


    ──詠原くん、一つ、約束してね。


    あれから一週間後。
    作戦開始までもう一分もないだろう。
    眼前のバビロンを見上げ、屋上まで階段を使って上がらなければならないのかと思うと、気が気でない。


    「……時間だな」


    『……作戦開始』


    長門特等の作戦開始命令。
    大規模作戦バビロン襲撃が発動された。


    ────施設内の喰種を全て殲滅せよ。


  10. 10 : : 2016/02/10(水) 12:35:29


    #02「交刀」





    玄関の巨大なガラス扉をクインケ[ナルカミ]の雷撃でぶっ壊し、バビロンへの侵入に成功。
    しかし待ち構えていたのは、既に戦闘態勢に入っていたガネーシャとその護衛に付いたジョーカー。
    奇襲作戦が早くも混戦状態となってしまった。


    「瑞樹葉ァ右ッ、僕に続いて」


    「はい…………ッ!」


    出海がクインケ[尾赫/A/フラット]で右方向より迫る喰種に一撃を入れる。
    三日月のような刃を持つ槍のクインケ。
    切れ味はなかなか鋭い。
    返り血を浴びて嫌そうな顔をするが、零を追うようにして後に続く。


    零は右手でナルカミを振るいながら、上への突破口を開く。
    左手には未開のクインケケースが握られており、余裕の色が窺える。


    『詠原特等と瑞樹葉二等はそのまま階段を登ってフロア2に。こちらが指示するまで詠原特等の独断で行動してもらって構わん』


    左耳に差し込んだ遠隔通信装置から長門からの通信が入る。
    どうやら二人で二階に進まなければいけないらしい。


    (……情報が漏れたか? まさか、あれほどの数ジョーカーがいたとは)


    司令車と呼ばれる特集な情報発信車の中のモニターを眺めながら、長門は顎をさする。


    「長門特等、詠原特等からの報告です。フロア2以降も多数のジョーカーを確認。現在交戦中とのことです」


    「ああ、わかった」


    予想通りジョーカーが護衛に回っていた。


    (詠原の純戦闘能力は確かに高い……有馬貴将の後継ぎと言われているが、まだまだ未完成の器。平時なら和修綺凛の方が実力は上だが……もう一つの人格が出れば戦闘能力は一気に跳ね上がる。必要なのは"引き金"だが……)


    モニター越しに映る漆黒のロングコートに身を包んだ零を見て、長門は再び考え込む。


    (なるほど、司令部はこれを見越して和修綺凛ではなく詠原零を第一次部隊に編成したのか)


    もう一つの人格と殺戮衝動による暴走。
    作戦司令部はこうなることを望んだのだろう。
  11. 11 : : 2016/02/11(木) 13:38:58


    「きたぞぉぉぉ死神だぁァッ!!」


    バビロンフロア4にて、部隊の先頭に立って疾風迅雷のごとく廊下を駆け抜ける零。
    遅れをとるまいと同部隊の上等捜査官たちも後を追うが、追いつかない。


    「詠原特等に続けぇぇッッ!! フロア4も一気に突破する!!」


    このフロア4まで上がるのに三十分は時間を費やした。
    午後六時に作戦を開始した時は夕陽が昇っていたが、現在は淡い月明かりとビル内の照明が足元を照らす。


    零は違和感を感じていた。


    「長門特等、おかしいと思いませんか」


    前方三体の喰種をナルカミの近接戦闘モード(剣型)で斬り伏せ、雷撃を浴びさせる。
    動かなくなった彼らを踏み越え、新たな敵に向かってナルカミを構え、モードチェンジ。
    遠距離戦闘モード(砲型)に形状を変化させ、即座に放つ。稲妻を思わせるRc細胞が閃光を散らしながら壁に、床に、天井に疵痕を残しながら迸る。
    道の開ける。


    『何がだ、詠原特等』


    「……情報が漏れていたのなら、最重要の"金獅子"はバビロンにはいないと思います。なのにこのジョーカーの量……敵には、何か目的があるのでしょうか」


    『一理ある。確かに事前に奇襲作戦のことを知っていたのなら作戦決行前に場所を移すだろう。だが、敵は敢えて待ち伏せをしていた……ということは、向こうにも戦うことによって得られるメリットがあるのかもしれない』


    「だとしたら、撤退しましょう。無駄な消耗戦をする前に」


    『そうしたいところだが、そうもいかない』


    「なぜです」


    『バビロンのモニター室にアクセスして、監視カメラの映像をこちらで観ていたんだが……ジョーカーの幹部が複数バビロン内にいることがわかった』


    「……なるほど」


    『全捜査官に通達する。これより目的を変更。"ジョーカー討伐作戦へと移行する』
  12. 12 : : 2016/02/12(金) 11:07:35


    ###



    『ヤッホー"ムサシ"くん。調子はどーお?』


    「……"スメラギ"か。さっさと用件を言え」


    『もうすぐフロア10に来るよ、彼』


    ムサシと呼ばれた男の喰種は、マスクを指で遊ばせながら、苛立った様子で答えた。


    「……死神か」


    『そうそう。あ、もうすぐ来る』


    「ぐあわぁああああぁぁぁぁああッッ」


    廊下の奥の階段から断末魔がフロアに響き渡る。白鳩がもうすぐそこまで来ているということか。
    想定していたよりはずいぶんとはやいペースだ。30のフロアを持つバビロンの既に三分の一が突破されたということになる。


    そもそも、この作戦のことは事前に"知らされていた"。
    CCGも馬鹿ではない。突入時に作戦漏れの可能性を感じ取っていただろう。
    だが、作戦続行。もしくは自分たち"ジョーカー"討伐に軌道修正。
    本来なら撤退するだろうが、今回、この作戦にはCCGの死神と和修家最強の捜査官が参加している。なおかつ、知将と称される長門清正もいるのだ。攻勢に踏み切れたのは、この三人の特等捜査官がいるからだろう。


    CCGにとってガネーシャ掃討がどれだけ重要かが見て取れる。
    ガネーシャ掃討に力を入れる背景には、大きな何かが蠢いているらしいが、詳しくは明らかになっていない。


    そして"ジョーカー"にも、この戦いで獲るべきものがある。


    「……ふん。囮なんて性に合わないがな。まあいい」


    『通信切るね。生きてたらまた後で』


    「ああ…………」


    目の前に現れた黒いロングコートの捜査官。
    服装に似つかない真っ白の髪。
    白と黒の対比が美しい捜査官が、多くの部下を引き連れ、先頭に立っていた。


    バビロンの階段は二カ所ある。
    こちら側に死神が来たのも何かの縁かもしれない。


    「……よぉ、死神さん?」


    「……初めましてというか、さようなら」


  13. 13 : : 2016/02/12(金) 13:28:16


    「長門特等、(さざなみ)です」


    『どうした漣上等』


    「ジョーカー幹部"ムサシ"が出現。現在対峙しています」


    漣班は詠原班に付いていかせた。
    第一次部隊を二手に分けて行動させているが、まさかムサシが運良く詠原のいる方に出てきてくれるとは。


    ジョーカー幹部、SSレート喰種"ムサシ"。
    日本刀のような形状の甲赫を両手に巻きつけ、江戸時代の武士よろしく敵を斬り伏せていくその姿から、剣豪武蔵の名を取ってそう呼ばれるようになった。


    もし戦えば死者が出るのは避けて通れない道だろうが、今は状況が違う。
    詠原がいる。


    下手に援護射撃をするより、詠原が一人でムサシと戦った方が遥かに勝てる可能性が高くなる。
    殺戮衝動も出やすくなり、漣班も上のフロアに移動でき、メリットしかない。


    ムサシは強い。
    通常の特等捜査官と同等以上の力を持っている。
    果たして"普通"の詠原でどれだけ戦えるか。


    長門はそこまで考え、かぶりを振った。


    『詠原特等は単騎でその場に残ってムサシの討伐。漣班は別階段を使って上に。詠原班は漣班と連携を取りながら現在指揮を任せる』


    「了解」


    『聞こえたな? 詠原。無理を強いるようで悪いが、頼む』


    「わかりました……僕がやります」


    「詠原くん……ッ!」


    瑞樹葉が不安そうな、そして泣きそうな顔でこちらを見てくる。
    そんな顔するなよ。そんなに信頼されてないのかなって悲しくなるだろ。


    「大丈夫だよ瑞樹葉。約束は守るさ」


    ──詠原くん、一つ、約束してね。


    どうか死なないで。


    「……信じてるよ。武運を」


    「ああ…………漣くん、頼むよ」


    「…………任せてください」


  14. 14 : : 2016/02/12(金) 14:01:02


    「……行かせてよかったのかよ」


    律儀に無言で手を出すこともなく、赫子を出すこともなく事の終始を見届けたムサシ。
    簡単に上へと行かせてよかったのか尋ねる。


    「ああ、まあな。別に、あいつらはさほど問題ないだろう。上にも他のヤツらがいるしな」


    「……そっか」


    コトン。未開のクインケケースを廊下の端っこに置き、ナルカミを構える。
    相手はSSレートの喰種……油断していい道理は何一つない。


    それを見たムサシは、トランプのジャックを思わせるマスクから赫眼を覗かせ、赫子を解放。
    両腕に巻きつけ、二刀流剣士よろしくといった風貌で殺気を放つ。


    互いの殺気がぶつかり合う。
    緊張感が膨れ上がり────破裂した。


    ナルカミが雷を纏い、ムサシ目掛けて稲妻のような軌道を描いて床を抉りながら襲い掛かる。
    大きく跳躍して攻撃をかいくぐると、天井に赫子をぶっ刺して宙ぶらりんになる。
    さらなる雷撃が飛んでくるが、天井を蹴って落下。重力に導かれながら零へと一直線に糸を引くかのような軌道で迫る。


    迎撃しようと雷撃を飛ばすが、ムサシの方がはやい。観念したかのような表情をして、ナルカミをモードチェンジ。
    剣型のナルカミで、頭上から振り下ろされる一撃を受ける。


    「ッヅ、重た………ッ」


    勢いを殺しきれないと判断し、腕の力を抜いて一歩下がる。
    反発し合う力が急に無くなったため、二刀の赫子は地面を叩き、痛々しいクレーターを描いた。

  15. 15 : : 2016/02/12(金) 16:09:50


    着地してすぐさま体勢を切り替え、赫子を横薙ぎに振る。身を屈めてかいくぐると、バチバチと雷撃を放たんとするナルカミが黄金に輝く。


    「これで──どうッ?」


    一閃。黄金の閃光が迸る。
    廊下の奥まで電撃が駆け抜け、フロア10だけが闇に染まった空を明るく照らした。
    ほぼゼロ距離からの砲撃。
    いくらSSレートであっても、この距離でナルカミが直撃すれば──そこまで思い至って、うなじにピリピリと寒気が走った。


    黄金に染まった視界を真っ二つに斬り裂き、禍々しい二刀の赫子の突きが目と鼻の先にあった。
    まずいと思った時には既に回避運動に入っていた。


    「ッ!」


    頬を切り裂く痛み。幸い軽い切り傷で済んだが、一瞬反応が遅れていたら首から上が無くなっていたかもしれない。


    「今の避けるのかよ。たまんねぇなおぃ」


    一息つく暇も無く、嵐のような荒々しさで距離を詰めるムサシ。
    零はナルカミを地面に突き刺し、応戦の構えを見せない。


    ナルカミの間合いに入った──瞬間。


    ──尖れ、雷光。


    「なッ!?」


    「かかった」


    床を伝う雷撃にまで気が回らなかったらしく、突如として地面から飛び出た雷撃が直撃。
    それを見た零はナルカミを引き抜き、一気に距離を縮める。


    「ッチ、やるじゃねえか」


    既に患部の修復は始まっていて、治るのも時間の問題だ。手負いのハンデを生かすには、速攻で決着を着けるしかない。


    「だが」


    ふと、ムサシの様子がおかしいことに気づく。


    赫子が、ない。


    あの鋭利な日本刀を彷彿とさせえる禍々しい赫子が。無い。
    ハッとする。
    足下を見る。
    確信する。


    「くそッ」


    横に大きく飛んで、その一瞬後、数瞬前まで零が立っていた場所に巨大な赫子が生えた。
    まるで剣山のようだ。
    なるほど、目には目をってか。


    着地した瞬間、大事なことを忘れていたことに気づく。
    ムサシの赫子は二刀──まさか。


    「一つ躱したからって安心すんなよ」


    微かに足下が揺れ、盛り上がった。
    咄嗟に身体を捻り、致命傷は受けまいとナルカミを振る。
    必死の対応もあってか、腹部を掠める程度の傷で済んだ。


    そう、思っていた。


    ズプ、と。
    やけに生々しい音が足元で聞こえた。
  16. 16 : : 2016/02/12(金) 17:45:10



    左足が、刀に貫かれていた。


    「ッぐぁァッいッヅッ」


    何故だ、躱したハズなのに。
    恐る恐る後ろを振り返ると、二刀の赫子を持ったムサシがゆっくりとこちらに歩いてきていた。
    赫子を伸ばして直接刺したのか。


    思い出したように痛みが回り、鮮血がバタバタと床を叩く。
    痛い。ものすごく痛い。
    誤って包丁をで指を切ったときとは比べ物にならない。


    「クッソ、分離持ちかよッ」


    「そういうわけだ」


    かなりヤバい。
    機動力を失ってしまった。
    それに加え、分離する甲赫。
    ナルカミは羽赫だから相性最悪。


    額に脂汗が滲み出る。
    損傷箇所が腹部とか腕とかだったらまだしも、よりにもよって足。
    立てないことも走れないこともないが、動きは鈍るし、何よりも痛い。
    直撃するなんて一体いつ以来だろうか。


    「死神にしては……弱いな。精々そこらの特等捜査官より多少ましな程度か」


    特等捜査官"程度"だって?
    馬鹿げている。
    コイツ、どれだけ強いんだよ。


    ──有馬さん、僕はやっぱりあなたの見込み違いだったのかもしれません。


    ナルカミを支えにして立ち上がる。


    ──けど、期待には応えたい。


    「……僕の使命……それは、有馬貴将名誉特等捜査官以上の働きをすることだ」


    「……できるのか、お前に」


    「やるさ。期待には最低限応える」


    ナルカミが再び雷を纏い、黄金の輝きを放つ。

  17. 17 : : 2016/02/12(金) 21:11:18



    零のムサシを見る目が明らかに変わった。
    先ほどまではまだ殺すのに躊躇いがあり、剣閃が鈍っていたかのように思えたが。


    零が地面を蹴り上げる。
    視界の奥にいた零が一瞬にして距離をゼロにする。
    不意を突かれたムサシは赫子を交差させて一撃を防ぐ。


    この戦闘で初めて零が攻勢に出た。
    先ほどの傷の痛みを微塵も感じさせないほどのはやい動き。太刀筋が見えない。


    「それ、人間にできる動きじゃねぇだろ」


    ナルカミを弾いたムサシは、さらなる一撃を喰らわせようと一歩踏み込む。
    力強く放った突きを零は即座に反応してパリィ。
    自身に向かって高速で接近する刀のような細身の先端部分を正確にピンポイントで捉えた。
    それがどれだけ難しいことか。
    この死神は当然のようにやってのける。


    「ッチ」


    「ヒマなんて与えない」



    身体を屈めて回し蹴り。
    ムサシの脚元を文字通りすくい、体勢を崩す。
    パッと立ち上がり、腹部に蹴りを叩き込む。
    ムサシはたまらずノックバック。
    しかし零の手は休みを与えない。
    ナルカミが雷撃を吐き出す。
    回避は不可能と悟ったのか、赫子で受けて立つ。


    直撃────。


    直後に零はムサシへと突っ込む。
    あれでダウンはしてくれないだろうと考えた。
    案の定、無傷──とまではいかなかったが、致命傷を受けるまでもなく防いでいる。
    飛び込んでいって正解だった。

  18. 18 : : 2016/02/12(金) 23:38:22
    おもしれぇ!期待
  19. 19 : : 2016/02/13(土) 11:03:56


    ナルカミを引き絞り、弓から放たれる矢の如く力の限り突き出す。
    身体の右側に渾身の一突き。わずかにタイムラグを作って左側にもう一撃。
    最初の一撃を左に避けたら、続く二撃目の攻撃の回避はほぼ不可能。
    さあ、どうでる?


    ムサシは身体を左に振った。予想通り。
    赫子での防御は間に合わない。
    回避などもってのほか。
    磁石が導かれるかのように二撃目が吸い込まれていく。


    殺った。


    ナルカミがムサシの心臓を貫く──刹那、まさにその刹那。
    マスクから微妙に見えていたムサシの口角が、不敵に、不気味に、奇妙に、つり上がった。
    全身を突き抜ける戦慄と嫌な予感。


    ハッと後ろを振り返ると、先ほどまで床から生えていた赫子の剣山が枝分かれしてこちらに伸びてきている。
    マズい。と頭で理解したときには、既に身体を横に大きく反っていた。


    再び戦慄。
    顔の直ぐ近くを擦過していった赫子をなんとか避けきったと思い、赫子の先に視線が──すなわち、ムサシに視線が移る。
    腕に巻きつけた日本刀のような赫子が、静かに零を狙っていた。
    この体勢で回避は不可能。


    当たる───ガクン。


    「え…………?」


    瞬間的に視界が大きくずれ、耳元でシィン! と空気を斬る音が聞こえ、背中が床にぶつかったと思ったら、あろうことか、天井を見上げていた。
    一瞬首と胴体が真っ二つになったのかと考えたが、自身の首が繋がっていることを即座に確認。
    我に返って、床を大きく蹴ってムサシとの距離を十分に取る。


    ああ、そうか。
    左足から出血した血に足を滑らしたのか。
    だが、それが幸いして不可避の一撃を奇跡的に回避することに成功した。


    追撃が来るかと思いナルカミを構えるが、ムサシは呆けたような様子で零を眺める。


    「おいおいマジかよ。今のこそ躱すかよ?」


    まあ、たまたまなんだけどな。
    だが、躱したのも事実。
    九死に一生を得たのだ。神様はまだこちらに味方している──そう思ったが、左足の力がガクンと抜け、へにゃりと地面に崩れ落ちた。


    まさか、ここにきて貧血か?

  20. 20 : : 2016/02/13(土) 11:40:22


    神様が味方してくれていたのはついさっきまでか。なんて気まぐれなヤツだ。ふざけんな。
    なんとか立ち上がるが、視界がぼやけてまともに戦える状況じゃない。


    『ヤッホームサシくん。生きてる?』


    「……ッチ、なんだよ」


    突然、ムサシが一人でお喋りを始めた。
    いや、通信機越しの会話か。


    『いまフロア18が劣勢なの。助けに行ってあげて』


    「はぁ………なんで俺が」


    『いけ』


    「…………了解した」


    ムサシが耳元から手を下ろす。
    こちらに向き直り、申し訳無さそうな声で言った。


    「野暮用が入った。決着はまた今度だ」


    言うが否や、有無を言わせず窓から飛び出す。
    飛び降りかと思ったが、赫子を器用にビルの側面に突き刺し、トントンと登っていく。
    上からガラスが降ってきたので慌てて顔を引っ込め、上のフロアに向かったのだと思い至る。


    「……くそッ」


    期待に応えることが、できなかった。


    やり場の無い悔しさが胸から込み上げてくる。
    廊下の端に置いたクインケケースを掴み、ナルカミを握ったまま、ムサシを追跡しようと考え、その前に指揮官に報告をしなければならないと気づく。
    が、通信機が戦闘中に無くなったことに気づき、先ほどまで戦闘を行っていた場所に目を配らせる。


    「…………あー」


    無惨にもペシャンコに踏みつぶされた通信機を見て、誰かと合流するしかないなと思い至る。


    一歩踏み出した瞬間、ふっと意識が飛んだ。


    ──ああ、眠い。


    バタン。
    床に叩きつけられるが、痛みを感じない。
    やばいなと思ったときには、完全に意識は深淵の中に吸い込まれていた。


  21. 21 : : 2016/02/13(土) 15:08:12


    #03「黒海」





    「おい詠原特等、詠原ッ聞こえてるなら返事しろ!」


    数分前から零に通信機越しで叫んでいるが、全く反応がない。
    それどころか、フロア10からフロア11へと上がる階段の監視カメラに姿すら映っていない。
    まさかムサシにやられたんではあるまいな?


    だとしたら、重要なピースが崩れる。


    先ほど第一次部隊二班がフロア18でジョーカー幹部"フェニックス"に遭遇し、現在交戦中。
    レートはSS。そこにムサシが乱入すれば、SSを二体同時に相手にしなくてはならない。


    予定とはずいぶん違うが、上空で待機している第二次部隊に応援を要請するか……?


    そう考え、通信機のスイッチを入れた瞬間、聞き覚えのある声が響いた。


    『長門特等、こちら上空待機中の和修。一時撤退の命令を頂けないかしら』


    「どうした?」


    『屋上に羽赫の喰種が多数。とてもヘリコプターが着地できる状況じゃない。しばらく機会をうかがっていたけど、だめね。向こうも警戒してる。空で待機してるのがバレてるみたい』


    今回の作戦は非常に漏れが多い。
    零は連絡が途絶え、綺凛は一時撤退。
    近場でヘリコプターが着地できるところは車で三十分ほど。準備や手配の時間を計算すると、少なく見積もっても一時間は綺凛が戦線から離れる。綺凛だけではない。若いながらも激戦を潜り抜けてきたS1班の捜査官が離脱するのは痛い。
    下層部からの攻撃しか攻略手段がなくなる。


    「……わかった。一時撤退を許可する。バビロンへの車はS2で手配しておこう」


    『感謝するわ…………それはそれとして、アイツ、頑張ってる?』


    「アイツ……というと?」


    それから綺凛は『うぐっ』と言葉に詰まりながらも、『う、詠原よ』と答える。
    同期の様子が心配なのか、だが。
    通信が切れて連絡が途絶えた、姿も見えないとなると、ムサシとの戦闘中にその場で──。


    長門はかぶりを振り、ここで綺凛のモチベーションを下げるわけにはいかないと思い至る。


    「ああ。前線で頑張ってる」


    『そ、そう? ならいいけど……』


    ホッとしたのか、声色からして、胸を撫で下ろしたのだろう。
    それから慌てて、『う、詠原に私がこんなこと聞いてきたなんて言わないでよねッ』と釘を刺してきた。


    『……それじゃあ、直ぐ戻るわ。それまで持ちこたえて』


    「ああ。了解した」


    詠原、お前ホント何やってんだよ。


  22. 22 : : 2016/02/13(土) 15:34:41


    腕時計で時刻を確認。
    現在時刻2030。
    作戦開始から既に二時間半が経過している。
    にも関わらず、先ほどからフロア18で第一次部隊の動きが止まっている。


    何でも、フェニックスとの交戦中、ムサシが乱入して死傷者が多数。
    遅れてきたS3班と漣班が援護に入ったが、それでもまだ劣勢。


    ムサシがフロア18に移動したということはつまり、零は────。


    切り札を切る前にやられた。
    いまだに零からの通信はおろか、監視カメラの映像にすら映っていない。


    『こちら長門。漣、状況はどうだ?』


    響く剣戟。通信機が不吉な断末魔を広い、鼓膜を叩く。どうやら漣も交戦中らしく、なかなか返事が返ってこない。


    『っぐ、こちら漣。状況は……あまりよろしくはないですね。何より、詠原特等が来ていないにも関わらず、ムサシが登ってきた。詠原特等はムサシにやられたのですか』


    「まだわからん。いや、そう考えるのが妥当だろう。詠原の援護は無いと思え」


    『うっわ、そりゃあキツい。皆詠原特等と和修特等がくるまで持ちこたえようって頑張ってるのに』


    「和修特等はあと一時間ほど来られない。どうも屋上に羽赫が大量に配備されていたらしく、最寄りのヘリポートに降りてから戦線に復帰する。それまで持ちこたえてくれ」


    『絶望的ですねッと』


    漣が喰種を殺したのだろう、力のこもった声が聞こえる。
    モニター越しに戦局を見つめるが、やはり数が違う。
    S3班がどうにか踏ん張っているが、それも時間の問題だろう。
    マズい。
    敗北という言葉が頭に浮かぶ。


    「……くそ、らしくない」


  23. 23 : : 2016/02/13(土) 16:25:14


    ###



    バビロンフロア18───。


    ムサシの乱入により、不死鳥だけでも劣勢を強いられていた第一次部隊は、さらなる苦戦を強いられることとなる。


    「詠原くん……はやくッ」


    上等捜査官や准特等捜査官たちがSSレート二体を相手にしている中、羽赫のクインケを持つ捜査官を中心に、
    方陣を組み、ジョーカー構成員の討伐を行っている出海。


    数が多く、こちらへの被害が大きい。
    殺っても殺ってもキリが無い。


    詠原の応援を待ち、なんとか耐えているS3班だが、陣形に所々綻びが目立ち始め、疲れが蓄積されている。
    加えて班長不在の精神的余裕のなさが、容赦なく班員に襲いかかる。


    そんな中、ムサシが突然ビルの外から乱入。
    しばらく時間が経っても零はやってこない。
    次第に、零がムサシに殺されたのではいかとあってはならないことが頭に過ぎる。
    そんな雑念を振り払うように自身にカツを入れる。


    漣が長門と会話している内容を聞いてしまったのは、すぐ後だった。


    ──詠原くんは、もう来ない?


    会いたい。


    ──詠原くんは、やられた?


    会いたい。


    ──詠原くんは、死んだ?


    イヤだ。


    「詠原……くん…………」


    漣は驚いた顔をして出海を方に振り向く。
    やっちゃったという表情になり、力無く地面に座り込んだ出海に声を掛ける。


    「瑞樹葉、気持ちは分かる。だが、今は戦ってくれ。君の力が必要だ」


    無言。


    「俺だって詠原特等がやられたなんて考えたくない。考えないようにしてる。どうせ疲れて仮眠でも取ってるんだろうと思ってる。そう、思いこんでる」


    「……もう、やだ。詠原が死んじゃったら、わたし……わたし…………」


    「瑞樹葉ぁッッ!!」


    「ッ!?」


    漣の張り上げた声にビクッと反応し、ハッと我に返る。


    「戦え。感傷的になるなら、生きて帰ってからにしろ」


    それを最後に、漣は敵陣へと駆け出した。

  24. 24 : : 2016/02/13(土) 17:08:30


    そうだ。戦え。
    詠原くんは、いつだって強くあった。
    世界、喰種に、人間に、自分に残酷であれ。


    「ッ……詠原くん、わたし、戦うね」


    フラットを構え、漣に続く。
    振り返った漣が笑顔を向けてくる。
    それに頷きを返すと、再び前を向き、喰種の集団を一気に突き抜ける。
    横から石を投げる不粋な輩に、フラットの刃をぶつける。
    呆気なく首が跳ね飛び、ボチンと床に落下して赤い華を咲かせた。


    「感傷に浸るのは後ッ」


    自分に言い聞かせ、力の限りフラットを振るう。


    「……ほう、さすが詠原の相棒。動きがよく似ている」


    漣がその技術に内心舌を巻く。


    パートナーである上司が死んだかもしれない状況の中、瞬時に切り替えるメンタルの強さも素晴らしい。
    普段はフラットで感情の浮き沈みが少ないが、こういう命の駆け引きを行っているときは闘争心を全面に押し出している。


    そういうとこ全部ひっくるめて、零に似ている。


    「S3班ッ、私たちは不死鳥を叩く! 甲赫を中心に方陣を組め!」


    零が居ないため、副班長が班長代理で指揮を執っている。
    どうやら目標はフェニックスに変更。
    出海はフラットを強く握りしめ、方陣の前衛に躍り出る。


    「うっわー見てよムサシ。か弱い僕ちんを集団で襲ってくる。これってイジメだよぉ」


    「黙れ。そっちは任せたぞ」


    「あーいよっと。ほい、んじゃちょっち本気でいこっかなぁと。スメラギに絞られる前にね」


    爆発的にRc細胞が空中に放出され、紅蓮に燃ゆる焔のような羽赫が轟々と燃え上がっている。
    その神々しい姿はさながら不死鳥。
    これが、彼がフェニックスたる由縁。


  25. 25 : : 2016/02/13(土) 20:30:34


    「いやぁっぁはぃ! いいねいいねこの感覚ッ。僕ちんやっぱし喰種に生まれて良かったわぁ」


    「そりゃあ結構なこと────っで!」


    漣班と出海が不死鳥相手に飛びかかる。
    不死鳥はパチンと心地よい音を指で鳴らすと、赫子がさらに体積を増やし、一瞬で膨れ上がる。


    「弱いものイジメはノンノン。フェアにいこうよフェアにさぁぁぁあッ!?」


    紅蓮の赫子が瞬時に焔を吐き出す。
    羽赫特有の横殴りに飛び交う細かいRc細胞の雨。一撃の威力は弱いものの、恐るべきはその数。ステップ防御でしか防ぎきることはできないだろうが──。


    漣のクインケ[甲赫/A/ベルリンガ]が展開。
    普段はトライデント型のクインケだが、スイッチを押し込むと、先端部分が地面と垂直に広がり、簡易ながら壁となる。
    全員が漣の背中に回り込み、豪雨を"傘"でやり過ごす。


    この手の攻撃はチャージ時間がかなり必要だと相場が決まっている。


    「小雨だなぁフェニックス?」


    「あはぁ? なに君。死にたいワケぇ?」


    「総員散開、取り囲めッ」


    漣の指示で互いが空いたスペースを補いながら円状の方陣を組む。
    甲赫が前に。その後ろに尾赫。中距離に鱗赫。羽赫は後ろに。
    その中心に不死鳥を閉じ込め、どこからでも攻撃ができるという多対一戦闘での基本的陣形。
    セオリーだが、それゆえに効果的だ。


    「……かかれッ」


    羽赫クインケの援護を背に、前衛が変わる変わる入れ替わりながら不死鳥に攻撃を加える。
    Rc細胞を硬化させてクインケを防ぐ術に関しては見事と言うしかない。
    攻撃が全く通らない。


    「弱い弱ぁい。ふぁーぁ、つまんねぇのぉ」


    「ッ!」


    出海が視界外から飛び込み、フラットを横薙ぎに振る。
    予想外の角度から攻撃を貰った不死鳥はたまらず吹き飛ぶ。


    「ナイス瑞樹葉!」


    「はいッ」


  26. 26 : : 2016/02/13(土) 21:07:42


    ゆっくりと立ち上がった不死鳥に、さらなる追い討ちを掛けようと漣班員が飛び込み、絶命させようとクインケを振りかぶり………。


    「やってくれんじゃんさ、君たち」


    クインケが振り下ろされることなく、班員の胸から上が一瞬にして消えた。
    フラフラとおぼつかない足取りで数歩歩き、糸が切れた人形のように力無く地面に伏せた。


    ベチャリ、とすぐ横で肉塊が音を立てて綺麗に着地。まるで床から生えているかのように思えて、胃の中がグツグツと煮える。


    「霧次ぅぅぅぅッ!!」


    死んだ。
    出海は胸から上だけのグチャグチャな肉塊から目が離せない。
    霧次の虚ろな瞳からは何も感じ取ることはできなかった。


    「っち、狼狽えるなッ!! 陣形を再展開ッ」


    「だーかーらぁー」


    不死鳥の赫子のRc細胞値が爆発的に跳ね上がり、マグマのようにフツフツと音を立てて煮える。


    「そんな鳥籠じゃ不死鳥の羽ばたきを抑えきれないよぉ?」


    目の前に神々しいフェニックスが現れたと思ったら、紅蓮に燃ゆる赫子が視界を真っ赤に染めた。
    漣班員の皆の上半身と下半身が真っ二つになり、大理石が敷かれていた床はたちまち血の池地獄と化す。


    奇跡的に無事だった出海は呆然と不死鳥を眺める。


    「あんれぇまぁ、生きてんじゃんか」


    「俺も忘れん────」


    「じゃぁまぁくっせぇのねぇ君!」


    「ぞ─────」


    最後の力を振り絞って渾身の一撃を繰り出した漣だったが、無慈悲にも不死鳥の赫子で綺麗に両腕を持っていかれた。
    さながら間歇泉のように鮮血が吹き出し、空中に深紅を撒き散らす。


    綺麗だと、不謹慎な感情が脳内を彩った。


  27. 27 : : 2016/02/13(土) 21:23:02


    「っぜぉっきィアアアアアアアあああぁぁぁぁあああッッ!?」


    両腕を切断された痛みを思い出したかのように絶叫して伝える漣。
    おおよそ大人の男性からは聞き取れないであろう金切り声でハッと我に返る。
    ぼとぼとぼと……グチャ。


    何かがつま先に触れたので、ゆっくりと足元に視線を落とすと、漣の両腕が血で軌跡を描きながら転がってきた。


    「────ッッ!」


    視線を再び元の高さに戻すと、両腕を失った漣が、今度は首から上を無くしていた。
    虚空に鮮血で美しい軌道を描きながら着地。
    ボチン。着地時に顔の原形を留めていれば、ダイビングの種目では百点満点の空中での演技だった、なんて考えながら、相当精神的にヤバいと自覚する。


    「漣……さん……?」


    答える声は無い。
    代わりと言ってはなんだが、不死鳥の不気味な声が耳にスッと入り込んでくる。


    「あはぁ、死神くんは死んじゃったみたいだねぇ?」


    殺意が、心の底から這い出てくる。
    なんだ、これ。なんだこの感情。
    どす黒い何かが空っぽの胸を満たす。
    空っぽのわたしを、黒く染める。


    「──死ね」


    「ワオ」


    気づけば出海は床を蹴り上げて不死鳥の懐に潜り込んでいた。
    下段からの斬り上げに反応した不死鳥はさせまいとクインケを踏んで地面に埋め込む。
    続けざまに横に薙ぐ蹴り。
    しかしそれを見切った出海はクインケを手放し、後ろに身体を反らして回避。
    身体を引き戻して不死鳥の腕を掴み、足を掛けてん投げ飛ばす。


    予想外の攻撃に空中で体勢を立て直しながら着地。不死鳥から目を反らすことなくフラットを地面から引き抜く。


    「なんだよぅ君強いじゃんかさぁ」

  28. 28 : : 2016/02/13(土) 21:45:35



    つい先ほど、出海の中で何かが吹っ切れた。
    いや、殻を破ったという表現の方が正しく的を射てる。
    とにかく、前の自分には出来なかったことが出来る気がしてならない。


    慢心とか傲慢とか、もうそんなレベルの話ではない。


    「君ぃ、なんだか目つき変わったぁ?」


    「どう、だろうね。けど、心の持ちようは変わったかなぁ?」


    殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ。
    この世界の摂理は弱肉強食。
    奪われたくなければ、奪うしかない。
    奪うには、強くならなければならない。
    いたって単純で、なんて残酷で間違った世界か。
    この世界を創った神様はとんだ馬鹿野郎だ。


    ようやく、詠原くんの言ってたことがわかった。


    強く在りたいのなら、奪われたくないのなら、世界に残酷であれ。


    「……けど、わたしは自分の気持ちも見失わない」


    誰かを救うのは残酷さじゃない。優しさだ。
    何かを救えるのは、優しさだけだ。


    矛盾してる。
    世界に残酷にならなければいけないのに、優しさを貫く。
    矛盾してる。自分でも判っている。
    だが、こんな狂いに狂ってかけがえのない命がかけがえのない命を奪い合うこの素晴らしくも馬鹿馬鹿しい世界なんて、ハナから矛盾してる。


    だから貫く。わたし──瑞樹葉出海は、世界に残酷で優しくある。


    「……はん、くっだらねぇ精神論ばっか並べやがってぇさぁ~、気合いだ? 気持ちだぁ? んなもんは対して意味を持たねぇんだよぉッ。人間なんて劣等種、喰種の足元にも及ばねぇんだよ。弁えろ」


    「……どうかな。確かにわたしじゃあなたを倒すことはできないだろうね。けど、人間も捨てたもんじゃないよ? あ、拾えたものでもないけどね」


    「……? 何が言いたいのかなぁ? 僕ちん理解不能」


    「いや、たまには足元も見てみるものだよ? 案外人間って、すぐそばにいるかもしれないよッ」


    出海が言い切った瞬間、不死鳥の足元が爆発した。

  29. 29 : : 2016/02/13(土) 22:41:53


    「よく誘導してくれたな、瑞樹葉」


    同じS3班員の花橘蓮太郎(はなたちばなれんたろう)准特等捜査官が横にやってくる。


    「上手くいってよかったです。さすがのクインケですね」


    蓮太郎の[羽赫/S+/グランドホルン]は、高出力高濃度のRc細胞を凝縮した弾丸を吐き出すアサルトライフル型のクインケだ。
    遠・中距離に対応しており、S3班では主に後方支援に回る。
    近接戦闘では[尾赫/A/ダリオン]で対応する、オールラウンド捜査官だ。
    副班長も務め、零の信頼も厚い。


    「はっは。腕がいいんだ、腕が」


    「いや、どうやら不発らしいです」


    「何だとッ」


    「いってぇなぁ。ざけぇんじゃねぇぇよぉ」


    傷を瞬時に回復させ無傷の不死鳥が、殺意を込めた眼差しでこちらを睨んでくる。
    うすら恐怖のようなものを感じたが、 蓮太郎は怯むことなくこう返す。


    「おいおい、ゴキブリみたいな生命力だな?」


    「はぁん、君ぃ、死にたいんだねぇおーけーおけー」


    見えない火花がバチバチと音を鳴らす。
    出海は一歩さがり、冷静に状況を判断する。


    花橘准特等の戦闘能力は、零を除けばS3随一を誇る。二十代で准特等やってるだけはある。
    単純に考えて、不死鳥といい勝負ができそうだ。
    そこに自分が加われば、勝てる見込みは増えてくるのだが。
    どうにもあの不死鳥、まだ力を温存しているように思えてしょうがない。


    「今夜は焼き鳥パーティーか?」


    「本ッ気で僕ちんのこと馬鹿にしてんのなら、謝った方がいいよぉ? 僕ちん寛大だから、斬首くらいで許したげる」


  30. 30 : : 2016/02/13(土) 22:45:19
    かっこいい!!
    出海の零への思いが、伝わってきます。
    この後の、展開が気になります。
    果たして、黒い死神(零)が、どう出てくるのかまた、瑞樹葉が、どうなるのか零の未開封のアタッシュケースから、何が出るのか楽しみですねぇ~
  31. 31 : : 2016/02/13(土) 23:15:40



    ###



    「あーもう遅いわねッ、ちょっと運転手もっとスピード上げなさいよ!」


    「え、いや、一応S1班の主力を皆乗せてるわけですし……」


    和修綺凛率いるS1班はヘリコプターのホバリングスペースからようやく地面に足をつけ、あらかじめS2が手配していた車に乗り込み、急ぎでバビロンへと向かっている。


    周囲は警察によって完全に封鎖されていて、夜の東京の街を自分たちだけを乗せた車だけがポツンと走っている奇妙な構図が成り立っている。
    道路封鎖はよくあることなのだが。


    「他の車いないでしょ!?」


    「曲がり角とか危険ですし……」


    「もうッ! もういいわ!」


    プンスカ、ご機嫌斜めなお嬢様の横で、綺凛の部下である那梨撫奈(ななしなな)が茶々を入れる。


    「……綺凛、いくら詠原くんが心配だからって、焦る必要はない」


    「は、はぁ? なん、なななんで私が詠原のことを心配しなきゃいけないのよ。べべべ別に心配してないわ。戦闘面ではね」


    なんとわかりやすいことか。これが俗に言うツンデレというやつか。
    こんなにもわかりやすく好意くん持っているのに、零はおろか、本人でさえこの感情がなんなのか理解できていない。


    それに加え、零は出海のことを気にかけている。恋愛感情ではないだろうが、大切に想っているのは確かだ。


    綺凛、あなたの恋はそう簡単にはいかない。


    ──と口に出してしまえば、三日は口を聞いて貰えなくなるのでなんとか口を抑えて押し黙る。


    「……詠原、ホントに大丈夫かしら」


    「…………」


    もう、何も言わないことにした。

  32. 32 : : 2016/02/14(日) 09:36:59


    ###





    美しいものの足下には、よく死体が埋まっていると聞く。
    ホラー映画や小説でも、真っ赤に染まる薔薇の根元に、満開の桜並木のその下に。
    なんて表現はよく目にする。


    ならば、僕が美しいと思った"死神"の足下にも、多くの死体が埋まっていたのだろうか。
    きっと埋まっていたはずだ。


    たった二十二年とちょっとしか生きてない僕が、無気力で何をするのも本気になれないこの僕が、その短い人生の中で見いだせた唯一の目標にして希望。


    希望は────有馬貴将。


    初めて彼の戦う姿を見たとき。
    僕は彼のようになりたいと強く思った。


    僕はゆめゆめ、こう考える。いや、こう考えて"いた"。


    人の夢は儚い。夢を見るなんて愚か者のやることだ。


    そうだ。人の夢は儚い。
    仮に人の生涯が百年だったしよう。
    その百年でいったい何ができるのだろう。
    生きとし生けるほとんどの人間は、子孫を繁栄させることでしか歴史に貢献することはできない。
    僕もその一人に過ぎないだろうと。


    僕の希望に出逢うまでは、そう考えていた。


    「零……夢を見るなんて愚か者のやることだ。だけど、人は夢の中でしか生きることができない」


    「それって、いま僕たちが生きている世界は夢だと、そう言いたいんですか?」


  33. 33 : : 2016/02/14(日) 11:55:57



    その答えは、もう永久的に聞くことはできないだろう。
    なぜなら、僕の希望は絶望に呑まれて死んでしまったからだ。
    姿を見ることも、声を聞くことも叶わない。


    僕は再確認した。


    死なない人間はいないのだと。


    ああ、そうか。これは夢だ。夢なんだ。
    有馬さんが死ぬなんてありえない。
    夢。気味の悪い悪夢。
    はやく──覚めろ。





    ###



    なんだか、誰かに呼ばれた気がしてゆっくりと瞼を持ち上げる。
    上半身だけ起こして周囲を見渡す。
    寝起きだからか、あまり頭が回らない。


    「僕は……」


    ふと、自身の足に目がいって、ムサシとの戦闘を思い出した。
    慌てて懐中時計を見ると、あれから一時間近く眠っていたことに気づく。


    マズい。急いで上に上がらなければ。
    しばらく寝たかいもあってか、倒れる前よりは身体が軽い気がする。
    負傷した左足にも力が入り、大きな支障はない。


    自分の怪我より心配なのは、一時間近く経過して戦局がどのように動いているかだ。
    別動しているS3班は蓮太郎に任せてあるから対して問題は無いだろうし、出海は実力者の漣に任せた。
    仮に劣勢だとしても、上空には綺凛率いるS1班が待機している。
    作戦は順調に進んでいるはずだ。


    そう信じて、階段を駆け上がる。


    ひとまずの目的は、S3班に合流して長門に自身の無事を伝えることだ。
    はやる気持ちに比例するように、零の足も前へ前へと。


    「生きていてくれ……皆ッ」


    そう祈って走る。


  34. 34 : : 2016/02/14(日) 12:54:23


    #04「死神」





    「もういいじゃぁんかさ~ぁ~? いい加減死になってッ」


    不死鳥との戦闘は、絶望的な展開となった。
    グランドホルンは封印し、ダリオンでの近接戦闘を出海とのコンビネーションで行っているが、火力が不死鳥の如く再生にどうしても追いつかない。
    それに加え、不死鳥の攻撃の密度の高さと手数の多さに苦戦し、前半は押し気味だったが、徐々に防戦一方となりつつある。


    羽赫はガス欠が起こるまでじっくり戦うのがセオリーだが、そんな素振りを全く見せない。


    ムサシは他の班員が誘導して不死鳥との距離を保ってくれている。


    「相変わらず再生がはやいなゴキブリくん。私のダリオンでも火力不足かい」


    「あっは君ぃ、何度ゴキブリ扱いしたら気が済むんだぁぃ?」


    「花橘准特等、下がってくださいッ」


    来るッ!
    横殴りの豪雨の如しRc細胞の雨が。


    「切り刻んでやるよぉッ!?」


    不死鳥を包んでいた赫子が膨張し、爆発。
    回避は不能!
    蓮太郎も防御は無意味だと悟ったのか、急所だけをクインケで守る。


    そして、傘をさすこともままならず、出海と蓮太郎は自身の血でずぶ濡れとなった。


    全身に切り傷ができた。
    急所は守ったが、戦闘続行は不可能。
    絶望的状況だ。


    「あっはぁ、まずは僕ちんの頭を叩いた不粋な雌豚を殺してしまおうかなぁ」


    「瑞樹……ばっ逃げろッ」


    切れ切れの声で叫ぶ。
    出海も聞こえてはいるのだが、身体に力が入らず、逃げることはできない。


    ──ああ、死ぬんだ。


    直感した。死ぬと。


    なぜ、だろう。


    こんな時に思い出すのは、何気ない日常で。
    ホントにくだらなくて、どうでもよくて、つまんなくて、それでいて美しいかけがえのない、愛おしい記憶たち。


    さようなら、美しい記憶。


    ふと、誰かの呼ぶ声が聞こえた。


    「瑞樹葉」


    聞き間違えるはずがない。


    「瑞樹葉ッ」


    だって、彼の声だから。


    「瑞樹葉ッ!」


    私の────


    「瑞樹葉ぁぁッッッ!!!」


    「────!?」



  35. 35 : : 2016/02/14(日) 13:36:40


    ハッと我に返った出海は、目の前で雷に撃たれた不死鳥の姿を見た。
    巨大な廊下の端まで雷撃は迸り、床や天井には痛々しい疵痕が刻み込まれていた。
    これはナルカミだ。
    つまり────。


    「────詠原……くん…………ッ」


    「ごめん、遅くなった」


    涙が出そうだった。
    生きてる、生きてる、詠原くんが生きている!
    満身創痍の出海にとって、これ以上の嬉しさは無い。


    「零…………」


    「なんとか生きてるみたいだな、蓮太郎。安心した」


    「はは……遅いん……だよ」


    ふっと笑うと、零の顔から喜びの感情が消えた。敵対している者を容赦なく殺そうとする目をしている。


    「詠原くん…………」


    「……大丈夫だよ、瑞樹葉。もし僕が誰かを殺しそうになったら、ナルカミで刺して」


    ナルカミを出海の横に置き、未開封の漆黒のクインケケースを前に突き出す。


    「それを……使うの?」


    「ああ。"僕"じゃ勝てない。蓮太郎と遠くに逃げてて。あ、それと、長門特等に僕が生きてるってこと伝えてて」


    「いったいなぁホントぉにぃ」


    廊下の奥から不死鳥が歩いてくる。
    やはり傷は再生していて、傷ついているのは衣服だけだった。


    「ぶっ殺すぜぇ?」


    挑発的な視線を流し、零は大きく息を吸って、吐いた。


    この力に頼るのは少々……というか、かなり気が引ける。絶大な力を得る代償に、無差別に誰かを傷つけてしまう。
    それでも、戦わなければいけない。
    僕は強者だ。自分の弱さを飼い慣らしたい。

  36. 36 : : 2016/02/14(日) 13:42:12
    期待
  37. 37 : : 2016/02/14(日) 14:07:02


    腹を括った。決意を固めた。心に決めた。
    僕は僕であり、皆に僕たらしめるために、僕は僕のために戦う。僕は、決して自分を見失わない。


    鋼のような固い意志を胸に、未開のアタッシュケースの起動スイッチを押し込む。


    バクン、と開き、中から禍々しい巨大な深紅の"鎌"が姿を露わにする。
    殻を突き破り、遂に姿を現した詠原零の最強のクインケ。


    名を────"ハイセ"と言う。


    [鱗赫/SS/ハイセ]。それが、今まで零が使うのを拒んでいたクインケの名前。
    これを一度掴んでしまったら、大量に生きる者を虐殺してしまう。
    敵味方関係なく。


    「なんだよぅそのクインケ……」


    血染めの大鎌を手にした"死神"の姿を見て、彼らしからぬ恐怖という感情が脳裏に過ぎる。
    喰種の直感が、コイツはヤバいと告げている。


    「この世のすべての不利益は当人の能力不足で説明がつく」


    背筋がゾッとする。
    極寒の中、強烈な吹雪が吹き荒れるかの如く。
    まるで地獄の底から死神が囁きかけてくるかのようだ。


    「だから、テメェが僕に殺されても、文句言えないよ?」


    「はぁん、僕ちんが君ぃに──」


    ズバン、と空気を引き裂く音がフロア18一帯に広がった。
    何事かと、不死鳥は周囲を見渡す。
    そこで気づく。


    ジャンプした覚えがないのに、視界が高い。
    こちらを見上げる死神は、比喩とかそういうのじゃなく、どこまでも死神だった。
    その正面に、誰のものとも知れない下半身がゆらゆらと陽炎のように揺れて、バランスを崩して倒れた。


    「あ…………れ?」


    思い出したかのように、身体が真っ二つに切断された不死鳥から血が噴き出した。
  38. 38 : : 2016/02/14(日) 15:53:22


    血飛沫を正面から被った零は、たちまち赤く染まる。
    美しい────。
    出海は零を見てそう思わずにはいられなかった。


    「──あはぁ、これだよこれこれッ。肉を断ち切り命を奪ったこの感触ッ。この爽快感ッ! そこから得られる強者の優越感ッ。ほかの誰でもない、この僕がぶち殺したッ。ははは、もはや動けぬ生ゴミのような肉塊となったか、笑ってやるよははははは」


    不死鳥の下半身を蹴り飛ばし、嘲笑をこぼす零。肉塊は壁に激突して、停止。
    当然、二度と動き出すことはない。


    「もっとだ、もっともっともっともっと殺したい。まだ殺す」


    零は出海や蓮太郎に見向きもせず、廊下を駆け抜けていく。


    「詠原くん……」


    「あれはなかなかやばいな。零のやつ、久し振りにハイセを起動したから取り込まれるかもしれない」


    「取り込まれるって、どういうことですか」


    「うん? 瑞樹葉はまだ知らないのか。あのクインケのこと」


    「教えてください!」


    「お、おう」


    ホント、零や出海はパートナーのことになったらダボハゼのように食いついてきやがる。


    「……あのクインケは生きてるんだよ。"胎動クインケ"って言ってな。内包者の自我が赫子に移ったとか言われてるらしい」


    「非科学的ですね」


    「だが実際、ハイセを使ってる時の零は明らかにいつもの零じゃないだろう。あの頭が狂った殺戮者は、クインケの材料になった者の自我が零に乗り移った時に出てくる、いわばもう一人の零だ」


    「…………」


    「詳しくは私も知らないからな。本人に聞くといい」


    「わかりました……」


    「おい、瑞樹葉?」


    出海がナルカミを持って立ち上がる。


    「行ってきます。戦闘続行。まだ、戦えます。それに、詠原くんが暴走したらわたしが殺してあげなきゃですから」


  39. 39 : : 2016/02/14(日) 16:42:22


    ###




    「夢をみたんだよ。生まれた時のこと」


    ワケもなく、特にどうということもなく、昔聞いた歌の歌詞が頭に浮かんだから、口ずさんでみる。


    「絵の具を飲み干した」


    よくよく考えたら、零は昔からよく何かを口ずさんでいた。
    嬉しい時や悲しい時も、いつだって傍に"言葉"があった。


    「一人じゃもう、歩けなくなった」


    そうだ。僕はもう一人じゃもう歩けないんだ。
    周りには皆がいる。フラットな感じのほっとけない瑞樹葉。やたらと気が合う蓮太郎。やけに僕に厳しく当たる綺凛。いつの間にか隣で傍観している那梨。他にもいっぱい、たくさん。


    「遠くの街で誰かが、死んだよ」


    そうだ。死んだ。
    有馬さんも、琲世くんも、鈴屋くんも、宇井先輩も、アキラさんも、皆皆、みんな皆みな皆死んだ。


    どこか遠くで、僕の知らないところで。


    別れは突然で必然なのだ。


    「…………!」


    ハッとして周囲を見渡すと、ジョーカーの喰種の身体がバラバラになっていた。
    だけではない。
    捜査官たちも分け隔てなく、地面を赤く彩るカーペットと化していた。


    「うぁ…………ぁああ……………………」


    殺した?
    僕が捜査官を?


    「ちがッ………う、僕じゃない。僕が殺してませッ……いや、僕は殺したッ!?」


    殺した、殺ししてない、殺した、殺してない。
    どちらとも言えない。
    だって、覚えてない。知らない。


    「ぃぁああぅ……ッグ、なんだよ、なんだよお前……おいッハイセふざけんなじゃッぁぁああああああああああああぁぁぁぁあァァアアアッ!!!!!!」


    痛い。頭が痛い。
    脳みそがどろどろに溶けそう。
    頭が真っ赤になって、僕は僕のことを僕と呼べなくなった。


  40. 40 : : 2016/02/14(日) 17:28:36


    ###





    S3班の岬崎正吾(みさきざきしょうご)上等捜査官は、他の班員と共にムサシとの戦闘を繰り広げていた。
    分離しある程度の自律した動きを行う赫子と、日本刀のような甲赫が折り重なり、苦戦を強いられていた。


    「くっそぉお前強すぎんだろッ」


    泣き言を言いながら[尾赫/A/アリオリウム]で攻撃を受け流す。


    「お前らが弱いだけだろう」


    そのうえ防御も堅いときた。
    攻防一体のバランスが取れた優秀な喰種様なことで。


    距離を取って再び接近しようとした、まさにその刹那。


    視界に入り込んだ深紅の大鎌が、言わずもがな、全てを物語っていた。


    「やっべ、詠原班長暴走気味? おいお前らぁ! 死にたくなけりゃ詠原班長から離れろぉッ」


    普段とは違う零の様子を見て状況を悟ったのか、我先にと零から距離を取る。


    「…………一時間ぶりくらいか。それにしても」


    「ムサシだムサシさっき僕に傷を負わせたあのムサシそうだコイツも切り刻んで真っ赤なスープに入れて優しくかき混ぜてあげようかなぁぁぁァアハハハ」


    「ずいぶんと様子が変わったな、死神さん?」


    目の前の狂った零を見て、うすら恐怖のようなものを感じるムサシ。
    このような感情を抱くのはいつ以来だろうか、なんて考えながら零に向かって駆け出す。


    「あーあーあーあーりーまーさーん、あははぁ、僕しっかり死神やれてますかぁ?」


    ズバン。横に大きく薙いだハイセが、ムサシの二刀の甲赫に突き刺さり、一気に粉砕する。
    もともと赫子の相性があるだろうが、SSレートの堅い甲赫をたった一撃で壊すなんて。
    なんて破壊力のあるクインケだ。
    おそらく、高レートの鱗赫の喰種だろうと容易に想像がつく。


    「……っち」


    地面を踏み抜いた音がしたので後ろに大きく跳躍すると、背中に激痛が走った。


    「ッ!?」


    恐る恐る後ろを振り返ると、血飛沫でぐっしょりと濡れた、殺戮的な笑みを浮かべた美しい死神が立っていた。


    「っぐぁあッ」


    いつの間にか後ろに?
    なんて聞かない。
    恐らく地面を蹴り上げて一足跳びで背後に回り込んだのだろう。
    あれは速いというより視界から消えたという表現の方が正しい。
  41. 41 : : 2016/02/14(日) 17:44:40


    「ッ、仕方ない。奥の手だったんだが」


    ムサシはグッと身体に力を入れる。
    すると、肩甲骨あたりから禍々しい漆黒の赫子が暴れだし、ムサシの身体を喰らった。
    徐々に全身を覆い、さながら戦国時代の甲冑の上位互換とも見て取れる鎧と化した。


    赫者────。


    喰種同士が共食いを繰り返すことによって生まれるイレギュラー。
    戦闘能力は通常の数倍は跳ね上がるだろう。


    これよりムサシのことは、完全に自律した赫子だと考えた方がいいかもしれない。


    「さて、死神さんよ。どっちが強いか……再戦といこうじゃないか」


    言うやいなや、喰種の範疇から大きくかけ離れたスピードで床を疾走するムサシ。
    二十メートルはあった距離が瞬きする暇もなく縮まる。


    驚くことなく零はハイセで応戦。
    巨大な甲赫と大鎌がぶつかり合い、大気が振動する。
    ムサシの日本刀のような赫子は右腕に集中して合わさり、一本の巨大な大剣となっている。
    威力は絶大で、殺戮衝動に支配されつつある零は弾き飛ばすほどだった。


    「お父さんお母さんお祖父ちゃんお祖母ちゃんお兄ちゃんお姉ちゃんどうしよう僕飛んでる空を飛んでるよぉ!!」


    空中で体勢を立て直し、重力に導かれるまま落下してハイセを叩きつける。
    回避したムサシは、衝撃で盛り上がった床に足を取られぬように注意しながら駆ける。


    「お前……狂ってるぜ」



    「くるくる……狂ってるくるくる回るよどうしよう、私どうしよう」


  42. 42 : : 2016/02/14(日) 19:49:57


    ###





    「到着しました! バビロンです」


    一時撤退し、予定より一時間半遅れでバビロンに到着したS1班を含む第二次部隊。
    その先頭には、和修家最強の捜査官が立っていた。


    「長門特等、ただいま到着したわ」


    『待っていたぞ。第二次部隊には上層部の喰種を駆逐してほしい。……現在、詠原特等が例の発作を起こしている。甲赫の赫者と交戦中だ。フロア18の東階段付近は危険だ。西階段を利用するように』


    「……わかったわ」


    通信を切ると、後ろに振り返ってその旨を通達。
    頷き、突撃命令を出した。


    「綺凛、どうせ詠原くんのところにいくんでしょ?」


    撫奈が綺凛の顔を覗き込んで笑う。
    綺凛は思っていたことを察せられ赤面。


    「ばっ、馬鹿ね! 暴走してるみたいだから仕方なく止めにいってやるの。あ、あの状態の詠原を止めれるのはここでは私くらいでしょッ」


    「べ、べべべ別に心配してるわけじゃないからッ」と自ら答えをベラベラとしゃべってくれたので、聞き出す手間が省けた。
    まあ、最初から分かり切っていたことだが。


    「行くわよ」


    S1班を引き連れ、階段を駆け上がる。
    横たわる死体には、決して視線を投げてやらなかった。


  43. 43 : : 2016/02/14(日) 20:21:11


    ###





    「っちぃ!」


    「わたし? わたくし? 俺? 僕? 僕だよ僕僕ぼく僕僕僕ぼく僕僕僕僕ぼぼぼく僕ッ! 僕が助けてあげるからねぇぇあはは歪んでるよぉ? 君僕歪んじゃってるよぉぉぉ」


    ハイセを振り回して的確にムサシの赫子に攻撃をぶつけていく。
    言動は狂ってるくせに、攻撃に関しては一寸の狂いなく正確に当ててくる。
    厄介なことこの上ない。


    「ぼく僕ダメだよしっかりしろよ瑞樹葉ぁと約束しただろ思い出せよ俺思い出せよダメだ私どうやらお腹空いちゃったダメみたい」


    「相変わらず意味の分からないことを……」


    分離した赫子を地面から突起させ、零の動きを封じ込めようとするが、ハイセによって攻撃の全てが片っ端から破壊されてしまう。
    意表を突いた攻撃も全く通用しない。


    はっきり言って、今まで戦ってきた白鳩の中で一番強い。


    「ぶっ殺して優しくお腹の中かき混ぜてあげるからねぇあはははははははは!!!」


    今度は零から踏み出す。
    取っ手の先端部分で突きを喰らわし、体勢を崩す。呆気に取られたムサシは咄嗟に身を翻そうとするが、横から高速で接近する鎌の攻撃を防ぎきれず、直撃。
    強力な運動エネルギーに吹き飛ばされ、床を三回ほどバウンドして停止。


    正直、赫子を纏っていなければ致命的な一撃だった。共喰いをやっていて良かったと思う。


    零は攻撃の手を休めず、再び床を蹴り上げて一足跳びに迫る。
    ハイセが赤く光り、鎌の刃が膨張。
    さらに巨大化し、必殺の一撃を撃ち込もうとしている。


    「そのクインケ……もしかして胎動クインケか。だとしたら、コイツの暴走も納得がつく。なるほど、喰種に近づいているのか」


    直感で悟ったムサシは地面を蹴ってその場を離脱。その数瞬後、床にクレーターが描かれる。
    馬鹿げた力だ。


    ムサシは内心舌を巻き、戦闘続行は危険だと考え、通信機を取り出す。


    「スメラギか? ムサシだ。撤退する。そっちはどうなんだ?」


    しばらく話し込んだ後、ムサシは窓から飛び降りていった。
    それに続き、フロア18以上にいた喰種も夜の街へと飛び降りていった。
    思ったよりは数は少なく、羽赫の喰種がヤケに多い気がする。


  44. 44 : : 2016/02/14(日) 20:47:54


    「……終わった、のか?」


    岬崎が戦闘の一部始終を見届け、力無く地面にへたり込んだ。
    綺凛率いるS1班がフロア18に到着したのは、それと同時だった。


    「……詠原…………くん」


    撫奈に肩を貸してもらい、一緒にフロア18へと登ってきた出海は、真っ赤に染まった零を見て、また一人で戦わせてしまったことを悔やんだ。


    よく見ると、S1班の面々は作戦が終了したにも関わらず、浮かない顔をしている。


    "ジョーカー討伐作戦"は犠牲を出しながらも、SSレート喰種フェニックスの討伐、そしてジョーカーの構成員の多くを屠り、バビロン内の喰種の九十三%の討伐率が記録された。


    そう、討伐作戦は終わった。
    さが、作戦は続行。


    『S1班に告げる。これより"ハイセ制圧作戦"を開始する』


    「戦闘配置」


    綺凛前にでて方陣を組む。


    「詠原……」


    詠原零特等捜査官がクインケ[ハイセ]を使用した場合、高確率で殺戮衝動が暴走する。
    その場合、クインケのみを狙った攻撃で制圧を図る。


    「戦闘開始! 詠原に攻撃を当てないでよね」


    綺凛がクインケを展開。
    [羽赫/SS/ブラックラビット]。漆黒のフォトンブレードが姿を現し、Rc細胞が激動。
    伸縮自在のトリッキーな攻撃が可能となる。
    もともとはアオギリに所属していたSSレート喰種"ラビット"の赫子を素材にした一級品のクインケだ。


    「あっはぁこんなにも美味しそうなお肉が沢山ある。どれから喰べようか───なばぁッッ!?」


    放たれたブラックラビットが、寸分違わずハイセの刃へとぶつけられる。
    些かオーバーキルのため、零にも攻撃が当たったが、気にしないでおこう。


    「どいつもこいつも僕の邪魔を……するでぇあああああああぁぁぁああアァァァアアァァァァアああああッッッッ!!」


  45. 45 : : 2016/02/14(日) 21:08:50


    零の叫びに呼応するかのように、ハイセはさらに姿を変える。
    鎌から鎌が生えて、まるで一本の大木に無数の枝が生えたような、奇妙な形状に変化した。
    刃の総数は凡そ十。
    しかも、どれも意思を持って動いているかのように思える。


    厄介だ。


    綺凛は班員を引かせ、一対一の状況をつくる。


    「綺凛? 大丈夫なの?」


    「まあ、見てなさい。気を使いながら戦うよりはましだから」


    ブラックラビットを構え、零のアクションに対して対応できるように腰を低くする。


    「ぁあ……アァァ…………アァァァアアァァァァアああああッッッッ」


    それは零の叫びなのではなく、"ハイセ"から発せられた絶叫。
    枝分かれしたハイセの刃の一本が、綺凛に向かって伸びてくる。
    物怖じすることなく、冷静に払いのける。


    「……正直、こうなった詠原より、適度に狂ってる詠原の方が強いわね」


    「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいッッ僕はお前なんて知らない近づいてくるな私の中に入ってこないで」


    「あら、忘れたとは言わせないわよ」


    「来るなって……いってるだろぉぉぉがぁぁぁああああああああァァアアアアァァァアッッ」


    ハイセが暴走を始める。
    十の刃が一斉に綺凛に遅いかかる。
    普通なら回避不能の攻撃を、軽快なステップを踏みながらブラックラビットで受け流し、いとも簡単に攻撃をかいくぐる。


    「詠原…………少し、頭冷やしなさい」


    ブラックラビットの柄を思いっきり頭に叩きつけると、さすがの零も人間だ。
    ふらふらとおぼつかない足取りで数本歩き、ガクンと崩れ落ちた。
    意識はまだあるらしく、床に手をつけて何かを呟いている。


    「詠原くん!」


    出海がナルカミを握りしめて零の元へと駆ける。その様子を見た撫奈が、綺凛に問いかける。


    「行かないの?」


    「私はそういうヤツじゃないのッ」


  46. 46 : : 2016/02/14(日) 21:27:21



    「詠原くん……ッ。無事でよかった……」


    零は出海の声に反応し、顔をくるりと回す。
    出海は膝を立て、零を正面から見つめる。


    「なんか言いたいこといっぱいあって、何から話そうか迷ってるよ~」


    屈託な笑顔を見せる出海。


    「あはぁ、瑞樹葉ぁ」


    「うん…………瑞樹葉、だよ」


    ズブッ。
    やけに生々しい音がして、ふと腹部に手を当てると、生温かい液体が流れ出ている。
    ナルカミに貫かれて。


    「かッハ…………」


    激しく喀血。
    これまでこれだけの量の血を吐いたことがあっただろうか、いいや、ない。


    「あははははははぁぁハハハハ……僕は有馬さんの後を継ぐんだだからもっと頑張らなきゃいけない負けることは許されないだって有馬さんは無敗の喰種捜査官だから僕が敗北するということはつまり有馬さんの顔に泥を塗るということなんだ僕のせいで有馬さんの輝かしい功績を汚してはダメだ戦え戦え僕はもっと戦わなくちゃいけない皆を守らなきゃいけないだけど僕は弱いからまた誰かを傷つけてしまう僕が殺らなきゃいけない僕がぼくが僕が僕僕僕僕僕僕僕僕僕僕僕僕僕僕僕僕僕僕僕ぼくぼぼぼぼぼく僕ぼく僕ぼくが────」


    「詠原…………くん……」


    「……瑞…………樹葉?」


    ようやく正気を取り戻したのか、理解不能といった表情でゆっくりとかぶりをふり、ナルカミを引き抜いた。


    「み……みず……みずき……ば……ぼ、僕は……僕は…………うぁ、ぁぁ…………うわぁぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁぁぁぁあああッッッッ」


  47. 47 : : 2016/02/14(日) 21:47:23


    瑞樹葉から真っ赤なドロドロとした液体が流れている。とめどなく溢れている。
    僕は、僕は何のために"ハイセ"を使ったんだ。
    皆を守るためじゃなかったのか。


    大切な人を、僕自身が傷つけてしまうなんて。
    僕のせいだ。僕のせいだ。弱い僕のせいだ。
    僕は、自分の弱さを飼い慣らすことができなかった。


    だから、僕は弱いんだ。


    「あぁ…………ぁぁぁああああ…………僕は、僕は…………ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


    ────ふと、零の身体を温かい何かが包み込んだ。出海が、零に抱きついた。


    「瑞樹葉……ぼく……僕は…………」


    拒む零が自身から離れぬよう、強く、強く抱きしめる。


    「…………ごめんね、"零"くん」


    「…………え……?」


    抵抗するのをやめた零を逃がすまいと、身体を重ねる。
    さらに強く抱きしめ、ふらふらといつも一人で戦いに行ってしまう零をつなぎ止めるかのように。


    「……零くんはさ、皆のことを守るために強くならなきゃいけない……もっと。もっと。仲間に何かあったら全部自分のせい。皆の弱いところ全部一人で抱え込んで。有馬さんの期待に応えようといつも無理して」


    いつの間にか、零の頬には熱い涙が筋をつくっていて、今まで溜め込んできたものが一気に爆発したかのように、とめどなく流れてくる。


    「……辛かったよね。苦しかったよね。痛かったよね。誰にも弱音を吐かずに、ずっと一人で抱えて込んできたんだよね」


    出海の瞳にも涙が溜まり、こぼれ落ちた。


    「ごめんね……ッ、一人で全部 背負わせてしまって……ごめんね」


    「違う……悪いのは弱い僕で…………」


    「違わない! 零くんは確かに弱いよ。だって世界に残酷になれてないから。だって…………こんなにも優しい」


  48. 48 : : 2016/02/14(日) 22:08:40


    「………ぁ」


    出海の温かな手のひらが、零の頬をそっと、優しく撫でる。


    「わたしは、優しいあなたのことが好き。一人で抱え込まないで。苦しくなったら、わたしに相談して。もっと頼ってよ。頼りないかもしれないけどさ、零くんの背負ってるもののほんの少しくらいは一緒に背負ってあげられるから」


    出海はにっこりと微笑む。
    喫茶店で見せた、あの笑顔。


    「だから…………誰かを救う前に、零くんが救われて───」


    「──ありがとう、"出海"。僕は君を───」


    重なり合う二人。
    途切れそうな意識の中、ブラックアウト寸前に、出海の美しい笑顔が見えた。
    月光は淡く、静かに。
    二人を照らし出していた。
















    ###





    十一月九日。
    この日、ジョーカーはコクリアを襲撃。
    バビロンでの護衛は、コクリア襲撃を霞ませるフェイクだった。
    被害は最小限に抑えたものの、Sレート四体、SSレート三体を娑婆に放ってしまった。


    原因は情報の流出。


    どのような経路でジョーカーへと情報が流れてしまったのかは不明。
    今後は情報管理を徹底して行うべきだと改めて思い知らされた。





    ###





    「アンタ、出海のお見舞いに行ってあげないの?」


    CCG本局の中庭のベンチに座り、ボケーッと空を見上げていた零に、綺凛が声を掛ける。


    「……怪我させた本人が行っても、何も言えることなんか無いよ」


    「……アンタポンコツね。筋金入りのポンコツ」


    向かいのベンチに腰を掛ける、脚を組む。
    隣に座らないのは、察してほしい。


    「出海、会いたがってたわよ。アンタに」


  49. 49 : : 2016/02/15(月) 20:15:26



    #05「聖夜」



    十二月二十四日────クリスマス、聖夜。


    物心ついた者であれば、知らない者はいないであろう一年に一回のビックイベント。
    イエス様を信仰していないジャパニーの民も、この日は祝福を。星に祈りを。リア充は爆発を────と、まあ、CCGの喰種捜査官も例外なく、一年に一度の聖なる夜を祝福する。


    「真っ赤なおっ鼻の~詠原くっんっは~、いつーも皆の~笑いもの~」


    「おい瑞樹葉、なんだその替え歌。泣くぞ」


    聖夜を祝す歌を歌うのはいいが、上司を馬鹿にするような歌詞はいただけない。


    聖夜だなんだと繰り返す歌が夜風に乗って耳に届く。


    零と出海は、和修(綺凛)主催のクリスマスパーティーに、有り難いことにお呼ばれしたのだ。
    CCG本部から徒歩二十分程度で和修(綺凛)の別荘があるらしいので、仕事を早めに切り上げ、雪が程よく積もった大通りの端を並んで歩いていた。


    「なんというか、冬だね~」


    「いまさらだろ」


    「まあ、そうなんだけどね?」


    なんて。他愛もない会話を繰り返しながら、 いつもとは違った街並みを眺める。
    そこら中の樹木には装飾が施されていて、てっぺんには大きなお星様。


    そのすぐ下のベンチで、恋人たちは寄り添いながら、腕や手を絡ませ合いながらハシャいでいる。今夜は快晴だから、無駄な光を放つ東京でもやけに星や月が綺麗に見えるのは、クリスマス補正が作用しているからか。


    まあ、よく人前でああもイチャイチャとできるものだなと思う。
    抱き合ったり、唇を重ねたり。耳元で愛を囁き合っているのだろうか。
    そして家に帰ってから────いいや、これ以上深く考えるのはよそう。


  50. 50 : : 2016/02/15(月) 20:46:21


    「うわぁ、見てよ詠原くん。これこれ、トナカイの角!」


    「お前一体それに何の魅力を感じたんだよ?」


    偶然前を通りかかった雑貨屋に並べられていた布製の角をにぎにぎしたりもふもふしたりして遊んでいる。


    よく 街を見ていると、サンタクロースの三角帽子を被っている人や、出海が気に入ったトナカイの角と同じようなものを頭から生やしている人もいる。
    中でも目立っていたのが、スクーターをトナカイ型に改装し、後ろでソリを引くという本物のサンタさながらといった風の猛者もいた。当然危険なので、警察のお世話になっていたが。


    いつの間にか出海が消えていたので、まさかと思いレジに目をやると、案の定、トナカイの角を購入していた。しかも二つ。
    嫌な予感がする。


    「みてみて詠原くん、これ! 似合うかな?」


    きょとんと首を傾げ、上目遣いで顔を覗き込んでくる。
    内心ドキリとしながら、悟られぬように平然と返す。


    「あー、うん。似合ってるよ。いかにもクリスマスを満喫してますよーって感じ」


    「心がこもってないなぁ。ま、いいけど。はいこれ」


    出海がもう一つのトナカイの角を差し出してくる。


    「なに、これ。え?」


    「だから、これ。詠原くんもつけて」


    嫌な予感が的中した。
    きっと、これをつけるまでずっとこの店に居座るつもりだろうなぁと考え、素直に従い、零もトナカイへと変身。


    「あはは、可愛いよ詠原くん」


    「からかうな。結構恥ずかしいなこれ……」


    「安心しなよ。今日だけは角生やしてても誰も笑わないよ。…………ぷっ」


    「いま笑っただろ」


  51. 51 : : 2016/02/15(月) 21:03:46


    雑貨屋を後にして、トナカイの角を生やしながら街を歩く。
    最初は角が恥ずかしく、周りから変な目で見られていないかキョロキョロしていたが、どいつもこいつも同じような馬鹿野郎ばっかりだったので、いつの間にか慣れて羞恥心は忘却の彼方へ。


    慣れって怖いなと思う。わりと本気で。


    「あ、そうだ。綺凛ちゃんにお遣い頼まれてるんだった」


    「何を買えって? あの高飛車お嬢様は」


    「……それ、本人の前で言えないよね」


    「馬鹿。言ったら消されるぞ。社会的に」


    「……七面鳥たくさん、ジュースいっぱい(持てるだけ)、卵いっぱい、牛乳いっぱい(持てるだけ)だって」


    うわぁ、なんて適当なメモなんだ。
    いや、メモって正確に書くものだろ。
    完璧主義に見えて実はガサツな一面が露呈してしまった。


    「なんでそれいまさら言うんだよ」


    「忘れてたもん。行ってくるね。待ってて」


    「あ、おい瑞樹葉ッ…………ったく、人の話を聞かないヤツ」


    さて、何をして時間を持て余そう。
    適当なベンチに腰を掛ける。
    リア充カップルの戯れを見るのはいい気分がしない。
    零は年齢=彼女いない歴の非リアのソロ充だ。
    リア充はなんだかいけ好かない。


    瑞樹葉に付いていくという選択肢があったが、それよりも、視界の隅に入った装飾店になんとなく惹かれた。


    まあ、色々迷惑掛けたし……。
    お礼とかそういう意味合いで。
    今日はクリスマスだし、プレゼントとか言っておけば変にからかわれることはないだろう。


    いつの間にか零は装飾店の中に足を踏み入れていた。




  52. 52 : : 2016/02/15(月) 21:27:49


    ###





    「メリィィィィィ爆ぜろマァァァァァァァアアアアアアスッ!」


    和修家別荘のメモに記された部屋(なぜかこれだけは正確に書かれていた)に入った瞬間、サンタクロースの衣装に着替えたであろう岬崎がこの世の全て非リアの魂の声を代弁して咆哮して、正直引いた。


    「うっさいわね! 黙って手伝いなさいよッ」


    「全てのリア充に天罰を! 全ての非リアに祝福あれッ!」


    あちゃー、まだ乾杯すらしていないのにかなり酒が回ってやがる。
    こういうタイプのヤツってほんとにめんどくさいんだよなぁとか思いつつ、S3の品格が疑われるので即退場して頂きたい気分になった。


    「あ、詠原くん。やっほー」


    「詠原ッ!?」


    全身トナカイの衣装を纏った撫奈が手を振りながら笑いかけてくる。なぜか綺凛はサンタクロースの三角帽子を被り、零の到着に驚いていた。


    「久しぶり那梨。やほー」


    軽く手を挙げて挨拶を交わし、瑞樹葉と一緒に持ってきた無駄に量が多いジュースをキッチンに持っていく。


    「おー詠原か。タバコでもどうだ?」


    「長門さん……僕はいいです」


    意外な人が来てる。
    長門さんなんてこういう人がたくさん集まるパーティーは嫌いだと思ってたのに。


    ライターで火をつけようとした瞬間、横から鋭い声が飛ぶ。


    「ちょっと長門特等ッ? 人の家でタバコ吸わないでよね! 禁煙よ禁煙!!」


    「なんだよ連れないな」


    「もっとわきまえて頂ける? 奥さんにチクるわよ」


    「っぐ」


    「だいたい、特等捜査官ともあろう者が分け目もふらずにタバコを吸うなんて何事よ。全く。ここがお祖父様の甘いところで────」


    あー、綺凛のお説教モードにスイッチが入ってしまった。これは長くなる。
    関わらないのが吉だろう。
  53. 53 : : 2016/02/15(月) 21:58:50


    改めて室内を見渡す。
    部屋のど真ん中に零の身長の倍以上はあろうかという巨大なクリスマスツリーが存在感を示している。
    壁や天井には装飾が施されており、床のカーペットも雪をイメージしたのか、真っ白なもふもふ素材のものをセレクトしている。


    テレビゲームも完備しており、テーブルには全部食べきれるのか心配になるほどの量の豪華なメニューが目白押し。
    主にS1とS3の面々がいる。長門は例外だが。


    蓮太郎や岬崎など、野郎どもはテレビゲームのカーレースに夢中になっている。あれほど綺凛に釘を刺されてもなおタバコを吸う長門は例外だが。
    あ、前言撤回。岬崎は18禁のギャルゲーをやってる(この場合はエロゲ?)。関わらないようにしようか。自分まで変態扱いされる。


    出海や綺凛、那梨たち女の子はあらかじめ購入していたプレゼントを交換し合っている。
    いつもは仏頂面の綺凛や、あまり表情の変化が見られない那梨にも笑顔が見られる。
    微笑ましい光景だ。はっきり言って可愛い娘がいっぱいるので(性格は別として)目の保養になるなぁ。それに比べてムサい野郎どもは……。


    「おーい零! 突っ立てないでこっちきて一緒にゲームやらないか? この『大混戦!アタックシスターズ』という格闘ゲームが面白くてだな」


    「詠原班長、この『失恋ラプソティ』っていうエロ……神ゲー一緒にプレイしません?」


    死神も笑う。


    「蓮太郎の方は正常だが……おい岬崎、女の子がいっぱいいる状況下でエロゲーにふけるお前の精神力に驚きだよ」


    「や、やだなあ班長。これは恋愛シュミレーションゲームでして…………」


  54. 54 : : 2016/02/15(月) 22:30:05


    いざ、ゲームの腕前を披露しようかなと思ったところで、綺凛がご飯を食べようと提案し、全員が賛成する。


    大きな長方形のガラステーブルに並べられた料理は、全て綺凛の手作りなんだとか。


    零の横には、自然と出海が座る。で、なぜか綺凛。


    「それではクリスマスを祝して、乾杯!」


    なぜか蓮太郎が乾杯を取り仕切り、晩餐スタート。
    凄まじい勢いで肉が平らげられ、見る見るうちに胃袋の中へと吸い込まれていく。
    辛うじて残った肉を口に運び、咀嚼。


    「あ、美味しい……すごいな。これ全部綺凛が作ったんだろ?」


    「と、当然よ。私だって二十二歳よ? 料理の一つや二つ楽勝よ」


    と、零の正面で会話を聞いていた撫奈がいつも通り茶々を入れる。


    「綺凛、この日のためにすごく練習してたよね」


    「ちょっと、それは言わない約束でしょ!?」


    「初めは包丁じゃさばけないとか言ってクインケで肉を切ってたよ。あれはびっくりした」


    「まじすか」


    「あーあーあー!! 余計な黒歴史を引っ張り出すのやめなさいよッ!」


    あ、まじなんだ。


    「そうそう、クインケと言えばね」


    今度は出海が口を開く。


    「詠原くんったら、わたしが入院してる時にお見舞い品とか言ってクインケを渡してきたんだよ~」


    「はぁ? アンタホントにポンコツね」


    「あー! それって不死鳥ですか?」


    かなり遠くに座っていた岬崎が聞いてくるから、頷く。


    「SSレートのクインケの所有権譲ったんですか!? 勿体ないなぁ」


    「お見舞いよ? もっといいもの選びなさいよポンコツ」


    「いや、誰だってSSレートのクインケは欲しいだろ。な? 瑞樹葉」


    「うーん、わたし的には果物詰め合わせとかがよかったなぁ。実際、まだ所有権貰ってないし」


    「いい加減受け取ってくれよ瑞樹葉ぁ。僕はナルカミがあるから別にいらないんだよ」


    「班長班長! なら俺にくださいよ!」


    「黙れ岬崎。お前には絶対やらん」

  55. 55 : : 2016/02/15(月) 22:50:07


    ###





    「詠原くんっ、キスしよっ」


    「うーたーはーらー! ちょっとそこに正座。正座しなさい」


    「どうしてこうなった……」


    ことの発端は十分前。
    岬崎が酒の一気飲み大会をやろうと言い出したことがキッカケだ。
    度数の高い酒を引っ張り出し、長門と零以外がノリノリで参戦。
    巻き込まれたくなかった零は、長門と共にソファーに向かった。


    言い出しっぺの岬崎は、ビンをそのまま口につけて飲酒。
    勢いよくラッパ飲みをする岬崎に、周囲は「おぉー」と感嘆の声を漏らす。
    が、半分ほど呑んだところで急にダウン。
    早速犠牲者が出る。


    続く蓮太郎もラッパ飲み。
    初めの岬崎の奇行がこの大会のスタイルを決定づけてしまった。
    ビンをそのままラッパ飲みというかなり危ないスタイルが確立された。
    一気に飲み干し、勝利を確信してビンを掲げるが、崩れ落ちる。
    まあ、ビン一本まるまる飲み干したらそうなるよな。
    アルコール中毒で死ななければいいが。
    喰種捜査官がアルコール中毒で死亡とか、マジで笑えない。


    順番が女の子に回ると、コップ一杯分に量が減り、難易度がグッと下がる。
    が、すでにカーペットの上で伸びている撫奈。
    おいおいどんだけ酒に弱いんだよ。


    最後に残ったのは出海と綺凛。
    二人は頷き合い、同時に呑んで──同時にぶっ倒れる。


    岬崎や蓮太郎は助ける気にはならなかったが、出海と綺凛はなんだか心配になって、冷水が入ったコップを持っていってあげたら、このざまだ。


    やっぱり関わるんじゃなかったと後悔している。


  56. 56 : : 2016/02/15(月) 23:09:32


    完全に酔っ払っている。
    二人とも焦点が定まってないし、目が潤んでる。顔も真っ赤だ。


    何よりもかれよりも。


    「うーたーはーらー! さっさと座りなさいって言ってんの!」


    「詠原くん~詠原く~ん」


    非常にめんどくさい。


    「お、落ち着けよお前ら……らしくないな綺凛。瑞樹葉も……」


    バンッ、と出海が拳を床に叩き付ける。


    「なんで綺凛ちゃんのことは名前で呼ぶのにわたしのことは瑞樹葉って呼ぶのッ? 不公平だよ! もっと平等に接してよッ!!」


    「そうよそうよ! もっと平等に接しなさいよ! いっつもこっつも出海ばっかり気にかけて……お揃いの角まで生やして……たまには私にも構いなさいよッ」


    (め、めんどくせぇ…………)


    一人ならよかった。一人ならば。
    こうも厄介なのが二人いたら、説教する気も失せるし、無意味だろう。
    助けを求めて長門に視線を送るが、盛大ないびきをかいて寝ている。


    ふざけんじゃねーよ。今日タバコ吸ってたこと絶対奥さんにチクってやろうと心に決めた。


    「詠原くんっ!」


    「おわぁ!?」


    突然出海が零に飛びつき、カーペットに押し倒す。
    体当たりされたかの勢いで抱きつかれ、背中を床に強打。さっき食べた七面鳥が口からこんにちはしそうだったが、なんとか耐える。


    「あははぁ詠原くんいい匂いがする……」


    「うぅ酒臭い…………」


    零が一気飲み大会に参加しなかった理由は、酒にめっぽう弱いからだ。匂いを嗅いだだけでも吐き気がする。
    そんなことはどこ吹く風。
    出海は零の胸に顔を埋める。
    本来ならドキドキして平常心を保つことが出来ないだろうが、今は吐き気との戦闘が激しい展開に突入していてそれどころではない。
  57. 57 : : 2016/02/16(火) 12:28:16


    「ね…………詠原くん」


    「な、なんでしょうか…………」


    出海は零の耳元に唇を持っていき、囁く。


    「…………好きだよ」


    左耳に温かくて柔らかい感触が触れる。
    少し湿ってて……あ、唇……? キス?
    驚いて身体を強ばらせていると、出海はゆっくりと零から離れ、膝立ちになってはにかむ。


    「…………なんてね。あはは……は」


    徐々に出海の身体が右に傾斜して、倒れた。
    その後ろでは、いつの間にか綺凛もダウンしている。


    零は一度室内を見渡し、大きなため息を吐いた。


    「起きてるの……僕だけじゃん」


    せめて皿洗いはしておこうかと立ち上がり、皿を重ねて台所へと向かう。
    台所からは食卓を一望できる。
    全員酒を呑んでぶっ倒れているからか、パーティーが楽しかったからかは知らないが、幸せそうな顔をしている(長門以外)。
    後者であってほしいなと願い、スポンジに洗剤をぶっかけて皿を磨く。


    まだ、左耳には温かな感触が残っていた。





    ###




    「疲れた…………」


    皿を洗い終え、長門を蹴飛ばしてソファーに座る。
    なんだか皆の普段は見れないような一面というか、見たくなかった一面が露呈してしまい、嬉しいような悲しいような複雑な気持ちにまった。


    見慣れない数字が描かれている時計に目をやると、二十三時を回ったところだった。
    果たして作戦の中核を担うS班がこんな調子で大丈夫なのかと不安になったが、今日くらい羽目を外してもいいだろう。


  58. 58 : : 2016/02/16(火) 14:12:55


    特に何をするわけでもなく、何かを考えるわけでもなくボーッとしてると、「うーん……」といううなり声が聞こえて、誰かが起き上がる。


    「……うぁ……頭痛い」


    「なんだ、綺凛か……」


    綺凛が頭をさすりながら室内を見渡し、思い出したかのように我に返る。


    「…………ごめんなさい」


    綺凛は落ち着いたのか、零の座るソファーの正面の机に腰を掛ける。
    いいとこのお嬢様が机に座るなんて大丈夫かなと考えたが、まあ綺凛だからいいかと納得する。


    「なあ、綺凛」


    こういう、綺凛と二人きりになる機会なんてそうそうないので、普段から聞こうと思っていたことを聞いてみる。


    「お前……僕の殺戮衝動のこと、どう思ってる?」


    「はっきり言ってめんどくさいわ。無駄に強いし、妙なことブツブツ言ってるしでもうめんどくさいったらないわ」


    「だよな……いつも悪い。綺凛が僕の後始末してくれてるから、まだ僕は誰も殺してない。……瑞樹葉には、本当に謝っても許してもらえないようなことした」


    「許してもらってるじゃない。それに、出海も気にしてなかったようだし?」


    「でもッ、…………でも、僕はパートナーを傷つけた。パートナーとしても、上司としても失格だ」


    「……はっきり言うけど、アンタはそういうの向いてないわ。私が言えたことではないけどね?」


    「……僕は、有馬貴将のようになりたいと思って捜査官になった。局の皆にも、有馬さんご本人にも、死神の名を継いでくれと言われた。けど実際、僕はその名前に相応しい働きが出来ていない。いつも喰種を殺しているのはもう一人の僕だ。僕が特等捜査官になれたのも、この殺戮衝動のおかげなんだよ。僕の力じゃない」


    静かに聞いていた綺凛は、少し考える素振りを見せ、何も言わなかった。
  59. 59 : : 2016/02/16(火) 14:29:54


    「……なんだか、僕らしくないな。弱音を吐いて。ごめん」


    「……アンタ、出海に言われたんじゃないの? 誰かを救う前に自分が救われてって」


    「…………言われた」


    「じゃあ、今回は私がアンタを救ってあげる」


    「は、はぁ?」


    「詠原、アンタは誰もが認める特等捜査官よ。私もそう思ってる。殺戮衝動に支配されてはだめ。逆に支配してやりなさい。アンタにはそれが出来るだけの力がある。私はそう信じているわ」


    「……なんだか、今日の綺凛はお喋りだね。まだ酔ってるのかな?」


    「かもね」


    「はは……うん、ありがとう。なんだか救われた気分だ」


    零はポケットから小包を取り出すと、綺凛に差し出す。


    「メリークリスマス。いつもありがとう」


    小包の中には、髪留めを入れた。
    喜んでくれるといいな。
    最後に綺凛に、皆の枕元に名前の書いた小包を置いていってとお願いして、意識を手放した。


    綺凛の頬は、酒のせいか、ほんのり紅潮していた。


    零がソファーに倒れるのを見届け、頼まれたプレゼントを全員に配る。


    「まったく、律儀というか、不器用というか」


    「起きてたんだ、綺凛ちゃん」


    「わぁぁあッ!?」


    突然背後から声を掛けられ、間抜けな声が出た。振り向くと、出海が小首を傾げながら綺凛のことを見ている。
    ちょうどいいと思い、零から手渡された 出海へのプレゼントを渡す。
    中身は、綺凛にあげたものと色違いの髪留めだった。


    「ありがとね、零くん」


    「……むにゃ」


    聖夜だって、365日のうちの一夜でしかない。
    午前零時を告げる鐘の音が鳴り響き、和修家別荘で起きている者は誰一人としていなくなった。


    そして当たり前のように、朝がやってくる。
    今日も、明日も、明後日も。
  60. 60 : : 2016/02/16(火) 14:47:27


    ###




    「あはぁ、すごいすごーい! さすが私のお兄ちゃんだよ」


    東京のとある街のとある廃墟に、"スメラギ"はいた。


    「"ハイセ"君……いや、"カネキ"君とホントに相性抜群! いやぁ、兄妹揃って人体実験を受けた甲斐があったよねぇ。どうやら憶えてないみたいだけど、手術後に記憶が錯乱するのは仕方ないか。"彼"のを移植したのもあってのことかな」


    その右眼は、"右眼だけ"が赤く染まっていた。


    「はやく喰種(こっち)側においでよ、零おにーちゃん♡」


    隻眼の"人工喰種"スメラギは、ニヒルな笑みを浮かべ、姿を消した。




    東京喰種~死神を継ぐ者~《完》

    Next to second story

  61. 61 : : 2016/02/16(火) 15:26:26


    年が明け、再び激動の一年が始まる。

    「僕は、佐々木琲世──金木研のことを知りたい」

    殺戮衝動の暴走を経て、零二重人格、そして殺戮衝動に本気で向き合っていこうと考える。
    そして、零は次第に佐々木琲世の過去、金木研の過去、自身の失われた記憶に迫る。
    その過程で、交わってはいけない兄妹が交錯し、事態は急変する────。


    一方、プライベートで日本にやってきたという"世界最強の喰種捜査官"と偶然同じバスの隣の席に座ってしまった出海。


    「私、ホントにジャパンが大好きなんですっ! あ、死神って呼ばれてる捜査官を知ってますか?」


    「それ、多分……というか、絶対うちの班長のことだ……」


    "世界最強の捜査官"は、死神に会うために日本にやってきたという。
    天真爛漫な彼女に振り回されつつも、少しずつ打ち解けていく出海。
    世界最強の捜査官の目的は、母国のCCG本部部隊への勧誘だった。

    「それじゃあ、私が勝ったらイギリスに来てもらいます!」

    「お断りします」

    何としても零を引き入れたい最強の捜査官は、実力行使を試みて────?

    出逢い、別れを繰り返し、いつも通りの日々を送る捜査官たち。
    秘密裏に計画が進む"戦争"の存在、そしてCCGの闇を知ることもなく────。


  62. 62 : : 2016/02/16(火) 15:30:07

    あ と が き


    あはー、これにて第一話終了でございます!
    上のは次回予告。
    トーカちゃんや妹(?)、それに世界最強の捜査官を加え、さらに展開がややこしくなるこの作品。はたして緋色は書き終えることはできるのか!?

    次回もどうぞよろしくです。

  63. 63 : : 2016/02/16(火) 16:45:18
    楽しみです
  64. 64 : : 2016/02/16(火) 21:10:04
    >>63
    ありがとうございます!
    次回あたりでどなたかに退場していただきたいと思ってるので、ぜびお楽しみに!
  65. 65 : : 2016/02/17(水) 11:22:35
    執筆お疲れ様でした。整った文体や目を剥く展開は勿論、こと緋色さんの戦闘シーンはいつ読んでも惚れ惚れしちゃいます。次話も引き続き期待です!
  66. 66 : : 2016/02/17(水) 12:22:26
    >>65
    あはー、そう言っていただけると嬉しい限りでございます!
    次回もどうぞよろしくお願いします!
  67. 67 : : 2016/02/17(水) 18:41:28
    びゃあ˝ぁ˝すごい!クリスマスのシーンに私怨が見え隠れしていたのも面白かったです。
    リア充爆発しろ!・・・じゃなかった、次も期待です!
  68. 68 : : 2016/02/17(水) 18:48:21
    >>67
    まあ、生まれてから現在に到るまで女の子と一緒にクリスマスを過ごしたことがなければ多少は思うところがありますよw僕の場合多少……どころの騒ぎではありませんからねぇ。
    リア充爆発しろッ! …………じゃなかった、ありがとうございます! 
  69. 69 : : 2016/02/17(水) 18:57:55
    ここはリア充を退場..
  70. 70 : : 2016/02/17(水) 19:12:24
    >>69
    現在この作品にリア充はいないんですが……ポンコツ詠原は書いててちょっと……殺意わきますね。恐らく次回も…………あ、次回詠原退場させちゃおうかな!!!!!!!!
  71. 71 : : 2016/03/02(水) 20:56:27
    すいません、ストーリーに大幅な変更があったので、次回予告を修正させていただきました。
    トーカちゃん出したらいろいろごっちゃになっちゃって……。
  72. 72 : : 2016/03/02(水) 22:51:44
    執筆お疲れ様~

    やっぱりここは東京喰種の良作が多いな~
  73. 73 : : 2016/03/03(木) 17:36:44
    >>72
    あはー、ありがとうございます!
  74. 76 : : 2016/12/23(金) 18:59:19
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enjyujyudan

緋色

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